築40年超も2000万円リノベで耐震等級3相当・断熱等級6以上と国内最高レベルにできた! 実家も新築並に性能向上

最近のリノベーションブームを受けて、実家を、あるいは中古一戸建てを購入してリフォームすることを視野に入れている人も多いのではないでしょうか。しかし、気をつけてほしいことがあります。それは住宅の性能向上です。その名も「性能向上リノベの会」を立ち上げた、YKK AP 住宅本部 リノベーション事業部の西宮貴央さんにお話を伺いながら、その理由を紐解いていきましょう。

耐震性能や断熱性能が心もとない中古一戸建てがたくさんある古い中古一戸建てをライフスタイルに合わせてリノベーションすると、あわせて「耐震」「断熱」性能も高めることができる(写真提供/YKK AP)

古い中古一戸建てをライフスタイルに合わせてリノベーションすると、あわせて「耐震」「断熱」性能も高めることができる(写真提供/YKK AP)

中古一戸建てをリフォーム/リノベーションすれば、たいていは新築一戸建てを建てるよりも費用を抑えられます。注文住宅同様に自分たちのライフスタイルに合わせた間取りや仕様にできるのが魅力。

そんな中古一戸建てのリフォーム/リノベーションで注意したいのが、「耐震」と「断熱」性能の向上です。

リノベーション前(写真提供/YKK AP)

リノベーション前(写真提供/YKK AP)

レッドシダー(北米のヒノキ科針葉樹)のサイディングに、既存の銅葺きを補修した屋根、大きな窓のコントラストがモダンな「鎌倉の家」(写真撮影/桑田瑞穂)

レッドシダー(北米のヒノキ科針葉樹)のサイディングに、既存の銅葺きを補修した屋根、大きな窓のコントラストがモダンな「鎌倉の家」(写真撮影/桑田瑞穂)

窓の周りの壁(写真では見えないが)にはYKK APの耐震フレーム(フレームⅡ)が入り、さらに手前の大きな柱に見える部分も耐震フレームが入った施工事例(写真提供/YKK AP)

窓の周りの壁(写真では見えないが)にはYKK APの耐震フレーム(フレームⅡ)が入り、さらに手前の大きな柱に見える部分も耐震フレームが入った施工事例(写真提供/YKK AP)

(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

特に、耐震性能については令和6年能登半島地震で改めてその重要性を感じていることでしょう。耐震性能について簡単におさらいすると、建物の地震に対する強さの評価基準は耐震等級1~3の3段階あり、等級1でも、数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度)に対しても倒壊や崩壊しないとされています(しかし“いちおう”であり、大破も有り得る)。現在の建築基準法ではこの等級1が最低基準です。

これは2000年6月に施行された建築基準法の改正に基づくものです。そのため、これ以前に建てられた一戸建ては現行の耐震性能を満たしていない可能性があります。特に1981年5月以前に建てられた(建築確認を取得した)旧耐震基準時代の一戸建てについては、自治体が補助金制度を設けてまで耐震診断を促すほど、耐震性能に不安があります。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

また断熱性能については、昨今の光熱費の高騰を受けて、何とかしたいと思っている人もたくさんいるでしょう。脱炭素化社会に向けて新築一戸建ては2025年から省エネ基準への適合が義務化され、断熱等級4以上が求められます。さらに遅くとも2030年までには断熱等級5以上が義務化される予定です。断熱等級4は現在の省エネ基準(平成28年(2016年)基準)、断熱等級5はZEH水準をクリアしていることを示します。

そもそも省エネ基準は昭和55年(1980年)に初めて制定され、この時の基準は現在の断熱等級2に相当します。以降省エネ基準は随時改訂されてきましたが、基準への適合は義務ではなかったため、断熱性能が心もとない一戸建てが非常に多く存在しているのが現状です。現在、断熱等級の最高は7。日本における等級6相当の断熱性能が当たり前になっている中、極めて遅れをとっています。

耐震・断熱性能の向上を明確な数値等で示すプロジェクト

では、このような構造自体に性能が不十分な一戸建てを高性能な新築並かそれ以上の耐震性能、断熱性能まで高めることはできるのでしょうか。結論から言えば、技術的には十分可能です。しかし、その性能はリフォーム施工例によってバラツキがあるのが現状です。

バラツキがある理由は後述しますが、そんな状況下で、明確な耐震性能、断熱性能の数値を掲げて2017年から取り組んできたのがYKK APによる「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」です。同プロジェクトについては、以前「おしゃれだけじゃない!最先端の“性能向上リノベ“で新築以上の耐震性や断熱性を手に入れる」で取材したので、そちらも参考にしてください。

(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

このプロジェクトでは耐震性能は最高等級の耐震等級3(上部構造評点1.5以上)、断熱性能はHeat20のG2(断熱等級6相当)を目標に中古一戸建ての性能を向上させてきました。

耐震等級3とは、倒壊・崩落することなく災害復興の拠点として機能し続けられるだけの高い耐震性があることを示します。消防署や警察署等に義務づけられている耐震レベルです。

自治体が補助金制度によって耐震工事を促している1981年5月以前の旧耐震基準時代の一戸建てでも、しかるべき耐震工事を行えば、耐震等級3基準にまで高めることができます。

「先日の令和6年能登半島地震でもそうですが、やはり耐震性能が低い、特に築40年以上の旧耐震だと命の危険があります。そればかりか、倒れた建物が隣家を壊したり、道を塞いでしまって緊急車両が先に進めないことが多々あります」と、同プロジェクトを立ち上げたYKK AP 住宅本部リノベーション事業部の西宮さん。緊急車両が通れなければ、救える命も失われてしまう可能性があります。

■耐震等級の区分(2000年基準)

耐震等級耐震性対象等級3耐震等級1の1.5倍の耐震性消防署や警察署など。長期優良住宅の対象等級2耐震等級1の1.25倍の耐震性避難場所に指示されている学校や病院など。
長期優良住宅の対象等級1震度5程度で損壊せず、震度6強程度でも即時に倒壊・崩壊しない木造の場合、2000年の改正建築基準法以降に建てられた一戸建て(それ以前に建てられたものがすべて等級1を満たしていないわけではない)

一方、断熱性能がHeat20のG2とは、断熱先進国であるヨーロッパとほぼ同じ世界トップレベルということです。G2は断熱等級6に相当します。

■断熱等級の区分

断熱等級等級7Heat20のG3レベル等級6Heat20のG2レベル等級5ZEH水準。遅くとも2030年までには新築住宅に義務化予定等級42016年の省エネ基準。2025年から新築住宅に義務化等級3平成4年(1992年)基準等級2昭和55年(1980年)基準。1980年の省エネ基準と同等等級1等級2未満

また「Heat20のG2(断熱等級6相当)」は、ZEH水準(断熱等級5)以上ですから、太陽光発電等を備えればエネルギー収支が実質ゼロ以下になります。

昨今の光熱費の高騰に頭が痛いという人も多いでしょう。しかしそれでも今は国が電気や都市ガスの小売事業者に対して補助金を交付することで、一般家庭や企業等の光熱費が値引きされているのです。

この「電気・ガス価格激変緩和対策事業」は、消費者が直接補助金を受けるわけではないので実感しにくいのですが、とはいえ私たちの光熱費が抑えられているのは確かです。ところが同事業は2024年4月末までに終了し、5月以降は激変緩和の幅が縮小される予定です。もしこの事業が終わったら……と思うとゾッとしませんか。しかし、G2レベルに高めて太陽光発電を備えれば光熱費の悩みをスッキリと解消できそうです。

戸建性能向上リノベーションの費用は約2000万円

では「耐震等級3」と「断熱等級6(Heat20のG2相当)」にリノベーションする費用は、一体どれくらいかかるのでしょうか。

一から計算して設計できる新築と違い、中古一戸建ては1棟ごとに立地や間取り等が異なります。さらに古い一戸建ては部屋が細かく分かれているなどするので、やはり現代の暮らしに合わせた間取りに変更しなければなりません。

三重の事例(写真提供/YKK AP)

三重の事例(写真提供/YKK AP)

三重の事例(写真提供/YKK AP)

三重の事例(写真提供/YKK AP)

だからといって、性能向上も間取り変更も、ある意味“思う存分に”やってしまうと費用がうなぎ上りに。いくら耐震や断熱性能が向上するからといって、費用があまりにもかかるのであれば誰もやりたいと思わないでしょう。

「性能を向上させつつ、いかに費用を抑えるかも、我々のプロジェクトでは重要な要素でした。プロジェクトを経た結論として、新築の基準を大きく超える性能に向上させて、かつ暮らしやすい間取り等に変えるための費用は、規模に大きく左右はされますが、概ね2000万円前後だとわかりました」と西宮さん。

「これなら同性能の新築一戸建てを、同じ場所に建てるよりは安く抑えられます。それに、今から新築一戸建てを建てる場合、駅から徒歩15分などの立地が多いのですが、中古一戸建てなら徒歩2~3分の空き家が見つかることも。これからは新築よりも立地条件が良くて、性能の高い一戸建てにリノベーションできる中古物件が増えてくると思います」

また、親族の残した一戸建ての性能を向上させた人は“愛着”がある分、2000万円以上の費用をかける傾向があるそうです。

さらに最近は、生活の中心になるゾーンだけ断熱を行う「ゾーン断熱」を選択する人も増えているのだとか。「住宅全体の耐震&断熱向上リノベーションを図る方々は、だいたい30代~50代です。対して70代以上は断熱のみ “ゾーン断熱”を選ぶ傾向があります」

■ゾーン断熱のイメージ

日常的に長い時間を過ごす場所、行き来することでヒートショックなど健康リスクの高い水まわり・廊下などを含めた生活空間を断熱リフォームする

日常的に長い時間を過ごす場所、行き来することでヒートショックなど健康リスクの高い水まわり・廊下などを含めた生活空間を断熱リフォームする

子育てを終えた二人暮らしの高齢者が、2階建ての住宅全体を断熱するよりも、生活の中心である1階部分のみなどを“ゾーン断熱” するというイメージです。これなら費用を抑えつつ、人生最後の時間のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることができます。

まずは耐震性能や断熱性能についての知識を得ることから始めよう

ところで、先述のようにリフォームの施工例によってバラツキがあるのはなぜでしょうか。

理由の1つは、施主側が耐震や断熱についてあまり詳しくないことがあります。施主側から具体的な数値等を求めず、施工会社も、例えば断熱で言えば「冬は暖かく夏は涼しくなります」など方針に合意できればスムーズに商談が進んでいくことでしょう。施主の示した予算内で最大限の性能向上を図ればいいので施工する側も、あまり詳しくなくても商売になります。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「あるいは、事業者としては性能向上の技術は知っていても、“そうなれば費用が膨らむが、どうやって施主に説明すればいいのかわからない”など、勧める際のさまざまな課題があります。そこで私たちは、事業者向けに2021年10月に“性能向上リノベの会”を立ち上げました」(西宮さん)

この会では性能向上リノベーションを行いたいと思う事業者に対して、次の4つの役割を果たします。

①技術サポート。対象となる住宅の築年数と目指す性能を入力することで、コストイメージと工事内容が一目でわかる早見表や、現場調査で漏れがないようにするチェックリストといったツールの提供です。

②業務サポート。耐震性能、断熱性能の計算、補助金申請、太陽光発電設置など、専門知識が必要になる業務のサポートです。施工会社が、必要に応じて専門企業とスムーズに業務提携できる仕組みを提供しています。

③営業サポート。施主側に対する同会の取り組みを周知することです。一例として、同会に参画している事業者が自慢の「性能向上リノベ物件」をエントリーする「性能向上リノベ デザインアワード」があります。評価された施工事例は性能を数値化して1冊の本にまとめられ、販売されています。

④ネットワーク。大学教授や専門家によるセミナーを通じて知識のアップデートを通じて会員の知識をアップデートしてもらうための取り組みです。また会員の手がけた施工事例を訪れて、質問できる見学会などもあります。

事業者同士の交流や、技術的ノウハウの習得などに役立ててもらえるように、同会では現場見学会を適宜開催している(写真提供/YKK AP)

事業者同士の交流や、技術的ノウハウの習得などに役立ててもらえるように、同会では現場見学会を適宜開催している(写真提供/YKK AP)

現在、この「性能向上リノベの会」に参画している事業者は約500社。“性能向上リノベ”に賛同したのは施工会社だけでなく、断熱材をつくっているメーカーや「いくら性能を高めても、白アリに喰われたらお終い、と防蟻会社も参画してくれました」

今後は高齢者の屋内事故を減らすための取り組みや、既存の賃貸物件の性能向上にも取り組みたい、と西宮さん。また「高性能な中古一戸建てを一般消費者に勧めるために、買取再販などを手がける不動産会社の参画を促していきたいですね」
このように、「性能向上リノベの会」の活動が進むほど、全国各地に「性能向上リノベ」された一戸建てが増えていくはずです。

確かに現状は、耐震性能や断熱性能が新築に劣る一戸建てで暮らしても、目に見える不具合は感じないかもしれません。しかし悲惨な地震の映像から目をそらして、光熱費の請求書を見てため息を漏らしているなら、まずは「性能向上リノベの会」などの施工事例を見たり、遅くとも2030年までに義務化が予定されている断熱等級5とは?を調べてみることから始めてみませんか。

●取材協力
YKK AP

省エネになる「木製内窓」に熱視線! 後付けもOK、樹脂や金属の窓枠と何が違う?

コロナ禍での経済活動の再開、おうち時間が増え、住環境の見直しをする人が増えています。住まいの省エネには窓のリフォーム、特に高性能な内窓の取り付けが効果的と言われています。そんななか、YKK APが木材・木建具事業者による木製内窓の商品化の支援を2021年に開始し、話題になっています。樹脂やハイブリッド(アルミと樹脂の複合)などとの違い、取り組みの背景などについて紹介します。

YKK APの窓の部材・部品を使って木製・建具事業者が自社ノウハウで製品化

今すでにある窓の内側に、もう一つの窓を取り付ける「内窓」。工事も簡易で、グリーン住宅ポイント制度や自治体の補助金などができるたびに話題になっていますが、昨今は光熱費の高騰などを背景に、「省エネになるらしい」「家の光熱費の節約にいいらしい」などとして、興味や関心を持つ人が増えています。

左はアルミ樹脂複合窓、右は樹脂窓(写真提供/YKK AP)

左はアルミ樹脂複合窓、右は樹脂窓(写真提供/YKK AP)

窓のサッシ(枠)の素材といえば、樹脂またはハイブリッド(アルミと樹脂の複合)が主流ですが、国産木材を使った、「木製内窓」にも関心が集まっています。高い断熱性能を持つ木製内窓を取り付けることで、元からある窓と付けた内窓の間に断熱効果のある空気層ができ、さらに木材のサッシは金属性に比べ熱を伝えにくいことから、より断熱効果を高めてくれます。木製内窓のメリットは大きく4つで、(1)断熱性が高まる(2)結露の軽減、(3)光熱費の節約、(4)木製素材ならではのあたたかみ、デザイン性があげられます。一方で、(1)価格が高くなる、(2)窓に求められる断熱や耐候性、おさまり(部材が美しく取りつけられた状態)などを確保するのが難しいといった難点があり、なかなか普及に至りませんでした。

今回、木製内窓を開発・発売したのは岐阜県岐阜市にある後藤木材で、その商品化を支援したのがYKK APです。YKK APといえば超大手、高性能な樹脂サッシを取り扱っていて、過去には木材を使った窓を生産していたこともあるといいます。今回、自社での開発でなく、木製内窓の商品化を支援する立場として“木製・木材加工のプロ”へ専用の部材・部品を開発し提供することに至った背景には、どのような理由があるのでしょうか。

木製内窓(写真提供/凰建設 森亨介さん)

木製内窓(写真提供/凰建設 森亨介さん)

「日本は森林資源も豊富にあり、木材は再生可能な材料でもあります。弊社でも活用を図ってきましたが、木材の調達加工、品質を確保しつつ製品化となるとやはり難しい。窓のことならすこしは得意なんですが(笑)、木材加工のプロである後藤木材さんに相談にいき『木材サッシ、木製の製品化にどうやって取り組むのがよいか』とヒアリングをしていたところ、『後付できる内窓をつくってみませんか?』という話になりました。こうした取り組みは初めてですので、お互いに手探りではじまったんです」と話すのはYKK APの住宅本部 住宅事業推進部商品企画部部長でもある山田司さん。

3年ほどの試行錯誤の末、YKK APが窓に必要な複層ガラスや部品や部材、ノウハウを提供し、後藤木材は独自の圧密技術(圧力をかけて木の強度を高める)の強みを活かして木材の調達や加工、組み立て、取り付けまでを行うという事業の枠組みができあがりました。
「YKK APが表にでるのではなく裏方になって、地方にたくさんある木材を扱う会社と組み、ネットワークを広げることが木製内窓にとってもよいのでは、という結論になりました」(山田さん)

木製内窓の提供イメージ。窓に必要な部品、部材、情報提供はYKK APが行い、木材加工ノウハウをもつ木材建具事業者が製品化する(画像提供/YKK AP)

木製内窓の提供イメージ。窓に必要な部品、部材、情報提供はYKK APが行い、木材加工ノウハウをもつ木材建具事業者が製品化する(画像提供/YKK AP)

木材・建具会社など13社から問い合わせ。試作品を製作した会社も

最近では伝統工芸×おもちゃなど、異なる業種・業態のコラボ商品やサービスを目にすることが増えましたが、今回の木製内窓は、「それぞれのプロフェッショナルが得意分野を活かす」という、ある意味で、「王道のコラボ」といえるかもしれません。YKK APは今回のビジネスモデルを後藤木材だけでなく、全国の木材加工・建具企業にも応用していきたいと考えているそう。

「2021年7月にプレスリリースを発表しましたが、13社から問い合わせがあり、6社が商品化を検討、1社が試作品の段階に来ています」と前出の山田さん。
驚いたのは、木材加工だけでなく、建具や家具といったいわゆる工芸品の会社からの問い合わせがあったことだそう。確かに欧米のインテリアと比較した場合、窓のデザイン面では現在の内窓は物足りなさを感じてしまうのが現状です。さまざまな木材加工のノウハウを持つ会社が木製内窓に参入することで、技術面や価格面でも新しい発見があることでしょう。

窓次第で部屋の雰囲気はぐっと変化する(写真提供/YKK AP)

窓次第で部屋の雰囲気はぐっと変化する(写真提供/YKK AP)

「窓辺を美しくしたいという潜在的な需要はありそうですし、何より日本には豊富な森林資源があります。1社で完結するのではなく、他社と強みを活かしつつ、窓の高性能化、断熱化を図っていけたらいいですね」と続けます。

10cmあれば取り付け可能。極薄で高性能な「木製サッシ」

一方、部材の提供を受け、木製内窓の開発にあたった後藤木材の後藤栄一郎社長と内外装事業部上條武さんは、地元の工務店である凰建設の森亨介専務とともに、数年前から木製サッシの製品化に興味を持っていたといいます。

「弊社は杉・ひのきという柔らかい木を複数層重ねて圧縮して強度を増す独自の技術を持っており、床材、テーブルカウンターなど幅広い用途で商品展開をしてきました。また、ユーザーと接点を持つ工務店の意見を聞きたいと、数年前から森さんとも懇談・勉強を重ねてきました。以前に木製窓をつくったこともあったんです」(後藤社長)。

とはいえ、木製サッシを自社のみでつくるのは容易ではなく、風圧や遮音、気密、断熱といった性能については、森さんにリスクを負ってもらうかたちとなり、性能面でもしっかりとしたものを世に送り出したいという思いを抱いていたそう。

「今回、内窓の製品化にあたっては、富山県にあるYKK APの技術施設に行き、木製内窓の試作品確認会や検証試験を行い、強度、施工のしやすさ、おさまり、断熱、防音など徹底的に試験でき、樹脂の内窓と同程度の性能が担保できました」(上條さん)といい、胸を張って送り出せる「木製内窓」が完成したそう。

驚くべきはその薄さで、なんと10cm! 自然素材である木材は節などがあるため、薄くて強度を出すのは容易ではないそう。一方で、10cmという薄さを担保したことで、既存のマンションや一戸建ての窓に施工しやすく、多くの窓に取り付けることができ、見た目にも美しく収まります。

断熱性や気密性といった性能面、薄さを両立(写真提供/後藤木材)

断熱性や気密性といった性能面、薄さを両立(写真提供/後藤木材)

「完成した内窓を今回、我が家で取り付けましたが、施工時間や手間などは樹脂の内窓とほぼ変わりません。なれてくれば1窓1時間あれば施工可能になりそうです」(森さん)

木製内窓を組み立てる様子。10cmと薄いため、マンション/戸建てともにおさまりのよい商品に。木枠ってやっぱり見ていて惚れ惚れします……(写真提供/後藤木材)

木製内窓を組み立てる様子。10cmと薄いため、マンション/戸建てともにおさまりのよい商品に。木枠ってやっぱり見ていて惚れ惚れします……(写真提供/後藤木材)

欧米の高性能窓に遜色なし。日本の技術を集めた窓に木製内窓を取り付けたところ。YKK APが誇る高性能樹脂窓「APW430」と遜色ない断熱性の数値を出せるそう(写真提供/凰建設 森亨介さん)

木製内窓を取り付けたところ。YKK APが誇る高性能樹脂窓「APW430」と遜色ない断熱性の数値を出せるそう(写真提供/凰建設 森亨介さん)

左側が内窓を取り付けていない箇所、右側が内窓を取り付けた箇所のサーモ画像。左側の窓は青みが強く、右側の窓は緑色になっていて、温度に差があることがわかります。「暮らしがてきめんに変わったということはありませんが、気がつくと快適」(森さん)といいます(写真提供/凰建設 森亨介さん)

左側が内窓を取り付けていない箇所、右側が内窓を取り付けた箇所のサーモ画像。左側の窓は青みが強く、右側の窓は緑色になっていて、温度に差があることがわかります。「暮らしがてきめんに変わったということはありませんが、気がつくと快適」(森さん)といいます(写真提供/凰建設 森亨介さん)

木製内窓の第一号は、ともに研究をしてきた森さん宅の住まいに設置。もとから木のぬくもりを感じる住まいでしたが、木製内窓が違和感なくなじみ、「元からこのような住まいだったのでは?」と見紛うほど。

「住んでしまうとすぐに慣れてしまい以前との差が分かりにくいのですが、朝晩の冷えは気にならなくなりましたし、やはり常に快適です。また、既存の窓と内窓をあわせるとYKK APさんのトリプルガラスのAPW430を上回る熱貫流率0.84w/(平米・K)の性能が出せるように。木製の内窓でここまで性能値を出している商品はないので、自信をもっておすすめできます」と森さん。

ちなみに、森さんがこの木製内窓と相性がよいと考える住まいは、(1)既存~新築マンション、(2)2005年~最近に建てられた一戸建て、(3)防火地域に建てる新築一戸建てだそう。

「特に(1)マンションの場合、窓部分は共用部のため、個人で簡単には窓を取り換えることができませんが(新築・中古ともに)、こうした内窓であれば取り付けやすいでしょう。マンションは躯体自体の断熱性は高いものの、北側は底冷えしたり、直射日光を強く受ける夏場は冷房効率も悪くなるので、弱点ともいえる窓の部分を対策するのにお金をかける価値は十分にあることでしょう」

(写真提供/凰建設 森亨介さん)

(写真提供/凰建設 森亨介さん)

「現在13社から問い合わせがありますが、木製内窓の商品化支援を進め、もっとつながりをつくっていきたいですね。後藤木材様をはじめ、今後、商品化される事業者の技術やノウハウを蓄積・共有することで、生産性向上やコストダウンにもつなげていただきたいと思います。また、森林資源の活用をして、地域活性化にもつなげていただきたいと思います」(山田さん)

後藤木材の後藤さんも、地域活性、森林資源の活用を課題に挙げます。
「戦後に植林された木材は今、使い時を迎えています。1本の丸太からさまざまな製品をつくりたいですし、地域で使って、地域にお金を落としていきたい。今回のように業界や会社の垣根を超えて、知恵を出していけたら」といいます。

森さんは、「今回の内窓のように大勢の人が集まっていいものをつくっても、住まいに採用されなかったとしたらあまりにさみしいので(笑)、まず知ってもらうこと、そして体感してもらうことが大切だと思います。日本の住まいの高断熱化は、本当に窓がカギとなっているので」と力説します。

今年は、「こどもみらい住宅支援事業」がはじまり、記事で紹介した内窓「ゴトモクのウチマド」を使ったリフォームも補助対象となっています。もし、「家が寒い」「光熱費が高い」と気になっているのであれば、この木製内窓、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。ちなみに我が家は2012年築、省エネ等級4ですが、この冬の電気代は3万円を超えました。今、真剣に検討中です。

●取材協力
YKK AP
後藤木材
凰建設 

おしゃれだけじゃない!最先端の“性能向上リノベ“で新築以上の耐震性や断熱性を手に入れる

中古マンションや一戸建てをオシャレに変えるリノベーションという選択肢はすっかり浸透してきたが、住宅性能は中古のまま……ということは珍しくない。しかし、元の住宅よりも「性能向上」をさせるリノベーションが最近注目を集めている。全国でそのプロジェクトに取り組むYKK APリノベーション本部の西宮貴央さん、4月に完成した「鎌倉の家」に不動産事業者として携わった浜田伸さん、リノベーションコンサルティングの黒田大志さんに話を聞いた。
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」で住宅性能の向上が脚光を浴びている

鳥のさえずりが心地よい神奈川県鎌倉市内の高台にある「鎌倉の家」。フルリノベーションされた築46年の民家だ。南側の道路に面したガレージの横にある階段を上り、玄関を開けると、水まわり部分を除けばほぼワンルームという広い空間が広がる。施主のライフスタイルに応じていかようにも仕切られたり、生活しながらインテリアを施主の好みに仕上げられる、こうした令和の時代に即したモダンな間取りや内装の仕上げについ目を奪われがちだが、「鎌倉の家」 の一番のウリは「一年中快適に過ごせる断熱性の高さと、ずっと安心して暮らせる耐震性の高さ」にある。

リノベーション前(写真提供/YKK AP)

リノベーション前(写真提供/YKK AP)

レッドシダー(北米のヒノキ科針葉樹)のサイディングに、既存の銅葺きを補修した屋根、大きな窓のコントラストがモダンな「鎌倉の家」(写真撮影/桑田瑞穂)

レッドシダー(北米のヒノキ科針葉樹)のサイディングに、既存の銅葺きを補修した屋根、大きな窓のコントラストがモダンな「鎌倉の家」(写真撮影/桑田瑞穂)

間取り

断熱性能はHEAT20のG2グレードを満たすUa値0.39。これは国の省エネルギー基準で言えば北海道に推奨されているものよりも高いレベルで、断熱先進国のドイツ並みの断熱性能であることを示している。一方、耐震性能のほうも上部構造評点1.61。新築住宅の耐震等級で言えば最も高い等級3に相当する。

実は最近、こうした「住宅の性能を向上させるリノベーション」に注目が集まっている。きっかけは、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」での受賞だ。「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」とは優れたリノベーション事例を表彰する制度で、「鎌倉の家」を手がけたYKK APが、「鎌倉の家」より前に全国5カ所で取り組んだリノベーションに対し、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」無差別級部門の最優秀作品賞が贈られた。

翌年の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2020」でも、同様に省エネ性能を高めた古民家が1000万円以上部門で受賞している。もはや「今の時代に即した間取りにする、空間をおしゃれにする」のはマストで、これからのリノベーションに求められることは「本当に“快適”と呼べる住宅まで性能を向上させる」ことだと示唆するように。

実際、「鎌倉の家」を購入した夫妻は、住宅の性能の高さが決め手となったそうだ。海外旅行を年に1回楽しむなど、自分たちのライフスタイルを大切にしたい、そのためには家の購入費用を抑えたいと考えていた二人は、新築ではなく中古住宅を購入してリノベーションすることを検討していた。そんな時に見つけたのが「鎌倉の家」だった。正直、当初の予算よりは少し増えたそうだが、それでも「鎌倉の家」の性能の高さに惹かれたという。

リノベーション前の1階リビングルーム(写真提供/YKK AP)

リノベーション前の1階リビングルーム(写真提供/YKK AP)

リノベーション前の1階キッチン(写真提供/YKK AP)

リノベーション前の1階キッチン(写真提供/YKK AP)

リノベーション後の1階のリビングダイニングキッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

リノベーション後の1階のリビングダイニングキッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

1階は既存の洋室+和室+廊下部分をワンルームに間取りを変更(写真撮影/桑田瑞穂)

1階は既存の洋室+和室+廊下部分をワンルームに間取りを変更(写真撮影/桑田瑞穂)

使える梁や柱はそのまま使用されている(写真撮影/桑田瑞穂)

使える梁や柱はそのまま使用されている(写真撮影/桑田瑞穂)

実は日本は“断熱性後進国”、しかも地震が多い国

YKK APでは、住宅の断熱性能と耐震性能を向上させるリノベーションを「戸建性能向上リノベーション」と呼んでいる。同社のリノベーション本部の西宮貴央さんは「我々の主力商品である窓やドアなどの開口部は、断熱性や耐震性を高める際の要です。例えば家の熱の出入りは、窓やドアなど開口部が一番大きいのです。そのため従来から断熱性の高い窓やドア、耐震性能を高める商品を開発してきました」

一方で、今後の人口減少が見込まれる中、既に住宅総数が世帯総数を上回っていることを考えると既存住宅をきちんと手入れして、次の住民が快適に長く住める家にすることが重要だ。「そうした時代背景もあり、我々の『戸建性能向上リノベーション』のプロジェクトが始まりました」(西宮さん)

左から、「鎌倉の家」のリノベーションコンサルティングを手掛けたu.company株式会社の黒田大志さん、不動産事業者として関わった株式会社プレイス・コーポレーションの浜田伸さん、YKK APリノベーション本部の西宮貴央さん(写真撮影/桑田瑞穂)

左から、「鎌倉の家」のリノベーションコンサルティングを手掛けたu.company株式会社の黒田大志さん、不動産事業者として関わった株式会社プレイス・コーポレーションの浜田伸さん、YKK APリノベーション本部の西宮貴央さん(写真撮影/桑田瑞穂)

2017年からスタートしたこのプロジェクトは、最新の「鎌倉の家」で16例目。北海道から神奈川、長野、鳥取、京都、兵庫、福岡……と全国各地で「戸建性能向上リノベーション」が行われている。

「最初は東京都の下北沢の事例でした。確かに断熱性や耐震性をもとの住宅より高めるリノベーションはこれまでにもあったとは思いますが、我々は断熱性ならHEAT20のG2レベル、耐震性は耐震等級3相当と具体的な数値目標を掲げて始めました」(西宮さん)

断熱性も耐震性も、「高い」といった抽象的な表現より、具体的な数値を示されたほうが説得力はある。しかも国の省エネルギー基準や、国が最低限求めている耐震等級1相当よりも高い基準値をクリアしているとなればなおさらだ。また将来手放す際においても性能が可視化(それも高いレベルで)できるため、家の価値も高いままで売ることが期待できる。

道路から一段高く、庭もあるため、南側に大開口の窓を備えてもプライバシーを確保しやすい。窓の周りの壁にはYKK APの耐震フレーム(フレームⅡ)が入っている。さらに手前の大きな柱に見える部分も耐震フレームで、この写真だけで耐震フレームが4つ備わっていることになる(写真撮影/桑田瑞穂)

道路から一段高く、庭もあるため、南側に大開口の窓を備えてもプライバシーを確保しやすい。窓の周りの壁にはYKK APの耐震フレーム(フレームⅡ)が入っている。さらに手前の大きな柱に見える部分も耐震フレームで、この写真だけで耐震フレームが4つ備わっていることになる(写真撮影/桑田瑞穂)

実は日本は“断熱性後進国”だ。本来、家の断熱性能を高めるには同時に気密性を高める必要がある。しかし『徒然草』にも書かれているのだが、昔から蒸し暑い夏のある日本では、気密性を高めるのとは逆に、開口部を大きく開けることで風通しをよくすることが重んじられてきた。そのため日本人は「夏は暑い、冬は寒い」ものとして、住宅の断熱性をあまり気にしなかった。

やがて世界の国々と比べて日本の省エネルギー基準は遅れを取り、現在ではドイツやアメリカ、中国よりも低い基準となってしまった。しかもヒートアイランド現象や近年の地球温暖化の影響で、『徒然草』の書かれた約700年前のように窓を開放しても、今や体温と同じ、あるいはそれ以上の温度の空気が入ってきて、ちっとも涼しくなどなくなっている。

そこで地球温暖化やエネルギー問題に対応するため「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」が2009年に発足した。この組織の略称が「HEAT20」で、住宅の省エネルギー化を図るため、研究者や住宅・建材生産者団体の有志によって構成されている。以前、SUUMOジャーナルでもご紹介したように、HEAT20で推奨している省エネ基準は、断熱先進国と呼ばれるヨーロッパとほぼ同じ世界トップレベルで、近年自治体が独自に採用し補助金制度を導入する例もある(「日本の省エネ基準では健康的に過ごせない」!? 山形と鳥取が断熱性能に力を入れる理由)

耐震性にしても、開口部が大きければ当然建物を支える力は弱くなる。1981年に新耐震基準が施行され、2000年にその改正が行われたが、その最低基準である耐震等級1は阪神・淡路大震災レベルの大地震でも「倒壊しないこと」が求められている。しかし要は「命が助かること」を最優先しているため、壁にヒビが入ったりして、損傷の度合いによっては住み続けることが難しくなる。

窓はYKK APの高断熱の樹脂窓、ドアも断熱性の高いものが使用されている。また壁には断熱材(グラスウール)がたっぷりと入れられた(写真撮影/桑田瑞穂)

窓はYKK APの高断熱の樹脂窓、ドアも断熱性の高いものが使用されている。また壁には断熱材(グラスウール)がたっぷりと入れられた(写真撮影/桑田瑞穂)

これが等級3になると、ダメージが少なくなるため、地震後も住み続けやすい。ちなみに災害時の救護活動の拠点となる消防署や警察署は等級2以上が必須だ。

新築ではなく、リノベーションだからこその課題が多い

世界トップレベルの断熱性能を備え、地震の多い日本で安心して過ごせる耐震性能のある住宅。しかし、既存住宅でこれらの性能を世界トップレベル等に押し上げるのは実は容易なことではない。イチから断熱性能と耐震性能を計算できる新築住宅と違い、既存住宅の性能は住宅ごとに千差万別。加えて既存住宅のリノベーションする際に、現代の暮らしに合わせるため間取り変更はほぼ必須といえる。

「立地条件、既存住宅の性能、リノベーション後の間取り……それらの評価を正しく判断した上で、何をどんな風に追加すれば基準をクリアできるか計算しなければなりません」とは同プロジェクトをYKK APとともに推進し、「鎌倉の家」のリノベーションコンサルティングを担当した黒田大志さん。しかも単純にそれぞれを高めるだけでは、コストがあっという間に跳ね上がる。いかにコストを抑えて性能を高めるかも肝心だ。

1階北側はドアで仕切ると東と西側にそれぞれ個室として利用できる。またそれぞれの個室の間は大きなクローゼットにするなどのフリースペース。リモートワークなど新しい生活様式にも対応する間取りだ(写真撮影/桑田瑞穂)

1階北側はドアで仕切ると東と西側にそれぞれ個室として利用できる。またそれぞれの個室の間は大きなクローゼットにするなどのフリースペース。リモートワークなど新しい生活様式にも対応する間取りだ(写真撮影/桑田瑞穂)

階段は従来よりも北側に新たに設置された。床はオークの無垢材。手入れを施主に楽しんでもらうことで、住宅に愛着をもってもらおうと、あえて無塗装での引き渡しとなる(写真撮影/桑田瑞穂)

階段は従来よりも北側に新たに設置された。床はオークの無垢材。手入れを施主に楽しんでもらうことで、住宅に愛着をもってもらおうと、あえて無塗装での引き渡しとなる(写真撮影/桑田瑞穂)

3部屋あった2階もこのようにワンルーム化されている。ただし、既にドアが用意されていて、ライフスタイルの変化に応じて容易に3部屋に仕切ることができる(写真撮影/桑田瑞穂)

3部屋あった2階もこのようにワンルーム化されている。ただし、既にドアが用意されていて、ライフスタイルの変化に応じて容易に3部屋に仕切ることができる(写真撮影/桑田瑞穂)

新たに用意されたバルコニー。屋根がついているので、どんな時間でも周囲の森から聞こえる鳥のさえずりを聞きながら、のんびりとしたひとときを過ごすことができる。晴れた日は富士山も見える。ダウンライトや電源も備えられているので、BBQなど用途に応じて使いやすい(写真撮影/桑田瑞穂)

新たに用意されたバルコニー。屋根がついているので、どんな時間でも周囲の森から聞こえる鳥のさえずりを聞きながら、のんびりとしたひとときを過ごすことができる。晴れた日は富士山も見える。ダウンライトや電源も備えられているので、BBQなど用途に応じて使いやすい(写真撮影/桑田瑞穂)

「プロジェクトを始めた当初は、こうした技術的要素の検証と、そもそも『性能を向上させた既存住宅』に対するニーズがあるのか、それはビジネスモデルとして成り立つのかという検証からスタートしました」(西宮さん)

例えば断熱性能はエリアによって、あるいは南向きか北向きかなど立地条件によっても変わる。同じHEAT20のG2レベルでも、北海道と九州では数値が異なる。だからこそ、これまで検証を兼ねて取り組んだ16事例は全国各地に点在しているのだ。

こうして行われた技術的検証によって「技術ノウハウの確立や、課題の洗い出しなど、ある程度の検証ができました」(西宮さん)という。同じ立地で、同じ大きさの同じ性能を有する建替えよりも販売価格を抑えられることにビジネスモデルとしても手応えを感じているようだ。

一方、見えて来た課題の中で特に大きいのが「施工する業者の断熱性に対するリテラシーがバラバラだということです」(黒田さん)。同プロジェクトとしてはもっと事例を増やしたいのだが、対応できる施工業者がまだまだ少ない。

従来の方法で十分商売ができた施工業者の中には、なぜ断熱性能をそこまで上げる必要があるのか、そもそもどうやって上げればよいのか、知らない人がいても不思議ではない。
「性能を向上させるリノベーションの知識を持つ設計士や建築会社、販売する不動産会社をもっと増やして、全体を底上げしなければなりません」(黒田さん)

「鎌倉の家」の壁断熱の工事の様子(写真提供/YKK AP)

「鎌倉の家」の壁断熱の工事の様子(写真提供/YKK AP)

例えば自宅や、購入したい中古住宅の性能を向上させるリノベーションを考えても、身近にそれを叶えてくれる施工会社などがいなければ、なかなか「G2レベル」や「耐震等級3相当」まで性能を向上させることは難しいのだ。

「鎌倉の家」に不動産事業者として携わった浜田伸さんは「自社で物件を仕入れて、リノベーションして、販売するのが我々不動産事業者の仕事。また建築士や施工会社と比べて、エンドユーザーに一番近い立場です。購入した中古住宅の性能を向上させることで再価値化し、自信をもってお客さまに勧めることができます。ですから不動産事業者が率先して推進するべきじゃないかと思います」という。

さらに、我々エンドユーザーの意識も変わるべきなのではないだろうか。冷暖房費を今より約38%削減してくれ、大きな地震に遭っても住み続けることのできる住宅。税制優遇や補助金、地震保険料の割引など数々のメリットも生まれる『戸建性能向上リノベーション』。少なくとも「夏は暑く、冬は寒い」のは、世界レベルでみたら“当たり前ではない”ことに、早く気付くべきだろう。

●取材協力
YKK AP

YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]

私が住宅雑誌の編集長時代から、多くの経営者にお話を伺ってきたなかで最も“人”として関心を引かれたのがYKKとYKK AP前会長(現両社取締役)の吉田忠裕さん(「吉」は、正しくは下が長いつちよし)。YKK AP社は窓などの建材メーカーであるが、本体YKK社はファスナーの世界的メーカー。早くからインターナショナルな視点をもち、ファッション業界の荒波にも揉まれた経験が、日本の住宅業界では異質な輝きを放っていた。

6月に会長職を退かれた吉田さん。そのバックグラウンドと最近の暮らしぶりを探るべく、YKK総本山の富山県黒部市に伺った。

連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。グローバル企業のリーダーを引退、富山県黒部での新生活

東京が本社のYKKですが、製造・開発など“技術の総本山”と位置付けられているのが富山県黒部市。創業者・吉田忠雄氏の生まれ故郷・魚津市の隣町というご縁。

東京から北陸新幹線に乗って約2時間半、黒部宇奈月温泉駅に到着。お宅訪問の前に、YKKセンターパークへ伺った。

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

富山県や黒部の紹介映像が上映されるシアターは迫力満点(実はテーマソングを歌っている歌手は、吉田さんのご息女!)展示ゾーンでは、ファスナーの仕組みや窓の機能など、子どもでも楽しく学べるようになっています。

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

そんな中でも私が一番感動したのは、「創業者 吉田忠雄ホール」。忠雄氏の生い立ちや起業の歴史、その功績を映像や肉声で知ることができます。
『善の巡環』(自社の利益だけを考えることなく、お客様/社会・取引先とともに繁栄してゆく)を唱えた忠雄氏。この時代の創業者の人生に触れると頭が下がり、「私も頑張ろう!」という気持ちにさせてくれます。

自然の力を利用して暮らす『パッシブタウン』、理想の街づくりに挑戦中

さて、その創業者の志を継ぐ吉田忠裕前会長のお宅がある、『パッシブタウン(PASSIVETOWN)』へと向かいます。

2016年に第1期街区(36戸)が竣工し、現在第3期街区まで入居済み。2025年までには約250戸が完成予定のプロジェクト。これを構想し、推進しているのが吉田さんご自身なのです。

日本海沿岸で沖から吹く夏のそよ風『あいの風』や、立山連峰からの豊富な地下水など富山の自然を利用したパッシブエネルギーで、エネルギー消費の少ない街・住まいを実現する実証実験を、吉田さんご自身で住まいながら研究されています。

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

東京から黒部への本社機能一部移転に伴い社員寮や社宅の整備も必要であったことから、その跡地で計画が始まったようですが、今は一般の方も入居する人気の賃貸住宅となっています。

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第3期街区J棟とK棟(設計:森みわ氏)は、既存の社宅をリノベーションしたもの。資材削減のストック活用であり、減築によって屋上庭園を設けるなどの工夫が評価され、日本で初めてLEED※ Homes Awards 2017の最高位を受賞しました。
※LEED(Leadership in Energy & Environmental Design) 米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発・運用する環境配慮建築やエリア開発の認証システム

吉田さんは、第1期ー3期街区すべての住戸を住み渡り、現在は第2期街区にお住まいです。最近は神奈川のご家族との本宅と、こちらを半々程度の生活の様子。単身、どんなお宅になっているのでしょう。

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

1階のインターホンで呼び出すと、吉田さんが降りてきてお出迎えくださいました。

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

ご案内いただいたお住まいは、70平米ほどの1LDK。開口部がふんだんに取られた明るいリビングルームでお話を伺いました。

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』は建築後にエネルギー削減目標が実現できているか、住人の住み心地はどうかなどを第三者の専門家が調査する『パッシブタウン性能評価プロジェクト』を実施しているそうです。取材当日も、評価プロジェクト委員会の専門家たちが東京から訪れて、住人と意見交換をしていたようです。

「私は事業主であり、住人であるという両方の立場ですが、いつも委員会に参加して双方の貴重な意見を伺っています」と、吉田さん。

立山連峰を眺めながら、企業として個人として何ができるか考える

『パッシブタウン』のプロジェクトを構想された経緯をお話してくださいました。

「創業当時からYKKの本社は東京でしたが、工場や研究開発を黒部に集約してきました。海外では本社を中心地に置かず、流通面や住環境の良い街を選んできたので、日本の東京一極集中をいろんな意味から回避したいと考えていました」

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん (写真撮影/片山貴博)

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん
(写真撮影/片山貴博)

「黒部へ東京から社員が異動して問題だったのは、大きな戸建てはあっても住み慣れた大きさのマンションが無いことだったんですよ。
そんな最中の2011年に東日本大震災が起こり、エネルギー問題に直面したのも当プロジェクトのキッカケ。富山の自然を活用したパッシブデザインにより、エネルギー消費量を抑える住まい方に挑戦しようと思ったのです」

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

それぞれ街区ごとに違う建築家を採用しながら、その知恵を出し合うプロジェクト運営をされていますが、全戸で外断熱システムなどの構造とともに効果を上げるのが、YKK APの樹脂窓『APW』シリーズの高断熱窓。

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

「机や椅子、鞄も好きなんだよ」黒部宅ではパーソナルデスクが“男の書斎”

今回は特別に寝室にある、お気に入りデスクまで見せてくださった。

米国人デザイナー、ジョージ・ネルソンのライティング・デスク&チェアー『Swag Leg シリーズ』(ハーマンミラー社)。スーツ&シャツはイタリア製しか着ないのに、アメリカ家具を選ぶところが吉田さんらしい!

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』での吉田さんの暮らしを垣間見ることができましたが、実は黒部生活の本題はここから!
「黒部でヤギ牧場をやっている」と以前から伺っていて、遂に、その現場へご案内いただくことになりました。

“Think globally, Act locally”を、ここ黒部で実践

「引退しても、何か没頭できる仕事が欲しいと考えていた」ところに、黒部牧場を再生する機会に遭遇したそう。

「富山湾は魚の宝庫、なので山側にも何か観光レジャーになるものがあっても良いと思ってね。チーズが好きなのでヤギ牧場を始めて、黒部で世界に誇れる六次産業をやってみようと思ったわけ」

早速、吉田さんの運転で助手席に乗せていただき牧場へ向かいます。

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

ちなみに、吉田さんは社長・会長時代も役員車を使わずに、東京本社へ神奈川の自宅から1時間半かけて電車通勤。「電車のほうが早いし効率が良い」と。その上、お酒を飲まない吉田さんは「社員に、僕が送るから飲んで良いよって言うんだ」と話します。黒部では本当に社員を送ったりもするそうです。
創業社長の跡取りに育ちながら、分け隔てなく合理的に物事を考える、この姿勢には驚かされます。

20分ほど山に向かって走り、『くろべ牧場 まきばの風』に到着。

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

YKKとは全く関係なく、ファミリービジネスとして牧場を一から始めるって……凄い発想。吉田さんは、やっぱりアメリカ的。米国人サラリーマンの夢は、牧場をもつことって良く聞きますから。
「ブラジルの農園は……スイスのバスや鉄道は……ドイツの再生可能エネルギー政策は……」と次々出てくる世界の話は、吉田さんの実体験による生きた知恵。
それを、黒部で活かす。これこそ真の“Think globally, Act locally”

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

われわれ取材班も長靴に履き替えて、ヤギ牧場見学へ。吉田さんは、赤いMyキャップを被って牧場主に変身!

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

米国大統領といえば、故ジミー・カーター大統領とは州知事時代からのお付き合い。何と1977年大統領就任式に吉田さんのお父様とお母様は特等席で臨席されたというお話でした。

ヤギは100頭から200頭。生まれては育て、ほかへ譲ったりもしながら徐々に増やしてきたそうです。

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

「失敗しても成功せよ」『善の巡環』がここにも

ヤギ牧場に似つかわしくないモダンな建物、これは吉田さんと旧知であるイタリア・建築デザイン界の巨匠、マンジャロッティ事務所が設計したレセプションハウス。

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

レセプションハウスの中には、イタリアのチーズ・コンテストで受賞した証明書なども飾られています。

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

『失敗しても成功せよ』と言うYKK創業者である父上、吉田忠雄氏の言葉。
やってみて、失敗しないと成功への道は開けない。そして、やるからには成功させるのだという意志が、このヤギ牧場やチーズづくりにもつながっていると感じました。

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

会長引退後の吉田さんは、新たにベンチャー企業の事業家として生き生きと輝いていました。

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「シンプルに、『ここに住んでみたい!』と思う魅力的な街にする事が、地方創生なのだと思ってる。仕事があれば、若い人も富山に住みたいと思うはず。だから、次の事業ももう考えているよ!」と、悪巧みをするように微笑む吉田さん。

自分が熱中できる事業を富山に起業し、人を呼び、地域を元気にする『善の巡環』を率先する姿は、日本の経営者たちも憧れる70代の姿ではないでしょうか。

吉田忠裕
YKK/YKK AP取締役(前会長CEO)。1947年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、米国のノースウエスタン大学経営大学院(ケロッグ)修了、“マーケティングの父”と称されるF・コトラー教授に学ぶ(後に、大学院のアドバイザリーボードのメンバーに)。1972年父、吉田忠雄創業のYKK入社(旧吉田興業)。1990年YKK AP/1993年YKK社長、2011年両社会長CEO歴任後、2018年6月退任。
2017年、永年にわたる企業活動を通じての建築文化への貢献により日本建築学会文化賞を受賞。
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