「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を

大規模災害を想定した、最低限の水や非常食の備蓄。しかし大地震により物流が途絶え、支援物資も届きづらい状況を思えば、防災リュックの中身だけでは心もとない。また、避難所や仮設住宅での生活が長引いた際には、嗜好品や思い出の品など「心を癒やすアイテム」も必要になる。

できれば最低限ではなく、最悪を想定した十分な備えをしておきたいところだが、自助で賄える備蓄や防災には限界がある。そこで、個人やマンション単位で導入できる最新の防災サービスの検討を含め、一歩進んだ対策について考えてみたい。

防災備蓄をスマホでまとめて管理「SAIBOU PARK」

その前に、多くの人は本当に「最低限」の備えができているのだろうか。防災リュックは、クローゼットの奥で埃をかぶっていないか。そもそも、中身を把握できていなかったり、非常食の消費期限が切れてしまっているケースもあるかもしれない。

そんな、怠りがちな防災備蓄の管理を、スマホで簡単に行えるのが「SAIBOU PARK」。自宅にあるアイテムの写真を撮り、数量や保管場所、消費期限を登録することで、防災備蓄をまとめて管理することができる。

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

物置に眠る防災用品を集めて撮影する

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

アイテム名や個数、保管場所を登録していく

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

非常食などは賞味期限や消費期限を設定。通知をONにしておくと、期限が切れる1カ月前と2週間前に、アプリから通知が届く

サービスを運営しているのは、防災用品のセレクトショップも手がける株式会社サイボウ。「SAIBOU PARK」アプリを開発した背景には、防災備蓄にまつわるこんな課題感があったという。

「自宅の防災アイテムや備蓄品を『あったっけ?』『どこだっけ?』と探した経験がある人は多いと思います。防災備蓄を把握しづらい理由は主に3つあり、1つ目は『種類が多く、一つひとつが小さい』こと。2つ目は『購入後に収納すると、当面は気にかけない』こと。3つ目は『目の届かないところに収納したものは、時間の経過とともに忘れてしまう』こと。
防災用品はこうして存在自体を忘れられ、ひっそりと劣化が進んだり、期限が切れてしまいます。せっかく備えたアイテムも、これではいざというときに真価を発揮できません。その解決策として、防災備蓄の全体像をいつでも把握・管理できるように企画したのが、このアプリでした」

こう語るのは、自身も防災士の資格を持つ「SAIBOU PARK」の佐多大翼さん。

SAIBOU PARK

SAIBOU PARKでは防災アイテムの劣化や非常食の消費期限切れを防ぐため、アイテムごとに「期限」を設定し、期限が切れる1カ月前と2週間前にプッシュ通知でリマインドする機能を持たせた。

「非常食だけでなく、電池やガスボンベにも使用期限があります。SAIBOU PARKを使ってみて、そのことを初めて意識したというユーザーの方もいらっしゃいました」(佐多さん)

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

不足アイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」で購入できる

最低限の自助といえる防災備蓄。自分や家族にとって最適な備えを把握するためにも、まずはこうしたアプリを使い、現在の備蓄状況を俯瞰的にチェックしてみるといいかもしれない。

<サービス概要>
・SAIBOU PARK
自宅の備えがひと目でわかる「防災備蓄まとめて管理アプリ」。非常食や懐中電灯など、手元の防災用品をアプリに登録。賞味期限や使用期限を設定しておくと、期限が切れる前にプッシュ通知でお知らせしてくれる。足りないアイテムは、防災用品のセレクトショップ「SAIBOU PARK」から購入することも可能。

被災地で「本当に必要になるアイテム」をレコメンド「pasobo」

食糧の備蓄や日用品、簡易トイレといった防災アイテムは十分に備えていたとしても、避難生活では「意外なもの」が不足することがある。

例えば、乳幼児を連れて避難する場合、被災のストレスで一時的に母乳が出にくくなったり、哺乳瓶を消毒することができずに授乳に困るケースがあるという。
また、小さな子どもの不安やストレスをやわらげる遊び道具、高齢者のいる家庭なら避難所に持ち込める椅子、ペットがいる場合はケージなども用意しておきたい。

最低限の備蓄品以外に、避難所で必要になるものは人それぞれ。家族の属性だけでなく、住んでいる環境によっても必要な準備が異なる。そんな、一人ひとりに合わせた防災対策をパーソナライズして自宅に届けてくれるのが、「pasobo(パソボ)」だ。WEB上の防災診断で「住んでいる自宅の種類は?」「何人で暮らしていますか?」といった13の質問に回答すると、その世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析したうえで、自分に必要な防災セットを提案してくれる。

SAIBOU PARK

1分程度の「オンライン診断」を回答

1分程度の「オンライン診断」を回答

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

自宅周辺の災害リスクや、ハザードマップ上から分析された立地リスクなどの診断結果を確認。パーソナライズされた防災セットのなかから、必要なものを注文する

サービスを手掛けるのは株式会社KOKUA。東日本大震災の被災地で出会い、全国各地の被災地支援を続けてきたメンバーたちで設立された防災ベンチャーだ。

「行政による支援は、どうしても『誰もが共通して使えるもの』の優先度が高くなりがちで、個人の属性に応じた物品を用意したり、それを各避難所へ配備することが難しいと聞きます。実際、私たちが避難所でボランティアをしているなかでも、必要なものが不足し不便な思いをしている方がたくさんいらっしゃいました。不便なだけならまだいいのですが、それがないことで体調が悪化してしまうこともある。被災してから『これを準備しておけばよかった』という事態を防ぐためにも、pasoboの防災診断をきっかけに自分や家族にとって『本当に必要な防災対策』を考えていただければと思います」(KOKUA共同代表の疋田裕二さん)

<サービス概要>
・パーソナル防災サービス「pasobo」
WEB上で、家族構成や立地、建物の耐震基準・階数、個人の災害に対する価値観といった、いくつかの質問に回答するだけで、自分に必要な防災対策が1分で見つかるサービス。サイト上に入力された情報をもとに、個人の世帯環境における災害リスクや、全国のハザードマップから見た立地リスクを分析し、最適な防災グッズを提案。提案された防災用品は、サイト上で購入することもできる。

マンション単位で導入できる備蓄品のサブスク「防災サステナ+」

災害の規模によっては、こうした自助の備えだけでは賄いきれない場合もある。そんなときに頼れるのは、地域やコミュニティのなかで助け合う「共助」の力だ。

特にマンションの場合、近年は「在宅避難」を見越した防災力の強化が叫ばれている。実際、管理組合が主体となり、マンション全体で備蓄の管理を含めた防災対策に取り組むケースも増えてきた。

最近では、防災備蓄品の選定や管理をアウトソーシングできるサービスも登場している。2023年10月に提供がスタートした「防災サステナ+」もその1つ。マンションの倉庫の容量や住人の数に応じた適正数量の防災備蓄品を提案・納品してくれるほか、期限切れの前に備蓄品を補充してくれる。

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

マンション引渡し~管理組合設立時まで(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

管理組合設立以降(イメージ)

「有事の際に防災備蓄品の使用期限が切れて使用できなかったら、備蓄の意味がありません。実際、管理組合で消費期限や使用期限が切れていて問題になり、慌てて購入されるような事案もあるようです。通知だけでは現地にある備蓄品の期限切れが解消されるわけではないため、自動的に補充されるまでをサービスとしました」(サービスを運営する「つなぐネットコミュニケーションズ」の担当者)

現在は新築マンションを展開するデベロッパーや、既存マンションの管理会社を中心にサービスを提案中。同時に、マンションごとに異なる防災のニーズを聞き取りながらサービス内容をブラッシュアップしている。

ただ、いかに共助が大事といっても、あくまで最低限の「自助」があってこその「共助」。そのため、どこまでを自助とし、どこからを共助として管理組合で備えておくべきかは、住民同士で十分に話し合っておく必要があるという。

「発災当初、消防などの公的支援は被害が大きいところに集中するため、安全性の高いマンションへの支援が遅れる可能性があります。そのため、自分の命を守る『自助』、マンション内で助け合う『共助』が重要になります。『自助』では各住戸での安全対策や水食料等の備蓄をしておくこと、『共助』では救助活動や共用部の安全対策等のため活動ルールや備蓄品を備えておくことが必要です」(同)

<サービス概要>
・防災サステナ+
マンションでニーズの高い防災備蓄品の選定・納品(ハード)に加え、将来にわたる更新期限の管理を、月額利用料金で継続的に利用できる防災サービス。サービスの契約期間中は無料の防災相談サービスが受けられるほか、管理組合専用グループウェアも利用できる。平常時の管理組合による防災活動の活性化に加え、災害時の共助促進も期待できる。

「いつもの暮らし」を取り戻す“大切なもの”保管サービス「防災ゆうストレージ」

被災した際、何より欠かせないのは食糧や生活必需品。その次に必要になるのは、嗜好品や趣味の品、大切にしているものなど「心を癒やすアイテム」ではないだろうか。

2022年、日本郵便と寺田倉庫は防災サービス「防災ゆうストレージ」の提供を開始した。もしものときのために「必要なもの・大切なもの」を寺田倉庫が管理する安全な倉庫に預けておくことができ、地震や災害が起こった際には日本郵便の流通網で全国の被災地まで運んでくれる。

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

頑丈なポリプロピレン製の専用ボックスは「小」「大」の2種類。避難先ではテーブルや椅子などとしても活躍する(写真提供/日本郵便)

サービスの背景には、被災者たちの辛い経験談があるという。

「被災者の方々に話をお伺いすると、何よりも辛かったのは思い出の写真やアルバム、愛着のある品々をなくしてしまったことであると。家をなくすよりも悲しかったとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいました。ふだんは嵩張るようなもの、ちょっと邪魔だなと思っているものでも、いざなくしてしまうと大きな喪失感につながってしまう。そこで、いったん遠くの場所へ思い出を移しておくことで自宅も整理できますし、有事の際の心の拠り所にもなるのではないかと考えました」(サービスを設計した日本郵便の担当者)

それらを預けておくだけでなく、有事の際には避難所まで届けてくれるのも大きい。なかなか自宅に戻れない状況下では、思い出の写真一枚、小さなぬいぐるみ1つが心の拠り所になることもある。

「思い出の品々だけでなく、好きな本や嗜好品もそうだと思います。これらは、命をつなぐために必要なものではありません。でも、避難生活が長引いたときに『いつもの暮らし』を取り戻させてくれます。例えば、避難所や仮設住宅での食事も、お気に入りの食器を使うだけで気持ちは変わる。ちょっとしたことですが、家族の日常を取り戻す第一歩になるのではないかと思います」(同)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

「高齢者や子どもと暮らしている家庭」の利用イメージ(写真提供/日本郵便)

災害の規模によっては、避難生活が長期化することもある。もとの暮らしを取り戻すまで日常をつなぎとめてくれるのは、じつは身の回りにあるちょっとしたアイテムなのかもしれない。

<サービス概要>
・防災ゆうストレージ
月額保管料275円~と、個人でも利用しやすい防災向け宅配型トランクルームサービス。専用ボックスに、思い出の品だけでなく、避難先での生活が長期化した場合に必要となる日用品を入れて発送するだけで「じぶん用支援物資」として預けておくこともできる。衣類や衛生品のほか、公的な支援物資だけでは不足しがちな紙おむつやコンタクトレンズ、使い慣れた生理用品、常備薬、ペット用品など、自宅に備えている防災リュックの「拡大版」のような形で利用することもできる。

最新サービスを活用して防災力の強化を

大規模な災害が頻発しているとはいえ、常日頃、高いレベルの防災意識を保ち続けることは難しい。重要なのは、普段は特別に意識しなくても、もしもの時に困らない体制をつくっておくこと。そのためにも、手軽に導入できるこれらの防災サービスをうまく活用し、防災力の強化に努めたい。

●関連リンク
・SAIBOU PARK
【iOS】
【Android】
・パーソナル防災サービス「pasobo」
・防災サステナ+
・防災ゆうストレージ

「コンテナハウス」のスゴすぎる世界。空き家・防災対策など日本の住宅問題を解決する!?

今、コンパクトな平屋が注目を集めていますが、タイニーハウス(小屋)やトレーラーハウス、コンテナハウスにも注目が集まっています。今回は、物流用コンテナを住まいや店舗などとして活用するコンテナハウスにフォーカス。実は空き家対策や防災対策などでも活用されているのです。そのコンテナハウスの最前線について、日本コンテナハウス建築協会会長の菅原修一さんに話を伺いました。

店舗やホテル、住宅……。コンテナの使い道は実に多彩!

コンテナとは、船や鉄道などの輸送に使われる容器、入れ物のこと。サイズは普及しているもので20ftと40ftが主流であり、大型トレーラー車両がけん引していたり、鉄道の貨物輸送などに使われている12ftと31ftサイズを大型車両が輸送しているのを見かけたことがある人も多いことでしょう。

コンテナ(写真/PIXTA)

コンテナ(写真/PIXTA)

コンテナは世界中の輸送で使用されることから、強度が高く、過酷な環境にも耐え、しかも容易に移動させることができるのです。そのため、このコンテナを住まい、ホテル、店舗などとして活用するケースが増えてきました。例えば、2022年に開催されたFIFAワールドカップカタール大会ではコンテナを建材として積み上げてスタジアムとしたり、ホテルとしても活用されていました。コロナ禍では臨時の医療拠点になったこともあるといい、多用途かつ多目的に使うことができるのです。

「コンテナは日本のみならず世界中で使われていて、港で積荷を降ろし、帰りに荷物を載せる必要がない場合は現地で売り払うのです。そのため、各国で中古コンテナ市場が形成されています。日本でもコンテナは手ごろな価格帯で販売されて、フリマアプリやオークションでも取引されています。こうした中古コンテナを入手し、内外装を施して住居や店舗、ホテルなどに改造して活用しているのです。コンテナを連結したり、多層構造にすることもできますし、インテリアの自由度も高く、フルカスタムで世界に一つだけのコンテナハウスやショップがつくれるんですよ」と話すのは日本コンテナハウス建築協会の菅原修一さん。

なるほど、コンテナハウスのメリットをまとめると、
(1)躯体が頑丈
(2)価格が手ごろ
(3)内装の自由度が高い
(4)工期が短くて済む
(5)移動ができる
(6)不要になったら撤去、売却、再利用ができる
という点にあるようです。世界中で建築資材が高騰しているなか、こうしてみると人気が出るのは当たり前、といえます。

20ftのコンテナを平置きにして店舗にした例。広さは8畳ほど(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

20ftのコンテナを平置きにして店舗にした例。広さは8畳ほど(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カフェ内部に入るとコンテナであると気づかない(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カフェ内部に入るとコンテナであると気づかない(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

40ft(約12m強)のコンテナ3台を並べて店舗にした。千代田区4番町にあるその名も「No.4」。広さにして約80平米(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

40ft(約12m強)のコンテナ3台を並べて店舗にした。千代田区4番町にあるその名も「No.4」。広さにして約80平米(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

天井を見るとコンテナだな、とわかる(写真撮影/嘉屋恭子)

天井を見るとコンテナだな、とわかる(写真撮影/嘉屋恭子)

上下に積み重ねることで、多層構造にもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

上下に積み重ねることで、多層構造にもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

建物内部、吹き抜けで開放的な空間に(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

建物内部、吹き抜けで開放的な空間に(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナの耐用年数60~70年。使い捨てにならず離島や空き家対策にも!

さまざまなメリットがあるコンテナハウスですが、(6)不要になったら解体、売却できるため、「使い捨てにならない」という面でもすぐれています。

「コンテナは先ほど紹介したように各国で利用されているため、使い終わっても廃棄とはなりません。使い捨てなんてもうカッコ悪いし、時代に合わない。場所や用途に合わせて長く使っていく時代です。コンテナの耐用年数は一概にはいえませんが60年~70年は使用できるでしょう。もちろん、海沿いなどの環境条件やメンテナンスなどによって異なってきますが、少なくとも40年~50年は使用できると思います」とのこと。

持続可能なまちづくりや開発は、今や避けては通れない課題です。必要なときに、必要に応じて住まいや店舗、医療施設、学校を建設することも可能です。

コンテナの移動性、構造強度が強いことを利用し、「コンテナに建設資材や物資を積んで、現地に行って、住宅や学校、医療施設をつくることも可能です。基礎は現地で施工し、コンテナはそのまま躯体として活用、積んでいった窓や建材を使って建物をつくるのです。離島は、建築物を建てようとすると資材の輸送費、人材の移動費などの関係で建設コストが高くなりますが、これなら容易につくることが可能です。さらに、離島防衛、国土強靭化にも役立つんですよ。日本だけでなく世界の災害発生時や紛争地帯、アフリカなどの援助にも活用されています」と菅原さん。

石垣島のリゾートホテル『ぱいぬ島リゾート』(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

石垣島のリゾートホテル『ぱいぬ島リゾート』(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを斜めにしてインパクトのある建築物に。構造計算もしてあるため、強度にも問題ないという(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを斜めにしてインパクトのある建築物に。構造計算もしてあるため、強度にも問題ないという(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

客室。こちらもコンテナとは気が付かないはず(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

客室。こちらもコンテナとは気が付かないはず(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

日本では、東日本大震災のときもコンテナハウスは仮設住宅として活躍しました。現在では、トイレやお風呂もついたものを道の駅などに設置しておき、災害発生時は被災者を受け入れる、または被災地まで出向き、仮設住宅として使うという計画もあるといいます。

災害発生時に建設される仮設住宅は、一定程度の敷地が必要で、設置・解体廃棄にもコスト、工期がかかり、そのコストは1棟500万とも600万ともいわれています。コンテナハウスであれば、平時は宿泊施設などとして活用しながら、非常市は仮設住宅になるのであれば無駄もなく、解体、廃棄する必要がありません。地震だけでなく、台風、水害などの自然災害が多発している今、こうした備えは全国各地で普及していくことでしょう。

東日本大震災では仮設住宅としても使われた(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

東日本大震災では仮設住宅としても使われた(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

また、日本の喫緊の課題でもある空き家活用にも、コンテナハウスは役立つ、といいます。

「今、築100年、200年の立派な古民家が日本各地で空き家になっていますが、現在の建築基準を満たそうとすると、耐震性や断熱性などの改修費用が高くなることから、初期費用が高く、利活用の妨げになっています。そこでコンテナハウスと木造住宅の混構造のリノベを提案しています。コンテナにトイレとバス、寝室をもうけて寝室部分とします。木造は、ダイニングや共用部分とするとよいでしょう。ホテルでも自宅でも、なにかあっても耐火性、耐震性も高いのでシェルターになりますし、命を守ることができます」

こうして聞いてみると、用途は限りなくありますし、繰り返し使えます。太陽光発電と蓄電池、下水は浄化槽、空気中の水蒸気を飲み水になどの技術と組み合わせることで、容易にオフグリッド住宅にもなることでしょう。安全性、汎用性が高く、持続可能というあらゆる意味で、21世紀の住まいのスタンダードにもなりそう、そんな気すらしてきます。

建築基準法準拠、断熱や遮熱など、価格以外にも留意を

「国際海上コンテナは世界中で使われているので、国際的に規格化したISOという規格で統一されています。ただし、住居や店舗など、固定した建築物として使う場合は、ISO規格+日本の建築基準法に適合したJIS規格に適合した『建築専用コンテナ』でないといけません。違いは複数ありますが、大きくは使用している鋼材と構法が異なります。そのため、価格ばかりに目を奪われ、何も知らないで中古コンテナを購入、建築すると違法建築になることもあるんです。現に私の元には、『行政から違法建築といわれた』という相談が増えています」と菅原さん。

「ISOコンテナ」と「JISコンテナ」の外地

菅原さんの取材を基に筆者作成

また、海上輸送コンテナはパネル構造でつくられているため、窓やドアを設置するために開口部を設けると強度が大きく損なわれてしまうことも。建築基準法を満たした建築コンテナはラーメン構造であるためこうした問題は発生しませんが、コンテナハウスを手掛ける業者がそもそもこうした建築法規を知らないケースもあるため、注意が必要だといいます。

あわせて、注意したいのが住み心地/使い心地に直結する、断熱や遮熱、気密性です。
「コンテナハウスは北海道から沖縄まで日本全国で使われており、建築基準法を基にきちんと設計・施工すれば住居として冬暖かく、夏も快適に過ごせることがわかっています。ただ、コンテナそのものは壁が1.6mm~2.0mmの鉄板ですぐに熱を通してしまうため、建物内部に断熱材を施工するほか、気密性も高めないといけません。単純に断熱材が入っていればOKではなく、発泡ウレタン吹き付け、ロックウール、グラスウールなど、どのような材料が使われているか、またその厚み、施工精度が非常に重要になります。きちんと施工されていないと、コンテナ壁鋼板と内装仕上げ下地材の空気層が結露してしまってそこからカビが生えてきた……というトラブルも発生しています」(菅原さん)

気密性も同様、どれだけ頑丈なコンテナであっても開口部などから空気が漏れてしまっては意味がありません。コンテナハウスでは、土地の条件、内装の意匠性にもよりますが1棟で700~800万円ほどが目安で、建築法令の理解や施工の精度も含めて、コンテナハウスを扱う業者を選んでほしいとのこと。

コンテナを店舗にしたケース(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナを店舗にしたケース(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナをつかった住まい。インダストリアルの雰囲気がかっこいい(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

コンテナをつかった住まい。インダストリアルの雰囲気がかっこいい(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

過疎地域に役立つ無人コンビニにもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

過疎地域に役立つ無人コンビニにもなる(写真提供/コンテナハウス2040.jp)

カッコよくて、快適、時代にもあったコンテナハウス。自然災害や離島、空き家問題への活用など、日本の住宅問題をまるっと解決する「コンテナ」の活用方法を聞くたび、筆者はワクワクがとまりませんでした。何より、ひとり1コンテナで、家賃や住宅ローンに縛られず、のびのび暮らせる未来がきたら、楽しいですよね。住宅はコンパクトで、もっと自由度の高いものへ。コンテナハウスにもっと光があたる日も近い気がします。

●取材協力
一般社団法人日本コンテナハウス建築協会
株式会社コンテナハウス2040.jp

多様化するトレーラーハウス。災害支援、公共施設、宿泊、店舗など様々な可能性に注目

東京ビッグサイトで「東京トレーラーハウスショー2023」が開催されると聞いて訪れてみた。トレーラーハウスが立ち並ぶ姿は圧巻だったが、その利用方法は実に多様だ。どんな利用方法があるかについて、それぞれ見ていこう。

【今週の住活トピック】
日本最大級!43台のトレーラーハウスが一堂に「東京トレーラーハウスショー2023」

トレーラーハウスとは?キャンピングカーとは違うの?

SUUMOリサーチセンターは、2023年のトレンドとして「平屋回帰」を予測した。単なる平屋ではなく、コンパクトな平屋のことで、住宅の面積が小さな主拠点の平屋と、小屋やタイニーハウスなどのサードプレイスの平屋に分類している。トレーラーハウスは後者に該当する。

一般社団法人日本トレーラーハウス協会によると、トレーラーハウスは、次のように定義されている。

「トレーラーを一定の場所に定置し、土地側の給排水配管電気等の接続が工具を使用しないで脱着できる構造体であり、公道に至る通路が敷地内に確保されており、障害物がなく随時かつ任意に移動できる状態で設置したものをトレーラーハウスと呼ぶ。」

キャンピングカーも、小さいながら車の中にベッドやキッチンを設置したりできるが、車のバッテリーの電気を使い、備えたタンクの水を使う。排水もタンクにためて処理する必要がある。一方トレーラーハウスは、タイヤの付いたシャーシ(車台)に載せて、車で牽引して公道を移動する。一定の場所に設置して、住宅と同じように外部の水道や電気などの生活インフラと接続する。そのため、トレーラーの中にはトイレやシャワールームも設置でき、エアコンなどの家電も使うことができる。

まるで小さな小屋のようだ。ただし、小屋は建築物だが、トレーラーハウスは原則として自動車に該当するので、市街化調整区域などの建築物が建てられない場所にも置くことができる。

災害支援から店舗、グランピングまで多様に利用できるトレーラーハウス

こうした特徴のあるトレーラーハウスなので、さまざまな利用方法がある。今回の「東京トレーラーハウスショー2023」では、会場を8つの展示ゾーンに分けて、トレーラーハウスを展示している。
●災害支援
●公共施設
●事務所
●店舗
●グランピング&レジャー
●レンタル
●シャーシ(車台)
●未来型

「災害支援」ゾーンには、防災基地局トレーラーやレスキューホテル、室内のウィルスや細菌を外部に流出させるメディカルキューブ、トイレキューブなどがあった。

通信・発電や一時救護が可能な防災基地局トレーラー(手塚運輸)

通信・発電や一時救護が可能な防災基地局トレーラー(手塚運輸)
※各掲載写真はいずれも筆者撮影

カプセルベッドを4台設置したカプセルキューブ(写真右)、トイレキューブ(写真中奥)、メディカルキューブ(写真左)(いずれもトレーラーハウスデベロップメント)

カプセルベッドを4台設置したカプセルキューブ(写真右)、トイレキューブ(写真中奥)、メディカルキューブ(写真左)(いずれもトレーラーハウスデベロップメント)

同様に「公共施設」ゾーンには、シャワーキューブや低床トイレキューブ、スモーキングキューブ(分煙時の喫煙所)などがあった。

また、「レンタル」ゾーンになるが、ベビーケアトレーラーというのもあった。内部には、授乳スペース、おむつ替えスペース、着替えスペースがあり、ママたちには嬉しい場所だと思った。

ベビーケアトレーラー(西尾レントオール)

ベビーケアトレーラー(西尾レントオール)

ベビーケアトレーラー内部。奥にカーテンで仕切れる授乳スペースが2つ、手前におむつ替えスペースなどがある

ベビーケアトレーラー内部。奥にカーテンで仕切れる授乳スペースが2つ、手前におむつ替えスペースなどがある

もちろんトレーラーハウスは、「事務所」や「店舗」としても利用でき、展示会場には担々香麺を提供するキッチントレーラーなどもあった。

エアストリーム(キャンピングトレーラー)のキッチン仕様は見た目もかわいい(株式会社トレーラービレッジ)

エアストリーム(キャンピングトレーラー)のキッチン仕様は見た目もかわいい(トレーラービレッジ)

さて、住まいとしての利用方法は主に「グランピング&レジャー」だろう。自然豊かな場所などに置いて、のんびりくつろげるトレーラーが数多く並び、サウナ専用トレーラーも2台展示されていた。

グランピングトレーラー(奥)とデッキトレーラー(手前)を並べて設置した展示。取り外しができないウッドデッキは、建造物扱いになるため取り付けができないが、トレーラーを並べれば広々としたウッドデッキも一体的に使える(トレーラーハウスデベロップメント)

グランピングトレーラー(奥)とデッキトレーラー(手前)を並べて設置した展示。取り外せないウッドデッキは取り付けられない(建築物になる)が、トレーラーを並べれば広々としたウッドデッキも一体的に使える(トレーラーハウスデベロップメント)

サウナ専用トレーラー(トレーラーハウスデベロップメント)

サウナ専用トレーラー(トレーラーハウスデベロップメント)

電線から電気を得られなくても生活できるトレーラーハウスも

次に、「未来型」ゾーンの中からオフグリッドトレーラーハウスを紹介しよう。
生活インフラが遮断、あるいは整備されていないといった場所では、電気などが使えなくなるが、太陽光パネルや太陽熱温水器などを搭載したエネルギー自立型のトレーラーハウスなら、発電して蓄電池にためた電気を使い、温水器のお湯でシャワーを浴びるといったことも可能。水を使わないトイレも設置してあった。

オフグリッドトレーラーハウス(イスズ)

オフグリッドトレーラーハウス(イスズ)

車内には蓄電池・全熱交換型換気システムなどの周辺機器(左)、おが屑でし尿を分解させるバイオトイレ(右)が設置されている

車内には蓄電池・全熱交換型換気システムなどの周辺機器(左)、おが屑でし尿を分解させるバイオトイレ(右)が設置されている

最後に紹介するのは、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトを主導する工学院大学教授・鈴木敏彦氏の活動に賛同した淀川製鋼所が、中銀カプセルタワーの1つを取得し、トレーラーカプセルとして再生したもの。黒川紀章氏が提唱したメタボリズムの設計思想が、トレーラーハウスとして継承されている。

中銀カプセルタワーのカプセルを載せたトレーラー(淀川製鋼所)

中銀カプセルタワーのカプセルを載せたトレーラー(淀川製鋼所)

動く中銀カプセル「YODOKO+トレーラーカプセル」の内部

動く中銀カプセル「YODOKO+トレーラーカプセル」の内部

ニーズが変わる!?不動産から可動産へ

さて、展示場では各種のセミナーも開催されていた。筆者はこのうち、YADOKARI代表取締役の上杉勢太氏による「『可動産』と『タイニーハウス』の可能性」を聞いた。

これからは不動産から可動産へと、ニーズが変化するという。その背景には、人口が減り単身世帯が増えることに加え、コロナ禍で二拠点居住やアドレスホッパーといった新しい生活スタイルが広がっていることがある。住宅コストが暮らしを圧迫する一方で、災害住宅としてコンテナ状の住宅が使われるなど、小さな家が注目されるようになった。

海外には先行事例が多い。北欧では、住宅キットを使ってDIYでサマーハウスを建てたりしているし、アメリカではリーマンショックを機に、小さな家でシンプルに暮らすというタイニーハウス・ムーブメントが起きた。同様に、車を使ったVAN×LIFEというムーブメントも起きている。

日本でも、テレワークが加速し、移動式店舗・オフィスが増加している。不動産は建築基準法の制約を受けるが、VANやトレーラーハウス、移動可能な小屋などの可動産であれば、絶景の無人駅に人を集めるといったこともできる。というような可能性の広がりについて、上杉氏は熱く語っていた。

「グランピング&レジャー」ゾーンに出展したYADOKARI株式会社のトレーラーハウス

「グランピング&レジャー」ゾーンに出展したYADOKARIのトレーラーハウス

トレーラーハウスは、設置場所の自由度の高さや住宅取得のコスト軽減などのメリットもあるが、暮らし方が多様になるこれからは、生活拠点の選択肢の一つとして注目されていくのではないか。好きな場所で好きなことができるスタイルが広がるほど、トレーラーハウスの新しい利用方法も増えていくだろう。

●関連サイト
日本最大級!43台のトレーラーハウスが一堂に「東京トレーラーハウスショー2023」
東京トレーラーハウスショー2023公式サイト
SUUMO「トレーラーハウスとは?住居にする方法や用途、価格、設置方法、かかる税金は?」

法務省の地図データ無料公開などで進む三次元データやリアルタイム防災情報への活用。空飛ぶ車の実用化や空き家問題解決も!?

ドローンによって収集された災害時の情報を地図に反映したり、ビジネスの用途に合った土地を現地調査なしで世界中から探したりと、地図データを活用したサービスや取組みが進んでいます。それらの基盤となるのが、“G空間情報”です。「地理空間情報技術(Geospatial Technology)」の頭文字のGを用いた地理空間の意味で、将来が期待される科学分野の一つとして注目されています。2023年1月から、登記所備付地図データの一般公開が始まりました。これらの地図データを活用することで、どんな問題の解決が進み、また、私たちの生活はどう変わるのでしょうか? 最新の取組みを取材しました。

登記所備付地図データを無償で誰でも利用できるようになった!

「空飛ぶクルマの実用化に向けた未来のカーナビ」「メタバースを活用して空き家問題を解決するサービス」……夢のような世界の実現化に向けて、G空間情報を活用する動きが広がっています。

2022年12月6日に開催された地理空間情報の活用を推進するイベント「G空間EXPO」には、1424名の人が会場を訪れ、オンラインアクセス数は、4万5493。会場では、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」の受賞式が行われ、冒頭で紹介したサービスなどが表彰されました。

サービスの基盤となるG空間情報の提供元は、「G空間情報センター」です。「G空間情報センター」は、さまざまな地理空間情報を集約し、その流通を支援するプラットフォーム。法務省から提供された地図データを利用者がワンストップで検索・閲覧し、情報を入手できる仕組みの構築を目指す機関です。

2023年1月から新たに、登記所備付地図データの一般公開が始まり、「G空間情報センター」にログインすることで、誰でも電子データをダウンロードでき、無償で利用することができるようになったのです。

内閣官房主催の「イチBizアワード」。390件の応募から15件のビジネスアイデアが選出された(画像提供/角川アスキー総合研究所)

内閣官房主催の「イチBizアワード」。390件の応募から15件のビジネスアイデアが選出された(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間の高低差を利用して車を交差させて渋滞を緩和するアイデア(芝浦工業大学附属中学高等学校)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間の高低差を利用して車を交差させて渋滞を緩和するアイデア(芝浦工業大学附属中学高等学校)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間情報を基に国土を生成したVRコンテンツ。空中旅行などのバーチャルツアーなどの活用が期待される(Voxelkei)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

地理空間情報を基に国土を生成したVRコンテンツ。空中旅行などのバーチャルツアーなどの活用が期待される(Voxelkei)(画像提供/角川アスキー総合研究所)

背景には農業分野におけるICT活用のニーズがあった

法務省の地図作成事業では、不動産の物理的状況(地目、地積等)及び権利関係を記録してきましたが、登記記録だけでは、その土地が現地のどこに位置し、どんな形状をしているかはわかりませんでした。

以前から、土地の位置・区画を明確にするため、法務局(登記所)に精度の高い地図を備え付ける事業が全国で進められてきました。その結果、全国で約730万枚の図面が整備され、登記情報に地図を紐づけることで、それぞれの土地の所有者などが調べやすくなりました。

しかし、今までは、法務局において地図の写しの交付を受けるか、インターネットの登記情報提供サービスで表示された情報(PDFファイル)をダウンロードする方法しかなく、加工可能なデータ形式で手に入れることはできなかったのです。

農業分野におけるICT活用のため、農業事業者等から、まとまった区域の登記所備付地図の電子データを入手したいと要望があり、個人情報公開の法的整理をした上で、今回、地図データを加工可能な形式で提供できるようになりました。

農業のICT化で自動走行トラクターやドローンによる生育状況の把握が可能になる(画像/PIXTA)

農業のICT化で自動走行トラクターやドローンによる生育状況の把握が可能になる(画像/PIXTA)

データはXML形式のため、ダウンロードしてすぐに地図として見ることができず、表示するためには、パソコン等にアプリケーションをインストールすることが必要で、一般の人が簡単に利用するのは難しいものです。しかし、加工可能なデータとして得られるようになったことで生活関連・公共サービス関連情報との連携や、都市計画・まちづくり、災害対応などの様々な分野への展開が可能となり、私たちの暮らしに新しい効果がもたらされることが期待されています。

宇宙ビッグデータを活用した土地評価エンジン「天地人コンパス」

冒頭に紹介した「イチBizアワード」では、誰でも手軽に土地の価値がわかる「天地人コンパス」が最優秀賞を受賞しました。G空間情報や地球観測衛星データをビッグデータと組み合わせたサービスです。開発に携わった株式会社天地人の吉田裕紀さんに地図データ公開の価値とG空間情報を活用したサービスで今までより何が便利になるのか伺いました。

天地人は、JAXA公認のスタートアップ企業で、地球観測衛星データとAIで土地や環境を分析し、農業、不動産などさまざまな産業を支援するサービスを展開しています。地球観測衛星データとは、陸や海の温度、雨や雪の強さ、風や潮の流れ、人の目に見えない情報のこと。「天地人コンパス」は、地球観測衛星データとG空間情報を重ね合わせて、ビジネスにおいて最適な土地を宇宙から見つけることができる土地評価サービスです。農作物が美味しく育つ場所を探したり、土地や建物の災害リスクをモニタリングしたりすることができます。

地球上のどんな地域でも条件で比較できる(画像提供/天地人)

地球上のどんな地域でも条件で比較できる(画像提供/天地人)

「天地人コンパス」で提供されるのは、20種類以上の地図空間情報や最長10年分の衛星データを独自のアルゴリズムで分析したデータ。アカウント登録で誰でも無料で使うことができます(フリープランは一部機能を制限)。

「G空間情報×地球観測衛星データ」を体感できる機能は、エリアの中から条件に一致する場所を探すことができる「条件分析ツール」と2点間の地表面温度や降水量の類似度を測れる「類似度分析ツール」です。東京都近郊の2015年と2020年の地表面温度をビジュアルで比較してみると、温暖化の影響が一目瞭然でした!

条件分析ツールで、設定項目を1月~3月、日中15℃以上にして、2015年と2020年を比較すると、地表温度の変化が色で表現される。赤いエリアが多い方が暖かい日が多かったとわかる(画像提供/天地人)

条件分析ツールで、設定項目を1月~3月、日中15℃以上にして、2015年と2020年を比較すると、地表温度の変化が色で表現される。赤いエリアが多い方が暖かい日が多かったとわかる(画像提供/天地人)

「一般的に使われているオンラインMAPには、地図の上に道路情報やお店の情報、お気に入りの場所など、いろいろな情報が表示されています。あれは、地図のデータの上に、お店のデータなど、情報ごとに「層(レイヤー)」になって重なっているんです。同様に、『天地人コンパス』はさまざまな情報レイヤーを重ね合わせることで、特定の条件にマッチする場所を視覚的に探すことができます」(吉田さん)

ダムや公園のG空間情報は以前から公開されていましたが、自治体ごとにいろんなフォーマットが混在し、管理もばらばらで統一が難しいという課題がありました。「国が主導して、全国で統一されたデータフォーマットが公開されたのは、かなり価値がある」と吉田さん。

「データを使うビジネスにとって信頼できる唯一の情報源になるのがポイントで、マスターとなるデータを皆が参照できる。2023年に一般公開された登記所備付地図の電子データは主に不動産関係業者が使うことになると思いますね。G空間情報センターが公開しているG空間情報は日本で一番整っている地図データといえます。弊社もそのデータを使って開発をしています」(吉田さん)

今回公開された地図のデータを「天地人コンパス」に組み込めば、農地にしたり、何かを建設しようと決めた時、次のステップとして、土地の所有者は誰か、面積がどのぐらいあるのかということが、コンパスの中だけでわかるようになります。「天地人コンパス」は有料オプションとして企業の持っているデータを重ね合わせることが可能です。実際、不動産関係の企業からの相談が増えているといいます。

愛知県豊田市と連携して作成した「水道管凍結注意マップ」。スマホで自宅の水道管の凍結の注意を確認できる(画像提供/天地人)

愛知県豊田市と連携して作成した「水道管凍結注意マップ」。スマホで自宅の水道管の凍結の注意を確認できる(画像提供/天地人)

「今後、『天地人コンパス』に不動産企業が蓄積している部屋の間取りや築年数、建物階数などのデータを組み合わせれば、一気に活用が広がります。天気予報だと東京に雨が降る程度しかわかりませんが、『天地人コンパス』だと1km単位で気象の変化がわかるので、渋谷区の中でも特に暑くなりやすいとか、この公園は日当たりがいいとか自分が住もうとしているエリアがどのぐらい快適なのか現地に行かなくてもわかるようになります。類似検索ツールを使えば、日本の中でヨーロッパの地中海と同じような気候の場所、リゾート気分を味わえる場所がどこか探すこともできるんですよ」(吉田さん)

2点間の似ている度合いをパーセンテージで表現する類似度分析ツール(画像提供/天地人)

2点間の似ている度合いをパーセンテージで表現する類似度分析ツール(画像提供/天地人)

新たに開発された「天地人コンパスmoon版」。月の地面の高低差がわかり、クレーターの深さを富士山などと比較できる(画像提供/天地人)

新たに開発された「天地人コンパスmoon版」。月の地面の高低差がわかり、クレーターの深さを富士山などと比較できる(画像提供/天地人)

「地球規模で仕事することが増えている」と吉田さん。気候変動で温暖化が進んだ場合、地球環境に合わせて作物の農作地を変えていく必要があると指摘されています。

「温暖化・SDGsなどの課題に対して身近に感じています。例えば、日本でも米の銘柄ごとの産地は、今と20年後だったら場所が変わっているかもしれません。『天地人コンパス』は、場所探しが一番軸なので、適した場所を探せる。解決に関わっているという実感があります」(吉田さん)

「天地人ファーム」で、宇宙から米つくりに適した土地を探して栽培した「宇宙ビッグデータ米」(画像提供/天地人)

「天地人ファーム」で、宇宙から米つくりに適した土地を探して栽培した「宇宙ビッグデータ米」(画像提供/天地人)

G空間情報×ドローンで、自然災害発生後すぐに現地状況を地図へ反映する

大地震が起きたとき、この道は安全に通れるだろうか?、洪水や大規模火災が起きたとしたら、どちらに逃げればいいのだろう?と不安に感じたことはありませんか?

防災分野において、自然災害、政治的混乱等の危機的状況下で、地図情報を迅速に提供し、世界中に発信・活用することを目的に活動をしているのが、NPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」です。理事長を務める青山学院大学教授の古橋大地さんは、「空間情報は、安全安心な生活のライフライン」と言います。

「もし自分や家族、大切な人たちの周りで大規模災害が起きたら、とにかく生き延びて欲しいですよね。そのためには、市民が自分たちの力で情報を取得し、自らの判断で安全な場所に逃げることが大変重要です」(古橋さん)

大災害が発生すると、被害が大きいエリアほど被災状況がわからず、住民の避難や救助活動に支障が出るという問題があります。その際、最初に必要となるのが、被災状況をすばやく反映できる発災後の地図づくり活動「クライシスマッピング」です。「リアルタイム被災支援・地図情報」とも呼ばれ、被災地の衛星画像や航空写真画像、地上から撮影されたスマホ写真などから被害状況を地図上に落とし込み、被害のエリアや規模をリアルタイムで視覚的にわかりやすくした地図のことをいいます。

「クライシスマッピング」という言葉が使われ始めたのは2010年のハイチ地震のころです。「オープンストリートマップ」という世界中の誰でも自由に地図情報を共有・利用でき、編集機能のある世界地図をつくる共同作業プロジェクトで、初めてハイチの被災地の地図をリアルタイムで更新する活動が行われました。古橋さんもその活動に参加したひとりでした。

「世界中のボランティアがネット上に集まり、震災後の正確な地図をつくりました。2010年1月にハイチ地震、2月にチリ地震があり、2011年2月にニュージーランドのクライストチャーチで地震があったんですね。3月には、東日本大震災が起こりました。『あっちでも起こった、こっちもだ。今はどこだ』という感じでクライシスマッピングの作業をしていたことを覚えています」(古橋さん)

2010年ハイチ地震当初のオープンストリートマップ(左)と、詳細な情報が落とし込まれた更新後の地図(右)(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

2010年ハイチ地震当初のオープンストリートマップ(左)と、詳細な情報が落とし込まれた更新後の地図(右)(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

世界中で次々と災害が起きていることを痛感し、ますます「クライシスマッピング」の必要性を感じた古橋さん。日本で「クライシスマッピング」を広めるために2016年に設立したのが、「クライシスマッパーズ・ジャパン」でした。被災地で撮影された写真を基に、世界でもっとも詳細で最新の「現地の被災状況マップ」をつくり、国連や赤十字などの救援活動のために必要な情報支援をしています。

熊本地震前の益城町のオープンストリートマップ。情報が少なく何がどこにあるのか把握できない(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

熊本地震前の益城町のオープンストリートマップ。情報が少なく何がどこにあるのか把握できない(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

熊本地震時航空写真のトレース作業によって建物情報を取り込んで更新された益城町のオープンストリートマップ。この地図に倒壊した建物や崩落した橋、土砂災害で流された鉄道線路などの被害状況を反映させ、最新のストリートマップとして公開する一連の作業が「クライシスマッピング」と呼ばれる(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

熊本地震時航空写真のトレース作業によって建物情報を取り込んで更新された益城町のオープンストリートマップ。この地図に倒壊した建物や崩落した橋、土砂災害で流された鉄道線路などの被害状況を反映させ、最新のストリートマップとして公開する一連の作業が「クライシスマッピング」と呼ばれる(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)

同時期に立ち上げた「DRONEBIRD」は、G空間情報とドローンで空撮した情報を重ね合わせ、どこで災害が起きても発生から2時間以内に現地状況を地図へ反映する体制を整えるプロジェクトです。津波による浸水や、放射能で汚染された場所でもドローンなら飛ばせます。地図を作成する「マッパー」を募り、ドローンの撮影部隊を育成しています。

2019年台風による相模原市緑区の土砂災害をドローンで撮影(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

2019年台風による相模原市緑区の土砂災害をドローンで撮影(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」と災害協定を締結する自治体が増えている。ドローンを抱える伊勢原市市長と古橋さん(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」と災害協定を締結する自治体が増えている。ドローンを抱える伊勢原市市長と古橋さん(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」の「クライシスマッピング訓練」の様子(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「DRONEBIRD」の「クライシスマッピング訓練」の様子(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)

「我々の活動におけるG空間情報センターのメリットはふたつ。大学の研究者や業界関係者の協議会があり、信頼できる組織であること。日本語ベースで情報が公開されていることですね。新しいツールの多くは、英語ベースですから。専門的なツールを使い慣れていない国内の人に向けて、地図データを利用可能な形で提供しているG空間情報センターの存在は大きいと思っています」(古橋さん)

地図データの一般公開により、認知や活用が進むG空間情報。「イチBizアワード」の授賞式は、G空間情報で新しいサービスを開発しようという熱気に溢れ、G空間情報が今とてもアツイ分野だと実感しました。今後、身近で、「地図でこんなことができるようになったの!?」と驚くことが増えるかもしれません。

●取材協力
・G空間EXPO
・株式会社角川アスキー総合研究所
・株式会社天地人
・NPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」

マンション住民の高齢化で防災どう変わる? 孤立を防ぐ「つつじが丘ハイム」の取り組みが話題 東京都調布市

全国で、マンションの築年数の経過とともに、居住者の高齢化が進んでいます。管理組合役員の担い手が不足し、運営がままならなかったり、管理が消極的になったりするほか、コミュニティの衰退による高齢者の孤立も問題になっています。東京都調布市のつつじが丘ハイムは、コミュニティの再構築と自主防災力の強化に取り組み、その活動が「マンション・バリューアップ・アワード2021」防災部門の部門賞に加えグランプリを受賞しました。管理組合に取り組みの経緯や成功のポイントを伺いました。

高齢化が進むマンションで、自主防災活動が機能する組織をつくる!敷地内の植栽スペースはきれいに掃き清められ、管理が行き届いていることがうかがえた。「ゴミひとつないきれいなマンション」と近隣で評判だという(写真撮影/田村写真店)

敷地内の植栽スペースはきれいに掃き清められ、管理が行き届いていることがうかがえた。「ゴミひとつないきれいなマンション」と近隣で評判だという(写真撮影/田村写真店)

高台に立つつつじが丘ハイムの屋上からの眺め。富士山をはじめ箱根や丹沢の山々が一望でき、晴れた日は、榛名山や赤城山、筑波山も見える(写真撮影/田村写真店)

高台に立つつつじが丘ハイムの屋上からの眺め。富士山をはじめ箱根や丹沢の山々が一望でき、晴れた日は、榛名山や赤城山、筑波山も見える(写真撮影/田村写真店)

調布市郊外にあるつつじが丘ハイムは、1972(昭和47)年に建設された、築50年の大規模分譲マンションです。

受賞理由となったコミュニティの再生と自主防災体制の構築に奮闘したのは、第49期の理事会メンバーです。自主防災会を組織し、活動内容をまとめた自主防災会組織活動マニュアルと、居住者用の防災マニュアルの作成に取り組みました。当時、理事長を務めた久保田潤一郎さんと現理事長の大谷浩彦さんに伺いました。

左は、マニュアルの原案を起草し、活動を率いた49期理事長の久保田さん。50期の理事長大谷さん(右)は、調布市の防災安全課と協力して自主防災会規約の制定に尽力した(写真撮影/田村写真店)

左は、マニュアルの原案を起草し、活動を率いた49期理事長の久保田さん。50期の理事長大谷さん(右)は、調布市の防災安全課と協力して自主防災会規約の制定に尽力した(写真撮影/田村写真店)

つつじヶ丘ハイムには4棟に443世帯が入居している。コミュニティの再生と自主防災体制の構築のための取り組みは、49期の22名の理事会メンバーを中心に行われた(写真撮影/田村写真店)

つつじヶ丘ハイムには4棟に443世帯が入居している。コミュニティの再生と自主防災体制の構築のための取り組みは、49期の22名の理事会メンバーを中心に行われた(写真撮影/田村写真店)

理事会が最初に取り掛かったのは、先代の理事長が発案した「安否確認マグネット」の配布です。「安否確認マグネット」は、大規模地震の発生時に、居住者の安否状況を把握するための表示板で、マグネットの表面には「無事です」、裏面には「救助求む」と書かれています。

「居住者がドアに貼ることで安否を知らせるものですが、配っただけでは機能しないのでは? と理事会で議論になったんです。安否確認マグネット以前にも防災の備えはしてきましたが、それらをつなぐ方針や活動マニュアルがありませんでした。自主防災組織と支援組織をつくり、安否確認マグネットと連動させようと取り組みがスタートしました」(久保田さん)

居住者は、家族全員の安全確認ができた段階で、玄関ドアの外側に「安否確認マグネット」を貼って状況を伝える(写真撮影/田村写真店)

居住者は、家族全員の安全確認ができた段階で、玄関ドアの外側に「安否確認マグネット」を貼って状況を伝える(写真撮影/田村写真店)

防災対策と同時に課題となっていたのは、つつじが丘ハイムのコミュニティの衰退です。1990年代までは、住民サークルや子ども会などのコミュニティ活動が盛んでしたが、2010年代から高齢化が進み、住民同士の交流が減少。久保田さんも、顔見知りが少なくなり、敷地内で挨拶しても名前がわからない人が増えたと感じていました。

「支援活動を継続させるには、居住者が共に支え合えるコミュニティの再構築が必要でした。お互いに困ったとき声をかけあうハイムに戻したいという思いでした」(久保田さん)

しかし、居住者名簿の情報は、ほとんどが入居時に提出されたまま。そこで、2020年9月に、安否確認マグネットの配布と共に、組合情報誌「ハイムエコー」で、居住者名簿を更新することを告知。10月に居住者名簿の整備を行いました。

「結果は、75歳以上の占める割合が18.4%と予想以上に高齢化が進んでいました。同時に、災害時に支援が必要か確認したところ、支援要望が115件あり、災害時の支援が重要課題になったんです。募集した災害支援ボランティアには、18名が登録してくれて、居住者が共に支え合うコミュニティづくりの第一歩となりましたが、登録してもらっただけでは機能しませんから、支援活動組織をつくり、マニュアルづくりを開始しました」(久保田さん)

自主防災会を設置し、支援活動マニュアルを作成

2021年4月から、久保田さんは、災害時の支援活動マニュアルと居住者用のマニュアルの原案を作成し、検討会のメンバーと議論を重ねました。

「毎月3回ほど、皆の知恵を集めて話し合いました。東京都や調布市の防災マニュアルを参考にしようとしましたが、当マンションは、支援を受ける方もする方も高齢者。対応が難しい人命救助活動や、細分化した班分けは、当マンションの実情に合わないので、そのままは使えません。支援活動に携わる人たちの安全を確保しながら居住者を1~2週間ケアできる体制づくりに努めました」

6月に理事会の合意を経て、自主防災会を設置。原案に理事会での意見を加えた自主防災会支援活動マニュアルが完成しました。組織は、自主防災会本部のほか安全確認グループ、物資グループ、情報グループの4班で構成されています。

「つつじが丘ハイム自主防災会組織活動マニュアル」。平常時の活動をはじめ、震災発生時から復旧時までの各グループの活動内容が書かれている(資料提供/つつじが丘ハイム管理組合)

「つつじが丘ハイム自主防災会組織活動マニュアル」。平常時の活動をはじめ、震災発生時から復旧時までの各グループの活動内容が書かれている(資料提供/つつじが丘ハイム管理組合)

居住者名簿をもとに、被災時に支援メンバーが各戸を見まわり、確認シートに安否を記入。緑色は、名簿更新時に支援を要望した住戸で、特に丁寧に確認することになっている(写真撮影/田村写真店)

居住者名簿をもとに、被災時に支援メンバーが各戸を見まわり、確認シートに安否を記入。緑色は、名簿更新時に支援を要望した住戸で、特に丁寧に確認することになっている(写真撮影/田村写真店)

苦労したのは、管理組合として前例のなかった災害ボランティア保険への加入です。

「マニュアルを作成する過程で、災害支援メンバーが安心して活動するためには、傷害保険は不可欠と判断して加入を検討しましたが、大変苦労しました。まず、東京都社会福祉協議会のボランティア保険に問い合わせましたが、マンションの管理組合は対象外。次に、複数の保険会社に該当する保険を調べてもらいましたが、天災時のボランティア保険はないという回答でした」(久保田さん)

それでも管理事務所を通じて粘り強く複数の損害保険会社と交渉を重ね、その中の1社と特約で「災害ボランティア保険」に一人当たり400円で加入することができました。この保険加入で、支援メンバーに安心して支援活動に参加してもらえるベースができました。

災害対応自動販売機の設置や防災用品、備蓄品の見直しを行う

自主防災会の設置や支援活動マニュアル完成後、理事会で進めたのは、災害対応自動販売機(※)の設置です。2020年度の理事会でも議題に上がっていましたが、「空き缶やペットボトルが散乱するのではないか」「居住者以外の利用者が敷地内に入るのは物騒では」と否定的な意見が多く、設置が見送られていました。

※別名「ライフライン自動販売機」ともいわれ、災害や緊急事態で停電になった場合でも、一定の操作により、被災者に飲料を無償提供することができる。

「2021年度は、とにかく居住者の声を聞いてみようと。お試し設置期間を設けて、居住者の意見を募ることにしました。期間中にアンケートを実施したところ、91名から回答があり、『設置してもよい』が87%で、理事会メンバーが想定していた否定的な意見はほとんどありませんでした。この結果をもとに総会に提案し、設置の承認を得ることができました。また、ハイムエコー(組合情報誌)には、賛成・反対両方の意見を掲載し、設置に至るまでの過程を知ってもらえるように工夫しました。普段は普通の自動販売機ですが、災害時には、管理事務所にある鍵で開けられるようになっており、内蔵している600本の飲料を居住者に無料で配布します」(久保田さん)

利用率は高く、電気代はまかなえている。「敷地内にあり便利」という声のほかに「夜間の灯りが防犯上いい」という予想外のメリットも(写真撮影/田村写真店)

利用率は高く、電気代はまかなえている。「敷地内にあり便利」という声のほかに「夜間の灯りが防犯上いい」という予想外のメリットも(写真撮影/田村写真店)

さらに、防災用品と防災備蓄品の見直しを行い、自主防災会組織用の防災用品と、全居住者用の防災備蓄品を購入し保管しました。

「防災用品には、被災時に携帯電話やメールが使用できない状況を想定して、800m先まで声が届くメガホンを加えました。『支援のボランティアができる人は、集まってください』、『飲料水と食料を配ります』とメガホンで知らせます。居住者用には、2Lの保存飲料水3本とアルファ米2食分、羊羹1箱を用意しました。買い替えは、賞味期限前に行い、古いものは、全戸に配布して災害時の支援活動内容をPRして理解を深めてもらう計画です」(久保田さん)

自主防災会組織用の防災用品20品目。ソーラ発電機・バッテリーのほか、800m通達できるメガホンや支援メンバーが見回りの際使用するハンディメガホンも用意(写真撮影/田村写真店)

自主防災会組織用の防災用品20品目。ソーラ発電機・バッテリーのほか、800m通達できるメガホンや支援メンバーが見回りの際使用するハンディメガホンも用意(写真撮影/田村写真店)

倉庫に保管されている飲料水と携帯トイレ。A棟B棟の倉庫で2Lのペットボトルをそれぞれ600本ずつ備蓄(写真撮影/田村写真店)

倉庫に保管されている飲料水と携帯トイレ。A棟B棟の倉庫で2Lのペットボトルをそれぞれ600本ずつ備蓄(写真撮影/田村写真店)

既存の防災用品を検討する中で、新たにわかったこともありました。つつじが丘ハイムには、敷地内の洗車場3カ所に井戸水が給水されていますが、井戸が掘られた理由は誰も知りませんでした。ところが調べてみると、「阪神・淡路大震災が起きた後、1996年に水道停止時の給水用として井戸が掘られた」という記録があったのです。その際購入された井戸水給水用の非常用発電機も見つかりました。

「20年以上も前に諸先輩が用意してくれた財産がすぐそばにあったんだと皆で感謝しました。非常用発電機を整備し、井戸水が水質検査に合格していることを確認して、被災時の生活水として利用することにしました」(久保田さん)

ポータブルの非常用発電機。停電時は、非常用発電機に切り替え、井戸から水をポンプアップする(写真撮影/田村写真店)

ポータブルの非常用発電機。停電時は、非常用発電機に切り替え、井戸から水をポンプアップする(写真撮影/田村写真店)

非常用発電機で送水した井戸水を非常用浄水器に通して浄化し、生活水として支給する(写真撮影/田村写真店)

非常用発電機で送水した井戸水を非常用浄水器に通して浄化し、生活水として支給する(写真撮影/田村写真店)

防災設備の見直しで新たにAEDを2カ所に設置した(写真撮影/田村写真店)

防災設備の見直しで新たにAEDを2カ所に設置した(写真撮影/田村写真店)

自助・共助の活動が見開きでわかる居住者向けの防災マニュアルが完成

その後、2021年6月から、「つつじが丘防災マニュアル」の作成に着手し、10月に居住者が自らの命を守る行動(自助)と自主防災組織の支援活動(共助)をまとめた冊子が完成。全戸に配布されました。

防災活動の要となる居住者用の「つつじが丘ハイム防災マニュアル」と支援者用の「自主防災会組織活動マニュアル」(写真撮影/田村写真店)

防災活動の要となる居住者用の「つつじが丘ハイム防災マニュアル」と支援者用の「自主防災会組織活動マニュアル」(写真撮影/田村写真店)

大規模地震発生時の初動活動は、次のように想定しています。

・自主防災会本部を立ち上げ、理事会メンバーと災害支援ボランティアメンバーを招集。
・安全グループの支援メンバーが、ドアに貼られた安否確認マグネットを確認し、被害状況や支援依頼内容を把握する。
・情報グループは、安全確認グループから受けた被害情報、支援内容などをまとめ、本部へ報告する。
・本部の指示の下に、要支援者に支援を行い、飲料水や非常食などの配分や配布を行う。

「つつじが丘ハイム防災マニュアルには、被災状況や支援依頼内容を把握するための『支援依頼シート』『お困りごとシート』『留守宅への連絡依頼シート』が切り離して使えるようになっています。マグネットに挟んでもらい、安否確認時に回収し、居住者全員の状況を把握します。また、危険な支援活動や二次災害を防ぐために、支援可能な活動と支援が難しい活動を明記しています。例えば、消火器で対応できない規模の消火活動や倒れた家具に挟まれた住民の救出活動は、支援が難しいと明記しています。居住者からは『どんな支援があるのかわかりやすい』、支援ボランティアからは『支援活動時にどう対応すればよいか理解できた』という声が寄せられました」(久保田さん)

時系列で、居住者が自らの命を守るための行動(自助)と自主防災組織の支援活動(共助)が見開きでわかりやすく書かれている(写真撮影/田村写真店)

時系列で、居住者が自らの命を守るための行動(自助)と自主防災組織の支援活動(共助)が見開きでわかりやすく書かれている(写真撮影/田村写真店)

災害支援ボランティアメンバーについては、防災マニュアル配布時に2回目の募集をして合計28名の方が登録されました。そして、登録者を対象とした説明会を開催した際の参加者の声が今後の支援メンバーを募るうえで発想の転換になりました。

「高校生の娘さんがいる50代の男性から、『娘は、ボランティア登録や説明会の参加は苦手だけど、災害時には手伝うよと言ってくれていますよ。そういう若い人はもっといるのでは』という意見をいただいて、なるほどと思いました。現在の登録メンバーに加えて、被災時には、広く支援活動に参加できる人を募るつもりです。実際、昨年雪が降った際、若い人たちがスコップを借りて自主的に除雪をしてくれたんです。つつじが丘ハイムのコミュニティも捨てたものではないなあと思いました。被災時にメガホンで『支援活動が可能な人は、ぜひ集会室に集まってください』と呼び掛けてみます」(久保田さん)

「マンション・バリューアップ・アワード」の受賞をきっかけに、ほかのマンションの管理組合から、これらの資料や取り組みノウハウを活用したいという問い合わせが多数寄せられています。メール以外にも、滋賀県から飛び込みで話を聞きにやってきた人もいたそうです。「防災組織やマニュアルが整備されていないマンションで、つつじが丘ハイムの防災マニュアルが、ひな形として役立ててもらえたら嬉しいですね」と久保田さん。大谷さんは、頷きながら、「今後は、マニュアルを検証していきたい」と続けます。

11月にはコロナ禍で中止していた防災訓練が再開され、46人の居住者が参加。いずれは、避難訓練を行い、被災時の動きをシミュレーションしたいと考えています。

自主防災力の強化を行い、組織づくりを通じて、コミュニティが再生しつつあるつつじが丘ハイム。はじまりは、「自分たちの住むマンションをより良くしたい」という思い。理事会からのトップダウンではなく、居住者のニーズに真摯に向き合うこと、活動を継続していくことが、コミュニティを育んでいくのだと痛感しました。

●取材協力
マンション・バリューアップ・アワード

水害対策で注目の「雨庭」、雨水をつかった足湯や小川など楽しい工夫も。京都や世田谷区が実践中

2015年に閣議決定された国土形成計画をきっかけに、グリーンインフラという言葉が広く知られるようになりました。グリーンインフラとは、自然環境が持つ機能を社会におけるさまざまな課題解決に活用しようとする考え方です。雨水を利用する「雨庭(あめにわ)」は、グリーンインフラの取り組みのひとつとして注目されています。近年、雨庭を設置する自治体や雨水を利用する仕組みを建物に導入する建設会社も現れてきました。多発する豪雨などによる都市型洪水が問題視されていますが、その減災の取り組みとしても注目されている雨庭。一体どのようなものなのでしょうか?

都市化や気候変動によるゲリラ豪雨で、都市型洪水が増えている

近年、気候変動に伴う異常気象が引き起こす大型台風やヒートアイランド現象等の自然現象が深刻になり、ゲリラ豪雨も問題になっています。処理できない水があふれ、マンホールを吹き飛ばすニュースの映像が印象に残っている人も多いのではないでしょうか。都市型洪水を減災する取り組みのひとつが雨庭(あめにわ)です。地上に降った雨をそのまま下水道に流れないよう受け止め、ゆっくり浸透を図る仕組みを持たせた植栽空間を指します。

近年、局地的に短時間で降る激しい豪雨、ゲリラ豪雨が多発している(イメージ写真)(PIXTA)

近年、局地的に短時間で降る激しい豪雨、ゲリラ豪雨が多発している(イメージ写真)(PIXTA)

2022年6月3日には、東京をはじめ首都圏で、1日に2度のゲリラ豪雨が発生。夕方には電車が遅延し、帰りの足に影響が出て、ツイッター上では、「ゲリラ豪雨」がトレンド1位に(イメージ写真)(PIXTA)

2022年6月3日には、東京をはじめ首都圏で、1日に2度のゲリラ豪雨が発生。夕方には電車が遅延し、帰りの足に影響が出て、ツイッター上では、「ゲリラ豪雨」がトレンド1位に(イメージ写真)(PIXTA)

九州大学大学院 環境社会部門流域システム工学研究室の田浦扶充子さんに、雨庭の成り立ちを伺いました。

「地面がアスファルトで舗装された都市では、雨水は地面に浸透せずに、雨水管や水路を経由して河川に放流されます。一時的な豪雨で、雨水が流入するスピードが、河川へ排水されるスピードを上回ると、雨水管が満管になり、水路や排水溝から水があふれる都市型洪水が起こります。都市化が進んだことによって、雨が浸透できる緑地や田畑などが減ったため、雨水管へ流れ込む雨の量が増えていることが主な原因といわれています。早くから下水道を整備した都心部などでは、雨水と家庭からの汚水を1本の下水管で流す合流式下水道という方式をとっている地域もあります。そのような地域では、豪雨の際にすべての下水(汚水と雨水)を下水処理場で処理できなくなり、河川へ未処理状態の下水が流れ出ることもあり、それによる河川水質への影響も懸念されています」

つまり、マンホールを吹き飛ばしたのは、下水道管からあふれた下水。都市型洪水を防ぐためには、雨天時に雨水管に入る雨の量を減らす必要があります。敷地内に水が浸透できる場所を増やし、降った雨水を敷地内で処理する必要があるのです。

アイデアがいっぱい! 個人宅につくった「あめにわ憩いセンター」

島谷幸宏教授(現熊本県立大学所属)が中心となり、2016年に福岡の河川工学等の研究者らや建築士などによるあまみず社会研究会を立ち上げ、流域抑制技術の研究を行ってきました。島谷教授が提唱したのは、「あまみず社会」という雨水を色々な場所で浸透させたり、利用することで、有機的に成り立つ社会。一般の人に雨水浸透や利用について興味を持ってほしいとの思いから、造園や建築の専門家と協力し、住宅の敷地内の雨水を処理するための技術開発を行ってきました。そのひとつが雨庭です。雨庭で雨水を敷地内に貯留し、ゆっくりと地面に浸透したり蒸発させたりすることで水害を予防しながら、水が循環する社会に。ヒートアイランド現象の緩和にもつながります。

透水性のないアスファルト舗装に対し、庭や畑、森など土が表出している場所は雨水が浸透する量が多い(画像提供/あまみず社会研究会)

透水性のないアスファルト舗装に対し、庭や畑、森など土が表出している場所は雨水が浸透する量が多い(画像提供/あまみず社会研究会)

もともと日本では、ずっと昔から、雨庭のような機能を意識した庭園が造られており、敷地の中で上手に雨水を貯め、植物や生物の生育環境、生活用水としても活かしてきました。アメリカでグリーンインフラ整備が進むにつれ、2010年ころには、レインガーデンが、ニューヨーク市内の歩道につくられはじめました。日本庭園の枯山水やレインガーデンを参考に、島谷教授と志を共にする京都大学の森本幸裕名誉教授により、このような仕組みを近代都市の中に取り入れようと誕生したのが、日本の雨庭です。

築50年の民家の敷地内に設けたあめにわ憩いセンターの雨庭は、一見、普通の庭と変わりません。しかし、かなりの豪雨「対象降雨(※)」の場合に敷地全体に発生する雨水の量に対して敷地外への流出を80%も抑制できるというから驚きです。
※2009年7月九州北部豪雨時に観測された、総降雨量198mm・約6時間(最大時間雨量105mm/h)の雨量。

あめにわ憩いセンターには、雨水を利用するさまざまな仕組みがある(画像提供/あまみず社会研究会)

あめにわ憩いセンターには、雨水を利用するさまざまな仕組みがある(画像提供/あまみず社会研究会)

屋根から取水した雨水を6つのかめに貯め、利用する(画像提供/あまみず社会研究会)

屋根から取水した雨水を6つのかめに貯め、利用する(画像提供/あまみず社会研究会)

「雨庭づくりでは、雨が地面に浸み込む力が弱ければ、必要であれば、砂や腐葉土を土に混ぜて浸透速度を調整します。あめにわ憩いセンターは、もともと庭に植物が多く、雨が浸みこみやすい土でした。そこで、従来、屋根から縦樋を通って雨水桝(ます)、それから公共雨水菅へつながっていた連結を途中で切り、敷地内で雨水を貯水、利用し、また土に浸透させて、できるだけ敷地外へ雨水を流出させないようにしました」(田浦さん)

集めた雨水を竹筒から流して庭に小川のような水場をつくる(画像提供/あまみず社会研究会)

集めた雨水を竹筒から流して庭に小川のような水場をつくる(画像提供/あまみず社会研究会)

鎖樋(くさりとい)という鎖状になった樋に雨水を伝わせて、樽に溜まる仕掛け(画像提供/あまみず社会研究会)

鎖樋(くさりとい)という鎖状になった樋に雨水を伝わせて、樽に溜まる仕掛け(画像提供/あまみず社会研究会)

屋根から水がめに貯留した雨水を沸かして足湯ができるユニークな工夫も。2020年まで一般開放され、地域の人に親しまれていました。

雨水タンクに貯めた雨水を太陽光発電で温め足湯を楽しむ(画像提供/あまみず社会研究会)

雨水タンクに貯めた雨水を太陽光発電で温め足湯を楽しむ(画像提供/あまみず社会研究会)

全国に広がる雨庭。民間企業や自治体で取り組みが進む

グリーンインフラへの関心が高まるなか、鹿島建設では、一部の建物に雨水利用システムで蓄えた雨水をトイレの洗浄水に用いるほか、災害時の非常用水として利用するシステムを開発。地面には、雨が浸み込む透水性舗装を取り入れ、都市型洪水の防止に取り組んでいます。竹中工務店は、一部のマンションに、屋上雨水を地下ピットに一次貯留し、ろ過処理した後に植栽散水やトイレの洗浄水として利用するシステムを採用。緑化した屋上に畜雨できる三井住友海上駿河台ビル(東京都千代田区)は、雨水活用の先駆けとして話題になりました。

全国の自治体でも、グリーンインフラ整備が進められ、雨庭をまちづくりに取り入れる動きが出ています。
世田谷区役所土木部豪雨対策・下水道整備課に取り組みを伺いました。

「世田谷区(東京都)では、かねてより豪雨対策の一環として、河川や下水道などに雨水が流れ込む負担を軽くする流域対策を推進しています。グリーンインフラについては、社会的な関心が高まる前から、流域対策の強化の新たな視点として、持続的で魅力あるまちづくりのために取り入れてきました」(世田谷区役所土木部豪雨対策・下水道整備課)

世田谷区立保健医療福祉総合プラザ(うめとぴあ)のレインガーデン。左は、雨水を一時的にため込む保水性竪樋(じゃかご樋)。伝わった水が花壇へ導かれる(画像提供/世田谷区役所)

世田谷区立保健医療福祉総合プラザ(うめとぴあ)のレインガーデン。左は、雨水を一時的にため込む保水性竪樋(じゃかご樋)。伝わった水が花壇へ導かれる(画像提供/世田谷区役所)

グリーンインフラの考え方を取り入れた施設である「世田谷区立保健医療福祉総合プラザ(うめとぴあ)」のほか、公園や道路などさまざまな公共施設で、グリーンインフラの考え方を取り入れた流域治水の取り組みがなされているとのことです。また公共施設だけでなく、区内の土地利用の約7割を占める民有地での取り組みを推進するため、民間施設を建築する際に、貯留、浸透施設の設置をお願いしているそうです。

また、京都府京都市でも雨庭の整備が進められています。京都市情報館建設局みどり政策推進室に伺いました。

「グリーンインフラの考え方を取り入れながら、市民の方々が身近に接することのできる歩道の植樹帯において、京都の伝統文化のひとつである庭園文化とともに触れていただけるものとして、雨庭の整備を進めています」(京都市情報館建設局みどり政策推進室)

2017年度に京都市として初めての雨庭を四条堀川交差点南東角に整備し、2021年度末までに合計8カ所の雨庭が完成しました。2022年度は、2カ所の雨庭を整備する予定です。

東山二条交差点南東角の雨庭は、背景にある妙傳寺と一体感のある空間に設えている(画像提供/京都市情報館)

東山二条交差点南東角の雨庭は、背景にある妙傳寺と一体感のある空間に設えている(画像提供/京都市情報館)

四条堀川交差点北西角(南側)に2019年に整備された雨庭。京都の造園技術を活かし、貴船石をはじめとする地元を代表する銘石を織り交ぜた庭園風(画像提供/京都市情報館)

四条堀川交差点北西角(南側)に2019年に整備された雨庭。京都の造園技術を活かし、貴船石をはじめとする地元を代表する銘石を織り交ぜた庭園風(画像提供/京都市情報館)

道路の縁石の一部を穴あきのブロックに据え替えて、車道上に降った雨水も雨庭の中に集水し、州浜(すはま)で一時的に貯留し、ゆっくり地中に浸透させる(画像提供/京都市情報館)

道路の縁石の一部を穴あきのブロックに据え替えて、車道上に降った雨水も雨庭の中に集水し、州浜(すはま)で一時的に貯留し、ゆっくり地中に浸透させる(画像提供/京都市情報館)

講習会で雨庭を体験。「自分でつくってみたい!」という声も

あまみず社会研究会や東京都世田谷区、京都市のそれぞれが、一般の市民へ雨庭普及のための講習会やワークショップなどを行っています。

あまみず社会研究会の代表でもある島谷教授が熊本県立大学に就任し、プロジェクトリーダーを務める流域治水を核とした復興を起点とする持続社会 地域共創拠点を創設しました。雨庭の認知拡大に取り組んでいる研究員の所谷茜さんは、「体感してもらうことが大切」と言います。

「高校でワークショップをしたとき、『思ったより、水が土に浸透するスピードは速いんだ!』と驚きの声が生徒からあがりました。実感していただき、雨庭への理解を深めてもらいたいですね」(所谷さん)

民家に雨庭をつくっている様子。建物から1.5m離して窪地をつくり、この事例では腐葉土等を入れ微生物の動きを活発にすることで浸透性を高めた。1時間100ミリの雨を想定し、17平米の屋根に対し、2平米の雨庭をつくり、雨水が敷地外に流出する量を約40%カット。費用は2万円ほど(画像提供/緑の治水流域研究室)

民家に雨庭をつくっている様子。建物から1.5m離して窪地をつくり、この事例では腐葉土等を入れ微生物の動きを活発にすることで浸透性を高めた。1時間100ミリの雨を想定し、17平米の屋根に対し、2平米の雨庭をつくり、雨水が敷地外に流出する量を約40%カット。費用は2万円ほど(画像提供/緑の治水流域研究室)

世田谷では、“環境共生・地域共生のまちの実現”を目指し、市民主体による良好な環境の形成及び参加・連携・協働のまちづくりを推進する(一財)世田谷トラストまちづくりによって、個人宅でもできる雨庭づくりの普及を進めています。2020年に、NPO法人雨水まちづくりサポートの協力を得ながら、区内の産官民学連携で、区立次大夫堀公園内里山農園前に雨庭を手づくり施工。この取り組みをきっかけに、住宅都市世田谷で市民の小さな実践をつなげて人口92万人が取り組むグリーンインフラとして「自分でもできる雨庭づくり」の3つの視点(1. 個人宅でも実践しやすい 2. 目に見える楽しさや魅力がある 3. 生物多様性の向上につながる)を整理しました。

個人宅での雨庭における雨の流れイメージ図。竪樋(たてどい)から塩化ビニル管に流れて来た雨水を、建物基礎から離して雨庭に放流。オーバーフローした水は、導水路から雨水は雨水排水桝へ(画像提供/NPO法人雨水まちづくりサポート理事長神谷博さん)

個人宅での雨庭における雨の流れイメージ図。竪樋(たてどい)から塩化ビニル管に流れて来た雨水を、建物基礎から離して雨庭に放流。オーバーフローした水は、導水路から雨水は雨水排水桝へ(画像提供/NPO法人雨水まちづくりサポート理事長神谷博さん)

区立次大夫堀公園内里山農園前に雨庭を手づくり中。雨が降った日を観察し、その雨水の流れに沿って、園路沿いに土を掘り、窪地をつくる(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

区立次大夫堀公園内里山農園前に雨庭を手づくり中。雨が降った日を観察し、その雨水の流れに沿って、園路沿いに土を掘り、窪地をつくる(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

窪地に砂利等を敷き詰め、植栽を配し雨庭が完成した(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

窪地に砂利等を敷き詰め、植栽を配し雨庭が完成した(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

世田谷トラストまちづくりでは、2021年度より「世田谷グリーンインフラ学校~自分でもできる雨庭づくり」の企画運営を区より委託を受け実施。グリーンインフラや雨庭等を体系的に学び、演習フィールドにおいて手づくりで施工する市民向けの講座です。定員15名のところ、区内外から60名もの応募がありました。「水の循環を知りたい」「暮らし、地域に取り入れたい」「ガーデニングに取り入れたい」との声が寄せられたそうです。グリーンインフラの取り組みをはじめて3年目になり、「雨庭をつくりたい。どうしたらいいか」と区民からの問合せも増えています。

グリーンインフラ学校の風景。グリーンインフラや雨水、植物などを体系的に学びながら、グループにわかれてディスカッション。最終的に雨庭を手づくり施工する(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

グリーンインフラ学校の風景。グリーンインフラや雨水、植物などを体系的に学びながら、グループにわかれてディスカッション。最終的に雨庭を手づくり施工する(画像提供/世田谷トラストまちづくり)

京都市でも、市民から緑を増やしたい場所として多くの声が寄せられている道路に雨庭の整備を進め、管理に参加してもらうボランティアを募集するなど雨庭の普及に努めています。

都市での暮らしでは、ふだん、水の流れは見えず、洪水が起こってから「水は怖い」と感じてしまいます。「昔は、雨が土に浸みこんで地下水となり、または蒸発して再び雨になるという実感がありました。雨水を楽しく使いながら水の循環を知ってもらいたいです」と田浦さん。身近に広がる雨庭は、グリーンインフラを整えるだけでなく、緑や水場のある景観を生み出し、心の豊かさにもつながりそうです。

●取材協力
・あまみず社会研究会
・世田谷区役所
・一般財団法人世田谷トラストまちづくり
・京都市情報館

日本最大規模の大津波の脅威…あきらめムードから逆転!最先端の「防災のまち」へ進む高知県黒潮町

2011年の東日本大震災を契機に、全国各地の自治体ではさまざまな防災対策を講じてきた。なかでも高知県黒潮町では、その取り組みで全国にも先進的な「防災のまち」として知られる。「防災」をキーワードに、地域のコミュニティづくりから地域産業の振興へと繋げ、新しい形のまちづくりを推進している同町を訪ねた。
大津波の憂慮を糧に「犠牲者ゼロ」を目指して

高知県の南西部に位置し、太平洋の美しい海岸線には全国屈指のカツオの一本釣りの漁港を有する黒潮町。人口は10,782人(2021年4月現在)、そのうち約40%が65歳以上という、高齢化が進むまちのひとつだ。

東日本大震災後の2012年、そんなまちに衝撃なニュースが飛び込んできた。内閣府の発表で、震度7の地震が起きた場合、最大で34.4mの大津波が押し寄せるというのだ。その規模は日本最大と言われ、太平洋沿岸に主な居住地域が広がる同町は、壊滅的な被害を受けることになる。

また、町外への転出増加も懸念された。これまで出生数を死亡数が上回る自然減が、住民が他地域へ転出することで人口が減る社会減を上回る状態だった同町は、2013年には社会減が自然減を上回り、過疎化が進んでいる町に追い打ちをかけ、住民たちに大きなショックを与えた。それにより町のあちらこちらで「逃げても無理、逃げない」という声が聞こえ、あきらめムードすら漂い始めた。

状況を重く見た同町は、さっそく対策に乗り出すことになる。それは日本最大の津波が襲うまちで「犠牲者ゼロを目指す」という取り組み。その旗振り役を担うのが、2012年に新設された黒潮町役場情報防災課だ。「2021年現在、ハード面の整備はほぼ完了し、防災を通じたコミュニティの活性化など、ソフト面の充実に取り組んでいます」と語るのは、同課南海地震対策係長の宮上昌人さん。

海抜21mの高台に5年前完成した庁舎の前に立つ宮上さん(写真/藤川満)

海抜26mの高台に3年前完成した庁舎の前に立つ宮上さん(写真/藤川満)

3つのステップで防災活動を「文化」に育てる

古くは684年の白鳳南海地震にさかのぼり、およそ100年に一回のペースで地震に襲われてきた黒潮町。防災に対する意識は低くなかったものの、東日本大震災以前まで同役場には、総務課に消防防災係が存在するのみだった。

「ステップ1として、『避難空間の検証と計画』と『組織体制の整備』を行いました。その一環が、私の所属する情報防災課の立ち上げです」と宮上さん。情報防災課は来たる南海トラフ地震への対策の本丸・南海地震対策係、情報発信をする情報推進係、それ以外の防災を担う消防防災係の3つの係で組織される。

しかし10人にも満たない情報防災課だけでは、十分な対応ができないこともある。そこで役場職員約180人が通常業務に加え、町内の61地区へ赴き、地域の問題の洗い出しや住民とのパイプ役を担う「職員地域担当制」も導入。「黒潮町の防災対策が大きく進捗したのは、この職員地域担当制の導入が大きな役割を果たしました」

この制度を通じて、各地域で住民とワークショップを実施。これが同じステップ1の「避難空間の検証と計画」だ。ワークショップでは「近くに高台がない」「高台は近いが斜面が険しい」など避難場所や避難道の見直しや点検を行い、避難城の地形・物理的課題を図面に整理していった。

住民を交えたワークショップでは、地域の地図を囲み、周辺の避難上の問題点を書き込んでいった(写真提供/黒潮町)

住民を交えたワークショップでは、地域の地図を囲み、周辺の避難上の問題点を書き込んでいった(写真提供/黒潮町)

ハード面の整備と具体的な対策で意識の変化を促す

ワークショップを通じて表面化した避難上の問題点を、より具体的な対策として構築していくのがステップ2。ハード面では「避難空間の整備」、ソフト面では「課題の対策をカルテや処方箋で具体化」をすることだ。

避難空間の整備では、ワークショップで提案され、後に計画された避難道が実際に整備され、2019年度には全ての路線が完成。さらに津波到達予測時間内に高台まで避難できない地区(避難困難区域)の解消を目的に、町内6カ所に津波避難タワーを建設した。

新たに整備された避難道は213路線にも及ぶ(写真提供/黒潮町)

新たに整備された避難道は213路線にも及ぶ(写真提供/黒潮町)

黒潮町で最も高い佐賀地区津波避難タワーは海抜25.4m、収容人数230人を誇る(写真/藤川満)

黒潮町で最も高い佐賀地区津波避難タワーは海抜25.4m、収容人数230人を誇る(写真/藤川満)

ほかにも約120カ所の備蓄倉庫や約900カ所の津波避難誘導標識の設置など、住民では補いきれないハード面での整備を黒潮町が主体となって実施してきた。一方で住民が主体となった取り組みがカルテづくりだ。

ステップ1で表面化した避難上の課題に対するカルテや処方箋とは、家族や個人にあわせた具体的な避難計画づくり。そのために津波浸水が予想される全世帯の避難行動調査が行われた。「世帯別津波避難行動記入シート」を制作し、家族構成や連絡先はもちろん自力で避難できるかどうか、徒歩や自動車などの避難方法などを、まさにカルテのように細部にわたって目に見える形にしていった。

集まったカルテは、津波浸水の可能性がある40集落の全世帯3791世帯分。これらをもとに、地域の人たちによる地区防災計画をつくることで、『我がこととして感じられる手づくりの防災計画』として意識してもらうのが狙いだ。

処方箋である地区防災計画には、屋内での避難訓練、地区一斉での家具固定、世帯ごとの避難場所への備蓄、学校と連携した防災お年寄り訪問なども検討され、地域の特性に合わせた計画が盛り込まれていった。

地元の学校と連携したお年寄り訪問なども行い、コミュニティの世代間の交流を生んでいる(写真提供/黒潮町)

地元の学校と連携したお年寄り訪問なども行い、コミュニティの世代間の交流を生んでいる(写真提供/黒潮町)

住民の主体性を喚起し、防災活動を日常に

「現在はステップ3の段階です。ステップ2を契機に、徐々に行政主体から住民主体の取り組みへとシフトチェンジをしているところです」と宮上さんは現状を語る。これまで行政の呼びかけによって実施されてきた取り組みを、住民が自主的に行っていくことがステップ3の最終目標だ。

今後も引き続き防災教育や訓練を徹底し、さらに住民主体の防災活動の活発化を促すことで、地域にタテとヨコの連携が生まれる。「現在すでにこれまでの防災活動を通じて、コミュニティが目に見えて活性化してきているようです。あきらめムードだった雰囲気が変化してきています」と宮上さんも手応えを感じている。

現在黒潮町では、認知症や障がいのある人、つまり要配慮者の避難支援に向けての対策にも乗り出している。宮上さんは「住民にお願いするだけでなく、福祉・防災・まちづくりという部署の枠を越えた、支援のあり方を検討しています」と次の課題に向かって日々汗を流す。

防災を通じたまちづくりに取り組む黒潮町。それは新たな産業を生み出すことにも繋がっている。次に足を運んだのは、同町の防災対策の取り組みのなかで生まれた黒潮町缶詰製作所だ。

人口減少を食い止める一助としての新産業

過疎が深刻化していく黒潮町では、2012年、前町長肝いりで「WE CAN PROJECT」が立ち上がった。その立ち上げメンバーのひとりが、当時同町職員で、現在黒潮町缶詰製作所で営業・広報を担当する友永公生さんだ。友永さんは東日本大震災発生の1週間後に現地へ足を運んだ経験を持つ。「これまでの日本の防災対策がいかに甘かったかを痛感した」と、その風景を目の当たりにした時を振り返る。

同プロジェクトは、「34.4mの大津波来襲予想」のニュースを機に、あきらめムードが蔓延していた町内で、その考えを改め「自分たちがやるんだ」という思いを込めて、さらに事業の実現性を高めるため、町長と担当職員に加え、食や地域おこしの専門家を交えてプロジェクトチームを組織化。「もしもの防災時に役立つもの」をつくることで産業と雇用を生み出し、人口減少を少しでも食い止めることが命題だ。

黒潮町缶詰製作所の青い看板には、「34m」と書かれた旗がシンボルマークになっている(写真撮影/藤川満)

黒潮町缶詰製作所の青い看板には、「34m」と書かれた旗がシンボルマークになっている(写真撮影/藤川満)

商品として白羽の矢が立ったのが缶詰。防災食品で安定して保存・保管できることが決め手となった。2013年には前町長が社長となり第三セクター方式で同製作所を設立。フードプロデューサーや小売りのプロなどのアドバイスをもとに商品の開発を目指した。「アドバイザーの方以外は、全員が素人。なにもかもが手探りでした」と設立当時の様子を語る友永さん。

試行錯誤を繰り返していた商品開発は、被災地での食物アレルギー対応の難しさを東日本大震災の現地で耳にしたことで、「7大アレルゲン(食品表示法で表示が義務付けられている「特定原材料7品目」。乳・卵・小麦・そば・落花生・えび・かに)不使用」へと舵を切ることになる。しかも美味しさも求めるというハードルの高さ。

大学の機関とも連携し生み出された缶詰は、前町長のトップセールスで高知県内全自治体へ売り込みをかけた。備蓄食でありながら、日常でも楽しめるそれらは400円以上するものが中心。「『高い』という批判はありましたよ」と苦笑する友永さん。とはいえ、味の良さ、洒落たラベルデザインで話題となり、メディア露出も増え、売上げは右肩上がりに。

右から「土佐はちきん地鶏ゆず塩仕立て」(650円、以下すべて税込)、「トマトで煮込んだカツオとキノコ」(475円)「カツオの和だし生姜煮こごり風」(475円)(写真/藤川満)

右から「土佐はちきん地鶏ゆず塩仕立て」(650円、以下すべて税込)、「トマトで煮込んだカツオとキノコ」(475円)「カツオの和だし生姜煮こごり風」(475円)(写真/藤川満)

例えば人気商品の一つ「土佐はちきん地鶏ゆず塩仕立て」は、缶詰めでありながら、しっかりとした地鶏の歯応えがあり、噛むほどに旨みが広がる。さらにユズの爽やかさがほんのり後を引く。そんな手の込んだ味わいが成城石井、無印良品などの有名量販店の目にもとまり、現在は全国100店舗以上で販売されるほどになった。

商品の缶詰を前にする友永さん。現在は黒糖など地元特産品を使ったスイーツの缶詰にも取り組む(写真/藤川満)

商品の缶詰を前にする友永さん。現在は黒糖など地元特産品を使ったスイーツの缶詰にも取り組む(写真/藤川満)

当初4人だった従業員は現在17人まで増え、直近の生産量は年間25万個を達成。「ある程度の雇用は生み出せた。次はメーカーとしてさらにお客様をワクワクさせるような取り組みをして行きたい」と抱負を語る友永さん。安心安全はもちろん、美味しさまで兼ね備えた新しい備蓄食の答えの一つがここにあるようだ。

引き続き少子高齢化による緩やかな人口減は進んでいるものの、2018年には転入者が転出者を上回る社会増を達成した黒潮町。防災対策だけでなく、「防災」を媒体として地域の活性化を成し遂げつつある。逆境を見事に逆手に取った成功例として、今後も取り組みに注目していきたい。

●取材協力
黒潮町
黒潮町缶詰製作所

新築マンション購入で水害が心配! 入居前の防災対策が画期的【わがまち防災3】

2011年の東日本大震災、いわゆる「3・11」からちょうど10年。各地域で防災の取り組みが生まれ、取り組まれるようになった。いま「地域の防災」はどうなっているのだろうか。

第3回にご紹介するのは新築マンションの「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」。防災対策に取り組む管理組合が発足するのは入居開始から約半年後だが、同マンションではディベロッパーが音頭を取って“まちとの共生”を含めた防災対策を進めている。果たして、その内容とは?
防災対策を担当する管理組合の発足を待たずに始動

「イニシア日暮里アベニュー」は2021年1月、「イニシア日暮里テラス」は2021年2月、それぞれ竣工した新築マンション。JR山手線・日暮里駅の東側の近接するエリアに建つ。

イニシア日暮里テラス 完成予想図(画像提供/コスモスイニシア)

イニシア日暮里テラス 完成予想図(画像提供/コスモスイニシア)

4駅8路線が利用可能で、日暮里の繊維街や下町情緒あふれる「夕焼けだんだん」も近い。計99戸は順調に販売が進み、「イニシア日暮里アベニュー」は2月から入居を開始しており、「イニシア日暮里テラス」は3月下旬から入居が始まる。

これまでも、ディベロッパーがマンション内に共用の備蓄倉庫を設けたり、各戸に防災グッズを配布したりといった事例はある。しかし、管理組合の発足を待たずに防災対策を進めるケースや地区防災計画の作成をディベロッパー主導で行うのは珍しい。

ディベロッパーは東京都港区に本社を置くコスモスイニシア。同物件を担当する田脇みさきさんに、今回の取り組みの背景を聞いた。

田脇みさきさん(写真提供/コスモスイニシア)

田脇みさきさん(写真提供/コスモスイニシア)

「モデルルームのご来場者様と接していると、頻発する未曾有の災害に対して不安視する声が多いんです。とくに、台風や豪雨による水害はハザードマップも公表されていて、2018年の西日本豪雨もハザードマップ通りに浸水したというニュースも目にしました」

荒川区のハザードマップ。「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」は浸水深0.5m~3.0m未満(1階の床から1階の天井までつかる程度)想定地域(荒川区HPより)

荒川区のハザードマップ。「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」は浸水深0.5m~3.0m未満(1階の床から1階の天井までつかる程度)想定地域(荒川区HPより)

とはいえ、マンションの購入を考えている人々は、こうした不安を漠然と抱えているしかない。その対策を明確に提示するのが、「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」の取り組みの目的だという。

田脇さん自身も社内の防災セミナーに参加して防災に対する意識が変わった。「備えることの重要性は分かっているが、災害なんてそうそう身近に起こるものじゃない」。そう思っていたが、セミナーを通じて災害時の具体的な状況を学んだことによって、当事者意識が芽生えたそうだ。非常用ライトや簡易トイレも鞄に入れて持ち歩くようになった。

契約者向けの「防災セミナー」をオンラインで開催

では、「イニシア日暮里テラス」「イニシア日暮里アベニュー」の防災対策とはどのようなものか。まず、エントランスの共用部分には防災倉庫があり、そこには「簡易トイレ」「救急箱」「トランシーバー」「発電機」「カセットガス」「レインポンチョ」「備蓄ラジオ」などの防災備品が入っている。

百年防災社にも防災倉庫の中身をチェックしてもらい、準備を進めた(写真提供/コスモスイニシア)

百年防災社にも防災倉庫の中身をチェックしてもらい、準備を進めた(写真提供/コスモスイニシア)

さらに、揺れを感じるとセットした収納扉に自動でロックがかかり、収納スペースの中身が落ちてこないようにする「耐震ラッチ」や、地震の際にドアが変形して開かなくなることを避けるため、ドアに接触しないように枠が変形する「耐震枠」も各戸に導入している。

耐震ラッチ(写真提供/コスモスイニシア)

耐震ラッチ(写真提供/コスモスイニシア)

耐震枠の玄関ドア(画像提供/コスモスイニシア)

耐震枠の玄関ドア(画像提供/コスモスイニシア)

しかし、これは他社を含む従来のマンションでもやってきたこと。ここ独自の取り組みとはどのようなものだろうか。

「まず、昨年11月にご契約者様向けの『防災セミナー』をオンラインで開催しました。内容については地域の防災計画を作成する百年防災社様に監修を依頼しています」

19世帯、31人が参加したというセミナーの内容は「マンション防災〇×クイズ」「荒川区の被災想定」「マンション防災のポイント」「グループディスカッション」など。

被災想定に関しては、荒川区の地域防災計画による推測データを引用した。それによれば、冬の18時に震度6強の首都直下型地震が起きた場合の荒川区の被害は以下のようになる。

倒壊家屋7217棟、地震火災5521棟、停電率48.7%、断水率58.3%、通信不通15.1%、ガス支障率52.5%。さらに、荒川氾濫時は0.5~3mの浸水を想定している。

「マンションの場合は在宅避難が基本です。こうしたデータを踏まえて、7日分の食料・水、生活必需品の備蓄、電力などの確保の重要性をお伝えしました。グループディスカッションでは、4~5人のグループに別れていただき、セミナーの感想や在宅避難で取り組みたいことなどを共有しています」

さらに、マンション防災にあたっては「住民同士や地域とのつながり」が重要だということも入居予定の住民に訴えた。今後は、町内会とマンション住民が共同で地区防災計画も作成する予定だ。町内会の賛同はすでに得ており、あとは進めるだけ。作成会議は4月から始まるが、セミナー参加者の76.9%が「地区防災計画の作成に参加したい」と回答した。

まちとつながっておくことで助かる命がある

新たに街に入ってくる分譲マンションの住民、のちにマンション管理組合となる側が、元から住む町内会を巻き込んで防災対策を考える試みもなかなか珍しい。マンション住民は在宅避難が基本なのに、なぜ町内会とのつながりが重要なのだろう。

「例えば、行政から地域への支援物資はすべて避難所に届けられます。でも、マンションにお住まいの方はその情報を得る術がありません。それに、避難所を運営しているのが町会の役員の方が多く、特に切羽詰まった状況下では限られた物資をどうしても顔見知りに優先して渡したい心情が働くものです。日ごろから接点をつくっておかないと、足を運んだところで、『あなた、誰?』となってしまいます。大げさに言えば、町とつながっておくことで助かる命があるということです」

「イニシア日暮里テラス」の共用ラウンジイメージ写真(写真提供/コスモスイニシア)

「イニシア日暮里テラス」の共用ラウンジイメージ写真(写真提供/コスモスイニシア)

管理組合が発足後には「マンション防災マニュアル」の作成に取り掛かる予定だ。在宅避難となるマンションは住民同士の共助がより必要となる。その際の役割分担や初期行動について協議するという。

「この取り組みが成功したら、今後の新築マンションでも取り入れたい」と田脇さん。

まちとマンションがつながることで、防災対策の強度は大きく増すだろう。マンションの住民は災害時の安心材料を得られる。高齢化が進む町内会に若い住民が加わることは地域の活性化につながる。まちとマンションのあり方を考える良い事例となりそうだ。

●取材協力
イニシア日暮里プロジェクト(株式会社コスモスイニシア)
百年防災社

第2土曜に船橋でいっせいに掲げられる「無事ですタオル」。コトの経緯を聞きに行った

先日、飲みの席で興味深い話を聞いた。

「友だちが千葉県の船橋市に引越したんだけど、毎月第2土曜日に『無事です』と書かれたタオルを家の外に掲げるというルールがあるんだって」

町中に住人の無事を告げるタオルがはためく光景。見てみたい。さっそく、現地に行ってこの目で確かめてきた。
「掲げる地区」に入ったが一向に現れない

調べてみると、同じ船橋市でもこれを実践しているのは咲が丘地区だけらしい。


1丁目から4丁目まである

新宿駅から電車を乗り継いで、約1時間。最寄りの新京成線二和向台駅に到着した。

船橋市の北西部に位置し、次の駅は鎌ケ谷市になる(写真撮影/石原たきび)

船橋市の北西部に位置し、次の駅は鎌ケ谷市になる(写真撮影/石原たきび)

さっそく歩き出す。

皆さん無事かな(写真撮影/石原たきび)

皆さん無事かな(写真撮影/石原たきび)

すぐに咲が丘地区に入ったが、「無事ですタオル」は一向に現れない。あれ?

無事じゃないの?(写真撮影/石原たきび)

無事じゃないの?(写真撮影/石原たきび)

タオルを掲げるスタイルは多種多様

歩くこと数分。あった。「無事ですタオル」。無事だった。

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

無事です(写真撮影/石原たきび)

ハンガーにかけて玄関に掲げるスタイルが主流のようだが、それ以外のバリエーションもあった。

前面に押し出すパターン(写真撮影/石原たきび)

前面に押し出すパターン(写真撮影/石原たきび)

高さで勝負するパターン(写真撮影/石原たきび)

高さで勝負するパターン(写真撮影/石原たきび)

発案者は防災部会会長の内田さん

「無事ですタオル」がある風景を堪能したのちにお会いしたのは、咲が丘中央自治会防災部会会長で、この試みの発案者・内田祐至さん(82歳)。

なんと、同地区中央自治会町会長の門倉忠克さん(66歳)と防災部会副部会長の小林雅人さん(59歳)も呼んでくれていた。

左から小林さん、内田さん、門倉さん(写真撮影/石原たきび)

左から小林さん、内田さん、門倉さん(写真撮影/石原たきび)

内田さんが言う。

「防災を意識した一番最初のきっかけは1995年に起きた阪神・淡路大震災。私、川崎重工で働いていて、あっちには工場がいくつもある。東京から何度も救援に行きましたよ」

その後、咲が丘中央自治会の中に防災部会を立ち上げ、2017年から防災用品会社の案内書で知った「無事ですタオル」を導入する。

自治会費で製作し、185世帯すべてに配布した(写真撮影/石原たきび)

自治会費で製作し、185世帯すべてに配布した(写真撮影/石原たきび)

「茨城県常総市では市全体で採用しており、NHKで大々的に放映されました。この取り組みを始めるか否かは、ひとえに防災部会長の熱意によって決まります」

この活動は咲が丘地区の中央自治会のみ

そういえば、内田さん。咲が丘エリアに入っても「無事ですタオル」になかなかお目にかかれなかったんですが。

「咲が丘にはいくつかの自治会があるけど、これをやってるのは中央自治会だけだから(笑)」

なるほど、そういうことか。

消火訓練で各自治体が集合した際の写真(写真提供/咲が丘中央自治会)

消火訓練で各自治会が集合した際の写真(写真提供/咲が丘中央自治会)

なお、この試みは有事の際に備える“訓練”だ。実際に震度5弱以上の地震が起きた際、「無事ですタオル」を掲げることによって外部から安否確認がしやすくなり、救出作業もスムーズに行える。

内田さんが作成したマニュアル(写真撮影/石原たきび)

内田さんが作成したマニュアル(写真撮影/石原たきび)

「もともと、狭い町内だから顔を知らない人はいないけど、この活動を始めたことで助け合いの精神がさらに強くなったと思う」

内田さんは防災リーダーの全国大会に千葉県代表で出場したことも(写真撮影/石原たきび)

内田さんは防災リーダーの全国大会に千葉県代表で出場したことも(写真撮影/石原たきび)

「命の笛」は800m先まで聞こえるらしい

昨年の台風で風害に見舞われると、すぐに防災マニュアルをつくって配布した。

風で吹き飛ばされた物置(写真提供/咲が丘中央自治会)

風で吹き飛ばされた物置(写真提供/咲が丘中央自治会)

「今年は建物の下敷きになったり、閉じ込められたときに自分の存在を知らせる『命の笛』も配布しました。アメリカの沿岸警備隊が使っているモデルで800m先まで聞こえるんだよ」

船橋北エリアの地域新聞に掲載された(写真提供/咲が丘中央自治会)

船橋北エリアの地域新聞に掲載された(写真提供/咲が丘中央自治会)

地区内には小学校がひとつあるが、その学校だよりに載っている情報も共有する。

船橋市立八木が谷小学校の学校だより(写真提供/咲が丘中央自治会)

船橋市立八木が谷小学校の学校だより(写真提供/咲が丘中央自治会)

今年はコロナの影響で開催されなかったが、地域には昔から続くお祭りもある。例えば、自治会主催の夏祭り盆踊り大会では船橋市の現市長・松戸徹さんも太鼓を叩いた。

子どもたちに混じって太鼓を叩く市長(写真提供/咲が丘中央自治会)

子どもたちに混じって太鼓を叩く市長(写真提供/咲が丘中央自治会)

カレンダーに印を付けているから出し忘れはない

その後、内田さんらはふだん第4土曜日に行っている防犯パトロールに出発。以前は年に数回、ひったくり事件などが起きたが、今はまったくないそうだ。

我ら「無事です3銃士」(写真撮影/石原たきび)

我ら「無事です3銃士」(写真撮影/石原たきび)

小林さんが言った。

「親の代からこの辺に住んでいるから、やっぱり愛着はありますよ。内田さんは80歳を超えても一生懸命やっているでしょ。その姿を見て、私ぐらいの世代がこういう活動をちゃんと引き継がないと、と思っています」

3人は1軒の家の前で立ち止まった。あ、「前面に押し出すパターン」の家だ。インターホン越しに呼びかけると、ご主人が出てきた。

「おお、皆さんおそろいで(笑)。『無事ですタオル』? カレンダーに印を付けているから出すのを忘れることはないですよ。僕は朝6時に出すんだけど、それを見た他の家がぽつぽつ出し始める感じですね」

中央自治会では避難誘導班長を担当する長島さん(写真撮影/石原たきび)

中央自治会では避難誘導班長を担当する長島さん(写真撮影/石原たきび)

空き巣狙いから住民を守るため、タオルは16時に取り込む。帰宅がそれより遅くなる家は掲示しないことになっているそうだ。

門倉さんが「ここ、ウチです」(笑)

再び歩き始めると、またもや「前面に押し出すパターン」の家を発見。すると、門倉さんが「ここ、ウチです(笑)」

さすが、意識が高い(写真撮影/石原たきび)

さすが、意識が高い(写真撮影/石原たきび)

そんな門倉さんが、とある建物を紹介してくれた。

「私らを含む3つの自治会の役員や班長が会議をする咲が丘三稜会館です。決まったことは回覧板に記して回す。この建物は私が引越してきた昭和50年代半ばに建ったものだから、かなり古いです」

40年ほど前に建てられたようだ(写真撮影/石原たきび)

40年ほど前に建てられたようだ(写真撮影/石原たきび)

この訓練が無駄になるのが一番

というわけで、船橋市の一画には毎月第2土曜日に「無事ですタオル」をいっせいに掲げるエリアがあった。

最後に小林さんが、「一番いいのは、何も起こらなくてこの訓練が無駄になることです」と言った。

今日も無事です(写真撮影/石原たきび)

今日も無事です(写真撮影/石原たきび)

無印良品の“日常”にある防災、「いつものもしも」とは

無印良品が本気で防災に取り組んでいる。
9月1日の防災の日に合わせて防災セットを発売、各店頭でも大々的に防災コーナーを設けるなど、かなりの本気モードだ。しかし、実は無印良品による防災プロジェクト「いつものもしも」は10年前から展開していたもの。それこそ東日本大震災が起きる前からの、「本気」かつ「長期戦」の取り組みだ。
今回は、このプロジェクトの中心におられたプロダクトデザイナーの高橋孝治さんを中心に、現在このプロジェクトをリーダーとして推進していらっしゃる人事総務部総務課の田村知彦さん、同社くらしの良品研究所の永澤芽ぶきさんにお話を伺った。左より永澤芽ぶきさん、田村知彦さん。無印良品 銀座にて(写真撮影/飯田照明)

左より永澤芽ぶきさん、田村知彦さん。無印良品 銀座にて(写真撮影/飯田照明)

いつも使っているものを防災にも使うだけでいい

防災グッズと聞くと、特別なものを用意しないといけないと思いがちだが、普段使わないものはとっさに使いこなせないし、マンション暮らしか一戸建てか、家族構成や子どもの年齢、暮らし方ひとつで必要なものは変わってくる。
そこで生まれたのが、無印良品の防災コンセプト「くらしの備え。いつものもしも。」。普段使っているものをそのまま防災用品とする提案だ。
例えば、持ち運びのできるLEDの灯りは、ライフラインが止まった場合の照明に。キャリーバッグは非常用の持ち運びバックになるし、半透明のキャリーボックスなら、中身が見え、重ねることもできるので備蓄品の保存に最適だ。

「”自分の身は自分で守る”という意識のもと、自分にとって必要なものを用意しておく。そのシンプルな考えで、自分たちで考え、身の回りものを点検してもらう。防災を”自分ごと”と考え、防災の意識を上げていってほしいと考えています」(高橋さん)

無印良品ホームページ 「くらしの備え。いつものもしも。」より

無印良品ホームページ 「くらしの備え。いつものもしも。」より

「防災を日常的に」~最初のきっかけはNPOからの提案

そもそも、無印良品がどうして防災に関わることになったのだろう。
きっかけは、2008年。“防災は、楽しい。”をコンセプトにさまざまな活動をしているNPO法人プラス・アーツと出版社の木楽舎から声をかけられたことから始まる。
「プラス・アーツさんは、阪神淡路大震災の被災者のリアルな声や体験を活かした『地震イツモノート』という本を出したり、楽しみながら防災の知恵を学ぶイベントなどを開催されていました。そこで”もっと身近なモノで防災を意識付け出来たら”という考えから、無印良品に声をかけていただいたんです」(高橋さん)。
目指したのは、あくまでも日常の延長線上にある防災。身近なモノであること、邪魔にならないこと、全国で手に入れることができること。まさに無印良品そのものだ。
「当時は防災グッズといえば、とりあえず防災リュック(家庭用持ち出し袋)を自宅に置くだけという認識が普通でした。でも別に防災用に特別なものでなくても、普段毎日使っているものが有事にも役立つ。それは広範囲の品ぞろえを持つ無印良品の商品なら可能なはずだと気づきました」(高橋さん)。

高橋孝治さん。大学でプロダクトデザインを学んだ後、良品計画と契約。無印良品の商品企画・デザインを担当し、この防災プロジェクトにも立ち上げから携わっている。2015年に退職後は焼き物の街、愛知県常滑市に移住、数々のプロジェクトに関わる一方、現在も無印良品の防災プロジェクトに参加し続けている

高橋孝治さん。大学でプロダクトデザインを学んだ後、良品計画と契約。無印良品の商品企画・デザインを担当し、この防災プロジェクトにも立ち上げから携わっている。2015年に退職後は焼き物の街、愛知県常滑市に移住、数々のプロジェクトに関わる一方、現在も無印良品の防災プロジェクトに参加し続けている

このプロジェクトのきっかけにもなった「地震イツモノート(プラス・アーツ)」は阪神・淡路大震災の被災者167人の体験談を集めたもの。防災意識を特別なものとしてではなく、ライフスタイルの中に自然とある状態を目指したいという思いでまとめられている。この書籍のほか、防災・震災・災害に日常から備えられる書籍やゲームなどを多数生み出している(写真/NPO法人プラス・アーツ)

このプロジェクトのきっかけにもなった「地震イツモノート(プラス・アーツ)」は阪神・淡路大震災の被災者167人の体験談を集めたもの。防災意識を特別なものとしてではなく、ライフスタイルの中に自然とある状態を目指したいという思いでまとめられている。この書籍のほか、防災・震災・災害に日常から備えられる書籍やゲームなどを多数生み出している(写真/NPO法人プラス・アーツ)

プロジェクト立ち上げ直後に東日本大震災。必要性をさらに痛感

そして、無印良品の研究機関である「くらしの良品研究所」で防災プロジェクト「いつものもしも」を立ち上げ。無印良品の商品を使った防災の備えへの提案を、プロモーション、売り場設計含めて企画し、さらには商品開発へと役立てる事業となった。
プロジェクトの立ち上げは2010年の暮れ。当時は、阪神大震災から10年以上経ち、災害への危機感が薄れつつある社会へのメッセージとして提案するはずだった。しかし、翌年3月東日本大震災が起きる。
「あまりのタイミングに驚くとともに、改めて必要性を実感しました」(永澤さん)

そして2011年9月には全国で大々的に防災を打ち出した店づくりを行う。
「基本的には無印良品の膨大な商品をセレクトし、災害時に備えてもらうという取り組みでした。しかし、どうしても、ヘルメットやヘッドライトは無印良品の品ぞろえにはなかったため、取り扱いのない他社商品を並べました。これは小売り業態であることを考えれば、かなり常識外のこと。自社の売り上げももちろん大切ですが、俯瞰した目線で防災にそなえること自体を提案していくことに意義があると考えたからです」(高橋さん)

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2011年9月から有楽町店で開催された「地震ITSUMO展」。商品をセレクトし、災害時の使い方とともに紹介(写真提供/良品計画)

2011年9月から有楽町店で開催された「地震ITSUMO展」。商品をセレクトし、災害時の使い方とともに紹介(写真提供/良品計画)

備えたいモノは男女差、個人差も大きい。リアルな声で実感

プロジェクトチームが、防災は人それぞれ、個別にカスタマイズする必要があると実感したエピソードがある。
「東日本大震災1年後に、仙台の店舗で被災者の方に“震災を経験して、自分が必要と感じた防災セットを組んでみてください”というお願いをしました。すると思っていた以上に男女差があったんです。例えば女性は”ヘッドライトは両手があくので便利だと分かるけれど、あまりにも非常時といった感じがして嫌だ”、”大勢の人の目のある避難所では顔の隠せるつばの広い帽子がありがたい”という声があったり、ヘルスケアやスキンケアなど身だしなみに関わるアイテムのニーズが高かったり。個々人が備えるべきものが違うことを痛感しました」(高橋さん)。

職場や自宅に備えるものとして提案されている商品。非常用品だけでなく、自分が普段使いしているものが、避難の際にすぐに持ち出せるようになっているか、改めて見直す必要があるだろう

職場や自宅に備えるものとして提案されている商品。非常用品だけでなく、自分が普段使いしているものが、避難の際にすぐに持ち出せるようになっているか、改めて見直す必要があるだろう

非常時でなくていい。「くらしの備え」が防災になる

「防災」といいつつ、常に「日常に軸足を持つ」ことが、無印良品の取り組みの特長だ。
「もしも、って別に地震や水害による避難生活だけでないんですよね。例えば、今日は仕事で遅くなってご飯つくりたくないな、買い物にも行きたくないし、といったときにレトルトが役立つ。だったらストックしておこう。それが防災の備蓄になればいいと思っています。無印良品のレトルトの賞味期限は1年ほどなので、通常の非常食に比べると短い。でももっと長持ちする商品だからといって5年保存しておくと、その間にどこに行ったか分からなくなるでしょう。その点、普段、食べ慣れた味で備えるなら楽。賞味期限が切れる前に、日常使いしつつ備蓄していく、ローリングストックという備蓄法です」(高橋さん)。
実際、現在の防災プロジェクトリーダーの田村さんも実践者。「月に1回は無印良品のレトルトカレーの日と決めていて、補充してから、自分たちで好きな味を選んで、食べる。その日は料理の手間も省けますし、子どもたちもちょっとしたイベントで楽しそう。自分でいうのもなんですが、無印良品のカレー、美味しいですからね(笑)」

レトルト食品だけでもさまざまな種類があることで普段の食卓に絡めて飽きずにローリングストックを続けていけそう(写真撮影/飯田照明)

レトルト食品だけでもさまざまな種類があることで普段の食卓に絡めて飽きずにローリングストックを続けていけそう(写真撮影/飯田照明)

「日常」かつ「防災」といった要素をいかに持つか。商品開発でもそれは活かされている。
例えば、カセットコンロのミニと専用ケース。「韓国のスーパーで、カセットコンロが樹脂のケースに入って売られていたんですよ。あ、段ボールの箱より丈夫で、台所の収納でも便利だし、アウトドア商品かつ防災用品にもなるなと思いつきました。風に吹かれても消えにくい内炎式で、かなり人気。僕ももう一つ買おうかなと思っています」(高橋さん)。

カセットこんろ・ミニと専用のケース(別売) ケースに入れれば持ち運びもしやすい

カセットこんろ・ミニと専用のケース(別売) ケースに入れれば持ち運びもしやすい

防災に対する意識とクリエイティビティは各段に上昇した10年

この10年で防災の意識はどう変化しただろうか
「日本全体の防災意識が各段に上がっています。それは近年、地震や水害など毎年大きな天災に見舞われているからなのですが、何かしらの備えをしている方は増えています。アウトドアブームも後押ししている部分がありますね。旅に使えるもの、屋外で使えるものは、総じて防災グッズになりますから」(永澤さん)。
さらに、それに応えるクリエイティビティが各段に向上していることも大きい。
「昔は、防災リュックは黄色や銀色で、目立てばいいという感じでしたから。近年は、行政や民間、個人により、防災を分かりやすく、楽しく伝えるアプローチがたくさんされています。お洒落なアウトドアブランドが身近になり、ライトユーザーがお洒落なアイテムを防災グッズとして捉える機会も増えています」(高橋さん)

丈夫でスタッキングもしやすいポリプロピレン製の収納ボックスはアウトドアとの相性も良く、必需品を詰め、いつでも持ち出しやすいようにしておくといった使い方も(写真撮影/飯田照明)

丈夫でスタッキングもしやすいポリプロピレン製の収納ボックスはアウトドアとの相性も良く、必需品を詰め、いつでも持ち出しやすいようにしておくといった使い方も(写真撮影/飯田照明)

もちろん、無印良品の10年間の取り組みが、防災を日常化しつつ、お洒落に取り入れる動きに寄与してきた。
「防災といったテーマはどこかの部署だけで推進するのではダメで、商品開発から、宣伝や販促、実際の店舗、ウェブ展開でも横串を指すことが大切でした。防災の必要性を共有できれば、コンセンサスを得やすく、深く広く、お客様に訴求ができます。その点、何をつくるか、どのように届けるかを自社の中で完結していることが無印良品の強み。特に現在、僕は外部から関わっているので、余計にそう感じています」と高橋さん。

折り畳み式ヘルメット、ヘッドライト、消火器など自社商品になかったものも約10年に及ぶ取り組みでラインナップに加わっていった(写真撮影/飯田照明)

折り畳み式ヘルメット、ヘッドライト、消火器など自社商品になかったものも約10年に及ぶ取り組みでラインナップに加わっていった(写真撮影/飯田照明)

余白のある防災セット。まずはこの1品からスタートしてもいい

そして満を持して登場したのが「防災セット」だ。
「ずっと防災セットがほしいという要望はありました。何から手をつけていいか分からないし、無印良品が出すアイテムなら間違いはないだろうから、という声に押されました。また、毎年、天災が起こるなか、まずは最初の基本として手元に置いておくものとして、もっと踏み込んだ提案をするべき時期にあるのかもしれないと考えたからです。まずは基本セットとして導入してもらい、あとは自分たちでカスタマイズしていく。“これ1つでOK”というような防災セットではなく、自分が主体となってモノを選ぶことで初めて、防災が自分事になっていくんだと思います」(田村さん)

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防災セットは、「携帯」「持ち出し」「備える」の3種類。持ち出しセットには携帯セットのアイテムが、備えるセットには持ち出しセット・携帯セットのアイテムが含まれており、普段から身の回りにおいて使うことを前提とした最低限のものがまとまっている(写真提供/無印良品)

防災セットは、「携帯」「持ち出し」「備える」の3種類。持ち出しセットには携帯セットのアイテムが、備えるセットには持ち出しセット・携帯セットのアイテムが含まれており、普段から身の回りにおいて使うことを前提とした最低限のものがまとまっている(写真提供/無印良品)

備えるセットには非常用トイレやロウソクなども。コンパクトにパッケージされていて普段から目につくところに立てて置ける(写真撮影/飯田照明)

備えるセットには非常用トイレやロウソクなども。コンパクトにパッケージされていて普段から目につくところに立てて置ける(写真撮影/飯田照明)

一家に必ずといっていいほど、無印良品の商品はある。日常的に接点の多い無印良品だからこそ、「いつも」使えるアイテムが、「もしも」のときに役立てば、一石二鳥だ。「もしも」は明日のことかもしれない。まずは、「くらしにとって」なにが必要か、考えてみることから始めてみたい。

店頭や特設サイトでは、防災時に備えるためのヒントが提示されている※写真は銀座店(写真撮影/飯田照明)

店頭や特設サイトでは、防災時に備えるためのヒントが提示されている※写真は銀座店(写真撮影/飯田照明)

●取材協力
無印良品 くらしの備え。いつものもしも。
※記事中で紹介した商品は一部店舗で取り扱いのないものもあります

おいしく防災! ローリングストックの缶詰アレンジレシピ6選

9月1日は防災の日。「災害時用に食品を備蓄しているけど、気づけばいつも賞味期限が切れている」「缶詰を日常的に食べて、なくなった分を買い足す『ローリングストック』を実践したいけれど、飽きてしまう」、さらには「これから防災備蓄をはじめたいけれど、何から手をつければいいのか分からない」――そんなお悩みはありませんか? 社会の防災力を高める「防災士」として活動するだけでなく、テレビや雑誌で缶詰の達人、レトルトの女王としても知られる管理栄養士・災害食専門員の今泉マユ子さんにお話を伺いました。
気分が沈む災害時こそ、「食べること」を楽しめる備蓄が必須管理栄養士、Junior野菜ソムリエ、食育指導士、調理師、フードライフコーディネーター、水のマイスターなど、「食」関連の資格を複数お持ちの今泉さん。『マツコの知らない世界』(TBS系)に出演した際は、数多くのレトルトパスタソースを紹介。「レトルト食品も災害時用の備蓄としてオススメですよ」(写真提供/今泉マユ子さん)

管理栄養士、Junior野菜ソムリエ、食育指導士、調理師、フードライフコーディネーター、水のマイスターなど、「食」関連の資格を複数お持ちの今泉さん。『マツコの知らない世界』(TBS系)に出演した際は、数多くのレトルトパスタソースを紹介。「レトルト食品も災害時用の備蓄としてオススメですよ」(写真提供/今泉マユ子さん)

災害時の備蓄というと、多くの人が思い浮かべる「乾パン」。最近では食感もかつてに比べ食べやすくなったものも出ています。今泉さんは「乾パンが苦手な方はケチャップやマヨネーズ、ゆであずきなどをちょい足しして食べてみてください。それでも口に合わない人は備蓄品としてオススメしません」と言います。

今泉さん宅では、リビング横の和室にある本棚(もちろん転倒防止対策もバッチリ)に備蓄品を収めています。「私が不在でも、家族全員がどこに何があるか分かるよう収納しています」(写真撮影/相馬ミナ)

今泉さん宅では、リビング横の和室にある本棚(もちろん転倒防止対策もバッチリ)に備蓄品を収めています。「私が不在でも、家族全員がどこに何があるか分かるよう収納しています」(写真撮影/相馬ミナ)

「どうしても災害時は気分が沈みがち。そんなときは美味しいものを食べて元気を出したいですよね。だからこそ、自分や家族が普段から食べ慣れているもの、美味しいと感じるものを備蓄しておくことが大事。普段から食べているものなら、日常生活のなかで自然と消費して、なくなる前に補充する『ローリングストック』の習慣も身につけやすいから、一石二鳥なんですよ」

缶詰やレトルトが大好きだという今泉さんは「講演などで地方を訪れると、ついご当地ものを買ってきてしまうんです(笑)」。和室の床下収納に収めた食品は、賞味期限年ごとに分類して食べ忘れを防止(写真撮影/相馬ミナ)

缶詰やレトルトが大好きだという今泉さんは「講演などで地方を訪れると、ついご当地ものを買ってきてしまうんです(笑)」。和室の床下収納に収めた食品は、賞味期限年ごとに分類して食べ忘れを防止(写真撮影/相馬ミナ)

乾パン同様、普段から缶詰を食べない人が無理に缶詰を備蓄する必要はないものの、「コンパクトで丈夫、長期保存できるという点で、やはり缶詰は災害時の備蓄品として秀逸」と話す今泉さん。「最近の缶詰は以前より進化しています。一度食べてみて、美味しいと感じたらストックすればいいと思いますよ。缶詰初心者さんなら、味付けにクセのある惣菜缶詰より、自分好みにアレンジしやすい素材缶詰のほうがオススメです」

防災士でありながら缶詰の達人とも呼ばれる今泉さんに、今回は編集部でローリングストックのお悩みが特に多かった3つの素材缶のアレンジ方法を教わりました。

アレンジ缶詰1. コンビーフ
コンビーフ缶の中身は、ほぐした塩漬けの牛肉。災害時には貴重なタンパク源になります。加熱済みのためそのままでも食べられますが、味がしっかりついているため、あえて調味料を加えず、ほかの食材と和えて食べるのが美味しく食べるコツだそうです。

今回使ったのは、明治屋の「コンビーフ スマートカップ」。コンビーフというと“開けづらい缶詰”のイメージが強いかもしれませんが、スマートカップなら開封が簡単。賞味期限も缶詰と同じ3年です(写真撮影/相馬ミナ)

今回使ったのは、明治屋の「コンビーフ スマートカップ」。コンビーフというと“開けづらい缶詰”のイメージが強いかもしれませんが、スマートカップなら開封が簡単。賞味期限も缶詰と同じ3年です(写真撮影/相馬ミナ)

■ コーンコンビーフ
「超簡単なのにとても美味しくて、いつも一人で完食してしまう」という、今泉さんお気に入りのレシピです。最後にかける黒こしょうが効いていて、お酒のおつまみにもぴったり。隠し味に加えたトマトジュースの酸味のおかげで、さっぱりといただけます。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
コンビーフ……1個(80g)
トマトジュース……50ml
コーン(レトルトパウチ)……1袋(50~60g)
黒こしょう……適量

<つくり方>
ポリ袋に材料をすべて入れ、混ぜる。食べるときに黒こしょうをかける。お好みでクミンパウダー、タバスコ、カレー粉を入れても。

■ キャベツコンビーフメンチカツ
小さな子どももパクパク食べてくれること間違いなし! コンビーフをひき肉代わりに使った本格メンチカツです。缶詰を使えば、加熱に気を使う必要がないので手軽。しっかりとした味付けなので、お弁当にもオススメです。ポイントは、「キャベツを混ぜたあと水分が出ないうちに、なるべく早めに揚げること」。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
コンビーフ……1個(80g)
センキャベツ(キャベツを千切りにしたカット野菜)……1袋(100~120g)
卵……1個
パン粉……大さじ2
(衣用)
・小麦粉……大さじ1
・溶き卵……1個分
・パン粉……大さじ4
サラダ油……適量
(添え物用)
ベビーリーフ、ミニトマト……適量

<つくり方>
1. ボウルにコンビーフ、センキャベツ、卵、パン粉を入れてよく混ぜ、4等分にして丸める。
2. 全体に衣用の小麦粉を薄くまぶし、溶き卵、パン粉の順につける。
3. 小さめのフライパンに1cmくらいまでサラダ油を入れ、180℃に熱する。その中に1を入れ、1~2分揚げて裏返し、さらに1分ほどきつね色になるまで揚げ焼きする。
4. 器に3を盛り、ベビーリーフとミニトマトを添える。

アレンジ缶詰2. オイルサーディン
イワシの油漬けが入ったオイルサーディン缶。青魚なのでDHAやEPAといった健康によいとされるオメガ3脂肪酸が豊富。おまけに缶詰なら魚の骨ごと食べられるからカルシウムも補えます。和にも洋にもアレンジしやすいので、「サバ缶に飽きた」という人にぜひ挑戦してみてほしい素材缶詰です。

今回は、はごろもの「キングオスカー オイルサーディン」を使用しました。ノルウェー産のイワシを樫の木のチップでスモークし、植物油に漬け込む伝統の製法でつくられています(写真撮影/相馬ミナ)

今回は、はごろもの「キングオスカー オイルサーディン」を使用しました。ノルウェー産のイワシを樫の木のチップでスモークし、植物油に漬け込む伝統の製法でつくられています(写真撮影/相馬ミナ)

■ オイルサーディンとトマトのパン粉焼き
イワシとトマトといえば、イタリアンでは王道の組み合わせ。もちろん、イワシの油漬けであるオイルサーディンも、トマトとの相性抜群です。缶詰を使えば、面倒な魚の下処理は一切不要。みじん切りにした玉ねぎの食感が楽しい、ワインがすすむ一品です。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
オイルサーディン……1缶(105g)
トマト……1個(100g)
玉ねぎ……中1/2個(100g)
マヨネーズ……大さじ2
パン粉……大さじ2
オリーブ油……少々
ドライパセリ……適量(お好みで)

<つくり方>
1. トマトは輪切り、玉ねぎはみじん切りにする。
2. 缶汁を切ったオイルサーディンをボウルに入れて、1の玉ねぎ、マヨネーズを加えてよく混ぜる。
3. 耐熱容器2つに2を等分に分けて入れ、その上に1のトマトを並べる。上からパン粉、オリーブ油をかける。
4. トースターで焦げ目がつくまで焼く。お好みでドライパセリをかける。

■ オイルサーディンドライカレー
オイルサーディン缶を油ごと使って、イワシのうま味とコクを最大限に引き出したカレーです。隠し味にクミンシードを加えることで、より本格的な仕上がりに。魚が苦手な人でも、食べ出したら止まらなくなるはず! 「オイルサーディンの油で香味野菜をしっかり炒めるのがポイント」だそうですよ。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
オイルサーディン……1缶(105g)
まいたけ……1パック(100g)
玉ねぎ……中1/2個(100g)
しょうが……1かけ分
にんにく……1かけ分
カレー粉……大さじ1
クミンシード(クミンパウダー)……小さじ1
塩、こしょう…少々
温かいごはん……お茶碗2杯分
パセリ(みじん切り)……大さじ2

<つくり方>
1. 玉ねぎ、しょうが、にんにくはみじん切りに、まいたけは粗みじん切りにする。
2. フライパンにオイルサーディンの油のみ入れ、1の玉ねぎ、しょうが、にんにくも入れて火をつけ、玉ねぎが色づくまで約5分炒める。
3. さらに、1のまいたけとカレー粉、クミンシードを加えて火を通し、オイルサーディンも入れて木べらなどでくずしながら中火で1~2分炒め、塩、こしょうで味を調える。
4. パセリのみじん切りを混ぜたごはんを2等分にして器に盛り、3のカレーをかける。

アレンジ缶詰3. ミックスビーンズ
複数の豆を煮たり蒸したりして、すぐ食べられる状態に加工してあるミックスビーンズ缶。豆類はタンパク質が豊富なだけでなく、災害時に不足しやすい食物繊維が多く含まれるのも高ポイントです。自分に合ったアレンジ方法を見つけておけば、災害時にも美味しく食べられます。

ここで使用したのは、トーヨーフーズの「そのままガバッと!ミックスビーンズ」。ひよこ豆、青えんどう、赤いんげん豆が入っています。缶詰のほかレトルトパウチタイプもあるので、お好みでどうぞ(写真撮影/相馬ミナ)

ここで使用したのは、トーヨーフーズの「そのままガバッと!ミックスビーンズ」。ひよこ豆、青えんどう、赤いんげん豆が入っています。缶詰のほかレトルトパウチタイプもあるので、お好みでどうぞ(写真撮影/相馬ミナ)

■ ミックスビーンズのツナケチャ和え
避難所生活を経験された方に「災害時に食べたかったもの」を尋ねると、「酸っぱいもの」という答えも多くあったそうです。このレシピでは、ミックスビーンズに子どもが大好きなツナ缶を合わせ、体が疲れて食欲が落ちたときでも食べやすい「ケチャップ」の酸味を隠し味に加えています。簡単にできて、栄養バランスのよい一品です。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
ミックスビーンズドライパック……1缶(120g)
ツナ缶(食塩、油入り)……1缶
ケチャップ……小さじ1

<つくり方>
ポリ袋にツナの缶汁ごと材料をすべて入れて混ぜる。

■ ミックスビーンズ栗あん風
酸っぱいものに加えて「甘いもの」も、被災時に食べたかったという声が多く聞かれたそうです。こちらは、ミックスビーンズを和菓子風にアレンジしたデザートレシピ。ミックスビーンズが苦手な人は、豆をしっかり潰すと「栗あん」のような感覚で食べられます。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

<材料>(2人分)
ミックスビーンズ……1缶(120g)
ゆであずき……ミックスビーンズと同量1缶(約100g)
きな粉……適量(お好みで)

<つくり方>
1. ポリ袋にミックスビーンズを入れて潰してから、ゆであずきを加えて混ぜる。
2. ひと口大に丸めて、お好みできな粉をかける。

「店に一切、商品が並ばなくなったとき」をイメージしておこう

最後に、これから防災備蓄を始める人は何から準備すればいいか、今泉さんに尋ねてみました。

「まずは飲料水です。以前は備蓄というと3日分がひとつの基準と考えられていましたが、最近では南海トラフ巨大地震を想定し、1週間分の備蓄が推奨されています。大人の飲料水は1人1日3Lが目安です」

1人1日3 Lを7日分となると、合計21 L。2 Lのペットボトルだと、およそ10本分が必要になります。これまで一切、備蓄をしてこなかった人にとっては、その保管場所を確保するだけでも大変そう……。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

「水は各部屋に置いておいた方が安心です。分散備蓄をしましょう。日常的に飲んで買い足すローリングストックで備えても良いですし、10年間長期保存できる水を備蓄しておいても良いので、自分に合う方法で備えてください。水以外にも日ごろから飲んでいるお茶やコーヒー、スポーツドリンクなどもあると良いですし、野菜ジュースなども野菜不足になりやすい災害時に重宝します。ただし賞味期限に気を付けてくださいね」(今泉さん)

家族全員の7日分の食料と水を一気に備蓄しようとすると、ハードルが高すぎる……。そんなときは、普段食べている缶詰を少し多めに買ったり、飲料水をとりあえず1日分ストックしたり。うんとハードルを下げて、小さな一歩を踏み出してみることが重要なのかもしれません。

●取材協力
今泉マユ子さん HP
徳島市生まれ、横浜市在住。1男1女の母。管理栄養士として大手企業社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食に力を注ぎ、2014年に管理栄養士の会社を起業。レシピ開発、商品開発に携わるほか、防災食アドバイザーとして全国で講演、講座を行う。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで活躍中。『「もしも」のときに役に立つ! 防災クッキング (1) 』(フレーベル館)、『災害時でもおいしく食べたい! 簡単「みそ汁」&「スープ」レシピ もしもごはん2 』(清流出版)など著書多数。

街の公園が災害時に大変身! トイレ、かまど等を備えた防災公園がスゴイ

愛犬と散歩をしたり、子どもと遊んだり、友人などとおしゃべりしたりと、私たちの身近な憩いの場である公園。小規模な公園から国立公園まで、大小さまざまな公園がありますが、そのなかでも「防災公園」といわれる公園をご存じでしょうか。単なる公園ではなく、食事の炊き出しやトイレ、照明、生活用水など、“いざ”というときに大活躍するといいます。では、その驚きの機能とは? 今回は東京都江東区にある「木場公園」でそのすごさを教えてもらいました。
人口密集地の公園は、いざというときは防災拠点に

地震などの大規模災害が発生したら、多くの人の避難先となるのが公園ではないでしょうか。まちなかでも「一時(いっとき)集合場所」「避難場所:●●公園」などの看板を目にした人も多いことでしょう。実は公園には避難場所としてだけでなく、「防災拠点」としての機能があるのをご存じでしょうか。今回は、東京に22ある防災公園(防災公園グループ含む)のうちのひとつ「木場公園」を訪れ、東京都公園協会のスタッフのみなさんに防災機能について教えてもらいました。

右から、東京都公園協会スタッフの表さん、武居さん、石塚さん(写真撮影/片山貴博)

右から、東京都公園協会スタッフの表さん、武居さん、石塚さん(写真撮影/片山貴博)

「木場公園は災害時の避難場所になっているほか、救出活動拠点の候補地として考えられています。そのため、公園内には、(1)防災トイレ、(2)かまどになるベンチ、(3)生活用水の揚水ポンプ、(4)太陽光発電の照明灯などが設置されています」と表さん。

ただ、公園内に目立つように設置されているわけではないので、「えっ? 実はコレがトイレだったの?」「これがかまどに?」と驚かれることが多いのだとか。公園内にある「トランスフォーマー」と呼びたいと思います。

では、さっそくご案内いただきましょう。一見、公園の風景になじんだ普通のベンチですが、鍵をあけ、フタを持ち上げると、火をくべられる「かまど」が出てきます。

一見、よくある公園のベンチですが

一見、よくある公園のベンチですが

サイドから持ち上げると

サイドから持ち上げると

かまどが登場!

かまどが登場!

炊き出しができるように(写真撮影/片山貴博)

炊き出しができるように(写真撮影/片山貴博)

この防災ベンチ、フタを持ち上げるだけなので、ものの数分でベンチからかまどになります。非常時はこうした分かりやすさも重要なのでしょう。また、災害に備えて毎月1度、職員が必ず鍵を開けて組み立て、震災対応訓練をしているそう。その他、町内会やボランティアの防災訓練、防災普及啓発イベントなどでも利用しているといいます。

ちなみに、かまどベンチが登場したのは10年以上前。メーカーも複数あり、また少しずつ改良・バージョンアップしているそうで、ボランティアや炊き出しに不慣れな人でも戸惑わずに使えるよう、日ごろからの訓練が大事なのだとか。

「防災訓練、防災イベントは直火を使っての訓練になるので、お子さん方にも好評です」といいます。また地元の小学校などの授業でも活用されることがあり、案外、子どものほうが防災機能に詳しいそうです。ちなみに、ベンチには“寄贈●●”という地元企業名・店名が刻印してありました。企業と地元住民の信頼関係が垣間見えていいですね。

非常事態に活躍するマンホール型トイレは38基! 

その次にご案内いただいたのが、防災トイレです。木場公園では、日常的に利用されている公衆トイレに地下便槽が付いており、万一、電気などのインフラが寸断された場合には汲み取り式になるそう。加えて、上部にテントを組み立てて利用するマンホール型トイレを38基ほど備えています。

奥の日常時にも使われている公衆トイレは、電気・上水が止まっても使える地下便槽付き

奥の日常時にも使われている公衆トイレは、電気・上水が止まっても使える地下便槽付き

手前の芝生広場にあるマンホールのようなものが、マンホール型トイレ

手前の芝生広場にあるマンホールのようなものが、マンホール型トイレ

器具を使ってあけると、和式トイレになる

器具を使ってあけると、和式トイレになる

ここからトイレの周囲にテントを張っていく

ここからトイレの周囲にテントを張っていく

テントと同じ手順で骨組みを建てて、器具に固定していく

テントと同じ手順で骨組みを建てて、器具に固定していく

ペグ(地面に固定する道具)を打って、風で飛ばないようにしっかり設営

ペグ(地面に固定する道具)を打って、風で飛ばないようにしっかり設営

ペーパーを設置したら、トイレとして使えるようになる(写真撮影/片山貴博)

ペーパーを設置したら、トイレとして使えるようになる(写真撮影/片山貴博)

このトイレですが、一見すると芝生の広場にある目立たないマンホールになっているので、「いつも歩いているのに知らなかった!」「このトイレはありがたい」といちばん驚かれる&感謝される存在なのだそう。

表さんによると、「避難所のトイレだけではなく、一般家庭で簡易トイレを備蓄するなど災害時のトイレ機能をどう確保するか日ごろから考えていただくとともに、防災公園にこういう機能があると知っておいていただくことも必要と考えます」といいます。

ちなみに、このトイレ、慣れれば20分程度で設営できるそう。キャンプやアウトドアの経験がある人だと、もっと早くできるかもしれません。ただ、現場を担当する武居さん、石塚さんは「トイレはがまんができないので、できるだけ早く設営できるよう、職員だけでなく、地域住民の方にも組み立てを体験してもらってと思っています」と解説します。

余談ですが、今どきの子どもを持つ親として不安だったのが「和式」だという点です。キレイな洋式トイレが当たり前の子どもたち、和式トイレをどうやって使えるようにするか、個人的な課題ではありますが、練習させないといけないと思いました。

防災機能を活かすのは人。地域の防災訓練が大切に

木場公園の歴史とその特性を活かしたユニークな設備もあります。それが「揚水ポンプ」。もともと「木場」といえば材木の街で、公園の入口広場には「イベント池」と呼ばれる四角い人口の池があり、地元の伝統芸である「木場の角乗り」が年に1回、江東区民まつりで披露されるそうです。で、そのイベント池の水は地下の貯水槽から給水されていて、非常時には揚水ポンプで組み上げて活用することになっているとか。江戸っ子の知恵が受け継がれながら、令和の防災と共存している感じがします。

揚水ポンプを動かすと

揚水ポンプを動かすと

じゃぶじゃぶと水が出てきます。普段はひねるだけなので、水汲み体験は新鮮でした(写真撮影/片山貴博)

じゃぶじゃぶと水が出てきます。普段はひねるだけなので、水汲み体験は新鮮でした(写真撮影/片山貴博)

この揚水ポンプの水は、飲料水としては使えませんが、手を洗ったり、トイレを流したりするのに活用できます。防災公園では大規模災害時に備えて、何はともあれ、かまどによる炊き出し、トイレ、水の確保がされていることが分かります。ほかにも、何気ない照明がソーラー照明灯になっていたり、自動販売機が災害時は緊急時飲料提供ベンダーとして機能するそう。

ソーラー照明灯(左)、自動販売機(右)も、どこにでもありそうな公園の風景ですが、防災機能も併せ持っています(写真撮影/片山貴博)

ソーラー照明灯(左)、自動販売機(右)も、どこにでもありそうな公園の風景ですが、防災機能も併せ持っています(写真撮影/片山貴博)

木場公園の多目的広場。単なる遊び場に見えますが、これはヘリコプター離発着の可能性があるため、この広さを確保しているのだそう。救出・救助の最前線基地になる可能性があるのです(写真撮影/片山貴博)

木場公園の多目的広場。単なる遊び場に見えますが、これはヘリコプター離発着の可能性があるため、この広さを確保しているのだそう。救出・救助の最前線基地になる可能性があるのです(写真撮影/片山貴博)

なかなか普段、目にすることのない公園の防災機能。映画・ドラマなどでは、「普段は“ザ・一般人”なのに、いざというときに活躍するヒーロー物」という設定がありますが、防災公園はまさにこれではないでしょうか。普段の公園はのどかで、平和そうに見せて、実は住民を守るすごいやつなのだなと思いました。ただ、防災機能はあっても使うのは「人」です。災害時にこの防災機能が存分に発揮できるよう、近所・地域の防災訓練の大切さをあらためて思い知った次第です。

●取材協力
公益財団法人東京都公園協会

「防災ゲーム」が楽しい! 子ども・大人へのオススメ3選

地震に台風、集中豪雨、火山噴火、豪雪……。日本では毎年、各地で自然災害が多発しています。誰も無縁ではないのですが、防災の知識や避難時の行動を学ぶ機会は限られています。でも、最近では防災を遊びながら楽しく学べる「防災ゲーム」が増えているというではありませんか。専門家にオススメを聞くとともに、実際に子どもと一緒にチャレンジしてみました。
災害の教訓、防災の知見が「防災ゲーム」に反映されている

今回、防災ゲームについて教わったのは、災害支援・防災教育コーディネーター、社会福祉士である宮崎賢哉さん。一般社団法人防災教育普及協会で教育事業部長を務めるほか、東京都立六本木高校で「防災学」の講師をするなど、防災と教育に関するスペシャリストです。

防災ゲームについて分かりやすく教えてくれた宮崎さん。「防災ゲーム」の使い方、選び方についてもレクチャーしてくれました(写真撮影/片山貴博)

防災ゲームについて分かりやすく教えてくれた宮崎さん。「防災ゲーム」の使い方、選び方についてもレクチャーしてくれました(写真撮影/片山貴博)

「僕が知る限りでも、日本には50種類以上の防災ゲームや教材があります。制作しているのは、国交省や気象庁などの官公庁、地方自治体、NPO法人、大学や研究機関、民間企業、学生団体などさまざま。販売されているものもあれば、ダウンロードして無償で利用できるものもありますが、それぞれの防災ゲームに制作者の防災に対する強い思いや願いが込められているのは、共通しています」と解説します。

宮崎さんによると、防災ゲームが広く知られるきっかけとなったのは、1995年の阪神・淡路大震災。被災した自治体の職員に対する調査をもとに、災害時に発生した状況判断を疑似体験できるゲームがつくられました。さらに東日本大震災以降、防災に関わる人が増えたことで、防災ゲームや教材の種類も増えていき、近年では風水害が多発していることを受け、水害や土砂災害について学べるゲームも増えているそう。

「今の大人世代は、防災教育といっても地震や火災を想定した避難訓練をする程度でした。ただ、大きな災害が発生するとその度に、さまざまな教訓、知見が積み重なっていき、今ではそれらの『命を守るための行動』や『平時の備えのポイント』が共有され、防災ゲームや教材で気軽に学べるようになっています」(宮崎さん)

日本は歴史的に繰り返し大きな災害に見舞われ、多くの人命が失われてきました。その教訓から学び、知見の結集を私たちにとって身近なものにしたのが「防災ゲーム」といえます。

防災カードゲーム「クロスロード」では、「わが家に3日間分の保存食と水の準備があります。しかし、避難所では多くの家族が保存食や水を持っていません。あなたはその保存食をみんなに分け与えますか?」といった設問が続き、答えに悩んでしまう(写真撮影/片山貴博)

防災カードゲーム「クロスロード」では、「わが家に3日間分の保存食と水の準備があります。しかし、避難所では多くの家族が保存食や水を持っていません。あなたはその保存食をみんなに分け与えますか?」といった設問が続き、答えに悩んでしまう(写真撮影/片山貴博)

幼児にも分かりやすい「ぼうさいダック」や「このつぎなにがおきるかな?」を体験

今回は、映画『シン・ゴジラ』にもオペレーションルームとして登場した東京臨海広域防災公園の「そなエリア東京」を訪問。ここでは複数の防災ゲームが展示されているだけでなく、実際に体験もできます。

そなエリア東京の防災ゲームの体験コーナー。ぜひ時間に余裕をもって来て、ゲームも体験してほしいです(写真撮影/片山貴博)

そなエリア東京の防災ゲームの体験コーナー。ぜひ時間に余裕をもって来て、ゲームも体験してほしいです(写真撮影/片山貴博)

あまたある防災ゲームのなかで、まず宮崎さんがオススメしてくれたのが「ぼうさいダック」。“災害が起きたとき”と”命を守るためにとるべき行動”がワンセットでカードの表裏にイラストで描かれています。

例えば、「地震が起きたときはどうする?」と聞かれたら、プレーヤーはしゃがんで、頭を守る動作をします。その後はかわいいアヒルのイラストを見ながら、「そうだね、まずは頭を守ろう」と答え合わせをしていきます。幼い子どもでも理解できる内容なので、導入の「防災ゲーム」としてとりかかりやすいのが魅力です。ちなみに、わが家の小学1年生と1歳の子どもにもこの「ぼうさいダック」は好評でした。「災害が起きたシーン」と「命を守る動作」がワンセットでシンプルなので、分かりやすいのがよいのでしょう。

大きなカードとトランプ大の2種類あり、イベントの人数や目的に応じて使い分けられるようになっています(写真撮影/片山貴博)

大きなカードとトランプ大の2種類あり、イベントの人数や目的に応じて使い分けられるようになっています(写真撮影/片山貴博)

これは地震が起きたときに頭を守る、という行動の例です。カードは自然災害だけでなく盗難時、不審者に声をかけられたときなどの対応もあり、日常の危険からも身を守る方法を学べます(写真撮影/片山貴博)

これは地震が起きたときに頭を守る、という行動の例です。カードは自然災害だけでなく盗難時、不審者に声をかけられたときなどの対応もあり、日常の危険からも身を守る方法を学べます(写真撮影/片山貴博)

次にオススメしていただいたのが、国土交通省が公開している防災教育教材「このつぎなにがおきるかな?」です。対象年齢は小学校からで「すいがい編(29枚)」と「つなみ編(29枚)」がありましたが、今年から「どしゃさいがい編(29枚)」が加わりました。

このゲームは、例えばすいがい編では「大雨がふると」「自分の家が洪水に」「巻き込まれてしまうよ」「そうならないために、調べておこう」という流れが1セットになって、描かれています。これを時系列として正しく並べ替える、かるたのように札をとるなど、遊び方をアレンジして、繰り返し遊べます。

「津波や水害、土砂災害といった災害は、大雨が降る~小石が落ちて来る~がけ崩れといった、おおよその”順番”があり、時系列で被害が発生します。このゲームで教材の名前どおり”このつぎなにがおきるかな”を学ぶことで、被害を予想し、適切な安全行動がとれるようになります」(宮崎さん)

取材当日はバラバラにしたカードを災害の前触れの順番に並べかえて遊んだが、かるたのように札を取る遊びや、ババ抜きのような遊び方もできる(写真撮影/片山貴博)

取材当日はバラバラにしたカードを災害の前触れの順番に並べかえて遊んだが、かるたのように札を取る遊びや、ババ抜きのような遊び方もできる(写真撮影/片山貴博)

「このつぎなにがおきるかな?」は名刺サイズ、はがきサイズなどでダウンロード可能。家庭や学校でも利用しやすい(写真撮影/片山貴博)

「このつぎなにがおきるかな?」は名刺サイズ、はがきサイズなどでダウンロード可能。家庭や学校でも利用しやすい(写真撮影/片山貴博)

土砂災害前に小石が落ちてくることや、避難先も水につかって食料が尽きてしまうことがあるなど、大人でも知らないことがたくさんあり、「えっ、そうなの? どうしよう……」の連続でした。大人はゲームとして楽しんだあと、「対策を考えなきゃ」と真剣になって考えこんでしまいます。ただ、わが家の小学1年生には、言葉や時系列の理解が難しいようでした。小学校低学年くらいの子どもには、大人も一緒に学びながらフォローすることが必要かなと感じました。

子どもから「買って!」と言われるほど好評な「なまずの学校」

最後にオススメいただいたのが、「なまずの学校」というカードゲームです。紙芝居形式でお題が出されるので、手持ちのカードで対策を考え、答えが当たったら報酬として通貨の「ナマーズ」がもらえるというもの。

例えば「血を出している人がいます。傷口を押さえるのに使えそうなものを出してください」といったお題では、筆者は身近にある「ネクタイ」で止血ができると思い、カードを出しました。身近に手に入りやすいという点で正解ではありましたが、衛生面で気をつけなければいけないということで、60ナマーズでした。ガーゼやほうたい、三角巾のカードを出しても正解ですが、災害時には不足すると考えられるため、それぞれ70ナマーズ。最も高得点なのは携帯しやすく使い勝手のよい大判のハンカチで90ナマーズ、となっています。答えはひとつだけでなく、より汎用性があるもの、身近に活用できるものが高得点になります。

お題に対して、配られたカードで対応策を考え、当てるという「なまずの学校」(写真撮影/片山貴博)

お題に対して、配られたカードで対応策を考え、当てるという「なまずの学校」(写真撮影/片山貴博)

答えはひとつだけでなく、複数あり、「こんなものが活用できるんだ!」という驚きと発見があります(写真撮影/片山貴博)

答えはひとつだけでなく、複数あり、「こんなものが活用できるんだ!」という驚きと発見があります(写真撮影/片山貴博)

大人でも自分の推理が当たって正解し、報酬の通貨がもらえるとうれしいもの。お題の全18問のなかには、他の人の持つカードを活用して困難に立ち向かう「協力問題」があり、人と力を合わせて災害を生き延びる方法を考えられます。

また、大人でも子どもでも、また個人でもグループでも遊べるので、学校だけでなく、町内会・マンション管理組合などでも活用できると思いました。シンプルに、ゲームとして楽しいだけでなく、対応策に使うアイテムについて、カードには「災害救助セットに入っているよ」「コンビニにあるよ」「ホームセンターにあるよ」といった、日常生活でも役立つ情報が書かれているので、自然と知識が深まります。

なまずの学校を楽しんだあとに、備蓄していた乾パンとパンを試食。「震災が起きたら3日間、乾パンで過ごすの? 無理ー!」と驚いていました(写真撮影/嘉屋恭子)

なまずの学校を楽しんだあとに、備蓄していた乾パンとパンを試食。「震災が起きたら3日間、乾パンで過ごすの? 無理ー!」と驚いていました(写真撮影/嘉屋恭子)

こちらもわが家で子どもと「なまずの学校」にチャレンジしたところ大好評で、「これ、買ってほしい」とねだられるほどでした。また、偶然にも新潟~山形で地震が発生したこともあり、ニュースと関連づけて体験できたため、「大判ハンカチ・ガムテープが役立つな」などと実感していたよう。あわせて、備蓄していた缶詰めの「乾パン」「パンの缶詰」も試食。ゲームをきっかけに親子での会話が盛り上がりました。

防災の知識は単に覚えるもの、知るだけものではなく、自分で考える、体を動かすなどのアクションがあると、より深く記憶されるように思います。また、頭を隠すにしても「どうして」などの理由が分かると、忘れにくくなります。今回の防災ゲームはいずれも知識と行動がともなっていて、記憶に残りやすく感じました。防災というとどうしても、きちんと備えなければという義務感から身構えてしまいますが、「まずは楽しんでみよう」という気軽さで親子や友人とぜひ一度、チャレンジしてほしいなと思います。

●取材協力
・一般社団法人防災教育普及協会
・東京臨海広域防災公園
・国土交通省「防災教育ポータル」

登山家・野口健さんが指南する、生き抜くための本当の防災対策

富士山などに散乱するゴミ問題に着目した清掃登山活動で有名な登山家の野口健さんは、東日本大震災やネパールの大地震、熊本地震でも支援活動を行い、熊本の避難所に被災者用のテントを張る「テント村」活動も展開している。
命がけで数々の険しい登山に成功し、被災地での様子を見続けてきた彼は、日本での地震や津波、豪雨などの震災発生時に最大1週間、自分の力で生き延びれば、自衛隊の助けを得られるなど何とか生き延びることができると言う。「自分の命は自分で守る」ために、個人として日ごろからどのような「防災対策」をしておくべきだろうか。経験談をもとに考えを聞いた。
被災者のストレス軽減につながった「テント村」

――2016年4月に熊本地震が発生後、避難所にテント村をつくったきっかけは何ですか?

プライバシーの確保が難しいので、長期間避難所にいると誰でもイライラしてきます。幼い子どもがいると周りに迷惑をかけるし、子どもたちもストレスを感じてしまう。そもそもペットがいるご家庭は避難所に入れません。そんな方たちはやむなく車中泊になりますが、肉体的に辛いですし、エコノミークラス症候群で命に危険が及ぶかもしれない。そんな状況を見て、何ができるかと考えたときに、ヒマラヤ登山でのベースキャンプの経験が役立つと思いました。つまり「テント村」をつくるということです。

陸上競技場の外周に市販のテントを1m間隔で並べる。「これだけでも、避難所で過ごすよりはプライベートを保つことができ、ストレスが軽減します」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

陸上競技場の外周に市販のテントを1m間隔で並べる。「これだけでも、避難所で過ごすよりはプライベートを保つことができ、ストレスが軽減します」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

余震が続く中、屋根がある避難所で過ごすと、いつ天井が落ちてくるか分からないため恐怖を感じます。その点、歩いて動けるぐらいの高さがあるテントなら天井が落ちる心配もないし、閉塞感もさほど感じません。車中泊や、避難所のシーツで仕切られた区画で寝るぐらいなら、寝袋で寝る方が快適だし、アウトドアグッズは色が鮮やかなので、気持ちも暗くなりにくいんです。また隣のテントとの間を1m以上空けることができれば、意外と隣の話し声が気にならず、ある程度のプライベート空間を持つことができます。

そうして実際に、陸上競技場のグラウンドの外周にテントを張ったところ、車中泊の方だけでなく、避難所で過ごされていた方も移動して来られ、300人分のテントを張る当初の予定が、その倍の600人弱を収容できる分のテントを張ることになりました。昼間はグラウンドの真ん中で子どもたちが走り回るなど、キャンプ場のような雰囲気になるので、目の前の光景が明るくなりました。

「アウトドア用品は明るい色が多いし、広々としたグラウンドを子どもたちが笑いながら走り回っている光景が目に入ると、元気が出てきます」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

「アウトドア用品は明るい色が多いし、広々としたグラウンドを子どもたちが笑いながら走り回っている光景が目に入ると、元気が出てきます」(野口さん)(写真撮影/片山貴博)

何よりもうれしかったのが、テントを張っていた期間、救急搬送が1人も出なかったことです。「避難所暮らしをしていると体調を崩す人が多いのですが、これはなかなかないことですよ」と医療関係者の方に言われたぐらい、テント村は被災者のストレス軽減につながったと思います。ストレスは人間の健康に及ぼす害が大きいので、災害後は少しでも軽減するよう環境を整えることが大事ですし、何があっても動じない心を養うことも大事だと思います。

―――どうしたら災害後に動じない心を養えますか。

2018年6月23日にタイ王国・チエンラーイ県のタムルアン森林公園内の洞窟で、地元のサッカーチームメンバーのコーチ1人と少年12人が閉じ込められました。残念ながら救出に向かった1人のダイバーは亡くなりましたが、7月10日に全員無事に救出されたニュースは記憶にある方も多いでしょう。電気もなく、水位がどんどん上がっていく不安しかない中で、10日間以上も閉じ込められたら、ノイローゼになったとしても不思議はありません。でも救助に来た救助隊にしがみつくわけでもなく、泣きながらパニックになるわけでもなく、子どもたちが淡々と会話をしていた映像を見たときに、国民性というものもあるかもしれませんが、育ってきた環境の影響も大きいのではと思いました。

タイでは「ボーイスカウト活動」が義務教育なんです。チームワークの重要性や役割分担の中での責任感、リーダーシップやフォロワーシップを自然の中で学んでいます。1つの課題に向けて一致団結して進める能力、総合的な人間力が身についていたからこそ、パニックになる子どもがいなかったのでは、と思うんです。

「自然の中で遊ぶという子どもたちは減少しているように思います」(写真撮影/片山貴博)

「自然の中で遊ぶという子どもたちは減少しているように思います」(写真撮影/片山貴博)

だから、幼いころからボーイスカウトに所属して自然の中でさまざまな経験をしたり、家族でキャンプに出かけて楽しみながら役割分担などを行ったりするアウトドア体験は、災害時に役立つと思います。

また、普段から家や会社など自分が過ごすエリアの地盤をハザードマップでチェックし、家族会議を開いて、災害時にどこに避難して、どこで集合するなどの打ち合わせをしておくだけでも、パニック状態に陥りにくいのではないでしょうか。

「プチ・ピンチ」の経験が生き抜く力につながる

――環境学校を開催され、子どもたちが自然と触れ合う機会をつくっていらっしゃいますが、災害時に役立つ経験につながることも目的なのでしょうか。

最初は、子どもたちに自然の素晴らしさを知ってもらって、自然環境を守ってもらいたいという考えでした。でも実際に始めると環境を守る以前に、自分の命を危険から守ることができない子どもたちが多いことに驚いたんです。

例えば、シーカヤックの乗り方を教えて転覆したときの脱出方法を練習させますが、実際に足がつく浅瀬で子どもが乗っているカヤックをひっくり返すと、カヤックの底を見せたまま何の動きもしない子どもたちが何人もいました。水中に潜って見てみると、子どもはパドルを握った姿勢のまま固まっているので、急いで引っ張り出しました。地上で練習して知識を身につけたけど、いざ危険な状況になると頭が真っ白になり、動けなくなってしまうんです。それは災害時も登山でも同じで、頭が真っ白になって固まったり、パニックになったり、諦めやすい人ほど、助かる可能性は低くなります。

本文の内容とは別の日に行われた、小笠原での環境学校(写真提供/野口健事務所)

本文の内容とは別の日に行われた、小笠原での環境学校(写真提供/野口健事務所)

だから自然の中で小さな失敗、怖かった経験、凍える状況などの「プチ・ピンチ」を体験することは大事です。人は死ぬかもしれないという危険に晒されたときに、死を感じた分だけ生きたいと思う、生に対する執着心が大きくなるもの。「絶対におぼれたくない」と思って必死にカヤックから抜け出そうとし、反射神経や自己防衛力などが磨かれるように思います。

それが分かってから「プチ・ピンチ」やチームワークを経験させるために、僕は環境学校に近場の岩登りや富士山に登るといったメニューを取り入れました。最近は危ないからと禁止している学校もありますが、木登りは手軽に「プチ・ピンチ」がつくれる遊びの1つです。アウトドアこそ防災術になると思いますね。

――ご自身のお子さんに経験させている「プチ・ピンチ」は?

環境学校では事故につながるといけないので、「プチ・ピンチ」にとどめていますが、自分の娘には時に死を感じるほどのもっと大きなピンチを経験させています(笑)。

野口さんの講演会や取材現場などに一緒に出向き、父親の話を熱心にノートに記録する娘の絵子さん。富士山の清掃や被災地の支援活動に向かう父の背中を見て育った(写真撮影/片山貴博)

野口さんの講演会や取材現場などに一緒に出向き、父親の話を熱心にノートに記録する娘の絵子さん。富士山の清掃や被災地の支援活動に向かう父の背中を見て育った(写真撮影/片山貴博)

娘の初登山は小学校4年生の時で、冬の八ヶ岳に連れて行きました。マイナス17度という低い気温の猛吹雪で、ほっぺが痛いし、服も濡れて凍えるほど寒いし、精神的にも追い詰められて「もう助からないかも」と彼女は泣きべそをかいていました。僕自身、山頂まで行くのは無理だと思いつつも、「娘に自然を体験させる」というテーマがあったので、「泣いてないでちゃんと岩を掴みなさい。泣いて助かるものは山にないよ」と語りかけていました。山頂から2時間ほど手前にあった山小屋でひと休みしながら、「今日はここまで。山には『していい無理』と『してはいけない無理』がある。ここから先は『してはいけない無理』だから下りるよ」と伝え、下山しました。

ヒマラヤ登山をする野口さんと絵子さん(写真提供/野口健事務所)

ヒマラヤ登山をする野口さんと絵子さん(写真提供/野口健事務所)

(写真提供/野口健事務所)

(写真提供/野口健事務所)

翌日テレビで、八ヶ岳で遭難して凍死したというニュースが流れました。僕らが撤退した同じ時間帯に登っていたパーティーで、吹雪の中で立ち往生してしまったとのこと。そのニュースを見て僕は、死を身近に感じるような強烈な経験をしてしまった娘がトラウマにならないかと心配しました。親に殺されかけたんですからね。でも彼女は「してはいけない無理だったんだね」と納得していました。「絵子さん(娘さんの名前)は、またパパと山に登りたいですか?どうですか?」と聞くと、「なんでそんなことを聞くの?」と言いながら、「リベンジする」と言いました。そして中学校1年の冬に、一緒に登り切りました。頂上で「やったね!」というと、「パパ、無事に下山するまでが登山だよ」と生意気にも言われてしまいました(笑)。
  
最近では一緒に15時間以上山道を歩いたり、ヒマラヤに登ったりもしていますが、予定外のことが起こっても彼女は簡単にパニックにならないようになりました。こうした自然環境の中で養われる経験こそ、自身の危機管理能力やメンタル力の向上につながっているように思います。

「よくトラウマにならなかったよね?」と絵子さんに語りかける野口さん。「どうしてもリベンジして登りたかったから」と絵子さんは微笑む(写真撮影/片山貴博)

「よくトラウマにならなかったよね?」と絵子さんに語りかける野口さん。「どうしてもリベンジして登りたかったから」と絵子さんは微笑む(写真撮影/片山貴博)

家にテントを張って寝袋で寝てみる

――防災グッズを準備しておくだけではあまり意味がないんですね。

準備することで満足しているだけでは、災害時にいざ使おうと思ってもうまく使えません。防災グッズの1つとしてテントを購入しても、納戸にずっとしまいっぱなしでは、いざというときに組み立てられないでしょう。テント内に細いロープを張ると洗濯物を吊るしたり、ランタンを吊るしたりすることもできますが、知らないとどう道具を使えば快適に過ごせるかも分からない。だから普段から使うことが大事になります。

そもそも「防災」という切り口から入っても、起きるか起こらないか分からないネガティブな状況を考えることは面白くないから、防災意識は定着しないように思います。だったら、趣味や遊びといったアウトドア体験を楽しんで、自ずと防災意識や経験も身についている方が、よっぽどもしものときに役立つと思うんですよね。

テントには不思議な魅力があります。登山での山小屋やテントの中の方が普段の生活よりも、娘がよく喋ってくれるんですよね。親子のコミュニケーションの場にもなっていると思います。また、友人であるレミオロメンの藤巻亮太さんとヒマラヤに3~4年ほど毎年正月に登っていたんですが、テントを張って日本酒を並べて飲むんですよ。二人で「何よりの贅沢だな」と言いながら楽しみました。

そんな楽しいと思えることこそ、継続できます。最初はご自宅の庭や屋上、駐車場などにテントを張って、家族並んで寝袋で寝てみてもいいと思います。1人用の小さなテントならマンションのベランダでも張れるのではないでしょうか。少しずつハードルを上げて、今まで3日間観光地巡りをしていた旅行を、「湖畔で3日間キャンプ」に変えてみてもいいでしょう。

日本人は真面目なので机上で防災知識を学ぼうとしますが、いくらインプットしてもいざというときに実践できなければ意味がありません。可能な限りパニックにならず、適切な判断力を身につけるには経験しかない。自分たちでできる範囲のアウトドアを楽しむことから始めてみてください。

●取材協力
登山家
野口 健さん
1973年米国ボストン生まれ。亜細亜大学卒業。故・植村直己さんの著書に感銘を受け、登山を始める。99年エベレストの登頂に成功し、7大陸最高峰最年少登頂記録を25歳で樹立。以降、エベレストや富士山に散乱するゴミ問題に着目して清掃登山を開始。東日本大震災や熊本地震でも支援活動を展開。こうした経験を講演するほか、子ども向けの環境学校なども開催する。『震災が起きた後で死なないために~「避難所にテント村」という選択肢』(PHP研究所)など著書多数。