ランニングして朝食を楽しむ、ゆるコミュニティがじわじわ増殖中! コロナ禍で仲間づくりどうしてる?

長引くコロナ禍で、運動不足に悩む人が増えました。屋外で取り組めるランニングは、コロナ禍にもおすすめのスポーツ。とはいえランニングにはストイックなイメージがあり、少しハードルが高く感じることもあるでしょう。今回はランニングを楽しく気軽にできると人気のコミュニティ、「ランニングと朝食」の活動を深掘りします。ランニングでまちを知り、朝食でコミュニケーションを楽しむユニークな活動の内容とは? 主宰者の林 曉甫(はやし・あきお)さんに聞きました。

仲間と「はじまりの時間」を共有し、心地よい休日をスタートする「ランニングと朝食」は国内外に全27チーム(2022年3月4日時点)あり、イベントにはフェイスブックのグループページにて参加表明をすることが必要(写真撮影/蜂谷智子)

「ランニングと朝食」は国内外に全27チーム(2022年3月4日時点)あり、イベントにはフェイスブックのグループページにて参加表明をすることが必要(写真撮影/蜂谷智子)

「ランニングと朝食」は、フェイスブックの承認制グループを軸にしたランニングチーム。登録者900人超えの、このランニングサークルの活動内容は至ってシンプル。それは「走って、食べて、おしゃべりする」ことです。

グループに参加すると、メンバーの各地での活動の様子や、「東京チーム」「東横線チーム」や「中央線チーム」「シアトルチーム」「鎌倉チーム」など国内外で活動する27チームの、週末ランニングの予定と参加者募集情報が流れてきます。

実際にチームランに参加しているメンバーは、フェイスブックグループのなかの一部ですが、個人で走って美味しい朝食を食べたことをシェアする人も目につきます。また自ら投稿をせずとも、フェイスブックの「ランニングと朝食」グループに休日に流れてくる投稿――各地のメンバーのランニング風景や美味しい朝食の写真を見るだけでもOK。刺激を受けて、良い休日を過ごそうというモチベーションが高まりそうです。

主宰者の林 曉甫さんは、実は「大切なのは、走ることそのものではない」と言います。

「初期メンバーが『ランニングと朝食』について、『それって、はじまりの時間を共有することだね』と指摘してくれたのですが、それが正にこの活動を言い当てていると思います。週末の朝に走ることと朝食を食べることで、はじまりの時間を共有することが大切。ポイントは走る、ではなく共有することなんです」(林 曉甫さん)

フェイスブックの承認制「プライベートグループ」が活動のハブ。基本的に走る意欲や朝食が好きであれば承認しているそう。メンバーの数は1000人に迫る(フェイスブックより)(写真提供/ランニングと朝食)

フェイスブックの承認制「プライベートグループ」が活動のハブ。基本的に走る意欲や朝食が好きであれば承認しているそう。メンバーの数は1000人に迫る(フェイスブックより)
(写真提供/ランニングと朝食)

「ランニングと朝食」主宰者の林 曉甫(はやし あきお)さん(写真撮影/蜂谷智子)

「ランニングと朝食」主宰者の林 曉甫(はやし あきお)さん(写真撮影/蜂谷智子)

走らずに朝食を食べるだけでも歓迎のランニングチーム

ランニングコミュニティというと、運動が得意な人、意識が高い人でないと付いていけない気がして、参加に勇気が要ることも。でも「ランニングと朝食」には、そんな心配は無用です。

走る距離も決まっていないし、目標タイムもありません。速く走れなくても、途中で歩いてしまってもOK。朝食を食べるだけの参加だって歓迎です。

「この活動自体のユニークネスをあげるとしたら、徹底してハードルを設けないこと。そもそも僕がこの活動を始めたのが、『独りだと走り続けられないから、誰かと走りたい』という動機だったりします。タイムの向上とか、距離を走れるようにとか、そういうことは全く考えてなかったんですね。

活動開始からもうすぐ6年。周囲の友人だけだったメンバーも今や1000人に迫る勢いですが、『共にやる』という軸はブラさずにいます。参加者が子どもであっても、遠方に住んでいても、参加して欲しい。ランニングスタイルもそれぞれで、途中歩いてもいいし、走らないで朝食会場で合流したっていいのです」(林さん)

「誰かと一緒に楽しく体を動かして、美味しいものを食べたい」というのは誰もが抱くシンプルな欲求。そんな願いを気負わずにかなえられるからこそ、「ランニングと朝食」が、これだけのメンバーを集めているのかもしれません。

コロナ禍においては、マスク着用でソーシャルディスタンスを取り、感染対策を取りながら活動している(写真撮影/蜂谷智子)

コロナ禍においては、マスク着用でソーシャルディスタンスを取り、感染対策を取りながら活動している(写真撮影/蜂谷智子)

走ることでまちの解像度が上がり、体の経験値として積み重なっていく

27もチームがあると、自分の地元とは違う地域の「ランニングと朝食」チームに参加する楽しみもあります。

「旅先で地元のチームに参加することもできます。僕自身は東京チームが家から近いのですが、東横線沿線の東横線チームで走ったり、京都や鎌倉のチームにジョインしたり。そうやって『ランニングと朝食』つながりで知らない者同士が時間を共有したり、知らないまちを走ったりということが、楽しいですね。

走ったり朝食を食べたりしながらしゃべることで、知らない人とも距離が縮まりますし、走ることでまちの解像度も上がります。例えば東京だと移動は基本電車です。なかでも地下鉄に乗ってしまうと身体感覚があやふやなまま隣のまちに移動しているということが往々にしてあります。そこを走ってみることで体の経験値として、まちの記憶が積み重なっていくのではないでしょうか」(林さん)

軽いランニングの距離が5kmだとして、家から5km圏内にどんな風景があるのか、5km走るとどんな場所へ行けるのか、実は私たちはよく知りません。いつもは電車で移動してしまう5kmを自分の足で走ることで、素敵な風景やおいしい朝食のお店を発見することもありそうです。

「ランニングと朝食」では、メンバーが見つけた、休日にモーニングを食べられる店をマップにアーカイブしているそう。その履歴が積み重なって、今や登録されている朝食スポットは国内外で500件以上。「はじまりの時間を共有する」ための、貴重なデータです。

各地の朝ごはん情報。朝食を出すお店の多彩さに、驚く(写真提供/ランニングと朝食)

各地の朝ごはん情報。朝食を出すお店の多彩さに、驚く(写真提供/ランニングと朝食)

「ランニングと朝食」が、“アート”になる理由

「ランニングと朝食」はフェイスブックのシステムを有効活用したコミュニケーションの設計で、気軽さと親密さの程良いバランス。林さんは、本業ではNPO法人インビジブル理事長/マネージング・ディレクターという肩書きを持っています。仕事でアートによる地域活性化に携わる林さんは、実は「ランニングと朝食」の運営でも、アートや地域活性化の手法を参考にしているそうです。

「ランニングとアートにどんな関係があるのかと疑問に思われるかもしれませんが、アートとは額装して飾るような作品だけを指すのではありません。1990年代後半ぐらいから世界各地で行われているリレーショナル・アートやソーシャリー・エンゲージド・アートと言われる分野があります。それは、特定の活動やアクションによって社会を巻き込んでいくプロセスも含めて、ひとつの作品として見せていくものです。

『ランニングと朝食』は、我々にとって他者との関係性をつくるということはどういうことなのだろう……ということを、問いながらできる活動であり、ゆるやかなコミュニティであり、アートプロジェクトです。また社会的な寄与という点でも、このコロナ禍において週に一度でも誰かと走ったり話したりすることによる、精神的肉体的な影響があると思います。

林さんが参加するアーティスト支援を行う社会彫刻家基金は、書籍発行のためのクラウドファンディングを実施中だ※2022年5月31日まで(写真提供/社会彫刻家基金 撮影:丸尾隆一)

林さんが参加するアーティスト支援を行う社会彫刻家基金は、書籍発行のためのクラウドファンディングを実施中だ※2022年5月31日まで(写真提供/社会彫刻家基金 撮影:丸尾隆一)

僕は本業の方でも、アートが単に作品を体験したりモノをつくったりする場を超えて、例えば人のメンタルヘルスなどのウェルビーイング(身体、心、社会的に健康であること)にどう寄与するのかということについて、研究者を交えて調査ができたらいいなと思っています。

そういった本業で考えていることが、この『ランニングと朝食』でのコミュニケーションと、リンクしている部分がありますね」(林さん)

アートの概念は多様ですが、関係性に注目したリレーショナル・アートやソーシャリー・エンゲージド・アートの世界では、何かを生み出したり、ある状況をつくったりする過程での「人々の関係性」そのものに斬新さや美しさを見出します。

ランニング中に見た美しい風景を誰かとシェアしたり、朝食の会話で気づきがあったりといったことも、アートなのだと考えると、ワクワクしませんか?

主宰としてプロジェクトを運営しつつ、「参加する時はいち個人として楽しみたい」と林さん(撮影時のみマスクを取っています)(写真撮影/蜂谷智子)

主宰としてプロジェクトを運営しつつ、「参加する時はいち個人として楽しみたい」と林さん(撮影時のみマスクを取っています)(写真撮影/蜂谷智子)

ある日の「ランニングと朝食」、東横線チーム編走り出す前のミーティング。10分程度で軽く自己紹介をして、ルートの説明を聞きます(写真撮影/蜂谷智子)

走り出す前のミーティング。10分程度で軽く自己紹介をして、ルートの説明を聞きます(写真撮影/蜂谷智子)

「ランニングと朝食」のリアルな活動は週末の朝に始まります。東京だけでも10チームがあるのですが、今回は東横線沿線を走る「東横線チーム」を取材しました。

まず各チームマネジャーが集合場所と朝食を食べる目的地を決めて、フェイスブックのグループで呼びかけます。コース選びや朝食会場選びは、チームマネジャーの個性が出るところ。東横線チームのチームマネジャーは小嶋一平さん。本業では化粧品会社のSNSマーケティングを担当する小嶋さんは、朝食のお店の洗練されたチョイスに定評があります。今回の東横線チームは中目黒駅から駒沢公園までの約4kmのラン。駒沢公園に接した景色の良いカフェで朝食を食べるコースです。

目黒川沿いを走って駒沢まで4km、約60分のランニング(写真撮影/蜂谷智子)

目黒川沿いを走って駒沢まで4km、約60分のランニング(写真撮影/蜂谷智子)

ランナーに人気の駒沢公園の周辺にはモーニングの選択肢が多い(写真提供/ランニングと朝食)

ランナーに人気の駒沢公園の周辺にはモーニングの選択肢が多い(写真提供/ランニングと朝食)

集合後に軽くミーティングをして、自己紹介をします。お互いが初めての方や、久しぶりの方もいました。その後はランニング。ペースはゆっくりめで、お互いの近況報告をしながら走れるくらいのペース。途中で立ち止まったりしても大丈夫。チームから外れてしまっても、朝食会場で待ち合わせればいいという考え方です。ランナーはマラソン大会に出場しているような、走り慣れている方も、初心者の方もいたようです。

朝食のカフェに着く頃には、体が温まってお腹も空いてきます。取材した日も、朝食だけ参加の方が数人いました。違うルートを走って、朝食だけ参加ということも可能とのこと。朝食の際に話してみると、参加者は年齢も仕事も多種多様でした。

ランチ会場のKOMAZAWA PARK CAFÉは野菜たっぷりのブッダボウルやフルーツをトッピングしたフレンチトーストが人気(写真提供/ランニングと朝食)

ランチ会場のKOMAZAWA PARK CAFÉは野菜たっぷりのブッダボウルやフルーツをトッピングしたフレンチトーストが人気(写真提供/ランニングと朝食)

最近から参加するようになった20代女性は、去年地方から東京に転勤してきたそう。転勤してからリモートワークでなかなか知り合いができないのが悩みでした。今ではこのサークルが人との出会いのきっかけになっているとのこと。また、30代の男性は船舶勤務から地上の勤務になって、運動不足を感じたのが参加のきっかけだそうです。

キャリアの話や最近見た映画の話、家族の話など、それぞれに会話を楽しみながら1時間程度で朝食は終了。解散時間は朝の9時半で、まだ一日は始まったばかりです。まさに「はじまりの時間を共有する」活動だと感じました。

走って、食べて、おしゃべりする。その時間がアート!

2021年に新型コロナウイルスが蔓延してからというもの、体験を共有する機会や、たわいのない会話が失われがちになりました。そんななかで走って、食べて、おしゃべりする時間をアートだと捉えて慈しむことができれば、日常がより輝くものになるかもしれません。

●取材協力
ランニングと朝食
林 曉甫さん
>NPO法人インビジブル
>アーティスト支援を行う社会彫刻家基金のクラウドファンディング
●撮影協力
KOMAZAWA PARK CAFÉ

防犯×ランニング!? 走りながら街を見守る「パトラン」って?【全国に広がるサードコミュニティ1】

みなさん、走るのはお好きでしょうか? スポーツジムも閉鎖が余儀なくされ、長期化するリモートワーク(テレワーク)で体がなまっている人々でも気軽に始められるランニング。実はこのランニングのついでに、地域の防犯パトロールをしてしまおうというグループが全国に増えています。連載名:全国に広がるサードコミュニティ
自宅や学校、職場でもなく、はたまた自治会や青年会など地域にもともとある団体でもない。加入も退会もしやすくて、地域のしがらみが比較的少ない「第三のコミュニティ」のありかを探ります。 運動しながら街を見守る。一石三鳥のパトロール&ランニング

通勤通学のアクセスの良さ、買い物のしやすさ、家賃の手ごろさだけではなくて、そのエリアにどんな出会いがあるか、プライベートをともに過ごすどんなコミュニティが見つかるか? が新しい場所に住む人にとって重要な選択肢になりつつあると感じます。家族・学校・職場とは別に、気のおけない仲間がいる居場所を求めている人は多いのではないでしょうか。
この連載では、家族・学校・職場を第一のコミュニティ、町内会や自治会など地域に暮らしていく際に避けては通れない古くからある団体を第二のコミュニティとすると、趣味や関心で集い、入会も退会も自由で、ゆるやかに地域活動に参加できるもう一つのコミュニティを「第三のコミュニティ(サードコミュニティ)」と捉え、紹介していきます。
第1回目は、福岡で始まり、全国に広がりつつある「パトラン」という取り組み。最近、土曜ランニングの会など、近所に住む人同士で集合して目的地を決め、仲良くランニングする同好会などがちらほらと生まれてきていますが、せっかくならランニングついでに地域の防犯・防災見回りもしてしまおう! という一石二鳥?三鳥? な活動が「パトラン(パトロールランニング)」なのです。

パトランWEBSITE(パトランHPより)

パトランWEBSITE(パトランHPより)

パトランの仕組みはシンプルで、やりたいと思い立ったら、パトランのウェブサイトを通じて会員登録するだけ会費を徴収しない代わりにパトランユニフォームを購入してもらい、それを着て走ればOKです。全国どこからでもスタートできる手軽さから、全国にパトラングループが増えています。単独でのパトランもOKです。

街中を走っていると、普段気づかないいろいろなものに目が止まります。しかし、パトランはまちのパトロールを目的としているため、交通事故の現場にでくわしたときは、警察に電話したり、救急車を呼んだり、運転手のサポートをしたりと、不測の事態にも迅速に対応しています。
もちろん、最低限、交通規範を守る、とか挨拶をする、などのルールはあるのですが、パトロールの仕方(方法)は各地の事情に合わせて自由に行われます。自治会と共同で防犯・見回りを行うグループ、電気の切れた街頭を探して自治体に報告する沖縄のグループなどさまざま。警察や行政と正式にパートナーシップを組んで活動するチームまでいるそうです。
このように、各地の工夫を参考にしたい人は会員限定のFacebookグループ「パトランJAPANグループ」でメンバーの活動を参考にしたりできるほか、ウェブサイトからダウンロードできる活動マニュアル「パトラン虎の巻」を読むこともできます。

パトランユニフォームのTシャツ。赤くて目につきやすい(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

パトランユニフォームのTシャツ。赤くて目につきやすい(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

仲間と始めた自主的な活動が話題を集め全国規模に

このパトランという取り組みをスタートしたのは、認定NPO法人改革プロジェクト代表の立花祐平さん。大学卒業後、大阪のIT企業に勤めていた立花さんは、入社3年を機に独立。Uターンで地元の福岡に戻り、アルバイトをしながら、冒険家を志していました。 
そんなある日、ふと訪れた沖縄の離島で、海岸沿いにゴミが散乱している様子を見た立花さん。もともと自然が好きだったこともあって、観光客が我関せず、な様子に違和感を覚えたそう。

「じゃあ実際、地元の福岡はどうだろう、と帰って海を見にいくと、同じようにゴミが散乱していました。漠然と、今できることからしたいなと思って友人たちとゴミ拾いをはじめました。これが現在のNPOの活動につながっています」(立花さん)

パトランを立ち上げた認定NPO法人改革プロジェクト代表の立花祐平さん(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

パトランを立ち上げた認定NPO法人改革プロジェクト代表の立花祐平さん(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

アルバイトをしながら地域の清掃活動に取り組む日々を送る中、知人の女性が自宅に帰る道で不審者による被害があり、清掃活動だけでなく防犯活動も始めてみようと思い立ったそうです。そこで、海沿いの街・宗像で見回り活動もしながら走ってみよう、と仲間と始めたのがパトランでした。
大きな転機となったのは、全国からソーシャルな取り組みを募集する住友生命の「YOUNG JAPAN ACTION」プロジェクトに応募したこと。

「もともと地元福岡の宗像という地区だけでやっていた自主的な活動だったのですが、なんとグランプリの一つに選ばれたんです。それがきっかけで多くの人にパトランを知ってもらい、全国で活動をやりたいという人たちが増えてきました」(立花さん) 

そこでSNSで「パトランJAPAN」のグループをつくり、全国の仲間が活動できるプラットフォームを準備しました。少しづつ活動の輪が広がり、今では全国38の都道府県に1,800人を超えるメンバーがいます。
「いわゆるランナーの人たちって横のつながりがとても強いです。全国のマラソン大会に出場したりして、地域が離れた人同士でもつながっている。もともと僕らはランニングは素人で始めたのですが、ランナーのコミュニティと接点ができて一気に広がったかたちですね」(立花さん)

パトラン中のゴミ拾いの様子。防犯だけでなく清掃も(画像提供/NPO法人改革プロジェクト)

パトラン中のゴミ拾いの様子。防犯だけでなく清掃も(画像提供/NPO法人改革プロジェクト)

自治会など既存の団体との温度差を埋めるには?

しかし、宗像でパトランを始めたころは地元の理解を得るのに苦労したそうです。

「地方は少なからず閉鎖的な面があるので、若者が集まって何かやると白い目で見られたり、いい迷惑だといって地元企業からメールが届いたこともありました。でも、自分たちの活動に社会的意義があると感じていたので、やはりやり続けないとだめだな、と思い3年は続けるつもりでがんばりました」(立花さん)

もともとある地域団体(自治会や町内会)=セカンドコミュニティは当然、防犯や防災に関する取り組みをしています。しかしどうしても、年配の方が多く、新しい住民や自治会に参加してない若者が入りづらいのが現状です。「地域のために何かしたい」と潜在的に考えている人が多い中、誰でも入れていつでも抜けられる、そんな気軽な活動=コミュニティがあることで地域参加の幅が広がると感じています。

「やはり平日は職場と自宅を行ったり来たりで地元に居場所がない人は多いです。また、パトランは既存の地域団体と基本的には一緒にやっていきましょうというスタンスなので、高齢者のグループと一緒にスタートしたりするチームもいます。あるメンバーが、パトランを通じて地域で活動することに抵抗がなくなった“慣れた”とおっしゃっていて、そこから町内会や自治会にも積極的に関わるように顔を出すようになったそうです」(立花さん)

全国に広がるパトランチーム。各チームごとに活動エリアや活動場所を決めて行っています(画像提供/NPO法人改革プロジェクト)

全国に広がるパトランチーム。各チームごとに活動エリアや活動場所を決めて行っています(画像提供/NPO法人改革プロジェクト)

また、既存の地域団体は基本的に、行政区画に縛られて活動しています。一方パトランチームは行政区画をまたいで活動することが多い。広域で防犯や防災意識を高めたりする団体はあまりないため、既存の町内会や自治会とうまく共存できていると立花さんは言います。

マラソン大会に参加したり、冒険イベントを開催したり。広がるパトランの可能性

パトロールしながら走っていると面白いのは、地域のいろいろな課題が見える化していくところ。冒頭でちらっと紹介した沖縄で活動するメンバー(※)は、ランニングのついでに、切れた街灯を見つけては地元の行政に連絡を入れているそうです。
「他の地域でも見つけたら行政に報告しましょうというルールを設けていますが、なかでも沖縄は一番多くて、年間5~600件の街灯切れを見つけています。自転車の不法投棄なんかも見つけます。防犯だけじゃなくいろいろな面でパトランが地域の役に立つ瞬間は多いと感じています」(立花さん)

パトラン中、電気の消えた街灯を見つけたり、不法投棄を見つけては行政に連絡をしているそう(画像提供/NPO法人改革プロジェクト)

パトラン中、電気の消えた街灯を見つけたり、不法投棄を見つけては行政に連絡をしているそう(画像提供/NPO法人改革プロジェクト)

パトランJAPANは基本的に寄付で成り立っています。大きな寄付元としては毎年開催されている大阪マラソン。他にも、マップに沿ってスタンプラリーしながら走れる「冒険型マラソン」を仕掛けたりもしています。こういう全国規模の大会で全国のチームやメンバーが交流し、より一層コミュニティの結束を高めています。

「今までにないマラソンをつくりたくて。せっかく環境や防犯をテーマにした取り組みなので、社会貢献の要素をマラソンに組み込みたい。フィールド内に、社会貢献につながるゾーンや散策できるスポットを設定しておき、ミッションをクリアすることで得点を稼いでいく。RPGゲームのような世界観をマラソンで表現しています(笑)。第一回目の今年は新型コロナウィルスの影響で開催できなかったんですが、来年度も実施する予定です。今後も仕掛けていきたいと考えています」(立花さん)

毎年、大阪マラソンに全国からパトランチームが集まる(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

毎年、大阪マラソンに全国からパトランチームが集まる(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

宗像市で開催予定だった冒険型マラソン。コロナウィルスの影響で中止となった(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

宗像市で開催予定だった冒険型マラソン。コロナウィルスの影響で中止となった(画像提供/認定NPO法人改革プロジェクト)

地域活動って、楽しくないと続かないと思いませんか? パトランの面白いところは、仲間たちと楽しく走るというのが前提になっているところ。そのついでに地域貢献を行うところがポイントです。「地域のためになにかしなきゃ」とか、「住んでいるのに何もできてない」という負い目を感じている多くの人にとって、パトランのような気軽に参加できて、気分が乗らなければ参加しなくてもいいコミュニティの存在は大きな助けになるのではないでしょうか。 
一見、仲間たちで楽しく遊んでいるようなコミュニティも、有事の際に連絡網として機能したり、日ごろからの何気ない見回り活動が役に立つ瞬間があると思います。そんなコミュニティが複数存在することで、地域の柔軟性や寛容性、災害の際の回復可能性(レジリエンス)を高めると僕は考えています。
家族や学校、職場など(=ファーストコミュニティ)でもなく、柔軟性や多世代交流の場としては停滞している既存の地域団体(=セカンドコミュニティ)ではなく、第三のコミュニティが各地に増えていくことがこれからの地域社会にとって重要なテーマだと思います。今後も全国各地のユニークな「サードコミュニティ」を取り上げていきます。どうぞお楽しみに!

※パトランチームは一定の基準を満たして設立しています。沖縄はチームではなく個人単位で活動しています。
現在のチームは全国で15チームのみとなります
詳細:パトランチーム

●取材協力
認定NPO法人改革プロジェクト
●関連サイト
パトラン

自宅で運動している中高齢者は66%、リビング・和室を利用

(株)住環境研究所(東京都千代田区)の「生涯健康脳住宅研究所」は、中高齢者の自宅における運動に関する意識や実態に着目し調査を行った。対象は首都圏のセキスイハイム居住者。調査時期は2018年8月下旬~9月上旬。有効回答は897件。
定期的に運動を実施していますか?では、「実施有り」が52%、「運動の習慣はないが、生活の中で身体を動かすようにしている」は24%、「スポーツ・運動をしなくてはと思っているが何もしていない」が22%だった。

今後、今よりもっとスポーツや運動をしたいと思いますか?では、「思う」71%、「思わない」29%。運動の有無タイプでは、「定期的な運動があまり出来ていない」層(定期的な運動はないが身体を動かすようにしている、何もしていない)ほど、今後の運動意向が高い。

運動をもっと行いたいと思う人が運動について重視することは、「無理なく続けられる」72%、「健康面・身体面での効果が実感できる」66%、「精神面での効果」39%、「運動、身体を動かした結果が分かる」35%、「こりがほぐれる、柔軟性が増すなど気持ち良く動けること」30%が上位だった。

また、自宅(屋内)で運動している人の割合は66%。実施している場所は、リビング・和室の一部を利用している人が83%だった。運動習慣はないが身体を動かしているという人は、廊下や階段ホールなどを利用しているようだ。

リフォームについての魅力度では、「庭まわりのリフォーム」(38%)、「断熱性能アップリフォーム」(37%)、「玄関リフォーム」(30%)、「空き部屋活用リフォーム(空き部屋を運動や趣味のための空間にリフォームする)」(29%)の順で魅力を感じている。日常的生活の中で活動量を確保するようなリフォームが受入れられているようだ。

ニュース情報元:(株)住環境研究所