海外のコンドミニアム? 四半世紀以上を経てなお輝く「泰山館」【名物賃貸におじゃまします(3)】

日本のマンションはどうして似たようなデザイン、構造なんだろう。そう考えている人は案外多いのではないでしょうか。 しかし、よく探してみれば、日本にも、そんな先入観を吹き飛ばす個性的な集合住宅が見つかります。今回はドラマや雑誌の舞台などにも登場し、今やヴィンテージマンションの名作と呼ばれる東京・目黒の泰山館(たいさんかん)を訪ねました。【連載】名物賃貸におじゃまします
斬新なデザインや仕掛けをしている賃貸住宅=名物賃貸を毎月紹介する連載です。ドラマの舞台にも登場する美しさ

東京の駒沢公園周辺は、深沢、八雲などの閑静な住宅地が多いことで知られています。
その一つ、東が丘(目黒区)に泰山館は位置しています。門を入ると、緑豊かな中庭を囲んで三階建、全34戸が入居する建物が広がっています。そのたたずまいは、現代の高層マンションとは一線を画し、海外のリゾート地にあるコンドミニアムを思わせます。部屋をつなぐ通路は広く、ゆるやかな高低差があり、回廊状になっていて、そこを歩くだけでも、心地よさを感じます。

敷地は1000坪弱(オーナー自宅を含む)という広さ。木、石、漆喰などの自然素材を多用した建物ならではの落ち着いた雰囲気があり、周辺に高い建物や看板がないこともあって、雑誌、広告、映画などの関係者からも注目を集め、しばしば女性誌のグラビア、テレビドラマなどに利用されてきました。

回廊のような通路は幅が広く、緩やかな段差があり、歩いているだけで心地よい(写真撮影/織田孝一)

回廊のような通路は幅が広く、緩やかな段差があり、歩いているだけで心地よい(写真撮影/織田孝一)

オーナーと建築家との幸福な出会い

驚かされるのは、30年近く前の建物でありながら、まったく古さを感じさせないこと。時代の変化に左右されない普遍的な美があることが泰山館の大きな特色です。その最大の理由は、アメリカの建築家・都市計画家であるクリストファー・アレグザンダーの手法「パターン・ランゲージ」を用いたことでしょう。

泰山館がこの理論に基づいて建設された発端は、当時のオーナー、故・小杉勇(こすぎ・いさむ)さんと、建築家の泉幸甫(いずみ・こうすけ)さんの出会いにあります。小杉さんの息子さんで現・オーナーの小杉均(こすぎ・ひとし)さんはこう語ります。
 「この土地はもともと農地として近郊農家の方々に貸していたものです。父は会社員でしたが65歳で退職後、ここにマンションを建てようと考えました。しかしこの地域は第1種住専(低層住居専用地域)なので、高層建築は建てられません。どこにでもあるようなマンションでなく、他とは違うことをしたかったので、私の友人を通じて建築家を紹介してもらい、低層マンションを建築することにしました」

ときはバブル経済の時代。小杉勇さんは相続対策としてマンション建設を考えたのですが、ゼネコンなどに任せっぱなしにせず、一から建築の勉強をして取り組みました。詳しい理由は分かりませんが、東京の乱開発を目の当たりにして、それとは違うやりかたをめざしたのかもしれません。いずれにしても、「一つの賭ではあったと思います」(小杉さん)。

このとき、紹介された建築家が泉幸甫さんでした。

泉さんは30歳で建築家として独立、設計事務所を構えて約10年を経たころでした。しかしそれまで仕事は少なく、細々と一戸建て住宅を手がけるような状況だったそうです。世の中はバブル経済に突入していましたが、その恩恵も受けず、むしろ世の風潮に反発しながらこつこつと仕事を続けていました。そんなとき、紹介されたのが泰山館のプロジェクト。それは自分の建築家としての出発点となったと泉さんは考えています。

しかし土地の条件は良くありませんでした。泉さんは「北側斜面で、近くに川があり、低地で湿気が多く、どの駅からも遠い。正直、どうにもならない土地だったのです」と振り返ります。

ここに集合住宅を建設するに当たって泉さんは、パターン・ランゲージを導入しようと考えました。泰山館の仕事を依頼される5年ほど前、泉さんはパターン・ランゲージを実践した経験を持っていたからです。この手法の創始者クリストファー・アレグザンダーが埼玉県入間市に盈進学園(えいしんがくえん)東野高校の建設を手がけることになり、泉さんはそこに日本人スタッフの一人として参加したのです。

 「以前からアレグザンダーの理論に感銘を受けていましたが、このプロジェクトに参加して建築家として実際にどう動くべきかを学ぶことができました」(泉さん)。

誰もが共通言語で建築に参加できる手法

ではパターン・ランゲージとは、どのような手法なのでしょうか。

美しく快適な町や建築には、時代や場所を超えて共通する特徴がいくつもありますが、ほとんどの場合、これは言語化されていません。そこで、アレクザンダーはこれを抽出し、言語で記述し、これをパターンと呼びました。パターンには状況、問題、解決法がセットで書かれています。このパターンを基本要素にして組み合わせて共通言語をつくり、建築や都市の計画を進める手法が、パターン・ランゲージです。

近代建築では、建築家が最初に理想の完成形を描き、そこに向けて建設していくのが一般的なやりかたです。それに対しパターン・ランゲージでは共通言語を用い、住民が参加して建築や町のあるべき姿を探りながら計画を進めます。泰山館のプロジェクトでは、建築家の泉さん、弁護士、不動産仲介会社などからなるチームによる事業方式を取り、多くの知恵を集めました。

こうした手法を小杉勇さんが受け入れたのは、目先の収益に走らず、長期的な展望を持って空間づくりをしようとしていたからでしょう。

「小杉さんは、計画地の斜面のプレハブ小屋を建て、1、2週間に一度、約1年間に渡ってパターン・ランゲージの勉強会を実施するところから始めました」(泉さん)。

印象的だったのは、アレグザンダーが、2mくらいの棒を何本も立てて、実際の空間のアウトラインを示しながら、理想の形を探っていったこと。「こうすれば、玄関や廊下の配置、部屋や通路のサイズ、中庭の広さなどを誰もが感覚的に理解できるわけです」(泉さん)。

泉さんはそれに従い、各部屋を一戸建て住宅のように、その位置に最もふさわしい間取りで設計しました。そのため、泰山館には二つとして同じ間取りの部屋はありません。

中庭の様子(写真撮影/織田孝一)

中庭の様子(写真撮影/織田孝一)

柱に埋め込まれたモザイクガラスはイタリア製。一つひとつデザインが異なる(写真撮影/織田孝一)

柱に埋め込まれたモザイクガラスはイタリア製。一つひとつデザインが異なる(写真撮影/織田孝一)

ちょっとしたくつろぎの場がしつらえられているのも、パターン・ランゲージの成果なのかもしれない (写真撮影/織田孝一)

ちょっとしたくつろぎの場がしつらえられているのも、パターン・ランゲージの成果なのかもしれない (写真撮影/織田孝一)

この部屋では玄関から階段を上がってリビングに入る設計 (写真撮影/織田孝一)

この部屋では玄関から階段を上がってリビングに入る設計 (写真撮影/織田孝一)

窓際に作りつけのソファがあるのが目を引く(写真撮影/織田孝一)

窓際に作りつけのソファがあるのが目を引く(写真撮影/織田孝一)

さらに泰山館を特徴づけたのは中庭でした。シンボルツリーとなったタイサンボクをはじめ、モクレン、ハナミズキなど、植えた木々は100種類以上あります。「緑の効果は絶大だと思います。木は生長して大きくなるほどに建物を引き立ててくれました」(小杉さん)。

例えば中庭を駐車場にすれば、かなりの駐車場代を得られたかもしれません。しかしそれをせず、駐車場は地下に建設し、中庭を広く取りました。「それが豊かな住空間をつくり、結果的に賃料の維持にも役立ちました」(泉さん)。おかげで泰山館の家賃は竣工以来、四半世紀以上が過ぎてもほとんど下がらないまま、今日に至っています。

植栽は100種以上。四季折々に咲く花が目を楽しませてくれる(写真撮影/織田孝一)

植栽は100種以上。四季折々に咲く花が目を楽しませてくれる(写真撮影/織田孝一)

オーナーの意識が愛される集合住宅に反映

こうして泰山館は、1990年に竣工しました。部屋の面積は平均して60平米から70平米。前述したように間取りや広さは少しずつ違います。

 「入居者は40代から50代の方が多いですね。かつては単身者や夫婦二人世帯がほとんどでしたが、今はお子さんのいらっしゃるご家族も7、8世帯はいます。入居者の方々からは、ここに住んで良かったという声をよく聞きます。長い方では10年以上住まれていますね」(小杉さん)。

 小杉さんが今、気遣っているのはメンテナンス。「設備の老朽化に伴い、電気、空調、ガスなどはすべて更新しました。近々、屋根にも手を入れなくてはと思っています」(小杉さん)。こうした設備面の配慮も欠かさないことで、泰山館はこれからも長く、愛される住宅となるでしょう。

世には数多くの集合住宅がありますが、泰山館のように年月を経るにつれ、魅力を増すような物件は数少ないものです。しかしそうした物件が増えないと、本当の意味で成熟した豊かな社会にはなりません。

そのためにはオーナーの姿勢が非常に重要であることが分かります。収益だけでなく、美に対する意識の高いオーナーが増えれば、長く愛される集合住宅も増えるでしょう。それは町全体を魅力的にすることにもつながるはず。泰山館を取材して、そんなことを感じました。

●取材協力
泉 幸甫(泉幸甫建築研究所)
小杉 均(株式会社泰山館 代表取締役)

「資産価値が落ちない家ってどんな家?」 住まいのホンネQ&A(4)

“人生最大の買い物”とも言われる住宅。せっかく買うなら、資産価値が落ちない物件を購入し、その価値を維持したい、と誰もが思うのではないでしょうか。
住宅に関するさまざまな疑問について、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく本連載。第4回の質問は「資産価値が落ちない家ってどんな家?」です。物件選びからその価値を維持する秘訣までをお答えいただきました。2018年4月に始まったホームインスペクションの意義や、ホームインスペクターの選び方についても詳しく解説します。

資産価値が落ちない家その1:なんといっても駅近!

まずは、物件の条件からお話ししましょう。昨今顕著なのは「駅距離格差」です。購入であれ賃貸であれ、求められる「駅からの距離」がどんどん短くなっているのです。

REINS(東日本不動産流通機構)のデータによれば、東京都心7区(中央区・千代田区・港区・新宿区・渋谷区・品川区・目黒区)において2013年は、駅から1分離れるごとに、中古マンション成約単価が平米あたり8000円程度の下落を示していました。しかし2017年には、1万6000円ずつ下落しています。

この傾向は都市郊外のベッドタウンでも同様で、千葉県柏市の場合は柏駅から1分離れると、2008年の中古マンションの成約単価は平米8000円ずつの下落でしたが、2017年では1分ごとに平米1万6000円以上の下落を示しています。

都心でも郊外でも駅前や駅近はめっぽう強く、駅から離れるほどどんどん弱くなっているのです。このような現象が起きている最も大きな理由は言うまでもなく「住宅余り」が影響しているものと思われます。

世帯数に対して住宅数は圧倒的に上回っており、18年の現時点ではすでに1000万戸を超える空き家が存在しているといわれていますが、要はよりどりみどりの「買い手・借り手市場」なわけです。また、若年層が自動車を保有しなくなったこととも関係があるでしょうし、部屋の広さや間取り、日当たりなどを多少我慢してでも、通勤や買い物などの生活利便性を優先するといった嗜好もうかがい知れます。

資産価値が落ちない家その2:選べるなら“立地適正化区域内”を

またこれから本格的な人口減少、少子化・高齢化社会を迎えるにあたり、全国1740あまりの自治体のうち384自治体において、街を縮める「コンパクト&ネットワーク政策」が進められています。これはかんたんに言えば、人口密度を一定程度に維持することで、行政効率の悪化を防ごう、市民の生活利便性を維持しようというものです。埼玉県毛呂山町はこの「立地適正化区域内」については、地価上昇10%を目指すとしています。言いかえると、区域外は地価について約束もできないということです。

岐阜県岐阜市は現市街地のうち、立地適正化区域を55%程度にする方針です。この政策は5年ごとに見直しが行われる予定ですが、その中で徐々に規制を厳しくしながら街のコンパクト化はじわりじわりと進み、やがて10年、20年と経過するうちに、人が集まる区域とそうでない区域が徐々に色分けされていく可能性が高いでしょう。

そうなると不動産の資産価値にも大きな影響が出そうです。決定的なのは、金融機関の評価。金融機関が、立地適正化区域内であれば一定の担保評価ができるが、区域外は評価できない、といったことになれば、両者の資産性に差が出るのは必至です。自分が選ぶ自治体において、こうした計画があるかどうか、あればその中身はどういったものか、調べてみてください。

宅地建物取引業法が改正され、18年4月から「インスペクション説明義務化」がスタートしました。これは簡単に言えば「媒介契約」「重要事項説明」「売買契約」といった不動産取引の節目に、建物のコンディションを見極めるインスペクションについて説明を行うということです。2025年までに中古住宅市場・リフォーム市場を2倍(15年比)にする、といった国の方針の一環で、建物の劣化具合などを見極めるホームインスペクション(住宅診断)を普及させようというもの。

資産価値が落ちない家その3:ホームインスペクションで良コンディションの物件を

これまで日本の住宅は、一戸建ては25年、マンションなら30年程度で価値ゼロになるとされてきましたが、こうした慣行を改め、コンディションの良い建物は積極的に評価、中古住宅でも一定の品質を保っているものは積極的に評価しようという試みです。

住宅購入時には、新築でも中古でも、専門家に依頼してホームインスペクション(住宅診断)を入れ、建物のコンディションを見極める。住み始めたら適度な点検とメンテナンスを行い建物価値を維持するといったことが、今後非常に重要になってきます。

なおホームインスペクション(住宅診断)を行うホームインスペクター(住宅診断士)を探す際にはまず「実績」を確認してください。候補をいくつか選んだら、まずは率直にこれまでのインスペクション実績を尋ねましょう。どの構造に詳しいのかも必ず確認を。建物の工法にはさまざまな種別がありますが、木造に詳しいホームインスペクターが、RC(鉄筋コンクリート)造に詳しいとは限らないためです。自分がホームインスペクションを依頼する建物の構造に詳しいかどうかを必ず確認するようにしてください。

またその際には「専門用語を多用せず、分かりやすく説明してくれるか」に注目を。建築の専門用語を極力使わず、なるべく平易な言葉で、分かりやすく判断材料を提供してくれるかどうかというのは重要なポイントです。

ホームインスペクターは客観性・第三者性が大切

そして最も重要なのは、ホームインスペクターの「客観性・第三者性」。現時点ですら早速、業界では大きく問題となる動きが起きています。それは「ホームインスペクターと不動産業者との癒着」です。この癒着は、売主や買主が、不動産業者からホームインスペクターを紹介されたとき、つまり、買主や売主が自らインスペクターを選べない場合に起こります。なぜなら、不動産業者とインスペクターは、仕事を発注する側ともらう側の関係になってしまっているからです。

不動産業者は常に「契約したい」といったモチベーションをもっているもの。しかし建物の不具合など不都合な真実が出てきたとき、不動産業者がそうした不都合を隠そうと、インスペクターに問題写真や文言の削除を依頼するケースが報告されています。このとき、インスペクターがこの依頼を断ったら、この不動産業者からはもう仕事が来ることはありません。

ホームインスペクションを手掛けるさくら事務所にはしばしばこうした依頼があり、すべて断っていますが、次から依頼がくることはありません。ということは他のインスペクターが、その業者のインスペクションを引き受けて業者の主張を受け入れている可能性があるのです。

米国ではかつて、ホームインスペクターと不動産業者との癒着が問題となり、州によっては「不動産業者によるインスペクターの紹介は禁止」です。オーストラリアでもやはり「売主のインスペクションは虚偽が多い」と問題になり、買主がインスペクションする仕組みが創設されてきました。英国でも同様に買い手がホームインスペクションを依頼しています。インスペクションはあくまでも、買い手が選んだインスペクターが行うのが望ましいのです。

また「無料インスペクション」にも注意しましょう。なぜ無料なのか、その理由を考えるとよいでしょう。そこにはほぼ100%の確率でリフォームや耐震工事のプレゼンが付いているはずです。
「格安ホームインスペクション」にも留意してください。あまりに安すぎるホームインスペクションは、やはりリフォームなどの仕事が目的か、能力に自信がないかのどちらかという可能性があります。ホームインスペクション単体で営業できるだけの妥当な料金設定であることが、その健全さを判断する指標になると言っていいでしょう。相場としては、目視による診断で5万円~7万円程度。床下や天井裏にまで進入する場合は11~12万円程度です。

ホームインスペクションで大事なのは、あくまで第三者を立て、買主あるいは売主が自ら選んだインスペクターに依頼をすること。この原則を忘れないようにしてください。

最後に「”瑕疵(かし)保険”と”ホームインスペクション”は別物」ということを知っておきましょう。建物の保証をしてくれる「瑕疵(かし)保険」は、ホームインスペクションではありません。これは文字通り、念の為の建物保証をするもので、建物の劣化具合について判断材料を提供したり、直し方などについてアドバイスをくれたりするものではありません。くれぐれも、混同してしまわないようにしましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

タワーマンション、 あえて“低層階”という選択肢

タワーマンションのウリは、立地のよさ、そして何と言っても眺望。高層階から見下ろす景色は、やはりタワーマンションならではですよね。しかし、あえてタワーマンションの低層階を選択する人も。低層階ならではのメリットや住み心地を、実際に住んでいる人々と、タワーマンションに詳しい専門家に聞いてみました。
低層階に住む住人にインタビュー! リアルな住み心地ってどう?

それでは、実際にタワーマンションの低層階に住む人は、その住み心地についてどのように感じているのでしょうか?

Iさん(30代後半、女性)は、3年前に結婚して現在40階建てのタワーマンションの9階に居住中です。バルコニーからは海とレインボーブリッジが望める環境に暮らしています。実はIさん、結婚前にも同エリア内の別のタワーマンションの28階に住んでいたとか。

今回話をしてくれたIさん。0歳の子をもつママで現在育休中、港区ベイエリアのタワーマンションに家族3人で暮らしている(写真撮影/スパルタデザイン)

今回話をしてくれたIさん。0歳の子をもつママで現在育休中、港区ベイエリアのタワーマンションに家族3人で暮らしている(写真撮影/スパルタデザイン)

「確かに28階のほうが眺望はよかったのですが、窓が開けられないので開放感を感じにくいというデメリットもありました。マンションによるかもしれませんが、今の低層階のほうが、水面が近くてリラックスできて、開放感という意味では満足しています。今のマンションは目立たない程度なら洗濯物を干してもOKですし、レインボーブリッジを眺めながらバルコニーでランチやお茶をすることもできます。夜景を見ながら夫とお酒を飲んで語り合う時間は格別ですよ」(Iさん)

Iさん宅、9階バルコニーからの眺望(写真提供/Iさん)

Iさん宅、9階バルコニーからの眺望(写真提供/Iさん)

高層階と低層階の両方に住んでみて、低層階のいま、デメリットを感じることはほとんどないとIさんは続けます。高層階に住んでいたときに、反対に大変だったのはやはり災害時。

「東日本大震災のとき、ちょうど28階に住んでいました。ハイヒールで階段を上り下りしなければならなかったことが無茶苦茶きつかったんです。独身のあのときでもかなり大変だったのですが、子どもが生まれた今となっては、子どもを抱えて28階を階段で上ることは考えられないですね」

タワーマンション低層階には、こんなメリットが!

「眺望や高層階に住むというステータスにこだわりがなければ、タワーマンションの低層階はかなりお勧めできる物件だと思います」と話すのは住宅アドバイザーの高江啓幸さん。

住宅アドバイザー・高江啓幸さん(写真撮影:スパルタデザイン)

住宅アドバイザー・高江啓幸さん(写真撮影:スパルタデザイン)

実際にタワーマンションを購入予定の人が住みたい階の一番人気は、10~14階というデータもあります。

参考:憧れのタワーマンション!購入検討者に聞いた「住みたい階」は意外な結果に!? タワマン調査[1]

「『低層階』といっているものの、実際は10~14階も普通のマンションなら十分に高層階です。さえぎる建物が少ないため、タワーマンションに期待する眺めの良さも十分に満喫できるでしょう」(高江さん、以下同)

眺望面以外にも、タワーマンションの低層階に住むメリットがある、と高江さんは続けます。

「特に東日本大震災以降に建てられたタワーマンションは、最新の免震技術の導入やセキュリティ、共用施設の充実など、資産価値が高いと感じます。ゲストルームやスポーツジム、プールといった共用施設は居住者なら誰でも利用できます。低層階の区分所有者は高層階よりも割安に購入できるのが一般的ですが、タワーマンションライフは十分に堪能できるでしょう。
 
また、通常のマンションよりも維持費が高いと思われがちな施設管理費に関しては、世帯数が多いので、1戸当たりの金額を見ると、それほど高くないケースが多いようです」

低層階に住むのが合っている人の特徴とは?

それでは、タワーマンションの低層階に住むのが合っている人というのは、どんな人なのでしょうか?

「多くの人が一番心配しているのは、きっと災害時のことだと思います。地震などの災害によりエレベーターが止まったときのことを考えると、子どもがいるファミリーや高齢者の方が、あえて低層階を選ぶというのは大いに理にかなっていると思います」

写真/PIXTA

写真/PIXTA

また、資産としての効率を重視する人にも、低層階はおすすめだと高江さんは言います。

「タワーマンションの立地の多くは駅前で利便性も高く、ほかの一般的な物件と比べて知名度もあるため、たとえ低層階であっても、購入時の金額と比較して資産価値が落ちにくい傾向があります。急な転勤や生活環境の変化から早く売りに出したい場合に、売却しやすいのも大きなメリットになるでしょう。買いたい人が多いということは売りやすいということでもありますから」

部屋へのアクセスが楽で、エレベーター待ちが少なく、災害時も避難しやすい……。タワーマンションの低層階に住むことのメリットは、思った以上にたくさんありそうです。

限られた予算で自分の住みたいマンションを見つけることはとても難しいことです。マンションを購入する際には、家族構成やライフスタイルなどによって、求める条件は変わります。住む階数もそうですが、住環境や利便性、安全性などを考慮しながら、心地良く過ごすために優先したいポイントを考えてみましょう。

●取材協力
・住宅アドバイザー 高江啓幸さん

羽田新ルート、住民説明会で聞いてみた 「都心上空を低空飛行、本当に大丈夫?」

2020年オリンピック開催に向けて、国際線の需要拡大のため羽田空港への着陸ルートが見直されようとしています。うちは空港近くじゃないから……と思っている人が多いかもしれませんが、実は新ルートでは、豊島区、練馬区、中野区、北区、板橋区……と都内の幅広い範囲の上空を飛行予定。そこで、飛行高度や騒音、落下物など気になる問題を探るべく、国土交通省が行っている「住民説明会」に潜入してみました。過去の経緯はこちら:都心上空を旅客機が飛ぶ!? 羽田空港の離着陸新ルート計画とは練馬区の住民説明会に潜入!どんな説明がされるの?

広大な敷地で開放的な練馬区光が丘公園。今回潜入したのは住民の憩いの場に隣接した「光が丘IMA光の広場」。商業施設内のオープンなホールです。休日とはいえ寒さが厳しいなか、説明会には多くの来場者が見受けられました。住民説明会は今回で第4回目(第4フェーズ)。これまで新飛行ルートが通る自治体で開催され、累計1万3000人超が参加している(国土交通省担当者)とのことです。

ちなみにこの羽田空港国際線の新ルートに関係するのは、埼玉県と東京都が中心です。埼⽟県内ではいずれも約1800mから900mと⽐較的⾼い⾼度を保つとのこと。ところが羽田空港に向かっていく東京都内に⼊ると、東側ルートでは、豊島区や練⾺区⽅⾯から新宿、表参道、⽩⾦⾼輪、品川と都⼼上空を南下し、それぞれの⾼度は、新宿駅が約915m、広尾駅が約600m、品川駅が約450mと空港に近づくほど低下します。

もう一つ設定される⻄側ルートは、練⾺区⽅⾯から中野、渋⾕、代官⼭、⽬⿊、五反⽥、⼤井町を南下。渋⾕、恵比寿駅近辺が約610m、五反田駅近辺が約455m、そして最も低くなるとされている⼤井町では約300mになります。これは東京タワーより低い⾼度です。

説明会は、こうした高度やそれに伴う騒音、飛行機の見え方、さらに落下物への対策など、関係する自治体の住民が気になる情報を中心にパネルが展示され、適時国土交通省の職員が参加者に対して説明を行ったり、質問に答えるという形式でした。また職員によると、説明会を開始した当初は自治体が所有する施設の会議室などで行っていたのですが、現在は、誰しもが参加して質問がしやすいよう、商業施設のホールや駅前広場などオープンな場所でも積極的に行うようにしているとのことです。

騒音がイメージできる体感ブースもあり、実際に体験してみましたが、個人的な感想としては、音に関しては最も音量が大きい場所でもそこまで気になる音量ではありませんでした。ただ、大井町周辺の高度約300mと同等の高度を飛行する映像は、かなりの圧迫感を感じました。

【画像1】会場には騒音を体感できるブースも。高度や騒音レベルなどを、今回のルートに近い大阪の環境を収録し、映像と音から体感できる。羽田空港内にも常設されているとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像1】会場には騒音を体感できるブースも。高度や騒音レベルなどを、今回のルートに近い大阪の環境を収録し、映像と音から体感できる。羽田空港内にも常設されているとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】飛行経路やよく寄せられる疑問への回答を、パネルで分かりやすく展示。国土交通省の職員が案内したり、デスクで質問に答えている。商業施設内で誰でも入れるため気軽に訪れやすい印象(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】飛行経路やよく寄せられる疑問への回答を、パネルで分かりやすく展示。国土交通省の職員が案内したり、デスクで質問に答えている。商業施設内で誰でも入れるため気軽に訪れやすい印象(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

「騒音、事故…」説明会参加者の住民に、不安に思うことを聞いてみた

実際に説明会に訪れていた参加者の何人かにお話を伺ってみました。最も不安に思うことはやはり「騒音」「事故、落下物への対策」でした。

「気になるのはやっぱり音。車輪を出したときと出さないときの騒音は違うと聞いたことがあり、住んでいる場所ではどういう状況で飛行するのかを聞きにきました」(60代 男性/練馬区在住)

「大阪の方で航空機からパネルが落下したニュースを見たのでちょっと心配で。落ちて来たら防ぎようがないのでやっぱり少し不安です。対策はしっかりすると言われてもいまいちピンと来なくて……」(50代 女性/練馬区在住女性)
こうした不安の声が多く聞かれました。

その一方で、
「国際線が増えて、訪日外国人が増えれば、インバウンドで経済が良くなるメリットがあるし、そうしたポジティブな説明も聞けました」(40代 男性/板橋区在住)
「成田空港より羽田空港の方が都心からのアクセスがいいので、旅行好きの人にはいいかもしれませんね」(40代 男性/豊島区在住)
という声も。

パネルや職員の説明では「ここ10年墜落事故は起きていない」、「落下物に関しても、羽田空港周辺はゼロです」と安全性の説明が多く聞かれました。

【画像3】商業施設内のオープンな説明会会場のため、多くの通行人が足を止めてパネル展示などを眺めていた(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像3】商業施設内のオープンな説明会会場のため、多くの通行人が足を止めてパネル展示などを眺めていた(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

危険度、騒音レベル、不動産価値etc. 住民説明会で直撃してみた

とはいえ安全性、騒音問題、さらには不動産価値下落などの不安要素もあることから、会場で説明中の国土交通省の鈴木さんに直撃してみました。「参加者の皆さまの多くが関心をもっているのも、まさにご指摘の点についてですね。確かに落下物事故は過去10年間(平成19年度~平成28年度)の発生件数は、成田空港周辺で19(部品13件、氷塊6件)ありましたが、羽田空港周辺では0件となっています。ただ2017年9月に、成田空港に到着した航空機からパネル(重さ約3kg)が脱落した事案や、関西空港発の航空機から重さ約4.3kgの胴体のパネルが脱落し、大阪市内を走行中の車両に衝突した事案等が発生したこともあり、さらなる落下物対策に取り組んでいます。3月末をめどに世界でも類をみない落下物対策への新たな基準案を策定する予定です」

また騒音に関しては、「防音対策では現状で対象となる施設はない想定ですが、一定基準以上の騒音が発生する場所の施設、建物に対して防音工事の助成があります。また、空港の国際線着陸料について、航空機の重量と騒音の要素を組み合わせた料金体系に見直し、航空会社に対して低騒音機の使用を促進し、現行経路を含めた経路での全体の音の低減を図ります」といいます。

さらに都心の一部の住民から不安の声が上がっているのが「不動産価値」の下落。騒音や事故のリスクからマンションなど住宅の価値が下がるのではという懸念だ。実際に住宅専門家でも意見の分かれるところで、下がるという人もいれば、影響は飛んでみないと分からないという声も。国土交通省では「一般的な不動産の価値は騒音などの環境面、立地などによる地域要因に、人口の増減や需給バランス、音に関していえば個人差もあります。複合的な要因があるので、飛行経路と不動産価値の変動に直接的な因果関係を表すのは難しいと考えています」とのこと。

打開策のひとつとして、実際の運用前に試験飛行ができるかという質問をしたところ、「現在の羽田空港には着陸⽤の誘導装置がないことや、空港の運⽤を⼀時⽌めなければならないことなどから現状では対応は難しい」らしく、試験飛行の実現は望み薄だそう。

その上で鈴木さんは「私たちとしては、今後も住民の皆さまに説明会を含めて情報を積極的に発信し、ご不安やご懸念を解消していきたいと考えています」と話してくれました。

【画像4】お話を伺った国土交通省航空局航空ネットワーク部の鈴木さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像4】お話を伺った国土交通省航空局航空ネットワーク部の鈴木さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像5】会場となった光が丘IMA周辺。この青空の下で安心して暮らしたい。そう思えるほど澄み切った青空だった(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像5】会場となった光が丘IMA周辺。この青空の下で安心して暮らしたい。そう思えるほど澄み切った青空だった(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

羽田空港国際線の新飛行ルートについては、2020年までに運用を開始したいということです。ただ今回の光が丘周辺で、新ルートについて知っているか道行く家族連れや公園利用者に訪ねたところ、知らないと答える人のほうが多く、まだまだ認知度が低いのが現状のよう。国土交通省や関係自治体のホームページでは、住民説明会の今後の日程や開催場所などが分かるので、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょう。

●取材協力
・国土交通省航空局

有名な3物件を訪問! ヴィンテージ・マンション徹底解剖(後編)

長い歳月を経てもなお、高い価値を維持し続けるヴィンテージ・マンション。その価値はどのようにして保たれてきたのでしょうか。また、実際の住み心地も気になるところです。後編では、「広尾ガーデンヒルズ」と「三田綱町パークマンション」、「ビラシリーズ」を訪問。ヴィンテージ・マンションの真価を探ってみました。
竣工時より高値がつく「広尾ガーデンヒルズ」【画像1】広尾ガーデンヒルズのサウスヒル(写真撮影/浜田啓子)

【画像1】広尾ガーデンヒルズのサウスヒル(写真撮影/浜田啓子)

最初に訪ねたのは日本のヴィンテージ・マンションとして有名な「広尾ガーデンヒルズ」です。1984年から2年にわたって分譲され、約5万7000m2の敷地に15棟が立ち並んでいます。

敷地内は「ヒル」と呼ばれる5つの区域に分かれ、それぞれが異なるコンセプトでデザインされています。なかでも、セキュリティー含め高いグレードを目指したのがサウスヒル。石畳が美しいこのヒルの3棟は100m2を優に超える住戸がプランされ、それぞれにコンシェルジュが常駐する80年代としてはとても珍しいホテルのようなエントランスロビーが設けられています。

【画像2】サウスヒルのエントランスロビー(写真撮影/浜田啓子)

【画像2】サウスヒルのエントランスロビー(写真撮影/浜田啓子)

また、敷地の中央に位置するセンターヒルには管理センターのほか、カフェ、ミニスーパー、クリニック、銀行などが入り、このマンションの暮らしを支えています。竣工から30年以上たった現在も高い人気があり、流通価格は新築時とほぼ変わらず、値上がりしている住戸も少なくないそうです。

【画像3】センターヒルの広場(写真撮影/浜田啓子)

【画像3】センターヒルの広場(写真撮影/浜田啓子)

時代に合わせて管理の内容も進化

そんな広尾ガーデンヒルズの“価値”の一つが、前編でも触れたように敷地内を彩る豊かな緑。広尾駅のほど近くから続くメインストリートには、見上げるほどの高さのケヤキ並木が連なり、春になると桜の名所になる場所もあります。クスノキ、ツツジ、ツバキなど数えればキリがないほど多種多様の樹木が植えられていて、歩いていると思わず深呼吸をしたくなる心地よさです。

「竣工当時は背丈が低かった樹木が、30年以上の歳月で大きく育ちました」

こう教えてくれたのは、第34期の管理組合理事長、国安嘉隆さん。樹木の成長はまさに長い歳月を経たマンションだからこそといえるでしょう。

もっとも、樹木の成長には剪定(せんてい)や土壌の改良など適切な管理が欠かせません。管理組合では理事会とは別に植栽委員会を立ち上げ、管理会社や造園業者と相談しながら植栽の管理・保全を計画的に行っているそうです。

「三田綱町パークマンンション」はタワーマンションの先駆け【画像4】三田綱町パークマンション(写真撮影/浜田啓子)

【画像4】三田綱町パークマンション(写真撮影/浜田啓子)

純白のタワーが2棟並ぶ「三田綱町パークマンション」も、やはり住民主導の管理によってその価値は守られてきました。竣工したのは1972年。19階建て・地上52mの高さを誇り、「東京タワー、霞が関ビルに次ぐ、日本における第3の高層建築物」として大きな話題に。超高層マンションの先駆けとしても知られています。

マンションを訪ねてみると、まず目を引くのは立地の希少性。北側には三井グループ迎賓館「綱町三井倶楽部」があり、その庭園を眼下に望むことができるうえ、北西側にはオーストラリア大使館、東側にはイタリア大使館が控えて、東京都心とは思えないほど緑が多く閑静な環境が広がっています。

【画像5】住戸から見て楽しめる綱町三井倶楽部の庭園(写真撮影/浜田啓子)

【画像5】住戸から見て楽しめる綱町三井倶楽部の庭園(写真撮影/浜田啓子)

そんな豊かな住環境に加えて、ランドスケープも魅力満載です。敷地内には表情豊かな和風庭園があり、生活のなかで四季の移ろいを楽しむことができます。管理員の方によると、野鳥が多く飛来し、白鷺やカルガモ、カメなどの姿をみかけることもあるとか。

公道からエントランスまでは50mほどのアプローチで結ばれて、傍らには全住戸分の152台分の平置き駐車場がつくられています。都心でこれほどぜいたくに敷地を使ったマンションは今となってはあまり見られず、そこが気に入って購入を決めたという居住者もいるほどです。

【画像6】広々としたエントランス(写真撮影/浜田啓子)

【画像6】広々としたエントランス(写真撮影/浜田啓子)

価値が維持できているのは、管理のたまもの

共用部についても同様で、各所にゆとりが感じられます。1階には24時間有人のフロントがあり、庭園の緑が広がるガラス張りのロビーラウンジもまさにホテルさながらです。一方、住戸設計についても、各フロアとも住戸数は4戸以内に抑えられ、全室が角住戸というリッチさ。専有面積は120m2前後というゆとりある広さが実現されています。

【画像7】ロビーラウンジはホテルのよう(写真撮影/浜田啓子)

【画像7】ロビーラウンジはホテルのよう(写真撮影/浜田啓子)

聞けば、10戸については、1階にシャワーやトイレ、エアコンを完備したメイドルームが付属。現在は書斎や子どもの勉強部屋として使われているそうですが、竣工時は実際にメイドさんが住んでいたという話から居住者のライフスタイルが想像できます。

こうした住まいのクオリティを高いレベルで維持するには、やはり管理が重要といえるでしょう。

「躯体や設備などの修繕とともに、共用部の段差を解消してバリアフリーを徹底するなど、より快適に暮らせるよう常に見直しをしています」

と話すのは管理組合の理事長。竣工時の姿を保つのが第一ですが、難しい場合には雰囲気を損ねずにそれに代わる方法も検討するとのこと。ロビーの廊下を木の壁から大理石にしたのはその一例。時代に応じて変えるべきところは変えつつ、このマンションに暮らすステイタス感は維持していきたいと話してくれました。

斬新なデザインのビラシリーズ【画像8】ビラ・ビアンカ(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

【画像8】ビラ・ビアンカ(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

昨今のマンションには見られない、高いデザイン性から歴史に名を刻む物件もあります。その代表がビラシリーズ。

ビラシリーズの第1号「ビラ・ビアンカ」が竣工したのは1964年。以降、セレーナ、フレスカ、ローザ、グロリア、モデルナ、サピエンザ、ノーバという8つのマンションが1980年代までに竣工しています。

このシリーズを手掛けたのが、興和商事の前会長である故・石田鑑三氏。住宅づくりに情熱を注いだ石田氏は、生産性と合理性が第一とされた高度経済成長の真っ只中で、デザインを最重視したマンションを打ち出しました。

ビラ・ビアンカはガラスのキューブを積み上げたような幾何学的なデザインが取り入れられています。直線的な造形は1960年代から70年代にかけて、欧米の建築界の潮流であったモダニズムを意識したもの。その容姿は神宮前という場所にあっても目を引き、さながら街にたたずむアートという趣。設計者は建築家、堀田英二氏。石田氏の熱意をくみ取りながら、採算を度外視してこのマンションをつくり出したといいます。

【画像9】廊下にあるガラスブロックの円柱(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

【画像9】廊下にあるガラスブロックの円柱(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

壊すのは簡単。でも、一度なくしたものは取り戻せない

シリーズのほかのマンションもしかり。20世紀建築の巨匠、ル・コルビュジエの弟子である坂倉準三氏が創設した坂倉建築研究所を設計に起用するなど、それぞれに明確なコンセプトを打ち出した上で、ふさわしい設計者を石田氏自らが選び、幾度も打ち合わせをした後にプランを練り上げ、さらに建設現場にも足しげく通って完成させてきたのだとか。

そのコンセプトを盛り込んだのがマンション名です。セレーナ(静寂)、グロリア(栄光)、フレスカ(新鮮)といった名前は、確かにマンションのフォルムや色に表れています。

ビラシリーズは、いわばプロデューサー的立場にあった石田氏と、気鋭の設計者との共同作業によって誕生した渾身作というわけです。その思いを引き継いでいるのは、ビラシリーズに暮らす人々。「斬新なデザインにほれ込んで入居する人がほとんどです」と話すのは、ビラシリーズの管理に携わる「興和商事」の新槙さん。

「修繕に関しては、セントラル空調が住戸ごとのエアコンにしたり、老朽化した給排水管の取り替えをしたりと、必要なところには手を加えながら、できる限り、竣工当時の状態を保っていく方向で進めています。

例えば、ビラ・モデルナの場合、3年前にエントランスの回転扉が壊れて取りはずすことも検討しました。でも、回転扉はデザインの重要な要素。やはり残そうということになったんです。壊すのは簡単ですが、一度なくしてしまったものはもう取り戻せないですから」

ビラシリーズに限らず、建物の老朽化は避けて通れない問題です。その点をどのように解決していくか。ヴィンテージ・マンションの真価が問われる場面といえるのかもしれません。

【画像10】ビラ・モデルナの回転扉(写真撮影/浜田啓子)

【画像10】ビラ・モデルナの回転扉(写真撮影/浜田啓子)

ヴィンテージ・マンションに共通するのは、建てられた当時に込められた思いとそこで暮らす人々の思い。双方が一つになって初めて、ヴィンテージと呼ばれる価値が生まれるということを実感しました。当然、そのマンションに暮らすのは、その思いの一端を担うということ。どこまでそのマンションを愛せるか。ヴィンテージ・マンションを買うときには、自分に問いかけてみるといいかもしれません。

●前編はこちら
どう探す? どう住む? ヴィンテージ・マンション徹底解剖(前編)
●取材協力
・広尾ガーデンヒルズ
・三田綱町パークマンション
・ビラシリーズ/興和商事
●監修
・坂根康裕さん

どう探す? どう住む? ヴィンテージ・マンション徹底解剖(前編)

住宅雑誌で特集がされたり、ネットで専門サイトが立ち上げられたりと、なにかと目にするヴィンテージ・マンション。一般の中古マンションとはどこが違うのでしょうか。

前編では、住宅評論家の坂根康裕さんに、ヴィンテージ・マンションの魅力と基礎知識、買うときに気をつけたいことなどを伺いました。
ヴィンテージ・マンションには明確な定義がない!

ワインや車などによくあるヴィンテージ物。このヴィンテージは「歳月を経て、より価値が高められた物」という意味合いで使われています。マンションの場合、「アンティークでかっこいい高級マンション」のようなイメージをもちますが、本来はどのような物件を指すのでしょうか。

さっそく坂根さんに伺うと、「実は、ヴィンテージ・マンションには明確な定義はありません」との意外な答えが。

【画像1】ワイン(写真/PIXTA)

【画像1】ワイン(写真/PIXTA)

坂根さんによれば、そもそもマンションにヴィンテージという言葉が使われ始めたのは2000年代初頭。バブル崩壊後のデフレの影響で画一的なマンションが増えるなか、「過去にはこんな面白い物件があった」と目を向けられたのがきっかけだったそうです。

「実際、過去のマンションのなかには、建物デザインや住戸プランが非常に個性的で、新しいライフスタイルを提案しようとさまざまな工夫が盛り込まれているものもありました。そうした価値を多くの人たちが認め、ここに住みたいという人が絶えない物件がヴィンテージ・マンションと呼ばれている。その評価の高さは、当然、流通価格に結びつきます。エリアや駅からの距離など条件をそろえて比べたときに、他の物件よりも下落率が低かったり、逆に上がっていたりすることがあり、資産価値も高いといえるわけです」

南欧風の青い瓦屋根や屋上プールなど、物件ごとに個性あり

そんないわゆるヴィンテージ・マンションの魅力の一つは、先にも挙げたように、個性的な建物やデザイン。昨今の新築マンションとはどこが違うのでしょう。

「マンションの区分所有法が定められたのは1960年代の初めですが、建物のデザインで個性が際立つのは1964年東京オリンピックのころのマンションですね。例えば、そのころに初めて分譲された秀和レジデンスシリーズは、南欧風の青い瓦屋根と白い塗り壁、さらにバルコニーに配した黒の鉄柵が特徴です。こういうデザインは昨今のマンションにはなく、今でもファンがいるほどです。

東京オリンピック開催の翌年1965年に竣工した『コープオリンピア』は、欧米先進国に追いつけ追い越せという時代を反映して、屋上にはプールがあり、ロビーはまさにホテルライク。当時は集合住宅=団地というイメージが強く、それを払拭したいという気概もあったのでしょう。今見ても新しさを感じます」

ほかにも、アート作品のように大胆なフォルムを描いていたり、ホテルのような和風庭園があったり、エントランスが特大の絵画で彩られていたり。ヴィンテージ・マンションは、ドア、窓、把手のような細部にも個性が宿り、今見るとアンティーク感もあって心がくすぐられます。

【画像2】コープオリンピア(写真/PIXTA)

【画像2】コープオリンピア(写真/PIXTA)

ヴィンテージ・マンションは希少性のある都心エリアに集中

加えて、ヴィンテージ・マンションの魅力といえるのが立地です。千代田区、渋谷区、港区などの都心に集中し、その時代だからこそ得られた希少な立地に立つマンションも少なくありません。

都心タワーマンションの先駆けと言われる「三田綱町パークマンション」は、大正時代からの歴史がある「綱町三井倶楽部」に隣接し、その庭園を借景として楽しむことができます。また、1980年代のマンションを代表する「広尾ガーデンヒルズ」も立地の希少さで知られています。都心にあって約5万7000m2もの敷地面積を誇る大規模マンションは、今後、建てられないだろうとも言われています。

その「広尾ガーデンヒルズ」は豊かな緑がシンボルですが、これもまた、多くの人が認める価値につながると坂根さんは言います。

「時間とともに朽ちるのが建物なら、時間とともに成長するのが植物とコミュニティ。『広尾ガーデンヒルズ』は竣工から約30年たった現在、樹木が成長して森のような環境が生み出されています。これは新築マンションにはない魅力と言っていいでしょう」

樹木は放っておけば伸び放題で本当の森になってしまいますが、人が快適に暮らせるのはきちんと管理がされている証拠。つまり、植栽の美しさは「マンションをきれいに保ちたい」といった住人の意識の高さの表れであり、そこには成熟したコミュニティがあるとも考えられるわけです。

【画像3】三田綱町パークマンションの住戸から望む「綱町三井倶楽部」の庭園(写真撮影/浜田啓子)

【画像3】三田綱町パークマンションの住戸から望む「綱町三井倶楽部」の庭園(写真撮影/浜田啓子)

時を重ねた物件だからこそ、躯体や設備の状況は要チェック

もちろん、長い歳月を経てきたマンションだからこそ、購入にあたっては注意点もあります。その一つが躯体や設備などの老朽化です。

「どんなに素晴らしいマンションでも経年による劣化は免れません。特に、古いマンションの場合、給排水管のメンテナンスは欠かせません。取り替え工事が行われているかなど点検や工事の履歴は要チェックです。併せて大規模修繕が適切に行われているか、また今後、どのような修繕計画があるのかを確認しておくと安心です」

修繕履歴や長期修繕計画など管理状況に関することは、管理会社が作成する「重要事項に係る調査報告書」に記載されています。仲介会社に依頼すれば用意してくれるはずなので、購入を決める前にしっかり目を通しましょう。
さらに見ておきたいのは、断熱性や遮音性といった住宅の基本性能です。

「法的整備が進み、マンションの基本性能が高まったのはここ十数年の間。それ以前は、物件によって差があるということは頭に入れておきたいですね。古いマンションでは断熱性の低い資材が使われていたり、断熱材が入っていなかったりすることもあります。また、新耐震基準が採用された1981年以前のマンションであれば、耐震診断を実施し、必要に応じて耐震補強がされているかどうかの確認は必須です」

断熱性については、断熱材を入れるなどリフォームで補強することも、場合によっては可能です。窓ガラスも内窓を入れたり、物件によっては複層ガラスに変更できたりする場合もあるとのこと。変更の可否は管理規約で定められているので、事前に確認しておくといいでしょう。

【画像4】マンションの大規模修繕工事(写真/PIXTA)

【画像4】マンションの大規模修繕工事(写真/PIXTA)

住みたいと思ったら、仲介会社に連絡して気長に待つべし

では、ヴィンテージ・マンションに住んでみたいと思ったら、どのように探せばいいのでしょうか。

手がかりになるのは、やはりインターネットの物件検索サイト。どんなマンションがあるのかを見ていくことができます。ただし、人気の物件はなかなか売却住戸が出ず、売りに出てもすぐ成約済みなんてことに。

「住みたいマンションを見つけたら、仲介会社に連絡し売り物件が出たら教えてもらうのが確実でしょう。最近はリノベーション会社がリノベ済みの住戸を売りに出すケースも多いので、そこから探してみるのもいいかもしれませんね」

いずれにしろ、いつ売りにでるかは未知の部分。時を重ねてきたマンションのように、じっくり気長に待つ感覚が必要のようです。

ヴィンテージ・マンションと呼ばれる物件には億を超える高額物件が多くある一方、小さめながら3000万~4000万円台の住戸も。決して、高嶺の花ばかりではないようです。ただし、ワインや車などと同様に、嗜好性の強いもの。資産性といったこと以上に、そのマンションに対して愛着をもてるかどうかが大切なのかもしれません。後編では、まさに愛着をもって暮らす人たちが住むヴィンテージ・マンションを訪問。管理組合の活動や暮らしについてレポートします。

●監修
・坂根康裕さん
1987年株式会社リクルート入社。『都心に住む』『住宅情報スタイル 首都圏版』編集長を経て、2005年独立。
現在は高級マンションを中心に取材、執筆等活動中。住まいのWEBマガジン『家の時間』代表も務める。
日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』 『住み替え、リフォームの参考にしたいマンションの間取り』