LGBTQの住まい問題に自治体間で大きな意識ギャップ。「パートナーシップ制度導入も公営住宅の入居認めない」など施策の矛盾も…国交省に聞いた

2022年11月、国交省の研究機関である国土技術政策総合研究所(以下、国総研)がLGBTQの人たちに対する自治体の取り組みを調査した報告書「LGBTに対する地方公共団体における住宅政策の取り組み調査報告」を公開しました。47都道府県のうち、ほとんどがLGBTQの人たちを「住宅の確保に配慮が必要な人」として位置付けているのに対し、市区町村など1700以上の基礎自治体となると十数件のみとなり、その意識のギャップが浮き彫りになっています。

2015年以降、性的マイノリティとされるカップルが人生を共にすることを宣誓し、婚姻と同じように自治体が認める制度「パートナーシップ宣誓制度(以下、PS宣誓制度)」を導入する自治体が徐々に増えているなかで、住まいの問題は改善しているのか、同性パートナーと共に公営住宅に入居できるのかなど、国交省 国総研 建築研究部長 長谷川洋さんにお話を聞きました。

LGBTQは「住宅確保要配慮者」?住まい探しにおける問題とは

LGBTQの人たちが賃貸物件に入居しようとすると、収入面に問題がなくても同性カップルというだけでオーナーや管理会社に入居を断られる、という体験談を耳にすることがあります。また、トランスジェンダーの人が不動産会社で担当者に証明書記載の性別と見た目とのギャップに驚かれたり、同性カップルは夫婦とみなされず、ファミリータイプではなくルームシェア可の部屋しか紹介してもらえなかったり。住まい探しで嫌な思いをすることも多いようです。

同性カップルが住まい探しをしても、根強い偏見や制度が追いついていないために、なかなか思うようにいかない現実がある(画像/PIXTA)

同性カップルが住まい探しをしても、根強い偏見や制度が追いついていないために、なかなか思うようにいかない現実がある(画像/PIXTA)

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高齢者や低所得者など、住まい探しに困難を抱える人たちの中でも、ことLGBTQの人たちが直面している問題について、日本では残念ながらあまり理解が進んでいるとは言えません。以下の資料からも、2/3近くの回答者が「性の多様性に対する社会の理解が進んでいない」と感じており、不動産会社に相談に行くことに不安を覚えている当事者が多いことが分かります。

回答した人の 2/3近くが、性の多様性への理解が進んでいないと感じている(出典:浜松市「令和元年度第1回浜松市広聴モニターアンケート調査『性の多様性について』」)

回答した人の 2/3近くが、性の多様性への理解が進んでいないと感じている(出典:浜松市「令和元年度第1回浜松市広聴モニターアンケート調査『性の多様性について』」)

L(Lesbian、レズビアン)やFB(Female Bisexual、女性のバイセクシュアル)など多くの当事者たちが不動産会社に行くことに不安を感じている(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ「2021年セクシュアル・マイノリティーの居住ニーズに関するアンケート」)

L(Lesbian、レズビアン)やFB(Female Bisexual、女性のバイセクシュアル)など多くの当事者たちが不動産会社に行くことに不安を感じている(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ「2021年セクシュアル・マイノリティーの居住ニーズに関するアンケート」)

不動産会社の中には、社内で勉強会や研修を行ってLGBTQの人たちが抱える悩みや問題への理解を深め、当事者が相談しやすい環境づくりや希望に沿った物件を紹介しようと尽力する会社も、もちろんあります。
しかし、そうではない会社がまだまだ多いのも現状です。時には「LGBTQを住まい探しの支援が必要な対象とした『住宅確保要配慮者』に含めるべきか」ということそのものが議論となることもあるのです。

国交省がLGBTQに対する自治体の取り組みを調査!

そこで、2022年11月に、国交省国総研が全国の自治体や関係団体に向けてLGBTQに対する調査を実施しました。調査を行った長谷川さんは、その実施背景について次のように語ります。

「LGBTQの住まい探しといっても、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーといったさまざまな属性ごとに抱える問題もあり、一括りにはできません。民間の不動産会社などがそれらの問題に対しどのように対応しているのか、地方自治体の住宅施策で同性カップルが公営住宅に入居できるのか、国の調査機関としてのデータもありませんでした。そこへ、LGBTQの住宅問題に取り組んでいる研究者から一緒に調査を進めないかと話をもらい、地方自治体の取り組みについて私が担当することになったのです」(長谷川さん、以下同)

調査は、メールやFAXを用いてアンケート形式で実施し、都道府県や指定都市のほか、東京23区と中核都市、そして賃貸住宅供給促進計画やすでに居住支援協議会を設立している市区町村を含め、計157団体から回答を得ました。

地方自治体がLGBTQの住まいに対してどのように取り組んでいるのか、2022年8~9月にメールによるアンケート方式で調査を行った(資料提供/国土交通省国総研)

地方自治体がLGBTQの住まいに対してどのように取り組んでいるのか、2022年8~9月にメールによるアンケート方式で調査を行った(資料提供/国土交通省国総研)

LGBTQは「住宅確保要配慮者」? 調査で見えた、意識のギャップ

住まい探しに困っている人の民間賃貸住宅への入居促進を図る「住宅セーフティネット法(正式名称:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」では、“LGBT※は「法律で定める者」ではなく、「国土交通省令で定める者」の中のひとつ”として例示されているに過ぎません。PS宣誓制度の有無が各自治体によって異なるため、国はLGBTを住宅確保要配慮者に含めるかどうかの判断も各地方自治体の判断に委ねる、つまり国として必須で定義するものではない、ということのようです。

※以降、資料に関する事項については、当時の調査内容にあわせてLGBTQではなくLGBTと表記

住宅セーフティネット法では、LGBTは「国土交通省令で定めるもの」の1例として例示されている(資料提供/国土交通省国総研)

住宅セーフティネット法では、LGBTは「国土交通省令で定めるもの」の1例として例示されている(資料提供/国土交通省国総研)

実際に調査結果を見ると、賃貸住宅供給促進計画を策定している「都道府県」は47中46、LGBTQを要配慮者として位置付けているのは47中44です。一方、基礎自治体にあたる市区町村などを含む「その他」では、賃貸住宅供給促進計画策定済みがわずか0.3%、LGBTを要配慮者として位置付けているのは0.2%となっています。

この結果からは、ほとんどの都道府県がLGBTを「住宅確保要配慮者」としているのに対し、市町村レベルでは、1619団体のうち、位置付けているのは3件のみと読める(資料提供/国土交通省国総研)

この結果からは、ほとんどの都道府県がLGBTを「住宅確保要配慮者」としているのに対し、市町村レベルでは、1619団体のうち、位置付けているのは3件のみと読める(資料提供/国土交通省国総研)

その一方で「市区町村などの基礎自治体は、個別には賃貸住宅供給促進計画を定めていなくても各都道府県の定める計画に基づいて施策を行っているはず」と考えることが可能です。そうなると賃貸住宅供給促進計画策定済みの基礎自治体は97.9%+0.3%、LGBTを要配慮者として位置付けている基礎自治体は93.6%+0.2%と読むこともできるわけで、この数値をどのように解釈すべきかに迷います。

長谷川さんは、「市町村で賃貸住宅供給促進計画をつくっていなくても、LGBTを位置付けているところはあるかもしれないが、はっきりとは掴めていない」とした上で、次のように話しています。

「PS宣誓制度を市町村で導入していなくても、都道府県が導入していれば、それに乗る形で都道府県の出した証明書を有効として、LGBTQでも公的サービスを受けられる基礎自治体も多いです。

LGBTの位置付けは自治体によって差がありそうですが、そのような実務的な側面で考えれば、実際に住宅確保に困っている当事者がいるのですから、国としては、LGBTは法律が指定する『住宅確保要配慮者』にあたる、と捉えることができます」

渋谷区が発行するパートナーシップ証明書(画像/渋谷区)

渋谷区が発行するパートナーシップ証明書(画像/渋谷区)

LGBTQが抱える住まいの問題が見えにくいワケ

次に「LGBTからの住宅相談」の状況を見てみましょう。
自治体の中でLGBTからの住宅相談を受けたことがあることを示す「相談あり」は全体で8%と、自治体の担当者のほとんどがLGBTの住まいに関わる問題に直接的に対応した経験がないことが分かります。

LGBTQからの住宅相談を受けたことのある自治体はごくわずか(赤枠)。そのうち、半数以上が同性カップルで公営住宅に入れるかという相談になる(資料提供/国土交通省国総研)

LGBTQからの住宅相談を受けたことのある自治体はごくわずか(赤枠)。そのうち、半数以上が同性カップルで公営住宅に入れるかという相談になる(資料提供/国土交通省国総研)

日本におけるLGBTQの割合は、3~10%といわれています。にもかかわらず、こんなにも「聞いたことがない」と回答する人が多い理由は、LGBTの人たちが自治体に住まいの相談に行く機会がほとんどないからだと考えられます。

「10人に1人がLGBTQだとしても、カミングアウトしている人はほんのひと握り。社会や周囲の人から差別されることなどを恐れて、親にも、会社にも知られないように生活している人が大勢います。

不動産会社に入居を断られても、自治体の窓口に相談に行く人がいないため、制度はあっても実際に対応したことがない、また問題の実態を把握できていない自治体職員が多いのです」

パートナーシップ宣誓制度の導入と必ずしも一致しない公営住宅の施策

さらに、各自治体のPS宣誓制度の導入予定と同性カップルの公営住宅への入居を認める予定との関係についても見てみましょう。
まず、本調査を公表した2022年11月時点のPS宣誓制度の導入状況は、都道府県で21%、最も高いのは政令指定都市の85%です。

PS宣誓制度の導入が最も進んでいるのは、指定都市の85%。導入割合が低いのは、都道府県の21%で、指定都市以外の属性において、半数以上が導入していないという結果となった(資料提供/国土交通省国総研)

PS宣誓制度の導入が最も進んでいるのは、指定都市の85%。導入割合が低いのは、都道府県の21%で、指定都市以外の属性において、半数以上が導入していないという結果となった(資料提供/国土交通省国総研)

このうちPS宣誓制度を導入していない自治体に今後について確認すると、PS宣誓制度を導入予定、もしくは導入に前向きな自治体が、必ずしも同性カップルの公営住宅への入居を認める予定ではないこと、または逆にPS宣誓制度の導入は未定でも公営住宅への入居を認める予定の自治体があることが分かりました。

そして、PS宣誓制度の導入や公営住宅への同性カップルの入居を認める予定のない自治体がまだまだ多いのも気になるところです。

「PS宣誓制度の導入予定」と「同性カップルの公営住宅への入居を認める予定」の関係図。少数ではあるが「PS宣誓制度の導入は未定、なし」でも公営住宅への入居も認める方向の団体や、その逆があるのは興味深い(資料提供/国土交通省国総研)

「PS宣誓制度の導入予定」と「同性カップルの公営住宅への入居を認める予定」の関係図。少数ではあるが「PS宣誓制度の導入は未定、なし」でも公営住宅への入居も認める方向の団体や、その逆があるのは興味深い(資料提供/国土交通省国総研)

「この点については、地方自治体の住宅部局からすれば『公営住宅への入居を認めるかよりも、PS宣誓制度を導入するのが先で、導入されてから対応する』という考え方が背景にあります。事実、PS宣誓制度導入が未定のところは公営住宅への入居も未定というところが多く、住宅部局がPS宣誓制度導入よりも先駆けて公営住宅で同性カップルを受け入れようとしているところもありますが、何らかの公的な証明書がなければ二人の関係を示すものがなく、動きづらいようです。

中には、婚姻届の受理と同じようにPS宣誓制度も『窓口となるのは各市区町村の役割』として、判断は市区町村に任せ、都道府県としては導入していないケースも見られます。そうなると、市区町村が動かない限り公営住宅への入居は難しくなりますね」

これらの結果からは都道府県と市区町村の間で考え方に相違があり、互いに押し付けあっているような構造も垣間見えるようです。長谷川さんは「各都道府県や市区町村にもっと話を聞いて、打開策を探っていく必要がある」と指摘しています。

同性カップルの公営住宅への入居を認めるには、二人の関係を示す何らかの公的な証明書が必要。しかし、都道府県と市区町村の間にはPS宣誓制度の導入に関して、考え方に隔たりがあるようだ(画像/PIXTA)

同性カップルの公営住宅への入居を認めるには、二人の関係を示す何らかの公的な証明書が必要。しかし、都道府県と市区町村の間にはPS宣誓制度の導入に関して、考え方に隔たりがあるようだ(画像/PIXTA)

LGBTQの住まい探し、これからどうしたらいい?

今回の調査結果を踏まえて「『課題』や『今後の対策』としてどのようなことが考えられるか」という問いに対し、長谷川さんは「この調査だけでは、なぜLGBTQの住まい探しが難しいのか、明確な理由は掴めない」といいます。

例えば、高齢者であれば孤独死や残置物の処理の問題、低所得者の場合は家賃滞納リスクなど、賃貸住宅のオーナーや管理会社が入居を拒否する原因が見えやすいので、原因ごとに解決策を考えることが可能です。しかし、LGBTQの場合は入居困難となる原因が見えづらく、個別性も高いため「社会全体に対する啓発」や「不動産会社や管理会社の担当者の教育」を行っていくしかないと長谷川さんは考えています。

「LGBTQフレンドリーな店舗を登録して、そこへ行けば嫌な思いをせずに安心して住まいを確保できるという不動産会社を増やす公的な仕組みが必要です。ただ、当事者の気持ちが大きく関係しているので、制度を整えて行政のお墨付きがつけば入居が促進されるというものでもありません。

担当者に悪気がなくても何気ないひと言でLGBTQの人たちを傷つけてしまうことがあります。当事者にとっては、どのような対応をされるか分からない不動産会社を訪れること自体が恐怖なのです。担当者の教育がしっかりとされていて、ここなら嫌な思いをせずに賃貸住宅を紹介してもらえるということを、見える化していかなければならないと思います」

今回の調査を行った国交省国土技術政策総合研究所 建築研究部長を務める長谷川さん。今後も定点観測的にLGBTQに対する行政の姿勢を調査し続けたいと話す(画像提供/長谷川さん)

今回の調査を行った国交省国土技術政策総合研究所 建築研究部長を務める長谷川さん。今後も定点観測的にLGBTQに対する行政の姿勢を調査し続けたいと話す(画像提供/長谷川さん)

LGBTQのパートナーシップ宣誓制度は、今回の調査後にも都道府県での導入や社会的な認知がかなり進んできていますが、市区町村レベルにも浸透して住まいの問題解決にもつながっているかというと、まだまだというのが現実のようです。今回の調査で見えにくかった「なぜ、LGBTQの人たちの賃貸物件への入居が難しいのか」という問題の答えは、きっと、当事者の心にいかに寄り添った支援を提供できるか、を考えることに尽きるのではないでしょうか。

その具体策のひとつである公営住宅への入居が可能な状態へとつながっていくには、制度に頼るばかりではなく、各自治体の担当者をはじめ、私たちが問題について知ることから始める必要がありそうです。

●取材協力
・国土交通省 国土技術政策総合研究所
・LGBTに対する地方公共団体における住宅政策の取り組み調査報告
・NPO法人カラフルチェンジラボ

「ゲイは入居不可」という偏見。深刻な居住問題と“LGBTQフレンドリー”に取り組む不動産会社、そして当事者のホンネ

LGBTQと呼ばれるセクシュアル・マイノリティの人たちにとって、同性が二人で入居できる物件が限られたり、セクシュアリティへの偏見から審査で断られてしまったりと、住居探しはかなりハードルが高いこともあるようです。一方でそのような住まい探しの問題に積極的に取り組む不動産会社も存在します。LGBTQの当事者は、自身が抱える住まいの問題や支援の取り組みについてどのように感じているのでしょうか。LGBTQの人たちの居住支援を行うNPO法人カラフルチェンジラボの三浦暢久さんに聞きました。

セクシュアル・マイノリティの人たちが抱える居住問題

LGBTQの人たちの居住問題とは、主に二つあります。一つ目は外見と戸籍上の性の違いや、同性パートナーとの同居など、パーソナルな部分を明かす必要性と、それが理解されるかという不安やストレス。二つ目はそのことに対する偏見やサポート不足から、希望する物件が借りられない・買えないことです。

「通常では気づかないような、些細に思われることが、LGBTQ当事者の住まい探しの壁となることが多々あります。セクシュアル・マイノリティの当事者たちは、常に偏見に晒されてきました。自分たちがどのように見え、どう判断されるかに対して非常にセンシティブなんです。不動産会社に行くこと自体を怖いと感じる人が多く、それをどう解消するかが住まい探しの最初のハードルです」(三浦さん、以下同)

実際に、カラフルチェンジラボが行った「2021年セクシュアル・マイノリティーの居住ニーズに関するアンケート」によれば、多くのLGBTQの人たちが不動産会社に行くこと自体に不安を感じていることがわかります。

不動産会社に行くことに不安を感じたことのある人の割合(n=1,754)

特にL(Lesbian、レズビアン)やFB(Female Bisexual、女性のバイセクシュアル)など、不動産会社に行くことに不安を感じる人が多く、半数以上に上る(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

またパートナーとの同居を希望する当事者にとって、二人の関係を根掘り葉掘り聞かれるのは、決して気持ちの良いものではありませんし、理解不足や偏見によって話が進まないこともあるそう。

「一般的な『二人入居OK』の物件は、夫婦や兄弟姉妹など、家族であることが前提です。同性カップルは家族とは認められず、物件の選択肢が極端に少なくなります。また、収入では特に問題が無いのに、同性カップルを理由に『ゲイの人が住んでいるとは近隣の住民に説明できないから』などといった、とんでもない偏見を理由に審査の段階で断られたというのも、実際にあった話です」

先の調査では、セクシュアル・マイノリティへの理解を得られず、大家さんには同居人がいることを告げず、隠れてパートナーと暮らさざるを得なかったという人の割合が60%以上にもなることが判明しました。これは同居人を申告していないことになるので、本来は契約違反にあたり、それを理由に退去を求められることも起こりえます。そのような不安な状況で生活をしていかざるを得ないのは大きな問題です。

大家に隠れてパートナーと暮らした経験がある人の割合(n=1,754)

パートナーと暮らすことを隠して、一人暮らしとして契約するケースも多いが、もし見つかれば契約違反で退去を求められることも(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

LGBTQ当事者の住まい探しを支援する、カラフルチェンジラボの取り組み

住まいの問題を抱えているLGBTQの人たちに対して、三浦さんが居住支援を始めようと考えた一番のきっかけは「自分自身の住まい探しの経験だった」と語ります。三浦さん自身、セクシュアル・マイノリティの一人であり、男性パートナーと同居を始めるときに困難を感じた当事者でした。

「今のパートナーとは10年前から現在の賃貸物件に一緒に住んでいます。私自身は2015年ごろから『九州レインボープライド』というLGBTQを筆頭に、マイノリティの人たちが自分らしく生きられる社会の実現を目指すイベントを開催してきましたが、パートナーは今も自身がセクシュアル・マイノリティであることを公表していません。実際に住まい探しではとても苦労をしました。多くのLGBTQの人たちと出会い、生活の不安や不満を聞くなかで、最も深刻だと感じたのが住まいの問題だったのです」

カラフルチェンジラボが主催する、九州レインボープライド。たくさんの人や企業、各国の領事館も参加している(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

カラフルチェンジラボが主催する、九州レインボープライド。たくさんの人や企業、各国の領事館も参加している(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

三浦さんの住まいへの課題感を具体的な活動へと変えたのは、福岡市を代表する不動産会社、三好不動産の三好修社長との出会いでした。

「三好社長にこれまでの自分の活動やLGBTQ当事者の住まいの問題について話したところ『営業担当者たちに話をしてほしい』と講演の機会をもらいました。以降、三好不動産の各店舗でLGBTQの人たちへの居住支援の取り組みがスタートし、私たちがそれをサポートさせてもらっています」

三好不動産の各店舗の入り口にはもちろんLGBTQフレンドリーな企業であることを示す「レインボーマーク」が貼られています。また、三浦さんたちの取り組みもあり、レインボーマークを掲示する店舗や会社も少しずつ増えつつある様子です。

LGBTQ当事者が望む居住支援は「フレンドリーとうたっているが、接客は自然体で」

では、実際にLGBTQの人たちは、レインボーマークを掲げる不動産会社やその接客についてどのように感じているのでしょうか。先の調査によれば、当事者が「LGBTQフレンドリーをうたう企業に望むこと」として一番多かった意見は「フレンドリーとうたっているが自然に接してほしい(64.9%)」、次に多いものが「セクシュアリティは確認しないでほしい(42%)」でした。

そして、「レインボーステッカーが入り口に貼ってあると入店しやすい(41%)」「自分のセクシュアリティや二人の関係は自分のタイミングで言いたい(36.2%)」という意見が続きます。

どのような接客が嬉しいか(n=1,754)

LGBTQの人たちが不動産会社に最も求めていることは「フレンドリーとうたっているが接客は至って自然体で行ってほしい(64.9%)」(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

「不動産会社が『LGBTQフレンドリーである』という意思表示をすることは、とても大事です。なぜなら、LGBTQ当事者の中には、自分たちを受け止めてくれる企業なのかどうかがわからないと、相談に訪れることすら躊躇(ちゅうちょ)してしまう人が多いからです。しかし一方で、特別扱いをしてほしいわけではない。これが当事者の最も切実な声です」

さらに、LGBTQの人たちの住まい探しの問題は入居申込みの手続きや審査の際にも生じます。トランスジェンダー(出生時の身体的な性別が、自身が認識している性と異なる人のこと)が本人確認書類を提示すると、外見との違いに驚きを隠さない担当者がいたり、管理会社の偏見によって審査が通らない同性カップルがいたりします。

LGBTQの人たちが本当に必要としている支援は、特別な何かではなく「当たり前に」入居できることです。

LGBTQの人たちへの支援は、まず「自分の偏見」について知ることから

三浦さんはまず、多くの人に「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)」があること、そのために気づかないうちに相手を傷つけてしまう可能性があることを知ってほしい、と警鐘を鳴らします。

「例えばトランスジェンダーの方に『私より全然男(女)らしいですね』といった、良かれと思って発言した何気ない一言も、言った方は褒め言葉のつもりかもしれませんが、言われた本人は、自分はニセモノだと言われているように感じてしまうことがあります。

自然に接客するためには、LGBTQの人たちが置かれている環境や考え方を理解していないと難しいでしょう。不動産会社の担当者であれば、家賃滞納のリスクヘッジのために詳しくプロフィールや本人確認をすることも必要でしょうが、いきなり立ち入ったことまで聞かれるのは誰だって嫌なものです」

三浦さんたちは、LGBTQ当事者に関するイベント開催や「住まいのプロジェクト」実施のほか、不動産会社をはじめとする企業にもコンサルティングを行っています。企業向けの講演ではLGBTQの人たちについて最低限理解してもらうために、ハラスメント問題・法的問題・同性婚について、社会や世界全体の考え方がどのように進んでいるのかを詳しく話すそう。マイノリティの人たちの特徴だけでなく、取り巻く社会環境の両方についてよく知ることが、差別や偏見のない社会につながっていくことを示しています。

カラフルチェンジラボが企業を対象に講演を実施したときの様子。LGBTQフレンドリーな企業を増やしていくには、まずは事実を知ってもらうことが大切というスタンスで続けている(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

カラフルチェンジラボが企業を対象に講演を実施したときの様子。LGBTQフレンドリーな企業を増やしていくには、まずは事実を知ってもらうことが大切というスタンスで続けている(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

これからのLGBTQフレンドリー企業、そして社会に望むこと

三浦さんたちが実施する住まいプロジェクトの協力企業も数社に増えてきましたが、全国にある何万もの不動産会社の中では、まだまだLGBTQの人たちへの理解が広まっているとはいえません。

カラフルチェンジラボがコンサルティングを依頼される不動産会社にヒアリングをすると「LGBTQの人たちへの取り組みを特別に行う必要があるのか」「LGBTQ当事者だと言ってくれれば、配慮して対応するのに」といった回答も多いそうです。しかし、何が問題なのかを正しく理解して能動的に行動しなければ、いつまでも社会は変わらないし、解決しないのです。

「企業が積極的にLGBTQに歩み寄らなければ、偏見に晒されるリスクがあるため、住まい探しの相談もできない人はたくさんいます。そこを理解しなければ、LGBTQの人たちが安心して住める、暮らせる社会は実現しないでしょう。

私は、LGBTQの社会参画によるマーケットへの影響は大きいと思っています。電通ダイバーシティ・ラボの『LGBTQ+調査2020』では、理解が進まないことで機会を損失していたり、当事者が消費に消極的になっている商材・業界の規模は5兆円を超えるともいわれています。また、当事者ではない人においても、約45%がLGBTQフレンドリーな企業の商品やサービスを利用したいと回答しているのです」

さらに三浦さんは「LGBTQの人たちが晒されている問題に取り組むことは、差別や人権の問題に取り組むのと同じこと」だと続けます。

「コンサルをしている企業がLGBTQ当事者への取り組みを行うと、副産物として必ずといっていいほど『サービスの質が向上した』『コミュニケーションが活性化した』という評価をもらいます。自分を知り、他者への配慮を学ぶことはLGBTQの人たちに限らず、障害をもつ人、高齢者など、全ての人がその人らしく生きることが当たり前の社会となるために、必要なことだからです」

来場者数1万人を超えた九州レインボープライド2022のステージ(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

来場者数1万人を超えた九州レインボープライド2022のステージ(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

LGBTQの人たちへの居住支援においては無知や偏見が主な原因となるため、適切な知識を身に付けた上で取り組まなければ、個人や企業の自己満足になりかねません。また、LGBTQフレンドリーを示す店舗や会社があることは、LGBTQ当事者にとって相談しやすい指標となる一方で、それを表明した以上、LGBTQの人たちの気持ちを理解した対応をする責任がともないます。

三浦さんの言葉の通り、自分と他者への理解を深めることで、全ての人が生きやすく、住みやすい社会にしていきたいものですね。

●取材協力
NPO法人カラフルチェンジラボ

高齢者・外国人・LGBTQなどへの根強い入居差別に挑む三好不動産(福岡)、全国から注目される理由とは

日々の生活を送る上で、安心して暮らせる場所があることは重要です。しかし、高齢者や低所得者層、外国人など、住まいを探してもさまざまな事情により入居先を確保することが困難な人たちの問題が今も存在します。
福岡県を中心に活動している三好不動産は、持続可能な社会の実現に向けて、「すべての人に快適な住環境の提供を」のマインドを常に持ち続けています。三好不動産の川口恵子さんと原麻衣さんに取り組みや、その思いについて、話を聞きました。

「お客様が希望する住環境を提供できない」不動産賃貸業界における問題

福岡のまちには、企業や大学が多く存在します。また、地の利も良いことから、海外からの留学生や移住者、日本で仕事をする人も増え、投資の対象としても注目されてきました。

下図は福岡市が民間賃貸住宅事業者に対して行ったアンケート結果(「福岡市住宅確保要配慮者賃貸住宅供給促進計画(2019年3月)」より抜粋)です。2016年時点で実に67.5%の民間の不動産会社が「入居を断ることがある」と答えており、その対象として「外国人」「ホームレス」「高齢者世帯」では3割以上の会社で入居を制限しているという実態がありました。

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

「当社は『すべての人に快適な住環境の提供をしたい』という基本姿勢のもと、かねてより高齢者や外国人、DV被害者、災害時の住宅提供など、さまざまなニーズにいち早くお応えしてきました。住まい探しに困っている方がいるのであれば、なんとか力になりたいといった社風があります。どのような方がお部屋探しにいらっしゃっても、基本的にお断りすることはありません」(原さん)

すべての人に快適な住環境の提供を!三好不動産が舵を切った分岐点

三好不動産はもともと多様性には理解のある社風でしたが、中でも社員の意識が大きく変わったきっかけがあったといいます。それは、2008年にプロジェクトを立ち上げ、外国人の入居希望者を積極的に受け入れるようになったこと。原さんは、当時のことを「“ありとあらゆる人たちに住環境を提供するのだ”と、社員全員がはっきりと意識する分岐点になった」と感じているそうです。

外国人の従業員も採用するようになり、現在は中国、ベトナム、ネパール、韓国出身の13名が三好不動産で働いており、このうち9名が宅地建物取引士の資格を取得しています。

「2008年当時、福岡で外国人に物件を紹介していた不動産会社は、三好不動産だけだったような気がします。他社よりも外国人への理解はそれなりにあると思っていたのですが、新たに外国人スタッフが加わったことで、今まで当たり前と思っていたことに対して『私の国ではこうです』と指摘され、文化の違いを知ることもあり、お互いの凝り固まった見方とはまた違った考え方や“世界から見た日本”の視点に気付かされることが、たくさんありました」(原さん)

現在、三好不動産が支援する住宅確保に配慮が必要な人たちは、多岐にわたります。外国人や高齢者、LGBTQ、DV被害者、被災者など、抱える問題や事情に違いはあれど、対応していこうとする姿勢に変わりはありません。

「身寄りがないなどの理由で賃貸住宅を借りることが困難な高齢者など、通常の契約が難しいケースでは、自社で設立したNPO法人が、オーナーと借主の間に入って住宅を提供しています。身寄りのない方とも面談をして、一人で生活するのに支障がないことを確認した上でお部屋を紹介することが可能です」(川口さん)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

「問題の根本は何なのか」「足りない点は何なのか」を勉強することから始めたLGBTQの居住支援

LGBTQの人たちも、不動産会社側の偏見や理解不足、知識不足から、部屋探しにはさまざまな壁があるようです。LGBTQの居住支援の担当者となった原さんと広報の川口さんは、まずLGBTQの人たちが抱える悩みごとや問題点は何なのか、勉強するところからスタートしました。

「LGBTQ専用のサービスの必要性や所得が低いために生じる問題はほとんどなく、多くは理解のないことや知識不足に起因します。知識と相互理解によって、齟齬のないようにしていくことが大事です」と話す原さん。よくある事例としては、パートナーと一緒に入居を希望した場合に、カミングアウトしていないため、親族に保証人を頼めないケースや、同性パートナーとの同居を、その関係性を打ち明けられず一人入居と偽って契約してしまうといったケースなどが挙げられます。

原さんたちは、まずは店舗にレインボーマークを掲げるなどLGBTQの方が相談しに来やすい環境づくりからはじめ、最近ではYouTubeチャンネルで情報を発信するなど、活動を広げていきました。そして、今では、どの店舗でもLGBTQの人の部屋探しに対応できるまでに。2016年10月~2022年10月の間の賃貸契約数は約120組、相談件数においては常時100件以上にのぼります。

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

行政や異業種とのタッグも!取り組みがもたらした変化

三好不動産では、住まいの確保に困難を感じている人たちと、オーナーさんが貸し出すことを承諾した管理物件とをつないで、契約を結んでいます。行政から相談を受けたり、調査や講演などへの協力を要請されたりすることも少なくないそう。

「LGBTQ支援をはじめ、さまざまな活動を通して、不動産業界以外の企業や団体から『三好不動産のLGBTQの取り組みを話してほしい』などの依頼をいただくこともあります。福岡市パートナーシップ宣誓制度の導入を受け、福岡市に後援いただいて当社が主催したセミナーも4回にわたりました」(原さん)

活動を通じて、同じ方向を見ている企業や行政とは、業種を超えて新たな取り組みにつながっていく、良い循環ができているようです。

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

他社でできないことが三好不動産ならできる、その理由は?

三好不動産で行っている、住まい探しに配慮が必要な人たちに寄り添う取り組みについては「取り組みを始めたけどなかなかうまくいかない」と話す会社も多いそうです。それはどうしてなのか、という疑問を原さんにぶつけてみました。

「何のためにやるのか、そもそもの方向性が違うのだと思います。住まいを求めるお客さまの目線から入っていくことに従業員一人ひとりの発見があるのです。世の中から評価されるために、例えば『SDGsが世の中で評価されているからやる』という視点で見てしまうと、見えるべきものも見えなくなるのではないかと感じます」(原さん)

原さんたちは「いつかは取り組まなくてはならないことだから」と、見切り発車でも、まずは動いてきたと言います。まだ先を完全に読みきれない不安もある中、「失敗を恐れて何もしないよりは」と行動することで取り組みを推し進めてきました。

また、三好不動産の各部署では、自主的に研修会や勉強会を企画・開催し、社内だけでなく社外向けに発信する機会も多くもあるそうです。一人ひとりが受け身ではなく、能動的に動くことこそが、他社ではできないことを可能にしているのではないでしょうか。

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

原さんは会社全体のプロジェクトとしてLGBTQやDV被害者のお部屋探しの推進を担当していますが、三好不動産ではそれぞれの店舗でも、高齢者や災害被害者、LGBTQといった住宅確保に困難を抱える人の、住まい探しを支援しています。

「お客さまの身になって」「一人ひとりに寄り添って」。言葉で言うのは簡単です。しかし、本当に困っている人たちと向き合うには、知識も必要ですし、多くの人に理解をしてもらうための手間暇を惜しんではいけないのだと改めて感じました。それは、ボトムアップで意見のできる風通しの良い社風、そして、会社の利益だけでなく“お客さまのために何ができるか”で行動できる環境がそろっているからこそできることなのかもしれません。

そして活動の効果を実感するまでには長い年月がかかるといいます。原さんたちが明らかな変化を感じたのが、2016年から参加している、性的少数者をはじめとするすべての人が自分らしく生きていける社会の実現を目指す啓発イベント「九州レインボープライド」にブースを出店したときの来場者の反応だそう。最初はLGBTQなどの当事者、行政、NPOなど、LGBTQの問題に直接的に関わる人や団体の参加が多く、「どうして不動産会社がここにいるの?」と不思議そうな顔をされたそうですが、2022年の開催では、来場者から「応援しています」「三好不動産の活動、知っていますよ」など、激励の言葉をたくさんもらったのだとか。地道な活動が、少しずつ形になり、実を結びつつあるということでしょう。

●取材協力
株式会社三好不動産

LGBTQと住まい[2] 同性カップルの住まい探し何が変わった? 影響与えた渋谷区に聞いた

今年3月で「渋谷区パートナーシップ証明」を含む条例が施行され5年目を迎えた。それまでもLGBTQの人権について取り上げた男女共同参画条例は他の自治体でも施行されていたが、日本初の「パートナーシップ証明」を生み出した渋谷区の取り組みは、以後のLGBTQをめぐる動きに大きな影響を与えた。
「渋谷区パートナーシップ証明」に法的な拘束力はない。しかし現在42組のカップルが取得し、現在も区の「にじいろパートナーシップ法律相談(無料)」には、多くのカップルがライフプランニングの相談に訪れている。申請が増え続ける中、この秋から取得費用の助成制度もスタートする。こうした新しい制度を導入した渋谷区で、同性カップルにとっての住宅に関わる実態はどのような状況になっているのか。渋谷区役所で男女平等・ダイバーシティ推進担当課長として働く永田龍太郎さんに詳しい話を聞いた。
同性カップルの住まい探しの壁とは

LGBTQとは、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)、Q(クエッション)に代表される、セクシュアル・マイノリティな人たちの総称だ。そして彼らは、社会的なマイノリティとして、さまざまな問題を抱えている。そのひとつが住まい探しだ。

永田龍太郎さん(写真提供/永田さん)

永田龍太郎さん(写真提供/永田さん)

LGBTを自認している20~59歳の全国の男女に対して行われたアンケート調査(SUUMO『LGBTの住まい・暮らし実態調査2018』)によると、住まい探しで「居心地の悪さを感じた経験がある」人は「賃貸住宅探し」で28.7%、「住宅購入」で31.1%にのぼるという。その背景には、「同性カップルで住まい探しをしていて、同性同士の入居を不審がられた」や「不動産会社や大家に偏見の目で見られた」などの理由がある。

実際、永田さんによると同性カップルから、「他の地域で家を借りられず、渋谷区でようやく住める家が見つかった」と話す声を聞いたことがあるという。永田さんは、「この渋谷区パートナーシップ証明は、区長印のある証明書を発行することで、こうしたハードルを乗り越える後押しをしたいという、渋谷区の思いが詰まったものだ」と続ける。

この渋谷区の条例と証明の発行がきっかけとなり、2020年4月20日現在で、都内8区を含む、国内47の自治体が「同性パートナーシップ証明制度」を導入し、計945組が認知されている(2020年4月20日 虹色ダイバーシティ調べ)。さらに導入を検討している自治体も数多いという。

渋谷区が発行するパートナーシップ証明の取得には、全国にある公証役場で作成できる契約書「公正証書」が必要となる。つまり、日本の法律の制度にのっとってお互いへの愛情と責任を形にできるだけでなく、「後見人」という形でお互いの信頼関係を社会に示すことができるということ。婚姻関係と同様の状態にあるというエビデンス(証拠)づくりに、公正証書を活用しているのだ。

渋谷区パートナーシップ証明書(サンプル)(画像提供/渋谷区役所)

渋谷区パートナーシップ証明書(サンプル)(画像提供/渋谷区役所)

渋谷区は「証明書」を発行している点が他の自治体と大きく異なる。渋谷区のパートナーシップ証明書発行に必要な公正証書が、同性カップルが婚姻関係と同等の状態にあると認めるツールとして多くの民間企業に認められ、冠婚葬祭時の休暇といった福利厚生適用の条件として、利用されたりしているという。

渋谷区では70代のシニアを含めた幅広い年齢層の同性カップルからの申請がある。「(この証明書は)万が一の病気や事故というリスクを想定して、取得を思い立ったカップルが多いという、(法律婚をする異性カップルと比較して)とても切ない側面がある」と永田さんは話す。だが、共同生活を行うタイミングで、お互いの人生に対する考えや姿勢について、公正証書を読み合わせする中で明確化することは、その後の関係をより深いものにし、プラスになっているという声も多く聞かれるという。

東京オリンピック・パラリンピック開催が契機に

永田さんは「渋谷区内に限らず、多くの企業が、この証明書の誕生をきっかけにして、福利厚生などでパートナーに対して『家族扱い』を認める後押しになった」と話す。携帯電話の家族割の適用や、飛行機のマイル共有、保険加入などがその例にあたる。契約にあたって事実婚をしているだけではNGとなるケースでも、渋谷区パートナーシップ証明(相当の公正証書)があればOK、というケースも実際に発生している。

住宅購入関連では、みずほ銀行が他行に先駆けて「住宅ローンの商品改定」を2017年に行っており、渋谷区パートナーシップ証明書及び、同証明書発行に必要な内容を満たした公正証書を持ってすれば、住宅ローンを組めるようになった。

また、多くの企業や行政でもLGBTQの施策を設けるようになっている。その背景にあるのが、「東京2020オリンピック・パラリンピック大会」開催だ。

東京2020大会に関係する、物品やサービスなどを「どこから調達するか」というガイドラインに当たる<調達コード>には、「性的指向による差別の禁止」が明記されている。そのため組織委員会は、性的指向や性自認による差別やハラスメントを禁止している企業を採用する必要があり、すでに同大会のスポンサーであるパナソニックをはじめ、LGBTQの人々に対して、企業として課題解決へ力を入れる企業が増えつつあるという。

日本最大級のLGBTQイベント「東京レインボープライド」に出展したときの写真(画像提供/渋谷区役所)

日本最大級のLGBTQイベント「東京レインボープライド」に出展したときの写真(画像提供/渋谷区役所)

見えないものをどうやって可視化するか

しかし住宅関係においては、いまだにLGBTQは、外国人や高齢者と同様に「住まい弱者」であることに変わりない。「LGBTQの人たちの中には、希望する住まいに住めない人も少なくありません。LGBTQだからといって必ずしも身体的な困難や経済的な困難を抱えているわけではないのに」というのだ。しかしこうした問題が発生する理由は、「渋谷区でさえ、LGBTQの人たちを見たことも、会ったこともないと話す方がいる」という永田さんの言葉に尽きる。本当は隣にいるのに見えていない人の問題を、身近な問題として考えることは確かに難しいことだ。

「こうした状況を打破するには、どれだけコミュニティの存在を『可視化』し、LGBTQの隣人が当たり前の意識を地域でつくれるかどうかが、今後問題の解決のカギになる。それにはいろいろな人たちが手を取り合ってコラボレーションしながら、地域というものを、(LGBTQに)もう少し開いていくことで、住まいに関する課題も解決していけるのではないでしょうか」と永田さんは続ける。ただこの可視化は、当事者が地域においてカミングアウトすることが現実的に難しい中、簡単な話ではないとも話す。

「差し迫っている課題としては、今後渋谷区で子育てをする同性カップルが増えたり、トランスジェンダー傾向にある子どもが入園・入学する状況に際して、“地域”がどのように理解し、変われるかがとても大事になっています」と話す永田さん。例えば、「パパママ学級」と言った表記に対して、子育てをする同性カップルが疎外された気持ちになりかねない、といったものをはじめ、さまざまな問題を、地域がどう”自分ごと“として気づいて一つ一つ変えて行けるか、渋谷区という地方自治体に関わる立場として、今一番頭を悩ませているのだという。

「渋谷男女平等・ダイバーシティセンターでは、渋谷区への転入を検討中の性的マイノリティの方など、広くご相談を受け入れています。困りごとがあるときにはお一人で悩まず、まずお気軽にご相談いただければと思います」(永田さん)

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

昨年6月、長谷部健 渋谷区長と共に「NYCプライド2019」に視察に行ったという永田さんは、「日本とのあまりもの違いにショックを受けた」という。まちづくりで活躍している人たちの中に、LGBTQの人々や、LGBTQを支援する人々が、当たり前のように存在していた。「日本の取り組みでは、“LGBTQは支援される側”という認識が色濃いのに対して、ニューヨークではまちづくりの担い手としてLGBTQも関わっていたんです。多様な人たちが安心して暮らせる空間をつくろうという取り組みにおいて、担い手の多様性も実現されているというのは、本当に意義深いことだと感じました」と、インクルージョン視点の大切さを改めて感じたのだそうだ。

(画像提供/渋谷区役所)

(画像提供/渋谷区役所)

(画像提供/渋谷区役所)

(画像提供/渋谷区役所)

(画像提供/渋谷区役所)

(画像提供/渋谷区役所)

(画像提供/渋谷区役所)

(画像提供/渋谷区役所)

「見えないものを、どう見えるものにしていくか。見えないと認知も権利の獲得も進まないが、見られたくないという人もいる。そのジレンマの中で、どうやって実現するか。今行政としてクリエイティビティが要求されていると感じています」と話す永田さん。LGBTQへの各自治体の取り組みが広まる一方で、住む場所に関係なく、LGBTQを広く受け入れられる社会になるまで、まだしばらくかかりそうだ。

●取材協力
渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>●関連記事
LGBTQと住まい[1] 東京レインボープライド代表に聞く“住まい探しの壁”。最新事情は?

LGBTQと住まい[1] 東京レインボープライド代表に聞く“住まい探しの壁”。最新事情は?

LGBTQ(セクシュアル・マイノリティの総称)の人々にとって “住まい探しはハードルが高いもの”という認識が持たれている。
LGBTQをめぐる動きに大きな影響を与えた渋谷区の「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」制定から5年が過ぎ、状況はどのように変化しているのか。

毎年この時期に、LGBTQの人々やその支援者によって東京で開かれるイベントで、LGBTQの認知拡大に影響を与えてきた「東京レインボープライド」の共同代表を務める杉山文野さんと、山田なつみさんに話を聞いた。
「ゼロからは脱した」LGBTQコミュニティに対する認知

LGBTQとは、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシャル)、T(トランスジェンダー)、Q(クエッション)に代表される、セクシャル・マイノリティな人たちの総称。そして、東京レインボープライドはそうした性的少数派の人たちが、差別や偏見にさらされず、前向きに生活できる社会になるようにと始められた、団体であり、イベントだ。この「プライド」と名付けられたパレードイベントは、米国のニューヨークで1970年に始まり、市民運動の一つとして認知されていくと同時に、世界中で同様のパレードイベントが開催されるようになった。

2013年から立ち上げに関わり、2019年に東京レインボープライドの共同代表理事に就任した山田なつみさんは、6年前を振り返り「イベントの協賛を企業さんへお願いしに行ったら、“LGBTって何?”って。ゼロから全てを説明しないといけない状況でした。それが2015年ごろから状況が変わり、企業の方から協賛したいという声をいただくようになりました」と話す。

東京レインボープライド共同代表理事のトランスジェンダーの杉山文野(右)さん、レズビアンの山田なつみさん(左)(画像提供/東京レインボープライド)

東京レインボープライド共同代表理事のトランスジェンダーの杉山文野(右)さん、レズビアンの山田なつみさん(左)(画像提供/東京レインボープライド)

イベントの立ち上げ当初は、商品やサービスを利用してほしいという視点からの協賛が多かったというが、最近では「(LGBTQの)人材を採用したい」といった視点や、「(企業ブランディングを考慮して)セクシャル・マイノリティやその人たちを支援する“コミュニティ”への理解や協力を示したい」という観点での参加を決める企業が増えてきたという。

「5年ほど前から、LGBTQへの理解は深まっているのではないか」と山田さんは話す。

(画像提供/東京レインボープライド)

(画像提供/東京レインボープライド)

少しずつ増えつつある“カミングアウトしない”住まい探し

東京レインボープライドの共同代表理事である杉山文野さんが賃貸物件探しをしていた8年前、当時はまだ、LGBTQへの理解が浸透しておらず、LGBTQであることに対して好奇の眼差しを向けられたり、陰で噂話をされたりすることも少なくなかった。住まい探しにおいても不動産会社や大家の無理解からトラブルが起きていたことも耳にしていたという。そのため、コミュニティ内では住まい探しに関して「どこの不動産会社の対応が良かった」といった情報を共有することも多いのだそうだ。

杉山さんは、カミングアウト(LGBTQであることを表明すること)することでスムーズに借りることができるならば、と不動産会社に自分がトランスジェンダーであることを“恐る恐る”カミングアウトした。すると、予想外にすんなりと受け入れられ「逆にびっくりした」という。

不動産会社の担当者は、「杉山さんの担当になってから、男性の外見に対し、女性のお名前だったことから、自分なりに(杉山さんのことやLGBTQについて)調べてみたんですよ。記事も読ませていただきました。何も問題ありません」と話してくれた若い担当者の言葉に、心が暖かくなるのを感じたという。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

一方、山田さんは「7、8年前にパートナーと住まい探しをしていた時は、お互いの関係を説明せずにいると、女性2人で家を探しているというだけで、寝室が2つあるお部屋ばかり紹介されてしまったことがありました。パートナーと一緒に住むので、寝室は1部屋でよかったんですけれどね。また入居審査の過程で必ず聞かれることが、二人の関係性です。仲介する不動産会社の審査は通っても、大家(貸主)の審査で差別的な扱いを受けるといったハードルを感じた経験がありました」と話す。

しかし、つい最近家を探した時には、不動産会社のカウンターでも大家の審査でも、パートナーの関係性を話す必要性もなく、また審査で止められることもなく借りられたのだとか。「だいぶLGBTQの存在が認知され、そういうパートナーや家族の形がある、ということが浸透されてきたのではないかと感じます」と山田さん。

現在、妻、我が子と一緒に暮らす杉山さん(画像提供/杉山さん)

現在、妻、我が子と一緒に暮らす杉山さん(画像提供/杉山さん)

“安心材料”としてのパートナーシップ証明書

このようなLGBTQの認識の広がりは、2015年に渋谷区が定めた「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例(通称パートナーシップ条例)」による影響が大きいという。同区が発行するようになった「渋谷区パートナーシップ証明書」を皮切りに、続々と他の自治体も同様の証明書を発行するようになった。杉山さんは「証明書を発行したこと以上に、行政が前提条件として、セクシャル・マイノリティの存在を認めたことが重要」と話す。それ以来、特に企業でカスタマービジネスにおいて、「LGBTQコミュニティ」の存在を意識するケースが増え始めたという。

そしてこの証明書は、住まい探しにおいても効力を発揮する。「(証明書は)住まい探しにおける“安心材料”として機能している」と山田さん。実際、証明書によって、2人の関係を公式に証明することができ、住まい探しの際に不動産会社に一枚提出をするだけで担当者に多くを語らずにこちらの状況を説明することができる。“カミングアウト”や、精神的苦痛を伴う探り合いをしなくてもすむようになったことは大きい。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

また冠婚葬祭のシーンでは、かつてはパートナーの家族の不幸に対して休みの申請さえしづらいこともあったが、忌引きの申請が可能になったなど、家族同様の配慮が証明書の存在で可能になった企業もある。

「異性のカップルが得られる保障と同じものを得られるのはありがたいこと」と山田さんは続ける。そして今後はこうした保障や経済的支援が手厚い企業を、LGBTQの人たちは積極的に働く先として選んでいくようになるだろうと話す。

求められる地方自治体への広がり

一方で、こうした証明書の発行はまだ一部の自治体のサービスに留まっている。この4月から、さらに13の自治体が同性パートナーシップ証明制度を導入しており、現在は都内7区1市を含む47の自治体が導入していることになる。しかし地方へ行くほどLGBTQの人たちが置かれている環境は厳しい。

地方では、地域コミュニティの関係性の深さから“世間体”という壁が立ちはだかる。カミングアウトしにくいといった基本的なことから、たとえ家族にカミングアウトして受け入れられても、世間体を気にする親を察して都会に出ていかざるを得ない人がいるというのだ。また、今後は親の介護の問題が発生しても、都会からパートナーを連れてUターンすることに抵抗を感じるLGBTQのカップルもいるといった話もある。

パートナーシップ証明書を発行する自治体が増えれば、場所に関係なく生活しやすい条件が増える。「こうした動きが進み、自治体の動きと民間企業の行動に変化が伴うことで、現在は戸籍上の男女間にしか認められていない婚姻制度など、最終的に法律の改正に進んでいけるのではないか」と杉山さんは話す。

こうした状況を鑑みると、地方における認識の広がりには、LGBTQという言葉の認知が広まるとともに、LGBTQの当事者ではないが、その人たちを支援すると意思を表明している、「アライ」が増えることが不可欠だ。

現在では、東京レインボープライドの趣旨に賛同した多くのLGBTQ当事者やアライ、企業が参加している(画像提供/東京レインボープライド)

現在では、東京レインボープライドの趣旨に賛同した多くのLGBTQ当事者やアライ、企業が参加している(画像提供/東京レインボープライド)

「アライ」とは、「LGBTQへの理解者・支援者」を指す。社会的にその存在は増えつつある昨今だが、LGBTQの当事者たちにとって、どのような付き合い方が求められているのだろうか。「みなさんがアライであるなら、
(自分がアライであるという)声は、どんどんあげてほしいと思います」と杉山さん。

「当事者に限らず、アライであるかどうかというのも、社会においては目に見えない。だからここにいる、という存在感を見せてほしいんです。(セクシャル・マイノリティを受け入れるのは)当たり前だと思っていても、あえてそのことを口にしない人が多いのですが、実際には、そう感じていることを伝えない限り、周りには見えないもの。まだまだ社会において当たり前になっていない今、ぜひ声をあげてほしいんです」

今年のパレードはオンラインで

新型コロナウイルスの影響で、大規模なイベントの中止が続く。ゴールデンウィーク直前の4月25日、26日に予定されていた「東京レインボープライド2020」も中止になった。だが、その代わりに、同日程で「オンラインパレード」が開催された。

パレード開催予定日だった4月26日の13~16時に、ハッシュタグ「#TRP2020」「#おうちでプライド」をつけて、SNSへ写真投稿を行うだけでパレードに参加できるという企画だ。さらに、25日と26日には代々木公園で行われる予定だったフェスに出演予定だったアーティストやゲストを招いて、オンライントークライブをTwitterで実施。視聴者は約44万人にものぼった。

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

26日には渋谷区の長谷部健区長のほか、菅大介(チェリオコーポレーション)、MISIA、水原希子、RYUCHELLもゲストで登場(敬称略、画像提供/東京レインボープライド)

LGBTQを取り巻く住居探しの環境は、少しずつ改善が見られる。次の課題は「住みやすさ」のようだ。東京レインボープライドのように、地域を巻き込んだ活動によって認知が広がりつつあるが、また限られたエリアだけのものだ。今後、その活動がさらなる広がりを見せ、LGBTQを含む「どんな人にとっても住みやすい社会」になることを願う。

●取材協力
東京レインボープライド

「当たり前の人生」を生きたい トランスジェンダー家を買う

LGBTの当事者は、賃貸の部屋探しや物件購入に関していまだ制約を受けることが多い。
リクルート住まいカンパニーが実施した「SUUMO『不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018』では「LGBTを応援したい」と答えた不動産オーナーは37.0%と、まだまだ業界的に受け入れられているとはいいがたいのが現実だ。しかしLGBT当事者が実際に部屋を借りたり、物件を購入したりする際にどんな言動を受け、どんな思いをしているのか、生の声を知る機会は少ないのではないだろうか。

今回は、関東近郊に住む30代のトランスジェンダー、Aさんにお話を伺った。Aさんは戸籍上は「女」だったが、自分で認識している性別は「男」だった。20代で性別適合手術を受け、戸籍上の性別を「女」から「男」に変更。名前も同時に男性名に変えた。大学時代は賃貸で一人暮らしをしていたが、現在は結婚して一戸建てを購入。一児の父として暮らしている。Aさんはこれまで「住まい」に関してどんな不を感じて、どのように乗り越えてきたのか。当事者の一人称でお伝えする。

性別を書くと、担当者が「えっ?」

僕はいま30代後半だ。いまは注文住宅に住んでいるが、その前は3~4回ほど賃貸を住み替えてきた。なので、まず購入の前に、賃貸の部屋探しで記憶に残っていることを伝えておきたい。ただ、これは10年以上前の話なので、今もまったく同じとは限らない。そのことは心にとめておいてほしい。

まず、トランスジェンダーについて少し説明しておこう。「性的少数者に関する人権啓発リーフレット」(法務省)によると、トランスジェンダーとは「身体の性」と「心の性」が一致せず違和感をもつ人、と紹介されている。僕自身は、自己認識している性別が男性で、戸籍上の性別がかつては女性であった。

ちなみに僕は、20代半ばに戸籍上の性別を変更した。現在の日本では、戸籍の性別変更をするには性別適合手術をした後に、家庭裁判所に申し立てをして認められないと変えることができない。

性別変更をするためには、家庭裁判所に申し立てをして認められる必要がある(画像/家庭裁判所HPより)

性別変更をするためには、家庭裁判所に申し立てをして認められる必要がある(画像/家庭裁判所HPより)

住まいのことを考えるのにあたり、まず、戸籍の性別変更をする前のことを思いだしてみた。残念ながら、当時(約10年ほど前)賃貸の部屋探しで、必ずしも僕のような事情の人をすべての大家さんが認めてくれるわけではなかった。変更前は、見た目と戸籍が違う。当時の僕は、見た目は男。でも戸籍上の性別は「女性」で、名前も女性のものだった。

問い合わせの時点ではウェルカム。しかしいざ店舗に行って、申し込み用紙に性別を書いて名前を書くと、まず不動産仲介の担当者が「えっ?」と怪訝な顔をする。案内をしてくれて、申込をしたとしても、大家さん審査でNG。そんなことが覚えているだけで2回はあった。もちろん、自分がトランスジェンダーだったことが原因とは決めつけられないが、収入面など、他に目立った問題はなかったと記憶している。

もちろん、住民票どおりの女性を「演じること」はできなくはないが、当事者としては苦しいことだし、見た目が「男」であればそれも難しい。パートナーができれば、パートナーも一緒に好奇の目にさらされる。賃貸契約のたびに、心理的ストレスがかかることになる。

性別変更で経験した「根掘り葉掘り」

僕が戸籍上の性別を変更した当時は、賃貸マンションに住んでいた。つまり借りている途中で、自分の名前と性別が変わる。管理会社に連絡したら、契約変更に来てほしいとのこと。管理会社に伺うと担当者だけではなく、大家さんもいらっしゃった。大家さんは女性で40代後半から50代前半、管理会社の担当者も女性で、当時の僕と同年代(20代半ば)だったと思う。

(イラスト/tokico)

(イラスト/tokico)

彼女たちは大変理解がある人たちで、僕を温かく応援してくれ非常に感謝したのを覚えている。一方で(おそらく初めて見る)トランスジェンダーの僕に、とても好奇心を持っていた。「病気を自覚したのはいつ?」「手術はどういった内容なの?」「痛みはあるの?」――。普通、入居者にそのようなことを聞くだろうか?という疑問も湧いた。

追い出されるかと思っていたから、本心からありがたかったし、彼女たちに悪気がないことも十分に伝わっている。しかし好奇心ゆえの「根掘り葉掘り」をされないか、それ以来少し身構えてしまう。

性別変更という“告知事項”

そうして何回か部屋を住み替えた後、僕は結婚して一戸建てを買うことにした。家は注文住宅。ロフトに、暖炉もつくりたい。理想の家を創るのはすごくクリエイティブで、わくわくした。

Aさん宅の1F間取図。ウッドデッキやトイレを開けると目に入る薪ストーブなど、クリエイティブな仕掛けがたくさん(イラスト/tokico)

Aさん宅の1F間取図。ウッドデッキやトイレを開けると目に入る薪ストーブなど、クリエイティブな仕掛けがたくさん(イラスト/tokico)

Aさん宅の2F間取図。納戸はDIYで作成。天窓の位置にもこだわった(イラスト/tokico)

Aさん宅の2F間取図。納戸はDIYで作成。天窓の位置にもこだわった(イラスト/tokico)

しかし、トランスジェンダーの住宅購入には、ある難関がある。もし住宅ローンを組む3年以内に、性別適合手術をしていたとしよう。これはほかの病気と同じ「告知事項」に該当する。そして告知した後、住宅ローンを組む銀行側にどう判断されるのか分からない。

例えば生命保険の場合は、圧倒的に不利に働く。結婚したとき、僕自身、生命保険に加入したくて何社にも問い合わせをした。しかし性別適合手術を「告知事項」として記載したことで、いずれの会社からも「前例がない」と加入を断られてしまった。

告知事項ではなくても、住宅ローンを組む際に戸籍謄本を提出する場合、銀行側に戸籍の性別変更の事実も当然伝わる。僕の場合は、社会人として働きはじめたころから長年お付き合いしているメインバンクの担当者が、20代半ばの性別変更時も親身になって相談に乗ってくれた。なので、住宅ローンについてもあらかじめその担当者に相談をすることができ、無事に住宅ローンを組むことができた。ただ、某銀行の【フラット35】の担当者からは「そういう事情(戸籍変更をしたこと)については、告知しなくていいです」とアドバイスをもらった。人により事情もさまざまだろうから、自分自身が信頼できる複数の銀行や機関に相談して納得して決めることが大切だと思う。

とらわれずに「住まう」

先人が努力してくれたおかげで、日本でもLGBTをはじめとした多様性が理解されつつある。声を上げて道をつくっていくことも一つの方法だ。ただそれができる人ばかりではないし、他にも道のつくり方はあると思っている。「衣食住」の一つである「家」を借りる、買う、そこに対して社会とのコンセンサスをとれていないならば、LGBTの当事者が取り組んでいくことも今後につながるはずだ。

家も、今は購入することが全てではない。今は住まいのあり方が多様化している。住宅ローン審査のハードルが高いなら、その時その時で住みたい家に住まう賃貸の選択肢や、今払える金額で中古物件を購入しリフォームするなどしてみても楽しいかもしれない。

トランスジェンダーに限らず、世の中にはいろいろな障害や病気があるし、人それぞれに過去がある。そんな中でどう生きたいか。どんな家に、なぜ住みたいのか。それをひとつひとつ自問自答していけばいいと思っている。

僕自身の家は、開かれた家にしたい。近所の人も気軽に遊びにきてほしいし、近所の人の庭仕事を手伝ったり、冬には暖炉の周りに集まって焼き芋を焼いたり。

自宅暖炉のイメージ(写真提供/Aさん)

自宅暖炉のイメージ(写真提供/Aさん)

今も壁を塗ったり、ビスを打ったりとDIYしていると、近所の人が話しかけてきてくれるのがすごく楽しい。ご近所も社会の関係のひとつだ。家を建てて、周囲との関係性も一緒に育てていきたいと思っている。

DIYで収納棚をつくっている様子(写真提供/Aさん)

DIYで収納棚をつくっている様子(写真提供/Aさん)

家ができたとき、自分の両親はとても喜んでくれた。それ自体はいいのだが、同時に僕は、そのことに違和感もあった。両親を含め、なぜか「結婚も就職もできない。家も買えない」つまり「人並み」に生きられないと決めつける人が多い気がする。ほかの障害を持つ人に対してもそうかもしれないけれど、僕としては、それ自体も差別だと思うのだ。

普通の、当たり前の人生を生きたい。就職、結婚、家を買うことも、子どもを持つことも。「できないことなんてなかった。なーんだ、普通の人生だったじゃん」いつかそう呟けるように。トランスジェンダーにとらわれることなく、自然に生きてやりたいのだ。

LGBTの住まい探し、不動産オーナーの理解はまだまだ 実態は ?

LGBTという用語が世の中に浸透しつつあるが、いまだマイノリティゆえの偏見や行動への制約を受けることもあるだろう。リクルート住まいカンパニーは、LGBTの当事者にその実態を調査するとともに、不動産オーナーに対してLGBTへの意識調査を実施した。実態を紹介しよう 。【今週の住活トピック】
リクルート住まいカンパニー/
「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」
「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」LGBT当事者のほぼ3割が、住まい探しで困難や居心地の悪さを経験

「LGBT」とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称で、セクシャルマイノリティを表すひとつとされる。

本調査でLGBT当事者に「学校、会社など集団生活の中で、偏見や差別的な言動を受けたことや、差別的な言動に不快感を持ったことはあるか?」を聞いたところ、全体で41.2%が「ある」と回答した。中でも、ゲイの55.1%が最も高かった 。

さらに「住まい探し」について困難や居心地の悪さを経験したことがあるかを、住まい探しを経験した人に聞いたところ、「賃貸住宅探し」で28.7%、「住宅購入」で31.1%が「ある」と回答した。

ちなみに、「現在の住まい」については、「賃貸アパート・マンション」が36.7%で最も多く、持ち家の比率は31.2%(一戸建て22.1%+マンション9.1%)だった。

現在のお住まい(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」)

現在のお住まい(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」)

LGBTに向けた自治体の施策や住宅ローン商品も出始めた

LGBTが住まい探しで困難になる理由はいくつかある。

「賃貸住宅」では、貸主と賃貸借契約を結ぶ際にあらかじめ同居人を認めてもらう必要があるが、家族として同性パートナーが認められるケースは少ない。認められる賃貸住宅を探すか、ルームシェア可の物件を探すか、といったことになってしまう。

また、「住宅購入」に関しては、異性のパートナーであれば、二人の収入を合わせて一緒に住宅ローンを組むか、二人それぞれでローンを組む「ペアローン」が可能だ。しかし同性パートナー同士で住宅を購入しようとした場合には、いずれの組み方も認められないケースが多いのが現状。かといって1人でローンを組んでしまうと「万が一のときに残されたパートナーが住み続けられるのか」といった不安もつきまとう。

こうした不平等を無くしていこうと、同性カップルのパートナーシップを証明する自治体も現れた。
筆者は2015年4月8日のSUUMOジャーナルの記事で「渋谷区の同性カップル条例が成立。なぜ賃貸住宅が借りづらい?」を執筆した。渋谷区の「同性カップル条例」が成立し、手続きを取ればいわゆる「パートナーシップ証明」が発行されるようになり、賃貸住宅を探す際に、同性カップルの同居を認めやすくなると注目されたからだ。

これ以降も、世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、札幌市などの自治体で「パートナーシップ証明書」や「パートナーシップ宣誓書受領証」などを発行するようになった。こうして、一部の自治体でセクシャルマイノリティへの不平等を無くしていこうと動き出している。

また、三井住友信託銀行や住信SBIネット銀行、ソニー銀行などの銀行で、住宅ローンでペアローンや収入合算(同居親族の収入を借入者の収入と合算すること)、担保提供などができる “配偶者”の定義に、同性パートナーを加えるなどの商品改定を行った。銀行によって細かい条件などが異なるので、詳細は個別に確認をしてほしい。

LGBT当事者にこうした状況の認知度を聞いたところ、「同性カップルのパートナーシップ登録や証明書発行を行う自治体があること」の認知度が53.6%と過半数を超えたが、「同性カップルが共同で組める住宅ローン商品があること」への認知度は26.8%だった。

LGBTを応援したいという不動産オーナーは4割弱

このように、一部の自治体や金融機関では多様なパートナーシップのあり方を認めていこうという動きがあるものの、不動産の現場ではどこまで浸透しているのだろうか。

賃貸住宅の貸主である、不動産オーナーにLGBTへの意識について調査した結果を見ていこう。
同性カップルの入居を断った経験があるかどうか(入居希望を受けたことがあるオーナーが対象)については、「男性同士の同性カップル」の場合で8.3%、「女性同士の同性カップル」の場合で5.7%だった。なお、入居を断った割合が高かったのは、「ルームシェア(男性同士)」の8.2%、「同性愛者(女性)」の7.8%など。同性カップルに限らず、賃貸住宅の入居に困難が伴う実態を浮き彫りにしている。

これまでの入居希望者への対応(入居希望を受けたことがある人を対象・単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

これまでの入居希望者への対応(入居希望を受けたことがある人を対象・単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

また、不動産オーナー全員に今後の入居希望者の対応意向を聞いたところ、「男性同士」の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は36.7%、「女性同士」の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は39.3%などと、厳しい結果となった。

今後の入居希望者への対応意向(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

今後の入居希望者への対応意向(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

調査結果を見ていくと、生活の拠点となる大切な住まい選びにおいて、LGBTへの偏見や差別的な行動がまだ多いことが分かる。とはいえ、不動産オーナーの中でも30代など若い世代ほど「応援したい」と回答するなど、認識が変わっていく状況も見られた。まずは、LGBTに対して適切な認識を持つことが重要だ。

今の社会の中で、LGBTであるとカミングアウトすることは勇気のいることだろう。カミングアウトした当事者をフレンドリーに受け入れる社会であってほしいと望む。

不動産オーナー、LGBTを「応援したい」37.0%

(株)リクルート住まいカンパニー(東京都港区)はこのほど、不動産オーナーを対象にLGBTに対する意識調査を実施した。調査対象は30歳から69歳の男女。所有する賃貸用不動産の住戸数が4戸以上の方。2018年8月3日(金)~8月7日(火)の期間、インターネットで調査を実施。有効回答数は1,024人。

LGBTという言葉を聞いたことがありますか?では、「知っている・聞いたことがある」と答えた不動産オーナーは79.4%だった。年代別の認知度は、30代が89.1%と最も高く、年代が上がるにつれて認知が低くなる傾向。

入居希望者への対応として、男性同士の同性カップルの入居を過去に断った経験がある不動産オーナーは8.3%、女性同士の同性カップルの入居を過去に断った経験がある不動産オーナーは5.7%だった。

また、今後の入居希望者への対応意向としては、男性同士の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は36.7%。女性同士の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は39.3%。“男性同士、女性同士カップル”の入居希望と、“男子同士・女性同士ルームシェア”の入居希望への対応意向を比較すると、「特に気にせず入居を許可する」という回答率はほとんど変わらなかった。

LGBTに対する印象・意識については、「応援したい」という回答が37.0%。年代別では、30代オーナーが「当てはまる+やや当てはまる」合計で54.7%とトップで、若い年代ほど「応援したい」のスコアが高かった。

ニュース情報元:(株)リクルート住まいカンパニー

LGBTの住まい探し、居心地の悪さを経験したのは「住宅購入」で31.1%

(株)リクルート住まいカンパニー(東京都港区)はこのたび、「SUUMO『LGBTの住まい・暮らし実態調査2018』」を実施し、その結果を発表した。調査対象は20~59歳の男女でLGBTを自認している方。調査は2018年8月3日(金)~8月10日(金)にインターネットで実施。有効回答数は362人。

それによると、自身のセクシュアリティをカミングアウトした経験があると答えた割合は54.1%だった。セクシュアリティ別だと、「レズビアン」が67.3%と一番高い。年代別では、20代が62.2%と一番高く、年齢が低いほうがカミングアウトしている人が多い傾向。カミングアウトをした対象は「同性の友人」が36.7%で最も多く、「異性の友人」(22.1%)、「親」(18.8%)と続いた。

また、集団生活の中で偏見や差別的な言動を受けた経験や不快感を持ったことがあると答えた割合は、全体では41.2%。セクシュアリティ別では「ゲイ」が55.1%と最も高く、次いで「レズビアン」が48.1%だった。

現在の住まいにおいては、「賃貸アパート・マンション」が36.7%で最も多い。持ち家(自己所有)比率は、セクシュアリティ別では「ゲイ」が40.4%で最も高く、ついで「トランスジェンダー」(32.9%)、「レズビアン」(27.0%)と続く。

住まい探しで、セクシュアリティが原因で困難や居心地の悪さを経験したことがあると答えた比率は、「賃貸住宅探し」で28.7%、「住宅購入」で31.1%。日常生活でセクシュアリティが原因で困難や居心地の悪さを経験したことがある項目は、「結婚式」が33.3%で最も高く、ついで「旅行」(30.6%)、「会食」(30.4%)だった。

LGBTに向けた施策・商品についての認知度では、「同性カップルのパートナーシップ登録や証明書発行を行う自治体があること」が53.6%で最も高く、ついで「国・地域によっては、同性同士の結婚が認められていること」が52.5%。「同性カップルで共同で組める住宅ローン商品があること」への認知は26.8%だった。

ニュース情報元:(株)リクルート住まいカンパニー

同性カップル調査[3] 「周りの理解が得られたら…」LGBT当事者が住まい探しや日常生活に望むこと

同性カップル調査第3回は、同性カップルにとってうれしいサービスや、住みたい場所などをとりあげます。また、彼ら彼女らにとって、住まい探しや日常生活のなかで「こうあってほしい」ことはどんなことなのかを具体的に聞いてみました。
同性カップル調査第1回:同居してよかったこと・同居のストレス
同性カップル調査第2回:家探しの実態

あったらいいなと思う対応やサービスは、「公的なパートナー制度」「理解や認知」など

第3回では、家探しをするにあたり、あったらいいなと思う対応やサービスを聞いてみました。

1位は「同性での婚姻制度や、公的に認められたパートナーシップ制度」(30.8%)。僅差で「入居者がLGBTに対して認知・理解が浸透した集合住宅や街」(28.3%)、「LGBTに対して認知・理解が浸透した不動産会社」(27.5%)、「万一のときに同性パートナーに物件を相続できる法制度」(26.9%)と続きます。

「特にない」も4分の1ほどいたが、全体的にはスムーズな部屋探しや暮らしができる制度やサービスに対して、あったらよいと回答する人が多く、相対的に、「LGBTに対してのみ提供される特別なサービス」などは低い数値となった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「特にない」も4分の1ほどいたが、全体的にはスムーズな部屋探しや暮らしができる制度やサービスに対して、あったらよいと回答する人が多く、相対的に、「LGBTに対してのみ提供される特別なサービス」などは低い数値となった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

女性同士のカップルで、男性同士カップルとの差が大きかった項目としては、「同性パートナーとペアで組める住宅ローン」(32.8%)、「同性での婚姻制度や、公的に認められたパートナーシップ制度」(35.8%)、「万一のときに同性パートナーに物件を相続できる法制度」(32.1%)などで、制度面での希望が目立ちます。
一方、男性同士のカップルで、上位項目、かつ女性同士カップルより数値が高い項目は「入居者がLGBTに対して認知・理解が浸透した集合住宅や街」(29.5%)、「特にない」(28.2%)、「LGBTであることを理由に入居を断らないと積極的に表明した物件」(24.2%)などがありました。

下位項目ではあるものの、「LGBTが入居条件(入居者がLGBT当事者の)集合住宅や住宅地」に関しては、女性同士カップルより男性カップル同士の方が、8.7ポイント高い結果となりました。第2回で紹介したように、男性同士カップルの方が家探しに対して「非常に苦労した」を選択する人が多かったことからも、男性同士の家探しが難しい現状が垣間見えます。

みなさんの声を集めてみました。
【制度や仕組みに関して】
・パートナーであることを公的に証明してもらうことがうれしい(34歳・女性・バイセクシュアル)
・LGBT専用の住宅などがあるといいなと思う(57歳・ゲイ)
・フリーペーパーなどの情報紙があったら良い(35歳・女性・バイセクシュアル)
・LGBTの当事者であることを明かさなくても、さまざまな詮索をされることなく、自然な対応で同性同士のルームシェア物件を探せるような窓口や不動産、物件サイトが増えるといいなと感じています(26歳・レズビアン)
・ほとんど全てにおいて法律上異性パートナーと同じ扱いが受けられれば(54歳・ゲイ)
・共同でローンを組めたら、将来に不安のない住環境になれそう(38歳・女性・バイセクシュアル)
・同性婚をしても保険年金の扶養などは認められていないため、共働きをせざるをえなくなる。そういう点も異性婚と同様に扱ってほしい(44歳・女性・バイセクシュアル)

【周りの意識に関して】
・周りの理解が得られたら良いと思う。自分は親にも友達にも恵まれたので変に思われたことはないが、理解が得られないことで辛い思いをしている人がいるなら、不動産でも役場でも、自然に生活できるようにしてほしい(30歳・女性・バイセクシュアル)
・特別に何かをしてもらうより、広く理解してもらいたい。「特別ではなく少し違うだけ」くらいに、すんなりと受け入れてくれるようになったらうれしい(38歳・女性・バイセクシュアル)
・そっとしてほしい(49歳・ゲイ)
・理解のある大家が多くなってほしい(44歳・男性・バイセクシュアル)
・入居者の理解(レインボーマーク掲示)(46歳・ゲイ)
・とにかく普通に接してほしい(41歳・男性・バイセクシュアル)

渋谷区に住みたい理由は「公的なサポートが受けられそう」「周りの理解を得られそう」など

渋谷区のような、LGBTに対して公的なサービスを提供する行政区に住んでみたいかについては、「条件が合うなら住みたい」(24.5%)、「多少、条件に合わなくても積極的に住みたい(13.5%)」を合わせると、4割近くが「住みたい」と回答しました。

男性は「多少、条件に合わなくても積極的に住みたい」人が多い(出典/SUUMOジャーナル編集部)

男性は「多少、条件に合わなくても積極的に住みたい」人が多い(出典/SUUMOジャーナル編集部)

特に、男性同士カップルの場合、「多少、条件に合わなくても積極的に住みたい」という回答が、女性同士カップルよりも多かったです。
住みたい理由としては、「公的なサポートが受けられそう(32歳・レズビアン)」「周りの理解を得られそう(35歳・女性・バイセクシュアル)」「新しい家でも簡単に契約できそう(28歳・女性・バイセクシュアル)」「結婚は日本の法律ではできないので、せめて病院の面会など、公的な場面での家族に準じた権利を認めてほしいと思っている(45歳・ゲイ)」「老後や相続のことで法的に認められたい(56歳・ゲイ)」などがありました。

住みたい街は「渋谷」のほか「新宿」や「中野」など

具体的に住みたい街を自由記述で回答してもらったところ、「特にない」も多かったのですが、「渋谷」「渋谷区」をはじめ、札幌市や世田谷区、三重県伊賀市、沖縄県那覇市などさまざまな地名があがりました。
※以下、( )内の地名は現在お住まいの都道府県

・「渋谷区」区で認可されてるから(49歳・男性・バイセクシュアル・東京都)
・「渋谷・新宿」同じ悩みを抱えている仲間がたくさんいるから(41歳・女性・バイセクシュアル・埼玉県)
・「新宿」色々なセクシャリティを抱えた者たちが集う街だし、大都会だから(37歳・女性・バイセクシュアル・愛知県)
・「中野」ゲイが多いから(39歳・ゲイ・神奈川県)
・「東京都。新宿区や世田谷区など」やはり、LGBTの人口が多く、互いの親交が図れるから(49歳・ゲイ・三重県)
・「世田谷区」友人も何人かいて理解がある人がいることと、先日ドラマ「隣の家族は青く見える」内で、パートナーシップ申請をしていたこと(45歳・ゲイ・東京都)
・「札幌市」性的少数者に対する街頭運動が行われたから(33歳・女性・バイセクシュアル・和歌山県)

LGBTに特化したサービスに関しては、同性パートナーとペアで組める住宅ローンや公的パートナーシップ制度、同性パートナーでも相続ができる法制度など、制度面の充実を望むのはもちろん、LGBTに対する認知や理解を求める人が多いようです。住みたい場所としてはやはり渋谷区という回答が目立ちましたが、新宿や中野、世田谷など、さまざまな地名が挙がりました。大きく「東京」という人も多く、地方在住者にとっては東京が意味のある場所になっているのかもしれません。

今回、同性カップルの住まいや暮らしのニーズを調査してみると、部屋の探しにくさの解消や、2人で住む住まいの購入に対しての制度の拡充への期待の声が目に付きました。
誰もが自由に、住まいを選べる世の中になるよう、期待していきたいですね。

●調査概要
・[同性カップル調査]より
・調査期間:2018年3月26日~30日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:LGBTに該当し、かつ同性のパートナーがいたことがある18歳~59歳の全国の男女
・有効回答数: 364名(うち、男性カップル227名・女性カップル137名)