所在地:世田谷区上野毛9万円 / 24.8平米
東急大井町線「上野毛」駅 徒歩8分
〈フリーレント1ヶ月、敷金礼金なし〉
約25㎡の部屋にこれほど広いL字型キッチンを置くとは。小さな空間を斬新にデザインした、遊び心あるメゾネットです。
今回ご紹介するのは角部屋。建物エントランスから緑あふれる通路を歩いた一番奥にあります。
まず、玄関=キッチンという不思議な ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
所在地:世田谷区上野毛
所在地:港区南青山茨城県水戸市に、「Co-Livingはちとご」(以下「はちとご」)という小さな図書館を併設した住み開きシェアハウスがある。「住み開き(すみびらき)」とは、住居などのプライベートな空間の一部を開放し、さまざまな人が集う場所として共有する活動や運動、それらに使用される拠点のこと。「はちとご」や、まちに開いたコミュニティスペース「はちとご文庫」には、近隣の人だけでなく、遠方からも、多様な人が集う。「はちとご」の何が人を引き寄せるのか。この場を立ち上げ、現在も管理人として運営する板谷隼(いたや はやぶさ)さんに、話を聞くため現地を訪れた。
部屋の一部をまちに開いたシェアハウス「Co-Livingはちとご」
「はちとご」誕生後、初めて住民全員が集合した日(画像提供/板谷隼さん)

2022年当時の「はちとご文庫」(画像提供/板谷隼さん)
筆者が「はちとご」の存在を知ったのは、とあるプラットフォームの「はちとご」に通う大学生の投稿だった。彼が「心あたたまる空間」と表現した「はちとご」でインターネット検索をすると、関わった人たちがさまざまに語っていた。長野と東京で二拠点生活をする女性、多拠点で活動する映像クリエイター、「はちとご」在住の大学生……。共通するのは、「はちとご」が、「大切な場所」であり、「生き方に影響をもたらす場所」だったこと。
現地を訪ねると、「はちとご」は、住宅地の中にあった。「はちとご」を立ち上げた板谷隼さん(以下隼さん)は、自らシェアハウスに住みながら「はちとご」を運営している。「はちとご」が今の場所に引越してきたのは、2023年12月。もともと、「はちとご」は、同じ水戸市内の住宅で始まった。そこが手狭になり、引っ越し先を探し始め、近所のゲストハウスオーナー宮田悠司さんの紹介で、現在の物件に出会う。木造2階建ての一軒家には、かつて診療所として使われていた建物が隣接していた。「ここも使えるかも!」と一目ぼれした隼さんだったが、「もう誰にも貸す気持ちはない」と大家さんに断られてしまう。そこで、大家さんに「はちとご」を見に来てもらうことで理解を深めてもらい、宮田さんの頑張りもあって、無事承諾を得ることができた。今では、大家さんは、隼さんの良き理解者だ。

初代「はちとご」の住居で行われた絵本と短編をテーマにした「はちとご文庫」「(画像提供/板谷隼さん)

引越し作業では、「はちとご」住民や仲間で庭の草刈りやDIYもした(画像提供/板谷隼さん)

板谷隼さん。「はちとご文庫」のお店番もする(写真撮影/内田優子)
住宅部分をシェアハウス「はちとご」が使い、旧診療所の一部を私設図書館「はちとご文庫」として地域に開放している。シェアハウスには、現在、板谷さんを含む大学生や社会人ら住民6人が暮らしている。そのほか、「月5日住民」「月10日住民」など短期で暮らす住民が4人。足しげく通ってきて時にリビングに泊まっていく人もいる(2024年5月5日現在)

花見弁当づくりの真っ最中。キッチンの窓越しに「一緒におにぎりにぎってよ」と声がかかる(写真撮影/内田優子)

料理長は、普段はカメラマンとして活動している石川大地さん。「はちとご」住民ではないがふらっと来て、お掃除やお料理をしてくれる(写真撮影/内田優子)
「はちとご」に暮らすことで広がった生きる選択肢大学2年生の時、引越し前の「はちとご」を知った熊谷真輝さん(大学生・22歳)は、「はちとご」で、「自分がこれから進むであろうと思われる道の外で生きている」大人たちに出会い、最初は驚いたという。
「学校生活の枠組みで生きてきたから、大人の印象は、親か先生ぐらいでした。知識を教えようとする大人が多い中、『はちとご』で出会った大人たちは、ぼくらの意見を汲み取って話を聞いてくれました」と熊谷さん。
「いろんな大人がいたんですけど、理学療法士や調理師の資格があるのにあえて定職に就いてない人だったり、大学を4年間で卒業しないで休学して自分と向き合っている先輩がいたり。大人も意思を持って、道を模索しているんだなと。何歳になってもチャレンジする姿勢を『はちとご』の12畳のスペースから、感じ取ることができて、住人になろうと思いました」(熊谷さん)

以前の「はちとご」の「はなれ」と呼ばれていた12畳ほどのコミュニティスペースで本を読む熊谷さん(画像提供/板谷隼さん)

「隼さんは、見返りを求めない人。人に施すことに生きがいを感じている人だなと思います」(熊谷さん)(写真撮影/内田優子)
「はちとご」に暮らして約2年になる菱田えりかさん(大学生・22歳)さんが、大学へ入学したころはコロナ禍の真っ最中で、授業のほとんどはオンラインだった。
「一人暮らしで寂しい思いをしたので、2年生からは人と関わりたいなと思って。友達から『はちとご』を教えてもらいました」(菱田さん)
しかし、当時、シェアハウスには、男性しか住んでいなかったこともあり、親に反対されてしまった。「それまで周りの期待に応えようとしてきた」という菱田さんだが、気持ちは揺るがなかった。
「どうしても住みたかったので親を説得しました。『はちとご』の人たちは、自分のやりたいことをどんどんやっていて刺激を受けられたし、自分もやってみたいという気持ちがあって。ここに住んだら、わくわくすることが起きるんじゃないかって思えたんです」(菱田さん)

「隼さんは、シェアハウス全体のことを考えている人。気が付くと、誰もやってくれない家事とかゴミ出しとか、掃除をしているのは隼さん」(写真撮影/内田優子)
忘れられない思い出は、鍋パーティのこと。寒い日に「鍋が食べたい。誰かつくってくれないかな」とつぶやいた菱田さんに、隼さんは、「自分で声かけてやっちゃえばいいんだよ、そういうのは」と声をかけた。
「今までやってもらうのが当たり前だったので、周りの人を巻き込んで、何かをやったのは初めて。新しいことをやるハードルが低くなった感覚はありました。今は、ちゃんと周りを説得して、努力をすれば、全て叶えられるわけじゃないけど、返ってくる分もあるのかなと思っています」(菱田さん)

「はちとご」の住民でお祝いした菱田さんの誕生日パーティ(画像提供/板谷隼さん)
学びや気づきがあって回復できる場所でありたい「はちとご」には、地元の大学生や社会人らが暮らし、近隣の人のほか、隼さんを訪ねてさまざまな年代の人がやってくる。

子どもたちとつくった段ボールハウス「はちとご」(画像提供/板谷隼さん)
隼さんがどんな思いで「はちとご」を立ち上げたのかをたずねると、意外な答えが返ってきた。
「地域活動と見られることもありますが、自分としての軸は『地域』というより『人』。ただその人が地域にいるから、結果的に地域活動っぽく見えるのかもしれません。また、『はちとご』は僕にとって『やりたいこと』ではなく『見たい景色』だと思っています。みんなが楽しげにしていて、学びや気づきがあって、回復できる場所。誰かが自分から何かを『やってみたい』と言って、それが形になるのを見ているのが好きです。その景色を作るのに、ぼくが手を出す必要があるなら喜んで!というスタンスです」(隼さん)

Instagramの写真は、ほとんどが隼さん撮影。「見たい景色なので僕がその中に入ってなくていい」と隼さん(画像提供/板谷隼さん)

引越し前の「はちとご」で行われた絵本イベントの風景(画像提供/板谷隼さん)
勝手に楽しんで勝手に学べる状態を構築する隼さんの本業は、サッカークラブ「水戸ホーリーホック」のアカデミーコーチ(子どもたちのコーチ)。日々、一緒にボールを蹴りながら、子どもたちに向き合っている。
「場づくりをするときの理想は、ぼくがいなくてもいい状態にすること。『自分で考えさせたいんですけど、どうすればいいですか?』と聞かれることがあるんですが、それだと、自分で考えているって言わないですよね。何もしなくても子どもたちが勝手に学んで勝手に楽しんでいる状態を構築するにはどうしたらいいんだろうっていつも考えています」(隼さん)

現在の「はちとご」。木造2階建て部分がシェアハウス(写真撮影/内田優子)

「はちとご」に暮らす人、通ってくる人の、なんてことのない日常の風景(写真撮影/内田優子)
隼さんが「場づくり」や「まちづくり」にはじめて触れたのは、筑波大学大学院生のころ。大学のサッカー部のコーチをしたり、スポーツ心理学の研究室で活動する傍ら、大学の近くにできたコワーキングスペースに通うようになった。
「さまざまな背景を持つ人が来ていて、仕事をしたり、休憩したり、遊んだり。勉強している中学生の横で、お酒を飲みながらギターを弾いているおとながいて、それぞれが居心地よさそうにしている。ぼくにとって、コワーキング(Co-working)じゃなくて、コリビング(Co-Living)でした」(隼さん)
その後、2020年の春に水戸に引越してきたものの、コロナ禍の真っ最中。「このままでは街に友達ができないかも」と焦った隼さんは、もともと水戸で催されていた「あさみと!」というイベントを引継いで、運営することにした。

毎週月曜に開催していた朝活イベント「あさみと!」(画像提供/板谷隼さん)
「あさみと」は、毎週月曜日の朝、コミュニティスペースやカフェに集まって、隼さんが淹れたコーヒーを飲みながらおしゃべりする会。そこで、イラストレーターのふじのさきさんに出会った。転勤で横浜に引っ越すことになったふじのさんから、『水戸の地を離れがたい』という思いを聞いた隼さん。以前よりシェアハウスの暮らしに興味があったので、「これは自分でつくれということか」と直感。ふじのさんが二拠点目として使えるようなシェアハウスを構想した。家を探し始めてほどなく茨城大学そばに5LDKの物件と出会う。そこが、「Co-Livingはちとご」のはじまりだった。

誕生してから引越しまでの2年間、たくさんの人が訪れた(画像提供/板谷隼さん)
シェアハウスやコミュニティ運営する上で苦労したり、時には傷ついたり、怒りを感じることはないのだろうか。
「生活をしていて、あまり人に怒るってことがないんです。寛容でいたいと思っています。例えば台所が散らかっていてイライラが湧いたらふと『誰かがなんとかしてくれると期待してたんだな』と気づいたりしますね。そもそも気になったんなら自分でやるなり、なんとかしようよって自分から発信すればいいんです。そんな雰囲気をつくりたいなと思って、はちとごでは僕のこだわりで掃除当番を決めていません。当番をつくると、掃除しなかった人が責められるんですけど、当番をつくらなかったら、掃除した人が褒められるんじゃないかと思って。立ち上げた頃から当番を作らずどこまでいけるかなと実験しているところです」隼さん)
ただし、その場にいる人が困ってしまうような人が現れた場合、隼さんが間に入って「チューニング」をすることもあるという。
「例えば、年上というだけでえらそうにしたり、自分の話をしゃべり続けたりする人には、ぼくから言います。『いつも自慢話するんだからー』って。ぼくを生意気だと思う人は来なくなるし、それでも来てくれる人はそのうち馴染める人なんだろうなと。自分の力不足で誰かが傷ついたり、悲しい思いをすると、ひどく落ち込みますね」(隼さん)

「もやっとしてそうだなって顔をできるだけ見つけるようにしたい」(隼さん)(写真撮影/内田優子)
回復には、ふらっと入れて、距離を保てる場所が必要まちライブラリーの仕組みを使った私設図書館「はちとご文庫」は、引越し先で再開し、今では、訪れた人が持ち寄った本で少しずつ蔵書が増えている。

隼さんのお気に入りは、田尻久子さん、塩谷舞さんのエッセイ(写真撮影/内田優子)

「本があると、来る言い訳にはなっているんじゃないかな」(隼さん)(写真撮影/内田優子)

常連さんがお店番することも(写真撮影/内田優子)
ある時、はちとご文庫に、近所の引きこもりの女性がふらっと訪れた。隼さんや他の人が思い思いに作業したり、本を読んでいる空間で、3~4時間ソファでひとり本を読み、「また来ます」と帰っていく。ふとしたきかっけでおしゃべりするようになり、次第に打ち解け合い、ついには「はちとご文庫まで歩く日記」というZINEを発行。今では、はちとご文庫の常連さんのひとりだ。
「地域活性化の取り組みって、元気な人が集まるのが前提なのかな、と時々思います。でも、まちには元気じゃない人ももちろんいて、そういう人にも開いた場でありたいと思っています。ここにはちょっと元気じゃない人も来たりしますが、僕が躍起になってどうこうしようとはあまりしませんね。相談されたら一緒に考えるけど、こちらからは。元気がなくてもふらっと入れて、人といい距離感でいて、徐々に、自分の本来のありように戻っていけるような場になればいいなと思っています 」(隼さん)

「書き手の姿が表れているものが好き」と隼さん(写真撮影/内田優子)

本をたくさん持っていたので、「自分の本棚をオープンにする感じ」で始めたという(写真撮影/内田優子)
「はちとご」は、元気じゃなくても居られる場所「はちとご」がスタートした時から隼さんと一緒に暮らしてきたむらたゆうきさん(映像クリエイター・24歳)も、「はちとご」で「回復」したひとりだ。
「『はちとご』は、一般的な世間のシェアハウスのイメージと乖離がある気がします。シェアハウスっていわゆるパーティ好きみたいな人がいっぱいワーッていそうなだと思っている人もいると思うんですが、『はちとご』の場合は、一見そうは見えなくても寂しそうな人、人生に疲れている人が多いような気がしてます」(むらたさん)

「『はちとご』に住んだことで、対人関係がより滑らかに進められるようになったと思います」(むらたさん)(写真撮影/内田優子)
むらたさんは、インターンのため、茨城から東京に出て、合わない仕事を続けたことで、落ち込んでしまい、とても辛い時期があったという。東京から帰って、ふさぎこんでいたむらたさんを心配した隼さんたちは、ある日、むらたさんの部屋に勝手に乗り込んで餃子を焼き始めたという。
「弱ってるときって、きっかけがあると、精神的にすごく距離が縮まると思うんです。それで、家族に近い感覚が上がりました。弱い面も見せていいんだって。ここは、すごく居心地がいいです。2年間ぐらい、全然、違和感なく暮らしています。実家にいるのとあまり変わらないし、隼さんは、親っていうよりは兄弟が増えたみたいな感じです。役職的には管理人なんですけど、お兄ちゃんが一番イメージ近いのかなと思ってますね」(むらたさん)

部屋にこもって動画編集することも。リラックスできるように間接照明にこだわっている(写真撮影/内田優子)
隼さんが、「最近、優しくなったと思うよ。より人のために動けるようになった。本当に頼りにしてるよ」と言葉をかけると、むらたさんは、「あまり褒められないんで。毎月取材に来てください(笑)」とはにかんだ。

隼さんからむらたさんに相談したりお願いすることも増えた(写真撮影/内田優子)
場と人をつなぐと自然と交流が生まれる「はちとご文庫」に滞在していると、ふらっと訪れる人がいる。必ずしも一緒に何かするわけではなく、思い思いの場所で、本を読んだり、パソコンを開いたりしている。

目線の高さが変わるように椅子やテーブルを配置しているから、一人一人お気に入りの場所が見つかる(写真撮影/板谷隼さん)

座敷のスペースには絵本が置かれている。隼さんのイチオシは、「うどんのうーやん」(写真撮影/板谷隼さん)

プラットフォームに文章を投稿した横山黎さん。「はちとご」は、「きっかけと思わないきっかけをくれる場所」(写真撮影/内田優子)

玄関から見える窓辺に隼さんが灯したライト。「ここにいるよ」と伝わるように(写真撮影/内田優子)
隼さんは、「人と人を繋いでるんですね」と言われると「少しもやっとする」という。
「意識しているのは、場と人をどう繋ぐか。それぞれが場と繋がってリラックスすれば、自然と交流が生まれると思っています。『居場所づくり』とも言わないようにしています。通ってくれる人が『ここは自分の居場所だ』と思ってもらう分にはいいんですが、そう思う人が増えてくると初めての人に優しくない場になると思っていて。『居場所づくり』ではなく『場づくり』として、人の流動性が生まれればいいなと思っています」(隼さん)
隼さんは、2024年4月に、新しいチャレンジを始めた。地域の人が自由に利用できる私設図書館とコワーキングやイベントに使えるシェアリビングとを合わせた複合施設の計画だ。私設図書館には、「一箱本棚オーナー」という自分専用の本棚を借りて本を並べる仕組みを取り入れる予定。シェアリビングは、イベントやワークショップを開催できる場所に。それには、地域の人や友達の「ちょっとやってみたい」を応援したいという隼さんの思いがある。物件の改修費用に充てるため、4月10日~5月13日に初めてのクラウドファンディングに挑戦中だ。

「はちとご」住民だったイラストレーターふじのさきさんが描いた私設図書館の利用イメージ(画像提供/板野隼さん)
その場所の名前は、「シェアベースmigiwa」。汀(みぎわ)とは、水際や波打ち際のこと。隼さんは、この場所にやってくる人やモノ、情報を、波や風に例えた。

「migiwa」の名は、田尻久子さんのエッセイ集「みぎわに立って」から頂いた(写真撮影/内田優子)
「流動性の中で、訪れる人に学びや回復のきっかけが生まれればいいなと。『あまねく人』が入れる場所が理想ですが、人がやっていることなので相性もありますし、合わない人もいるはずです。だけど、ぼくみたいなことをやる人が地域に増えていけば、その数だけ多くの人をカバーできるんじゃないかと。場を地域にひらく時に理想だと思っているのは、その場に来る人と近隣住民の属性の比率が近くなることですね。私設の公民館を作りたいのかもしれません。将来何か問題が起きても、『ここ大事だから維持しようよ』と皆で話せるといいですね。しかもそれが僕を介さずに起きたら最高です」(隼さん)

取材後に届いたお花見の風景(画像提供/板谷隼さん)
隼さんが見ている景色を見つめ、思いを辿る中で、コミュニティは、「みんな」の場所である前に、「ひとり、ひとり」の場所なんだと感じた。コミュニティでは近づこう近づこうとしてしまうが、大切なのは距離感。「はちとご」は、コミュニティに「関わりたい人」「つくってみたい人」双方に気づきと学びを与えてくれる。
●取材協力
・はちとご
・クラウドファンディング「水戸で私設図書館&シェアリビング『migiwa』をつくりたい!」
所在地:台東区千束
所在地:江東区平野
所在地:墨田区業平
所在地:渋谷区代々木コミュニティ賃貸のはしり、賃貸住宅に革命を起こしたといわれる「青豆ハウス」の誕生から10年。タネが芽吹くように、ゆるやかな人と人、人と地域がつながりを持つ個性的な賃貸が静かに増えつつあります。では、どんな人が共感し、どのような暮らしが行われているのでしょうか。湘南にある「ちっちゃい辻堂」を訪ね、その暮らしぶりを取材しました。
13代続く地主の石井光さん。100年後の辻堂の風景をつくりたい2016年、青豆ハウスをつくった青木純さんは、「大家の学校」を開校しました。これは、日本全国の大家さんや希望者を対象に、「大家業」の実践と学び、出会いの場です。「愛のある大家さんになるにはどうしたらいいか」という視点にたち、「選ばれる場づくり」「関係性のデザイン」を学びつつ、「大家という仕事を描き直す地図」を手に入れる。今までにない学校といっていいでしょう。
■関連記事:
賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区
「大家の学校」校長である青木純さんは、「大家として大切にしている6つの向き合い方(①そこにいる、②愛し続ける、③決めすぎない、④気を遣わせない、⑤一人ひとりの居心地を大切にする、⑥場が育つ触媒になる)というのがあるのですが、そのすべてをていねいに実行している方です」と話すのが、大家の学校1期生の、石井光さん。湘南・辻堂で13代続く地主の家系で、現在、小さな村のような賃貸住宅「ちっちゃい辻堂」のほか、コミュニティ農園の代表や田んぼにも携わり、「半農半大家」をしています。

「ちっちゃい辻堂」の大家である石井光さん(左)とお母さま(右)(写真撮影/相馬ミナ)
ちっちゃい辻堂は、JR東海道線辻堂駅から海側に徒歩13分、平屋3棟と二階建て1棟、集合住宅、畑やみんなで使うコモンハウス「shareliving縁と緑」で構成されています。駅からも近いながら、敷地内にはふんだんに緑が植えられており、鳥のさえずりが心和ませてくれる、サンクチュアリのよう。住民はみな、口をそろえて「とにかく気持ちがいい」と話します。

手前が平屋、右奥には二階建て。建築設計はビオフォルム環境デザイン室(写真撮影/相馬ミナ)

取材時はまだ少なかった緑も、5月はこのように(写真提供/石井さん)
竣工は2023年春、相場の賃料より高めの設定ですが、半年かけて満室に。2024年には少し離れた場所にできる第二期の募集をはじめますが、すでに15件ほどの問い合わせが寄せられているといい、着実に注目を集めているのがわかります。
大学では景観生態学を学んでいた石井さんは、地域の生態系や風景、生き物を大切にしたいとの思いを持っていたそう。そのため、プロジェクトのコンセプトは「ゆるやかに集まってつくる土とつながった暮らし」としました。建物には神奈川県産木材を使っているほか、敷地内には井戸が2カ所(どちらも手掘り)、さらに雨水タンク、コンポスト、サウナ、にわとり小屋があり、駐車場と通路はコンクリートではなく、微生物舗装(有機物や炭、石などの資源でつくる舗装の手法のこと)、敷地内の植栽は博覧会開催のため伐採予定だった木々を貰い受けて植えるなど、とにかくエピソードが満載です。

奥が雨水タンク、手前にあるのが井戸。草木や野菜の水やりや防災にもつながります(写真撮影/相馬ミナ)

コモンハウスの室内。こたつが心地いいですね(写真撮影/相馬ミナ)

敷地内を散歩するメスのにわとりたち。産んだ卵は住民と分け合っているそう。奥には黒いテントサウナ(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

完成から1年、住民たちと実験のような遊びを繰り返しながら現在のかたちに。つくり込み過ぎないのも魅力のひとつです(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)
もともとは、築約60年の平屋4軒(最後は2軒)とアパートが立っていましたが、祖父に代わって光さんが経営を担うことになり、この「ちっちゃい辻堂」が誕生しました。他になかなかないコンセプトですが、家族からの理解はすぐに得られたのでしょうか。
「この地域は古くからの地主さんたちが土地を持っていて、相続が発生するごとに、土地が切り売られていき、また相続対策としてのマンション建設もあり、どこにでもある風景になっていっているような気がしていました。それと同時にまちから緑が少なくなり、生き物の居場所も減っていると感じていました。。わが家も相続対策をしないといけなかったのですが、先代にあたる祖父がとにかく借金が嫌だ、何もしない、と意地になっていて、どうにも話が進まない。そのため、ちっちゃい辻堂のコンセプトはできたものの、数年ほどお休み期間もありました」と光さん。
ただ、祖父が年齢を重ね、転倒が続くなどしたことから遺言書と家族信託を急いで作成。祖父の見送りなどもあり、当初の構想から7年ほど時間はかかってしまったものの、「ちっちゃい辻堂」は完成しました。
一方で、光さんのお母様は、先代の娘でもあります。世代的にも立場的にも板挟み、新しい価値観との出合いで、やや複雑な思いで見守っていたそう。

先代の娘でもあり、光さんの母でもある。心配しつつも「ちっちゃい辻堂」を見守り、応援しています(写真撮影/相馬ミナ)
「私の父がしてきた『大家業』と、光のすることはイチから十までぜんぶ逆。父は昔ながらの感覚で、とにかく強烈な人。土地を守っていくことが第一、家は建てたらあとは管理会社にまかせておけばいい。でも光は、住民の引越しの手伝いから、段ボールをまとめて軽トラで公民館に持って行ったり……。よくやっているなあと思っています。ただ、事業にともなって借金をしていますし、不安はありました。そこである時、聞いたんです。『本当に大丈夫なの』って。そしたら光が『ここまでやってうまくいかないなら、この世界は生きている意味がない』ということを言ったんです。ああ、ここまでの覚悟ならもう支えるしかないと腹が決まりました」といいます。
光さんは光さんで、自分にしかできないことを、という覚悟を持っていました。
「地主の家系に生まれ、引き継いだ土地は都市部でも田舎でもなく、しかも離婚していて父親がいないので一代飛ぶ。このポジションにあるので、人が住めば住むほど生態系が回復していくというモデルを社会に広めやすい、そういうお役目があると思っています」(光さん)
大学で生態学を学び、コミュニティデザインやパーマカルチャーなどにも興味があり、コミュニティ農園の代表をしていて、しかも実家は地主業。確かにここまでの条件はなかなかそろわないもの。石井光さんらしいミッション、それが「ちっちゃい辻堂」なんですね。

虫や鳥、植物、微生物を含めた多様な生き物を守るため、除草剤や殺虫剤は基本使用しません。ふかふかの土が心地いい(写真撮影/相馬ミナ)

昔からあった平屋は1棟残し、光さんと大工さんの手でリノベし、共用スペースにしています。2週間に1回の住民の食事会、ヨガ教室、来客の宿泊などに使われています(写真撮影/相馬ミナ)
続いて、実際に暮らしている人に話しを聞いてみましょう。
「住体験を創造したい」。50歳を過ぎて見つけたノイズのない暮らし浦川貴司さんは、現在、夫妻とお子さん3人の5人家族で「ちっちゃい辻堂」にお住まいです。住民でもありますが、現在は仕事としても「ちっちゃい辻堂」プロジェクト全般に携わっています。
浦川さんの、引越しと転職という大きな変化のきっかけは、子ども達が成長し、賃貸/分譲/注文住宅などのくくりにとらわれず、「次の暮らし、住体験の創造をしたい」と漠然と思い描いていたことにはじまります。
「SNSで『ちっちゃい辻堂』を知り、前に住んでいた家も近くなので、ふらっと行ってみたら光さんがいて、立ち話をしたんです。そこで出た言葉が『100年後の辻堂の風景をつくる』というフィロソフィー(哲学)でした。これは、この1年で聞いた話でいちばんいい話だなと感銘をうけて、2023年秋に引越してきました。ついでにいうと転職もしました(笑)」

浦川さんと石井光さん。ちっちゃい辻堂には、「どこよりも楽しい体験と人生がある」(浦川さん)(写真撮影/相馬ミナ)
「前の住まいを手放すと言ったら、家族はまさに青天の霹靂(へきれき)で『何を言っているんだ』という感じでした。以前の住まいに比べると広さは3分の2 程度、モノもだいぶ処分しましたが、結果からいうと、家族全員ハッピーで満足していますね。朝起きてから就寝するまで敷地内には視界にノイズを感じず気持ちがいい。人との関係、あり方なども含めて、本当に心地いいです」

浦川さんのお住まい。土間と続くリビングを上手に住みこなしています。大人が憧れる空間です(写真撮影/相馬ミナ)
「今まで自身の事業のなかでも自分自身も何度も 住宅をつくってきましたが、住まいを買う事は目的ではなく、賃貸でも分譲でも、住まい手の美意識や自己表現を通してどんなライフスタイルを過ごしたいのかという事に向かい合うことがより大切。コロナ禍を経て、新しい、本質的な人生の豊かさに向かい合った住まい方、価値観の変異が起き始めているように思います。美しい暮らし、生き方のセンスというのかな、大きな転換期がはじまっているように思います。
一方で、現在進行系で『ちっちゃい辻堂』で得られた知見というのはとても貴重なものですし、『100年先の辻堂の風景』のためには、より多くの地主さんや大家さんに知ってもらわないといけない。賃料が相場よりプラス設定だとしても、豊かな体験がある住宅には人が集まりエリア相場以上に収益を出していけることを知ってもらいたいですね」

(写真撮影/相馬ミナ)

浦川さんの書斎スペース。庭に面しているので、自然光が入ってくる設計。当初は小さな商いもできる前提(写真撮影/相馬ミナ)
家賃ではなく、新しい暮らし方への投資、共同出資のような感覚20代のKさんは、デザイナーのパートナーと二人暮らし。前は都内の賃貸住宅で暮らしていましたが、オーナーの事情で退去を迫られ、新たな住まいを探していたそう。

“個”を保ちながら会話が生まれる。ちょうどよい距離感(写真撮影/相馬ミナ)
「家と仕事をともに振り回されることが続いて、これから”どこに住むか(where to live)を考えるよりどのように生きるのか?(how to live) “ を話し合いこの物件に出合いました。マイクログリッドなどにも興味がありましたが、自分たちでイチからつくるにはムリがある。この物件は、2人で話していた『生き方の実験』にドンピシャなところがいっぱいあって、ゆるくつながりながら、東京にもアクセスできる、それに共鳴したという感じです」(Kさん)

Kさん(左)とYさん(右)の住まい。「ちっちゃい辻堂」の第一印象である、「とにかく心地いい」という言葉が印象的です(写真撮影/相馬ミナ)
パートナーのYさんは、以下のように話します。
「建物、敷地の第一印象はすごく気持ちがいい、ということ。光とか風とか、五感に働きかけるところがあって。建築・ランドスケープデザインの人と話しをしたら、すべて理由があって納得しました。コミュニティや共有という概念は、正直、苦手だなと思っていたんです。でも、実際、暮らしてみると誰も何も強制しないし、自発的な交流が生まれる仕掛けがあって、居心地がいい。庭の手入れをしていたら、ワイン片手に食事がはじまったりしてね。住まいは独立しているけれど、それぞれの境界線から色がにじみでる感じ。また新しい色ができているのが、未来的といえるかもしれません」

中央のペンダントライトは浦川さんが持っていたもの。よいものがないか探していたところ、「借してあげるよ」といわれ、借りているのだそう。これもシェアのひとつですね(写真撮影/相馬ミナ)
「自分は3DプリンターやDIYツールをたくさん持っているんですけれど、それを光さんのスペースに置かせてもらう代わりに、他の住民にも使っていいよ、としています。所有ではなく完全な共有でもない。モノや知恵をシェアする暮らし、所有すること、私有と共有についてもよく二人で話あっています。ほかにも、なんでお金が必要なんだっけ、なんの仕事をしたいんだっけなど、豊かさや暮らし、都市やアートについて考え直すことが多く、あらためて人生を見つめ直している感じです」(Kさん)

花やアートのあしらいが上手なお二人。「ちっちゃい辻堂」の暮らしは触発されることが多く、話し合うことも多いのだそう(写真撮影/相馬ミナ)
「引越してきて3~4カ月ですが、得られたものが大きいですね。親には家賃の割には空間は狭いよね、と言われることがあったんですが、単純に空間に家賃を払っているわけではない。生きることやつながりに対しての対価ですよね。暮らしのなかでも、畑をつくる、みそをつくるなど、動詞がすごく増えました。自然との共存という大きな挑戦や、可能性という、大きなものにお金を払っている。そんな感覚があります」(Yさん)

室内にもたくさん自然光が入ってくる間取りです(写真撮影/相馬ミナ)
アーティストカップルだからこそ、コミュニティに助けられるもう一組、フラワーアーティストのお二人にも話を聞きました。以前は東京都立川市在住、こちらも引越して半年になります。パーマカルチャー講座で光さんと知り合い、SNSで入居者募集を知ったのがきっかけでした。アーティストである二人にとって、この「ちっちゃい辻堂」はプラスしかない、といいます。

フラワーアーティストのお二人の住まい。写真左の花のオブジェが作品(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)
「まずは、土間があって創作活動の作業がしやすい、水が使いやすい。そして外も緑が多くて気持ちがいい。軒先にドライフラワーを飾ってもいいし、使いきれなかったお花は、まわりのお宅に渡すと喜ばれます。周囲に大工さん、デザイナー、エンジニアがいるので相談できるし、さらに道具まであって。自分が表現したい世界や幅が広がるので、アーティストとしてはプラスしかないです。
アーティスト二人で暮らしていると、それはぶつかることもありますから。でも縁側にいて、誰か来るとおしゃべりして、すっと気が晴れることもあります」

土間があり、水をたくさん使える間取り、そういえばなかないですよね(写真撮影/相馬ミナ)
「あと、人同士の距離がね、ほんとうに心地いいんです。光さんの考えや価値観を理解したうえで暮らしているので、違和感がないというか。濃密過ぎず、薄いわけでもない。これが新しい暮らしというものなのかな、と思います」

どこを切り取っても絵になります(写真撮影/相馬ミナ)

縁側のドライフラワー。さり気なくつるしてあるのがかわいい(写真撮影/相馬ミナ)

定例の食事会。顔の見える距離感ってこんなに心地いいんですね(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)
最後に、2週間に1回、開催されている食事会に少しだけお邪魔しました。訪れてみると、住民のみなさんはそれぞれのおうちでつくったご飯とアルコールを持ち寄り、すでに盛り上がっていました。出会って数カ月とは思えないほどですが、とにかくムリなく、自然に、ゆるりと背伸びしない関係ができているようです。石井光さんと仲間たちが耕しはじめた、未来の暮らしはまだまだはじまったばかり。時間がたつほどに味わいを増して、「みんなの居場所」として心地よくなっていく気がします。
●取材協力
ちっちゃい辻堂
大家の学校 ※第11期の締切は5月31日(金)まで
多くの人が気になる「実家の片づけ」。挿花家でエッセイストの母と建築家の父のもとに生まれた料理家の二部桜子(にべ・さくらこ)さんは、両親が世界中で集めた膨大な民芸品などのコレクションを次世代につなごうと、実家を開放して譲渡会を実施。遠方からも人が訪れて盛況に! 実家じまいとしてはもちろん、自身の今後についても多くの気づきが得られたというその経験について、二部さんにお話を伺いました。
暮らしも注目された母・二部治身さん。世界を旅して集めた民芸品が大量にコンクリート打ちっ放しの天井の高い建築。広大な空間を埋め尽くすように、おびただしい数の器や古道具が並ぶ。「ちょっとした骨董市の物量ですよね」と二部桜子さんも笑うが、一家庭のコレクションとは思えないスケールだ。

フリマ形式の譲渡会「Recollection – 回想の記録 -」の様子(画像提供/鮫島亜希子さん)
ここは桜子さんが育った東京都八王子市郊外の家。母である挿花家でエッセイストの二部治身(にべ・はるみ)さんは、建築家の夫・誠司(せいじ)さんとともに桜子さんと弟を育てながら、約100坪もの敷地で花と野菜をつくり、四季の草花を愛でてきた。「暮らし系」という言葉が生まれるずっと以前の80年代後半から、自然とともに生きる治身さんのライフスタイルは数々の女性誌や著作で紹介され、全国に多くのファンを生んだ。

二部桜子さん。アメリカの大学で美術を学んだのちアパレル企業に勤め日米を行き来する。2017年、東京都台東区蔵前に「SHUNNO KITCHEN」スタジオを開設し、旬の野菜を軸とした料理教室やケータリング、レシピ開発を行う(写真撮影/片山貴博)
「母は高校生のころから骨董を集めていたほど器や雑貨が大好き。タイへの新婚旅行を機にアジアの魅力に目覚め、さまざまな国を訪れては現地の民芸品を山のように持ち帰っていました」と桜子さんは振り返る。「アジアやアフリカの民芸品が持つ、素朴でどこか不完全な美しさが好きだったようです。父も収集癖があり、夫婦で好みも一致していたので、二人で競うようにものを集めていました」

生活道具のみならず、イスなどの家具や壺などもコレクションしていた(画像提供/鮫島亜希子さん)

アジアやアフリカのオブジェやマスクも(画像提供/鮫島亜希子さん)
治身さんが現役のころは雑誌などの撮影用小道具のリース業も少なかった時代。仕事に使えるようにと集めていた部分もある。1999年に建て替えられたこの家も、治身さんの仕事の撮影にも使えるようにと誠司さんが設計したもの。「だからデザイン性は高いんですけれど、底冷えするように寒かったり、段差が多かったり。敷地も広すぎて、高齢の夫婦が暮らすには厳しくて」
両親とも実家を手放して小さく暮らすことを検討していたが、2021年に誠司さんが他界してしまう。治身さんは桜子さん夫妻と暮らすことになり、いよいよ実家じまいを行うこととなった。
仲間の力を借りながら、楽しんで準備した自宅での譲渡会が大反響そうして始まった二部家の実家じまいだが、当初は明らかに不要なものも膨大にあったという。
「まずは不要品を処分するのがいちばん大事だと思います。体力の必要な作業ですが、海外に住む弟も帰国時にやってくれました。とはいえあまりに物量が多かったので、この最初の段階ですべてを要・不要に分けたわけではないんです。判断に迷うグレーゾーンを残しつつも、明らかな不用品やゴミを処分できたことで気持ちにゆとりができ、友人にも手伝いに来てもらいやすくなりました」
残されたのは、大量の民芸コレクション。業者に買い取りを依頼することも頭をよぎったが、せっかくなら友人に譲りたいと桜子さんはひらめいた。「アパレル業が長かったこともあり、器やインテリアが好きな友人が多いんです。話してみたら“おもしろそう!”と言ってくれて」。そうしてまずは友人知人限定で、フリマ形式の譲渡会を行うことにした。

治身さんが高校時代から集めていたデッドストックの器たちも販売された(画像提供/鮫島亜希子さん)
フリマで難しいのが値付けだろう。「母も値段までは覚えていなかったので、骨董屋さんに出かけて値ごろ感を確かめたり、画像検索で由来や価格を調べたり。通常の骨董品店よりはかなりお得な値段に設定しました」
友人の手も借りながら準備を進め、2022年8月と9月の4日間で「Recollection – 回想の記録 -」として譲渡会を実施。「告知はInstagramの個人アカウントのみで、友人とその友人のみの予約制に。中には影響力のある友人もいたので拡散力がすごくて」。予想以上の反響があり、約1500点が新たな持ち主のもとに旅立った。

世界各国からかごやザルを背負って持ち帰った治身さんは「かご長者」とあだ名されたほどのかご好き(画像提供/鮫島亜希子さん)
好評を受けて、10・11月には一般客にも予約枠を開放することに。「リテールビジネス(BtoCのビジネス)に携わっている友人たちがいろいろアドバイスをくれて。当初は“この引き出しの中はいくら”みたいな値付けでしたが、知らない人への販売なら一つひとつ値段を書いたほうが会計がスムーズだよとか。”このコーナー売れ行きがよくないね”と友人がささっとディスプレイを直してくれたとたん、驚くほど売れたりも」

明治~昭和の和食器もセンスよくディスプレイして販売(画像提供/鮫島亜希子さん)
手伝ってくれた友人たちとはいつしか“実家フェス”の通称が定着。「”せっかくならお茶ができたらいいよね”と、友人が和室で抹茶を立てて、私のお菓子とお出ししたり。そうやって仲間とアイデアをふくらませるのが楽しかった」。まるで学園祭のような自由さをベースに、ビジネススキルと創造力を持ち寄って準備したこのイベントには、北海道や石川県など遠方も含めのべ数百人が訪れ、総計5000点ほどを譲渡できたという。
2023年10月には「Recollection-回想の記録-エピローグ」として、治身さんの著書のレシピを再現した食事会も実施。「譲渡会で、父が建てた建築をみなさんに見ていただけたのも嬉しかったんです。せっかくだから記録に残そうと、母の料理をつくって父と母が元気だった頃の二部家を再現して、友人である写真家の鮫島亜希子さんに撮ってもらいました」

和気あいあいと和やかな食事会の様子。このときのコレクションは”お気持ち”価格で譲渡し、ウクライナの動物支援団体に寄付も行った(画像提供/鮫島亜希子さん)
顔の見える使い手へ譲る喜びが、愛したものを手放す寂しさを和らげる業者の買い取りより手間や時間はかかっても、ものの行く末がわかるのが嬉しいと桜子さん。「友人のおうちに遊びに行ったら、うちで活躍していたものにまた出合えたり。おうちで使う様子をInstagramに上げてくれる人もいて、両親の愛したものたちの新しい物語が始まるのだと実感できました」

来場した友人たちが購入物をインスタにアップ。「みなさんのセレクトが見ていて楽しくて」と桜子さん(画像提供/左から、@hirokoinabaさん、@mamimori8さん)
治身さんもイベントの様子に感激。「ものを手放すから、と悲しむ様子が全くなくて。自分のコレクションがお店みたいにキレイに並べられて“やっぱりこれ素敵よね”なんて喜んだり。自分が好きで手に入れたものを、みなさんが楽しそうに選んで譲り受けていく姿がすごく嬉しかったようで、いい親孝行ができました」
もちろん治身さん自身が手離したくない宝物はキープ。桜子さんも、手元で大切にしたいものたちを自宅やスタジオで愛用している。

水屋箪笥はクリーニングして、桜子さんの「SHUNNO KITCHEN」スタジオで愛用(写真撮影/片山貴博)

風格あるベンチも実家からスタジオに。桜子さんの愛犬・アズキちゃんも心地よさそう(写真撮影/片山貴博)

古い実験用漏斗をランプシェードに。「たまたま訪れたアンティークショップで、こんなふうに漏斗を照明にしているのを発見。そのお店にお願いして照明にしてもらいました」(写真撮影/片山貴博)

買い手がつかなかったランプシェードもスタジオで活躍(写真撮影/片山貴博)
これからの“もの”との付き合い方を考えるきっかけにも二部家の実家じまいは、かなり特別なケースかもしれない。でも桜子さんのアイデアと行動力があったからこそ譲渡会は実現でき、成功につながった。「思いついたら後先考えず突っ走るタイプ。料理の仕事もずっとやりたいと言っていたけれど、この物件との運命的な出合いがあって、会社を辞めるより先に契約したことで現実化したんです。今回のイベントも、アイデアを周囲に伝えることで現実のものになりました」

窓の前に咲く満開の桜に、自分の名前との運命的な符合を感じて契約したスタジオ。「譲渡会で知り合った人たちが一緒に料理教室に来てくれたりと、嬉しいご縁も生まれています」(写真撮影/片山貴博)
周囲の人を巻き込んだのも成功の秘訣。
「一人では絶対に無理でした。最初に不要品処分を弟がやってくれたことが突破口になったし、アパレルの仕事の友人や、料理の仕事を通してつながった暮らしに関心の高い友人が助けてくれたからこそ実現しました」
また、今回のイベントを経験して学んだこともある。
「次の世代が使いたいと思える“いいもの”だからこそ譲ることができたんですよね。自分がものを選ぶ際にも、単に便利で安価だからというのではなく、次の世代にも引き継げるものを選ぶことが大切だと痛感しました」
両親が愛用していたハンス・J・ウェグナーデザインの「Yチェア」もそのひとつ。「実家で使い込まれて、かなり傷んでいたんですが、クリーニングに出したらいい味わいを残しつつきれいになって。いいものだからこそ、こうして修繕しながら長く使えるんですよね」

二部家のダイニングで活躍していたYチェア。脚ががたつき、ペーパーコードの座面もボロボロだったが家具のクリーニングに出して風格ある姿に(写真撮影/片山貴博)
高齢になり、広すぎる家や多すぎるものの扱いに困っていた両親の姿を見て、年齢に応じてものとの付き合い方を見直す必要性にも気づいたという。
「70歳くらいになったら新たなライフステージの準備として、またフリマをやろうかと仲間と話しているんです。そのためにも“20年後、次の使い手に引き継げるか”を、もの選びの指針として大切にしていきたいです」

桜子さんが陶芸作家の久保田由貴さんと一緒に考案した器のセット。これも大切に使って次世代につなぎたいと考えているもの(写真撮影/片山貴博)
桜子さんのご両親が美しいと思えるものだけを集めていたからこそ、次の使い手につながるという幸せな展開は実現した。特別なケースだと思われがちな二部家の実家じまいだが、サステナビリティが重視される時代に、“次の使い手に引き継げるか”は、誰もが実践したいもの選びの基準と言えるだろう。また次の使い手へ引き継ぐための自宅フリマや譲渡会も、新しい実家じまいのアイデアとして参考になるはずだ。
●取材協力
「SHUNNO KITCHEN」主宰 二部桜子さん
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所在地:目黒区自由が丘
所在地:豊島区雑司が谷
所在地:世田谷区瀬田
所在地:中央区新富アメリカ・ニューヨークのマンハッタンからイースト川を越え、南東部に広がるブルックリン。ゆったりとした自由な空気が流れ、モノづくりも盛んで、クリエイターやアーティストが多く移り住んでいる場所です。ギャラリー、壁画、若手起業家が興したブルワリーやウイスキー醸造所など、クリエイティブでおしゃれなものがあふれています。ブルックリン美術館や植物園、森のように広くて緑豊かなプロスペクトパーク(Prospect Park)など自然や文化的施設にも恵まれ、閑静な住宅街はファミリー層に人気です。プロスペクトパークから目と鼻の先にある、3階建ての築140年になる歴史的なアパートメントビル最上階に住むクリエイター一家のお宅を訪れました。
フランス人はブルックリンがお好き?市民の憩いの場であるプロスペクトパークの隣に面する閑静なパークスロープ地区の一角に、クリエイターのファミリーが暮らすアパートメントがあります。写真史家&インディペンデント・キュレーターとして活動するポリーヌ・ベルマール(Pauline Vermare)さんと、夫でビデオ・プロデューサーのマーク・レッサー(Marc Lesser)さん、10歳の長男サムくん、そして猫のウーディーくん(16歳)&犬のアーチーくん(4歳)が仲良く暮らす明るいお部屋です。

リビングルームは窓が多くて明るく、大きなカウチを置いてもまだスペースが余りあるほどゆったりと広いスペース。右側にもさらに小部屋が続く。築140年のアパートメントだが、室内はリノベーションしているので年月や古さはまったく感じない(写真撮影/Masao Katagami)

ポリーヌさんはICP(ニューヨークの有名な写真博物館)の元キュレーター。夫マークさんと長男サムくんとこの家で暮らし始めて6年。「アーチー(犬)は4年前にテキサスからアダプト(保護)。16歳のウーディー(猫)はフランス出身のフランス人よ」 (写真撮影/Masao Katagami)
「光がふんだんに差し込む明るいお部屋でとても気に入りました」。ポリーヌさんは夫と家探しをしていた際、この家に足を踏み入れた時の印象をそう振り返ります。「あとは細部の内装ね。レトロなモールディング(※)やガラスの柄などのディテールが昔ながらの技法で芸術的でとても繊細なデザインなんですよ」
※モールディング…壁や天井、ドアや家具など内装の細部に施した帯状の装飾のこと。床と壁の継ぎ目の巾木など枠どりを装飾したり、部材の接合部を美しく魅せる効果がある

ところどころにあるモールディング、白壁にかけられた絵画や写真、暖炉や観葉植物などの配置やバランスが絶妙。「このお家を気に入った理由は明るさとレトロな装飾なの」(ポリーヌさん)(写真撮影/Masao Katagami)

キッチンとリビングの間のダイニングスペース(写真撮影/Masao Katagami)

ダイニングスペースのドアのガラス窓の柄。ほかにもモールディングやステンドグラスなど細部のディテールが美しい(写真撮影/Masao Katagami)
「公園、子どもの学校、地下鉄の駅これらすべてが2、3ブロック圏内でとても便利な場所なんです。迷いなくこの家は運命だと思いました」(ポリーヌさん)

アパートからすぐそばにある大自然豊かな市民の憩いのプロスペクトパーク 。マンハッタンのセントラルパークと同じ設計者、フレデリック・ロー・オルムステッド(Frederick Law Olmsted)とカルバート・ヴォー(Calvert Vaux)によるもので、どこかセントラルパークと似ている。子育てや犬の散歩にも適した環境 (写真撮影/Masao Katagami)
フランス出身、日本育ち→NY在住運命の出逢いはこれだけではありません。
フランス・パリで生まれ、リヨンで育ったポリーヌさん。家庭の事情で10歳から14歳まで東京の笹塚で、さらに14歳から17歳まで香港で育ったそうです。ニューヨークに住むようになったきっかけは2009年、MoMA(モマ=ニューヨーク近代美術館)で開催されたフランスの写真家アンリ・カルティエ-ブレッソン(Henri Cartier-Bresson)のショーで、アシスタント・キュレーターを務めたことでした。

キッチンとリビングの間にあるダイニングルーム。キッチンの奥はベッドルームと子ども部屋が広がる(写真撮影/Masao Katagami)
渡米3週間が経ったころ、道端であるアメリカ人男性とひょんなことから出会いました。2人には写真家のソール・ライター(Saul Leiter)の下で働いている共通の友人がいることがわかり、意気投合したそうです。この男性(マークさん)こそがポリーヌさんの未来の夫となる人でした!2人の出会いのきっかけになったということで、結婚の際はライター氏から結婚祝いが贈られたそうです。
そうやってファミリーとなった今、ブルックリンに住むようになった理由を尋ねると、ポリーヌさんはこのように説明します。

「冷蔵庫も作業用カウンターも大きくて料理がしやすく気に入っている」と言うキッチン。家族のためにスタッフド・ベジタブル(野菜の詰め物)などフランス料理をつくることも多いという(写真撮影/Masao Katagami)
「フランス人ってなぜだかブルックリンが好きなんです。たぶん少しフランスに似たヴィンテージな街の感じとか、交通の便も良くておいしいバゲットも買えるところとか、そういう理由からだと思うんです。素朴な『小さな村』のようなこの街の雰囲気もフランス人が好きなところなんですよ」
ポリーヌさんとマークさんが結婚して住んだアパートメントは、地下の暗い部屋だったそうです。そこで数年暮らし、息子のサムくんを出産。2017年に新居探しをはじめました。
「ニューヨークで良い家に出合うのは簡単なことではないのです。どの物件もとても高額だし、競争率が高くて良い条件のものはキャッシュ払いが可能な客にすぐに買われてしまいます。そんな事情もあり、この家に出合った時、不動産ブローカーに『気に入ったのなら今すぐ決めないと、すぐに取られてしまいますよ』と言われ購入を決めました。そしてこの決断は大正解でした」

小部屋から見たリビングルーム(写真撮影/Masao Katagami)
1886年(推定)に建てられた光がふんだんに降り注ぐ素敵なレトロ・アパートメントは、まさにやっと出合えた物件でした。

この日はちょうどサムくんの友人も遊びに訪れていた。天井の高さを生かし、子ども部屋はハイタイプのロフトベッドを配置。下のスペースを有効活用している(写真撮影/Masao Katagami)

子ども部屋からの景色。「今の季節、ここからの景色が大好きなの」とポリーヌさん(写真撮影/Masao Katagami)
ニューヨーカーらしく、本にあふれた暮らしコロナ禍以降リアル書店が次々に復活するほど本好きな人が多いことで知られるニューヨーク。ポリーヌさんが日本育ちということも影響し、部屋のところどころに配置された日本の小物に加え、ニューヨーカーらしく本棚には本がぎっしり並んでいるのも特徴です。

リビングルームの横にあるスペースを生かし、ここにも本棚とカウチが置かれている(写真撮影/Masao Katagami)

ポリーヌさんが専門家としてコメントを寄せてきた書物。そして愛着のあるそろばん。そろばんは10歳から4年間、教室に通っていた時に使っていたもの。「3級を取ったわ。息子にもたまに教えているんですよ」(写真撮影/Masao Katagami)

いつも家族のそばにいる犬のアーチーくん。この街ではペットも歴とした家族の一員(写真撮影/Masao Katagami)
本好きであることが伝わってくる家づくりですが、なんと彼女自身が今年6月に新書を出版するそうです!これまでソール・ライター、また日本の写真家・川田喜久治氏が2022年に発売した写真集『ヴォルテックス』についてのエッセイ本をいくつか出版してきた彼女ですが、6月に発売される新書は彼女自身が本の共同編集を初めて手掛けたそう。
ポリーヌさんが出版するのは『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』($75)という本です。1950年代以降に活躍した原美樹子、野村佐紀子など約100人の日本人女性フォトグラファーを考察し紹介するものです。この本はアメリカのみならず、日本とフランスでも、それぞれの言語の翻訳版の出版が決まっています(こちらのタイトルや表紙デザインは現在制作中)。
なぜフランス出身である彼女が日本人女性写真家に興味があるのかと尋ねたところ、「日本で育ったから」というのが大きな理由の一つでした。ただ、そのほかの理由も興味深いです。
「日本では19世紀以降すばらしい写真作品がたくさん生み出されたのに、海外では日本の森山大道やアラーキー(荒木経惟)など男性写真家が知られているだけで、女性写真家についてはほとんど知られていないのが現状です。それで私はすばらしい日本人の女性写真家の歴史を世界に紹介したいと思いました。それがこの本づくりのきっかけでした」
ポリーヌさんによれば、日本のみならず自身の出身地・フランスや現在住んでいるアメリカでも、男性写真家に比べて女性写真家に脚光が当たることは少ないとのこと。「私はその壁をぶち破り、日本人の女性写真家の活躍や表現力を示したかったのです」

『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』 (写真提供/Pauline Vermare)
ほかにも、夫マークさんとコラボして制作した短編ドキュメンタリー映画が、今年4月から7月までアイルランド写真美術館(Photo Museum Ireland)で上映されます。これは日本人写真家・岡村昭彦氏のアイルランドでの人生と仕事を紹介した作品です。
岡村昭彦氏関連は、「『I’m So Happy ~』の編集後、本の編集も手掛けました。こちらは4月に出版しました」とポリーヌさん。

『Akihiko Okamura, Les Souvenirs des Autres 』 (写真提供/Pauline Vermare)
ブランド物から道で拾ったアンティークまでクリエイターとして忙しい日々を過ごすポリーヌさんとマークさん。最後に、夫妻のお気に入りのお店やブランドを教えてもらいました。
「たくさんあるけど、家のすぐ近所にあるミシュラン星を獲得したイタリア料理店のフローラ(Flora)は共にコロナ禍を乗り越えた今、私たちにとって家族のような存在で、大好きなお店です。家具のお気に入りのお店で言うと、リビングにあるランプはブルードット(Blue Dot)、カーペット(ラグ)はサファビア(Safavieh)のもの。カウチはABCカーペット&ホーム(ABC Carpet & Home)のもので、来週配達予定の新しいカウチはボーコンセプト(Bo Concept)で購入しました。探せば良いものがたくさんある街ですが、ストリートにも素敵な年代物の家具が落ちていることがあるんですよ。これらもストリートでたまたま見つけたものです」と言って、年代モノの素敵なアンティークの鏡とサイドテーブルを見せてくれました。

「サイドテーブルと鏡は道で見つけたものなんです」(ポリーヌさん)。路上にお宝がよく落ちているニューヨーク。引越しの際に人々が不要な物の処分のためにストリートにわざと置いて行き、必要な人がそれを勝手に持って行く(写真撮影/Masao Katagami)

ストリートで見つけたという鏡(写真撮影/Masao Katagami)
ブランドも好きだけど、ブランドものだけで固めず抜け感も楽しむ。そんな自然体でフレンドリーで優しい雰囲気の彼らを体現したお家とインテリアでした。
取材/文:安部かすみ、撮影:形上将夫
ポリーヌさん&マークさんお気に入りのお店
Blu Dot
SAFAVIEH
abc carpet & home
BoConcept
Flora
所在地:渋谷区千駄ヶ谷
所在地:大田区大森西
所在地:世田谷区奥沢
所在地:武蔵野市境2024年4月から、新築住宅などを広告する際に「省エネ性能ラベル」を表示する制度がスタートした。新築住宅および事業者が再販売などをするリノベ物件に対して、ラベルの表示を努力義務としている。すでに、新築住宅ではSUUMOなどのポータルサイトでも、省エネ性能ラベルの表示をしている事例が増えているが、リノベ物件でも表示する事例が登場している。
【今週の住活トピック】
積水化学工業とリノベるが協業するすべての ZEH 水準リノベ物件にて「省エネ性能ラベル」の表示をスタート
「省エネ性能ラベル」の目的は、「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告などに表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする」ためだ。
例えば、家電製品を買おうとするときに販売店に行くと、パンフレットや店頭商品に、省エネ性能が★の数などで表示されるラベルが掲示されている。同じように、新築住宅やリノベ物件を販売するか賃貸するときに、その事業者が省エネ性能表示ラベルを掲示することで、住宅の検討者が省エネ性を比較しやすいようになる。
住宅の省エネ性能表示ラベルの特徴は、次の3つを表示して性能の違いが分かるようになっていることだ。
(1)エネルギー消費性能が星の数で分かる
(2)断熱性能が数字で分かる
(3)目安光熱費が金額で分かる (任意項目なので表示されない場合もある)
このほか、太陽光発電などの「再エネ設備の有無」と「ZEH水準」、「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー)」に該当するかが表示される。
住宅の省エネ性能ラベルについては、このサイトの「2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!?」に詳しく説明しているので、合わせて見てほしい。

住宅(住戸)の省エネ性能ラベルに記載される内容(国土交通省の資料より)
また、「省エネ性能ラベル」が表示されている物件は、合わせて「エネルギー消費性能の評価書」が発行される。この評価書は、省エネ性能ラベルの内容を詳しく解説した書類だ。
「ZEH水準」と「ZEH」の違いは?積水化学工業とリノベるが協業するのは、「ZEH 水準リノベ」だ。また、省エネ性能ラベルにも、ZEH水準やZEHのチェック欄がある。では、どこが違うのだろうか?
ZEH(ゼッチ)は、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方で、住宅で消費するエネルギーをゼロにしようというものだ。そのためには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わないようにし、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使う。ただし、消費するエネルギーをプラスマイナスゼロにするには、(3)太陽光発電設備などでエネルギーをつくり、消費したエネルギーを補う必要がある。
ところが、太陽光発電設備については、雪国では太陽光を十分に得られなかったり、マンションなどの高層住宅では、戸数が多いわりに屋上の面積が広くなくて、必要な数の太陽光発電設備を設置できないといった制約を受ける。
「ZEH水準」は、地域や住宅の形状によって制約を受ける(3)の再エネ設備を必須としない基準で、(1)と(2)については、住宅性能表示制度の「断熱等性能等級5」かつ「一次エネルギー消費量等級6」という基準を設けたものだ。
既存のマンションでZEH水準のリノベーションを実現このように、政府は住宅の省エネ化を加速させている。2025年4月にすべての新築住宅で、現行の省エネ基準の適合を義務化するとともに、その省エネ基準を遅くとも2030年までには「ZEH水準」に引き上げようとしている。
一方で、既存のマンションの多くは現行の省エネ基準の水準を満たしておらず、それをZEH水準にまで引き上げるのはハードルが高いと思われてきた。ところが、いくつかの事業者が、既存マンションのZEH水準リノベを実現するようになってきた。
今回の積水化学工業とリノベるの協業もそのひとつで、どうやってZEH水準にリノベーションをするかは、当サイトの「既存のマンションでもZEH水準にリノベが可能に!?国が推進する省エネ性能「ZEH水準」についても詳しく解説」で紹介している。
両社によるZEH水準リノベの省エネ性能ラベルの表示、第1号が「東急ドエル・アルス千住」だ。

「省エネ性能ラベル」の発行・表示1号案件「東急ドエル・アルス千住」
不動産ポータルサイトでも「省エネ性能ラベル」を表示この制度のスタートに合わせて、主要な不動産ポータルサイトでも、省エネ性能ラベルの表示ができるようになっている。今回の物件についても、例えばSUUMOでは次のように表示されている。

「SUUMO」に表示された、東急ドエル・アルス千住の省エネ性能ラベル(2024年4月25日時点)
なお、「ネット・ゼロ・エネルギー」にチェックがついているが、厳密にいうと「ネット・ゼロ・エネルギー」ではなく、「ZEH Oriented」であると記載されている。
国土交通省の「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度 ガイドライン」では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)について、「ZEH 水準以上の省エネ性能を有し、さらに再生可能エネルギーなどの導入により、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅について、その削減量に応じて、(1)『ZEH』(100%以上削減=ネット・ゼロ)、(2)Nearly ZEH(75%以上100%未満削減)、(3)ZEH Oriented(再生可能エネルギー導入なし)」と、定義されている。
なお、マンションの住棟に関するラベルでは、ZEH-M、Nearly ZEH-M(75%以上100%未満削減)、ZEH-M Ready(50%以上75%未満削減)、ZEH-M Oriented(再生可能エネルギー導入なし)の4種類になる。
この物件は、(3)ZEH Orientedを満たす住宅であり、かつ、自社による「自己評価」ではなく、「第三者評価※」を取得して、第三者評価機関からZEH水準よりも高い性能を有することが確認できた場合という条件を満たしたことで、「ネット・ゼロ・エネルギー」にチェックがついている。
※第三者評価機関が、省エネルギー性能に特化した評価・表示制度である「BELS(ベルス)」を使って評価するもの。
一般ユーザーには、理解が難しいところなので、販売している事業者に詳細を確認しよう。
平成30年(2018年)の総務省「住宅・土地統計調査」で、全国の住宅総数(持ち家、借家、空き家含む)は約6241万戸とデータがある。その大半が現行の省エネ基準を満たしていない一方、新築住宅の省エネ性能はZEH水準に向かっている。性能格差は広がるばかりだが、既存の住宅でもZEH水準への改修が進めば、良質な住宅ストックになっていく。健康で快適な暮らしにもつながるものなので、さらなる増加に期待したい。
●関連サイト
積水化学工業とリノベるが既存マンションのZEH水準リノベーションを提供開始
所在地:狛江市元和泉
所在地:目黒区碑文谷
所在地:板橋区蓮根
所在地:東京都港区白金自分の暮らしている地域で何か面白いことをしたい。でも何から始めてよいかわからないという人も多いだろう。それが「小さな本棚」の店主になることで、ほかの店主と知り合い、みんなで何か新しいことを始められると聞いたらどうだろう。
丸亀にはオープンなコミュニティスペースが少ないと感じた藤田一輝さんは、2023年シェア型本屋「城南書店街」を始めた。
藤田さんはもともと自宅の裏庭で「地域に出会う商店 ふじたしょうてん」という、小さなアンテナショップを営んでいた方。どんな思いからシェア型本屋をオープンしたのだろう?現地を訪れて聞いた。

丸亀市内にある城南書店街(撮影/Fizm加藤真由)
短パンTシャツの藤田さんと秘密基地のような店へまずは「ふじたしょうてん」へ向かう。
細い路地に入り、住宅街の中を進む。こんなところに店があるのか…と不安になりかけた頃、道脇に小さな看板を発見した。

藤田さんの実家の前に出ていた小さな看板。謎めいた「FUJITA」のロゴが暗号のようだ。この裏庭に「ふじたしょうてん」がある(撮影/Fizm加藤真由)

藤田一輝さん。ふじたしょうてんの店主であり、「城南書店街」の発起人でもある。学生時代にはリヤカーの荷台に小屋を立てて各地をめぐりコーヒーを淹れるなど面白い活動をしてきた方(撮影/Fizm加藤真由)
迎えに出てくれた藤田さんは、丸刈りに黒縁メガネに黒のTシャツに短パンという格好がよく似合う、ニコニコして人当たりが良さそうな方だった。
「こちらです」と案内され、藤田さんちの駐車場を通り抜けた先の裏庭に「ふじたしょうてん」はあった。子どものころに憧れた秘密基地のような雰囲気が漂っている。

ふじたしょうてんの外観。ほんとに物置!(撮影/Fizm加藤真由)
もとは物置だったという3坪の建物を改装し、コーヒーの飲める小さなアンテナショップとしてオープン。中に入ると壁沿いの棚には藤田さんが企画を手がけたプロダクトが並んでいて、向かいにはドリッパーなどのコーヒーグッズ。右手奥にカウンターがあり、そこで藤田さんがコーヒーを淹れてくれる。
藤田さんがカウンターに座ると、そこはまさに「藤田さんのための場所」だった。

コーヒーを淹れるシーンを演出するためにつくられたというカウンター。藤田さんが座るとしっくりハマっている(撮影/Fizm加藤真由)
「地域に出会う商店 ふじたしょうてん」店に並ぶ品は、藤田さん自身が企画して、香川県内のつくり手とともに商品化したものがほとんどだ。
「地域に出会う商店」と店名に付したのも、自身が「香川で出会った面白い方々を紹介したい」との思いからだった。

(撮影/Fizm加藤真由)
たとえば、香川の風景としてお馴染みの「おむすび山」の形をしたカスタネット、郷土料理である「しょうゆ豆」の形をした木製の「歯がため」、藤田さん自身が使いやすいように開発したコーヒーのメジャースプーン、香川の手島にある「てしま島苑」と共同開発したカップなど。近隣で縁があって出会った人たちの「ものづくりの力」を伝えたいと、藤田さん自身が企画したり、メーカーから仕入れてこの店に置いて紹介しているものばかりだ。
中には、ここでしか買えないものもある。

おむすび山の形をしたカスタネット(撮影/Fizm加藤真由)

コーヒー関連のグッズも多い(撮影/Fizm加藤真由)
「これも面白いんですよ」と見せてくれたのは「FUJITA」のロゴが刺繍で入った布製のバッグ。
「この辺りに看板も出ていないけど、すごい刺繍屋さんがあるんです。ずっとおばあちゃんが一人で足踏みミシンで刺繍していて、30~40年ずっと丸亀の小中高校の体操服の名前などを刺繍してきた方で、丸亀市民1万人以上が知らないうちにお世話になっている方なんです。刺繍マシンより手が早いので、一人で毎年、1000人以上分の苗字などを縫ってらっしゃる」

ご近所の刺繍屋さんに縫ってもらった布製バッグ(撮影/Fizm加藤真由)
そんな風に、藤田さんが「面白い、すごい」と思った人に依頼をして新しい商品をつくる。友人の出産祝いにつくった木製の歯がためなどの木工製品は、香川の「讃岐おもちゃ美術館」などでも販売されている。
コーヒーと本は人とつながるツールになる地域で出会ったものを商品にするという発想は、藤田さんが東京にいたころに働いていた「シュウヘンカ」で学んだことだった。シュウヘンカとは、国分寺で「つくし文具店」を営んできたプランナー萩原修さんの会社で、西東京を中心にさまざまなコミュニティスペースの企画運営を行っていた。
当時、藤田さんは武蔵野美術大学で建築を学びながら、地域づくりや、まちの拠点の運営に関心があり、萩原さんの営む国立本店(くにたちほんてん)というコミュニティスペースに出合う。
その後、数年間はシュウヘンカで働きながら、自身もコミュニティスペースの立ち上げや運営に携わってきた。
「この時に学んだことがたくさんあります。場の自由度を高くすると大人同士でも揉め事が起こるし、ルールを厳しくしすぎると楽しくないし。
何より、ここでコーヒーをふるまう機会をもらったことで、本とコーヒーが人と人をつなぐきっかけになることを知りました」
ほかにも自転車にリヤカーをつないで各地でコーヒーをふるまう自主活動や、軽トラの荷台に小屋を建てて各地へ出向く「ポイトラ」という活動を友人たちと行ったり。こうした体験が、ふじたしょうてんやシェア型本屋の構想につながっていく。

ポイトラの活動写真。藤田さんのポートフォリオより(撮影/Fizm加藤真由)
まちを見る解像度が変わると、つながる相手も変わる10年以上にわたりコーヒーについて勉強し続けているという藤田さん。豆もこだわって仕入れる。
「はじめは、ふじたしょうてんではコーヒーは売り物ではなくて、店で買い物してくれた方にサービスで提供しようと思っていたんです。わざわざここまで来てくださったお客さんとゆっくり話したかったので」

ドリッパーや珈琲グッズにも並々ならぬこだわりが(撮影/Fizm加藤真由)
だが藤田さんがこの店を始めたのは2020年の春、コロナ禍真っ只中だった。遠方からの客は期待できない。そこで、ご近所さんが何度も来やすいようにと片手鍋でコーヒー豆を焙煎し、販売を始めたのだという。すると、予想外のことが起こり始める。
「東京にいたころから香川に帰省するたびにいろんな方に会いに行っていたので、香川の面白い人とはもうつながり尽くしたかなと思っていたんです。でも店を始めてみると、この地域にもまだまだ面白い人がたくさんいることがわかってきて。都会の有名な焼肉店で腕を振るっていた人や、家業の民宿を継ぐために全国に店を持つホテルグループで修行されていた方とか、少年院の法務教官なんて方もいらして」
地域に対する距離感が変わると、地域の見え方が変わった。これまでとはまた違った解像度で、地域の人たちに出会うことができた。
「いまは遠方から来られるコーヒー好きのお客さんも多くて、僕もしゃべりたいし相手も話したいしで滞在時間が1時間から1時間半と、結構長くなります」
それでも、店主とじっくり話すことができたら、お客さんの満足度は高いのではないだろうか。いま藤田さんの仕事のなかで、コーヒーの淹れ方講座や研修など、コーヒー関係の仕事も多い。
「コーヒーの味は、豆7割、焙煎2割、抽出1割で決まると言われていますが、僕はそれぞれの要素が掛け算になると思っているんです。いい豆を使っても抽出がだめだと美味しくないし、同じ豆でも、焙煎、抽出でいくらでも味が変わります。たとえば、レモンティーのようなフレーバーの、軽い飲み心地のコーヒーを淹れるので、飲んでみませんか?」
ぜひとお願いすると、まさに見た目もレモンティーのようなコーヒーを淹れてくれた。


ふわっと爽やかに香り、飲み心地がさっぱりしている。初めて飲むコーヒーの味だった(撮影/Fizm加藤真由)
地域の人に出会うための書店ならぬ、書店街。シェア型本屋への挑戦その藤田さんが2023年に新たに始めたのが、地域の人たちと共にシェアする本屋「城南書店街」だ。
「始めた理由はいくつかありますが、多くの人にこの地域に来てもらいたいと思ったとき、ふじたしょうてんだけではなくて、2つ以上面白そうな場所があれば、遠くからでも遊びに来てくれるんじゃないかなと思ったんです。また、ふじたしょうてんではつくり手が見えるモノを扱っていますが、本屋のほうは、“人”とつながるきっかけをつくれたらいいなと」

城南書店街の入り口外から中をのぞきこんだときの様子(撮影/Fizm加藤真由)
2023年の5月からクラウドファンディングを始めたところ、132人から1,639,611円が集まった。ここで“ショーテンシュ”と呼ばれる書店の棚主を募集。46名が集まった。8月には、無事に店をオープン。
城南書店街へさっそく移動する。ふじたしょうてんから自転車で2分、歩いても10分ほどのヴィンテージビルの1階にある。
ただの「書店」ではなく「書店街」をイメージした店内は、壁一面に本棚。

壁一面の本棚。店主ごとに棚がある(撮影/Fizm加藤真由)

室内の反対側にはコーヒースペース。ここにもこだわりのコーヒーメーカーが設置してあった(撮影/Fizm加藤真由)
本を買ってくれたお客さんには、コーヒー1杯が無料でサービスされる。日替わりの売店や、コミュニティスペースにもなる。
いま棚主は、15~69歳の55名。職業も実に幅広い。建築家に便利屋、編集者、郵便局の職員、司法書士、理学療法士、自転車屋、Vtuberの書店員、教員、うどん屋さん、高校生、不動産屋、小説家、タクシードライバー……。そう聞くだけで面白そうだ。どんな場所に暮らしていても、それほどいろんな職業の人たちと知り合う機会は滅多にないだろう。
「入っていただく前に僕が一人一人と面談するようにしています。漠然と何かしたいと思っている方が多いですね。仕事が変わるタイミングとか、人生の過渡期にある人もいるし、出会いを求めている人、場づくりを勉強したい人。学校関係者とか」
それを反映するように、本棚のテーマもさまざまだ。小説家自身が手がけた本を並べている棚もあれば、餅屋兼食堂を営む人が「本読む餅屋」と命名した本棚も。
「たとえば、この餅屋さんは近所で有名なうどん屋さんでもあるのですが、この棚から本を買った人にうどん屋さんにもぜひ行ってみてくださいと紹介したら、その人がうどん屋さんのお客さんとして来てくれる。そんな出会い方が街のなかで増えたら面白いんじゃないかと思うんです」

各本棚には、店主、ショーテンシュの自己紹介カードがついている(撮影/Fizm加藤真由)
加盟できるコースは2つあり、3カ月に一度店番を担う月額2500円のコースと、店番はしなくていい3800円のコース。加えて、3%ちょっとのシステム利用料がかかる。
それとは別に、本が一冊売れるごとに100円を店に入れてもらうが、その分はコーヒーの豆代に充填される。
コーヒー1杯170円の原価がかかっていて、藤田さんの儲けにはならない。ただやはりコミュニケーションツールとして“美味しいコーヒー”は欠かせないと思っている。
藤田さんのやっていることは、まちに風穴を開けるような行為かもしれない。人と人の関係が新たにできたり、シャッフルされたり、ほぐされたりして、風通しがよくなっていく。
そのほとんどが、藤田さんの「楽しそうだから」で成り立っている。
どれが主に生計になっているんですか?と尋ねると、「ねぇ、一体どうやって生きてるんでしょうねぇ」と呑気な答えが返ってきた。
「ふじたしょうてんは実家の庭ですし、コストがかからないんですよね。焙煎した豆の販売と、店の売上と。あとはコーヒーを淹れる研修や講座なんかで呼んでいただく機会も多くて。城南書店街のほうは家賃がかかりますが、赤が出ないようにはしています。儲けは多くないですが、何とか死なない程度にやれればいいかなと思ってるんですよね」

城南書店街の入る雑居ビルの向かいにはお洒落な洋服屋も(撮影/Fizm加藤真由)
今年に入ってから城南書店街では、ゲストを招いてのトークイベントなども次々に行われている。この4月からはFMラジオ(西日本放送ラジオ)で隔週月曜に、城南書店街のコーナーも始まった。店主さんたちと一緒にイベント企画なども行っていきたいという。
地域のつくり手を知ってもらうためのプロダクトを紹介する店「ふじたしょうてん」と、地域の面白い人たちを知ってもらうための「城南書店街」。
2店舗こうした店があることで、近くに暮らす人同士が知り合うきっかけにもなり、文化の発信地になり、そして訪れる人たちのほっとできる憩いの場所にもなっていくのだろう。
人と人の小さな出会いが積み重なる場所があれば、生活圏はより豊かになっていく。

城南書店街の入る雑居ビルの向かいにはお洒落な洋服屋も(撮影/Fizm加藤真由)
●取材協力
ふじたしょうてん
城南書店街
所在地:世田谷区等々力
所在地:世田谷区等々力
所在地:神奈川県中郡大磯町大磯
所在地:世田谷区代田
所在地:千葉県市川市行徳駅前
所在地:千葉県鎌ヶ谷市鎌ヶ谷
所在地:渋谷区代々木
所在地:大田区田園調布本町
所在地:渋谷区神宮前
所在地:世田谷区等々力
所在地:大田区上池台大学の博士課程で学生として「空き家と居住支援」について研究をしている岡野傑(おかの・すぐる)さんは、アパートやマンション、倉庫を所有するオーナーでもあります。その研究から、高齢者や外国人、低所得者など住まいの確保に配慮が必要な人たちへの支援の必要性を感じ、所有する物件を無料で貸し出すこともあるそうです。ただ、そのようなボランティア的な精神で続けているだけでは世の中にムーブメントは起きないと、同じ志の大家さんを集めるための啓蒙活動も行っているとのこと。
岡野さんがなぜ大家として配慮が必要な人たちの支援に携わるようになったのか、その活動と志についてお話を聞きました。
収益のために始めた大家業。孤独死が発生したことが転機に岡野さんが初めて大家になったのは2010年のこと。当時はまだ企業に勤めており、自身の成長のためにFP(ファイナンシャルプランナー)の資格を取得しました。ある日、参加しているFPサークルで、財務省が国有地を売却するという話を聞きます。大家をしている友人の影響もあり、貸家業に興味を持った岡野さんは、自己資金で格安の土地と建物を購入。自分でリフォームしながら貸し出し、大家としての第一歩を踏み出したのでした。
転機は、所有物件が100室を超えるくらいまで大家業が軌道に乗ってきたころです。岡野さんは44歳で会社を退職し、専業大家となりました。さらにその翌年から三重大学大学院地域イノベーション学研究科博士前期課程に入学することに。大家として今後の収益を確保していくため「空き家問題」の研究を始めていました。ところが入学してすぐ、岡野さんが貸している物件で立て続けに2件の孤独死が発生したそうです。うち1件は死後1カ月以上も発見されなかったため、片付けに入った岡野さんはゴミ屋敷のようになった部屋や強烈な臭いに衝撃を受けました。

岡野さんの所有するアパートで孤独死が発生したときの部屋の中。孤独死の現場は想像を絶するもので、岡野さんの関心は「空き家」から「住まいに困っている人」へと移っていった(画像提供/岡野さん)
「社会的孤立という現実を目の当たりにして、関心が『空き家』から『人』へと移りました。社会には困っている人が大勢いるということを認識したのは、この時からです。さらに福祉関係の仕事をしている同じ社会人のゼミ生から、精神障がいのある人を支援する中で家を探したところ、全ての物件で入居を断られてしまったという話を聞きました。ゼミ生は、その人のために自ら中古住宅を購入して大家になったそうです。
私はそれまで収益を上げることを目的として大家業をやっていたので、大きな刺激を受けました。そこから『空き家問題』と『住宅に困っている人の問題』を組み合わせた問題解決が、私のライフワークとなったのです」(岡野さん、以下同)
空室を「無料」で貸し出し。論文として発表することで、問題提起も岡野さんが入った大学院の指導教官は、資源循環やごみ問題などを研究しており、フードロスやフードバンクなどの事例を授業で扱っていました。フードバンクを実際に見てみようと思った岡野さんは、三重県にあるフードバンクを見学した際に、フードバンクと一緒に活動していた市民団体から話を聞くことになります。
当時、その市民団体の事務所はワンルーム。支援のための食料がいっぱいでスペースがないほどでしたが、どこにも行き場のない外国人がそこで寝泊りしたり、付近の川に入って魚を取って生活しているなど、外国人の悲惨な状況を知ることになりました。
「そこで『タダでうちのアパートの空室を1部屋使ってみてください』と提案してみたのです。空室は放っておいてもタダで、貸さなくても収益は0円。物件数100戸程度にまで事業が成長すれば、その1%=1戸を無料で貸し出しても収益に大きな影響はありません。もともと空き家問題の関心から大学院に入ったので、自分の空き家活用の研究にもなると考えました。
市民団体は最初は遠慮されていましたが、いざ借りてもらうと住まいが必要な人が何人も出てきて大助かりだったということでした。さらに食料支援や生活支援の活動から、住居という支援ができるようになって外国人を助けられる幅が広がった、という言葉をもらいました」

岡野さんが行った空き家の無料貸し出しの仕組み。住居の提供は大家である岡野さんが行い、それ以外の生活支援を市民団体が行った(画像提供/岡野さん)
岡野さんはこの取り組みを論文「民間大家による住宅確保要配慮者に対する家賃無料住宅についての考察」として発表。不動産投資メディアなどでも紹介され、多くの人が知ることになったわけです。
「事業が成長してこそできる」岡野さん流、住まいに困っている人への関わり方これらの経験を経ながら大家業を始めて13年以上が経ちました。現在、岡野さんが大家として注力している活動は3つあります。
「ひとつは『住まい探しに困っている人の入居申込を断らない』こと。人が暮らしていくには最低限、家が必要です。家賃債務保証会社の審査を通ることが前提ではありますが、基本的に入居を希望する人を断りません。
2つ目は引き続き市民団体と協力し、空室を緊急で住むところを必要とする人のためのシェルターとして活用してもらうこと。現在、私の所有する物件215室のうち、アパートの4室を提供しています。特に外国人は見知らぬ土地で頼る人もいないうえ、ここ三重県では工場で働いている非正規労働者が多く、会社都合で短期に職を失うことも日常茶飯事です。言葉の壁や必要な手続きがわからず、十分な社会保障も受けられていないので、住まいの確保ができません。かなり危機的状況にあるといえるでしょう。
そして3つ目として、高齢者の多い物件で交流会を実施して、住民同士のつながりをつくっています。同じ敷地内に住んでいるにもかかわらず、住人間の関係は希薄でした。時にそれは孤立を生み、孤独死にもつながります。そこで住民同士が仲良く話し合えるきっかけを提供することで、自分たちで協力しあってお隣同士で助け合う関係をつくろうとしています」

定期的に入居者同士の交流会を開催。交流を持つことで入居者の孤立を防ぎ、孤独死や近隣とのトラブル防止にもなる(画像提供/岡野さん)
住まいに困る人の受け入れは「不安」「リスク」よりも「メリット」が大きい当然ながら、高齢者や外国人など、入居に配慮が必要な人たちに物件を貸し出すには、家賃滞納や孤独死など、大家にとってのリスクも考えなくてはなりません。しかし、岡野さんは自身の事業を「住宅セーフティネット業」と位置づけ、困っている人を助けることが仕事だと考えています。このように考えられるようになったのは、所有物件が100戸を超えたころから。収入的にも時間的にも余裕を持てるようになったことも大きいといいます。
「大家は、入居する人たちが暮らし続けるためにしっかりと修繕を行い、税金を払い、金融機関に借りたお金を返済していかなくてはなりません。そうやって成長することで、さらに多くの住まいを求める人たちを受け入れられるのです」
加えて、住まいに困っている人を受け入れることは、社会的な意義だけではなく、オーナーとしての利益につながるとも。
「三重県では空き家率が20%を超える地域もあり、今後も人口減少や新築アパートの増加を考えると賃貸業を継続していくのも難しくなる一方です。ところが、私の所有する物件では入居する人の約20%がいわゆる『住宅確保要配慮者』といわれる住まいに困っている人たち。積極的に受け入れることで、入居率はほぼ95%を維持しており、リスクを考慮しても空室にするより貸し出す方がメリットは大きいと考えています。
さらに物件周辺の整備を含めた地域貢献は、結果的に『入居率が上がり、業績が良くなる』ことにつながり、『融資を受けやすくなって物件を増やすことができる』という好循環をもたらします。そして何よりも、住まいに困っている人たちに住居を提供して社会問題に取り組むことで、社会に役立っているという幸福感を得られるのです」

「空室にしておくなら無料で貸しても収益は変わらない。市民団体にシェルターとして貸し出すことで銀行の非財務項目評価がアップして融資に有利に働くこともある。何より、社会に役立っているという幸福感を得られる」と岡野さんはいう(画像提供/岡野さん)
目指すのは江戸時代の大家さんと店子(たなこ)の関係。同志を増やすための活動もしかし、岡野さんが行っているような居住支援の活動に興味を持つオーナーは、10人に1人いれば良い方だといいます。
「支援の輪を広げていくためには、社会貢献に興味がないオーナーに『収益アップ』『空室の減少』『空室が少ないことで高く売れる』といったメリットを強調する必要があると思います。そして、管理や滞納などトラブルのデメリットを克服できる方法があることを伝えるべきでしょう」
実際に岡野さんが気をつけていることは「管理をしっかりと行って問題を減らす」ことです。例えば、ゴミの分別がわからない外国人入居者のために日本語と母国語でゴミの出し方を貼り付け、分別できていない入居者を特定できる場合は、直接指導もするのだそう。頻繁に物件に通い、清掃をして入居者に挨拶したり、道路の草を刈ってゴミ拾いをしたりして入居者との間に関係をつくりあげると、トラブルが減り、何かあったときにも対応しやすくなると岡野さんは実感しています。
「私が参考にしているのは、江戸時代の大家さんです。喧嘩の仲裁や仕事や結婚の斡旋など、昔の大家さんは入居者と深く関わり合っていました。現代は業務の細分化や効率化が進み、管理会社に任せっきりなど、経営もドライになりがちです。しかし大家が直接働きかけることで、入居者に寄り添った経営ができると考えています」

週に2回、自ら建物の周りを清掃して、道路のゴミを拾い、入居者に挨拶をする。大家が直接働きかけることで入居者との距離が縮まり、建物や周辺環境が整えば入居が増えるという好循環に(画像/PIXTA)
さらに岡野さんのライフワークは、同じような考えを持った大家仲間を増やしていくことにも及びます。敷地内で実施する交流会やパーティーに大家仲間やその家族を呼び、自分の活動を見てもらったり、講演会に呼ばれれば話をしにいくとのこと。これから貸家業をやってみたいと考えている人には、決算対策や運営方法などについて無料で相談に乗ることもあるのだそうです。

海外の大学で発表をしたときの様子。講演会に呼ばれると、岡野さんは時間の許す限り話をしにいくという(画像提供/岡野さん)
いずれの取り組みも「困っている人に住まいを提供するかどうか、最終的に決められるのは物件を持っている『大家』であって、その母数を増やすためにアプローチすることが居住支援の取り組みを広げる近道」だとの思いから。
「私はきっかけをつくるだけ。こういう世界もあるよ、と全国の大家さんの世界を広げることができればいいと考えています」
岡野さんは「今は、賃貸運営で収益を得るよりも『大家さん、ありがとう』の言葉が嬉しい、住まいがなくて困っている人の役に立てることが喜び」だと言います。しかし、岡野さんのように、居住支援を継続できる状態まで、事業を成長させることは、簡単ではありません。そのためには「まずはきちんと貸家業を軌道に乗せ、入口の動機は収益であっても、このような取り組みが必要なことを知ってもらうことが大事」だという岡野さんの考えが、全国の大家さんにも届くことを願います。
●取材協力
岡野不動産合同会社 代表社員 岡野 傑さん
所在地:新宿区百人町
所在地:中野区東中野
所在地:港区高輪
所在地:港区三田
所在地:三鷹市井の頭
所在地:板橋区坂下
所在地:目黒区中央町
所在地:杉並区永福
所在地:杉並区荻窪
所在地:目黒区碑文谷
所在地:新宿区大京町
所在地:千葉県松戸市常盤平
所在地:横浜市神奈川区入江
所在地:武蔵野市御殿山
所在地:東久留米市本町
所在地:目黒区中目黒
所在地:川崎市高津区二子
所在地:千葉県千葉市中央区白旗
所在地:横浜市都筑区茅ヶ崎南
所在地:港区南青山
所在地:渋谷区元代々木町
所在地:横浜市青葉区青葉台
所在地:横浜市青葉区美しが丘今年は冬の終わりから春にかけて,全国的に例年よりも暖かい日が多かったようです。引越しなど新生活への準備を始めた方も多かったのではないでしょうか。。SUUMOジャーナルで3月に公開した記事では、「入居者のための食堂、昼・夕食500円、朝食はなんと100円! 「トーコーキッチン」開店から9年目。入居者希望増、書籍化など、さらにすごいことになってた!」「【2024年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 。トップ3はすべて江戸川区で6万5000円以下!」などが人気TOP10入りしました。本稿では、バラエティー豊かな記事の見どころをご紹介いたします。
2024年3月の人気記事ランキングTOP10はこちら!TOP10はこちらの記事となりました!
第1位:入居者のための食堂、昼・夕食500円、朝食はなんと100円!「トーコーキッチン」開店から9年目。入居者希望増、書籍化など、さらにすごいことになってた!
第2位:3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待
第3位:【2024年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング。トップ3はすべて江戸川区で6万5000円以下!
第4位:シャッター街、8年で「移住者が活躍する商店街」に!20店舗オープンでにぎわう六日町通り商店街・宮城県栗原市
第5位:「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を
第6位:【2024年】東京23区の中古マンション価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?
第7位:高齢化進む築50年超の団地が大学サッカー部寮になった!芋煮会や大掃除など、学生と高齢者が支えあう竹山団地 神奈川県横浜市
第8位:土地の価格、道が一本違うだけで大きく変わるのはなぜ? 1平米6万円差が出ることも! 「路線価図」で街あるきしてみた
第9位:車椅子での家事動線など追求したら、リノベがバリアフリーの家の最適解だった! 扉ナシ・カウンター下は空間に、など斬新テク満載の共働き夫婦の家
第10位:「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進
※対象記事とランキング集計:2024年3月1日~31日に公開された記事のうち、PV数の多い順
第1位:入居者のための食堂、昼・夕食500円、朝食はなんと100円!「トーコーキッチン」開店から9年目。入居者希望増、書籍化など、さらにすごいことになってた!

(写真撮影/片山貴博)
手づくりの食事を朝100円、昼・夕500円のワンコインで毎日提供。賃貸物件の入居者のために不動産会社が運営する食堂「トーコーキッチン」は、朝8時から夜8時まで利用可能。栄養バランスを考えてつくられた日替わり&週替わり定食、カレーライス500円やキッズプレート300円などを手ごろな価格で味わえます。2015年のオープン以降、「街の一角に自分たち専用の食堂がある」という安心感を味わえる魅力的な仕組みによって、賃貸物件への入居希望者が増えるとともに、多くの注目を集め続けています。今回は、食堂「トーコーキッチン」のある淵野辺(神奈川県相模原市)を訪れ、8年間の変化について聞いてきました。
第2位:3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
熊本県山鹿市にある住宅メーカーLib Work(リブワーク)は、環境への配慮と持続可能性を追究したいという思いのもと研究を重ねました。その結果、土を主原料とする3Dプリンター住宅のモデルハウスの第1号「Lib Earth House “modelA”」が2024年1月、ついに完成。今まで日本で開発されてきた3Dプリンター住宅はコンクリート造のみで、土を原材料とした3Dプリンターの家は国内初とのこと。代表取締役社長の瀬口力さんは、2025年には100平米の平屋での一般販売も予定しており、ゆくゆくは火星住宅建築プロジェクトを目指しているのだとか。実際に実物を目にするため、同社の「Lib Work Lab(リブワークラボ)」を訪れてみました。
第3位:【2024年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング。トップ3はすべて江戸川区で6万5000円以下!

(写真/PIXTA)
東京都内でも特に利便性が高い暮らしを望むなら、やはり23区内が人気。交通網が充実しており商業・文化施設も豊富、さらに賃貸物件の数も多いため理想的な物件を探しやすいといった魅力があります。一方で、首都圏でも飛び抜けて家賃が高い点がネックに。ですが、探せばきっと予算内で住める物件はあるはず! 例えば、1位にランクインした江戸川区の京成本線・江戸川駅周辺の物件なら、家賃相場は6万4000円のうえ、スーパーも点在していて便利そうです。今回は、東京23区内にある駅ごとの家賃相場を調査。駅から徒歩15分圏内にある賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満のワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安い駅トップ20をご紹介します。
第4位:シャッター街、8年で「移住者が活躍する商店街」に!20店舗オープンでにぎわう六日町通り商店街・宮城県栗原市

(写真撮影/難波明彦)
シャッター街になりつつあった宮城県栗原市。しかし、今では地方への移住をテーマにした情報誌の、全国の人口5万人以上10万人未満の市を対象にした評価の総合部門で1位になるほど人気に。そのなかでも特に注目されているのが「六日町通り商店街」です。実は2016年ごろから、自治体や商店会、地域おこし協力隊らが連携し、移住者が開業しやすいようにと努めてきました。その結果、現在では、個性的なお店が約20店舗オープンし、若手中心にイベントなどを企画、多くの人が集まるようになり活気を取り戻しました。その「六日町通り商店街」再生の取り組みと現状を紹介します。
第5位:「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を

(写真提供/日本郵便)
大規模災害を想定した、最低限の水や非常食の備蓄は必要不可欠です。しかし大地震により物流が途絶え、支援物資も届きづらい状況を思えば、防災リュックの中身だけでは心もとないときもあるでしょう。また、避難所や仮設住宅での生活が長引いた際には、嗜好品や思い出の品など「心を癒やすアイテム」も必要になることも。
可能であれば最低限ではなく、最悪を想定した十分な備えをしておきたいところ。そこで記事では、マンション単位で導入できる備蓄品のサブスク「防災サステナ+」や、防災備蓄をスマホでまとめて管理できる「SAIBOU PARK」などを紹介しています。
第6位:【2024年】東京23区の中古マンション価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?

(写真/PIXTA)
全国のなかでも群を抜いて人口が多いのが東京都。多少の増減はありつつも増加傾向が続き、総務省によると2023年の1年間で東京都への転入者数は転出者数を約6万8000人も上回っているそうです。そんなニーズの高さも反映し、東京23区内の住宅価格は他地域に比べて高め。利便性のよさや仕事の都合から都内に住みたい、でも費用はなるべく抑えたい……と考える人も多いのではないでしょうか。そこで記事では、東京23区内に位置する駅から徒歩15分圏内にある、中古マンションの価格相場を調査。シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)の1位には、価格相場2980万円で2駅がランクイン。さらに、カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)では、価格相場3024万5000円であの区がランクイン! それぞれの中古マンションの価格相場が安い駅ランキングをご紹介します。
第7位:高齢化進む築50年超の団地が大学サッカー部寮になった!芋煮会や大掃除など、学生と高齢者が支えあう竹山団地 神奈川県横浜市

(画像/片山貴博)
神奈川県横浜市緑区にある竹山団地は、神奈川県住宅供給公社が1960年代に開発した約45haの大規模団地です。築50年を超えた約2800戸を有する建物は、日本の高度経済成長期に建設され、他の団地同様に老朽化と高齢化の問題を抱えていました。しかし、「学生たちに共同生活や地域貢献を通じて課題解決型の教育を実践したい」と考える神奈川大学と、保有資産やこれまでのノウハウを活かして団地活性化に取り組みたい公社のニーズが一致し、2020年に「連携・協力に関する協定書」を締結。今では、大学のサッカー部員が団地の空室に入居し、防災訓練や地域のイベントに参加したり、学生食堂を兼ねるカフェの運営、商店街の清掃などを行ったりしています。この取り組みの背景や、約4年間を経てつくり上げてきたもの、入居する学生たちの本音などを聞いてきました。
第8位:土地の価格、道が一本違うだけで大きく変わるのはなぜ? 1平米6万円差が出ることも! 「路線価図」で街あるきしてみた

(写真撮影/小林景太)
「交差点をはさんでこちら側とむこう側」「道が一本違うだけ」ーーそれなのに、土地の価格が大幅に変わる。こうした不思議な現象が、街のあちこちに見られます。なぜそんなことが起きるのでしょうか? 街をもっとよく知る手がかりとして、注目したのが国税庁が毎年発行する「路線価図」。相続税や贈与税の算出時に参照され、インターネット上で見ることができるデータです。本来は持ち歩くための地図ではありませんが、住まいと街の解説者として30年以上活動する中川寛子さんは、この地図を活用して土地の価格の理由を探る「街あるき」をしています。2023年には著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行しました。記事では中川さんと一緒に土地価格の謎を解明します。
第9位:車椅子での家事動線など追求したら、リノベがバリアフリーの家の最適解だった! 扉ナシ・カウンター下は空間に、など斬新テク満載の共働き夫婦の家

(写真撮影/桑田瑞穂)
日本には、病気やケガなどで脚部や上肢・胴体の一部を使わずに生活する方が約193万1000人(2016年 厚生労働省 生活のしづらさなどに関する調査)います。今回取材させていただいたNさん夫妻(30代)は、人生の節目節目で引越しをし、4つの賃貸住宅に住んでみるも「たくさんの不便があった」と話されていました。そんな彼らが、リノベーションを決めた理由をはじめ、賃貸住宅の生活にはどんな不便があり、住宅にはどんなことを求めているのか? マンションをリノベーションし、自分たちらしい住まいを手に入れたNさん夫妻の事例を通して、「バリアフリー住宅×リノベーション」の可能性に迫ります。
第10位:「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進

(写真/PIXTA)
リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024年関西版」を発表しました。今回住みたい街(駅)ランキングで1位となったのは「梅田(地下鉄御堂筋線)」。
なぜ、人気なのか?選ばれた理由や街の魅力(住みたい理由)をご紹介します。その他にも、前回のランキングから上昇した地域や、穴場とされている地域も要チェックです。
3月の人気記事ランキングでは、人や地域との繋がりに関する記事のランクインが目立ちました。その他、災害対策や環境面に配慮したテーマの記事など、今、住まいに求められていることが見えてきます。新生活が始まる時期だからこそ「もしも」の対策はしっかりとりつつ、住み心地がよく地域の方との交流も楽しめそうな、あなたにピッタリな街を探してみてください。
東京都では、STEM分野の魅力発信事業「オフィスツアー」を実施している。令和5年度事業の第3弾として、建設分野から竹中工務店のオフィスツアーが開催された。筆者は、女子中高生向けのツアーと聞いて、彼女たちはどんな目的で参加し、どんなことを感じるのか興味を持った。そこで、オフィスツアーを取材することにした。
科学・技術・工学・数学の4分野の職場を訪問するオフィスツアーまず「STEM」とは何か説明しよう。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4分野の総称だ。いわゆる理系分野と言ってよいのだろうか、こうした分野で女性が働くことの魅力を発信する事業ということだ。
東京都では、令和5年度事業として、第1弾は大日本印刷/SCSK/NTTデータ、第2弾は日本マイクロソフトのオフィスツアーを実施した。そして今回の第3弾は、建設分野の竹中工務店。現場見学があるからか、参加人数は20人とこれまでよりも少ない人数の募集枠だった。

竹中工務店オフィスツアーのチラシ
抽選で選ばれた女子中学生&高校生が集合当日はまず、竹中工務店の会議室に、かなり多くの応募から抽選で選ばれた女子中高生が集合した。集まってきた女子中高生は、友達と2人で参加する生徒も何組かいたが、多くは1人で参加しているようだった。5人ずつの4グループに分かれて着席するが、初対面でもすぐに打ち解けて、学校の話などをしてにぎやかになっていた。
少し話を聞いてみると、学校に掲示したポスターを見て応募した人もいれば、母親や知人が教えてくれた、アプリ広告を見たという人もいた。高校生の場合は、すでに理系専攻を決めていて建築にも興味を持っているというケースがあったが、中学生の場合は文理専攻のどちらにするか迷っていて、その参考になればと思って参加したというケースもあった。

4グループに分かれて主催者からオフィスツアーの趣旨説明を聞く。周りにいる女性は竹中工務店の女性社員(筆者撮影)
○オフィスツアーのプログラム
開会のあいさつ(東京都・竹中工務店)
イントロダクション
社員とトークタイム(個別質問会)
館内見学・質疑応答
~バス移動~
作業所見学・質疑応答
閉会の挨拶(日本建設業連合会)
最初に、東京都生活文化スポーツ局 女性活躍推進担当部長の樋口 桂さんから、開催趣旨の説明があった。日本の場合は、STEM分野の大学に進学する女子生徒が少なく、就職先に選ぶ人も少ないが、その理由のひとつに性別による「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」があるという。つまり、女性は文系に進学するもの、理系の職場は女性には向かないといった無意識の思い込みが、進学や就職先を決定する場でも働いてしまう。そこで、東京都ではSTEM分野での女性活躍推進を目的に、オフィスツアーによって将来のイメージを持つことで、進路の選択肢が広がることを期待しているのだ。
女子中高生とゼネコンで働く女性社員のホンネのトークタイムさて、まずイントロダクションとして、設計部の藤田沙織さんから、建設業について、どんな仕事でどんな領域があるのかなどについて説明があった。竹中工務店は総合建設業者(ゼネコン)なので、建築主から依頼を受けて仕事が始まるが、一緒にモノづくりをするパートナー会社が数多くいること、建物づくりの全工程(企画開発から設計、施工、維持管理まで)のとりまとめをすることなどの説明があり、それぞれの工程の役割についても詳しい説明があった。
また、竹中工務店の女性の従業員比率は年々増加傾向にあり、現在は18.2%が女性で、その約4割が技術職だという。おそらく、参加した中高生が就職する頃には、その比率ももっと高まっていることだろう。

総合建設業について分かりやすく説明をする竹中工務店の藤田さん(筆者撮影)
次に、竹中工務店の女性社員8人が2人1組になって、全グループを回ってトークをする「トークタイム(個別質問会)」となった。女性社員は、設計本部、設計部、設備部、営業部、総務部から、年次も入社2年目から15年目までと、多様な部署・社歴からの参加で、ワーキングマザーもいた。

女性社員2人が各グループを回って、質問を受ける(筆者撮影)
筆者はいくつかのグループのトークタイムを見て回ったが、さまざまな質問がされていた。まだ中高生ということもあって、理系に進学した理由や大学で建築を専攻した場合の教室の雰囲気など、まずは進学に関する質問が多かった。また、竹中工務店に就職した理由や異動はどうやって決まるのかなどの質問もあり、先ほどの藤田さんは「東京タワーや東京ドームなどの誰もが知っている建物を作っていたことがきっかけ」と答えていた。
驚くような場所も。最先端のオフィスを見学次のプログラムは、竹中工務店の館内見学。7階建てのオフィスに約2400人が働いているという。東京本店のオフィスは、米国・健康建築性能評価制度「WELL Building Standard TM」※1の「ゴールド」ランクを取得している。
※1「WELL Building Standard」(WELL認証)とは、空間のデザイン・運用に「人間の健康」という視点を加え、より良い居住環境の創造を目指し、アメリカの公益企業であるIWBI (International WELL Building Institute)が制定した評価システム。
1階のカフェ&ダイニングには、野菜充実のサラダバーもあった。6階にはKOMOREBIというワークラウンジがあり、植物があちこちに配置され、水盤もあった。4階にはIZUMIという図書ラウンジ、BIMスタジオがあり、そこでは「BIM」※2の説明もあった。
※2「BIM」とは、Building Information Modelingの略で、建築物をコンピューター上の3D空間で構築し、企画・設計・施工・維持管理に関する情報を一元化して活用する手法

ワークラウンジKOMOREBI(筆者撮影)

BIMスタジオで「BIM」についての説明があった(筆者撮影)
建設現場の作業所を見学、工事中のビルの内部にも館内見学後は、報道陣も含めて全員がバスで移動し、都心部のとあるビルの建設現場を見学。(ただし、建築主の所有物なのでビルの撮影は禁止)。はじめに、作業所で働く女性社員から、ここで竹中工務店がどんな仕事をしているか説明があった。パートナー会社の多くは男性が中心となるが、日本建設業連合会の「けんせつ小町」の活動もあって、女性専用のトイレや更衣室が整備されているなど働きやすい職場になっているという。

作業所の仕事の説明をする清水きさらさん・渡邉桃子さん(筆者撮影)
女子中高生は2グループに分かれて、全員がヘルメットと軍手を着用し、工事用エレベーターに乗り込んで、工事現場のフロアを見学した。下層階は外装工事に加えて内装工事、設備工事も始まっていて、工事内容の違いなどの説明もあった。なお、参加者は事前に保険に加入している。
最後に質疑応答の時間があり、「一日どこで何時間くらい仕事をしているのか」、「現場事務所にいた人は何人でどの仕事をしているのか」といった作業所に関する質問もあったが、「学生時代にこれをやっておいて仕事に活かされたものはあるか」、「この仕事で良かったと思うことはあるか」といった質問もあった。清水さんは、「学生時代に学んだことは仕事の基礎になっているが、ゼネコンは関わる人が多い仕事なので、学生時代に多くの人とコミュニケーションを取ったことが最も活きている」、渡邉さんは「まだ建物が竣工したところを見ていないが、昨日なかったものが今日はできている変化が見られることにやりがいを感じる。竣工したらすごく感動すると思う」と答えていた。
さて、最後に参加者数人にツアーの感想を聞いた。「植物があるなどオフィスの工夫も印象に残っているが、人とのコミュニケーションが大切だという話が強く印象に残っている」、「建設というとデザイン(設計)しか思いつかなかったが、知らなかった役割がたくさんあって、役割によって携わり方が違うことが分かった」、「トークコーナーで直接いろいろ質問できたし、他の人の質問の答えも聞けてよかった」といった声があった。
また、「自分の仕事に誇りを持っているのがよく分かった。自分も誇りに思える仕事につきたい」、「大人は楽しそうではないから、大人になりたくないと思っていた。それが、仕事を楽しそうにしている姿を見て、興味を持った仕事をやりたいと思うようになった」という感想もあった。
筆者が思うに、オフィスツアーで最も大きな情報発信になったのは、そこで働く女性社員たちが仕事に誇りを持って生き生きとしている姿なのだろう。そうした姿を見れば、女子中高生たちも後に続きたいと思うにちがいない。
●関連サイト
東京都/STEM分野魅力発信事業「オフィスツアー」ー令和5年度 第3弾竹中工務店ー
東京都/STEM分野魅力発信事業「オフィスツアー」(開催結果)
所在地:渋谷区神南
所在地:渋谷区千駄ヶ谷
所在地:富士見台
所在地:世田谷区瀬田キャンピングカー、バンライフなど、車と住まいが一体化したライフスタイルが注目を集めています。そんなトレンドの影響もあってか、リノベーションオブ・ザ・イヤー2023で特別賞を受賞したのがキャンピングカーをリノベした「動く家」です。キャンピングカーをリノベしたら、一体どのような住まいになったのでしょうか。施主と設計を担当した建築士に話を聞いてみました。
中古のキャンピングカーをリノベしてできた「動く家」今回の「動く家」プロジェクトの施主・川原一弘さんは、サーフィンやキャンプを趣味としていて、もともとハイエースを所有していました。ただ、コロナ禍もあって自由に移動できず不便さを感じていたため、別荘またはハイエースへの買い替えを検討していましたが、偶然、中古のキャンピングカーを発見しました。
もともと、熊本を中心にリノベーションや店舗デザインなどを幅広く手掛けていた会社ASTERの社名を知っていた川原さんは、すぐに会社宛にメールを送り、相談したといいます。
「状態のいいキャンピングカーがあるのですが、これをリノベできますか」。すると、わずか10分後にメールで「できますよ!」と即答が。このレスポンスに後押しされ、キャンピングカーを購入したのです。2022年3月3日のことでした。

30年前に製造されたキャンピングカー。横顔がりりしい!(写真提供/ASTER中川さん)
車は1993年製造、建物でいうと築30年、広さは8平米のワンルーム。キッチン・バス・トイレと運転席がついていて、昨今、都心部で話題になっている「激狭ワンルーム」と同程度といってもいいかもしれません。
「せっかくのキャンピングカーなので、単なる改装で終わらせるのは惜しいと思いました。居住性を高めて『動く家』にするのはどうだろう、という案を川原さんに提案したところ『よいですね』と話がまとまりました。キッチン・トイレ・シャワーは十分に動くためそのままで、位置などの変更も行っていません」と話すのは、設計を担当したASTERの中川正太郎さん。
既存の駆体のギミック、良さは残しつつ、価値を高めるのは「リノベ」の得意とするところです。車の改装では終わらせずに「家」「別荘」のように使える空間をつくる、そんなプランニングが固まりました。
居住性を高めるのは素材感。住宅用の無垢材、家具屋のソファを採用「動く家」にするということは、すなわち「居住性を高める」こと。そのため、プランニングでは手触り、心地よさなど素材感を活かすことにしようと思い至ったといいます。

リノベ前の写真。これはこれで味があります(写真提供/ASTER中川さん)

リノベ前の写真。室内から運転席を見たところ(写真提供/ASTER中川さん)
「内装の雰囲気の参考にするため、キャンピングカーショーを訪れるなどし、かなりの数のキャンピングカーを見学しました。そのなかで気がついたのは、家らしさというのは、やはり素材ということ。自動車改装用パーツで木っぽい見た目にするのは容易ですが、やっぱりどこか工業用部品なんです。ですから、今回は住宅用の建材を使おうと。床や壁にはたくさん木材を使っていますが、突板(スライスした天然木をシート状にして加工したもの)を貼っていますし、塗装も住宅用、照明はダウンライトです。ソファなども車用ではなくて家具屋さんに依頼しました」と中川さん。

ソファベッドは折りたたみ式で、ベッドのように広げたところ。間接照明がおしゃれ(写真提供/ASTER中川さん)

ソファベッドをソファとテーブルを囲む椅子にした状態(左)とベッドにした状態(右)の間取図。バス・キッチン・トイレ。動線も考えられた、まさに家(写真提供/ASTER中川さん)
狭い空間だからこそ、目に入るもの、手や足で触れるものの素材感が大事というのは、わかる気がします。また、空間がコンパクトになることから、省スペースで小さく作られていることが多い船舶用パーツを採用したとか。
「施工に関しては、普通の住宅のリノベとほぼ同様の工程です。残せる部分は残しつつ、施工する床やソファなど既存のものは剥がしています。床はヘリンボーン(角が90度になっている貼り方)なので、座席と接する面など、細かな部分は職人さんも苦労したと思います」(中川さん)

床のヘリンボーンを貼っているところ。車だと思えないですね(写真提供/ASTER中川さん)

こうしてみると手仕事でできているのがわかります(写真提供/ASTER中川さん)
施工にかかったのは約1カ月半、費用は130万円ほど。通常、リノベーションでは職人さんが現地に赴いて作業を行いますが、そこは車なので、なんと職人さんの庭に移動してきて作業をしたそう。大工さんも家ではなく車に施工するとは、きっと貴重な機会になったことでしょう。

車内に船舶用の照明を採用するなど、狭くても快適に暮らせる工夫が凝縮(写真提供/ASTER中川さん)
窓の景色が移ろう、動く城のような最強の可動産が完成!完成した住まいは、常に移動して窓から景色が動いていく「動く城」のよう。出来上がりについて施主の川原さんは、「最強の可動産ができた!」と表現します。

この車からの眺め、そのままロードムービーに使えそう(写真提供/ASTER中川さん)
「動線がスムーズなので、寝る、着替える、くつろぐ、収納からモノを出す、といった行動が家と同じ感覚でできています。目的地についてもキャンプ設営は不要ですし、着替えやシャワー、トイレの場所を探すといった行動にストレスがなく、滞在時間を思う存分、アクティビティに使えます。運転席にロールスクリーンがあるので、下ろして映画を見たりもしています。2人の子どもたちはゲームをしたり、家となんら変わらないくつろぎ方をしていますね。窓から景色がキレイなんですけど、まったく見ていないという……」(川原さん)

キッチンでコーヒーを淹れるだけで、至福のひととき(写真提供/ASTER 中川さん)

ロールスクリーンを下ろしてゲーム中。川原家のお子さんになりたい(写真提供/川原さん)
こうして動く城に家族を乗せて、サーフィンや釣り、キャンプに行ったり、初日の出を屋根の上で見たりと、すっかり家族の居場所になっているといいます。ご近所にも評判で、同級生が内見(?)するということも多いとか。
生活に必要なインフラでいうと、電気は大型のポータブルバッテリーを搭載、上水は大きめの給水タンク、下水も汚水タンクがあるため、「家」と変わらない快適さをキープ。断熱材はもともと入っているため今回は手をつけていませんが、現状、エアコン1台で冬も夏も快適に過ごせるといいます。そこはさすが断熱先進国ドイツ製!といったところでしょうか。
一方で、キャンピングカーはそのものが大きいので運転では注意が必要なこと、事前に駐車するスペースを調べておくこと、目的地までの道路が細すぎないか、という点に注意しているそう。もう一つ、気を付けている点として、家の生活感を持ち込まないことをあげてくれました。

お子さんたちのものは極力、厳選して持ち込んでいます(写真提供/川原さん)
「子どもがいるとどうしても、住空間に生活感がにじみでてしまいますよね。せっかくおしゃれにつくってくれたので、この世界観を壊さないように、大人のインテリア空間にするよう、努めています」(川原さん)
ああ、わかります、その気持ち。子どもと一緒の空間は好きなんだけれども、たまには生活感のない大人の空間にいたい……。「動く家」はそんな大人の切なる願いも叶えてくれたようです。
家や住宅ローンのように「動かせないもの」に囚われない生き方を提案したい今回の「動く家」、現在、乗れているのはほぼ週末といいますが、川原さんがもっとも魅力を感じたのは、「家が自分についてくる、自分本意の生き方ができること」だといいます。
「私たちが暮らす九州は、風光明媚な場所が多くて、阿蘇、天草、鹿児島、大分、宮崎など、自然そのもの、移動そのものが楽しいことが多いんです。『動く家』があれば、ドライブに出かけてそのまま夜空を眺めたり、美しい景色を見て、気に入ったら長く滞在したりと、自由に暮らすことができる。時間通りに動くというより、自分に合わせて家がついてくる、そんな生き方を可能にすると思いました」

窓の向こうに広がる絶景! キャンピングカーで九州を巡るのを夢見ている人は多いのでは(写真提供/川原さん)

動く家。ドライブだけでもしてみたい(写真提供/ASTER中川さん)
設計を担当した中川さんも、手応えを感じているようです。
「弊社の『マンション』『一戸建て』『賃貸』というメニューに『車』という領域を増やしたいくらい。一軒家+離れや応接間のような感覚で、車の空間を使ってみたいという人は多いと思います」と話します。確かにテレワークスペース、家族の避難場所などとして、十分に「ほしい」という人はいることでしょう。
ともすると、私たちは、家や住宅ローンという「重いもの」に縛られがちですが、「動く家」はそうした重たさや、「動かせない」という思い込みを追い払ってくれる存在です。
「老後のためにと今まで積み立ててきた有価証券を取り崩さず、担保に入れて資金調達するスキームを組むことで月々の返済負担をなくし、目先を楽しむことを実現しています。今、老後や将来のためにといって貯蓄や投資にまわす人は多いですが、死ぬときにお金はもっていけません。やりたいことを我慢するのではなく、きちんと暮らしとやりたいことは両立できるんだよという、事例になっていけたらいい」と話す川原さん。
キャンピングカーやバンライフが広がりはじめたものの、「いいなあ」「やってみたい」という人は多いはず。ただ、移動する車窓のように、人生は移ろいゆき、変化していくもの。「定年後に」「ゆくゆくはキャンピングカーで」と憧れるのではなく、実はすぐにでも動き出すことが大切なのもしれません。
●取材協力
ASTER
ASTERのInstagramアカウント
2022年11月、国交省の研究機関である国土技術政策総合研究所(以下、国総研)がLGBTQの人たちに対する自治体の取り組みを調査した報告書「LGBTに対する地方公共団体における住宅政策の取り組み調査報告」を公開しました。47都道府県のうち、ほとんどがLGBTQの人たちを「住宅の確保に配慮が必要な人」として位置付けているのに対し、市区町村など1700以上の基礎自治体となると十数件のみとなり、その意識のギャップが浮き彫りになっています。
2015年以降、性的マイノリティとされるカップルが人生を共にすることを宣誓し、婚姻と同じように自治体が認める制度「パートナーシップ宣誓制度(以下、PS宣誓制度)」を導入する自治体が徐々に増えているなかで、住まいの問題は改善しているのか、同性パートナーと共に公営住宅に入居できるのかなど、国交省 国総研 建築研究部長 長谷川洋さんにお話を聞きました。
LGBTQは「住宅確保要配慮者」?住まい探しにおける問題とはLGBTQの人たちが賃貸物件に入居しようとすると、収入面に問題がなくても同性カップルというだけでオーナーや管理会社に入居を断られる、という体験談を耳にすることがあります。また、トランスジェンダーの人が不動産会社で担当者に証明書記載の性別と見た目とのギャップに驚かれたり、同性カップルは夫婦とみなされず、ファミリータイプではなくルームシェア可の部屋しか紹介してもらえなかったり。住まい探しで嫌な思いをすることも多いようです。

同性カップルが住まい探しをしても、根強い偏見や制度が追いついていないために、なかなか思うようにいかない現実がある(画像/PIXTA)
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高齢者や低所得者など、住まい探しに困難を抱える人たちの中でも、ことLGBTQの人たちが直面している問題について、日本では残念ながらあまり理解が進んでいるとは言えません。以下の資料からも、2/3近くの回答者が「性の多様性に対する社会の理解が進んでいない」と感じており、不動産会社に相談に行くことに不安を覚えている当事者が多いことが分かります。

回答した人の 2/3近くが、性の多様性への理解が進んでいないと感じている(出典:浜松市「令和元年度第1回浜松市広聴モニターアンケート調査『性の多様性について』」)

L(Lesbian、レズビアン)やFB(Female Bisexual、女性のバイセクシュアル)など多くの当事者たちが不動産会社に行くことに不安を感じている(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ「2021年セクシュアル・マイノリティーの居住ニーズに関するアンケート」)
不動産会社の中には、社内で勉強会や研修を行ってLGBTQの人たちが抱える悩みや問題への理解を深め、当事者が相談しやすい環境づくりや希望に沿った物件を紹介しようと尽力する会社も、もちろんあります。
しかし、そうではない会社がまだまだ多いのも現状です。時には「LGBTQを住まい探しの支援が必要な対象とした『住宅確保要配慮者』に含めるべきか」ということそのものが議論となることもあるのです。
そこで、2022年11月に、国交省国総研が全国の自治体や関係団体に向けてLGBTQに対する調査を実施しました。調査を行った長谷川さんは、その実施背景について次のように語ります。
「LGBTQの住まい探しといっても、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーといったさまざまな属性ごとに抱える問題もあり、一括りにはできません。民間の不動産会社などがそれらの問題に対しどのように対応しているのか、地方自治体の住宅施策で同性カップルが公営住宅に入居できるのか、国の調査機関としてのデータもありませんでした。そこへ、LGBTQの住宅問題に取り組んでいる研究者から一緒に調査を進めないかと話をもらい、地方自治体の取り組みについて私が担当することになったのです」(長谷川さん、以下同)
調査は、メールやFAXを用いてアンケート形式で実施し、都道府県や指定都市のほか、東京23区と中核都市、そして賃貸住宅供給促進計画やすでに居住支援協議会を設立している市区町村を含め、計157団体から回答を得ました。

地方自治体がLGBTQの住まいに対してどのように取り組んでいるのか、2022年8~9月にメールによるアンケート方式で調査を行った(資料提供/国土交通省国総研)
LGBTQは「住宅確保要配慮者」? 調査で見えた、意識のギャップ住まい探しに困っている人の民間賃貸住宅への入居促進を図る「住宅セーフティネット法(正式名称:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」では、“LGBT※は「法律で定める者」ではなく、「国土交通省令で定める者」の中のひとつ”として例示されているに過ぎません。PS宣誓制度の有無が各自治体によって異なるため、国はLGBTを住宅確保要配慮者に含めるかどうかの判断も各地方自治体の判断に委ねる、つまり国として必須で定義するものではない、ということのようです。
※以降、資料に関する事項については、当時の調査内容にあわせてLGBTQではなくLGBTと表記

住宅セーフティネット法では、LGBTは「国土交通省令で定めるもの」の1例として例示されている(資料提供/国土交通省国総研)
実際に調査結果を見ると、賃貸住宅供給促進計画を策定している「都道府県」は47中46、LGBTQを要配慮者として位置付けているのは47中44です。一方、基礎自治体にあたる市区町村などを含む「その他」では、賃貸住宅供給促進計画策定済みがわずか0.3%、LGBTを要配慮者として位置付けているのは0.2%となっています。

この結果からは、ほとんどの都道府県がLGBTを「住宅確保要配慮者」としているのに対し、市町村レベルでは、1619団体のうち、位置付けているのは3件のみと読める(資料提供/国土交通省国総研)
その一方で「市区町村などの基礎自治体は、個別には賃貸住宅供給促進計画を定めていなくても各都道府県の定める計画に基づいて施策を行っているはず」と考えることが可能です。そうなると賃貸住宅供給促進計画策定済みの基礎自治体は97.9%+0.3%、LGBTを要配慮者として位置付けている基礎自治体は93.6%+0.2%と読むこともできるわけで、この数値をどのように解釈すべきかに迷います。
長谷川さんは、「市町村で賃貸住宅供給促進計画をつくっていなくても、LGBTを位置付けているところはあるかもしれないが、はっきりとは掴めていない」とした上で、次のように話しています。
「PS宣誓制度を市町村で導入していなくても、都道府県が導入していれば、それに乗る形で都道府県の出した証明書を有効として、LGBTQでも公的サービスを受けられる基礎自治体も多いです。
LGBTの位置付けは自治体によって差がありそうですが、そのような実務的な側面で考えれば、実際に住宅確保に困っている当事者がいるのですから、国としては、LGBTは法律が指定する『住宅確保要配慮者』にあたる、と捉えることができます」

渋谷区が発行するパートナーシップ証明書(画像/渋谷区)
LGBTQが抱える住まいの問題が見えにくいワケ次に「LGBTからの住宅相談」の状況を見てみましょう。
自治体の中でLGBTからの住宅相談を受けたことがあることを示す「相談あり」は全体で8%と、自治体の担当者のほとんどがLGBTの住まいに関わる問題に直接的に対応した経験がないことが分かります。

LGBTQからの住宅相談を受けたことのある自治体はごくわずか(赤枠)。そのうち、半数以上が同性カップルで公営住宅に入れるかという相談になる(資料提供/国土交通省国総研)
日本におけるLGBTQの割合は、3~10%といわれています。にもかかわらず、こんなにも「聞いたことがない」と回答する人が多い理由は、LGBTの人たちが自治体に住まいの相談に行く機会がほとんどないからだと考えられます。
「10人に1人がLGBTQだとしても、カミングアウトしている人はほんのひと握り。社会や周囲の人から差別されることなどを恐れて、親にも、会社にも知られないように生活している人が大勢います。
不動産会社に入居を断られても、自治体の窓口に相談に行く人がいないため、制度はあっても実際に対応したことがない、また問題の実態を把握できていない自治体職員が多いのです」
パートナーシップ宣誓制度の導入と必ずしも一致しない公営住宅の施策さらに、各自治体のPS宣誓制度の導入予定と同性カップルの公営住宅への入居を認める予定との関係についても見てみましょう。
まず、本調査を公表した2022年11月時点のPS宣誓制度の導入状況は、都道府県で21%、最も高いのは政令指定都市の85%です。

PS宣誓制度の導入が最も進んでいるのは、指定都市の85%。導入割合が低いのは、都道府県の21%で、指定都市以外の属性において、半数以上が導入していないという結果となった(資料提供/国土交通省国総研)
このうちPS宣誓制度を導入していない自治体に今後について確認すると、PS宣誓制度を導入予定、もしくは導入に前向きな自治体が、必ずしも同性カップルの公営住宅への入居を認める予定ではないこと、または逆にPS宣誓制度の導入は未定でも公営住宅への入居を認める予定の自治体があることが分かりました。
そして、PS宣誓制度の導入や公営住宅への同性カップルの入居を認める予定のない自治体がまだまだ多いのも気になるところです。

「PS宣誓制度の導入予定」と「同性カップルの公営住宅への入居を認める予定」の関係図。少数ではあるが「PS宣誓制度の導入は未定、なし」でも公営住宅への入居も認める方向の団体や、その逆があるのは興味深い(資料提供/国土交通省国総研)
「この点については、地方自治体の住宅部局からすれば『公営住宅への入居を認めるかよりも、PS宣誓制度を導入するのが先で、導入されてから対応する』という考え方が背景にあります。事実、PS宣誓制度導入が未定のところは公営住宅への入居も未定というところが多く、住宅部局がPS宣誓制度導入よりも先駆けて公営住宅で同性カップルを受け入れようとしているところもありますが、何らかの公的な証明書がなければ二人の関係を示すものがなく、動きづらいようです。
中には、婚姻届の受理と同じようにPS宣誓制度も『窓口となるのは各市区町村の役割』として、判断は市区町村に任せ、都道府県としては導入していないケースも見られます。そうなると、市区町村が動かない限り公営住宅への入居は難しくなりますね」
これらの結果からは都道府県と市区町村の間で考え方に相違があり、互いに押し付けあっているような構造も垣間見えるようです。長谷川さんは「各都道府県や市区町村にもっと話を聞いて、打開策を探っていく必要がある」と指摘しています。

同性カップルの公営住宅への入居を認めるには、二人の関係を示す何らかの公的な証明書が必要。しかし、都道府県と市区町村の間にはPS宣誓制度の導入に関して、考え方に隔たりがあるようだ(画像/PIXTA)
LGBTQの住まい探し、これからどうしたらいい?今回の調査結果を踏まえて「『課題』や『今後の対策』としてどのようなことが考えられるか」という問いに対し、長谷川さんは「この調査だけでは、なぜLGBTQの住まい探しが難しいのか、明確な理由は掴めない」といいます。
例えば、高齢者であれば孤独死や残置物の処理の問題、低所得者の場合は家賃滞納リスクなど、賃貸住宅のオーナーや管理会社が入居を拒否する原因が見えやすいので、原因ごとに解決策を考えることが可能です。しかし、LGBTQの場合は入居困難となる原因が見えづらく、個別性も高いため「社会全体に対する啓発」や「不動産会社や管理会社の担当者の教育」を行っていくしかないと長谷川さんは考えています。
「LGBTQフレンドリーな店舗を登録して、そこへ行けば嫌な思いをせずに安心して住まいを確保できるという不動産会社を増やす公的な仕組みが必要です。ただ、当事者の気持ちが大きく関係しているので、制度を整えて行政のお墨付きがつけば入居が促進されるというものでもありません。
担当者に悪気がなくても何気ないひと言でLGBTQの人たちを傷つけてしまうことがあります。当事者にとっては、どのような対応をされるか分からない不動産会社を訪れること自体が恐怖なのです。担当者の教育がしっかりとされていて、ここなら嫌な思いをせずに賃貸住宅を紹介してもらえるということを、見える化していかなければならないと思います」

今回の調査を行った国交省国土技術政策総合研究所 建築研究部長を務める長谷川さん。今後も定点観測的にLGBTQに対する行政の姿勢を調査し続けたいと話す(画像提供/長谷川さん)
LGBTQのパートナーシップ宣誓制度は、今回の調査後にも都道府県での導入や社会的な認知がかなり進んできていますが、市区町村レベルにも浸透して住まいの問題解決にもつながっているかというと、まだまだというのが現実のようです。今回の調査で見えにくかった「なぜ、LGBTQの人たちの賃貸物件への入居が難しいのか」という問題の答えは、きっと、当事者の心にいかに寄り添った支援を提供できるか、を考えることに尽きるのではないでしょうか。
その具体策のひとつである公営住宅への入居が可能な状態へとつながっていくには、制度に頼るばかりではなく、各自治体の担当者をはじめ、私たちが問題について知ることから始める必要がありそうです。
●取材協力
・国土交通省 国土技術政策総合研究所
・LGBTに対する地方公共団体における住宅政策の取り組み調査報告
・NPO法人カラフルチェンジラボ
所在地:大田区北千束
所在地:渋谷区富ヶ谷リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、”住みたい街”1位に輝いた「横浜」(神奈川県)にフォーカスし、街の魅力を探ります。
市を挙げて「子育てしたいまち ヨコハマ」を目指す1位に輝いたのは「横浜」。7年連続の総合1位に加え、今回は「男女別・年代・ライステージ」すべてのカテゴリーで1位となりました。特に、子育て世帯(夫婦+子ども)のポイントが大きくアップ。若いファミリー層からの支持を集めています。

横浜市
その背景にあるのは、近年の横浜市による子育て関連施策の強化。2022年12月に取りまとめられた「横浜市中期計画2022~2025」では、横浜市として初めて子育てを軸とした基本戦略「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」が策定されました。これにより、今後さらに子育て世帯向けの施策が充実していくものと考えられますが、すでに実現、あるいは具体的な計画が進んでいるものもあります。
たとえば、2023年8月からの中学3年生までの医療費無料化です。ほかにも、2023年6月から新たに2つの施策がスタートしています。
・「はじめてのおあずかり券」無料クーポン配付開始
2023年4月1日以降に生まれた児童がいる世帯を対象に、市内の一時預かり施設を無料で体験できる電子クーポンを配付。対象児童1人につき24時間まで(※30分単位)
・「横浜子育てサポートシステム」無料クーポン配付開始
同じく、2023年 4月1日以降に生まれた児童がいる世帯が対象。地域で子どもを預け合う会員制・有償の支え合い活動「子サポdeあずかりおためし券」を配付。対象児童1人につき8時間まで無料で預かりを利用できる。また同年7月からは利用料を1時間800円から500円に改定
これらはいずれも、一時預かり施設や支援サービスの利用ハードルを下げ、便利さや施設の雰囲気などを知ってもらうための施策。その後の継続的な利用につなげ、子育て世帯に時間的・精神的なゆとりを持ってもらうことを目的としています。
市では、この「子育てにおける時間的・精神的なゆとり」を施策の柱にしていて、出産直後はもちろん、子どもが小学校・中学校に上がってからのサポートにも注力。市内にある小学生の放課後の預かり所(放課後キッズクラブ、放課後児童クラブ)の数は政令市で最も多く、2024年の7月からは、夏休みの昼食提供をモデル実施します。2026年4月からは、市立中学校で“みんなで食べる中学校給食”もスタート予定です。子どもたちの成長を支えるため、市の中学校給食専任の栄養士が献立を作るとともに、アレルギー代替食などの提供も検討されています。
また、2024年度の目玉施策の一つとして「子育て応援サイト・アプリ」のリリースも予定。産前・産後の手続きがスマホ一つで可能になり、負担を軽減するほか、アプリを通じ子育て世帯が必要とする情報も発信されていく予定です。
・「子育て応援サイト・アプリ」2024年6月末より
1、さまざまな行政手続きがアプリから可能に。わざわざ区役所へ行く手間や書類記入の手間を軽減(はじめは、妊娠・出産期の手続きを中心にスタートし、順次拡大)。
2、子育て世帯が知りたい情報をアプリ内に集約。地域のイベントや、必要な予防接種の情報など(利用者の住所や子どもの年齢、興味関心に応じた手続きやイベントの情報など)が届く。
3、その他、電子母子手帳や施設検索などの機能を搭載する予定。
さらに、10月からは出産費用の独自助成(最大9万円)もスタートし、安心して出産できる環境の充実が図られます。
こうした施策の影響もあってか、横浜市が実施している市民意識調査でも「子どもを安心して育てられる街」としての期待感が大きく上昇。2023年度の調査では「今後の横浜がどのようなまちになればよいと思うか」という問いに対して、「子どもを安心して育てられる」との回答が44.0ポイントと前回の24.6ポイントに比べ19.4ポイントも増加しています。
もちろん、これは市の取り組みに対する評価を直接的に反映したものではありません。ただ、横浜市としても子育て環境にまつわる市民の関心が高まっていることは十分に承知しているといい、今後のさらなる施策強化が期待できそうです。
他ジャンルの注目施設が続々と誕生市の施策だけでなく生活環境の良さ、海辺のスケールの大きな自然環境や公園の数、遊び、ショッピング、グルメ、文化的な体験など、あらゆるものを兼ね備えるマルチな魅力は横浜の大きな特徴です。2020年から2024年にかけては、横浜駅・みなとみらい駅・桜木町駅周辺で大型商業施設の開業やリニューアル、さらには映画館やプラネタリウム、ギャラリー、アリーナといったカルチャー・エンタメ施設も相次いで開業しています。

「JR横浜タワー」(2020年6月開業)。2つの商業施設とシネマ、トークショーなどのイベントも開催されるアトリウムで構成。屋上広場「うみそらデッキ」からは、横浜港や横浜ベイブリッジを一望できる

「JR横浜鶴屋町ビル」(2020年6月開業)。商業施設の「CIAL横浜ANNEX」「ジェクサー・フィットネス&スパ24横浜」「JR東日本ホテルメッツ 横浜」のほか、小規模認可保育所も入る。歩行者デッキ「はまレールウォーク」で、JR横浜駅きた西口・JR横浜タワーと接続

「横浜赤レンガ倉庫」(2022年12月リニューアル)。新コンセプトに「BRND NEW “GATE”」を掲げ、開業してから初めてのリニューアル。新規出店25店舗を含む66店舗がそろい、フードコートも拡充された

「横浜コネクトスクエア」(2023年4月開業)。みなとみらいの中心エリアに誕生した、エリア最大級の複合ビル。低層部の商業施設、高層部のオフィスからなる。桜木町駅からペデストリアンデッキで一体化

「CeeU YOKOHAMA」(2023年12月開業)。スーパーマーケットの「イオンフードスタイル横浜西口店」をはじめ、24の専門店で構成。9階には各種クリニックやストレッチ、リラクゼーションサロンなどが集まる
これ以外にも、横浜駅きた西口では43階建のタワーに飲食店や子育て支援施設、ホテル、住宅などが入る「THE YOKOHAMA FRONT」が2024年3月に竣工。エンタメ系では、世界最大級の音楽特化型アリーナ「Kアリーナ横浜」が2023年9月に開業し、2024年春にはMARK IS みなとみらいに複合型映画館「ユナイデッドシネマ・みなとみらい」が、同じく2024年4月にはスポーツの国際大会やコンサート、大規模イベントなどに使われる「横浜BUNTAI」がオープン。挙げればキリがないほど、次から次へと注目のスポットが生まれ続けるエリアは全国を見渡しても稀です。
国内外の大企業が横浜を選ぶワケさらに、今の横浜は「働く場所」としての魅力も高まっています。今回の住みたい街ランキングでは、「横浜の街の魅力(住みたい理由)」として「魅力的な働く場や企業がある」がトップに。
実際、近年は自動車関連をはじめ横浜に本社機能を移す企業が増加。2022年にはいすゞ自動車が横浜ゲートタワーに本社を移転。2024年には独ボッシュの日本法人が横浜に新社屋を建設し、各地に点在する研究拠点もそこに集約される予定です。また、2019年の京セラ、2020年の村田製作所、2021年のソニー、2022年のLGなど、エレクトロニクスメーカーが研究開発施設を構える動きも目立っています。
横浜のビジネス環境が国内外から評価される理由は、東京都心や羽田空港へのアクセスの良さ、また、採用環境の良さが挙げられます。横浜市の人口は約376万人で、基礎自治体のなかで国内最多です。とりわけ、技術者・研究者の数が多く、令和2年の国勢調査では16万4920人で、政令市ナンバーワン。東京工業大学など理工系の大学も市内に9校と多く、特に技術部門の人材採用に課題を抱える企業にとっては魅力的です。さらに、企業立地促進条例など企業の進出を支援する市の制度も充実しています。
ちなみに、新たに横浜市が積極的な誘致を進めているのは、子育てに関連する商品やサービスを手掛ける企業。この点からも、市全体として「子育てしやすい街」を目指していることが伺えます。

2022年3月、みなとみらいにオープンした「YUMESAKI GALLERY(ユメサキギャラリー)」
また、みなとみらい地区に拠点を構える企業には、一部をギャラリーやミュージアムとして街に開放しているところが多いのも特徴のひとつ。横浜市と地域のルールのなかで、単にオフィスを構えるだけでなく「企業と街の人との交流を生むスペース」などの賑わいを生み出す空間を設けています。こうした取り組みが、他にはない街の特徴を生み出しているようです。
もともとの環境の良さに加え、次々と生まれる注目スポット、さらに、市の施策を含めた子育て環境の充実ぶりに、働く街としての魅力まで加わった近年の横浜。イメージだけでなく実力を伴った人気であることがうかがえます。「住みたい街ナンバーワン」に選ばれ続けるのも、当然といえるかもしれません。
●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
宿やホテルを予約できる「じゃらん」のじゃらんリサーチセンターでは、宿泊旅行についての大型調査「じゃらん宿泊旅行調査」を定期的に行っている。今回、Z世代に焦点を当てて、Z世代の価値観や旅行への意識について再分析した結果を公表した。それによると、Z世代は「地域貢献意識」が高く、「地方への移住を考える旅」も実施しているという。地方移住の鍵になると見られるZ世代の意識について詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
じゃらん宿泊旅行調査を再分析/リクルート じゃらんリサーチセンター
公表されたリリースでは、「Z世代」を調査対象の20代(18歳~29歳)として分析している。調査対象全体をクラスター分析すると、「1.地域体験交流」「2.地域訪問」「3.話題性重視」「4.効率・欲張り」「5.リピートなじみ」「6.計画」「7.こだわりなし」の7タイプに分類できる。
なかでも、「地域体験交流タイプ」は、Z世代男性で29.6%、女性で15.8%の出現率となり、他の世代よりも多いことが分かった。このタイプは、観光したら終わるといったものではなく、「地域や地元の文化や生活習慣を深く理解し、地域社会とのつながりを築くことに重点が置かれている」点に特徴があるという。
また、「地域体験交流タイプ」は男性が多いのに対して、「効率・欲張りタイプ」は女性が多く、なかでもZ世代の女性は22.6%と最多だった。効率・欲張りタイプの特徴は、効率よくできるだけ多くの場所を回り、新しい場所への好奇心が強いタイプだという。女性のほうが、友人や恋人との旅行比率が高いことも影響しているそうだ。
●宿泊旅行に対する意識 クラスター構成2023(性年代別)

出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査再分析」より転載
Z世代の「地方への移住」を考える旅は実施フェーズにじゃらんリサーチセンターによると、Z世代に多い「地域体験交流タイプ」で強く見られる因子が「地域志向性」だという。「地域志向性」と相関の強い6項目(ⅰ地域のためになること、貢献できることを選ぶ、ⅱ将来の移住やライフスタイルの参考になりそうな旅をする、ⅲ地元の人に積極的に話しかけて情報を聞いたり交流する、ⅳ旅行先の風土や生活習慣を体験する、v自ら主体的に参加する・体験する、ⅵ暮らすように旅をする)を可視化すると、次の画像のようになり、Z世代の地域志向性の高さが分かるという。
●Z世代の地域とのかかわりへの意識と実施(男女別)

出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査再分析」より転載
また、コロナ禍を経てZ世代で最も変化した項目は、「地域のためになること、貢献できることを選ぶ」で、男女ともに「地域貢献意識」が大きく上昇したという。
ほかにも、「地方移住」はコロナ禍で注目度が一気に高まったキーワードだが、コロナ禍前後を比べると「将来の移住やライフスタイルの参考になりそうな旅をする」ことへの関心が高まり、実施ポイントも増加していることから、関心にとどまらず実施フェーズへの移行の兆しが見られるという。
増加が期待される「地方移住」について、Z世代が関心を持ち、動き出しているとは、なんとも頼もしい限りだ。
Z世代の価値観は、地域で活躍することがかっこいい!?この分析を担当した同研究員の池内摩耶さんは、分析結果を「とーりまかし別冊 研究年鑑 2024」で詳しくまとめている。そこで池内さんは、「なぜZ世代は『地域とのかかわり』を求めるのか」についても考察している。
「①オンラインやリモートなど学び方、働き方が柔軟になったことで移住含め地域がより身近な存在となったこと。②Z世代の三大都市圏居住率は年々高まり約6割で地域を知る機会に乏しいこと。③地域に居を構え地域活性に向き合う若手への注目など、コロナによって「地域」というものを強く意識する機会が増えたこと。主にこれらの要因が、Z世代が地域とのかかわりを求める動機付けとなり、地域で活躍することへの憧れ・かっこよさのような志向性が表れていると考えられる」という考察だ。
Z世代がこれからの地方移住の核になりそうだ、という結果については頼もしいと思うが、一方で受け入れ側の体制の改善にも期待したい。地方自治体が予算を取って地方移住を呼び込むさまざまな対策を用意しているが、地域特性を生かした魅力的な対策でなければ、「選ばれる地方」にならない。また、受け入れる地元の住民が「よそもの」意識を持っていると、移住は進まない。
人口減少、急激な高齢化が進むなか、移住先としての地方の選別がなされるようになるだろう。こうした課題を解決していかないと、地域志向性の高いZ世代に注目されることが難しいかもしれない。
●関連サイト
じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査を再分析」
じゃらんリサーチセンター「とーりまかし別冊 研究年鑑 2024」
所在地:世田谷区下馬
所在地:練馬区下石神井
所在地:世田谷区上馬2023年4月、「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成をミッションに掲げて徳島県神山町に開校した高等専門学校「神山まるごと高専」(理事長・寺田親弘/Sansan(株))。教育界とは異なる起業家が主導した私立校であるため、設立から運営まで何もかもが手探りで進んだ。地域も巻き込み、各界から注目を集めた同校は、開校1年を迎えた今、どのような成果と課題が見えてきたのだろうか。
地域活性化で注目を浴びるまちに生まれた新たな教育機関徳島市内から車でおよそ40分。神山町は自家用車さえあれば、都市部から比較的アクセス容易な場所に位置する人口約4200人のまち。特産は日本一の生産量を誇る柑橘類のスダチ。80%以上が山林に覆われた町域の中心を鮎喰川が流れ、その周囲に集落が点在する、一見すればよくある田舎町だ。
一方で近年において、企業のサテライトオフィスが続々と開設され、若者たちが営むショップ等もオープンするなど、地域活性化の好例として、メディアに「奇跡の田舎」と取り上げられることも少なくない。
そんなまちに誕生した神山まるごと高専は、文科省認可としては約20年ぶりに新設された高等専門学校。いわゆる「高専」は、1960~70年代にかけて、高度成長期の急激な工業化に対応する人材養成を目的として、全国に創設された。入学資格は中学卒業程度とし、主に工科系の課程を5年間履修する高等教育機関だ。
現在日本にある高専は58校。そのうち国公立が54校で、神山まるごと高専を含む私立は4校。高専生が対象の「ロボットコンテスト(通称ロボコン)」などを目にしたことがある方も多いだろう。卒業生の就職率は高く、その人材は産業界から一定の評価を受けているとも言われる。
とはいえ昨今の少子化や理数離れ、四年制大学への進学者の増加により、創設期の勢いに比べ、高専を取り巻く環境は変化してきている。そんななか誕生した神山まるごと高専の一期生の入試は、国内外から出願があり、約9倍という高倍率となった。
その狭き門をくぐり入学したのは44人。彼らは今、寮で共同生活を送りながら、時に壁にぶつかり、学業と神山町での暮らしを謳歌している。

旧神山中学校の校舎をリノベーションした寮「HOME」。3学年分の寮室と食堂、図書室などが入る(画像提供/神山まるごと高専)

「HOME」から鮎喰川を挟み対岸にあるのは、授業や研究の拠点となる「OFFICE」。町産材の「神山杉」をふんだんに活用した校舎になっている(画像提供/神山まるごと高専)
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碧い清流、パン職人のわたし――徳島県神山町
「これからの時代、自分でデータをつくり、自分でプロトタイプをつくり、そして提案するような、技術を持った起業家が求められています。それができないと社会のスピード感についていけないと思います。つまり『モノをつくる力で、コトを起こす人』です」と語るのは常務理事・事務局長を務める松坂孝紀さん。同校が描く卒業後の進路の比率は、就職30%、大学などへの編入30%、そして起業40%だ。
それを実現するべく、神山まるごと高専では「テクノロジー×デザイン×起業家精神」の3つの領域を、1学科で複合的に学ぶ。“テクノロジー”では、ネット社会の未来に対応した情報工学から電子工学で、モノをつくる力の基礎を養う。また“デザイン”は、つくりたいものを絵や言語などに具現化するため、デザインや映像、建築、ゲームづくりなどの技術を身につける。そして“起業家精神”では、ビジネスの基本や起業の方法、他人を巻き込むコミュニケーション力などを学ぶ。

東京出身の松坂さんは、東京大学卒業後、人材教育会社を経て、2017年に人事コンサルティング会社の子会社を起業。同時に企業や自治体の人や組織づくりプロジェクト等も推進する。2021年より神山まるごと高専の立ち上げに携わる(写真撮影/藤川満)
1コマ90分の授業は、一般的な座学中心ではなく、実験や演習に加え、ディスカッションやグループワークなど双方向的で実践的な内容を重視し、問題解決能力を育んでいく。
さらに毎週水曜日の夕方に開催される特別授業「Wednesday Night」では、第一線で活躍する起業家、経営者、クリエーターを招き、これまでの彼らの経験を語り、また食事も共にして、コミュニケーションを深める。この一年で24回開催され、合計50名のゲストが同校に足を運んだ。

大講義室で行われた「Wednesday Night」の前半。この日のゲストスピーカーは山口周氏((株)ライプニッツ代表)、山崎亮氏(studio-L代表)、坊垣佳奈氏((株)マクアケ共同創業者/取締役)の3人(写真撮影/藤川満)

「Wednesday Night」の後半は、「HOME」に会場を移し、ゲストと学生が食事や焚き火を共にしながら語り合う(写真撮影/藤川満)
「起業家たちと学生が接することで、この5年間で起業を身近な選択肢として捉えてもらいたい」と狙いを語る松坂さん。学生たちはゲストと名刺交換することで、卒業時には起業家とのコネクションも持つことができる。起業を目指す学生にとっては、またとないチャンスを得ることができる仕掛けだ。
私立でありながら学費実質無料を実現したスキーム注目すべきもうひとつは、一人年間200万円の学費が実質無償という点だ。それには「家庭の経済状況に左右されず、世界を変える可能性を秘めた子どもたちの、誰もが目指す学校にしたい」という強い思いが込められている。
これを実現するにあたり、民間企業から一口10億円の出資や寄付を募り、それを運用して得た運用益を返済不要の奨学金に当てる仕組みを構築。この日本初の取り組みに、ソフトバンク、富士通、ロート製薬など、日本を代表する企業が賛同し、合計11社、総額100億円の金額が集まった。現在、一期生だけでなく二期生以降の学費無償化の目処もたっている。
資金を拠出した企業は「スカラーシップパートナー」として以降も連携していき、学生との共同研究や新事業の創造などに取り組んでいく。ほかにも物品やサービスを提供する「リソースサポーター」、実際に各社の強みのある領域を授業で提供する「プログラムパートナー」など、合計70社以上の企業が同校の運営を支援している。それほど日本の企業が同校に期待を寄せている表れと言えよう。

「OFFICE」の窓ガラスにはパートナー企業の会社名がずらりと並ぶ(写真撮影/藤川満)
進学校よりも魅力を感じて門を叩いた現在の在校生は東京、北海道、徳島と全国各地から集まっている。なかにはロンドンの日本人学校出身の学生もいて、さまざまな思いを持って神山の地で全寮生活を送っている。開校当時は特にルールもなく、戸惑いがちだった学生たちも、会議を開くなどして、自分たちの主体的な考えに基づいた自治へ歩みつつある。
「一人になる時間はあまりないですが、毎日が修学旅行みたいで楽しい」と寮生活を語るのは東京都出身の市川和さん。一時は同室者との価値観の違いに悩んだというが、「今は吹っ切れた」と心境の変化もあった。
高校受験時の市川さんは、ICUや青山学院にも合格していたが、父親の紹介で同校の存在を知り、あえて神山まるごと高専を選んだ。「ICUや青山学院に進学すれば、安定した道を歩んだかもしれませんが、自分の心に正直になり、より楽しそうなこちらに決めました」
当初は具体的な目的があったわけではないが、現在はグラフィックデザインに興味を持ち、先述の「Wednesday Night」のチラシやEスポーツに関するフリーペーパーの制作に力を入れている。「この学校に入って初めてAdobeのソフトを授業で触れてみた時『これまでの勉強よりおもしろいことあるじゃん!』って思いました」と目を輝かせる。
そんな市川さんだが、もともとはバスケに打ち込むスポーツマンで、美術はむしろ苦手だった。「そのころはアイディアがあってもそれを具現化する方法を知らなかった。やり方さえ覚えれば、誰でもできることに気づきました」
広告代理業を営む父親の影響もあり、日ごろからデザインと起業が身近にあった市川さんだが、将来は起業よりも、まず就職して経験を積みたいと考えている。「デザインを続けていくかはまだわかりませんが、雇われる人の気持ちや仕事の姿勢を理解したうえで、いつかは起業したい。一方的な経営者にはなりたくないですから」

「自然が好きなので、神山は散歩をしていても楽しい。ただもう少し娯楽があれば嬉しいですけど」と神山の印象を語る市川さん(写真撮影/藤川満)
もっと社会との関わりを持ちたくて高校を中退高知県出身の名和真結美さんは、国際バカロレアを実践する中高一貫校を高校1年時に中退し、神山まるごと高専への道を選んだ。国際バカロレアとは、世界の複雑さを理解し、それに対処する力を養う総合的な教育プログラム。「バカロレアに出会って、学びの面白さを知りました。でも学校の課題や勉強ばかりで、社会とのつながりを感じることができませんでした」
社会とのつながりを求めていた名和さんにとって、面白さと同時に違和感を感じていた中学時の学習環境、そして高校進級時、中学からお世話になった教員が、神山まるごと高専へ転任したことが契機となる。「学校外で起業家精神プログラムに参加して、そこで再会したその先生がキラキラ輝いて見えた。そこからこの学校のことを調べてみたら、『私がやりたいことができる!』と思いました」
「国際バカロレアプログラムを受けて、思考するクセがついてしまった。思考の旅とでもいいますか(笑)」と笑う名和さん。旅をするような感覚で、その時にやりたいことをやることを信条としている。現在、アートやファッションに強い関心を持ち、創作活動にも取り組んでいる。
「あ、あとロボット! これまで経験はなかったですけど、ここでプログラミングに触れてみたら、凄い面白くて!」。現在、名和さんは13人のチームでロボットづくりに勤しむ。目標はアメリカで開催されている世界的ロボット競技会「ファースト ロボティクス コンペティション」への参加だ。
「チームのなかでロボットづくりの経験者は一人しかいません。でも知らないテクノロジーをどんどん開発してくのが楽しいです。それが動いた瞬間が本当にうれしいですね。チーム内のコミュニケーションや資金集めには苦労しましたけど……」と語る名和さん。ハワイで行われる予選に出場するための資金600万円は、企業や地域の人から協賛金で集めることができた。今、ロボット製作に日夜集中できる準備は整っている。

現在製作中のロボットを前にする名和さん。寮生活には満足しているが、「まだまだ自治には至っていないので、みんなでアップデートしていきたい」と語る(撮影/藤川満)
テクノロジーだけではない、人との繋がりでやりたいことが見えてきた「中学時代は、将来なにか特にやりたいことがあったわけではありません。たまたま父親に勧められてこの学校のキャンパスツアーに参加して、進学を決意しました」と語るのは静岡県出身の伊藤楽大さん。入学後、起業家や教員とコミュニケーションを取るうちに、徐々に「やりたいこと」が見えてきたという。
「いろいろチャレンジしている大人と出会えたことで、選択肢がものすごい広がった。今はその選択肢のなかから、農業が『やりたいこと』としてクローズアップされてきました」。静岡の市街地で育った伊藤さんは、神山の自然に触れたこともひとつのきっかけになった。
同校の理事が運営する農園に足を運んだり、周辺の草刈りの手伝いなどを経て、ますます農業にはまっていった。神山町特産であるシイタケの農家をはじめ、農業を通じて地域の人と関わりを深めていくことで「自分でやりたいことができる」と自信を持ち始めている。
その一方で悩んだのは、寮生活と偉大すぎる起業家たちの存在。「寮生活は自分にはあまり合わなくて、少し悩みました。それと『自分も起業家のようにならないといけない』というプレッシャーも感じました」
ふたつの悩みに押しつぶされそうになった伊藤さんを救ってくれたのは、同校のスタッフの存在。「時間が解消してくれたものありますが、話を聞いてサポートしてくれたスタッフさんのお陰で乗り越えることができました」と振り返る伊藤さん。目下じゃがいもづくりに興味を傾けているが、将来は自然関係の会社の経営を夢のひとつとして描いている。

伊藤さんが作物を育てている畑は、同校の敷地近くにある。農業以外にも美術や国語の授業が楽しいという伊藤さん。「なにより先生たちが楽しそうに授業をするのがいい!」(撮影/藤川満)
話を聞いた3人は、それぞれに充実した学生生活を送っていることが分かる。とはいえ遊びたい盛りの多感な世代。神山の自然に満足しているものの、カラオケやゲームセンターなど仲間と遊べる場所は少なく、都会的な刺激を直接受ける機会も少ないのも事実だろう。
さらに試験で60点以下の赤点となれば、進級は叶わない。難関を突破した力はあったとしても、今の環境に馴染めず、この先全員が苦労せず進級できるとは限らない。マイナス面や不安を上げれば切りがないが、少なくとも大半の学生が生き生きと過ごしているのは印象的だった。
起業家が創った学校だからこそ起業家が育つ大いなる可能性「学校というものは基本的に安定を求めるものかもしれませんが、私達が大切にしているのは変化し続けること。今後時代が変わるたびに私達もスピード感をもって変化していくことが勝負かと思います」と未来を見据える事務局長の松坂さん。それは既存の学校のあり方や制度に抗い続けることでもあるという。
今、学生たちは何もかもが暗中模索だった入学時から、徐々に視界がひらけ、それぞれの道を歩みだしている。そんな彼らの将来に起業家たちも期待を寄せる。「Wednesday Night」にゲストスピーカーとして登壇した(株)マクアケ共同創業者/取締役の坊垣佳奈氏は語る。
「第一線で活躍している起業家たちが創った学校だから、同じようにできる人が生まれるはず。ここの学生たちは感じる力と考える力がある。それをもっと強くして、さらに自分の感覚を大切にして、やりたいことに情熱を注いでほしい」。社会にどんな変革をもたらす人材が羽ばたくのか、一期生が卒業する4年後、そしてその後も注視していきたい。

「Wednesday Night」の後半、坊垣氏らと学生が焚き火を囲んで語らう。坊垣氏は開校前から神山に足を運び、同校に注目していた(撮影/藤川満)
●取材協力
神山まるごと高専
「SUUMO住みたい街ランキング 関西版」で、昨年から総合順位3位をキープし、高い支持を得ている自治体が兵庫県「明石市」だ。子育てサービスが充実していることは全国的にも有名だろう。瀬戸内海のおだやかな気候と、自然環境に恵まれた明石での生活に注目だ。
所得制限なし! 子育て支援施策が充実した明石市兵庫県明石市は「住みたい自治体ランキング」で昨年に続き3位となるとともに、「住みたい街(駅)ランキング」でも明石駅(JR山陽本線)が過去最高の16位にランクイン。こうした人気を集める大きな要因が子育てに関する自治体サービスの充実だ。所得制限のない無償化施策だけでも①子ども医療費の無償化、②第2子以降の保育料の完全無料化③0歳児の見守り訪問「おむつ定期便」、④中学校の給食費無料化、⑤公共施設の入場料無料化の5つの政策が実施されている。他にも、市内の公立幼稚園での給食、高校生世帯への児童手当など、将来を担う子どもたちのための支援が豊富だ。さらに、保育士へ向けての「保育士定着支援金」を実施、採用後7年間で最大160万円の支援金を直接支給することで、毎月の家賃負担をサポートし、保育士が明石に定着するような補助を行っている。
その結果、明石市の人口は2023年地点で30万人を超えており、11年連続で増加している。子育て世代の転入が増えていることからも、施策の効果がうかがえる。
ただ、人気の背景は行政の施策だけではなく、明石市がそもそも持っていた魅力にも大きな要因があるように思える。次章で紹介していこう。

明石市松江の海岸線。子どもたちと遊ぶことができる海がすぐそばにあることも明石市の魅力(写真撮影:井村幸治)
おだやかで過ごしやすい街、明石兵庫県の南部に立地する明石は、おだやかな気候に恵まれている地域である。関西の人口5万人以上の都市部では降水量は最も少なく、日照時間も長い。さらに、県内で2番目に晴れの日が多く、年間降水量も1000ミリ程度だ。おおよその最高気温が33度から35度、最低気温がマイナス6度から4度で、年間の平均気温は14度から15度、と、一年を通して快適に住むことが可能な気候だ。地形的には平坦な場所が多く、古くから疏水やため池を利用した治水事業も行われている。
また、瀬戸内海の自然環境にも恵まれている。林崎・松江海水浴場、藤江海岸海水浴場、江井ヶ島漁港や住吉公園といったスポットが海岸沿いにならび、子どもたちと一緒に海水浴や水遊びを楽しめる。明石海峡大橋や淡路島を望む景色は何時間でも眺めていられそうだ。
これほど綺麗な海岸に、徒歩や自転車でも遊びにいくことができる街は関西でも少ない。釣りやキャンプ、マリンスポーツを家族で楽しめる街であることも人気の秘密なのだと思う。


明石市松江の松江公園。海の透明度がとても高い海岸。周辺にはカフェや駐車場、トイレも整備されている(写真撮影:井村幸治)
一方で、瀬戸内海を使った交通の要衝として万葉集の時代からの歴史を持ち、江戸期以降は明石城を中心に城下町として栄えた明石には寺社仏閣や古墳も点在している。日本酒造りの蔵元も多く、見学や直売を楽しむことができる。JR明石駅前の魚の棚商店街(うおんたな)には地魚を安く提供してくれる飲食店もたくさん並んでいる。大人も楽しめる街でもある。


明石市魚住の魚住住吉神社。目の前の海岸に向いて社殿が立ち、能舞台もある。公園も併設され子どもたちが遊んでいた(写真撮影:井村幸治)

JR明石駅前の魚の棚商店街(うおんたな)。昼飲みを楽しめる飲食店も多く、週末は行列も(写真撮影:井村幸治)
住んでみてわかる居心地の良さ明石市は、住んでみることではじめてわかる魅力も多い街だ。JR東海道線と山陽電鉄本線が並行して東西を結び大阪や神戸へのアクセスも良好、JR明石駅から三ノ宮駅までは新快速で約15分、大阪までは新快速で37分だ。西明石駅から山陽新幹線を利用すればビジネスや旅行にも便利だ。
日本の桜100選の明石公園や、大型遊具のある石ケ谷公園など大小合わせて400カ所の以上の公園があり、ふらりと遊ぶことのできる公園が身近にあるのも魅力のひとつ。近年ではため池の跡地を再利用し、「みんなにやさしい」をコンセプトにした「17号池魚住みんな公園」が令和5年4月29日にオープン。子どもから高齢者までのびのび体を動かせる運動公園で、たくさんの親子連れで賑わっている。
明石市では今後、防災拠点ともなる市役所新庁舎の建設や市民病院の再整備、道路整備などのインフラ再構築も検討されている。まだまだ伸びしろのある街といえそうだ。


2023年にオープンした「17号池魚住みんな公園」。遊具や球技場もあり、たくさんの親子連れで賑わっている(写真撮影:井村幸治)

明石公園。さくら名所100選に選ばれており、春先は桜が綺麗だ(画像:PIXTA)

明石市立天文科学館。日本標準時子午線上に立つ、「時と宇宙」をテーマとした博物館で、遠足などで訪れる人も多い(写真撮影:井村幸治)
子育て施策の充実で知られている明石は、恵まれた風土と地理的要因で、古代から連綿と人々の暮らしが営まれてきた街でもある。瀬戸内海の美しい自然に身近に触れあえる暮らしと、快適な生活利便性も得られることもその人気の背景にある。もともとのポテンシャルを考えると、今後も人気を集めることは間違いなさそうだ。
所在地:中野区新井
所在地:立川市富士見町
所在地:町田市鶴川
所在地:群馬県太田市由良町
所在地:渋谷区千駄ヶ谷
所在地:世田谷区桜JR南武線、各駅停車駅の「武蔵新城」。低層住宅が立ち並ぶのどかな街です。駅周辺にある、なんてことのない商店街のなかに、最近ゆるやかな人のつながりが生まれつつあります。その中核を担うのが、このエリアで多くの土地を引き継いで管理をしてきた石井家の3代目、石井秀和(いしい・ひでかず)さんです。彼は、この街に人のつながりを生むために、コワーキングスペースや、シェアスペースなど大小さまざまなしかけをつくり、住民が地域で暮らすための接点を広げています。一体どんな取り組みなのでしょうか。
昔ながらのマンションの一角に、”小さな庭”をつくる神奈川県・川崎市の武蔵新城エリア。各駅停車の「武蔵新城」駅を降りて北口方面にぬけると、目の前では昔ながらの商店街「新城北口はってん会」がお出迎え。理容店、町中華店などの小さな店がひしめく中央の通りをしばし歩いて路地に入ると、5階建てのマンションの1階部分に見えてくるのがカフェ「新城テラス」です。まず、エントランス前にある美しい緑とベンチが添えられたスペースが目にとびこんできます。まるでマンションであることを忘れてしまうような、”街の庭”。

カフェ「新城テラス」の前は、通りや店と一体感をもたらすような、憩いのスペースを設けている(写真撮影/桑田 瑞穂)

カフェ「新城テラス」外観。開放感あふれ、緑に囲まれた気持ちの良いエントランスが、訪れる人たちを迎えてくれる(写真撮影/桑田 瑞穂)
ゆったりとした 24席のカフェスペースでは、近所の人々が談笑をしたり、学生がおしゃべりや勉強をする姿も。思い思いの過ごし方をしています。カフェの裏手には中庭も存在しています。中庭では、カフェで購入したドリンクやフードを手に語らうこともでき、住民以外の人の往来もあるフラットな場所です。

近所の住民や学生たちが思い思いの時間を過ごす(写真撮影/桑田 瑞穂)
コの字型のつくりをしたマンションの一辺にはカフェが、そのもう一辺にはワークショップスペース「PASARBASE新城」とパン教室「シュクレアラネージュ」があり、コンパクトな敷地の中に多彩な機能がぎゅっと集います。

中庭からはマンション2階に接続するスロープ階段が設けられており、マンションのサービススペース「新城WORK-BOOTH-」と「新城WORK-FITNESS-」への出入りができる。階段奥に見えるのが、ワークショップスペース(写真撮影/桑田 瑞穂)
これらのスペースを立ち上げたのは街の中心人物でもある、株式会社南荘石井事務所の代表、石井秀和さんです。江戸時代より地主として数多の土地を守り抜いてきた石井家は、現在このエリアを中心に23物件を所有しています。カフェやワークショップスペースの入っているマンション「セシーズイシイ7」も、石井さんの所有する建物です。
武蔵新城生まれ、武蔵新城育ちの石井さんは、現在事務所の2代目として跡を継いでいます。「親を継ぎたいとは全く思っていなかった」と快活に笑いながら振り返ります。
「父には『大学なんか行かなくていい、さっさと跡を継いでくれ』と思われていたようです。ただ、一度家業を継いでしまうと、ほかの世界を見ることができなくて、つまらないじゃないですか。むしろ建築や不動産なんて硬くて難しいしゴメンだぜ、と思っていました」
資産を建て直すのか、活かすのか、試行錯誤が始まる1998年に大学を卒業後、秀和さんはIT企業のカスタマーサービス職として就職します。ここで学んだことはのちにオーナー業に風穴を開ける経験となったと話します。その間も父親は秀和さんが跡を継ぐことを心待ちにしていました。その気持ちをくみとりたいと、秀和さんは2000年に実家の不動産会社へ入社し、2013年に父親の立場を引き継ぎ、代表に就任します。
「不動産」に面白みを感じていなかった秀和さん、しかし「街全体をデザインしていくこと」ととらえるようになってからは、この街のことに興味が増していきます。当時、街のコミュニティづくりについて勉強をしていた時期だったことも影響していたようです。
「設計事務所のブルースタジオさんが手掛ける街づくりに、憧れていたんですよね。ほかにも、コモンスペースや、街に開かれたコミュニティスペースが各所にある東京・池袋の街づくりのひとつである『IKEBUKURO LIVING LOOP』や、九州・福岡を拠点にしている『吉原住宅』のような存在にも憧れを抱いていました。あんな風に、自分の会社が持つ物件を活かして面白い人たちが往来する街をつくりたい、という夢を描きはじめていました」(石井さん)

飲み歩いて人と話すことが好きな石井さん。難しいことよりも楽しいこと、人との交流を大切にしています(写真撮影/桑田 瑞穂)
人の集うコミュニティや場所、という側面に興味が増していった石井さんは、次第に武蔵新城のことを、このようにとらえていました。
「住んでいる家やマンション、街に何か楽しみを見出せることがないと、つまらないじゃないですか。武蔵新城は、溝の口駅と、知名度がぐんとアップした武蔵小杉駅にはさまれている、はざまの場所。実際は商店もたくさんあり住みやすい街ですが、比べてしまうとなんてことのない住宅街に見えるんです。これから社会全体が人口が減少していくわけで、よりここに住みたいと思ってもらえる街にならないと、街がさみしくなる。そう心が決まると、事業としてやりたいことが増えていきました」
まず取り組み始めたのが、カフェとワークショップスペースの入る賃貸マンション「セシーズイシイ7」でした。1992年竣工で部屋数は60室ほど。当初大規模改修の時期を迎えていて、どのように改修するべきか、とても悩んだそうです。その時に、憧れとして描いていた「このマンションに、この街に住みたいなと思ってもらえるような、しかけがあったら面白いのでは」と考えるようになりました。

カフェでは、自家製ハーブシロップを使ったドリンクやスイーツをつくって提供している (写真撮影/桑田 瑞穂)
こうして石井さんは、居室があった1階部分をオープンスペースとしてリノベーションし、2016年にまずはカフェをオープンしました。
街の人たちの「やりたい」に応えて、地域に開かれたスペースを次々と生み出す拠点を生み出すことで、そこで自然と交流していく姿に、石井さんはますます面白みを見いだしていきます。そして、石井さんのもとには、街に住むあらゆる人から相談が持ちかけられるようになっていったのです。
「『実はお店をやってみたいんだ』『コミュニティスペースをやってみたいの』と相談されるようになったんですよ。だんだんと変化していく街の一角を見て、同じ商店街の人や、近所のママさんからも同じような声をかけられるようになっていったんです。だったら、“やりたいことがある人が、挑戦できる場所をつくってあげたい! “と、自社管理物件の一部をさらに活用することにしました」
そこで、2016年に「セシーズイシイ7」から徒歩5分ほどの場所にある、築50年以上のマンション「第六南荘」の一部をリノベーション。事務所や店舗利用が可能な仕様に変更し、まず一部の店舗がオープンします。そこから少しずつ、さまざまな店舗が入居して徐々に店やスペースが増えていきました。

「第六南荘」の外観。自転車で訪れた人がフラッと立ち寄っていくのが印象的(写真撮影/桑田 瑞穂)
通りに面した1階部分は「菓子工房 ichie」や、一級建築士事務所「ピークスタジオ」の事務所が並んでいます。塀がとりはらわれた庭先には、共用デッキが設けられており、通りからデッキを通じて、各々のスペースに入ることができます。オープンなスタイルゆえ、行き交う人の姿も見え、風も光も感じられるなごみの空間です。

デッキは、入居者である建築事務所の「ピークスタジオ」が設計(写真撮影/桑田 瑞穂)
お店やカフェだけではもったいないーー石井さんはさらに、「セシーズイシイ7」の向かいにある自社商業店舗の一部に、コワーキングスペースの「新城WORK」をオープン。時は、コロナ禍により人々の働き方は出社形式から、リモートワークが増えた変化の時期。20代~40代を中心に、新城WORKにも次第に人が訪れるようになったそうです。

商業ビルの2階部分をコワーキングスペースにリニューアル。合わせて店舗のサインたちも街の景観に溶け込むようリデザインした (写真撮影/桑田 瑞穂)
「普段はもっと年齢層が高い世代の方が街には多かったのに、コロナ禍をきっかけに若い人たちを目にすることが増えました。この街に、こんなに若い方がいたんだな、という驚きの気持ちでいっぱいでした」

オープンスペースではミーティングする人もいれば、パソコン作業や勉強にいそしむ人もいる(写真撮影/桑田 瑞穂)
この街、住んでいて意外と面白いかも?と思ってもらえるしかけと関係づくり現在石井さんは、もとから所有する土地に加えて、新たに周辺エリアの土地を購入し、新たな取り組みを始めています。
2023年5月には「セシーズイシイ7」の隣に、住み開きができる店舗兼住宅を建築しました。このマンションの土地はこれまで地域の方が所有していましたが、周辺物件と合わせてより一体感あるまちづくりをしたいために、石井さんが土地を購入したそうです。

新しく竣工した店舗兼住宅。「第六南荘」のように、通りに面したつくり(写真撮影/桑田 瑞穂)
通りと建物の間に、あえてスペースを設け、気軽に近づけるようなつくりに。軒先には小さな縁側があり、通りがかりの人がふらりと腰かけることができ、入居者や店を訪ねてくる人、道ゆく人と自然な会話が生まれていました。

店舗前にはベンチや縁側があり、つい立ち寄りたくなる(写真撮影/桑田 瑞穂)

入居する飲食店のオーナー。石井さんとは毎日のように立ち話をしているそう(写真撮影/桑田 瑞穂)
「この街をもっと人のつながりにあふれる場所にしたいんですよね。せっかく商店街の中にある立地で顔を合わせている人たちがたくさんいる。実際に商店街の飲食店を飲み歩き回遊するイベント『ふらっと1000Bero in 武蔵新城』というイベントも開催しました。これからも彼らや、事業家の方と手を組んで、もっともっと活性化させていきたいですね。組合のようなしっかりした組織とかではなくていいんです。フラッときて顔を合わせられるそういうゆるい繋がりが大切だと思うし。そのためのしかけをつくっていきたいですね」

現在「セシーズイシイ7」の2階に、共用スペースの増設をはじめている。まずはフィットネススペースを設置(写真撮影/桑田 瑞穂)

「セシーズイシイ7」の2階に増設したフォンブース(オフィス内等に設置するボックス型の個室スペースのこと)(写真撮影/桑田 瑞穂)
続けて、不動産業は単に場所貸しではないと力を込めて言い切る石井さん。
「今私たちが所有しているのは、23物件370世帯でほとんどが自主管理なんです。これほどの人とコミュニケーションがとれる関係って貴重ですよね。もちろん今は昔と違って、家賃を払うために管理人に会うということがなく、全て振込みで完結できてしまう。でも、思えばこの関係性ってもったいないですし、広げることができる可能性がありますよね。これほどの方と接点を持てるならば、皆さんに街の面白さを伝えるきっかけをつくれたら幸せだと思っているんです。これからのまちの不動産屋は、ただ住むだけではなく、暮らし方の提案をしていきたいし、私はこの街でそういう存在になりたいですね」
一人の行動がきっかけとなり、街の憩いの場がデザインされ始めましたが、これは石井さんがオーナーだからできることなんじゃない?と思われそうです。しかし、理由はそれだけではなさそう。この街を面白くしたい、街の人とちょっと交流してみたい、そういう思いがある人が少しでも集い、共感してくれるオーナーさんが手を差しのべてくれたら、どの街でも人のつながりは生み出せる気がします。
こと現代は、人のつながりをうとましく思う人もいるかもしれません。組合や商店会のように「必ず何かをしなくてはならない」関係性ではない、つながりが大切なのではないでしょうか。ほんのちょっとでも人と向き合い、言葉を交わし合う関係を少しずつでもいいから生み出していきたいですね。ただ住むだけより、街がほんのり面白くなるかもしれません。
●取材協力
・株式会社南荘石井事務所
・新城テラス
・新城WORK
・SEES ISHII LABO
リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、”住みたい街といえば”の代名詞的な存在だった吉祥寺をおさえ2位になった埼玉県「大宮」にフォーカスし、街の魅力を探ります。
駅周辺の商業施設に1000以上の店舗が集まる吉祥寺を抑え、初の2位に輝いた大宮。埼玉県勢としても過去最高順位となりました。特に評価されているポイントは、買い物環境、遊ぶ環境の充実ぶり。「街の魅力(住みたい理由)」として、最も多くのポイントを集めたのも「文化・娯楽施設が充実している(映画館、劇場、美術館、博物館など)」(62.3%)で、以下「ショッピングモールやデパートなどの大規模施設がある」(61.5%)、「街に賑わいがある」(57.8%)と続きます。

大宮駅前
大宮駅内・駅周辺だけでも「ルミネ1・2」「エキュート大宮」「大宮アルシェ」「そごう大宮店」「高島屋大宮店」「大宮マルイ」「大宮西口DOMショッピングセンター」があるという買い物天国ぶり。さらに、大宮の隣駅、さいたま新都心駅に直結する「コクーンシティ」を含めた8つの商業施設の総店舗数は1000店を超えます。
買い物だけでなく、駅から直径2km圏に「飲食街(南銀座・北銀座)」、「ライブスポット(さいたまスーパーアリーナ)」、「公園(大宮公園・大宮第二公園)」、「神社(氷川神社)」など、さまざまな要素が凝縮。
古着屋ストリートとして知られる「一の宮通り」や、ケヤキ並木が美しい「氷川参道」など、個性豊かな通りも魅力的です。

氷川神社
また、実はサウナ・スパも質量ともに充実していて、「おふろcafé utatane」や「美楽温泉 SPA HERBS」などの人気施設に加え、2023年4月には大宮駅徒歩4分の場所に個室サウナとワーキングスペース、カフェが融合した「ととのい+」もオープンしました。
そして、大宮といえばやはり「東日本の玄関口」と称される、鉄道交通の利便性の高さが光ります。新幹線だけでも6路線が乗り入れ、通勤、通学だけでなく、旅行・出張にも便利なアクセス環境。2024年3月には北陸新幹線の金沢~敦賀駅間が開業し、大宮駅から福井駅や敦賀駅まで乗り換えなしで移動できるようになりました。
「中学生以下の子どもを持つファミリー」に選ばれ続ける大宮大宮は埼玉県の県庁所在地である「さいたま市」に属していますが、さいたま市の大きな特徴の一つが「ファミリー層から選ばれている」ことです。じつは、さいたま市は0歳~14歳の転入超過数(転入数から転出数を引いた数)が全国最多。2015年から2023年まで9年連続で1位と、14歳以下の人口増加が続いています。これはつまり、「中学生以下の子どもを持つファミリー」が数多く転入していることの現れです。
子育て世帯の増加に伴い、さいたま市も受け入れ対策を講じてきました。まず、高まる保育需要に対応するため、ここ数年は特に保育施設の整備に注力。平成29年(2017年)の304施設から令和5年(2023年)は513施設と、7年間で1.7倍以上に。定員数も1万9388人から3万788人に増加しています。こうした施設の拡充に加え、保育コンシェルジュなどの相談支援にも力を入れた結果、2022年から待機児童数0人を実現しました。

大宮駅
子育て世帯にとっては、さいたま市の教育環境も魅力。義務教育レベルでは、特に英語教育の充実ぶりで知られています。さいたま市独自の英語教育「グローバル・スタディ」は、全ての市立小・中学校で、9年間一貫したカリキュラムのもと英語を教えるというもの。これにより、中学3年生時点で英検3級相当の学力を有している子どもの割合が全国1位の86.6%に(※文部科学省「令和4年度 英語教育実施状況調査」より)上るなど、目覚ましい成果が生まれています。

中学3年生時点で英検3級相当の学力を持つ生徒は86.6%。全国の政令都市でも突出して高い数字だ
東京から埼玉へ移転する企業が増加中近年では、さいたま市のビジネス環境にも大きな注目が集まっています。ここ10年間(2013年~2022年)の企業の転入超過数は、神奈川県に次ぐ全国2位。特に、東京都から埼玉県に移転する企業が多く見られます(※帝国データバンク発表「埼玉県・本社移転企業調査」(2013年~2022年)より)。

さいたま市
多くの企業にとって、大宮の交通利便性は大きなメリット。また、さいたまエリア(埼玉県中心部)は東京23区に比べてオフィス賃料も手頃です。
加えて人材採用の面でも、さいたま市には大きな利点が。市による将来推計人口は2035年まで増え続け、2050年時点でも現在と同程度の人口水準を維持できる見通しです。
これらの魅力に加え、近年は大宮駅周辺で再開発が進み、大型のオフィスビルが増加中。駅近に快適なオフィス環境が整備されることで、ますます企業移転が加速すると見込まれます。
駅の近くで進む大型再開発にも期待大宮駅周辺の再開発は企業のオフィス需要を満たすだけでなく、街にさらなる活気を呼びます。たとえば、駅東口では2022年4月に、市民ホール、集会場、商業施設、クリニック、オフィスなどから成る「大宮門街(おおみやかどまち)」が誕生しました。大宮駅前に新たな人の流れを生み、そのにぎわいを氷川参道へと結ぶ。そんな、駅と街をつなぐ結節点としての役割も担っています。

「大宮門街」。1階から6階にショップやレストラン、4階から9階には「RaiBoC Hall(市民会館おおみや)」が入り、コンサートや演劇、各種イベントなどに幅広く利用される
大宮門街に隣接するエリアでは、新たな再開発事業「大宮駅東口大門町3丁目中地区第一種市街地再開発事業」が、2023年12月に都市計画決定。100mの高層ビルに高規格のオフィス、店舗、銀行、緑溢れるオープンスペースなどを整備する計画で、一帯の風景が大きく変わりそうです。
一方、駅西口では2023年5月に「大宮ソラミチKOZ」、2024年3月27日に「アドグレイス大宮」という民間大型複合ビルが誕生。今後も、ソニックシティビルの北側のエリア約5.6haについて、機運の高まったところから段階的に整備を進めていくまちづくりの方針を定めています。2024年7月にはその第一弾として、住宅、オフィス、店舗から成る「大宮サクラスクエア」が誕生予定。これを皮切りに、これから数年にわたって開発ラッシュが続く発展性や、それに伴う期待感も、大宮に人気が集まる大きな理由の一つといえそうです。

2024年7月に誕生予定「大宮サクラスクエア」
大宮が初めてTOP10入りしたのは2018年。2022年には初めてTOP3に、そして今回は初の2位と、少しずつ着実に順位を上げています。
東京都心部と同等以上の交通・生活利便性がありながら、遊びや文化、自然、ビジネス環境にも恵まれ、なおかつ住宅コストも手頃で、再開発による今後の発展まで見込める大宮。知名度ではなく、住み心地や街の魅力、将来性に対する純粋な評価が、この順位に現れているといえそうです。
●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
所在地:新宿区新宿
所在地:渋谷区鉢山町
所在地:新宿区西落合
所在地:渋谷区本町
所在地:三鷹市井の頭
所在地:武蔵野市境南町
所在地:武蔵野市境南町
所在地:台東区鳥越
所在地:港区赤坂一見華やかな大都会、ニューヨークでの暮らし。しかし、生活にはお金がかかる!
生活を維持するために多くの移民が働く場所、それは飲食店。
単身やってきたニューヨークで飛び込んだ先は大衆酒場。愉快な同僚と寿司との出会い、そして別れ。
仕事って、生活って、幸せってなんだろう?そんなことを考えながら寿司を巻く日々のこと。










出勤日数が増えるにつれ、個性豊かな同僚たちとの交流も増えていきます。ルイスの店の従業員には彼の元からの友人や身内が多く、仕事中もとても和やかな空気。イザベラもルイスとは長い知り合いのようですが、私が22歳の時とは全く比べ物にならないほどにしっかりしていてルイスといつも言い合いをしています!
レストランビジネスでの仕事も長くなってきましたが、同僚は南米の方が圧倒的に多いです。シチュエーションは人それぞれだけど、英語を全く話さない方も多いため、現場でスペイン語がわかるとものすごい強みになります。
私は一切話せず、これをきっかけに勉強しようとスペイン語の語学学習のクラスを取り始めましたが、本当に難しくてなかなか定着しません。大人になってからの言語の習得って本当に大変ですよね。



お店を閉める作業は従業員一丸となって行います。キッチン回りを徹底的に掃除・消毒し、 明日の営業に備えるのです。
NYで一番多い害獣といえば、なんとネズミ!日本ではほとんど見たことがなかったのですが、 こちらでは至る所で目にします。地下鉄や路上にもうろうろしているので毎回ギョッとしてしまいます。
ネズミを防ぐには、 米などの穀類が床に落ちたままにしないように気を付けることが大切です。今回バターを投げる羽目になったのも、虫やネズミ予防のためといっていいと思います(ゴミ袋を完全に処理したあとだったため)。
レストランビジネスには保健所からInspectorという職業の人が不定期でやって来て、清潔さの基準を満たしているかなどを査定します。これがすごく細かい上に厳しく、査定に合格できなかった場合はビジネスを一定期間閉めないといけなくなることもあるため、オーナーは戦々恐々です。食品の保存状態や温度ひとつで営業できなくなることもしばしばあります。
お店の窓にA、B、Cといったアルファベットの書かれた紙が貼られていますが、Aはインスペクターの査定に合格したとても清潔なお店という意味です。そして、もちろんルイスのお店はAです!

作者:ヤマモトレミ
89年生まれ。福岡県出身。2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。仕事の傍ら、趣味でインスタグラムを中心に漫画を描いて発表していたところ、思った以上に楽しくなってしまい、2021年に脱サラし本格的に漫画家としての活動を開始。2022年にアメリカで起業し個人事業主になりました。アメリカで食っていくために寿司をやっていくことを決意し、週4ブルックリンで寿司をつくっています。
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「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」では総合13位、得点ジャンプアップしたランキングでは3位に食い込んだのが地下鉄御堂筋線、四つ橋線、中央線の「本町」駅だ。大阪のビジネスの中心地として多くの企業が進出し、オフィス街として捉えられていた本町だが、近年は住みたい街としても注目を集めている。
関西圏で人口増加率が最も高くなっている大阪市中央区大阪市中央区に立地する本町駅は、地下鉄御堂筋線や四つ橋線で大阪の中心地・キタやミナミとも直結する一方、交差する地下鉄中央線を利用すれば「2025年大阪・関西万博」のアクセスとなる新駅「夢洲」駅とも一本で結ばれるなど、交通アクセスも抜群のエリア。本町駅周辺はオフィスだけでなく文化・娯楽施設や大規模商業施設も充実、御堂筋沿いには高級車やハイブランドのショップが並んでいる。煌びやかで華やかな街といったイメージが強いが、実は別の顔も持っている街だ。
それが「住まう街」としての顔。大阪市中央区は関西2府4県の中で人口増加率、15歳未満の人口増加率がともにナンバー1となっている。小学校の児童数も2011年の2189人から2023年は3854人と急増している。子供を持つファミリー層が急激に増加しているのだ。

この人口の増加の背景には、本町駅を囲む西区・中央区での住宅供給増加がある。中央区では2019年から2023年の間に約6000戸の新築分譲マンション供給があった。古いオフィスビルなどが建て替えられマンションに生まれ変わっている姿をあちこちでみることができる。住宅供給に伴い人口増も見込めることから、コンパクトなスーパーやベーカリー、ドラッグストアなど毎日の生活に必要な店舗の出店も相次いでいる。
魅力的な企業が存在し働く場としての魅力を持つ街に、住まう場としての選択肢・住宅が提供されることで、若い世代を含めて多くの人たちから注目を集めているのだ。「2024住みたい街ランキング関西版」で本町を選択した人たちの理由としても「仕事のできる施設がある」、「不動産の資産価値が高そう」、「魅力的な働く場や企業がある」といったポイントが上位に挙げられている。

人口が増加、特に15歳以下人口が増えている大阪市中心部では、市による子育て支援施策が行われている。中でも、保育所等を利用したくても利用できない待機児童の解消と小学校活性化に着目したい。
以前の大阪市では待機児童の数が多く、平成24年(2012年)地点で抱えている待機児童の数が600人を超えていた。そこで市は、待機児童を含む利用保留児童の解消を最重要施策として位置づけ、待機児童解消特別チームを立ち上げ、さまざまな施策を組み合わせながら待機児童の解消に取り組んできた。例えば、保育所の入所枠拡大や保育の無償化だ。民間のマンションにも保育所を併設した物件が設置されている。現在も「大阪市こども・子育て支援計画(第2期)」が実施中で、医療費の助成や保育料無償化の年齢層の拡大などが進んでいる。
また急増する児童・生徒対策として本町エリアからも近い北区中之島に「中之島小中一貫校」が2024年4月に開校される。北区中之島と堂島の児童は就学可能で、その他の市内エリアからも抽選ではあるが入学が可能。本町エリアである中央区、西区には小中一貫校はまだ存在していないため、今後の計画に期待したい。


建設工事が進められている「中之島小中一貫校」(写真撮影:井村幸治)
人口増加にあわせ、商業施設の営業スタイルも変化本町周辺は商都・大阪の中心地でもあり、明治時代からのレトロビルや商業施設が残るエリアでもある。例えば、船場センタービル、通称「せんびる」は1970年に大阪万国博覧会の開催に合わせて建設された合計10棟が東西におよそ1000m連なる建物で、地下には地下鉄中央線、地上は中央大通り、上空は市道築港深江線と阪神高速道路が通る特殊な施設だ。平成27年(2015年)の改修工事によって外観を一新し、新たな本町のランドマークとなった。「せんびる」は、オフィスやビジネス来訪者をメインのターゲットとしていたため飲食店街は土日祝は営業しない店が多かった。しかし、住民の増加や集客増加によって飲食ニーズが増えたことで2021年から土日祝日も営業する店鋪がほとんどに。本町周辺のオフィス街の飲食店舗でも、週末営業をする店が増えている。


高速道路の高架下にある船場センタービルはファッション関係の小売店や卸売店が多数入居している(写真撮影:井村幸治)
御堂筋沿いでは2019年には大丸心斎橋店がリニューアルオープン、2020年には心斎橋PARCOがオープン。ファッションフロアや日本の伝統やものづくりを感じるフロアだけではなく、ポケモンといった日本のポップカルチャーに特化したフロアを設けることで、老若男女を引き込む場所へと進化を遂げた。さらに、日常的に利用するスーパーやアカチャンホンポの大型店もあるなど、子育てや日常生活にも困ることはないだろう。

中央通り沿いにある「アカチャンホンポ」。商店街は飲食店も多数あり日常生活にも便利な街。すぐそばにはタワーマンションも見える。(写真撮影:井村幸治)
充実した交通インフラ、なにわ筋線の計画にも注目現在工事が進められている「なにわ筋線」は、うめきた(大阪)地下駅(2023年春に「大阪駅」として開業)と、JR難波駅および南海本線の新今宮駅をつなぐ新たな鉄道路線。関西高速鉄道が鉄道施設を整備・保有し、JR西日本および南海電鉄が鉄道施設を使用して旅客営業する新路線で2031年春の開業が予定されている。本町エリアには地下鉄中央線と連絡する「西本町駅」が新設予定だ。なにわ筋線の整備により、関西国際空港や新大阪駅へのアクセス性の向上、鉄道ネットワークの強化、大阪の南北都市軸の強化などの効果が図られる。
また、先に述べたように、地下鉄中央線は「2025年大阪・関西万博」会場とも直結する。夢洲はその後、統合型リゾート「大阪IR」が計画されているエリアでもある。こうした交通網の充実により、本町エリアへの注目度はさらに増していく可能性が高いだろう。
本町エリアはすでに住みたい街としての魅力を、充分に高めてきている。これからも、交通網の整備、既存建築物の集約や大規模な再開発によってその集客力や注目度はさらに高まる可能性が高い。今後のランキングの結果にも注目したい。
所在地:三鷹市井の頭
所在地:豊島区目白リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、前回から20位と脅威のジャンプアップを果たした「秋葉原」にフォーカスし、街の魅力を探ります。
「働く街」としての評価が上昇過去最高位の29位にランクインした秋葉原。昨年の49位から20も順位を上げ、昨年から「得点ジャンプアップした街(駅)」のランキングでも2位と飛躍しました。

性別、年代別、ライフステージ別の内訳では、男性の支持が8割と圧倒的。特に30代男性、シングル男性から多くの支持を集めています。また、前回調査に比べ「子どものいない共働き夫婦」からの得票も増加しました。

秋葉原といえば、やはり「サブカルチャーの街」というイメージ。しかし、今回の調査で秋葉原を支持した人が挙げた「街の魅力(住みたい理由)」を見てみると、現在のアキバの意外な一面も浮かび上がってきました。
街の魅力の1位は「仕事のできる施設がある(コワーキングスペースやカフェなど)」、2位は「魅力的な働く場や企業がある」と、いずれも秋葉原のビジネス環境が高く評価されていることが分かります。


秋葉原
一方で、5位「文化・娯楽施設が充実している(映画館、劇場、美術館、博物館など)」、6位「学びや、趣味の施設がある(稽古事・カルチャースクールなど)」など、サブカルの街らしい項目も上位に。また、7位は「周囲の目を気にせず自由な生活ができる」。オタクやインバウンド(訪日客)まで幅広く受け入れる、街の懐の深さがうかがえます。
秋葉原駅徒歩10分圏内にスーパーが充実仕事、遊び環境の充実ぶりに対し、生活の場としてのイメージは薄い秋葉原ですが、じつは秋葉原駅周辺はたくさんのスーパーがあり、静かな住宅地が点在しています。
たとえば、「肉のハナマサ秋葉原店」(24時間営業)や「ライフ神田和泉町店」(9:30~24:00)、「オリンピック淡路町店」(9:00~21:00)、「ピーコックストア神田妻恋坂店」(8:00~23:00)は、いずれも秋葉原駅から徒歩10分程度。小型食品スーパー「まいばすけっと」も各所に点在しています。

秋葉原駅周辺はたくさんのスーパーがあり、静かな住宅地が点在
JR高架下の商業施設「CHABARA」には、“食のテーマパーク”がコンセプトの「しょくひんかん」があり、全国から厳選した約4000のご当地グルメアイテムがそろっています。なお、同じ高架下には、クリエイターのアトリエやギャラリー、ものづくりをテーマにしたショップなど全52店舗からなる「2k540 AKI-OKA ARTISAN」、オーディオ、カメラ、ホビーなどのショップが集まる「SEEKBASE」も。日常使いのお店だけでなく、趣味の世界を探求できる場所、ひとひねり加えた個性豊かなショップが充実しているのもアキバの魅力です。誰もが知る商業施設ではなく、サブカルチャーや職人の街といわれてきたルーツにちなんで独自のコンセプトを打ち出した空間は、ここに来なければ得られない体験ができ、遊びに来る人・働く人・暮らす人をも飽きさせません。

「2k540 AKI-OKA ARTISAN」。高架下にショップ、アトリエ、ギャラリー、飲食施設が並ぶ

2023年4月、JR山手線・秋葉原駅の高架下に誕生した「キャンプ練習場」。都心の高架下でテント設営やキャンプ飯など、キャンプの練習体験ができる

「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」。ここでしか出会えないプロダクトや食の専門店が集結
アニメ・トレカ、空前のブームにより子どもも楽しめる街にそして今、秋葉原を熱くしているのが、アニメとトレーディングカード。アニメ産業市場(ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場)は2017年に初めて2兆円を突破し、2022年は2兆9277億円と5年で約1.5倍の市場規模に成長(出典/一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2023」)。また、「カードゲーム・トレーディングカードゲーム」も2022年の市場規模は前年比32.2%増で2348億9100億円となりました。

一般社団法人日本玩具協会調べ「玩具市場規模調査結果」より
もともと人気のあった『ポケモンカードゲーム』に加え、『ONE PIECEカードゲーム』など新しいゲームも登場し、秋葉原にはこれらトレカを扱うショップが月に複数軒のペースで開店しています。これらのコンテンツにより、秋葉原は子どもたちにも楽しめる場所に変貌しつつあります。
成人男性のイメージが強かったメイド喫茶にも、子どもに人気のキャラメニューと子ども料金を設け、家族連れで楽しめる場所も誕生。オタク・マニアと呼ばれたアキバは、尖りつつも裾野を広げ、さまざまな人を受け入れる街に変貌していく過程といえるかもしれません。

駅前にはオフィスビルも増え、「働く街」としてのイメージも定着しつつある

「mAAch ecute 神田万世橋」。ショップ、カフェ、アート空間が並ぶ
秋葉原という街は戦後の闇市からはじまり、電気街、サブカルの発信地と、変化を繰り返しつつ発展を遂げてきました。そして、改めて今の街を見つめてみると、驚くほど多彩な顔を持っていることに気付かされます。次々と新しい魅力を備え、アップデートされ続ける。そんな秋葉原の、これからにも注目です。
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SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
高齢者や障がいのある人、低所得者などが賃貸住宅への入居を断られ、住まいを確保できないことが問題となっています。そんななか、神奈川県厚木市が取り組んでいるのが、物件オーナーや管理会社が住まいの確保に困っている人の入居を受け入れやすくするために、居住支援法人(※)や不動産会社と連携した見守りサービスの実施、住まい探しや暮らしに関する相談窓口の開設です。
厚木市における不動産会社との連携、住まいの支援やその背景にある思いについて、厚木市まちづくり計画部住宅課(2024年4月より都市みらい部住宅課に名称変更)の戸井田和彦(といだ・かずひこ)さん、古財有香(こざい・ゆか)さん、市内の不動産会社・トータルホーム代表取締役の加藤靖教(かとう・やすのり)さんに話を聞きました。
※居住支援法人:住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として各都道府県をはじめとする自治体が指定する団体等
高齢者が賃貸住宅に入居しやすくするためには、どうしたらいい?近年、全国的に高齢者の独り住まいや高齢者だけで暮らす世帯が増える中で、孤独死や家賃の滞納などを懸念するオーナーや管理会社から、高齢者が賃貸物件への入居希望を断られてしまうという問題が生じています。
厚木市の全人口に占める65歳以上の高齢者の割合は2023年10月時点で26%。人口の約1/4を高齢者が占めていることになります。全国の自治体が同じ問題を抱えていて、2017年には住まい探しが困難な人たちの賃貸住宅への入居を促進するため、国は住宅セーフティネット法(正式名称「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」)を改正。これを機に、厚木市でも「民間賃貸住宅の空き室を活用して高齢者が入居しやすくなるような取り組みを進めていこう」という機運が高まりました。

厚木市では人口の約1/4が65歳以上の高齢者となっている(資料提供/厚木市)
「なぜ高齢者の入居が難しくなっているのか、という問題を突き詰めた時に、家賃滞納や孤独死、死亡後の残置物の処理といった問題が浮かび上がりました。
この対応策として取り入れたのが、かながわ住まいまちづくり協会が実施する「神奈川あんしんすまい保証制度」の一つである、『あんすまコンパクト』。安否確認と費用補償がセットになった見守りサービスです。賃貸住宅に入居する一人暮らしの高齢者がこのサービスを利用することで、オーナーさんや管理会社が抱える不安を少しでも軽くし、高齢者を受け入れやすくできないかと考えました」(厚木市 古財さん)
見守りサービスの費用補助で利用しやすく。さらに連携が広がる厚木市は利用者の費用面での負担を軽くしてサービスを使いやすくするために、初回登録料(1万円+消費税1000円)を市が補助する制度を2019年にスタート。この補助制度の取り組みは神奈川県内では初、全国でも東京都中野区に次いで2番目だったこともきっかけとなり、かながわ住まいまちづくり協会が実施する「あんしん賃貸支援モデル事業」の実施市に選ばれました。同年から研修会や住まい探し相談会の開催、関係者連絡会での情報交換など、居住支援の取り組みを開始したのです。

孤独死や残置物の処理など、オーナーや管理会社のリスクを減らすための見守りと費用補償がセットになった「あんすまコンパクト」。通常は初回登録料1万1000円と月額1650円の利用料がかかるが、導入しやすくするために市が初回登録料を負担する(資料提供/厚木市)
そして、このあんすまコンパクトの導入が、厚木市と市内不動産会社との連携が始まる大きなきっかけになったといいます。
「このサービスが孤独死などの不安に対する軽減策となって高齢者の入居促進へとつながっていくには、入居者への費用の補助だけでなく、不動産会社の理解と協力も不可欠です。そこで職員が、サービスを提供するホームネットと一緒に不動産会社を回り、制度の説明をしたり、研修会などで紹介したりして制度の周知に努め、協力していただける不動産会社を募りました」(厚木市 古財さん)

見守りサービスの補助制度を周知するために厚木市とホームネットが不動産会社を回ったことが連携強化につながっていった(画像/PIXTA)
厚木市の補助制度が始まる前までは、ホームネットと業務委託契約を結んでいた不動産会社は、わずか6社でした。それが今では27社になり、年間2~3社ずつ増えている状況だそうです。
また、このサービスを周知するための活動は、不動産会社などの民間企業と直接話をする機会の増加にも繋がりました。
「不動産会社がどのようなことで困っているのか、現場の声を聞くことができるようになったのは大きいですね。定期的に情報交換会を開催するのも、居住支援の取り組みの一つ。現場の意見をいただくことで、違う立場での視点を知ることができるので今後の取り組みの参考になっています」(厚木市 古財さん)
より主体的に住まいの支援に関わるため「居住支援協議会」を設立さらに厚木市では、住まい探しが困難な人たちが円滑に入居するための支援をする機関として、2023年に厚木市居住支援協議会を設立しました。
居住支援協議会の前身となったのは、2021年から厚木市住宅課が主体となって行っていた「厚木市あんしん賃貸住宅支援事業」でした。住宅課と福祉部局の担当課、不動産関係団体や福祉の関係団体も加わり情報交換や意見交換を行っていたのですが「部署間での温度差を感じていた」と古財さんは言います。

厚木市居住支援協議会の事務局である厚木市まちづくり計画部住宅課(2024年4月より都市みらい部住宅課に名称変更)の古財有香(こざい・ゆか)さん(写真提供/厚木市)
「その原因は、組織の壁でした。市の職員は皆それぞれに従来の業務があるので、どこか業務外の活動的な雰囲気がありました。しかし、居住支援を行うにはそれぞれがもっと主体的に動く必要があります。自分たちの業務と捉えて取り組んでもらうためにも、住宅課が主導するのではなく、居住支援協議会という組織を立ち上げた方が良いと考えたのです」(厚木市 古財さん)
居住支援協議会は住宅セーフティネット法の改正により、各都道府県に設置することが定められていますが、市区町村単位で設置している自治体はまだ少ない状況です。厚木市では協議会を立ち上げた後、全体の活動とは別に研修会を企画するグループと資料を作成するグループの2つに分け、より少人数での検討も行っています。協議会に参加するメンバーが意見を出しやすくし、活動に積極的に関わるようにするための工夫です。
また、定期的な意見交換会や研修会のほか、年に5回住まい探し相談会を開催して、居住支援を必要としている人の窓口としての役割を果たしています。

幅広い支援を目指して、居住支援協議会を設立。参加者がより積極的に、主体的に参加していくようワーキンググループなどの工夫も欠かせない(写真提供/厚木市)

居住支援協議会で実施する「住まい探し相談会」の様子(写真提供/厚木市)
広がる支援の輪。住まいを必要とする人と支援を直につなぐ見守りサービスの補助から始まった厚木市の居住支援は、居住支援協議会の設立へと繋がり、さらに行政や民間にも変化をもたらしました。
「居住支援の入口は高齢者の方でしたが、今では高齢者だけでなく、障がいのある方や外国籍の方、ひとり親世帯の方など、幅広い方の支援を行っています。最近では精神障がいのある方からのご相談も多くなっていますね」(厚木市 古財さん)
協議会のメンバーでもあるトータルホームは、精神障がいのある人の地域復帰に関する居住支援も行っている不動産会社。2019年3月に神奈川県から居住支援法人に指定されています。
「行政と関わることになった最初のきっかけは、精神障がいのある方に対して厚木市にはどのような支援があるのかを聞きに行ったことでした。福祉協議会に参加するようになったことで県から居住支援法人の指定を受け、市の居住支援協議会にも参加するようになりました。運営に十分な資金を収益だけでまかなうのはなかなか厳しいので、補助金を受けられるようになったのは大きいです。また市から直接、相談をもらうこともあり、スムーズに相談者と支援を結びつけられるようになりました」(トータルホーム 加藤さん)

トータルホームの加藤靖教さん。精神障がいのある人などの居住支援に力を注いでいる。厚木市の職員も何かあれば相談するという頼もしい、居住支援協議会のメンバーの一人(写真提供/トータルホーム)
古財さんは「支援が必要な人を現場での経験豊かな不動産会社や市民団体などに、すぐにつなぐことができるようになった」と話します。行政での対応が難しいと感じることがあると加藤さんにもすぐに相談しているのだそう。
厚木市の居住支援協議会は、行政にも民間にも、連携を深め、視野を広げる場として機能しているようです。
最後に今後の課題を3人に尋ねると、それぞれの思いを語ってくれました。
「居住支援協議会という、相談できる場所があることをまだまだ知らない人が多いと思います。もっともっと周知し広めていくことが必要です。そして、協議会の活動も、子育て支援、DV・家庭相談、医療の分野などとも連携し、幅広く対応していかなくてはならないと考えています」(厚木市 古財さん)
「見守りサポートを取り入れたり、賃貸債務保証会社と連携して万一の補償を加えても、現場レベルではまだまだオーナーさんや不動産会社の理解が進んでいないと感じます。制度ができても、それをどうやって活かしていくかが課題です。啓発活動と、実際にやってみて実績を作っていくことをコツコツ積み重ねていくしかないですね」(トータルホーム 加藤さん)
「公営住宅の募集でも目立つのは、一人暮らしをする高齢者の応募の多さです。しかし、市営住宅は高齢者が入居するには規制が多すぎると個人的には感じています。高齢者の入居促進という視点では、むしろ民間の不動産会社に働きかける方が早く解決に近づくかもしれません。公営住宅でももっとルールを緩めるなどして、行政が居住支援を率先してやる姿勢を見せる必要があるのではないでしょうか」(厚木市 戸井田さん)

「これまで日本の発展を支えてきた高齢者の方々が安心して暮らせる住まいを供給していきたい」と熱い思いを語る、厚木市まちづくり計画部住宅課(2024年4月より都市みらい部住宅課に名称変更)課長の戸井田和彦さん(写真撮影/りんかく)
行政や居住支援協議会の施策が現場と乖離している、住宅と福祉の連携がうまくいかない、といった話をよく耳にします。また逆に、地元のNPO法人などが強いリーダーシップを取って地域全体の居住支援を推し進めている自治体もあります。
しかし厚木市においては、そのどちらにも当てはまらないように思います。居住支援協議会を立ち上げて1年足らず。まだまだ課題は多いようですが、居住支援に携わる人それぞれの思いが、同じ方向を向いて皆で一歩ずつ歩を進めているように感じました。
市の補助するあんすまコンパクトや相談窓口、居住支援協議会など、これまで丁寧につくってきた制度や体制をいかに活用していくか、今後の発展に期待したいですね。
※戸井田和彦さんは2024年3月23日にご逝去されました。謹んで御冥福をお祈りします。(本記事は2024年2月7に取材したものです)
●取材協力
・厚木市
・株式会社トータルホーム
所在地:杉並区高円寺南
所在地:世田谷区上用賀
所在地:小平市上水南町兵庫県の南東部に位置し、大阪府と接している尼崎市。「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」では自治体ランキングの総合順位で過去最高の19位にランクイン。特にシングル男性では8位、夫婦のみ世帯では16位と若い世代からの人気が高まっている。その要因を探ってみよう。
大阪駅まで最短で6分、非常に便利な交通アクセスが魅力通称「あま」、電話番号の市外局番は「06」と大阪市と同じで、他地域の人からは「大阪じゃないの?」といわれる尼崎市であるが、れっきとした兵庫県の街。市内は東西に、北から阪急神戸線、JR東海道線、阪神本線の3線が並行して通っている。JR尼崎駅から大阪駅までは一駅6分(新快速)、阪神尼崎駅から大阪梅田駅も一駅7分(直通特急)と大阪とは至近。JR尼崎駅からは東西線を利用すれば北新地や京橋へも直通、阪神尼崎駅から阪神なんば線を利用すれば大阪難波や奈良方面までも直通と、非常に便利な交通アクセスをもつ街でもある。
2023年のプロ野球日本シリーズでは阪神とオリックスが対決し、それぞれの本拠地「阪神甲子園球場」と「京セラドーム大阪」を阪神なんば線が結ぶことから「なんば線シリーズ」とも呼ばれた。尼崎市はその中間に位置しており、市内各地でも非常に盛り上がった。「2024住みたい自治体ランキング」でも尼崎の魅力として「いろいろな場所に電車・バスで移動しやすい」という項目が2位に挙げられているが、通勤・通学やショッピングはもちろん、エンターテインメントや余暇を楽しむためも便利な街であることが評価されているのかもしれない。
また、尼崎は市内全体が平坦で道路網も整備されたコンパクトシティという特徴をもち、自転車の利用にも適している。市も事故防止のルール指導、駐輪場整備、自転車道の整備、盗難防止対策などを実施。積極的に自転車を安全・安心・快適に利用できるまちづくりを進めている。さらに、3路線をタテに結ぶように路線バスが尼崎全体をカバーしているため、南北の交通アクセスも良好だ。

JR尼崎駅は東西線と宝塚線が分岐する交通の要所(写真/PIXTA)
駅周辺の再開発が起爆剤となり、住宅供給も活発に「2024住みたい街ランキング」では、尼崎市の一番の魅力として挙げられているのが「コストパフォーマンスがよく便利なお店や飲食店がある」というポイント。また同ランキングで発表している、交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある駅を選ぶ「穴場だと思う街(駅)ランキング」でも、上位10位までの中に尼崎市にある駅が3駅(4位/阪神本線尼崎駅、7位/JR東海道本線尼崎駅、10位/阪急神戸線塚口駅)もランクインしている。古くからの商店街が残り、人情味溢れるやりとりが楽しめる街である一方、再開発により尼崎市内の主要駅の周辺エリアが整備されていることがこれらの評価に寄与しているといえるだろう。
たとえば、キリンビール尼崎工場の跡地があったJR尼崎駅周辺には、百貨店やあまがさきキューズモールが入る複合施設が整備されており、駅とはペデストリアンデッキで直接繋がっていることもあり非常に便利だ。駅の周辺では高層マンションを中心とした住宅が立ち並び若い子育て世帯の流入につながっている。

JR尼崎駅前、再開発により誕生した複合商業施設。周辺には医療施設なども整備されている(写真撮影:井村幸治)

JR尼崎駅の周辺では分譲マンションも立ち並んでいる(写真撮影:井村幸治)
また市内ではJR塚口駅の駅前で工場敷地の再開発により、都市型のコンパクトシティ「ZUTTOCITY」が整備され、マンションと一戸建てあわせて1200戸以上の住宅と商業施設のほか、道路や公園が誕生している。今後の予定では、阪急神戸線の武庫之荘駅と西宮北口駅間に新駅(武庫川新駅(仮称))設置の計画もある。
こうした駅を核とした再開発が進むことで、市内だけでなく広域からの注目を集めるようになっている。その結果、尼崎市内での住宅は一戸建て・マンションとも安定した供給が続いている。既存ストックを地域の資源として活かし、守り、育てることで都市空間の質の向上を図り、持続可能な都市をめざすという市の都市計画が反映されたまちづくりが行われているといえるだろう。

「尼崎は便利だけど、治安はどうなの?」と思う方もいるだろう。尼崎市では治安の悪いイメージを払拭するための取り組みも積極的に行っている。たとえば、街頭犯罪防止の取り組みとして、ひったくり現場表示板の掲示、「青パト」を使った防犯パトロールの強化、警報器付きロック装置を付けたダミー自転車を活用する盗難対策「Alar-mmy.(アラーミー)」などの施策だ。結果、刑法犯認知件数は、取り組み前の平成24年(2012年)と比べ、9年間で約63%減少している。令和5年度(2023年度)には市内にあった暴力団事務所もゼロになり、安心して暮らすことができる街へと生まれ変わっている。
子ども向けの施設の開発も進んでおり、2022年には関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」がオープンした。ボートレース尼崎の一部を活用した親子の遊び場で、発達段階に応じて分けられたゾーンで思い切り身体を動かすことができる場所だ。ボーネルンド社や行政が協働し子ども向けのスペースやイベントを開催しており、なかなか予約が取れないほどの人気となっている。

ボートレース尼崎に隣接する水明公園では思い思いに遊ぶ親子連れの姿も(写真撮影:井村幸治)
また、2025年3月には阪神大物駅に近接する小田南公園の整備によって、阪神タイガースのファーム施設を中心とした「ゼロカーボンベースボールパーク」が誕生する予定。ベースボールファンだけでなく、家族で楽しめる憩いの場としても注目を浴びそうだ。
豊富な種類の子育て支援、安心して暮らすことのできる環境その他にも、尼崎市では子育てを世代に向けたさまざまな施策も実施している。たとえば乳幼児等医療費助成制度により、就学前の児童は通院費の自己負担が不要となる。さらに、高校生までは入院費の自己負担も不要だ。また妊娠、出産、育児に関する不安や困りごとなど、すべての妊婦や子育て世帯に寄り添い必要な支援につなぐ「伴走型相談支援」と、出産育児関連用品の購入や子育てサービス等の負担軽減を図る「経済的支援(出産・子育て応援給付金)」を一体的に実施している。他にも市内には「すこやかプラザ」「つどいの広場」が設置されており、子育て中の親子が気軽に集まって仲良く遊んだり、お母さんやお父さんが情報交換や交流を行うことのできる場を提供。アドバイザーによる子育て相談や、子育てに関する講習・イベントも開催されている。
街全体としては高齢化が進んでいるものの、駅周辺の再開発が進みマンション供給も増加したことから若い世代も増えている尼崎。高い利便性とコストパフォーマンスの良さは今後も評価されていくだろう。治安や子育てに対する取り組みも充実してきており、さらに注目度はアップしていく可能性が高い。
東京私大教連が公表した「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」によると、私大生への仕送りの額は低水準にとどまっている一方で、家賃などの住居費の負担は増えているという。入学にかかる費用も上がりつつあるというので、調査結果を詳しく見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」を公表/東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)
東京私大教連の調査の対象は、首都圏(1都3県)の私立大学・短期大学13校に2023年度に入学した新入生の家庭。受験から入学までの費用は、自宅通学者が162万3181円(前年度比で1万901円増額)、自宅外通学者が230万2181円(前年度比で4万6801円増額)となり、いずれも過去最高額となった。
特に自宅外通学者では、物価高による「生活用品費」の支出増が大きく、「家賃」や「敷金・礼金」の住居費も上昇している。一方、「受験費用」は1万1500円減額となり、受験校数を減らすなどで費用を抑えていることがうかがえる。
■受験から入学までの費用(住居別)

(出典:東京私大教連「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」より転載)
仕送りの平均月額は8万9300円、家賃の平均月額は6万9700円自宅外通学の場合、「仕送り額」の平均月額は8万9300円。最近はおおむね横ばいで推移している。(5月は入学直後の新生活や教材の準備で費用がかさむため、6月以降の仕送り額で平均を算出している。)
ところが、「家賃」は上がり続けている。平均月額は6万9700円で、前年より2400円増え、過去最高となった。その結果、年々「仕送り額」と「家賃」の差が縮まり、仕送り額から生活費に充てられる金額が減少する形となっている。平均月額の差額は1万9600円なので、30日で割ると約653円となり、おおむね1日653円で生活することになる。なかなか厳しい状況だ。
■「6月以降の仕送り額(月平均)と「毎月の家賃」の推移 ~月平均の仕送り額は8万9300円

(出典:東京私大教連「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」より転載)
さらに、仕送り額の平均月額に占める家賃の平均月額の割合を見ると、実に78.1%を占め、過去最高の比率になった。
■「6月以降の仕送り額(月平均)に占める「家賃の割合」の推移 ~仕送り額に占める家賃の割合は8割に迫る

(出典:東京私大教連「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」より転載)
筆者はこのコーナーで、2016年にも同じ調査結果を取り上げた(「首都圏の私大生の平均家賃は6万1200円、どんな物件がある?」)が、2015年度の調査結果(70.6%)について書いていたので、「仕送り額に占める割合は初めて7割を超えることとなった。」としている。それからさらに上昇して、2023年度には8割近くにまで達しているのだ。
では、家賃の平均月額6万9700円で東京の賃貸を探すことを考えてみよう。SUUMOで東京都の家賃相場情報を見てみる(2024年4月10日更新情報)と、ワンルームなら23区内でも家賃相場が7万円を切る区があることがわかった。中野区、杉並区、北区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区だ。このほかの区でも、築年数が古かったり駅から距離があったりする物件なら、7万円を切る家賃のものが見つかるかもしれない。1K/1DKの広さで家賃相場が7万円を切るとなると、23区にはなかったが、立川市、武蔵野市、三鷹市、調布市を除いた東京都下の地域が該当した。
都心部から少し離れれば、希望の家賃や広さの賃貸が探せる状況ではあるようだ。ただし、セキュリティーがしっかりしているとか、宅配ボックスが欲しいなどの条件をつけていくと家賃は上がっていく。物件探しには、優先順位をしっかりつける必要があるだろう。
●関連サイト
東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」
所在地:八王子市加住町