【柳沢小実さんインタビュー】暮らし上手なあの人のモノと家

改めてわが家を見回すと、気に入らない一角や整理すべきモノが目についたり、逆に物足りなさを感じたり……。
自分にとって何が大切か、この機会にもう一度考えてみてはどうだろう。
しっかりした価値観をもってモノを選び、家を整えた、暮らし上手な柳沢小実さんの家と話をヒントにしてみよう。

好きなモノを愛でたいから余白を大事に、キレイにしまう

モノを買うときは置き場や使い方を想像する

旅や暮らしにまつわる本を数多く著しているエッセイストの柳沢小実さん。整理収納アドバイザーの資格をもつ専門家でもあり、「機能的な白い箱をつくるつもりで建てた」という家は、どこを見渡してもさっぱりとしている。「耐震性や断熱性を第一にして、インテリアは余白を残しておきたかったんです」
言葉どおり、この家のモノは白い壁や窓の光を背景に、自らの居場所を心得て収まっている印象。「モノは好きでよく買いますが、置き場所や使い方が想像できるモノに限っています。物欲をコントロールしているんです」

だから衝動買いはしない。するとしても、それは前から欲しくてイメージしていたモノに出合ったとき。あるいは、服や食器などあらかじめ決めたジャンルだけ。また、妥協して中途半端なモノを二つ買うようなら、高くても本当に欲しいモノを一つ買う。「でないと、結局満たされません」
「少なく」ではないが「少なめ」にもつ。それも柳沢さんから学びたい暮らしの態度だ。「もち過ぎると、モノに振り回されてしまいます。特にキッチンとクロゼットは広さに対して物量が多いので、あふれないよう気をつけます」

閉めて隠せばそれで解決という状況をつくりたくないからクロゼットの扉も常時開けているという。「家で仕事をしているので余計に気になるんでしょう。リビングにもあえて造作収納を設けず、お気に入りの家具に入るだけのモノをもつようにしています。好きなモノはキレイにしまって、いつも愛でていたいんです」

おしゃれに見えるコーナーも実用的。椅子の上のイエローのバッグは来客時にDMや書類など夫のものを一時的にしまうためのもの。スタンドに掛けてあるのはハタキ。スツールはスタックできるものを 

おしゃれに見えるコーナーも実用的。椅子の上のイエローのバッグは来客時にDMや書類など夫のものを一時的にしまうためのもの。スタンドに掛けてあるのはハタキ。スツールはスタックできるものを 

アジアの食器は料理をおいしく見せてくれる

アジアの食器は料理をおいしく見せてくれる

アンティークの本棚も食器棚に。カップ&ソーサーは北欧、グラスはオールドバカラと種類を決めている

アンティークの本棚も食器棚に。カップ&ソーサーは北欧、グラスはオールドバカラと種類を決めている

収納は「省エネ」にして家時間を楽しむ

さらにポイントは、無駄と無理がないこと。「収納で大事なのは狭い場所にたくさんしまうテクニックではなく、置き場を決めるなどの簡単なルールです。置き場所は動線とセットにすれば無理がありません。例えばわが家も、夫が帰宅してからダイニングの椅子に座るまでの動線上で、鍵もリュックもコートも片付くようにしてあります。収納が得意な人だけが頑張るのではなく、家族でシェアでき、ラクに片付く省エネ収納でないと続きません」

昨年まで、年に6回は海外を旅していた柳沢さん。旅先で買ったモノも多く、仕事の合間、大好きな中国茶でひと息つく時間にそれらを眺める。「旅の風景がよみがえりますが、思い出として懐かしむというより、必ずまた行きたいと思わせてくれる現在進行形の感情です」。片付けに終始するのではなく、こんなふうにモノと付き合える家をつくって暮らしたい。

アーチの奥はリビング続きの柳沢さんの仕事部屋。扉はなく、程よい見え方が部屋をキレイに保つモチベーションに

アーチの奥はリビング続きの柳沢さんの仕事部屋。扉はなく、程よい見え方が部屋をキレイに保つモチベーションに

朝の光が爽やかだというダイニング。端正なキッチンはオーダーメードで、壁付けにコンロ、アイランドにシンクがあるⅡ型。 下部収納はダイニング側からも使えるようにして食器を収めた

朝の光が爽やかだというダイニング。端正なキッチンはオーダーメードで、壁付けにコンロ、アイランドにシンクがあるⅡ型。下部収納はダイニング側からも使えるようにして食器を収めた

キッチンの造作棚も一面ではなく控えめに。カウンターの上にはよく使うモノが置いてある

キッチンの造作棚も一面ではなく控えめに。カウンターの上にはよく使うモノが置いてある

モノに振り回されないように、愛おしいモノたちだけを厳選して大切にする。そのために必要なのは簡単なルールをつくること。柳沢さんのおかげで、なんだか収納をシンプルに考えるための糸口が見えてきた。

構成・取材・文/今井早智 撮影/平野太呂

エッセイスト 柳沢小実さん
衣・食・住・旅・台湾について綴るエッセイスト。収納好きが高じて、整理収納アドバイザー1級を取得。最新刊は読売新聞の連載をまとめた文庫『おうち時間のつくり方』(だいわ文庫)。そのほか、『これからの暮らし計画』(大和書房)、『大人の旅じたく』(マイナビ出版)文庫判も。
*HP
*Instaglam

【建築家インタビュー】シンプルでも豊かな家をつくるには?

憧れるのは、シンプルですっきりとした空間でかなえる心地よさに満たされる暮らし。

そんな豊かな住まいを実現するヒントを建築家に聞いた。
「その空間で何がしたいか
 好きを突き詰めることで生まれる
 シンプルな豊かさがある」    
   ―― 建築家・手塚貴晴さん・由比さん

――お二人が住宅設計の際に、まず行うことは何ですか?
由比 私たちが初めにお施主さんに聞くのは、「週末は何をしますか」とか、「普段どんな食事をしていますか」とか、「部活動は何をしていましたか」など、好きなことや暮らしについてですね。
貴晴 本が好きだから、壁中が本棚でいつでも手に取れる家とか、森に向き合っているデッキで寝転びたくなる家など、休みの日が楽しみになるようなワクワク感とかライフがデザインできているかどうかが、家づくりでは重要なことだと思っています。

――実際に、手掛ける住宅はそれぞれ全く違うデザインで、屋根にダイニングがある家など、個性的な家が多いです。
貴晴 僕は“Space for everyone is for no one.”ってよく言うのですが、みんなのための空間は誰のものでもない。みんなにいい、平均値の家は、結局、誰のお気に入りにもならないと思うんですよ。
由比 逆に、個別解を突き詰めてその人が本当に気持ちいいと感じる家は、多くの人が気持ちいいと共感できるものになるのだと思います。家って、家族が生活する箱でしかありません。でもその箱が少し変わるだけで、ワクワクしたり、生活が豊かになったりする。
貴晴 そこには工夫が必要です。例えば、「テントの家」はオーニングを張り出すことで窓外を印象深くしています。大きいだけの窓よりも、深い軒の先に見える緑の方が、より自然を感じられたりする。それが建築の役割。どうしたら好きなモノやコトを味わえるかを考え工夫を凝らします。単にモノを減らしてシンプルにしただけでは何の豊かさも生まれないし、逆にあれもこれもある箱だったら、ワクワクしない。
由比 デザインも機能も詰め込んだ、いろいろ載っているデコレーションケーキのような家ではなく、シンプルだけれどどこから切ってもおいしいようかん。そこで何をしたいのか、その人らしさに焦点を当てた、住む人にとってのようかんであればよいのではないかと思います。

――どうやって自分らしさを見つけたらいいのか、が難しいです。
貴晴 そうですね。その人らしさやその場所らしさを見つけ出すお手伝いをするのが建築家の役目だと思っています。
由比 例えば、「屋根の家」は、ごく普通の建売住宅に住んでいたお施主さんの、「うちの家族は屋根の上に出るのが好きなんです」という話から生まれました。
貴晴 29坪のシンプルな平屋に42坪の大屋根が載った家です。階下は合板の床に円座が置かれているだけ。建具を閉じればプライバシーが生まれますが、非常にシンプルなつくりです。一方、屋根は全面ウッドデッキを張っています。単なる屋上ではなく勾配があるから景色がよく見えて、寝転がりたくなる。屋根の上を楽しむというその人たちらしさに焦点を当てた結果、野原よりアウトドアな暮らしを楽しめる家になったとおっしゃっています。

――その人らしさのほかに、重視するのはどんなことですか。
由比 その場所らしさも重要です。土地のもつ力を活かすこと、住宅街なら目線が合わない窓の配置など、あるべき姿を踏まえていることが、負担なく暮らせる気持ち良さにつながります。
貴晴 「認定こども園 ミライズ そら」は、まさに土地の性格を活かした建築の一例です。兵庫県の農村地帯で、湿気の多い盆地ですが、建物全体を高床式にしたら、風が気持ち良くて空気が違う。子どもたちは縁の下や屋根の上をグルグル走り回っています。
由比 住宅は、風通しと断熱さえしっかりしていれば、内部は家族の歴史の中で変わっていける自由度が大切です。そこで暮らす人と土地にふさわしい建築は何かを突き詰めて、シンプルに掘り下げていくことで、楽しく過ごせる、豊かな空間になるのだと思います。

テントの家 立地の魅力と施主の好きな景色をより感じるためのデザイン。斜面に立つシンプルな箱型の住まいの軒から四方にオーニングを張り出した。光を通すオーニングが快適な窓ぎわをつくり、窓外の景色をいっそう印象づける(木田勝久/FOTOTECA)

テントの家
立地の魅力と施主の好きな景色をより感じるためのデザイン。斜面に立つシンプルな箱型の住まいの軒から四方にオーニングを張り出した。光を通すオーニングが快適な窓ぎわをつくり、窓外の景色をいっそう印象づける(木田勝久/FOTOTECA)

屋根の家 施主の好きなことから生まれた屋根の家は、屋内はシンプルなワンフロアとし、屋根の上にテーブルや椅子、簡易キッチンやシャワーまである。家族はお気に入りの天窓から梯子で上がり大空を感じる暮らしを満喫している(木田勝久/FOTOTECA)

屋根の家
施主の好きなことから生まれた屋根の家は、屋内はシンプルなワンフロアとし、屋根の上にテーブルや椅子、簡易キッチンやシャワーまである。家族はお気に入りの天窓から梯子で上がり大空を感じる暮らしを満喫している(木田勝久/FOTOTECA)

認定こども園 ミライズ そら 土地の魅力や地域への愛着を育むデザイン。原風景に溶け込むシンプルな木造平屋で湿気のある土地に対し、1.2m上げた高床式にして屋根の上をデッキにした。居場所によって景色の見え方が変わり、風の心地よさを感じる(木田勝久/FOTOTECA)

認定こども園 ミライズ そら
土地の魅力や地域への愛着を育むデザイン。原風景に溶け込むシンプルな木造平屋で湿気のある土地に対し、1.2m上げた高床式にして屋根の上をデッキにした。居場所によって景色の見え方が変わり、風の心地よさを感じる(木田勝久/FOTOTECA)

自分がどんな暮らしをしたいのか、そのための空間としての役割とは何か?というのをシンプルに突き詰めていく。そこにプロの建築家としての知見やアイデアを盛り込んでいくことで、手塚夫妻はオンリーワンのシンプルで豊かな家を数々手掛けてきたのだろう。

構成・文/中城邦子 撮影/藤本薫

建築家 手塚貴晴さん・由比さん
〈貴晴〉1964年東京生まれ。武蔵工業大学卒業、ペンシルバニア大学大学院修了。90~94年リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン勤務
〈由比〉1969年神奈川生まれ。武蔵工業大学卒業。92~93年ロンドン大学バートレット校にてロン・ヘロン氏に師事
94年手塚建築企画を共同設立、97年手塚建築研究所に改称。「ふじようちえん」でUNESCO世界環境建築賞などを受賞しているほか、二人の作品は日本建築学会賞をはじめ、数々の賞を受賞
HP :手塚建築研究所

【建築家/手塚貴晴さん・由比さんインタビュー】シンプルでも豊かな家をつくるには?

憧れるのは、シンプルですっきりとした空間でかなえる心地よさに満たされる暮らし。

そんな豊かな住まいを実現するヒントを建築家に聞いた。
「その空間で何がしたいか
 好きを突き詰めることで生まれる
 シンプルな豊かさがある」    
   ―― 建築家・手塚貴晴さん・由比さん

――お二人が住宅設計の際に、まず行うことは何ですか?
由比 私たちが初めにお施主さんに聞くのは、「週末は何をしますか」とか、「普段どんな食事をしていますか」とか、「部活動は何をしていましたか」など、好きなことや暮らしについてですね。
貴晴 本が好きだから、壁中が本棚でいつでも手に取れる家とか、森に向き合っているデッキで寝転びたくなる家など、休みの日が楽しみになるようなワクワク感とかライフがデザインできているかどうかが、家づくりでは重要なことだと思っています。

――実際に、手掛ける住宅はそれぞれ全く違うデザインで、屋根にダイニングがある家など、個性的な家が多いです。
貴晴 僕は“Space for everyone is for no one.”ってよく言うのですが、みんなのための空間は誰のものでもない。みんなにいい、平均値の家は、結局、誰のお気に入りにもならないと思うんですよ。
由比 逆に、個別解を突き詰めてその人が本当に気持ちいいと感じる家は、多くの人が気持ちいいと共感できるものになるのだと思います。家って、家族が生活する箱でしかありません。でもその箱が少し変わるだけで、ワクワクしたり、生活が豊かになったりする。
貴晴 そこには工夫が必要です。例えば、「テントの家」はオーニングを張り出すことで窓外を印象深くしています。大きいだけの窓よりも、深い軒の先に見える緑の方が、より自然を感じられたりする。それが建築の役割。どうしたら好きなモノやコトを味わえるかを考え工夫を凝らします。単にモノを減らしてシンプルにしただけでは何の豊かさも生まれないし、逆にあれもこれもある箱だったら、ワクワクしない。
由比 デザインも機能も詰め込んだ、いろいろ載っているデコレーションケーキのような家ではなく、シンプルだけれどどこから切ってもおいしいようかん。そこで何をしたいのか、その人らしさに焦点を当てた、住む人にとってのようかんであればよいのではないかと思います。

――どうやって自分らしさを見つけたらいいのか、が難しいです。
貴晴 そうですね。その人らしさやその場所らしさを見つけ出すお手伝いをするのが建築家の役目だと思っています。
由比 例えば、「屋根の家」は、ごく普通の建売住宅に住んでいたお施主さんの、「うちの家族は屋根の上に出るのが好きなんです」という話から生まれました。
貴晴 29坪のシンプルな平屋に42坪の大屋根が載った家です。階下は合板の床に円座が置かれているだけ。建具を閉じればプライバシーが生まれますが、非常にシンプルなつくりです。一方、屋根は全面ウッドデッキを張っています。単なる屋上ではなく勾配があるから景色がよく見えて、寝転がりたくなる。屋根の上を楽しむというその人たちらしさに焦点を当てた結果、野原よりアウトドアな暮らしを楽しめる家になったとおっしゃっています。

――その人らしさのほかに、重視するのはどんなことですか。
由比 その場所らしさも重要です。土地のもつ力を活かすこと、住宅街なら目線が合わない窓の配置など、あるべき姿を踏まえていることが、負担なく暮らせる気持ち良さにつながります。
貴晴 「認定こども園 ミライズ そら」は、まさに土地の性格を活かした建築の一例です。兵庫県の農村地帯で、湿気の多い盆地ですが、建物全体を高床式にしたら、風が気持ち良くて空気が違う。子どもたちは縁の下や屋根の上をグルグル走り回っています。
由比 住宅は、風通しと断熱さえしっかりしていれば、内部は家族の歴史の中で変わっていける自由度が大切です。そこで暮らす人と土地にふさわしい建築は何かを突き詰めて、シンプルに掘り下げていくことで、楽しく過ごせる、豊かな空間になるのだと思います。

テントの家 立地の魅力と施主の好きな景色をより感じるためのデザイン。斜面に立つシンプルな箱型の住まいの軒から四方にオーニングを張り出した。光を通すオーニングが快適な窓ぎわをつくり、窓外の景色をいっそう印象づける(木田勝久/FOTOTECA)

テントの家
立地の魅力と施主の好きな景色をより感じるためのデザイン。斜面に立つシンプルな箱型の住まいの軒から四方にオーニングを張り出した。光を通すオーニングが快適な窓ぎわをつくり、窓外の景色をいっそう印象づける(木田勝久/FOTOTECA)

屋根の家 施主の好きなことから生まれた屋根の家は、屋内はシンプルなワンフロアとし、屋根の上にテーブルや椅子、簡易キッチンやシャワーまである。家族はお気に入りの天窓から梯子で上がり大空を感じる暮らしを満喫している(木田勝久/FOTOTECA)

屋根の家
施主の好きなことから生まれた屋根の家は、屋内はシンプルなワンフロアとし、屋根の上にテーブルや椅子、簡易キッチンやシャワーまである。家族はお気に入りの天窓から梯子で上がり大空を感じる暮らしを満喫している(木田勝久/FOTOTECA)

認定こども園 ミライズ そら 土地の魅力や地域への愛着を育むデザイン。原風景に溶け込むシンプルな木造平屋で湿気のある土地に対し、1.2m上げた高床式にして屋根の上をデッキにした。居場所によって景色の見え方が変わり、風の心地よさを感じる(木田勝久/FOTOTECA)

認定こども園 ミライズ そら
土地の魅力や地域への愛着を育むデザイン。原風景に溶け込むシンプルな木造平屋で湿気のある土地に対し、1.2m上げた高床式にして屋根の上をデッキにした。居場所によって景色の見え方が変わり、風の心地よさを感じる(木田勝久/FOTOTECA)

自分がどんな暮らしをしたいのか、そのための空間としての役割とは何か?というのをシンプルに突き詰めていく。そこにプロの建築家としての知見やアイデアを盛り込んでいくことで、手塚夫妻はオンリーワンのシンプルで豊かな家を数々手掛けてきたのだろう。

構成・文/中城邦子 撮影/藤本薫

建築家 手塚貴晴さん・由比さん
〈貴晴〉1964年東京生まれ。武蔵工業大学卒業、ペンシルバニア大学大学院修了。90~94年リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン勤務
〈由比〉1969年神奈川生まれ。武蔵工業大学卒業。92~93年ロンドン大学バートレット校にてロン・ヘロン氏に師事
94年手塚建築企画を共同設立、97年手塚建築研究所に改称。「ふじようちえん」でUNESCO世界環境建築賞などを受賞しているほか、二人の作品は日本建築学会賞をはじめ、数々の賞を受賞
HP :手塚建築研究所

人気リゾートホテルに学ぶ!暮らしの質を上げる空間づくりの極意

快適な空間や、心地よい時間は、いかに生み出されるのか
人気リゾートホテルの設計を手掛ける建築家・佐々木達郎氏へのインタビューから
暮らしの質を上げる家づくりのヒントをいただこう。
過ごしたいシーンをデザインし心安らぐ空間をつくるウッドデッキの中庭を囲むラウンジ。ゆったりとした空間と大開口の窓が自然との一体感を生む

ウッドデッキの中庭を囲むラウンジ。ゆったりとした空間と大開口の窓が自然との一体感を生む

星野リゾートをはじめ、各地のリゾートホテルを多数手掛ける建築家の佐々木達郎さん。快適な空間を生み出すためにいつも意識しているのは、「旅をデザインしたいということです」という。訪れた人の記憶に残る、旅の気持ちが高まる体験をいかに提供するかだ。

「例えば、インドネシアのバリ島を訪れたらシティホテルよりも、オープンエアなヴィラに滞在するほうが記憶に残る旅になるでしょう。その場にしかない自然や環境を魅力にすること、その地の文化を尊重しこの場所ならどんな時間を過ごしたいかということに思いを巡らせます」

実際、佐々木さんが設計した『星野リゾートBEB5軽井沢』は、高原の爽やかな風を感じる広いテラスや、周囲の木立ちと呼応する木の柱など、まさに軽井沢の魅力を体感するデザインが、細部まで行き渡る。
「住宅の場合も、立地の個性やその家族らしさ、こだわりを取り込み、過ごしたい時間やシーンをキーに空間づくりをします。一つの正解があるわけではなく、個別解を探し出すことで、その家にしかない心地よさや快適さがつくれるからです」

例えば、開放的な明るい空間をつくる方法も一つではない。「周囲を住宅に囲まれていても、トップライトから光を取り込み、壁や天井を白くするだけでも光の拡散効果で明るい室内になる。スケルトンの階段で階下へ光を落とすことも可能です。あるいはリビングの天井を上げるだけでなく、廊下の高さをあえて抑えることで、体感として開放感が生まれる。明と暗、開放感とこもり感など、空間に緩急をつけることで、それぞれの良さを際立たせることができるのです」

リフォームは、今の暮らしに合わせて住まいをチューニングできる点が魅力だが、大前提になるのは安心感だ。「耐震への不安や断熱性の不具合の解消は、住む人の心地よさには必要不可欠」と強調する。その上で、「空間はモノと人、人と人との関係性から生まれます。例えばソファでゴロっと横になったときに見える景色、差し込む光など、そこに広がるシーンから住まいを考える。これからの心地よさに視点を置いてリフォームすることで、さらに暮らしの質を上げることができるはずです」

佐々木さん設計の星野リゾートBEB5軽井沢。ラウンジにはプライベート感を生む寝台ソファも

佐々木さん設計の星野リゾートBEB5軽井沢。ラウンジにはプライベート感を生む寝台ソファも

サッシや柱などに木を使い、スケールや見せ方を変えながら土地の個性と共鳴するデザインに

サッシや柱などに木を使い、スケールや見せ方を変えながら土地の個性と共鳴するデザインに

木々に囲まれた環境にふさわしい低層の建物。内部に入ったときの開放感をより鮮烈に感じさせる

木々に囲まれた環境にふさわしい低層の建物。内部に入ったときの開放感をより鮮烈に感じさせる

訪れた人々をもてなす空間に込められていたのは、空間そのものだけでなく、訪れる人の旅やストーリーにまで思いをはせたデザインであった。リフォームにおいては、住まい手とつくり手がともに豊かな時間やシーンを思い浮かべながら、心地よさそのものを追求していくことこそ、暮らしの質を上げる空間をつくる第一歩なのかもしれない。

構成・取材・文/中城邦子 撮影/ナカサアンドパートナーズ

建築家 佐々木達郎さん
千葉工業大学大学院修士課程修了。東環境・建築研究所在籍時に星のや 軽井沢、星のや 東京などを担当。2013年佐々木達郎建築設計事務所設立後も星野リゾートOMO5東京大塚、星野リゾートBEB5軽井沢などで数々の賞を受賞。数多くのリゾートホテルをはじめ、狭小住宅やリフォームなど、さまざまな住宅の設計を手掛ける
✴︎HP
✴︎Facebook
✴︎Instagram

[高山都さんインタビュー]夏時間を楽しむ家と自然体な暮らし

自然の営みを慈しみ、しなやかに自分らしく暮らす。肩の力を抜いて気持ちよく暮らすコツを少しずつ増やしているモデル・高山都さんの住まい、暮らし、生き方を紹介しよう
――取り繕っても本当の姿は透けて見えてしまうから無理はしません――

頑張れない日も自然体で受け入れる

日々のライフスタイルをつづった著書やインスタグラムが人気の高山都さん。毎日更新しているインスタのフォロワーは17万人を超え、料理している過程をライブで流すこともしばしばだ。
SNSなどで自ら発信するようになって感じているのは、取り繕った自分はいつの間にか透けて見えてしまうということだ。

「言葉を着飾って背伸びした写真を撮っても、どこかに内側まで出てしまうから、スケルトンであることと上手に付き合おうと思いました。すてきなものに出合ったら写真に切り取って載せたいし、失敗した料理もそのまま見せちゃえと。その方が自分らしいし、無理がないから、続けられます」。
生活していればいいことも悪いこともあるし、料理を頑張りたい日も頑張れない日もある。そんな自分も自然体で受け入れる。

高山さんも、20代はどこか無理をしていたという。30歳を過ぎてから、焦っても仕方がない、何かを少しずつ時間をかけて完成させていけばいい、そんなふうに思えるようになったのだそう。肩の力を抜いてもきれい。それが高山さんの考える理想の美しさだ。

「今だってへこんだり、もんもんとするときはありますが、そんなときは自分のために好きな花を飾ったりして、自分で自分のご機嫌を取ってあげるんです」

――窓から差し込むたっぷりの光を見てここをベースに生きようと思えたんです――テーブルにはいつも何かしら花を飾っている。この日は明るいパワーが欲しくて、黄色のラナンキュラスを中心に、ユーカリなどを花束のように飾った。「最近は同色でまとめるのがお気に入り」

テーブルにはいつも何かしら花を飾っている。この日は明るいパワーが欲しくて、黄色のラナンキュラスを中心に、ユーカリなどを花束のように飾った。「最近は同色でまとめるのがお気に入り」

光が心地よい住まいを自分の色に整える

3年前、引っ越しをしようと決めて、高山さんが選んだのは築35年のマンションだ。駅からは少し距離があるが、「買い物の道すがらや駅まで歩くとき、季節の変化も感じられます。そんな小さな楽しみとか喜びを見つけられると、なんてことのない日常の幸福度数が上がる気がするんです」

内覧したときは、まさに内装工事中。「自然光が差し込む大きな窓と広いキッチンをひと目で気に入って即決。キッチンは食器棚をパーティションにして、アトリエのように使いたいとイメージが膨らんで、ここをベースに生きようと思えたんです」
壁は一面だけブルーグレーに塗ってもらった。白よりトーンが落ちたグレーは、花の鮮やかさを引き立ててくれる。朝ブラインドを上げると大きな窓から明るい日差しが一気に入り込む。ブラインドを下げれば周囲の目線を程よく遮るから、窓を開けて風を感じて過ごせる。

古材を使ったダイニングテーブルで、写真集を見ながら、料理の盛り付けのヒントにしたり、日々のことをつづったり、友達を呼んでホームパーティーを開いたり。1人の時間も誰かと過ごす時間も気持ちよい場所だ。
ここで暮らすようになって、ダイニングテーブルやキッチンの窓辺には、何かしら花を飾るようになったそう。朝、LDKに入ると柔らかな日差しと花や緑が迎えてくれる。起きて一番に目にするその景色がとても気持ちいいから、「花を飾るようになって、部屋を片付けておくようになりました。花に似合う空間をつくろうと思うからですね、きっと」

出掛けられない時間、誰にも会えない週末も、丁寧な暮らしで家時間を豊かにしている。

――毎日を気持ちよく過ごす“コツ”が少しずつ増えていきました――前の住まいから使い続けている食器棚は愛着があって、「暮らしの一部になっている」そう。少しずつ集めているお気に入りの食器を置いて見せる収納にした

前の住まいから使い続けている食器棚は愛着があって、「暮らしの一部になっている」そう。少しずつ集めているお気に入りの食器を置いて見せる収納にした

好きなことに対してクリアな感性をもち続ける

高山さんはフルマラソンで3時間台の完走記録をもつランナーだ。走ることを始めたのは10年前。1カ月100kmを走っている。
「長く走る日もあれば、少しだけ走って終了の日もあります。好きなときに走って目標はキープする。私にとって無理なくやれるバランスです」
昨日より今日はいい自分でいたいけれど、料理も走ることも一気にはうまくはならない。「続けるうちに習慣になり、自分自身になっていくのだから、積み重ねながら変わっていけばいいと考えたら、日々を気持ちよく過ごす”コツ”が少しずつ増えていきました」
「流れる水は濁らないから、好きなことにいつもクリアな気持ちでいるためにも、滞留せず変化も自然体で楽しんでいきたいですね」

素通しだった窓にフィルムを張って、いろいろな花を小さな瓶に一輪ずつ飾って楽しんでいる

素通しだった窓にフィルムを張って、いろいろな花を小さな瓶に一輪ずつ飾って楽しんでいる

白い壁にはドライフラワーを飾って。「もらってうれしかった思い出をそのまま残したくて」手づくりしたもの。室内のグリーンは、様子を見ながら窓辺に移動して日に当ててあげる

白い壁にはドライフラワーを飾って。「もらってうれしかった思い出をそのまま残したくて」手づくりしたもの。室内のグリーンは、様子を見ながら窓辺に移動して日に当ててあげる

去年の秋と冬に訪れたパリの蚤の市で買ったアンティークの食器たち。シルバーのカトラリーは休みの日に磨くことも。料理との相性を考えながら、その日使う器を選ぶ。「意識しているのは余白をつくった盛り付けにすること」。海外のアートブックを見て参考にすることも

去年の秋と冬に訪れたパリの蚤の市で買ったアンティークの食器たち。シルバーのカトラリーは休みの日に磨くことも。料理との相性を考えながら、その日使う器を選ぶ。「意識しているのは余白をつくった盛り付けにすること」。海外のアートブックを見て参考にすることも

自然体でしなやかに暮らしを楽しんでいる高山さんは、すてきな暮らしを送るための知恵をたくさん教えてくれた。自分が気持ちよく過ごせるように空間を整える、そうしてできたホームベースがあるからこそ、自然体のままでどんな変化も楽しんでいけるのかもしれない。

構成・取材・文/中城邦子 撮影/藤本薫

Miyako Takayama
1982年生まれ、大阪府出身。ビューティーモデル。ドラマや舞台の出演、ラジオのパーソナリティなど、幅広く活躍。趣味はランニングと料理。自身のインスタグラムでは#みやれゴハンとして、日々のごはんを投稿。フォロワーは17万7000人

『高山都の美 食 姿 2 「日々のコツコツ」続いてます。』(双葉社)『高山都の美 食 姿 2 「日々のコツコツ」続いてます。』(双葉社)
暮らしを楽しむヒントを自身の言葉でつづった著書『高山都の「美 食 姿」』が大好評を博し、第2弾を18年に上梓。現在、第3弾を執筆中

これで解決!リフォームの「想定外」あるある

初めてのリフォーム。不安で動きだせないのはわからないことが多いから。事前に下調べして、つまずきそうなポイントを把握しておけば、安心して進められるはず。経験者の声を参考に、リフォームの”想定外”をつぶしておこう。
1 準備や工事期間中の”想定外”(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

狭い空間、荷物の移動にヘトヘト 思った以上にストレスがたまる
準備や工事期間中に多いのは、仮住まいや住みながらの工事にまつわる想定外。在宅での工事は一見、引越し不要で楽に思えるが、狭い空間で家族のプライバシーがなくなったり、水まわりが使えず、コインランドリーや銭湯通いなどの不便を強いられることも

▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽

扉やブルーシートでリフォームする部屋を区切っていたけれど、工事期間中はリフォームしない部屋もホコリっぽい状態に。住みながらのリフォームだったので、仕事から帰宅して毎日掃除をするのが大変だった
(茨城県・38歳・女性)仮住まいの手配はリフォーム会社がやってくれたが、その後、自分で引越しの荷物をまとめるのが大変だった。あまりに物が多すぎて……。最終的には断捨離できて良かったけれど、もっと早くから粗大ゴミに出すとか、計画的に整理を進めておけば良かった
(千葉県・50歳・男性)工事期間中、風呂やキッチンが使えないときが一番大変だった。始める前は「短期間だから」と軽く考えていたが、子どももいるし、毎日洗濯はあるし、普段通りの生活ができずストレスがたまった
(京都府・42歳・女性)

これで解決!>>計画的に準備 短期の賃貸利用も視野に

リフォームは長年ため込んだ持ち物を見直し、整理する良い機会。不用品の処分などはプランの相談と並行して、少しずつ整理を進めよう。短期間のリフォームでもホテルや短期賃貸マンションを利用すれば、リフレッシュできてストレスになりにくい。

2 お金にまつわる”想定外”(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

「この際だから」で気付いたときは予算オーバー
何にいくらかかるかは始めてみないとわからないことも多い。大きなお金が絡むので、相談しているうちに感覚がまひしてくることも。「せっかくやるならついでにここも」「どうせ変えるならハイスペックな設備に」など、積もり積もって予算オーバーになる危険性あり

▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽

太陽光発電、オール電化……やりたいことをどんどん追加していったら、あっという間に予算オーバー。「一生に一度のリフォーム」という思いもあり、どれも削ることができなかった
(千葉県・50歳・男性)2社しか見積もりを取らなかったので、どっちの金額が妥当なのかわからなくなってしまった。せめてもう1社見積もりを取って3社で比較すれば「適正価格」がわかりやすかったように思う
(愛知県・43歳・男性)システムバスや建具などいろいろな商品を見せてもらったけれど、値段の高いものはやっぱりすてき。いろいろと目移りして、結局高いものばかり選んで、貯蓄を取り崩すことに。初めに決めた予算を守ろうという強い意志が足りなかった
(兵庫県・51歳・女性)

これで解決!>>予算を正直に伝え冷静にコスト調整を

予算オーバーは不安だが、それを恐れて最初に伝える予算を低くし過ぎても、期待どおりのプランにならない可能性も。リフォーム会社には、最初にここまでが上限という予算を正直に伝え、どこに重点的に予算を割くか、設備、材料の選び方の相談に乗ってもらおう。

3 会社選びの”想定外”(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

どれも同じ?リサーチ不足で決められない
簡単に決められるようで、みんな意外にてこずっている会社選び。ネットのクチコミが気になってそこから先の一歩が踏み出せない人、選択肢があり過ぎて何を基準に選べばいいのかわからないという人、どの会社も同じに見えて決められないという人も

▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽

工事の実績や提案プランの内容など、どの会社もいいところがあり、迷ってなかなかきめられなかった
(奈良県・61歳・男性)地元の工務店から大手リフォーム会社までいろいろ選択肢があるが、それぞれ何が違うのか、自分の場合はどんな会社を選ぶのが正解なのかがわからず、ファーストコンタクトまでずいぶんと時間がかかってしまった
(千葉県・50歳・男性)デザインが私好みだったのでお願いするつもりで話を進めていた会社があったが、担当者の連絡が遅く不安に。いったんそう感じると、プランの不備ばかりが目につくようになり、結局、やめて別の会社に依頼。つくづくリフォーム会社選びは難しいと感じた
(東京都・24歳・女性)

これで解決!>>タイプの違う会社で比較 相性も見極めて

規模や運営母体の違う3社程度でプランと相見積もりを取ると特徴や違いがわかりやすい。気になる会社があったら資料をもらって会ってみよう。また、会社選びでは担当者との相性も重要。プランの説明をじっくり聞いて、自分と合う会社を見つけよう。

4 プラン検討中の”想定外”(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

動かせない壁、窓、配管 思ったプランにできない!?
プランの想定外といえば、やりたいプランができないと言われること。建物の工法や構造上の制限で希望の間取りにできなかったり、建築基準法やマンションの規約など、法的な制限で希望の設備や材料が使えないといった想定外もある

▽▽▽経験者のつまずきポイント▽▽▽

キッチンを移動させて、リビングをもっと広く開放的にしたかったが、排気口や配管の位置は動かせないことを後から知り、希望する間取りにできなかった。マンションのリフォームはいろいろ制約があって難しいと感じた
(埼玉県・45歳・女性)外装、内装、床材の色を一度に決めなくてはならず混乱した。そもそも小さなサンプル帳を見ただけで決めるのは無理。壁と床の色のバランスがちぐはぐな仕上がりになって、やり直したい気持ちになった。CG写真などで部屋全体のイメージが確認できれば良かったのに
(千葉県・46歳・女性)1人でいろいろなショールームに出掛けてみたが、住宅設備や部材選びの基準がわからず、決めるのに苦労した。もう少し具体的に絞り込むなり、下調べするなりしてから見に行けば良かった
(北海道・65歳・女性)

これで解決!>>現場調査がポイント プロの力を借りよう

間取り変更や設備・素材選びで希望がかなうか、土壇場で想定外が起きないようにするには、最初の現場調査がポイントになる。家の状態を正確に調査してくれる会社にお願いしよう。また、技術レベルのしっかりした会社を選ぶことも基本。施工実績を確認しよう。

ここまで4つのリフォームの想定外あるあると、その回避方法を学んできた。せっかくリフォームで理想の暮らしや家を実現するのに、その途中で疲れてしまったら本末転倒。ストレスなく、後悔なくリフォームを進めたいなら、想定外に備えておくのが賢明なようだ。

構成・取材・文/木村寿賀子

すっきりが続く3つの約束

頑張って片付けても、時間がたてば雑然とした状態に……。いいかげんお片付けのリバウンドから抜け出したい!難しく思える片付けも、実はルールは3つのみ。無理せずにすっきりが続く、収納リフォームの約束を紹介しよう。

片付けやすい収納は「配置」「仕組み」「量」が計算されているもの

配置、仕組み、量、それぞれにおけるポイントを押さえれば片付けなくても片付く住まいが手に入る!
すっきりとした空間が続くための、3つの約束を見ていこう。

約束1 「使う物の側」に収納を配置

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

収納までの距離が遠いと“ちょい置き”が増える

物が散乱するのは、元にあった場所に戻さないから。とはいえ、元に戻すだけと思っていても、収納までの距離がほんの少し遠いだけで、片付けるのが一気に面倒になりストレスに……。結果、あちこちに“ちょい置き”が増えてすぐに散らかってしまう。収納は生活動線に合っていて、使う物のすぐ近くに配置することがお約束だ。例えば、小さな子どもがダイニングテーブルで勉強や遊びをするなら、収納は子ども部屋ではなくダイニングにつくるなど。外出に必要な上着やバッグの置き場を玄関収納につくるのも手だ。使う人・物の側に収納を置くことが最大の予防策になる。

約束2 出し入れしやすい「仕組み」をつくる

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

探し物、無駄買いはデッドスペースが原因

どこにしまったかわからず行方不明、ないと思って買ったら奥から出てきた。そんな失敗の原因は収納内のデッドスペースにあり。収納はサイズや中のつくりなどの使い勝手が重要だ。大切なのは、アイテムの場所を明確にしつつ、出し入れしやすい仕組みをつくること。仕切りのない収納に無造作に物を置くとデッドスペースが生まれやすい。物に合わせて棚の高さや幅を調整すれば、一目で中がわかりやすくなり、収納スペースも増える。棚はA4の書類や雑誌などが入る「奥行き30cm」程度が便利。奥行きが浅い収納は一目で見渡せて、探し物や無駄買いを防げる。

【COLUMN】アイレベルを意識しよう
「収納は見やすい高さにあることも大切。自分や家族の目の高さ『アイレベル』に普段使う物を収納すると、使い勝手が良くなります。アイレベルは120cmプラスマイナス40cmぐらいが目安」(水越美枝子さん)

約束3 生活スペースを減らさずに「収納量」を増やす

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

「とりあえず置き家具で」はすっきり空間の大敵!

収納が足りないと、片付けたつもりでも物の場所を移動しただけで実は一向に片付かない。とはいえ、物を減らすのも難しい。ならば、リフォームで収納量を増やすべき。しかし、古い家は造り付けの収納は少なく、押入れや天袋が中心。これらは奥行きが深くて使いづらい。そこで物が増えると置き家具を買い足して部屋が狭くなる……。置き家具はやめてリフォームで収納を造作すれば、生活スペースはそのままで、空間もすっきりして収納量アップ。押入れはクロゼットにすると大量の服が収まり、天井から床まで無駄なく使える上、物の場所が決まり片付けやすくなる。

ここまで見てきたように、片付けやすい家は「配置」「仕組み」「量」の観点で収納がしっかり計算されている。この3つの約束を守ることで、今度こそ“すぐに散らかってしまう家”とはおさらばしよう!

構成・取材・文/藤井たかの

●取材協力
水越美枝子さん
一級建築士事務所アトリエサラを共同主宰。新築・リフォームの住宅設計や収納計画など、トータルでの住まいづくりを提案する。近著に『人生が変わるリフォームの教科書 片づけなくても片づく住まいに』『美しく暮らす住まいの条件 ~間取り・動線・サイズを考える~』など

家の個性をつくる三つのセオリー

家の中の細部まで自分たちのこだわりを反映できるのはリフォームの魅力の一つ。今回は、住まい手の個性を表す家をつくるための三つのセオリーを紹介。
壁や床、建具やパーツを選ぶときの参考にしてみよう。

空間の雰囲気を決めるのは「素材」「仕上げ」「パーツ」の三つ!

空間を構成しているアイテムは、家具やファブリックなどのほかに、床、壁、天井、建具が含まれる。家具などのインテリアアイテムは賃貸住宅でも手軽に変えられるが、壁や床、建具、パーツは、リフォームでないと交換することが難しい空間要素だ。
中でも、面積の大きい壁や床、建具にこだわることは個性の演出により効果的で、パーツなどの細部にまで厳選することで、より自分好みの空間を完成できる。例えば、同じ床材でも仕上げによって表情を変えられ、パーツの組み合わせ方でインテリアスタイルを強調することもできる。今回は、家の個性をつくる空間要素のうち、素材、仕上げ、パーツの三つについて選ぶときのポイントを解説しよう。

THEORY1:「素材」~それぞれの特徴を理解する~(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

壁や床、天井など室内空間に用いる素材には、むく材や珪藻土、タイル、石などの自然素材と、ステンレスや鉄、プラスチック、ガラスなどの人工素材がある。素材によって、やわらかみやあたたかさ、硬さや冷たさなど、見た目の印象や手触りに特徴がある。色や柄にこだわることも大事だが、素材がもつ特徴を把握した上で、希望するイメージに合うものを選びたい。

THEORY2:「仕上げ」~素材の活かし方を知る~(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

仕上げとは、床や壁などの素材の表面に施す塗装や装飾のこと。同じ床材でも、仕上げ方法により色や質感は変わる。例えば、同じ種類のむく材を床に使った場合、色みを活かす無塗装か好みの色でペイントするかにより空間に与えるイメージは全く異なる。また、壁に珪藻土などを使う場合、コテの使い方により洋風にも和風にもなる。素材を選ぶ際には、仕上げ方法も併せて検討しよう。

THEORY3:「パーツ」~空間のバランスを考える~(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

パーツにこだわることで、より統一感のある空間コーディネートに仕上がる。ドアノブやスイッチプレート、造作収納の取っ手やフックなどは、用いられている素材と、曲線や直線などのフォルムでテイストが決まる。  
パーツの色は、壁や天井、ドアの色になじませる方法と、空間のアクセントとなる色にする方法がある。どちらにするかは、家具やファブリックとのバランスで決めよう。

家の個性をつくりだすための三つのポイントを見てきた。それぞれのセオリーを踏まえた上で、「素材」「仕上げ」「パーツ」全ての細部にまでこだわりきると、家の中にも自分らしさを表現することができる。

構成・文/山南アオ

賢く抑えるコスト調整のポイント

さまざまなリフォーム実例を見るうちに、かなえたいプランが見えてきたり、中には、希望が膨らみ、思ったより費用がかかるかも?と心配になる人もいるのでは。リフォームはメリハリを利かせて賢く抑えると仕上がりの満足度もグッと上がる。コスト調整のポイントをリフォーム会社のJSリフォーム(日本総合住生活) 北田晃彦さんと、LOHAS studio 澤田亮さんに教えてもらった。ポイントを抑えて、大満足のリフォームを実現しよう。
不満・要望を本音で話し、現場調査で伝え切ることが賢いコスト調整の近道!

やりたいリフォームを賢く実現するためには、リフォーム会社と初めて顔を合わせる「初回打ち合わせ」をいかに有意義に過ごせるかがカギとなる。なぜなら初回打ち合わせは自宅での現場調査を兼ねるケースが多く、この現場調査でのヒアリングと見た内容が土台となって、リフォームプランと見積もりがつくられていくからだ。そのため、不具合を感じている箇所はもちろん、家全体の状態などをまとめてプロの目で見てもらうことが大切だ。

同時に、現場調査は要望を伝える場でもある。現地で具体的な話ができる機会を活かすため、下記の三つは事前に整理した上で臨みたい。
 ⑴解消したい不具合
 ⑵かなえたい住み心地
 ⑶それを実現するために用意できる大体の予算

「初回の打ち合わせには、住む人みんなで参加して、暮らし方を伝えましょう。見栄を張らずに本音で話すことで、プランの変更を防げるので、後のコスト変動を減らすことができます」(北田さん)

その上で、プランや見積もりの調整を考えるには、選択肢が多く、費用の削減に効果的なものを知っておくと進めやすい。
例えば、マンションを全面リフォームする場合、一番インパクトがあるのは設備費と間取り変更や床など木工の大工工事費で、全体の約6割を占める。自分で選びやすく調整をしやすいのは、やはり設備だ。特に面材や設備のグレードやデザインのバリエーションが豊富なキッチンは、価格の幅が広く、大きなコスト削減につながりやすい。また、間取り変更は、電気の配線工事など床や天井を含む広範囲な大工工事につながることが多いため、費用が大きく変動することも。

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

コスト調整のための5つのポイント

■ポイント1.要望整理/「不満」と「希望」は分けて家族内で出し切るべし

検討が進むにつれてやりたいことが増え、費用は上がることも。そこで、家族で話し合う段階で解消したい不具合とかなえたい希望を分け、十分に出し切ってリフォーム会社に伝えれば、プランの練り直しや追加費用の発生が避けやすくなる。「特に一戸建ての場合、優先するプランや費用に影響するので、今後の居住年数を必ずお聞きしています」(澤田さん)

■ポイント2.現場調査/家の状態をしっかり把握。「予想外の出費」を防ごう

現場調査は、プランと見積もりの礎となる重要な場。そのため、プロの目でしっかりと調査してもらうことが予想外の出費抑制につながる。「特に一戸建ては、耐震性や断熱性など躯体にかかわる部分や雨漏りの有無などの確認が大切です」(澤田さん)。修繕はプランやコストへの影響が大きいので、最初に判断してもらうことで大きな追加費用を防げる。

■ポイント3.プラン・見積もりを比較検討/割合が高い「設備」と「間取り」を重点チェック

各社から現場調査に基づいたプランと見積もりが提案されたら、初めて概算費用がわかる。設備の品番までを確認すると、細かく比較できる。また、間取り変更はコストへの影響が大きいので、範囲を絞って再検討するのも手だ。

■ポイント4.契約/金額だけで選ばずにプランの納得度で決めよう

契約先は見積もりの安さだけで選ばず、各社の金額の根拠をしっかり聞いた上で、総合的なバランスで判断しよう。

■ポイント5.プランの詳細を詰める/コストの最終調整は「設備・建材」で行う

選択肢が豊富な設備や建材は、費用を調整しやすい部分。ショールームでさまざまなグレードを比較し、予算に合った商品を選ぼう。

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

リフォーム費用コストダウンのワザ

要望を全てかなえようとすると、予算はオーバーしがち。でも、リフォームプランの工夫や選択次第で、得られる効果は変えずにコストダウンできることも。具体的なコスト調整の方法を見ていこう。

■造作を減らし、既製品を上手に活用
収納家具などの造作は、素材やデザインにこだわれるのが醍醐味。統一感のあるインテリアや、地震での倒壊リスクがないなどメリットは多い。だが、特別な職人の技術を要するので、既製品より割高になることも。テレビまわりの壁面収納やキッチン収納は面材の選択肢が豊富でコストを調整しやすいので、既製品を活用するのも手。

例)キッチンの背面収納は造作せず、既製品にする場合
背面収納を造作する 約96万円

既製品を選ぶ 約42万円
※見積もりは目安。諸経費、消費税などは別途

内容:【造作】木工費、取り付け費 【既製品】トクラス・ベリー(扉:リファインホワイト)、取り付け費 (算出、写真協力 JSリフォーム(日本総合住生活))

内容:【造作】木工費、取り付け費 【既製品】トクラス・ベリー(扉:リファインホワイト)、取り付け費 (算出、写真協力 JSリフォーム(日本総合住生活))

■ドアや建具を省き、つくりをシンプルにする
ドアや建具は材料費や設置の手間がかかるので、極力減らすとコスト削減になる。居室ごとのドアはもちろん、特にプライベート空間の収納で工夫しやすい。クロゼットの中をシンプルなつくりにするのも○だ。玄関の収納をオープンな棚板だけにしたり、必要に応じて目隠しできるロールスクリーンを設置するのも手だ。

例)扉ナシのオープンな収納で洗面化粧台を造作する場合
扉アリで造作する相場 約50万円

扉ナシで造作する相場 約35万円
※見積もりは目安。諸経費、消費税などは別途

内容:幅 900mm、奥行き 600mmを想定。同サイズで同素材を使って洗面化粧台を造作する場合の目安。写真はイメージ(算出、写真協力 LOHAS studio)

内容:幅 900mm、奥行き 600mmを想定。同サイズで同素材を使って洗面化粧台を造作する場合の目安。写真はイメージ(算出、写真協力 LOHAS studio)

賢くコスト調整をするためのポイントを見てきた。さらに具体的な調整については、契約後にリフォーム会社と詳細プランを詰める中で一つひとつ取捨選択をしていく。かなえたい暮らしに合わせ、丁寧に詰めていこう。

構成・取材・文/竹入はるな

●取材協力
JSリフォーム(日本総合住生活) 北田晃彦さん
LOHAS studio 澤田亮さん

失敗しない中古の選び方

中古リノベに興味はあるけど、「複数の物件を見ても違いがよくわからない……。何に注意してチェックするべき?」などと不安で踏み出せずにいる人も多いのでは? 今回は、物件選びのチェックポイントをご紹介します。
物件選びのポイント1.立地や周辺環境など、いくら資金や熱意があっても変えられない要素を確認

物件の下見に行くと、その住まいでどのように暮らせるのかをイメージしたくなるため、ついつい内装デザインや間取りなどに注意が向いてしまうもの。しかし、気を取られがちな部分の大半は、基本的にリノベで自分の好みに合わせて変更できる。物件選定時にまず見るべきは、立地や日当たりなど、購入後に変えようと思っても変えられない要素。ここをしっかり見定めるためにも、希望するライフスタイルを明確にしておこう。

また、契約電気容量の変更や追いだき機能付き給湯器への交換など、購入後のリノベ工事に含められると思い込んでいたら、実は不可能だったと判明するケースもある。下で紹介する項目を参考に住まいに何を求めるのかを整理して、一つひとつ確認しながら物件を見比べてみよう。

■立地(マンション・一戸建て)
物件の立地条件や周辺環境は、購入した後から変えるわけにいかない要素の代表格。資産価値を大きく左右する要素でもある。まずは、どの鉄道路線・駅の近くなのか、最寄駅までのアクセス手段や所要時間がどうなっているかなど、交通面での条件を確認。また、商業施設や医療機関、学校などとの位置関係、治安や防災レベルなどもチェックしよう。

■日当たり・眺望(マンション・一戸建て)
近隣の建物などで日照や視界が極端に遮られることなく、許容範囲になっているかを確認。また、隣接地がコインパーキングなどの場合、将来的に高い建物ができる可能性もあるので注意。候補が絞られてきたら、役所の都市計画図などで、周辺がどのように変わりそうなのかをチェックしよう。また、時間帯によってどう変化するかも確認しておきたい。

■共用部(マンション)
マンションの場合は、玄関扉やサッシ、バルコニーは「普段は入居者が専用的に使える共用部」という位置付けになる。このため、物件を購入しても自分の好みに合わせて変えることはできないので注意しよう。また、ジムやシアタールームといった共用施設の数や種類は、多くなるほど管理費や修繕積立金の負担が増えるということも覚えておきたい。

■契約電気容量(マンション)
購入後に変えられると思ってしまいがちな要素の一つだが、築年が古いマンションなどでは思うようにいかないこともある。マンション全体の容量が決まっていて、すでに各住戸の契約容量合計が上限ギリギリになっていると増やせないことがあるのだ。現在の契約容量がどうなっているのかと、後から増やせるのかは売主や仲介会社に確認しよう。

■給湯器(マンション)
給湯器が古いと追いだき機能がついていないことがあるが、交換するには、外壁に新たに配管用の穴を開けなくてはならないこともある。しかし、管理規約で外壁に穴を開けることが禁じられているマンションも少なくないため、希望する給湯器に変えられないこともあるのだ。給湯器の機能や、どのような機種に交換できるのかは購入前にチェックしたい。

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

物件選びのポイント2.希望のリノベを実現できるかと、想定外の工事やコストが発生する可能性をチェック

物件を選ぶ上では、希望するリノベを実現できるかどうかという視点も欠かせない。ただし、この点を確認するには、専門の知見を要する。間取り変更などを伴う大掛かりなリノベはもちろんだが、床材の張り替え程度でも、思わぬ制約で希望どおりにいかなかったり、思った以上のコストが必要になることがあるからだ。

また、一戸建ての場合は「柱や筋交いなどに補強工事が必要」「壁や天井に断熱材を入れるべき」など、想定外の工事を要することもある。そこで、リノベ会社には物件探しの段階から相談をもちかけておきたい。アドバイスを受けながら理想の住まい像をある程度詰めておき、気になる物件の見学には同行してもらおう。下で紹介する、要望が多いリノベ内容と物件のチェックポイントも参考にしてほしい。

■間取り変更でLDKを広くしたい(マンション・一戸建て)
例えば、リビングと隣接した居室の仕切りを取り払ってゆとりあるLDKにするなど、複数の部屋を一つの広い空間にしたいという要望は多い。ただし、一戸建ての場合、構造を支える役割を果たしている壁もあり、このような壁は撤去できない。また、壁式構造のマンションにも同じことがいえる。設計図書などを基に専門家に判断してもらおう。

■水まわりスペースを移動させたい(マンション・一戸建て)
キッチンや浴室、トイレなどの水まわり設備は、排水がスムーズに流れるよう、配管に傾斜をつける必要がある。このため、既存の場所から大きく移動させるには、排水管に傾斜をつけられるよう、水まわり部分の床面を高くする必要が出てくることも。当然、その分コストがかさむので、専門家の意見を聞きながら現実的な落としどころを確認したい。

■床材を張り替えたい(マンション)
床材によっては、直下階の住戸に音が響きやすくなってしまう。入居者間のトラブルを防ぐため、管理規約で床材の材質や遮音性に関して規定・制限を設けているマンションも少なくない。「カーペット材のみ使用可」「材質によっては遮音シート併用」など、ルールはさまざま。住戸だけでなく、管理規約の内容も確認する必要があると覚えておこう。

そもそも、住まいに求める条件が固まっていなければ、物件選びの際も軸が定まらず、場合によっては購入後の後悔につながることもある。住まい探しを始める前に、新居でどのようなライフスタイルを実現させたいのか、そのためにはどのようなリノベを施すべきなのかを、リノベ会社に相談しながら整理しておこう。候補物件を絞ったらリノベ会社にも現地に出向いてもらい、求めるリノベを施せるのかという視点でチェックしてもらうといい。その上で、理想の住まいを手に入れよう。

構成・文/竹内太郎

リフォーム前に考えておきたい上手な要望整理の方法

リフォームでやりたいこと──「トイレを直したい」、「壁紙を変えたい」など、目に見えることは比較的挙げやすいが、中にはリフォームと一見無関係に見え、自分ではなかなか気付きにくい要望もある。そこで今回は、「家の不満」、「暮らしの不満」、「理想の暮らし」の三つの観点で、よくある要望とそれらをリフォームで解決するヒントを紹介。自分の中で漠然としているやりたいこと、隠れた要望に気付けると、その先のリフォーム会社とのやりとりもスムーズだ。
三つの視点でリフォームの要望を洗い出そう

POINT1.家の不満
家の老朽化による不具合やそれに伴う不安、家の中が寒い、暗いなど顕在化している不満を考えよう。まずは家の中で「変えたい」と思う場所を洗い出してみよう。

POINT2.暮らしの不満
漠然と感じる暮らしにくさを挙げよう。片付かない、家事に追われているなど、一見、暮らし方の問題と思えることも、家のリフォームで解消できる可能性も。

POINT3.理想の暮らし
「贅沢を言っていいならこんなことしたい」という理想も考えておこう。どんな空間があるとうれしいか、いつ、誰と使う空間かイメージして要望を膨らませよう。

ここからは、よくある悩みや要望をリフォームでどう解決するかのヒントを紹介

家の不満とリフォームのヒント

●家の不満1
夏暑い&冬寒い 空調の効率が悪い
西日の当たる夏の午後は部屋の中が蒸し風呂状態。真冬は寒くて床から冷気が!キッチンや洗面室が寒くて小型ストーブが欠かせない。

●こんなリフォームで解決
窓の断熱性を上げ、壁や天井の性能もアップ
一戸建ての場合はサッシの交換や内窓の取り付け、壁や床、屋根裏などに断熱材を充填(じゅうてん)する。外付けブラインドやオーニング、庇などで熱を遮る方法も有効。マンションの場合は内窓の設置が一般的。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

●家の不満2
日当たりが悪い&暗い
リビングは壁に囲まれ、唯一光の入る窓ははるか遠く。自然光が届かず、一日中電気をつけっ放し。天井が低くて圧迫感も感じる。

●こんなリフォームで解決
壁や天井材を撤去したり、内装の色を変える
間仕切り壁を撤去して窓からの光を呼び込むほか、室内窓やガラスブロックなど光を通す建材を取り入れるのもオススメ。壁や床の色を白っぽい色に変えるだけでも外からの光が反射して明るく感じられる。

●家の不満3
物が出しっ放し 見るからに収納不足
収納に入りきらない物が床やテーブルに出しっ放し。押入れは物がギュウギュウで、取り出すのも、元に戻すのもひと苦労。

●こんなリフォームで解決
造作収納を取り入れ、空間を無駄なく使う
壁面や小上がり、ロフト、階段裏など、リフォームならデッドスペースを活かした収納の造作もお手の物。いつも出しっ放しになりがちな物は何か、どの部屋に収納があれば使いやすいか考えてみよう。

暮らしの不満とリフォームのヒント

●暮らしの不満1
洗濯物を干したり畳んだりが面倒
洗濯機置場から干し場までが遠く、ぬれた洗濯物を運ぶのが苦痛。取り込んだ洗濯物の置き場所に困り、リビングが見苦しい。

●こんなリフォームで解決
室内干しスペースで、洗う~しまうまでをスムーズに
洗濯が大変なのは洗濯機と干す場所が遠いせいかも。洗い終えた衣類をすぐに仮干しできる室内干し空間や、取り込んだ洗濯物を畳む→アイロンをかける→しまう空間があるとストレスが減らせる。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

●暮らしの不満2
子どもの様子に目が届かない
学校であったことを聞いたり、宿題の相談に乗ったり、子どもの様子に目を配りたいけれど、キッチンから子どもの様子がわからない。

●こんなリフォームで解決
子どもの居場所をLDKや隣室に設ける
リビングの一角や隣の部屋に子ども用の空間を設けると、家事の間も様子や気配を確認しやすい。リビング隣の部屋は引き戸で開放できるようにしたり、室内窓をつけると中の様子が見え安心できる。

●暮らしの不満3
食事の支度に時間がかかる
キッチンの作業スペースが狭く、調理に集中できない。下ごしらえや盛り付けも、作業する場所を空けるのに手間取り時間がかかる。

●こんなリフォームで解決
カウンターやつり収納で、広いワークスペースを確保
キッチンの作業がしにくいのは、調味料ストッカーやまな板などが場所を占領し作業スペースが少ないせいかも。つり戸棚や背面カウンターなど物の置き場を確保すれば広くて使いやすいキッチンに。

理想の暮らしとリフォームのヒント

●理想の暮らし1
疲れを癒やせる家にしたい
入浴タイムは仕事の疲れを癒やす、一日のうちで最もリラックスできる時間。リゾートホテルのようなお風呂で非日常感を味わいたい。

●こんなリフォームで解決
浴室をサイズアップ 眺めや機能もポイント
浴室を眺めのいい場所に移動させたり、サウナやジャグジー機能などを追加してバスタイムを贅沢にしよう。洗面や脱衣室と一体でリフォームすれば、既存よりもひと回り大きな浴室にできる場合も。

●理想の暮らし2
自然を感じられる暮らしがしたい
庭先に木や花を植えたり、料理に使うハーブを育てたり、家の周りを植物でいっぱいにして、緑や風、光が感じられる家にしたい。

●こんなリフォームで解決
サンルームを増設するなど、室内で植物を楽しむ仕掛けを
一戸建てで建ぺい率・容積率に余裕があるならサンルームの増築も可能。マンションならバルコニーに面した部屋の床を一部タイル張りや土間敷きにして、鉢植えなどを並べるコンサバトリー風にしても楽しめる。

●理想の暮らし3
気軽に人を呼べる家にしたい
ママ友や趣味の仲間、ご近所さんや親族など、気兼ねなく人を誘える家。ホームパーティーなどもかっこよく開ける家にしたい。

●こんなリフォームで解決
リビングにつなげて広く使える汎用空間を
畳スペースやデッキスペースなど、リビングにつけ足して使える空間があると大勢が集まったときに便利。来客と会話をしながら料理ができる対面型のオープンキッチンも使いやすい。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

ここに挙げたヒントはあくまで一例で、リフォームは家の状態・条件でできることは異なる。また家族構成やこれから先の暮らし方などでも、解決方法や優先すべきことは異なる。自分だけで結論を出してしまわず、まずは、予算などの条件をいったん横に置いて、不満や不安、かなえたい暮らしの理想を全て洗い出し、その上でどんな解決策が取れるか、プロに相談してみよう。

構成・文/木村寿賀子

深呼吸したくなる場所──リゾートホテルに見る自然を感じる居場所づくり

澄み渡る空。光と風。そして、生命のように明るい緑。自然の下は気持ちいい。何度体験しても、その感動は新鮮だ。思わず深呼吸したくなるこの気分を、日常で味わえたらどれほど心地いいだろう。自然を感じる居場所づくりの解を、リゾートホテルに求めたい。
戸外の自然と呼吸し合うような室内空間

重なり合った木々の梢から覗くホテルは、それ自体が地に根を張った大木のよう。福島県・裏磐梯の五色沼近く、美しい自然に恵まれた国立公園のすぐそばに、「ホテリ・アアルト」は立っている。
建物は、築40年になる企業の保養施設をリゾートホテルに改修したものだ。既存の骨格をそのまま活かし、柱もできるだけ動かさずに空間をホテルとして読み変えていった結果、13 の客室はそれぞれ間取りもしつらえも異なるものに仕上がった。

緑に囲まれて佇む「ホテリ・アアルト」(写真撮影/牛尾幹太)

緑に囲まれて佇む「ホテリ・アアルト」(写真撮影/牛尾幹太)

プロジェクトを率いた建築家、益子義弘氏は「豊かな自然環境全体を感じられる居場所づくり」を目指したという。すなわち、光や風、緑など「戸外の自然と呼吸し合うような室内空間」であり、「美しい景色をごちそうとして活かすような部屋づくり」だ。
「本物の自然を満喫したいなら、戸外に椅子を置いてしばらく過ごすのが一番でしょう。でも、そこに滞在することはできません。建築で少し保護された場所に身を置くと、結果として、外の自然もより印象深く感じられるものです」

ホテルのラウンジ。視線の高さを計算して設けた横長窓を緑が埋め尽くし、外の自然と一体感を味わえる(写真撮影/牛尾幹太)

ホテルのラウンジ。視線の高さを計算して設けた横長窓を緑が埋め尽くし、外の自然と一体感を味わえる(写真撮影/牛尾幹太)

特に重要なのが、開口部のつくりかただ。窓は大きければいいというものでもない、というのが氏の考え方で、景色と連携する窓の大きさや形、部屋の広さとのバランスを考慮して計画したとか。
 また、室内外の明暗が強いとまぶしくて、外の緑が美しく見えない。氏はピクチャーウインドーの両脇に細かな格子を施した通風窓を設けて、光も風も緑も穏やかに呼び込む工夫をした。
ここでは内と外との境界が、それぞれを隔てるものとしてではなく、適度な階調でつなぐものとして存在している。

北欧家具でしつらえた部屋。磐梯山を遠望する見事な眺めを絵のように切り取るフィックス窓の両脇に、細格子が繊細な通風窓がある(写真撮影/牛尾幹太)

北欧家具でしつらえた部屋。磐梯山を遠望する見事な眺めを絵のように切り取るフィックス窓の両脇に、細格子が繊細な通風窓がある(写真撮影/牛尾幹太)

デザインを際立たせず、自然素材で心地よさを

強すぎる印象を避けるのはデザインも同様だ。形を頑張りすぎると、それ自身が際立って見えてしまう。「物やデザインが迫ってこない、むしろ後から、部屋のしつらえは覚えていないけれど何だか気持ち良かった、と思い返してもらえればいい」のだそうだ。
内装には、共用部も客室も主として自然素材が使われている。「室内で自然観をどんなふうにつくれるか考えたとき、自ずと柔らかな天然の素材を選択する」という。例えば断熱性に優れたペアガラスのアルミサッシも、室内側に木製の窓枠を施すことで優しい印象に仕上げた。都会の密集地でも、内装や家具などインテリアの構成の中で自然素材を使うことは可能だ。

自然素材には、見て、触れて、心やすらぐぬくもりがある(写真撮影/牛尾幹太)

自然素材には、見て、触れて、心やすらぐぬくもりがある(写真撮影/牛尾幹太)

床はキリやカラマツのむく材(写真撮影/牛尾幹太)

床はキリやカラマツのむく材(写真撮影/牛尾幹太)

明解なロジックも手の込んだ仕事も、完成すれば空間に溶け込んで消えていく。あるいは、空気となって残る。そこでは人も物もはしゃいだりしない。そっと身を置いて静かに楽しめるような「居場所」があるだけだ。

構成・取材・文/今井 早智

●取材協力
HOTELLI aalto(ホテリ・アアルト)

築30年の住まい リフォームのベストタイミングとは?

そろそろわが家も築30年。まだ不具合が出ているわけじゃないし、建て替えるには早いような気もする……思い悩むあなたに「お金」「健康」「安心」「利便性」の4つの観点からリフォームのベストタイミングを伝授! 
住まいの劣化は見えないところから。早めのチェックが吉!

慣れ親しんだわが家も築30年に。まだ大きな不具合もないし、しばらくはこのまま住めるだろうか……。このように考える人も多いことだろう。しかし、建築家の小宮歩さんは「家の劣化に気づいていないだけ」と注意する。

「床下や壁内、小屋裏など住まい手の目に見えないところでも劣化が進行していることがあるのです」(小宮さん、以下同)。シロアリや雨漏り、結露などによるダメージに気がつかないまま、構造の老朽化が進行すると住まいの安全性も損なわれてしまう。

また、家とともに住まい手の体力も年々低下していく。だから元気なうちに動線や収納、間取りなども見直しておきたい。同時に最新の建材・設備を取り入れることで、住環境はより快適なものになりうる。

早めに手を打つことで先々の家の維持費用も抑えられる。築20年を経過したらプロに点検・チェックをしてもらうべきだ。「早い段階で適切に対処できれば家の寿命はぐっと延びます。ただの修繕ではなく、今の暮らしを見直すいいきっかけにできるといいですね」

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

経験者が語る4つの後悔とその対処法

リフォームのタイミングが遅れるとどんな後悔が生まれるのだろう。経験者の声とその対処法を紹介しよう。

【後悔1.お金】

「知らないうちに雨漏りで柱がぼろぼろ。思った以上の大改修で予算オーバー」(Sさん70代女性 築39年の一戸建て)

特に大きな支障もなかったので20年以上、点検も補修もしていなかったら、一昨年、キッチン交換の際に土台が湿気やシロアリでぼろぼろなのが発覚。200万円くらいで済ませるつもりだったのに、補修も含めて800万円の大出費に。もっと早く手当てしておけばよかった……。

●プロのアドバイス
「外装や水まわりは20年目までに一度点検を。早めの手入れで出費を抑えましょう」

「腐朽や劣化が進行する前に手を入れたほうがメンテナンスコストは抑えられます」と小宮さん。建物内部の構造が雨漏りや結露などで傷むと工事範囲が大きくなるからだ。特に屋根や外壁、水まわりは築20年までに点検、補修を行うこと。後回しにするほど工事費の負担は大きくなる。

【後悔2.健康】

「断熱性が低いせいか冬は底冷え。毎年、寒くなると体調不良に」(Tさん 50代男性 築49年の一戸建て)

家の断熱性が低いせいか、冬の底冷えが厳しいため、断熱リフォームを実施。施工後は格段に暖かくなり、以前のように冬場に寝込むことがなくなった。早くやっておけばあんなに苦しまずに済んだのになあ。

●プロのアドバイス
「断熱性の低い家は身体に負担。窓まわりの改善だけでも効果的です」

断熱性の低い家では、夏は熱中症、冬には低気温による心身の不調など、健康上のリスクが伴う。ベストな対処は、床・壁・屋根・天井に断熱材を入れ、外気の影響を小さくすること。「最も熱が出入りする窓まわりを改善するだけでも効果的です」

【後悔3.安心】

「地震のたびに大きく揺れるわが家。耐震性が不安で落ち着かない毎日」(Kさん 60代男性 築53年の一戸建て)

築40年以上のわが家は、2011年の東日本大震災の後は、ちょっとした地震でも大きく揺れるようになり、不安に……。昨年ようやく耐震改修を実施。それまでは「わが家は大丈夫だろうか」とずっと落ち着かない日々が続いていました。

●プロのアドバイス
「築37年以上の家の多くは耐震補強が必要。木造住宅はそれ以下でも耐震診断を」

国の耐震基準が大きく変わったのは1981年6月。それ以前(旧耐震基準)の建物の多くは、地震に対して構造を支える耐力壁の量が少ないので、耐震改修が必要だ。「なるべく早く耐震診断を実施して対処を検討しましょう」

【後悔4.利便性】

「古いキッチンは狭くて雑然としていて食事の支度が苦痛でした……」(Aさん 60代女性 築30年の一戸建て)

新築時にはリビングを優先したため、キッチンは狭苦しくて食事の支度に立つのが苦痛でした。そこで子どもの独立をきっかけに新しいキッチンにリフォーム。子どもたちがいたころが一番家事が大変だったので、そのときにリフォームしたかった……。

●プロのアドバイス
最新の設備・建材には暮らしやすさがグッと向上する進化がいっぱい

住宅設備の進化は目覚ましく、省エネ性や清掃性、収納力などは特に大きく向上しているため、新しいものと交換するだけで暮らしやすさや快適性がぐっと高まる。「使い勝手や家事動線も考慮して選ぶといいでしょう」

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

リフォームを成功させるには3つの鉄則がある

以上のような後悔を生まないためには、リフォームの際、どのようなことに気をつければよいのか。小宮さんは下記のような3つの鉄則を挙げる。

「工事はなるべくまとめる」
リフォームは何度かに分けて行うより、複数の工事をまとめることができれば、工期の面でもコストの面でも効果的。例えば、床や壁、天井の撤去を行う内装や水まわり設備の更新、もしくは足場を組む必要のある屋根と外壁の工事などは同じタイミングで実施したい。

「10年後の暮らしまで考慮する」
リフォームでは目の前の不具合に目が向きがち。だが10年後の家族や暮らしの変化も考慮しておきたい。子どもの成長を見越して収納を大きめに確保したり、老後に備えてバリアフリー化したりと、先々の用意もできるとベスト。

「要望には優先順位をつける」
「あれもしたい」「これもしたい」と要望は膨らむもの。しかし予算には限りがあるので、優先順位をつけて割り振ること。特に健康や生命にもかかわる断熱、耐震は最優先。設備だけでなく性能にもしっかり予算をかけよう。

リフォームはそのタイミング次第で、成果や満足度に大きな差が生まれる。気になることがあったら、なるべく早い段階でプロに相談することが重要だ。

構成・取材・文/渡辺圭彦

●取材協力
TAU設計工房一級建築士事務所 代表
小宮歩さん
一級建築士。東京理科大学工学研究科建築学専攻修士課程修了。2003年、TAU設計工房入社。2013年、同社代表に就任。新築、リフォームなど住宅事例を多数手がける。

満足度に差がつく 間取りオーダー方法

自分たちらしくて、暮らしやすい間取りにしたいけれど、考えがまとまらない、どう伝えればいいのかよくわからない、という人は少なくない。そこで今回は、間取りをオーダーする上で大切なポイントを、Sデザインファーム 一級建築士の鹿内健さん、スタイル工房 チーフプランナーの渡辺ノリエさんに伺った。プロはどんな情報から間取りをつくり上げるのか参考にしてみよう。
わが家のベスト間取りを手に入れるために伝えること

1. 今どんなふうに暮らしているか
これからリフォームする予定の家で暮らす家族について、年齢や仕事、趣味、子育ての方針など、日ごろどんな暮らし方をしているかを伝えよう

2. リフォームしたい理由&理想の暮らし方
リフォームしたい理由、現状の不満や解決したい問題点、その空間を誰とどんなシチュエーションで使いたいか、リフォーム後の理想の暮らしを伝えよう

3. これから何年住むつもりか
建物の種別や築年数、修繕履歴などの情報を伝える。その際、今後何年その家に暮らすか、家族の変化なども意識し、必要なリフォームを考えよう

4. 予算+やりたいこと
工事や完成の希望時期と予算を伝える。見積もりが高くなることを恐れて、極端に予算を抑えて伝えると、期待したプランにならないこともあるので注意

「なぜそうしたいか」の理由や背景を伝えよう

例えば「広いリビングが欲しい」というオーダーの場合、プランナーが最も注目するのは、部屋数や畳数ではなく「なぜそうしたいのか」というリフォームの理由や目的だ。
「一口に“広い”といっても、人によって感じ方は違います。なぜ広さが必要なのか、そこでどう過ごしたいのか、理想の暮らしや重視することがプランニングの手掛かりになります」(鹿内さん)

理由や理想を言葉にするのが難しいなら、現状どう暮らしているかを詳しく伝えるのも有効。
「生活パターンや家族の習慣などを話してもらえると、部屋の使い方や家族の距離感がわかり、その家族に合った解決策を提案しやすくなります」(渡辺さん)。例えば、リビングは朝、昼、晩と、誰がどう過ごしているのかを伝えることで、テレビを見る、仕事をする、子どもが遊ぶなど、明確な役割をもった「使いやすい空間」を提案してもらえる。

ただし、部屋の使い方や家族の距離感はライフステージで変化する。リフォームでは今だけでなく、5年後など少し先の暮らし方も意識して考えたい。
プロの力を引き出す間取りオーダーのポイントを2組のケースを例に見ていこう。

2人暮らしを満喫したい夫婦は……
→趣味やこだわりのアイテムなど、オフタイムをどう過ごしたいか伝えようAさん夫妻(写真はイメージです)

Aさん夫妻(写真はイメージです)

■Aさん夫妻の場合(夫35歳・妻34歳)
<夫の希望&暮らし方>
「この中古マンションは緑の多い周辺環境や窓からの眺望が気に入って買いました【1】。共働きで平日はお互い忙しいので、家事は土日に協力してやります。妻は掃除や洗濯は好きみたいですが、料理は僕のほうがレパートリーは多いので一緒につくることも【2】。凝り性なので、調理道具やスパイス類も多いほうです」

<妻の希望&暮らし方>
「以前住んでいた部屋は壁で細かく仕切られていて暗い印象だったので、今度は明るくて開放的なリビングにしたい【1】です。洋服と靴が多いので、家のあちこちに分けて収納していましたが、それが使いにくくて……。寝室は狭くていい【3】ので、夫婦別々の収納が欲しいです。洗面室は●▲ホテルみたいな雰囲気【4】が好みです」

【1】リビング
◎家の好きなところを伝えて、良さをもっと引き出してもらう
間取りというと、家の中だけで考えがちだが、窓から見える周辺の景色やバルコニーなどのスペースも含めて考えると、プランの引き出しはさらに増える。「使いにくいところや不満でもいいですが、その家の何が気に入っているか、周辺環境や眺望など、一見間取りとは関係ないように思えることも話してもらえると、その良さを活かせる提案がしやすくなります」(鹿内さん)

【2】キッチン
◎誰が使うか、料理の頻度やよくつくる料理の情報も伝える
食事の取れるダイニングカウンターをつけたり、夫婦で一緒にキッチンに立つことが多ければ通路を広く取ったり、二列にレイアウトして作業スペースを分けたり……キッチンは主に誰がどんなシチュエーションで使うのかがポイントになる。「よくつくる料理や、持っている調理器具、食器類を教えてもらえると、キッチンに必要な収納のサイズ、配置を考える参考になります」(渡辺さん)

【3】ベッドルーム
◎眠る以外の用途を伝え、適切な広さと機能を備えよう
眠る空間、着替えや化粧をする空間、読書など趣味を楽しむ空間――自分にとって寝室はどんな用途の空間なのかを伝えると、必要な広さやレイアウトを提案してもらえる。「例えば、夫婦の就寝時間がずれている場合や、外出前・帰宅後の身支度の動線によっては、寝室はコンパクトにし、別の空間にクロゼットや趣味に打ち込める書斎などを提案するケースもあります」(鹿内さん)

【4】サニタリー
◎ホテルやレストランを例に、好きなイメージを共有する
洗面室やトイレなどのサニタリー空間はプライベート性の高い空間であるため、比較的間取りやインテリアでも冒険がしやすい。ホテルのようにサニタリーと一体化した間取りや、大理石などインパクトのある素材を取り入れることも可能。好きなテイストを伝えるときは「例えば、気に入っているホテルや、ネットの画像検索などでイメージを共有するとわかりやすいですね」(鹿内さん)

子育て中のファミリーは……
→家族みんなの生活リズム、夫婦、親子の距離感を伝えよう
Bさんファミリー(写真はイメージです)

Bさんファミリー(写真はイメージです)

■Bさんファミリーの場合(夫43歳・妻41歳・長女14歳・長男11歳)
<夫の希望&暮らし方>
「夜はリビングで読書をします【1】。買い物は週に1回、休日に車で出掛け、まとめ買いをします【2】。リビングは多少小さくなってもいいので、子どもたちにそれぞれ個室を与えたい【3】です。子どもが独立したら、そこは僕の書斎【3】にできたらいいなという思いも。最近は子どもの部活動が忙しく家族一緒の外出は減りました」

<妻の希望&暮らし方>
「共働きなので、平日の料理は手早く簡単に【2】できる炒め物などが多いですね。時間のある休日は家族で一緒に料理するので、広い作業台があったらいいな【2】と思います。最近子どもたちの体が大きくなったためか、リビングも洗面室も一緒に使うのは狭く感じます【1】。特に洗面室は狭いので朝はとても混雑【4】します」

【1】リビング
◎一緒にすること&別々にすること、「居場所」を複数用意しよう
子どもが成長すると、親子の距離感は変わる。「リビングは家族で一緒に何かするよりも、同じ空間を共有しながら、自分のことに没頭できる空間づくりが必要になります」(鹿内さん)。リビングの一角にライブラリーを設けるなど、人が集まりやすい仕掛けをつくるのも良い。収納や壁で緩く区切るなど、死角やこもり感をつくるのもリビングの居心地を良くするポイントだ。

【2】キッチン
◎使う頻度の高い家電や食器など、家事の流れを軸にレイアウトを考える
「忙しい共働き家庭のキッチンは、機能的で簡単に掃除・片付けができることが求められます。普段の家事の流れを考え、使う頻度の高い家電、調理器具、食器などを軸にすると、どこに作業スペースや収納を取れば効率が良いかレイアウトがイメージしやすくなります」(渡辺さん)。食べ盛りの子どもがいて、食材のストックが多い家庭なら、パントリーを設けるのも一案だ。

【3】子ども部屋
◎いつまで必要か、10年後の使い道も考える
「子ども部屋はいつまで必要か、数年後その空間をどう使うか想像してみましょう」(渡辺さん)。子どもと過ごす期間は長い人生の中でみるとほんの一時。子どもが巣立った後は、リビングとつなげて使いたい、主寝室のクロゼットにしたいなど、少し先の暮らし方をイメージすると、それぞれの部屋の広さや、どの部屋の隣に配置するか、扉や照明の位置なども決めやすくなる。

【4】サニタリー
◎洗面室の小物をチェックし、家族が使う時間、使い方を伝える
洗面、洗濯、浴室の脱衣スペースを兼ねる場合も多く、時間帯によっては混雑して使いにくいことも。不満の内容によってはスペースを広げ、2ボウルシンクにするほか、洗面室と洗濯室を分けたり、洗面室を廊下などオープンな場所にする方法がある。「まずは家族の生活パターンや洗面室に置いている小物類から、日ごろ洗面室がどう使われているか振り返ってみましょう」(渡辺さん)

自分たちの暮らしに合った間取りにすることで、使い勝手が良く、居心地の良い空間になる。上記の例を参考にして、自分たちにぴったりの間取りをオーダーしてみよう。

●取材協力
・Sデザインファーム 一級建築士 鹿内健さん
・スタイル工房 チーフプランナー 渡辺ノリエさんSUUMOリフォーム実例&会社が見つかる本 首都圏版 SPRING.2019●SUUMOリフォーム実例&会社が見つかる本 首都圏版 SPRING.2019
今号の特集は
・【実例】最高に楽しい家はこうつくる!
・満足度に差がつく間取りオーダー方法
・これ、いただき!個性派アイデア
・[とじ込み付録]照明で魅せるLDK

購入はこちら
・楽天ブックスから購入<ポイント10倍キャンペーン実施中>
・Amazonから購入
・富士山マガジンサービスから購入

リフォーム会社、どこがいい? ベストな1社に出会える方法

リフォーム成功のカギは依頼先選びにあり。たくさんのリフォーム会社からベストパートナーを選ぶには、会社ごとの違いを見極めることが第一歩だ。選ぶポイントを知って、ぴったりの会社を見つけよう。
リフォーム会社の違いを見極めるポイントは五つ

リフォーム会社は規模もデザインテイストもさまざま。その中からベストな1社を探すためには、自分の条件と嗜好に合う会社を見極めなければならない。そこで、次の五つのポイントに注目しよう。

【1】対応可能な建物
リフォーム予定の建物の工法に技術的に対応できるのかどうか。「建物の工法・構造」が特殊な場合に対応できないことがあるので確認が必要だ。

【2】得意な価格帯
やりたいリフォームの「規模・価格帯」を得意としているか。小規模から対応している場合とそうでない場合がある。

【3】デザインテイスト
各社はそれぞれアピールしているデザインが異なる場合が多い。その「デザインテイスト」が自分の好みに合っているか。

【4】営業・プランナーの対応
自分が希望しているリフォームに対して「営業・プランナー」の対応力が高い会社かどうか。信頼して任せることができそうか、人の見極めも大事。

【5】アフターサービス
アフターサービスがきちんとしているか。ずっと付き合える会社なのかも確認。

個々のポイントを詳しく解説していこう。

【見極めポイント1 対応可能な建物】
一戸建ては工法により対応できる会社が違う

一戸建ての建て方は、木造軸組工法、2×4(ツーバイフォー)、大手住宅メーカーの独自工法などがある。木造軸組には多くのリフォーム会社が対応できるが、他の工法は対応できる会社が限られるので、自分の家がどう建てられたのかを知っておくべき。
また、築年数が50年を超える場合、引き受けない会社もあるので確認が必要だ。
マンションは構造に違いがあまりなく対応できる会社が多い。しかし水まわりの移動や床の遮音性などに制約があるので、実績豊富な会社に依頼すると安心。

【見極めポイント2 得意な価格帯】
「部分」か「大規模」か、得意分野は価格帯に表れる

普段請けている工事が設備交換や内装など一部のリフォームが中心なのか、間取り変更を含む大規模なものを中心としているのかが会社によって違う。家全体をリフォームするような大規模工事は、1000万円を超える金額帯のリフォームを得意としている会社に依頼するほうが、スムーズに進むだろう。その逆もしかり。
まずは、キッチンなど水まわりのみにするか、家全体を行うのかなど、今回のリフォームの規模を考える。その上で規模にふさわしい会社を選ぼう。

【見極めポイント3 デザインテイスト】
素材や間取り、設備にもテイストの違いが出る

リフォーム会社のデザインテイストは、ナチュラル、ホテルライク、カフェ風、シンプルモダンなどさまざま。テイストを左右する内装の素材に何を使いたいのか、設備や収納は造作を中心に個性的にしつらえたいのか、既製品で整った感じにしたいのかなど、好みの仕上がりをイメージしておきたい。
オープンな間取りを好むか、適度に仕切られた空間を好むかでも傾向が分かれる。雑誌などで施工例を見てテイストを絞り込み、完成見学会も見るなどして、好みに合う会社を探そう。

【見極めポイント4 営業・プランナーの対応】
的確なアドバイス、秀逸な提案があるか

リフォームは一つひとつのプランを最初からつくっていく。そこで、担当者と相性が良くコミュニケーションを取りやすいかどうかが、進める上で大事な要素となる。また、担当者のヒアリング力やプランの提案力が、出来上がってからの満足度を大きく左右する。
実際に担当者と会って、質問をしたりできるのが、家に来てもらう現場調査。また、提案力を見極められるのが、プラン・見積もり提案時。それぞれの機会に相手のことをよく見て、自分に合うかどうか判断しよう。

【見極めポイント5 アフターサービス】
保証期間やその対象、定期点検の回数が違う

完成後に不具合があったとき、無償で修理をしてくれる期間を示すのが保証期間。2年程度から長ければ10年もある。長期保証は構造部、短期保証は設備や建具というケースが多い。対象部位と期間もよく見ておこう。
定期的に訪問してくれて不具合などのチェックをしてくれるのが定期点検サービス。最近では24時間相談に乗ってくれるサービスも。サービスがシステム化されていない地域密着型の会社でも、何かあったらすぐに駆け付けてくれて、細やかに面倒を見てくれるケースもある。

家や設備の老朽化、家族構成の変化など、リフォームをするきっかけは人それぞれ。また、ベストな会社も価値観によって異なるもの。あなたのベストパートナーと出会って、満足なリフォームを実現しよう。

●取材協力
スーモカウンターリフォーム

むくの木と手仕事にこだわる家具職人・松岡茂樹さんが語る「むく」の魅力

自然素材が好きで、家や暮らしに取り入れている人は多くいる。では、自然素材を扱う人は、その魅力をどう捉えているのだろう。むくの木と手仕事にこだわる家具職人、松岡茂樹さんに話を聞いた。
むくの木に、同じものは一つとしてない

工芸品のような美しさとオリジナリティーをもちながら、しかし、作品ではなく、プロダクト。職人集団KOMAによるむくの木の家具は、親方の松岡茂樹さんがプロトタイプをつくり、弟子たちによって製品化されていく。
「道具をつくる職人として“本物の家具”を追求した結果です」
本物の家具づくりに妥協は許さない。そんな松岡さんが素材として選んだのが、むくの木だ。
「天然の素材ですから、同じものは一つとしてない。同じウォールナットの板でも堅さや木目の入り組み方など一つひとつ全て違って、その板にはそのときしか出合えません。一期一会なんですよ」

それにどう刃を当てて、板も自分も喜ぶような家具に仕上げていくのか。
「生来の飽き性の僕が夢中になってこの仕事を続けているのも、そこが面白いからでしょうね。意外かもしれませんが、僕は樹種にも無頓着。どの樹種かより、目の前の板がどんなものかが大事。常に一対一なんです」
中には、職人魂を刺激されるような飛び切りの木目をもつ板も。
「自然がつくるものには作為がない。だから美しい。その無作為の造形美を、なんとかして製品に落とし込みたいと思うんですよ」

カンナや刀などの道具は各自が専用のものをそろえ、メンテナンスしながら使いやすいよう慣らしていく。松岡さんは「自分の道具は人に指1本触れさせない」とか(写真撮影/菊田香太郎)

カンナや刀などの道具は各自が専用のものをそろえ、メンテナンスしながら使いやすいよう慣らしていく。松岡さんは「自分の道具は人に指1本触れさせない」とか(写真撮影/菊田香太郎)

月日とともにキズも含めて熟成していく

KOMAの家具がむく材でなければならない理由はもう一つ、時間の作用だ。年月とともに劣化する素材は使いたくないという。
「例えば合板などのキズは、月日がたってもキズのまま。しかし、むくの木ならキズも含めて熟すように古くなる。大きな差です」 
古さがむしろ味になる。いうなれば、経年劣化ではなく経年美化。目指すのは、「長く、愛着をもって使ってもらえる家具づくり」だ。
「木の家具をずっと使っていると、いつも触る場所に艶が出てきたりしますよね。その人の暮らしのクセみたいなものを映し出すようになって初めて、一つのプロダクトとして完成するんじゃないかと」

特に椅子には思い入れがある。
「人がその体を預ける家具で、最小単位の生活空間といってもいい。座るのに決まった姿勢があるわけではなく、斜めだったり、もたれたり、足を組んだり。どう座っても心地いい形に削り出すことをいつも考えているけれど、終わりがないですね」
座り心地と同じくらい、触り心地にも気遣っている。肌に直接触れたとき、気持ちいいと感じるかどうか。ウレタン塗装では得られない本物の木の手触りを、自ら確かめながら削っていくのだ。
「相棒として共に暮らすように使い込んでもらいたい。やっぱり、むくの木以外にないんです」

木の匂いと木粉が立ち込めるKOMAの工房には制作途中の家具が並ぶ(写真撮影/菊田香太郎)

木の匂いと木粉が立ち込めるKOMAの工房には制作途中の家具が並ぶ(写真撮影/菊田香太郎)

KOMAの家具づくりは、作業のほとんどを人の手で行う。刀を使って削り出した木の風合いは、機械では到底たどり着けないものだと考えるからだ。いよいよ汚れがひどくなっても、むく材なら表面を削ればきれいになる。子や孫の代でも使えるだろう。世代を超えて愛されるのが本物の家具であり、自然素材だ。

●取材協力
家具職人/親方(KOMA代表取締役)。
1977年東京都生まれ。幼いころから絵を描いたり、ものをつくったりすることが大好きで、美術学校に進学。卒業後は家具製造会社に入社し職人修行を開始。2003年に独立し、「KOMA」を設立。2013年に直営店を開設した。家具製作を中心にさまざまなプロジェクトにも参加し、国内外の賞を受賞。趣味はバイク、スケボー、スノボー、サーフィンと幅広い。

「疲れないリビング」とは? リフォームコンクール受賞デザイナーと新進気鋭の建築家に聞いてみた

家の中でみんなが一番長く過ごす場所、LDK。どんな空間をつくったらくつろげる場所になるのか。リフォームをする際の間取りの考え方や光の取り入れ方などを、今注目の2人の専門家、スタイル工房のチーフプランナー鈴木ゆり子さんと、ハンディハウスプロジェクトの中田裕一さんに語ってもらった。
くつろげるLDKにするには、変化に対応できる余白が必要

鈴木 くつろぎの定義は人によって違いますよね。例えば、ソファの上でゴロゴロするのが好きな人もいれば、床に座ってソファに寄りかかる方が落ち着く人もいます。
中田 その意味でも、家を設計するときに、今どんなふうに暮らしているかを理解することは、すごく大切ですね。
鈴木 ご自宅に伺った際に、ご家族の好きなくつろぎスタイルとか、持っている物の量とかいろいろな情報を受け取っています。ただ、くつろぎ方は時間とともに変わっていく部分もあるので、私はリフォームで100%つくり込まなくていいと思っています。全部を決め込むと暮らしが窮屈になるので、余白を残して暮らす人に季節や時代で変えてもらえたらいいですよね。
中田 そうですね。例えば夫婦2人の間は、家族が一番長く過ごすLDKを最大限にして、子どもの成長や家族構成の変化に合わせて、1LDKや2LDKに仕切っていくこともありですよね。安らげる場所があれば、そこがその人にとってのリビングになるのだと思います。

鈴木さんが手掛けた事例。光を入れるためにLDKを2階に移動。間仕切り壁を全て外し、ダイニングは勾配天井にして縦横に広がる空間にした。断熱施工をして家全体の居心地の良さもアップ(画像提供/スタイル工房)

鈴木さんが手掛けた事例。光を入れるためにLDKを2階に移動。間仕切り壁を全て外し、ダイニングは勾配天井にして縦横に広がる空間にした。断熱施工をして家全体の居心地の良さもアップ(画像提供/スタイル工房)

収納のつくり方と配置で他者の目線を気にせず憩える空間に

中田 居心地よく暮らすためには、目線への配慮も大切ですね。LDKにも収納や物を隠せるスペースはあった方が、見た目がうるさくならないからホッとできます。
鈴木 特にキッチンは物が多く煩雑に見えがちですものね。
中田 僕はパントリーをつくるときに、リビングから見えない場所に配置できないかを考えるようにしています。
鈴木 私も大型家電などはリビングの視線から外すようにしています。余計な物を視界に入れないこともくつろぎ空間の要件の一つです。
中田 そういう普遍的な部分は、プロとしてきちんと考え、伝えていきたいですね。

中田さんが手掛けた事例。オープンなダイニングキッチンはコンロを背面に配置。リビングから見えない位置にパントリーや冷蔵庫を配置することで、視界がスッキリとして、くつろぎの邪魔をしない(画像提供/ハンディハウスプロジェクト)

中田さんが手掛けた事例。オープンなダイニングキッチンはコンロを背面に配置。リビングから見えない位置にパントリーや冷蔵庫を配置することで、視界がスッキリとして、くつろぎの邪魔をしない(画像提供/ハンディハウスプロジェクト)

自分たちの好みを反映した内装で落ち着く場をつくる

鈴木 仕上げ(内装)は完成形を想像しやすいですし、お施主様の好みを活かすことで、自分らしくいられる空間になりますよね。
中田 素材もテイストもさまざまな物があるので、自分たちの好きな物を選んでほしいですね。その方が住まいへの愛着も増して、和める空間になる。以前の住まいの古材を使って、歴史を継承できることもリフォームの魅力です。
鈴木 古い物の良さと、新しい部材や設備の性能の良さの両方が共存できますからね。
中田 性能という点では、僕は断熱リフォームをきちんとすることをお薦めしています。家の中でゆったり過ごすために、断熱性は重要なファクターですから。
鈴木 心地のいい明るさも大切です。ガラスを間仕切り壁に入れたり、ガラスブロックを使ったりすることで、奥の部屋や廊下にも光や風を取り入れることができます。
中田 くつろぎ空間には採光や通風、断熱性などのハード面と、自分たちらしく過ごせる間取りや人の目線を気にしなくていい収納などのソフト面があるということですね。

リフォームでくつろぎ空間をつくるには「余白」「目線への配慮」「好みの内装」を重視すると良いことが分かりました。みなさんもこれを参考に、くつろぎ空間を手にいれてくださいね。

文/中城邦子

●取材協力
・鈴木ゆり子 
スタイル工房チーフプランナー。大学卒業後、設計事務所勤務などを経て現職。施主と一緒に楽しみながらつくることを信条とし、リフォームコンクールで多くの受賞歴をもつ
・中田裕一 
ハンディハウスプロジェクト主宰。大学卒業後、設計・施工会社に勤務。中田製作所を設立し、2011年より施主にも参加してもらうことで愛着のある家づくりを進める同プロジェクトを始動

心安らぐ空間の演出方法とは? ライフステージに合わせた住まい

東京・吉祥寺で人気のギャラリーとパン屋を経営し、すてきなライフスタイルで注目を集める引田ターセンさんと、かおりさんご夫妻。築20年のコンクリート造の一戸建てをリノベーションしたお住まいを訪ね、シンプルで心安らぐ空間のつくり方についてお聞きしました。
家族の成長に合わせて、快適な住まいは変わっていい

引田さん夫妻のリノベーションしたお住まいは、珪藻土の壁に、床はリネンウールのカーペット、天井やドアまで全て国産のナラ材を使った1LDK。まさに大人の洗練された空間ですが、子育て中のころの家はおもちゃの滑り台があったり、子どもの作品を飾っていたそうです。
「食器も変遷しています。ジノリやロイヤルドルトンなどヨーロッパの絵付け食器の時代もあったし、染付けの時代もあった。それぞれの時代があったんです。子どもがいてにぎやかなときにはヨーロッパの絵付けなど柄物が良かったけれど、夫婦2人の暮らしになると、食事の好みにも合わなくなってくる。ギャラリーを始めてからは、作家物がふえました」(ターセンさん)
「ただ、私たちは子どもが小さいころから洋服でも家具でも、「いずれ大きくなるからちょっと大きめを選ぶ」ことはしませんでした。今の暮らしにジャストであることを、大事な基準にしていたのです」(かおりさん)

玄関ホールを入ると、トップライトからの光が差し込むリビング。壁や天井には国産ナラ材を使い、床はリネンウールのカーペットを敷き詰めたナチュラルな空間(写真撮影/菊田香太郎)

玄関ホールを入ると、トップライトからの光が差し込むリビング。壁や天井には国産ナラ材を使い、床はリネンウールのカーペットを敷き詰めたナチュラルな空間(写真撮影/菊田香太郎)

中央にある暖炉と段差が、リビングとダイニングスペースを緩やかに分けている。左奥のデスクカウンターは、持っていたテーブルに質感も高さも合わせて造作してもらった(写真撮影/菊田香太郎)

中央にある暖炉と段差が、リビングとダイニングスペースを緩やかに分けている。左奥のデスクカウンターは、持っていたテーブルに質感も高さも合わせて造作してもらった(写真撮影/菊田香太郎)

シンプルを実現するコツは、なければどうかな?と考えてみること

シンプルに暮らすために、引田さん夫妻が心掛けているのは、決め付けないこと、変化を恐れないことだと言います。
「こうだと決め付けず、なければどうかなとか、変えたらどうだろうとか考えてみることで、違ってきます。例えばバスマットは必要と思い込んでいますが、なくても困らないんです。お風呂上がりに体も足も拭いて、そのタオルを洗濯したらいいのですから」(かおりさん)
「バスマットがないだけで洗面室の印象は違いますよね。わが家はタオルも、彼女が気に入ったホテルのものを取り寄せて、その一種類一色に統一しているから、収納したときも自然とそろって見えます」(ターセンさん)
「キッチンもかつては、調理器具を見えるようにつるしてありました。でも料理している時間は、一日のうちでも1時間くらい。「しまってみようかな」とふと思って。フライ返しや菜箸を、しまっても何の問題もなかった。逆に何も出ていないほうが、拭き掃除がしやすくなりました」(かおりさん)

ペーパーホルダーやキャビネットの取っ手なども同色、同じ質感でそろえた。バスマットもなく、余計な物を一切置いていないため、洗面室と浴室がいっそう広く感じられる(写真撮影/菊田香太郎)

ペーパーホルダーやキャビネットの取っ手なども同色、同じ質感でそろえた。バスマットもなく、余計な物を一切置いていないため、洗面室と浴室がいっそう広く感じられる(写真撮影/菊田香太郎)

シンクと配膳台の間は幅108cm。吊戸棚はつけずに視界もすっきり。一部を仕切り壁にして調理中の煩雑さは見せないようにした(写真撮影/菊田香太郎)

シンクと配膳台の間は幅108cm。吊戸棚はつけずに視界もすっきり。一部を仕切り壁にして調理中の煩雑さは見せないようにした(写真撮影/菊田香太郎)

「ギャラリー経営でたくさんの人や物に会うことが仕事になって、家にまでモノがあふれていたら疲れが取れないと思うようになり、どんどんシンプルになりました」というターセンさん・かおりさん。
仕事柄、気になる物があったら、実際に買って使ってみることを大事にしているが、手にして納得したら、人に差し上げることも多いのだそう。「本も感動したら周りの人に薦めて渡すほうが好き。食器も洋服も、自分たちが気持ちいいと感じる量しか持たないようにしています」(かおりさん)
「家は四角い箱。中に入れるモノのためではなく、自分たちに合わせて暮らしたほうが楽しいですよね」(ターセンさん)と語ってくれました。

文/中城邦子

●取材協力
・引田ターセンさん・かおりさん
ギャラリーフェブ
ダンディゾン

いつ、何からやる!? 失敗しないリフォーム、基本の流れ15カ条

自宅をリフォームしたいけれど、いつ何をしたらよいのかわからないという人は多いはず。そこで、賢くスムーズに進めるための“キホンの知識”を、リフォームの流れに沿って解説しよう。
【1】要望をまとめるコツは「不満」と「要望」をくっきり分けること

水まわりを一新したい、リビングを広くしたいなどさまざまな要望があると思うが、ランダムに書き出していくと整理がつかなくなりがち。コツは「不満」と「要望」に分けること。ただ、リフォームは構造の都合でできないこともあるので、以下を参考に要望をまとめよう。

【画像1/一戸建て・マンションリフォームで、できること・できないこと】

【画像1/一戸建て・マンションリフォームで、できること・できないこと】

【2】先を見越して「リフォーム資金の計画」を立てよう

年齢を理由にローンを組むのは避けたいと考え、手持ちの現金内でリフォームしようとする人は多い。しかし、予算の都合でバリアフリー化を諦めたものの、数年後にやむなく実施するケースも。二度手間やダブルコストにならないよう、先を見越して計画を立てよう。

【3】リフォームで使えるローンは2種類。違いを知り賢く選ぼう

リフォームで使えるローンは、住宅ローンとリフォームローンの2種類。ローンは気持ち的に避けがちだが、リフォームローンは住宅ローンとの併用も可能。リフォームローンは無担保で借り入れができるなど、それぞれにメリットが(下記参照)。違いを知って賢く使いたい。

リフォームで使えるローンの種類

●住宅ローン
リフォームをする住宅を担保に借りるローン。一般的にリフォームローンより大きな金額を借りられる上、金利が低いケースが多い。
また、35年など返済期間を長期間にできる点もメリット
●リフォームローン
無担保で借りられるケースが多く、現在返済中の住宅ローンがあっても利用できるため、借入額が少ない場合には魅力。
手続きは簡単だが、住宅ローンより金利は高めで、返済期間は5~15年程度と短い【4】国と自治体にはおトクな制度がたくさんある!

リフォーム内容によっては、国や自治体から補助金が出る(下記参照)。また、リフォームローンによる減税や、親や祖父母からのリフォーム費用の贈与が非課税になる制度も。リフォーム内容が該当するかどうか、情報誌やネットで条件や申請時期をチェックしておこう。

リフォーム内容別・おトクな制度

●省エネ
自分が住む家の窓、床、壁、天井の断熱改修工事をすると対象となる
●バリアフリー
手すりの設置や床の段差解消で減税。介護保険による補助金制度もある
●耐震
一定の耐震補強工事で減税。耐震診断や補強工事費を一部補助する自治体も
●同居対応
キッチン、浴室、玄関などのいずれかを増設し、2室以上が複数になると減税
●耐久性向上
省エネ改修などと併せて耐久性向上改修を行い、長期優良住宅の認定で減税【5】予算を組むときは、1割ほど余裕をもたせておく

築年数が古い一戸建てはリフォームに着手しないと状態がわからないケースもあり、着手後に耐震補強や屋根・外壁の補修などの工事が必要になるなど、当初の予算を上回ることも。リフォーム会社に現場調査を入念に行ってもらい、予算は1割ほど余裕をもたせておくと安心。

【6】“自分に合うか”は会社の雰囲気や対応を体感して判断しよう

リフォームは既製品を買うのではなく、一緒につくりあげるもの。依頼先候補のショールームや見学会に行ったとき、設備や施工例だけでなく、会社の雰囲気や担当者の対応、現場監督や工事職人の人柄を肌で感じると、自分に合う会社かどうかを判断しやすい。

【7】相場を知るために、現場調査は2~3社に依頼したい

家によって状況は異なるので、正確な見積作成に「現場調査」は欠かせない。まずは現場調査に来てもらいたい日をピックアップして、気になる会社に調査を依頼しよう。調査自体は数時間程度。プランやコストは適切かを確認するために2~3社には依頼したい。

【8】予算を伝えるときには「金額」と「やりたい」ことに幅をもたせて

現場調査では「キッチンだけのリフォームなら300万円、間取りも変えるなら500万円程度」など、金額とやりたいことに幅をもたせて伝えると複数の提案を受けやすい。伝え忘れがないよう要望をまとめたメモを用意し、今の暮らしを見てもらうために片付け過ぎに注意を。

現場調査で伝えること

●間取りや設備の要望
イメージに近い写真を用意して渡そう
●今の暮らしや家の不満
暑い、寒い、暗いなど思いつくままでOK
●予算
300万円から500万円など幅を持たせて
●工事の希望時期
いつまでに工事を終えたいか具体的に【9】予算オーバーしたら、金額に応じた調整方法を考える

提出された見積もりが予算オーバーしている場合、数十万円程度なら機器のグレード変更やオプションの見直しで調整できる。大幅にオーバーしているなら、リフォームする範囲を狭くすることを検討しよう。または、ローンを借りて予算アップをするのも手。

【10】仮住まいするかどうかは生活の不便さや工事期間で決めよう

工事期間はリフォームの規模や内容で異なる(下記参照)。住みながらのリフォームは音やホコリが気になったり、水や電気が使用できなかったりすることも。仮住まいは費用がかかるが工事を気にせず生活できる。仮住まい先を紹介してくれる会社もあるので相談してみよう。

リフォーム工事期間の目安

・和室を洋室に、押入れをクロゼットに   約3日間
・和式トイレから洋式トイレに交換      約4日間
・システムバスと洗面化粧台を交換      約6日間
・キッチンを壁付けから対面式に       約7日間
・隣接する和室を取り込んで広いLDKに    約2週間
・耐震補強+二世帯住宅に          約3カ月間

(※上記は、商品を用意してからの工事期間)

【11】1社に決めるときは、担当者、技術力、アフターサービスも確認

依頼先を決めるときに、見積もりやプランの比較はとても大事。しかし、先輩たちはそれ以外のポイントも重視して決めている。担当者と会話を重ねる、アフターサービスの内容を聞いておく、施工例を見せてもらうなど、複数の視点で1社に決めたい。

【12】契約時には、後から変えると金額に影響するものを確認しよう

契約時には複数の書類が用意される(下記参照)。契約後、プランや設備・建材を大幅に変更すると工期が延びたり、費用がアップするので確認は念入りに。ただ、壁紙の種類や造作の色の変更は契約後でも影響がないケースも。気になる人は確認しておこう。

契約時の書類とチェックポイント

●契約書
工事内容、工事金額と支払時期、工事期間などが記載されている。打ち合わせ通りの内容かもれなく確認しよう
●設計図面
リフォーム内容により間取図(平面図)、造作棚のつくりがわかる展開図、設備の仕様がわかる設備図などが用意される
●仕上仕様書
内装・外装材など、仕上げに関する材料の名称や型番が書かれた書類。選んだ商品と間違いがないかチェックしよう
●工事日程表
解体工事、木工事、設備工事、内装工事など、工事項目ごとに日程が記載。契約書の工事期間と照合しておきたい
●契約約款
契約書内に記載がある場合も。特に、工事保証の内容、トラブル発生時の解決法は必ず目を通しておこう【13】支払いタイミングを事前に確認して、口座に用意しておこう

リフォーム代金の支払いタイミングは、リフォーム規模や会社によって異なる。数十万円程度の場合は工事完了後に一括で支払うケースが多いが、数百万円と大規模になる場合、複数回に分けて支払うことも。契約時に必ず確認して、銀行口座に用意しておこう。

【14】工事現場に行くのは、設備や棚の設置時と塗装開始時がオススメ

大規模リフォームの場合、設備機器や造作棚の設置時と、塗り壁の場合は塗装開始時に工事現場に足を運ぶのがオススメ。設備機器の品番や色の確認をし、塗り壁は塗装面積によって雰囲気が変わるためイメージと近いかをチェックしたい。

【15】完成検査は丁寧に隅々まで行いトラブルを回避しよう

工事終了後、契約内容通りの仕上がりになっているかをチェックする「完成検査」を行う。引き渡し後に傷や故障に気がついても補修が受けられない場合もあるため、特に住みながらリフォームした場合、慌てて荷物を動かしたりせず、点検してから使い始めよう。

【画像2/完成検査のチェックリスト】

【画像2/完成検査のチェックリスト】

リフォームの流れに沿って“すること”を具体的に把握していくと、バタバタと慌ててしまったり、うっかり忘れてしまったり…ということを防げる。紹介した15項目を参考にして、リフォームをスムーズに進めよう!

文/山南アオ

●取材協力
監修/佐川旭(佐川旭建築研究所)

家とココロの専門家に聞く「癒し」のリフォーム 4つのコツ

わが家は「ほっと落ち着く空間」であってほしいもの。現状の不満を解消するだけではない、心も体も伸びやかになる住まいへ。暮らしに寄り添う「癒し」がある、本記事ではそんなリフォームをご紹介しよう。
ココロの専門家に聞く 心をほぐす癒しの住まいとは?

住まいが癒しの場になる理由

ストレス社会といわれる現代において、住まいには「癒し」が必要だと語るのは、心理学者の小俣謙二さん。
「ストレスの対処法には、その原因に直接働きかける『直接的対処』と、ストレスを別の形で解消する『間接的対処』があります。買い物やスポーツで気分転換するのは後者に当たりますが、家も同様。癒しを感じられる環境なら、ストレスによって生じた心身のバランスの崩れを回復させることができます」

 そのためにはどのような住まいが良いのだろう。
「まずは、快適温度が保たれていて、外から風が入ってくる住環境を整えること。外からの風は、心地よい刺激になり、脳をリフレッシュさせます。加えてさまざまな研究から森林に癒し効果があることはわかっているので、外の緑を眺められる窓があると効果的です」

「次に間取り。縁側や広縁のような特定の目的をもたない『間(ま)』に、人はゆとりを感じます。物理的な余裕は心理的・行動的にもゆとりを生んで、本を読んだり昼寝をしたり、ただボーッとしてもいい場所となる。ストレス解消に効果を発揮します」

「また、自分だけの空間を得るのも大切なこと。ストレスや心理的問題を抱えたときには1人になって感情の整理や自己内省をする必要があり、個室が緊張解消の場となるのです。使うときに1人になれる空間なら、家族共用のコーナーでも構いません」

ありがちな「癒されない環境」とは?

一方で、癒しを阻害する間取りもあると、小俣さんは注意を促す。
「動線や収納のプランが悪いと、無意識にストレスをため込むことに。リフォームでは暮らしやすい間取りにすることが必要です。家が舞台装置、住まい手が演者、ライフスタイルが脚本だとすると、それらがマッチして初めて癒しを得られる住環境になる。家族構成や子どもの成長、ライフステージに合わせて、都度ライフスタイルを見直し、それを活かせる間取りにしたいですね。家は、住まい手を心理的にも物理的にも支えるベースキャンプですから」

【画像1】(写真撮影/浦田圭子)

【画像1】(写真撮影/浦田圭子)

家の専門家に聞く 住まい手をやさしく包む空間づくり

“人間が大きな気宇(きう)を養うのに、その住まいの大らかさ自由さくらい大きな力を及ぼすものはない”
 19世紀の思想家、ジョン・スチュアート・ミルのこの言葉に感銘を受けたという建築家の田中敏溥さん。住まい手が自然体でいられる安らぎを得て、凛とした気構えを養うことができる……そんな家を数多く手掛けてきた。

「家族構成やライフスタイル、好みといった、変化するものに合わせてしつらえること。隣接している道路や公園などの周辺環境といった、変化しないものを活かして設計すること。そうした気遣いのある家は五感が窮屈になりません。場と人にフィットする家は、ミルが言うように人間の心持ちを支え、癒しを与える力があると考えています」

【画像2】(写真撮影/浦田圭子)

【画像2】(写真撮影/浦田圭子)

<提案1> 安らげるベースを住環境でつくる

癒される家をつくるための提案として、一つ目に田中さんが挙げたのは住環境だ。
「温熱、採光、通気は、身体的なストレスを左右します。それが心地よければ五感が解放されて癒される住まいになります。そこで目指したいのが『夏、蒸し暑くなく、冬、寒くない』家づくり。

木を植える庭がなくて直射日光が入ったり、狭小地や密集地だったりしても、住環境を良くする工夫はできます。冬の寒気が入るのを防ぎつつ、家の中を南風が抜ける工夫や、夏の直射日光を避けて冬の低い日差しが室内の奥まで届く開口計画などを意識しましょう。
冷暖房が必要なのはたいてい冬と夏。春秋の半年はチョウが舞い、トンボが飛ぶそよ風を感じられる家にすれば、そこに居るだけで日々癒されることでしょう」

<提案2> 室内を調える

二つ目の提案は、室内を調えることだと田中さん。

「いい家具があると空間がよく見えるし、家具や建具がバラバラだと落ち着かない気分になりますよね。つまり、住まい手の好みと家屋と家具が互いにフィットするしつらえであれば、リラックスできて、ゆったり過ごせる空間になるのです。リフォームでは既存の柱や梁などを残すこともできますし、家具を造作して自分らしさを織り交ぜることもできます」

 思い出の柱や梁は、ずっと見守られているようなぬくもりを感じさせ、自分の好みを反映した素材や色、デザインは安心感をもたらす。
「また、ゴチャゴチャした空間にならないように、必要な場所に必要な量の収納を設けることも大切。調っている空間は、気持ちもスッキリするはずです」

【画像3】(写真撮影/浦田圭子)

【画像3】(写真撮影/浦田圭子)

<提案3> 自然を取り入れる

設計では、家屋だけでなく、屋外にも気を配るという田中さん。三つ目の提案として、家と自然が良い関係になる家づくりの大切さを訴える。

「庭師の言葉に『庭をつくると家が二倍よく見える』というものがあります。まさにその通りで屋外と家屋は一体で考えなければいけません。敷地が狭くて大きな庭をつくれなければ、窓の近くに木を一本植えるだけでもいい。周辺に公園があるなら、借景を活かして自然を室内に取り込みたい。
間取りや開口、素材などで室内外につながりがあったり、外に視界が抜けたりする家は広がりを感じられ、心も伸びやかになります」

移ろう四季を愛でる窓でしみじみとした平穏を味わい、室内に用いた自然素材の香りや肌触りで五感が満たされる。そんな暮らしを意識してみよう。

<提案4> 自分空間をつくる

四つ目の提案は、個の空間をつくること。「人間は、会いたいときに会えて、会いたくないときには会わずにいられる環境が必要」だと、田中さんは話す。
「人が集うための大きい空間だけでなく、1人きりになれる空間も、実は同じぐらい大切です」

 誰にも気兼ねせず、肩の力を抜いてホッとできるスペースは、心身をリセットするために必要だ。階段ホールを利用して1坪程度の夫の書斎を設けたり、キッチンの近くに家事スペースを兼ねた妻のデスクを置いたり。広さよりも、デッドスペースの活用などで設置場所を賢く工夫したいもの。

 思いのままに過ごせる場所で、いつでも素の自分に戻れる安心感と、ストレスをそぎ落とす開放感を得られるだろう。

【画像4】(写真撮影/浦田圭子)

【画像4】(写真撮影/浦田圭子)

心身のバランスの崩れを回復させ、癒しの場になりうる住まい。そんな家づくりを叶えるために、4つの提案をリフォームプランに取り入れてみよう。

構成・取材・文/樋口由香里

●取材協力
・駿河台大学 教授
小俣謙二さん
博士(心理学)。駿河台大学心理学部並びに同大学院心理学研究科教授。環境心理学と犯罪心理学の観点から社会問題を研究。著書に『住まいとこころの健康-環境心理学から見た住み方の工夫』など

・田中敏溥建築設計事務所 代表
田中敏溥さん
一級建築士。東京芸術大学大学院卒業後、茂木計一郎氏のもとで環境計画及び建築設計活動に従事。1977年、田中敏溥建築設計事務所設立。著書に『建築家の心象風景<2>』、ほか