所在地:渋谷区幡ヶ谷122万76円(税込) / 203.7平米
京王新線「幡ヶ谷」駅 徒歩6分
とにもかくにも天高のある空間をお探しの皆様、約7mある天高物件、出ました。
もとは音楽スタジオだったこちらの物件。エントランスからエレベータで地下2階に降りるとがらんとした容積たっぷりの空間が現れます。大きく区画が2つにわかれていて、いずれも天高は約7m。北側の区画はドライエリ ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
所在地:渋谷区幡ヶ谷
所在地:品川区旗の台
所在地:品川区旗の台リクルートが関西圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、滋賀県、和歌山県)に居住している人を対象にWEBアンケートを実施した「SUUMO住民実感調査2022 関西版」を発表した。この調査は「住んでいる街(駅・自治体)に住み続けたいかどうか」を聞いたもの。住んでいる人に愛され、将来もずっと住み続けたいと思われているのはどんな街なのか。詳細を見てみよう。
「住み続けたい自治体」は芦屋市、西宮市、箕面市がトップ3にアンケートは「住み続けたい自治体」と「住み続けたい駅」の2つについて尋ねた。それぞれ「子育てに関する自治体サービスが充実している」「今後街が発展しそう」「地域に顔見知りや知り合いができやすい」などさまざまな観点で、魅力項目を点数化した。
毎年発表している「住みたい街ランキング」は“住んでみたい”という憧れの要素が大きいが、「住み続けたい街」は居住者が感じるリアルな声が反映されている点が大きな違いだ。
まず、「住み続けたい自治体ランキング」を見てみよう。
トップ2は兵庫県の芦屋市、西宮市と、全国的なブランド力のある自治体が上位を占めた。

1位の芦屋市は、阪神間の閑静な住宅街として有名だ。魅力項目で「街の住民がその街のことを好きそう」が1位になったのもうなずける。
2位の西宮市も阪神間に位置し、「2022年住みたい街ランキング関西版自治体編」で今年も1位を獲得。年代別調査でも20代から70代以上まで全世代でトップ10入りした。
多くの人が憧れる理由が住んでいる人の実感値にしっかり裏打ちされていることがわかる。

西宮市(写真/PIXTA)
ベスト20には、4位福島区、7位天王寺区、9位北区、13位阿倍野区、18位西区と大阪市内の5区が名を連ねた。いずれもマンション供給が多く、人口が急増している大阪市の中心地域だ。
神戸市では6位灘区、10位東灘区、11位中央区とベスト20位に3区がランクイン。また、京都府では8位京都市中京区、16位長岡京市、17位京都市左京区が入った。
大阪、神戸、京都とも、各都市の中心部やその近くに位置し、利便性の高い自治体が上位に並ぶ結果となった。
注目したいのは、中心地から離れた郊外も上位に登場している点。5位の奈良県北葛飾郡、16位の京都府長岡京市などだ。
北葛飾郡は馬見丘陵公園など広い公園や古墳が集まる穏やかな環境ながら、難波・天王寺方面へのアクセスが良い。長岡京市も竹林や筍で知られる自然環境が身近にあり、JR長岡京駅、阪急京都線長岡天神駅が利用できて京都の中心部や大阪方面への利便性が高い。「自然豊かな環境+都心へのアクセスの良さ」が郊外に「住み続けたい」と思わせるキーポイントのようだ。

馬見丘陵公園(写真/PIXTA)
新駅誕生や市民目線の施策で箕面市が3位にここからは3位以下で注目したい街を紹介しよう。
3位の大阪府箕面市は2023年度に北大阪急行延伸に伴い2つの新駅「箕面船場阪大前」「箕面萱野」駅が誕生する予定。延伸が完了すれば、大阪メトロ「梅田」駅まで約30分以内で結ばれる見通しで、箕面市から大阪市内へのアクセスが良くなることに期待値も高い。「子育てに関する自治体サービスが充実している」、「防犯対策がしっかりしており治安が良い」でも高評価を得た。同市では全ての市立小中学校の通学路及び公園に防犯カメラを設置。市が設置費用の一部を補助して自治会が設置した台数を含めると約2000台(令和4年9月時点)の防犯カメラが運用されており、犯罪抑止効果を高めるとともに、実際に早期の犯人検挙に繋がっているという。また、高齢者や障害者の交通サポートを低負担で提供。高齢者への火災警報器や紙おむつ給付など手厚いサービスも実施しており、「介護や高齢者向けサービスなどが充実している」を高く評価した人も多かった。

箕面萱野駅予定地(写真/PIXTA)
4位の大阪市福島区はこの10年あまりで新築マンション供給が相次ぎ人口も増加。もともと飲食店などが集積した繁華街のイメージが強いが、イオンをはじめスーパーマーケットが27もあり、生活上の用事を効率的に済ませられるのが評価のポイントになった。隣接する北区で進む「うめきた2期開発」の波及効果があり、発展への期待も大きそうだ。
5位の奈良県北葛飾郡は、“郡”といっても王子駅(JR関西本線、JR和歌山線、近鉄生駒線)を要する交通の要所。難波・天王寺方面へのアクセスが良く、駅周辺に「リーベル王子」など商業施設が充実している。自然環境に恵まれ交通利便性の良いことが、やはり大きな魅力だ。
府県別の自治体ランキングで兵庫県赤穂市や滋賀県守山市がトップ10入り総合ランキングのほかに府県別ランキングの集計も行った。






大阪府では大阪市中心部と箕面市、吹田市、高槻市、豊中市の北摂エリアが上位を占めた。
兵庫県では阪神間と神戸市内が支持を集めたが、7位明石市のほか岡山県との県境に位置する赤穂市が10位に。同市は千種川が瀬戸内海に注ぐ城下町。新快速電車でJR播州赤穂駅から神戸まで直通70分と時間はかかるが、住む人たちは美しい自然や街並み、穏やかな環境に、都会の利便性以上の価値を感じているようだ。
奈良県は難波・天王寺・生駒にアクセスの良い北葛城郡王寺町が1位になり、広陵町も3位にランクイン。どちらも宅地や一戸建ての分譲が多く人口が増え続けているが、公園や古墳などが多く豊かな環境を享受できる点が魅力となっている。
滋賀県の1位、守山市はもりやまエコパーク交流拠点やびわこ地球市民の森、温泉施設ができて人気が復活。和歌山県有田市は結婚する人に住宅関連費用を最大30万円、出産祝金や入学祝金など最大で約200万円の支給で移住を促進している。
魅力的な新施設の創出や市民目線の施策により、県の中心地を抜いて1位を獲得した自治体があるのも興味深い。

次に「住み続けたい駅ランキング」を見ていこう。
驚くのは、阪神間の夙川や苦楽園口、京都の烏丸御池など人気の高い駅を抑えて明石市の人丸前が1位を獲得したこと。
人丸前は山陽電鉄本線の駅で、北には日本標準子午線で知られる明石市立天文科学館、南方面には海水浴場や芝生の広場などのある大蔵海岸公園が広がるのどかな駅だ。明石市といえば、おむつ定期便や第2子以降の保育料の完全無料化など手厚い子育て支援で注目され、「子育てに関する自治体サービスが充実している自治体ランキング」で1位を獲得している。人丸前は「公共施設が充実している」でも7位。明石海浜プールや天文科学館、文化博物館などは年齢によって無料となり、身近に利用できる施設が多いのも魅力だ。
「子育て環境が充実している駅ランキング」ではほかにも同じ山陽電鉄の東二見が3位、西新町が4位、魚住が7位、大久保が8位、明石が10位と、明石市内の6駅がトップ10に並び、子育ての項目で圧倒的な強さを見せている。
2位の「さくら夙川」、3位の「夙川」、4位の「苦楽園口」は「住み続けたい自治体」2位の西宮市内にある駅。いずれも徒歩10分程度で行けるほど近接し、生活圏はほぼ同じだ。桜並木が美しい夙川公園があり、人気の阪急西宮ガーデンズも普段使いできる。大阪・神戸どちらにも電車で20分程度。魅力がバランス良く満たされている。
上位20位までに西宮市から8駅がランクインし、同市の強さも顕著となった。
5位の「姫松」は大阪市阿倍野区南西部の阪堺電気軌道上町線の駅で、大阪市住吉区北西部にかけて帝塚山と呼ばれる古い住宅地が広がる。学校が多い文教地区で、街の魅力項目の「教育環境が充実している」でも5位にランクインするなど、子育て層に人気が高い。
ターミナル駅の隣駅+再開発で阪急電鉄今津線の阪神国道がトップ10入り人丸前と並び、これまで注目度が高くなかったがトップ10入りしたのが9位の阪急電鉄今津線阪神国道。西宮北口駅の1駅南にあり、人気の商業施設阪急西宮ガーデンズにも約1kmと徒歩圏。駅の東側の元アサヒビール工場跡地では公園を核とした大規模な再開発が予定され、新病院の建設も計画。「ターミナル駅の隣駅」「再開発による発展の期待」で高評価につながったようだ。

阪神国道駅(写真/PIXTA)
リクルートが毎年発表している「関西 住みたい街(駅)ランキング」の2022年版で1位を獲得した梅田は、今回の「住み続けたい駅ランキング」では50位以内に入っていない。「住みたい……」で2位だった西宮北口も「住み続けたい駅……」では13位と意外な結果だった。
梅田も西宮北口も交通アクセス、買い物利便性が高いターミナル駅。多くの人が「住んでみたい」と思う街だが、ずっと住み続けたいと思わせるには、子育て環境や高齢者サービス、静かで落ち着いた住環境など違った魅力が不可欠なのかもしれない。
住んでみなければ分からない実感を反映したこのランキングを参考に、本当の住みやすさとは何かを考えてみたい。
●関連サイト
「SUUMO住民実感調査2022 関西版」2022年住み続けたい街(自治体/駅)ランキング
所在地:世田谷区北沢
所在地:中央区日本橋富沢町
所在地:目黒区上目黒
所在地:渋谷区神宮前
所在地:渋谷区神宮前
所在地:港区赤坂移住に興味があるけれど、コロナ禍で情報収集できる機会が減ってしまった……。そんな状況を補うのが、ビジネスチャットツール「Slack」を活用した、長野県佐久市による移住のオンラインサロン「リモート市役所」。日本で初めて自治体が運営する、移住の共創型オープンプラットフォームです。
サービス開始は2021年1月。どんな背景でスタートしたのか、どんなコンテンツがあるのか、市民や移住希望者の反響は? リモート市役所を担当する佐久市役所広報広聴課の垣波さんと、移住交流推進課の森下さんにお話をうかがいました。
長野県の東部に位置する佐久市は、浅間山、蓼科山、八ヶ岳を望む自然豊かなまちです。標高約700mの佐久平駅を中心に市街地が広がり、憧れの避暑地として知られる軽井沢もご近所。東京から佐久平までは新幹線で約75分と、首都圏からのアクセスも良好です。

新幹線が停車する佐久平駅を中心に市街地を形成。山もすぐそこ(写真提供/佐久市役所)
人口は10万人弱。日本の地方都市同様、高齢化が進み、2010年をピークに人口は減少に転じています。一方、ほかの地域からの転入者数は転出者数を上回っており、2021年の社会増減数(統計ステーションながの「毎月人口異動調査(2021年)年間人口増減 統計表」より)は長野県で第一位。住みやすい環境などから、移住への関心の高さもうかがえます。
そんな佐久市では、従来から市役所に移住相談窓口を設置していました。さらにリモート市役所を立ち上げたのは、どんな経緯があったのでしょうか。
「移住希望者に向けて、まずは佐久市を知ってもらおう、来てもらおうと活動してきましたが、2020年、コロナ禍に突入。佐久市を実際に訪問してもらうことは難しくなりました。そこで、移住に興味のある方が佐久市民とつながり、情報のやり取りができるコミュニケーションプラットフォームとして、『リモート市役所』を立ち上げました」と垣波さん。
実際に足を運ばずとも、佐久市のリアルな情報や魅力を届けたいと考えたのです。
「Slack」とは、職場で採用していておなじみの人も多いですが、改めて紹介すると、アプリやWEB上で情報共有、グループチャット、ダイレクトメッセージ、通話などができる、いわゆるコミュニケーションツール。この現代的なツールを活用することで、ホームページのような自治体サイドからの一方的な発信ではなく、移住を考える方が暮らしにまつわる質問を投げかけ、実際に佐久市に住んでいる市民が答えるという、双方向のコミュニケーション環境が生まれました。
Slackは書き込みや閲覧に会員登録が必要で、ホームページと比べると閲覧者は限られる一方で、参加者同士がダイレクトにやり取りできるのがメリット。感じたことに対してすぐに反応が返ってくることや、答える側もかしこまったスタンスではなく、自分の本音を伝えることができるため、より現実味のある情報を交換することができます。
利用者の声を聞いてみても、「気軽に質問できる」「リアルな声を発信できる」と、楽しんで活用している様子。垣波さんたち職員も、いち市民の目線で参加し、質問に答えているそうです。

佐久市役所広報広聴課広報係の垣波竜太さんと、移住交流推進課移住推進係の森下慶汰さん

リモート市役所のトップ画面。のぞいてみたくなる、ワクワクするデザインです(写真提供/佐久市役所)
現在、リモート市役所にはおよそ10の課(チャンネル)が用意され、「写真課」「魅力はどこ課」「子育て課」など、それぞれのテーマごとに楽しげなやり取りが行われています。「佐久市の写真」チャンネルでは、市民が撮影した写真を気軽に投稿。ちなみに、昨冬の雪の写真はインパクト大でした。実は雪は滅多に降らないエリアのため、「浅間山が3回白くなると里に雪が降るといわれています」「風が吹くとかなり寒い。冬はマイナス10度を下回ることも」「移住を考えている方は、冬に一度訪れるのがおすすめ」など、話のタネになったとか。どんな気候なのかも、移住したい人には気になるところですよね。ちなみに、標高約700mの佐久市では、観測史上、熱帯夜(夕方から翌朝までの最低気温が25度を超える夜)を記録したことがないのだとか。晴天率は全国トップクラス。快適に過ごせそうです……!

雪の日の写真を市民がアップ。冬の寒さや雪の多さも事前に知っておきたいところ(写真提供/佐久市役所)

5月の連休には県下最大級の熱気球大会「佐久バルーンフェスティバル」が行われます(写真提供/佐久市役所)
「移住の質問部屋」では、「保育園の入りやすさはどう?」「4月に引越すのだけど、暖房器具は必要?」「自治会費っていくらくらい?」など、かなり具体的な質問が飛び交います。ときにはマイナスな情報も、隠さずに伝えているのが印象的です。
「たとえば、佐久市では家庭ゴミは有料の指定袋に入れ、しかも名前を書かなくてはならない。それが面倒だという市民の声も実際にあるのですが、移住を考えている方にはネガティブなことも含めて、ありのままを知ってほしい。あとで違った、こんなはずじゃなかったと後悔するよりも、わかって納得したうえで、それでもメリットの方が上回るから住みたい、と思ってもらえたら」と森下さんは言います。
「アイデア」チャンネルでは提言、提案も盛んです。「保育園の空き状況を調べるのに一件ずつ見ていくのが大変。今自分が住んでいる自治体のように一覧にしてほしい」など、こんなチャンネルがほしい、こんなアプリがあったら……といった声が上がります。「ここが使いづらい、もっとこうだったらいいのに、と思っても、わざわざ市役所にメールする方はなかなかいませんよね。思いついたら気軽に声が上げられるのも、リモート市役所ならではかな、と思っています」(垣波さん)

移住に興味のある人と市民が情報交換できる「移住の質問部屋」。スレッド機能があり追跡しやすいのもいい(写真提供/佐久市役所)
参加者は、開始2カ月半で約800人が登録。その後じわじわと増え続け、2022年7月現在、1900人強が参加しています。垣波さんによると、誰でも無料で参加できるので、特に発信はしない“見る専”の方も多いそう。匿名でも参加可能のため、本音でトークしやすく、ローカルネタで盛り上がることもあるようです。<拍手>や<いいね>といったリアクションスタンプが押せるのもとっても気楽! チャットを眺めているだけでも、佐久市への興味が高まってきます。
投稿をきっかけに始まった、新たな移住支援サービスリモート市役所内の投稿をもとに、新たな取り組みも始まりました。佐久市への移住を検討している方向けの試住の支援サービス「Shijuly(シジュリー)」です。

試住をサポートするサイト「Shijuly」も生まれました(写真提供/佐久市役所)
「生活環境を確認したい、学校を見学したい、家を探したい、という方たちに、お試しで滞在する『試住』をおすすめしています。その際の宿泊先や、子どもの預け先はどうするか、コワーキングスペースはあるかなど、知りたい情報をまとめたサイトがShijulyです」と森下さん。
試住中の宿泊費や移動費などに最大50%補助金(上限あり)が出るのも魅力です。補助金の申請もオンラインで行えて便利。「補助金の利用上限日数は最大6日分ですが、2泊を2~3回に分けて、という方も結構いらっしゃいます。ぜひ、移住のシミュレーションをしてみてください」

稲荷山公園など、市内で子どもと遊べる公園も紹介しています(写真提供/佐久市役所)
業務はオンライン、副業OK、報酬ありの「リモート市役所課長」が誕生さらに、リモート市役所の「課長」を広く募集したことも話題を呼びました。リモート市役所課長は原則オンラインでの業務で、月に1度の運用会議に参加するほか、Slack内の投稿やリアクションにも対応する、いわばリモート市役所の盛り上げ役。副業も歓迎、報酬もあります(今年度は、年間で固定給50万円、企画・運用費50万円)。

リモート市役所課長募集のお知らせも、わかりやすくてユニーク(写真提供/佐久市役所)
2021年度の初代課長には、実際にリモート市役所を活用して佐久市に移住した、伊藤侑果さんが選ばれました。伊藤さんは、子育てしながら起業家として働く女性。移住者視点、ママ視点を活かして、熱量をもってさまざまなプロジェクトに携わったそうです。
そして今年度、二代目課長に任命されたのは、FMヨコハマのラジオディレクター・やのてつさん。番組の企画で佐久市に訪れたのをきっかけに佐久市のファンになり、首都圏在住でありながら、佐久市への愛にあふれた方なのだそうです。

本年度のリモート市役所課長に選ばれたやのてつさん。任期は2023年3月末まで(写真提供/佐久市役所)
7月には、初のオンラインイベント「リモート市役所サミット」が開催されました。サミットでは、移住を検討するファミリーに向けて、佐久市の魅力を感じられる移住モデルコースづくりにチャレンジ。2チームに分かれてZOOMでワークショップを行いました。

リモート市役所サミットの風景。当初はオフラインを予定していましたが、新型コロナの感染者増加に伴いオンラインで実施(写真提供/佐久市役所)
課長のやのてつさんが審査員となり、優秀チームを決定。後日、やのてつさんがご家族とともに実際にそのモデルコースを訪問・取材し、FMリモート市役所でオンエアする予定です。
「リモート市役所は文字や写真での発信がメインですが、やのてつさんの課長就任を機に、ラジオコンテンツ『FMリモート市役所』を強化中。またポッドキャストなど、新たな音声コンテンツも発信していく予定なので、お楽しみに」(垣波さん)

FMリモート市役所では、Slackでの投稿から抽出した選りすぐりの情報などを音声でお届け(写真提供/佐久市役所)
こうした取り組みが評価され、リモート市役所は
「シティプロモーションアワード2021」金賞・未来創造賞
「PRアワードグランプリ2021」ブロンズ
「第14回日本マーケティング大賞」奨励賞
「PR Awards Asia 2022」2部門でゴールド
「Golden Worlds Awards 2022」パブリック・セクター部門最優秀賞
といった賞に輝いています。
また、全国の自治体から問い合わせやオンラインでの視察申し込みも相次ぎました。今年5月には、福岡県北九州市でもSlackを用いた移住のオンラインサロン「バーチャル北九州市」がオープン。佐久市のリモート市役所がお手本となって開設されたそうです。

PR Awards Asia 2022の盾が輝きます(写真提供/佐久市役所)
市民同士の交流を深め、シビックプライドの向上をめざす実際にリモート市役所への参加を機に佐久市へ移住したのは、わかっているだけで3人。ちょっと少ない数字に見えますが、Uターンや長野県内からの転入もあり、数の把握が難しいのだとか。「今年度より移住者の実情を把握するため、市民課の窓口に転入届を出す際に、自分の意思で移転したか、5年以上住み続ける意思があるか、というアンケートを取り始めました。その結果にも期待したいです」と森下さんは言います。
今後のリモート市役所は、どうなっていくのでしょう。
「参加者も増えてきていますし、イベントの開催など、もっと定期的にチェックしてもらえるような場にしていきたい。市民にとっても、市民同士の交流の場として使ってもらえることを期待しています。佐久市っていいところだなと、市民のみなさんに誇ってもらえるように」と垣波さん。
移住情報中心のプラットフォームとしてだけでなく、市民と市民、市民と行政をつなぐ場所としての役割も担うリモート市役所。市民が愛着を持てる、誇れるまちであることが、移住のその先、定住の促進へとつながっていくはずです。
●取材協力
佐久市役所
リモート市役所
Shijuly・シジュリー
FMリモート市役所
所在地:目黒区上目黒
所在地:渋谷区神泉町
所在地:杉並区和泉
所在地:世田谷区世田谷リクルートは10月「SUUMO住民実感調査2022首都圏版」と、「SUUMO住民実感調査2022首都圏版 家賃水準別住み続けたい駅ランキング」の2つを発表した。前者は、首都圏に住む20代以上の男女に、現在住んでいる街に住み続けたいかを聞き、その希望度が高い駅・自治体をランキングしたもの。後者は、その上位の中から、賃貸物件の家賃相場が一定の基準をクリアする駅だけでエリア別にランキングしたものだ。今回、紹介するのは後者の方、住民が今後も住み続けたいと感じていて、かつ賃貸物件も手が届きやすい街のランキングとなる。「東京23区シングル家賃8万円以下住み続けたい駅ランキング」のトップ10に、東急世田谷線(以降、世田谷線)、山下、上町、宮の坂、松陰神社前、松原の5駅がランクインした。
世田谷線は、下高井戸駅と三軒茶屋駅(全ての駅は世田谷区内)を結ぶ軌道線で、新宿駅や渋谷駅といった主要ターミナルを起点としない、比較的マイナーな路線といってよいだろう。なぜ、世田谷線の街が多数ランクインしたのだろうか?

松陰神社前駅に停車する世田谷線の車両。小ぶりの車体の2両編成。うち1編成は、沿線の名所・豪徳寺の「招福の招き猫」が車体にあしらわれている。車内のつり革も猫型だ(写真撮影/村島正彦)
世田谷線は、軌道を走るトラム型車両で運行されている。同様の軌道電車には、都内ではもう一つ、三ノ輪橋と早稲田を結ぶ都電荒川線(東京さくらトラム)がある。
歴史を紐解けば、明治後期(1907年)に近代化・都市開発のため必要な砂利を多摩川から調達するため、渋谷と玉川(現在の二子玉川)の間に軌道(道路上に電車などが走るために設けた線路)が開業した。大正14年(1925年)に三軒茶屋から下高井戸の間に新設軌道の支線、下高井戸線が設けられた。
モータリゼーションの高まりとともに、昭和44年(1969年)現在の国道246号上の軌道線・渋谷~玉川の路線が廃止され、道路と共用しない専用軌道であり残った三軒茶屋~下高井戸の支線は「世田谷線」と改称された。
ほとんどの駅に改札はなく、全線150円の均一料金(2022年現在)。低いプラットフォームから乗降可能な、通常の鉄道車両より小ぶりな2両編成で、三軒茶屋と下高井戸間の5.0kmを17~18分かけてゆっくりとしたスピードで運行されている。
20代後半~30代の「大人のシングル」に人気の松陰神社前
(出典/リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2022」)
特筆すべきは、8位に松陰神社前。
地元で不動産仲介サイト「せたがやクラソン」を運営している(株)松陰会舘の山下勇樹さんは「都心に近いことを重視して、東急東横線の祐天寺~中目黒駅あたりや、田園都市線の池尻大橋~三軒茶屋駅あたりで部屋を探していた人が、家賃の兼ね合いもあるでしょうが、少し踏み込んで世田谷線で物件を探してみて、ゆったりとした街の雰囲気に魅せられて住み始めた人が多いように思います。20代後半から30代の単身者、職業は多種多様ですが、広告業界やライター、デザイナーといった自分のスタイルを持った人が多い印象です」と話してくれた。
週末にはカフェ巡りなど来街者も増えて、いまではすっかり世田谷線を代表する駅として認知されている松陰神社前だが、そうした動きはいつからだろうか。
(株)松陰会舘代表の佐藤芳秋さんは、生まれも育ちもこのエリアだ。佐藤さんによると「2010年ごろは世代交代などで空き店舗が目立っていました。それが、大きく変わったのが2014~15年ごろです。若い人たちがカフェやバルなど出店し始めて街に活気と華やぎが戻ってきました」と話す。「自社では、仲介のほか不動産も所有しているので、世田谷線に面した自社所有の老朽化した木造アパートを、用途転用・リノベーションして物販ができるテナントとして企画したのが松陰 PLAT です。新しい店が飲食店に偏っていたので、地域の人が手土産や日々の生活に彩りを加える雑貨などを売る物販のテナントも意識的に呼び込みました」と打ち明ける。地元で50年前からガス事業と不動産業を営む松陰会舘の3代目として、当時は取締役であった佐藤さんが事業を主導した。

松陰神社前駅のほど近くに2014年にオープンしたスイーツ店「MERCI BAKE(メルシーベイク)」。気取らないオシャレなフランス菓子は、手づかみで食べられる。このころから、松陰神社前駅の商店街に若い感覚のお店の開店ラッシュとなった(写真撮影/村島正彦)

ぷらっと寄れる街のプラットホーム「松陰PLAT」は、2016年に佐藤さんが自社物件の築50年の木造アパートを8つの商業施設にリノベーションした。物販店や飲食店が入居する(写真撮影/村島正彦)
「自社で仲介など行う範囲と重なりますが、世田谷区のなかでも、環七と環八の間、甲州街道と国道246号で挟まれたエリアを『世田谷ミッドタウン』と勝手に呼んで、2015年に『せたがやンソン』というお店を紹介するウェブメディアを立ち上げました」と話す。

佐藤さんは、環七と環八の間、甲州街道と国道246号で挟まれたエリアを『世田谷ミッドタウン』と命名した。世田谷線沿線がまさにこのエリアだ(作成/SUUMOジャーナル)
このころには、松陰神社前は若い出店希望者が殺到したが、空き店舗が見つからず、上町・宮の坂・山下などに新しい店が少しずつ広がっていったという。こうした、新しい店を応援し紹介し、地域の価値を高めるメディアとして立ち上げたのが、『せたがヤンソン』だ。店主のこだわりや店を開くに至った動機や人となりについて記事に盛り込むことを心掛けている。
この地域は都心に近いながら、ある意味あまり知られていない穴場エリア。「サイトの月間のPVは約3万とそれほど多くはありません。でも、サイトを見て、お客さんが店主の背景を知り、店主との会話のきっかけになっているという話をよく聞きます。あまり流行りすぎもせず、ゆったりとコミュニケーションがつくられる状況は、ちょうど良いと思っています」と話す。

佐藤さんは、2015年から「せたがやンソン」という世田谷ミッドタウンの情報サイトを立ち上げた。2022年6月にはサイトで紹介したお店100軒を載せた「せたがやンソン MY SETAGAYA100」を出版(HPより)
昭和の商店街に新感覚のお店が混在。エモい街!佐藤さんと同じく、このエリアが故郷の吉澤卓さんは「国士舘大学や駒澤大学、日本大学(文理学部)などが近くて、学生のころから住み慣れ親しんだ人が、そのまま気に入って住み続けている面もあるのでは」と話す。
吉澤さんは、2021年に親が所有する松陰神社駅前のビル2階に、コワーキングスペース「100work」と個人オーナーが小さな書棚で本を売る「100人の本屋さん」、イベントスペース「100cube」を開設した。約130平米の空間に3つの機能がシームレスに混在している。
「新型コロナでステイホームになった近隣の住民が、家では集中できないときや人と話したいと思った際に利用してもらえるような、街の小さな文化・交流拠点になればと思いました」と意図を語ってくれた。

「100人の本屋さん」(松陰神社前)にて、吉澤卓さん(左)と佐藤芳秋さん(右)に話しを聞いた(写真撮影/村島正彦)
世田谷線エリアの生まれ育ちで、地域に詳しい佐藤さん・吉澤さんに、この地域にシングルが住み続けたいと感じる魅力について尋ねた。2人の意見を総合すると以下のようなものだ。
・個性的なほかの街にないような飲食店・物販店がある。
・商店街の古くからのお店と、若い人たちが新しく開いたお店が適度に混じり合うことで重層的魅力をつくっている(下町感のある商店街に洒落た店が点在)。
・駅が小さく、また道路が狭いから大きな建物がない。テナントも10坪程度の狭い物件ばかりで、ナショナルチェーンでは採算が合わず出店しないから、街が画一的にならない。逆に若者が小規模な資金で店を開きやすい。
・商店街、道が狭いく緩やかに蛇行するなど(クルマ通りが少なく)歩く人が中心で知り合いと顔を合わせやすい。
・招福の招き猫で有名な豪徳寺、世田谷城址、世田谷八幡、ぼろ市通り、代官屋敷、松陰神社などプチ名所を散歩(世田谷線)で巡って楽しい街。自転車があると最強。
・住民は古くからの地域の老人やファミリー、シングルが混在しており多様な人間模様。気取らない普段着で外出することができる。
・世田谷線を使わなくても、田園都市線や、小田急線・京王線などの駅から歩けなくはない。都心への時間距離はさほどではない(近い)が、賃料は安め。
・上町からは渋谷までバス便が便利。国道246号には通勤時はバスレーンがありスムース。本数も多い。
といったところだ。
これを聞いていた、仲介の山下さんからは「この間、案内した20代後半のシングルの方は、初めて世田谷線エリアを歩くらしく『エモいっすねー』と連発して感激していたのが印象的でした」という。昭和から続く商店街のゆったりした古風な佇まいに、いま風のお店が混じり合って、老いも若きも気取らずに生活を楽しんでいる風景が「エモい」という表現になったようだ。
言い換えてみるなら、大都会・東京にあって、人と人の距離が近い「田舎感」にあふれるエリアということだろうか。
以下、世田谷線沿線の雰囲気を感じていただけるスポットを紹介する。

松陰PLATの一角「good sleep baker」は、クラフトビール(3種の樽を常時開栓)を楽しめる。焼きたてパンも売っており、店内で食べることも持ち帰りも可。店主の小林由美さんによると「仕事を終えた後に美味しいビールを飲んで、明日の朝食のパンも調達できるお店」というコンセプトだ(写真撮影/村島正彦)

上町駅の近くの包丁と砥石のお店「ひとひら」。店主の相澤北斗さんは「包丁は、研いでメンテナンスしながら長く使って欲しい」という。世田谷・上町に店を開いたのは「生活・食をきちんと楽しんでいる人が多く住んでいるから」という理由だった。販売だけでなく、包丁研ぎのサービスも行っている(写真撮影/村島正彦)

宮の坂駅近く、モダンな設えの和菓子屋さん「まほろ堂蒼月」。山岸史門さんは「オーソドックスな和菓子はもちろんオリジナルにもこだわりたい」という。店内には喫茶スペースもあり、窓からはゆっくりと走る世田谷線を眺めながら、お茶とお菓子を楽しめる(写真撮影/村島正彦)

豪徳寺・山下駅近くの青果店「九百屋 旬世(くおや しゅんせ)」。鮮度抜群の野菜が手頃な値段とあっていつも店頭は人だかりが。仕入れた野菜・果物でスムージーやボリューム満点のサンドウィッチを店内で製造販売し、地元の人に人気だ(写真撮影/村島正彦)

山下駅・豪徳寺駅から徒歩5分の住宅地に2022年2月にオープンした「七月堂古書部」。詩歌を中心とした新本と古書の書店だ。明大前から引っ越してきた。古書部部長の後藤聖子さんは「のんびりとした住宅地ですが、お客様が探してたどり着いて下さいます」と話す(写真撮影/村島正彦)
世田谷線沿線は散歩コースも充実世田谷線沿線には、ささやかな観光スポットが点在している。住んでみれば、日常的な散歩コースに組み入れて、仕事や雑事をしばし忘れることができそうだ。

豪徳寺(山下駅・宮の坂駅) 彦根藩主・井伊家の江戸における菩提寺。招き猫が多数奉納されていることで観光スポットにもなっている。墓所には、幕末・桜田門外の変で暗殺された井伊直弼の墓も(写真撮影/村島正彦)

世田谷八幡宮(宮の坂駅)(写真撮影/村島正彦)

世田谷城址公園(上町駅・宮の坂駅)(写真撮影/村島正彦)

松陰神社(松陰神社前)(写真撮影/村島正彦)

世田谷代官屋敷(上町駅)(写真撮影/村島正彦)

世田谷ボロ市(上町駅・世田谷駅) 代官屋敷前の通りで400年続く「市」。毎年12・1月15・16日に開催される(写真撮影/村島正彦)
それから、山下さんからは「沿線で人気の地域スーパー、オオゼキの存在も大きいかもしれません」という話が飛び出した。
「世田谷線沿線での住み替えを案内することがありますが、“オオゼキがある街”という希望もよく聞きます」
日常的に使う、スーパーマーケット・オオゼキは地域密着で、エリアの魅力に貢献しているのだという。
オオゼキは、世田谷線の松原駅の近くで乾物屋を営んでいたが、1965年にスーパーマーケットに業態変更した。以来、世田谷区を中心とした東京、そして神奈川・千葉に合計41店舗を展開するスーパーだ(2022年現在)。
(株)オオゼキのコミュニケーション統括本部の内田信也さんにお話を聞いた。
「オオゼキは、松原駅の至近に本店の松原店があります。また世田谷線沿線では、上町店があります。この2店舗は、41ある当社の店舗のなかでもとりわけ床面積が大きい旗艦店となります」と説明する。「創業の地である世田谷線エリアは、昔からのお客様、そして地域柄、進学や就職で上京した方が多く住む地域です。ファミリー層から単身者まで幅広い方にご利用いただいています」

松原駅・上町駅の最寄りには地元密着スーパーで地元民に絶大な人気を誇る「オオゼキ」がある。(写真は松原店)品ぞろえ豊富で店員さんの親しみもあり、オリジナルお総菜・弁当や寿司の美登利も店内で製造販売。シングルの味方だ(写真撮影/村島正彦)

上町店(写真撮影/村島正彦)
地域のシングル層にオオゼキが訴えるポイントについて「当社は、各店舗・売り場毎に担当者が仕入れから販売まで責任を持つ方針を創業以来とっています。お客様から、このこだわりの商品を入れて欲しいと担当者が聞いて、できる限り対応しています」と内田さん。
例えば、味噌や醤油など、日本全国を網羅し地域性豊かに50~60種類を常時置いている。地方から上京した単身者にとって、近所で手軽に故郷の味が手に入るわけだ。
以下のように続ける。
「全国展開の大手スーパーであれば、社員は管理部門に少数を配置し、多くをパートでまわしています。対して、当社は、レジ担当を含めてスタッフの7割を正社員として採用しています。これが、仕入れと売り場に責任を持って回してくれること、社員ひとり一人に権限を与えているので、お客様のニーズをダイレクトに聞き仕入れ、店頭に並べる商品に反映することに繋がっています。また、地方から上京してきた高卒社員も積極的に採用し、若いうちから売り場を担当してもらっています。若い子は、最新の流行に敏感ですから、新しい・流行っている商品をすぐに仕入れて売り場に並べてくれます。こうしたことも、シングルの若い方に好感をもっていただけるポイントなのではないでしょうか」
また、鮮魚・肉など生鮮食料品売り場で、若い男女のグループが買い物をしているシーンを見かけるという。
「友達をアパートに呼んで、ふだんはやらない鍋でもしようかというときに、オオゼキなら一人暮らしではふだん買えない珍しい食材をみんなでわいわい買うことができて楽しい、という声を聞きます」
冬は、多品種の魚介類をパックにした寄せ鍋セットや、ボリュームたっぷりのアンコウの切り身・肝などを売っている。
「また、各店舗に店内でお総菜・お弁当を作って販売しています。それから、近傍の梅ヶ丘の有名店・寿司の美登利に、松原店・上町店などでは専従スタッフを置いてもらい、できたてのお寿司を買うことができるのも、地域の方には重宝してもらっているのでは」と話してくれた。

オオゼキの生鮮品の品ぞろえ豊富で、飲食店を営むプロの仕入れの場でもあるという。トマトは常時15種類程度の品ぞろえ 、魚介類も穴子や鮎、のどぐろ、ツブ貝、ドジョウなどなど普通のスーパーではなかなか見かけないものまで多品種をそろえる(写真撮影/村島正彦)

醤油、味噌なども全国のメーカーの「レアもの」がそろう。味噌だけで約60種類。東京にいながら、出身地の味が手ごろに入れられる(写真撮影/村島正彦)
世田谷線は、新宿や渋谷といったターミナル駅に直結しておらず、地元密着の個人店やスーパーもあいまって、大都会東京にあって「田舎感」や「地元感」にあふれているように見受けられた。一度住み始めたシングルには、適度に街のお店や人たちとの繋がりを感じて、住み続けたい街として高い評価を獲得しているようだ。
●取材協力
100人の本屋さん
松陰会舘
せたがやンソン
オオゼキ
所在地:渋谷区猿楽町毎年、「住みたい街」のランキングを発表しているリクルートが、住民の実感調査による「住み続けたい街」のランキングを発表した。「住みたい街」とは顔ぶれが異なる「住み続けたい街」。どの街が上位になったのだろう。
【今週の住活トピック】
「SUUMO住民実感調査2022 首都圏版」2022年住み続けたい街(自治体/駅)ランキング発表/リクルート
首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県)の街(自治体・駅)について、「お住まいの街に今後も住み続けたいですか?」と聞いた結果をランキング化したのが、「住み続けたい」街(自治体・駅)ランキングだ。2021年に続き、今回が2回目の調査になる。(ただし、「住み続けたい」の回答方法を5段階から11段階に変更したため、前回の結果との比較はしていない。)
「住みたい街」は多くの人が憧れる街なので、ターミナル駅が上位にくる傾向があるが、「住み続けたい街」は住民の居住継続意向によるもの。人によって“住みやすさ”は異なるので、居住の意向もそれぞれとなるが、「街選びのモノサシを多様に提示したい」という。
気になるランキングだが、興味深い結果になった「住み続けたい駅」のランキングから見ていこう。驚いたのは、首都圏外に住んでいる人には全くなじみのない駅名、いや首都圏に住んでいても知らない人が多いかもしれない駅名も上位にランクインしたことだ。
住み続けたい駅ランキングのTOP3は、湘南海岸公園、馬車道、日本大通り
出典:リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2022 発表資料」より転載。11位以下のランキングはこちら。
1位は、藤沢市の鵠沼・江ノ島エリアの「湘南海岸公園」。同じエリアからは、4位「鵠沼」、7位「石上」、13位「鵠沼海岸」、16位「片瀬江ノ島」、20位「柳小路」などが上位にランクインし、人気の高さがうかがえる。
2位にはみなとみらい線の「馬車道」が入り、3位「日本大通り」、6位「みなとみらい」と合わせて、この沿線の強さがわかる結果になった。
ほかにも、銀座と築地の間にある「東銀座」が5位に入り、25位「人形町」、28位「水天宮前」、29位「月島」など、中央区の駅が入った。中央区のなかでも、日本橋や京橋など山手線に近いエリアではなく、かつて大川といわれた隅田川に近い駅が挙がった。阿部寛主演の「新参者」に登場した街が人形町や水天宮前だ。歌舞伎座のある東銀座やもんじゃ焼きで有名な月島など、江戸庶民に愛された街である。
余談になるが、かつて筆者の同僚が人形町に住んでいたとき、町内の青年会に入会し、地域のお祭りでは中心となって活躍して楽しんでいた。このエリアは、地域ごとにお祭りがあり、盛大に開催されている点も特徴だ。
さらに、10位「代々木八幡」、15位「代々木公園」、19位「原宿」、26位「代々木上原」、27位「北参道」など、代々木公園の周辺の駅も上位に入った。「代々木公園」の公園力がいかに強いかがうかがえる。代々木公園の特徴は、ピクニックもできる樹木や花の多い公園というだけでなく、「ドッグラン」や「サイクリングコース」(大人用と子供用)、「バードサンクチュアリ」、「イベント広場」など、多様な憩い方ができる点にある。さらに周辺には気軽に入れる飲食店も多く、多様な人が集まりやすいという。
「住み続けたい」理由は、上位グループでも大きく異なる上位グループが選ばれた理由を見ていこう。実は、「鵠沼・江ノ島エリア」と「馬車道・みなとみらいエリア」とでは、「街の魅力」に対する回答が少し異なる。
■ランキング1位 湘南海岸公園駅の魅力

(写真/PIXTA)

出典:リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2022 発表資料」より転載
まず、ランキング1位の湘南海岸公園駅の「街の魅力」で高いものを見ていこう。「自然が豊富」な街であることは間違いないが、「地域に顔見知りができやすい」、「街の住民がその街のことを好きそう」といった地域のコミュニティの強さが特徴だ。地域に溶け込みやすいイベントも多く、もともと漁師町であったことから地域で支えあう風土があるという。
■ランキング2位 馬車道駅の魅力

(写真/PIXTA)

出典:リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2022 発表資料」より転載
一方、ランキング2位の馬車道の「街の魅力」は、「周囲の目を気にせず自由な生活ができる」や「文化・娯楽施設が充実している」、「魅力的な働く場や企業がある」、「雰囲気やセンスのいい、飲食店やお店がある」など。インフラが充実しているのが特徴だ。SUUMO編集長の池本洋一さんによれば、馬車道では商店振興会主導で歴史景観を残す「ホンモノ思考」があり、シビックプライドが醸成されていること、再開発によるみなとみらいのオフィス、日本大通りのハマスタ、飲食店の多い野毛地域などが融合して多様な人を受け入れていることなどが、沿線エリアの魅力をつくり出しているのだという。
地域への愛着を感じる特色こそが、「住み続けたい」と思う理由に「住みたい街」と「住み続けたい街」では、共通する高い項目がある。「人からうらやましがられそう」、「街ににぎわいがある」、「雰囲気やセンスのいい店がある」、「文化・娯楽施設が充実」などだ。その街に付加価値があるという点では共通しているわけだ。しかし、「住みたい街」では、「大型の商業施設が充実」、「交通利便性が高い」などの項目が高いのに対して、「住み続けたい街」では、「住民が街のことを好き」、「人目を気にせず自由な生活ができる」など、街への愛着や街が住人の多様性を容認する雰囲気が重視される。
池本さんによれば、住み続けたい街になるには、その街の交通アクセスの良さが不可欠ではあるが、そのほかに共通する大きな要素があるという。第1に、地域に参加しやすいイベントや場所があったり、子育てしやすい環境があったりして、「街の住民がその街のことを好きそう」という要素だ。住民が街を好きであると、街の教育や防災などのインフラが整備される傾向もある。第2には、多様な人を容認する文化があり、「周囲の目を気にせず自由な生活ができる」という要素が、大きく影響している。
「鵠沼・江ノ島エリア」は特に第1の要素が強く、「馬車道・みなとみらいエリア」は特に第2の要素が強いという代表だろう。こうした要素ができるには、それを醸成する仕掛けや持続させる仕組みがあるのだと、池本さんは指摘した。

出典:リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2022 発表資料」より転載
「住み続けたい自治体」ランキングのTOP3は、武蔵野市、目黒区、葉山町最後に、「住み続けたい自治体」のランキング上位を紹介しておこう。

出典:リクルート「SUUMO住み続けたい街ランキング2022 発表資料」より転載。11位以下のランキングはこちら。
1位は「武蔵野市」。2位「目黒区」、4位「中央区」、5位「渋谷区」、8位「港区」、10位「文京区」と東京都の自治体では、23区が多数ランクインしている。3位「葉山町」、7位「逗子市」、11位「藤沢市」、12位「茅ヶ崎市」、14位「鎌倉市」と神奈川県の『湘南・三浦エリア』が上位にランクインしている。
埼玉県では13位「さいたま市浦和区」、15位「さいたま市大宮区」など、さいたま市中心エリアが上位に入り、千葉県では、9位「浦安市」、23位「千葉市美浜区」など湾岸を含むエリアが上位に入った。
さて、ランキングの結果を見て、あなたはどう思っただろう?人気エリアは住居費用が高いと思った人もいるかもしれない。池本さんによれば、手ごろな家賃(シングルで家賃8万円以内)で住み続けたい23区内の街もあり、「南阿佐ヶ谷・阿佐ヶ谷エリア」や「東急世田谷線エリア」などが挙げられるという(同日に発表した「SUUMO住民実感調査2022首都圏 都県(地域)×家賃水準別住み続けたい駅ランキング」に掲載)。
人それぞれで“住みやすさ”を感じる点は異なるので、納得のいく結果も意外な結果もあったかもしれない。集客力のある知名度の高い大きな街だけでなく、自分好みの暮らしができる特色のある街をぜひ探してほしい。
●関連サイト
「SUUMO住民実感調査2022 首都圏版」2022年住み続けたい街(自治体/駅)ランキング
所在地:杉並区阿佐谷南
所在地:渋谷区東宮城県仙台市の被災者が多く暮らす新興住宅地にある「Open Villageノキシタ」は、「コレクティブスペース」「保育園」「障がい者サポートセンター」「障がい者就労支援カフェ」 の4つの事業所が集まる小さなまち。高齢者、障がい者、子ども、子育て中の親たちが横断的に交流し、補助金や助成金に過度に頼らずに、「つながりと役割で社会課題を解決する」ことを目指した全国でも珍しい取り組みが行われている。その「Open Villageノキシタ」が生まれた経緯や、オープンから約3年間で見えてきたこと、今後の展望について、施設を統括する株式会社AiNest(アイネスト)代表取締役社長の加藤清也さん、取締役の阿部恵子さんに話を聞いた。
被災者のコミュニティづくりと社会保障費の削減を目指す小さなまちもともと農地だった仙台市宮城野区田子西地区に「Open Villageノキシタ(以下、ノキシタ)」ができたきっかけは、1994年に遡る。当時、地権者らが土地区画整理事業を検討し始め、AiNest(以下、アイネスト)の親会社である国際航業が専門家の立場で携わることになった。
造成工事が始まって間もなく東日本大震災が発生。多くの被災者が家を失ったため、急きょ仙台市と協議をして集団移転用地に変更し、「災害に強く環境にやさしいまちづくり」をテーマにしたまちづくりが始まった。
仙台市は震災時の長期停電を教訓として、エネルギーの地産地消を目指した「エコモデルタウン推進事業」を実施した。複数の民間企業からなる運営事業法人の責任者となったのが、当時国際航業の技術士として、防災まちづくりに取り組んでいた加藤清也さんだ。
加藤さんは、事業を推進する過程でのさまざまな気づきから、新たな構想が芽生えたという。

アイネストの代表取締役社長、加藤清也さん(写真撮影/伊藤トオル)
「ノキシタがある田子西地区には、沿岸部の住み慣れた広い家で被災し、初めてアパートタイプの市営住宅に移住した方々などが住んでいます。話を聞くと新しい環境で知り合いがいない、集まる場所もない、おしゃべりの輪に入れない。まるでお母さんたちの公園デビューのよう問題があるとわかり、コミュニティづくりが必要だと思ったんです」
加藤さんはどんなコミュニティをつくるべきかと並行して、以前から疑問に思っていた福祉行政の問題もあわせて考えた。
「障がい者と子どもと高齢者を社会が支える社会の仕組みはすべて縦割りで、横のつながりがほとんどありません。横のつながりをつくろうと取り組んでいる所も、ベースになるのは補助金や助成金です。
今後ますます高齢化が進み、行政の税収入は減ります。福祉事業を補助金や助成金に頼るやり方が継続できるのか。財源がなくなったときに困るのは、福祉サービスを受けている高齢者や障がい者です。お金の流れを根本的に変えて、増税ではなく社会保障費を削減するような仕組みをつくらないといけない、試しにつくってみようと思いました」

多世代の交流の場「コレクティブスペース・エンガワ」と「カフェ」は風雪を避ける軒下でつながり、バリアフリーで歩きやすい道が巡る(写真撮影/伊藤トオル)
こうして全国的にも珍しい、民間企業とNPO法人、社会福祉法人の3法人の共同運営による、高齢者、障がい者、子どもや親ら多世代がボーダーレスに集まる小さなまち「ノキシタ」が誕生した。
人とつながり、役割をもつことの健康効果&経済効果を検証する場に「ノキシタ」設立は、加藤さんの経験に基づく気づきも大きい。
「プライベートでの経験ですが、軽度の認知症の父に重度知的障がい者の息子をお風呂に入れてほしいと頼んだら、父は孫をお風呂に入れることが楽しくて認知症が和らいだのです。一般的に高齢者や障がい者に対して周りは何でもやってあげようとして、その人自身でやることが失われてしまいますが、自らやってもらう効果の大きさを目の当たりにしたんです。
世代や障がいを超えて人と人がつながり、社会に支えられる立場と考えられがちな人が、人を支える役割を持つことで健康寿命がのびて、認知症や寝たきり、要介護の期間が減れば、社会保障費を削減できるのではないか、と思ったんです。
調べてみると、人と人がつながる大切さを裏付けるデータもありました。要介護認定を受けていない一人暮らしの男性の例で、一人で食事をする(独食)のは、誰かと食事をする(共食)より約2.7倍もうつ状態になりやすい(「日本老年学的評価研究(JAGES)」による研究プロジェクト ※1)。また運動も、一人で運動をしているより、スポーツグループに参加して誰かと一緒に行う方が抑うつにいたる率が低い(※2)といったデータもあります。
コロナ禍になって、配食サービスやオンラインフィットネスなど家にこもって一人で何かをすることが増えて、人と交流する大切さや効果が忘れられていく。人と人のつながりと役割が持つ効果を実証・検証する場がノキシタです」

「コレクティブスペース・エンガワ」の明るいスタッフ。後列左が加藤清也さん、前列右が施設を案内してくれた阿部恵子さん(写真撮影/伊藤トオル)
高齢者、障がい者、子ども、親たちが丸ごとつながる開かれたまちづくり敷地内には、“ふたご山”と呼ばれる緑に覆われた築山を囲むように4つの施設が配置されている。庭はボランティアの力も借り、季節ごとの花に彩られている。
社会福祉法人仙台はげみの会が運営する障がい者サポートセンター、グループホーム「Tagomaru」では、重度の障がいがある方の短期入所(ショートステイ)、日中一時支援事業(単独型)、共同生活援助(日中サービス支援型)などが行われている。

2つの建物から成る障がい者サポートセンター「Tagomaru」(写真撮影/伊藤トオル)
NPO法人シャロームの会が運営する「シャロームの杜ほいくえん」は0歳児~2歳児を対象に、地域、保育者、保護者、ノキシタに集う多様な方々とのコミュニケーションを大切にしたダイバーシティ保育園(地域全員参画型保育園)を目指している。

左手の建物が「シャロームの杜ほいくえん」(写真撮影/伊藤トオル)

元気に遊ぶ保育園の園児たち(写真提供/Ainest)
同じくNPO法人シャロームの会が運営している「ノキシタカフェ・オリーブの小路(こみち)」は、障がい者の就労支援も行うカフェで、畳のキッズスペースを含め定員は30名位。むく材がふんだんに使われた店内には明るい日差しが射し込む。

緑に囲まれたカフェ(写真撮影/伊藤トオル)
食事はオリジナルスープカレーやランチプレートなど野菜がたっぷりのメニュー。障がい者や高齢者、子ども連れ、誰でも周りに気兼ねなく利用でき、昼どきは人気のスープカレーを目あてに近所の会社員や遠くから足を運ぶ人も多い。

木のぬくもりに包まれる落ち着いた店内。一人でもグループでも利用しやすい造り(写真撮影/伊藤トオル)
補助金や助成金に頼らない交流スペースは「実家のようにほっとする居場所」そして、ノキシタの交流の要となるのが、アイネストが運営する「コレクティブスペース・エンガワ」という会員制の交流スペースだ。効果を検証する場であることから利用者の年齢や特性を把握する目的もあって会員制(会費は無料)で、現在の登録会員数は約900人。1回の利用料は400円と利用しやすい設定だ。

「コレクティブスペース・エンガワ」入口(写真撮影/伊藤トオル)

大きなテーブルがある談話スペース。奥の和室は子ども連れに好評だそう(写真撮影/伊藤トオル)
「ここでは、何をして過ごしてもいいし、何もしなくてもいいんです。カフェのメニューをテイクアウトして食べることもできます。お茶を飲んでスタッフと話をするだけの方、毎日ピアノを弾きに来てくださる方もいます。自然と利用者同士で話したり、誰かと楽器でセッションしたり。スタッフが何かをしましょうと声をかけるのではなく、それぞれの方が何に関心を持つか、どう過ごしたいかを距離を置いて見守っています」と取締役の阿部恵子さん。

施設内を案内してくれた、アイネスト取締役の阿部恵子さん(写真撮影/伊藤トオル)
「エンガワ」では、さをり織り機、楽器、キッチンなど、施設内の設備に自由にふれることができる。天井の梁に架かるきれいな布は、世界一簡単な手織りといわれる「さをり織り」でつくられたもの。スタッフが丁寧に教えてくれるので、初めての人や小さな子どもも好きな糸を選んで自分だけの作品を簡単につくれる(予約制、有料)。

パレットのような色とりどりの糸が並ぶ糸棚とさをり織りの手織り機(写真撮影/伊藤トオル)

施設内を明るく彩る、さをり織で作られた布(写真撮影/伊藤トオル)
シェアキッチンでは自由に料理ができるので、お昼ご飯をつくって食べる人もいる。子育て中のお母さんも隣接する和室で小さい子どもを遊ばせたり、交代で面倒を見ながら料理教室やパンづくり教室に参加できる。

ひととおりの調理家電や器具、食器がそろう家庭的でオープンなシェアキッチン(写真撮影/伊藤トオル)

昇って遊べるジャングルジムは南三陸の木材を組んでつくられ、簡単にばらすこともできる(写真撮影/伊藤トオル)
中庭を望むライブラリーではゆっくり読書ができる。子ども用のドラムやギター、ウクレレなどの楽器も自由に演奏できる。ここでは「〇〇をしてはいけない」などとルールで縛るよりも、そのとき一緒にいる人と気持ち良く過ごすために、互いを尊重し合いながら時間と場所を共有することを重視しているという。

備え付けの本を自由に読めるライブラリースペース(写真撮影/伊藤トオル)
エンガワの別棟「ハナレ」もガラス張りの明るい空間で、ギャラリーやレンタルスペースとして活用できる。「ここで何をしようか」という想像がふくらむ。

三角屋根が目印のハナレの外観幹線道路からも分かりやすいノキシタのランドマーク(写真撮影/伊藤トオル)

ハナレの1階にはさをり織りの作品が展示販売されている(写真撮影/伊藤トオル)

半円形の窓から緑を望むハナレの2階はドラムの練習やヨガ教室の場にも(写真撮影/伊藤トオル)
入口に掲示してある「ノキシタは実家のような場所」と利用者が書いたコメントが印象的だった。「年齢層が幅広く、実家に帰ってきたような感覚で来てくださる方もいます。人生の先輩に家族に話せないようなことも相談したり、素直に助言を聞くことができるようです。心に重いものを抱えていた方がどんどん健康になったり表情が明るくなり、演奏する音色まで変わっていく利用者さんを見るのが嬉しいです」と阿部さんは話す。
社会課題解決の新しい居場所をつくったことで見えてきた本当のニーズオープンして3年余りがたち、計画当初の想像と違うことや新たな課題がたくさん見えてきたと加藤さんは話す。「交通の便が良くないので、計画時は半径1、2km圏程度の近所の方の利用を想定していましたが、ふたを開けてみたら仙台市外など遠くからも、多くの方が会員登録をしていたんです。話を聞いてみると、近所の方にはあまり知られたくないような悩みや困りごともここだと本音で話せるそうです。
また、利用者は当初予想していた高齢者に限らず、幅広い年齢層となっています。特に子育て中のお母さんが孤立していたり、気軽に使える場所がないという声があり、子ども連れのイベントを増やしました。人は自分の経験からさまざまなことを想像しがちですが、自分とは違った経験を持つ人々と交流することで、想像を超えたニーズに気づけるのがノキシタの強みです」(加藤さん)

毎週金曜日に開催している子育て支援イベント「ちほさんのポッケ」風景(写真提供/Ainest)
エンガワでは、月に10回程度のイベントを開催している。当初はさをり織りやパンづくり教室、高齢者のIT教室など、スタッフが企画したイベントが中心だったが、これを呼び水に、利用者が提案・企画するイベントが自然に増えたという。なかでも、プロにメイクをしてもらいプロのカメラマンが写真を撮る女性向けのおしゃれ企画や自ら発表するミニコンサートなどは高齢者に人気が高く、驚くほど表情がイキイキするそうだ。
「コロナ禍で人が集まるイベントは減っていますが、楽しみを持つことが大切。コロナ禍で最初に緊急事態宣言が出たときにエンガワを約1カ月間休業したんです。すると、障がい者のサポートするのが楽しくて毎日通ったことで、支援されずに再び一人で歩けるようになったおばあちゃんが、1カ月後に車椅子になってしまいました。そこで感染対策も必要だけど、大切なことを失う問題もあると気づいて、感染対策に留意しながらできるだけ多くの方に継続的にご利用いただけるように取り組んでいます」

クラフトビールをつくる「ノキシタホッププロジェクト」。「エンガワ」の前の軒下でホップを収穫しながら交流(写真撮影/伊藤トオル)
2021年4月から「ノキシタ」を、多くの方に知ってもらいたいとアイネストの企画でクラフトビールづくりを始めた。近くの農家が所有する休耕田で、宮城県石巻市を拠点とするイシノマキ・ファームの指導を受けて地域の方と障がい者が一緒にホップを栽培している。そのホップと地域で採れたお米を原料に、岩手県の世嬉の一(せきのいち)酒造が醸造と販売を行う。ラベルの絵は知的障がいがあるノキシタ関係者が描いた。そして多くの方々の協力を得て、2022年3月に第一号の「Sendaiノキシタビール」が誕生した。
高齢化社会に向けた前例がないまちづくり「ノキシタ」は、まだ効果を検証している試行段階だ。「現在は、親会社の国際航業の支援を受けて運営していますが、いつまでもその支援に甘えてはいられません。近い将来に黒字化することを目標に、利用料収入などではないアウトカムビジネスでのサスティナブル経営(ESG経営)を目指しています」と収益の確保を前向きに考えている。
「こんな施設が自宅の近くにあったらうれしい」と思う人は多いだろう。「ノキシタの1カ所でいくら効果を上げても社会的インパクトは小さいと思っています。例えば、高度成長期にできて今は高齢者が増えて若者が減っているニュータウンといわれる団地や、子どもが減って廃校になった学校や空き家などを活用して、この仕組みを広く展開したいと考えています。
今はまだ試行して、効果を見せて、共感や賛同する方を増やす第一段階。次は、補助金に頼らずに持続するシステムを確立させて、行政や他の企業とも連携していきたい。3年たって、この取り組みへの関心も高まっていると感じますし、取材等を受けることで新たな広がりも期待します。その先は無謀な夢かもしれませんが、仙台市内、宮城県、日本全国、世界に展開して、社会を変えていきたい」と加藤さん。

「ノキシタ」をもっと良い施設にするために、4つの事業所の代表が集まり共有する機会も設けている(写真撮影/伊藤トオル)
社会課題を解決に導く地域共生型の事業モデルを全国、世界へ障がい者も高齢者も、孤立しがちな子育て中の親も、すべての世代の人たちがお互いに支え合い、丸ごとつながり、地域の課題解決を試みる地域共生型まちづくり「ノキシタ」。少子高齢化が進むなかで生まれるさまざまな問題を、他人事ではなく我が事としてとらえ、本気で取り組んでいる。
まだ試行錯誤の段階だが、すでに世代や分野といった枠を超えた広がり、良い化学反応が生まれている。目の前の利益や前例にとらわれない新たな視点と柔軟な活動、ゴールを目指しできることから一歩ずつ積み上げていく事業モデルは、高齢者が健康寿命を延ばし、お母さんたちが楽しく子育てができて、災害弱者と呼ばれる方々を支える仕組みをつくるヒント、呼び水となるのではないか。
筆者も話を聞いて、見て、カフェで食事をしてみて「何かできることはないか」という思いが込み上げた。何もできないまでも、関心を持ち共感し利用し協力する人が増えれば、「地域が共生するまちづくり」事業化の後押しになるに違いない。
●取材協力
Open Villageノキシタ
所在地:港区赤坂
所在地:目黒区三田東京を代表するビジネス街の一つである品川駅。羽田空港へのアクセス拠点で、2027年にはリニア中央新幹線の駅開業を控えているほか、最近は東京メトロ南北線の延伸計画の素案も発表された。品川エリアでは京急電鉄とトヨタ自動車による複合施設の建設が進められている。そんな品川駅へのアクセスが良い狙い目の駅はどこだろうか。シングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)を対象にした、品川駅まで30分以内で行ける家賃相場が安い駅ランキングから考えてみたい。
品川駅まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅15駅順位/駅名/家賃相場/(主な沿線名/駅の所在地/品川までの所要時間(乗り換え時間・駅から駅への徒歩移動時間を含む)/乗り換え回数)
1位 羽沢横浜国大 5.30万円(JR埼京線/横浜市神奈川区/30分/1回)
2位 星川 5.50万円(相鉄本線/横浜市保土ケ谷区/30分/1回)
2位 片倉町 5.50万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/横浜市神奈川区/30分/1回)
4位 保土ケ谷 5.64万円(JR横須賀線/横浜市保土ケ谷区/24分/1回)
5位 山手 5.70万円(JR京浜東北・根岸線/横浜市中区/30分/1回)
6位 安善 5.90万円(JR鶴見線/横浜市鶴見区/27分/2回)
6位 白楽 5.90万円(東急東横線/横浜市神奈川区/29分/1回)
8位 武蔵白石 5.95万円(JR鶴見線/川崎市川崎区/29分/2回)
9位 三ツ沢下町 6.00万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/横浜市神奈川区/26分/1回)
9位 小田栄 6.00万円(JR南武線/川崎市川崎区/25分/2回)
11位 大口 6.10万円(JR横浜線/横浜市神奈川区/29分/1回)
11位 天王町 6.10万円(相鉄本線/横浜市保土ケ谷区/28分/1回)
13位 三ツ沢上町6.15万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/横浜市神奈川区/27分/1回)
14位 東白楽 6.20万円(東急東横線/横浜市神奈川区/28分/1回)
14位 浜川崎 6.20万円(JR南武線/川崎市川崎区/27分/2回)
ランキングはすべて神奈川県の駅が占め、所在地は横浜市神奈川区が目立つ。神奈川区は横浜市の北東に位置し、海と山に囲まれた自然豊かな地域で、横浜のイメージらしいおしゃれな繁華街のヨコハマポートサイド地区があるほか、横浜駅の北側に隣接している。

羽沢横浜国大駅(写真/PIXTA)
1位の羽沢横浜国大駅も、横浜市神奈川区に位置している。横浜国立大学の最寄駅で、2019年のJRと相鉄の直通に伴い開業した新しい駅だ。
駅開業までは鉄道の整備が不十分で、都心へのアクセスも良いとはいえないエリアだったが、相鉄は23年3月に、羽沢横浜国大駅から新横浜駅を経由して、東急東横線と目黒線の日吉駅まで直通する連絡線を開業予定。渋谷駅などへ乗り換えなしで行けるようになるほか、東急目黒線の相互乗り入れしている東京メトロ南北線や都営三田線も利用できるようになる。新幹線の停車する新横浜駅までのアクセスが抜群のため、遠方への出張が多いビジネスパーソンには心強いだろう。
東急との直通線の開業に合わせ、横国大の研究チームや提携企業などによる駅周辺の再開発が進められ、買い物施設なども増えてきている。駅前には商業店舗や医療施設、子育て支援施設や横国大の関係施設が入った高層マンションが建設中。今後も市街地整備などが進められる予定だという。
2位は、横浜市保土ケ谷区に位置する星川駅で、相鉄本線の快速が停車する。快速乗車時は横浜駅の次の停車駅で、両駅間の所要時間は約7分だ。

星川駅(写真/PIXTA)
横浜市といえば坂の多さが知られているが、星川駅周辺は比較的、平坦な地形が広がっている。駅の近くには駐車場の完備された大規模なスーパーなどが充実しており、広いホームセンターもすぐそば。少し行くと、地元産の野菜や生鮮食品などの専門店が連なり「ハマのアメ横」の愛称で親しまれる人気スポットの「横浜洪福寺松原商店街」がある。総菜店も充実しており、日中は歩行者天国にもなっているため、食べ歩きも楽しそうだ。
所在地である保土ケ谷区役所の最寄駅でもあり、徒歩約2分の近さなのも便利。図書館や公会堂、警察署なども集まっている。星川駅周辺はかつて大規模な工場地帯だが、1980年代に移転。その跡地が官公庁用地となったため、現在は区の行政の中心地となっている。
ビジネス街でもあり、オフィスビル群にレストランや公園などが備わったビジネスセンター「横浜ビジネスパーク」にも近い。かつて存在したビールメーカー「東京麦酒」の工場跡地が再開発されたエリアで、中央の公園「ベリーニの丘」はイタリアの著名建築家マリオ・ベリーニの手によるもの。アート展示やイベントなども随時開催され、ビジネスパーソンだけでなく地元民の憩いの場になっている。

ベリーニの丘(写真/PIXTA)
駅から少し行くと、広大な県立公園の「保土ケ谷公園」がある。野球場やサッカーやラグビーのグラウンド、テニスコートやプールが整備されており、2002年の日韓ワールドカップではサブグラウンドとして使用されたことでも知られる。現在も、女子サッカーリーグ「なでしこリーグ」の試合などが開催されることもある。また神奈川フィルハーモニー管弦楽団の練習拠点である文化施設「かながわアートホール」もあり、休日の趣味の満喫にも事欠かなさそうだ。
横浜駅へのアクセス抜群な駅も多数ランクイン5位の山手駅は、ランキング中唯一の、JR京浜東北・根岸線の沿線駅。横浜駅までは約10分で行くことができる。

山手駅(写真/PIXTA)
周辺は一戸建て住宅が目立ち、閑静な雰囲気の住宅街が広がる。付近には、横国大の教育学部附属横浜小学校や、中高一貫の男子校聖光学院中学校・高等学校などの教育機関も多い。
駅そばには深夜まで営業しているスーパーがあるが、買い物施設が充実しているとは言いがたいかもしれない。しかし、おしゃれなセレクトショップが立ち並ぶ横浜の人気観光地である「元町商店街」まで約2kmで、横浜中華街やみなとみらいなどの繁華街へも遠くはない。また、付近をめぐる市営バスの本数も充実している。交通利便性の高さと落ち着いた環境を優先するなら、選択肢に入れてもよさそうだ。
6位の白楽駅と14位の東白楽駅は、首都圏の「住みたい沿線ランキング」(リクルート)上位常連で、2022年では3位に入っている人気路線の東急東横線の隣駅同士。どちらも各駅列車しか停車しないが、白楽駅は横浜駅まで3駅で、所要時間は約5分。距離は約3kmのため、横浜駅で終電を逃しても帰宅に大きな負担にはならなさそうなのは魅力だ。
白楽駅は神奈川大学横浜キャンパスの最寄駅の一つであり、単身者向けの物件が充実。学生の心強い味方になりそうな定食店やチェーン系の飲食店も豊富で、深夜まで営業している店も多い。
学生街の顔を持つ一方で、駅から少し行くと、のんびりした住宅街が広がる。白楽駅近くの「六角橋商店街」は、生鮮食品や日用品だけでなく、個性的な雰囲気の飲食店も点在。独特のレトロな雰囲気は、昭和を舞台にした映画やドラマの撮影地にもなっている。

六角橋商店街(写真/PIXTA)
その白楽駅から約800mの距離にある東白楽駅は、横浜方面の隣駅。徒歩圏内にJR東神奈川駅と京急本線の京急東神奈川駅があり、交通利便性がより高いといえそうだ。東神奈川駅は新横浜駅まで直通しており、京急東神奈川駅は羽田空港への京急本線エアポート急行が運行している。ビジネスパーソンには白楽駅よりもより向いているかもしれない。東神奈川駅は、駅の所在地である神奈川区の区役所の最寄駅の一つでもある。
駅前は落ち着いた雰囲気だが、少し行くと、コメダ珈琲店やファミレス、ファストフードなども多数入っている大規模スーパーの「イオンスタイル東神奈川」がある。ほかにも、深夜まで営業しているスーパー、安売りスーパーなどが充実。日々の生活で不便することはなさそうだ、
また、横浜方面へ向かって、両脇に花壇が整えられた緑道が整備されている。休日のウオーキングや散歩が楽しみになるだけでなく、自然豊かな雰囲気も感じることができるのは、生活に潤いを与えてくれそうだ。
新しく生まれ変わりつつある品川駅のように、街や駅も、常に変化を続けている。住宅地も同様で、再開発で魅力を増す速度の著しい街もあれば、ゆったりとした変化が愛おしい街もある。自身の人生やライフステージの変化に合わせ、その時々の生活にフィットする街や部屋を探したいものだ。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/4~2022/6
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年7月25日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
日本には、古きよき温泉街が各地に残っている。場所によっては古い建物が増え、まちが寂れる要因になっている一方で、若い人たちが古い建物に価値を見出し、新しい息を吹き入れるまちもある。今、まさににぎわいを取り戻しているのが、島根県の日本海に面する温泉まち、温泉津(ゆのつ)。いま小さな灯りがぽつぽつ灯り始めたところだが、これから点と点がつながればより大きなうねりになっていくだろう。4軒のゲストハウスと「旅するキッチン」を営む近江雅子さんに話を聞いた。
小さな温泉街で起きていること名前からして、温泉のまちだ。温泉津と書いて「ゆのつ」。津とは港のこと。島根県の日本海に面し、「元湯」「薬師湯」という歴史ある、源泉掛け流しの温泉が二つある。端から端まで歩いても30分とかからない、こぢんまりした温泉街の細い街並みには、格子の民家や白壁の土蔵など趣ある建物が連なり、その多くが温泉旅館や海鮮問屋だった建物で、空き家も多い。

車で20分ほどの石見銀山とともに世界遺産の一部で、重要伝統的建築にもなっている温泉津の街並み(写真撮影/RIVERBANKS)
正式には大田市温泉津町温泉津。町全体で人口は1000人弱ほどの規模だ。
そこへ、2016年以降、新しい店が次々に生まれている。ゲストハウス、コインランドリー、キッチン、サウナ、バー。
始まりは「湯るり」という一軒のゲストハウスだった。元湯、薬師湯まで歩いて5分とかからない女性限定の古民家の宿である。

ゲストハウス「湯るり」 (写真撮影/筆者)
この宿を始めたのが、近江雅子さん。10年前に家族で温泉津へ移住してきた。肩にかからない位置でぱつっと髪を切りそろえた、てきぱき仕事をこなす女性。でもほどよく気の抜けたところもあって、笑顔が魅力的な人だ。隣の江津出身で、結婚して東京に住んでいたが、夫がお寺の住職で、温泉津のお寺を継がないかと話があったのだった。

近江雅子さん(写真撮影/RIVERBANKS)
「東京に住んで長かったですし、子どもも向こうの生活に慣れていたので初めは反対しました。でもいざここへ来てみると、なんていいところだろうって。もともと古い家が好きなので、街並みや路地裏など宝物のように見えて。歩いているだけで漁師さんが魚をくれたり農家さんが野菜をくれたり、田舎らしいコミュニケーションも残っていて」
そんな温泉津の魅力は、一泊二日の旅行ではわかりにくい。そう感じた雅子さんは、お寺の仕事をしながら、中長期滞在できる宿を始める。
まちをくまなく楽しむ、旅のスタイル第1号のゲストハウスが「湯るり」だった。温泉宿といえば、食事もお風呂も付いて、宿のなかですべてが完結するのが従来のスタイルだろう。だが、雅子さんが目指したのは、お客さんがまち全体を楽しむ旅。2~3泊以上の滞在になれば、食事に出たり、スーパーで買い物をして調理をしたり、漁師さんから直接魚を買ったりと、いろんなところで町との接点が生まれる。
徒歩で無理なく歩ける小さなまち、温泉津にはぴったりのスタイルだった。
たとえば湯るりに宿泊すると、宿には食べるところがないため、地元の飲食店や近くの旅館で食事することになる。予約すればご近所のお母さんがつくってくれたお弁当が届いたり。温泉では常連さんが熱いお湯への入り方を教えてくれる。
「アルベルゴ・ディフーゾ(※)といってよいかわかりませんが、まち全体を宿に見立てて“暮らすような旅”をしてもらえたらいいなと考えました。そのためには一棟貸しもあった方がいいし、飲食や、コインランドリーの機能も必要だよねと、どんどん増えていったんです」(雅子さん)
(※)アルベルゴ・ディフーゾ:イタリア語で「分散したホテル」の意味。1970年代に、廃村の危機に陥った村の復興を進める過程で生まれた手法で、空き家をリノベーションして、受付、飲食、宿泊などの機能を町中に分散させ、エリア全体を楽しんでもらう旅を提供する。
2016年の「湯るり」に始まり、ここ5~6年の間に一棟貸しの「HÏSOM(ヒソム)」「燈 Tomoru」、2021年にはコインランドリーと飲食店を併設したゲストハウス「WATOWA」と4つの宿泊施設をオープンさせた。

WATOWAの外観。奥がキッチン。そのさらに奥の建物がゲストハウスになっている。1階がドミトリーで2階は個室(写真撮影/筆者)

WATOWAキッチンの入り口。手前がコインランドリーになっている(写真提供/WATOWA)
実際にこうした旅のスタイルによって、お客さんが少しずつまちを回遊するようになった。地元の人の目にも若い人の姿が増え、明らかにまちが活気づいていった。
温泉街でも世界の味が楽しめる「旅するキッチン」なかでも、WATOWAの1階にできたキッチンは、近隣の市町に住む人たちにも評判で、小さな活気を生んだ。そのしくみが面白い。数週間ごとにと料理人も料理も変わるシェアキッチンである。
「まちには飲食店が少ないので飲食の機能が必要でした。でも平日の集客がまだそこまで多くないので、自社でレストランを運営するのはハードルが高い。そこで料理人に身一つで来てもらってこちらで環境を整えるスタイルなら、お互いにリスクが少ないと考えたんです」(雅子さん)
WATOWAキッチンに、最初に立ったシェフ第1号は中東料理をふるまう越出水月(こしでみづき)さんだった。
「シェフの水月さんもすっかり温泉津を気に入ってくれて、地元の漁師さんの船に乗せてもらってイカを釣ってきたり、畑から野菜を買ってきたり。このあたりでは中東料理なんて食べたこともないって人がほとんどで、新聞にも大々的に取り上げていただいて、地元の人たちも食べに来てくれました」(雅子さん)

(写真提供/WATOWA)
その後、アジア料理、スパイス料理、フィンランド料理……と、コロナ禍で思うように都市で営業できないシェフが各地から訪れた。なかには新宿で有名なカレー屋「CHIKYU MASALA」を営むブランドディレクターのエディさんも。100種を超えるテキーラを提供するメキシコ料理店として知られる、深沢(東京都世田谷区)の「深沢バル」は温泉津に第2号店を開く予定にもなっている。
「温泉津に来れば世界の料理が味わえる」という楽しさから、旅行者だけでなく、近隣の市町からも若い人を中心に集う場所になっている。私もこれまでに三度、このキッチンで食事させてもらったのだけれど、どの料理も素晴らしく美味しかった。エディさんのカレーも、食堂アメイルのアジ料理も。

ある日のランチで提供された、食堂アメイルのアジのカレー(写真撮影/RIVERBANKS)
交通の便がいいとはいえないこのまちに、途切れることなくシェフが訪れるのはなぜなのか。一つには寝泊まりできる家や車など暮らしの環境が、雅子さんの配慮で用意されていること。滞在できる一軒家は一日1000円程度、車も保険料さえ負担してもらえたら安く貸している。
そしてもう一つは、ほかのシェアキッチンに比べて、経済面でも良心的であること。マージンは売上の15%と、一般的な額の約半分。いずれも雅子さんのシェフを歓迎する意思の表れだ。
「食堂アメイル」の二人は、今年3月初めてこのキッチンで営業をして、すぐまた6月に再び訪れたという。
「初めて来たとき、いいところだなぁと思ったんです。また来たいなって。地元の人たちがみんなすごくよくしてくれて」(Lynneさん)
「何より新鮮な魚介が安く手に入ります。その日に獲れた魚が道の駅にも売ってあるし」(Kaiseiさん)

WATOWAのシェアキッチンで期間限定で営業する「食堂アメイル」の二人(写真撮影/RIVERBANKS)
二人はキッチンでの営業を終えた今も、温泉津に長期滞在したいと、雅子さんが用意した部屋に暮らしている。この後9月、12月にもキッチンでの営業予定が決まっている。
「田舎ではとにかく働き手が少ないので、ここに居てくれるって人の気持ちはそれだけでとても貴重」と雅子さん。外から訪れた人たちが手軽に住みやすい環境を用意できるかどうか。それがその後のまちの雰囲気を大きく変えていく。

(写真撮影/RIVERBANKS)
信用と信用をつなぐ、空き家を紹介する入り口に雅子さんが、古い家を改修して4軒のゲストハウスを立ち上げたり、Iターン者に家を紹介するのを見た地元の人たちは、次第に「近江さんなら何とかしてくれるのでは」と空き家の相談をもちかけるようになっていく。
都会なら、それほど次々に家を改修するのにどれだけお金が必要だろうと考えてしまうが、温泉津では、古い家にそれほど高い値段がつくわけではない。解体するのに数百万円かかることを考えると、多少安くても売ってしまいたい家主も少なくない。
「連絡をもらうとまず見に行くんです。もちろん私は不動産屋でも何でもないんですけど。屋根がしっかりしているかとか、ここを改修したらいい感じになりそうと頭に入れておいて、IターンやUターンなど、家を探している人が現れた時に紹介します」

(写真撮影/RIVERBANKS)
湯るりやHÏSOMに宿泊したのがきっかけで、その後も何度か温泉津を訪れ、移住する人たちが現れた。まちの勢いを敏感に察知し、温泉津でお店を始めたいという人も出始めている。その都度、雅子さんが地元の人たちとの間に入って、空き家を紹介する。
「温泉津に来て家を買いたいなんて、地元の人たちからしたらストレンジャー。普通ならよそから来た人に、いきなり家は売らない。信用できないからです。それは地域を守るための慣習でもあるんですね。でも私が間に立つことで、何かあったら近江さんに言えばいいのねって。少し気持ちが楽になるんじゃないかと思うんです。
私たちも最初はよそ者ですが、お寺の信用を借りている部分が大きい。皆さん『西念寺さん(お寺の名前)の知り合いなら』といって家を見せてくれます。今までにお寺が築いてきた信用の上でやらせてもらっています」
それにしても、観光で訪れた人が、移住したいと思うようになるなんて、ごく稀なことだと思っていた。でも温泉津で起きていることを見ていると、雅子さんの「住みたいならいつでも紹介しますよ」という声掛けが、温泉津を気に入った人たちの気持ちを後押ししている。

今年夏にオープンしたサウナ&スナック「時津風」。兵庫に拠点を置くデザイナーの小林新也さんが運営している。
「観光から移住」の導線をつなぐすべてが順調に進んできたわけではなかった。日祖(ひそ)という集落で、ゲストハウスを始めようとしたときには、地元の人たちから大反対を受けた。これまで静かだった集落に騒音やゴミの問題が出てくるのではと危惧されたのだ。その時、雅子さんは丁寧に説明会を繰り返し、草刈りを手伝い、住民との関係性を築いていったという。
そしてある時、こう言ったそうだ。「ここはすごくいい所だから、来てくれた人の中に住みたいって言ってくれる人が現れたらいいですね」
このひと言が周りの気持ちを変えた。そう、地元のある漁師さんが教えてくれた。
「私がこうして中長期滞在型の宿を進めるのは、観光の延長上に移住をみているからです。まちの良さがわかって、何度も足を運んでくれるようになると、住んでみたいと思ってくれる方が現れるんじゃないかって」(雅子さん)

(写真撮影/RIVERBANKS)
この夏には、温泉津の温泉街のほうに新しくバー兼宿「赭Soho」もオープンした。オーナーは東京の銀座でもバーを経営する人で、一年間温泉津に住んで古民家を改修して開業。自らがこの場所を気に入ったことに加えて、今の温泉津の勢いに商売としても採算の見込みがあるとふんだそうだ。何より雅子さんのような頼れる人がいるのが大きかった、と話していた。
地方にはただでさえプレイヤーが少ない。だからこそ雅子さんのような、人材を地元の人につなぐ役割が不可欠。
「田舎では、よそ者が入りづらい暗黙の域があって、事業を始める、家を買うなどの信用問題に関わることには特にシビア。なので間に立つ人間が必要だなと思うんです。
私もこの人なら大丈夫って言う手前、若い人たちにはとくに、地域に入ってしっかりやってほしいことはちゃんと伝えます。都会の常識は田舎の非常識だったりもするから。ゴミはちゃんとしようとか、自治会には必ず入って草刈りは一緒にやろうとか」
最近、温泉津に住みたいという若手が増えてきたため、長期滞在できるレジデンスをつくろうと計画している。
本気で受け入れてもらえるかどうか?を若い人たちは敏感にかぎわけるのかもしれない。
「まちづくり」とは大仰な言葉だと思ってきたけれど、今まさに温泉津では新しい飲食店ができ、バーができ、レジデンスができて……文字通り、まちがつくられていっている。

(写真撮影/RIVERBANKS)
●取材協力
WATOWA
2022年4月に「住宅ローン減税」の大幅な見直しがあり、10月には【フラット35】SにZEHが創設されるなど、優遇制度を受けるための住宅の要件が変わっている。そのカギを握るのが、住宅の「省エネ性」だ。一方で、省エネ性に関する専門用語が増えていくと、なかなかその違いがわかりづらいといった問題も出てくる。そこで今回は、住宅の省エネ性の違いについて整理をしていきたい。
ニアリーやオリエンテッド、プラス……ZEHファミリーは大家族いま、省エネ性の高い住宅に対して、住宅ローン減税などの優遇制度が広がっている。「住宅の省エネ性の基準」として使われているのが、「省エネ基準適合住宅」や「認定住宅」、「ZEH水準」などだ。
まず「省エネ基準適合住宅」とは、建築物省エネ法に基づく最新の省エネ基準(平成28年基準と呼ばれる)に適合している住宅のことだ。2025年度からは、すべての新築住宅に適合が義務付けられることになっており、これが今後最低水準の省エネレベルとして取り扱われる。
次に、住宅ローン減税などで使われる「認定住宅」には、主に低炭素と長期優良の2種類の住宅がある。それぞれが別の法律に基づく認定住宅であり、その認定基準に適合している住宅が低炭素認定住宅や長期優良認定住宅などと呼ばれている。
3つ目の「ZEH」についてだが、そもそもZEHとはnet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語で、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味だ。2022年10月から【フラット35】Sの対象に新たにZEHが加わる。【フラット35】Sの資料によると、ZEHの対象となるのは、一戸建てでは、「ZEH」(ゼッチ)や「Nearly ZEH」(ニアリーゼッチ)、「ZEH Oriented」(ゼッチオリエンテッド)、マンションでは、「ZEH-M」(ゼッチエム)や「Nearly ZEH-M」(ニアリーゼッチエム)」、「ZEH-M Ready」(ゼッチエムレディ)、「ZEH-M Oriented」(ゼッチエムオリエンテッド)となっている。
さらに、経済産業省・国土交通省・環境省の3省連携の支援制度を見ると、「ZEH+」(プラス)、「次世代ZEH+」といったものまである。ZEHファミリーというのは、実に大家族だったのだ。
ZEH+はZEHより性能が高く、一戸建てとマンションではZEHを測る考え方が違うようだということはわかるが、ニアリーとオリエンテッドはどうちがうのか? そもそもZEH水準とZEHは同じことなのか? ここまでくると筆者も混乱してしまうので、住宅の性能に詳しい専門家に話を聞くことにした。
性能の違いを見る基本の指標は「住宅性能表示」の等級「省エネ基準適合住宅」、「認定住宅」、「ZEH水準」など省エネ住宅に関する基準は複数あるが、それぞれの基準はどう違うのだろうか?一般財団法人ベターリビングの住宅・建築評価センターで、認定・評価に関する統括部長を務める齋藤卓三さんに詳しく聞いてみた。
齋藤さんによると、まず、住宅の省エネ性能の違いを見るうえで、基本的な指標となるのが「住宅性能表示制度」だという。住宅性能表示制度は、法律で定められた、住宅の性能を評価する共通の基準(モノサシ)だからだ。
住宅性能表示制度は、住宅の様々な性能を等級などで表示するものなので、省エネ性能のほかに多くの性能を評価する仕組みになっている。その中で、省エネ性能に関するものとして、「温熱環境(断熱等性能)」と「一次エネルギー消費量」の2つの性能表示項目がある。簡単に言うと、「断熱等性能」は、住宅の外皮(天井や壁、床、窓など)をどのくらい断熱化しているかを見るもので、「一次エネルギー消費量」は、住宅で使用する様々な種類のエネルギー(電気、灯油、都市ガス等)を、同じ単位で比較できるように換算して、どのくらい消費するかを見るものと考えてほしい。
それぞれの性能表示項目で、レベルに応じて「等級」が設けられており、等級の数が大きいほどレベルが高くなるが、項目ごとに等級の数は異なっている。
実は、2022年4月にこの2つの項目の等級が増えた。4月以降は「断熱等性能」に等級5が、「一次エネルギー消費量」に等級6が新設された。この背景について齋藤さんは、新築住宅の多くが単板ガラスではなく複層ガラスを採用したり、エネルギー消費効率のよい設備機器が一般化するなど、住宅の省エネ性能が高まっていたことから、より上位の等級が必要になったという。
ちなみに、2022年10月には一戸建ての「断熱等性能」の等級がさらに増えて、等級6と7が新設される。
さて、わかりやすい共通のモノサシで省エネ性能の違いを見てみると、「省エネ基準(平成28年基準)」に適合するには、「断熱等性能で等級4」かつ「一次エネルギー消費量で等級4」の基準を満たす必要がある。「ZEH水準」に適合するには、4月に新設された「断熱等性能等級5」かつ「一次エネルギー消費量等級6」が必要となる。また、前述した認定住宅に求められる省エネ性能については、10月からは「ZEH水準」と同じになる。

(図版作成/山本久美子)
えっ?ZEH水準とZEH住宅は違う!注意したいのは、ZEH水準とZEH住宅といわれるものとは、同じではないということだ。齋藤さんの話を聞いて、筆者もちょっと驚いた。
ZEHとは「エネルギー収支をゼロ以下にする家」だ。どんなに住宅の省エネ化を図っても、生活するうえで冷暖房や照明、給湯などでエネルギーを消費するため、収支をゼロ以下にするには太陽光発電設備を備えるなどエネルギーを生み出す必要がある。つまり、ZEH住宅というのは、太陽光発電などの創エネが不可欠な要素となる。これに対して、「ZEH水準」は太陽光発電設備などを必須としたものではない。

出典:住宅金融支援機構「2022年10月から開始する【フラット35】S(ZEH)の技術基準・手続きをまとめた案内チラシ」より転載
次に、NearlyやOrientedなどがつくのはどういった場合なのだろう。たとえば屋根に太陽光発電設備を設置したとしても、長い冬は雪に覆われてしまう地域もあれば、相対的に屋根面積が小さい高層のマンションでは発電した電気を分け合うときに住戸数が多くて各戸に十分供給できないという場合もある。つまり太陽光発電設備による各戸への効果は、地域や建物の形状などで大きく変わってしまう。
したがって、太陽光発電設備などを搭載しない「ZEH水準」の住宅が「Oriented(指向)」。逆に搭載して一次エネルギー消費量がマイナス100%以上になるのが「ZEH」、エネルギー収支をゼロにはできないが、マイナス75%以上にはできるのが「Nearly」となる。さらにマンションの場合は、建物の階数による制約を受けるので、4・5階建て程度ならマイナス50%以上で「Ready」とするということだ。
ちなみに、先の表にあるZEHに関する「強化外皮基準」とは「断熱等性能等級5」、「対省エネ基準で一次エネルギー消費量マイナス20%以上」(BEI 0.8以下と表示される場合もある)は「一次エネルギー消費量等級6」と同じことだ。
注)BEI(Building Energy Index)とは、建築物の一次エネルギー消費量の設計値を基準値で割った値(調理や家電のエネルギー消費除く)。省エネ性能に特化した「BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System=建築物省エネルギー性能表示制度の略称)」という評価・表示制度によるもので、省エネ基準はBEI 1.0以下となる。
また、「ZEH+」は対省エネ基準で一次エネルギー消費量マイナス25%以上(再生可能エネルギーを除き)、「次世代ZEH+」はさらに蓄電システムや燃料電池などを備えるといった条件が加わる。
【フラット35】S、【フラット35】の優遇制度と住宅の省エネ性能との関係は?省エネ基準適合住宅とZEHファミリーについてわかってきたところで、優遇制度との関係性を見ていこう。
まず【フラット35】Sと【フラット35】について説明しよう。【フラット35】Sとは、省エネルギー性、耐震性などを備えた質の高い住宅を取得する場合に、【フラット35】の金利を一定期間引き下げる制度だ。
【フラット35】Sについては、10月以降の設計検査申請分から従来の「金利Aプラン」と「金利Bプラン」(※いずれも10月以降基準の変更あり)に加えて、ZEHが新設される。その際の省エネ性能は「ZEH水準」となる。【フラット35】S(ZEH)に該当すれば、「借入当初5年間は0.5%、6年目から10年目までは0.25%の金利引き下げ」を受けられる。
さらに、2023年4月以降の設計検査申請分から【フラット35】の新築住宅の技術基準が「断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上」に引き上げられる。つまり、少なくとも「省エネ基準適合住宅」でなければ、新築住宅で【フラット35】を利用できなくなる。冒頭で説明したように、2025年度からは、すべての新築住宅で省エネ基準に適合することが義務付けられるが、【フラット35】がそれに先行する形だ。
住宅ローン減税は、住宅の省エネ性能によって控除対象額が増える次に、「住宅ローン減税」との関係性を見ていこう。

出典:国土交通省「令和4年度住宅税制改正概要」より転載
国土交通省の上図のように、「省エネ基準適合住宅」、「ZEH水準」で控除の対象となる住宅ローンの上限額が増えていく。新築住宅で上限額がさらに増えるのが「長期優良住宅」と「低炭素住宅」だ。いずれも高い省エネ性能を求められており、2022年10月以降の省エネ性能は「ZEH水準」が求められるようになる。ただし、それぞれの目的に応じて、省エネ性能以外の項目が必須となる。
「低炭素住宅」は、住宅の省エネ性能の高さに加え、「低炭素化のための措置」が条件となる。ただし、「ZEH水準」の住宅であれば、低炭素住宅の認定条件をクリアすることはそれほど難しいことではない。一方、「長期優良住宅」は、長期にわたって安心して暮らすために必要な措置が講じられた優良な住宅のこと。住宅の劣化対策や耐震性、維持管理・更新の容易性などのさまざまな条件も求められるので、「ZEH水準」の住宅であっても、長期優良住宅に認定されるのは簡単ではない。
なお、長期優良住宅であれば、【フラット35】Sの金利Aプランと【フラット35】維持保全型の対象になるので、ZEHと同じ金利の引き下げが受けられる。
注)
このように、省エネ基準適合か、ZEH水準か、低炭素住宅、長期優良住宅かによって、それぞれ優遇される内容が変わる。さらにZEHや太陽光発電等の設置については、国や地方自治体の補助金なども多いので、どういった条件を満たせばどんな優遇が受けられるかをよく調べるとよいだろう。

(図版作成/山本久美子)
省エネ基準の引き上げで住宅は値上がりする?気になる住宅価格への影響を聞いた?新築住宅については、2025年度に「省エネ基準適合住宅」が義務化されるが、実はまだその先がある。遅くとも2030年までには省エネ基準を「ZEH水準」に引き上げる、というのが政府のロードマップだ。
このように省エネ基準が段階的に引き上げられると、それに適合させるようにするために建築費が上がり、住宅価格などが上がるのではないか?という疑問が湧く。齋藤さんに聞いてみると、現状の「省エネ基準」は、現在販売されている新築住宅の省エネ性能のレベルで十分適合できるので、省エネ基準への適合によって、住宅価格が高くなることは考えにくいという。
では、「ZEH水準」への適合ではどうだろう?齋藤さんは、すでにZEH水準に近いレベルの新築住宅も多いし、少し工夫するだけで適合させることも可能なので、住宅価格が急に上がるといった事態は想像しにくいという。
先述したように、今年3月まで住宅性能表示制度には「断熱等性能等級4・一次エネルギー消費量等級5」までしかなかった。だからと言って、その等級に達するぎりぎりの性能で新築していたわけではなく、実際には現行の「等級5・等級6」に該当する住宅も多く供給されていたということだ。適合義務化によって一斉に性能が引き上げられるのではなく、底上げの効果があると見るのがよいだろう。
住宅生産団体連合会(以下、住団連)の「2021年度戸建注文住宅の顧客実態調査」の結果が公表された。ウッドショックなど建築資材の高騰が指摘されていたので、コストアップが気になるところだが、どうなっていただろう。住宅ローンの借り方や住宅に設置する最新の設備などにも、影響はあったのだろうか?
【今週の住活トピック】
「2021年度戸建注文住宅の顧客実態調査」結果を報告/(一社)住宅生産団体連合会
この調査は、三大都市圏と地方都市圏に注文住宅を建てた人を対象に住団連が毎年行っているもので、2021年度で第22回目となる。
まず、注文住宅を建てた人の平均像を見ていこう。世帯主年齢の平均は39.9歳で、平均世帯人数は3.14人。夫婦に子どもが一人というのが、平均的な顧客層なのだろう。
次に、建てた注文住宅の平均像を見ていこう。
●建築費は3816万円(対昨年度1万円増)
●建築費の1平米単価は30.6万円(対昨年度0.5万円増)
●土地代を含む住宅取得費は5783万円(対昨年度446万円増)
●延べ床面積は124.5平米(対昨年度2.3平米減)
●自己資金は1481万円(対昨年度188万円増)
●借入額は4967万円(対昨年度366万円増)
●世帯年収は993万円(対昨年度29万円増)
●借入金の年収倍率5.00倍(対昨年度0.23ポイント増)
※土地の取得方法は、従前の敷地(建て替え)28.2%、新たに購入(54.1%)などがある。
住団連では、「世帯年収が増加したものの、建築費、住宅取得費が上昇し続けていることから、延床面積を抑制するとともに、自己資金や借入金を増やすことで対処している状況が読み取れる」と分析している。
約4割が夫婦で住宅ローンを借り、夫婦で返済する形をとっている?住宅取得費が増加するにつれて、借入額も増加しているが、では誰が住宅ローンを借りているのだろう?結論から言うと、夫婦で力を合わせて借りている人が多いことがわかった。
夫婦2人でお金を出し合ってマイホームを買う場合、方法はいくつかある。
最近増えているのが「ペアローン」だ。ペアローンとは、1つの物件に対して、夫婦それぞれが自分の収入に応じて住宅ローンを借りるというもの。(ちなみに、ペアローンは夫婦に限らず、同居している親子などでも利用可能)
もう一つの方法が、「収入合算」。収入合算は、例えば夫が住宅ローンを借りる場合に、妻の収入を上乗せして、その収入に対してローンを借りるもの。民間金融機関の多くは「連帯保証型」の収入合算を採っているので、住宅ローンの返済をするのは夫だが、妻は夫の連帯保証人となって万一のときに返済の義務を負う。なお、妻の収入の全額ではなく、半分程度を上乗せできるとする金融機関が多い。(ちなみに、【フラット35】など一部のローンでは「連帯債務型」の収入合算を取り扱っている)
※ローンを借りた人を債務者といい、連帯保証が債務者の返済を連帯して保証するのに対し、連帯債務は二人とも債務者となる。
この調査では、ペアローンあるいは収入合算を利用しているかどうかを聞いている。その結果、39.6%がいずれかを利用して、夫婦(または親子)でローンを借りている。
また、ペアローンと収入合算と、どちらが多いかというと、収入合算が55.8%、ペアローンが44.2%という比率になった。

ペアローン・収入合算の利用状況(出典:住団連「2021年度戸建注文住宅の顧客実態調査」をもとにSUUMO編集部作成)
甚大化する災害や新型コロナウイルスの影響で、住宅のプランは変わった?次に、住宅のプランを見ていこう。近年は、甚大化する災害や新型コロナウイルスなどの影響で、注文住宅のプランにも変化が見られる。
新しい生活様式などへの対応・関心を複数回答で聞いた結果から、採用した・あるいは関心があるの回答率の高い(30%を超える)ものを抽出してみた。
【テレワーク・オンライン授業環境への対応】
テレワークスペースの設置 43.3%
【ステイホームに対応した快適な居住性能】
良好な遮音性・防音性・省エネ性等 40.5%
【感染防止に配慮した住宅】
玄関に近い洗面スペース 41.8%
【災害時の自立的継続居住性能(レジリエンス性の強化)】
耐震性の確保(長期優良住宅等) 64.3%
創エネ設備(太陽光発電・エネファーム) 35.2%
自宅で仕事をしたり長時間自宅にいたりするので、仕事のスペースや住宅性能を求める意識が高くなっていることがわかる。また、災害も増えていることから、自宅のレジリエンス性への関心も高い。
こうした変化を受けて、最新設備・技術などの採用率が近年増加したものを調べると、以下の3つが顕著に伸びていた。

最新設備の採用率の比較(出典:住団連「2021年度戸建注文住宅の顧客実態調査」をもとにSUUMO編集部作成)
なお、最近注目されるZEH(net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語)についての回答を見ると、2021年度は「ZEHにした」割合は27.9%で、「検討は行ったが、ZEHにしなかった」が24.4%となった。ZEHの採用率は年々増加しているが、現状では3割弱といったところだ。

ZEHの検討の有無(出典:住団連「2021年度戸建注文住宅の顧客実態調査」をもとにSUUMO編集部作成)
ZEHにしなかった理由では、「スケジュールが大きくかわってしまう」が 45.3%と最も高く、次いで「掛かり増し費用が高いと感じたから」が22.4%だった。ZEHにするには、住宅の省エネ性能を高めたうえで、太陽光発電パネルなどの創エネ設備に加え、エネルギー消費効率の良い給湯器や冷暖房設備、照明などを設置する必要があり、その分コストがかかる。そのため、ZEHではない住宅よりも費用が高くなることや、それをカバーするZEH関連の補助金の申請・承認に時間がかかることなどが、採用しなかった要因となっていることが考えられる。
注文住宅のメリットは、建て主が住宅の性能や間取り、設備を選べることだ。若い世帯では夫婦共働きが当たり前になり、住宅ローンも2人で力を合わせて借りている。調査結果の中には、「家事負担軽減に資する工事(ビルトイン食器洗機、浴室乾燥機、宅配ボックス、キッチン・洗面所・トイレに設置する収納等)」の採用率が50.2%という結果もあり、家事が楽になるものを積極的に選んでいることもうかがえる。
さらに、耐震性や省エネ性、災害対策などにも関心が高い。しかし、費用面の制約もあり、優先順位をつけて選んでいることがうかがえる結果だ。今はマイホームに対して求める機能も多様化しているので、ますます予算内で何を選ぶかしっかりと考えることが大切になっていくだろう。
●関連サイト
(一社)住宅生産団体連合会「2021年度戸建注文住宅の顧客実態調査」
所在地:中央区八丁堀
所在地:大田区池上
所在地:豊島区駒込
所在地:調布市染地
所在地:渋谷区広尾
所在地:江東区亀戸リニア中央新幹線の始発駅に決定している品川駅。周辺にはオフィスビルが林立し、商業施設も充実しており、東海道新幹線などJR各線、京浜急行本線が通るターミナル駅でもある。さらに先日、東京メトロ南北線を白金高輪台駅で分岐して品川駅まで延伸し、2030年代半ばの開業を目指すと発表されたことでも注目されている。そんな品川駅まで30分圏内にある、中古マンションの価格相場を調べてみた。専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」、それぞれの価格相場が安い駅トップ10を見てみよう。
品川駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(路線/駅所在地/品川駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 石川町 1790万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市中区/28分/1回)
2位 生麦 2080万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市鶴見区/26分/2回)
3位 神奈川 2479.5万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市神奈川区/24分/1回)
4位 京急鶴見 2480万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市鶴見区/21分/1回)
5位 黄金町 2499万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市南区/29分/1回)
6位 鶴見 2530万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市鶴見区/16分/1回)
7位 西馬込 2580万円(都営浅草線/東京都大田区/19分/1回)
8位 関内 2599万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市中区/26分/1回)
9位 大森海岸 2655万円(京浜急行本線/東京都品川区/12分/0回)
10位 日ノ出町 2680万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市中区/27分/1回)
【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(路線/駅所在地/品川駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 生麦 3185万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市鶴見区/26分/2回)
2位 保土ケ谷 3280万円(JR横須賀線/神奈川県横浜市保土ケ谷区/24分/1回)
3位 浜川崎 3380万円(JR南武線/神奈川県川崎市川崎区/27分/2回)
4位 津田山 3430万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/29分/1回)
5位 花月総持寺 3480万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市鶴見区/25分/2回)
6位 小田栄 3580万円(JR南武線/神奈川県川崎市川崎区/25分/2回)
7位 子安 3630万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市神奈川区/28分/2回)
8位 神奈川新町 3639万円(京浜急行本線/神奈川県横浜市神奈川区/22分/0回)
9位 天王町 3790万円(相鉄本線/神奈川県横浜市保土ケ谷区/28分/1回)
10位 西横浜 3900万円(相鉄本線/神奈川県横浜市西区/26分/1回)
「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」ランキングの1位は、JR京浜東北・根岸線の石川町駅。価格相場はトップ10唯一の2000万円未満、1790万円だった。石川町駅から3駅目の横浜駅でJR東海道本線に乗り換えると、計約28分で品川駅に到着する。石川町駅は横浜市中区に位置し、歴史ある洋館が残る山手エリアや、人気のショップや飲食店が並ぶ商店街がある元町といった、横浜を代表する観光スポットの最寄り駅でもある。元町の商店街を通りつつ10分少々歩くと、みなとみらい線の元町・中華街駅も利用可能だ。また、駅周辺にはスーパーやコンビニ、総合病院など日々の暮らしを支える施設も充実。横浜中華街も駅から歩いて10分ほどなので、休日はぶらりと食べ歩きに出かけてもいいだろう。

石川町駅前商店街(写真/PIXTA)
2位は京浜急行本線・生麦駅で価格相場は2080万円だった。まず京急鶴見駅に行き、駅前広場をはさんで位置する鶴見駅からJR京浜東北・根岸線に乗って川崎駅へ、さらにJR東海道本線に乗り換えると品川駅まで乗り換え2回・計約26分。乗り換え回数を減らしたいなら、鶴見駅からJR京浜東北・根岸線に乗ったままでも品川駅まで30分弱で行くことができるし、時間はかかるが京浜急行本線の普通列車(各駅停車)1本でも品川駅にたどり着く。ちなみに経由駅の京急鶴見駅は4位に、鶴見駅は6位にランクインしている。
生麦駅の駅名はその地名に由来しており、江戸時代まで周辺一帯が麦畑だったためとの説もあるが、現在の駅周辺は田畑のない住宅地。駅前には飲食店やコンビニが多数点在するほか、スーパーやベーカリーなどの個人商店も。毎月第2・4日曜には、商店街でテイクアウト中心のフードフェア「生麦de日曜マルシェ」が開催されている。また、駅から歩いて15分ほどの鶴見川近くにある生麦魚河岸通りも注目。通り沿いに何軒もの鮮魚店が立ち並び、魚介類や名物・あなごの天ぷらなどが買えるのだ。午前中に店仕舞いする店舗がほとんどだが、近所に住んでいれば立ち寄りやすいだろう。毎年11月にこの通りで開催される「生麦 旧東海道まつり」も楽しみだ。
3位は京浜急行本線・神奈川駅で価格相場は2479万5000円。横浜駅まで1駅という便利な立地で、横浜駅からJR東海道本線に乗り換えると品川駅まで計約24分で行ける。神奈川駅前には目立った商業施設はなく、人通りも多くはない。しかし横浜駅まで歩いて10分もかからないので、横浜駅で降りて買い物をしてから歩いて帰宅してもいいくらいだろう。ちなみに横浜駅の価格相場は3365万円で、神奈川駅よりも885万5000円もアップする。よりリーズナブルな物件がある神奈川駅周辺に住み、横浜駅の便利さを享受するのが賢いかもしれない。
「シングル向け」のトップ10を見てみると、2位・3位をはじめ京浜急行本線の駅が6駅もランクインしている。さらに3駅はJR京浜東北・根岸線の駅。残る1駅は、都営浅草線・西馬込駅だ。

西馬込駅(写真/PIXTA)
7位にランクインした西馬込駅は東京都大田区に位置し、価格相場は2580万円。五反田駅からJR山手線に乗り換えると、品川駅まで計約19分で到着する。また西馬込駅は、渋谷駅まで約23分、新宿駅まで約30分と、他の繁華街へもアクセスしやすい。都営浅草線の始発駅のため、混雑する通勤時間帯も座って乗車しやすい点も魅力だろう。地下鉄駅の地上出口がある国道1号・第二京浜沿いにはスーパーやドラッグストア、コンビニが点在。国道沿いは交通量が多いが、脇道に入ると静かな住宅街へ。駅から南に10分ほど歩けば、池上本門寺に隣接する緑豊かな本門寺公園や、池上梅園などの憩いの場もあり、息抜きに散歩するのも楽しい街並みだ。
「カップル・ファミリー向け」ランキングには街の再開発が進む駅も「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)」ランキングの1位は京浜急行本線・生麦駅。「シングル向け」では2位にランクインしており、街の様子については前述の通り。中古マンションの広さにかかわらず価格相場は低いようなので、品川駅までアクセスがよくリーズナブルな物件を探す際は、生麦駅は要チェックだろう。
2位にはJR横須賀線・保土ケ谷駅がランクイン。JR横須賀線1本で品川駅まで5駅・約27分で行けるほか、1駅隣の横浜駅でJR東海道本線に乗り換えると品川駅まで計約24分だ。保土ケ谷駅にはJR湘南新宿ラインも停車するため、乗り換えせずに渋谷駅まで33分、新宿駅まで38分で行くこともできる。
保土ケ谷駅には駅ビルの「シァル保土ヶ谷」と「ビーンズ保土ヶ谷」が直結し、館内にあるスーパーやドラッグストア、飲食店から書店まで駅を出てすぐに利用できる便利な環境。かつて東海道の宿場町として栄えた駅周辺には史跡や歴史ある寺社も点在し、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。駅から車で10分弱進むと、「神奈川県立保土ケ谷公園」へ。広大な園内には梅や桜など季節の花が咲き、アスレチック広場や夏期オープンのプールもあるので子どもと一緒に出かけてもいいだろう。

保土ヶ谷公園のイチョウ並木(写真/PIXTA)
3位はJR南武線・浜川崎駅で価格相場は3380万円。浜川崎駅はJR南武線のなかでも枝分かれした支線に位置するため、尻手駅で川崎方面行きのJR南武線に乗り換える。川崎駅から品川駅まではJR東海道本線で1駅、浜川崎駅から計約27分でたどり着く。浜川崎駅は貨物列車の駅でもあるため鉄道ファンには知られているが、一般的にはなじみが薄いかもしれない。駅の南側、運河沿いには工業地帯が広がり商業施設は見当たらない。住宅街は駅北側に広がっている。駅前は寂しい雰囲気だが、北に10分ほども歩くとショッピングモールやホームセンター、大型スポーツ用品店が集まる商業エリアへ。この一帯には小学校や児童公園、子育て支援センターも集まっている。
ショッピングセンターや小学校がある街の中心部は、どちらかというと浜川崎駅の1駅隣にある6位・小田栄駅のほうが近い。しかし小田栄駅の価格相場は浜川崎駅よりも200万円アップの3580万円。街の中心部から少し離れた、浜川崎駅寄りでお得な物件を探すのも一案だろう。
さてトップ10のうちもう1駅、9位の相鉄本線・天王町駅もチェックしておきたい。1駅隣は10位の西横浜駅で、3駅目に横浜駅がある。横浜駅でJR東海道本線に乗り換えると、品川駅までは計約28分だ。駅前には飲食店やドラッグストア、スーパーがあり、住宅の合間には遊具がある公園が点在する、暮らしやすそうな街並み。駅から北に10分ほど歩くと、「ハマのアメ横」と呼ばれる「洪福寺松原商店街」がある。生鮮食品のお店から総菜店、雑貨店に飲食店までがひしめく、活気ある商店街だ。
そして現在、天王町駅~隣接する星川駅間の全長約1.4kmにわたる高架下空間の開発が進められている。第I期開発区域は2022年冬に開業予定とのことなので、楽しみに待ちたい。さらに天王町駅から徒歩10分ほどの場所には、2022年秋に「イオン天王町ショッピングセンター」が開業予定。進化していく天王町駅は、これから注目度が高まりそうだ。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2022/4~2022/6
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年7月25日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
所在地:世田谷区用賀
所在地:千代田区神田小川町
所在地:墨田区立川
所在地:江東区清澄
所在地:板橋区三園
所在地:横浜市戸塚区戸塚町
所在地:横浜市西区北幸
所在地:横浜市青葉区藤が丘
所在地:川崎市宮前区鷺沼
所在地:調布市仙川町
所在地:台東区台東
所在地:神奈川県横浜市中区麦田町
所在地:荒川区荒川
所在地:荒川区荒川
所在地:杉並区天沼
所在地:渋谷区恵比寿南
所在地:渋谷区西原地方都市の人口減少や過疎化、産業の衰退……。日本各地で課題の多い地域が増えてきています。そんななか、10年以上もの歳月をかけ、官民連携「デジタル田園都市国家構想」に基づきながら創り上げた、三重県多気郡多気町の一大複合施設「VISON(ヴィソン)」(以下、読み同じ)が注目されています。AIやビッグデータなどの最先端技術を活用して、地域医療やモビリティ、観光振興、エネルギー等地域の社会課題の解決を目指して取り組む施設とのことで、多くの地域が抱えている課題を解決するヒントがありそうです。どんな仕掛けがあるのでしょうか。ヴィソン多気株式会社、代表取締役の立花哲也さんにお話を伺いました。
三重県にはもっと知ってほしい魅力がある三重県のほぼ中心に位置する多気町は、人口約14000人弱の小さな町。名古屋市内からは車で1時間半ほど、大阪方面からは2時間で足を運ぶことができ、小旅行がてら立ち寄るにはちょうどよいエリアです。ここに日本最大級の複合施設『VISON』がグランドオープンしたのは、2021年7月のことでした。
“美しい村”を意味する『VISON(美村)』。山間地の一部にある、東京ドーム約24個分の雄大な敷地は、一つの村になっています。道や店舗は、その土地の起伏を活かしたつくりになっており、画一的な商業施設からは脱した、個性とデザイン、風景を大切にした自然と調和するつくりが印象的です。
6棟のヴィラ、全155室のホテルや、著名なデザイナーやクリエイターが関わった40室のコンセプチュアルな宿泊施設に、ミュージアム、73店舗のこだわりの飲食店や温浴施設、農園、そして地元農家や漁師による毎朝直送の生産品が並ぶマルシェなど、9つのエリアが集まります。
その広大かつ充実の内容ゆえ、1日では回り切ることができません。じっくりと長期滞在をして楽しみたいほど、暮らしにまつわる豊かな体験をたっぷりと味わうことができる施設です。

VISONのコンセプトづくりにかかわった陶芸家・造形作家の内田鋼一氏が手掛けるミュージアムなどが並ぶ(写真撮影/本美安浩)

勾配を活かした敷地のふもとにのぞむ蔵エリアと、山頂部にそびえるホテルエリアの美しい姿(写真撮影/本美安浩)
「三重県は、観光地としての認知度が高くない。代表的な観光地である伊勢神宮には、毎年多くの参拝者が訪れているけれど、その多くは日帰り客で、観光振興とまでは言い難いのです。そして農作物や海産物など、実り豊かな食材や加工品がありますが、そのこともあまり多くの人には知られていません。このように魅力的な点がありながらも、うまく伝わりきっていないというジレンマがありました。さらに多気町周辺では、若者が就職時になると三重を離れてしまうなど、人口減少が課題となっていました。こうした課題を解決するために多気町周辺にある5町(多気町・大台町・明和町・度会町・紀北町)が手を取り合って、少子高齢化などのさまざまな地域課題の解決に向けて取り組みを始めたのが「デジタル田園都市国家構想」という取り組み。『VISON』はこの取り組みの実証実験の場としてつくり上げられた施設だったのです」

8年以上の歳月をかけてつくり上げたその熱意と奮闘について語る、ヴィソン多気株式会社の代表取締役、立花哲也さん(写真撮影/本美安浩)
このデジタル田園都市国家構想では、官公庁をはじめ、三重県に由来する民間企業も多数連携。イオンタウン株式会社や、ロート製薬株式会社なども参画し、長い年月をかけて作り上げていきます。
その先陣を切ったのが、三重県菰野町で『アクアイグニス』という一大リゾートを築き、成功へと導いた立花代表でした。
「この地で何かをつくるならば、ただのホテルやリゾート、ショッピングセンターでは意味がないんです。”三重、ひいては日本の文化の発信地となる施設”、そういう場所をつくろうと思いました。文化を守り伝えるためには、ナショナルチェーンやコンビニエンスストア、自動販売機などは施設内に一切設けず、著名なデザイナーが関わるライフスタイルショップやミュージアム、今まで一度も商業施設に出店したことのないような製造メーカー、農家、生産者などにも出店してもらっています」

内田鋼一氏が世界各国から集めていた「食」にまつわるさまざまな道具を展示するミュージアム(写真撮影/本美安浩)

マルシェコーナーには朝採れ野菜が豊富に並び、開店と同時に足を運ぶお客さんの姿がうかがえる(写真撮影/本美安浩)

伊勢海老をはじめ、地元鮮魚を30年以上も提供している鈴木水産。ミシュランガイドパリ一つ星の手島シェフが監修したソースとともにいただく、揚げたてのアジフライや、フレッシュな鮮魚の使用した定食が注目だ(写真撮影/本美安浩)
出店してもらうのにどれほどの苦労があったのでしょう。プロジェクト構想が立ち上がってからVISONがオープンするまでは8年近くの歳月をかけたといいます。
「この場所から、三重の食文化や日本の発酵文化の面白さについて発信し、大切な伝統を継承していきたい。だから御社の力が必要だ、と地道に対話することを繰り返していましたね。『VISON』には70ほどの店がありますが、ここまで辿り着くまでにおよそ700件近く声を掛けてまわりました。時間はかかりましたけれど、一流の文化発信地にしたいという想いが強くて妥協することはなかったです」
文化や個性の感じられる、オリジナリティあふれる店舗たちさっそく施設の中を歩いていきましょう。木造建築を中心とした、柔らかな風合いの施設には、土地古来の魅力が感じられる店舗がそろいます。
たとえば和の文化を伝える「和ヴィソン」エリア。主に日本の伝統である味噌・みりん・醤油・酒などの調味料の製造元が軒を連ねています。
その一つであるみりん蔵である『美醂 VIRIN de ISE』。ここでは、多気町産のもち米、米麹、米焼酎をつかった本格みりんの醸造の様子を見学することができます。立花さんの熱意に絆され『VISON』の開業とともに、ここへ蔵を構えました。日本の伝統的な技のみで引き出したみりんは 飲むほどにおいしく、訪れる人がたちまちみりんの魅力に虜になっていきます。

かつおぶし・味噌・醤油など、日本の調味料の魅力を伝える「和ヴィソン」エリア(写真撮影/本美安浩)
同じく三重県生まれの、あずきで有名な「井村屋」。同社が新しい文化を発信するきっかけとして、ここで「福和蔵」を構え、日本酒づくりを始めました。
開業前である2019年から仕込んだプレミアムな清酒「福和蔵 純米大吟醸酒」は、訪れる人たちにその意外性と、新たな出会いを提供しているそう。三重という土地に根差した清酒は、これからも魅力のひとつとして語り継がれていきそうですね。
蔵の軒並みから坂道を上っていくと、VISONの注目点の一つであるストリート、サンセバスチャン通りが見えてきます。ここに並ぶ数々のインテリアや雑貨、ライフスタイルショップ。ナガオカケンメイ氏の立ち上げた「D&DEPARTMENT MIE by VISON」や、奈良に拠点を持つ「くるみの木」が運営する、ミュージアムショップ「くるみの木 暮らしの参考室」など、日ごろ目にする商業施設にはない、豊かなライフスタイルを提唱するコンセプトショップが並びます。

サンセバスチャン通りに店を構える、本場スペイン・サンセバスチャンのバスクチーズタルトを再現した店「Egun on(エグノン)」(写真撮影/本美安浩)
サンセバスチャン通りでは食の異文化発信にも力を入れています。食の豊かなスペイン・サンセバスチャン市と三重県多気町は、”美食を通じた友好の証“を締結、互いの文化発信地として誕生したのがこのストリートです。
なかでも印象的なのは「エグノン」のバスクチーズタルト。スペインのバスク地方のチーズタルトを日本の地で発信するために立ち上げられた店です。世界三大ブルーチーズと評されるフランス産の「ロックフォール」を使用したタルトは、柔らかでトロッとした食感の味わい。

店内の厨房で、時間をかけて丁寧に作り上げる(写真撮影/本美安浩)

バスクチーズタルトは、ひんやりとした口当たり。とろりととろける食感が新鮮(写真撮影/本美安浩)
こうした出会いは、VISONならではであり、訪れた人にとっては新たな感動と、知識と触れ合うことができそうです。
勾配のある坂道をさらに上っていくと温浴施設、自家栽培農園などが広がり、ひとしきり街を散策したあとは、ゆったりと穏やかな時間を過ごすことができます。敷地の最上部にそびえるホテルからは、全エリアが一望でき、体験した数々の豊かな時間を反芻する時間が味わえそうです。

農園では、専属のスタッフが毎日丹精に野菜を育て、剪定する(写真撮影/本美安浩)

農作物を季節に合わせて豊富に育てているエリア。農園で併設するレストランでも食材として使用される(写真撮影/本美安浩)
敷地内はあえて舗装や街並みを整えすぎず、勾配や土地の形などを残しつつも、自然な街並みをつくり上げています。一見不便に見えるかもしれないですが、画一的なつくりではないからこそ生まれる、美しい景色や豊かな体験、経験を得るためにも「地の利」を大切にしているといいます。

勾配のある敷地内は、モビリティを使って移動するのが楽しい(写真撮影/本美安浩)

(写真撮影/本美安浩)

雄大かつ勾配のある敷地内は、車での移動やモビリティの利用もおすすめ。道中は景色や風が楽しめる(写真撮影/本美安浩)
働くスタッフの意識も変化立花さんは「ここは観光地でもあるのですが、日常を営むための場所でもある」と話します。VISON内の広大なマルシェにも、この意味が込められているそうです。
「松阪牛や海老などの魚介、農作物など、三重には誇れる特産品があるんですよね。ところがそれらは、流通量の多い東京や大阪に出ると、適正な価格にはならず、生産者も潤いません。こうした食材たちに光を当てたいというのが私たちの願うことです。観光客にとっては普段見ることのできない食材との出会いがあり、また生産地で、商品の価値にあった価格で提供されることによって、生産者にとっても満足度の高い仕組みができるのです」

木造建築で、敷地の起伏を利用してつくられたマルシェは、美しく開放的(写真撮影/本美安浩)

(写真撮影/本美安浩)

マルシェヴィソンでは多種多様なトマトが並ぶ(写真撮影/本美安浩)

各農家からは、毎朝熟れたトマトが直送される。手に取りやすく陳列される姿からはまるで芸術のような美しさも感じる(写真撮影/本美安浩)

カップに詰まったカラフルなトマトたち。市場に流通しない希少な銘柄も並ぶ。まるでフルーツを食べているかのように甘くやわらかな味わいのものも(写真撮影/本美安浩)
こうした願いゆえに、食材の流通については毎日直送、直仕入れにこだわるという。
「こんなところまで運んでくるって大変だと思うでしょう。でも、貴重な味わいを届けたいし、知ってもらえると思えば、私たちにとって価値のあることなのです。日本のなかでも本当にいいもの、おいしいものが集まっている場所として、食材の魅力を伝えていきたいし、訪れた人のお気に入りが見つかれば、これからは直接生産者から買ってもらえるかもしれない。こうしたつながりをたくさん増やしていきたいのです」

多種多様な魚たちが生きたまま運ばれてきている(写真撮影/本美安浩)

無造作に並ぶ直送野菜たちは、たっぷりと栄養の行きわたり、みずみずしい(写真撮影/本美安浩)
生産者だけではなく、施設内で働く人たちにも変化が生まれているという。
「若い世代を中心に、就学や就職を機会に、関西方面や関東方面へ転出してしまうというのがこれまででした。VISONの開業とともに、働く人も三重に戻ってきている。これは嬉しいことですよね。さらには、Iターンするスタッフも最近増えています」
実際に働くスタッフの声に耳を傾けてみましょう。
VISON内の店舗スタッフとして働く40代の方は、それまで東京で働いていたそう。
「三重といえば伊勢神宮、鈴鹿山脈、熊野古道がある……くらいのイメージでした。実際働き始めて、おいしいものがこんなにたくさんあるんだと感じたし、自然も本当に美しい。それに多気町の人は温かくていい人たちばかり」と思うようになっていったのだとか。
ヴィソン多気のオフィスで働く30代のスタッフも、これまで県外で働いていたけれど、開業とともに三重へ越したうちのひとり。
「ここは田舎だし、何もないと思っていたけど、観光の拠点になっていくのは良いことですね。お客様からも『おいしいものがそろっているし、何もないからこそ味わえる美しいこの景色を楽しめる』と喜びの声をいただいています」
さまざまな人たちにとって、多気・三重の見える景色や感じ方に変化が生まれているようです。
100年も200年も、途絶えることなく続く場所でありたいVISONは一つの村です。村は時を経て、当然人の入れ替わりが生まれるでしょう。商業施設もあるので、店舗の入れ替わりやリニューアルなどもこれからするのではないでしょうか。
今、地方では「できる限り継続的に営み、風土を形成するということ」ができていないことが課題だそう。
しかし、立花さんは「私たちはここを消費や売上だけを優先した場所にするつもりはまったくありません」と話します。
「一般的な商業施設は、定期借地契約がほとんどで、壊すことを前提でつくられていますが、VISONの建物は、持続性を考えてほとんどが木造建物になっています。近郊にある伊勢神宮は、はるか続く歴史の中で、20年ごとに遷宮を迎えると宮を新しくつくり替えて何百年と続いていますが、私たちもそれにならうように、仮に建物は全て作り変えることはできなくても、メンテナンスをしながら、100年も200年も続くサステナブルな施設であることを目指していますね」

関係人口をもっと広げたいと意気込む立花さん。VISONの描く多気町のこれからは、無限の可能性を秘めている(写真撮影/本美安浩)
デジタル田園都市国家構想を推進中の5町。次なる一手として、DXを推進し、医療の強化や周辺の観光施設・商店街との地域活性化も動き出したようです。
「DXの力は大きな鍵になると思っています。日本の文化とデジタルの力を融合させることで、この地域でじっくりと伝統と文化を紡ぎ、三重の魅力を伝えていきたいですね」
●取材協力
・VISON
・ヴィソン多気株式会社
所在地:文京区小石川
所在地:武蔵野市御殿山
所在地:練馬区中村
所在地:杉並区松庵
所在地:港区赤坂
所在地:大田区東六郷
所在地:渋谷区松濤木造建築は、環境負荷の低さや、性能がここ数年で格段に進化していることで注目されているだけでなく、2020年の建築基準法の改正以降、耐火・準耐火に関する基準の見直しや整備により、利用の可能性が広がったこと、2021年の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、改正木材利用促進法」によって、木材利用の推進対象が公共建築物から一般建築物に広がり、「高層木造ビル」といった今までには考えられなかった建築物が続々と登場しています。
植物の緑に木のあしらい。まるで昔からあったかのような佇まい今回は話題の木造建築のなかでも、今年2月に誕生した店舗+集合住宅の複合施設「アーブル自由が丘」(東京都目黒区)を取材しました。地球環境や安全に配慮しながら、その街らしさを色濃く打ち出したこれからの住まいのカタチとは、どのようなものでしょうか。
スイーツや雑貨店などが集まり、おしゃれな街として知られる自由が丘(東京都目黒区)。「アーブル自由が丘」は、自由が丘駅から徒歩5分の場所に、今年2月に誕生した複合施設です。1階には自家焙煎のスペシャルティコーヒーショップ「ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)」、ワインのセレクトショップ(角打ちも可!)「VIRTUS(ウィルトス)」、ごま油でおなじみの「かどや製油」による初のカフェ「goma to(ごまと)」のテナント、2階と3階はTECH人材向けのコミュニティ型賃貸住宅「TECH RESIDENCE JIYUGAOKA(テックレジデンス自由が丘)」(全22室)、さらにオーナーがお住まいの2住戸から構成されています。
1階のテナントが設けているテラス席では、植物の緑がつくる心地よい木陰で、ご近所の人たちが思い思いに過ごしています。その風景はあまりにもなじんでいるため、ずっと前からあったかのような佇まいです。

自由が丘らしさを感じる1階。カフェやワインバーのテラス席は大人気です(写真撮影/片山貴博)
「アーブル自由が丘」があるのは、準防火地域(市街地における火災の危険を防ぐために定められる地域)。敷地に対して最大限のボリュームを確保するため、1時間耐火建築物(※)とし、さらに1階は鉄骨造、2~3階は木造という「混構造」にしています。火災にも強い、今、大注目の木造建築物というわけですが、ここに至るまでの道のりは平坦ではありませんでした。話の始まりは、なんと10年前、2012年~13年ごろになるといいます。
※耐火建築物……建物の主要構造部(柱・梁・床・耐力壁など)が耐火構造または所定の性能を満たし、延焼のおそれのある部分に設けられた開口部には、防火設備(防火サッシやシャッター)が用いられたもの

アーブル自由が丘の断面図。1階が鉄骨造、2~3階が木造(画像提供/内海さん)
木造で自由が丘らしい建物を目指し、10年かけてコンセプトを詰めていく「もともと材木商を営んでいたオーナーのご家族から、『実家を建て替えたいので、相談にのってほしい』ともちかけられたのがきっかけです。そのころ、私は世田谷区下馬で、5階建の木造集合住宅を手掛けていたのですが、できたら木造で建て替えられないかというお話からスタートしました」と話すのは、設計を手掛けた内海彩建築設計事務所の内海彩さん。

仕上げ材にも高知・四万十産の良質のスギをふんだんに使い、新築ですがすでに自由が丘の景観になじんでいます(写真撮影/片山貴博)
もともとは、お隣も合わせた約2倍の広さの土地(借地)に4棟のアパートやご自宅がありました。ちょうど商業地域と住宅地の境目にあり、都市計画道路予定地(※2)でもあります。
完成した現在の敷地はL字型になっていますが、建て替えの話がもちあがったときは、どの範囲が敷地になるのか決まっておらず、敷地面積や建物の床面積・用途に応じてチェックするべき都や区の条例が異なるので、さまざまなケーススタディを繰り返したそう。それにしても、今でこそゼネコン各社を含めて木造高層建築に注力していますが、依頼者から希望はあったとはいえ、なぜ当時はまだハードルが高かった“木造”を想定していたのでしょう。
※2 都市計画道路予定地……都市計画法に基づいて計画された道路が予定されている地。計画であり決定ではないため、土地の売買や建築は可能だが建築物の構造や高さ、階数などに制限がある

(画像提供/内海さん)
「オーナーさんが元木材屋さんということで、木造建築物への関心が高かったこともあり、クリアしなければいけない課題は多くあったものの、『木造でいけたらいいね』という方向性は一貫していました。木造ならではの温かみ、風景との調和など木の持つ良さ、価値を共有できていたんだと思います。一方で、従来の『裸木造』(防耐火性能のない木造のこと)のイメージも強く、耐震性などへの不安もおありのようでしたので、CLT(繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料)といった最新の木質材料もご紹介し、これからの時代にふさわしい耐震耐火性能を備えた『都市木造』を目指すことにしたのです」(内海さん)

設計を担当した内海彩さん(写真撮影/片山貴博)
もともと、内海さんが木造建築に注目したのは2000年前後。建築士として独立した直後で時間もあり、勉強会に参加して、「鉄筋コンクリート造や鉄骨造ばかりの都市に『木造』という選択肢をつくれたらおもしろそう」と夢を思い描いていました。ただ、「世間的には木造というと2~3階建ての一戸建てがイメージされてしまうもの。中高層の木造集合住宅といっても理解されずに、聞きかえされることもしばしばでした」
そんななか、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、木材利用促進法)」ができて、国交省の「木のまち整備促進事業(現・サステナブル建築物等先導事業)」に採択されたことが大きな追い風となり、2013年、世田谷区下馬に5階建の耐火木造集合住宅が完成しました。設計プランとしては注目されていたものの、竣工したことにより、「『本当にできるんだ……!』と多くの方が関心を寄せてくださったんです」と内海さん。

1・2階がRC造(鉄筋コンクリート造)、2~5階が木造の集合住宅「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)
今回の「アーブル自由が丘」はすべて民間で開発・実現しました。都市計画道路予定地のため、高さ制限や構造制限があり、また、1階は当初より店舗として貸すことが決まっていたため、区画内に柱や壁をつくらず、できるだけ天井高を確保できるよう鉄骨造に。住空間である2・3階を木造とすることにしました。どこにでもある店舗ではなく、暮らしや食に豊かさを感じられるような「自由が丘らしい建物にしたい」というオーナーさんの思いを汲んでテナント募集が進められました。
「コンビニやファミレスへの1店鋪貸しではなく、小ぶりでもセンスの良い、ちょっと入ってみたくなるようなカフェやベーカリー、ギャラリーやフラワーショップなどが並ぶすてきな街並みをつくりたい、というお考えでした。もともと自由が丘に長くお住まいなので、いい街にしたい、この街にふさわしいものをという想いがおありだったんです」(内海さん)

3階にお住まいのオーナーさんのお住い。画廊のお仕事もされていてアートにも造詣が深く、室内のそこかしこに作品が飾られています(写真撮影/片山貴博)

お住まいの一角には、お仕事スペースも。ロールスクリーンを使ってゆるく空間を区切る工夫がされています(写真撮影/片山貴博)
共用ホールにテナント。住民の居場所が複数ある構造にこうして「木造建築物」「自由が丘らしい」などのコンセプトが固まってきた一方、シェアスペースがあったらいいという話もでてきました。
「この街にふさわしいものを、という話の中で、シェアオフィスもいいねという案が出てきました。単なるワンルームマンションではなく、暮らす人たちが交流・休憩・触発されるような共用空間があったなら……。
シェアオフィス単体で成立させるのは事業計画上難しそうだったのですが、そんな中、テナント募集を進めていた東急さんより、賃貸住宅部分の運営会社としてCEスペースさんのご紹介がありました。CEスペースさんは、IT人材専用コミュニティ型住宅『テックレジデンス』を都内数カ所で運営されています。そのノウハウもプランニングに盛り込み、2・3階を『TECH RESIDENCE JIYUGAOKA(テックレジデンス自由が丘)』として、IT系エンジニアに入居してもらうことになりました。
もともとワンルームだけではなく、2LDK、3LDKと混在させる計画でしたが、これらをシェアタイプの賃貸住戸として利用できるよう調整しました。状況が変われば、シェアハウスの3DKを2LDKに改修できるよう考慮しています。
目黒区の『自由が丘街並み形成委員会』との事前協議でもこの建物の話をしたところ、応援していただきました。自由が丘は、これから駅前を中心に再開発が進みます。そんな未来の自由が丘に才能ある若いIT系エンジニアが集まり、新しい価値観を発信していく、ということに大きな期待があるようでした」(内海さん)
こうして、ワンルーム住戸5室とシェアタイプ住戸内の個室17室、共用ホールという構成が決まり、さらに細部のプランを詰めていき、ついに着工。途中、ウッドショックの荒波に揉まれつつも、1年の工期をかけて完成しました。
入居が始まって約半年が経過した今、共用ホールに至る廊下にはさり気なくオーナーが選んだアートが飾られているほか、トップライトから日光が降り注いだり、木のぬくもりがあったりと、職業はデジタルな「ITエンジニアの住まい」でありつつも、どことなく「アートな香り」「あたたかさ」などアナログの良さを感じられる住まいとなっています。

「アーブル自由が丘」の共用ホール。「ゆ」ののれんが掛かっているのは住戸の玄関で、住民の方がつけたもの。のれんの奥はワンルーム住戸になっています(写真撮影/片山貴博)

吹き抜けを上部から見たところ。開放感がお分かりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)
吹き抜けの共用ホールは、住民のみが利用できる場所です。ここで仕事をしてもいいですし、気が向いたときは1階のカフェやワインバーも利用できます。自分だけの水まわりがあるワンルームタイプと、キッチン、バス、トイレを3~4名で共用する3~4DKのシェアタイプが混在するので、自分にあった住まい方、暮らし方ができるのもいいですね。家賃は9万4000円~12万6000円。自由が丘駅徒歩数分、共用スペースがあるので感覚的な“広さ”は十分。住む、働くが一体化していることを考えると、納得なのではないでしょうか。
「1階カフェと連携したサブスクリプションサービスが提供されているので、自分がコーヒーを飲むだけでなく、仕事の打ち合わせ、友達とのおしゃべりにも活用できますよね。仕事の打ち合わせでも、共用スペースや1階のカフェ、レストランなどを”自分のテリトリー”として利用できると、人を呼びやすいだろうなと思います。そこからどこかに出かけてもよいし、そういうときに魅力的なスポットがあちこちにある『自由が丘』という地の利もより活かせると思います」と内海さん。

居室に設けられた部屋番号とインターフォン。工事の端材でつくられたものですが、こちらも木のあしらいがかわいい。施錠にはスマートロックを利用しています(写真撮影/片山貴博)

シェアタイプ住戸内の個室。家具・家電は備え付けられているので、カーテンとベッド、身の回りのものがあれば生活が始められます(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアタイプ住戸の窓。構造材、耐火被覆、外装仕上げを合わせたため、壁の厚みは40センチ弱あり、一般的な一戸建ての2倍以上! そのため、温熱環境はもちろんのこと、遮音性も高く、驚くほど静か(写真撮影/片山貴博)

シェアタイプの部屋を外側から見たところ。フシのない杉材は外装材で、内側には木の構造材と断熱材、それを耐火被覆した壁があります(写真撮影/片山貴博)

住戸と住戸を仕切る隔壁パネルにも杉材を使用。他の賃貸集合住宅では見られない仕様です(写真提供/内海彩さん)

シェアタイプの水まわり。バス、洗濯機、トイレ、洗面所を共用して使います(写真撮影/片山貴博)

キッチンには冷蔵庫や炊飯器も。共用部は週2回の業者による清掃が入ります(写真撮影/片山貴博)
注目されている木造耐火建築、その街らしいテナント、シェアタイプの住戸と、通常の開発よりも手間と時間をかけて完成した「アーブル自由が丘」。それを実現したのは、オーナーさんと建築家さんの「よい街にしたい」「木とともに心地よく暮らしてほしい」という強い思いでした。
「シェアハウスとワンルームの混在」「共用スペース」「一階に店舗がある」「入居者がITエンジニア限定」「木造」など、この物件の魅力の感じ方は人それぞれでしょう。ただ、暮らしの多様性、生き方や地域への関わり方が増えていることは確かです。成熟した街・自由が丘に、今までにない木造の建物ができ、若い世代/才能がともに暮らす。街をよりすてき・魅力的にするような、そんな化学反応が起きるのではないでしょうか。
●取材協力
内海彩建築設計事務所 内海彩さん
所在地:台東区台東
所在地:国立市東千葉県松戸市にある「omusubi不動産」。一般的な不動産会社は物件への入居希望者と物件をマッチングし、契約を結ぶところまでが仕事だが、同社の場合はむしろ契約してからがスタート。入居者や地域の人たちと一緒に田植えを行うなど、ユニークなアプローチでコミュニティづくりを行っている。
「お米づくりとコミュニティ形成は似ている」と言うomusubi不動産の殿塚建吾さん。その共通点やコミュニティづくりにおける具体的な仕掛け、また、10年にわたり関わり続けている千葉県松戸の街がどう変化してきたかなど、じっくりお話を伺った。
――「omusubi不動産」では、物件の入居者や地域の人たちと田んぼを管理し「お米づくり(田植え、稲刈り)」などを行っています。まず、そもそもなぜお米づくりだったのか、経緯から教えてください。
殿塚建吾(以下、殿塚): うちは祖父の代から不動産会社(omusubi不動産とは別会社)を営んでいて、将来は自分も不動産業に関わるんだろうなと漠然と考えていました。一方、母方は農家だったこともあって、田舎での自給自足の暮らしにもなんとなく憧れを持っていたんです。
そこで、不動産業と田舎のライフスタイルを融合したような働き方ができないかと思い、2012年に「自給自足」をテーマにしたトークイベントやワークショップなどを行う「green drinks松戸」を立ち上げました。同時に、知人から紹介してもらった千葉県白井市にある田んぼで米づくりに挑戦してみることにしたんです。

omusubi不動産の殿塚建吾さん。幼稚園のころから松戸で育ち、新卒で中古マンションのリノベーション会社に就職。その後、企業のCSRプランナーを経て、房総半島にある古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候。2011年の東日本大震災を機に松戸へ戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」に参加。2014年、「omusubi不動産」を立ち上げる(写真撮影/松倉広治)
――その後、2014年に「omusubi不動産」を立ち上げていますが、最初から入居者のみなさんと一緒に田んぼをやるつもりだったんでしょうか?
殿塚:いえ、当初はあくまで僕の個人的な活動として、地元の農家さんに手伝ってもらいながら田んぼをやるつもりでした。でも、たまたま田んぼに遊びにきた近所の人が家探しをしていて相談に乗ったり、逆にomusubi不動産で仲介した入居者さんが田んぼに興味を持ったりと、両方が結びつくようになっていって。次第に多くの人が田んぼに集まるようになりましたね。その時に、お米づくりってコミュニティをつくるのにすごく適しているんじゃないかと思ったんです。それから、会社のイベントとして参加者を募り、希望する入居者の方に田植えや稲刈りに参加してもらうようになりました。

千葉県白井市にある田んぼ。母方の祖父母の家からも近く、縁を感じたそう(画像提供/加藤甫)
――お米づくりのどんなところがコミュニティ形成に適していると思いますか?
殿塚:お米づくりは自然との戦いでもあります。人間一人きりでは、とても厳しい自然と対峙することはできません。田んぼをやっていると、自然相手には到底ひとりで生きるのは無理だろうなと嫌でも感じます。だから、大昔の先人たちも、みんなで力を合わせて田んぼを守り、お米をつくってきたのだと思います。
そういう意味では、米づくりはコミュニティの原点と言えるかもしれません。実際、「omusubi不動産」も田んぼを通じて入居者さん同士はもちろん、地域の方々も含めた豊かなコミュニケーションが生まれる、きっかけになっています。
空き家を「DIY可の賃貸」として貸し出し
新京成線・みのり台駅から徒歩6分の「omusubi不動産」。omusubiの頭文字である「O」には、「Organic(食べもの、身につけるものの素材や人のつながりも有機的に)」「Old(古くても懐かしいもの)」「Ourselves(身の回りのことはできるだけ、自分自身で)」「Originality(それぞれの個性やオリジナリティを尊重すること)」。この4つの“Oを結ぶ”存在になりたいという意味が込められている(写真撮影/松倉広治)
――omusubi不動産では、古民家やレトロな団地、空き家などを積極的に取り扱っています。古い建物の利活用に注目したのはどうしてでしょうか?
殿塚:祖父母の家が古民家のような造りだったこともあり、もともと古い建物に愛着がありました。それに、まだ使える空き家を取り壊し、新しく建て替えるのはもったいないと感じていたので、自分が不動産の世界に関わるなら既存の建物を活かしたいと思ったんです。新卒で中古マンションのリノベーション会社に入ったのも、それが動機ですね。
――既存の物件をそのまま貸し出すのではなく、「DIY可能」や「シェアOK」といった付加価値をつけているのも特徴ですよね。
殿塚:もちろん、こちらでリノベーションをして物件の魅力を高め、高い賃料で貸すという方法もあります。でも、それが通用するのって高額家賃でも借り手がつく都心部だけで、松戸のような場所だと賃料をそこまで上げることは難しいですよね。だったら、入居者さんご自身が自由に改修できる「DIY可能物件」として貸してしまえば、オーナーさんも改修コストがかかりませんし、入居者側も「自由に物件が使える」「安くDIYを始められる」など、双方にメリットがあるだろうと考えました。
実際に借りてくださっているのはデザイナーやイラストレーターなど、クリエイターの方が多いですね。他には、DIYに挑戦したい公務員の方などもいます。ちょっと変わったタイプの物件なので、それに共感してくれるユニークな感性を持った人が多いように思います。
――ちなみに、空き家はどう探していますか? また、そのオーナーとどうやって知り合うのでしょうか?
殿塚:改修費の負担が大きい古い建物って市場になかなか出てこないので、足で探すしかありませんでした。よさそうな建物を見つけたら、役所で所有者を調べてお電話したり、建物にお手紙を投函したりして、本当に地道な活動です。ただ、今では知り合ったオーナーさん側から所有物件のご相談をいただくこともありますし、月に100件以上は見つかるようになりました。なかには、これまで空き家を積極的に活用する気はなかったけど、「街が面白くなるならいいよ」と快く貸してくださるオーナーさんもいましたね。

居酒屋の廃業を機に、オーナーさんから預かった物件。今ではお蕎麦屋や革製品のアトリエが入居している(写真撮影/松倉広治)
――その結果、「DIY物件」の取り扱い数が日本一になったと。ちなみに、空き家を取り扱う上での苦労みたいなものはありますか?
殿塚:たとえば権利関係なども物件によりさまざまですし、空き家の場合は前オーナーの荷物や家具などがそのままになっていることもあります。一般的な賃貸物件のようにマニュアル通りに進められることはほとんどなく、個別に問題を解決していかなければいけないのは空き家ならではだと思いますね。
子どものころから憧れていた建物を再生――住居以外にクリエイティブスペースも手がけられていますが、特に面白いのが「せんぱく工舎」です。古い社宅にクリエイターが集まるこのスペースは、どういう経緯で誕生したのでしょうか?
殿塚:ここは、もともと船の会社が持っている築60年の社宅でした。僕の母校の近くにあったので、学生の頃からカッコいい建物だなと思っていたんです。大人になり、松戸に戻ってきてから改めて見てもその印象は変わりませんでした。長く空き家でボロボロな状態ではありましたが、400平米もの大きなスケールの建物ですし、うまく活用できたら街のランドマークになるんじゃないかと。
そこで、オーナーである神戸の会社に手紙を出し、協議を重ねた結果、現在のような形で使わせてもらえることになったんです。

「せんぱく工舎」。改修中の部屋からは阪急ブレーブスのブーマーが満塁ホームラン打ったときの新聞が出てきたそう(画像提供/omusubi不動産)
――改修はかなり大変だったのでは?
殿塚:外観は刷新しましたが、内部はDIY物件として貸す前提で、最低限の改修のみ行いました。そのぶん家賃を抑えて、入居者さんが好きに手を加えられるようにしています。余談ですが、改修する時って建物を布で囲うじゃないですか。なので、地域の人は布で囲われた様子を見て解体が始まったと思いきや、囲いが外されるやいなや綺麗な外観に生まれ変わっていてビックリされていましたよ。

オーナーとの交渉から2年後にオープン。1階にはカフェやスコーン屋、本屋、スペインバル、劇団の事務所、2階にはクリエイターの工房が入る(画像提供/omusubi不動産)
――部屋数も多く、立地的にも満室にするのは大変だったと思います。どのように入居者を集めたのでしょうか?
殿塚:リノベーションしたとはいえ、古い建物には変わりません。なので、一般的なスペースとは異なることを理解してもらうために、完成前からSNSでの告知に力を入れたり、内覧ツアーを組んだりしていました。また、廊下を塗ったり、外にウッドデッキをつくったりするワークショップなども定期的に行い、みんなで協力しながら少しずつ街に開いていきました。そうした取り組みのなかからさまざまなつながりが生まれ、最終的には多くの人に借りていただくことができましたね。
――DIY賃貸物件の場合、特別な入居の審査はあるのでしょうか?
殿塚:「せんぱく工舎」は何かにチャレンジしたい人、叶えたい夢がある人の土台になる場所だったり、クリエイティブな活動を始めたい人の学校のような場所にしたいと考えていますので、そうした方々を迎えています。実際、面白い人が多いと感じますし、さまざまな才能が集まることによる化学反応みたいなものも生まれていますよ。
例えば、omusubi不動産の事務所がある「あかぎハイツ」に出店しているキッチンカーは、オーナーも車をデザインしたデザイナーも、ロゴを描いたイラストレーターも全て、「せんぱく工舎」の入居者だった方々です。業種もスキルもバラバラな入居者同士が新しいプロジェクトを生み出したり、退去後もつながって一緒に街で活動してくれるのは、とても嬉しいですね。それに、そうやって面白い人が一箇所に集まりコラボすることで様々な仕掛けが生まれ、街自体の魅力も高まっていくと思うんです。
――「せんぱく工舎」では街に開いたイベントも行っていますよね。
殿塚:月に一度の「ゆるっとオープンデー」というイベントでは、入居者同士がコラボ料理を開発したり、2階のクリエイターが個展を開いたりしています。また、以前は入居者さんの発案で生まれた「おもかじ祭」や「とりかじ祭」というイベントに紐づけて、街なかを巡るイベント「やはしら日々祭」を同時開催したこともあります。

1階のベルエンザイム、星子スコーン、せんぱくブックベース、エルアルカと、2階のTransMeatがコラボした「せんぱく弁当」(画像提供/omusubi不動産)
――殿塚さんはそうした「せんぱく工舎」のイベントだけでなく、2018年からは国際芸術祭「科学と芸術の丘」の企画・運営にも携わっています。そうしたイベントや、これまでの活動の結果として、松戸の街自体が盛り上がってきたと感じますか?

松戸市で行われる「科学と芸術の丘」では国の重要文化財である「戸定邸」のほか、松雲亭、戸定が丘歴史公園にて、国内外のアーティストによる作品展示やトークイベント、ワークショップを開催(画像提供/加藤甫)

今年は初年度のようにマルシェも開催予定とのこと(画像提供/加藤甫)
殿塚:僕の活動の成果どうこうは置いておいて、松戸がどんどん面白くなっているのは間違いないですね。「せんぱく工舎」がオープンしたのと同時期に、シェアカフェがオープンしたり、都内にある有名な本屋がなぜか松戸に出店してきたりと、面白いお店が一気に増えています。
それに、数年前に比べて「この街で何かを始めたい」と考える人が増えたように感じます。以前は松戸で新しい試みを始める時には、まず我々に声がかかり、何かしらの形で関わることが多かったんです。でも、今は僕らと全く関係のないところで人が集まり、どんどん面白い動きが始まっている。街がイキイキと動き始めた感じがして、とても喜ばしいことだなと。
これまでのように僕らが声をあげて「松戸にきませんか?」「一緒に楽しいことしませんか?」と呼びかけなくても、まちの外の方から松戸を面白がって来てくれるようになったのは、大きな変化だと思います。

2020年には下北沢の「BONUS TRACK」でコワーキングスペースの運営。さらに昨年からは東急が手掛けている、学芸大学の高架下活用プロジェクトなど、松戸以外にも活動の幅を広げている(画像提供/加藤甫)
――不動産会社の枠を超え、どんどん活動の領域が広がっていますが、今後はどのようなことにチャレンジしていきますか?
殿塚:これから注力していきたいのは「人が集まって暮らすことの再構築」。つまり、コミュニティをリノベーションすることです。単に住居や活動の場所を用意するだけではなく、そこに住む人たちや集まる人たちが楽しく幸せに過ごせたり、そこで何かをやりたいクリエイターが力を発揮しやすい環境を整えること。もちろんこれまでにも取り組んできたことですが、より意識的に取り組んでいけたらと考えています。

(写真撮影/松倉広治)
――そして、お米づくりも続けていくと。
殿塚:そうですね。コミュニティーづくりって、田んぼへの向き合い方と似ていると思うんです。田んぼも、苗が育ちやすい環境を整備することがとても重要で、場づくりと全く同じですよね。管理する人がしっかり手をかけないと、良いコミュニティは育っていかない。お米づくりをしていると、改めてそのことに気付かされますね。そうした原点を忘れないためにも田んぼは今後も続けながら、コミュニティのリノベーションの事例を増やしていきたいです。
●取材協力
omusubi不動産
東京都が2025年4月から新築住宅に太陽光発電の設置を義務づけるという基本方針を決めた。このニュースはかなり話題になり、都民の声は賛否両論だった。都内で新築住宅を建てたり買ったりする場合、必ず太陽光発電を設置しなければならなくなるかというと、そういうわけではない。詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」の策定について/東京都
東京都では、「2050年ゼロエミッション東京」の実現に向け、「2030年カーボンハーフ」を表明している。2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)=「カーボンハーフ」するために、さまざまな施策を打ち出している。今回、東京都が策定した「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針(案)」に盛り込まれたのが、2025年4月からの新築住宅への太陽光発電の設置義務化だ。
都内のCO2排出量の32.3%を家庭部門(住宅)が占めているが、単身世帯の増加により都内の世帯数が増えていることもあって、業務部門や運輸部門等ではエネルギー消費が減っているのに対し、家庭部門だけは増え続けている。
そこで、住宅の省エネ化を推進しようと考えられたのが、「東京ゼロエミ住宅」。東京の地域特性などを踏まえて、都が独自に定めた高い断熱性能をもった断熱材や窓を使って、省エネ性能の高い家電製品などを取り入れた住宅だ。東京ゼロエミ住宅を支援する補助金の制度なども設けてきた。
一方で、都内の建物の屋根にも着目した。都内には、住宅の敷地が狭くて屋根が小さかったり、住宅が密集して隣家の陽当たりを確保するために屋根が変則的な形になったりする場合も多い。そうなると太陽光発電設備を設置しても、十分な発電量が得られないことから、「東京ソーラー屋根台帳(ポテンシャルマップ)」を公開するなどしてきた。地図上のどの建物の屋根に太陽光発電を設置すれば、どの程度の発電量が見込めるかわかるというものだ。ただし、設置に適しているとする建物のうちの4.24%しか設置されていないのが実情だ。
そのため、太陽光発電の搭載に適した建物には極力設置しようと考えて、新築住宅への義務化に舵を切ったのだ。
設置の義務を負うのは誰?すべての新築住宅に設置しなければならない?太陽光発電の設置義務化について、さまざまな疑問が湧くだろう。1つずつ詳しく見ていこう。
疑問1:設置する義務があるのは誰か?
注文住宅の建設事業者や建売住宅を新築分譲する事業者が対象で、都内に一定以上(年間の都内供給延床面積が合計2万平米以上)の建物を供給する50社程度が義務化の対象となる見込みだ。
疑問2:日当たりの悪い住宅や狭小な住宅でも設置しなければならない?
義務化の対象となる大手の住宅供給事業者には、供給棟数に応じた再エネ発電量の総量が求められる。各事業者は、その総量を達成するために、新たに供給するどの建物に太陽光発電を設置するかを判断していく。設置に適さない住宅(算出対象屋根面積 20 平米未満など)については、設置基準算定から除外可能としている。
疑問3:太陽光発電設備を設置するとどんなメリットがある?
東京都の資料によると、4kWの太陽光パネルを設置した場合、初期費用98万円が10年(現行の補助金を活用した場合6年)程度で回収可能。30年間の支出(※)と収入を比較すると、119万円程度(現行の補助金を利用した場合は159万円程度)の経済効果がある計算になる、という。
※専門業者による「点検」や発電した電気を家庭で使えるように変換するための「パワーコンディショナーの交換」などの費用を支出に加算。ただし、設備をリサイクルする際には、別途30万円程度の費用が発生。
住宅供給事業者が太陽光発電に適していると判断した住宅については、事業者が設置のメリットなどを丁寧に説明して、注文住宅の施主や新築分譲住宅の購入者は納得したうえで建てたり買ったりすることになるだろう。
住宅所有者のメリット・デメリットと今後の課題さて、義務化により太陽光発電設備が設置された住宅の所有者は、原則として、その設置費用や使用する間のメンテナンス費用、最終的に廃棄(またはリサイクル)する際の費用などを負担することになる。売電収入で補う方法が先ほどの東京都の試算だ。
一方、固定価格買取制度による電力の買取価格は下がっている。逆に、さまざまな要因で電力会社の電気代は上がっている。そのため現状は、発電した電気を売るよりも自宅で使うことで節約する人の方が多い。自宅で使う場合には、発電しない夜間に電気を使えるように家庭用蓄電池も設置する必要があり、それには別途の費用もかかる。
ただし、災害などで停電になった場合でも、日中は太陽光発電により、夜間や雨天は蓄電池により、自宅で電気を使うことができる。いわゆる災害に強い住宅になるわけだ。
環境省の「太陽光発電設備の導入意向に関するアンケート調査」(2018年10月実施)の結果を見ると、太陽光発電設備を導入したい理由としては、「発電された電力を自宅で使用することで電気料金を節約するため」が最も多く、「地球環境への貢献」と「売電収入」が続き、「災害、停電時の非常用の電源とするため」の順となった。
一方、導入を希望しない理由としては、「初期投資費用が高いため」が最も多く、「投資回収年数が長い」と「設備が壊れたり修理やメンテナンスで高額な費用がかからないか不安」が続き、「買取価格が下がるなどでどれくらいの年数で投資が回収できるか不安」の順となった。
いずれにしても、投資回収期間が長くなるので、その間の電力買取の仕組みを安定させること、初期投資費用を抑えられるように支援制度を用意すること、設備の廃棄・リサイクルの仕組みを整備することなどが必要となる。初期費用を抑える方法として、補助金などのほかに、都ではリースや屋根貸しなどの手法も推し進めたい考えだ。

出典:東京都「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針(案)」より転載
東京都は2022年12月の第4回都議会定例会で条例改正案を提出し、議決後2年程度の準備・周知期間を設けたうえで、2025年4月の施行を目指すとしている。支援制度などの詳細はその間に決まるだろう。
一方、政府も「2030 年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」としている。太陽光発電設備などの設置を推し進める方針なので、家庭で発電した電力を安定して買い取る仕組みづくりに力を入れてほしい。
●関連サイト
東京都:「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」の策定について
東京都:カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針等の制度改正に関する情報
東京都:「東京ソーラー屋根台帳」(ポテンシャルマップ)
所在地:練馬区北町東武東上線の北池袋駅(東京都豊島区)から徒歩10分ほどの場所で活動する「かみいけ木賃文化ネットワーク」。活動の中心は昭和に建築された3つの木造賃貸建築物。コミュニティづくりやアートワーク、オフィス、住居などに利用し、訪れる人や住まう人たちがゆるやかに活動をする繋がりをつくり上げています。
そのようななか、2022年1月に新たなスペースとして「喫茶売店メリー」をオープン。まちなかに住む人々とのつながりが変化したそうです。一体どのように変わったのでしょうか。
巨大ターミナル駅・池袋駅の1つ隣にある、東武東上線の北池袋駅。周辺には低層住宅が所せましと並び、大都会である豊島区・池袋とは思えぬ穏やかな時間が流れます。駅から住宅街を10分ほど歩いていくと、昔ながらの木造の建物「山田荘」「くすのき荘」「北村荘」が見えてきます。戦後、「木賃(もくちん)」と呼ばれる、狭い木造賃貸アパートが多く建築されたこのまちで、ネットワークをつくりながら”木賃文化”を盛り上げているのは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を運営する、山本直さん・山田絵美さん夫妻。

実家である「山田荘」について、思いを話す山田絵美さん(写真撮影/片山貴博)
「かみいけ木賃文化ネットワーク」は木造賃貸アパートをどう面白く活用するかを徹底的に考える活動。活動のきっかけは、山田さんが両親から受け継いだ「山田荘」でした。
「『山田荘』は、もともと私の実家が、賃貸アパートとして運営していた建物です。とはいえ、狭くて古い建物を住まいとして貸し続けることには限界があると感じていて。私が受け継ぐ時に、この建物を『もっと良く活用ができないものか』と考え始めたんです」(山田さん)

1979年築の木造賃貸アパート「山田荘」は、昔ながらの風呂なし・トイレ共同で、4畳半の部屋が並ぶ6室構成。随所に古き良き面影を残しながらも、綺麗にリフォームされています。入口では愛らしい人形がお出迎えする(写真撮影/片山貴博)
「山田荘もそうですが、かなり築年数の進んだ木造アパートなどは、現代の建物と比べると機能も足りてないところが多いんですよね……。風呂なし、トイレ共同、洗濯機置き場がないというのがおおむねスタンダードです。でも暮らしの全てを、自分の住むスペースでまかなうのではなく、まち全体を1つの『家』に見立てれば、いろんな暮らし方ができるんじゃない?と思うのです。台所がないなら食堂へ。お風呂がないならば、銭湯へ。アトリエがないならばガレージへ。庭がないならば公園へ――古き良き木造建築物を楽しんで生かし、”足りないことはまちなかで補い、まちの人や暮らしとゆるく繋がろう”ということを目指しています」(山田さん)
アーティストの拠点として、木造賃貸アパートの居室を利活用こうした活動に至ったのは、山田さん自身が、豊島区内で実施していたアートイベントとの出合いも影響していたようです。2011年ごろから、東京都や豊島区は「としまアートステーション構想」という、地域資源を活かした「アート」につながる活動をする場づくりをしていました。その一環で山田荘のアパートの一部を、美術家である中崎透さんの滞在制作場所として提供しました。

アーティストなどに賃貸している山田荘1階の入口部分(写真撮影/片山貴博)
「山田荘をプロジェクトで活用してもらえることはうれしかったですね。この建物は、古い木造建築物で、当時の建築基準法に沿ってつくられており、現行法では既存不適格です。そのため、これを壊すことなく同じ形で、建物そのものが持つ良さを文化として残したいという思いもあったので、これはチャンスだと感じました」(山田さん)
3つの拠点を行き来することで、新たな出会いと交流が生まれる「山田荘」の、居住する以外の活用方法を通じて、おもしろさを実感した山本さん・山田さん。
「そうしたら、自然と空き物件が目に入るようになったんです(笑)」(山田さん)
その後、2016年に「山田荘」から徒歩5分ほどの位置にある「くすのき荘」を借り、2020年には「北村荘」を借りることとなりました。

運送会社が使用していた建物を改修した「くすのき荘」。右横にはくすのき公園があり、まるで庭のよう(写真撮影/片山貴博)
運送会社の名残を残す「くすのき荘」は、1975年築の2階建て事務所兼住居建物です。隣にはくすのき公園があり、あたりには気持ちの心地の良い穏やかな時間が流れています。
運送会社時代に倉庫として使用されていた天井の高い1階スペースは、メンバー制のシェアアトリエとして利用。2階は、山本さん・山田さん夫妻の居住スペースのほか、メンバーのシェアリビング、シェアキッチンとしても開放。時折開かれるイベントには、近所に住むメンバー外の人も訪れることもあり、まさに「まちのリビング」として、思い思いの時間を過ごしています。

1階にあるメンバー制のシェアアトリエ。大学生がアート作品の制作をしたり、アーティストがワークショップを開いたりと、それぞれの活動を繰り広げている(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアスペースは、勉強に使ってよし、食事してよし、と使い道は自由自在。時折イベントやワークショップも実施されている(写真撮影/片山貴博)

看板猫がのんびりと同居中(写真撮影/片山貴博)
一方、2020年に活動開始した「北村荘」は一見すると一軒家のようですが、1階・2階にそれぞれ玄関があり、スペースが区切られている2階建ての木造賃貸アパート。1階は住人たちのコミュニティスペース、2階はシェアハウスになっています。
「1964年築のこの建物は、山田荘と同じく、旧耐震基準の建物です。やはり一度壊したら同じ形での再建築は不可です。私たちが山田荘に対して感じていたことと同じように、不動産屋さんからも『この建物を壊すことなく活かす方法を探している』と相談をいただき、引き受けることにしました」(山田さん)
その後、耐震改修を加え、内装をDIYで改装し、「北村荘」は再生されたのです。

「北村荘」への入口は昔ながらの細路地(写真撮影/片山貴博)

1階のコミュニティスペース、2階のシェアハウス(居住スペース)にはそれぞれに別の玄関がある(写真撮影/片山貴博)

DIYのワークショップを行いながら改装した「北村荘」1階のコミュニティスペース。”日常生活の中で探求する場”として研究活動や、ワークショップなどが行われている(写真撮影/片山貴博)
「3つの建物は、コンセプトも用途も異なりますが、利用者は居住者やご近所さんだけでなく、遠方から”何か楽しい集まり”や”出会い”を期待して足繁く通う人もいます。また、それぞれの拠点を行き来する使い方もあります。そうすることで新たな出会いや交流が生まれますね」(山田さん)
コロナ禍で、半径500m圏内のご近所付き合いを実感「開けたまちのスペース・まちの人同士をつなぐ場でありたい」という願いがありながらも、「メンバーシップ制」のため、どうしても仲間うちの閉じた活動になりやすいことが悩みだったそうです。
「活動をするメンバーは、”アート”をきっかけに興味を持った人のほか、豊島区近郊ではなく、首都圏内広くから、さらにはそれより遠方から通うクリエイターさんもいて。特に『くすのき荘』はガレージの奥が深く、常にオープンしていたわけではないので、近所の人たちからは『一体あそこで何をやっているのだろう?』と思われがちだったんです」(山本さん)

子どもが気軽に楽しめるようにと、駄菓子やおもちゃも販売(写真撮影/片山貴博)

隣にあるくすのき公園で遊ぶ人も(写真撮影/片山貴博)
そんななか、2020年からのコロナ禍で状況が大きく変化しました。
区外の離れた場所からコミュニティスペースに通えなくなる人が増加した一方で、人々の活動範囲が狭められ、半径500m圏内の生活濃度が上がったのを実感したそうです。
これを機に、『くすのき荘』を、地域の人たちと繋がるためのもっと”開けた場”にし直そうと決意。いつでも誰でもふらっと足を運び、気軽におしゃべりしたり、交流する” 半径500m圏内の憩いの場”にするべく、リニューアルすることにしたのです。
特別な店ではない 日常の延長にある「喫茶売店メリー」をオープン山本さんは、リニューアルにあたって「喫茶売店メリー」を設けることを決めます。
「喫茶というよりも、イメージは『公園にある売店』といった感じのものを考えていました。ガレージを開放した状態だと、隣にあるくすのき公園と地続きになり、自由に行き来ができる。そういうつくりにして、『喫茶売店メリー』が”街の一角である”ことをイメージさせたかったのです」(山本さん)

(写真撮影/片山貴博)

正面の通りからも、ガレージ側からも購入ができる開放的なキッチンカウンター(写真撮影/片山貴博)
やはり、まちの人にとって「こんな開放的な場所があるのね!」と知ってもらい、いつでも足を延ばしてほしい、という思いがあるゆえなのでしょう。
「このエリアにはお年を召した方も多く住んでいます。若い単身者や外国にルーツを持つ人も多く、まさに多種多様です。さまざまな人にとって魅力的に感じ、いつでも気軽に訪れることができるコンテンツは何か?と考えた結果、カフェという答えに行きつきました。でも僕自身は今までカフェなんてやったことなかったんですよ。だから本当にイチから勉強で、試行錯誤もいいところです(笑)。
最初はレシピやメニューをつくるにも、何からすればいいか分からなかったんです。なので、近所に住む台湾人の料理人のおじさんに教えてもらい、看板メニューであるルーローハンをつくったんですよ。おかげさまで彼はよく顔を出してくれます」(山本さん)

看板メニューのルーローハンとアイスコーヒー(写真撮影/片山貴博)
カフェを増築するにあたっては、山本さんと旧知の関係である建築事務所「チンドン」主宰、建築家の藤本綾さんが設計を担当しました。

設計を担当した藤本綾さん。施主である山本・山田さん夫妻の想いや願いを聞きながら一緒につくり上げていくことが新鮮かつ楽しかったそう(写真撮影/片山貴博)
「中をのぞけば楽しそうにしている方たちがたくさんいるのに、外部から中の様子が見えづらいことで、入りづらさを感じて。開放的な場所づくりを意識し、建物の大きな扉を開けるとコンパクトな売店が出現する設計にしました。テイクアウトで使えるような小さな窓口を設けることで、通りを歩く人との接点がつくりやすいようにしています」(藤本さん)

通りからフラッと入れる入口ゆえ、この日も台湾人のおじさんが顔を出す(写真撮影/片山貴博)
ゆるく交わるオープンスペースの連続性で、都心の街並みは変わる2022年1月に「喫茶売店メリー」がオープンしてから、半年以上が経過。内輪感のある空気にひそかに頭を悩ませていた山田・山本さん夫妻は「顔ぶれに変化が生まれた」と話します。

開放的なガレージ部を利用した喫茶スペースに開店と同時に人が集う(写真撮影/片山貴博)
「ワンちゃん連れのお客さんが散歩の途中でコーヒーを買ってくれたり、ベビーカーで赤ちゃんを連れたファミリーが公園に寄る途中で訪れてくれたりすることが増えましたね。あと、たまに小学生がフラっとガレージに紛れ込んでくるんです。何気なくベンチで休憩していて(笑)。そういうのが楽しいですよね。まちの居場所として思ってもらえているんだなと」(山本さん)
これまでに「かみいけ木賃文化ネットワーク」の活動にアドバイスしてきた、「まちを編集する出版社」千十一編集室の代表・編集者の影山裕樹さんは、今回「喫茶売店メリー」オープンに伴い、クラウドファンディングの立ち上げから、コピーライティング、コンセプトの考案などのディレクションに携わりました。その時のことを思い出しながら、こう話します。

まちのコミュニティについて研究を続ける影山さんは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を支える重要な存在の一人(写真撮影/片山貴博)
「昔は、角のタバコ屋のようにちょっとした憩いの場ってありましたよね。いまでも都市公園にある、気の抜けた売店みたいな場所があり、そこに集う人々は飲食や休憩、遊具の購入などいろいろな目的を持って訪れています。ですが、現代の都市空間においては、経済合理性が優先され、お店の機能が限定されてしまっています。複数の機能を持ったゆるいスペースがなくなっているんです。そういう場所をつくりたかったので、今回のプロジェクトは渡りに船だなと感じました。また、東京の人たちは、自分の足元の半径500mのコミュニティとの繋がりがほとんどなく、せいぜいコンビニや居酒屋とかしか行かない。こうした狭い範囲で暮らす人が多様な人と関われる場所にもしたくて、”公園の売店のようなお店”だとか、”開けっぱなしの客席”というコンセプトにつながりました」(影山さん)
上池袋のまちを中心とした、「木賃文化」のことやご近所付き合いについても、続けてこう話します。
「このエリアは木造密集エリアとして知られ、火事などの災害に弱い反面、木貸アパートが持つゆるやかなご近所づきあいという、文化的遺伝子を持つエリアでもあります。都市開発において、木造賃貸アパートは次第に淘汰されていく運命ですが、高度成長期は地方都市からの上京組が、その時代を経て、日本へやってきた外国人や単身者が暮らし、家族とは違うコミュニティを形成してきました。こうしたご近所さんとのゆるやかなつながりを生み出す仕組みを、現代に引き継ぐというのが木賃アパートの価値だと思います。こうしたソフト面でのまちづくりは現代の東京に必要な視点だと思いますね」(影山さん)

くすのき荘オープン時に募ったクラウドファンディングのリターンの1つ、中崎透制作の看板たち。地域の応援でこの場所は支えられている(写真撮影/片山貴博)
「カフェができることによって、出入り自由のオープンな雰囲気がより強くなったと思います。こうした空気感のある中で生まれる小さなつながりが、徐々に広がっていくと、きっと住みやすい街になっていきそうですよね」(山本さん)
「かみいけ木賃文化ネットワーク」内にもたらされた、「喫茶売店メリー」オープンという変化は、都市のソーシャルな課題を解決するために多くの人に知ってほしい、”小さくも大きい出来事”だったのではないでしょうか。
●取材協力
・かみいけ木賃文化ネットワーク
所在地:世田谷区成城
所在地:文京区千駄木
所在地:東京都中央区日本橋本町
所在地:北区中里
所在地:北区中里
所在地:渋谷区神宮前
所在地:三鷹市下連雀
所在地:港区南青山
所在地:文京区小石川
所在地:世田谷区下馬
所在地:武蔵野市緑町
所在地:千代田区神田神保町
所在地:豊島区長崎大分県といえば「日本一のおんせん県」をうたっているが、豊後大野市(ぶんごおおのし)には温泉が、ない。その状況を逆手にとり、2021年に「サウナのまち」を宣言した。現在、官民一体となってサウナを盛り上げている。
鍾乳洞サウナ、清流に“ドボン”できるサウナなど、自然の地形を活かしたアウトドアサウナが市内だけで5カ所。バラエティの豊かさからSNSなどで注目を集め、県内外のサウナーたちがこぞって足を運んでいる。
この「サウナのまち」の仕掛け人が、宿泊施設「LAMP豊後大野」支配人であり、アウトドアサウナ協議会「いいサウナ研究所」所長でもある高橋ケンさんだ。茨城県守谷市出身、東京都内での仕事を経て、豊後大野市に移住した高橋さん。豊後大野での暮らしなどについて、移住のリアルな話を伺った。

「REBUILD SAUNA」、宿泊施設「LAMP豊後大野」支配人の高橋ケンさん。豊後大野市内に点在するアウトドアサウナをとりまとめる協議会「いいサウナ研究所」の所長でもある(写真撮影/衞藤克樹)
“サウナ嫌い”から開眼。3年で九州一アウトドアサウナの多い地域に東京の広告代理店、株式会社LIGの地方創生チームのメンバーだった高橋さんが豊後大野市に足を踏み入れたきっかけは、大分県での移住定住イベント。そこからあれよあれよという間に山あいにある廃校跡地の委託事業を任され、2017年に宿泊施設「LAMP豊後大野」を開業。自身も移住することになった。

元小学校跡地に立つ宿泊施設LAMP豊後大野。木組の外観はドイツ建築の雰囲気が漂う(写真撮影/衞藤克樹)

看板には、豊後大野の特徴でもある祖母傾国定公園の山々が描かれている。「REBUILD SAUNA」は施設内に設置されている(写真撮影/衞藤克樹)

日光がたっぷり入り込む明るい施設内。手づくりのガーランドほか、アート作品などが散りばめられ、ぬくもりのある雰囲気を演出している(写真撮影/衞藤克樹)
「当時はサウナ嫌いだったんです」と話す高橋さんが、なぜ現在は、まちのアウトドアサウナ施設をとりまとめる協議会「おんせん県いいサウナ研究所」所長にまでなったのか。そのはじまりは移住3年目の2018年、宿泊施設にお客さんを呼ぼうと、必死で集客方法や宣伝方法を模索していた時期だった。
ある日、LIGの同僚で、のちに長野県信濃町でThe Sauna(LAMP野尻湖内)を立ち上げた野田クラクションべべーさんにサウナへ誘われた。「その時は、ただ熱いのを我慢するものだと何も魅力を感じていなかったんです」と振り返る。当然、野田さんの勧めを断ろうとしたが、あまりの熱意に負けて、「ウェルビー福岡」(福岡県福岡市)で初めてのサウナ体験をすることになった。
野田さんに言われるままにサウナの流儀(サウナ→水風呂→休憩)に従っていると、あきらかにこれまでと違う感覚、“ととのい”が訪れるのを感じた。大分への帰り道でも、自分の身体がまだポカポカと温かく、「サウナって温泉みたい」と気付いた。「案外サウナっていいものなんだな」。目からうろこだった。1人でサウナへ通う楽しみができた。

(写真撮影/衞藤克樹)
そこから高橋さんのサウナ熱は加速していく。
豊後大野の「カフェパラム」オーナーとサウナ話で意気投合し、カフェの前に流れる清流を水風呂代わりにするアイデアで大盛り上がり。2019年にはテントサウナを張ってイベント開催するに至り、大盛況となった。さらに、それがきっかけで2020年7月はLAMP豊後大野内にフィンランド式サウナ「REBUILD SAUNA」を建設。同年3月にアウトドアサウナを市内に増やすべくサウナ協議会「いいサウナ研究所」も立ち上げ、2021年には自治体を巻き込み市をあげて「サウナのまち宣言」をするに至った。
高橋さんがサウナにハマってから、わずか3年のできごとだ。
地域、カルチャー、資源をリビルドしたサウナを中心に展開高橋さんが施設内につくった「REBUILD SAUNA」のサウナ小屋は、解体される長屋などの廃材を再利用し、本来捨てられてしまうものを利活用している。素人でもできる部分は、できる限りDIYした。
“再構築”と言う意味の「REBUILD」と名付けたのは、廃材活用をしているからだけではない。
尾平地区には、LAMP豊後大野のほか、鉱山事務所とおじいちゃん1人が住む住宅しかない。この地域の再生、自然を活かしたフィンランド式サウナの導入によって新しい文化を紡いでいきたい、という想いも込めている。

廃材の合板にボルトを打ち付けてつくったロゴ(写真撮影/衞藤克樹)

「REBUILD SAUNA」(写真撮影/衞藤克樹)

サウナ室(サ室)内。まだ九州では珍しい薪ストーブを使用。最大10名まで収容可能(写真撮影/衞藤克樹)

サウナ小屋のほか、広々とした外気浴スペースと、小学校のプールを活かした水風呂エリアがある。水風呂には、奥岳川の最上流部から水を引いている。透明度が高く、柔らかい水質は、温まった体をしっかり包み込み、キュッと肌を引き締めてくれる(写真撮影/衞藤克樹)

(写真撮影/衞藤克樹)

高橋さんは、職人さんから「大分県臼杵市の長屋が解体される」と聞き、自ら車を運転して資材をレスキューしに行った。廃材は、合板、トイレ、ライト、床材と、使えそうなものは全て利活用している(写真撮影/衞藤克樹)

透きとおった豊後大野の清流。この水が水風呂へと流れている(写真撮影/衞藤克樹)

(写真撮影/衞藤克樹)

シシ麻婆(1,200円)とオロポ(450円)。シシ麻婆は大分県産のイノシシ肉とスパイスが絶妙に絡み合う一品。どちらもサウナ後の栄養・水分補給にはもってこいのメニューだ(写真撮影/衞藤克樹)
「自然を活かしたサウナは、やはりほかで真似できないところが魅力ですね。その土地の空気感、外気浴で感じる風、におい。すべてが違っているんですよね」と語る高橋さん。
それでも、九州のほかのエリアにも、人気のサウナは数多い。豊後大野市まで足を運んでもらうためにはもっと工夫が必要だと考えて、アウトドアサウナの数を増やすことを思い立つ。まちのサウナ協議会「おんせん県いいサウナ研究所」を設立し、市内でのアウトドアサウナの立ち上げの促進や地域ブランディングにも力を入れることにした。
市内の各サウナのオーナー同士のつながりができたおかげで、県外からもさまざまな趣向を凝らしたアウトドアサウナを存分に楽しもうとサウナのはしごを楽しむお客さんが来るようになった。まち単位での大規模イベント「サウナ万博」も定期開催できるようになり、例年チケットは完売。今年(2022年)10月22日にロッジ清川で開催される「第3回サウナ万博in豊後大野」も、多くのサウナーたちが当日を心待ちにしている状況だ。
現在は、フィンランドと姉妹都市を結ぶべく市へ提案もしている最中だという。

「おんせん県いいサウナ研究所」に加盟しているサウナのひとつ「稲積水中鍾乳洞サウナ」。水風呂代わりに鍾乳洞へとダイブできる(写真提供/おんせん県いいサウナ研究所)

同じく「おんせん県いいサウナ研究所」加盟サウナ「Tuuli Tuuli」は、「REBUILD SAUNA」がきっかけで誕生した、カフェパラムのオーナーが運営するDIYサウナ。カフェの目の前に流れる清流が水風呂だ(写真提供/おんせん県いいサウナ研究所)
移住して変わった、自然への尊敬と危機意識中学生の頃からずっと「山に住みたい」という夢を持ち続けていた高橋さん。まさか大分県に住むとは思ってもみなかったそうだが、実際に訪れてみると、豊後大野の棚田の美しさに感動したという。「田んぼに水がはられて、その水面に夕陽が映る。夜空を見上げれば、天の川の星群を肉眼で見ることができる。四季の移ろいも、気温の上がり下がりだけではない、植物の変化で感じることができる。そういうひとつひとつのことに感動してしまう、大分県の自然のスケール感に心震える毎日です」と笑う。

九州を代表する祖母傾山。豊後大野市は九州で唯一「ユネスコ・エコパーク」と「日本ジオパーク」の両方に認定された自然が豊かな地域。水源も多いせいか、濃緑の山の連なりがひたすらに広がっている(写真撮影/衞藤克樹)

森林浴の森日本100選にも選ばれる川上渓谷。夏は川遊びをする人たちもちらほら(写真撮影/衞藤克樹)

山でろ過されて澄みきった水。大分県内でも豊後大野の水質はいいと評判だ(写真撮影/衞藤克樹)
一方で、環境問題について考えることが多くなった。
「例えば自然災害。雨が降って斜面が崩れるってことが田舎では本当に起きるんです。その時に、前はこんなところから水が出てたかな?と上の方を見たら木が伐採されていたのを発見したこともある。いかに人間のエゴで自然が犠牲になっているかを実感せざるを得ないし、地域の過去・現在・未来を自然から感じることで、自分たちが今からどうしなきゃいけないのか?と向き合うことも多くなりました」
出身地の茨城では都市部で生活していた上に仕事は東京。そのため当時は気がつかなかった問題が見えてきた。高橋さんは今、この集落を守るために、自然を守りつつ、どうすれば子どもから高齢者までが住みやすい環境になるかを真剣に模索している。
豊後大野市の幸福度を上げたい「大分県には、将来子どもたちのために自分たちは何を残せるかを考えている人、どのようにまちの課題を解決して、どんな未来を託すかを考えている仲間が結構います。そこがすごくいいなと思うし、それだけ、地域で生きるってことは、日本の未来に直結している問題と向き合っているなと自分自身で生活のなかでも感じます。

LAMP豊後大野のスタッフと談笑する高橋さん。スタッフはサウナ移住や地域おこし協力隊として働いている人たちが多く、この場所から独立して大分で働く人たちも多いそうだ(写真撮影/衞藤克樹)
東京では、自分の半径何kmだけしか見なくても生活はしていける。けれども地域では、地域共同体で考える必要があります。行政のやることでみんなの暮らしがリアルに決まっちゃうので、税収が少なくなれば、余生をそこで過ごせなくなって、中心地に移動せざるを得ない、みたいなことが現実として起こりえる。この集落を残すためには、ここにいる人たち個人の考えや行動ひとつひとつが本当に大事なんだと意識するようになりました。
そんななかで、なぜサウナをやるのか。それは、単なるサウナが好きという気持ちだけにはとどまりません。豊後大野の教育と福祉を充実させ、子どもから高齢者までが幸福度の高いまちにしたいと思っているからです。そうすれば、きっとこの場所はなくならない。だからこそ、もっと地元と外部との接点が必要で、そこからいいものを取り入れていく必要がある。サウナはその外の世界とのきっかけづくりに位置しているんじゃないかなと思っています」
高橋さんが豊後大野市に移住してから7年が経つ。
移住のきっかけは、ただ仕事のためだった。だが現在は「自分たちが暮らすまちのために」と大きく視点、思考が変化し、地元の仲間と共にいかにまちの暮らしをよくするか、問題解決の糸口を探っている。
「地域に愛着を持つということは、それと共に問題をも一緒に共有をしていくということでもあります。移住を検討している人は、それをわずらわしいと思うかどうかを、実際に何度か移住候補先へと通って先輩移住者の声を聞いてフラットに判断することが大切だと思います」と高橋さんは話す。
地域の共同体として生きる上で直面する問題は、決して1人で解決するものでないことを高橋さんの話を聞いて感じた。移住の決め手は、自分自身が一歩前に踏み出すことはもちろん、地域にどのような人が住んでいて、どう一緒に生活をしていくのかまで目を向け、手を横に広げることが大切なのかもしれない。
高橋さんは今日も豊後大野の愛する景色を守るべく、アウトドアサウナのハブとしてカルチャーを広めている。

高橋さんお気に入りの景色(写真撮影/衞藤克樹)
●取材協力
LAMP豊後大野
REBUILD SAUNA
おんせん県いいサウナ研究所
所在地:杉並区阿佐谷北
所在地:世田谷区代田
所在地:渋谷区恵比寿2023年春、日本の植物学の父・牧野富太郎博士を描いた朝ドラ(NHK連続テレビ小説)『らんまん』がスタートする。博士が生まれたのは、高知県の中西部にあり、高知市から車でおよそ40分の佐川(さかわ)町。同町はドラマの舞台として注目される一方で、「自伐型林業」というあまり聞き慣れない林業の先進地としても、実は熱い視線が注がれている。
安定収入が得られるうえに、空いた時間も副業などで有効活用できると言われる自伐型林業。今佐川町では、それに魅力を感じた若者たちが全国から移住してきているという。新しい林業で活気づきつつあるという町の実態を知るために、佐川町へ足を運んでみた。
町面積の7割を占める森を新たな産業の源に84%という全国トップの森林率を誇る高知県。佐川町でも町面積の7割を森が占める。さらにその7割が人工林でありながら、同町で林業は産業としてほぼ成立していなかった。かつての一般的な林業は、山林の所有者が森林組合などの事業者に管理を委託し、対象となる木を全て伐採する「皆伐」、あるいは木々を間引く「間伐」を必要以上に行う大規模型林業。ところが高額な投資の割には利益が上げづらいといわれ、担い手は減るばかりだった。
人が入らなくなった放置林は、地表に日光が届かず、下層の植物が育たない。大雨時には直接雨水が地表を流れ、土砂災害を誘発する。また大規模な皆伐、さらに大型重機を通す広い作業道の敷設は、放置したままの山で起こる災害以上の被害を発生させる恐れがある。これまでの林業を取り巻く環境は、採算性に加え、環境面でも多くの問題を孕んでいた。
2013年、佐川町の森を産業の源のひとつと考え、「自伐型林業」による林業振興を公約に掲げた堀見和道町長が就任する。「小規模投資で参入しやすく、利益も上げやすい。しかも雇用を生み、環境にもいい」とされる自伐型林業。近年全国50以上の自治体が導入支援を行っているが、堀見町政以降の佐川町ほど手厚い支援を行う自治体は少なく「佐川型自伐林業」として知られるほどになった。
従来型林業と、自伐型林業の大きな違いは伐採のスパンと規模だ。これまでの林業は、約50年のスパンで大規模に皆伐し、また造林する、というのを、場所を変え繰り返していくため、その規模に見合った大型な機械や作業道などへの投資が必要で、採算性に問題があった。その不採算を高額の補助金で補填している側面もあった。
自伐型林業は、一つの場所を100年から150年以上の長いスパンでとらえ、皆伐はせず、少しずつ伐採し長く利益を得ていく。従来型に比べ、機械や作業道への投資規模は小さくて済み、小さな法人や個人なども参入でき、採算化もしやすいため、補助金の補填も最小限で済むといった特徴があり、近年、注目されているのだ。

佐川町の人工林は約5000haあるといわれている(写真提供/斉藤 光さん)
メリット多き自伐型林業の魅力をさらに高める施策現在佐川町の林業家は、やり方次第では自伐型林業だけで300万円以上の収入を得ることが可能だ。それは佐川町が林業家に対して行う支援によって実現した。例えば佐川町では従事者に対してショベルカーなどの重機は一日500円でレンタルできる補助を行う。極端なモデルケースでは「自立支援金で購入した軽トラとチェーンソーがあればできる」といわれるほど初期投資は少なく、参入もしやすくなった。
またこれまでの林業は、前述のように約50年単位で大規模な伐採をしていた。しかしスギやヒノキにとってこの年数はまだ若く、高価格な建材としては出荷できず加工用として安く取引されてしまうことが多い。しかも次の伐採は50年後だ。
自伐型林業では、混み合った木々を間引いていく間伐を、森全体の2割で留める。これは伐採しても木が自然に増えていく森林成長率に即した割合だという。これにより継続的に出荷できる上に、残った木も成長により価値が上がり、森の環境も維持できる。
間伐を進めるための補助金を支給していた高知県。その条件は森全体の3割を間伐すること。これを森林成長率に照らし合わせると、森を傷めることになりかねない。佐川町は高知県と協議の末、「2割間伐」での緊急間伐補助金の新設に成功。従事者には1haを間伐するごとに、12万2000円が支給されるようになった。
作業道の整備に対しても、1m開通に付き、県と町あわせて2000円を支給し、林業家のモチベーションを高めている。実は林業にとって作業道は、人間にとって血管のごとく重要な存在。作業道があって初めて森の中で仕事ができる。自伐型林業のために整備する作業道は、従来型に比べ狭く済み、土壌流出を最小限に留め、かつ法面の緑化を促す。つまり小規模な作業道の整備は、災害に強い森づくりと林業振興のダブル効果があるのだ。

自伐型林業では幅2~2.5m程度の作業道をつくる。これは重機が通れる最低限の道幅だ(写真提供/斉藤 光さん)
担い手不足は全国から募った地域おこし協力隊が補うこのようにいいことずくめの自伐型林業だが、問題のひとつとしてあげられていたのが担い手不足。「佐川町内での林業家募集に望みは薄い」と考えた佐川町は、2014年に地域おこし協力隊の制度を活用し、全国から人材を募ることでこの問題に対応した。毎年5人を採用し、10年間続ける計画だ。
「森林率全国一位の林業県である高知で働くということは、私にとっては林業界のハリウッドで働くということです(笑)」と語るのがこの第一期生となった滝川景伍さん(38歳)。京都生まれの滝川さんは、一時は映画監督を目指すも挫折し、大学卒業後は出版社で編集者として活躍した。
ほぼ毎日終電帰りという多忙さと、子どもを授かったことによる心境の変化を機に、30歳の時に転職を決意。農業などの一次産業に魅力を感じていた時、偶然にも大学の先輩が自伐型林業推進協議会の事務局長をしていたことから、自伐型林業を知ることになった。
「単なる林業ではなく『自伐型』という響きに興味を持ちました。いろいろ調べてみると最小限の道具だけで始められる。しかも高知県は近代自伐型林業の発祥地であり最先端を行く場所。ちょうど佐川町で自伐型林業の地域おこし協力隊を募集していたのが決め手でした」

今や佐川町の自伐型林業のリーダー的存在となった滝川さん。メディアからも引っ張りだこだ(写真提供/斉藤 光さん)
林業家の職場を確保するための山の集約化地域おこし協力隊として赴任したばかりの滝川さんは、予想以上に重いチェーソーに四苦八苦しながらも、技術の習得に励んだ。「林業家として山主さんから安心して管理を任せてもらうためには、ヨソ者の私にとって、協力隊3年間の任期内での技術習得は絶対条件でした」と振り返る。
任期終了後、独立支援金としての100万円で、軽トラックと防護服など必要な備品を買い揃え、林業家としての道を歩み始めた滝川さん。とはいえ自由に森へ入って仕事ができるわけではない。森の中には、数多くの山主の所有地があり、その境界線が複雑に張り巡らされ、一箇所ずつ許可を得る必要がある。
そこで佐川町は、林業家の代わりとなって山主と交渉する「山の集約化」を推し進めた。それにより滝川さんもスムーズに山へ入っていくことができた。現在滝川さんが管理を任されている森は約35ha。自伐型林業を専業にして生活していくためには50ha、兼業で30haが必要とされている。
滝川さんによると、これまで佐川町が山主と管理契約を行った700haの森のうち、施業者に委託されたのは約100ha。道半ばの印象はあるが、「町が集約化を進めたことで、林業を行う仕事場が確保されたメリットは大きい」と滝川さんが語るように、行政のバックアップは新人林業家には頼もしい存在だ。

チェーンソーを使いこなす滝川さん。怪我と隣り合わせの仕事ゆえに、「精神的にゆとりを持って臨むことが大切」と語る(写真/斉藤 光さん)
林業で食べていくための補助金は、安全な地域づくりの必要経費新人林業家として、まずは作業道づくりに励んだ滝川さん。一日平均15mを作れば、1m2000円×15mで、その日の収入は30000円となる。経費は重機のレンタル代ワンコイン500円と燃料代の3000円程度。「最初の年は1.8kmの作業道をつくりました。ただ作業道の補修には労力がかかるので、壊れない道づくりも大切です」と滝川さん。
作業道づくりだけで年間300万円以上の収入に加え、間伐補助金、さらに木材の売上げで十分な年収を確保できた滝川さんだが、「木材の売上げは微々たるもので、補助金で生かされているのも事実。しかし、森を整備することで、山の資産価値を高め、災害防止にも繋がります。補助金は地域の公益性を高めるために必要な先行投資だと思っています」と語る。
長いスパンで仕事を進める林業。滝川さんは「どの木を切るかではなく、どの木を残していくかが大切です」と極意を語る。現時点では木材の売上げは少ないものの、それは高価値の木材を育てるための助走期間。補助金を活用しつつ、将来的には販売売上げの割合を上げていくことが理想だ。

ショベルカーを使いこなし作業道をつくる滝川さん。「天地返し」という工法で地中の砂利を路面に敷き、路面強化を図る(写真/斉藤 光さん)
林業の包容力が可能にした兼業が生む地域とのつながり「毎日手がかかる農業と異なり、林業はとてものんびりしています。一度手入れすれば一年ほったらかしにしてもいいこともある。森に入れば自然に包まれ心が和らぐ。こんなストレスフリーな仕事はありませんよ」とその魅力を語る滝川さん。
佐川町で林業家として独立して5年が経った。毎日子どもを保育園へ送り届け、朝の家事をこなして9時ごろに森へ入る。7時間ほど働いたら17時には帰宅。土日や大雨の日は休みだ。2021年の場合、約150日を林業に従事し、それ以外は副業として郷土史の編集や地域の人たちを繋げる活動に取り組んだ。
「佐川町の自伐型林業は、まだまだ地元では実態が把握されていません。町民に山へ関心を持ってもらうことが、山に無関心だった山主へ波及すると考えています。山と地域を繋げることは、ある意味前職の編集に通じます。そんな思いで地域の人と関わる活動にも注力するようになりました」
時間にゆとりのある林業だからこそ、副業や地域活動に取り組める。それが林業家と地元民との新たな接点となり、山に視線を向けてもらう。そんな循環の新たな担い手として期待されているのが、2017年に地域おこし協力隊として赴任し、現在は林業家と町議会議員を兼業している斉藤 光さんだ。

森の中で滝川さんと談笑する斉藤さん(左)は人なつっこいキャラクターで人気者だ(写真/斉藤 光さん)
モノゴトを「おかゆ化」することで林業の発信を目指す東京生まれで鍼灸院を営んでいた斉藤さんが、佐川町へ移住するきっかけとなったのは、娘の待機児童問題に直面したこと。「知り合いの紹介もあって、のびのび子育てできる高知へ移住を考えました。当初、林業は仕事として思い入れもなく始めましたが、自己負担なしで林業に必要な免許をすべて取得でき、その技術で作業道をつくれることに興奮しました!」
滝川さんや斉藤さん以外にも、2022年までに39人の地域おこし協力隊が着任。さまざまな形で林業に携わり、「キコリンジャー」という愛称で、それなりに知られるようになった。彼らの家族も含め、そのほかの分野の協力隊など、移住者の存在は徐々に増しつつあった。
「当時の町長の堀見さんに『そろそろ君たち移住者の代表が町議会にいてもいいのでは?』と声をかけられた時には、本当に驚きました」と振り返る斉藤さん。それをきっかけに70代が大半を占める町議会の実体を知ることになり、若者の代表として立候補を決意。2021年10月、定員14人中13位で当選する。
「世の中は簡単なモノゴトをとても難しく伝えていることが多いです。だから私は、誰でも簡単にのみ込めるように『おかゆ化』して、政治の情報をSNSで発信してきたい」と斉藤さんは意気込む。今は林業家兼議員としてどのように林業を盛り上げていくか模索中だ。
時間にゆとりのある林業家だからこそ、議員活動にも力を入れることができる。さらに鍼灸師としての仕事も増え、三足のわらじを履きこなし地域と交流を深める斉藤さん。林業をベースに地方での働き方の新しいカタチを教えてくれているようだ。

「林業を楽しんでいます」と語る斉藤さんだが、作業中は常に真剣だ(写真/斉藤 光さん)
六次産業化で価値を高め、さらに「食える林業へ」豊富な補助金、山の集約化などの施策により、林業家の職場と収入は確保されつつある佐川町。さらに肝心要となる木材の売上げを伸ばし、収入増を目指すために林業の六次産業化を進めている。六次産業化とは、生産物の価値を高め、農林漁業などの一次産業従事者の収入を上げることだ。
その拠点となるのが2016年に町内に開設された「さかわ発明ラボ」。ここにはレーザーカッターなどのデジタル工作機器が導入され、林業家はもちろん町内の一般の人も自由に木材の加工ができる。またそれらを巧みに操るクリエーターやエンジニアが在籍し、佐川の木材を使った新たな商品の開発に取り組んでいる。
さらに2023年には「まきのさんの道の駅・佐川」が新たにオープンする。施設内には「おもちゃ美術館」が併設され、佐川町産の木材を使ったおもちゃ等を展示する。同町の林業を産業として発信するシンボリックな役割を果たしそうだ。
さまざまなスタイルの働き方が広がりつつある昨今、自伐型林業という新しい林業をベースに、自らの得意分野を活かした仕事や、新しい分野へのチャレンジを副業として取り入れている佐川町の若者たち。彼らの取り組みは地方移住者の働き方の良きモデルケースになるかもしれない。また産業振興と移住者獲得という2つの効果をもたらした佐川町の取り組みもまた、他の地方自治体にも大いに参考になるはずだ。

歯科医院跡の建物を利用した「さかわ発明ラボ」。地域の子どもたちの交流の場にもなっている(写真/森川好美さん)
●取材協力
さかわ発明ラボ
所在地:目黒区下目黒
所在地:港区六本木「タイニーハウス(小屋)」や「キャンピングカー」「バンライフ」のような、小さな空間での暮らしが関心を集めています。旅行のように数日ではなく、日常生活を送るのは不便ではないのでしょうか? 費用やその方法は? 夫妻でタイニーハウス暮らしをしている相馬由季さんと夫の哲平さんのお二人に、その等身大の暮らしを教えてもらいました。
広さ12平米、ロフト5平米の自作タイニーハウスで夫妻ふたり暮らし米国では2008年のリーマンショック以降、西海岸を中心に、暮らしの選択肢としてタイニーハウスを選ぶ人たちが増えているといいます。このムーブメントは日本にも押し寄せ、タイニーハウスの認知度もじょじょに高まってきていますが、実際に「住まい」として暮らしはじめた人がいると聞き、取材に行ってきました。
場所は、三浦半島のとある私鉄の駅から徒歩数分、森のなかに、まるで童話のなかに出てくるような車輪付きの「小屋」がぽつんと佇んでいます。あまりのかわいさに「映画やドラマのセット?」にも思えてきますが、これは立派な住まいです。

駅から徒歩数分、海も山も近い場所にできたタイニーハウス(写真撮影/桑田瑞穂)

タイニーハウスで暮らしている夫妻。セットのようですが、本物の家です(写真撮影/桑田瑞穂)

扉をあけたところ。外観以上にセットのような愛らしさ(写真撮影/桑田瑞穂)
「引越してきたばかりのころは、『人が暮らしているの?』とよく聞かれました(笑)」と話すのはタイニーハウスの主でもある、相馬由季さんと哲平さん夫妻。車輪付きのタイニーハウスを由季さんのニックネームにちなんで「もぐら号」と名付けました。広さはわずか12平米とロフト5平米、室内はキッチン、バス、トイレ付きです。ひとり暮らし向けの物件でも部屋の広さは15~20平米を確保していることが多いことを考えると、よりコンパクトな住まいであることがわかるかもしれせん。

シャワー・トイレの排水は、移動できるよう着脱式にして下水道につなげているので、従来の住まいと変わりありません(写真撮影/桑田瑞穂)

建物を横から見たところ。玄関の反対側はエアコン、給湯、プロパンガスなどのインフラチーム(写真撮影/桑田瑞穂)
このタイニーハウスで驚くのは、由季さんによる水まわりなど以外は自分でつくる「セルフビルド」であるということ。今でこそ、タイニーハウスを販売している会社も増えていますが、こちらはそうした市販品を使うことなく、木材から建材、トイレなどの住宅設備機器まで、ネットやホームセンターで購入し、つくったといいます。

コンパクトな空間なので価値観のすり合わせが重要だったといいます。キッチンの大きさ、快適さなどの価値観をすり合わせながらつくりあげたので、ストレスなく生活できているそうです(写真撮影/桑田瑞穂)
「DIYのワークショップに1度参加したくらいで、特別なスキルもなかったんですが、はじめてみないことには何も進まないと思い、材料が置けて作業できる場所を探し、都内の木材屋さんの倉庫を借りて実際につくりはじめたんです。
2年かけて必死になって、どうにかこうにかタイニーハウスが完成し、ここで住み始めたのは2020年の年末。それから1年半経過しましたが、狭さや不便さは感じません」(由季さん)
哲平さんは秘境・登山ガイドという仕事のため留守にすることもありますが、基本的には二人で自宅で過ごしているといいます。仕事はテレワーク中心ですが、必要に応じて近所のカフェを利用できるため、不便ではないそう。二人にとって「広さ」は、暮らしの快適さにおいてさほど問題ではないのです。

赤い三角屋根に、街灯、3つの窓に玄関。すべてがかわいい!(写真撮影/桑田瑞穂)
ひと月にかかる費用は光熱費1万円のみ!?相馬由季さんがタイニーハウスを知ったのは2014年ごろ。移動ができる小さな住まいにひと目ぼれし、海外のタイニーハウスに住む人々を訪ね歩いたといいます。
由季さんがタイニーハウス暮らしを思い描いていたころ、夫の哲平さんに出会いました。つきあいはじめてすぐに、「タイニーハウスで暮らす夢」について話したといいます。
「もともとシェアハウスで暮らしていたこと、登山が好きということもあって、室内が狭いということにはまったく抵抗がありませんでした」という哲平さん。どのような暮らしを送りたいか価値観をすり合わせるようにし、つくる過程で少しずつ二人で暮らす仕様になっていったといいます。

駅からすぐ近くにあり、お友だちが遊びに来ることも多いそう(写真撮影/桑田瑞穂)
「料理好きなのでキッチンは大きめにしたり、180cm 以上ある身長(夫)にあわせて、室内の高さを考えたり、少しずつ一緒に暮らす前提でつくっていきました」といい、いわばタイニーハウスは結婚する「二人らしさ」を形にした住まいなのです。結婚式を挙行するかわりにタイニーハウスづくり……、ありかもしれません。ただ、どの住宅もそうですが、夢と現実の条件面で折り合いを付ける必要があります。資金面や土地の事情の「リアル」「お金面」では、どのようになっているのでしょうか。
「タイニーハウスの土台となるシャーシが約120万円、設備や材料費、水まわり施工費が約250~300万円、完成したタイニーハウスの移設・設置費が約20万円ほどでした」と由季さん。およそ400万円で完成したといいます。
一方で難航したのが土地探しです。

緑があって、海も近い環境です。周囲の人もおおらかで、快くタイニーハウスの存在を受け入れてもらえたといいます(写真撮影/桑田瑞穂)
「土地は2年くらいかけて探しました。以前は神奈川県横浜市のシェアハウスに暮らしていたのですが、理想の土地を求めて東京都内、千葉、神奈川などさまざま見学したものの、駅からの距離、土地の広さ、上下水道の引き込み、周辺環境など、気に入るものがなくて。今のこの場所は、駅を降りた瞬間から、駅からの距離、海への近さ、スーパーなど含めて気に入って、『ココだね』となったんです」(哲平さん)

庭で大葉などのハーブや野菜を育てています。想像以上に広いためか、手入れは大変だといいますが、どこかうれしそう(写真撮影/桑田瑞穂)
土地の広さは1100平米で、価格は交渉。加えて、上下水道の引き込みなどで費用が100万円ほどかかりましたが、ローンは利用せずに思い切って一括で購入しました。
また、タイニーハウスは車輪がついているため、固定資産税がかかるのは土地のみです。自動車として扱うため自動車税と自動車重量税になり、現在かかっているひと月あたりの費用はこれらの税金と水道光熱費のみだそう。
「電気もガスも水道も少量ですむので、光熱費は毎月1万円程度でしょうか」(由季さん)といいます。生活するための住居費や光熱費を稼がなくては……というプレッシャーとは無縁で、より好きなことを仕事にできる感覚があります。
ほかにも「タイニーハウスづくり」を応援してくれた家具屋さんから、「新居祝いに」と庭のテーブルセットをもらったり、地元の植木屋さんから良い木を植えてもらったりと、人とのつながりに助けられている、と笑います。自然体の二人が楽しそうにタイニーハウス暮らしに挑戦しているからこそ、まわりも助けたくなるのかもしれません。

ソファを来客時はベッドになるようにDIY。2人までなら宿泊できるそう(写真撮影/桑田瑞穂)

通常の部屋の様子(写真撮影/桑田瑞穂)

ソファをベッドにし、テーブルを収納するとこのように。コンパクトですが可変性があり、ここまでできるんだと関心してしまいます(写真撮影/桑田瑞穂)

現在の場所に移動してきてから後付けしたテーブル。折りたたみ式で収納可能です(写真撮影/桑田瑞穂)
小さくても断熱環境やキッチンのサイズ、「快適さ」はゆずらないとはいえ、予算重視、予算ありきでタイニーハウスをつくったわけではありません。
「室内が小さいからこそ快適性はゆずりたくなくて、断熱材は厚めに入れましたし、窓は樹脂窓(フレームが樹脂製のため金属製に比べ断熱性の高い窓)にしました。キッチンは大きめにしましたし、トイレもバスも好きなものを選んでいます。また、赤い三角屋根のシルエットは、一貫してこだわった部分ですね」(由季さん)といいます。

赤い屋根と樹脂窓、ランプ……。すべてネット通販などで買えるそう。びっくり(写真撮影/桑田瑞穂)

一年を通して快適な断熱環境を目指して、樹脂窓を採用(写真撮影/桑田瑞穂)

哲平さんが料理好きということもあり、大きめのキッチン。シンクも広々、3口コンロです(写真撮影/桑田瑞穂)

DIYで棚をつくったり、微調整しながら暮らせるのが良いそうです(写真撮影/桑田瑞穂)
タイニーハウスは、基本的にひと部屋。採用できる建具や設備が限られているからこそ、一つひとつのパーツ、こだわり、自分の好きなものをぎゅっと選べます。だからこそ、扉を開けたときに、つくり手の価値観が一目で表現できるのがおもしろさでもあります。相馬さん夫妻のタイニーハウスは断熱材や窓、開口部にこだわったこともあり、今年2022年の夏のような猛暑でもすぐに涼しくなり、冬は寒さを感じずに快適だそう。
「完成した『もぐら号』にはたくさんの人が遊びに来てくれましたが、『意外と広い!』『快適なんだ』と言われることが多いですね。プロジェクターを設置したり、折りたたみのテーブルをつけたり、快適に暮らせる微調整は日々、続けています。だからこそ外から見ている以上に空間に広がりがあり、自分の好きに囲まれて暮らせていて、本当に心地いいんです」と話します。季節の衣類や登山用具は、庭のガレージに保管しているため、過度に捨てたり処分したりの必要はないといいます。

プロジェクターを設置しているので、大画面で映画も楽しめます。すごいなー(写真撮影/桑田瑞穂)

映画をベッドに寝転がって鑑賞。夫妻でキャンプのようで楽しい!(写真撮影/桑田瑞穂)
「趣味のカメラでも、登山用品でも、一つ買ったら一つ売るを徹底しているので、すっきり暮らせているのも心地いいですね」と哲平さんは笑います。ちなみにもぐら号を見た哲平さんのお父さんは、「俺もほしい」と話していたそう。その気持ち、わかります。
タイニーハウスは人生を考える「きっかけ」。暮らしはもっと軽やかでいい
笑顔がすてきな夫妻。大きさや持つことにとらわれない、等身大の幸せがあります(写真撮影/桑田瑞穂)
周囲の人からも大好評の「もぐら号」ですが、泊まってみたいという要望も多いことから、夫妻は今、第2棟となる「カワウソ号」を作成しています。今度は自作ではなくデザインと仕上げの内装は自分で行い、施工はプロに依頼しています。
「タイニーハウスで暮らしてみて改めて思ったのは、住まいを考えるということは、人生を考えるきっかけになるということです。住まいって、暮らし方、働き方、誰とどんな場所で生きていきたいのか、考えるきっかけになりますよね。特にタイニーハウスは小さいからこそ、暮らしや自身の価値観と向き合わないとできないんです」と話します。

2棟目のタイニーハウス「カワウソ号」は9月中には「もぐら号」の隣に移設予定とのこと(写真提供/相馬さん)
やはり小さく、制限があるからこそ、本当に大切にしたいものは何かをよく考え、厳選するようになるのかもしれません。特にコロナでさまざまな価値観が変わった今こそ、「やりたいことをベースにする」に、イチから住まい方を考え直したい、そう思う人が多いからこそ、相馬さんのタイニーハウスづくりを応援したい、興味をもっているという人が増えているのでしょう。
「日本で誰もやったことがない」ことから、「自分がやりたいからやってみる」とタイニーハウスづくりをはじめた相馬さん。「住居費のためではなくて、自分の人生を生きたい」と考えるなら、まずは今までの住まいのあり方を疑ってみるのも、ひとつの方法かもしれません。
●取材協力
相馬由季さん・哲平さん
由季さんのInstagram
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所在地:港区南青山
所在地:港区南青山
所在地:目黒区中目黒日本有数のターミナル駅である品川駅にほど近く、かつての東海道五十三次の宿場の一つ、品川宿の雰囲気が色濃く残る北品川エリア。今と昔が共存する、そんな北品川を象徴するかのような複合施設「SHINAGAWA1930」が2022年6月にグランドオープンした。戦前に建てられた古民家をリノベーションしたこの建物は、地域の新たな交流拠点として人や地域とのつながりをどのように生み出しているのだろうか。
かつて品川宿のあった北品川の街並み品川駅から京急本線で一駅の北品川駅。品川駅からも徒歩圏内ながら、高層ビルが立ち並ぶ品川・港南エリアとはうって変わり、北品川本通り商店会には古き良き宿場町の雰囲気が残る。

北品川本通り商店会(写真撮影/阿部夏美)
江戸時代に整備された旧東海道は、現在の東京・日本橋と京都・三条大橋を結ぶ街道だ。道中の53の宿場は「東海道五十三次」として歌川広重の浮世絵などでも知られている。その1つめである品川宿は、人々が行き交う「江戸の玄関口」としてにぎわっていた。
そんな旧東海道の名残を見せる商店街を横切り、八ツ山通りの十字路に出ると目に入ってくる2階建ての木造建築物が複合施設「SHINAGAWA1930」。1930(昭和5)年に建てられたとされる古民家をリノベーションしている。

SHINAGAWA1930の外観(写真撮影/森夏紀)
同施設は、1棟2階建ての計5棟構成。ソーシャルカフェや親子向けのコワーキングスペース、古酒と熟成酒の専門店といったバラエティ豊かなテナントが入居し、残りの2棟は建築事業を行う企業がオフィスとして利用している。

施設マップ(画像提供/SHINAGAWA1930)
建物の裏には品川浦が広がり、屋形船や釣船が停まる船溜まりを見ることができた。

(写真撮影/阿部夏美)
「一度壊したら、もう戻らない」風景を引き継ぐ新施設北品川にある古い民家の家並みは、品川区の生活・歴史・風土を伝える風景「しながわ百景」に選ばれたこともあったが、民家の減少により、現在では「失われた百景」に数えられている。

リノベーション前の建物(画像提供/SHINAGAWA1930)
SHINAGAWA1930の前身の建物は、このエリアの再開発を見越して京急電鉄が取得していた。これからどう活用していくのか。取り壊して駐車場にする案も挙がるなか、京急電鉄のグループ会社でリノベーション事業を行う株式会社Rバンクの清水麻里さんに相談が持ちかけられた。

SHINAGAWA1930プロジェクトの中心人物の一人である清水さん(写真撮影/阿部夏美)
「築90年を超える古民家が5棟全て残っているのは珍しい。壊すのは簡単ですが、一度壊したらその風景はもう戻りません。建物の歴史を引き継ぎながら地域のためになる新しいことをやりたい、という思いがありました」(清水さん)
町の歴史と立地の特徴から、人々の交流が生まれる場所として古民家を再生してはどうか。2019年、清水さんを中心として運営事務局が立ち上がる。
改修費用の一部はクラウドファンディングで募った。物件の改修工事は京急電鉄が行い、内外装の一部はDIY。柱や梁を生かし、窓ガラスやサッシは一部をそのまま使う。外壁は損傷が激しくほぼ交換したが、元の雰囲気を壊さないように注意を払ったという。

改修工事の様子(画像提供/SHINAGAWA1930)

壁の漆喰塗りはプロを招いてワークショップを開催し、きれいに塗るコツを教わった(画像提供/SHINAGAWA1930)
クラウドファンディングの支援者や地域住民など、改修を手伝った人は述べ150人以上。「偶然通りがかった人が興味を持って壁を塗ってくれる、なんてこともありました」と清水さん。「何か手伝えることはないか」と、近くに住む人が施設のプロモーション動画を制作してくれたこともあった。

施設のロゴデザインは清水さんが自ら手掛けた(写真撮影/阿部夏美)
清水さんは、施設のすぐ裏にある民家に戦前から住んでいる女性と時々話すそう。
「戦時中、あたりに爆弾が落ちてもこの一角だけは焼けなかったのだとか。石畳は、都電品川線が廃止された時にみんなで石をもらって敷いたと聞きました」(清水さん)

石畳(写真右端)とDIYで整備した外溝(画像提供/SHINAGAWA1930)
そうして時代を生き抜き歴史を紡いできた建物が、人々の出会いの場として続いていく。
新型コロナウイルスの感染拡大により、入居テナントが完全な状態で営業できなかったり、イベントが開催直前に中止になってしまったりと影響を受けながらも、2021年1月からテナントが順次オープン。2022年6月に施設全体のグランドオープンを迎えた。
昼夜を通して人が集まるソーシャルカフェA棟の1階にはソーシャルカフェ「PORTO(ポルト)」が入り、2階は多目的スペースとして使われている。

35平米の店内には、L字型のカウンターを設置(写真撮影/阿部夏美)
ソーシャルカフェというコンセプトの通り、昼はカレーやお好み焼きなど曜日ごとに異なる飲食店が営業。夜は日替わりで、美容師やダンサー、ゲストハウスのオーナー、デザイナー、会社員など多様な職種の人が1日店長として店に立つ。

畳敷きの2階スペース(写真撮影/阿部夏美)
2階は時間制で場所を貸し出し、鍼灸院やヨガのレッスン、学習塾などに活用されている。PORTOで食事する人の背後を学習塾に通う小学生が元気に階段をかけのぼっていく光景も見られるそう。
取材時にランチ営業していたのは、スリランカカレーなどを提供する「カレーと紅茶 ミカサ」。昼時の店内は近隣のオフィスワーカーでにぎわっていた。

「カレーと紅茶 ミカサ」店主の茨木さん(写真撮影/阿部夏美)
店主の茨木直子さんは北品川エリアについて、「昔ながらの小さな店が地域を支え合っている雰囲気に惹かれた」と話す。当初は飲食をやるならオフィス街でと考えていたが、コロナ禍により生活様式は一変。住民の生活に根ざしたまちに注目するようになったという。
「実は私の店は5日前に営業を始めたばかり。ここで経験を積みながら、北品川の人とふれ合う時間をつくっていきたいです」(茨木さん)
子育て世代のつながりの場をつくるC棟に入る親子向けの「ママプラスカフェ」は、子連れ歓迎のコワーキングスペースとしても利用できる。もちろんパパも歓迎で、週末は家族での来店も多いのだとか。

Wi-Fiやコンセントを備える店内は、赤ちゃんがハイハイできるよう靴を脱いで上がる(写真撮影/阿部夏美)
2階では、ママ講師によるヨガやピラティスのレッスンなどさまざまなイベントを開催。
「同じくらいの月齢の子がいると、親同士の交流は生まれやすいですよね。イベントの参加者同士が意気投合して、後日一緒にカフェに来店することもあります」と店長の森田健吾さん。カフェでは赤ちゃんが隣の人の席に遊びに行ってしまい、それがきっかけで親同士が仲良くなることもあるのだとか。

2階の左手奥には子ども用の遊びスペースを設けている(写真撮影/阿部夏美)
カフェメニューに使う野菜は北品川本通り商店会の青果店で仕入れることで、商店街の人にも店を知ってもらえるようになった。「商店会で紹介されたから来てみた」というお客さんもいる。
「小さい子を育てていると、子ども以外とのつながりがどうしても断たれがち」と森田さん。この店に来ることで、社会との接点を断つことなく子育ての期間を楽しく過ごしてほしいと話す。

梁を生かしたディスプレイ(写真撮影/森夏紀)
時代を感じる店内で酒を楽しむ「体験」を提供B棟「いにしえ酒店」店主の薬師大幸さんは、前店舗の移転先を探していたタイミングでSHINAGWA1930のオープン情報をキャッチ。古民家をリノベーションした物件は店のコンセプトにぴったりで、「物件情報を見て即連絡した」という。

薬師さん(右)と日本酒ナビゲーターのさいとうさん(写真撮影/阿部夏美)

柱のディスプレイは内装工事の仕上げ段階で思いついたアイデア。1974年製からそろえる古酒「玉響」の空き箱を並べる(写真撮影/阿部夏美)
日本酒を寝かせた古酒・熟成酒を販売しているが、薬師さんは「ただ酒を売ることだけが目的ではない」と話す。「マーケットが小さいジャンルなので、まずは知って、味わって、体験してもらいたい」と、店内の商品は全て有料試飲することができる。

「チーズと熟成酒の会」開催時の様子(画像提供/いにしえ酒店)
2階の「いにしえLABO」では、日本酒ナビゲーターによるセミナーや、自分好みのペアリングを探す「チーズと熟成酒の会」などを開催。日本酒「車坂」の杜氏を招いて3時間ひたすら語ってもらう会や、苔の専門家をゲストに苔を眺めながら飲む「苔と熟成酒」など、個性的なイベントも企画している。

「いにしえLABO」には酒にまつわるボードゲームを用意(写真撮影/阿部夏美)
「見たり聞いたり、自分で組み合わせを試して味わったり。この店での体験を通して、古酒・熟成酒のことを深く知ってほしい。ただ商品を買って帰るだけでは、なかなかそうはなりませんから」(薬師さん)
肩肘張らない地域の雰囲気を感じながら働くE棟とD棟をオフィスとして使うのは、BIMという技術で木造建築に関わる業務の効率化を推進する株式会社MAKE HOUSE。

E棟1階の応接室(写真撮影/阿部夏美)
オフィスのしつらえは社員みんなで考え、梱包材をカバー代わりにするソファやパイプを使ったテーブルを置く。およそオフィスという雰囲気はなく、ゆったりと働けそうな印象を受けた。
もう1棟は、実証実験の会場になっていた(期間限定のため現在は終了)。社員数の増加に伴い、今後はオフィスとして使うという。

「リアルとデジタルの融合」をテーマに、畳や襖にデジタル技術を用いた実証実験(写真撮影/森夏紀)
移転前は品川駅付近にオフィスを構えていた同社。社員の岩田剛士さんは「今のオフィスは肩肘張らずにいられる」と話す。
「品川と北品川では、だいぶ雰囲気が違いますね。以前は高層ビルのワンフロアで働き、昼食は主にキッチンカーで買っていましたが、今は商店街やリーズナブルなごはん屋さんが近くにあるし、PORTOさんで食べることもあります。都市部でありながら、こぢんまりとした雰囲気が気に入っています」(岩田さん)
SHINAGAWA1930のこれから建物の完成からグランドオープンまで、1年半をかけて少しずつまちにひらいてきたSHINAGAWA1930。施設としては町内会と商店会に加入しており、清水さんは「コロナの状況が落ち着いたら、商店会と連携した企画を進めるなど、もっと地域と関わっていきたい」と話す。
最近は、1人でふらっと遊びに来た地元の子どもが施設を気に入り、後日親子で再訪してくれることもあったそう。そんなゆるやかさが北品川ののんびりとした雰囲気にマッチし、人と人とが出会うきっかけを自然に生み出しているのかもしれない。
●取材協力
SHINAGAWA1930
所在地:新宿区払方町
所在地:新宿区払方町
所在地:目黒区祐天寺
所在地:荒川区西日暮里
所在地:江東区永代
所在地:墨田区八広
所在地:墨田区八広
所在地:目黒区目黒長引くコロナ禍で、仕事を失ったり、家賃を支払えない人が増えています。また以前から、生活保護受給者を入居拒否する入居差別はありました。連帯保証人がいないなどの問題もあります。こういった生活困窮者の住まい探しのサポートを行っている自立生活サポートセンター・もやいに、生活困窮者の住まい探しの現状と入居支援などについて取材しました。
生活保護受給者の住まい探しは難しい。入居を希望しても断られる入居差別の実態
コロナ禍で困窮が深まったため、2020年4月から臨時の相談会を開催。公的制度の利用のための支援や、宿泊費・生活費を提供するなどのサポートを行っている(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)
自立生活サポートセンター・もやいの名前の由来は、「もやい結び」という船を港に係留するときや、登山や救助活動で安全を確保するときのロープの結び方を表す言葉です。“船と船をつなぎあわせること”“寄り添って共同でことをなすこと”という意味があり、「日本の貧困問題を社会的に解決する」という理念を表しています。2010年からもやいの活動に携わってきた理事長の大西連さんは、生活困窮者による問い合わせ件数がコロナ禍前に比べて1.5倍以上に増えているといいます。

メディアからのインタビューを受ける大西さん。2022年には、地方新聞46紙と共同通信社が選ぶ「地域再生大賞」の優秀賞にもやいが選ばれたが、「もやいが必要のない世界」を目指し発信を続けている(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)
生活困窮者とひとくくりにいっても、ネットカフェに泊まりながら派遣で働く若者や、パートナーのDVから避難してきた女性、低年金・無年金の高齢者などさまざまな人がいます。年代は、10代~70代と幅広く、男女比は6:4で男性が多いですが、年々女性の数も増えています。
「6000件/年の問い合わせには、『生活費が足りない』『仕事が見つからない』という生活に関する相談のほか『住むところが見つからない』という住まいに関する困りごとも寄せられます。賃貸住宅に入居を希望する場合、入居審査を受ける必要があります。もやいの設立当初、審査で重要視されていたのは、収入や支払い能力のある連帯保証人がいること。ホームレスで仕事がなかったり、連帯保証人が見つけられないと、審査に通りませんでした。近年では保証会社の利用が一般的なので連帯保証人は必須ではありませんが、親族等の緊急連絡先が必要です。緊急連絡先は連帯保証人とは異なり法的な責任を問われるものではありませんが、依頼できる先が見つからず物件申込ができないという相談は多く寄せられます。入居を希望しても、生活保護だからという理由で断られる入居差別もあります」(大西さん)
連帯保証人を引き受けるなど、生活困窮者の住まい探しをサポート設立当初、野宿者支援を行うなかで、連帯保証人を見つけられず賃貸住宅に入居できない問題に直面したもやいは、連帯保証人を引き受ける入居支援「もやい保証」の取り組みをはじめました。今までに、もやいが連帯保証人になったのは、延べ2400世帯。宅建免許を取得した2018年以降は、仲介を行う「住まい結び」で生活困窮者の住まい探しをサポートしてきました。

入居支援チーム。左から川岸夕子さん、東あさかさん、伊藤かおりさん。入居者、大家さん、管理会社、それぞれの利害を調整しながら、支援の形を模索している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)
全体の問い合わせのうち、住まいが見つからない相談者に対し、身分証や携帯電話がない場合の取得方法、収入がなくて家賃が払えない場合の生活保護の利用についてアドバイスしています。
仲介担当の東あさかさんは、入居差別があるなかで住まいを探す厳しさを実感しています。
「生活相談後に希望があれば、不動産情報サイトを使って物件を調べ、不動産会社に問い合わせをします。生活保護を利用している方だと伝えると、当初は7割断られる状況でした。『生活保護相談可』という物件でも『受給理由』によるというケースは多く、精神障害のある方は断られることが多いという二重の差別もあります。入居拒否の理由はさまざまですが、『無職だと生活サイクルがほかの居住者と合わない』と心配される大家さんもいます。明確な理由はなく『トラブルを起こすのでは』という先入観もあるようです。一般の人が、さまざまな不動産情報サイトにアクセスし、自分で住まいを選べるのに対し、生活困窮者の選択肢はとても少ないのです」(東さん)
都営住宅や市営住宅など公的な住宅は老朽化していたり供給戸数が限られており、エリアによっては選択肢にならない場合も多いのです。行政は、生活困窮者向けの居住支援として、住宅セーフティネット制度を2017年にスタート。高齢者、障害者、子育て世帯など住宅の確保に配慮が必要な人が今後増加すると見込み、民間の空き家・空き室を活用して供給を促す取り組みです。「セーフティネット住宅情報提供システム」から誰でも検索できるようになっています。さらに2021年7月には、住むところに不安を抱えている人の相談窓口「すまこま。」のサイトがオープン。最近では、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(通称:住宅セーフティネット法)に基づき、都道府県が指定した団体(居住支援法人)が居住支援を行えるようになりました。

もやいでは、2017年から毎年、厚生労働省に対して、「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」書を提出している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)
「社会的意識の高まりという面での前進はあると思いますが、『セーフティネット住宅情報提供システム』は、登録件数も少なく相談現場での現実的な選択肢にはなりません。『すまこま。』は、電話・メールなどからの相談を受けて、最寄りの該当窓口へつなぐもの。仲介は行っていません。生活保護の住宅扶助内では、新宿区や千代田区など家賃が高いエリアで物件探しが難しい実態もあります」(東さん)
生活困窮者に向けた居住支援は少しずつ広がりを見せていますが、まだ課題が山積みです。
「制度があっても現実に即していない場合があるのです。住宅確保給付金は、離職・廃業や所得の減少が受給条件の一つとなっているので、慢性的貧困に陥っているワーキングプアは使えません。月々の家賃の支払い能力があっても、転居のための初期費用が用意できず、やむなくネットカフェ暮らしをしている人もいます。公的補助による転居支援が必要とされています」(大西さん)
サロンや誰でも入れる互助会「もやい結びの会」を運営。孤立しがちな生活困窮者を息の長い支援で支える
もやいの事務所内で、誰でも立ち寄れる交流サロン「サロン・ド・カフェ こもれび」を運営(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

週替わりランチ・おやつ、飲み物を提供していた。現在はコロナ禍での活動を模索中(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)
もやいでは、新たな取り組みとして、2020年に、住居がない人のためにシェルターの運営を開始。アパート型のシェルターに住民票をおいてマイナンバーカードなどの身分証明書を取得するなど態勢を整えた上で、賃貸住宅に移ってもらおうというものです。

期間限定のモデル事業としてスタートした「もやいシェルター」だが、コロナ禍で困窮が深まったと判断し、2022年度も継続している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)
保証人の担当をしている伊藤かおりさんは、「相談者との付き合いは、入居後の方が長い」と言います。
「不動産会社とトラブルがあれば間に入って対応をしています。入居しても、その後、孤立してしまう相談者もいますので、契約更新時には面談をするなどコミュニケーションを図っています。バースデーカードや年賀状、年4回の会報も郵送しています。会報には、切手不要のハガキを添え、近況を返信してもらえるよう工夫しています。コロナ禍に送ったお米には感謝の声が寄せられました」(伊藤さん)
「助けられるだけでなく、もやいの活動に参画するひとり」だと感じてほしいと、連帯保証人・緊急連絡先の引き受けを行った相談者は、すべて、『もやい結びの会』という互助会に属しています。もやいの事務所を開放した『サロン・ド・カフェ こもれび』や農業活動も行ってきました。今後、コロナ禍での交流をどうしていくか検討を進めています」

2021年4月にはじまった「もやい畑@藤沢」。藤沢市と協働して行っている。2021年度の開催回数は53回、延べ390名が参加。畑づくりをきっかけに新たな目標を見つける参加者も(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

「もやい畑@藤沢」で収穫したじゃがいも。休憩時間は、持ち帰った野菜の食べ方などの会話で盛り上がる(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)
「サロンや農業は自由参加です。ゆるく長く見守り続けるのがもやい流。『ここに来れば安心できる居場所があるんだ』と思ってもらえたら」と大西さん。
生活困窮者は遠い存在ではなく、身近に困っている人がいるかもしれません。「生活保護に先入観のある人も、知らずに出会っていたら、その人に違った印象を持ったでしょう。一面だけで判断しないでほしいのです」という東さんのメッセージが心に残っています。皆が安心して住めるように、関心を持ち続け、自分の意識から変えていくことが大切だと感じました。
●取材協力
・自立生活サポートセンター・もやい
所在地:渋谷区桜丘
所在地:八王子市南陽台
所在地:港区白金
所在地:豊島区西池袋
所在地:目黒区東山