純喫茶から譲り受けた家具でつくったお部屋「喫茶 あまやどり」。東京喫茶店研究所二代目所長・難波里奈さんの昭和レトロあふれるおうち拝見

おしゃれなインテリアをつくるセオリーはいくつもあるけれど、その中核に自分の「好き」という気持ちがなければ、どこかありきたりになってしまいます。とはいえ自分の好みを反映するさじ加減は、意外に難しいもの。
好きなお店のインテリアの使いは参考にしたいものの一つですが、もしあなたがアンティークなテイストが好きなら、昭和レトロな純喫茶(※1)に注目してみませんか。
今回は純喫茶を愛するあまりほとんど毎日通っている、東京喫茶店研究所二代目所長(※2)、難波里奈さんのお部屋をご紹介。純喫茶から譲り受けたものや、自ら探し求めた家具などで構成された自室は、昭和の映画、例えば大林宣彦監督の映画『時をかける少女』や『ねらわれた学園』のヒロインのお部屋を思わせる、心ときめく空間です。

※1 純喫茶・・・お酒を出す「カフェー」と区別して、珈琲や軽食のみを提供した店を呼ぶ際に、昭和初期より使われるようになった言葉。本文中では90年代のカフェブーム以前の、昭和レトロな喫茶店を「純喫茶」としています(インタビューにお答えいただいた方による呼称は、発言による)
※2 東京喫茶店研究所二代目所長・・・研究所は架空の存在。その一代目所長は写真家詩人の沼田元氣さん

自らの足で訪問し、感じ取った純喫茶の魅力を伝える東京喫茶店研究所二代目所長 難波里奈さん(写真撮影/相馬ミナ)

東京喫茶店研究所二代目所長 難波里奈さん(写真撮影/相馬ミナ)

難波さんは日本全国2000軒以上の純喫茶を訪ねてきたほどの、純喫茶好き。その貴重な記録は多数の著書としてまとめられ、その純喫茶への愛は誰もが一目置くところです。

さまざまな純喫茶をめぐり、その空間を知り尽くした難波さんのお部屋、こと「喫茶 あまやどり」は、今までに見てきたものを活かしながら、暮らしやすさにも考慮された居心地のよさそうな空間。

そこで好きなお店から受けたインスピレーションを部屋づくりに活かすノウハウや、閉店した純喫茶からインテリアを譲り受けた時のエピソード、昭和レトロなアイテムやアンティークテイストな品との出合い、そして難波さんが純喫茶に魅せられ、通うようになったきっかけなどについて伺いました。

「私のあこがれるものは全て純喫茶の空間の中にある」部屋の中で聞くレコードプレイヤーを置くためのスペース。閉店した純喫茶「DANTE」(東京・西荻窪)から譲り受けたテーブルは、アナログレコードとプレーヤーによく馴染む(写真提供/難波里奈)

部屋の中で聞くレコードプレイヤーを置くためのスペース。閉店した純喫茶「DANTE」(東京・西荻窪)から譲り受けたテーブルは、アナログレコードとプレーヤーによく馴染む(写真提供/難波里奈)

もともと難波さんは昭和レトロな雑貨や家具が好きで、純喫茶に通うようになったのもそれがきっかけだったそう。

「なぜかは覚えていないのですが、大学生の時に昭和時代のものたちがとても気になって、集め始めました。用途などはまったく考えずに、見た目のデザインだけで惚れ込んで『うわぁ、これ素敵!』って。炊飯器を7つも買ってしまったこともあります。その他にも、ポット、電球、照明とか、グラスやスプーンや鍋などの日用雑貨を、コレクションしていました。

当時は実家暮らしだったのですが、自分の部屋だけではなく、隣の部屋、倉庫、と次々と昭和レトロなアイテムたちで侵食してしまって(笑)。さすがに父親から『使いきれないものを、そんなに集めてどうするんだっ』と叱られました。確かに私自身もコレクションの管理に限界を感じていて……。

そんなある時、『私が好きで集めているものは、実は全部、喫茶店にあるな』って気が付いて。それなら喫茶店を、『今日の私の部屋』だと思えばいいと、ひらめいたのです。それから、部屋を着替えるように、喫茶店に通う日々が始まりました」(難波さん)

純喫茶のインテリアにも、さまざまなテイストがあります。重厚な書斎風だったり、デコラティブなロココ調だったり、70年代風のレトロポップだったり。難波さんは、そのどれもが愛おしいといいます。

「店主の好みで統一された空間に魅かれます。たとえ自分のテイストとは合わなくても、その方の表現したい世界に興味が湧くのです。それぞれの個性がぎゅっとつまった空間で、インテリアを観察しながら過ごす時間が、大好きです」(難波さん)

目を輝かせて純喫茶のインテリアを語る難波さん。店主が自らの好みを突き詰め、長い年月をかけて磨き上げた純喫茶の空間で憩うことは、その人の世界観を「のぞかせてもらっている」感覚だといいます。

閉店する純喫茶の家具で、インテリアを構成した理由「喫茶 あまやどり」の珈琲タイム。コーヒービーンズが敷き詰められたテーブルと、椅子は元住吉の「らんぷ」、ナプキン入れとシュガーポットは神田「カスタム」のもの。今は閉店した両店から、難波さんが譲り受けた。アンティークショップ「SHIBERIA」にて購入したランプをコーディネートして(写真提供/難波里奈)

「喫茶 あまやどり」の珈琲タイム。コーヒービーンズが敷き詰められたテーブルと、椅子は元住吉の「らんぷ」、ナプキン入れとシュガーポットは神田「カスタム」のもの。今は閉店した両店から、難波さんが譲り受けた。アンティークショップ「SHIBERIA」にて購入したランプをコーディネートして(写真提供/難波里奈)

難波さんは自室を「喫茶 あまやどり」と呼んでいます。

Instagramでは、純喫茶めぐりの様子とあわせて、自室でいただくお料理や、耳を傾ける音楽についても、ストーリー機能を使って発信。難波さんのフォロワーには純喫茶のファンであると同時に、「喫茶 あまやどり」のファンも多いのです。

Instagramの難波さんのアカウント「純喫茶コレクション」は日々の純喫茶通いのレポートとともに、「ストーリーズ」機能にて、難波さんのお部屋「喫茶 あまやどり」での過ごし方も発信(画像提供/難波里奈)

Instagramの難波さんのアカウント「純喫茶コレクション」は日々の純喫茶通いのレポートとともに、「ストーリーズ」機能にて、難波さんのお部屋「喫茶 あまやどり」での過ごし方も発信(画像提供/難波里奈)

「実は私の部屋のインテリアの多くが、喫茶店からのもらいものです。閉店してしまった喫茶店から譲り受けた家具と、私が自分で集めたアンティークテイストのインテリアを組み合わせているのがポイントです。

譲り受けた経緯はいろいろで、初めて訪れたお店で、マスターから『明日で閉店するから、店の中のものは全部処分する』と聞いて、『もし可能であれば、この机をいただけませんでしょうか?』とお願いしたこともありました。また、ずっと通っていたお店が幕を下ろすことになり、悲しんでいたら『最後にこれをあげる』と形見分けみたいにいただいた、家具や雑貨もあります。そんなお店からのものたちが、部屋の中に10点以上ありますね」(難波さん)

コレクションしている純喫茶のカップたち。左3列は閉店したお店から譲り受けたカップ。飾ってないものも含めて20客ほども(写真提供/難波里奈)

コレクションしている純喫茶のカップたち。左3列は閉店したお店から譲り受けたカップ。飾ってないものも含めて20客ほども(写真提供/難波里奈)

訪れた純喫茶のマッチコレクション。写っているのはほんの一部(写真提供/難波里奈)

訪れた純喫茶のマッチコレクション。写っているのはほんの一部(写真提供/難波里奈)

難波さんが閉店した純喫茶のインテリアを引き取るのは、二つの理由があります。一つは、もちろん純喫茶のインテリアが好きだから。もう一つは、無くなった純喫茶の空間を記憶しておくためです。

「閉店した喫茶店から譲り受けたものは、お店の方たちに託していただいたものだと思っています。

お店は閉店してしまったけれど、私はそこで過ごした時間を覚えています。つまり、私の中では生きているのです。その記憶を部屋にコレクションしているという感覚です」(難波さん)

難波さんのお部屋からは、閉店していくお店も含めて、愛する純喫茶を探究し、記録していこうという情熱がうかがえます。

純喫茶のインテリアに照らして、自分の「好き」を発見する純喫茶から譲り受けた家具と、自ら探したアンティーク調の雑貨などを組み合わせた難波さんの部屋(写真提供/難波里奈)

純喫茶から譲り受けた家具と、自ら探したアンティーク調の雑貨などを組み合わせた難波さんの部屋(写真提供/難波里奈)

アンティーク家具が好きだけれど、他のインテリアのテイストとの合わせ方が分からなかったり、古めかしい印象になるのを心配したりして、「部屋に取り入れるのが難しい」と感じている人も多いのではないでしょうか?

難波さんの部屋は、さまざまな純喫茶から譲り受けたインテリアや雑貨で構成されていますが、すっきりとして統一感のある仕上がりです。難波さんに部屋のコーディネートの工夫を聞きました。

「『これ』という正解があるわけではなくて、すごく好きな喫茶店があればよく観察して、『あ、こういう椅子とこういう机が合うんだ』と、さりげなく真似をしてみるのもいいかもしれません。

喫茶店はつくった人の好きなものや情熱が細部まで散りばめられている空間です。ですから喫茶店にインスパイアされた部屋をつくるのなら、お店の方たちにそのコツを聞いてみるのもいいですね。

好きな喫茶店から学んだら、それに似た家具を骨董屋さんや骨董市で集めてはどうでしょうか。今はレトロがブームなので、販売しているお店は多いと思います」(難波さん)

難波さんお気に入りの高円寺のアンティークショップ「古道具 権ノ助」(写真撮影/相馬ミナ)

難波さんお気に入りの高円寺のアンティークショップ「古道具 権ノ助」(写真撮影/相馬ミナ)

純喫茶は「100店舗あったら100人のマスターの好きなものが詰まった、一つとして同じものがない宝箱のようなもの」と難波さんはいいます。純喫茶めぐりを続けてそれぞれのお店の個性と向き合うことで、難波さん自身のインテリア選びのセンスも、磨かれていったのでしょう。

お話を伺って、大学時代に自分の“好き”を発見し、以来それを追い求め続けてきた難波さんの感性が、その著書にも、またお部屋にも表れているのだと感じました。純喫茶を発掘することも、そこからインテリアのエッセンスを汲み取ることも、自分の感性を研ぎ澄ましてじっくりと時間をかけて向き合うことが、大切なのかもしれません。

難波里奈さん

後編では、難波里奈さんのお気に入りの街、高円寺の純喫茶を案内してもらいました。
高円寺の愛され純喫茶を訪ねて。『純喫茶コレクション』著者・難波里奈さんと、私語禁止の名曲喫茶や老舗店で昭和レトロを味わう 

難波里奈さん 
東京喫茶店研究所二代目所長。日々の隙間に訪れた純喫茶は2000軒以上。現在は様々なメディアでその魅力を発信中。『純喫茶コレクション』(PARCO出版)『純喫茶の空間 こだわりのインテリアたち』(エクスナレッジ) 『純喫茶とあまいもの』(誠文堂新光社)など著書多数。

純喫茶コレクション
Instagram:@retrokissa2017 
Twitter:@retrokissa

著書

著書

ビカクシダだらけ!? デザイナー夫妻が猫と暮らすインダストリアルな賃貸

インダストリアルな室内に、ビカクシダ(コウモリラン)や自然のオブジェなどが置かれ、白とグレーの猫が悠々とたたずむ。そんな自然物が似合う「博物館」をテーマにした部屋で暮らす森田賢吾さん・仁美さん夫婦に、ライフスタイルとリンクする「ステキなお部屋づくり」について伺いました。

「ペット可・バイク駐車可・変わった物件」を条件に部屋探し

クリエイティブディレクターでグラフィックデザイナーの森田賢吾さんと、クリエイティブディレクターでテキスタイルデザイナー、イラストレーターの森田仁美さん。多摩美術大学の同級生のご夫妻は、お互いに好きなものを集めているうちに部屋が狭くなり、2019年に今の住まいに引っ越しました。
Twitter(@Hi__MoriMori)で、普通ではないお住まいとジャングルのような植物、カッコイイ家具、2匹の猫の美しさに興味をひかれ、訪問させていただきました。

まるで絵のよう。クールなインテリアに植物や猫が生命のぬくもりを添える(写真提供/森田さん)

まるで絵のよう。クールなインテリアに植物や猫が生命のぬくもりを添える(写真提供/森田さん)

この賃貸物件を見つけたのは、夫の賢吾さん。「東京周辺で、猫が飼えて、バイクが置ける場所があって、おしゃれなデザイナーズ物件」の4つを条件に、お部屋探しのアプリを5、6個ダウンロードして時間があれば見ていました。不動産会社に行って、「コンクリートの箱みたいな部屋でいいので、変わった物件はないですか」とイメージに近い写真を見せて相談しましたが、東京都内はペット可物件が少なく、条件やイメージに合う部屋はなかなか巡り合えませんでした。

陽が当たる窓際は猫も植物も大好きな場所(写真撮影/相馬ミナ)

陽が当たる窓際は猫も植物も大好きな場所(写真撮影/相馬ミナ)

「不動産屋さんが紹介してくれるのは、ほとんどが一般的な普通の部屋でした。これはと思う物件はスピード勝負ですぐに内定していたり、なかなか条件が合わなかったり。この物件はポータルサイトで見つけて、内見して即決しました」(賢吾さん)

「部屋自体に個性やスタイルがあるより、ニュートラルな部屋で、自分たちが好きで集めてきたものを置いてスタイルができ上がるような物件がいいと思っていました」と話す仁美さん。夫婦の趣味が合うので、決断はスムーズでした。

コンセプトを「博物館&インダストリアル」に決めてぶれない部屋づくり

住まいはインテリアや家具、暮らし方で表情が変わるもの。ブランディングの仕事をしている森田さん夫妻は、コンセプトから始めました。

「まずこの部屋をどういう世界観にしたいか、お互いに意見を出してコンセプトを決めました。『木や石、植物などの自然物が映える、博物館のような家』をコンセプトにプランニングしたことで、想像どおりの家になりました。持っている家具をリストアップして、サイズを測って間取図に落とし込んだり、世界観資料のようなものをつくって、仕事でやっていることを部屋でもやりました」(賢吾さん)

住まいのメインステージは、窓が大きいリビングです。天井と壁の一部はコンクリートの打ちっぱなしで、床は黒いストロングフロアに壁は黒やグレー。モノクロがベースですが、陽当たりが良く明るい雰囲気。デザイン書やレコードなどを収納している本棚は、アメリカでガレージに置くようなものを、キッチンの棚はお店の厨房などで使用されているものを買って、無骨さを生かした部屋づくりを目指したそうです。

シンプルなリビング。低い家具でまとめているため広く感じる(写真提供/森田さん)

シンプルなリビング。低い家具でまとめているため広く感じる(写真提供/森田さん)

リビングのテーブルは恵比寿にある人気のインテリアショップ「パシフィック・ファニチャー・サービス」で購入。使うほどに色が濃くなり味が出てくる無垢材の寄せ木の天板が特徴的です。

テーブルと木の色が合う椅子はイームズ(写真撮影/相馬ミナ)

テーブルと木の色が合う椅子はイームズ(写真撮影/相馬ミナ)

対面式キッチンは吊り戸棚もキャビネットもなく、圧迫感も生活感も感じられず、キッチンというよりお店のカウンターのよう。キッチンとダイニング・リビングの間の段差が空間を仕切らずに分けています。家具は、キッチンの前壁のステンレスと木の色とできるだけ合わせるなど、マテリアルやカラーを統一しています。

カフェのようなキッチン。レトロなペンダント照明も素敵(写真撮影/相馬ミナ)

カフェのようなキッチン。レトロなペンダント照明も素敵(写真撮影/相馬ミナ)

家具はアメリカ系のインテリアショップや業務用の家具屋さんで買ったものがほとんど。「私たちは好みが似ていて、デザインされすぎているものより、インダストリアル感がある武骨なものが好きなんです。自然物、木のモノ、植物沢山が映えるように主張し過ぎる家具は置かないし、可愛い家具や小物に惹かれても、コンセプトのインダストリアルから外れるなら選びません」(仁美さん)

リモートワークの際に夫婦が並んで作業ができるワークスペースもシンプルに(写真撮影/相馬ミナ)

リモートワークの際に夫婦が並んで作業ができるワークスペースもシンプルに(写真撮影/相馬ミナ)

また、浴室もコンクリートの壁に囲まれていて19世紀後半のアメリカで流行した猫脚の浴槽が設置されています。浴室とトイレ、洗面台が同じ空間にあるため、来客時に水まわりが丸見えにならないよう内装屋さんに頼んでガラスドアにカッティングシートを貼ったそうです。

猫脚の浴槽が置かれたガラス張りの水廻り。ビカクシダが水分を補給中(画像提供/森田さん)

猫脚の浴槽が置かれたガラス張りの水まわり。ビカクシダが水分を補給中(画像提供/森田さん)

自慢のコレクションを飾り、生活感があるものは徹底的に隠す

両親が水産大学出身であったことから、子どもの頃から魚の造形に興味をもち、釣りや魚の絵を描いて過ごし、たくさんの魚や昆虫を捕ってきて飼育をしていたという賢吾さん。自然が豊かな環境で、動物たちが多くいる実家で育ち、よく昆虫を捕ったりしていた仁美さん。森田さん夫婦は、そんな原体験をベースに、自然や動物、生き物に興味をもち続け、自分たちの目線を通した「博物館」を居住空間で表現しています。

家具と同様、コレクションも厳選された美しいモノばかり。テレビ台の隣にある六面体のオブジェは、イタリアのデザインデュオ、alcarol(アルカロール)が製作したもので、世界遺産のドロミテ山の低層で眠っていた”むした苔をまとった木材”を使用したスツール。「池をそのままくりぬいて形にしたような、水の中に入っているような気持ちになれる不思議なオブジェです」と仁美さん。

感性に合うアートを厳選。テレビ台の横にある椅子は本来座るもの。テーブルの上にあるのは賢吾さんが作成した苔のテラリウム(写真撮影/相馬ミナ)

感性に合うアートを厳選。テレビ台の横にある椅子は本来座るもの。テーブルの上にあるのは賢吾さんが作成した苔のテラリウム(写真撮影/相馬ミナ)

夫のコレクションの石。自然に造られた形や柄、色が美しい(写真撮影/相馬ミナ)

夫のコレクションの石。自然に造られた形や柄、色が美しい(写真撮影/相馬ミナ)

石の博物館やジビエ屋で購入した化石や骨。コレクターにとって垂涎の逸品(写真撮影/相馬ミナ)

石の博物館やジビエ屋で購入した化石や骨。コレクターにとって垂涎の逸品(写真撮影/相馬ミナ)

流木で出来た牛の骨格は、アーティスト・古賀充さんの作品(写真撮影/相馬ミナ)

流木で出来た牛の骨格は、アーティスト・古賀充さんの作品(写真撮影/相馬ミナ)

すっきりと暮らす秘訣を聞くと、「植物、石、アートなどのコレクションやデザイン書、レコード、DJの機材などは出しっぱなしだし、収集癖があるのでモノはたくさんあります。ただ生活感があるもの、例えば商品としてデザインされたパッケージなどがあると生活空間がごちゃごちゃしてしまうので、見えない所に隠しています」と賢吾さん。

キッチンは食器棚の代わりに、飲食店の厨房にあるようなステンレス製の収納台を設置。家電もステンレスや黒で統一。流しの下の空洞には、サイズを測ってコンテナボックスやダストボックスを収めています。

調味料も台車式の収納ボックス内に収納(写真撮影/相馬ミナ)

調味料も台車式の収納ボックス内に収納(写真撮影/相馬ミナ)

「調味料や油や鍋などは、キッチンに出しておいた方が使いやすいかもしれませんが、夫が生活感のあるものを出しておくのが嫌いなので、使うときに出して、出したらすぐしまうことが習慣になりました」(仁美さん)

細かいものや日常品は収納グッズを利用。アメリカのバンカーズや無印良品の収納ボックスなどの、同じ形のフタ付きのツールボックスをいくつか重ねたり並べたりしてモノを隠しています。

寝室の収納。収納ボックスは棚のサイズに合うものを選んだ(写真撮影/相馬ミナ)

寝室の収納。収納ボックスは棚のサイズに合うものを選んだ(写真撮影/相馬ミナ)

猫と両立する「スッキリきれいなインテリア」

森田家には2匹の猫がいます。仁美さんは、実家で10匹~15匹くらいの保護猫と暮らしていましたが、賢吾さんは結婚して初めて触れあった猫の人懐っこさに驚いたそうです。

白猫のやっこちゃん。猫もアートのように美しい(写真撮影/相馬ミナ)

白猫のやっこちゃん。猫もアートのように美しい(写真撮影/相馬ミナ)

凛と佇む姿が部屋の雰囲気に溶け込んでいる、しじみちゃん(写真撮影/森田さん)

凛とたたずむ姿が部屋の雰囲気に溶け込んでいる、しじみちゃん(写真撮影/森田さん)

「最初の頃は、机の上にあるものを片っ端から落とすので、お気に入りガラスの置物を壊されたこともありましたが、『猫はモノを落とす生き物だから、しまっておかない人間が悪い』と夫に話して理解してもらいました。おかげで、モノを出しておかないきっかけになったかもしれません。

猫のおもちゃも、夜寝る前にはしまいます。出しっぱなしより、時々出した方が喜んで遊んだりしますね。植物にいたずらするのは、かまってほしいときなので、猫草で気をそらすようにしています」(仁美さん)

やっこちゃんのお気に入りの場所。猫は狭い凹みが大好き(写真撮影/相馬ミナ)

やっこちゃんのお気に入りの場所。猫は狭い凹みが大好き(写真撮影/相馬ミナ)

自然と向き合うこと、ビカクシダを育てることもクリエイティブ

仁美さんは、この部屋に越して急激に植物への興味が出てきたそうです。最初は多肉植物や大きい花瓶に枝ものを刺したりしていましたが、コケ玉に着生したビカクシダ(コウモリラン)をひとつ買って、調べるうちに、植物の概念を覆すような生態やインテリアとしての面白さに惹かれたそうです。植物は種類により猫との共生に気をつける必要がありますが、森田さんは猫たちが、多肉植物やビカクシダなどに反応しないことをテスト済みの上、増やしています。

ビカクシダは丸い葉っぱ(貯水葉)と長い葉っぱ(外套葉)から成る(写真撮影/相馬ミナ)

ビカクシダは丸い葉っぱ(貯水葉)と長い葉っぱ(外套葉)から成る(写真撮影/相馬ミナ)

自然界では地面に生えるのではなく木に寄生して生きるビカクシダ。板に貼り付ける人もいますが、仁美さんは、「室内に自然物があるような感じにしたい」と、コルクの木の樹皮にくくりつけています。

天井に突っ張りポールを設置して吊るしたビカクシダ。一つひとつ形が違い、葉っぱの形に装飾性があり面白い(写真提供/森田さん)

天井に突っ張りポールを設置して吊るしたビカクシダ。一つひとつ形が違い、葉っぱの形に装飾性があり面白い(写真提供/森田さん)

「同じフォーマットでも少しずつデザインや色が違うものを集めたくなるコレクター魂が刺激されて、今は20株ほどあります。部屋の陽当たりがいいので、すごい早さで植物が育つんです。全部大きくなると大変なので、これ以上は増やせないと思っています」

お手入れは「陽当たりが良く、常にサーキュレーターをつけて、風がそよそよと吹く状態を作っておくこと。水苔が乾いたら浴室でコルクの樹皮と植物の間にある水苔にたっぷりと水をあげて、水を切って部屋に戻します。数が多いので手はかかりますが、ビカクシダを育てて約2年、一度も枯らしたことがありませんし、最近はホームセンターなどに育てやすく品種改良されたものも売っているので、初めての人もトライしやすいと思います」と仁美さん。Twitterを始めたのも、愛好家がビカクシダをどう育てているのか、情報を収集するためだそう。

一年を通して水苔が乾いたらたっぷりと水を与える(写真撮影/相馬ミナ)

一年を通して水苔が乾いたらたっぷりと水を与える(写真撮影/相馬ミナ)

「ビカクシダはS缶やフックを使って天井や突っ張り棒に吊るしたり、ハンガーラックにかけるなど、壁に掛けて飾れるので生活面積を邪魔しません。床が広いまま増やせるのも魅力です」

ハンガーラックに沢山並べて吊るしている(写真提供/森田さん)

ハンガーラックに沢山並べて吊るしている(写真提供/森田さん)

希少性の高いビカクシダは金額が高いので、胞子から育て始めた仁美さん。「時間をかけて育てられた達成感もあり、愛着が違うので、興味がある人は育ててみるのもいいかもしれません。ちょこちょこ手を加えて見ていると、一気に大きくなったり変化が分かりやすく、自然と向き合うことが楽しい。植物を育てるのはクリエイティブな作業です」

撒いた胞子が芽を出し9カ月位でここまで育った(写真撮影/相馬ミナ)

撒いた胞子が芽を出し9カ月位でここまで育った(写真撮影/相馬ミナ)

ビカクシダは仁美さんの趣味ですが、賢吾さんは、最近渓流でのテンカラ釣りに凝っていて、イワナなど川魚のはく製や毛鉤(けばり)を作るための素材(鳥の羽など)を少しずつ集めているそう。「お互いに好きなものは認めて応援しています。これからも、まだまだ興味が広がって変化するかもしれません」と仁美さん。

独自の世界観をつくり上げている森田夫妻。「植物が沢山ある自然と向き合う暮らし。日常生活でありながら非日常に住むスペシャル感というか、非日常が日常になっていて、居心地がとてもいい」と仁美さん。「好きなモノを自分の身のまわりに置いて、好きを感じられる趣味部屋のような家。趣味、ライフスタイルイコール部屋みたいな感じはします」と賢吾さん。

好きなことを優先し、コンセプトを決めて、しっかりプランニングして統一感をもたせることで完成した、オリジナリティあふれる「博物館のような住まい」。夫妻のような特別なセンスがなくても、取り入れたり試せるヒントがあるのではないでしょうか。

●森田賢吾さん
クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。大貫デザイン、博報堂デザインを経て2016年デザインユニットknotを設立。JAGDA正会員。ハイクオリティなビジュアルコミュニケーションを軸としたブランディングデザインを多数手がける。NY ADC賞、 D&AD賞、 ONE SHOW、TOPAWARDS ASIA、グッドデザイン賞、亀倉雄策賞・JAGDA賞ノミネートなど国内外の賞を多数受賞。
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●森田仁美さん
クリエイティブディレクター・ テキスタイルデザイナー・イラストレーター。多摩美術大学テキスタイルデザイン学科卒業。アパレル小物の企画デザインや生産に携わった後に独立。国内の靴下工場のCDO(チーフデザインオフィサー)としてものづくりの現場のブランディングを行う傍ら、イラストの仕事も手がける。
Twitter (モリヒト)

「お店部屋」のすごい世界。超本格ゲーセン、サイゼリヤを家で再現する人々

新型コロナウイルスの影響で「おうち時間」の重要性が高まった今年。SNS上では、部屋を自分たちだけが楽しめる空間にしたり、好きなお店を再現するといった取り組みをする人々に注目が集まりはじめている。
今回は、大規模なおうちゲームセンター(ゲーセン)をつくりあげて夢をかなえた戸矢孝一さんと、部屋で“サイゼリヤ”や“駄菓子屋”を再現した千葉真理さんのお二人に、始めようと思ったきっかけ、こだわったポイントについてお話を伺った。

海外からもゲーム筐体をかき集め、世界的に貴重な空間をつくりあげたバーチャファイターからぴょんぴょんまでおなじみのゲームが勢揃い(写真撮影/戸矢孝一)

バーチャファイターからぴょんぴょんまでおなじみのゲームが勢ぞろい(写真撮影/戸矢孝一)

まず紹介するのは、おうちに大規模なゲームセンター部屋をつくってしまった戸矢孝一さん。

42歳既婚、ゲーセン黄金期を知る世代。「小さいころからお小遣いを全額ぶち込む勢いでゲームをやっていました」と語る彼は、「これが自宅にあればいいな……」という童心から、とてつもない“自宅ゲーセン”を築いた。

戸矢さんが最初にゲーム筐体1台を家に置いたのは10年ほど前。そして2016年ごろから、本格的な収集をはじめたという。

「本格的に集め始めたらスペースが無くなり家を新築することになって、いよいよ一部屋をゲーセンにしちゃうかと思ったら、ガレージまでゲーセンになっていました」(戸矢さん)

(写真撮影/戸矢孝一)

(写真撮影/戸矢孝一)

「アフターバーナー(1987年にセガが発売したアーケードゲーム)はすごく貴重だから、ネットオークションで出品されたのを見た瞬間にそのまま買っちゃって。それで商品の場所を見たら『ニューヨーク』って書いてあるのに気づきました。アメリカでも東海岸。空便では運べないから、まずアメリカ横断の陸送からスタートしてシアトルから船便で。知人へ譲ったものも含めて、2台合わせて輸送代だけで150万円。そこから直すのに1年半かかりました」(戸矢さん)

世界的にも貴重な一台(写真撮影/戸矢孝一)

世界的にも貴重な一台(写真撮影/戸矢孝一)

そもそも古い筐体は経年劣化で次々と壊れる上、南米やヨーロッパなど各国ではレトロゲーセンも流行っているために日本の業者が軒並み筐体を海外へ輸出してしまい、在庫不足で値段は高騰する一方だという。

「当時のゲーマーも40~50代になって遊べるお金が増えて、高くても買う人が増えたのも一因です」(戸矢さん)

所蔵する「アウトラン(1986年に発売されたアーケードレースゲーム)」などセガの体感ゲームシリーズは軽く100万円に達し、対戦型格闘ゲームでも最安期では1万3000円ほどだったスーパーストリートファイターIIXが現在は10万円ほどで、「ネットオークションで25万円ほどで入札されていたのを見ました」(戸矢さん)

ほかにも格闘ゲームでは「サムライスピリッツ」や「餓狼伝説」の小さいネオジオ筐体のもので20万円くらい。メダルゲームの「ジャンケンマン」も8万円ほどするとか。このコレクションを集めた総額は「怖いから計算したこと無い」そう。

(写真撮影/戸矢孝一)

(写真撮影/戸矢孝一)

「でもお金だけじゃダメ。30~40年ものの古い筐体ばかりだから修理の腕も必要で、あとは粘り。インベーダーゲームごろからゲームセンターをやっている店主から、3時間半の立ち話を2回繰り返して、信用を得てからやっと手に入れたものもあります」(戸矢さん)

この100円両替機の導入にも7万~8万円かけたという。普及機なのに、最近はあまり見かけない部分に味を感じているそうだ。

味のある100円両替機(写真撮影/戸矢孝一)

味のある100円両替機(写真撮影/戸矢孝一)

「両替をしたお金をチャリンと入れて遊ぶまでがゲーセンの作法。実際に100円玉を入れないと真剣味が出ないんですよね」(戸矢さん)

1年がかりで「カップヌードル自販機」納入

さらに、戸矢さんはカップヌードルの自販機まで導入している。「ゲーセンで、なけなしのお金で買ったカップラーメンがおいしかったから。プールサイドの焼きそばがなぜかうまく感じるのと同じ」と語るが、何となく分かる。

(写真撮影/戸矢孝一)

(写真撮影/戸矢孝一)

「陸送で持ってきたはいいけれども、西濃運輸の営業所留めで、営業所から家まで持ってくることから大変でした。クレーン付きトラックを持っている個人の運送屋さんを探し出して、家の駐車場までは運んでもらったけど、家の中に持ち込む方法がなくて1年間放置しました」

庭に1年間置いたままだったカップヌードル自販機(写真撮影/戸矢孝一)

庭に1年間置いたままだったカップヌードル自販機(写真撮影/戸矢孝一)

「しょうがないからハンドフォークリフトを買って、中に突っ込み対応しました。おかげで300キロするアフターバーナーの筐体も動かせるようになりました」(戸矢さん)

(写真撮影/戸矢孝一)

(写真撮影/戸矢孝一)

カップヌードルにお湯を入れる。ここまでにとてつもない労力がかかったそう(写真撮影/戸矢孝一)

カップヌードルにお湯を入れる。ここまでにとてつもない労力がかかったそう(写真撮影/戸矢孝一)

「お湯を入れるために、家の水道管も分岐しました。買ってお湯まで注いで、食べられるところまで構築するのがロマンだから。フォークも日清の標準に可能な限りなく近い、透明の短いフォークじゃないと」(戸矢さん)

カップヌードル自販機とともに育った世代なら、納得のこだわり。ドリンク自販機もあり、普段づかいで1日2~3本は飲んでいて、懐かしの250ml縦長缶をセットすることが多いそう。

「構造的には冷蔵庫だし、電気代も高くないんですよね。あえて硬貨を2種類使う110円にしたから、チャリンチャリンと入れて、落下した缶がガコーンって響くのがいい。業務用のキンキンに冷えた缶ジュースが楽しめるし、何を入れるかのセレクトも楽しい」

(写真撮影/戸矢孝一)

(写真撮影/戸矢孝一)

幻の一台をついに手に入れた

戸谷さんが個人的に好きなのが、子どものころに遊んだ「おしゃべりオ~ム」と「はっぴーロボ」。小さなカプセルトイがもらえる機種だ。中でも後者は、絶滅寸前の1台を引き取ったという。

(画像提供/戸矢孝一)

(画像提供/戸矢孝一)

「当時、10円ほどで遊べても、なかなか当たらずになけなしの100円がアッという間になくなりました。当たっても景品は変な消しゴムや、引き出物のケーキの上にある梅の花の飾りとか。大人のずるさを知りました(笑)」(戸矢さん)

このゲーセンだが、近い未来に民泊にしていきたいとのこと。

「ゲーム好きな世界の人たちに寄ってもらいたいです。自宅ゲーセンを通じてつながっていきたい」(戸矢さん)

コロナ以前にはTwitterで知り合ったチリの友人も招いた(写真撮影/戸矢孝一)

コロナ以前にはツイッターで知り合ったチリの友人も招いた(写真撮影/戸矢孝一)

「コロナ禍で稼働していたのは、全国でもうちのゲーセンぐらい」と冗談を飛ばす戸矢さん。家族で充実した日々を過ごすのに、ゲーセン部屋も大いに役立った。「いままでやってみたかった環境を構築できて、満足しています」(戸矢さん)

「ゲーセン部屋は9畳で、ガレージのほうが24畳。ガレージには車を2台入れる予定だったから。でも普通であれば、6畳間でつくってもけっこうな数が入るし、立派なゲーセン部屋になると思います」(戸矢さん)。

なお自宅ゲーセンを気軽に始めたい人におすすめなのは、UFOキャッチャーとのこと。ネットオークションで2万円ほどで取引されているそう。ただサイズが大きく、畳一枚分ぐらいのスペースを占有するのでご注意を。

遊んで食べて子どもが計算をマスター! 「おうち駄菓子屋」

マンネリ化しやすい外出自粛期間で、気軽で子どもと一緒に楽しめる「おうち駄菓子屋」はSNS上でひとつのムーブメントとなったが、そのなかでも完成度が高かったのが千葉真理さん。

はじめたきっかけは、コロナ禍で緊急事態宣言が出る前に駄菓子屋さんへ通っていて、家に閉じこもる日々で思った「おうちに駄菓子屋をつくっちゃえ」という思いだったそう。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

子どものびっくりした顔が見たくて、寝た後に夫婦でこそこそと作業し、サプライズでお店を見せたという。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

1日50円だけ何でも買ってOK。看板はPhotoshopでよごしを入れてレトロ感を醸し出した。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

駄菓子屋の花形といえばくじ引きや当たりつきのお菓子。子どもが好きで、射幸心をくすぐられるそれらは豊富に用意した。手づくりのきな粉飴に加え、糸引き飴もセッティング。

きな粉飴は特に人気だったとのこと(写真撮影/千葉真理)

きな粉飴は特に人気だったとのこと(写真撮影/千葉真理)

こちらも自作した、つまようじを縦に落とすと景品が出てくる「落としくじ」。お風呂で遊べるおもちゃなどを景品に入れてその後のおうち遊びにも活かせるようにした。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

「ほかも子どもが喜びそうなもの、目新しいようなものを中心に買いそろえました。私も子どものころから駄菓子を大人買いするのが夢だったので、すごい楽しくて。商品も随時刷新しています」(千葉さん)

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

おうち駄菓子屋ならではの強みが、床にお金とお菓子を置いてじっくり計算の勉強ができること。おかげで4歳の子どももスムーズに計算ができるようになったとのこと。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

次はもっと大きな数の計算ができるようにと、お小遣いを80円に増やし、それに伴って個々の値段も30円→50円などと値上げしたという。家庭内インフレである。

ちなみにおうち駄菓子屋の開店は毎日午後3時だが、子どもが楽しみにしすぎて、まだ11時なのに『もう3時?』と毎日聞かれるとか。

家庭内で好きなチェーン店を再現。「おうちサイゼリヤ」

千葉家では、もともと看板を変えて、シーズンごとに「くら寿司」や「マクドナルド」や「サーティワン」などの“家庭内チェーン店”を開くのが定番だった。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

その一環で「今回はサイゼリヤにしよう」と白羽の矢が立ったのだ。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

サイゼリヤといえば、店内に飾られたこれらの絵。「あるとサイゼ感が沸くので、どんどん部屋の壁に貼りました」(千葉さん)

メニューまでも手づくりで再現(写真撮影/千葉真理)

メニューまでも手づくりで再現(写真撮影/千葉真理)

サイゼリヤの実際の料理もできる限り忠実に再現。子どもが参加できそうなものに加え、自分たちがよく頼むモノを中心に、家族会議でメニューを決めた。

(写真撮影/千葉真理)

(写真撮影/千葉真理)

特に人気だった料理は、子どもがつくったキノコのピザだったそう。

「キノコは手でもほぐせるから、子どもが参加しやすいと思って入れたんですが、彼自身も自分がつくったからいつもよりおいしく感じて、親も子どもの成長を感じられたうれしさがおいしさにつながりました。再現度が高くできておいしかったです」(千葉さん)

基本的にそのままメニューを再現しようとしているそうだが、特筆すべきは“エスカルゴ”。

「家にあるたこ焼き器でエスカルゴをつくったら面白いんじゃないかとなって、パパにエスカルゴっぽい別のものをスーパーで買ってもらった結果が「ちくわ」だったんです。主人が切り方を工夫してどうにか再現しました」(千葉さん)

ちくわ製の“エスカルゴ”(写真撮影/千葉真理)

ちくわ製の“エスカルゴ”(写真撮影/千葉真理)

「味はおいしかったです。でもよく味わうとちくわになっちゃうんで、エスカルゴって言い聞かせながら3人で食べました(笑)」

実際にサイゼリヤにあるドリンクで、ドリンクバーも実現。全部は集められなかったが、メロンソーダやカルピスなど好きなものをラインナップした。

注文する役と提供する役を交代しながら、お店感に浸った時間はとても楽しかったという。

ふだんご主人は日曜日しか休みがないが、イベント系のお仕事のために現在は自宅待機が続いている。でもそのおかげで家族の距離が近づく期間になった。「『いつか時間ができたら家族でやりたいね』って話していたことがたくさんかないました」(千葉さん)

少なくともワクチンや治療薬ができるまでは、まだまだ家での過ごし方が重要になってきそうな日々。毎日過ごす部屋を大好きな空間にしたり、好きなお店を再現するといったことをできる範囲でチャレンジしてみると、ワクワクする時間が待っているかもしれない。

これがミニチュア!? Mozuがつくるコンセントの向こうの「小さな暮らし」

一見、なんの変哲もないコンセントが実は扉になっていて、開けるとそこには小さな部屋がある。そんな世界を描いた動画「こびとシリーズ」をご存じでしょうか。今回は若きミニチュアアニメクリエイター・Mozuさんに自分の部屋や友だちの部屋をつくった理由、将来の夢についてインタビューしました。
「自分が大好きな部屋」をミニチュア作品にしたら、バズった!

コンセントを開けると部屋?と言われても混乱してしまう人も多いでしょう。まずは手掛けた作品をご覧ください。

「こびとの秘密基地」

「こびとの階段」

制作したのは、MOZU STUDIOS代表取締役でもある水越清貴(Mozu)さん。21歳という若さながら、次々とミニチュア作品を世に出し、SNSのフォロワーはツイッター19万5000、インスタ17万という影響力を持ち、本を出版したり、個展を予定していたりと、すでにトップクリエイターといってもいい存在です。

水越清貴(Mozu)さん(写真提供/MOZU STUDIOS)

水越清貴(Mozu)さん(写真提供/MOZU STUDIOS)

冒頭の「こびとの秘密基地」はツイッターでもバズりにバズり、なんと68万いいね!超(2020年4月現在)。日本のみならず世界中から反響があったといいます。ミニチュアは1作品あたり製作期間が3~4カ月ほどかかり、身近なものを加工してすべて手作業……と、気の遠くなるような作業を重ねていることが分かります。では、なぜミニチュア作品をつくるようになったのでしょうか。

「はじまりは小学校5年生のとき。友だちに誘われてガンプラ(ガンダムのプラモデル)で遊ぼうという話になったのがきっかけです。初めてプラモデルを買った店の名前も機種も、今でもはっきりと覚えていますよ。その後、プラモデルではなく背景のジオラマづくりに興味を持つように。見よう見まねでつくったので、はじめは本物の土を使って部屋中を土で汚してしまいお母さんに怒られました(笑)」

と振り返ります。始めた当初はまったくうまくいかなかったものの、ジオラマ制作熱は冷めることなく、試行錯誤をしながらジオラマの風景の一部である、建物づくりへと没頭していきます。転機となったのは、高校生の時。趣味でつくっていた部屋を友人がSNSにアップしたところ、一夜にして大反響があり、一躍、ミニチュアクリエイターとして脚光を集めたのです。

巾木(はばき)を入れる瞬間が気持ちいい! ミニチュアの家をつくって気づいたこと

でも、どうして自分の部屋のミニチュアをつくろうと思ったのでしょうか。

「自分の部屋」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「自分の部屋」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「当時、芸術系の高校に進学したものの、僕が好きなのは、人に喜んでもらったり驚かせたりするカルチャー系。一方、同級生は現代アートなどに興味を持っている人が多くて、友人がまったくできず……。それで当時、いちばん好きだった『自分の部屋』をミニチュアでつくってみようと思って。それこそ、学校にいる以外の時間は全部費やしました」(水越さん)

ミニチュア作品では、「こんな家に住みたい」と理想のきれいな家がつくられることが多いなか、水越さんがつくったのは、生活感があって等身大の高校生の部屋。それこそ漫画が並んでいたり、ノートが床置きになっていたり。この「絶妙にリアルな感じ」が共感を呼んだといいます。

作業風景(写真提供/MOZU STUDIOS)

作業風景(写真提供/MOZU STUDIOS)

「“この部屋に住みたい“”あるよね~“など、いろんなコメントが寄せられました。自分が好きなこの部屋、好きなのは自分だけじゃなかったんだって、思えたんです」(水越さん)

ミニチュア作成では「実際の住まいを計測して1/6にするだけ」と言いますが、その1つひとつへのこだわり、ディテールが半端ではありません。また、家電量販店の袋や表彰状などパロディなども多く、思わずにやりとしてしまうしかけが満載です。ただ、すべて手づくりのため、1つのパーツに6時間かかることも珍しくありません。材料はすべて100均ショップなど、身近にあるものを加工していくのだといいます。

「日本の家と海外の家を比べて思うのは、壁紙が白色で落ち着いているところですね。『こびとの旅館』をつくった時には、日本人って狭い空間にギュッと生活必需品を詰めるのが好きなんだなと思いました。狭い中にものを詰め込むというか、空間が狭いゆえの工夫があるんだと思います」(水越さん)

「こびとの旅館」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとの旅館」(写真提供/MOZU STUDIOS)

また、ミニチュア作品をつくっていてめちゃくちゃ気持ちいいのが、「巾木(はばき、床と壁の境目にとりつける部材)」を入れる瞬間だとか。

「作品づくりでもかなり仕上げに近い工程なんですが、壁と床の間に巾木を入れると、めちゃくちゃ空間がしまるんですよ。それまでただの“空間”だったのが一瞬にして“部屋”になる。本物の家をつくっている大工さんも、気持ちいいんじゃないかなって思っています(笑)」(水越さん)

巾木を入れると空間が“しまる”(写真提供/MOZU STUDIOS)

巾木を入れると空間が“しまる”(写真提供/MOZU STUDIOS)

(写真提供/MOZU STUDIOS)

(写真提供/MOZU STUDIOS)

ちなみに、もともとは巾木という名前も分からずに「壁 床 木材」などで検索してその名前を知ったそう。こうやってミニチュア作品をつくることで、「見ているけれど見えていない」ものがたくさんあるんだと気がついたといいます。また、こびとシリーズで使っているコンセントと壁紙はすべて本物の建材だそう。リアリティがあるのも納得です。

「こびとのトイレ」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとのトイレ」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとの押入れ」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとの押入れ」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとの階段」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとの階段」(写真提供/MOZU STUDIOS)

夢はコマ撮りアニメーション制作会社をつくること。冒険はまだまだ続く

水越さんのミニチュア作品の特徴は、きれいすぎないこと。どこか「身近」で「ありそう」な感じが魅力のひとつです。

「以前、ジオラマで『ゴミ捨て場』をつくったんですが、たとえ捨てられたモノでも、使っていた人の思いや暮らしのニオイがするのが好きなんですね。家族がいるとこんなゴミが出るよね、粗大ごみを捨てる人がいるとか、妄想しながらつくる。また、僕が楽しそうにつくっているからこそ、見てくれる人が喜んでくれる、おもしろがってくれる。SNSで寄せられるコメントは全部見ています。これからも見てくれる人との距離が近くありたいと思っています」と話します。

「ゴミ捨て場」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「ゴミ捨て場」(写真提供/MOZU STUDIOS)

水越さん自身は、高校卒業後、大学に進まず、アーティストとして活動することを決め、コマ撮りアニメーションのスタジオ「アードマン・アニメーションズ」(英国・ひつじのショーンなどの作品で有名)に見学にいったり、ミニチュア作家たちと対談したり、その後に自分の会社を設立したり……と数年間で着実に夢を叶えてきました。また、ミニチュア作品だけでなく、ミニチュアアニメが、アジア最大級の短編映画祭「Digicon6」で、JAPAN Youth部門の最優秀賞ゴールドを獲得したり、トリックアートを描いて出版したりと多彩に活躍しています。

現在は企業とのコラボもしていますが、将来は依頼されたミニチュア作品をつくる「職人」ではなく、「自分の好きな作品をつくって、喜んでもらうアーティスト」になりたいとのこと。また、元来の夢である「コマ撮りアニメーション」もつくりたいと計画しています。

「コマ撮りアニメーション」ってめちゃくちゃ手間ひまがかかり、お金がめっちゃかかる一大プロジェクトです!
それにしてもまだ20代なのにこの活躍ですが、ネット時代の新しい才能はこうやって開花していくのでしょうね。水越さんの小さい世界につまった、大きな夢。これからも応援したいと思います。

●取材協力
MOZU STUDIOS
Twitterアカウント
@rokubunnnoichi
YOUTUBE

女性が幻滅する男性の部屋、1位「不衛生」、ティーバイティー調べ

(株)ティーバイティー(愛知県豊明市)は、20~30代の既婚・未婚の男女500名を対象に、「男性の部屋に関するインターネット調査」を行った。調査時期は2018年1月末。それによると、男性の住む部屋に対して理想があると答えた女性は約60%以上、男性の約45%を上回る結果となった。「理想がある」と答えた方の具体的なポイントは、女性では1位「整理整頓がされている」61.9%、2位「おしゃれな家具・インテリアがある」38.7%、3位「日当たりが良い」37.4%だった。おしゃれな家具や、日当たりといった部屋のロケーションや置いてある物以上に、「整理整頓」という内面が現れる部分が重要だと考えている女性が多いようだ。

男性の住んでいる部屋を見て幻滅した経験に関する質問では、男性と女性の間で大きく数値の差がみられ、女性は約60%、男性は約25%となった。異性の部屋に対しては、期待感からチェックが厳しくなる傾向が見受けられる。女性が幻滅した具体的なポイントは、1位「不衛生」56.4%、2位「物が多く、散乱している」51.7%、3位「食べ残しがある」33.7%。服装と同じく、多くの女性が男性に清潔感を求めているようだ。

20代~30代の女性が男性がやるべきだと考える片付け術は、1位「物を捨てる」56%、2位「床に物を置きすぎない」45.8%、3位「汚れたらその場で掃除をする」42.2%だった。理想の男性の部屋のポイントでも挙げられていたように、多くの女性は部屋のロケーションなどよりも、基本的となる「整理整頓」をマメに上手にできることが重要だと考えているようだ。

ニュース情報元:(株)ティーバイティー