「バウム(BAUM)」は“樹木との共生”をテーマに2020年に誕生し、今年で5周年を迎えるスキン&マインドブランドだ。“樹木”を意味するブランド名の通り、全化粧品の90%以上を自然由来の成分で構成。パッケージにおいても樹木の循環にこだわり、特徴的な木製パーツは、木製家具の老舗メーカー「カリモク家具」の製造過程で出た国産ナラ材の端材を再利用している。インテリアとしてライフスタイルに溶け込むデザインは、デビュー当時から注目を集めた。
「バウム」「カリモク家具」「ハスナ」
それぞれが目指した資源の循環
「ハスナ」は、白木夏子が2008年に立ち上げたジュエリーブランドだ。誕生当初からリサイクルゴールドや、リサイクル地金のプラチナ、また児童労働や環境破壊がないことを証明する「フェアマインド認証」を受けた金属のみを世界各地から調達し、“プレシャスジュエリー”としての価値を吹き込んできた。
扱うプロダクトは違えど、再活用した資源を新たなデザインにアップサイクルしてきた点で共通している「カリモク家具」と「ハスナ」。伊串事業開発部部長、白木社長、そして村上要「WWDJAPAN」編集長が、アップサイクルにおける現在地を語り合った。
「バウム」と「カリモク家具」の出合い
伊串直恭カリモク家具事業開発部部長(以下、伊串):最初にお話をいただいたのは、19年1月ごろでした。プロダクトデザイナーの熊野亘さんから、「バウム」が商品パッケージに木を使うことを検討していると、相談を受けたことがきっかけです。
WWD:端材を利用するケースはそれまではなかった?
伊串:家具の外側から見えない部分や、工場のボイラー燃料として活用はしていましたが、端材にフォーカスを当てて有効活用した例はあまりなかった。「バウム」との取り組みで端材に新しい命を吹き込むことができました。
伊串:設計さえできてしまえば、難しい作りではないのですが、「端材を使う」という絶対命題がある中、不ぞろいで小さな端材を大量生産に乗せることが最初の課題でした。
WWD:どのように解決を?
伊串:不定形な端材をジョイントして大きな板を作り、それをパッケージにしていきました。「カリモク家具」では、これまで、明らかなつなぎ目はプロダクトに対してうるさく感じられるので、表面に露出することを極力避けてきました。とはいえ、端材を生かすにはその方法しかない。ひとまず、この形で「バウム」へ提案したところ、「1個1個違っていて、アップサイクルしていることが伝わっていい」と喜んでくれて。われわれの常識が全てではなく、見方を変えれば魅力につながると、新たな視点を教えてもらいました。
「ハスナ」誕生のきっかけ
白木夏子ハスナ社長兼CEO(以下、白木):一番のきっかけは、インドの村で見た光景です。イギリスの大学時代にフィールドトリップで南インド・チェンナイからさらにバスで5、6時間ほど行った村に、2カ月ほど滞在しました。そこでは、インドのカースト制度にも入らないような最下層とされる身分の人々が、鉱山で強制労働をさせられていました。学校にも行けず、1日1ドル以下の生活を強いられながら、化粧品の材料や電化製品に使われるレアアース、金や宝石を採掘していて──。私たちの便利で豊かな生活のために、彼らの生活が犠牲になっているのはおかしいと思ったんです。そして、そのゆがみは中間搾取している企業に原因があると考えました。エシカルという概念を多くの企業が守っていけば、世の中はきっと良くなるし、貧困・環境問題も解決できるはず、と安心かつ安全な素材で作るジュエリーブランド「ハスナ」を立ち上げました。
白木:人や社会、自然との関係に配慮したものを作る方法はいろいろあることに気付き、その一つがアップサイクルでした。例えば、石でネックレスを作る際、ネックレスを作る分だけを仕入れることはできないので、数百個単位で買い付けます。すると、ネックレスになりきらない石が残るので、それをピアスにする。端数で作るため量産も難しいし、形が1つ1つ違うのも魅力だと思うんです。そういった一期一会の機会を楽しんでほしいというメッセージを込めて、“チャンス”コレクションを作りました。
今日着けているピアスもその1つ。カリブ海に面したベリーズという国でしか採れない食用の貝殻をアップサイクルしています。現地では、食べ終えた貝殻は捨てられるのですが、貝殻は磨くととても美しいので、安価な民芸品として売られています。「ハスナ」では、その貝殻をジュエリーにしました。現地より高く買い付けているので彼らの生活もサポートできるし、取引はかれこれ17年ほど継続しています。
高いデザイン性で価値を吹き込む
1点ずつ表情の違う美しさ
白木:日本の職人が、手作業で貝殻を18金でフレーミングしたり、ダイヤモンドを埋め込んだりし、デザインや加工で新たな価値を吹き込んでいます。貝殻も形や柄が1つずつ違うので、ダイヤモンドを入れる場所によって、デザインも変わってくる。オーダーメードのようにぜいたくなモノづくりも支持されているところだと思います。
WWD:これまでの社会では、均一なものがいつでも買えることが美徳で、メーカーもそこを目指して量産を頑張ってきた側面があります。一方で、「バウム」のパッケージや、「ハスナ」のジュエリーの根底には異なる考え方がうかがえますが、その路線を進んでいけると覚悟を持てたのは、どのような気持ちから?
白木:「ハスナ」を立ち上げた08年ごろは、ジュエリーといえばラウンドブリリアントカットのダイヤモンドや18金で、統一されたデザインがスタンダードでした。ただ、私個人は、他の人とかぶらないもの、1個ずつ違うものに美しさを感じていました。
WWD:だからこそ、「バウム」のつなぎ目が分かるようなパッケージに共感し、琴線に触れるわけですね。
白木:そうですね。木製であることは誰でも分かるけれど、環境への関心が高い人が見ると、端材を用いたコンセプトであることは、すぐに伝わると思います。パッケージでブランドのコンセプトを体現されていて素晴らしいですよね。
無駄をそぎ落とした飽きのこないたたずまい
伊串:端材を活用したことへの共感と、同じような取り組みをしたいというお話をたくさんいただくようになったことですね。端材に限らず、ライフスタイルの中に木の温かみを取り入れたいと考える企業がたくさんあることを知り、さまざまなコラボレーションのきっかけにもなりました。
WWD:洗練されたパッケージですが、苦労した点は?
伊串:「バウム」のボトルが木枠にカチッとはまるようにする仕組みですね。内側にリブを付けたり、ケース上部の窪みの内側を少し厚めにしたり、細部を調整することで緩衝材など余分なものを付加することなく完成させることができました。
アップサイクルを実現する
技術力と挑戦する心

伊串:そうですね。木材の取り扱いに関しては長年の家具製造によるノウハウがあるので、その知識をパッケージにも生かせました。例えば、木材は湿度によって伸縮しますが、繊維の方向に対して横方向には伸縮しやすく、縦方向にはあまり伸縮しないという特性がある。そうした木材の特性を理解した上で設計を行うことで、どのような環境でもカチッと収まるケースを完成させることができました。
私たちは、デーブルや椅子といった体に触れる家具を長年作ってきました。「バウム」のパッケージにおいても、家具作りと同じ技法を用いて生産しています。従来のモノづくりを貫いた上で、「バウム」のパッケージに家具と同じクオリティーを感じてもらえるのは、これまでの家具作りを褒められているようでうれしいです。
白木:「ハスナ」の場合、難しいオーダーをすることが多いので、まずは私たちのモノづくりに共感してくれる職人と巡り会うことから始まります。お客さまは、アップサイクルだから購入するのではなく、デザインに美しさや魅力を感じてこそ手に取っていただける。最終的にはそこが重要で、1つ1つ状態が異なる素材を、デザイン性を持った高品質なジュエリーに生まれ変わらせるには、長年のノウハウや職人技術が基盤にあり、社会貢献やアップサイクルには欠かせないと思います。
アップサイクルが切り開く未来
白木:「ハスナ」を立ち上げた17年前は、「サステナブルって何?」という時代でした。この十数年で当たり前に語られるようになり、環境負荷を軽減するだけではなく、自然を再興しながら活動しようという目標を掲げた企業も出てきています。人々や社会の意識の変化を目の当たりにしているので、希望しかないです。
伊串:私たちも、端材を活用した製品依頼が増えています。素材に関係なく、良いデザイン、良い品質のものを送り出すことは当たり前。09年から取り組んでいる「カリモクニュースタンダード(Karimoku New Standard)」での小径木など低利用材の有効利用をはじめ、端材や虫食いのある材など通常家具では使用されない材料を使った家具を作ってほしいといったオーダーもあります。木材の使い方、生かし方について、さまざまな企業が注目しているのを日々感じています。

右 : 虫食いナラ材を脚部に採用したファクトリエ限定モデルのスツール。三菱鉛筆との協業では、“ジェットストリーム多機能ペン”のグリップに端材を使用
白木:サステナブルって“制限”として捉えられがちですが、実はとてもクリエイティブなことだと思っていて。例えば、「バウム」が“化粧品×木材のアップサイクル”という、これまで誰もやったこなかった試みでイノベーションを起こしたように、 “社会にちょっといいこと”を掛け合わせることで、新しい価値を生み出すブランドやプロダクトが増えていってほしい。“ジュエリー×アップサイクル”でここまできた私も、アイデアは無限にあるので、実現のために試行錯誤するのが楽しいです。
伊串:木材のアップサイクルについては、「バウム」との取り組みで意識も深まりましたし、われわれが培ってきた技術を家具以外の分野でも提供できることが自信につながりました。自然の恵みを上手に活用していくことは、わが社の永遠の課題であり、同時に「カリモク家具」は椅子やソファなどの張り地などで布やレザーなども扱っているので、それらの端材も再利用していきたい。今後も試行錯誤を続けていきたいです。
木製パッケージの製造過程を公開
TEXT:AYA SASAKI
HAIR & MAKEUP:FUYUMI KUBO[ROI]
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BAUM お客さま窓口
0120-332-133
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