今「ローカル飲食チェーン」が熱い。元 『秘密のケンミンSHOW』リサーチャーが注目する7社

全国的な知名度はないけれど、局地的に絶大な支持を受ける「ローカル飲食チェーン」が今、注目されています。その理由とは? 元『秘密のケンミンSHOW』 リサーチャーであり、全国7都市を取材した新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』の著者・辰井裕紀さんに、愛される秘訣を伺いました。

なぜ今「ローカル飲食チェーン」が注目されるのか

このところ、「ローカル飲食チェーン」がアツい盛り上がりを見せています。「ローカル飲食チェーン」とは、全国展開をせず限定したエリアのなかだけで支店を広げる飲食店のこと。マクドナルドや吉野家のように全国的な知名度はありません。けれども反面「地元では知らぬ者なし」なカリスマ的人気を誇ります。

この局地的なフィーバーぶりは人気テレビ番組『秘密のケンミンSHOW 極』(読売テレビ・日本テレビ系)でたびたびとりあげられ、紹介されたチェーン店はもれなくSNSでトレンド入り。さらに注目度が高まり、雑誌はこぞって「全国ローカル飲食チェーンガイド」を特集するほど。

(画像/イラストAC)

(画像/イラストAC)

そのような中、ついに決定打とおえる書籍が発売されました。それが『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)。豚まんやカレーライス、おにぎりなどなど、創意工夫を積み重ねた味とサービスで地元の期待に応え、コロナや震災などの逆境にも耐え抜いた全国7社の経営の秘密を明らかにした注目の一冊です。

地元に愛される7社を解剖した話題の新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)(写真撮影/吉村智樹)

地元に愛される7社を解剖した話題の新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)(写真撮影/吉村智樹)

著者はライターであり、かつてテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」のリサーチャーとして全国各地のネタを集めた千葉出身の辰井裕紀さん(40)。

話題の新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』著者、辰井裕紀さん(写真撮影/吉村智樹)

話題の新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』著者、辰井裕紀さん(写真撮影/吉村智樹)

夢かうつつか幻か。わが街にはいたるところにあるのに、一歩エリア外へ出れば誰も知らない。反対に自分の県には一軒もないのに、お隣の県へ行けば頻繁に出くわす、不思議なローカル飲食チェーン。この謎多き業態の魅力とは? 地元に愛される秘訣とは? 著者の辰井さんにお話をうかがいました。

前代未聞。 「ローカル飲食チェーン」の研究書が登場

――辰井さんが初めて上梓した新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』は実際に自らの足で全国を巡って取材した労作ですね。この書籍の企画が生まれたいきさつを教えてください。

辰井裕紀(以下、辰井):「以前からTwitterで“飲食チェーンに関するツイート”をよくしていたんです。『こんなにおいしいものが、こんなに安く食べられるなんて』など、外食にまつわる喜びをたびたびつぶやいていました。それをPHP研究所の編集者である大隅元氏がよく見ていて、『ローカル飲食チェーンの本を出さないか』と声をかけてもらったんです」

――Twitterで食べ物についてつぶやいたら書籍の書き下ろしの依頼があったのですか。夢がありますね。しかし全国に点在する飲食チェーンですから、実際の取材や執筆は大変だったのでは。

辰井:「大変でした。資料を参考にしようにも、ローカル飲食チェーンについて考察された本が、過去にほぼ出版されていなかったんです。あるとすればサイゼリヤや吉野家のような全国チェーンにまつわる本ばかり。類書どころか先行研究そのものが少ないので引用ができず、苦労しました」

――確かに全国のローカル飲食チェーンだけに絞って俯瞰した書籍は、私も読んだ経験がありません。では、どのように事前調査を行ったのですか。

辰井:「国会図書館やインターネットで文献や社史にあたったり、取り寄せたり。地元でしか得られない文献は現地まで行って入手しました」

一次資料を得るためにわざわざ全国各地へ足を運んだという辰井さん(写真撮影/吉村智樹)

一次資料を得るためにわざわざ全国各地へ足を運んだという辰井さん(写真撮影/吉村智樹)

――現地まで行って……。ほぼ探偵じゃないですか。骨が折れる作業ですね。

辰井:「調べられる限り、ぜんぶ調べています」

自ら選んだ「強くてうまい!」7大チェーン

――新刊『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』では北海道の『カレーショップインデアン』 、岩手『福田パン』、茨城『ばんどう太郎』、埼玉『ぎょうざの満洲』、三重『おにぎりの桃太郎』、大阪『551HORAI』、熊本『おべんとうのヒライ』の計7社にスポットライトがあたっています。この7社はどなたが選出なさったのですか。

 『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』に選ばれた全国7社(写真撮影/辰井裕紀)

『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』に選ばれた全国7社(写真撮影/辰井裕紀)

辰井:「自分で選びました。【お店として魅力があるか】【行けばテンションが上がるか】【独自のサービスを受けてみたいか】、そういった『秘密のケンミンSHOW』で取り上げるようなポップな面と、ビジネス的に注目できる面とがうまく両輪で展開している点で、『この7社だ』と」

――メニューやサービスのユニークさと経営の成功を兼ね備えた、まさに「強くてうまい!」企業が選ばれたのですね。

辰井:「その通りです」

客が鍋持参。 「車社会」が生みだした独特な食習慣北海道・十勝でチェーン展開する『カレーショップインデアン』(写真撮影/辰井裕紀)

北海道・十勝でチェーン展開する『カレーショップインデアン』(写真撮影/辰井裕紀)

――この本を読んで私が特にビックリしたのが、北海道・十勝を拠点とする『カレーショップインデアン』(以下、インデアン)が実施している「鍋を持ってくればカレーのルー※1が持ち帰られる」サービスでした。どういういきさつで生まれたサービスなのですか。

※1……インデアンではカレーソースのことを「ルー」と呼ぶ

『カレーショップインデアン』のカレー。年間およそ280万食が出るほどの人気(写真撮影/辰井裕紀)

『カレーショップインデアン』のカレー。年間およそ280万食が出るほどの人気(写真撮影/辰井裕紀)

鍋を持参すればカレーのルーをテイクアウトできる(写真撮影/辰井裕紀)

鍋を持参すればカレーのルーをテイクアウトできる(写真撮影/辰井裕紀)

辰井:「鍋持参のテイクアウトは約30年前から始まったサービスです。お客さんから『容器にくっついたカレーのルーがもったいないから鍋を持参してもいいか』と要望があったのがきっかけだとか。加えて当時はダイオキシンが社会問題となり、なるべくプラスチック容器を使わない動きがありました。そこで誕生したのが、インデアンの鍋持参システムです」

――鍋持参のテイクアウトは30年近くも歴史があるんですか。十勝にそんな個性的な習慣があったとは。

辰井:「おそらく、十勝が鍋を持っていきやすい車社会だから、定着したサービスなのでしょうね」

農地が広がる十勝は車社会。だからこそ「鍋持参」の習慣が定着したと考えられる(写真撮影/辰井裕紀)

農地が広がる十勝は車社会。だからこそ「鍋持参」の習慣が定着したと考えられる(写真撮影/辰井裕紀)

――なるほど。さすがに電車やバスで鍋を持ってくる人は少ないでしょうね。そういう点でも都会では実践が難しい、ローカルならではの温かい歓待ですね。

辰井:「インデアンはほかにも『食べやすいようにカツを小さくして』と言われたカツカレーが、極小のひとくちサイズになって定番化するなど、お客さんの声を吟味して取り入れます。ローカル飲食チェーンは商圏が狭いからこそ、お客さんに近い存在ですから」

総工費1億5000万円の屋敷で非日常体験お屋敷のような造りの『ばんどう太郎』。駐車場も広々(写真撮影/辰井裕紀)

お屋敷のような造りの『ばんどう太郎』。駐車場も広々(写真撮影/辰井裕紀)

店内にはなんと精米処があり、炊きあげるぶんだけ毎日精米している(写真撮影/辰井裕紀)

店内にはなんと精米処があり、炊きあげるぶんだけ毎日精米している(写真撮影/辰井裕紀)

――車社会といえば、茨城の『ばんどう太郎』にはド肝を抜かれました。ロードサイドに忽然と巨大なお屋敷が現れ、それが和食のファミレスだとは。

辰井:「『ばんどう太郎』の建物は車の運転席からも目立つ造りになっています。総工費は一般的なファミレスの倍、およそ1億5000万円もの巨費を投じているのだそうです。さらに店の中に精米処があり、新鮮なごはんを食べられますよ」

――夢の御殿じゃないですか。

具だくさんな看板商品「坂東みそ煮込みうどん」(画像提供/ばんどう太郎 坂東太郎グループ)

具だくさんな看板商品「坂東みそ煮込みうどん」(画像提供/ばんどう太郎 坂東太郎グループ)

辰井:「看板商品の『坂東みそ煮込みうどん』は旅館のように固形燃料で温められた一品です。生たまごを入れ、黄身や卵白に火が通ってゆく過程を楽しみながら味わえます。旬の野菜から肉、キノコまでたっぷりの具材が入っていて、褐色のスープですから『鍋の底にはなにがあるんだろう?』と、闇鍋のように掘り出す楽しさまであります」

――ファミレスというより、非日常を体感できるテーマパークのようですね。

辰井:「駐車場が広くて停めやすく、店内のレイアウトがゆったりしていますし、接客のリーダー『女将さん』がいるのもプレミアム感があります。広々と土地を使えるロードサイド型のローカル飲食チェーンならではのお店ですね」

割烹着姿の「女将さん」と呼ばれる接客のリーダーが客に安心感を与える(写真撮影/辰井裕紀)

割烹着姿の「女将さん」と呼ばれる接客のリーダーが客に安心感を与える(写真撮影/辰井裕紀)

――『ばんどう太郎』で食事する経験自体がドライブ観光になっているのですね。楽しそう。ぜひ訪れてみたいです。

辰井:「坂東みそ煮込みうどんは関東人に合わせた絶妙な味わいで、私は何度でも食べたいです」

お弁当屋さんの概念をくつがえす店内の広さ

――ロードサイド展開といえば、熊本『おべんとうのヒライ』にも驚きました。お弁当屋さんとは思えない、大きなコンビニくらいに広い店舗で、スーパーマーケットに迫る品ぞろえがあるという。この業態は駐車場があるロードサイド型店舗でないと無理ですよね。

コンビニなみに品ぞろえ豊富な『おべんとうのヒライ』(写真撮影/辰井裕紀)

コンビニなみに品ぞろえ豊富な『おべんとうのヒライ』(写真撮影/辰井裕紀)

辰井:「自家用車での移動がひじょうに多い街に位置し、広いお総菜コーナーがあります。なので、『ついでに買っていくか』の買い物需要に応えられるんです。さらに店内にはその場で調理したものが食べられる食堂もあります。地方には実はこんな中食(なかしょく)※2・外食・コンビニが三位一体となった飲食チェーンが点在しているんです」

※2中食(なかしょく)……家庭外で調理された食品を、購入して持ち帰る、あるいは配達等によって、家庭内で食べる食事の形態。

――お弁当屋さんの中で食事もできるんですか。グルメパラダイスじゃないですか。

辰井:「特に『おべんとうのヒライ』の食事は安くてうまいんですよ。なかでも“大江戸カツ丼”がいいですね。一般的なカツを煮た丼と違い、揚げたてのカツの上に玉子とじをのせるカツ丼で。衣がサクサク、玉子はトロトロで食べられます。『この価格で、こんなにもハイクオリティな丼が食べられるのか』と驚きました。たったの500円ですから」

カツを煮込まず玉子とじをのせる独特な「大江戸カツ丼」(写真撮影/辰井裕紀)

カツを煮込まず玉子とじをのせる独特な「大江戸カツ丼」(写真撮影/辰井裕紀)

――安さのみならず、独特な調理法で食べられるのが魅力ですね。

辰井:「そうなんです。小さなカルチャーショックに出会えるのがローカル飲食チェーンの醍醐味ですね。どこへ行っても同じ食べ物しかないよりも、『あの県へ行ったら、これが食べられる』ほうが、おもしろいですから」

「あの県へ行ったら、これが食べられる」。このエリア限定感がローカル飲食チェーンの醍醐味だと語る辰井さん(写真撮影/吉村智樹)

「あの県へ行ったら、これが食べられる」。このエリア限定感がローカル飲食チェーンの醍醐味だと語る辰井さん(写真撮影/吉村智樹)

旅先で出会える「小さなカルチャーショック」が魅力愛らしい桃太郎のキャラクターが迎えてくれる『おにぎりの桃太郎』。ただいまマスク着用中(写真撮影/辰井裕紀)

愛らしい桃太郎のキャラクターが迎えてくれる『おにぎりの桃太郎』。ただいまマスク着用中(写真撮影/辰井裕紀)

混ぜごはんのおにぎり、その名も「味」(写真撮影/辰井裕紀)

混ぜごはんのおにぎり、その名も「味」(写真撮影/辰井裕紀)

――カルチャーショックを受けた例はほかにもありますか。

辰井:「ありますね。たとえば三重県四日市の飲食チェーン『おにぎりの桃太郎』には『味』という名の一番人気のおにぎりがあります。『味』は当地で“混ぜごはん”を意味しますが、そのネーミングがまず興味深いですし、地元独特の味わいが楽しめました」

――おにぎりの名前が「味」ですか。もうその時点で全国チェーンとは大きな感覚の違いがありますね。

辰井:「ほかにも『しぐれ』という、三重県北勢地区に伝わるあさりの佃煮を具にしたおにぎりも、香ばしくて海を感じました」

ご当地の味「あさりのしぐれ煮」のおにぎり(写真撮影/辰井裕紀)

ご当地の味「あさりのしぐれ煮」のおにぎり(写真撮影/辰井裕紀)

――ローカル飲食チェーンが「地元の食文化を支えている」とすらいえますね。

辰井:「そんな側面があると思います」

ローカル飲食チェーンに学ぶ持続可能な社会

――カルチャーショックといえば『おべんとうのヒライ』の、ちくわにポテトサラダを詰めて揚げた「ちくわサラダ」は衝撃でした。

ちくわの穴にポテトサラダを詰めた「ちくわサラダ」(写真撮影/辰井裕紀)

ちくわの穴にポテトサラダを詰めた「ちくわサラダ」(写真撮影/辰井裕紀)

辰井:「もともとはポテトサラダの廃棄を減らす目的で生まれた商品ですが、いまでは熊本で愛されるローカルフードになりましたね。ワンハンドで食べやすく、一本でも充分満足感があります」

――おいしそう! 自分でもつくれそうですが、それでもやはり熊本で食べたいです。食品の廃棄を減らすため、一つの店舗のなかで再利用してゆくって、ローカル飲食チェーンはSDGsという視点からも学びがありますね。

辰井:「ありますね。たとえば大阪の『551HORAI』ではテイクアウトで売れる約65%が豚まん、約15%が焼売なんです。どちらも“豚肉”と“玉ねぎ”からつくるので、2つの食材があれば合計およそ80%の商品ができます。一度に大量の食材を仕入れられるからコストが抑えられる上に、ずっと同じ商品をつくっているので食材を余らせません」

『551HORAI』の看板商品「豚まん」(写真撮影/辰井裕紀)

『551HORAI』の看板商品「豚まん」(写真撮影/辰井裕紀)

「豚まん」に続く人気の「焼売」(写真撮影/辰井裕紀)

「豚まん」に続く人気の「焼売」(写真撮影/辰井裕紀)

――永久機関のように無駄がないですね。

辰井:「一番人気の豚まんがとにかく強い。『強い看板商品』の存在が、多くの人気ローカル飲食チェーンに共通します。看板商品が強いと供給体制がよりシンプルになり、食品ロスも減る。質のいいものをさらに安定して提供できる。いい循環が生まれるんです」

地元が店を育て、人を育てる

――ローカル飲食チェーンには「全国展開しない」「販路を拡げない」と決めている企業が少なくないようですね。コッペパンサンドで知られる岩手の『福田パン』もかたくなに岩手から手を広げようとしないようですね。

多彩なコッペパンサンドが味わえる『福田パン』(写真撮影/辰井裕紀)

多彩なコッペパンサンドが味わえる『福田パン』(写真撮影/辰井裕紀)

辰井:「『福田パン』は岩手のなかでは買える場所が増えていますが、他県まで出店するつもりはないようです。これ以上お店を増やすと製造する量が増え、『機械や粉を替え変えなきゃならない』など、リスクも増えますから」

――全国進出をねらって失敗する例は実際にありますものね。

辰井:「とある丼チェーン店は短期間に全国へ出店したものの、閉店が相次ぎました。調理技術が行き渡る前にお店を増やしすぎたのが原因だといわれています。地元から着実にチェーン展開していった店は、本部の目が行き届くぶん、地肩が強いですね」

――『福田パン』のコッペパンサンド、とてもおいしそう。食べてみたいです。けれども、基本的に岩手へ行かないと買えないんですね。それが「身の丈に合ったチェーン展開」なのでしょうね。

『福田パン』は眼の前で具材を手塗りしてくれる(写真撮影/辰井裕紀)

『福田パン』は眼の前で具材を手塗りしてくれる(写真撮影/辰井裕紀)

ズラリ一斗缶に入って並んだコッペパンサンドの具材(写真撮影/辰井裕紀)

ズラリ一斗缶に入って並んだコッペパンサンドの具材(写真撮影/辰井裕紀)

辰井:「社長の福田潔氏には、『その場でしか食べられないものにこそ価値がある』というポリシーがあるんです。福田パンは一般的なコッペパンより少し大きく、口に含んだときに塩気と甘さが広がる。とてもおいしいのですが、目の前でクリームをだくだくにはさんでくれるコッペパンは現地へ行かないと食べられない。やっぱり岩手で食べると味わいが違います」

――ますます岩手へコッペパンを食べに行きたくなりました。反面、埼玉の『ぎょうざの満洲』は関西進出を成功させていますね。京都在住である私は『ぎょうざの満洲』の餃子が大好物でよくいただくのですが、他都市進出に成功した秘訣はあったのでしょうか。

「3割うまい!!」のキャッチフレーズで知られる『ぎょうざの満洲』(写真撮影/辰井裕紀)

「3割うまい!!」のキャッチフレーズで知られる『ぎょうざの満洲』(写真撮影/辰井裕紀)

餃子のテイクアウトにも力を入れる(写真撮影/辰井裕紀)

餃子のテイクアウトにも力を入れる(写真撮影/辰井裕紀)

辰井:「関西進出はやはり初めは苦戦したそうです。『ぎょうざの満洲』は関東に生餃子のテイクアウトを根付かせた大きな功績があるのですが、関西ではまだ浸透していなかった。加えて店員と会話せずスムーズに買えるシステムを構築したものの、その接客が関西では『冷たい』と受け取られ、なじまなかった。そこで、できる限り地元の人を雇用し、店の雰囲気を関西風に改めたそうです」

――やはり地元が店や人を育てるという答に行きつくのですね。いやあ、ローカル飲食チェーンって本当に業態が多種多彩で、かつ柔軟で勉強になります。

辰井:「企業ごとにいろんな考え方がありますから、それぞれから学びたいですね」

――そうですよね。私も学びたいです。では最後に、全国のローカル飲食チェーンの取材を終えられて、感じたことを教えてください。

辰井:「ローカル飲食チェーンは地元の人たちにとって、地域を形作る屋台骨であり、アイデンティティなんだと思い知らされました。私は千葉出身なんですが、私が愛した中華料理チェーン『ドラゴン珍來』を褒められたら、やっぱりうれしいですよ。もっと地元のローカル飲食チェーンを誇っていいんだって、ホームタウンをかえりみる、いい機会になりました。読んでくださった方にも、地元を再評価してもらえたらうれしいです」

――ありがとうございました。

「ローカル飲食チェーンを通じて、地元を再評価してもらえたらうれしい」と語る辰井さん(写真撮影/吉村智樹)

「ローカル飲食チェーンを通じて、地元を再評価してもらえたらうれしい」と語る辰井さん(写真撮影/吉村智樹)

辰井裕紀さんが全国を行脚し、自分の眼と舌で確かめた「ローカル飲食チェーン」の数々。それぞれの企業、それぞれの店舗が、その土地その土地の地形や風習、地元の人々の想いに添いながらひたむきに営まれているのだと知りました。そこで運ばれてくる料理は「現代の郷土料理」と呼んで大げさではないほど地元LOVEの気持ちが込められています。

ビジネス書でありながら、故郷やわが街を改めて愛したくなる、あたたかな一冊。ページを閉じたとたん、当たり前に存在すると思っていたローカル飲食チェーンに、きっと飛び込みたくなるでしょう。

強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)●書籍情報
強くてうまい! ローカル飲食チェーン
辰井裕紀 著
1,210円(本体価格1,100円)
PHPビジネス新書

子どもがまちづくりに積極的に参加する理由とは? 「SDGs未来都市」長崎県壱岐市の挑戦

長崎県壱岐市で暮らす人々は自分の子どもはもちろん、地域の子どもたちの活動に対してもとても興味関心が高いそうだ。それゆえ「SDGs未来都市」の取り組みの一員として子どもたちをしっかりと迎え入れ、独自性の高い活動を続けている。今回はその壱岐市を訪れて、どのような取り組みを行っているのか、そしてこれからを生きる壱岐市の子どもたちが何を感じ、どう行動しているのかを探ってきた。
可能性と課題が混在する壱岐市は「25年後の日本」の姿長崎空港から飛行機で30分、福岡市から高速船で1時間5分、美しい海、雄大な景色を満喫できる壱岐市(写真撮影/笠井鉄正)

長崎空港から飛行機で30分、福岡市から高速船で1時間5分、美しい海、雄大な景色を満喫できる壱岐市(写真撮影/笠井鉄正)

2015年9月、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。その達成へ向けて優れた取り組みを提案し、国から事業として選定された地方自治体が「SDGs未来都市」だ。2021年現在、国内のSDGs未来都市は124都市。2022年~2024年は毎年30都市程度を選定予定で、その数はさらに増加する。

つまり「SDGs未来都市」は国がそれだけ重視している事業なのだ。そのなかで長崎県壱岐市の取り組みは、「自治体SDGsモデル事業(2018年~)」にも選ばれ、SDGsに対して先導的な役割を果たしてきた。

壱岐市役所総務部SDGs未来課篠原一生(しのはら・いっせい)さんによると「壱岐市の人口は現在、約2万6000人です。気候は温暖で過ごしやすく、高速船に乗れば福岡県福岡市へ約1時間でアクセスできる便利な島なんです。全島に光ファイバー(光回線)が張り巡らされているので、今話題のワーケーションや二拠点生活の場にも適しています」。移住者からも注目を集めているそうだ。

ただ、同じくSDGs未来課の中村勇貴(なかむら・ゆうき)さんが「その一方で、少子高齢化が進み、基幹産業である1次産業の担い手は不足しているんですよね」と話すように、課題もある。「日本の25年後の姿」というのも壱岐市の横顔のひとつだ。

壱岐市役所総務部SDGs未来課の篠原一生さん。ワークスペース「フリーウィルスタジオ」の業務も担当している(写真撮影/笠井鉄正)

壱岐市役所総務部SDGs未来課の篠原一生さん。ワークスペース「フリーウィルスタジオ」の業務も担当している(写真撮影/笠井鉄正)

壱岐島内を案内してくださった壱岐市役所総務部SDGs未来課の中村勇貴さん。壱岐生まれの壱岐育ち(写真撮影/笠井鉄正)

壱岐島内を案内してくださった壱岐市役所総務部SDGs未来課の中村勇貴さん。壱岐生まれの壱岐育ち(写真撮影/笠井鉄正)

AIやIoTで壱岐市の課題を解決しながら、経済を発展させる

壱岐市の「自治体SDGsモデル事業」は「壱岐活き対話型社会『壱岐・粋・なSociety5.0』」と名付けられている。この事業には2つの柱があり、そのひとつは「先進技術を取り入れ、少子高齢化などの社会問題解決と、1次産業を中心とした経済発展を両立すること」である。

代表的な例はAIやIoTのチカラで課題を解決するスマート農業だ。壱岐市名産のアスパラ栽培の中で大変な作業の水やりをAIに管理させ、省人化と生産性向上を図っている。また、規格外アスパラをピエトロプロデュースの料理キットと一緒にWEBで販売して収益アップを目指しながら、食品ロスの問題解決にも着手。TOPPANと組んでECサイト用商品の開発を行っている。

ほかにもエネルギーの自給自足、高齢者の島内移動手段など課題は多い。島内の知恵・情報・人材には限りがあるため、外部の企業と手を取り合ってスピード感を高めているのが特長と言える。

「事業としてうまく進まない場合もあるが、行政も柔軟な姿勢を心がけ、めげずにトライ&エラーを続けられるのも壱岐市の強みですね」とSDGs未来課の篠原さん、中村さんは話す。

アスパラ栽培は水やりが命。かん水量・かん水時間・かん水頻度・土壌水分量・日射量・温度湿度などのデータを基にしてAIモデルを作成する(画像提供/壱岐市役所総務部SDGs未来課)

アスパラ栽培は水やりが命。かん水量・かん水時間・かん水頻度・土壌水分量・日射量・温度湿度などのデータを基にしてAIモデルを作成する(画像提供/壱岐市役所総務部SDGs未来課)

低塩分トラフグ陸上養殖事業(株式会社なかはら)では、再生可能エネルギーの活用に取り組む。太陽光発電で得た電力を活用して、水を電気分解し、酸素は水槽へ、水素はタンクに貯蔵。その後、水素と酸素を反応させて燃料電池で発電する仕組み(写真撮影/笠井鉄正)

低塩分トラフグ陸上養殖事業(株式会社なかはら)では、再生可能エネルギーの活用に取り組む。太陽光発電で得た電力を活用して、水を電気分解し、酸素は水槽へ、水素はタンクに貯蔵。その後、水素と酸素を反応させて燃料電池で発電する仕組み(写真撮影/笠井鉄正)

低塩分(地下水)で育てたトラフグは成長が早く、身も上質(写真撮影/笠井鉄正)

低塩分(地下水)で育てたトラフグは成長が早く、身も上質(写真撮影/笠井鉄正)

高校生、壱岐市の人々、島外者がつながり、イノベーションが起きる

「壱岐活き対話型社会『壱岐・粋・なSociety5.0』」のもうひとつの柱は、「現実・仮想においてさまざまな人や情報がつながることで、イノベーションが起こり続け、あらゆる課題に対応できるしなやかな社会をつくり、一人ひとりが快適で活躍できる社会をつくること」。すでにいくつかのプロジェクトが進行している。

そのなかでSUUMOジャーナルが特に注目したのは「壱岐なみらい創りプロジェクト」だ。東京大学OBを中心にイノベーション教育を全国に広げる団体「i.club(アイクラブ)」と壱岐市がタッグを組み、次代を担う高校生に対するイノベーション教育とみらい創りのための対話会を行っている。

その目的は、イノベーション教育を通して高校生やその周囲の人々の「地域に対する誇りや愛着」を醸成すること。それと同時に課題解決につながる高校生の「イノベーションアイデア」を創出することだ。さらに壱岐市内に「コミュニケーション・インフラ」を構築することも図る。

「壱岐なみらい創りプロジェクト」の対話会には高校生も多数参加。大人も高校生の意見に耳を傾けている(画像提供/壱岐市役所総務部SDGs未来課)

「壱岐なみらい創りプロジェクト」の対話会には高校生も多数参加。大人も高校生の意見に耳を傾けている(画像提供/壱岐市役所総務部SDGs未来課)

「壱岐なみらい創りプロジェクト」で対話を重ねることで、参加者たちは年齢を問わず自ら動き出す。そして周囲の壱岐市民、島外からの移住者や長期滞在者、また一周回って行政を巻き込んでいく。SDGsを「自分ごと」と捉えて、実行に移してマインドが少しずつ対話会で育まれていく。

ちなみに壱岐市は、郷ノ浦町・勝本町・芦辺町・石田町の4町が合併して2004年に誕生した。そのため旧4町の間にはまだボーダーラインが存在する。しかし最近、壱岐市にやってきた移住者たちはいい意味でボーダーラインを軽く超えていく。旧4町の潤滑油そして刺激になっているという。

壱岐で仕事を生み出す人や移住者、ワーケーション中の人が集まる「フリーウィルスタジオ」(写真撮影/笠井鉄正)

壱岐で仕事を生み出す人や移住者、ワーケーション中の人が集まる「フリーウィルスタジオ」(写真撮影/笠井鉄正)

「フリーウィルスタジオ」は今から2000年前に栄えた「一支国」の王都の遺跡「原の辻遺跡(国宝・国特別史跡)」の中にある。史跡の国宝の中で働けるのは、日本で唯一、壱岐だけだ(写真撮影/笠井鉄正)

「フリーウィルスタジオ」は今から2000年前に栄えた「一支国」の王都の遺跡「原の辻遺跡(国宝・国特別史跡)」の中にある。史跡の国宝の中で働けるのは、日本で唯一、壱岐だけだ(写真撮影/笠井鉄正)

高校生たちが考えた「食べてほしーる。」で食品ロスを削減したい!

このように進められている「壱岐なみらい創りプロジェクト」のなかの取り組みのひとつ「イノベーション・サマープログラム」で、壱岐高校の生徒と大学生のメンバー計8名で考案したものがある。それは賞味期限が間近の食品の購入を促すシール「食べてほしーる。」だ。

開発のきっかけは壱岐市内にあるスーパーマーケット「スーパーバリューイチヤマ」をメンバーが訪問したこと。賞味期限が切れた食品はまだ食べられる状態でも廃棄せざるを得ないという課題を掘り起こし、少しでも食品ロスを減らすための手段として「食べてほしーる。」を考案した。シールを貼ることで、賞味期限が近い商品から購入してもらうように促すという作戦だ。ただ、促すだけではすぐには浸透につながらなかった。

そこで「スーパーバリューイチヤマ」の店長はメンバーと同学年の生徒の父親でもあったので「子どもたちが頑張っているんだ。なんとか応援してあげたい!」と、「食べてほしーる。」にポイントを付与することを決定。啓蒙だけでなく、ポイント付与で顧客メリットを高めることでシールへの注目度もUPさせた。

壱岐高校の生徒が描いたイラストがかわいい「食べてほしーる。」。シールを貼るだけでなくスーパーのポイントをつけることで、興味を持ってくれるお客さんが増えた(写真撮影/笠井鉄正)

壱岐高校の生徒が描いたイラストがかわいい「食べてほしーる。」。シールを貼るだけでなくスーパーのポイントをつけることで、興味を持ってくれるお客さんが増えた(写真撮影/笠井鉄正)

「スーパーバリューいちやま」の寺田久(てらだ・ひさし)店長は自身の子どもと同級生でもあるメンバーたちの活動を「とにかく応援してあげたかった!」。シール印刷などのコストはかかるが現在も協力を続けている(写真撮影/笠井鉄正)

「スーパーバリューイチヤマ」の寺田久(てらだ・ひさし)店長は自身の子どもと同級生でもあるメンバーたちの活動を「とにかく応援してあげたかった!」。シール印刷などのコストはかかるが現在も協力を続けている(写真撮影/笠井鉄正)

この「食べてほしーる。」の活動は、壱岐高校ヒューマンハート部探求チームの後輩たちに引き継がれ、少しずつ壱岐市民の認知度もあがっている。また「食品ロス削減推進大賞」(消費者庁主催)で内閣府特命担当大臣賞に次ぐ消費者庁長官賞も受賞した。

「食べてほしーる。」は「SDGs未来都市」であり「島」だからできた活動?

2021年現在、「食べてほしーる」のメンバーだった高校生は島外へと進学し、大学生活を送っている。自炊用に自分で食材を購入するようになった今、賞味期限が近い食材に自然と手が伸びるという。

大学で知り合った友達に「食べてほしーる。」の話をするとほぼ全員から「そんな活動は体験したことがない」と言われるそうだ。自分たちの取り組みは「SDGs未来都市」の壱岐市だからできた貴重な機会だったと実感もしている。

2019年度に「食べてほしーる。」を考案した壱岐高校生は大学生となり島外で暮らしている。普段の暮らしのなかでも自然とSDGsを意識した行動をとっている(写真撮影/SUUMOジャーナル)

2019年度に「食べてほしーる。」を考案した壱岐高校生は大学生となり島外で暮らしている。普段の暮らしのなかでも自然とSDGsを意識した行動をとっている(写真撮影/SUUMOジャーナル)

ただ、都市に暮らす今、「壱岐市は『島』だし、のんびりしていて、人々が温かく、顔見知りも多い。それに大人たちは子どもの活動にすごく興味を持ってくれているので『食べてほしーる。』の活動が有効だったのかもしれない」とも感じている。

「スーパーバリューイチヤマ」も地元のスーパーだから、気軽に相談に乗ってくれた。大学生となったメンバーが現在住んでいる島外の街には、大規模なショッピングモールがある。地元のスーパーでなくても実現できるのか?と考える時もあるそうだ。

子どもから大人へ、小さな街から大きな都市へ、SDGsを伝える

だからといって学生たちは「食べてほしーる。」の可能性をあきらめているのではない。

これまで世の中の出来事の多くは、大きな都市から小さな街へと伝えられた。しかしこれからは、小さな街での出来事を大きな都市に発信していくことが、新しい発想や今までなかったアイデアを生み出すと考えている。

「利益にとらわれず、誰かのため、地球のため、行動を起こすこと。これがSDGsの基本にあります。だからむしろ、小さなコミュニティからスタートした方が行動を起こしやすいのかな」と学生たちは前を向いている。

先輩たちから「食べてほしーる。」の活動を引き継いだ4名のチーム。「食べてほしーる。」の認知度をいかに高め、地域の人々に気づいてもらえるかがこれからの課題(写真撮影/長崎県立壱岐高等学校 ヒューマンハート部探求チーム)

先輩たちから「食べてほしーる。」の活動を引き継いだ4名のチーム。「食べてほしーる。」の認知度をいかに高め、地域の人々に気づいてもらえるかがこれからの課題(写真撮影/長崎県立壱岐高等学校 ヒューマンハート部探求チーム)

今、壱岐市では「壱岐なみらい創りプロジェクト」のほかにも、中学校では環境ナッジ「住み続けたいまちづくり運動」、小学校では「海洋教育プロジェクト」、各小学校区で「まちづくり協議会」の設立と、自分たちが暮らす街とSDGsがクロスした学び・活動が繰り広げられている。

そして、子どもたちがその活動を家庭で話題にすることで、大人もSDGsへの興味を高めていることが、大人たちが子どもに高い関心を持つ壱岐市ならではの展開だと言えるだろう。市民全員がSDGsを「知っている」から「興味・関心を持っている」に変わる。それこそが最たるイノベーションだと感じられた。

今回、取材に加わったSUUMO編集長とリモートで対話する高校生たち。「壱岐のきれいな海を残したい」「ジェンダー差別について気になる」「動物の殺処分を減らしたい」など興味のある課題をそれぞれが持っていた(写真撮影/長崎県立壱岐高等学校 ヒューマンハート部探求チーム)

今回、取材に加わったSUUMO編集長とリモートで対話する高校生たち。「壱岐のきれいな海を残したい」「ジェンダー差別について気になる」「動物の殺処分を減らしたい」など興味のある課題をそれぞれが持っていた(写真撮影/長崎県立壱岐高等学校 ヒューマンハート部探求チーム)

高校生・大学生へのインタビューでは「親や祖父母はSDGsという名称は知っているけれど、その中身には興味がなさそう」「SDGsはみんなのためにあるものなのに、壱岐市にとってのメリットが基準になっている大人もいる」などのジレンマともいえる言葉も聞こえた。裏を返せばこれは未来の主役でありSDGsの担い手である子どもたちが、想像以上にしっかりとSDGsを見つめているということ。壱岐市の子どもたちは、高校卒業後に島を離れる割合が高いが、どこにいようとも壱岐市で体感したSDGsを伝える存在になってくれることだろう。

●取材協力
・長崎県 壱岐市役所総務部SDGs未来課
・一般社団法人 壱岐みらい創りサイト
・長崎県壱岐市 壱岐-粋-なSociety 5.0パビリオン(welcomeページ公開中/2021年8月27日本公開予定)

フランスは食品ロス対策の最先端! コロナ禍で大流行のアプリ「Too Good To Go」を4店舗で使ってみた

環境問題に関心が高いヨーロッパ、食品ロスは日本よりもずっと以前から問題視されてきましたが、コロナ禍でさらに関心が高まっています。外出規制やマスク着用という不自由で不安な生活がすでに1年3カ月続いているなかで、自分の生き方や地球環境に目を向ける時間が増えたからです。そんななか、ヨーロッパ全土で食品レスキューアプリ「Too Good To Go」が大流行中。筆者が暮らすフランスから、食品ロス対策の最前線をお伝えします。
地球温暖化を身をもって体験したパリジャン&パリジェンヌが動き始めた!

10年前、パリの住宅にはクーラーはほとんどありませんでした。毎年夏でも寝苦しい日は数日、日差しは強くても日陰は涼しく心地が良かったのです。しかし、数年前から30度以上の暑い日が続き、扇風機の売り上げがグッと伸び、冷風機(水を機械に入れて冷風を出す仕組みで、エアコン・クーラーのように室外機を設置しなくて良いタイプ)というものまで販売されるようになりました。さらに、去年の冬は雪がほとんど降らなくなり、12月になってもダウンジャケットを着なくても過ごせるように。パリの人々も身をもって地球温暖化を体験しています。
そんな危機感を募らせるフランスの人々が起こした行動が、本来食べられる食品が捨てられてしまう「食品ロス問題」に立ち向かうこと。現在、生産された食品の3分の1が廃棄されているといわれ、これは世界規模で膨大なコストがかかるだけでなく、気候変動にも大きな影響を与えているのです。自分たちの毎日の生活に深く結びついている「食」からならなんとかしていけるかも!と考えたのです。

フランス政府が世界でいち早くしたこと

2016 年 2 月、フランス政府は世界でいち早くスーパーマーケットの食品廃棄を禁止する法律をつくりました。スーパーマーケットはこれらの食品を慈善団体やフードバンクに提供をすることで、食べることに苦労している人々に毎年さらに何百万もの無料の食事を提供できるようになりました。SDGs(持続可能な開発目標)の「目標2:飢餓をゼロに」にも効果を発揮しています。

本来ならスーパーマーケットの食品は賞味期限が切れたら次の日には捨てられてしまう(写真撮影/松永麻衣子)

本来ならスーパーマーケットの食品は賞味期限が切れたら次の日には捨てられてしまう(写真撮影/松永麻衣子)

ほかにも、こんなことも行われています。

■国連気候変動会議COP 21は、約 100 のレストランに 対して100,000 個の「持ち帰り用」ボックスを配布し、客が食事の残り物を持ち帰ることができるように。SDGsの「目標12:つくる責任、つかう責任」を推進

■フランスでは、学校の食堂で準備された食事の 3 分の 1 は食べられないままです(フランスの給食はビュッフェスタイルなため、子どもたちは好きなものだけをよそいます)。この無駄をなくすためにパリ市では学校に対して、「学校それぞれでドレッシングを手づくりにすることでサラダをもっと美味しく食べられるようにしたり、果物を切り分けて食べやすくしたりするなど、子どもたちに給食を好きになってもらう努力が必要」と食品管理を呼びかけています。

■パリ市は、家庭での食品廃棄物をリサイクルすることを推奨しています。リサイクルボックスを配布するなどし、分別ゴミとして収集された後は、肥料に変換されるか、熱と電気、またはバス用のバイオ燃料に変換されます。

フランスのスーパーマーケットやマルシェでは、以前からエコマインドがあった

日本ではレジ袋が有料化したのは昨年7月からですが、フランスは数年前からすでに取り組んでおり、スーパーオリジナルのエコバッグの販売に力を入れています。特に、「MONOPRIX」のエコバッグは、定期的に新作を出しており、コレクターアイテムにもなっています。

1~1.5ユーロのMONOPRIXのエコバッグ。日本でも大人気。お土産にも喜ばれています(写真撮影/松永麻衣子)

1~1.5ユーロのMONOPRIXのエコバッグ。日本でも大人気。お土産にも喜ばれています(写真撮影/松永麻衣子)

食品ロスが話題になる前から日常的に行われていたことも、食品ロスを減らすのに効果的だと見直されるようになりました。
例えば、パリのマルシェでは1ユーロプレートをよく目にします。屋台の端に、まだ美味しく食べられるけれど鮮度がこれから落ちてしまう野菜や果物が1ユーロプレートに並べられています。例えば、ラディッシュ2束1ユーロ/葉は枯れてしまっているけれど、実はまだまだ美味しい。ライム6個1ユーロ/皮の部分がちょっとしぼんできているけれど、果汁は十分美味しい。キウイ8個1ユーロ/熟して柔らかいけれど、ジャムにしたりジュースにするには美味しい。などなど。

店頭でも食品ロス削減運動。見た目は悪いけれど、まだまだ美味しく食べられる食品の“福袋“(写真撮影/松永麻衣子)

店頭でも食品ロス削減運動。見た目は悪いけれど、まだまだ美味しく食べられる食品の“福袋“(写真撮影/松永麻衣子)

フランスの食品を量り売りするシステムは、パックやブーケなどとは違って余分に買いすぎてしまうことを避けられます。フランスの値札はほとんどが<1kgいくらか>と表示されていますし、マルシェではもちろんスーパーでもバナナ1本から買うことができます。

ヨーロッパで食品レスキューアプリ「Too good To Go」が大流行! 使ってみました

フランス政府がスーパーマーケットの食品廃棄を禁止する法律をつくった2016年と同年3月、「too bood to go」 というフードレスキューのアプリがリリースされました。2015年にデンマークで創業、現在15カ国で展開され、3900万人以上のユーザーを抱えています。2016年から今までに7650万食がレスキューされました。
レストランやスーパーマーケットなどで賞味期限切れ間近だったり、パッケージが破損してしまったりといった“捨てるにはもったいない食品/食べるには問題ない食品”が元の販売価格の3分の1程度で手に入ります。

食品レスキュー・アプリ「Too good To Go」の画面(写真/アプリ画面より)

食品レスキュー・アプリ「Too good To Go」の画面(写真/アプリ画面より)

アプリをインストールしたら、国を選び、自分がいる場所から加盟店を表示し、食品ロスのある店舗を探します。半径3km以内、5~30kmなど範囲を指定して検索できます。筆者は徒歩圏内で利用したいということで、3km半径に設定しました。

レスキューして欲しい食品があると“緑の●”、残り1袋だと“黄色い●”、ないときは”グレーの●”と一目瞭然。お気に入りのお店をまとめて見られたり、アプリがオススメしてくれたり、とても使いやすいです。
予約をした後はネット支払い、指定時間に店で受け取り、アプリで受け取り確認をして終了。“食品ロス福袋”は何が入っているか分からないので、サプライズ感もあって楽しかったです。
ただ、中身はヨーグルト4個パックなど一人暮らしでは食べきるのが難しいものもあり、食品ロスにつながってしまう可能性がある点は注意が必要です。筆者は5人家族、食べ盛りの子どもが3人いるので3分の1の価格で食品が手に入るのはとてもありがたいです。何が入っているか分からなくても、週に1回の利用なら、さまざまなメニューに工夫して使ってみることができ、楽しみながら食品ロス削減に貢献できそうだと思いました。

お気に入りのお店の”今日のレスキュー”のオファー画面。12ユーロ相当の食品が3.99ユーロだったり、とにかくオトク。決められた時間帯に取りに行きます(写真撮影/松永麻衣子)

お気に入りのお店の”今日のレスキュー”のオファー画面。12ユーロ相当の食品が3.99ユーロだったり、とにかくオトク。決められた時間帯に取りに行きます(写真撮影/松永麻衣子)

この様に”●”でお店が表示されます。高齢者も多く使っているそう(写真撮影/松永麻衣子)

この様に”●”でお店が表示されます。高齢者も多く使っているそう(写真撮影/松永麻衣子)

4店舗で“食品レスキュー”した結果は?

加盟店には大型スーパーの「カルフール」や「モノプリ」、人気パン屋の「ポール」や「エリックカイザー」、Bioショップの「ナチュラリア」などのチェーン店が多いのも魅力です。

今回はスーパーを2軒、新しいスタイルのデリバリー専門スーパー1軒、Bioショップ1軒の計4軒で“食品レスキュー”を試してみました。

まずは食品レスキューを率先して行っている「カルフール」。我が家から徒歩圏内になんと5軒もあるので、使い勝手も抜群です。

レジに並ぶことなくレジでスマホを見せると担当者が奥へ。5分ほど待ち、福袋をゲットしました(写真撮影/松永麻衣子)

レジに並ぶことなくレジでスマホを見せると担当者が奥へ。5分ほど待ち、福袋をゲットしました(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

15ユーロ相当の食品を3.99ユーロで購入できました。
中身は、賞味期限ギリギリのお菓子、鶏ささみ(下味をつけて次の日に調理)、マーシュ(サラダにするとおいしい野菜・次の日に完食)、食パン、クロワッサン、パン・オ・ショコラ、ブレッツェル(全て次の日に完食)。ちょっと乾いたフヌイユ(野菜・冷蔵庫で保管して1週間以内に完食)、傷のあるりんご(当日美味しく食べました)、ちょっと傷んだメロン(当日食べましたが美味しくなかった)という結果でした。

次は我が家のお気に入りのスーパー「SUPERU」。行くたびに、店員がレスキュー商品らしきものをマジックバッグにかなりの品目を詰めているのが気になっていました!

シンプルな袋は、持つとずっしり重かった(写真撮影/松永麻衣子)

シンプルな袋は、持つとずっしり重かった(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

15ユーロ相当の食品が3.99ユーロ。25ユーロ分あるのでは?と思う充実の内容でした。
全てが賞味期限ギリギリで、ハム2パック(次の日に完食)、七面鳥(当日スープに)、生ソーセージの盛り合わせ(冷凍して3日後に白いんげんと煮込みました)、キッシュ(冷凍して後日完食)、ムサカ(東地中海沿岸の伝統的な野菜料理・当日完食)、サンドイッチ(次の日に完食)、ヨーグルト類(次の日完食)。肉類が多かったのでとても満足でした。

3軒目は、新しいスタイルのデリバリー専門スーパー「Dija(ディジャ)」。通常は商品を購入すると配達人が商品を届けてくれますが、食品レスキュー商品は消費者が特定の場所に取りに行きます。倉庫のようなところに自転車が数台、配達人が待機していました。

紙袋にはあらかじめパンドゥカンパーニュと食パンが入っていて、お客が来るとそこに冷蔵食品を詰めて渡してくれます。受け渡しがとてもスピーディーです!(写真撮影/松永麻衣子)

紙袋にはあらかじめパンドゥカンパーニュと食パンが入っていて、お客が来るとそこに冷蔵食品を詰めて渡してくれます。受け渡しがとてもスピーディーです!(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

こちらも15ユーロ相当の食品が3.99ユーロ。賞味期限当日だったリヨンソーセージ(冷凍庫で保管し、週末のバーベキューで完食)とフムス(ひよこ豆のペースト状の中東の料理・3日間ぐらいで完食)、と前述のパンが入っていました。パンは賞味期限ギリギリということもありかなり硬く、手を加えないと食べられない状態でした。

ラスト4軒目は、食への意識が高いBioショップ「ナチュラリア」です。Bioショップは全体的にアプリと提携しているお店が多いようです。また、以前からレジ袋や野菜の包みに再生紙を使ったり、ジュースなどの瓶を返却すると瓶代が返金されたりと、食品ロス削減とゴミを減らす呼びかけがされていました。ドライフルーツの量り売りのために入れ物を持参するお客さんも多く、カルチャーが根付いているように感じます。

再生紙のバッグにズッシリと入っていました。買い物客と同じように列に並び、順番が来たらレジでスマホを見せます。“福袋”はレジの横の冷蔵庫に保管してありました(写真撮影/松永麻衣子)

再生紙のバッグにズッシリと入っていました。買い物客と同じように列に並び、順番が来たらレジでスマホを見せます。“福袋”はレジの横の冷蔵庫に保管してありました(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

(写真撮影/松永麻衣子)

15ユーロ相当の食品が3.99ユーロ。エシャロット(まだまだ美味しく食べられる状態)、パン(硬くて食べるのを諦めました)、バナナ(ケーキに使いました)のほか、賞味期限切れ当日の鶏肉(次の日にオーブン焼きにして完食)、カマンベールチーズ(1週間ぐらいで完食)、フルーツ入りヨーグルト(2日間で完食)、プリン(次の日に完食)が入っていました。Bio食品は価格が高いので、これだけのものが入っていたら週に1回ぐらいの割合でレスキューしたいと思いました。

デリバリーショップも食品

食品レスキューは、デリバリー業界にも浸透しつつあります。

今パリは、コロナ禍による外出制限解除の2段階目の状態です(6月4日現在)。夜の帰宅は19時から21時に伸び、商店と映画館や美術館は全て開き(入場制限があります)、カフェとレストランはテラスのみ営業可能になりました。

コロナ禍でUber Eatsの利用がうなぎ上り、個人事業主登録したドライバーが街にあふれました。しかし、人気レストランの前ではUber Eatsのドライバーがたむろしている雰囲気だったり、ヘルメットをかぶらずに事故を起こしたり、保冷バッグが使い古されて汚かったりと、なんとも雑なイメージが定着してしまっています。

そんな中、「gorillas(ゴリラ)」は“オーダーしてから10分以内でお届け!”を謳い文句にした新しいスタイルのデリバリー専門スーパーです。オーダーが入ったら倉庫で待機している職員が商品を袋詰めし、オールブラックの制服(転んだときのための膝などのプロテクト付き)にヘルメットをかぶり自転車でデリバリーします。

筆者がオーダーしてみると、4分後に商品が届きました。23時までやっているので、21時の外出制限のときに買い忘れなどあっても安心。一人暮らしで病気のとき、ご老人の買い物、などこれからも需要は伸びそうです。
そんな「ゴリラ」の食品ロス削減へのアプローチは、ただ賞味期限切れや鮮度が少々落ちた野菜や果物を安く販売するのでなく、福袋にしたり、素敵なおまけにしてみたりと、ちょっとした工夫で食品ロス削減に楽しく参加できる、というものです。

今回は、バナナとりんご(ゴリラにちなんで(?))でした。

手書きの「ご注文ありがとうございます」カードとエコバッグが付いてきました。こんなスタイルもかっこいいのです(写真撮影/松永麻衣子)

手書きの「ご注文ありがとうございます」カードとエコバッグが付いてきました。こんなスタイルもかっこいいのです(写真撮影/松永麻衣子)

このように、フランス内で食品ロスをめぐる対策はどんどん広がってきています。我が家では、子どもたちと話し合った結果、週に一度はこのアプリを利用して食品ロスを無くすことに貢献しようということになりました。日本でも、食品ロスアプリが登場してきています。みなさんもぜひ使ってみてください!

「ゴミには人間の本性が出る!」ゴミ清掃芸人・マシンガンズ滝沢さんインタビュー

賃貸でも分譲でも、住まい探しのときには「共用部のゴミ置き場をチェック」という話を聞いたことはありませんか? その大切さを多分、日本で最も痛感している芸人さんが、マシンガンズの滝沢秀一さんです。今回はゴミ清掃芸人の滝沢さんにコロナ禍のゴミと住まい、街のコミュニティのあり方まで聞いてきました。
ゴミ置き場は“伝染”する? ゴミ収集の目線で見た街と人の関係

お笑いコンビ・マシンガンズで活躍している滝沢秀一さん。2012年、妻の妊娠をきっかけに、「出産費用を稼ぐため」としてゴミ収集会社の仕事に携わり、そこで見た風景・人間模様を『このゴミは収集できません~ゴミ清掃員が見たあり得ない光景~』(白夜書房)にまとめて出版し、これが大ヒット。ゴミ清掃員の日常をつぶやき風にしたり、ゴミからみるお金もち世帯とそうでない世帯の違い、物件の見分けかた、回収できるゴミとそうでないゴミなど、おもしろくてためになる内容がぎっちりとつまっています。現在も芸人活動の傍ら、週2日のゴミ収集の仕事、著作の執筆に大忙しの日々を送っています。

緊急事態宣言下で何が起きたのかをまとめた、滝沢さんの最新の著作『やっぱり、このゴミは収集できません~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと~』(白夜書房)(写真撮影/片山貴博)

緊急事態宣言下で何が起きたのかをまとめた、滝沢さんの最新の著作『やっぱり、このゴミは収集できません~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと~』(白夜書房)(写真撮影/片山貴博)

「2020年、コロナ禍で緊急事態宣言が出されたときは、本当にすごい量の家庭ゴミが出されて大変でした。通常、年末年始は大量のゴミが出るんですが、それが2~3カ月続く感じです。ゴミ収集はインフラなので行わないわけにはいきませんし、休めない。キツかったですね」と振り返ります。滝沢さんによると、ゴミ出しには住まいや街、人間の暮らしそのものが反映されるのだといいます。

「ゴミって、人間の本性が出るんですよね。人が見ていないと思うと、人は“なんでもアリ”になるんだなって思います。そうですね、ゴミ置き場のなかでも、目安になるのがペットボトル資源です。ペットボトル資源がキレイに出されている集積場はいつもキレイ。ペットボトル資源が荒れているところは、可燃・不燃ともに汚れています」と驚きの事実を教えてくれます。

たしかにペットボトルは中身を出してゆすぎ、キャップをはずして、ラベルを剥がし、分別すると手間がかかります。「めんどくさいし、ま、いっか」と時には分別もせずに捨てたくなる気持ち、身に覚えがありますよね。また、ゴミ集積所には「ある法則」があるのだとか。

「清掃員同士でよく話題になるんですが、ゴミ置き場の美しさ・汚さって、伝染するんですよ。汚い集積所があるとだんだん汚くなっていくし、反対にキレイな集積所があると周囲もキレイになっていく。これってつまり人の目やコミュニティがあるからなんだと思います」(滝沢さん)

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『やっぱり、このゴミは収集できません~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと~』(白夜書房)より(画像提供/白夜書房)

『やっぱり、このゴミは収集できません~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと~』(白夜書房)より(画像提供/白夜書房)

よい街はみんなでつくる。人とのつながりが街を、地域を変えていく

滝沢さんは、ゴミ置き場が荒れているところは、人の目の行き届かないため、街に無関心な人が多くなって乱雑になる。一方、ゴミ置き場がキレイなところはご近所同士が助け合い、美しさを保っているのではないか……と長年の観察から推測します。そのため、ある程度、ご近所付き合い、地域への関心が必要だと考えるようになりました。

「人の目があると、やっぱり『○○班のゴミ』のように特定されるので、あまり乱雑にはできないのが人情ですよね。あと、ゴミの分別は、面倒くさいだけでなく、知らない・分からないという人も多いんです。そのため、自治体もチラシ類をつくってPRしているんですが、やっぱり人同士の会話・コミュニケーションにまさるものってないんですよ。教えてもらえれば、みんな分別するようになりますから。地域によっては清掃員に声をかけてくれる人がいたり、やっぱりよい街はみんなでつくるものだなあと思うようになりました」(滝沢さん)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

まさかゴミの話から地域コミュニティの話まで行くとは、すごい展開です……。でも、ゴミの分別って分かりにくいですもんね。もちろん、行政からの告知も大事ですが、やはりご近所同士のなかで、聞ける・教えてもらえるのが一番であり、ゆるやかなコミュニティがあるほうが、人は住みやすいのではないでしょうか。

ただ、清掃の仕事をはじめたばかりのころは不燃ゴミのなかにアイスピックや包丁、かみそりが入っていて、怖い思いをしたこともあるそう。
「それに比べたら包丁や刃物をくるんで捨ててくれるなど、今はだいぶよくなりました。分別やゴミがひどいという話をしょっちゅうしているんですが、実は2000年以降、ゴミはゆるやかに減っていて、2001年度には5210万トンあったものが、直近では4272万トンにまで削減されました。分別も浸透し、若い世代は環境教育が浸透しているからだと思います」(滝沢さん)

環境省のゴミ総排出量のグラフの変化。こうして見ると、じわじわとゴミの排出量が減っているのが分かります(出典/環境省)

環境省のゴミ総排出量のグラフの変化。こうして見ると、じわじわとゴミの排出量が減っているのが分かります(出典/環境省)

今、気になるのは食品ロス。分別も家族全員で取り組むように

ゴミだけに限りませんが、小さなことだからいいや、1人くらいならいいやと軽く考えがちです。
「いやいや1人ひとりの積み重ねってすごいことですよ。可燃ゴミの中にビン・缶などの不燃ゴミが混ざっていると投入口の燃やす所が詰まってしまい、焼却炉の火を消して、詰まりを解消しなくちゃいけないんです。焼却炉の再点火にはなんと350万円もかかる。再点火の費用は、もちろん税金です! 小さな行動が大きく影響する例ですよね」といいます。今は一人ひとりの行動が街や地域を変えていくんだなと実感しているそうです。

2020年はコロナウィルス感染症、そしてレジ袋有料化と、ゴミ界隈にも大きな変化がありましたが、それ以上に今、滝沢さんが気になっているのが、「食品ロス」の問題です。

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

「お米とか、魚、野菜……。ほんとにびっくりするほど、食べものが捨てられているんです! 食品ロスの46%は家庭からって言われているんですが、その実感はありますね。大型連休明けやお中元やお歳暮の時期に手つかずの食べ物を回収するのはやっぱりつらいです……。足りないから買おうではなく、冷蔵庫にあるものでつくる、賞味期限や消費期限をチェックするなど、まだまだ、家庭でできることはあると思うんです。ぜひ、みなさんには知ってほしいですね」と力説します。

そのため、滝沢さん自身も今では自宅の冷蔵庫を小まめにチェックするようになり、消費期限・賞味期限を確認し、手元にある食材で調理するというスタイルに変わったそう。
「家族はチームなので、冷蔵庫を誰かがチェックすればいいわけです。『今日は○○の料理をつくろう』ではなくて、小松菜とたまごからできるものを考えるほうがよいでしょう。食材がなくても、お味噌汁とごはんだって立派な献立です。あと、子どもって大人や親の姿をよく見ていて、マネをするんですよね。だから、大人が分別していれば、子どもは自然と真似するようになる。うちの子どももしっかり分別できように育ちました(笑)」

家庭ゴミは1回3~4袋を目安に!

「年末年始は、大掃除・片付けしたゴミなどがでると思いますが、家庭から出せるのは1回3~4袋が目安です。それ以上出すなら、有料になる地域もあるので注意してください。ゴミ収集車の回収できる量は決まっているんです! あと、ゴミ袋の口はしっかり縛ってくれるとうれしいです! なぜか、“オレ流”を貫いて閉じてくれない人がいるんですよ……。口を縛ってないと、そこら辺にゴミが散乱して大変なんですよ、ぜひしっかり縛って出してください!」と、ゴミのネタはつきない滝沢さん。

ゴミ問題は教科書のような内容になりがちですが、そこはプロの芸人のトークで「宅配ピザのダンボールは油を吸っているから燃えるゴミです」「ごま油の容器に串を入れて燃えるゴミに捨てている人がいた。あれはさすがだった!」「永久保存版のビデオが捨てられていた。永久保存じゃないんかいっ」と自然と盛り上がります。そして現在、引越しを検討している人は、やっぱりゴミ置き場をチェックしましょう。滝沢さんのアドバイスだと「ペットボトルの日」のゴミがよさそうです。ぜひ、役立ててくださいね!

『やっぱり、このゴミは収集できません ~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと』(滝沢秀一 著、白夜書房刊)●取材協力
滝沢 秀一さん
ゴミ清掃員、お笑い芸人
1976年、東京都生まれ。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」2012、14年認定漫才師。2012年、定収入を得るために、お笑い芸人の仕事を続けながらもゴミ収集会社に就職。ゴミ収集中の体験や気づきを発信したツイッターが人気を集め、話題を呼んでいる。
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『やっぱり、このゴミは収集できません ~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと~』(滝沢秀一 著、白夜書房刊)