「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!

「65歳以上の高齢者は賃貸住宅を借りづらい」ということは、近年報道などを通じて知られるようになってきた。山本 遼さんが代表取締役を務めるR65では、65歳からの部屋探しを支援し、専用サイト「R65不動産」で高齢者が入居できる物件を紹介している。また、高齢者の賃貸入居を難しくする課題を解消する取り組みも積極的に行っている。高齢者の部屋探しの実態について、山本さんに話を聞いた。

65歳以上の4人に1人が経験する“入居拒否”の実態

筆者は2年前に「65歳以上の“入居拒否”4人に1人。知られざる賃貸の「高齢者差別」」という記事を書いた。この記事で、全国の65歳以上の23.6%が「不動産会社に入居を断られた経験がある」と回答し、断られた経験の回数は「1回」という人が半数近くになるが、「5回以上」という人も13.4%いたという、R65の調査結果を紹介したものだ。

筆者が気になったのは、65歳以上の4人に1人は入居拒否に遭う一方、4人に3人は問題なく入居できているのか?その場合、どんな高齢者なら入居を断られないのだろうか?高齢者の入居拒否の実態に詳しいR65の山本さんに質問をぶつけてみた。

R65代表取締役の山本遼さん(筆者撮影)

R65代表取締役の山本遼さん(筆者撮影)

「高齢者の4人に3人は入居できる状態と思わないでほしい」と山本さん。収入があって保証人もいる高齢者でも、賃貸住宅を見つけるのに時間がかかっている。むしろ、4人に1人は時間をかけても物件が見つからない状態と見るべきだというのだ。R65の調査結果でも、年収200万円未満とそれ以上(年金以外に仕事をして収入を得ていると想定)で比較しても、入居拒否の経験の有無や断られた回数に違いはなかった。

出典:R65「『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題』に関する調査」

出典:R65「『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題』に関する調査」

後期高齢期(75歳以上)の年齢になったり障害があったりすれば、さらにハードルが高くなるだけで、入居については、まず「65歳以上という年齢」が大きなハードルになるのだという。

65歳以上が入居しづらい要因はあるが、ケアする手立てもある

ではなぜ、65歳以上で入居が難しくなるのだろうか?山本さんによれば、最も大きな要因は、貸主(オーナー)側に高齢者に貸した経験が少ないことで、理解が不足しているからだという。

一般的な賃貸住宅では、貸主側にやむを得ない事情がない限り、入居者が希望すればそのまま住み続けることができる。住み続ければ入居者が高齢化して、孤独死や死後の残置物の問題が生じるなど、若年層に貸すのとは異なるトラブルが起きると考え、それを懸念して年齢だけで入居を拒む貸主が多いようなのだ。

(公財)日本賃貸住宅管理協会による調査では、「高齢者世帯の入居に拒否感がある」と回答した貸主は全体の70.2%を占める。この拒否感を解消するには、貸主のリスクをケアする手立てを講じて、安心して貸せる環境を整備していくことが必要だと、山本さんは考えている。以降は、どんな課題があるか、それに対するどんな手立てがあるかを整理していこう。

●孤独死
貸主にとって孤独死は大きな問題だ。発見が遅れると、臭いや床面の損傷などが発生して、その部屋を特殊清掃したり改修したりする必要がある。かつ、その間は入居者募集もできないので、貸主の損失も大きくなる。だから、孤独死は早期発見がカギになるのだ。これについては、「見守りサービス」を活用することで、異常な状態を検知することができる。

●身元保証
賃貸借契約では連帯保証人などの身元保証を求められるが、保証人がいない高齢者も多い。身元保証で求められるのは主に家賃の滞納だが、これは高齢者に限らず、「家賃債務保証会社」と契約するのが一般的になっている。このほか、入院時や死亡時にまで対応する「身元保証サービス」の利用も考えられる。

●死亡後の残置物の処理
死後に賃貸住宅に残された物は、貸主が勝手に処分することはできない。相続人に残置物の処分や部屋の明け渡しなどの対応を依頼するのが基本だ。一人暮らしで相続人が不明の場合、貸主は推定相続人を探し出して交渉することになり、それにかなりの時間を要する場合がある。これについては、国土交通省と法務省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定した。入居者の推定相続人か、それが難しいときは居住支援法人※などの第三者が入居者と委任契約を結び、それによって代理権を得た者が賃貸借契約の解除や残置物の処理を行うというものだ。
※居住支援法人とは、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)に基づき、都道府県が指定する、要配慮者の居住支援を行う法人。

R65でも独自に高齢者のリスクケア商品を用意

こうした高齢者ならではのリスクについては、行政が対応すべき課題もある。このなかで不動産会社が考えるべきことは、賃貸経営で重要となる、物件の資産価値を下げず、空室期間を長期化させないことに絞られると山本さん。

そこで、R65でも高齢者の入居リスクをケアする商品を用意している。まず、孤独死の問題については、「あんしんみまもりパック」(月額980円~)を提供している。これは、電気の使用量をチェックして見守るもので、貸主の原状回復費用や家賃を補償する保険もセットにしている。比較的安価で見守りと補償をセットにすることで、貸主が利用しやすいようにしているのが特徴だ。

残置物の処理については、R65のパートナー不動産会社に対しては、居住支援法人でもあるR65が残置物処理に関する委任契約を受ける契約書を用意しているほか、他の不動産会社などが使える賃貸借契約の解除と残置物処理に関する契約書(推定相続人が受託する想定)を一般公開している。

なお、家賃の滞納については、実は高齢者だからといって多いわけではないという。たしかに、家賃債務保証会社を利用することで滞納のリスクは解消されるし、年金のなかでやりくりできる賃料であれば問題はあまり発生しないはずだ。

難しいのは認知症を発症して、賃貸住宅での生活が難しくなる場合だ。特に身寄りのない単身高齢者の場合、認知症が進んでしまうと意思能力がないと判断されてしまうので、まだ軽症のうちに地域包括支援センター※などと連携して、グループホームなどの環境が整った場所に移ってもらうのがよいという。
※地域包括支援センターは、地域の高齢者を支えるために市町村が設置するもので、「介護予防ケアマネジメント」「総合相談支援」「包括的・継続的ケアマネジメント支援」「権利擁護」の業務を行う。

高齢者が賃貸住宅を探しやすくするためには?

高齢者がもっと賃貸住宅を探しやすくするためには、不動産情報サイトの充実が挙げられる。現状でも、掲載物件数の豊富な大手ポータルサイトで、「高齢者歓迎」などの項目で検索して、高齢者の入居を拒まない物件を探すことはできる。さらに、高齢者対象の賃貸住宅に特化したR65不動産のサイトでは、エリア検索のほかに、二人入居可、駅徒歩5分、保証人不要相談、庭付き、ペット可、1階またはエレベータなどのテーマ別検索ができるようにしている。これらは、高齢者が部屋探しをする際に主要な条件として挙げる場合が多いからだ。ただし現状では、必ずしも、高齢者のニーズと掲載物件がマッチするとは限らない。

そこで、山本さんがもう一つの課題として挙げるのが、不動産流通の問題だ。高齢者の入居を拒まない物件自体を増やす必要があるからだ。

貸主が高齢者に賃貸住宅を貸すことに拒否感がない場合でも、不動産会社のほうで手間がかかるなどの理由で、積極的でない場合もある。そこで、高齢者の部屋探しに積極的なR65のパートナー不動産会社を増やし、R65不動産の掲載物件を増やそうと考えている。パートナー不動産会社に高齢者に関する仲介や賃貸管理のノウハウがないという場合は、ノウハウの提供を惜しまないという。

次に、貸主の理解を深めること。「高齢者世帯の入居に拒否感がある」という貸主が70.2%いたが、拒否感を示していない残りの3割にしっかりと、見守りサービスなどのリスクをケアする手立てを紹介することで、高齢者に多くの賃貸住宅を提供してもらいたいという。

山本さんの高齢者のイメージには、亡くなる2年前まで薬局で長く働き続けた祖母の姿がある。高齢者が暮らす場としては、介護が受けられる施設やサービス付き高齢者向け住宅などもあるが、自立して自分らしい生活を送るには、街の中に数多くある賃貸住宅が適していると思っている。それを実現するために、R65不動産を拡充させたいという考えだ。

今後、日本の高齢化はますます進んでいく。政府も、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」や「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定し、高齢者などの住宅確保要配慮者の支援を拡充するための検討会を立ち上げるなどの取り組みも行っている。

こうした後押しも必要だが、困っている高齢者の部屋探しを支援しようという、山本さんのような情熱も必要だ。「高齢者に賃貸住宅を貸すのが当たり前の社会になったときには、R65不動産はなくなってよい」という、山本さんの発言が印象に残っている。

シニア向け分譲マンションって高齢者施設とどう違う? 平均価格や提供サービス例は?

東京カンテイが、『シニア向け分譲マンション』の供給動向について分析した結果を公表した。ところで、シニア向け分譲マンションとはどういったものか、ご存じだろうか? 分析結果を参考にして、その実態を見ていこう。

【今週の住活トピック】
「『シニア向け分譲マンション』の供給動向分析」を公表/東京カンテイ

シニア向け分譲マンションとはどんなもの?

東京カンテイが分析したのは、これまで供給された(2023年までに竣工予定のものを含む)全国の98物件、1万4947戸(2022年6月末時点)のシニア向け分譲マンションについてだ。

『シニア向け分譲マンション』について、東京カンテイでは、区分所有建物(いわゆるマンション)であること、などの同社のデータベース登録基準に合致するという前提の下で、次のように定義している。
・敷地内にケア施設がある、または一棟全体が高齢者に配慮した設計である
・管理費とは別にケア関連サービスを受けるための費用条項がある

分譲マンションなので、購入して所有権を持ち、売却したり相続させたりすることができる。一般的な分譲マンションと違うのは、ハードとなる建物はバリアフリーなど高齢者が安全に住むことへの配慮がなされ、ソフト面では高齢者が望むさまざまなサービスの提供が求められるという点だ。

シニア向け分譲マンションは、一般的に、おおむね自立して生活できる高齢者を対象にしている。そのため、提供するサービスも健康維持が目的であったり、生活満足向上が目的であったりするものも多い。分析結果から具体的に見ていこう。

平均価格は4386万円、徒歩15分圏内の供給も多い

まず、どのエリアに供給されているかと言うと、以前は「東海地方」(特に静岡県)など、気候が温暖で過ごしやすい、あるいは自然豊かで温泉があるといった地域での供給が多かった。近年になると、東京・神奈川・千葉や大阪・兵庫などの都市圏での供給が多くなっている。

出典/東京カンテイ プレスリリース「シニア向け分譲マンション供給動向」より転載

出典/東京カンテイ プレスリリース「シニア向け分譲マンション供給動向」より転載

次に「最寄駅からの所要時間」を見ると、最多は「バス便」(30.6%)になる。これは、自然が豊かな地域に立地している影響が大きいが、バス停まで3分以内などの物件も多いという。一方、2番目に多いのが「徒歩5分以内」(24.5%)で、徒歩15分圏内の物件が全体の6割を占める。このように、自立した高齢者が対象なので、徒歩で移動できる場所の物件が多いのが特徴だ。

出典/東京カンテイ プレスリリース「シニア向け分譲マンション供給分布」より抜粋し、筆者が作成

出典/東京カンテイ プレスリリース「シニア向け分譲マンション供給分布」より抜粋し、筆者が作成

気になる価格はどうだろう?
2020年以降の供給物件で見ると、平均専有面積は60.08平米、平均価格は4386万円となっている。関東地方に限定して見ると、平均専有面積は59.15平米、平均価格は4245万円なので、全国平均とさほど変わらない。

また過去の推移を見ると、バブル期に面積は広く(66.14平米)、価格は高く(5879万円)なったが、2000年以降は、平均専有面積はおおよそ60平米、平均価格は3000万円台で落ち着いている。ただし、平均坪単価は2000年代199.9万円、2010年代200.5万円、2020年以降240.4万円と、近年は上昇傾向にある。

シニア向け分譲マンションではどんなサービスを提供している?

さて、シニア向け分譲マンションには、どんな施設が設けられているのだろう?

同社では、2000年以降に竣工した73物件を対象に、「食事サービス」「娯楽サービス」「医療サービス」「介護サービス」の4つに区分して、それぞれの設備の付帯状況を調べている。それぞれの区分で多いものを見ていこう。

■シニア向け分譲マンションにおける付帯施設の導入状況(対象:2000年以降竣工の73物件)
「食事サービス」
・レストラン・食堂94.5%

「娯楽サービス」
・ホビールーム60.3%
・娯楽室57.5%
・AVルーム46.6%
・カラオケルーム45.2%
・温泉28.8%
・体操室19.2%

「医療サービス」
・医療提携87.7%
・クリニック・診療所24.7%

「介護サービス」
・訪問介護事業所21.9%
・居宅介護支援事業所19.2%
※出典/東京カンテイ プレスリリース「シニア向け分譲マンションの付帯施設&ランニングコスト」より抜粋

食事サービスを提供する「レストラン・食堂」の導入率は94.5%と極めて高い。分譲マンションなのでキッチンが部屋にもあるはずだが、ここで提供される食事は栄養士などが考えた食事になっているので、家事負担の軽減だけでなく健康面でもメリットがあるだろう。

娯楽サービスでは、「ホビールーム」や「娯楽室」「AVルーム」「カラオケルーム」の導入率が特に高い。以前は、趣味ごとに部屋が設置される事例が多かったが、広い部屋を多目的に使えるように変わってきているという。AVルームやカラオケルームは、一般の大規模マンションでも多く設置される共用施設なので、利用者が多いということだろう。

また、医療サービスでは、「医療提携」の導入率が極めて高い。自立した生活を送れると言っても、病気やけがの心配もあって、医療サービスは頻繁に受けたいということだろう。半面、介護サービスは医療サービスに比べると導入率は高くはない。

こうしてマンション内に施設が多く設けられたり、いろいろなサービスを提供したりするので、管理費や修繕積立金は、一般の分譲マンションより高額になる。各種サービスによる便利さが高まれば、それに伴ってランニングコストも増えるということだ。こうした施設を活用して住人同士の交流を深めたいという、アクティブなシニアに向いていると言えるだろう。

高齢期に住む拠点はさまざまにある

高齢者の住まいとしては、ほかにも「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」などがある。

まず、有料老人ホームは、食事提供や家事支援、健康管理、介護サービスなどのいずれかが提供される介護施設で、利用料を支払う形になる。「介護付」「住宅型」などのタイプがあり、介護付きではホームが介護サービスを提供するが、住宅型では外部の介護サービスを利用する形になる。

次に、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)は、高齢者が安心して住めるような建物で、安否確認や生活相談といったサービスが受けられるが、毎月賃料を支払う(長期間の賃料を前払いする場合もある)賃貸住宅である。「一般型」と「介護型」があり、一般型は主に介護度が軽い人が対象だが、介護度が重い人にも対応できるようにしたのが「介護型」だ。国の支援もあって、サ高住の供給数が増えているのも特徴のひとつだ。

住宅型の老人ホームや一般型のサ高住の中には、シニア向け分譲マンションに近いものもあるが、契約形態や費用面などに違いがあるので、違いをきちんと理解しておきたい。

さて、自宅を高齢期に向けてリフォームして住み続けることも含めて、高齢期を過ごす拠点にはさまざまある。立地、居室の状況、提供されるサービスの有無、介護サービスの受け方などがそれぞれ異なるので、どのように暮らしたいか、どういったマネープランを立てるかなどをよく考えて選んでほしい。

●関連サイト
東京カンテイ「『シニア向け分譲マンション』の供給動向分析」

サ高住「ゆいまーる花の木」に込めた、秩父市×豊島区が目指すアクティブシニアの未来とは

自分のセカンドステージをどういったように暮らしたいかと考えたとき、生活を楽しみ、人との交流も続けたいと望むアクティブシニアが増えている。そんな高齢者向けの住宅や施設も誕生しているようだ。今回は秩父市に建設された「ゆいま~る花の木」のオープン記念式典があると聞いて足を運んでみた。
都市と田舎を結ぶ姉妹都市連携が新しいシニアの住まい方をつくる

池袋駅からレッドアロー号で78分、西武秩父駅に降り立つと駅周辺は活気にあふれている。関東に暮らす人にとっては長瀞渓谷や軽登山が楽しめる山々など、週末のアクティビティのイメージが強い秩父だが、歴史ある街であるからこそ、文化施設や個性的なカフェなども多く、実は落ち着いて自然を満喫できる暮らしができる古都でもある。

長瀞渓谷(写真/PIXTA)

長瀞渓谷(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

駅から徒歩15分、タクシーだとワンメーターでたどりつく場所に「ゆいま~る花の木」が11月にオープンした。木造2階建ての新築20戸、60歳以上の元気なシニア世代を対象としたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)だ。今回、そのオープン記念式典が、隣にある秩父市の交流センターで開催された。

「ゆいま~る花の木」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

「ゆいま~る花の木」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

この施設は「秩父市生涯活躍のまちづくり」構想のモデル事業「花の木プロジェクト」の一環として誕生したものだが、秩父市(埼玉県)&豊島区(東京都)による「2地域居住」構想にも関係している。もともと姉妹都市関係にある両自治体が将来に向けてお互いの可能性を見据えた計画だという。

豊島区は、都市の過密や高齢化という課題を抱える中で、区民のライフスタイルの選択肢を広げ、第2の人生を後押ししたいとの考えがあった。一方、秩父市も人口減少という課題をかかえ、生涯活躍のまちづくり(都市部からの移住者が健康で活動的な生活を送れるとともに、医療・福祉等の地域ケアも整ったまちづくり(日本版CCRC)を目指していた。

セレモニーでは豊島区長と市長の挨拶もあり、この取組への期待の高さが感じられる。運営はサ高住で実績のある株式会社コミュニティネットが担当、「親しい人に囲まれ、楽しく、自由な暮らしを満喫し、介護が必要になったときも、地域の医療/介護資源を利用しながら自分らしく暮らす」をコンセプトとしている。

キッチンが設置された「秩父市花の木交流センター」でオープニングセレモニーを開催。「ゆいま~る花の木」の住民はもちろん、秩父市内の住民交流の場としても期待されている(写真撮影/四宮朱美)

キッチンが設置された「秩父市花の木交流センター」でオープニングセレモニーを開催。「ゆいま~る花の木」の住民はもちろん、秩父市内の住民交流の場としても期待されている(写真撮影/四宮朱美)

とりあえず試しに住む、2地域居住で気楽に始める、どちらも可能

リタイア後のセカンドライフをどこで始めるかは、高齢層にとって関心は高いが、いきなり今まで住んでいた場所から他の場所に移り住むのはハードルが高い。できればお試し期間が欲しい。

「ゆいま~る花の木」は、平日は自然豊かな秩父で生活し、土日は豊島区で文化芸術イベントに参加するといった「2地域居住(デュアルライフ)」のモデルケースも想定している。若い世代で行われているデュアルライフが平日都心、週末郊外となっているのに対し、逆も可能というのも特徴。これから人口減少が懸念される日本にあって、お互いに人口を奪い合わない交流や移動で「さまざまな地域との共生の仕組みづくり」に力を入れているそうだ。実際に豊島区に自宅がありながら、ここでの生活も始めようとしている高野正義さんに話を伺った。

「私は生まれてから現在まで豊島区で暮らし、地域の町会長もしてきました。地元に友人・知人も多いですが、少しのんびりしたいと思って、ここに拠点を持つことにしました。言ってみれば『もう1つの書斎』みたいなものですね。友人たちも興味を持っているみたいで、いずれ彼らも参加してくれると面白いと思っています」

快適なセカンドライフに必要なのは、設備や住宅はもちろんだが、地域に溶け込めるコミュニティだ。その点でも、隣接する地域開放型交流拠点施設「秩父市花の木交流センター」の存在が注目されている。セレモニーでは近隣の幼稚園児も参加、かわいい歌声を聞くことができた。施設が幼稚園、小学校、中学校などの教育施設が集まる文教エリアの中に位置していることで、世代を超えたコミュニティの醸成が期待できる。

「秩父市花の木交流センター」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

「秩父市花の木交流センター」(写真提供/株式会社コミュニティネット)

(写真提供/株式会社コミュニティネット)

(写真提供/株式会社コミュニティネット)

終身建物賃貸契約と3つの安心で長く安心して暮らせるシステム

部屋は1Kから2LDK、29.54平米~47.62平米の3タイプが用意されている。住居内はバリアフリー。床暖房が設置され、ヒートショックを軽減する浴室換気乾燥暖房機も標準装備だ。シニアにとって住戸内の温度差が整えられているのはうれしい。

くわえて「毎日の安否確認」「生活コーディネーターの日常生活の相談」「セコムと連携した夜間緊急時の対処」など3つの安心も用意されている。

安否確認は、1日1回建物内の郵便受け横に設置した専用ボードに記名予定、確認ができない場合は、電話連絡や入室などで安否確認を実施。生活コーディネーターは、日々のちょっとした相談や困りごと、医療・介護の活用についても相談に応じる(フロントは、隣接する交流センター内に設置予定)。 日中は常駐スタッフとセコムが連携し、夜間の緊急時にはセコムの緊急対処員が駆けつけ対応する。

また「終身建物賃貸借契約」で入居者は亡くなるまで安心して住み続けられるのもメリット。毎月払いの場合は5万7000円から8万9000円、一括前払いの場合は1231万円から1922万円と終身タイプのものとしては手が届きやすい(このほか毎月、生活サポート費2万7500円(一人の場合、税込)と共益費1万円(非課税)が必要)。

2LDKタイプの居室。収納スペースも確保されている(写真撮影/四宮朱美)

2LDKタイプの居室。収納スペースも確保されている(写真撮影/四宮朱美)

水まわりもバリアフリーでゆとりあるスペースを確保(写真撮影/四宮朱美)

水まわりもバリアフリーでゆとりあるスペースを確保(写真撮影/四宮朱美)

ちょうどいい距離感と歴史や文化に恵まれた自然たっぷりの秩父市

秩父市は荒川の清流と秩父盆地を中心とした山々に囲まれ、四季折々の自然が楽しめる環境だ。また歴史的な文化資源も豊富。昭和レトロを感じさせる町並みや、秩父夜祭をはじめとする大小多くの祭りが1年を通じて開催される。

西武秩父駅構内には「祭の湯」というスパ施設があり、土産物を売る店も充実している。フードコートではたくさんの人が食事を楽しんでいる。

セレモニー当日も平日にも関わらず、駅周辺は観光に訪れた人たちを目にした。秩父34カ所観音霊場巡りだけでも、たくさんのコースがあり人気を集めている。池袋からの距離も「大人の遠足」で出かけてくるのにちょうどいい距離感だ。いわゆるアクティブシニアが自分らしい時間を過ごすために、秩父市というのは最適な環境の1つかもしれない。

駅構内に隣接されている祭の湯。フードコートや土産物店も併設され、日常的に楽しめる施設になりそうだ(写真撮影/四宮朱美)

駅構内に隣接されている祭の湯。フードコートや土産物店も併設され、日常的に楽しめる施設になりそうだ(写真撮影/四宮朱美)

筆者が若いころにイメージしていた「落ち着いてのんびり過ごす老後」は、自分が年齢を重ねて目の当たりにする状況とは少し違ってきている気がする。「ゆいま~る花の木」での生活を始めようとしている高野さんにおいては、豊島区でのコミュニティづくりの経験を秩父での暮らしにこれからも活かしていけそうだ。すでに豊島区と秩父市の橋渡しのような存在になっている。リタイア後のセカンドライフは、これからも続けていきたいこと、これから新たに挑戦したいこと、等々がいっぱいありそうだと感じた。そんなアクティブシニアにとっては、都会と田舎の両方でのセカンドライフを欲張りに手に入れられそうな環境は、選択肢として魅力的かもしれない。

●取材協力
・株式会社コミュニティネット

80代女性「不動産屋6件に断られました」。高齢者の賃貸入居の今

高齢者は賃貸への入居を断られるケースが多いといわれる。まだまだ元気な60代や70代でさえも……。現代の高齢化社会においては見過ごせない現状だ。実際に断られた人の声と、あえて高齢者の賃貸入居をサポートしている不動産会社の取り組みを踏まえ、高齢者の賃貸入居の現状とこれからを考えてみよう。
自由に暮らしたい母。でも不動産会社は「80代は無理」の一点張り

岐阜県可児市に住む女性・Uさん(当時64歳)は、2017年に、京都府に1人で住む母(当時88歳)を近所に呼び寄せようと考えた。

「母が京都で住んでいた家が立ち退きの対象になって。本人の希望で、当初は京都で探していたんです。母はそれまでも自立して一人で生活していましたから、私自身、心配していませんでした。当時、母は便利な街なかに住んでいて、近所まで、バスはもちろん自転車に乗って出かけていたぐらいです。

家を探そうと思い、京都の不動産会社へ電話したところ、『88歳?その年齢では借りられませんよ』の一点張りで、驚きました」

もう1社に電話したところ同じような対応で、物件を紹介してもらえる様子はなかったという。「娘の私の年齢である60代でも貸せないくらいなのに、まして80代なんて……という対応でしたね」

そこでUさんは「何かあったらすぐに駆けつけられる私の家の近所であれば、可能性があるのでは」と考えて、母を説得。岐阜県内に呼び寄せることにした。

「自宅の近隣で、母の一人暮らしに良さそうな物件をインターネットで探し、不動産会社へ電話をしました。どの会社の担当者も母の年齢を話すと驚いていて、4社に『ご紹介できる物件はありません』と断られました」

母の立ち退きが迫っていたので「物件が見つからなければ、母には悪いが同居で納得してもらおう」と考えていたUさん。

それでも懸念していることがあった。「岐阜で同居した期間があったんです。そうしたら、いつも身の回りのことを自分でしていた母が、何もしなくなってしまって……。わが家はオール電化なのですが、母の住まいはガス。『使い方が分からない』という理由で、お茶も淹れず、外出もしなくなった様子を見て、これではすぐに心身が弱ってしまうのではないかと心配になりました」

シニアライフサポートの、年齢別の契約者数。申し込み時で76~80歳が最も多い(データ提供/ニッショー)

シニアライフサポートの、年齢別の契約者数。申し込み時で76~80歳が最も多い(データ提供/ニッショー)

契約者の年齢別集計。申込者の最高年齢は96歳(データ提供/ニッショー)

契約者の年齢別集計。申込者の最高年齢は96歳(データ提供/ニッショー)

7社目で、「高齢者サポートシステム」がある物件と出合う

諦めずに、計7社目となる会社に電話をしたUさん。その物件は、家から徒歩10分、車を使えば2分の場所にある、バリアフリーの1LDK。キッチンには母が希望するガスコンロがあった。「インターネットで室内の画像を見ましたが、明るくてキレイでした」

「母は88歳ですがいいですか?」と不動産会社のニッショーに確認すると、「ここはシニアライフサポートというシステムがある物件なので、サポートに入っていただくことを条件に、入居していただけます」と担当者から説明されたという。

「セコムを含めたシステムの利用を条件に、高齢でも賃貸物件が借りられると聞き、納得しました。ありがたく思い、すぐにお願いしました」

このサポートサービスを紹介してくれた不動産会社ニッショーの「シニアライフサポート」は、今ある持ち家や賃貸住宅に、大家側と入居者への安心をプラスする高齢者見守りサービスだ。

具体的には、次の3つがセットになっている。
(1) 入居者の毎日の安否と体調を電話で確認。その結果は家族や指定の連絡先へメールで知らせる。

(2) 防犯センサーや煙センサーが異変を感知するため、もしものことがあればセキュリティサービスの「セコム」が駆けつける。

(3) 入居者がペンダントタイプの「救急ボタン」を押せば、セコムが駆けつける。また、「ライフ監視センサー」で、一定時間動きを感知しなかった場合はセコムに通知される。

「シニアライフサポート」のキット。賃貸物件の場合は、防犯センサー3カ所までで初期費用が3万円(税別)、その他に毎月の家賃+月額料金6千円(税別・※ニッショーの管理物件の場合)となっている(写真提供/ニッショー)

「シニアライフサポート」のキット。賃貸物件の場合は、防犯センサー3カ所までで初期費用が3万円(税別)、その他に毎月の家賃+月額料金6千円(税別・※ニッショーの管理物件の場合)となっている(写真提供/ニッショー)

「元気な」シニアの一人暮らしをサポートするために

このシステムの開発を主導した名古屋の賃貸住宅仲介会社、株式会社ニッショーの佐々木靖也さんは、開発の背景をこう話す。

「賃貸住宅へのシニアのご入居が難しくなっている背景には、体調面や事故の心配から、物件のオーナーさんがシニアの方を受け入れづらく感じ、あらかじめお断りするという事情があります。入居者の孤独死への不安を持つ方も多いようです。民間の賃貸業者としては、オーナーさんの意向に添うことが原則ですから……」

立ち退きや、伴侶を亡くしたので広すぎる家を売却したい……などの理由によって、一人住まいの賃貸物件を探すことになった高齢者が、「当然借りられる」と思って不動産会社を訪ねると、借りられずショックを受けるという事態が続いていた。

「私たちには、賃貸業者として今のままではダメだという思いがありました。オーナーさんにも入居者さんにも喜んでいただけるサービスを考えようと、2013年にプロジェクトチームをつくり、2014年には具体的に動き出しました」

当時は、サービス付き高齢者住宅(サ高住)が話題となり、建築ラッシュでもあったころ。

「しかしサ高住は、元気なシニアにとってはあまり意味がないし、私たちが取り扱っても従来のオーナーさんにメリットがない。私たちは『国の補助金に頼らず、すでに管理や委託を受けているオーナーさんの物件を活用して空室を埋めつつ、シニアの方の見守りができる新しいサービスを考えよう』と思いました」

これは「人命に関わること。あまり利益が出なくても、やらなくては」という社長の思いがこもった事業だったという。

「シニアライフサポート」の開発を主導した、営業本部副本部長の佐々木さん(写真撮影/倉畑桐子)

「シニアライフサポート」の開発を主導した、営業本部副本部長の佐々木さん(写真撮影/倉畑桐子)

「シニアライフサポート」の登録物件は、現在、東海3県で3500棟。
「オーナーさんには負担がありませんから、シニアの受け入れに協力してもらえませんかと説明すると、多くの人に賛同していただけます」と佐々木さん。

シニアライフサポートの間取り別契約グラフ。持ち物が多いケースや、子や孫に泊まってほしいと考える人も多く、予想に反して2K以上の広さへのニーズも高かった(データ提供/ニッショー)一人暮らしの入居者にハリがある生活を

「大多数の、元気なシニアの入居希望者の問題を解決しながら、オーナーさんの空室を埋めて、win-winのプロジェクトになった」と手応えを語る佐々木さん。

システムを運営し始めてから、「シニアの入居者さんによってオーナーさんが困ったという事例はありません」と話す。

「シニアの入居者さんは、まず家賃を滞納することがありませんし、住まいに関するルール違反もしません。苦労して見つけた物件だからです。また、70代くらいの人は、今後のライフスタイルの変化があまりないため、一度決めると長く定住されます」
それは安定した入居者だとも捉えられるだろう。

「住んでから家の中で倒れたという入居者さんもいますが、近くにあった『救急ボタン』を手繰り寄せてボタンを押し、命が助かったという例があります。浴室での事故を予防するため、防滴の『救急ボタン』を、浴室のドアにかけて入浴している人も多いようです」

住んでから入居者が亡くなった事例もあるそうだが、「ご遺族から『早期発見によって、きちんと見送ることができた。ありがとう』とお礼を言われました」と振り返る。

孤独死などを恐れて高齢者の入居が断られるケースも、サポート体制が整えば、状況を変えられるのではと考えさせられた。

オーナー向けイベントで、見守りサービスが多くの人の関心を集めた(写真提供/ニッショー)

オーナー向けイベントで、見守りサービスが多くの人の関心を集めた(写真提供/ニッショー)

前出の入居者の娘・Uさんの母は、現在91歳。希望通り自由な生活を謳歌し、Uさんは徒歩圏内である母の家に、おかずの差し入れなどを持って毎日顔を出す。

「毎朝決まった時間に、母の安否確認結果のメールが送られてきます。母とは毎日会うのですが、『今朝もちゃんと起床して、元気なんだな』と思うと安心できます」とUさん。91歳の母が近居で一人暮らしていることは、近所の人からも感心されているという。

「ある朝母の家で、安否確認用の音声案内の電話を一緒に聞いていると、毎回流れてくる内容が違うことに気がつきました。『明日は十五夜ですね』などと言われると、母も電話に向かって返事をして、私にも『お団子を食べなくてはね』と話していました。そんな日々のやりとりも、張りになっているようです」とUさん。

「近所で母が望む自由な生活をさせてあげられていることをうれしく思います。こういった見守りサービスがあれば、この先、自分自身や子どもたちも安心していられますね」と、イキイキと話してくれた。

取材中、隣県で一人暮らしをする70代の身内のことが思い浮かんだ。それを話すと佐々木さんは、「戸建でもシステムは後付けできます。毎日、数名にメールをすることも可能ですから、身内の方で費用を分担しては」。優しいアドバイスにホロリとした。

物件のオーナー自体が高齢となり「自分の家に付けたい」という申し出も多いという。オーナーと入居者本人、そして家族。誰にとってもメリットが大きいwin-winの取り組みは温かい。

高齢化社会において、高齢者の賃貸入居の需要はますます増えていくだろう。「高齢者だから」と一様に断られるのではなく、「どうしたら入居できるのか」を考えていける社会になることを願う。そして、誰もが自分らしく暮らせるよう、一人ひとりが自分ごととして考えていかなければと思う。

●取材協力
・ニッショー 

サ高住「パークウェルステイト浜田山」が追求する理想的な終の棲家とは?「人生100年時代」の最新住宅事情

うっかりしていたら、昨年還暦を迎えてしまった。私も立派なシニア世代だ。まだまだ元気なつもりだが「終の棲家をどうするか」という問題がたまに頭をよぎることがある。三井不動産レジデンシャル株式会社がシニアをターゲットにしたサービス付き高齢者向け住宅の新商品「パークウェルステイト浜田山」を誕生させたと聞き、そのプレス説明会と内覧会に参加してみた。
自立したシニアに向けた「住まい」としての快適さを重視したプランニング

同物件のある浜田山は渋谷と吉祥寺を結ぶ京王井の頭線沿線の静かな住宅街だ。現地は駅の北側を歩いて9分(約720m)。周辺は低層住宅が広がり、善福寺川緑地(約560m/徒歩7分)や三井の森公園(約970m/徒歩13分)も点在する緑豊かな環境だ。

テーマは街なかに居ながらにして樹々と静寂に包まれた「市中の山居」。住まいと庭園とが一体となって四季の息吹を肌で感じるように企画されたそうだ。「彩の庭」と名付けられたプライベートガーデンは約1100本のさまざまな樹木が植えられ、館内の随所から眺められるように設計されている。建物は地下1階地上3階建て、62戸の一般住戸と8戸の介護用住戸が備えられている。

安心して散策できる敷地内のプライベートガーデン「彩の庭」。四季折々の表情を楽しめる緑豊かな中庭だ(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

安心して散策できる敷地内のプライベートガーデン「彩の庭」。四季折々の表情を楽しめる緑豊かな中庭だ(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

ガーデンの緑が絵画のように印象的なエントランス(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

ガーデンの緑が絵画のように印象的なエントランス(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

高齢者向け住宅としては「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」と「住宅型有料老人ホーム」の2つが話題になっているが、同物件の場合は国土交通省の所轄による高齢者向け住宅である「サ高住」として企画されている。一方の「住宅型有料老人ホーム」は厚生労働省の所轄による「介護施設」になる。

つまりシニアが快適に暮らせる「住まい」としての位置づけで企画されている。同物件の場合は、入居する際は自立できる健康な状態が条件だ。ただサ高住で取りざたされる「要介護度が大きく進んだ場合に別の介護施設に移り住まなくてはならない」懸念は解決されている。本格的な介護用住居も用意されているからだ。

シニアの住まいのニーズの変化に応じて、自宅での介護でも、介護施設でもない、新たな選択肢を提供(イメージ)(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

シニアの住まいのニーズの変化に応じて、自宅での介護でも、介護施設でもない、新たな選択肢を提供(イメージ)(画像提供/三井不動産レジデンシャル株式会社)

同事業の基本的なスキームは、三井不動産レジデンシャル株式会社が建物を開発したのち、三井不動産レジデンシャルウェルネス株式会社に建物を賃貸し、同社が入居者と終身建物賃貸借契約を締結する。同社は、生活相談やフロントサービスなど、入居者へのホスピタリティサービスを提供するほか、介護事業者やレストラン事業者への運営委託および医療機関との連携等を通じて、さまざまな専門性の高いサービスを提供する。

資生堂美容室と提携したヘアサロン、フィットネスルーム、大浴場なども

まずは共用施設から見学させてもらった。男女共に、檜風呂と石風呂の2種類の浴槽をしつらえた大浴場はバスタオルも用意され、着替えを持っていくだけの気軽さだ。自室の浴室を利用した場合の清掃の煩わしさを軽減できるようにという考えで設置されたそうである。確かに浴室の掃除は手間がかかるのでうれしい設備だ。

フィットネスルームでは200種以上の運動が可能というキネシスをはじめ、さまざまな機種が整っている。トレーナーが定期的に常駐するので初心者でも使い方を教えてもらえ、さらに希望すればパーソナルトレーニングも受けられる(予約制・有償)

またシアタールーム、アトリエ、ビリヤード場、自動麻雀卓を備えたゲームルームなどが備えられ、時間にゆとりのあるシニアが充実した1日を送ることができそうだ。各々経験がある人はもちろん、はじめて挑戦する場合も気軽に始められる多彩なラインナップで、趣味の幅が広がる。

特徴的なのはヘアサロンの存在だ。資生堂美容室提携でおしゃれなシニアの要望に応えられる施設は、「7割が女性」という入居者の想定に即したものだろう。送迎シャトルバスを活用して、日本橋エリアなどに買い物ツアーに出かけるアクティビティも用意されるようだ。「買い物とおしゃれ」は、これからのシニア女性には欠かせない。いつまでも身だしなみに気を配る方に満足してもらえる工夫だ。

イタリア・テクノジム社の人間工学に基づく最先端マシンを備えたフィットネスルーム(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

イタリア・テクノジム社の人間工学に基づく最先端マシンを備えたフィットネスルーム(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

資生堂美容室と提携したヘアサロン。カットやパーマだけではなくネイルやフェイシャルも受けられる(有料)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

資生堂美容室と提携したヘアサロン。カットやパーマだけではなくネイルやフェイシャルも受けられる(有料)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大浴場「明鏡(めいきょう)・清香(せいか)」。自室のお風呂の利用頻度が低いという顧客の声から、男女共に、檜風呂と石風呂の2種類の浴槽をしつらえた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大浴場「明鏡(めいきょう)・清香(せいか)」。自室のお風呂の利用頻度が低いという顧客の声から、男女共に、檜風呂と石風呂の2種類の浴槽をしつらえた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

58~100平米超の居室は都心高級マンションのクオリティ。クルマ椅子利用も視野に

次にプライベートスペースである各個室を見せてもらった。単身用の58平米超の1LDKと夫妻でも入居できる100平米超の2LDKの2つのタイプだ。いずれもスペースに余裕があり、ガーデンの緑が眺められる。バルコニーの手すりはガラスが使用され、室内からの眺望を大切にしていることが見て取れる。

特筆すべきは引き戸を多用した設計だ。水まわりを含めて出入りする場所は極力引き戸が採用されている。万一車椅子を利用することになっても、廊下の広さを含めて移動が簡単にできるように工夫されている。

単身入居者向けの1LDK。引き戸を開放すればワンルームにもなる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

単身入居者向けの1LDK。引き戸を開放すればワンルームにもなる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

100平米超の広い2LDK。家族が来ても宿泊できるように主寝室以外に個室が用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

100平米超の広い2LDK。家族が来ても宿泊できるように主寝室以外に個室が用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

急に具合が悪くなったときなど、万一の場合に対応することができるように居室にはスタッフと直接話せるスピーカーとマイクが用意されている。また、ホテルのカードキーのような仕組みで在室しているかどうかを把握。在室中にも関わらずトイレ前に取り付けられたセンサーに、一定時間反応がない場合、呼びかけや駆けつけの対応がなされる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

急に具合が悪くなったときなど、万一の場合に対応することができるように居室にはスタッフと直接話せるスピーカーとマイクが用意されている。また、ホテルのカードキーのような仕組みで在室しているかどうかを把握。在室中にも関わらずトイレ前に取り付けられたセンサーに、一定時間反応がない場合、呼びかけや駆けつけの対応がなされる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「もしも」の場合も介護ルームを用意。1.5人に1人の体制で看護スタッフを用意

元気なうちは自立して暮らせても、何かあれば病院に行き、そのまま入院ということになるが、ここでは介護が必要になった際に入室できる介護用住戸が8戸も用意されている。また大学病院(※1)との連携を軸として、24時間常駐の看護スタッフ(※2)や同一建物内にクリニック(※3)も設置、医療のプロたちが常に健康を見守る体制が用意されている。

訪問介護事業所「TOKIORI浜田山」が併設。介護サービスは、「ケアサービス(生活支援サービス)」「訪問介護サービス」「自費サービス」の3種類があり、入居者の要望に応じて支配人とケアマネジャーが提案してくれる。

介護用住戸で提供される「ケアサービス(生活支援サービス)」(※4)は、サービス料金に含まれており、日常的な服薬管理、健康管理、訪問診療所医師(主治医)の指示によるレジデンスの体制で可能な医療ケアへの対応をしてもらえる。また看護・介護スタッフと介護用住戸利用者の比率は、1.5:1相当の体制を実現しており、短時間・随時・緊急の場合でも24時間対応が可能だ。
要支援、要介護の認定を受けた方を対象とした「訪問介護」は、介護保険を利用したケアサービスで、一般住戸、介護住戸に関わらず利用可能だ(介護保険適用サービス)。本人の健康状態に応じて訪問医療や訪問看護(有償)によるサポートの利用も含めて、館内で看取りまでを行う予定だそうだ。

一般住戸での生活が難しくなった場合、住戸はそのままに、この介護用住居に移ることができる。夫婦のどちらかに介護が必要になった場合でも、最も近い距離で暮らせる。バルコニーから眺める中庭の緑が美しい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

一般住戸での生活が難しくなった場合、住戸はそのままに、この介護用住居に移ることができる。夫婦のどちらかに介護が必要になった場合でも、最も近い距離で暮らせる。バルコニーから眺める中庭の緑が美しい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

寝たままの体制で入浴できる浴室を介護スペースには設置。ほかに座ったまま入浴できる浴室も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

寝たままの体制で入浴できる浴室を介護スペースには設置。ほかに座ったまま入浴できる浴室も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

自然光を取り込むダイニングで朝・昼・晩の3食、コース料理も可能

ワイドなガラス窓から四季を感じる植栽と滝の織りなす美しい水景が眺められるダイニング「季饗(ききょう)」は、ホテルのレストランのような贅沢な空間だ。ゲストが来たときのための個室、夜のバー活用(週1回)、予約不要の自由喫食など、それぞれのライフスタイルにあわせて使えるそうだ。

食事は管理栄養士による栄養バランスが管理された上質な日替わり・定番メニューを提供。健康を意識したメニューや栄養バランスの分かるサービスはニーズが高いだろう。試食させてもらったが、目を楽しませてくれる盛り付けから、薄味に留意しながら深い味わいのある料理は満足度が高い。朝食500円、昼食850円、夕食1300円(すべて税抜)で提供される予定だが、十分に価値がある。さらに要望があればコースメニュー(有償・予約制)の提供も可能のようだ。

専属のシェフが栄養と健康に気を配り、和・洋・中のバラエティーに富んだ日替わりメニューや軽食等のアラカルトメニューなど提供してくれるダイニング(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

専属のシェフが栄養と健康に気を配り、和・洋・中のバラエティーに富んだ日替わりメニューや軽食等のアラカルトメニューなど提供してくれるダイニング(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

朝食の一例。和食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

朝食の一例。和食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

夕食の一例。洋食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

夕食の一例。洋食も用意されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

シニア世代の新たなライフスタイルに合わせたコンセプト

三井不動産レジデンシャルではシニア向け住宅事業を新たな成長戦略の柱の一つとし、2017年4月にはシニアレジデンス事業部を新設。人生100年時代に向けた新商品として、「パークウェルステイト」シリーズを発表、これからも展開していく予定だ。

というのも平均寿命が延びただけでなく、80歳代前半でも約8割が介護保険を利用していないなど、自立した元気な高齢者が増加したことで、静かな老後ではなく、もっとアクティブなライフスタイルのニーズが生まれている。

元気なときから介護が必要になったあとも、そして最期を迎えるときまでも、住み慣れた環境で暮らしたいと願う人は多い。しかし自宅介護は家族の負担が大きい。そんな人たちにとっての理想的な環境が用意されているのが同物件ではないだろうか。確かに入居金は単身者用でも1億3593万円(前払方式・80歳入居)、毎月94.4万円(月払方式・年齢不問)と高めの設定だ。ほかに月額利用料や光熱費も必要になる。しかし歳を重ねることをポジティブにとらえるためにも、このシニアレジデンスの誕生は「終の棲家」の選択肢を広げてくれるきっかけになりそうだ。

※1 順天堂大学医学部附属〈順天堂医院・ 練馬病院〉(総合科目)
※2 看護スタッフ1名常駐(週40時間常勤換算で常勤2名、非常勤3名(予定)によるシフト制。夜間(18時~翌9時)看護スタッフ1名。ただし休憩等による最少時は0名)
※3 クリニックによる提供サービス(健康診断・健康相談・生活アドバイス・健康管理等)に関わる費用は、基本サービス料金に含まれます
※4 ケアスタッフ1名常駐(週40時間常勤換算で常勤2名、非常勤3名(予定)によるシフト制。夜間(18時~翌9時)ケアスタッフ2名。ただし休憩等による最少時は1名)。介護用住戸の利用者がいない場合はケアスタッフの配置はございません

●取材協力
パークウェルステイト浜田山