音楽で生きていくため10代で移住。国立音楽院で学び、宮城県加美町が支援

田んぼに囲まれた宮城県加美町の国立音楽院宮城キャンパスで、他地域から移住してきた若者たちが演奏技術、楽器の製作・リペアや音楽療法などを学んでいる。
「好きな音楽を一生の仕事に活かす」を謳う国立音楽院の本校があるのは、話題のカフェが集まる都会、東京都世田谷区三宿エリア。音楽による地方創生を目指す加美町からの提案が、宮城分校のきっかけだった。

音楽資源を見直した町の創生キャンパス周辺に広がる田畑。冬には雪が降り積もり真っ白な光景となる(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

キャンパス周辺に広がる田畑。冬には雪が降り積もり真っ白な光景となる(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

「この町には、もともと暮らしに音楽が馴染んでいました」と教えてくれたのは加美町ひと・しごと推進課 菅原敏之さん。
東北新幹線仙台駅の隣駅の古川駅から車で20分ほどの加美町中心部には、1981年に開設された中新田バッハホールがある。パイプオルガンを備え、国内外から音響の素晴らしさが評価されている本格的クラシック専用ホールだ。市町村合併などの事情で利用が低迷していた時期もあったが、2011年に猪股洋文加美町長が就任し、中新田バッハホールを核とした音楽によるまちづくりに注力。無料コンサートが毎月開催され、小中学校の音楽活動も支えてきた。中新田バッハホールを拠点とする市民オーケストラも創設されている。

「上多田川小学校の廃校決定と合わせて、地域の方に利用の方法を検討していただきました。その中で教育施設としての提案があり、音楽関連の人材育成ができる機関を誘致して再利用する、という計画が作成されたのも自然な流れでした」(菅原さん)

国立音楽院は学校法人ではなく、音楽に関連する技術や資格への学びを提供する、いわば音楽関連職育成スクール。東京にある本校は50年以上の歴史があり、2021年度は360人ほどが学んでいる。
「国立音楽院はミュージシャン向けのカリキュラムも充実していますが、それ以上に楽器製作者や修繕をするリペアラー、育児教育につながる幼児リトミック指導員、介護を担う音楽療法士を育成している点が魅力でした。移住促進策としても、楽器製作者にふさわしい場所提供など必要な支援をイメージしやすく、また、音楽を用いた育児と介護は、住民の住み心地に直結します」(菅原さん)

町の中心部にある中新田バッハホール。加美町の音楽でのまちづくりは、2017年に地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞している(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

町の中心部にある中新田バッハホール。加美町の音楽でのまちづくりは、2017年に地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞している(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

国立音楽院東京本校。高校生は通信高校と提携して卒業資格を得られる。音楽大学に通いながらのダブルスクール生、社会人学生も多い。宮城キャンパスのほか鳥取県にも分校がある(写真提供/国立音楽院)

国立音楽院東京本校。高校生は通信高校と提携して卒業資格を得られる。音楽大学に通いながらのダブルスクール生、社会人学生も多い。宮城キャンパスのほか鳥取県にも分校がある(写真提供/国立音楽院)

若い移住者を支援する町と学校のセッション

加美町では、地域再生戦略交付金などを活用して旧校舎のリフォームと机などを準備。国立音楽院は加美町に使用料を支払う形で、2017年4月に宮城キャンパスが開校した。

町外からの移住者に対して、加美町では年間6万円(最長5年、30歳未満)の家賃補助を行なっている。希望者にはアルバイト先を紹介していて、「未成年の学生の代わりに、応募電話をすることもあります」(菅原さん)と、加美町の移住支援は親戚同様の温かさ。
その支援を軸に、国立音楽院も東京校以外の選択肢として宮城キャンパスへの移住を提示している。「音楽を学ぶうえで、生活コストが安いのはいいことです。また、当校はもとより不登校の生徒も受け入れています。都会より自然の中での学びの方が合う子どももいますから」(国立音楽院代表 新納智保さん)

学生の住まいは、町中心部の民間アパートを国立音楽院が紹介しているが、2022年度は中古で購入した社員寮を新たに学生寮としてオープンする予定だ。町の中心部からキャンパスまではバスで20分程度。学生は通学バスに加えて上多田川地区と市街地を結ぶ地域バスも利用できるようになっており、地域が学生の受け入れと応援に力を入れていることがわかる。

2021年度の生徒は61名。新型コロナ感染拡大の影響を受けて前年の80名より減少したが、次年度は増加を見込んでいる。
「生徒のうち約半数、29名は全国各地からの移住者です。国立音楽院のスタッフも含めて、町全体では2015年~2020年累計で244人が移住してくれました。人口減少傾向がすぐに増加に転じるわけではありませんが、移住者に10代が多いのは特筆すべき結果です」(菅原さん)

国立音楽院宮城キャンパス。草刈りなどを地元が協力してくれ、敷地内は綺麗に整備されている。学舎としてだけではなく、地域のコミュニティの場でもある(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

国立音楽院宮城キャンパス。草刈りなどを地元が協力してくれ、敷地内は綺麗に整備されている。学舎としてだけではなく、地域のコミュニティの場でもある(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

旧校舎をそのまま活用したキャンパスで伸びやかに学ぶ

旧上多田川小学校の校舎は1998年に建て替えられた。もともと児童数が少なく、複式学級(児童数が少ない学校で取り入れる2つ以上の学年を一つにした学級)を前提にした校舎だったため教室は3つのみだった。「柱、床、壁の状態はよく、ほとんどそのまま利用できました。学年別授業のための間仕切りも有効活用しています」(菅原さん)

エントランスホール。薪ストーブを設置した以外、建具は元の小学校のまま。エントランスホールで開く「月イチライブ」には地元の聴衆が駆けつける(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

エントランスホール。薪ストーブを設置した以外、建具は元の小学校のまま。エントランスホールで開く「月イチライブ」には地元の聴衆が駆けつける(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

国家資格であるピアノ調律技能士育成のための教室。防音ブースを置いただけだそう。東京本校には防音ブースがないが、宮城キャンパスでは他からの音に干渉されず繊細な音に没頭できる(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

国家資格であるピアノ調律技能士育成のための教室。防音ブースを置いただけだそう。東京本校には防音ブースがないが、宮城キャンパスでは他からの音に干渉されず繊細な音に没頭できる(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

ヴァイオリン製作科ではヴァイオリン、ヴィオラなど擦弦楽器(さつげんがっき)の製作・修理・調整を生徒たちが学んでいる。ヴァイオリン製作を本格的に教える学校は、日本では2校のみとのこと(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

ヴァイオリン製作科ではヴァイオリン、ヴィオラなど擦弦楽器(さつげんがっき)の製作・修理・調整を生徒たちが学んでいる。ヴァイオリン製作を本格的に教える学校は、日本では2校のみとのこと(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

ギターの製作室。各教室の窓外には豊かな自然が広がっている(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

ギターの製作室。各教室の窓外には豊かな自然が広がっている(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

管楽器のリペア室では授業が行われていた。この日はティンパニーが題材。あらゆる楽器をリペアできる人材の育成を目指している(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

管楽器のリペア室では授業が行われていた。この日はティンパニーが題材。あらゆる楽器をリペアできる人材の育成を目指している(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

音楽を身体で表現し感性や表現力を養う「幼児リトミック」の実習は、宮城キャンパス内や町内外の幼稚園・保育所・カルチャーセンターなどで行われている。福祉関係として、高齢者施設での音楽療法士を育成するコースもある(写真提供/国立音楽院)

音楽を身体で表現し感性や表現力を養う「幼児リトミック」の実習は、宮城キャンパス内や町内外の幼稚園・保育所・カルチャーセンターなどで行われている。福祉関係として、高齢者施設での音楽療法士を育成するコースもある(写真提供/国立音楽院)

スタッフも生徒も音楽演奏が大好き。バンド練習室は元校長室だった(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

スタッフも生徒も音楽演奏が大好き。バンド練習室は元校長室だった(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

21歳移住者「学んだ音楽の力で地域への貢献が実感できます」

北川日香里さん(21歳)は高校卒業後、国立音楽院東京校で管楽器のリペアを2年間学んだのち、2020年に加美町へ移住してきた。
「リペアを学び続けながら働きたいと考えていました。東京校で知った加美町の移住セミナーに参加してみて、地域の人と交流できる環境に興味を持ちました」と北川さん。加美町の地域おこし協力隊隊員に採用され、音楽による地域振興活動と、その活動の一環として宮城キャンパスでのリペア作業に携わる日々を送っている。

「地域おこし協力隊」は、国からの地域振興予算をもとに地域振興を担う人材を3年間登用し、給与を支払う制度。楽器の修理事業を根付かせたいという町の期待に対し、リペアラー修業を続けながら地域貢献を目指す北川さんは打ってつけの人材だった。

コロナ禍で苦戦した場面はあったが、北川さんは全世帯に配布される町内広報誌の作成や、「真夏の畑でライブ」を主催。地元の人から声を掛けられることも多いそう。「親しみを込めて話しかけてくれるのが嬉しいです。ライブ演奏も楽しんでもらえたし、自分の活動で音楽でのまちづくりが広がる実感が持てるのも、加美町の規模だからかも」(北川さん)

北川日香里さんは長崎県五島列島出身。中学校・高校の吹奏楽部時代に楽器修理が島内でできず、輸送費と待ち時間に悩まされたのがリペアラーになったきっかけ。ゆくゆくは地元の長崎で開業するのが夢(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

北川日香里さんは長崎県五島列島出身。中学校・高校の吹奏楽部時代に楽器修理が島内でできず、輸送費と待ち時間に悩まされたのがリペアラーになったきっかけ。ゆくゆくは地元の長崎で開業するのが夢(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

「宮城キャンパスでも、東京校と同じレベルの授業を提供しています」と宮城キャンパス長の宮内佳樹さん。「各学科の講師は、専門分野のプロフェッショナルです。東京校講師による出張講義もあり、オンライン授業の仕組みもコロナ禍以前から整備しています。都会では勉強以外の誘惑も多いので、学びに向き合う環境としてはこちらの方がまさっていると思います」(宮内さん)

宮城キャンパス長の宮内さん。さまざまなバンドやライブに参加するギタリストでもある。東京だけが音楽の場ではないと気づき、家族とともに東京から加美町に移住してきた(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

宮城キャンパス長の宮内さん。さまざまなバンドやライブに参加するギタリストでもある。東京だけが音楽の場ではないと気づき、家族とともに東京から加美町に移住してきた(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

「住まいのある町の中心地はスーパーもコンビニもあって、生活にはまったく支障がない」と話すのは管楽器リペア科講師の土生啓由さん。土生さんも東京校からの転勤組だ。「楽器店が身近にないのは残念な点です。高級品も含め完全に整備された楽器に触れる機会が少ないですから。ですが、生徒の数が東京校より少ない分、身近に生徒の成長を感じられるのが嬉しいです」

講師の土生さん。仕事に没頭すると昼食を抜くことも多いそうだが、「月に1回程度、地元の方が主宰してくれる交流ランチ会を生徒もスタッフも楽しみにしています。給食室で調理してくれる地元産の野菜が美味しいです」(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

講師の土生さん。仕事に没頭すると昼食を抜くことも多いそうだが、「月に1回程度、地元の方が主宰してくれる交流ランチ会を生徒もスタッフも楽しみにしています。給食室で調理してくれる地元産の野菜が美味しいです」(写真撮影/フォトスタジオクマ 熊谷寛之)

国立音楽院宮城キャンパスで定期的に行われている幼児リトミック教室は、親同士が子育ての悩みを相談できる大事な場。中高年を対象とした「若返りリトミック®」は楽しみながら運動イベントとして好評で、そのほか「地元とのランチ会」「月イチライブ」「クリスマスコンサート」は地域コミュニケーションの活性に繋がっている。

集客が制限されるなどコロナ禍の打撃は大きかったが、国立音楽院宮城キャンパス開校は、音楽による生き生きとした暮らしを実現しつつある。

加美町の菅原さんは、「これからは、卒業後の就労先を増やして移住を定着させていくことを頑張らなければなりません。楽器のリペア事業者の支援や、介護の音楽療法士・幼児リトミック指導員の活躍の場を広げていきたいです」と語る。

国立音楽院宮城キャンパスは2021年度で5年目を迎え、2022年3月で卒業する生徒(3年コース生)は3期生となる。
おうち時間に楽しむ楽器への需要が増え、2021年はショパンコンクールでの日本人上位入賞が話題となった。音楽に関連する仕事への気運が高まるなか、音楽での地域創生もますます期待していきたい。

●取材協力
・加美町
・国立音楽院宮城キャンパス

弾かないけど捨てられない! 使わなくなった“物置ピアノ”、よみがえらせるには?

お子さまに「習わせたい」と、思いきって購入したピアノ。ずっと弾き続けられればよいのですが、成長や独立などにともない、弾かれなくなることもしばしばあります。思い出がつまっているものだし売りたくない、しかし誰も弾かないのでピアノの上に荷物が積まれている……。そんな状況に陥っているご家庭もあるのではないでしょうか? 忘れそうなピアノを生き返らせるインテリア配置、そしてピアノの色を塗り替えたり、装飾を施したりしてインテリアとして生き返らせる「デザインピアノ」についてお伝えします。
弾かれない実家のピアノ 気がついたらピアノが物置になっていた!

使わなくなったピアノ、どうしますか? 「ピアノ 使わない」などのワードでウェブを検索すると「中古ピアノ買い取り」の会社がずらずらとヒットします。筆者の実家にも今はだれも弾いていないグランドピアノがあるので、母に売らないのかどうかを聞いてみたのですが、思い入れがあるようで、「決して手放さない」と一蹴されました。そんなことはつゆともしらず、のんきな妹(三女)がピアノの上にも下にも物をたくさん置いて、まるで便利な収納スペースに。部屋もピアノ部屋というよりは物置部屋といった様相で、見るも無残です。

大掛かりなリフォームができない場合や、使わないピアノを処分せず、暮らしやすい部屋をつくりたい場合、いったいどうすればよいのでしょうか。インテリアの工夫などについて専門家の方に聞きました。

「ピアノ・どーん!」でもストレスフリーに見せる家具の配置を考える

グランドピアノを購入された方の相談を受け、お部屋づくりに携わった経験をお持ちのインテリア・コーディネーター、水田恵子(みずた・けいこ)さんに、ピアノ部屋のインテリアについてお伺いしました。

新しく迎え入れるときには大きさが頼もしく感じられるピアノですが、弾かなくなったピアノは大きくて重い真っ黒なオブジェのようなもの。「ピアノを部屋に置く場合、黒くて大きなものが部屋のかなりのスペースを占めることになるので、まずバランスを考えねばなりません。特に、部屋の隅に置けるアップライトピアノとは異なり、グランドピアノはその部屋の主役です。残った空間に、他の家具はどれだけ置けるのか、その結果として日常生活をどのように成り立たせていくのか、こうしたことをよく考える必要があります」と水田さん。

カーテンは色味としてはシックで、光沢感のない無地の生地を使用し、ピアノに合ったシンプルなものを選択、ピアノの上のシャンデリアも、シャープでスッキリしたデザインのものに(画像提供/水田恵子さん)

カーテンは色味としてはシックで、光沢感のない無地の生地を使用し、ピアノに合ったシンプルなものを選択、ピアノの上のシャンデリアも、シャープでスッキリしたデザインのものに(画像提供/水田恵子さん)

グランドピアノとアップライトピアノでは、インテリアも変わるのでしょうか。「グランドピアノとアップライトピアノの違いに、インテリアの派手・地味は関係ないと思います。グランドピアノの場合はピアノが部屋の真ん中に来るので、ピアノ中心のインテリアになり、どうしても派手になりやすいでしょう。一方で、アップライトだと壁に寄せておくことが大半だと思いますので、グランドピアノに比べれば、ピアノを意識せずにインテリアをつくりやすいと思います」(水田さん)

「使わないピアノなら、色を塗り直すなどのリメイクをしたりして、現在の生活で有効に使うことも一案」と水田さん。「ピアノが弾けなくならないよう気をつけつつ、インテリア小物などをディスプレイする場所にするのも一つの方法です」とも教えてくださいました。

そこで、次にピアノをリメイクを実際に行っているかたのお話を伺うことにしました。

ピアノそのものをリメイクして新しいインテリアに 「デザインピアノ」

ピアノメーカーが集中し、生産がさかんな静岡県。湖西市にあるデザインピアノ工房は、依頼を受けたピアノ自体にデザインを施し、「魅せる」ピアノをつくっています。店長の荻野光彦(おぎの・みつひこ)さんに、ピアノのリメイクについてお話ししていただきました。

「ピアノは大きく存在感のあるものなので、お客様のインテリアの趣味や志向に合わせて選べたら、もっと素敵な空間をつくれます。部屋の隅でほこりをかぶっているピアノをよく見かけますが、そのピアノもご家族などからプレゼントされ、それぞれに思い出が詰まっているケースがほとんど。だから古くなっても今のインテリアに合うデザインにリノベーションして残したい人が多いものです」(荻野さん)。そんな思いから、デザインピアノのお仕事を始められたとのこと。現在までに、アップライトピアノを450台、グランドピアノ30台のリメイクを手掛けたそうです。

人気があるのは「白いピアノ」「猫脚のピアノ」など、幼いころ絵本で見て憧れたようなデザイン。真っ黒なピアノであっても真っ白に塗り替えることが可能だというので驚きです。ピアノには何重にも塗膜を重ねて塗装するため、色ムラがでることはないとのこと。また、椅子も脚をピアノと同色に塗装したり、座面をホワイトに張替えたりするリメイクが可能なため、ほとんどの方がピアノと椅子をセットでリメイクされるそうです。

デザインはお客様のお部屋を見て、相談しながら決めます。費用も塗り直し19万8000円~、飾り金具一つ8000円~などを組み合わせた結果、ピアノによってさまざまです。「ピアノは箱に入れてしまっておくことが出来る楽器ではありません。今後も楽器として使える『奏でるインテリア』としてお客様に提案しています」(荻野さん)

人気のある白いピアノ。左の古い真っ黒なピアノが右のように白く生まれ変わる(画像提供/デザインピアノ工房) 

人気のある白いピアノ。左の古い真っ黒なピアノが右のように白く生まれ変わる(画像提供/デザインピアノ工房) 

荻野さんのこれまでのお仕事で印象に残っているのは、「亡くなった母の好きだったひまわりの絵を描いてもらいたい」という依頼だそうです。「スペースの問題など、各家庭にそれぞれの事情があると思いますが、リメイクすることで、新たなピアノライフの始まりになるとよいですね」(荻野さん)

思い出のひまわりを描いたピアノ(画像提供/デザインピアノ工房) 

思い出のひまわりを描いたピアノ(画像提供/デザインピアノ工房) 

ピアノをリメイクしてその時代に合ったデザインにしていけば、次の世代に受け渡すことが可能だと言う荻野さん。ピアノリメイクの意義は「物を大切にする気持ちを尊重し、思い出を守り、想いをつないでいくこと」だと語ってくださいました。

物置部屋と化す前に、ピアノがある暮らしを考え直そう

以上のように、インテリアの工夫、ピアノそのもののリメイクなど、ピアノの延命策やピアノ部屋の改装には、いくつかの方法があることが分かりました。そのうえで水田さんは「お客様のお話をよく聞いたうえで、もし処分するほうのメリットが大きければ、処分するようにアドバイスをすることもありえるでしょう」と言います。たしかに、処分したピアノが誰かの手に渡ってまた弾かれるのであれば、それもまたピアノがつなぐ縁だといえます。

筆者の実家、ほぼ物置部屋と化したピアノ部屋。こうならないために早めの対策を(写真撮影/近藤智子)

筆者の実家、ほぼ物置部屋と化したピアノ部屋。こうならないために早めの対策を(写真撮影/近藤智子)

例えば筆者の実家のピアノ部屋はリビングの横にあり、以前は亡くなった祖父の部屋でした。妹(次女)が専門的に音楽に取り組むことになったため、畳の和室はフローリングの洋室へとリフォームされ、それまでのピアノが処分され、新しいピアノがやってきました。が、その妹も大学入学と同時に実家を出て、それ以来、鍵盤はほとんど叩かれることがありません。

それでも家族の思い出の詰まったピアノ。これからまた誰かが弾き始めないとも限りません。カーテンを開けて光を入れ、部屋を片付けて、そのうえで、どんなふうにピアノ部屋をつくり直し、ピアノと付き合うのが我が家にふさわしいのかを、一度考えてみたいと思います。

●取材協力
・デザインピアノ工房
・水田恵子(Office SPIRAL)

初めての宅録 部屋づくりも楽しい

歌ったり楽器を演奏したりすることを趣味にしている人なら、一度くらいは「録音してみたい」と思ったことがあるのではないのでしょうか。録音作業を自宅で行う「宅録」。意外に知られていないその実態と、注意点を紹介します。
宅録機材にはどんなものがある? 楽器店で聞いてきた

以前は自宅で演奏を録音する「宅録」といえば高価な機材が必要でしたが、最近はPC作業だけで完結する「DTM(デスクトップミュージック)」がさかんです。DTMは20年以上も前から存在していましたが、いまは以前とは様変わりし、PCのソフト上でカラオケ伴奏を「打ち込」んで演奏させたり、それを聴きながらマイクや楽器をつないで録音したりすることも手軽にできるようになったといいます。

そんな宅録機材の現状を知るため、新宿東口にある山野楽器 ロックイン新宿 デジタル&エフェクター館に伺いました。営業中の店内で、フロアリーダーの高橋俊明(たかはし・としあき)さんと松森大修(まつもり・だいすけ)さんが機材一つひとつについて教えてくださいました。

自分で演奏した音を録音するのに必要なのは、PCと「オーディオインターフェース」。PCは特別なものではなく、普段使っているものでかまいません。音楽用のソフトをインストールしておく必要がありますが、フリーソフトでもよいとのこと。オーディオインターフェースにはソフトが付属していることが多いので、オーディオインターフェースと、音をモニターする(聴く)ためのイヤフォンもしくはヘッドフォンを用意すれば、すぐに宅録を始めることができます。

オーディオインターフェースは、マイクや楽器をつなぐことでPCにつながり、録音を可能にする機材。PCとはUSBで接続します。つなげるスピーカーや楽器の数、スペックによってさまざまな種類がありますが、安いものはいまでは1万円を切っているそうです。

「マイクだけをつなげて歌うだけならこれで十分。『歌ってみた』動画をアップする人などに人気です。この10年ほどで、録音用機材は利用者が増えてずいぶん値下がりし、入手しやすくなりました」(松森さん)

オーディオインターフェース売り場。大小さまざまな種類のものがある(写真撮影/近藤智子)

オーディオインターフェース売り場。大小さまざまな種類のものがある(写真撮影/近藤智子)

マイクは「ダイナミックマイク」あるいは「コンデンサーマイク」と呼ばれるものを使います。特に「コンデンサーマイク」は繊細でキレイな音で収音できるので、より録音向けに特化されています。これをつなぐときに使用するケーブルによっても音の質は変わってくるそうです。

レッツ・トライ! 目指す音楽があれば宅録はうまくいく

松森さんによれば、宅録で必要なのは「どんな音楽を録音したいのか」という理想をはっきりもつこと。それによって必要なものも変わってきますし、お店のほうでも何をすすめるべきか判断しやすいそうです。

コンデンサーマイクもさまざま(写真撮影/近藤智子)

コンデンサーマイクもさまざま(写真撮影/近藤智子)

「だいたい10万円くらいあればひと通りの器具はそろいます。マイクやヘッドフォンも高ければよい、というわけではありませんし、すべてを同じメーカーでそろえる必要もありません。最初は低価格のもので試してみてください」

お話を聞いている間も、何人ものお客さんが来店。それぞれ年代や見ている商品が異なり、「宅録」をする人たちの層の厚さが感じられました。いまはデータのやり取りもメールででき、バンドメンバーがそれぞれ自分のパートを録音して送れば、集まらなくても楽曲が完成します。宅録は今後もさらに進化していきそうです。

「ただし、集合住宅などで宅録をすると、時間によっては近所迷惑になってしまいますので、その点には気をつけてください」(松森さん)

宅録をしている人はどんな人?

実際に宅録をしている人のお話を聞くために向かったのは、神奈川県の海に近い街。36歳の会社員Mさんは高校時代からギターを始め、大学生のときには軽音楽部に所属、社会人になってからもバンドを継続していたという音楽好きの男性です。現在は一戸建てに妻と2人で暮らしています。Mさんがいちばん音楽に情熱を捧げていた時期は25歳から30歳ごろまで。主にインストゥルメンタルを演奏するバンドを中心に活動していたそうです。

宅録を始めたのは社会人になったころ。「エフェクターを買ったらおまけで簡易宅録ソフトがついてきたので試しに使ってみたところ、自分のPCではうまくいかなかったのです。それで、2万円くらいの初心者用をつい購入してしまいました」(Mさん)。これをきっかけにMさんの宅録生活はどんどん深まっていきますが、特にCDを制作したり、ネット配信をしたりといったことには関心がなかったそうです。

Mさん所有の宅録機材。左:楽器とスピーカー。右:コンデンサーマイク(画像提供/Mさん) 

Mさん所有の宅録機材。左:楽器とスピーカー。右:コンデンサーマイク(画像提供/Mさん) 

「打ち込みをしたり、フリー素材でサンプリング音源を組み合わせて楽しんだりして、それだけで満足していました。自分1人でできますし、録音すること自体が楽しかったので。作った曲は内輪向けの『分析戦隊アナライザー』とか(笑)それを友人たちに聞かせる程度で十分でした」(Mさん)

「あまり高価な機材は購入したことがありません。ソフトはサンプリング用のシリーズの物を買い、そのほかに『Pro Tools』というソフトのフリー版を使っていました。PCも、アーティストはMacのPCを使っているイメージが強いかもしれましたが、普段と同じWindowsを使っていました」(Mさん)

宅録は「宅録部屋」をつくるのも楽しい

Mさんは、一戸建て住宅の6畳の部屋を録音用にしていて、窓のガラスに100円ショップで買ってきたフィルムを貼っています。防音用ではなく防寒用のものですが、これがなかなか役に立つとのこと。もちろん防音室には到底及びませんが、数百円でもできる工夫があることにおどろきました。しかも、このシートはキンキンした高音を吸収してくれるのだそうです。

「最近はダンボールの防音室が販売されているようで気になっています。でも、100均のシートもよく役に立ってくれていて便利です。機材も安くなっていますし、宅録は本当に身近になったと思います」(Mさん)

Mさんは「宅録に興味がある人には、とりあえず始めてみてほしいです」と言います。ソフトがあれば音のずれなどを修正してくれるため、生音が完ぺきでなくてもそれなりに仕上がる気軽さがあって、録音は楽しいと教えてくださいました。

機材を並べた宅録部屋。うしろにシートが貼られている(画像提供/Mさん)

機材を並べた宅録部屋。うしろにシートが貼られている(画像提供/Mさん)


「100均のシートではなく、段ボールに卵パックを貼り付けたものを窓に貼ることでも防音できますよ。宅録の趣味は、部屋づくりの楽しさもありますから、気軽に挑戦してみてください」(Mさん)

Mさんに教わったダンボール製の防音室について後日調べたところ、たしかに防音室としては低価格の8万円台から販売されていました。もっとも、Mさんのように一戸建てに住んでいて、100均のシートで防音できるなら、特別な防音室を購入する必要はないように感じます。しかし手軽にできる宅録の防音は完ぺきではない場合もありますので、ご近所との関係には厳重な注意が必要です。

Mさんにいままで宅録に費やした総額を伺ってみたところ、「コンデンサーマイクやケーブル、ミキサーなど、楽器以外で30万円くらいでしょうか」と教えてくださいました。凝りすぎなければ、宅録は安価で楽しむことができそう。「結婚しましたし、仕事も忙しくなったのでいまは宅録から少し離れていますが、落ち着いたらまた始めたいですね」(Mさん)

「DTM」といえばかつてはオール打ち込み型のイメージで、自宅で歌って演奏して録音まで行うのは困難でした。けれども、現在ではPCを使った宅録事情は進化しており、YouTuberの出現もあり、着実に変わり、敷居も下がってきているようです。

音楽好きな人は試しに一度録音にチャレンジして、自分の表現を発表してみてはいかがでしょうか。ただしその際は、しっかりと防音の工夫をして、近所迷惑にならないようにくれぐれも気をつけてください。

●取材協力
・山野楽器 ロックイン新宿 デジタル&エフェクター館

音楽好きなら見逃せない! 24時間演奏可能な賃貸マンション「ミュージション」の魅力【名物賃貸におじゃまします(2)】

マンションはどうして似たようなデザイン、構造のものが多いんだろう。そう考えている人は案外多いのではないでしょうか。しかし、よく探してみれば、日本にもそんな先入観を吹き飛ばす個性的な集合住宅が見つかります。

今回は、音楽愛好者のための賃貸マンション、「ミュージション」を訪ねました。

【連載】名物賃貸におじゃまします
斬新なデザインや仕掛けをしている賃貸住宅=名物賃貸を紹介する連載です。失敗を糧に技術を向上、収益の柱へと成長

歌を歌う人、楽器を演奏する人、オーディオ愛好家、音響エンジニア……。音楽を楽しみ、あるいは仕事としている人たちにとって防音は大きな課題です。一戸建てならまだしも、集合住宅となれば、気を使うことも多くなります。

そうしたなか、注目されているのが「ミュージション」。徹底して遮音性能を高め、すべての部屋を24時間演奏可能にした賃貸マンションです。現在、東京、埼玉、神奈川に現在13棟があり、どれも人気を集めています。

「実はミュージションは大失敗したところから始まったんです」と語るのは、株式会社リブランマインドのミュージション事業部で賃貸セクションの部長を務める山下大輔(やました・だいすけ)さん。

「30年ほど前、当社は東京・板橋区にマンションを建設、住居スペースのほかに半地下のスタジオを設置しました。しかし、防音を徹底したつもりが、いざ使ってみると、音が住居スペースに響き、結局スタジオは使えなくなりました。調べてみると下水管を通じて音が伝わっていたことが分かりました」(山下さん)

この反省をもとに技術レベルを高め、2000年に建設したのが、「ミュージション川越」です。全63 戸すべてを遮音仕様にし、24時間楽器演奏できるマンションにしたところ、予想以上の好評を得ました。これに励まされて2005年には「ミュージション志木」を建設。この2つの物件はデザイン面でも高く評価され、いずれもグッドデザイン賞を受賞しています。

やがてミュージションの魅力に気づいた地主から、土地を提供されての建設が増えていきます。なぜならミュージションの場合、音楽の環境に引かれて入居者が集まるため、土地の条件にあまり左右されない強みがあるからです。

例えば「ミュージション登戸」は、地主から北向きの建物しかつくれない土地の活用を相談され、建設に至りました。こうして次々にミュージションは数を増やし、現在、同社の収益の柱の一つにまで育ちました。

新築されたばかりの「ミュージション門前仲町」。初期のミュージションは1Kタイプの部屋だけだったが、新しい物件では1LDKも増やしている(写真撮影/織田孝一)

新築されたばかりの「ミュージション門前仲町」。初期のミュージションは1Kタイプの部屋だけだったが、新しい物件では1LDKも増やしている(写真撮影/織田孝一)

徹底的に音が漏れない工夫を重ねる

ミュージションの遮音性能は、特定の技術によるものではなく、さまざまな工夫を積み重ねた成果です。

「まずコンクリートの躯体自体を厚くしています。また部屋で出した音がコンクリートに伝わらないように、部屋の外周部分に10数センチの空気層を設けました。またサッシは二重、ドアはゴムで隙間をなくして音が漏れないようにしています」(山下さん)

ただ、遮音を徹底したため、非常ベルを普通のマンションのように共用廊下に設置すると聞こえません。そこで行ったのが「一部屋ごとに非常ベルを配置すること」だそう。

「また部屋が密閉されて空気が流れにくいため、各部屋に換気口を設け、換気口の空気が流れる先には消音器を付けました」(山下さん)

このほかにも小さな工夫が数多くあり、建設会社が使うミュージション仕様にするためのチェック項目は数百におよぶそうです。従って建設コストは一般の同規模のマンションに比べ、1割くらいは高くなります。それに伴い、家賃もやや高めに設定されるそう。

山下さんが指差す先には非常ベル。共用スペースではなく、各部屋に取り付けられている。山下さんはロックバンドのドラマーだった経験をもつ(写真撮影/織田孝一)

山下さんが指差す先には非常ベル。共用スペースではなく、各部屋に取り付けられている。山下さんはロックバンドのドラマーだった経験をもつ(写真撮影/織田孝一)

サッシは二重で音漏れを減らしている(写真撮影/織田孝一)

サッシは二重で音漏れを減らしている(写真撮影/織田孝一)

ドアの隙間もゴムの目張りを施し、防音性を高めている(写真撮影/織田孝一)

ドアの隙間もゴムの目張りを施し、防音性を高めている(写真撮影/織田孝一)

クローゼットの天井に見える換気口。密閉度の高い部屋であるため、換気口で空気の循環をつくっている (写真撮影/織田孝一)

クローゼットの天井に見える換気口。密閉度の高い部屋であるため、換気口で空気の循環をつくっている (写真撮影/織田孝一)

ミュージションに住み、人生が変わった人も

では、ミュージションの入居者はどんな人たちなのでしょうか。筆者は、音大生が多いのでは、と予想していたのですが、学生は学校で演奏や練習ができるからか、むしろ少ないとのことです。

「入居者層の中心は20代から30代の社会人層です。ピアノやブラスバンドの経験のある人、ロックバンドを組んでいた人、歌を歌っていた人などで、社会人で活動を続ける人はたくさんいます。また社会人になってから音楽を始める人も少なくない。

その人たちが趣味で音楽を楽しもうとしても、練習の場がない、仕事で帰宅が遅く、自宅で音を出せないといったことはよくあります。そこで、24時間演奏可能なミュージションに注目が集まったのでしょう」(山下さん)

珍しい例としては年配の男性で、妻に先立たれ、昔からやりたかったピアノをやろうと、自宅を人に貸してミュージションに引越してきた人がいるそうです。

パソコンなどで作曲、音楽制作をする人も増えています。また、PA(ライブなどで音の調整)、レコーディングなどの音響エンジニア、音楽教室の運営者、オーディオや映像の愛好家などもいます。

「100万円かけて自宅の部屋をホームシアター化したものの、木造家屋なので音量を上げられない、とミュージションに移られた方もいました」(山下さん)

また、ミュージションが、入居者の心に影響を与えた例もあったそう。

「『ミュージションに住んで人生が変わった』と言ったお客様がいました。歌うのが好きな方ですが、音楽以外の仕事をもち、好きなことにもう一歩踏み出せずにいたとのこと。それがミュージションに住み、好きな時間に歌を歌えるようになり、ボーカルレッスンにも通い始め、自信がもてるようになったというのです」

ミュージションに住んでいた方が、引越すことになり、転居した先が別のミュージションというケースも。「『ミュージション以外には住めない』、というんです。その方も歌を歌う方でしたが、一日の仕事が終わり、今晩は何を歌おう、と考えながら帰宅するのが楽しい、と」

仕事を求めて東京へ。それを機にミュージションに入居

実際の居住者に話を聞いてみました。音響エンジニアの久保浩巳(くぼ・ひろみ)さんは、現在「ミュージション東日本橋」に住んでいます。

長く実家のある大阪で仕事をしていましたが、圧倒的に市場の大きい東京で仕事をすることを決心し、2017年4月に東京に移りました。

久保さんはフリーランスなので、自宅での作業が多く、音を出しても問題のない住居が必要です。大阪では実家にいて、音を出すことについての問題はありませんでしたが、東京でもそれが可能な環境を獲得しなくてはなりませんでした。

「実はかなり前からミュージションの存在はネットで知っていました。それで東京で住むならミュージションと考えていました」(久保さん)

株式会社リブランマインドの須永輝毅(すなが・てるき)さんが久保さんの担当となり、2017年3月に竣工したばかりの「ミュージション東日本橋」に入居しました。「駅から近く、都心なので久保さんの仕事に関係する拠点に近いのも利点です」と須永さんは話します。

趣味のギターを手に、音響エンジニアの久保浩巳さん。自動車整備士だったが音楽好きが高じて音響エンジニアに転じた(写真撮影/織田孝一)

趣味のギターを手に、音響エンジニアの久保浩巳さん。自動車整備士だったが音楽好きが高じて音響エンジニアに転じた(写真撮影/織田孝一)

久保さんは実際の物件を見て、防音性能は間違いないと確信できたそうです。

「仕事の上では200ボルトの電源もうれしいですね。海外の機器では100ボルトでは足りない場合もありますから」(久保さん)

久保さんは今、アマチュアから一流の人気ミュージシャンまで、幅広いアーティストのレコーディングやミキシングをここで行い、順調に仕事量を増やしています。

室内に設置された久保さんの仕事用機材。スピーカー、D/Aコンバーター、レコーダーなど。ヘッドフォンでは低音が聞こえにくいなど、違って聞こえるので、ある程度大きな音を出さないとこの仕事はできないそうだ (写真撮影/織田孝一)

室内に設置された久保さんの仕事用機材。スピーカー、D/Aコンバーター、レコーダーなど。ヘッドフォンでは低音が聞こえにくいなど、違って聞こえるので、ある程度大きな音を出さないとこの仕事はできないそうだ (写真撮影/織田孝一)

久保さんの入居する「ミュージション東日本橋」のエントランスにて須永輝毅さん。須永さんも趣味でバンド活動の経験がある。このようにミュージション事業では社員の多くに音楽の経験があるのも強みになっている。(写真撮影/織田孝一)

久保さんの入居する「ミュージション東日本橋」のエントランスにて須永輝毅さん。須永さんも趣味でバンド活動の経験がある。このようにミュージション事業では社員の多くに音楽の経験があるのも強みになっている。(写真撮影/織田孝一)

ミュージションはコミュニティづくりにも熱心なのが大きな特徴です。「『ミュージションズクラブ』という組織をつくり、居住している方々を中心に親睦、交流をはかっています。カラオケ大会やセッションイベントを行い、毎年10月には上野野外音楽堂を貸し切って、『東京ヒマつぶし音楽祭』というイベントをしています。このほかフットサル大会や登山など、音楽とは異なる企画も開催しています」(山下さん)

家でも音楽を楽しみたいという需要に特化し、ハード面の強化によって実現したミュージション。それは今、人的交流や創造活動の促進といったソフト面の充実にもつながりつつあります。今後の集合住宅の一つの可能性を示しているようです。

●取材協力
・株式会社リブランマインド