PROFILE: 小木充/ウェルネスビューティーコンサルタント

空前の訪日客消費に沸いているのは化粧品業界も同様。とはいえ市場を見てみると、相変わらず元気がいいのはハイファッションコスメと韓国コスメ。日本のコスメブランドには何が足りていない? ビューティ・ジャーナリストの木津由美子が今回話を伺うのは、小売りの現場に長らく携わってきた小木充氏。現在はニュースケープ代表も務めるその独自目線から、5回にわたって提言をいただく。
――:3月、東京・代官山に「ノンフィクション(NONFICTION)」が日本初の路面店をオープンしましたが、まさかあの場所にあの規模感で出してくるとは思っていなかったので驚きました。
小木充(以下、小木):「タンバリンズ(TAMBURINS)」と同じ発想ですよね。「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」というアイウエアブランドを元金融マンのCEOが2011年に立ち上げ、売り上げが3桁ぐらいに乗ってきた時に「タンバリンズ」を17年にスタート。そしてハンドクリーム、フェイスクリーム、化粧水、フレグランスの4アイテムで韓国のカロスキル(新沙洞街路樹通り)に2階建ての旗艦店をオープン。CEOによると、既存の化粧品業界は製品は頑張っているけれど、世界観を表現できているブランドが少ないので、まだまだ商機はあると思っていたそうです。
――:韓国発フレグランスブランド「ボーン トゥ スタンドアウト(BORNTOSTANDOUT)」の創業者にインタビューした時も同様の印象を受けました。フレグランスコレクターの元金融マンは、ラグジュアリーフレグランスの自国ブランド立ち上げと自国の現代アーティスト支援にこだわっていて、漢南洞(ハンナムドン)にまるでアートギャラリーのような旗艦店をオープンしました。
小木:「タンバリンズ」青山店ができた時も行列でしたが、それは世界観への共感だと思いますね。あれが欲しいこれが欲しいというよりも、そこの世界観で何か欲しいと思わせる買い方になっている。ただこれらのブランドが “デパコス”として旗艦店のような面積で展開できるかといったら、百貨店の常識からはかけ離れているので難しいでしょう。
――:百貨店の常識は坪効率だから。
小木:そう、そこには余白がない。今は円安だからいいけれど、金利が当然上がり、日本での買い物のメリットがなくなったときには、訪日客にしてみれば自国に全てあるわけで。インバウンド需要減少の対応策は必須です。3月に上海を視察してきたんですが、あらゆる店舗に人が本当にいない。定点観測してもいない。10店舗回って6人ほどの来店客がいたのが唯一「エルメス(HERMES)」のみ。“バーキン”しかり“ケリー”しかり、本当に欲しいものがあるから。中国は24年上半期で百貨店13店舗を閉鎖しています。バブル崩壊のうえ、7〜8割がEC購入という背景からですね。
――:打開策として考えられることは?
小木:一つは、3月に大規模改装した「アットコスメトーキョー(@COSME TOKYO)」のようにドラッグ〜バラエティ〜デパコスを横断して買い物体験ができる業態。もう一つは、現在世界で約3000店舗と言われる「セフォラ(SEPHORA)」。1999年に日本に上陸した当時は、消費者がセルフ業態に慣れていなかったのでなかなかフィットせず、わずか2年で撤退しましたが、今の時代だったらうまくいく可能性もあるかと。
――:同時期にオープンして撤退した英国の「ブーツ(BOOTS)」も併せて、今こそ入ってきてほしいですね。百貨店とドラッグストアの間を埋めてくれるショップとして若者のニーズは高いように思います。
小木:当時の日本への参入障壁とはだいぶ変わっているだろうし。セフォラが入ることで、ラグジュアリーが中心にはなるけれど、化粧品業界が盛り上がりますよね。3000店舗あるということは日本にあってもおかしくない。ところでセフォラに入っているクリーンビューティブランドで、個人的にずっと注目しているのが「タタハーパー(TATA HERPER)」と「イリア(ILIA)」。前者はコロンビア出身の夫婦が米国バーモント州に移り住んで2010年に創業し、22年にアモーレパシフィックが買収。後者はカナダ・バンクーバー出身の女性が11年に創業し、クラランス創業家が22年に買収しています。どちらも高価格帯だけど、欧米で人気。しかも資本がついたので、日本の百貨店売り場の一角をこういうインディーズから始まったブランドが担っていったら面白いと思う。
――:今後も増えていくクチュールコスメは服飾品と一緒に派手に展開してもらって、こういうニューフェイスはニューフェイスで固めてくれればすごく楽しい売り場になると思いますね。秋にはいよいよ「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のコスメも誕生するので、ぜひそれを機に。

小木:僕もそう思っていて、新たに目が出てきそうな資本がついたブランドを入れるというのが僕の予想図。アメリカのベンチャー系ブランドにとって、セフォラで成功するというのが一つのルート。ここで失敗すると返品・買収・民事再生などブランドがスクラップされるというのがこの10年の流れですが、この2つはそれを乗り切った。こういうブランドがさらに資本をつけて日本に上陸するというのは、いろんな意味で業界を活性化すると思う。日本でも信念を持って、哲学を持って、いろんな業界のバックグラウンドがあって、化粧品業界を俯瞰した際に、自社ならではの特徴やAI的な発想で新たなマーケット開拓にチャレンジするブランドが出てきて欲しいですね。
――:そのためには小売り業界の変化も必要です。今はどこもこじんまりした感じが拭えません。
小木:僕が伊勢丹に勤めていた時代は2カ月に1回くらいのペースで海外出張に行かせてもらっていたけれど、今は百貨店の部長もバイヤーもほとんど行っていないようです。首脳陣から見たら、化粧品は全て効率だけの話。何が売れてどうするのが効率がいいのか? 僕の時代もそういう節はあったけれど、例えば1〜2店舗くらいしかなかった「ロクシタン(L'OCCITANE)」や「ラッシュ(LUSH)」に火をつけたのはBPQC(現ビューティアポセカリー)だったと思っています。お客さまの本音を具現化したいと思ってやっていたので。とはいえ、今の効率重視の売り場作りをドラスティックに変えるのは難しい。変えられないまま円高に振れてくると訪日客分がマイナスになる。そうなると増えたものがシュリンクし始めるので、余計に今のブランドでせめぎ合いが起こり始め、参入障壁はより高くなるでしょうね。遠い先は分からないけれど。今、ファッションのハイブランド品がかなり高額になっていて売れにくくなってきている。中国では前年比2桁マイナスと言われていて、これが化粧品にもくるんじゃないかと思う。訪日客を除いた売り上げは落ちているだろうし、この3年で内外価格差はなくなると想定されるから、3年後を見据えて日本の消費者に対してどうするか、今から考えておくことが喫緊の課題ですね。
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