屋根の上には中央線! 高架下の学生向け賃貸「中央ラインハウス小金井」完成から2年、コロナ禍での住み心地

2020年3月、JR中央線東小金井駅から武蔵小金井駅間の高架下に建設された、学生向け賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」。JR中央線の高架下を敷地としていること、3人の有名建築家が各棟を設計、専用カフェテリアでの食事付き、などが話題となった。現在、入居開始から3年目。コロナ禍をまともに受けつつ、どのように学生たちが過ごしているのか、お話を伺った。

中央線の高架下の有効活用が「食事付き学生専用マンション」

「入居開始後、最初の入居者は地方出身の1年生(当時)がほとんどでした。新築の「デザイナーズマンション」であることに加え、管理人がいて学生専用である安心感、朝夕の食事付きであることも親御さんからの支持が大きいです。いわゆる学生寮に比べればプライベートな居住空間はしっかり確保され、門限もない自由さもいいようです」と当物件の管理運営を担っている株式会社学生情報センター 広報室の寺田律子さん。

周辺には商店街も。そもそもここに学生向け賃貸住宅が計画されたのは、中央線の高架化に伴い生まれた土地の有効活用という観点から。多くの大学に通学できる利便性から、法政大学、東京農工大学、国際基督教大学はじめ約30校の学生が暮らしている(写真撮影/桑田瑞穂)

周辺には商店街も。そもそもここに学生向け賃貸住宅が計画されたのは、中央線の高架化に伴い生まれた土地の有効活用という観点から。多くの大学に通学できる利便性から、法政大学、東京農工大学、国際基督教大学はじめ約30校の学生が暮らしている(写真撮影/桑田瑞穂)

高架下かつ第一種低層住居専用地域で、「寄宿舎」カテゴリによる建築確認申請により建設をしているため、共同施設が必要になる。当物件には食堂があり、おのずと目玉は学生専用カフェテリアに。平日の朝と夕に、管理栄養士監修のボリューム感ある食事は「美味しい」と評判だ。さらに、専用カフェテリアが営業しない週末は自炊も。専用部分にキッチンがない学生は共用キッチンで調理をする。

メニューの一例(写真は夕食)。食事は朝食・夕食の提供で1万7600円/月(税込)。提供時間は月~金曜の7時~9時、18時~21時 (画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

メニューの一例(写真は夕食)。食事は朝食・夕食の提供で1万7600円/月(税込)。提供時間は月~金曜の7時~9時、18時~21時 (画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

外から中が見える、開放的なカフェテリアは居住する学生専用。近所の住民の方から「これは何?」と聞かれることも多いとか(写真撮影/桑田瑞穂)

外から中が見える、開放的なカフェテリアは居住する学生専用。近所の住民の方から「これは何?」と聞かれることも多いとか(写真撮影/桑田瑞穂)

高架下ということで騒音や揺れが気になるのでは、とイメージする人は多そうだが、実際はほとんど気にならない。
C棟に住むAさん(大学3年・男性)は、「むしろ、昔から鉄道が好きで、高架下のマンションということでがぜん興味を覚えました。都市学にも興味があり、こんな新しい土地活用は、恰好のネタにもなると思いました。暮らすのは一番の実践です」と話す。

棟は3通り。専用部分はミニマムに。共用スペースをシェア

実際の部屋や共用スペースを案内していただいた。
各部屋専有部は10~15平米とコンパクトだが、机やベッド、収納などが備え付けられ、洗濯機や冷蔵庫など家電も付いている(棟によって内容は異なる)。必要最低限の荷物で生活が始められるとあって、地方から上京する新1年生に人気の物件だ。

共用部を通らず入室でき、2住戸ごとにオートロックがあるなど、最も独立性の高い「C棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

共用部を通らず入室でき、2住戸ごとにオートロックがあるなど、最も独立性の高い「C棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

C棟の部屋は13.04~15.94平米で、ロフト、キッチン、浴室付きが最も人気が高い(写真撮影/桑田瑞穂)

C棟の部屋は13.04~15.94平米で、ロフト、キッチン、浴室付きが最も人気が高い(写真撮影/桑田瑞穂)

勉強や食事などができるコミュニティスペースを併設している「L棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

勉強や食事などができるコミュニティスペースを併設している「L棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟の部屋は10.75~11.36平米(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟の部屋は10.75~11.36平米(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟にある共用キッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟にある共用キッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

コインランドリー(写真撮影/桑田瑞穂)

コインランドリー(写真撮影/桑田瑞穂)

最も天井の高い「H棟」(10.44~11.59平米)。シャワーユニットとロフト付き。冷蔵庫付き(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

最も天井の高い「H棟」(10.44~11.59平米)。シャワーユニットとロフト付き。冷蔵庫付き(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

ロフトから見たH棟の部屋(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

ロフトから見たH棟の部屋(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

コロナ禍で交流イベントが白紙に。現在は少しずつ挑戦中

「共用部を充実させることで、付加価値を付けられたらと考えています。当初は、さまざまなイベントを提供することで、自然と交流を生み出す手伝いもできたらと考えていました」と寺田さん。というのも、多くの学生専用マンションを手掛けてきた同社は、これまでウェルカムパーティーやゲーム大会、ハロウィーンイベントなど、さまざまな仕掛けで、入居する学生たちの交流を促してきた実績があったからだ。

しかし、完成と同時にコロナ禍に。当然、さまざまなイベントは白紙になった。新入生も突如すべての授業がオンラインになるなか、実家にも帰れないという状況が続いた。前出のAさんも「最初の3カ月間は、初めての一人暮らしとコロナ禍のダブルで精神的につらかったです」と思い返す。

ただし、この学生向け賃貸住宅なら、会話を通しての交流は難しくても、同じ建物内に人がいる安心感や自分の部屋以外のスペースを使えるメリットがある。
「共用スペースで料理をしていれば、当然他の学生と同じ時間に料理したりすることがあるので、そこで会話をして顔見知りになっていくことができました」とH棟の住民の学生Sさん(大学2年・男性)

「感染状況をみながら、イベントも少しずつ再開しました。例えば、カフェテリアでスタッフが楽器を演奏するイベントなどを試みました」と当物件の事業開発主体であり、沿線のコミュニティを創発する株式会社JR中央線コミュニティデザインの山口剛さん。パーティーは無理だが、音楽を通して自然とそこに居る人たちの一体感が増す仕掛けだ。

6月にカフェテリアで行われた音楽イベント。スタッフがアコースティックギターとバイオリンを奏でて(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

6月にカフェテリアで行われた音楽イベント。スタッフがアコースティックギターとバイオリンを奏でて(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

学生自ら企画に参加。東京五輪の観戦イベントも

学生が自ら企画したイベントもある。前出のSさんは、東京五輪のサッカー戦をカフェテリアで一緒に観戦するイベントを担当した。

「せっかく、ただのアパートではなく学生マンションに住んでいるので、他の学生とも気軽に交流できる環境をつくりたいと思ったんです。一緒に企画したり、実際に来てくれた人と話している中で、他の大学の話を聞いたり、北から南まで出身地がバラバラで、故郷の話を聞いたり、すごく面白かったんです。もともとは部屋の美しさと食堂があったことで決めた物件ですが、いろんなバックグラウンドを持つ学生が集まっている良さを実感しました」(Bさん)

シェア工作室で地域にも開かれた場所に

そして、住人の学生だけでなく地域にも開かれた交流の場となっているのが、ナレッジルームだ。さまざまな工具、道具が用意されているため、材料を持ち込んでDIYをしたり、不用品を分解してつくるアートを楽しむこともできる。入居している学生のなかには、壊れていたものを自分で直したり、自分の部屋用にと棚や箱などぴったりサイズのものをDIYする人も。

「何をするかは自分で決める」が基本だが、小さなワークショップを開催することもある。小学生でも、初回のみ保護者の同伴が必要だが、保護者の許可があれば小学生だけで利用することも可能だ。
「ここは高架下で多くの方が“ここは何だろう”と思う場所。その注目度を活かして、学生だけでなく、地域の皆さまにも自然に交流が生まれる場所になったら理想的だなと思っています」と山口さん。

毎週月・火曜13時~18時、日曜10時~15時(不定期)にオープン。クリエイティブ・フィールドVIVISTOPを運営するVIVITA JAPAN(株)のスタッフに相談もできる(写真撮影/桑田瑞穂)

毎週月・火曜13時~18時、日曜10時~15時(不定期)にオープン。クリエイティブ・フィールドVIVISTOPを運営するVIVITA JAPAN(株)のスタッフに相談もできる(写真撮影/桑田瑞穂)

あらゆる工具のほか、ミシンやロックミシン、カッティングマシーン、シルクスクリーンなどが準備されている(写真撮影/桑田瑞穂)

あらゆる工具のほか、ミシンやロックミシン、カッティングマシーン、シルクスクリーンなどが準備されている(写真撮影/桑田瑞穂)

また、ナレッジルームで行われるイベントを学生が手伝うケースもある。
C棟に住むCさん(大学3年)は、「たまたま夏に募集があって、ヒマだったので参加しました。一般の来場者向けに、デイジーの種を空き缶で育てるプラントづくりを考案し、当日たくさんの方にレクチャーしました。緊張しましたがとても楽しくて、やってよかったですね。それきっかけで、スタッフの方と仲良くなり、たまに顔を出しています」と他にはない体験を楽しんだようだ。

正直、コロナ禍で、当初思うような交流の場が設けられていないのは事実だ。
「しかし、こちらの物件ではありませんが、オンラインを使ったe-スポーツ大会、有給のインターシップなど、新しい試みを実施しています。今後は学生さんたちもさまざまなイベントを企画する側から参加していただけたら面白いですね」(寺田さん)

できた当初は“高架下にできた学生寮”という珍しさで注目を集めた「中央ラインハウス小金井」。実は、中央線の高架化に伴い、学生向け賃貸住宅のほかにも、新たな商業施設、コワーキングスペース、保育園、クリニックなどが整備されている。つまり、駅の高架下という立地は、自然と地域住民が目にすることの多いロケーションなのだ。こうした特性を生かし、今後は、地域との交流も加速していくかもしれない。

現時点では、交流が入居の決め手になった学生はそれほど多くないが、今後は変わるかもしれない。就職活動において「自ら考え、自ら動いてきたか」を重視する傾向にある今、自分が暮らす場がその舞台になるのは絶好の機会だ。今後は「交流をしたいから」「イベントを自分で考えてみたいから」入居するという学生が増えるかもしれない。今後にも期待したい。

今回お話を伺った学生情報センター寺田律子さんと、JR中央線コミュニティデザインの山口剛さん(写真撮影/桑田瑞穂)

今回お話を伺った学生情報センター寺田律子さんと、JR中央線コミュニティデザインの山口剛さん(写真撮影/桑田瑞穂)

●取材協力
・中央ラインハウス小金井
・学生情報センター

「シェアキッチン」発の“濃いお店”で地元をおもしろく! コロナ禍で人気

東京都・東小金井の高架下に、洋菓子、パン、おにぎり・惣菜……いつも売っているモノが違うお店がある。実はこちら、複数のメンバーが店舗、厨房を共同で使う「シェアキッチン」。初期投資の費用を抑えられるメリットから、ここ数年、新たな形態として注目を集めている仕組みだ。さらにこのコロナ禍で、「シェアキッチン」を始めたい人が増加しているという。2014年に小平の「学園坂タウンキッチン」でシェアキッチンスタイルを確立し、今では都内4カ所に独自のブランド「8K」をはじめとしたシェアキッチンを運営する株式会社タウンキッチンの代表・北池智一郎さんにお話を伺った。
地域がつながる場づくりには、「食」が一番

「飲食業をしたいわけではない」と語る北池さんがシェアキッチンを始めたのは、「地域につながる場を提供したい」という想いから。
「例えば、昔は、お醤油が切れていたらお隣さんに借りに行ったりしていたんですよね。お互い助けあうことが、生活を円滑にすすめるために不可欠なことだったから。しかし、今はコンビニがあるから、そんなお願いをしなくていいでしょう。便利さと引き換えに失った、地域の『つながり』を再生したい。そのための『場』を提供するには、まず『食』を媒体とすることがいいと考えたことが始まりです」

株式会社タウンキッチン代表・北池智一郎さん(写真提供/タウンキッチン)

株式会社タウンキッチン代表・北池智一郎さん(写真提供/タウンキッチン)

保健所からの許認可を受けたキッチンを「所有」でなく、複数人で「共有」することで創業のハードルを低くできる。利用料は月額料金で、開業コストを大きく抑えられるのも特徴だ。食品衛生責任者の資格は必要だが、看板やショップカード、ラベルなどそれぞれのオリジナル屋号で営業できる。また、開業前からマーケティング、商品開発、経理、補助金などについて個別相談ができる仕組みや、先輩利用者にアドバイスをもらえるなど他の利用者と交流できる定期的な勉強会もある。

趣味を活かし、週に1度もしくは隔週なら子育てを優先しつつも挑戦できると始める人や、会社勤めの傍ら休日のみ営業する人など、自分なりのペースで営業が可能だ。土日は子育てで稼働できない人と、平日は本業がある人と、営業日も分散できているそう。現在、タウンキッチンが直接運営しているシェアキッチンは都内4カ所。商店街の空き店舗、住宅街、高架下、大規模マンションの敷地内など、立地条件は異なるが、近所のリピーター、遠方から来るファンなど固定客をつかんでいる。

第1号店は、西武多摩湖線一橋学園駅の商店街に面した「学園坂タウンキッチン」(写真提供/タウンキッチン)

第1号店は、西武多摩湖線一橋学園駅の商店街に面した「学園坂タウンキッチン」(写真提供/タウンキッチン)

シェアキッチンでは、厨房をシェアする店主同士のつながりも。お互い情報交換したり、イベントやコラボ商品などへ発展することも(写真提供/タウンキッチン)

シェアキッチンでは、厨房をシェアする店主同士のつながりも。お互い情報交換したり、イベントやコラボ商品などへ発展することも(写真提供/タウンキッチン)

2017年に開業した武蔵境のシェアキッチン「8K musashisakai」(写真撮影/Ryoukan Abe)

2017年に開業した武蔵境のシェアキッチン「8K musashisakai」(写真撮影/Ryoukan Abe)

「むさしの創業サポート施設開設支援事業」の選定を受け、女性をターゲットとした創業支援施設でもある (写真撮影/Ryoukan Abe)

「むさしの創業サポート施設開設支援事業」の選定を受け、女性をターゲットとした創業支援施設でもある (写真撮影/Ryoukan Abe)

東小金井にある「MA-TO」のシェアキッチンは現在16店舗がシェアしており、すでに満員。イートインスペースもある(写真撮影/本浪隆弘)

東小金井にある「MA-TO」のシェアキッチンは現在16店舗がシェアしており、すでに満員。イートインスペースもある(写真撮影/本浪隆弘)

西武池袋線ひばりヶ丘駅から徒歩17分、大規模マンションの敷地内にある「HIBARIDO」。シェアキッチンの他、ショップやワークスペースもある(写真撮影/Ryoukan Abe)

西武池袋線ひばりヶ丘駅から徒歩17分、大規模マンションの敷地内にある「HIBARIDO」。シェアキッチンの他、ショップやワークスペースもある(写真撮影/Ryoukan Abe)

10年前にオープン。しかし当初の目的とはずれてしまった現実

しかし、すべてが順調だったわけではない。

2010年11月に開設した「学園坂タウンキッチン」は、地域に住む女性たちが家庭料理を総菜として提供するお店としてスタート。“地域がつながるおすそわけ”がコンセプトで、一人暮らしの高齢者や、働くお母さんたちに喜ばれたとか。

しかし、いったん店をクローズし、2014年大幅な方向転換、リニューアルをすることになる。どうしてだろうか?

「当初は、どちらかというとボランティア的な、地元主婦によるお店でした。しかし、人前に立つことが苦手な方も多く、地域での窓口はだいたい私。私自身は地域に知り会いがたくさんできたけれど、それって、本来の目的とは違うなと違和感を持ち始めたんです。私が現場にいることも多く、店長とスタッフみたいな関係性になってしまうのでは意味がないんじゃないかなぁって。だったら、私みたいな人間がたくさんいることのほうが大切なんじゃないかと、思い切って方針を変えたんです」

2010年当時の「学園坂タウンキッチン」。「〇〇さんのサバの味噌煮」「□□さんの唐揚げ」などの家庭料理を提供しファンも多かったが、ひとつのお店として味を管理することの難しさも(写真提供/タウンキッチン)

2010年当時の「学園坂タウンキッチン」。「〇〇さんのサバの味噌煮」「□□さんの唐揚げ」などの家庭料理を提供しファンも多かったが、ひとつのお店として味を管理することの難しさも(写真提供/タウンキッチン)

リニューアル後は、主婦以外の人も含めて「個人がつくりたいものやこだわりのものを提供する」シェアキッチンへ。
「自分が本当にいいと思ったものを食べてほしい」――そんな強い思いをもった人たちは、当然、自分自身が発信者になり、横とのつながりも生まれる。
「自分で何かしたい、発信したいという人は、人を惹き付けるもの。自然とつながりも生まれますし、当事者意識が高い。そんな地域のハブとなるような人を増やすことが、地域の魅力につながるんじゃないかと思ったんです」

創業ハードルが低い分、自分の「好き」を突き詰めたコンセプトに

シェアキッチンでお店を営む利用者についても話を伺った。

意外にも、「飲食店勤務から独立して自分の店舗を持ちたい」という明確な目標があった人は少数派で、趣味・好きの延長線上にお店を始める人が多いという。

「例えば自分のお子さんがアレルギーだったことから、グルテンフリーのお菓子を手づくりしているうちに、ママ友から頼まれるようになり、週に1度ならできるかもと、シェアキッチンを始めた方もいます」

ほかにも、会社員の傍ら月に数日のみ焼き菓子のお店を始めた方、チョコ好きが高じてカカオ豆からチョコづくりをしている方など、経緯は千差万別。空いた時間を使って、自分のこだわりを貫きながら商品をつくっている利用者は多い。

例えば、学園坂タウンキッチン内の「やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)」は、子育てをきっかけに、マクロビオティックを学んだ店主が、「アレルギーのある人やベジタリアンの人でも安心して食べられるお菓子やお惣菜を提供したい」という想いからスタート。化学調味料不使用、旬の野菜をたっぷり使ったデリやおやつは“身体にやさしく元気になれる“と大人気。天然色素中心のアイシングクッキーはオーダー販売もしている。

「やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)」。「自分のお店を持つために卒業していく方もいますが、古き良き学園坂商店街が大好きなので、私はここでお店を続けています。赤ちゃん連れのママからご近所のお年寄りまで、おしゃべりが目的で来てくださる常連さんも多いです。地域のサードプレイスになれたら」と店主さん(写真提供/miel*)

「やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)」。「自分のお店を持つために卒業していく方もいますが、古き良き学園坂商店街が大好きなので、私はここでお店を続けています。赤ちゃん連れのママからご近所のお年寄りまで、おしゃべりが目的で来てくださる常連さんも多いです。地域のサードプレイスになれたら」と店主さん(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

(写真提供/miel*)

ただし、多くのお店が、1人体制で、仕込み・調理・販売まで手掛けるため、売り切れ次第閉店で、営業時間も限られる。「いつ開いているか分からない」という声も少なくない。
「自分のライフバランスを大切にしながら、本当に美味しいもの、自分がこだわったものを提供しようとするとおのずとそうなると思うんです。もちろんデメリットもある。でも、商品力があるから、twitterやインスタなどでフォローし、買いに来る固定客の方たちは多いんです」

MA-TOで人気のパン屋では開店前から行列も(写真提供/タウンキッチン)

MA-TOで人気のパン屋では開店前から行列も(写真提供/タウンキッチン)

個人のお店の充実が、街の魅力を底上げする

こうした“小さくとも濃い商い”は、飲食チェーンのいわばアンチテーゼだ。

飲食チェーンは、マーケティングに裏付けられた商品展開、徹底した商品管理、いつでもいつもの味を提供してもらえる安心感がある。
ただ、そのためには人通りの多い人気の場所に出店せざるを得ず、テナント料も高い。早朝から夜まで商品をつくって売り続けるには人件費もかかる。当然、利益を追求せざるを得ない。

「シェアキッチンは逆。駅から遠い立地も多く、店舗・厨房をシェア、人件費も最小限です。でも、商品にはこだわっている方ばかりで、正直、原価率は高い利用者さんが多いと思います」

また、最初は好き・趣味ベースでもシェアキッチンで営業を続ける中で手ごたえを感じ、シェアキッチンをやめて実店舗を開く“卒業生“も多い。

「普通に考えれば人気店がやめてしまうのは痛手ですけれど、当社ではウェルカム。いいお店がまた街に増えるわけですから。循環も大切です」

個人のお店が増えることは、その街の個性になり、暮らす人の愛着を生む。その循環こそが、地域を活性化させる理想形のひとつといえるだろう。

「日用品とお菓子の店 sofar」は、MA-TO卒業生が2020年11月に東小金井駅から徒歩2分の場所にオープン。2人の子育てをしながら、水曜と金曜、月1度の土曜に営業をしている(写真提供/sofar)

「日用品とお菓子の店 sofar」は、MA-TO卒業生が2020年11月に東小金井駅から徒歩2分の場所にオープン。2人の子育てをしながら、水曜と金曜、月1度の土曜に営業をしている(写真提供/sofar)

お店の空間は、カメラマンの夫のスタジオとしても活用。また、夫が取材先等で出会うつくり手さんのコトやモノも紹介・販売している(写真提供/sofar)

お店の空間は、カメラマンの夫のスタジオとしても活用。また、夫が取材先等で出会うつくり手さんのコトやモノも紹介・販売している(写真提供/sofar)

「街に開いたお店を目指して、今後は作家さんとのコラボやスタンドカフェなど、子どもたちの成長に合わせたお店でづくりを楽しんでいけたら」と店長(写真提供/sofar)

「街に開いたお店を目指して、今後は作家さんとのコラボやスタンドカフェなど、子どもたちの成長に合わせたお店でづくりを楽しんでいけたら」と店長(写真提供/sofar)

コロナ禍きっかけで「シェアキッチン」を始めたい人が増加

コロナ禍を受けて、地元で過ごす人が増え、シェアキッチンで買い物をする人が増加。さらにお店を始めたいという問い合わせも急増しているそうだ。

「例えば、普段は飲食店で働いているけれど、短縮営業になったことを機に、副業として休日にだけシェアキッチンでお店をやりたい、と考えている方からの問い合わせが増えました。今、飲食業は大変です。だからこそ、自分のやりたかったことをやってみようと、発想を変えてみるチャンスなのかもしれません」

さらに、タウンキッチンでは、シェアキッチン「8K」の開設をサポートするプロデュース事業をスタート。これまでのノウハウを活かし、企画から開設後の運用までトータルにサポートしていくという。例えば集合住宅、商業施設、オフィス、公共空間などにシェアキッチンが導入されることで、地域コミュニティの拠点となり、街ににぎわいが生まれる。こうした取り組みを通して、より広く、より深く、「地域のハブとなる場づくり」を目指していく。

東小金井高架下には、KO-TO、PO-TO、MA-TOの3つの創業支援施設が立ち並ぶ。オフィス・工房・教室・ショールーム等として利用できる場所も。コロナ前には、各スペースが連携したイベントも開催していた(写 真提供/タウンキッチン)

東小金井高架下には、KO-TO、PO-TO、MA-TOの3つの創業支援施設が立ち並ぶ。オフィス・工房・教室・ショールーム等として利用できる場所も。コロナ前には、各スペースが連携したイベントも開催していた(写真提供/タウンキッチン)

何でもそろう大型ショッピングモールは便利で快適だ。しかし、自分のホームタウンだと実感できるのは、その街でしか味わえない食、手に入らないモノ、体験できないコトだったりする。コロナ禍で、家の周りで過ごす時間が増え、暮らす地元を再発見しようという動きはさらに加速するはず。そんななか、オリジナリティを発信でき創業のハードルが低い「シェアキッチン」は、今後さらに期待が高まるはずだ。

●取材協力 
タウンキッチン
シェアキッチン「8K」
やさしいオヤツ+ごはんmiel*(ミエル)
日用品とお菓子の店 sofar(Instagram)

高架下スペースに“賃貸住居”や“ホテル”!? 新たな街づくりが加速中

駅を中心とした鉄道高架下スペース「駅下」に、今まで以上に注目が集まっている。これまでにも飲食店などはあったが、賃貸住宅やホテル、保育園などにも利用されるようになり、“街”と言ってもいいほどの充実ぶりだ。なぜ今、高架下なのか。最近の高架下はどんなふうになっているのか。そして、今後はどのような方向へと進んでいくのか。高架下の今とこれからを展望してみた。
JR中央線高架下の学生向け賃貸住宅への入居が始まった

2020年3月、JR中央線東小金井駅―武蔵小金井駅間の高架下に学生向け賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」が完成した。JR中央線の高架下を敷地としており、専用カフェテリアでの食事と管理員付き、3人の建築家が各人のコンセプトのもとに各棟の設計を担当するというデザイン性が話題となったこの物件。現在、学生たちが、入居を開始している。

契約者は、近隣や多摩地区にある大学や専門学校の学生で、中央線沿線であることから、都心部に通学する学生も少なくないという。高架下と聞くと、電車の走行に伴う騒音や振動が心配になるが、今の所、入居者からそういった不満の声は上がっていないということだ。

「この物件のように、中央線沿線で新築、かつ食事が付いた賃貸物件は珍しいので、その点に魅力を感じている契約者が多いようです」(JR中央ラインモール開発本部マネージャー関口淳さん)。

高架下に誕生したスタイリッシュな賃貸住宅は周辺に住む人々の目を引き、入居学生専用のカフェテリアには、「入居者以外でも利用できませんか?」という声もあるそうだ。

中央ラインハウス小金井C棟の部屋の一例。専有面積15.94平米、ロフト面積4.93平米で、月額賃料7万円、共益費1.5万円/月。ロフトやワークデスク、本棚に加えて、乾燥機付きのバスルームもある(写真提供/JR中央ラインモール)

中央ラインハウス小金井C棟の部屋の一例。専有面積15.94平米、ロフト面積4.93平米で、月額賃料7万円、共益費1.5万円/月。ロフトやワークデスク、本棚に加えて、乾燥機付きのバスルームもある(写真提供/JR中央ラインモール)

L棟の部屋の一例。キッチンやライブラリー、ランドリーなどのコモンスペースが充実しているL棟では、10平米台というコンパクトな専有スペースに家具を機能的に配置している(写真提供/JR中央ラインモール)

L棟の部屋の一例。キッチンやライブラリー、ランドリーなどのコモンスペースが充実しているL棟では、10平米台というコンパクトな専有スペースに家具を機能的に配置している(写真提供/JR中央ラインモール)

C棟のコモンスペースである「アウトサイド・コモン」。C棟には共用設備として宅配Box、オートロック、防犯カメラ(外部)などもある(写真提供/JR中央ラインモール)

C棟のコモンスペースである「アウトサイド・コモン」。C棟には共用設備として宅配Box、オートロック、防犯カメラ(外部)などもある(写真提供/JR中央ラインモール)

敷地の中心に位置する専用カフェテリアでは、平日の朝・夕2回、入居者に食事が提供される(写真提供/JR中央ラインモール)

敷地の中心に位置する専用カフェテリアでは、平日の朝・夕2回、入居者に食事が提供される(写真提供/JR中央ラインモール)

JR中央線の東小金井駅から徒歩7分、武蔵小金井駅からは徒歩11分と、両駅が利用可能。両駅間の高架下にはすでにショッピングモールや保育園がある(写真提供/JR中央ラインモール)

JR中央線の東小金井駅から徒歩7分、武蔵小金井駅からは徒歩11分と、両駅が利用可能。両駅間の高架下にはすでにショッピングモールや保育園がある(写真提供/JR中央ラインモール)

鉄道の連続立体交差事業が高架下スペースを生み出している

これまで高架下には、飲食店などの店舗はあっても、住宅が建てられることはなかなかなかった。中央ラインハウス小金井のような「高架下住宅」が誕生したのはなぜか。その背景には、敷地の大半が住居専用の用途地域(第一種低層住居専用地域)であったことがある。そして、その敷地は、中央線三鷹駅~立川駅間の線路高架化に伴って生じたものだ。高架化によって、全長9kmにも及ぶ高架下空間が生み出されたのである。

このような鉄道の高架化は、都市部を中心に、全国で進められている。開かずの踏切による交通渋滞の解消、複々線化による鉄道輸送力の増強などを目的とした連続立体交差事業が実施されているからだ。

高架化によって、それまで線路や踏切だった土地が別の用途に転用されるようになったことが、駅周辺の再開発や、高架下スペースの有効活用を促している。ここ最近、高架下が活発に開発されているのは、そうした背景によるものなのだ。

連続立体交差事業の例(東武スカイツリーライン竹ノ塚駅付近)。事業主である足立区は、新たに生まれる高架下スペースの利用方法について、区民にアンケートを実施している(画像/PIXTA)

連続立体交差事業の例(東武スカイツリーライン竹ノ塚駅付近)。事業主である足立区は、新たに生まれる高架下スペースの利用方法について、区民にアンケートを実施している(画像/PIXTA)

沿線ごとの個性を活かした商業施設が次々にオープン

JR東日本グループのディベロッパーである株式会社ジェイアール東日本都市開発では、「高架下から未来のまちづくりを」という理念のもと、高架下を起点に都市開発を行っている。同社が取り組むのは、駅と駅の間の空間の魅力づくりであり、今まで気づかれていなかった沿線の価値を引き出すことを意図して、沿線別にテーマ性を持って高架下の開発を進めている。

例えば、JR秋葉原駅―御徒町駅間の高架下では、“こだわりの日本”という大きなテーマに沿って、個々の開発が行われている。「CHABARA」は、神田青果市場跡という立地特性に沿った“食へのこだわり”というコンセプトに基づいており、「SEEKBASE」は“日本の技術”、「2k540」は“日本のものづくり”、「御徒町ラーメン横丁」は“日本のソウルフード”といった具合だ。

また、JR阿佐ヶ谷駅-高円寺駅間では、“歩きたくなる高架下”というテーマに沿って、「Beans阿佐ヶ谷」「alːku阿佐ヶ谷」を展開している。

加えて、2020年6月下旬には、JR有楽町駅―新橋駅間に「日比谷OKUROJI」が開業予定。都心立地にふさわしい、大人向けの飲食、ファッション、雑貨などの店舗がそろうことになっている。

JR秋葉原駅と御徒町駅の間の高架下にある「SEEKBASE」の館内。「日本の技術」をテーマに、オーディオやカメラ、模型店などの個性的な店舗がそろっている(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

JR秋葉原駅と御徒町駅の間の高架下にある「SEEKBASE」の館内。「日本の技術」をテーマに、オーディオやカメラ、模型店などの個性的な店舗がそろっている(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

「SEEKBASE」の外観。ホビー系の店舗以外に、飲食店や「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」というホテルもある(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

「SEEKBASE」の外観。ホビー系の店舗以外に、飲食店や「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」というホテルもある(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

学童やプリスクール、体操教室に加えて、カフェなど親子で過ごせるショップが集まる「alːku阿佐ヶ谷」。広々とした中央通路に、「歩きたくなる高架下」というコンセプトが現れている(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

学童やプリスクール、体操教室に加えて、カフェなど親子で過ごせるショップが集まる「alːku阿佐ヶ谷」。広々とした中央通路に、「歩きたくなる高架下」というコンセプトが現れている(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

「日比谷OKUROJI」の完成予想図。東京の中心地である日比谷・銀座の「奥」にあることに加え、高架下通路の秘めたムードを「路地」という言葉に置き換えることで、「オクロジ」と命名されたのだとか(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

「日比谷OKUROJI」の完成予想図。東京の中心地である日比谷・銀座の「奥」にあることに加え、高架下通路の秘めたムードを「路地」という言葉に置き換えることで、「オクロジ」と命名されたのだとか(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

「日比谷OKUROJI」の館内予想図。バーの文化が根付くエリアであることから、さまざまなスタイルのバーもそろう予定(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

「日比谷OKUROJI」の館内予想図。バーの文化が根付くエリアであることから、さまざまなスタイルのバーもそろう予定(写真提供/ジェイアール東日本都市開発)

保育園やホテル、学びの場など多彩な事業も展開

ショッピングモールの開発が目を引く高架下活用だが、その用途は商業施設にとどまらない。前述の中央ラインハウス小金井に加えて、さまざまな事業が展開している。

例えば、保育園。JR東日本による子育て支援事業「HAPPY CHILD PROJECT」の一環として高架下に設けられた保育園は複数あり、駅近という立地も手伝って好評だ。騒音被害を心配した周辺住民からの反対などがない点でも、保育園はある意味、高架下向きなのだろう。

また、前出の「SEEKBASE」内「UNDER RAILWAY HOTEL AKIHABARA」、JR京葉線舞浜駅高架下の「ホテルドリームゲート舞浜」、京浜急行線日の出町駅-黄金町駅高架下のホステル「Tinys Yokohama Hinodecho」など、宿泊施設も登場している。

中央線の高架下では、2019年4月にさまざまなジャンルのワークショップが「nonowaラボ」として企画され、生活をより楽しく豊かにするヒントが詰まった、子どもから大人まで全世代が利用できる学びの場が提供されている。中央線沿線に住む人々を中心として、『「豊かな暮らし」の実現』をコンセプトに、生活をより楽しく豊かにするヒントが詰まったワークショップが選りすぐられているのが特徴だ。

高架下施設の建設については、電車走行時の振動を建物内に伝わりにくくする工法も開発されている。新たな技術によって高架下スペースの居心地が良くなることで、さらなる可能性も開けていきそうだ。

「nonowaラボ」では、中央線沿線にある4つの教室で毎月約10講座を実施中。写真は、その教室のうちのひとつである「プログラボ国立」。中央線国立駅と立川駅の間の高架下に位置している(写真提供/JR中央ラインモール)

「nonowaラボ」では、中央線沿線にある4つの教室で毎月約10講座を実施中。写真は、その教室のうちのひとつである「プログラボ国立」。中央線国立駅と立川駅の間の高架下に位置している(写真提供/JR中央ラインモール)

●参考
中央ラインハウス小金井
日比谷OKUROJI
nonowaラボ