皆さんは、スタートアップや新規事業部門などで新しい発想やイノベーション、効率的かつ革新的なソリューションを生み出すためのアプローチといえば、何を思い浮かべるだろうか。 弊社btraxをご存知の方は、「デザイン思考」と言うかもしれない。 しかし、イノベーション創出のための思考法・発想法はデザイン思考に限らない。 SpaceXやTeslaのファウンダーであるイーロン・マスク。 現実世界のトニー・スタークと呼ばれる彼がイノベーションを生むために実践していることで有名な「第一原理思考」(英語:First Principles Thinking)。 本記事では、第一原理思考とは何かを事例とともに解説したのち、実践に移すためのプロセス、またどのようにこの思考をUXデザインに活かせるかを解説していく。 第一原理思考とは? まず、「第一原理思考」とは何か。 冒頭でも書いたが、この思考を現代に広めた人の一人が、イーロン・マスクだ。 しかし、この思考自体はどうやら2,000年前にすでに哲学者 アリストテレスによって唱えられたようだ。 一言で説明すると、第一原理思考とは、物事や問題をその“根本的な”部分まで分解し、最も基本的な原理や真理を見つけ出すことで、それを基に新たなアイディアや解決策を生み出す問題解決のアプローチである。 この方法により「従来の前提や固定概念に囚われずに新しい視点で考えることができる」というものだ。 スタートアップでの適用例として、SpaceXのロケット発射台のイノベーションが良い例だろう。 マスクは、従来の非常に高コストなロケット発射に対し、第一原理思考を用いたアプローチを取り、ロケットの発射コストを劇的に削減することに成功した。 彼がまず一番に彼自身に問うた質問は、「どうしたらロケットのコストを削減できるのか」ではなく、「ロケットは何でできているのか」だった。 彼は材料のコスト構造を最も基本的な要素にまで分解する工程から始めた。 市場での既製品の価格ではなく、アルミニウム、チタン、カーボンファイバーなどの原材料の純粋なコストに注目をしたのだ。 マスクはその構成材料の価格を一つ一つ検討し、独自に部品を製造することでコストを削減できることを発見した。 次に、ロケットの再利用がコスト削減に大きく寄与することに気付いた。これも第一原理思考に基づく発想であると言える。 「なぜロケットは一度きりしか使えないのか?」 この根本的な問いから、マスクはロケットの第一段を地球に帰還させて再利用するというアイデアにたどり着いた。 そこから彼は、ロケットの帰還と着陸を可能にするための技術的な課題をひとつひとつ解決していき、再利用できるファルコン9ロケットの開発に成功した。 実践へ移すための3つのステップ では次に、実際にこの思考を使って問題解決をするときに取る3つのステップをご紹介する。 イーロン・マスクは第一原理思考において以下の3つのステップを取る: Identify and define current assumptions. / 現在の仮定を特定し、定義する。 Breakdown the problem into fundamental principles. / 問題を基本的な原理に分解する。 Create new solutions from scratch. / ゼロから新しい解決策を創造する。 (参考:”Elon Musks’ “3-Step” First Principles Thinking: How to Think and Solve Difficult Problems Like a Genius”) UXデザインにどう活かせる? 著者はデザイナーであるため、どのようにこの思考法をデザインに活かせるかについても少し触れていこうと思う。 デザインの本質は課題解決だ。 故に、第一原理思考のアプローチを活用することはもちろん可能である。 上記の3つのステップを通して現在の仮定を特定し、基本原理に分解し、新しい解決策を創造することでユーザーエクスペリエンス(UX)を向上させることができる。 ① 現在の仮定を特定し、定義する 第一歩は、既存のUXデザインにおける仮定や前提を見直すことから始める。例えば、一般的なUI要素やユーザーフローがどのように構成されているかを再評価する。 これは、ユーザビリティテストやヒューリスティック評価を通じて、ユーザーがどのような問題に直面しているのかを具体的に把握することが重要だ。 例: 現在のデザインがユーザーにとって直感的でない場合、その原因が何かを特定する。例えば、ユーザージャーニーが複雑すぎる、情報の配置が不適切など。 ② 問題を基本的な原理に分解する 次に、問題を最も基本的な要素に分解する。これにより、現状のデザインがなぜそのようになっているのか、その根底にある理由を明らかにすることができる。 例: ユーザーが特定の機能を見つけにくい場合、その機能の発見性を妨げている要素を分解する。ナビゲーションの構造、視覚的な手がかり、ユーザーフィードバックなどを細分化して分析する。 ③ ゼロから新しい解決策を創造する 最後に、最も基本的な原理から新しい解決策を創造する。このプロセスでは、従来のデザインパターンや慣習にとらわれず、ユーザーの基本的なニーズに直接応える新しいアプローチを模索する。 例: もしユーザーが特定のタスクを達成するのに複数のステップが必要であれば、そのタスクを1ステップで完了できるように設計を再構築する。これには、AIや機械学習を利用したパーソナライズされたエクスペリエンスや、自動化されたプロセスが含まれるかもしれない。 実際のUXデザインへの応用例 ナビゲーションの再設計 仮定: ユーザーは既存のナビゲーションメニューを理解している。 分解: ナビゲーションの各要素をユーザー行動データに基づいて分析し、ユーザーがよく利用する機能やページを特定。 新しい解決策: 最も頻繁に使用される機能やページへのショートカットを追加するなどし、ドロップダウンメニューやハンバーガーメニューの構造をシンプルに再設計。 フォームデザインの改善 仮定: ユーザーは長いフォームに対しても抵抗がない。 分解: フォームの各フィールドを分析し、入力の負担がかかる部分を特定。ユーザーが途中で離脱するポイントを確認。 新しい解決策: フォームをステップごとに分割し、必要最小限の情報だけを求めるように設計。オートコンプリートやプログレッシブディスクロージャーを活用して入力負担を軽減。 ユーザーフィードバックの収集 仮定: ユーザーは自発的にフィードバックを提供する。 分解: フィードバックを提供するプロセスを分析し、ユーザーがフィードバックを提供する際の障壁を特定。 新しい解決策: 文字で書き込まずとも数値的に簡単に評価できるようにする。インタラクティブなフィードバックウィジェットを導入し、ユーザーが簡単に意見を共有できるようにする。ポップアップやツールチップでフィードバックを促進。 まとめ […]