ブルーボトルコーヒー創業者が「コーヒーのみ」8000円のコースメニューで表現する至高の体験価値

 ブルーボトルコーヒージャパンは、コーヒー数種のコースメニューを提供する新業態「ブルーボトル スタジオ(BLUE BOTTLE STUDIO以下、スタジオ)」の1号店を京都に3月31日オープンした。

 「スタジオ」は、築100年を超える古民家をリノベーションした既存店「ブルーボトル 京都カフェ(以下、京都カフェ)」はなれ2階の一室。歴史を感じさせる漆喰と畳張りの空間で、カウンター越しに熟練のバリスタが1杯ずつ丁寧にドリップ&サーブする。世界中から厳選した豆を使い、独創的な方法で抽出したコーヒーやオリジナルドリンクを提供する。

 コースはコーヒーチェリーの果実部分を使用したドリンクから始まり、希少なシングルオリジン豆3種の飲み比べ、ネルドリップの濃厚なコーヒー、カフェオレと続く。合間には一口サイズのスイーツを提供するが、役割はドリンクの味を引き立てたり、味覚をリセットしたりすること。あくまで主役はコーヒーだ。

 コースは各回4席の予約制で、1人8250円。コーヒーの相場が1杯数百円であることを考えればかなり攻めた価格設定だが、5月初旬の大型連休まで予約はほぼ満枠という。

 30日に行われた内覧会に合わせて、米ブルーボトルコーヒー創業者のジェームス・フリーマン(James Freeman)が来日。現在は経営から退いているものの、「スタジオ」を創業(2002年)から培ってきた思想や創造性を凝縮した場とすべく、メニューや空間の設計に全面的に携わった。彼のコーヒーに向き合う姿勢や探究心、「スタジオ」1号店の出店地に京都を選んだ理由を聞いた。

WWD:日本に対する印象は。

ジェームス・フリーマン「ブルーボトルコーヒー」創業者(以下、フリーマン):私は「ブルーボトルコーヒー」の故郷は日本にあると思っている。喫茶店という文化が大好きだ。15年前、日本で初めて喫茶店に入ったときの衝撃が忘れられない。渋谷の「茶亭 羽當(はとう)」という店だ。カウンター越しにマスターの職人技のようなドリップを眺めた。カップに注がれるのを待つ時間、カウンター越しの距離感は、まさに僕の理想とするものだった。

WWD:「スタジオ」の1号店に京都を選んだ理由は。

フリーマン:「ブルーボトルコーヒー」は、はるか昔からあるコーヒーという文化を、どう現代にフィットする形で表現するかを考え続けてきた。グローバルでは100店舗以上を展開しているが、この「京都カフェ」はその考えを最も象徴的に表現している店舗の一つだからだ。100年以上前からある京町家をリノベーションすることで、過去のものを風化させずモダンに作り変えた。時を重ねた建築木材と漆喰の空間で過ごしていると、私自身も「ブルーボトルコーヒー」の哲学を反芻しているような感覚になる。

WWD:中庭があり、内と外が溶け合うような設計がユニークだ。

フリーマン:「ブルーボトルコーヒー」ではコーヒーだけでなく、空間も含めてお客さまに提供する価値だと考えている。ここでコーヒーを頼んで椅子に腰掛けると、さまざまな「音」が聞こえてくる。レコードプレーヤーから流れる音楽、木々の葉の擦れ合い。外では他のお客さまが中庭の砂利を踏みしめている。それらを聴きながら傾ける1杯は、とても奥深い味わいになる。

知識、経験を余すところなく表現
コーヒーを高尚にするつもりはない

WWD:日本人のコーヒー文化に対する理解は。

フリーマン:日本人は創作において、無駄を削ぎ落として素材のピュアな魅力を楽しむ。その技術やプロセスに対する尊敬もある。日本には現在24の店舗があるが、私が創業した時にはここまでスケールできることを想像していなかった。それができたのは「ブルーボトルコーヒー」が大切にしていることと、日本人の感性に重なる部分があったからかもしれない。

WWD:「スタジオ」で伝えたいこととは。

フリーマン:私がこの20年で培ってきた知識や体験を通じて、今考えうる最高のコーヒー体験を表現する。豆の繊細な個性を引き出すためのさまざまな方法をカウンター越しにお見せする。日本人の皆さんなら、きっとその時間を楽しんでいただけると思う。例えば京都でうなぎ屋さんに入って、漂ってくるいい匂いを感じながら、ゆっくり待っているときのようにね。「スタジオ」は京都を足がかりに他の地域、国にも広げていくことを考えている。ただもしアメリカで同じことをやろうものなら、「まだか?早く飲ませてくれ」と舌打ちされてしまうかもしれないね(笑)。

WWD:レストランでコース料理も食べられるような価格設定だ。

フリーマン:僕はこのコースの価格決定のプロセスには関わっていないんだ。価格を高くすることで、コーヒーを高尚なものにしようという意図はない。私がこれまで培ってきた知識や経験をすべて注ぎ込んで、それをお客さまに余すことなく伝えられるにはどうしたらいいか?しか考えることはなかった。(価格は)もちろん決して安くはないけれど、ここでの体験を通じてそれだけの価値を感じていただけると思っている。「こんな味わいがあるんだ」「抽出の仕方でこんなに変わるんだ」というふうに、皆さんのコーヒーの新しい扉を開くことになればうれしい。

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IMALUが性教育をテーマにラジオ番組 日本のフェムテックマーケットの火付け役と共に

 タレントのIMALUと、フェムケアグッズ専門店「ラブピースクラブ(LOVE PIECE CLUB)」を運営する北原みのりアジュマ代表は、FM FUJIで新番組「バイエルンから愛を込めて〜わたしたちの眠れない夜に〜」を4月2日にスタートする。ドイツ・バイエルン発のセルフプレジャーグッズブランド「ウーマナイザー(WOMANIZER)」が番組スポンサーとなり、「ドイツから多くの女性に健康と幸せを届けたい」という思いを込めて名付けた。放送は毎週日曜日夜7時30分から8時。

 同番組ではIMALUがホストを務め、さまざまな分野のプロフェッショナルを招いた性教育コンテンツを発信していく。なぜ2人が今性教育に目を向けるのか、話を聞いた。

WWD:2人の出会いは?

IMALU:去年の9月です。2020年に私が「ハダカベヤ」というポッドキャストで体や性の悩みについて語る番組を始めたことがきっかけで、いろんな出会いが広がって知人を通して紹介してもらいました。

北原みのりアジュマ代表(以下、北原):もともとIMALUさんの等身大の発信がすごく好きだったんです。もっとIMALUさんの言葉が広がるといいなと思っていたところに、今回のスポンサーであるウーマナイザーが手を上げてくれてこの企画が実現しました。

WWD:北原さんから見てIMALUさんの発信の魅力は?

北原:どんなことにも偏見を持たずに意見できる姿勢に驚きました。今もクリトリスの形のピアスを付けていらっしゃいますが、これをご紹介したときに「クリトリスっておしゃれですよね」とおっしゃっていました。なかなかそういうことを言える人っていないよなって。

IMRU:ちょっとおしゃれじゃないですか(笑)。オランダのプレジャーグッズブランド「バード(BIIRD.)」のアクセサリーで、みのりさんに紹介してもらいました。この時クリトリスがこんな形をしていることを知りました。発信してくれる先輩がいるからこそ出合えたブランドです。

北原:過激なものやユニークなものではなくて、自分の体のおしゃれな部分というふうに転換してくれて、私自身もハッとさせられました。こういうIMALUさんの言葉をもっと聞きたい。ラジオは一番言葉が届く世界だと思うので。「クリトリスはおしゃれ」は番組の裏テーマですね(笑)。

WWD:フェムテックの広がりもあり女性が自分の体について話すことへのハードルは下がってきたように感じます。IMALUさんはポッドキャスト「ハダカベヤ」やファッション誌などでも積極的に発信を続けていますが、語ることに抵抗はありませんでしたか?

IMALU:私はもともと自分の体や性教育について全然知らず、みんなで語す場所を作りたいと思いポッドキャストを始めました。というのも、30代になった翌日からいきなり周りから「いつ結婚するの?」「子どもは欲しいの?」と質問されるようになって。最初はすごくプレッシャーを感じて、今は欲しくないけど考えたほうがいいのかな、でも産婦人科もちゃんと通ったことないしな、といろいろ考えていくうちに自分の無知に気付いたんです。始めてみてリスナーからの反応がとても濃くて驚きました。私と同じように知らない人もたくさんいて、共感してくれたり、「私はこうだった」と話したりしてくれます。その延長でみのりさんをはじめ今まで発信してきた女性たちとの縁が広がったので怖さや抵抗はなく、優しい反応が多かったです。

美容ツールとして広がるフェムテック、一方で命に関わる情報が足りていない

WWD:IMALUさんとフェムテックの出合いは?

IMALU:私は吸水ショーツに本当に救われたんです。人生変わったと言っても大げさじゃないくらい。ロケ先では、いつトイレにいけるか分からないし、行けたとしても、どんなトイレかが分からず不安でした。人の家でロケの場合は、ナプキンを捨てる場所がなくて困ったり。吸水ショーツで、その日のストレスが一気に無くなりました。でもそもそもそれがストレスだったことも気付かなかったんですよ。

北原:やっぱり今まで我慢することがあまりにも多くて、ちょっとぐらい不快でも生理なんだから当たり前、プレジャーグッズに関しても、女なんだから別にそんなに気持ち良くならなくたっていいとか、本当は100いけるのに、6ぐらいでこんなもんでいいと思っている人が多い。ご飯やファッションのように、もっと新しい体験やベストなものを求めていいんです。だから「ラブピースクラブ」でもいろんな所にニーズに気付くポイントを仕掛けるように心がけています。

WWD:この番組もその気付くきっかけの一つになると。女性誌でもフェムテック特集が組まれたりするようになりましたが、まだまだ情報が足りていないと感じますか?

北原:情報過多な部分と足りてないところのバランスが悪いと思っています。過多なのは、膣の中をきれいにしましょうといった美容的なところ。こんなにケアしなくてはいけないのかなとプレッシャーを感じるぐらいあるけれども、避妊の話やピルの種類については、どのぐらい知っているのでしょうか。実は命や健康に関わることに関しては、知識や教育が足りていない。

WWD:だからこの番組では、性教育をテーマに掲げているわけですね。具体的にはどんなコンテンツを予定していますか?

北原:ちょうど2回収録を終えたところで、1回目は「コンドームで防げる性感染症」について。2回目は「ウーマナイザー」からセクソロジスト(性科学者)をお招きし、ドイツの性教育事情や避妊の話などをしてもらいます。毎回テーマを変えていきますが日曜の夜なので、IMALUさんの明るい雰囲気でいろんな人の気持ちが引き出されるような番組にしていきたいです。「眠れない夜が訪れないように」の思いを込めてタイトルにしましたが、みんなが語り出して逆に眠れなくなってしまうかも(笑)。でも性にまつわる話題は、みんなが複雑な気持ちや経験をしてきているから、みんな語ることがある。にもかかわらず語れてこなかったことに気付いてほしい。

IMALU:リスナーとはどんどんコミュニケーションをとって、みんなの思いを共有できるような番組にしたいです。特に私と同世代の人たちやもっと若い人たちにもいろんな選択があっていいと伝えたいし、私も一緒に勉強していきたい。家族でもぜひ聴いてもらいたいです。

語ることで生きづらさが解決するきっかけに

WWD:日本の性教育の問題点はどういうところにあると思いますか?

北原:まず、性教育を受けてないことです。

IMALU:そうですね。以前アンケートで「性教育受けたことがありますか?」と聞いたときに、「ある」と回答した人は多かったですが、ドイツの性教育の中身を聞くとあまりにも質が違っていて驚きました。たとえば避妊の方法もかなり具体的に、種類や体への負担などを解説して、避妊方法を子どもに議論させたりしている。すごいなと思いました。この番組でもいろんな角度から楽しく性教育を学ぶことを目指します。

北原:女性にとって生はまだまだ生きやすい社会ではないと思います。でもそれぞれの生きづらさを口にすると、何か解決が出てくるかもしれない。IMALUさんの言葉を通して何かが変わっていってほしいと願っています。

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IMALUが性教育をテーマにラジオ番組 日本のフェムテックマーケットの火付け役と共に

 タレントのIMALUと、フェムケアグッズ専門店「ラブピースクラブ(LOVE PIECE CLUB)」を運営する北原みのりアジュマ代表は、FM FUJIで新番組「バイエルンから愛を込めて〜わたしたちの眠れない夜に〜」を4月2日にスタートする。ドイツ・バイエルン発のセルフプレジャーグッズブランド「ウーマナイザー(WOMANIZER)」が番組スポンサーとなり、「ドイツから多くの女性に健康と幸せを届けたい」という思いを込めて名付けた。放送は毎週日曜日夜7時30分から8時。

 同番組ではIMALUがホストを務め、さまざまな分野のプロフェッショナルを招いた性教育コンテンツを発信していく。なぜ2人が今性教育に目を向けるのか、話を聞いた。

WWD:2人の出会いは?

IMALU:去年の9月です。2020年に私が「ハダカベヤ」というポッドキャストで体や性の悩みについて語る番組を始めたことがきっかけで、いろんな出会いが広がって知人を通して紹介してもらいました。

北原みのりアジュマ代表(以下、北原):もともとIMALUさんの等身大の発信がすごく好きだったんです。もっとIMALUさんの言葉が広がるといいなと思っていたところに、今回のスポンサーであるウーマナイザーが手を上げてくれてこの企画が実現しました。

WWD:北原さんから見てIMALUさんの発信の魅力は?

北原:どんなことにも偏見を持たずに意見できる姿勢に驚きました。今もクリトリスの形のピアスを付けていらっしゃいますが、これをご紹介したときに「クリトリスっておしゃれですよね」とおっしゃっていました。なかなかそういうことを言える人っていないよなって。

IMRU:ちょっとおしゃれじゃないですか(笑)。オランダのプレジャーグッズブランド「バード(BIIRD.)」のアクセサリーで、みのりさんに紹介してもらいました。この時クリトリスがこんな形をしていることを知りました。発信してくれる先輩がいるからこそ出合えたブランドです。

北原:過激なものやユニークなものではなくて、自分の体のおしゃれな部分というふうに転換してくれて、私自身もハッとさせられました。こういうIMALUさんの言葉をもっと聞きたい。ラジオは一番言葉が届く世界だと思うので。「クリトリスはおしゃれ」は番組の裏テーマですね(笑)。

WWD:フェムテックの広がりもあり女性が自分の体について話すことへのハードルは下がってきたように感じます。IMALUさんはポッドキャスト「ハダカベヤ」やファッション誌などでも積極的に発信を続けていますが、語ることに抵抗はありませんでしたか?

IMALU:私はもともと自分の体や性教育について全然知らず、みんなで語す場所を作りたいと思いポッドキャストを始めました。というのも、30代になった翌日からいきなり周りから「いつ結婚するの?」「子どもは欲しいの?」と質問されるようになって。最初はすごくプレッシャーを感じて、今は欲しくないけど考えたほうがいいのかな、でも産婦人科もちゃんと通ったことないしな、といろいろ考えていくうちに自分の無知に気付いたんです。始めてみてリスナーからの反応がとても濃くて驚きました。私と同じように知らない人もたくさんいて、共感してくれたり、「私はこうだった」と話したりしてくれます。その延長でみのりさんをはじめ今まで発信してきた女性たちとの縁が広がったので怖さや抵抗はなく、優しい反応が多かったです。

美容ツールとして広がるフェムテック、一方で命に関わる情報が足りていない

WWD:IMALUさんとフェムテックの出合いは?

IMALU:私は吸水ショーツに本当に救われたんです。人生変わったと言っても大げさじゃないくらい。ロケ先では、いつトイレにいけるか分からないし、行けたとしても、どんなトイレかが分からず不安でした。人の家でロケの場合は、ナプキンを捨てる場所がなくて困ったり。吸水ショーツで、その日のストレスが一気に無くなりました。でもそもそもそれがストレスだったことも気付かなかったんですよ。

北原:やっぱり今まで我慢することがあまりにも多くて、ちょっとぐらい不快でも生理なんだから当たり前、プレジャーグッズに関しても、女なんだから別にそんなに気持ち良くならなくたっていいとか、本当は100いけるのに、6ぐらいでこんなもんでいいと思っている人が多い。ご飯やファッションのように、もっと新しい体験やベストなものを求めていいんです。だから「ラブピースクラブ」でもいろんな所にニーズに気付くポイントを仕掛けるように心がけています。

WWD:この番組もその気付くきっかけの一つになると。女性誌でもフェムテック特集が組まれたりするようになりましたが、まだまだ情報が足りていないと感じますか?

北原:情報過多な部分と足りてないところのバランスが悪いと思っています。過多なのは、膣の中をきれいにしましょうといった美容的なところ。こんなにケアしなくてはいけないのかなとプレッシャーを感じるぐらいあるけれども、避妊の話やピルの種類については、どのぐらい知っているのでしょうか。実は命や健康に関わることに関しては、知識や教育が足りていない。

WWD:だからこの番組では、性教育をテーマに掲げているわけですね。具体的にはどんなコンテンツを予定していますか?

北原:ちょうど2回収録を終えたところで、1回目は「コンドームで防げる性感染症」について。2回目は「ウーマナイザー」からセクソロジスト(性科学者)をお招きし、ドイツの性教育事情や避妊の話などをしてもらいます。毎回テーマを変えていきますが日曜の夜なので、IMALUさんの明るい雰囲気でいろんな人の気持ちが引き出されるような番組にしていきたいです。「眠れない夜が訪れないように」の思いを込めてタイトルにしましたが、みんなが語り出して逆に眠れなくなってしまうかも(笑)。でも性にまつわる話題は、みんなが複雑な気持ちや経験をしてきているから、みんな語ることがある。にもかかわらず語れてこなかったことに気付いてほしい。

IMALU:リスナーとはどんどんコミュニケーションをとって、みんなの思いを共有できるような番組にしたいです。特に私と同世代の人たちやもっと若い人たちにもいろんな選択があっていいと伝えたいし、私も一緒に勉強していきたい。家族でもぜひ聴いてもらいたいです。

語ることで生きづらさが解決するきっかけに

WWD:日本の性教育の問題点はどういうところにあると思いますか?

北原:まず、性教育を受けてないことです。

IMALU:そうですね。以前アンケートで「性教育受けたことがありますか?」と聞いたときに、「ある」と回答した人は多かったですが、ドイツの性教育の中身を聞くとあまりにも質が違っていて驚きました。たとえば避妊の方法もかなり具体的に、種類や体への負担などを解説して、避妊方法を子どもに議論させたりしている。すごいなと思いました。この番組でもいろんな角度から楽しく性教育を学ぶことを目指します。

北原:女性にとって生はまだまだ生きやすい社会ではないと思います。でもそれぞれの生きづらさを口にすると、何か解決が出てくるかもしれない。IMALUさんの言葉を通して何かが変わっていってほしいと願っています。

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【動画】トレンドは“デニム”と“テーラード”  東コレ2023-24年秋冬来場者をキャッチ

 日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)は2023-24年秋冬シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、東コレ)」を開催した。今回、「WWDJAPAN」映像チームはトレンドアイテムの“デニム”と“テーラード”を着用した来場者のスタイルを調査した。

 Z世代を中心に人気のリバイバルファッション“Y2K”によって1990~2000年代初頭に盛り上がった、デニムルックが再燃している。23年春夏シーズンのコレクションも、デニムのアイテムを発表するブランドが国内外で多く見られた。23-24年秋冬の東コレでも「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」や「フェティコ(FETICO)」、「シュタイン(STEIN)」などがデニムのルックを披露。ショー会場でもデニムを取り入れたスタイリング上級者が多かった。

 また、テーラードを軸にしたスタイルも台頭。23-24年秋冬シーズンのコレクションでは「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」をはじめとしたエレガントが目立った。東コレでも「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.)」や「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」などもテーラードを軸にしたコレクションを披露した。会場にも、テーラードを独自に着こなす来場者を多数見かけた。

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WMHグループが10年を経て考える ファッションビジネスの明るい未来

 デジタル化が進む過程で、トレンドやコミュニティーは細分化と同時に短命化する傾向にあり、ファッションビジネスに求められるものも大きく変わっている。ファッション、そしてビューティ領域に特化したグループである、ワールド・モード・ホールディングス(以下、WMH)ではこれからのファッションビジネスをどう考えているのか。WMHの小西聡常務取締役が、ファッションと日本文化に精通するロバート キャンベルを迎え語り合った。

社会背景から読み解く
ファッションビジネスの現在地

WWDJAPAN(以下、WWD):WMHはファッションビジネスを支えるため、長い間業界と向き合っている。近年のファッションビジネスをどう捉えている?

小西聡WMH常務取締役(以下、小西):今は地政学的混乱も影響し、社会のイデオロギーが揺らぎ、ファッションの方向性も変わっていくのでは?という予感を持っている。ファッションは、社会的基盤と切り離すことができない。かつて明確だった価値のヒエラルキー(終身雇用や年功序列等)は、バブル崩壊後に崩れた。さらにデジタルの進展の過程で価値の微分化、短命化が進んだ。価値とも呼べない気分のようなものがSNS上で日々膨大にやり取りされている。このような中でブランドを成立させることが難しくなっている。

2000年頃には、アメリカ的な価値観の行き詰まりが始まる一方、市場は地球規模で拡大を続けた。大資本を背景にしたマスブランドの力が相対的に強くなっている。
ファッションは芸術や文化、経済性が渾然一体としたものだと思うが、経済的要素が前面に出すぎると創造性が退行する。もう一度、本来ファッションが持つ、先端性、前衛性、創造性をとり戻すことが大切ではないかと思う。

WWD:ラグジュアリーとマス・ファストファッションに二極化し、資本力が乏しいアップカミングな人々でも活躍できる両者の中間のフィールドが失われている。

ロバート キャンベル(以下、キャンベル):個人の価値観はファストファッションと超ハイブランドの間にある“真ん中”を基点に、年齢やステイタス、ライフイベントに合わせてアップデートしたり築き上げたりしていくものであるが、“真ん中”がないとそれができないのではないかと思う。

ヨーロッパでの戦争や、アメリカにおける民主主義的なぐらつきは、同じ社会現象を見ても人々が同じように認識できない認知能力の分裂を示していて、それはファッションにかなり反映されているように感じる。

小西さんが言う、価値のヒエラルキー、憧れの構造体の崩壊についても同意だ。デジタルの発展により人々の選択肢が無数に広がった。現代は、それまで自己表現もできなかった人々が自分のアイデンティティーを自ら総合的に組み立ててゆく時代だ。

WWD:ファッションをビジネスの側面から見れば、利益を出す経済性、サステナビリティやダイバーシティーといった社会性はもちろん、“自分たちが何をしたいのか”という内発性が一番重要だ。ブランドやクリエイターがこの内発性にフォーカスするうえで、WMHのように多方面からファッション業界をサポートしていく存在は大きな意味を持つ。彼らが経済性や社会性を学ぶ環境を提供し、本来一番大事な内発性にフォーカスできる体制を整えて欲しい。

小西:ブランドが「定見」を持ちにくい世の中になった。かつては、もっとブランド側から社会に発信するテーゼを探っていたように思う。例えば、60年代のPOPカルチャーの時代、80年代のポストモダンの時代。WMHは個々のクリエイターが世に出したいものをビジネスの仕組みの面で支えていきたいと思っている。そうしてブランドから社会に新しい価値観や方向性を発信するお手伝いをできればと思う。

キャンベル:軸が建ちにくい時代というのは、すぐそばにチャンスがある時代でもあるとも言える。自分が関わっているラジオ局では70年代の名曲から最新のヒット曲をまぜこぜにして放送している。それを若い世代は、ひとつの気分として捉えていて、古い、新しいという区別はない。組み合わせて、崩して合わせる行為が新しさという価値を持つ。

昨年12月に私は茶道の道具についての本を出したが、茶の湯の道具というものは、例えば千利休が好んだということが価値になる。オーガナイザーとしての役割を果たす利休を中心に、器物や掛け軸といった、さまざまな要素で構成される価値体系が生まれる。

TikTokやインスタグラムなどのSNSで面白いと感じる投稿がある。ファッションだけを投稿するのではなく、メイクやダンスと渾然一体となったものとして表現しているものがバズる。いくつものベクトルが同時に存在するコンテンツが評価されている。

エステティック(審美)やカッコいいと感じさせる気分、価値の呼応、共振など、自分の才覚や仲間、良いものに行き着くための自分だけの道がそれぞれにある。チョイスに対して何かを感じ、表現することにこだわり、そのこだわりに気付く感覚が今の若い人にはある。

WMHはグループ各社が異なる機能を持ち、顧客課題に合わせて、単体でまたは連携してふさわしいサービスを提供している。さまざまな構成要素を持ち、いくつものベクトルが同時に存在するという点で、似たものを感じる。

小西:価値のカオスから再構築するところに、むしろ面白さやチャンスがあるということだろうか。日本には伝統的に西洋的な「善と悪」や「神と悪魔」という二元論的なものの捉え方はせず、混沌としたものを総体として捉える文化がある。雑然とした関係につながりを見出し、新しい価値を生み出す創造性を持っている。冒頭で述べた社会基盤が崩れて方向性が見えにくいという現在の状況は、ある意味で危機的とも考えられるが、混沌とした中から日本的なクリエイションを紡ぎだす好機かもしれない。

WWD:個人が好きなように表現できることを良しとする消費者が増えるとしたら、WMHのようにさまざまな法人を持ち、さまざまな形で支えられる存在は、これからのブランドにとってかけがえのないものだ。

小西:人材、教育、店舗、マーケティング、IT、空間デザイン、海外支援などの事業ネットワークをさらに広げ、お客さま、お取引先、クリエイター、各種専門家の方々の橋渡しをしながら新しい社会的価値を創造していきたい。同時に経営面をサポートしながら、事業体の革新性の中心になるクリエイターを支える。この両面をやっていきたいと考えている。

消費者に寄り添い過ぎない
ブランドを創造

小西:経営的側面で言えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)やCX(カスタマーエクスペリエンス)などの言葉先行ではなく、バリューチェーン全体の経営システムをデジタル起点で再構築する地道で継続的な経営変革が本来は求められる。

また、クリエイションの観点から言えば、市場や消費者に過剰におもねらない主張のあるブランド作りに寄与したいと思う。売らんがために市場に受け入れられることに目を向けすぎると、ブランドとして成立しなくなってしまう危険性がある。 

キャンベル:テレビ業界でもまったく同じことが起きている。想定しているマーケットに寄り添うコンテンツばかりを作り、結果として面白くないと人が離れてしまう。

バブル崩壊後、消費傾向はどんどん目減りしている。10代から30代の消費者は、クルマや飲食やファッションに張り込んでも、ペイバックがないと考えている。

一方、コロナショックで海外の宝飾ブランドが非常に好調だったというトピックもある。特に女性が、外向きの消費ではなく自分自身のために価値のある宝飾を手に入れようとした。持続的かどうかはさておき、高度経済とは違う、ひとつの新しい消費行動が生まれていた。過去や現状を意識しながら価値の再構築をしていくことが求められている。

小西:需要を探すのではなく、需要を作るというマーケットクリエイション的な視点は、これから重要だと考えている。クライアントの課題解決とともに、クライアントのリソースから新しい展開を図るというお手伝いができれば、非常に光栄だ。デザイン面における創造性と同じように、経営革新における創造性も社会にエネルギーを与える大きな要素だ。

キャンベル:東京の立川駅前に多くの土地を持っている企業があり、その企業が主体で新しい街区が完成した。温泉を掘り、インフィニティープールがあるホテルを作り、市民が集えるホールを作り、商業施設がある。そのテナントはほとんど西東京の中規模な企業で、地域ですごく愛されて面白いことをしているものに限っている。キャンプが盛んな地域だが、著名ブランドが入るのではなく、西東京で面白いキャンプグッズを作っている若い人が店を構え、そしてその街区は人をひきつけものすごく成功している。

デベロッパー主体でありがちな商業施設をいくつも作るのではなく、その土地に根ざした人々をマトリックスのようにつなぎ合わせて訴求力のあるものに仕上げてゆく。たくさんのノード(個)が集まり、集合体になったときに新しいものが生まれるような存在を作っていく。ブランドというよりもラボのようなものがこれからの未来に必要なのではないか。

小西:日本には、商社という特殊なビジネス形態を生みだし、高度経済成長のけん引役を担ったという歴史がある。異質なものを融合させ、事業をオーガナイズしていくという独自の文化は日本の強みでもある。ファッション・ビューティに特化した私共のネットワークを駆使し、オーガナイザーとして新しいものを生み出していきたい。

キャンベルさんとの対話により、異質なものも受け入れつつ、混沌とした中から新しい価値を創造していくという日本的なクリエイション、ネットワークの中でアメーバのようにふるまいながら新しい価値を創造していくという可能性に目を開かせていただいた。良い意味で消費者の期待の範囲を超え、そこに消費者が自らの思いを載せていけるようなストーリー性のあるブランド作りをお手伝いしたい。心が躍る世界観を提示できるクリエイターとともに歩むことがファッションの未来につながる、そんなビジョンをあらためて持つことができた。

ワールド・モード・
ホールディングスとは?

 ワールド・モード・ホールディングスは、専門性や教育力を強みとする人材サービスの「iDA」、研修や店舗メソッドを提供する「ブラッシュ」、広告やSNS、ECなどを自在に組み合わせクライアントの課題解決を目指す「AIAD」、顧客とのタッチポイントに点在するデータをテクノロジーを使い分析し中長期的戦略を提供する「AIAD LAB」、接客スキルの高い販売員らが店舗運営を代行する「フォーアンビション」、コンサルティングから施工までVM領域のあらゆるサービスと教育にも力を注ぐ「ヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ」の国内6事業会社で構成。そしてシンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアの海外5カ国の拠点を有する。各社の高い専門性と連携を生かして、ファッション・ビューティ業界を専門に、クライアントの課題に応じた実効性の高いソリューションを提供するグループで、2022年に設立から10周年を迎えた。

 グループ一丸となって業界のサステナビリティへの貢献を目指し、販売員を対象としたウェビナー開催など、業界全体の発展を支えるための活動にも取り組んでいる。

社長が語るこれからのWMH
“人とサービスの
プラットフォーム”へ

 WMHグループが誕生してから10年が経つ。父が創業し二代目のバトンを受けた人材サービスの会社に研修会社を加え、その後マーケティングや店舗開発・運営など、様々な分野の事業会社や専門性の高いプロフェッショナルとの縁に恵まれ、WMHは現在国内に6事業会社と海外に5拠点を持ち、総合ソリューショングループとして活動している。

 取り巻く環境は複雑化している。局所的な対応では本質的な課題解決は難しい。現在の主要なトピックは、デジタル対応の推進とリアル店舗での体験との融合、IT投資による生産性や在庫効率の向上、海外からの消費者と働き手の獲得、海外への事業展開、そしてサステナビリティへの対応の推進など、部門横断的に取り組むべき課題が増加している。WMHグループ各社が単一のサービスを提供するだけでなく、グループ内の連携をより活発にして複数の選択肢を用意する、あるいは必要に応じサービスを融合することが実効性を高める。多角的な視点でクライアントの本質的な課題を解決する姿勢が今後求められると感じている。

 ファッションの仕事は人生に豊かさを提供する。人の心を動かす心のこもった対応や創造性の創出は、機械にはできない人間のみが可能な仕事だ。転換期を迎えているファッション業界の変革にも、人の情熱が必須。WMHグループは人の成長と専門性の高いソリューションによって付加価値を生み出し、ファッション業界を盛り上げ、さらに魅力的な人材を多く業界に集めるといった好循環に貢献する。海外展開についても本部機能を増強し、まずアジア太平洋地域で存在感を示せるよう成長を加速する。世界中のファッション市場や地域社会の発展に貢献し、日本と各国でさらに人と企業が行き来し、持続的に成長する未来を実現する。

 働き手の不足について相談が多く寄せられている。弊社の人材サービスにて鋭意対応することはもちろん、多くの働き手を惹きつける魅力的な業界になるよう業界全体が協力し合い課題解決していきたいと考える。さらに企業間連携や業界横断的な活動にも積極的に取り組む。

 次の10年では、世界中のパートナーやコミュニティーと繋がり、”第二創業”の意気込みで、業界の持続的な発展を支える“人とサービスのプラットフォーム”を目指す。そして業界中の人々とともに、ファッションの力で世界の人々を豊かにしていきたい。

INFORMATION
2月8日開催 サステナビリティウェビナーのアーカイブ動画を期間限定で公開
「ファッションの現場から発信するサステナビリティ
~ポストコロナにおける業界の変化を知り、行動する~」

登壇者:向千鶴「WWDJAPAN」編集統括サステナビリティ・ディレクター 、山内秀樹WMHサステナビリティ顧問
視聴期間:4月30日まで視聴可能
費用:無料
視聴先:ワールド・モード・ホールディングス オフィシャルサイト〈SUSTAINABILITY〉コンテンツのArchive

EDIT & TEXT : TSUZUMI AOYAMA
PHOTOS : KAZUSHI TOYOTA
問い合わせ先
ワールド・モード・ホールディングス
03-3374-8107

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ゴールドウイン渡辺社長&スパイバー関山社長が語る「夢の繊維のネクストステージ」

 ゴールドウインとスパイバーは2023-24年秋冬物から、「ザ・ノースフェイス(THE NORTH FACE)」「ゴールドウイン(GOLDWIN)」「ウールリッチ(WOOLRICH)」「ナナミカ(NANAMICA)」の4ブランドで、スパイバーが開発する人工タンパク質素材「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN、以下BP)」を使ったアイテムの販売を開始する。これまでは数十着の数量限定販売にとどまっていたが、スパイバーは昨年夏にタイで、世界初の人工タンパク質原料の量産工場の稼働をスタートしており、数千着を売り出す、"世界初”の量産販売になる。

 2015年にゴールドウインがスパイバーに約30億円を出資して本格的にスタートした「夢の繊維」の開発は、いよいよ次のステージに移る。渡辺貴生ゴールドウイン社長は「14年夏に、初めて見せられた人工タンパク質素材は、小さなボビンに巻かれたとても短い青い糸だった。それから10年も経たずに、人工タンパク質素材『ブリュード・プロテイン』は量産にこぎつけ、当社の有力ブランドから製品を販売できるようになったのは感無量だ」と振り返りつつ、「ここからが本当のスタート。2030年までにはゴールドウインで生産する素材のうち、約10%をこの『ブリュード・プロテイン』に置き換えたい」という。
 
 ゴールドウインは15年9月、当時はまだほぼ無名だったスパイバーに30億円を出資すると発表。以来、ゴールドウインの渡辺社長(当時は副社長)とスパイバーの関山社長は、二人三脚で「ブリュード・プロテイン」素材を使った製品の開発に取り組んできた。19年6月にTシャツを、11月には高性能ウエア「ムーンパーカ(MOON PARKA)」を、数量限定ながら販売にこぎつけていた。

 今回「ノースフェイス」など4ブランドで販売するアイテムは、全部で15アイテム。価格は「ノースフェイス」の人気ダウンジャケット「ヌプシ ジャケット」が11万円(税込み)や、「ナナミカ」のバルマカーンコートが19万8000円など。いずれも表地のテキスタイル「ブリュード・プロテイン」を使っており、価格は通常のタイプに比べて2倍〜2.5倍ほど高くなる。9月には丸ビルに「ブリュード・プロテイン」を使用した全製品を販売する期間限定店をオープンする予定で、一部のアイテムについては米国や欧州、中国など海外でも販売する。

 ゴールドウインの渡辺社長&スパイバーの関山社長の2人と、メディアとの主なやり取りは以下の通り。

――2015年9月に提携を発表。多くの困難を乗り越えて、ようやくここまで来た。

渡辺貴生ゴールドウイン社長(以下、渡辺):3月上旬に私もタイ工場に行ってきたが、まさに感無量だ。2014年8月に、山形県鶴岡市にあるスパイバーのオフィスで初めて見せられた「ブリュード・プロテイン」糸のことはよく覚えている。小さなボビンに巻かれた、原着の短い青い糸だった。そのときに感じた「この小さな糸が世界を変える」、という確信はずっと変わらない。大変なことも多かったが、わずか10年足らずで、量産化がまさに始まるところまでこぎつけられた。

――現状は?

渡辺:タイの「ブリュード・プロテイン」の工場は、23年度には240トン、24年度には500トンのフル生産を計画している。それでも年7000万トンに達する、石油由来のポリエステルやナイロンといった合繊に比べると、遥かに小さく、すぐに価格を同水準にもっていくのは難しい。しかし、カシミヤやビキューナ、ファーなどの希少な獣毛素材とは競争できる。すでに最高グレードのカシミヤと同水準の素材はほぼ完成している。スポーツ分野以上に、ファッション分野ではかなりインパクトがあるはずだ。

――カシミヤの代替はファッション分野だと確かに大きいが、ゴールドウインはスパイバーとの間で素材の独占権などを設定していないのか。

渡辺:ゴールドウインはスポーツ分野にのみ独占権を設定しているが、それ以外の用途に関しては一切の制限をかけていない。今回販売するアイテムの中には入っていないが、妖艶なタッチと表情を持ったファー素材を筆頭に、実は「ブリュード・プロテイン」を使った素晴らしい素材開発はかなり進んでいる。むしろ色々なブランドに使ってほしいと思っている。

――未知の素材を使ったテキスタイルや製品開発には、それこそ膨大な試行錯誤が必要になる。つまり、大きな先行投資がかかっている。ファーにしろ、ニットウエアにしろ、そうした苦労をせず他社が使用することに抵抗はないのか?

渡辺:世の中を変えると言いながら、ゴールドウインが(「ブリュード・プロテイン」を)独占使用する。そこに大義はあるのか?もちろんノーだろう。世界を本当に変えるのなら当然スケール(規模)が必要になる。日本の有力な繊維企業や産地企業に私自身が声をかけコンソーシアムを設立して、一体となって開発に取り組んできた。それらの企業も含め、我々は「世界を変えたい」という強い思いの下に試行錯誤を繰り返してきた。最終製品として販売することにこだわってきたのも、糸や生地を見せるだけでは説得力がなく、製品販売に到達できれば、いろいろな企業が「ブリュード・プロテイン」を認知し、使用を後押しする強力な武器になると考えてきたからだ。「ブリュード・プロテイン」を広く使ってもらうことが最も重要であり、開発に成功した糸や生地を外部にも提供することなど、そう大したことではない。

――改めて「ブリュード・プロテイン」に取り組む理由は?

関山和秀スパイバー社長(以下、関山):振り返ってみれば、僕が2004年にタンパク質研究に着手したのは、ITとバイオ(テクノロジー)が融合する稀有なタイミングだった。今までの100年間は言ってみれば石油を原料とする「石油化学」の時代だった。ここから衣類で言えばポリエステル、世の中全体では多種多様なプラスチック製品が生み出され、「大量生産・大量消費・大量廃棄」社会を支えてきた。一方で、自然の生態系には一切のムダがなく、そもそも「ゴミ/不要物」自体が存在しないわけで。人類はまだまだ学ぶべきところがある。世界では、バイオがコンピューターサイエンスと結びついたことで非常に注目を集める分野になっている。

――米国では当局の金融引き締めに伴い、スタートアップ企業は資金調達や経営に大きな影響がでている。スパイバーへの影響は?

関山:すごく大変です。米国では穀物メジャーのアーチャー・ミッドランド・ダニエルズ(以下、ADM)と組んで、大掛かりな人工タンパク質の原料工場を建設する予定だが、インフレと円安で資材や建設費が高騰している。コストを削減するために設備設計の見直しを行っており、着工が遅れている。

――資金調達は?

関山:2021年夏にカーライルやクールジャパン機構などから340億円の大型資金調達を行っており、資金調達は一旦の区切りをつけていた。振り返ってみると、「運が良かった」の一言に尽きる。もう少しタイミングが遅ければ、資金調達ができず、とんでもないことになっていたはず。

ただ、悪いことばかりではない。「ブリュード・プロテイン」が目指す地球環境をより良くするという本質的な価値に対して、むしろ関心が高まっており、特に欧州のラグジュアリー・ブランドからの引き合いが強まっている。詳細は控えるが、かなりの熱量で取り組みが進んでいる。

――それらが店頭に並ぶのはいつ?

関山:2015年から二人三脚で取り組んできたゴールドウインだから例外的に早いだけで、他のブランド・企業の製品が店頭に並ぶのは、早くても24年の春夏物以降だ。

――どういったブランドになる?

関山:タイの工場はフル操業でも年間数百トン程度で、まだ原料自体が高く、今後数年間は欧州の高級ブランドが中心になる。ただ「ブリュード・プロテイン」はスケール(規模)を目指しており、特定の販路だけをターゲットにはしていない。中長期的には幅広いブランド・カテゴリーに展開する。タイの工場は、世界最大規模の人工タンパク質の製造工場であると同時に、最新鋭の技術や設計思想を取り入れており、敷地は東京ドーム2個分ほどの大きさだが、かなり自動化が進んでおり、オペレーターは4人しかいない。

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東レ新社長の大矢氏、「二人三脚で(事業の)体積増やす」 会見の一問一答

 東レは3月27日、東京都内で大矢光雄・副社長(66)の新社長就任会見を行った。6月末の定時株主総会を経て、正式に社長に就任する。大矢氏は1980年の入社以来、繊維の営業一筋だが、ファイバー、テキスタイル、縫製までの全領域を担当しており、「長い東レの歴史の中でも、全般を担当した人は珍しい」という。東レのコア・バリューである研究開発技術を、繊維事業で培ったブランディングやグローバルサプライチェーンの拡充などをミックスした経営手腕を生かす。

 大矢氏は1956年6月11日生まれ、千葉県出身。慶応大学法学部を卒業後に1980年4月に東レ入社。2002年に長繊維事業部長、08年6月にインドネシア・トーレ・シンセティクス副社長、11年6月産業資材・衣料素材事業部門長、12年取締役、14年6月東レインターナショナル社長、16年6月専務取締役繊維事業本部長、20年6月代表取締役副社長執行役員、23年6月社長就任(予定)。

 メディアとの一問一答は以下の通り。

――なぜ今なのか?

日覚昭廣・社長(以下、日覚):東レは高い技術力で革新的な素材を生み出し、事業を拡大してきたし、社会課題の解決にも貢献してきた。ただ、最終製品を作っていないため、一般での認知度だけでなく、市場での価値評価の低さが課題だったと認識している。大矢さんは、厳しい事業環境の中で、大矢さんは課長時代から繊維の高付加価値化やサプライチェーン改革などを成し遂げ、グローバル市場でも確たるポジションを築き上げてきた。加えて、繊維事業は拠点もグローバルに広がっているが、外部も含めた人望の厚さもある。これらが決め手になった。

――日覚社長が2010年に社長に就任した際は61歳だった。若返りという意味では物足りないが。

日覚:若返りも重要だと考えているし、現在は50歳以下を対象にした幹部育成にも取り組んでいる。だが、いまの厳しい状況を考えて、知識と経験、実力、人望を考えると、それらを満たす人材を考えると、(結果として)大矢さんという結論になった。

大矢光雄・副社長(以下、大矢):もともと老けて見られるので、10年前もこーゆう顔だったので、次の10年も変わらないはず(笑)。冗談はともかく、私自身は健康であれば年は関係ないと思っている。

――打診はいつ?

大矢:昨年末に打診があったが、そのタイミングでは一旦保留した。私は繊維の営業一筋で、東レの広範囲にまたがる事業を、どうカバーしていくか考えたかったからだ。だが全社を見渡してみて、ゼロイチではなく、10から100に、100から1000にするような事業も多く、それなら私の経験や力が生かせるのではないかと思い、受けることを決めた。

――趣味と座右の銘は?

大矢:趣味は週一で行っているゴルフ。座右の銘のようなものは特にないが、この10年は吉田松陰の「夢なきものに成功なし」を、折に触れて掲げている。「夢なき者に理想なし、 理想なき者に計画なし、 計画なき者に実行なし、 実行なき者に成功なし。 故に、 夢なき者に成功なし」というものだ。この言葉自体は、日覚(現社長)さんが常に言っていることとかなり近いかもしれない。

――先ほども触れていたが、東レの幅広い事業領域をどうカバーする?

大矢:(会長に就任する)日覚さんと二人三脚で、ときには力も借りるが、自分自身でも事業の中身を精査して判断できるように精進していく。

――この数年は不正問題もあった。どう対処する?

大矢:すでに日覚社長のリーダーシップの下、再発防止と不正防止策に全力で取り組んでいるが、再発防止の取り組みはエンドレス。絶え間なくコンプライアンスの徹底を続行していくが、結局は一人ひとりのモラルの問題だ。最後の一人にまで、再発防止の意識を徹底させたい。

――出身の繊維の今後は?

大矢:繊維事業はプラザ合意移行、構造改革を余儀なくされてきた。だが東レはグローバルなサプライチェーンの拡充、グローバル拠点の高度化、新規市場への取り組みなどを掲げ、事業の拡大を実現してきた。単に面積を増やすのではなく、体積を増やしていく、といった考え方だ。今後もこの考え方で成長を目指したい、

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1位は、【一粒万倍日】「ティファニー」から“T”がワンポイントの羊革財布| 週間アクセスランキング TOP10(3月16〜22日)

1位は、【一粒万倍日】「ティファニー」から“T”がワインポイントの羊革財布| 週間アクセスランキング TOP10(3月16〜22日)

「WWDJAPAN」 ウイークリートップ10

 1週間でアクセス数の多かった「WWDJAPAN」の記事をランキング形式で毎週金曜日にお届け。
今回は、3月16日(木)〜22日(水)に配信した記事のトップ10を紹介します。


- 1位 -
【一粒万倍日】「ティファニー」から“T”がワンポイントの羊革財布

03月17日公開 / 文・三澤 和也

 「ティファニー(TIFFANY & CO.)」は、アイコンの“ティファニー T”コレクションに着想した財布やカードケース、バッグを発売した。

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- 2位 -
【一粒万倍日】「アナ スイ」や「ピエール・カルダン」など仕事運や対人運アップのラッキーカラー財布が登場

03月20日公開 / 文・WWD STAFF

 クイーポのライセンスブランド「アナ スイ(ANNA SUI)」と「ランバン オン ブルー(LANVIN EN BLEU)」「クレイサス(CLATHAS)」「ピエール・カルダン(PIERRE CARDIN)」「アイアイズ(I EYE'S)」 は、今年最強開運日とされる3月21日に向けて、今年のラッキーカラーと言われる3色の財布を発売した。

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- 3位 -
55周年の「セイコー 5スポーツ」が「仮面ライダー」とコラボ 主人公・本郷猛が作中で着用

03月20日公開 / 文・三澤 和也

 時計ブランドの「セイコー 5スポーツ(SEIKO 5 SPORTS)」は今年55周年を迎えたことを記念して、「仮面ライダー」とコラボしたモデルを4月14日に発売する。世界限定4000本(国内では550本を販売)で、価格は5万1700円(税込)。

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- 4位 -
佐藤可士和が語るゴルフショップの見どころ 「キャロウェイ」旗艦店をデザイン

 キャロウェイゴルフは、大阪に旗艦店の心斎橋店を3月10日にオープンした。同社は2021年5月にキャロウェイアパレルと合併して以来、ゴルフ用品とアパレルの両方を取り扱うようになり、東京の旗艦店である青山店を22年6月に開いた。心斎橋店は青山店よりも規模が大きく、国内最大となる。店舗デザインは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が担当した。キャロウェイアパレルと佐藤氏のコラボによるアパレルコレクションも心斎橋店と青山店で限定販売する。

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- 5位 -
遅咲きのルーキーラッパー18scott 現役シップス販売員の顔も持つ29歳の苦悩、葛藤、友情

 2021年12月、28歳の日本人ラッパー18scott(ジュウハチスコット)が1stソロEPをリリースした。10代でのデビューも少なくないヒップホップ・シーンにおける“遅咲きのルーキー”は、その1枚で自身の挑戦が間違っていなかったことを証明してみせた。

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- 6位 -
Snow Manが新曲「W」のミュージックビデオで着用したのは「ヴァレンティノ」

03月20日公開 / 文・三澤 和也

 ジャニーズ事務所所属の9人組男性アイドルグループSnow Man(スノーマン)は、3月15日にリリースした8枚目のシングル「W」のミュージックビデオ内で「ヴァレンティノ(VALENTINO)」を着用している。※「WWDJAPAN」編集部調べ

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- 7位 -
ビオトープと「リーバイス」がメンズで初タッグ ルーズフィットの“568”を発売

03月17日公開 / 文・三澤 和也

 セレクトショップのビオトープは3月25日、「リーバイス(LEVI’S)」に別注したメンズのジーンズを発売する。価格は1万6500円(税込)で、17日に公式オンラインストアで予約受付を開始した。ビオトープに加え、アダム エ ロペ全店でも扱う。

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- 8位 -
小嶋陽菜のランジェリー「ロジア バイ ハー リップ トゥ」が伊勢丹新宿店で初のポップアップを開催 4月5日から

03月17日公開 / 文・福永千裕

 ハートリレーションは小嶋陽菜が手掛けるランジェリーブランド「ロジア バイ ハー リップ トゥ(ROSIER BY HER LIP TO)」のポップアップストアを4月5〜11日の期間、伊勢丹新宿本店2階 イーストパークに開く。ポップアップでは、ショーツ以外のアイテムの試着が可能で、希望者にはバストサイズの採寸も行う。また、「ハー リップ トゥ ビューティ(HER LIP TO BEAUTY)」の一部アイテムも販売する。

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- 9位 -
MVP大谷翔平が掲げたWBC優勝トロフィーは「ティファニー」製 重さは約11kg

03月22日公開 / 文・三澤 和也

 「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)2023」の決勝戦が3月21日(日本時間22日)、米国フロリダ州マイアミのローンデポ・パークで行われ、日本代表が米国代表を3対2で下して優勝した。日本の優勝は、連覇した09年の第2回大会以来3度目。

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- 10位 -
【一粒万倍日】「ルイ・ヴィトン」の開運日に向けた新作財布をプレイバック ※随時更新

03月16日公開 / 文・福永千裕

 “一粒万倍日”は、幸運が何倍にもふくらむとされる縁起の良い1日だ。この日は新しいことをスタートするのに相応しい日で、財布を新調するのにも適していると言われている。このラッキーデーに向けて、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」はたびたび日本限定の新作財布を発売しており、過去発売してきた商品は、「WWDJAPAN」読者からも大きな反響があった。この記事では、「ルイ・ヴィトン」による “一粒万倍日”に向けてこれまで発売してきた財布を新作含めまとめて振り返る。

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NYの若手ブランドリポート キーワードは“タイムレス”、緻密でソリッドなパターンとクラフト感の両極を行く

 2023-24年秋冬のニューヨーク・ファッション・ウイークはベテランの復活に沸いたが、個性豊かな若手の活躍にも注目したい。まず、移民の国アメリカではアメリカン・コリアンをはじめ、韓国人の勢いが増しており、ファッションにおいても同じことが言える。「アシュリン(ASHLYNN)」のアシュリン・パーク(Ashlynn Park)や「ナヨン(NAYON)」のナヨン・キム(Nayon Kim)など、ソリッドなデザインを提案する韓国系の若手は要注目だ。また、クリエイションとしては両極を走るが、今シーズン初めてファッションショーを行った「メルケ(MELKE)」や「サム フィンガー(SAM FINGER)」など、アップサイクルやリサイクル素材を使った古着のような風合いのコレクションを発表する若手も目立った。ファッションへの価値観が変わってきている今、時代を超えて着ることができる“タイムレス”な服がキーワードとなっている。

注目の若手、「あしゅりん」の
アシュリン・パークにインタビュー

 アシュリン・パークは「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」でパターンメーカーとしての経験を持つ、韓国出身の実力派若手デザイナーだ。2022年度の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のファイナリストにも選ばれ、緻密なパターンと構築的かつ女性らしいシルエットに定評がある。23-24年秋冬コレクションは観客の目の前で布を裁断し、スカートを構築していくというプレゼンテーションを見せた。現在はニューヨークを拠点に活動をするアシュリン・パークに今シーズンのコレクションについて聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):今回のコレクションは、16世紀の生活と歴史に目を向けたが、なぜこのテーマを?

アシュリン・パーク(以下、アシュリン):今シーズンのテーマ「サブライム・ビューティ」は、16世紀の生活と歴史に基づいています。私は、宮廷の服装や生活、遊び、時には戦闘シーンにおける、王子の美学やアイデンティティに興味を持ちました。物事の二律背反を探求し、歴史と関わりながら、異質な要素から意味のあるデザインを生み出すことに挑戦しました。

WWD:王子の美意識とアイデンティティに関心を持ち、それをウィメンズに落とし込もうと思った?

アシュリン:すべてのデザインにおいてボリュームとシェイプで遊び、マスキュリンとフェミニンをミックスしています。16世紀のチューダー様式やエリザベス様式、宮廷服や軍服など、時間、空間、性別の垣根を越えて、洗練されたロマンチックなコレクションを作り上げました。

WWD:近年、ジェンダーレス化が進んでいるが、今回のコレクションでも意識した?

アシュリン:そうですね、ジェンダーレスな服をコレクションに取り入れることは、以前からずっと考えていたことです。

WWD:「女性らしさ」や「男性らしさ」という言葉や表現がある中で、ジェンダーレスなファッションが進むことは何を意味している?

アシュリン:意図的にジェンダーレスなものをデザインしているわけではありませんが、「男性らしさ」と「女性らしさ」を掛け合わせたデザインを楽しんでデザインしています。今までメンズとウィメンズのデザインに携わってきました。2つの要素が自然に混ざり合って、デザインに表れているのだと思います。男性用、女性用と分けてデザインする必要はありませんが、機能面を考慮する必要はあると感じています。

WWD:実際に布を裁断し、シェイプを作っていくというプレゼンテーションを選んだのはなぜ?

アシュリン:服をデザインすることの背景にあるリアリティを紹介し、そのプロセスを見せたかったのです。私たちのチームは、常に細心の注意を払いながら一着一着を作り上げています。それがプレゼンテーションで伝わったと思います。

WWD:今回のコレクションで一番見てほしいポイントは?

アシュリン:大胆で遊び心のあるエレガントな洋服と、マスキュリンとフェミニンのコントラストの美しさです。また、素材やプロポーションを試しながら、歴史的なコンセプトや要素を自分のデザイン言語や現在のコアバリューとミックスしたあたりにも注目してほしいです。


他にも要チェックの若手はコチラ

「メルケ」
デザイナー:エマ・ゲージ(Emma Gage)

 ニューヨーク・ファッション・ウイークでの初のランウエイショーを発表。小説家ロアルド・ダール(Roald Dahl)の名作「ジャイアントピーチ」などからインスピレーションを得た今シーズン、モデルのジャケットやドレスに桃のアプリケを施し、ニットやボトムスにもネズミのアプリケ。ダークな一面と遊び心のあるアイテムが溢れた。職人の手仕事に焦点を当てて不揃いであることを受け入れたというだけあり、刺しゅうやニットワークなどのクラフト感は色濃い。サステナビリティにフォーカスした素材を多用している。シューズは「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」とのコラボレーション。

「サム フィンガー」
デザイナー:サム・フィンガー(Sam Finger)

 デザイナーの思いがこもった14体でデビューした。アップサイクルなピースをクチュール的に昇華させたというコレクションは、一点モノと既製服が交差し、日常服へと落とし込まれている。リサイクルデニムと引っ越しで使う緩衝材を使ったトレンチコートなど、サステナビリティな方法で生産した素材やデッドストックを用いる。一点モノさながらの個性的なアイテムが多く、素材そのままの風合いがいい雰囲気を出している。ニューヨーク出身のデザイナーらしく、ニューヨークを取り巻く環境や文化、コミュニティーがコレクションに表れている。

「ナヨン」
デザイナー:ナヨン・キム

 K-POPスターのスタイリングを手がけていた韓国出身のスタイリスト、ナヨン・キムが2022年にスタートしたブランドで、今シーズンが初のお披露目となる。ジェンダーニュートラルに焦点を当てたコレクションは、ハンサムな印象を抱くテーラードアイテムが中心だ。無骨な建築のスタイルでもあるブルータリズムにインスパイアされたというコレクションは打ちっぱなしのコンクリートを思わせるグレーに統一。鎧のように身体を包むコートやドレスには留め具がなく、鎖だけで縛られている。ジェンダーレスでハンサム、性別にとらわれない無骨なコレクションだ。

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「ジーユー」が「コジマプロダクション」とコラボ 3月24日に日本発売のアイテムをアートディレクターがNYで語る

 「ジーユー(GU)」は3月17日、世界的ゲームクリエイターの小島秀夫率いる「コジマプロダクション」とコラボレーションし、4型の商品をアメリカのニューヨーク、ソーホーの店舗で発売した。日本では3月24日、全国の「ジーユー」で全5型を発売する。

 今回のコラボレーションは第二弾だが、ソーホー ニューヨーク店での販売は初めて。本コレクションの商品監修を担当したコジマプロダクションの新川洋司アートディレクターが来店し、ライブペインティングを行ったこともあり、販売初日は開店前から行列ができた。

 「コジマプロアクション」は、19年にリリースをしたプレイステーション4の「デス・ストランディング」をはじめ、22年末にはプレイステーション5向けに最新作「デス・ストランディング2」の制作を発表したゲームクリエイター集団。今回のコラボレーションでは同社のシンボルキャラクター“ルーデンス”をモチーフにしたTシャツ($29.9、約3400円)やシャツ($39.9、約5200円)、ボトムス($49.9、約6500円)などの4型を販売している。

新川洋司アートディレクターに直撃!
「ゲームキャラクターを描くイメージ」

WWDJAPAN(以下、WWD):今回のコレクションのインスピレーション源は?

新川洋司(以下、新川):アルチザン的な、少し崩したようなデザインが好き。自分が着たいと思うものと同時に、みんなに着てもらいたいものをデザイン画に落とし込んだ。アパレルのデザインというよりは、ゲームのキャラクターをイメージしてデザイン画を描いた。

WWD:一番こだわったポイントは?

新川:「ジーユー」が「なんでもやりますよ!」と言ってくれたので、ルーデンスのディテールを落とし込むなど、難しいものを作った(笑)。シャツの胸の丸いデザインもルーデンスから。コレクションを着ると、キャラクターになれる。仕上がりも良く、「この値段で、ここまで出来るんだ」いう感想。

WWD:どういう人たちに着てもらいたい?

新川:ゲームのファンはもちろん、それ以外の人たちにも着てもらいたい。ニューヨークの街を歩くまでは想像がつきにくかったが、街を歩いている人たちを見て、「今回の商品が似合いそうだな」と思った。ゲームの中には色々な人種が出てくる。コラボレーションした商品も、色々な人種の方達に着てもらいたい。

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「ジーユー」が「コジマプロダクション」とコラボ 3月24日に日本発売のアイテムをアートディレクターがNYで語る

 「ジーユー(GU)」は3月17日、世界的ゲームクリエイターの小島秀夫率いる「コジマプロダクション」とコラボレーションし、4型の商品をアメリカのニューヨーク、ソーホーの店舗で発売した。日本では3月24日、全国の「ジーユー」で全5型を発売する。

 今回のコラボレーションは第二弾だが、ソーホー ニューヨーク店での販売は初めて。本コレクションの商品監修を担当したコジマプロダクションの新川洋司アートディレクターが来店し、ライブペインティングを行ったこともあり、販売初日は開店前から行列ができた。

 「コジマプロアクション」は、19年にリリースをしたプレイステーション4の「デス・ストランディング」をはじめ、22年末にはプレイステーション5向けに最新作「デス・ストランディング2」の制作を発表したゲームクリエイター集団。今回のコラボレーションでは同社のシンボルキャラクター“ルーデンス”をモチーフにしたTシャツ($29.9、約3400円)やシャツ($39.9、約5200円)、ボトムス($49.9、約6500円)などの4型を販売している。

新川洋司アートディレクターに直撃!
「ゲームキャラクターを描くイメージ」

WWDJAPAN(以下、WWD):今回のコレクションのインスピレーション源は?

新川洋司(以下、新川):アルチザン的な、少し崩したようなデザインが好き。自分が着たいと思うものと同時に、みんなに着てもらいたいものをデザイン画に落とし込んだ。アパレルのデザインというよりは、ゲームのキャラクターをイメージしてデザイン画を描いた。

WWD:一番こだわったポイントは?

新川:「ジーユー」が「なんでもやりますよ!」と言ってくれたので、ルーデンスのディテールを落とし込むなど、難しいものを作った(笑)。シャツの胸の丸いデザインもルーデンスから。コレクションを着ると、キャラクターになれる。仕上がりも良く、「この値段で、ここまで出来るんだ」いう感想。

WWD:どういう人たちに着てもらいたい?

新川:ゲームのファンはもちろん、それ以外の人たちにも着てもらいたい。ニューヨークの街を歩くまでは想像がつきにくかったが、街を歩いている人たちを見て、「今回の商品が似合いそうだな」と思った。ゲームの中には色々な人種が出てくる。コラボレーションした商品も、色々な人種の方達に着てもらいたい。

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ヒット本著者に聞く パーパス思考が重要な理由

 企業は「何のために存在するのか、社会においてどのような責任を果たすのか」というパーパス(社会的存在意義)が問われ始めている。しかし、「パーパス」は抽象的な言葉ゆえ、その本質や採り入れ方を理解するのは簡単ではない。そこで、『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)共著者でビジネスデザイナーの岩嵜博論・武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授にパーパス思考をビジネスに取り入れる利点について聞いた。

WWD:パーパスとビジョンとの違いは、またパーパスの再定義によって企業にもたらせる利点とは?

岩嵜博論・教授(以下、岩嵜):パーパスが企業活動の中心にあると、何のためにこの活動をしているかが明確にシェアできるので、ステークホルダーをはじめとしたさまざまな人たちと領域横断でコラボレーションしていくときに進めやすくなる。ビジョン、ミッションとパーパスの違いを船に例えると、ビジョン、ミッションは企業がなりたい姿を一方的に示しているので、船はその企業しか入らないサイズの「小さな船」、パーパスは企業がけん引する「大きな船」で、提唱する企業だけでなく、あるべき世界に共感する多くのステークホルダーが乗ることができるもの。企業は多くの共感を集める大きな船をステークホルダーと共同でつくり、実現に向けて協働していくことになる。そういう時代が到来しつつある。

WWD:確かに、何のためにやっているのかがわからないと気持ちがぐらつき、いい仕事に繋がらない。

岩嵜:「何のため」が明確でパワフルだとステークホルダーはそのために自立的、自発的に動くことができるようになる。そうなると自分ごと化できるようになる。組織論的にもパーパスを定義することは強味になる。

WWD:アパレル企業の中ではパタゴニア(PATAGONIA)がパーパスを明確にして成功していると感じる。2019年に企業理念(パーパス)を「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と変えてから、さまざまなプロジェクトがスピード感を持って形になっている。各部署の現場のスタッフがそれぞれの持ち場で何ができるかを考え、それを実現するために組織全体で支援しているように見える。

岩嵜:ステークホルダーには、顧客はもちろん従業員やサプライヤー、株主や地域の人なども挙げられパーパスは、それらの意識をつなげる力がある。

「とにかく実行すること。小さくても実行を重ねることが重要」

 

WWD:ファッション企業が、突然明確でパワフルなパーパスを掲げるのはイメージやビジネスモデルなどさまざまなしがらみがあって難しい側面もある。

岩嵜:ビジョン、ミッションの時代と大きく違うのは掲げて終わり、表面的なところを飾って終わりではなく、実行することが大事だということ。小さくても実行を重ねていくことが重要になる。大きな企業であれば、新しい事業やブランドを作って実行していくことが大切になる。例えば「無印良品」は、店舗の大改革を進めていて“地域土着化”した店舗も増えている。当たり前だったチェーンオペレーションを否定し、その方法を乗り越えて、地域課題を解決する地域密着型の店を作ることに舵を切っている。全ての店舗を変えるのは難しいが、着実にそういう店を増やしている。小さく始めたことがうまくいけば応用していくことができる。

 そもそもアパレル企業は、ビジネスモデル自体も考え直さなければいけないだろう。回収やリセール、リペアなどを行うことが求められるだろう。長期的に見ると、いいものをリペアしながら長く着る方向に向かうと思うから。ここ数十年が異常だった。異常な大量生産・大量消費の無責任な数十年に生活者が気付き始め、若い人を中心に心理的な負担を持ち始めている。それに対してどう備えるか。パタゴニアは、かなり前からリペアを行っており、巨大なリペア工場がある。そうした実績から回収やリセールも行っているが、こうした事業が儲かっているのか、と疑問には思う。

WWD:パタゴニアはリペアやリセールだけでは黒字化できていないと聞いたことがある。パーパス経営が成功していると感じるアパレル企業とその理由は?

岩嵜:わかりやすいのはいろんな面でパタゴニアだろう。修理工場を作り、バリューチェーンを見直し、結果として利益率が高いビジネスができている。売価をキープして直販化も進めており、ここ10年で卸売りを相当止めて直販化している。ECも強化していて、独特のウェブデザインだが、メディアECも早くから始めている。会員に送るダイレクトメールはプロダクトにフォーカスしたものではなく、いいコピーとビジュアルが付いたストーリー。そんなことができる企業はあまりないし、相当考えられていると思う。パーパスを掲げるだけでなく、バリューチェーン、コミュニケーション、セールス全てを見直し、一気通貫したパーパス的アプローチが整っている。

 ナイキ(NIKE)もパタゴニアと似ていて、成長ドライブがパーパス思考とデジタルトランスフォーメーションで、うまくいっていると感じる。著名アナリストのベネディクト・エバンスの最近のレポートでも、2010年の直販比率は10%弱だったのが今や約40%に伸びているとあった。彼らの成長を支えているのが直販。デジタル顧客データを駆使して直販率を上げているように見える。

 新興ブランドのスニーカー「オン(ON)」もパーパスドリブンとデジタルトランスフォーメーションで奏功している。

 ビジネスの本質はパーパス思考×デジタルだろう。パーパスを掲げるだけでは既存ブランドと同じかもしれない。顧客と直接つながるルートを持つことと、ビジネスそのものの変革をセットにすることで効果を発揮する。

アパレル産業はどこに進むべきか

WWD:アパレル産業をどう見ているか。

岩嵜:バリューチェーンをどう再構築するか、そして、どう新しいビジネスを作るかが重要になる。アパレルは買う前も買った後もブラックボックスが多すぎる。どこから来て、捨てた後どうなるのかが分からない。ブラックボックスを透明化することは必要だろう。ビジネス全体を変革して、その際に領域横断も必要になる。重要なポイントは包括的に見ること。学生によく「鳥の目、虫の目」と伝えているが、「虫の目」でディテールを見て、「鳥の目」になって全体を見る。個々のディテールがどうあるべきか、全体はどうなっているか。時間軸も超越する必要があり、過去、現在、未来がどうあるべきかを数十年単位で見るような包括的な視点が理想だ。

 アパレルは外圧も大きく変革の機運がある。そして、実は変革しやすい産業ではないかとも思う。もちろん設備投資は必要だが、作っているものがライトウエイトだから、他の産業に比べると恵まれていると感じる。やろうと思えば、戦略がそこにあれば変革できるのではないか。アパレルビジネスが面白いのは外圧があること。外圧と向き合いポジティブにとらえて、自らを変えるきっかけにすることが大事だと思う。それがこれからのアパレルビジネスの成否を分けるのではないか。

WWD:注目している動向は?

岩嵜:「修理する権利」だ。世界的に注目されていて、アップル(APPLE)も対応せざるを得なくなっているし、自分で修理ができてパーツ交換ができるスマートフォンを提供しているオランダのスタートアップ「フェアフォン(FAIRPHONE)」は、着実に売り上げが伸びているし、先日4900万ユーロ(約70億円)の資金調達をした。リペアは大事になるだろう。

WWD:アパレルの場合、低価格帯だとリペアサービスを売価に吸収しづらいので事業化するのは難しい。

岩嵜:価格帯を上げて長持ちするモノを作り、リペアを含めて利益を出せるビジネスへの変革が必要になる。その点で自動車産業から学べることは多い。車は購入時に加えて、車検や点検などの費用を消費者は払いメンテナンスしており、結果として長持ちするし、中古車市場もある。中古車市場は早くからDXされていて、オークションはどこからも入札できるようになっている。あるいは、キッチンウエアの「ストウブ」や「ル・クルーゼ」に表れている消費者心理に近いかもしれない。家電も売価を上げている。例えばドライヤーや炊飯器、洗濯機の価格帯は上がっているが、それでも一定数売れている。数字を見たわけではないけれど、おそらく売る数量は減っても売り上げは変わっていないのではないか。

成功のカギはパーパス思考×DX

WWD:リペアやリセールを視野に入れるとして、数十年単位で見られないジレンマを抱える企業も少なくない。

岩嵜:事業の成果をどのスパンで出すかと、事業そのものをどのスパンで考えるかは異なる。事業そのものの過去50年とこれからの50年を考えつつ、単年度で利益をどう出すかも「鳥の目、虫の目」で考えることになる。どのビジネスもそうだが、近視眼的になり過ぎると四半期、単年度予算はクリアできても長期的に見ると負のサイクルに入り、気づいたら抜けられないということが起こる。

WWD:成長と環境や社会課題の改善の両立を狙う企業も増えてきているが、両立の難易度は高いと感じる。企業の理想的な姿とは?

岩嵜:規模は企業が決めればいい。ある程度の規模感に留めることもできるし、永遠に成長したいという考え方もある。抑えるメカニズムはない。ただし、規模に応じた社会的責任を果たさないと、ステークホルダーから支持が得られない。サステナビリティの制約に企業はそれぞれどう向きあうかが大切になる。

 デザインはどっちかではなく、どう両立し得るかを考える統合という考え方を大事にしている。成長とサステナビリティが両立できる、トレードオフを乗り越えたソリューションが出せる。それがデザインの力で、グローバルではデザイン人材が活躍している。日本では要素還元(分解したそれぞれの要素を良くすれば最終的に合体させればよりよくなること)が主流だが、なかなかそうはならない。「鳥の目虫の目」で見ていく必要がある。

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ヒット本著者に聞く パーパス思考が重要な理由

 企業は「何のために存在するのか、社会においてどのような責任を果たすのか」というパーパス(社会的存在意義)が問われ始めている。しかし、「パーパス」は抽象的な言葉ゆえ、その本質や採り入れ方を理解するのは簡単ではない。そこで、『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)共著者でビジネスデザイナーの岩嵜博論・武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授にパーパス思考をビジネスに取り入れる利点について聞いた。

WWD:パーパスとビジョンとの違いは、またパーパスの再定義によって企業にもたらせる利点とは?

岩嵜博論・教授(以下、岩嵜):パーパスが企業活動の中心にあると、何のためにこの活動をしているかが明確にシェアできるので、ステークホルダーをはじめとしたさまざまな人たちと領域横断でコラボレーションしていくときに進めやすくなる。ビジョン、ミッションとパーパスの違いを船に例えると、ビジョン、ミッションは企業がなりたい姿を一方的に示しているので、船はその企業しか入らないサイズの「小さな船」、パーパスは企業がけん引する「大きな船」で、提唱する企業だけでなく、あるべき世界に共感する多くのステークホルダーが乗ることができるもの。企業は多くの共感を集める大きな船をステークホルダーと共同でつくり、実現に向けて協働していくことになる。そういう時代が到来しつつある。

WWD:確かに、何のためにやっているのかがわからないと気持ちがぐらつき、いい仕事に繋がらない。

岩嵜:「何のため」が明確でパワフルだとステークホルダーはそのために自立的、自発的に動くことができるようになる。そうなると自分ごと化できるようになる。組織論的にもパーパスを定義することは強味になる。

WWD:アパレル企業の中ではパタゴニア(PATAGONIA)がパーパスを明確にして成功していると感じる。2019年に企業理念(パーパス)を「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と変えてから、さまざまなプロジェクトがスピード感を持って形になっている。各部署の現場のスタッフがそれぞれの持ち場で何ができるかを考え、それを実現するために組織全体で支援しているように見える。

岩嵜:ステークホルダーには、顧客はもちろん従業員やサプライヤー、株主や地域の人なども挙げられパーパスは、それらの意識をつなげる力がある。

「とにかく実行すること。小さくても実行を重ねることが重要」

 

WWD:ファッション企業が、突然明確でパワフルなパーパスを掲げるのはイメージやビジネスモデルなどさまざまなしがらみがあって難しい側面もある。

岩嵜:ビジョン、ミッションの時代と大きく違うのは掲げて終わり、表面的なところを飾って終わりではなく、実行することが大事だということ。小さくても実行を重ねていくことが重要になる。大きな企業であれば、新しい事業やブランドを作って実行していくことが大切になる。例えば「無印良品」は、店舗の大改革を進めていて“地域土着化”した店舗も増えている。当たり前だったチェーンオペレーションを否定し、その方法を乗り越えて、地域課題を解決する地域密着型の店を作ることに舵を切っている。全ての店舗を変えるのは難しいが、着実にそういう店を増やしている。小さく始めたことがうまくいけば応用していくことができる。

 そもそもアパレル企業は、ビジネスモデル自体も考え直さなければいけないだろう。回収やリセール、リペアなどを行うことが求められるだろう。長期的に見ると、いいものをリペアしながら長く着る方向に向かうと思うから。ここ数十年が異常だった。異常な大量生産・大量消費の無責任な数十年に生活者が気付き始め、若い人を中心に心理的な負担を持ち始めている。それに対してどう備えるか。パタゴニアは、かなり前からリペアを行っており、巨大なリペア工場がある。そうした実績から回収やリセールも行っているが、こうした事業が儲かっているのか、と疑問には思う。

WWD:パタゴニアはリペアやリセールだけでは黒字化できていないと聞いたことがある。パーパス経営が成功していると感じるアパレル企業とその理由は?

岩嵜:わかりやすいのはいろんな面でパタゴニアだろう。修理工場を作り、バリューチェーンを見直し、結果として利益率が高いビジネスができている。売価をキープして直販化も進めており、ここ10年で卸売りを相当止めて直販化している。ECも強化していて、独特のウェブデザインだが、メディアECも早くから始めている。会員に送るダイレクトメールはプロダクトにフォーカスしたものではなく、いいコピーとビジュアルが付いたストーリー。そんなことができる企業はあまりないし、相当考えられていると思う。パーパスを掲げるだけでなく、バリューチェーン、コミュニケーション、セールス全てを見直し、一気通貫したパーパス的アプローチが整っている。

 ナイキ(NIKE)もパタゴニアと似ていて、成長ドライブがパーパス思考とデジタルトランスフォーメーションで、うまくいっていると感じる。著名アナリストのベネディクト・エバンスの最近のレポートでも、2010年の直販比率は10%弱だったのが今や約40%に伸びているとあった。彼らの成長を支えているのが直販。デジタル顧客データを駆使して直販率を上げているように見える。

 新興ブランドのスニーカー「オン(ON)」もパーパスドリブンとデジタルトランスフォーメーションで奏功している。

 ビジネスの本質はパーパス思考×デジタルだろう。パーパスを掲げるだけでは既存ブランドと同じかもしれない。顧客と直接つながるルートを持つことと、ビジネスそのものの変革をセットにすることで効果を発揮する。

アパレル産業はどこに進むべきか

WWD:アパレル産業をどう見ているか。

岩嵜:バリューチェーンをどう再構築するか、そして、どう新しいビジネスを作るかが重要になる。アパレルは買う前も買った後もブラックボックスが多すぎる。どこから来て、捨てた後どうなるのかが分からない。ブラックボックスを透明化することは必要だろう。ビジネス全体を変革して、その際に領域横断も必要になる。重要なポイントは包括的に見ること。学生によく「鳥の目、虫の目」と伝えているが、「虫の目」でディテールを見て、「鳥の目」になって全体を見る。個々のディテールがどうあるべきか、全体はどうなっているか。時間軸も超越する必要があり、過去、現在、未来がどうあるべきかを数十年単位で見るような包括的な視点が理想だ。

 アパレルは外圧も大きく変革の機運がある。そして、実は変革しやすい産業ではないかとも思う。もちろん設備投資は必要だが、作っているものがライトウエイトだから、他の産業に比べると恵まれていると感じる。やろうと思えば、戦略がそこにあれば変革できるのではないか。アパレルビジネスが面白いのは外圧があること。外圧と向き合いポジティブにとらえて、自らを変えるきっかけにすることが大事だと思う。それがこれからのアパレルビジネスの成否を分けるのではないか。

WWD:注目している動向は?

岩嵜:「修理する権利」だ。世界的に注目されていて、アップル(APPLE)も対応せざるを得なくなっているし、自分で修理ができてパーツ交換ができるスマートフォンを提供しているオランダのスタートアップ「フェアフォン(FAIRPHONE)」は、着実に売り上げが伸びているし、先日4900万ユーロ(約70億円)の資金調達をした。リペアは大事になるだろう。

WWD:アパレルの場合、低価格帯だとリペアサービスを売価に吸収しづらいので事業化するのは難しい。

岩嵜:価格帯を上げて長持ちするモノを作り、リペアを含めて利益を出せるビジネスへの変革が必要になる。その点で自動車産業から学べることは多い。車は購入時に加えて、車検や点検などの費用を消費者は払いメンテナンスしており、結果として長持ちするし、中古車市場もある。中古車市場は早くからDXされていて、オークションはどこからも入札できるようになっている。あるいは、キッチンウエアの「ストウブ」や「ル・クルーゼ」に表れている消費者心理に近いかもしれない。家電も売価を上げている。例えばドライヤーや炊飯器、洗濯機の価格帯は上がっているが、それでも一定数売れている。数字を見たわけではないけれど、おそらく売る数量は減っても売り上げは変わっていないのではないか。

成功のカギはパーパス思考×DX

WWD:リペアやリセールを視野に入れるとして、数十年単位で見られないジレンマを抱える企業も少なくない。

岩嵜:事業の成果をどのスパンで出すかと、事業そのものをどのスパンで考えるかは異なる。事業そのものの過去50年とこれからの50年を考えつつ、単年度で利益をどう出すかも「鳥の目、虫の目」で考えることになる。どのビジネスもそうだが、近視眼的になり過ぎると四半期、単年度予算はクリアできても長期的に見ると負のサイクルに入り、気づいたら抜けられないということが起こる。

WWD:成長と環境や社会課題の改善の両立を狙う企業も増えてきているが、両立の難易度は高いと感じる。企業の理想的な姿とは?

岩嵜:規模は企業が決めればいい。ある程度の規模感に留めることもできるし、永遠に成長したいという考え方もある。抑えるメカニズムはない。ただし、規模に応じた社会的責任を果たさないと、ステークホルダーから支持が得られない。サステナビリティの制約に企業はそれぞれどう向きあうかが大切になる。

 デザインはどっちかではなく、どう両立し得るかを考える統合という考え方を大事にしている。成長とサステナビリティが両立できる、トレードオフを乗り越えたソリューションが出せる。それがデザインの力で、グローバルではデザイン人材が活躍している。日本では要素還元(分解したそれぞれの要素を良くすれば最終的に合体させればよりよくなること)が主流だが、なかなかそうはならない。「鳥の目虫の目」で見ていく必要がある。

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遅咲きのルーキーラッパー18scott 現役シップス販売員の顔も持つ29歳の苦悩、葛藤、友情

18scott/ラッパー

PROFILE:1993年生まれ、神奈川・藤沢出身。高校生で初めてヒップホップクルーMAD VIBES CASTを結成し、その後CreativeDrugStoreに加入。約2年の活動期間後に脱退し、ソロ活動をスタート。プロデューサーでトラックメーカーのSUNNOVAとの活動を経て、2021年12月に1stソロEP「SCHOOLBOY」をリリース。セレクトショップのシップス販売員としての顔も持つ

 2021年12月、28歳の日本人ラッパー18scott(ジュウハチスコット)が1stソロEPをリリースした。10代でのデビューも少なくないヒップホップ・シーンにおける“遅咲きのルーキー”は、その1枚で自身の挑戦が間違っていなかったことを証明してみせた。

 18scottは、小学生でヒップホップと出合い、高校生でマイクを握り、大学生で初めてステージに立った。彼の音楽を一度聴けば、その確かなスキルと豊かなバックグラウンドの土壌に気付くはずだ。では、なぜ28歳までソロ作品を出さなかったのか。もしくは出せなかったのか。その苦悩と葛藤をバイオグラフィーと共に語ってもらった。さらに今月リリースしたばかりの2ndミニアルバム「SCHOOLBOY」に込めた思い、そしてセレクトショップのシップス(SHIPS)で働くスタッフとして並々ならぬファッション愛についても聞いた。

ーーまずは、ヒップホップとの出合いから教えてください。

18scott:父親が漫画家で、職業柄かは分かりませんが、とにかくいろいろなカルチャーを与えてくれる人で、小学校低学年の時に教えてもらった中の一つがヒップホップでした。最初は、KREVAさんやKICK THE CAN CREWさんなどジャパニーズ・ヒップホップ(以下、J-Rap)が中心で、自発的に音楽を吸収しようと思って聴き始めたタイミングでエミネム(Eminem)やリル・ウェイン(Lil Wayne)らのUSラッパーも教えてくれましたね。ほかにはプロレスが好きで、いわゆる日本で生まれ育つ一般的な小学生が通ってきたゲームやアニメにはあまり惹かれず、「ポケモン」の最新作をほしがるよりもプロレスを観たがる謎な子どもでした。

ーーその頃からすでにラッパーになることを思い描いていたのでしょうか?

18scott:ヒップホップに限らず、プロレスしかり、好きになったら自分もステージに立ちたくなるタイプだったので、漠然と夢を見ていましたね。でも、どうすればいいか分からなかったし、ハッキリと意識し始めたのは高校2年生の時です。中学校の同級生だったin-d(現在ヒップホップ・クルーCreativeDrugStoreのメンバーとして活躍するラッパー)が、高校の同級生だったBIM(同じくCreativeDrugStoreのメンバーとして活躍するラッパー)と、高校は別だった僕を誘う形で、3人組のヒップホップ・クルーMAD VIBES CASTを結成したんです。ただ、僕の大学進学もあってすぐに解散して、ちゃんと楽曲を製作してリリースするようになったのは大学生になってからですね。

ーーそもそも、in-dさんとの出会いは?

18scott:地元が近くて、中学校が偶然一緒だったんです。その中学校は制服通学だったんですけど、中学2年生で「ア ベイシング エイプ®(A BATHING APE®)」の“ベイプスタ(BAPE STA)”を履き、「ステューシー(STUSSY)」のバックパックを背負って、足元やバックパックで周りとの違いを作るくらいファッションの熱が高くて(笑)。だからこそ私服で行く修学旅行は戦いで、僕が「ベイプ」のタイガーパーカを着ていたら、in-dが「俺、シャークパーカ持ってるよ」って対抗してくるような関係性でしたね(笑)。なので、ヒップホップではなくてファッション先行の縁なんですけど、結局好きだった裏原系のファッションはJ-Rapとも密接なので聴いている音楽も一緒で、それから仲良くなりました。

ーー大学進学後、18scottを名乗る前はCreativeDrugStore(以下、CDS)のメンバーとして一時活動していたそうですね。

18scott:高校3年生から2年ほど所属していたんですけど、当時の僕はめちゃくちゃ問題児で協調性が無かったんですよ。CDSは、2010年代初期からSNSでプロモーションしたり、ユーチューブに動画をアップロードしたり、自分たちのブランドを立ち上げたり、今では当然のことだけど当時ではかなり新しい動きをしていました。その中で、僕は“自らユースカルチャーを作っていく”ようなアクションに対して、「音楽だけに向き合った方がいいんじゃないか」「ブランドを運営することは音楽活動に支障をきたすんじゃないか」って疑問を持ち、撮影に行かなくなっていくなど、とにかく非協力的で……。今思い返すと、ただただ僕が頑固で彼らのことを理解できていなかったと反省しかないです。CDSの活動にフィットできずに勝手に辞めてしまったのが20歳くらいの時で、それからソロとしての活動を始めました。

ーーそれでは、ソロとして活動する中で18scottと名乗るようになった理由は?

18scott:“scott”は、1980年代のプロレスブームの時に活躍していたプロレスラーのスコット・ホール(Scott Hall)が由来ですね。活躍していたのはもちろん、ラッパーのようにゴールドチェーンを首から掛ける見た目もカッコよかったんですよ。“18”は特に意味がなくて、とにかく数字を入れたかったので“scott”に合う語呂のいい数字を選んだだけです(笑)。数字にこだわったのは16FLIPさんというビートメーカーの影響で、彼のステージ名はMPCにある16個のパットとスケボーの技のフリップを組み合わせていて、“FLIP”には“ネタを裏返す”みたいな意味も込められているらしく、それに憧れて数字と英単語を組み合わせました。

ーーソロ活動を開始し2021年に1stソロEP「Northside Love」をリリースするより先に、プロデューサーでトラックメーカーのSUNNOVAさんとの作品をリリースしていました。この経緯を教えてください。

18scott:23歳のときに出演した恵比寿のクラブ「バチカ(BATICA)」でのイベントにSUNNOVAさんがいて、「ライブがかっこよかったから一緒に曲を作ろうよ」って声を掛けてくれたんですよ。クラブ特有のあいさつノリかと思っていたらすぐにビートを送ってくださり、それでできたのが「ALLRIGHT」って楽曲です。

 「ALLRIGHT」の反応が思いのほか良かったので、楽曲をいろいろと制作しているうちに「PHONE CALL」(注:初期の18scottを代表する楽曲)が生まれ、2018年に1stダブルネームアルバム「4GIVE4GET」を、20年に2ndダブルネームアルバム「PAISLEY」をリリースしてから、本格的にソロ作品の制作に取り掛かりましたね。あと当時はビートメーカーとしても活動していて、仲のいい身内を中心にビートを提供していました。

ーー現在、J-Rapひいては世界的に見ても10代でデビューするラッパーが多い中で、21年12月に28歳で1stソロEP「Northside Love」をリリースしたのは、ある意味で狙ったタイミングだったのでしょうか?

18scott:やっぱり納得がいく作品でデビューしたかったし、自分に合ったラップスタイルや伝えたいメッセージ、ビジュアルの見せ方、やるべきことなど、全体が見えてきたのが結構遅かったんですよ。結構どんなスタイルでもこなせてしまうからこそ、20代中頃まで自分のカラーが定まらない器用貧乏のまま活動しちゃっていて、方向性が明確に固まるまでソロ作品に踏み込めずにいました。それに、SUNNOVAさんとの2ndアルバム「PAISLEY」は自分の中で満足度が高かったんですが、周りのリアクションが良くなくて、ラッパーを辞めようとまで思っていたんです。でも、ラッパーとしてソロ作品は絶対に残しておきたい気持ちがあったので、最初で最後のような気持ちで「Northside Love」の制作に着手しました。結果的に、「Northside Love」で方向性を見据えることができたし、ラッパーとしてのキャリアを続ける気持ちになりましたね。

ーー「Northside Love」から約半年後の22年7月に1stミニアルバム「People Around Me」を、さらに約半年後の23年3月に2ndミニアルバム「SCHOOLBOY」をリリースするなど、かなりのハイペースで作品を制作していますね。

18scott:自分の中で1年間に2枚のまとまった作品を出すことをルーティーン化させたくて、「SCHOOLBOY」はできれば22年中に出したいと思って制作を始めました。ただ、ちょうどこの時期にリリックが全然書けなくなってしまって、ようやく納得できたものが11月頃に作った「R.E.A.L.」だったんです。そこからは比較的いいスピード感で制作を進められましたね。

ーー「SCHOOLBOY」というタイトルに込めた意味とは?

18scott:収録曲の中で一番最後に制作した「北口5分のマンション」でもラップしているんですけど、僕はジャック・ハーロウ(Jack Harlow、アメリカを拠点に活動するラッパー)が好きで、かなり影響を受けています。彼がまだティーンエイジャーだった頃の「Started From The Middre」って楽曲があって、言うまでもなくドレイク(Drake)の「Started From The Bottom」のリミックスなんですけど、ジャックが貧困層でも富裕層でもない中流階級で育ったことをラップしていて、そのMVを観た後に「First Class」(注:ラッパーとしての成功をラップした楽曲)とかを聴くとマジで食らうんです(笑)。僕も中流階級育ちで普通に学校に通って、部活に打ち込んで、夜は家族で晩飯を囲んでいた普通の少年だったので、そんな少年が時を経て1人のラッパーとして活躍していることを1枚の作品で表現できたらと思って「SCHOOLBOY」にしました。内容とタイトルのミスマッチな感じも気に入っていますね。

ーー「SCHOOLBOY」だけでなく、「Northside Love」や「People Around Me」でも地元・藤沢や家族をテーマにした楽曲が多く、等身大のリアルなリリックが印象的です。

18scott:「Northside Love」の時に思ったんですけど、自分がラッパーとして活動するうえで、どれだけ作品を作っても家族と地元への思いは変わらないと分かったんです。ヒップホップには少なからず環境に恵まれなかった人がのし上がることを良しとする文化があって、そういったバックボーンがほしいと思った時期もありました。だけど、恵まれた環境で育ったからこその悩みを抱えている人もいるだろうし、自分の生きてきた道を正直に楽曲にすれば、聴いてくれた人たちに何かが伝わるなって。それに、家族と地元は普遍的なものだから、僕のパーソナルなリリックでも端々で自分に通じるところが見え隠れして、照らし合わせて思いをはせることができるんですよ。

ーー作品として特にこだわった点はありますか?

18scott:僕がリリックを見ながら聴くヒップホップが好きなので、流し聴きできないような楽曲を意識した結果、これまで以上に膨大な時間を作詞の作業に費やしました。ヒップホップには“ワードプレイ”という言葉遊びの文化があるんですけど、簡単に言えば1つのワードが複数の意味につながるようなリリックだったり、繰り返して聴くと気付くようなおもしろい仕掛けですね。ちょうど今、日本の若いアーティストを中心にはやっているスタイルで、その流れとはまた別の文脈で僕もその手法を意識的に取り入れています。というのも、先輩のラッパーのサトウユウヤさんが驚くほどヒップホップの知識が豊富で、いつもいろいろと教えてもらう中で印象的だったのが、USヒップホップシーンにおける“ワードプレイ”の話でした。もちろん僕自身も知っているつもりだったのに、改めて2人でUSラッパーたちのリリックを調べていたら、たくさんの驚きと感動に出合ったんです。それから今まで以上にリリックと向き合う時間を増やして、今作に向き合いましたね。

ーー作品のラストを飾る「Cry Later - Remix」は、もともと「People Around Me」に収録されていた楽曲のリミックス版です。今回新たにBIMさんが参加した経緯は?

18scott:まず、CDSのメンバー、特にMAD VIBES CASTを組んでいたin-dとBIMとはいつか一緒に楽曲を作りたいとずっと思っていました。でも、正直僕の中でCDSという存在はコンプレックスだったというか。当時は器が小さかったので、自分がくすぶっている間に昔の仲間たちが結果を出していく姿を素直に喜べず、嫉妬の気持ちの方が強かったんです。そんな複雑な感情を抱いていたからこそ、ラフな感じで「一緒に曲を作ろうよ」とはならなくて。彼らと一緒に曲を作るには、僕自身がもっと上のステージに立たなくてはいけないという思いもあり、ベストなタイミングをずっと考えていました。そうしたら、BIMの方から「『Cry Later』のリミックスやらせてほしい!」と連絡をくれたんです。

  最初はすごいうれしかったんですけど、「向こうから与えてくれたタイミングでいいのか」「今が本当にベストタイミングなのか」と熟考し、今回は断って僕が今よりも上のステージに立ったときに改めてお願いしようかなとも考えました。ただ、「Cry Later」は自分自身のキャリアがうまくいかないと感じていた時に作った楽曲で、“アイツらと比べて何が足りない”ってリリックは、暗にBIMやin-dのことをラップしていたりもするんですけど、BIMはそれも理解したうえで「この内容の曲に俺が参加するのってアツくない?」って提案してくれて。だから、BIMが作ってくれたタイミングこそがベストだと思い、ビートを送ったらその日のうちに返してくれました。

ーーBIMさんのリリックは、MAD VIBES CAST時代のことも綴っているようですが、当時の思い出は?

18scott:MAD VIBES CASTは、クルーというよりもサークルに近くて(笑)。in-dがBIMを紹介してくれて、初めて3人で会ったのが確か「サイゼリヤ」で、その場のノリで結成しましたね。当時、iPhoneの「I Am T-Pain」ってアプリがあってラップを吹き込むとオートチューンがかかったりするんですけど、それで作った楽曲を2人に勝手にひたすら送り付けていました。この僕のラップに対する異常な熱量が2人を困らせていた部分があったと思うんですけど、後から聞いたらその熱量にBIMも食らっていた部分があったみたいで。彼らが本格的に活動し始めてからは、その勢いに僕の方が食らっちゃったんですけどね......。今回のBIMのヴァースには、そんな甘酸っぱいメモリーがまとまっている手紙のような内容になっています。でも、BIMは僕が作ったその頃の音源を未だに所持していて、飲んでいると不意に流してくるので勘弁してもらいたいです(笑)。

 あと、昔から「PHONE CALL」をいいって言ってくれていて、「俺が嫌いなPHONE CALL」というリリックを粋でサンプリングしています。共演自体は、CDSの時に一般流通していないポップアップ限定のVaVaくん(CDSのメンバーとして活躍するラッパーでプロデューサー)のアルバムに収録されてる楽曲で一度だけやっていますけど、ちゃんとしたリリースでは初めてですね。とにかく、BIMは本当にいいやつなんですよ。J-Rapを代表するラッパーになったけど昔からの仲間やつながりを大事にする義理堅い男で、非協力的なままCDSを抜けた僕のこともずっと気にかけてくれて、今よりも全然知られていない時期にCDSのパーティに呼んでくれたり、何度も助けられて本当に感謝しかないですね。

ーー3月25日には、そんなBIMさんも出演する「SCHOOLBOY」のリリースパーティーを渋谷のライブハウス「WWW」で開催するそうですね。

18scott:もともとは、「WWW」で開催する予定ではなかったんです。というか、いつかはやりたいけどまだ時期尚早なのかな、と思っていました。でも、とある飲みの席でイベントブッキングや企画をしている昔からお世話になっている方に声をかけてもらい、協力を得ながら挑戦してみることにしたんです。それで、僕が去年初めて主催した「ブロークン・ハーツ(BROKEN HEARTS)」という自主パーティーのVol.2というかたちで、3月24日に「SCHOOLBOY」のリリースパーティーを開催することになりました。作品に参加してるラッパーはもちろん、普段お世話になっている方々や注目のアーティストも出演するので、ぜひ遊びに来てほしいです!

ーー先ほど、in-dさんとの出会いがファッションだったとお伺いしましたが、幼い頃から興味があったんでしょうか?

18scott:そうですね。母親は普通の主婦なんですけどめっちゃファッションが好きで、その影響が大きいです。小学生の時にヒップホップを聴くようになったタイミングでストリートファッションの存在も知り、そこで音楽とファッションがリンクして中学校から一気にギアが入りましたね。普通は、高校生になったらちょっとファッションに気を使い始めるくらいだと思うんですけど、さっき話したように通っていた中学校のファッション熱がすごすぎて、それが普通だと思ったまま高校に進学しちゃったんですよ。案の定、ヤバいレベルのやつがいると認識されて、“ファッションリーダー”ってあだ名をつけられました(笑)。それが恥ずかしすぎて、すぐに調整してみんなと足並みをそろえましたね。ラッパーとして活動していく中でも、“そんなに好きじゃないよオーラ”を出している時もありましたが、今は振り切っています。好きすぎて、音楽をやるうえでちょっと気持ち悪いんじゃないかな、とさえ思うときがありますね。

ーーでは、好きなブランドは?

18scott:“ガーメント・ダイ”(縫製後の商品を染色する製法)の生地の風合いと“ナイロンメタル”(特殊な構造と染色で独特な光沢感を放つナイロン糸)が好きなので、「シーピー カンパニー(C.P. COMPANY)」と「ストーンアイランド(STONE ISLAND)」ですね。この2ブランドに関しては、デザインだけでなく素材開発から行っているところも含めて好きで、今はアーカイブをディグってコレクションすることが趣味になっています。あとは、「アークテリクス(ARC'TERYX)」と、ロンドンを中心に活動しているスタイリストのダニエル パシッティ(Daniel Pacitti)がアドバイザーとして関わっている「ジェントルフルネス(GENTLE FULLNESS)」も気になっています。国内だと今日も着ている「サプライヤー(SUPPLIER)」ですね。クオリティーが高いのに意外と抑えめの価格帯で、リル・ナズ・X(Lil Nas X)も着用しているなどワールドワイドな動き方も面白いです。

ーーMVのファッションスタイルを見ていると、UKラッパーのようなスタイリングが印象的です。

18scott:USヒップホップは好きなんですけど、アメリカのファッションにはグッとこなくて、ヨーロッパ系の着こなしを意識しています。端的にいうと、イケてるとされるシルエットがアメリカはワイドですけど、ヨーロッパは身幅が細くて縦長で、なおかつストリートでもスポーツでも土臭くなく上品に落とし込んでいるところが好きです。スロータイ(slowthai、UKを代表するラッパー)が「シーピー カンパニー」をよく着ていて、USラッパーも同じようなアイテムを着ていることがあるんですけど、着こなし方が全然違うんですよ。ドレイクの「ストーンアイランド」の着方をはじめ、北米のラッパーはどうしてもメインストリーム感が強くなっちゃって、UKラッパーが着るとカウンターカルチャー感がにじみ出る。理由をうまく言い表せないけど、とにかく違うんです(笑)。

ーーファッション好きが高じて、新卒でシップスに入社されたそうですね。

18scott:シップスは、小さい頃に母親によく連れられて行っていたし、高校生の時にもよく買っていたお店で、音楽活動と両立できると聞いて入社を決めました。思っていた以上に音楽活動を前向きに捉えてくれていて、20年にSUNNOVAさんとの2ndアルバム「PAISLEY」をリリースした際にはポップアップを開いてもらったり、シップスのユーチューブチャンネルで取り上げてもらったり、MVで着用する衣装をリースさせてもらったり、ありがたいことにかなりサポートしていただいています。もう7年目で、本当は店長に昇格しちゃうくらいなんですけど、今は忙しくて全然店頭に立てず……本当に申し訳ないです。それでも在籍させてくれているので、可能な限り働きたいと思っています。

ーー最後に、人気曲「PHONE CALL」は「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(CHILDREN OF THE DISCORDANCE)」2020年春夏コレクションのランウエイでBGMに採用されていましたが、この経緯は?

18scott:もともと僕が「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」が好きで、それを知った元シップスの先輩が「デザイナーの志鎌(英明)さんも元『シップス』だから紹介するよ」って展示会に連れて行ってくれたんです。その時に「PHONE CALL」が収録されているアルバム「4GIVE4GET」を渡したら、次の日の朝にインスタグラムのDMで「アルバムが良かったのでランウエイの音楽をやってもらえませんか?」って連絡が届いていて。夢だと思いながら打ち合わせをしたら、志鎌さんが以前働いていたシップス傘下のセレクトショップ、エイシクル(Acycle)に僕が高校生の時に通っていたり、志鎌さんが働いていた時のエイシクルの店長が当時僕が働いていた渋谷店の店長だったり、運命的なつながりが多かったので担当させてもらうことになりました。「PHONE CALL」のほかにも僕のビートを気に入ってもらえて、結果的にランウエイBGMを全て手掛けることになり、本当にいい経験でしたね。当日は音出しの確認もあってリハーサルから現場にいたんですけど、ずっとほしかったバンダナシャツを本番前にプレゼントしてくださって、震えながら着てフロントローで見てました(笑)。また何か一緒にできたらうれしいです。

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資生堂の新鋭メンズコスメ「サイドキック」 若きブランド責任者が語る展望

 資生堂の「サイドキック(SIDEKICK)」は、同社としては「シセイドウ メン(SHISEIDO MEN)」以来19年ぶり(当時)となる新メンズスキンケアブランドとして昨年6月にスタートした。

 ターゲットは若年層の男性。歯磨きのようなチューブ容器に、メタリックにきらめくブランドロゴ。同社の既存ブランドにはなかった、ストリートブランドを思わせる斬新なデザインのパッケージに、彼ら特有の肌質・悩みにアプローチするエッセンスを詰め込んだ。

 まずはメンズコスメの先進市場である中国から着手。そこで得たノウハウや知見を逆輸入し、日本市場の開拓にもつなげる。ブランドローンチからの進捗と今後の展望を、同社経営戦略部のブランド開発責任者である藤田悟氏(31)に聞いた。

藤田悟/資生堂経営戦略部「サイドキック」ブランド開発責任者

PROFILE:(ふじた・さとる)2015年慶應義塾大学文学部英米文学科卒。外資系大手化粧品メーカーにてマーケティングを経験後、資生堂へ。紫外線を美肌光に変換する「サンデュアルケア」のコンセプトを生み出し、後にビューティブランド「バウム(BAUM)」「サイドキック(SIDEKICK)」の立ち上げに携わる。現在は「サイドキック」専任でブランド開発に従事

WWD:斬新なパッケージデザインの理由は。

藤田悟「サイドキック」事業責任者(以下、藤田):ブランドは現在、経営企画室の若いメンバー6人が中心となって運営しており、中国支社にもマーケティングチームがいます。私自身もコロナ前には中国に何度も足を運んで、現地の若い男性に関する情報を収集してきました。中国人の購買行動における日本人との顕著な違いとして、「人との違いを表現したい」という欲求が大きいことがあります。そんな彼らの価値観や感性に訴える上でも、これまでの資生堂ブランドにはない斬新なパッケージデザインを目指しました。

 「人口13億人の国に暮らす彼らにとって、“埋もれたくない”という意識は私たち日本人より遥かに大きい。スキンケア用品であっても、彼らの自分なりの創造や発信と結びつけようとします。たとえば「サイドキック」をご購入いただいた中国のお客さまのSNSをのぞいてみると、自分のお気に入りブルーのスニーカーの横に、ブルーメタリックの「サイドキック」の洗顔料を並べて投稿してくださっています。

WWD:社内の反応は。

藤田:プロダクトのデザインに関しては反対を覚悟していました。ただプレゼンを終えてみると、「いい意味で資生堂っぽくないね」「先進的で新しさがある」と前向きな反応をたくさんもらいました。

 「シセイドウ メン」は当社のメンズスキンケアにおけるフラッグシップブランドという位置付けですが、「サイドキック」は会社としての新しいチャレンジ、新しい成功体験を作るための“投資”であると自覚しています。「資生堂」という看板や既成概念を意識しすぎず、ブランドの個性を追求することが肝要だと考えています。

洗顔からスキンケアへは
飛び越えるべき“溝”がある

WWD:中国でのビジネスの進捗は。

藤田:Tモールやジンドン、TikTokなどのEC販路で開拓を進めています。白敬亭(バイ・ジンティン)という現地で人気の若手俳優とファッションデザイナーを起用したプロモーションを実施したことも認知拡大につながりました。

 中国では“チャイナプライド”を合言葉に国産ブランドに投資する機運もあります。しかしやはり日本製のプロダクトに対する信頼は厚く、品質にこだわる層に手に取っていただけているようです。お客さまによるSNSなどの口コミも蓄積されてきており、購入を後押ししている要因になっています。売り上げは計画通り進捗しています。

WWD:中国で一番人気の商品は。

藤田:エアゾール式の洗顔フォーム“シャインオフ ハイブリッド クレンザー”(120mL、日本価格で税込1980円)です。中国では洗顔料を泡立てずにするのが一般的。そんな彼らにとってフォームタイプの洗顔料は新鮮で、きめ細かな泡が気持ちいいと好評です。

 ただ調査結果では、中国の男性は洗顔料の使用率は80%以上と高いものの、スキンケアに関しては60%以下に留まります。洗顔だけをしていた男性にスキンケア用品に手を伸ばしてもらうには大きな溝があるわけです。

WWD:“溝”を越えるためには?

藤田:実は僕自身も、新卒でビューティ業界に入るまでは元々肌悩みが少ない方で、化粧品へのこだわりもありませんでした。今となっては、自分に合う化粧品を選ぶ意味と価値を深く理解しましたが、だからこそ「当時(大学生)の僕にそれを伝えるにはどうしたらいいか」という視点で考えることも大事だと考えます。スキンケアに全く興味がない層に、スキンケアの文脈でいくら“説明”しても響かないのです。

 昨年12月には、原宿の「ビューティー・スクエア」で早稲田大学の学生とコラボしたポップアップイベントを実施しました。テーマは学生が発案した“ゲームセンター”。化粧品会社で働く僕らからすると、「スキンケアと何の関係もないじゃないか」というツッコミを入れたくなったんですが(笑)。ただ彼・彼女たちと同年代のお客さまがカップルで来店して、クレーンゲームやダーツを楽しみ、景品の商品サンプルを笑顔で持ち帰っていくのを見て、これも一つの入り口になると感じました。既存のスキンケアの枠組みにとらわれず、ワクワクするような体験から付加価値を作り出すことにも、積極的にチャレンジしていきたいと考えています。

変わる中国人の消費
化粧品にも本質を求める

WWD:課題はあるか。

藤田:私たちのプロダクトは2000〜3000円前後と、バラエティーショップと百貨店の中間程度の「プレミアムマス」と呼ばれるゾーンです。中国では現在、百貨店コスメなどの高価格帯のプロダクトを使っていた方から高い評価をいただけています。これはいい意味で予想外でしたが、今後はブランド本来のターゲットである、「良質なスキンケアに興味がある若い男性」へのリーチを加速していきます。

 これまで(日本円で)数百円程度のドラッグストアなどの商品を使っていた方々に、倍以上もする商品に乗り越えてもらうためにはどうしたらいいのか。軌道修正しているのが、お客さまとのコミュニケーションの部分です。われわれが以前中国へ調査を行ったときは、現地の消費者はパッとみたデザイン、イメージを重視する傾向がありました。その後コロナ禍でしばらく中国現地に足を運べない期間が続いたのですが、お客さまの価値観はより本質を求める方向へと変化しています。

 化粧品についても、効果・効能に関心を向ける消費者が増えているようです。EC上の購買行動を追ってみると、カートには入るのですが、購入ボタンが押されないケースがまだまだ多い。成約に至らず脱落した方々にインタビューすると、最後はやはり他にはない配合成分や効果・効能といった、「納得できる情報」が購買の決め手になるようです。

 「サイドキック」は、イザヨイバラエキス、ワイルドタイムエキスをはじめ、若い男性特有の肌の揺らぎにアプローチする成分をふんだんに配合しています。試用者によるレビューも他社の競合商品を上回る結果を出せている。そもそも、スキンケア商品としてのクオリティーには絶対の自信を持っているんです。鮮烈なイメージやビジュアルに、これまで意識的に排除してきた「機能」の訴求を融合できれば、お客さまの購入のトリガーを引くことにつながるはずだと考えています。

WWD:国内戦略については。

藤田:中国で蓄えた知見は活用できる部分はあるものの、(日本に)そのまま持ち込んでうまくいくとは考えていません。例えばスキンケアに関心の高い中国人男性は、すでに自分の肌質や必要なプロダクトを理解しており、オンラインで買うことに抵抗がない。一方で日本のお客さまは「まずは自分の肌のことを知りたい」という人も多く、リアルなタッチポイントを必要とする傾向にあります。ただ、限られたリソースを合理的に活用するという意味でも、まず中国で地盤をしっかり固めることが最優先事項です。

WWD:ブランドの長期的な展望は。

藤田:ゼロからブランド開発をするのは初めてで苦労もありましたが、それ以上に喜びや興奮の方が大きかったです。今でも「サイドキック」を使っていて、ふと「本当に自分で作ったブランドなのかな」と不思議な気持ちになります。学生時代から「世の中にない未来の“当たり前”を作る」ことを夢見てきました。今はまだ新しいブランドを作っただけの、ほんの通過点にすぎません。若い男性がスキンケアを選ぶときに、「サイドキック」が真っ先に思い浮かぶ未来を作ること。これが僕の次なるミッションです。

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資生堂の新鋭メンズコスメ「サイドキック」 若きブランド責任者が語る展望

 資生堂の「サイドキック(SIDEKICK)」は、同社としては「シセイドウ メン(SHISEIDO MEN)」以来19年ぶり(当時)となる新メンズスキンケアブランドとして昨年6月にスタートした。

 ターゲットは若年層の男性。歯磨きのようなチューブ容器に、メタリックにきらめくブランドロゴ。同社の既存ブランドにはなかった、ストリートブランドを思わせる斬新なデザインのパッケージに、彼ら特有の肌質・悩みにアプローチするエッセンスを詰め込んだ。

 まずはメンズコスメの先進市場である中国から着手。そこで得たノウハウや知見を逆輸入し、日本市場の開拓にもつなげる。ブランドローンチからの進捗と今後の展望を、同社経営戦略部のブランド開発責任者である藤田悟氏(31)に聞いた。

藤田悟/資生堂経営戦略部「サイドキック」ブランド開発責任者

PROFILE:(ふじた・さとる)2015年慶應義塾大学文学部英米文学科卒。外資系大手化粧品メーカーにてマーケティングを経験後、資生堂へ。紫外線を美肌光に変換する「サンデュアルケア」のコンセプトを生み出し、後にビューティブランド「バウム(BAUM)」「サイドキック(SIDEKICK)」の立ち上げに携わる。現在は「サイドキック」専任でブランド開発に従事

WWD:斬新なパッケージデザインの理由は。

藤田悟「サイドキック」事業責任者(以下、藤田):ブランドは現在、経営企画室の若いメンバー6人が中心となって運営しており、中国支社にもマーケティングチームがいます。私自身もコロナ前には中国に何度も足を運んで、現地の若い男性に関する情報を収集してきました。中国人の購買行動における日本人との顕著な違いとして、「人との違いを表現したい」という欲求が大きいことがあります。そんな彼らの価値観や感性に訴える上でも、これまでの資生堂ブランドにはない斬新なパッケージデザインを目指しました。

 「人口13億人の国に暮らす彼らにとって、“埋もれたくない”という意識は私たち日本人より遥かに大きい。スキンケア用品であっても、彼らの自分なりの創造や発信と結びつけようとします。たとえば「サイドキック」をご購入いただいた中国のお客さまのSNSをのぞいてみると、自分のお気に入りブルーのスニーカーの横に、ブルーメタリックの「サイドキック」の洗顔料を並べて投稿してくださっています。

WWD:社内の反応は。

藤田:プロダクトのデザインに関しては反対を覚悟していました。ただプレゼンを終えてみると、「いい意味で資生堂っぽくないね」「先進的で新しさがある」と前向きな反応をたくさんもらいました。

 「シセイドウ メン」は当社のメンズスキンケアにおけるフラッグシップブランドという位置付けですが、「サイドキック」は会社としての新しいチャレンジ、新しい成功体験を作るための“投資”であると自覚しています。「資生堂」という看板や既成概念を意識しすぎず、ブランドの個性を追求することが肝要だと考えています。

洗顔からスキンケアへは
飛び越えるべき“溝”がある

WWD:中国でのビジネスの進捗は。

藤田:Tモールやジンドン、TikTokなどのEC販路で開拓を進めています。白敬亭(バイ・ジンティン)という現地で人気の若手俳優とファッションデザイナーを起用したプロモーションを実施したことも認知拡大につながりました。

 中国では“チャイナプライド”を合言葉に国産ブランドに投資する機運もあります。しかしやはり日本製のプロダクトに対する信頼は厚く、品質にこだわる層に手に取っていただけているようです。お客さまによるSNSなどの口コミも蓄積されてきており、購入を後押ししている要因になっています。売り上げは計画通り進捗しています。

WWD:中国で一番人気の商品は。

藤田:エアゾール式の洗顔フォーム“シャインオフ ハイブリッド クレンザー”(120mL、日本価格で税込1980円)です。中国では洗顔料を泡立てずにするのが一般的。そんな彼らにとってフォームタイプの洗顔料は新鮮で、きめ細かな泡が気持ちいいと好評です。

 ただ調査結果では、中国の男性は洗顔料の使用率は80%以上と高いものの、スキンケアに関しては60%以下に留まります。洗顔だけをしていた男性にスキンケア用品に手を伸ばしてもらうには大きな溝があるわけです。

WWD:“溝”を越えるためには?

藤田:実は僕自身も、新卒でビューティ業界に入るまでは元々肌悩みが少ない方で、化粧品へのこだわりもありませんでした。今となっては、自分に合う化粧品を選ぶ意味と価値を深く理解しましたが、だからこそ「当時(大学生)の僕にそれを伝えるにはどうしたらいいか」という視点で考えることも大事だと考えます。スキンケアに全く興味がない層に、スキンケアの文脈でいくら“説明”しても響かないのです。

 昨年12月には、原宿の「ビューティー・スクエア」で早稲田大学の学生とコラボしたポップアップイベントを実施しました。テーマは学生が発案した“ゲームセンター”。化粧品会社で働く僕らからすると、「スキンケアと何の関係もないじゃないか」というツッコミを入れたくなったんですが(笑)。ただ彼・彼女たちと同年代のお客さまがカップルで来店して、クレーンゲームやダーツを楽しみ、景品の商品サンプルを笑顔で持ち帰っていくのを見て、これも一つの入り口になると感じました。既存のスキンケアの枠組みにとらわれず、ワクワクするような体験から付加価値を作り出すことにも、積極的にチャレンジしていきたいと考えています。

変わる中国人の消費
化粧品にも本質を求める

WWD:課題はあるか。

藤田:私たちのプロダクトは2000〜3000円前後と、バラエティーショップと百貨店の中間程度の「プレミアムマス」と呼ばれるゾーンです。中国では現在、百貨店コスメなどの高価格帯のプロダクトを使っていた方から高い評価をいただけています。これはいい意味で予想外でしたが、今後はブランド本来のターゲットである、「良質なスキンケアに興味がある若い男性」へのリーチを加速していきます。

 これまで(日本円で)数百円程度のドラッグストアなどの商品を使っていた方々に、倍以上もする商品に乗り越えてもらうためにはどうしたらいいのか。軌道修正しているのが、お客さまとのコミュニケーションの部分です。われわれが以前中国へ調査を行ったときは、現地の消費者はパッとみたデザイン、イメージを重視する傾向がありました。その後コロナ禍でしばらく中国現地に足を運べない期間が続いたのですが、お客さまの価値観はより本質を求める方向へと変化しています。

 化粧品についても、効果・効能に関心を向ける消費者が増えているようです。EC上の購買行動を追ってみると、カートには入るのですが、購入ボタンが押されないケースがまだまだ多い。成約に至らず脱落した方々にインタビューすると、最後はやはり他にはない配合成分や効果・効能といった、「納得できる情報」が購買の決め手になるようです。

 「サイドキック」は、イザヨイバラエキス、ワイルドタイムエキスをはじめ、若い男性特有の肌の揺らぎにアプローチする成分をふんだんに配合しています。試用者によるレビューも他社の競合商品を上回る結果を出せている。そもそも、スキンケア商品としてのクオリティーには絶対の自信を持っているんです。鮮烈なイメージやビジュアルに、これまで意識的に排除してきた「機能」の訴求を融合できれば、お客さまの購入のトリガーを引くことにつながるはずだと考えています。

WWD:国内戦略については。

藤田:中国で蓄えた知見は活用できる部分はあるものの、(日本に)そのまま持ち込んでうまくいくとは考えていません。例えばスキンケアに関心の高い中国人男性は、すでに自分の肌質や必要なプロダクトを理解しており、オンラインで買うことに抵抗がない。一方で日本のお客さまは「まずは自分の肌のことを知りたい」という人も多く、リアルなタッチポイントを必要とする傾向にあります。ただ、限られたリソースを合理的に活用するという意味でも、まず中国で地盤をしっかり固めることが最優先事項です。

WWD:ブランドの長期的な展望は。

藤田:ゼロからブランド開発をするのは初めてで苦労もありましたが、それ以上に喜びや興奮の方が大きかったです。今でも「サイドキック」を使っていて、ふと「本当に自分で作ったブランドなのかな」と不思議な気持ちになります。学生時代から「世の中にない未来の“当たり前”を作る」ことを夢見てきました。今はまだ新しいブランドを作っただけの、ほんの通過点にすぎません。若い男性がスキンケアを選ぶときに、「サイドキック」が真っ先に思い浮かぶ未来を作ること。これが僕の次なるミッションです。

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「エトロ」のデザイナーが語る服作り “僕の頭にはイタリア生地メーカーの地図が入っている”

 イタリアファッションは今、転換期を迎えており、歴史ある企業が新任CEOやデザイナーを迎えてブランドを次のステージへ進めようとしている。「エトロ(ETRO)」もその一つで、2021年に新たな最高経営責任者(CEO)にファブリッツォ・カルディナリ(Fabrizio Cardinali)が着任し、2023年春夏シーズンからはクリエイティブ・ディレクターにマルコ・デ・ヴィンチェンツォ(Marco De Vincenzo)が就任した。イタリアのファッションを代表する一企業である彼らはどこへ向かおうとしているのか?アイコンバッグ“ラブトロッター”のお披露目のため、2月に来日したヴィンチェンツォに話を聞いた。

 「エトロ」にはファミリーという言葉が本当によく似合う。同ブランドは1968年にジンモ・エトロ(Gimmo Etro)が生地メーカーとしてミラノで創業し、80年代にはペイズリー柄で一世を風靡。96年に初のウィメンズコレクションを発表するなど、領域を広げて40年以上、一族経営でその世界観を守ってきた。今春発売したヴィンテージ生地を使ったバッグ“ラブトロッター”にはまさにその歴史が凝縮されている。制作にあたっては、ヴィンツェツォ自身がコモにある2つの生地倉庫に赴き、膨大なヴィンテージ生地から選んだという。

 ヴィンツェンツォは制作背景を次のように説明する。「ヴィンテージ生地のアーカイブは2種類あり、1つは創業後に『エトロ』自身と他のデザイナーのために作った試作で、もうひとつは10年ほど前から始めたコレクション制作の残布。何千種類もの生地が全部保管されている。“ラブトロッター”の生地は、バッグを少なくとも10個作れる用尺があるもの、という基準で選んだ。ほとんどがホームコレクション用だけど、中にはレディトゥウエア用も入っている。色ごと、柄ごとに分けてピックアップして組み合わせを考える。いわば自分が選んだ生地で作ったパッチワークなんだ」。長年のファミリーの記憶を、外部からやってきた新任デザイナーがパッチワークすることで完成したバッグ。だからこそ同ブランドはヴィンチェンツォのデビューシーズンに “ラブトロッター”を世界中で大きく打ち出している。日本では3月22日以降、大丸心斎橋店、日本橋三越、横浜高島屋でポップアップのオープンが続く。

僕の頭にはイタリア生地メーカーの地図が入っている

 44歳のクリエイティブ・ディレクターは、生地や色柄に関する類稀なる理解・表現力を持っている。「僕自身は生地を作らないが、デザインに合わせてどのテキスタイルメーカーにお願いしたらいいかを熟知している。イタリア全土にそれぞれの分野で優秀なメーカーがあり、たとえば“花柄ならコモのあのメーカー”、あれはトリノ、あちらはフィレンツェなど各地・各メーカーの一番よいところをわかって調達をしている。一番良いものを提供してくれるメーカーのマップを持っているようなもの。『エトロ』は素材の多様性で愛されているからそれがとても大切なんだ」。

 ヴィンチェンツォはシチリアに生まれ、ローマで学んだ。ならば、と投げかけた「イタリアならではの美意識」とは?の質問には意外な答えが返ってきた。「イタリア出身だからといってデザインがイタリアの美意識だけで構成されているわけではない。ブランドビジネスは世界に目を向けているしね。イタリアの美意識がどこに現れるか?といえば、それは製造業の作り手の仕事の中ではないだろうか。イタリアのファッション産業は、生地やレザーなど素晴らしい製造業に支えられている。それがイタリアのファッション界の資産であり、イタリアらしさそのものだと思う」。

グラデーション色のニットが象徴すること

 では彼は老舗ブランドをどう変えてゆくのだろうか?自身のブランド「マルコ デ ヴィンチェンツォ(MARCO DE VINCENZO)」では、実験的な素材使いが特徴的だった。しかし「『エトロ』にもその革新性を吹き込んでいくのか?」と問うと、「あそこまではやらない」と返ってきた。「私自身のブランドでは私自身のコードを発信し、私自身のストーリーを語る場だから極端に急進的なこともしてきた。けれど『エトロ』においての革新性は別の切り口で表現すると思う。なぜなら『エトロ』には『エトロ』が築き上げたストーリーがあり、コードがあるから。私が加わったことで新しい視点を感じてはもらえるとは思うけど、やりすぎてはいけない。今まで培われたものをベースにゆっくりした歩調で一歩一歩進めていきたい」。

 ゆっくり、でも確実に。その考え方は2023年春夏コレクションのニットの色使いに見られた。空の色の変化を捉えたようなニットのグラデーションは優しく楽観的な明るさがあった。「発表するたびに『エトロ』らしさの中に自分らしさを少し加えたい、グラデーションはその表れです。長いファミリーの歴史は本当に貴重だと思う。同時にそこに新しい酸素は必要。エトロファミリーが、僕のような新しいクリエイターを迎え入れようという気持ちを持っているからできることだ」。

 イタリアのファッションの魅力は、生地や色に加えて仕立ての技術がある。1月に発表したメンズの2023-24年コレクションは、柔らかく流れるようなシルエットでモダンな印象へとつながった。パターンチームを刷新したのか?と推測するほどの変化だった。「チームは以前と変わっていないが、自分が考えるシルエットの方向性が反映されたと思う。『エトロ』の表現にヒッピーという言葉がよく使われるが、私の感性では『エトロ』とヒッピーは結びつかない。ジンモ・エトロが最初に作ったカタログを見ればそこにはイタリアのサルトリアによる綺麗な形がたくさん見られる。メンズではその原点に立ち返った。ウィメンズもそれを反映していく」。

2023-24年秋冬は満を持してペイズリーも登場

 2023-24年秋冬コレクションは「この半年間での進化、デビューショーと比べて深く研究した成果が見て取れると思う」と語っていた。その言葉通り、同コレクションは充実したものとなった。キーワードは“エトロラディカル”だ。「ラディカルには“急進”の意味に加えて、実はラテン語に由来する“ルーツ”の意味もある。ルーツへのオマージュと革新性のスピリットを込めた」。満を持して登場した多彩なペイズリーやタータンチェック、動植物をモチーフにした柄と多彩な色。それらを流れるようなシルエットの服にのせて開放感いっぱいのルックを次々登場させた。得意のバッグも充実し、オーバーサイズのレーザーカットのトートバッグや新しいアイコンバッグ“サトゥルノ”が登場した。

 「フェンディ(FENDI)」のアクセサリーデザイナーも兼任する今は、「ものすごく忙しい」。その中でオフには大好きな室内装飾関係のアンティークショップを見て回るというヴィンチェンツォ。この先、同ブランド展開するホームコレクションへの広がりなどもあり得そうだ。

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武蔵野美術大学がデザイン教育をビジネスや政策に適応 課題解決を実践する力を養う

 デザイン教育が大きく変わろうとしている。世界の有力校ではすでにビジネスや政策に適応したデザイン教育が始まり、大学と企業や行政組織などと課題解決に取り組む。日本でもさまざまな大学でその試みが始まっている。武蔵野美術大学は2019年、課題解決を実践する総合力を身につけることを目的にしたクリエイティブイノベーション学科を新設、今年一期生が卒業する。「『創造的思考力』を実社会で応用する方法を学ぶ、新たな美術大学としての試みの場」として東京・市ヶ谷にキャンパスを構える。企業・自治体・政府機関と連携したプロジェクトを実践し、それらを支える先端専門教育を通して、自身の視点でビジョンを見いだすことを目指す。入試に実技がないのも特徴だ。これからのデザイナー像とは?どのような人材を育てていくのか?同学科で教鞭をとる岩嵜博論・教授に聞く。

WWD:ビジネスデザイナーやストラテジックデザイナーという肩書きは日本ではまだまだ聞きなれない。その岩嵜さんが教鞭をとる意図は?

岩嵜博論教授(以下、岩嵜):ビジネスデザインはデザインの方法論でビジネスを考えて実行すること。ストラテジックデザインの考え方も、デザインの方法論をビジネスやソーシャル・イノベーション、政策のために用いている。

 狭義のデザインは造形中心のデザインで、今も大切だしこれからも大切。僕は広義のデザインに取り組んでいる。日本では構想や設計という概念で考えられている。領域横断型になり、例えばサービスデザインやデザイン思考なども含まれる。デザインの方法論が一番使いやすかったのがビジネスで、その次に社会、そして政策に広がっている。

WWD:デザインの領域が拡張する中で、これからのデザイン教育とは?

岩嵜:領域特化型の専門的なデザイン教育はこれからも必要だが、領域特化型でも、デザインリサーチの部分を増やすことが大切になるだろう。もちろんすでに行っているところも多いが、思い付きやインスピレーションだけでモノを作るのではなく、リサーチに基づいたデザインを行うことが必要だ。リサーチすると自ずと戦略性が生まれるから。リサーチによって方向性が示され、どの方向性にするかが戦略になり、その戦略に基づいた造形を作るという具合だ。

 もう一つ大切なのは領域横断性、いろんな人たちとコラボレーションすることだ。今までと異なるデザインアプローチとしてはチームによるデザイン活動がある。例えばデザインコンサルタント会社アイディオ(IDEO)は特定のデザイナーの名前を積極的に出さない。チームで作ることを重視していて、誰かが偉いとか誰かがクリエイティブをリードしているとはいわずに施行している。

WWD:これからのデザイナー像とは?

岩嵜:デザイナーの職能にファシリテーターが求められるだろう。人と人、組織と組織、領域と領域の間を媒介できる人が未来のデザイナー像にはある。孤高の作家みたいなパーソナリティではなく、ファシリテーターとしてのデザイナー像、そしてアクティビストとしてのデザイナー像はあると思う。

WWD:クリエイティブイノベーション学科は武蔵野美術大学のキャンパスがある小平ではなく、東京・市ヶ谷に新設された。

岩嵜:CBSソニーが入っていた通称“黒ビル”を大学として取得し、市ヶ谷キャンパスとして2019年に新設した。ニューヨークのパーソンズやロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートなど都心にキャンパスを構え、社会と接点を持ちながら、総合的に領域横断型のデザイン教育を行う学校が世界中にあるが、東京にはなかった。それを武蔵野美術大学が作った。

 これまで培ったクリエイティブ教育を行い、社会に影響を与える活動家を育成することを目的に、新たな学部として造形構想学部を新設。そこに学部のクリエイティブイノベーション学科を作った。同学科は入試で実技試験を課していないので、一般大学を検討していた学生も含めた多様な学生が集まっている。学部と同時に大学院修士課程のクリエイティブリーダーシップコースも開設し、博士課程も設置した。大学院は夜に授業を行っているので社会人の学生も多い。

 ソーシャルクリエイティブ研究所という研究機関も併設し、企業との共同研究も行っている。学部・大学院・研究所が一つの市ヶ谷キャンパスに集結している。美術大学の教育・研究組織としては新しい取り組みだと思う。

WWD:大学に移る前は長く博報堂にいたが、領域が異なるように感じる。

岩嵜:キャンパスに行った瞬間に大学がやりたいことが伝わってきて共感したからだ。僕の中ではリサーチと実践はつながっていて、博報堂にいたときからリサーチもしていた。博報堂には同じような思考の仲間がいて、大半は外にいて活躍しているが、当時は、皆、博士課程に行っていたり、研究していたり、本を書いていたりしていた。そういう環境が当たり前のようにあった。僕自身は06年にデザイン思考に出合い、博報堂時代にイリノイ工科大学のデザインスクールに留学、その後京都大学の博士課程を修了した。

WWD:リサーチと教育、実務をどのように考えているか?

岩嵜:実務と教育・リサーチをつなげていきたいと考えている。アイディオをはじめとした世界のデザインファームや、フィンランドのデジタルデザイン会社と領域を横断する方法で仕事をしてきた経験から、デザインがビジネスに貢献できると実感した。さらに、世界がより複雑化したことで、領域横断的なアプローチがさらに有効になってきている。社会課題も一本足打法だと弱いので、いろんな領域を束ねて課題解決を目指すことが大切になっている。博報堂時代はリサーチ3、実務7の比率だったのが、今はちょうど逆転。教育とリサーチに起点を起きながらビジネスデザイナーとしての実務も行っている。

 大学では、社会実装という言葉を大事にしている。美大はきれいなものを作ることを目指しがちだけど、どんなにラフなものでもいいから行動することを、小さな実装でもいいから、何かを社会に定着させることを働きかけることを大事にしている。

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メイクはヘアカラーの似合わせにおける“強み”になる【二刀流美容師:SHIMA】

 ヘアだけでなく、メイクアップもこなす美容師を“二刀流美容師”としてピックアップする連載企画。インスタグラムによる集客が主流となった今、ヘアスタイル投稿だけでなく、メイク投稿もできるとサロンユーザーの関心をより引き付けられるため、注目度が増している。第2回は「SHIMA HARAJUKU(シマ ハラジュク)」の高垣賢司スタイリスト兼ヘア&メイクに、 メイクを始めたきっかけや、美容師がメイクもやることのメリットを聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):メイクを始めたきっかけは?

「SHIMA HARAJUKU」スタイリスト兼ヘア&メイク 高垣賢司(以下、高垣):もともと興味はあったけれど、実際に始めたのは4年前くらい。ヘアスタイル写真を撮るときに、自分のやりたいイメージにより近づけたいと思い、メイクアップも自分でやるようになった。作品撮りの際、メイクは得意なスタッフに任せるスタイリストが多いけれど、僕は興味があったし、全部自分でやりたかった。

WWD:どうやって勉強した?

高垣:ユーチューブなどの動画を見て独学で学んだ。営業後にモデルさんを呼んで、少しずつ実際にチャレンジするということを続けて、お客さまに入ったのは2年前くらい。インスタグラムで、ヘアスタイルと同時にメイク作品も投稿していたが、その反響があり、お客さまから「メイクもやってもらえるんですか?」という質問があった。それをきっかけにメニューに取り入れていった形だ。インスタグラムで、美容師によるヘアスタイル投稿はジャンルとして確立しているけれど、メイクは未知数。まだ試行錯誤の途中だが、普段はあまりやらないような、少しエッジイなメイク投稿の方が反応が良いようだ。

WWD:メイクメニューはどのような顧客がオーダーする?

高垣:結婚式や卒業式、パーティーなどのイベントの前に来店する方が多い。先日はマッチングアプリに使う画像の撮影のためにオーダーしてくれた方がいて,今っぽいなと感じた。また、やり方を教わって自分でできるようになりたい、という方も少なくない。「今年のメイクはどんな感じですか?」とか「おすすめのマスカラは?」などと聞かれるケースも増えた。人それぞれ髪質が違うように、肌質やまつ毛の毛質なども違う。回数を重ねるにつれ、それに合った提案もできるようになった。

WWD:メイクもできることのメリットは?

高垣:よりトータルビューティの提案をできるようになった。ヘアカラーに合わせて「こういう色にしたから、このアイシャドウが絶対かわいいですよ」とおすすめしたり、ハイトーンに合うまつ毛のカラーを提案したりすると喜んでもらえる。ヘアカラーの作品撮りの際も、ヘアだけ手掛けて撮るよりも、メイクも合わせて変えて撮った方が絶対にかわいく見せる自信があり、僕の強みになっている。最近はサロンワークのほかにヘアメイクの仕事もするようになったが、お店の他のメンズスタッフもメイクに興味を持ってくれるようになった。お客さまにとっても、美容室に来てヘア以外の情報も吸収できることは、メリットになると思う。

WWD:今年の春夏はどんなヘア&メイクを提案したい?

高垣:ヘアカラーに関しては、「イルミナカラー(ILLUMINA COLOR)」から4月に登場する新色3シェードを提案したい。これは、L.A.(ロサンゼルス)の自然や街からインスパイアされた、“マリーン”“ビーチ”“サンセット”の3シェード。ソフトアッシュベージュが入っているため、くすまずに柔らかい色味が出せる。

WWD:合わせるメイクは?

高垣:“マリーン”はブルーグリーンが入っているので、外国人風カラーにより適している。メイクを合わせるなら、シェーディングでほりの雰囲気を変えることで、より外国人っぽく見せることができる。あとアイラインとアイシャドウで目の印象を変えることもおすすめ。“ビーチ”は暖色と寒色の中間のニュアンスで、柔らかさを残しつつ、クールなベージュを表現できる。アイシャドウを合わせるなら、淡いオレンジ系がおすすめ。“ビーチ”はとても気に入っていて、キービジュアルを作らせてもらった際は、L.A.のきらめきを表現するためブラウンとゴールドのアイシャドウを使ったが、ばっちり決まってかわいく仕上がった。また別軸で、韓国のトレンドもまだあるが、それを求めるお客さまには柔らかい青みピンク系の目周りと、淡く広めに入れるチークを提案したい。合わせるヘアカラーは、「イルミナカラー」の“サファリ”や“アンバー”がおすすめだ。

WWD:「イルミナカラー」の新色3シェードはベージュベースだが、メイクは合わせやすい?

高垣:ベージュにもよるけれど、いろいろな色を取り入れやすくなる。アイシャドウはヘアカラーに通じているところがあり、絶妙にくすませるなど、ヘアカラーとの似合わせで提案の幅が広がる。

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ホームレスを救うシェルタースーツ 「クロエ」ともコラボしたデザイナーが信じるファッションの力

バス・ティマー/シェルタースーツ ファンデーション創設者

PROFILE:オランダ・アーネムにあるArtEZ芸術大学卒業後、自身のブランド「バス ティマー」を設立。友人の父親がホームレス生活で凍死したことをきっかけに、デッドストックを使ったシェルタースーツを2014年に考案した。その後、非営利団体シェルタースーツ ファンデーションを立ち上げ、世界各地のホームレスに配布し続けている。20年には、米「タイム」誌の「次世代のリーダー」に選ばれた

 シェルタースーツは、オランダ人バス・ティマー(Bas Timmer)が2014年にホームレス支援のために作った、命を守るためのスーツだ。そのジャケットと寝袋をつないだシンプルな1着が、ティマーの「たくさんの人を助けたい」という思いと共に反響を呼び、100着、1000着、1万着と徐々に生産数が増加。現在は非営利団体シェルタースーツ ファンデーション(Sheltersuit Foundation)を世界各地に設立し、デッドストックの生地のみを使ったシェルタースーツを各国のホームレスに提供している。その活動が現「クロエ(CHLOE)」クリエイティブ・ディレクターのガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)の目に留まり、ハーストが「クロエ」を率いて初のシーズンとなった2021-22年秋冬コレクションで協業が実現。知名度を広げると、ティマーはその後もさらなる支援資金調達のために「シェルタースーツ」をブランド化し、昨年3月にはパリでコレクションを発表した。ティマーは、なぜホームレスの支援を続けるのか。シェルタースーツ誕生の裏側からスーツに込める思い、パリでコレクションデビューを飾るまでを、本人に聞いた。

きっかけは友人の父親の死

WWDJAPAN(以下、WWD):シェルタースーツの構想が浮かんだ経緯を教えてほしい。

バス・ティマー(以下、ティマー):元々大学でファッションの勉強をしていて、自身のブランド「バス ティマー(BAS TIMMER)」を立ち上げ、フーディーやタートルネック、マフラーなど、冬服をメインに作っていた。デンマーク・コペンハーゲンでのインターン時代、街中でたくさんのホームレスを見かけ、「自分が作った服が、寒い中を路上で過ごす彼らの助けになるのでは」と思い、ホームレスのために服を作って無料で配布することを母親に相談してみたんだ。でも、「無料で服を配ったら、誰もあなたの服を買ってくれなくなる」と心配された。正直その答えをすぐには受け入れられなかったが、ひとまず母親の言葉に従うことにした。

WWD:そこからシェルタースーツ ファンデーション設立に至った理由は?

ティマー:それから数年後、僕の友人2人の父親がホームレスになり、路上で凍死したというニュースを耳にした。友人の父親は、母国オランダでシェルターを訪れたそうだが、薄いブランケット1枚しかもらえず、そのまま路上で夜を過ごし、低体温症で亡くなってしまった。その話を聞いたとき、「あのときアクションを起こしていれば……」と罪悪感を覚え、悔しくて、人を助けたいという使命感に駆られた。そこで、「日中も着られて、夜の寒さからも守ってくれるものを作ろう」と、最初のシェルタースーツを手掛けた。初代シェルタースーツは、ファスナー付きのジャケットに手持ちの寝袋を付けたシンプルなデザインだった。それを持ってシェルターを回っていたら、一人の男性を紹介されたんだ。彼は最初僕を怪しがっていたけれど、シェルタースーツを見せると表情が変わり、「友人にもシェアしたい」と言ってくれた。その瞬間、「もっとたくさんの人のために作らなければ」と思い、最初の100着を作った。

WWD:シェルタースーツはこれまでに何着作った?

ティマー:シェルタースーツとシェルターバッグを合わせて2万個だ。シェルターバッグはバックパック状で、広げると1人用の寝袋になる。

WWD:デザインは自身で手掛けている?

ティマー:初代シェルタースーツもシェルターバッグも、昨年デビューしたファッションレーベルも、私が全てデザインした。今はサポートメンバーも増え、素材調達の専任メンバーも在籍している。

WWD:現在活動に関わっている人数は?

ティマー:ここ8年ほどで、数百人がわれわれの事業を支えてきた。オランダで工場を立ち上げ、労働権利を得たシリアからの難民を雇うところからスタートした。オランダの工場では現在25人、南アフリカのケープタウンの工場では、女性15人が働いている。ファッションブランドのチームを含めると、現在メンバーはグローバルで50〜60人ほどだ。

WWD:デザインのこだわりは?

ティマー:一番重要なのは機能性。はっ水性に優れ、高い保温性を有するなど、機能性と品質を大切にしている。次に見た目の美しさ。見た目が美しくなければ、誰も使おうと思わない。路上で過ごすホームレスの人々にも好みがある。だからなるべく多くの人が魅力的に感じてくれるよう、美しくデザイン性に長けたスーツを意識している。われわれはデッドストックの素材をアップサイクルしているが、アップサイクルの強みは、全てがオリジナルで、1点ものであることだ。ベージュからブルー、ビビッドピンクまで、人々のいろいろな趣味嗜好に合ったアイテムを作ることができる。

WWD:デッドストックはどれぐらい調達している?

ティマー:1着のシェルタースーツを作るのに、テントなどに使われるはっ水性の素材を5m(寝袋2.5個分)要する。企業に声をかけて、デッドストックや廃棄予定の素材をもらえないか交渉している。ほかにも寝袋を作る会社からは、生産過程のミスで売れなくなった、ファスナーが故障した寝袋を1000個提供してもらっている。

WWD:今では逆に「提供したい」と声をかけてくるブランドも多いのでは?

ティマー:もちろん。最近は「3M」や「アンダーアーマー(UNDER ARMOUR)」「アークテリクス(ARC'TERYX)」といった世界中のブランドから声がかかっている。それでもまだまだ足りない。もし「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」のような大手アウトドアブランドが素材や商品を寄付してくれるなら大歓迎だ。

ホームレス支援には賛否両論

WWD:シリアからの難民に仕事を与え、雇用を生み出すことへの思いとは?縫製などはどのように教えている?

ティマー:シリアで内戦が起きて以来、多くの難民がヨーロッパに避難してきた。難民の多くは縫製工場で働いていた経験があったが、オランダ語が話せないため、難民キャンプや施設に閉じこもっていた。われわれがオランダで工場を立ち上げたとき、彼らに「ボランティアで働かないか」と声をかけてみたところ、多くが喜んで働いてくれた。当初は工場で働いてもらう代わりに語学レッスンを提供したり、住む場所を一緒に探したり、ビザなどの書類申請を手伝ったりしていた。その後寄付金を集り、彼らにきちんと賃金を支払えるようになるまで工場をコツコツと成長させてきた。「助けを必要とする人を支援したい」という思いもあったし、彼らのスキルを生かせるチャンスでもあった。

WWD:では、縫製は特別に教えていないということ?

ティマー:当初は必要なかった。それよりも、オランダのカルチャーや言語を教えた。最近は従業員も増えたので、主に南アフリカの工場では縫製のレクチャーも行っている。

WWD:最初は厳しい声もあったと聞いた。現在、反響はどう変わった?

ティマー:“ホームレスを助ける”というセンシティブな社会問題に携わっていたので、最初はネガティブな声も多かった。批判の多くは、「シェルタースーツをホームレスの人に配ると、ホームレス状態から脱却しようと思わなくなる」といったおかしな意見だった。ホームレスの人は、誰もが住む場所や仕事を欲しがっている。シェルタースーツを与えたからといって、その思いは変わらないはずなのに。シェルタースーツはホームレス生活を促しているわけではなく、むしろ路上生活を強いられた人々を守っている。そして、シェルタースーツを介してソーシャルワーカーとホームレスの信頼関係が強まり、彼らを支援しやすくなる。これはオランダの大学と研究して実証したデータなので、それを証明できるようになってからは、周りの意見もだいぶ変わった。今は、多くのシェルターがわれわれの事業に賛同してくれている。

WWD:展開国は?

ティマー:オランダ、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、南アフリカ、アルゼンチン、パナマ、メキシコ、コロンビア、オーストラリア、アメリカ(ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス)だ。ギリシャのレスボス島やシリアの難民キャンプにも多く寄付している。日本でホームレスの問題がどれほど深刻か分からないが、近い将来日本でもシェルタースーツ ファンデーションを立ち上げたい。そもそもレーベルを立ち上げたのも、世界中にファンデーションを設立するためだ。

「クロエ」とのコラボも話題に

WWD:昨年は「クロエ」ともコラボレーションした。その経緯は?

ティマー:アメリカでシェルタースーツ ファンデーションを立ち上げるためにニューヨークへ行ったときに、ガブリエラ・ハーストに出会ったのがきっかけだ。その出会いから3カ月たったころ、彼女から「『クロエ』のクリエイティブ・ディレクターに就任した」と電話があり、「シェルタースーツ ファンデーションとコラボレーションしたい」と言われた。そして、シェルタースーツ ファンデーションの資金調達のためのチャリティーバックパックと、2021-22年秋冬コレクションのランウエイピースをいくつかデザインした。アイテムは全て「クロエ」とシェルタースーツのデッドストックで製作した。

WWD:ハーストからはどんな要望があった?

ティマー:一番大きなリクエストは、社会的な影響を残すこと。そして、デッドストックの素材からアップサイクルすることと、自社工場でエシカルに製造すること、またバックパックの収益をシェルタースーツのために還元すること、といった条件を話し合った。でも、デザインは自由にやらせてくれた。

WWD:メゾンとの協業で学んだことは?今後もファッションブランドとの協業を考えている?

ティマー:多くを学んだし、これからもたくさんのファッションブランドと協業していきたい。コラボして良かったのは、私たちが掲げる“People Helping People(人が人を助ける)”というメッセージを多くの人に届けられたこと。ビッグメゾンとコラボしたことによって団体の活動をたくさんの人に知ってもらえるきっかけになったし、コラボで得られた収益でより多くの人々を支援できた。そしてわれわれだけでなく、コラボした相手側にもポジティブな影響を与えられたと思う。「クロエ」の社員は、パリのホームレスを支援するために、シェルターなどでボランティアをしているそう。大きなインパクトを残すためにも、今後も多くのブランドと協業したい。

WWD:「シェルタースーツ」をブランド化した理由は?本格的な事業化も視野に入れている?

ティマー:シェルター ファンデーションでは寄付を募り、その寄付金で作ったスーツやバッグを無償で提供している。ブランドとして「シェルタースーツ」レーベルを立ち上げたのは、その収益をファンデーションにさらに還元するため。レーベルはファンデーション同様、“アップサイクルした素材を使う”というフィロソフィーを持ち、別の事業だが、考えや目的は同じだ。互いに支え合えるよう今後も営んでいく。

WWD:ブランド設立後、パリで開催したファーストコレクションの手応えは? 

ティマー:個人的にはとても良い反応だったと思う。計3回ショーを行ったが、各回にプレスや評論家など、ファッション業界の著名人が多く駆け付けてくれた。ファッション好きもたくさんSNSに投稿してくれて、われわれが発信するメッセージをポジティブに受け止めてくれたようだ。ショーを通じて、ファッションは“ソーシャル・グッド”を生み出すツールとして活用できる、ということを発信できたと思う。実際の服にもポジティブなコメントをたくさんもらった。

WWD:ブランドでは、ジャケットやセットアップなど、シェルタースーツ以外のバリエーションも広がった。デザインにおいて意識した点、発想を変えた点は?

ティマー:デザインするに当たり、難しいと感じた点はいくつかあった。1つ目は、デッドストックを用いること。というのも、そもそも企業から提供してもらう素材しか使えないので、素材を自由に選ぶことができない。従来のファッションブランドだと、まずはデザインをスケッチしてから素材を調達し、そこから生産を始めるが、私たちの場合は素材調達から始まり、それに合わせてデザインする必要がある。そういう意味では、通常のデザインプロセスとは全く異なる考え方だった。

 また、われわれはなるべく多くの人を支援したいという思いがあるため、あらゆる人が着られるジェンダーレスなデザインを意識した。ストリートウエアとしてだけでなく、ビジネスシーンでも着られるよう意識した。例えば、ウールコートは一見とてもクラシカルだが、裏地はファンキーでビビッドな色を使い、ストリートウエアの要素を取り入れた。ポンチョやバッグなど、一部のアイテムはシェルタースーツ ファンデーションでも使える機能性だ。

WWD:「シェルタースーツ」として伝えたいメッセージ、目指すゴールは?

ティマー:助けを求める人を支援する大切さを伝えること。周りに苦しんでいる人がいれば、手を差し伸べてあげてほしい。彼らの助けになるだけでなく、他人を支えることは自分のためにもなる。私は、ファッションは美しいものを人々に提供するだけでなく、人々を助けるパワーがあると信じている。特に、今の時代はますます環境汚染が進み、経済力がない人にとってはどんどん生きづらい世界になっている。ビジネスを通して、そんな困難な状況にいる人を助けたい。シェルタースーツ ファンデーションを、支援を必要とする全ての国で立ち上げ、経済的に困窮している人々を雇い、素晴らしい製品を一緒に作っていきたい。

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バロック村井社長が語る 新生「ザ シェルター トーキョー」の価値、原宿のこれから

 バロックジャパンリミテッドは、東京・原宿の旗艦店「ザ シェルター トーキョー(THE SHEL’TTER TOKYO以下、シェルター)」を3月3日にリニューアルオープンした。

 コロナ禍で失ったにぎわいを取り戻しつつあり、海外観光客の本格的な復活も期待される表参道・原宿エリア。リアル店舗に求められる役割も大きく変化する中、ラフォーレ原宿などと共に神宮前交差点に立つ「シェルター」は、どのような店舗に生まれ変わったのか。村井博之社長に改装の狙いを聞いた。

WWD:オープンまでの経緯は?

村井博之社長(以下、村井):当初は東京五輪の開催に合わせ、2020年7月にリニューアルオープンする予定だったが、コロナ禍によりおよそ2年半後ろ倒しになった。オリンピックを意識してスポーツやアスレジャーに絡めた商品、中国最大規模のスポーツブランドとのコラボレーションなどを仕込んでいたが、全て白紙にして再出発した。ここまでこぎつけられたことに、まずはほっとしている。

WWD:改装方針をどう転換したのか。

村井:コロナ禍を経てECやSNSなどデジタル上でモノを売り買いしたり、発信したりすることが当たり前になった。店舗は、「リアルでしかできない体験」「わざわざ足を運んでも手に入れたい価値」を研ぎ澄ませる必要がある。また業界を見渡しても、自社ブランドのみをセレクトした大型店に成功事例は少ない。これまでの枠組みにとらわれず、感度・鮮度の高い仕入れ商品やイベントでお客さまを呼び込まなくてはならない。

 改装以前に「アズール バイ マウジー(AZUL BY MOUSSY以下、アズール)」を展開していた1階は、「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」発のD2Cブランドやユーチューバー、ティックトッカーなどがプロデュースする商品を展開する。地下1階では、「マウジー(MOUSSY)」の中でも「シェルター」でしか手に入らないスーベニアライン“クラブ マウジー 303(CLUB MOUSSY 303)”を販売する。同階にはアートギャラリーのほか収録スタジオを設置し、店舗外壁の巨大なスクリーンを通じて、収録番組を街ゆく人々にも中継する。

WWD:単店での売上高にはこだわらない?

村井:広々とした店舗に商品ラックをぎっしりと並べ、売り場としての効率性を追いかけるのは時代遅れだ。陳列商品の数や面積でみれば、リニューアル前よりも減らした。ただ、中国をはじめとしたインバウンドのお客さまが増えれば、(売り上げなどの)数字面もついてくるはずだと考えている。

カリスマ販売員の接客を世界へ

WWD:2階では「アズール」を派生ラインを含めトータルタインアップする。

村井:ブランドは今年で15周年。これを契機に、改めてブランドの方向性をしっかり定めていく。地方消費が落ち込む中で、地方・郊外のSCに出店する「アズール」は、より優位性を高めなければ選ばれない。今後は日本人の体型にあったデザインやサイジング、百貨店ブランドなどにも負けない着心地や品質を実現し、海外のファストファッションと差別化する。デザイン性を高めた“プラス(PLUS)”や大人向けを意識した“クリー コンフォルト(CLIE CONFORTO)”などの派生ラインも、そういった考えに基づくものだ。

 1階に都内初のショップインショップを構えた、松本恵奈がキュレーションする「スタイルミキサー(STYLE MIXER)」はいいお手本になる。「アズール」と「マウジー」の中間程度の価格帯ながら程よいモード感でバランスがいい。既存店舗はどこも絶好調だ。店舗は郊外型SCが中心だが、都心でどの程度戦えるか試してみたい。「シェルター」はその実験にもなるだろう。

WWD:インバウンドの復活への期待値は。

村井:半年もすれば、原宿の街の様子はガラリと変わっているはずだ。来店客における海外観光客比率は、コロナ前には20%を超えていたが、(改装前の)旧正月の時期にはそれに近い数字まで戻ってきていた。これから中国のお客さまも戻ってくることを加味すれば、さらなる押し上げ効果が期待できる。

 店舗の役割は変わっても、当社の財産がカリスマ販売員をはじめとした“人”であることは変わらない。「シェルター」のオープンからしばらくは、当社が誇るカリスマ販売員を結集させ、世界中のお客さまに最高の接客を体験していただく。中国には「マウジー」をはじめとする300以上のリアル店舗があり、「シェルター」のオープンを大々的に宣伝する。東京に来ていただいたからには、一度は必ず立ち寄りたくなる場所を作っていく。

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Z世代を掘り起こせ、「マウジー」「スライ」運営会社の「ゾゾモ」活用術

 ZOZOは2021年11月に「ゾゾタウン」に出店するファッションブランドのOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの統合)プラットフォームである「ゾゾモ(ZOZOMO)」をスタートした。これにより、「ゾゾタウン」を訪れたユーザーは、サイト上で対応ブランドの実店舗にある在庫有無の確認や、サイト上でそのまま取り置きができるようになった。日々膨大なアクセス数があり、年間購入者数が1000万人を超える「ゾゾタウン」で、リアル店舗へ誘導する道筋を開いた意義は大きい。その一方で、ブランドにとって「ゾゾモ」はどのような効果をもたらしているのか。「マウジー」「スライ」などの有力ブランドを擁するバロックジャパンリミテッドでEC事業を率いる、アパレルECのキーパーソンの一人であるバロックジャパンリミテッド EC事業部長兼OMO推進部 部長 田村英紀氏と、「ゾゾモ」プロジェクトを担当するZOZOのブランドソリューション本部 ブランドソリューション推進部 ディレクションブロック所属 遠矢大介氏に、OMOの最前線を聞いた。

バロックジャパンリミテッド
のOMO戦略

WWD:これまでのOMOの取り組みと考え方は? 

田村英紀バロックジャパンリミテッド EC事業部長(以下、田村):当社は今で言うOMOにはかなり早い段階から取り組んでいて、自社ECサイト「シェルターウェブストア(SHEL’TTER WEBSTORE)」で、2018年から店舗在庫の表示を行い、EC在庫の店舗決済も行っていた。

遠矢大介ZOZO ブランドソリューション推進部(以下、遠矢):それは早い。18年の段階で「ゾゾモ」のような仕組みをやっていたのですね。

田村:ありがとうございます。ただ、そもそもOMO自体、オフラインとオンラインの施策をシームレス、チャネルレスに展開する、みたいな本来の意味を考えると、実はものすごく広義なもの。だから数年前から「OMO」に関して、何をどう実行していくか、について部署横断のタスクフォースを作っていた。21年からはOMO推進部という形になり、CRMをキーワードにお客さまとの接点を増やす取り組みを行っている。

WWD:バロックジャパンリミテッドのようにオフライン発のブランドが強い企業やブランドがOMOに取り組む意義は?

田村:当社の場合「マウジー」「スライ」を筆頭にSNSなどオンラインでの情報発信力も強いが、SNSでの情報発信もその起点はカリスマ販売員たち。顧客化という観点で見ると、やっぱり店頭が起点になる。「店頭を起点に、どうECやSNSなどのデジタルコミュニケーションに広げていけるか」という考え方なので、OMOに関しては一般論にあまり意味がなく、企業規模やブランドのキャラクターなどによって、考え方はかなり変わるだろうな、と思っている。

導入コストはゼロ!?
「ゾゾモ」導入のプロセスとは?

WWD:改めて「ゾゾモ」の仕組みとは? 

遠矢:「ゾゾモ」は「ゾゾタウン」に出店しているファッションブランドを支援しようと、21年11月にスタートしたOMOプラットフォームです。「ゾゾタウン」上でブランドの実店舗の在庫確認と取り置きができるサービスで、「ゾゾタウン」の膨大なアクセス数を生かし、実店舗に「ゾゾタウン」ユーザーを送客することで、ブランド実店舗の売上を支援しています。店頭での取り置きには販売員用のアプリ「ファーンズ(FAANS)」を開発し、販売員の方々に使っていただいています。2021年11月に在庫表示をスタートし、1年で在庫表示店舗数は約3倍にまで増えました。

WWD:導入の発端は?

遠矢:21年10月に「ゾゾモ」を発表後、私からすぐにお声がけをさせてもらいました。

田村:そうですね。途中で当社のシステム関連の入れ替えなどがあった関係で、実際の導入は22年3月になったけど、導入プロセスはスムーズでしたね。

遠矢:その期間を抜かすと、実際に導入にかかった時間は2カ月ほど。現時点ではバロックジャパンリミテッドの全ブランドの店舗在庫をゾゾタウン上に表示、店舗での取り置きサービスもほぼ全店舗にあたる約350店舗で導入していて、導入が決まった後のスピードはものすごく早かったです。

WWD:「ゾゾモ」は、最初の窓口はEC担当者でも、実際には店頭の販売員も巻き込む必要がある。その調整は大変だったのでは?

遠矢:当社にとって、店頭の販売員さんも巻き込んだ本格的なサービスは初めて。だから田村さんが窓口になっていただけたのは本当に大きかった。本来は時間のかかる社内調整や折衝ごと、さらには導入にかかる細かな作業や調整も、田村さんがバリバリと進めていただけた。田村さんはメールの返事がいつも「即決・即レス」(笑)。とにかくスピードが早い。

田村:ありがとうございます。メールは基本、即レスを心がけています(笑)。加えて私はすぐ電話もするので遠矢さんとはかなり話していますが、実はリアルで会うのは今日が初めて(笑)。ぜひ今度飲みに行きましょう!

遠矢:ありがとうございます。当社の本社は西千葉ですが、私は東京在住で、実は田村さんと自宅もけっこう近いんです(笑)。ぜひお願いします!

「ゾゾモ」がもたらす効果とは?

WWD:どのように導入準備を進めたのか? 

遠矢:当社側では運用マニュアルを作成し、各ブランド事業部の担当者の方々へオンラインでの説明会を4~5回実施しました。田村さんには、社内の関係各所と調整していただいたり細かなフォローをしていただきました。

田村:そもそもの話になるのだけど、「ゾゾモ」の導入にあたっては、早い段階で経営陣からの同意も得ていて全社で取り組む下地ができていた。なぜなら全社的な経営課題の一つとして新規顧客の獲得、特にZ世代の獲得に関してかなり優先度が高かったから。「ゾゾモ」なら、ゾゾタウンを利用しているZ世代を含む幅広いユーザーを店舗に送客し、かなりコストパフォーマンスよく新規顧客獲得に繋がる、という点が相当に魅力的だった。

WWD:導入の準備段階で、田村さんを通じて全社的に取り組む下地を作っていた、と?

田村:そうです。それだけ、新規顧客の獲得に関しては優先度が高いんです。これは当社に限った話でなく、有力なアパレル企業ならどこも同じような悩みを抱えていると思います。

遠矢:導入後の効果はいかがでした?

田村:これは予想通りというか計画通りだったのですが、「ゾゾモ」経由で来店するお客さまの多くが新規で、店舗に初めて来たという人も思ったより多かった。「取り置き」をしている時点でかなり購入意欲が高いわけで、さらに当社のように店舗が強いと、リアル接客でセット買いや、ついで買いも期待できるし、リピーターにもなりやすく、それは数字面でも裏付けられている。さらに、取り置きまでしなくても、在庫表示だけ見て来る人がいることを考えると、実際にはこちらが把握している数字以上の効果があるかもしれない。新規顧客の獲得という意味で、手応えを感じている。

遠矢:Z世代の獲得という面はいかがでしょう?

田村:「ラグアジェム(LAGUA GEM)」のようなZ世代に強いブランドからは、店舗でも効果を実感しているという声もある。導入費用はほぼゼロなので、当社からすると「ゾゾモ」による店舗への波及効果は「純増」になるため、その面でもメリットは大きい。

ECのキーパーソン2人が考える「OMO」の今後は?

WWD:となると今後にかなり期待している? 

田村:そうです。今後「ゾゾタウン」ユーザーに積極的な「ゾゾモ」プロモーションをかけて、もっともっと送客してほしい(笑)。

遠矢:ありがとうございます。他の導入企業からもそういった声を多くいただいていて、大変ありがたく思っています。今後もバロックジャパンリミテッドさんをはじめとする導入企業さまと密に連携しながら、考えうるリスクや影響などを精緻にシミュレーションし、対策もきっちり講じた上で、期待にしっかり応えていきたいです。

田村:真面目ですね。でもそこがZOZOさんのいいところ。それに「ゾゾタウン」のような強力な集客力のあるモール型ECプラットフォームによるOMOは、今後も含めてかなり可能性があると思っているし、ZOZOにとってもそこは大きな強みにもなると思います。

WWD:OMOの今後については?

田村:当社の課題感を一言にするなら「いかに顧客を増やしていけるか」。店舗を利用する人にECも使ってもらう、逆にECを見た人を店舗に送るといったことから、店頭の販売員と顧客のコミュニケーションをどうするかまで、やるべきこと、やらなきゃいけないことはものすごく多い。でも難しく考える必要はなくて、例えば店頭でのコミュニケーションなら、これまで当社は顧客とのワントゥーワンコミュニケーションは「電話」のみというルールだったのですが、現在はLINEでも対応を始めています。

WWD:最後にZOZOへの期待を一言。

田村:当社自体がZOZOさんとは長い付き合いですし、現場だけでなく両社の経営層レベルでも交流がある。非常に親しい関係です。やっぱり、お互いに「ファッション好き」「もっとファッションを盛り上げたい」という部分で一致していることが大きいのかな、と。「ゾゾモ」のような新サービスや新ツールは、やってみないと分からないことも多い。なのでそういった部分からどんどん一緒に取り組みたいと思っています。環境がものすごいスピードで変わる中で、「まずはやってみようよ」という関係を今後はさらに発展させていきたいですね。

遠矢:ありがとうございます。コロナ禍がようやく収束に向かっているとはいえ、まだ店頭に人が戻っていない部分もあります。当社は「ゾゾモ」を筆頭に新たなサービスやツールでブランドの実店舗支援を全社一丸となって取り組みたいと考えており、今後も新ツールやサービスがあればお声がけさせていただきます!

PHOTO:KENTO SHINADA
問い合わせ先
「ゾゾモ」担当窓口

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Z世代を掘り起こせ、「マウジー」「スライ」運営会社の「ゾゾモ」活用術

 ZOZOは2021年11月に「ゾゾタウン」に出店するファッションブランドのOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの統合)プラットフォームである「ゾゾモ(ZOZOMO)」をスタートした。これにより、「ゾゾタウン」を訪れたユーザーは、サイト上で対応ブランドの実店舗にある在庫有無の確認や、サイト上でそのまま取り置きができるようになった。日々膨大なアクセス数があり、年間購入者数が1000万人を超える「ゾゾタウン」で、リアル店舗へ誘導する道筋を開いた意義は大きい。その一方で、ブランドにとって「ゾゾモ」はどのような効果をもたらしているのか。「マウジー」「スライ」などの有力ブランドを擁するバロックジャパンリミテッドでEC事業を率いる、アパレルECのキーパーソンの一人であるバロックジャパンリミテッド EC事業部長兼OMO推進部 部長 田村英紀氏と、「ゾゾモ」プロジェクトを担当するZOZOのブランドソリューション本部 ブランドソリューション推進部 ディレクションブロック所属 遠矢大介氏に、OMOの最前線を聞いた。

バロックジャパンリミテッド
のOMO戦略

WWD:これまでのOMOの取り組みと考え方は? 

田村英紀バロックジャパンリミテッド EC事業部長(以下、田村):当社は今で言うOMOにはかなり早い段階から取り組んでいて、自社ECサイト「シェルターウェブストア(SHEL’TTER WEBSTORE)」で、2018年から店舗在庫の表示を行い、EC在庫の店舗決済も行っていた。

遠矢大介ZOZO ブランドソリューション推進部(以下、遠矢):それは早い。18年の段階で「ゾゾモ」のような仕組みをやっていたのですね。

田村:ありがとうございます。ただ、そもそもOMO自体、オフラインとオンラインの施策をシームレス、チャネルレスに展開する、みたいな本来の意味を考えると、実はものすごく広義なもの。だから数年前から「OMO」に関して、何をどう実行していくか、について部署横断のタスクフォースを作っていた。21年からはOMO推進部という形になり、CRMをキーワードにお客さまとの接点を増やす取り組みを行っている。

WWD:バロックジャパンリミテッドのようにオフライン発のブランドが強い企業やブランドがOMOに取り組む意義は?

田村:当社の場合「マウジー」「スライ」を筆頭にSNSなどオンラインでの情報発信力も強いが、SNSでの情報発信もその起点はカリスマ販売員たち。顧客化という観点で見ると、やっぱり店頭が起点になる。「店頭を起点に、どうECやSNSなどのデジタルコミュニケーションに広げていけるか」という考え方なので、OMOに関しては一般論にあまり意味がなく、企業規模やブランドのキャラクターなどによって、考え方はかなり変わるだろうな、と思っている。

導入コストはゼロ!?
「ゾゾモ」導入のプロセスとは?

WWD:改めて「ゾゾモ」の仕組みとは? 

遠矢:「ゾゾモ」は「ゾゾタウン」に出店しているファッションブランドを支援しようと、21年11月にスタートしたOMOプラットフォームです。「ゾゾタウン」上でブランドの実店舗の在庫確認と取り置きができるサービスで、「ゾゾタウン」の膨大なアクセス数を生かし、実店舗に「ゾゾタウン」ユーザーを送客することで、ブランド実店舗の売上を支援しています。店頭での取り置きには販売員用のアプリ「ファーンズ(FAANS)」を開発し、販売員の方々に使っていただいています。2021年11月に在庫表示をスタートし、1年で在庫表示店舗数は約3倍にまで増えました。

WWD:導入の発端は?

遠矢:21年10月に「ゾゾモ」を発表後、私からすぐにお声がけをさせてもらいました。

田村:そうですね。途中で当社のシステム関連の入れ替えなどがあった関係で、実際の導入は22年3月になったけど、導入プロセスはスムーズでしたね。

遠矢:その期間を抜かすと、実際に導入にかかった時間は2カ月ほど。現時点ではバロックジャパンリミテッドの全ブランドの店舗在庫をゾゾタウン上に表示、店舗での取り置きサービスもほぼ全店舗にあたる約350店舗で導入していて、導入が決まった後のスピードはものすごく早かったです。

WWD:「ゾゾモ」は、最初の窓口はEC担当者でも、実際には店頭の販売員も巻き込む必要がある。その調整は大変だったのでは?

遠矢:当社にとって、店頭の販売員さんも巻き込んだ本格的なサービスは初めて。だから田村さんが窓口になっていただけたのは本当に大きかった。本来は時間のかかる社内調整や折衝ごと、さらには導入にかかる細かな作業や調整も、田村さんがバリバリと進めていただけた。田村さんはメールの返事がいつも「即決・即レス」(笑)。とにかくスピードが早い。

田村:ありがとうございます。メールは基本、即レスを心がけています(笑)。加えて私はすぐ電話もするので遠矢さんとはかなり話していますが、実はリアルで会うのは今日が初めて(笑)。ぜひ今度飲みに行きましょう!

遠矢:ありがとうございます。当社の本社は西千葉ですが、私は東京在住で、実は田村さんと自宅もけっこう近いんです(笑)。ぜひお願いします!

「ゾゾモ」がもたらす効果とは?

WWD:どのように導入準備を進めたのか? 

遠矢:当社側では運用マニュアルを作成し、各ブランド事業部の担当者の方々へオンラインでの説明会を4~5回実施しました。田村さんには、社内の関係各所と調整していただいたり細かなフォローをしていただきました。

田村:そもそもの話になるのだけど、「ゾゾモ」の導入にあたっては、早い段階で経営陣からの同意も得ていて全社で取り組む下地ができていた。なぜなら全社的な経営課題の一つとして新規顧客の獲得、特にZ世代の獲得に関してかなり優先度が高かったから。「ゾゾモ」なら、ゾゾタウンを利用しているZ世代を含む幅広いユーザーを店舗に送客し、かなりコストパフォーマンスよく新規顧客獲得に繋がる、という点が相当に魅力的だった。

WWD:導入の準備段階で、田村さんを通じて全社的に取り組む下地を作っていた、と?

田村:そうです。それだけ、新規顧客の獲得に関しては優先度が高いんです。これは当社に限った話でなく、有力なアパレル企業ならどこも同じような悩みを抱えていると思います。

遠矢:導入後の効果はいかがでした?

田村:これは予想通りというか計画通りだったのですが、「ゾゾモ」経由で来店するお客さまの多くが新規で、店舗に初めて来たという人も思ったより多かった。「取り置き」をしている時点でかなり購入意欲が高いわけで、さらに当社のように店舗が強いと、リアル接客でセット買いや、ついで買いも期待できるし、リピーターにもなりやすく、それは数字面でも裏付けられている。さらに、取り置きまでしなくても、在庫表示だけ見て来る人がいることを考えると、実際にはこちらが把握している数字以上の効果があるかもしれない。新規顧客の獲得という意味で、手応えを感じている。

遠矢:Z世代の獲得という面はいかがでしょう?

田村:「ラグアジェム(LAGUA GEM)」のようなZ世代に強いブランドからは、店舗でも効果を実感しているという声もある。導入費用はほぼゼロなので、当社からすると「ゾゾモ」による店舗への波及効果は「純増」になるため、その面でもメリットは大きい。

ECのキーパーソン2人が考える「OMO」の今後は?

WWD:となると今後にかなり期待している? 

田村:そうです。今後「ゾゾタウン」ユーザーに積極的な「ゾゾモ」プロモーションをかけて、もっともっと送客してほしい(笑)。

遠矢:ありがとうございます。他の導入企業からもそういった声を多くいただいていて、大変ありがたく思っています。今後もバロックジャパンリミテッドさんをはじめとする導入企業さまと密に連携しながら、考えうるリスクや影響などを精緻にシミュレーションし、対策もきっちり講じた上で、期待にしっかり応えていきたいです。

田村:真面目ですね。でもそこがZOZOさんのいいところ。それに「ゾゾタウン」のような強力な集客力のあるモール型ECプラットフォームによるOMOは、今後も含めてかなり可能性があると思っているし、ZOZOにとってもそこは大きな強みにもなると思います。

WWD:OMOの今後については?

田村:当社の課題感を一言にするなら「いかに顧客を増やしていけるか」。店舗を利用する人にECも使ってもらう、逆にECを見た人を店舗に送るといったことから、店頭の販売員と顧客のコミュニケーションをどうするかまで、やるべきこと、やらなきゃいけないことはものすごく多い。でも難しく考える必要はなくて、例えば店頭でのコミュニケーションなら、これまで当社は顧客とのワントゥーワンコミュニケーションは「電話」のみというルールだったのですが、現在はLINEでも対応を始めています。

WWD:最後にZOZOへの期待を一言。

田村:当社自体がZOZOさんとは長い付き合いですし、現場だけでなく両社の経営層レベルでも交流がある。非常に親しい関係です。やっぱり、お互いに「ファッション好き」「もっとファッションを盛り上げたい」という部分で一致していることが大きいのかな、と。「ゾゾモ」のような新サービスや新ツールは、やってみないと分からないことも多い。なのでそういった部分からどんどん一緒に取り組みたいと思っています。環境がものすごいスピードで変わる中で、「まずはやってみようよ」という関係を今後はさらに発展させていきたいですね。

遠矢:ありがとうございます。コロナ禍がようやく収束に向かっているとはいえ、まだ店頭に人が戻っていない部分もあります。当社は「ゾゾモ」を筆頭に新たなサービスやツールでブランドの実店舗支援を全社一丸となって取り組みたいと考えており、今後も新ツールやサービスがあればお声がけさせていただきます!

PHOTO:KENTO SHINADA
問い合わせ先
「ゾゾモ」担当窓口

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靴業界から渋谷を拠点とする東急百貨店コスメバイヤーに 「仕込んだネタの反響の大きさが醍醐味」

 東急百貨店がテナントとして運営する渋谷スクランブルスクエア6階ビューティフロア「プラスクビューティー」が若年層を取り込み好調だ。2019年11月の同館開業時に立ち上げメンバーの1人として携わり、現在は化粧品担当バイヤーとして東急百貨店全店を管轄するのが水田宜延=東急百貨店ファッション雑貨事業部 ビューティー・自主MD部ビューティー担当だ。「前職は靴小売」「接客が好き」という水田バイヤーが語る仕事の醍醐味とは?

WWD:前職の靴業界から百貨店への転職理由は?

水田宜延=東急百貨店ファッション雑貨事業部 ビューティー・自主MD部ビューティー担当(以下、水田):新卒で靴小売に入社し路面店の店長や新規店舗立ち上げなども経験しやりがいも感じていました。27歳の時に職場の環境が変わることになり、それまでも接客が好きだったので、百貨店だったら一人一人のお客さまともう少しゆっくり話ができるのではと思い、百貨店業界への転職を決めました。最初の配属は東横店婦人靴売り場に。百貨店では前職の売り場の1日の予算を1人のお客さまが購入する日もあって全く違う環境でしたね。入社から3年ほどを靴売り場で過ごし、15年8月に同じ店舗の化粧品売り場に異動しました。

WWD:化粧品売り場へは希望して?

水田:実はそうではなくて(笑)。なので、最初は不安の方が大きかったですね。ただ、仕事内容はお客さまに直接販売するのではなく、ブランドの美容部員や営業担当者とのやり取り、人気商品の発売日には行列ができるのでその整理など売り場の運営がメインなので、化粧品に詳しくなかったですがなんとかやっていけました。少しずつトレンドも勉強しながら約2年半、化粧品売り場にいました。心掛けていたのは、美容部員の人たちが気軽に話しかけやすい環境や雰囲気を作り。ちょっとしたことでも相談してもらえるように普段から雑談も積極的にしていました。例えば売り場の引き出しが歪んでいるとか細かいことを改善するだけで接客がスムーズになって売り上げが上がるんですよね。

WWD:その後、どのように現在のバイヤー職に就いた?

水田:その後、婦人靴売り場に戻り半年後に再び化粧品売り場へ。婦人靴と化粧品、隣接する売り場を行き来することに。でもさすがに半年で化粧品売り場に戻ったときは、美容部員たちに「送別品を返してください」と言われました(笑)。その後化粧品売り場で1年、同店舗の食品・酒売り場で9カ月を経て、19年5月に化粧品のアシスタントバイヤーとして本社に異動。昨年2月から化粧品バイヤーとして渋谷ヒカリエ シンクス、渋谷スクランブルスクエア「プラスクビューティー」、東急百貨店吉祥寺店、同たまプラーザ店、同札幌店を管轄しています。

WWD:百貨店のキャリアパスとしては、さまざまな売り場を経験してバイヤーになることが多い?

水田:人によって全く違い、店舗間や本社を短いスパンで渡り歩く人もいれば、同じ店舗にずっといたり、1つの売り場を長年担当したりする人もいます。百貨店の中で服飾雑貨は花形っていわれることが多いですが、当社は「東急フードショー」という大きな看板があって、同業他社より食品の売り上げが全体に占める割合が大きい。なので、食品売り場を経験できたのは良かったし、最近は化粧品でもインナーケアとしてサプリメントやハチミツなどの食品を扱ったりもすることも増えてきているので食品売り場を経験している強みを生かしていきたいです。

渋谷スクランブルスクエア「プラスク ビューティー」立ち上げに参画

WWD:19年5月にアシスタントバイヤーとして本部に異動して最初の仕事は?

水田:本部に異動した年の11月に渋谷スクランブルスクエア「プラスク ビューティー」がオープンしたんですが、その立ち上げメンバーとして関わりました。オープンまでの5カ月は店頭で配布する媒体の制作とそれに関わる限定品の準備などがメインの仕事でした。40ブランド全てにオープン限定施策をお願いしたのでその調整がなかなか大変でした。この時の化粧品売り場の立ち上げメンバーは現在、事業開発担当、ウエルネスカテゴリーのリーダーなど違う担当に就いていますが、化粧品を熟知しているメンバーと連携できるのが心強いですね。

WWD:渋スク「プラスクビューティー」の特徴は?

水田:開業直後にコロナ禍に入り、若者から徐々に外に出始めたため、観光スポットとして足を運ぶ10〜20代が多いです。そのため韓国コスメやジェンダーレスコスメの打ち出しに対しての反応が非常に良いです。来店客の4割が男性というのも他店より多いですし、カップルの来店も多いです。当初、6階のみでコスメ売り場を展開していましたが、昨年9月からは5階の雑貨フロア「プラスク グッズ」にコームなど美容ツール系、韓国コスメ、フレグランスを扱うコスメゾーンを拡充しています。

WWD:「渋谷を大人も楽しめる街へ」のコンセプトは今後どうなる?

水田:「プラスク」はそういう状況ですが、渋谷ヒカリエ シンクスはもう一回り上の30代、40代の仕事帰りのお客さまが多く来店しています。両方に出店しているブランドが複数ありますが、両方でしっかり売り上げを取れているところを見ると、結果的に良い棲み分けができていると思います。

WWD:注目しているブランドは?

水田:資生堂の自然派コスメ「バウム(BAUM)」。最初の出店は伊勢丹新宿本店メンズ館で、渋谷スクランブルスクエア「プラスク ビューティー」は2店舗目。カウンターを作った店舗としては初だったかと思います。サステナブルな商品設計やデザインなど館の客層にマッチしているし、ジェンダーレスコスメやメンズコスメは売り上げの規模としてはまだ小さいけれど今後を考えるとどんどん取り組んでいかなければいけないところだと思います。

WWD:今後やりたいことは?

水田:これまでも藤井明子さんや三上大進さんなどをゲストに招いたイベントを行いましたが、お客さまを集められるインフルエンサーを呼んで大型イベントを仕掛けていきたいですね。また、「バウム」でハンドマッサージの体験を行いましたが、本格的にタッチアップができるようになったので体験のイベントも増やしていきたい。コスメはイベントなど仕込んだ施策に対してお客さまの反応が分かりやすく返ってくるのが醍醐味。わくわく感や高揚感を伝えやすいですし、施策が跳ねた時は行列ができるなどの反響があるのでやりがいがあります。

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韓国最大手ビューティ企業アモーレパシフィック 日本支社を率いる女性リーダーの肖像

 「エチュード(ETUDE)」や「ラネージュ(LANEIGE)」などをグローバル展開する、韓国最大手のビューティ企業であるアモーレパシフィック。同社の日本事業子会社であるアモーレパシフィックジャパンを指揮するのが松井理奈代表だ。韓国ビューティが今ほど注目されていない時代から、その最前線でキャリアを重ねてきた彼女に、ジャパン社のリーダーとしてのミッションを聞いた。

松井理奈/アモーレパシフィックジャパン代表

(まつい・りな)大学卒業後、アモーレパシフィックジャパン (当時は太平洋ジャパン株式会社)入社。ヨーロッパ系グローバル企業でのマーケティング経験を経て、13年にアモーレパシフィックジャパンに再入社。「イニスフリー」「エチュード」の事業部長を歴任し現職 PHOTO:SHUHEI SHINE

WWD:アモーレパシフィックジャパンの成り立ちは?

松井理奈アモーレパシフィックジャパン代表(以下、松井):アモーレパシフィックの前身となる太平洋化学工業が1978年に東京営業事務所を設置したのが初まりです。その後、本格的な日本進出を見据え、日本法人であるアモーレパシフィックジャパン(当時は太平洋ジャパン)が2005年に設立。11年に「エチュード」、12年にスキンケアブランドの「アイオペ(IOPE)」、18年に「イニスフリー(INNISFREE)」、そして昨年9月には「ラネージュ」の国内展開をスタートしました。

 ジャパン社の従業員は約60人。私はそのリーダーとして、部下に任せられることはできるだけ任せ、自走できるチームづくりを目指しています。私たちのプロダクトはすでに日本でもある程度認知されてきている手応えがあります。今後は「アモーレパシフィック」という企業の存在感を高め、日本の誰もが知る存在にすることも私のミッションです。

WWD:アモーレパシフィック(以下、アモーレ)に入社した経緯は?

松井:大学生時代に韓国語を学んでいたことがきっかけです。当時(90年代後半)はグローバル化が進む中で、学生は教授たちから「10年後はアジアの時代が来る」と吹き込まれていて。その言葉をうのみにしたんです。必修科目として大人気の中国語は諦めるも、マレーシア語、インドネシア語などと並んで穴場だった韓国語を選択しました。

 4年生の時にソウルの梨花女子大学に留学したことが、美容に目覚めるきっかけでした。梨花女子大学は当時のソウルの中でもホットなエリアにあり、さまざまな人と出会い刺激を受けました。その中で交流した友人から、「ピブガチョアヨ」と言われることが多かったんです。“肌がきれい”という意味です。日本にいた時は面と向かって言われたことがなかったので、なんだか気恥ずかしかったですね。

「肌がきれい」がキャリアの原体験

WWD:当時から美容には関心が高かった?

松井:当時はそこまででもなかったんです。でも、「私って肌がきれいなんだ」と自覚したとたん、化粧品にも手が伸びるようになっていって。単純ですよね(笑)。ただ、入念にスキンケアをすると肌もきれいに整うし、メイクをしっかりすればそれだけかわいくなる。その時点で化粧品会社で働きたい!という明確なビジョンがあったわけではなかったんですが、私のキャリアの原体験であったことは間違いありません。

 私が大学を卒業した1999年は、就職氷河期の真っ只中でした。たくさんの企業の選考に落ちたり、警視庁への就職試験も受けたりと迷走しているうち、一緒に韓国留学していた友達とで再会しました。その友達からアモーレ(当時の太平洋ジャパン)を就職先として薦められ、「とりあえず応募してみたら」と背中を押されたんです。アモーレが初めて総合職として採用した日本人が、私だったそうです。

WWD:何を期待されていた?

松井:うーん……。当時は右も左も分からない状態でしたから。アモーレは人の温かみや伝統、歴史を重んじる日本企業的な雰囲気も感じさせつつ、欧米企業のような合理主義的なフラットさもある、独特の社風です。私はある意味で日本人らしくなく、思ったことを何でも口にしてしまうタイプなので、そういう気質がマッチすると思ってもらえたのかもしれません。入社してからは、日本市場のマーケティングや、通訳、アテンドをこなす毎日を5年ほど送りました。ジャパン社が設立されてからは、日本でのブランドローンチにも関わることができました。

WWD:その後一旦アモーレを離れ、外資系の他業種に転職した。

松井:ブランドをゼロから作るノウハウを集中的に学びたいと考えたからです。知見を積んで、いつかは(アモーレに)戻りたいとは思っていたものの、“片道切符”になることは覚悟の上でした。ですがありがたいことに、当時の上司や法人長のはからいもあって13年に再びアモーレにジョインできました。「イニスフリー」と「エチュード」の事業部長を経て現在に至ります。

WWD:アモーレの強みをどう分析する?

松井:根底にあるのは美に対する向き合い方だと思います。それを象徴しているのが韓国の本社ビルです。オブジェのような建造、ウオーターガーデンも備える壮大でオープンな空間で、地下1階には美術館があります。世の中を美しくいい方向に導くアイデアやクリエイティブは、美しい環境に身を置かなければ生み出せないという考えに基づいています。

 研究所は宇宙船をモチーフにしており、宙に浮かんだようなユニークな構造をしています。コスメは“コスモス(宇宙)”が語源という説もあります。人体そのものを宇宙と捉え、研究所はその中に浮かぶ宇宙船なのです。アモーレのR&D(研究と開発)とは、無限の可能性が広がる世界での「未知の探求」であり、ここからクッションファンデーションのようなイノベーションが生まれました。

韓国は自分が“引き伸ばされる”場所

WWD:女性リーダーとしてのキャリアの捉え方は?

松井:小さい頃から男子と混ざってバスケをしていたような女の子でしたから、あまり女性としての振る舞いやハンデは意識してこなかった方かもしれません。そんな私も、今は中学1年生と高校1年生の息子がいます。子供は泣いたり、笑ったりと本当に不思議な生き物。育児を通じて、「自分が全ての物事をコントロールできるわけではない」ことを痛感しましたし、ビジネスマンとしての自分も影響を受けた部分があります。ただ産休をとっている間も、私は大人としゃべりたくて仕方がなかったし、ピリッとした時間が恋しかった。自分自身の「働くこと」へのモチベーションの自覚的になる機会でもありました。

 メイクをする男性の韓国アイドルの影響などもあり、息子は2人とも「かっこよくなりたい」という願望が強いようです。私がアモーレに勤めて25年くらいの間で、若者を中心に、日本の韓国に対する見方はずいぶんポジティブな方向に変わりました。私の姪っ子も大学の韓国語科に入りました。

WWD:若者の間での韓国ブームをどう捉えるか。

松井:私が大学で韓国語を学んでいた時は、「どうして?」とけげんな顔をされました。韓国文化への理解が進んだ今をうらやましくも、素直にうれしくも思います。それに化粧品を通じて韓国の考えや文化を取り入れることができれば、日本人にとって必ずプラスになるはずです。

 私が韓国にいた時は「ニキビができているけど、どうしたの」とか、「なんか今日浮腫んでるね」とか、見た目に関していちいち言われました。最初は結構傷つきましたが、慣れてくると、「自分が気づかないことを周りが言ってくれて助かるな」みたいな感覚になってくるんですね。韓国では我慢して溜め込んでいくと、周りから浮いてしまうこともあるくらい。ずけずけと遠慮なく発言するムードがあります。

 日本の生真面目さや調和を重んじる性質はすてきですが、その中で生きていると、知らず知らずのうちに窮屈になっていく部分もあります。私自身、累計で100回以上は韓国に出張しているのですが、訪れるたび、自分の中の何かが「引き伸ばされる」感覚があります。最近の若い子達は自分をはっきり主張できる子も増えています。それは少なからず、韓国カルチャーのいい部分を吸収しているからかもしれません。

 メイクにしてみても、日本では「礼儀」「同調」の要素はまだまだ強いですが、韓国はどんどん「個性の表現」に向かっています。「エチュード」はこの春、“メイクアッププレイリスト”をコンセプトに、自分だけのプレイリストを作るようにメイクを楽しめるブランドに一新しました。新たにアンバサダーに就任したLE SSERAFIMのKAZUHAさんは、バレリーナとして世界を目指すためにオランダに飛び、そこからまた全く違う韓国の芸能の世界に飛び込みました。彼女の自分の脚で歩み、挑戦を楽しもうという姿勢に「エチュード」は共感したのです。周りのためではなく、自分のために美しくなる。そんなKビューティの楽しさや醍醐味を、私たちの商品を通じて日本へも広げていきたいと考えています。

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韓国最大手ビューティ企業アモーレパシフィック 日本支社を率いる女性リーダーの肖像

 「エチュード(ETUDE)」や「ラネージュ(LANEIGE)」などをグローバル展開する、韓国最大手のビューティ企業であるアモーレパシフィック。同社の日本事業子会社であるアモーレパシフィックジャパンを指揮するのが松井理奈代表だ。韓国ビューティが今ほど注目されていない時代から、その最前線でキャリアを重ねてきた彼女に、ジャパン社のリーダーとしてのミッションを聞いた。

松井理奈/アモーレパシフィックジャパン代表

(まつい・りな)大学卒業後、アモーレパシフィックジャパン (当時は太平洋ジャパン株式会社)入社。ヨーロッパ系グローバル企業でのマーケティング経験を経て、13年にアモーレパシフィックジャパンに再入社。「イニスフリー」「エチュード」の事業部長を歴任し現職 PHOTO:SHUHEI SHINE

WWD:アモーレパシフィックジャパンの成り立ちは?

松井理奈アモーレパシフィックジャパン代表(以下、松井):アモーレパシフィックの前身となる太平洋化学工業が1978年に東京営業事務所を設置したのが初まりです。その後、本格的な日本進出を見据え、日本法人であるアモーレパシフィックジャパン(当時は太平洋ジャパン)が2005年に設立。11年に「エチュード」、12年にスキンケアブランドの「アイオペ(IOPE)」、18年に「イニスフリー(INNISFREE)」、そして昨年9月には「ラネージュ」の国内展開をスタートしました。

 ジャパン社の従業員は約60人。私はそのリーダーとして、部下に任せられることはできるだけ任せ、自走できるチームづくりを目指しています。私たちのプロダクトはすでに日本でもある程度認知されてきている手応えがあります。今後は「アモーレパシフィック」という企業の存在感を高め、日本の誰もが知る存在にすることも私のミッションです。

WWD:アモーレパシフィック(以下、アモーレ)に入社した経緯は?

松井:大学生時代に韓国語を学んでいたことがきっかけです。当時(90年代後半)はグローバル化が進む中で、学生は教授たちから「10年後はアジアの時代が来る」と吹き込まれていて。その言葉をうのみにしたんです。必修科目として大人気の中国語は諦めるも、マレーシア語、インドネシア語などと並んで穴場だった韓国語を選択しました。

 4年生の時にソウルの梨花女子大学に留学したことが、美容に目覚めるきっかけでした。梨花女子大学は当時のソウルの中でもホットなエリアにあり、さまざまな人と出会い刺激を受けました。その中で交流した友人から、「ピブガチョアヨ」と言われることが多かったんです。“肌がきれい”という意味です。日本にいた時は面と向かって言われたことがなかったので、なんだか気恥ずかしかったですね。

「肌がきれい」がキャリアの原体験

WWD:当時から美容には関心が高かった?

松井:当時はそこまででもなかったんです。でも、「私って肌がきれいなんだ」と自覚したとたん、化粧品にも手が伸びるようになっていって。単純ですよね(笑)。ただ、入念にスキンケアをすると肌もきれいに整うし、メイクをしっかりすればそれだけかわいくなる。その時点で化粧品会社で働きたい!という明確なビジョンがあったわけではなかったんですが、私のキャリアの原体験であったことは間違いありません。

 私が大学を卒業した1999年は、就職氷河期の真っ只中でした。たくさんの企業の選考に落ちたり、警視庁への就職試験も受けたりと迷走しているうち、一緒に韓国留学していた友達とで再会しました。その友達からアモーレ(当時の太平洋ジャパン)を就職先として薦められ、「とりあえず応募してみたら」と背中を押されたんです。アモーレが初めて総合職として採用した日本人が、私だったそうです。

WWD:何を期待されていた?

松井:うーん……。当時は右も左も分からない状態でしたから。アモーレは人の温かみや伝統、歴史を重んじる日本企業的な雰囲気も感じさせつつ、欧米企業のような合理主義的なフラットさもある、独特の社風です。私はある意味で日本人らしくなく、思ったことを何でも口にしてしまうタイプなので、そういう気質がマッチすると思ってもらえたのかもしれません。入社してからは、日本市場のマーケティングや、通訳、アテンドをこなす毎日を5年ほど送りました。ジャパン社が設立されてからは、日本でのブランドローンチにも関わることができました。

WWD:その後一旦アモーレを離れ、外資系の他業種に転職した。

松井:ブランドをゼロから作るノウハウを集中的に学びたいと考えたからです。知見を積んで、いつかは(アモーレに)戻りたいとは思っていたものの、“片道切符”になることは覚悟の上でした。ですがありがたいことに、当時の上司や法人長のはからいもあって13年に再びアモーレにジョインできました。「イニスフリー」と「エチュード」の事業部長を経て現在に至ります。

WWD:アモーレの強みをどう分析する?

松井:根底にあるのは美に対する向き合い方だと思います。それを象徴しているのが韓国の本社ビルです。オブジェのような建造、ウオーターガーデンも備える壮大でオープンな空間で、地下1階には美術館があります。世の中を美しくいい方向に導くアイデアやクリエイティブは、美しい環境に身を置かなければ生み出せないという考えに基づいています。

 研究所は宇宙船をモチーフにしており、宙に浮かんだようなユニークな構造をしています。コスメは“コスモス(宇宙)”が語源という説もあります。人体そのものを宇宙と捉え、研究所はその中に浮かぶ宇宙船なのです。アモーレのR&D(研究と開発)とは、無限の可能性が広がる世界での「未知の探求」であり、ここからクッションファンデーションのようなイノベーションが生まれました。

韓国は自分が“引き伸ばされる”場所

WWD:女性リーダーとしてのキャリアの捉え方は?

松井:小さい頃から男子と混ざってバスケをしていたような女の子でしたから、あまり女性としての振る舞いやハンデは意識してこなかった方かもしれません。そんな私も、今は中学1年生と高校1年生の息子がいます。子供は泣いたり、笑ったりと本当に不思議な生き物。育児を通じて、「自分が全ての物事をコントロールできるわけではない」ことを痛感しましたし、ビジネスマンとしての自分も影響を受けた部分があります。ただ産休をとっている間も、私は大人としゃべりたくて仕方がなかったし、ピリッとした時間が恋しかった。自分自身の「働くこと」へのモチベーションの自覚的になる機会でもありました。

 メイクをする男性の韓国アイドルの影響などもあり、息子は2人とも「かっこよくなりたい」という願望が強いようです。私がアモーレに勤めて25年くらいの間で、若者を中心に、日本の韓国に対する見方はずいぶんポジティブな方向に変わりました。私の姪っ子も大学の韓国語科に入りました。

WWD:若者の間での韓国ブームをどう捉えるか。

松井:私が大学で韓国語を学んでいた時は、「どうして?」とけげんな顔をされました。韓国文化への理解が進んだ今をうらやましくも、素直にうれしくも思います。それに化粧品を通じて韓国の考えや文化を取り入れることができれば、日本人にとって必ずプラスになるはずです。

 私が韓国にいた時は「ニキビができているけど、どうしたの」とか、「なんか今日浮腫んでるね」とか、見た目に関していちいち言われました。最初は結構傷つきましたが、慣れてくると、「自分が気づかないことを周りが言ってくれて助かるな」みたいな感覚になってくるんですね。韓国では我慢して溜め込んでいくと、周りから浮いてしまうこともあるくらい。ずけずけと遠慮なく発言するムードがあります。

 日本の生真面目さや調和を重んじる性質はすてきですが、その中で生きていると、知らず知らずのうちに窮屈になっていく部分もあります。私自身、累計で100回以上は韓国に出張しているのですが、訪れるたび、自分の中の何かが「引き伸ばされる」感覚があります。最近の若い子達は自分をはっきり主張できる子も増えています。それは少なからず、韓国カルチャーのいい部分を吸収しているからかもしれません。

 メイクにしてみても、日本では「礼儀」「同調」の要素はまだまだ強いですが、韓国はどんどん「個性の表現」に向かっています。「エチュード」はこの春、“メイクアッププレイリスト”をコンセプトに、自分だけのプレイリストを作るようにメイクを楽しめるブランドに一新しました。新たにアンバサダーに就任したLE SSERAFIMのKAZUHAさんは、バレリーナとして世界を目指すためにオランダに飛び、そこからまた全く違う韓国の芸能の世界に飛び込みました。彼女の自分の脚で歩み、挑戦を楽しもうという姿勢に「エチュード」は共感したのです。周りのためではなく、自分のために美しくなる。そんなKビューティの楽しさや醍醐味を、私たちの商品を通じて日本へも広げていきたいと考えています。

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コーセーとアマンがパートナーシップ展開 ラグジュアリーを体現する高機能スキンケアが誕生した理由

 リゾートホテルを運営するアマン(AMAN)のライフスタイルブランド「アマン エッセンシャルズ(AMAN ESSENTIALS)」から新スキンシリーズ“アマン エッセンシャルスキン”が誕生した。コーセーがOEMとして商品開発に協力し、無香料処方を採用したミルククレンジング、化粧水、美容液、フェイスクリーム、アイクリームの5品をラインアップする。

 全ての商品に、アマンが掲げる「古代の遺産から叡智を讃える」という理念をかなえるべく、日本古来の栄養価が高い紫玄米とミネラルを豊富に含む藍の2つの植物成分を厳選して配合した。伝統的な2つの植物成分の働きにより、紫外線や乾燥などの外的環境によるダメージにアプローチする。世界20カ国のアマンブティックで販売し、今後、ロンドンの高級百貨店ハロッズでの取り扱いも計画する。

 “アマン エッセンシャル スキン”を手がける、モデルでアマン エッセンシャルズCEOを務めるクリスティーナ・ロマノバ(Kristina Romanova)氏とコーセーの小林一俊社長に話を聞いた。

WWD:今回のプロジェクトはどのように始まったのか。

クリスティーナ・ロマノバ=アマン エッセンシャルズCEO(以下、クリスティーナ):2018年に誕生した“アマンスキンケアコレクション”は、お客さまから「アマンのスパで使っていたアイテムを商品化してほしい」というリクエストがあり、誕生した。自宅のバスルームに置いてでもホリスティックなスパ体験をしてほしいという思いから、ボディーケアをはじめ、サプリメントやキャンドルといったライフスタイルの商品を拡充し、お客さまにも評価されてきた。その延長線で、スキンケア"アマン エッセンシャルスキン"を作るということは自然の流れであった。

小林一俊コーセー社長(以下、小林):コーセーとアマンの関係は、21年にアマン・スパでハイプレステージブランド「コスメデコルテ(DECORTE)」の最高峰ライン“AQミリオリティ”のアイテムを使用したトリートメントを導入したところから始まった。以降、関係を深める中で、スキンケアシリーズの話をいただいた。

クリスティーナ:今回のスキンケアは、日本のメーカーと協力して作りたいと願っていた。私は日本のビューティをとても尊敬しており、文化をはじめ、細部にわたって完璧主義であるところが、日本の素晴らしい魅力だと思っている。コーセーは、商品をスパで導入していたこともあり、非常に質の高い商品を作っているということを知っていた。2年以上にわたる協業によって、ジェンダーや肌タイプ関係なく使っていただける商品に仕上がり、誇りを持って紹介できる商品となった。私自身、すでにこれなくしてはいられないほどになっている。

WWD:「コスメデコルテ」をアメニティーにするという考えはなかったのか?

クリスティーナ:アマンは世界観を大切にしており、世界観に合うものを作りたいという意識が強い。(アメニティー含め外部に)全てお任せするという方法を好まない価値観を持っている。

小林:アメニティーではなく、アマンと一緒にラグジュアリーラインとして作るのはコーセーにとっても大きな意味がある。(アマンからはわれわれが)乗り越えていかなければならない多くのリクエストがあったが、それに応えようと、開発に携わった若手の精鋭部隊(企画担当者)は大きく成長した。これまでの延長線上にないチャレンジとなり、刺激をもらいながら非常に面白い取り組みができた。

WWD:こだわったところは。

クリスティーナ:保湿でありながら、ヘビーすぎないテクスチャーが重要だった。さまざまなアマンのデスティネーションを取り巻く環境で、山や砂漠など劣悪環境にさらされる肌を真剣に考えた。あらゆる気候・環境に対応できる、浸透力の高い保湿性と非常に柔らかくシルキーなテクスチャーを実現できた。また、都市型のニーズにこだわり、旅行に持ち歩きしやすく、シンプルでクリーンなデザインに仕上げた。

小林:開発メンバーからサンプルは通常よりも多く、10以上作ったと聞いている。アマンからは安全性から成分、品質、デザイン性、意匠など妥協することなく、さまざまな視点でこだわりのある意見をいただいた。コーセーが長い歴史の中で培ってきた知恵と技術を駆使し、経験したことのないような使用感と幸福感をもたらすような商品に仕上がっている。

WWD:無香料にした理由は。

クリスティーナ:個人の感覚としては、ラグジュラリーのスキンケア=香りではない。効果や成分の方がよりラグジュアリーとつながりが深いと感じている。それに香りはそれぞれ好みがある。香りがないことで、商品自体の良さを繊細に感じ取れ、研ぎ澄まされた肌感覚までも深く満たすことができる心地よい高機能スキンケアを作り上げた。

WWD:コーセーにとって今回のタッグによって得られるものは。

小林:世界中のアマンファンや、アマンの世界観に共感する方々に、この商品が自然と受け入れられ評価されるようになれば、成功したと言えるだろう。得られるものとしては日本だけではなく、世界中でこれまでコーセーと接点がなかった新たなお客さまや、取引先との出会いをもたらしてくれると考えている。早速、海外から高い評価をいただいている。

WWD:今後、継続する予定は。

小林:コーセーではあらゆるステークホルダーと高め合う関係性を「Beauty Partner Ship(以下、BPS)」と呼んでいる。アマンとの取り組みはまさに、BPSの考え方を体現しており、今後の新たなつながりや関係の強化など、さまざまな可能性を秘めた取り組みだと感じている。

 今回、アマンとパートナーシップを築き、アマンの最高のホスピタリティー、そしてラグジュアリーの哲学に触れ、当社のさらなる飛躍に向けて夢が広がった。今後も良きパートナーとして、お互いを高め合いながら、世界の皆さまに愛される商品を作っていきたい。

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「ランコム」が「イカゲーム」のチョン・ホヨンとフレンチポップの女王アヤ・ナカムラをアンバサダーに起用 2人に独占インタビュー

 ランコム(LANCOME)はこのほど、大ヒットドラマ「イカゲーム」で知られる韓国人モデルで俳優のチョン・ホヨン(HoYeon Jung)とフランスで人気の歌手、アヤ・ナカムラ(Aya Nakamura)をグローバルアンバサダーに起用した。ナカムラとはこの夏、コラボレーションドキュメンタリーをユーチューブで公開する。

 ホヨンは16歳でモデル活動を始め、2016年にニューヨーク・ファッション・ウイークでランウエイデビューを果たした。以来、世界各国のファッションショーを歩き、雑誌の誌面を飾ってきた。21年にはネットフリックス(NETFLIX)の大人気ドラマ「イカゲーム」で大ブレイクし、同作で全米映画俳優組合(SAG)賞ドラマ部門の女優賞を受賞した。現在インスタグラムで 2200万のフォロワーを持つ人気者だ。

 一方のナカムラは“フレンチポップの女王”と称され、18年にリリースした曲「ジャジャ(Djadja)」で人気を得た。マリ出身のアフロトラップ歌手のナカムラは14年、19歳で音楽のキャリアをスタート。自作の曲の試聴回数は累計60億回を数える。

 「ランコム」は先日、ユーチューブ界のスターで若年層から支持を集めるエマ・チェンバレン(Emma Chamberlain)と契約したばかり。新たにZ世界に人気のアンバサダー2人を起用したことについて、「ランコム」のフランソワーズ・レーマン(Francoise Lehmann)=グローバル・ブランド・プレジデントは「ブランドの進化」と指摘した。「2人は前の世代の女性とは違う方法で、自ら成功の道を切り開いてきた。ブランドの進化を体現する存在だ」と述べた。

 米「WWD」はホヨンとナカムラにビューティやファッション、キャリアについて聞いた。

ホヨンが語るビューティと演劇の世界

WWD:「ランコム」のグローバルアンバサダーに就任した感想は?

チョン・ホヨン(以下、ホヨン):昔から憧れてきた女優の皆さんと共にアンバサダーになれたことを大変光栄に思う。以前から「ランコム」は外面も内面も美しい女性を起用してきた印象があったのでうれしかった。

WWD:韓国初の「ランコム」グローバルアンバサダーとして伝えていきたいことは。

ホヨン:アジア人女性の美しさの概念を発信できる機会になるのでは。多様な美の形や考え方を発信していきたい。

WWD:ビューティへのこだわりは?

ホヨン:水をたくさん飲むこと!内側から潤うことが何よりも大切で。美容に気を遣うようになったのは遅かったが、最近はスパで週に1回フェイシャルマッサージと保湿パックをしている。

WWD:ホヨンさんは「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」との仕事をはじめファッション業界での経験も長い。どんなファッションを好むか?

ホヨン:頑張りすぎず、それでありながら身なりがしっかりしているファッションを昔から心掛けてきた。とにかくディテールが大切。至って自然体でクールだけどところどころに色をさしたりして、遊び心を加えている。

WWD:「イカゲーム」が俳優としてのデビュー作だったが、難しいことも多かったのでは?

ホヨン:本当にチャレンジだらけで、中でも一つ選ぶとしたらセットで自信を持つことの困難さ。私はあまりにも経験がなかったので、自信を持つのが大変だった。一方で自分とは全く違うキャラクターを演じるのは楽しかった。

WWD:最近アップルTVプラス(Apple Tv+)のスリラー作品「ディスクレーマー(Disclaimer)」にも出演した。

ホヨン:主演のケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)をはじめ、一緒に仕事をするのが楽しいクルーだった。これまでロールモデルは特にいなかったが、この作品で彼女から多くのことを学び、大きなロールモデルになった。

WWD:今後どのような役に挑戦したいか。

ホヨン:特定の役やジャンルはないが、人の役を演じ続けたいと思う。できる限りいろいろなタイプの人を演じたい。

アヤ・ナカムラに聞く音楽とファッションスタイル

WWD:「ランコム」のアンバサダーを引き受けた理由は?

アヤ・ナカムラ(以下、ナカムラ):「ランコム」はいろいろなブランドのお手本になる存在で、私のような人がアンバサダーになるのは意外で面白いのではと思った。これからたくさんのエキサイティングなプロジェクトが控えており、披露するのがとても楽しみ。

WWD:アンバサダーとしてどのようなメッセージを発信していきたいか。

ナカムラ:人に自信を与えられるようになりたい。「やればできる!」と思わせたいし、他人の意見に惑わされず自分の夢を持ち続けることを伝えたい。

WWD:そうしたメッセージは自身の音楽と通ずるのでは?

ナカムラ:その通り。私は常に自分らしくいることを大切にしている。気分によっても変わることももちろんあるが、我慢して自分らしさを消すことはない。常に率直で正直だ。

WWD:美の秘訣は?

ナカムラ:美とはスタイル、メイクアップ、ヘア、態度など全てに表れるもの。自信を持ち、自分を愛することができたら、周りはそれを感じるだろう。

WWD:新アルバム「DNK」をリリースしたばかりだが、今までのアルバムとどう違うか。

ナカムラ:今回のアルバムは愛をテーマにした。例えば、祭りのような雰囲気のアップテンポの曲は若いころの恋愛をイメージした。アコースティック調の曲もあり、いつもとは違う雰囲気で私の生の声を生かした。「ジェ マル(J'ai Mal)」という曲はまさに素の自分が際立っている。

WWD:ナカムラさんは“フレンチポップの女王”と称されている。

ナカムラ:とても嬉しいことだが、私が考える「ナカムラ」らしさは型にはまることはない。今後はいろいろなジャンルの音楽を模索していきたい。

WWD:ファッションを学んだり、「ジャックムス(JACQUEMUS)」デザイナーのサイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)と親しかったりファッションとの縁も深い。自身のファッションのスタイルは?

ナカムラ:ファッションは大好き。常に新しいスタイルに挑戦しているし、コネクションがあるのでいろいろなショールームやファッションショーを見ている。とにかくファッションへの愛や情熱が大きいので毎日のコーディネートが楽しい。ファッションは常に変化していて、若くてクリエティブなデザイナーたちが新たなファッションを生み出していて本当に面白い。

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メイクアップはお客さまにとって“楽しい体験”になる【二刀流美容師:アソート】

 ヘアだけでなく、メイクアップもこなす美容師を“二刀流美容師”としてピックアップする連載企画。インスタグラムによる集客が主流となった今、ヘアスタイル投稿だけでなく、メイク投稿もできるとサロンユーザーの関心をより引き付けられるため、注目度が増している。第1回は「アソート トウキョウ(ASSORT TOKYO)」のタカ・オザワトップスタイリストに、 メイクを始めたきっかけや、美容師がメイクもやることのメリットを聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):キャリアのスタートは?

タカ・オザワ(以下、タカ):1996年に日本で美容師としてキャリアをスタートし、サロンワークを行いつつ、ヘアプロダクツメーカーのレッドケン ジャパン(REDKEN JAPAN)のヘアカラー講師として全国を回った。2002年にカナダ・トロントへわたってカラーリストとして活動し、06年にメイクアップアーティストとしても活動するようになった。

WWD:メイクを始めた理由は?

タカ:トロントで働き始めて5年くらい経ったときに、念願だったNY行きのチャンスが来た。NYのトップサロンの1つ「カトラー サロン(CUTLER SALON)」がソーホーにインターナショナルのサロンをオープンするため、オープニングスタッフを募集した。当時のアメリカでアーティストビザを取得できる条件は、5人くらいの著名人からの推薦レターと、雑誌に載った証拠100ページ分くらいを用意すること。でも、用意できなかった。なぜ用意できなかったか……。その理由を自分なりに分析してみたところ、トロントでカラーリストとして働くことに慣れ、“俺はノースアメリカで1番うまい”などと思い上がっていた自分に気付いた。カラーリストを目指したときに抱いていた、“人をきれいにしたい”という初心を忘れていた。そこで全てをリセットし、カナダでメイクの勉強を始めた。

WWD:メイクはどのように勉強した?

タカ:カナダでメイクを覚えたときに、たくさん数をこなして早く上達したかったけれど、メイクアップアーティストの仕事はそれほど多くはなかった。そんなときに、知人から「ヘアサロンで自分の顧客にメイクをすれば?」というアドバイスをもらい、それ以来、サロンのお客さまに必ずメイクをするようになった。NYではさらに、他のカラーリストのお客さまにも「今日これから出かけますか?メイクさせてください」などと声をかけ、カラーリングに合わせたメイクをしていた。

WWD:メイクは喜んでもらえた?

タカ:喜んでもらえていることは、お客さまを見ていれば分かる。ヘアをやっているとき、お客さまは普通に背もたれにもたれて座っているけれど、メイクのときは大半が鏡の近くまで乗り出してくる。さらに、施術を終えたときの言葉も変わってきた。ヘアだけのときは「ありがとう!」だったけれど、メイクをするようになってからは「楽しかった!ありがとう!」になった。つまり、体験型に変わったということだと思う。

WWD:2019年に帰国したのは?

タカ:日本の美容師に“美容師がメイクもやることのメリット”を伝えたいと思い帰国した。ちょうどコロナ禍と重なってしまい思うような活動はできなかったが、ヘアサロンや美容学校のメイク講師を務める中で、いくつかの課題を見つけることができた。1つは、アシスタントはよく勉強会に参加してくれるが、スタイリスト、トップスタイリストとなるにつれて、なかなか参加してくれなくなること。サロンのシステム的に仕方のない面もあるが、課題だと感じた。もう1つは、練習に時間がかかる割に、マネタイズのやり方が分からないこと。結婚式などのメイクは有料メニューとして確立しているが、私が取り入れてほしいのはデイリーなメイク提案。まずは集客&お客さまとの信頼関係構築のためのツールとして活用し、いずれはプラスオンメニューとしていくのがいいと思う。

WWD:「アソート」ではどのようにメイクを提案している?

タカ:ヘアの施術中にメイクの話をし、悩みを聞くなどして「それだったら、こうしたほうがいいかもしれない」とか「前髪作ったからメイクはこうした方がいいよ」などと振る。それから「後でちょっとやってみてもいい?」と提案する感じ。カラー施術でファンデーションが取れてしまったときに、「メイク直ししましょうか?」と提案することもある。短時間でお客さまに喜んでもらうのに1番いいのが、くまを消してあげるタッチアップ。普段使っているファンデーションの下に、赤めのベースをしくだけで、驚くほどきれいに消える。そういったことを続けると「タカさんはメイクもしてくれる」と認識されるので、お出掛けの前に来店してくれるようになる。ただ、私でも新客には提案しない。まずヘアで満足してもらうことが最重要で、信頼を得てから提案するのもポイントだ。

WWD:最近の活動は?

タカ:ようやく海外に行けるようになり、約3年ぶりにカナダ・トロントでサロンワークをしてきた。その中でニューヨークにも行き、ニューヨーク・コレクションの「ショウタヒヤマ(SHOTAHIYAMA)」のリードメイクアップアーティストを務めてきた。オフィシャルではなくゲリラ的に行ったショーで、地下鉄の駅のスロープをランウェイに見立て、そこからモデルが出てくるというもの。雲をイメージしたメイクを施すなど、独創的なショーになったと思う。

WWD:最後に改めて、美容師がメイクもやることのメリットは?

タカ:デザイン提案の引き出しが増える。メイクの勉強をすることは、色の勉強をすること。例えばヘアカラーにおいても、ただ「かわいい」「似合うから」だけでなく、どうしてこの色を選んだのか、肌やメイクとの関係性から説明できるようになる。

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スマイルズ社長交代について代表と新社長を直撃 “自分ごと”を大切にユニークネスを持った企業としてさらに前進

 「スープストック トーキョー(SOUPSTOCK TOKYO)」やネクタイブランドの「ジラフ(GIRAFFE)」、デッドストックや規格外品の蚤の市「パス ザ バトン マーケット」などで知られるスマイルズの社長が交代した。同社は2000野崎亙前スマイルズ チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)が取締役社長兼CCOに、遠山正道・創業者兼社長は代表取締役代表に就任。野崎社長は、11年にスマイルズ入社。すべての事業のブランディングやクリエイティブの統括、事業開発などを率いてきた。

 同社は2000年に創業。上記ブランド以外にもファミリーレストラン「100本のスプーン」や海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」などを手掛けるほか、外部のコンサルティングやプロデュース業も行っている。年商は11億3100万円(2022年3月期)で、ここ数年はコンサル・プロデュース業を強化しており、21年の売り上げ前年比は69%増、22年は45%増と売り上げを伸ばしている。創業23年を機に社長交代した意図や背景を遠山代表と野崎社長兼CCOに聞いた。

スマイルズでは一担当、今まで以上に幅広く活動

WWD:社長交代の意図は?

遠山正道代表(以下、遠山):ここ数年タイミングを見計らっていた。実質、何年も野崎社長が中心で運営してくれており、私もアート関連のプラットフォーム「チェーンミュージアム(THE CHAIN MUSEUM以下、TCM)」の社長をしながら、一担当者的にプロジェクトに関わっていたため、実際あまり変化がない。

WWD:野崎前CCOが社長に立候補したようだが?

遠山:“自分ごと”として、一番いいパターンだと思う。責任を持って自分でやるというのがスマイルズらしい。

WWD:代表になった感想は?

遠山:ますます忙しくなっている。TCMでは一担当者としてプロジェクトに参画しているので打ち合わせなどが多い。それ加えて昨年、個人会社「とおい山(株)」を設立した。同社では、起業などを対象に、利益の追求だけでなく、その存在意義や文化的価値、従業員の幸福などを見つめ直して軌道修正していくようなコンサルティング活動をしていきたい。また、アートや執筆などの作家活動も行うつもりだ。今年の年賀状にも書いた「ピクニック紀」は、ピクニックのように目的や勝敗のないことをどう価値として捉えられるということや、資本主義が成熟した今後、世の中に必要とされるであろう自分で幸福を導き出す人物像などについて考察したもので、本などにまとめられたらと思っている。これまで手掛けてきたことをベースに、今まで以上にいろいろなことをやっていきたい。

WWD:会長ではなく代表という肩書きにした理由は?

遠山:“会長”という肩書きだと、現場との距離感を感じるので、代表(代表取締役)にした。

WWD:今後の代表としてのスマイルズへの関わり方は?

遠山:各社員の主体性(自分ごと)に任せて、各自仕事を進めてもらっているので、今までとあまり変わらない。スマイルズの経営ついて口出しするつもりはなく、むしろ今後は、一担当者としてプロジェクトに関わればと思っている。

WWD:今後のスマイルズに期待することは?

遠山:個人性を存分に生かしながら、チームだからこそできる価値づくりも含めて、さまざまな活動を掛け合わせながらユニークネスを持って活動してほしい。

WWD:スマイルズ以外の活動とのバランスをどのように取っていくか?

遠山:基本、スマイルズについては任せているので、あまり意識せず、さまざまなチャレンジをしていきたい。

一人一人が“自分らしさ”を出しながら期待値を超えられる企業に

WWD:社長に立候補したそうだが、そのタイミングおよび理由、目的は?

野崎亙社長兼CCO(以下、野崎):ここ数年間、社長という気持ちで働いてきた。スマイルズとしてクリエイティブの価値提供ができるようになり、主業として成立するようになったので、今後は、コンサルティングやプロデュース業を主軸にしていくという意思も込めて、このタイミングで立候補した。

WWD:遠山代表とのリレーションはどのように取っていくか?

野崎:飲み仲間だ(笑)。

WWD:スマイルズを新社長として再定義するとしたら?

野崎:スマイルズは意志そのもの。独自のやり方で世の中の体温を上げていくという意志は今までも、これからも変わらない。「スープストック トーキョー」などの実業を中心としていたが、その知見を生かしてクリエイティブという手段を用いながら価値提供している。意志さえ変わらなければ、形に縛られることなく、手段は変化してもいいと考える。

WWD:スマイルズが今面している課題は?

野崎:実業もコンサルも全てビジネス的な手段なので、もっと高度なレベルでそれらを有機的に融合していくこと。

WWD:社長として達成したいことは?

野崎:“船頭多くして船山へ登れる”はずだと考える。スマイルズは、得意なこと、性格、価値観、全てが全然違う集団だ。全員の役割範囲が明確ではないので、年齢、性別、上下関係なくそれぞれの"自分らしさ"を出し合いながら、一人の力を超えて皆で見たことのない景色を見に行ければと思っている。想像つかないことを実現できるのが理想。いい意味で期待値をスタッフ皆が超えてくれたらいい。それが私の新しい創造性をかきたててくれると思う。

WWD:スマイルズとして、新たにチャレンジしたいことは?

野崎:今までしたことないことなら、ほぼ全てやってみたい。経験したことのない業界のプロデュースや業態も手掛けたい。それがわれわれの可能性を押し広げてくれる唯一の手段で、船で山を登るための大事なプロセスだと思っている。

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3月開業の「東京ミッドタウン八重洲」にジャパンブランドが集結 「HOSOO」も東京初出店

 三井不動産が東京駅八重洲口東側エリアで再開発を進めてきた「東京ミッドタウン八重洲」が3月10日、グランドオープンする。施設コンセプトは「ジャパン・プレゼンテーション・フィールド〜日本の夢が集う街。世界の夢に育つ街〜」。日本ブランドにこだわって集積した商業ゾーンには、京都西陣織の老舗、HOSOOが展開するオリジナルブランド「HOSOO(ホソオ)」が東京初出店する。開発の狙いや見所について、東京ミッドタウン八重洲の開発担当者である三井不動産の安田嵩央・商業施設本部アーバン事業部事業推進グループ主事と、HOSOOの細尾真孝社長に聞いた。

才能の掛け算やコラボレーションで、
ジャパンバリューを発信する

WWD:東京ミッドタウンのコンセプトと、3施設目が八重洲になった理由は。

安田嵩央・商業施設本部アーバン事業部事業推進グループ主事(以下、安田):東京ミッドタウンのコンセプトは、「『ジャパンバリュー』を世界に発信し続ける街」だ。2007年に最初に開業した東京ミッドタウン(六本木)では上質な日常を提供し、東京ミッドタウン日比谷(18年開業)では新しい感動体験を提供できるエンタメの街を作った。では、なぜ3施設目が八重洲かというと、日本の玄関口であり、交通量もエネルギーも抜きん出た場所だからだ。ジャパンバリューとは、いろんな才能の掛け算で出てきたものを発信する意味でもあり、コラボレーションで価値を作って多くの人に届けられる情報発信力が高いエリアが八重洲だった。多様な人が参画するプラットフォームとして、類を見ない多彩な要素で構成するミクストユース(複合)型の再開発事業となっている。

WWD:八重洲はビジネスエリアのイメージが強い。

安田:東京駅周辺では2000年代に丸の内、10年代に京橋と銀座で開発が進んだが、20年代に最も大きな変貌を遂げるのが八重洲だ。28年までに東京駅八重洲口駅前3街区が誕生する。これまで交通の結節点というイメージが強かった八重洲が、東京ミッドタウン八重洲をきっかけに“滞在する街”へと変わるわけだ。小学校やブルガリホテルも入居し、街への参画者は多様になるだろう。今回商業ゾーンに出店する57店舗は、八重洲のエリア価値を高めてくれるパートナーで、それぞれがどう交流できるかも重要になる。

WWD:日本ブランドを集積した商業ゾーンのコンセプトと狙いは?

安田:八重洲の強みは、情報発信力の高さとトラフィックの多さのほかにも、多様な人々が街作りに参画でき、才能の掛け算がしやすく、コラボレーションの可能性があるところだ。世界中から人、モノ、コトが集まり、新しい体験価値ができる街。それが八重洲の新しい個性にもなる。地下1〜地上3階の商業ゾーンも、日本のいいものを集め、交わらせ、未来志向の新たな価値を世界に発信していくのがコンセプト。八重洲からの発信がいい磁力になると思う。

日本の玄関口で、
日本の工芸の現状を変える
きっかけを作りたい

WWD:では、大変貌を遂げようとする八重洲エリアに「HOSOO」の出店を決断した経緯と理由は?

細尾真孝社長(以下、細尾):4年前、八重洲の街をどんなふうに変えていくべきかというコンセプト構想に関する相談を安田さんから受けた。八重洲はオフィス街の印象しかなかったが、江戸時代は職人の街で、人が集まり、文化が行き交うハブだった。日本の美意識を展開するうえでは、いい意味で色がついていないので最適な場所なのではと考えた。

安田:工芸は自分とは縁遠いものだと思っていたが、実は日常に根付いているものが多く、実際に西陣織や朝日焼の職人の技を直に見せていただいてすごい熱量を感じた。クラフトマンシップは、体感するとものすごい感動体験がある。

細尾:出店の話がある前に、館全体のエントランスゲートについての相談があり、当社が初めて開発した外壁技術が採用されることになった。最初は驚いたが、過去の素晴らしい価値観が現代的にブラッシュアップされていく時代に突入するという感覚があったので、これまでに培ったものでチャレンジしようと決断した。その後、施設のコンセプト構想やエントランスゲートだけでなくHOSOOとして「HOSOO TOKYO」の名前を冠して出店することになったのだが、出店にあたっては、この場でないと絶対できないものを作っていこうと思った。日本文化の中には素晴らしいものが脈々と根付いているが、まだ最大化できていない。日本の玄関口である八重洲で多くの方にメッセージを発信し続けることで、そんな状況を変えるきっかけになるのではと。1社でやるよりも同じ思いを持った三井不動産と連合してやることでより強い力になると思った。

安田:東京ミッドタウンブランドらしいラグジュアリー感は、八重洲でも大事にしたいと考えている。ラグジュアリーという言葉には、ものの本質に触れたり、丁寧に生きることを通して心の豊かさを上げてくれる体験といった意味合いもあると思う。それをここで掘り起こしていくわけだが、同じ船に乗って同じ方向性でフィロソフィーを共有し、具現化していける方々と成長していくことが大事だと思う。

過去を振り返り、
現代的な形で未来につなげていく、
「HOSOO」のものづくり

WWD:「HOSOO TOKYO」のコンセプトとラインアップは?

細尾:一つは工芸建築だ。さまざまな技術を持った職人の協業で店舗を作る方法を採用した。床は京都の左官職人が独特の技法で作っていて、4mの柱のアートウォールは京都の表具師が数カ月かけて工房で作った。ここがかなり挑戦的なところだ。店舗でショッピングされる方だけでなく、前を通行される方にもインスピレーションや豊かさを与えられるよう、できる限りの力を結集した。商品は、「HOSOO」のテキスタイルを使ったコレクションとアクセサリーに加え、今回オープンに合わせて作った寝具とパジャマも販売する。開発に5年かけた着心地のいいシルクで、平安時代の染色技法で染めた。ニホンムラサキという絶滅危惧種の植物の根で染めるのだが、出雲の農家が伊勢神宮の式年遷宮用に栽培されているのみで数が不足している。そこで、HOSOOは古代染色研究所を立ち上げ、ニホンムラサキを自家栽培するための植物農園を京都の丹波に開設し、栽培に成功した。農園の隣には古代染色工房を設け、手染めしている。「HOSOO TOKYO」には、このニホンムラサキを使った染めたてのパジャマが並ぶ。自然染色の生地はほぼ触れる機会がないので、商品として販売することでいいものを長く使い続けることの大切さも伝えていきたい。店内の接客では、パジャマの染め直しのサービスも提供していく。また、テキスタイルセラーに展示した200種類の「HOSOO」コレクションから選べるアートピースのオーダーも可能。素材の良さを最大限引き出しながらお客さまに合わせて提案していきたい。

WWD:ターゲット層に向けてのメッセージは。

細尾:時代が大きく変わるタイミングなので、より本質的な価値を伝えていきたい。過去を振り返った分だけ未来のことも考えられる。何千年もの歴史がある工芸品には、振り返られる振り幅がある。だから、その中からいいものを引っ張り出し、現代的な形で未来に展開していく。サステナブルな観点からも、お直しして価値を高めながら受け継いでいく考え方を伝えていきたいし、そういう仲間も増やしたい。

安田:「HOSOO」の強みは、工芸や西陣織を常にアップデートし続けている点だと思う。古代染色についても、過去を研究して残していくべき技術を使い、協業先とのコラボで新たにプロダクト化されている。そこが、東京ミッドタウンのコンセプトであるジャパンバリューの発信とも共通する。商業施設は、リアルでモノや空間に触れて感じることができるので、リアル価値を上げてくれる存在だ。東京ミッドタウン八重洲に来れば、知らなかったものにも出合えるし、体験もできる。

日本初進出の「ブルガリホテル」や
小学校の新校舎、バスターミナルも入る
大規模複合ビル

 JR東京駅と直結する、地上45階建ての「東京ミッドタウン八重洲」は、オフィスフロア(7〜38階)と商業ゾーンに加え、日本初進出の「ブルガリホテル 東京」(40〜45階)(2023年4月開業予定)や国内最大級の高速バスターミナル「バスターミナル東京八重洲」(地下2階)(2022年9月開業済み)があるほか、再開発区内にあった小学校の新校舎(1〜4階)やビジネス交流施設(4・5階)など多彩な要素で構成される大規模複合ビルだ。地下1〜地上3階の商業ゾーンには、「HOSOO」「CFCL」「TOKYO UNITE」など初出店6店舗、東京初出店11店舗を含む注目のジャパンブランド57店舗が集結。2階の公共スペース「ヤエスパブリック」は、立ち飲みスポットと物販・休憩エリア、裏路地からなり、八重洲を行き交う全ての人がふらりと立ち寄れる場所を目指している。

TEXT:HATSUYO HASHINAGA
問い合わせ先
三井不動産 広報部
03-3246-3155

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衣料品の回収と再資源化の現在地 古着からポリエステル樹脂を再生する企業の社長が語る

 いらなくなった衣料品の再資源化には課題が山積みだ。衣類を廃棄せずに活用する方法については世界中で議論され、技術開発が進んでいる。大前提として、着られなくなった衣類を回収して再利用・再資源化する前に、衣類の長寿命化が求められる。

 JEPLAN(旧日本環境設計)は「服から服をつくる」をコンセプトに、自社で開発したポリエステルのケミカルリサイクル技術で、古着からポリエステル樹脂を再生する。日本にポリエステルのケミカルリサイクルのプラントを持つ代表的な企業で、日本での衣料品の店頭回収を進めたパイオニア的存在でもある。2023年2月15日現在、199のブランドと取り組み、4536カ所の回収拠点(スポット開催を含む)がある。22年は1500トンを回収し、そのうち7.8%をポリエステル樹脂再生のために用いた。

 ポリエステル単一素材での製品開発は、日本国内での資源循環が可能で資源回収効率も高いため、経済合理性が高く、環境負荷低減にもつながると考えられる。一方、ポリエステル単一素材では狙った風合いや表現が叶わない場合も多いため、衣類の多くは混合素材で、再資源化への難易度は高い。服の再資源化の未来とは。高尾正樹JEPLAN社長に話を聞く。

WWD:回収した衣類をどう循環させているか。

高尾正樹社長(以下、高尾):店頭回収と企業のユニフォームの回収を行っている。回収した衣類を当社で分別し、まだ着られる状態で価値のあるものはリユース用として、提供先を確認の上で、当社が信頼する業者に業務委託している。それが全体の75.3%(22年実績)。リユースするかしないかはお客さまのご要望に応じて対応している。リユースできないものは、ポリエステル100%の衣類はケミカルリサイクルしており、それが全体の7.8%(同)。再生ウールが0.1%(同)、自動車内装材が0.1%(同)、コークス炉化学原料化法(プラスチックを石炭の代替品として利用する技術で新日本製鐵が開発)が16.1%(同)。いずれにも該当しない0.6%は産業廃棄物として廃棄している。

WWD:リユースの先はどうなっているのか?

高尾:リユース後の売れ残りに関しては現状把握の調査を進めており、商品にならないものをリサイクルする仕組み作りに取り組み始めた状況だ。リユース先から海外に流れてわからなくなったものが不法投棄されたり、燃やされたりしているという報道も承知している。先日、洋服が大量に不法投棄されているチリの砂漠を見てきた。多くは米国の古着で日本のものは見つけられなかった。

WWD:回収量の推移は?

高尾:コロナ前は600トン、21年1200トン、22年1500トンだ。ポリエステル樹脂の生産量の数字は出せないがわずかだ。技術が未熟で、量が増やせない。

WWD:生産量が上がらない理由は?

高尾:ポリエステル100%と表示があっても他の素材や、染料や顔料が入っている。この不純物の種類と量が圧倒的に多いが、物質の組成まではわからない。わからない中で取り除こうとするので、取り除けないものもあり、それが入ってくると全体がダメになる。結果、工場の生産性が上がらない。

WWD:JEPLANは「服から服」のケミカルリサイクルを推進しているが、衣類の多くは複合素材で、そのリサイクルの技術が確立されていないなど、課題は多い。

高尾:繊維から繊維のリサイクルはあきらめていない。正直全然儲からないし、ずっと大赤字(笑)。でも僕がやりたいからやりたいと言い続けている。消費者の関心が高まっているので(消費者を巻き込んだ仕組み作りの)心配はしていない。洋服はペットボトルのように安くなく、付加価値が付くもの。コスト構造として吸収されやすいのでビジネスとして成立しやすい。唯一の問題は技術がないことだ。(リサイクルしやすいからといって)モノマテリアルにはしないほうがいいし、それでは洋服の文化的側面が消えてしまう。複合素材であっても、さまざまに染色していてもリサイクルできる技術開発が必要だ。圧倒的な技術力を持つ化学会社が世界中にはいくつもある。そういった企業が本気で開発に取り組めばいいのに、とも思う。

WWD:赤字を黒字化するために必要なことは?

高尾:われわれもわからないため試行錯誤しているのが現状だ。

WWD:「服から服」「ペットボトルからペットボトル」という水平リサイクルにこだわっているが、その他のリサイクル方法を考えているか。

高尾:服は服、ペットボトルはペットボトルとして循環させるべきだと考えている。なぜならトータルのCO2排出量削減が最も大きいと考えるからだ。例えばペットボトルからフリースを作り、フリースが燃やされるのでは意味がない。燃やさないためにエネルギーをかけてでも回り続ける水平リサイクルがいいのではないか。

WWD:形が変わったとしても、エネルギー量を抑えるリサイクル方法がいいという考えもある。

高尾:その考え方は一部を切り取っているだけだと思う。目指すべきは、いかに燃やさないか、埋め立てないかだ。そのための仕組みを作ることが重要だ。ゴミ焼却場でのエネルギーの回収率は10%も満たないなど、燃やすときに発生するエネルギーがもっとも効率が悪い。

ペットボトルのケミカルリサイクルを商業化

WWD:ペットボトルのケミカルリサイクル技術も開発したとか。

高尾:約20年かけてケミカルリサイクル技術を開発し、ピカピカのペットボトルに戻すことができるようになった。世界でペットボトルのケミカルリサイクルを商業レベルで行っているのは当社だけだ。世界には技術確立している企業もいくつかあるが、商業レベルに達していない。われわれのプラントは21年5月から稼働し、大手飲料メーカーにPET樹脂を販売している。年間2万2000トン生産しているが、日本国内で年間60万トン生産されているのに対してはまだまだ少ない。

WWD:どこから回収しているか。

高尾:自治体と連携し、自治体で回収したペットボトルや、自動販売機横にあるリサイクルボックスから回収されたものを用いている。また、ペットボトルのメカニカル(マテリアル)リサイクルの過程で出るクズも活用している。メカニカルリサイクルは、必要なエネルギー量はケミカルリサイクルに比べて少ないが、3割がリサイクルできないという課題もある。われわれはその3割を活用しているが、通常は焼却していたりする。またメカニカルリサイクルの場合、再生されてもどんどん劣化するので、いずれリサイクルができない状態にもなることが課題だ。

WWD:理想はメカニカルリサイクルを何度か行った後、ケミカルリサイクルをするということか。

高尾:その通りだ。メカニカルとケミカル両方を活用した事例を示したいと考えている。メカニカルとケミカル、両方のリサイクルプラントを持っているのは日本だけだ。課題は、一見してもペットボトルがどの程度劣化しているかわからない点だ。

WWD:欧州進出についての進捗は。

高尾:フランスのリヨンにペットボトルのケミカルリサイクル工場を作る計画だが、まだ着工していない。

WWD:今後の目標は?

高尾:われわれが行いたいのはリサイクル業ではなく、製造業だ。石油ではなく不要なものを原料とした製造業としてモノ作りをする。洋服を原料としたポリエステル樹脂やペットボトルを原料としたPET樹脂の生産量を増やしていく。それを市場に売り、黒字化する。ペットボトルは見えてきたが、洋服は全然見えない。


衣料品の再資源化に向けた技術開発の現状とその先

 廃棄物の輸出が難しくなった今、自国で出たゴミは自国で処理するしか方法はない。環境省のレポートによると、服がゴミとして出された場合、再資源化されるのは5%程度でほとんどは焼却・埋め立て処分されているという。その量は年間48万トン。捨てる量・作る量を減らすことを前提に、企業、行政、生活者が協働し、衣料廃棄物の再資源化が求められる。

 ポリエステルと混合される素材は、コットンやポリウレタンが多い。混合素材の再資源化に向けて、環境負荷低減を前提とした分離技術の採用も望ましいだろう。ポリエステルとポリウレタンの分離回収や、ポリエステルとコットンの分離技術はいくつかのスタートアップが開発済みだ。いずれもスケールが必要な段階だが、こうした技術を活用していくことで、混合素材のより効率的な再資源化が可能になるはずだ。すでにナイロンのケミカルリサイクル技術は商業化されているし、コットンなどのセルロース繊維のケミカルリサイクル技術も商業化に向けてスケールしている段階。ハードルは高いが、上記したポリエステル以外の繊維リサイクルが可能なプラントを日本に構えることができれば、これまで廃棄されていた衣料品の再資源化が可能になる。

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大人の女性に向けた古着屋「フィン」 素材感にこだわったビンテージウエアとホームグッズ

 「フィン(FINN)」は、東京・三軒茶屋にある古着屋「ルイク(LUIK)」の系列店として、学芸大学に2021年にオープンした。“女性に向けたアンビエントなライフスタイルを提案する”をコンセプトに掲げ、温かみのある古着とブランドの新品、ホームグッズを扱っている。田中有美「フィン」ストアマネジャーに、ショップの魅力や古着を取り入れたおすすめのコーディネートを紹介してもらった。

 店内は、石やウッドなどの天然素材を生かした温かみのある家具で構成。開放感溢れる空間に並ぶのは、アメリカとヨーロッパで買い付けた古着で、シャツやニット、アウター、パンツ、ジュエリーなど、古着初心者でも取り入れやすいデザインの商品が多い。いずれも素材や生産国、デザインにこだわりながら丁寧にセレクトしているものばかりだ。例えば、モヘアのニット。田中ストアマネージャーは「時代が新しくなるにつれて、モヘアウールの天然素材のみをブレンドしているものは少ないんです。今は昔と比べて技術が発展しているため、モヘアのパーセンテージが高くても、化学繊維を混合しているものが多いです。だから昔のモヘアは貴重品であり、こういった素材感を意識したアイテムを提供しています」と語る。

 同店ならではのこだわりは、新品のセレクトアイテムにも表れている。「ミスターイット(MISTER IT.)」のアウターはインパクトあるデザインだが、取り外し可能な襟やリバーシブル仕様であるため、古着との合わせも考えて仕入れている。「マイディ(MAYDI)」のニットは、パタゴニア産のメリノウールを使用しているため、カシミアやアルパカと同じぐらい柔らかく肌触りがいい。

バリエーション豊富なホームグッズ

 「フィン」のもう一つの魅力は、ホームグッズも同じ空間で販売していること。コロナ禍で在宅時間が増えたこと、また服も好きだがライフスタイルも充実させたいという大人の女性に向けて、花瓶や食器、オブジェなどのアイテムを取りそろえている。「古着同様にアメリカとヨーロッパから仕入れたものが多く、季節ごとに素材や色味など、扱うアイテムも変えています。実は、店内に飾っているアートも全て購入できるんですよ」。そんなバリエーション豊富な品ぞろえであることから、ホームグッズを買いに来る男性客もいるほどだ。

おすすめのコーディネート

 「フィン」のインスタグラムでは、古着を取り入れたコーディネートを提案している。田中ストアマネージャーがモデルとなり、シャツのレイヤード術やアクセサリー使いなど、ビンテージ初心者でも参考にしやすいスタイリングを見ることができる。

 「クロップド丈がトレンドなので、『マイディ』のニットをセレクト。丈が短いため、ウエスト部分にデザインのあるパンツを合わせました。『エスカーダ(ESCADA)』は派手な柄や色のものが多いんですが、ベーシックカラーのアイテムもあるので、このように優しい印象に仕上げることもできます」

 「寒い時期には、レザーコートにポンチョのようなショールを羽織ってみるのもおすすめです。ウールのコートにニット素材のものを合わせると、どうしても野暮ったくなってしまうので、艶感のある素材のアウターとスタイリングするとモダンな雰囲気になります」

 「『ヘインズ(HANES)』の1960年代のパーカとミリタリーテイストのジャンプスーツ。全体的にボリュームがあるので、パンツの裾を細身のロングブーツにインしてメリハリをつけました。ヒールで女性らしさもプラス」

■フィン
住所:東京都目黒区鷹番2-13-3 TSビル 1F
時間:月〜金 13:00〜18:00、土・日 13:00〜20:00
定休日:火

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峯岸みなみが語る 「ズボラな私」だからできたシートマスク

 元AKB48でタレントの峯岸みなみがプロデュースするスキンケアブランド「イトマ(ETOMA)」は、初となるポップアップストアを2月23日に東京・原宿の「アットコスメ トーキョー」で実施する。

 ブランドは、広告エージェンシーのクリーク・アンド・リバーの子会社で、D2Cブランド事業などを手掛けるforGIFT(白井崇文代表)が運営。第1弾商品として昨年12月、美容乳液シートマスクの“オールインワン・フェイシャル・マスク”(22mL×5枚入り、税込2900円)を発売した。1枚で化粧水・乳液、美容液の3役をこなす。ポップアップ当日は峯岸が店頭に立ち、購入客にシートマスクを手渡しする(事前予約制)。

 元々、スキンケアには疎かったと明かす峯岸。「いまだに、メークをしたまま寝てしまうこともよくあるんです」と笑う。ただ「イトマ」のシートマスクは、「そんなズボラな私だからこそできた商品です」と胸を張る。着想から3年を要したシートマスク開発の背景、「イトマ」にかける峯岸の思いを聞いた。

WWD:ブランド名は「暇(いとま)」が由来と聞きます。どんなブランドかを教えてください。

峯岸みなみ(以下、峯岸):「イトマ」を使うことで忙しい毎日の中でも、自分と向き合う時間を作ってほしいという思いで立ち上げたブランドです。

 私自身、化粧品の成分について詳しいわけでもなかったし、こだわってきた人間ではありません。もともと私は、肌悩みが多い人からしたら「ずるい」と思われるくらいに、肌トラブルは少ないほう。20代前半の頃は周りの子もピチピチだし、特段目立っていたこともなかったです。ただ年を重ねるにつれて「肌がきれいだね」と褒められることも多くなってきました。この肌は私の長所で、もっと磨いてアピールすれば武器になるんじゃないか、と思ったんです。

 ただぶっちゃけてしまうと、私自身はめっちゃズボラな人間(笑)。今でも多いときは週に2、3回、メイクを落とさずに寝てしまうことがあります。だから私のようなズボラには重宝する、スキンケアが1枚で完結するシートマスクを作りました。

WWD:“オールインワン・フェイシャル・マスク”はどんな商品?

峯岸:とにかく楽にスキンケアが完結できることを目指しました。しっかりとした美容意識のある女性なら、お風呂を出たら化粧水をして、パックして、美容液やクリームを塗るのが「普通」だと思うんです。ただそれが全部できない、やりたくないと思った時に、「お願いします!」と1枚で頼れるものになっています。

 “オールインワン・フェイシャル・マスク”は「美容乳液マスク」で、保湿力がとにかく高いです。自分で試しながら、朝になってももちもちする感覚を、納得いくまで追求しました。

WWD:開発には3年を要しました。初めてのスキンケア商品開発では大変なことも?

峯岸:初めはメイクも落としつつ、お肌を潤せる「クレンジング&スキンケア」的なコンセプトで作ろうと思っていたんですが、それはあまりにもズボラすぎるし、処方的にほぼ不可能だからお蔵入りになって、軌道修正しました。だからちょっと回り道した部分もありますね(笑)。

 香りに関しては、5、6回くらい試作を重ねました。シートマスクを作っている間は「こだわり、なかったんじゃ?」と言われるような、面倒臭い人間になっていたと思います。ベッドの上で使ってもらえるような、とろんと眠たくなるような、ほのかにジャスミンを感じる香りです。

 私はいいと思っても、皆にいいと言ってもらえないと不安。だから香りを決める時も、数人が「一番いい」と言っているものより、誰からも嫌われていないものを選びました。

WWD:最近は化粧品開発において、万人受けよりもコアなコンセプトを重視する流れもあります。

峯岸:「イトマ」のシートマスクはめちゃくちゃ安価でもないから、手に取ってくれた人にはせめて嫌な思いをさせてくないと思ったんです。自信のなさ、ここでも出ちゃってますかね?(笑)。

WWD:峯岸さんは元トップアイドルなのに、等身大の親しみやすさがあります。

峯岸:スキンケアブランドを立ち上げる人って、普段のスキンケアは完璧だし、自分に自信を持っている人が多いですよね。それに比べて、「イトマ」は「ズボラな私みたいな人に届けたい」というコンセプトからネガティブ(笑)。でも弱い自分すらさらけ出して共感していただくのが、自分のアイドル時代からのスタンスでした。

 普段からズボラな生活をしている私だからこそ、しっかり丁寧にスキンケアをした次の朝は、肌の調子がよくて感動します。ズボラな私だからこそ作れる、共感してもらえるブランドにしたいです。

WWD:ファンの反応は?

峯岸:「イトマ」の情報は、9月のスタイルブック発売と同時に“匂わせ”投稿をしたんですが、びっくりされていたファンの方も多かったみたいです。私がずっとメークに興味なかったことはばれていますし。それに、私が主体性を持って何かを始めることにもファンの方はびっくりして、「あの、みーちゃんが?」と喜んでくれていて。あー私って甘やかされているなと思いました(笑)。

 私がAKB48にいたときは、「アイドル」として決まった道を進むだけでよかったんです。与えられた役割にはもちろん一生懸命に取り組んでいたけれど、自分で主体的に選択する機会は意外となかった。だから、スキンケアブランドは初めて自分の意志でするチャレンジで、ドキドキしています。もちろん、(小嶋)陽菜みたいに自分の足で立って歩んでいこうというメンバーもいましたけれど。

WWD:小嶋さんは自身のアパレルブランド「ハーリップトゥ(HER LIP TO)」を立ち上げ、経営者としての道を歩んでいる。

峯岸:(小嶋)陽菜は私とは真逆の人間で、自分で何もかも選択して、返ってくるものは全部自分の責任として受け止められる人。プライベートのことは普段からよく話す仲ですが、シートマスクのことは一切話さなくて。というか、話せなかった。陽菜が仕事にかける熱量をずっと見てきたので、自分が戸惑っていて、ふわふわした状態で相談するのは失礼だし、幻滅されたら嫌だなと思って。

 陽菜の顔も頭に浮かんで、シートマスクを作るなら、自分の言葉で薦められるものを作らなきゃダメだと思っていました。ファンの皆さんにも、顔向けできないようなものを作ったら、自分が苦しい思いをするだけ。だからやっとできた「イトマ」のシートマスクをプレゼントして、陽菜に「がんばったね」って言ってもらえたときは、すごくうれしかったです。

 自己肯定感はめちゃくちゃ低いし、自分に自信がない。そんな私がこのシートマスクに関しては100%に近い納得度で、「いいものができたよ」って言うことができます。私自身、「イトマ」を使うようになったらスキンケアの時間が楽しみになって、毎日メイクも落とせるようになってきました。もちろんズボラが治るわけではないんですが、「イトマ」を使うことで「スキンケアって楽しい」「もっと肌がきれいになりたいな」というモチベーションが湧いてきました。手に取った皆さんが、きっとそうであってほしいなと思います。

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イタリア発ジュエラー「ポメラート」と共に歩んだ20年 クリエイティブ・ディレクターに聞くブランドのDNA

 イタリア発ジュエラー「ポメラート(POMELLATO)」のヴィンチェンツォ・カスタルド(Vincenzo Castaldo)クリエイティブ・ディレクターが約3年振りに来日した。

 昨年、カスタルドはポメラート入社20年を迎えた。今までの「ポメラート」との歩みとブランドのDNAなどについて話を聞いた。

WWD:今回の来日の目的は?

ヴィンチェンツォ・カスタルド「ポメラート」クリエイティブ・ディレクター(以下、カスタルド):コロナ前の最後の出張が東京、そして、今回はその後初の出張だ。東京は大好きな町で、数年間来れずさびしかった。日本の文化が持つ繊細さや細やかさ、全てのことが儀式のようで魅了されている。“金継ぎ”コレクションのインスピレーションでもある。

WWD:昨年、ポメラート入社20周年を迎えたが?

カスタルド:入社初日のことを覚えている。当時のクリエイティブ・ディレクターが“ヌード”コレクションを見せてくれた。「ポメラート」の世界に飛び込んだ感じだ。もともと、家族経営だったが、ケリングの傘下に入り、2015年に私がクリエイティブ・ディレクターになった。それからハイエンドのファインジュエリーを提供するブランドに昇華させたことを誇りに思う。

WWD:20年間デザインしてきて変わった点は?

カスタルド:クリエイティブアプローチは変わらない。クリエイティビティー、イノベーション、アルティザンのあくなき探求を続けている。「ポメラート」が持つ類まれなDNAを守るのが私の役目だ。20年で周囲のジュエラーは変わったと思う。今では、ジュエラーだけでなく、あらゆるファッション・ブランドがジュエリーを販売するようになった。ジュエリーと人の関係も変化した。「ポメラート」は1967年創業当初から、日常に着けるジュエリーというビジョンを持っているが、50年前は、ジュエリーは特別なときに着けるものだった。それが日々着けるものという考え方になった。

WWD:ジュエリーをデザインする上で常に心掛けていることは?

カスタルド:全てのジュエリーが主役であるということ。また、消費者を驚かせるのではなく、タイムレスなデザインで、時代を問わず変わらない価値を持つジュエリーを提供したい。

「ポメラート」はミラネーゼのエフォートレスシックを表現

WWD:「ポメラート」のジュエリーの一番の魅力は?

カスタルド:1つ選ぶのは難しい。ミラネーゼの肩肘張らないエフォートレスシックを表現しており、クリエイティビティー、イノベーション、職人技のバランスが取れたエレガンスがあること。

WWD:最近、ハイジュエリーに注力している理由は?

カスタルド:67年の創業以来、ブランドとして成熟し、さらにプレシャスなものをつくるようになった。ハイジュエリーは予算の限度がないし、職人がじっくり時間をかけてつくる喜びを感じられる。楽しんで制作しているよ。

WWD:「ポメラート」とミラノには深い関係があるが、どのようなものか?

カスタルド:「ポメラート」はミラノ生まれ、ミラノ育ちのブランドなので、深いつながりがある。ミラノには金細工の伝統があり、デザインやモードの中心地でもある。そして、常に何かを探し求めるダイナミックさがある。ミラネーゼは現代的で、新しいものを求め、文化的な関心が高いと思う。

WWD:今後、新たにチャレンジしたいことは?

カスタルド:未来が私に何を運んできてくれるか楽しみだよ。

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“青一色”の異質な古着屋 業界歴25年のオーナーが脱サラして選んだ息子のためのセカンドキャリア

 東京・中野にブルーのアイテムのみを取り扱う古着店がある。「M.O.S ブルー(M.O.S BLUE)というこの店は、看板もレイアウトしているアイテムもブルー一色。通行人は異質なオーラを放つ同店を、思わず二度見していく。さらに、同店の徒歩圏内にはグリーンを集めた2号店「M.O.S グリーン(M.O.S GREEN)も出店している。2店舗のオーナーである大間洋一郎 M.O.S代表は、ファッションブランドで店長やエリアマネージャーを長年務めてきた人物だ。今回は、大間代表にカラーを絞った店づくりの裏側を聞いた。

家族のために選んだセカンドキャリア

WWDJAPAN(以下、WWD):経歴を教えてください。

大間洋一郎代表(以下、大間):僕はずっとファッションブランドで営業をしていたので、業界歴は25年くらいになります。最初はギャップ(GAP)に入社し、レナウンの「J.クルー(J.CREW)」を経て、オンワード樫山で複数のブランドの店長職を経験した後は、エリアマネジャーをしていました。

WWD:店を開こうと思ったきっかけは?

大間:高校生の時から古着が好きでした。当時は今より体が大きくて着る服を選べなかったのですが、たまたま出向いた高円寺でアメリカンサイズの古着にたくさん出合ったんです。その頃からアメカジ古着を買い漁るようになりました。就職してからも、いつか古着の店を出店したいという目標を持っていました。

 実際に店を開くきっかけになったのは、小学4年生の息子の存在です。息子が多動性自閉症という障がいを持っていて、生活するにも手助けが必要です。営業職は出張があったり、遠方の店舗に出向くと帰りが遅くなったりするので、できるだけ子供のそばにいられる仕事をしたかった。そこで、長年住んでいる中野に店を持つことにしました。隣の高円寺は古着の町ですが、息子が支援学校職員や地元の民生委員、放課後デーの保育士の方々にお世話になっているので、中野に恩返ししたいし、近隣に洋服屋が少ないこともあって地域密着型の店舗を目指していきたかったんです。

 色を絞ったのは、きれいな古着屋を作りたかったから。ごちゃごちゃとしてまとまりがないより、一つの色に絞ったほうが見栄えがいいのではないかと考えたからです。

WWD:目の前にホームセンターがある、この物件の決め手は?

大間:薄いグリーンに白い枠がついている外観が気に入りました。それに、都市部でこれほど大きいホームセンターがあるのはこの場所ぐらいなので、人通りもある。実際、駐車場の入り口の前だから、土日はすごく混んでいるのが分かります。青一色なので駐車待ちの人の目に付くようで、グーグルでの店名の検索数がすごいらしいんです(笑)。入店するかは別としても、会話のネタになっていたらいいですね。

WWD:店内のラインアップは?

大間:9割が古着で、オリジナルのアパレルやグッズを少し置いています。古着は状態のいいものを選んでいて、靴もできるだけきれいにしています。古着になじみのない方だと、古着だと気付かれない場合も多いですね。ブルーの店舗には、近隣で子供服を買える店が少ないので子供服も置いています。

 色をピンポイントで選ぶため、自分でピックできる国内の古着卸の業者から、好みのブルーとグリーンのアイテムを選んでいます。特にそろえているのはスエットで、4900円前後で販売しています。

WWD:価格設定のこだわりは?

大間:フェアプライスにはこだわっていますね。店内の商品はほとんど1万円以下で、例えば「リーバイス(LEVI’S)」のジーンズは全部3900円にしています。アパレル販売をしていた時、間に入る業者が多くなるとその取り分も上乗せされて、販売値段が高くなってしまっていました。最近は古着ブームで、1990年代の「チャンピオン(CHAMPION)」の“リバース ウィーブ(Reverse Weave)”が3〜4万で売られており、ファッションビルの店も若い人にとっては安くない。おしゃれしたい気持ちはあるのに、金銭的な理由で諦めざるを得ないのは悲しいので、この店では適正価格を大事にしています。

大型ホールがある中野
“推し活”のニーズにもマッチ

WWD:店に来るのはどんな顧客が多いですか?

大間:初年度は地元の年配の方が立ち寄ってくれることが多かったです。グリーンの店舗ができてからは、SNSで話題になって店の認知度が上がったのか、若い人も増えました。高校生の女の子が、制服に合わせるためのオーバーサイズのスエットを買っていくこともありますね。

 あと、カラーに特化しているので、“推しメン”のメンバーカラーのアイテムを探しに来る人も多いですね。最近はアイドルグループに“推しメン”がいて、そのメンバーカラーのアイテムを身に着けてライブに行く文化がありますよね。しかも、中野には中野サンプラザや、なかのZEROの大ホールなど大きな会場があるので、ライブの前に全身“推しメン"のメンバーカラーに着替えて行く人がいます。最近は、純烈ファンの年配女性たち3人組が来店しました。

WWD:中野に根ざした店作りを目指す上で、町の人とはどのように関わっていますか?

大間:近所のカレー屋と協力して店の前でカレーのランチを販売したり、子供服の在庫を近所の病院や保育園に寄付したりしています。あとは接客にもこだわっていて、お客さまがほしいものがあれば、仕入れの時に探すようにしています。でも、とあるお客さまからリクエストがあった「コンバース(CONVERSE)」のブルーの“ワンスター(ONE STAR)”はなかなか見つからないですね……。

WWD:今後の展望は?

大間:“推し活"に使うお客さまに「次の店舗は赤にして」と言われていますが、赤は難しいんですよね。アウターやトップスはあるけど、ボトムがなかなかない。でも、期待には応えたいです。黄色ならベージュのチノパンがあるから、可能性があるかもしれません。

 そして、もっと色を増やして中野をレインボーカラーに染めようとお客さまとも話しているんです。変なこだわりですけど、この1号店を一丁目、2号店を二丁目に出したので、次は3丁目に出したい。そして最後は、中野の聖地である中野ブロードウェイに進出したいんです。各店舗を歩いて移動できる距離にするのもこだわりなので、中野散策と称して各店を結ぶスタンプラリーができたら面白いなとか、夢だけは広がります(笑)。

■M.O.S used clothing blue
住所:〒164-0001 東京都中野区中野1丁目61-11
営業時間:10時30分〜19時
定休日:月曜日

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ル セラフィムのKAZUHA「メイクはポジティブなパワーをくれる」 韓国発「エチュード」の新製品発表会に登場

 韓国最大手アモーレパシフィックのコスメブランド「エチュード(ETUDE)」は、ティントリップとアイシャドウをリニューアルし、4月28日に新発売する。9日、東京・恵比寿で新製品発表会が開かれ、ブランドミューズに就任した韓国アイドルグループLE SSERAFIM(ル セラフィム)のKAZUHAが登場。自身のメイクについて習慣や考え方を語った。

 「エチュード」を学生時代から愛用しているというKAZUHAは、「ブランドミューズになれたことは本当にうれしい」と笑顔。韓国と日本のコスメ文化の違いについて問われると、「日本人は艶肌に見せることが多いけれど、韓国人はマットな印象を好む」と語った。また「最近は目元をグリッターでキラキラさせるのが気分。今日は(グリッターを)多めにつけた」と自身のメイクを解説した。
 
 「ル セラフィム」は昨年5月のデビューから楽曲リリースや広告、イベント出演など多忙な日々を過ごしている。だからこそグループのメンバーはスキンケアの時間をとても大切にしているという。「毎日メイクを落とした後には、鎮静効果のある『エチュード』のスキンケアがとてもありがたい」。今後について問われると、「私は落ち込んでいるときも、カラフルなメイク道具を見るとテンションが上がる。(ブランドミューズとして)メイクが持つポジティブなパワーを伝えていきたい」と抱負を述べた。

ブランドコンセプトを刷新
「年齢に捉われず、遊び心ある全ての女性へ」

 新発売する“グロウ フィクシングティント”(税込1485円)は水彩画からインスパイアを受けたみずみずしい発色が特徴。保湿成分を35%配合し、唇の乾燥を防ぐ。塗り重ねてもべたつきにくい処方で、重ね塗りで濃淡の違いを楽しめる。“プレイカラー アイシャドウ”(同2970円)は、トレンドを押さえた実用的な配色にこだわり、ジェルのような質感のラメが目元の輝きを長時間キープする。パーソナルカラーに応じて、春・秋向けの、“ウォームトップカリスマ”と夏向けの“クールバレリーナ”の2種のパレット(各10色)を用意する。

 2013年に日本に上陸した「エチュード」は、10周年を機にブランドコンセプトを刷新。“メイクアップ プレイリスト”をキーワードに、音楽のリズムを楽しむような、自由で自分らしいメイクを提案する。エチュードコーポレーション ブランドマーケティングチームのBin Lee氏は、「これまでのターゲット(〜20代中盤)からさらに裾野を広げていきたい」と展望を話す。「好奇心や遊び心を持ってメイクを楽しめる女性は、年齢に関わらず全てがブランドの顧客だ。リアル販路だけでなく、SNSも駆使し、多くの接点で日本の消費者との関係を深めていきたい」。

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革新的ジュエリーのECプラットフォーム「ザ・フューチャー ロックス」のトップを直撃 ラボグロウンダイヤモンドなど社会的意識の高い選択肢を提供

 ラボグロウンダイヤモンド(以下、ラボグロウン)やリサイクルゴールドを使用したジュエリーブランドのECプラットホームである「ザ・フューチャー ロックス」は1月、伊勢丹新宿本店(以下、伊勢丹)でポップアップショップを開催した。日本でも、ここ数年ラボグロウンダイヤモンドを使用したブランドが続々と登場。イベントのために登場したアンソニー・ツァン(Anthony Tsang)=ザ・フューチャー ロックス創設者兼最高経営責任者(CEO)とレイ・チェン(Ray Cheng)=ザ・フューチャーロックス創設者兼チーフデザイナーオフィサー(CDO)に話を聞いた。

WWD:ECプラットフォームを立ち上げてからの商況は?

アンソニー・ツァン=ザ・フューチャー ロックスCEO(以下、ツァン):2021年4月にプラットフォームを立ち上げ順調に推移し、22年には2倍の流通総額(GMV)を記録した。

WWD:プラットフォームのコンセプトは?

ツァン:テクノロジーを伝統やクラフツマンシップと融合させることで、ジュエリーの革新的で明るい未来を目指したい。グローバルECプラットフォームとして、未来志向のジュエリーへの出合い、そして楽しみ方を提案する。ラボグロウンダイヤモンドやリサイクルゴールドを使用したジュエリーには力強いメッセージがあり、環境に優しく受け継がれるものになるはずだ。

WWD:ラボグロウン製品の販売ブランド数は?

ツァン:世界中から21のデザイナーによるジュエリーを紹介。全てのデザイナーと、サステナビリティ、イノベーション、クリエイティビティーの情熱を共有する取り組みをしている。

WWD:ラボグロウン製品の売れ筋と税込価格帯は?

レイ・チェン=ザ・フューチャーロックスCDO(以下、チェン):売れ筋は“ヒカリ”コレクションだ。ラボグロウンを複数使用し、宇宙をインスピレーション源にした幻想的なデザインとかれんなシルエットが特徴。価格もエントリーで手に取りやすい。自家需要ではネックレス、ブレスレット、ピアスが人気。600ドル(7万9200円)程度。主要顧客は、30~40代の自立した女性で、ファッション感度が高く、ラグジュアリーブランドに対する知識も豊富。そして、よりよい選択肢を探しており、ラグジュアリーにおっける透明性や社会的責任を求める女性だ。

洗練された社会的意識の高い選択肢を提供

WWD:競合サイトは?どのように差別化を図るか?

ツァン:ラグジュアリー・ブランドやECプラットフォームとの競合は意識していない。未来志向のジュエリーやラボグロウンに興味のある消費者へ、洗練された社会的意識の高い選択肢を提供することを目指している。

WWD:プラットフォームやラボグロウンの認知度アップに行っていることは?

チェン:伊勢丹での初のポップアップショップでは、顧客と直接関わることができ、未来志向のジュエリーやラボグロウン、ブランドのストーリーを伝えることができた。今後も、実験的なポップアップを行っていきたい。

WWD:日本におけるラボグロウンの市場をどのように分析するか?

チェン:日本では、まだ、ラボグロウンはあまり知られていないが、ポップアップで、ラボグロウンやサステナブルなジュエリーのストーリーを伝えると関心を示していた。ラボグロウンにより、ジュエラーは既存の形や表現にとらわれなくてもよくなった。

WWD:日本市場における課題と戦略は?

ツァン:22年の「アマン東京(AMAN TOKYO)」のイベントや伊勢丹でのポップアップを行うことができてうれしい。私たちの革新的なビジョンを発信し続ける。ポップアップや限定アイテムなどの提案を通してブランドを身近に感じてもらいたい。ジュエリーとの親密なつながりを提供するには、顧客一人一人との結びつきが不可欠だと思う。

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人気ユーチューバー・セイナに聞く「ファッションブランドの作り方」

セイナ/ユーチューバー

PROFILE:1998年2月27日生まれ、福岡県出身。インスタグラム(@sei__pan、23.8万フォロワー)を筆頭に、ユーチューブやTikTokなどの総フォロワー数約70万人のインフルエンサー。ヘアメイクも自分でこなし、カラフルなアクセや服をまとったファッション好きとしても知られる。カップルインフルエンサー「ゆたせなcp」としてはSNSの総フォロワー数180万人を超える PHOTO:TAMEKI OSHIRO

 エニーマインド グループ(AnyMind Group)は、インフルエンサー事務所の子会社グローブ(GROVE)所属のカップルユーチューバー「ゆたせなcp」のセイナがプロデュースするアパレルブランド「セイニーブロンド(Seiney BLONDE)」を1月27日にスタートした。今回のブランドはカップルとしてではなく、セイナの単独プロデュース。インフルエンサーブランドが増える中で、どのようなブランドを目指すのか。なぜ今ファッションブランドを作ったのか。せいな本人に直撃した。

WWDJAPAN(以下、WWD):カップルでもブランド「キサマラ(KISAMARA)」を展開しているが、なぜ単独でブランドを?

セイナ「セイニーブロンド」プロデューサー(以下、セイナ):前から服が好きだったのでずっと自分のブランドを立ち上げたいとは思っていました。カラフルな服が好きでプライベートでもユーチューブの番組でもよく着ているのですが、彼氏のゆうたと立ち上げた「キサマラ」はファンに向けたブランドで、ファン向けのグッズやユニセックスアパレルの展開をしていた。ファンには女性が多く、スカートとかウイメンズのアパレルが欲しいという声をいただき、そういうアイテムを出すなら別ブランドで作ろう、と。

WWD:ファンの比率は?

セイナ:ユーチューブのカップルチャンネルの場合、普通は男女比が4:6、5:5と男女比はあまり変わらないのですが、私たちの場合は8割が女性で、ファンも私たちをファッションの面からも支持してくれているのかなあと。「セイニーブロンド」では、最初のコレクションは私が好きなものや私が着たいものを、デザインや丈、シルエットにとことんこだわって作りました。このファージャケット(1万3000円)なんかは丈をミリ単位でこだわって作りました。やっぱりブランドなので、きちんと個性を見せたいと思って。ただこれからは、色などに関してはライブでファンの声をしっかり取り入れたいと思っています。

WWD:ブランド運営はどこまで関わっている?

セイナ:アイテムの企画やデザイン、SNSの運用を担当しています。売り上げ目標も私を含めたチームで決めていて、SNS投稿からのセッション数や購入数、初速の売り上げも確認しています。ユーチューバーをやっていると、視聴回数や再生時間といったデータを見るのが当たり前なので、数字はよく見ている方だと思います。ただ、あくまでも私の役割は、「セイニーブロンド」をディレクションし、ブランドのファンを増やし、喜ばせること。売上や利益といった具体的な数字のプランニングやECサイトの運営、製品の生産などは基本的にはエニーマインドグループが行っています。

SNS投稿画像からルック撮影のメイクまでセルフプロデュース

WWD:ブランドのコンセプトは?

セイナ:私自身のスタイルを反映したブランドで、海外の女の子が着ているようなカラフルで個性的な、デザイン性のあるアイテムを揃えています。これまでも「周りの目を気にして個性を抑えていたが、セイナを見て個性を表現できるようになった」と言ってくださるファンもいて、そういった人たちも後押しできる個性のあるブランドを目指しました。

WWD:セイナさんのファッションのインスピレーション源は?

セイナ:私は海外の「ディズニーチャンネル」を見て育って、中でも(2000年代に流行したティーン向けドラマの)「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ(Hannah Montana)」が好き。もともと2000年代のファッションやドラマの登場人物が好きでインスピレーションを受けています。なので、いわゆる「Y2K」は日本で流行る前から好きでした。実際にファンも海外のY2Kや「ディズニーチャンネル」を好きな子が多いと感じています。

WWD:ブランドのターゲット層は?

セイナ:明確なターゲット層はあえて決めていません。実際にユーチューブでやり取りしているファンの中には40代や子育て世代の方もいます。「セイニーブロンド」のテイストは、年齢やテイストでは区切らず、幅広い年代の人に着てもらえたら嬉しいです。ブランドサイトにはアメリカ、カナダ、韓国など海外からのアクセスも少なくなかったので、ゆくゆくは海外発送もできたらいいなと思っている。

WWD:ファーストコレクションのメインアイテムは?

セイナ:一番人気はアウターで、ピンクやブルーのカラフルなファー付きのレザー風ジャケット。ピンクやブルーのファーがかなり目立つ(笑)ので、ちょっと個性的すぎるかもと思っていたのですが、このアイテムが一番人気だったのは嬉しい誤算でした。

  「セイニーブロンド」のファーストコレクションはファージェケット(価格1万3000円)、毛足の長いシャギーカーディガンとキャミソールのセット(1万1000円)、ショートパンツ(7000円)、ロング袖のカットソー(5500円)の4アイテム。セイナを担当するグローブの岩堀拓舞ファンコミュニケーション事業部部長によると、「初速がよく、最初の10分ほどで売り上げ目標の1/3ほどが売れた」という。サイトやSNS、ユーチューブなどでセイナ自身がコーディネートを組んだルックを掲載したり、着用していたこともあって、そのまま“マネキン買い”をする人も多かったようだ。インフルエンサー発のブランドというと、ステッカーやカットソー、パーカなど低単価や定番アイテムを打ち出しがちだが、「セイニーブロンド」はECだと売るのが難しい高単価の重衣料やセット販売に挑戦し、見事に成功させたと言える。今後もコーディネート提案は継続していく。

ブランドを広げる鍵は「購入者が気に入って拡散すること」

WWD:自分のファン以外にブランドをどう広げる?

セイナ:オンラインのみの展開なので、SNSが鍵になると思います。私の周りのインフルエンサーさんに似合いそうな「セイニーブロンド」のアイテムをギフティングしたり、私自身が着て発信したりしていますが、一番重要なのは購入者が気に入って着た姿を拡散してくれること。そうなるためには、やっぱりファンの人たちの気持ちにきちんと向き合っていかないと。

WWD:最近はインフルエンサーブランドが増えている。「セイニーブロンド」はどんな立ち位置を目指す?

セイナ:それは私も感じています。インフルエンサーがブランドを始めると「自分の知名度を生かしただけのお金儲けじゃないか」と見られることも多いのですが、私は「セイニーブロンド」をきちんとファッションブランドとして確立させたいと思っています。そのためには、商品へのこだわりや、制作過程をSNSやユーチューブなどでファンと共有してブランドへのこだわりを知ってもらいたいと考えています。ブランドSNSも投稿画像まで私が作っていて、世界観を崩さないように細部までこだわっています。サイトに掲載したルックやビジュアルも、コーディネートからヘアメイクまで自分でやっています。

WWD:こだわりをどう伝える?

セイナ:ブランドロゴやアイテムのデザイン画は下書き段階からファンに見せていきました。そうすると、ファンの子にも自分で書いているんだ、考えているんだというのをわかってもらえるし、背景が見えるので。

WWD:今後の目標は?

セイナ:2つあります。私もファンもディズニーが大好きなので、ディズニーコラボはしてみたいです!多店舗展開は考えていませんが、ブランドの世界観を体現しつつ、ファンの人達が楽しめる場として、一つでいいのでお店は出したい。勝手な理想ですが、「舞浜イクスピアリ(IKSPIARI:東京ディズニーリゾートの玄関口の商業施設)」に出店するのが夢です。

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人気ユーチューバー・セイナに聞く「ファッションブランドの作り方」

セイナ/ユーチューバー

PROFILE:1998年2月27日生まれ、福岡県出身。インスタグラム(@sei__pan、23.8万フォロワー)を筆頭に、ユーチューブやTikTokなどの総フォロワー数約70万人のインフルエンサー。ヘアメイクも自分でこなし、カラフルなアクセや服をまとったファッション好きとしても知られる。カップルインフルエンサー「ゆたせなcp」としてはSNSの総フォロワー数180万人を超える PHOTO:TAMEKI OSHIRO

 エニーマインド グループ(AnyMind Group)は、インフルエンサー事務所の子会社グローブ(GROVE)所属のカップルユーチューバー「ゆたせなcp」のセイナがプロデュースするアパレルブランド「セイニーブロンド(Seiney BLONDE)」を1月27日にスタートした。今回のブランドはカップルとしてではなく、セイナの単独プロデュース。インフルエンサーブランドが増える中で、どのようなブランドを目指すのか。なぜ今ファッションブランドを作ったのか。せいな本人に直撃した。

WWDJAPAN(以下、WWD):カップルでもブランド「キサマラ(KISAMARA)」を展開しているが、なぜ単独でブランドを?

セイナ「セイニーブロンド」プロデューサー(以下、セイナ):前から服が好きだったのでずっと自分のブランドを立ち上げたいとは思っていました。カラフルな服が好きでプライベートでもユーチューブの番組でもよく着ているのですが、彼氏のゆうたと立ち上げた「キサマラ」はファンに向けたブランドで、ファン向けのグッズやユニセックスアパレルの展開をしていた。ファンには女性が多く、スカートとかウイメンズのアパレルが欲しいという声をいただき、そういうアイテムを出すなら別ブランドで作ろう、と。

WWD:ファンの比率は?

セイナ:ユーチューブのカップルチャンネルの場合、普通は男女比が4:6、5:5と男女比はあまり変わらないのですが、私たちの場合は8割が女性で、ファンも私たちをファッションの面からも支持してくれているのかなあと。「セイニーブロンド」では、最初のコレクションは私が好きなものや私が着たいものを、デザインや丈、シルエットにとことんこだわって作りました。このファージャケット(1万3000円)なんかは丈をミリ単位でこだわって作りました。やっぱりブランドなので、きちんと個性を見せたいと思って。ただこれからは、色などに関してはライブでファンの声をしっかり取り入れたいと思っています。

WWD:ブランド運営はどこまで関わっている?

セイナ:アイテムの企画やデザイン、SNSの運用を担当しています。売り上げ目標も私を含めたチームで決めていて、SNS投稿からのセッション数や購入数、初速の売り上げも確認しています。ユーチューバーをやっていると、視聴回数や再生時間といったデータを見るのが当たり前なので、数字はよく見ている方だと思います。ただ、あくまでも私の役割は、「セイニーブロンド」をディレクションし、ブランドのファンを増やし、喜ばせること。売上や利益といった具体的な数字のプランニングやECサイトの運営、製品の生産などは基本的にはエニーマインドグループが行っています。

SNS投稿画像からルック撮影のメイクまでセルフプロデュース

WWD:ブランドのコンセプトは?

セイナ:私自身のスタイルを反映したブランドで、海外の女の子が着ているようなカラフルで個性的な、デザイン性のあるアイテムを揃えています。これまでも「周りの目を気にして個性を抑えていたが、セイナを見て個性を表現できるようになった」と言ってくださるファンもいて、そういった人たちも後押しできる個性のあるブランドを目指しました。

WWD:セイナさんのファッションのインスピレーション源は?

セイナ:私は海外の「ディズニーチャンネル」を見て育って、中でも(2000年代に流行したティーン向けドラマの)「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ(Hannah Montana)」が好き。もともと2000年代のファッションやドラマの登場人物が好きでインスピレーションを受けています。なので、いわゆる「Y2K」は日本で流行る前から好きでした。実際にファンも海外のY2Kや「ディズニーチャンネル」を好きな子が多いと感じています。

WWD:ブランドのターゲット層は?

セイナ:明確なターゲット層はあえて決めていません。実際にユーチューブでやり取りしているファンの中には40代や子育て世代の方もいます。「セイニーブロンド」のテイストは、年齢やテイストでは区切らず、幅広い年代の人に着てもらえたら嬉しいです。ブランドサイトにはアメリカ、カナダ、韓国など海外からのアクセスも少なくなかったので、ゆくゆくは海外発送もできたらいいなと思っている。

WWD:ファーストコレクションのメインアイテムは?

セイナ:一番人気はアウターで、ピンクやブルーのカラフルなファー付きのレザー風ジャケット。ピンクやブルーのファーがかなり目立つ(笑)ので、ちょっと個性的すぎるかもと思っていたのですが、このアイテムが一番人気だったのは嬉しい誤算でした。

  「セイニーブロンド」のファーストコレクションはファージェケット(価格1万3000円)、毛足の長いシャギーカーディガンとキャミソールのセット(1万1000円)、ショートパンツ(7000円)、ロング袖のカットソー(5500円)の4アイテム。セイナを担当するグローブの岩堀拓舞ファンコミュニケーション事業部部長によると、「初速がよく、最初の10分ほどで売り上げ目標の1/3ほどが売れた」という。サイトやSNS、ユーチューブなどでセイナ自身がコーディネートを組んだルックを掲載したり、着用していたこともあって、そのまま“マネキン買い”をする人も多かったようだ。インフルエンサー発のブランドというと、ステッカーやカットソー、パーカなど低単価や定番アイテムを打ち出しがちだが、「セイニーブロンド」はECだと売るのが難しい高単価の重衣料やセット販売に挑戦し、見事に成功させたと言える。今後もコーディネート提案は継続していく。

ブランドを広げる鍵は「購入者が気に入って拡散すること」

WWD:自分のファン以外にブランドをどう広げる?

セイナ:オンラインのみの展開なので、SNSが鍵になると思います。私の周りのインフルエンサーさんに似合いそうな「セイニーブロンド」のアイテムをギフティングしたり、私自身が着て発信したりしていますが、一番重要なのは購入者が気に入って着た姿を拡散してくれること。そうなるためには、やっぱりファンの人たちの気持ちにきちんと向き合っていかないと。

WWD:最近はインフルエンサーブランドが増えている。「セイニーブロンド」はどんな立ち位置を目指す?

セイナ:それは私も感じています。インフルエンサーがブランドを始めると「自分の知名度を生かしただけのお金儲けじゃないか」と見られることも多いのですが、私は「セイニーブロンド」をきちんとファッションブランドとして確立させたいと思っています。そのためには、商品へのこだわりや、制作過程をSNSやユーチューブなどでファンと共有してブランドへのこだわりを知ってもらいたいと考えています。ブランドSNSも投稿画像まで私が作っていて、世界観を崩さないように細部までこだわっています。サイトに掲載したルックやビジュアルも、コーディネートからヘアメイクまで自分でやっています。

WWD:こだわりをどう伝える?

セイナ:ブランドロゴやアイテムのデザイン画は下書き段階からファンに見せていきました。そうすると、ファンの子にも自分で書いているんだ、考えているんだというのをわかってもらえるし、背景が見えるので。

WWD:今後の目標は?

セイナ:2つあります。私もファンもディズニーが大好きなので、ディズニーコラボはしてみたいです!多店舗展開は考えていませんが、ブランドの世界観を体現しつつ、ファンの人達が楽しめる場として、一つでいいのでお店は出したい。勝手な理想ですが、「舞浜イクスピアリ(IKSPIARI:東京ディズニーリゾートの玄関口の商業施設)」に出店するのが夢です。

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「英国の美大発」「ロンドン起業」「透湿防水テキスタイル開発」、異色づくめの起業家、亀井潤が目指す先

亀井潤/アンフィコCEO

PROFILE:(かめい・じゅん)大阪府出身。東北大学工学部化学バイオ工学を卒業後、2015年に英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学。バイオミミクリー(生物模倣/生体工学)デザイナーとして活動を開始。18年11月にアンフィコを設立。2022年4月に英国王チャールズ3世と元アップルのデザイン最高責任者サー・ジョニー・アイヴが設立したTerra Carta Design Lab賞を受賞。現在はロンドンと日本を行き来している

 繊維商社の豊島は、英国のスタートアップ企業アンフィコ(AMPHICO)に出資した。アンフィコは、日本人の亀井潤が英国の名門美術大学であるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)での研究をスピンアウトして起業した異色のスタートアップ企業で、豊島はこれまで数々のスタートアップ企業へ出資してきたCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を通じて出資する。研究者から転身した異色の起業家である亀井潤氏の目指す先を聞いた。

WWD:ベースとなっているキャリアは?

亀井潤(以下、亀井):研究者としてのキャリアは、東北大学でのポリマーサイエンスです。いわゆるゴムやフィルム、プラスチックなどの素材の原料となるポリマーを研究していました。大学や大学院の同期は帝人や旭化成、東レなどの企業に就職していました。

WWD:2015年にデザイン系の大学院大学であるRCAに留学した。転機は?

亀井:ポリマーサイエンス自体の研究はやりがいもあったし、楽しかった。ただ、小さい頃から社会貢献に興味があって、もっとダイレクトに世の中の役に立ちたいという思いがあった。やっぱり材料科学、あるいはアカデミアの世界にいると、研究して論文を書いて特許を取って、と実際に世の中に出ていくまでが遠い。そこで材料科学から離れて、より事業化に近いプロダクトデザインの世界に飛び込もう、と。

WWD:RCAに留学して感じたことは?

亀井:2015年RCAに留学して、イノベーションエンジニアリングを主に研究&実践しました。正直、楽しかったですね。ポリマーサイエンス自体には、ものすごい可能性があるんですよ。「アンフィコ」の代名詞となっているリサイクル可能な透湿防水テキスタイルに関しても、実はポリマーサイエンス分野の研究者からするとそれほど目新しいやり方でないかもしれませんが、フッ素規制で新たな透湿防水素材が求められる中で、繊維業種ではまさにベストマッチ。これまで誰も試したことのないやり方でした。ポリマーサイエンスはプロダクトアウト的な要素も強くて、「いい素材が作れたから用途を探す」というのが一般的です。一方でプロダクトデザインの世界では、特定の用途やニーズをターゲットに作るという順番になる。どちらがいいというものではなく、考え方の違いです。

亀井:「ポリマーサイエンス」は例えるなら「料理」です。異なるポリマーを組み合わせることで、無限に近い可能性がある。ちょうど私が留学した2015年は、日本の人工タンパク質素材のスパイバーを筆頭に、米国サンフランシスコでは人工タンパク質素材のボルトスレッズ(BOLT THREADS)、人工レザーのモダンメドウ(MODERN MEADOW)など、素材のスタートアップが世界で同時多発的に台頭していました。数十年ぶりとも称される「素材革命」が世界で注目されていました。一方でポリマーサイエンスと聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、実際にやっていることの一部はペースト状の樹脂材料を混ぜたり、反応させたりして新しい材料を作ることもある。私の立場だと、「農地で必要な野菜を作って料理する」みたいなやり方になるのでそこは他のプロダクトデザイナーと比べても強みになっていたと思います。

WWD:豊島からの出資の経緯は?

亀井:18年10月に豊島と東京大学生産技術研究所がスタートした豊島寄付研究部門で教鞭を取っていたマイルス・ペニントン(Miles Pennington)教授が、RCA時代の教授だったことがきっかけです。なので豊島とは起業直後から、ペニントン教授から紹介を受け、交流を続けていました。

WWD:スタートアップ起業だが、なぜ「ゴアテックス」を筆頭に競合がひしめく「透湿防水素材」の開発を?

亀井:いわゆる「透湿防水素材」は、フッ素規制によって「ゴア一強」の時代が崩れて、さまざまな代替素材が登場する、群雄割拠の「戦国時代」に入りつつあります。引き続きデザインとリサーチ、販売に関してはロンドンを拠点にしつつ、モノづくりに関しては日本及びアジアで、というやり方です。イギリスにいると、合繊素材に関しては、北陸(石川県、福井県、富山県)企業が今なお世界屈指の高い生産技術力を有していることを実感しています。世界的に有力なスポーツ・アウトドアブランドと話していますが「北陸で開発&生産する」というだけで商談が前に進む。豊島を通じて日本企業と組めるのは、世界展開を考えれば強力な武器になっています。

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「ブルガリ」のバレンタイン限定チョコレートのアンバサダー三浦翔平に直撃 「大切な人に感謝を伝えてほしい」

 「ブルガリ イル・チョコラート(BVLGARI IL CHOCOLATO以下、ブルガリ)」は2月2日、バレンタイン限定“ョコレートサン・ヴァレンティーノ 2023”の発表会をブルガリ銀座タワーで行った。同イベントでは、スペシャルアンバサダーとして俳優の三浦翔平が登場。今年のバレンタイン限定チョコレートのテーマは、SDGs。人と人、人と自然の間が“アモーレ(愛)”で満たされるようにという願いが込められている。トークショーで三浦は、限定チョコレートのテイスティングをテイスティングしたり、“アモーレ“などについて語ったりした。発表会後に、三浦に限定チョコレートやバレンタインなどについて聞いた。

WWD:“サン・ヴァレンティーノ2023”のお気に入りのフレーバーは?

三浦翔平(以下、三浦):“グリーンレモン”ですね。爽やかな酸味とジャスミンの茶葉のマリアージュが素晴らしいです。

WWD:最近、“アモーレ”を感じた瞬間は?

三浦:2~3週間前にフランス・パリへ行っており、数日間自宅を留守にして帰宅したら、子どもが走って迎えに来てくれた時です。

WWD:バレンタインの過ごし方は?

三浦:今年は仕事だと思いますが、休みが合えば、どこか行きたいですね。

WWD:ここ、ブルガリ銀座タワーは「ブルガリ」のランドマーク的存在だが、訪れた印象は?

三浦:今回、初めて訪れました。10階のカフェは、すごくおしゃれですね。ランチなどで、また、訪れたいです。

WWD:“サン・ヴァレンティーノ2023”のアンバサダーに就任した感想は?

三浦:光栄です。今年のテーマはSDGsでもあるし、チョコレートの魅力とSDGsに関して発信できればと思います。そして、皆さんに、大切な人に“サン・ヴァレンティーノ2023”を通して感謝や、通常言えないことを伝えてほしいです。

SDGsはできることから取り組む

WWD:今回の「ブルガリ イル・チョコラート」との関わり合いで意識したSDGsとは?

三浦:環境問題はとても深刻だと思います。例えば、フードロスに関しては、買いすぎない、レストランで頼みすぎないとか、無駄を減らすこと。電気をこまめに切ったり、マイボトルを持ち歩いたりという小さいことでも、できることから取り組むのが大切だと思います。海洋資源の問題については関心が高いので、例えばゴミ拾いなど、僕なりに参加できる活動をしていきたいです。

WWD:「ブルガリ イル・チョコラート」が都内の工房でつくられるプロセスは役作りにも共通すると思うが、役作りに関しては?

三浦:役作りは作品によりケース・バイ・ケース。いろいろな事が起こるので、瞬発力や対応力が必要ですね。

WWD:バレンタインのお返しに「ブルガリ」のジュエリーやバッグ、食事などプレゼントするとしたら?

三浦:いただく方やモノとの関係性次第ですが、その人に合ったものを贈りたいです。

WWD:今後チャレンジしたいことは?

三浦:声のお仕事をしたいです。特に映画「名探偵コナン」に出演したいですね。毎年楽しみなので。子どもが成長する過程で見るだろうと思われるさまざまなアニメのキャラクターの声優にチャレンジしてみたいですね。

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ユニクロ「UT」河村康輔とスケーター上野伸平が語る巨大スケートパーク誕生秘話

 手のひらをパンッと合わせた後、拳と拳を軽くぶつけるスケーター流の挨拶があちこちで行われている。ここは、どこかの公園でも街中でもない、原宿のど真ん中にあるビル(屋内)の一角だ。1月27〜29日、ユニクロのグラフィックTシャツブランド「UT」でクリエイティブ・ディレクターを務める河村康輔と、スケートボーダーの上野伸平によって開催されたポップアップイベント「UT SKATE PARK」の会場に、30m程の巨大なスケートパークが作られた。それに引き寄せられるかのように、多くのスケートボーダーがフリースケートを楽しんでいる。太いボトムスに色違いのコラボTシャツを着て、キャップを深く被ったスケーターたちは、みんな個性的でかっこいい。時折、わき立つ歓声の中には、一般客の姿も多く、スケーターたちが着ているTシャツを憧れの眼差しで手に取っている。オーバーグラウンドな「UT」とアンダーグラウンドなスケートボードは、ひと昔前であれば交わることはなかったかもしれない。2つは、どのように出合ったか?河村と上野に話を聞いた。

――お二人の出会いは?

上野伸平(以下、上野):コロナ前の2019年だったと思うんですけど、共通の友人であるKILLER-BONG(アーティスト)が、彼と河村君のエキシビションに呼んでくれたのがきっかけです。そこで河村君を紹介してくれました。

河村康輔(以下、河村):そうだ、そうだ。その前から伸平君を紹介したいって言われていたんですけどなかなかタイミングが合わず、1年ぐらい経ってそこでやっと会えたんです。その場で仲良くなって「何か一緒にやりたいね」って、すぐに話が進んでいきました。

上野:こういうのって誰に紹介されるかで、入り方が全然違うんです。KILLER-BONGもすごいアバンギャルドな人で、彼が誰かを紹介したいってあまりないので、それはすごい印象的でしたね。俺は気に入った人とはすぐ「(コラボを一緒に)やりましょう」っていうタイプなんで、河村君ともすぐに意気投合した。それで、俺は河村君っぽいシュレッダーの作品を使いたかったんで、ネタは「USのエロ本にしましょう」ってお願いして、スケートボードとTシャツを作りました。それが最初のコラボですね。

――アーティストやスケーター、デザイナーとそれぞれ活躍の場が違いますが、ウマが合うなと感じた理由は?

上野:河村君はバンドカルチャーとかハードコア周りでしょ?だから、古い言い方かもしれないけど、アンダーグラウンドなシーンは一緒なので、波長はもともと合ったんだと思います。

河村:その感覚は、会って話せばわかるよね。

「スペシャリストに任せた方が絶対いい」(河村)

――今回の「UT」とのコラボで、河村さんから上野さんにリクエストしたことは?

河村:僕は、その分野のスペシャリストに任せた方が100%いいと思っているので、僕からは特に何もリクエストしていません。何かを見たりしてカルチャー的になんとなく分かっていても、自分がそこにいるわけじゃないから現場にいる人たちの方がリアルに決まっている。どれだけ情報を集めて武装しても現場には勝てないんです。だからそのまま好きなものをやってもらった方が一番かっこいいものが出来上がるし、信頼しているからこそお願いしている。普段から伸平君が手がける「タイトブース(TIGHTBOOTH)」の服作りを見せてもらっていて、こだわりが強いのも、細部まで手を抜かないのも分かっていましたし。

上野:ほんとに河村君からは「伸平君の好きにやってくれたらいい」って言われただけでしたね。自分も信頼されているからこそ、「任せてください。いい感じにしますから」って。信頼関係があるとあんまり打ち合わせしなくてもいいんですよ。こうすれば河村君が喜ぶだろうなっていうのはなんとなく分かるし、お互いいいものを作るっていう気持ちは同じだから、波長や感覚が合っているとざっくり話すだけで成立するんです。

――やりとりは河村さんの作品に上野さんがアレンジして進めるんですか?

上野:そうです。河村君のものを俺がいじって、俺のものにするっていう手法ですね。

河村:ほかのプロジェクトは、逆にネタを投げてもらってこちらで手を入れて戻すパターンが多いので、伸平君とのやりとりは新鮮ですね。僕のインスタとかから絵を選んでくれて、そこから絵型をとってアレンジして、「こんな感じでどうですか?」みたいに送ってきてくれます。それでお互いに「いいね」ってなったら「じゃあ大きい元データを送るね」って感じで、それでだいたい終わります。

上野:俺は描き下ろしとか撮り下ろしにあんまりこだわっていないんです。一見そっちの方が付加価値があるように見えるけど、既に世の中にあるものの価値も揺るがないと思っています。それを自分のフィルターを通して全く違うものに見せられるのであれば、それもありかなって。

「コラボは必ずスケートボーダーに還元」(上野)

――スケートパークを屋内に作るアイデアは上野さんが提案したんですか?

上野:そうですね。自分の中でルールがあって、スケートブランド以外の企業やブランドとコラボするときは、必ずスケートボーダーに還元してほしいというのを条件にしています。それ以外はやらない。河村君からオファーをもらったときも、「絶対にスケートでみんなが楽しめるような場所を作りたい」と伝えていました。だから今回作ったセクションは、イベント後にどこかのスケートパークに寄贈して、スケートボードの発展に繋げていく。みんなが豊かになるような方法で動きたいと思っています。「上野伸平って『ユニクロ』とコラボしたんだ……へぇ」みたいに言う奴らはいっぱいいるんですよ。自分もどっちかっていうとそういうサイドにいるんで、そういう奴らも黙らせる行動をとりたいと思っています。だからどんなことを言われても、結果的にそのセクションでみんながグラインドすればかっこいいっていうのが自分の中にはある。それで、最初に「スケートパークを作らせてください」ってお願いしました。

河村:フィールドが違ってもお互いアンダーグラウンドの世界にいるからこそ、そこにどう還元するかがこのカルチャーで一番肝心なのは、自分でもよく分かっています。だから、それ込みじゃないと成立しないのは当たり前のことなんですよね。

上野:ただ実際、こういう話をするとスケートパークを作ってスケートさせることにあまりポジティブじゃない人もいるんですよね。予算もあるし、そもそも作るのが大変でもあるし……。でも河村君にこの話をしたとき、「いいね!」「絶対やろう」って言ってくれた。そういう人が「UT」のクリエイティブ・ディレクターを務めていることがうれしいですね。

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暗い時代も「ロジェ ヴィヴィエ」が放ち続ける光 デザイナーが語る”カワイイ”を追求する原動力

 フランス発のシューズ&バッグブランド「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」は1937年の設立当初から、キラキラとワクワクを詰め込んだ幻想的なモノ作りを追求する。2018年にイタリア・トスカーナ出身のゲラルド・フェローニ(Gherardo Felloni)=クリエイティブ・ディレクターが就任し、ヘリテージブランドの伝統を継承しながら女性に寄り添い、現代の空気もつかむ。23年春夏コレクションとともに、ブランドの世界観を体現するような明るさと茶目っ気を持つ同氏のクリエイションの源を探った。

WWD:「ロジェ ヴィヴィエ」がイメージする女性像は?

ゲラルド・フェローニ=クリエイティブ・ディレクター(以下、ゲラルド):実際「みんな」に向けて作っている。多様な女性がいるのに女性像を定めることも難しいし、カテゴリー分けするのもフェアじゃない気がする。ようやく社会の期待から自由になってシューズやバッグを選べるようになった。女性が自由を謳歌できるようになったことは、本当に美しい。それでもイメージするなら、少なくとも自信のある女性かな。このシューズを履きこなすには、自分自身に対する心地よさと、自信があるといい。そんなアティチュードを見るのが大好き。

WWD:自信をくれるようなアイテムでもある。

ゲラルド:モノ作りで一番大切にしている部分。全てのアイテムを手掛けるとき、女性のために作っていることを思い出す。だからヒール一つをとっても、ジーンズからスカート、パンツスタイル、ショートパンツまで、なんでも合わせられるように考える。履き心地ももちろん大事。(着方やふるまいに対して)上から偉そうに押し付けたくもないし、してきたことはない。自分が美しいと感じて、意味があるもの、愛するものを追求しているんだ。

WWD:その原動力は?

ゲラルド:いつだって最後に“勝つ”のは楽しさだと思う。シンプルで暗いトーンを着たい気分の日もあれば、明るくいきたい日もある。それは当たり前のこと。ただ、デザイナーとしては最低限、「ワクワクするもの」を提案し続けないといけないと思う。現実世界の悲しいことやつまらないことから少し離れられるよう、うれしさや楽しさ、ワクワクする気持ちを引き出すことが自分の役割だと思っているし、ファッションにとっても大切なこと。

WWD:ここ数年、社会も変化して暗い気持ちになることも多い。それでも「ワクワク」を保つことに難しさは感じない?

ゲラルド:ファッションは、世の中で起こっていることの“マニフェスト”なんだ。意見を持つことも大事だし、発信も必要。ただ、ファッションで世界は変わらない。ある一日はなんでもうまくいく!と思ったら、次の日には大きな不安に襲われるような日々が続く中でも、どうにか楽しみを見つけて生きることはできる。(創業者の)ロジェ・ヴィヴィエ自身も、ブランドもずっとそうしてきた。歴史的に見ても、暗い時代が続いたときほど、クリエイティブな人、特にデザイナーはハッと輝くものを世に生む。

WWD:そのアティチュードは2023年春夏コレクションでどのように表現した?

ゲラルド: 自分のアプローチは、ロジェそのものなんじゃないかな。彼はファッションや人生に対して、ほどよく“不真面目”だった。いつだって遊び心が溢れている。今シーズンは「フラワー・インベージョン(花の侵略)」をテーマに、カラフルさを全面に出したコレクションを手掛けた。シルクを使ったふわふわのカバンや、やりすぎ!ってくらいカワイイシューズがたくさん登場する。いつだって少し笑顔になるようなものを手掛けたいと思っている。

WWD:それも品質があってのこと。

ゲラルド:間違いない。こんなに真面目に“おふざけ”ができるのも、モノ作りの基礎が備わっているから。サヴォアフェール(受け継がれる職人技術)とその歴史があってこそ、「ロジェ ヴィヴィエ」の個性が輝く。創業者のロジェは、初めてオートクチュールの技法をシューズ作りに持ち込んだ人物と言っても過言ではない。リボンや帽子に使われるような花飾りをシューズにつけるなど、今では当たり前の刺しゅうや装飾づかいをロジェは真っ先に取り入れた。このコレクションではそういったディテールを現代風に再解釈した。サテンを使ったハンドメードの伝統的なシューズも、ビビッドな色使いで目をひくよう仕上げた。派手な色使いや装飾は(繊細な技術を要する)“クチュール”っぽくないと思われやすいが、職人技を追求している。

WWD:日本市場に期待することは?

ゲラルド:日本は特に大好きだが、届けたいメッセージは世界どこに対しても同じ。ただ日本市場は最も難しいマーケットの1つで、洗練されているイメージがある。文化にはストーリーがあり、ファッションには素晴らしいセンスがある。この市場で支持されるのは簡単ではない。それもあって日本市場に最初に受け入れられたときのことは、すごく印象に残っている。日本の市場に改めて届けたいのは「ロジェ ヴィヴィエ」の歴史と、ブランドの魅力、本質。ロジェが生んだ技術は今や当たり前に目にするようになったが、その中でも“本物”を極めるなら「ロジェ ヴィヴィエ」だろう。僕自身もこれまでロジェの手掛けるものにインスピレーションをたくさん受けてきた。(もう就任5年なので)“正式に”ブランドコードを追求できているんだ。

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暗い時代も「ロジェ ヴィヴィエ」が放ち続ける光 デザイナーが語る”カワイイ”を追求する原動力

 フランス発のシューズ&バッグブランド「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」は1937年の設立当初から、キラキラとワクワクを詰め込んだ幻想的なモノ作りを追求する。2018年にイタリア・トスカーナ出身のゲラルド・フェローニ(Gherardo Felloni)=クリエイティブ・ディレクターが就任し、ヘリテージブランドの伝統を継承しながら女性に寄り添い、現代の空気もつかむ。23年春夏コレクションとともに、ブランドの世界観を体現するような明るさと茶目っ気を持つ同氏のクリエイションの源を探った。

WWD:「ロジェ ヴィヴィエ」がイメージする女性像は?

ゲラルド・フェローニ=クリエイティブ・ディレクター(以下、ゲラルド):実際「みんな」に向けて作っている。多様な女性がいるのに女性像を定めることも難しいし、カテゴリー分けするのもフェアじゃない気がする。ようやく社会の期待から自由になってシューズやバッグを選べるようになった。女性が自由を謳歌できるようになったことは、本当に美しい。それでもイメージするなら、少なくとも自信のある女性かな。このシューズを履きこなすには、自分自身に対する心地よさと、自信があるといい。そんなアティチュードを見るのが大好き。

WWD:自信をくれるようなアイテムでもある。

ゲラルド:モノ作りで一番大切にしている部分。全てのアイテムを手掛けるとき、女性のために作っていることを思い出す。だからヒール一つをとっても、ジーンズからスカート、パンツスタイル、ショートパンツまで、なんでも合わせられるように考える。履き心地ももちろん大事。(着方やふるまいに対して)上から偉そうに押し付けたくもないし、してきたことはない。自分が美しいと感じて、意味があるもの、愛するものを追求しているんだ。

WWD:その原動力は?

ゲラルド:いつだって最後に“勝つ”のは楽しさだと思う。シンプルで暗いトーンを着たい気分の日もあれば、明るくいきたい日もある。それは当たり前のこと。ただ、デザイナーとしては最低限、「ワクワクするもの」を提案し続けないといけないと思う。現実世界の悲しいことやつまらないことから少し離れられるよう、うれしさや楽しさ、ワクワクする気持ちを引き出すことが自分の役割だと思っているし、ファッションにとっても大切なこと。

WWD:ここ数年、社会も変化して暗い気持ちになることも多い。それでも「ワクワク」を保つことに難しさは感じない?

ゲラルド:ファッションは、世の中で起こっていることの“マニフェスト”なんだ。意見を持つことも大事だし、発信も必要。ただ、ファッションで世界は変わらない。ある一日はなんでもうまくいく!と思ったら、次の日には大きな不安に襲われるような日々が続く中でも、どうにか楽しみを見つけて生きることはできる。(創業者の)ロジェ・ヴィヴィエ自身も、ブランドもずっとそうしてきた。歴史的に見ても、暗い時代が続いたときほど、クリエイティブな人、特にデザイナーはハッと輝くものを世に生む。

WWD:そのアティチュードは2023年春夏コレクションでどのように表現した?

ゲラルド: 自分のアプローチは、ロジェそのものなんじゃないかな。彼はファッションや人生に対して、ほどよく“不真面目”だった。いつだって遊び心が溢れている。今シーズンは「フラワー・インベージョン(花の侵略)」をテーマに、カラフルさを全面に出したコレクションを手掛けた。シルクを使ったふわふわのカバンや、やりすぎ!ってくらいカワイイシューズがたくさん登場する。いつだって少し笑顔になるようなものを手掛けたいと思っている。

WWD:それも品質があってのこと。

ゲラルド:間違いない。こんなに真面目に“おふざけ”ができるのも、モノ作りの基礎が備わっているから。サヴォアフェール(受け継がれる職人技術)とその歴史があってこそ、「ロジェ ヴィヴィエ」の個性が輝く。創業者のロジェは、初めてオートクチュールの技法をシューズ作りに持ち込んだ人物と言っても過言ではない。リボンや帽子に使われるような花飾りをシューズにつけるなど、今では当たり前の刺しゅうや装飾づかいをロジェは真っ先に取り入れた。このコレクションではそういったディテールを現代風に再解釈した。サテンを使ったハンドメードの伝統的なシューズも、ビビッドな色使いで目をひくよう仕上げた。派手な色使いや装飾は(繊細な技術を要する)“クチュール”っぽくないと思われやすいが、職人技を追求している。

WWD:日本市場に期待することは?

ゲラルド:日本は特に大好きだが、届けたいメッセージは世界どこに対しても同じ。ただ日本市場は最も難しいマーケットの1つで、洗練されているイメージがある。文化にはストーリーがあり、ファッションには素晴らしいセンスがある。この市場で支持されるのは簡単ではない。それもあって日本市場に最初に受け入れられたときのことは、すごく印象に残っている。日本の市場に改めて届けたいのは「ロジェ ヴィヴィエ」の歴史と、ブランドの魅力、本質。ロジェが生んだ技術は今や当たり前に目にするようになったが、その中でも“本物”を極めるなら「ロジェ ヴィヴィエ」だろう。僕自身もこれまでロジェの手掛けるものにインスピレーションをたくさん受けてきた。(もう就任5年なので)“正式に”ブランドコードを追求できているんだ。

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服作りの“五輪”で金・銅メダル うら若き縫製士2人のやりがい、涙、夢

 大手アパレルのTSIホールディングスは、国内に縫製工場2拠点を有する。その一つが宮崎・都城のTSIソーイング宮崎だ。アパレルの生産現場の高齢化や人材不足がいわれる中、若い芽が着実に育っている。

 縫製士として働く田代まどかさん(24)は、モノ作りなどに携わる23歳以下で競う「技能五輪全国大会」(中央職業能力開発協会主催)の2021年大会に出場し、最高賞の金賞を受賞した。同工場の縫製士としては初めての快挙だ。後輩の大良彩華さん(21)も、22年大会で銅賞と健闘。2人に仕事のやりがいや夢を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」1月16日号からの抜粋です)

WWDJAPAN(以下、WWD):金賞を取るまでは大変でしたか。

田代:4回目の出場で、ようやく取れました。銅、銀、銀とあと一歩のところで逃してきたので、喜びも大きかったですね。

大良:私は銅賞には全然満足出来ていなくて。今は次の技能五輪に向けた課題でもある(パンツやジャケットなどの)ポケットがうまく縫えるよう、毎日特訓しています。

WWD:仕事の面白みは?

田代:「新人はまずアイロンがけから」という下積みが長い工場もあると聞きますが、私はジャケットやパンツを1人で丸縫いさせてもらっています。最近は仕様書を見ただけで、完成品が頭の中でパズルのようにシミュレーションできるようになってきました。私、プロじゃん!みたいな(笑)。

大良:毎日ひたすら服と向き合う仕事ですが、パターンとか見て縫い方を研究するのが不思議と楽しくて。ただ私はまだ丸縫いはできなくて、3人で一着を縫う分業ラインにいます。早くひとり立ちしたいです。

WWD:大変なことも多い?

大良:失敗してやり直しすることは、今でもしょっちゅう。いまだに合皮が苦手なんですよね。冷や汗をかきながら縫います。

田代:私も、入社してすぐの時は、泣いて縫った服があったよ。ベルト付きのパンツの上から、巻きスカートをドッキングするという特殊な依頼でした。パンツの素材に合わせて太い糸を使ってほしいと言われたけれど、それでスカートのシフォン素材をきれいに縫いつけるのがどうしてもできなくて。結局、ブランド側にお願いして細い糸に変えてもらいました。あの時は本当に悔しくて、流した涙が忘れられないな。

自分が縫った服を見て、
またミシンを踏みたくなる

WWD:毎日のモチベーションは?

田代:やっぱり自分が縫った商品を見ることです。技能五輪のための勉強会で都内に行ったとき、アパレルショップをのぞいてみたら「私が縫った服だ!」って。それを見て、また泣きそうになりました(笑)。

大良:その気持ち、分かります。私もプチプラショップで買うことはあります。でも現場の働いている身としては、置いてある服を見ると、「もうちょっと高くせんと職人さんがかわいそう」って複雑な気持ち。

WWD:百貨店ブランドなどの高価な服も縫っている。プレッシャーは?

田代:自分が縫った服のタグを見たら「10万円」でびっくりしたこともあります。かといって、(売価が)2、3万円だから手を抜くかと言われたら、そんなこともなくて。

大良:「ユニクロ」とかの服を眺めると、外国製で安いのに、縫製がきれいでびっくりします。だから自分たちはそれ以上の仕事をしなきゃ、と気が引き締まります。

WWD:今後の目標は。

大良:私はまず、技能五輪で金賞を取る。知識や技術がついてきたら、パターンとかデザインとか、服作りに関わる色々なことを学んでみたいです。

田代:私は舞台衣装がきっかけで縫製に興味を持ったので、いつかはハンドメイドの服を売る店を持ちたいです。

WWD:後輩の職場に縫製現場を薦める?

大良:私は入社する前、「職人さん怖そうだな」「ついていけるかな」という不安もありました。でもやる気がある若手がいることは、先輩方もやっぱりうれしいみたいで。

田代:正直、大変な現場だと思います。同期も私以外はみんなやめてしまいました。でも自分の力で1着が縫えたときの達成感、感動はひとしおです。単純作業で、つまらなそう。そんなイメージなら、「とりあえず見にきて!」って言いたいです。

モノ作りのスキルを競う全国大会
「技能五輪」

 「技能五輪全国大会」は、国内のモノ作りなどに携わる青年技能者(原則23歳以下)が技量を競う全国大会。田代さん、大良さんが出場した「縫製」種目は10時間の時間内に、支給されたウール地やポリエステル裏地を使い、1着のスーツジャケットを縫い上げるのが課題。シルエットや身頃の芯の張り方、襟全体のバランスや袖口の手まつりまで細かく採点項目が定められる。全42の種目は電気溶接、日本料理、ウェブデザインなど領域は多岐にわたる。

■TSIソーイング宮崎
最新設備を導入 スキルが高い人材を育む土壌に

 TSI宮崎工場には若い人材が育つ理由、また育てる理由がある。

 同工場は1987年、大手アパレルのワールドの直営工場として稼働し、2015年にTSIグループに譲渡された。主な生産品はパンツ、ジャケット、ブラウス、ワンピースで、自社ブランドでは「マーガレット・ハウエル」「パーリーゲイツ」などの生産を担う。ただ近年はグループの事業整理に伴い自社ブランド生産の割合が減少。あいた縫製ラインの活用として他社OEMを強化している。「エストネーション」「ユナイテッドアローズ」といった国内ミドルアッパークラスのセレクトショップ・百貨店ブランドのOEMが、生産数・取引金額で大部分を占める。

 ワールド時代から工場の変遷を知る西内渉TSIソーイング社長は、「今や当工場の生産枚数は全盛期(90年代、年間約200万枚)の半分以下。1000〜2000枚だったロット単位での平均生産枚数は、130〜140枚に減った。量のある発注は全て海外に流れる。クオリティーとQR(クイックレスポンス)のスピード感で勝負するしかない」と語る。

 取引先のニーズに応えるべく、少量・高付加価値なモノ作りができる生産体制へシフトしてきた。それに伴い、縫製士に求められるスキルも変化している。「大量生産であれば、縫製ラインに多くの人材を投入し、パーツごとに縫う単能工で生産性を上げるのが正解。ただロット数が絞られてきた今は、1人でクオリティーの高い一着を縫い上げることができる多能工の必要性が増している」。

 そのような理由から、田代さん、大良さんのように、若手のうちから丸縫いができるまでの高いスキルを持つ人材育成に力を入れる。同工場は近年、新卒社員を毎年十数人規模で採用。現在は従業員約120人のうち約3割が20〜30代となっている。

 ただ、これまで通りの工場の仕組みでは、育成に人材を割く余裕がない。そこで活用するのがデジタルの力。最新機器の導入で生産ラインを効率化し、若い縫製士の負担を減らすとともに、経験のある職人が人材指導にあたれるようになった。島精機製作所の最新自動裁断機P-CAMの導入(2020年)でパターンカットの効率が向上しリードタイムの短縮につながっている。縫製ラインにおいても順次導入しているブラザー社の新型ミシンは、糸調子などの設定を保存しワンタッチで呼び出すことができる。これにより縫う素材や仕様ごとに複雑なセッティングをし直す必要がなくなるため、経験の浅い縫製士の負担を減らしている。

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ジュンが取り組むOMO「チャット接客」満足度85%を実現した接客術とは?

 近年アパレルのEC化が進み、オンライン上の競争が激化している。その中でチャットを用いたオンライン接客が注目を受け、大手アパレルやストリート系ECなどでチャットサービス「チャネルトーク」の導入が進んでいる。中でもジュン(JUN)はOMO(Online Merges with Offline)戦略の一環としてオンライン接客に注力しており、チャットを活用。満足度85%、コンバージョン率40%と成果をあげている。

 このような結果に結びつく、チャット接客の“感動体験”とはどんなものか。ジュンの中嶋賢治取締役執行役員と、チャネルトークの玉川葉チャネルコーポレーション本国取締役兼日本CEOに聞いた。

ジュンが目指すOMOは
「店舗のような体験」が鍵

WWD:EC化率35%と高い成果を挙げているが、OMO戦略の中でECをどのように位置付けている?

中嶋賢治ジュン 取締役執行役員(以下、中嶋):EC化率は重要ではない。われわれはこの時代を乗り越える利益志向の筋肉質経営とそれを支える顧客基盤作りを目標としている。買い手と一期一会の関係ではなく、顧客基盤を厚くするため「顧客」を第一に考える中で、その顧客行動がオムニチャネル化しているため、OMO戦略を強化している。

実際、昨年のゴールデンウイークは人の流れが回復し、各店舗にも客足が戻った。ECは売り上げこそ微減となったが、アクセス数は通常の1.5倍に増えた。店舗を訪れる前にオンラインショップで情報をチェックするというチャネルをまたいだ行動が一般化している。

WWD:OMOで最も注力するべきは?

中嶋:オンラインとオフラインのサービス水準をイコールにすることを目指している。情報のクオリティーを高めること、在庫をオフラインと合わせて管理することに加え、差別化のために“接客のOMO”に力を入れている。

玉川葉チャネルコーポレーション本国取締役兼日本CEO(以下、玉川):お客さまは店舗かECかというよりも「ブランドから買う」という感覚なので、なぜオンラインとオフラインでサービスの質が違うのかと考える。昨年は、このことに気がついた実店舗を持つ大手アパレルECのチャット接客導入が目立った。特にジュンは、店舗とオンラインで同レベルの接客体験を徹底的に追求していることが成功している理由だと思う。

WWD:接客を通した顧客作りがEC成長の鍵?

玉川:日本市場は人口も減少しており、新規顧客獲得は難しい。そのため“お得意さま”とも言えるVIP顧客をどれだけ作れるかが戦略の肝になる。実際、チャネルトークを導入している大手アパレルECは、チャット接客を通して実店舗のように売り上げを作ったり、感動体験を届けることでお得意さまを作るのが当然という風潮になっている。ジュンに関してはさらに一歩進み、接客で得た顧客の声を収集してサイトやコンテンツの改善まで行っている。

中嶋:日本のアパレルは今まで商品を作りすぎて、値引きしてでも販売せざるを得ない状況だった。われわれもシーズンエンドにセールで在庫を売り切ることを前提に生産をしてきたが、そのやり方から方向転換しつつある。企業が筋肉質な体質になって正規価格で売り切っていくことで、商品価値を毀損せず、利益体質もよくなる。そのためにはECでも店舗でも同じサービスを受けられるようにすること、チャネルを超えてお客さまとの接点を作り、接客を通して一人一人にお得意さまになっていただくことが大事だ。

チャット接客で得た
「顧客の声」でECを改善

WWD:どのようにECの接客体験を設計している?

中嶋:ECでは画像と動画、テキストでしかコミュニケーションできないので、それらが不便でない質で保たれ、自分で商品が選べるレベルであることが大前提。その次に自分で選べないお客さまへのアドバイスが必要だ。EC側にもチャット接客の販売員を配置したことでお客さまの悩みを聞けるようになり、お客さまからも「言葉だけでなく画像での接客が実店舗に近く感じた」「ブランドイメージもさらに好印象になり、今後もさらに購入したい!」と感動のお声をいただいている。

玉川:日本の接客レベルは世界一で、オフラインの体験が良すぎることも日本全体のEC化率が低い理由だと思う。「ECでも接客してもらえる」ということはお客さまが感動するポイントになるはずだ。

中嶋:現在ECではもともと店頭で働いていた15人の販売員がチャット接客をしている。メンバーはチャネルトークのシステム上で他の販売員の上手な対応方法を見たり、互いに情報共有したりしながら日々良いチャット接客ができるように学んでいる。販売員からの提案でできた機能もあり、それがコーディネートのコラージュ画像を活用した接客だ。

WWD:顧客からの要望はどのように上がってくる?

中嶋:日報が役立っている。ECの改善案も出ていて、販売員が指摘したEC上の情報抜けや画像の変更点などは翌日にはサイトに反映するのがルールになっており、圧倒的なスピードでPDCAを回せている。お客さまに最適なUI/UXを聞くことはできないが、日々お客さまと向き合う販売員が教えてくれる。

商品にもお客さまの声を反映している。これまでも店舗の販売員に商品の反応をヒアリングしてきたが、ECでは顧客がどういう機会に、何と何を比較して選んだかといった経緯もニーズも分からない。そういった情報をチャット販売員が伝えてくれるのも日報の役割だ。チャットを活用し始めた当初は、ここまで情報を活用するとは考えられなかった。

チャット接客で悩みを解決し
“お得意さま”を生む

WWD:チャット接客は満足度85%と好評だ。満足度につながるポイントは?

中嶋:チャネルトークはチャットツールでありCRM(Customer Relationship Management)なので、リピート客の情報が分かり、能動的にお客さまに商品提案できている。チャネルトーク以外のサービスでは顧客と一期一会の関係だったので、大きな変化だ。またチャネルトークを導入してからは、決済や配送といったお問い合わせの一次対応に関してはボットが返信している。

玉川:多くの場合、ボットはお客さまの話を聞く時間を減らすために導入されるが、ボットは早く返事をすることでお客さまの利便性を上げる使い方が正しい。ジュンはボットの活用と販売員による対応を出し分けていることが、お客さまの満足度にもつながっているのではないか。

中嶋:オンライン接客の目的は売ることではなく、お客さまの悩みを解決してお得意さまになっていただくこと。チャットで見る指標はコンバージョン率(Conversion Rate、CVR)ではなく、何件相談を受けたか、接客後アンケートでどれだけグッドコメントをもらえたか、お客さまをお待たせしなかったかという満足度につながるものだ。

玉川:CVRを上げるためにたくさんポップアップを表示して商品を勧めるECもあるが、そのせいで離れてしまう人のことはトラッキングできない。CVRだけにこだわるとライフタイムバリュー(LTV)は下がってしまう。顧客との関係を作ること、そのためにCRMを使うことが利益につながると考えている。

外商のような
手厚いVIPサービスも
チャット接客で

WWD:今後はチャット接客をどう進化させる?

中嶋:今後は百貨店の外商のように、顧客にパーソナルに寄り添うサービスをやりたいと考えている。弊社だけで購入してもらうためには“ここでしか得られない”という体験価値がないといけない。そういった質の高いサービスを非対面で提供するには、データによるアシストが必要なので、どう取り組むか考えていきたい。

玉川:チャネルトークとしてもお得意さまを分析して増やすための機能を準備している。また、チャットだけが重要だとは考えておらず、メールやLINE、インスタグラム(Instagram)のダイレクトメッセージ(DM)の会話も一元化できる。お客さまが好きなコミュニケーション方法を選べるといい。そのため、今後は電話接客機能も提供予定だ。

INTERVIEW & TEXT : ANNA USUI

問い合わせ先
チャネルトーク
info-jp@channel.io

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ジュンが取り組むOMO「チャット接客」満足度85%を実現した接客術とは?

 近年アパレルのEC化が進み、オンライン上の競争が激化している。その中でチャットを用いたオンライン接客が注目を受け、大手アパレルやストリート系ECなどでチャットサービス「チャネルトーク」の導入が進んでいる。中でもジュン(JUN)はOMO(Online Merges with Offline)戦略の一環としてオンライン接客に注力しており、チャットを活用。満足度85%、コンバージョン率40%と成果をあげている。

 このような結果に結びつく、チャット接客の“感動体験”とはどんなものか。ジュンの中嶋賢治取締役執行役員と、チャネルトークの玉川葉チャネルコーポレーション本国取締役兼日本CEOに聞いた。

ジュンが目指すOMOは
「店舗のような体験」が鍵

WWD:EC化率35%と高い成果を挙げているが、OMO戦略の中でECをどのように位置付けている?

中嶋賢治ジュン 取締役執行役員(以下、中嶋):EC化率は重要ではない。われわれはこの時代を乗り越える利益志向の筋肉質経営とそれを支える顧客基盤作りを目標としている。買い手と一期一会の関係ではなく、顧客基盤を厚くするため「顧客」を第一に考える中で、その顧客行動がオムニチャネル化しているため、OMO戦略を強化している。

実際、昨年のゴールデンウイークは人の流れが回復し、各店舗にも客足が戻った。ECは売り上げこそ微減となったが、アクセス数は通常の1.5倍に増えた。店舗を訪れる前にオンラインショップで情報をチェックするというチャネルをまたいだ行動が一般化している。

WWD:OMOで最も注力するべきは?

中嶋:オンラインとオフラインのサービス水準をイコールにすることを目指している。情報のクオリティーを高めること、在庫をオフラインと合わせて管理することに加え、差別化のために“接客のOMO”に力を入れている。

玉川葉チャネルコーポレーション本国取締役兼日本CEO(以下、玉川):お客さまは店舗かECかというよりも「ブランドから買う」という感覚なので、なぜオンラインとオフラインでサービスの質が違うのかと考える。昨年は、このことに気がついた実店舗を持つ大手アパレルECのチャット接客導入が目立った。特にジュンは、店舗とオンラインで同レベルの接客体験を徹底的に追求していることが成功している理由だと思う。

WWD:接客を通した顧客作りがEC成長の鍵?

玉川:日本市場は人口も減少しており、新規顧客獲得は難しい。そのため“お得意さま”とも言えるVIP顧客をどれだけ作れるかが戦略の肝になる。実際、チャネルトークを導入している大手アパレルECは、チャット接客を通して実店舗のように売り上げを作ったり、感動体験を届けることでお得意さまを作るのが当然という風潮になっている。ジュンに関してはさらに一歩進み、接客で得た顧客の声を収集してサイトやコンテンツの改善まで行っている。

中嶋:日本のアパレルは今まで商品を作りすぎて、値引きしてでも販売せざるを得ない状況だった。われわれもシーズンエンドにセールで在庫を売り切ることを前提に生産をしてきたが、そのやり方から方向転換しつつある。企業が筋肉質な体質になって正規価格で売り切っていくことで、商品価値を毀損せず、利益体質もよくなる。そのためにはECでも店舗でも同じサービスを受けられるようにすること、チャネルを超えてお客さまとの接点を作り、接客を通して一人一人にお得意さまになっていただくことが大事だ。

チャット接客で得た
「顧客の声」でECを改善

WWD:どのようにECの接客体験を設計している?

中嶋:ECでは画像と動画、テキストでしかコミュニケーションできないので、それらが不便でない質で保たれ、自分で商品が選べるレベルであることが大前提。その次に自分で選べないお客さまへのアドバイスが必要だ。EC側にもチャット接客の販売員を配置したことでお客さまの悩みを聞けるようになり、お客さまからも「言葉だけでなく画像での接客が実店舗に近く感じた」「ブランドイメージもさらに好印象になり、今後もさらに購入したい!」と感動のお声をいただいている。

玉川:日本の接客レベルは世界一で、オフラインの体験が良すぎることも日本全体のEC化率が低い理由だと思う。「ECでも接客してもらえる」ということはお客さまが感動するポイントになるはずだ。

中嶋:現在ECではもともと店頭で働いていた15人の販売員がチャット接客をしている。メンバーはチャネルトークのシステム上で他の販売員の上手な対応方法を見たり、互いに情報共有したりしながら日々良いチャット接客ができるように学んでいる。販売員からの提案でできた機能もあり、それがコーディネートのコラージュ画像を活用した接客だ。

WWD:顧客からの要望はどのように上がってくる?

中嶋:日報が役立っている。ECの改善案も出ていて、販売員が指摘したEC上の情報抜けや画像の変更点などは翌日にはサイトに反映するのがルールになっており、圧倒的なスピードでPDCAを回せている。お客さまに最適なUI/UXを聞くことはできないが、日々お客さまと向き合う販売員が教えてくれる。

商品にもお客さまの声を反映している。これまでも店舗の販売員に商品の反応をヒアリングしてきたが、ECでは顧客がどういう機会に、何と何を比較して選んだかといった経緯もニーズも分からない。そういった情報をチャット販売員が伝えてくれるのも日報の役割だ。チャットを活用し始めた当初は、ここまで情報を活用するとは考えられなかった。

チャット接客で悩みを解決し
“お得意さま”を生む

WWD:チャット接客は満足度85%と好評だ。満足度につながるポイントは?

中嶋:チャネルトークはチャットツールでありCRM(Customer Relationship Management)なので、リピート客の情報が分かり、能動的にお客さまに商品提案できている。チャネルトーク以外のサービスでは顧客と一期一会の関係だったので、大きな変化だ。またチャネルトークを導入してからは、決済や配送といったお問い合わせの一次対応に関してはボットが返信している。

玉川:多くの場合、ボットはお客さまの話を聞く時間を減らすために導入されるが、ボットは早く返事をすることでお客さまの利便性を上げる使い方が正しい。ジュンはボットの活用と販売員による対応を出し分けていることが、お客さまの満足度にもつながっているのではないか。

中嶋:オンライン接客の目的は売ることではなく、お客さまの悩みを解決してお得意さまになっていただくこと。チャットで見る指標はコンバージョン率(Conversion Rate、CVR)ではなく、何件相談を受けたか、接客後アンケートでどれだけグッドコメントをもらえたか、お客さまをお待たせしなかったかという満足度につながるものだ。

玉川:CVRを上げるためにたくさんポップアップを表示して商品を勧めるECもあるが、そのせいで離れてしまう人のことはトラッキングできない。CVRだけにこだわるとライフタイムバリュー(LTV)は下がってしまう。顧客との関係を作ること、そのためにCRMを使うことが利益につながると考えている。

外商のような
手厚いVIPサービスも
チャット接客で

WWD:今後はチャット接客をどう進化させる?

中嶋:今後は百貨店の外商のように、顧客にパーソナルに寄り添うサービスをやりたいと考えている。弊社だけで購入してもらうためには“ここでしか得られない”という体験価値がないといけない。そういった質の高いサービスを非対面で提供するには、データによるアシストが必要なので、どう取り組むか考えていきたい。

玉川:チャネルトークとしてもお得意さまを分析して増やすための機能を準備している。また、チャットだけが重要だとは考えておらず、メールやLINE、インスタグラム(Instagram)のダイレクトメッセージ(DM)の会話も一元化できる。お客さまが好きなコミュニケーション方法を選べるといい。そのため、今後は電話接客機能も提供予定だ。

INTERVIEW & TEXT : ANNA USUI

問い合わせ先
チャネルトーク
info-jp@channel.io

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データ活用による「理想の顧客体験」の裏側 デイトナ・インターナショナル×プレイド

 2022年11月に主力ブランドEC「フリークス ストア オンライン」を、複数ブランドを扱うモール型EC「デイトナパーク」としてリニューアルしたデイトナ・インターナショナル。その背景には、業態の変更のみならず、全社を挙げたDX戦略がある。それを支えるのが、CX(顧客体験)プラットフォーム「カルテ」を提供するプレイドだ。デイトナは何を目指してどこへ向かうのか。デイトナでDXを推進する目黒希望担当とプレイドの長谷川亮担当に話を聞いた。

デジタル接客の強化と
リアルタイムパーソナライゼーションを実現

 
WWD JAPAN(以下、WWD):デイトナ・インターナショナルが抱えていた課題は?

目黒希望デイトナ・インターナショナルDX本部ウェブディレクター(以下、目黒):経営が刷新しDXを強化するという経営方針に共感して入社した。当時はデジタルの分野が弱く、体制やリソース、データの整理といった内部的なものからEC自体のサービスレベルまで、やらなければいけないことがたくさんあった。オフラインとオンラインを行き来しやすい環境を整え、お客さまにはシーンに合わせて便利なチャネルで情報に触れて商品を購入してもらいたい。理想は買い物に限らず、イベントやユーチューブなどさまざまなコンテンツでブランド体験を楽しんでもらい、コミュニティーを作ること。実際のデータでも、店舗とECどちらかでのみ購入しているお客さまと比較して、併用しているお客さまの購入金額の年間の合計は約4倍程度多くなることが分かっている。

WWD:なぜ「カルテ」を導入したのか?

目黒:デジタル接客の強化とリアルタイムパーソナライゼーションの実現の一環として導入した。長期的なサイトの改修と並行して、足元の売り上げも確保する必要があったため、導入後すぐにデータを可視化、活用してお客さまに最適な情報を出し分けられる接客ツールが必須だった。類似ツールをクオリティー・スピード・コストの3つの軸で比較して一番優れていた「カルテ」に決めた。サイト上でのユーザーの行動をリアルタイムで判別して接客できるのは、「カルテ」だけだった。加えて無償で丁寧なサポート体制があることも魅力的だった。現在は専任を設けて年間150本以上のシナリオを運用中だ。

長谷川亮プレイドカスタマーサクセス(以下、長谷川):「カルテ」は、正しいコミュニケーションを取るためにはリアル店舗で接客するようにユーザーを捉えるべきという設計思想を持つ。そのためには、ウェブサイトやアプリに来訪中のユーザーの属性や行動を把握する必要があるが、「カルテ」は独自のリアルタイム解析エンジンでユーザー単位で行動データを保有できるため実現できた。

リアルタイム解析だからできる「鉄板施策」

WWD:EC売り上げを最大化するために手応えのあった施策は?

目黒:たとえば、「くじ引き施策」だ。特定の行動をしたお客さまを「購入を迷っている方」と判断し、その人だけに当日のみ使える割引クーポンが当たるくじを引けるポップアップを掲出する。売り上げにインパクトを出しつつ、オープンクーポンのように安売りイメージを与えないメリットがある。サイトに訪問中のお客さまの行動を捉えて施策を打てるのはリアルタイム解析ができる「カルテ」ならでは。その他にも自社EC閲覧後の店舗購入や、広告経由での店舗売り上げなど、データ分析や効果の可視化が包括的にできている。

WWD:現在進行中のOMO施策は?

目黒:さまざまあるが、直近では自社ECサイトをリニューアルした。新サイト「デイトナパーク」は、他社も商品を出品してECと実店舗のどちらでも販売できる仕組みで、店舗でもECでも“売る”という当社の強みを活かしたOMOプラットフォームだ。店舗では、自社で企画・開発した「+プラス ミラー」を導入した。全身鏡をデバイス化したもので、内蔵カメラで全身撮影を行ったりさまざまな診断コンテンツを提供したりして、商品のリコメンドができる。特許を出願中だ。「+プラス ミラー」にも「カルテ」を導入し、UIUXの改善につなげている。

シームレスな顧客体験目指す

長谷川:オンライン上での顧客データの取得ノウハウはあるが、リアル店舗からお客さまの行動データを取得することは当社としてもトライアルの領域だ。お客さまの許諾を得た上で今後は店舗での行動データを集めて、ビーコンを使った来店データの取得や、非接触でICタグの情報を読み取れるRFIDを使った試着データの取得など解像度をより上げていきたい。そして、これらのオフラインデータをオンライン上の詳細な行動データと組み合わせることで、オンオフを横断したデータ活用を実現したい。

目黒:それらを活用すればECサイトと連動してお客さまにあった情報を配信することはもちろん、サイトの閲覧が実店舗の来店にどう影響しているかを分析したり、試着されても購入されない商品の分析などを社内の企画にフィードバックしたりもできる。長谷川さんはアパレル企業で働いた経験があり、知識と経験が豊富。長谷川さんに「こんなことはできないか」と相談すると、「カルテ」では対応しきれないことも、パートナー企業を探してきてくれるなど、実現に向かって並走してくれるので、安心して進められる。

両者が目指す次のステージは?

WWD:次に目指すステージは?

目黒:目指すはライフスタイルテック企業だ。ブラッシュアップ中の「+プラス ミラー」をはじめ、自社で開発したOMO施策を、他社に提供する事業を視野に入れている。デバイスの提供から運用のコンサルティングまで、自分たちの知見は他社にも有益なはず。今まさに実現に向けて動いている。

長谷川:CX(顧客体験)プラットフォームをうたい、ユーザー一人一人のデータ解析に取り組んできたプレイドだからこそ、よりきめ細やかなユーザー体験の実現ができると信じている。今後も目黒さんのビジョンを全力でサポートし、業界をリードする取り組みを推進しつつ、他社にも役立つソリューションとなるよう質を高めていく。

TEXT:MIWAKO ANNEN
PHOTO:SHUNGO TANAKA(MAETTICO)
問い合わせ先
プレイド
https://karte.io/enterprise/

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データ活用による「理想の顧客体験」の裏側 デイトナ・インターナショナル×プレイド

 2022年11月に主力ブランドEC「フリークス ストア オンライン」を、複数ブランドを扱うモール型EC「デイトナパーク」としてリニューアルしたデイトナ・インターナショナル。その背景には、業態の変更のみならず、全社を挙げたDX戦略がある。それを支えるのが、CX(顧客体験)プラットフォーム「カルテ」を提供するプレイドだ。デイトナは何を目指してどこへ向かうのか。デイトナでDXを推進する目黒希望担当とプレイドの長谷川亮担当に話を聞いた。

デジタル接客の強化と
リアルタイムパーソナライゼーションを実現

 
WWD JAPAN(以下、WWD):デイトナ・インターナショナルが抱えていた課題は?

目黒希望デイトナ・インターナショナルDX本部ウェブディレクター(以下、目黒):経営が刷新しDXを強化するという経営方針に共感して入社した。当時はデジタルの分野が弱く、体制やリソース、データの整理といった内部的なものからEC自体のサービスレベルまで、やらなければいけないことがたくさんあった。オフラインとオンラインを行き来しやすい環境を整え、お客さまにはシーンに合わせて便利なチャネルで情報に触れて商品を購入してもらいたい。理想は買い物に限らず、イベントやユーチューブなどさまざまなコンテンツでブランド体験を楽しんでもらい、コミュニティーを作ること。実際のデータでも、店舗とECどちらかでのみ購入しているお客さまと比較して、併用しているお客さまの購入金額の年間の合計は約4倍程度多くなることが分かっている。

WWD:なぜ「カルテ」を導入したのか?

目黒:デジタル接客の強化とリアルタイムパーソナライゼーションの実現の一環として導入した。長期的なサイトの改修と並行して、足元の売り上げも確保する必要があったため、導入後すぐにデータを可視化、活用してお客さまに最適な情報を出し分けられる接客ツールが必須だった。類似ツールをクオリティー・スピード・コストの3つの軸で比較して一番優れていた「カルテ」に決めた。サイト上でのユーザーの行動をリアルタイムで判別して接客できるのは、「カルテ」だけだった。加えて無償で丁寧なサポート体制があることも魅力的だった。現在は専任を設けて年間150本以上のシナリオを運用中だ。

長谷川亮プレイドカスタマーサクセス(以下、長谷川):「カルテ」は、正しいコミュニケーションを取るためにはリアル店舗で接客するようにユーザーを捉えるべきという設計思想を持つ。そのためには、ウェブサイトやアプリに来訪中のユーザーの属性や行動を把握する必要があるが、「カルテ」は独自のリアルタイム解析エンジンでユーザー単位で行動データを保有できるため実現できた。

リアルタイム解析だからできる「鉄板施策」

WWD:EC売り上げを最大化するために手応えのあった施策は?

目黒:たとえば、「くじ引き施策」だ。特定の行動をしたお客さまを「購入を迷っている方」と判断し、その人だけに当日のみ使える割引クーポンが当たるくじを引けるポップアップを掲出する。売り上げにインパクトを出しつつ、オープンクーポンのように安売りイメージを与えないメリットがある。サイトに訪問中のお客さまの行動を捉えて施策を打てるのはリアルタイム解析ができる「カルテ」ならでは。その他にも自社EC閲覧後の店舗購入や、広告経由での店舗売り上げなど、データ分析や効果の可視化が包括的にできている。

WWD:現在進行中のOMO施策は?

目黒:さまざまあるが、直近では自社ECサイトをリニューアルした。新サイト「デイトナパーク」は、他社も商品を出品してECと実店舗のどちらでも販売できる仕組みで、店舗でもECでも“売る”という当社の強みを活かしたOMOプラットフォームだ。店舗では、自社で企画・開発した「+プラス ミラー」を導入した。全身鏡をデバイス化したもので、内蔵カメラで全身撮影を行ったりさまざまな診断コンテンツを提供したりして、商品のリコメンドができる。特許を出願中だ。「+プラス ミラー」にも「カルテ」を導入し、UIUXの改善につなげている。

シームレスな顧客体験目指す

長谷川:オンライン上での顧客データの取得ノウハウはあるが、リアル店舗からお客さまの行動データを取得することは当社としてもトライアルの領域だ。お客さまの許諾を得た上で今後は店舗での行動データを集めて、ビーコンを使った来店データの取得や、非接触でICタグの情報を読み取れるRFIDを使った試着データの取得など解像度をより上げていきたい。そして、これらのオフラインデータをオンライン上の詳細な行動データと組み合わせることで、オンオフを横断したデータ活用を実現したい。

目黒:それらを活用すればECサイトと連動してお客さまにあった情報を配信することはもちろん、サイトの閲覧が実店舗の来店にどう影響しているかを分析したり、試着されても購入されない商品の分析などを社内の企画にフィードバックしたりもできる。長谷川さんはアパレル企業で働いた経験があり、知識と経験が豊富。長谷川さんに「こんなことはできないか」と相談すると、「カルテ」では対応しきれないことも、パートナー企業を探してきてくれるなど、実現に向かって並走してくれるので、安心して進められる。

両者が目指す次のステージは?

WWD:次に目指すステージは?

目黒:目指すはライフスタイルテック企業だ。ブラッシュアップ中の「+プラス ミラー」をはじめ、自社で開発したOMO施策を、他社に提供する事業を視野に入れている。デバイスの提供から運用のコンサルティングまで、自分たちの知見は他社にも有益なはず。今まさに実現に向けて動いている。

長谷川:CX(顧客体験)プラットフォームをうたい、ユーザー一人一人のデータ解析に取り組んできたプレイドだからこそ、よりきめ細やかなユーザー体験の実現ができると信じている。今後も目黒さんのビジョンを全力でサポートし、業界をリードする取り組みを推進しつつ、他社にも役立つソリューションとなるよう質を高めていく。

TEXT:MIWAKO ANNEN
PHOTO:SHUNGO TANAKA(MAETTICO)
問い合わせ先
プレイド
https://karte.io/enterprise/

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会員数約50万人の香水サブスク「カラリア」 独自のデータで顧客とブランドの架け橋に

 High Link(ハイリンク)が運営するフレグランスのサブスクリプションサービス「カラリア」は、2019年1月のサービス開始から着実にファンを増やしている。同サービスの継続率は98%で、会員数は約50万人に達する。“香り”という目に見えず、オンライン上での表現が難しい商品特性に可能性を見いだし、これまでになかったフレグランスの定期購入というビジネスモデルを構築。購買行動データや口コミを活用し精度の高い商品レコメンドを行うなど、顧客に新たな購買体験を提供している。1月でサービス開始から丸4年となったカラリアは、発展途上にある日本のフレグランス市場にどのような変化をもたらすのか。同社の南木将宏・最高経営責任者(CEO)と岡本大輝・最高執行責任者(COO)に話を聞いた。

新たな香りとの出合いを
創出する「カラリア」とは

 「カラリア」の事業は、フレグランスのサブスクリプションサービス「カラリア 香りの定期便」、香りに関する情報を紹介する専門メディア「カラリアマガジン」からなる。そして事業の中核となる「カラリア 香りの定期便」には、自分の好みの香りやおすすめのフレグランスが分かる「香水診断」、公式LINEで専属フレグランスアドバイザーがぴったりのフレグランスを提案する「コンシェルジュサービス」がある。「カラリア 香りの定期便」は現在、約130ブランド1000アイテムを取り扱い、月額税込1980円〜、1カ月程度で使い切れる4mLサイズのアトマイザーが届く。「無数にあるフレグランスからどれを選べばいいか悩む」「自分の好みの香りが分からない」といった香り選びの課題を解決すべく、独自開発のアルゴリズムによる好みの香りの分析やおすすめアイテムのレコメンドを提供することで、これまで難しかったオンライン上での香り選びのハードルを下げることに成功している。レコメンドに対するユーザーの満足度は高く、「香水診断」の利用は100万回を超え、「コンシェルジュサービス」の相談数も120万件を突破。「香りの定期便」の継続率98%につながっている。

ユーザーの購買データを蓄積し
香りとの出合いを最適化

WWD:“香りのサブスク”を始めた理由は? 

南木将宏High Link CEO(以下、南木):ファッションやコスメの領域はECでの購買体験が少しずつアップデートされていますよね。これだけ技術が進化している中で、フレグランスは目に見えないという特性上今までオフラインでの購入がメインとなっており、ブランドは購買に関するデータや、お客さまのその後の行動、趣味嗜好などを知ることが困難な状況にありました。五感の一つである嗅覚は、感情や本能にも直接関わる人間にとって重要な感覚でありながら購買体験がアップデートされていない。そこでフレグランスの購買行動データの蓄積と学習を活用したサービスにニーズと勝ち筋があると考え「香りの定期便」を立ち上げました。

WWD:サービス開始から5年目を迎え、現在会員数は約50万人。ユーザーを多く抱えるプラットフォームに成長できた理由は?

南木:成長の理由は大きく2つ。1つ目は、SNSやウェブメディア「カラリアマガジン」で香りの楽しさを伝えられていること。SNSフォロワー数は40万人(22年12月時点)を超えています。また、フレグランスに特化しているメディアを運営しているからこそ、20~30代を中心としたフレグランスへの熱量が高いお客さまに香りの魅力を伝えることができています。ウェブマガジンとInstagram、Twitter、TikTokではそれぞれの媒体特性やユーザーの違いを考慮したコンテンツ作りを行っており、ユーザーニーズに合致した情報を各方面で提供できています。こうした工夫により、サブスクを利用するお客様の約30%がカラリアで人生初めてのフレグランスを買っているという事実もあります。その結果、これまでブランドが接点を持つことのできなかった層にまでリーチできていると考えられます。「フレグランスを試したいけどなかなか一歩を踏み出せない」という人が使用するきっかけにもなっています。ECの香りの領域ではずば抜けたシェアを取れていると自負していますし、結果としてフレグランス市場の裾野を広げられているのではないかと思います。

2つ目は、データを活用して香りとの最適な出合いを提供できていることです。閲覧データや購買データなどを活用しユーザーのニーズに合うフレグランスを提案していますが、中でも質の高い口コミデータを集めることに注力しています。「カラリア」には、お客さまの香りの評価(商品レビュー)を基に好みの香りを分析する「フレグランスプロフィール」機能があります。「香りの評価に基づくおすすめのアイテム」をはじめ、「まだ使っていないけれど好きかもしれない香り」という潜在的なニーズに対する提案も行っています。「フレグランスプロフィール」機能はAIを活用し、口コミを書けば書くほどレコメンドの精度が上がります。そのため、お客さまも自然と口コミを多く書いてくれて、レコメンドの満足度も高くなる。金銭的なインセンティブではなく、“体験”で質の高いデータを集める仕掛けを作ったのが「カラリア」の強みです。

ブランドに購買データと
香りの趣味嗜好の分析を
フィードバック

WWD:ブランドにとって「カラリア」のプラットフォームに参加するメリットは?

岡本大輝High Link COO(以下、岡本):メリットは3つあります。1つ目は、ユーザーの購買行動データと口コミによる香りの趣味嗜好の分析をフィードバックし、可視化できていなかった定量的なデータを得られる点です。購入した商品に対してどう感じたかや、他ブランドで何を買っているかといった情報を把握・分析し、販促支援や商品開発に活用していただけます。

2つ目は、毎月香水にお金を支払うフレグランスに対する熱量が高いユーザーに対してブランドの認知獲得が期待できる点。フレグランスに特化したメディアを活用することで、定期便ユーザー以外にも認知獲得が可能になります。

3つ目は、香りとの出合いを通じてブランドのファン育成が実現できることです。「カラリア」を通じて香水に興味を持ち、お気に入りの香りに出合い、結果としてサブスクユーザーの約40%が「カラリア」利用後にブランド正規店(または公式サイト)で香水を購入しています。さらに、好みの香水を見つけたからサービス利用を止めることはほとんどなく、次の新しい香りとの出合いを探し、見つけたら買い、また探す。そのような流れができていることから、「カラリア」はブランドと共存できるサービスであると信じています。

WWD:成長を続ける中で「カラリア」の課題は?

岡本:ブランドの世界観をオンライン上でどのように実現するかが、今の一番の課題です。ユーザーのいないプラットフォームはブランドにとっても価値がないため、これまではユーザーに支持されるプラットフォーム作りを重視して集客に注力していました。会員数が約50万人のこのタイミングで、ユーザーだけでなくブランドにとっても価値提供できるプラットフォームを目指していきます。私達はさまざまなブランドの製品を多く取り扱っていますが、そのブランドの歴史、パッケージやボトルのデザインなどに込めた思いを表現しきれず、まだまだブランドの魅力を伝えきれていない部分があると自覚しています。今の私たちのやり方に全くこだわりはないため、今後はブランドと共に世界観をどのように作っていくかを熟考しながら、ユーザーには“香り”という価値のある豊かな体験を提供し、ユーザーとブランド、そして「カラリア」の三方よしのプラットフォームの成長を推進していきます。

WWD:今後「カラリア」で注力していくことは。

南木:ブランドへの価値提供に注力する1年にしたいです。保有している大量のデータを活かし、ブランドのマーケティングや商品開発の支援などにも取り組む実績が出てきており、いかに目に見えない香りをデータ化することにニーズがあるのかを日々感じています。「カラリア」だからこそ提供できる価値を最大限提供し、メーカーやブランドと密にコミュニケーションをとりながら日本のフレグランス市場を盛り上げていきたいですね。ユーザーに対しては引き続き、香りという目に見えないものをオンラインでしっかりと伝えていきたいと思います。「香りを楽しむ」という点では、ルームフレグランスやボディーケアなどの要望も多い。将来的には扱うカテゴリーを広げることも検討しています。また、オフラインで実際に香りを手に取ることの重要性は今後も暫く続くと思います。ブランドが伝えたい世界観やこだわりもオフラインの方が肌で感じられるので、オンラインだけでは完結できない点があると思います。メディアを持っている私たちだからこそのオンラインのタッチポイントの強さを活かして、オフラインのショッピング体験とシームレスに連携していくことなどの構想もあります。オンライン上のデータのみならず、小売のデータとの融合やそれを踏まえた香りのDXを実現していきたいです。

ブランドの声を紹介

 サブスク「カラリア 香りの定期便」のローンチ時は30アイテムからスタートし、現在は1000アイテムまで拡大している。新客との出合いやブランドの認知拡大に寄与できることから、メーカーやブランドからの声掛けも増加。今後も顧客体験の向上やブランドへの価値提供など、さらなる成長が見込まれる。ここでは、「カラリア」の魅力や今後への期待など、「香りの定期便」で取り扱う「サウザンドカラーズ(THOUSAND COLOURS)」「ヴァシリーサ(VASILISA)」「シーファー(SHEFAR)」からのコメントを紹介する。

PHOTOS:SHUNICHI ODA
EDIT & TEXT:WAKANA NAKADE
問い合わせ先
High Link
https://high-link.co.jp/contact-partnership

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「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を手掛ける韓国企業CEOに聞くラグジュアリースキンケア誕生秘話 「フレグランスやヘアケアも発売予定」

 バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK以下、バーニーズ)の親会社である米ブランド管理会社のオーセンティック・ブランズ・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP以下、ABG)は2022年9月、韓国を拠点とするライフスタイル企業グロエントグループ(GLOENT GROUP)と提携し、ビューティブランド「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を立ち上げた。同ブランドはクレンザー、エッセンス、セラム、クリームからなるスキンケアコレクションとスペシャルケアのフェイシャルマスクをそろえ、日本には22年12月に上陸。「バーニーズ」の店舗とオンラインストアで販売する。ビューティブランドを手掛けるグロエントグループのジャスティン・ソン(Justin Song)CEOに、立ち上げの経緯と今後の計画を聞いた。

WWD:グロエントグループの事業内容は?

ジャスティン・ソン=グロエントグループCEO(以下、ソン):当社はビューティやヘルスケア、プレミアム飲料を扱うライフスタイル関連のプラットフォーム企業と考えてもらえると分かりやすい。「バーニーズ」はライセンスの形態を取っているが自社ブランドも持っている。化粧品の製造についてはOEMメーカーに委託している。今後、海外のブランドを輸入したり、韓国のブランドを輸出したりということも考えている。

WWD:「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を手掛けた経緯は?

ソン:私はファッションのリテール産業に20年以上携わってきた。ABGのジェイミー・ソルター(Jamie Salter)会長兼最高経営責任者(CEO)と懇意にしており、「もし『バーニーズ』を買い取ったら何をしたいか」とミッションを与えられていた。ABGは、私たちはもちろんファッションの分野で何かをするだろうと思っていた。しかし予想に反して私たちはウエルネスカテゴリーでビジネスをしたいと提案した。ただし、「バーニーズ」ですぐにウエルネスの商品を展開するのは難しいと思ったので、ビューティ商品を考えた。

WWD:ファッションからビューティに参入した理由は?

ソン:私はファッションスクールを卒業しファッションマーケティングで修士号も取得しており、今もファッションが大好きだ。私たちの世代は「バーニーズ」のショップウインドーが教科書のようなものだった。今一番のトレンドは何か、次に来るトレンドは何か、そうしたことを「バーニーズ」で勉強した。しかし最近はそうしたラグジュアリーへのニーズが今後もずっと続くだろうか、ほかにニーズはないだろうかと考えるようになった。そんな考えを巡らすうちにコロナ禍となり、人々が健康に気を使うようになった。もちろん、ファッションはこの先もずっと人々を幸せにすると思うが、私たちはそこに何か一つを足して、よく食べて健康に幸せに暮らすニュー・ラグジュアリー・ライフを示したかった。ファッションの商品を売ったときに消費者が楽しんでくれる喜びはあったが、さらにもう一歩進み少し健康になってもう少し幸せになるものがあるのではないかという考えから「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を考えた。

ブランドが提案するヘルシーライフの要はノルウェーの水

WWD:ビューティラインの提案に対してABGの反応は?

ソン:そのころアイドルグループのBTSやドラマ「イカゲーム」など、韓国のコンテンツへの関心が高かったこともあり、はじめはKビューティをイメージしたようだった。ところが私たちの「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」の構想は、「ビューティ」「ウエルネス」「ウオーター」の3つをコアバリューに掲げるライフスタイルブランドで、ただ外面だけを美しくするのではなく、体の内側から健康でいることから生まれる美を目指すものだ。悩んだ末に水にフォーカスした。著名な水の博士の言葉から体や肌のさまざまな不調が水分不足から起こることを知った。地球上で最もきれいな水である南極と北極の水に近い水がノルウェーにあると分かり、ノルウェーのさまざまな水源地と交渉を始めた。そして飲料水として商品化できるようになった。さらに体の内面的なエネルギーを保つためのウエルネスプロダクトも作ることになった。その上でスキンケアをすることで美しくなるというのが私たちが提案した真のラグジュアリービューティだ。これをABGのジェイミーに説明したところ、大変驚くとともに共感してくれて「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を進めることになった。ある程度長期的なビジョンを持ってブランドを育てていけることになっている。

WWD:たくさんの化粧品がある中で、どう差別化し成長戦略を描くか。

ソン:韓国の多くのファッションやビューティブランドは、品質がいいのに価格の競争力がある点を売りにする。しかし私はブランディングの視点からそのように設計していない。それがブランドの持つ力だと思うからだ。だからと言って、商品にただラベルを付けて売っているわけではなく、商品の一つ一つにストーリーがある。それぞれの開発過程ではたくさんのエネルギーと時間を使った。消費者はブランドと商品だけを見て買うのではなく、共感ができるかが決め手になる。だから共感し一緒に育てるブランドを作りたいと思っている。もしかしたらそれがファッション的なアプローチかもしれない。

WWD:スキンケア商品の具体的な開発過程は。

ソン:企画の段階も含めるとローンチまでに2年、実務的な開発期間は1年半ほどだった。ABGはわれわれの提案をほぼ100%賛成してくれて商品開発はスムーズに進んだ。スキンケア商品には北欧で1年に2カ月しか採集できない希少なクラウドベリーを使っている。ビタミンがオレンジの約300倍と優れた成分だ。このクラウドベリーを含めて北欧でしか採れない8つの原料を独自配合し、1年以上を掛けて独自成分GLOCELAコンプレックスを開発した。パッケージもこだわり、世界的なプロダクトデザイナーに依頼しステンレスのパッケージを採用した。環境への配慮や持続可能性の観点から先端を行くことができると思っている。シンプルで未来的なデザインでジェンダーレス、エイジレスも表現している。ABGやバーニーズも大変気に入ってくれた。

韓国・ソウルに旗艦店をオープン

WWD:昨年10月に、韓国・ソウルに「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」の旗艦店をオープンしたが反響は?

ソン:韓国ではビューティ・ファッションビジネスは百貨店のインストアを先にオープンするのが一般的だ。その方が早期にビジネスを成立させるのに効率的だからだ。ただし、ブランドのストーリーを見せるのが難しい。だから私たちは百貨店のインショップ約40店舗分の高い費用を投資して旗艦店を先にオープンした。江南区の高級ショップが並ぶエリアにある3階建ての建物だ。ブランドのストーリーや、既存のビューティブランドと何が違うのか、その価値を見せたかった。オープニングイベントではスポーツ選手やインフルエンサー、ソーシャルメディアに多く来店してもらった。その後もたくさんの人が訪れており、SNSでも自発的なレビュー投稿が多く見られる。

WWD:韓国以外の国に同様のショップを作る予定はある?

ソン:当初はニューヨークに1号店を出したかった。その後日本と韓国で同時出店をと考えていたが、予想よりコロナ禍が長引きソウル店を先にオープンした。日本は「バーニーズ」のショップが既にあり、バーニーズ ジャパンとの協業を最も大切に考えているのでビューティ単独店の出店については十分に議論を重ねていきたい。アメリカに関しては百貨店サックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)とのビジネスが最もプライオリティーが高い。今はブランドが何をしたいか、どういう価値があるかを伝えて、理解が得られるパートナーと取り組んでいきたいと思っている。

WWD:今後の商品展開は?

ソン:フランスでフレグランスの製作を進めており、日本では2月ごろに発売できるのではないか。香りはセラピーの要素があると思っているので、キャンドルやディフューザーなどホームフレグランスカテゴリーに関しては構想がある。またヘアケアも5月ごろに発売する予定だ。20〜30代にも増えている抜け毛の悩みに応える商品だ。ヘアケアも香りにフォーカスし、ストレスから解放される意味を込めている。ブランドとしてウエルネスをテーマにしているので、ヘアケア商品と食品を一緒にパッケージすることも考えている。カラーコスメに関しては、現状では考えていない。「バーニーズニューヨーク ビューティ」がビューティとウエルネスを全て包括するものだと消費者が十分に理解した後に着手する。

WWD:3年後、5年後の中長期的な目標は?

ソン:5年以内に売上高2000億ウォン(約211億円)を目指す。市場はアメリカ、韓国、日本、中国がベースになる。セールスのための拡大やホールセールでの展開は考えておらず、ブランドの基盤を作ることを重視し拡大していく。

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「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を手掛ける韓国企業CEOに聞くラグジュアリースキンケア誕生秘話 「フレグランスやヘアケアも発売予定」

 バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK以下、バーニーズ)の親会社である米ブランド管理会社のオーセンティック・ブランズ・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP以下、ABG)は2022年9月、韓国を拠点とするライフスタイル企業グロエントグループ(GLOENT GROUP)と提携し、ビューティブランド「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を立ち上げた。同ブランドはクレンザー、エッセンス、セラム、クリームからなるスキンケアコレクションとスペシャルケアのフェイシャルマスクをそろえ、日本には22年12月に上陸。「バーニーズ」の店舗とオンラインストアで販売する。ビューティブランドを手掛けるグロエントグループのジャスティン・ソン(Justin Song)CEOに、立ち上げの経緯と今後の計画を聞いた。

WWD:グロエントグループの事業内容は?

ジャスティン・ソン=グロエントグループCEO(以下、ソン):当社はビューティやヘルスケア、プレミアム飲料を扱うライフスタイル関連のプラットフォーム企業と考えてもらえると分かりやすい。「バーニーズ」はライセンスの形態を取っているが自社ブランドも持っている。化粧品の製造についてはOEMメーカーに委託している。今後、海外のブランドを輸入したり、韓国のブランドを輸出したりということも考えている。

WWD:「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を手掛けた経緯は?

ソン:私はファッションのリテール産業に20年以上携わってきた。ABGのジェイミー・ソルター(Jamie Salter)会長兼最高経営責任者(CEO)と懇意にしており、「もし『バーニーズ』を買い取ったら何をしたいか」とミッションを与えられていた。ABGは、私たちはもちろんファッションの分野で何かをするだろうと思っていた。しかし予想に反して私たちはウエルネスカテゴリーでビジネスをしたいと提案した。ただし、「バーニーズ」ですぐにウエルネスの商品を展開するのは難しいと思ったので、ビューティ商品を考えた。

WWD:ファッションからビューティに参入した理由は?

ソン:私はファッションスクールを卒業しファッションマーケティングで修士号も取得しており、今もファッションが大好きだ。私たちの世代は「バーニーズ」のショップウインドーが教科書のようなものだった。今一番のトレンドは何か、次に来るトレンドは何か、そうしたことを「バーニーズ」で勉強した。しかし最近はそうしたラグジュアリーへのニーズが今後もずっと続くだろうか、ほかにニーズはないだろうかと考えるようになった。そんな考えを巡らすうちにコロナ禍となり、人々が健康に気を使うようになった。もちろん、ファッションはこの先もずっと人々を幸せにすると思うが、私たちはそこに何か一つを足して、よく食べて健康に幸せに暮らすニュー・ラグジュアリー・ライフを示したかった。ファッションの商品を売ったときに消費者が楽しんでくれる喜びはあったが、さらにもう一歩進み少し健康になってもう少し幸せになるものがあるのではないかという考えから「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を考えた。

ブランドが提案するヘルシーライフの要はノルウェーの水

WWD:ビューティラインの提案に対してABGの反応は?

ソン:そのころアイドルグループのBTSやドラマ「イカゲーム」など、韓国のコンテンツへの関心が高かったこともあり、はじめはKビューティをイメージしたようだった。ところが私たちの「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」の構想は、「ビューティ」「ウエルネス」「ウオーター」の3つをコアバリューに掲げるライフスタイルブランドで、ただ外面だけを美しくするのではなく、体の内側から健康でいることから生まれる美を目指すものだ。悩んだ末に水にフォーカスした。著名な水の博士の言葉から体や肌のさまざまな不調が水分不足から起こることを知った。地球上で最もきれいな水である南極と北極の水に近い水がノルウェーにあると分かり、ノルウェーのさまざまな水源地と交渉を始めた。そして飲料水として商品化できるようになった。さらに体の内面的なエネルギーを保つためのウエルネスプロダクトも作ることになった。その上でスキンケアをすることで美しくなるというのが私たちが提案した真のラグジュアリービューティだ。これをABGのジェイミーに説明したところ、大変驚くとともに共感してくれて「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」を進めることになった。ある程度長期的なビジョンを持ってブランドを育てていけることになっている。

WWD:たくさんの化粧品がある中で、どう差別化し成長戦略を描くか。

ソン:韓国の多くのファッションやビューティブランドは、品質がいいのに価格の競争力がある点を売りにする。しかし私はブランディングの視点からそのように設計していない。それがブランドの持つ力だと思うからだ。だからと言って、商品にただラベルを付けて売っているわけではなく、商品の一つ一つにストーリーがある。それぞれの開発過程ではたくさんのエネルギーと時間を使った。消費者はブランドと商品だけを見て買うのではなく、共感ができるかが決め手になる。だから共感し一緒に育てるブランドを作りたいと思っている。もしかしたらそれがファッション的なアプローチかもしれない。

WWD:スキンケア商品の具体的な開発過程は。

ソン:企画の段階も含めるとローンチまでに2年、実務的な開発期間は1年半ほどだった。ABGはわれわれの提案をほぼ100%賛成してくれて商品開発はスムーズに進んだ。スキンケア商品には北欧で1年に2カ月しか採集できない希少なクラウドベリーを使っている。ビタミンがオレンジの約300倍と優れた成分だ。このクラウドベリーを含めて北欧でしか採れない8つの原料を独自配合し、1年以上を掛けて独自成分GLOCELAコンプレックスを開発した。パッケージもこだわり、世界的なプロダクトデザイナーに依頼しステンレスのパッケージを採用した。環境への配慮や持続可能性の観点から先端を行くことができると思っている。シンプルで未来的なデザインでジェンダーレス、エイジレスも表現している。ABGやバーニーズも大変気に入ってくれた。

韓国・ソウルに旗艦店をオープン

WWD:昨年10月に、韓国・ソウルに「バーニーズ ニューヨーク ビューティ」の旗艦店をオープンしたが反響は?

ソン:韓国ではビューティ・ファッションビジネスは百貨店のインストアを先にオープンするのが一般的だ。その方が早期にビジネスを成立させるのに効率的だからだ。ただし、ブランドのストーリーを見せるのが難しい。だから私たちは百貨店のインショップ約40店舗分の高い費用を投資して旗艦店を先にオープンした。江南区の高級ショップが並ぶエリアにある3階建ての建物だ。ブランドのストーリーや、既存のビューティブランドと何が違うのか、その価値を見せたかった。オープニングイベントではスポーツ選手やインフルエンサー、ソーシャルメディアに多く来店してもらった。その後もたくさんの人が訪れており、SNSでも自発的なレビュー投稿が多く見られる。

WWD:韓国以外の国に同様のショップを作る予定はある?

ソン:当初はニューヨークに1号店を出したかった。その後日本と韓国で同時出店をと考えていたが、予想よりコロナ禍が長引きソウル店を先にオープンした。日本は「バーニーズ」のショップが既にあり、バーニーズ ジャパンとの協業を最も大切に考えているのでビューティ単独店の出店については十分に議論を重ねていきたい。アメリカに関しては百貨店サックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)とのビジネスが最もプライオリティーが高い。今はブランドが何をしたいか、どういう価値があるかを伝えて、理解が得られるパートナーと取り組んでいきたいと思っている。

WWD:今後の商品展開は?

ソン:フランスでフレグランスの製作を進めており、日本では2月ごろに発売できるのではないか。香りはセラピーの要素があると思っているので、キャンドルやディフューザーなどホームフレグランスカテゴリーに関しては構想がある。またヘアケアも5月ごろに発売する予定だ。20〜30代にも増えている抜け毛の悩みに応える商品だ。ヘアケアも香りにフォーカスし、ストレスから解放される意味を込めている。ブランドとしてウエルネスをテーマにしているので、ヘアケア商品と食品を一緒にパッケージすることも考えている。カラーコスメに関しては、現状では考えていない。「バーニーズニューヨーク ビューティ」がビューティとウエルネスを全て包括するものだと消費者が十分に理解した後に着手する。

WWD:3年後、5年後の中長期的な目標は?

ソン:5年以内に売上高2000億ウォン(約211億円)を目指す。市場はアメリカ、韓国、日本、中国がベースになる。セールスのための拡大やホールセールでの展開は考えておらず、ブランドの基盤を作ることを重視し拡大していく。

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百貨店からもポップアップのラブコール ダイヤモンドと耐久性が同じモアサナイトの可能性

 ダイヤモンドの代わりにラボグロウンダイヤモンド(以下、ラボグロウン)を使用したジュエリーブランドが増えつつある。ラボグロウンとはダイヤモンドと同じ組成を持つ工業製品。ダイヤモンドよりエシカルかつ安価ということで、手に取りやすくファッション感覚で日常使いできるジュエリーを中心に存在感が高くなっている。ダイヤモンドの代替品はラボグロウンだけではない。組成は違うが、ダイヤモンドより光の屈折率が高く、耐熱性も高い。そして、1カラット10万円程度と、ラボグロウンよりさらに安価だ。モアサナイト専門ジュエリーのパイオニアである「ブリジャール(BRILLAR)」の小原亦聡社長に商況について聞いた。

WWD:ブランド立ち上げ以降の売上高の推移は?

小原亦聡ブリジャール社長(以下、小原):2017年1月に創業して、売上高は毎年前年比2割増だった。ブランド設立5周年だった昨年の売上高は同10%増で、伸長率が落ち着いた。伊勢丹新宿本店(以下、伊勢丹)のバイヤーから声がかかり昨年9月、伊勢丹2階で5周年記念のポップアップショップを開催した所、過去最高の単月売上高を記録。半分以上が新規顧客で、初めて見るモアサナイトを即日オーダーする人もいた。地方の百貨店でもポップアップを開催し、認知度アップを図りたい。モアサナイトを見てみたいという消費者には、オフラインアプローチが大切だ。

WWD:ブランドのコンセプトは?

小原:耐久性はダイヤモンドと変わらない、後世に引き継げるジュエリー。多彩なデザインがあるので、実際に使って楽しめる。

WWD:現在の型数や売れ筋は?

小原:デザインは900以上で、在庫があるのは100型。他は受注生産だ。全てのデザインを公式ECで見ることができる。売れ筋は、リング、ネックレス、ピアス、ブレスレットの順。モアサナイトの認知度がアップして、高額品の動きが良い。ダイヤモンドに憧れはあるが、買えない層に響いている。ブライダルでは、エンゲージとマリッジを同じ所で購入したいという要望が多く、マリッジとして、鍛造(金属を叩いて強度を高め目的の形状に成形すること)とモアサナイトを組み合わせた商材を導入したところヒット。中心価格帯はエンゲージが10万〜20万円台前半、マリッジは、10万円程度だ。日常使い用にエンゲージ風リングを購入するキャリア層もいる。ネックレスは11万程度、ピアスはペアで14万円程度、ブレスレットはステーションタイプが9万円程度、テニスブレスレットで22万程度のものが好評だ。

WWD:顧客の年齢層は?

小原:ブライダルは20〜30代のカップルで、自家需要は30〜40代の女性が中心。親子で購入するケースもある。

原材料の製造特許も取得し、環境に優しく低コストで

WWD:他のモアサナイトのブランドとの差別化は?

小原:モアサナイトを取り扱うブランドが増えるのは、認知度がアップするので嬉しい。パイオニアのブランドとして、品質やデザイン、サービス、提案力の高さで差別化を図る。一生使えるジュエリーとしてアフターサービスにも力を入れていく。

 また、原材料のモアサナイトの製造方法について、国内および中国で特許を取得した。モアサナイトは炭化ケイ素の結晶で化学式ではSiCと表記される。通常琥珀色をしている結晶体を無色透明化する方法だ。それにより、低コスト、環境負荷が少なくモアサナイトを製造できる。現在、米国でも、日本貿易振興機構(JETRO)の助成をうけ、取得手続き中だ。

WWD:ブランドとモアサナイトの認知度アップに行っていることは?

小原:SNS発信の強化はもちろんだが、今後は「インスタグラム」に頼りすぎず、LINEなどさまざまな方法で情報発信する。オフラインでは、百貨店のポップアップを行う。また、チャリティー活動がブランドに共感を持ってもらえる場になればと思う。

WWD:今後のモアサナイト市場の見通しと、戦略は?

小原:天然ダイヤモンドにこだわらない層が増えるはずだ。コスパ、耐久性、エシカルという点でモアサナイトを“ハレの日”のジュエリーとしてアピールしたい。長く使えるジュエリーとしてのメンテナンス強化を図るとともに、チャリティーなど、ワクワクすることをしていきたい。

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米国発、日本の伝統美容から生まれたスキンケアブランド「タッチャ」 Jビューティ人気に火を付けた手法とは?  

 2009年にサンフランシスコで誕生した日本オリジンのラグジュアリースキンケアブランド「タッチャ(TATCHA)」は、アメリカではセフォラ(SEPHORA)のスキンケアカテゴリーでトップセラーになるほど知名度があり、“Jビューティ”人気の火付け役として知られる。19年にユニリーバ傘下となり現在世界11カ国で展開する。ブランドの起源である日本へはコロナ禍の21年9月に上陸を果たした。「タッチャ」は、椿や米など日本の原料を用いたスキンケアアイテムを展開し、パッケージは着物の帯や茶道のなつめ(茶器)などから着想している。創設者のヴィッキー・ツァイ(Vicky Tsai)がブランドに込めた思いとは。

WWD:スキンケアブランドを立ち上げたきっかけは?

ヴィッキー・ツァイ「タッチャ」創設者(以下、ツァイ):元々はウォール街のビジネストレーダーとして働き、それが天職だと思っていたので起業する予定はなかった。9.11を経験して人生観が変わり、自分や家族をもっと大事にしようと思うようになった。そこからハーバードビジネススクールに入学し、ある化粧品会社に携わることに。ところがいろいろな商品を試し顔の肌がボロボロになってしまった。そのとき、美容商品を売るためには、消費者に「何かが足りない」と思い込ませる必要があると知った。マーケティングで架空の世界を作り出してモノを売る産業構造、その実情を知ってそれは私がやりたいことではないと思った。

WWD:「タッチャ」は日本にインスパイアされたというが日本との出合いは?

ツァイ:スターバックスに転職し、中国に出店するため現地と行き来する生活になり、その際に通過するのが日本だった。ボロボロになった肌はワセリンしか受け付けず、ベトついた肌を抑えるのにあぶらとり紙を使っていたのが日本の美容習慣との出合い。その後、パーソナルケアとして流通している商品が環境や社会、健康に与える影響を調査し、サステナビリティについてランキングする会社のマーケティング部門を担当。そのとき初めてアメリカの化粧品業界には人の体や環境を守る規制がないことに問題意識を抱くように。その頃子どもを授かり健康が非常に気になりだしたのと同じタイミングであぶらとり紙のストックを切らしてしまった。日本人の友人にどこで買えるか聞いたときに、それが金沢で作られており元々は金箔ののし紙であることを知った。これがスキンケアブランド「タッチャ」の始まりだ。

WWD:日本のあぶらとり紙からどのようにスキンケアが生まれた?

ツァイ:金箔製造の残り紙を美容に使い始めたのが芸妓だと聞いて、化学薬品が生まれるずっと前、18世紀から続く美容の作法や文化に感銘を受けた。金沢のほかにも京都を訪ねたくさんの芸妓の方に会って美しい肌の秘密やお手入れの方法を聞き、椿油や海藻、温泉、炭の粉、米ぬかなど、昔から脈々と伝えられてきた日本の美容素材について知った。日本のおもてなしの精神にも大変癒された。持ち帰った自然素材でスキンケアをしたところ、荒れていた肌がすっかり落ち着いた。そこで、同じ悩みを持つ人に私の発見をシェアしたいと考えた。

WWD:「タッチャ」で使用している原料にもこだわりが?

ツァイ:体の中に入るものに気を使うようになりさまざまな素材を調べたが、良い素材を追求すると行き着くのはお茶や米、海藻など日本のものだった。処方を作るにあたり、世界でも指折りのフォーミュレーターである田川正人氏との出会いがあり、彼を中心とする「タッチャインスティテュート」を東京に設立した。また、資生堂で37年以上の経験を持つ田中修氏にも参画いただいた。素材や日本文化の研究を担当するオノデラ奈美を含むこのチームは、「タッチャ」の基盤を作ってきた大切な柱だ。

WWD:アメリカで支持されている理由をどう分析するか。

ツァイ:「タッチャ」ではお茶と米と海藻の抽出物を二度発酵させた成分を全商品に配合している。初期は私財を全てR&D(研究・開発)に投入し苦労したが、ブランドが大きくなるにつれなぜ効くのか科学的根拠を深くリサーチできるようになり、発酵させることでアミノ酸や乳酸菌が豊かになり素晴らしい力を発揮することが分かっている。このように改良を重ねた商品力が支持されている。また当初、おもてなしの精神の表現方法として、オーダーをくれたお客さまに必ず手書きの手紙を添えて商品を送っていた。お客さまから返事が返ってくることも多く、次第に雑誌にも掲載されるようになった。ローンチ時は借家の一角に商品を置き、商品をベビーカーに積んで郵便局まで発送しに行っていた。そこから考えると夢のような話だが、15年には米ビジネス誌「インク(Inc.)」で“アメリカで最も成長が早い女性主導の株式非公開企業”の2位に選ばれるまでになった。マーケティングには一切資金を使わず、当時は主流ではなかったソーシャルメディアを通じて商品に込めたわれわれの思いを伝えていった。

WWD:今後の目標は?

ツァイ:「タッチャ」が日本の人たちに心から愛してもらえるブランドになるのが一番の目標だ。忙しい毎日に朝晩2分でもいいから自分のためだけの時間を持っていただき、「タッチャ」が豊かな暮らしに寄り添えたらと願っている。肌のトラブルやコンプレックスから始まるスキンケアを変えたい。アンチエイジングではなくヘルシーエイジングというように、物事を前向きに捉えて自分の心と体を大切にする手伝いができたらと思う。もう一つの目標は、美容業界の常識を変えていくこと。米「WWD」が発行する「ビューティ インク(BEAUTY INC)」の21年のレポートによると、世界のトップ20のビューティ企業では女性でCEOクラスに就いている者はたった3人で、そのうち有色人種は1人もいなかった。さらにその前年はたった1人だったという現状がある。女性が起業してもある程度の規模になると必ず女性には統率能力がないという偏見で男性経営者に変わっていく。そんな業界の常識や偏見を打ち破っていきたい。

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「レスポートサック」COOに聞く2024年のビジネス戦略 クリエイティブ強化や販路の見直しに着手

 ニューヨーク生まれのバッグブランド「レスポ―トサック(LESPORTSAC)」は2024年以降、ブランドイメージの刷新に取り組む。「忙しく動く回るニューヨーカーのために生まれた持ち運びやすい洗練されたアイテムとともに、原点回帰しながら未来を見ていく。ブランドの誕生50周年を迎える2024年に向けて、戦略的な道筋を立てている初期段階にある」と語るのは、金融業界出身で、これまで数々のブランドのコンサルティングに携わってきたトーマス・ベッカー(Thomas Becker)最高執行責任者(COO)。2019年1月から同ブランドを率いる同氏にブランドのこれからを聞いた。

WWD:ブランドのビジネス戦略とは?

トーマス・ベッカーCOO(以下、ベッカーCOO):アメリカ市場で卸売を再開する予定だ。それも、ノードストローム(NORDSTROM)、サックス・フィフス・アヴェニュー(SAKS FIFTH AVENUE)、ブルーミングデールズ(BLOOMINGDALE'S)といった大手百貨店レベルでの取引を目標にしている。ヨーロッパ市場の再強化や、クリエイティブの側面を強化して“文化的価値観”創造のために動いていく。

WWD:卸売に力を入れていく理由とは。

ベッカーCOO:過去に一度は撤退した卸売を再開することで、私たちは“未来に戻っている”。これまでは小売りに集中したことで、ヨーロッパ市場の開拓など自由に動くことができ、ブランドの発展につながる部分も多くあった。アメリカ市場は小売業が発展していて、ブランドも「誰に向けて販売をしているか」というプラットフォームの性格を理解しながら進化をしてきた。ただアメリカで卸売業は露出の機会としてやはり重要なビジネス。多くのブランドはブランドを支える柱となる消費者向けの独自のビジネスを持っているが、卸売にも力を入れてオーディエンスの拡大を補完する必要があると考える。

WWD:製品の魅力はどのように伝えていく予定か。

ベッカーCOO:他ブランドと差別化できる強みは、製品にある。「レスポートサック」が持つ定番品や“エッセンシャルライン”などが卸売では重要な鍵となるだろう。エッセンシャルラインは日々活発な人々に寄り添い、多様な選択肢を持つ。色使いもまた、ユニークだ。市場での再活性化や再出発する際に、重要な役割を持つはずだ。

WWD:新しい顧客層にはどのようにリーチしていく?

ベッカーCOO:オーディエンスの拡大に際して決めたのは、特定の消費者像を細かく見てコミュニケーションをとっていくということ。幅広く“みんな”に向けて発信をすると、誰にも届かないと考えるからだ。実際データでは、若年層が一番少ない予算を持ちながら、積極的にラグジュアリーアイテムを購入しているのが見られる。然るべき製品をそろえれば、それだけの情熱を生めるはずだ。ブランドのプレイフルな側面を発信しながら、歴史や思いを届ける動画キャンペーンなども作成した。製品の広告だけでなく、いかにアイデアや感情を伝搬できるか、に重きを置いていく。

WWD:ブランドはどのような局地を迎える?

ベッカーCOO:コロナ禍にいたことで、戦略的な準備をする時間が生まれた。「レスポートサック」は世界的に混乱の時代の中でも、うまくブランドの舵を切ってきた。具体的な数字の公表は控えるが、業績は多くの地域で昨年比でプラスに転じている。この状況から生まれた日米コラボやクリエイターらとのつながりは、「レスポートサック」が達成したいレベルを迎えるための深い関係の構築に生かされているはず。今は“はじまりの終わり”を過ぎた段階だ。24年はわれわれにとって多くのことが動く重要な年。この一年で取り組む事柄の成果が24〜25年にかけて見えてくるだろう。

コンサル経験を生かしてクリエイティブとビジネスを両立

WWD:これまでのキャリアは現職にどう生きている?

ベッカーCOO:両親が商品販売やサービス提供を行うビジネスに30年以上携わっていたので、幼い頃からそういったものに触れる環境で育ってきた。アメリカン・エキスプレス(American Express)では、ブランド構築の基礎を学んだ。「トム ブラウン(THOM BROWNE)」では「大事なのは、何を伝えようとしているかが明確であること」を学んだ。「意見が異なること」より大変なのは、「意見が何か分からないこと」。この経験は、この10年間、私自身のコンサルタント業の一つとして、メディアであれ広告であれ、幅広い業務の助けとなった。「レスポートサック」でもブランドの真髄とは何かを自問し、考えを統一していくことからはじめた。それができれば、自然にどう行動すべきかが見えてくる。一番難しいのは、ビジネスで「何にノーと言えばいいのか」「何をすべきではないのか」「デザインで注力すべきところ」「時間をかけて何にイエスと言えばいいのか」を知ること。舵を切る上で、これまでの経験を生かして、ビジネスの面で何をすべきか、どうすべきかという現実を理解している。そして、私たちが取り組んでいる計画を誰もが理解できるように、そしてなぜそれに価値があるのかをわかりやすく、関係者らとコミュニケーションをとっていくことができる。クリエイティブにもビジネスの視点は必須で、その両立が大事と考える。

WWD:2019年に就任して見えたブランドのDNAは?

ベッカーCOO:“ライトネス(=軽さ)”は、ブランドを構成する大事な要素。ニューヨーク生まれのDNAを軸に、ヨーロッパ的で洗練された感性も取り込みながら進化をしてきた。「トム ブラウン」での経験でも感じたが、アメリカのテイラーやクラフトマンシップはアメリカブランドの重要なアイデンティティーにつながっている。「レスポートサック」の製品はアメリカのニーズ、ヨーロッパの感性、スポーティーさを融合させて、グローバルブランドに成長した背景がある。軽量でありながら、耐久性にも優れている。“アメリカのブランド”ということが強く意識されていなくても目まぐるしく変わるニューヨークで約50年間存在感を保ち続けたのは、この都市が持つ魅力にも根ざしているからだろう。活動的で移動の多いニューヨーク市民のエネルギーに触発されて、ブランドの哲学も発展してきた。

WWD:“ライトネス”のコンセプトとは。

ベッカーCOO:改めて“ライトネス”というのは、ただ製品が軽量であることにとどまらない価値観を持っている。19年にブランドにジョインしたときに再考した部分で、製品の色使いから使用シーンまで、ブランドの発するデザイン的言語に幅広く影響を持っているコンセプトだ。(22年11月にニューヨークのソーホーエリアにオープンした)新店舗でも、“ライトネス”のコンセプトを取り入れ、自然光が入る窓やクリエイティブスタジオを兼ねた空間作りを徹底し、“心が軽くなる”ような場所となっている。

WWD:アメリカでのブランドの立ち位置・顧客層は?

ベッカーCOO:「レスポートサック」と同じ1974年に生まれたので、人生を通してブランドの歴史を感じてきた。スポーティーなブランドアティチュードが、アメリカで多くのポジティブな連鎖を生んでいると思う。長い間ブランドベースでキャリアを築いてきたが、これほどポジティブでノスタルジーを持ったブランドに出合ったことはない。人生の多くの場面で選ばれ、影響を与えてきたと思う。顧客層は20代後半や30代前半がメインで、やや女性の方が多くを占めている。ただ、創業当初からジェンダーニュートラルな製品を手掛けてきた。日々の活動や動き、旅行時に活躍するバッグ、という大きな括りのもとで、ここ数年は年齢や性別を超えて愛されてきたユニークな側面がある。

日本市場とも密に連携 50年後をどう見据える?

WWD:日米コラボアイテムも好調だ。

ベッカーCOO:日本チームは素晴らしいパートナー。クリエイティブチームがブランドアイデンティティーをよく理解し、今回日米共同開発の“レスポートサック アトリエ”ラインが誕生した。同ラインをスタートさせたとき、いかにクリエイティビティーを刺激するプラットフォームを築けるか、を考えた。デザインに制約もないし、ブランドの性質的に価格帯も柔軟に設定ができる。アイデアを持って冒険するための基盤となっていくだろう。使用するカラーから素材、届けたいオーディエンスまで、自由に遊べる企画となっている。

WWD:他国とコラボの予定は?

ベッカーCOO:きっともっと生まれるだろう。ただ、重要なのは「そのコラボに意味があるかどうか」。日米の関係性を参考に、他国とも交流が増えるかもしれない。

WWD:日本市場に期待することは?

ベッカーCOO:日本市場は消費者がデザインや品質、クラフトマンシップ、ヘリテージをよく理解している唯一無二の存在だ。クリエイティブなブランドとしての立ち位置を強化していく上で、鍵を握る。日本チームとはコロナ禍で深い関係性とコミュニケーションが多く生まれた。クリエイティブにもコミットして、ビジョンを共有しながらやってきた。

WWD:50周年を迎えるが、この先50年のビジョンは?

ベッカーCOO:われわれはこの50年間、時間をかけて着実に進化してきたと思う。今後50年間は、前の50年と同じくらい、“面白い”ブランドであり続けることが願いだ。さまざまなカテゴリーに進出するのを見てきたが、これからの課題は、どのカテゴリーが適切かを吟味していくこと。そして、どのようにして正しい方法で届けられるか。クリエイティブなデザインハウスという原点を意識して、ビジネスを展開していくことが大事だ。その余白はたくさんある。

WWD:バッグ以外も手掛ける可能性がある?

ベッカーCOO:もちろん。大事なのは、いつ・どのようなカテゴリーを、どのように拡大するか。消費者にとって予想外かもしれないけど、生活に馴染むような視点と共に手掛けていきたい。ブランドのルーツに通じていることが重要だ。クリエイティブに面白いことを手掛けるには、ビジネスの視点も必須。新たに開拓するのはアパレルかもしれないし、他のカテゴリーかもしれない。挑戦するスペースはたくさんあるので、試行錯誤していくつもりだ。

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リアル店舗は不定期開催のポップアップだけ ベルリンのパンクな古着店「アウトオブユーズベルリン」

 ベルリンの街を歩いていると、私なら到底思い付かない、常軌を逸した(!?)独創的なスタイルの人と遭遇することがある。ほとんどはビンテージを駆使し、自分に似合うものを熟知したスタイルだ。ベルリンには昔から、オールブラックに身を包んだミニマルなクラブファッションが存在するが、ビンテージにおいても世界的なファッションシティーとは異なる独自の文化がある。

 「アウトオブユーズベルリン(outofuseberlin)」は、良質でハイエンドなビンテージを扱うだけでなく、毎回テーマを設定し、それに合わせた架空の空間をポップアップという形で作り出し、その世界観は期間限定でしか体感できない希少価値を生み出している。実店舗は持たない。洋服やアクセサリーだけでなく、インテリアやアート、食器、菓子など、全てのアイテムで完璧な架空の空間を作り出している。さらには買い付けたアイテム全てをリメイク・手入れし、その価値を上げ、ずっと大事にしたくなる特別な一点モノとして提供している。ベルリンにおける、新しいポップアップのあり方を表現している。

 テーマは、世界各地を旅しながら蚤の市で買い付ける時のインスピレーションから浮かぶという。その着眼点は、どう培われたのだろうか?創設者のシシー・ポール(SISSI POHLE)とパット・シェルツァー(PATRICK SCHERZER)をインタビューした。

WWDJAPAN:「アウトオブユーズベルリン」をスタートしたきっかけは?

シシー・ポール&パット・シェルツァー(以下、シシー&パット):私たちは、クローゼットにオリジナリティーを取り入れるため、さまざまな蚤の市でビンテージのお宝を探すことが好きでした。大量に生産されているものでは満足できなかったのです。ストーリー性のある特別なものを常に探し求めていましたが、そういった考えを持っているのは自分たちだけではないことに気付きました。そこでオンラインストアをスタートしました。オープン当初から大成功で、ビンテージコレクションを中心としたクリエイティブなプロジェクトに取り組む機会に恵まれました。

WWD:「サンローラン(SAINT LAURENT)」「バーバリー(BURBERRY)」「プラダ(PRADA)」「マルニ(MARNI)」などのラグジュアリーやデザイナーズブランドのコンディションの良い洋服は、どこでどう買い付ける?

シシー&パット:ヨーロッパ各地のビンテージホールや蚤の市に行き、何時間もかけて、隅から隅まで見て回ります。とても根気のいる作業だし、毎回期待通りの出合いがあるわけではありません。しかし、ここまでして特別なアイテムを探し出すことは、私たちにとっては醍醐味。雑多に積まれた混沌とした商品の中から、宝物を見つけ出すことを楽しんでいます。買い付けで重要なのは、ラグジュアリーやデザイナーズブランドを見つけることではなく、そのアイテムが私たちや顧客にフィットするかどうかです。自分たち自身が着たいもの、家に置きたいものだけを買うようにしています。そこに細かい修理を施し、丁寧に洗濯することで新たな価値を与えるのです。購入したいアイテムが「直接私たちに語りかけてくるかどうか?」「私たちを感動させてくれるかどうか?」を重要視しています。

WWD:ハイエンドとパンクのミックスは、どう生まれた?

シシー&パット:私たちは、音楽やアート、ファッションに興味を持ち、それらとともに成長してきました。「アウトオブユーズベルリン」で表現している世界観は、私たちそのものです。明確なコンセプトはなく、常にインスピレーションを受けながらアーティスティックな一面を全面に打ち出しています。特に、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)やセックス・ピストルズ(Sex Pistols)などのファッションや美学に大きな影響を受けています。色を使うことは大好きで、日々のルックにも自宅にも必ず色を取り入れています。柄の組み合わせも自由です。チェックのパンツにストライプのシャツを合わせるのは、私たちにとってはごく当たり前です。そういった自由な発想は、育ってきた厳しい規範から自らを解放していると言えます。そして私たちは、どんなことに対しても「イエス!」とは言わない反抗的な子どもたちのスピリットを持っています。それが私たちのパンクの思想に近いのかもしれません。

WWDJAPAN:不定期開催のポップアップストアにした理由は?

シシー&パット:私たちのアイデアやストーリーから生まれた空間で、型破りな体験をしてもらいたいと思っています。短期的で、何も感じない無感動なショッピングは避けたい。だからポップアップは毎回違ったテーマで、品揃えやディスプレイを変えています。昨年11月のポップアップは、パリでフランスのビストロを思わせる素敵なアイテムを見つけたので、架空のビストロに作り上げました。私たちは作業着のエプロンを身に付けてゲストを迎え入れ、フランスのワイングラスや食器、パリ近郊の田園風景を彷彿させるファッションや街そのもののシックさを提供しました。こうして生まれるシチュエーションに深い愛情を持っているし、それを「アウトオブユーズベルリン」でも伝えたいんです。

WWDJAPAN:ベルリンのファッションシーンは?

シシー&パット:私たちの顧客は世界各地にいますが、ベルリンにはとてもクールな顧客が集結しています。ポップアップにはローカルのベルリナーだけでなく、ベルリンに遊びに来た人たちも訪れてくれます。ニューヨークやシドニーから、インスタグラムのフォロワーが尋ねてくれたこともありました。世界中から人が訪れるのは、ベルリンがアートとファッションにおいて重要な街であるということ。エキサイティングな人たちに巡り合える街だと思います。

WWDJAPAN:今後の予定は?

シシー&パット:2022年には夢のひとつが実現しました。自然と静寂がある場所を求め、ベルリンを離れてパットの故郷に戻ったんです。自然があって、静かで、クリエイティブな仕事にも最適な場所を見つけました。今後は、これまで以上に複雑なプロジェクトを実現できるよう、新たにチームを組むなど、多くのプランを考えています。

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コロナ禍の学生生活を経てアパレル企業やデベロッパーに巣立つが大学生が「EverWonderな働き方」を語る

 人々の心に火を灯す機会を提供することを目的に、クリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えた一般財団法人渡辺記念育成財団は、EverWonderプロジェクトを発足した。構想中のプロジェクトは、同財団が次世代の芸能プロデューサーを支援する「みらい塾」の奨励生が企画進行している。今回は、第5期奨励生の百田優(法政大学 経済学部 国際経済学科)が同じ大学に通う友人と「コロナ禍の学生生活を経て社会に出る就活生たちが理想とする働き方」をディスカッションした。

百田優・法政大学 経済学部 国際経済学科4年 (以下、百田):本来であればさまざまな人と出会い、多様な価値観に触れながら成長できた大学生活がコロナ禍で多くの制約を受けてしまいました。もうすぐ社会人になるけれど、正直に言うと精神的には高校生のときからあまり変化していない実感があり、このまま社会に出ることがとても不安です。

田中航・法政大学 経済学部 経済学科4年 (以下、田中):自分の将来設計をする上でお金の流れを学ぶことは必要不可欠だと思い経済学部に進学したのですが、授業や就職活動を通して単にお金を稼ぐためではなく、やりがいや楽しさを感じながら仕事をすることが大事だと思うようになりました。私は、幼少期から好きだったショッピングモールに携わる商業デベロッパーという仕事に就く予定です。

小磯啓ニ・法政大学 経済学部 国際経済学科4年 (以下、小磯):私はアパレル業界に進む予定です。アパレル業界で働いている従兄弟の影響で洋服が大好きになり、魅力を感じるようになりました。スーツを着なくてよい職場というのも魅力的です。

百田:スーツを着る職場が嫌なのはなぜですか?大卒という資格を生かすためには、スーツを着るような有名企業に就職することがある種の最適解のようにも思えるのですが。

小磯:社会をあまり知らないという側面はありますが、スーツを着る職場というのは、昔ながらの慣習やルールに縛られている印象が強いです。従兄弟は毎日好きな服を着て出社し、休みも柔軟に取っています。自分らしく自由なライフスタイルが、自分には合っていると思います。

田中:仕事にやりがいや楽しさが感じられるのは大事ですが、自由なライフスタイルや充実したプライベートも大事ですね。私は音楽フェスに行くのが趣味なので、最低限稼げて好きなタイミングで休みを取れるのが理想です。逆に、大きなプロジェクトを任されるなどで仕事三昧になることは望んでいません。

百田:僕も小磯くんと同じで、好きなことを仕事にしたいと思っています。やはり仕事で結果を出すためには、没頭できることが大事なので。親が仕事の愚痴を度々言っていたり、公務員の兄たちが退屈そうにしているのを見てきたりしたのも大きいです。

小磯:いわゆるレールの上を歩いているような人生は嫌ですね。大学までは、親の意見を聞いて進路を決めてきましたが、就職活動で価値観が変わり、自分らしく働ける職場を選択しました。両親は有名企業への就職を望んでいたのですが。好きなことを仕事にして、自分らしく働けることが大事だと思います。

田中:好きなことを仕事にできるのは魅力的だけれど、一方で結果が伴わないと嫌いになってしまいそうです。僕はギターをやっているけれど、絶対に仕事にはしたくないと思っています。そういう怖さはありませんか?

小磯:たしかにその怖さはありますね。それでも仕事と趣味を割り切って働くことが難しい性格なので、怖くても好きなことを仕事にせざるを得ないなと。仮に結果が伴わなかったとしても、おそらく後悔しないと思います。

田中:正直、お金に困らない環境で育ったので、貪欲に稼いで良い家や車を買いたいみたいな夢はありません。それよりも、これからの長い人生の大半を仕事に費やすことになるだろうから、最低限稼ぎながら自分らしく働ければと思います。

小磯:自分も特に夢はなく、ある程度の暮らしができれば満足です。私たちの周りで「お金持ちになりたい」とか「有名になりたい」という野心がある人はあまり聞かないですね。強いて言えば、百田くらいかな(笑)。

百田:僕は、仕事で結果を出してモテたいです(笑)。好きなことを仕事にできれば、その目標に近づくと思っています。もっとも、その好きなことを見つけるのが難しいのですが。

田中:良くも悪くもコロナ禍で、計画を立てて自律できる人とそうでない人との差が浮き彫りになってしまったと思います。例えば、オンライン授業はいつでも受けられるけれど、なかなか受けずに怠けてしまう人をよく見かけます。もちろん、自分も含めてですが。明確な目標を持ち、それを達成するために計画を立てながら、常にモチベーションを保ち続けていくことが大事だと思います。

小磯:一度これだと決めたことに対して没頭できることが大事だと思います。もっとも、もしそれが失敗したらという怖さはあるので、リスクとどう向き合っていくのかは重要な課題です。今まで心に火が灯ったことがあまりないので、アパレル業界の仕事に没頭し、心に火が灯ればと思います。

百田:失敗したときの怖さはありますが、僕は仮に失敗したとしても、希望が残っていればどうにかなると思えます。僕も含めて、先行きの見えない将来への不安や失敗する怖さを抱えている人たちに希望と思えるような体験を、みらい塾の課題を通して実現したいと思います。一つには、文化祭や街のお祭りのように、仕事ではないけれど同じ目的を持った人たちと一緒にオフラインで作業ができるような場所かなと思います。

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オンワードの敏腕マーケッターが語る「アパレルのデジタルマーケティングに必要なステップ」

 世の中全体でデジタル化が進む中で、どの企業にとってもデジタルマーケティングの知識や実行力の必要性が高まりつつある。ただ、デジタルマーケティングと一口に言っても、必要なノウハウやKPIは業種やポジションによっても異なる。アパレル業界にとってのデジタルマーケティングとは、何が必要でどんな手法を取るべきなのか?オンワードグループの自社ECサイト「オンワード・クローゼット」の急成長を支えてきた、オンワードデジタルラボの小泉雄也氏と、アパレルECでのMDやマーケティングなどの経歴を持ち、現在新プロダクトのバーチャサイズ アナリティクスの開発を牽引するバーチャサイズの中村智幸氏に話を聞いた。


「オンワード・クローゼット」を
ブーストさせたデジタル
マーケティングの基本戦略

WWDJAPAN(以下、WWD):今、アパレル業界でもデジタルマーケティングが必要な理由をどう考えているか。

オンワードデジタルラボ小泉雄也氏(以下、小泉):社会全体がデジタルシフトする中、消費者の購買行動も変化しています。特にBtoCの小売業は、お客さまが認知から購入に至るまでのプロセスと、流通経路や販売チャネルもかつてないほど複雑に多様化しているため、デジタルマーケティングが必須になっています。

WWD:オンワードは早くから自社EC「オンワード・クローゼット」を重視し、実際に大手アパレルの中でも自社EC比率の高さが抜きん出ている。デジタルマーケティングは何を重視してきたのか?

小泉:自社ECを重要視する中で注力しているのは、お客さま理解の解像度を上げることです。お客さまが何を見て、いつ何を買ったなど、定量的なデータを、お客さま単位でしっかりと見て理解することを心掛けてきました。現在、会員プログラムであるオンワードメンバーズの会員数は約400万人。400万人全員を1人ずつ見ることはできないので、ロイヤリティに応じていくつかのセグメントに分類しています。重要なのは、自分たちにとっての「理想の状態のお客さま」がどういった状態なのかを、アクセス数や購入回数、購入金額などの数字に落とし込んで定義すること。その上で、どのようにして理想的な状態のお客さまを最大化するか、そのための戦略や施策を作っていく。これがオンワードのデジタルマーケティングの基本的なやり方です。

効果的なアパレルのデジマ施策とは?

WWD:では、施策はどう決めて実行していく?

小泉:例えば新規顧客の獲得では、むやみにアプローチするような施策はせず、最終的に「理想の状態のお客さま」になっていただける可能性の高い人(LTVが高いユーザー)を獲得することに注力しています。きちんと「質の良い新規ユーザー」を定義さえできていれば、そうしたユーザーの多くは初回購入から半年、1年という時間軸で見ると、きちんと2回、3回と購入いただいています。つまり、新規獲得のCPA(顧客獲得単価)をいかにして下げるか、ではなく、継続購入しやすい新規顧客の獲得に注力する方が長い目で見ればROI(費用対効果)は高い、ということです。このように中長期的に見てLTV向上に寄与する手法を把握して、そこに投資を優先することで費用対効果の最大化を図っています。

WWD:ちなみにこれまで効果があった施策は?

小泉:ブランドや企業のポジションや状態によって効果の高い施策は異なる、ということは大前提ですが、当社でパフォーマンスが高かった施策の一例として、「Lサイズブランド」を活用した事例があります。オンワードの場合、主力ブランドの「23区」や「自由区」には、百貨店の売り場などで大きめサイズの展開を行ってきました。これをフックにウェブ広告を運用すると非常にLTVが高い。これはサイズの幅を広く取れるネット通販とそもそも相性が良かったとも言えるし、そもそも当社が持っていた強みや優位性をデジタルマーケティングにうまく落とし込めたとも言えます。

中村智幸バーチャサイズ プロダクトマネージャー(以下、中村):バーチャサイズの場合、独自の共通IDを持っていて、お客さまは自分の身長や体重、年齢のほかに、自分の身体のサイズで気になる部位を書けるのですが、ユーザーの約4割が記入しています。実はこのバーチャサイズのユーザーデータとオンワードの購入データをかけ合わせたところ、体に気になるパーツがあると感じている方が、オンワード・クローゼットでの年間の購入金額が高い。つまり、自分の体形に合う服がなかなか見つからないが、オンワード・クローゼットに行けばあると認識している、と分析できます。その意味でも「Lサイズ」をフックにしたマーケティングは、理にかなっています。


アパレルのデジマで
抑えておくべきポイントとは?

WWD:アパレル企業にとって、デジタルマーケティングで抑えておくべきポイントは?

小泉:冒頭でも申し上げましたが、やはり「お客さまを知り、その状態を数値で定義すること」だと思います。数十万、数百万人いる会員全員を知るというのは難しいと思いますが、顧客に関するデータを収集、分析していく過程で「理想とすべき顧客像」が見えてきます。あとは、その状態にもっていくために、どういった施策を打っていくかを考えることだと思います。

WWD:しかし、そもそもそれをできる人材をどう育成、あるいは獲得すべきなのか?

中村:当社のクライアントでも、データをどう扱っていいか分からないというご意見は昔から多くありました。そこで開発したのが、アパレルに関わる購買/マーケティングデータを一元管理できる「バーチャサイズ アナリティクス」です。ユーザーが商品ページをいつ閲覧し、購入せずに離脱したのか、どの商品を比較したのかなどが分かったり、サイズに関してだと、弊社ではMサイズをリコメンドしたが実際に購入されたのはXLみたいなことも分かるので、この場合はもしかするとオーバーサイズで着たかったのでは、といった見方が可能になります。


ありそうでなかった
「バーチャサイズ アナリティクス」は
どう使う?

WWD:小泉さんから見て「バーチャサイズ アナリティクス」はどうか?

小泉:まだ少し触ってみた感じですが、UI/UXが優れていて、使いやすそうに見えます。実はこれ、結構重要です。まずは触ってみたくなるかどうか、みたいなところは新ツールや、アパレルのデジタルマーケティングの現場のように他から異動してきた人が多い部署には重要だと思います。そして実際に大変使いやすい(笑)。シンプルでわかりやすいデザインで、ポチポチとクリックしてサクサクとデータが見れるし、「バーチャサイズ」らしく、サイズにひも付く情報が非常に分かりやすく構成されているのもいい。実際にこの「バーチャサイズ アナリティクス」を見て気付いたのですが、アパレルに特化したデジタルマーケティング分析の専用ツールって意外になかったんじゃないでしょうか?少なくとも私は初めて見ました。

中村:ありがとうございます。なかったと自負しています。「ポチポチとクリック」という意味で言えば、例えば過去18カ月分のデータは、デフォルトで「アーリーアダプター」「セールハンター」など9つほどのカテゴリにセグメントされていて、数回のクリックだけで「過去18ヶ月間に1回だけ購入したユーザー数」なども簡単に確認できます。もちろん、そのセグメントの中で男女比や年齢分布、身長体重の分布、購入したものなどドリルダウンして分析することも可能です。

小泉:ECを行う上で、分かっていた方がいいことがあらかじめ項目になっているのは、とてもいいと思います。

WWD:バーチャサイズアナリティクスの導入金額は。

中村:アパレルのデジタルマーケティング初心者向けプランは無料です。小泉さんのようなエキスパート向けのハイグレードプランでも月額10万円台でご利用いただけます。

WWD:最後に、バーチャサイズを使ったデータ活用のアイデアを教えて下さい。

小泉:まだ企画段階ではありますが、「こういうのが見たかった」と思われる情報をコンテンツ化して伝えていきたいと考えています。服選びの際には、仮に同じ身長と体重の二人がいたとしても、体形に関する悩みや、実現したいスタイルはそれぞれ異なると思います。そういった個々の悩みを持つ方に刺さるコンテンツを見せれば、アクセス数もコンバージョンも上がるだろうな、と思います。バーチャサイズのデータがあればどんなコンテンツを作成すべきか考えるヒントになるし、然るべき人に最適なコンテンツをレコメンドすることもできる。これはかなり効果があるだろうな、と思っています。

TEXT:MIWAKO ANNEN

問い合わせ先
バーチャサイズ
japan@virtusize.com

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一度は挫折したけれど、やっぱり学生時代の夢が今につながっている 経営者たちが語る「EverWonderの実現方法」

 人々の心に火を灯す機会を提供することを目的に、クリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えた一般財団法人渡辺記念育成財団は、EverWonderプロジェクトを発足した。構想中のプロジェクトは、同財団が次世代の芸能プロデューサーを支援する「みらい塾」の奨励生が企画進行している。今回は、第5期奨励生の下西竜二(OTAGROUP代表)が中心となり、学生時代の夢が現在につながっていると考える経営者たちと共に「EverWonderを実現する方法」についてディスカッションする。

下西竜二OTAGROUP代表(以下、下西):私はアイドルやVTuber、最近だとメタバースなど、さまざまなエンタメをプロデュースしていますが、そのきっかけは高校生のとき、アイドルオタクに目覚めたことです。同じように、学生時代に熱中していたことが今の仕事に生きている方たちとお話できればと思います。皆さん、学生時代に熱中していたことは?

長坂剛エーテンラボCEO(以下、長坂):私は中学2年生のときにテレビで「エヴァンゲリオン」を観たのがきっかけで、SF系のアニメや漫画にのめり込みました。この時、自分のオタク心が開花したように思います。高校に進学してからは、学校をサボってはゲームセンターに入り浸り、アーケードゲームに夢中でした。「鉄拳」や「電脳戦機バーチャロン」をやり込んでいて、全国大会にも出場しました。

下西:以前、起業家向けイベントの帰りの電車で一緒になった際、長坂さんが事業の話そっちのけでアニメの話をされていて、「この人は本物のオタクだな」と思いました(笑)。噂によると、これまでに300万円ほどをアーケードゲームに使われたとのことですが、本当ですか?

長坂:そうなんです。事業資金として貯めていればよかったと思います(笑)。ただ、300万円使うほどのめり込んだおかげで、「作り手になりたい」という想いが芽生えました。高校卒業後は、ゲームクリエイターかアニメーターになるために当時新設された東京工科大学のメディア学部に進学し、映像制作やCG制作を学びました。映画の自主制作や映像制作のアルバイト、趣味のアーケードゲームに大半の時間を割いた大学生活でした。ちなみに、当時は「三国志大戦」というアーケードゲームで全国ランカーになりました(笑)。

水野和寛Minto社長(以下、水野):私にも似たような経験があります。高校進学で愛知から上京すると、古本屋やCDショップをめぐるようになりました。当時流行っていたテクノから音楽にハマり、ひたすら遡って昔の音楽を聞きました。そんな高校生活を経て、大学に入ると「自分も音楽を作りたい」と思うようになり、コンピューターで音楽を作るようになりました。

下西:自分は勉強だけが取り柄で、やりたいことが見つからないまま偏差値の高い高校に進学。同級生の頭の良さを目の当たりにして、勉強でも自信を失いました。そんなときに出会ったのがAKB48でした。友達に誘われて初めて握手会に行き、アイドルと握手をしたときに衝撃を受けて、帰り道は電車のつり革をつかめませんでした。広島からほぼ毎月握手会に参加するほど夢中になり、母親はデートと勘違いしていましたが、女の子と手を繋ぐのである意味デートだろうと思っていました(笑)。

大久保 勝仁・銭湯「電気湯」4代目主人(以下、大久保):大学生のとき、私はボランティアに熱中していました。住居がなく最低限の暮らしすらままならない人たちが住み着くスラム街の土地を買い取って、資産運用などを行いながら持続的に支援するというものです。また、PPバンドプロジェクトにも注力しました。段ボールを束ねるときに使うプラスチック製のPPバンドをメッシュにして住居を支える骨組みに使うと、スラムの人々が自ら建てた簡易的な家の耐震性が上がります。このような支援を行うのがPPバンドプロジェクトです。

下西:学生時代の夢と、それが叶ったかどうか教えてください。

大久保:私の夢は最小不幸社会を作りたいというものです。企業は利益を追求して多くの人に最大の幸せをもたらして社会を豊かにする役割を担っている一方、政府や行政は不幸な人を救い、最低限の幸せを保障する役割があります。後者が目指すものが、最小不幸社会の実現です。そのためには制度や法律を変えないといけないので、私は国連への参画を保障するような部署に入りました。当然、まだまだ救わなければならない人たちが存在するので、最小不幸社会は実現できていませんが。

下西:どのようなきっかけで、そんな想いを持ったんですか?

大久保:自分にはビジネスセンスが全くなく、企業では働けないと思っています。そんな自分が社会で暮らし続けるためには、社会の役に立たなければ。そんな危機感から公的な働きを意識し始めました。現在は国連をやめ、家業の銭湯を継いで最小不幸社会の実現を目指しています。銭湯ブームで色々注目を集めていますが、単に銭湯をファッションやコミュニティーとして消費されるものにとどめたくはなく、社会に本当に必要不可欠な存在として残していきたい。例えば、誰もがお風呂に入れることや、共同空間で人々と生活の一部をともにできることだと思っていますが、引き続き論文などを読みながら銭湯のあるべき姿を追求したいと思っています。

夢は「ある意味で叶った」
昔の志は「無駄ではなかった」

長坂:私は、大学卒業後は映画監督かゲームクリエイターになるつもりでした。でも高校生のときに持っていた「“メイドロボ”を作りたい」という夢を忘れられず、新卒でソニーに入社しました。ロボティクスや先端テクノロジーだけでなく、映画やゲームにも関われると思ったからです。メイドロボという夢は叶っていませんが、先端テクノロジーに関わることができたので、夢に近づいたと思います。一方、ゲーム部門で新規事業も担当できたので、ある意味夢が叶ったともいえるかもしれません。

下西:現在はソニーを退社されて起業されています。

長坂:ソニーに勤めていた時も、大好きなゲームに関わる仕事で非常に充実していました。しかし、自分がゲームオタクだからこそゲームに対してある違和感を覚えるようになり、起業を考えました。それは、楽しいときはプレイしている間だけで、ゲームをクリアして終わる瞬間は非常に虚しいことです。ゲームはユーザーの人生自体を楽しませているわけではないというモヤモヤが溜まり、その人たちの幸せにはどうすべきかを論文などを漁りながら考えました。その結果、人は自ら積極的に行動しているときに幸せを感じるので、ゲーミフィケーションを現実世界に実装すれば、人はゲームのように自分の人生を楽しめるのではないかという仮説を持ち、「みんチャレ」という行動変容と習慣化のアプリで起業をしました。

下西:ご自身が大好きなゲームを突き詰めた先に、人生自体を豊かにするゲームを作るという本当にやりたいことが見つかったのですね。水野さんはどうですか?

水野:大学に入ってから3〜4年ほどダンスミュージックやテクノなどの音楽を作っていました。ところが、自分にはセンスがない。手の届かない天才がいるんです。そこでこの先どうすればいいか迷い、留年して、いよいよ追い込まれたとき当時読んでいた音楽機材の雑誌の編集部に「なんでもするから働かせてくれ」とお願いして、裏方の世界で生きていくことを決意しました。今はクリエイターを支援したりプロデューサーをしたりしながらコンテンツ制作に携わっていますが、クリエイターの人には頭が上がりません。

下西:音楽で勝負する夢は叶わなかったわけですが、そのような過去を経て今の仕事をやられている心境は?

水野:もちろん音楽で生きていけたらそれに越したことはなかったでしょうが、一度はクリエイターの世界を志したからこそ、クリエイターの気持ちを理解できたりクリエイティブ思考でサービスを設計できたりするようなところがあります。そういう意味で無駄ではなかったと思います。また、当社で公開したメッセージアプリ用のスタンプは世界中で約50億ダウンロードされました。コンテンツを世界中に届けるという意味では、夢見ていたことに近いと思います。学生の時の夢や熱中していたことが今の仕事につながっているのは、後から振り返ってみて初めて分かったことです。将来を合理的に設計することも大事かもしれませんが、やはり自分の根底にある想いと、自分の場合はクリエイター的な思考に立ち返ることが重要だと思います。

下西:学生時代に熱中していたことが現在につながっているんですね。学生時代の夢は叶わずとも、そこで感じたことが今の仕事の哲学になっていることは共通しています。長い人生には一見将来のキャリアにつながらない回り道こそ必要なのかもしれません。

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コスメの余剰品問題に向き合いながら経済的困難な女性支援 柏市でシングルマザーにメイクセミナー

 「アットコスメ」を共同創業した山田メユミと有志はこのほど、「コスメバンクプロジェクト」をスタートした。シングルマザーら経済的困難を抱える女性の世帯に、化粧品メーカーが抱える余剰在庫となったコスメを詰め合わせ、支援団体などを通じて無償提供。今後も「女性と地球にスマイルを」を合言葉に、行き先が決まっていない化粧品を、必要とする人の元に届けることで、余剰品問題に向き合いながらコスメが消費者に提供できる自分への自信や高揚感を届けたい考えだ。今回は、千葉県柏市でシングルマザーを対象に開催した「仕事に役立つメイクセミナー」の様子と、このプロジェクトの理事と柏市長の対談をリポートする。

 「コスメを手にできない人たちがいる。一方でどう工夫しても、行き場を失うコスメがある。それを必要としている人に届けられないか、絶対にそうした方がいいと思ったことがコスメバンクプロジェクトの始まりです」と、一般社団法人バンクフォースマイルズの林久美子理事は話した。

 今回の千葉県柏市との取り組みについては、「さまざまなNPOを通じて必要としている人に関わろうと試みてきたが、なかなかきめ細かくは対応できなかった。『誰が、どういうことに困っているのか?』を、一番具体的に分かっているのは自治体と考え、太田和美・柏市長に相談を持ちかけたところ、今回の化粧品詰め合わせの配布とセミナーにつながった」と続ける。

 最初は柏市に住む児童扶養手当の受給世帯に対して、「美容セット引換券」を配布した。コスメバンクプロジェクトは化粧品9点の詰め合わせ全2000セットを用意。「メイク品は後回しなので、ギフトでいただけてうれしかった」など、喜びの声は続々寄せられた。また2カ月前から参加者を募り、10月の日曜日の午前と午後に1回ずつ開催したメイクセミナーには、合計20人の定員を超える応募があったという。

 「仕事に役立つメイクセミナー」とした理由は、対象者には非正規雇用者が多いため。正規雇用を目指す採用面接に役立てばという思いがあった。実際、コスメバンクプロジェクトの林理事は、「自立的に安心して、人生設計できるスタートラインに立って欲しいという思いがあった」という。そして、こう力を込めた。「『コスメなんてドラッグストアでは安価に売っているし、買えないことはないのでは?』と思う人もいるかもしれない。でも子どもの成長は早く、洋服は毎シーズンの買い替えが必要。習い事をさせてやりたいという親心もあるだろう。自分の化粧品を買う余裕があるなら、子どもを優先したいというお母さんがほとんど。でも、メイクは自己肯定感を高める。気持ちが晴れやかになって、自然と前を向ける。子どもにもいい影響がある」。

 実際のセミナーでは、1人1人の前に鏡がセットされ、使用後はお土産となるいくつもの化粧品がそろった。2時間のセミナーは、メイクアップアーティストのレクチャーに続き、それにならったメイクを複数のアーティストがサポート。失敗しないアイライナーの描き方や、印象を変えるヘアアレンジといった毎日の役に立つものから、オンライン面接でのメイクのポイントなどコロナ禍ならではの内容も盛り込まれた。

 30代の参加者は開口一番「シングル家庭向けの無料セミナーやイベントは、大抵都内での開催。参加してみたい内容でも電車賃がかかるし、子どもを預けるとさらにお金がかかるので、『無理だな』と思っていた。でも今日は、託児もできて安心して参加できた」と話した。また「これまでは美容系の仕事をしていたが、子どもが体調不良でも休みはなかなか取れない。思い切って事務職に転職したものの、オフィスでのお化粧の基本は全然分からなかったので、とても助かった。新品の化粧品なんていつ以来だろう?とてもありがたい。大事に使いたい」という声もあった。

 コスメを提供しながらメイクアップ講座を開催したコーセーの持田卓也経営企画部副部長兼サステナビリティ戦略室室長は協賛の理由を「一人ひとりが望む『きれい』に向き合うことを使命としている私たちは、コスメバンクプロジェクトの取り組みに共感している。昨年は化粧品3万点を寄贈し、今年も同様に商品をお届けした。私たちは、お母さんが輝くことで家族も笑顔になるまでを見据えている。化粧品をお届けして反響を聞くだけでも嬉しいが、皆さんの顔が明るくなっていく様子を直接見ることができた。化粧品を扱い、化粧品の力を信じている私たちの励みになる」と話す。

支えるだけではない。
地方自治体だからこそのサポートを

太田和美・柏市長(以下、太田):コスメバンクプロジェクトとの取り組みは、児童扶養手当を受給している方を対象にしたが、この手当は子どもが18歳になるまで。永久的なものではない。だから最終目標は、「1人親家庭の方々が、自立して就労する」にしなければ。就職の面接はメイク一つで雰囲気が大きく変わるから、今回は「仕事に役立つメイクセミナー」がいいと思った。自分の化粧品は後回しという方が多いので、化粧品の詰め合わせプレゼントはとてもありがたい。ハンドクリームや入浴剤は家族みんなで楽しめて、お母さんだけでなく家族みんなを笑顔にできる。

林久美子コスメバンクプロジェクト理事(以下、林):メイクをすると前向きになり、逆にそれらがないと“やる気”は損なわれる。このプロジェクトでは、それをきちんと検証したい。さらに衣食住に対してプラスαのコスメではなく、自尊心に対して影響を及ぼす大切な存在であることも、この活動を通じて探っていければ。

太田:行政側としては、プレゼントをするだけではいけない。住民の方々に喜んでいただくことはもちろんうれしいが、行政は、支えるだけでなく社会に送り出していく役割を担っている。そこでコスメのプレゼントだけではなくメイクセミナー、特に仕事に役立つという目的でのセミナーになった。今日の参加者の共通点は1人親だが、事情はそれぞれ違う。けれど、1人1人を後押ししたい。最終目標は、いろいろな経緯とともにいろいろな人生があって、さまざまな悩みを抱えていても全ての女性が、自分の人生を生き生きと生きてほしいということ。

林:セミナーでの太田市長の「何かあったら、これを機に市役所に相談して」をいい呼びかけだなぁと思った。「相談していい」「声を上げていい」と感じてもらえたら。今日で帰結するのではなくて、今日を一つのきっかけにしてプラスの影響が波及していくことを願っている。

太田:皆さん少し緊張の面持ちだったが、徐々にリラックスして笑顔が見えた。まずは良かったと思う。

林:気が早いが、次回のことも考えている。求めてくださる方がたくさんいることが分かったので、来年度はもう少し規模を拡大したい。

TEXT:MAHO ISE
PHOTOS:TSUKASA NAKAGAWA

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「膨大なエネルギーを費やした商品を世の中に渡しきりたい」 化粧品業界が余剰品を無償提供の理由

 「アットコスメ」を共同創業した山田メユミと有志はこのほど、「コスメバンクプロジェクト」をスタートした。シングルマザーら経済的困難を抱える女性の世帯に、化粧品メーカーが抱える余剰在庫となったコスメを詰め合わせ、支援団体などを通じて無償提供。今後も「女性と地球にスマイルを」を合言葉に、行き先が決まっていない化粧品を、必要とする人の元に届けることで、余剰品問題に向き合いながらコスメが消費者に提供できる自分への自信や高揚感を届けたい考えだ。今回は、このプロジェクトに参画する化粧品メーカーの理事たちに話を聞いた(この記事は「WWDJAPAN」2022年6月27日号の記事の抜粋です)。

WWDJAPAN(以下、WWD):3人は、どんな経緯や想いで理事に就任した?

北澤恒夫VAHI付加価値人間研究所代表(以下、北澤):私は提供する付加価値の高さから化粧品業界を志し、コーセーに入社しました。一通りを経験し、「化粧品は人の心を明るく、元気に、前向きにするもの」と実感してきました。「コスメバンクプロジェクト」の話を伺い、「素晴らしいですね」と参画を決めました。業界同士を繋げるモデルにして、化粧品を通じて皆さんを元気にしたい。それが、お世話になっている業界への恩返しだと思っています。

檜山敦ロート製薬取締役COO(以下、檜山):「人を幸せにする平和産業」と考えて資生堂に入りました。現在のロート製薬に至るまで一通りを経験しましたが常々、「化粧品は華やかな夢を売る仕事」にも関わらず、一方で「人知れず」「こっそり」廃棄していることが気になっていました。供給方法を考えたり、返品制度を再考したりしてきましたが、廃棄はどうしてもゼロにはならない。大きな矛盾を感じていたんです。この悩みは、あらゆるメーカーにとって共通だと思います。「本当なら廃棄していたものが感動につながれば」と考え、コロナになってすぐに皆さんとのディスカッションを始めました。

山名群ハリウッド取締役(以下、山名):山田メユミさんの志と「コスメバンクプロジェクト」の理念に非常に賛同し、山田さん同様、私も“ワーママ(ワーキングママ)”なので、何かお力になれたらと考えました。

WWD:メーカーとして、やはり廃棄には「やりきれない想い」がある?

檜山:めちゃくちゃあります。良い製品を作っている自負があるからこそ、本当ならまだ使える製品がうず高く積まれ、焼却処分を待っている光景には大きなショックを受けました。「みんながものすごいエネルギーを費やして世の中に送り出しているのに、このまま消えていく現実は、本当に良いのだろうか?」。そんな考えが、日々の仕事から離れることはありません。アウトレットを始めようとすると必ず「ブランド価値の毀損」が心配事として挙がります。でも、そうでもしないと売りさばけないという矛盾を私たちは皆抱えている。「コスメバンクプロジェクト」は、「世の中に渡しきる」システムになり得ると思うんです。

北澤:コーセーの新入社員は入社すると、商品が生まれてから役割を終えるまでの一連を見学します。最初に返品庫を訪れた時は、私も本当にショックでした。業界には、製品を「この子」と呼ぶくらい愛情を注いでいる人が多いですよね?だからこそ役割を全うできて、それが喜ばれるなら素晴らしいことです。

山名:前職の金融とビューティが大きく異なるのは、モノを作っていることです。日本には職人がたくさんいるのに、一方で作っているものを大量に廃棄している。ビューティ業界に飛び込み、最初はその事実に驚きました。ただ海外の人は、「日本人は、物を大事にする」「日本では、物に魂が宿っていると考えられている」と信じています。だからこそ、こんなプロジェクトが日本から生まれたと思うんです。

檜山:(廃棄は)ブランド価値を守るためにはある意味「仕方ない」ことと思っていました。ブランド価値を守るためのトレードオフというか、諦めだったんです。でも隣の業界、例えば食品業界はフードロスに向かって動いています。

北澤:ブランド価値を守ることが「憧れ」や「夢」「元気」につながると思ってきました。でも今は「憧れ」よりも、地に足のついた生活の中で「より良い」を志向する時代に進んでいる気がします。

檜山:デジタルやSNSで、コミュニケーションの環境が変わりました。あらゆる活動と消費者の距離が近づいています。ファッションやビューティは、昔のアイドルのようにバックヤードの姿を見せず今に至りました。でも今は、ドジでかっこ悪いところまで見せられるアイドル、リアルに会えるアイドルが支持されています。社会・経済活動全般が、そんな価値観に応じてシフトしていますよね?

社会課題への解決意識が
強い会社は「2つ返事」

WWD:そんな課題を抱えている企業にとって「コスメバンクプロジェクト」は、ありがたい存在だった?

檜山:廃棄に関して、課題や問題を抱えていると認識していない企業はありません。ロート製薬は社会課題への解決意識が強いので2つ返事でした。ただ他社でも「ウチは、チョット……」というケースは、ほとんどなかったのではないでしょうか?

北澤:メーカーからすると、現在の在庫が生活者に喜んでもらえるなら、尚良しです。

山名:SPAモデルではない限り、「コスメバンクプロジェクト」はありがたい存在です。加えてさまざまなプロボノと連携・連帯できる面白さもあります。恵まれたコラボレーションで進行するプロジェクトに、私自身楽しさややりがいを感じています。

檜山:狭い業界なのに、知らないことがたくさんあることに気づきました。資源には限りがあり、右肩上がりの成長神話なんて崩れている中、一人でも多くの生活者のライフ・タイム・バリューに貢献するには、業界が横に手を広げるべきと感じています。

北澤:私は今、「化粧品のライバルは?」と聞かれたら「携帯電話とディズニーランド」と答えます。いずれも1万円あれば、高い満足度を提供できるでしょう。でも化粧品は一生モノで、元気になれると思っていますけれどね(笑)。こんな考え方含め、ブランドの在り方が大きく変わろうとしています。パーパスの旗の下で、組織がプロジェクトごとに繋がっていく。そして、その過程をコミュニケーションしていく。そんな時代に突入するのではないでしょうか?

山名:私は「女性と地球にスマイルを」という言葉が大好きなんです。より良い世界のためには、やっぱり女性と地球がキーだと思うんです。ハリウッド化粧品の牛山メイ創業者は、「女性が美しい国は、戦争をしない」と説いています。外見だけじゃなくマインドまで、お母さんが美しくなって笑顔になれば、家庭やコミュニティー、会社にポジティブな影響を与えます。

檜山:活動内容をまとめるとき、メーカーに「依存する」関係性にはならないよう配慮しました。廃棄するものでも、商品は商品。そして、ギフトを受け取る女性も消費者であることは変わりません。使ってもらい、いろんな意見を吸収し、フィードバックすることで相互の協力関係を目指しました。今後は、化粧品を受け取った人の自立支援にも取り組みたいですね。

北澤:偏在を是正する、全体最適のプラットフォームとして機能するよう、協力を続けます。

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パリコレデザイナー「ロク」が語るモノづくりの変化 メンズウエア挑戦や「コンバース」コラボなど

ロク・ファン/「ロク」デザイナー

PROFILE:韓国・ソウル生まれ、米テキサス・オースティン育ち。ロンドンのセント・マーチン美術大学でメンズウエアとウィメンズウエアを学ぶ。2010年にフィービー・ファイロによる「セリーヌ」で3年間アシスタントデザイナーを経験後、フリーランスデザイナーとして「ルイ・ヴィトン」や「クロエ」のデザインを手掛ける。16年に自身のブランド「ロク」を立ち上げ、18年度の「LVMHプライズ」で特別賞を受賞。19-20年秋冬に初のランウエイショーをパリで発表。19年に「ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion)」の“世界を代表するファッション業界人500人”「BoF500」に選ばれる。PHOTO : KO TSUCHIYA

 「ロク(ROKH)」は、ファッション好きに定評のあるブランドだ。エレガントでありながら、エッジの効いたデザインを強みに、BLACKPINK(ブラックピンク)やハリウッドセレブにも愛されている。デザイナーのロク・ファン(Rok Hwang)は、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)が手掛ける「セリーヌ(CELINE)」で経験を積み、2016年に自身のブランドを設立。18年度「LVMHプライズ」特別賞を受賞し、同年からパリ・ファッション・ウイークでコレクションを発表し続けている。

 12月には「コンバース(CONVERSE)」のトップライン“コンバース アディクト(CONVERSE ADDICT)”との初のコラボレーションを発表し、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA以下、DSMG)限定のカプセルコレクションを披露。同コレクションはユニセックスで、メンズウエアをローンチする構想の布石となった。3年ぶりに来日を果たしたロク・ファン(Rok Hwang)が、モノづくりやパリへのアトリエ移転計画などを語った。

「コンバース」は憧れ
1990年代のバッシュにように

――「コンバース」とのコラボレーションについて教えてください。

ロク・ファン(以下、ロク):「コンバース」は子どもの頃から好きなシューズブランドだ。特に“チャックテイラー”はアイコニックなので、「ロク」のモデルで作ってみたいと思っていた。「コンバース」がバスケットボールシューズの製造から始まったという歴史もあり、今回のインスピレーションは、僕が子どものときに触れていた1990年代のバッシュだ。さらにアメリカのビンテージへと着想を広げて、レゴや積み木などアメリカの古き良きおもちゃをイメージし、ダブルソールのデザインにした。

――白を基調とした理由は?

ロク:ビンテージから着想を得ながらも、フレッシュな印象を与えたかったので、アイボリーやベージュ、グレーなどを合わせている。特にベージュは「ロク」で多用している色でもあり、ブランドらしさをこのコラボレーションで表現するのにぴったりでした。

――DSMG限定アイテムとして、ユニセックスのウエアも登場しました。

ロク:ウエアは、「コンバース」コラボレーションで用いた90年代のアメリカンビンテージのアイデアを拡張させた。レトロなグラフィックやパッチを付けて、遊び心を加えている。ユニセックスにしたことで、僕自身も着用できるようになった。90年代にアメリカで過ごした、僕のパーソナルでノスタルジックな記憶に結びついるん。

――過去のインタビューで「メンズウエアにも挑戦したい」と語っていました。実現の予定は?

ロク:今、実現に向けて動いているところ。正確な時期は教えられないが、もうすぐだ。

――コラボレーションの相手を選ぶときの基準は?

ロク:「ロク」は派手ではなく、控えめなブランド。だからその世界観にマッチして、お互いにとって有意義な協業にしたい。過去には「アシックス(ASICS)」ともシューズを作ったし、京都の川島織物セルコンというテキスタイルメーカーとチェアを製作した。今も他社とのコラボレーションを企画中なので、楽しみにしていて。

――「ダブレット(DOUBLET)」ともTシャツを共同制作していましたね。

ロク:そう!「ダブレット」の井野(将之)さんとは、「LVMHプライズ」で出会ってから仲良くしてもらっている。彼はクリエイティブで、職人技を深く理解していて、ユーモアをうまく取り入れたスタイルにいつも刺激を受けている。また面白いことを一緒にできたらうれしい。

“アメリカンビューティ”を象徴
テイラー・ヒルをモデルに起用

――23年春夏コレクションのショーについて教えてください。

ロク:僕はいつも現代女性に向けて、美しくエレガントでありながら、エッジの効いた遊び心のある服を提案したいと思っている。23年春夏は“The Irrational View(不合理な見識)”をテーマに、エレガンスと遊び心の対比を楽しんでもらえるようなコレクションだ。例えば、シルエットはマーメードのように華やかでも、部分的にカットアウトしていたり、破けたようなディテールが施されていたり。ちょっとだけひねりを加えている。

――テイラー・ヒル(Taylor Hill)が登場して驚きました。彼女を起用したのはなぜですか?

ロク:テイラーはアメリカを代表するアイコニックなモデルであり、ナチュラルな美しさを象徴しているから。僕がアメリカ育ちというバックグラウンドもあり、“アメリカンビューティ”を表現できるモデルを起用したかった。

――最近はBLACK PINKをはじめとするK-POPアイドルなどの着用も多いですね。反響は?

ロク:素敵な女性たちが着こなしてくれて本当に幸せ。最近はハリウッドスターの着用も増え、ブランドに新しいストーリーが作られていくような感覚。でも、街で「ロク」を着ている人を見かけたときの感動はとても大きく、アイドルやスターたちの着用と同等にうれしい!

ビジネスは好調
パリへのアトリエ移転計画も

――ファンを世界中に拡大していますね。ビジネスも好調でしょうか。

ロク:ありがたいことに好成長を続けている。強力なファンベースが築けているため、コロナ禍でも卸先は減ることがなく、ビジネスを順調に続けることができている。チームメンバーも20人に増えた。

――どの国での人気が高いのでしょうか?

ロク: 特にイギリス・ロンドンと日本が大きな市場だ。

――現在はロンドンを拠点に置いていますが、今後も変わらずロンドンで制作を続けますか?

ロク:実はパリへ拠点を移そうと準備を進めているところ。19年からパリ・ファッション・ウイークでショーを発表しているので、今後はパリにアトリエを構える方が効率的だと考えている。場所は今探しているところだが、順調に進めば23年中にはパリに移りたい。

――パンデミックを経験して、ブランドに変化はありましたか?

ロク:特に変わったのは、働き方ですね。生産チームがポルトガルにいたり、PRオフィスを韓国にオープンさせたりと、他国からでも一緒に働くメンバーが増え、ビジネス基盤も少しずつ固めている。今までは出張が多かったのに、Zoomミーティングで済ませることも増えた。でも、結局最後は直接会って、現物を見ながら話し合うことが大切だ。

ファッション業界を志す人へ
“我慢強くあること”

――「LVMHプライズ」特別賞を獲得してから4年が経ちましたね。同プライズでは毎年、世界中から新しい才能が発掘されています。若い世代のデザイナーたちやファッション業界を志す学生たちにアドバイスを与えるとしたら、どんなことを伝えたいですか?

ロク:僕はまだアドバイスできるようなポジションにはいないと思うけれど……(笑)。ファッションが好きならば、とことん突き進んでほしい。必要なのは我慢強さ。辛いことがあってもすぐに諦めず、根気強くできることを続けるのが成功の秘訣だ。ファッション業界は常に新さが求められているので、僕自身も次世代の新しいクリエイションを見るのが楽しみ。

――23年の抱負は?

ロク:パリで発表した23年春夏コレクションはとても好評だったので、ブランドの世界観により深みを出していきたい。芯の強さを持つ「ロク」の女性像、そのアティチュードもっと表現できるように努めていく。ビジネスでは、自社ECも強化したいので、コミュニケーションの方法を工夫したい。

――ひさしぶりの来日はいかがですか?

ロク:3年ぶりに戻ってくることができてうれしい。今回は4日間と短い滞在だが、週末には箱根へ行く予定だ。

――最近ハマっていること、関心があることは?

ロク:最近はフランスでアウトドアの楽しさを知ってしまった。ドライブをして、山でキャンプをして、自然の中で過ごすことにハマっています。日本でもキャンプが流行していると聞いたので、いつか日本でも体験したい。

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責任者が語るRTFKT​​のコミュニティー構築とクリエイター、Web3.0

 近未来のテクノロジーとファッションを掛け合わせ、瞬く間に世界を席巻した新進気鋭のベンチャー企業、RTFKT(アーティファクト)。一昨年ナイキによる買収を受け、その勢いはさらに増している。

 2022年12月20日に、RTFKTのプロジェクト「クローン X(CLONE X)」のホルダー向けイベントについての記事を公開した。ツイッターの「クローン X」コミュニティーからは想像以上の反響が見られ、驚くことにRTFKTのコミュニティー責任者、YC(ワイシー)とつながり、直接話を聞くことができた。多くの人がまだ知らないRTFKTやNFTの魅力、そして親会社であるナイキとの関係性について話を聞いた。

■NFTの概念について

WWD:NFTの魅力について、どのように考えますか?

YC:まだまだ初期段階ですが、私たちがWeb3.0を信じる大きな理由の一つはデジタルアセットの所有権という考え方があるからです。Web2.0では、私たちはデータや資産を所有せず、所有権はすべて中央集権的な企業のサーバーに置かれています。インターネット上のソーシャルメディアであなたがすることは、すべて誰かのもので、自分でコントロールすることはできません。

 ブロックチェーンを使えば、インターネット上で所有しているものを調べ、伝達することができます。例えば私が「クローン X」を持っていて、ブロックチェーンが私が所有していることを示せば、誰も異論することはありません。平たく言えば、現実の世界で家を所有するとき、その家を所有していることを示す紙の証明書があるのと同じ考え方です。これらの証明書が、Web3.0ではブロックチェーン上にあります。このように、デジタル資産をオンラインで所有することが、Web3.0の大きなビジョンであり、コンセプトです。

 では、このデジタル資産とはどのようなものなのか、というのが問題です。デジタル資産には、現実世界と同じようにさまざまな種類があります。現実の世界と同じで、お金を持っている人が集めることができるという点や、人によっては投資を目的に所有する人もいるでしょう。

 でも、NFTは“実用性”“経験”のために所有する側面もあります。「クローン X」の場合は“デジタル・アイデンティティー““経験”のほか、“コミュニティーへの入り口”と考えていたり、“グローバル・ネットワーク・コミュニティーの構築”を目的にする人もいます。

WWD:NFT所有者が得られる具体的な経験について教えてください

YC:NFTを購入したり、所有したりすることで、私が強調したい経験は3つあります。1つ目は「フォージング(Forging)」。この言葉はゲームからインスピレーションを受けており、RTFKTに関しては、NFTのオーナーがデジタルアイテムをフィジカルアイテムに変換し、両方のバージョンを持つことを意味します。例えば、“RTFKT x ナイキ スペースドリップ エア フォース 1”では、NFT所有者がフィジカルなシューズを手に入れました。

 これらはいわゆる“ワールド・マージング NFC”で、フィジカルスニーカーにもNFC(=Near Field Communication)タグが搭載されているため、アイテムを受け取った後、フィジカルとデジタルの世界をつなげることができます。NFCタグとは、アプリの起動やWebページのURLなどの情報を登録しておくことで、スマートフォンをかざすだけで通信や動作を実行できます。

 そして、私たちが常に心がけているのが「AR体験」です。これは、私たちの「ARパーカ」のフィジカルで示されています。パーカの表と裏の両方にARコードがあり、誰かがスナップチャットでコードをスキャンすると、ARの羽が出現する仕組みです。

 最後に挙げられる例として「3Dファイルの所有」があります。「クローン X」のNFTを所有することで、完全な3Dファイルをダウンロードすることができます。そして、それをスナップチャットにインポートしたり、ブレンダーなどの3Dソフトウェアで使用して、独自の画像やアニメーションを作成することができます。

WWD:NFT超初心者の私におすすめするNFTは?

YC:Web3.0やNFTの世界には、「NFA=Not Financial Advice」という言葉があります。いち従業員として人々の経済的な生活に影響を与えることはできないため、金銭的な意味でのアドバイスはできません。ただ経済的な側面以外で楽しむことを考えるなら「クローンX」の NFTはおすすめです。最もユニークかつRTFKTへの入り口でもあり、コミュニティーの中であなたのデジタル・アイデンティティーを形成できると思います。私たちのコミュニティーでは、誰もが自分のクローンでお互いを認識し、自分のブランドやコンテンツを構築するようになりました。

WWD:先日開催した「クローン X トーキョー(Clone X Tokyo)」の盛り上がりをどう受け止めていますか?

YC:とても刺激だったと思う。この数ヶ月で知り合った日本のコミュニティーに感謝しています。まずクリエイターとして、彼らは非常に芸術的で、美意識が高い作品を制作しています。またコレクターとしては、長期的に作品を所有し、さまざまな方法でプロジェクトをサポートすることに非常に熱心です。そういった理由から、日本のコミュニティーは素晴らしいと心から感じています。

 実は、多くのアーティストがNFTの世界に参入している点で、日本は他の多くの国よりもかなり進んでいます。日本のアーティストたちはプロジェクトに文化をもたらしてくれるのです。だから、RTFKTの創業者たちは早い段階で村上隆とコラボしました。彼らにとって、日本のアーティストとコラボして、日本のアートや文化の大きな部分をPFPコレクション(Profile Picture=SNSのアイコンなどに使われるNFTアート)に取り入れることはとても重要なことなのです。技術やIT系の仕事をする人は「アバター」という言葉を知っていると思いますが、最近はほぼPFPに追い越される形で使用されています。

■RTFKTの取り組みや所有者の特徴

WWD:RTFKTがこれほどまでに大きな存在に成長している理由とは?

YC:さまざまな理由で人気があるのだと思います。一つは、多くの人が芸術を好きだから。2Dのプロジェクトが多い中、RTFKTは数少ない3DネイティブのPFPプロジェクトです。2Dももちろん素晴らしいですが、3次元ではより多角的なアイデアを実現してくれるため、アート好きの人々の注目を集めているのでしょう。そしてさまざまな特徴を持つコレクションがあるのも彼らにとって魅力なのだと思います。

WWD:RTFKTとして、これまでに最も成功した取り組みは何だと思いますか?

YC:創業者たちは違う視点を持っているかもしれないですが、もし私が選ぶとしたら、私たちがナイキに買収されたのと同じ時期に生まれた「クローン X」ですね。私たちが行った唯一のPFPコレクションで、最も成功したものであり、PFPコレクションの原型とも言えるでしょう。

 「クローン X」がパワフルである理由は2つあると思います。第一に、2万体もののコレクションを持っていて、1万人のホルダーがいます。それらのホルダーがコミュニティーを形成するのはとても強力で、継続力があります。

 2つ目は、デジタルアイデンティティーの表現です。「クローン X」のNFTを所有すると、3Dファイルをダウンロードすることができ、3Dファイルをダウンロードして3Dのスキルを学び、自分自身のブランドを構築することができます。

WWD:「クローン X」の始まりについて教えてください。どのように配布されたのでしょうか?

YC:2021年11月時点でのRTFKT保有者に向け、優先的に「ミントバイアル(Mintvial)」を低価格で配布し、一部は一般販売も行いました。それぞれの「ミントバイアル」はその後、ランダム化されたクローンとして生まれます。その後、ホルダーには3Dファイルやクローンの使い方をまとめたユーティリティーも納品しています。

 村上隆をはじめとするアーティストとのコラボレーションもあり、「クローン X」に素晴らしいアートとカルチャーを吹き込んでくれました。3Dアートのクオリティーの高さと、3Dアバターの可能性に感動していただけたようで、とても好評でした。

WWD:国籍、世代など、RTFKTのNFTホルダーの特徴は?

YC:アメリカではロサンゼルスやニューヨーク、そのほかドイツやフランス、イギリスのほか、日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどの国や都市は、強力なホルダーやコミュニティーが存在する主要都市です。共通するのは、経済先進国であるということ。察する通り、NFTは安い買い物ではないので、金銭的に余裕があり、経済システムに参加できるのは、概して先進国の人たちになってしまいます。

 パーソナリティーとしては、テクノロジーに熱心な人たちが多いですが、音楽を好む人やファッションに情熱を傾ける人などさまざまで、10代から定年退職した人まで年齢層は幅広いです。

■RTFKTの人員構成について

WWD:RTFKTにおけるあなたの役割とは?

YC:私は、コミュニケーション&エクスペリエンスの責任者として、3つのことを担当しています。1つ目は「コミュニケーション」。Web3.0は、多くの人にとってまだ少し分かりにくいところがあり、簡単に理解できることではありません。私は創業者たちと一緒に、人々が知るべきことを確実に伝えます。

 2つ目は「コミュニティーの活性化」。私は「クローン X トーキョー」のオーガナイザーではありませんが、コミュニティーのオーガナイザーとして、資金やコンテンツなど、彼らが必要とするものを全て提供し、サポートしました。ツイッターでバーチャル・コミュニティーを運営したりなど、オンライン上でコミュニティーを形成することも可能ですが、デジタルな関係だけでなく、フィジカルな関係も必要だと私たちは考えています。バーチャルとフィジカルが組み合わさることで、より強力な結束が生まれるのです。それぞれの地域文化、コミュニティーのリーダーやオーガナイザーによって、多様な取り組みが行われています。

 最後に「コレクターズ・エクスペリエンス」と言われる、私たちの経験を集約した戦略についての役割があります。「クローン X」だけでなく、RTFKTにはさまざまなNFTプロジェクトがあり、参加している人は誰でもコレクターとみなされます。その上で、私の仕事は「ホルダーの経験とは何か」を考えるサポートをすることです。つまり「クローン X」を所有していることで、単に所有するだけではなくどんな実体験ができるのか、ということです。バーチャルなデジタル体験だけではなく、フィジカルにおける体験でもあります。

WWD:RTFKTのチームはどのような人員構成になっているのでしょうか?

YC:私たちはみんな、Web3.0の精神を強く持っているので、フリーランスや契約人材が多くを占めます。おそらく正社員は35〜40人程度になるでしょう。嘘っぽく聞こえるかもしれませんが、チーム全員が非常に活躍していると思います。皆さんが魅力を感じるようなビジュアルやコンテンツ制作、クリエイティブディレクションを管理しているのはRTFKTの創業者たちです。

 私たちの活動はテクノロジー、ファッション、そしてアートの組み合わせなので、それぞれのエキスパートが必要です。そして当然ながら、NFTのデジタル資産はブロックチェーンに大きく依存しているので、技術チームも非常に重要。また、デザインチーム、ビジュアルデザイナー、コンテンツチームと呼ばれる人たちもいます。彼らはビジュアルデザインから、3D、アニメーション、そしてコンテンツに関わるものまで、すべての制作を担います。ファッションを担当するチームは素材やデザイン、制作、配送のことを考えなければなりません。また、Web3.0ではコミュニティー形成が非常に大切なポイントとなるので、私が属するコミュニティーチームも重要だと思いたいですね。

WWD:さまざまなクリエイターが所属したり、コラボしたりしていますが、どのように彼らを選抜しているのでしょうか?

YC:私たちのクリエイティブ・チームはクレイジーなほど、才能に溢れています。その多くは創業メンバーたちが見つけた才能で、非常に厳選されていると思います。そして私たちが人材を見つける方法は手作業で選ぶことが多く、履歴書をチェックすることはあまりありません。

 私たちスタッフの何人かは、元々はNFTコミュニティーのメンバーとして活動していました。時間が経つにつれて、私たちがコミュニティーのために多くのことを行っていることをRTFKTチームが知り、採用に至ったケースもあります。面白いことをやっている人、チームのビジョンに合っている人など、ほとんどは創業者によって、過去の関係やこれまでの実績に基づいて選ばれていると思われます。

 さまざまなコレクションを作るのは、創業者が選んだ19人のアーティストです。有名なアーティストばかりではありませんが、信じられないほどの才能があふれています。中には16歳や18歳の若者もおり、その若さですでに「ナイキ(NIKE)」の“エア フォース 1”をデザインしています。NFTにはロイヤリティーという概念があるので、アーティストと印税を共有しています。だからこそまだ若い彼らも収入を獲得することができるのです。若くて有望なアーティストに力を与え、才能を発揮してもらいたいという私たちRTFKTの信念と情熱を示す、良い例と言えるでしょう。

■ナイキとの関わりについて

WWD:ナイキによる買収を受け入れた理由とは?

YC:具体的な理由は創業者たちにしかわかり得ませんが、少なくとも私が言えることは、ナイキとRTFKTのパートナーシップはWin-Winの関係で、とても健康的であるということです。私たちにとって、ナイキのブランド力を活用できるのは明らかです。例えばスニーカーにおいて、彼らの象徴的なアイコンスニーカーである“エア フォース 1”を一緒に作ることができるし、製造や生産から配送までの大きなサプライチェーンも活用できる。これらはナイキが得意とする分野で、彼らが何十年も構築してきた財産です。

 逆に私たちがナイキにもたらすものは、Web3.0での概念や具体的なやり方です。RTFKTは、Web3.0を通じたクリエイターコミュニティの運営や構築の手本となることができます。

 また、RTFKTにとって本当にありがたい部分は、ナイキがWeb3.0の空間そのものが全く新しいものであることを理解し、RTFKTに多くの自主性を与えてくれたということ。私たちが効率的に動き結果を出すには、活動するための余白が必要です。タッグを組むことで、彼らは自分たちの目標を実現すると同時に、私たちの活動を支援し、スペースを提供してくれます。

■RTFKTの今後について

WWD:RTFKTの今後のビジョンについて教えてください

YC:今年は“ストーリーテリング”に焦点を当て、ホルダーの経験を強化したいと思っています。コミュニティーのために、私たちが行うすべてにおいてストーリーを構築することで、デジタルでもフィジカルでも最高の体験を提供したいです。人々は製品をただ買うだけではなく、製品に付随する経験を得たいと思うようになってきたように感じます。“ストーリーテリング”における例として、「リモワ(RIMOWA)」とのコラボレーションが挙げられます。ブランドの象徴的なスーツケースを作るまでの仮想ストーリーと冒険が、まるで映画のようにダイナミックな動画作品で公開されています。人々が背景を知ることで、自分もそのストーリーの一部であると実感できるのです。

 そしてクリエイターを目指す人たちを一層支援し、彼らの作品にスポットライトを当て続けたいと考えています。正直なところ、この2つに尽きます。

 来年以降に関しては、正直予測がつきません。なぜならWeb3.0はとても新しい空間で、未来にどのような技術やアイデア、コンセプトが生まれるかを予測することは不可能なんです。来年度の計画を持ちながら広い視野で動いていきたいと考えていますが、長期にわたる厳格な計画を持つことは、イノベーションを止めてしまう可能性があるので避けています。この分野はとても新しいので、常にオープンである必要があると考えています。

WWD:RTFKTの次なる注目ニュースは?

YC:最近公開したものであれば、「アニマスエッグ(ANIMUS EGG)」と呼ばれる新たなNFTで、「クローン X」のクローン保有者に1つずつ与えられるエアドロップ(無料の配布)です。

 卵の中に何が入っているのかはもうすぐ知ることになりますが、実は卵の中に何が入っているのか、すでにビジュアル上でヒントを出しているんです。クローンが2万体あるので、2万個の卵を用意しています。すべてのクローンがアニマスと呼ばれる小さなペットを飼っているとします。サトシとピカチュウのように、クローンはアニマスと一緒にさまざまな冒険に行き、クエストに参加することができるのです。それぞれが保有しているクローンがどこから来たのか、そしてどんな生活をしているのかをホルダーが実際に体験し、知ることができます。つまりこれらは、私たちが掲げる2023年の目標“ストーリーテリング”の模範的な例になると言えるでしょう。
 

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責任者が語るRTFKT​​のコミュニティー構築とクリエイター、Web3.0

 近未来のテクノロジーとファッションを掛け合わせ、瞬く間に世界を席巻した新進気鋭のベンチャー企業、RTFKT(アーティファクト)。一昨年ナイキによる買収を受け、その勢いはさらに増している。

 2022年12月20日に、RTFKTのプロジェクト「クローン X(CLONE X)」のホルダー向けイベントについての記事を公開した。ツイッターの「クローン X」コミュニティーからは想像以上の反響が見られ、驚くことにRTFKTのコミュニティー責任者、YC(ワイシー)とつながり、直接話を聞くことができた。多くの人がまだ知らないRTFKTやNFTの魅力、そして親会社であるナイキとの関係性について話を聞いた。

■NFTの概念について

WWD:NFTの魅力について、どのように考えますか?

YC:まだまだ初期段階ですが、私たちがWeb3.0を信じる大きな理由の一つはデジタルアセットの所有権という考え方があるからです。Web2.0では、私たちはデータや資産を所有せず、所有権はすべて中央集権的な企業のサーバーに置かれています。インターネット上のソーシャルメディアであなたがすることは、すべて誰かのもので、自分でコントロールすることはできません。

 ブロックチェーンを使えば、インターネット上で所有しているものを調べ、伝達することができます。例えば私が「クローン X」を持っていて、ブロックチェーンが私が所有していることを示せば、誰も異論することはありません。平たく言えば、現実の世界で家を所有するとき、その家を所有していることを示す紙の証明書があるのと同じ考え方です。これらの証明書が、Web3.0ではブロックチェーン上にあります。このように、デジタル資産をオンラインで所有することが、Web3.0の大きなビジョンであり、コンセプトです。

 では、このデジタル資産とはどのようなものなのか、というのが問題です。デジタル資産には、現実世界と同じようにさまざまな種類があります。現実の世界と同じで、お金を持っている人が集めることができるという点や、人によっては投資を目的に所有する人もいるでしょう。

 でも、NFTは“実用性”“経験”のために所有する側面もあります。「クローン X」の場合は“デジタル・アイデンティティー““経験”のほか、“コミュニティーへの入り口”と考えていたり、“グローバル・ネットワーク・コミュニティーの構築”を目的にする人もいます。

WWD:NFT所有者が得られる具体的な経験について教えてください

YC:NFTを購入したり、所有したりすることで、私が強調したい経験は3つあります。1つ目は「フォージング(Forging)」。この言葉はゲームからインスピレーションを受けており、RTFKTに関しては、NFTのオーナーがデジタルアイテムをフィジカルアイテムに変換し、両方のバージョンを持つことを意味します。例えば、“RTFKT x ナイキ スペースドリップ エア フォース 1”では、NFT所有者がフィジカルなシューズを手に入れました。

 これらはいわゆる“ワールド・マージング NFC”で、フィジカルスニーカーにもNFC(=Near Field Communication)タグが搭載されているため、アイテムを受け取った後、フィジカルとデジタルの世界をつなげることができます。NFCタグとは、アプリの起動やWebページのURLなどの情報を登録しておくことで、スマートフォンをかざすだけで通信や動作を実行できます。

 そして、私たちが常に心がけているのが「AR体験」です。これは、私たちの「ARパーカ」のフィジカルで示されています。パーカの表と裏の両方にARコードがあり、誰かがスナップチャットでコードをスキャンすると、ARの羽が出現する仕組みです。

 最後に挙げられる例として「3Dファイルの所有」があります。「クローン X」のNFTを所有することで、完全な3Dファイルをダウンロードすることができます。そして、それをスナップチャットにインポートしたり、ブレンダーなどの3Dソフトウェアで使用して、独自の画像やアニメーションを作成することができます。

WWD:NFT超初心者の私におすすめするNFTは?

YC:Web3.0やNFTの世界には、「NFA=Not Financial Advice」という言葉があります。いち従業員として人々の経済的な生活に影響を与えることはできないため、金銭的な意味でのアドバイスはできません。ただ経済的な側面以外で楽しむことを考えるなら「クローンX」の NFTはおすすめです。最もユニークかつRTFKTへの入り口でもあり、コミュニティーの中であなたのデジタル・アイデンティティーを形成できると思います。私たちのコミュニティーでは、誰もが自分のクローンでお互いを認識し、自分のブランドやコンテンツを構築するようになりました。

WWD:先日開催した「クローン X トーキョー(Clone X Tokyo)」の盛り上がりをどう受け止めていますか?

YC:とても刺激だったと思う。この数ヶ月で知り合った日本のコミュニティーに感謝しています。まずクリエイターとして、彼らは非常に芸術的で、美意識が高い作品を制作しています。またコレクターとしては、長期的に作品を所有し、さまざまな方法でプロジェクトをサポートすることに非常に熱心です。そういった理由から、日本のコミュニティーは素晴らしいと心から感じています。

 実は、多くのアーティストがNFTの世界に参入している点で、日本は他の多くの国よりもかなり進んでいます。日本のアーティストたちはプロジェクトに文化をもたらしてくれるのです。だから、RTFKTの創業者たちは早い段階で村上隆とコラボしました。彼らにとって、日本のアーティストとコラボして、日本のアートや文化の大きな部分をPFPコレクション(Profile Picture=SNSのアイコンなどに使われるNFTアート)に取り入れることはとても重要なことなのです。技術やIT系の仕事をする人は「アバター」という言葉を知っていると思いますが、最近はほぼPFPに追い越される形で使用されています。

■RTFKTの取り組みや所有者の特徴

WWD:RTFKTがこれほどまでに大きな存在に成長している理由とは?

YC:さまざまな理由で人気があるのだと思います。一つは、多くの人が芸術を好きだから。2Dのプロジェクトが多い中、RTFKTは数少ない3DネイティブのPFPプロジェクトです。2Dももちろん素晴らしいですが、3次元ではより多角的なアイデアを実現してくれるため、アート好きの人々の注目を集めているのでしょう。そしてさまざまな特徴を持つコレクションがあるのも彼らにとって魅力なのだと思います。

WWD:RTFKTとして、これまでに最も成功した取り組みは何だと思いますか?

YC:創業者たちは違う視点を持っているかもしれないですが、もし私が選ぶとしたら、私たちがナイキに買収されたのと同じ時期に生まれた「クローン X」ですね。私たちが行った唯一のPFPコレクションで、最も成功したものであり、PFPコレクションの原型とも言えるでしょう。

 「クローン X」がパワフルである理由は2つあると思います。第一に、2万体もののコレクションを持っていて、1万人のホルダーがいます。それらのホルダーがコミュニティーを形成するのはとても強力で、継続力があります。

 2つ目は、デジタルアイデンティティーの表現です。「クローン X」のNFTを所有すると、3Dファイルをダウンロードすることができ、3Dファイルをダウンロードして3Dのスキルを学び、自分自身のブランドを構築することができます。

WWD:「クローン X」の始まりについて教えてください。どのように配布されたのでしょうか?

YC:2021年11月時点でのRTFKT保有者に向け、優先的に「ミントバイアル(Mintvial)」を低価格で配布し、一部は一般販売も行いました。それぞれの「ミントバイアル」はその後、ランダム化されたクローンとして生まれます。その後、ホルダーには3Dファイルやクローンの使い方をまとめたユーティリティーも納品しています。

 村上隆をはじめとするアーティストとのコラボレーションもあり、「クローン X」に素晴らしいアートとカルチャーを吹き込んでくれました。3Dアートのクオリティーの高さと、3Dアバターの可能性に感動していただけたようで、とても好評でした。

WWD:国籍、世代など、RTFKTのNFTホルダーの特徴は?

YC:アメリカではロサンゼルスやニューヨーク、そのほかドイツやフランス、イギリスのほか、日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどの国や都市は、強力なホルダーやコミュニティーが存在する主要都市です。共通するのは、経済先進国であるということ。察する通り、NFTは安い買い物ではないので、金銭的に余裕があり、経済システムに参加できるのは、概して先進国の人たちになってしまいます。

 パーソナリティーとしては、テクノロジーに熱心な人たちが多いですが、音楽を好む人やファッションに情熱を傾ける人などさまざまで、10代から定年退職した人まで年齢層は幅広いです。

■RTFKTの人員構成について

WWD:RTFKTにおけるあなたの役割とは?

YC:私は、コミュニケーション&エクスペリエンスの責任者として、3つのことを担当しています。1つ目は「コミュニケーション」。Web3.0は、多くの人にとってまだ少し分かりにくいところがあり、簡単に理解できることではありません。私は創業者たちと一緒に、人々が知るべきことを確実に伝えます。

 2つ目は「コミュニティーの活性化」。私は「クローン X トーキョー」のオーガナイザーではありませんが、コミュニティーのオーガナイザーとして、資金やコンテンツなど、彼らが必要とするものを全て提供し、サポートしました。ツイッターでバーチャル・コミュニティーを運営したりなど、オンライン上でコミュニティーを形成することも可能ですが、デジタルな関係だけでなく、フィジカルな関係も必要だと私たちは考えています。バーチャルとフィジカルが組み合わさることで、より強力な結束が生まれるのです。それぞれの地域文化、コミュニティーのリーダーやオーガナイザーによって、多様な取り組みが行われています。

 最後に「コレクターズ・エクスペリエンス」と言われる、私たちの経験を集約した戦略についての役割があります。「クローン X」だけでなく、RTFKTにはさまざまなNFTプロジェクトがあり、参加している人は誰でもコレクターとみなされます。その上で、私の仕事は「ホルダーの経験とは何か」を考えるサポートをすることです。つまり「クローン X」を所有していることで、単に所有するだけではなくどんな実体験ができるのか、ということです。バーチャルなデジタル体験だけではなく、フィジカルにおける体験でもあります。

WWD:RTFKTのチームはどのような人員構成になっているのでしょうか?

YC:私たちはみんな、Web3.0の精神を強く持っているので、フリーランスや契約人材が多くを占めます。おそらく正社員は35〜40人程度になるでしょう。嘘っぽく聞こえるかもしれませんが、チーム全員が非常に活躍していると思います。皆さんが魅力を感じるようなビジュアルやコンテンツ制作、クリエイティブディレクションを管理しているのはRTFKTの創業者たちです。

 私たちの活動はテクノロジー、ファッション、そしてアートの組み合わせなので、それぞれのエキスパートが必要です。そして当然ながら、NFTのデジタル資産はブロックチェーンに大きく依存しているので、技術チームも非常に重要。また、デザインチーム、ビジュアルデザイナー、コンテンツチームと呼ばれる人たちもいます。彼らはビジュアルデザインから、3D、アニメーション、そしてコンテンツに関わるものまで、すべての制作を担います。ファッションを担当するチームは素材やデザイン、制作、配送のことを考えなければなりません。また、Web3.0ではコミュニティー形成が非常に大切なポイントとなるので、私が属するコミュニティーチームも重要だと思いたいですね。

WWD:さまざまなクリエイターが所属したり、コラボしたりしていますが、どのように彼らを選抜しているのでしょうか?

YC:私たちのクリエイティブ・チームはクレイジーなほど、才能に溢れています。その多くは創業メンバーたちが見つけた才能で、非常に厳選されていると思います。そして私たちが人材を見つける方法は手作業で選ぶことが多く、履歴書をチェックすることはあまりありません。

 私たちスタッフの何人かは、元々はNFTコミュニティーのメンバーとして活動していました。時間が経つにつれて、私たちがコミュニティーのために多くのことを行っていることをRTFKTチームが知り、採用に至ったケースもあります。面白いことをやっている人、チームのビジョンに合っている人など、ほとんどは創業者によって、過去の関係やこれまでの実績に基づいて選ばれていると思われます。

 さまざまなコレクションを作るのは、創業者が選んだ19人のアーティストです。有名なアーティストばかりではありませんが、信じられないほどの才能があふれています。中には16歳や18歳の若者もおり、その若さですでに「ナイキ(NIKE)」の“エア フォース 1”をデザインしています。NFTにはロイヤリティーという概念があるので、アーティストと印税を共有しています。だからこそまだ若い彼らも収入を獲得することができるのです。若くて有望なアーティストに力を与え、才能を発揮してもらいたいという私たちRTFKTの信念と情熱を示す、良い例と言えるでしょう。

■ナイキとの関わりについて

WWD:ナイキによる買収を受け入れた理由とは?

YC:具体的な理由は創業者たちにしかわかり得ませんが、少なくとも私が言えることは、ナイキとRTFKTのパートナーシップはWin-Winの関係で、とても健康的であるということです。私たちにとって、ナイキのブランド力を活用できるのは明らかです。例えばスニーカーにおいて、彼らの象徴的なアイコンスニーカーである“エア フォース 1”を一緒に作ることができるし、製造や生産から配送までの大きなサプライチェーンも活用できる。これらはナイキが得意とする分野で、彼らが何十年も構築してきた財産です。

 逆に私たちがナイキにもたらすものは、Web3.0での概念や具体的なやり方です。RTFKTは、Web3.0を通じたクリエイターコミュニティの運営や構築の手本となることができます。

 また、RTFKTにとって本当にありがたい部分は、ナイキがWeb3.0の空間そのものが全く新しいものであることを理解し、RTFKTに多くの自主性を与えてくれたということ。私たちが効率的に動き結果を出すには、活動するための余白が必要です。タッグを組むことで、彼らは自分たちの目標を実現すると同時に、私たちの活動を支援し、スペースを提供してくれます。

■RTFKTの今後について

WWD:RTFKTの今後のビジョンについて教えてください

YC:今年は“ストーリーテリング”に焦点を当て、ホルダーの経験を強化したいと思っています。コミュニティーのために、私たちが行うすべてにおいてストーリーを構築することで、デジタルでもフィジカルでも最高の体験を提供したいです。人々は製品をただ買うだけではなく、製品に付随する経験を得たいと思うようになってきたように感じます。“ストーリーテリング”における例として、「リモワ(RIMOWA)」とのコラボレーションが挙げられます。ブランドの象徴的なスーツケースを作るまでの仮想ストーリーと冒険が、まるで映画のようにダイナミックな動画作品で公開されています。人々が背景を知ることで、自分もそのストーリーの一部であると実感できるのです。

 そしてクリエイターを目指す人たちを一層支援し、彼らの作品にスポットライトを当て続けたいと考えています。正直なところ、この2つに尽きます。

 来年以降に関しては、正直予測がつきません。なぜならWeb3.0はとても新しい空間で、未来にどのような技術やアイデア、コンセプトが生まれるかを予測することは不可能なんです。来年度の計画を持ちながら広い視野で動いていきたいと考えていますが、長期にわたる厳格な計画を持つことは、イノベーションを止めてしまう可能性があるので避けています。この分野はとても新しいので、常にオープンである必要があると考えています。

WWD:RTFKTの次なる注目ニュースは?

YC:最近公開したものであれば、「アニマスエッグ(ANIMUS EGG)」と呼ばれる新たなNFTで、「クローン X」のクローン保有者に1つずつ与えられるエアドロップ(無料の配布)です。

 卵の中に何が入っているのかはもうすぐ知ることになりますが、実は卵の中に何が入っているのか、すでにビジュアル上でヒントを出しているんです。クローンが2万体あるので、2万個の卵を用意しています。すべてのクローンがアニマスと呼ばれる小さなペットを飼っているとします。サトシとピカチュウのように、クローンはアニマスと一緒にさまざまな冒険に行き、クエストに参加することができるのです。それぞれが保有しているクローンがどこから来たのか、そしてどんな生活をしているのかをホルダーが実際に体験し、知ることができます。つまりこれらは、私たちが掲げる2023年の目標“ストーリーテリング”の模範的な例になると言えるでしょう。
 

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プレタ依存からアクセサリーも柱に ジャパン社社長が語る「ランバン」改革の進ちょく

 「ランバン(LANVIN)」は昨冬、東京・銀座に新たな旗艦店をオープンした。ブランドを手掛けるのは現在、中国のフォースン ファッション グループ(FOSUN FASHION GROUP)改めランバン グループ。銀座店の運営は、本国出資100%のランバン ジャパンが手掛け、コロネットは卸とPRを担当している。相次ぐデザイナー交代で迷走していた「ランバン」は現在、どのような状況なのか?グレイス・ジャオ(Grace Zhao)社長に話を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):「ランバン」が銀座にカムバックした。

グレース・ジャオ=ランバン ジャパン社長(以下、ジャオ社長):ゴールドのリーフ飾りなどでパリの店舗から得たインスピレーションを表現しながら、オープン当初は河村康輔さんとのコラボレーションで日本らしさを加えることもできた。ソフトでフェミニン、ラグジュアリーなのに居心地が良い「ランバン」らしい空間に仕上がったと思う。

WWD:そもそも、現在の「ランバン」の店舗網は?

ジャオ社長:パリの他、北京や上海など中国では10店舗程度を営業している。中国本土以外のアジアでは、香港や台湾にも店舗を持っている。

WWD:その中で、日本はどんな位置付け?

ジャオ社長:とても重要。日本人は流行に敏感で、賢く消費し、確固たるスタイルを持っている。アジアでのコロナの影響は今なお小さくないが、それでも東京の街には活気が戻り、もう一度外に出て、楽しみたいというムードが盛り上がってきた。イヴニングドレスも有名な「ランバン」にとって、銀座店のオープンは絶好のタイミングだ。

WWD:とはいえ、日本でイヴニングはなかなか難しい。

ジャオ社長:「ランバン」ウーマンは、“コケット(フランス語で、可愛らしい色っぽさの意味)”。ブランドの本質と、日本人女性の精神性は近いと思う。加えて今の若い世代は、ドレスをオケージョンウエアとは捉えていない。日常生活やビーチでさえ楽しむほどのアティチュードを持っている。「ランバン」のドレスは、ハイヒールにもビーチサンダルにもピッタリ。エレガントな洋服を自分らしく、楽しく、コケットにまとう価値観も訴えたい。

WWD:アルベール・エルバス(Alber Elbaz)の退任以降しばらくはクリエイティブ・ディレクターも定着せず、そもそもオーナーが変わり、混乱していた。現状は?

ジャオ社長:この2年で状況は安定・好転した。私たちは今の「ランバン」の可能性を強く信じ、経済的にもクリエイティブな環境整備においても、パリをサポートしてきた。幸い、この2年でアイコニックな商品がいくつも誕生した。スニーカーの“カーブ”、バッグの“ペンシル”“ペンシル キャット”は代表例だ。以前は、プレタポルテとイヴニングで支持されていたが、今はバッグやシューズのビジネスも大きい。おかげで中国では百貨店での存在感もアップした。望まれるブランドに成長を遂げつつある。加えて、オンラインのビジネスも成長している。中国ではすでに、全体の3割を担っている。

WWD:その成功体験を日本でも実現したい?

ジャオ社長:同じことができるとも、少し違うとも思っている。同じアジアでも、日本人と中国人のライフスタイルは違う。たとえば日本人は、色彩において中国よりもコンサバ。明るい色の商品には慎重になるだろう。ローカルなアプローチが必要だ。贈り物文化の中国では、パリのクリエイティブチームが主導する形でギフトアイテムを提案した。日本にも同じような文化があるが、贈り合うギフトは異なるだろう。日本のパートナーの伊藤忠商事やコロネットと一緒に、どんなローカル戦略がふさわしいのか考えたい。パリや中国のように日本でもエモーショナルにつながるには、日本の価値を知るパートナーの存在が大事。一方、パリのクリエイティブチームの価値を毀損することもしない。デザインの主導権は、あくまでもパリだ。

WWD:「ランバン」は、日本ではライセンスブランドも手掛けている。

ジャオ社長:ランバン グループの前身のフォースン ファッション グループ(FOSUN FASHION GROUP)の頃から、私たちはライセンスビジネスに強い。ブランドの一貫性については気を遣うが、今の消費者は賢い。ジャケットのライニングまでシルクの「ランバン」は、ライセンスブランドとは違う。消費者も、その違いは認識できるだろう。

WWD:銀座を皮切りに、日本でも出店戦略を加速させる?

ジャオ社長:2023年春夏は、伊勢丹新宿本店メンズ館に出店する。ただ、まずは銀座店の成功が大事。さまざまな可能性は模索しているが、具体的な数字は設けていない。

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高校生のときからコロナ禍 理学療法士を目指す大学生が思い描く「EverWonderな未来」とは?

 人々の心に火を灯す機会を提供することを目的に、クリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えた一般財団法人渡辺記念育成財団は、EverWonderプロジェクトを発足した。構想中のプロジェクトは、同財団が次世代の芸能プロデューサーを支援する「みらい塾」の奨励生が企画進行している。今回は、第5期奨励生で京都橘大学健康科学部理学療法学科の栗原みなみが、同じ大学で共に理学療法士を目指す友人とともに「コロナ禍の学生生活を過ごしてきた彼女たちが思い描く未来」についてのディスカッションする。

栗原みなみ京都橘大学健康科学部理学療法学科2年(以下、栗原):私はずっと子どもに関わる仕事につきたいと思い、病気や怪我をしている子どもの役に立ちたいと理学療法士を志ました。適切な理学療法も大事ですが、それ以上に患者さんの精神面のケアも重要だなと。そこで私は、「みらい塾」で理学療法の世界にエンタメを取り入れたいと思っています。

永江帆乃嘉同2年(以下、永江):初めて知った(笑)。たしかに、理学療法士のメンタルケアはとても大事です。私は中高バスケ部に所属していましたが、高校2年生の時に膝の前十字靱帯を損傷してしまいました。その際お世話になった理学療法士さんが精神面で支えてくれました。過去に自分と同じ怪我をしており、「ちゃんとリハビリしないと、日常生活にも支障をきたす」と丁寧に説明してくださって、リハビリを前向きに頑張れるようになりました。その時、理学療法士に憧れました。

奥村文花同2年(以下、奥村):私も高校生のときに部活で怪我をして。お世話になった理学療法士さんの影響で今の大学に進学しました。

辻岡萌同2年(以下、辻岡):私は進学できそうなところを探していたら、今の大学を見つけました(笑)。もちろん理学療法士の仕事は、祖母のリハビリに同行して興味も持っていましたが。

奥村:学生生活は、意外と普通の大学生と同じかもしれません。私は古着が大好きなので、よく古着屋さん巡りをしています。テスト勉強とかが辛くても、それがモチベーションの維持に繋がっています。

永江:私は彼氏かな(笑)。

栗原&奥村、辻岡:ですよね(笑)。

辻岡:私はNetflixとかYouTubeばかり見ています。コロナのせいで新しい出会いも特になく、彼氏もできなさそうなので。

栗原:普段から恋バナばかりしているから、質問から脱線してしまいました(笑)。理学療法士学科らしいところと言えば、実習で患者さんと接する機会があることですかね。実習で感じたことはありますか?

辻岡:患者さんに元気になってもらうためには、コミュニケーションを通して知ったり、メンタルケアをしたりが一番大事です。一方、ご年配の患者さんが多かったので、共通の話題を見つけるのに苦労しました。

栗原:私もそれは痛感しました。毎日ニュースを見るようにして、ご年配の患者さんとの会話のネタにしていました。日頃から積極的に色々な人と交流を持ったり、様々な経験を積んだりしてコミュニケーション力を高めることが大事だと思いました。

奥村:新しい出会いは大事ですが、やはりコロナの影響で難しくなったと思います。ただで忙しく、サークルには入れないので。

永江:マスクで第一印象が分からないのも大きいと思います。やはり顔と顔を合わせて話をしないと相手のことは深く理解できず、新しく出会った人と親密になることも難しいです。

辻岡:私たちは、今までの人たちとはかなり異なる学生生活を送っていると思います。修学旅行や文化祭、ライブや旅行も思うようにできなかったので。

栗原:体育祭のリレーでは、ソーシャル・ディスタンスを保つためバトンの代わりに畳を使いました(笑)。本当は真剣勝負のリレーをしたかったけれど、結果的にそれはそれで盛り上がったのでよかったです。工夫をして楽しめることはありますが、それでも憂鬱になってしまうことはありますよね。

奥村:コロナの影響でインターハイがなくなってしまったのが本当に悔しかったです。大半の時間を遊びや学業よりも部活に割いて頑張っていたので。大会がなくなったときはとても落ち込み、何に対してもやる気が起きませんでした。頑張っても意味がないと半ば自暴自棄になり、そのまま引退してしまおうとも思いました。しかし、顧問の先生から励ましの電話をもらったり、親に何度も相談に乗ってもらったりして、なんとか引退せずに部活を続けようと気持ちを切り替えることができました。

栗原:私も目標にしていた試合がなくなったので、同じような気持ちになりました。それでも、コロナ禍にしかできないこともあるし、考え方次第で辛いことも乗り越えられると思えるようになりました。

辻岡:コロナ禍は一人で過ごす時間がとても増えたので、何をするにしても自分の意思をしっかりと持つことが求められるようになったと思います。オンライン授業のおかげで自由な時間が増えたからこそ、その時間をどれだけ有意義に過ごせるかで人との差が生まれます。私は、ぼーっとしていると、あっという間になんとなく理学療法士になってしまうのでは?という焦りがあります。最近は理学療法士の枠に収まらずさまざまなキャリアを築く方法もあるようなので、自分なりの道を探したいと思います。

永江:私も含めみんな理学療法士になるとは思いますが、やはり単にリハビリをサポートするだけではなく、心のケアもしっかりとできるようになりたいと思います。私自身も部活で怪我をしたとき、当時の理学療法士が励まそうとしてくれたり、リハビリに立ち向かう勇気をくれたりしたので。

奥村:「理学療法士になることは、決してゴールじゃない」とよく聞きます。なってからが大事だと思うのですが、ただでさえ勉強やテストに苦労している現状を考えると、将来が不安になることがあります。今は4人で支え合いながら頑張れているので、理学療法士になってからも人との繋がりを大事にしていきたいです。

栗原:私も時々、勉強が辛くて学校を辞めたいと思うことがあります。それでも、みんなと一緒にいるから頑張れている。コロナ禍でさまざまな制約を受けた私たちにとって、将来は大変かもしれないけれど、お互いに連絡を取り合い、辛いことがあっても励まし合ったり、誰かが活躍したらそれを褒め合えたりするような関係が続けばと思います。

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1位は、2023年の開業&閉店まとめ 新しいヒルズ開業から老舗百貨店閉店まで| 週間アクセスランキング TOP10(12月29日〜1月4日)

1位は、2023年の開業&閉店まとめ 新しいヒルズ開業から老舗百貨店閉店まで| 週間アクセスランキング TOP10(12月29日〜1月4日)

「WWDJAPAN」 ウイークリートップ10

 1週間でアクセス数の多かった「WWDJAPAN」の記事をランキング形式で毎週金曜日にお届け。
今回は、12月29日(木)〜1月4日(水)に配信した記事のトップ10を紹介します。

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- 1位 -
2023年の開業&閉店まとめ 新しいヒルズ開業から老舗百貨店閉店まで

01月04日公開 / 文・林 芳樹

 2023年に開業する主な商業施設と閉店する主な開業施設を下記にまとめる。1月には東京・渋谷区で長年親しまれてきた東急百貨店本店が56年の歴史に幕を閉じ、27年の複合施設開業に向けた再開発に入る。東京・港区では六本木ヒルズに続くようなスケールの大きな街づくりが進行する。三井不動産は1999年に神戸市郊外に開業したアウトレットモールを一時閉館する。隣接地も含めた施設の一体的な建替え計画に伴うもの。店舗面積2万8000平方メートルに約130店舗が営業している。2月から解体工事が始まり、その後、隣接地とともに再開発されて24年に新しい商業施設としてオープンする。

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- 2位 -
百貨店初売りは「ルイ・ヴィトン」×草間彌生に客殺到 「プロパーより新作」の傾向は継続

01月04日公開 / 文・本橋 涼介

 百貨店主要5社の2022年12月度業績は、おしなべて1割程度の増収だった。新型コロナ感染者は増加傾向も、年末商戦は全体的に活況。クリスマスケーキやおせちなど、季節商品へのニーズが他フロアへの波及効果を生んだ。衣料品フロアでは買っていますぐ使える秋冬アウター、ラグジュアリーでは早くも春夏の新作が売れた。また23年の初売りは、各社元日から1月2日にかけてスタート。元日は「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」と草間彌生のコラボレーションアイテム第一弾の発売日だったこともあり、同ブランドが売り場を構える百貨店には目当ての客が殺到した。

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- 3位 -
箱根駅伝で注目の「ナイキ」「アディダス」など 記者2人の“俺のランニングシューズ自慢”

01月02日公開 / 文・美濃島 匡

 お正月の風物詩である箱根駅伝は、昨今選手が履くランニングシューズも話題を集めています。「WWDJAPAN」スタッフの、ごくたまに走る程度なのにシューズの知識は豊富なスポーツ担当の美濃島匡記者と、ランニング・コミュニティーに所属し、ロードから山道までを走る津田一馬ソーシャルエディターの二人も、ランニングシューズは常に注目するアイテム。そこで、今回は若手記者に最近手に入れたランニングシューズを持ち寄ってもらいました。スペック重視の美濃島記者と、デザインの良さは譲れない津田ソーシャルエディターの観点の違いにも注目

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- 4位 -
アラフォーには懐かしの「ビューティビースト」が国内外で若年層も巻き込んで人気再燃

12月29日公開 / 文・村上 要

 東京のデザイナーズブランド「ビューティビースト(BEAUTY:BEAST)」は、1990年代に東京やパリでコレクションを発表して、熱狂的なファンを獲得。ところがデザイナーの山下隆生は2000年にブランドを休止すると、その後はさまざまなファッション企業でメンズやウィメンズ、子ども服、スポーツウエアなどのディレクションを担当。19年の「ビューティビースト」再始動まで、表舞台から遠ざかっていた。

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- 5位 -
英国のファッション・デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドが死去 81歳

12月30日公開 / 文・向 千鶴

 英国のファッション・デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)が死去した。81歳だった。 ブランド「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」はインスタグラムでウエストウッドの訃報を発表。南ロンドンのクラパムで、家族に囲まれて安らかに息を引き取ったことを明らかにした。

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- 6位 -
「リリー ブラウン」が「ケイタ マルヤマ」と協業 異色のコラボはファッションへの“情熱”で結びついた

01月03日公開 / 文・本橋 涼介

 マッシュスタイルラボの「リリー ブラウン(LILY BROWN)」は、丸山敬太デザイナー手掛ける「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」とのコラボ商品を2023年春夏と23-24年秋冬に発売する。4月に阪急うめだ本店でのポップアップストアを実施するほか、都内での実施も検討する。

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- 7位 -
「ドクターマーチン」の卯年を祝福した新作シューズはレッドとゴールドでカラーリング

01月04日公開 / 文・竹内 菜奈

 「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」は、卯年を祝したシューズを1月7日に数量限定で発売する。全国のドクターマーチンショップと公式オンラインストアで取り扱う。

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- 8位 -
【2023年版】百貨店やSCの初売りセール&福袋情報 三越伊勢丹やルミネ、パルコなど 独自イベントも続々登場

12月29日公開 / 文・福永千裕

 新年は、初売りや福袋などショッピングにまつわるイベントが満載。注目していたアイテムがお得に手に入るかもしれないこの機会を活用してみてはいかがでしょう。この記事では、首都圏の主要な百貨店やショッピングセンター(SC)のセールや福袋、新年限定イベントの情報を紹介します。

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- 9位 -
「スウォッチ」が2023年の干支、ウサギをモチーフにした時計を発売

01月04日公開 / 文・三澤 和也

 「スウォッチ(SWATCH)」は、卯年に合わせてウサギをモチーフにした時計を発売した。カラーは鮮やかな赤と金の組み合わせで、時針と分針、さらに遊環(ストラップループ)がウサギの耳になっている。価格は1万3530円(税込)だ。

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- 10位 -
「コンバース」×日清食品“カップヌードル” パッケージを模したデザインが特徴

01月01日公開 / 文・三澤 和也

 「コンバース(CONVERSE)」は2023年1月、日清食品の“カップヌードル”とコラボした“オールスター”を発売する。“カップヌードル”と“カップヌードル シーフードヌードル”の2色展開で、価格は各1万3200円(税込、以下同)。

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「下着は可愛さだけじゃない」 体形&仕事&悩みに寄り添う ピーチ・ジョン・ザ・ストア 榎本有希

 コロナ禍もあって家で過ごすことが多くなり、ファッションも楽なものを選ぶ消費者が増えている。外出をしないからこそ、自分へのケアや見えないところにこだわるようになったという声も聞かれる。例えば、毎日必ず身に付ける下着や、おうち時間を楽しくするルームウェアにお金をかけているようだ。また最近はお笑い芸人フォーリンラブのバービーとこコラボや、いろんな体型の女性をモデルに起用した取り組みでも注目。下着ブランド「ピーチ・ジョン(PEACH JOHN)」の榎本有希マネージャーは自身の経験を踏まえて、多くの女性に勇気とパワーを下着に込めて接客してきたと話す。

榎本有希/ピーチ・ジョン エリアマネージャー

PROFILE:(えのもと・ゆき)1983年生まれ、埼玉県出身。高校生の頃にカリスマ店員ブームを経験し、高校卒業後、販売員に。シューズブランド、ファッション雑貨ブランドを経て、2010年にピーチ・ジョンに入社。渋谷店、大宮店を経て、新宿店では店長を経験し、21年4月よりエリアマネージャーに昇進。現在は新宿、有楽町、立川、名古屋エリアを担当。時折、店頭に立ちつつ、各店のマネジメントしている。

―販売員の仕事を始めたきっかけは?

榎本有希さん(以下、榎本):ちょうど高校生の頃が“カリスマ店員”ブームや“カリスマ美容師”ブームで、それに憧れて周囲のみんなが美容師か販売員になりたいと思っていた時代です。私も高校生時代はギャルだったので、地元の大宮アルシェでよくお買い物していました。でも、その頃からスタイルには自信がなくて、ファッションブランドでは働けないなと思っていたのです。

―確かに、当時は渋谷109でスタッフ取材をすると必ず体型維持の話題がでました。それで?

榎本:まずは、よく買い物に行っていたアルシェの「ボニータ」で働き始めました。それから、キラキラのお財布で一世を風靡した「アッシュ&ダイヤモンド」でも販売をしていました。

―それは懐かしい!本当に強い影響を受けてきたのですね。榎本さんから見て、当時のカリスマ販売員はどこが凄いと思いましたか?

榎本:とにかく、“動くマネキン”みたいで、ショップスタッフが服を着て店内を歩いているだけでカッコいいし、スタッフの着ている服を買いたくなるところがすごかった。各スタッフがカリスマ性を持っていて、それにも憧れましたが“勢い”や“パワー”のようなものがあって、とにかくカッコよかったですね。店頭にそういうショップスタッフがいるだけで、その店が活気づく。今でもそういう存在になれたらいいなと思っています。

―私も取材で圧倒されっぱなしでした。憧れだった販売員として働き始めて、どうでした?

榎本:販売する商品は変化していきましたが、一貫して思ったのは、自分がおススメした靴やバッグ、下着でお客様がライフスタイルやおしゃれを楽しんでいるお客様を見るのが嬉しいということです。身に付けるもので自信がついたという方もいて、お客様が喜んでいることに販売の醍醐味を感じています。

「ピーチ・ジョン」に転職した理由

―2010年にピーチ・ジョンに転職した経緯は?

榎本:アルシェで働いていた時はお店が近くにあったので、例えば「来週は○○に行く予定があるから新しい下着を買おう」とか、付けてきた下着が仕事中にだんだん苦しくなってきて楽なのはないかな……と何かにつけてピーチ・ジョンに寄っていたことがありました。店内を見ているだけでワクワクもするので、「いつか、ここで働けたら楽しいだろうな」と思うようになって、思い切って転職しました。下着も、靴やバックと同じで、丁寧な提案が必要な商品なので、そういった点でも楽しいではないかと思ったのです。

―個人的に靴も下着も、服以上に丁寧に選ばないといけないアイテムだなと思います。そうなると接客も大変だと思うのですが。

榎本:そうなんです。靴の場合は、お客様の足の形、サイズも様々、そこに靴の形、デザイン、お客様の好みと組み合わせて提案することが大変でした。それは、今の下着の提案にもつながっていて、お客様の体型に合わせることはもちろん、日々のスタイリング、バストに関するお悩み、ライフスタイルなど、総合して提案していくことが重要です。難しい接客ではあるかもしれませんが、気に入った一点を見つけてお買い上げされることが嬉しいです。

―服は自分の好みをある程度、重視して選べますが、下着や靴はそれだけでは選びきれないですもんね。

榎本:靴もバッグも下着も、とても提案が繊細なんですよね。私はお客さまの身周りのものを提案することが好きというが、合っていたんだと思います。丸一日は身に付けるものなので、自分が身に付けてみたら、こういうところが良かった、悪かったと自分の感想を伝えた上で、歩くことが多いのか、立ち仕事なのかとお客様のライフスタイルを聞き出し、それに合わせて提案しています。それに、体やバストの悩みは一人ひとり違うので、そこに即した提案を考えることにやりがいがあります。

自分の経験を伝えることで、お客さまからの共感を引き出す

―そういったデリケートな質問をすることに心がけていることはありますか?

榎本:私自身もコンプレックスが多かったので、この下着をつけることで前向きになれたとか、生活や仕事での動きが楽になったとか、自分だからこそ分かるという経験があります。それをお客さまに伝えて共感しながら提案することを心がけています。自分の体験を話すことで、「実は私……」と心を開いてくれることもあります。元々、人と話すことが好きで人見知りしない性格なので、そんなに接客が難しいとか、どうやってお客さまと会話をすればいいとか、そういった大変さは感じたことがないですね(笑)。

―そうなると、スタッフが「お客様に声が掛けられません」といった相談にはアドバイスされていますか?

榎本:そういう時は「お客さまを見て、想像すること」と伝えています。お客さまの動きや持っているものをよく観察して「どういったものを探しているのかな?」「こういうモノに興味持っているのかな?」「あの商品、可愛いと思ってくれているかな?」と想像しながら声をかけています。それから声をかけてみると、その後の会話が広がると思います。どうしても「接客しなきゃ」「声を掛けないと……」と焦ってしまうことがある人もいるかもしれませんが、まずはお客さまをよく見てから。店長時代も声掛けが苦手なスタッフと一緒にお客さまを観察して、「今、あの商品を手に取ったけど、興味を持っていそうかしら?」と一緒に考えながら教えました。

可愛さも大事。けどそれだけじゃない。
敏腕販売員が薦める「ピーチ・ジョン」下着3選

―では普段の接客で心がけていることは?

榎本:お客さまのライフスタイルや悩みを聞き出して、それに合わせて提案するです。私もそうですが、「この下着を付けていると一日楽だな」とか「体調があまりよくないからこの下着にしておこう」「今日は仕事が忙しそうだから楽なものにしよう」とか、デザインの可愛さだけでなく、その日の仕事や不調な時でも心身に寄り添える下着を選んで欲しいと思って接客しています。

―榎本さんのおススメはありますか?

榎本:私は自分の身体にフィットしてくれる「いつでもジャストブラ」か、フォーリンラブのバービーさんとのコラボ商品の「クイーンブラ」がおススメです。「クイーンブラ」は背中を補正しつつ、胸の高さを出してくれます。あと、本当に忙しいときは「ピージィ」です。被りタイプのブラですが、これだと本当に一日楽に仕事をこなせます。

―以前、洋服をきれいに見せるためにも下着選びは重要だと聞いたことがあります。洋服の販売員にも、仕事のときや補正したいときといった用途で選ぶのを知って欲しいですね。

榎本:そうなんです!自分に寄り添ってくれる商品なので、全ておススメです。世間一般的には“キラキラ”“可愛い”“セクシー”と思われているところもありますが、そうでないのが「ピーチ・ジョン」ならではなのです。様々な女性の体型や悩みを解決しながら、でも可愛い下着を身に付けたいといった女性の想いを叶えてくれる商品がたくさんあります。機能や着け心地が楽な素材などを使い、目に見えないデザイン部分で女性をサポートしてくれます。その見えない部分を丁寧に伝えて、お客様のライフスタイルに合った提案を心がけています。

―昨年の4月からエリアマネージャーになりましたが、今後の目標は?

榎本:目標というか、いま 目指していること、自分が仕事で意識していることになりますが、コミュニケーションを一番に大切にすることです。それは、お客様はもちろん、店長たち、各店のスタッフたちとのコミュニケーションも含めて、大切にしています。特にスタッフたちと笑顔で関わっていくことが、モチベーションやいい接客につながると感じています。マネージャーとして、スタッフが楽しく働けて、いろんなことに挑戦できる環境をつくれるように店長たちをサポートしていきたいと思います。

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「トッズ」がイタリアの美しさを通して調和の必要性を説く書籍発売 会長が思いをのせる

 「トッズ(TOD’S)」は2023年2月、現代のイタリアン・ライフスタイルとその価値観を讃える書籍「アリア・ディタリア(Aria d'Italia)」のインターナショナル版を発売する。食卓から芸術にいたるまで、 あらゆる場面でクオリティ・オブ・ライフを追求するイタリアの才能と情熱、陽気な雰囲気と伝統に対する思いを閉じ込めた。本書は「喜び」や「タイムレス」「想像」「クラフトマンシップ」「情熱」「伝承」「大胆さ」などの8つのキーワードで、イタリアの文化やアイデンティティの本質に情熱を燃やし、それを象徴する若きアーティストやビジネスピープル、職人たちのプライベートや職業の物語を伝える。昨年日本で開催したイベントで、ディエゴ・デッラ・ヴァッレ(Diego Della Valle)会長に「アリア・ディタリア」への思いを聞いた。

「WWDJAPAN」(以下、「WWD」):「アリア・ディタリア」の発売に至った経緯は?

ディエゴ・デッラ・ヴァッレ=トッズグループ会長(以下、ディエゴ会長):世界中の、若い世代に「美しいイタリア」を知ってほしかった。特にイタリアを知らない人、行ったことがない人たちに向けて、発信したかった。世界的なコロナ禍や高まるばかりの緊張関係などで、海外渡航はまだまだ制限されている。だからこそ、イタリアの美しさを直接感じてもらいたい。もちろんコンテンツはウェブでも見られるが、紙媒体にこだわった理由だ。

「WWD」:一般的にブランドが発売する書籍と言えば、主役は洋服やバッグ、そしてシューズだ。だが「アリア・ディタリア」は、あくまでも人が主役。商品を全面に押し出していない。

ディエゴ会長:イタリアのライフスタイルや品質、気品、美しさにかける思いは、「トッズ」も体現している。つまりイタリアの美しさを表現することは、「トッズ」の美しさを表現することだから、商品は主役じゃなくても良い。麗(うるわ)しきイタリアを世界に伝えることで、「トッズ」の精神は自ずと伝わる。

「WWD」:この書籍を読んで、若い世代にどんなふうに感じてほしい?

ディエゴ会長:一番嬉しいのは、「イタリアに行きたい」「イタリアで、何ができるか考えたい」と思ってもらうこと。でも家族や同僚と共に生きるイタリア人の美しさを知ってもらうことで、コロナ後の世界に必要な価値観である「調和」の必要性を感じ取ってほしい。

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キンモクセイや紅茶の香りが大ヒット 「シロ」人気の香りが誕生する背景に“日常”と“想い”

 コロナ禍を経て消費者のニーズは一変した。ビューティ業界でも例に漏れず、在宅時間が増えたことから“香り”の重要性が高まった。リモートワークのオンオフの切り替え時に、気持ちをリラックスさせたい時に、また好きな香りでケアしたいとフレグランス以外にもボディーケア、バスケア、ディフューザーなど香り系アイテムの需要が拡大した。そこから香りのトレンドも多く生まれ、ここ数年は金木犀の香りや紅茶の香りが人気となっているのは記憶に新しい。

 今や各社から出ている金木犀や紅茶の香りだが、話題となったきっかけはコスメティックブランド「シロ(SHIRO)」だろう。どちらの香りもいち早く2018年に限定で登場し、オードパルファンやフレグランスディフューザー リキッド、ハンド美容液など拡充して人気シリーズに育成した。そんなトレンドの香りを生み出す「シロ」のフレグランス開発についてシロ・マーケティング部門企画Gの田﨑菜月マネジャーに話を聞いた。

WWD:人気の香りのアイデアはどうやって生まれている?

田﨑菜月マーケティング部門企画Gマネジャー(以下、田﨑):フレグランスに限らずブランド全製品に共通して言えることですが、モノ作りにおけるマーケティングを一切行っていません。一般的に製品を開発するにあたっては、競合の調査やコンセプト作り、ターゲット設定、価格設定などを行いますよね。われわれは他社を調べることもしていません。では、なにをきっかけに製品を誕生させているのかというと、“日常”や“想い”から生まれることが多いです。スキンケアの場合は、良質な素材との出合いも大きく関係しています。

WWD:「シロ」のフレグランスは細かい設定を行わない、真逆の考えで開発する。

田﨑:1つ目の“日常”ですが、沈丁花の香りをイメージした「パウダーリリー」(限定)や「キンモクセイ」、「アールグレイ」の香りはまさに企画内スタッフの日常から生まれた香りです。私は普段散歩している時に、心が少しでも動いたことはiPhoneのメモ機能に書き込んでいます。香りに限らず、「わっ!ステキ!」と思ったことなどなんでもメモ。金木犀も、みなさんきっと心が動く香りですよね。「作りたい」「欲しい」と気持ちが動くきっかけとなり、誕生した香りです。

 2つ目の、誰かのためにという“想い”は、例えば毎年春先に限定発売する桜の香り「さくら219」は、一人の受験生との出会いから始まりました。「シロ」が大好きな彼女の受験を応援するために、「桜が咲きますように」という願いを込め、219回の試作を重ねて香りが誕生しました。また、ブランドの限定フレグランスの原点となる香り「ハッピーヴァーベナ」は、11年の東日本大震災でなにか応援できることがないかと開発。もともと定番で発売していた「ヴァーベナ」の香りを心が元気になるようにと改良してボディーシートなど全製品を被災地へ届け、製品の利益を寄付しました。

WWD:コロナ禍でアルコール製品をいち早く発売していたのも誰かのためにという“想い”から。

田﨑:コロナの感染拡大後すぐに何か役立つことはできないかと、企画から1カ月以内でアルコール65vol%配合の「チャクラーサナ スプレー65」を発売し、その後もアルコール濃度80vol%のスプレーとジェルも発売。消毒時も気持ちが上がるようにとオレンジやゼラニウムが香る「チャクラーサナ」と、ブランド人気ナンバーワンの「サボン」の2種を用意しました。

WWD:香りのきっかけは“想い”。そこからどのように製品に落とし込む?

田﨑:想いが先にあると、そこからのアイデアはどんどん広がっていきます。例えば「さくら219」の場合は、受験生が使用するシーンを想像し、「受験勉強をしながらだと香りの強さはこうだよね」「ハンドクリームが1番使いやすそうだな」など、具体的な香りのイメージが仕上がっていきます。23年発売の「さくら219」には、ファブリックソフナーも登場しますが、これは家族から受験をがんばる我が子へのエールとして開発しました。受験は本人が頑張るのはもちろんですが、衣類をいつも「さくら219」の香りにしてもらいたいという想いでアイテムが決まっていきます。

WWD:人気の香りは狙ったものではなく、自然とトレンドになっていた。

田﨑:「キンモクセイ」「アールグレイ」の人気は、まさかここまで!と驚きです。皆さまから支持されて気付いたことですが、香りの名前付けは重要だと実感しましたね。「キンモクセイ」という名前ではなく、もっと異なるネーミングにしていたら伝わっていなかったと思います。単純に金木犀がいい香りだったから、「キンモクセイ」を作ろうとストレートに決めたのが、お客さまには分かりやすかったようです。あとは、ブランドスタート時から地道に店舗でムエット(試香紙)を配り続けていたので、いい香りだねと少しずつ輪が広がって着実にファンを増やしたのだと思います。

WWD:「シロ」の売り上げの過半数はフレグランス。香りに注力するようになったのはいつから?

田﨑:スキンケアのイメージが強い人もいるかもしれませんが、実は「シロ」はずっとフレグランスカテゴリーの売り上げが1番高い。定番品に加え、16年からは毎月限定フレグランスを出しているほどです。なぜここまで新しい香りを誕生させているかというと、お客さまがふらっと店舗に立ち寄った時に常に新しい香りを感じて欲しいからです。「シロ」に来店するたびに、新しい香りに出合えるかもしれないというワクワク感を持って欲しいですね。

WWD:思い出深い香りの製品は?

田﨑:2019年に登場したパフュームシリーズ「SHIRO PERFUME」ですね。フレグランスも毎日自分の洋服を選ぶようにアイデンティティを表すように使ったら楽しいのではないかと考え誕生しました。同シリーズは、日本やフランス、スペインなど各国のパフューマーが、自身のアイデンティティや香りに目覚めたキッカケを込めた12種の香りをラインアップ。例えば、「インセンス クリア」の香りはお寺の息子でもあったパフューマーの慣れ親しんだお香がベースに、「パリジャン シャツ」の香りはパフューマーの父が白いシャツにウッディコロンをまとっていた思い出から生まれています。香りが個性を表すものになったらいいですね。

WWD:ブランドでのフレグランスの立ち位置やあり方は。

田﨑:フレグランスを通して「シロ」を知ってもらうことが多く、新規のお客さまはブランド人気の香り「サボン」「ホワイトリリー」の香りをきっかけにする場合が多いです。製品も4カテゴリー18種類と間口が広いので、まずはオードパルファン、ハンド美容液などから入る人も多いですね。そのため、ファーストタッチとなるフレグランスの限定品は、引き続き毎月発売していきます。もちろん企業理念にある「世の中を幸せにする」を念頭に置きながら、誰かへの想いや日常での素敵なことを形にしていきます。お客さまが笑顔になり、そして世の中が幸せになることがブランドの目指していくことですね。

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コールドプレイのガイ・ベリーマンによるファッションブランド「アプライド アート フォームズ」 20年以上忘れられなかった情熱の先

ガイ・ベリーマン/「アプライド アート フォームズ」クリエイティブ・ディレクター

PROFILE:1978年生まれスコットランド出身。ロンドン大学で機械工学と建築学を学ぶ中で、クリス・マーティンらと出会いロックバンド、コールドプレイを97年に結成。ベーシストとしてデビューからバンドに在籍している。バンドは2000年のデビューアルバム「パラシューツ」が世界的にヒットし、これまで発表した全7枚のアルバム総セールスは8000万枚以上を記録。ベリーマンは多忙な音楽活動の傍ら、自身のファッションブランド「アプライド アート フォームズ」を20年に立ち上げた

 四半世紀近くロックシーンをけん引してきた世界的人気バンドの一つ、コールドプレイ(Coldplay)。ガイ・ベリーマン(Guy Berryman)は、同バンドを1998年のデビューから支えてきたベーシストであり、ビンテージ収集家であり、自動車専門誌「ロードラット(THE ROAD RAT)」の創刊者であり、アパレルブランド「アプライド アート フォームズ(APPLIED ART FORMS、以下AAF)」のクリエイティブ・ディレクターだ。

 ベリーマンはもともとプロダクトデザインの道に進もうとしていたが、ミュージシャンとして成功を納めてからもその情熱は消えることはなく、2020年に自ら「AAF」を設立。幼い頃から魅了されてきたミリタリーウエアの要素を軸に、どれも長く愛用することを考えたたビンテージ収集家ならではのアイテムをそろえる。

 「AAF」がドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)での取り扱いがスタートすることを記念し、2022年11月にベリーマンが来日。本人の口から「AAF」の成り立ちやこだわりなどを語ってもらった。

ーー小さい頃からファッションに興味があったのでしょうか?

ガイ・ベリーマン(以下、ベリーマン):特定のブランドが好きというわけではなくて、10代の頃からビンテージアイテムが好きで、買い漁って自分なりのアーカイブコレクションを作っていたね。ただ、何かをクリエイションすることが一番好きだったから、当時は車や建築、インテリア関連のプロダクトデザインや手を使ってモノを作る仕事に就くために、ロンドン大学で機械工学と建築学を学んだよ。

ーーミュージシャンとして成功した後、2020年に「AAF」を立ち上げた経緯を教えてください。

ベリーマン:ミュージシャンとして20年以上走り続けてきたけど、やはり大学でデザインを学んだことを生かして何かを作りたい、という強い思いを抱き続けていた。そして、2年前のパンデミックのタイミングで、この思いを過去のものとして捨てるか、それともものづくりにチャレンジするかを考え、エネルギーを注ぐを決心をしたんだ。あとは、妻がオランダ出身だからよくアムステルダムに行くんだけど、今のチームスタッフと出会ったのも大きいね。

ーー構想は以前からあったのでしょうか?

ベリーマン:そうだね。実は正式に立ち上げる前に、ファッションのバックグラウンドを持っていないのにどうしても作ってみたくて、誰かに見せるわけではなく、自分が着るためだけにフルラインアップのアイテムを自作したことがあるんだ。でも、とにかくその出来が悪くてね(笑)。そんな経験があったからこそ、当初の構想をいったん白紙にして、クオリティーが何よりも重要だと再認識したよ。世界には数え切れないほどのブランドがある中で、僕がブランドを世に出すならば、クオリティーにこだわる必要がある。みんなに振り向いてもらうためには、いい生地やいい職人をそろえ、ベストクオリティーを常に保たないといけないんだ。

ーーアイテムの多くはミリタリーウエアに着想しているそうですが、デザインソースは自分が集めてきたアーカイブが中心ですか?

ベリーマン:ほぼ全て、昔から自分で集めてきたビンテージのアーカイブだね。例えば、3つのアーカイブジャケットを用意して、実際に裁断して解体し、1つのアイテムに再構築する場合もあるよ。

ーーアーカイブの量はどれくらいあるんでしょうか?また、収集する際はイギリス陸軍やアメリカ空軍などのこだわりはありますか?

ベリーマン:イングランドとオランダにそれぞれ保管場所があって、ジャケットもパンツも100以上あるから……自分でもどれくらいあるか分からないくらい(笑)。収集する時は、1940年代~60年代という年代以外は特に気にせず、デザインや生地が気に入れば関係なく集めているよ。あとは、ミリタリーウエアのビンテージだけじゃなくて、90年代の「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」や「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」も相当の量を持っている。彼らもビンテージを再構築して新しいアイテムを作り出していたから、それらを集めることでアプローチの仕方も学べるんだ。

ーー大学で学んだことは生かされていますか?

ベリーマン:建築から学んだ空間の利用や光の当たり方など、技術や考え方は生かせることが多いかな。ラフ・シモンズ(Raf SImons)も工業デザイン学校で建築を学んでいたしね。

ーーコレクションしているクラシックカーや、ツアーで訪れる海外の土地からインスピレーションを得ることは?

ベリーマン:1950~60年代のクラシックカーや建築、ミッドセンチュリー家具など、一般的に“デザイン”と呼ばれるものが好きなんだけど、クラシックカーからはさすがに難しいかな(笑)。国外に行くことはすごく刺激を受けるね。それに、絶対に見つけられないようなものを見つけるのが好きだから、どこに行っても絶対に古着屋やチャリティーショップには必ず足を運ぶ。トレジャーハンターのつもりで世界各地を訪れているよ。

ーー素材へのこだわりが特に強いそうですね。

ベリーマン:第二次世界大戦時にイギリス空軍のために作られた高機能素材のベンタイル(Ventile)をよく使用しているね。高密度で編んでいるから、コーティング加工していないのに水を弾いてくれるし、何よりも耐久性が高いから時間をかけて着込んでいくと、次第に色が変わっていく経年変化が楽しめるんだ。僕は、環境によって色が変化していく過程が好きで、「AAF」は全てのアイテムがロウデニムのように自分色に仕上げていく感覚に近いかもしれない。

ーー最新素材を使わないのも一種のこだわりですか?

ベリーマン:長年着ること、経年変化を楽しむことを考えると、ちょっと難しいからね。

ーーその着方・考え方は、今の時代にも合っていますよね。

ベリーマン:多くのブランドは、リサイクル素材を使うといったアプローチでサステナビリティを目指しているけど、僕は“いいデザインといい素材のアイテムを長く着ること”が一番のサステナビリティだと考えているよ。

ーーということは、シーズンごとの発表は考えていないのでしょうか?

ベリーマン:通常のファッションサイクルと合わせることは考えていない。半年後の新しいアイテムを発表し、半年前のものをセールするというサイクルは、僕にとっては理想的じゃないから。コレクションの変化は少しづつで、気に入ったアイテムは常に用意し必要に応じて色やディテールを変えるくらいだよ。

ーーコールドプレイのベーシストと「AAF」のクリエティブ・ディレクターは、それぞれどれぐらいの活動比率ですか?

ベリーマン:「AAF」での仕事はフルタイムのように感じる。ライブで世界中を回っていても、演奏中以外の時間は自由だから、アムステルダムにいるデザインチームと常にコミュニケーションを取っているように、どれだけ忙しくても情熱のあることへの時間は作れるんだ。コールドプレイと「AAF」のクリエイティブは、相互作用しながらバランス良くできているよ。

ーー今回の来日で、ミリタリーウエアを探す予定はありますか?

ベリーマン:(取材したタイミングは)来日したばかりだから、原宿で古着を見たり、「キャピタル(KAPITAL)」と「ビズビム(VISVIM)」のお店に行っただけだね。「ビズビム」はブランドの成り立ちや考え方、素材使いなどから親近感を覚えたよ。

ーー今後の展望は?

ベリーマン:次から次へとアイデアが浮かんでいるから、次のレベルへいけるように自分を駆り立てている最中だ。あるブランドとのコラボを考えているから楽しみにしていて。

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「さらけ出す」ことを恐れるな ヒップホップアーティストTKda黒ぶちが“炎上”をいとわない理由

 2022年も、ファッション&ビューティ業界では多くの“炎上”ニュースが飛び交った。配慮を欠いた広告や発言は瞬く間に拡散され、ブランドイメージの大きな毀損に繋がってしまう時代だ。

 だがそれでも「不謹慎」や「タブー」を恐れずにメッセージを発し続ける人もいる。「フェイクでないなら、素直に語ればいい。言葉はその人の本質なんだから」。そう語るのは、ヒップホップアーティストのTKda黒ぶち。その名の通り黒ぶちメガネがトレードマークの彼は、国内ヒップホップシーンの第一線にいるアーティストの一人。日本最高峰のヒップホップアーティストが集うMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系列、現在は終了)では3代目モンスターに上り詰めた人物だ。

 小手先のテクニックに頼らず、自分の生い立ちまで赤裸々なリリックが多くの共感を呼ぶ。「本当に語るべき人が口を開くことを恐れ、SNS上には薄っぺらなフェイクが溢れている。そんな世の中だからこそ、ヒップホップのリアリティーが必要なんじゃないか」とTKda黒ぶちは語る。社会がコロナ禍から前を向こうとしているとする中、「ヒップホップを聞いてパワーをもらう。そんな光景が当たり前の日本にしたい」との思いで、アーティストの枠組みを超え活動の場を広げている。そんな彼が考えるヒップホップの本質、黒ぶちメガネのスタイルを貫く理由を聞いた。

TKda黒ぶち/ヒップホップアーティスト

(てぃーけー・だ・くろぶち)1988年、埼玉県生まれ。高校生だった2005年からMCとしての活動を始め、10年からフリースタイルバトルへ本格的に参加。「戦極 MC BATTLE」での優勝など実績を重ね、「フリースタイルダンジョン」では3代目モンスターに就任 PHOTO:SHUNICHI ODA

WWD:黒ぶちさんにとってヒップホップとは。

TKda黒ぶち(以下、黒ぶち):音楽ジャンルでいう「ポップス」に対して、ヒップホップは「ポピュリズム」だと思っています。楽器を買うお金も、楽譜を勉強する時間もない人でも、マイク一本で始めることができる。良くも悪くも誰でもできて、解る音楽です。美しいメロディーでお茶を濁すことがないから、その分リアリティーが増す。使い方によってはざっくり人を傷つけたり、怒らせたりすることもあります。トラビス・スコットが21年に主催したフェスでは半狂乱のファンによる悲しい事故も起こってしまいましたが、それだけヒップホップがマインドに訴えるパワーはすごい。

 カッコつけずに言えば、僕にとっては「普通じゃないことを誇れる音楽」でしょうか。ヒップホップは悪ぶってると思われることは多いけれど、それは自分を素直にさらけ出すから悪い部分も目立ってしまうだけ。

WWD:TKさんの「普通じゃないこと」とは?

黒ぶち:詳しくは僕のnoteにつづっていますが、僕は割と悲惨な生い立ちで。例えば、僕の父親は中学の時に蒸発したので、母の手一つで育てられてきました。クラスのカーストも底辺で、とにかくどうしようもなかった。その時の記憶は、全部歌詞に込めています。

 当時は音楽にも興味がほとんどなくて、聞いていたのはミスチルくらいでした。灰色の生活を送っていた僕にとって、芸能の世界とか耳障りのいいJ-POPは嘘くさかった。だからヒップホップを初めて聞いた時、飾り気のない言葉のリアリティーが直接ぶっ刺さってくる感じに衝撃を受けて、それからのめり込んでいきましたね。

 高校生の時、勇気を出して地元のハコでMCバトルに参加しました。黒縁メガネの自分がラップをしていると、「何やってんだ根暗」ってヤジを飛ばされたり、観客席の1番前で中指立てられたりもしました。今となっては、その時ビビってコンタクトレンズにしなかった自分をほめたいですけどね(笑)。

WWD:なぜ黒ぶちメガネにこだわった?

黒ぶち:「どうしようもない自分」の象徴みたいなものだったのかもしれません。ありのままでいて何が悪いんだっていう意地、反骨精神みたいなものが奥底にあって、それを馬鹿にした奴らに認めさせることが、ヒップホップをする原動力の一つになっていきました。そういう承認欲求に、これ(ヒップホップ)を失ったら自分はもう終わりだ、という一種の恐怖心がないまぜになり、自分を駆り立てていました。

WWD:自己肯定感が低いまま、ステージに立つことは怖くなかったのか。

WWD:逃げてばかりの自分から、また逃げることの方が怖かったですから。学校では野球部も、少林寺拳法も、学習塾もすぐ投げ出した。歯列矯正すら、痛くてすぐにやめてしまった(笑)。そんなどうしようもない自分を救ってくれたヒップホップを失うことの方が、よっぽど恐ろしかった。それに自分が曲を出したり、バトルで勝ったりと結果を出し続けるにつれて、僕をバカにしていた人たちも認めてくれるようになって。「これしかない」と思うようになりました。

WWD:今のヒップホップアーティストとしてのモチベーションは。

黒ぶち:駆け出しの時、自分の弱い部分を全てさらけ出した“負け犬”って曲を書きました。高2だったと思います。今はもうお蔵入りにしているんですが。ライブで初めて披露するときは、「こんな弱いところ見せて大丈夫か」「(聴衆に)引かれるんじゃないか」とひどく緊張もしていました。ただ終わってみたら、すごくいい反応だったんです。僕も、聞いてくれた人と心の底からつながった感覚があって。いまだに「あれはよかったね」と言ってくれる友達もいます。

 それ以来、自分がヒップホップアーティストをしている上で1番の“報酬”は、誰かの生きる活力やモチベーションになること。バトルで自分と相手、どちらが勝ったとしても「=実力」ではない世界。ハートを相手とぶつけ合ったり、それを見ていた人から「感動した」って言ってもらえたりを繰り返して、自分のアーティストとしての“芯”が厚みを増している感覚があります。

炎上は人生の延長
「そういう生き方をしているから」

WWD:批判や中傷は怖くない?

黒ぶち:僕のスタイルは、赤裸々なまでに自分をさらけ出すこと。だから口から吐く言葉は「人生の延長」だし、仮に炎上したとしたら僕の行動、人間性、生き方が燃えうるものだったということ。受け入れるしかないとも思います。

 もちろん、常に粗探しをしている人はいるし、鬱憤ばらしの“サンドバッグ”を探している人もいるでしょう。ただ僕はそれを恐れること以上に、誰しもが僕のように “地獄”を持っていて、ヒップホップでその救いになりたいという思いが強いです。

WWD:ファッションにこだわりはある?

黒ぶち:自分のアーティスト活動を通じて、ヒップホップをもっと多くの人に興味を持っていただくためにも、(ファッションは)必要だなと感じています。僕の地元・春日部発の「ルーディーズ」には、僕とコラボした黒ぶちサングラスを製作いただいています。アーティストとして活動する中で、僕の見た目のスタイルにも共感してくださる方もいらっしゃるでしょうし、もっとこういった事例にチャレンジしていきたいですね。

 正直、以前は「着たいもの着ればいいじゃん」だったんですが(笑)。カニエ・ウエストに感銘を受けて考えを変えました。ファーストアルバムでグラミー賞をとった彼は「ルイ・ヴィトン」のバッグを携えてパリコレに乗り込むも、ファッションの業界人からは全く相手にされなった。それで彼はパリのオートクチュールの源流から真摯に学び、名だたるブランドとコラボしてファッションシーンの最前線に上り詰めた。結果、彼のファッションを通じてアメリカのヒップホップカルチャーを世界に広めました。この功績はすごいですよね。

WWD:ヒップホップカルチャーは日本ではまだまだニッチだ。

黒ぶち:以前、ニューヨークに住んでいたときのことなんですが。電車の中で、ジェイ・Z(JAY-Z)の曲にある「あのスニーカーが欲しいなら 努力して成り上がるんだ」っていう一節を何度も繰り返して、気持ちを高ぶらせている人がいました。

 これを日本でも再現したいと思っているんですね。ヒップホップ好きの兄ちゃんだけでなく、普通に働いてるサラリーマンがこれから仕事へ向かう電車の中で選ぶ曲。疲れた時、顔を上げたい時に選ぶ曲がヒップホップであってほしい。

 僕はヒップホップを、日本の音楽シーンのメインストリームに押し上げていきたいと真剣に思っています。そのために、地道ではありますがお笑い芸人にラップを教えたり、企業のコーポレートソングを書いたりとライブハウスの外でも活動を続けてきました。“ヨー、チェケラッチョ”ではない、僕らが思うヒップホップの本質が徐々に理解されてきたと感じています。

 今日本には、コロナへ愚策を続けてきた政府への不信感、頑張って働いても賃金が上がらない虚無感が漂っています。ヒップホップはそういう“敵”に立ち向かう勇気を与えるファイトミュージックです。日本は無宗教と言われます。しかし人間は本来「信じる力」を持っているし、よりどころがわからないだけ。それがヒップホップであっていい。僕はこれからも、皆のサバイバルツールになる曲を書き、歌っていくつもりです。

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「リリー ブラウン」が「ケイタ マルヤマ」と協業 異色のコラボはファッションへの“情熱”で結びついた

 マッシュスタイルラボの「リリー ブラウン(LILY BROWN)」は、丸山敬太デザイナー手掛ける「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」とのコラボ商品を2023年春夏と23-24年秋冬に発売する。4月に阪急うめだ本店でのポップアップストアを実施するほか、都内での実施も検討する。

 20〜30代の今どきの女性に支持を受ける「リリー ブラウン」と、1990年代から長年、国内デザイナーズブランドの一角として人気を博す「ケイタ マルヤマ」。意外ともとれる組合わせだが、近藤広幸マッシュホールディングス社長は、「(丸山)敬太さんが作るのは一つ一つが独自性にあふれた、いつまでも“捨てられない”服。タイムレスな服の価値を大事にする『リリー ブラウン』にとって、(コラボの)学びは大きい」と語る。丸山デザイナーも「今の時代の真ん中で活躍する人たちと一緒に服を作れることに、純粋にワクワクする。(新型コロナ禍からの)時代の変わり目に、新しいムーブメントを作りたい」と応じる。

 型数は15型程度、Tシャツ、ワンピース、ボトムス、雑貨などをラインアップし、中心価格は4000〜2万円を予定。4万円程度のスペシャルなドレスも制作を進めている。企画はまだ構想段階だが、2人にコラボの意図や展望を聞いた。

WWD:どんなコラボ商品ができそうか。

丸山敬太デザイナー(以下、丸山):「リリー ブラウン」とうちとでは、“オリエンタル”“ビンテージ”といった共通項があります。それらを生かして「ケイタ マルヤマ」らしいチャイナ的要素や刺しゅうを足し算していきたいと考えています。ただデザイン面では僕がリードするわけではなく、あくまでリリーの企画チームが主体です。

近藤広幸社長(以下、近藤):企画室を覗くと、丸山さんが先生、うちの企画チームが生徒、というような光景がよくあります(笑)。今回のコラボでは敬太さんの力を借りながら、自分たちのファンになってくれた人たちに向けて、一点一点、ものの作り方や表現の仕方を考え直す機会にしてほしいと考えています。

WWDJAPAN(以下、WWD):協業の経緯は。

近藤:「リリー ブラウン」は3.11で日本中が元気がなかった時に、花のような素敵な女性が世の中に広がって、彩(いろどり)のある国に戻ってほしいという思いを込めて作ったブランドです。“ヴィンテージフューチャードレス”をコンセプトに、普遍的なデザインを今の女性が着たいと思えるムードに昇華し、ビンテージの買い付けなどを含めて提案してきました。新型コロナが明けようとしている23年に、モノ作りや歴史といったストーリーで服の“深さ”を感じていただけるブランドとして、再び世の中にメッセージを出していきたいと考えています。

 そのための然るべきコラボ相手を探っていたところ、ぱっと頭に浮かんだのが敬太さん。当社の展示会にいらっしゃったときも、直接お話はできなかったけれど、ときどき遠巻きにお姿を見ていました。(『ケイタ マルヤマ』がスタートした)90年代から僕自身ファンで、周りにもチャレンジする人は多かったんです。唯一無二の世界観ながら独りよがりではなく、「気分が変わったから」と簡単には捨てられないような服を作っている。

WWD:「ケイタ マルヤマ」では、顧客から集めた古着をリメイクして売るプロジェクト「リマリッジ」もスタートしている。

丸山:僕、実は「ケイタ マルヤマ」の古着をフリマサイトで集める趣味がありまして(笑)。すると、昔のコレクションがいい状態で出品されていることもよくあって、「こんなに長い間持っててくれたんだ」「大切にしてくれていたんだ」と驚きます。サイズアウトしても捨てずにとっておいて、「どうにかできないか」と店に持ち込んでくださる方も多く、このプロジェクトの立ち上げにつながりました。

近藤: ブランドの服を本当に欲しいと思ってくださるお客さまに向け、敬太さんのように一つ一つ“お手紙”のような服を届けていくことが、再び大切な時代になると考えています。インターネットなかった時代と今では、服を購入するまでのプロセスがガラッと変わりました。かつて洋服の買い物は、リアルの場で商品に触れ、作り手のメッセージを感じて家に連れて帰るものでした。しかしインターネットが普及した今は、携帯の中の「情報」として洋服を知る。だから服の売り方も、新作やトレンドの情報合戦になってきてしまった面があります。

丸山:なるほど。僕から見たマッシュさんは、大きな会社ではあるけれど、昔からある「大手アパレル」とは全く異なる存在。SNS上で生まれる共感からファンをどんどん増やし、その方々に向けて服を作っています。だから、僕にとっても「リリー ブラウン」の服作りは新鮮なんです。なんせ僕がブランドを始めた28年前はインターネットもなかったころ(笑)。そういう意味で、僕は自分のことを今のファッション業界の中心にいる人間とは思っていません。コラボを通じて学ばせていただくことは多いと思っています。
 
 それに、「リリー」とは根底でつながれる部分があるなとも思っていて。それを一言で表すなら、服への“熱量”かな。僕は、会社にコレクションブランドのショーのルックをそのまま会社に着てくるような、異常な時代も経験してきました。でもこの会社(マッシュ)に来ると、それに近い雰囲気も感じることができるんです。社員が皆かわいくおしゃれをして、何より自分のブランドを好きで着ている。すごく当たり前のことだけれど、それができる作り手は今やすごく少ないし、その情熱は、きっとお客さまにも伝わるんじゃないでしょうか。

「感性」を刺激するコラボに

WWD: 23年は新型コロナ禍から、社会がいよいよ前へ向かって進み出す年になりそうだ。

近藤: そんなときだからこそ、ファッションには女性たちを後押しできるパワーがあるはずです。今回のコラボは単に服が売れるかどうかではなく、お客さまの「感性」をいかに刺激できるかの方がよっぽど大事だと思っています。今回のコラボ商品と合わせて、「ケイタ マルヤマ」の古着に「リリー」らしいプリントや刺しゅうを乗せて売っても面白いかもしれません。あと、個人的にはローンチに合わせて、若い子が華やかな服を着て集まるナイトパーティーをやってみたい。これは敬太さんにも、この場で初めてお伝えするアイデアなんですが。

丸山: コロナ禍はムーブメントが起きにくい時代でした。ファッションが作り出す高揚感や空気感を、そろそろ世の中に取り戻していきたいですね。僕らの3年と若い子の3年では、失った時間の重さは全然違うでしょう。ファッション=洋服ではないし、本来は音楽とかアートとか、さまざまなカルチャーをつなげる役割がある。女の子がすてきな服を着て集まる場作りなど、まず僕らが率先して面白い仕掛けができたらいいですね。

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ジャスティン・ビーバーと共に「ドリューハウス」を手掛けるライアン・グッド “愛・平和・喜び”を求めて

 2010~20年を代表するポップアイコン、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)を、デビュー当時から裏方として支えてきた人物がいるーーそれがライアン・グッド(Ryan Good)だ。

 現在38歳のグッドは、20代の頃にとある有名歌手を介してジャスティンの専属スタイリストになり、ビジュアル面を長年にわたってサポートしてきた。その実力を買われ、クリエイティブ・ディレクターとしてジャスティンと共にアパレルブランド「ドリューハウス(DREW HOUSE)」を18年に立ち上げると、わずか数年で“世界で最も成功しているインフルエンサーブランド”と称されるまでに成長させた。

 11月には、東京・原宿でポップアップ開催のためにグッドとジャスティンが来日。ジャスティンへのインタビューは残念ながら叶わなかったが、グッドが2人の出会いからブランド名の由来、アイコニックなスマイリーロゴが生まれた経緯などを語ってくれた。

ーーまずは、「ドリューハウス」を設立するまでのあなたの経歴を教えてください。

ライアン・グッド(以下、グッド):全ての始まりは、歌手のアッシャー(Usher)との出会いだね。20代の頃、フロリダのミュージックレーベルでインターンをしていたんだけど、上司がアッシャーと知り合いで彼がアシスタントを探している時に僕を推薦してくれたんだ。それを聞いた瞬間、トラックに荷物を積み込んでフロリダからジョージアまで(約600km)すぐに運転して行ったよ。アシスタント時代は、彼が飼っている犬の面倒を見たり、家を片付けたり、車を運転させてもらって事故ったり(笑)。

 その後、しばらくしてアッシャーが僕のファッションセンスを見抜き、「スタイリストになってみれば?」と提案してくれたんだ。何をすればいいか全く分からなかったけど、結果としてスタイリストになったことがジャスティンとの出会いのきっかけにもなったし、彼は今でも僕の大事な人でメンターだね。もともとファンだったし、未だに自分があのアッシャーと知り合いだなんて信じられないよ。

ーー“ジャスティンとの出会いのきっかけ”ということは、アッシャーから紹介があったんでしょうか?

グッド:2008年にアッシャーから、「ある若いアーティストがいるから、スタイリストとしてビジュアル面をサポートしてほしい」と言われて会ったのが、彼のレーベルと契約したばかりのジャスティンだったんだ。それから専属スタイリストとしてチームに加わり、ツアーから旅行まで全てに帯同していたね。

ーーそこからどのような流れで「ドリューハウス」が誕生したのか教えてください。

グッド:18年の1月、ジャスティンから「相談したいことがある」と連絡があって彼の自宅に行ったら、「一緒にアパレルブランドを始めたいから、クリエイティブ・ディレクターを担当してほしい」と言われてね。それまでもいろいろな人から「一緒にブランドをやらないか」と誘われることがあったんだけど、タイミングが合わなかったり、気分が乗らなかったり、明確な将来のゴールが見えるアイデアじゃないと参加したくない気持ちが強くて断り続けていた。でも、ジャスティンから話を聞くと、以前から僕がやりたかったアイデアを口にしてくれて、感覚がハマると確信したから一緒にブランドを手掛けることにしたんだ。

 誰にも言ったことがないんだけど、08年にアッシャーからも「一緒にアパレルブランドを立ち上げたい」と相談されたんだよ。当時、僕はストリートブランドやスケートブランドをラグジュアリーとミックスして着るスタイルが好きで、それをベースとしたブランドにしたかったみたい。彼は、10年以上前に今で言う“ラグジュアリー・ストリート”のトレンドを見抜いていたんだ。ブランド名も決まっていたし、今勝手にやっちゃおうかなと思っているよ(笑)。

ーー18年というと、ジャスティンは音楽活動を控えていた時期であり、同時にファッションシーンではストリートとラグジュアリーが急接近した年ですね。

グッド:18年はジャスティンにとって大変だった1年で、音楽とは別のクリエイティブなアウトプットを考えていたんだと思う。僕はジャスティンではないから正確なことは言えないけど、彼が誰か1人に強く影響されることはないはずだし、音楽もファッションも影響し合うものだから、トレンドはくんでいたかもしれない。

ーーブランド名の由来は?

グッド:“ドリュー”は、ジャスティンのミドルネームだね。“ハウス”は、ちょっと皮肉を込めてラグジュアリーブランドの“ファッションハウス”を目指す意味でふざけて付けたんだ。そのうち、普段みんなで過ごす家のような意味合いが強くなり、今はいろいろな人が集まって楽しく平和な時間を過ごせるコミュニティーが集まる場所に進化した。ロサンゼルスには、“リアルなドリューハウス”もあるよ。

ーー口元を“drew”の文字に置き換えたアイコニックなスマイリーロゴは、どう生まれたんでしょうか?

グッド:もともとのアイデアは僕がメモ帳に書き込んだ単なる落書きで、イラストレーターに整えてもらったんだ。スマイリーは世界共通で、誰とでも喜びを共感できるグラフィックだよ。

ーーベアをはじめとする動物のキャラクターの印象も強いです。

グッド:これには何層にもなる深い話がある。動物たちは実際にロサンゼルスのバレーエリアに住む動物たちで、ベアの名前はセオドア。以前ドリューハウスに住んでいた人たちが引っ越しの際に彼を置いていってしまったのか、セオドアは1人だったんだ。友情を求めていたセオドアは、近所のリスのシャーマンと出会い友達になる。ウサギのジャッキーは、コヨーテのフェルナンドを見かけるけど、ウサギにとってコヨーテは恐怖でしかない。でも、フェルナンドには家族がおらず、群れからも省かれてしまった存在で、ジャッキーも1人ぼっちで行き場と友情を求めていたから、意外なことに彼らは親友になったんだ。このように、僕たちも身体的な固定観念や人間として理解し切っていると思っていることを乗り越え、心の奥底を見つめ直して自分の欠点を洗い出せたら、他人を違った目線で見ることができて、互いにもっと大きな必要性とつながりを見出すことができるかもしれない。ウサギとコヨーテが親友になれたように、“人間は内心みんな同じである”という考えが背景にあるんだ。

ーーキャラクター設定が細かいように、どういったアイテムを展開していくか、明確なビジョンやコンセプトはありましたか?それとも、“ジャスティンが着ていそうなアイテムを作る”という舵取りでしょうか?

グッド:最初からはっきりとしたコンセプトがあったわけではなくて、ジャスティンの直感とセンスがすごくいいから、その波に乗るように自由にクリエイティブな会話をしながら進めていった。「ドリューハウス」は、僕とジャスティンのクリエイティブ・アイデアのコラボレーションから生まれた、“進化し続ける個人のテイスト”を基に誕生したんだ。

ーーということは、現在のストリートの要素は、5年後にはまた違った雰囲気になる可能性もあると。

グッド:いい質問だ。ファッションのコンセプトというよりは、生き方のコンセプトとして“愛・平和・喜び”を表現しているアイテムを作るから、変わるかもしれないし、変わらないかもしれないね。スマイリーロゴも、もともとは僕の単なる落書きだし、全てをミーティングして決めるというよりは、クリエイティブな輪の中で自然にアイデアが発露する感じ。だから、シーズンに合わせてアイテムを制作する必要もないと思っていて、人々が求めるようなタイミングにリリースする。

ーーメインターゲットは設けていますか?

グッド:全ての人を受け入れる感じだね(笑)。

ーー今回、東京でポップアップを開催した意図は?

グッド:「ドリューハウス」は直営店を持っていないし、多くの人が“ジャスティン・ビーバーのマーチャンダイズ”だと勘違いしている。だから、直接アイテムを触ってクオリティーを実感できる場を設けることで、改めてファッションブランドだと認知してもらう機会を作りたくてね。ブランドとしては4回目のポップアップで、本当はもっと早く東京でやりたかったけど、パンデミックの影響があったからこのタイミングになってしまったんだよ。

ーー気分を害するつもりはありませんが、良くも悪くも「ドリューハウス」は“世界で最も成功しているインフルエンサーブランド”の一つだと思っています。

グッド:君の言う通り、誰もジャスティンのことを知らなかったとして、ただ単に僕たちがガレージから「ドリューハウス」を始めていたとしたら注目度は全く違っただろうね。でも同時に、僕たちが本当にやりたいストーリーを世の中に発信することに変わりはなかった、とも思う。このストーリーというのは、最も重要なのは人々にどう感じてもらうか、どうすれば誰もが愛され、この世にとって一人一人の存在が重要であるという考えをどう広めることができるかだから。

 「ドリューハウス」は、トレンドやスタイルに影響を与えるために洋服を作っているわけではなく、ブランドの目的として“愛・平和・喜び”を広げることを常に大事にしている。その中で、たまたまジャスティンが影響力のあるトレンドセッターだっただけ。そう考えると気が楽になる。僕たちは、服作りのコツをつかんでいるしセンスもあるから「ドリューハウス」は軌道に乗っているけど、それだけではなくて、自分たちが語るストーリーを心から信じているから、自信を持って続けられているんだ。

ーー今後の展望や控えているプロジェクトがあれば教えてください。

グッド:具体的なプランはなくて、今は流れに乗るようにゆるくやっている。「ドリューハウス」というブランドが何なのか、それを世の中に広めている道中だよ。

ーー今回の来日は久しぶりだと思いますが、日本の気になる人物やブランドはありますか?

グッド:「キャピタル(KAPITAL)」と「ネイバーフッド(NEIGHBORHOOD)」がすごく好きだね。でも特定のブランドというよりも、日本のファッション文化全般と洗練されたコンシューマーたちの大ファンという方が正しいかな。東京の街を行く人たちは、みんな着こなしもカラーコーディネートも上手くて、自分をとても美しく表現することに長けているように見える。それに、世界的に見てストリートウエアは日本から大きな影響を受けているよ。東京はストリートカルチャーを語る上で欠かせない街だし、ストリートウエアという概念の一つだと思っている。そういえば、フィル・ナイト(Phil Knight、ナイキ創業者)が初めて作ったランニングシューズも「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」から影響を受けているから、「ナイキ(NIKE)」の原点は日本にあると言ってもいいね。

ーー最後に、2022年11月現在、毎日見ている注目のSNSアカウントなどがあれば教えてください。

グッド:昔の「ディズニー(DISNEY)」のイラストレーターやアニメーターが投稿している、クラシックなイラストや動画を見るのにハマってるよ。

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「デザインだけでなく、価格帯や多様性、環境に対してもフレンドリーでありたい」 ギョーム・アンリが語る「パトゥ」でのクリエイション

ギョーム・アンリ(Guillaume Henry)=アーティスティック・ディレクターが手掛ける「パトゥ(PATOU)」にとって、2022年は大きく前進した1年だった。20年春夏シーズンのデビューから高い完成度で打ち出された「パトゥ」スタイルはシーズンごとに少しずつバリエーションが広がり、2月には世界初となる旗艦店を東京・表参道ヒルズにオープン。7月には、それまではプレゼンテーションで発表していたコレクションを初めてショー形式で披露した。ブランドの世界観を体現する旗艦店で、6年ぶりに来日したギョームにブランド再生の歩みやコレクションへのアプローチについて聞いた。

 

WWD:久しぶりに東京に来て感じたことや変化は?

ギョーム・アンリ(以下、ギョーム):「パトゥ」に入ってから東京に来るのは、これが初めて。日本は「パトゥ」への支持が厚いマーケットでずっと来たかったのに、新型コロナウィルスの影響でずっと来日できなかったからね。まだいろんなところを訪れることはできていないけれど、街中で見かける人は皆オシャレを自由に楽しんでいて、ファッションのエネルギーを感じる。

WWD:ここは「パトゥ」初の旗艦店だが、ようやく実際に見られた感想は?

ギョーム:本当にエキサイティング!「パトゥ」にとって初めての旗艦店だったし、ずっとFaceTimeを通して進めてきたから、店舗をデザインするのはチャレンジでもあった。だから、ここに来るまでは正直ナーバスだった。でも、ブランドのファンタジーや価値観、アトリエのような雰囲気が表現されていることを実感できて、とても気持ちが高まったよ。

WWD:「パトゥ」(かつての「ジャン・パトゥ」)は歴史あるフレンチメゾンだが、そのアイデンティティーや“らしさ”をどのように捉えている?

ギョーム:「ジャン・パトゥ」は100年以上も前に設立されたブランドだが、1996年からずっと休眠状態だった。そんなブランドを復活させるということは興味深く、 “再生”であると同時に“創造”でもあったと言える。オフィスや既存のビジネスも、きちんとしたアーカイブもない状態からのスタートだったからね。それに、「ジャン・パトゥ」があまり知られていなかったマーケットにとっては、「パトゥ」はまったく新しいブランド。だからブランドがもつ価値にフォーカスしつつ、現代のためのブランドを作り上げることに取り組んだ。重きを置いたのは、ジャン同様のクチュールの精神やアトリエでの仕事を大切にしながらも、今を生きる女性たちが日常生活の中で着られる服を提案すること。それはジャンの価値観にも通じる部分で、彼の最初のミューズは実の姉だったし、彼は当時からクチュールだけでなく街中で着るためのスポーツウエアを提案していた。そして、パーティーが好きだったジャンのようにフレンドリーなブランドであることも、大事な要素。「パトゥ」っていう響き自体にも、ニックネームみたいな親しみやすさがあると思う。デザインだけでなく、価格帯や多様性、環境に対してもフレンドリーでありたいと考えている。
 デザインとしては、ジャンだけでなく、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)やミシェル・ゴマ(Michael Goma)、クリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)が手掛けていた時代もある。アーカイブそのものから着想を得ることはあまりないけど、その根底にあるスポーティーさやシンプルさ、ドラマチックなボリュームを「パトゥ」らしさと捉えている。マインドとしてはジャン・パトゥと常に共にあるけれど、彼が提案したモノをアレンジして再現する“リクリエイション”というより、新しいモノを生み出す“クリエイション”という感覚だね。

WWD:「パトゥ」でコレクションをデザインするときに常に心掛けていることは?

ギョーム:着る人の魅力を引き立てるモノでありながらも、毎日の生活のニーズに応えるモノであること。ファッションは時に夢やファンタジーであり、尊重はするけれど、それだけになってしまうのは「パトゥ」の価値観にはそぐわないと思う。その一方で、ベーシックな白シャツのようにリアルなだけになってしまうのも違う。日常生活で着られるリアリティーと、ファッションが生み出すファンタジーのバランスが重要なんだ。ドローストリングによってシルエットやボリュームを自由に変えられるアイテムは、まさにそれを象徴するもの。着こなし方や組み合わせ方によって、控えめからエッジーまで自分らしさを表現してほしい。

WWD:自分らしさを表現するという点でいうと、2023年春夏コレクションは「WHO IS YOUR MUSE?(あなたのミューズは誰?)」をタイトルに掲げていた。提案したスタイルも、「パトゥ」らしさを感じるラッフルやバルーンスリーブが特徴的なルックやソフトなテーラリングから、スポーティーなスタイル、ミニマルなドレスまでが提案され、より幅広い女性像が描かれているようだった。

ギョーム:コレクションが同じようなアイテムの繰り返しではいけないと思っている。ファッションは夢の空間なだけではなくプロダクトでもあるから、他のアイテムを台無しにするモノは作りたくない。小規模なコレクションの中でも、同じフィロソフィーと価値観をもった多様なアイテムを提案したいんだ。メニューに適切な数の選択肢が用意されたレストランのようにね。そして、着用者に僕自身が思い描いたイメージを強いることは決してしたくない。それぞれのコレクションはストーリーをベースにしているけれど、それは僕自身のストーリー。僕のストーリーを着用者に押し付ける必要はない。だから、店に並んだ時点で、コレクションは僕のモノではなく、それぞれの人生を歩んでくれればいいと思っている。「パトゥ」を着用している人が僕のことを知らなくてもいいし、僕がデザインした服を着ている姿を見るだけでハッピーなんだ。

WWD:23年春夏のショーにはメンズも一人登場したが、その意図は?

ギョーム:昔は自分のことを“ウィメンズ・ファッションデザイナー”と言っていたけど、今はシンプルに“ファッションデザイナー”と表現している。もはやファッションにジェンダーは関係ないし、ショーでは「パトゥ」は誰でもウェルカムということを伝えたかった。男性が「パト
ゥ」を着てくれているのを見るととてもうれしいし、日本人の男性にはぴったりフィットする人も多い。昨日イベントを開いた時にも「パトゥ」の服を着こなしてくれている男性がいて、「うらやましい!」と思ったよ(笑)。

WWD:メンズコレクションを作りたい気持ちはある?

ギョーム:もちろん!「カルヴェン(CARVEN)」ではメンズも手掛けていたから懐かしいし、とても楽しんでやっていたからね。でも始めるには、市場があるかをきちんと見極める必要があると思う。

WWD:「パトゥ」でショーを開くのは23年春夏が初めてだった。今後もショー発表を続けるのか?

ギョーム:次回は、来年1月27日の朝にパリでショーを開く予定だよ。(以前のように)プレゼンテーションでコレクションを話しながら見せるのもよかったけれど、デビューシーズンから3年がたち、服を動きの中で見せる必要性を感じている。シルエットからキャスティングまでを通して、「パトゥ」の全体像を表現したい。

WWD:今後、「パトゥ」で取り組みたいことは?

ギョーム:セラミックなどのホームコレクションは興味深いけど、「パトゥ」は小さなチームだからね。ただ、22-23年秋冬にコラボしたラバーブーツブランド「ル シャモー(LE CHAMEAU)」のような専門ブランドと一緒にモノ作りに取り組むのも面白いと思う。来年1月に披露する23-24年秋冬コレクションでは、また別のエキサイティングなコラボがあるから、楽しみにしていてほしい。

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117万フォロワーのユーチューバー北の打ち師達が「ハルキの古着」をスタートした理由

はるくん

1995年9月13日生まれ、北海道出身。2人組ユーチューバー、北の打ち師達のメンバー。2010年にユーチューブで活動を開始した。「君の名は。」などの人気楽曲でパフォーマンスする“ヲタ芸”動画や、さまざまな“しばり”を設けた24時間・1週間生活企画が人気だ。現在のチャンネル登録者数は117万人。20年に、フジテレビアナウンサー(当時)の久代萌美と結婚した

 117万フォロワーを持つユーチューバー「北の打ち師達」の“はるくん”が、2021年に個人チャンネル「ハルキの古着」をスタートした。22年12月には、東京ビッグサイトで行われた国内最大級の古着イベント「フルギフェス」にも参加。23年も盛り上がりが継続するであろう“古着”をけん引する若き旗手に話を聞いた。

北海道での小学生時代、父の影響でビンテージに目覚める

WWD:2021年に個人チャンネル「ハルキの古着」をスタートし、現在の登録者数は3.3万人だ。古着との出合いを教えてほしい。

はるくん:父がビンテージジーンズ好きで、小学生のころから“ダメージ=味であり、ただの汚れではないこと”や、“501”“赤ミミ”といったワードを聞かされていました。また、東京に一緒に買い物に来ることもあって、裏原宿にあった「ノーウェア」(NIGO®と高橋盾「アンダーカバー(UNDERCOVER)」デザイナーが1993年に開店)で買ってもらった“エイプヘッド”のキーホルダーをニンテンドーDSに付けていました。

WWD:自分で買った初めての古着は?

はるくん:中3か高1のとき、セカンドストリートで購入した「リーバイス(LEVI’S)」の“501”です。父から、「とにかく“501”はすごい!」と聞かされていたので(笑)。小遣いで買ったので1000円くらいだったと思います。古着について“予習”してから買うようになるのは、大学入学で上京してからですね。

WWD:好きなブランドは?

はるくん:古着の場合、ブランドは関係なくて、デザイン優先で決めています。僕は古着好きの前に、服が好きなので、ゴリゴリのアメカジルックというより、いわゆる古着ミックスな着こなしが多いです。古着を使ったコーディネートを楽しみたいというか。

WWD:古着以外も着る?

はるくん:はい。「アンユーズド(UNUSED)」や「エムエーエスユー(M A S U)」「ダブレット(DOUBLET)」が好きです。

WWD:よく行くショップは?

はるくん:中目黒の「ロク」にお邪魔することが多いです。“マルジェラ期”の「マルタン マルジェラ(MARTIN MARGIELA)」があったり、新品があったり、自由なセレクトに共感しています。最近、モックネックのニットを買いました。90年代くらいのもので、ハードめなダメージが特徴です。価格は1万7000円くらいでした。下北沢の「ベルベット」にもよく行きます。こちらは“トゥルービンテージ”中心の品ぞろえで、ほかで見たことがないものが多いです。僕は60年代のつなぎを3万5000円ほどで購入しました。

WWD:妻である久代萌美アナウンサーは古着に理解がある?

はるくん:「いつも誰かのお下がりを預かって(着て)“お人好し”ね」って、よく言われます(笑)。でも、それって今風に言えばサステナブルでしょうし、“好き”を継承していく=好きがつながるのって、すてきですよね。

WWD:久代アナウンサーも古着を着る?

はるくん:僕の影響で着るようになりました(笑)。一緒に、古着店に買い物に行くこともあります。僕はユーチューブを通じて古着の魅力を伝えようとしていて、一番身近な人に影響を与えられているのはうれしいですね。

「ユーチューブを通じて、視聴者と古着の架け橋になりたくて」

WWD:ファッションのこだわりについて聞きたい。

はるくん:僕はマニアではないので、年代とかどこの工場で作られたとかにはこだわらないです。むしろ古着チャンネルを始めて、いっそうコーディネートを意識するようになりました。ありがたいことに、「ハルキの古着」を通じて古着と初めて接する視聴者も多く、彼らの多くは古着の着こなしに不慣れです。だから少しでも彼らの学び、古着への架け橋になれればと考えています。僕は古着を知って人生が楽しくなったので、それをぜひ視聴者にも感じてほしいです。

WWD:今年12月、東京ビッグサイトで行われた国内最大級の古着イベント「フルギフェス」に出店した。

はるくん:僕にとって初めてのリアル販売イベントで、大学生のころから買いためた私物を出品しました。僕のことを知らない人も含めて、想像以上の古着ファンが来店してくれて、1日限りのイベントでしたが、持参した150点を完売しました。僕にはいつか古着店をオープンしたいという夢があるんですが、その思いがより強くなりました!

WWD:来店者の顔ぶれは?

はるくん:男性が多かったですね。実は、「ハルキの古着」の視聴者も95%が男性なんです。ただ、世代は幅広かったです。僕(27歳)より下の世代から40〜50代まで。こんなふうに年齢を問わない点も、古着の魅力だと思います。

WWD:2023年もリアルイベント開催の予定はある?

はるくん:古着店でポップアップなんかできたらいいですね。ほかの古着系ユーチューバーとレンタルスペースを借りて実施してもいいでしょうし。ただ、具体はまだありません。まずは年末年始用に動画を編集しなくては、で……。

WWD:ファッションにおいて参考にしているものはある?

はるくん:自分の発想にない着こなしを見られるので、スタイリストさんのインスタグラムは参考にしています。よく見るのは山田陵太さん、TEPPEI(テッペイ)さん、高橋ラムダさんです。

WWD:ひと月のファッション費はどれくらい?

はるくん:15万〜20万円ほどです。「ハルキの古着」を始めてから、今まで着なかったジャンルの服も“動画用に買ってみよう”となって増加傾向です(笑)。

WWD:現在、注目している古着は?

はるくん:トラックジャケットにはまっていて、1970年代の“ゴツナイキ”を探しています。

WWD:2022年、最も買って良かった古着は?

はるくん:高円寺の「セブンデイズ」で買った1950年代のスカジャンです。10万円弱でした。身長180cmと体の大きな僕に合うスカジャンってあんまりなくて、かつオレンジの発色にほれました!

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アラフォーには懐かしの「ビューティビースト」が国内外で若年層も巻き込んで人気再燃

 東京のデザイナーズブランド「ビューティビースト(BEAUTY:BEAST)」は、1990年代に東京やパリでコレクションを発表して、熱狂的なファンを獲得。ところがデザイナーの山下隆生は2000年にブランドを休止すると、その後はさまざまなファッション企業でメンズやウィメンズ、子ども服、スポーツウエアなどのディレクションを担当。20年の「ビューティビースト」再始動まで、表舞台から遠ざかっていた。

 最初のブレイクから30年、現在は人気が再燃するどころか海外のファンも多く、「#beautybeast」でインスタグラムを検索すると世界各地からの投稿が見つかるほか、メルカリなどの2次流通では高値で取引されている。新作の売り上げも順調だ。カムバックの理由は、なんだったのか?90年代と現在でモノ作りにかける思いは違うのか?山下デザイナーに聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):そもそも2019年の再始動のきっかけは?

山下隆生「ビューティビースト」デザイナー(以下、山下):3年前、「Your Fashion Archive」というウェブメディアのオリバー・レオーネ(Oliver Leone)からインタビューのオファーがあった。オリバーはファッションが大好きで「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」などの90年代に造詣が深く、彼自身が当時の日本のファッションに興味を持っていた。アメリカには、彼のような若い世代が多いという。そこで「これだけアメリカの若者が日本の90年代ファッションを好きなのに、なぜ、あなたは洋服作りを再開しないのか?」と聞かれた。それが、インタビューの最後の質問だった。その時は「タイミングが合えば」と答えたが、確かにインスタグラムでは90年代の「ビューティービースト」(注:再始動前は「ビューティービースト」)が、当時の「アンダーカバー(UNDERCOVER)」や「リック オウエンス(RICK OWENS)」のように話題になっていた。僕は20年間、ネス湖に潜って頭を上げていなかったが、日本の90年代のファッションを求めている世界の熱量に動かされた。

WWD:なぜ、アメリカでは日本の90年代が盛り上がっているのか?

山下:彼らの手元に、僕の洋服がどう届いていたのか?流通の全容は今もわからない。ロサンゼルスのセレクトショップがアーカイブを集めてコーナー展開してからという話もある。90年代はインターネットが整う直前で、僕の手元の資料は全て紙。若い世代にとっては、謎に包まれている印象があるのかもしれない。僕にとっての70年代のような感覚を、今の若い世代は90年代に抱いているのかもしれない。(日本のブランド古着や「ビューティビースト」との新作コラボなどを販売する米ECの)「エンプティー ルーム(EMPTY R__M)には20代のファンが多いそうだ。

 考えてみれば、今の世の中には90年代のメンタリティがあるのかもしれない。湾岸戦争(1990年〜)とウクライナの侵攻が重なる人もいるだろう。コロナの影響で国内ブランドへの注目が集まったのも、90年代に似ている。振り返れば90年代の前半には「シュプリーム(SUPREME)」や「ステューシー(STUSSY)」がブレイクしたが、半ばくらいからは「ビューティービースト」のほか、「20471120」や「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」などのインディペンデントなブランドが売れるようになった。最近までは「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」などが強かったけれど、世界的な物価高や円安でインポートが買いづらくなって、日本のブランドが注目されるようになった現代と重なる。

 ただ日本でも今、90年代は盛り上がっていると思う。「エモい」は、90年代ならオタクだけが楽しんでいた、斬新ながらどこかノスタルジックなものに使われる言葉だと思う。「ビューティービースト」の洋服をインスタグラムでアップする若い世代は、90年代のファッション誌を買い漁っている。90年代の映像を欲している若者も多いから、当時の空気感を伝えられるイベントが開けたら、と思っている。

WWD:そこで「ビューティビースト」を再始動した。

山下:たくさん商品を作って、アパレル・マーケティングをするつもりはない。ただネス湖に潜っていたときでも、追いかけ続けてくれた40代の熱心なファンは多い。彼らが洋服を着てくれるなら、と思っている。若い世代も着られるけれど、40代はどこかにノスタルジーも感じてしまう。そんなブランドを目指している。「新しいものを」と思って作り続けた90年代のアーカイブを全部ひっくり返して、「どこか懐かしく、でも今着られるものは何か?」を考えている。今の40代は、当時よりお金を持っている。でも「当時より派手じゃなく」、一方で「持っていないものが欲しい」という。そのバランスを探りたい。明らかに変わったのは、ドクロのように今の社会では「死」を意味するような悲観的なモチーフ使いはやめている。昔より色は多いのかもしれない。社会の”どんより”した雰囲気を払拭したい。僕は、自分に思いを言語化する能力がないから、メッセージやメンタリティをぶつけて洋服を作っている。そこに今は、思いを言語化できるパートナーが現れ、SNSという伝えるツールも整った。40年くらいずっと探していた言語化できる人と環境を手にした。

WWD:と同時に、若い世代も興味を持っている。

山下:今の世代はコーディネイトが上手なのに、提案するスタイルを丸ごと買ってくれたりする。そんな時は、発信できるようになった言語というより、そんな言語を連ねた文章に共感してくれたのかな?と思っている。僕がラッキーだったのは、SNSで拡散しやすいヒストリーがあったこと。SNSでの反響は、昔の口コミに似ている。外出自粛の影響でスマホをいじる時間が増えたことで、皆細かく、深く掘り下げるようになっている。

 昔「トム ブラウン(THOM BROWNE)」のコレクションを見た時、大きなショックを受けたことがある。彼の定番には、デザインが存在しない。「普通がかっこいい」「それが新しい」なんて、自分の発想にはなかった。ブランドを休止した2000年ごろ、世の中に広がり始めていたのは「ユニクロ(UNIQLO)」。営業担当と次の方向性について話をしていたとき、こだわりの寿司屋より、回転寿司の方が好かれる時代が到来したように感じた。ネット時代が到来して、洋服の代わりにハードウエアに数十万円を費やす時代にもなった。だからコレクションピースを作ることをやめ、テクノロジーの勉強をして「タイガリオナ(TAIGALIONA)」(編集部注:山下が2020-21年秋冬にスタート。日本古来のワークウエアをベースに、テクニカル素材とモード由来のシルエットの融合を試みている)をスタートした。ただドナルド・トランプ(Donald Trump)が大統領に就任してからは、あれだけハッキリした物言いに反発する若者も現れるだろうと感じていた。ファッションはメンタリティーのPRツールでもある。世間とは違うメッセージを発信したい人に届けば嬉しい。

WWD:海外の人に売れている理由は?

山下:海外の人は今、そのヒストリーにリスペクトの思いを込めてくれる。この思いは、フィジカルな店舗に絞った方が共有しやすいのではないか?もちろん、最終的には直営のウェブショップが必要だと思うが、販路については良きパートナーと、深く掘り下げるような関係性を築いていきたい。僕にとって、洋服は単語。その単語を「今の時代、こんなふうに組み合わせると、今までにない文章になるでしょう?」と提案しているつもりで、それは今も昔も変わらない。だからメンタリティを表現する修飾語まで、きちんと取り扱ってくれるパートナーとタッグを組みたい。

WWD:新作には、当時の復刻も多い。

山下:トラックスーツは当時の色を復刻しながら新色を発売し、ラビットのバックパックは270個限定で作ったりした。もちろん商習慣と合わせないといけないが、消費者のニーズはシーズンレスになっている。「今、ここで着たいパーカー」が提供できたら、それでいい。コンサートで求められるのは、新曲だけじゃない。大事なのは、オールタイムベスト(デビュー時から最新まで発表した全時代の全楽曲から選曲され、キャリアが総括されたベストアルバムを指す)だ。

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新たなフロンティアを求めて KING -MASAと考えるサウジアラビアのファッション市場

 2019年に個人観光ビザの発給が解禁されるまで、“世界一訪れることが難しい国”といわれていたサウジアラビア。イスラム教やアラブ王国、石油、サッカーなど想像に難くないが、今なおベールに包まれているのがファッションだ。数年前に服装の規制は撤廃されているものの、全身を白や黒で覆う民族衣装のイメージはまだ強い。そんな謎多き国でこのほど行われたスニーカーイベント「スニークミー(SNEAK ME)」に、スニーカーコレクターであり「オールウェイズ アウト オブ ストック(ALWAYS OUT OF STOCK、以下A .O .O.S)」のディレクター、キングマサ(KING -MASA)が参加した。KING-MASAが見たサウジアラビアの現状を聞きながら、中東のファッションの未来を考察する。

――「スニークミー」へはなぜ参加することに?

KING -MASA:友人のティー(ロンドンのクリエイティブ集団「ビジョナリズム(VISIONARISM)」を主宰)がこのイベントのディレクションに関わっていて、彼から連絡が来たんです。「数年前まで渡航がオープンになっていなかったけど(2011〜19年まで観光ビザの発給が停止されていた)、今は逆に国がファッションを盛り上げようとしている。国のバックアップで旅費や宿泊費、輸送費などの経費、ビザの手配などをサポートしてくれるから『A.O.O.S』として出展してくれないか?」というものでした。ただ、会期が2週間と長かったので出展は厳しいと伝えたら、数日間、インフルエンサー枠としてだけでもいいから来て欲しいと。だから僕は今回インフルエンサーとして参加したんです。

――なるほど。サウジアラビアってどんな雰囲気なんですか?

KING -MASA:街はラスベガスかと思うぐらい煌びやかで、めちゃくちゃイケてる。でもファッションを見ても「シュプリーム(SUPREME)」や「ナイキ(NIKE)」のようなブランドを着ている人はいなくて、買う場所もほとんどなかったですね。実際、「ストックX(STOCK X)」のようなリセールサイトでもサウジアラビアへの配送はしていないみたいです。

――買う手段がないんですね。イベント自体はどんなところで開催されたのですか?

KING -MASA:会場は屋外で、砂漠のど真ん中でした。昼間は暑過ぎて無理だから、夕方の16時から深夜0時までやるナイトマーケットみたいな感じです。そんな遅い時間にわざわざ人が来るのかなと思っていたら、20時ぐらいまではほとんど人がいないんですけど、逆に21時とか22時とかになったら人がバンバン来て。そういえば、フライトも夜の便で着いたんですけど、そのときも空港に人がたくさんいたし、夜型なんです。

――出展ブースは海外のスニーカーショップですか?

KING -MASA:イベントのメインは、海外のリセールショップでした。リテールは「アシックス(ASICS)」や「ビルケンシュトック(BIRKENSTOCK)」が出ていて、残りはワークショップ。50店以上出ていて、どこも巨大なブースを構えていましたね。イメージとしては、「スニーカーコン」と「コンプレックスコン(COMPLEXCON)」の間みたいな感じです。ちなみに、アジア人で参加していたのは僕だけでした。

――リセールプライスで売られているんですよね?やっぱり高いんですか?

KING -MASA:値付けはまあまあ高かったですけど、それでも売れるんだと思います。“イージー(YEEZY)”や「ディオール(DIOR)」דジョーダン”みたいな分かりやすいものが売れていた印象です。白い民族衣装を着ている人も多いんですけど、足元はスニーカーを履いているんですよね。民族衣装は強制ではないらしく、友人はファッションが好きだから特別なとき以外は着ないと言っていました。興味深かったのは、会場の中央のブースに中東で有名なインフルエンサー2人のスニーカーが数足展示してあったんですけど、中にはフェイクもあって、それも一眼で分かるようなもの。でも、正規店がないからそもそも比べようがないんですよ。海外旅行に行ったときとかにリセールで買うしか手に入れる手段がないので。

――確かに情報がないから、コアなビンテージなんかより、分かりやすいものがいいのかも。

KING -MASA:そうですね。実際、多少は古いスニーカー(数年前に出たもの)もあったんですけど、あんまり反応は良さそうではなかったです。それと、古いスニーカーを持ってきたら急激な温度変化で、突然“エア”(クッショニング性能を持つ踵のソールユニット)の部分が割れたという人もいました。本当に暑いので、そういう環境的な課題はあります。

――四季があるような国でもないからこれからファッションやスニーカーが発達していけば、そこでしか生まれないイノベーションが開発されるかもしれませんよね。

KING -MASA:それはあるかもしれないですね。思ったよりもネガティブなイメージもないし、何より安全。出展ブースのスニーカーを2週間もどうするの?と聞いたら、一応ロッカーはあるけど、そのまま置いて帰っても大丈夫、と。もし盗難にあっても、そこら中にカメラが付いているから犯人はすぐに捕まるとか。サウジアラビアやドバイは今世界で1番安全な国だと言っていました。

――確かに、アメリカやヨーロッパだとそうはいかないですもんね。

KING -MASA:ファッションやスニーカーは欧米の主要都市では飽和状態ですけど、サウジアラビアも含めて中東はまだまだ進化していくだろうし、自分のブランドにも可能性を感じています。興味深いし、かなり面白かったですね。実際、「ハイプビースト(HYPEBEAST)」がミドルイースト(中東)版を運営していたり、ラスベガスにあるリセールショップ「アーバンネセシティーズ(URBAN NECESSITIES)」がサウジアラビアに近々店をオープンしたり、これからどんどん盛り上がっていくと思います。

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「WWDJAPAN」年間アクセスランキング2022

「WWDJAPAN」 年間アクセスランキング2022

 2022年でアクセス数の多かった「WWDJAPAN」の記事をランキング形式で発表。
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- 1位 -
篠原ともえの革の着物作品が世界的広告賞、ADC賞で2冠を達成 

05月20日公開 / 文・福永千裕

 篠原ともえがデザインを手掛けた革の着物の作品“ザ レザー スクラップ キモノ(THE LEATHER SCRAP KIMONO)”が第101回ニューヨークADC賞(THE ADC ANNUAL AWARDS)でシルバーキューブとブロンズキューブの2冠を達成した。

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- 2位 -
「ディオール」が中国ネット界で炎上 「制服に着想した」スカートが中国の伝統衣装に酷似と批判

07月20日公開 / 文・DENNI HU

 「ディオール(DIOR)」が2022年ウィメンズ・フォール・コレクションで披露したミドル丈のスカートが、中国の明時代の伝統的な衣服に似ていると中国のネットユーザーの間で物議を醸している。 漢服愛好家の間で「ディオール」のスカートが明時代に流行したマミアンスカートに酷似していると話題になり、ウェイボー(微博、WEIBO)では、“Dior plagiarism(ディオールが盗作)”というハッシュタグが一時ホットサーチリストに入り、1370万回クリックされたという。

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- 3位 -
「ディオール」のスカート炎上問題 パリの店舗前で中国人学生50人が謝罪を求め抗議活動

07月29日公開 / 文・DENNI HU

 「ディオール(DIOR)」が2022年ウィメンズ・フォール・コレクションで披露したミドル丈のスカートが、中国の明時代の伝統的な衣服であるマミアンスカートに似ていると中国のネットユーザーの間で物議を醸している問題について、約50人の中国人の学生がパリのシャンゼリゼ通りにある「ディオール」の店舗前に集結し、抗議を行った。

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- 4位 -
「スウォッチ」が「オメガ」とのコラボ時計の販売方法をあらためて発表 12時間以内にエントリーが必要!

03月29日公開 / 文・三澤 和也

 スウォッチ グループ ジャパンは3月29日21時に、「オメガ(OMEGA)」と「スウォッチ(SWATCH)」のコラボ時計の発売方法を公式SNSなどで発表した。

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起業から5年で年商10億円 高級ブランドも信頼する元双子タレント広海の「仕事の流儀」

 双子のオネエ系タレントとしてテレビや舞台に出る一方、イベントのMCとしても活動していたHIROMI・FUKAMI(広海・深海)。彼らは今、ファッション&ビューティ業界のプロフェッショナルとして活躍している。FUKAMIがスタイリストとして活動の幅を広げ、ブランドのクリエイティブディレクションなども手がける一方で、HIROMIは2018年にデジタルマーケティング企業の株式会社Hiを設立して代表取締役に就任。

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- 6位 -
女性の裸のバスト写真をSNSに投稿した「アディダス」に賛否両論 新作スポーツブラのプロモーションで

02月21日公開 / 文・ROSEMARY FEITELBERG

 「アディダス(ADIDAS)」が新作のスポーツブラコレクションのプロモーションとして25人の裸の女性の胸の写真を公式ツイッターに投稿したことが物議を醸している。投稿には「私たちはいかなる形、サイズの女性の胸もサポートと快適さを得る権利があると信じています。この考えに基づき新しいスポーツブラのコレクションは43型をそろえ、誰しもにぴったり合うものが見つかります」とコメントを添えている。

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- 7位 -
「オメガ」 × 「スウォッチ」のコラボ時計がリセールサイトで記録的な取引数に 最も人気のモデルは?

03月31日公開 / 文・WWD STAFF

 リセールサイト「ストックX(STOCK X)」は、「オメガ(OMEGA)」と「スウォッチ(SWATCH)」による初のコラボレーション“ムーンスウォッチ”が、数々の記録を樹立していることを発表した。

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ヘアメイクアップアーティストの藤原美智子が42年のヘアメイク人生に終止符 

 ヘアメイクアップアーティストの藤原美智子氏はこのほど、自身のインスタグラムで4月19日付でヘアメイクの活動を終了すると発表した。また同日に自身が経営する事務所のラ・ドンナを解散することも発表した。インスタグラムの投稿では「ヘアメイクアップアーティストを始めてから42年。長い間、多くの方に支えられここまで仕事を続けられてきたことに心より感謝申し上げます」と綴っている。

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「エディー・バウアー」が日本再上陸 2023年春夏シーズンから

08月22日公開 / 文・WWD STAFF

 伊藤忠商事は、米アウトドアブランド「エディー・バウアー(EDDIE BAUER)」の日本市場における販売権とライセンス権を取得した。

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- 10位 -
スノーピーク山井梨沙社長が辞任 「既婚男性との交際および妊娠」を理由に

09月21日公開 / 文・林 芳樹

 スノーピークは21日、山井梨沙社長が同日付で辞任し、山井太会長が社長職を兼任すると発表した。辞任理由について同社は、山井梨沙氏から「既婚男性との交際および妊娠を理由として、当社およびグループ会社の取締役の職務を辞任したいとの申し出」があったとしている。事態を重く見て、山井太氏は役員報酬3カ月分の20%を、副社長の高井文寛氏から役員報酬3カ月文の10%を自主返上したいとの申し出があり、同社はこれを受理した。

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「大ちゃん」の愛称で親しまれる三上大進が届けるスキンケアブランド「dr365」にのせた思い

 NHKでパラリンピックのレポーターや、「あさイチ」の美容にまつわるコーナーでレポーターを担当し、「大ちゃん」の愛称で親しまれる三上大進さん。「生まれつきの左手の障がいが、美容に興味をもつきっかけになり、ビューティを好きになれた。美容を好きな私が個性」と語る三上さんは、実は日本ロレアル、ロクシタン ジャポンでキャリアを積んだ美容業界人だ。そんな自身のバックグラウンドを生かし、2021年11月には自身のスキンケアブランド「dr365(ドクター365)」を立ち上げた。たくさんの人の肌悩みに寄り添いながら活躍の場を広げる三上さんに、これまでのキャリアや「dr365」の立ち上げ秘話を聞いた。

「美容を好きな私」が個性

WWDJAPAN(以下、WWD):まず、三上さんの経歴を教えてください。

三上大進(以下、三上さん):新卒で日本ロレアルに入社して、「ランコム(LANCOME)」と「キールズ(KIEHL'S SINCE 1851)」のマーケティングを担当しました。その後、ロクシタンジャポンに転職。製品開発とマーケティングに携わりました。そこから、2018年にNHKに入局。パラリンピックや、「あさイチ」の美容コーナーで4年ほどレポーターを担当しました。

WWD:三上さんといえば、パラリンピックのレポーターというイメージがある人も多いのでは。そもそも化粧品業界に携わるようになったきっかけは?

三上:生まれたときから左手に障がいがあり、中高生ぐらいの二次成長が始まり多感なときは、周りとは違う自分の体の特徴にすごく目がいって……。私の指はいつまで経っても生えてこなくて、一生この姿だと思うと、ほかの人と同じスタートラインに立てていないような気持ちで日々を過ごしていました。私の場合は左手を簡単に隠すこともできちゃうけれども、左手の指が足りないのなら、それ以外のところをかんぺきにきれいにすれば、もしかしたら人はそっちを見てくれるんじゃないかと思ったんです。そんなきっかけでスキンケアにお金をかけ始めました。お小遣いやお年玉は全てスキンケアやヘアケアに費やしましたね。今振り返ると、「左手のコンプレックスのせいでかわいそう」って思われるかもしれないけれど、全然そんなことはないんですよ。「左手の障がいがあることが個性」なのではなくて、左手の障がいがあったからこそ、自分が美容に興味をもって、ビューティを好きになれたんです。「美容を好きな自分」が個性であり、その個性に出合わせてくれたのが左手だと思っています。

WWD:化粧品会社のマーケターから、レポーターへと大きな転身を遂げた背景は?

三上:パラリンピックのレポーター・キャスターを募集していて、友人に応募してみてはと言われたんです。当時は会社員だったのでレポーターではなく、ボランティアスタッフとしてやりたいと思っていた通訳スタッフに応募しました。なのに、なぜかメインキャスターに選ばれちゃって。ちょうどロクシタンジャポンでは、フランス本国に1年間の留学、もしくは赴任する話が上がっていたこともあり、日本に残るならパラリンピックの道かなと思いましたね。ロクシタンジャポンの上司から「“2020”は人生に1度しかないもの。マーケティングに携わっているなら、1度しかない“2020”というプロダクトは絶対に逃しちゃダメ」と素敵なアドバイスをいただいて、背中を押してもらいました。左手のコンプレックスは残ったままだし、向き合える機会は2度と来ないかもしれないという思いとも重なって、NHKのレポーターになったんです。

WWD:「あさイチ」では、美容コーナーのレポーターも担当していたんですね。

三上:そうなんです。実はこの経験が「dr365」の立ち上げの理由の一つです。化粧品会社でマーケティングに携わってきましたが、みなさんがどんな肌悩みを持っていて、何に困っていて、どのように解決したいのか、生の声を初めて聞いたのはこのときが初めてでした。

WWD:もう1つの理由は?

三上:もう1つの理由は、インスタグラムでのライブ配信です。コロナ禍でライブ配信が盛り上がったときに、お肌に関するお悩み相談コーナーをやりました。初めは300人程度の視聴者だったのが、最近は5000人以上が見てくれることもあるんです。コロナ禍のマスク荒れや、生活リズムの乱れからお肌に悩んでいる人が多いということを改めて実感しました。みんなに「私がスキンケアをプロデュースしたらどうかしら」って聞いたところ、「今までたくさんのお肌のお悩み相談にのってくれた大ちゃんが作ってくれるなら使ってみたい!」と言ってくれたので思い立ちました。

原料調達から取り組むほど
徹底的に中身にこだわった「dr365」

WWD:「dr365」でこだわったのはどんなところ?

三上:ビューティに携わってきたバックグラウンドがあり、たくさんの悩みに触れてきたからこそ、とにかく中身にこだわりたいという思いが強かったです。皮膚科医の先生に監修してもらい、処方にはとにかくこだわりました。まず8つのフリー処方(1.アルコールフリー、2.合成香料フリー、3.合成着色料フリー、4.石油由来界面活性剤フリー、5.動物由来成分フリー、6.鉱物油フリー、7.光毒性フリー、8.パラベンフリー)は必ず実現させたかったところ。さらに、より多くの人に使ってもらえるように、敏感肌テストやアレルギーテスト、ノンコメドジェニックステスト、スティングングテスト、4週間の連用試験もクリアしています。原料1つ1つに関しても、日本国内に入ってきていないものは海外の原料会社に直談判して、OEM会社と二人三脚で原料調達から試行錯誤しました。安全性が高くて、エビデンスがしっかりと取れていて、かつ皮膚刺激が少ない原材料で効果のある商品を作りたいと思ってできたのが、「dr365」です。

WWD:特に毛穴ケアに重きを置いたのは?

三上:どんな肌悩みに対応しようか考えたときに、「あさイチ」の特集で視聴者に聞いたところ10〜50代のいずれの世代でも毛穴の悩みが多かったことを思い出しました。若いときは皮脂による毛穴の開き、年齢を重ねると黒ずみやたるみ、年齢を問わずさまざまな毛穴の悩みがあることに気づきました。そして、これほど毛穴の悩みが顕在化していて世の中には毛穴ケア商品がたくさんあるのに、悩みがなくならないのはなぜかと考えたときに、やはり価格がハードルだと思いました。「あさイチ」のレポーターを通して、みなさんが1カ月に化粧品にかけられる金額は5000〜1万円ほどということも知りました。けれども、美容液を見てみると市場で一番厚い層は1万円以上からで、5000円台で購入できるものはほとんどありません。だから、自分が作るときには高機能でも手が届く価格帯に納めたいという思いがありました。

WWD:ブランドを立ち上げて、一番苦労したことは?

三上:自分で立ち上げた会社で、初めてのモノ作り。最初に用意できる数量はかなり限られていました。発売直後アクセスが集中して、ECサイトがサーバーダウンしてしまったんです。できる限り手を尽くしてサーバーを修復しましたが、2週間連続でサーバーダウン。大炎上でした。ようやく作り上げたのに、反響が多すぎて。出すたびに完売を重ねて、在庫が安定するまで4カ月ほどかかりました。

WWD:購入者は、三上さんのファンがほとんど?

三上:発売時から継続して購入してくれているお客さまが90%を占めています。多くのECサイトでは継続率50%を目指すと言われている中で、この継続率の高さはありがたいですよね。10%の新規購入の中でも、およそ7割がリピーターになってくれています。発売当初は私を知ってくれている人が多かったと思うのですが、現在はアットコスメの口コミや、購入者がSNSで拡散してくれて、意外と私のことを知らないお客さまもいるんです。広告宣伝費をかけずキャンペーンもやっていないので、完全にオーガニックで拡散されています。「dr365」のインスタグラムアカウントも立ち上げて、翌朝には1万5000人になり、今では3万5000人ほどにフォローしてもらっています。

WWD:好調の要因をどのように分析する?

三上:ポジティブな部分だけでなく、ネガティブな部分も包み隠さず全部言っちゃうところかな。化粧水の発売前にインスタグラムのストーリーでQ&Aを募ったときに、「よくない意見も教えてほしい」と言われたので、包み隠さずに話してみたんです。全員が全員好きなはずはないし、悪い意見も尊重すべきだと思ったからこそ伝えました。実はそれを見て購入してくれた人が多かったんです。人それぞれ合う合わないはあるし、肌悩みは毎日増えていくもの。けれども毎日皮膚科には通えません。「dr365」は毎日使ってもらえる処方箋みたいな存在でありたくて、きれいな部分だけでは毎日寄り添えるブランドにはなれないと思ったから、生の部分も出していこうと思っています。

WWD:今後の計画は?

三上:国際情勢で原材料の確保が非常に厳しい状況もありましたが、もっと良い成分にアップグレードした上で安定して調達ができるようになりました。これによって在庫の安定もかなっています。目標を達成できた分、売上金の一部をウクライナに寄付しました。必要としているところに還元するというスタイルをとっています。1カ月のスキンケアが毎月カルテのように「dr365」から届くというようなブランドを目指しています。現在は化粧水“V.C. セラムインローション”と美容液“V.C. プレスエッセンス”の2アイテムなので、洗顔や乳液はそろえていきたいですね。洗顔して、導入して、化粧水をして、ふたをするという基本的な4つのステップが処方箋のように届くようにしていきたいですね。実は洗顔も乳液も1年以上開発を続けているので、2023年中には届けられるかなと思います。

WWD:最後に三上さんご自身の目標を教えて。

三上:10代はとにかくビューティに救われ続けてきました。肌や爪、髪をきれいにすると褒めてもらえて本当に救われたんです。だから20代はビューティを知ろうと思いました。30代になってビューティを広める一翼を担えるようになれたのがとにかくうれしいんです。なので30代後半に向かっては広めていく中心になれたらと思っています。ビューティを自分なりの音符に乗せて届けたいですね。40代は自分の中では考えているのですが、まだ秘密です!!!

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なぜ丸井は「正月三が日休業」を決断したのか 青野社長に聞く

 丸井グループ(東京、青井浩社長)は、商業施設「マルイ」「モディ」で一部を除き2023年1月1〜3日を休館日とし、初売りを4日にすると発表した。百貨店やショッピングセンター(SC)のほとんどは2日が初売り(郊外型SCは元日の初売りが多い)のため、丸井の三が日休業・4日初売りは異例といえる。同社は22年1月も大半の店舗の初売りを3日に後ろ倒しして話題を集めた。その結果を検証した上で、さらに休館日を1日増やす。三が日休業に至った理由を、中核会社である丸井の青野真博社長に聞いた。

WWD:丸井が三が日を休館日にするのは1988年以来35年ぶり。なぜ踏み切ったのか。

青野真博社長(以下、青野):まずお客さんの変化。かつては初売りのセールや福袋を目当てに、徹夜して何千人も並ぶのが当たり前だった。しかし、コロナ前からそこまでお客さんが集中する状況はなくなっていた。

 もう一つは働く側の変化。取引先(テナント)のスタッフは、休日や祝日に働くことに慣れている。小売業にとっては、人様が休んでいるときが稼ぎ時。大晦日や正月の元日・2日に働くことを覚悟していないスタッフはいない。でもコロナを経て家族との時間を大切にしたいと考える人が増えた。販売員は女性が多い。家庭を持っていれば、「お正月なのにママはなんでおうちにいないの?」と子供が疑問に思ったりもする。小売業の従事者は正月を家族と過ごせないのが当たり前なのか。立ち止まって考えるようになった。

WWD:今回(23年)の三が日休業の前に、今年(22年)1月の元日・2日の2日間を休館日にした。2000年の規制緩和後、商業施設は元日または2日から営業することが当たり前になっていたため、これだけでも珍しいケースだった。

青野:不安がなかったわけではないが、実施してみたら取引先とそのスタッフにものすごく感謝された。お父さんやお母さんが元日・2日を子供とゆっくり過ごす幸せ、単身者が実家に帰省して両親や兄弟姉妹と会える大切さを再認識できた。リフレッシュして仕事のモチベーションが高まったという声も寄せられた。一般的な会社員であれば、12月28日くらいから1月3日くらいまで1週間前後の正月休みがある。でも商業施設で働くスタッフは大晦日まで働き、元日だけ休んで、2日から初売りで出勤する。たった1日間の休みでは疲れ切って、遠方に住む両親に会うこともできない。今回のように三が日を休めるのであれば、帰省も可能になる。アパレルも飲食店も深刻な人手不足に頭を痛めている。働く人にとって魅力的な職場にしなければ存続すら厳しくなってしまう。背景にはそんな危機感がある。

売り上げとウェルビーイングはトレードオフではない

WWD:それだけの反響と期待を感じたから、さらに23年は22店舗中17店舗での三が日休業を決めたと?

青野:いけると確信した。実際、今回も約1000社の取引先にアンケートを実施したところ、8割以上は三が日休業に賛成してくれた。スタッフが賛同するのは予想通りだったけど、意外だったのは取引先(の本部)も後押ししてくれたことだ。取引先から届いた声としては「三が日を休めるのであれば、スタッフも年末商戦を全力で頑張れる」「自分たちテナントとしては休館日がないと休めないため、非常にありがたい」「初売りで昔ほど突出した売り上げを稼げないので、影響は少ない」「ゴールデンウイークもお盆もシフト上3連休はほぼ取れないので、せめて正月くらいはスタッフを休ませたい」――。そんな肯定的な意見が多かった。

WWD:そうはいっても他の商業施設が元日や2日から営業する中、4日に遅らせて売り上げに響くことを懸念する声はないのか。

青野:いきなり三が日休業にすれば、反対する取引先も多かったかもしれない。しかし、22年に元日・2日の2日間を休業にするプロセスを一旦挟んだことで、心配するほど売り上げに影響がないことが実績で示された。当社の場合、かつては1月(1カ月間)の売り上げに占める1月2日(初売り)の割合が15%くらいだった。今は7%程度で、月の後半の売り上げ水準が上がる傾向にある。22年1月の基調は、21年12月に比べて1%増だった。

WWD:休館日を増やしても売り上げは維持できると?

青野:売り上げとワークライフバランスをトレードオフでは考えていない。スタッフの働きやすさのために減収に目をつむるなら、結局は長続きしないだろう。スタッフのウェルビーイングが向上しても、取引先や株主の利益を損なうことになる。稼ぐことのできない商業施設に、家賃を払って出店するテナントなんていない。全てのステークホルダーの幸せの総和を追求してくのが丸井グループの考え方だ。丸井グループの「ビジョン2050」では、「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」と宣言した。相反する課題を第三の知恵で乗り越える。私たちは難しいけどワクワクするテーマに挑んでいる。

WWD:売り上げ確保のためにどんな手を打つのか。

青野:例年以上の販促策で店舗とEC(ネット通販)に集客する。目玉は自社EC「マルイウェブチャンネル」への誘導だ。前年の2倍の売り上げを見込んでいる。1月1〜3日までエポスカード会員の優待キャンペーン「お正月 マルコとマルオの3日間」を実施し、会員のお客さんは10%オフで買い物できるよう企画した。ずっと店舗を利用してくださったお客さんにもECを勧める。正月はご自宅でゆっくりECでの買い物を楽しんでください、とアナウンスしている。

 また12月22日からは2000円以上お買い上げのお客さんにスクラッチカードを配っている。エポスカード会員のお客さんは最大2000円、ハズレはないので最低でも200円分のクーポンが付与され、1月の買い物で使うことができる。1月いっぱいの集客と売り上げに効果を発揮してくれるだろう。

他の商業施設だって三が日休業はできるはず

WWD:丸井グループはエポスカードに代表される金融業で稼いでいるから小売業であくせくしなくてよい、という人もいる。

青野:金融事業が好調で丸井グループの利益の大半を稼いでいるのは事実だ。しかし、だからといって小売事業で損をしてもいいとは全く考えていない。先ほども言ったように売り上げとウェルビーイングは、トレードオフの関係ではない。働き手の満足を高めるだけでなく、お客さんがもっと快適に買い物や食事を楽しみ、取引先にはしっかり稼いでもらい、そして株主に利益を還元する。長い目で見て、持続可能なビジネスにするために知恵を絞る。

 今回、三が日休業を実施するにあたり、取引先に対して1月の1日分の家賃を減免することした。三が日休業のサポートであり、12月と1月の商戦を一緒に頑張りましょうという丸井の不退転のメッセージでもある。丸井グループには「信用の共創」という言葉がある。家具の月賦販売会社として創業した当社は、先に商品をお渡してから12回払い、24回払いなど信用を前提にお客さまと長い関係を築いてきた。支払いが遅れなければ利用可能金額が増え、利用期間が長くなるほどお客さんの信用はだんだんと上がる。長い時間をかけて、お客さんと双方向で信用を共に作る。パートナーである取引先との関係も同じように考えている。

 お客さんからも三が日休業に対して好意的な声が届いた。小売業やサービス業の長時間労働については、一般の方々も疑問を感じるようだ。消費市場は成熟し、お客さんは品ぞろえや価格だけでなく、企業姿勢も見ている。そして評価できる企業には、消費を通じて応援する。営業時間で他を出し抜き稼ぐ時代ではない。

WWD:他社の商業施設も丸井のような三が日休業は可能なのか。

青野:やれるはずだ。ただ、当社は取引先とのコミュニケーションを長年にわたって綿密に築いてきた。大家と店子という関係以上に、互いに知恵を出し合うパートナーとして関係を作ってきた自負がある。全国のマルイとモディでは、月に一度、当社の店長とテナントの店長が集まって議論を交わしている。さらにテナントだけが集まって施設への改善要望などを出し合う場も設けている。17年からはテナントが施設に対し、パートごとに細かく点数をつけて評価する制度を作った。テナントの声を聞くことを単なるお題目にしないため、施設の運営者の人事評価にも反映させている。だから取引先のスタッフの満足のために本気で取り組む文化が根付いている。

WWD:正月以外の営業時間も変化しているのか。

青野:コロナ前には半数以上の店舗が20時半閉店と21時閉店だった。これを段階的に前倒して現在はほとんどの店舗が20時閉店になった。開店時間は変わらず10時半か11時。これもお客さんの行動変化を受けての実施だった。コロナ以降、帰宅時間が早まっているからだ。1時間短縮することで、スタッフのシフトもだいぶ回しやすくなる。これも取引先と話し合いを重ねる中で合意形成していった。

 営業時間を減らせば、売り上げが減ると捉えられるかもしれない。私は丸井の11店舗の現場で働いてきたが、小売業は“際の商売”が大切。つまり開店直後、閉店間際に訪れるお客さんは、明確な理由があって商品を探しにくる。ここでの接客の積み重ねが売り上げに効いてくる。しかし長時間労働が毎日重なると疲れ切ってしまい、販売員は本来の力を発揮できない。ホスピタリティが低下してしまう。お客さんに密度の濃いサービスを提供できれば、1時間の短縮くらいは取り戻せる。従業員満足を高めることは、顧客満足につながる。

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経済予測名人のニトリ会長が語った「2023年の経済」「日経平均予想」「ニトリの逆張り戦略」

 今年も残すところあとわずか。そんな中、ニトリホールディングスの2023年3月期第3四半期の決算説明会が開催された。世界経済や為替、株価など、“経済予測の達人”と呼ばれる似鳥昭雄・代表取締役会長兼最高経営責任者はそこで何を語ったのか。海外での出店要請の増加要因について、白井俊之・同社長兼最高執行責任者と、グローバルを担当する武田政則・取締役兼ニトリ社長の説明も交えて、レポートする。

為替147円で予約は失敗。為替は得意だったが見誤った

――為替予約については今期分まで予約だと思うが、予約方針等で、長期の予約を検討する等の方針変更はあるのか、検討されているのか。海外事業の状況についてもより詳しく伺いたい。というのも、中長期で考えていくと、海外での小売り事業が広がっていけば為替がオフセットできる分があると思うので、そういった視点を踏まえて考えると、今後、海外事業の展開加速は可能なのか?今、中国、東南アジアの積極展開の話があったが、もう少し詳細に、直近の状況等アップデートいただければ。

似鳥昭雄ニトリ会長兼CEO(以下、似鳥):では、為替のことは私の方から。今期の決算末(2023年3月)まで147円で予約したが、結果的にちょっと失敗したなと。まあ、みなさんご存知のように134円と。一時151円までいったものだから。再度下がってきたときに買わないと、今度は150円から155円とか、もしくわ160円に行くのではという話もあったので。また、一度(政府が)為替介入して効果がなかった。日本政府は為替介入しても効果は少ないんだなと。もしあったとしても、あんまり影響ないかもしれないということがあって、みなさんと協議して147円で決算まで買おうかと。我慢して我慢し続けたんですけどね。

 私の予想では、アメリカの景気が悪くなって、年末近くになって、為替よりも景気が悪い方が強くなって円高になるということをずっと言ってきたが、それがなかなかならなかった。かなり時期がずれていたというか、住宅も夏以降、10%ずつ注文住宅が前年比で減ってきて、そういう状況もあるから、間違いなくアメリカから不景気になっていくと。そちらのほうが強くなると思っていたが、なんといっても0.75%ずつ毎月毎月金利を上げるということで、その時点では0.7%上げるということがはっきり決まったので、まあ、まずいなと思って、かなり迷ったが予約してしまった。あの時にあそこまで我慢したのでもう少し我慢したら、132円か130円切るぐらいのところでできたかなと。失敗したなと。大変みなさんに対しては申し訳ない。為替は得意な方だったが、ちょっと見誤ってしまったなと。みなさんにお詫び申し上げます。

来年は円高に、110~120円予想

似鳥:(為替は)来年で言うと、僕は110円ぐらいまで、110円から悪くても120円ぐらい、もしかしたら118円ぐらいでいくのかなと。理由は後から申し上げるが、アメリカが予想以上に景気が悪くなる。衣料も含めて世界的に景気が悪くなって、インフレも関税も下がると。ひょっとしたら日本型のデフレ経済になるきっかけになるかも。その前のインフレというのは、あだ花になるかもしれない。パッと咲いてですね。これは勘ですけどね。これだけ戦後に類例がなかったので。日本の失われた30年という、長期的なデフレで。これがこのインフレというものを機会にひょっとしたら、という気がするが、これは何の科学的根拠も何もないが。まあ、来年からは間違いなく世界的に不況で。その中でもアジア圏はいいんじゃないかと。

 今年は(ニトリの為替平均レートが)トータル132円で、去年が111円だから、21円の差。21円で20億円だから、21円×20億円で420億円前年より損をした。210円(おそらく、110円の言い間違い)に来たら、400億円がポンと為替(差益)に乗っかると。今の状況は間違いなく円高になるから、基本的には下がるまで待ち続けると。私の考えは、為替はドル高がドル安、円安が円高、下がるまで待つ。その後、次の段階でまた上がっていく。今度は今度は長期的に3年ぐらい、2~3年長期的に予約したいなと考えている。今度は失敗しないように。みなさんに大変ご迷惑をおかけしました。だけど、まあ、これから何十年も続いていきますからね。こういう10年か20年に1回、リーマンショックとかオイルショックがある。逆境を今まで乗り切ってきた。まあ戦後、僕は創業して55年だが、初めてのコロナ、それから円安、原材料高、輸送費が倍以上という。こういうのは創業して初めてだ。これもいい経験。失敗を経験として、今後の10年の糧にしていきたい。

海外中心に出店加速、10年間でグループ3000店舗へ

似鳥:出店はとくにシンガポールやマレーシアが軌道に乗ったので、タイやフィリピン、インドネシア、韓国、できたらインドといったところに、なるべく早く、来年調査して、少なくとも再来年、1店でもまずは(店を)出してみたい。海外は早く(年間)100店舗出店できる(ようになりたい)。来年に100店はどうかと思うが、再来年は間違いなく100店舗以上出して、日本より海外の方が多くなると思う。(グループの店舗純増数は)今年が約110店舗だが、来年は184店舗、再来年からは最低200店舗、それが3年ぐらい続いて、次は250店の時代と。(来年には総店舗数が)海外を含めて1000店舗(を超える)。異業種も含めて10年間で3000店舗という計画を立てている。だいたい全部(計画は)できたが、細かくは再度検証した結果、みなさんにお知らせすることができると思う。

――(衣料品の)「N+(エヌプラス)」と「デコホーム」について、通期の出店の見通しを変えている背景と、今、海外の出店については力強い言葉をいただいたが、今後の国内の出店戦略について考え方を教えてほしい。

似鳥:「Nプラス」は今年(期末店舗数が)30店舗、来年20店舗(を出店計画しており)、合わせて50店舗になる。3年目以降も最低20店舗ずつ、できたら毎年30店舗(出店)して、どんどん増やしていきたい。「デコホーム」は今160店舗。来年50店舗をオープンする。だいたい24年度が50店舗、25年度からは60~70店舗と増えていく。「ニトリ」は23年度が29店舗。(その後は)15~20店舗ぐらいがずっと続くと思う。

武田政則・ニトリHD取締役兼ニトリ社長(以下、武田):海外は今目標で来年77店舗オープンしようとしている。1店舗ずつ、地域、ショッピングセンター(SC)にメドをつけながら進めている。その中で、実はマレーシアはおかげさまで9店舗まで決まった。タイがバンコクで2店舗決定している。シンガポールも1店舗決まりそう。最終合意まで至っていないが、大変多くのお店がベトナム依頼がきていて、今、10店舗来ていて条件を調整している。インドネシアが今8店舗お声がけいただいていて、この中から条件がいいものを選んでいこうと考えている。フィリピンは大手の方たちと商談がスタートしていて、具体的に面積のすり合わせなどを行っている。あとは韓国が8物件提示をいただいていて、そのうち数店舗決められるのではないか。香港は9物件いただいていて、条件のすり合わせをしている。あまりよくない場所には出したくないので、しっかりと詳細を確認しながら進めたい。

 (出店した)シンガポールとマレーシアのお店を見ていただいて、具体的な物件など本当に多くのお声がけをいただいている。それに向けて新しい海外の法人の立ち上げを急ピッチで社内で動いている。あとはサプライチェーンだ。週かの方法や、どこに大型物流センターを作ってどういう風に運ぶかということも、かなり急激にお店が増えてくるので、今しっかりとそのサプライチェーンマネジメント・チームをつくって対策を打っているところだ。

 中国は(ゼロコロナ政策からの方針転換という)こういう状況で、街にはほとんど人がいない中で営業している。私たちの従業員も大勢(コロナに)かかっているが、そんな中で、実はテナントが空きつつある。多く空いてきているので、逆にチャンスだと思っていて、私たちの理想の面積がしっかりと提案いただけるようになってきている。みなが(お店を)やめていくところに、しっかりとニトリの店にしていきたい。スピードを上げていくうえで、店舗開発担当の人数まで増やして対応している。

世界展開する大型家具・インテリア業態は「IKEA」と「ニトリ」だけ
SC内に競合がなく、客層拡大・集客に期待かかる

――これだけアジア各国で強いラブコールが来ているのは、どういうところが各国で評価されていると考えているか?

武田:家具からホームファッションまで(の商品群や)、コーディネートで色がつながっているという商品構成を、ずっと何十年もかけて作り上げてきたが、実はそういう店舗・商品がインターナショナルで展開できているのが、今までIKEAさんだけだ。IKEAはものすごい大きな店を100万~150万人に1店舗ということで出店されているが、私たちはもっと商圏に入り込んで、10万~15万人の中に店舗をつくっていける。もっともっと近所になっていけるということと、SCにはIKEAは(店舗が大きすぎて)入れられないので、そういう意味では、今ニトリは日本では平均1100~1200坪が平均だが、今中国・ASEANは500坪型、700坪型で標準化を進めている。同じ売り場を複数増やしていけるということで、ローコストオペレーションも進めさせていただいている。

白井俊之・社長兼COO(以下、白井):先週、東南アジアを回ってマレーシア、シンガポールの店に行ってきた。マレーシアのジョホールバルというところに先週木曜日(12月15日)に新店がオープンして非常に好調だ。同じジョホールバルの2店舗目が来年1月にオープンするが、実はIKEAさんと同じSCに入る。まったく同じSCで、ニトリとIKEAのカンバンが一つの写真に納まるようなめずらしいSCになる。

 それで現地でいろいろ話を聞いてきて、ニトリがSCからお声がかかる理由として、大きく2つある。一つはSCの中で住まいでうちのようなフォーマットの店がほとんどない状態だ。SC側から見ると、今までそのSCに来ていなかったお客さまをうちが呼び込むということを相当期待されている。SCからすると、客層が拡大できると。また、大きなスペースを取る割には、他のテナントへの影響も少ない。アパレル同士だったらどうしてもカニバリ(食い合い)になるが、(しないので)ウェルカムのようで、比較的、おそらく他社よりもいい条件で入らせていただけるんじゃないかなという手応えを感じている。今、武田からも話が合ったように、我々が出店の用意があるということを十分理解したうえで、各国・地域で国を超えてデベロッパーさんが東南アジアのお店などにもどんどん視察に来られていて、いろいろな話をいただいている。

50年に1回の大災害を1年で乗り切る。筋肉質に体質改善

――似鳥会長はこれまでずっと、ピンチはチャンスだと言い続け、不透明な時、厳しい時こそニトリは伸びる、厳しい環境が社員を伸ばす、とずっと言われ続けてきた。先ほどの為替の話のように、 半世紀以上経営されてきて、予測が外れるといったような状況が起きてきている。そういった中で、今は何を社員に呼びかけているのか?

似鳥:今こういう状況で、社員もモチベーションが非常に上がりにくい。もうマイナス、マイナス、未達成の状況が続いてるので、なんぼ努力しても進んでいかなくて、士気が上がらないという状況なのは間違いない。私からのメッセージとしては社内報などを毎月出しているが、最近は私とか幹部とか、現在こういう状況だけど、来年以降はこうなりますよ、とか、何十年の中のたった今年1年だから、まあどんな会社だってそんなことはあり得るし、いちいち深刻がって「もううちの会社、このままマイナスになっていくのかな」とか、全然そういう心配はいらないというね。理由もちゃんと説明して、やはり円安っていう状況が1番ですけど。これはもう来年は間違いなく円高になるんですね。たった1年だから我慢してくださいと。それによって今年、筋肉質に(改善した)。今まではもう進め、進めで、商品とか出店とかに力を入れていたが、見直しして、社内の業務改革で、100億円、200億円という数字はコストダウンした。だから、「ピンチはチャンス」というのは、ピンチでどうしても数字が(目標に)行かない場合には、社内のコストダウンに力を入れて、しかるべき、ピンチから1、2年後(チャンスに変わるタイミングで)攻めて行ける。

 逆に、そうは言っても国内ではわりかし長く景気がよく続いている。まだ土地も下がらない。建物(費)も下がらない状態も続いているが、来年から潮目が変わると思う。もう、アメリカも戦後1番長い景気だから、この景気が落ちるのはっきりしている。下だれば坂も長いし、谷も深いと。世界的に、アメリカがくしゃみすれば、世界中が風邪をひいてしまう。日本も同じような状態だと思う。日本は金利が、黒田総裁が変わっていく頃にはプラスなってくるだろうから、余計、円高になってくる。それを社内に発信して、だから今、体を鍛える、筋肉質に鍛える時なんだと。

 私も筋トレを月曜から木曜までやっていて、ボクササイズも週1回やっている。土日はゴルフという。本当に体を鍛えるのをやっている。つい最近、階段から転げ落ちて、一本背負いみたいになっちゃって全員打撲のむち打ちになり、寝たきりになってしまったが、1日1日回復して、皆さんに顔を見せるのに間に合ってよかった。このようにピンピンしている。やっぱり筋トレをしていてよかった。今年は我が社で言うと、筋トレをやって鍛えて、しかるべき来年からどんどん攻める。今年はそういう時期じゃないかなと思っている。株価も大変みなさんに迷惑をかけているが、間違いなく元に戻るし、利益もどれだけ行くとはまだ言えないが、順調に来年から回復すると思う。まあ、10年、20年に1回ぐらいはね……。うちの30何年か増収増益というのは出来すぎだ。運が良すぎた。50年に1回の大災害と思えば、それもたった1年で乗り切るんだから、うちの社員にはみんなに我慢してと。早く辞めたりしないでと。若手の人は目先で動くから、入社して2年3年はね。もう30歳過ぎると辞め過ぎないが。やっぱり動揺するんですよね。入社員3年、4年は。そういう風なメッセージを毎月社内には送っている。早まらないでちょうだいね、と。会社を信頼してと。そういう話をしているところだ。

ユニクロのファストリは株式分割。ニトリの投資単位の引き下げは?

――似鳥会長に質問。「ユニクロ」のファーストリテイリングが株式分割を久しぶりにされた。ニトリは現状、株価が1万6400円前後で、投資には164万円ぐらい必要だ。東証はできれば投資単位を50万円以内が望ましいと明言している。投資単位の引き下げの考えは?

似鳥:私の一存でそうしますとは言えないが、事実、証券協会から強制ではないけれどできるだけ買いやすくしてほしいという要望はある。今回のユニクロさんは3分の1にした。3分の1にしたって、まだ2万円台で、300万円ぐらい必要。まだまだ高い。うちなんかまだ100万円台。ユニクロがまた下げたら、うちも下げます(笑)。10分の1ぐらいにするのかなと思ったけど、3分の1。ちょっと様子見ということかなと。今すぐ下げることはないけど、投資家のためには買いやすい価格にするべきだと思う。

――そもそも、10分の1ぐらいにするのかなと思ったということだが、ファストリが今下げたことに対しては驚いたか?

似鳥:ああ、やっぱりなという。高すぎるので、よく買う人いるなと(笑)。今、800万円とかね。大企業・機関や、個人投資家でもお金持ち中心でやっているんだなと。それであそこまで上がっていくなら大したものだと思っているが。私もああいう企業になりたいなと思っているんですけどね。今年も柳井(正ファーストリテイリング会長兼社長)さんとゴルフを今年もしたけれど、僕が尊敬する一人です、柳井さんは。お互いに会話しながら、株のことは話ししないけれども、ゴルフしながら歩きながら、私が教えてもらっているところがある。

――御社は様子見ということか?

似鳥:もう少し様子を見てだと思う。あと、株価が今、1万6000円ぐらいでしょ?それが何千円ぐらいに下がると目立たないというか、親戚とか周りから見て、評判がね……。たとえば3000円とか4000円になると、もうまったく(評価が)なくなってしまうと。そういう面で、社員からはそのまま維持してほしいという要望が多い。本当にどうしたらいいかと、今のところ思考中だ。

来春ベースアップ4%を予定。転勤制度改正、希望者への土日休み拡充も

――家計が苦しくなる中で、従業員の暮らしにも影響が出る。来春闘に向けて賃上げは?

白井:ベースアップに関しては、ニトリは19年連続でベースアップを続けていて、来年度の見込みとして最低でも4%は確保したい。ただ、今一番従業員から要望が多いのは、転勤についての制度について。会長の似鳥からも、20代でいろいろな仕事をというところで、転勤が非常に多いが、来年度から思い切って、だいたい入社4年目以降から、関東圏、関西圏を選択して、転勤のない制度を導入することを決定して、これから社内に発表するところだ。むしろそちらの方が、働き方というところで言うと、非常に社内においてインパクトがあるんじゃないかなと。それと、賃上げについては、最低でも定期昇給ベア4%を予定している。

似鳥:流通業は全国に店がある。どうしても転勤の問題や、土日休みじゃないということもあり、優秀な人材が退職するということもある。今、白井社長が言ったように、転勤は希望があれば親元からも通えるようにしようと。それから、今年6月から月3回、パートさんも含めて希望者が土日に休みを取得できるようにしている。来年から月4回、毎週1回、土日希望があればと。アンケートをとって実行しているが、若い人が土日、恋人がとか、お付き合いが、と(いうことで取得希望者が多いかと)思ったら、そういう人たちは平日の休みのほうが自由で人が少なくていいという。意外と、子どもさんを持っている30代の方などが、土日の運動会や参観日などで、30%、1/3ぐらい(希望している)。意外と土日(休み希望は)少なかった。そういうこともアンケートをとってわかった。ありとあらゆることで働き方を改革していこうとずっとやっている。まだまだいろいろあるが、きょうはこのくらいで。

逆境のピンチ後に成長。デフレ時に土地・建物を取得
「無借金なのでいつでも十分に投資可能」

――似鳥会長は「ピンチはチャンス」、収益が厳しいときにこそ一気に他社を差をつけるとおっしゃっているが、他社を引き離すために、どんなストーリーを考えているのか?また、値下げは「季節のお買い得商品」という値下げキャンペーンはわかるが、「生活応援キャンペーン」をやって、「冬の期間限定価格」をやって、「ぽかぽかNウォームお試しキャンペーン」などをやって、など、少なくても昨年に比べて値下げというか、価格戦略のキャンペーンを打っているのは、これも今のうちに他社が値上げしなければならない前に一気に差をつける戦略の一つと見てよいのか?

似鳥:創業してから過去55年、結論から言うと、伸びてきたなと思うのは、逆境のピンチがあって、その後、伸びてきた。景気がいいときは他の企業も伸ばしてくる。出店もするし。だけど、不況のときとか、逆境のときは、みんな控えめに抑える。今まで日本もまだずっとよかったが、来年から金利も多少上がるだろうし、土地は下がってくるとは思う。東京の土地で入札して負けたことなかったが、今年とか去年は買えない。土地(の価格)が倍になって。マンションメーカーだ。マンションが非常に高くなっている。マンションメーカーが3年ぐらいたった時には暴落しているでしょうから、そのマンションメーカーは危ない。馬鹿だなと思う。そういうことやっちゃダメだと思う。今年は池袋の土地と建物は買った(筆者注:東急ハンズ池袋店跡地をヒューリックから土地・建物を取得。11月18日に「ニトリ 池袋サンシャイン60通り店」をオープン。売り場面積約1810坪)が、ああいう物件はめったに出ない。多少高めでも、それでも十分売れているので、買ってよかったなと思う。基本的には高値の時には投資はしないと。建物も坪当たり建築費が50万円(と高騰している)。うちで40万円ちょっと。エスカレーター、エレベーターなどすべてを完備して。でも、一番安い時には20万円ちょっと。半分だった。そういう時代が何十年も続いて、高くなったのはつい6~7年前から。それは僕はまた元に戻ると思う。土地も建物も。そういう意味では来年から徐々にありとあらゆるものがデフレに戻る。土地も建物も。だからチャンスだ。10年か15年に1回そういうときがあって、そのときに土地と建物をどんどん買う。仕込む時期だ。そして、景気がよくなってきたなというときには、うちがばーっと、出店も増やしているし、今、テナントで借りているのが90%ぐらいになっているが、土地と建物が下がったときに買って自前で建てていく。その繰り返しをこの10年~15年ごとにやってきたのが今現在あるのではないかと。投資の仕方だが。今は最悪のとき。ここ2~3年は。来年から下がってくると思う。

 それから、政府も5年間、賃金(向け)を金利ナシで貸し付けてきたが、期限切れで来年から返していかなければならない。僕は中小企業は何万社、何十万社も厳しい時期になっていくと思う。そのときのためにみんな準備はしていると思うが。来年以降、大企業にとっても中小企業にとっても厳しい時代入ると思う。相対的に景気はあまり変わらないかもしれないと思うが、土地建物、金利が上がって、潮目が変わってくる。値上げどころが逆にありとあらゆるところが下がってくる。そういう時代に入ってくるんじゃないかなあと私はそう思っている。その繰り返しで、10年か15年に1回は繰り返して、ずっとうまくいって、ニトリが大きくなってきた原因の一つだと思う。

 お金は今年も1000億円投資したので、来年も純利益と、減価償却がプラス150億円ぐらいあるので、無借金だし、十分投資はしていける準備はいつでもしている。

武田:価格政策、値下げ政策は、他社うんぬんもそうだが、お客さまに使っていただけるチャンスなので、そこで私たちがお安くできるものは頑張ってお安くするということを一番考えている。あとは、工場を回すということも非常に重要な要素で、それぞれの時期にそれぞれの工場の商品をしっかりと生産する人を雇用し続けられるようにすることが大切だ。私たち、直接工場とやっている。そこに対しては意識をもってやっていく。そういうところで商品の売価を検討している。

ベトナム、タイで糸から製品まで一貫工場も稼働
製造、商社、物流まですべて自社で賄ってコストダウン、競争力向上へ

似鳥:最後に私のほうから、一言。海外は私、ベトナムもアメリカも行ってきた。アメリカは今年5月、11月にベトナムの(自社)工場。2万5000坪の世界最大規模のカーテン工場。コロナの間、素人で機械を組み立てて1年(操業開始が)遅れたが、ようやく軌道に乗ってきた。大量生産が始まってきている。今は無地だけ。普通の会社は糸を作ったり、染めたり、専門の会社があり、うちの会社が普通に発注する場合には、縫製会社に頼み、縫製会社が生地屋さんに頼んで、紡績工場に頼んで、そこから、染め、糸の会社に頼んでと。そういう会社が6つ7つ(中間取引先が)あるのを、うち1社でやっている。糸から完成品まで(一気通貫で)。これは世界で初めてで、しかも、坪数の大きさや量産も世界最大規模。壮観です。アナリストの方もベトナム工場を視察していただいた。自分の会社のことだけど、すごいなと思う。やっぱり、こういうものがあれば、いくら海外に毎年何百店出しても供給し続けられるなと。

 タイ工場も、40年ぐらい取引をしてきたところが、赤字で困っているから工場を引き受けてくれないかと。カーペット工場で、(以前は)日本のペットボトルを集めて、今は(ペットボトルなど廃材の輸出入が)禁止されているので、日本で精製してビーズ状にしたものを、タイで溶かして綿(ワタ)にして糸に紡績して、染めて、裁断して、カーペットにして日本全国に持ってきている。これも進化していて、安いカーペットから厚みのあるカーペットに、柄が入ったもの(もできるようになっていて)、ラグがすごく売れる。1畳、2畳サイズの。今度はタイルカーペットを作る。別にバンコクに1万坪ぐらいの新工場を建設する。来年建築が始まり、再来年稼働する。ぜひアナリストの方もご希望があれば案内させていただく。ベトナムも行ける。来年夏か秋に募集させていただく。わが社が出すのではなく、みなさんの経費で参加していただければ。そういう工場も着々と(整備している)。ベトナムのハノイも12月に買って、新しく製造をやる。

 モノを作ってから完成品まで、そして、商社からなにから、物流の仕組みも進めている。カーゴ会社も去年作った(筆者注:物流機能子会社ホームロジスティクスを通じて、一般貨物自動車運送事業の新会社ホームカーゴを設立。コンテナ陸上輸送=ドレージ輸送を開始)。コンテナを引っ張るドレー車の会社で、(国内ディストリビューションセンターが)10カ所ぐらいあるが、今は3カ所か4カ所(で輸送を開始した)。1台3000万円ぐらいするものを導入した。それを全国でできるように。海外でもできるように。すべてのことを自社で賄うと、だいたい3割、4割下がるので、コストダウンを図っていくことをやっていきたい。

2023年の年末株価予想は3万1000円
世界経済失速でも、日本の株価は「割安」

――最後に株価予想をお願いします。

似鳥:株価予想ね。正月番組を見てください(笑)。私が当たりました。2万9000円予想だったので、2万8500円ということで、ダントツの第1位だった。「来年は?」と言うので、3万1000円にした。え、言っちゃだめ?ま、いいんじゃないですか。なぜならば、世界的に不況になると思う。(実質GDP予想が)アメリカも1%。もっと下がるかもしれない。EUは0.5%とか。日本だけは1.何%とか。おそらくいかないんじゃないかと思う。世界的にも成長がアメリカはじめ中国も(失速する)。じゃあ、なんで日本の株価が上がるんだ?と。今まで、アメリカはじめ、金利が高い、景気がいいときにお金が流れているが、今度は逆にそこからお金が逃げていく。日本はもともと株が安く、かなり外国企業が売って違うところに投資したので。また、日本の株価は安いと、みなさん世界の投資家が思っている。来年は底堅いというか、日本の方にお金が戻ってくるんじゃないかなと私は思う。で、3万1000~3万2000円ぐらいと思ったが、3万1000円に。今よりも高くなると。今が2万7000円前後。今年の予測としては、2万4000円までいって、夏前後までいって、秋ぐらいから上がって2万9000円になると予想した。来年もそのような状態で上がっていくんじゃないかなと考えている。どうなりますでしょうか。当たるも八卦、当たらぬも八卦。もうこれは勘ですから、ハズレた場合にはすいません、ごめんなさいと謝ります。あくまでも私の意見で、うちの社員の話は聞いてませんので(笑)。

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経済予測名人のニトリ会長が語った「2023年の経済」「日経平均予想」「ニトリの逆張り戦略」

 今年も残すところあとわずか。そんな中、ニトリホールディングスの2023年3月期第3四半期の決算説明会が開催された。世界経済や為替、株価など、“経済予測の達人”と呼ばれる似鳥昭雄・代表取締役会長兼最高経営責任者はそこで何を語ったのか。海外での出店要請の増加要因について、白井俊之・同社長兼最高執行責任者と、グローバルを担当する武田政則・取締役兼ニトリ社長の説明も交えて、レポートする。

為替147円で予約は失敗。為替は得意だったが見誤った

――為替予約については今期分まで予約だと思うが、予約方針等で、長期の予約を検討する等の方針変更はあるのか、検討されているのか。海外事業の状況についてもより詳しく伺いたい。というのも、中長期で考えていくと、海外での小売り事業が広がっていけば為替がオフセットできる分があると思うので、そういった視点を踏まえて考えると、今後、海外事業の展開加速は可能なのか?今、中国、東南アジアの積極展開の話があったが、もう少し詳細に、直近の状況等アップデートいただければ。

似鳥昭雄ニトリ会長兼CEO(以下、似鳥):では、為替のことは私の方から。今期の決算末(2023年3月)まで147円で予約したが、結果的にちょっと失敗したなと。まあ、みなさんご存知のように134円と。一時151円までいったものだから。再度下がってきたときに買わないと、今度は150円から155円とか、もしくわ160円に行くのではという話もあったので。また、一度(政府が)為替介入して効果がなかった。日本政府は為替介入しても効果は少ないんだなと。もしあったとしても、あんまり影響ないかもしれないということがあって、みなさんと協議して147円で決算まで買おうかと。我慢して我慢し続けたんですけどね。

 私の予想では、アメリカの景気が悪くなって、年末近くになって、為替よりも景気が悪い方が強くなって円高になるということをずっと言ってきたが、それがなかなかならなかった。かなり時期がずれていたというか、住宅も夏以降、10%ずつ注文住宅が前年比で減ってきて、そういう状況もあるから、間違いなくアメリカから不景気になっていくと。そちらのほうが強くなると思っていたが、なんといっても0.75%ずつ毎月毎月金利を上げるということで、その時点では0.7%上げるということがはっきり決まったので、まあ、まずいなと思って、かなり迷ったが予約してしまった。あの時にあそこまで我慢したのでもう少し我慢したら、132円か130円切るぐらいのところでできたかなと。失敗したなと。大変みなさんに対しては申し訳ない。為替は得意な方だったが、ちょっと見誤ってしまったなと。みなさんにお詫び申し上げます。

来年は円高に、110~120円予想

似鳥:(為替は)来年で言うと、僕は110円ぐらいまで、110円から悪くても120円ぐらい、もしかしたら118円ぐらいでいくのかなと。理由は後から申し上げるが、アメリカが予想以上に景気が悪くなる。衣料も含めて世界的に景気が悪くなって、インフレも関税も下がると。ひょっとしたら日本型のデフレ経済になるきっかけになるかも。その前のインフレというのは、あだ花になるかもしれない。パッと咲いてですね。これは勘ですけどね。これだけ戦後に類例がなかったので。日本の失われた30年という、長期的なデフレで。これがこのインフレというものを機会にひょっとしたら、という気がするが、これは何の科学的根拠も何もないが。まあ、来年からは間違いなく世界的に不況で。その中でもアジア圏はいいんじゃないかと。

 今年は(ニトリの為替平均レートが)トータル132円で、去年が111円だから、21円の差。21円で20億円だから、21円×20億円で420億円前年より損をした。210円(おそらく、110円の言い間違い)に来たら、400億円がポンと為替(差益)に乗っかると。今の状況は間違いなく円高になるから、基本的には下がるまで待ち続けると。私の考えは、為替はドル高がドル安、円安が円高、下がるまで待つ。その後、次の段階でまた上がっていく。今度は今度は長期的に3年ぐらい、2~3年長期的に予約したいなと考えている。今度は失敗しないように。みなさんに大変ご迷惑をおかけしました。だけど、まあ、これから何十年も続いていきますからね。こういう10年か20年に1回、リーマンショックとかオイルショックがある。逆境を今まで乗り切ってきた。まあ戦後、僕は創業して55年だが、初めてのコロナ、それから円安、原材料高、輸送費が倍以上という。こういうのは創業して初めてだ。これもいい経験。失敗を経験として、今後の10年の糧にしていきたい。

海外中心に出店加速、10年間でグループ3000店舗へ

似鳥:出店はとくにシンガポールやマレーシアが軌道に乗ったので、タイやフィリピン、インドネシア、韓国、できたらインドといったところに、なるべく早く、来年調査して、少なくとも再来年、1店でもまずは(店を)出してみたい。海外は早く(年間)100店舗出店できる(ようになりたい)。来年に100店はどうかと思うが、再来年は間違いなく100店舗以上出して、日本より海外の方が多くなると思う。(グループの店舗純増数は)今年が約110店舗だが、来年は184店舗、再来年からは最低200店舗、それが3年ぐらい続いて、次は250店の時代と。(来年には総店舗数が)海外を含めて1000店舗(を超える)。異業種も含めて10年間で3000店舗という計画を立てている。だいたい全部(計画は)できたが、細かくは再度検証した結果、みなさんにお知らせすることができると思う。

――(衣料品の)「N+(エヌプラス)」と「デコホーム」について、通期の出店の見通しを変えている背景と、今、海外の出店については力強い言葉をいただいたが、今後の国内の出店戦略について考え方を教えてほしい。

似鳥:「Nプラス」は今年(期末店舗数が)30店舗、来年20店舗(を出店計画しており)、合わせて50店舗になる。3年目以降も最低20店舗ずつ、できたら毎年30店舗(出店)して、どんどん増やしていきたい。「デコホーム」は今160店舗。来年50店舗をオープンする。だいたい24年度が50店舗、25年度からは60~70店舗と増えていく。「ニトリ」は23年度が29店舗。(その後は)15~20店舗ぐらいがずっと続くと思う。

武田政則・ニトリHD取締役兼ニトリ社長(以下、武田):海外は今目標で来年77店舗オープンしようとしている。1店舗ずつ、地域、ショッピングセンター(SC)にメドをつけながら進めている。その中で、実はマレーシアはおかげさまで9店舗まで決まった。タイがバンコクで2店舗決定している。シンガポールも1店舗決まりそう。最終合意まで至っていないが、大変多くのお店がベトナム依頼がきていて、今、10店舗来ていて条件を調整している。インドネシアが今8店舗お声がけいただいていて、この中から条件がいいものを選んでいこうと考えている。フィリピンは大手の方たちと商談がスタートしていて、具体的に面積のすり合わせなどを行っている。あとは韓国が8物件提示をいただいていて、そのうち数店舗決められるのではないか。香港は9物件いただいていて、条件のすり合わせをしている。あまりよくない場所には出したくないので、しっかりと詳細を確認しながら進めたい。

 (出店した)シンガポールとマレーシアのお店を見ていただいて、具体的な物件など本当に多くのお声がけをいただいている。それに向けて新しい海外の法人の立ち上げを急ピッチで社内で動いている。あとはサプライチェーンだ。週かの方法や、どこに大型物流センターを作ってどういう風に運ぶかということも、かなり急激にお店が増えてくるので、今しっかりとそのサプライチェーンマネジメント・チームをつくって対策を打っているところだ。

 中国は(ゼロコロナ政策からの方針転換という)こういう状況で、街にはほとんど人がいない中で営業している。私たちの従業員も大勢(コロナに)かかっているが、そんな中で、実はテナントが空きつつある。多く空いてきているので、逆にチャンスだと思っていて、私たちの理想の面積がしっかりと提案いただけるようになってきている。みなが(お店を)やめていくところに、しっかりとニトリの店にしていきたい。スピードを上げていくうえで、店舗開発担当の人数まで増やして対応している。

世界展開する大型家具・インテリア業態は「IKEA」と「ニトリ」だけ
SC内に競合がなく、客層拡大・集客に期待かかる

――これだけアジア各国で強いラブコールが来ているのは、どういうところが各国で評価されていると考えているか?

武田:家具からホームファッションまで(の商品群や)、コーディネートで色がつながっているという商品構成を、ずっと何十年もかけて作り上げてきたが、実はそういう店舗・商品がインターナショナルで展開できているのが、今までIKEAさんだけだ。IKEAはものすごい大きな店を100万~150万人に1店舗ということで出店されているが、私たちはもっと商圏に入り込んで、10万~15万人の中に店舗をつくっていける。もっともっと近所になっていけるということと、SCにはIKEAは(店舗が大きすぎて)入れられないので、そういう意味では、今ニトリは日本では平均1100~1200坪が平均だが、今中国・ASEANは500坪型、700坪型で標準化を進めている。同じ売り場を複数増やしていけるということで、ローコストオペレーションも進めさせていただいている。

白井俊之・社長兼COO(以下、白井):先週、東南アジアを回ってマレーシア、シンガポールの店に行ってきた。マレーシアのジョホールバルというところに先週木曜日(12月15日)に新店がオープンして非常に好調だ。同じジョホールバルの2店舗目が来年1月にオープンするが、実はIKEAさんと同じSCに入る。まったく同じSCで、ニトリとIKEAのカンバンが一つの写真に納まるようなめずらしいSCになる。

 それで現地でいろいろ話を聞いてきて、ニトリがSCからお声がかかる理由として、大きく2つある。一つはSCの中で住まいでうちのようなフォーマットの店がほとんどない状態だ。SC側から見ると、今までそのSCに来ていなかったお客さまをうちが呼び込むということを相当期待されている。SCからすると、客層が拡大できると。また、大きなスペースを取る割には、他のテナントへの影響も少ない。アパレル同士だったらどうしてもカニバリ(食い合い)になるが、(しないので)ウェルカムのようで、比較的、おそらく他社よりもいい条件で入らせていただけるんじゃないかなという手応えを感じている。今、武田からも話が合ったように、我々が出店の用意があるということを十分理解したうえで、各国・地域で国を超えてデベロッパーさんが東南アジアのお店などにもどんどん視察に来られていて、いろいろな話をいただいている。

50年に1回の大災害を1年で乗り切る。筋肉質に体質改善

――似鳥会長はこれまでずっと、ピンチはチャンスだと言い続け、不透明な時、厳しい時こそニトリは伸びる、厳しい環境が社員を伸ばす、とずっと言われ続けてきた。先ほどの為替の話のように、 半世紀以上経営されてきて、予測が外れるといったような状況が起きてきている。そういった中で、今は何を社員に呼びかけているのか?

似鳥:今こういう状況で、社員もモチベーションが非常に上がりにくい。もうマイナス、マイナス、未達成の状況が続いてるので、なんぼ努力しても進んでいかなくて、士気が上がらないという状況なのは間違いない。私からのメッセージとしては社内報などを毎月出しているが、最近は私とか幹部とか、現在こういう状況だけど、来年以降はこうなりますよ、とか、何十年の中のたった今年1年だから、まあどんな会社だってそんなことはあり得るし、いちいち深刻がって「もううちの会社、このままマイナスになっていくのかな」とか、全然そういう心配はいらないというね。理由もちゃんと説明して、やはり円安っていう状況が1番ですけど。これはもう来年は間違いなく円高になるんですね。たった1年だから我慢してくださいと。それによって今年、筋肉質に(改善した)。今まではもう進め、進めで、商品とか出店とかに力を入れていたが、見直しして、社内の業務改革で、100億円、200億円という数字はコストダウンした。だから、「ピンチはチャンス」というのは、ピンチでどうしても数字が(目標に)行かない場合には、社内のコストダウンに力を入れて、しかるべき、ピンチから1、2年後(チャンスに変わるタイミングで)攻めて行ける。

 逆に、そうは言っても国内ではわりかし長く景気がよく続いている。まだ土地も下がらない。建物(費)も下がらない状態も続いているが、来年から潮目が変わると思う。もう、アメリカも戦後1番長い景気だから、この景気が落ちるのはっきりしている。下だれば坂も長いし、谷も深いと。世界的に、アメリカがくしゃみすれば、世界中が風邪をひいてしまう。日本も同じような状態だと思う。日本は金利が、黒田総裁が変わっていく頃にはプラスなってくるだろうから、余計、円高になってくる。それを社内に発信して、だから今、体を鍛える、筋肉質に鍛える時なんだと。

 私も筋トレを月曜から木曜までやっていて、ボクササイズも週1回やっている。土日はゴルフという。本当に体を鍛えるのをやっている。つい最近、階段から転げ落ちて、一本背負いみたいになっちゃって全員打撲のむち打ちになり、寝たきりになってしまったが、1日1日回復して、皆さんに顔を見せるのに間に合ってよかった。このようにピンピンしている。やっぱり筋トレをしていてよかった。今年は我が社で言うと、筋トレをやって鍛えて、しかるべき来年からどんどん攻める。今年はそういう時期じゃないかなと思っている。株価も大変みなさんに迷惑をかけているが、間違いなく元に戻るし、利益もどれだけ行くとはまだ言えないが、順調に来年から回復すると思う。まあ、10年、20年に1回ぐらいはね……。うちの30何年か増収増益というのは出来すぎだ。運が良すぎた。50年に1回の大災害と思えば、それもたった1年で乗り切るんだから、うちの社員にはみんなに我慢してと。早く辞めたりしないでと。若手の人は目先で動くから、入社して2年3年はね。もう30歳過ぎると辞め過ぎないが。やっぱり動揺するんですよね。入社員3年、4年は。そういう風なメッセージを毎月社内には送っている。早まらないでちょうだいね、と。会社を信頼してと。そういう話をしているところだ。

ユニクロのファストリは株式分割。ニトリの投資単位の引き下げは?

――似鳥会長に質問。「ユニクロ」のファーストリテイリングが株式分割を久しぶりにされた。ニトリは現状、株価が1万6400円前後で、投資には164万円ぐらい必要だ。東証はできれば投資単位を50万円以内が望ましいと明言している。投資単位の引き下げの考えは?

似鳥:私の一存でそうしますとは言えないが、事実、証券協会から強制ではないけれどできるだけ買いやすくしてほしいという要望はある。今回のユニクロさんは3分の1にした。3分の1にしたって、まだ2万円台で、300万円ぐらい必要。まだまだ高い。うちなんかまだ100万円台。ユニクロがまた下げたら、うちも下げます(笑)。10分の1ぐらいにするのかなと思ったけど、3分の1。ちょっと様子見ということかなと。今すぐ下げることはないけど、投資家のためには買いやすい価格にするべきだと思う。

――そもそも、10分の1ぐらいにするのかなと思ったということだが、ファストリが今下げたことに対しては驚いたか?

似鳥:ああ、やっぱりなという。高すぎるので、よく買う人いるなと(笑)。今、800万円とかね。大企業・機関や、個人投資家でもお金持ち中心でやっているんだなと。それであそこまで上がっていくなら大したものだと思っているが。私もああいう企業になりたいなと思っているんですけどね。今年も柳井(正ファーストリテイリング会長兼社長)さんとゴルフを今年もしたけれど、僕が尊敬する一人です、柳井さんは。お互いに会話しながら、株のことは話ししないけれども、ゴルフしながら歩きながら、私が教えてもらっているところがある。

――御社は様子見ということか?

似鳥:もう少し様子を見てだと思う。あと、株価が今、1万6000円ぐらいでしょ?それが何千円ぐらいに下がると目立たないというか、親戚とか周りから見て、評判がね……。たとえば3000円とか4000円になると、もうまったく(評価が)なくなってしまうと。そういう面で、社員からはそのまま維持してほしいという要望が多い。本当にどうしたらいいかと、今のところ思考中だ。

来春ベースアップ4%を予定。転勤制度改正、希望者への土日休み拡充も

――家計が苦しくなる中で、従業員の暮らしにも影響が出る。来春闘に向けて賃上げは?

白井:ベースアップに関しては、ニトリは19年連続でベースアップを続けていて、来年度の見込みとして最低でも4%は確保したい。ただ、今一番従業員から要望が多いのは、転勤についての制度について。会長の似鳥からも、20代でいろいろな仕事をというところで、転勤が非常に多いが、来年度から思い切って、だいたい入社4年目以降から、関東圏、関西圏を選択して、転勤のない制度を導入することを決定して、これから社内に発表するところだ。むしろそちらの方が、働き方というところで言うと、非常に社内においてインパクトがあるんじゃないかなと。それと、賃上げについては、最低でも定期昇給ベア4%を予定している。

似鳥:流通業は全国に店がある。どうしても転勤の問題や、土日休みじゃないということもあり、優秀な人材が退職するということもある。今、白井社長が言ったように、転勤は希望があれば親元からも通えるようにしようと。それから、今年6月から月3回、パートさんも含めて希望者が土日に休みを取得できるようにしている。来年から月4回、毎週1回、土日希望があればと。アンケートをとって実行しているが、若い人が土日、恋人がとか、お付き合いが、と(いうことで取得希望者が多いかと)思ったら、そういう人たちは平日の休みのほうが自由で人が少なくていいという。意外と、子どもさんを持っている30代の方などが、土日の運動会や参観日などで、30%、1/3ぐらい(希望している)。意外と土日(休み希望は)少なかった。そういうこともアンケートをとってわかった。ありとあらゆることで働き方を改革していこうとずっとやっている。まだまだいろいろあるが、きょうはこのくらいで。

逆境のピンチ後に成長。デフレ時に土地・建物を取得
「無借金なのでいつでも十分に投資可能」

――似鳥会長は「ピンチはチャンス」、収益が厳しいときにこそ一気に他社を差をつけるとおっしゃっているが、他社を引き離すために、どんなストーリーを考えているのか?また、値下げは「季節のお買い得商品」という値下げキャンペーンはわかるが、「生活応援キャンペーン」をやって、「冬の期間限定価格」をやって、「ぽかぽかNウォームお試しキャンペーン」などをやって、など、少なくても昨年に比べて値下げというか、価格戦略のキャンペーンを打っているのは、これも今のうちに他社が値上げしなければならない前に一気に差をつける戦略の一つと見てよいのか?

似鳥:創業してから過去55年、結論から言うと、伸びてきたなと思うのは、逆境のピンチがあって、その後、伸びてきた。景気がいいときは他の企業も伸ばしてくる。出店もするし。だけど、不況のときとか、逆境のときは、みんな控えめに抑える。今まで日本もまだずっとよかったが、来年から金利も多少上がるだろうし、土地は下がってくるとは思う。東京の土地で入札して負けたことなかったが、今年とか去年は買えない。土地(の価格)が倍になって。マンションメーカーだ。マンションが非常に高くなっている。マンションメーカーが3年ぐらいたった時には暴落しているでしょうから、そのマンションメーカーは危ない。馬鹿だなと思う。そういうことやっちゃダメだと思う。今年は池袋の土地と建物は買った(筆者注:東急ハンズ池袋店跡地をヒューリックから土地・建物を取得。11月18日に「ニトリ 池袋サンシャイン60通り店」をオープン。売り場面積約1810坪)が、ああいう物件はめったに出ない。多少高めでも、それでも十分売れているので、買ってよかったなと思う。基本的には高値の時には投資はしないと。建物も坪当たり建築費が50万円(と高騰している)。うちで40万円ちょっと。エスカレーター、エレベーターなどすべてを完備して。でも、一番安い時には20万円ちょっと。半分だった。そういう時代が何十年も続いて、高くなったのはつい6~7年前から。それは僕はまた元に戻ると思う。土地も建物も。そういう意味では来年から徐々にありとあらゆるものがデフレに戻る。土地も建物も。だからチャンスだ。10年か15年に1回そういうときがあって、そのときに土地と建物をどんどん買う。仕込む時期だ。そして、景気がよくなってきたなというときには、うちがばーっと、出店も増やしているし、今、テナントで借りているのが90%ぐらいになっているが、土地と建物が下がったときに買って自前で建てていく。その繰り返しをこの10年~15年ごとにやってきたのが今現在あるのではないかと。投資の仕方だが。今は最悪のとき。ここ2~3年は。来年から下がってくると思う。

 それから、政府も5年間、賃金(向け)を金利ナシで貸し付けてきたが、期限切れで来年から返していかなければならない。僕は中小企業は何万社、何十万社も厳しい時期になっていくと思う。そのときのためにみんな準備はしていると思うが。来年以降、大企業にとっても中小企業にとっても厳しい時代入ると思う。相対的に景気はあまり変わらないかもしれないと思うが、土地建物、金利が上がって、潮目が変わってくる。値上げどころが逆にありとあらゆるところが下がってくる。そういう時代に入ってくるんじゃないかなあと私はそう思っている。その繰り返しで、10年か15年に1回は繰り返して、ずっとうまくいって、ニトリが大きくなってきた原因の一つだと思う。

 お金は今年も1000億円投資したので、来年も純利益と、減価償却がプラス150億円ぐらいあるので、無借金だし、十分投資はしていける準備はいつでもしている。

武田:価格政策、値下げ政策は、他社うんぬんもそうだが、お客さまに使っていただけるチャンスなので、そこで私たちがお安くできるものは頑張ってお安くするということを一番考えている。あとは、工場を回すということも非常に重要な要素で、それぞれの時期にそれぞれの工場の商品をしっかりと生産する人を雇用し続けられるようにすることが大切だ。私たち、直接工場とやっている。そこに対しては意識をもってやっていく。そういうところで商品の売価を検討している。

ベトナム、タイで糸から製品まで一貫工場も稼働
製造、商社、物流まですべて自社で賄ってコストダウン、競争力向上へ

似鳥:最後に私のほうから、一言。海外は私、ベトナムもアメリカも行ってきた。アメリカは今年5月、11月にベトナムの(自社)工場。2万5000坪の世界最大規模のカーテン工場。コロナの間、素人で機械を組み立てて1年(操業開始が)遅れたが、ようやく軌道に乗ってきた。大量生産が始まってきている。今は無地だけ。普通の会社は糸を作ったり、染めたり、専門の会社があり、うちの会社が普通に発注する場合には、縫製会社に頼み、縫製会社が生地屋さんに頼んで、紡績工場に頼んで、そこから、染め、糸の会社に頼んでと。そういう会社が6つ7つ(中間取引先が)あるのを、うち1社でやっている。糸から完成品まで(一気通貫で)。これは世界で初めてで、しかも、坪数の大きさや量産も世界最大規模。壮観です。アナリストの方もベトナム工場を視察していただいた。自分の会社のことだけど、すごいなと思う。やっぱり、こういうものがあれば、いくら海外に毎年何百店出しても供給し続けられるなと。

 タイ工場も、40年ぐらい取引をしてきたところが、赤字で困っているから工場を引き受けてくれないかと。カーペット工場で、(以前は)日本のペットボトルを集めて、今は(ペットボトルなど廃材の輸出入が)禁止されているので、日本で精製してビーズ状にしたものを、タイで溶かして綿(ワタ)にして糸に紡績して、染めて、裁断して、カーペットにして日本全国に持ってきている。これも進化していて、安いカーペットから厚みのあるカーペットに、柄が入ったもの(もできるようになっていて)、ラグがすごく売れる。1畳、2畳サイズの。今度はタイルカーペットを作る。別にバンコクに1万坪ぐらいの新工場を建設する。来年建築が始まり、再来年稼働する。ぜひアナリストの方もご希望があれば案内させていただく。ベトナムも行ける。来年夏か秋に募集させていただく。わが社が出すのではなく、みなさんの経費で参加していただければ。そういう工場も着々と(整備している)。ベトナムのハノイも12月に買って、新しく製造をやる。

 モノを作ってから完成品まで、そして、商社からなにから、物流の仕組みも進めている。カーゴ会社も去年作った(筆者注:物流機能子会社ホームロジスティクスを通じて、一般貨物自動車運送事業の新会社ホームカーゴを設立。コンテナ陸上輸送=ドレージ輸送を開始)。コンテナを引っ張るドレー車の会社で、(国内ディストリビューションセンターが)10カ所ぐらいあるが、今は3カ所か4カ所(で輸送を開始した)。1台3000万円ぐらいするものを導入した。それを全国でできるように。海外でもできるように。すべてのことを自社で賄うと、だいたい3割、4割下がるので、コストダウンを図っていくことをやっていきたい。

2023年の年末株価予想は3万1000円
世界経済失速でも、日本の株価は「割安」

――最後に株価予想をお願いします。

似鳥:株価予想ね。正月番組を見てください(笑)。私が当たりました。2万9000円予想だったので、2万8500円ということで、ダントツの第1位だった。「来年は?」と言うので、3万1000円にした。え、言っちゃだめ?ま、いいんじゃないですか。なぜならば、世界的に不況になると思う。(実質GDP予想が)アメリカも1%。もっと下がるかもしれない。EUは0.5%とか。日本だけは1.何%とか。おそらくいかないんじゃないかと思う。世界的にも成長がアメリカはじめ中国も(失速する)。じゃあ、なんで日本の株価が上がるんだ?と。今まで、アメリカはじめ、金利が高い、景気がいいときにお金が流れているが、今度は逆にそこからお金が逃げていく。日本はもともと株が安く、かなり外国企業が売って違うところに投資したので。また、日本の株価は安いと、みなさん世界の投資家が思っている。来年は底堅いというか、日本の方にお金が戻ってくるんじゃないかなと私は思う。で、3万1000~3万2000円ぐらいと思ったが、3万1000円に。今よりも高くなると。今が2万7000円前後。今年の予測としては、2万4000円までいって、夏前後までいって、秋ぐらいから上がって2万9000円になると予想した。来年もそのような状態で上がっていくんじゃないかなと考えている。どうなりますでしょうか。当たるも八卦、当たらぬも八卦。もうこれは勘ですから、ハズレた場合にはすいません、ごめんなさいと謝ります。あくまでも私の意見で、うちの社員の話は聞いてませんので(笑)。

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「サカイ」とカフェを仕掛けたシェフ集団ゲットー ガストロ 「ヒップホップのような」食のクリエイション

 「サカイ(SACAI)」は、ニューヨーク・ブロンクスを拠点に活動するシェフ集団ゲットー ガストロ(Ghetto Gastro)とコラボレーションした期間限定カフェ「サカイ ガストロ」を東京・原宿のトウキョウ バーンサイド(Tokyo Burnside)で12月30日まで開催中だ。同店は、「ナイキ」とブルーボトルコーヒー(BLUE BOTTLE COFFEE)、ロッキーズ・マッチャ(Rocky’s Matcha)がサポートし、「ナイキ」のスウッシュロゴをあしらったソール型のワッフルをゲットー ガストロがアレンジした独自のレシピで提供する。メニューは4種類で、抹茶のワッフルとフライドチキンのセット“チキン クープ”(税込1980円、以下同)、神戸と広尾に店舗を構えるハーロウ(HARLOW)のアイスクリームを添えたチョコレートワッフル“ブラック パワー ワッフル”(1870円)とストロベリーワッフル “ストロベリー ヘイズ”(1870円)、コーンワッフルにクラブサラダとキャビアを添えた“トリプルC’s”(5280円)をラインアップする。

 メニューを担当したゲットー ガストロは、リーダーのジョン・グレイ(Jon Gray)、ピエール・セラオ(Pierre Serrao)、レスター・ウォーカー(Lester Walker)の3人で、2012年に活動をスタート。“地域をつなぐ食文化とコミュニティー力”をコンセプトに掲げ、料理とカルチャーをベースに、ファッションや音楽、アートなどを融合させたイベントやフードのプロデュースを行っている。これまでには、オーディオブランド「ビーツ・バイ・ドクタードレ(BEATS BY DR. DRE)」や「アンブッシュ(AMBUSH)」「アウェイク ニューヨーク(AWAKE NY)」と協業したほか、16-17年秋冬のパリ・ ファッション・ウイークでは「リック・オウエンス(RICK OWENS)」のディナーイベントでメニューを担当。「サカイ ガストロ」のために来日した彼らに、コラボした経緯やメニュー作りで意識したことなどを聞いた。

WWD:「サカイ」とコラボレーションした経緯は?

ジョン・グレイ(以下、グレイ):21年にロサンゼルスで行われた「ファミリー スタイル フード フェスティバル(Family Style Food Festival)」で、僕らのワッフルブランド「ウェイビー(WAVY)」と「ナイキ」が初めてコラボし、同ブランドのアイコンモデル“ワッフルレーサー”のソールに見立てたワッフルを作ったんだ。以来「ナイキ」を通して、「サカイ」とつながり、今回のプロジェクトを実現することができたのさ。

WWD:ファッションブランドである「サカイ」とタッグを組むことで意識したことは?

グレイ:僕らが言う“コミュニティー”とは、どこかの地域というよりも、ビジョンやクリエイションの一部であることを意味している。高級な素材を世界中から集めて料理に使い、普段そういうものを食べる機会がない人たちも気軽に味わえるようにしているんだ。「サカイ」も僕らの料理と同じように、いろいろな素材やパターンを服に取り入れているよね。今回のメニューでは、ワッフルに抹茶やフライドチキン、キャビアなど意外性のあるものを組み合わせて、彼らのクリエイションと共鳴するように作ったんだ。

WWD:メニューの中で、特にフライドチキンと抹茶のワッフルのセットがアメリカと日本の文化の融合を感じる。

ピエール・セラオ:日本とアメリカの食文化の共通点を表現したかったんだ。フライドチキンとワッフルを一緒に食べるのは、日本人にとってあまりなじみがないかもしれない。でも、抹茶でワッフルを作ることで、より親近感を持って食べてほしかった。それに、僕らのルーツであるアフリカを象徴する赤と黒、緑、黄色もイメージしているんだ。今回は日本でカフェを開くから、緑と赤を連想させる抹茶といちごを使ったメニューを取り入れたかった。

WWD:今後レストランを開く予定はありますか?

グレイ:食は一つのところにとどまる必要はないから、レストランを開くつもりは今のところないんだ。ここでカフェをオープンしたのは、さまざまな国籍や人種の人たちが訪れ、異なる文化が交差する空間で食を提供したかったから。僕らのクリエイションは、あらゆる要素から成り立っている、ヒップホップみたいな感じかな。実は、このトウキョウ バーンサイドはクリエイティブ・エージェンシーのエン ワン トウキョウ(en one tokyo)と共同企画した場所でもあるんだ。

WWD:これまでにさまざまなファッションブランドともコラボし、学んだことは?

レスター・ウォーカー:僕らはシェフであり、クラフツマンシップをすごく大切にしている。過去に協業してきたファッションブランドからはものづくりの精神をとても感じたよ。異素材を組みせるという「サカイ」のブランドコンセプトを理解するように、ブランドの歴史やどんな素材を使っているのかをちゃんと調べて、自分たちの食のフィールドでもどう表現できるのかを学んでいるんだ。

■sacai GASTRO
会期:12月30日まで
場所:トウキョウ バーンサイド
住所:東京都渋谷区神宮前5-12-14 2F Tokyo Burnside

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Z世代に人気の「メルト ザ レディ」 24年7月でブランド終了を掲げる「終わるからこそ尊い」の美学

 新宿ルミネエストの地下1階といえば、ヤング向けファッションの殿堂的フロアの1つだ。バロックジャパンリミテッドやマークスタイラーなどのブランドが並ぶ中に、少し毛色が異なるショップ「メルト ザ レディ(MELT THE LADY)」がある。大きな長テーブルが置かれた店頭の内装も販売員のスタイリングも個性的。売れ筋を追求した結果、似た商品が並ぶこともあるフロアの中で異質な雰囲気を放っている。それなのに、ルミネに取材すると好調ブランドとして名前が上がることがよくあり、商品入荷日には実際に女の子たちの行列ができている。

 同ブランドを手掛けるのは、宮内敦社長率いるメソニックデザインオフィス。宮内社長は以前、ギルドコーポレーションを運営していたヒットメーカーだといえば、ヤングファッションに詳しい業界人ならピンとくるはず。「メルト ザ レディ」に取材を申し込むと、ディレクターのAyaさんが対応してくれるという。キャットストリート近くにあるショップ兼アトリエを訪ねて彼女に話を聞いていたら、「あと2年でブランドを終了します」というコメントも飛び出した。

「少女が溶けて大人になるイメージ」

WWD:ルミネで売れているという話をよく聞くし、現役大学生の「WWDJAPAN」インターンに聞いても「『メルト ザ レディ』が今周りで人気」といった声が出る。でも、ブランドとしてはあまり情報が出ておらず謎も多い。改めて、どんなブランドなのか。

Aya:私自身、こういった取材を受けるのは初めてです。ブランドを立ち上げたのは2017年の7月、自分が20歳のときでした。私は広島県出身なんですが、ブランド立ち上げ前は地元で服飾・美容の専門学校に通いつつ、ときどき上京してモデルの仕事もしていました。(メソニックデザインオフィスが手がけるブランド)「バブルス(BUBBLES)」のECサイトのモデルなどをしていて、その縁で、知人を通してメソニックデザインオフィスに「将来自分のブランドがやりたい」と相談しました。それで、「バブルス」の原宿店(当時)でコーナー展開するという形で、「メルト ザ レディ」をスタートしました。

WWD:ブランドのコンセプトは?

Aya:ブランド名自体がコンセプトです。少女から女性へと成長していくその抜け殻や、少女が溶けて大人へと変わっていくといったイメージ。成長過程そのものをブランドとして掲げています。元々私は服がすごく好きで、ロリータや原宿系といった周りの目を気にしないファッションが中学生のころから好きだった。そんな自分が、世間の目を気にせず等身大で着たいものを作るブランドです。お客さまはファッションに敏感な20代が中心。太もも部分にホックがついていて、それを外すと肌がのぞくスラックス“ホックスリットパンツ”(1万2000〜1万4000円前後)などが人気商品になっていて、それはふらりと入った古着店で店員さんが着ていたこともあります。Y2Kのブームもあって、肌見せのデザインがジャンルを問わず幅広い層に支持されたという面もあると思います。

WWD:立ち上げの際に、宮内社長からブランドの方向性などについて指示があったのか。

Aya:特になく、まずは自分が作りたいものを作ろうという感じでした。最初の2年間は、私とMD担当、生産管理の3人で模索する日々。広島で服飾の専門学校に通ってはいましたが、ファッションビジネスの知識はほとんどなくて赤ちゃんみたいな状態だったので、何度もトライ&エラーを重ねて今があります。OEMメーカーさんに対し、言葉でうまく指示を伝えることもできませんでしたが、絵は習っていたので絵で伝えることはできた。それでも、上がってきたサンプルを見て驚愕するといったことが何度もありました。

 転機は立ち上げから3年目。宮内とブランドのあり方や今後をしっかり話し、もっと本格化させようとなりました。それで19年3月にここ(キャットストリートそばのアトリエ兼ショップ)をオープンしました。普通の路面店にするのではなく、コンセプトや内装をそのときどきでガラッと変えて、毎回期間限定で開けていくポップアップ形式の運営方法を考えていたんです。ただ、19年9月にルミネエストにもお店を出したので、まずはルミネエストに注力しようとなり、そのままコロナ禍になってしまった。このアトリエ兼ショップを店として開けられた期間は、これまでほんの数週間だと思います。

「自分の中で区切りをつけたい」

WWD:具体的に、どのように商品を企画し、売っているのか。

Aya:毎月店頭やECで発売するのは計30〜40型。1カ月分が1つエピソードになっていて、2回に分けて投入するので、それぞれがエピソードのボリューム1、ボリューム2という位置づけです。エピソードはシーズン1からシーズン3までの3部構成になっていて、実はブランドの最初から最後までの流れをもう決めています。そこから逆算して、リアルな時間軸とともにストーリーが進んでいくようになっています。

WWD:ブランド終了が既に決まっているという意味か。

Aya:はい。今はシーズン2の途中ですが、シーズン3が23年3月に始まって、24年の7月で終了する予定です。自分自身、(モデル業を含め)10代のころから服の仕事に関わってきて、今年で26歳になります。この期間はすごく尊い時間だったと思う。流行はどんどん変わっていきますし、“成長型”のブランドでやっているからこそ、自分の中で区切りをつけたい。SNSやECサイトで動画や写真でエピソードを発信していますが、お客さまは「このエピソードって一体何のこと?」と思っているかもしれません。シーズン1の終了時である22年の3月に発信した動画に、時計の針が24で重なる、終了を匂わせるシーンを入れました。シンデレラの話ではないですが、24時間で魔法が解けるといったイメージです。お客さまには、エンターテインメントとして、こうしたエピソードも楽しんでほしい。

WWD:ブランドが終了してしまうと知ったら、驚くファンは多そうだ。自身も寂しくないのか。

Aya:大切にしているブランドなので、もちろんすごく寂しいですよ。でもそれも尊いなと思う。終わりがあるから今も一生懸命にそこに向かって頑張ることができています。ダラダラ続けるのではなく、そこからまた新しいスタートが切れたらいいなと思っています。24年7月を迎えたらどうするかはいろいろと考えています。大人になった自分とともに、また成長していくブランドができたらいいなという思いもあります。

WWD:先ほどからよく“成長型ブランド”という言葉が出る。“成長型ブランド”という言葉をどういう意味で使っているのか。

Aya:私がそのときに着たい、等身大の服を作るという意味です。だから、立ち上げ当初とはテイストも結構異なっています。以前のような、もっとガーリーなテイストの服が好きだとお客さまに言われることもありますよ。ただ、自分と向き合って、そのときの自分が作りたいものが何なのかを突き詰めていますし、自分の成長と共に質も上げていきたい。年齢を重ねていく自分自身が違和感を感じないように、生地や縫製などの質も徐々に高めています。自分が常に納得して、自信をもって伝えられるブランドという意味で“成長型ブランド”と表現しています。シーズン1のころは私自身が商品ビジュアルのモデルも務めていましたが、それに対しても段々違和感を覚えるようになったので、シーズン2からは海外のモデルさんを起用しています。

期間限定ブランドはポップアップの進化系?

WWD:ビジネスの規模は今どれくらいなのか。

Aya:20年の春以降、売上高は特に増減なく10億円弱で安定しています。ブランドの終了を決めているので、商品の供給量も変えていません。ルミネエスト以外からも出店オファーはいただきますが、規模感は抑えている。もっと多くの人に着てもらいたいという気持ちがないわけではないですが、発売日に並んで商品を買ってくださるお客さまの気持ちを大事にしたい。せっかく並んで買ったのにみんなが着ていたら、きっとがっかりしてしまうから。1着1着に愛情を込めて作っているので、本当にこれが着たいと思うお客さまに届けたい。この規模では(生産ロットなどの問題で)難しいこともありますが、反対にこの規模だからできることもある。ブランドを大きくするよりも、この規模で作るべきものをしっかりお届けしたいと考えています。

WWD:世の中全体を見ても、期間限定のポップアップショップやポップアップイベントがますます増えている。そこからさらに一歩進んで、期間限定のブランドとして出てきたのが「メルトザレディ」というわけだ。こういう、ある種の話題性が今の時代はブランド作りに欠かせないと考えているか。

Aya:マーケティングなどは本当に得意でないので、なぜ「メルト ザ レディ」が売れたかなどについて私から言えることはないです。一生懸命作りたいものを作ってきただけで、命をかけてブランドをやっていると言ってもいいくらい。それがたまたま、お客さまの心に刺さったんだと思います。そういう熱量はお客さまに伝わると思う。

 ただ、今の時代は単にいい商品を作るだけではダメです。作ったものをしっかり伝えないといけない。いいものを作っても、それを発信しないと日の目を見ずに流れていってしまいます。今は(あらゆるコンテンツで)時間の奪い合いだから、お客さまも新作発売日だからってわざわざECサイトを見るということはありません。だからこそ、パッと目に入るように写真や動画をSNSで発信することの重要性は大きい。しっかり売るはずで仕込んでいたアイテムが、私がほかの業務でバタバタしてしまってSNSの打ち出しが弱まってしまったという失敗はあります。

WWD:あと2年間、どのようにブランドを育てていきたいか。

Aya:自分の作りたいものに向き合って作っていますが、店頭スタッフとの月一回のミーティングでお客さまの声もしっかり聞くようにしています。ブランドはお遊びではないので、(自分自身の世界と)お客さまのニーズとの融合が「メルト ザ レディ」だと思う。エピソードも単なる自己満足で出していたら意味がありません。(エピソードやそこに込めた思いを)お客さまにしっかり伝えていって、楽しんでいただきたい。実際、SNSのDMなどで「このエピソードって、もしかしてこういう意味ですか?」といったことを送ってきてくださるファンの方もいますよ。“成長型ブランド”として、「もうこのブランドからは卒業」と思われないように、今のお客さまと一緒に成長したいです。

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「ジバンシイ」新クリエイティブ ディレクター、トム・ウォーカーが思い描く“現代的な女性”のイメージとは?

 「ジバンシイ(GIVENCHY)」のメイクアップ クリエイティブ ディレクターに就任した英国出身のメイクアップアーティスト、トム・ウォーカー(Thom Walker)が来日した。彼はメイクアップコレクションを手掛けるとともに、広告の監修も務める。フリーランスとして「エルメス(HERMES)」や「アレキサンダー・マックイーン(ALXANDER MCQUEEN)」「オフ-ホワイトc/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」などのファッションブランドでファッションショーやキャンペーンを手掛けるなど豊富な経験と実績を持つ彼に、就任までの経緯や「ジバンシイ」での仕事について聞いた。

WWD:「ジバンシイ」のディレクターに就任した率直な感想は?

トム・ウォーカー「ジバンシイ」メイクアップ クリエイティブ ディレクター(以下、ウォーカー):とても興奮しているし光栄なことで、今までの仕事の成果を評価してもらったことをうれしく思う。「ジバンシイ」と私は、現代女性の美に対して非常に似た哲学を持っており、それを分かち合えたことが今回の就任につながった。

WWD:「ジバンシイ」やあなたが共有する現代女性のイメージとは?

ウォーカー:エレガンスでありながら時代を超越した感覚を持ち合わせ、大胆でリスクを恐れない。新しいことに挑戦する、シンプルであることを恐れない人。ブラックドレスや赤い口紅のように、シンプルにはパワーが潜んでいる。

WWD:クリエイティブ・ディレクターとしてブランドに関わりたい思いは以前からあった?

ウォーカー:もちろん。夢のような話だ。最初は実現しない夢のように感じていたが、経験を重ねると「いつか現実になるかもしれない」と実感できるようになった。百貨店のカウンターで働いていた時から、広告ビジュアルやファッションにインスパイアされ、ファッションの世界で働いてからはクリエイティブ・ディレクションに強い興味が生まれた。メイクアップアーティストとして商品を作るのは究極の目標だった。

WWD:ブランドにそのまま残したいもの、逆に変えたいものは?

ウォーカー:必ずしも「変えたい」とは思っていない。「変える」というより今あるものや必要なものを時代に適応・昇華させるような感じ。例えば、ルースパウダー“プリズム・リーブル”は長い歴史のある象徴的な製品で、発売当初から今なお革新的。革新的なマインドを持ち続けて全ての製品を進化させたいし、一方でメイクアップが気持ち良く感じられるよう感覚的な体験も大切にしたい。今は2024年に発売する製品を考えている。多くは語れないが、目にフォーカスした製品だ。巧妙でユーザーフレンドリーでありながら、革新的なものを作りたい。

WWD:「ジバンシイ」のメイクはテクノロジーの力で進化することで、より自然な仕上がりがかなうように思う。

ウォーカー:テクノロジーは、商品開発にとって重要な要素。肌に合わないファンデーションは興味を持てないし、ベネフィットも求められる。反対に肌がきれいに見せられれば、もっとつけたくなるだろう。テクノロジーとマインド、さらにクリエイティブを全製品に注入できれば間違うことはないだろう。ベースメイクに関しては、メイクだと分からないぐらいの領域を目指したい。

WWD:商品開発はどう進めているか。

ウォーカー:チームには10人くらいのメンバーがいて、大きなテーブルを囲んで意見を出し合っている。みんながどう考えているかを知りたい。自分と異なる意見を知るのはとても楽しいプロセスだ。

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200年の歴史を持つ仏フレグランスメゾン「ドルセー」、アメリー・フインCEOのリブランディングへの思いをひも解く【香水ジャーナリスト連載 Vol.6】

 200年の歴史を持つフランスのフレグランスメゾン「ドルセー(D’ORSAY)」は、2020年12月に日本に再上陸し東京・青山に路面店をオープンした。コロナ禍を経て来日したアメリー・フイン(Amelie Huynh)「ドルセー」CEOに、リブランディングの経緯や今後のビジネスの展望について聞いた。

−−2015年に「ドルセー」をリローンチする前は、ジュエリー業界に従事していた。フランスの歴史ある香水ブランドの中から「ドルセー」を手掛けた理由は?

アメリー・フイン 「ドルセー」CEO(以下、フイン):フランスには古きも新しきも数多のフレグランスブランドが存在するが、「ドルセー」はオーナーが変わりながらもずっと続いてきた点に興味を持った。「ドルセー」は、フランスでは誰しも知っているブランドだが、1980年ごろには小規模になっていた。だから私はまるで“眠れる森の美女”を見つけたような気分だった。このまま眠らせておくのはもったいない。そして何より、「ドルセー」の創設者であるアルフレッド・ドルセー(Alfred d’Orsay)伯爵と、マルグリッド・ブレシントン(Marguerite de Blessington)との禁断の愛の物語が、事実に基づいたストーリーであることにも感銘を受け、買収を決意した。

−−「ドルセー」のリブランディングにあたり、どんなコンセプトを考えたか?

フイン:「ドルセー」には200年の歴史があり、歴史が持つメッセージ性と美意識を残したいと考えた。ドルセー伯爵が現代に生きていたら、間違いなくトップインフルエンサーの一人になっていたと思うほど、オシャレの先駆者であり、飽くなき美意識の持ち主で、アーティスト、クリエイターでもあり、絵を描いたり、彫刻やペイントも行ったり才能にあふれた人物だった。それらをブランドに反映させたいと思った。それぞれの香りではさまざまな愛の形を表現している。ボトルに愛のメッセージを添えたのも、ブランドアイデンティティーの一つ。例えば“06:20”というホームフレグランスには、「あなたが知っている所」というメッセージを添えているのだけど、”恋人同士だけが知りうる、いつもの場所”という意味を込めている。

−−香りを想像できる香水名をつけるブランドもあるが、イニシャルやフレーズをボトルに記す打ち出し方をした理由は?

フイン:ほかのブランドと差をつけるユニークなアイデアで、副題から香りにまつわるラブストーリーを感じてもらえるよう、あえて含みを持たせた。また、”秘密の愛”がブランドストーリーの根底にあるので、全てのイニシャルにも秘密を感じるようにした。当時は通信方法が手紙しかなかったため、イニシャルでメッセージを送り合っていた。恋文の中に出てくるであろうフレーズを香りの副題に選んでいるのも、その発想だ。

−−全てに愛のテーマが含まれているか?例えば“C.G.”という香りは牧歌的で、あまり恋愛的な要素は感じないが?

フイン:“C.G.”の愛のテーマは、”tender love”つまり優しく思いやりのある愛な。朝露を思わせるような香りは、まさに早朝の散歩へのインビテーション。副題の「どこか他の場所へ行きたい」というメッセージは、誰かを思ってどこかへ行きたい愛が込められていて、菩提樹の花の優しい香りになっている。

−−1912年に発表した香り“ティユル(Tilleul)”は、調香師のオリヴィア・ジャコベッティ(Olivia Giacobetti)により2008年に再解釈され、現「ドルセーで」は ”どこか他の場所へ行きたい C.G.” として香りを現代的に作り変えている。

フイン:”ティユル”に関しては、ブランドを代表するアイコニックな香りだから、リブランディングしても残したいと思った。2008年に一度再解釈されているけれど、リブランディング後も引き続き、オリヴィア・ジャコベッティにバージョンアップしてもらった。当時と比べ、現在は使用できない香料を取り除き、”どこか他の場所へ行きたい C.G.”という香りに生まれ変わった。フランスでは、”ティユル”に馴染みのある世代の人もいて、70歳代の顧客に“どこか他の場所へ行きたい C.G.”をお求めいただくことがあるほど、「ドルセー」にとって大切な香りの1つだ

−−過去のドルセーの香りの中で ”Tilleul” 以外で人気のあった香り、例えば、”ル ダンディ(Le Dandy)”、”エチケット ブルー(Etiquette Bleue)”などは、現ドルセーでカムバックしているか?

フイン:”エチケット ブルー”は、現在の「ドルセー」では ”心を込めて L.B.”というタイトルになっている。オレンジブロッサムをミドルノートにたっぷり使用しネロリやアイリスが清潔感を与えているが、ラストノートはモスやアンブロクサン、ムスクの少しダーティーな雰囲気をまとっているのが、ドルセー伯爵とマルグリットの道ならぬ恋を彷彿させる。この香りは女性調香師に作ってほしいと思い、ファニー・バル(Fanny Bal)に依頼した。彼女の師匠は、著名な調香師ドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)だ。“ル ダンディ””は1925年の発売当時、 “ダンディな男性をゲットするならこの香りをまとおう”というテーマで女性向けの香りとして登場した。その後99年に発売した “ル ダンディ” は、男性向けにウイスキーやラム、イエローフルーツ、スパイスなどが使われている。現在は”ダンディ オア ノット G.A.” というタイトルで、シンプルでユニセックスな香りへと進化させた。どちらの“ル ダンディ”にも含まれていたパチュリやカルダモンも使用し、ジェンダー問わず使っていただけるダンディな香り”ができあがった。

−−リブランディング後、オリヴィア・ジャコベッティ以外で新たに起用した調香師はどう選んだ?

フイン:調香師には個性や得意な分野があるため、作りたい香りにマッチする人を選んでいる。例えば、“恋人同士 M.D.”はパロサントがメインの香りだが、旅好きで気さくなベルトラン・ドゥショフール(Bertrand Duchaufour)なら、愛と旅とパロサントを融合した香りを作れると考え依頼した。“ダンディ オア ノット G.A.”を作ったシドニー・ランセッサー(Sidonie Lancesseur)は、パチュリを扱う香りが得意な調香師。シンプルなショートフォーミュラで素晴らしい香りを作る。”心を込めて L.B.”を作ったファニー・バルは、砂糖とは違う甘い香りを作るのが得意で、甘いフローラルに生かされた。

−−2020年末、コロナ禍で世界的に厳しい状況の中、パリのサンジェルマン・デ・プレの旗艦店に続く2号店を青山にオープンした。

フイン:コロナ禍でのオープンはチャレンジングだったが、その先の未来への準備として覚悟を決めた。19年6月にフランスで旗艦店をオープンし、その年の後半には新型コロナウイルスの影響が出始めていた。ビジネスにはリスクがつきものだと覚悟していた。日本は個人的にも大好きで何度も来日していたので、日本とフランスで共通する美意識の高さや細部にわたるこだわり、モチベーションの高さ、センスの良さを共有できるのはとてもエキサイティングだ。

−−今後のビジネスの展望は?

フイン:これまでイギリスの有名百貨店ハロッズや、パリのギャラリー・ラファイエットのほか、5月には韓国のコンセプトショップの一部でコーナー展開がスタートし、現在世界19カ国で展開している。現在は、これまでより製造に時間やコストがかかる問題があるが積極的に販路を拡大していく。2年間で、独立店舗も含め全世界で120~140くらいの販売スポットを目指す。独立店舗として、すでにあるパリと東京以外に、ロンドン、ミラノなどにオープンできたら理想的だ。

−−フランスと日本で人気の香りに違いはあるか?

フイン:日本で圧倒的人気が “最高の自分 M.A.”。バイオレットやアイリス、ホワイトムスクを使った香りで、繊細に香るため日本人に支持されているのかもしれない。フランスで人気なのは “どこかほかの場所へ行きたい C.G.”。ブランドのシグネチャーフレグランスであり、オリヴィア・ジャコベッティ作という点が人気の理由。ベルトラン・ドゥショフールが手掛けた “恋人同士 M.D.”も好調。香水業界の専門家評価が高いのは、新作の ”あなたにイエスと言う V.H.”だ。”永遠の愛・無条件な愛” をテーマにした香りで、サフラン、ブラックペッパー、ローズ、ベンゾインなどを使った、スパイシーでウッディなノート。パンデミックで弱った人々も、パワフルさを感じていただける力強い存在感のある香りだ。日本ではこの秋に発売した。

■ドルセー青山本店
住所:東京都港区南青山3-18-7 1F
営業時間:12:00~20:00
電話番号:03-6804-6017


YUKIRIN
美容・香水ジャーナリスト
香水・香り関連商品と、ナチュラル&オーガニック美容分野に特化した記事を執筆。女性誌などのメディアで発信する。化粧品や香り製品のコンサルティングやイベントプロデュースなど幅広く活躍。「日本フレグランス大賞」エキスパート審査員、「イセタン フレグランス アワード2019」審査員などを務める

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200年の歴史を持つ仏フレグランスメゾン「ドルセー」、アメリー・フインCEOのリブランディングへの思いをひも解く【香水ジャーナリスト連載 Vol.6】

 200年の歴史を持つフランスのフレグランスメゾン「ドルセー(D’ORSAY)」は、2020年12月に日本に再上陸し東京・青山に路面店をオープンした。コロナ禍を経て来日したアメリー・フイン(Amelie Huynh)「ドルセー」CEOに、リブランディングの経緯や今後のビジネスの展望について聞いた。

−−2015年に「ドルセー」をリローンチする前は、ジュエリー業界に従事していた。フランスの歴史ある香水ブランドの中から「ドルセー」を手掛けた理由は?

アメリー・フイン 「ドルセー」CEO(以下、フイン):フランスには古きも新しきも数多のフレグランスブランドが存在するが、「ドルセー」はオーナーが変わりながらもずっと続いてきた点に興味を持った。「ドルセー」は、フランスでは誰しも知っているブランドだが、1980年ごろには小規模になっていた。だから私はまるで“眠れる森の美女”を見つけたような気分だった。このまま眠らせておくのはもったいない。そして何より、「ドルセー」の創設者であるアルフレッド・ドルセー(Alfred d’Orsay)伯爵と、マルグリッド・ブレシントン(Marguerite de Blessington)との禁断の愛の物語が、事実に基づいたストーリーであることにも感銘を受け、買収を決意した。

−−「ドルセー」のリブランディングにあたり、どんなコンセプトを考えたか?

フイン:「ドルセー」には200年の歴史があり、歴史が持つメッセージ性と美意識を残したいと考えた。ドルセー伯爵が現代に生きていたら、間違いなくトップインフルエンサーの一人になっていたと思うほど、オシャレの先駆者であり、飽くなき美意識の持ち主で、アーティスト、クリエイターでもあり、絵を描いたり、彫刻やペイントも行ったり才能にあふれた人物だった。それらをブランドに反映させたいと思った。それぞれの香りではさまざまな愛の形を表現している。ボトルに愛のメッセージを添えたのも、ブランドアイデンティティーの一つ。例えば“06:20”というホームフレグランスには、「あなたが知っている所」というメッセージを添えているのだけど、”恋人同士だけが知りうる、いつもの場所”という意味を込めている。

−−香りを想像できる香水名をつけるブランドもあるが、イニシャルやフレーズをボトルに記す打ち出し方をした理由は?

フイン:ほかのブランドと差をつけるユニークなアイデアで、副題から香りにまつわるラブストーリーを感じてもらえるよう、あえて含みを持たせた。また、”秘密の愛”がブランドストーリーの根底にあるので、全てのイニシャルにも秘密を感じるようにした。当時は通信方法が手紙しかなかったため、イニシャルでメッセージを送り合っていた。恋文の中に出てくるであろうフレーズを香りの副題に選んでいるのも、その発想だ。

−−全てに愛のテーマが含まれているか?例えば“C.G.”という香りは牧歌的で、あまり恋愛的な要素は感じないが?

フイン:“C.G.”の愛のテーマは、”tender love”つまり優しく思いやりのある愛な。朝露を思わせるような香りは、まさに早朝の散歩へのインビテーション。副題の「どこか他の場所へ行きたい」というメッセージは、誰かを思ってどこかへ行きたい愛が込められていて、菩提樹の花の優しい香りになっている。

−−1912年に発表した香り“ティユル(Tilleul)”は、調香師のオリヴィア・ジャコベッティ(Olivia Giacobetti)により2008年に再解釈され、現「ドルセーで」は ”どこか他の場所へ行きたい C.G.” として香りを現代的に作り変えている。

フイン:”ティユル”に関しては、ブランドを代表するアイコニックな香りだから、リブランディングしても残したいと思った。2008年に一度再解釈されているけれど、リブランディング後も引き続き、オリヴィア・ジャコベッティにバージョンアップしてもらった。当時と比べ、現在は使用できない香料を取り除き、”どこか他の場所へ行きたい C.G.”という香りに生まれ変わった。フランスでは、”ティユル”に馴染みのある世代の人もいて、70歳代の顧客に“どこか他の場所へ行きたい C.G.”をお求めいただくことがあるほど、「ドルセー」にとって大切な香りの1つだ

−−過去のドルセーの香りの中で ”Tilleul” 以外で人気のあった香り、例えば、”ル ダンディ(Le Dandy)”、”エチケット ブルー(Etiquette Bleue)”などは、現ドルセーでカムバックしているか?

フイン:”エチケット ブルー”は、現在の「ドルセー」では ”心を込めて L.B.”というタイトルになっている。オレンジブロッサムをミドルノートにたっぷり使用しネロリやアイリスが清潔感を与えているが、ラストノートはモスやアンブロクサン、ムスクの少しダーティーな雰囲気をまとっているのが、ドルセー伯爵とマルグリットの道ならぬ恋を彷彿させる。この香りは女性調香師に作ってほしいと思い、ファニー・バル(Fanny Bal)に依頼した。彼女の師匠は、著名な調香師ドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)だ。“ル ダンディ””は1925年の発売当時、 “ダンディな男性をゲットするならこの香りをまとおう”というテーマで女性向けの香りとして登場した。その後99年に発売した “ル ダンディ” は、男性向けにウイスキーやラム、イエローフルーツ、スパイスなどが使われている。現在は”ダンディ オア ノット G.A.” というタイトルで、シンプルでユニセックスな香りへと進化させた。どちらの“ル ダンディ”にも含まれていたパチュリやカルダモンも使用し、ジェンダー問わず使っていただけるダンディな香り”ができあがった。

−−リブランディング後、オリヴィア・ジャコベッティ以外で新たに起用した調香師はどう選んだ?

フイン:調香師には個性や得意な分野があるため、作りたい香りにマッチする人を選んでいる。例えば、“恋人同士 M.D.”はパロサントがメインの香りだが、旅好きで気さくなベルトラン・ドゥショフール(Bertrand Duchaufour)なら、愛と旅とパロサントを融合した香りを作れると考え依頼した。“ダンディ オア ノット G.A.”を作ったシドニー・ランセッサー(Sidonie Lancesseur)は、パチュリを扱う香りが得意な調香師。シンプルなショートフォーミュラで素晴らしい香りを作る。”心を込めて L.B.”を作ったファニー・バルは、砂糖とは違う甘い香りを作るのが得意で、甘いフローラルに生かされた。

−−2020年末、コロナ禍で世界的に厳しい状況の中、パリのサンジェルマン・デ・プレの旗艦店に続く2号店を青山にオープンした。

フイン:コロナ禍でのオープンはチャレンジングだったが、その先の未来への準備として覚悟を決めた。19年6月にフランスで旗艦店をオープンし、その年の後半には新型コロナウイルスの影響が出始めていた。ビジネスにはリスクがつきものだと覚悟していた。日本は個人的にも大好きで何度も来日していたので、日本とフランスで共通する美意識の高さや細部にわたるこだわり、モチベーションの高さ、センスの良さを共有できるのはとてもエキサイティングだ。

−−今後のビジネスの展望は?

フイン:これまでイギリスの有名百貨店ハロッズや、パリのギャラリー・ラファイエットのほか、5月には韓国のコンセプトショップの一部でコーナー展開がスタートし、現在世界19カ国で展開している。現在は、これまでより製造に時間やコストがかかる問題があるが積極的に販路を拡大していく。2年間で、独立店舗も含め全世界で120~140くらいの販売スポットを目指す。独立店舗として、すでにあるパリと東京以外に、ロンドン、ミラノなどにオープンできたら理想的だ。

−−フランスと日本で人気の香りに違いはあるか?

フイン:日本で圧倒的人気が “最高の自分 M.A.”。バイオレットやアイリス、ホワイトムスクを使った香りで、繊細に香るため日本人に支持されているのかもしれない。フランスで人気なのは “どこかほかの場所へ行きたい C.G.”。ブランドのシグネチャーフレグランスであり、オリヴィア・ジャコベッティ作という点が人気の理由。ベルトラン・ドゥショフールが手掛けた “恋人同士 M.D.”も好調。香水業界の専門家評価が高いのは、新作の ”あなたにイエスと言う V.H.”だ。”永遠の愛・無条件な愛” をテーマにした香りで、サフラン、ブラックペッパー、ローズ、ベンゾインなどを使った、スパイシーでウッディなノート。パンデミックで弱った人々も、パワフルさを感じていただける力強い存在感のある香りだ。日本ではこの秋に発売した。

■ドルセー青山本店
住所:東京都港区南青山3-18-7 1F
営業時間:12:00~20:00
電話番号:03-6804-6017


YUKIRIN
美容・香水ジャーナリスト
香水・香り関連商品と、ナチュラル&オーガニック美容分野に特化した記事を執筆。女性誌などのメディアで発信する。化粧品や香り製品のコンサルティングやイベントプロデュースなど幅広く活躍。「日本フレグランス大賞」エキスパート審査員、「イセタン フレグランス アワード2019」審査員などを務める

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生産者・ロースター・生活者をつなぐ 「ティピカ」が目指すコーヒーの循環コミュニティー

 コーヒー生豆のダイレクトトレードを行うオンラインプラットフォーム「ティピカ(TYPICA)」が注目を集めている。2019年に創業以降急成長を遂げ、現在32カ国2000以上の生産者と、日本や韓国、台湾、ヨーロッパなど39カ国3500以上のロースターがサービスを利用。生産者の経済基盤を守りながら、“透明性の高いサステナブルなコーヒー”の世界規模での流通を目指す。山田彩音「ティピカ」共同創業者が、コーヒーを通じて実現したい社会とは。

頑張っておいしく作ったものが
正当に評価される社会へ

WWDJAPAN(以下、WWD):「ティピカ」を立ち上げた経緯は?

山田彩音「ティピカ」共同創業者(以下、山田):大学卒業後にロースターとして働いていた頃、豆の品質から入れ方まで全工程にこだわる“サードウェーブコーヒー”が流行していた。でも日本では地理的な条件や取引量などを理由に、生産者と直接関係性を築くのが難しい現状を目の当たりにした。“〇〇さんが作ったコーヒー”として販売しつつも、ロースター側は実際には生産者のことを何も知らない。さらに、ダイレクトトレードは基本的に約18tの海上コンテナ単位で行われており、スタートアップのロースターが1カ月に消費できる生豆はせいぜい500kgのため、生産者から直接購入するには費用対効果が合わない。もっと気軽にダイレクトトレードできるプラットフォームを作りたいと、「ティピカ」を創業した。

WWD:オランダ・アムステルダムで創業した理由は?

山田:まずは、コーヒー生豆の主な原産地であるアフリカへのアクセスが良いこと。そして、グローバル展開を視野に入れていたので、コーヒーの流通量が多いヨーロッパで創業したかった。

WWD:海外と日本でコーヒーに対する価値観の違いは感じる?

山田:日本のロースターは職人かたぎで技術が高く、自身の手が届く小規模な範囲で、自分の世界観を表現している焙煎所が多い。コーヒー生豆を選ぶポイントも、品質にフォーカスしている傾向だ。一方で、ヨーロッパは事業の規模が大きくビジネス的。品質も重要だが、自分がそのコーヒー生豆を取り扱うことへのソーシャルインパクトを意識しているロースターが多い。背景にあるストーリーや生産者の考え方が好きという理由で選んでいるように見受けられる。

小規模生産者の品質と価値を守る

WWD:「ティピカ」は麻袋1袋(60kg)から生豆をダイレクトトレードできる。生産者へのメリットは?

山田:コーヒー生産量の67%は、小規模生産者によるものといわれている。小規模でこれまで輸出が難しく、地元のマーケットに安く売るしかなかった生産者もダイレクトトレードが可能になった。また、生産者は自ら価格を決定でき、ロースターは購入前に価格の内訳を確認できる。価格の透明性を確保しながら、誰にどの生豆が届いたかが分かる点が喜ばれている。

WWD:どのような生産者にオファーしている?

山田:高品質でおいしいことはもちろん、コーヒーを通じてサステナビリティや社会貢献を目指している生産者には、積極的にオファーしている。例えば、CO2排出量や水の使用量を抑えた、栽培方法を取り入れているなど。また、小規模農家は貧しく、子どもが学校に通えない家庭も多い。「ティピカ」の最初のキュレーターであるエチオピアのモプラコ社は、農園近くの学校に教科書や学用品を供給して、産地のコミュニティーに貢献している。

生産者と生活者をつなぐ取り組み


WWD:来年には世界各地のコーヒーが毎月届くサブスク「ティピカ クラブ」を立ち上げる。

山田:「ティピカ」はコーヒー焙煎業者だけでなく、一般生活者にもメッセージを発信している。生活者からも「コーヒー生産者に興味はあるが、彼らにどうアプローチしたらいいか分からない」という声が多く届くようになり、それなら今「ティピカ」に登録しているロースターとパートナーシップを結びながら、生産者の顔が見える旬のコーヒーが毎月届くサービスを作ろうと立ち上げた。

WWD:生産者にチップを送ることができるアイデアが斬新だ。

山田:「ティピカ」の目的は「おいしいコーヒーのサステナビリティを高めること」。そのために、生産者・ロースター・生活者が循環するコミュニティーとなってこれを実現できたらと考えた。チップがコーヒーの乾燥棚や、エチオピアの山奥の子どもたちの教科書のために使われ、直接インパクトを与えられる取り組みは業界としても新しい。

WWD:ほかにはどのような取り組みを?

山田:世界中のロースターが、コーヒー生産者を訪ねる様子を映像に収めたドキュメンタリー「ティピカ ラボ(TYPICA LAB)」や、日本の優れたロースターを紹介する「ティピカ ガイド(TYPICA GUIDE)」など。さらに、年明けにはコーヒー生産地にシェードツリーを植樹する「オカゲサマ(OKAGESAMA)」もスタートする。緑が増えることで地球温暖化防止につながるし、コーヒーチェリーを摘むピッカーを暑さから守ることもできる。ほかにも地盤が頑丈になり、水害からコーヒーの木を守ることができるなど、多くのメリットがある。これも、ロースターと生活者が一丸となったプロジェクトだ。

WWD:今後の目標は?

山田:来春ニューヨークでサービスをローンチする。マンハッタンの中心で、ダイレクトトレードされた新鮮な豆を適正価格で販売するシーンを作れば、「ティピカ」が次のウェーブを起こすきっかけになることができるかもしれない。また、高品質なものへの需要が高まり、超高額なコーヒーが取引され始めている中国にも進出予定だ。世界中に拠点を持って流通量を増やし、生産者に貢献し、頑張っておいしく作ったものが正当に評価される社会を目指したい。

高品質なコーヒーが毎月届き、
社会貢献もできる「ティピカ クラブ」

 「ティピカ クラブ」は、生産者の顔が見えるコーヒーが毎月届く、焙煎豆のサブスクリプションサービスだ。ダイレクトトレードによって輸入されたコーヒー生豆を日本各地のロースターが焙煎する。豆と粉は100〜1000gの4種類で価格は月額2400〜8000円、ドリップバッグは8、15、30袋で価格は月額1600〜4800円。会員は生産者にメッセージを送ったり、チップを払ったりすることも可能だ。チップは、コーヒーを通じたサステナビリティの取り組みに使用される。2023年1月31日まで会員を募集中で、4月始動予定。

問い合わせ先
ティピカ
https://typica.jp/contact/

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ソニーで心に火を灯しながら活躍する若手社員たちが語る「EverWonderなキャリア」とは?

 人々の心に火を灯す機会を提供することを目的に、クリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えた一般財団法人渡辺記念育成財団は、EverWonderプロジェクトを発足した。構想中のプロジェクトは、同財団が次世代の芸能プロデューサーを支援する「みらい塾」の奨励生が企画進行している。今回は、ソニーで事業開発を担当する第5期奨励生の中村祐介が中心となり、ソニーグループで活躍する若手社員たちと「会社員として自分のやりたいことを見つけ、心に火を灯す方法」についてディスカッションする。

中村祐介ソニー事業開発担当(以下、中村):今日は、みなさんと「会社員として自分のやりたいことを見つけ、心に火を灯す方法」について語りたいと思います。みなさんは、比較的自分の好きなことややりたいことを仕事で実現できている印象です。好きなことを仕事やキャリアに落とし込むにはどうしたらいいのか?そもそも好きなことが見つからない人はどうすればいいのか?を伺えたらと思います。まずはみなさんの好きなことと、仕事内容を教えてください。

對馬哲平ソニー モバイルコミュニケーションズ事業本部 wena事業室 統括課長(以下、對馬):私はスマートウオッチ「ウェナ(WENA)」の開発を担当しています。もともと電化製品に限らず、あらゆるプロダクトへの興味・関心が非常に強く、今の仕事に繋がったように思います。「このプロダクトは、どのような想いで作られたのか?」「どういう意図で、このような設計になったのか?」を自分なりに考えることは趣味にもなっています。「このプロダクトは、もっとこうするべきだ」という自分の仮説が他人に共感される瞬間はたまりません。実際にプロダクトの開発に携わり、今まで培ってきた自分の価値観がお客さまに評価されたときの嬉しさは、仕事のモチベーションになっています。

中村:對馬さんは、好きを仕事にできている方の典型的な事例ですね。私の場合は、中学生のときに観た「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に心を奪われて、映画が大好きになりました。アメリカの自由さや寛大さがとても印象的で、大学生のときには留学するなど、その後の人生に大きな影響を与えてくれました。人生に大きな影響を与える映画に携わりたいと思い、ソニー・ピクチャーズのあるソニーに入社したほどです。現在は、ソニー・ピクチャーズとの協業で、動画配信サービス「ブラビア コア(BRAVIA CORE)」を担当しています。

八木泉ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 事業開発部 サービス企画課(以下、八木):私はお二人のように何か好きなものがあるわけではありませんが、モノ作りを通してチームやお客さまと心が通う瞬間は日々の活力になっています。学生時代はオーケストラでマンドリンを演奏。チームで目標に向かって努力し、一つの音楽を作り上げること自体がとても好きでした。そういった経験が、チーム一丸となってプロダクトを開発する、今の仕事の楽しさややりがいにも繋がっていると思います。また、私も自分たちの商品が誰かのためになっていることを知ったときの喜びが仕事のモチベーションになっています。特に印象深いのは、周囲の音を拾いながら音楽を楽しめるヒアラブルデバイスの開発チームに配属されたとき、視覚障害を持っている方から「初めて、ウォークマン体験ができた」と喜びの声が聞けたことです。現在は、サウンド AR サービス「ロケトーン(LOCATONE)」のビジネスプロデューサーとして、ムーミンバレーパークでのサウンドアトラクション、サウンドエンタテインメント「ヨアソビ・サウンドウオーク(YOASOBI SOUND WALK)」などをプロデュースしています。

廣瀬太一ソニー・ミュージックレーベルズ 第1レーベルグループMASTERSIX FOUNDATION制作部兼MCR制作部 A&R(以下、廣瀬):みなさん好きなことに携わっているから、心に火が灯っているんですね。正直な話、自分の強みは心に火が灯っていなくても、割となんでも頑張れることなので、場違いかもしれません(笑)。逆に、一般的には感動するであろう体験をしても、全く心に火が灯らなかった話ならできます。自分は中学生のときに、音楽好きな同級生の兄の影響でなんとなく音楽を始めて、大学生のときには1500人くらいの観客の前で演奏する機会がありました。でも、全く感動せずに終わってしまって……。周りとの温度差を感じ、「このまま音楽を仕事にするのは辛い」と思い、就職を考えました。ソニーは「一生潰れないだろう」と思い、内定を受けたんです。現在は、A&Rというアーティストの売り出し方を統括するポジションで仕事をして、これまでにMAISONdesなどを輩出してきました。

中村:好きを仕事にするためには?

對馬:好きには段階があると思っています。僕の場合、はじめはなんとなくプロダクトが好きだったのが、そのうち自分でカスタマイズしたくなりました。さらに好きな気持ちが高まると、「プロダクトをもっとこうしたい」というアイデアが出てくるようになりました。その積み重ねがプロダクトに対する価値観の形成に繋がり、仕事にも生きるようになったんです。

中村:映画も似ているかもしれませんね。最初は純粋に好きだったけれど、次第に「自分だったら」という考えが芽生え、実際に作品を撮ってみるというプロセスだと思います。好きを追求するから仕事になる、という考え方もあるかもしれませんね。

廣瀬:僕は、ちょっと違うかなと思います。世間の風潮として「好きなことを仕事にする」がとても美化されていますが、これは“呪い”に近いように感じます。一方、「好きなことより、得意なことを仕事にした方がいい」という考えもありますが、人間にスペックの差なんてそこまでないと思うので、それも少し違うかなと思うんです。一番大事なのは、「人に喜んでもらえること」「ニーズのあること」を選ぶことかなと。自分の場合、ミュージシャンを諦めて今の仕事に就きましたが、ずっと一緒に音楽をやってきた人に初めてお願いした曲で日本一を取ることができました。自分の仕事が世の中から評価され、これまで反対していた周囲の反応が見事にひっくり返る瞬間には快感を覚えました。

中村:廣瀬さんのような発想で、ニーズがあるところで仕事を極めた結果、それがやりがいと気づくパターンもありますよね。

八木:私が漫画家の友達に好きなことを仕事にして結果を出していることを褒めると、その人は「自分はこれしかできないから、極めただけ」と答えました。その人が歩んできた人生で、考え方はだいぶ異なるんでしょうね。

廣瀬:アーティストの育成においても同じことが言えます。「どんなアーティストになりたいか?」と問うと、多くの人は「東京ドームのような大きな会場でライブをしたい」と答えますが、それは手段でしかないんです。「東京ドームでライブがしたい」と答える人の裏には、「とにかく人にチヤホヤされたい」って気持ちが隠れていることが多いです。これ自体は悪くないことですが、単純にチヤホヤされたいなら、他にも選択肢があるかもしれません。逆に自分の好きな曲を作り続けたいなら、レーベルに所属せず自己資本でやり続けた方がいいかもしれません。大事なのは、「どういう状態になりたいか?」を明確にした上で、そのために必要な正しい選択をするだと思います。

對馬:漫画を好きで描いていたのに、プロになると描くのが嫌いになってしまったという話はよく聞きますよね。

廣瀬:それもやはり、自分の理想の状態を見誤っていることが原因だと思うんですよね。自分が好きな漫画を描くことと、描いた漫画が評価されることは異なります。音楽も同じです。

八木:好きを仕事にすることが幸せな人もいれば、仕事は仕事で好きなことは趣味にする方が幸せな人もいますよね。

中村:みなさんは、会社に所属しながら自分が思うように好きを仕事にできている側の人たち、あるいは仕事の中でやりがいを見つけられた人たちです。一方、多くの人は好きなことを仕事にできているわけではなく、やりがいも見失っています。その人たちは、どうすればいいと思いますか?

對馬:好きなことを追求し続けたら、いつのまにか仕事にするために必要なスキルや考えが身についていることはあると思うんですよね。例えばGoProというカメラは、もともとサーフィンをしている自分の姿をかっこよく撮りたいという想いから生まれたものですから、当初はサーフィンに興味のない人には理解されませんでした。しかしスノボやサイクリングなど、同じような嗜好を持った人たちがたくさんいたからこそ、GoProは人気商品になったわけです。好きだからこそ生まれるアイデアがある。これは、好きなことを仕事にする上で必要かなと思います。

八木:本当に好きなことがある人は、既にそれを仕事にするための何かを得ていたり、何かしらアクションを起こせたりしていると思います。好きなことを仕事にしたいと悩んでいる人たちは、本当に自分が好きなことに出合えていないのかなと。まずは自分の理想の状態を考えたり、今の環境を変えて新しいことに触れてみたりすることが大事かなと思います。自分が本当にやりたいことや好きなことを再発見して、アクションに繋げられるかもしれません。

中村:デパ地下の試食みたいに、色々なキャリアをかいつまんで経験できる機会があればと思います。仮に自分に好きなことがあっても、その好きをキャリアに落とし込むには実際色々な仕事を経験してみないと。

八木:悩んでいる人がアクションを起こして、色々な仕事を経験できる環境を作ることは大事かもしれませんね。

中村:「好きなことを仕事にしたいのに」と焦っている人には、本当に好きなことが見つかっていないケースもあるのかもしれませんね。本当に好きなことを見つけるためにも、新しいものに触れられる機会が増えるといいですね。一方好きなことを仕事にすることが必ずしもいいわけではなく、むしろ自分がなりたい状態を思い描いて逆算して正しい選択を取ることも心に火を灯して生きるために必要な考え方かもしれません。みなさん、貴重なお話をありがとうございました。

PHOTOS:KAITO IWAKAMI

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ソニーで心に火を灯しながら活躍する若手社員たちが語る「EverWonderなキャリア」とは?

 人々の心に火を灯す機会を提供することを目的に、クリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えた一般財団法人渡辺記念育成財団は、EverWonderプロジェクトを発足した。構想中のプロジェクトは、同財団が次世代の芸能プロデューサーを支援する「みらい塾」の奨励生が企画進行している。今回は、ソニーで事業開発を担当する第5期奨励生の中村祐介が中心となり、ソニーグループで活躍する若手社員たちと「会社員として自分のやりたいことを見つけ、心に火を灯す方法」についてディスカッションする。

中村祐介ソニー事業開発担当(以下、中村):今日は、みなさんと「会社員として自分のやりたいことを見つけ、心に火を灯す方法」について語りたいと思います。みなさんは、比較的自分の好きなことややりたいことを仕事で実現できている印象です。好きなことを仕事やキャリアに落とし込むにはどうしたらいいのか?そもそも好きなことが見つからない人はどうすればいいのか?を伺えたらと思います。まずはみなさんの好きなことと、仕事内容を教えてください。

對馬哲平ソニー モバイルコミュニケーションズ事業本部 wena事業室 統括課長(以下、對馬):私はスマートウオッチ「ウェナ(WENA)」の開発を担当しています。もともと電化製品に限らず、あらゆるプロダクトへの興味・関心が非常に強く、今の仕事に繋がったように思います。「このプロダクトは、どのような想いで作られたのか?」「どういう意図で、このような設計になったのか?」を自分なりに考えることは趣味にもなっています。「このプロダクトは、もっとこうするべきだ」という自分の仮説が他人に共感される瞬間はたまりません。実際にプロダクトの開発に携わり、今まで培ってきた自分の価値観がお客さまに評価されたときの嬉しさは、仕事のモチベーションになっています。

中村:對馬さんは、好きを仕事にできている方の典型的な事例ですね。私の場合は、中学生のときに観た「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に心を奪われて、映画が大好きになりました。アメリカの自由さや寛大さがとても印象的で、大学生のときには留学するなど、その後の人生に大きな影響を与えてくれました。人生に大きな影響を与える映画に携わりたいと思い、ソニー・ピクチャーズのあるソニーに入社したほどです。現在は、ソニー・ピクチャーズとの協業で、動画配信サービス「ブラビア コア(BRAVIA CORE)」を担当しています。

八木泉ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 事業開発部 サービス企画課(以下、八木):私はお二人のように何か好きなものがあるわけではありませんが、モノ作りを通してチームやお客さまと心が通う瞬間は日々の活力になっています。学生時代はオーケストラでマンドリンを演奏。チームで目標に向かって努力し、一つの音楽を作り上げること自体がとても好きでした。そういった経験が、チーム一丸となってプロダクトを開発する、今の仕事の楽しさややりがいにも繋がっていると思います。また、私も自分たちの商品が誰かのためになっていることを知ったときの喜びが仕事のモチベーションになっています。特に印象深いのは、周囲の音を拾いながら音楽を楽しめるヒアラブルデバイスの開発チームに配属されたとき、視覚障害を持っている方から「初めて、ウォークマン体験ができた」と喜びの声が聞けたことです。現在は、サウンド AR サービス「ロケトーン(LOCATONE)」のビジネスプロデューサーとして、ムーミンバレーパークでのサウンドアトラクション、サウンドエンタテインメント「ヨアソビ・サウンドウオーク(YOASOBI SOUND WALK)」などをプロデュースしています。

廣瀬太一ソニー・ミュージックレーベルズ 第1レーベルグループMASTERSIX FOUNDATION制作部兼MCR制作部 A&R(以下、廣瀬):みなさん好きなことに携わっているから、心に火が灯っているんですね。正直な話、自分の強みは心に火が灯っていなくても、割となんでも頑張れることなので、場違いかもしれません(笑)。逆に、一般的には感動するであろう体験をしても、全く心に火が灯らなかった話ならできます。自分は中学生のときに、音楽好きな同級生の兄の影響でなんとなく音楽を始めて、大学生のときには1500人くらいの観客の前で演奏する機会がありました。でも、全く感動せずに終わってしまって……。周りとの温度差を感じ、「このまま音楽を仕事にするのは辛い」と思い、就職を考えました。ソニーは「一生潰れないだろう」と思い、内定を受けたんです。現在は、A&Rというアーティストの売り出し方を統括するポジションで仕事をして、これまでにMAISONdesなどを輩出してきました。

中村:好きを仕事にするためには?

對馬:好きには段階があると思っています。僕の場合、はじめはなんとなくプロダクトが好きだったのが、そのうち自分でカスタマイズしたくなりました。さらに好きな気持ちが高まると、「プロダクトをもっとこうしたい」というアイデアが出てくるようになりました。その積み重ねがプロダクトに対する価値観の形成に繋がり、仕事にも生きるようになったんです。

中村:映画も似ているかもしれませんね。最初は純粋に好きだったけれど、次第に「自分だったら」という考えが芽生え、実際に作品を撮ってみるというプロセスだと思います。好きを追求するから仕事になる、という考え方もあるかもしれませんね。

廣瀬:僕は、ちょっと違うかなと思います。世間の風潮として「好きなことを仕事にする」がとても美化されていますが、これは“呪い”に近いように感じます。一方、「好きなことより、得意なことを仕事にした方がいい」という考えもありますが、人間にスペックの差なんてそこまでないと思うので、それも少し違うかなと思うんです。一番大事なのは、「人に喜んでもらえること」「ニーズのあること」を選ぶことかなと。自分の場合、ミュージシャンを諦めて今の仕事に就きましたが、ずっと一緒に音楽をやってきた人に初めてお願いした曲で日本一を取ることができました。自分の仕事が世の中から評価され、これまで反対していた周囲の反応が見事にひっくり返る瞬間には快感を覚えました。

中村:廣瀬さんのような発想で、ニーズがあるところで仕事を極めた結果、それがやりがいと気づくパターンもありますよね。

八木:私が漫画家の友達に好きなことを仕事にして結果を出していることを褒めると、その人は「自分はこれしかできないから、極めただけ」と答えました。その人が歩んできた人生で、考え方はだいぶ異なるんでしょうね。

廣瀬:アーティストの育成においても同じことが言えます。「どんなアーティストになりたいか?」と問うと、多くの人は「東京ドームのような大きな会場でライブをしたい」と答えますが、それは手段でしかないんです。「東京ドームでライブがしたい」と答える人の裏には、「とにかく人にチヤホヤされたい」って気持ちが隠れていることが多いです。これ自体は悪くないことですが、単純にチヤホヤされたいなら、他にも選択肢があるかもしれません。逆に自分の好きな曲を作り続けたいなら、レーベルに所属せず自己資本でやり続けた方がいいかもしれません。大事なのは、「どういう状態になりたいか?」を明確にした上で、そのために必要な正しい選択をするだと思います。

對馬:漫画を好きで描いていたのに、プロになると描くのが嫌いになってしまったという話はよく聞きますよね。

廣瀬:それもやはり、自分の理想の状態を見誤っていることが原因だと思うんですよね。自分が好きな漫画を描くことと、描いた漫画が評価されることは異なります。音楽も同じです。

八木:好きを仕事にすることが幸せな人もいれば、仕事は仕事で好きなことは趣味にする方が幸せな人もいますよね。

中村:みなさんは、会社に所属しながら自分が思うように好きを仕事にできている側の人たち、あるいは仕事の中でやりがいを見つけられた人たちです。一方、多くの人は好きなことを仕事にできているわけではなく、やりがいも見失っています。その人たちは、どうすればいいと思いますか?

對馬:好きなことを追求し続けたら、いつのまにか仕事にするために必要なスキルや考えが身についていることはあると思うんですよね。例えばGoProというカメラは、もともとサーフィンをしている自分の姿をかっこよく撮りたいという想いから生まれたものですから、当初はサーフィンに興味のない人には理解されませんでした。しかしスノボやサイクリングなど、同じような嗜好を持った人たちがたくさんいたからこそ、GoProは人気商品になったわけです。好きだからこそ生まれるアイデアがある。これは、好きなことを仕事にする上で必要かなと思います。

八木:本当に好きなことがある人は、既にそれを仕事にするための何かを得ていたり、何かしらアクションを起こせたりしていると思います。好きなことを仕事にしたいと悩んでいる人たちは、本当に自分が好きなことに出合えていないのかなと。まずは自分の理想の状態を考えたり、今の環境を変えて新しいことに触れてみたりすることが大事かなと思います。自分が本当にやりたいことや好きなことを再発見して、アクションに繋げられるかもしれません。

中村:デパ地下の試食みたいに、色々なキャリアをかいつまんで経験できる機会があればと思います。仮に自分に好きなことがあっても、その好きをキャリアに落とし込むには実際色々な仕事を経験してみないと。

八木:悩んでいる人がアクションを起こして、色々な仕事を経験できる環境を作ることは大事かもしれませんね。

中村:「好きなことを仕事にしたいのに」と焦っている人には、本当に好きなことが見つかっていないケースもあるのかもしれませんね。本当に好きなことを見つけるためにも、新しいものに触れられる機会が増えるといいですね。一方好きなことを仕事にすることが必ずしもいいわけではなく、むしろ自分がなりたい状態を思い描いて逆算して正しい選択を取ることも心に火を灯して生きるために必要な考え方かもしれません。みなさん、貴重なお話をありがとうございました。

PHOTOS:KAITO IWAKAMI

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「ベドウィン」とコラボも ロサンゼルス発のサステナブルスニーカー「クレイ」のこだわりのモノづくり

 ロサンゼルス発のシューズブランド「クレイ(CLAE)」は、快適な履き心地と洗練されたビジュアルで認知を拡大中だ。リサイクル素材やビーガンレザーを使用し、再生可能エネルギーのみで工場を操業するなど、サステナビリティへの配慮が前提となったものづくりを実施する。その取り組みが共感を呼び、フランスのジュエリーブランドが販売員のユニフォームとして「クレイ」のシューズ採用したケースも。日本では2022現在、百貨店やオンラインなどで約30店舗を展開する。「コロナ禍以前から業績の年間成長率は20〜30%を維持している」と語る「クレイ」を率いるジェローム・トゥイリエ(Jerome Thuillier)=ブランド・グローバル・ディレクターにブランドが伝えたいメッセージやものづくりのこだわりなどを聞いた。

ブランドのコアバリューの
更なる強化を進める

WWD:ブランドのDNAは?

ジェローム・トゥイリエ=ブランド・グローバル・ディレクター(以下、トゥイリエ):「クレイ」は2001年にロサンゼルスで生まれたブランド。履き心地が良く、清潔感があり、洗練された素材を使ったスニーカーが、クラシックシューズとスポーツスニーカーの中間的ポジションとして人気を集めた。特にスケーター界隈では、スケート後にそのまま出かけられる、“アフタースケート”のシューズとして注目を浴びた。色使いや形、ロゴの使い方などがシンプルな見た目で、スニーカーとしては挑戦的なデザインだったと思うが、そのミニマルなところが愛される一因だろう。良い“テイスト”を持ったお客さまに支持されてここまできた。

WWD:ブランド・グローバル・ディレクターとしてどこまでブランドを統括する?

トゥイリエ:スケート業界に何年もいたので、「クレイ」というブランド自体は、ユーザーとして初期のころから気になっていた。正式に現職に就いたのは15年だが、数年前からコンタクトは取っていた。ヨーロッパに拠点を設け、マーケティングを担当するオフィスを作るというアイデアを掲げてディレクターに。フランスとロサンゼルスをつなげながら、デザインなども見ている。「DCシューズ(DC SHOES)」や「ヴェジャ(VEJA)」で得た経験は市場の理解に役立ち、今日に生きているだろう。最高の“カクテル”を作るためのレシピを作っている気分だ。

生産エネルギーや使用素材にこだわり
環境問題に対する確かな理念

WWD:「クレイ」のサステナビリティへの取り組みはどのようなものがある?

トゥイリエ:立ち上げ当初はオーガニック・コットンなどの素材を取り入れつつ、常にビーガン素材を使ったスニーカーをそろえていた。15年に入社したとき、製品の素材調達から改善したいと考えた。まずはビーガン素材の取り入れを増やし、そのほかの合成樹脂(プラスチックやポリ塩化ビニール)で作られていたパーツは全て、プラスチックごみのリサイクル素材などに変更している。これまでリサイクル素材で作られていなかったシューズの設計を見直している。メイン商材のレザーシューズはレザー・ワーキング・グループ認証のレザーを使用。ベトナムに拠点を置くパートナーは再生可能エネルギーのみで運転しながらレザーを生産している。太陽光や風力発電で生まれたエネルギーを使用し、生産に使用する水は工場内で循環させる。時間をかけて改善してきたところだ。早い段階からさまざまな素材の仕様に乗り出していたので、多くの試行錯誤がある。われわれがまずは道をかき分け、多くの人がその道に続くよう整えるのが使命だと思っている。

WWD:スニーカーはどのくらいの割合でリサイクル素材を使用している?

トゥイリエ:スニーカー単位では、完成品の数値を示すのは難しい。インソールは100%リサイクル素材を使用しているが、他の部分は22年現在、50〜70%となっている。ほぼ全ての製品に異なる割合でリサイクル素材を用いている。動物性レザーの丈夫さも理解して使用しているが、ビーガンレザーを使ったスニーカーは10%程度だったものが22年現在は50%を超えている。

WWD:ビーガンレザーへの完璧な置き換えを目指す?

トゥイリエ:動物性レザーは耐久性に優れていることは間違いない。ただそこだけにフォーカスすると動物の福祉などが考慮されなくなってしまう。現段階では、バランスを見つけることが鍵だと思う「クレイ」は動物性レザーの代替となる植物由来の素材を積極的に取り入れており、レザーの質感や見た目の美しさには自信がある。

WWD:サステナビリティのゴールは?

トゥイリエ:5年前、私の目標は現在とは大きく異なっていた。今までやってきたことをすごく誇りに思っている。これからの目標は、100%リサイクル素材を使ったスニーカーを、生産コストを抑えて作ること。材料がリサイクルされていたとしても生産にエネルギーを使うので、完璧とは言えない。いつか、中古でシューズが出回る代わりに、スニーカーを庭に植えるとそこから植物が生えるようになるかもしれない。そんな未来を信じている。

「クレイ」のストーリーを
日本のフットウエアファンに

WWD:ブランドのメイン市場は?

トゥイリエ:フランスやイギリス、ドイツを中心とする西ヨーロッパ。“ロサンゼルスらしさ”がヨーロッパやアジアで良い反応を生んでいると実感する。ロサンゼルスといえばサーフィンや西海岸の雰囲気をイメージする人が多いと思うが、実際はかなり複雑な都市だ。海岸を外れると、周りはより広い自然に囲まれていて、砂漠もある。セレブリティーも多く暮らし、多くの産業が生まれている。とてもユニークなエリアだ。

WWD:日本ではリーガルコーポレーションが販売しているが、日本市場は今どのフェーズにあると思う?

トゥイリエ:まだまだ初期段階だ。シンプルなもの作りというのは、実際すごく難しいことで、最高の品質と快適さを追求しなければ成立しない。だから、時間をかけて、そのストーリーを伝えていきたいと思っている。だからこそ「ベドウィン & ザ ハートブレイカーズ(BEDWIN & THE HEARTBREAKERS)」(以下、ベドウィン)とコラボレーションもした。

コラボを通して
多面的な魅力を創造

WWD:これまで「アニエスベー(AGNES B.)」などともコラボをしてきた。11月19日に発売した「ベドウィン」とのコラボレーションアイテムのこだわりは?

トゥイリエ:コラボレーションをしたアイテムは一生残るので、コラボ相手はブランドや調達方法、パッションなど、細かいところまで見て決定している。「ベドウィン」を立ち上げ、ディレクションする渡辺真史とはコラボについてだけでなく、スケートボードや旅行、ロサンゼルスについてなど、同じバックボーンを共有するから生まれるニッチな対話ができた。話すうちに、どのように「ベドウィン」のビジョンと、「クレイ」の環境問題への理念を融合できるかを考えていった。コラボスニーカーには「ベドウィン」のアパレル製作時の残布を使って、パッチワーク風にアレンジしている。

WWD:フランスではポップアップも開催している。日本での出店計画は?

トゥイリエ:フランスの百貨店ル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)でのポップアップは売れ行きも良く、好調だ。ブランドのストーリーや背景をじっくりお客さまとコミュニケーションできる良い機会となった。来店して初めてブランドについて知った人、ロサンゼルスから観光で来ていたフランスで「クレイ」に出合った人など、さまざまな来店客とつながれた。日本でももっとブランドについて伝えていきたい。

問い合わせ先
リーガルコーポレーション
047-304-7261

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フランス発フレグランス「メゾン クリヴェリ」 創始者が自らワークショップで伝える誰も体験したことのない香り

 フランス発フレグランス「メゾン クリヴェリ(MAISON CRIVELLI以下、クリヴェリ)」は、12月28日〜2023年1月31日、伊勢丹新宿本店2階でポップアップイベントを開催する。同ブランドは、創始者のティボー・クリヴェリ(Thibaut Crivelli)の実体験を投影した香水を提供。香りをはじめ、色、テクスチャーを織り交ぜて共鳴させることで、コントラストの効いたフレグランスを生み出している。体験したことのない香を届けるのが「クリヴェリ」だ。イベント会場でフレグランスを税込3万4650円以上購入するとブランドのアイコニックな香り“イビスキュス マハジャ エキストレ ド パルファム”のミニサイズ(5mL)のプレゼントがある(数量限定)。また、“イビスキュス マハラジャ エキスト レ ド パルファム”(50mL)、または、各オードパルファム(100mL)を購入した先着10人に、クリヴェリのサイン入りグリーティングカードが提供される。

 「クリヴェリ」は10月、伊勢丹新宿本店で開催された香水の祭典「サロン ド パルファン」で日本に初上陸した。「サロン ド パルファン」のイベント期間中には完売品が出るほど反響があったという。イベントのために来日したクリヴェリ創業者にメゾンの哲学や香りについて聞いた。

WWD:来日の目的は?

ティボー・クリヴェリ=メゾン クリヴェリ創始者(以下、クリヴェリ):個人的に日本は大好きだ。イベントのための来日だが、友人にも会えてよかった。

WWD:フレグランスブランドを立ち上げようと思ったきっかけは?

クリヴェリ:温泉で有名なフランスのラ・ロッシュ=ポゼはコスメ産業が盛んで、薬学を学んだ父親がコスメの会社を立ち上げた。その影響もあるし、自然に香りとの出合いと結びついている。

WWD:ブランド哲学は?

クリヴェリ:一度も体験したことのない香りを届けること。私の個人的な体験を生かした香水を作りたいと思った。原材料との出合いをはじめ、驚いたことや意外な体験、冒険など。調香師には、それらの体験を独創的でコントラストを浮き上がらせるような香りになるように説明し、五感を研ぎ澄ませた体験を香りで表現している。ボトルは、ピュアでシンプル、香水自体も無色透明だ。

WWD:他のニッチフレグランスとの違いは?

クリヴェリ:1つ1つ個性的な香りで似たようなものはない。クリエイションプロセスが違う。われわれの出発点は五感や驚きだ。それを調香師にムードボードや写真、音などを交えて体感してもらい、抽象的ではなく、衝撃の瞬間を分かち合えるような香りを制作。私が実際体験したことに独自の解釈を加えて表現している。

WWD:調香と生産はどこで行っているか?

クリヴェリ:原料はグラースから調達、調香はパリで調香師と2人三脚で行う。パリの北の工場で生産する。

WWD:現在何カ国で販売しているか?トップ3の市場は?

クリヴェリ:37カ国のエクスクルーシブなチャネルで販売している。国によっては1店舗だけで販売している所も。好調な市場は、フランス、イギリス、アメリカ、中東など。日本も好調な市場になってほしいと期待している。

WWD :「メゾン クリヴェリ」を消費者に手に取ってもらうためには?

クリヴェリ:まず、他のフレグランスと違うということが大切。また、消費者と近い関係を築けるかが重要だ。だから、店頭の販売スタッフは大切。ブランドの哲学などを伝える役目があるから。SNSも活用している。大変だが、消費者と近い関係を築くために、自分で返答するなど、直接交流することを心がけている。先週、3年前のワークショップに参加した顧客からメールがあった。複数購入したいというものだったが、ワークショップを豊かな体験として覚えていてくれたからだと思う。

 そのような顧客との誠実な関係性が重要だ。

WWD:日本における戦略は?

クリヴェリ:「サロン ド パルファム」では好評だった。ブルーベル・ジャパンというすばらしいパートナーと出合えたので、少しずつ焦らずに、適切なルートで販売していくつもりだ。

WWD:フレグランス業界におけるサステナビリティの現状は?

クリヴェリ:われわれは着色料を使わないし、ヴィーガンの原料を使用したフレグランスもある。また、3点香水が売れるたびに自然保護団体へ寄付している。それらはパチュリの農家をはじめ、香料の農家の支援に使われている。

WWD:あなたにとって香りとは?

クリヴェリ:香り=喜びの瞬間。自分の内面やスタイル、個性のシグニチャーでもある。私が調香師と話すときに、いつも言うのが、“香りが微笑みを与えるものであってほしい”ということ。大きな感動や体験を思い出したり、心地よい気分になったりするものであってほしい。コロナ禍では、香りがより大切なものになっている。日々の生活の中でリラックスしたり、セラピー効果を持つものだと思う。

【メゾン クリヴェリ ポップアップイベント】

会期:2022年12月28日(水)〜23年1月31日(火)
会場:伊勢丹新宿本店2階プロモーション
※フレグランスを税込3万4650円以上購入すると “イビスキュス マハジャ エキストレ ド パルファム”のミニサイズ(5mL)のプレゼントがある(数量限定)。また、“イビスキュス マハラジャ エキスト レ ド パルファム”(50mL)、または、各オードパルファム(100mL)を購入した先着10人に、ティボー・クリヴェリのサイン入りグリーティングカードを提供

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ロンハーマンがワイキキに新店 ストーリーが生まれる“ライフスタイルショップ”を世界へ

 ロンハーマンは来春、ハワイ州オアフ島のワイキキビーチ沿いに新店舗を開く。アメリカ本国ではメルローズ本店、ブレントウッド、マリブの3店舗を運営するが、サザビーリーグが商標・事業を譲受してからは初の海外出店となる。

 同店はワイキキのメインストリートであるカラカウア通りに面したワイキキ最古のホテル「モアナ サーフライダー ウェスティン リゾート&スパ」の敷地内に位置し、店舗面積は約297平方メートル。店内は白を基調とした開放的な空間で、メンズとウィメンズのアパレルやファインジュエリー、雑貨などを取り扱う。海をキーワードに、サーフボードの廃材や海岸沿いで拾った貝などを用いたグリーンアートも配置し、ブランドの世界観を演出する。サザビーリーグの三根弘毅取締役上級執行役員兼リトルリーグカンパニー•プレジデントに出店の狙いや実店舗の意義を聞いた。

WWD:出店の狙いは?

三根弘毅サザビーリーグ取締役上級執行役員兼リトルリーグカンパニー・プレジデント(以下、三根):いつも自分が出張に行きたいところや“気”のいいところに出店している。もともとハワイは、2015年頃から物件を探していたが、家賃が高くて手が出せなかった。カラカウア通りは、パリのシャンゼリゼ通りよりも人通りが多く、カップルから子ども連れの家族までが集まり朝から夜遅くまで賑わっているような場所だ。僕自身もよくサーフィンをしに行ったり、子どもと旅行したりする。こんなところに店を構えられたらいいなとずっと思っていた。海から100メートルもないような場所で、デザイナーズのウエアやアクセサリーに出合える意外性も面白い。家族がディナーをした後の帰りに寄って、ワンピースを買ってくれるような店になったらうれしい。気持ちの良い場所に出したかったというのが大きな理由だが、戦略的な部分では、世界中の人々が集まるこの場所に店を構えることで、ロンハーマンの知名度向上にもつなげたい。

WWD:今の時代における実店舗の役割をどう考える?

三根:僕たちは、服やアクセサリーを売っているだけではなく、体験を提供している。ストーリーが生まれる場であることが店舗の意義だと思う。ロンハーマンとしては今後よほど面白い場所がない限り、出店しない。例えば船でしか行けない場所とか干潮の時にしか行けない場所とか。とにかく、不便なところがいい。今の時代モノが欲しければECでクリックすれば次の日には手に入る。でもそれはロマンチックではない。僕は昔おもちゃ屋に行って、たくさんの商品の中から何日もかけて悩んで選んだ記憶がある。そういうストーリーがあると、モノを大事にする。ハワイの店も「2人で飛行機で行ったね。ロンハーマンでジュエリー買った日から10年だね」みたいなストーリーが生まれる場所。儲かることだけを狙って出店しても、目指す方向性から離れてしまう。自分たちが行きたい土地や僕たちのビジネスが求められているかどうかで出店場所は選んでいく。

ロンハーマン的“ライフスタイルショップ”とは?

WWD:業績はコロナ禍でも好調と聞く。

三根:絶好調だ。むしろコロナの最中が、1番業績が良かったくらい。SDGsの観点から売り上げを伸ばすよりも絶対に在庫を廃棄しないと考え方を変えたことで、利益が前より残るようになった。すごくいい勉強になったと思う。今も売り上げをどう取るかよりも、何をどう売るか、ロンハーマンがどうあるべきかをみんなで考え動いている。

WWD:ロンハーマンは国内アパレルのなかでも、いち早くサステナビリティに取り組んだ企業だった。

三根:究極はビジネスをやめた方が、地球のためになる。でも、僕たちがやめても洋服屋は残る。であれば、自分たちがアクションを起こすことで業界に少しでも刺激を与えたいと思った。事業を始めた当初から「一生着られる服を提供しよう」と言い続けてきたが、利益を出すために作り過ぎてしまうこともあったので、そこを見直した。加えて「強く、優しくあること」は以前からずっとテーマだった。僕は採用面接で「電車でちゃんと席譲っていますか?」と聞く。社会や身の回りに感謝し配慮できる心根の良い人たちにチームに入ってほしいから。結果的に今一人一人が、サステナビリティを当たり前のこととして捉え、新しい取り組みを自発的に考えてくれている。

WWD:ロンハーマンは“ライフスタイルショップ”の先駆けだが、これからの時代もその提案は顧客に響く?

三根:“ライフスタイルショップ”の定義は、単純に洋服と雑貨とアクセサリーを一緒に売る店ではない。店に足を踏み入れてから退店するまでに「明日も頑張ろうかな」と気持ちが変わるきっかけをくれるのが、“ライフスタイルショップ”だと僕は思う。お客さんをそう言う気持ちにさせたかどうかだから、それに飽きはこないだろう。ロンハーマンカフェのスタッフは、僕が驚くぐらいお客さんをもてなす。この前もお客さんが足をひきずっていることに気付いたスタッフが、絆創膏を差し出して感謝状をいただいた。しかも、スタッフは何人にも同じようにおもてなしをしているから、感謝状が届いてもどの人からかわからないくらいだ。お客さんからは、スタッフの接客がいいから過ごし易いと言ってもらえる。ハワイもそう言う店になってほしい。親が試着している間に、子どもはスタッフと自由に遊んでいるような空間を目指したい。

■ロンハーマンワイキキ店
オープン日:来春予定
時間:8:30〜22:00
定休日:無休
住所:Moana Surfrider Hotel, A Westin Resort & Spa, Waikiki Beach 2365 Kalakaua Ave.Tower Wing Shop #1 Honolulu, HI 96815

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「ヴァレクストラ」2023年春夏はミラノのクリエイティブに原点帰り CEOが語る信念、工学美

 ミラノ発のラグジュアリーレザーグッズブランド、「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」。ブランドの原点であるミラノのクリエイティブが集結するエリア、ノーロ地区にインスパイアされたバッグ“ノーロ(NOLO)”や、Z世代にも人気のアクセサリーケースなど、タイムレスな美しさはそのままに、変わりゆく生活習慣にもマッチするアイテムを手掛けている。グザヴィエ・ルジュー(Xavier Rougeaux)最高経営責任者(CEO)は2021年2月に新たにCEOに就任。PR出身だからこそストーリーテリングを自身の持ち味とする同氏が、情緒的にブランドの未来について語った。

WWD:2022年現在、「ヴァレクストラ」はどのような時期にある?

グザヴィエ・ルジューCEO(以下、ルジューCEO):ブランドには本のようにいくつかの章があり、物語がある。一つのチャプターは年単位かもしれないし、月単位かもしれない。今世の中はパンデミックの反動で、再びつながりを求め、外に出るムードが高まっている。われわれも新しく生まれる願望やニーズを汲み取っているところだ。

WWD:23年春夏コレクションでは改めてエンジニアリング・ビューティ(工学的な美)を打ち出した。

ルジューCEO:エンジニアリング・ビューティはブランドのレガシーであり、基本的なDNAだ。創業者から根付く価値観で、曲線美やシルエットを建築のように表現してきたブランドらしさを体現する。留め具一つをとっても、全てがバッグのためにデザインされていて、ピッタリとはまる。バッグのサイドには肩掛け用のストラップが付けられるようあらかじめデザインされているなど、美しさと機能性がモノ作りの基本だ。

WWD:新コレクションで注力していることは?

ルジュー CEO:改めて、商品にフォーカスしている。機能性が高く、用途が明確で、新しいライフスタイルになじむデザインを取り入れる。アイコンバッグ“ノーロ”は、新サイズのスモールと新たなカラーで登場する。クロスボディバッグなので、日々活発に動く女性の生活に寄り添う。バッグを「手に持たねば」という価値観や行動範囲の制限から解放する、エフォートレスなアティチュードが魅力のバッグだ。

WWD:日本の消費者に伝えたいブランドの魅力は?

ルジューCEO:日本で生活をする消費者は、ディテールまで細かく物の本質を見る傾向がある。「ヴァレクストラ」 のバッグはロゴも表に出ていないし、ミニマルでシンプルなバッグ。それを魅力的に仕上げるには、実は一番クラフトマンシップが鍵を握る。品質に自信があるからこそ、使い勝手や機能性を細かく見る日本の消費者に共感してもらえるだろう。

WWD:日本市場に期待することは?

ルジューCEO:「ヴァレクストラ」にとって日本市場はキーマーケット。地域というより、日本人が重要な存在だ。日本で生活するお客様は例えば、旅行の際に欧米でわれわれのバッグを求めることも多い。だからこそ、どこにいてもあらゆるお客様に満足してもらえる商品をそろえていることが重要だ。旅行がプライベートか仕事かにかかわらず、ワクワクしながらショッピングをしてほしい。

WWD:デジタル化にも力を入れているというが、22年現在のECの利用者数は?

ルジューCEO:就任してからオンライン上でのシームレスな体験の構築に努めてきた。ECは劇的に成長した分野だ。オンライン上でアイテムを探して配達するまでのショッピング体験に加えて、ウェブでブランドのストーリーを伝えていく方法も開拓してきた。オンラインでも店舗でも客足は伸びている。オンラインでも「モノだけでなく、体験を売っているのだ」という初心を胸に、洗練されたサービスを提供していきたい。

WWD:30万円代のバッグといったラグジュアリーアイテムもオンラインで買うことに抵抗がない消費者が多い?

ルジューCEO:オンラインで買う人にもさまざまなパーソナリティーを持ったお客様がいると考えている。リラックスした環境で製品の情報を細かく分析しながら、一人で買い物をするのが心地いいお客様もいるだろう。一方で、オンラインやソーシャルメディア上でセレブリティーやインフルエンサーを通してブランドをはじめて知り、店舗で触ってみてから購入するタイプもいるだろう。

 また、「ヴァレクストラ」でものを買うということは、必ずしも価格の高いものを買うこととイコールではない。長く使えるカードケースなどは、比較的手に取りやすい価格設定(約4〜8万円)。シンプルで飽きにくいデザインなので、自己投資にもってこいだ。確かにフルサイズのトラベルバッグを買うと、それは別のレベルの“投資”にはなるが、多くの人に開けているブランドであるように意識しているし、製品のラインナップもその精神を反映している。店舗ではどんな製品を買うお客様も平等に接するよう徹底しており、誇りに思う。

WWD:世界的なインフレの影響は?

ルジューCEO:生産パートナーらとは長きにわたって協業をしてきたが、これからもお互いが平等でウィンウィンな関係を築くためにより慎重なコミュニケーションや交渉が必要な時期だ。原材料のコストは確かに上昇している。今は慎重に検討している段階だが、価格を上げるほかない状況になってしまったら、それも選択肢に入れていく。

WWD:経済状況悪化のインパクトは、若い世代により重くのしかかっているのではないだろうか。この世代にはどのようにコミュニケーションをとっていく予定?

ルジューCEO:そうは思わない。ラグジュアリーアイテムを買えるかどうかは年齢によるものではなく、どのようなライフスタイルを選び、生活のどこに重きをおくか次第だと思う。電子機器は価格設定も高いが、若い世代を含む特定のライフスタイルを好む人は購入を惜しまない。お客様にとって替えのきかない、または“譲れない”存在であり続けることが鍵だと思う。そういう意味では、世代ごとに異なるアプローチが必要になってくるだろう。「ヴァレクストラ」のより小さいサイズのアイテムは若い世代から高い人気を集めている。例えば首から下げたりバッグに装着したりして使えるストラップ付きのサングラスケースやエアポッズケース、カードケースなどは若い世代にささって売れ筋商品となった。人々の生活様式を理解することで、広い世代から支持を集めていけるはずだ。

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「パックは毎日、朝晩欠かさず!」ドラマ「#カリスマ壱子」を手掛けるMEGUMIが本気でセレクトした美容アイテムは?

 女優MEGUMIが、企画、プロデュースを手掛け、出演もする、現在放映中のドラマ『完全に詰んだ壱子はもうカリスマになるしかないの(テレビ東京)』が、いよいよ昨日、最終回を迎えた。

 作中では、自他共に認める美容マニアとして知られるMEGUMIが実際に愛用しているスキンケアアイテムやクリニックなどが多数登場し注目を集めた。今回はドラマ制作の背景から裏話、そしてMEGUMIが特におすすめする美容アイテムを紹介する。

 深川麻衣演じる完全に詰んだアナウンサー・有加里壱子が、MEGUMI演じるカリスマ社長・不美のサポートにより自己肯定感を取り戻していく全8話のストーリーで、キャストには野村周平やラランドのサーヤ、ゆうたろうらがラインアップ。さらに元谷芙美子アパホテル社長や「エステプロ・ラボ」インストラクター近藤寛子、村津大地むらつ歯科クリニック理事長など、ビューティ業界を中心にさまざまな業界のトップが出演した。

「日本人女性は世界で一番自己肯定感が低い、ということを知って」

WWDJAPAN(以下、WWD):本作を制作するきっかけは?

MEGUMI:以前私が出演したニュース番組でたまたま、世界中で日本人女性の自己肯定感が最下位だということを知り、今回の作品づくりのきっかけになりました。女性の人たちにもっと自信を持って、やりたいことや言いたいことを解放してほしい。そこから社会から抹殺されるほど詰んだ主人公が這い上がっていくストーリーが浮かびました。「どれだけ詰んでもチャンスはあるし楽しく生きていける」とエールを送っている作品です。

 私自身、美容が大好きで飽きることもないし、ケアをすることで自己肯定感が高められる。「うれしい、きれいになった」って、ほっこりするような感じ。だからこそ、さまざまなシーンで美容についても触れています。

WWD:制作を行う中で最も大変だったことは?

MEGUMI:“演技を本業としていない、企業の人たちを巻き込んでドラマに落とし込む”という試みを行うのはこのドラマが初めてだったので、企業の人だけではなくプロデューサーやマネージャー含め、関わる人全員に理解してもらうのが最初は大変でしたね。

WWD:それぞれの役作りのヒントになったのは?

MEGUMI:インパクトがありながらリアリティーのある作品にしたいと思ったので、登場する全員が実在している人からインスピレーションを受けたキャラクターです。とはいえ、一人の人を当て込んでいるのではなく、「ビジュアルはこの人」「セリフはこの人」など、さまざまな要素を色々な人から吸収して一人のキャラクターが生まれました。

WWD:個性豊かな出演者たちはどのように決めた?

MEGUMI:みんな、出たいと言ってくれた人たちです。タレントだけではなく、社長なども登場するので、私自身「どうなってしまうんだろう?」と思っていましたが、みなさんセリフを覚え、時にはアドリブを入れてくれたり。全員すごくすてきで「演技が本業ではない人と共演するのも意外にいいのかも!」という新たな発見が得られました。コラボレーションの極みが良いエッセンスになってくれたと感じます。

【美容マニア・MEGUMIが本気でセレクトするビューティアイテム&クリニック】

スキンケアで結果を出すには、継続がカギ

 「もう5年くらい愛用しています。私は白と緑を使っていますが、人それぞれ合うものは違うので、いろいろ色々試して自分に合うものを探す旅をしてみてほしいです!

 結果を出すためには、何より続けることが大切。コンビニやドラッグストアでいつでも買えて、リーズナブルなのもおすすめしたい理由です」。

たっぷり保湿したあとは、質の良い美容液を

 「シートパックをした後に使っている、ヒト⾻髄幹細胞培養液エキスが配合された美容液。内側からもっちりとした肌になります。シートパックをすることでまず、水を上げて土壌を整えるイメージ。ベースを整えた直後に塗るものはとても重要なので、ぜひ良い美容液を使用してほしいです」

使うことで髪がふっくらする新感覚!

 「ヘアアイロン=髪を傷めるもの、と思いながら泣く泣く使っているところがあったのですが、『クレイツ』のヘアアイロンは伸ばしながらキューティクルを整えてくれます。使えば使うほど艶々になり、どこか髪が内側から水分が出てきてふっくらしたような感覚は初めてでした」。

手では行き届かないケアを美顔器で

 「毎日仕事の前に必ず美顔器を使っています。肌の汚れが取れたり、引き上げになったり、スキンケア成分の導入をサポートしたりなど、自分の手ではできないことを美顔器ですることで、5年後、10年後の自分の顔を確実に変えてくれるものだと思います。手間がかかるから、といって使わない人も多いですが、ぜひ生活に取り入れてほしいです」。

注目のNMN点滴で若返り効果に期待

 「私が実際に通っている美容クリニックで、さまざまな美容点滴があります。個人的にすごくおすすめなのは“NMN点滴”。NMN成分は今までも良いといわれていましたが、コロナ禍でより詳細のエビデンスが取れ、最近やっと点滴として認証されました。細胞へ直接アプローチしてくれ、肌は明るく、体は柔らかくなるといわれています。個人的には頭がスッキリする感じも気に入っていて、とてもおすすめです」。

 ドラマ『完全に詰んだ壱子はもうカリスマになるしかないの』最終回はテレビ東京公式サイトで視聴可能だ。作中の冒頭シーン「BE AT フミ カリスマさんいらっしゃい」のコーナーはユーチューブでも配信している。

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「1枚のTシャツから世界を良くしていく」、服地卸の最大手スタイレムの丸編みオタク2人が挑むサステナビリティへの挑戦

 サステナブルファッションの重要性が高まる中、多くの企業やブランドが従来のビジネスモデルを変えようとしている。最もグローバル化の進んだ産業の一つであるアパレル産業で、世界をより良くするために何をすべきか、また、服の品質やこだわりとどう両立させるべきなのか。服地卸の最大手であるスタイレム瀧定大阪が推進するオーガニックコットンのプロジェクト「オーガニックフィールド」と、究極の着心地を掲げるカットソーブランド「リフィル」、2つの事業のディレクターであり、カットソーオタクの2人でもある、小和田哲弘「リフィル」ディレクターと太田雅之スタイレム インターナショナル インディア取締役の対談をお届けする。

いいカットソー素材ってどんな生地?

WWDJAPAN(以下、WWD):お二人とも、もともとはカットソー生地の営業だったとか?

小和田哲弘(以下、小和田):太田くんも私も所属する課は違いましたが、もともとはカットソー生地の営業です。当社の場合、営業と言っても企画チームと連携しながら、糸の選定、生機(きばた)の生産、染色管理、販売までを一貫して担当する。私は10年ほどやりましたが、営業は結果が全てで、言い訳の利かない世界。でも実はいいものを作っても高すぎると売れない、というジレンマを感じることも少なくなかった。

太田雅之(以下、太田):今は変わりましたが、僕らが現場にいたころは、同じ会社と言えども課が違えば競合のようなもので、特に同じ丸編み生地を扱っている07課の小和田さんのことは結構意識していました。小和田さんはめちゃくちゃこだわりが強くて、「そこまで考えて、掘り下げるんか」って横目で見てました。いつも出来上がった生地はめちゃくちゃいい。でも営業目線だと「これだとオーバースペックじゃないか」とも思ってました(笑)。

小和田:まあでも、そんな考えが募ってスタートしたのが、この「リフィル(LIFiLL)」です。まだ市場に出ていない、とことんこだわって作ったいい素材を世に出したいという思いがベースにあります。

WWD:どんなこだわりが?

小和田:丸編みの場合、重要なのは原料です。主力アイテムは、超長綿のスーピマを100%使い、甘撚りの糸を天竺で編み上げています。

太田:このぬめりと落ち感がすごくいいんですよ。超長綿ならではの、業界的でいうところの油分がよく出ている。いいカットソー生地の条件の一つに肌離れの良さ、が挙げられるのですが、これは油分が関係していると言われています。あまり良くない生地だとパサパサに乾いていて、肌に直接当たると不快感にもつながる。「リフィル」のTシャツは真逆です。

小和田:できるだけスーピマ綿の長所を引き出すため、生産の際に細かな手間を掛けています。その一つが、生地を編み上げたときのまま、筒状のまま仕上げを行っていること。通常、丸編み地は、機械から上がったときに効率を上げるために、カットして平面状にして仕上げたり、縫製したりする。筒状だと効率が悪いので。縫製工場も、筒で持っていくと、カットする手間が余分にかかるし、当然そのための設備も必要になるので嫌がられるんですが、古い付き合いのある工場にお願いして作ってもらってます。

「使えば使うほど地球を良くする」
素材とは?

WWD:太田さんはなぜ「オーガニックフィールド」を?

太田:僕は本物を追求していたら、種と畑まで行ってしまったという感じです。

小和田:分かる!カットソーって基本は原料だもんなあ。

WWD:すみません、よく分からないのでもう少し詳しく。

太田:小和田さんも先ほど言っていましたが、カットソーの品質を大きく左右するのは原料の綿花なんです。オーガニックコットンプロジェクトを立ち上げる前、インドではオーガニックコットンの偽装が問題になっていて、これをきっかけにきちんと畑まで管理しないとダメだなと思ったんです。その一方で、オーガニックコットンの栽培も含め綿花栽培には多くの問題があった。例えばオーガニックコットンの認証を受けるためには、3年間以上無農薬で栽培する実績が必要なのですが、農薬を使わないと虫の駆除などで多くの手間がかかるものの、その間はオーガニックコットンとは認められないので、農家にとってとても厳しい。そこで行き着いたのが、現地のNGOや現地の大手紡績会社NSLと組んで小規模な農家の綿花栽培や労働環境の向上を支援しつつ、移行期間の綿花も含めて買い取っていくという仕組み作りです。一緒にタッグを組む紡績メーカーのNSLは綿花の種苗メーカーでもあり、綿花栽培も行っていた。インドと日本市場とつなぐ僕らがハブになり、綿花を適正な価格で買い取り続けることで、小規模の綿花農家がオーガニックコットンを作りやすくなり、地球環境もよくなる良い循環が生まれる。その仕組みから生まれたコットンが「オーガニックフィールド」なんです。

実は小規模農家だからこそ
上げられた「綿花の品質」

WWD:小和田さんから見て「オーガニックフィールド」の生地はいかがでしょう?

小和田:ひと目見て触ったときに「おっ」と思いました。現在の「オーガニックフィールド」の原料の綿花は長綿。「リフィル」で使っている超長綿と比べると繊維長が短く、それが光沢感の差にもなる。でも「オーガニックフィールド」は光沢も出てるし、油分が多く含まれていることで、さらっとしたタッチで肌触りもいい。これはいい素材だと思いました。

太田:それは手摘みだからなんですよ。大規模農家の場合は、効率化のために綿花の収穫から出荷までの間に、枯れ葉やゴミなどを取るために工業的なクレンジングを行っています。でも「オーガニックフィールド」の場合は、落ち葉などは手で取り除いているので、そうした工業的な工程を減らしている。その分、綿花が傷みにくく、それが結果として綿花自体の品質アップにもつながっている。

WWD:小和田さんのリアクションはやっぱり気になりますか?

太田:実は小和田さんに最初に「オーガニックフィールド」を見せるときは内心ドキドキしていました。こーゆう職人肌のタイプなんで、遠慮がないし、お世辞を言うような人でもない(笑)。小和田さんの表情を見たときに「この人がこの顔するんならガンガン売れる、売っていける」って思ったんです。だからうれしかったですね。

服を通じて世界を良くするための
考え方とは?

WWD:アパレル産業は、さまざまな課題を抱えていると言われています。素材の良さやこだわりと、そうした課題をどう両立させ、解決すべきでしょうか?

小和田:実際にブランドを始めて、適正な量を作って適正な価格で売っていくことの重要性を痛いほど感じています。大量に生産すればコストを下げられる一方で、当然残ってしまうものも出てくる。原料、糸、生地、縫製、そして販売までアパレル産業は縦に長く、かつグローバルなので、生産者の顔が見えづらい。そのせいもあって価格や生産性といったビジネスの効率ばかりを追求しがちです。「オーガニックフィールド」のように、農地まで見えていて、かつ生産者の労働環境を守れるというのは、服を作る側としては心強い。

太田:サステナビリティに関してはいろいろな考え方があると思うのですが、私はやるなら「ビジネスとして成立し、規模も狙う」という考え方です。「オーガニックフィールド」は広がれば広がるほど、地球環境にも人にも優しい。けど、それと同じかそれ以上にストーリーを伝えることにも意味があると思っています。実際にこちらにいて農家の方に日本の消費者のリアクションを伝えると、すごく喜んで、仕事のモチベーションにつながっている。「オーガニックフィールド」のストーリーを伝えるのは結局、消費者とものづくりの側の間にいるブランドにしかできません。綿花の品種も、超長綿のスビン種も地域によっては栽培可能なので、新しい栽培エリアと農家の探索も始めています。現在のエリアでやり方を確立できれば、さらに高品質な糸の生産にもつなげられる。そうなればもっと多くの服を通して、世界をより良く変えられる。今は毎日がワクワクの連続です。

ILLUSTRATION:hagie K
問い合わせ先
スタイレム瀧定大阪
06-4396-6534

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奄美大島出身が語る、地方から飛び出して自分らしく生きる「EverWonderなライフ設計」

 人々の心に火を灯す機会を提供することを目的に、クリエイティブディレクターにGReeeeNのHIDEを迎えた一般財団法人渡辺記念育成財団は、EverWonderプロジェクトを発足した。構想中のプロジェクトは、同財団による「みらい塾」の奨励生が企画進行している。今回は、「みらい塾」奨励生で看護師の木田美智子が同郷の奄美大島出身者たちと「地方を飛び出して自分らしく生きる」をテーマにディスカッションした。

木田美智子「みらい塾」奨励生(以下、木田):今日は奄美大島出身で、現在は東京で自分らしく活動している方々にお集まりいただきました。故郷を離れて都会に出てきたきっかけや理由を教えてください。

若師孝之アンテナショップ「奄美」店主兼パーカッション奏者(以下、若師):大学のときに上京してパーカッションをはじめますが、それだけで食べていくことは難しく、色々な職を転々としました。現在は、居酒屋で奄美の料理を振る舞っています。本格的に飲食店で料理を提供し始めたのは10年前です。当時は、祖父が亡くなったときに故郷の奄美のことをもっと知りたいと思い、奄美料理に挑戦しました。最初は適当に作っていたんですが、次第に有名な店のインタビュー記事を読んで勉強して、パパイヤの漬物なども自分で一からちゃんと作るようになりました。たぶん、奄美の代表的な家庭料理「油素麺」は、東京なら僕のが一番美味しいです(笑)。

池田むつみ歌手(以下、池田):私は幼少期から歌手になりたいと思っていたので、18歳のときに音楽の専門学校に進学するため上京しました。進学先には八王子校と蒲田校があったのですが、都会での暮らしは不安だったので、八王子校に通いました。でも初めて八王子を訪れたとき、街頭ビジョンや人の多さに圧倒されて、間違えて「渋谷に来てしまった」と思ったんです(笑)。現在は、奄美の料理やお酒を提供するバーで働きながら、歌手活動をしています。

木田:私も18歳のときには芸能に携わる仕事に憧れていましたが、奄美の人は手に職をつけることを重要視するので、自分の想いをなかなか素直に伝えられませんでした。兄弟も多く芸能を学ぶための学校に進学することは経済的にも難しく、看護の専門学校に進んだんです。池田さんは両親の反対とかなかったんですか?

池田:もちろん大反対されました。高校生の頃から芸能の専門学校に進みたいと思っていたけれど、看護師や歯科衛生士、調理師など手堅い職につくべきと言われ、とても揉めました。

若師:奄美の人には歌が身近な存在だからこそ、音楽が仕事になるという発想があまりないですよね。

池田:そうなんです。どうしても芸能がやりたいなら、手に職をつけられる学校に進学し、放課後や休日に活動をしなさいと言われました。しかし、私は中学生のときから芸能への思いが強く、最終的には応援してくれました。

木田:お二人のように地方を飛び出して自分のやりたいことを実現するにはどうしたらいいと思いますか?また、そのモチベーションはなんですか?

若師:自分は特に何かをやりたかったわけではないし、今も夢があるわけではないのですが、色々なことを経験するなかで「おもしろい」と感じたことをやってみようという思いは強いかもしれません。パーカッションも、大学生のときに留学生の友人とダンスパーティーに行ったのに踊れなかったから、近くにあった打楽器をノリで演奏してハマったのがきっかけです。奄美の料理も好奇心によるところが大きいです。

池田:私は祖父の応援です。歌が好きになったのも祖父の影響。彼は「自腹で孫のCDを出す」と言って家族から猛反対されるほど、私を応援してくれています。一方で地元の友人をみていると、「仕事の選択肢が少ない」と思い込んでいる人や、一度島を離れても都会に馴染めずすぐに戻ってしまう人が多いなとも思います。

木田:私も手に職をつければ、島に戻っても仕事に困らないという周囲の考えに影響されて看護師になりました。もっとも看護師の大変さに何度も挫けそうになりましたが、逆に中途半端に島に戻れば後ろ指を刺されて恥ずかしいと思っていたので、頑張れました。

若師:今は奄美にLCCが飛ぶようになって、気軽に行き来できるようになりましたし、スマホで色んな情報に触れられる。島と都会の垣根はどんどんなくなっていますよね。

池田:いつでも帰れる場所がある安心感や、会いやすくなった地元の友達は、外に出て何か挑戦したい人にとって後押しになりますよね。

木田:いつでも帰れるという安心感があるので、自分の価値観を広めるためにも、みんな一度は島を離れて自分のやってみたいことに挑戦するのは大事ですね。島にずっといると、視野が狭くなってしまって勿体ないと思います。最後に、今後みなさんがやっていきたいことなどがあれば教えてください。

若師:自分は既にやりたいことを自由にやれているので、これからも変わらずにエンターテイナーであり続けられればなと思います。

池田:私は歌を通じて、奄美のことを多くの人に伝えられればと思います。歌い方が「島の人っぽい」と言われることが多いので、そこから興味を持ってもらえたら。また、黒糖焼酎という奄美のお酒がとても美味しいのでコラボイベントを開いて、奄美の人たちや奄美に興味を持ってくれる人が集まる機会を作りたいと思います。

木田:いいですね!私は仕事でメンタルヘルスの相談を受けることが多いのですが、原因の多くは孤独や無趣味なので、「みらい塾」で新しいエンタメやコミュニティーを作って、そういった課題を解決したいなと思っています。せっかくのご縁ですので、是非そのイベントを一緒に開いて、奄美の良さを伝えましょう!

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巨匠エリック・ヘイズが「サカイ」限定店でライブペインティング ショートインタビューを敢行

 「サカイ(SACAI)」は、世界の主要都市を巡回するストアツアー「ハロー サカイ(Hello sacai)」を東京・神宮前で2023年2月末まで開催中だ。同店のファサードには“Hello”や“こんにちは”など世界各地のあいさつをプリントした建築工事用シートを張り、店内の什器にも工事現場などで使用される工具を採用。さらに、「サカイ」青山店で使用していた什器をリプロダクトした一点モノのピースや、原宿のビンテージショップ「ベルベルジン(BERBERJIN)」のビンテージアイテムを再構築したアパレルを取り扱うなど、随所でアップサイクルな取り組みが感じられる空間に仕上げた。

 同店では限定アイテムや新作の2023年春夏コレクションなどももちろん販売しているのだが、それらの中でも注目したいのがエリック・ヘイズ(Eric Haze)とのコラボアイテムだろう。ヘイズは、1961年にニューヨークで生まれた現在61歳のアーティスト&デザイナー。1980年代にジャン・ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)やキース・ヘリング(Keith Haring)らと共にニューヨークのグラフィティシーンをけん引した伝説的なグラフィティライターの1人だ。その後、グラフィックデザイナーとしてビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)やパブリック・エナミー(Public Enemy)ら、USヒップホップシーンで活躍するアーティストのロゴやジャケットなどを数多く手掛けてきたリビング・レジェンドである。その骨太でストリートのアイデンティティーが宿る作風は数々のブランドをも虜にし、「Gショック(G-SHOCK)」や「ナイキ(NIKE)」「ニューバランス(NEW BALANCE)」「ステューシー(STUSSY)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」などとコラボを実現。「サカイ」とは21-22年秋冬コレクションで1度コラボしており、今回は2度目のタッグとなった。

 「ハロー サカイ」のオープンを祝して行われたヘイズのライブペインティングの直前、彼のショートインタビューに成功。コラボの経緯や、グラフィティライターからの転身、現在の状況などについて語ってもらった。

エリック・ヘイズ/アーティスト兼デザイナー

PROFILE:1961年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。1970 年代にSE3の名でグラフィティアーティストとしてのキャリアをスタート。グラフィティ集団ザ・ソウル・アーティスト創設メンバーとしてフューチュラやリー・キュノネス、ドンディらと共に過ごした。その後はグラフィックアートも手掛け、特徴的な手書きのレタリングで数々のロゴや音楽アルバムのカバーなどを制作。91年には自身のアパレルブランドを立ち上げたり、2000年代からはアート作品の制作に本格的に取り組んだりと、今なお活動の幅を広げている

ーーまずは、「サカイ」とのコラボの経緯を教えてください。

エリック・ヘイズ(以下、ヘイズ):(『サカイ』のクリエイティブ・ディレクションを手掛ける)源馬大輔を介してコンタクトを取るようになった。ファーストコラボの21-22年秋冬コレクションは、シンプルなグラフィックをベースとしたアイテムをそろえたが、23年春夏シーズンはアート寄りなアイテムに仕上げている。ロゴやグラフィックを乗せるだけではなく、初めてブランドの理念に添いながらコラボすることができたよ。ストリートシーンに属するもの同士のコラボとは異なり、よりファッショナブルなレベルに達しているはずだ。

 40年以上前にグラフィティライターとしてストリートで活動を始めてから、ストリートとファッションの交わり方は時代と共に変化している。60歳を超えてから洗練されたファッションシーンの中で自分をリプレゼンテーションすることが一つの夢だったので、今回のコラボは記憶に残るものになったよ。

ーー抽象的なグラフィックと共に“AS ONE(一体となって)”などのワードも落とし込んでいますが、チョイスした意図は?

ヘイズ:ワードの中には、グラフィティにした際にデザインとしてハマるものがある。だが、今回はデザイン性だけでなく、今の世界情勢や歴史も踏まえて私と「サカイ」で擦り合わせてチョイスした。

ーー今回のライブペインティングをはじめ、ペインティング作品を手掛けるようになった理由を教えてください。

ヘイズ:ニューヨークで生まれ育ち、グラフィティライターとして活動した後に、一度ロサンゼルスへ移住してパソコンを中心にグラフィックのデザインを行っていた。十数年後(2005年頃)に再びニューヨークに帰ってくると、バスキアやキースら旧友たちと過ごした時のようなライブ感を街から感じてね。それを機に、ペインティングを中心としたアーティスト活動にシフトしていった。私にとってのゴールは、場所やサイズを問わず、1本の筆と1つの色でペインティングすること。5年ほど前から自分の中で感覚が研ぎ澄まされているんだ。現在、渋谷の宮下パークで開催している個展「インサイド アウト(INSIDE OUT)」でも、グラフィティライター時代に関係のあった人々などを同様の手法で描いていて、過去と現在の自己表現になっている。

ーーファッションシーンとの関わりはどう考えていますか?

ヘイズ:ずっとアートシーンだけにいるよりも、ファッションシーンとも関わった方がアーティストとしての感覚が洗練される気がしていて、今はどちらにも偏りすぎずバランスがちょうどいいね。昔はアートも手掛けるグラフィックアーティストだったけど、現在はグラフィックも手掛けるアーティストのような、より自由に広い解釈で作品に取り組むことができるようになっているよ。

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