
ユニークな発想で世界に挑み続けてきた「せーの」代表・石川涼が、一目惚れした一足の雪駄。“雲駄(unda)”というその履き物は、ミッドソールにPU素材とエアーソールを採用し、柔らかさとクッション性を備えている。雪駄とスニーカーを融合させた、まるで雲の上を歩いているかのような、ふわりとした履き心地が特徴だ。この常識を覆すプロダクトを生み出したのは、プロダクトデザインユニット「ごゑもん(goyemon)」。工業高校の同級生だった大西藍と武内賢太によって、2018年に立ち上げられた。「あなたの常識を盗みます──」。そんな挑戦的な想いを込め、ブランド名は“天下の大泥棒”石川五右衛門にちなんで名付けられたという。4月26日には、石川が手がける「#FR2」とカフェ「兎珈琲」とのコラボレーションモデルも発売予定だ。石川と「ごゑもん」の3人の視点から、日本のものづくりが世界で戦うためのヒントを探る。
出合いは直感。
“雲駄”を履いた石川涼
──まずは、3人の出会いから教えてください。涼さんが最初に「ごゑもん」の雪駄“雲駄”をプライベートで履いていたとか。
石川涼(以下、石川):そう。インバウンド向けのビジネスをやっていると、外国人に刺さるものが肌感でわかる。“雲駄”もネットで見かけて、「うわ、これ売れそうだな」ってピンと来たから、すぐにオーダーして自分で履いてみた。
大西藍(以下、大西):履いているところをインスタのストーリーズで見て、「あの石川涼が履いている!」と思って、すぐにメッセージさせていただきました。返事が来るとも思っていなかったんですが、すぐにお返事をいただけて。
石川:それで、そのあとお店(オーナーを務める会員制のバー)に挨拶に来てくれたから「じゃあ、とりあえず仕入れさせてよ」って。自分たちのお客さんに売れるのはわかっていたから、すぐにやらせてって言ったんだけど、全然在庫を分けてくれなくて(笑)。
武内賢太(以下、武内):いや、本当に在庫が無かったんです(笑)。でもやっぱりインバウンドと相性が良かったのか、すぐに売り切れました。
日本の伝統×最新技術で
雪駄を現代的にアップデート
──「ごゑもん」はクラウドファンディングから始まったんですよね?
大西:はい。当時はクラウドファンディングを使いたかったんです。それで、「マクアケ(クラウドファンディングサービス)」をすごく研究していたら、日本の伝統と最新技術のミックスが支持を得ていることに気づきました。そんな商品を作りたくて、2人でブランドを立ち上げることにしました。
──雪駄を“発明”するアイデアはどこから?
大西:僕ら自身が雪駄を履いていたのもあるんですが、あれってもともと江戸時代のものじゃないですか。砂利道を歩くために作られてるから、現代のアスファルトには合っていないんです。だったら、底をスニーカーの素材にしたら?って思って。
武内:伝統的な製品に支援金が集まっているのは、モノ自体にストーリー性があるから。単にかっこいいだけじゃなく、生活に寄り添った機能がある。それを僕たちなりに表現するとしたら、最新技術ってどんどん進化していくものだから、伝統も日々アップデートできるんじゃないかって。
大西:実際にクラファンに出してみたら、予想以上の反響でした。3カ月の予定だったんですが、1週間で2000万円分のオーダーが入り、そこで打ち切ることにしました。初めての試みだったので、職人の手が回らず、お届けが何年も先になるリスクがあったため、早めにやめようと。
石川:面白いのは、2人は「マクアケ」の中で、お金が集まるものを研究した結果、“雲駄”が生まれたってこと。でも、結局それが今の日本に求められている“個性”というか。最初から世界に売ろうとして作ったわけじゃない。「マクアケ」の中でウケがいいものを考えたら、それが結果的に、外国人にも求められている日本のコンテンツと合致したんだよね。
──涼さんも常々“ただ洋服を作っていてはダメ”と言っていますが。
石川:やっぱり「記念に残るもの」っていうか、日本らしいもの。そういうものが、より求められるようになってきたと思うんだよね。昔はインターネットでものなんて買えなかったから、旅行のお土産には特別感があった。海外旅行でも国内旅行でもそう。でも今は、なんでもネットで買える時代になっちゃったから、逆に“そこにしかないもの”の方が価値が高くなっている。パリに行ったらやっぱり「パリっぽいもの」が欲しいじゃん。でもそれが日本でも買えるってなったら、わざわざ現地で買う意味が薄れる。でも「現地じゃないと手に入らない」ものって、どんどん減ってきてる。ネットで何でも買えるから。世界はどんどん便利になっていってるし、実際その方向を目指してるけど、便利になればなるほど、“わざわざ買う意味”が薄れていく。例えば、Apple製品みたいなデバイス系は、どこでも同じクオリティで手に入るのが便利だし、世界中の人が使ってるから意味があるんだけど。
──インフラに近い存在というか。
石川:うん。洋服も気づかないうちにそっち寄りになってきてると思う。みんなが感じている“本当の価値”って、“便利”とはまったく別物なのに、なんとなく、そっちが正しいって思い込んでいるというか。本来ファッションって、もっと“特別なもの”であるべき。一見、ネットでいつでもどこでも誰でも買えるようなものの方が売れそうに見えるけど、それって要するに日用品なんだよね。靴下とか。そういうのは、どこでもいつでも買えればいいと思う。だって消耗品だから。でも、より便利になってきたからこそ、「その土地でしか買えないもの」ってすごく価値があるし、そういうものにしかお金を払わなくなると思う。これからますます外国人が増えていくからこそ、「ごゑもん」がやっている“日本っぽいもの”って、すごく可能性があると思うんだよね。
“売れるもの”の先にあった
「日本の個性」
大西:僕らが意識しているのは、「日本の伝統と最新技術」というコンセプトをしっかり前面に打ち出すこと。その軸はずっと大事にしていて、そのコンセプトの上で「自分たちが本当に作りたいもの」を作っています。でも、そうなると当然コストも手間もどんどん増えてくるから、量産は難しいし、価格も上がっていく。お客さんからすると、ちょっと遠い存在に感じられることもあるかもしれません。でも、むしろそこにこそ価値を感じていただけているのかな、と思っています。
──日本らしさといえば、「#FR2」も「梅」や「柳」など、店舗名に漢字を多用しています。
石川:当初は、それも社内では反対された。でも、俺は「もうこれしかない」って思ったの。日本を“売る”しか、突破口がないと思ったし、しかも誰もやってなかった。だから、思い切って全て漢字にして、日本語のプリントも始めた。当時は「日本語のプリントなんてダサい」って、みんなに言われたけど。
──ファレル・ウィリアムスとNIGOさんが手掛けた「ルイ・ヴィトン」の2025-26年秋冬メンズコレクションにも日本語が多用されていましたよね。
石川:そう。やっぱり“そういうこと”だと思うんだよね。それが俺たちの個性なんだから。歴史的に見れば、戦後のコンプレックスや欧米信仰で、日本人の中に劣等感があるのかもしれない。でも結局、真田広之の「SHOGUN 将軍」がゴールデン・グローブ賞を獲ったように、海外の人から見た日本は、今でも“侍”と“忍者”なんだよ。だから本当はもっと自信持って、日本人自身が、日本の歴史とかアイデンティティーをもっと大切にすべきだと思う。いつの間にか、「アメリカの方がかっこいい」とか、「ファッションはヨーロッパ」って思い込んでるけど、それはそれでいいとしても、俺たちは俺たちで、自分たちの個性を持たなきゃ、そもそも価値がない。だって今は、インターネットで世界中がつながってるわけじゃん。世界がひとつになってるこの時代に、「世界の誰かと同じこと」をやってても、意味がないと思う。
「ごゑもん」が目指す
“粋”を伝えるデザイン哲学
武内:“雲駄”の“左右がない”デザインも、もともとの雪駄のストーリーから着想を得ました。昔の雪駄には、定期的に左右を入れ替えて履くことでソールが均等にすり減り、長く使えるという日本人の知恵があったんです。でも現代のサンダルになると、どうしても履きやすさを重視して“左右がある”設計になるんですよね。でも僕らとしては、「左右が同じ形のフットウエア」なんて今まで見たことなかったし、それを現代の玄関で“あえて左右を入れ替えて履く”という所作が、すごく面白いなと思って、あえて左右の区別をつけずに、「定期的に入れ替えて履いてくださいね」という思いで作ったんです。
──サイズ展開もS・M・Lの3サイズ展開なんですね。
大西:そうなんですよ。実は最初、「マクアケ」でクラファンやったときは、MとLの2サイズ展開でした。在庫リスクのことも考えて、「サンダルを売るのは難しいな」と思ったのもあって。
──あと、雪駄はかかとを出して履くのが粋だとか。
武内:そうなんです。僕らの世代って、「粋な履き方」とか「デザインの意味」とか、そういった文化をほとんど知らないんですよね。でも、そういう日本人独自の美意識をちゃんと伝えていきたいなと思っています。僕らも「雪駄をやろう」ってなったときに、あらためて調べてみたら、めちゃくちゃ面白かったんです。「あ、こういう深い背景があるんだ」って気づくと、一気に世界が広がるというか。だから、そういう部分も含めて伝えていきたいと思っています。
──「ごゑもん」では、アパレルも展開しています。そもそも、プロダクトデザインとファッションを結びつけようと思ったきっかけは?
大西:正直言うと特に無いんですが、ブランドにする上で広がりを考えたときに、コレクション性が高いのではと思いました。
──オリジナルアパレルのこだわりは?
武内:クリエイターの身の回り品をサポートするラインとして「ゴヱモンジェネラルガジェット(GOYEMON GENERAL GADGET)」と名付けています。僕らが仕事をするために使う道具なので、例えばスウェットでは、デスクワークで最も消耗するであろう手首まわりにナイロン製の補強布を取付けました。エルボーパッチではなく、“リストパッチ”仕様です。シャツは、クイックに袖をまくれるように、カフスをリブにしました。
──今回コラボレーションした“雲駄”について教えてください。「#FR2」が黒とベージュの2色、「兎珈琲」がネイビーの1色ですね。
大西:ナイロンをベースに織った生地で、草履っぽい見た目が特徴です。涼さんに最初に買っていただいたものに近いカラーでもあります。日本の伝統と最新技術の対比がもっとも強く出ているモデルですね。涼さんのこだわりで、雪駄らしく左右を入れ替えて履けるように、ロゴは片側に入れています。左右対称に入れると入れ替えて履けないので。
武内:毎年少しずつクッション材を変えたり、軽量化したり、鼻緒の形状を改良したりしていて、ぱっと見ではほとんど分かりませんが、履き心地はかなり向上しています。
石川:「ごゑもん」は、本当に可能性に満ちていると思うんだよね。和柄とか着物とか、そういう安易な表現じゃなく、日本が大事にしてきた“本質”を突き詰めてる。だからそのポリシーをこれからも大事にしてほしい。あと、なんか2人とも漫画のキャラクターみたいで、そこもいいよね(笑)。
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