ソフィア・プランテラ/「アリーズ」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE:イタリア人の父親とイギリス人の母親のもとローマで育ち、高校卒業前に渡英し、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校に入学。ロンドンのストリートおよびレイブシーンを目の当たりにし、卒業後もロンドンに残ることを決め、人気スケートショップ「スラム シティ スケーツ」で働きながらオリジナルスケートブランド「ホームズ」のデザイナーに就任。そして、1998年に「ホームズ」にも携わっていたラッセル・ウォーターマンと共に「サイラス」を立ち上げたのち、2009年にグラフィックデザイナーのファーガス・パーセルと共に「アリーズ」をスタートした。“正直であること”を心情に掲げており、1980年代から化粧はしていないとのこと PHOTO:SABI RYUSEI
「シュプリーム(SUPREME)」を着こなす男性がニューヨークでプロップスを得るなら、「アリーズ(ARIES)」を取り入れた女性がロンドンの象徴だ。
「アリーズ」は、1990年代後半~2000年代前半のUKストリートシーンを賑わせていた「サイラス(SILAS)」の仕掛け人であるソフィア・プランテラ(Sofia Prantera)が、「パレス スケートボード(PALACE SKATEBOARDS)」のトライアングルロゴも生み出した英国を代表するグラフィックデザイナーのファーガス・パーセル(Fergus Purcell)と共に、2009年に立ち上げたストリートブランドだ。プランテラのサブカルチャーへの深い造詣とエスプリを背景に、ジェンダーレスなアプローチとユニークなグラフィックを落とし込んだ唯一無二の世界観で、パトリアーキーなストリートシーンにおいて女性からの支持を集め、瞬く間にUK内のビッグネームに成長。また、ブランドのアイコンシリーズ「ノー プロブレム(NO PROBLEM)」は、その人気の高さから24年にブランドとして独立し、ロンドンの街中で「アリーズ」もしくは「ノー プロブレム」を見かけない日はないほどだ。
アメリカの名門出版社「リッゾーリ」ら発売された「アリーズ」初のアーカイブブック「アリーズ アーカイブ」(1万円)
アメリカの名門出版社「リッゾーリ」ら発売された「アリーズ」初のアーカイブブック「アリーズ アーカイブ」(1万円)
アメリカの名門出版社「リッゾーリ」ら発売された「アリーズ」初のアーカイブブック「アリーズ アーカイブ」(1万円)
アメリカの名門出版社「リッゾーリ」ら発売された「アリーズ」初のアーカイブブック「アリーズ アーカイブ」(1万円)
アメリカの名門出版社「リッゾーリ」ら発売された「アリーズ」初のアーカイブブック「アリーズ アーカイブ」(1万円)
アメリカの名門出版社「リッゾーリ」ら発売された「アリーズ」初のアーカイブブック「アリーズ アーカイブ」(1万円)
先日、そんな「アリーズ」の軌跡を辿る初のアーカイブブック「アリーズ アーカイブ(Aries Archive)」が、アメリカの名門出版社「リッゾーリ(Rizzoli)」(1万円)から発売された。これを祝した発売記念パーティーが世界各地で開催された中、東京・原宿のセレクトショップ「グレイト(GR8)」でのリリースイベントには、プランテラ本人が登場。そこで、イベント前の短い時間ではあったが、UKストリートシーンの変革者である彼女に、上梓の理由から「アリーズ」のイロハ、昨年話題を呼んだアーセナルFC(注:ロンドン北部を本拠地とする世界的フットボールクラブ)とのコラボまで話を聞いた。
気が進まなかったアーカイブックの上梓
PHOTO:SABI RYUSEI
ーーまずは、アーカイブックの上梓を決めた理由を教えてください。というのも、今はアーカイブの管理も情報収集もインターネットで完結してしまう時代です。
ソフィア・プランテラ(以下、ソフィア): 「アリーズ」は2009年に誕生したブランドで、当時はインスタグラムが普及するずっと前の時代だったこともあり、最近ファンになってくださった方々は、私たちのグラフィックの歴史や過去に手掛けてきた山のようなプロジェクトに気付かず、オリジンを知らないと思っていました。何より、「アリーズ」は単なるストリートブランドではなく、異なる側面や実験的な意味合いを持ち合わせていることが多いので、時が経つにつれて変化してきた歴史と深いアーカイブを一つのカタチとして見せたかったんです。それに、今の時代は逆にグーグルで「アリーズ」を検索しても、コマーシャルな情報ばかりしか出てこないので(笑)。ただ、実をいうと私自身は過去を振り返ることが好きではないんですよ。
ーーということは、今回のアーカイブブックはリッツォーリ社から話が来たと。
ソフィア: そういうことになります。いつだって「次は何をしよう?」と考えていますが、まさかアーカイブブックを出版するとは思ってもいませんでした。
ーー話が来る前からアーカイブブックを作りたい気持ちはあったのでしょうか?
ソフィア: ......なかったですね(笑)。一般的にアーカイブを見ることは興味深く、多くの方々にとってコンテクスト踏まえながら作品を振り返る行為は、リファレンスとしても重要なことだと思います。でも、私のように過去を振り返る行為に気持ちが進まない作り手側も一定数いるのが現実です。これがリタイア直前だったら話は別ですけどね。
2017年に発売された「アリーズ」初のイメージブックに収録されている1枚。撮影はデヴィッド・シムズが担当
ーーアーカイブブックとは別に、イメージブックやフォトブックは制作されていましたよね?
ソフィア: そうですね。デイヴィッド・シムズ(David Sims、英国出身の大御所ファッションフォトグラファー)と2冊、ジェレミー・デラー(Jeremy Deller、英国出身のアーティスト)と1冊、他にもジョシュア・ゴードン(Joshua Gordon、アイルランド出身の写真家)やミア・ハリファ(Mia Khalifa、元ポルノ女優の世界的インフルエンサー)らさまざまなアーティストと協業しながら、いろいろなカタチのブックを出版してきました。これらは新たに生み出した結果のモノで、今回はアーキビストが旅するようにアーカイブを遡り再発見してもらうコンペディアムのようなイメージで、特別何か手を加えたわけではありません。
ーーでは、新たなインタビューの収録などもないのでしょうか?
ソフィア: 唯一の新しいコンテンツというと、アンジェロ・フラッカヴェント(Angelo Flaccavento、イタリアで最も影響力のあるファッションジャーナリストの1人)が書いてくれたイントロくらいです。あとは、ブツ撮りをいくつか撮り下ろしましたが、最も時間がかかって大変でしたね。
ーーブツ撮りは、シンプルの中で見せ方を模索する必要がありますよね。
ソフィア: まさに!洋服って、実際のところフォトジェニックではないですから。
ーーアートディレクターには雑誌「i-D」の元エディターであるジョニー・ルー(Jonny Lu)を起用されていますが、この理由は?
ソフィア: 彼は素敵な友人であり、過去に何度かブックを制作したこともあったんです。アートディレクターにはさまざまなタイプがいて、その中には印刷物にこだわらずコンテンツ重視の方々もいますが、ジョニーは印刷物に長けていてプリントに対する美意識が強いからお願いしました。また、ブランドのCEOで私のビジネスパートナーであるニッキー・ビダー(Nicki Bidder)は雑誌「デイズド(DAZED)」の元エディターなので、彼女の存在も心強かったですね。
PHOTO:SABI RYUSEI
ーーちなみに、表紙には「ナイキ(NIKE)」の“エア マックス 90(AIR MAX 90)”が写っていますが、これは新作コラボのティザーなのでしょうか?
ソフィア: 期待させて申し訳ないのですが、モデルが履いてきた私物をそのままスタイリングに使っただけなんです(笑)。
「星座の名前なんてダサくてキッチュだからこそピッタリ」
PHOTO:SABI RYUSEI
ーーここからは、「アリーズ」全体の話を伺いたいと思います。初歩的な質問になるのですが、なぜラテン語で牡羊座を意味するブランド名にしたのでしょうか?
ソフィア: 設立を手伝ってくれたファーガス・パーセルの星座が牡羊座(3月21日~4月19日)で、私の星座は牡牛座(4月20日~5月20日)なのですが、あと4時間早く産まれれば私も牡羊座だったんですよ。それで、星座の名前のブランドなんてダサくてキッチュだからこそ、“狂ったクオリティー”を目指していたわれわれにはピッタリだな、と。後になって調べた星座占いでは、牡羊座の人間はリーダーシップが強く行動的でクリエイティブな人が多いらしいのですが、そういった部分は気にしていませんね。
「アリーズ アーカイブ」の発売記念Tシャツでもアイコニックなテンプルロゴにフィーチャー PHOTO:SABI RYUSEI
ーーファーガスといえば、「アリーズ」のアイディンティティーのひとつであるグラフィックを数多く手掛けてきた人物です。今でも彼はグラフィック面などで関わっているのでしょうか?
ソフィア: おっしゃる通り、ブランド設立当初はファーガスと仕事をすることが多く、テンプルロゴやカラムロゴなど“共通言語”となるアイコニックなグラフィックを作ってもらっていましたが、2012年からは一緒に行動していませんね。といっても、彼と仲が悪くなったわけではなく、より多くのグラフィックデザイナーと仕事をするようになったんです。私が「サイラス」を手掛けていた頃にグラフィックをお願いしていたマーティン・ウェダーバーン(Martin Wedderburn)には、相変わらず手広くお願いしていますが、今では日本人を含む20人ほどのフリーランスと常に仕事をしていて、多くのインプットの機会が得られるようになりましたね。
PHOTO:SABI RYUSEI
ーーそのような人々は、どのように見つけ出しているのでしょうか?やはりSNSですか?
ソフィア: SNSもありますが、昔からの友人や自ら売り込んできた人もいます。少し前までは、専門学校で見つけた若いアーティストたちによくお願いしていたのですが、今では「シュプリーム」と仕事をしているようで、彼らのような若い才能が成功する過程のプラットフォームになれているのはうれしいですね。アーティストとは、持ちつ持たれつの関係で向き合うことが大切です。
ーー大半のストリートブランドは、その成り立ちからメンズアイテムが中心ですが、「アリーズ」はウィメンズもユニセックスのアイテムも数多くラインアップしています。これは設立当初から想定していたのか、それとも時代の流れを意識したからでしょうか?
ソフィア: 初期はユニセックスのことは気にしていませんでしたが、“幅広いサイズを用意することで、誰もが好きなように着ることができる”という考えを持っていたので、大きいサイズは男性用、小さいサイズは女性用という感覚でしたね。当時は、コマーシャル的にもユニセックスのアイテムを売ることは簡単ではなかったのですが、私が女性ということもあってか自然とラインアップが拡充していった感じです。
「アリーズ」の公式オンラインストアから
ーー公式オンラインストアのメニューでは、“men”と“women”に加えて、“dont care”のセクションが設けられているのが印象的です。
ソフィア: 先ほどお伝えした考えから、もともとは性別にとらわれず全てミックスした状態で見せていました。“men”と“women”のセクションは、多くの方々の判断基準の観点から設けましたが、「今日は男性的な気分だな」のようにジェンダーで分けたというよりもムードのイメージです。当然、“dont care”は気にしない方々のためですね。ロンドン・ソーホーの直営店でも、“men”と“women”にラックを分けて陳列することはしていません。
コラボレーターの選り分け方と、アーセナルFCとのコラボ秘話
2025年5月に発売された「プーマ」とのコラボコレクションのイメージビジュアル
2020年に発売された「ニューバランス」とのコラボ“327”のイメージビジュアル
2023年に発売された「トミー ジーンズ」とのコラボコレクションのイメージビジュアル
2023年に発売された「トミー ジーンズ」とのコラボコレクションのイメージビジュアル
ーー「アリーズ」の飛躍を語るうえで欠かせないのが、その幅広く多層的なコラボレーションの遍歴です。「プーマ(PUMA)」や「ニューバランス(NEW BALANCE)」から、イタリアのフットウエアブランド「ロア(ROA)」、モロッコを拠点とする女性の織物協同組合「アルチザン プロジェクト(ARTISAN PROJECT)」、キューバのラム酒ブランド「ハバナクラブ(HAVANA CLUB)」まで、どこに比重を置きコラボレーターを選り分けているのでしょうか?
ソフィア: 「アリーズ」のコラボのほとんどは、相手側からのコンタクトから始まります。例えば、ビッグブランドはビジネス的な観点からコラボを画策しますが、それはあくまで一面に過ぎません。われわれは、単なる“ロゴブランド”ではない多面的な顔を持っているからこそ、他ブランドからコネクトできると考えてもらえることが多いんだと思います。コラボは生まれる結果がひとつではなく、予期せぬ効果ももたらしてくれる一種の爆発と考えるのがいいかもしれませんね。
ーーコラボレーターの規模感は配慮しますか?
ソフィア: ある程度は気にしますが、相手が求めていることと自分たちのやりたいことが合致していれば、規模が小さくても構わず積極的に進めます。とはいえ、相手の規模が大きいと知名度もバジェットもあるので魅力的だし、何か面白いことを実現するには無理にでも推し進める必要もありますが、“少しでもつまらないと思ったらコラボしないこと”と、“自分たちのプロジェクトであること”は常に意識しています。
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル。キャプテンを務めるノルウェー代表選手のマルティン・ウーデゴールもモデルとして登場
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル。イングランド代表選手のブカヨ・サカもモデルとして登場
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル。イングランド代表選手のデクラン・ライスもモデルとして登場
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル
2024年に発売されたアーセナルFCとのコラボコレクションのイメージビジュアル
ーーブランドの歴史の中でも、アーセナルFCとのコラボは最大規模のプロジェクトであると同時に、世界規模でセンセーショナルを巻き起こしたと感じましたが、実際はいかがでしたか?
ソフィア: とても有意義で素晴らしい経験でしたが、あまりにも大きなプロジェクトがゆえにコントロールが効かない部分もあり、正直なところ個人としては少し怖かったですね。
PHOTO:SABI RYUSEI
ソフィア・プランテラが応援する地元のクラブ・ASローマとは、2022年に「ニューバランス」を加えたトリプルコラボを実現している
ーーやはり、あなたがグーナー(注:アーセナルサポーターの愛称)だからコラボを引き受けたのでしょうか?
ソフィア: ……違うんです(笑)。
ーーええ!?てっきりグーナーだと思っていました……。
ソフィア: オフィスでは多くのグーナーが働き、アーセナルのホームスタジアムの近くに住んでいるので近所の人もグーナーばかりですが、私はイタリア人なのでASローマ(注:イタリア・ローマを本拠地とするフットボールクラブ)のサポーターで、夫と子どもはウェストハム・ユナイテッドFC(注:ロンドン東部を本拠地とするフットボールクラブ)の熱狂的なサポーターなんですよ。コラボが発売された頃、夫と2人でアーセナルとウェストハムの試合中継を車のラジオで聞いていた時、ウェストハムが3点差で勝って煽られましたが、「あっそ、別に気にしてないけど?」と、あしらいましたね(笑)。でも、夫はアーセナルとのコラボは「君の最大の誇りのひとつだ」と言ってくれますね。
ーー最後に、今後の「アリーズ」の展望を教えてください。
ソフィア: 明確なビジョンがあるわけではないのですが、とにかく何か新しいことにチャレンジしたいですし、歳を重ねると“新しいことにチャレンジする必要”が出てくるんです。人によっては理解できないかもしれませんが、私にとっては大事なことなんです。おそらく、85歳の今も引退せずに現役の医者を続けている父親譲りの感覚ですね(笑)。
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