管理費が急に値上げ! 都心マンションの「駐車場」が抱える根深い問題

多くのマンションは駐車場を所有し、使用者が使用料を負担する仕組みにしていますが、空いているケースも見られます。駐車場からの収益は管理費に充当することが望ましいとされており、空きがでることで、管理組合の収入が減り、管理費の値上げを迫られることも。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞事例の中から、駐車場の収益改善で、管理費の値上げを阻止した成功事例を紹介します。

車所有者が年々減少。駐車場の空き問題が管理組合の財政を圧迫

公共交通機関が充実し、カーシェアリングの普及が進む都市部のマンションでは、車を所有する人が減少し、マンションの駐車場の契約者が減る傾向があり、駐車場使用料の収入減につながっています。さらに、機械式駐車場などメンテナンスコストや修繕費が計画当初よりも値上がりすれば、想定外の経費が増えることに。管理組合の財政を圧迫し、管理費の値上げを迫られる場合があるのです。

空き駐車場問題に直面したマンションの管理会社は、様々なノウハウを活かし、駐車場の維持管理費の削減や使用料金の収益改善の提案をしています。「住み心地の向上」や「建物の適切な維持・管理」の優れた事例やアイデアを募集する「マンション・バリューアップ・アワード2020」(マンション管理業協会開催)を受賞した管理会社に、経緯と成功のポイントを聞きました。

タワーマンションの空き駐車場問題を、区画改修で改善

財政部門(組合財政の健全化)の部門賞を受賞したのが、住友不動産建物サービスが管理している東京都港区のタワーマンション「ワールドシティタワーズ」の事例です。4年前より「ワールドシティタワーズ」の担当になった営業所長の友光学さんは、着任早々さまざまな課題に直面しました。

「消費税増税による支出増加や人件費の高騰などで管理組合の支出が大幅に上がってしまい、このままいけば、管理費の値上げは避けられない状況でした。管理費を上げずにいかに諸問題に対応できるか、2017年1月頃からさまざまな検討をはじめました」(友光さん)

総戸数2000戸を超える「ワールドシティタワーズ」(画像提供/住友不動産建物サービス)

総戸数2000戸を超える「ワールドシティタワーズ」(画像提供/住友不動産建物サービス)

マンションの駐車場の空き問題は管理組合の収入減に直結するため、理事会の悩みの種になっている(画像提供/住友不動産建物サービス)

マンションの駐車場の空き問題は管理組合の収入減に直結するため、理事会の悩みの種になっている(画像提供/住友不動産建物サービス)

助成金や補助金を活用し、共用部分の照明のLED化やテレビブースターなど共聴設備更新工事などの経費削減を進めながら、倉庫を賃貸化して収入を得たり、資源ごみの買取りによる収益改善策を講じました。さまざま検討を重ねるなかで、着目したのが、駐車場の待機者リストでした。

「1302台の駐車場区画には平置きと機械式駐車場があります。機械式駐車場には、車高、車幅、車長の異なる様々なタイプのパレット(1台分の駐車スペース)がありました。そのなかに人気のあるパレットと人気のないパレットがあることに気づきました。平置き及び特大駐車場は満車で、1台目の待機者が36名もいることに着目。人気なのは、車幅1950cmの大きな外車が入れられるパレット。人気のないパレットをつぶして人気のあるサイズにできないか。そこから、駐車場の区画改修の検討が始まりました」(友光さん)

機械式駐車場のメーカー、住友不動産建物サービスの技術担当者と何度も打合せを重ねた結果、設備的な問題点をクリアし、1つの駐車場の設備あたり5000万円の改修費用が発生する見積りが出ました。

「待機者リストには2種類ありました。現在、マンションの敷地外に借りている人で一台目を駐車するため待っている人、マンションの駐車場を借りてはいるが、大きなパレットに移動したい人です。マンションの駐車場を借りてくれれば、その分が管理組合の収入増になります。その場合の使用料を計算すると、5000万円が8年位で回収できると試算。管理組合にメリットがあると判断し、理事会に提案しました」(友光さん)

理事会はすぐに提案を承認し、駐車場の区画改修プロジェクトが開始しました。

友光さんは、2年前から担当に加わった岩佐淳史さんと協力しながら、コツコツとデータを集め、わかりやすいプレゼン資料を作成。居住者のメリットが伝わり、総会ではスムーズに可決されました。プロジェクト開始前の検討期間を入れると、工事完了までに3年がかかりましたが、1302台のうち元々321台あった空きを、改修後は、201台の空きに減らすことができたのです。

「年間約1600万円の駐車場使用料の増収が見込まれています。改修工事だけで120台減ったとは言えませんが、空き問題を解決するだけでなく、待機者のニーズを満たせて、居住者の利便性向上にもつながったと思います」(友光さん)

管理会社の経験を信頼して、一緒にマンションの資産価値を守る

今回の事例が成功した背景のひとつとして、友光さんは、4年前からはじまった住友不動産建物サービスの「現場密着型の管理」を挙げます。

「担当者は基本的にマンションに常駐するようになり、居住者の方と近い感覚を持てるようになりました。雑談のなかで、マンションの困りごとを直接聞けるようになったんです。理事会との関係性も格段に良くなりました。今まで引き出せなかった問題を知ることで、会社にストックされたノウハウや個人の経験から改善策が導かれていく。良い循環が生まれるようになりました」(友光さん)

友光さんと岩佐さん。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞で、「居住者からの感謝の言葉が何よりうれしかった」と言う(画像提供/住友不動産建物サービス)

友光さんと岩佐さん。「マンション・バリューアップ・アワード2020」受賞で、「居住者からの感謝の言葉が何よりうれしかった」と言う(画像提供/住友不動産建物サービス)

契約者が年々減少。機械式駐車場の平面化で解決

駐車場の空き区画問題の解決策のひとつとして、「平面化工事」があります。平面化工事とは、機械式駐車場を砕石等で埋め戻し、アスファルト舗装等で仕上げをしたり、機械式駐車場を撤去したあとに鋼板スラブを設置する工事のこと。機械式駐車場の利用者の減少に合わせて台数を減らすことができ、メンテナンスコストや修繕費用を削減する目的で行われています。

大和ライフネクストが管理する総戸数42戸の大阪市内のマンションは、「平面化工事」の成功事例として、「マンション・バリューアップ・アワード2020」財政部門で佳作を受賞しました。担当したマンション事業本部の竹ノ下巧さんに平面化に至るまでの経緯を聞きました。

当時、築24年を迎えたマンションは、年々駐車場の空き区画が増えている状況でした。そして、2020年4月に、ある所有者が複数の駐車場区画を全て解約したため、駐車場35区画のうち空きが14区画に。マンションの収入が著しく減少する事態になりました。

「解約の書面を受け取ってすぐに、理事会に報告し、管理費を値上げするか、それとも他の方法があるのか検討しました。実は、マンションは、その前年に、修繕積立金の改定を行ったばかり。さらに、管理費を上げるのは居住者の理解を得られないと思い、何とかしなければという気持ちでした」(竹ノ下さん)

駐車場を借りたい方がいない状況を受けて提案したのが、機械式駐車場の平面化です。マンション所有の二段式機械式駐車場のうち一部を平面化することで、無駄な区画を削減し、機械式駐車場の維持費用の削減を試みました。

駐車場の解約による収入減は、約60万~75万円/月で、その分が管理費の値上げになってしまいます。理事会に提案したのは、35台分ある機械式駐車場の一部18台を800万円の工事費用をかけて埋め戻し、平置き駐車場9台に改修するというもの。その結果、機械式駐車場の維持メンテナンス費用を40%ほど削減できる計算です。

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大和ライフネクストの事例では、2段式駐車場の一部である18台を平面駐車場9台に変更した。写真と本文とは関係ありません(PIXTA)

大和ライフネクストの事例では、2段式駐車場の一部である18台を平面駐車場9台に変更した。写真と本文とは関係ありません(PIXTA)

プロジェクトが始まり、竹ノ下さんは、大和ライフネクストの工事部と相談しながら提案資料を作成。保守費用、機器類交換、撤去・平面化の費用など今後30年間のシミュレーション等をつくりました。

そして、埋め戻しをするスペースの契約者で改修後は場所を移動する予定の居住者の家を訪ね、一人一人に説明。さらに、総会の前に住民アンケートを実施しました。このままでは、管理費の値上げになること、そのために、800万円を使って改修工事をすることについて賛否を問うことに。結果は8割が賛成でどちらともいえないが2割。反対者はいませんでした。埋め戻しと料金改定の2つの軸をしっかり切り分けた提案が理解され、事前説明のかいもあって、1回の総会で無事可決。工事までにかかった期間は約1年でした。

2021年に実施された改修工事により、将来見込まれていた機械式駐車場のメンテナンス費用が減り、金額にして今後30年間で約3000万円のコスト削減ができました。8年ほどで800万円の工事費用を回収でき、修繕積立金の負担が約2200万円軽減されることとなったため、管理費値上げ分とほぼ相殺できました。

竹ノ下さん。いちばん苦労した点は、「総会をスムーズに通すための下準備」。居住者の不安を解消する提案を心がけた(画像提供/大和ライフネクスト)

竹ノ下さん。いちばん苦労した点は、「総会をスムーズに通すための下準備」。居住者の不安を解消する提案を心がけた(画像提供/大和ライフネクスト)

管理組合、管理会社両方にメリットがある提案を常に探る

経営企画室の金坂将史さんは、機械式駐車場そのものが悪ではなく、時代のトレンドにあった収益改善・経費削減が必要と言います。

「そもそも40年前は、平置き駐車場が多かったんです。その後普及した機械式駐車場は、狭いスペースでも数を確保でき収益が出る計算で取り入れられた商品でした。しかし、時代が変わり、住民の高齢化や社会的な車離れによって、駐車場利用者が減り、空き駐車場に悩むマンションが増えてきました。大和ライフネクストが管理している全国のマンションでも5年ほど前から平面化の波が来ています。更新工事は、長期修繕計画に入っていますが、平面化はそこにないイレギュラーな工事。建物担当が注目していないとできない提案です」(金坂さん)

大和ライフネクストでは、2021年10月に空き駐車場課題解決に特化した組織を立ち上げ、11月より「駐車場診断」「駐車場サブリース」のサービス提供を開始しました。大和ライフネクスト管理受託マンションを中心に、管理受託外マンションやビル等建物の駐車場にも対応しています。

「収益化をやりたいという声は居住者からはなかなか出ないので、管理費の改善をするなかで、提案することが多いですね。経費削減や収益が上がる提案をしないと管理会社として生き残っていけないと考えています。管理組合、管理会社双方にメリットがあり、管理組合にとってリスクの少ない提案が、他社との差別化にもつながります」(金坂さん)

管理組合が抱える空き駐車場問題に、管理会社は、マンション管理のプロとして挑んでいました。管理組合と管理会社が垣根を越えて、お互いをパートナーとして信頼できれば、様々な問題の解決が早まりそうです。あなたのマンションでも、もしかしたらここ何年かで駐車場利用率に変化が起きているかもしれません。着目し話し合ってみてはどうでしょうか。

●取材協力
・住友不動産建物サービス株式会社
・大和ライフネクスト株式会社
●参考
マンションバリューアップアワード(一般社団法人マンション管理業協会)

民家の駐車場に“住める”!? 「バンライフ・ステーション」って?

「バン」などの車中泊仕様の車を生活拠点「家」にして、仕事や旅行などを楽しむ新たなライフスタイル「バンライフ」が話題となっている。

その流れを受け、バンライファーである筆者が、日本初の長期間“住める”民家の駐車場「バンライフ・ステーション」を2019年12月にオープンした。この試みはどういったものなのか、利用者の声も踏まえてお届けする。

なぜバンライフが熱いのか?

インスタグラムの「#VANLIFE」ハッシュタグ数は世界で676万件(2020年3月現在)にも及ぶ。インスタグラム、フェイスブック、ブログなどのソーシャルメディアを通して、世界的にあらゆるライフスタイルが共有される時代、人々の視野や価値観が拡大することで、“一緒に”変わった暮らし方にチャレンジする実践者が増えている傾向にある。

筆者の周りでも最近、「生活はバンライフで十分、(それを実践する)バンライファーになりたい」と従来の安定した正社員生活を離れ、2020年3月からトヨタ・ヴォクシーを活用し、バンライファーの仲間入りを果たした20代の若者もいる。

豊かな世の中に生まれ育った20~40代前後の若者が「何故これまでの考えのもと、人生を過ごさなければいけないの?」「時代に合わせた生活があってもいいのでは?」と暮らしの固定概念を疑問視し、精神的な豊かさや自由を求めて、旅先であらゆることを日々体感しながら暮らせるバンライフに魅力を感じ始めているようだ。

バンライフの“家”もあれこれ(写真提供/中川生馬)

バンライフの“家”もあれこれ(写真提供/中川生馬)

ハイエースをベースに、オフィスやベッドを搭載した“動く拠点”(写真撮影/中川生馬)

ハイエースをベースに、オフィスやベッドを搭載した“動く拠点”(写真撮影/中川生馬)

軽トラックや1トントラックに自作の木造の家を荷台に積むバンライファーもいる(写真撮影/中川生馬)

軽トラックや1トントラックに自作の木造の家を荷台に積むバンライファーもいる(写真撮影/中川生馬)

自身の好みで車内を改装すれば、分厚くて頑丈な外装、安全面を重視して製造された車は家にもなる。

「バンライフ=車上生活・車中生活」というと、かつては車付きの路上暮らしをイメージされがちだったが、いわゆるこの記事内の「バンライフ」は従来のイメージとは異なる。

ひと昔前は「マイホーム」が豊かさを示していたかもしれないが、今や個々の豊かさの価値観は自身の自由度にシフトし始めている。

情報通信技術が飛躍的に進化、バンライファー人口はどれくらいいる?

バンライフを実践したい人たち向けに車中泊スポットのシェアと、キャンピングカーなど車中泊仕様の車に特化したカーシェアサービスを提供するCarstay(カーステイ)によると、「世界には120万人、日本には3400人もの長期間、車で過ごすバンライファーがいる」という。

2000年初期からADSLや光回線が普及し、2010年に入ってからはモバイルWi-Fiルーターやスマホのテザリングを介したインターネットが普及。このことでいつでもどこでも場所を問わず仕事ができるようになり、バンライフに火が付き始めた。

2020年代に突入し、5Gや自動運転が普及することで、車で移動しながら仕事するだけでなく、暮らすこともできるようになる。この社会動向とともに、より多くの人が「バンライフも自分の生活の選択肢としてあり得るのでは?」と考え始め、今後の暮らし方の自由度はさらに拡大することだろう。

バンライファーが集まるイベント「キャンパーフェス」にて(長野県安曇野)(写真提供/中川生馬)

バンライファーが集まるイベント「キャンパーフェス」にて(長野県安曇野)(写真提供/中川生馬)

この流れのなかで、バンライファーたちの注目を集めているのが大手自動車会社の動向だ。

それは、情報技術と車両を活かしてあらゆるサービスを展開する概念「MaaS(Mobility as a Service)」。この市場は世界で6兆円規模と言われている。

去年開催された自動車の祭典「第46回東京モーターショー2019」では、車が単に人の「足」になるだけでなく、これまで以上に人の生活に深く入り込み、車は「動く」打ち合わせスペース、ホテル、仮設住宅など、「動くX」に生まれ変わることを自動車会社が強調していた。

「動くX」の代表例はトヨタの「e-Palette(イーパレット)」(写真提供/トヨタ自動車株式会社)

「動くX」の代表例はトヨタの「e-Palette(イーパレット)」(写真提供/トヨタ自動車株式会社)

さらにトヨタは、世界最大のエレクトロニクスとテクノロジーの見本市「CES 2020」で、MaaSなどの実証実験ができるコミュニティ「Woven City(ウーブン・シティ)」を静岡県裾野市に創ることや、通信インフラ最大手のNTTとの資本・業務提携にまで踏み込み、この世界の広がりを本格化させることを発表した。

MaaSに関わる業界全体で、車を基盤としたサービスの革新が進み、バンライフにもさらなる注目が寄せられることだろう。

住める駐車場「バンライフ・ステーション」とは?

バンライフへのアツい潮流をひしひしと実感し、2019年12月、能登半島の奥地、石川県穴水町川尻地区で筆者が安価で譲り受けた一軒の古民家を、シェアハウス、シェアオフィス、コワーキングスペースなど多用途・多目的の家「田舎バックパッカーハウス」としてバンライファー向けにオープンした。「バンライフ・ステーション」はその敷地内にある、中長期間滞在が可能な“住める民家の駐車場”だ。

バンライファーの家となる「車」を駐車場に停めて、「田舎バックパッカーハウス」にドッキング。固定された家に「動く部屋」が拡張されたイメージだ(撮影/中川生馬)

バンライファーの家となる「車」を駐車場に停めて、「田舎バックパッカーハウス」にドッキング。固定された家に「動く部屋」が拡張されたイメージだ(撮影/中川生馬)

ワークスペース、居間、台所、シャワー、トイレ、畑、Wi-Fi、パソコンモニター、デスクなど、生活で必要となるスペースや設備の共同利用が可能で、プライベート空間が必要なときや、就寝時は自身の家/ベットルーム「車」へと戻るという考え方だ。

通常、バンライファーは自宅となる車を運転しながら、その日の風呂、車中泊、仕事、充電などができるスポットを探すことで頭がいっぱいだ。

車の旅人は主に、長距離運転などの疲労による仮眠の車中泊はOKで、オートキャンプなどいわゆるレジャー目的の車中泊は“遠慮してください”としている「道の駅」、サービスエリア、車中泊が正式認定された「Carstay」ステーション、オートキャンプ場、RVパークなどを利活用することが多いが、これらの施設は「長期滞在」「連泊して住む」ことなどを目的としては機能していない。

時代とともに目的や用途は変更すべきだとは思うが、現状、本格的なバンライフを支えるインフラは存在しない。一時的にリラックスでき、24時間仕事に集中できる「バンライフ・ステーション」は、バンライファー含めた旅人に求められていると思っている。このような「バンライフ・ステーション」が増えることで、バンライファーも増えるに違いない。

「田舎バックパッカーハウス」オーナーの筆者・中川生馬は、バックパッカーあがりのバンライファーです(撮影/中川生馬)

「田舎バックパッカーハウス」オーナーの筆者・中川生馬は、バックパッカーあがりのバンライファーです(撮影/中川生馬)

今回、「田舎バックパッカーハウス」をつくろうと思った背景には、筆者のバックパッカー時代の経験がある。「田舎バックパッカーハウス」のオーナーである筆者は、以前は田舎を旅するバックパッカーだった。

前職の大手企業での会社生活に満足していたものの、会社中心のライフスタイルに疑問を抱き、2010年10月から、能登の小さな農山漁村・石川県穴水町岩車に移住した2013年5月まで、テントや炊事道具など約30キロのバックパックを担いで、全国各地の“聞いたことがない”田舎を中心に旅歩き、田舎現地の人たちの生の声を聞きながら、次の生活拠点を探した。途中、車中泊・旅人仕様に車を改装するアネックス社からハイエースがベース車輌の「ファミリーワゴンC」を購入し、バンライフを開始。

バックパッカーやバンライフをしていた当時から、中長期間、時間を気にすることなく、休憩しつつも仕事ができ、旅人の体や気持ちを癒やし共感できるスペースの必要性を感じていた。今回、「バンライフ・ステーション」を開設したのは、こういう理由からだ。

今後、バンライファーがさらに増加することで、「バンライフ・ステーション」の需要はさらに高まると思う。「バンライフ・ステーション」は現在能登に1カ所しかないが、共同企画者であるCarstayが年内中に全国から「バンライフ・ステーション」のオーナーの募集をする予定だ。

ハイエースのバンがベース車輌のキャンピングカーで打ち合わせをするCarstayのメンバー(写真提供/Carstay株式会社)

ハイエースのバンがベース車輌のキャンピングカーで打ち合わせをするCarstayのメンバー(写真提供/Carstay株式会社)

「バンライフ・ステーション」を利用した2組の声

2020年新年早々、「田舎バックパッカーハウス」に2組のバンライファー夫婦が訪れた。

1組目の矢井田さん夫妻は「バンライフ」に魅力を感じて会社を退職したという。

2019年10月ごろ、住んでいた大阪のアパートを解約し、ハイエースに引越した。自宅で使っていたベッドや棚などは車内に移動。さながらハイエースは“動くワンベッドルーム”のようだった。

矢井田さん夫妻のハイエースの家。アパートで使っていたベッドや棚を設置(撮影/中川生馬)

矢井田さん夫妻のハイエースの家。アパートで使っていたベッドや棚を設置(撮影/中川生馬)

2組目の菅原さん夫妻は、結婚当時 家がなく、唯一持っていたのは車のみだった背景から、2019年4月から旅・仕事・生活を車中で開始、今では軽自動車のハスラーで全国を周る超小型バンライフを楽しんでいる。が、少しスペースが小さすぎたようで、最近ではハイエースへの乗り換えを予定しているとのこと。

菅原さん夫婦の“家” 軽自動車ハスラー(撮影/中川生馬)

菅原さん夫婦の“家” 軽自動車ハスラー(撮影/中川生馬)

両組とも「バンライフ・ステーション」を利用しようと思った背景には、「落ち着いた環境で時間を気にせず、約1カ月間 集中して仕事をしたい」などの理由があった。

夜はみんなでわいわいと飲み食い(撮影/中川生馬)

夜はみんなでわいわいと飲み食い(撮影/中川生馬)

ご飯を自炊したり、夜中過ぎまで仕事をしたりして「田舎バックパッカーハウス」で過ごしていた二組夫婦。

同じバンライフ人生を過ごす仲間と一時を共有できたことについて「バンライファーが長期間、一つの場所に集まることは珍しい。共感できる話も多くて楽しい時間を過ごせた」と話していた。

また、味噌づくりなど地域の行事に参加、近所で野菜をお裾分けしてもらうなど、田舎ならではの体験をとおして、地域と交流ができ、人との“つながり”が生まれた。

「バンライフでは夫婦2人で居る時間がほとんど。この場をきっかけに、お互いの夫婦や地元の人たちと触れ合うことができ、新しい家族が増えたようで楽しかった。穴水町はまだまだ知られていない穴場、移住した中川生馬さんが地元の人と私たちをつなげてくれたおかげで、『知る人ぞ知る』地元ならではの体験もできてうれしかった」と、菅原さん夫婦は話してくれた。

両夫婦とも能登牡蠣には超感動(写真提供/中川生馬)

両夫婦とも能登牡蠣には超感動(写真提供/中川生馬)

矢井田さん夫妻も、「今回、バンライフ・ステーションに滞在した主な理由は、たまっていた仕事を落ち着いた空間で片付けたいと思ったからでした。バンライフでは、落ち着ける車中泊スポット、温泉や銭湯、ポータブルバッテリーの充電スポットなどを探しながら日々を過ごしています。とはいえ、連泊でき、時間を気にすることなく、自宅のように気軽に利活用できるスペースがありません。夫婦だと、ゲストハウスやホテルなどの長期宿泊すると高額になりますし、バンライフを送るにも通常1カ月あたり12万円以上かかっていましたが、ここに滞在した1カ月間は、ガソリン代や温泉代などを抑えることができ、二人一組で約半額で済みました。また、田舎への“ちょい”移住生活も体感できたし、牡蠣などの能登の食材もとにかく素晴らしかった!」と滞在を楽しんでくれた様子。

昼前から深夜にかけて仕事をする二組の夫婦(撮影/中川生馬)

昼前から深夜にかけて仕事をする二組の夫婦(撮影/中川生馬)

能登では冬季間の1~2月は雨や雪が多いが、3月ころから天気が回復して暖かくなり、過ごしやすくなる。

夏は暑いが、都会と比べると、日中や朝晩は涼しい。暑い日は、「田舎バックパッカーハウス」から数分で行ける穏やかな海へと飛び込んで涼む方法もある。

「バンライフ・ステーション」で過ごすだけでなく、牡蠣漁師の体験や…(撮影/中川生馬)

「バンライフ・ステーション」で過ごすだけでなく、牡蠣漁師の体験や…(撮影/中川生馬)

穏やかな海上で地元の食材や地酒を堪能し、釣った魚を調理し半自給自足体験をすることもできる(撮影/中川生馬)

穏やかな海上で地元の食材や地酒を堪能し、釣った魚を調理し半自給自足体験をすることもできる(撮影/中川生馬)

あらゆるものがそろっている豊かな時代。

あえて混雑した都会を離れ、バンライフというユニークな暮らし方を試してみてはいかがだろうか?

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・Carstay株式会社
・田舎バックパッカー

ららぽーと沼津、2019年10月に開業

三井不動産(株)は、静岡県東部エリア初進出となるリージョナル型ショッピングセンター「三井ショッピングパーク ららぽーと沼津」を、2019年10月に開業する。計画地は静岡県沼津市東椎路地区、JR東海道線「沼津駅」より約2.5km、同線「片浜駅」より約2.0kmに位置する。敷地面積約119,816m2、延床面積約165,000m2。地上4階建の店舗棟と地上5階建の立体駐車場(3棟)で構成され、ファッションから雑貨、スーパー・食物販、話題のレストラン・カフェ、フードコートなど約210店舗が出店する。

また施設は、2017年3月31日の都市計画変更により市街化編入された土地(約30ha)の中核に立地し、沼津市におけるまちづくりの新たな拠点としての役割を担う。施設計画に合わせて、周辺道路の拡幅整備や当敷地内に3ヵ所、合計約5,000m2の緑地広場と交通広場などの整備を行っていく。

ニュース情報元:三井不動産(株)