「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を

大規模災害を想定した、最低限の水や非常食の備蓄。しかし大地震により物流が途絶え、支援物資も届きづらい状況を思えば、防災リュックの中身だけでは心もとない。また、避難所や仮設住宅での生活が長引いた際には、嗜好品や思い出の品など「心を癒やすアイテム」も必要になる。

できれば最低限ではなく、最悪を想定した十分な備えをしておきたいところだが、自助で賄える備蓄や防災には限界がある。そこで、個人やマンション単位で導入できる最新の防災サービスの検討を含め、一歩進んだ対策について考えてみたい。

防災備蓄をスマホでまとめて管理「SAIBOU PARK」

その前に、多くの人は本当に「最低限」の備えができているのだろうか。防災リュックは、クローゼットの奥で埃をかぶっていないか。そもそも、中身を把握できていなかったり、非常食の消費期限が切れてしまっているケースもあるかもしれない。

そんな、怠りがちな防災備蓄の管理を、スマホで簡単に行えるのが「SAIBOU PARK」。自宅にあるアイテムの写真を撮り、数量や保管場所、消費期限を登録することで、防災備蓄をまとめて管理することができる。

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

サービスを運営しているのは、防災用品のセレクトショップも手がける株式会社サイボウ。「SAIBOU PARK」アプリを開発した背景には、防災備蓄にまつわるこんな課題感があったという。

「自宅の防災アイテムや備蓄品を『あったっけ?』『どこだっけ?』と探した経験がある人は多いと思います。防災備蓄を把握しづらい理由は主に3つあり、1つ目は『種類が多く、一つひとつが小さい』こと。2つ目は『購入後に収納すると、当面は気にかけない』こと。3つ目は『目の届かないところに収納したものは、時間の経過とともに忘れてしまう』こと。
防災用品はこうして存在自体を忘れられ、ひっそりと劣化が進んだり、期限が切れてしまいます。せっかく備えたアイテムも、これではいざというときに真価を発揮できません。その解決策として、防災備蓄の全体像をいつでも把握・管理できるように企画したのが、このアプリでした」

こう語るのは、自身も防災士の資格を持つ「SAIBOU PARK」の佐多大翼さん。

SAIBOU PARK

SAIBOU PARKでは防災アイテムの劣化や非常食の消費期限切れを防ぐため、アイテムごとに「期限」を設定し、期限が切れる1カ月前と2週間前にプッシュ通知でリマインドする機能を持たせた。

「非常食だけでなく、電池やガスボンベにも使用期限があります。SAIBOU PARKを使ってみて、そのことを初めて意識したというユーザーの方もいらっしゃいました」(佐多さん)

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

最低限の自助といえる防災備蓄。自分や家族にとって最適な備えを把握するためにも、まずはこうしたアプリを使い、現在の備蓄状況を俯瞰的にチェックしてみるといいかもしれない。

<サービス概要>
・SAIBOU PARK
自宅の備えがひと目でわかる「防災備蓄まとめて管理アプリ」。非常食や懐中電灯など、手元の防災用品をアプリに登録。賞味期限や使用期限を設定しておくと、期限が切れる前にプッシュ通知でお知らせしてくれる。足りないアイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」から購入することも可能。

被災地で「本当に必要になるアイテム」をレコメンド「pasobo」

食糧の備蓄や日用品、簡易トイレといった防災アイテムは十分に備えていたとしても、避難生活では「意外なもの」が不足することがある。

例えば、乳幼児を連れて避難する場合、被災のストレスで一時的に母乳が出にくくなったり、哺乳瓶を消毒することができずに授乳に困るケースがあるという。
また、小さな子どもの不安やストレスをやわらげる遊び道具、高齢者のいる家庭なら避難所に持ち込める椅子、ペットがいる場合はケージなども用意しておきたい。

最低限の備蓄品以外に、避難所で必要になるものは人それぞれ。家族の属性だけでなく、住んでいる環境によっても必要な準備が異なる。そんな、一人ひとりに合わせた防災対策をパーソナライズして自宅に届けてくれるのが、「pasobo(パソボ)」だ。WEB上の防災診断で「住んでいる自宅の種類は?」「何人で暮らしていますか?」といった13の質問に回答すると、その世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析したうえで、自分に必要な防災セットを提案してくれる。

SAIBOU PARK

1分程度の「オンライン診断」を回答

1分程度の「オンライン診断」を回答

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

サービスを手掛けるのは株式会社KOKUA。東日本大震災の被災地で出会い、全国各地の被災地支援を続けてきたメンバーたちで設立された防災ベンチャーだ。

「行政による支援は、どうしても『誰もが共通して使えるもの』の優先度が高くなりがちで、個人の属性に応じた物品を用意したり、それを各避難所へ配備することが難しいと聞きます。実際、私たちが避難所でボランティアをしているなかでも、必要なものが不足し不便な思いをしている方がたくさんいらっしゃいました。不便なだけならまだいいのですが、それがないことで体調が悪化してしまうこともある。被災してから『これを準備しておけばよかった』という事態を防ぐためにも、pasoboの防災診断をきっかけに自分や家族にとって『本当に必要な防災対策』を考えていただければと思います」(KOKUA共同代表の疋田裕二さん)

<サービス概要>
・パーソナル防災サービス「pasobo」
WEB上で、家族構成や立地、建物の耐震基準・階数、個人の災害に対する価値観といった、いくつかの質問に回答するだけで、自分に必要な防災対策が1分で見つかるサービス。サイト上に入力された情報をもとに、個人の世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析し、最適な防災グッズを提案。提案された防災用品は、サイト上で購入することもできる。

マンション単位で導入できる備蓄品のサブスク「防災サステナ+」

災害の規模によっては、こうした自助の備えだけでは賄いきれない場合もある。そんなときに頼れるのは、地域やコミュニティのなかで助け合う「共助」の力だ。

特にマンションの場合、近年は「在宅避難」を見越した防災力の強化が叫ばれている。実際、管理組合が主体となり、マンション全体で備蓄の管理を含めた防災対策に取り組むケースも増えてきた。

最近では、防災備蓄品の選定や管理をアウトソーシングできるサービスも登場している。2023年10月に提供がスタートした「防災サステナ+」もその1つ。マンションの倉庫の容量や住人の数に応じた適正数量の防災備蓄品を提案・納品してくれるほか、期限切れの前に備蓄品を補充してくれる。

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

「有事の際に防災備蓄品の使用期限が切れて使用できなかったら、備蓄の意味がありません。実際、管理組合で消費期限や使用期限が切れていて問題になり、慌てて購入されるような事案もあるようです。通知だけでは現地にある備蓄品の期限切れが解消されるわけではないため、自動的に補充されるまでをサービスとしました」(サービスを運営する「つなぐネットコミュニケーションズ」の担当者)

現在は新築マンションを展開するデベロッパーや、既存マンションの管理会社を中心にサービスを提案中。同時に、マンションごとに異なる防災のニーズを聞き取りながらサービス内容をブラッシュアップしている。

ただ、いかに共助が大事といっても、あくまで最低限の「自助」があってこその「共助」。そのため、どこまでを自助とし、どこからを共助として管理組合で備えておくべきかは、住民同士で十分に話し合っておく必要があるという。

「発災当初、消防などの公的支援は被害が大きいところに集中するため、安全性の高いマンションへの支援が遅れる可能性があります。そのため、自分の命を守る『自助』、マンション内で助け合う『共助』が重要になります。『自助』では各住戸での安全対策や水食料等の備蓄をしておくこと、『共助』では救助活動や共用部の安全対策等のため活動ルールや備蓄品を備えておくことが必要です」(同)

<サービス概要>
・防災サステナ+
マンションでニーズの高い防災備蓄品の選定・納品(ハード)に加え、将来にわたる更新期限の管理を、月額利用料金で継続的に利用できる防災サービス。サービスの契約期間中は無料の防災相談サービスが受けられるほか、管理組合専用グループウェアも利用できる。平常時の管理組合による防災活動の活性化に加え、災害時の共助促進も期待できる。

「いつもの暮らし」を取り戻す“大切なもの”保管サービス「防災ゆうストレージ」

被災した際、何より欠かせないのは食糧や生活必需品。その次に必要になるのは、嗜好品や趣味の品、大切にしているものなど「心を癒やすアイテム」ではないだろうか。

2022年、日本郵便と寺田倉庫は防災サービス「防災ゆうストレージ」の提供を開始した。もしものときのために「必要なもの・大切なもの」を寺田倉庫が管理する安全な倉庫に預けておくことができ、地震や災害が起こった際には日本郵便の流通網で全国の被災地まで運んでくれる。

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

サービスの背景には、被災者たちの辛い経験談があるという。

「被災者の方々に話をお伺いすると、何よりも辛かったのは思い出の写真やアルバム、愛着のある品々をなくしてしまったことであると。家をなくすよりも悲しかったとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいました。ふだんは嵩張るようなもの、ちょっと邪魔だなと思っているものでも、いざなくしてしまうと大きな喪失感につながってしまう。そこで、いったん遠くの場所へ思い出を移しておくことで自宅も整理できますし、有事の際の心の拠り所にもなるのではないかと考えました」(サービスを設計した日本郵便の担当者)

それらを預けておくだけでなく、有事の際には避難所まで届けてくれるのも大きい。なかなか自宅に戻れない状況下では、思い出の写真一枚、小さなぬいぐるみ1つが心の拠り所になることもある。

「思い出の品々だけでなく、好きな本や嗜好品もそうだと思います。これらは、命をつなぐために必要なものではありません。でも、避難生活が長引いたときに『いつもの暮らし』を取り戻させてくれます。例えば、避難所や仮設住宅での食事も、お気に入りの食器を使うだけで気持ちは変わる。ちょっとしたことですが、家族の日常を取り戻す第一歩になるのではないかと思います」(同)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

災害の規模によっては、避難生活が長期化することもある。もとの暮らしを取り戻すまで日常をつなぎとめてくれるのは、じつは身の回りにあるちょっとしたアイテムなのかもしれない。

<サービス概要>
・防災ゆうストレージ
月額保管料275円~と、個人でも利用しやすい防災向け宅配型トランクルームサービス。専用ボックスに、思い出の品だけでなく、避難先での生活が長期化した場合に必要となる日用品を入れて発送するだけで「じぶん用支援物資」として預けておくこともできる。衣類や衛生品のほか、公的な支援物資だけでは不足しがちな紙おむつやコンタクトレンズ、使い慣れた生理用品、常備薬、ペット用品など、自宅に備えている防災リュックの「拡大版」のような形で利用することもできる。

最新サービスを活用して防災力の強化を

大規模な災害が頻発しているとはいえ、常日頃、高いレベルの防災意識を保ち続けることは難しい。重要なのは、普段は特別に意識しなくても、もしもの時に困らない体制をつくっておくこと。そのためにも、手軽に導入できるこれらの防災サービスをうまく活用し、防災力の強化に努めたい。

●関連リンク
・SAIBOU PARK
【iOS】
【Android】
・パーソナル防災サービス「pasobo」
・防災サステナ+
・防災ゆうストレージ

「平屋の多い都道府県」ランキング1位は沖縄じゃない!? TOP10を九州が席巻、新築半分以上が平屋の県とは?

「今、平家が空前のブーム」この言葉にピンときますでしょうか? SUUMOでは、2023年のトレンドワードとして、「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表しました。比較的地価の高い都会に暮らす人には、平屋が建てられるような条件はなかなかそろうわけもなく、その人気は実感しようもありません。ところが、全都道府県の新築一戸建て(※注)の平屋率を調査してみると、都会暮らしの人には想像もできないような意外な事実が……。都道府県別であまりにも違う平屋事情を見ていきましょう。

九州で高い平屋率。宮崎県、鹿児島県では新築一戸建ての半分以上が平屋

SUUMOが2023年のトレンドワードとして「平屋回帰」「コンパクト平屋」という言葉を発表した背景には、最近の平屋のニーズの大きな変化があります。現在ブームになっている平屋は、建物面積で15坪(約50平米)から25坪(約83平米)くらい、間取りは1LDK~2 LDK位のコンパクトなもの。適度な大きさで動線が効率化されていること、価格の手ごろさから、子どもが独立して2階部分を持て余しているシニア夫婦、一人暮らしや一人親世帯など、さまざまな世帯で平屋が選ばれており、2022年に着工された新築の一戸建て住宅(※注)のうち、約7件に1件は平屋になっています。
それでは、気になるランキングはどのような結果になっているのでしょうか。

※注 記事中の「一戸建て」と「平屋率」の定義=国土交通省が発表している建築着工統計調査より、居住専用住宅の建築物の地上階数1階~3階の総棟数のうち、地上階数1階の棟数の割合を集計し「平屋率」としている。構造は木造・鉄骨造など全構造の合計。3階建てまでの居住専用住宅には、アパートやマンションなどの集合住宅も含むため、すべてが一戸建てではないが、本記事では便宜上一戸建てとしている。1階建ての集合住宅は非常に出現率が低いため、実際の新築一戸建ての平屋率は本記事の試算より高くなると考えられる(本記事内共通)

都道府県別平屋率1位~20位

都道府県別色見表

都道府県別平屋率21位~47位

出典:国土交通省 『建築着工統計調査 / 建築物着工統計』※注に記載の通り

なんと、1位の宮崎県、2位の鹿児島県は2022年に着工された3階建て以下の新築住宅のうち、過半数以上が1階建て、つまり平屋です。九州地方は福岡県を除くすべての県で平屋率3割を超え、上位10位以内にランクイン。続く平屋率が20%を超える20位までの上位グループには、香川県、愛媛県などの四国勢、群馬県、茨城県、栃木県の北関東勢が並びます。全国最下位の東京は1.4%と、新築約71件に1件の割合。そりゃ都内では見かけないはずです。上位の地域はもともと平屋率が高かったことに加え、前述の世帯の少人数化や、家事動線の良さ、冷暖房がワンフロアで完結するため光熱費が低く済むこと、さまざまなメリットが認知され、この8年の間に平屋率は150%~250%ほど上がっています。

■関連記事:
2023年住宅トレンドは「平屋回帰」。コンパクト・耐震性・低コスト、今こそ見直される5つのメリットとは?

熊本地震をきっかけに、揺れに強い平屋の関心が増加。地域独特の気候も影響

では、どうしてこんなに九州で平屋率が高いのか?熊本県で注文住宅を中心に手掛ける工務店、グッドハート株式会社の営業・宮本紬麦さんに聞いてみました。

「同じ九州地方でも地価が高い福岡が上位に入っていないことからも、まず、土地が比較的安く手に入ることが大きいと思います。さらに九州は日常の移動はほとんどが車で平置き3台の駐車場を希望される方がとても多く、ご家族で3台乗るケース、ご家族2台に来客用、という方も多くいらっしゃいます。それから、熊本では、2016年の熊本地震をきっかけに、平屋を希望される人がぐっと増えました。建物が自らの重みでつぶれている様子を目の当たりにして、2階の重みがなく、地震の揺れに強い平屋に、より注目が集まったのです。家が倒壊して建て替えが必要になった人だけでなく、初めてマイホームを持たれる方も、これから建てるなら地震に強い構造がとりやすい平屋がいいと希望される方が増えました」

(写真提供/グッドハート)

(写真提供/グッドハート)

実際、熊本県で震災後に平屋を希望する人が増えたことは話題になっていたそうです。一方、災害といっても、近年多い水害においては、高い建物に避難する必要があり平屋は不利です。ただ、いつ来るかわからない地震に比べ、水害は何日か前から予測でき、早めに避難をすれば命は守れることを考えると、まずは日常の生活のしやすさと、予測不能な有事を優先するというのは合理的です。

台風・火山噴火、地域独特の気候が平屋率にも影響

また、宮崎県、鹿児島県を中心に注文住宅・分譲住宅を手掛ける万代ホームのハウジングアドバイザー西原礼奈さんは、以下のように話します。

「宮崎、鹿児島は、以前から建売住宅やモデルハウスも平屋で建てることが多く、2階建にする場合でも総2階(※1)でなく、一部分だけや、中2階(※2)を取り入れる程度です。これには台風や桜島の噴火などの影響があると思います。壁面は低いほど台風の強風に耐えられます。火山灰が降ってくる地域では、屋根に積もった灰の掃除なども雨どいを守るためには必要で、平屋は高い建物に比べ対処しやすいのです」

(写真提供/万代ホーム)

(写真提供/万代ホーム)

熊本大学 大学院で建築構造・防災建築を研究している友清衣利子教授も、「台風が多い九州は、耐風性の観点から、住宅の高さや屋根の勾配を低く設計する傾向にあります」とコメント。

「九州では、屋根の対策のほかにも、雨戸やシャッターなどで窓やドアなどの開口部を守る建築上の工夫がされているのが一般的です。
さらに、2018年と2019年の台風被害をきっかけに、住宅の耐風性が着目されるようになったと実感しています。国土交通省が屋根の留め付けなどの対策を発表していますが、それらが世の中で反映され、変わっていくのはこれからだと思います」(友清教授)

では、台風と平屋の関係について、気象庁が発表している1951年以降の都道府県別、台風の上陸数上位ランキングを見てみましょう。

※1.総2階/1階部分と2階部分がほぼ同じ面積となる建て方。直方体のような形になる
※2.中2階/階と階の中間に設けられる床部分のことで、スキップフロアともいう。平屋の場合の中2階は、2階がなくロフトのような形状となる

台風の上陸が多い都道府県ランキング

出典/気象庁ホームページ 台風の統計・資料より 統計期間:1951年~2023年第1号台風まで

最も台風の上陸数が多かったのは平屋率2位の鹿児島県、続いて長崎県、宮崎県、熊本県も平屋率が高く、台風の影響を受けやすい地域で平屋率が高いことは明らかです。

ここで疑問が。台風といえば、沖縄県が上位のランキングに入っていないのはどうしてでしょう。気象庁の解説をよく見ると、「上陸」の定義は台風の中心が「北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合」。小さい島や半島を横切って短時間で再び海に出る場合は「通過」、そして、沖縄県、鹿児島県の奄美地方のいずれかに近づいた(各気象官署等から300 km以内)場合は「沖縄・奄美に接近」と、「接近」という分類になるため、この地域には台風の「上陸」と定義される事象が存在しないようです。

そんな台風の通り道、沖縄といえば、イメージするのは低く構えた赤瓦屋根の平屋に風よけの石垣やブロック塀、屋敷林の伝統的な家。さぞかし平屋率は高かろうと見てみると全国3位。ただ、2014年から2022年の8年の間に平屋率は47.4%から41.7%にダウンしています。ほとんどの都道府県が8年間で平屋率が大きくアップする中、これは何故なのでしょうか。

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

沖縄の住宅(写真/PIXTA)

台風接近の多い沖縄県の平屋率がダウンしている理由には、独自の住宅文化とその変化があった!

前出の都道府県別平屋率を全国と沖縄県について住宅の建て方(構造)別に集計してみました。

全国と沖縄県の構造別着工棟数の割合(2014年と2022年の比較)

全国と沖縄県の構造別平屋割合(2014年と2022年の比較)

構造別の着工棟数割合を見ると全国では圧倒的に木造の比率が高く約9割。これはどの都道府県でも同じ傾向です。ところが、沖縄は鉄筋コンクリート造(RC造)、コンクリートブロック造の比率が高く、木造比率は2014年時点で14% と低い、独特な住宅文化を持っています。沖縄県は全国の中でも比較的森林比率が低く、特に木材の生産目的で苗木を植えるなどして人が手を加えている「人工林」の割合は全国一低いのです。

そのため、貴重な木材を再利用しながら家を住み継いでいく「貫木屋(ぬちやー)」という独特の工法が古くから受け継がれてきました。戦後の復興では伝統的な工法でない木造住宅が一時的に増えますが、多湿な気候に合わず白アリ被害が拡大したこと、度重なる台風被害を受けたことからRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)やコンクリートブロック造のニーズが高まっていったことがこの独特な住宅文化の背景です。

ところが近年、コンクリート価格の高騰、本州からのハウスメーカーの進出、木造住宅の工法や建材、防蟻処理の進化などにより木造住宅の割合が急速に増えてきました(2014年14.0%→2022年38.6%)。これら、増加してきた木造住宅が平屋ではなく2階建て以上で建てられていること(木造の平屋率2014年30.9%→2022年16.5%)が、沖縄県の平屋率ダウンの要因です。

■関連記事:
沖縄の家、台風や災害に負けない家づくりを現在・過去に学ぶ

岩手・宮城でも平屋率ダウン、福島県で横ばいとなっている背景には東日本大震災の影響が

沖縄と同じく、平屋率が2014年より下がっている県がほかにもあります。
岩手県 2014年 16.0% →2022年 15.7%
宮城県 2014年 13.6% →2022年 8.8%
また、福島県も 2014年 14.7% →2022年 15.4%と、平屋率はほぼ横ばいです。

市区町村別の人口や着工戸数の変化を見てみると、東日本大震災直後は、被害の大きかった地域の住宅再建が進み、それらの地域は比較的土地区画が広く平屋が建てやすかったのに対し、近年は人口も住宅需要も都市部に集中してきており平屋という形態がとりにくくなっていること、また、宮城県の都市部では新築マンション供給が増加しており、平屋志向が強い高齢者がそれらも選択肢に入れていること等の要因が考えられます。

割高とされていた平屋の価格は2階建て並に。メンテナンスしやすさも魅力(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

このように、都道府県によって事情は違えど、全国的にはますますシェアが高まる平屋は、その家事動線の良さ、地震や風などへの強さ、コンパクトなことで光熱費を抑えられることなど時代に合った魅力が多く、検討してみたいと思っている人も多いかと思います。ただ、私がかつて工務店に取材した際には、例えば100平米の平屋を、1階50平米、2階50平米の総2階建てと比べた場合、建築コストは1.2倍程度と割高になる、と聞いたことがあります。理由は、平屋は基礎部分や屋根の面積が大きいことによる材料費や施工費の増加。実際今もそうなのでしょうか?

「施工方法や工務店によって一概には言えませんが、当社の場合では、同じ面積ならば平屋も2階建てもほとんど坪単価は変わりません。確かに屋根や基礎の大きさは平屋の方が大きいのですが、平屋の場合、工事用の足場が低く済むこと、高所作業が減ることで建物の施工費が安く済むんです。メンテナンスにおいても、約10年ごとに必要な壁の塗り替えも大きな足場作りは不要ですし、屋根修理にも同じことが言えます。また近年注目が集まっている太陽光パネルは、床面積に対して屋根が広い平屋は広く置くことができ、発電できる量において有利です」とグッドハート宮本さん。

建設作業現場での事故を無くすために建設現場には「労働安全衛生規則」という詳細なルールを守ることが義務付けられているのですが、墜落・転落防止のための足場の作り方や管理については法改正がたびたび行われており、今後もさらに強化される予定です。
このような変化がある中で、平屋は割高とは限らなくなってきているんですね。

ちなみに、SUUMOジャーナルの人気記事ランキングでも、4月~6月は平屋の実例記事の数々が上位を占拠しました。東京にいると、平屋の人気は実感しがたく、実例紹介を始めてからの反響の多さには本当に驚きました。地域独特の住宅文化は気候や時代の影響も強く受けていることがわかり、私たちもさまざまな情報をアップデートしていかねばと強く実感した取材でした。

●取材協力
・グッドハート
・万代ホーム
・熊本大学大学院 先端科学研究部 物質材料科学部門 建築構造・防災分野 友清 衣利子教授

●関連サイト
・林野庁ホームページより都道府県別森林率・人工林率(平成29年3月31日現在)

「コンテナハウス」のスゴすぎる世界。空き家・防災対策など日本の住宅問題を解決する!?

今、コンパクトな平屋が注目を集めていますが、タイニーハウス(小屋)やトレーラーハウス、コンテナハウスにも注目が集まっています。今回は、物流用コンテナを住まいや店舗などとして活用するコンテナハウスにフォーカス。実は空き家対策や防災対策などでも活用されているのです。そのコンテナハウスの最前線について、日本コンテナハウス建築協会会長の菅原修一さんに話を伺いました。

店舗やホテル、住宅……。コンテナの使い道は実に多彩!

コンテナとは、船や鉄道などの輸送に使われる容器、入れ物のこと。サイズは普及しているもので20ftと40ftが主流であり、大型トレーラー車両がけん引していたり、鉄道の貨物輸送などに使われている12ftと31ftサイズを大型車両が輸送しているのを見かけたことがある人も多いことでしょう。

コンテナ(写真/PIXTA)

コンテナ(写真/PIXTA)

コンテナは世界中の輸送で使用されることから、強度が高く、過酷な環境にも耐え、しかも容易に移動させることができるのです。そのため、このコンテナを住まい、ホテル、店舗などとして活用するケースが増えてきました。例えば、2022年に開催されたFIFAワールドカップカタール大会ではコンテナを建材として積み上げてスタジアムとしたり、ホテルとしても活用されていました。コロナ禍では臨時の医療拠点になったこともあるといい、多用途かつ多目的に使うことができるのです。

「コンテナは日本のみならず世界中で使われていて、港で積荷を降ろし、帰りに荷物を載せる必要がない場合は現地で売り払うのです。そのため、各国で中古コンテナ市場が形成されています。日本でもコンテナは手ごろな価格帯で販売されて、フリマアプリやオークションでも取引されています。こうした中古コンテナを入手し、内外装を施して住居や店舗、ホテルなどに改造して活用しているのです。コンテナを連結したり、多層構造にすることもできますし、インテリアの自由度も高く、フルカスタムで世界に一つだけのコンテナハウスやショップがつくれるんですよ」と話すのは日本コンテナハウス建築協会の菅原修一さん。

なるほど、コンテナハウスのメリットをまとめると、
(1)躯体が頑丈
(2)価格が手ごろ
(3)内装の自由度が高い
(4)工期が短くて済む
(5)移動ができる
(6)不要になったら撤去、売却、再利用ができる
という点にあるようです。世界中で建築資材が高騰しているなか、こうしてみると人気が出るのは当たり前、といえます。

20ftのコンテナを平置きにして店舗にした例。広さは8畳ほど(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

20ftのコンテナを平置きにして店舗にした例。広さは8畳ほど(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カフェ内部に入るとコンテナであると気づかない(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カフェ内部に入るとコンテナであると気づかない(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

40ft(約12m強)のコンテナ3台を並べて店舗にした。千代田区4番町にあるその名も「No.4」。広さにして約80平米(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

40ft(約12m強)のコンテナ3台を並べて店舗にした。千代田区4番町にあるその名も「No.4」。広さにして約80平米(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

天井を見るとコンテナだな、とわかる(写真撮影/嘉屋恭子)

天井を見るとコンテナだな、とわかる(写真撮影/嘉屋恭子)

上下に積み重ねることで、多層構造にもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

上下に積み重ねることで、多層構造にもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

建物内部、吹き抜けで開放的な空間に(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

建物内部、吹き抜けで開放的な空間に(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナの耐用年数60~70年。使い捨てにならず離島や空き家対策にも!

さまざまなメリットがあるコンテナハウスですが、(6)不要になったら解体、売却できるため、「使い捨てにならない」という面でもすぐれています。

「コンテナは先ほど紹介したように各国で利用されているため、使い終わっても廃棄とはなりません。使い捨てなんてもうカッコ悪いし、時代に合わない。場所や用途に合わせて長く使っていく時代です。コンテナの耐用年数は一概にはいえませんが60年~70年は使用できるでしょう。もちろん、海沿いなどの環境条件やメンテナンスなどによって異なってきますが、少なくとも40年~50年は使用できると思います」とのこと。

持続可能なまちづくりや開発は、今や避けては通れない課題です。必要なときに、必要に応じて住まいや店舗、医療施設、学校を建設することも可能です。

コンテナの移動性、構造強度が強いことを利用し、「コンテナに建設資材や物資を積んで、現地に行って、住宅や学校、医療施設をつくることも可能です。基礎は現地で施工し、コンテナはそのまま躯体として活用、積んでいった窓や建材を使って建物をつくるのです。離島は、建築物を建てようとすると資材の輸送費、人材の移動費などの関係で建設コストが高くなりますが、これなら容易につくることが可能です。さらに、離島防衛、国土強靭化にも役立つんですよ。日本だけでなく世界の災害発生時や紛争地帯、アフリカなどの援助にも活用されています」と菅原さん。

石垣島のリゾートホテル『ぱいぬ島リゾート』(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

石垣島のリゾートホテル『ぱいぬ島リゾート』(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを斜めにしてインパクトのある建築物に。構造計算もしてあるため、強度にも問題ないという(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを斜めにしてインパクトのある建築物に。構造計算もしてあるため、強度にも問題ないという(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

客室。こちらもコンテナとは気が付かないはず(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

客室。こちらもコンテナとは気が付かないはず(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

日本では、東日本大震災のときもコンテナハウスは仮設住宅として活躍しました。現在では、トイレやお風呂もついたものを道の駅などに設置しておき、災害発生時は被災者を受け入れる、または被災地まで出向き、仮設住宅として使うという計画もあるといいます。

災害発生時に建設される仮設住宅は、一定程度の敷地が必要で、設置・解体廃棄にもコスト、工期がかかり、そのコストは1棟500万とも600万ともいわれています。コンテナハウスであれば、平時は宿泊施設などとして活用しながら、非常市は仮設住宅になるのであれば無駄もなく、解体、廃棄する必要がありません。地震だけでなく、台風、水害などの自然災害が多発している今、こうした備えは全国各地で普及していくことでしょう。

東日本大震災では仮設住宅としても使われた(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

東日本大震災では仮設住宅としても使われた(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

また、日本の喫緊の課題でもある空き家活用にも、コンテナハウスは役立つ、といいます。

「今、築100年、200年の立派な古民家が日本各地で空き家になっていますが、現在の建築基準を満たそうとすると、耐震性や断熱性などの改修費用が高くなることから、初期費用が高く、利活用の妨げになっています。そこでコンテナハウスと木造住宅の混構造のリノベを提案しています。コンテナにトイレとバス、寝室をもうけて寝室部分とします。木造は、ダイニングや共用部分とするとよいでしょう。ホテルでも自宅でも、なにかあっても耐火性、耐震性も高いのでシェルターになりますし、命を守ることができます」

こうして聞いてみると、用途は限りなくありますし、繰り返し使えます。太陽光発電と蓄電池、下水は浄化槽、空気中の水蒸気を飲み水になどの技術と組み合わせることで、容易にオフグリッド住宅にもなることでしょう。安全性、汎用性が高く、持続可能というあらゆる意味で、21世紀の住まいのスタンダードにもなりそう、そんな気すらしてきます。

建築基準法準拠、断熱や遮熱など、価格以外にも留意を

「国際海上コンテナは世界中で使われているので、国際的に規格化したISOという規格で統一されています。ただし、住居や店舗など、固定した建築物として使う場合は、ISO規格+日本の建築基準法に適合したJIS規格に適合した『建築専用コンテナ』でないといけません。違いは複数ありますが、大きくは使用している鋼材と構法が異なります。そのため、価格ばかりに目を奪われ、何も知らないで中古コンテナを購入、建築すると違法建築になることもあるんです。現に私の元には、『行政から違法建築といわれた』という相談が増えています」と菅原さん。

「ISOコンテナ」と「JISコンテナ」の外地

菅原さんの取材を基に筆者作成

また、海上輸送コンテナはパネル構造でつくられているため、窓やドアを設置するために開口部を設けると強度が大きく損なわれてしまうことも。建築基準法を満たした建築コンテナはラーメン構造であるためこうした問題は発生しませんが、コンテナハウスを手掛ける業者がそもそもこうした建築法規を知らないケースもあるため、注意が必要だといいます。

あわせて、注意したいのが住み心地/使い心地に直結する、断熱や遮熱、気密性です。
「コンテナハウスは北海道から沖縄まで日本全国で使われており、建築基準法を基にきちんと設計・施工すれば住居として冬暖かく、夏も快適に過ごせることがわかっています。ただ、コンテナそのものは壁が1.6mm~2.0mmの鉄板ですぐに熱を通してしまうため、建物内部に断熱材を施工するほか、気密性も高めないといけません。単純に断熱材が入っていればOKではなく、発泡ウレタン吹き付け、ロックウール、グラスウールなど、どのような材料が使われているか、またその厚み、施工精度が非常に重要になります。きちんと施工されていないと、コンテナ壁鋼板と内装仕上げ下地材の空気層が結露してしまってそこからカビが生えてきた……というトラブルも発生しています」(菅原さん)

気密性も同様、どれだけ頑丈なコンテナであっても開口部などから空気が漏れてしまっては意味がありません。コンテナハウスでは、土地の条件、内装の意匠性にもよりますが1棟で700~800万円ほどが目安で、建築法令の理解や施工の精度も含めて、コンテナハウスを扱う業者を選んでほしいとのこと。

コンテナを店舗にしたケース(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを店舗にしたケース(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナをつかった住まい。インダストリアルの雰囲気がかっこいい(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナをつかった住まい。インダストリアルの雰囲気がかっこいい(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

過疎地域に役立つ無人コンビニにもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

過疎地域に役立つ無人コンビニにもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カッコよくて、快適、時代にもあったコンテナハウス。自然災害や離島、空き家問題への活用など、日本の住宅問題をまるっと解決する「コンテナ」の活用方法を聞くたび、筆者はワクワクがとまりませんでした。何より、ひとり1コンテナで、家賃や住宅ローンに縛られず、のびのび暮らせる未来がきたら、楽しいですよね。住宅はコンパクトで、もっと自由度の高いものへ。コンテナハウスにもっと光があたる日も近い気がします。

●取材協力
一般社団法人日本コンテナハウス建築協会
株式会社コンテナハウス2040.jp

法務省の地図データ無料公開などで進む三次元データやリアルタイム防災情報への活用。空飛ぶ車の実用化や空き家問題解決も!?

ドローンによって収集された災害時の情報を地図に反映したり、ビジネスの用途に合った土地を現地調査なしで世界中から探したりと、地図データを活用したサービスや取組みが進んでいます。それらの基盤となるのが、“G空間情報”です。「地理空間情報技術(Geospatial Technology)」の頭文字のGを用いた地理空間の意味で、将来が期待される科学分野の一つとして注目されています。2023年1月から、登記所備付地図データの一般公開が始まりました。これらの地図データを活用することで、どんな問題の解決が進み、また、私たちの生活はどう変わるのでしょうか? 最新の取組みを取材しました。

登記所備付地図データを無償で誰でも利用できるようになった!

「空飛ぶクルマの実用化に向けた未来のカーナビ」「メタバースを活用して空き家問題を解決するサービス」……夢のような世界の実現化に向けて、G空間情報を活用する動きが広がっています。

2022年12月6日に開催された地理空間情報の活用を推進するイベント「G空間EXPO」には、1424名の人が会場を訪れ、オンラインアクセス数は、4万5493。会場では、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」の受賞式が行われ、冒頭で紹介したサービスなどが表彰されました。

サービスの基盤となるG空間情報の提供元は、「G空間情報センター」です。「G空間情報センター」は、さまざまな地理空間情報を集約し、その流通を支援するプラットフォーム。法務省から提供された地図データを利用者がワンストップで検索・閲覧し、情報を入手できる仕組みの構築を目指す機関です。

2023年1月から新たに、登記所備付地図データの一般公開が始まり、「G空間情報センター」にログインすることで、誰でも電子データをダウンロードでき、無償で利用することができるようになったのです。

内閣官房主催の「イチBizアワード」。390件の応募から15件のビジネスアイデアが選出された(画像提供/角川アスキー総合研究所)

内閣官房主催の「イチBizアワード」。390件の応募から15件のビジネスアイデアが選出された(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間の高低差を利用して車を交差させて渋滞を緩和するアイデア(芝浦工業大学附属中学高等学校)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間の高低差を利用して車を交差させて渋滞を緩和するアイデア(芝浦工業大学附属中学高等学校)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間情報を基に国土を生成したVRコンテンツ。空中旅行などのバーチャルツアーなどの活用が期待される(Voxelkei)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間情報を基に国土を生成したVRコンテンツ。空中旅行などのバーチャルツアーなどの活用が期待される(Voxelkei)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

背景には農業分野におけるICT活用のニーズがあった

法務省の地図作成事業では、不動産の物理的状況(地目、地積等)及び権利関係を記録してきましたが、登記記録だけでは、その土地が現地のどこに位置し、どんな形状をしているかはわかりませんでした。

以前から、土地の位置・区画を明確にするため、法務局(登記所)に精度の高い地図を備え付ける事業が全国で進められてきました。その結果、全国で約730万枚の図面が整備され、登記情報に地図を紐づけることで、それぞれの土地の所有者などが調べやすくなりました。

しかし、今までは、法務局において地図の写しの交付を受けるか、インターネットの登記情報提供サービスで表示された情報(PDFファイル)をダウンロードする方法しかなく、加工可能なデータ形式で手に入れることはできなかったのです。

農業分野におけるICT活用のため、農業事業者等から、まとまった区域の登記所備付地図の電子データを入手したいと要望があり、個人情報公開の法的整理をした上で、今回、地図データを加工可能な形式で提供できるようになりました。

農業のICT化で自動走行トラクターやドローンによる生育状況の把握が可能になる(画像/PIXTA)

農業のICT化で自動走行トラクターやドローンによる生育状況の把握が可能になる(画像/PIXTA)

データはXML形式のため、ダウンロードしてすぐに地図として見ることができず、表示するためには、パソコン等にアプリケーションをインストールすることが必要で、一般の人が簡単に利用するのは難しいものです。しかし、加工可能なデータとして得られるようになったことで生活関連・公共サービス関連情報との連携や、都市計画・まちづくり、災害対応などの様々な分野への展開が可能となり、私たちの暮らしに新しい効果がもたらされることが期待されています。

宇宙ビッグデータを活用した土地評価エンジン「天地人コンパス」

冒頭に紹介した「イチBizアワード」では、誰でも手軽に土地の価値がわかる「天地人コンパス」が最優秀賞を受賞しました。G空間情報や地球観測衛星データをビッグデータと組み合わせたサービスです。開発に携わった株式会社天地人の吉田裕紀さんに地図データ公開の価値とG空間情報を活用したサービスで今までより何が便利になるのか伺いました。

天地人は、JAXA公認のスタートアップ企業で、地球観測衛星データとAIで土地や環境を分析し、農業、不動産などさまざまな産業を支援するサービスを展開しています。地球観測衛星データとは、陸や海の温度、雨や雪の強さ、風や潮の流れ、人の目に見えない情報のこと。「天地人コンパス」は、地球観測衛星データとG空間情報を重ね合わせて、ビジネスにおいて最適な土地を宇宙から見つけることができる土地評価サービスです。農作物が美味しく育つ場所を探したり、土地や建物の災害リスクをモニタリングしたりすることができます。

地球上のどんな地域でも条件で比較できる(画像提供/天地人)

地球上のどんな地域でも条件で比較できる(画像提供/天地人)

「天地人コンパス」で提供されるのは、20種類以上の地図空間情報や最長10年分の衛星データを独自のアルゴリズムで分析したデータ。アカウント登録で誰でも無料で使うことができます(フリープランは一部機能を制限)。

「G空間情報×地球観測衛星データ」を体感できる機能は、エリアの中から条件に一致する場所を探すことができる「条件分析ツール」と2点間の地表面温度や降水量の類似度を測れる「類似度分析ツール」です。東京都近郊の2015年と2020年の地表面温度をビジュアルで比較してみると、温暖化の影響が一目瞭然でした!

条件分析ツールで、設定項目を1月~3月、日中15℃以上にして、2015年と2020年を比較すると、地表温度の変化が色で表現される。赤いエリアが多い方が暖かい日が多かったとわかる(画像提供/天地人)

条件分析ツールで、設定項目を1月~3月、日中15℃以上にして、2015年と2020年を比較すると、地表温度の変化が色で表現される。赤いエリアが多い方が暖かい日が多かったとわかる(画像提供/天地人)

「一般的に使われているオンラインMAPには、地図の上に道路情報やお店の情報、お気に入りの場所など、いろいろな情報が表示されています。あれは、地図のデータの上に、お店のデータなど、情報ごとに「層(レイヤー)」になって重なっているんです。同様に、『天地人コンパス』はさまざまな情報レイヤーを重ね合わせることで、特定の条件にマッチする場所を視覚的に探すことができます」(吉田さん)

ダムや公園のG空間情報は以前から公開されていましたが、自治体ごとにいろんなフォーマットが混在し、管理もばらばらで統一が難しいという課題がありました。「国が主導して、全国で統一されたデータフォーマットが公開されたのは、かなり価値がある」と吉田さん。

「データを使うビジネスにとって信頼できる唯一の情報源になるのがポイントで、マスターとなるデータを皆が参照できる。2023年に一般公開された登記所備付地図の電子データは主に不動産関係業者が使うことになると思いますね。G空間情報センターが公開しているG空間情報は日本で一番整っている地図データといえます。弊社もそのデータを使って開発をしています」(吉田さん)

今回公開された地図のデータを「天地人コンパス」に組み込めば、農地にしたり、何かを建設しようと決めた時、次のステップとして、土地の所有者は誰か、面積がどのぐらいあるのかということが、コンパスの中だけでわかるようになります。「天地人コンパス」は有料オプションとして企業の持っているデータを重ね合わせることが可能です。実際、不動産関係の企業からの相談が増えているといいます。

愛知県豊田市と連携して作成した「水道管凍結注意マップ」。スマホで自宅の水道管の凍結の注意を確認できる(画像提供/天地人)

愛知県豊田市と連携して作成した「水道管凍結注意マップ」。スマホで自宅の水道管の凍結の注意を確認できる(画像提供/天地人)

「今後、『天地人コンパス』に不動産企業が蓄積している部屋の間取りや築年数、建物階数などのデータを組み合わせれば、一気に活用が広がります。天気予報だと東京に雨が降る程度しかわかりませんが、『天地人コンパス』だと1km単位で気象の変化がわかるので、渋谷区の中でも特に暑くなりやすいとか、この公園は日当たりがいいとか自分が住もうとしているエリアがどのぐらい快適なのか現地に行かなくてもわかるようになります。類似検索ツールを使えば、日本の中でヨーロッパの地中海と同じような気候の場所、リゾート気分を味わえる場所がどこか探すこともできるんですよ」(吉田さん)

2点間の似ている度合いをパーセンテージで表現する類似度分析ツール(画像提供/天地人)

2点間の似ている度合いをパーセンテージで表現する類似度分析ツール(画像提供/天地人)

新たに開発された「天地人コンパスmoon版」。月の地面の高低差がわかり、クレーターの深さを富士山などと比較できる(画像提供/天地人)

新たに開発された「天地人コンパスmoon版」。月の地面の高低差がわかり、クレーターの深さを富士山などと比較できる(画像提供/天地人)

「地球規模で仕事することが増えている」と吉田さん。気候変動で温暖化が進んだ場合、地球環境に合わせて作物の農作地を変えていく必要があると指摘されています。

「温暖化・SDGsなどの課題に対して身近に感じています。例えば、日本でも米の銘柄ごとの産地は、今と20年後だったら場所が変わっているかもしれません。『天地人コンパス』は、場所探しが一番軸なので、適した場所を探せる。解決に関わっているという実感があります」(吉田さん)

「天地人ファーム」で、宇宙から米つくりに適した土地を探して栽培した「宇宙ビッグデータ米」(画像提供/天地人)

「天地人ファーム」で、宇宙から米つくりに適した土地を探して栽培した「宇宙ビッグデータ米」(画像提供/天地人)

G空間情報×ドローンで、自然災害発生後すぐに現地状況を地図へ反映する

大地震が起きたとき、この道は安全に通れるだろうか?、洪水や大規模火災が起きたとしたら、どちらに逃げればいいのだろう?と不安に感じたことはありませんか?

防災分野において、自然災害、政治的混乱等の危機的状況下で、地図情報を迅速に提供し、世界中に発信・活用することを目的に活動をしているのが、NPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」です。理事長を務める青山学院大学教授の古橋大地さんは、「空間情報は、安全安心な生活のライフライン」と言います。

「もし自分や家族、大切な人たちの周りで大規模災害が起きたら、とにかく生き延びて欲しいですよね。そのためには、市民が自分たちの力で情報を取得し、自らの判断で安全な場所に逃げることが大変重要です」(古橋さん)

大災害が発生すると、被害が大きいエリアほど被災状況がわからず、住民の避難や救助活動に支障が出るという問題があります。その際、最初に必要となるのが、被災状況をすばやく反映できる発災後の地図づくり活動「クライシスマッピング」です。「リアルタイム被災支援・地図情報」とも呼ばれ、被災地の衛星画像や航空写真画像、地上から撮影されたスマホ写真などから被害状況を地図上に落とし込み、被害のエリアや規模をリアルタイムで視覚的にわかりやすくした地図のことをいいます。

「クライシスマッピング」という言葉が使われ始めたのは2010年のハイチ地震のころです。「オープンストリートマップ」という世界中の誰でも自由に地図情報を共有・利用でき、編集機能のある世界地図をつくる共同作業プロジェクトで、初めてハイチの被災地の地図をリアルタイムで更新する活動が行われました。古橋さんもその活動に参加したひとりでした。

「世界中のボランティアがネット上に集まり、震災後の正確な地図をつくりました。2010年1月にハイチ地震、2月にチリ地震があり、2011年2月にニュージーランドのクライストチャーチで地震があったんですね。3月には、東日本大震災が起こりました。『あっちでも起こった、こっちもだ。今はどこだ』という感じでクライシスマッピングの作業をしていたことを覚えています」(古橋さん)

2010年ハイチ地震当初のオープンストリートマップ(左)と、詳細な情報が落とし込まれた更新後の地図(右)(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

2010年ハイチ地震当初のオープンストリートマップ(左)と、詳細な情報が落とし込まれた更新後の地図(右)(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

世界中で次々と災害が起きていることを痛感し、ますます「クライシスマッピング」の必要性を感じた古橋さん。日本で「クライシスマッピング」を広めるために2016年に設立したのが、「クライシスマッパーズ・ジャパン」でした。被災地で撮影された写真を基に、世界でもっとも詳細で最新の「現地の被災状況マップ」をつくり、国連や赤十字などの救援活動のために必要な情報支援をしています。

熊本地震前の益城町のオープンストリートマップ。情報が少なく何がどこにあるのか把握できない(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

熊本地震前の益城町のオープンストリートマップ。情報が少なく何がどこにあるのか把握できない(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

熊本地震時航空写真のトレース作業によって建物情報を取り込んで更新された益城町のオープンストリートマップ。この地図に倒壊した建物や崩落した橋、土砂災害で流された鉄道線路などの被害状況を反映させ、最新のストリートマップとして公開する一連の作業が「クライシスマッピング」と呼ばれる(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

熊本地震時航空写真のトレース作業によって建物情報を取り込んで更新された益城町のオープンストリートマップ。この地図に倒壊した建物や崩落した橋、土砂災害で流された鉄道線路などの被害状況を反映させ、最新のストリートマップとして公開する一連の作業が「クライシスマッピング」と呼ばれる(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

同時期に立ち上げた「DRONEBIRD」は、G空間情報とドローンで空撮した情報を重ね合わせ、どこで災害が起きても発生から2時間以内に現地状況を地図へ反映する体制を整えるプロジェクトです。津波による浸水や、放射能で汚染された場所でもドローンなら飛ばせます。地図を作成する「マッパー」を募り、ドローンの撮影部隊を育成しています。

2019年台風による相模原市緑区の土砂災害をドローンで撮影(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

2019年台風による相模原市緑区の土砂災害をドローンで撮影(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」と災害協定を締結する自治体が増えている。ドローンを抱える伊勢原市市長と古橋さん(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」と災害協定を締結する自治体が増えている。ドローンを抱える伊勢原市市長と古橋さん(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」の「クライシスマッピング訓練」の様子(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」の「クライシスマッピング訓練」の様子(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「我々の活動におけるG空間情報センターのメリットはふたつ。大学の研究者や業界関係者の協議会があり、信頼できる組織であること。日本語ベースで情報が公開されていることですね。新しいツールの多くは、英語ベースですから。専門的なツールを使い慣れていない国内の人に向けて、地図データを利用可能な形で提供しているG空間情報センターの存在は大きいと思っています」(古橋さん)

地図データの一般公開により、認知や活用が進むG空間情報。「イチBizアワード」の授賞式は、G空間情報で新しいサービスを開発しようという熱気に溢れ、G空間情報が今とてもアツイ分野だと実感しました。今後、身近で、「地図でこんなことができるようになったの!?」と驚くことが増えるかもしれません。

●取材協力
・G空間EXPO
・株式会社角川アスキー総合研究所
・株式会社天地人
・NPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」

マンション住民の高齢化で防災どう変わる? 孤立を防ぐ「つつじが丘ハイム」の取り組みが話題 東京都調布市

全国で、マンションの築年数の経過とともに、居住者の高齢化が進んでいます。管理組合役員の担い手が不足し、運営がままならなかったり、管理が消極的になったりするほか、コミュニティの衰退による高齢者の孤立も問題になっています。東京都調布市のつつじが丘ハイムは、コミュニティの再構築と自主防災力の強化に取り組み、その活動が「マンション・バリューアップ・アワード2021」防災部門の部門賞に加えグランプリを受賞しました。管理組合に取り組みの経緯や成功のポイントを伺いました。

高齢化が進むマンションで、自主防災活動が機能する組織をつくる!敷地内の植栽スペースはきれいに掃き清められ、管理が行き届いていることがうかがえた。「ゴミひとつないきれいなマンション」と近隣で評判だという(写真撮影/田村写真店)

敷地内の植栽スペースはきれいに掃き清められ、管理が行き届いていることがうかがえた。「ゴミひとつないきれいなマンション」と近隣で評判だという(写真撮影/田村写真店)

高台に立つつつじが丘ハイムの屋上からの眺め。富士山をはじめ箱根や丹沢の山々が一望でき、晴れた日は、榛名山や赤城山、筑波山も見える(写真撮影/田村写真店)

高台に立つつつじが丘ハイムの屋上からの眺め。富士山をはじめ箱根や丹沢の山々が一望でき、晴れた日は、榛名山や赤城山、筑波山も見える(写真撮影/田村写真店)

調布市郊外にあるつつじが丘ハイムは、1972(昭和47)年に建設された、築50年の大規模分譲マンションです。

受賞理由となったコミュニティの再生と自主防災体制の構築に奮闘したのは、第49期の理事会メンバーです。自主防災会を組織し、活動内容をまとめた自主防災会組織活動マニュアルと、居住者用の防災マニュアルの作成に取り組みました。当時、理事長を務めた久保田潤一郎さんと現理事長の大谷浩彦さんに伺いました。

左は、マニュアルの原案を起草し、活動を率いた49期理事長の久保田さん。50期の理事長大谷さん(右)は、調布市の防災安全課と協力して自主防災会規約の制定に尽力した(写真撮影/田村写真店)

左は、マニュアルの原案を起草し、活動を率いた49期理事長の久保田さん。50期の理事長大谷さん(右)は、調布市の防災安全課と協力して自主防災会規約の制定に尽力した(写真撮影/田村写真店)

つつじヶ丘ハイムには4棟に443世帯が入居している。コミュニティの再生と自主防災体制の構築のための取り組みは、49期の22名の理事会メンバーを中心に行われた(写真撮影/田村写真店)

つつじヶ丘ハイムには4棟に443世帯が入居している。コミュニティの再生と自主防災体制の構築のための取り組みは、49期の22名の理事会メンバーを中心に行われた(写真撮影/田村写真店)

理事会が最初に取り掛かったのは、先代の理事長が発案した「安否確認マグネット」の配布です。「安否確認マグネット」は、大規模地震の発生時に、居住者の安否状況を把握するための表示板で、マグネットの表面には「無事です」、裏面には「救助求む」と書かれています。

「居住者がドアに貼ることで安否を知らせるものですが、配っただけでは機能しないのでは? と理事会で議論になったんです。安否確認マグネット以前にも防災の備えはしてきましたが、それらをつなぐ方針や活動マニュアルがありませんでした。自主防災組織と支援組織をつくり、安否確認マグネットと連動させようと取り組みがスタートしました」(久保田さん)

居住者は、家族全員の安全確認ができた段階で、玄関ドアの外側に「安否確認マグネット」を貼って状況を伝える(写真撮影/田村写真店)

居住者は、家族全員の安全確認ができた段階で、玄関ドアの外側に「安否確認マグネット」を貼って状況を伝える(写真撮影/田村写真店)

防災対策と同時に課題となっていたのは、つつじが丘ハイムのコミュニティの衰退です。1990年代までは、住民サークルや子ども会などのコミュニティ活動が盛んでしたが、2010年代から高齢化が進み、住民同士の交流が減少。久保田さんも、顔見知りが少なくなり、敷地内で挨拶しても名前がわからない人が増えたと感じていました。

「支援活動を継続させるには、居住者が共に支え合えるコミュニティの再構築が必要でした。お互いに困ったとき声をかけあうハイムに戻したいという思いでした」(久保田さん)

しかし、居住者名簿の情報は、ほとんどが入居時に提出されたまま。そこで、2020年9月に、安否確認マグネットの配布と共に、組合情報誌「ハイムエコー」で、居住者名簿を更新することを告知。10月に居住者名簿の整備を行いました。

「結果は、75歳以上の占める割合が18.4%と予想以上に高齢化が進んでいました。同時に、災害時に支援が必要か確認したところ、支援要望が115件あり、災害時の支援が重要課題になったんです。募集した災害支援ボランティアには、18名が登録してくれて、居住者が共に支え合うコミュニティづくりの第一歩となりましたが、登録してもらっただけでは機能しませんから、支援活動組織をつくり、マニュアルづくりを開始しました」(久保田さん)

自主防災会を設置し、支援活動マニュアルを作成

2021年4月から、久保田さんは、災害時の支援活動マニュアルと居住者用のマニュアルの原案を作成し、検討会のメンバーと議論を重ねました。

「毎月3回ほど、皆の知恵を集めて話し合いました。東京都や調布市の防災マニュアルを参考にしようとしましたが、当マンションは、支援を受ける方もする方も高齢者。対応が難しい人命救助活動や、細分化した班分けは、当マンションの実情に合わないので、そのままは使えません。支援活動に携わる人たちの安全を確保しながら居住者を1~2週間ケアできる体制づくりに努めました」

6月に理事会の合意を経て、自主防災会を設置。原案に理事会での意見を加えた自主防災会支援活動マニュアルが完成しました。組織は、自主防災会本部のほか安全確認グループ、物資グループ、情報グループの4班で構成されています。

「つつじが丘ハイム自主防災会組織活動マニュアル」。平常時の活動をはじめ、震災発生時から復旧時までの各グループの活動内容が書かれている(資料提供/つつじが丘ハイム管理組合)

「つつじが丘ハイム自主防災会組織活動マニュアル」。平常時の活動をはじめ、震災発生時から復旧時までの各グループの活動内容が書かれている(資料提供/つつじが丘ハイム管理組合)

居住者名簿をもとに、被災時に支援メンバーが各戸を見まわり、確認シートに安否を記入。緑色は、名簿更新時に支援を要望した住戸で、特に丁寧に確認することになっている(写真撮影/田村写真店)

居住者名簿をもとに、被災時に支援メンバーが各戸を見まわり、確認シートに安否を記入。緑色は、名簿更新時に支援を要望した住戸で、特に丁寧に確認することになっている(写真撮影/田村写真店)

苦労したのは、管理組合として前例のなかった災害ボランティア保険への加入です。

「マニュアルを作成する過程で、災害支援メンバーが安心して活動するためには、傷害保険は不可欠と判断して加入を検討しましたが、大変苦労しました。まず、東京都社会福祉協議会のボランティア保険に問い合わせましたが、マンションの管理組合は対象外。次に、複数の保険会社に該当する保険を調べてもらいましたが、天災時のボランティア保険はないという回答でした」(久保田さん)

それでも管理事務所を通じて粘り強く複数の損害保険会社と交渉を重ね、その中の1社と特約で「災害ボランティア保険」に一人当たり400円で加入することができました。この保険加入で、支援メンバーに安心して支援活動に参加してもらえるベースができました。

災害対応自動販売機の設置や防災用品、備蓄品の見直しを行う

自主防災会の設置や支援活動マニュアル完成後、理事会で進めたのは、災害対応自動販売機(※)の設置です。2020年度の理事会でも議題に上がっていましたが、「空き缶やペットボトルが散乱するのではないか」「居住者以外の利用者が敷地内に入るのは物騒では」と否定的な意見が多く、設置が見送られていました。

※別名「ライフライン自動販売機」ともいわれ、災害や緊急事態で停電になった場合でも、一定の操作により、被災者に飲料を無償提供することができる。

「2021年度は、とにかく居住者の声を聞いてみようと。お試し設置期間を設けて、居住者の意見を募ることにしました。期間中にアンケートを実施したところ、91名から回答があり、『設置してもよい』が87%で、理事会メンバーが想定していた否定的な意見はほとんどありませんでした。この結果をもとに総会に提案し、設置の承認を得ることができました。また、ハイムエコー(組合情報誌)には、賛成・反対両方の意見を掲載し、設置に至るまでの過程を知ってもらえるように工夫しました。普段は普通の自動販売機ですが、災害時には、管理事務所にある鍵で開けられるようになっており、内蔵している600本の飲料を居住者に無料で配布します」(久保田さん)

利用率は高く、電気代はまかなえている。「敷地内にあり便利」という声のほかに「夜間の灯りが防犯上いい」という予想外のメリットも(写真撮影/田村写真店)

利用率は高く、電気代はまかなえている。「敷地内にあり便利」という声のほかに「夜間の灯りが防犯上いい」という予想外のメリットも(写真撮影/田村写真店)

さらに、防災用品と防災備蓄品の見直しを行い、自主防災会組織用の防災用品と、全居住者用の防災備蓄品を購入し保管しました。

「防災用品には、被災時に携帯電話やメールが使用できない状況を想定して、800m先まで声が届くメガホンを加えました。『支援のボランティアができる人は、集まってください』、『飲料水と食料を配ります』とメガホンで知らせます。居住者用には、2Lの保存飲料水3本とアルファ米2食分、羊羹1箱を用意しました。買い替えは、賞味期限前に行い、古いものは、全戸に配布して災害時の支援活動内容をPRして理解を深めてもらう計画です」(久保田さん)

自主防災会組織用の防災用品20品目。ソーラ発電機・バッテリーのほか、800m通達できるメガホンや支援メンバーが見回りの際使用するハンディメガホンも用意(写真撮影/田村写真店)

自主防災会組織用の防災用品20品目。ソーラ発電機・バッテリーのほか、800m通達できるメガホンや支援メンバーが見回りの際使用するハンディメガホンも用意(写真撮影/田村写真店)

倉庫に保管されている飲料水と携帯トイレ。A棟B棟の倉庫で2Lのペットボトルをそれぞれ600本ずつ備蓄(写真撮影/田村写真店)

倉庫に保管されている飲料水と携帯トイレ。A棟B棟の倉庫で2Lのペットボトルをそれぞれ600本ずつ備蓄(写真撮影/田村写真店)

既存の防災用品を検討する中で、新たにわかったこともありました。つつじが丘ハイムには、敷地内の洗車場3カ所に井戸水が給水されていますが、井戸が掘られた理由は誰も知りませんでした。ところが調べてみると、「阪神・淡路大震災が起きた後、1996年に水道停止時の給水用として井戸が掘られた」という記録があったのです。その際購入された井戸水給水用の非常用発電機も見つかりました。

「20年以上も前に諸先輩が用意してくれた財産がすぐそばにあったんだと皆で感謝しました。非常用発電機を整備し、井戸水が水質検査に合格していることを確認して、被災時の生活水として利用することにしました」(久保田さん)

ポータブルの非常用発電機。停電時は、非常用発電機に切り替え、井戸から水をポンプアップする(写真撮影/田村写真店)

ポータブルの非常用発電機。停電時は、非常用発電機に切り替え、井戸から水をポンプアップする(写真撮影/田村写真店)

非常用発電機で送水した井戸水を非常用浄水器に通して浄化し、生活水として支給する(写真撮影/田村写真店)

非常用発電機で送水した井戸水を非常用浄水器に通して浄化し、生活水として支給する(写真撮影/田村写真店)

防災設備の見直しで新たにAEDを2カ所に設置した(写真撮影/田村写真店)

防災設備の見直しで新たにAEDを2カ所に設置した(写真撮影/田村写真店)

自助・共助の活動が見開きでわかる居住者向けの防災マニュアルが完成

その後、2021年6月から、「つつじが丘防災マニュアル」の作成に着手し、10月に居住者が自らの命を守る行動(自助)と自主防災組織の支援活動(共助)をまとめた冊子が完成。全戸に配布されました。

防災活動の要となる居住者用の「つつじが丘ハイム防災マニュアル」と支援者用の「自主防災会組織活動マニュアル」(写真撮影/田村写真店)

防災活動の要となる居住者用の「つつじが丘ハイム防災マニュアル」と支援者用の「自主防災会組織活動マニュアル」(写真撮影/田村写真店)

大規模地震発生時の初動活動は、次のように想定しています。

・自主防災会本部を立ち上げ、理事会メンバーと災害支援ボランティアメンバーを招集。
・安全グループの支援メンバーが、ドアに貼られた安否確認マグネットを確認し、被害状況や支援依頼内容を把握する。
・情報グループは、安全確認グループから受けた被害情報、支援内容などをまとめ、本部へ報告する。
・本部の指示の下に、要支援者に支援を行い、飲料水や非常食などの配分や配布を行う。

「つつじが丘ハイム防災マニュアルには、被災状況や支援依頼内容を把握するための『支援依頼シート』『お困りごとシート』『留守宅への連絡依頼シート』が切り離して使えるようになっています。マグネットに挟んでもらい、安否確認時に回収し、居住者全員の状況を把握します。また、危険な支援活動や二次災害を防ぐために、支援可能な活動と支援が難しい活動を明記しています。例えば、消火器で対応できない規模の消火活動や倒れた家具に挟まれた住民の救出活動は、支援が難しいと明記しています。居住者からは『どんな支援があるのかわかりやすい』、支援ボランティアからは『支援活動時にどう対応すればよいか理解できた』という声が寄せられました」(久保田さん)

時系列で、居住者が自らの命を守るための行動(自助)と自主防災組織の支援活動(共助)が見開きでわかりやすく書かれている(写真撮影/田村写真店)

時系列で、居住者が自らの命を守るための行動(自助)と自主防災組織の支援活動(共助)が見開きでわかりやすく書かれている(写真撮影/田村写真店)

災害支援ボランティアメンバーについては、防災マニュアル配布時に2回目の募集をして合計28名の方が登録されました。そして、登録者を対象とした説明会を開催した際の参加者の声が今後の支援メンバーを募るうえで発想の転換になりました。

「高校生の娘さんがいる50代の男性から、『娘は、ボランティア登録や説明会の参加は苦手だけど、災害時には手伝うよと言ってくれていますよ。そういう若い人はもっといるのでは』という意見をいただいて、なるほどと思いました。現在の登録メンバーに加えて、被災時には、広く支援活動に参加できる人を募るつもりです。実際、昨年雪が降った際、若い人たちがスコップを借りて自主的に除雪をしてくれたんです。つつじが丘ハイムのコミュニティも捨てたものではないなあと思いました。被災時にメガホンで『支援活動が可能な人は、ぜひ集会室に集まってください』と呼び掛けてみます」(久保田さん)

「マンション・バリューアップ・アワード」の受賞をきっかけに、ほかのマンションの管理組合から、これらの資料や取り組みノウハウを活用したいという問い合わせが多数寄せられています。メール以外にも、滋賀県から飛び込みで話を聞きにやってきた人もいたそうです。「防災組織やマニュアルが整備されていないマンションで、つつじが丘ハイムの防災マニュアルが、ひな形として役立ててもらえたら嬉しいですね」と久保田さん。大谷さんは、頷きながら、「今後は、マニュアルを検証していきたい」と続けます。

11月にはコロナ禍で中止していた防災訓練が再開され、46人の居住者が参加。いずれは、避難訓練を行い、被災時の動きをシミュレーションしたいと考えています。

自主防災力の強化を行い、組織づくりを通じて、コミュニティが再生しつつあるつつじが丘ハイム。はじまりは、「自分たちの住むマンションをより良くしたい」という思い。理事会からのトップダウンではなく、居住者のニーズに真摯に向き合うこと、活動を継続していくことが、コミュニティを育んでいくのだと痛感しました。

●取材協力
マンション・バリューアップ・アワード

水害対策で注目の「雨庭」、雨水をつかった足湯や小川など楽しい工夫も。京都や世田谷区が実践中

2015年に閣議決定された国土形成計画をきっかけに、グリーンインフラという言葉が広く知られるようになりました。グリーンインフラとは、自然環境が持つ機能を社会におけるさまざまな課題解決に活用しようとする考え方です。雨水を利用する「雨庭(あめにわ)」は、グリーンインフラの取り組みのひとつとして注目されています。近年、雨庭を設置する自治体や雨水を利用する仕組みを建物に導入する建設会社も現れてきました。多発する豪雨などによる都市型洪水が問題視されていますが、その減災の取り組みとしても注目されている雨庭。一体どのようなものなのでしょうか?

都市化や気候変動によるゲリラ豪雨で、都市型洪水が増えている

近年、気候変動に伴う異常気象が引き起こす大型台風やヒートアイランド現象等の自然現象が深刻になり、ゲリラ豪雨も問題になっています。処理できない水があふれ、マンホールを吹き飛ばすニュースの映像が印象に残っている人も多いのではないでしょうか。都市型洪水を減災する取り組みのひとつが雨庭(あめにわ)です。地上に降った雨をそのまま下水道に流れないよう受け止め、ゆっくり浸透を図る仕組みを持たせた植栽空間を指します。

近年、局地的に短時間で降る激しい豪雨、ゲリラ豪雨が多発している(イメージ写真)(PIXTA)

近年、局地的に短時間で降る激しい豪雨、ゲリラ豪雨が多発している(イメージ写真)(PIXTA)

2022年6月3日には、東京をはじめ首都圏で、1日に2度のゲリラ豪雨が発生。夕方には電車が遅延し、帰りの足に影響が出て、ツイッター上では、「ゲリラ豪雨」がトレンド1位に(イメージ写真)(PIXTA)

2022年6月3日には、東京をはじめ首都圏で、1日に2度のゲリラ豪雨が発生。夕方には電車が遅延し、帰りの足に影響が出て、ツイッター上では、「ゲリラ豪雨」がトレンド1位に(イメージ写真)(PIXTA)

九州大学大学院 環境社会部門流域システム工学研究室の田浦扶充子さんに、雨庭の成り立ちを伺いました。

「地面がアスファルトで舗装された都市では、雨水は地面に浸透せずに、雨水管や水路を経由して河川に放流されます。一時的な豪雨で、雨水が流入するスピードが、河川へ排水されるスピードを上回ると、雨水管が満管になり、水路や排水溝から水があふれる都市型洪水が起こります。都市化が進んだことによって、雨が浸透できる緑地や田畑などが減ったため、雨水管へ流れ込む雨の量が増えていることが主な原因といわれています。早くから下水道を整備した都心部などでは、雨水と家庭からの汚水を1本の下水管で流す合流式下水道という方式をとっている地域もあります。そのような地域では、豪雨の際にすべての下水(汚水と雨水)を下水処理場で処理できなくなり、河川へ未処理状態の下水が流れ出ることもあり、それによる河川水質への影響も懸念されています」

つまり、マンホールを吹き飛ばしたのは、下水道管からあふれた下水。都市型洪水を防ぐためには、雨天時に雨水管に入る雨の量を減らす必要があります。敷地内に水が浸透できる場所を増やし、降った雨水を敷地内で処理する必要があるのです。

アイデアがいっぱい! 個人宅につくった「あめにわ憩いセンター」

島谷幸宏教授(現熊本県立大学所属)が中心となり、2016年に福岡の河川工学等の研究者らや建築士などによるあまみず社会研究会を立ち上げ、流域抑制技術の研究を行ってきました。島谷教授が提唱したのは、「あまみず社会」という雨水を色々な場所で浸透させたり、利用することで、有機的に成り立つ社会。一般の人に雨水浸透や利用について興味を持ってほしいとの思いから、造園や建築の専門家と協力し、住宅の敷地内の雨水を処理するための技術開発を行ってきました。そのひとつが雨庭です。雨庭で雨水を敷地内に貯留し、ゆっくりと地面に浸透したり蒸発させたりすることで水害を予防しながら、水が循環する社会に。ヒートアイランド現象の緩和にもつながります。

透水性のないアスファルト舗装に対し、庭や畑、森など土が表出している場所は雨水が浸透する量が多い(画像提供/あまみず社会研究会)

透水性のないアスファルト舗装に対し、庭や畑、森など土が表出している場所は雨水が浸透する量が多い(画像提供/あまみず社会研究会)

もともと日本では、ずっと昔から、雨庭のような機能を意識した庭園が造られており、敷地の中で上手に雨水を貯め、植物や生物の生育環境、生活用水としても活かしてきました。アメリカでグリーンインフラ整備が進むにつれ、2010年ころには、レインガーデンが、ニューヨーク市内の歩道につくられはじめました。日本庭園の枯山水やレインガーデンを参考に、島谷教授と志を共にする京都大学の森本幸裕名誉教授により、このような仕組みを近代都市の中に取り入れようと誕生したのが、日本の雨庭です。

築50年の民家の敷地内に設けたあめにわ憩いセンターの雨庭は、一見、普通の庭と変わりません。しかし、かなりの豪雨「対象降雨(※)」の場合に敷地全体に発生する雨水の量に対して敷地外への流出を80%も抑制できるというから驚きです。
※2009年7月九州北部豪雨時に観測された、総降雨量198mm・約6時間(最大時間雨量105mm/h)の雨量。

あめにわ憩いセンターには、雨水を利用するさまざまな仕組みがある(画像提供/あまみず社会研究会)

あめにわ憩いセンターには、雨水を利用するさまざまな仕組みがある(画像提供/あまみず社会研究会)

屋根から取水した雨水を6つのかめに貯め、利用する(画像提供/あまみず社会研究会)

屋根から取水した雨水を6つのかめに貯め、利用する(画像提供/あまみず社会研究会)

「雨庭づくりでは、雨が地面に浸み込む力が弱ければ、必要であれば、砂や腐葉土を土に混ぜて浸透速度を調整します。あめにわ憩いセンターは、もともと庭に植物が多く、雨が浸みこみやすい土でした。そこで、従来、屋根から縦樋を通って雨水桝(ます)、それから公共雨水菅へつながっていた連結を途中で切り、敷地内で雨水を貯水、利用し、また土に浸透させて、できるだけ敷地外へ雨水を流出させないようにしました」(田浦さん)

集めた雨水を竹筒から流して庭に小川のような水場をつくる(画像提供/あまみず社会研究会)

集めた雨水を竹筒から流して庭に小川のような水場をつくる(画像提供/あまみず社会研究会)

鎖樋(くさりとい)という鎖状になった樋に雨水を伝わせて、樽に溜まる仕掛け(画像提供/あまみず社会研究会)

鎖樋(くさりとい)という鎖状になった樋に雨水を伝わせて、樽に溜まる仕掛け(画像提供/あまみず社会研究会)

屋根から水がめに貯留した雨水を沸かして足湯ができるユニークな工夫も。2020年まで一般開放され、地域の人に親しまれていました。

雨水タンクに貯めた雨水を太陽光発電で温め足湯を楽しむ(画像提供/あまみず社会研究会)

雨水タンクに貯めた雨水を太陽光発電で温め足湯を楽しむ(画像提供/あまみず社会研究会)

全国に広がる雨庭。民間企業や自治体で取り組みが進む

グリーンインフラへの関心が高まるなか、鹿島建設では、一部の建物に雨水利用システムで蓄えた雨水をトイレの洗浄水に用いるほか、災害時の非常用水として利用するシステムを開発。地面には、雨が浸み込む透水性舗装を取り入れ、都市型洪水の防止に取り組んでいます。竹中工務店は、一部のマンションに、屋上雨水を地下ピットに一次貯留し、ろ過処理した後に植栽散水やトイレの洗浄水として利用するシステムを採用。緑化した屋上に畜雨できる三井住友海上駿河台ビル(東京都千代田区)は、雨水活用の先駆けとして話題になりました。

全国の自治体でも、グリーンインフラ整備が進められ、雨庭をまちづくりに取り入れる動きが出ています。
世田谷区役所土木部豪雨対策・下水道整備課に取り組みを伺いました。

「世田谷区(東京都)では、かねてより豪雨対策の一環として、河川や下水道などに雨水が流れ込む負担を軽くする流域対策を推進しています。グリーンインフラについては、社会的な関心が高まる前から、流域対策の強化の新たな視点として、持続的で魅力あるまちづくりのために取り入れてきました」(世田谷区役所土木部豪雨対策・下水道整備課)

世田谷区立保健医療福祉総合プラザ(うめとぴあ)のレインガーデン。左は、雨水を一時的にため込む保水性竪樋(じゃかご樋)。伝わった水が花壇へ導かれる(画像提供/世田谷区役所)

世田谷区立保健医療福祉総合プラザ(うめとぴあ)のレインガーデン。左は、雨水を一時的にため込む保水性竪樋(じゃかご樋)。伝わった水が花壇へ導かれる(画像提供/世田谷区役所)

グリーンインフラの考え方を取り入れた施設である「世田谷区立保健医療福祉総合プラザ(うめとぴあ)」のほか、公園や道路などさまざまな公共施設で、グリーンインフラの考え方を取り入れた流域治水の取り組みがなされているとのことです。また公共施設だけでなく、区内の土地利用の約7割を占める民有地での取り組みを推進するため、民間施設を建築する際に、貯留、浸透施設の設置をお願いしているそうです。

また、京都府京都市でも雨庭の整備が進められています。京都市情報館建設局みどり政策推進室に伺いました。

「グリーンインフラの考え方を取り入れながら、市民の方々が身近に接することのできる歩道の植樹帯において、京都の伝統文化のひとつである庭園文化とともに触れていただけるものとして、雨庭の整備を進めています」(京都市情報館建設局みどり政策推進室)

2017年度に京都市として初めての雨庭を四条堀川交差点南東角に整備し、2021年度末までに合計8カ所の雨庭が完成しました。2022年度は、2カ所の雨庭を整備する予定です。

東山二条交差点南東角の雨庭は、背景にある妙傳寺と一体感のある空間に設えている(画像提供/京都市情報館)

東山二条交差点南東角の雨庭は、背景にある妙傳寺と一体感のある空間に設えている(画像提供/京都市情報館)

四条堀川交差点北西角(南側)に2019年に整備された雨庭。京都の造園技術を活かし、貴船石をはじめとする地元を代表する銘石を織り交ぜた庭園風(画像提供/京都市情報館)

四条堀川交差点北西角(南側)に2019年に整備された雨庭。京都の造園技術を活かし、貴船石をはじめとする地元を代表する銘石を織り交ぜた庭園風(画像提供/京都市情報館)

道路の縁石の一部を穴あきのブロックに据え替えて、車道上に降った雨水も雨庭の中に集水し、州浜(すはま)で一時的に貯留し、ゆっくり地中に浸透させる(画像提供/京都市情報館)

道路の縁石の一部を穴あきのブロックに据え替えて、車道上に降った雨水も雨庭の中に集水し、州浜(すはま)で一時的に貯留し、ゆっくり地中に浸透させる(画像提供/京都市情報館)

講習会で雨庭を体験。「自分でつくってみたい!」という声も

あまみず社会研究会や東京都世田谷区、京都市のそれぞれが、一般の市民へ雨庭普及のための講習会やワークショップなどを行っています。

あまみず社会研究会の代表でもある島谷教授が熊本県立大学に就任し、プロジェクトリーダーを務める流域治水を核とした復興を起点とする持続社会 地域共創拠点を創設しました。雨庭の認知拡大に取り組んでいる研究員の所谷茜さんは、「体感してもらうことが大切」と言います。

「高校でワークショップをしたとき、『思ったより、水が土に浸透するスピードは速いんだ!』と驚きの声が生徒からあがりました。実感していただき、雨庭への理解を深めてもらいたいですね」(所谷さん)

民家に雨庭をつくっている様子。建物から1.5m離して窪地をつくり、この事例では腐葉土等を入れ微生物の動きを活発にすることで浸透性を高めた。1時間100ミリの雨を想定し、17平米の屋根に対し、2平米の雨庭をつくり、雨水が敷地外に流出する量を約40%カット。費用は2万円ほど(画像提供/緑の治水流域研究室)

民家に雨庭をつくっている様子。建物から1.5m離して窪地をつくり、この事例では腐葉土等を入れ微生物の動きを活発にすることで浸透性を高めた。1時間100ミリの雨を想定し、17平米の屋根に対し、2平米の雨庭をつくり、雨水が敷地外に流出する量を約40%カット。費用は2万円ほど(画像提供/緑の治水流域研究室)

世田谷では、“環境共生・地域共生のまちの実現”を目指し、市民主体による良好な環境の形成及び参加・連携・協働のまちづくりを推進する(一財)世田谷トラストまちづくりによって、個人宅でもできる雨庭づくりの普及を進めています。2020年に、NPO法人雨水まちづくりサポートの協力を得ながら、区内の産官民学連携で、区立次大夫堀公園内里山農園前に雨庭を手づくり施工。この取り組みをきっかけに、住宅都市世田谷で市民の小さな実践をつなげて人口92万人が取り組むグリーンインフラとして「自分でもできる雨庭づくり」の3つの視点(1. 個人宅でも実践しやすい 2. 目に見える楽しさや魅力がある 3. 生物多様性の向上につながる)を整理しました。

個人宅での雨庭における雨の流れイメージ図。竪樋(たてどい)から塩化ビニル管に流れて来た雨水を、建物基礎から離して雨庭に放流。オーバーフローした水は、導水路から雨水は雨水排水桝へ(画像提供/NPO法人雨水まちづくりサポート理事長神谷博さん)

個人宅での雨庭における雨の流れイメージ図。竪樋(たてどい)から塩化ビニル管に流れて来た雨水を、建物基礎から離して雨庭に放流。オーバーフローした水は、導水路から雨水は雨水排水桝へ(画像提供/NPO法人雨水まちづくりサポート理事長神谷博さん)

区立次大夫堀公園内里山農園前に雨庭を手づくり中。雨が降った日を観察し、その雨水の流れに沿って、園路沿いに土を掘り、窪地をつくる(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

区立次大夫堀公園内里山農園前に雨庭を手づくり中。雨が降った日を観察し、その雨水の流れに沿って、園路沿いに土を掘り、窪地をつくる(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

窪地に砂利等を敷き詰め、植栽を配し雨庭が完成した(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

窪地に砂利等を敷き詰め、植栽を配し雨庭が完成した(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

世田谷トラストまちづくりでは、2021年度より「世田谷グリーンインフラ学校~自分でもできる雨庭づくり」の企画運営を区より委託を受け実施。グリーンインフラや雨庭等を体系的に学び、演習フィールドにおいて手づくりで施工する市民向けの講座です。定員15名のところ、区内外から60名もの応募がありました。「水の循環を知りたい」「暮らし、地域に取り入れたい」「ガーデニングに取り入れたい」との声が寄せられたそうです。グリーンインフラの取り組みをはじめて3年目になり、「雨庭をつくりたい。どうしたらいいか」と区民からの問合せも増えています。

グリーンインフラ学校の風景。グリーンインフラや雨水、植物などを体系的に学びながら、グループにわかれてディスカッション。最終的に雨庭を手づくり施工する(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

グリーンインフラ学校の風景。グリーンインフラや雨水、植物などを体系的に学びながら、グループにわかれてディスカッション。最終的に雨庭を手づくり施工する(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

京都市でも、市民から緑を増やしたい場所として多くの声が寄せられている道路に雨庭の整備を進め、管理に参加してもらうボランティアを募集するなど雨庭の普及に努めています。

都市での暮らしでは、ふだん、水の流れは見えず、洪水が起こってから「水は怖い」と感じてしまいます。「昔は、雨が土に浸みこんで地下水となり、または蒸発して再び雨になるという実感がありました。雨水を楽しく使いながら水の循環を知ってもらいたいです」と田浦さん。身近に広がる雨庭は、グリーンインフラを整えるだけでなく、緑や水場のある景観を生み出し、心の豊かさにもつながりそうです。

●取材協力
・あまみず社会研究会
・世田谷区役所
・一般財団法人世田谷トラストまちづくり
・京都市情報館

災害時、避難所でなく「在宅避難」するための条件は? 一戸建ては「レジリエンス住宅」という選択肢も

9月は「防災月間」になっている。1923年9月1日に発生した「関東大震災」、1959年9月26日の「伊勢湾台風」と、以前から9月には甚大な災害が多いのだ。積水ハウス 住生活研究所の調査によると、災害時に避難所へ行くより在宅避難を望む人が多いというのだが……。

【今週の住活トピック】
「自宅における防災に関する調査(2022年)」 を公表/積水ハウス

災害時に避難所に行くのは抵抗感がある。理由はプライバシー

「自宅における防災に関する調査(2022年)」(調査対象500人)によると、災害時に避難所に行くかというと、どうやら抵抗感のある人が多いようなのだ。「災害時に避難所へ行くことに抵抗感があるか」を聞くと、コロナ禍前の時点でも、61.0%が「抵抗がある」と回答したが、コロナ禍の現在においては、抵抗を感じる人がさらに増え、74.6%が「抵抗がある」と回答した。

出典:積水ハウス 住生活研究所「自宅における防災に関する調査(2022年)」

出典:積水ハウス 住生活研究所「自宅における防災に関する調査(2022年)」

では、なぜこれほど抵抗感があるのだろう? 避難所へ行くことに抵抗があると回答した373人にその理由を尋ねたところ、「プライバシーがないから」が72.7%に達し、「新型コロナウィルス感染症の懸念」の60.9%よりも多くなった。避難所の感染対策や衛生面の不安もあるが、なによりプライバシーがないことに抵抗感が強いようだ。

出典:積水ハウス 住生活研究所「自宅における防災に関する調査(2022年)」

出典:積水ハウス 住生活研究所「自宅における防災に関する調査(2022年)」

「在宅避難」するための条件とはどんなもの?

避難所に行かないなら、どうするのか?となると、「在宅避難」をすることになる。そうはいっても、住宅が安全ではないのに、避難生活をおくるわけにはいかない。

マンションが多い自治体などでは、「在宅避難」を勧めている場合もある。新耐震基準のマンションは、過去の大地震でも倒壊する件数が少ないことから、避難所には家が倒壊した人などを優先しようということだ。そのため、ホームページなどに在宅避難に関する情報を多く掲載している。例えば、東京都台東区が用意している「在宅避難判定フローチャート」を見ていこう。

災害時において自宅に倒壊や焼損、浸水、流出の危険性がない場合に、そのまま自宅で生活を送る方法を「在宅避難」と位置づけ、在宅避難が可能かどうかは、こちらのフローチャートで確認するように呼び掛けている。

■台東区の在宅避難判定フローチャート

判断1 危険を見極める
チェックポイント
・自宅の家屋に倒壊などの被害があるか?
・隣家の倒壊・火災などで自宅に影響があるか?
・自宅が水害や土砂災害の被害を受け、生活できないか?
→ 危険または不安を感じたら避難所へ
→ 危険がなければ判断2へ
※応急危険度判定が実施された場合には、判定結果に従う

判断2 生活できるか確認
 チェックポイント
・日常生活をするうえで、他人のサポートが必要になるか?
→ 自宅での生活ができなければ避難所へ
→ 不安がなければ在宅避難へ
なお、自宅だけでなく避難所も、停電や断水している場合があり、その対策のため設備にも限りがあるが、在宅避難者も避難所のマンホールトイレなどの利用や食料受給が可能としている。

そして、在宅避難をするためには、非常用備蓄品(飲料水や燃料、食品、生活用品等)を常備するように促している。

このフローチャートを見ると、自宅が停電や断水している場合であっても、在宅避難してほしいということのようだ。

在宅避難を支援する「レジリエンス」の設備機器もある

先ほどの調査結果に戻ろう。「自然災害による被災経験または計画停電の経験がある」という人が64%もおり、「経験したことのある事態」で多いのが、「自然災害による停電」(74.7%)、断水(38.8%)、計画停電(34.4%)だった。計画停電を含み、停電の経験者が多いことが分かる。

出典:積水ハウス 住生活研究所「自宅における防災に関する調査(2022年)」

出典:積水ハウス 住生活研究所「自宅における防災に関する調査(2022年)」

次に停電の経験者239人に、停電時の行動を尋ねたところ、85.4%の人が「自宅で電力が復旧するまで我慢する」と回答した。自宅での防災対策についての質問では、飲料水や非常食などを備蓄したり、家具の転倒に備えたりしている人が多いが、「災害時の電力確保」をしている人は9.4%しかいなかった。我慢するのはかなり大変だろう。

では、災害時の停電や断水でも最低限の生活ができるようにするには、どうしたらよいのだろう?マンションの場合、共用設備は管理組合で維持管理するものなので、すべて各家庭で判断できるものではないが、一戸建ての場合は各家庭で住宅用設備機器を選ぶこともできる。

最近では、ハウスメーカーの多くが、災害などのリスクを乗り越える力をもつ「レジリエンス(※)住宅」という、さまざまな設備機器を組み合わせた住宅を提供している。

※レジリエンス(resilience)…強靭さ、弾性(しなやかさ)、回復力といった意味を持つ英単語

レジリエンス住宅としてよく見られるのがまず、自宅に「発電機能」を備えること。例えば、屋根に太陽光発電システムを搭載するなど。ただし、停電時に発電できるのは太陽が出ている間となるため、雨や夜の時間帯に電気を使うには、「蓄電機能」を備える必要がある。例えば、家庭用蓄電池に発電した電気をためて使うなど。発電システムと蓄電池などを組み合わせることで、災害時の停電に備えることができるのだ。

ほかにも、ガスと水道が来ていれば発電と給湯ができる「エネファーム(家庭用燃料電池)」を使う選択肢もある。断水時には発電ができないが、エネファームはお湯を「貯湯タンク」にためるので、いざというときにタンク内の水を取り出して使うことができる。

また、電動車を使って、車から住宅に電気を供給するという方法もある。説明してきたような設備機器を設置するには、もちろん費用がかかるし、それらを維持していくことも必要となる。どこまでどのように備えるかは、家庭ごとに判断すればよいだろう。

災害への不安を抱えるだけでなく、具体的に災害リスクに対する備えをして、万一のときに在宅避難ができるような体制を整えておくことが大切だ。いまは住宅の設備機器で災害に備えるという選択肢があることも、知っておいてほしい。

●関連サイト
積水ハウス 住生活研究所「自宅における防災に関する調査(2022年)」
台東区「在宅避難と備蓄について」

南海トラフ地震の津波対策へ地元企業が300億円の寄付。10年かけ全長17.5kmの防波堤ができるまで 静岡県浜松市

内閣府が実施した南海トラフ巨大地震の被害想定によると、全国のなかで甚大な被害が予測される都市の1つである静岡県浜松市。2012年、地元を創業の地とするハウスメーカーが、地震による津波対策のために300億円を寄付したことが話題に。2020年に全長17.5kmに及ぶ防潮堤が竣工しました。民間の寄付金をきっかけにはじまった全国初のプロジェクトが地域にもたらしたものとは。地震による津波対策の先進事例を、プロジェクトに携わった静岡県浜松土木事務所に取材しました。

南海トラフ巨大地震により、浜松市だけで約1万6千人の死者が予想されていた浜松市中心部にあるアクトシタワーと馬込川(画像/PIXTA)

浜松市中心部にあるアクトシタワーと馬込川(画像/PIXTA)

2011年に起きた東日本大震災は、東北地方を中心に、太平洋沿岸の広範な地域に甚大な被害を与え、約1万5900人の死者(2022年3月警察庁発表)を出しました。特に、大きな被害をもたらしたのは、それまでの想定を大幅に上まわる巨大な津波でした。これを受けて、大震災による津波対策の見直しやいっそうの強化が急務になったのです。

津波対策について、東日本大震災以前と大きく変わったポイントは、津波の想定レベルの設定です。

中央防災会議では、今後の津波対策を構築するにあたり、基本的に2つのレベルの津波を想定しています。レベル1は、発生頻度は高く、津波高は低いものの大きな被害をもたらす津波、レベル2は、発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす津波 (東日本大震災クラス相当)です。

レベル1については、津波を防ぐ施設高の確保など海岸保全施設整備等のハード対策によって津波による被害をできるだけ軽減。それを超えるレベル2の津波に対しては、ハザードマップの整備など、避難することを中心とするソフト対策を重視する方針です。

静岡県では、東日本大震災の直後から津波対策の総点検を行い、2011年9月、新たな行動計画として「ふじのくに津波対策アクションプログラム(短期対策編)」を取りまとめていました。同年12月、津波防災地域づくり法が成立。2012年に、内閣府から南海トラフの巨大地震モデルが提示されました。

南海トラフ巨大地震では、関東から九州の広い範囲で強い揺れと高い津波が発生すると想定されています。静岡県では、『第4次地震被害想定策定会議』を設置し、新たな地震被害想定を実施。2013年6月と11月に報告を公表。その結果、静岡県特有の課題が明らかになったのです。

シミュレーションでは、防潮堤と水門により宅地浸水深2m以上の範囲を98%低減することが期待できる(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

シミュレーションでは、防潮堤と水門により宅地浸水深2m以上の範囲を98%低減することが期待できる(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

静岡県浜松土木事務所 沿岸整備課長 石田安秀さんはこう話します。
「浜松市は津波の到達時間が短く、多くの人口・資産が集中する低平地において広範囲に大きな被害が想定されました。静岡県の南海トラフ巨大地震の津波による想定死者数は、全国で最も多い9万6000人(2013年時点予測)でした。特に低平地が広がる浜松市は、沿岸部に人口が集中し、工場など働く場所もあります。津波による浸水面積は約4200ha、最大津波高さは14.9m、家屋の流失は約2600棟。地震発生から津波が海岸に到達する時間は、わずか約15分です。東日本大震災の東北エリアの場合で40~60分ありましたから、十数分では、避難時間が確保できません。浜松市だけで約1万6000人もの命が失われると想定されたのです」

浜松市沿岸部。海岸近くに人・家・工場が集中。国道1号線が海沿いを走っている(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

浜松市沿岸部。海岸近くに人・家・工場が集中。国道1号線が海沿いを走っている(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

天竜川河口から浜名湖今切口までの17.5kmが整備区域に指定された(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

天竜川河口から浜名湖今切口までの17.5kmが整備区域に指定された(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

一条工務店グループの寄付により全国にない防潮堤整備が始動。「何としても命を守る」

国の指針では、レベル1の津波をしっかり防ぐことを目標に補助金を使った防潮堤の整備や、避難施設の整備が全国で進められています。浜松市では、レベル1を防ぐための防潮堤はすでに整備されており、地域の課題となるのは、レベル2の津波対策です。国は、ハザードマップなどを整備して避難するソフト面での対策を重視していました。

「地域特性から、ソフト面の対策のみでは、沿岸域の住民の命を守ることは多くの困難が伴うと考えていましたが、レベル1を超える津波を防ぐための防潮堤工事には、前例のない規模の整備費用を地元だけで捻出する必要があり、整備ができない状況でした」

ターニングポイントは、一条工務店グループからの300億円の寄付でした。「創業の地である浜松市の多くの命、財産を津波から守ってほしい」と多額な寄付を県に申し出たのです。

2012年6月に、一条工務店グループ、静岡県、浜松市で「三者基本合意」を締結。一条工務店グループは300億円の寄付、県は浜松市沿岸域の防潮堤整備、浜松市は必要な土砂の確保と市民への理解促進を行うことが合意されました。2012年9月に浜松市沿岸域防潮堤整備事業に着手。レベル1を超える大津波に備える、全国初のプロジェクトがはじまりました。

一条工務店グループは、静岡県に防潮堤整備に用いる費用として300億円を寄付。静岡県、浜松市と「三者基本合意」を結んだ(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

一条工務店グループは、静岡県に防潮堤整備に用いる費用として300億円を寄付。静岡県、浜松市と「三者基本合意」を結んだ(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

目標としたのは、「想定最大津波に対しても命を守る減災効果を得る」こと。

「どんなに備えても想定以上の震災が生じる可能性は残り、レベル2以上の津波が来た場合、防ぎきることはできないだろうと言われています。レベル1を超える津波への対策の基本方針は、『減災』です。減災とは、人命を守りつつ、被害をできる限り軽減すること。最優先は、避難するまでの時間を稼ぐこと。次に、家屋の流失を防ぐのが防潮堤の役割です」

レベル2の津波が発生すると想定される南海トラフ巨大地震に対して、防潮堤と馬込川河口の水門で、既存防潮堤で防ぎきれないレベル1以上の津波から街を守る計画です。浸水深2m以上が、木造家屋が倒壊する目安とされています。減災効果をシミュレーションして整備規模を決定し、限られた事業費の中で最大限の減災効果が得られるように設計されました。

宅地の浸水シミュレーションでは、整備前の浸水深2m未満と以上をあわせた1464haが、整備をすることで、280haまで減災できると見込まれた(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

宅地の浸水シミュレーションでは、整備前の浸水深2m未満と以上をあわせた1464haが、整備をすることで、280haまで減災できると見込まれた(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

静岡県・浜松市・市民が一体となった「オール浜松」で整備が進む

これほど大規模な防潮堤を短期間でつくりあげる事業は、全国的に前例がありません。県・市・一条工務店グループは、検討会議を重ねるとともに、地元自治会の要望や意見を反映するため推進協議会を立ち上げ、浜松商工会議所と連携し、横断幕やロゴマーク等を作成。地域と連携しながら一般市民に理解を求めていきます。工事には地元の建設会社が広く参画できるようにすることも決まりました。

民間企業の寄付ではじまった大津波から街を守るプロジェクト。その後、「自分の街を守りたい」という思いが市民に広がり、大きなうねりとなって、「オール浜松」運動へつながっていきました。静岡県・浜松市・市民が一体となり、プロジェクトを推進する運動です。この運動により、市民や民間企業の寄付を募ったところ、浜松商工会議所、自治会連合会、市民団体から、約13億円もの寄付が集まったのです。

「2014年から本格的にはじまった工事で、最も気を使ったのは、土砂の運搬です。工事には防潮堤に使う大量の土砂が必要です。運搬した土砂は、山一つ分に相当する200万平米に及びました。それをダンプトラックが工事現場へ運びます。騒音や交通規制などで日常生活に影響が生じるため、周辺住民には丁寧に説明をして理解していただきながら慎重に進めました。問題があっても『どうしたら実現できるか』を考えながら、市民が苦労を分かち合ってくれました」

浜松市内の阿蘇山からダンプトラックに土砂を載せ、市街地を通って工事現場へ運搬した(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

浜松市内の阿蘇山からダンプトラックに土砂を載せ、市街地を通って工事現場へ運搬した(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

土砂とセメントと水を混ぜて製造したCSGを、ブルドーザで均一にならしているところ(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

土砂とセメントと水を混ぜて製造したCSGを、ブルドーザで均一にならしているところ(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

宅地の浸水面積8割減、浸水深2m以上の範囲は98%少なくなった

2020年3月、8年に及ぶ工事を終えて、浜松市沿岸域防潮堤がついに竣工しました。防潮堤の中心には、ダム技術により開発された土砂よりも強度があるCSGを使用。区間により異なりますが、その両側を土砂やコンクリートで覆い、強化した構造です。高さは標高13~15m、CSGを覆う両側の盛土等を含んだ堤防の幅は約30~60mで、17.5kmに及びます。

既存堤防とさざんか通りの間に新設された防潮堤(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

既存堤防とさざんか通りの間に新設された防潮堤(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

防潮堤により市街地を津波から守ることができる(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

防潮堤により市街地を津波から守ることができる(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

CSGの両側を土砂で覆ってから海岸防災林を再生(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

CSGの両側を土砂で覆ってから海岸防災林を再生(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

防潮堤に、今後整備される馬込川河口津波対策の水門を加えた効果として、宅地の浸水面積は約8割少なく、宅地の浸水深さ2m以上の範囲は98%低減することが期待できます。

「防潮堤は津波をすべて防げるものではなく、避難することが前提ですが、津波の到達時間が長くなることで、安全な場所に避難するための時間をかせぐことができます」

「オール浜松」による事業の推進や減災効果に重点を置いた防潮堤の整備など今回の防潮堤事業に関する一連の手法は「浜松モデル」と言われ、「静岡モデル」として地域の特性に合った津波対策を提唱するきっかけになりました。現在は、県内の沿岸21市町のうち8市町で実施されています。防潮堤の建設期間中、3万人を超える人が、日本全国や海外から視察に訪れました。

浜松まつりでは、防潮堤の上から凧揚げを観覧している(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

浜松まつりでは、防潮堤の上から凧揚げを観覧している(画像提供/静岡県浜松土木事務所)

「今回の事例は、公共事業のクラウドファンディングとも言えますね。私財を投じた津波対策の昔の事例に、和歌山県広川町の『稲村の火』や広村堤防などがあります。今回の事例が、事業や制度に限界があるときに、企業や市民の参加や寄付によって街の防災が進展するきっかけになればと思っています」

浜松市沿岸域防潮堤は、市民から親しみを込めて「一条堤」と呼ばれているそうです。堤防の上部は道路になっていて、犬の散歩や浜松まつりの凧上げを見に訪れる人も。今も、水門工事が着々と進められています。国による公助、自治体による共助に加えて、自らが考えて行動する自助がさらに安心なまちづくりにつながると感じました。

●取材協力
・静岡県浜松土木事務所

マンションで農業はじめました! 空き地の整地からスタート、防災・コミュニティづくりの新機軸に 「ブラウシア」千葉市

「農業委員会、始めました!!」。マンションの広報誌にそんな見出しが躍ったのは今年6月。発行元は千葉県千葉市中央区千葉港にある「ブラウシア」だ。なぜマンションで農業を?理由を探るべく現地を訪ねてみると、そこではコミュニティと防災を見据えた今までにない取り組みが始まっていた。

玉ネギ1000個! 1000平米の畑で始まった本気の野菜づくり

千葉みなと駅から徒歩3分の「ブラウシア」は438戸の大規模マンション。なにかと話題になるのは、現役理事と“オブザーバー”と呼ばれる元理事が協力し合った管理組合のアグレッシブな活動だ。5年前、最寄りのバス停に空港行きリムジンバスの停車を誘致したのは、大きな実績の一つ。最近では千葉市で初となる事前決済式で待ち時間なしのキッチンカーを導入するなど、マンションにメリットのあることならどしどし取れ入れる“スーパー管理組合”なのである。

京葉線と千葉都市モノレールの千葉みなと駅からすぐの場所に立つ「ブラウシア」。竣工は2005年(写真撮影/一井りょう)

京葉線と千葉都市モノレールの千葉みなと駅からすぐの場所に立つ「ブラウシア」。竣工は2005年(写真撮影/一井りょう)

そんなマンションに新たに加わった活動が農業委員会だ。
まず驚いたのはその“本気度”。活動場所はマンションから車で15分ほどの遊休地。1000平米もの土地を借り、ホウレン草、春菊、玉ネギ、ジャガイモ、ナス、トウモロコシなど四季折々の野菜を栽培しているという。育てる量も半端なく、ジャガイモは種イモで50kg分、玉ネギはなんと1000個!

活動の様子はマンションの広報誌「ブラウシアニュース」6月号の表紙を飾り、「一緒に汗を流してみませんか?」と住民への参加も呼びかけている。

「野菜を自分でつくってみたい、土に触れたいなど活動を始めた理由はいろいろですが、とにかく楽しいんです」

こう話すのはメンバーの一人でオブザーバーの加藤勲さんだ。

「農作業は重労働ですが、リモートワークの運動不足解消やストレス発散にもってこい。作業後のビールのおいしさは格別ですし、もちろん、収穫したての新鮮な野菜を味わえるのも特権です。そうやって住民同士で一緒に畑で汗を流せば打ち解けやすく、連帯感も生まれます。コミュニティの醸成にもなることから、農業委員会という形で居住者なら誰でも参加できるようにしました」

「ブラウシアニュース」6月号の表紙(画像提供/ブラウシア管理組合法人)

「ブラウシアニュース」6月号の表紙(画像提供/ブラウシア管理組合法人)

初心者ばかりのメンバーで雑草が茂る土地を野菜畑に

ブラウシアでこの農園活動が始まったのは2021年の秋。きっかけをつくったのは「小湊鐵道」の社員であり、近隣のマンションに住む佐々木洋さんだった。

「畑として使っているのは弊社が所有する土地。将来的な沿線開発を見込んで購入していたのですが、諸般の事情で開発が進まず未活用のままだったのです。点在しているその土地を私が所属していた部署で管理していたのです」

佐々木さんが日ごろから頭を痛めていたのは雑草問題だ。放置された土地には雑草が茂り、その種が周りの畑に害を及ぼすことから、度々クレームが舞い込んでいた。

「1人でコツコツと草刈りをしていましたが、手作業なので1時間で刈り取れるのは車一台分のスペースがやっと。その場所で野菜づくりを始めました。畑として使えば雑草問題が解決できますから。ただ、1人でやるのには限界があって。私はブラウシアの近くのマンションに住んでいて、管理組合の活発な活動はよく知っていました。個人的な知り合いもいたので、『一緒に農園をしませんか』と話をもちかけました」(佐々木さん)

実は、小湊鐵道とブラウシアにはちょっとした縁もあった。小湊鐵道が運営するゴルフ場「長南パブリックコース」の法人会員にブラウシア管理組合法人として登録していたのだ。住民は会員料金で利用でき、マンションのゴルフコンペを開いたこともあったという。

突如、舞い込んだ農園の話だが、さすがスーパー管理組合、その後の動きは早かった。さっそく、理事会有志が畑候補地の視察に訪れ、翌月には加藤さんと前・副理事長の光藤智さんが農園活動のメンバーに立候補。佐々木さんを交えた3人体制のスタートとなった。
「手始めは土地の整備作業。みんなで雑草を抜いて整地をし、畝を立て、植え付けしてとやっていくうちに結束も固まりました」
と加藤さんは振り返る。

整地前の土地。生い茂る雑草を手作業で取り除いたそう(画像提供/ブラウシア農業委員会)

整地前の土地。生い茂る雑草を手作業で取り除いたそう(画像提供/ブラウシア農業委員会)

草刈りを終えた土地はご覧のとおり、まっさらに。ただし、この後に耕作の作業が待っている(画像提供/ブラウシア農業委員会)

草刈りを終えた土地はご覧のとおり、まっさらに。ただし、この後に耕作の作業が待っている(画像提供/ブラウシア農業委員会)

耕作中の一コマ。畑を丁寧に耕すことで元気な野菜が育つ。この日は自治会長など理事会の有志も助っ人として参加した(画像提供/ブラウシア農業委員会)

耕作中の一コマ。畑を丁寧に耕すことで元気な野菜が育つ。この日は自治会長など理事会の有志も助っ人として参加した(画像提供/ブラウシア農業委員会)

農園活動がスタートして間もない畑の様子。ホウレン草や春菊などが栽培された(画像提供/ブラウシア農業委員会)

農園活動がスタートして間もない畑の様子。ホウレン草や春菊などが栽培された(画像提供/ブラウシア農業委員会)

農具などを置く小屋を使いやすい位置に移設するときの作業風景。酷暑のなか、理事会メンバーも大勢駆けつけた(画像提供/ブラウシア農業委員会)

農具などを置く小屋を使いやすい位置に移設するときの作業風景。酷暑のなか、理事会メンバーも大勢駆けつけた(画像提供/ブラウシア農業委員会)

移設を終えた小屋。廃材を使って屋根や壁を補修し、雨風が凌げるように。貯水槽も移設できた(画像提供/ブラウシア農業委員会)

移設を終えた小屋。廃材を使って屋根や壁を補修し、雨風が凌げるように。貯水槽も移設できた(画像提供/ブラウシア農業委員会)

農業委員会のメンバーは随時募集中で、今年4月からは光藤さんと同じく副理事長を務めていた今泉靖さんが加わって4人体制になった。

「といっても、まだ少人数なので細かいルールは設けず、何をどのくらい植えるかなどはその都度、話し合って決めています。活動日も特につくらず、それぞれが都合のつくときに行って作業をし、状況や活動結果はグループLINEで共有しています。気をつけているのは隣接する畑の耕作者とできるだけ良好な関係を維持すること。もちろん、土地の所有者である小湊鉄道さんの意向を汲むことも大前提です」(加藤さん)

聞けば、加藤さんはベランダ菜園はやっていたものの、本格的な農作業は初体験。ほかのメンバーも同様で、YouTubeで勉強したり、農作業の経験を持つ先輩たちに聞いたりしながら手探りで始めたそうだが、今ではLINEに専門用語が飛び交うほど詳しくなった。
そんな熱意もあって野菜づくりは順調に進行。収穫物はメンバーで分けても食べきれず、理事会などでお裾分けするなかで農業委員会の認知度はじわじわと広まっているそうだ。

畑に立つ農業委員会のみなさん。左から加藤さん、初参加の鈴木さん、光藤さん、今泉さん、小湊鐵道の佐々木さん。メンバー間で野菜の生育状況を日々共有・相談し合うなかで、経験値と知識を急速に向上させている(写真撮影/一井りょう)

畑に立つ農業委員会のみなさん。左から加藤さん、初参加の鈴木さん、光藤さん、今泉さん、小湊鐵道の佐々木さん。メンバー間で野菜の生育状況を日々共有・相談し合うなかで、経験値と知識を急速に向上させている(写真撮影/一井りょう)

畑に植える苗は各自ベランダで育成。愛らしい芽が伸びる様子に“萌える”メンバーも(写真撮影/一井りょう)

畑に植える苗は各自ベランダで育成。愛らしい芽が伸びる様子に“萌える”メンバーも(写真撮影/一井りょう)

目指すは公認サークル化。今後は農作業の体験会なども計画

農業委員会として、目下、目指してしるのは公認サークル化だ。
「農具や種の購入はメンバーの自費で賄っていますが、公認サークルになれば補助費を受け取れるので活動の幅を広げられます。今、計画しているのは植え付けや収穫などの体験会の開催。より多くの住民で畑作業を楽しむことができますよね。あるいは、採れた野菜をマンション内のイベントの景品にしたり直売をしたり。農園活動に参加できる機会を増やし、それを通じて住民同士のコミュニティをバックアップしていきたいと思っています」(加藤さん)

そんな活動の第一歩として、6月初旬には玉ネギとジャガイモの収穫体験が実施された。あくまでも試験的に催した会だが、小さな子どものいる2組の家族のほか、自治会長や元理事のオブザーバーなど総勢12人が畑に集結した。

まずは玉ネギの収穫作業からスタート。芽の部分を持って引き出すと、土のなかから丸々とした玉ネギが現れて、「楽しい!」「もっと採る!」と子どもたちはたちまち熱中し始めた。大人も「次はここを抜こうかな」「あ、こっちもあった」と口々に話しながらにぎやかに作業が進んでいく。

玉ネギは全部で1000個を栽培。赤玉ネギも植えられ「辛味が少ないからオニオンスライスにして食べると最高ですよ」と加藤さん(写真撮影/一井りょう)

玉ネギは全部で1000個を栽培。赤玉ネギも植えられ「辛味が少ないからオニオンスライスにして食べると最高ですよ」と加藤さん(写真撮影/一井りょう)

小2の娘さんと2歳の息子さんと参加したIさん。「コロナ禍で外に出る機会が少なかったので、久しぶりにいい汗をかきました」(写真撮影/一井りょう)

小2の娘さんと2歳の息子さんと参加したIさん。「コロナ禍で外に出る機会が少なかったので、久しぶりにいい汗をかきました」(写真撮影/一井りょう)

掘り出した玉ネギは畑の上でしばらく乾燥させた後、芽や根を切り落とす(写真撮影/一井りょう)

掘り出した玉ネギは畑の上でしばらく乾燥させた後、芽や根を切り落とす(写真撮影/一井りょう)

玉ネギをすべて掘り出したら、次はジャガイモの収穫だ。男爵イモやメークインなど4種類のジャガイモが植えられているという。
農業委員会のメンバーからレクチャーを受け、参加した子どもが茎を持って引き抜くと根のところにいくつものジャガイモが!
「抜いた周りも掘ってみて。まだまだあるよ」
との声に従い土を掘れば、ジャガイモがゴロゴロと出てきて大きな歓声が挙がった。宝探しのような楽しさに時間を忘れて収穫に励む参加者たち。子どもはもちろん、大人も童心にかえって土と戯れられるのは農園活動の魅力だろう。

こうして2時間ほどですべての収穫が完了。親子で作業した参加者に感想を訊くと、輝く笑顔でこんな答えが返ってきた。

「普段の生活で土に触れることはなかなかないので、こういう機会があれば参加してみたいと思っていたんです。子どもたちはすごく楽しそうでしたし、自分もリフレッシュできました」(Iさん)
「観光農園の収穫体験に参加したことはあるのですが、マンションで実施されていることにびっくり。作業しながら、同じマンションに住む人たちと交流をもてるのもうれしいですね。子どもの友達も誘ってまた参加したいです」(Mさん)

掘り立ての玉ネギとジャガイモはメンバーと参加者で分配したが、それでも余るほどの大豊作。筆者もお裾分けしてもらったが、つくった人たちの顔が浮かぶ新鮮な野菜はおいしさもひとしおだった。

畑から掘り出されたジャガイモ。1つの種イモから10個前後のジャガイモが収穫できる(写真撮影/一井りょう)

畑から掘り出されたジャガイモ。1つの種イモから10個前後のジャガイモが収穫できる(写真撮影/一井りょう)

全員でジャガイモを収穫中。「土の香りに癒されます」と顔を綻ばせるメンバーも(写真撮影/一井りょう)

全員でジャガイモを収穫中。「土の香りに癒されます」と顔を綻ばせるメンバーも(写真撮影/一井りょう)

Mさんは小4の息子さんと5歳の娘さんの3人で参加。好奇心旺盛な息子さんは大きなミミズを見つけて大喜びだった(写真撮影/一井りょう)

Mさんは小4の息子さんと5歳の娘さんの3人で参加。好奇心旺盛な息子さんは大きなミミズを見つけて大喜びだった(写真撮影/一井りょう)

災害時にはマンションに野菜を供出。防災面でも“頼れる農園”に

こうしてマンション内のコミュニティを育む農園活動だが、実はこの活動にはもう一つ、別の目的もある。それは防災だ。
加藤さんは5年前、管理組合下におかれた防災委員会で初年度から委員長を務め、防災活動に人一倍力を注いでいる。マンションが農園をもつことは災害時の強みになると力を込めていう。

「政令指定都市のなかで震度6以上の地震が今後30年以内に起こる確率が最も高いのが、僕らが住む千葉市と言われています。そのため防災体制の強化は管理組合の重要課題であり、防災委員会ではさまざまな施策を講じています。そのなかで話題に挙がるのは備蓄の問題。マンションとしての備蓄はスペースの点から難しく、世帯それぞれで水や食料などを確保してもらうのが大原則ではあるのですが、農園があれば多少なりとも食料の確保に役立つのではないかと。被災時には収穫物をマンションに供出しようと思っています」(加藤さん)

確かに災害で避難生活を余儀なくされたとき、畑にイモ類などの野菜があれば食料になり、炊き出しもできるだろう。育ちが早い葉物野菜なら避難生活を送りながら栽培することも可能だ。
「こうした考えに賛同して農業を一緒にしてくれる仲間が増えたら、新たに整地し、農地を広げることも考えています。そうすれば安心感はより高まるはずです。小湊鐵道さんの協力あってのことですが」(加藤さん)

6月初旬に収穫したジャガイモは段ボール3箱分!「備蓄しやすいイモ類は被災時も活躍するはず」と加藤さん(写真撮影/一井りょう)

6月初旬に収穫したジャガイモは段ボール3箱分!「備蓄しやすいイモ類は被災時も活躍するはず」と加藤さん(写真撮影/一井りょう)

夏に向けてトウモロコシもすくすく成長中(写真撮影/一井りょう)

夏に向けてトウモロコシもすくすく成長中(写真撮影/一井りょう)

もちろん、農園活動で育まれたコミュティも防災の大きな力になる。日ごろから住民同士が良好な関係を築いておけば、万が一のときにお互い助け合うことができるからだ。
特に今回、強く感じたのは畑で生まれるコミュニティの深さ。手足を土で真っ黒にしながら無心で作業をすると誰もが”素”に戻るからだろうか、人と人の心の距離がすーっと自然に近くなることを実感した。農作業を手伝い合ったり、収穫した野菜をみんなで集めて運んだりと共同作業が多いのも、交流を深めるよいきっかけになるだろう。

農園活動はどのマンションでも真似できるわけではないけれど、マンションコミュニティの新しい形が生まれていることは確かである。

●取材協力
ブラウシア管理組合法人

倉敷の木密地域が「防災大賞グランプリ」! 美観地区を防災とにぎわいの拠点に 岡山・あちてらす倉敷

全国にある木造住宅が密集する地域は、木密地域(もくみつちいき)と呼ばれ、火災の発生や、細い路地を緊急車両が通れないなどの防災上のリスクを抱えています。岡山県倉敷市では、長年、駅前の木密地域の再開発を構想し、2021年10月に複合施設「あちてらす倉敷」をグランドオープンしました。地域防災の強化とともに住環境を改善したプロジェクトは、強靭な国づくり、地域づくりの活動等を実施している企業・団体を評価・表彰する「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2022」で最高位の「グランプリ」を受賞。こちらの事例を通じて、木密地域における街づくりの課題と、どう乗り越えてにぎわいに結びつけたのかを取材しました。

木造住宅が密集する市街地は、火災や自然災害のリスクが高い

倉敷市では、倉敷駅に近い市中心部(阿知3丁目東地区)に老朽化した木造住宅が密集する地域があり、過去には火災が発生していました。さらに狭小敷地が多く、狭い道路や行き止まり道路が多いため、消防車による消防活動が難しいという防災面での課題がありました。

再開発前の阿知地区の木密地域。駅前に老朽化した住宅や店舗が立ち並んでいた(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

再開発前の阿知地区の木密地域。駅前に老朽化した住宅や店舗が立ち並んでいた(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

再開発前の商店街。シャッターを下ろしたままの店舗が多く、人通りが少なかった(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

再開発前の商店街。シャッターを下ろしたままの店舗が多く、人通りが少なかった(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

2011年の東日本大震災で住宅密集地域が甚大な被害を受けたことから、翌年、国土交通省は「地震時等に著しく危険な密集市街地」を公表。当時、全国で約6000haにのぼり、そのうち東京都が約1683ha、大阪府が約2248haを占めていました。首都直下型地震が予想される東京都で、一層の木密地域解消を目標に「不燃化10年プロジェクト」がはじまったのもこの時期でした。

一方で、木密地域には、固有の文化やコミュニティが形成され、特色をもった地域の魅力がつくり出されている場合もあります。阿知地区の南側は、白壁土蔵のなまこ壁、軒を連ねる格子窓の町屋など日本の伝統的で美しい街並みが保全されている美観地区と接しています。再開発では、防災力を向上するだけでなく、倉敷の個性や魅力が伝わる街づくりを目指しました。

柳並木が連なる倉敷川沿い。国から重要伝統的建造物群保存地区に指定されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

柳並木が連なる倉敷川沿い。国から重要伝統的建造物群保存地区に指定されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

古い商店街を含む市街地が、ホテルと分譲マンション・商業・公共施設を有した複合施設「あちてらす倉敷」に生まれ変わった

JR岡山駅から在来線で約20分、JR新大阪駅からは新幹線と在来線で約1時間半の倉敷駅。南側には、昭和初期から続く一番街商店街がありましたが、近年は空き店舗が目立ち、建物の老朽化が進んでいました。倉敷市では、1994年ころから、木密地域の再開発を構想していましたが、建て替えが進みにくい状況でした。2007年4月から始まった「倉敷市阿知3丁目東地区第一種市街地再開発事業」に2016年1月から参画した旭化成不動産レジデンス開発営業本部齋藤淳さんに開発の経緯を伺いました。

再開発エリアは、倉敷中央通りと倉敷一番街商店街にはさまれた約1.7haで、駅からは徒歩5分。倉敷駅と美観地区の中間地点にある(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

再開発エリアは、倉敷中央通りと倉敷一番街商店街にはさまれた約1.7haで、駅からは徒歩5分。倉敷駅と美観地区の中間地点にある(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

「再開発事業は、倉敷市の意向をふまえながら、事業コンサルタントで設計監理者のアール・アイ・エーと工事を請け負った特定業務代行者藤木工務店と共に官民一体で推進してきました。旭化成不動産レジデンス、株式会社NIPPOは、マンション事業者としてマンションの商品開発を担いました。過去に何度も火災があったと聞いていましたし、再開発途中に西日本豪雨による真備町の洪水がありました。火災、水害への備えはもちろんですが、美観地区の玄関口として、街全体の魅力を高める街づくりが必要だと考えていたんです。それらをふまえ、『あちてらす倉敷』の開発に着手しました」(齋藤さん)

再開発工事中の阿知3丁目地区。再開発事業では、施行地区内の木造建築物を解体し、建て替えや道路整備を行った(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

再開発工事中の阿知3丁目地区。再開発事業では、施行地区内の木造建築物を解体し、建て替えや道路整備を行った(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

完成した「あちてらす倉敷」。中央通路をはさんで右側が分譲マンションや市営駐車場のある南棟、左側がホテルや店舗のある北棟(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

完成した「あちてらす倉敷」。中央通路をはさんで右側が分譲マンションや市営駐車場のある南棟、左側がホテルや店舗のある北棟(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

倉敷市に再開発の構想が浮上してから約27年、2021年10月10日、「あちてらす倉敷」がグランドオープンしました。白壁や木格子など倉敷美観地区の建築表現を取り入れた外観の施設には、「ホテル グラン・ココエ倉敷」が入る北棟、分譲マンション「アトラス倉敷ル・サンク」を中心に商業・医療施設、市営駐車場を含む南棟があります。

北棟外観。1~2階が店舗とホテルエントランスで、上階はホテルの宿泊施設(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

北棟外観。1~2階が店舗とホテルエントランスで、上階はホテルの宿泊施設(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

南棟外観。左にある住宅棟に隣接する2~4階が市営駐車場、さらに上階はマンション居住者専用駐車場になっている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

南棟外観。左にある住宅棟に隣接する2~4階が市営駐車場、さらに上階はマンション居住者専用駐車場になっている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

木造住宅の建て替えや雨水浸透桝で火災・水害に備え、施設内の市営駐車場を避難場所へ

「あちてらす倉敷」には、防災のための工夫が随所に設けられています。

「再開発前は、幅4mに満たない道路や路地が多く、倉敷駅南口周辺には避難場所がありませんでした。そこで、耐火性能の高い鉄筋コンクリート造へ建て替え、道路を拡幅するなど、防災性の強化を行っています」(齋藤さん)

そのほか、力を入れたのは、豪雨による水害対策です。洪水ハザードマップによると、このエリアは、洪水浸水想定区域で想定浸水深は約1.4mあり、雨水への対策が必要でした。

「公共空地などに浸透性ブロック舗装と雨水貯留ブロックを用い、全域に雨水浸透桝を設置。雨水浸透桝は、エリア内の民間企業の協力も得られ、開発街区全体で108カ所設置でき、街全体で雨水処理能力が大幅にアップしました。さらに、避難のため、南棟にある24時間利用可能な市営駐車場の台数を再開発前より増やし、緊急時、車ごと避難できるようにしました。南棟にある市民交流施設の『あちてらすぽっと』も、避難場所として使えます」(齋藤さん)

市営駐車場と「あちてらすぽっと」の2階の床は、想定浸水高さを上回る高さに設計(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

市営駐車場と「あちてらすぽっと」の2階の床は、想定浸水高さを上回る高さに設計(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

「あちてらすぽっと」。常時はワークスペースや休憩場として利用されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

「あちてらすぽっと」。常時はワークスペースや休憩場として利用されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

再開発エリア内の公共空地と民有地の一部をオープンスペースとして活用し、にぎわいを創出

再開発で改善されたのは、防災面だけではありません。中央通路や、芝生広場を公共空間として設けることで、さまざまなイベントが催されるようになりました。

「エリア内には、約500平米ものオープンスペースがあります。中央通路や駅前古城池霞橋線の沿道は、市所有の公共空地ですが、都市再生推進法人制度を導入することで、民間がイベントの企画や運営など、にぎわいのための取組みを実施できるようになりました。芝生広場は、半分が公共空地で、残りが民有地ですが、あわせて誰でも使えるオープンスペースとして開放されています」(齋藤さん)

南棟と北棟の間にある中央通路は、歩行者専用(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

南棟と北棟の間にある中央通路は、歩行者専用(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

オープンカフェなど、人と集う場として中央通路が活用されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

オープンカフェなど、人と集う場として中央通路が活用されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

周囲にデッキがある芝生広場(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

周囲にデッキがある芝生広場(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

北棟1階西側は店舗が並び、旧商店街のにぎわいを取り戻しつつある。道路をはさんだ向かい側の商店街も人通りが増えてきた(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

北棟1階西側は店舗が並び、旧商店街のにぎわいを取り戻しつつある。道路をはさんだ向かい側の商店街も人通りが増えてきた(画像提供/旭化成不動産レジデンス)

「倉敷駅近くに魅力のあるホテルや商業施設ができたので、美観地区や大原美術館をじっくり見ることができます。瀬戸内の美味しいものを食べたり、ホテルに泊まって、ゆっくり倉敷を堪能して欲しいです。今後は、街の滞在時間が増えていくと期待しています」(齋藤さん)

コロナ禍の影響で減少していた観光客はゴールデンウィーク明けに復調の兆しがあり、外国人観光客も多かった美観地区の客足はこれから戻ると予想されています。安全と暮らしやすさを両立しながら、街の個性を生かす取り組みは、全国にある木密地区の街づくりのヒントになると感じました。

●取材協力
・旭化成不動産レジデンス

各国の専門家がデザインした「防災都市」とは? 世界で相次ぐ気象災害と共生めざす

日本全国で地震や風水害、土砂崩れなど自然災害が頻発していますが、今後は世界中で災害が増加、激化すると予測されています。では、私たちの暮らす「場所」はどのように変わるべきなのでしょうか。 2022年4月に東京・日本橋で開催された「リジェネラティブ・アーバニズムー災害から生まれる都市の物語」展の統括プロデューサー・阿部仁史さんと次世代の都市や暮らし、ライフスタイルのあり方について考えてみました。

「災害」ではなく「自然現象」と人間が協調しながら生きていく「都市」

東日本大震災から11年が経過した今年4月、東京・日本橋で展覧会「リジェネラティブ・アーバニズム展ー災害から生まれる都市の物語」が開催されました。環太平洋大学協会[APRU]に属する11大学が参加する国際共同プロジェクト「ArcDR3」で、災害にしなやかに対応する社会に向け、都市がどうあるべきかを各大学が研究し、その最新成果が発表された形です。とはいえ、「リジェネラティブ・アーバニズム」といわれてもピンと来るひとは少ないはず。まず、阿部仁史さんにこの考え方について伺いました。

「リジェネラティブ・アーバニズム展ー災害から生まれる都市の物語」の展示風景(写真提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「リジェネラティブ・アーバニズム展ー災害から生まれる都市の物語」の展示風景(写真提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「ひとことでいうなら、『自然と共生していく都市のつくり方』でしょうか。防災の専門家に教えてもらったのですが、そもそも『自然災害』という言葉が適切ではないのです。地震や水害、森林火災は本来自然に発生している単なる『自然現象』です。ただ、人間の暮らす領域が広がり、自然現象と人の行為が交わるとき、自然のサイクルが強く人間のシステムが壊れれば『災害』となり、一方で人間のシステムが大きく自然のサイクルが傷つけられると『環境破壊』になるわけです。では、なるべくあつれきが起きないような方法が見つかればいいのではないか。やわらかく、人間と自然がお互いに協調し、調整しあうような都市デザインができないか、というのがこのプロジェクトの趣旨であり、本展のタイトルとした背景もそこにあります」と話します。

今まで、都市や住まいは自然災害から「人命や財産を守る」ことが至上とされ、自然災害で被災すると「もと通りに戻す」ことが求められてきました。「リジェネラティブ・アーバニズム」は、それとはまったく考え方を変え、災害を「起きるもの」「共生するもの」と捉えて設計できないかを考えているのです。

また、展覧会名を「アーバニズム」としているのは、「アーバン」、つまり都市部だけでなく、郊外や農村など自然に近い領域、そもそも人間の生活のあり方、ライフスタイル、社会制度にもふれてるからです。広く、大きく「人が営む場所と自然とのあり方」をテーマにしていると捉えるとイメージがつかみやすいかもしれません。

ではなぜ、今、「災害と都市」なのでしょうか。
「いくつか理由はありますが、1つは地球全体で災害が頻発しているということ。気象が変動して今までの状況とは異なってきているという点があります。2つ目はやはり人口が増えて、人間が住まう領域が拡大し、本来住んでいなかったところに住むようになっている。つまり、自然との距離感が保てないところまできている点があります。3つ目はテクノロジーの発達によって、地球上で起きている災害の情報が伝わるようになり、自分の身近に感じられるようになっている点があると思います。やはり環境問題と災害というのは表裏一体の関係にありますから、SDGsも含む環境を考える動きともあいまって、関心が高まっているのだと思います」(阿部さん)

一部の予測によれば、2050年には人類は97億人になり、うち2/3にあたる60億人が都市に住むといわれています(※1)。人口の増加と都市、人間のあり方は、「今」考えておかないといけない、喫緊の課題なのですね。

「森林火災が起きても延焼しない」「洪水時に都市が漂流する」ユニークな都市ばかり

この展覧会では、水成、群島、時制、火成、共生、遊牧、対話という、架空の7つの都市の物語が展示されました。都市の構想を練ったのは、東北大学や東京大学(日本)、UCLAとカリフォルニア大学バークレー校(米国)、メルボルン大学(豪州)、国立成功大学(台湾)など、各国を代表する11大学です。7つの都市は架空、想像の都市ということもあり、どれもとてもユニークですが、阿部さんに印象に残った都市の例を紹介してもらいました。

(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「アメリカやオーストラリアでもっとも身近な災害が山火事です。落雷などで山火事が頻繁に発生するのですが、火事が起きることで、生態系が維持されるようにもなっています。こうした森林火災が起きることを想定した『火成都市』では、森林と人間の居住エリアのあいだにバッファとなる緩衝地帯をもうけ、人間が下草などを管理することで、ゆるやかな防火機能をもった農村田園地帯をデザインしています。つまり火災は起きるけれども、被害は減らせるという発想です(エディティッド・エッジ(原生調整帯と都市調整帯))」

なるほど、人と自然のまじわるエリア、ゾーンがグラデーションになっています。ほかにも、洪水発生時には水がいったん都市部の遊水池や公園のような場所に流れ込み、一時的にヴェネチアのような景観を形成する都市(フィルタリング・ランドスケープ)や、みつばちとの共生を考えた都市(ミツバチ・コモンズ)なども提案されました。

「エディティッド・エッジ(原生調整帯と都市調整帯)」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「エディティッド・エッジ(原生調整帯と都市調整帯)」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「フィルタリング・ランドスケープ」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「フィルタリング・ランドスケープ」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「ミツバチ・コモンズ」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「ミツバチ・コモンズ」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

「都市機能は一定であることが前提とされていますが、四季が移ろうように、都市機能そのものが変化する景観としてあってもよいわけです。たとえば洪水であふれた水が都市に入ってくることを、人間の方が受け止められる都市機能にする。それによって発生する変化を楽しむという発想もあっていいと思うのです」

なるほど、平時と非常時の二重の都市計画ラインとでもいう感じでしょうか。

「東日本大震災でも、『此処(ここ)より下に家を建てるな』という石碑が歴史的に受け継がれていたことが話題になりました。あれは、住む場所と働く場所をわけ、海抜60mの地点より上に家を建てることで集落を守るという知恵だったわけです。平時と非常時、二重の海岸線が機能した例です。そもそも今回の展覧会は2015年、宮城県仙台市で開催された「国連防災世界会議」が開催されたプラットフォーム『ArcDR3(Architecture and Urban Design for Disaster Risk Reduction and Resilience)イニシアチブ』がもとになっています。未曾有の被害となった東日本大震災を教訓として世界で共有し、今後の都市の希望に変えられないかという試みでもあります」(阿部さん)

災害の多い国で暮らしているためか、私たちは、「ああ、また災害だ」で終わってしまいがちです。「災害を悲劇で終わらせない」、これこそが「リジェネラティブ・アーバニズム」のスタート地点なのだとすると、とても有意義な試みであることは間違いありません。

よりよい都市像と住まい方へ。世界をよりよく変えていく

今回の都市の物語は、あくまで「提案」「想像」とありますが、実装することは可能なのでしょうか。

「シンガポールでは、行政が主導して、環境問題を施策として推進しています。国家の成り立ちからして、災害や上下水道整備、環境問題に取り組むことが死活問題なのです。そういった先進的な取り組み、実証実験を行いながら、環境や防災都市計画そのものをビジネスモデルとして国外に売り込むことも考えています」(阿部さん)といい、単なる提案で終わらせない他国の取り組みに可能性を感じます。

「今まで日本社会は、高度経済成長を通し、都市や人工物は『壊れない』ことを前提に堅牢堅固な建物を作ることに腐心してきました。実際には竣工して終わりではなく、短・中・長期でメンテナンスをして適切に入れ替えていかなければ、建物は維持できません。建造物が美しいのは当然として、大きな自然の一部として、新陳代謝をし入れ替わっていく、ゆらぎがあり、壊れるものであると捉えなおすことで、新しい枠組みや都市像が見えてくるのだと思います」(阿部さん)

阿部仁史さん(写真提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会 Photo by Kentaro Yamada)

阿部仁史さん(写真提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会 Photo by Kentaro Yamada)

日本は高度経済成長期に急激な都市化が進みましたが、そのときに建設された建造物が今、まさにうつろいのさなかにいます。これを単なるスクラップ&ビルドで高層化し新しく塗り替えるべきなのか考えさせられます。筆者と同じように考える人は「リジェネラティブ・アーバニズム」展を見学した人にも多いようで、見学後のアンケートには、

「都市化、都市への一極集中化が良いことのようにされているけれど、そもそもの議論が必要だと思う」
「まだ世界にはリスクがいっぱいで、最低限にも満たない暮らしを強いられる人がいることに気づかされた」
「総合的に、グローバルな観点から考察する必要がある」

などのコメントが寄せられていました。

都市というとアスファルト舗装された土地、立ち並ぶ高層ビル、添えられた緑を思い浮かべていましたが、それは20世紀モデルであり完成形ではありません。よりしなやかで強靭、変貌と変化があり、自然現象と共生する都市デザインである「リジェネラティブ・アーバニズム」の新しい試みと価値観に期待が止まりません。

豪雨や洪水によって市街地の浸水リスクが高まると、都市のモビリティと景観が一気に災害モードに切り替わる「フルーイッド・シティスケープ」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

豪雨や洪水によって市街地の浸水リスクが高まると、都市のモビリティと景観が一気に災害モードに切り替わる「フルーイッド・シティスケープ」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

造成時に掘り出した土砂を盛土して、池や島など、凹凸した起伏ある景観を人工的に作り出す「アイランド・ディストリクト」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

造成時に掘り出した土砂を盛土して、池や島など、凹凸した起伏ある景観を人工的に作り出す「アイランド・ディストリクト」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

急激な海面上昇による潮位の変化や洪水に柔軟に対応する、モジュール型の「親水性(しんすいせい)居住ユニット」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

急激な海面上昇による潮位の変化や洪水に柔軟に対応する、モジュール型の「親水性(しんすいせい)居住ユニット」(画像提供/ArcDR3展覧会製作実行委員会)

津波や高潮の危険性を抱え、先人たちによってその危険性や身を守る術などが伝えられてきた沿岸部。そこを住民や観光客を引き込む水辺の公共空間として再整備することで、地域の防災意識を高めている「メモリアル・ランドスケープ」(画像提供/ArcDR3展覧会制作実行委員会)

津波や高潮の危険性を抱え、先人たちによってその危険性や身を守る術などが伝えられてきた沿岸部。そこを住民や観光客を引き込む水辺の公共空間として再整備することで、地域の防災意識を高めている「メモリアル・ランドスケープ」(画像提供/ArcDR3展覧会制作実行委員会)

●取材協力
ArcDR3展覧会製作実行委員会
※1 国際連合広報センター

災害時に雨水タンクが活躍!? 家庭設置には補助金、スカイツリーや国技館にも設置 東京都墨田区

実は貴重な水資源である「雨」を活用する方法として、じわりと広がりつつあるのが雨水タンクです。話を聞いた墨田区だけでなく、さまざまな自治体で購入補助などの助成制度を設けています。今回は雨水活用の方法と水資源、住まいでの導入方法について取材しました。

30年以上前から雨水活用に取り組む東京都墨田区。その理由は?

乾燥して寒~い冬が終わり、空気がゆるみはじめると雨の日が増えます。「春の長雨」といわれるように春、そして梅雨になれば雨の日が続くことも少なくありません。近年では、「ゲリラ豪雨」のように短時間に激しく降ることも珍しくなくなりました。そんな身近な雨を、官民挙げて「水資源」として活用をしているのが墨田区です。でも、なぜ墨田区なのでしょうか。特定非営利活動法人「雨水市民の会」の笹川みちる理事に聞きました。

「雨水市民の会」の笹川みちる理事

「雨水市民の会」の笹川みちる理事。墨田区の取り組みは世界中から視察が来るそう(写真撮影/片山貴博)

雨水市民の会が運営する雨水カフェ

事務所では淹れたてのコーヒーを楽しめる「雨カフェ」も営業中。※現在は不定期営業のため営業日については雨水市民の会にお問い合わせください(画像提供/雨水市民の会)

「墨田区は海抜ゼロメートル以下の場所が区内のあちこちにある地帯なんです。また、40年以上前から豪雨と水被害に悩まされてきました。錦糸町駅前なども一面、水びたしになったこともあったとか。都市で起きる浸水には、降った雨が河川に排水できずに発生する『内水氾濫』、河川から水が堤防をこえて発生する『外水氾濫』があります。下水道は都市に降った『内水の排除』という役割を果たしていますが、近年では、この下水道の排水能力を超えてしまうゲリラ豪雨が頻発しています。浸水被害を防ぐために、貯留浸透施設、つまり小さなダムを街なかに造る必要がある。その小さなダムこそ、『雨水タンク』なんです」とその背景を教えてくれました。

墨田区の公園にある海抜マイナス表記の案内板

墨田区の公園では海抜のマイナス表記が。ひとたび河川が氾濫すれば被害は甚大(写真撮影/片山貴博)

東京の下水道は、高度経済成長期の急速な都市化に伴って整備されたもの。現在のような人口密度や豪雨、コンクリート化が想定されておらず、昨今のゲリラ豪雨に見舞われると下水道では処理しきれないといいます。そのため、ダムのように一時的に雨水を貯め、ゆるやかに流す取り組みが必要なのです。雨水処理のバッファを大規模なダムだけでなく、地上のあちこちにつくると思うとイメージがつかみやすいかもしれません。

「現在、墨田区では条例を制定し、大規模な建造物やマンションなどには雨水タンクの設置を義務付けています。例えば、両国国技館、墨田区役所、東京スカイツリータウン®、オリナス錦糸町などにも大規模な雨水タンクが設置されていますし、大規模な分譲マンションにも地下に雨水タンクが設置されているはず。現在、区内には大小あわせて731カ所のタンクがあるんですよ」

こうしてタンクで雨の流出抑制を行うことで、下水道への負荷を軽減し、内水氾濫を防いでいるのです。また、墨田区では、一般家庭が雨水タンクを設置する際にも助成金(価格の半分まで、最大5万円)を出しているそう。言われてみないと気がつきませんが、街を守るための地道な取り組みがなされてきたんですね。

墨田区の路地にある路地尊(ろじそん)

墨田区の路地にある路地尊(ろじそん)は、建築家の隈研吾氏が「新・東京八景」として選んだ、風景のひとつ。隣接する建物の屋根に降った雨を地下タンクに貯め、災害時の水資源として手押しのポンプと組み合わせている。地域のシンボル(写真撮影/片山貴博)

貯めた雨水は散水、洗車や掃除、打ち水、非常時のトイレ用水に

では、貯めた雨水はどのようにして活用できるのでしょうか。

「貯めた雨水は、木々に散水したり、洗車などに使ったり、トイレ用水として活用する人が多いですね。規模の大きい建物ほど水も貯まりますので、マンションでは緑地の散水に使ったり、スーパーではトイレ用水として活用しているところもあります。また災害発生時には初期消火に役立ちますし、生活用水、手を加えれば飲水としても活用できるんですよ」

なるほど、日常、災害時と雨水が利用できる幅は思ったより広いようです。一般家庭で設置しやすいサイズは140~200L程度、金額にして5万~6万円程度で、さらに自治体によっては助成金を設けていることもあるとか。ただ、日本の水道代は非常に安いだけに、コスト面だけでメリットがあるかというと悩ましいところだそう。一方で、近年、災害が頻発していることや、普段の掃除に使えるとあれば、導入を考える人も多いことでしょう。

「洗車に使うのであれば、車庫やカーポートの屋根の雨を集められる場所、ガーデニングに使うのであれば庭に近い竪樋にタンクを接続すると使いやすいでしょう。ただ、タンクで貯めた水をトイレ用水にする場合は、屋外からだと配管やポンプの設置が必要だったり、雨水が足りなくなったときには水道水を補給する設備が必要なので、かなり大掛かりなリフォームになります」

市販されている外付けの雨水タンクはドラム缶程度の大きさです。トイレ用水に使用する場合はさらに容量の大きなものがオススメです。雨水タンクを置きたい場合は、新築時やリフォーム時にあらかじめ設置場所を考えておくのがよさそうです。

一般的なサイズ(200L)の雨水タンク。通常の色は紺色ですが、外壁にあわせて色を塗れば目立ちません(写真撮影/片山貴博)

一般的なサイズ(200L)の雨水タンク。通常の色は紺色ですが、外壁にあわせて色を塗れば目立ちません(写真撮影/片山貴博)

雨樋と鉢を組み合わせた雨水活用のイメージ

とある軒先の雨水活用の例。雨樋と鉢を組み合わせることで、貯水機能を果たしています。雨水タンクの貯水量は80L~500Lと幅がありますが、一戸建てでは120~200Lがひとつの目安に(写真撮影/片山貴博)

気になるのは雨水タンクを設置すると虫、特にボウフラなどが湧きそうなことです。注意点などはあるのでしょうか。
「虫対策としては、(1)フタをすること、(2)竪樋から直接雨水を取水すること、(3)雨水を日常的に使って回転させること、を徹底すれば問題ありません。雨水は純水に近いため栄養分が少なく、もともと虫が湧きづらいですしね」。どうやら虫は十分に対策できそうです。

公園に設置された雨水タンク

公園に設置された雨水タンク(左)。上部にあるフタをはずしたところ(右)。竪樋から直接雨を貯めているため不純物が入りにくく、虫が湧くことはありません(写真撮影/片山貴博)

成熟した都市に必要なのは雨水タンクのようなグリーンインフラ

一つ、気になるのが雨のきれいさです。飲料として活用することはできるのでしょうか。
「雲から降る雨って、天然の蒸留水ですごくきれいな状態なんです。ただ、混じり気の少ない超軟水なので大気中の窒素化合物などの汚れを吸収して大地に降りてきます。よく雨水は汚いといわれますが、汚れているのは都市の空気なんです。ただそうやって汚れを吸収して降ってくるため、残念なことにそのままでは飲み水には適さないといわれています」

雨上がりの空がきれいなのは、雨が大気中の汚れを拭ってくれるからだそう。また、もともと空気がきれいなエリアでは、雨を飲水としている地域は少なくないそうで、オーストラリアでは「ピュアレインウォーター」として発売しているところもあるといいます。都市だからこそ、雨が飲水にならないというのは少し寂しい気もしますが、仕方がないことなのかもしれません。

雨水タンクに貯まったきれいな水

雨水タンクの水は見た目は驚くほどきれいで生活用水には十分。汚れているのは都市の大気……(写真撮影/片山貴博)

ここまでの話を整理すると、雨水タンク普及のカギとなりそうなのは、費用というより認知拡大や設置場所といえそうです。では、なぜ今、雨水活用なのでしょうか。

「日本は水道料金も安いですし、降雨量も多いので、水資源が豊かな国という印象の人は多いと思いますが、1人あたりの水資源は、世界平均よりも少ないんです。都市部に人口が密集している、川の勾配が急で滝のように流れていく、というのがその理由です。また、高度成長期に整備された上下水道のインフラは老朽化しつつあり、かつてのように大規模なダムや、貯水池をつくるということも難しくなっています。自然の持つ機能を活用して、地域の魅力・居住環境の向上や防災・減災につなげる取り組みを『グリーンインフラ』といいますが、雨水活用はその一つ。災害が頻発する今こそ大切な取り組みだと思っています」

確かに高齢化が進み、人口が減り始めている現在の日本では、今までの上下水道や貯水ダム、貯水池のような巨大なインフラを新たにつくるどころか、維持するのが精一杯でしょう。ただ、ゲリラ豪雨が頻発していることを考えると、既存にある住まいの一部に工夫を加えて対応するのがいちばんリアルで、有効な対策なのかもしれません。

「いきなり大きな雨水タンクを導入する必要はないので、少しずつ、できることからやってみよう、の精神で始めてみるのがいいと思います。雨水タンクがあると、雨が降るのも楽しみになりますし、台風がくるからタンクを空にしておこう、など意識するようになります。何より雨が貯まるのは楽しいですよ」と話します。

白鬚神社に設置された雨水タンク

白鬚神社にも雨水タンクがありました(写真撮影/片山貴博)

そういえば、神社仏閣など、昔ながらの日本建物には、鎖樋(くさりとい)と水鉢といった工夫があります。雨水を排水しつつ、水の流れを風景として楽しみ、貯まった水は打ち水として使う。日本の暮らしになじみ、受け継がれてきた智慧、それが雨水活用。今こそ、取り入れてみてはいかがでしょうか。

●取材協力
雨水市民の会

自宅を銭湯にして、震災後のまちに集う場を 熊本市「神水公衆浴場」

熊本地震のあと、県庁そばの中心部一帯は、一時ゴーストタウン化した。地名でいうと熊本県熊本市中央区神水。神の水と書いて「くわみず」と読む。ここで生まれ育った黒岩裕樹さんは、まちに少しでも前向きな空気を生み出せたらと、自宅のお風呂を公衆浴場にすることを思い立つ。2020年8月、熊本市でおよそ20年ぶりに新しい銭湯「神水公衆浴場」が誕生した。

自宅のお風呂を銭湯に

まちづくりの世界では「人と人のつながり」や「コミュニティ」が大事といったことがよく言われる。だがコワーキングスペースなど交流施設としてつくられた場所が、いつまでたっても閑散としている…なんて話も多い。それはそうだ。場所だけ人工的に用意されても、そう都合よく人と人の関係が生まれるものではないからだ。

その点、銭湯は少し前提が違っている。誰でもお風呂には日常的に入るので、まず必然性がある。リピート性もある。常連さん同士、言葉を交わすうちに顔見知りになり、おのずと人間関係ができていく。そんな営みが自然に起こる。

東バイパスに面した、神水公衆浴場の入口(写真撮影/野田幸一)

東バイパスに面した、神水公衆浴場の入口(写真撮影/野田幸一)

熊本地震の後、まちが閉塞的な空気に覆われていたとき、新しい拠点としてお風呂をつくろうと考えたのが、構造設計士の黒岩さんだった。黒岩さんは、職業柄、神水の地盤下には、阿蘇の伏流水が流れていることを知っていたそうだ。

「何百年も前に阿蘇山が噴火して、溶岩がこの辺りまで飛んできているんです。その岩盤を貫通した下に阿蘇の水が流れています。地名が神水というだけあって、水質は温泉に近い。震災の後は、やっぱりこの辺りも人が減って閑散としていたので。空気を少しでも変えたかったんです」

黒岩さんが住んでいたマンションは、地震で大規模半壊の状態になった。子どもの校区を考えると遠くに離れない方がいいと、近くに新しい家を建てることにした。

「もともとうちは小さな子どもが4人いるので、子どもたちをお風呂に入れるのも一苦労。ユニットバスにはおさまらないので、どうせ広い風呂をつくるなら、周囲の友人家族も使えるような銭湯にしたらどうかと考えました。あとはこの土地の資源である水を活かして、まちに開放的な場をつくれたらと思ったんです」

神水公衆浴場を始めた、黒岩構造設計事ム所代表の黒岩裕樹さん(写真撮影/野田幸一)

神水公衆浴場を始めた、黒岩構造設計事ム所代表の黒岩裕樹さん(写真撮影/野田幸一)

どんなお客さんが?

神水公衆浴場は、交通量の多い東バイパスに面している。白木の木造の入り口にはまだ新しいのれんがかかっていた。

いまは本業に無理がかからないよう、週に4日、16時~20時の4時間のみ営業している。週末は黒岩夫妻が番台に座るが、平日は黒岩さんの両親が手伝ってくれている。お客さんの8割は常連さん。多くは歩いてか、自転車で通える範囲に暮らすご近所さんで、仕事帰りに立ち寄る人も多い。

「想像していたより若い人も来てくれます。20代の単身者や30代のファミリー層、それに高齢の方も。始めてみて驚いたのは、お客さんにありがとうって言われることです。客商売なので、本来こちらがありがとうございます、なんですけど。お年寄りは家のお風呂を洗うのも大変みたいで『助かるわ』と言われます」

この地域にもかつては2軒の銭湯があったが、震災後、廃業してしまった。20年ぶりに開業した銭湯だった。

(写真撮影/野田幸一)

(写真撮影/野田幸一)

開店の16時になると、さっそく常連さんらしい年配の女性が入ってきた。料金は350円。

「いまお湯、熱い? 私熱いのだめなんよね~」と、女性はのんびり言いながら、女風呂の方へゆっくり歩いていった。間を置かず、今度は若い男性の二人連れが入ってくる。日に15~20人。一週間に述べ100人ほどのお客さんが訪れる。

なぜ、銭湯だったのか?

直接的なきっかけは、やはり2016年の熊本地震だった。黒岩さん自身、2~3カ月の断水を経験したという。

「九州は温泉も多いので、車で20~30分も走れば温泉があるし、近くには健康ランドもあります。でも当時はどこもすごい行列で。洗い場までお湯があふれていたんです。それが数日ではなく数カ月続きました」

ここ数年の間に起きたほかの災害の現場でも、断水やお風呂に入れないことは、人びとを疲弊させる要因の一つだった。地下水を汲み上げるしくみがあれば、電力が復旧し次第、お風呂も提供できる。

そして、銭湯をつくろうと思った理由にはもうひとつ。黒岩さんは構造設計士として、多くの仮設住宅をつくる現場を目の当たりにしたのだった。

「できていく仮設住宅は窓が小さくて閉鎖的な空間で。窓の面積が少ない方がコストが抑えられるからそうなるんですが。余震が続いて、精神的にも落ち着かないのに、そんな仮設に住む人たちのことを考えると、やりきれなくて」

少しでもほっと落ち着ける開放的な場所を提供できたら。さらにまちの閉塞的な空気を前向きに変えられたら。そう願って始めた銭湯だった。

(写真撮影/野田幸一)

(写真撮影/野田幸一)

銭湯は、防災拠点にもなる

神水公衆浴場は、建物の1階部分が銭湯で、2階が黒岩さん家族の住居になっている。一階脇の木の螺旋階段をのぼると、居住空間であるドーム状の空間に出た。

細長いカウンターキッチンに広々としたリビング。子どもたちの遊び場でもある。右は妻のヒロ子さん(写真撮影/野田幸一)

細長いカウンターキッチンに広々としたリビング。子どもたちの遊び場でもある。右は妻のヒロ子さん(写真撮影/野田幸一)

1階の外は交通量の多い道路だが、2階の窓の外には街路樹の緑しか見えない(写真撮影/野田幸一)

1階の外は交通量の多い道路だが、2階の窓の外には街路樹の緑しか見えない(写真撮影/野田幸一)

天井の高い空間が仕切られていて、リビングの裏手が寝室。居住空間の真下が銭湯にあたるため、広い一間でもあたたかかった。

黒岩さん夫妻は二人とも、構造設計士。内装や意匠は手がけないため、設計はワークヴィジョンズの西村浩さんに依頼した。居住スペースの天井に用いたCLT同士の継ぎ手、バタフライ構造などは黒岩さんたちの提案によるものだ。

「自宅なので少しでもコストを抑えられたらと思って、金物を使わない施工法にして、自分も大工の一人になって一緒に工事しました。職人をやっている友人も多いので、幼稚園のころの同級生から大学時の友人たちまで総動員で手伝ってもらいました」

(写真撮影/野田幸一)

(写真撮影/野田幸一)

この建物の設計デザインは、2021年のグッドデザイン賞で、大賞に次ぐ金賞を取った。グッドデザイン賞のページにはこんな記載が掲載されている。設計士の西村さんによる解説だ。

「災害頻度が年々高まる状況に、行政頼みの防災対策には限界が見える。小さくても地域全体に数多く散らばる拠り所が必要で、住宅の基本機能を開く・シェアする災害支援住宅を目指した」

お風呂は人びとの憩いの場であると同時に、災害時にはよりどころにもなる。黒岩さんの妻、ヒロ子さんはこう話した。

「防災とまで言えるかはわからないですけど、結果的にそうなったらいいなと思っています。実際震災のときに不安だったのは、知らない人同士が、防災拠点である学校や体育館に集まって寝泊まりしなきゃいけなかったこと。そのなかに一人でも知り合いが居れば、ぜんぜん気持が違うと思うんです。

熊本市は比較的都会なので、田舎のような人づきあいがあるわけでもない。でも銭湯があることで、近所の方と挨拶したり、顔見知りができると、非常時に違ってくるのかなと思います」

黒岩さんも続けて言う。

「熊本の震災だけでなく、記憶にあるだけでも雲仙の噴火や、大雨による水害など、災害って数年に一度は起こっていますよね。だからそう稀(まれ)な話ではないのかなと思います」

ただ、いくら自宅の延長とはいえ、お風呂は家のなかでもっともプライベートな空間。一般開放することに抵抗はなかったのだろうか。そう聞くと、ヒロ子さんは言った。

「大賛成でもなかったですが、絶対反対ってほどでもなくて。私も建築をやってきたので、考え方としてはわかるなと。ただ、いまは子どもがまだ小さいので、正直それどころではなくて。反対もしなかったけど、いまはお風呂より子育てが大変(笑)。それが落ち着いたらもう少し日常生活のルーティンのなかに、銭湯の仕事も自然と組み込めるようになると思います」

結局、被災後の建設ラッシュに奔走するうちに自宅の建設は後回しになり、銭湯のオープンは地震から5年後の2020年8月になった。だが震災前に比べて店が減り、マンションなどの増えた街並に、銭湯は新しい風を入れた。

お風呂を共同で使うのはあたりまえの文化だった

取材で訪れた日、番台に座っていたのは黒岩さんのお父さん。当初は銭湯を始めることには大反対だったのだそうだ。

「突然風呂屋をやると言うもんだから。そりゃあもう家族どころか親戚一同びっくりでした。風呂屋といえばいまは厳しい産業でしょう。危ないんじゃないかと思ったけど、本人の意思がかたいもんだから。でもまぁオープンして1年半過ぎましたし、徐々にではありますが成果が出ているかなと。いいお風呂でしたと言って帰られるお客様の反応からそう思いますね」

黒岩さんのお父さん、重裕さん (写真撮影/野田幸一)

黒岩さんのお父さん、重裕さん (写真撮影/野田幸一)

黒岩さんは言った。

「もともと共同浴場って九州には普通にあった文化なんです。みんなで管理費を出し合って共同でお風呂を使っていた。いまも小国や鹿児島のほうには残っていますが、それと同じ話だと思えば、それほど特別なことではないのかなと」(黒岩さん)

帰りぎわ、肝心のお風呂に入らせてもらった。浴室は天井が高く広々としていて開放感があって気持いい。何といっても、お湯がよかった。温泉の水質に近いと黒岩さんが話していただけあって、骨の髄まで緩めてくれるようなお湯だった。

脱衣所のようす(写真撮影/野田幸一)

脱衣所のようす(写真撮影/野田幸一)

洗い場の壁には、グラフィックデザイナー・米村知倫さんに描いてもらった絵(写真撮影/野田幸一)

洗い場の壁には、グラフィックデザイナー・米村知倫さんに描いてもらった絵(写真撮影/野田幸一)

時間になって、お父さんと交代するためにお母さんもやってきた。お母さんはこんな話をしてくれた。

「いろんなお客さんが来られるけど、こちらもちゃんと目を見て話すから、変な人は来ないですよ。『ゆっくり入ってきてね~』とか『いま一人だから泳げるよ~』とか冗談を言ったりしてね。

最初は反対しましたけど、いまは楽しんでやらせてもらっています。歳を取ると人と出会うことも減って、世界が狭くなるでしょう。だからむしろこうして人と話す機会をくれてありがとうねって、今は息子たちに言っているんです」

(写真撮影/野田幸一)

(写真撮影/野田幸一)

●取材協力
神水公衆浴場

房総半島の小屋で二拠点生活。都会と地方を行き来する新しい生き方

新型コロナウイルスの影響で、働き方と住まいの関係が大きく変わる今、タイニーハウスなどの小屋暮らしや、時間とお金に余裕のある人しか実現できない絵空事ではなくなりつつあります。今回は、房総半島にある「シラハマ校舎」で二拠点生活を楽しむ2家族にインタビュー。等身大の二拠点生活に迫ります。

購入待ちは40組以上! 廃校跡地に建つ18棟の無印良品の小屋小学校の敷地と建物を再利用してできた施設「シラハマ校舎」。近年は、学校跡地の有効活用ということで全国から視察が絶えないそう(撮影/ヒロタ ケンジ)

小学校の敷地と建物を再利用してできた施設「シラハマ校舎」。近年は、学校跡地の有効活用ということで全国から視察が絶えないそう(撮影/ヒロタ ケンジ)

シラハマ校舎があるのは、房総半島の先端、千葉県南房総市白浜町。東京都心からは車で2時間あまり、公共交通機関なら最寄駅から路線バスに30分ほど乗る必要があるためか、関東にありながらもどこか“秘境”、時間以上に遠方に来たような雰囲気が漂います。

シラハマ校舎は、廃校となった長尾小学校・幼稚園の敷地と建物をコンバージョン(用途変更)した施設で、18の小屋とレストラン(完全予約制)、シェアオフィス、コワーキングスペース、宿泊施設から成ります。事業がはじまったのは2016年ですが、小屋は2019年に完売し、現在は40組以上のウェイティングリストがある大人気物件です。

目の前には太平洋。すぐ裏手は山という自然豊かな環境。愛らしい小屋が並んでいます(撮影/ヒロタ ケンジ)

目の前には太平洋。すぐ裏手は山という自然豊かな環境。愛らしい小屋が並んでいます(撮影/ヒロタ ケンジ)

シラハマ校舎の内部。もともと学校だったため、「初めてなのに懐かしい」「おしゃれで居心地がいい」不思議な空間です(撮影/ヒロタ ケンジ)

シラハマ校舎の内部。もともと学校だったため、「初めてなのに懐かしい」「おしゃれで居心地がいい」不思議な空間です(撮影/ヒロタ ケンジ)

校舎にある一部屋(オフィス兼居住スペース)を拝見。こんなにおしゃれなのに、学校でおなじみの黒板が同居しているというギャップ(撮影/ヒロタ ケンジ)

校舎にある一部屋(オフィス兼居住スペース)を拝見。こんなにおしゃれなのに、学校でおなじみの黒板が同居しているというギャップ(撮影/ヒロタ ケンジ)

レストラン(撮影/ヒロタ ケンジ)

レストラン(撮影/ヒロタ ケンジ)

こちらは宿泊施設(撮影/ヒロタ ケンジ)

こちらは宿泊施設(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋は「無地良品の小屋」として販売されているもので、複数戸が村のようにずらりと並ぶのは世界でもここだけ。建物は規格品に沿っていますが、ディスプレイや外観に少しずつオーナーの個性が現れるので、見ているだけでも楽しいもの。小屋の内部の広さは9平米で、大人がなんとか4人宿泊できるサイズ。バスやトイレ、キッチンは校舎のものを使用するので、建物は寝室・リビングとして役割を果たします。価格は1棟300万円ほどで、比較的短時間で来られること、密が避けられることといったことに加え、「小屋」で維持管理がかんたんであることなどに惹かれ、特にコロナ禍以降はひっきりなしに問い合わせが来ているといいます。

芝生の敷地にズラリと並ぶ小屋。テラスのような玄関から部屋にはいっていく(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

芝生の敷地にズラリと並ぶ小屋。テラスのような玄関から部屋にはいっていく(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

お風呂とシャワーは別棟にあるので、そこを利用。都会生活の快適さとキャンプの楽しさの両方を味わえます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

お風呂とシャワーは別棟にあるので、そこを利用。都会生活の快適さとキャンプの楽しさの両方を味わえます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

今回、取材させてもらった2家族は、「コンパクトでチャレンジしやすい」「メンテナンスもラク」という小屋にひかれて、二拠点生活をはじめたといいます。2家族が知り合ったきっかけはシラハマ校舎だったそうですが、今では会社の人以上に「顔を合わせている」というほどの仲良しに。では、実際にどんな使い方をしているのか、話を伺ってみましょう。

「小屋? ナニソレ?」からはじまった二拠点生活

小屋のオーナーである西岡ご夫妻は埼玉県在住で、二人の男の子とともに、週末や長期休みにこのシラハマ校舎で過ごしています。もともと夫が釣りやキャンプが好きだったことがきっかけで、小屋の購入を考えたそう。

西岡さん家族。男の子たちは冬にも関わらず水鉄砲を持って元気に走りまわっていました(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

西岡さん家族。男の子たちは冬にも関わらず水鉄砲を持って元気に走りまわっていました(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「子どもが小さいかったころ、いっしょに『おさるのジョージ』という米国のアニメを見ていたんです。主人公のおさると黄色い帽子のおじさんは、普段、都会で暮らしているんですが、週末や長期休みは田舎で過ごすんですね。自分はあれで二拠点生活のイメージをつかんで、楽しそうだなあと思っていたんです。その後、小屋の存在を知り、妻に相談したんですが、『小屋を買う』って言っても『え?何を言ってるの?』って、なかなか二拠点生活や小屋について理解が得られず……。確かに別荘とも違うし、キャンプとも違う。家はすでにあるし、イメージがつかみにくかったんだと思います。そこで、ここにいるときは、食事は自分がつくるという約束で購入しました(笑)」といいます。現在は月1回または、2週間に1回程度、週末、家族で過ごしているそう。

西岡さんの小屋。月末や長期休みに訪れます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

西岡さんの小屋。月末や長期休みに訪れます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋には本と釣り道具がずらり。大人がわくわくします(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋には本と釣り道具がずらり。大人がわくわくします(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「私はアクティブではないので、夫に連れられてきています。家事は夫がする約束ですが、やっぱりそれだけでは追いつかないので、実際は私もやっています。男の子はエネルギーの塊なので、ここで発散しています」と妻が言うとおり、5年生と3年生の兄弟は元気いっぱい、芝生の上を元気に走り回っています。

「お兄ちゃんは塾に通っていますが、小屋に行くという理由で、夏期講習や冬期講習は休んでいます。どうやらうちだけみたいなので、驚かれますね」と夫。現代の子育てでは、子どもたちを静かにさせるためにゲームや動画は欠かせませんが、こうした大人気のゲーム端末は持って行かず、スマートフォンで観る動画も必要最低限のみ。その代わり、親である夫が子どもたちと向き合い、全力で遊んでいるのが印象的です。とはいえ、全力で遊び過ぎてしまうため、この冬休み期間中は、一度、寝込んでしまったとか。

「この間、万歩計を見たら、一日2万歩を記録していました。だからそんな毎週末は来られません」と苦笑いしますが、やはり小屋があることが、「人生の楽しみ」につながっているそう。

敷地にテントを設置。子どもたちは思い思いに遊んでいます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

敷地にテントを設置。子どもたちは思い思いに遊んでいます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「敷地管理などをシラハマ校舎の管理人である多田さんにおまかせできるのは大きいです。荷物は常に置いておけるし、別荘ほど大きくないから、管理もラク。家族4人でテーマパークや旅行に行けば1回あたり10万~20万はあっという間。それを考えれば、建物の金額は高くないと感じています」と話します。一生のうち親子が一緒に過ごせる時間は案外、短いもの。都会とは違う場所があることで、子どもの可能性を伸ばし、また親もリフレッシュできるのかもしれません。

二拠点生活は暮らしの延長線。毎週通っているから親子で発見がある

藤田さん夫妻は、2020年に小屋を購入。西岡さん夫妻と同じく2人のお子さんがいる4人家族で、東京都在住。ほぼ毎週、シラハマ校舎に来ているといいます。

藤田さん家族。取材時、お兄ちゃんは宿題をしていました。小屋での生活が、日常生活の延長にあるんですね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

藤田さん家族。取材時、お兄ちゃんは宿題をしていました。小屋での生活が、日常生活の延長にあるんですね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「コロナ禍では長く過ごしたこともあり、今ではすっかり気心がしれた仲に。毎週水曜になると白浜の天気をチェックして、木曜になると西岡さんに連絡して(笑)、金曜日の夜9時に自宅を出発、夜11時ごろにここに到着するスケジュールでしょうか。土日はまるまるここで過ごしています」。旅行ではなく、あくまでも暮らしの延長線、自然なことだそう。夫婦交代で校舎内のコワーキングスペースで仕事をすることもあります。

「ここにいると他の小屋を利用している家族を含めた子ども同士で遊んでくれるから、気持ちの面でラクになります。ただ、その分、金曜日までは大忙し。子どもの習い事も予定も、ぎゅっと平日に詰め込んでいます。家事はテレワークだから平日でもできている部分もありましたが、最近は出社することも増えたので、正直、家事はまわっていません(笑)」と妻はあっけらかんと話します。西岡さんと同様、もともと夫妻ともにアウトドア好きで、小屋の購入を決断したそう。

「当初は購入を迷っていたんですけれど、小屋がどんどん売れてしまって、あと残り1棟ですって言われてあわてて申し込んだんです。その後、コロナの流行があって、強制的にテレワークになって……。ここがあってほんとに良かったなと思いました。家族みんなにとっての、息抜きの場所になっていますから」と夫が話します。

ほぼ毎週末、来ているというだけあって、家電類も充実。小屋は外観から受ける印象以上に広く使えます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

ほぼ毎週末、来ているというだけあって、家電類も充実。小屋は外観から受ける印象以上に広く使えます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「キャンプって、設営と撤収でけっこうな時間がかかるし、それから焚き火をして料理をするのは大変。用具の手入れや後片付けもある。この小屋だとその必要がなくて、来て布団を敷けばすぐに眠れるし、すぐ遊べる。理想のかたちでした」と妻は言います。さらに旅行との違いとして、いつもの場所に来る良さがある、と続けます。

「毎週、来ているので季節ごとの雲の形や海の色、緑の様子、波の様子など、変化に気がつけるし、親子で発見があるんです。それは通っている強みだなと思います」と妻。

「二拠点生活で良いのは、まったく異なる価値観に触れられることでしょうか。都会は効率よくて仕事もあって、情報や人も集まっていて、出会いや刺激がある。でも、白浜は漁師町ということもあり、地元の人はたくましくてちょっとあらっぽいところもある。この前なんて、『サラリーマンはいいよな、会社にいけばお給料がもらえるんだろ』って言われたり(笑)」。なるほど、都会と地方を行き来し、価値観がゆさぶられるというのは、貴重な体験といえるかもしれません。

みんなで裏山に薪木を拾いにいきます。昔話でおなじみ、「おじいさんは芝刈りに」をリアルに体験している令和の子ども、いいなあ(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

みんなで裏山に薪木を拾いにいきます。昔話でおなじみ、「おじいさんは芝刈りに」をリアルに体験している令和の子ども、いいなあ(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

集めた薪木で火をおこす子どもたち。慣れた手付きで、たくましさを感じます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

集めた薪木で火をおこす子どもたち。慣れた手付きで、たくましさを感じます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

取材時の昼食はうどん。みんなで火をおこして、うどんを茹でて外で食べる。それだけで最高のごちそう!(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

取材時の昼食はうどん。みんなで火をおこして、うどんを茹でて外で食べる。それだけで最高のごちそう!(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

潮風を浴びて食べるご飯って、世界一美味しいよね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

潮風を浴びて食べるご飯って、世界一美味しいよね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

海釣りのために船を共同購入!

さらに藤田さんと西岡さんは最近、共同で船を購入したのだとか!
「西岡さんの影響で海釣りにハマって、船を買おうかという話が持ち上がって、トントン拍子で購入しました。高いものではなくて、本当に漁船(笑)」(藤田さん)と楽しそう。

(写真提供/藤田さん)

(写真提供/藤田さん)

スケジュールが合う時は西岡家、藤田家で一緒に船に乗るのだとか。釣った魚をシェアキッチンで子どもがさばいて、夕飯に刺身やあら汁を食べるのだそう!(写真提供/西岡さん)

スケジュールが合う時は西岡家、藤田家で一緒に船に乗るのだとか。釣った魚をシェアキッチンで子どもがさばいて、夕飯に刺身やあら汁を食べるのだそう!(写真提供/西岡さん)

いちばん好きな季節は夏。釣れないと子どもたちは海に潜ってしまうこともあるそう。たくましい……。

(写真提供/西岡さん)

(写真提供/西岡さん)

「二拠点生活の話を会社の人や友人に話すと、みんな『いいね』とか『私にはできない』っていうんですけど、そんなに難しくないです。やればできるし、やったら絶対楽しい(笑)。子どものためといいつつ、大人が人生を楽しまないと」と妻。

今後のシラハマ校舎は防災拠点としての活用も

実はシラハマ校舎は、2018年の台風によって停電する被害に遭いました。その経験も踏まえ、今後は隣の敷地にマイクログリッド・オフグリッドハウス(※送電網が「オフ」な状態、送電網につながらずともライフラインを維持できる住まいのこと)をつくり、防災拠点としての活用も見据えているそう。小屋と防災を組み合わせた新しい展開ですね。

コロナ禍では、おうちキャンプを楽しむ人が増えましたが、テントに入ると小さな空間が持つ豊かさに気づかされます。小屋はそんな小さな豊かさを体現した存在です。リフレッシュの場所として、地域交流の場所、防災の拠点として。日本人の暮らしになじむ小屋はまだまだ増えていくに違いありません。

●取材協力
シラハマ校舎
現在は新型コロナウイルスの影響もあり、建物内部は見学できません

コロナ禍で「小屋で二拠点生活」が人気! 廃校利用のシラハマ校舎に行ってみた 千葉県南房総市

新型コロナウイルスの影響で、働き方と住まいの関係が大きく変わる今、タイニーハウスなどの小屋暮らしや、時間とお金に余裕のある人しか実現できない絵空事ではなくなりつつあります。今回は、房総半島にある「シラハマ校舎」で二拠点生活を楽しむ2家族にインタビュー。等身大の二拠点生活に迫ります。

購入待ちは40組以上! 廃校跡地に建つ18棟の無印良品の小屋小学校の敷地と建物を再利用してできた施設「シラハマ校舎」。近年は、学校跡地の有効活用ということで全国から視察が絶えないそう(撮影/ヒロタ ケンジ)

小学校の敷地と建物を再利用してできた施設「シラハマ校舎」。近年は、学校跡地の有効活用ということで全国から視察が絶えないそう(撮影/ヒロタ ケンジ)

シラハマ校舎があるのは、房総半島の先端、千葉県南房総市白浜町。東京都心からは車で2時間あまり、公共交通機関なら最寄駅から路線バスに30分ほど乗る必要があるためか、関東にありながらもどこか“秘境”、時間以上に遠方に来たような雰囲気が漂います。

シラハマ校舎は、廃校となった長尾小学校・幼稚園の敷地と建物をコンバージョン(用途変更)した施設で、18の小屋とレストラン(完全予約制)、シェアオフィス、コワーキングスペース、宿泊施設から成ります。事業がはじまったのは2016年ですが、小屋は2019年に完売し、現在は40組以上のウェイティングリストがある大人気物件です。

目の前には太平洋。すぐ裏手は山という自然豊かな環境。愛らしい小屋が並んでいます(撮影/ヒロタ ケンジ)

目の前には太平洋。すぐ裏手は山という自然豊かな環境。愛らしい小屋が並んでいます(撮影/ヒロタ ケンジ)

シラハマ校舎の内部。もともと学校だったため、「初めてなのに懐かしい」「おしゃれで居心地がいい」不思議な空間です(撮影/ヒロタ ケンジ)

シラハマ校舎の内部。もともと学校だったため、「初めてなのに懐かしい」「おしゃれで居心地がいい」不思議な空間です(撮影/ヒロタ ケンジ)

校舎にある一部屋(オフィス兼居住スペース)を拝見。こんなにおしゃれなのに、学校でおなじみの黒板が同居しているというギャップ(撮影/ヒロタ ケンジ)

校舎にある一部屋(オフィス兼居住スペース)を拝見。こんなにおしゃれなのに、学校でおなじみの黒板が同居しているというギャップ(撮影/ヒロタ ケンジ)

レストラン(撮影/ヒロタ ケンジ)

レストラン(撮影/ヒロタ ケンジ)

こちらは宿泊施設(撮影/ヒロタ ケンジ)

こちらは宿泊施設(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋は「無地良品の小屋」として販売されているもので、複数戸が村のようにずらりと並ぶのは世界でもここだけ。建物は規格品に沿っていますが、ディスプレイや外観に少しずつオーナーの個性が現れるので、見ているだけでも楽しいもの。小屋の内部の広さは9平米で、大人がなんとか4人宿泊できるサイズ。バスやトイレ、キッチンは校舎のものを使用するので、建物は寝室・リビングとして役割を果たします。価格は1棟300万円ほどで、比較的短時間で来られること、密が避けられることといったことに加え、「小屋」で維持管理がかんたんであることなどに惹かれ、特にコロナ禍以降はひっきりなしに問い合わせが来ているといいます。

芝生の敷地にズラリと並ぶ小屋。テラスのような玄関から部屋にはいっていく(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

芝生の敷地にズラリと並ぶ小屋。テラスのような玄関から部屋にはいっていく(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

お風呂とシャワーは別棟にあるので、そこを利用。都会生活の快適さとキャンプの楽しさの両方を味わえます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

お風呂とシャワーは別棟にあるので、そこを利用。都会生活の快適さとキャンプの楽しさの両方を味わえます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

今回、取材させてもらった2家族は、「コンパクトでチャレンジしやすい」「メンテナンスもラク」という小屋にひかれて、二拠点生活をはじめたといいます。2家族が知り合ったきっかけはシラハマ校舎だったそうですが、今では会社の人以上に「顔を合わせている」というほどの仲良しに。では、実際にどんな使い方をしているのか、話を伺ってみましょう。

「小屋? ナニソレ?」からはじまった二拠点生活

小屋のオーナーである西岡ご夫妻は埼玉県在住で、二人の男の子とともに、週末や長期休みにこのシラハマ校舎で過ごしています。もともと夫が釣りやキャンプが好きだったことがきっかけで、小屋の購入を考えたそう。

西岡さん家族。男の子たちは冬にも関わらず水鉄砲を持って元気に走りまわっていました(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

西岡さん家族。男の子たちは冬にも関わらず水鉄砲を持って元気に走りまわっていました(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「子どもが小さいかったころ、いっしょに『おさるのジョージ』という米国のアニメを見ていたんです。主人公のおさると黄色い帽子のおじさんは、普段、都会で暮らしているんですが、週末や長期休みは田舎で過ごすんですね。自分はあれで二拠点生活のイメージをつかんで、楽しそうだなあと思っていたんです。その後、小屋の存在を知り、妻に相談したんですが、『小屋を買う』って言っても『え?何を言ってるの?』って、なかなか二拠点生活や小屋について理解が得られず……。確かに別荘とも違うし、キャンプとも違う。家はすでにあるし、イメージがつかみにくかったんだと思います。そこで、ここにいるときは、食事は自分がつくるという約束で購入しました(笑)」といいます。現在は月1回または、2週間に1回程度、週末、家族で過ごしているそう。

西岡さんの小屋。月末や長期休みに訪れます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

西岡さんの小屋。月末や長期休みに訪れます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋には本と釣り道具がずらり。大人がわくわくします(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋には本と釣り道具がずらり。大人がわくわくします(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「私はアクティブではないので、夫に連れられてきています。家事は夫がする約束ですが、やっぱりそれだけでは追いつかないので、実際は私もやっています。男の子はエネルギーの塊なので、ここで発散しています」と妻が言うとおり、5年生と3年生の兄弟は元気いっぱい、芝生の上を元気に走り回っています。

「お兄ちゃんは塾に通っていますが、小屋に行くという理由で、夏期講習や冬期講習は休んでいます。どうやらうちだけみたいなので、驚かれますね」と夫。現代の子育てでは、子どもたちを静かにさせるためにゲームや動画は欠かせませんが、こうした大人気のゲーム端末は持って行かず、スマートフォンで観る動画も必要最低限のみ。その代わり、親である夫が子どもたちと向き合い、全力で遊んでいるのが印象的です。とはいえ、全力で遊び過ぎてしまうため、この冬休み期間中は、一度、寝込んでしまったとか。

「この間、万歩計を見たら、一日2万歩を記録していました。だからそんな毎週末は来られません」と苦笑いしますが、やはり小屋があることが、「人生の楽しみ」につながっているそう。

敷地にテントを設置。子どもたちは思い思いに遊んでいます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

敷地にテントを設置。子どもたちは思い思いに遊んでいます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「敷地管理などをシラハマ校舎の管理人である多田さんにおまかせできるのは大きいです。荷物は常に置いておけるし、別荘ほど大きくないから、管理もラク。家族4人でテーマパークや旅行に行けば1回あたり10万~20万はあっという間。それを考えれば、建物の金額は高くないと感じています」と話します。一生のうち親子が一緒に過ごせる時間は案外、短いもの。都会とは違う場所があることで、子どもの可能性を伸ばし、また親もリフレッシュできるのかもしれません。

二拠点生活は暮らしの延長線。毎週通っているから親子で発見がある

藤田さん夫妻は、2020年に小屋を購入。西岡さん夫妻と同じく2人のお子さんがいる4人家族で、東京都在住。ほぼ毎週、シラハマ校舎に来ているといいます。

藤田さん家族。取材時、お兄ちゃんは宿題をしていました。小屋での生活が、日常生活の延長にあるんですね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

藤田さん家族。取材時、お兄ちゃんは宿題をしていました。小屋での生活が、日常生活の延長にあるんですね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「コロナ禍では長く過ごしたこともあり、今ではすっかり気心がしれた仲に。毎週水曜になると白浜の天気をチェックして、木曜になると西岡さんに連絡して(笑)、金曜日の夜9時に自宅を出発、夜11時ごろにここに到着するスケジュールでしょうか。土日はまるまるここで過ごしています」。旅行ではなく、あくまでも暮らしの延長線、自然なことだそう。夫婦交代で校舎内のコワーキングスペースで仕事をすることもあります。

「ここにいると他の小屋を利用している家族を含めた子ども同士で遊んでくれるから、気持ちの面でラクになります。ただ、その分、金曜日までは大忙し。子どもの習い事も予定も、ぎゅっと平日に詰め込んでいます。家事はテレワークだから平日でもできている部分もありましたが、最近は出社することも増えたので、正直、家事はまわっていません(笑)」と妻はあっけらかんと話します。西岡さんと同様、もともと夫妻ともにアウトドア好きで、小屋の購入を決断したそう。

「当初は購入を迷っていたんですけれど、小屋がどんどん売れてしまって、あと残り1棟ですって言われてあわてて申し込んだんです。その後、コロナの流行があって、強制的にテレワークになって……。ここがあってほんとに良かったなと思いました。家族みんなにとっての、息抜きの場所になっていますから」と夫が話します。

ほぼ毎週末、来ているというだけあって、家電類も充実。小屋は外観から受ける印象以上に広く使えます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

ほぼ毎週末、来ているというだけあって、家電類も充実。小屋は外観から受ける印象以上に広く使えます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

「キャンプって、設営と撤収でけっこうな時間がかかるし、それから焚き火をして料理をするのは大変。用具の手入れや後片付けもある。この小屋だとその必要がなくて、来て布団を敷けばすぐに眠れるし、すぐ遊べる。理想のかたちでした」と妻は言います。さらに旅行との違いとして、いつもの場所に来る良さがある、と続けます。

「毎週、来ているので季節ごとの雲の形や海の色、緑の様子、波の様子など、変化に気がつけるし、親子で発見があるんです。それは通っている強みだなと思います」と妻。

「二拠点生活で良いのは、まったく異なる価値観に触れられることでしょうか。都会は効率よくて仕事もあって、情報や人も集まっていて、出会いや刺激がある。でも、白浜は漁師町ということもあり、地元の人はたくましくてちょっとあらっぽいところもある。この前なんて、『サラリーマンはいいよな、会社にいけばお給料がもらえるんだろ』って言われたり(笑)」。なるほど、都会と地方を行き来し、価値観がゆさぶられるというのは、貴重な体験といえるかもしれません。

みんなで裏山に薪木を拾いにいきます。昔話でおなじみ、「おじいさんは芝刈りに」をリアルに体験している令和の子ども、いいなあ(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

みんなで裏山に薪木を拾いにいきます。昔話でおなじみ、「おじいさんは芝刈りに」をリアルに体験している令和の子ども、いいなあ(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

集めた薪木で火をおこす子どもたち。慣れた手付きで、たくましさを感じます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

集めた薪木で火をおこす子どもたち。慣れた手付きで、たくましさを感じます(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

取材時の昼食はうどん。みんなで火をおこして、うどんを茹でて外で食べる。それだけで最高のごちそう!(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

取材時の昼食はうどん。みんなで火をおこして、うどんを茹でて外で食べる。それだけで最高のごちそう!(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

潮風を浴びて食べるご飯って、世界一美味しいよね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

潮風を浴びて食べるご飯って、世界一美味しいよね(写真撮影/ヒロタ ケンジ)

海釣りのために船を共同購入!

さらに藤田さんと西岡さんは最近、共同で船を購入したのだとか!
「西岡さんの影響で海釣りにハマって、船を買おうかという話が持ち上がって、トントン拍子で購入しました。高いものではなくて、本当に漁船(笑)」(藤田さん)と楽しそう。

(写真提供/藤田さん)

(写真提供/藤田さん)

スケジュールが合う時は西岡家、藤田家で一緒に船に乗るのだとか。釣った魚をシェアキッチンで子どもがさばいて、夕飯に刺身やあら汁を食べるのだそう!(写真提供/西岡さん)

スケジュールが合う時は西岡家、藤田家で一緒に船に乗るのだとか。釣った魚をシェアキッチンで子どもがさばいて、夕飯に刺身やあら汁を食べるのだそう!(写真提供/西岡さん)

いちばん好きな季節は夏。釣れないと子どもたちは海に潜ってしまうこともあるそう。たくましい……。

(写真提供/西岡さん)

(写真提供/西岡さん)

「二拠点生活の話を会社の人や友人に話すと、みんな『いいね』とか『私にはできない』っていうんですけど、そんなに難しくないです。やればできるし、やったら絶対楽しい(笑)。子どものためといいつつ、大人が人生を楽しまないと」と妻。

今後のシラハマ校舎は防災拠点としての活用も

実はシラハマ校舎は、2018年の台風によって停電する被害に遭いました。その経験も踏まえ、今後は隣の敷地にマイクログリッド・オフグリッドハウス(※送電網が「オフ」な状態、送電網につながらずともライフラインを維持できる住まいのこと)をつくり、防災拠点としての活用も見据えているそう。小屋と防災を組み合わせた新しい展開ですね。

コロナ禍では、おうちキャンプを楽しむ人が増えましたが、テントに入ると小さな空間が持つ豊かさに気づかされます。小屋はそんな小さな豊かさを体現した存在です。リフレッシュの場所として、地域交流の場所、防災の拠点として。日本人の暮らしになじむ小屋はまだまだ増えていくに違いありません。

●取材協力
シラハマ校舎
現在は新型コロナウイルスの影響もあり、建物内部は見学できません

神奈川県大磯の”本気の防災”! 3000人参加の避難訓練など首都圏屈指の共助力とは?

地震や台風、豪雨豪雪や火山の噴火など、災害につながるさまざまな自然現象が起きる日本。複数の場所で同時に災害が発生することもあるでしょう。そんななか、大磯町では行政と住民が手を結び、さまざまな対策を行っています。その理由と取り組みを聞いてみました。

人口3.2万に対し町役場職員は260人。災害発生時の公助は苦しい

大磯町は神奈川県中央南部に位置し、相模湾に面した風光明媚な別荘地としても知られる町です。人口は約3万2000人で、東海道線、湘南新宿ラインを使えば東京都心部にもダイレクトにアクセスできるとあって、住宅地としても根強い人気を誇ります。この大磯駅、今年3月に発表された住民が回答する街の共助力調査(「『住民の共助力』に関する実態調査」2021年3月10日発表(リクルート))でも首都圏2位にランクインするなど、「住民の助け合い」が自然に息づいているといいます。その背景について、大磯町の政策総務部危機管理課・竹内愛純さんに話を聞きました。

「大磯町では行政が仕切るというよりも、『住民と行政が協働サイクルを回す』という立ち位置で、防災に取り組んでいます。というのも、町の人口は3万2000に対し町職員は260人。そのうち半数以上が町外に居住しています。町職員も災害時には怪我をすることもあるでしょう。そのため、災害発生時に即応できる職員となると、ほんとうに少数なのではないでしょうか。町民のみなさんにまずこの話をすると、『そうだろうな。共助は欠かせないな』と理解してくれます」と竹内さん。

もちろん、地元自治体だけでなく、県や国の公助に期待したいところですが、被害状況の把握や支援要請など、基本拠点となるのは町役場です。それだけに町民人口と職員の人数を聞くと、厳しいというのは大変現実味があります。また、大磯町はその地形や特性から、さまざまな災害が想定されるといいます。

「地震発生時は地震と津波、漁港に近い住宅密集地では火災も想定されます。台風では高波、大雨が降れば川沿いで浸水が起きるおそれがあります。丘陵地では大雨による土砂災害もありえるでしょう。加えて、富士山が噴火すれば町内全域が被災することになります」と話すのは大磯町災害救援ボランティアの会の伊藤勇さん。自身でもSL災害ボランティアネットワークに加入し、地域の防災講座などを積極的に行っています。

大磯町災害救援ボランティアの会の伊藤勇さん(左)と、大磯町の政策総務部危機管理課の竹内愛純さん(右)

大磯町災害救援ボランティアの会の伊藤勇さん(左)と、大磯町の政策総務部危機管理課の竹内愛純さん(右)

大磯駅前にあった町の案内図。観光名所に加えて、避難所やトイレ、海抜の表記があり、町全体での防災意識の高さがうかがえます(写真撮影/嘉屋恭子)

大磯駅前にあった町の案内図。観光名所に加えて、避難所やトイレ、海抜の表記があり、町全体での防災意識の高さがうかがえます(写真撮影/嘉屋恭子)

大磯中学校3年生の前で防災講演する伊藤さん(写真提供/伊藤勇さん)

大磯中学校3年生の前で防災講演する伊藤さん(写真提供/伊藤勇さん)

危機感を町民と共有。津波土砂防災訓練には3000人が参加

冒頭にあげた竹内さん、伊藤さんたちが抱く危機感、防災意識は大磯町全体にも浸透し、津波土砂避難訓練にはなんと町民約3000人が参加するといいます。

こうした、町民の当事者意識・防災意識の高まりにつながっているのが、町が主催する年3回実施の「大磯防災ミーティング」です。自治会や学校、病院、ボランティア、消防、警察など70以上の組織から毎回約100名が参加し、訓練の計画・実行・振り返りを通して意見を出し合い、各組織に持ち帰り、また行政にフィードバックし、改善していくといいます。

「それまでは、どこの市町村でもやっている防災訓練を行っていたんですが、町主体の訓練だと防災力があがらないと気がつき、住民のみなさんで意見を出し合う方法へと変化させました。実は『土砂避難訓練』を行うようになったのもこの数年です。開始したのも、高台に住んでいるみなさんの意見を反映した結果です。お互いの意見を出すことで、住民の当事者意識、防災意識が高まっていくんだなと感じます」と竹内さん。なるほど、住民と行政の顔が見えていることで、良好な協働のサイクルに入っているようです。

続々と避難場所である体育館に入っていきます。防災訓練開催は2011年(写真提供/大磯町)

続々と避難場所である体育館に入っていきます。防災訓練開催は2011年(写真提供/大磯町)

高台に避難する馬場地区の避難訓練の様子。こちらも開催は2011年(写真提供/大磯町)

高台に避難する馬場地区の避難訓練の様子。こちらも開催は2011年(写真提供/大磯町)

町への愛着と日ごろの防災訓練が「共助」を可能にする

ただ、大磯町以外にも災害多発地域はたくさんあります。ここまで防災の協働意識が高まった背景には何があるのでしょうか。
「大磯には相模国総社の六所神社があり、また、昔から漁業が盛んであったこともあり、もともとお祭りが盛んな地域です。この2年はコロナ禍で実施できていませんが、夏になると毎週、どこかの神社でお祭りが行われている。子どもが担ぐ『こどもみこし』もあり、地域の行事に住民が参加することで交流が深まって、町への愛着を生んでいるように思います。加えて、防災訓練をすることで災害発生時に人を助けられる。地域への愛着と、日ごろの防災訓練。この両輪が備わってはじめて『共助』が実現できるのではないでしょうか」と、30年以上も大磯の町内会や地域の防災に携わってきた伊藤さんは分析します。

もともとお祭りが盛んな大磯。防災の取り組みの、根っこにあるのは「地元愛」(写真提供/伊藤勇さん)

もともとお祭りが盛んな大磯。防災の取り組みの、根っこにあるのは「地元愛」(写真提供/伊藤勇さん)

大磯を含め「湘南」は、地域愛・地元愛が強い印象でしたが、実はこうした草の根の活動、人々の思いが「湘南愛」の土壌になってきたのかもしれません。また、町内自治会とは別に『自主防災会』を組織するところも増えてきたといいます。

「防災に特化した組織が『自主防災会』で現在町では26の組織が活動しています。この数年、自治会役員は任期で交代してしまうため、防災力の継続を目的として役員OB等により、自治会とは別に、自主防災会を組織するところもだいぶ増えてきています。私の所属する馬場地区の自主防災会では、災害発生時に黄色い安否確認旗を家の前に掲示してから一時避難場所へいく安否確認訓練にも力を入れています。回覧板をまわす程度の近所を『組』とし、安否チェック表や要支援者情報を可視化した地図をつくりました。自分と家族の身の安全を確認したら、組長が近所をまわり、要支援者に声をかけてほしいと伝えています」(伊藤さん)

馬場地区で使われている「黄色い安否確認旗」。組単位でチェック表を使用して各世帯の安否状況を記載し、地区全体でとりまとめられるようにしている(写真提供/伊藤勇さん)

馬場地区で使われている「黄色い安否確認旗」。組単位でチェック表を使用して各世帯の安否状況を記載し、地区全体でとりまとめられるようにしている(写真提供/伊藤勇さん)

馬場自主防災会の要支援者訓練の写真。地図を使って逃げ遅れた人はいないか確認しています(写真提供/伊藤勇さん)

馬場自主防災会の要支援者訓練の写真。地図を使って逃げ遅れた人はいないか確認しています(写真提供/伊藤勇さん)

また、自主防災会では、地元にある高齢者施設と合同防災訓練を行い、リヤカーを使って高齢者を搬送する避難訓練も行っているといいます。

この要支援者への取り組み、高齢者の避難訓練については、「住民がそこまでしないダメなの?」という声もあることでしょう。障がいや身体の状況を知られたくないという方もいるでしょうし、ひとくちに住民が「助け合う」といっても、その実現は本当に難しいことが分かります。ただ、乳幼児、高齢者、障がい者など、どの街にも必ず「災害で困る人・避難に困る人」がいます。そして、弱い人たちほど被害が大きくなるものです。その対処法を災害が発生してから考えるのではなく、あらかじめ考えておく、ベストではなくともベターな案を平時に考えておくことは非常に重要だなと痛感します。

馬場地区青年会員が訓練に参加、リヤカーを使って救助する。大磯町で青年会があるのは馬場地区のみだそう(写真提供/伊藤勇さん)

馬場地区青年会員が訓練に参加、リヤカーを使って救助する。大磯町で青年会があるのは馬場地区のみだそう(写真提供/伊藤勇さん)

防災の告知はお祭りや盆踊りでも掲示。楽しく巻き込むことが大切

ただ、防災訓練は義務感や危機感だけでは長続きしません。そこで伊藤さんが心がけているのが、お楽しみイベントと組み合わせることだといいます。

「文化祭やお祭りで販売するお餅のパッケージに、『防災餅』と名付けて、防災の心構えを印刷して販売しています。炊き出しもそうですが、胃袋を掴むのは重要です(笑)。防災訓練の一番の課題は、1人でも多くの人に防災について知ってもらうこと、参加してもらうことです。人が集まるイベント、お祭りの一角に、自然と目に入るところに「家具転倒防止の方法」「消火方法」と掲示しておく。はじめはおっかなびっくり見ているけれど、『どうぞ~』と声をかけると見ていってくれますよ」と話します。

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手づくりした餅を「防災餅」と名付けて100円で販売。収益は防災訓練の費用に充当します。上の写真の防災の掲示など、楽しいことと組み合わせて、啓発するのがポイントだそう(写真提供/伊藤勇さん)

手づくりした餅を「防災餅」と名付けて100円で販売。収益は防災訓練の費用に充当します。上の写真の防災の掲示など、楽しいことと組み合わせて、啓発するのがポイントだそう(写真提供/伊藤勇さん)

この10年で東日本大震災をはじめ熊本地震、西日本豪雨と立て続けに大きな災害が多発しています。ただ、興味関心があっても、「地域の防災訓練に参加するほどでも……」という温度感の人は多いはず。そうした人に対して、自然と知ってもらう・啓発するというのはとても大切なようです。また、伊藤さんがカギになると話しているのが女性です。

「もし平日の昼間に災害が起きたら、町内に居る確率が高いのは女性や子ども、高齢者です。特に、避難生活での女性視点は重要です。訓練の場に子どもと女性がいれば、男性も参加するようになります。女性の意識を高めることが、町の防災力向上につながるはずです」と伊藤さん。その声を受け止めた大磯町では、女性を対象にした災害救援ボランティア養成講座助成事業を、今年実施しました。

取材中、「1人も取り残さない」と繰り返し力説していた伊藤さん。さまざまな災害が発生するから無力なのではなく、たとえ何度、災害が起きたとしても、「必ず助ける」「ともに助け合って生き延びる」という強い意思が、今の私たちに一番、必要なのかもしれません。

住まいの水害対策の最新事情2021年版!「浮く家」「床下浸水しない家」など

全国各地の水害被害が以前よりも話題にのぼるようになった今、これから家を建てるなら水害リスクを頭に入れて検討したいもの。ではどうやったら水害に強い家をつくれるのか? 専門家や住宅メーカーに聞いてみた。

5つの水害対策法を費用対効果の面から検証している(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

ひとたび床上浸水すれば建物だけでなく家具やキッチン、浴室、トイレ等の設備もダメになり、下手をすればリフォームに1000万円近くかかることもある。またその地域に被害が集中するため、職人が不足して、復旧までに時間がかかりがちだ。避難生活のストレスも計り知れない。そうしたことが毎年のように全国のどこかで起こるようになってきた。

「水害対策は従来、土木分野の課題だと言われてきました」と国立研究開発法人建築研究所の主席研究監である木内望さん。「川から水が溢れないようにする、という考え方です」。ところが最近はそれだけでは被害が防げないという声が上がってきた。そのためここ数年で、土木だけでなく建築でも対策を考えなければならなくなってきているという。「特に2019年に甲信越地方から関東、東北地方まで記録的な豪雨をもたらした台風19号が大きな転換期でした」

台風19号により大きな進展がもたらされた、建築方面からの水害対策。木内さんは現在、住宅の水害対策方法を5つ挙げ、それらを費用対効果の面から検証している。「もちろん他にも方法はあるでしょうが、まずはこれらの方法が浸水レベルによってどれだけの費用対効果があるのかを検証しています」

その5案とは以下の通りだ。
(1)修復容易化案
(2)建物防水化案
(3)高床化案
(4)早期生活回復可能案
(5)屋根上避難可能案

(1)修復容易化案とは、浸水した後の復旧をなるべく簡単に済ませることができるようにするもの。浸水すると床下や床上の清掃から、濡れて使えなくなった部材を撤去しなければならないが、例えば断熱材を発泡ウレタン系など乾かせば再び使えるものを使用したり、電気設備と配線の位置を高くしておいたりすることなどで被害を小さくし、早めに復旧できるようにする。

浸水した後の復旧をなるべく容易にできるよう、部材の選び方などさまざまに工夫する方法(画像提供/建築研究所)

浸水した後の復旧をなるべく容易にできるよう、部材の選び方などさまざまに工夫する方法(画像提供/建築研究所)

(2)建物防水化案とは外壁をある程度の高さまでRC(鉄筋コンクリート)など止水性のある材料で覆うなどにより、住宅内への浸水を食い止めるというもの。水面が一定程度の高さになるまでは浸水しないようにするという考え方だ。

外壁をある程度の高さのRC(鉄筋コンクリート)壁で覆う方法。RC壁で覆えない掃き出し窓等には止水板を備える(画像提供/建築研究所)

外壁をある程度の高さのRC(鉄筋コンクリート)壁で覆う方法。RC壁で覆えない掃き出し窓等には止水板を備える(画像提供/建築研究所)

(3)高床化案とは基礎を高くしたり、敷地をかさ上げなどして住宅への浸水を防ぐという方法。こちらも(2)建物防水化案同様、水面が一定程度の高さになるまでは浸水させないという考え方だ。豪雪地帯では冬の積雪に備えて1階部分をRC造にしている住宅が多いが、それと同じような考え方といえる。

図のように基礎を高くしたり、敷地をかさ上げすることなどで浸水を防ぐ(画像提供/建築研究所)

図のように基礎を高くしたり、敷地をかさ上げすることなどで浸水を防ぐ(画像提供/建築研究所)

(4)早期生活回復可能案は(1)修復容易化案をさらに一歩進めた考え方で、浸水後の修復期間でも2階で生活が出来るようにしたもの。本来、修復する際は避難所等での生活が強いられるが、修復中も2階で生活できるので避難生活のストレスを軽減できる。

 2階部分に浴室やトイレなど水まわりを用意することで、1階部分の修復中も生活できるようにする方法の例。太陽光発電を備えれば、停電になっても電気も使うことができる(画像提供/建築研究所)

2階部分に浴室やトイレなど水まわりを用意することで、1階部分の修復中も生活できるようにする方法の例。太陽光発電を備えれば、停電になっても電気も使うことができる(画像提供/建築研究所)

(5)屋根上避難可能案は(1)修復容易化案や(2)建物防水化案の派生形。水位の高い氾濫時に、屋上などから避難できるようにしておく方法で、水流が早い場合でも住宅が流されないようにしておくことが必要。水に浸かった部分は諦めるしかないが、命だけは守るという考え方だ。

水位が高い氾濫の場合でも、住宅が水流に流されず、屋上などから避難できる方法の例(画像提供/建築研究所)

水位が高い氾濫の場合でも、住宅が水流に流されず、屋上などから避難できる方法の例(画像提供/建築研究所)

いずれの方法も、従来の家づくりと比べたら費用がかかる。また浸水後の被害もそれぞれ違う。一方で浸水リスクは一様ではない。そのため浸水リスクに応じて対策方法を選んだ方が効率的だ。

「例えば、滋賀県の『地先の安全度マップ』では10年に1回、100年に1回、200年に1回の頻度で起こる水害の時に、それぞれ想定される水深がどれくらいになるかを公表しています。これをもとに水害対策でかかった費用と、無策のため復旧にかかった費用がイーブンになる年数、つまり水害対策費用がどれくらいの期間で回収できるのか、上記案の費用対効果を調べてみました。すると(1)修復容易化案の水害対策で約6割のエリアが20年で回収できる計算になります。同様に(2)建物防水化案なら約3割のエリアが、(3)高床化案は約5割のエリアが20年で回収できると分かりました」

上記5案に関するこれまでの検討は、あくまで水害対策の概ねの方向性と費用対効果を調べるためのもので、例えば(1)修復容易化案ならどの部材ならOKなのか、といった建築の詳細を詰めるものではない。むしろこれらの方法をマンションならどう活用できるかといった応用を検討したり、今後のまちづくりや浸水リスクのゾーン分けを考えるベースになるものだと木内さんはいう。とはいえ今後の家づくりに大いに参考になるはずだ。

浸水を“重し”にする、それでもダメなら水に浮いて被害を抑える住宅

木内さんも述べているように、上記5案以外にも方法はある。その1つが、一条工務店が開発した「耐水害住宅」だ。「開発のきっかけは2015年の集中豪雨による鬼怒川の氾濫でした」と一条工務店の津川武治さん。耐水害の対策だけなら、例えば先述の(3)高床化案なども検討したというが、コストが高くては普及が難しいと判断。コストを抑えつつ耐水害を実現する方法を模索したそうだ。

「当初は水害に遭った際、どうやって基礎の通気口から水や泥を入れないか、壁や窓、ドアの密閉性をどう高めるか、その方法の開発にかなり時間をかけました」。ようやく目処がついて実証実験が行われたのは、開発スタートから約4年後の2019年のこと。これを便宜上、耐水害住宅の初期型とする。

その際の水面の高さの目安は1m。これは鬼怒川の氾濫で多かった膝くらいの高さ(50cm前後)に十分対応できるものだった。「ところが実験の直後に台風19号による水害が長野県や関東地方で起こりました。それを見て『今後はもっと水害被害が大きくなるのではないか』と考え、もう一段上の耐水害住宅を目指そうということになったのです」

(出典:国土交通省 河川事業概要2020)

(出典:国土交通省 河川事業概要2020)

そこで販売直前だったにもかかわらず、初期型の販売をとりやめ、開発を進めることに。初期型の開発時に、一般的な規模の住宅の場合、水深が1.3mほどになると建物が浮力によって浮き始めることを突き止めていた。この浮力をどうするかがこの先の課題だった。

「そこで考えられたのが、床下から水をあえて入れ、水を重しにする方法です」。これが現在販売されている耐水害住宅の「スタンダードタイプ」だ。災害後は簡単に水抜き穴から排水できるようになっている。もちろん初期型で開発した壁や窓等の密閉性能も盛り込まれた。これなら浮力が大きくかかる水深1.3m前後でも耐えることができる。

しかし同社はさらに開発を進めた。「もしもさらに高い浸水の水害は遭ったらどうするか?」

最初は基礎にアンカーを埋めて浮いた住宅を引き留める方法が考えられたが、水害時の浮力はアンカー装置ごと引き抜いてしまうくらいの力があった。アンカーの本数を増やしたり、アンカーを長くしたりという方法も検討されたが、それではコストがかさむ。

2020年10月に行われた実証実験では水深3mで検証が行われた(写真提供/一条工務店)

2020年10月に行われた実証実験では水深3mで検証が行われた(写真提供/一条工務店)

その時に「だったら浮かしてしまおう、という発想が生まれたのです。耐震住宅ではなく免震住宅のように、加わる力に対して抗うのではなく、いなすという考え方です」。そして、水が引いた後に建物が再び元の位置に戻れるよう、ポールと建物をつなぐダンパーを用いたシステムも開発した。実験の結果では、水が引いた後に着地した時の誤差は3cm。給排水管は浮上時に一定の力がかかると配管の接続部が引き抜け、着地後は簡単に差し込み直せる工夫がされている。水道管は住宅が浮き上がって引き抜かれると同時に自動で止水弁が閉まる仕組み。これは洗濯機の給水管と同じ仕組みが応用された。

ポールを自由に上下できるワイヤーが住宅をつなぎ止め、ワイヤーの間に備えられたダンパーが住宅を元の位置にとどめる役割を果たす。基礎の下にもコンクリートを敷く二重基礎構造により、安定した着地が可能に(画像提供/一条工務店)

ポールを自由に上下できるワイヤーが住宅をつなぎ止め、ワイヤーの間に備えられたダンパーが住宅を元の位置にとどめる役割を果たす。基礎の下にもコンクリートを敷く二重基礎構造により、安定した着地が可能に(画像提供/一条工務店)

実験の結果、耐水害住宅は、床下、室内ともに被害を受けなかった(画像提供/一条工務店)

実験の結果、耐水害住宅は、床下、室内ともに被害を受けなかった(画像提供/一条工務店)

この浮上タイプは最大5m、同社のスタンダードタイプの住宅でも1m程度の浸水まで対応できる。建築地の浸水リスクに応じて、どちらがいいかをユーザーが選べるようにした。コストの目安としては、35坪の住宅でスタンダードタイプなら、同社の通常の住宅+約46万円、浮上タイプで+約77万円と、当初の同社の狙い通り、コストが抑えられている。

光熱費を削減するためのシステムが水害対策で注目を集める!?

一方、もともとは別の目的で開発されたユニバーサルホームの「地熱床システム」も、近年注目を集めている。「2002年に開発したシステムで、その名の通り地熱を活用して室内温度を一定に保つことで冷暖房費を削減できるシステムとして当初は販売していました」とユニバーサルホームの安井義博さん。ところが最近は水害対策の住宅として注目されるようになってきたという。

「地熱床システム」はもともと地熱を利用して室内温度を一定に保つことで冷暖房費を削減できるシステム。床下は土と砂利、コンクリートで密閉される(画像提供/ユニバーサルホーム)

「地熱床システム」はもともと地熱を利用して室内温度を一定に保つことで冷暖房費を削減できるシステム。床下は土と砂利、コンクリートで密閉される(画像提供/ユニバーサルホーム)

その理由は、「地熱床システム」の住宅が床下浸水しないからだ。このシステムは、地下の熱を得るために床下が密閉構造になっているため、浸水が起こっても床下に水が入らず、建物に対する浮力が発生しない。実際、津波被害に遭ったエリアで、他の住宅が波に流される中、地下熱システムを備えた住宅はその場にとどまったままだった。「また床下に水が入らないので、床下浸水自体が発生しません。さらに強固な基礎構造ですので、地震にも強いというメリットがあります」

(写真提供/ユニバーサルホーム)

(写真提供/ユニバーサルホーム)

万が一、基礎部分を超えて浸水(床上浸水)した場合でも、復旧処理は床上だけで済む。本来は床を剥がして基礎部分に入った泥や水を取り除き……といった作業が必要なのだが、それが不要になるのだ。

通常は床下を乾燥させるために基礎には通気口が設けられている。浸水時はここから床下に水や泥が入るので復旧時の作業が大変なのだが、地熱床システムは床下が土や砂利、コンクリートで密閉され、通気口もないため水が入ってくる心配がない(画像提供/ユニバーサルホーム)

通常は床下を乾燥させるために基礎には通気口が設けられている。浸水時はここから床下に水や泥が入るので復旧時の作業が大変なのだが、地熱床システムは床下が土や砂利、コンクリートで密閉され、通気口もないため水が入ってくる心配がない(画像提供/ユニバーサルホーム)

「床下浸水は損害保険が適用されないことが多いのですが、地熱床システムなら床下浸水の心配がないので安心です」

最近では水害に強い住宅として注目を集めるようになってきたため、同社では水害対策としてエアコンの室外機等を床より高い位置に設置したり、窓の止水版なども用意したりしている。また災害後もすぐに自宅で過ごせるよう太陽光発電+蓄電池のセットも用意しているという。水害に強い上に、光熱費を削減でき、地震にも強いとあっては今後も注目を集めそうだ。

ハザードマップを見ながら各自で水害対策を練ることが必要

頻発する水害を受け、国も水害対策に関する法律「流域治水関連法(特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律)」をつい最近、2021年5月に公布し、7月に一部施行した。「この法律で水害が起こりやすいところの建築や開発規制をかける仕組みはできました。ただし、法律で守るのは建物ではなく人の命です。具体的にこの方法で建てるように、という規制のための法律ではありません」と建築研究所の木内さん。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

とはいえ「例えば水害リスクを伝えるために宅建業法の重要事項説明に盛り込んだり、耐震等級のように耐水害対策についても性能表示項目に定めるという動きがあってもおかしくありません。また周囲の住民が逃げられる施設をつくったマンションは容積率を緩和するとか、水害対策をする住宅に補助金を出すとか、そういった形は今後考えられると思います」という。

現状、われわれができることは、ハザードマップを見て、大河川の氾濫は無理だけど内水氾濫(集中豪雨によって用水路等の排水能力を超え、市街地が浸水してしまう災害)には耐えられるようにしようとか、冒頭の5つの案を参考に対策するか、上記で紹介した水害対策が施された住宅を選ぶなど、各自で対策を判断するほかない。

ただし注意したいのがハザードマップの見方だ。従来のハザードマップは数百年に1度の水害に対応したものだったが、現行のハザードマップは、命を守る目的もあって、1000年に1度の水害に対応したものになっている。しかし1000年に1度の大洪水ともなると、エリアによっては想定されている水深が3~5m、5m~10m……となる。

「水害によって水面が5mを超えると、たいていその数字を見ただけで諦めてしまいがちです。しかし起こる頻度の低い水害ではなく、本来は浸水による水深が低くても起こる頻度の高い水害を想定したほうが住宅においては水害対策になります」。先述した「地先の安全度マップ」を作成した滋賀県など、既に動いている自治体もあるが、こうしたハザードマップの改善も今後の課題と言えるだろう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

また、浸水の頻度が低くて浸水した場合に想定される水深が低いエリアなら、被害に遭った時は保険でカバーするのが費用対効果としては高いこともある。あるいは自治体で水害時に逃げ込める高い建物をつくったほうがよいケースもある。「滋賀県の場合、浸水リスクの高いエリアでは避難先としての高い建物をつくるという条例ができました」。浸水リスクが一様ではないのと同様、対策もさまざまあるのだ。

いくつかある対策方法の中から、自ら選ぶ必要がある。簡単に言えば「自らの命は自らで守る」と行動することが、現状の最善策なのだ。まるで新型コロナウイルス対策みたいだが、どちらも従来にはなかった新たな脅威。少なくとも「自分は大丈夫」と思う「正常性バイアス」にだけは気をつけたい。

●取材協力
建築研究所
一条工務店
ユニバーサルホーム

「街に居場所を!」リタイヤ世代が立ち上がった。ベッドタウン「東千葉住宅地」で参加500名の大防災訓練を実現した共助力とは

九州・広島を襲った大雨と河川の氾濫、熱海での土砂崩れなど、日本各地で災害が多発している昨今ですが、こうした自然災害発生時、大きく影響するのが地域の人と助け合う「共助」です。ただ、「共助といっても何をするの?」「何ができるのか分からない」と戸惑う人がほとんどではないでしょうか。今回は千葉県千葉市中央区の東千葉で、地域コミュニティを支える人の声を聞きました。

街に「自分」の居場所がない…! すべては危機感からはじまった

東千葉住宅地は、総武本線東千葉駅から徒歩15分ほどの場所にある一戸建てとマンション、あわせて約1000世帯5つの町内自治会で構成されています。住宅地が完成したのは1978(昭和53)年で、現在は高齢世帯や独居世帯が増えているほか、新しい住民との入れ替わりが始まった過渡期だといいます。

東千葉地区の住宅街。区画も広く、成熟した住宅地の印象(写真撮影/嘉屋恭子)

東千葉地区の住宅街。区画も広く、成熟した住宅地の印象(写真撮影/嘉屋恭子)

一見すると、典型的な郊外のベッドタウンに見えますが、この東千葉地区は非常に地域コミュニティ活動が活発。一般的な町内自治会活動と委員会活動のほかに、「ハッピータウンの会※1」「東千葉 和・輪・環(わわわ)の会」「くるま座の会」などの福祉活動・親睦活動が行われ、地域で自然に助ける・助けられる「共助」が育まれています。

ただ、最初から現在のような地域活動が活発だった訳ではなく、住民が手探りで活動をするなかで、現状に行き着いたのだといいます。

「私は79歳になりますが、自分が定年退職をしたあと、地域にまったくなじみがないことに気が付き、愕然としたんです。そこで会社人間から社会人間に変わろうと『仲間づくりの会』という飲み会を企画し、知り合いをつくることからはじめました」と振り返るのは、地域の町内会をとりまとめる東千葉地区自治会連絡協議会の元会長・村井克則さんです。

村井さんは飲み会で出身地や趣味などを通じて、地域にとけこむよう試みました。すると回数を重ねるうちに、地域に顔見知りや知人、趣味友達ができ、次第に自分たちが暮らしている街の課題について話すことが増えたといいます。

「東千葉地区には5つの町内自治会がありますが、会長など役職者の任期は1年で、毎年入れ替わります。日常的な業務、例えば回覧板を回すなどは問題なくできますが、防犯・防災、高齢化の健康や介護、独居世帯への対応などの中長期で取り組むべき課題には答えを出していけない。これはまずいよね、地域で支え合えないかということで、自分たちにできる活動をはじめました」(村井さん)

お話を伺った東千葉地区のみなさん。手には安否確認訓練時に自宅の軒先に掲げて「無事」を伝えるタオルを持っています(写真撮影/嘉屋恭子)

お話を伺った東千葉地区のみなさん。手には安否確認訓練時に自宅の軒先に掲げて「無事」を伝えるタオルを持っています(写真撮影/嘉屋恭子)

町内自治会活動と福祉・親睦活動があることで、住みやすい街になる

町内自治会で行うのは、前述したような日常業務のほか、地域の防犯・防災、お祭りなどの恒例行事や町内自治会が所有する建物の建て替え準備などになります。自治会費の予算があり、地域のルールを決める権限があります。一方で、「ハッピーボランティア東千葉」「東千葉 和・輪・環(わわわ)の会」「くるま座の会」などは、地域の福祉・親睦を主目的とした活動です。扱う内容は、地域の見守りやあいさつ運動、多世代との交流、高齢者の健康づくりなどさまざまですが、自由な集まりに近く、予算や権限・拘束力などはありません。

東千葉地区自治会連絡協議会で会長を務める大内信幸さんによると、この既存の町内自治会と福祉・親睦活動の2つの軸があることで、地域コミュニティが立体的・有機的になるのだといいます。

「自治活動と福祉・親睦活動を地域づくりとしてトータルで行っていかないと、住みやすい街にならないと思うんです。そのため、両者の交流を促進する『地域づくり懇談会』を設けています。さまざまなテーマで情報交換するなかで、地域の課題や関心が見えてくるんですね。今はコロナの影響で集まることはできませんが、地域の福祉を担う社会福祉協議会、民生委員児童委員協議会(民児協)、小中学校とも連携しています」と話します。

「自分」の興味を大切に。無理なく楽しく参加できる仕組み

東千葉地区ではリタイヤ世代の男性だけでなく、女性の活躍も目立ちます。また活動を担う人たちが楽しそうに、そして強制ではなく主体的に動いているのが印象的です。

「どの活動も、人のため、地域のためというだけでなく、自分たちが楽しく続けられることを行っています。健康、介護、将来の相続など、興味・関心のあるテーマで講演会を企画したり、多世代が楽しめる季節ごとのイベントを開催したり。『できる範囲で、ちょっとボランティアがしたい』『こんな講座があったら参加してみたい』。そうやって企画していると、人が集まって顔見知りができて、新しい動きが生まれる。その繰り返しだったような気がします」と話すのは村井さんの妻の早苗さん。社会福祉協議会の東千葉地区部会の部会長、千葉市立都賀中学校の学校評議員を務めています。

東千葉地区は、もともと専業主婦が多かったこともあり、女性が地域活動の中心だったといいます。ただ、現代は共働き世帯が主流。昔のように地域の交流に参加できない人も多いそうです。
「新しい世帯や若い世代に、地域コミュニティに入ってと強制できません。ただ、地域活動が活発なのを知って引越してきてくれる人もいるようで、とてもうれしいですね。子どもたちといっしょに参加しやすい七夕、ハロウィン、お祭り、防災訓練などを通して顔見知りになり、『いつか(企画側で)やってみたいな』と思ってもらえたら十分ではないでしょうか」と話すのは大内さんの妻の公子さん。社会福祉協議会・東千葉地区部会の副部会長、千葉市立千草台東小学校・都賀中学校の学校評議員などを務めています。

地元の民生委員・児童委員を務める高畑宏子さんは、「東千葉も高齢世帯や独居世帯が増えてきていますが、町内自治会や地域のみなさんに寄り添っていただき、さり気なく見守られているのを感じます。また私のような民生委員も、地域のみなさんと普段からおしゃべりすることで、精神的にも助けられています」と話します。民生委員や児童委員になる人の負担を減らすという意味でも、横のつながりは重要なのかもしれません。

健康や在宅介護などの講座やイベントは、「今、自分たちが興味・関心のあること」をテーマにしているそう(写真提供:東千葉地区自治会連絡協議会)

健康や在宅介護などの講座やイベントは、「今、自分たちが興味・関心のあること」をテーマにしているそう(写真提供:東千葉地区自治会連絡協議会)

大規模な防災訓練も、日ごろのあいさつの延長上にある

東千葉地区が、この10年もっとも力を入れてきたのが、防災訓練をはじめとした防災対策です。住民の高齢化により負担を軽減するため、2018年から5つの町内自治会が合同で防災訓練を実施しています。自治体や学校、警察、消防、地元企業などが共催し、老若男女約500人が参加するという大掛かりなイベントです。また、近所の旧家にあった井戸を防災井戸として使えるよう行政に働きかけて指定を受け、35名以上の「くるま座の会」有志メンバーが協力して、日々の清掃や機器の維持管理をしています。

防災訓練が行われる公園。500人が集まる大規模な訓練が行われるのは驚き(写真撮影/嘉屋恭子)

防災訓練が行われる公園。500人が集まる大規模な訓練が行われるのは驚き(写真撮影/嘉屋恭子)

地元の中学生が参加し、防災井戸から水を運ぶ、運搬訓練をするそう(写真提供:東千葉地区自治会連絡協議会)

地元の中学生が参加し、防災井戸から水を運ぶ、運搬訓練をするそう(写真提供:東千葉地区自治会連絡協議会)

「防災訓練では、できるだけ現実に即したリアルな訓練ができるよう呼びかけています。まず、防災訓練を行う日の午前中に各町内自治会の防災備品のチェック、そして各家庭では家族が無事である証拠として自宅前に安否確認タオルを掲示してもらっています。これは実に75%の世帯が参加してくれています。午後には地元の中学生が防災井戸から水を汲んでリアカーで運ぶ訓練をし、その水を炊き出し訓練に使っています。災害時、高齢者では、重い水を汲んだり運んだりするのは難しいですから。ほかにも、起震車による地震体験、煙体験、救命救助の仕方やブルーシートでテントをつくる、チェーンソーで木を切るなど、さまざまな訓練をしてきました」と大内さん。

こうした参加型の訓練内容が地域住民の関心を呼び、年々、参加者が増えていたのだとか。ただ、東千葉町内自治会のみなさんから見ると、まだまだ課題は目につくようです。

「高齢者から見て、行政が指定した避難場所や避難所が遠くて行きにくい。そこで、町内自治会集会所を地震後の一時避難場所として使用できるよう、行政にはたらきかけました。ただ、実際には地震が起きても在宅避難になるのではないでしょうか。現在、町内自治会集会所を拡張して一時的な避難所、防災倉庫として活用できよう機能の拡充を計画しています。この地域から誰も取り残したくないですよね」と大内さん。そう話すみなさんが、年1回の防災訓練と同じように大切だと位置づけているのが、日々のあいさつです。

町内自治会集会所は有事の際一時避難所、防災倉庫としての機能も果たせるよう、行政や関係機関と協議しているといいます(写真撮影/嘉屋恭子)

町内自治会集会所は有事の際一時避難所、防災倉庫としての機能も果たせるよう、行政や関係機関と協議しているといいます(写真撮影/嘉屋恭子)

「あいさつをすれば打ち解けるし、顔見知りになれる。すると、いざというときに顔が浮かぶし、声がかけられるのではないでしょうか。ただ、日本人はシャイなので、なかなか自然にあいさつできないでしょう(笑)。だから、地区を横断する約800mのメイン通りを『東千葉あいさつロード』と名付けて、山のように看板を設置し、すれ違う人と気軽にあいさつをしましょうという運動をしています。「あいさつロード」が世代を超えたつながりを育むといいねと期待しています」と口をそろえます。

「東千葉あいさつロード」の名は、以前からメイン通りであいさつ運動をしていた「東千葉 和・輪・環(わわわ)の会」が中心となって行政に働きかけたことで、千葉市制100周年記念事業の一環として正式に市から認められたそうです。

町内自治会集会所始めあちこちに「東千葉あいさつロード」の看板が見られます(写真撮影/嘉屋恭子)

町内自治会集会所始めあちこちに「東千葉あいさつロード」の看板が見られます(写真撮影/嘉屋恭子)

街ですれ違っただけでは印象に残らなくても、一度あいさつをすれば、「……近所で見かけたことのある人かな?」に格上げされるから、人は不思議だなと思います。こうした日常も、災害という非日常も地続きであって、特別なことではありません。取材後、筆者は自宅周辺で「あいさつ」を意識してみましたが、みなさん感じのよい返事が返ってきました。ちょっとした世間話にもなり、お互いの体調を気遣う会話にもつながりました。「あいさつ一つ」だと思っていたのに、不思議なものです。まずはあいさつから。できることからコツコツと続けてみたいと思いました。

※1 現在は社協と一緒になり「ハッピーボランティア東千葉」として活動

学生と地域住民が共助力で災害にそなえる。東京・神田「ワテラス」のエリアマネジメントがすごい!

若い世代、なかでもひとり暮らしだと、「近所にどんな人が住んでいるか知らない」という人は多いのではないでしょうか。しかし、災害時の「共助」という視点では不安ですよね。千代田区神田淡路町では、地域のコミュニティ活動をプロデュースするエリアマネジメント組織があり、学生と住人が一体となって地域活性化をはかっています。事務局の方と学生に話を聞きました。
「淡路エリアマネジメント」が中長期で街づくりに携わる

2013年、東京都千代田区神田淡路町の小学校統跡地を含む一帯が再開発され、区立公園に隣接する2棟構成の「ワテラス( WATERRAS )」が完成しました。テナント40店舗、オフィス入居約20社、分譲住宅333戸に加えて、コミュニティ施設と学生用住戸が36戸あるのが特徴です。ここでは、ワテラスの主要権利者である安田不動産が事務局を務める「淡路エリアマネジメント」が地域活動のプロデュースを担い、その会員として学生用住戸に暮らす学生や活動を支援する地域の法人・個人が参加。自治会などの地域団体や行政と連携してさまざまな活動を行っています。

近年、東京ではあちこちで大規模複合再開発が行われ、竣工後の地域活性化を目的にしたエリアマネジメント(※)が注目を集めています。淡路アリアマネジメントの成り立ちを、エリアマネージャーを務める堂前武さんに聞きました。

※エリアマネジメント/地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み(国土交通省の定義)

新御茶ノ水駅と直結。2013年に竣工したワテラスタワー(写真撮影/嘉屋恭子)

新御茶ノ水駅と直結。2013年に竣工したワテラスタワー(写真撮影/嘉屋恭子)

「この再開発事業は1993年、少子化のために小学校が統廃合され、跡地をどう活用していくかからはじまりました。学校が閉校になった地域住民の危機感は強く、単なる開発行為ではなく、開発後の街づくりを見据え、長期的に施策を実施する事が重要であるとの考えのもと、開発段階よりエリアマネジメント組織による活動が構想されておりました」と振り返ります。

淡路エリアマネジメントの活動は、1地域交流活動、2学生居住推進活動、3地域連携活動、4環境共生/美化活動の主に4つにわけられます。2の学生居住については、1の地域活動に参加することが条件で、相場より割安の家賃でワテラスの「ワテラスアネックス」で暮らすことができます。全36戸ありますが、都心の好立地、手ごろな家賃ということもあってか、毎年希望者が殺到し、倍率は4~5倍(!)にもなるといいます。

2013年のワテラス完成以降、マルシェや音楽祭、防災フェア、江戸三大祭りのひとつである「神田祭」などさまざまなイベントに学生が参加することで、街に活気が生まれています。

「ワテラスに学生が住んでいて地域活動しているというのは、周囲の地域や町会の方々にもだいぶ知られるようになり、手を貸してほしいと依頼が来るようになりました。学生たちも受け身で地域活動をするのではなく、主体的に地域住民と交流する機会をつくるなど、方法もアップデートしています」(堂前さん)

地域活動に取り組むと「神田が好きになる」「街への解像度があがる」

学生のみなさんは、勉強に遊びにと、やりたいことが盛りだくさんの年代だと思うのですが、地域活動についてどのように考えているのでしょうか。

「私は現在入居4年目、大学3年次進級にともなって、ワテラスへ引越してきました。もともと子どもと交流するなどボランティア活動をしていたので、地域活動をしみたかったというのが入居理由の一つです。ワテラスに越してきてからも児童館でアルバイトしたり、その活動がワテラスでの地域活動に活きたりと、有意義に過ごせています」と話すのは大学院生の長谷大輔さん。ワテラスで暮らす学生は、長谷さんのように「家賃が安い」という理由だけではなく、明確に「地域活動がしたい」と意欲を抱いている人がほとんどだそう。

学生が企画して2019年から開催しているブックフェスの様子。子どもはもちろん、学生たちも楽しそう(写真提供/淡路エリアマネジメント)

学生が企画して2019年から開催しているブックフェスの様子。子どもはもちろん、学生たちも楽しそう(写真提供/淡路エリアマネジメント)

「ここに来る前ひとり暮らしをしていたころは、家は寝に帰るためのハコで、どの街に誰と暮らしているという意識は持ちづらかったです。でも、ここでの地域活動が楽しくて、街に対して、人に対して愛着がもてました。『神田に住んでいる』という実感が湧いて、一住民として街への解像度が上がり、日々、気づいた魅力や課題をエリアマネジメント活動に還元できています」と話すのは、赤尾将希さん。

若い世代でも、「街と関わりたい、でもきっかけがない」と思っている人は、実は多いのかもしれません。今年度、リーダーとして中心的に学生会員をまとめる井戸川茉央さんも、同じように感じていました。

「私も入居して4年目で、高校卒業後、大学進学にともなって上京し、初めてのひとり暮らしがココでした。勉強だけでなく、地域活動がしてみたい、他大学の人と交流したいというのが入居のきっかけです。1~2年生のときは楽しく活動に参加していましたが、年次が上がるにつれて関わり方も深いものとなりました。ここで暮らすみんなに神田を好きになってもらいたいと思いますし、私自身、ぐっと地域の人との距離が縮まったように思います」

ワテラスコモンでの打ち合わせの様子。学生たちもアイデア出し、企画から参加できるよう、進め方を変えたそう(写真提供/淡路エリアマネジメント)

ワテラスコモンでの打ち合わせの様子。学生たちもアイデア出し、企画から参加できるよう、進め方を変えたそう(写真提供/淡路エリアマネジメント)

属性も立場も異なる。だからこそ「防災に巻き込む」仕掛けが大切

ワテラスでは、年2回の防災訓練のほか、千代田区の帰宅困難者対応訓練も秋葉原協力会の一員として実施。災害時の共助の拠点として大きな役割を担っています。
もちろん学生会員も参加し、分譲マンション住人の避難誘導や安否確認訓練、広場でのトイレ設置訓練などを行います。

「複合施設なので、マンション住人、オフィスワーカー、管理組合、管理会社、行政とさまざまな人が関わっていますし、属性も違い、当然、温度差もあります。土日と平日では、滞在している人も異なりますし、防災への意識も異なります。ですから、神田消防署とも連携して、より多くの人が参加しやすいように遊び心を加えて、『防災フェア』『防災ワークショップ』などを開催し、「火の話(紙芝居)」や防災サバイバル術を紹介するなど工夫しています。こうした地道な活動が、帰宅困難者対応訓練のような、大規模な防災訓練の土台となっています」と堂前さん。

消防訓練に学生会員も参加。いざというときに備えます(写真提供/安田不動産)

消防訓練に学生会員も参加。いざというときに備えます(写真提供/安田不動産)

消防訓練の様子。平日昼間に行われているので、オフィスワーカーが中心になります(写真提供/安田不動産)

消防訓練の様子。平日昼間に行われているので、オフィスワーカーが中心になります(写真提供/安田不動産)

なるほど、関係者も規模も大きいだけに、「共助」のハードルが高いのは事実のようです。ただ、そこでいきてくるのが日ごろの活動、信頼関係です。

「地域住民の高齢化は進んでいて、青年会では50代が若手になっていることも(笑)。そこに20歳前後の学生が入ることで、潤滑油になっている側面もあります。今はコロナ禍で活動ができないですが、例えば飲み会に参加して顔をあわせているだけでかわいがってもらえる。地域の人から『スマホの使い方教えてよ』と盛り上がることだってあるんですよ」(堂前さん)というと、「自分たちには当たり前のことも、相手にとっては価値があることだったりする。そのギャップがおもしろいですよね」と赤尾さん。

こうした日々の活動を通し、学生たちには「神田が特別な街」という思いが育まれていくのでしょう。

普段からともに活動している仲間がいるから、助けにいける

学生住戸のあるフロアには共有ラウンジがあり、普段から共に地域活動に取り組んでいるため、単なる友人というよりも、「仲間」という結束・連帯感があるようです。

「例えば、災害発生時に自分ひとりで動くのは勇気がいる。1人だったら助けにはいけないと思う。でも、ここには日ごろからいっしょに活動している仲間がいる。仲間がいれば、一緒に地域の人を助けにいけると思う」と長谷さん。

その言葉通り、コロナ禍でコミュニティ活動が休止した昨年、街のために何か行動を起こしたいとリレームービーを企画。ワテラスに入居する企業や店舗で働く従業員、自治会長や住民など総勢60名に出演を依頼し、撮影から編集まで全工程を学生が行いました。動画サイトで公開されたムービーには、「会えなくてもつながっている」「思いはひとつ」というメッセージが込められています。それぞれの得意を活かして地域をつなぐ、学生ならではの活動といえるでしょう。

昨年作成した動画の一部。みなさん、自由に会える日を待ちわびています(写真提供/安田不動産)

昨年作成した動画の一部。みなさん、自由に会える日を待ちわびています(写真提供/安田不動産)

「お祭りができなくなり、飲食店が大変ななか、神田を元気づけたい、活性化したいという思いで動画製作をしました。コロナ禍で中止になったこと、できなかったことも多かったのですが、反対に動画はコロナ禍があったからできた。作業はすごく大変だったんですが……やってよかったです」と井戸川さん。

新型コロナという感染症の流行も、見方を変えれば、一種の災害のようなものです。そんななかで、人々を元気づけたいと仲間と一緒に行動できたのは、やはり今までの「淡路エリアマネジメント」の活動があってこそ。また、卒業していった学生会員のOB/OGのメンバーは、2021年時点ですでに100名近くいて、OB/OG会も年1回ほど実施しているとか。

「学生はそれぞれの大学を卒業して就職し、北海道から鹿児島まで幅広い場所で活躍していますが、年に1度『神田っ子』として集まり、思い出を語らっています。将来、またこの街にもどってきてくれたらうれしいですね」と堂前さん。

人と人の絆は一朝一夕にはできず、年々、紡がれて豊かになっていくものでしょう。若い世代が地域のエリアマネジメントに自主的に参加できる仕組みは、災害時の街全体の共助力を底上げしてくれるはず。この神田の取り組みは、他の街でもきっと参考になるのではないのでしょうか。

◆ワテラス
◆ワテラス ライン会員

災害復興の体験型テーマパーク! 楽しみながら有事に備える「nuovo」

地震、台風、大雨、大雪……。近くの街が、大切な人が住む街が被災してしまったら。災害ボランティアとして駆けつけたい思いはあっても、「自分が行っても非力では」と、一歩を踏み出せない人がいます。また実際にボランティアを体験し、現場で力不足を痛感したという人も。
そんな人にぜひ注目してほしいのが、平時を楽しみながら有事に備える、日本初の防災アミューズメントパークです。

台風19号で地元が被災。復興作業には重機オペレーターが不可欠だった

「栗のまち」として知られる長野県小布施町(おぶせまち)に、2020年10月にオープンした「nuovo(ノーボ)」。浄光寺の副住職である林映寿(はやし・えいじゅ)さんが、東日本大震災を機に立ち上げた一般財団法人「日本笑顔プロジェクト」が運営する、体験型ライフアミューズメントパークです。
創設のきっかけは、2019年10月、台風19号により千曲川が決壊し、小布施町をはじめ近隣市町村が甚大な被害を受けたこと。住宅地や農地に大量の泥が流れ込み、ボランティアによるスコップでの泥かきは途方もない作業で、人力での限界を感じたといいます。一方、重機は各所から確保できたものの、オペレーターが圧倒的に不足していたことから、今後災害現場で即戦力となる人材を育成しなければ、と実感したそうです。
「『ディズニーより楽しく、自衛隊より強く』がnuovoのモットー。楽しんでいたら防災力がアップしていた、そんな施設をめざしています」(林さん)

小布施町の広大な遊休農地を活用したnuovo(写真撮影/塚田真理子)

小布施町の広大な遊休農地を活用したnuovo(写真撮影/塚田真理子)

日本笑顔プロジェクト代表の林さん。全国の支部は現在37カ所にまで拡大(写真撮影/塚田真理子)

日本笑顔プロジェクト代表の林さん。全国の支部は現在37カ所にまで拡大(写真撮影/塚田真理子)

農業+防災でノーボ。農エリアは非常時の食料補給に役立つ

nuovo(ノーボ)というネーミングは、農業+防災=「農防」から付けられました。敷地面積は約4000平米で、そのうち1/4が畑として整備されています。ここでは「災害時こそ栄養あるものを」と、炊き出しに使える野菜を栽培。土の中で保存がきくネギや根菜類を中心に、近所の80代のおばあちゃんが管理してくれているそう。災害時に備えつつ、平時にはイベントで収穫体験も楽しめたりします。
そして敷地の3/4が防災エリア。ふだんは、日本笑顔プロジェクトが災害支援経験で役立ったものを集約して常設しています。例えば、緊急時にスピーディに設営できるエアードームは、天井が高く中はゆったり。連結もでき、折り畳めば段ボール1個分とコンパクトに。また災害支援が中長期的になった際、防災本部として機能するトレーラーハウスもあります。屋上付きのため、ここから被災エリアを偵察したり、大勢のボランティアチームに指示を出したりするのに役立ちます。

畑では地元農家さんの手を借りて、ネギや根菜類を栽培している(写真撮影/塚田真理子)

畑では地元農家さんの手を借りて、ネギや根菜類を栽培している(写真撮影/塚田真理子)

広大な果物畑に囲まれたのどかな場所(写真撮影/塚田真理子)

広大な果物畑に囲まれたのどかな場所(写真撮影/塚田真理子)

イベント時には野菜の収穫体験やBBQも(写真撮影/塚田真理子)

イベント時には野菜の収穫体験やBBQも(写真撮影/塚田真理子)

エアードームは重機を収納するスペースにもなる(写真撮影/塚田真理子)

エアードームは重機を収納するスペースにもなる(写真撮影/塚田真理子)

体力を使う災害ボランティアが快適に過ごせるよう、トレーラーハウスはエアコン完備。隣には、水を使わず微生物の力で排泄物を分解・処理するバイオトイレも設置(写真撮影/塚田真理子)

体力を使う災害ボランティアが快適に過ごせるよう、トレーラーハウスはエアコン完備。隣には、水を使わず微生物の力で排泄物を分解・処理するバイオトイレも設置(写真撮影/塚田真理子)

四輪バギーやショベルカーの操縦体験はまるでアトラクション

さて、この防災エリアが実は楽しいアトラクションエリアでもあるのです。いきなり重機の資格を、といってもハードルが高いということで、まずはATV四輪バギーに乗ってみたり、重機の初歩的な操縦をしてみたりする「体験コース」が用意されています。
筆者も今回初めて体験させてもらったのですが、アトラクション感覚で楽しんでしまいました! あらゆる地形を縦横無尽に走る四輪バギーの後部座席に乗車すると、クルーの運転で高低差のあるデコボコ道をずんずんと進みます。スピードも出せますが、要救護者を乗せることも多いということで、慎重に運転しますというクルーの気遣いにジーン。
さらにショベルカーの操縦も初体験。アームを操作して土を掘ってみると、そのパワフルさを実感します。笑顔プロジェクトの思惑通り(?)、自然と笑顔になっていました。そして意外と自分でもできるんだ、と感動していたら、「力の弱い女性こそ、重機を扱えるようになってほしい」と林さん。なるほど、納得です! 実際、重機資格を取得する人の3~4割は女性なのだそうです。

人や物資の運搬、ゴミ回収などに活躍するATV四輪バギー。昨年冬に北陸で発生した雪害の際は、高速道路上の滞留車に支援物資を届ける緊急支援車両として出動した(写真撮影/林映寿さん)

人や物資の運搬、ゴミ回収などに活躍するATV四輪バギー。昨年冬に北陸で発生した雪害の際は、高速道路上の滞留車に支援物資を届ける緊急支援車両として出動した(写真撮影/林映寿さん)

体験コースはファミリーでの参加も可能。働く車好きの子どもと楽しんでいたら親がハマってしまった、というケースも多いそう。四輪バギーは資格取得だけでなく、購入に至った人もこれまでに4人いるとか!(写真撮影/塚田真理子)

体験コースはファミリーでの参加も可能。働く車好きの子どもと楽しんでいたら親がハマってしまった、というケースも多いそう。四輪バギーは資格取得だけでなく、購入に至った人もこれまでに4人いるとか!(写真撮影/塚田真理子)

クルーの手解きで、パワーショベルの操縦も初体験(写真撮影/林映寿さん)

クルーの手解きで、パワーショベルの操縦も初体験(写真撮影/林映寿さん)

重機資格取得コースの休憩時間には、水陸両用バギーの乗車体験も行われた。テーマパークのアドベンチャーのようなワクワク感!(写真撮影/塚田真理子)

重機資格取得コースの休憩時間には、水陸両用バギーの乗車体験も行われた。テーマパークのアドベンチャーのようなワクワク感!(写真撮影/塚田真理子)

マスクで分かりにくいけれど、体験時には誰もが林さんが描いたロゴのような笑顔に(写真撮影/塚田真理子)

マスクで分かりにくいけれど、体験時には誰もが林さんが描いたロゴのような笑顔に(写真撮影/塚田真理子)

打ちっぱなしならぬ掘りっぱなし!? サブスクで重機トレーニング

今回おじゃましたのは、災害現場で役立つ技能を身につける「重機資格取得コース」の2日目。初日の学科を経て、この日は重機を操作し整地や運搬、掘削などを学んでいきます。合間には、クルーの重機隊によるパフォーマンスタイムも。惚れ惚れするような技に、受講者はもれなく動画を撮影。いやぁ、かっこいいです!
ただ、資格を取ったらそれで終わり、ではありません。「いざ災害現場に行ってみると、重機のエンジンすらかけられない人も。資格を取ってもその後使っていなければ忘れてしまうのは当然ですよね」と林さん。そんなペーパードライバーにならないために設けられたのが、日本初の「サブスク会員コース」です。
月額課金制で、月に10日ほどある実施日に重機やバギーのトレーニングが受けられるというもの。「ゴルフの打ちっぱなしならぬ掘りっぱなし」感覚で、休日趣味のように通う人もいれば、小布施観光を兼ねて遠方から受けに来る人も。さまざまな場面での運転、操作の経験を積んで腕を磨くことで、いざというときの即戦力になれるのです。

台風19号の災害ボランティアをきっかけに、介護職から転身し日本笑顔プロジェクトのクルーとなった春原圭太さんによる重機パフォーマンス。華麗な操縦に拍手が湧く(写真撮影/塚田真理子)

台風19号の災害ボランティアをきっかけに、介護職から転身し日本笑顔プロジェクトのクルーとなった春原圭太さんによる重機パフォーマンス。華麗な操縦に拍手が湧く(写真撮影/塚田真理子)

災害現場は足場が悪く、泥沼に入ることも。作業後、キャタピラーについた泥の落とし方を伝授(写真撮影/塚田真理子)

災害現場は足場が悪く、泥沼に入ることも。作業後、キャタピラーについた泥の落とし方を伝授(写真撮影/塚田真理子)

重機資格取得コースの講習風景。災害現場での経験豊富なクルーが指導にあたる(写真撮影/塚田真理子)

重機資格取得コースの講習風景。災害現場での経験豊富なクルーが指導にあたる(写真撮影/塚田真理子)

近隣の倒木現場がサブスクトレーニングの実践の場に

nuovoでは、今回見学した重機資格(パワーショベルでの整地・運搬・積み込み及び掘削)に加え、パワーショベル(解体)、チェーンソー、四輪バギー、普通救命講習と、災害時に役立つ計5種類の資格取得コースを用意しています。日程はそれぞれ別で、講習日数は半日~3日間。
資格取得後のサブスクトレーニングでは、災害現場を想定した10段階の検定が設けられています。いざ災害が発生した際には、日本笑顔プロジェクトからサブスク会員や修了生に声がかかる段取りで、それぞれのレベルに合った現場がコーディネートされるそう。「安全性を重視し、初心者からベテランまで、無理のない支援活動を行えるよう心がけています」(林さん)。
nuovo発足後大きな災害は起きていないため、被災地での活動はまだありませんが、長野市戸隠での川の増水による倒木撤去作業に駆けつけるなど、実践経験が積めるのもサブスクのいいところ。また、重機資格を取得した農家の方が自分の畑の木の抜根を行うなど、実務で活用するケースもあるそうです。

資格講習を終えると、修了証が交付される(写真撮影/塚田真理子)

資格講習を終えると、修了証が交付される(写真撮影/塚田真理子)

nuovoで資格を取得すると、サブスクコースが利用できる仕組み。サブスクは月額1000円(月に30分のトレーニング無料)~。半年間繰越も可能(写真撮影/塚田真理子)

nuovoで資格を取得すると、サブスクコースが利用できる仕組み。サブスクは月額1000円(月に30分のトレーニング無料)~。半年間繰越も可能(写真撮影/塚田真理子)

スキルアップの先は、受講者を指導するクルーへの道も拓ける

レベルごとに災害現場で役立つ技術が学べるサブスクコースですが、経験を積んでレベル1に合格すると、nuovoクルーとして受講者を指導する仕事につながることもあります。四児の母という山本真衣子さんもそのひとり。親しみやすい雰囲気もあり、特に女性受講者にとっては憧れの存在です。
「台風19号のときは育児もあり動けずモヤモヤしていました。道に重機があると見惚れて学校に遅れる子どもだったので、昔から興味はあったものの、お金を出して資格を取っても使うことないなって。でもここでちゃんと習得すれば防災の備えになると知って、行動に移せました」。
nuovoでは、重機オペレーター1000人の育成をめざしていて、現在449人を達成(2021年6月18日現在)。「1000人という数字は、資格取得者10人のうち1人がサブスクでトレーニングを積んでくれたらいいなと。そうして災害時に100人規模の即戦力があれば、自衛隊よりも早く動き出せます」と林さんは言います。

資格取得とサブスクでのトレーニングを経て、クルーの一員となった山本さん。現在では受講者を指導する立場に(写真撮影/塚田真理子)

資格取得とサブスクでのトレーニングを経て、クルーの一員となった山本さん。現在では受講者を指導する立場に(写真撮影/塚田真理子)

大学を休学し、現在事務局長を務める神戸智基さん(右)、代表の林さん、副代表の春原さんをはじめ、常勤クルーは3名。ほか10名の非常勤クルーがnuovoを支えている(写真撮影/塚田真理子)

大学を休学し、現在事務局長を務める神戸智基さん(右)、代表の林さん、副代表の春原さんをはじめ、常勤クルーは3名。ほか10名の非常勤クルーがnuovoを支えている(写真撮影/塚田真理子)

飛び出す絵本のような仕掛けが楽しいフライヤー。nuovoは47都道府県に展開する計画も(写真撮影/塚田真理子)

飛び出す絵本のような仕掛けが楽しいフライヤー。nuovoは47都道府県に展開する計画も(写真撮影/塚田真理子)

今回、もともと重機に興味があって受講したという女性利用者の言葉が心に残りました。「好きでやっていることが、いざというとき役に立てるならうれしい」。まずは楽しんで、力をつけて備えることで、いつか誰かの助けになれる場所がここにはありました。
コロナ禍もあり、全国から災害ボランティアが集まりにくい時代だからこそ、自分たちの街は自分たちで守る、そんな心構えが必要だと強く感じます。
さらに頼もしいニュースが飛び込んできました。6月28日、長野と同じく台風19号の被害を受けた千葉県成田市と、今年4月に山林火災が発生した長野県飯山市に、「nuovo EX(Experience)」という体験版施設が同時オープン。時間が過ぎるにつれ、薄れていきがちな防災意識を高め、維持していくために。nuovoが全国各地に広がって、楽しい防災拠点が増えることを期待しています!

●取材協力
日本笑顔プロジェクト

日本最大規模の大津波の脅威…あきらめムードから逆転!最先端の「防災のまち」へ進む高知県黒潮町

2011年の東日本大震災を契機に、全国各地の自治体ではさまざまな防災対策を講じてきた。なかでも高知県黒潮町では、その取り組みで全国にも先進的な「防災のまち」として知られる。「防災」をキーワードに、地域のコミュニティづくりから地域産業の振興へと繋げ、新しい形のまちづくりを推進している同町を訪ねた。
大津波の憂慮を糧に「犠牲者ゼロ」を目指して

高知県の南西部に位置し、太平洋の美しい海岸線には全国屈指のカツオの一本釣りの漁港を有する黒潮町。人口は10,782人(2021年4月現在)、そのうち約40%が65歳以上という、高齢化が進むまちのひとつだ。

東日本大震災後の2012年、そんなまちに衝撃なニュースが飛び込んできた。内閣府の発表で、震度7の地震が起きた場合、最大で34.4mの大津波が押し寄せるというのだ。その規模は日本最大と言われ、太平洋沿岸に主な居住地域が広がる同町は、壊滅的な被害を受けることになる。

また、町外への転出増加も懸念された。これまで出生数を死亡数が上回る自然減が、住民が他地域へ転出することで人口が減る社会減を上回る状態だった同町は、2013年には社会減が自然減を上回り、過疎化が進んでいる町に追い打ちをかけ、住民たちに大きなショックを与えた。それにより町のあちらこちらで「逃げても無理、逃げない」という声が聞こえ、あきらめムードすら漂い始めた。

状況を重く見た同町は、さっそく対策に乗り出すことになる。それは日本最大の津波が襲うまちで「犠牲者ゼロを目指す」という取り組み。その旗振り役を担うのが、2012年に新設された黒潮町役場情報防災課だ。「2021年現在、ハード面の整備はほぼ完了し、防災を通じたコミュニティの活性化など、ソフト面の充実に取り組んでいます」と語るのは、同課南海地震対策係長の宮上昌人さん。

海抜21mの高台に5年前完成した庁舎の前に立つ宮上さん(写真/藤川満)

海抜26mの高台に3年前完成した庁舎の前に立つ宮上さん(写真/藤川満)

3つのステップで防災活動を「文化」に育てる

古くは684年の白鳳南海地震にさかのぼり、およそ100年に一回のペースで地震に襲われてきた黒潮町。防災に対する意識は低くなかったものの、東日本大震災以前まで同役場には、総務課に消防防災係が存在するのみだった。

「ステップ1として、『避難空間の検証と計画』と『組織体制の整備』を行いました。その一環が、私の所属する情報防災課の立ち上げです」と宮上さん。情報防災課は来たる南海トラフ地震への対策の本丸・南海地震対策係、情報発信をする情報推進係、それ以外の防災を担う消防防災係の3つの係で組織される。

しかし10人にも満たない情報防災課だけでは、十分な対応ができないこともある。そこで役場職員約180人が通常業務に加え、町内の61地区へ赴き、地域の問題の洗い出しや住民とのパイプ役を担う「職員地域担当制」も導入。「黒潮町の防災対策が大きく進捗したのは、この職員地域担当制の導入が大きな役割を果たしました」

この制度を通じて、各地域で住民とワークショップを実施。これが同じステップ1の「避難空間の検証と計画」だ。ワークショップでは「近くに高台がない」「高台は近いが斜面が険しい」など避難場所や避難道の見直しや点検を行い、避難城の地形・物理的課題を図面に整理していった。

住民を交えたワークショップでは、地域の地図を囲み、周辺の避難上の問題点を書き込んでいった(写真提供/黒潮町)

住民を交えたワークショップでは、地域の地図を囲み、周辺の避難上の問題点を書き込んでいった(写真提供/黒潮町)

ハード面の整備と具体的な対策で意識の変化を促す

ワークショップを通じて表面化した避難上の問題点を、より具体的な対策として構築していくのがステップ2。ハード面では「避難空間の整備」、ソフト面では「課題の対策をカルテや処方箋で具体化」をすることだ。

避難空間の整備では、ワークショップで提案され、後に計画された避難道が実際に整備され、2019年度には全ての路線が完成。さらに津波到達予測時間内に高台まで避難できない地区(避難困難区域)の解消を目的に、町内6カ所に津波避難タワーを建設した。

新たに整備された避難道は213路線にも及ぶ(写真提供/黒潮町)

新たに整備された避難道は213路線にも及ぶ(写真提供/黒潮町)

黒潮町で最も高い佐賀地区津波避難タワーは海抜25.4m、収容人数230人を誇る(写真/藤川満)

黒潮町で最も高い佐賀地区津波避難タワーは海抜25.4m、収容人数230人を誇る(写真/藤川満)

ほかにも約120カ所の備蓄倉庫や約900カ所の津波避難誘導標識の設置など、住民では補いきれないハード面での整備を黒潮町が主体となって実施してきた。一方で住民が主体となった取り組みがカルテづくりだ。

ステップ1で表面化した避難上の課題に対するカルテや処方箋とは、家族や個人にあわせた具体的な避難計画づくり。そのために津波浸水が予想される全世帯の避難行動調査が行われた。「世帯別津波避難行動記入シート」を制作し、家族構成や連絡先はもちろん自力で避難できるかどうか、徒歩や自動車などの避難方法などを、まさにカルテのように細部にわたって目に見える形にしていった。

集まったカルテは、津波浸水の可能性がある40集落の全世帯3791世帯分。これらをもとに、地域の人たちによる地区防災計画をつくることで、『我がこととして感じられる手づくりの防災計画』として意識してもらうのが狙いだ。

処方箋である地区防災計画には、屋内での避難訓練、地区一斉での家具固定、世帯ごとの避難場所への備蓄、学校と連携した防災お年寄り訪問なども検討され、地域の特性に合わせた計画が盛り込まれていった。

地元の学校と連携したお年寄り訪問なども行い、コミュニティの世代間の交流を生んでいる(写真提供/黒潮町)

地元の学校と連携したお年寄り訪問なども行い、コミュニティの世代間の交流を生んでいる(写真提供/黒潮町)

住民の主体性を喚起し、防災活動を日常に

「現在はステップ3の段階です。ステップ2を契機に、徐々に行政主体から住民主体の取り組みへとシフトチェンジをしているところです」と宮上さんは現状を語る。これまで行政の呼びかけによって実施されてきた取り組みを、住民が自主的に行っていくことがステップ3の最終目標だ。

今後も引き続き防災教育や訓練を徹底し、さらに住民主体の防災活動の活発化を促すことで、地域にタテとヨコの連携が生まれる。「現在すでにこれまでの防災活動を通じて、コミュニティが目に見えて活性化してきているようです。あきらめムードだった雰囲気が変化してきています」と宮上さんも手応えを感じている。

現在黒潮町では、認知症や障がいのある人、つまり要配慮者の避難支援に向けての対策にも乗り出している。宮上さんは「住民にお願いするだけでなく、福祉・防災・まちづくりという部署の枠を越えた、支援のあり方を検討しています」と次の課題に向かって日々汗を流す。

防災を通じたまちづくりに取り組む黒潮町。それは新たな産業を生み出すことにも繋がっている。次に足を運んだのは、同町の防災対策の取り組みのなかで生まれた黒潮町缶詰製作所だ。

人口減少を食い止める一助としての新産業

過疎が深刻化していく黒潮町では、2012年、前町長肝いりで「WE CAN PROJECT」が立ち上がった。その立ち上げメンバーのひとりが、当時同町職員で、現在黒潮町缶詰製作所で営業・広報を担当する友永公生さんだ。友永さんは東日本大震災発生の1週間後に現地へ足を運んだ経験を持つ。「これまでの日本の防災対策がいかに甘かったかを痛感した」と、その風景を目の当たりにした時を振り返る。

同プロジェクトは、「34.4mの大津波来襲予想」のニュースを機に、あきらめムードが蔓延していた町内で、その考えを改め「自分たちがやるんだ」という思いを込めて、さらに事業の実現性を高めるため、町長と担当職員に加え、食や地域おこしの専門家を交えてプロジェクトチームを組織化。「もしもの防災時に役立つもの」をつくることで産業と雇用を生み出し、人口減少を少しでも食い止めることが命題だ。

黒潮町缶詰製作所の青い看板には、「34m」と書かれた旗がシンボルマークになっている(写真撮影/藤川満)

黒潮町缶詰製作所の青い看板には、「34m」と書かれた旗がシンボルマークになっている(写真撮影/藤川満)

商品として白羽の矢が立ったのが缶詰。防災食品で安定して保存・保管できることが決め手となった。2013年には前町長が社長となり第三セクター方式で同製作所を設立。フードプロデューサーや小売りのプロなどのアドバイスをもとに商品の開発を目指した。「アドバイザーの方以外は、全員が素人。なにもかもが手探りでした」と設立当時の様子を語る友永さん。

試行錯誤を繰り返していた商品開発は、被災地での食物アレルギー対応の難しさを東日本大震災の現地で耳にしたことで、「7大アレルゲン(食品表示法で表示が義務付けられている「特定原材料7品目」。乳・卵・小麦・そば・落花生・えび・かに)不使用」へと舵を切ることになる。しかも美味しさも求めるというハードルの高さ。

大学の機関とも連携し生み出された缶詰は、前町長のトップセールスで高知県内全自治体へ売り込みをかけた。備蓄食でありながら、日常でも楽しめるそれらは400円以上するものが中心。「『高い』という批判はありましたよ」と苦笑する友永さん。とはいえ、味の良さ、洒落たラベルデザインで話題となり、メディア露出も増え、売上げは右肩上がりに。

右から「土佐はちきん地鶏ゆず塩仕立て」(650円、以下すべて税込)、「トマトで煮込んだカツオとキノコ」(475円)「カツオの和だし生姜煮こごり風」(475円)(写真/藤川満)

右から「土佐はちきん地鶏ゆず塩仕立て」(650円、以下すべて税込)、「トマトで煮込んだカツオとキノコ」(475円)「カツオの和だし生姜煮こごり風」(475円)(写真/藤川満)

例えば人気商品の一つ「土佐はちきん地鶏ゆず塩仕立て」は、缶詰めでありながら、しっかりとした地鶏の歯応えがあり、噛むほどに旨みが広がる。さらにユズの爽やかさがほんのり後を引く。そんな手の込んだ味わいが成城石井、無印良品などの有名量販店の目にもとまり、現在は全国100店舗以上で販売されるほどになった。

商品の缶詰を前にする友永さん。現在は黒糖など地元特産品を使ったスイーツの缶詰にも取り組む(写真/藤川満)

商品の缶詰を前にする友永さん。現在は黒糖など地元特産品を使ったスイーツの缶詰にも取り組む(写真/藤川満)

当初4人だった従業員は現在17人まで増え、直近の生産量は年間25万個を達成。「ある程度の雇用は生み出せた。次はメーカーとしてさらにお客様をワクワクさせるような取り組みをして行きたい」と抱負を語る友永さん。安心安全はもちろん、美味しさまで兼ね備えた新しい備蓄食の答えの一つがここにあるようだ。

引き続き少子高齢化による緩やかな人口減は進んでいるものの、2018年には転入者が転出者を上回る社会増を達成した黒潮町。防災対策だけでなく、「防災」を媒体として地域の活性化を成し遂げつつある。逆境を見事に逆手に取った成功例として、今後も取り組みに注目していきたい。

●取材協力
黒潮町
黒潮町缶詰製作所

アートで防災!? まちをつなげて災害にそなえる「東京ビエンナーレ」のプロジェクトがおもしろい!

2021年7月10日からスタートする「東京ビエンナーレ2020/2021」で進行中の「災害対応力向上プロジェクト」。一見、アートから遠いように思える防災に国際芸術祭が取り組むと言います。その理由などを建築家でこのプロジェクトチームの一色ヒロタカさんに伺いました。
江戸の町火消しに着目、アートで地域コミュニティを創出したい

東京を舞台に開催する国際芸術祭、東京ビエンナーレ(開催期間:2021年7月10日~9月5日)。世界中から60組を超える幅広いジャンルの作家やクリエイターが東京に集結し、市民と一緒につくり上げていく芸術祭です。

テーマの「見なれぬ景色へ」は、「アートの力で都市の街並みに変化を起こしたい」という思いが込められている。栗原良彰《大きい人》2020 千代田区丸の内 Photo by ただ(YUKAI)(画像提供/東京ビエンナーレ)

テーマの「見なれぬ景色へ」は、「アートの力で都市の街並みに変化を起こしたい」という思いが込められている。栗原良彰《大きい人》2020 千代田区丸の内 Photo by ただ(YUKAI)(画像提供/東京ビエンナーレ)

アーティストの力で、「あ、この景色は何だ?」と思わせる。セカイ+一條、村上、アキナイガーデン《東京型家》完成イメージ図 2019 ©セカイ(画像提供/東京ビエンナーレ)

アーティストの力で、「あ、この景色は何だ?」と思わせる。セカイ+一條、村上、アキナイガーデン《東京型家》完成イメージ図 2019 ©セカイ(画像提供/東京ビエンナーレ)

ビルの壁一面に描かれた絵画。古いオフィス街に出現した巨大なアートへの違和感は、街に対する意識の変化につながる。Hogalee《Landmark Art Girl》2020 神田小川町宝ビル Photo by YUKAI ©東京ビエンナーレ(画像提供/東京ビエンナーレ)

ビルの壁一面に描かれた絵画。古いオフィス街に出現した巨大なアートへの違和感は、街に対する意識の変化につながる。Hogalee《Landmark Art Girl》2020 神田小川町宝ビル Photo by YUKAI ©東京ビエンナーレ(画像提供/東京ビエンナーレ)

そのコンテンツのひとつ、「災害対応力向上プロジェクト」は、アートから災害にアプローチする新たな取組み。芸術祭で災害や防災をテーマしたのはなぜでしょうか。
「アートを通じて、新しい地域コミュニティを生み出すことが目的です。地域コミュニティは、災害時の コミュニティにつながります。『火事と喧嘩は江戸の華』と謳われたように、江戸の町は火事がとても多かったんです。火事の被害を食い止める消防組織である町火消しは、町人が自主的に設けたもの。江戸の防災は、地域コミュニティと深く関わっていたのです」(一色さん)

上左から時計回りに、一色ヒロタカさん、村田百合さん、渡邉莉奈さん、内藤あさひさん。2年間、街のフィールドワークや催事に参加し、住民の声を集めながら、プロジェクトに携わってきた(画像提供/オンデザイン)

上左から時計回りに、一色ヒロタカさん、村田百合さん、渡邉莉奈さん、内藤あさひさん。2年間、街のフィールドワークや催事に参加し、住民の声を集めながら、プロジェクトに携わってきた(画像提供/オンデザイン)

東京都が区ごとに作成しているハザードマップを見ると、地震だけでなく、洪水・浸水・土砂災害などさまざまな災害が予想されています。

さらに、2019年12月には新型コロナウイルスが発生し、東京ビエンナーレは2020年夏の開催が延期に。2018年の発足時から掲げてきた東京ビエンナーレのコンセプトのひとつである「回復力」が、より切実なテーマとしてアーティストに突き付けられたのです。

「地震・雷・火事・水害等を対象にしてきましたが、コロナという大災害をふまえて、現在もプロジェクトをアップデートしようと模索を続けています。コロナ禍で自分と向き合う時間が増え、リモートワークなどで生活環境も大きく変わりました。災害が起きたとき、住んでいる街で、自分がどう行動するのか意識されるようになったのです。ところが、街全体の防災計画はあっても、個人レベルの細かい対策は、分からないことが多いんですね。そこで住民一人ひとりの悩みや不安に向き合ったアプローチをしようと考えました」(一色さん)

アーティストの視点で、街の課題・関係性を「見える化」

このプロジェクトを統括する事務局は、一色さん、村田百合さん、渡邉莉奈さん、内藤あさひさんによるチームで企画・運営しています。4人は東京ビエンナーレの全会場計画を担当している設計事務所オンデザインに所属する建築家です。オンデザインでは、住宅や各種施設の設計のほか、街づくりにも積極的に取り組んできました。

なかでも3.11のあと宮城県石巻市のまちづくり団体ISHINOMAKI2.0の立ち上げに関わった経験は、今回のプロジェクトに活かされています。

ISHINOMAKI2.0は、2011年5月に設立。震災前より今より街をバージョンアップしようと活動を続けている(画像提供/オンデザイン)

ISHINOMAKI2.0は、2011年5月に設立。震災前より今より街をバージョンアップしようと活動を続けている(画像提供/オンデザイン)

「震災前の元の街に戻すのではなく、石巻を世界でいちばん面白くて新しい街にしよう! という思いで会社として取り組んでいます。地域住民と対話しながら、津波で閉じてしまったシャッター街を、新しい街につくり変えるなど10年間拠点づくりをしてきました。街は地域住民の生活の器です。建築物をつくるだけでなく、地域の課題や関係性をふまえて街全体を設計するのも建築家の役割だと考えています。地域住民の不安を発掘し、課題を『見える化』するプロセスは、アートを手掛かりに街の課題を考えていく今回のプロジェクトに通じます」(一色さん)

そこで、災害対応力向上プロジェクトでは、災害対策ではなく、「災害を受け止められる地域のコミュニティをつくる」ことを最終目標に挙げています。

2019年8月に、フィールドサーベイを神田エリアで実施し、地域住民とフィールドワークをしながら、災害につながる危険な場所をリサーチ。リスクを『見える化』する取組みがスタートしました。

一色さんほかプロジェクトメンバーが同行して行われた神田エリアフィールドサーベイの様子 2019年8月実施(画像提供/オンデザイン)

一色さんほかプロジェクトメンバーが同行して行われた神田エリアフィールドサーベイの様子 2019年8月実施(画像提供/オンデザイン)

「わたし」の不安に「わたしたち」が答えるVOICE 模型

東京ビエンナーレは千代田区・中央区・文京区・台東区を中心に、周辺の区へも滲み出しながら開催されますが、災害対応力向上プロジェクトは、千代田区を中心に展開します。住民やこのエリアを活動拠点としている方々から、ヒアリングによって拾い上げた声を視覚化した「VOICE模型&MAP」を展示の軸として制作が進んでいます。

VOICE模型&MAPには、ヒアリングから得られた課題を「 VOICE」として表出させ、展示を見に来たさまざまな方々からの「アンサー」により、参加型で課題解決を図るアプローチを試みる(画像提供/オンデザイン)

VOICE模型&MAPには、ヒアリングから得られた課題を「 VOICE」として表出させ、展示を見に来たさまざまな方々からの「アンサー」により、参加型で課題解決を図るアプローチを試みる(画像提供/オンデザイン)

「今はヒアリングの段階で、千代田区の社会福祉協議会や五軒町の町内会など、地域のさまざまな人から声を集めている最中です。個人の不安・課題(VOICE)に、地域の資産(人・スキル・物)を集め、シェアできる場になれば。どこにどんな声があるかMAPで分かるようにして、具体的な解決を模型で表現しています。例えば、『庭を囲んでいる塀が倒れたら?』という不安には、『避難路に崩れたブロックをどかす軍手が必要だ』『前回の地震で、夜間の避難は、懐中電灯があって助かった』というアドバイスが集まります。家の模型やグッズで示し、具体的に解決する手段を伝える試みです」(渡邉さん)

「地震で塀が壊れたらどうしよう」という一人の不安に対し、「歩行者を守る修繕なら区からの補助金で直せるよ」「もしもの時、足元が悪いから懐中電灯を備えておくと安全だよ」など皆からアドバイスが集まる(画像提供/オンデザイン)

「地震で塀が壊れたらどうしよう」という一人の不安に対し、「歩行者を守る修繕なら区からの補助金で直せるよ」「もしもの時、足元が悪いから懐中電灯を備えておくと安全だよ」など皆からアドバイスが集まる(画像提供/オンデザイン)

無印良品計画とのコラボ「いつものもしも、市ヶ谷」

開催中、神田五軒町と市ヶ谷に2カ所の仮設防災センターを設置する予定です。「いつものもしも、神田五軒町エリア」は、民設民営のアートセンター3331Arts Chiyoda前のビル1階のテナントスペースに期間限定の仮設拠点として設けられ、VOICE模型&MAPの展示や防災の知識を学ぶワークショップ等が行われる予定です。

「いつものもしも、神田五軒町エリア」は、空きテナントを利用し、会期中に設置される予定(画像提供/オンデザイン)

「いつものもしも、神田五軒町エリア」は、空きテナントを利用し、会期中に設置される予定(画像提供/オンデザイン)

神田五軒町と市ヶ谷の2拠点で開催(画像提供/オンデザイン)

神田五軒町と市ヶ谷の2拠点で開催(画像提供/オンデザイン)

「いつものもしも、市ヶ谷エリア」は、MUJI com武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店内に特設します。 良品計画では、毎月11日から17日までを『くらしの備え。いつものもしも。』期間とし、防災に役立つ商品をコラムと共に紹介しています。そのノウハウを活かし、東京ビエンナーレと良品計画のコラボした防災セットの展示や販売を行います。

人によって必要な防災グッズは異なる。東京ビエンナーレと良品計画のコラボした防災セットの販売のほか、それぞれに合った防災セットのつくり方を提案する予定(画像提供/良品計画)

人によって必要な防災グッズは異なる。東京ビエンナーレと良品計画のコラボした防災セットの販売のほか、それぞれに合った防災セットのつくり方を提案する予定(画像提供/良品計画)

「いつものもしも、市ヶ谷エリア」は、良品計画の店舗内に設置が予定されている。市ヶ谷には、学校やオフィスが多い。店舗を訪れる様々な年齢層が参加できる場をつくろうと企画中(画像提供/良品計画)

「いつものもしも、市ヶ谷エリア」は、良品計画の店舗内に設置が予定されている。市ヶ谷には、学校やオフィスが多い。店舗を訪れる様々な年齢層が参加できる場をつくろうと企画中(画像提供/良品計画)

「個人の声にとことん向き合うことで、街を変えていきたい。マンションに住んでいて地域コミュニティへの参加が難しいなど、自分と同じような声と出会い、『わたし』から『わたしたち』へ街を見る目が変わっていきます。東京ビエンナーレのキャッチフレーズは、『見なれぬ景色へ』。当たり前だった街の景色を変えられたとしたら、それはアートの力です。関係性によって生まれる街の魅力は、不動産価値だけではかれない街の価値です。建築家としての視点で、人や都市にアプローチして、見えないものを表出していきたいと思っています」(一色さん)

オンデザインの自主メディア「BEYOND ARCHITECTURE」では、プロジェクトに携わる人へのインタビューなど活動内容を発信している(画像提供/オンデザイン)

オンデザインの自主メディア「BEYOND ARCHITECTURE」では、プロジェクトに携わる人へのインタビューなど活動内容を発信している(画像提供/オンデザイン)

東京ビエンナーレは、今後、2年に1度開催される予定です。アートで復元・出現した地域コミュニティに関わることで、新たな「わたし」を発見できる。アートのための催事に終わることなく、市民レベルの体験を生み出そうとチャレンジが続いています。

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無印良品の“日常”にある防災、「いつものもしも」とは

●取材協力
・東京ビエンナーレ
・オンデザイン
・BEYOND ARCHITECTURE

災害時、賃貸でお隣さんは助けてくれる? 住民同士で防災計画をつくる「高円寺アパートメント」

突然ですがこの1年、自宅で防災計画を考えたり、防災訓練をしたりしましたか? 学校で行っているならいざしらず、大人になり、特に賃貸住宅で暮らしていると防災訓練を一度もしたことがない……という人も珍しくないことでしょう。でも、賃貸で住民が主体となり、防災計画を立案しているところもあるとか。今回は「高円寺アパートメント」(東京都杉並区)のワークショップの様子を取材しました。
分譲マンションでは耳にするけれど、賃貸物件ではレアな「防災計画」

地震に台風や洪水、大雪など、災害大国・日本に暮らす私たちにとって、「防災訓練」「防災計画」はおなじみの存在です。ただ、住まいが「賃貸住宅」になると、住民の参加者が少ない、設備点検で終わってしまうなどと、とたんに手薄になりがちです。地域防災計画などに携わる百年防災社の葛西優香さんによると、同社に防災計画やコンサルティングを依頼する85%は分譲住宅、つまり住民が所有している物件だといいます。

そんななか、住民が主体となって避難訓練をしようと試みをはじめたのが「高円寺アパートメント」です。もともとはJR東日本の社宅でしたが、2017年にリノベーションして賃貸住宅に。全50戸、住宅だけでなく、1階部分は店舗にもなっている建物です。

高円寺アパートメント外観。もともとJR東日本の社宅をリノベーションして誕生(写真提供/高円寺アパートメント)

高円寺アパートメント外観。もともとJR東日本の社宅をリノベーションして誕生(写真提供/高円寺アパートメント)

ジェイアール東日本都市開発がオーナーのこの物件は、運営をまめくらしが行い、住人同士の交流など関係性が育まれている住宅です。物件のコンセプトに賛同して引越してきた住民が多く、また近隣住民も利用するショップがあるため住民同士の交流も盛んで、過去にはマルシェや流しそうめん、花見などのイベントも行ってきたといいます。

高円寺アパートメントで行われた花見会の様子。コロナ前の風景ですね、なんとも平和で涙が出てきます(写真提供/高円寺アパートメント)

高円寺アパートメントで行われた花見会の様子。コロナ前の風景ですね、なんとも平和で涙が出てきます(写真提供/高円寺アパートメント)

ただ、交流があっても、持ち家に比べ住民の入れ替わりが早い賃貸住宅で、住民が主体となって防災計画を立てるというのは非常にレア。前出の葛西さんも、「賃貸住宅で防災計画を立案するのは、独立行政法人が運営する団地などでしょうか。主体者も大家さん・管理会社などで、賃貸の住民が主体になるケースは非常に珍しいです」といいます。

はじまりは「地震、大丈夫だった?」。みんな防災に関心があった!

では、なぜ住民が主体となって防災に取り組もうと思ったのでしょうか。
「はじまりは、今年2月に起きた地震(東京都杉並区は震度4)でした。当日もLINEで『大丈夫だった?』と複数の人とやりとりして、後日、対面したときにも『地震は怖かったね、何かあったときに協力したいね』という声があがったんです」と同物件の住民であり、住民同士の交流サポートなどを行うまめくらしの宮田サラさん。

普通ならそこで話が終わってしまうところですが、住民の広瀬圭太郎・志津香夫妻が声をあげ、年間のイベントとして防災のワークショップを行うことを提案します。

任意の住民が参加した作戦会議の様子(写真提供/高円寺アパートメント)

任意の住民が参加した作戦会議の様子(写真提供/高円寺アパートメント)

志津香さん自身は、「もともと私個人として防災に興味・関心があり、社会人向けの講座に参加していました。サラさんに声をかけたら思いのほか感触もよく、ほかの住民の方も興味があるようだったので、『実はみんな気にしていたんだな』と思いました」と話します。そこで縁あって百年防災社の葛西さんに声をかけ、今年5月から全3回のワークショップを開催することになったそう。

第1回目となった5月2日には発災前の防災計画、第2回目となった5月22日は発災直後の防災計画をテーマとして話し合いをオンラインで実施。同じ建物内にいながらにして、オンラインミーティングというのも不思議な気もしますが、実になごやかに行われていました。

1回目と2回目のワークショップの様子をまとめた「グラレコ」。どんなことを話したのかはひと目で分かります(写真提供/高円寺アパートメント)

1回目と2回目のワークショップの様子をまとめた「グラレコ」。どんなことを話したのはひと目でわかります(写真提供/高円寺アパートメント)

筆者も住民のみなさんにご承諾いただき、オンラインで見学させていただきましたが、「普段からはゆるふわの付き合いが大事」「被災直後の初動をどうするか」「班長など、役割を考えておこう」「子どもたちは1カ所にいると安心なのでは」「フェーズにわけて考えよう」「地域との連携はどうするか」などとアイデアが次々と出てきてびっくり。こうやって考えておくだけでも、今から備えられること/課題などが浮き彫りになり、有意義だなと痛感します。

「とはいえ、参加した世帯でいうと3割程度です。仕事や用事があって参加できない人もいらっしゃいますが、ただ、興味関心があると答えてくれたのは約9割。住民のみなさんの関心度合いの高さがうかがえます」(宮田さん)

ワークショップに参加した住民のみなさん。同じ建物内にいるのにオンラインミーティング。今どき!(写真提供/高円寺アパートメント)

ワークショップに参加した住民のみなさん。同じ建物内にいるのにオンラインミーティング。今どき!(写真提供/高円寺アパートメント)

当たり前ですが、同じ建物に住んでいるもの同士、いざというときは助けたいし・助けてほしいという関係でありたいというのは自然な感情でしょう。

「義務感のない防災」が理想!住民の入れ替わりを前提にマニュアルに

葛西さんは、今回の高円寺アパートメントの防災計画のことをこう話します。「すごい点は、住民同士の関係ができていることです。どんな人が住んでいて、職業や得意なことを把握していらっしゃるので、『こうしたらいいんじゃない?』『○○さんはどう思います?』という会話が自然に出てくる。こうした普段の関係性が防災計画にも、非常時にも大きな差になると思います」

確かに人間関係ができているからこそ、一歩進んで「助け合いたい」という気持ちになるのかもしれません。もし、賃貸で防災計画を立案しようとなっても『めんどくさい』『誰が住んでいるかよく分かからない』といった気持ちの面でのハードルが高くなりがちですよね。今回、企画に携わった広瀬圭太郎さんもその点をよく考えていて、以下のように話します。

「防災訓練や防災計画って、大切だと思っていても、どうしても『受け身』で義務感や参加している感になりがちです。でも、マルシェや流しそうめんと同じようにお楽しみ企画のなかの一つとして、防災計画があれば参加しようかなという気持ちになるはず。特別なことではなく、みんなでいっしょに・ゆるふわで考えていこうよ、というスタンスで進めていけたら」

マルシェの様子(写真提供/高円寺アパートメント)

マルシェの様子(写真提供/高円寺アパートメント)

ちなみに、ワークショップの開催費用は、住民からの任意募金を充てているそう。なんでもそうですが、今はゆるく・楽しくないと続けられないですものね。今回のワークショップは6月に3回目を実施予定ですが、その後はマニュアル化も、見据えているとか。

「2017年の初期から住み続けている人も多いですが、やはり賃貸なので住民が入れ替わることを前提に、マニュアル化して誰がきても分かるようにしておきたい。幸い、住人にはイラストが描ける人や、ライティングができる人、建築に知見のある人がいるので、より分かりやすい形で自分たちでつくっていければ」と宮田さん。

もちろん、防災計画を考えたり、わざわざワークショップに参加したりするのは面倒くさいという人も多いことでしょう。今回の高円寺アパートメントのように、賃貸住宅でも義務感なく、明るく・スマートな防災計画・防災訓練がもっともっと広まったらなあと心から願っています。

●取材協力
高円寺アパートメント
百年防災社
まめくらし

顔見知りになることで孤立・孤独をなくす防災を。渋谷でつながりの輪広がる【わがまち防災4】

2011年の東日本大震災、いわゆる「3・11」からちょうど10年。各地域で防災への関心が高まり、取り組まれるようになった。いま「地域の防災」はどうなっているのだろうか。
第4回にご紹介するのは、東京都渋谷区の「渋谷おとなりサンデー」。2017年から毎年6月を中心に開催される交流機会で、“ふだん話す機会の少ない近隣の人ともっと顔見知りになる”ことを目的にしている。こうした地域コミュニティの活性化は防災時にも役立つだろう。

世界で約800万人が参加するパリ発の「隣人祭り」

ヒントにしたのは1999年にパリで始まった「隣人祭り」。高齢者の孤独死を防ぐために住民たちがアパートの中庭に集まり、ワインやチーズを持ち寄って交流するというものだ。現在ではヨーロッパ29カ国、約800万人が参加する市民運動となっている。

渋谷区役所・区民部地域振興課の山口啓明さん(53歳)は言う。
「渋谷版の『隣人祭り』を開催しようと発案したのは現・長谷部健区長。渋谷区議時代から地域のいろんなコミュニティで“仲間を増やしたい”という共通課題があることを感じていたなかで、パリの『隣人祭り』を知り、地域内で交流の輪を広げる機会として導入したようです」

他の都心部のまちと同様、渋谷区も人口・世帯数が増加する一方で核家族化が進んでいる。転入者の多くは20代~40代で、そのほとんどが集合住宅(賃貸マンション・アパート)で暮らす。

(出典:東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計)

出典:東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計

いわば、周囲との繋がりがない状況で、結果として「家と会社との往復だけで身近に知り合いがいない若者」や「周りに相談できる知り合いがおらず、子育てに悩む夫婦」のような人々が増えているという。
「『渋谷おとなりサンデー』は、孤独死という悲しい出来事が起きる前段階の、孤独・孤立している人、もしくは孤独・孤立のリスクの高い人に向けて、まずは“誰かと知り合うきっかけを提供する”ことを目的に実施しています」(山口さん)

非常食のリゾットを食べながら防災について学ぶ

初年度は、6月第一日曜日にカフェでボードゲーム、公園でピクニック、オフィス前の道路でチョークアート、地域の清掃活動など、区内の39カ所で交流機会が開かれた。その後、年を経るごとに交流機会の数は増えている。

(写真提供/ファイヤー通りバーチャル町会)

(写真提供/ファイヤー通りバーチャル町会)

(写真提供/渋谷区役所・区民部地域振興課)

(写真提供/渋谷区役所・区民部地域振興課)

防災面では、東京消防庁や陸上自衛隊の協力のもとで災害体験や消化体験などをVRで体験できる「渋谷防災フェス」と連動する形で、「渋谷おとなりサンデー~防災編~」を開催。2019年度は非常食のリゾットを食べながら防災について学んだ。

(写真提供/渋谷区危機管理対策部防災課)

(写真提供/渋谷区危機管理対策部防災課)

しかし、2020年度は新型コロナウイルスの影響で人が集まるイベントは軒並み中止。代わりに、オンライン会議ツールZoomを通じて、子育て、高齢者福祉、グルメなどについての情報交換が行われた。

マルシェの開催を機に地域の飲食店を救う動きも

なお、渋谷区が主催するのは6月のみ。その他は「おとなりサンデー」の旗印さえ掲げれば誰でも自由に交流機会を主催できる。山口さんが強く印象に残っているのは、2019年度に開かれた「代々木深町フカマルシェ」だという。

(写真提供/代々木深町フカマルシェ実行委員会)

(写真提供/代々木深町フカマルシェ実行委員会)

「富ヶ谷の代々木深町小公園で、生産者とつながりを持つ地域のお店が出店し、住民が集うというマルシェで、子育て中の母親たちが『身近な地域でつながりをつくりたい』という思いから、地域のお店、子育てサークル、企業、町内会などに声をかけて実現した交流機会です」
渋谷区が行ったのは、企画内容の相談対応と、保健所や公園使用許可の申請サポートのみで、それ以外は主催者任せだ。

(写真提供/渋谷区役所・区民部地域振興課)

(写真提供/渋谷区役所・区民部地域振興課)

さらに、このマルシェの開催で“知り合いの輪“が広がり、コロナ禍で苦境に立たされている地域の飲食店を支えるための、代々木・富ヶ谷・上原エリアのテイクアウト・デリバリーMAPの立ち上げにもつながった。さまざまな意味で「渋谷おとなりサンデー」のモデルケースだと山口さんは振り返る。
「渋谷おとなりサンデーを実際に始めてみて、一番関心が高かったのが小さな子どもを持つ世帯。子育て世帯を中心に、いかに参加しやすい仕組みにしていくかが今後の課題ですね」

昨年末から長崎版「隣人祭り」もスタート

今年の6月はコロナを巡る状況を見ながら、リアルとオンライン両方の交流機会の開催を呼びかけるそうだ。いずれにせよ、集まって交流することがためらわれるなか、各地で「人とのつながりの希薄化」や「関係性の分断」が起きているのも事実。
「生活や子育ての悩みなどを誰にも相談できず、不安や孤独を感じる人がいる一方で、新しい生活様式に合わせて新たな活動を始める人もいます。『渋谷おとなりサンデー』では、コロナ禍におけるそのようなコミュニティ活動を引き続きサポートしていく予定です」
なお、今年で5年目を迎える「渋谷おとなりサンデー」だが、全国の自治体から問い合わせが来ている。その中のひとつ、長崎市では昨年から「ながさき井戸端パーティー」という長崎版「隣人祭り」を始めた。こうして、地域のコミュニティづくりのノウハウは広がっていく。
山口さんによれば、「渋谷区は意外と町内会の活動が盛んで、笹塚、初台、千駄ヶ谷あたりはイベントやお祭りがすごく盛り上がる」という。とくに千駄ヶ谷は商店街と町内会のタッグが強力で、オンラインで盆踊りを開催するなど、柔軟な思考でコロナ禍を乗り切ろうとしている。

(写真提供/千駄ヶ谷大通り商店街振興組合)

(写真提供/千駄ヶ谷大通り商店街振興組合)

渋谷区のような都心部はマンションに住む単身者や核家族が多く、人が孤立しやすいイメージがある。しかし、一方でつながりづくりへの感度も高いことが伝わってきた。どこに住んでいても、災害時に頼りになるのは“隣人”。自分が住む街でのつながりも、関わり方ひとつで見え方が変わってくるかもしれない。

●取材協力
渋谷区役所・区民部地域振興課

新築マンション購入で水害が心配! 入居前の防災対策が画期的【わがまち防災3】

2011年の東日本大震災、いわゆる「3・11」からちょうど10年。各地域で防災の取り組みが生まれ、取り組まれるようになった。いま「地域の防災」はどうなっているのだろうか。

第3回にご紹介するのは新築マンションの「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」。防災対策に取り組む管理組合が発足するのは入居開始から約半年後だが、同マンションではディベロッパーが音頭を取って“まちとの共生”を含めた防災対策を進めている。果たして、その内容とは?
防災対策を担当する管理組合の発足を待たずに始動

「イニシア日暮里アベニュー」は2021年1月、「イニシア日暮里テラス」は2021年2月、それぞれ竣工した新築マンション。JR山手線・日暮里駅の東側の近接するエリアに建つ。

イニシア日暮里テラス 完成予想図(画像提供/コスモスイニシア)

イニシア日暮里テラス 完成予想図(画像提供/コスモスイニシア)

4駅8路線が利用可能で、日暮里の繊維街や下町情緒あふれる「夕焼けだんだん」も近い。計99戸は順調に販売が進み、「イニシア日暮里アベニュー」は2月から入居を開始しており、「イニシア日暮里テラス」は3月下旬から入居が始まる。

これまでも、ディベロッパーがマンション内に共用の備蓄倉庫を設けたり、各戸に防災グッズを配布したりといった事例はある。しかし、管理組合の発足を待たずに防災対策を進めるケースや地区防災計画の作成をディベロッパー主導で行うのは珍しい。

ディベロッパーは東京都港区に本社を置くコスモスイニシア。同物件を担当する田脇みさきさんに、今回の取り組みの背景を聞いた。

田脇みさきさん(写真提供/コスモスイニシア)

田脇みさきさん(写真提供/コスモスイニシア)

「モデルルームのご来場者様と接していると、頻発する未曾有の災害に対して不安視する声が多いんです。とくに、台風や豪雨による水害はハザードマップも公表されていて、2018年の西日本豪雨もハザードマップ通りに浸水したというニュースも目にしました」

荒川区のハザードマップ。「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」は浸水深0.5m~3.0m未満(1階の床から1階の天井までつかる程度)想定地域(荒川区HPより)

荒川区のハザードマップ。「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」は浸水深0.5m~3.0m未満(1階の床から1階の天井までつかる程度)想定地域(荒川区HPより)

とはいえ、マンションの購入を考えている人々は、こうした不安を漠然と抱えているしかない。その対策を明確に提示するのが、「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」の取り組みの目的だという。

田脇さん自身も社内の防災セミナーに参加して防災に対する意識が変わった。「備えることの重要性は分かっているが、災害なんてそうそう身近に起こるものじゃない」。そう思っていたが、セミナーを通じて災害時の具体的な状況を学んだことによって、当事者意識が芽生えたそうだ。非常用ライトや簡易トイレも鞄に入れて持ち歩くようになった。

契約者向けの「防災セミナー」をオンラインで開催

では、「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」の防災対策とはどのようなものか。まず、エントランスの共用部分には防災倉庫があり、そこには「簡易トイレ」「救急箱」「トランシーバー」「発電機」「カセットガス」「レインポンチョ」「備蓄ラジオ」などの防災備品が入っている。

百年防災社にも防災倉庫の中身をチェックしてもらい、準備を進めた(写真提供/コスモスイニシア)

百年防災社にも防災倉庫の中身をチェックしてもらい、準備を進めた(写真提供/コスモスイニシア)

さらに、揺れを感じるとセットした収納扉に自動でロックがかかり、収納スペースの中身が落ちてこないようにする「耐震ラッチ」や、地震の際にドアが変形して開かなくなることを避けるため、ドアに接触しないように枠が変形する「耐震枠」も各戸に導入している。

耐震ラッチ(写真提供/コスモスイニシア)

耐震ラッチ(写真提供/コスモスイニシア)

耐震枠の玄関ドア(画像提供/コスモスイニシア)

耐震枠の玄関ドア(画像提供/コスモスイニシア)

しかし、これは他社を含む従来のマンションでもやってきたこと。ここ独自の取り組みとはどのようなものだろうか。

「まず、昨年11月にご契約者様向けの『防災セミナー』をオンラインで開催しました。内容については地域の防災計画を作成する百年防災社様に監修を依頼しています」

19世帯、31人が参加したというセミナーの内容は「マンション防災〇×クイズ」「荒川区の被災想定」「マンション防災のポイント」「グループディスカッション」など。

被災想定に関しては、荒川区の地域防災計画による推測データを引用した。それによれば、冬の18時に震度6強の首都直下型地震が起きた場合の荒川区の被害は以下のようになる。

倒壊家屋7217棟、地震火災5521棟、停電率48.7%、断水率58.3%、通信不通15.1%、ガス支障率52.5%。さらに、荒川氾濫時は0.5~3mの浸水を想定している。

「マンションの場合は在宅避難が基本です。こうしたデータを踏まえて、7日分の食料・水、生活必需品の備蓄、電力などの確保の重要性をお伝えしました。グループディスカッションでは、4~5人のグループに別れていただき、セミナーの感想や在宅避難で取り組みたいことなどを共有しています」

さらに、マンション防災にあたっては「住民同士や地域とのつながり」が重要だということも入居予定の住民に訴えた。今後は、町内会とマンション住民が共同で地区防災計画も作成する予定だ。町内会の賛同はすでに得ており、あとは進めるだけ。作成会議は4月から始まるが、セミナー参加者の76.9%が「地区防災計画の作成に参加したい」と回答した。

まちとつながっておくことで助かる命がある

新たに街に入ってくる分譲マンションの住民、のちにマンション管理組合となる側が、元から住む町内会を巻き込んで防災対策を考える試みもなかなか珍しい。マンション住民は在宅避難が基本なのに、なぜ町内会とのつながりが重要なのだろう。

「例えば、行政から地域への支援物資はすべて避難所に届けられます。でも、マンションにお住まいの方はその情報を得る術がありません。それに、避難所を運営しているのが町会の役員の方が多く、特に切羽詰まった状況下では限られた物資をどうしても顔見知りに優先して渡したい心情が働くものです。日ごろから接点をつくっておかないと、足を運んだところで、『あなた、誰?』となってしまいます。大げさに言えば、町とつながっておくことで助かる命があるということです」

「イニシア日暮里テラス」の共用ラウンジイメージ写真(写真提供/コスモスイニシア)

「イニシア日暮里テラス」の共用ラウンジイメージ写真(写真提供/コスモスイニシア)

管理組合が発足後には「マンション防災マニュアル」の作成に取り掛かる予定だ。在宅避難となるマンションは住民同士の共助がより必要となる。その際の役割分担や初期行動について協議するという。

「この取り組みが成功したら、今後の新築マンションでも取り入れたい」と田脇さん。

まちとマンションがつながることで、防災対策の強度は大きく増すだろう。マンションの住民は災害時の安心材料を得られる。高齢化が進む町内会に若い住民が加わることは地域の活性化につながる。まちとマンションのあり方を考える良い事例となりそうだ。

●取材協力
イニシア日暮里プロジェクト(株式会社コスモスイニシア)
百年防災社

愛する地元は自分たちで守る! 防災エキスパートの育成が亀有で始まる【わがまち防災2】

2011年の東日本大震災、いわゆる「3・11」からちょうど10年。このタイミングで「地域の防災」をテーマに具体的な活動事例を取材した。

第2回にご紹介するのは「亀有共助プロジェクト」。これは、葛飾区亀有エリアでアロマや健康や育児に関する講座を主宰していた小西昭美さん(37歳)が“防災エキスパートパパ・ママ”を育成しようと立ち上げたものだ。

本格的なスタートは今年の4月になるという。今回は、そんな小西さんに亀有への愛と「防災の輪」の広げ方について聞いた。

ママ向けの講座を始めたのは「子どもが大好きだったから」

今回のプロジェクトのテーマは100%、「防災」。小西さんは亀有エリアのママたちに向けてアロマや環境に関する講座を開いていたが、同時に多くの人から防災に対する不安の声も聞いていた。

小西さんがママたちを対象とした講座を始めたのは、「子どもが大好きだったから」。独身時代に「子育てアドバイザー」の資格を取るほどの情熱で、当時も子どもができた今も、人生のテーマは「子どもの発達と親子関係」だという。

西亀有にあるGreenroom&Kitchen茶々というカフェスペースで開催していたアロマ講座の様子(画像提供/亀有共助プロジェクト)

西亀有にあるGreenroom&Kitchen茶々というカフェスペースで開催していたアロマ講座の様子(画像提供/亀有共助プロジェクト)

そんなタイミングで出会ったのが、前回の記事にも登場した百年防災社代表の葛西優香さん(34歳)だ。地域の防災計画を推進する、いわば“防災のプロ”だ。

葛西さんは、かつしかFMの『かつぼうそなえチャオ!』という防災番組のパーソナリティーを務めている。この番組に小西さんが出演したのは昨年7月。

「番組の最後に、葛飾区民がリレー形式で感想を話す『防災の輪』という枠があって、私のお友達からバトンが回ってきたんです。それがきっかけで葛西さんと防災トークをするようになり、防災は地域との連携が大事だなと感じるようになりました」

ラジオで防災のプロとしてトーク中の葛西さん(画像提供/百年防災社)

ラジオで防災のプロとしてトーク中の葛西さん(画像提供/百年防災社)

避難所を運営するカードゲームを体験して気付いたこと

その後2020年12月に、小西さんは百年防災社が開発中のカードゲームの会に誘われた。

「内容は、みんなで協力し合って避難所を運営するというもの。まず、鍵がないのでいろんなツテをたどって町内会の会長から鍵を受け取るところから始まり、押し寄せる避難者に対応するんです。みなさんと一緒に頭をフル回転させてとても楽しかったです。同時に、地域や町内会と連携する『共助』の重要性にも気付かされました。その日のうちに『亀有deみんなで守る共助』というLINEグループをつくり、自分たちにできることは何かと考え始めることになりました」

カードゲームは今年の4月末に完成予定(画像提供/百年防災社)

カードゲームは今年の4月末に完成予定(画像提供/百年防災社)

自分たちにできること――それは例えば、備蓄。小西さんの防災に対する意識は高いものの、まだいざというときの備蓄態勢は整っていない。今後、葛西さんの備蓄品を参考にしながら買いそろえたいという。

現在の防災備蓄は水、食料、簡易トイレのみ(画像提供/亀有共助プロジェクト)

現在の防災備蓄は水、食料、簡易トイレのみ(画像提供/亀有共助プロジェクト)

一方、防災の専門家である葛西さんは「いつも鞄に入れて持ち歩くもの(ヘッドライト、ビニール袋、トイレ、マウスピース、非常笛など)」、「車での移動が多いので車載用」、「逃げる際のリュック(背負って走れる重さ)」と、いつ災害が起きても対応できる万全の態勢を取っている。

こちらは「鞄に入れて持ち歩く防災グッズ」(画像提供/百年防災社)

こちらは「鞄に入れて持ち歩く防災グッズ」(画像提供/百年防災社)

葛西さんとの出会いを機に、防災活動は地域との繋がりが大事だと気付いた小西さん。近い将来、地元の町会に入るつもりだ。

愛する町だからこそ、防災への意識を高めておきたい

小西さんは、地元・亀有を愛している。

「妊娠したタイミングで引越してきたんですが、本当に子育てがしやすい。遊具が充実している公園が近くにいっぱいあって、スーパーに行けば、素材にこだわったちょっと意識の高い商品が並んでいます(笑)」

亀有を代表する商店街「ゆうろーど」(画像/PIXTA)

亀有を代表する商店街「ゆうろーど」(画像/PIXTA)

災害時の広域避難所にも指定されている上千葉砂原公園(画像/PIXTA)

災害時の広域避難所にも指定されている上千葉砂原公園(画像/PIXTA)

お隣の足立区だが「お散歩圏内」の大谷田南公園(画像/PIXTA)

お隣の足立区だが「お散歩圏内」の大谷田南公園(画像/PIXTA)

また、同じエリアで出会ったパパ・ママたちは、自然派の子育て、現在の政治、そして防災について熱心に語り合える貴重な存在だ。

「防災について言えば、それぞれが問題意識を持って考えていましたが、それらを繋げる場所がなかった。さっきのLINEグループもそうですが、まずは顔見知りになっておくことが重要だと思います」

全講座を受講した人は「防災エキスパートパパ・ママ」に認定

4月からは「自助力」「共助力」という2つのテーマでさまざまな防災講座を開催する予定だ。申し込みは先着順で、密を避けるために1回あたり会場に5名ずつという制限も設けた。

ここに「公助力(行政との連携)」も加わる予定だ(画像提供/亀有共助プロジェクト)

ここに「公助力(行政との連携)」も加わる予定だ(画像提供/亀有共助プロジェクト)

小西さんの専門分野であるアロマ講座も(画像提供/亀有共助プロジェクト)

小西さんの専門分野であるアロマ講座も(画像提供/亀有共助プロジェクト)

「ママたちに向けてアロマ講座をやってきた経験から、例えば避難所でアロマを体験してもらえれば傷や火傷に対応できたり、除菌もできますし、リラックス効果もあるので、感情の切り替えもできる。6月から8月にかけて予定している講座は、そのシミュレーションなんです」

防災の準備に必要な備蓄品について知ることから始まり、最終的には町会や地域の高齢者も一緒になって避難所運営を学ぶプログラムとなっている。

1年をかけて全講座を受講した人は「防災エキスパートパパ・ママ」に認定。ここで培った「自助力」「共助力」のノウハウは別のパパ・ママたちに伝えられるとともに、そこからさらに拡散してゆく。

「テーマ縁」で形成されるパパ・ママ友コミュニティ

小西さんとともに講座を企画する百年防災社の葛西さんは言う。

(画像提供/亀有共助プロジェクト)

(画像提供/亀有共助プロジェクト)

「近所のコミュニティ、すなわち縁が生まれる背景には、地縁、テーマ縁、血縁、学校縁があると思います。小西さんの『亀有共助プロジェクト』は、まさに防災というテーマでつながる“テーマ縁”で形成されるパパ・ママ友コミュニティですね」

アロマ縁、環境縁、そして葛西さんのラジオに出演したことを機に生まれた防災縁。各エリアにいるというパパ・ママ友コミュニティに加えて、今後、町会との繋がりも深くなれば防災講座もより深く、実践的になるだろう。

いろんな縁を結んでいた小西さん。それが、結果的に地域を守る防災につながろうとしている。ちょっとした縁をきっかけに起こした行動から新しい防災の芽が生まれる。これは、どの地域にも起こり得ることかもしれない。

●取材協力
亀有共助プロジェクト
百年防災社

海抜0m地帯に住む親だから。助け合える地域のつながりづくりを【わがまち防災1】

2011年の東日本大震災、「3・11」からちょうど10年。各地域で防災の取り組みが生まれ、取り組まれるようになった。いま「地域の防災」はどうなっているのだろうか。

第1回に紹介するのは「ハハモコモひろば」。東京の葛飾区を中心に江戸川区、江東区と広いエリアで親子コミュニティを形成している。いずれも海抜0m地帯ゆえ、防災意識が高いパパ・ママが多い。今回は、代表のナオさん(42歳)にいざというときに周りの人と助け合う“共助”にもつながる、知り合いづくりの取り組みについて聞いた。

3・11で困ったのは乳児用のミルクをつくるための水問題

「3・11といえば、金町浄水場の水道水から1kmあたり210ベクレルという高い放射性ヨウ素が出たんです。それまで、乳児のミルクをつくるのに水道水を使っていたんですが、当時は焦ってミネラルウォーターを探し回りました」

葛飾区、江戸川区、江東区の全域に給水する金町浄水場(画像提供/pixta)

葛飾区、江戸川区、江東区の全域に給水する金町浄水場(画像提供/pixta)

区が備蓄していた水を配布したり、西日本の親戚が送ってくれたりと、結果的には何とか乗り切った。しかし、災害に備えること、そしていざというときに助け合えるような知り合いを日ごろからご近所でつくっておくことの重要性を知った経験だったという。

その知り合いづくりのきっかけになればと、ナオさんは地域でやっているイベントに参加してみることにした。

「ハハモコモひろば」の前身は2009年に発足した「母の会」である。ナオさんは2010年に出産したタイミングで、保健所が主催する乳児の会に出席。そこで知り合ったママさんに「母の会」の存在を教えてもらい、さまざまなイベントに参加するようになった。
「母の会」は2015年に『ハハモコモひろば』に名称を変更し、2012年からスタッフ加入したナオさんが昨年から代表を務めている。

オンラインで人気だった「おうちプレようちえん」2012年、「母の会」時代に開催したクリスマスイベント(写真提供/ハハモコモひろば)

2012年、「母の会」時代に開催したクリスマスイベント(写真提供/ハハモコモひろば)

「主な活動内容は、ママ向けや親子向けの教室を開催したり、親子で楽しめるワークショップを集めたフェスのようなイベントを行ったりしています。文字どおり、“母も子も”楽しめるイベントが多く、もちろんパパさんも参加可能です」

スタッフとイベント参加者(画像提供/ハハモコモひろば)

スタッフとイベント参加者(画像提供/ハハモコモひろば)

内容は必ずしも防災につながることばかりではなく、地域の防災に重要なのは、“いざ”というときに助け合えるように関係性を高めておくこと。そのため、コロナ禍でもオンラインイベントを途切れさせることはなかった。

昨今は会議やミーテイング、保育園・幼稚園の説明会、塾の保護者会などもオンラインツールのZoomで行われているが、使い方が分からないというママも多い。そんなママたちと楽しくお喋りをしながら「Zoomの使い方」をやさしく教えるイベントだ。

2020年4月から「Zoom」を使ってさまざまなオンライン講座を開催

2020年4月から「Zoom」を使ってさまざまなオンライン講座を開催

また、2020年6月からZoomを使って毎月開催している「おうちプレようちえん」。2~3歳の子どもが入園前に体験する「プレ幼稚園」の雰囲気を家で体験してもらおうと、幼稚園ママのスタッフと元保育士のママで企画したものだ。

子どもの名前を呼んで出席も取る「おうちプレようちえん」(画像提供/ハハモコモひろば)

子どもの名前を呼んで出席も取る「おうちプレようちえん」(画像提供/ハハモコモひろば)

「スタッフは、“年齢がバラバラ”“子どもの学校も別々”“同じ町内に住んでいるわけでもない”と、本来であれば出会わなかったかもしれない人達。奇跡的な繋がりだと思っています。地域やパパ・ママたちに何か貢献したい!という、共通の思いを持って参加しているので、時には本気でディスカッションすることもあります。大人になって出会えた“最高の仲間”だと思います」(ナオさん)

葛飾区は防災イベントに若いパパ・ママを呼び込みたかった

こうしたゆるやかなつながりづくりのなかで、防災の講座やイベントも行っている。

2016年からは葛飾区と組んで「パパママ防災講座」「パパママ水害講座」などを実施してきた。ナオさんが「かつしかFM」の番組に出演したことをきっかけで危機管理課の職員と繋がったという。

「予想に反して防災意識が高いパパさんは多くて、『パパママ水害講座』もパパさんしか参加しなかった年があります」

2018年に行った「パパママ水害講座」の様子(写真提供/ハハモコモひろば)

2018年に行った「パパママ水害講座」の様子(写真提供/ハハモコモひろば)

「葛飾区としては防災イベントに年配の方は来るけど、子育て中のパパ・ママ世代がなかなか来てくれないという悩みがあったようです。こちらも防災や水害時の対応に関する区の取り組みを聞きたかったので、需要と供給がちょうどマッチしました」

葛飾区、江戸川区、江東区の多くは海抜0m地帯。豪雨の際の水害が気になるところだ。

「2019年の台風(令和元年東日本台風)の時は避難したスタッフもいました。パパママ水害講座で、避難の考え方を葛飾区危機管理課の方に教えていただいていたので、自治体からの情報を確認しながら判断することができました」

荒川が氾濫すると葛飾区の西部地域に水が流れ込む(画像提供/葛飾区)

荒川が氾濫すると葛飾区の西部地域に水が流れ込む(画像提供/葛飾区)

行政と協働しようとする姿勢に“防災のプロ”も注目

防災に関する情報を発信し続けている“防災のプロ”、百年防災社。代表の葛西優香さん(34歳)も「ハハモコモひろば」の活動に注目している。

「さまざまな防災講座を設けるとともに、行政と積極的に関わって協働しようとする姿勢も感度が高いと思います。代表のナオさんは思いついたことをすべて行動に移す推進力を持っており、その後も地域と積極的に繋がっていくパパ・ママさんたちを輩出してきたコミュニティですね」

ナオさんたちは、先日も葛飾区主催の「(女性のための防災講座」災害時のトイレ・衛生対策」に広報協力したうえで、講座にも参加した。自宅に災害時用の簡易トイレはあるが使ったことはない。実際に使用してみることで、具体的なイメージができたという。

「災害時のトイレ・衛生対策」(画像提供/葛飾区)

「災害時のトイレ・衛生対策」(画像提供/葛飾区)

こうした活動を通じて、ナオさんをはじめ、参加者のママさんたちの防災意識はさらに高まっていった。防災対策に関する知識も養われたという。

例えば、実際に、ナオさんも簡易トイレ以外に「非常食はローリングストック法で備蓄」「上着は、普段から防水力のあるレインウェアにする」「外でバッテリーが切れたときのために、携帯電話は2台持ちにしてモバイルバッテリーも常に持ち歩く」などの防災態勢を整えた。

簡易トイレもそうだが、トイレットペーパーも備蓄しておくに越したことはない。ナオさん宅では、通常より数倍長い「長巻きトイレットペーパー」を何ロールか常備している。昨年、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で店からトイレットペーパーが消えたときも、とくに困らなかったそうだ。

これらの商品は生協などで買っている(画像提供/ハハモコモひろば)

これらの商品は生協などで買っている(画像提供/ハハモコモひろば)

長く続けるコツは「自分たちが楽しむ」こと

実は、こうした地域コミュニティは「できては消え、できては消え」ていくそうだ。長く続けるコツをナオさんに聞いた。

「コミュニティをつくるのは簡単ですが、継続させるのが難しい。一番大事なのは、自分たちが楽しむことを忘れず、やりたいことをやるということじゃないでしょうか。例えば、ママたちの間で流行しているハンドメイド講座があっても、私たちがピンとこなかったときには、無理に手を出しませんでした。スタッフはみんなボランティアでやっていて、本業もあったり、子育てもしているママです。楽しさを失ってしまうとバランスが崩れて続かないと思います」

ナオさんたちの活動の軸は「ママたちを元気づけたい!」という思い。さまざまなイベントを通じてママたちが元気になり、地域が活性化し、そして防災意識が高まる。この好循環が、心地よいコミュニティづくりへとつながっている。

防災をメインとしていなくても、こうしたつながりづくりが結果的に地域の防災につながる。自分の住む街にどんな自治会や地域のコミュニティがあるか、見直してみてもいいかもしれない。

●取材協力
ハハモコモひろば
百年防災社

第2土曜に船橋でいっせいに掲げられる「無事ですタオル」。コトの経緯を聞きに行った

先日、飲みの席で興味深い話を聞いた。

「友だちが千葉県の船橋市に引越したんだけど、毎月第2土曜日に『無事です』と書かれたタオルを家の外に掲げるというルールがあるんだって」

町中に住人の無事を告げるタオルがはためく光景。見てみたい。さっそく、現地に行ってこの目で確かめてきた。
「掲げる地区」に入ったが一向に現れない

調べてみると、同じ船橋市でもこれを実践しているのは咲が丘地区だけらしい。


1丁目から4丁目まである

新宿駅から電車を乗り継いで、約1時間。最寄りの新京成線二和向台駅に到着した。

船橋市の北西部に位置し、次の駅は鎌ケ谷市になる(写真撮影/石原たきび)

船橋市の北西部に位置し、次の駅は鎌ケ谷市になる(写真撮影/石原たきび)

さっそく歩き出す。

皆さん無事かな(写真撮影/石原たきび)

皆さん無事かな(写真撮影/石原たきび)

すぐに咲が丘地区に入ったが、「無事ですタオル」は一向に現れない。あれ?

無事じゃないの?(写真撮影/石原たきび)

無事じゃないの?(写真撮影/石原たきび)

タオルを掲げるスタイルは多種多様

歩くこと数分。あった。「無事ですタオル」。無事だった。

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

ハンガーにかけて玄関に掲げるスタイルが主流のようだが、それ以外のバリエーションもあった。

前面に押し出すパターン(写真撮影/石原たきび)

前面に押し出すパターン(写真撮影/石原たきび)

高さで勝負するパターン(写真撮影/石原たきび)

高さで勝負するパターン(写真撮影/石原たきび)

発案者は防災部会会長の内田さん

「無事ですタオル」がある風景を堪能したのちにお会いしたのは、咲が丘中央自治会防災部会会長で、この試みの発案者・内田祐至さん(82歳)。

なんと、同地区中央自治会町会長の門倉忠克さん(66歳)と防災部会副部会長の小林雅人さん(59歳)も呼んでくれていた。

左から小林さん、内田さん、門倉さん(写真撮影/石原たきび)

左から小林さん、内田さん、門倉さん(写真撮影/石原たきび)

内田さんが言う。

「防災を意識した一番最初のきっかけは1995年に起きた阪神・淡路大震災。私、川崎重工で働いていて、あっちには工場がいくつもある。東京から何度も救援に行きましたよ」

その後、咲が丘中央自治会の中に防災部会を立ち上げ、2017年から防災用品会社の案内書で知った「無事ですタオル」を導入する。

自治会費で製作し、185世帯すべてに配布した(写真撮影/石原たきび)

自治会費で製作し、185世帯すべてに配布した(写真撮影/石原たきび)

「茨城県常総市では市全体で採用しており、NHKで大々的に放映されました。この取り組みを始めるか否かは、ひとえに防災部会長の熱意によって決まります」

この活動は咲が丘地区の中央自治会のみ

そういえば、内田さん。咲が丘エリアに入っても「無事ですタオル」になかなかお目にかかれなかったんですが。

「咲が丘にはいくつかの自治会があるけど、これをやってるのは中央自治会だけだから(笑)」

なるほど、そういうことか。

消火訓練で各自治体が集合した際の写真(写真提供/咲が丘中央自治会)

消火訓練で各自治会が集合した際の写真(写真提供/咲が丘中央自治会)

なお、この試みは有事の際に備える“訓練”だ。実際に震度5弱以上の地震が起きた際、「無事ですタオル」を掲げることによって外部から安否確認がしやすくなり、救出作業もスムーズに行える。

内田さんが作成したマニュアル(写真撮影/石原たきび)

内田さんが作成したマニュアル(写真撮影/石原たきび)

「もともと、狭い町内だから顔を知らない人はいないけど、この活動を始めたことで助け合いの精神がさらに強くなったと思う」

内田さんは防災リーダーの全国大会に千葉県代表で出場したことも(写真撮影/石原たきび)

内田さんは防災リーダーの全国大会に千葉県代表で出場したことも(写真撮影/石原たきび)

「命の笛」は800m先まで聞こえるらしい

昨年の台風で風害に見舞われると、すぐに防災マニュアルをつくって配布した。

風で吹き飛ばされた物置(写真提供/咲が丘中央自治会)

風で吹き飛ばされた物置(写真提供/咲が丘中央自治会)

「今年は建物の下敷きになったり、閉じ込められたときに自分の存在を知らせる『命の笛』も配布しました。アメリカの沿岸警備隊が使っているモデルで800m先まで聞こえるんだよ」

船橋北エリアの地域新聞に掲載された(写真提供/咲が丘中央自治会)

船橋北エリアの地域新聞に掲載された(写真提供/咲が丘中央自治会)

地区内には小学校がひとつあるが、その学校だよりに載っている情報も共有する。

船橋市立八木が谷小学校の学校だより(写真提供/咲が丘中央自治会)

船橋市立八木が谷小学校の学校だより(写真提供/咲が丘中央自治会)

今年はコロナの影響で開催されなかったが、地域には昔から続くお祭りもある。例えば、自治会主催の夏祭り盆踊り大会では船橋市の現市長・松戸徹さんも太鼓を叩いた。

子どもたちに混じって太鼓を叩く市長(写真提供/咲が丘中央自治会)

子どもたちに混じって太鼓を叩く市長(写真提供/咲が丘中央自治会)

カレンダーに印を付けているから出し忘れはない

その後、内田さんらはふだん第4土曜日に行っている防犯パトロールに出発。以前は年に数回、ひったくり事件などが起きたが、今はまったくないそうだ。

我ら「無事です3銃士」(写真撮影/石原たきび)

我ら「無事です3銃士」(写真撮影/石原たきび)

小林さんが言った。

「親の代からこの辺に住んでいるから、やっぱり愛着はありますよ。内田さんは80歳を超えても一生懸命やっているでしょ。その姿を見て、私ぐらいの世代がこういう活動をちゃんと引き継がないと、と思っています」

3人は1軒の家の前で立ち止まった。あ、「前面に押し出すパターン」の家だ。インターホン越しに呼びかけると、ご主人が出てきた。

「おお、皆さんおそろいで(笑)。『無事ですタオル』? カレンダーに印を付けているから出すのを忘れることはないですよ。僕は朝6時に出すんだけど、それを見た他の家がぽつぽつ出し始める感じですね」

中央自治会では避難誘導班長を担当する長島さん(写真撮影/石原たきび)

中央自治会では避難誘導班長を担当する長島さん(写真撮影/石原たきび)

空き巣狙いから住民を守るため、タオルは16時に取り込む。帰宅がそれより遅くなる家は掲示しないことになっているそうだ。

門倉さんが「ここ、ウチです」(笑)

再び歩き始めると、またもや「前面に押し出すパターン」の家を発見。すると、門倉さんが「ここ、ウチです(笑)」

さすが、意識が高い(写真撮影/石原たきび)

さすが、意識が高い(写真撮影/石原たきび)

そんな門倉さんが、とある建物を紹介してくれた。

「私らを含む3つの自治会の役員や班長が会議をする咲が丘三稜会館です。決まったことは回覧板に記して回す。この建物は私が引越してきた昭和50年代半ばに建ったものだから、かなり古いです」

40年ほど前に建てられたようだ(写真撮影/石原たきび)

40年ほど前に建てられたようだ(写真撮影/石原たきび)

この訓練が無駄になるのが一番

というわけで、船橋市の一画には毎月第2土曜日に「無事ですタオル」をいっせいに掲げるエリアがあった。

最後に小林さんが、「一番いいのは、何も起こらなくてこの訓練が無駄になることです」と言った。

今日も無事です(写真撮影/石原たきび)

今日も無事です(写真撮影/石原たきび)

8割が備えなし! コロナ禍の今こそ考えておきたい災害時のトイレ問題

新型コロナウイルスが耳目を集めていますが、地震や大型台風などの自然災害への備えも忘れずにしておきたいところ。ところで、みなさんは災害発生時の「トイレ問題」について考えたことはありますか? 今回は災害時の「トイレ問題」と自身での備蓄・対策についてご紹介しましょう。
今は自宅避難が増える「コロナ時代」。トイレの備えは必須!

「新型コロナウイルス感染症が流行している今こそ、トイレの備えが大切なんですよ」と、その重要性を話してくれたのは、災害時のトイレ問題にも詳しいNPO法人日本トイレ研究所の加藤さん。加藤さんは環境、文化、健康などさまざまな観点でトイレを研究し、トイレを通して社会をより良い方向へ変えていこうと活動しているトイレ研究の第一人者です。

確かに、新型コロナウイルスの感染リスクを考えると、浸水など命の危険が迫るような事態でない場合は、学校などの避難所で集団生活を送るのではなく、「自宅避難」「在宅避難」を選ぶ人は多いことでしょう。筆者宅のように小さな子ども、動物がいるケース、高齢者がいるケースであれば、なおのこと「自宅避難」を選びたくなるもの。ただ、水害・地震などの大きな自然災害が発生すると電気・ガス・上下水道のインフラも被災するので、当然、トイレも使えなくなります。

では、避難は自宅で、トイレは避難所に設置される仮設トイレで済ますのでは、ダメなのでしょうか。

「避難所で設置されるトイレというと、イベントや工事現場で設置される『仮設トイレ』をイメージする人が多いことでしょう。しかし、今回の新型コロナ騒動ではマスクや消毒液などが軒並みスーパーなどから消えましたよね? このように外部から供給・提供されるものは非常に不安定なんです。道路状況や建物の状況、周囲の状況を考えると、仮設トイレが避難所に行き渡るのに1カ月以上かかることもありえるんです。外からくるものをあてにするのは、危険ではないでしょうか」(加藤さん)

東日本大震災発生時に仮設トイレが避難所に行き渡るまで、4日以上かかっているところが半数以上。もっともかかったところでは65日にも(データ:日本トイレ研究所提供)  アンケート調査実施:名古屋大学エコトピア化学研究所 岡山朋子/協力:日本トイレ研究所/回答:29自治体(岩手県・宮城県・福島県の特定被災地方公共団体)

東日本大震災発生時に仮設トイレが避難所に行き渡るまで、4日以上かかっているところが半数以上。もっともかかったところでは65日にも(データ:日本トイレ研究所提供) 
アンケート調査実施:名古屋大学エコトピア化学研究所 岡山朋子/協力:日本トイレ研究所/回答:29自治体(岩手県・宮城県・福島県の特定被災地方公共団体)

なるほど、災害が起きても「なんとかなるのでしょ」と軽く考えていたトイレ問題、実はずっとずっと深刻な問題なようです。

声をあげにくい「トイレ問題」。震災ごとに繰り返し深刻な問題を引き起こしていた

「阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など、大きな災害発生時には必ずトイレ問題が起きています。トイレ・排泄は大きく語られることがない・声として出しにくいデリケートなテーマなんです。人の尊厳・羞恥心にかかわるので……。トイレの備えがなければ自宅で避難生活を送ることが出来なくなってしまいます」(加藤さん)

各地方自治体もこのトイレ問題を放置しているわけではなく、熊本市ではマンホールトイレを整備したり、富士市では簡易トイレを備蓄する、高知市では携帯トイレの備蓄、仮設トイレの優先供給など、独自に力をいれているところもあります。ただ、そうはいっても、自治体の備えには限界があります。だからこそ個人での備えも重要なのです。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

しかし、自宅で災害用トイレを備えている人は16.9%にとどまるといいます。この状態だと、災害が発生したときなんと、「8割の人がトイレを使えない」状況になるのです。その8割のなかには、子どもや高齢者、持病をもっている人、障がいをもった人も多数いることでしょう。運よく被災をまぬがれたトイレが近くにあったとしても、行列ができて、混雑するのは想像にかたくありません。

日本トイレ研究所が防災グッズとして自宅にあるものを調査した結果(単位:%)。災害用トイレを用意していた人は16.9%(2018年。東京都と大阪府在住の2000人対象のインターネット調査)

日本トイレ研究所が防災グッズとして自宅にあるものを調査した結果(単位:%)。災害用トイレを用意していた人は16.9%(2018年。東京都と大阪府在住の2000人対象のインターネット調査)

普段、「清潔で快適なトイレ」に慣れた私たちにとって「トイレが使えない」、「汚い」「危険」な状況は相当なストレスになることでしょう。こうしてトイレが使えない、使いたくない状況になると、水分をとるのを控えるようになり、その結果、脱水症状、熱中症、免疫力の低下などを引き起こすといいます。これがいわゆる「災害関連死」につながるのです。もちろん、トイレが不衛生だと感染症の温床となり、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎に感染することもあります。

食事、例えば多少の空腹はがまんできても、トイレだけはがまんできないもの。仮設トイレはいつ到着するか分からない、となれば、やはり自分で備えるのがいちばんでしょう。

個人で備えることができるのは携帯トイレ・簡易トイレ。一度、練習しておく必要アリ

では、どのようなトイレを、どの程度、備えておくのがよいのでしょうか。

「排泄の回数には個人差があります。適正な数がいくつとは一概に言いにくいので、自分がトイレにいく回数を数えるのが、いちばん確実なんですよ。一応、国のガイドラインでは、備蓄を考える際の目安としてトイレの回数は1日5回としています」(加藤さん)

……確かに1日のトイレは5回では、足りないという人もいれば多い、という人もいることでしょう。これを一週間分備えるとなると、35回分。家族がいればその人数分、用意するのが最低限となりそうです。

また、ひとくちに災害用トイレといってもさまざまなタイプがあります。選び方の目安はあるのでしょうか。

「ひとくちに携帯トイレといっても品質はさまざまです。吸水量や凝固期間、臭気対策の有無などの性能を公開しているものを、日本トイレ研究所のサイトで紹介していますので、ここから選ぶことをおすすめします。市販されている商品のなかには、凝固が維持できずに戻ってしまうものもあるんですよ。大切なのは性能なんです。あとは使い勝手です。停電で暗い、寒い状態などで使うことが予想されます。そのときにすぐに使えるか、安心して用便できるかを基準に選んでください。そして携帯用トイレは、トイレで保管しておくとよいでしょう」

個人で備えることができるのは、携帯トイレと簡易トイレの2種類。1回の料金に換算すると100円~200円程度のものが多いそう。

災害用トイレとは

さらに数だけでなく、自宅避難用と持ち出し用にわけて用意しておくと安心だそう。また、購入して満足するのではなく、一度、自宅のトイレに取り付けて使ってみて、と加藤さん。

「災害時のストレスは想像を絶します。暗い、怖い、この先どうしよう……。そんな極限状態です。せめてトイレくらいは安心して使いたい、というのが多くの人が思うことではないでしょうか。そのためにもぜひ一度、練習してみてください」と力説します。

実は筆者、トイレは猫砂と箱で代用すればいいかな、くらいの安易な気持ちでいたのですが、いかに考えが甘かったかを痛感しました。「備えあれば患いなし」です。今度の休日に携帯トイレと簡易トイレ、自分だけでなく家族で話し合い、使ってみたいと思います。

●取材協力
NPO法人日本トイレ研究所
災害用トイレガイド

無印良品の“日常”にある防災、「いつものもしも」とは

無印良品が本気で防災に取り組んでいる。
9月1日の防災の日に合わせて防災セットを発売、各店頭でも大々的に防災コーナーを設けるなど、かなりの本気モードだ。しかし、実は無印良品による防災プロジェクト「いつものもしも」は10年前から展開していたもの。それこそ東日本大震災が起きる前からの、「本気」かつ「長期戦」の取り組みだ。
今回は、このプロジェクトの中心におられたプロダクトデザイナーの高橋孝治さんを中心に、現在このプロジェクトをリーダーとして推進していらっしゃる人事総務部総務課の田村知彦さん、同社くらしの良品研究所の永澤芽ぶきさんにお話を伺った。左より永澤芽ぶきさん、田村知彦さん。無印良品 銀座にて(写真撮影/飯田照明)

左より永澤芽ぶきさん、田村知彦さん。無印良品 銀座にて(写真撮影/飯田照明)

いつも使っているものを防災にも使うだけでいい

防災グッズと聞くと、特別なものを用意しないといけないと思いがちだが、普段使わないものはとっさに使いこなせないし、マンション暮らしか一戸建てか、家族構成や子どもの年齢、暮らし方ひとつで必要なものは変わってくる。
そこで生まれたのが、無印良品の防災コンセプト「くらしの備え。いつものもしも。」。普段使っているものをそのまま防災用品とする提案だ。
例えば、持ち運びのできるLEDの灯りは、ライフラインが止まった場合の照明に。キャリーバッグは非常用の持ち運びバックになるし、半透明のキャリーボックスなら、中身が見え、重ねることもできるので備蓄品の保存に最適だ。

「”自分の身は自分で守る”という意識のもと、自分にとって必要なものを用意しておく。そのシンプルな考えで、自分たちで考え、身の回りものを点検してもらう。防災を”自分ごと”と考え、防災の意識を上げていってほしいと考えています」(高橋さん)

無印良品ホームページ 「くらしの備え。いつものもしも。」より

無印良品ホームページ 「くらしの備え。いつものもしも。」より

「防災を日常的に」~最初のきっかけはNPOからの提案

そもそも、無印良品がどうして防災に関わることになったのだろう。
きっかけは、2008年。“防災は、楽しい。”をコンセプトにさまざまな活動をしているNPO法人プラス・アーツと出版社の木楽舎から声をかけられたことから始まる。
「プラス・アーツさんは、阪神淡路大震災の被災者のリアルな声や体験を活かした『地震イツモノート』という本を出したり、楽しみながら防災の知恵を学ぶイベントなどを開催されていました。そこで”もっと身近なモノで防災を意識付け出来たら”という考えから、無印良品に声をかけていただいたんです」(高橋さん)。
目指したのは、あくまでも日常の延長線上にある防災。身近なモノであること、邪魔にならないこと、全国で手に入れることができること。まさに無印良品そのものだ。
「当時は防災グッズといえば、とりあえず防災リュック(家庭用持ち出し袋)を自宅に置くだけという認識が普通でした。でも別に防災用に特別なものでなくても、普段毎日使っているものが有事にも役立つ。それは広範囲の品ぞろえを持つ無印良品の商品なら可能なはずだと気づきました」(高橋さん)。

高橋孝治さん。大学でプロダクトデザインを学んだ後、良品計画と契約。無印良品の商品企画・デザインを担当し、この防災プロジェクトにも立ち上げから携わっている。2015年に退職後は焼き物の街、愛知県常滑市に移住、数々のプロジェクトに関わる一方、現在も無印良品の防災プロジェクトに参加し続けている

高橋孝治さん。大学でプロダクトデザインを学んだ後、良品計画と契約。無印良品の商品企画・デザインを担当し、この防災プロジェクトにも立ち上げから携わっている。2015年に退職後は焼き物の街、愛知県常滑市に移住、数々のプロジェクトに関わる一方、現在も無印良品の防災プロジェクトに参加し続けている

このプロジェクトのきっかけにもなった「地震イツモノート(プラス・アーツ)」は阪神・淡路大震災の被災者167人の体験談を集めたもの。防災意識を特別なものとしてではなく、ライフスタイルの中に自然とある状態を目指したいという思いでまとめられている。この書籍のほか、防災・震災・災害に日常から備えられる書籍やゲームなどを多数生み出している(写真/NPO法人プラス・アーツ)

このプロジェクトのきっかけにもなった「地震イツモノート(プラス・アーツ)」は阪神・淡路大震災の被災者167人の体験談を集めたもの。防災意識を特別なものとしてではなく、ライフスタイルの中に自然とある状態を目指したいという思いでまとめられている。この書籍のほか、防災・震災・災害に日常から備えられる書籍やゲームなどを多数生み出している(写真/NPO法人プラス・アーツ)

プロジェクト立ち上げ直後に東日本大震災。必要性をさらに痛感

そして、無印良品の研究機関である「くらしの良品研究所」で防災プロジェクト「いつものもしも」を立ち上げ。無印良品の商品を使った防災の備えへの提案を、プロモーション、売り場設計含めて企画し、さらには商品開発へと役立てる事業となった。
プロジェクトの立ち上げは2010年の暮れ。当時は、阪神大震災から10年以上経ち、災害への危機感が薄れつつある社会へのメッセージとして提案するはずだった。しかし、翌年3月東日本大震災が起きる。
「あまりのタイミングに驚くとともに、改めて必要性を実感しました」(永澤さん)

そして2011年9月には全国で大々的に防災を打ち出した店づくりを行う。
「基本的には無印良品の膨大な商品をセレクトし、災害時に備えてもらうという取り組みでした。しかし、どうしても、ヘルメットやヘッドライトは無印良品の品ぞろえにはなかったため、取り扱いのない他社商品を並べました。これは小売り業態であることを考えれば、かなり常識外のこと。自社の売り上げももちろん大切ですが、俯瞰した目線で防災にそなえること自体を提案していくことに意義があると考えたからです」(高橋さん)

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2011年9月から有楽町店で開催された「地震ITSUMO展」。商品をセレクトし、災害時の使い方とともに紹介(写真提供/良品計画)

2011年9月から有楽町店で開催された「地震ITSUMO展」。商品をセレクトし、災害時の使い方とともに紹介(写真提供/良品計画)

備えたいモノは男女差、個人差も大きい。リアルな声で実感

プロジェクトチームが、防災は人それぞれ、個別にカスタマイズする必要があると実感したエピソードがある。
「東日本大震災1年後に、仙台の店舗で被災者の方に“震災を経験して、自分が必要と感じた防災セットを組んでみてください”というお願いをしました。すると思っていた以上に男女差があったんです。例えば女性は”ヘッドライトは両手があくので便利だと分かるけれど、あまりにも非常時といった感じがして嫌だ”、”大勢の人の目のある避難所では顔の隠せるつばの広い帽子がありがたい”という声があったり、ヘルスケアやスキンケアなど身だしなみに関わるアイテムのニーズが高かったり。個々人が備えるべきものが違うことを痛感しました」(高橋さん)。

職場や自宅に備えるものとして提案されている商品。非常用品だけでなく、自分が普段使いしているものが、避難の際にすぐに持ち出せるようになっているか、改めて見直す必要があるだろう

職場や自宅に備えるものとして提案されている商品。非常用品だけでなく、自分が普段使いしているものが、避難の際にすぐに持ち出せるようになっているか、改めて見直す必要があるだろう

非常時でなくていい。「くらしの備え」が防災になる

「防災」といいつつ、常に「日常に軸足を持つ」ことが、無印良品の取り組みの特長だ。
「もしも、って別に地震や水害による避難生活だけでないんですよね。例えば、今日は仕事で遅くなってご飯つくりたくないな、買い物にも行きたくないし、といったときにレトルトが役立つ。だったらストックしておこう。それが防災の備蓄になればいいと思っています。無印良品のレトルトの賞味期限は1年ほどなので、通常の非常食に比べると短い。でももっと長持ちする商品だからといって5年保存しておくと、その間にどこに行ったか分からなくなるでしょう。その点、普段、食べ慣れた味で備えるなら楽。賞味期限が切れる前に、日常使いしつつ備蓄していく、ローリングストックという備蓄法です」(高橋さん)。
実際、現在の防災プロジェクトリーダーの田村さんも実践者。「月に1回は無印良品のレトルトカレーの日と決めていて、補充してから、自分たちで好きな味を選んで、食べる。その日は料理の手間も省けますし、子どもたちもちょっとしたイベントで楽しそう。自分でいうのもなんですが、無印良品のカレー、美味しいですからね(笑)」

レトルト食品だけでもさまざまな種類があることで普段の食卓に絡めて飽きずにローリングストックを続けていけそう(写真撮影/飯田照明)

レトルト食品だけでもさまざまな種類があることで普段の食卓に絡めて飽きずにローリングストックを続けていけそう(写真撮影/飯田照明)

「日常」かつ「防災」といった要素をいかに持つか。商品開発でもそれは活かされている。
例えば、カセットコンロのミニと専用ケース。「韓国のスーパーで、カセットコンロが樹脂のケースに入って売られていたんですよ。あ、段ボールの箱より丈夫で、台所の収納でも便利だし、アウトドア商品かつ防災用品にもなるなと思いつきました。風に吹かれても消えにくい内炎式で、かなり人気。僕ももう一つ買おうかなと思っています」(高橋さん)。

カセットこんろ・ミニと専用のケース(別売) ケースに入れれば持ち運びもしやすい

カセットこんろ・ミニと専用のケース(別売) ケースに入れれば持ち運びもしやすい

防災に対する意識とクリエイティビティは各段に上昇した10年

この10年で防災の意識はどう変化しただろうか
「日本全体の防災意識が各段に上がっています。それは近年、地震や水害など毎年大きな天災に見舞われているからなのですが、何かしらの備えをしている方は増えています。アウトドアブームも後押ししている部分がありますね。旅に使えるもの、屋外で使えるものは、総じて防災グッズになりますから」(永澤さん)。
さらに、それに応えるクリエイティビティが各段に向上していることも大きい。
「昔は、防災リュックは黄色や銀色で、目立てばいいという感じでしたから。近年は、行政や民間、個人により、防災を分かりやすく、楽しく伝えるアプローチがたくさんされています。お洒落なアウトドアブランドが身近になり、ライトユーザーがお洒落なアイテムを防災グッズとして捉える機会も増えています」(高橋さん)

丈夫でスタッキングもしやすいポリプロピレン製の収納ボックスはアウトドアとの相性も良く、必需品を詰め、いつでも持ち出しやすいようにしておくといった使い方も(写真撮影/飯田照明)

丈夫でスタッキングもしやすいポリプロピレン製の収納ボックスはアウトドアとの相性も良く、必需品を詰め、いつでも持ち出しやすいようにしておくといった使い方も(写真撮影/飯田照明)

もちろん、無印良品の10年間の取り組みが、防災を日常化しつつ、お洒落に取り入れる動きに寄与してきた。
「防災といったテーマはどこかの部署だけで推進するのではダメで、商品開発から、宣伝や販促、実際の店舗、ウェブ展開でも横串を指すことが大切でした。防災の必要性を共有できれば、コンセンサスを得やすく、深く広く、お客様に訴求ができます。その点、何をつくるか、どのように届けるかを自社の中で完結していることが無印良品の強み。特に現在、僕は外部から関わっているので、余計にそう感じています」と高橋さん。

折り畳み式ヘルメット、ヘッドライト、消火器など自社商品になかったものも約10年に及ぶ取り組みでラインナップに加わっていった(写真撮影/飯田照明)

折り畳み式ヘルメット、ヘッドライト、消火器など自社商品になかったものも約10年に及ぶ取り組みでラインナップに加わっていった(写真撮影/飯田照明)

余白のある防災セット。まずはこの1品からスタートしてもいい

そして満を持して登場したのが「防災セット」だ。
「ずっと防災セットがほしいという要望はありました。何から手をつけていいか分からないし、無印良品が出すアイテムなら間違いはないだろうから、という声に押されました。また、毎年、天災が起こるなか、まずは最初の基本として手元に置いておくものとして、もっと踏み込んだ提案をするべき時期にあるのかもしれないと考えたからです。まずは基本セットとして導入してもらい、あとは自分たちでカスタマイズしていく。“これ1つでOK”というような防災セットではなく、自分が主体となってモノを選ぶことで初めて、防災が自分事になっていくんだと思います」(田村さん)

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防災セットは、「携帯」「持ち出し」「備える」の3種類。持ち出しセットには携帯セットのアイテムが、備えるセットには持ち出しセット・携帯セットのアイテムが含まれており、普段から身の回りにおいて使うことを前提とした最低限のものがまとまっている(写真提供/無印良品)

防災セットは、「携帯」「持ち出し」「備える」の3種類。持ち出しセットには携帯セットのアイテムが、備えるセットには持ち出しセット・携帯セットのアイテムが含まれており、普段から身の回りにおいて使うことを前提とした最低限のものがまとまっている(写真提供/無印良品)

備えるセットには非常用トイレやロウソクなども。コンパクトにパッケージされていて普段から目につくところに立てて置ける(写真撮影/飯田照明)

備えるセットには非常用トイレやロウソクなども。コンパクトにパッケージされていて普段から目につくところに立てて置ける(写真撮影/飯田照明)

一家に必ずといっていいほど、無印良品の商品はある。日常的に接点の多い無印良品だからこそ、「いつも」使えるアイテムが、「もしも」のときに役立てば、一石二鳥だ。「もしも」は明日のことかもしれない。まずは、「くらしにとって」なにが必要か、考えてみることから始めてみたい。

店頭や特設サイトでは、防災時に備えるためのヒントが提示されている※写真は銀座店(写真撮影/飯田照明)

店頭や特設サイトでは、防災時に備えるためのヒントが提示されている※写真は銀座店(写真撮影/飯田照明)

●取材協力
無印良品 くらしの備え。いつものもしも。
※記事中で紹介した商品は一部店舗で取り扱いのないものもあります

あなたの家の火災報知器は大丈夫? 設置義務化から10年経過で新たな問題

防災の日(9月1日)を中心に、今年は9月5日までが「防災週間」です。近年、多様化する災害に備えた取り組みが全国で展開されています。自宅でも防災グッズを備えるなど意識は高まっていますが、法律で設置を“義務”付けられているのが「住宅用火災警報器」。
実は今、その火災警報器が設置していても機能しないという問題が増加中で、消防庁も注意喚起を促しています。
火災警報器設置率は全国で82.3%。義務化後、被害は半減

2006年、消防法の改正で全国の新築・既築全ての住宅に火災警報器の設置が義務付けられました(東京都は2004年に施行)。今年8月に消防庁から発表された、全国での住宅火災警報器設置率は82.3%(※)。

それを聞き、「あれ?そんなにみんな設置してるんだ!」と焦ったのは筆者だけ?

新築住宅やマンションなどは建築確認もあって必ず設置されているでしょうが、既築の戸建は自分で購入・設置するので未設置なところがまだ多いかも(筆者も築15年の戸建に住んでいます)。

実は筆者、何を隠そう35年前、実家が全焼し自分も煙で死にかけた経験があるにも関わらず(!?)未設置とは、大反省。

未設置に罰則は無いものの、命を守るためには自ら防災意識を高めなければと自戒の念で取材をしました。

住宅火災警報器の有無によって、被害に差が。設置の効果が現れる(資料/消防庁ホームページ)

住宅火災警報器の有無によって、被害に差が。設置の効果が現れる(資料/消防庁ホームページ)

順調に設置住宅数が増える中、ここへ来て新たな課題が出てきたということで、消防庁からも警鐘が鳴らされています。住宅火災警報器を設置しているにも関わらず、機能していない可能性があるというケースが増加しているようです。

正しい場所に設置している?台所よりも重要な部屋とは

以下のデータは、住宅火災警報器の設置義務化が1970年代後半、日本より先に施行された米国の調査結果です。設置により犠牲者の数は減っているものの、設置済み住宅での犠牲者が約2割あるという事実が示されています。

1970年代後半より設置義務化となった米国。義務化以前より犠牲者は半減しているが、義務化後の設置済み住宅でも犠牲者が出ている理由があります(資料/パナソニック)

1970年代後半より設置義務化となった米国。義務化以前より犠牲者は半減しているが、義務化後の設置済み住宅でも犠牲者が出ている理由があります(資料/パナソニック)

火災警報器設置住宅において犠牲者が出る理由の一つに、適切な場所に設置されていないケースがあります。
全国の設置率は82.3%でしたが、条例適合率(市町村の火災予防条例で設置が義務付けられている住宅の部分すべてに設置されている世帯の全世帯に占める割合)は67.9%と低いのです。

条例で義務付けられている設置場所は、基本的には“寝室”と“寝室がある階の階段上部(1階の階段は除く)”。住宅の階数等によっては、その他の箇所も必要になる場合があります。

2階建て住宅の場合の基本的な設置場所は、寝室(図の1)と、寝室のある階の階段上部(図の2)。市町村の火災予防条例により、台所やその他の居室にも設置が必要な地域があるので、管轄の消防本部・消防署へ確認が必要(資料/パナソニック)

2階建て住宅の場合の基本的な設置場所は、寝室(図の1)と、寝室のある階の階段上部(図の2)。市町村の火災予防条例により、台所やその他の居室にも設置が必要な地域があるので、管轄の消防本部・消防署へ確認が必要(資料/パナソニック)

筆者の実家火災のケースは、父が出勤後の早朝、母が弟の弁当を作っていた揚げ物油が発火したという台所からの失火。2階で寝ていた筆者と弟は、1階から母が叫ぶ声で起き、階段に面したドアを開けた瞬間……煙に襲われ、息が詰まりました。

なので、火の元がある台所への設置が優先されるのでは?と思いがちですが、就寝中に起きる火災は気付くのが遅れて死に至る危険性が高いとのこと。義務化の設置場所として“寝室”が優先される理由です。さらに用心するために、台所への設置も推奨されています。

最近の機器は、複数の部屋をワイヤレスで連動できるものがあるので商品をチェックしてみてください。

複数の部屋を連動して警報を発する連動型の火災警報器。最近は警報ブザー音だけでなく「火事です!」と音声で知らせてくれる(資料/消防庁ホームページ)

複数の部屋を連動して警報を発する連動型の火災警報器。最近は警報ブザー音だけでなく「火事です!」と音声で知らせてくれる(資料/消防庁ホームページ)

さらにもう一つ、設置していて機能しないケースで最近増えている問題があります。

まさかの電池切れ!機器の寿命は10年だった!?

先の米国データにある現象、警報器を設置している住宅での犠牲者が日本でも発生しています。消防庁調査でも作動確認を行った警報器の1%は作動しなかったと言います。義務化の法令施行から13年が経過し、多くの住宅の火災警報器が設置後10年以上となった結果、電池切れと機器の故障が発生しているのです。

昨年あたりで寿命となる警報器は4000万~5000万台にのぼり、電池が切れると一定期間ブザーが鳴り続けるなど、消防やメーカーへ問い合わせが増え、対応に追われているとのこと。あなたのお宅でも慌てることがないように、設置後も点検と性能維持が重要です。

点検の方法は、以下の図のようにして反応を確認することです。

作動確認の仕方は、警報器のボタンを押す/紐を引く。何も音が鳴らなかったら、電池切れか故障(資料/パナソニック)

作動確認の仕方は、警報器のボタンを押す/紐を引く。何も音が鳴らなかったら、電池切れか故障(資料/パナソニック)

設置して5年前後のものであれば電池切れの可能性もあるので、電池を入れ替えてみること。それでも音が鳴らない場合は、機器が劣化して機能していないということになるので交換するべき。設置後10年経っている場合は、ほぼ機器の寿命なので取り替える必要があるそうです。

さっそく、筆者宅でも寝室に火災警報器を設置。製品に同封のネジを天井に2カ所留めるだけ。ボタンを押して作動確認!(写真撮影/藤井繁子)

さっそく、筆者宅でも寝室に火災警報器を設置。製品に同封のネジを天井に2カ所留めるだけ。ボタンを押して作動確認!(写真撮影/藤井繁子)

火災による犠牲者の主な死因は、「一酸化炭素中毒・窒息」と煙を吸って気絶したまま「火傷」するというもの。筆者もあの煙を、もう一呼吸吸っていたら気絶していたのでしょう。火災の煙は、恐ろしく濃いものでした。当時は母も40代、筆者も弟も10代だったので、即座に2階の窓から飛び降りて逃げることができましたが、もし歳をとっていたら、あるいは高齢者と同居していたら助からなかったかもしれません。

火災の犠牲者は減っている中で、高齢者の占める割合は約7割と増加しています。死亡火災は就寝時間帯、ストーブによる出火、逃げ遅れが最も多いケースとなっているそうです。

ぜひ、みなさんも火をつかう機会が増える冬が来る前に、火災警報器を点検し、10年経っているものは迷わず買い替えて用心していただきたいと思います。

ちなみに、設置義務のない消化器ですが、同じく約10年が寿命のようです。(置いているだけで、用心しているつもりの筆者。消化器も買い替えなきゃ!)

※この調査は、消防庁が示した訪問調査を原則とする標本調査の方法に基づき、各消防本部等が実施した結果をとりまとめたものであり、一定の誤差を含む

●取材協力
パナソニック【住宅火災警報器】
●参考
総務省消防庁【住宅防火関係】
あなたの地域の設置基準をチェック!(パナソニック)

あなたの家の火災警報器は大丈夫? 設置義務化から10年経過で新たな問題

防災の日(9月1日)を中心に、今年は9月5日までが「防災週間」です。近年、多様化する災害に備えた取り組みが全国で展開されています。自宅でも防災グッズを備えるなど意識は高まっていますが、法律で設置を“義務”付けられているのが「住宅用火災警報器」。
実は今、その火災警報器が設置していても機能しないというケースが出てきそうなので、消防庁も注意喚起を促しています。
火災警報器設置率は全国で82.3%。義務化後、被害は半減

2006年、消防法の改正で全国の新築・既築全ての住宅に火災警報器の設置が義務付けられました(東京都は2004年に施行)。今年8月に消防庁から発表された、全国での住宅用火災警報器設置率は82.3%(※)。

それを聞き、「あれ?そんなにみんな設置してるんだ!」と焦ったのは筆者だけ?

新築住宅やマンションなどは建築確認もあって必ず設置されているでしょうが、既築の一戸建ては自分で購入・設置するので未設置なところがまだ多いかも(筆者も築15年の一戸建てに住んでいます)。

実は筆者、何を隠そう35年前、実家が全焼し自分も煙で死にかけた経験があるにも関わらず(!?)未設置とは、大反省。

未設置に罰則は無いものの、命を守るためには自ら防災意識を高めなければと自戒の念で取材をしました。

住宅用火災警報器の有無によって、被害に差が。設置の効果が現れる(資料/消防庁ホームページ)

住宅用火災警報器の有無によって、被害に差が。設置の効果が現れる(資料/消防庁ホームページ)

順調に設置住宅数が増える中、ここへ来て新たな課題が出てきたということで、消防庁からも警鐘が鳴らされています。

正しい場所に設置している?台所よりも重要な部屋とは

以下のデータは、住宅用火災警報器の設置義務化が1970年代後半、日本より先に施行された米国の調査結果です。設置により犠牲者の数は減っているものの、設置済み住宅での犠牲者が約2割あるという事実が示されています。

1970年代後半より設置義務化となった米国。義務化以前より犠牲者は半減しているが、義務化後の設置済み住宅でも犠牲者が出ているのには理由があります(資料/米国防火協会)

1970年代後半より設置義務化となった米国。義務化以前より犠牲者は半減しているが、義務化後の設置済み住宅でも犠牲者が出ているのには理由があります(資料/米国防火協会)

火災警報器設置住宅において犠牲者が出る理由の一つに、適切な場所に設置されていないケースがあります。
全国の設置率は82.3%でしたが、条例適合率(市町村の火災予防条例で設置が義務付けられている住宅の部分すべてに設置されている世帯の全世帯に占める割合)は67.9%と低いのです。

条例で義務付けられている設置場所は、基本的には“寝室”と“寝室がある階の階段上部(1階の階段は除く)”。住宅の階数等によっては、その他の箇所も必要になる場合があります。

2階建て住宅の場合の基本的な設置場所は、寝室(図の1)と、寝室のある階の階段上部(図の2)。市町村の火災予防条例により、台所やその他の居室にも設置が必要な地域があるので、管轄の消防本部・消防署へ確認が必要(資料/パナソニック)

2階建て住宅の場合の基本的な設置場所は、寝室(図の1)と、寝室のある階の階段上部(図の2)。市町村の火災予防条例により、台所やその他の居室にも設置が必要な地域があるので、管轄の消防本部・消防署へ確認が必要(資料/パナソニック)

筆者の実家火災のケースは、父が出勤後の早朝、母が弟の弁当をつくっていた揚げ物油が発火したという台所からの失火。2階で寝ていた筆者と弟は、1階から母が叫ぶ声で起き、階段に面したドアを開けた瞬間……煙に襲われ、息が詰まりました。

なので、火の元がある台所への設置が優先されるのでは?と思いがちですが、就寝中に起きる火災は気付くのが遅れて死に至る危険性が高いとのこと。義務化の設置場所として“寝室”が優先される理由です。さらに用心するために、台所への設置も推奨されています。

最近の機器は、複数の部屋をワイヤレスで連動できるものがあるので商品をチェックしてみてください。

複数の部屋を連動して警報を発する連動型の火災警報器。最近は警報ブザー音だけでなく「火事です!」と音声で知らせてくれる(資料/消防庁ホームページ)

複数の部屋を連動して警報を発する連動型の火災警報器。最近は警報ブザー音だけでなく「火事です!」と音声で知らせてくれる(資料/消防庁ホームページ)

さらにもう一つ、設置していて機能しないケースで最近増えている問題があります。

まさかの電池切れ!機器の寿命は10年だった!?

先の米国データにある現象、警報器を設置している住宅での犠牲者が日本でも発生する恐れがあります。消防庁調査でも作動確認を行った警報器の1%は作動しなかったと言います。義務化の法令施行から13年が経過し、多くの住宅の火災警報器が設置後10年以上となった結果、電池切れと機器の故障が発生しているのです。

昨年あたりで寿命となる警報器は4000万~5000万台にのぼり、電池が切れると一定期間ブザーが鳴り続けるなど、消防やメーカーへ問い合わせが増え対応に追われているとのこと。あなたのお宅でも慌てることがないように、設置後も点検と性能維持が重要です。

点検の方法は、以下の図のようにして反応を確認することです。

作動確認の仕方は、警報器のボタンを押す/紐を引く。何も音が鳴らなかったら、電池切れか故障(資料/パナソニック)

作動確認の仕方は、警報器のボタンを押す/紐を引く。何も音が鳴らなかったら、電池切れか故障(資料/パナソニック)

設置して5年前後のものであれば電池切れの可能性もあるので、電池を入れ替えてみること。それでも音が鳴らない場合は、機器が劣化して機能していないということになるので交換するべき。設置後10年経っている場合は、ほぼ機器の寿命なので取り替える必要があるそうです。

さっそく、筆者宅でも寝室に火災警報器を設置。製品に同封のネジを天井に2カ所留めるだけ。ボタンを押して作動確認!(写真撮影/藤井繁子)

さっそく、筆者宅でも寝室に火災警報器を設置。製品に同封のネジを天井に2カ所留めるだけ。ボタンを押して作動確認!(写真撮影/藤井繁子)

火災による犠牲者の主な死因は、「一酸化炭素中毒・窒息」と煙を吸って気絶したまま「火傷」するというもの。筆者もあの煙を、もう一呼吸吸っていたら気絶していたのでしょう。火災の煙は、恐ろしく濃いものでした。当時は母も40代、筆者も弟も10代だったので、即座に2階の窓から飛び降りて逃げることができましたが、もし年をとっていたら、あるいは高齢者と同居していたら助からなかったかもしれません。

火災の犠牲者は減っている中で、高齢者の占める割合は約7割と増加しています。死亡火災は就寝時間帯、ストーブによる出火、逃げ遅れが最も多いケースとなっているそうです。

ぜひ、みなさんも火を使う機会が増える冬が来る前に、火災警報器を点検し、10年経っているものは迷わず買い替えて用心していただきたいと思います。

ちなみに、設置義務のない消火器ですが、同じく約10年が寿命のようです。(置いているだけで、用心しているつもりの筆者。消火器も買い替えなきゃ!)

※この調査は、消防庁が示した訪問調査を原則とする標本調査の方法に基づき、各消防本部等が実施した結果をとりまとめたものであり、一定の誤差を含む

●取材協力
パナソニック【住宅用火災警報器】
●参考
総務省消防庁【住宅防火関係】
あなたの地域の設置基準をチェック!(パナソニック)

おいしく防災! ローリングストックの缶詰アレンジレシピ6選

9月1日は防災の日。「災害時用に食品を備蓄しているけど、気づけばいつも賞味期限が切れている」「缶詰を日常的に食べて、なくなった分を買い足す『ローリングストック』を実践したいけれど、飽きてしまう」、さらには「これから防災備蓄をはじめたいけれど、何から手をつければいいのか分からない」――そんなお悩みはありませんか? 社会の防災力を高める「防災士」として活動するだけでなく、テレビや雑誌で缶詰の達人、レトルトの女王としても知られる管理栄養士・災害食専門員の今泉マユ子さんにお話を伺いました。
気分が沈む災害時こそ、「食べること」を楽しめる備蓄が必須管理栄養士、Junior野菜ソムリエ、食育指導士、調理師、フードライフコーディネーター、水のマイスターなど、「食」関連の資格を複数お持ちの今泉さん。『マツコの知らない世界』(TBS系)に出演した際は、数多くのレトルトパスタソースを紹介。「レトルト食品も災害時用の備蓄としてオススメですよ」(写真提供/今泉マユ子さん)

管理栄養士、Junior野菜ソムリエ、食育指導士、調理師、フードライフコーディネーター、水のマイスターなど、「食」関連の資格を複数お持ちの今泉さん。『マツコの知らない世界』(TBS系)に出演した際は、数多くのレトルトパスタソースを紹介。「レトルト食品も災害時用の備蓄としてオススメですよ」(写真提供/今泉マユ子さん)

災害時の備蓄というと、多くの人が思い浮かべる「乾パン」。最近では食感もかつてに比べ食べやすくなったものも出ています。今泉さんは「乾パンが苦手な方はケチャップやマヨネーズ、ゆであずきなどをちょい足しして食べてみてください。それでも口に合わない人は備蓄品としてオススメしません」と言います。

今泉さん宅では、リビング横の和室にある本棚(もちろん転倒防止対策もバッチリ)に備蓄品を収めています。「私が不在でも、家族全員がどこに何があるか分かるよう収納しています」(写真撮影/相馬ミナ)

今泉さん宅では、リビング横の和室にある本棚(もちろん転倒防止対策もバッチリ)に備蓄品を収めています。「私が不在でも、家族全員がどこに何があるか分かるよう収納しています」(写真撮影/相馬ミナ)

「どうしても災害時は気分が沈みがち。そんなときは美味しいものを食べて元気を出したいですよね。だからこそ、自分や家族が普段から食べ慣れているもの、美味しいと感じるものを備蓄しておくことが大事。普段から食べているものなら、日常生活のなかで自然と消費して、なくなる前に補充する『ローリングストック』の習慣も身につけやすいから、一石二鳥なんですよ」

缶詰やレトルトが大好きだという今泉さんは「講演などで地方を訪れると、ついご当地ものを買ってきてしまうんです(笑)」。和室の床下収納に収めた食品は、賞味期限年ごとに分類して食べ忘れを防止(写真撮影/相馬ミナ)

缶詰やレトルトが大好きだという今泉さんは「講演などで地方を訪れると、ついご当地ものを買ってきてしまうんです(笑)」。和室の床下収納に収めた食品は、賞味期限年ごとに分類して食べ忘れを防止(写真撮影/相馬ミナ)

乾パン同様、普段から缶詰を食べない人が無理に缶詰を備蓄する必要はないものの、「コンパクトで丈夫、長期保存できるという点で、やはり缶詰は災害時の備蓄品として秀逸」と話す今泉さん。「最近の缶詰は以前より進化しています。一度食べてみて、美味しいと感じたらストックすればいいと思いますよ。缶詰初心者さんなら、味付けにクセのある惣菜缶詰より、自分好みにアレンジしやすい素材缶詰のほうがオススメです」

防災士でありながら缶詰の達人とも呼ばれる今泉さんに、今回は編集部でローリングストックのお悩みが特に多かった3つの素材缶のアレンジ方法を教わりました。

アレンジ缶詰1. コンビーフ
コンビーフ缶の中身は、ほぐした塩漬けの牛肉。災害時には貴重なタンパク源になります。加熱済みのためそのままでも食べられますが、味がしっかりついているため、あえて調味料を加えず、ほかの食材と和えて食べるのが美味しく食べるコツだそうです。

今回使ったのは、明治屋の「コンビーフ スマートカップ」。コンビーフというと“開けづらい缶詰”のイメージが強いかもしれませんが、スマートカップなら開封が簡単。賞味期限も缶詰と同じ3年です(写真撮影/相馬ミナ)

今回使ったのは、明治屋の「コンビーフ スマートカップ」。コンビーフというと“開けづらい缶詰”のイメージが強いかもしれませんが、スマートカップなら開封が簡単。賞味期限も缶詰と同じ3年です(写真撮影/相馬ミナ)

■ コーンコンビーフ
「超簡単なのにとても美味しくて、いつも一人で完食してしまう」という、今泉さんお気に入りのレシピです。最後にかける黒こしょうが効いていて、お酒のおつまみにもぴったり。隠し味に加えたトマトジュースの酸味のおかげで、さっぱりといただけます。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
コンビーフ……1個(80g)
トマトジュース……50ml
コーン(レトルトパウチ)……1袋(50~60g)
黒こしょう……適量

<つくり方>
ポリ袋に材料をすべて入れ、混ぜる。食べるときに黒こしょうをかける。お好みでクミンパウダー、タバスコ、カレー粉を入れても。

■ キャベツコンビーフメンチカツ
小さな子どももパクパク食べてくれること間違いなし! コンビーフをひき肉代わりに使った本格メンチカツです。缶詰を使えば、加熱に気を使う必要がないので手軽。しっかりとした味付けなので、お弁当にもオススメです。ポイントは、「キャベツを混ぜたあと水分が出ないうちに、なるべく早めに揚げること」。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
コンビーフ……1個(80g)
センキャベツ(キャベツを千切りにしたカット野菜)……1袋(100~120g)
卵……1個
パン粉……大さじ2
(衣用)
・小麦粉……大さじ1
・溶き卵……1個分
・パン粉……大さじ4
サラダ油……適量
(添え物用)
ベビーリーフ、ミニトマト……適量

<つくり方>
1. ボウルにコンビーフ、センキャベツ、卵、パン粉を入れてよく混ぜ、4等分にして丸める。
2. 全体に衣用の小麦粉を薄くまぶし、溶き卵、パン粉の順につける。
3. 小さめのフライパンに1cmくらいまでサラダ油を入れ、180℃に熱する。その中に1を入れ、1~2分揚げて裏返し、さらに1分ほどきつね色になるまで揚げ焼きする。
4. 器に3を盛り、ベビーリーフとミニトマトを添える。

アレンジ缶詰2. オイルサーディン
イワシの油漬けが入ったオイルサーディン缶。青魚なのでDHAやEPAといった健康によいとされるオメガ3脂肪酸が豊富。おまけに缶詰なら魚の骨ごと食べられるからカルシウムも補えます。和にも洋にもアレンジしやすいので、「サバ缶に飽きた」という人にぜひ挑戦してみてほしい素材缶詰です。

今回は、はごろもの「キングオスカー オイルサーディン」を使用しました。ノルウェー産のイワシを樫の木のチップでスモークし、植物油に漬け込む伝統の製法でつくられています(写真撮影/相馬ミナ)

今回は、はごろもの「キングオスカー オイルサーディン」を使用しました。ノルウェー産のイワシを樫の木のチップでスモークし、植物油に漬け込む伝統の製法でつくられています(写真撮影/相馬ミナ)

■ オイルサーディンとトマトのパン粉焼き
イワシとトマトといえば、イタリアンでは王道の組み合わせ。もちろん、イワシの油漬けであるオイルサーディンも、トマトとの相性抜群です。缶詰を使えば、面倒な魚の下処理は一切不要。みじん切りにした玉ねぎの食感が楽しい、ワインがすすむ一品です。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
オイルサーディン……1缶(105g)
トマト……1個(100g)
玉ねぎ……中1/2個(100g)
マヨネーズ……大さじ2
パン粉……大さじ2
オリーブ油……少々
ドライパセリ……適量(お好みで)

<つくり方>
1. トマトは輪切り、玉ねぎはみじん切りにする。
2. 缶汁を切ったオイルサーディンをボウルに入れて、1の玉ねぎ、マヨネーズを加えてよく混ぜる。
3. 耐熱容器2つに2を等分に分けて入れ、その上に1のトマトを並べる。上からパン粉、オリーブ油をかける。
4. トースターで焦げ目がつくまで焼く。お好みでドライパセリをかける。

■ オイルサーディンドライカレー
オイルサーディン缶を油ごと使って、イワシのうま味とコクを最大限に引き出したカレーです。隠し味にクミンシードを加えることで、より本格的な仕上がりに。魚が苦手な人でも、食べ出したら止まらなくなるはず! 「オイルサーディンの油で香味野菜をしっかり炒めるのがポイント」だそうですよ。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
オイルサーディン……1缶(105g)
まいたけ……1パック(100g)
玉ねぎ……中1/2個(100g)
しょうが……1かけ分
にんにく……1かけ分
カレー粉……大さじ1
クミンシード(クミンパウダー)……小さじ1
塩、こしょう…少々
温かいごはん……お茶碗2杯分
パセリ(みじん切り)……大さじ2

<つくり方>
1. 玉ねぎ、しょうが、にんにくはみじん切りに、まいたけは粗みじん切りにする。
2. フライパンにオイルサーディンの油のみ入れ、1の玉ねぎ、しょうが、にんにくも入れて火をつけ、玉ねぎが色づくまで約5分炒める。
3. さらに、1のまいたけとカレー粉、クミンシードを加えて火を通し、オイルサーディンも入れて木べらなどでくずしながら中火で1~2分炒め、塩、こしょうで味を調える。
4. パセリのみじん切りを混ぜたごはんを2等分にして器に盛り、3のカレーをかける。

アレンジ缶詰3. ミックスビーンズ
複数の豆を煮たり蒸したりして、すぐ食べられる状態に加工してあるミックスビーンズ缶。豆類はタンパク質が豊富なだけでなく、災害時に不足しやすい食物繊維が多く含まれるのも高ポイントです。自分に合ったアレンジ方法を見つけておけば、災害時にも美味しく食べられます。

ここで使用したのは、トーヨーフーズの「そのままガバッと!ミックスビーンズ」。ひよこ豆、青えんどう、赤いんげん豆が入っています。缶詰のほかレトルトパウチタイプもあるので、お好みでどうぞ(写真撮影/相馬ミナ)

ここで使用したのは、トーヨーフーズの「そのままガバッと!ミックスビーンズ」。ひよこ豆、青えんどう、赤いんげん豆が入っています。缶詰のほかレトルトパウチタイプもあるので、お好みでどうぞ(写真撮影/相馬ミナ)

■ ミックスビーンズのツナケチャ和え
避難所生活を経験された方に「災害時に食べたかったもの」を尋ねると、「酸っぱいもの」という答えも多くあったそうです。このレシピでは、ミックスビーンズに子どもが大好きなツナ缶を合わせ、体が疲れて食欲が落ちたときでも食べやすい「ケチャップ」の酸味を隠し味に加えています。簡単にできて、栄養バランスのよい一品です。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
ミックスビーンズドライパック……1缶(120g)
ツナ缶(食塩、油入り)……1缶
ケチャップ……小さじ1

<つくり方>
ポリ袋にツナの缶汁ごと材料をすべて入れて混ぜる。

■ ミックスビーンズ栗あん風
酸っぱいものに加えて「甘いもの」も、被災時に食べたかったという声が多く聞かれたそうです。こちらは、ミックスビーンズを和菓子風にアレンジしたデザートレシピ。ミックスビーンズが苦手な人は、豆をしっかり潰すと「栗あん」のような感覚で食べられます。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
ミックスビーンズ……1缶(120g)
ゆであずき……ミックスビーンズと同量1缶(約100g)
きな粉……適量(お好みで)

<つくり方>
1. ポリ袋にミックスビーンズを入れて潰してから、ゆであずきを加えて混ぜる。
2. ひと口大に丸めて、お好みできな粉をかける。

「店に一切、商品が並ばなくなったとき」をイメージしておこう

最後に、これから防災備蓄を始める人は何から準備すればいいか、今泉さんに尋ねてみました。

「まずは飲料水です。以前は備蓄というと3日分がひとつの基準と考えられていましたが、最近では南海トラフ巨大地震を想定し、1週間分の備蓄が推奨されています。大人の飲料水は1人1日3Lが目安です」

1人1日3 Lを7日分となると、合計21 L。2 Lのペットボトルだと、およそ10本分が必要になります。これまで一切、備蓄をしてこなかった人にとっては、その保管場所を確保するだけでも大変そう……。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

「水は各部屋に置いておいた方が安心です。分散備蓄をしましょう。日常的に飲んで買い足すローリングストックで備えても良いですし、10年間長期保存できる水を備蓄しておいても良いので、自分に合う方法で備えてください。水以外にも日ごろから飲んでいるお茶やコーヒー、スポーツドリンクなどもあると良いですし、野菜ジュースなども野菜不足になりやすい災害時に重宝します。ただし賞味期限に気を付けてくださいね」(今泉さん)

家族全員の7日分の食料と水を一気に備蓄しようとすると、ハードルが高すぎる……。そんなときは、普段食べている缶詰を少し多めに買ったり、飲料水をとりあえず1日分ストックしたり。うんとハードルを下げて、小さな一歩を踏み出してみることが重要なのかもしれません。

●取材協力
今泉マユ子さん HP
徳島市生まれ、横浜市在住。1男1女の母。管理栄養士として大手企業社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食に力を注ぎ、2014年に管理栄養士の会社を起業。レシピ開発、商品開発に携わるほか、防災食アドバイザーとして全国で講演、講座を行う。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで活躍中。『「もしも」のときに役に立つ! 防災クッキング (1) 』(フレーベル館)、『災害時でもおいしく食べたい! 簡単「みそ汁」&「スープ」レシピ もしもごはん2 』(清流出版)など著書多数。

自宅の防災意識、最も高いのは「鹿児島県」

(株)リクルート住まいカンパニーはこのたび、「自宅の防災に関する意識調査」の結果を発表した。調査は、住まいが持ち家マンションか一戸建ての20~69歳の男女を対象に、2019年7月11日~7月16日、インターネットで行った。有効回答数は2400人。

それによると、現在の自宅を購入する際に防災を意識しましたか?では、「意識した」「少し意識した」と回答した人の割合が、一戸建ての購入者が34.5%に対しマンションの購入者が46.9%と、10ポイント以上高い割合となった。

現在の自宅を購入する際、防災面で意識したことでは、一戸建ての1位は「地震に強い構造」(62.8%)、2位は「立地」(45.4%)、3位は「新築」(27.2%)と続く。マンション購入者も1位は「地震に強い構造」(70.0%)、2位は「立地」(56.8%)だった。3位は一戸建て購入者と違い、「戸建てよりマンションを希望」(37.0%)となっている。

自宅の防災意識について、12の都道府県(北海道、宮城県、東京都、富山県、石川県、福井県、愛知県、大阪府、広島県、福岡県、熊本県、鹿児島県)で最も高かったのは「鹿児島県」(51%)。次いで「東京都」(45.0%)、「宮城県」「石川県」(共に44.0%)などが続き、一番低かったのは「富山県」(28%)だった。

ニュース情報元:(株)リクルート住まいカンパニー

マンション居住者の7割以上、被災後は自宅マンションでの生活を想定

(株)つなぐネットコミュニケーションズ(東京都千代田区)はこのたび、マンションの地震防災に関するアンケート調査を行った。調査は2019年7月12日~7月19日、全国の10代~80代の主に分譲マンションに住む方を対象に、インターネットで行った。サンプル数は2,284名。

それによると、大地震後の被災生活場所については、「自宅マンションで生活すると思う」がトップで73.4%。「自宅を離れて生活すると思う」7.7%、「わからない」が19.0%。

大地震発生後に不安に感じる点(複数回答)は、トップは「家族の安否」で61.2%。次いで「建物や設備の被害」52.1%、「自宅での被災生活」46.2%と続く。

各家庭で実施している防災対策(複数回答)は、「飲料水・食料の備蓄」が最も多く63.3%。「停電対策(非常用照明や充電機器など)」46.4%、「室内の安全対策(家具固定など)」37.7%などが続く。

地震防災情報への関心度については、「低いと思う・どちらともいえない」が60.7%と、「関心が高いと思う」39.3%を上回った。また、マンション内で実施される防災訓練に参加したことがありますか?では、「参加したことがない」が50.5%で、「参加したことがある」49.5%を上回るなど、防災への関心や意識が低いことがうかがえた。

ニュース情報元:(株)つなぐネットコミュニケーションズ

マンション居住者の7割以上、被災後は自宅マンションでの生活を想定

(株)つなぐネットコミュニケーションズ(東京都千代田区)はこのたび、マンションの地震防災に関するアンケート調査を行った。調査は2019年7月12日~7月19日、全国の10代~80代の主に分譲マンションに住む方を対象に、インターネットで行った。サンプル数は2,284名。

それによると、大地震後の被災生活場所については、「自宅マンションで生活すると思う」がトップで73.4%。「自宅を離れて生活すると思う」7.7%、「わからない」が19.0%。

大地震発生後に不安に感じる点(複数回答)は、トップは「家族の安否」で61.2%。次いで「建物や設備の被害」52.1%、「自宅での被災生活」46.2%と続く。

各家庭で実施している防災対策(複数回答)は、「飲料水・食料の備蓄」が最も多く63.3%。「停電対策(非常用照明や充電機器など)」46.4%、「室内の安全対策(家具固定など)」37.7%などが続く。

地震防災情報への関心度については、「低いと思う・どちらともいえない」が60.7%と、「関心が高いと思う」39.3%を上回った。また、マンション内で実施される防災訓練に参加したことがありますか?では、「参加したことがない」が50.5%で、「参加したことがある」49.5%を上回るなど、防災への関心や意識が低いことがうかがえた。

ニュース情報元:(株)つなぐネットコミュニケーションズ

地域の地震ハザードマップ、「確認したことがある」47.1%

SBIリスタ少額短期保険(株)は、9月1日「防災の日」にあわせて、全国の持ち家(一戸建て、分譲マンション)に住んでいる20代~60代の方を対象に、「地震・防災に関するアンケート調査」を行った。この調査は2012年から毎年実施しており、累計8回目。今回は2019年7月5日(金)~2019年7月11日(木)、インターネットで実施。有効回答数は1,116名。

近い将来、お住まいの地域で大地震が発生すると思いますか?では、「発生すると思う(どちらかといえばを含む)」が60.7%(昨年63.0%)、「被害を受けると思う(どらかといえばを含む)」が57.7%(同58.5%)と、いずれも昨年と比較して低下する結果となった。

地域の地震ハザードマップについては、「確認したことがある」(47.1%)が、「確認したことがない」(40.7%)を上回った。地震ハザードマップが避難場所や避難ルートの確認に役立つため、多くの方が活用しているようだ。

各家庭で行っている地震対策については、「非常用の食料・水の準備」が最も高く47.7%。「避難グッズ」(35.4%)、「家具の転倒・落下対策」(33.5%)が続く。

現在、不安に思っている災害は、最も回答が多かったのが「地震・津波」で64.5%。「豪雨、洪水、がけ崩れ、地滑り、土石流」(37.4%)が続いた。昨年調査と比較すると、ほとんどの災害において不安を感じている方が増加している結果となった。

ニュース情報元:SBIリスタ少額短期保険(株)

地域の地震ハザードマップ、「確認したことがある」47.1%

SBIリスタ少額短期保険(株)は、9月1日「防災の日」にあわせて、全国の持ち家(一戸建て、分譲マンション)に住んでいる20代~60代の方を対象に、「地震・防災に関するアンケート調査」を行った。この調査は2012年から毎年実施しており、累計8回目。今回は2019年7月5日(金)~2019年7月11日(木)、インターネットで実施。有効回答数は1,116名。

近い将来、お住まいの地域で大地震が発生すると思いますか?では、「発生すると思う(どちらかといえばを含む)」が60.7%(昨年63.0%)、「被害を受けると思う(どらかといえばを含む)」が57.7%(同58.5%)と、いずれも昨年と比較して低下する結果となった。

地域の地震ハザードマップについては、「確認したことがある」(47.1%)が、「確認したことがない」(40.7%)を上回った。地震ハザードマップが避難場所や避難ルートの確認に役立つため、多くの方が活用しているようだ。

各家庭で行っている地震対策については、「非常用の食料・水の準備」が最も高く47.7%。「避難グッズ」(35.4%)、「家具の転倒・落下対策」(33.5%)が続く。

現在、不安に思っている災害は、最も回答が多かったのが「地震・津波」で64.5%。「豪雨、洪水、がけ崩れ、地滑り、土石流」(37.4%)が続いた。昨年調査と比較すると、ほとんどの災害において不安を感じている方が増加している結果となった。

ニュース情報元:SBIリスタ少額短期保険(株)

街の公園が災害時に大変身! トイレ、かまど等を備えた防災公園がスゴイ

愛犬と散歩をしたり、子どもと遊んだり、友人などとおしゃべりしたりと、私たちの身近な憩いの場である公園。小規模な公園から国立公園まで、大小さまざまな公園がありますが、そのなかでも「防災公園」といわれる公園をご存じでしょうか。単なる公園ではなく、食事の炊き出しやトイレ、照明、生活用水など、“いざ”というときに大活躍するといいます。では、その驚きの機能とは? 今回は東京都江東区にある「木場公園」でそのすごさを教えてもらいました。
人口密集地の公園は、いざというときは防災拠点に

地震などの大規模災害が発生したら、多くの人の避難先となるのが公園ではないでしょうか。まちなかでも「一時(いっとき)集合場所」「避難場所:●●公園」などの看板を目にした人も多いことでしょう。実は公園には避難場所としてだけでなく、「防災拠点」としての機能があるのをご存じでしょうか。今回は、東京に22ある防災公園(防災公園グループ含む)のうちのひとつ「木場公園」を訪れ、東京都公園協会のスタッフのみなさんに防災機能について教えてもらいました。

右から、東京都公園協会スタッフの表さん、武居さん、石塚さん(写真撮影/片山貴博)

右から、東京都公園協会スタッフの表さん、武居さん、石塚さん(写真撮影/片山貴博)

「木場公園は災害時の避難場所になっているほか、救出活動拠点の候補地として考えられています。そのため、公園内には、(1)防災トイレ、(2)かまどになるベンチ、(3)生活用水の揚水ポンプ、(4)太陽光発電の照明灯などが設置されています」と表さん。

ただ、公園内に目立つように設置されているわけではないので、「えっ? 実はコレがトイレだったの?」「これがかまどに?」と驚かれることが多いのだとか。公園内にある「トランスフォーマー」と呼びたいと思います。

では、さっそくご案内いただきましょう。一見、公園の風景になじんだ普通のベンチですが、鍵をあけ、フタを持ち上げると、火をくべられる「かまど」が出てきます。

一見、よくある公園のベンチですが

一見、よくある公園のベンチですが

サイドから持ち上げると

サイドから持ち上げると

かまどが登場!

かまどが登場!

炊き出しができるように(写真撮影/片山貴博)

炊き出しができるように(写真撮影/片山貴博)

この防災ベンチ、フタを持ち上げるだけなので、ものの数分でベンチからかまどになります。非常時はこうした分かりやすさも重要なのでしょう。また、災害に備えて毎月1度、職員が必ず鍵を開けて組み立て、震災対応訓練をしているそう。その他、町内会やボランティアの防災訓練、防災普及啓発イベントなどでも利用しているといいます。

ちなみに、かまどベンチが登場したのは10年以上前。メーカーも複数あり、また少しずつ改良・バージョンアップしているそうで、ボランティアや炊き出しに不慣れな人でも戸惑わずに使えるよう、日ごろからの訓練が大事なのだとか。

「防災訓練、防災イベントは直火を使っての訓練になるので、お子さん方にも好評です」といいます。また地元の小学校などの授業でも活用されることがあり、案外、子どものほうが防災機能に詳しいそうです。ちなみに、ベンチには“寄贈●●”という地元企業名・店名が刻印してありました。企業と地元住民の信頼関係が垣間見えていいですね。

非常事態に活躍するマンホール型トイレは38基! 

その次にご案内いただいたのが、防災トイレです。木場公園では、日常的に利用されている公衆トイレに地下便槽が付いており、万一、電気などのインフラが寸断された場合には汲み取り式になるそう。加えて、上部にテントを組み立てて利用するマンホール型トイレを38基ほど備えています。

奥の日常時にも使われている公衆トイレは、電気・上水が止まっても使える地下便槽付き

奥の日常時にも使われている公衆トイレは、電気・上水が止まっても使える地下便槽付き

手前の芝生広場にあるマンホールのようなものが、マンホール型トイレ

手前の芝生広場にあるマンホールのようなものが、マンホール型トイレ

器具を使ってあけると、和式トイレになる

器具を使ってあけると、和式トイレになる

ここからトイレの周囲にテントを張っていく

ここからトイレの周囲にテントを張っていく

テントと同じ手順で骨組みを建てて、器具に固定していく

テントと同じ手順で骨組みを建てて、器具に固定していく

ペグ(地面に固定する道具)を打って、風で飛ばないようにしっかり設営

ペグ(地面に固定する道具)を打って、風で飛ばないようにしっかり設営

ペーパーを設置したら、トイレとして使えるようになる(写真撮影/片山貴博)

ペーパーを設置したら、トイレとして使えるようになる(写真撮影/片山貴博)

このトイレですが、一見すると芝生の広場にある目立たないマンホールになっているので、「いつも歩いているのに知らなかった!」「このトイレはありがたい」といちばん驚かれる&感謝される存在なのだそう。

表さんによると、「避難所のトイレだけではなく、一般家庭で簡易トイレを備蓄するなど災害時のトイレ機能をどう確保するか日ごろから考えていただくとともに、防災公園にこういう機能があると知っておいていただくことも必要と考えます」といいます。

ちなみに、このトイレ、慣れれば20分程度で設営できるそう。キャンプやアウトドアの経験がある人だと、もっと早くできるかもしれません。ただ、現場を担当する武居さん、石塚さんは「トイレはがまんができないので、できるだけ早く設営できるよう、職員だけでなく、地域住民の方にも組み立てを体験してもらってと思っています」と解説します。

余談ですが、今どきの子どもを持つ親として不安だったのが「和式」だという点です。キレイな洋式トイレが当たり前の子どもたち、和式トイレをどうやって使えるようにするか、個人的な課題ではありますが、練習させないといけないと思いました。

防災機能を活かすのは人。地域の防災訓練が大切に

木場公園の歴史とその特性を活かしたユニークな設備もあります。それが「揚水ポンプ」。もともと「木場」といえば材木の街で、公園の入口広場には「イベント池」と呼ばれる四角い人口の池があり、地元の伝統芸である「木場の角乗り」が年に1回、江東区民まつりで披露されるそうです。で、そのイベント池の水は地下の貯水槽から給水されていて、非常時には揚水ポンプで組み上げて活用することになっているとか。江戸っ子の知恵が受け継がれながら、令和の防災と共存している感じがします。

揚水ポンプを動かすと

揚水ポンプを動かすと

じゃぶじゃぶと水が出てきます。普段はひねるだけなので、水汲み体験は新鮮でした(写真撮影/片山貴博)

じゃぶじゃぶと水が出てきます。普段はひねるだけなので、水汲み体験は新鮮でした(写真撮影/片山貴博)

この揚水ポンプの水は、飲料水としては使えませんが、手を洗ったり、トイレを流したりするのに活用できます。防災公園では大規模災害時に備えて、何はともあれ、かまどによる炊き出し、トイレ、水の確保がされていることが分かります。ほかにも、何気ない照明がソーラー照明灯になっていたり、自動販売機が災害時は緊急時飲料提供ベンダーとして機能するそう。

ソーラー照明灯(左)、自動販売機(右)も、どこにでもありそうな公園の風景ですが、防災機能も併せ持っています(写真撮影/片山貴博)

ソーラー照明灯(左)、自動販売機(右)も、どこにでもありそうな公園の風景ですが、防災機能も併せ持っています(写真撮影/片山貴博)

木場公園の多目的広場。単なる遊び場に見えますが、これはヘリコプター離発着の可能性があるため、この広さを確保しているのだそう。救出・救助の最前線基地になる可能性があるのです(写真撮影/片山貴博)

木場公園の多目的広場。単なる遊び場に見えますが、これはヘリコプター離発着の可能性があるため、この広さを確保しているのだそう。救出・救助の最前線基地になる可能性があるのです(写真撮影/片山貴博)

なかなか普段、目にすることのない公園の防災機能。映画・ドラマなどでは、「普段は“ザ・一般人”なのに、いざというときに活躍するヒーロー物」という設定がありますが、防災公園はまさにこれではないでしょうか。普段の公園はのどかで、平和そうに見せて、実は住民を守るすごいやつなのだなと思いました。ただ、防災機能はあっても使うのは「人」です。災害時にこの防災機能が存分に発揮できるよう、近所・地域の防災訓練の大切さをあらためて思い知った次第です。

●取材協力
公益財団法人東京都公園協会

「垂水」駅北側の再開発事業、神戸市が都市計画決定

野村不動産(株)が事業協力者として参画する「垂水中央東地区第一種市街地再開発事業」が、7月4日、神戸市より都市計画決定の告示を受けた。同事業は、神戸市垂水区の中心であるJR・山陽電鉄「垂水」駅の北側で行われる再開発事業。地区内には狭小な敷地が多く、老朽化した木造建物が密集しているため、再開発の実現を目指してまちづくり活動が進められてきた。

同事業では、駅前の低利用地の高度利用と都市機能の更新を行い、商業施設の整備や居住機能の集積を図る。また、建物の耐火・耐震化により防災性を向上させ、歩道状空地の整備により歩行者空間を確保する。

施行区域は垂水区神田町3番(一部)5番6番7番の約0.7ha。2020年度に本組合設立認可、2021年度に権利変換計画認可、本体工事着工、2024年度に竣工の予定。

ニュース情報元:野村不動産(株)

「防災ゲーム」が楽しい! 子ども・大人へのオススメ3選

地震に台風、集中豪雨、火山噴火、豪雪……。日本では毎年、各地で自然災害が多発しています。誰も無縁ではないのですが、防災の知識や避難時の行動を学ぶ機会は限られています。でも、最近では防災を遊びながら楽しく学べる「防災ゲーム」が増えているというではありませんか。専門家にオススメを聞くとともに、実際に子どもと一緒にチャレンジしてみました。
災害の教訓、防災の知見が「防災ゲーム」に反映されている

今回、防災ゲームについて教わったのは、災害支援・防災教育コーディネーター、社会福祉士である宮崎賢哉さん。一般社団法人防災教育普及協会で教育事業部長を務めるほか、東京都立六本木高校で「防災学」の講師をするなど、防災と教育に関するスペシャリストです。

防災ゲームについて分かりやすく教えてくれた宮崎さん。「防災ゲーム」の使い方、選び方についてもレクチャーしてくれました(写真撮影/片山貴博)

防災ゲームについて分かりやすく教えてくれた宮崎さん。「防災ゲーム」の使い方、選び方についてもレクチャーしてくれました(写真撮影/片山貴博)

「僕が知る限りでも、日本には50種類以上の防災ゲームや教材があります。制作しているのは、国交省や気象庁などの官公庁、地方自治体、NPO法人、大学や研究機関、民間企業、学生団体などさまざま。販売されているものもあれば、ダウンロードして無償で利用できるものもありますが、それぞれの防災ゲームに制作者の防災に対する強い思いや願いが込められているのは、共通しています」と解説します。

宮崎さんによると、防災ゲームが広く知られるきっかけとなったのは、1995年の阪神・淡路大震災。被災した自治体の職員に対する調査をもとに、災害時に発生した状況判断を疑似体験できるゲームがつくられました。さらに東日本大震災以降、防災に関わる人が増えたことで、防災ゲームや教材の種類も増えていき、近年では風水害が多発していることを受け、水害や土砂災害について学べるゲームも増えているそう。

「今の大人世代は、防災教育といっても地震や火災を想定した避難訓練をする程度でした。ただ、大きな災害が発生するとその度に、さまざまな教訓、知見が積み重なっていき、今ではそれらの『命を守るための行動』や『平時の備えのポイント』が共有され、防災ゲームや教材で気軽に学べるようになっています」(宮崎さん)

日本は歴史的に繰り返し大きな災害に見舞われ、多くの人命が失われてきました。その教訓から学び、知見の結集を私たちにとって身近なものにしたのが「防災ゲーム」といえます。

防災カードゲーム「クロスロード」では、「わが家に3日間分の保存食と水の準備があります。しかし、避難所では多くの家族が保存食や水を持っていません。あなたはその保存食をみんなに分け与えますか?」といった設問が続き、答えに悩んでしまう(写真撮影/片山貴博)

防災カードゲーム「クロスロード」では、「わが家に3日間分の保存食と水の準備があります。しかし、避難所では多くの家族が保存食や水を持っていません。あなたはその保存食をみんなに分け与えますか?」といった設問が続き、答えに悩んでしまう(写真撮影/片山貴博)

幼児にも分かりやすい「ぼうさいダック」や「このつぎなにがおきるかな?」を体験

今回は、映画『シン・ゴジラ』にもオペレーションルームとして登場した東京臨海広域防災公園の「そなエリア東京」を訪問。ここでは複数の防災ゲームが展示されているだけでなく、実際に体験もできます。

そなエリア東京の防災ゲームの体験コーナー。ぜひ時間に余裕をもって来て、ゲームも体験してほしいです(写真撮影/片山貴博)

そなエリア東京の防災ゲームの体験コーナー。ぜひ時間に余裕をもって来て、ゲームも体験してほしいです(写真撮影/片山貴博)

あまたある防災ゲームのなかで、まず宮崎さんがオススメしてくれたのが「ぼうさいダック」。“災害が起きたとき”と”命を守るためにとるべき行動”がワンセットでカードの表裏にイラストで描かれています。

例えば、「地震が起きたときはどうする?」と聞かれたら、プレーヤーはしゃがんで、頭を守る動作をします。その後はかわいいアヒルのイラストを見ながら、「そうだね、まずは頭を守ろう」と答え合わせをしていきます。幼い子どもでも理解できる内容なので、導入の「防災ゲーム」としてとりかかりやすいのが魅力です。ちなみに、わが家の小学1年生と1歳の子どもにもこの「ぼうさいダック」は好評でした。「災害が起きたシーン」と「命を守る動作」がワンセットでシンプルなので、分かりやすいのがよいのでしょう。

大きなカードとトランプ大の2種類あり、イベントの人数や目的に応じて使い分けられるようになっています(写真撮影/片山貴博)

大きなカードとトランプ大の2種類あり、イベントの人数や目的に応じて使い分けられるようになっています(写真撮影/片山貴博)

これは地震が起きたときに頭を守る、という行動の例です。カードは自然災害だけでなく盗難時、不審者に声をかけられたときなどの対応もあり、日常の危険からも身を守る方法を学べます(写真撮影/片山貴博)

これは地震が起きたときに頭を守る、という行動の例です。カードは自然災害だけでなく盗難時、不審者に声をかけられたときなどの対応もあり、日常の危険からも身を守る方法を学べます(写真撮影/片山貴博)

次にオススメしていただいたのが、国土交通省が公開している防災教育教材「このつぎなにがおきるかな?」です。対象年齢は小学校からで「すいがい編(29枚)」と「つなみ編(29枚)」がありましたが、今年から「どしゃさいがい編(29枚)」が加わりました。

このゲームは、例えばすいがい編では「大雨がふると」「自分の家が洪水に」「巻き込まれてしまうよ」「そうならないために、調べておこう」という流れが1セットになって、描かれています。これを時系列として正しく並べ替える、かるたのように札をとるなど、遊び方をアレンジして、繰り返し遊べます。

「津波や水害、土砂災害といった災害は、大雨が降る~小石が落ちて来る~がけ崩れといった、おおよその”順番”があり、時系列で被害が発生します。このゲームで教材の名前どおり”このつぎなにがおきるかな”を学ぶことで、被害を予想し、適切な安全行動がとれるようになります」(宮崎さん)

取材当日はバラバラにしたカードを災害の前触れの順番に並べかえて遊んだが、かるたのように札を取る遊びや、ババ抜きのような遊び方もできる(写真撮影/片山貴博)

取材当日はバラバラにしたカードを災害の前触れの順番に並べかえて遊んだが、かるたのように札を取る遊びや、ババ抜きのような遊び方もできる(写真撮影/片山貴博)

「このつぎなにがおきるかな?」は名刺サイズ、はがきサイズなどでダウンロード可能。家庭や学校でも利用しやすい(写真撮影/片山貴博)

「このつぎなにがおきるかな?」は名刺サイズ、はがきサイズなどでダウンロード可能。家庭や学校でも利用しやすい(写真撮影/片山貴博)

土砂災害前に小石が落ちてくることや、避難先も水につかって食料が尽きてしまうことがあるなど、大人でも知らないことがたくさんあり、「えっ、そうなの? どうしよう……」の連続でした。大人はゲームとして楽しんだあと、「対策を考えなきゃ」と真剣になって考えこんでしまいます。ただ、わが家の小学1年生には、言葉や時系列の理解が難しいようでした。小学校低学年くらいの子どもには、大人も一緒に学びながらフォローすることが必要かなと感じました。

子どもから「買って!」と言われるほど好評な「なまずの学校」

最後にオススメいただいたのが、「なまずの学校」というカードゲームです。紙芝居形式でお題が出されるので、手持ちのカードで対策を考え、答えが当たったら報酬として通貨の「ナマーズ」がもらえるというもの。

例えば「血を出している人がいます。傷口を押さえるのに使えそうなものを出してください」といったお題では、筆者は身近にある「ネクタイ」で止血ができると思い、カードを出しました。身近に手に入りやすいという点で正解ではありましたが、衛生面で気をつけなければいけないということで、60ナマーズでした。ガーゼやほうたい、三角巾のカードを出しても正解ですが、災害時には不足すると考えられるため、それぞれ70ナマーズ。最も高得点なのは携帯しやすく使い勝手のよい大判のハンカチで90ナマーズ、となっています。答えはひとつだけでなく、より汎用性があるもの、身近に活用できるものが高得点になります。

お題に対して、配られたカードで対応策を考え、当てるという「なまずの学校」(写真撮影/片山貴博)

お題に対して、配られたカードで対応策を考え、当てるという「なまずの学校」(写真撮影/片山貴博)

答えはひとつだけでなく、複数あり、「こんなものが活用できるんだ!」という驚きと発見があります(写真撮影/片山貴博)

答えはひとつだけでなく、複数あり、「こんなものが活用できるんだ!」という驚きと発見があります(写真撮影/片山貴博)

大人でも自分の推理が当たって正解し、報酬の通貨がもらえるとうれしいもの。お題の全18問のなかには、他の人の持つカードを活用して困難に立ち向かう「協力問題」があり、人と力を合わせて災害を生き延びる方法を考えられます。

また、大人でも子どもでも、また個人でもグループでも遊べるので、学校だけでなく、町内会・マンション管理組合などでも活用できると思いました。シンプルに、ゲームとして楽しいだけでなく、対応策に使うアイテムについて、カードには「災害救助セットに入っているよ」「コンビニにあるよ」「ホームセンターにあるよ」といった、日常生活でも役立つ情報が書かれているので、自然と知識が深まります。

なまずの学校を楽しんだあとに、備蓄していた乾パンとパンを試食。「震災が起きたら3日間、乾パンで過ごすの? 無理ー!」と驚いていました(写真撮影/嘉屋恭子)

なまずの学校を楽しんだあとに、備蓄していた乾パンとパンを試食。「震災が起きたら3日間、乾パンで過ごすの? 無理ー!」と驚いていました(写真撮影/嘉屋恭子)

こちらもわが家で子どもと「なまずの学校」にチャレンジしたところ大好評で、「これ、買ってほしい」とねだられるほどでした。また、偶然にも新潟~山形で地震が発生したこともあり、ニュースと関連づけて体験できたため、「大判ハンカチ・ガムテープが役立つな」などと実感していたよう。あわせて、備蓄していた缶詰めの「乾パン」「パンの缶詰」も試食。ゲームをきっかけに親子での会話が盛り上がりました。

防災の知識は単に覚えるもの、知るだけものではなく、自分で考える、体を動かすなどのアクションがあると、より深く記憶されるように思います。また、頭を隠すにしても「どうして」などの理由が分かると、忘れにくくなります。今回の防災ゲームはいずれも知識と行動がともなっていて、記憶に残りやすく感じました。防災というとどうしても、きちんと備えなければという義務感から身構えてしまいますが、「まずは楽しんでみよう」という気軽さで親子や友人とぜひ一度、チャレンジしてほしいなと思います。

●取材協力
・一般社団法人防災教育普及協会
・東京臨海広域防災公園
・国土交通省「防災教育ポータル」

登山家・野口健さんが指南する、生き抜くための本当の防災対策

富士山などに散乱するゴミ問題に着目した清掃登山活動で有名な登山家の野口健さんは、東日本大震災やネパールの大地震、熊本地震でも支援活動を行い、熊本の避難所に被災者用のテントを張る「テント村」活動も展開している。
命がけで数々の険しい登山に成功し、被災地での様子を見続けてきた彼は、日本での地震や津波、豪雨などの震災発生時に最大1週間、自分の力で生き延びれば、自衛隊の助けを得られるなど何とか生き延びることができると言う。「自分の命は自分で守る」ために、個人として日ごろからどのような「防災対策」をしておくべきだろうか。経験談をもとに考えを聞いた。
被災者のストレス軽減につながった「テント村」

――2016年4月に熊本地震が発生後、避難所にテント村をつくったきっかけは何ですか?

プライバシーの確保が難しいので、長期間避難所にいると誰でもイライラしてきます。幼い子どもがいると周りに迷惑をかけるし、子どもたちもストレスを感じてしまう。そもそもペットがいるご家庭は避難所に入れません。そんな方たちはやむなく車中泊になりますが、肉体的に辛いですし、エコノミークラス症候群で命に危険が及ぶかもしれない。そんな状況を見て、何ができるかと考えたときに、ヒマラヤ登山でのベースキャンプの経験が役立つと思いました。つまり「テント村」をつくるということです。

陸上競技場の外周に市販のテントを1m間隔で並べる。「これだけでも、避難所で過ごすよりはプライベートを保つことができ、ストレスが軽減します」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

陸上競技場の外周に市販のテントを1m間隔で並べる。「これだけでも、避難所で過ごすよりはプライベートを保つことができ、ストレスが軽減します」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

余震が続く中、屋根がある避難所で過ごすと、いつ天井が落ちてくるか分からないため恐怖を感じます。その点、歩いて動けるぐらいの高さがあるテントなら天井が落ちる心配もないし、閉塞感もさほど感じません。車中泊や、避難所のシーツで仕切られた区画で寝るぐらいなら、寝袋で寝る方が快適だし、アウトドアグッズは色が鮮やかなので、気持ちも暗くなりにくいんです。また隣のテントとの間を1m以上空けることができれば、意外と隣の話し声が気にならず、ある程度のプライベート空間を持つことができます。

そうして実際に、陸上競技場のグラウンドの外周にテントを張ったところ、車中泊の方だけでなく、避難所で過ごされていた方も移動して来られ、300人分のテントを張る当初の予定が、その倍の600人弱を収容できる分のテントを張ることになりました。昼間はグラウンドの真ん中で子どもたちが走り回るなど、キャンプ場のような雰囲気になるので、目の前の光景が明るくなりました。

「アウトドア用品は明るい色が多いし、広々としたグラウンドを子どもたちが笑いながら走り回っている光景が目に入ると、元気が出てきます」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

「アウトドア用品は明るい色が多いし、広々としたグラウンドを子どもたちが笑いながら走り回っている光景が目に入ると、元気が出てきます」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

何よりもうれしかったのが、テントを張っていた期間、救急搬送が1人も出なかったことです。「避難所暮らしをしていると体調を崩す人が多いのですが、これはなかなかないことですよ」と医療関係者の方に言われたぐらい、テント村は被災者のストレス軽減につながったと思います。ストレスは人間の健康に及ぼす害が大きいので、災害後は少しでも軽減するよう環境を整えることが大事ですし、何があっても動じない心を養うことも大事だと思います。

―――どうしたら災害後に動じない心を養えますか。

2018年6月23日にタイ王国・チエンラーイ県のタムルアン森林公園内の洞窟で、地元のサッカーチームメンバーのコーチ1人と少年12人が閉じ込められました。残念ながら救出に向かった1人のダイバーは亡くなりましたが、7月10日に全員無事に救出されたニュースは記憶にある方も多いでしょう。電気もなく、水位がどんどん上がっていく不安しかない中で、10日間以上も閉じ込められたら、ノイローゼになったとしても不思議はありません。でも救助に来た救助隊にしがみつくわけでもなく、泣きながらパニックになるわけでもなく、子どもたちが淡々と会話をしていた映像を見たときに、国民性というものもあるかもしれませんが、育ってきた環境の影響も大きいのではと思いました。

タイでは「ボーイスカウト活動」が義務教育なんです。チームワークの重要性や役割分担の中での責任感、リーダーシップやフォロワーシップを自然の中で学んでいます。1つの課題に向けて一致団結して進める能力、総合的な人間力が身についていたからこそ、パニックになる子どもがいなかったのでは、と思うんです。

「自然の中で遊ぶという子どもたちは減少しているように思います」(写真撮影/片山貴博)

「自然の中で遊ぶという子どもたちは減少しているように思います」(写真撮影/片山貴博)

だから、幼いころからボーイスカウトに所属して自然の中でさまざまな経験をしたり、家族でキャンプに出かけて楽しみながら役割分担などを行ったりするアウトドア体験は、災害時に役立つと思います。

また、普段から家や会社など自分が過ごすエリアの地盤をハザードマップでチェックし、家族会議を開いて、災害時にどこに避難して、どこで集合するなどの打ち合わせをしておくだけでも、パニック状態に陥りにくいのではないでしょうか。

「プチ・ピンチ」の経験が生き抜く力につながる

――環境学校を開催され、子どもたちが自然と触れ合う機会をつくっていらっしゃいますが、災害時に役立つ経験につながることも目的なのでしょうか。

最初は、子どもたちに自然の素晴らしさを知ってもらって、自然環境を守ってもらいたいという考えでした。でも実際に始めると環境を守る以前に、自分の命を危険から守ることができない子どもたちが多いことに驚いたんです。

例えば、シーカヤックの乗り方を教えて転覆したときの脱出方法を練習させますが、実際に足がつく浅瀬で子どもが乗っているカヤックをひっくり返すと、カヤックの底を見せたまま何の動きもしない子どもたちが何人もいました。水中に潜って見てみると、子どもはパドルを握った姿勢のまま固まっているので、急いで引っ張り出しました。地上で練習して知識を身につけたけど、いざ危険な状況になると頭が真っ白になり、動けなくなってしまうんです。それは災害時も登山でも同じで、頭が真っ白になって固まったり、パニックになったり、諦めやすい人ほど、助かる可能性は低くなります。

本文の内容とは別の日に行われた、小笠原での環境学校(写真提供/野口健事務所)

本文の内容とは別の日に行われた、小笠原での環境学校(写真提供/野口健事務所)

だから自然の中で小さな失敗、怖かった経験、凍える状況などの「プチ・ピンチ」を体験することは大事です。人は死ぬかもしれないという危険に晒されたときに、死を感じた分だけ生きたいと思う、生に対する執着心が大きくなるもの。「絶対におぼれたくない」と思って必死にカヤックから抜け出そうとし、反射神経や自己防衛力などが磨かれるように思います。

それが分かってから「プチ・ピンチ」やチームワークを経験させるために、僕は環境学校に近場の岩登りや富士山に登るといったメニューを取り入れました。最近は危ないからと禁止している学校もありますが、木登りは手軽に「プチ・ピンチ」がつくれる遊びの1つです。アウトドアこそ防災術になると思いますね。

――ご自身のお子さんに経験させている「プチ・ピンチ」は?

環境学校では事故につながるといけないので、「プチ・ピンチ」にとどめていますが、自分の娘には時に死を感じるほどのもっと大きなピンチを経験させています(笑)。

野口さんの講演会や取材現場などに一緒に出向き、父親の話を熱心にノートに記録する娘の絵子さん。富士山の清掃や被災地の支援活動に向かう父の背中を見て育った(写真撮影/片山貴博)

野口さんの講演会や取材現場などに一緒に出向き、父親の話を熱心にノートに記録する娘の絵子さん。富士山の清掃や被災地の支援活動に向かう父の背中を見て育った(写真撮影/片山貴博)

娘の初登山は小学校4年生の時で、冬の八ヶ岳に連れて行きました。マイナス17度という低い気温の猛吹雪で、ほっぺが痛いし、服も濡れて凍えるほど寒いし、精神的にも追い詰められて「もう助からないかも」と彼女は泣きべそをかいていました。僕自身、山頂まで行くのは無理だと思いつつも、「娘に自然を体験させる」というテーマがあったので、「泣いてないでちゃんと岩を掴みなさい。泣いて助かるものは山にないよ」と語りかけていました。山頂から2時間ほど手前にあった山小屋でひと休みしながら、「今日はここまで。山には『していい無理』と『してはいけない無理』がある。ここから先は『してはいけない無理』だから下りるよ」と伝え、下山しました。

ヒマラヤ登山をする野口さんと絵子さん(写真提供/野口健事務所)

ヒマラヤ登山をする野口さんと絵子さん(写真提供/野口健事務所)

(写真提供/野口健事務所)

(写真提供/野口健事務所)

翌日テレビで、八ヶ岳で遭難して凍死したというニュースが流れました。僕らが撤退した同じ時間帯に登っていたパーティーで、吹雪の中で立ち往生してしまったとのこと。そのニュースを見て僕は、死を身近に感じるような強烈な経験をしてしまった娘がトラウマにならないかと心配しました。親に殺されかけたんですからね。でも彼女は「してはいけない無理だったんだね」と納得していました。「絵子さん(娘さんの名前)は、またパパと山に登りたいですか?どうですか?」と聞くと、「なんでそんなことを聞くの?」と言いながら、「リベンジする」と言いました。そして中学校1年の冬に、一緒に登り切りました。頂上で「やったね!」というと、「パパ、無事に下山するまでが登山だよ」と生意気にも言われてしまいました(笑)。
  
最近では一緒に15時間以上山道を歩いたり、ヒマラヤに登ったりもしていますが、予定外のことが起こっても彼女は簡単にパニックにならないようになりました。こうした自然環境の中で養われる経験こそ、自身の危機管理能力やメンタル力の向上につながっているように思います。

「よくトラウマにならなかったよね?」と絵子さんに語りかける野口さん。「どうしてもリベンジして登りたかったから」と絵子さんは微笑む(写真撮影/片山貴博)

「よくトラウマにならなかったよね?」と絵子さんに語りかける野口さん。「どうしてもリベンジして登りたかったから」と絵子さんは微笑む(写真撮影/片山貴博)

家にテントを張って寝袋で寝てみる

――防災グッズを準備しておくだけではあまり意味がないんですね。

準備することで満足しているだけでは、災害時にいざ使おうと思ってもうまく使えません。防災グッズの1つとしてテントを購入しても、納戸にずっとしまいっぱなしでは、いざというときに組み立てられないでしょう。テント内に細いロープを張ると洗濯物を吊るしたり、ランタンを吊るしたりすることもできますが、知らないとどう道具を使えば快適に過ごせるかも分からない。だから普段から使うことが大事になります。

そもそも「防災」という切り口から入っても、起きるか起こらないか分からないネガティブな状況を考えることは面白くないから、防災意識は定着しないように思います。だったら、趣味や遊びといったアウトドア体験を楽しんで、自ずと防災意識や経験も身についている方が、よっぽどもしものときに役立つと思うんですよね。

テントには不思議な魅力があります。登山での山小屋やテントの中の方が普段の生活よりも、娘がよく喋ってくれるんですよね。親子のコミュニケーションの場にもなっていると思います。また、友人であるレミオロメンの藤巻亮太さんとヒマラヤに3~4年ほど毎年正月に登っていたんですが、テントを張って日本酒を並べて飲むんですよ。二人で「何よりの贅沢だな」と言いながら楽しみました。

そんな楽しいと思えることこそ、継続できます。最初はご自宅の庭や屋上、駐車場などにテントを張って、家族並んで寝袋で寝てみてもいいと思います。1人用の小さなテントならマンションのベランダでも張れるのではないでしょうか。少しずつハードルを上げて、今まで3日間観光地巡りをしていた旅行を、「湖畔で3日間キャンプ」に変えてみてもいいでしょう。

日本人は真面目なので机上で防災知識を学ぼうとしますが、いくらインプットしてもいざというときに実践できなければ意味がありません。可能な限りパニックにならず、適切な判断力を身につけるには経験しかない。自分たちでできる範囲のアウトドアを楽しむことから始めてみてください。

●取材協力
登山家
野口 健さん
1973年米国ボストン生まれ。亜細亜大学卒業。故・植村直己さんの著書に感銘を受け、登山を始める。99年エベレストの登頂に成功し、7大陸最高峰最年少登頂記録を25歳で樹立。以降、エベレストや富士山に散乱するゴミ問題に着目して清掃登山を開始。東日本大震災や熊本地震でも支援活動を展開。こうした経験を講演するほか、子ども向けの環境学校なども開催する。『震災が起きた後で死なないために~「避難所にテント村」という選択肢』(PHP研究所)など著書多数。

「東京防災」に関わった電通プロデューサーが語る、“防災意識の低い人のための防災”

東京都民なら、黄色の表紙の防災ガイドブック『東京防災』は、ご存じだろうか。
分かりやすいビジュアル、リアルなノウハウが話題となり、今は電子版など全国で入手可能となった。その『東京防災』の仕掛け人のひとりが電通の谷口隆太さん。
ほかにも、ラップグループ「スチャダラパー」と共同で、防災ソング「その日その時」を制作するなど、「防災・災害支援」を軸とした官民連携プロジェクトを推進している。
今回はその谷口さんに、活動内容や目指すところ、本人の防災対策についてお話を伺った。
「防災」は日常。意識が高くない人がターゲット

――最初に、谷口さんが防災の活動に関わるようになった経緯を教えてください。

子どもが楽しく暮らせる世界を目指したいと考え、以前の仕事では紛争地域に赴き、資金調達や実地調査など、現場で活動していました。その後、スマトラ島沖地震、パキスタン地震など、海外の緊急支援に関わるようになったのですが、そのうち、何か起きてから行くのが嫌になったんです。“起こらないようにするためにどうすればいいのか。そのためには民間セクターのほうが動きやすいと考え、2009年電通に入社しました。

そんななか、2011年に東日本大震災が起こりました。

「防災」を考えなきゃいけないことは思い知らされました。
ただ、震災の当事者でない限り、多くの人は記憶が薄れ、防災に関して「やらなきゃ」と思っているのに、やらなくなるのが普通です。だから、「防災」という言葉をあえて使わないで、いつもの暮らしのなかで無理なくできることを、いざというときの安心をプラスしようと始まったのが、「+ソナエ(プラスソナエ)」プロジェクトです。

――その一つが、『東京防災』であり、スチャダラパーさんとコラボした「その日その時」なんですね。

そうです。『東京防災』は、いざというときに「あ、防災の本、あったな」と気付いて手に取ってもらって、パニックになっていても理解できるように、最小限の文字と絵になっています。

スチャダラパーさんのラップは、いつもの暮らしの中で無理なく防災を身近に感じてもらいたくてつくりました。彼らもとても気に入ってくださって、よかったと思います。

■電通、スチャダラパーが共同で作成した防災ソング「その日その時」

――どちらもとても分かりやすく、リアルでした。私たちにとって災害に備えることがアタリマエになるのが理想的ですよね。

私たちがターゲットとしているのは「防災意識が高くない人」。防災に関しては、つい後回しになっている人。そういう人でも、普段の生活の延長線上なら対策できるはず。
8割以上の人が「地震が起きると思っている」と答えているのに、なにかしら具体的なことをしている人は3割にも満たないのが現実です。正直にいうと、防災の必要性を啓発するのは難しい。でも、クリエイティビティの力で、「なんだろう」「おもしろそうだな」「やってみようかな」と考えてもらうのが我々の役目と考えています。

もちろん、その土台であるものは信頼性のある裏付けが必要で、それが、我々の「+ソナエ・アルゴリズム」です。これまで蓄積された世界中の防災ノウハウをもとに、いつ、どこで、状況などを入力すると、約400の知見の中から、適切なコンテンツを対象者別、テーマ別に抽出するデータベースです。これらをもとに、さまざまなプロダクトを制作しています。

「防災に関する知識も、“知っているとちょっとカッコいい豆知識”として情報にまとめています」と語る谷口さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「防災に関する知識も、“知っているとちょっとカッコいい豆知識”として情報にまとめています」と語る谷口さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

当たり前の文化や日常の風景に“防災”を潜ませる

――ビジネスとしての側面はどうでしょうか。どうしても、防災というと公共、地域のサービスというイメージが強いのですが……。

「多少高くても安心・安全な機能のあるプロダクト、サービスを買う」という人は多く、我々の試算では、安心・安全に関わる潜在市場は6.4兆円の規模とされ、さまざまな分野での需要拡大が期待できます。 

左:「+ソナエ」プロジェクトのロゴマーク 右:潜在的防災市場規模(出典/ウェブ電通報 「新しい防災、はじめます(1)」(2015年8月31日公開))

左:「+ソナエ」プロジェクトのロゴマーク 右:潜在的防災市場規模(出典/ウェブ電通報 「新しい防災、はじめます(1)」(2015年8月31日公開))

――6.4兆円ですか。例えば、最近はキャンプブームで、軽量なキャンプ用品がたくさん出て、売れていますよね。

確かにそう。いいアイテム、いっぱいありますよね。アウトドア用品は、普段使いも便利だしそのまま防災用品として使えます。
また、日本防災産業会議の活動の一環として、防災知識のない営業でも使える「防災営業支援ツール」を制作しています。これは、各自治体が出しているハザードマップ等を参考にしています。

また、日常的な暮らしのなかに、“防災要素をプラスする”仕掛けも有効です。例えば、「贈る」という行為。日本人は、出産、引越し、入学など、折に触れてモノを贈る習慣があります。例えばお中元に日持ちのする飲み物、出産祝いに液体ミルクなど、大切な誰かのためにいざというときのソナエを贈るという習慣を提案しています。

――防災用品ってなかなか自分では買わないけれど、贈られたら確かにうれしい。「贈る防災」が習慣のひとつとして根付けば、すごくいいですね。どうしても災害はいつ起こるか分からないため、自分ではつい後回しになってしまうのも事実です。

でも、災害って地震だけじゃないでしょう。強風、ゲリラ豪雨、極暑による熱中症など、命にかかわる災害は、実は多い。そのため、もっと普段から情報にふれることで、1人1人の災害対応力を高めていく必要があります。その一環として、私が今取り組んでいるのが、防災情報配信チャンネル「City Watch」です。

これは、商業施設や公共施設、マンションやオフィスビルの共用部にある電子看板に、地域ごとに細かく分けた災害情報を配信するサービスです。前述の「+ソナエ・アルゴリズム」を使い、エリア特性とそのときの震度などの災害情報に基づいて、私たちが「どう行動すればいいか」を示す情報を自動で配信します。しかも英語をメインに多言語配信で、海外の方も安心ですし、強制的に配信されるので、誰もが平等に情報を得ることできます。

これなら、スマホのバッテリーを心配しながら、みんなが同じ情報をスマホで検索するという不合理な事態も避けられます。これを活用することで、街のどこにいても安心できて、住み続けたくなる街が増えることを願っています。

CityWatch 平常時の画面イメージ(提供/電通)

CityWatch 平常時の画面イメージ(提供/電通)

自分の防災対策は「特別なことはしていない」

――話は変わりますが、電通での防災の取り組みなど教えてください。

私は企画には関わっていないのですが、「電通防」という活動で、9月の防災週間には、誰もが通るエントランスに、人工呼吸の人形を置いたり、地震時にオフィスがどうなるかリアルに再現したり。みんな真剣に見ていましたよ。

――まさしく、防災のプロである谷口さんですが、ご自身が普段行っている防災にはどんなことがあるのでしょうか。

普段持ち歩いているバッグには、バッテリーが2個、何かしら腹持ちする食べ物や飲み物が入っているくらいでしょうか。
3.11を機にこれらを持ち歩くようになったのですが、今は会社がフリーアドレスになって荷物を持ち歩いていたほうが楽なので、当たり前のスタイルとなりました。

最近は非接触で使えるモバイルバッテリーなど、技術も進歩しているし、お洒落なアウトドア用品や美味しい高級缶詰も増えているので、自分なりに楽しみながら備えられるといいですよね。いざというときに必要なものは人それぞれに違うはずですから。

――ご自宅ではなにか特別なアイテムなどご用意されているのでしょうか。

特別なことはしていないです(笑)。
ただ“普段使い”しているもののなかで、何が災害時に使えるか考えています。
普段子どもが自転車に乗るときに使うヘルメットは、地震のときも被らせようとか、いつも履いているこの歩きやすいスニーカーを、避難のときにも履いていこう、とか。

日常の暮らしのなかで、ちょっと視点を変えてみるだけで、いざというときに役立つアイテムは沢山あると思います。気取ったり、気合を入れすぎずに、日々の生活のなかでちょっとした“プラスアルファ”のとして防災を考える。それだけでも、いざというときに安心ですし、冷静な行動ができるようになると思います。

3.11の大震災の時には、汐留の社内にいた谷口さん。すぐに交通機関がすべてストップするだろうと考え、すぐ帰宅。帰宅難民にならずに済んだそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

3.11の大震災の時には、汐留の社内にいた谷口さん。すぐに交通機関がすべてストップするだろうと考え、すぐ帰宅。帰宅難民にならずに済んだそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
電通 ビジネス・プロデューサー
谷口隆太さん
筑波大学第三学群国際関係学類を卒業後、1999年より株式会社博報堂を経て、2001年よりセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンで、広報・FR担当としてベトナム・ネパールの栄養改善・教育事業に、アフガニスタン・イラクの緊急人道支援に従事、2004年よりジャパン・プラットフォームにて海外の緊急支援(スマトラ島沖地震、パキスタン地震、インドネシア地震、スーダン人道支援、イラク人道支援他)に従事。 2009年電通に入社。以後、食料自給率向上、健康、被災地支援、防災等の社会課題で官庁や民間企業とNPO/NGOの連携等によるコミュニケーション、ビジネス開発に取り組む。
>CityWatch

災害時に困るのはライフラインの遮断。住宅の機能でどこまで備える?

地震や豪雨、川の氾濫などの災害が、近年は甚大化する傾向が見られる。住環境研究所が“被災経験”のある人に調査したところ、被災したときに困ったのは、「停電」や「断水」などライフラインがストップしたことだと分かった。調査結果を詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「防災・災害意識と住まい調査」を発表/住環境研究所電気や水道などのライフラインの遮断が災害の課題

「地震」「水害」「台風」の被災経験のある25歳以上の既婚者に調査したところ、「停電」を経験した人は70%とかなり多く、「断水」を経験した人も43%もいることが分かった。これを災害別に見ると、「地震」被害の場合で、停電も断水も経験した割合が最も多くなっている。

■停電を経験した人の割合(全体:70%)
・地震被害:85%
・水害被害:69%
・台風被害:69%
■断水を経験した人の割合(全体:43%)
・地震被害:64%
・水害被害:43%
・台風被害:29%

断水が意外に多いように思うかもしれないが、巨大地震が起きれば、水源の水が枯れたり濁ったり、取水・浄水処理施設などの機能が損なわれたり、水道管が破裂したりといったさまざまな被害によって、断水を引き起こす可能性が高くなるという背景がある。

さらに断水は、水源から建物に給水するまでの異常だけでなく、実は停電とも関係がある。マンションなどの共同住宅の場合、各戸に水道を給水する方法はいくつかあるが、その多くは電気で動くポンプで水を送っているため、停電になると断水してしまうからだ。

ちなみに、ガス機器のなかには電源を必要とするものもあるので、ガスの使用も停電の影響を受ける場合がある。

災害時に困るのは、「家の片付け」「停電」「食料の入手」「飲み水の入手」「水洗トイレ」

次に「災害時に困ったこと」を聞くと、「家の片付け、掃除」26.6%、「停電、計画停電などで自宅の電気が使えない」25.7%、「食料の入手」25.0%、「飲み水の入手」23.3%、「自宅の水洗トイレが使えない」23.2%の順で、困った経験のある人が多いことが分かった。

また、断水経験のある人は、「自宅の水洗トイレが使えない」(38.5%)、「飲み水の入手」(37.4%)など、水に関して困った経験のある人が約4割にまで上がり、生活するうえでかなり困る様子がうかがえる。加えて、停電経験のある人は、「停電、計画停電」(31.2%)がお困り度ナンバーワンになるなど、ライフラインがストップすることの影響が大きいことが分かる。

災害時に困ったこと(出典/住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

災害時に困ったこと(出典/住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

住宅の機能で災害に備えるという方法もある

住宅の機能によって、災害に備えるという考え方もあるだろう。

災害に対応する住まい(建物、設備)への配慮の要望を聞いたところ、建物への要望では、地震対策として「倒壊しない強固な構造」75.3%「揺れによる室内の被害を抑える配慮」67.0%、台風対策として「飛来物に対する配慮がある(窓にシャッター等)」59.3%、「飛散に対する配慮がある(屋根の固定方法等)」55.2%などとなった。

設備への要望では、停電対策として「太陽光や蓄電池などにより最小限の生活が行える」46.1%、「電気のみに頼らない、ガスも併用した設備」36.5%、「大容量蓄電池などにより普段通りの生活が行える」34.9%などとなった。住環境研究所では、災害への住まいの対応として、台風対策や停電対策への要望も高いことに注目している。

また、被災経験のある人のなかでも住宅取得計画のある人に絞ると、要望の傾向は同じだが、要望の度合いがいずれも高まることも分かった。

災害に対応する住まい(建物、設備)への配慮の要望(出典:住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

災害に対応する住まい(建物、設備)への配慮の要望(出典:住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

最新の技術や設備によって、災害に備える機能を住宅に設けることは可能だ。もちろん、高い機能を付加すればそれだけ、コスト面もかかってくる。予算との兼ね合いでどこまで備えるかの優先順位をつけることになるが、住宅でも特に建物については、命や財産を守る箱にもなるので、あらゆる災害に備えられる機能をもたせることを強くお勧めしたい。

甚大な災害が増えるなか、災害への備えをする家庭も多くなっている。飲料水や食料品を備蓄したり、携帯の充電器を用意したり、懐中電灯を用意したり、風呂の水をためておいたり(水洗トイレで使用)と、万一に備えて家庭で用意できるものは怠らないようにすべきだ。

合わせて、建物や設備で災害に備えられる機能についても、新たに住宅を取得する際に考慮したり、必要に応じて居住中の住宅で耐震改修などのリフォームを行ったりといったことも検討してほしい。

災害時のライフライン、停電経験者は7割

(株)住環境研究所は、このたび「防災・災害意識と住まい調査」を実施し、その結果を発表した。この調査は、5年以内に戸建持家を取得した方で“被災経験がある方”、および住宅取得計画者で“被災経験がある方”を対象に、災害についての実態を調査し、今後の災害に備える住まいのあり方を探ったもの。調査は2019年2月28日~3月4日、インターネットで実施。サンプル数は1,403件。

それによると、被災した際に停電を経験した方は全体の70%にのぼった。災害別の内訳は「地震被害」で85%、「水害被害」で69%、「台風被害」で69%。また、断水を経験した方は全体で43%だった。内訳は「地震被害」で64%、「水害被害」で43%、「台風被害」で29%。被災時にライフライン関連がストップする状況が多く発生していることがわかる。

災害時に困ったことでは、「家の片付け、掃除」が26.6%でトップ。「停電、計画停電などで自宅の電気が使えない」(25.7%)、「食料の入手」(25.0%)、「飲み水の入手」(23.3%)、「自宅の水洗トイレが使えない」(23.2%)が続く。住まいのライフラインに関して備えが難しいことが伺える。

“被災経験がある”住宅取得計画者に、災害に対応する住まい(建物、設備)への配慮の要望を聞くと、建物への要望は、地震対策として「倒壊しない強固な構造」(78.2%)、「揺れによる室内の被害を抑える配慮」(74.8%)がある。台風対策としては「飛来物に対する配慮がある(窓にシャッター等)」(69.9%)、「飛散に対する配慮がある(屋根の固定方法等)」(68.9%)が、高い要望として挙がっている。

設備への要望としては、停電対策として「太陽光や蓄電池などにより最小限の生活が行える」(51.0%)、「電気のみに頼らない、ガスも併用した設備」(47.6%)、「大容量蓄電池などにより普段通りの生活が行える」(45.1%)があった。

ニュース情報元:(株)住環境研究所

虎ノ門一・二丁目地区の再開発事業が認定

国土交通省は3月22日、都市再生特別措置法の規定に基づき、森ビル(株)が申請していた民間都市再生事業計画「虎ノ門一・二丁目地区第一種市街地再開発事業」について認定した。事業地は東京都港区虎ノ門一丁目208番1他。地下4階・地上49階の複合施設(事務所、店舗、ホテル、ビジネス発信拠点等)、地下3階・地上4階の店舗・駐車場、地下1階・地上12階の複合施設(事務所、店舗、住宅、子育て支援施設等)を建設する。

また、地下鉄日比谷線新駅の整備と一体となった立体的な駅広場や、新駅と周辺市街地を結ぶ地上・地下の歩行者ネットワークの整備等により、交通結節機能を強化。帰宅困難者支援や自立・分散型エネルギーシステムの導入により、地域の防災機能も強化していく。

事業施行期間は、2019年10月1日~2023年2月28日の予定。

ニュース情報元:国土交通省

防災グッズ備蓄保有率、エリア別では北海道が最多

ソフトブレーン・フィールド(株)(東京都港区)はこのたび、「防災への備えに関する意識調査」を行った。調査は2019年1月11日(金)~1月15日(火)にインターネットで実施、20代~60代の男女4,259名より回答を得た。それによると、現在不安に思っている災害1位は「地震・津波」(68.2%)だった。次いで「豪雨・洪水などの水害」(32.4%)、「暴風・竜巻」(25.9%)の順。季節や時刻に関係なく発生する「地震」が不安であると多くの方が考えていることがわかる。

自宅周辺の指定避難場所について「知っている」は75.3%となり、前回(2016年)調査時の69.9%から5.4ポイント上昇。居住地域の地震ハザードマップについては、「家にある」が33.2%、「家にはないが見たことがある」が22.8%となり、2人に1人の方が地震ハザードマップをみたことがあるようだ。

防災グッズについて「備蓄・保管している」は48.8%と約半数。エリア別では「北海道」(53.8%)がもっとも多く、「関東」(51.5%)、「中部・北陸」(49.0%)と続く。備蓄している防災グッズは「懐中電灯」が88.6%でもっとも多く、「非常用飲料水」(67.9%)、「非常用持ち出し袋・防災セット」(55.9%)と続いた。ほかにも「非常食」(51.8%)や、「携帯ラジオ」(49.4%)など、非常時に使用するアイテムがランクインしている。

防災グッズの見直しをしていますか?では、「年に1回以上行っている」が41.6%、「数年に1回程度行っている」が43.4%となり、合わせて約8割以上の方がある程度の期間で防災グッズの見直しを行っている。

ニュース情報元:ソフトブレーン・フィールド(株)

「防災ママカフェ」主宰・かもんまゆ氏に聞く、子どもを災害から守るための心得

全国で心配されている、地震をはじめとするさまざまな災害。住まいや環境が変わったら、家族が増えたら、私たちはまず何をすべきか――そんな思いを抱くママたちに「分かりやすい」「すぐに行動したくなる」と人気の講座が「防災ママカフェ」だ。日本全国で開催され、これまでに約1万5000人以上が参加(2019年3月時点)。防災ワークショップや防災食試食などを通して、大切な人を災害から守るための備えを伝えている。主宰のかもんまゆさんに、私たちがすべきことを聞いた。かもんまゆさん(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

かもんまゆさん(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

自分と、大切な人の命を守ることは、誰かに“外注”することではない

かもんさんが防災活動を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災。当時、マーケッターとしてママコミュニティサイトを運営していたかもんさんは、日本全国のママたちとともに物資支援活動を始めた。そして、被災したママたちから聞いたのは壮絶な体験。「私たちの経験談を伝えてほしい。ママが知っていれば、備えていれば、守れる命があるから」――そのような声をきっかけに、乳幼児ママ向け防災講座「防災ママカフェ(R)」を立ち上げたという。

「東日本大震災では、0~19歳で900人近い子どもが亡くなっています(2013年内閣府調べ)。被災地で一番よく聞くのは、『まさか』『あの時こうしておけばよかった』という言葉。大人が知らない、備えていないということで、大変な思いをしたのは子どもたちでした。

家事に育児に毎日忙しいママにとって、『防災なんて興味ない』『行政や誰かがどうにかしてくれるもの』と思っている人もいるかもしれませんが、自分と、大切な人の命を守ることは誰かに“外注する”、他人任せにすることではないですよね」

「防災ママカフェ」に子どもも一緒に参加(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

「防災ママカフェ」に子どもも一緒に参加(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

「子どもを守りたい!」なら、まずは「戦う相手=敵」を知ることから

かもんさんは“防災”ではなく“備災(びさい)”という言葉を使う。災害は、防ぐことはできないけれど、防災リュックの準備も、備蓄も、けがの手当ても、逃げることすら自分一人ではできない子どもたちのために、ママとして準備しておくことくらいはできるはずという意味を込めているのだ。

かもんさんが話す備災の順番は「敵を知る→自分を知る→準備」という3段階。まずは、自分たちの住む街を襲う “敵”を知ることが大事だという。

2016年4月に起こった熊本地震では、被災地のママと子どもたちへの物資支援などを通じて100人を超えるママの声を集め、東北の地震の被災地のママの声と合わせて、ママのための防災ブック『その時、ママがすることは?』を企画制作した

2016年4月に起こった熊本地震では、被災地のママと子どもたちへの物資支援などを通じて100人を超えるママの声を集め、東北の地震の被災地のママの声と合わせて、ママのための防災ブック『その時、ママがすることは?』を企画制作した

「例えば、RPGゲームを思い出してください。ゲームが始まると、まずは強そうな敵が出てきますよね。そうしたらその敵を倒すために、パワーや属性、弱点などを調べるはずです。それから、戦いに必要なメンバー構成を考えます。『あー、このメンバーでは勝てないかもしれない……』そこで足りない部分を補うために、持つのが武器、なんですよね。

これを防災に当てはめて考えると、まずは自分たちを襲う敵がどんなものなのか――震度、津波の高さ、津波が来るまでの時間など、想定されている災害のことを知ることが、何よりまず最初にやることであるのが分かると思います。だって、どんな敵が来るか分からないのに、『絶対に家族を守る!』なんて、それは無理な話ですから。

そして、ゲームでは、相手によってメンバー構成を変えることができますが、家族の場合は「赤ちゃんは弱いから外そう」なんてことはできませんから(笑)、弱くても固定メンバーで戦わないといけない。

防災リュックや備蓄=武器は、敵の力と、自分たちの戦闘能力を考えた上で準備するもの。武器だけを別に考えて勝てる戦いなんてないんです」

大切な人を守るために備えるものは?

敵を知り、自分の家族の力を知ったら、次は備える。まずは家のチェックから。

「まずは、最初の15分を何とか生き延びること。阪神大震災では、家屋の倒壊、家具の転倒による圧死・窒息死が死因の8割で、地震発生後15分以内に9割の方が亡くなっています。だから、まずは最初の15分を生き延びられる部屋にしないといけません。そのためには、家具を倒れない・動かない・落ちてこないようにする。特に長時間いるリビングと寝室は重要です。あとは、ガラスでめちゃくちゃになってしまったら、家が大丈夫でもそこにいられなくなってしまうので、ガラスのものを減らすというのも大きな備災ですね」

「防災ママカフェ」の様子(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

「防災ママカフェ」の様子(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

そして、防災リュックなどのチェックを。防災リュックをつくる際に重要なポイントは?

「防災リュックで一番大事なのは、『持って逃げられる』こと。女性が持って逃げられる重さは約10kgと言われていて、もし赤ちゃんが5kgだったらあと5kgしか持つことができません。厳選したもの、そして家族が安心できるものを入れてあげてください。両手が空くリュックタイプであることも大事です。

東日本大震災の時、あるママが防災リュックに乾パンを準備していて、持って避難所に行くことができたんですね。子どもが『お腹がすいた』というので、乾パンをあげたのですが、子どもは乾パンを見たことも食べたこともなかったので口には入れたものの、すぐに吐き出してしまいました。

大人は「今は非常時だから」とか頭で考えて食べることができるけれど、子どもはそうはいかない。ただでさえ、避難所は狭い空間で、外に遊びに行くこともできないストレスフルな状態で、子どもにものすごく我慢を強いる場所。そのような状況だからこそ、子どもが食べられるもの、大好きなもの、食べると元気がでるものを準備してあげてください」

防災食試食の様子(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

防災食試食の様子(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))

家で備蓄しておくものとなると、「やはり長期間もつ防災食がいいのでは?」と考えがちだが、かもんさんは「特にこだわらなくても大丈夫」「子どもは、いわゆる防災食より、普段食べているようなもののほうが落ち着いた」と続ける。

「いざ発災すると、道路が壊れてしまい、物流が全部止まってしまう。今家にあるもの、持っているものしかあげるものがないという状況が長く続きます。家の中で、缶詰やパスタなど食料をまとめてある場所を確認し、『いま買えなくなると困る』と思うものは、一つ二つ多めに買い足しておきましょう。東日本大震災で被災したママで、粉ミルクがあと少ししかないから明日買おうと思っていたら、次の日にあの地震がきてしまったという人がいます」

普段から親子で質問、想像し合うことが、子どもの人生を大きく変える

子どもがいる家庭の場合、事前に災害のことをきちんと教え、伝えておくことも重要だ。

「熊本地震の10日前に福岡でワークショップをやったのですが、参加して地震の仕組みの話を聞いていた子どもは、『ママ、これはずっと続かないよね。地球がくしゃみしているだけなんだよね。ぼくたちは動いているお家に住んでいるんだもんね』と子どもから言ってきたそうです。

でも、知らなかった子のなかには、震度3くらいでも痙攣したり吐いたりする子もいました。大阪の地震では、2時間くらい声が出なくなった子もいます。

『うちはまだ小さいから』『まだ言っても分からないから』『怖がるから』教えていないという人がいますが、知らないほうが怖い思いをするんですね。そのあとのトラウマも心配です。

日本は地震の国で、私たち親世代より長生きする子どもたちのほうが、今後大きな地震に遭う確率は高い。大切な子どものいのちを守りたいのであれば、自分のいのちは自分で守ること、自分で考え行動することをしっかり教えないといけない」

東日本大震災からもうすぐ8年(画像提供/PIXTA)

東日本大震災からもうすぐ8年(画像提供/PIXTA)

子どもと一緒に災害について考える際に有効なのが、“質問ごっこ”と“想像ごっこ”。

「これは大人の言葉でシミュレーション。一度も考えたことないことは、いざ本番でもできませんので、地震を変にタブーにしないで、『いま、ここで地震がきたらどうなると思う?どうしたらいいのかな』と何度も何度も親子で話をしてほしいと思います」

家族みんなで笑顔で生き続けていくために。すべきことを考え、行動する

住宅の購入を検討している人、引越しを検討している人は、どのようなことに気をつければいいのか。

「家を購入するときや引越しをするときには、地盤を調べたりハザードマップをチェックするのは当然のことですが、ハザードマップは『ここは安全だ』と安心するための地図ではありません。地球は46億歳ですが、人間はたった700万年しか生きていないので、今まで人類が体験したことがなかったようなことだって起こる可能性があるわけです。

でも、過酷な想定がされている地域ほど、自然は豊かで、食べ物がおいしくて、美しく、魅力的な場所であるような気がします。長年に渡ってたくさんの恩恵を地球から頂いておきながら、地震と津波だけはイヤと拒否するわけにはいかない。だからこそ、愛するこの地で家族が笑顔で生き続けていくにはどうしたらいいのか、今何ができるのかを考え、行動することが大事なんだと思います」

●取材協力
かもんまゆ
東日本大震災の際、被災地のママと子どもたちへの物資支援活動を機に、200人を超える東北ママたちの協力のもとに「あの日、ママと子どもたちに何が起こったのか」をまとめた『防災ママブック』を企画制作。現在、「あの日の教えを、明日のいのちを守る学びにする」(一社)スマートサバイバープロジェクト特別講師として、「ママが知れば、備えれば、守れるいのちがある」を合言葉に、「防災ママカフェ(R)」を全国で開催、誰にでも分かりやすい言葉で備災の大切さを伝えている。
>HP
>ママのための防災ブック『その時 ママがすることは?』

防災をライフスタイルにする「+maffs(マフス)」の住宅用消火器。“防災は愛情”をデザインに

“防災用品”と聞いて思い浮かべるものは、水や食料、非常用トイレ、防寒グッズなどさまざま。消火器は火事に備えるために必要なアイテムだが、赤くて目立つ、場所をとるなどの理由で生活空間に置くことを躊躇(ちゅうちょ)している人も少なくないだろう。そんなイメージを覆すのが、2019年1月に発売された「+maffs(マフス)」の「+住宅用消火器」。白と黒のマットな質感のボディが美しい、インテリアに溶け込む“ジャケ買い”したくなるようなデザインだ。実用性重視の商品が多かった防災用品にデザイン性を与えたのはなぜか。そして、防災メーカーの社員が行っている暮らしで実践できる防災とは? 企画・開発チームに話を聞いた。
防災をライフスタイルに。防災と日常の距離を縮めたい(左から)モリタ宮田工業 清水範子さん、北里憲さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(左から)モリタ宮田工業 清水範子さん、北里憲さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

この消火器を開発したのは、消火器や消火設備の製造・販売・施工を行う国内防災メーカーのトップブランドであるモリタ宮田工業。「+maffs」は、企画・開発を担当した北里憲さんが入社時から思い描いていたプロジェクトなのだとか。

「日常的に防災を意識している人って、少ないと思うんです。災害が起こると一時的に防災用品がよく売れますが、熱が冷めるのがすごく早い。継続的に取り組んでもらえる選択肢として考えたのが『防災をライフスタイルに。』というコンセプトです。

防災は不安や恐怖心から考えることが多いと思いますが、それだとどうしても自分ごとにしづらいですよね。ただ、誰かを守るため・自分の身を守るため・大切な人を守るためというポジティブな感情に従って備えることだと伝えることで、自分ごとになると思っています。例えば、キャンプやDIYなどのように、自分たちが興味のあるものが防災につながっているという伝え方をするだけで、防災とライフスタイルの距離感が近くなるのではないかと考えました」

左がモリタ宮田工業製の業務用消火器で約3.9kg、右が「+maffs」の「+住宅用消火器」。「+住宅用消火器」は約2.2kgとコンパクトで、部屋に置いても圧迫感がない(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

左がモリタ宮田工業製の業務用消火器で約3.9kg、右が「+maffs」の「+住宅用消火器」。「+住宅用消火器」は約2.2kgとコンパクトで、部屋に置いても圧迫感がない(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

デザインは機能のひとつ。見えるところに置けば初期消火に対応できる

住宅用消火器が備えられている家庭は一般家庭の41%程度だと言われているそう。しかし、使用期限切れなどで実際は火災発生時にすぐ使える消火器がある家庭は少ないようだ。

「近年では、ガスコンロにセンサーがついたり住宅の火災警報器が義務化されたりと防災に関する法整備は進んでいますが、一方でタコ足配線などの電気器具を起因にした火災が増えています。

火災は、発生してから2・3分以内で初期消火を行うと、70%程度消火が成功するというデータがあります。だからこそ消火器を家庭の目立つところに置いてほしいのですが、邪魔だからと隅に追いやられてしまったり、物置にしまってしまったりすることがあるんですよね。実際に、僕の実家でもそうなってしまっていました。それだと初期消火が難しくなってしまう。だからこそ、インテリアに調和するデザインであるということはひとつの機能だと思っているんです」(北里さん)

「+住宅用消火器」はお酢の成分と食品原料からつくられた中性液体薬剤を使用しているため、人と環境にやさしく安全。また、一般的な粉末消火器のように粉が飛散せず、後片付けが簡単なのも特徴だ(画像提供/モリタ宮田工業)

「+住宅用消火器」はお酢の成分と食品原料からつくられた中性液体薬剤を使用しているため、人と環境にやさしく安全。また、一般的な粉末消火器のように粉が飛散せず、後片付けが簡単なのも特徴だ(画像提供/モリタ宮田工業)

では、実際に購入した場合、どこに置くのがベストなのだろうか。

「消火器は火を扱うキッチンに置くというイメージがあると思うのですが、避けたほうがいいのはコンロの真横。熱がずっと当たってしまうと製品劣化の原因になる等の理由もありますが、それよりも、実際に火災が起こったときに火が邪魔をして消火器に手が届かなくなってしまうのが問題なんです。あとは、高温多湿、常時濡れるような場所は避けたほうがいいです。

消火器を置くのに適した場所とよく言われているのが、キッチン・リビング・玄関。多くの家庭がリビングとキッチンは近い場所にあると思うので、リビングのような家族がよく集まる場所に置いて、消火器の存在をしっかりと認知・共有できる場所が一番望ましいですね」(北里さん)

「+ 住宅用消火器」の設置例。消火器をキッチンに置く場合は、左右前後などを確認し、実際に火災が起きたときも手が届く場所がいいとのこと(画像提供/モリタ宮田工業)

「+ 住宅用消火器」の設置例。消火器をキッチンに置く場合は、左右前後などを確認し、実際に火災が起きたときも手が届く場所がいいとのこと(画像提供/モリタ宮田工業)

防災は、大切な人への愛情の形

モリタ宮田工業は防災メーカーだというだけあって、社員で家庭に消火器や防災用品を置いている割合が高いという。マーケティング担当の清水範子さんは、3回分の非常用トイレをはじめ、食べるものや水、マスク、ウェットティッシュなどを常にカバンに入れて持ち歩いているという。清水さんは、小さいころから防災が身近にある暮らしをしてきたのだとか。

「このプロジェクトに関わることになったとき、『世の中、こんなにも備えていないのか!』『自分に防災は関係ないと思っている人って結構いるんだな』と非常に驚いたんですね。というのも、防災というのはわが家では普通のことだったんです。祖父母からは関東大震災や戦争の話を幼いころから聞いていたし、親は防災用品を3日間分は常に用意していました。備蓄食料から何かを食べてしまったら申告して買い足すというローリングストックのようなものも自然とできていましたね。

清水さんが常に携帯している防災グッズ(写真提供/清水範子さん)

清水さんが常に携帯している防災グッズ(写真提供/清水範子さん)

清水さんのお宅のキッチンにも「+ 住宅用消火器」が(写真提供/清水範子さん)

清水さんのお宅のキッチンにも「+ 住宅用消火器」が(写真提供/清水範子さん)

毎年、年末の大掃除の際に、水・備蓄食料・非常用トイレなどの防災用品をすべてチェックするんです。そして、お正月料理に飽きたら賞味期限が近い缶詰などを消費していくというのがわが家のスタイル。“大掃除=家のダメな部分の見直し”なので家のメンテナンスもするし、今年修繕が必要そうな箇所の洗い出しもしていました。そういう家庭で育ててもらって、いまでは“防災=愛情”なんだと実感しています。何かあったときに絶対大切な人に辛い思いをさせないんだという親の思いが常にあったし、私もそれを実感していました」(清水さん)

重要なのは、防災意識を高める教育

「+住宅用消火器」が発売されて約2カ月。清水さんは印象的な出来事があったという。

「この間、『+ 住宅用消火器』を購入してくれた友人の家に遊びに行ったら、玄関のシューズクローゼットに『+住宅用消火器』を置いてくれていたんです。しかも、友人の子どもがこの消火器をすごく気にいってくれて。ちゃんとメモリータグにも購入日と使用期限を記入していて『ちゃんと家族で書いたよ!』と教えてくれたり、消火器の使い方を聞くと『火元から消すんだ』としっかりと受け答えしたりしていたんです。

そのとき、やはり防災は愛情だなと思って。こういう製品が接点となって家族の防災意識が上がるということは絶対的にあり得ると実感したので、『防災をライフスタイルに。』というコンセプトをきちんと伝える活動をしっかりとやっていきたいと思っています」(清水さん)

「+ 住宅用消火器」についているメモリータグには、購入日と使用期限を記入できる。このタグには、自分自身、家族で記入することで、消火器の5年という使用期限の周知と、防災への意識を高めてほしいという想いが込められている(画像提供/モリタ宮田工業)

「+ 住宅用消火器」についているメモリータグには、購入日と使用期限を記入できる。このタグには、自分自身、家族で記入することで、消火器の5年という使用期限の周知と、防災への意識を高めてほしいという想いが込められている(画像提供/モリタ宮田工業)

「防災への意識を高める教育がとても重要だと思うんです。日常に起こりうる被害想定ができないと、消火器や非常用トイレを買おうとは思わないんですよね。防災メーカーの責務として、災害が起こったときの被害がイメージできるようなストーリーを伝えることは今後も意識したいなと思っています」(清水さん)

「まずは、家庭の中で消火に携わるものをアップデートして新しくリニューアル・拡充していきたい。その後には、家具やインテリアなどライフスタイルにまつわる商品をつくっている人と一緒にものづくりをしたり、ライフスタイル文脈のイベントなどを企画したりしていきたいと思っています。防災を学ぶために行くのではなくて、自分の興味のあるライフスタイルのイベントを学び・体験しに行って、実はこういうところに防災との接点があるんだ、と気付けるような。日常の防災を少しずつ重ねて提案していきたいですね」(北里さん)

災害が起こったとき、家ではどのようなことが起きて、なにが必要になるのか。それを想像するのが、防災をライフスタイルにする第一歩だ。イメージすることは、大切な人と生きる未来へつながっていく。はじめの第一歩として、防災との接点を見出すことから始めてみては。

>HP

中延の旧同潤会地区、都内最大規模の防災街区整備事業が竣工

旭化成不動産レジデンス(株)と(一財)首都圏不燃建築公社は、参加組合員として参画する「中延二丁目旧同潤会地区防災街区整備事業」を2月末に竣工する。防災街区整備事業の竣工事例としては東京都内で6例目、最大規模となる。同事業は、東京都の「木密地域不燃化10年プロジェクト」における「不燃化特区53地区」の1つ。関東大震災後の復興として、旧同潤会が建設した木造戸建住宅の面影が残る歴史ある地区。災害時の消火・避難活動に支障をきたさないために早急な不燃化対策が必要とされていた。

同事業の一環として総戸数195戸(権利者住戸72戸)の分譲マンション「アトラス品川中延」を整備。敷地北側(中延小学校側)に「防災公園」と、共用部として約68帖の「集会所」を用意。住民のコミュニティスペースとしての利用だけでなく、災害時に様々な用途で利用できるようデザインしている。敷地南側には公開通路を設けるとともに、全体を緑で包み込み、周辺環境と調和した、防災性の高い拠点を整備した。

整備事業の特徴は、関係権利者が140名に及ぶ大規模なものであったこと。第一種住居地域のため、駅前再開発などと比べて容積率・高さなどの制約も厳しく、合意形成に長い期間を要することが予想されたが、地域住民の防災意識の高さや品川区による積極的な組合サポートにより、準備組合設立から5年という短期間で竣工に至る。

ニュース情報元:旭化成不動産レジデンス(株)

防災対策、日頃から「心掛けていない」は6割以上

(株)REGATEは、このたび「自然災害への対策」に関するアンケート調査を行った。調査は2018年10月26日・27日、首都圏20代~50代の男女を対象にインターネットで行い、1,145人から回答を得た。それによると、日頃から防災対策を心掛けていますか?では、6割以上(61.43%)が「心掛けていない」と回答した。心掛けていない理由は、「面倒だから」「どのようなものを用意すればいいのか分からない」が断トツで1位。一方、心掛けている方の理由には、「最近自然災害が多いから」「家族がいるから」が多く挙がった。

最近の自然災害による被害を目の当たりにして防災意識は高まりましたか?では、「どちらかといえば高まった」が約半数の52.40%。次いで「あまり高まっていない」(22.94%)、「とても高まった」(17.32%)、「全く高まっていない」(7.34%)が続く。7割(「どちらかといえば高まった」+「とても高まった」)の人が、防災意識が高まったと感じているようだ。

自然災害の後に盗難被害に遭わないために家財道具の整理をしたことはありますか?では、全体の83.41%が「家財道具の整理をしたことがない」と回答している。建物などが半壊している被災地で盗難が起こった場合、事実関係を立証することが難しく、災害保険などは適応されにくい。アンケートでは、自然災害の盗難被害に災害保険が適応されにくいことを「知らなかった」と回答した方が76.70%と多かった。

ニュース情報元:(株)REGATE

災害時のために「備蓄している」人は7割強

マイボイスコム(株)(東京都千代田区)は、このたび2回目となる「防災用品」に関する調査を行った。調査はインターネットで2018年9月1日~5日に実施。10,482件の回答を得た。それによると、災害に対して「十分備えている」は1.4%、「ある程度は備えている」は30.6%で、災害に対して備えている人は3割強だった。備えていない人は5割強(「あまり備えていない」26.7%、「ほとんど備えていない」25.1%)、10~30代では6~7割みられる。また、北海道・北陸・九州でも6~7割と高い。

災害の備え・対策として行っていることは(複数回答)、「食料品・飲用水や生活用水、日用品などの備蓄」が47.5%、「防災グッズ・非常用持ち出し袋など」が33.5%、「家具などの転倒・落下防止対策」「地震保険への加入」「避難場所や経路の確認」が各20%台だった。「特にない」は、男性10~30代・女性10・20代や北海道・中国で4~5割と高かった。

災害の備え・対策をしようと思ったきっかけは(複数回答)、「実際に起きた災害を見聞きした」が備え・対策をしている人の50.4%、「テレビ、ラジオ」が30.6%。東北では、「自分や家族などが、実際に災害の被害にあった」「停電・断水などを経験した」の比率が高い。

また、災害時や避難生活を想定して備蓄しているものがある人は7割強。備蓄しているものは(複数回答)、食品では「レトルト食品・インスタント食品・真空パック」「缶詰」「飲料水」が各40%台、「お米、もちなど」「乾物、乾麺」「お菓子類」が2割前後。物品では「懐中電灯、LEDライト」が43.1%、「ラジオ」「電池類」「カセットコンロ・IHコンロ、ガスボンベ、固形燃料」「手袋、軍手」「ランタン、ろうそく、ライター」が各20%台だった。

災害への備え・対策として行っている・心がけていることとして、「地震や災害が起きた時はすぐに家族の安否を確認するようにしている。」(男性27歳)、「災害時に必要なものは、玄関近くのすぐに持ち出せる場所に置いている。」(男性46歳)、「やらなければいけないと思っているけどなかなかできてない。」(女性25歳)、「防災の日などを機に、非常用持ち出し品や、医薬品の点検をする。」(女性43歳)、などの声があった。

ニュース情報元:マイボイスコム(株)

ママたちの防災グッズ定番、1位は「おしりふき・ウェットティッシュ」

(株)カラダノート(東京都港区)はこのほど、「ママの防災に関する意識調査」を行い、その結果を発表した。調査は同社運営のメディア「カラダノートママ部」のユーザーを対象に、2018年8月22日~2018年8月28日に実施。調査方法はインターネット。528名から回答を得た。

それによると、防災について家族で話し合った経験があると回答したママは全体の85.4%。地域差はなく、どの地域も約8割の家庭で防災について話した経験があった。

一方、防災グッズを準備していると回答したママは、関東・近畿地方が66.66%と同率で最多。次いで中部地方の62.19%。首都圏から離れるほど防災グッズを準備している比率が下がり、災害を経験した地域よりも首都圏のママたちの防災意識が高いという結果になった。

ママたちの防災グッズの定番(複数回答)は、1位は「おしりふき・ウェットティッシュ」で93.5%、2位は「飲料」(81.7%)、3位「懐中電灯」(72.8%)、4位「非常食」(70.8%)、5位「おむつ」(45.8%)と続いた。

また、非常食に関してママたちの頭を最も悩ませているのは「どのくらいの量を準備したらいいか悩む」で27.8%。次いで「買い替えが面倒」(24.2%)、「賞味期限が近くなった食品を食べたり、調理する手間」(16.7%)が挙がった。非常食の管理方法として、「携帯のスケジュール機能で賞味期限が切れる数日前にアラームをセットする」という賞味期限切れを防ぐアイデアや、「訓練と称して非常食だけで調理する」という人もいた。

ニュース情報元:(株)カラダノート

災害時に心配なこと、「断水」「停電」が6割

インターワイヤード(株)は、このたび「防災対策」についてアンケート調査を行った。調査は2018年7月4日~7月20日にかけて実施。3,347人から回答を得た。最も身近で備えが必要だと思う災害は何ですか?では、圧倒的に多かったのが「地震」で76.7%。次いで、「台風」11.9%、「豪雨・洪水」4.6%の順。

また、災害時に心配なことについて、最も多かったのは「断水」で60.8%。次いで「断水」と僅差で「停電」が58.1%で続く。以下、「食糧・飲料の不足」(26.8%)、「トイレが使えない」(23.2%)、「家屋の損傷・倒壊」(18.8%)、「ガスの供給停止」(18.6%)など。男女別にみると、男女差が大きかったのは「トイレが使えない」で、女性(29.6%)が男性(19.2%)を10.4pt上回った。

防災用品などの備蓄以外で、何らかの防災対策をしてますか?では、「家具や本棚の転倒防止策」35.8%、「ペットボトルなどの飲み物を常に携帯するようにしている」23.3%、「避難場所や避難ルートを確認している」22.3%と続く。何らかの防災対策をしている割合は62%で、全体の6割程度だった。男女別にみると、防災対策をしている割合は男性よりも女性が多く、とくに「ペットボトルなどの飲み物を常に携帯するようにしている」は、女性(29.7%)が男性(19.2%)を10.5pt上回った。

なお、2016年に行った調査と比較すると、全体で「備蓄している」割合は47.6ptと、わずかに2.6pt増加しているが、ほぼ同じ。2016年調査以降も日本では地震や豪雨などの災害が起こっているが、備蓄に関しての意識にはあまり変化が見られないようだ。

ニュース情報元:インターワイヤード(株)

家庭の備蓄状況、約8割が「3日分×家族の人数分」の備えなし

(一財)日本気象協会(東京都豊島区)が推進する「トクする!防災」プロジェクトは、このたび20代から40代の女性600名に「家庭の備蓄状況」に関するアンケート調査を実施した。調査期間は2018年6月30日~2018年7月1日。一般的に備蓄には「3日分×家族の人数分」が必要とされている。大規模災害発生時、人命救助のリミットである3日間(72時間)は、人命救助が最優先されてしまうため、まずは災害初期を乗り切るための最低限の備蓄量として「3日分×家族の人数分」の備蓄が推奨されている。

備蓄には「3日分×家族の人数分」が必要であることを知っていますか?との質問では、約半数(46.8%)の人が知っていると回答。しかし、実際にその量を備蓄できているかという質問に対しては、79.2%が「できていない(「あまりできていない(36.2%)」と「全くできていない(43.0%)」の合計)」と回答している。

「3日分×家族の人数分」の備蓄を「十分にできている」「それなりにできている」と回答した方が実際に備蓄しているものは、TOP3には「水」(83.2%)、「ティッシュペーパー、除菌ウェットティッシュ」(77.6%)、「トイレットペーパー」(72.0%)があがった。一方で、「寝袋」(15.2%)、「うがい薬、マウスウォッシュ」(25.6%)、「携帯電話の予備バッテリー」(30.4%)は、備蓄できている人が少ないようだ。

また、「3日分×家族の人数分」の備蓄を「十分にできている」「それなりにできている」と回答した方に対し、栄養補助食品や野菜ジュースなどの「健康を維持するため」の飲食物まで備蓄できているか聞くと、約半数(44.8%)がそこまでは備蓄できていないと回答している。

普段から少し多めに食材、加工品を買っておき、使ったら使った分だけ新しく買い足していくことで、常に一定量を家に備蓄しておくことを「ローリングストック」と言うが、意味まで知っていた人は約4人に1人(27.5%)だった。

ニュース情報元:(一財)日本気象協会

子育て層の防災意識、「安否連絡方法の確認を事前にしている」は4割程度

アクトインディ(株)(東京都品川区)は、このたび12歳以下の子どもを持つ全国の保護者750名を対象に、「防災に関するアンケート」を実施した。調査は同社運営のお出かけ情報サイト「いこーよ」で実施。調査期間は2018年7月2日~2018年8月6日。地震発生時・事後で不安なことは何ですか?では、「家族の安否」が79%と圧倒的に多く、「建物の崩壊」が59%で続く。「家族との連絡手段」も58%が不安と回答した。しかし、地震への対策として家族で準備していることは、水や食料、懐中電等などのストックが中心で、「家族との安否連絡方法の確認」を事前にしている人は4割程度(42%)に留まった。

地震が起きたらどうするかを家族で話し合う頻度は、「地震ニュースがある度にする」というのが44%で最多。「ほとんどしたことがない(29%)」「まったくしたことがない(8%)」を合わせると37%もおり、日頃から防災について話し合っていない家族が多くいることが分かった。

子どもの安否確認は「学校や園への問い合わせ(34%)」や「学校や園からの連絡待ち(29%)」がメインとなるが、学校・幼稚園・保育園からの緊急時の連絡手段では「電話連絡網(32%)」がまだまだ多く、震災下で電話通信網が麻痺したり、連絡先の人が電話に出ないような状況になることも想定すると、この連絡手段が正常に機能するか大きな不安が残る。

災害時の家族の大人同士の連絡手段としては、「LINEなどのチャット(52%)」、「携帯電話(50%)」などスマホが主で、連絡手段はスマホに依存しているようだ。

ニュース情報元:アクトインディ(株)

災害時の安否確認手段、「携帯電話の通話」「メール」「LINE」が上位

(株)プラネット(東京都港区)は、このたび「防災対策に関する意識調査」を実施した。調査期間は2018年7月4日~20日。3,347人が回答した。それによると、最も身近で備えが必要だと思う災害は、「地震」がトップで76.7%。2位は「台風」で11.9%、1位とは大差がついた。3位に「豪雨・洪水」(4.6%)、4位「豪雪」(1.6%)、5位「津波」(1.4%)、6位「土砂災害」(0.9%)の順。

エリア別に見ると、ほぼすべてのエリアで「地震」の数値が最も高く、中でも最も高かったのは「関東」の86.6%。次いで「近畿」の76.9%、「東海」75.6%。首都直下型地震や南海トラフ地震の発生が懸念されている「関東」「東海」、また阪神・淡路大震災を経験し、直近でも大阪府北部地震に見舞われた「近畿」が上位に入った。最も低かったのは「九州・沖縄」で41.6%。最高値の「関東」とは45.0ポイント差がある。

災害が起きたとき、特に心配なことは何ですか?では、1位は「断水」で60.8%。2位「停電」58.1%と約6割で並び、3位「食料・飲料の不足」26.8%、4位「トイレが使えない」23.2%、5位「家屋の損傷・倒壊」18.8%、6位「ガスの供給停止」18.6%と続く。ライフラインの要として「断水」「停電」を心配する人が最も多い。また、「食料・飲料の不足」と「トイレが使えない」が20%台で、生きるために食べること、排泄の心配が大きいことがうかがえる。

災害時に備えて、自宅で防災用品や生活必需品を備蓄していますか?では、「備蓄していない」が52.4%で「備蓄している」が47.6%。「備蓄している」人は半数に満たない結果となった。備蓄している人の備蓄品1位は「飲料水」で87.9%。2位「ランタン・懐中電灯・ローソク」67.8%、3位「トイレットペーパー、ティッシュペーパー」61.0%、4位「乾電池」55.0%、5位「非常時用の食品(非常食)」53.6%、6位「ラジオ」49.8%と続いた。

災害時の安否確認の手段として何を使用しますか(予定)?では、1位は「携帯電話の通話」で72.9%。2位は「メール」で45.3%、3位「LINE」29.0%という結果。携帯電話やスマートフォンで可能な手段が上位3項目を占めた。続いて、4位「固定電話」23.4%、5位「災害用伝言ダイヤル(171)」21.5%、6位「公衆電話」9.1%の順。2016年の調査結果と比べると、6位までの項目は変わらないが、「LINE」と「災害用伝言ダイヤル」の順位が入れ替わった。

ニュース情報元:(株)プラネット

大切な命を守るために! 知っておきたい耐震基準や防災グッズのそろえ方【地震対策まとめ】

毎日どこかしら揺れている地震大国・日本。6月18日には大阪府北部で最大震度6弱の地震が発生、大きな被害をもたらしました。SUUMOジャーナルがこれまでに掲載してきた記事のなかから、耐震基準や建築技術の種類、補強工事の内容や費用、用意しておきたい防災グッズなど、地震・災害にまつわる内容のものをピックアップしました。
いざというときのために、あらためて住まいのつくりや日ごろの備えを振り返ってみませんか?
地震にそなえた建築技術と耐震基準の見直しの歴史

●「免震」「耐震」「制震」…大地震に強いのはどれ?
(2013年1月25日 (金)掲載)

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“<耐震構造>
壁や柱を強化したり、補強材を入れることで建物自体を堅くして振動に対抗する。
<制震構造>
建物内にダンパーと呼ばれる振動軽減装置を設置し、地震のエネルギーを吸収。建物に粘りをもたせて振動を抑える。
<免震構造>
建物と地面の間に免震装置を設置。建物を地面から絶縁して、振動を伝えない。“

“いずれも、建物自体の損壊を防ぐという点では優れた工法ですが、「免震」の場合はさらに「建物内の揺れを軽減する」という利点があります。基礎部分に埋め込まれた免震装置が「激しい地震エネルギーを吸収」→「ゆるやかな横揺れに変え、家具の転倒などの被害を最小限に食い止める」というもので、耐震・制震に比べ揺れを三分の一程度に抑えられるそう。“

●地震のたびに強くなってきた耐震基準。旧耐震と新耐震をおさらい
(2016年3月11日 (金)掲載)

(画像/iStock / thinkstock)

(画像/iStock / thinkstock)

“耐震設計法が抜本的に見直されたのは1978年の宮城県沖地震後。1981年に施行された「新耐震設計基準」(新耐震)だ。現在では1981年以前の基準を「旧耐震」、以後の設計法を「新耐震」と呼んでいる。それまでの「旧耐震」では、震度5程度の地震に耐えられることが基準。しかし、「新耐震」では、建物の倒壊を回避するだけでなく、建物内にいる人の命を守ることに主眼がおかれ、比較的よく起きる中程度の地震では軽度なひび割れ程度、まれに起きる震度6~7程度の地震では崩壊・倒壊しない耐震性を求めている。“

“しかし、新耐震基準だから100%大丈夫というわけではない。”
“地震に強いか弱いかは、さまざまな要因が影響するからだ。では、どんな家が地震に強いのだろう。”

“まずは「建物の形」。地震に強いのは上から見たときに正方形や長方形のシンプルな形の建物。”
“また、建物だけでなく地盤も耐震性に影響する。弱い地盤の場合、同じ震度でも建物に伝わる揺れが大きくなる。”

いざというときのための耐震診断や補強工事、費用はどれくらい?

●「私の家は大丈夫?」地震が来る前に知っておきたい耐震診断
(2015年5月29日 (金)掲載)

(画像/iStock / thinkstock)

(画像/iStock / thinkstock)

“地震が引き起こす被害のうち、特に大きいのは「家の倒壊などによる圧死」と日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(以下:木耐協)の関さん。「柱や梁、天井の下敷きになると、救助なしでの脱出は難しくなります」“

“「自分の家は地震が来た場合大丈夫なのか?」と不安に思うならば、まずはきちんと耐震診断を受けることが重要。自分の家が倒壊する可能性はどれくらいなのかを調べておくにこしたことはないといえそうだ。“

“耐震診断は自治体や民間の団体、リフォーム会社に依頼できる。無料のところも15万~20万円ほどかかるところもあるが、診断内容を確認して依頼しよう。補強工事にかかる費用は、建物の状態などにより異なるが、100万円未満で行うケースも少なくない。“

“一定条件をクリアすると、国や自治体の減税や補助金が受けられることも。「補強レベルを高めて補助金を受けるか、簡易補強にして工事費を抑えるかは考え方次第。家族やリフォーム会社とよく相談して決めましょう」(関さん)“

●耐震補強工事の平均額は約152万円、倒壊する木造住宅の共通点とは
(2015年9月16日 (水)掲載)

(画像/iStock / thinkstock)

(画像/iStock / thinkstock)

“平成18年4月~27年6月に耐震診断した2階建て以下の木造住宅2万2626棟を分析したところ、現行の耐震性を満たしている住宅(「倒壊しない」「一応倒壊しない」)は7.9%で、耐震性を満たしていない住宅(「倒壊する可能性がある」16.2%「倒壊する可能性が高い」75.9%)は92.1%に達した。平均築年数は、約34年だった。”

“このうち、耐震補強工事の金額について回答があったものの平均施工金額は、約152万円(中央値128万円)だった。”

“木耐協によると、倒壊する木造住宅には、共通の弱点があるという。
(1)壁の量が少ない
(2)壁の入れ方のバランスが悪い
(3)柱のホゾ抜け対策がされていない
(4)腐朽や蟻害で弱くなっていた
このうちホゾ抜け対策とは、土台と柱を接合する際に、片側に突起(ホゾ)、もう片側に穴を開けて継ぐのだが、地震の揺れで柱が抜けないように接合金物を取り付けることだ。“

今すぐできる家具の転倒防止から非常食の準備まで

●地震に備えて…カンタン&壁を傷つけない家具の転倒防止策
(2015年1月16日 (金)掲載)

(写真撮影/玉置 豊)

(写真撮影/玉置 豊)

“近年発生した地震で、怪我をした原因の約3割~5割は、家具類の転倒・落下・移動によるもの。そこで家具類の転倒防止が肝心になってくるのですが、壁や家具に傷をつけるのが嫌だったり、器具の取り付けが面倒そうだったりと、いつくるか分からない地震だからこそ腰が重くなってしまうという人も多いと思います。“

“しかし、いざホームセンターの防災グッズコーナーへ行ってみると、壁にも家具にも傷をつけることがなく、設置も簡単な転倒防止器具が多数販売されていました。突っ張って支える転倒防止自在ポールは、家具から天井までの距離さえ測って購入すれば、設置はとても簡単です。また家具の下に挟むストッパー式の器具と合わせることで、ネジで固定するタイプの器具と同等の耐震効果が期待できるそうです。 “

“もっと簡単な転倒防止対策としては、家具の下に振動を吸収するゲル状のマットを敷くという方法もあります。これなら補強したい箇所に挟むだけで設置が可能なので、固定が難しいテレビやパソコン、あるいは花瓶などにも応用が利きそうです。“

●1万円台でここまでできる! 防災グッズのそろえ方
(2016年6月20日 (月)掲載)

(写真撮影/フルカワカイ)

(写真撮影/フルカワカイ)

“オススメ商品としてはラップとベビーパウダー。ラップは紙皿に巻いた上で食事をすると洗う手間が省ける、というのは誰でも知っていると思いますが、怪我をした場合の傷口の圧迫や、防水、紐状にして物を縛る等、さまざまな用途に使え、被災地の方から送って欲しいと多くの要望がありました。
また衛生シートで全身を拭いたあとにベビーパウダーを体や髪に使うとサラサラ感が持続するので不快感が軽減します。“

“「防災グッズをそろえることは大変なように感じるかもしれませんが、ホームセンターに行けば1時間位で購入できます。震災が起きた後だと在庫も一気になくなって手に入りにくくなってしまうので、今のうちにそろえておくことで過不足ない準備が可能になります。家族構成を踏まえて生活に最低限必要なものをリスト化するのも良いですね。キャンプの準備のように、イベント感覚でやる方が楽しいかもしれません」“

“『防災グッズ』は品目が多い分、手間と時間が必要なように感じていたが、実際にそろえてみると費用もそこまで高くなく、想像していたよりもすんなりとそろえられたという印象だった。“

●非常食の備えは万全? おすすめを食べ比べてみた
(2018年4月9日 (月)掲載)

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

“非常時に役立つ食料のポイントは、「調理が簡単で栄養が高いもの。加えて災害時には野菜が手に入りにくいのでビタミン・繊維質のとれるものもストックするとよい」とのこと。“

“杉田エース IZAMESHI Deli(イザメシデリ) 名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮
210g 500円(税抜) 賞味期限3年
オフィス防災EXPOで「第1回 日本災害食大賞」美味しさ部門のグランプリに選ばれた一品。
根菜がゴロゴロと入っているのがうれしいですよね。化学調味料無添加で、優しい出汁の味がします。冷えたままでもおいしくいただけました。“

“戦闘糧食II型 あつあつ防災ミリメシ「牛丼」
210g 1400円(税抜・編集部調べ) 賞味期限3年
東日本大震災の洪水の被害にあった方のお話をうかがったとき「温かい食事ができたとき、やっとほっとできた」とおっしゃっていました。そこで火がなくても温かく食べられる加熱剤つき非常食をお試し! こちらは実際に航空自衛隊でも活用されている、いわゆる「ミリ飯」です。
食べる前に加熱剤で温めます。20分ぐらいで温めは終了。白飯と具材をお皿に入れたら温かい牛丼の完成! 具材は煮込んだネギがトロッとしていてお肉はホロホロ。少し甘めの味付けで元気がでそう! やはり、温かいご飯はおいしいですね。“

いつ、どこで起こるか分からない地震。住まいの構造理解や防災グッズの準備、家具の固定など、対策しておきたいことはたくさんあります。倒壊した家具を買い替えたい、衛生用品が欲しい、と災害後にいろいろそろえたくてもなかなか手に入らないかもしれません。
いざというとき困らないために、あらためて日ごろの対策を振り返ってみてはいかがでしょうか。

大阪府、密集市街地の解消に向け「まちの防災性マップ」など公表

大阪府は、「地震時等に著しく危険な密集市街地」の解消に向け、「大阪府密集市街地整備方針」を改定、さらに取組みを強化すると発表した。密集市街地の各地区において、みどりを活用した魅力あるまちの将来像などを盛り込んだ「整備アクションプログラム」や、「密集市街地まちの防災性マップ」を公表し、公民一体となり密集市街地対策のスピードアップを図る。

「密集市街地まちの防災性マップ」は、各地区の「燃え広がりにくさ」や「逃げやすさ」を示したもので、府ホームページで順次公表していくという。また、地域住民への防災講座やワークショップにおいても活用し、住民に対する防災意識の啓発や、地権者の事業協力意欲を喚起する。

ニュース情報元:大阪府

大阪府、5月は「宅地防災月間」、安全なまちづくりに寄与

大阪府は5月を「宅地防災月間」と定め、さまざまな事業を実施する。この取り組みは、梅雨期に備え、宅地造成及び土砂採取等によって生じるがけ崩れや、土砂の流出に伴う宅地の災害発生を未然に防止し、災害のない安全なまちづくりに寄与することを目的とする。

法令に基づき、担当職員が宅地造成の現場のパトロールを行う。5月1日(火)から5月31日(木)の期間は、大阪府咲洲庁舎(さきしまコスモタワー)1階正面玄関側にて、宅地防災写真パネルの展示を実施。

5月23日(水)には、エル・おおさか(大阪府立労働センター)本館6階にて、開発事業者、宅地造成事業者、造園事業者などを対象に「宅地防災技術研修会」を開催する。研修会では、宅地造成の施工方法、防災工法など、宅地防災に関する留意事項についての講義や、有識者による宅地防災に関する講演を行う予定(定員90名、参加費無料)。

ニュース情報元:大阪府

非常食の備えは万全? おすすめを食べ比べてみた

新生活が始まる4月。この時期だからこそ、自宅の災害グッズを見直してみませんか? 震災直後に防災グッズをそろえたものの、定期的に更新しないと「いざというとき使えない」なんてことも。特に非常食は賞味期限がありますし、毎年新しい商品も開発されています。非常食を更新する場合、どんなものをそろえたらよいのでしょう? 実際に人気の非常食を食べ比べ、専門家にアドバイスをもらいました。防災用品というと、一般的には「最低3日分」はそろえるべきだといわれていますよね。あなたはどんな食材をストックしているでしょうか。7年前の東日本大震災の後に水や乾パン、カップラーメンやレトルト食品などをそろえた人も多いでしょう。でも、もしかしたらそれから一度も更新してない……なんてことはありませんか? 

災害用の非常食、いざというときの賞味期限切れを防ぐために提案したいのが、東日本大震災があった3月を定点として賞味期限1年以内のものを消費し、補充すること。

これから防災用品の更新をする方のために、今補充したい非常用食品を食べ比べてみました! まずは各種の防災ショップのランキングをチェック。売れ筋の商品と総合情報サイト All About「防災」ガイドである和田 隆昌(わだ たかまさ)さんにお聞きした災害食のポイントとあわせて、気になる非常食をいくつかピックアップしました。

これなら平時でも食べたい!?人気の非常用食品を実食!

非常時に役立つ食料のポイントは、和田さんによれば「調理が簡単で栄養が高いもの。加えて災害時には野菜が手に入りにくいのでビタミン・繊維質のとれるものもストックするとよい」とのこと。その観点から選んだのは次の6つの食品です!

井村屋 えいようかん(チョコ味)
55gx5本 600円(税抜)賞味期限3年3カ月(※以下、賞味期限は全て製造日から数える)

井村屋といえば肉まん、あんまんや、夏場の定番アイス「あずきバー」などでも有名ですよね。その井村屋がようかんを非常食に応用した食品を出しているんです。今回は子どもでも食べやすいチョコ味をチョイスしました。原材料にはカカオも入っていますが、メインは生あんの「チョコ味ようかん」です。

5本入りなので1本120円ですね。パッケージはコンパクト(写真撮影/蜂谷智子)

5本入りなので1本120円ですね。パッケージはコンパクト(写真撮影/蜂谷智子)

さっそく実食してみます! 今回は商品の一番のポイントである携帯性を確認するために、あえて外で歩きながら食べてみました。

片手で食べられるので、山登りの栄養補給なんかにもよさそう(写真撮影/蜂谷智子)

片手で食べられるので、山登りの栄養補給なんかにもよさそう(写真撮影/蜂谷智子)

確かに片手で持ちやすいですね。カロリーメイトと違ってボロボロ落ちないので歩きながらでも食べられちゃいます。被災時は長距離を歩いて避難しなければならないことも多いはずなので、これは助かりそうです。

味は、ようかんというよりもチョコに近く、あっさりした感じ。子ども時代に食べた「チョコベビー」や「アポロ」の味が近いかもしれません。これならようかんが苦手な人や子どもでも、食べやすいと感じました。食感は一般的なようかんよりも柔らかめでトロっとしています。水無しで食べられるようにする工夫なのでしょう。

これ1本で200キロカロリー。なかなかのカロリーですから、1本食べたらかなりお腹いっぱいになりました。いざというとき持ち出す食材は省スペースなことも大切。その観点からもオススメできます。

ボローニャ 缶deボローニャ
3缶セット 1,500円(税抜) 賞味期限3年3カ月

ボローニャは京都祇園発祥のデニッシュパンのお店。行列のできるパン屋・舞妓さんも並ぶパン屋として人気になり、全国区に。そのお店が非常食を出しているのだから、おいしくないはずがありません。今回はチョコ・メープル・プレーンの3つの味をパッケージしたタイプをチョイス。

まるで菓子折りみたいな高級感あふれるパッケージ。実際にプレゼントにしてもいいかもしれませんね。箱をあけると、これまた上品なデザインの缶が並んでいます。

まるで菓子折りのようなパッケージ(写真撮影/蜂谷智子)

まるで菓子折りのようなパッケージ(写真撮影/蜂谷智子)

缶の中身はパン。チョコ・メープル・プレーン3つの風味(写真撮影/蜂谷智子)

缶の中身はパン。チョコ・メープル・プレーン3つの風味(写真撮影/蜂谷智子)

メープル風味を試食。一般的に売られているボローニャの「デニッシュ食パン」に比べたらしっとり感は落ちますが、メープルの風味も豊かで非常食とは思えません。この味が3年も維持できるというのは、すごいですね。1缶500円と、お値段的にもラグジュアリーですが、災害時にこのパンが食べられたら、心の慰めになると思います。賞味期限が迫って家で食べることになっても、おいしくいただけると保証できます。

朝食やおやつにぴったり(写真撮影/蜂谷智子)

朝食やおやつにぴったり(写真撮影/蜂谷智子)

尾西食品 アルファ米「白飯」
100g 280円(税抜)賞味期限5年

ハウス食品「温めずにおいしい野菜カレー」
200g 280円(税抜・編集部調べ)賞味期限約5年

簡単に食べられる食事として定番のカレー。今回は、尾西食品のアルファ米にハウス食品の非常用カレーをあわせました。アルファ米は水でもつくれるのと、賞味期限が5年もある点が災害用として優秀。カレーは温めずに食べられるところがポイントです。

どちらも火を使わずに食べられる(写真撮影/蜂谷智子)

どちらも火を使わずに食べられる(写真撮影/蜂谷智子)

まずご飯をつくります。お湯でも水でもつくれるのですが、今回はあえて水を使いました。お米はフレーク状。レトルトと違ってかなり軽いので持ち出すのにも良さそう。まるでオートミールのようで、水を入れるとドロドロになってしまうのではないかと心配に。

フレーク状でカサカサしたお米が……(写真撮影/蜂谷智子)

フレーク状でカサカサしたお米が……(写真撮影/蜂谷智子)

水を入れてジップを閉め、1時間放置します(お湯なら15分でOK)。するとお米がむくむく膨らんでちゃんと粒が立っている状態に!

水を入れるとかなり膨らむ!(写真撮影/蜂谷智子)

水を入れるとかなり膨らむ!(写真撮影/蜂谷智子)

このお米をカレーと合わせれば即一食が完成。カレーは常温でも油が浮いてないところが良い感じ。ですが、個人的に味はちょっと薄めに感じました。カレーは人によって味の好みが分かれるところ。通常のレトルトカレーでも大体1年ぐらいは賞味期限があるので、毎日の生活で頻繁に消費するのであれば、代替できそうです。いつも食べているレトルトカレーを冷えた状態で食べてみて、味を確認しておくとよいかもしれませんね。

アルファ米は持ち出しによし、ストックするにも場所を取らないのが素晴らしい。製造会社である尾西のアルファ米は、味つきご飯やおにぎりなどのバリエーションもあります。

こんな感じで、夕食の一品にもなる(写真撮影/蜂谷智子)

こんな感じで、夕食の一品にもなる(写真撮影/蜂谷智子)

杉田エース IZAMESHI Deli(イザメシデリ) 名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮
210g 500円(税抜) 賞味期限3年

次はオフィス防災EXPOで「第1回 日本災害食大賞」美味しさ部門のグランプリに選ばれた一品。杉田エースは保存食のラインナップが豊富で、今回食べた名古屋コーチンの他にも「トロトロねぎの塩麹チキン」「ごろごろ野菜のビーフシチュー」など、カフェ飯と見まごうようなラインナップ。さすが「IZAMESHI Deli(イザメシデリ)」。ブランドの名前からしておしゃれですね。

まるでおしゃれスーパーで売っていそうなパッケージ(写真撮影/蜂谷智子)

まるでおしゃれスーパーで売っていそうなパッケージ(写真撮影/蜂谷智子)

さっそく袋から出してみましょう。和田さんによると「災害時には野菜不足になりがち」とのことなので、根菜がゴロゴロと入っているのがうれしいですよね。化学調味料無添加で、優しい出汁の味がします。冷えたままでもおいしくいただけました。

「非常食」の概念から外れた味。気になるポイントがあるとすれば、価格が少しお高いのと、家族全員の分を備蓄すると場所をとりそうなことぐらいでしょうか。

だしの効いた薄味(写真撮影/蜂谷智子)

だしの効いた薄味(写真撮影/蜂谷智子)

カレーと同じアルファ米とあわせて(お惣菜は半量)(写真撮影/蜂谷智子)

カレーと同じアルファ米とあわせて(お惣菜は半量)(写真撮影/蜂谷智子)

戦闘糧食II型 あつあつ防災ミリメシ「牛丼」
210g 1400円(税抜・編集部調べ) 賞味期限3年

東日本大震災の洪水の被害にあった方のお話をうかがったとき「温かい食事ができたとき、やっとほっとできた」とおっしゃっていました。そこで火がなくても温かく食べられる加熱剤つき非常食をお試し! こちらは実際に航空自衛隊でも活用されている、いわゆる「ミリ飯」です。

パッケージが萌え絵(なぜ……笑)ですが、箱を開ければ真面目な仕様。食器も含め必要なものは全て入っています。

なぜか萌え絵のパッケージ(写真撮影/蜂谷智子)

なぜか萌え絵のパッケージ(写真撮影/蜂谷智子)

なかには具材と白飯、加熱剤や食器など(写真撮影/蜂谷智子)

なかには具材と白飯、加熱剤や食器など(写真撮影/蜂谷智子)

食べる前に加熱剤で温めます。加熱剤のパッケージを開けて、「サバイバルヒーター」という袋の底に入れ、上に白飯と具材を入れて水を入れます。すると「シュワー!!」と音がして、水から泡が! 「サバイバルヒーター」の穴から熱い湯気が出てきて、“今まさに温めている”ことを実感できます。

20分ぐらいで温めは終了。白飯と具材をお皿に入れたら温かい牛丼の完成! 具材は煮込んだネギがトロッとしていてお肉はホロホロ。少し甘めの味付けで元気がでそう! やはり、温かいご飯はおいしいですね。

水を加えると木炭っぽい匂いがします(写真撮影/蜂谷智子)

水を加えると木炭っぽい匂いがします(写真撮影/蜂谷智子)

屋外でも温かいご飯が食べられるので、ちょっと肌寒いお花見にも最適(写真撮影/蜂谷智子)

屋外でも温かいご飯が食べられるので、ちょっと肌寒いお花見にも最適(写真撮影/蜂谷智子)

非常用ではない調理済み食品も活用できる!

ここまで人気の非常食を食べ比べてみましたが、だんだん非常食と普通食との境目がなくなって来ている印象がしますよね。こういった非常食によって、いざというときにもおいしく食事ができるのはうれしいものです。

一方で、防災の専門家の和田さんによると、非常用ではない調理済み食品も非常食として上手に活用するのがおすすめだそう。

「特別なものをそのために用意する、ということではなくて“日常備蓄”あるいは“ローリングストック”と呼ばれる方法がおすすめです。日常使っている缶詰やレトルト食品を少し多めに用意して、日付の古い物から使って行き、常に補充します。これを習慣化した上で、災害時に特化した非常食を定期的に補充していけば、困ることはないでしょう」(和田さん)

なるほど。非常用の食料は正直いって少し高価ですし、普段食べ慣れているレトルト食品を非常用にも活用できれば無駄がなさそうです。一方で火がなくても調理できるものや、携帯に優れ栄養価の高い食品は非常食ならでは。技術が進化してより高機能なものが増えているので、いざというときのために備蓄しておきたいですね。

「また、保存方法としては“非常袋に入れる物”“と”自宅で避難生活を送るために必要な備蓄食料“にきちんと
わけて用意しておくことも大事です。非常持ち出し袋に大量の食糧を入れると避難の妨げになりますので、携帯性に優れ、簡易に調理できるもの、そして栄養豊富なものに絞りましょう。非常持ち出し袋は玄関付近の目の付くところに用意し、非常時にすぐ持ち出せるようにしておきます。自宅の備蓄食料は、普段でも食べたくなるようなものやレジャー・旅行にも使える物を選んでおき、定期的に入れ替える日を決めておくとよいですね」(和田さん)

最後に和田さんが強調するのは、食料以上に重要なのは水の備蓄だということ。1日1人3リットル(生活用水含む)最低でも3日分以上は準備しておいたほうがよいそうです。また非常用持ち出し袋には500mlのペットボトルを2本程度入れておくのが目安だそうです。

ひとことで非常食といっても、必要なシーンはひとつではありません。それぞれのケースを想定して備蓄用の食料を買いそろえることが必要なのですね。購入の際は、ぜひ今回の食べ比べを参考にしてみてください。

●取材協力
・総合情報サイト All About「防災」ガイド 和田 隆昌(わだ たかまさ)

女性の視点で防災ポイントをチェック! 「東京くらし防災」でセーフシティに

地震大国の日本に住む私たちにとって、防災はとても重要なテーマですよね。東京都はいざという時に備えるための防災ブック、「東京くらし防災」をに、3月1日から都内各所に無料で設置・配布しています。
日頃の防災アイデアと、被災状況に対応するノウハウを紹介

東京都は2015年にも「東京防災」を各家庭に配布していますが、こちらの防災ブックは女性視点で作られたもの。普段の暮らしのなかで実践できる「いつもの防災」、そして被災した後の「非日常での防災・防犯」のノウハウを親しみやすいキャラクターを用い、分かりやすく紹介しています。

画像提供/東京都総務局

画像提供/東京都総務局


かわいらしい表紙が目を引くこちらの防災ブックは、分かりやすく細やかな防災・防犯対策が紹介されているのだそう。

例えば「片付けでできる防災」として「部屋が散らかり過ぎていて、身の危険を感じる」なんて、すこしジョークめかしたシチュエーションは耳が痛いものですが、整理整頓は防災観点でも重要なポイントです。日常生活のシーンごとに防災のアイデアを紹介しているので、「自宅や自分だったら?」と、我が身に置き換えて考えやすくなっています。実際に被災された方の生の声などを参考に編集されていて、読みやすさもありながら、実践的な1冊となっているといえるでしょう。

また、各ページには「音声コード」が掲載されているので、視覚障碍者など文字を読むことが難しい方でも内容が分かるように配慮されています。

画像提供/東京都総務局

画像提供/東京都総務局

女性視点の防災ブックを作ったわけは?

今回、なぜ女性視点の防災ブックを作られたのか。東京都総務局担当者いわく「実際に過去の災害で避難所での着替えや授乳、子育ての問題が課題になりました。被災者の目線に合わせたきめ細やかな防災多対策を進めるためには、女性に積極的に防災に参画していただき、女性の視点・発想を活かすことが重要だと思ったからです」とのこと。

確かに、女性だからこそ気になる防犯問題や衛生問題もあります。また家内の防災対策などは、家事を担うことが多い女性の方が解決案を提案しやすいという面があります。

一方で、女性向けにどのような項目を増やしたかという問いに対しては「この本は“女性視点”で作られたものですが、“女性向け”ではありません」との返答が。

女性にとって必要となる防災・防犯対策の他にも、男女を問わない対策もしっかりと紹介されているそうです。

女性視点で作られたから女性向け、ではなく女性視点で作られたからこそ、今まで気が付かなかったような点にも対策できる、と考えられそうです。この防災ブックをきっかけに家族やパートナーと一緒に防災について考えていきたいですね。ポップな表紙の1冊となっているので、いざという時のためにも冊子を手に入れてみてはいかがでしょうか。

非常用飲料水・食品の備蓄、3日分がトップ

住友生命保険相互会社は、「わが家の防災」をテーマに、家庭の防災対策の実態や意識に関する調査を行った。調査期間は2017年12月1日~12月4日。調査方法はインターネット。回答数は1,000人(全国の男女各500人)。それによると、最も備えが必要だと思う災害は「地震」が約8割(79.4%)で圧倒的トップ。以下、トップと大きく差は開くが、昨年も数多く襲来し各地に被害をもたらした「台風」(6.4%)が2位に、「大雨・洪水」(5.0%)が3位という結果。

家庭の防災対策を100点満点で採点すると何点ですか?では、全体平均は「34.1点」。多くの人が家庭の防災対策をまだまだ不十分と自己評価しているようだ。年代別では、60代の「39.6点」が最も高いものの40点超えには至らず。地域別では関東が「38.2点」でトップだった。

今後、家庭で実施しなくてはいけないと思う防災対策は、全体では「非常用食品の備蓄」が37.0%でトップ。以下、「非常用持ち出し袋の準備」(36.1%)、「非常用飲料水の備蓄」(35.3%)と続く。一方、すでに準備万端な人も含まれるのか、「特になし」との回答が22.7%に上った。「特になし」は60代では18.0%にとどまっているのに対して、20代は28.0%と高くなっており、防災対策への意識の違いが見られる。

「非常用飲料水の備蓄」または「非常用食品の備蓄」を行っていると回答した人を対象に、それぞれ何日分を備蓄しているか聞くと、「非常用飲料水の備蓄」(対象者402)では、「3日分」が34.1%でトップに。次いで「7日分」20.6%という結果だった。「非常用食品の備蓄」(対象者348人)も、同様に「3日分」が35.9%でトップに、「7日間」が17.5%だった。飲料水及び、食品の備蓄は最低でも3日分は必要と考えている人が多いようだ。

ニュース情報元:住友生命保険相互会社

災害に関する備え、自己採点で30点以下が半数以上

ALSOKは、東日本大震災が発生した3月11日を前に、高校生および東日本大震災以前から社会人だった人(以下、ベテラン社会人)、東日本大震災以降に社会人になった人(以下、若手会社員)を対象に、「防災と防災教育に関する意識調査」を実施した。調査対象は全国の男女600人(高校生200人、ベテラン社会人200人、若手社会人200人)。調査期間は2018年1月29日~31日。調査方法はインターネット。

それによると、防災に関する訓練や教育、学習(以下、防災教育)経験の有無では、全体では3人に1人(33.0%)が「経験がない」と回答した。「防災教育の経験がある」と回答した人の防災教育のきっかけは、「学校や会社、町内会などで学ぶ機会があったから」が高校生で78.7%、全体でも64.4%となっており、能動的に学ぶより、学校や会社などが企画して学ぶ機会を設けたことがきっかけと回答する人が最も多かった。

また、ベテラン社会人では、32.7%が、「災害のニュースを見て気になったから」と回答、メディア報道が契機となって防災教育の重要性を感じているようだ。15.0%は、「子供が学校で教わってきて教えてもらった」ことがきっかけで、自分も防災教育に関心を持つようになっており、学校での防災教育が家庭にも波及していることがわかる。

東日本大震災が発生した直後と、ここ1~2年の間を比較して、災害に対する家庭の備えは増えたか減ったかを聞いたところ、「増えた」(20.5%)と考える人が「減った」(10.5%)と感じている人よりも約2倍多い。しかし、現在の災害に対する家庭の備えが「足りている」と回答した人は全体で23.3%で、およそ4人に3人(76.7%)は「足りていない」と感じているようだ。

災害に関する備えを自己採点すると、半数以上(55.5%)が30点以下と回答し、平均は33点と低い水準にとどまった。大規模災害が発生した時、手元にどれくらい現金があれば安心できるか?では、約4割の方が10万円以下と回答している。

ニュース情報元:ALSOK

住まいの耐震診断、51.5%が実施していない、内閣府調べ

内閣府はこのほど、「防災に関する世論調査」の結果を公表した。調査時期は平成29年11月16日~11月26日。調査員による個別面接聴取法で実施。有効回収数(率)は1,839人(61.3%)。
自然災害の被害に遭うことを具体的に想像したことがありますか?では、「地震」を挙げた方の割合が81.0%と最も高く、以下、「竜巻、突風、台風など風による災害」(44.2%)、「河川の氾濫」(27.0%)、「津波」(20.4%)などの順。「想像したことがない」と答えた方の割合は11.1%だった。

大地震が起こったとしたら、どのようなことが心配ですか?では、「建物の倒壊」が72.8%と最も高く、以下、「家族の安否の確認ができなくなること」(61.3%)、「食料、飲料水、日用品の確保が困難になること」(57.3%)、「電気、水道、ガスの供給停止」(53.9%)、「家具・家電などの転倒」(50.3%)などの順。都市規模別に見ると、「家族の安否の確認ができなくなること」、「電気、水道、ガスの供給停止」を挙げた方の割合は中都市で高くなっている。

住まいの「耐震診断」についての質問では、「耐震診断を実施している」とする方の割合が28.3%(「すでに耐震診断を実施しており、耐震性を有していた」24.9%+「すでに耐震診断を実施しており、耐震性が不足していた」2.0%+「すでに耐震診断を実施したが、結果についてはわからない」1.4%)、「耐震診断を実施していない」とする方の割合が51.5%(「耐震診断をしていないが、今後、実施する予定がある」3.5%+「耐震診断をしていないが、今後、実施する予定はない」17.7%+「耐震診断をしていないが、今後の実施予定はわからない」30.4%)、「わからない」と答えた方の割合が20.2%。

大地震が起こった場合に備えて、どのような対策をとっていますか?では、「自宅建物や家財を対象とした地震保険(地震共済を含む)に加入している」が46.1%、「食料や飲料水、日用品などを準備している」が45.7%、「停電時に作動する足元灯や懐中電灯などを準備している」が43.3%、「家具・家電などを固定し、転倒・落下・移動を防止している」が40.6%、「近くの学校や公園など、避難する場所を決めている」が38.8%などの順。「特に何もしていない」と答えた方の割合は10.4%だった。

ニュース情報元:内閣府

防災にもお役立ち! 日常生活に取り入れたいアウトドアグッズをチェック

趣味でアウトドアを楽しむ人は多いが、せっかく買いそろえたアウトドアグッズをしまい込んでいてはもったいない。日ごろの生活に取り入れておけば、災害時にも役に立つはず。どんなものが役に立つのか、どう日常生活に取り入れたらいいか、探ってみた。
緊急時に、避難生活に、役立つグッズがたくさんある

街を飛び出して、自然の中で遊ぶときに欠かせないアウトドアグッズ。厳しい自然環境の中で安全・快適に過ごせるように開発された道具だから、災害時にも役立つのは間違いない。

その実例が、アウトドア総合メーカーのモンベルが取り組む災害支援活動だ。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに、アウトドアグッズと自分たちがもつノウハウを役立てようと「アウトドア義援隊」を結成。災害が起こると現地に駆け付け、テントや寝袋などの貸し出しを行い、被災者のサポートを行ってきた。

災害時には、どんなアウトドアグッズが、どんなときに、どう役立つのだろう? 
「モンベルでは、災害発生からの状況変化に応じた備えを提案しています。『一次避難』は、災害が発生した直後に自分の身の安全を確保し、命を守るステージ。その後、ライフラインが復旧するまで、避難所や野外で生活を送るステージが『二次避難』です」(モンベル広報 以下同)
それぞれのステージで役立つアイテムをいくつか紹介してもらった。

【一次避難に役立つアウトドアグッズ】
●ホイッスル
少しでも早く救助してもらうために、ぜひ用意しておきたい基本アイテム。声が出ないような状況でも助けを呼ぶことができ、大声で叫ぶより体力を消耗しない。
【画像1】エマージェンシーコール 大きくクリアな音が出るホイッスル。572円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像1】エマージェンシーコール 大きくクリアな音が出るホイッスル。572円(税別)(画像提供/モンベル)

●ヘッドランプ
避難時に明かりは必須。日中でも停電により暗闇の中を非難することになるかもしれない。懐中電灯は片手がふさがってしまうが、頭に装着するヘッドランプなら両手が使え安全に行動できる
【画像2】パワーヘッドランプ 明るさ160ルーメン、照射距離110mのパワフルなヘッドランプ。2900円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像2】パワーヘッドランプ 明るさ160ルーメン、照射距離110mのパワフルなヘッドランプ。2900円(税別)(画像提供/モンベル)

【二次避難に役立つアウトドアグッズ】
●寝袋・マット
避難所で過ごす場合も、毛布一枚より格段に暖をとりやすい。特に冬の避難生活で心強いアイテム。コンパクトになり場所を取らないのも利点。下にマットを敷けば地面からの冷気を遮断し、寝心地も改善する。
【画像3】ダウンハガー 800 #3 一年を通じて使える軽量・コンパクトなモデル。27500円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像3】ダウンハガー 800 #3 一年を通じて使える軽量・コンパクトなモデル。27500円(税別)(画像提供/モンベル)

●テント
就寝スペースとして、また着替えや子どもの居場所にも利用できる。避難生活が長引いたときにテントが張れればプライバシー面でのストレスが減少する。
【画像4】ムーンライトテント 設営が簡単で、居住空間が広いモデル。写真は6~7人用の7型68000円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像4】ムーンライトテント 設営が簡単で、居住空間が広いモデル。写真は6~7人用の7型68000円(税別)(画像提供/モンベル)

2016年の熊本地震の際は、モンベル南阿蘇店で被災者にテントの貸し出しを行い、店舗前のスペースにテント村ができた(冒頭の写真)。「長く避難所にいるとプライバシーの面でストレスになり、家族で過ごせるテントのほうが快適だという声をたくさん聞きました」

レインウエアやシューズは日常生活にすぐ取り入れられる

日常生活にもアウトドアグッズは取り入れられるだろうか? 取り入れやすいものとして挙がったのが、レインウエアや登山靴、ヘッドランプだ。レインウエアと登山靴は雨風の強い日に活用できるし、ヘッドランプは懐中電灯代わりに壁にかけておいてもいい。

「モンベルでは雨や雪の日の通勤にレインウエアや防水の登山靴を着用する社員も多いです。キャンプや登山のシーンだけでなく、日常の悪天候の際にも使っていただくことをオススメします」

●レインウエア 
アウトドア用は防水性が高く、丈夫で動きやすいのが特徴。レインウエアの上下があれば、どんな天候や状況でも両手をふさがずに行動できる。
【画像5】ストームクルーザー 透湿性に優れ、軽くてしなやかな着心地。防寒着としても活用できる。ジャケット19500円(税別)、パンツ13500円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像5】ストームクルーザー 透湿性に優れ、軽くてしなやかな着心地。防寒着としても活用できる。ジャケット19500円(税別)、パンツ13500円(税別)(画像提供/モンベル)

●登山靴
ソールが厚めにできていて剛性も高い。ガラス片やがれきが散乱する中を歩かなければならないときに、スニーカーとの差は歴然。さらに防水のものなら、ぬれた場所でもガンガン歩いていける。
【画像6】ラップランドストラーダー。低山ハイクやキャンプ向きのモデル。軽量で柔らかな履き心地、高い防水性が特徴。男性用13500円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像6】ラップランドストラーダー。低山ハイクやキャンプ向きのモデル。軽量で柔らかな履き心地、高い防水性が特徴。男性用13500円(税別)(画像提供/モンベル)

●ライフジャケット
もうひとつ紹介してくれたのが「浮くっしょん」という商品。普段はクッション、開けばライフジャケットになる。実はこれ、東日本大震災の津波の経験から考案されたものだという。

「東日本大震災では、家の奥にしまい込んでいたりどこかに保管していて、津波のときに使えなかったライフジャケットがたくさんありました。普段の生活の中ですぐ手の届く場所に置けて、いざというときに確実に手に取れるものが必要という考えのもと開発されました」

装着が簡単で、普段から水辺の遊びに使える。防災頭巾のように学校や幼稚園を中心に備えが広がっているそうだ。
【画像7】浮くっしょん クッションとして身近に置けるライフジャケット。反射テープやホイッスルもついている。大人用4762円(税別)、キッズ用2サイズ3619円(税別)・4000円(税別)(画像提供/モンベル)

【画像7】浮くっしょん クッションとして身近に置けるライフジャケット。反射テープやホイッスルもついている。大人用4762円(税別)、キッズ用2サイズ3619円(税別)・4000円(税別)(画像提供/モンベル)

普段からよく使っていてこそ、いざというときにちゃんと使える

アウトドア用品を部屋に置いてインテリアとして楽しむ手もあるかも、と考えた筆者だが、この案は賛同を得られなかった。
「災害時に役立てるには、普段から使っていることがとても大事です。部屋に置くというより、どんどんアウトドアに出かけて、持っている道具をよく使うこと。そうすることで、もしものときにもちゃんと使いこなすことができます」

確かにそのとおり。テントを持っていても、使っていなければ立て方を忘れてしまう。ずっとしまい込んでいて出してみたらカビだらけ、なんてこともありそうだ。しばらくアウトドアから遠ざかっている人は、防災のことも視野に入れて新しいアウトドアを始めるのもいいだろう。

例えば、家族で何かを始めるならキャンプはどうだろう? ということで、キャンプ用品を得意分野とするアウトドアメーカーにも、防災に役立つおすすめ商品を紹介してもらった。

スノーピークが紹介してくれたのは、誰にでも設営しやすいロングセラーのテント。コールマンのすすめは、4つに分割して持ち歩ける進化形のランタンだ。

【画像8】アメニティドームM[5人用] フレームのエンドパーツやテープが色分けされているので、迷わず設営できる。入り口が広く子どもを抱っこしたまま入りやすい。耐久性と高い防水・撥水加工も特徴。32800円(税別)(画像提供/スノーピーク)

【画像8】アメニティドームM[5人用] フレームのエンドパーツやテープが色分けされているので、迷わず設営できる。入り口が広く子どもを抱っこしたまま入りやすい。耐久性と高い防水・撥水加工も特徴。32800円(税別)(画像提供/スノーピーク)

【画像9】クアッドマルチパネルランタン 部屋全体を照らし暗闇の不安を解消。4つの発光パネルを分割して持ち歩け懐中電灯の役目も。最長約20時間の大容量で、携帯の充電ができるUSBポートも付いている。 1万584円(税込)(画像提供/コールマン ジャパン)

【画像9】クアッドマルチパネルランタン 部屋全体を照らし暗闇の不安を解消。4つの発光パネルを分割して持ち歩け懐中電灯の役目も。最長約20時間の大容量で、携帯の充電ができるUSBポートも付いている。1万584円(税込)(画像提供/コールマン ジャパン)

今回の取材を通じて学んだことは、「アウトドアでたくさん遊ぶことが、もしもの災害への備えになる」ということ。最近めっきりアウトドアから遠ざかっている筆者。しまいこんだテントを引っ張り出して、久しぶりに山旅を計画しようと思った。

【取材協力】
●株式会社モンベル
●株式会社スノーピーク
●コールマン ジャパン株式会社

危機管理アドバイザーがおすすめする、「災害時に本当に役に立つ備え」とは?

防災に関心が集まる現在、防災グッズはとりあえず用意したけれど、なんとなく不安を感じたまま日々を過ごしているという人は多いのではないだろうか。まさかのときに困らないためには、どんな備えをしておくべきかを、被災地での支援活動等を積極的に行っている、危機管理教育研究所代表の国崎信江さんに話を伺った。
まず注意すべきは家具の配置

まず、あまりお金や時間をかけることなくすぐにでも実践できる住まいの工夫を教えてもらった。
「家具の配置に気を付けましょう。いざというときのために逃げる動線を確保しておくことが大切です。玄関に大きな棚があると倒れて逃げられません。また寝室には大きな家具は置かないような工夫をしてください」と国崎さん。寝ているときに家具が倒れてケガをすることも多い。家電などが飛び出さないように滑り止め粘着ジェルマット等で止めておくのも大切なことだ。

【画像1】避難する動線を確保するためには、家具が倒れないような工夫が必要(写真/PIXTA)

【画像1】避難する動線を確保するためには、家具が倒れないような工夫が必要(写真/PIXTA)

「最近では防災グッズを用意している方が多いですが、ふだんの生活では意外に気付かない、実際に被災生活を送る場面で必要なものをプラスしておきましょう」

具体的には寝室にスリッパを置いている人はいるが、室内を歩くときでも長靴などの底の厚い靴が必要だそうだ。また、「室内に壊れたガラスが散乱した場合、掃除用具がまず必要になるので忘れずに用意しておきましょう。軍手よりも防刃手袋のような手を保護してくれる手袋を準備しましょう。災害ごみとなった生活用品はビニール袋よりも麻袋のような丈夫な袋に捨てると破れにくいのでおすすめですよ」(同)

加えて意外に忘れがちなのは、給水時に水を運ぶ給水袋も備えておきたいものだ。

味見もアリ!?食材も一工夫で「備蓄用」に

また日ごろから防災グッズを暮らしのなかで活用しておくことも大事とのこと。「カセットコンロのように、家族で鍋を囲んだり、庭でBBQを楽しんだりしていれば、とっさのときにも使い方が分かり、非常時にも慌てません」

また備蓄用の食べ物もふだんから食べてみるのが大切だそうだ。「非常食も最近ではどんどんおいしくなっています。気が付くと賞味期限切れということを防ぐこともできるので、一度はみんなで味見をしておくといいですよ。自分たちの好みのものを用意しておけば、つらい避難生活でも楽しみが増えますから」

また特に備蓄用ではない食べ物でも、パスタや乾麺、缶詰などふだんから多めに用意して、順番に新しいものから使っていくことでも備蓄になるそうだ。「災害時は野菜不足になるので、野菜は下ゆでしてカットして冷凍しておけば自然解凍しておいしく食べられます。食べる順番は冷蔵庫の食品、常温保存している食品、非常食のように傷みやすいものから食べていくと変化があってよいですよ」

【画像2】缶詰は多めにストックしておくと、いざというときに「備蓄用」として役に立つ(写真/PIXTA)

【画像2】缶詰は多めにストックしておくと、いざというときに「備蓄用」として役に立つ(写真/PIXTA)

リフォームするなら防災観点もお忘れなく

建物の老朽化などでリノベーションする必要がでてきた場合には、良い機会なので一緒に防災についても取り組んでおくとよいそうだ。

「最近の傾向としては、寝室はコンパクトにまとめ、リビングをより広くした間取りが人気を集める傾向にあります。そのため、なるべく寝室には家具を置かなくて済むようにしておくことは大切です。なるべく収納スペースは造り付けにして余計な家具を置かなくてもよいようにしておくといいですね」

室内の動線にも配慮しておくのがベストだそうだ。「一戸建てならば階段の位置が大事です。動線を考えてどこに階段を置くかを考えておきましょう。例えばリビングの中に階段があるような間取りだと、2階にいる家族の避難状況が把握しやすいですね」と国崎さん。

マンションの場合でも動線は重要だ。「マンションによっては、各部屋に小さいウォークインクローゼットや収納があちこちについていますが、それを1つに集約して、出入口がいくつもあるというウォークスルークロゼットをつくれば『閉じ込め』に遭いにくい空間になります」。個々の部屋の出入口が一カ所しかなくても、ウォークスルークロゼットがつながっていれば、部屋のドアとクローゼットといった2つの動線から部屋の外に出ることができる。

冷蔵庫やテレビなど、明らかに置き場所が決まっているような場所には、あらかじめその壁に補強板をつくっておくことも効果的だという。「賃貸マンションの場合は壁に穴をあけられない場合がありますが、防災に関しては家主に相談してみてもいいと思いますよ」。加えてバルコニーにモノを置かないようにするのも動線のために大切なことだ。

レンタルシステムやクラウド活用 モノを減らすのも防災に役立つ

国崎さんは、防災の観点からモノを減らすべく、新しいサービスも活用しているそうだ。
「最近ではレンタルシステムを活用して、なるべくモノを持たない暮らしを心がけています。客用の布団、ベ
ビーグッズ、冠婚葬祭や季節によって必要なものなど、何でも今は借りられますから積極的に活用しましょう」

20年も前からトランクルームなどさまざまな新しい試みをしているそうだ。
「以前は、限られた収納スペースだったので、少し離れた地方の県にトランクルームを借りていました。何かあってもすべてをなくすことがないのでリスクヘッジになります」
今は、衣類のクリーニングについても、保管付きサービスを利用している。「日ごろの利便性と 防災の両面で重宝しています。本当に重要なものは銀行の貸金庫を借りて保管するのも一案です。自宅に貴重品を置かなければ盗まれる心配もしなくて済みます」

子どもの本以外は時間をかけて写真に残し、デジタル化しているそうだ。「子どもが小さいときからつくった絵や作品も写真に撮ってデータで残してクラウドサービスで保存しています。上の子が大きくなったときに、今までの軌跡として見せてあげたら、すごく感動してくれました」一見合理的だが、心がこもった方法かもしれない。

室内にモノが少なければふだんのくらしにも便利だ。「収納スペースに合わせて暮らしているので、子どもたちも余計なモノを欲しがりません。逆に本当にいいモノはふだんから使うようにしています。そのほうが扱い方も丁寧になり、勉強にもなると思っています」

国崎さんの家では家族全員のパスポートをきちんと更新して、何かあったらすぐ海外に出られるような準備もしているそうだ。最近話題の多拠点居住もリスクヘッジに有効だと教えてくれた。

「子どもたちには日ごろからキャンプなどを体験させ、非日常にも慣れさせておくことが大切です」
国崎さん一家ほど徹底できるかどうかはともかくとして、日ごろの備えが「まさか」というときに力強い味方になってくれるということは、覚えておきたいところだ。

一般社団法人危機管理教育研究所/国崎信江さん●取材協力

・一般社団法人危機管理教育研究所 国崎信江さん
危機管理アドバイザーとして、文部科学省「防災科学技術委員会」委員等を歴任している

部屋を決める際「家賃重視派」は約7割、FJネクスト調べ

(株)FJネクスト(東京都新宿区)は、首都圏の独身ワンルーム単身入居者400人を対象に、防犯(セキュリティー)、防災など、“安心・安全”に対する意識をテーマにアンケートを実施した。調査期間は2017年10月13日~15日。調査方法はインターネット。
部屋を決める際に、家賃とセキュリティーのどちらを重視しますか?では、全体では「どちらかといえば家賃重視」が約半数の46.3%でトップ。「家賃重視」24.3%と合わせて“家賃重視派”は約7割(70.6%)を占めた。男女別では、男性は“家賃重視派”が約8割(79.5%)を占めているのに対し、女性は約6割(61.5%)と低く、男性よりも女性の方が“セキュリティー重視派”が多い傾向。

また、ひとり住まいの部屋に欠かせないセキュリティー設備のトップ3は、「モニター付きインターホン」(55.5%)、「ドアチェーン」(47.3%)、「オートロック」(46.5%)の順。4位は「ドアスコープ」で、“訪問者の顔”を確認できる設備が上位にランクインしている。

あなたは防犯グッズを持っていますか?では、全体では「持っていない」が86.0%を占め、所持率は低いことがわかった。持っているものとしては「防犯ブザー」(10.3%)や「笛」(3.5%)で、購入しやすいものでも所持率はわずかだった。男女別でも、男女共に「持っていない」は86.0%だった。

防災対策として行っていることは何ですか?では、「飲料水の備蓄」(34.0%)、「食料品の備蓄」(29.8%)が上位で、被災した時には“水”と“食べ物”が大事と考えている。避難時に必要な「非常用持ち出し袋の用意」は、大きな災害が発生するたびに重要性が指摘されるが、実行者は15.3%とわずか。また、「家具などの転倒防止」(9.3%)も低い数字だった。

ニュース情報元:(株)FJネクスト

30秒後に地震が起こるなら何をする? 震災経験者と非経験者ではこんなに違った!

東急コミュニティーが11月16日に発表した防災アンケートでは、過去の震災で被害に遭った経験者とそうでない非経験者の、家庭で行っている災害対策を比較している。回答結果を分析すると、経験者ならではの違いも見られたという。どういった点が違うのか?詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「災害対策の実態や防災意識に関するアンケート調査」結果を発表/東急コミュニティー災害対策は3つのリスクへの備え、とりわけ「命のリスク」を重視すべし

まず、震災被害経験者と非経験者で違いが見られた項目について、カテゴリー分けをしたところ、対策をすべき3つのリスクが浮かび上がったという。

●命のリスク
●ライフラインのリスク
●生活必需品のリスク
以上の3つのリスクに対して、皆さんはどの程度の対策を行っているだろうか?

【画像1】Q.あなたがご家庭で災害に備えて準備しているもの、対策していること(複数回答)(出典/東急コミュニティー「災害対策の実態や防災意識に関するアンケート調査」より転載)

【画像1】Q.あなたがご家庭で災害に備えて準備しているもの、対策していること(複数回答)(出典/東急コミュニティー「災害対策の実態や防災意識に関するアンケート調査」より転載)

同社は、過去の大きな震災で最も多かった被害が「家具や家電製品の転倒」だったことから、3つのリスクの中でも「命のリスク」を優先させる対策を行うことが重要だと指摘している。生き延びるための被災後の対策は、生き残ることが前提だからだ。

事前に災害発生を想定して、どういった行動をとるか確認すべし

次に、被災経験者と非経験者で違いが見られた行動としては、家族との話し合いや確認が挙げられる。
特に「家族で災害発生時の想定や行動を話し合った」、「家族と災害時の集合場所や連絡方法を確認した」で差が大きく、経験者のほうが災害時の対策について家族と確認していることが分かる。

【画像2】Q.あなたが災害を想定して行ったこと(複数回答)(出典/東急コミュニティー「災害対策の実態や防災意識に関するアンケート調査」より転載)

【画像2】Q.あなたが災害を想定して行ったこと(複数回答)(出典/東急コミュニティー「災害対策の実態や防災意識に関するアンケート調査」より転載)

また、「在宅の際、もし今から30秒後に震度6弱以上の地震が起きるとしたら何をするか?」(自由回答)を聞いたところ、「わからない」「何もできない」など、行動を起こさない回答が、非経験者では経験者の1.6倍(経験者12.0%:非経験者19.4%)もあり、「安全確保」や「避難準備」などの具体的な行動を想定できていないことも分かった。

マンション内の「共助」体制も整えるのがよし

調査結果では、マンション内で近隣世帯を助けようとする「共助」意識は高く、特に総戸数500戸以上の大規模マンションでは「災害時の飲食の備蓄」や「災害マニュアルの策定」などの取り組みを行っているという認知率が高いことも報告している。

災害時には、自分や家族を守る「自助」、マンション内や近隣住人と互いに助け合う「共助」、自治体などによる「公助」の3つの役割分担が重視される。特に大規模な災害になると公助に限界があることから、自助、共助による備えが重要とされている。

会社などでは、共助の体制が急速に整いつつあるが、会社に勤めていない人や勤務時間外などには、地域社会の共助がカギになる。地域コミュニティーがいかに形成されているかが問われるところだ。

ところで、東日本大震災のとき仙台で被災した、ある人にこんな話を聞いた。「管理組合の活動が円滑でマンションのコミュニティーが良好だと思っていたが、実際に被災すると役割分担ができていなかったので、共助が働かなかった」というのだ。

つまり共助が機能するには、「助けたい」という意識だけではダメで、具体的に被災時に誰が何をどのように実行するかをあらかじめ決めておかないと何もできないということだ。

振り返って調査結果を見ると、「近隣世帯に声をかけ、困っている人を助けたい」という意識は78.6%と高いものの、管理組合の防災・避難訓練への参加は38.5%と4割にも満たない。一方、500戸以上の大規模マンションでは規模が大きいだけに、管理組合で積極的に行事やイベントを開催したり、防災用品の備蓄や災害対策マニュアルを策定したりといった具体的な対策に力を入れている事例が多いので、それが結果にも表れている。

災害対策としてどれだけ“具体的な準備”をしているかが、自助であれ、共助であれ、決め手になるということだ。

調査結果を受けて、同社は「震災体験の有無にかかわらず防災に対する意識や備えが不足している」と警鐘を鳴らしている。家具の固定や転倒防止策を施している割合は、被災経験者であっても28.5%とまだまだ低い。大きな災害が起きたときだけでなく、日ごろから万一に備えた防災対策をしっかりとるようにしてほしい。