フォトアーティスト・ARISAKがファッション&ビューティ業界の多彩なクリエイターと共鳴し、新たなビジュアル表現を追求する連載【ARISAK Labo】。Vol.5となる今回は、ロンドン発の気鋭バンドhard lifeのフロントマン・Murray(マレー)が登場。今夏アルバム「オニオン(onion)」をリリースする彼が来日し、東京で夢を模索する姿をARISAKが捉える。
PROFILE: Murray

「まるで映画のワンシーンのような撮影だった」
Inside story of Murray × ARISAK
Interviewed by Daniel Takeda
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今回の撮影について「東京に来るたびに色々な人と出会い、自身のコミュニティーを広げているMurrayにインスピレーションを受けて、日本に降りたった異星人をイメージした。最初は孤独で悲しい表情から、徐々に愛を取り戻し希望に満ちていくようなストーリーを描きました」とARISAK。その撮影の裏側について、かねてから両者と親交がある竹田ダニエルがインタビューした。
竹田ダニエル(以下、ダニエル):まず、今回の撮影に至った経緯から教えてください
Murray(マレー):日本滞在中、とにかく面白いことがしたくて、いろんなクリエイティブな人に会っていたんです。そんな時、ダニエルが「ARISAKに会ってみて」と言ってくれて。作品を見た瞬間、「これはヤバい、めちゃくちゃかっこいい」と衝撃を受けました。GOAT(Greatest of All Time)だと思ったし、「ロンドンでも一緒にやろうよ、絶対ウケるから!」ってすぐに言ったくらい。彼女の作品って、“ザ・日本”みたいな感じじゃなくて、NYやロンドン、パリでも通用する洗練さがある。それが本当にかっこよかった。
撮影企画の準備をするにあたって、彼女が送ってくれたイメージやリファレンス、衣装のルックブックも全部好みで、もうタイミングも内容も完璧でした。
ダニエル:撮影当日はどうでしたか?
Murray:最高でした。ARISAKは事前にストーリーを丁寧に説明してくれて、「君は地球に来たばかりのエイリアンで、少し寂しいけど、日本にいることでだんだん心が和らいでいく」っていう設定があったんです。その物語に沿って、表情や動きを変えていく。普通のファッション撮影だと「とにかくかっこよく撮れればOK」って感じだけど、今回は全体が一つの映像作品のように作り込まれていて、すごく没入感がありました。
ARISAK:最初にMurrayと話したとき、「日本で仲間を見つけてコミュニティーを広げている」というエピソードが印象的で、それをもとに「異星人が日本に降り立ち、さまよいながらこの国に馴染んでいく」という裏ストーリーを考えました。彼が映画『PERFECT DAYS』の世界観が好きだと聞いて、神社や日本茶のカフェ、竹林といったロケーションを選びました。衣装やメイクも、感情の変化を表現できるように工夫しています。たとえば最初は涙のような表情、後半はハートのシールで少しずつ柔らかく明るい表情になるように構成しました。
ダニエル:東京という街に特別な思い入れがあるようですね?
Murray:本当に特別な場所です。白金では友達のTaka Perry(以下、Taka)とアルバムを一緒に作ったし、また来月戻ってくる予定もあります。何度来ても、“自分はエイリアンだ”って感覚が抜けないんです。でもそれが心地よくて。日本語も少し話せるけど、「これで合ってるのかな?」って不安になることもあって、常に境界にいるような感覚がある。
でも、東京は何かを始めるのに最適な場所。誰も結果を気にせず「とりあえずやってみよう」という空気があって、怖がらずに挑戦できる。ロンドンとはまた違ったクリエイティブな流れがあります。
ダニエル:日本に対する印象や、特に好きなことは?
Murray:日本にはもう何度も来ていますが、今でも自分は“外から来たエイリアン”のような気持ちが消えません。ちょっとだけ日本語が話せても、常に「外側」にいる感覚がある。でも、日本の秋は本当に好き。木の色や空気感、イギリスでは見たことがない景色です。
ARISAK:Murrayさんが「本音と建前」という言葉を知っていた時は驚きました。文化的な背景を理解しようとしているのが伝わってきて、とても嬉しかったです。
ダニエル:Murrayさんは、今回の撮影で日本的なロケーションを多く巡りましたが、それについてどう感じましたか?
Murray:あれは最高だったね。すごく小さなチームで、機動力もあって、何カ所も移動してさ。まるで週末に友達と遊んでるみたいな感覚だった。みんなで神社に行って、一緒にお参りしたのもすごく可愛くて、楽しかった。日本の友達に連れられて、神社やお寺に行くのって、実は何度かあって。拍手を打って、お辞儀して、お祈りするあの一連の流れが、本当に特別に感じるんだよね。すごくいい。
「これはマニフェスト(願望の可視化)だよ」ってダニエルが言ってたけど、それもすごくいい考えだと思う。イギリスには似たような文化がないからなおさらね。僕の世代って、あまり宗教に属してないし、でも日本の同世代の友達は「宗教的」ではなくても、すごくスピリチュアルだと思う。自然と精神性が生活に根付いてる。イギリスではそういうのって希薄なんだよ。
例えば、「いただきます」っていう文化もそう。食べ物に感謝して、自然や神様や命に敬意を払う。それってすごく深いことで、僕たちの文化にはなかなかない。イギリスでは「道は自分のもの」って感覚が強いけど、日本では「共有する」ものなんだよね。電車の中でも、みんな静かにしてて、スペースを“取る”んじゃなくて“譲る”という考え方。あれ、ほんとに好きだな。
ダニエル:今まで何度も日本に来てると思いますが、特に印象に残ってる季節や場所はありますか?
Murray:初めて来たのは4年前で、東京と大阪に行って3週間くらい滞在した。それからまた来て、去年の9月から10月には京都と沖縄にも行った。で、11月から12月末まではずっと東京にいて、それからまた戻ってきた。今度もまた東京に行く予定だし、今度は初めて九州(熊本と大分)にも行くんだ。最終的には夢の地、北海道にも行きたいし、Takaの出身地・仙台にも行って、A5ランクの仙台牛も食べたい(笑)。
季節で言うと、秋が一番好きだな。桜も好きだけど、正直言うと、東京の秋はもっと美しいと思ってる。あの紅葉、池に鯉が泳いでる庭園、全部が信じられないくらい静かで、平和で──世界で一番落ち着ける場所なんじゃないかって思うよ。
ダニエル:日本滞在が、音楽活動にも影響を与えたのでしょうか?
Murray:うん、大きく影響したよ。実は、3度目の日本滞在のとき、僕はイギリスで音楽を続けることにすごく疲れていて、マネージャーとレーベルにも「もう音楽を辞めたい」って宣言してたんだ。ちょうどパートナーとも別れた直後で、人生のどん底にいた。
そんな時に、日本があった。ロンドンから一番遠くて、自分が一番好きな場所だった。誰とも話したくなくて、でもTakaと毎日スタジオ・オニオンにこもって、一緒に曲を作ってた。それが、今のアルバムのタイトルにもなった。
精神的にも本当に辛い時期だったけど、ずっとセラピーも続けてたし、日本での生活が少しずつ自分を立て直してくれたんだ。特に秋の東京で、木々が色づいて、自然が死に向かっていくその移ろいの中で、自分も再生されていった気がする。
そういう背景があるから、東京は僕にとってただの都市じゃなくて、自分自身が変わるきっかけをくれた場所。だからこそ、こんなに大事に思ってるんだと思う。アルバムは完成したけど、僕の中では「まだ日本に来る旅」は終わっていないんだ。
ダニエル:今回の撮影で、キャラクターを演じる感覚があったと?
Murray:まさにそう。普段は「そのままの自分でいてください」って言われることが多いけど、今回は完全に“役を演じる”体験でした。オーバーサイズの衣装も動きやすくて、特にあのバルーンっぽい衣装は完全にエイリアン(笑)。あれ着てると自然にキャラに入り込めた。全体として「写真」というより、「ミュージックビデオ」や「短編映画」のような感覚でした。
ダニエル:演出面ではどうでしたか?
Murray:すごく的確で助かりました。「今はちょっと寂しい気持ちで」「この環境を初めて体験している感じで」と、ARISAKが常にキャラクターの内面に立ち戻らせてくれる。演じる上で、そのガイドがとても心強かったし、表現の幅も自然に広がりました。普通の撮影なら「かっこよく」だけで終わるところが、今回は「このキャラならどう動く? どう表情を作る?」と、すべて一緒に作っていった感覚でした。
ダニエル:ARISAKさんから見たマレーさんの印象は?
ARISAK:本当に表現力がすごくて、「今ちょっと悲しい感じで」と一言伝えるだけで、何パターンもすぐに出してくれるんです。モデルというより俳優のように、キャラクターを掴んで即座に反応してくれるので、撮影していてとても楽でした。アシスタントも「今のすごい!」って感動していて(笑)。とにかく、ただ撮られているというより、一緒に物語を“演じて”くれるのが印象的でした。
ダニエル:撮影中に印象的だったエピソードは?
Murray:撮影後にARISAKが代官山にある「Tea Bucks」のお茶をプレゼントしてくれたんですけど、それを車に置き忘れちゃって。でも、なんと彼女が自宅から恵比寿まで届けに来てくれたんです!それには本当に感動しました。「これが“おもてなし”か!」って。人としてもアーティストとしても、ほんとに素敵な人だと思います。
ダニエル:この撮影は連載の一部でもあるんですよね
ARISAK:
はい。この連載では、ただの「今月のゲスト紹介」にならないように、毎回の企画がつながっていく構成を意識しています。写真だけど、映画のように伏線があったり、世界観が広がっていくようにしたいんです。たとえば前のゲストと今月のゲストの物語が、裏でリンクしていたりもします。
Murray:すごいよね。本当に「一つの映画を観ている」みたいな感じ。しかも東京って、そういう“自然なつながり”が実際に生まれる場所でもあると思う。僕とARISAK、ダニエル、Taka(Perry)、SIRUPとも、全部が偶然から始まって、それが作品になっていく。それが東京の面白さであり、魔法だと思う。
ダニエル:撮影現場の雰囲気はどうでしたか?
ARISAK:日本の撮影現場は基本的に静かで真面目。でも今回は小さなチームでロケ地を移動して、神社でお祈りもしたりして、リラックスしながら楽しく撮れました。Murrayさんが現場の雰囲気を盛り上げてくれたので、チーム全体がいいムードになりました。
Murray:その通りで、撮影というより「週末に友達と遊んでいる」ような感じでした。何よりも、みんなと同じ方向を向いてクリエイティブに取り組めたのが嬉しかったです。
ダニエル:最後に、お互いにメッセージを
ARISAK:また一緒に作品を作れたら嬉しいです! 今回は“写真”の枠を超えたコラボレーションができて、自分にとっても大きな挑戦でした。マレーの表現力には本当に助けられました。
Murray:こちらこそ、本当にありがとう。東京で、こんなに楽しくて意味のある撮影ができたことは奇跡だと思っています。次に来たときも、ぜひまた何か一緒に作りましょう!
LOOK1:JACKET, SHIRT, PANTS / MA-A。, RINGS / MAHANA, OTHERS / STYLIST OWN
LOOK2:JACKET, SHOES / BUNKA FASHION COLLEGE, EYEWEAR / 3DID
LOOK3:SHOES / BUNKA FASHION COLLEGE
DIRECITON & PHOTOS:ARISAK
MODEL:MURRAY FROM HARD LIFE
HAIR & MAKEUP:JUNA UEHARA
STYLING:JINKI
TEXT:DANIEL TAKEDA
SPECIAL THANKS:TeaBucks, 大宮八幡宮, THE TOKYO
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