中島セナが演技や絵と向き合うことで気付いた大切なこと

PROFILE: 中島セナ/モデル・俳優

中島セナ/モデル・俳優
PROFILE: (なかじま・せな)2006年生まれ、東京都出身。17年にスカウトされモデルデビュー。間もなく「POPEYE」や「COMMERCIAL PHOTO」などの表紙を飾り注目を集める。ほか、「クソ野郎と美しき世界」(18)、「WE ARE LITTLE ZOMBIES」(19)、「光を追いかけて」(21)などの話題映画にも出演。23年12月から配信された「Disney+」日本発オリジナルシリーズ「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」では、奥平大兼と共に主演を務めた。21年には新人女優の登竜門とされる「ポカリスエット」のCMに起用され、翌年も引続きヒロインを演じた。また、20年よりKANEBO「I HOPE.」のメインキャラクターも務めている。

中学生の頃からファッションモデルとして活動。近年は俳優としても注目を集める中島セナが、映画「あこがれの色彩」で初めて映画の単独主演に挑んだ。映画「あこがれの色彩」は、陶芸の街で父親と暮らす少女、結衣の物語。絵を描くことが好きな結衣は、美術教室に通っているが、技術を重視する指導になじめない。そんな中、父親に新しい恋人ができたことに動揺する。大人たちの都合に振り回されながら悩み、反発する結衣の揺れ動く想いを、中島セナは等身大の演技で表現した。監督は資生堂のCMを数多く手掛けるなど独自の美意識が評価される小島淳二。結衣と同じように絵を描くことを趣味にしている中島セナに、映画のことや色彩、ファッションについて話を聞いた。

——この物語のどんなところに興味を持たれました?

中島セナ(以下、中島):主人公の結衣と同じぐらいの年齢の時に撮影していたのですが、大人への不信感だったり、自分が思っていることを発露することへの難しさだったり、そういった結衣が抱えている10代特有の気持ちがよく分かったんです。結衣ほどは強くないですけど、私にもそういう感覚は少なからずあるので。

——結衣は14歳。複雑な年頃ですね。両親が離婚して父親と祖母と暮らしている結衣は、父親に恋人ができたことに対して嫌悪感を感じて親子関係がこじれていきます。思春期は親子関係が難しい時期ですね。

中島:私自身は父とは仲が良くてギクシャクしたりはしなかったのですが、周りではそういう話はよく聞きました。子どもの頃みたいにはいかなくなってくるというか。撮影前に監督と結衣についていろいろお話しさせていただいたのですが、監督は結衣と父親との関係が重要だということを言われていましたね。

——結衣の友達に対する距離感も微妙です。友達は援助交際のようなことを始めたりして危ういことに興味を持ち始める。結衣は絵を描いていたいけど、孤立するのは嫌だからなんとなく友達と付き合っています。

中島:友達との距離感がはかりづらい時期ですよね。私はわりと1人でいるのが好きで、学校でもグループに属したりせずに1人で本を読んでいたりしたんです。中学の頃には仕事をしていたので、学校以外の世界があることを知っていたことも大きかったんじゃないかなって思います。

——確かに、学校の外の世界を知っている、そこに自分の場所があるというのは他の生徒たちとは大きな違いですね。

中島:あと、子どもの頃から絵を描くのが好きだったんです。学校で友達と遊んだりするよりも、家に帰って絵を描いてました。絵は誰かと一緒にやることではないので、一人でいることに慣れていたのかもしれません。

絵を学ぶことで気付いたこと

——結衣の趣味も絵を描くことでしたね。結衣が絵を描くようになった理由が父親との関係にあることが最後に明らかにされますが、中島さんが絵を描くのが好きな理由は?

中島:絵が特別うまいというわけでもないのですが、気が付いたら描いていました。去年1年、先生に指導を受けて本格的に絵を勉強してみたんです。そうすることで、表現についていろいろ学ぶことができたので、これから絵に対する向き合い方は変わっていくような気がします。

——絵を勉強するなかで、どんな発見がありました?

中島:作者がどういう狙いでそれを描いたのか。こういう構図になっているのはどうしてなのか。作品の裏側を考えるようになったのは大きいと思います。映画の世界も同じで制作する側から見ると作品がまた違って見えてくる。これからは、絵を描くことが生きていく上で大切なものの1つになるんじゃないかなって思います。

——自分が作る側になることで見えてくるものってありますよね。映画の中で、結衣は自分の好きなように絵を描きたいのに、美術の先生は基礎をしっかりやりなさい、と結衣の描き方を注意します。自分の気持ちのおもむくままに描くのか。基礎を身につけるのか。その葛藤についてはどう感じました?

中島:基礎が絶対必要だとは思わなくて、自分がどんなものを目指しているかによって基礎を学ぶべきかどうかが変わってくる。自分の目標に合わせて何が必要かを考えればいいと思います。でも、「やるべきこと」と「やりたいこと」の間に挟まれることは重要なんじゃないでしょうか。そうすることで成長していく。だから私自身は、基礎的なことを学びながら自分の表現を探っていきたいと思っています。

——そうすることで自分にとって大切なものが見えてくるのかもしれませんね。そういえば、中島さんが描いた絵が映画の中にも登場しているとか。

中島:結衣の部屋にいっぱい貼ってあるんですけど、その中の何枚かが私の描いた絵なんです。

——結衣の絵はカラフルな色彩が印象的でしたが、中島さんの絵はどんな作風なのですか?

中島:色は好きだし重要だと思っているんですけど、結衣とは逆で私はモノクロで描くことが多いですね。

色彩、ファッションについて

——普段着ている服の色使いはどうですか?

中島:やっぱり、カラフルなものよりモノトーンのものが多いかもしれないですね。モノトーンは色が合わせやすいというのもあるんですよね。色が少ないと差し色を入れてもきれいにまとまるし。服を見るときは黒を手に取ることが多いです。

——モノトーンとの組み合わせでよく使う色は?

中島:緑が多いかも。緑も好きな色なんです。小物とかバッグは緑が多いですね。白と黒と緑という組み合わせが好きなんです。

——そろそろ、大人っぽい服に挑戦してみたいと思われたりはします?

中島:最近は親の服を借りたり、ちょっと高い服を買ってみたりしています。例えば、「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」。生地がすごくいし、体が動かしやすくて機能的だし、シルエットがちょっと変わっているところもいいなと思います。

——「黒」といえば山本耀司さんですよね。小島監督も独特の美意識を持たれています。この作品でも繊細な光の捉え方が印象的でしたが中島さんはどのように感じられました?

中島:本当に繊細な感覚をお持ちだと感じました。静けさのなかに独特の空気感を感じさせる映像だと思いました。

——「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」、そして、本作と主演を務めるようになってきましたが、役者という仕事は続けていきたいと思いますか?

中島:演じる、ということは、私にとってすごく難しいことなんですけど、役者の仕事を通じて吸収できることは吸収して自分の引き出しに入れていけたら良いなと思います。今回の作品では、初めて感情を爆発して叫ぶ演技をしたのですが、うまくできるかすごく不安でした。でも、監督と事前に話をしてなんとかやれました。そんな風に少しずつ経験を重ねて成長していきたいと思っています。

——演技と絵。その両方から刺激を受けながら成長していけるといいですね。

中島:演技と絵は違うものですが、私は何かを表現することが好きなんだなって思います。最近は文章や写真もやりたいと思っていて、いろんな表現を並行して追求していきたいですね。

PHOTO:MIKAKO KOZAI(L MANAGEMENT)
HAIR & MAKEUP:TOMOKO KIDO
ラメジャガードパンツ2万6400円、スキッパーパフスリーブシャツ 2万6400円/ともにTICCA、シューズ 3万5200円/CASTELLANO

■「あこがれの色彩」
5月10日から渋谷シネクイントほか全国順次公開
出演:中島セナ、大迫一平、宮内麗花、安原琉那、MEGUMIなど
監督:小島淳二
撮影:安岡洋史
プロデューサー:荒木孝眞
配給:スタジオレヴォ
制作:teeveegraphics,INC.
協賛:佐賀県フィルムコミッション
2022年/日本/カラー/107 分/17:9/5.1ch デジタル
©2022 teevee graphics, INC. all rights reserved.
https://akogare-iro.jp

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世界で人気高まるスウェーデン発「アワー レガシー」 成功の秘訣は「ゆっくりと着実に」

スウェーデン発の「アワー レガシー(OUR LEGACY)」は、一見シンプルでありながら素材や加工にこだわりと遊び心が詰まったタイムレスなアイテムで、世界的に多くの支持を集めている。ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)やパリのザ・ブロークン・アーム(THE BROKEN ARM)を筆頭に、世界での販売店舗数は250超。スウェーデン・ストックホルム、英国ロンドン、ドイツ・ベルリンには直営の路面店を、韓国・ソウルには3つの百貨店内にショップ・イン・ショップを構える。創業者の一人であるヨックム・ハリン(Jockum Hallin)=クリエイティブ・ディレクターに、その成功を生んだファッション業界の常識にとらわれないアプローチや考え方を聞いた。

2005年にTシャツからスタート

「アワー レガシー」は、ハリンとクリストファー・ニイン(Christopher Nying)がメンズブランドとして2005年にストックホルムで設立。ストックホルムとイェーテボリの間にある小さな街ヨンショーピング出身の2人の出会いは12〜13歳のときで、同じチームでアイスホッケーをプレーしていたという。思春期を迎えた2人はスケートボードや音楽、アートなど他のことに興味を持ち、アイスホッケーからは遠のいたが、20歳の頃に再会。異なる得意分野や視点を持ちながらも考え方やマインドとして共通する部分を感じ、一緒にさまざまなプロジェクトに取り組んだ後、ブランドを立ち上げた。

服作りを専門的に学んだことがなかった2人は、まずTシャツ数型のコレクションからスタート。徐々にアイテムのカテゴリーを増やし、07年にフルコレクションを発表した。また同年には、長年の友人であるリカルドス・クラレン(Richardos Klaren)を共同経営者として迎えた。設立初期はさまざまな業務を一緒にこなしてきたというが、現在はニインがメーンラインのコレクションを監修。ハリンが16年に始動したサステナビリティにフォーカスした独自の取り組み「アワー レガシー ワークショップ(OUR LEGACY WORK SHOP、以下ワークショップ)」での他ブランドとのパートナーシップによるスペシャルプロジェクトなどを率い、クラレンが最高経営責任者としてビジネス面を担っている。

そして、「メンズウエアだけを手掛けていた時から、女性のファンもいた」というが、19年にはブランドの世界観を補完するためにウィメンズ・コレクションをスタート。「フェミニンな素材をメンズウエアに用いたり、男性的なシルエットをウィメンズサイズで表現したりと、両方を手掛けるようになったことで良いシナジーやエネルギーが生まれている」とハリンは説明する。

着用者に解釈を委ねるデザイン

「アワー レガシー」では、毎シーズンのコレクションを制作する際、象徴的な人物などを分かりやすいテーマを掲げることはない。その背景には「曖昧にすることで、着る人自身が自由に想像してほしい」という思いがあり、実際のアイテムにおいても「重要なのは年齢やスタイルなど特定の人を想定することではなく、プロダクトとしてベストな形で仕上げること。それを着たいように着てもらえればうれしい」と明かす。そんな着用者に解釈を委ねるデザインが、幅広い年齢層から支持を得るブランドの魅力の一つになっている。

そして、シンプルなデザインにオリジナリティーをもたらしているのは、素材への探求心。「ユニークなファブリックこそが、コレクションを際立たせる。だから、オリジナルで開発したものやエクスクルーシブの素材も多い」という。念頭に置くのは普遍的でありながら他にはない価値を持ったアイテムを生み出すことであり、「いろんな人のワードローブにおいて、いつまでも色褪せない一番のお気に入りになるような服を作りたい」と話す。

ブランドの世界観を強化する「ワークショップ」

また、「アワー レガシー」を語る上で欠かせないのは、独自のアプローチでサステナビリティに取り組む「ワークショップ」だ。その拠点となるのは、メーンラインのコレクションを取り扱う直営店とは別にストックホルムの中心地から少し離れた住宅街に設けたワークスペース兼ショップ。もともとは倉庫に溜まった生地や在庫から新たなものを生み出すためにスタートしたプロジェクトだったが、現在はアーカイブにハンドペイントなどを施した“クラフト”や過去のコレクションを割引価格で提供する“デッドストック”から余剰素材を組み合わせて作る“アップサイクル”やインスピレーション源となったビンテージアイテムの“リファレンス”まで9つのカテゴリーを展開する。

「『アワー レガシー』の中にあるリサイクルやアップサイクルのハブのようなもの」と表現する「ワークショップ」では、他ブランドとのコラボレーションにより、年間8〜12のスペシャルプロジェクトにも取り組んでいる。昨年は「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」との協業によるカプセルコレクションも手掛けた。きっかけはプロジェクトごとに異なり、「『エンポリオ アルマーニ』の場合は先方からアプローチがあったが、「サティスファイ(SATISFY)」のようにパーソナルな友人関係からプロジェクトに発展することも多い」という。全てに共通するのは、古い在庫や素材を使いながら、クリエイティブの力で新鮮で面白いアイテムを作ること。最新プロジェクトとして、4月26日にはフランスのシューズブランド「パラブーツ(PARABOOTS)」とのコラボによるデッキシューズを発売した。

目標は、世界の主要都市に“ホーム”を築くこと

「アワー レガシー」は来年、設立20周年を迎える。今後数年の目標に掲げるのは、東京やパリなど主要都市に、自分たちの“ホーム”となる空間を築くことだ。「東京は私たちが最も好きな街の一つであり、『アワー レガシー』にとって大きなポテンシャルを秘めているとも思う。間違いなく最優先の場所だ。また、ヨーロッパではパリやミラノ、アメリカだとニューヨークとロサンゼルスでの出店を検討している」とハリン。「店舗は体験の場であり、人々はリアルな体験を求めている。食べ物でも、レストランでサービスや雰囲気を含めて堪能するのと、家でデリバリーするのでは全く異なるだろう?特別なプロジェクトも交えながら、『アワー レガシー』の世界観を表現していくことが重要だと思う」と続ける。

また現在、メンズとウィメンズの売り上げ構成比率は8:2。市場規模という観点でウィメンズの重要性は高く、今後さらに広げていくことを視野に入れる。しかし、「『アワー レガシー』では、ずっとトレンドや他のブランドを追いかけることも、急激な成長を目指すこともなく、自分たちのペースでブランドを確立することに取り組んできた。それが今の支持につながっていると思う。メンズがオーガニックに成長してきたように、ウィメンズも焦ることなく、地道に続けていくつもり」と、その姿勢はあくまでも自然体だ。「インディペンデントなブランドである『アワー レガシー』は、いろんなところから受けるプレッシャーもなく、ただただ自分たちが良いと考えることに向き合える。だからこそ、出店や拡大を急ぐことはなく、これからもゆっくり着実に進めていきたい」。

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世界で人気高まるスウェーデン発「アワー レガシー」 成功の秘訣は「ゆっくりと着実に」

スウェーデン発の「アワー レガシー(OUR LEGACY)」は、一見シンプルでありながら素材や加工にこだわりと遊び心が詰まったタイムレスなアイテムで、世界的に多くの支持を集めている。ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)やパリのザ・ブロークン・アーム(THE BROKEN ARM)を筆頭に、世界での販売店舗数は250超。スウェーデン・ストックホルム、英国ロンドン、ドイツ・ベルリンには直営の路面店を、韓国・ソウルには3つの百貨店内にショップ・イン・ショップを構える。創業者の一人であるヨックム・ハリン(Jockum Hallin)=クリエイティブ・ディレクターに、その成功を生んだファッション業界の常識にとらわれないアプローチや考え方を聞いた。

2005年にTシャツからスタート

「アワー レガシー」は、ハリンとクリストファー・ニイン(Christopher Nying)がメンズブランドとして2005年にストックホルムで設立。ストックホルムとイェーテボリの間にある小さな街ヨンショーピング出身の2人の出会いは12〜13歳のときで、同じチームでアイスホッケーをプレーしていたという。思春期を迎えた2人はスケートボードや音楽、アートなど他のことに興味を持ち、アイスホッケーからは遠のいたが、20歳の頃に再会。異なる得意分野や視点を持ちながらも考え方やマインドとして共通する部分を感じ、一緒にさまざまなプロジェクトに取り組んだ後、ブランドを立ち上げた。

服作りを専門的に学んだことがなかった2人は、まずTシャツ数型のコレクションからスタート。徐々にアイテムのカテゴリーを増やし、07年にフルコレクションを発表した。また同年には、長年の友人であるリカルドス・クラレン(Richardos Klaren)を共同経営者として迎えた。設立初期はさまざまな業務を一緒にこなしてきたというが、現在はニインがメーンラインのコレクションを監修。ハリンが16年に始動したサステナビリティにフォーカスした独自の取り組み「アワー レガシー ワークショップ(OUR LEGACY WORK SHOP、以下ワークショップ)」での他ブランドとのパートナーシップによるスペシャルプロジェクトなどを率い、クラレンが最高経営責任者としてビジネス面を担っている。

そして、「メンズウエアだけを手掛けていた時から、女性のファンもいた」というが、19年にはブランドの世界観を補完するためにウィメンズ・コレクションをスタート。「フェミニンな素材をメンズウエアに用いたり、男性的なシルエットをウィメンズサイズで表現したりと、両方を手掛けるようになったことで良いシナジーやエネルギーが生まれている」とハリンは説明する。

着用者に解釈を委ねるデザイン

「アワー レガシー」では、毎シーズンのコレクションを制作する際、象徴的な人物などを分かりやすいテーマを掲げることはない。その背景には「曖昧にすることで、着る人自身が自由に想像してほしい」という思いがあり、実際のアイテムにおいても「重要なのは年齢やスタイルなど特定の人を想定することではなく、プロダクトとしてベストな形で仕上げること。それを着たいように着てもらえればうれしい」と明かす。そんな着用者に解釈を委ねるデザインが、幅広い年齢層から支持を得るブランドの魅力の一つになっている。

そして、シンプルなデザインにオリジナリティーをもたらしているのは、素材への探求心。「ユニークなファブリックこそが、コレクションを際立たせる。だから、オリジナルで開発したものやエクスクルーシブの素材も多い」という。念頭に置くのは普遍的でありながら他にはない価値を持ったアイテムを生み出すことであり、「いろんな人のワードローブにおいて、いつまでも色褪せない一番のお気に入りになるような服を作りたい」と話す。

ブランドの世界観を強化する「ワークショップ」

また、「アワー レガシー」を語る上で欠かせないのは、独自のアプローチでサステナビリティに取り組む「ワークショップ」だ。その拠点となるのは、メーンラインのコレクションを取り扱う直営店とは別にストックホルムの中心地から少し離れた住宅街に設けたワークスペース兼ショップ。もともとは倉庫に溜まった生地や在庫から新たなものを生み出すためにスタートしたプロジェクトだったが、現在はアーカイブにハンドペイントなどを施した“クラフト”や過去のコレクションを割引価格で提供する“デッドストック”から余剰素材を組み合わせて作る“アップサイクル”やインスピレーション源となったビンテージアイテムの“リファレンス”まで9つのカテゴリーを展開する。

「『アワー レガシー』の中にあるリサイクルやアップサイクルのハブのようなもの」と表現する「ワークショップ」では、他ブランドとのコラボレーションにより、年間8〜12のスペシャルプロジェクトにも取り組んでいる。昨年は「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」との協業によるカプセルコレクションも手掛けた。きっかけはプロジェクトごとに異なり、「『エンポリオ アルマーニ』の場合は先方からアプローチがあったが、「サティスファイ(SATISFY)」のようにパーソナルな友人関係からプロジェクトに発展することも多い」という。全てに共通するのは、古い在庫や素材を使いながら、クリエイティブの力で新鮮で面白いアイテムを作ること。最新プロジェクトとして、4月26日にはフランスのシューズブランド「パラブーツ(PARABOOTS)」とのコラボによるデッキシューズを発売した。

目標は、世界の主要都市に“ホーム”を築くこと

「アワー レガシー」は来年、設立20周年を迎える。今後数年の目標に掲げるのは、東京やパリなど主要都市に、自分たちの“ホーム”となる空間を築くことだ。「東京は私たちが最も好きな街の一つであり、『アワー レガシー』にとって大きなポテンシャルを秘めているとも思う。間違いなく最優先の場所だ。また、ヨーロッパではパリやミラノ、アメリカだとニューヨークとロサンゼルスでの出店を検討している」とハリン。「店舗は体験の場であり、人々はリアルな体験を求めている。食べ物でも、レストランでサービスや雰囲気を含めて堪能するのと、家でデリバリーするのでは全く異なるだろう?特別なプロジェクトも交えながら、『アワー レガシー』の世界観を表現していくことが重要だと思う」と続ける。

また現在、メンズとウィメンズの売り上げ構成比率は8:2。市場規模という観点でウィメンズの重要性は高く、今後さらに広げていくことを視野に入れる。しかし、「『アワー レガシー』では、ずっとトレンドや他のブランドを追いかけることも、急激な成長を目指すこともなく、自分たちのペースでブランドを確立することに取り組んできた。それが今の支持につながっていると思う。メンズがオーガニックに成長してきたように、ウィメンズも焦ることなく、地道に続けていくつもり」と、その姿勢はあくまでも自然体だ。「インディペンデントなブランドである『アワー レガシー』は、いろんなところから受けるプレッシャーもなく、ただただ自分たちが良いと考えることに向き合える。だからこそ、出店や拡大を急ぐことはなく、これからもゆっくり着実に進めていきたい」。

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シモーン・ロシャ「私は、メンズもフェミニンではなく、ポエティックでセンシティブ」

今春、ロンドンを拠点とするデザイナーのシモーン・ロシャ(Simone Rocha)が来日した。台北にオープンした旗艦店を祝った直後の弾丸ツアーで、日本に到着するとドーバー ストリート マーケット ギンザでのプレス向けランチに直行するなど忙しそうだ。忙しいと言えば、彼女は2021年には「H&M」とコラボレーション。23年にはメンズを本格的にスタートし、24年には「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のゲストデザイナーとしてオートクチュール・コレクションに挑戦している。束の間の15分で、デザイナーを直撃した。

WWDJAPAN(以下、WWD):2月にロンドンで発表した、24-25年秋冬コレクションは、「ジャンポール・ゴルチエ」のゲストデザイナーとして1月に発表した24年春夏オートクチュール・コレクションを思わせる、グログランリボンを使ったコルセットやテーラードで新境地を開拓した印象だ。
シモーン・ロシャ「シモーン ロシャ」デザイナー(以下、シモーン):ゴルチエとの協業は、本当に面白かった。彼と一緒に、パリでアーカイブを見て、生地に触れて、あらためて厳格なのに扇状的、そして遊び心に溢れるテーラリングの本質を垣間見たの。クチュール・コレクションでは、そんなゴルチエのテーラードに忠実でありたかった。一方、私の「シモーン ロシャ」ではコルセットやテーラリングをベースとしたクリエイションを貫きながら、、ゴルチエの厳格なのに扇状的なムードをひっくり返したかった。私らしいチュールなどの生地を厳格なシルエットに加えることで、女性の体を称えつつも、もっと穏やかなムードにまとめたかった。どちらもコルセットが印象的なコレクションに仕上がったと思う。でも2つのムードはまるで異なっているわ。

WWD:同じくレースやチュール、パールを多用したメンズ・コレクションも、それなりに浸透してきた印象だ。特にバッグやブレスレットなど、パールのアクセサリーは男性にも支持されている。こんなにフェミニンなテイストが、男性に支持されると思っていた?
シモーン:私は、「フェミニン(女性的)」なメンズを作ろうと思っていないの。心がけているのは、ウィメンズ同様「ポエティック(詩的)」で「センシティブ(敏感)」なメンズ・コレクション。「H&M」とのコラボレーションでメンズに初挑戦した時は、正直いろんな反応をもらったわ。メンズ・コレクションにおける「マスキュリン(男性的)」と「フェミニン」の役割とは?なんて聞かれることもあった。正直、私はそんなこと一度も考えたことがなかったの(笑)。当時から私のメンズは、ウィメンズの写鏡みたいなものだから。だから、メンズも「ポエティック」で「センシティブ」。アクセサリーは、そんなスタイルにちょっとしたスパイスを加えるもの。ハーネスを組み合わせることで、機能性も高めたエッジーなアイテムなどを選んでくれる男性が増えて嬉しいわ。

WWD:忌憚なく言えば、「シモーン ロシャ」はメンズの始動からテーラード&コルセットまで、毎シーズン新境地を開拓して進化し続けている印象がある。一方、同じロンドン勢の中堅は、これまで通りヴィクトリアンテイストのドレスに終始している印象で、「シモーン ロシャ」のような進化を感じる機会が少ない。ヴィクトリアンテイストのドレスはロンドンらしいが、現代のTPO的にも、円安の今は価格的にも、日本のマーケットでは本当に難しい。このままだとロンドン・コレクションは、「バーバリー(BURBERRY)」や「ダンヒル(DUNHILL)」「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」「シモーン ロシャ」を除き、インディーズブランドの学園祭みたいなイベントになってしまうのではないか?と危惧している。
シモーン:その通りだと思う。中国とアイルランドのハーフである私は、確かにロンドンでコレクションを発表しているけれど、ロンドンのデザイナーたちとは違う感覚を持っているのかもしれない。少なくとも私は、「ロンドンで発表している『ユニバース』なコレクション」を作ろうと思っているの。ここで言う「ユニバース」は、「世界的」であり、「普遍的」という意味ね。私は、ロンドンで発表しても、アイルランドで発表しても、東京で発表しても、共感してもらえるコレクションを作りたい。同じように去年でも、今でも、来年でも着てもらえるものでありたい。他のデザイナーもそんな感覚を意識すれば、状況は少し好転するんじゃないかしら?

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サレへ・ベンバリーによる「クロックス」 多様な視点が生み出すデザインに迫る

世界中の老若男女が好む「クロックス(CROCS)」に革命をもたらしたシューズデザイナー、サレヘ・ベンバリー(Salehe Bembury)。37歳にして、シューズ業界で数々の名作を生み出してきた若きデザイナーだ。そんな彼が“指紋”から着想を得てデザインした「クロックス」の“ポーレックス クロッグ(THE POLLEX CLOG)”は、画期的なモールド成型(金型で樹脂を形づくる製法)を使用し、シューズ業界に新しいトレンドを生み出した。まるで恐竜の化石のような見た目のフォームには、立体成型サンダルの概念を変えるほどのインパクトがあった。そのシグネチャースタイルから一変、シンプルなフォームとナチュラルなカラーリングに仕上げた最新コラボモデル“サル(SARU)”が5月9日に発売する。東京でのお披露目となったポップアップイベントの会場で、サレへに思いを聞いた。

――シラキュース大学でインダストリアルデザインを学んだあなたがシューズデザイナーになったきっかけは?

サレヘ・ベンバリー(以下、サレへ):大学時代はそれがシューズのデザインに繋がるとは思ってもいなかった。ただ、シューズが自分自身にどんな影響を与えてきてくれたかは、今でも覚えている。スニーカーを履くと空を飛べるような気がして、自分がスーパーヒーローになったような気がしたんだ。だから、自分の仕事と関連付けたいとも思ったし、自分の成長とともに、シューズをデザインするチャンスがやってきた。そのチャンスに感謝しているよ。

――インダストリアルデザインがシューズのデザインに影響を与えていると思う?

サレへ:もちろん。シューズデザイナーになるにはいくつかの道があると思う。一つはファッションを学ぶこと。もう一つはインダストリアルデザインを学ぶこと。もし、僕がファッションだけを学んでいたら、今もどこか窮屈に感じていたかもしれない。当然、それも間違ったことではないけど、自分自身は多くの視点を持ちたかった。当時はタイポグラフィやホワイトスペース(新事業領域)について学んだんだ。それがシューズデザインに多くの影響を与えていると思う。美学や見た目のデザインよりも先に実用性と機能性を重視するのは、僕が他のデザイナーと違うところかも知れない。まずは実用性と機能性を考えて、その上で美学や見た目のデザインを追求するんだ。

――「クロックス」のデザインでは、どのように機能面にこだわった?

サレへ:専門的な話になるけど、市場に出回っている「クロックス」製品の大部分は、EVAでできている。EVAは、加工しやすく環境にもいい。汎用性は高いけど、グリップ力はもう少し高い方がいいと思った。“ポーレックス クロッグ”では、既存の製品をどのように改善できるかを考えて、実際にアウトソールの前後2カ所にTPU(熱可塑性ポリウレタン)を追加した。TPUはゴムのようにしなやかな弾力性とプラスチックのような強さを併せ持った素材で、摩擦力が向上する。そのほかにも、通気性や履き心地も改良していて、そうした細かい配慮が僕のデザインなんだ。

――趣味がハイキングだと聞いた。ハイキングがデザインにもたらした影響はある?

サレへ:もしかしたらハイキングがそういった機能面にインスピレーションを与えたのかもしれないけど、シューズデザインにおいては、消費者全体のことを考えなければいけないと思っている。通勤や通学で道を歩く人がいれば、シェフで一日中立ちっぱなしの人もいる。僕は誰にでも履けるものを目指しているんだ。

――“ポーレックス クロッグ”をはじめ、あなたのデザインは新しいフォームを作ることに定評がある。新しいデザインを生み出すために最も重要なことは?

サレへ:既存の製品の隙間を見つけて、その問題を解決するためのデザインを考えることだね。デザインをすると美的感覚にとらわれすぎて、機能よりも美的感覚に負けてしまうことがあると思うけど、僕は常に両方のバランスを保つように心がけている。

――“ポーレックス クロッグ”は、“指紋”から着想を得たとか。

サレへ:そうだね。指紋を三次元的にデザインした。「クロックス」から、自分のシルエットをゼロから作ることを許されたとき、これは素晴らしいチャンスだと思ったよ。ほとんどの優れたクリエーターやデザイナー、アーティストは、一貫したブランドアイデンティティーを持っているけど、それがロゴの中に存在しなくてもいいんだって分かったんだ。“指紋”のデザインは、まさに僕のロゴのようなものだね。

――今回のコラボレーションモデル“サル”について教えて欲しい。

サレへ:新しいデザインは、「クロックス」とのコラボレーションでやってきたブランドアイデンティティーやデザインアイデンティティーを、より多くの人に届けることを目指したんだ。コラボレーションの中で、僕たちは3年間、積極的に消費者と対話を続けてきた。これまでにパリで2回、ドバイで1回、そして今回の東京と、ポップアップイベントも開いてきた。たいていのシューズは10カ月で寿命を迎え、ブランドは次のシューズに移行していく。そのデザインアイデンティティーを生かして、さまざまな価格帯のさまざまな商品を開発するんだけど、“サル”もそれと同じく、次の新しいシューズにあたる。“ポーレックス クロッグ”では、カラーも大胆で明るい色を選んだけど、“サル”はよりシンプルなフォームで、カラーも自然に結びつくように控え目にした。これまでとは異なる消費者に訴えかけるためだよ。

――“サル”というネーミングの由来は?

サレへ:北海道の沙流川(さるがわ)から付けたんだ。沙流川は過去に日本の(一級河川の)水質調査で1位に選ばれているというのを見かけたからね。今回のコンセプトにぴったりだと思った。ネーミングは、コミュニケーションを生み出すからすごく大切にしている。

――シューズに限らず、将来、デザインしてみたいものはある?

サレへ:歯ブラシをデザインしたいね。歯ブラシはかなり長い間、あまり変わっていないと思うんだ。「ダイソン」の掃除機やハンドドライヤーは、何十年も変わっていなかったものをより良いものにした。全ての人が使う製品を再考することが重要なんだよ。それがビジネスチャンスでもあると思う。

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スタイレム「リフィル」が「スキンアウェア」とコラボ “服は綿花畑から続くバトンのアンカー”

PROFILE: 左:小和田哲弘/スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長、「リフィル」ディレクター 右:可児ひろ海/AWA代表取締役、「スキンアウェア」デザイナー

左:小和田哲弘/スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長、「リフィル」ディレクター<br />
右:可児ひろ海/AWA代表取締役、「スキンアウェア」デザイナー
PROFILE: 左:(こわだ てつひろ)1976年生まれ。2001年、瀧定(現スタイレム瀧定大阪)入社。約10年間大手アパレルからセレクトショップなどに向けてカットソー生地の企画販売を行う。11年に新設された38課で製品OEMをスタート。製品づくりのノウハウを習得し、国内での生産背景を中心に事業を拡大。15年より38課課長に就任。入社以来「編み物(カットソー)」一筋で、原料の選定から製品に仕上げるまで<編み・染め・縫製>全工程に関わるプロフェッショナルとして数多くのプロジェクトに従事。MADE IN JAPANに特化した生地づくりと縫製を掛け合わせた究極のコットン「COTTONY」を完成させ、21年にD2Cブランド「リフィル(LIFiLL)」をデビューさせ、38課を率いながらディレクションをしている。 右:(かに ひろみ)2001年レディスブランド「コクーン(COCOON))を立ち上げ07年までコレクションを展開。女性の強さと柔らかさが同居したコレクションは女優やシンガーからも支持され、海外での評価も得る。デザイナー個人としても愛知万博のユニフォームや、資生堂Zaのスタッフユニフォームの制作を行った。04年にオーガニックコットンのレディスウェア・ランジェリーブランド 「スキンウェア(Skinware)」をスタート。伊勢丹新宿店などで販売しエシカルファッションの先駆けとなる。08年に両ブランドのコレクションを休止し、グローバルファッションブランドでデザイナー、コンサルタントとして参画。13年 「スキンウェア」をリニューアル再スタートする。2017年 「スキンアウェア(SkinAware)」にブランドリニューアル。

スタイレム瀧定大阪(以下、スタイレム)のD2Cブランド「リフィル(LIFILL)」は4月26日、「スキンアウェア(SKINAWARE)」とコラボレーションし、同社の「オーガニックフィールド(ORGANIC FIELD)」のコットン生地を用いたTシャツを発売した。対象のTシャツは既存の1型で、デザイナーが行ったことは色の指定のみ。だから中身が薄いかと言えばそうでもない。むしろアパレル産業の課題解決のヒントがそこにはある。

「リフィル(LIFILL)」はカットソー専門のブランドで、同社で長年カットソー生地を営業してきた小和田哲弘スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長が2021年9月に社内公募で立ち上げた。「とにかくカットソーという生地が好き」というオタク気質の小和田ディレクターは「原料を突き詰め、糸の選定や編み方、染めなどの加工にこだわり“たかがTシャツ”だけど着用したときテンションがあがり生活を豊かにする」一着を追求している。

「オーガニックフィールド」のコットン生地を採用

カットソーの品質を左右するのは「原料」だと言われる。今回採用した原料は、スタイレムがインドで進めている「オーガニックフィールド」のコットンだ。生産段階で異物を手作業で丁寧に取り除いていることもあり、なめらかでしなやかな落ち感を持つ。名称に“オーガニック”の文字が入るが、既存のオーガニックコットンの認証を受けているわけではない。ならば「まがい物」かと言えばそれも違う。

「オーガニックフィールド」は同社が種の選定から綿花栽培、糸の生産までをオーガニックのプロセスで管理することで、トレーサビリティを確保している。オーガニックコットンの認証は現在、3年以上無農薬・無化学肥料で栽培されたものが対象となっており、小規模農家にとってはハードルが高い。そこで同社は現地のNGO、大手紡績会社と組んで小規模な農家の綿花栽培や労働環境の向上を支援しつつ、移行期間の綿花も含めて買い取っていく仕組みとして「オーガニックフィールド」を進めている。

世界的に需要が高まるオーガニックコットンだが、生産に手間がかかるため流通量は綿花全体の1%未満と少なく、価格が割高なのが現状だ。また、2020年には、オーガニックコットンの有力生産国であるインドで認証の大規模な不正行為が発覚するなど認証に対する信頼が揺らぐ“事件”が起きている。こういった現状を踏まえ、日本の商社はトレーサビリティを担保するオーガニックコットンのプロジェクトに各社取り組んでいる。「オーガニックフィールド」もその一つだ。

“畑に赴き、生産者と対話し、活動全体を支援することが大事”

今回「リフィル」が協業をした「スキンアウェア(SKINAWARE)」はオーガニックコットン&植物染めを用いたアパレル・インナーブランドで、エシカルファッションの先駆者的存在だ。認証オーガニックコットンだけを使用してきた可児ひろ海「スキンアウェア」デザイナーが「オーガニックフィールド」を採用した、その選択は「オーガニックフィールド」にとっては大きい。オーガニックコットンに見識がある可児は、今回の協業を決めた理由について次のように説明をする。「私のブランドは、糸段階から認証・認定を受けたオーガニックコットンを使うことをブランドの姿勢としている。同時に、生産者を増やすことの大切さも痛感しているので、生産者と直接つながり支援する『オーガニックフィールド』の取り組みに共感する。結局は人間がやることだから、畑に赴き、生産者と対話し、活動全体を支援することが大事だと思う。オーガニックの背景に関心が高いお客さんも増えてきたので、一緒に知識をつけるよいタイミングだとも思う」。

可児デザイナーと小和田ディレクターの付き合いは、20年近く。可児のこだわりを、生地オタクの小和田のこだわりが支えてきた。その関係性もまた長いサプライチェーンのひとつ。「結局は人間がやることだから」の一部である。「服のデザインのために生地を選ぶとき、最終的に見るのはスワッチだけど、その向こうには人がいる。オーガニック、サステナブル、フェアトレードと、言葉は色々あるが、畑でコットンを栽培している人たちの姿を見たとき“この人たちと作っているのだ”実感し、服は畑から続くバトンをお客さんに渡すアンカーなんだと腑に落ちた」と可児。1型だけのTシャツにおいて協業したコトとは、畑までさかのぼったモノづくりのストーリーであり価値観だ。

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スタイレム「リフィル」が「スキンアウェア」とコラボ “服は綿花畑から続くバトンのアンカー”

PROFILE: 左:小和田哲弘/スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長、「リフィル」ディレクター 右:可児ひろ海/AWA代表取締役、「スキンアウェア」デザイナー

左:小和田哲弘/スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長、「リフィル」ディレクター<br />
右:可児ひろ海/AWA代表取締役、「スキンアウェア」デザイナー
PROFILE: 左:(こわだ てつひろ)1976年生まれ。2001年、瀧定(現スタイレム瀧定大阪)入社。約10年間大手アパレルからセレクトショップなどに向けてカットソー生地の企画販売を行う。11年に新設された38課で製品OEMをスタート。製品づくりのノウハウを習得し、国内での生産背景を中心に事業を拡大。15年より38課課長に就任。入社以来「編み物(カットソー)」一筋で、原料の選定から製品に仕上げるまで<編み・染め・縫製>全工程に関わるプロフェッショナルとして数多くのプロジェクトに従事。MADE IN JAPANに特化した生地づくりと縫製を掛け合わせた究極のコットン「COTTONY」を完成させ、21年にD2Cブランド「リフィル(LIFiLL)」をデビューさせ、38課を率いながらディレクションをしている。 右:(かに ひろみ)2001年レディスブランド「コクーン(COCOON))を立ち上げ07年までコレクションを展開。女性の強さと柔らかさが同居したコレクションは女優やシンガーからも支持され、海外での評価も得る。デザイナー個人としても愛知万博のユニフォームや、資生堂Zaのスタッフユニフォームの制作を行った。04年にオーガニックコットンのレディスウェア・ランジェリーブランド 「スキンウェア(Skinware)」をスタート。伊勢丹新宿店などで販売しエシカルファッションの先駆けとなる。08年に両ブランドのコレクションを休止し、グローバルファッションブランドでデザイナー、コンサルタントとして参画。13年 「スキンウェア」をリニューアル再スタートする。2017年 「スキンアウェア(SkinAware)」にブランドリニューアル。

スタイレム瀧定大阪(以下、スタイレム)のD2Cブランド「リフィル(LIFILL)」は4月26日、「スキンアウェア(SKINAWARE)」とコラボレーションし、同社の「オーガニックフィールド(ORGANIC FIELD)」のコットン生地を用いたTシャツを発売した。対象のTシャツは既存の1型で、デザイナーが行ったことは色の指定のみ。だから中身が薄いかと言えばそうでもない。むしろアパレル産業の課題解決のヒントがそこにはある。

「リフィル(LIFILL)」はカットソー専門のブランドで、同社で長年カットソー生地を営業してきた小和田哲弘スタイレム瀧定大阪第二事業部ガーメント1部38課課長が2021年9月に社内公募で立ち上げた。「とにかくカットソーという生地が好き」というオタク気質の小和田ディレクターは「原料を突き詰め、糸の選定や編み方、染めなどの加工にこだわり“たかがTシャツ”だけど着用したときテンションがあがり生活を豊かにする」一着を追求している。

「オーガニックフィールド」のコットン生地を採用

カットソーの品質を左右するのは「原料」だと言われる。今回採用した原料は、スタイレムがインドで進めている「オーガニックフィールド」のコットンだ。生産段階で異物を手作業で丁寧に取り除いていることもあり、なめらかでしなやかな落ち感を持つ。名称に“オーガニック”の文字が入るが、既存のオーガニックコットンの認証を受けているわけではない。ならば「まがい物」かと言えばそれも違う。

「オーガニックフィールド」は同社が種の選定から綿花栽培、糸の生産までをオーガニックのプロセスで管理することで、トレーサビリティを確保している。オーガニックコットンの認証は現在、3年以上無農薬・無化学肥料で栽培されたものが対象となっており、小規模農家にとってはハードルが高い。そこで同社は現地のNGO、大手紡績会社と組んで小規模な農家の綿花栽培や労働環境の向上を支援しつつ、移行期間の綿花も含めて買い取っていく仕組みとして「オーガニックフィールド」を進めている。

世界的に需要が高まるオーガニックコットンだが、生産に手間がかかるため流通量は綿花全体の1%未満と少なく、価格が割高なのが現状だ。また、2020年には、オーガニックコットンの有力生産国であるインドで認証の大規模な不正行為が発覚するなど認証に対する信頼が揺らぐ“事件”が起きている。こういった現状を踏まえ、日本の商社はトレーサビリティを担保するオーガニックコットンのプロジェクトに各社取り組んでいる。「オーガニックフィールド」もその一つだ。

“畑に赴き、生産者と対話し、活動全体を支援することが大事”

今回「リフィル」が協業をした「スキンアウェア(SKINAWARE)」はオーガニックコットン&植物染めを用いたアパレル・インナーブランドで、エシカルファッションの先駆者的存在だ。認証オーガニックコットンだけを使用してきた可児ひろ海「スキンアウェア」デザイナーが「オーガニックフィールド」を採用した、その選択は「オーガニックフィールド」にとっては大きい。オーガニックコットンに見識がある可児は、今回の協業を決めた理由について次のように説明をする。「私のブランドは、糸段階から認証・認定を受けたオーガニックコットンを使うことをブランドの姿勢としている。同時に、生産者を増やすことの大切さも痛感しているので、生産者と直接つながり支援する『オーガニックフィールド』の取り組みに共感する。結局は人間がやることだから、畑に赴き、生産者と対話し、活動全体を支援することが大事だと思う。オーガニックの背景に関心が高いお客さんも増えてきたので、一緒に知識をつけるよいタイミングだとも思う」。

可児デザイナーと小和田ディレクターの付き合いは、20年近く。可児のこだわりを、生地オタクの小和田のこだわりが支えてきた。その関係性もまた長いサプライチェーンのひとつ。「結局は人間がやることだから」の一部である。「服のデザインのために生地を選ぶとき、最終的に見るのはスワッチだけど、その向こうには人がいる。オーガニック、サステナブル、フェアトレードと、言葉は色々あるが、畑でコットンを栽培している人たちの姿を見たとき“この人たちと作っているのだ”実感し、服は畑から続くバトンをお客さんに渡すアンカーなんだと腑に落ちた」と可児。1型だけのTシャツにおいて協業したコトとは、畑までさかのぼったモノづくりのストーリーであり価値観だ。

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ユナイテッドアローズの20代向け新シューズブランド 1万5000円以下で攻めたデザインに

 「シー ユナイテッドアローズ」[/caption]

ユナイテッドアローズがこのほど立ち上げたウィメンズシューズブランド「シー ユナイテッドアローズ(SY UNITED ARROWS)」(以下、シー)は、エッジの効いたデザインと1万5000円以下の手に取りやすい価格帯が強み。同社のシューズブランド「オデット エ オディール(ODETTE E ODILE)」で取りきれていなかった20代を狙う。企画は婦人靴メーカーで経験を積み昨年同社に入社した加藤亜季が担当する。

「オデット エ オディール」とすみ分け 確実に20代に届ける

「オデット エ オディール」課課長で「シー」の事業責任者を兼務する遠藤剛史は、「市場全体で見ると若者に向けた商品はギャルモードやベーシックなテイストに偏っている一方で、ラグジュアリーは価格が高騰している。日常的に履くことができて遊び心もあるモードカジュアルのカテゴリーは実は少ない。お客さまの『このデザインが欲しいけど、手が届かなかった』という気持ちを解消するブランドにしたい」と話す。

「オデット エ オディール」でも約3年前から若年層向けに1万円前後の商品を企画しEC限定で販売するなどの施策を取ってきた。「しかし、もともと顧客の年齢層が高い『オデット エ オディール』のなかでの提案には限界があった」と遠藤課長。2023年秋冬シーズンには「オデット エ オディール」を、モード感を強めたフェミニンシックをデザインコンセプトにより大人向けにリブランディングし、価格帯はこれまでのボリュームゾーンだった2万円以下から、2万〜3万円に裾野を広げた。

「それぞれ棲み分けをはっきりさせたことでブランドの輪郭がシャープになった。『シー』は4月に発売したばかりだが、ターゲット層に届いている感覚もある」と手応えを語る。現在「シー」の販路はECと「オデット エ オディール」直営店が中心。中長期的には単独店の出店も目指すという。

一歩踏み込んだデザインに挑戦

4月に発売した第一弾商品は、変形ウエッジヒールが特徴的なメタリックシルバーのパンプス(1万3200円)が象徴する大人モードな雰囲気と、きらびやかなピンクのスパンコールを全面に配したスクエアトゥのバレエシューズ(1万2100円)などの華やかな雰囲気の2つのテイストを軸に企画した。加藤担当は、「共通して開放的で前向きなエネルギーを感じてもらいたいと思った。過去の職場ではいろいろなメーカーやブランドを見てきたが、売れる商品を作ろうとするとデザインが控えめになる傾向があった。『シー』では、それをしてしまうと逆に他社と差別化が出来ない。思い切って一歩踏み込んだデザインに挑戦している」と話す。

大ぶりなビジューを散りばめたスポーツサンダル(1万4300円)は、ソールの縁にも小さなスタッズを配してデコラティブに仕上げた。きゃしゃなTストラップのサンダル(1万3200円)は、クリアヒールを組み合わせモードかつ清涼感のある印象に。共通して使用している中敷は、履き心地を考慮して厚みがあるものを採用した。市場で人気のフラットシューズはバリエーション豊富にそろえると同時に、7cmヒールをメインにスタイルアップを叶える提案にも重きを置く。デザイン性を担保しつつも、海外で生産したり合成皮革を採用したりすることでコストを抑える。

今後はターゲット層世代の店舗スタッフの声を取り入れながら、商品をアップデートしていく。また定期的に新作を出しインスタグラムを中心に訴求することで、接点を増やす。

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「クラランス」のブランド責任者が語る、70年間継承する価値観と絶え間ない革新

PROFILE: カタリン・ベレニ/「クラランス」ブランドジェネラルマネージャー

カタリン・ベレニ/「クラランス」ブランドジェネラルマネージャー
PROFILE: ハンガリー生まれ。パリの国立高等装飾美術学校とフランスファッション学院を卒業し、アメリカでMBAを取得。2001年に「シュウ ウエムラ」ヨーロッパブランドマネージャーとしてキャリアをスタートする。07年にロレアルグループを退社し、韓国の化粧品研究者と共同で「エルボリアン」を設立。12年にロクシタングループが「エルボリアン」を買収。17年に「ロクシタン」と「エルボリアン」の最高クリエイティブオフィサーに就任。19年から現職 PHOTO : TAMEKI OSHIRO

「クラランス(CLARINS)」は今年、ブランド誕生70周年を迎える。日本市場の調査と、日本チームとの連携をより強固にするためにこのほど、カタリン・ベレニ(Katalin Berenyl)=「クラランス」ブランド・ジェネラル・マネージャーが来日した。70周年の節目に、ベストセラー商品の一つである“フィックス メイクアップ”(50mL、4950円)をリニューアルし、7月5日に発売を控える。そのほか創設者ジャック・クルタン・クラランス(Jacques Courtin Clarins)の価値観を継承しながら、イノベーションにも積極的だ。ブランドを統括するベレニに、商品開発のこだわりや各国での商況を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):今回の来日の狙いは?

カタリン・ベレニ=「クラランス」ブランド・ジェネラル・マネージャー(以下、ベレニ):市場調査と、日本チームと直接コミュニケーションをとることが目的だ。世界でブランドを展開するにあたり、各国のチームや顧客の声を聞くことを重視する。それぞれの国で「クラランス」の商品がどのように息づいているかを知り、開発や戦略に生かしている。今回は、美容部員の声を聞くことで、顧客についての理解を深めるのも狙いの一つ。

WWD:日本事業をどう分析している?

ベレニ:日本はジャックが最も好きな国の一つで、消費者は厳密かつきめ細やかで要求のレベルが高い。ブランドが提唱する理念や哲学が受け入れやすい土壌がある。「クラランス」は、アジアでNo.3(同社調べ)のブランドに位置し、日本市場も成長しているものの満足のいく結果に達していない。

WWD:日本のチームに望むことは?

ベレニ:日本の顧客のニーズに応じた商品に絞って提案するべきだと考えている。商品の数を減らすわけではないが、より厳選した提案をしていきたい。また、「クラランス」は“植物を科学する”ブランドなので、厳選した商品の1つ1つにどのような成分が配合されており、それらが肌にどのような効果をもたらすのかをより明確に説明できるようになるべきだ。

創設者の価値観を70年間継承

WWD:「クラランス」70年の歴史をどのように振り返る?

ベレニ:「クラランス」は3代に渡る同族経営で、“女性の声に耳を傾け、最高の商品効果を提供する”という価値観を貫いてきた。商品開発とともに、商品の効果を最大限発揮するための使い方を開発し、美容部員に伝授してきた。創設者の価値観を70年間も忠実に守り、継承してきたブランドは世界でも数少ない。

WWD:世界でのビジネス展開は?

ベレニ:150カ国で販売しており、子会社が28社ある。売り上げは1位が中国で、アメリカとフランスが続く。中国とアメリカは大きなスキンケア市場で、高品質の商品を強く求めている。また、ヨーロッパでは絶対的な認知度を誇る。

WWD:コロナ前後の商況は?

ベレニ:2020〜21年のコロナ禍は業績が落ちたが、23年度はコロナ禍前の19年度と比べて20%成長した。想定より早く回復できたのは、ロイヤル顧客が多いことや商品の品質の高さが要因だと考えている。エイジングケア美容液“ダブル セーラム”や、唇をケアしながら色味を与える“リップコンフォートオイル”など、ほかのブランドに類似品がないような商品を多く生み出していることが好結果につながった。現在は、ボディーを含むスキンケアの売り上げが90%を占めているが、成長率はメイクアップの方が大きい。「クラランス」は女性の肌を守るためのメイクアップ商品を提案してきた。今後もスキンケア成分を配合したメイクアップ商品を積極的に開発し、販売していく。

WWD:好調な商品は?

ベレニ:どの国でも“ダブル セーラム”が最も売れている。今年、同商品のコンシューマーテストを初めて日本で行う予定だ。日本は要求のレベルが高く、フランスにとって重要な市場と捉えている。

ベストセラー“フィックス メイクアップ”を6年ぶりにリニューアル

WWD:08年に誕生した“フィックス メイクアップ”を6年ぶりにリニューアルする経緯は?

ベレニ:「クラランス」は絶え間ない革新を重視しており、常に商品の改良に取り組んでいる。今回の“フィックス メイクアップ”のリニューアルではスキンケア成分を97%配合。長時間保湿し、潤った艶のある肌をかなえる。また、自然由来成分の割合を94%まで高め、アルプスの自社農園で栽培したアルペンローズ エキスを配合した。乾燥などの外的ストレスから肌を守りながら、メイクを24時間フィックスするなど機能を向上した。

WWD:パッケージはどう変わった?

ベレニ:ボトルにリサイクルガラスを40%使用した。また、キャップに再生プラスチックを使用し、それ自体もリサイクルできるように改良した。「クラランス」は商品だけでなく、環境に配慮したパッケージの開発にもこだわっている。4月にリニューアルしたボディー用美容液“ボディ フィット アクティヴ”(200mL、1万450円)はチューブの47%に再生プラスチックを使用し、キャップも軽量化。それにより年間6トンのプラスチック使用量を削減した。

WWD:パッケージ開発の取り組みは?

ベレニ:25年までに、全ての商品が何らかの形でリサイクル可能あるいは詰め替え可能、再利用可能な状態を目指す。23年の段階で、商品の30%はパッケージに再生素材を使用している。25年には、使用率を50%に向上させる目標だ。

また現在、商品の70%はパッケージがリサイクル可能だ。リサイクル可能にするには単一素材でつくる必要があるが、メイクアップ商品はボトルやキャップ、スポイトなどさまざまなパーツがあるため単一素材にするのが難しい。25年までに、リサイクル可能な商品の割合を限りなく100%に近づける目標を掲げている。スキンケアは、25年までに全商品のパッケージをリサイクル可能にする予定だ。

WWD:リニューアル前の旧商品はどのように取り扱う?

ベレニ:全世界のアウトレットチェーンで販売する。あるいは、団体や協会などに寄付する。フランスの法律でも定められており、決して廃棄することはない。

得意とする植物研究を追求

WWD:改めて「クラランス」の強みは?

ベレニ:革新的であることと、商品の効果が高いことだ。世界トップ水準の研究所を擁し、23年には516種の植物を研究した。このうち商品化されたのはわずか10種だ。科学と本物思考を重視し、決して妥協しない商品開発に誇りを持っている。

WWD:今後のビジョンは?

ベレニ:「クラランス」はアルプスのオート・サヴォワ区域と、南仏ニーム近郊に自社農園を持つ。“農地から肌まで”という哲学を掲げており、30年までに、商品に必要な植物原料の3分の1を同農園から調達する目標だ。短期的な利益を追求するのではなく、長期的なビジョンに基づいて成長していきたい。

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沖縄コスメLIST.2 「フローモ」元・大手日用品メーカー研究員が、沖縄の自然の恵みに感化されて開発

県内外で定評のある〝沖縄コスメブランド″を紹介する企画の第2弾。今回取り上げるブランドは、元・大手日用品メーカーの研究員だった女性が、沖縄移住をきっかけに大自然の恵みからインスパイアされて開発したスキンケア「フローモ(FROMO)」。石渡みち代「フローモ」代表・商品開発ディレクターに取材した。

――:石渡さんは東京から沖縄に移住されたそうですが、そのきっかけは?

石渡みち代「フローモ」代表・商品開発ディレクター(以下、石渡):私は出身が千葉で、東京で働いていたのですが、主人が沖縄に移住することになり、私も東京の会社をやめて、こちらに来ることになりました。

――:東京ではどんな仕事を?

石渡:日用品メーカーで研究員をしていました。植物由来の界面活性剤などを用いて洗剤を作ったり。その後は、以前から興味があった建築デザイン事務所に転職しまして。設計士・インテリアコーディネーターとして仕事をしていました。

――:日用品研究員からインテリアコーディネーターまで幅広いキャリアですね(笑)。でも、それぞれのキャリアがきっと化粧品開発やブランディングに生かされているのでしょうね。では、「フローモ」を立ち上げたきっかけを教えてください。

石渡:実は沖縄に移住してから、日光アレルギーである“日光過敏症”を発症してしまいまして。首やデコルテに発疹ができてしまったのですが、それが月桃水をつけたらみるみる完治して。その肌効果に驚いたことや、沖縄の自然に囲まれた生活を送るなかで、東京では得られない癒やしを得たこともあり、この自然の恵みをカタチにしようと思い、ブランドを設立することにしました。

――:では、初めに開発したのは月桃の化粧水?

石渡:はい。月桃の化粧水とスキンケアオイル、固形ソープの3点です。化粧水は月桃蒸留水100%と精油、さらにハチミツやグリセリン、ベタインを配合することで保湿力を強化しています。月桃は沖縄では昔から肌荒れにいいとされていることもあり、私自身が敏感肌ではありますが月桃は精油も配合しています。

――:確かに敏感肌には精油は刺激が強すぎる気がしますが、月桃は大丈夫、というか、むしろ肌に有効なんですね。そして「フローモ」にはもう一つ、“2830(にーはちさんぜろ)”というラインがありますね。こちらのライン名の意味は?

石渡:“2830”は月の満ち欠けの周期である28日と、ミツバチの平均的な寿命である30日の数字を組み合わせたものです。沖縄では中国の影響から旧暦文化が根付いていて、旧正月や旧盆など大きなイベントもあります。また、地元の方からは「満月の時に子どもがよく生まれやすい」とよく聞くこともあり、体内リズムを自然な状態に整えようという思いをこめてライン名にしました。また、ミツバチについては月桃化粧水を作った頃からハチミツの薬理作用に注目していまして。特に沖縄には“タイアワユキセンダン草”というキク科の野草があらゆる場所に自生しているのですが、この花を蜜源にしたハチミツには一般的なハチミツにはない、肌にいいビタミンB6・B7やポリフェノールなどが検出されたこともあり、このハチミツやミツロウがブランドのスター成分に相応しいと思い採用しました。

――:だから、ショップの隣に養蜂箱があったのですね! ミツバチがぶんぶんと元気に飛んでいました(笑)。

石渡:自社でハチミツも用意しようと、いまは巣箱を20箱ほど管理しています。スキンケアに配合するハチミツであれば充分な量を採取できています。

――:ハチミツや月桃のほか、県産のオリーブオイルや植物オイルも積極的に活用されているそうですね。

石渡:はい。県内の農家などで破棄されている素材のアップサイクルにも取り組んでいます。その活動が認められ、沖縄特産のみかん「カーブチー」と月桃を用いた天然バーム“Fofo ビーバーム”は、サステナブルコスメアワード2021にてブロンズ賞を獲得することができました。

――:SDGsにも意欲的に取り組まれていますね。

石渡:養蜂もそうですが、これからも県内で作られている素材を有効活用することで、サーキュラーエコノミーに貢献するような化粧品づくりを心掛けていきたいと考えています。

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存在感増す中国コスメ 韓国メイクとの違いとは?

さまざまな中国コスメが日本に上陸している。中国国内でも、Z世代を中心に自国のコスメを愛用する若者が増えているという。今回、卸商社あらたと「フローラシス(花西子)」に売れ筋や人気の理由を聞いた。

1.5年で25店舗を出店予定の「フローラシス(花西子)」

中国コスメの中でも存在感を放つのが2017年誕生の「フローラシス(花西子)」だ。中国・浙江省に本社を置く杭州宜格化粧品(コウシュウイケイケショウヒン)が展開する。2023年は2月にアットコスメ原宿で1週間のポップアップを、秋には伊勢丹新宿本店1階の化粧品プロモーションスペースでポップアップを実施した。アットコスメ大阪にも商品棚を展開する。「われわれは、日本マーケットの展開を遂行し、パートナーと一緒に日本市場を開拓している。今後5年で、アジアほか北米やヨーロッパで50店舗の出店目標を掲げているが、うち25店舗を日本国内で計画している」と、曹明磊(ソウ メイライ)・花西子日本マーケティング責任者は話す。

―――伊勢丹のポップアップで売り上げ点数ベスト1位(23年9月末時点)は何か。

曹明磊(ソウ メイライ)・花西子日本マーケティング責任者(以下、曹):“玉養桃花ルースパウダー 05ラベンダー”(4100円)だ。細かい粉質とサラサラとした仕上がりが好評だ。インフルエンサーからの評価の影響も大きい。

―――ポップアップでのメインの顧客層は?

曹:幅広いが、メインは20〜40代の女性だった。理由は大きく3つある。まず、商品のパッケージが魅力的であること。粉質やラメ、発色など、商品の品質の良さ。そして、自分が好きなインフルエンサーが薦め購買するケースも多かった。

2.「パーフェクトダイアリー(PERFECTDIARY)」をはじめ複数ブランドを取り扱う卸商社「あらた」

―――現在、取り扱っている中国コスメブランドは?

柚原(ゆはら)晴香・あらたコスメ事業本部(以下、柚原)「パーフェクトダイアリー(PERFECTDIARY)」「ズーシー(ZEESEA)」「フラワーノーズ(FLOWERKNOWS)」「カラーキー(CLORKEY)」「カラーローズ(COLORROSE)」「ジューシー(JOOCYEE)」「ジュディドール(JUDYDOLL)」などを取り扱っている。日本の正規代理店で取り扱っているブランドのみを仕入れている。

―――その中でヒットアイテムとその理由は?

柚原:「パーフェクトダイアリー」では、“エクスプローラ12色動物アイシャドウパレット”(3990円)や“トランスルーシェントブルーリングルースパウダー”(3890円)が好調だ。アイシャドウパレットは目を引く動物柄のパッケージと捨て色がないカラー展開、発色の良さで人気。ルースパウダーはTikTokやインスタグラムなどのSNSで「水をはじくパウダー」として話題となりその後店頭で欠品するほど人気となった。「フラワーノーズ」など、見た目にこだわった製品は新しいシリーズが発売する度に、話題を集めている。また「ズーシー(ZEESEA)」の“夢幻燦爛動物シリーズ4色アイシャドウ”(1580円)は、猫や犬のかわいらしいパッケージと手に取りやすい価格帯で若年層を中心に売れている。

―――日本でも「千金メイク」に代表されるように、中国コスメ・メイクが受け入れられつつある印象だ。顧客の温度感については?

柚原:ブランドがこだわっている世界観や高いデザイン性はもちろん、品質面でも非常に優れているものも多く、日本の顧客にも苦手意識はないと感じている。展示会で中国コスメをご紹介する際も顧客からは好印象で、ブランドを既に知っている人も年々増えている。最近では各種SNSで中国メイクの発信が増えており、Z世代を中心にニーズが高まっている。韓国コスメとはまた違ったメイクも常に話題となっている印象だ。

―――韓国メイクと「千金メイク」などに代表される中国メイクでは、テイストにどのような違いがある?

柚原:あくまでも個人的な意見となるが、分類するとすれば韓国メイクはナチュラルな可愛い系、中国メイクは凛としてハッキリした印象の美人を目指す印象だ。韓国メイクはアイドルのような束感のあるまつ毛や透明感ある水光肌、自然な色味(ニュアンスカラー)や淡い配色のアイシャドウやチークを使用し「ナチュラルでキレイ」「かわいい」を強調する傾向がある。一方で中国メイクにおいては、アイラインやアイブロウをしっかりと描き、鮮やかな色味のリップを使用する。さらにハイライトやシェーディングで立体感を演出・陶器のような白いマット肌など美人度が増すようなメイクが多いのではないか。ここ最近の「千金メイク」においても華やかさのある令嬢のようなイメージで、韓国のアイドルメイクとは重視するポイントが異なると感じている。

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存在感増す中国コスメ 韓国メイクとの違いとは?

さまざまな中国コスメが日本に上陸している。中国国内でも、Z世代を中心に自国のコスメを愛用する若者が増えているという。今回、卸商社あらたと「フローラシス(花西子)」に売れ筋や人気の理由を聞いた。

1.5年で25店舗を出店予定の「フローラシス(花西子)」

中国コスメの中でも存在感を放つのが2017年誕生の「フローラシス(花西子)」だ。中国・浙江省に本社を置く杭州宜格化粧品(コウシュウイケイケショウヒン)が展開する。2023年は2月にアットコスメ原宿で1週間のポップアップを、秋には伊勢丹新宿本店1階の化粧品プロモーションスペースでポップアップを実施した。アットコスメ大阪にも商品棚を展開する。「われわれは、日本マーケットの展開を遂行し、パートナーと一緒に日本市場を開拓している。今後5年で、アジアほか北米やヨーロッパで50店舗の出店目標を掲げているが、うち25店舗を日本国内で計画している」と、曹明磊(ソウ メイライ)・花西子日本マーケティング責任者は話す。

―――伊勢丹のポップアップで売り上げ点数ベスト1位(23年9月末時点)は何か。

曹明磊(ソウ メイライ)・花西子日本マーケティング責任者(以下、曹):“玉養桃花ルースパウダー 05ラベンダー”(4100円)だ。細かい粉質とサラサラとした仕上がりが好評だ。インフルエンサーからの評価の影響も大きい。

―――ポップアップでのメインの顧客層は?

曹:幅広いが、メインは20〜40代の女性だった。理由は大きく3つある。まず、商品のパッケージが魅力的であること。粉質やラメ、発色など、商品の品質の良さ。そして、自分が好きなインフルエンサーが薦め購買するケースも多かった。

2.「パーフェクトダイアリー(PERFECTDIARY)」をはじめ複数ブランドを取り扱う卸商社「あらた」

―――現在、取り扱っている中国コスメブランドは?

柚原(ゆはら)晴香・あらたコスメ事業本部(以下、柚原)「パーフェクトダイアリー(PERFECTDIARY)」「ズーシー(ZEESEA)」「フラワーノーズ(FLOWERKNOWS)」「カラーキー(CLORKEY)」「カラーローズ(COLORROSE)」「ジューシー(JOOCYEE)」「ジュディドール(JUDYDOLL)」などを取り扱っている。日本の正規代理店で取り扱っているブランドのみを仕入れている。

―――その中でヒットアイテムとその理由は?

柚原:「パーフェクトダイアリー」では、“エクスプローラ12色動物アイシャドウパレット”(3990円)や“トランスルーシェントブルーリングルースパウダー”(3890円)が好調だ。アイシャドウパレットは目を引く動物柄のパッケージと捨て色がないカラー展開、発色の良さで人気。ルースパウダーはTikTokやインスタグラムなどのSNSで「水をはじくパウダー」として話題となりその後店頭で欠品するほど人気となった。「フラワーノーズ」など、見た目にこだわった製品は新しいシリーズが発売する度に、話題を集めている。また「ズーシー(ZEESEA)」の“夢幻燦爛動物シリーズ4色アイシャドウ”(1580円)は、猫や犬のかわいらしいパッケージと手に取りやすい価格帯で若年層を中心に売れている。

―――日本でも「千金メイク」に代表されるように、中国コスメ・メイクが受け入れられつつある印象だ。顧客の温度感については?

柚原:ブランドがこだわっている世界観や高いデザイン性はもちろん、品質面でも非常に優れているものも多く、日本の顧客にも苦手意識はないと感じている。展示会で中国コスメをご紹介する際も顧客からは好印象で、ブランドを既に知っている人も年々増えている。最近では各種SNSで中国メイクの発信が増えており、Z世代を中心にニーズが高まっている。韓国コスメとはまた違ったメイクも常に話題となっている印象だ。

―――韓国メイクと「千金メイク」などに代表される中国メイクでは、テイストにどのような違いがある?

柚原:あくまでも個人的な意見となるが、分類するとすれば韓国メイクはナチュラルな可愛い系、中国メイクは凛としてハッキリした印象の美人を目指す印象だ。韓国メイクはアイドルのような束感のあるまつ毛や透明感ある水光肌、自然な色味(ニュアンスカラー)や淡い配色のアイシャドウやチークを使用し「ナチュラルでキレイ」「かわいい」を強調する傾向がある。一方で中国メイクにおいては、アイラインやアイブロウをしっかりと描き、鮮やかな色味のリップを使用する。さらにハイライトやシェーディングで立体感を演出・陶器のような白いマット肌など美人度が増すようなメイクが多いのではないか。ここ最近の「千金メイク」においても華やかさのある令嬢のようなイメージで、韓国のアイドルメイクとは重視するポイントが異なると感じている。

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伝統を刷新し続ける「トミー ヒルフィガー」  “若者”と“セレブリティー”を起点に40年目へ

創業者本人が現在もデザイナーを務める「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は、2025年で40周年を迎える。常にニュースに事欠かず、今年2月にはニューヨーク・ファッション・ウイークにカムバックし、4月には「トミー ジーンズインターナショナル ゲームス(TOMMY JEANS INTERNATIONAL GAMES)」の復刻コレクションをリリース、K-POPグループのストレイキッズ(Stray Kids)と2度目のコラボを果たすなど、現在も精力的に活動し続けている。

WWDJAPAN(以下、WWD):「トミー ヒルフィガー表参道店」がリニューアルオープンしてから1年が経つ。手応えは。

トミー・ヒルフィガー=「トミー ヒルフィガー」デザイナー(以下、トミー):素晴らしい場所に店舗を構えられて、顧客に喜んでもらえているように感じる。コロナ禍の人々は外出自粛を余儀なくされていたから、最高のタイミングで店舗をリニューアルできた。ショッピングは多くの人にとって“気晴らし”。実店舗でリアルな購買体験を楽しんでもらいたい。現在、D2Cやライブコマースが台頭しているが、店舗が顧客に刺激的な体験を提供するものである限り、なくなることはないだろう。

WWD:来年で創業40周年だが、息の長いブランドになるために必要なことは。

トミー:常に市場から求められ続ける存在を目指すことだ。通常、ブランドの刷新には何十年とかかり、決して1日で達成できるものではない。だからこそ、全ての物事を適切に進める必要がある。

「トミー ヒルフィガー」の顧客の年齢層はとても幅広いが、中でも若い消費者は、ブランドの勢いを加速させてくれる存在。彼らはファッションやアート、音楽、エンターテインメント、スポーツの世界で起きていることに敏感。「トミー ヒルフィガー」はこれまで、数多くのセレブリティーとコラボしてきた。我々もカルチャーの一員だからこそ、コラボ相手には単なる有名人ではなく、その時々のカルチャーにおける重要人物を選ばなければいけない。

若者のニーズを視野に
MDバランスで応える

WWD:「トミー ヒルフィガー」が考える現代の若者の特徴は。

トミー:3つある。サステナビリティーに関心があり、テクノロジーが搭載された生地を好み、シルエットやディテール、色にこだわることだ。今日の顧客は妥協しない。ブランドは、彼らのニーズを意識できるかどうかにかかっている。

WWD:現代の若者は、ブランドの歴史に裏打ちされた“らしさ”に魅力を感じる傾向がある。ブランドの伝統と新鮮さを同時に提案する秘訣は何か。

トミー:「トミー ヒルフィガー」は、伝統的なアメリカンプレッピースタイルを打ち出すブランドで、それは今後も変わらない。その上で、MDのバランスが全ての鍵を握る。あまりにも前衛的なスタイルを発表したら、それについていけない顧客も出てくるし、逆に変わり映えのないスタイルばかりを発表していたら、それに飽きる顧客も出てきてしまう。

バランスが重要だ。我々は最近では、1996年の「トミージーンズ ゲームコレクション」の復刻や、スプリング・コレクション、2024-25年秋冬コレクションの発表の中で、メンズ、ウィメンズ、キッズラインのみならず、シューズやアクセサリーも充実させている。同時に、定番アイテムをそろえた「エッセンシャルズ」ラインに力を入れている。同ラインは、「トミー ヒルフィガー」のビジネスを前進させる上で基盤となる存在だと考える。

セレブリティーとの関係性
“尊重し合える”パートナーシップ

WWD:先述のセレブリティーとのコラボについて聞きたい。世界にはたくさんのセレブリティーがいるが、「トミーヒルフィガー」がコラボ相手を選ぶ基準は。

トミー:ブランドを愛してくれているかだ。「トミー ヒルフィガー」を大切に思ってくれない人に対して、ブランドの顔を務めてもらうためだけに報酬は払いたくはない。もちろん、我々もセレブリティーの才能を“当たり前のもの”として消費すべきではないし、人として彼らを好きになる必要がある。幸運なことに、「トミー ヒルフィガー」はその条件を満たしたセレブリティーと仕事ができている。

WWD:コミュニティーが細分化する現代において、新たな才能を探し当てることは必ずしも容易ではない。

トミー:「トミー ヒルフィガー」は、その時々の主流な価値観を察知するのに長けている。これまで、「音楽の世界やハリウッドでは今、何が起きているか?」など、各界の最新トレンドにアンテナを張ってきた。例えば、ブランドのミューズである女優のゼンデイヤ(Zendaya)も出会った当初こそディズニースターの一人だったが、今や世界的なファッションアイコンになっている。ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)も、ランウエイに登場し始めた頃は無名だったが、今では最も有名なモデルの一人だ。

スポーツ界についても同じで、F1とファッションは密接な関係性を築いて久しい。その中でも「トミー ヒルフィガー」は、F1のスポンサーを30年前から務めてきたし、レーシングドライバーのルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)とも10年以上にわたってコラボしている。

WWD:23年秋のキャンペーンに引き続き、24年春のキャンペーンでもK-popボーイズグループのストレイキッズ(StrayKids)を起用した。

トミー:彼らは生き生きとした楽しい人たちで、「トミー ヒルフィガー」のブランドスピリットと合致する。若い世代を中心に大人気だ。才能に溢れていて、ビジュアルも申し分ない。現在、K-popは大きな影響力を持っているが、我々はその中でも特に素晴らしい才能を備えたグループを選んだと思っている。

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「スウォッチ」がアーティストのVERDYとのコラボコレクションを発売 本人が語るコラボレーションや「ベネチア・ビエンナーレ」への参加

「スウォッチ(SWATCH)」は、日本人アーティストのVERDYと“スウォッチ×VERDYコレクション”を発売した。両者はすでにイタリアの芸術の祭典「べネチア・ビエンナーレ国際美術展」(以下、「ビエンナーレ」)で「ヴィック ブロンズ バイ ヴェルディ(VICK BRONZE BY VERDY)」を発表し、4m大のブロンズカラーのフィギュアと時計をお披露目していたが、今回新たに4型をリリースした。

今回発表したのは、直径41mmの“ヴィック バイ ヴェルディ(VICK BY VERDY)”と“ヴィスティ バイ ヴェルディ(VISTY BY VERDY)”“ウェイステッドユース バイ ヴェルディ(WASTED YOUTH BY VERDY)”の3型(各1万5950円)と、34mmの“ガールズドントクライ バイ ヴェルディ(GIRLS DON’T CRY BY VERDY)”(1万4300円)で、それぞれVERDYを象徴するキャラクターやメッセージを文字盤やベルトに描いた。

さまざまなブランドと仕事をしているアーティスト自身の言葉で「スウォッチ」とのコラボレーションについて語ってもらった。

コラボレーションの経緯 
過去の名作をオマージュしつつ自分らしさも表現

WWDJAPAN(以下、WWD):今回のコラボレーションの経緯は?

VERDY:1年ほど前に今回発売したコラボコレクションの製作が決まり、そのプロセスで「スウォッチ」がサポートしている「ビエンナーレ」への参加を打診され、4m大のフィギュアの展示とブロンズカラーの限定時計の発売が決まった。

WWD:それぞれのアイテムについて。

VERDY:ハードコア・パンクファンのあいだで名作とされる、文字盤に「ストレート・エッジ(喫煙、ドラッグ、飲酒、快楽目的のセックスをしないというハードコアの思想)」のシンボルの「X」の文字が書かれた「スウォッチ」の時計がある。“ヴィック バイ ヴェルディ”はそれをオマージュし、「アナキズム」と「パンク」のシンボルである「A」を書いた。“ウェイステッドユース バイ ヴェルディ”は、文字盤にパンキッシュなコラージュで文字を入れ、ベルトにはいつも使っている総柄をあしらった。“ヴィスティ バイ ヴェルディ”は、新しいキャラクターであるVISTY(ヴィスティ)を使い、子どもの着用をイメージして派手で楽しい配色で作った。ひとまわり小さい“ガールズドントクライ バイ ヴェルディ”はメッセージ通り、女性が着用することを想定した。これも「スウォッチ」の過去の名作に敬意を払い、クリアカラーの文字盤とベルトにした。

WWD:ブロンズカラーのVICKの時計は、口の中の色が変わる仕様になっている。

VERDY:これは「スウォッチ」のデザインチームから提案してもらった。自分はあくまでグラフィックアーティストなので、プロダクトのデザインについて知らないことも多い。今回のように、パートナーのブランドから提案してもらったアイデアを採用することも多い。

アートとの関係が深い「スウォッチ」ならではのやりやすさ

WWD:製作は本国のデザインチームと進めていた?

VERDY:リモートで打ち合わせを続けてきたが、ファッションウイークでパリを訪れた時に打ち合わせをしたり、サンプル品を見せてもらったりした。打ち合わせ後の雑談で生まれるアイデアも多く、ともに仕事をする相手の人となりを知ることも必要。直接会って話すのは重要だと感じている。

WWD:アートとの関係が深い「スウォッチ」ならではのやりやすさはあったか?

VERDY:去年のジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)とのコラボレーションをはじめ、「スウォッチ」にはアーティストと作った膨大なアーカイブがある。それらを参照することで、アイデアをより具体的に想像できた。ベルトから文字盤、時計の針に至るまで、さまざまな要素をカスタムできる自由度の高さも魅力的だった。

WWD:さまざまなブランドや企業とコラボレーションをしているが、コラボレーションのパートナーを選ぶ基準は?

VERDY:そのブランドに対する思い入れがあるかどうか、直感的に自分が作りたいプロダクトのイメージが湧くかどうかを大事にしている。「スウォッチ」にはアーティストとのコラボレーションの歴史があり、キース・ヘリング(Keith Haring)が描いたポスターなど、自分にとっても思い入れが強いプロジェクトも多く、すぐにアイデアが湧いた。

自分らしさを貫いたからこその「ビエンナーレ」への参加

WWD:アーティストであれば誰もが参加を夢見る「ビエンナーレ」への参加が叶った。

VERDY:ストリートやファッションの文脈で作品を発表してきたので、「ビエンナーレ」は遠い世界だった。当初は想像もつかなかったが、こんなチャンスはなかなかないと思い挑戦を決めた。ベネチアでは各国のパビリオンを巡って作品を見て回ったが、イベントの規模にも圧倒されたし、難解なインスタレーションやコンセプチュアルアートなど、さまざまな種類の作品にも触れて多くの学びを得た。また初めて訪れたベネチアの街からも大いに刺激を受けた。

WWD:日本の代表としてではなく、「スウォッチ」とのコラボレーションの一環として「ビエンナーレ」に参加した。

VERDY:ぼくは、純粋なアーティストともグラフィックデザイナーとも異なり、カテゴリーしづらい異質な存在という自覚がある。活動を始めた当初は、デザイナーにせよ、アーティストにせよ、どちらかに専念しないと成功できないとさんざん言われてきた。そんな自分がブランドとのコラボレーションで「ビエンナーレ」に参加できたのは、自分らしさを貫いたからこそだと感じる。

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KNOWER(ノウワー)のルイス・コール&ジェネヴィーヴ・アルターディが語る「ジャズ」と「ポップ・ソング」の関係——「ジャズは古い音楽である必要はない」 

PROFILE: KNOWER(ノウワー)

KNOWER(ノウワー)
PROFILE: ドラマー/プロデューサーとして活躍するルイス・コール(Louis Cole)とボーカリストのジェネヴィーヴ・アルターディ(Genevieve Artadi)の2人からなるLA発超絶ポップ・ユニット。メンバーのルイス・コールは、現代のLAビート・ミュージック・シーンにおける最重要アーティストの1人。ノウワーとしては、2016年にグラミー賞受賞アーティスト、スナーキー・パピーの「ファミリー・ディナー Vol.2」に参加。さらに2017年には、レゴ映画「Ninjago」に楽曲提供を行うだけでなく、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのヨーロッパ公演のオープニング・アクトに抜擢。最新アルバム「KNOWER FOREVER」は23年12月8日に国内盤CDと、輸入盤LPでリリース。アルバムには、サックス奏者のサム・ゲンデル、ベーシストのサム・ウィルクスとモノネオンなど、超絶技巧と個性を持ち合わせたさまざまなミュージシャンが参加している。 ノウワーのルイス・コール(左)とジェネヴィーヴ・アルターディ(右)

ドラマー/プロデューサーのルイス・コール(Louis Cole)とボーカルのジェネヴィーヴ・アルターディ(Genevieve Artadi)によるLA発のポップ・ユニット、ノウワー(KNOWER)が6年ぶりの来日公演を行った。昨年の新作アルバム「KNOWER FOREVER」リリース後、初めてのツアーでもある。首を長くして待っていたリスナーも多かったようで、東京公演のチケットは即ソールドアウト、追加公演が決定するほどの盛況ぶりだった。

その追加公演として開催されたのが3月27日、神田スクエアホールでのライブ。これがツアーの初日となった。会場はホールの足元が見えないほど満員で、オープニングアクトを西口明宏、馬場智章、陸悠ら日本の気鋭サックス奏者3人をフロントに擁したテナーズ・イン・カオス(Tenors In Chaos)が務めると、続いてノウワーがルイスとジェネヴィーヴの他、ポール・コーニッシュ(key)、チキータ・マジック(イシス・ヒラルド/key)、サム・ウィルクス(b)、トム・ギル(g)を従えた計6人のバンド編成で登場した。オーディエンスを圧倒するエキサイティングな音楽は、ジャズ・ミュージシャンならではの超絶技巧に裏打ちされながらも、同時に、並外れたポップとも呼びたくなる強毒性のキャッチーさを備えたパフォーマンスでもあった。数曲で日本の気鋭ジャズ・ミュージシャンからなるホーンセクションとコラボレートしたことも来日公演だからこそ味わえる楽しみの1つだっただろう。

そんなノウワーの音楽をどう形容したらいいだろうかと考えていた時に頭をよぎったのが、2024年にグラミー賞で新設されたベスト・オルタナティブ・ジャズ・アルバム賞だった。映えある最優秀賞に選ばれたのはミシェル・ンデゲオチェロの「The Omnichord Real Book」(23)だったが、グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーによれば、オルタナティブ・ジャズとは「ジャズ(即興、相互作用、ハーモニー、リズム、アレンジメント、作曲、スタイル)と、R&B、ヒップホップ、クラシック、現代即興、実験、ポップ、ラップ、エレクトロ/ダンスミュージック、スポークンワードなど他のジャンルを混ぜ合わせた、ジャンルを超えたハイブリッドなもの」だと定義している*。

変化し続ける今のジャズを捉えるのにぴったりではないだろうか。そしてジャズが背景にありながら突き抜けたポップを聴かせるノウワーの音楽もまさしく、オルタナティブ・ジャズと呼ぶのがふさわしいのではないか。今回のインタビューでは、ツアー初日の公演を終えたばかりのルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルターディに、久しぶりの来日でのライブの手応えやステージ衣装へのこだわりの他、ノウワーというユニットとジャズそしてポップのつながりを伺った。

*「2024年開催の第66回グラミー賞に3つの新カテゴリーが追加」/「uDiscovermusic」日本版、2023年6月14日公開
https://udiscovermusic.jp/news/three-new-categories-added-grammy-awards

6年ぶり来日ツアー初日を終えて

——ジャパン・ツアー初日、大盛況でしたね。ノウワーとしては2018年以来6年ぶりの来日公演でもありますが、ライブの手応えはいかがでしたか?

ジェネヴィーヴ・アルターディ(以下、ジェネヴィーヴ):今回、初日ということもあり、ツアーをしている実感がすぐにはわかなかった。けれど演奏しているうちに「今、私はライブをやっているんだ」という思いが湧いてきて。特に何度も披露してきたおなじみの曲を歌った時はそう。もちろん、新しい曲を歌うのもとてもエキサイティングだった!

ルイス・コール(以下、ルイス):確かに信じられない気持ちだったね。アルバム(「KNOWER FOREVER」)を作るのもすごく長い時間をかけていて、今回はライブ・バンドでレコーディングしたんだけど、それを本当にライブでやっているという実感はやっぱりすぐには湧かなかった。まるで夢を見ているような、現実だとは思えない気分だったよ。

——昨年リリースされた新作「KNOWER FOREVER」には「ライブ・バンドでアルバムを作る」というコンセプトがありましたよね。それは、よりスムーズにライブを行うためでもあったそうですが、実際にアルバム完成後初めてのツアーを行って、スムーズにライブができたり、何か新たな発見があったりはしましたか?

ルイス:そう、アルバムそのものをライブ・バンドでレコーディングしたから、それをライブに移行することはこれまでよりもスムーズだった。でも一概に全てがスムーズになったわけじゃない。当然、難しいところもあったし、ライブをやることは常に挑戦なんだ。ただ「KNOWER FOREVER」はライブの時に劇的に変える必要がなかったから、基本的にはレコーディングした通りにライブでも演奏することができたかな。

ジェネヴィーヴ:そうね。

——新作の収録曲を中心に、過去アルバムの曲も演奏されていましたが、セットリストはあらかじめ決めていたのでしょうか? それともその場でやることを決めた曲もありましたか?

ルイス:セットリストは決めている。紙にプリントして置いていたわけじゃないけど、スマホに入れたのを見てたんだ。

——ライブではメトロノームを鳴らしていて、ジェネヴィーヴさんはヘッドセットを装着していましたね。演奏はクリックを聴きながら合わせていたのですか?

ジェネヴィーヴ:いや、私はクリックを聴いていたんじゃなくて、ヘッドセットを通して自分の声を聴いていたの。モニターから聴くと音量が大きくなりすぎてしまうから。で、どの曲も短いので、少しでも遅れると曲自体が台無しになる。だから遅れないよう正確に歌わなければいけなくて、自分の声を耳の中でじっくり聴きながら歌ってた。クリックは聴いてなかったけど、私にとってはバンド自体がメトロノームみたいな存在だった。とてもタイトな演奏をする人たちだから、リズムを完璧に保っていてくれたと思う。

ルイス:実は僕もメトロノームは聴いていなかったんだ。それよりもバンドが正しいスピードを保つことの方が僕の中では非常に大事で。そうでないと、演奏がノッてきて少しでも違うアレンジをしたら全てがおかしなことになってしまう。もし僕が速すぎたらみんなに迷惑がかかるからね(笑)。だから正しいスピードに設定したメトロノームを鳴らしてカウントオフしてから曲を始めていたんだ。

——ライブでは音源を忠実に再現することを重視していますか? それともライブならではの変化が起きることに重きを置いているのでしょうか?

ルイス:基本的にはアルバムの曲を忠実に再現しようと努めてる。特に音源の良い部分や僕が大好きな部分はライブでもたくさん演奏したいからね。でも同時にインプロヴィゼーションの余地も残しておきたい。ちょっとした瞬間にみんなが自由に変化をつけることもできるようにしたいんだ。だからそれらを混ぜていきたいと思ってるよ。

——そうした変化はバンド・メンバーによっても変わってきますよね。今回のツアー・メンバーは6年前の来日時とも、「KNOWER FOREVER」収録曲のメンバーとも若干違います。メンバーはどのように決めたのですか?

ルイス:みんな友人でありミュージシャンでもあり、もちろんミュージシャンとしても尊敬しているし、友人としても愛している人たちなんだ。ポール(・コーニッシュ/key)とサム(・ウィルクス/b)は僕らと同じLAに住んでいる。イシス(・ヒラルド/チキータ・マジック/key)は友人を通じて知り合って、最初は音楽をやるというより遊び仲間で、そこから一緒に音楽をやるようになっていった。トム(・ギル/g)は唯一、「KNOWER FOREVER」のレコーディングには参加していないメンバーで、演奏しているところを1回観ただけだったんだけど、その時に「この人はめちゃくちゃスペシャルなミュージシャンだ」と感動して。それから友人になって、今回のツアーでもお願いしたんだ。

——ノウワーのライブではファッションにもこだわりが感じられます。6年前の来日時はルイスさんがおなじみのスケルトンスーツも着用していましたが、今回はルイスさんがタンクトップ、ジェネヴィーヴさんはミニスカートで、お2人ともキャップをかぶったスポーティーな雰囲気がありました。ステージ衣装にはどのようなこだわりがありますか?

ルイス:基本的にはスーツケースいっぱいに思いつく限りの衣装を入れて持ってきて、その日のムードや気分で選ぶようにしてる。ステージの上に立った僕を見てほしいというよりも、音楽をじっくり聴いてほしいという思いの方が強いかな。だから音楽を聴いて楽しむのを邪魔しない衣装を心がけている。

ジェネヴィーヴ:私は普段はもっとガーリーな格好をしていて、ドレスやワンピースを着たり、ハイヒールを履いたりしてる。けどステージでは、特にノウワーの音楽はアスレチックなところがあるというか、ジャンプしたりもするので、そういう激しい運動ができる衣装を選んでいるかな。

——初日の公演ではスマホでステージを撮影するオーディエンスもたくさんいましたね。パフォーマンスを撮影したり、それをSNSにアップしたりすることについては、どのようなスタンスでいるのでしょうか?

ルイス:もはや世界がそうなっているので、どうしようもないと思ってる。でも何か新しいことを試す時は、これが撮られていると意識すると怖い部分も感じるかな。だから勇気を出さなくちゃならないけど、でも、もしもオーディエンスが撮影した動画があまり良くないサウンドだったとしたら、それは僕ら自身の責任だと思ってパフォーマンスしているね。

ノウワーというオルタナティブ・ジャズ

——ノウワーとジャズのつながりについて伺いたいのですが、ルイスさんは南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校で、ジェネヴィーヴさんはカリフォルニア州立大学ノースリッジ校で、お2人ともジャズを学ばれていますよね。具体的にはどのようなことを専門的に学ばれましたか?

ルイス:僕はドラムを専攻していたから、その技術的なレッスンが中心だった。でも大学でジャズを学ぶことにした一番の理由は、実は、他の若いミュージシャンたちに出会うためだったんだ。実際、そこで多くの素晴らしいミュージシャンと面識を得ることができた。例えば、サム・ゲンデルもそうだし、ピアニストのエルダー(・ジャンギロフ)やティグラン・ハマシアンもそう。他にもたくさんの、同じような考えを持った若いミュージシャンたちに出会うことができて、それは僕の人生で素晴らしい巡り合わせだった。

ジェネヴィーヴ:私の場合は少し違って、当時はまだ音楽を始めたばかりの初心者だった。だから、まずは音楽理論とか、インプロヴィゼーションのやり方、それに歌のハーモニーの作り方をたくさん学んだ。他のシンガーと一緒にボーカル・ジャズをたくさんやってみたりね。あとはビッグバンドの編曲や、クラシックのアナリーゼの授業もあった。学校はとても好きだったわ。勉強オタクみたいな感じで、たくさんのことを学ぶことができた。

——学生時代に特に研究したジャズ・ミュージシャンはいましたか?

ルイス:たくさんいる。本当に大好きなミュージシャンたち、例えばジャック・ディジョネットやトニー・ウィリアムス、キース・カーロック、それにネイト・ウッドといったドラマーたちに入れ込んだね。

ジェネヴィーヴ:私はマイルス・デイヴィスをたくさん聴いていた。他にもいろいろなサックス・プレイヤーたち、ジョー・ヘンダーソンとかソニー・ロリンズも聴き込んだわ。シンガーでいうとビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンがやっぱり大好き。実際にソロ・パートを書き起こして譜面にして自分で歌ったりしていたの。とにかく全てを吸収して身体の中に取り入れるという勉強の仕方をしていた。

——ノウワーはいわゆるジャズではないですが、ライブではジャズ・ミュージシャンならではのインプロヴィゼーションの魅力もありました。お2人にとって、ノウワーにおいて、ジャズを学んだからこそできることはどのようなことだと思いますか?

ルイス:一番大きいのはさまざまな種類のハーモニーを使っているところかな。もちろん、ジャズが持つワイルドなエネルギーも出ていると思う。ライブだと特にそうだね。でも、ジャズの歴史をさかのぼっていくと、1920〜40年代に爆発的に流行ったころは、ダンス・ミュージックないしポップ・ミュージックのようなものだと思われていたと思うんだ。だからそれがなくなってしまう必要はない。ジャズは古い音楽である必要はないし、年寄りのための音楽である必要もない。それどころか、エキサイティングで新鮮なものになり得るし、そういった気持ちを盛り上げるためのツールだと思ってる。つまり、ジャズそれ自体にポップ・ソングとしての構造みたいなものがあると思うんだ。

ジェネヴィーヴ:そうね。もちろん、ジャズとポップは完全にイコールというわけじゃない。「ポップ」ということはもともと「人気がある(popular)」という意味だから、ジャズが流行ればそれはポップと呼べるけど。私にとってジャズとポップの違いは、音楽的に言うと、ポップにはないハーモニーやメロディー、リズムがジャズにあるという点。だから、そのバランスはとても大事にしている。かつ、やっぱりインプロヴィゼーションというポップにはあまりない手法を使っている。私たちがノウワーでやっていることは、ジャズの要素を取り入れながら、それをあくまでもポップの構造の中でやっていくということ。

例えば歌詞を大事にしているのもそうだし、ポップならではのメロディーもたくさん使っている。ジャズの奥深さを極めていきつつ、どんどん極めることで逆にシンプルにすることをやっていると言えばいいかしら。シンプルでありながら同時に深みがある音楽。ジャズの持つ奥深さを、理解しやすくてエキサイティングなフォーマットに持ち込みたい。

——いわゆるジャズではないものの、ジャズを抜きには語ることができないような音楽は、これまで取り扱いが難しいものでしたが、今年グラミー賞に新設されたベスト・オルタナティブ・ジャズ賞が、まさにそうしたある意味でカテゴライズ困難なジャズを拾い上げることを可能にしたと思うんです。

ルイス:確かに!

——ルイスさんのソロ・アルバム「Quality Over Opinion」(22)もノミネートされましたよね。ノウワーも同様に、グラミー賞のカテゴリーでいえば「オルタナティブ・ジャズ」と呼ぶのが相応しい音楽ではないでしょうか?

ルイス:うん、そうだと思う。

ジェネヴィーヴ:私もオルタナティブ・ジャズを選ぶわ。

——もしもベスト・オルタナティブ・ジャズ賞がもっと前に創設されていたとしたら、お2人はどんな作品がノミネートしたと思いますか?

ルイス:ニーボディの「Kneebody」(05)。僕は彼らのファースト・アルバムが大好きなんだ。それと、デヴィッド・ビニーはいくつかあるんだけど、「Anacapa」(14)とか、アンビエント寄りの「Where Infinity Begins」(22)とかね。

ジェネヴィーヴ:トム・ギルやチキータ・マジックのアルバムも。

ルイス:(近くに座っていたチキータ・マジックことイシス・ヒラルドに向けて)チキータ、君のアルバムでどれがお気に入り?

イシス・ヒラルド:(照れ笑いを浮かべながら)「Mexico Sexi Time」(22)!

ルイス:それだ!

ジェネヴィーヴ:うん、私も「Mexico Sexi Time」を推すわ。

ルイス:僕も本当に大好き。トム・ギルだったら「Such Is Your Triumph」(11)かな。

ジェネヴィーヴ:あとペドロ・マルチンス。「Rádio Mistério」(23)。

——今挙げていただいたさまざまなアルバムは、どれもサウンドは一括りにできないと思いますが、ノウワーとの共通点を感じることはありますか?

ルイス:そうだね、音楽性は違っているけれど、精神的なところで共通点があると感じる。やっぱり僕たちがこの世界で生きていく上でやりたいことは、こういうことなんだという精神。どれもクリエイティブなエネルギーは同じというか。そういったクリエイティブなエネルギーを生み出すことによって、実際の音楽のクオリティーの面でも、美しさのようなものを持つことができると思うんだ。

PHOTOS:TAKUROH TOYAMA

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New Jeansやカイリー・ジェンナーなどからオファー相次ぐヘアメイクアップアーティスト松野仁美 ヘッドピースや3Dアートピースと表現方法を拡げる

PROFILE: 松野仁美

松野仁美
PROFILE: (まつの・ひとみ)兵庫県西宮市生まれ。ルトーア東亜美容専門学校卒業後、大阪でのヘアサロン勤務を経て上京し、MASAYUKI氏に師事。13年に独立し、ファッション誌や広告、ミュージックビデオ制作などに携わる。19年より本格的にヘッドピース制作を開始。21年に渡韓し、約1年間エンターテイメント業界を中心に活動する。22年に帰国し、ヘアメイクアップアーティスト、ヘッドピースクリエイターとして活躍する一方、3Dプリントを使ったアートピース制作を行う Instagram:@matsuno71 PHOTOS:RIE AMANO

美容師としてキャリアをスタートし、ヘアメイクアーティストのほかヘッドピースクリエイターとしても活動の場を広げる松野仁美さんは、最近は3Dプリンターを活用したアートピース制作にも力を入れる。先日は、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)初のフレグランス「コズミック(COSMIC)」のイメージビジュアルにヘッドピースとリングが採用され、国内外から注目を集めた。内に秘めたクリエイティブ魂を解き放つかのように活動の場を広げるその原動力は何か、どのようにしてチャンスを掴んだか、制作現場であるアトリエで聞いた。

WWD:まずは、キャリアのスタートと経歴から教えてください

松野仁美(以下、松野):中学生の時からヘアメイクアップアーティストになりたいと思っていました。もともとファッションに興味があり、その流れでヘアメイクに興味を持ちましたが、当時はまだ想像の域を出ない程度。自分は瞬発的な集中のほうが向いていると分かっていたので、ファッションデザイナーのように長時間何かに向き合うより、ヘアメイクアップアーティストの方が合っているかな、と。今も、その時の勘は間違っていなかったと思います。大阪の美容学校を卒業し、大阪で4年間のサロン勤務を経て上京。ヘアメイクのアシスタントを約3年間務めて、13年に独立しました。アーティストのあいみょんとは同郷で地元のヒーローなのですが、独立して彼女と一緒に仕事ができたのは、いい親孝行になりました(笑)。

WWD:ヘアメイクアップアーティストとして独立してから心掛けた事は?

松野:いただいた1回の仕事が次につながるように、印象に残るようにしようと心掛けました。ただ悪目立ちしてはダメだし、馴染ませ過ぎては何も残らない。何が正解かは未だに分かりませんが、当時は、自分らしいポイントを一つ以上は入れるようにしていました。尊敬する先輩方は、激しいものでなくても何かしら目に止まるものがあったので、それに憧れ、目指しました。

WWD:松野さんの自分らしさとは?

松野:よく「かわいい」と言われます。私自身はかわいいものを作りたいとは思っていませんが、ただの「かわいい」ではない、何か私らしい色や雰囲気があるのかと思います。

WWD:なぜ、ヘッドピース制作を手掛けるように?

松野:ヘアメイクアーティストを目指した高校生の時にヘアメイクアップアーティストの加茂克也(故人)さんを知り、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」や「ジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)」のコレクションを見て、ファッションだけどテーマ性がある、インパクトのある表現に強く憧れました。アシスタント時代から作り始めてはいたのですが、その時はあまり探求できず、優先もしませんでした。独立してから再開し、表現したいものが形になり始めたのは2019年頃です。

フラストレーションからヘッドピース制作に

WWD:一度は止めたヘッドピース制作を、独立して再開したきっかけは?

松野:先ほど「自分らしいポイントを一つ以上は入れるように」と話しましたが、時代と共に、それすらかなわなくなったというか、渡された資料と同じものを作る事を求められ、自分の個性を押し殺さなきゃいけなくなり、何をしても学びを感じられなくなりました。だんだんフラストレーションが溜まり、もっと自分にしかできないものを探求したり、創造性のあるものを作ったりしたくなりました。もともとモノ作りへの憧れがあり、選択したのがヘアメイクだっただけ。仕事の延長線上にあるヘッドピースを制作する事で、自分のやりたい事が発揮でき、フラストレーションが溜まらなくなったんです。

WWD:そのヘッドピース制作が、徐々にビジネスになり始めたのは?

松野:21年に韓国のエンターテインメント業界に携わる人から声が掛かり、韓国で活動するようになったのがきっかけです。ちょうど環境も変えたかったし、海外に住みたいという気持ちもあったので、チャレンジしました。最近はファッション誌にアイドルが出るようになり、とくに韓国ではファッション業界とエンタメ業界がボーダ―レスになっていると感じます。ヘアメイクアップアーティストとしての仕事は順調でしたが、韓国では知り合いもおらず時間もあったので、ヘッドピースを制作しインスタグラムでつながった人たちと作品撮りも積極的に行いました。

WWD:韓国と日本では、作品撮りにも違いがある?

松野:日本では、作品撮りをするとしても、ナチュラルなテイストを求められる場合が多くて、自分のやりたいことを表現する場がありませんでした。逆に韓国では個性的なものやユニークなものなどインパクトがあるものを求められます。その時、いかに自分が今まで何もしてきていなかったか、技術が足りなかったかを痛感しましたね。ただ、作品をインスタにあげると気づいてくれる人がいて、フォトグラファーから声が掛かり、また新しい物を作って作品撮りして、それが仕事につながる。いい循環でした。

フォトグラファーのチョ・ギソクとの出会いが飛躍のきっかけ

WWD:自分の世界観を表現する韓国の作品撮りの方が、より松野さんに合っていた。

松野:そうですね。ある時、「イタリアンヴォーグ」の表紙やビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)などを撮影しているフォトグラファーのチョ・ギソク(Cho Giseok)さんと作品撮りする機会に恵まれました。彼がそれをインスタに載せてくれたのがきっかけとなって「ヘッドピースを使いたい」という連絡が来るようになり、K-POPガールズグループNew Jeans(ニュージーンズ)やRed Velvet(レッドベルベット)などとの仕事につながりました。

WWD:ヘアメイクアーティストとヘッドピースクリエイターの仕事のバランスは?

松野:ヘアメイクの仕事で収入を得て、自分のやりたい事はヘッドピースで表現すると分けて考えています。最近は、マネージャーがついて、広告の仕事など自分の作風の延長でできる仕事も増えました。

WWD:最近は活動の場もどんどん広がっている。

松野:韓国から帰国した当初は不安もありましたが、昨年はニュウマン新宿のウインドゥに作品が展示されたり、こうして取材して頂く機会が増えたり、順調にコツコツやっています。近々では、3月に東京クリエイティブサロン2024 K-BALLET TOKYO × TOMO KOIZUMIにヘアメイクアップアーティストとして参加しました。舞台のヘアメイクはミュージックビデオにも似ていて、プロフェッショナルなダンサーたちにも大いに刺激を受けたし、本当にやって良かったです。同じく3月にカイリー・ジェンナーが初のフレグランス「コズミック」を発売した際、イメージビジュアルにヘッドピースとリングが採用されました。

3Dでアートピースを制作

WWD:新しいチャレンジは?

松野:ニュウマン新宿の展示では、制作に3Dプリンターを取り入れました。もともとSFや近未来の世界に興味があり、それがインスピレーション源にもなっているので、これからも極力3Dでアートピースを制作したいと思っています。今後は、リサイクル素材を使った作品制作にもチャレンジしていきたいです。

WWD:ヘッドピースというより、アート作品を制作している印象だ。

松野:ヘッドピースにこだわっているわけではありません。もともとヘアメイクを仕事にしているから、顔まわりのパーツになりましたが、今はリングや首まわりに付けるものも作っていますし、今年は全身に装着できる立体物を作りたいと思っています。最終的にはっモノ(アート作品)だけで完結するのが目標です。モノを作って渡したら、それをどう使うかは渡した人の自由。クリエイティブ心はアートピースが完成した時点で消化しているので。

WWD:今後、表現したい事は?

松野:AIもこれだけ進んだ今、機械的過ぎるとテクノロジーに負けてしまうので、テクノロジーを利用するけれど、あまりに頼り過ぎないようにしたいです。人口的過ぎたり、無機質過ぎたりするものはあまり好きではないし、花も完璧な美しさでなく、朽ちかけた一瞬の美しさを表現したい。調和や共存を意識しつつ、自分のやり方で新しい表現を開拓したいですが、その開拓の仕方は今も模索中です。

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スニーカーブーム沈静化どこ吹く風 スイス発「オン」、急成長支えるイノベーション

PROFILE: オリヴィエ・ベルンハルド オン共同創業者兼執行役員

オリヴィエ・ベルンハルド  オン共同創業者兼執行役員
PROFILE: 1968年生まれ、スイス出身。オンの創業者3人のうちの1人。創業前はプロトライアスロン・デュアスロン選手で、1993〜2005年の間に世界選手権を3回、欧州選手権を1回、スイス選手権を15回制した。現在は、選手経験を生かした製品開発やブランドのコンセプトメーキングを主に担当している。背景のカーテンはオン ジャパンのある横浜・みなとみらいの風景が描かれており、各国で同様のオリジナルグラフィックを作っているのだという PHOTO:SUGURU TANAKA

「オン(ON)」のシューズを街で見掛ける機会が激増している。産業としてスポーツメーカーが盛んではないスイスで2010年に創業し、21年には米ニューヨーク証券取引所に上場。レアスニーカーブームが沈静化してナイキ、アディダスが苦しむ中、23年の売上高は前年比46.6%増の17億9210万スイスフラン(約3028億円)、純利益は同37.9%増の7960万スイスフラン(約134億円)で、26年には売上高35億5000万スイスフラン(約5999億円)を目指す。新勢力として成長街道を快走するが、何が短期間での躍進を可能にしているのか。来日した共同創業者の1人、オリヴィエ・ベルンハルド(Olivier Bernhard)に聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年4月22日号からの抜粋です)

WWDJAPAN(以下、WWD):創業前はプロのトライアスロン・デュアスロン選手だった。そこからオンを立ち上げた経緯は。

オリヴィエ・ベルンハルド オン 共同創業者兼執行役員(以下、ベルンハルド):5歳からレースに参加し、走ることや限界に挑戦することに喜びを感じていた。しかし、徐々に子どものころに感じた走る喜びが感じられなくなっていった。シューズには足をケガから守ることも求められるが、足を制約するのでなく、むしろ余裕を与えてパフォーマンスを高めていくような新しいランニング感覚のシューズを作れないか。そう有力スポーツメーカー数社に相談し、一緒に開発したいと伝えたら「開発チームは既にいる」と断られた。ならば自分でやるしかないと思ったのが、オン立ち上げの経緯だ。

WWD:最初の試作品では、ゴムホースを切って並べてソールにしたと聞く。雲の上を走る感覚を打ち出す、特許を持つ衝撃吸収構造“クラウドテック”に通ずるものだ。

ベルンハルド:砂や雪の上を走るときのような、滑らかな着地感覚を得たいと考えた。同時に、砂の上を走るとエネルギーが吸収されてしまい足が疲れるため、反発も得たい。ゴムホースは圧力をかけると平らになって、反発して形が元に戻るため、滑らかさと反発が両立できる。考え方はシンプルで、だからこそ他メーカーは考えなかったのかもしれない。しかし、例えばiPhoneもそうであるように、一見シンプルなものこそ実は非常に複雑な技術を要している。

時価総額は106億米ドル(約1兆6218万円)

WWD:製品開発で重視するのは。

ベルンハルド:常に心掛けているのは、(タウンユース用などでなく)まずパフォーマンス製品から開発すること。リサーチを重ねてデータを集め、新しい考え方を持ち込みイノベーションを起こす。例えばテニスシューズは(スイス出身でグランドスラム達成者の)ロジャー・フェデラー(Roger Federer)と組み開発した。ロジャーが履けるならパフォーマンスの信頼性を担保でき、消費者にとっても有益。当社の全てはイノベーションから始まる。それはサステナビリティ領域でも同様だ。

WWD:サステナビリティ領域では、循環型シューズのサブスクリプションサービス“サイクロン”を22年に本格開始した。

ベルンハルド:シューズを所有しないという考え方であり、パラダイムシフトだ。買わなければいけない、捨てなければいけないという考えを捨ててほしい。ただ、パラダイムシフトは簡単ではない。消費者に行動変容を促していく必要があるが、動画配信のサブスクサービス「ネットフリックス」が示すように、それは可能だと思っている。

WWD:創業からたった15年弱で、「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」と共に並べられるブランドになった。何がそれを可能にしたのか。

ベルンハルド:創業時、共同創業者の2人に「既に市場にはたくさんのランニングシューズがあり、これ以上は必要ない」と言われたが、ランニング感覚が従来とは違うシューズなら、消費者は求めるはずと説得した。今までなかった新しいものを生み出すイノベーションこそ、われわれの成長の源泉。あらゆる面で先駆的でありたい。

スニーカーは「これまでの売り方が古くなっただけ」

WWD:イノベーションを生み出す組織をどのように作っているのか。

ベルンハルド:私自身がアスリートであることも大きい。立ち上げ当初は知識もなかったが、自身も被験者となって、ラボでさまざまなテストを重ねてきた。早期から優れた研究者を集め、ランニングだけでなく、それ以外のスポーツにも応用できるチームを作った。今グローバルで約3000人の社員がいて、うち製品開発に関わる部門は350人ほど。チューリッヒにラボがあり、生産国のベトナムにも開発チームのメンバーがいる。会社としては、スポーツやアパレルの業界外から積極的に人を採用してきた。業界内から雇うと、過去の経験以上になりにくい。スイスにはランニングシューズメーカーの歴史がなく、だからこそ業界外から人を雇い、新鮮な考え方を持ち込む必要もあった。外部からの目線で自問自答を繰り返している。具体的には、テスラ、グーグル、レッドブル、アップルなどから来た社員もいる。

オンは非常に風通しがよくてユニークな組織だ。一番大切なものはチーム。社員皆が成長できる機会を提供しているし、自分の意見を自由に語っていい、それぞれの夢も聞きたい。そのような強いカルチャーがある。アスリートから製品改善のフィードバックを集めるように、社員のアイデアにも耳を傾ける。私も会社も挑戦することや難しいことが大好き。嵐の日の登山は晴れた日よりも難しいが、登頂した時の喜びはひとしお。チームメンバーも一緒に登っていたなら、皆で祝うことができる。

WWD:ナイキ、アディダスなど、欧米の大手スポーツ企業は直近は苦戦が目立つ。

ベルンハルド:それは何度も五輪でメダルを取ってきた選手について、なぜ今活躍していないのかと分析するようなものだ。われわれはまだ小型のスピードボートゆえ、小回りがきくが、大企業は何かあっても方向転換が難しい。ただ、イノベーションがややおざなりになっていた面はあるのでは。ブームが去り、スニーカー市場は飽和したといった報道も見るが、そうは思わない。これまでの売り方が古くなっただけだろう。大手スポーツブランドは競合ではあるものの、ライバルではない。例えばマラソンをする時、自分の周囲を走る選手からは学びがあるし、敬意を払う。大きなブランドに勝てたらうれしいが、歴史のある彼らから学ぶことは多い。

プレミアムスポーツブランドで首位目指す

WWD:さらなる成長への課題は何か。

ベルンハルド:プレミアムスポーツブランドで首位となるためには、クオリティー、パフォーマンス、サステナビリティとあらゆるものが求められる。急ピッチで伸びているため、成長痛はある。最大の課題は人材面。有能でカルチャーをさらに育んでくれる人、結果を出してくれる人を過去も今も探し続けている。イノベーションを続けるなら向こう5年は前年比3〜4割増で伸び続けると個人的には思うが、課題は続く。

WWD:スポーツブランドとファッションブランドの協業も引き続き盛んだ。

ベルンハルド:やり過ぎはよくないが、コラボレーションはそれぞれのブランドのコミュニティーをつなぐことができる。継続している「ロエベ(LOEWE)」との協業は、ハイエンドファッションとハイエンドパフォーマンスの組み合わせであり、理にかなっている。協業により、高品質や大胆なイノベーションを目指している。


サブスクで進める循環型プログラム“サイクロン”

アディダスやアシックスなど循環型スニーカーを開発する企業は増えているが、「オン」はトウゴマ種子由来の素材を主に使ったシューズ“クラウドネオ”を、月額3380円のサブスクリプションで提供している点がユニーク。定期的に走るランナーのシューズは相応に摩耗し、買い替える必要があるが、同シューズは600㎞を走れる設計で、これはシリアスランナーが3〜6カ月で走る距離に相当するという。履き古したら(または6カ月経過したら)新シューズをリクエストし、古いシューズは返却。返却後のシューズは再生可能パーツを粉砕し、新シューズや同素材のTシャツ“サイクロン-T”の原料とする。6カ月で交換した場合、1足あたりの価格は2万280円で、「オン」の他製品とほぼ同等、もしくは少し割高という設定だ。

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スニーカーブーム沈静化どこ吹く風 スイス発「オン」、急成長支えるイノベーション

PROFILE: オリヴィエ・ベルンハルド オン共同創業者兼執行役員

オリヴィエ・ベルンハルド  オン共同創業者兼執行役員
PROFILE: 1968年生まれ、スイス出身。オンの創業者3人のうちの1人。創業前はプロトライアスロン・デュアスロン選手で、1993〜2005年の間に世界選手権を3回、欧州選手権を1回、スイス選手権を15回制した。現在は、選手経験を生かした製品開発やブランドのコンセプトメーキングを主に担当している。背景のカーテンはオン ジャパンのある横浜・みなとみらいの風景が描かれており、各国で同様のオリジナルグラフィックを作っているのだという PHOTO:SUGURU TANAKA

「オン(ON)」のシューズを街で見掛ける機会が激増している。産業としてスポーツメーカーが盛んではないスイスで2010年に創業し、21年には米ニューヨーク証券取引所に上場。レアスニーカーブームが沈静化してナイキ、アディダスが苦しむ中、23年の売上高は前年比46.6%増の17億9210万スイスフラン(約3028億円)、純利益は同37.9%増の7960万スイスフラン(約134億円)で、26年には売上高35億5000万スイスフラン(約5999億円)を目指す。新勢力として成長街道を快走するが、何が短期間での躍進を可能にしているのか。来日した共同創業者の1人、オリヴィエ・ベルンハルド(Olivier Bernhard)に聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年4月22日号からの抜粋です)

WWDJAPAN(以下、WWD):創業前はプロのトライアスロン・デュアスロン選手だった。そこからオンを立ち上げた経緯は。

オリヴィエ・ベルンハルド オン 共同創業者兼執行役員(以下、ベルンハルド):5歳からレースに参加し、走ることや限界に挑戦することに喜びを感じていた。しかし、徐々に子どものころに感じた走る喜びが感じられなくなっていった。シューズには足をケガから守ることも求められるが、足を制約するのでなく、むしろ余裕を与えてパフォーマンスを高めていくような新しいランニング感覚のシューズを作れないか。そう有力スポーツメーカー数社に相談し、一緒に開発したいと伝えたら「開発チームは既にいる」と断られた。ならば自分でやるしかないと思ったのが、オン立ち上げの経緯だ。

WWD:最初の試作品では、ゴムホースを切って並べてソールにしたと聞く。雲の上を走る感覚を打ち出す、特許を持つ衝撃吸収構造“クラウドテック”に通ずるものだ。

ベルンハルド:砂や雪の上を走るときのような、滑らかな着地感覚を得たいと考えた。同時に、砂の上を走るとエネルギーが吸収されてしまい足が疲れるため、反発も得たい。ゴムホースは圧力をかけると平らになって、反発して形が元に戻るため、滑らかさと反発が両立できる。考え方はシンプルで、だからこそ他メーカーは考えなかったのかもしれない。しかし、例えばiPhoneもそうであるように、一見シンプルなものこそ実は非常に複雑な技術を要している。

時価総額は106億米ドル(約1兆6218万円)

WWD:製品開発で重視するのは。

ベルンハルド:常に心掛けているのは、(タウンユース用などでなく)まずパフォーマンス製品から開発すること。リサーチを重ねてデータを集め、新しい考え方を持ち込みイノベーションを起こす。例えばテニスシューズは(スイス出身でグランドスラム達成者の)ロジャー・フェデラー(Roger Federer)と組み開発した。ロジャーが履けるならパフォーマンスの信頼性を担保でき、消費者にとっても有益。当社の全てはイノベーションから始まる。それはサステナビリティ領域でも同様だ。

WWD:サステナビリティ領域では、循環型シューズのサブスクリプションサービス“サイクロン”を22年に本格開始した。

ベルンハルド:シューズを所有しないという考え方であり、パラダイムシフトだ。買わなければいけない、捨てなければいけないという考えを捨ててほしい。ただ、パラダイムシフトは簡単ではない。消費者に行動変容を促していく必要があるが、動画配信のサブスクサービス「ネットフリックス」が示すように、それは可能だと思っている。

WWD:創業からたった15年弱で、「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」と共に並べられるブランドになった。何がそれを可能にしたのか。

ベルンハルド:創業時、共同創業者の2人に「既に市場にはたくさんのランニングシューズがあり、これ以上は必要ない」と言われたが、ランニング感覚が従来とは違うシューズなら、消費者は求めるはずと説得した。今までなかった新しいものを生み出すイノベーションこそ、われわれの成長の源泉。あらゆる面で先駆的でありたい。

スニーカーは「これまでの売り方が古くなっただけ」

WWD:イノベーションを生み出す組織をどのように作っているのか。

ベルンハルド:私自身がアスリートであることも大きい。立ち上げ当初は知識もなかったが、自身も被験者となって、ラボでさまざまなテストを重ねてきた。早期から優れた研究者を集め、ランニングだけでなく、それ以外のスポーツにも応用できるチームを作った。今グローバルで約3000人の社員がいて、うち製品開発に関わる部門は350人ほど。チューリッヒにラボがあり、生産国のベトナムにも開発チームのメンバーがいる。会社としては、スポーツやアパレルの業界外から積極的に人を採用してきた。業界内から雇うと、過去の経験以上になりにくい。スイスにはランニングシューズメーカーの歴史がなく、だからこそ業界外から人を雇い、新鮮な考え方を持ち込む必要もあった。外部からの目線で自問自答を繰り返している。具体的には、テスラ、グーグル、レッドブル、アップルなどから来た社員もいる。

オンは非常に風通しがよくてユニークな組織だ。一番大切なものはチーム。社員皆が成長できる機会を提供しているし、自分の意見を自由に語っていい、それぞれの夢も聞きたい。そのような強いカルチャーがある。アスリートから製品改善のフィードバックを集めるように、社員のアイデアにも耳を傾ける。私も会社も挑戦することや難しいことが大好き。嵐の日の登山は晴れた日よりも難しいが、登頂した時の喜びはひとしお。チームメンバーも一緒に登っていたなら、皆で祝うことができる。

WWD:ナイキ、アディダスなど、欧米の大手スポーツ企業は直近は苦戦が目立つ。

ベルンハルド:それは何度も五輪でメダルを取ってきた選手について、なぜ今活躍していないのかと分析するようなものだ。われわれはまだ小型のスピードボートゆえ、小回りがきくが、大企業は何かあっても方向転換が難しい。ただ、イノベーションがややおざなりになっていた面はあるのでは。ブームが去り、スニーカー市場は飽和したといった報道も見るが、そうは思わない。これまでの売り方が古くなっただけだろう。大手スポーツブランドは競合ではあるものの、ライバルではない。例えばマラソンをする時、自分の周囲を走る選手からは学びがあるし、敬意を払う。大きなブランドに勝てたらうれしいが、歴史のある彼らから学ぶことは多い。

プレミアムスポーツブランドで首位目指す

WWD:さらなる成長への課題は何か。

ベルンハルド:プレミアムスポーツブランドで首位となるためには、クオリティー、パフォーマンス、サステナビリティとあらゆるものが求められる。急ピッチで伸びているため、成長痛はある。最大の課題は人材面。有能でカルチャーをさらに育んでくれる人、結果を出してくれる人を過去も今も探し続けている。イノベーションを続けるなら向こう5年は前年比3〜4割増で伸び続けると個人的には思うが、課題は続く。

WWD:スポーツブランドとファッションブランドの協業も引き続き盛んだ。

ベルンハルド:やり過ぎはよくないが、コラボレーションはそれぞれのブランドのコミュニティーをつなぐことができる。継続している「ロエベ(LOEWE)」との協業は、ハイエンドファッションとハイエンドパフォーマンスの組み合わせであり、理にかなっている。協業により、高品質や大胆なイノベーションを目指している。


サブスクで進める循環型プログラム“サイクロン”

アディダスやアシックスなど循環型スニーカーを開発する企業は増えているが、「オン」はトウゴマ種子由来の素材を主に使ったシューズ“クラウドネオ”を、月額3380円のサブスクリプションで提供している点がユニーク。定期的に走るランナーのシューズは相応に摩耗し、買い替える必要があるが、同シューズは600㎞を走れる設計で、これはシリアスランナーが3〜6カ月で走る距離に相当するという。履き古したら(または6カ月経過したら)新シューズをリクエストし、古いシューズは返却。返却後のシューズは再生可能パーツを粉砕し、新シューズや同素材のTシャツ“サイクロン-T”の原料とする。6カ月で交換した場合、1足あたりの価格は2万280円で、「オン」の他製品とほぼ同等、もしくは少し割高という設定だ。

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リナ・サワヤマが「コス」のキャンペーンに登場 ショートインタビューでファッション観を聞く

リナ・サワヤマ/シンガーソングライター

1990年生まれ、新潟出身。5歳の時に家族と共にロンドンへと移住し、進学したケンブリッジ大学で政治学と心理学の学士を取得。音楽制作は13歳から行なっていたが、大学卒業後にアーティスト活動を本格化。2017年にEP「RINA」でインディーデビューし、20年に発表した1stアルバム「SAWAYAMA」でブレイク。22年には音楽フェス「サマーソニック」で日本初のパフォーマンスを披露し、同年2ndアルバム「Hold The Girl」をリリースした

イギリス・ロンドンを拠点に活動する日本人シンガーソングライター、リナ・サワヤマ(Rina Sawayama)。R&Bやポップを下地としたサウンドを独自の世界観で昇華させた高い音楽性と共に、自身も属するLGBTQ+コミュニティをはじめ、声なき声の代弁者たるメッセージ性の強いリリックから、世界中で人気を集めるクィア・ポップスターだ。

H&Mグループの「コス(COS)」は、そんな彼女の姿勢に賛同する形で、2024年春夏シーズンのキャンペーンビジュアルのモデルに起用した。これを記念して、「WWDJAPAN」ではファッションにフォーカスしたショートインタビューを敢行。日本とイギリスという2つのバックグラウンドを持つ、彼女のファッション観とは?

ーーまずは、あなたが「コス」に対して抱いていたイメージについて教えてください。今回のコラボレーションを通じて、そのイメージは変わりましたか?それとも予想通りでしたか?

リナ・サワヤマ(以下、リナ):私にとって「コス」は、ワードローブにあるどのアイテムともコーディネートが可能な、間違いのないアイテムがいつでも手に入れることができるブランドですね。どのアイテムも長年ワードローブにありながら、時を経ても購入したばかりのような良い状態で着ることができています。今回のキャンペーンを通じて、トレンドを取り入れながらタイムレスにも着られるブランドであることを改めて知ることができました。

ーーキャンペーンビジュアルではさまざまなスタイリングを披露していましたが、気に入ったアイテムはありましたか?

リナ:ブラックドレスはドレープが美しく、ドレスアップしたいフィーマルなシーンはもちろん、ジャージー素材なのでカジュアルなシーンでも着用できるアイテムだと思いましたね。

ーーファッションブランドのビジュアルにフィーチャーされることの魅力と意義について、どう考えていますか?

リナ:ここ数シーズン、「コス」のキャンペーンに私が尊敬している才能ある人々が起用されたりと、ファッションブランドのビジュアルは世界的に年々注目度が高まっていると感じていました。その中で、私もその一員として招かれたことは本当に光栄です。

ーー現在のファッションシーンについては、どのような印象を持っていますか?

リナ:以前よりも、勇気を持って自己表現する人が増えている傾向にある気がします。

ーー自身のファッションの原体験は覚えていますか?

リナ:“実験”ですね。というのもファッションは、音楽や映画の世界と現実を行き来することで、新しいキャラクターにチャレンジできる最も重要な手段の一つでした。今の私にとっても、自己表現そのものですね。

ーーアーティストのリナ・サワヤマとしての“オン”のファッションと、日常生活の“オフ”のファッション。この2つの共通点や相違点、気を付けていることがあれば教えてください。

リナ:“オン”であるステージ衣装は、パフォーマンス中が最もパワフルな自分を体現している瞬間でもあるので、“鎧”ですね。最近、2ndアルバムの2度目のツアー「Hold The Girl: Reloaded」を終えたのですが、スタイリストでデザイナーのジャレッド・エルナー(Jared Ellner)や、素晴らしいブランドからの協力もあり、私の音楽をファッションで視覚的に具現化することができました。一方、創作活動中や“オフ”の日は、それこそ「コス」のアイテムが都会生活に適した実用性と汎用性を兼ね備えているので、頼りきっています。

ーー最後に、これまで2年周期でアルバムをリリースしてきましたが、次回作に関して公開できる情報があれば教えてください。

リナ:この3年間で、2つのアルバムをリリースし、3度のワールドツアーを終え、映画「ジョン・ウィック:コンセクエンス(John Wick: Chapter 4)」で俳優キアヌ・リーブス(Keanu Reeves)の相手役としてスクリーンデビューを果たすこともできました。だから、今は友人や家族、“Chosen family”(注:血縁等に縛られず、自身で選んだ家族の意)らと一緒に過ごしたり、訪れたことがない場所へ旅行したり、楽しく過ごしながら次回作のインスピレーションを集めている途中です。日本のファンの方々とは、6月にお会いできることを楽しみにしています!(注:NewJeansの来日公演にゲストアクトとして出演予定)

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リナ・サワヤマが「コス」のキャンペーンに登場 ショートインタビューでファッション観を聞く

リナ・サワヤマ/シンガーソングライター

1990年生まれ、新潟出身。5歳の時に家族と共にロンドンへと移住し、進学したケンブリッジ大学で政治学と心理学の学士を取得。音楽制作は13歳から行なっていたが、大学卒業後にアーティスト活動を本格化。2017年にEP「RINA」でインディーデビューし、20年に発表した1stアルバム「SAWAYAMA」でブレイク。22年には音楽フェス「サマーソニック」で日本初のパフォーマンスを披露し、同年2ndアルバム「Hold The Girl」をリリースした

イギリス・ロンドンを拠点に活動する日本人シンガーソングライター、リナ・サワヤマ(Rina Sawayama)。R&Bやポップを下地としたサウンドを独自の世界観で昇華させた高い音楽性と共に、自身も属するLGBTQ+コミュニティをはじめ、声なき声の代弁者たるメッセージ性の強いリリックから、世界中で人気を集めるクィア・ポップスターだ。

H&Mグループの「コス(COS)」は、そんな彼女の姿勢に賛同する形で、2024年春夏シーズンのキャンペーンビジュアルのモデルに起用した。これを記念して、「WWDJAPAN」ではファッションにフォーカスしたショートインタビューを敢行。日本とイギリスという2つのバックグラウンドを持つ、彼女のファッション観とは?

ーーまずは、あなたが「コス」に対して抱いていたイメージについて教えてください。今回のコラボレーションを通じて、そのイメージは変わりましたか?それとも予想通りでしたか?

リナ・サワヤマ(以下、リナ):私にとって「コス」は、ワードローブにあるどのアイテムともコーディネートが可能な、間違いのないアイテムがいつでも手に入れることができるブランドですね。どのアイテムも長年ワードローブにありながら、時を経ても購入したばかりのような良い状態で着ることができています。今回のキャンペーンを通じて、トレンドを取り入れながらタイムレスにも着られるブランドであることを改めて知ることができました。

ーーキャンペーンビジュアルではさまざまなスタイリングを披露していましたが、気に入ったアイテムはありましたか?

リナ:ブラックドレスはドレープが美しく、ドレスアップしたいフィーマルなシーンはもちろん、ジャージー素材なのでカジュアルなシーンでも着用できるアイテムだと思いましたね。

ーーファッションブランドのビジュアルにフィーチャーされることの魅力と意義について、どう考えていますか?

リナ:ここ数シーズン、「コス」のキャンペーンに私が尊敬している才能ある人々が起用されたりと、ファッションブランドのビジュアルは世界的に年々注目度が高まっていると感じていました。その中で、私もその一員として招かれたことは本当に光栄です。

ーー現在のファッションシーンについては、どのような印象を持っていますか?

リナ:以前よりも、勇気を持って自己表現する人が増えている傾向にある気がします。

ーー自身のファッションの原体験は覚えていますか?

リナ:“実験”ですね。というのもファッションは、音楽や映画の世界と現実を行き来することで、新しいキャラクターにチャレンジできる最も重要な手段の一つでした。今の私にとっても、自己表現そのものですね。

ーーアーティストのリナ・サワヤマとしての“オン”のファッションと、日常生活の“オフ”のファッション。この2つの共通点や相違点、気を付けていることがあれば教えてください。

リナ:“オン”であるステージ衣装は、パフォーマンス中が最もパワフルな自分を体現している瞬間でもあるので、“鎧”ですね。最近、2ndアルバムの2度目のツアー「Hold The Girl: Reloaded」を終えたのですが、スタイリストでデザイナーのジャレッド・エルナー(Jared Ellner)や、素晴らしいブランドからの協力もあり、私の音楽をファッションで視覚的に具現化することができました。一方、創作活動中や“オフ”の日は、それこそ「コス」のアイテムが都会生活に適した実用性と汎用性を兼ね備えているので、頼りきっています。

ーー最後に、これまで2年周期でアルバムをリリースしてきましたが、次回作に関して公開できる情報があれば教えてください。

リナ:この3年間で、2つのアルバムをリリースし、3度のワールドツアーを終え、映画「ジョン・ウィック:コンセクエンス(John Wick: Chapter 4)」で俳優キアヌ・リーブス(Keanu Reeves)の相手役としてスクリーンデビューを果たすこともできました。だから、今は友人や家族、“Chosen family”(注:血縁等に縛られず、自身で選んだ家族の意)らと一緒に過ごしたり、訪れたことがない場所へ旅行したり、楽しく過ごしながら次回作のインスピレーションを集めている途中です。日本のファンの方々とは、6月にお会いできることを楽しみにしています!(注:NewJeansの来日公演にゲストアクトとして出演予定)

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「ロクシタン」50周年に向けてリブランディング 渋谷店を皮切りに全世界で

「ロクシタン(L'OCCITANE)」は、2026年のブランド誕生50周年に向けてリブランディングする。商品を順次刷新するほか、渋谷店「ロクシタン・シブヤ・トーキョー(L'OCCITANE SHIBUYA TOKYO)」を4月27日にリニューアルするのを皮切りに全世界の店舗で改装を進める。ブランド発祥の地である南仏プロヴァンスの“アール・ド・ヴィーヴル(暮らしの芸術)”を表現する。

商品を販売する1階のテーマは“育む”。内壁は地層が着想源で、植物が育つ土壌や環境を再生しながら生態系を育む「ロクシタン」の取り組みを表現する。エントランスはポップアップスペースとし、3カ月ごとに変更し季節に合わせた商品を提案する。陳列する商品は従来から約半数に絞り、ミニマルかつシンプルで上質な空間をつくる。今後は随時行う商品パッケージのリニューアルを通して、これまでのポップなイメージからの転換を図る。

世界で20年に始まったリフィルファウンテンを日本で初めて導入。他店舗でも順次導入予定だ。また、19年2月から実施する空き容器の回収コーナーを引き続き設置。日本では累計69トンの空き容器を回収した。また、渋谷の象徴であるハチ公のイラストを入れた“渋谷 シアハンドクリーム”(30mL、1760円)と、富士山やダルマなどの縁起物をあしらった“JAPAN シアハンドクリーム” (30mL、1760円)を同店限定で販売する。

2、3階の「カフェ・ロクシタン・シブヤ・トーキョー(CAFE L'OCCITANE SHIBUYA TOKYO)」ではリニューアルに際し、南仏の郷土料理“白いんげん豆とソーセージ・豚肉のカスレ”(1780円)と“ロクシタン モンブラン”(1180円)を新メニューとして追加。2階は“創る”をコンセプトに、クラフトマンシップを感じられるアトリエを表現。3階は“解く(とく)”と題し、植物の研究を紐解く研究所から着想を得た。アーティストとコラボレーションしたフォトブースを用意し、3カ月ごとに入れ替える。第1弾はフラワーアーティストの宇田陽子と協業し、花々を立体造形で表現した。

店舗の外壁とカフェの内装に使用したラベンダーの造花は80%が再生原料。内装の建材にプラスチックをほとんど使わず、空調も再生エネルギーを採用した。環境に配慮した店舗や商品づくりについて木島潤子ロクシタンジャポン社長は、「押し付けがましくない形で、サステナビリティを意識してもらうきっかけにしてほしい」と話す。

渋谷は、ブランドの価値観を世界へ発信できる場所

木島社長は、「日本は『ロクシタン』にとって重要な市場だ。渋谷は国内外からの注目が集まる場所。ブランドの世界観を発信するのに適しているため、リニューアル1店舗目に選ばれた」と話す。「ロクシタン」は1976年の創設当時から、“自然と人への敬愛”を大切にしてきた。渋谷店は2006年にグローバル1000店舗目としてオープンし、リニューアルは3回目。今回の刷新について、「日本上陸26年目となり、ブランド本来の価値観を、改めて現代の解釈で届けることが求められていると思った。渋谷店は、『ロクシタン』のメッセージを世界に向けて発信し、常に顧客に感動や驚きを与え、ブランドの価値観や世界観を体感してもらえる空間にする」と続ける。

コロナ禍を経て、消費者の購買に対する価値観は変化。「本当に必要なものだけを買う“ミニマル思考”になったと感じている」。その中で「多くの上顧客の客単価が下がった。リブランディングを通して、顧客との関係性をより深めていくことを目指す。一方で、日本市場の売り上げは堅調に推移する。刷新を機に、さらに成長の勢いを上げていきたい」と語った。

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「ロクシタン」50周年に向けてリブランディング 渋谷店を皮切りに全世界で

「ロクシタン(L'OCCITANE)」は、2026年のブランド誕生50周年に向けてリブランディングする。商品を順次刷新するほか、渋谷店「ロクシタン・シブヤ・トーキョー(L'OCCITANE SHIBUYA TOKYO)」を4月27日にリニューアルするのを皮切りに全世界の店舗で改装を進める。ブランド発祥の地である南仏プロヴァンスの“アール・ド・ヴィーヴル(暮らしの芸術)”を表現する。

商品を販売する1階のテーマは“育む”。内壁は地層が着想源で、植物が育つ土壌や環境を再生しながら生態系を育む「ロクシタン」の取り組みを表現する。エントランスはポップアップスペースとし、3カ月ごとに変更し季節に合わせた商品を提案する。陳列する商品は従来から約半数に絞り、ミニマルかつシンプルで上質な空間をつくる。今後は随時行う商品パッケージのリニューアルを通して、これまでのポップなイメージからの転換を図る。

世界で20年に始まったリフィルファウンテンを日本で初めて導入。他店舗でも順次導入予定だ。また、19年2月から実施する空き容器の回収コーナーを引き続き設置。日本では累計69トンの空き容器を回収した。また、渋谷の象徴であるハチ公のイラストを入れた“渋谷 シアハンドクリーム”(30mL、1760円)と、富士山やダルマなどの縁起物をあしらった“JAPAN シアハンドクリーム” (30mL、1760円)を同店限定で販売する。

2、3階の「カフェ・ロクシタン・シブヤ・トーキョー(CAFE L'OCCITANE SHIBUYA TOKYO)」ではリニューアルに際し、南仏の郷土料理“白いんげん豆とソーセージ・豚肉のカスレ”(1780円)と“ロクシタン モンブラン”(1180円)を新メニューとして追加。2階は“創る”をコンセプトに、クラフトマンシップを感じられるアトリエを表現。3階は“解く(とく)”と題し、植物の研究を紐解く研究所から着想を得た。アーティストとコラボレーションしたフォトブースを用意し、3カ月ごとに入れ替える。第1弾はフラワーアーティストの宇田陽子と協業し、花々を立体造形で表現した。

店舗の外壁とカフェの内装に使用したラベンダーの造花は80%が再生原料。内装の建材にプラスチックをほとんど使わず、空調も再生エネルギーを採用した。環境に配慮した店舗や商品づくりについて木島潤子ロクシタンジャポン社長は、「押し付けがましくない形で、サステナビリティを意識してもらうきっかけにしてほしい」と話す。

渋谷は、ブランドの価値観を世界へ発信できる場所

木島社長は、「日本は『ロクシタン』にとって重要な市場だ。渋谷は国内外からの注目が集まる場所。ブランドの世界観を発信するのに適しているため、リニューアル1店舗目に選ばれた」と話す。「ロクシタン」は1976年の創設当時から、“自然と人への敬愛”を大切にしてきた。渋谷店は2006年にグローバル1000店舗目としてオープンし、リニューアルは3回目。今回の刷新について、「日本上陸26年目となり、ブランド本来の価値観を、改めて現代の解釈で届けることが求められていると思った。渋谷店は、『ロクシタン』のメッセージを世界に向けて発信し、常に顧客に感動や驚きを与え、ブランドの価値観や世界観を体感してもらえる空間にする」と続ける。

コロナ禍を経て、消費者の購買に対する価値観は変化。「本当に必要なものだけを買う“ミニマル思考”になったと感じている」。その中で「多くの上顧客の客単価が下がった。リブランディングを通して、顧客との関係性をより深めていくことを目指す。一方で、日本市場の売り上げは堅調に推移する。刷新を機に、さらに成長の勢いを上げていきたい」と語った。

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「クオン」創業者と大槌刺し子「サシコギャルズ」が、クラウドファンディングで目指す復興のその先

PROFILE: 藤原新/ムーンショット代表

藤原新/ムーンショット代表
PROFILE: (ふじわら・あらた)1978年8月16日、東京都新宿区生まれ。法政大学法学部卒業。法律に携わる仕事をしながら2010年に自身のブランド「イッシン(1sin)」をスタート。2012年4月に「デザインによる社会的課題の解決」を理念に株式会社ムーンショット(MOONSHOT)を設立。2016年に石橋真一郎をデザイナーとした「クオン(KUON)」を立ち上げ。ニューヨーク・ファッション・ウィークなどに参加。

2011年に東日本大震災の復興支援として発足した、大槌刺し子(旧:大槌復興刺し子プロジェクト)は存続の危機に陥っていた。岩手県で育まれた日本文化を守り、発展させるために動いたのが、メンズブランド「クオン(KUON)」の創業者で、ムーンショット(MOONSHOT)代表の藤原新だ。震災から13年が経ち、大槌刺し子はムーンショットと共同で新たな名前「サシコギャルズ(SASHIKO GALS)」を立ち上げ、復興支援のその先を目指す。4月30日まで実施するクラウドファンディングでは、早期に目標金額150万円を達成した。大槌刺し子が「クオン」を製作する過程を、経営者として見てきた藤原は法律に携わる一面を持ち、ソーシャルビジネスで起業し、ファッションの世界に飛び込んだ人物。そんな彼が命名したのが「サシコギャルズ」だ。伝統技術を継承し、復興支援を風化させないためにどうすべきか。プロジェクトの背景と展開について藤原に聞いた。

継続と継承の危機に陥る大槌刺し子

WWD:大槌刺し子を知ったきっかけは何ですか?

藤原新ムーンショット代表(以下、藤原):僕は2010年10月に大好きなファッションを基盤に、ソーシャルビジネスを起業するんですが、11年3月11日に東日本大震災が起きます。当初は違うアプローチを考えていましたが、震災が起きたので被災地で活動を始めます。最初は福島県南相馬市から始まり、宮城県の方に上がっていき、最終的に岩手県大槌町にたどり着き、そこで大槌刺し子と出合いました。

WWD:当時は被災地に行き、支援活動をしていたということですか?

藤原:僕はビジネスのみです。ですが、震災後という状況ですし、みなさんが今抱えている問題をどうやって解決しようというのが、ソーシャルビジネスですので、見方によっては支援活動かもしれません。だけど、ソーシャルビジネスは、長く続けていくことがとても大事です。ボランティアでは継続が難しくなってしまうので、支援をするけれども、活動がしっかり続くためには、ビジネスとして考える観点が必要だと考えていました。

WWD:今回クラウドファンディングを始めた経緯は?

藤原:大槌刺し子は、元々有志5人の方々が避難所で始めた取り組みでした。ただ、その方々がボランティアの方でしたので、当然長くは続けられません。そこで、NPO法人テラ・ルネッサンスが大槌刺し子の取り組みを引き継ぎます。けれど、彼らの活動のメインは海外での地雷の撤去や、貧困の人たちの生活支援でしたので、日本での活動だけにフォーカスをするのが難しくありました。また、NPOはビジネスを基盤にしているわけではないので、大槌刺し子だけをビジネスとして構築するのは難しい状況でした。

WWD:そのような状況で、なぜ当時の大槌刺し子は事業が継続できたのですか?

藤原:震災直後は次々と取材が来ていましたし、取材に来た方たちが大槌刺子を知ると、自然と広げてくれたんです。そうなると、多くの企業からたくさんの仕事が来ました。ただ、当然13年も経てば、当たり前ですけど、みんな忘れていきますよね。もちろん、このままではいけないと思い、オリジナルブランドをECで始めるなどしましたが、大槌刺し子のみなさんは、企画者というわけではありませんでしたし、売り上げは全盛期よりかなり減ってしまいました。今、大槌刺し子の仕事は、「クオン」の仕事の割合が多くなっています。それだけでは、大槌刺し子の事業自体が成り立たなくなってきて、加えてプロジェクトが始まってから13年経ち、職人の高齢化という課題も生まれてきました。

WWD:そこで、大槌刺し子のみなさんから具体的な相談があったのですか?

藤原:発注主側の「クオン」である僕は、大槌刺し子にはポテンシャルしかずっと感じていなかったんです。だけど、実際に話を詳しく聞くと、実は仕事量の減少や高齢化などで、「もう、このままだと大槌刺し子がなくなってしまうかもしれない」というご相談を受け、今までの発注主という立場ではなくて、同じ方向を向いて協業という形で一緒にやりましょうという話になりました。

WWD:その後、最初に考えたことは?

藤原:まず、下請けに頼らず大槌刺し子をブランド化することが一番大事だと考えました。そこで、事業として「サシコギャルズ」を立ち上げたんです。ただ、十分な資金があるわけではないので、クラウドファンディングで資金集めをしながら、「サシコギャルズ」の周知活動をしていきましょうというのが、今回クラウドファンディングを始めた経緯になります。

最初は信じてもらえなかったブランドネーム

WWD:「サシコギャルズ」のネーミングの由来は?

藤原:ギャルには賛否両論あるとは思いますが、僕は個人的にはギャルは人に対して壁を作らず、「いいものはいい」とストレートに言える子たちだと思っています。刺し子職人の40代から80代のおばあちゃんやお母さんたちが、事務所に集まってくるときは、みなさん、菓子袋を持ってくるんですよ。持ち寄って、ひと通りワイワイした後に無心になって刺し子をやります。その風景は、放課後やファミレスに集まって楽しんでいるギャルそのものだなと。この人たちのこのマインドは、間違いなくギャルだと思ったので、「サシコギャルズ」というネーミングにしました。

WWD:「サシコギャルズ」の名前を、職人のお母さんたちに初めて伝えたときの反応は?

藤原:実際に「サシコギャルズ」と伝えると、「ああ、いいね」と言ってくれたんですけど、そのときは信じてなかったみたいです(笑)。だけど、クラウドファンディングが始まる手前で、「NHK」をはじめとした取材が入ってきたときに、「サシコギャルズ」の由来を聞かれるんですよね。すると「藤原さん、本当のところ名前はなんですか?」と聞かれて、「いや、サシコギャルズだよ」と(笑)。そのときに、ネーミングの由来を伝えたら素敵だと共感してもらえ、そこからギャルの姿勢を、自分たちにオーバーラップして落とし込んでくれました。

WWD:当初設定の目標金額150万円は達成。実際に達成を知ったとき、職人たちの様子は?

藤原:「うわー!」と喜ぶ絵文字がきましたね(笑)。今までずっとOEMを中心にやっていたこともあり、「本当に支持してもらえるのか?」と、みんな不安を抱えていました。それが、実際にある程度早くクラウドファンディングの目標金額を達成したことは、すごく自信につながったと思います。
職人がブランドをメゾンにする

WWD:クラウドファンディングのリターンで、現在最も大きい支援額を集めているのがスニーカーの刺し子カスタムですが、このリターンを考案した背景は?

藤原:このプロジェクトは、大槌刺し子のビジネス化が大きな目的です。同時に、刺し子の文化をどう発展させるかということも、すごく大事なんです。「サシコギャルズ」は文化を守るというよりは、進化させる立場にいて欲しい人たちなので、従来の刺し子のイメージになかったものと考え、リターンでは今まで経験していなかったスニーカーやぬいぐるみの刺し子にトライしています。

WWD:スニーカーの刺し子カスタムを、本格的にビジネス展開する予定は?

藤原:今はクラウドファンディングで、「サシコギャルズ」の名前を広めることが大事だと思っています。今回のリターンは、どちらかというと技術を使ったサービスで、刺し子の可能性をまず伝えるためのものです。一方で、同時並行的にスポーツ、スニーカーブランドといった企業にも、お話をさせていただいています。クラウドファンディングのリターンは、あくまでお客さまのスニーカーをお預かりして刺し子をするというサービスですけれど、オフィシャルで刺し子スニーカーが出れば、やっぱりかっこいいですよね。

WWD:これまで継続してきた「クオン」と「サシコギャルズ」の今後は?

藤原:「クオン」はメゾンになりたいと思っています。デザイナーが変わろうが経営者が変わろうが、ブランドの核となる精神には職人がいるのではないでしょうか。「エルメス(HERMES)」しかり「シャネル(CHANEL)」しかりで、ブランドの価値を担保しているのは職人で、職人がブランドの価値を上げていると思っています。100年後も200年後も続いていくことが、僕らの理想の形。一人のカリスマデザイナーだけに立脚するのではなく、メゾンになりたいと思っているので、刺し子職人を僕ら「クオン」の中に入れたいんです。

WWD:「クオン」の中で職人たちが刺し子で自社のアイテムを製作しながら、外部にも刺し子をサービスとして提供していくイメージですか?

藤原:そうです。社内の事業に彼女たち職人がなっていくことが理想です。そこまで含めたビジネス展開という考えになります。今回の「サシコギャルズ」は率直に言えば「経営が厳しい、何とかしたい」という状況です。そして、僕たち「クオン」はメゾンになりたい。その思惑が一致しています。だから、「サシコギャルズ」を事業化した上で、彼女たちに「クオン」の職人になって欲しいと考えています。

ビジネスが復興支援を風化させない

WWD:復興支援を一時的なものにせず、継続していくために必要なことは?

藤原:ビジネスになっていくのが一番いいです。人が欲しい、人が必要としているのが、「モノなのか、コトなのか」という点を考えてちゃんと作り出すことが、すごく大事です。一方で、寄り添うことも非常に大事です。みなさん何かしら心に傷を抱えていることが多いので、寄り添いながら、それでいて、フェアでいることが大切です。東日本大震災のときもそうだったんですが、「支援慣れ」というのがあります。僕も南相馬から入って、その後、宮城の南三陸町へ移ったのですが、そこで帽子工場のリブランディングをお願いされたことがありました。

WWD:その取り組みはどのような結果に?

藤原:うまくいかなかったんです。なぜかと言うと、「藤原さんが全部やってくれる」となってしまったんです。それは、やっぱり無理なんですよね。工場のみなさん自身でやらなくてはいけないことはたくさんあって、だけど「藤原さんがいろいろやってくれるから」となってしまうと、そこはフェアではなくなってしまいます。だから常に寄り添いながらも、フェアであることはすごく大事だと思います。

WWD:職人の高齢化など、伝統技術には継承の課題があります。

藤原:時間の経過と町の過疎化による担い手の減少が起きています。おそらく、継承者の減少は、どの伝統技術においても直面していることですよね。日本の伝統技術としてうまくいっているのは、児島のデニムぐらいでは。あとは鯖江の眼鏡もうまくいっていますよね。

WWD:継承の課題を解決するためには?

藤原:「サシコギャルズ」のクラウドファンディングを始めると、近隣の教育現場から「授業でやりたい」というオファーをいただきました。東京にどうしても憧れる面はあると思いますが、自分たちの地場にこんなに素晴らしい技術があって、それが世界でも非常に評価されていることを、もっと知ってほしいです。今年から取り組みがはじまる予定なのです。授業で習った子たちが、そのまま「サシコギャルズ」に就職してくれたら、うれしいですね。

WWD:授業で学んだ学生が、サシコギャルズに就職することの利点とは?

藤原:もし、それが実現すれば町ぐるみで取り組めるんです。デニムの児島や眼鏡の鯖江が強いのは、行政も含めて町としてやっているからです。「一つの工房から町ぐるみで」という発展ができれば、伝統技術の継承という課題の解決に近づくのではないでしょうか。そしてその文化を、ちゃんと町の人たちが理解する。児島の人たちや鯖江の人たちは自分たちのよさを、わかっていると思うんですよね。自分たちの文化のよさを知ることは、すごく大事です。

WWD:今回のクラウドファンディングを経て、新しい展開が生まれそうですか?

藤原:先ほどお話した教育現場からのオファーもそうですし、百貨店さんから長期的なプランでのお取り組みというお話はいただいてまして、単純に何かモノを作って売るというよりは、いろんな人たちと可能性を探りながら進行していきたいです。

WWD:これからの「サシコギャルズ」の目標を教えてください。

藤原:「サシコギャルズ」が目指していることは、三つあります。一つは「刺し子の可能性を広げること」、二つめは「復興のその先を示すこと」です。復興支援事業から始まったものが、時間の経過とともに風化して失われていくことがすごく多いです。だけど、復興支援事業の中には、素晴らしい取り組みもあったはずなんですよ。でも、続かないことがほとんどでした。大槌刺し子は復興から始まったものですが、それが復興とは関係なくちゃんと続いて、ビジネスとして拡大していくところを見せることができればと思っています。

WWD:最後の三つめは?

藤原:地方創生です。大槌町だけじゃなくて、日本各地でどんどん過疎化が進んでいます。過疎化の原因は、そこに産業がないことで、それが一番の問題だと思っています。過疎化が進む町に産業を起こすことで、過疎化解決の糸口に少しでも繋がればと考えています。

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パリ発ジュエラー「ジェミオ」創業者が語る好調要因 年内に表参道に出店

パリ発「ジェミオ(GEMMYO)」は2011年に誕生したジュエリーブランドだ。創業者であるポリーヌ・レニョーが、シャリフ・デブスとの婚約をきっかけに、パリ市内のジュエラーで婚約指輪を探したときのネガティブな体験をもとに設立。デジタルを駆使した受注生産で、ブライダル中心にメード・イン・フランスにこだわったジュエリーを適正価格で届けている。温かみのある接客もブランドにとって重要なポイントで、現在は自社EC以外に、フランス国内で6店舗、ブリュッセルとジュネーブに1店舗と計8つの直営店を運営。日本では,ホテルオークラ東京で毎週金曜日の午後と土曜日にアポイントメント制のブティックをオープンしている。来日したレニョー創業者に話を聞いた。

WWD:ブランドを立ち上げたきっかけと目的は?

ポリーヌ・レニョー=ジェミオ創業者(以下、レニョー):婚約者のシャリフとヴァンドーム広場のジュエラーに婚約指輪を探しに行った際、ダイヤモンドしか選択肢がないのに驚いたし、温かみに欠ける接客にがっかりした。だから、ダイヤモンド以外にも選択肢があるモダンなジュエリーブランドを作ろうと思った。サファイアやエメラルド、ルビーなど10種類以上の色石を選べるだけでなく、地金も選べ、パーソナルなカスタマイズ体験を提供。ジュエリーはメード・イン・フランスで全て受注生産だ。

WWD:ブランドのコンセプトは?

レニョー:モダンな次世代のためのジュエリーを適正価格で提供するということ。石や地金の選択肢が多く、受注後の製造過程を丁寧に顧客に伝えて、ECにおけるショッピング体験を温かみのある快適で特別なものにしている。だから、売り上げの割合は半分がEC。デジタルを駆使すると同時に、仕入れから小売りまで自社で行っているので、通常のジュエラーと比べると3~5割程度、手に取りやすい価格を実現している。金額に見合った価値を求める消費者に好評で売り上げも好調だ。

ブランド名は革新的な女性だった天皇の元明天皇から

WWD:ブランド名はどこから?

レニョー:「ジェミオ」のジェム(Gem)とは石のことで、ダイヤモンド以外のカラフルな宝石を知ってもらいたいという思いから。また、日本在住の義理の兄から偶然、女性だがパイオニア精神に満ちていた元明天皇の話を聞いた。ブランドにとって、革新性も大切な要素で、元明は“ゲンミョウ(Genmyo)”とも読めることからジェムと組み合わせて「ジェミオ」という名前にした。

WWD:デザインと製造はどのように行うか?こだわりは?

レニョー:デザインも製造もフランス国内で行う。フランスの職人が持つ手仕事の素晴らしさを知ってもらいたい。私がデザインチームを率いており、コンセプトからデザイン、製造を経てコレクション完成までに9カ月かかる。デザインのこだわりは、ジェンダーレス、快適な着け心地なので、日々着用できるということ。自然や建築などさまざまなインスピレーション源の背後にあるストーリーを大切にしている。

WWD:売れ筋アイテムと中心価格帯は?

レニョー:ブライダルでは、“レフコス”リングが売れ筋。石はグリーンサファイアやチョコレートダイヤモンドが人気で、石によるが中心価格帯は50万円程度。ジェンダーレスな“エンタイユ”コレクションも好調で、10万〜20万円程度。リングは、重ね着けして楽しめるのが特徴だ。

品質が高く人と違ったジュエリーをスマートに届ける

WWD:ターゲットは?

レニョー:国際的で都会的、経済的に自立した25~50代の女性が中心。品質が高く、人とは違ったものをスマートな方法で購入したいと思う女性。

WWD:ブランドの魅力をどのように消費者に伝えているか?

レニョー:SNSやウェブサイト。画像やビデオなど豊富なコンテンツを用意して発信するほか、インフルエンサーとも協業する。

WWD:日本に進出したきっかけと目的は?

レニョー:日本は美しい国で、市場はとても大きい。「ジェミオ」のデリケートなコンセプトは日本人女性に合うと思う。新たなジュエリーの選択肢としてアピールしたい。

WWD:日本での反応は?

レニョー:とても良い。インスタグラムを見て予約するカップルや親子が多い。

WWD:今後どのようにブランドを発展させていく?

レニョー:まずは、フランス国内でブランドを確立し、国際的に販路を拡大したい。年内には、スイスのチューリッヒと東京・表参道に路面店をオープンする。

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アダストリア木村社長とベンチャーの旗手オアシス関谷社長が「グローバルワーク」✕「WWS」異例コラボを語り尽くす

アダストリアの基幹ブランド「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」が、“スーツに見える作業着”として知られるオアシスライフスタイルグループの「WWS (ダブリューダブリューエス)」とコラボレーションした商品を4月26日から発売する。2型からスタートする、一見小さな取り組みだが、実は両者にとって大きな可能性を秘めたプロジェクトでもある。

グローバルワークは2024年2月期に売上高が前期比13.3%増の516億円となり、500億円を突破。期末店舗数は219店舗になった。1000億円達成に向けて、長く愛される日常着を突き詰め、強い看板商品の開発や店舗の大型化やオペレーションの進化などに取り組み、その名の通りグローバルな展開を目指している途上だ。セットアップ、そして、「WWS」との協業が、その起爆剤の一つになるのか。アダストリアの木村治社長と、太田訓・執行役員「グローバルワーク」営業本部長、オアシスライフスタイルグループの関谷有三社長が語る、シナジー&両社の強みとは?

異例のコラボのきっかけは?

WWD:協業のきっかけは、1年ほど前に小売業や飲食業の経営者が集まる食事会で、アダストリアの木村治社長とオアシスの関谷有三社長が出会ったことだと聞く。

木村治アダストリア社長(以下、木村):「グローバルワーク」や「ニコアンド」でセットアップを扱ってきたことや、飲食担当をしていることなどもあり、「WWS」や「春水堂」には目を留めていた。会ってみたら、自ら著書(「なぜ、倒産寸前の水道屋がタピオカブームを仕掛け、アパレルでも売れたのか?」フォレスト出版刊)を持ってきて宣伝したりと、関谷社長自身が面白い方だった(笑)。

関谷有三オアシスライフスタイルグループ社長(以下、関谷):すごい大御所が集まる中で、アダストリアは『ライフスタイル界の巨人』であり、憧れの会社。木村社長もメディアなどで姿を拝見していたが実際にお目にかかると、とても気さくに声をかけていただき、渋谷ヒカリエにあるオフィスに遊びにおいでよと声をかけていただいたので、すぐに行った。ただ、そのときはコラボできたら面白いなとは思いつつ、実際には価格帯も規模も違うし、どういうアウトプットになるかはわからないというのが正直な気持ちだった。

ファンクショナルなボーダレスウエアでつながった
「グローバルワーク」と「WWS」の可能性

木村:「『WWS』の認知度を上げたい」という課題が話に出たので、だったらうちのブランドとコラボしたらいいのでは?と。アダストリアには多くのブランドがあるが、お客さまの層が幅広く、セットアップに力を入れている「グローバルワーク」が良い、とその場で太田を呼んでバトンを渡した。

基本的に、人との出会いをどう会社や事業につなげるかが僕の仕事であり、一番のチャンスになる。今回は関谷さんと「WWS」を、太田と「グローバルワーク」につないだが、実際にはそうした出会いをどうするかは任せた人間次第。任したスタッフは決して無理してやる必要はないと思っているが、こういったことはタイミングもとても重要だ。だから僕自身はなぜ今なのかを常に考え、やると決めたらすぐに動くようにしている。

太田訓アダストリア執行役員「グローバルワーク」営業本部長(以下、太田):「WWS」は業界内でも話題になっていたので知ってはいたが、マーケットも価格帯も異なるのでコンペティター(競合)とは思っていなかった。「スーツに見える作業着」というコンセプトも面白いし、売り方も斬新だなと思っていた。急遽同席したときにすぐ、「WWS」の独自素材「アルティメックス」を見て、これはすごいと思ったし、多様なライフスタイルに寄り添うボーダレスウエアブランドを目指す「WWS」のコンセプトにも共感した。

「グローバルワーク」では、こだわり抜いた日常着を提案するため、3つのFをフィロソフィーに掲げている。“ファッション”と、機能性の“ファンクション”、そして、日常生活で肌触りや質感、着心地を感覚的に〝良い〟と感じられる“フィーリング”だ。「WWS」のファンクションとは親和性を感じたし、私たちが職業やシーン、季節に関係なく着用できるシーンレスなアイテムの提供に向け、「ボーダレスウエア」を新しいキーワードとして定義できると思った。共感をベースに、お互いの強みを掛け算したら面白いことができるのではと考えた。純粋にお客さまにとって良い商品ができたので、多くの方々に体験して喜んでいただきたい。

アダストリアのノウハウで「WWS」を異例の半額で提供

WWD:「WWS」はセットアップで3万5000円。今回は同じ「アルティメックス」、“WWSアラエルソッカン”のジャケットで1万890円、スラックスで7920円と、半額に近い価格を実現している。商品の特徴やこだわりのポイントは?

太田:第1弾では定番のセットアップを作った。テキスタイルは、撥水性や速乾性、ストレッチ性があり、しわになりにくく、毎日洗濯機で丸洗いできるイージーケアという、「WWS」が独自開発した最高級の多機能素材「アルティメックス」を使った。しっとりした質感で、マットで、上品な光沢感と張りがある。「WWS」のメインラインはテーラードに近い形なので、コラボ商品では腰の後ろ側にゴムを入れるなど形やシルエットは「グローバルワーク」で実績のあるパターンを使用し、幅広いお客さまが着やすいようにした。

注力したのは、お互いのブランドの良さを大切にし、表現するかということ。Dカンや、内ポケットにファスナーを付けるなど、作業着として打ち出す「WWS」のコンセプトやこだわりのディテールを反映させた。ストレッチ性がとても高いので縫製が難しかったが、お付き合いしている取引先工場でしっかりした商品を作れた。

関谷:水道屋が開発した「スーツに見える作業着」は、6年目で累計25万着のセットアップを販売し、ブランド年商は10億円に育った。店舗やECだけでなく、2500社の法人にも愛用していただいている。ここまでアクティブスーツ市場が盛り上がってくるとは思っていなかったが、僕たちが機能系セットアップスーツの元祖だという自負がある。

僕らベンチャーの弱みではあるが、ロットの問題で、どんなに頑張っても超えられない価格の壁があった。「アルティメックス」は国産品で、原価もめちゃめちゃ高い。それが今回、アダストリアのノウハウや生産背景を活用することで、パターンも含めてビックリするぐらいハイクオリティのものをロープライスで作ることができた。正直これは本当に驚きだったし、この掛け算は経営者としてとても勉強になった。

WWD:カジュアルのイメージがある「グローバルワーク」の中で、どのような売り方をしていくのか?

木村:実は「グローバルワーク」では数年前からリングヂャケットと協業し、本格的なテーラリングと高見えする素材によりハイクオリティ、ハイコストパフォーマンスを追求したドレスクロージングライン「サロン ド グローバルワーク (Salon de GW)」を展開してきた。シーズンにもよるが、3ピースのセットアップからジャケット、パンツ、シャツ、ニット、ネクタイまで販売している実績がある。これも含めてセットアップ系の商品はかなり提供してきたが、まだその認知が薄い。今回のコラボは「WWS」の力を借りて、セットアップでも信頼がおけるブランドだということを訴求する好機になると思う。

太田:今回は「グローバルワーク」の30店舗と、自社の「ドットエスティ(.st)」、楽天、ZOZOのEC3モールで販売する。私たちの強みは、多くのお客さまが実際にいらっしゃり、手にとっていただけるリアル店舗があること。その店頭で「WWS」とのコラボがわかるように、素材やディテールのこだわり、商品メリットをしっかり伝えられる売り方を準備している。

関谷:「スーツに見えますが、作業着です」というコピーもしっかりと打ち出してもらう(笑)。第1弾もいいものが出来たが、第2弾でさらに「グローバルワーク」の真骨頂を感じた。「WWS」ではこれまでカジュアルのアイテムを展開してこなかったし、その知見もなかったが、第2弾はなんと、カジュアルアイテムと雑貨。僕らの「アルティメックス」を使ったカジュアルアイテムがどのようなものになるのか興味深いし、ここからも本当に多くのことを学ばせていただいた。

太田:今日木村が着ている、羽織にもなる半袖シャツや布帛Tシャツ、ショートパンツ、キャップ、サコッシュを用意する。もともと夏場によく売れるアイテムだが、機能性も高く、街中を歩けるキレイ目なカジュアルとして、仕事にもレジャーにも活用いただけると思う。

アダストリアのスピード感に、ベンチャーの旗手も「びっくり」

WWD:協業する中で驚いたことや、期待することは何か?

関谷:スピード感と的確性だ。僕らはベンチャーなのでスピード感や機動力で大手企業に挑んできた。だけどアダストリアは大きな会社なのに、木村さんのダイナミックな動き方や、太田さんのジャッジの速さ、そして、現場の方々のサンプルを上げる速度、修正するスピードなどが尋常でないぐらい早くて。「ミスター・ベンチャー」の僕でもびっくりした(笑)。そして、ふわっとしたリクエストに対してもディテールまでものすごく的確に返ってきて、サンプルの修正もビシッと上がってきて、さすがだなと感じた。

コストダウンに対しても並々ならぬ企業努力をしていた。アダストリアという会社と「グローバルワーク」というブランドのすごさの理由がわかった。手に届きやすい価格で顧客に提供してもらえることで、僕らみたいなニッチなブランドを知っていただけるのはすごくありがたいし面白い。ホリエモンや田村淳さん、マコなり社長など著名人も含めて、熱狂的なお客さまがいるが、これだけ安くてブランドのコンセプトやクオリティーを踏襲したとてつもなくいいものが出来てしまったので、驚かれると思うし、瞬殺・即完売だと思う。新しいお客さまに「WWS」を知っていただくことも含めて、どういう反応がいただけるか、「令和のヒットメーカー」としても楽しみにしている(笑)。

太田:通常、素材探しを含めて開発には半年以上かかったり、協業ではお互いをリスペクトしあいながらコンセプトを決定したりアプローバルを取ったりするのに時間がかかりがち。けれども今回は共通点が多くてコンセプトも明確だったので、異例のスピード感で進めることができた。

この数年はビジネスをしっかりと確立して上昇気流に乗せていくことにフォーカスしてきた。商品開発においては、ブランドの世界観というよりも、完成された単品を追求し、お客さまのニーズに応える商品を創り上げていくことにフォーカスし、研ぎ澄まされた仕事をしているところだ。その積み重ねを行うとともに、主力商品との掛け算で強みを生かせる取り組みも積極的に行っていきたい。

木村:関谷社長は『大きい会社』と言ってくれていたが、僕自身、アダストリアが大きな会社だという意識はまったくない。コラボももっと積極的にやろうとしているし、もっともっと楽しいことをやろうとしている。チャンスを生かすにはクイックさは必要不可欠。スピード感を増しながら、ますますご縁を大切する会社にしていきたい。

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アダストリア木村社長とベンチャーの旗手オアシス関谷社長が「グローバルワーク」✕「WWS」異例コラボを語り尽くす

アダストリアの基幹ブランド「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」が、“スーツに見える作業着”として知られるオアシスライフスタイルグループの「WWS (ダブリューダブリューエス)」とコラボレーションした商品を4月26日から発売する。2型からスタートする、一見小さな取り組みだが、実は両者にとって大きな可能性を秘めたプロジェクトでもある。

グローバルワークは2024年2月期に売上高が前期比13.3%増の516億円となり、500億円を突破。期末店舗数は219店舗になった。1000億円達成に向けて、長く愛される日常着を突き詰め、強い看板商品の開発や店舗の大型化やオペレーションの進化などに取り組み、その名の通りグローバルな展開を目指している途上だ。セットアップ、そして、「WWS」との協業が、その起爆剤の一つになるのか。アダストリアの木村治社長と、太田訓・執行役員「グローバルワーク」営業本部長、オアシスライフスタイルグループの関谷有三社長が語る、シナジー&両社の強みとは?

異例のコラボのきっかけは?

WWD:協業のきっかけは、1年ほど前に小売業や飲食業の経営者が集まる食事会で、アダストリアの木村治社長とオアシスの関谷有三社長が出会ったことだと聞く。

木村治アダストリア社長(以下、木村):「グローバルワーク」や「ニコアンド」でセットアップを扱ってきたことや、飲食担当をしていることなどもあり、「WWS」や「春水堂」には目を留めていた。会ってみたら、自ら著書(「なぜ、倒産寸前の水道屋がタピオカブームを仕掛け、アパレルでも売れたのか?」フォレスト出版刊)を持ってきて宣伝したりと、関谷社長自身が面白い方だった(笑)。

関谷有三オアシスライフスタイルグループ社長(以下、関谷):すごい大御所が集まる中で、アダストリアは『ライフスタイル界の巨人』であり、憧れの会社。木村社長もメディアなどで姿を拝見していたが実際にお目にかかると、とても気さくに声をかけていただき、渋谷ヒカリエにあるオフィスに遊びにおいでよと声をかけていただいたので、すぐに行った。ただ、そのときはコラボできたら面白いなとは思いつつ、実際には価格帯も規模も違うし、どういうアウトプットになるかはわからないというのが正直な気持ちだった。

ファンクショナルなボーダレスウエアでつながった
「グローバルワーク」と「WWS」の可能性

木村:「『WWS』の認知度を上げたい」という課題が話に出たので、だったらうちのブランドとコラボしたらいいのでは?と。アダストリアには多くのブランドがあるが、お客さまの層が幅広く、セットアップに力を入れている「グローバルワーク」が良い、とその場で太田を呼んでバトンを渡した。

基本的に、人との出会いをどう会社や事業につなげるかが僕の仕事であり、一番のチャンスになる。今回は関谷さんと「WWS」を、太田と「グローバルワーク」につないだが、実際にはそうした出会いをどうするかは任せた人間次第。任したスタッフは決して無理してやる必要はないと思っているが、こういったことはタイミングもとても重要だ。だから僕自身はなぜ今なのかを常に考え、やると決めたらすぐに動くようにしている。

太田訓アダストリア執行役員「グローバルワーク」営業本部長(以下、太田):「WWS」は業界内でも話題になっていたので知ってはいたが、マーケットも価格帯も異なるのでコンペティター(競合)とは思っていなかった。「スーツに見える作業着」というコンセプトも面白いし、売り方も斬新だなと思っていた。急遽同席したときにすぐ、「WWS」の独自素材「アルティメックス」を見て、これはすごいと思ったし、多様なライフスタイルに寄り添うボーダレスウエアブランドを目指す「WWS」のコンセプトにも共感した。

「グローバルワーク」では、こだわり抜いた日常着を提案するため、3つのFをフィロソフィーに掲げている。“ファッション”と、機能性の“ファンクション”、そして、日常生活で肌触りや質感、着心地を感覚的に〝良い〟と感じられる“フィーリング”だ。「WWS」のファンクションとは親和性を感じたし、私たちが職業やシーン、季節に関係なく着用できるシーンレスなアイテムの提供に向け、「ボーダレスウエア」を新しいキーワードとして定義できると思った。共感をベースに、お互いの強みを掛け算したら面白いことができるのではと考えた。純粋にお客さまにとって良い商品ができたので、多くの方々に体験して喜んでいただきたい。

アダストリアのノウハウで「WWS」を異例の半額で提供

WWD:「WWS」はセットアップで3万5000円。今回は同じ「アルティメックス」、“WWSアラエルソッカン”のジャケットで1万890円、スラックスで7920円と、半額に近い価格を実現している。商品の特徴やこだわりのポイントは?

太田:第1弾では定番のセットアップを作った。テキスタイルは、撥水性や速乾性、ストレッチ性があり、しわになりにくく、毎日洗濯機で丸洗いできるイージーケアという、「WWS」が独自開発した最高級の多機能素材「アルティメックス」を使った。しっとりした質感で、マットで、上品な光沢感と張りがある。「WWS」のメインラインはテーラードに近い形なので、コラボ商品では腰の後ろ側にゴムを入れるなど形やシルエットは「グローバルワーク」で実績のあるパターンを使用し、幅広いお客さまが着やすいようにした。

注力したのは、お互いのブランドの良さを大切にし、表現するかということ。Dカンや、内ポケットにファスナーを付けるなど、作業着として打ち出す「WWS」のコンセプトやこだわりのディテールを反映させた。ストレッチ性がとても高いので縫製が難しかったが、お付き合いしている取引先工場でしっかりした商品を作れた。

関谷:水道屋が開発した「スーツに見える作業着」は、6年目で累計25万着のセットアップを販売し、ブランド年商は10億円に育った。店舗やECだけでなく、2500社の法人にも愛用していただいている。ここまでアクティブスーツ市場が盛り上がってくるとは思っていなかったが、僕たちが機能系セットアップスーツの元祖だという自負がある。

僕らベンチャーの弱みではあるが、ロットの問題で、どんなに頑張っても超えられない価格の壁があった。「アルティメックス」は国産品で、原価もめちゃめちゃ高い。それが今回、アダストリアのノウハウや生産背景を活用することで、パターンも含めてビックリするぐらいハイクオリティのものをロープライスで作ることができた。正直これは本当に驚きだったし、この掛け算は経営者としてとても勉強になった。

WWD:カジュアルのイメージがある「グローバルワーク」の中で、どのような売り方をしていくのか?

木村:実は「グローバルワーク」では数年前からリングヂャケットと協業し、本格的なテーラリングと高見えする素材によりハイクオリティ、ハイコストパフォーマンスを追求したドレスクロージングライン「サロン ド グローバルワーク (Salon de GW)」を展開してきた。シーズンにもよるが、3ピースのセットアップからジャケット、パンツ、シャツ、ニット、ネクタイまで販売している実績がある。これも含めてセットアップ系の商品はかなり提供してきたが、まだその認知が薄い。今回のコラボは「WWS」の力を借りて、セットアップでも信頼がおけるブランドだということを訴求する好機になると思う。

太田:今回は「グローバルワーク」の30店舗と、自社の「ドットエスティ(.st)」、楽天、ZOZOのEC3モールで販売する。私たちの強みは、多くのお客さまが実際にいらっしゃり、手にとっていただけるリアル店舗があること。その店頭で「WWS」とのコラボがわかるように、素材やディテールのこだわり、商品メリットをしっかり伝えられる売り方を準備している。

関谷:「スーツに見えますが、作業着です」というコピーもしっかりと打ち出してもらう(笑)。第1弾もいいものが出来たが、第2弾でさらに「グローバルワーク」の真骨頂を感じた。「WWS」ではこれまでカジュアルのアイテムを展開してこなかったし、その知見もなかったが、第2弾はなんと、カジュアルアイテムと雑貨。僕らの「アルティメックス」を使ったカジュアルアイテムがどのようなものになるのか興味深いし、ここからも本当に多くのことを学ばせていただいた。

太田:今日木村が着ている、羽織にもなる半袖シャツや布帛Tシャツ、ショートパンツ、キャップ、サコッシュを用意する。もともと夏場によく売れるアイテムだが、機能性も高く、街中を歩けるキレイ目なカジュアルとして、仕事にもレジャーにも活用いただけると思う。

アダストリアのスピード感に、ベンチャーの旗手も「びっくり」

WWD:協業する中で驚いたことや、期待することは何か?

関谷:スピード感と的確性だ。僕らはベンチャーなのでスピード感や機動力で大手企業に挑んできた。だけどアダストリアは大きな会社なのに、木村さんのダイナミックな動き方や、太田さんのジャッジの速さ、そして、現場の方々のサンプルを上げる速度、修正するスピードなどが尋常でないぐらい早くて。「ミスター・ベンチャー」の僕でもびっくりした(笑)。そして、ふわっとしたリクエストに対してもディテールまでものすごく的確に返ってきて、サンプルの修正もビシッと上がってきて、さすがだなと感じた。

コストダウンに対しても並々ならぬ企業努力をしていた。アダストリアという会社と「グローバルワーク」というブランドのすごさの理由がわかった。手に届きやすい価格で顧客に提供してもらえることで、僕らみたいなニッチなブランドを知っていただけるのはすごくありがたいし面白い。ホリエモンや田村淳さん、マコなり社長など著名人も含めて、熱狂的なお客さまがいるが、これだけ安くてブランドのコンセプトやクオリティーを踏襲したとてつもなくいいものが出来てしまったので、驚かれると思うし、瞬殺・即完売だと思う。新しいお客さまに「WWS」を知っていただくことも含めて、どういう反応がいただけるか、「令和のヒットメーカー」としても楽しみにしている(笑)。

太田:通常、素材探しを含めて開発には半年以上かかったり、協業ではお互いをリスペクトしあいながらコンセプトを決定したりアプローバルを取ったりするのに時間がかかりがち。けれども今回は共通点が多くてコンセプトも明確だったので、異例のスピード感で進めることができた。

この数年はビジネスをしっかりと確立して上昇気流に乗せていくことにフォーカスしてきた。商品開発においては、ブランドの世界観というよりも、完成された単品を追求し、お客さまのニーズに応える商品を創り上げていくことにフォーカスし、研ぎ澄まされた仕事をしているところだ。その積み重ねを行うとともに、主力商品との掛け算で強みを生かせる取り組みも積極的に行っていきたい。

木村:関谷社長は『大きい会社』と言ってくれていたが、僕自身、アダストリアが大きな会社だという意識はまったくない。コラボももっと積極的にやろうとしているし、もっともっと楽しいことをやろうとしている。チャンスを生かすにはクイックさは必要不可欠。スピード感を増しながら、ますますご縁を大切する会社にしていきたい。

The post アダストリア木村社長とベンチャーの旗手オアシス関谷社長が「グローバルワーク」✕「WWS」異例コラボを語り尽くす appeared first on WWDJAPAN.

映像ディレクター・上出遼平の「ありえない仕事術」 「10年先、20年先を見据えて、今からどうあるべきかを考える」

PROFILE: 上出遼平

上出遼平
PROFILE: (かみで・りょうへい)ディレクター、プロデューサー、作家。1989年東京都生まれ。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはポッドキャスト、書籍、漫画と多展開。ほかにも担当作品としてポッドキャスト番組「上出遼平 NY御馳走帖」や小説「歩山録」(講談社)などがある。

フリーのディレクターとして、テレビ番組からファッションブランドの動画制作まで、精力的に活動する上出遼平が、「これまで何度も依頼はあったが、全て断ってきた」という仕事論をテーマにした本をついに上梓。そのタイトルは「ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方」(徳間書店)。

2022年6月におよそ11年間勤めたテレビ東京を退社し、2023年の夏にはニューヨークへ拠点を移した。テレビ東京時代にはディレクター/プロデューサーとしてドキュメンタリー番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」や、深夜の停波枠に放送された「蓋」を手掛けたほか、作家としても書籍版「ハイパーハードボイルドグルメリポート」(朝日新聞出版)に、山岳小説「歩山録」(講談社)といった著作もある。

今回、断り続けてきた仕事論を執筆することに決めた経緯も含め、その生い立ちから仕事への向き合い方まで、現在の上出遼平がいかにして形づくられたのかを探る。

——ニューヨークでの暮らしぶりはいかがですか?

上出遼平(以下、上出):昨年の夏に引っ越して、ようやく半年たったくらいなので、暮らしぶりを語れるほど住んではいないんですよ。何の予想もせずに行ったので、とくに予想外の話とかもなく。強いて言うなら、思いのほか東京にいる時間が長くて家賃がもったいないなと。

——差し支えなければ、住んでいるエリアはどんな雰囲気なのでしょうか。

上出:マンハッタンの南東で高層ビルが立ち並ぶ経済エリアと、若者が集まるような文化エリアのちょうど狭間ですね。なので、スーツを着たビジネスマンもいれば、その間をスケーターがすべっている感じで、居心地はいいです。

——改めて、ニューヨークへの移住を決めた理由としては?

上出:自分も会社を辞めて、妻も会社員ではないので、東京に住む理由もないな、というくらいで、本当に何の計画性もないんですよ。

——ニューヨーク市民から日本人へのまなざしは、どう感じていますか?

上出:そこは本当に人によるというか、コミュニティーによりますね。僕が仕事で関わっている食やファッションのコミュニティーにいる人たちは日本にも興味を持っていますが、それ以外のコミュニティーの人たちにとっては、それほど関心もなさそうで、良くも悪くも特別な視線はないと思います。

ファッション関係者には「ギャルソン」や「ヨウジ」の服を着ている人はたくさんいますし、日本食のお店も次々にオープンしています。文化的なところだと、アニメが強いのは間違いないですが、話題にされるのは「AKIRA」とか「ポケモン」とか定番の作品だったりするので、最新作が注目されている、という感じではなさそうです。

仕事本ってどんだけ需要あるんだよ、そんなに売れるのかよ

——このたび刊行された「ありえない仕事術」について、なぜ仕事術をテーマにした本を書こうと?

上出:仕事術やビジネスをテーマにした本の執筆自体は、これまでに何社からも依頼をいただいていて、僕自身はそんな本を書く気はさらさらなかったので、全て断っていたんです。ただ、依頼が来ては断る、みたいなフェーズも1周したかな、というタイミングでまた依頼が来たので、どんだけ仕事術の本って需要あるんだよ、そんなに売れるのかよ、と思いまして。もともと僕は文章を書いて飯を食っていくことに強い憧れがあり、そういう意味でも、仕事本を書くことは避けて通れないんだなという感じもしたので、それなら自分なりのやり方で書いてみようと思いました。

——その「自分なりのやり方」というのが、本書における2部構成、第1部が仕事との向き合い方を綴った仕事論で、第2部が「死の肖像」というドキュメンタリーシリーズを制作する現場の“ルポルタージュ”という形式になったと。

上出:あえて簡単に言うと、僕自身が本に期待するのは物語を読むことで、自分が書きたいのも物語なんです。それは一般的な仕事術を記した本とは真逆のものなので、そこにどう折り合いをつけるか、というのがこの本でやったことですね。

——文筆業への憧れ、あるいは物語への関心は、いつ頃から芽生えたのでしょう。

上出:本を読むことの喜びは幼少期から感じていました。子どもの頃に買ってもらった、半分絵本みたいな「十五少年漂流記」は擦り切れるほど読みましたし。たとえ家のベッドの中にいても、本があればどこにでも行ける、その“旅”への没入感に完全にほれ込んだんです。もはや、それ以上の喜びはないんじゃないかっていうくらいに。その原体験があるので、一度はテレビ局の社員になりましたけど、今こうして文章を書くことを仕事にできているのは、むしろテレビ番組を作るよりも自然なことだと感じています。

勉強でガチガチの中学時代、パンクに出会ってしまった

——読書だけではなく、学生時代にはパンクバンドを組んだり、音楽にも夢中になっていたんですよね。

上出:高校生の頃にはバンドまがいのこともしていましたが、それはパンクの態度に憧れていたんです。一般的な正しさの外側にある価値観というか。というのも、中学時代、僕めっちゃ勉強してたんですよ。普通に公立中学に入って、人生で最初の試験、1年生の中間テストで学年1位になったんです。そうしたら親が大喜びで、これが正解なんだと思ってしまった。呪いの始まりです。それからは、中学生のくせにテスト前には徹夜して、教科書は全て暗記、校内1位を維持するために勉強しまくり。もう頭の中それしかない、みたいな。

そんなガチガチになっている時に、パンクに出会ってしまった。例えば、オナニーマシーンという名前からしていかがわしいバンドがいるのですが、メンバーは自分の父親と同じ歳くらいの大人なのに、ライブでは全裸になって酒を飲みながらステージで大暴れするんです。しかもお客さんたちはその光景に熱狂している。勉強ばっかりしていた自分にはあまりに衝撃で、その落差にやられました。

——1つ文化の扉が開くと、次々に連鎖していきますよね。

上出:パンクと出会ったのは兄の影響なのですが、兄はいわゆる伝統的な不良文化もかじっていたので、漫画の「特攻の拓」とかを借りて読んで、バイクにも興味を持ちました。パンクとバイクは隣接しているので、ヤフオクで安い革ジャンを買ったりして。それで、高校1年の時だったかな、池袋の手刀(チョップ)というライブハウスで、「革ジャン反抗期」なるイベントがあって観に行ったんです。そこで、ザ★ダッチワイフというパンクバンドをやっている不良の先輩と出会いました。その人は和彫にアイパーみたいな、普段は伝統的不良ファッションなんですけど、ライブハウスに行く時は革ジャン、みたいなスタイルで、かっこよかったんです。クリスマスに彼の家に泊まり込んでバイクの改造をしたり、集会に連れて行ってもらったりもしました。

ただ、高校にはほとんど友達いなかったですけどね。金髪にツナギや革ジャンで学校に行っていたので、明らかに浮きまくってました。夜はライブハウスに行って、明け方まで打ち上げにも参加して、駅のベンチで寝て、それでも勉強はちゃんとして。とはいえ、高校の後半はだいぶ不良文化からは離れていったんです。このまま極まっていくとまずいぞ、とも感じていたので、大学にはちゃんと行こうと。

——その後、早稲田大学の法学部に進学、少年犯罪や少年非行の事例を研究していたと。

上出:はい。10代の頃に自分が非行の道に片足を突っ込んだ経験もあって、まわりには逮捕されたりする仲間もいましたし、僕自身かなりの人に迷惑もかけました。そのことはもう取り返しがつかないので、せめて、なぜそういう少年が生まれるんだろうとか、悪ってなんだとか、少年犯罪や少年法について勉強してみようと思ったんです。他人事ではなく、犯罪傾向のあったかつての自分を肯定したかった、自分が非行に走った理由を知りたかった、というのも大きいです。

——少年院へ取材に行ったりもしたんですよね。

上出:少年院にも行きましたし、あとは、日本全国にある薬物依存症の自立支援施設、ダルクやアパリもまわったりしてました。足を運んで話を聞いたり、現場を見に行けるのは大学生のうちだけだろうと思っていたので。

トラブルが起きると上の人間が現場からさっといなくなる

——そんな大学生活から、テレビ東京へ入社することになった経緯は?

上出:少年犯罪の研究のほかにも、中国の山奥にある元ハンセン病患者が隔離されている村へ行ってボランティアをしたりもしていたんです。そのつながりで、大学3年の時に出入りしていたコミュニティーが、学生によるNGOだったりもしたので、そういう学生は新聞社とかメディア企業との親和性が高いんですよね。それでまわりが就職活動を始めた時に話をいろいろ聞いて、自分もやらなきゃと思って、採用の時期が最も早かったテレビ局を受けることにしました。日本テレビの選考は合宿に行ったりもしたんですけど、最終選考で落ちましたね。結局、受かったのがテレビ東京だったと。

——テレビ局の面接では、どういう志望動機を話したのですか?

上出:テレビはほとんど見てなかったので、それは正直に話しました。その上で、僕が何度も足を運んだ当時の中国のハンセン病隔離施設では、さまざまな誤解や知識の欠如によって、患者さんたちの人生が大きく狂わされていました。感染の要因も明らかになり、治療薬もある、もし正しい知識さえ伝わっていれば、いつまでも隔離されている必要はなかった。そういうことをメディアを通じて伝えたい、といったことを話したと思います。その意味では、当時面接で話したことは、そのまま「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」の構想と同じなんですよね。

——テレビ東京とはいえ、放送までこぎつけた「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」はかなりの異端で、報道局を除けば、テレビ局員の本流仕事は、いわゆる芸能人とのあれこれだったりしますよね。

上出:そうですね。どんなに評価されたとしても、「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」みたいな番組だけを作っていればいい、ということには絶対にならないです。おっしゃる通り、芸能人が出演するようなバラエティーの方が主流で、僕もADの頃はそういう番組を担当していました。

そんな仕事をしていく中で、自分の中ではこういうことが面白い、こういう番組を放送するべきだ、という信念と具体的な企画もあるのに、それはまったく通らず、意に反する番組を担当して、毎日毎日怒られる。そりゃあくじけますよ。番組の内容だけじゃなく、制作現場の体制についても疑問を感じていました。漫画的な不良の世界では、何かトラブルが起きた時に、たとえそれが下の者が起こした問題であっても、上の人間が出てきて責任を取ることが当たり前だった。なのにテレビの世界では、トラブルが起きると上の人間がさっと現場からいなくなり、最下層のADが全ての責任を負わされる。一体これは何なんだ。

——テレビの制作現場に限らず、間違った縦社会の構造ですね。

上出:そもそも、総務省から電波を与えられた免許事業社の一員というだけなのに、偉そうにできる意味が分からない。それに、どう考えても芸人さんやタレントさんのおかげでおもしろい番組として成立しているのに、なぜ制作者の方が偉そうにしているんだ、というのもずっと疑問でした。キャスティング権だったり、放送局員という立場だったり、たまたま権力的なものを手にした人間が、たたき上げで芸能の世界に生きている出演者に対して偉そうにできる道理はひとつもないですよ。

——なぜテレビ制作者はそんなに偉そうになってしまったと思いますか。

上出:今はだいぶ弱まっていますけど、やはり一昔前は、その影響力も含め、テレビが強かったからじゃないですかね。あとは、身一つで仕事をしている芸能人と一緒にいると、立場がないと何者でもない自分のコンプレックスを刺激されるのか、どうしても立場でものを言うようになってくる。そういう嫌な現場をたくさん見てきたので、僕はだいぶ声を上げてきた方だと思います。ADだった時でも「あなたの振る舞いや仕事のやり方には賛同できません。今すぐ改善するべきです」みたいなメールを送ったりしましたが、翌日には会社中にそのメールが知れ渡った結果、僕のほうがヤバいやつ認定されて終わり、みたいな感じでしたね。

目先の利益ではなく、長い目で見た時の経済合理性

——仕事について語られる時の定型として、「儲けるため」という視点と、「たとえ儲からなくてもやりたいことを」という視点の対比がありますが、上出さんはどう考えていますか。

上出:僕自身は幸運なことに、経済的に困窮していた経験はないのですが、まわりの人たちや取材で出会った人たちを見るに、お金というのが人間にとってどれほど重要か、というのは理解しているつもりです。その意味で、作品なり、仕事の成果を商業的に成立させることが重要だということに異論はありません。

ただ、僕が比較的安定していると言われるテレビ局を辞めて、お金にとらわれずにやりたいことを自由にやっているように見えているのだとしたら、それは、ほかの人たちとものを見るスパンが違うからだと思います。目の前の稼ぎだけを見たら、そりゃあこうなりますよね、という悲惨な現場は何度も目にしてきました。テレビ局はこうあるべきだ、という提案を常にしてきたのも、10年先、20年先を見据えて、今からどうあるべきか、という視点で語ってきたつもりです。

——「ありえない仕事術」の中でも<善きことをしようと努めれば努めるほど、ビジネスはうまくいく>と書かれていました

上出:例えば、SNSの登場で“フォロワー”という概念が生まれ、その価値がどんどん高まり、ビジネスにもつながるようになりましたよね。いわゆる炎上商法というのは、悪名は無名に勝るという考え方で、多くの人が飛びついた。炎上商法に限らず、SNS上の知名度を指標にしたり利用したりは、どこの企業でもやっています。でも長い目で見た時に、炎上上等の暴論や中身のない企画が、一体何になりますか? 目先の利益を求めてそういう仕事ばかりしてきた人、あるいは会社と、そこには加担しなかった人や会社と、10年後の経済合理性はどっちにありますか、という話です。

一方で、理念に甘えてビジネスの観点が抜けている場合もよくあります。だからこそ、僕はやるべきことを、きちんと売れるパッケージで世に出したい。多くの人に届いて、商業的にも成功させる。その小さい穴をこじ開けることにこそ、エンターテインメントの醍醐味はあると信じています。とくに海外に目を向けるようになってからは、日本国内のフォロワー数なんて、海を超えないですよ。

ラベリングがいかに無意味で不確かなものであるかを気づかせたい

——「ありえない仕事術」の第2部では、ドキュメンタリー制作の現場で起こるもろもろを題材にしていますが、中でも「人の不幸で飯を食う」ことに向き合った場面が印象的でした。

上出:ドキュメンタリーに限らず、例えばニュースの現場でも、不幸とは言わず“事件”を求めてしまう心情は制作者の誰もが抱えています。問題はそのことをどれだけ自覚できているか。作品のために事件を起こすなんてもってのほかですが、その上で、何を映し出せばいいのか、というのは、ずっと考え続けなければならないと思います。

「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」では、日常を生きているだけではなかなか足を踏み入れない地域やコミュニティーの食事をテーマにしていましたが、自分では行けないところ、見られないものを映し出すことがtele-visionの役割だと僕は認識しています。そこで何を思うのか、それは視聴者それぞれに委ねられていますが。

——ただ、上出さんの理念までは届かず、短絡的に「うわ〜やべ〜」くらいの軽いテンションで視聴している人もいて、その人たちも顧客なわけですよね。

上出:そうですね。それが悪いとは言わないし、そういう人たちも、最初に見た時は軽い気持ちだったとして、のちの人生でいろいろな経験を積んだあとに、あの時に見たあれって……と別のことを思うかもしれない。僕ができるのは種をまくことだけなので、人の目に触れさえすれば、1つお題は達成できたと思っています。

もしその「軽い気持ち」に問題があるとすれば、視聴者ではなく、むしろ制作者の方です。数字稼ぎを目的に、軽い気持ちで“ヤバい”場所にカメラを持って出掛けて行ったり、“ヤバい”人に話を聞いたりするようになったらおしまいです。制作者にとって「っぽい」ものを作るのは一番簡単で、結果もすぐに出て、気持ちがいいですからね。

——その「っぽい」ものと、上出さんの作品が時折並列で語られていることに、個人的には歯がゆさを感じてしまいます。

上出:それは僕自身も感じることはありますよ。あれとは根本的に違うんだけどな、という。ただ、意図や批評性がないまま“ヤバい”場所に行っても、全てがレクリエーションで終わってしまいますからね。どうしたって、そこで映してきたもの、現場での振る舞い、全てに差が出る。1つ言えるのは、僕は現場で必ず対話をします。取材対象者の主張を一方的にしゃべらせるようなことは絶対にしません。相手が聞かれたくないことも、必要だと思えば遠慮なく聞きます。そのことで、こちらも傷つくし、痛みを伴う。その覚悟を持った上で、自分が作品の主役になることもない。そもそも僕は“ヤバい”ものを撮るプロではありません。人が見たくないものを無理やり見せて、生き方を問う。それが仕事です。

——一方で、ドキュメンタリーにはラベリングの問題もあります。たった1人を取材対象にしても、その人が属している国やコミュニティー全体の傾向に見えてしまったり、1人のサンプルでしかないのに、あたかもその属性全てを語っているように見られてしまったり。

上出:ラベリングを避けられないのは事実です。とくに商業作品の場合、宣伝や告知の段階では、どうしたってラベリングに基づいた表現がついてまわる。繰り返しになりますが、やはり自覚の問題です。

あとは、きちんと本編を見てもらえた時に、僕はそのラベルをどこまで剥がせるか、というのを常に念頭に置いています。なんなら、そのラベリングがいかに無意味で、不確かなものであるかを気づかせたい。非常に効率は悪いし、商業的にはラベリングに頼った方が楽なんですけどね。でも、それをやったら終わり。それこそ長い目で見たら、いいこと1つもないですよ。

関わった人たち全員が納得しなければ、その作品に価値はない

——現在、上出さんはテレビ局を退社し、個人で仕事をしているわけですが、一定数の人たちが会社や組織に疑問を感じながらも、辞めずに続けているのはどうしてだと思いますか。

上出:多くの人が会社で働き続けるうちに、自信を剥奪されているんじゃないでしょうか。僕も会社員時代は、いろんな先輩に「テレビ局を辞めてやっていけるわけないだろ」みたいなことを言われましたから。ただし、先ほども話題に出たような、フォロワー数や目先の利益だけを追いかけて、思考停止のまま会社から言われた仕事だけを何十年も続けていたら、正直辞めてもやっていけないとは思います。酷な話ですが。

でも、自分の中に信念があったり、なんらかの疑問に耐えられないのであれば、いっそ辞めるのもありだとは思います。動物としては集団でいたほうが生存戦略的にいいのかもしれませんが、はぐれてもやっていけるのが人間だとも思いますし。もちろん、会社員でいることに無理に疑問を抱く必要はまったくないですけどね。ただ単に気に食わないことがあるとか、自分の未熟さのせいでうまくいかないことを会社のせいにするとか、そういうことを肯定するつもりはありません。むしろ個人でやっている方が、理不尽な目にはよく遭うし、それを1人で対処しなければいけません。

——個人で活動していると、常に自分で仕事を生み出さなければいけない困難さはありませんか?

上出:依頼される案件もありますし、やりたいこともやりきれないくらい溜まっているので、そこに困難さを感じることはありません。あとは、これも仕事本などで喧伝されているせいでよく勘違いされていますが、アイデアの出し方とかアイデアそのものに価値を見いだすのはちょっと違うかなと。それよりも重要なのは、実現可能性の方です。

例えば僕は、テレビ局員時代に街頭インタビューを何度もやらされましたけど、やっておいたおかげで、街頭インタビューにどのくらいの困難さがあるのか、肌感で分かります。100人に声をかけて、何人に無視されて、何人が応えてくれて、何人の回答がオンエアに使えるのか。テレビに限らず、現場の実情を理解しないまま、アイデアだけをポンポン出してくる人のなんと多いことか。そういうアイデアは、実現可能性がないだけではなく、往々にして現場へのリスペクトもない。アイデアだけでは仕事にならないんですよ。

——最近は少しずつですが、作品そのものへの評価だけではなく、その制作過程にも目を向けられるようになってはきましたよね。

上出:そこは本当に重要です。個人的には、作り手、出演者や取材対象者、受け手、この3者が全員納得できるものでないと、作品としての価値はないとすら思っています。価値がないというか、そこが出発点。制作の過程でハラスメントが起きていたり、出演者が合意していなかったり、受け手が傷ついたり、どれか1つでも欠陥があるようであれば、どんなに完成度の高い作品であっても、評価に値しない。もちろん、何かを刺しにいくジャーナリズムでは話がまったく異なります。極端な考え方かもしれませんが、いち制作者としては、このくらい過激な考え方を持っていないとダメだと思って、日々仕事しています。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO

■「ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方」
著者:上出遼平
定価:1650円
判型/仕様:四六判ソフトカバー
出版社:徳間書店

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映像ディレクター・上出遼平の「ありえない仕事術」 「10年先、20年先を見据えて、今からどうあるべきかを考える」

PROFILE: 上出遼平

上出遼平
PROFILE: (かみで・りょうへい)ディレクター、プロデューサー、作家。1989年東京都生まれ。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはポッドキャスト、書籍、漫画と多展開。ほかにも担当作品としてポッドキャスト番組「上出遼平 NY御馳走帖」や小説「歩山録」(講談社)などがある。

フリーのディレクターとして、テレビ番組からファッションブランドの動画制作まで、精力的に活動する上出遼平が、「これまで何度も依頼はあったが、全て断ってきた」という仕事論をテーマにした本をついに上梓。そのタイトルは「ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方」(徳間書店)。

2022年6月におよそ11年間勤めたテレビ東京を退社し、2023年の夏にはニューヨークへ拠点を移した。テレビ東京時代にはディレクター/プロデューサーとしてドキュメンタリー番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」や、深夜の停波枠に放送された「蓋」を手掛けたほか、作家としても書籍版「ハイパーハードボイルドグルメリポート」(朝日新聞出版)に、山岳小説「歩山録」(講談社)といった著作もある。

今回、断り続けてきた仕事論を執筆することに決めた経緯も含め、その生い立ちから仕事への向き合い方まで、現在の上出遼平がいかにして形づくられたのかを探る。

——ニューヨークでの暮らしぶりはいかがですか?

上出遼平(以下、上出):昨年の夏に引っ越して、ようやく半年たったくらいなので、暮らしぶりを語れるほど住んではいないんですよ。何の予想もせずに行ったので、とくに予想外の話とかもなく。強いて言うなら、思いのほか東京にいる時間が長くて家賃がもったいないなと。

——差し支えなければ、住んでいるエリアはどんな雰囲気なのでしょうか。

上出:マンハッタンの南東で高層ビルが立ち並ぶ経済エリアと、若者が集まるような文化エリアのちょうど狭間ですね。なので、スーツを着たビジネスマンもいれば、その間をスケーターがすべっている感じで、居心地はいいです。

——改めて、ニューヨークへの移住を決めた理由としては?

上出:自分も会社を辞めて、妻も会社員ではないので、東京に住む理由もないな、というくらいで、本当に何の計画性もないんですよ。

——ニューヨーク市民から日本人へのまなざしは、どう感じていますか?

上出:そこは本当に人によるというか、コミュニティーによりますね。僕が仕事で関わっている食やファッションのコミュニティーにいる人たちは日本にも興味を持っていますが、それ以外のコミュニティーの人たちにとっては、それほど関心もなさそうで、良くも悪くも特別な視線はないと思います。

ファッション関係者には「ギャルソン」や「ヨウジ」の服を着ている人はたくさんいますし、日本食のお店も次々にオープンしています。文化的なところだと、アニメが強いのは間違いないですが、話題にされるのは「AKIRA」とか「ポケモン」とか定番の作品だったりするので、最新作が注目されている、という感じではなさそうです。

仕事本ってどんだけ需要あるんだよ、そんなに売れるのかよ

——このたび刊行された「ありえない仕事術」について、なぜ仕事術をテーマにした本を書こうと?

上出:仕事術やビジネスをテーマにした本の執筆自体は、これまでに何社からも依頼をいただいていて、僕自身はそんな本を書く気はさらさらなかったので、全て断っていたんです。ただ、依頼が来ては断る、みたいなフェーズも1周したかな、というタイミングでまた依頼が来たので、どんだけ仕事術の本って需要あるんだよ、そんなに売れるのかよ、と思いまして。もともと僕は文章を書いて飯を食っていくことに強い憧れがあり、そういう意味でも、仕事本を書くことは避けて通れないんだなという感じもしたので、それなら自分なりのやり方で書いてみようと思いました。

——その「自分なりのやり方」というのが、本書における2部構成、第1部が仕事との向き合い方を綴った仕事論で、第2部が「死の肖像」というドキュメンタリーシリーズを制作する現場の“ルポルタージュ”という形式になったと。

上出:あえて簡単に言うと、僕自身が本に期待するのは物語を読むことで、自分が書きたいのも物語なんです。それは一般的な仕事術を記した本とは真逆のものなので、そこにどう折り合いをつけるか、というのがこの本でやったことですね。

——文筆業への憧れ、あるいは物語への関心は、いつ頃から芽生えたのでしょう。

上出:本を読むことの喜びは幼少期から感じていました。子どもの頃に買ってもらった、半分絵本みたいな「十五少年漂流記」は擦り切れるほど読みましたし。たとえ家のベッドの中にいても、本があればどこにでも行ける、その“旅”への没入感に完全にほれ込んだんです。もはや、それ以上の喜びはないんじゃないかっていうくらいに。その原体験があるので、一度はテレビ局の社員になりましたけど、今こうして文章を書くことを仕事にできているのは、むしろテレビ番組を作るよりも自然なことだと感じています。

勉強でガチガチの中学時代、パンクに出会ってしまった

——読書だけではなく、学生時代にはパンクバンドを組んだり、音楽にも夢中になっていたんですよね。

上出:高校生の頃にはバンドまがいのこともしていましたが、それはパンクの態度に憧れていたんです。一般的な正しさの外側にある価値観というか。というのも、中学時代、僕めっちゃ勉強してたんですよ。普通に公立中学に入って、人生で最初の試験、1年生の中間テストで学年1位になったんです。そうしたら親が大喜びで、これが正解なんだと思ってしまった。呪いの始まりです。それからは、中学生のくせにテスト前には徹夜して、教科書は全て暗記、校内1位を維持するために勉強しまくり。もう頭の中それしかない、みたいな。

そんなガチガチになっている時に、パンクに出会ってしまった。例えば、オナニーマシーンという名前からしていかがわしいバンドがいるのですが、メンバーは自分の父親と同じ歳くらいの大人なのに、ライブでは全裸になって酒を飲みながらステージで大暴れするんです。しかもお客さんたちはその光景に熱狂している。勉強ばっかりしていた自分にはあまりに衝撃で、その落差にやられました。

——1つ文化の扉が開くと、次々に連鎖していきますよね。

上出:パンクと出会ったのは兄の影響なのですが、兄はいわゆる伝統的な不良文化もかじっていたので、漫画の「特攻の拓」とかを借りて読んで、バイクにも興味を持ちました。パンクとバイクは隣接しているので、ヤフオクで安い革ジャンを買ったりして。それで、高校1年の時だったかな、池袋の手刀(チョップ)というライブハウスで、「革ジャン反抗期」なるイベントがあって観に行ったんです。そこで、ザ★ダッチワイフというパンクバンドをやっている不良の先輩と出会いました。その人は和彫にアイパーみたいな、普段は伝統的不良ファッションなんですけど、ライブハウスに行く時は革ジャン、みたいなスタイルで、かっこよかったんです。クリスマスに彼の家に泊まり込んでバイクの改造をしたり、集会に連れて行ってもらったりもしました。

ただ、高校にはほとんど友達いなかったですけどね。金髪にツナギや革ジャンで学校に行っていたので、明らかに浮きまくってました。夜はライブハウスに行って、明け方まで打ち上げにも参加して、駅のベンチで寝て、それでも勉強はちゃんとして。とはいえ、高校の後半はだいぶ不良文化からは離れていったんです。このまま極まっていくとまずいぞ、とも感じていたので、大学にはちゃんと行こうと。

——その後、早稲田大学の法学部に進学、少年犯罪や少年非行の事例を研究していたと。

上出:はい。10代の頃に自分が非行の道に片足を突っ込んだ経験もあって、まわりには逮捕されたりする仲間もいましたし、僕自身かなりの人に迷惑もかけました。そのことはもう取り返しがつかないので、せめて、なぜそういう少年が生まれるんだろうとか、悪ってなんだとか、少年犯罪や少年法について勉強してみようと思ったんです。他人事ではなく、犯罪傾向のあったかつての自分を肯定したかった、自分が非行に走った理由を知りたかった、というのも大きいです。

——少年院へ取材に行ったりもしたんですよね。

上出:少年院にも行きましたし、あとは、日本全国にある薬物依存症の自立支援施設、ダルクやアパリもまわったりしてました。足を運んで話を聞いたり、現場を見に行けるのは大学生のうちだけだろうと思っていたので。

トラブルが起きると上の人間が現場からさっといなくなる

——そんな大学生活から、テレビ東京へ入社することになった経緯は?

上出:少年犯罪の研究のほかにも、中国の山奥にある元ハンセン病患者が隔離されている村へ行ってボランティアをしたりもしていたんです。そのつながりで、大学3年の時に出入りしていたコミュニティーが、学生によるNGOだったりもしたので、そういう学生は新聞社とかメディア企業との親和性が高いんですよね。それでまわりが就職活動を始めた時に話をいろいろ聞いて、自分もやらなきゃと思って、採用の時期が最も早かったテレビ局を受けることにしました。日本テレビの選考は合宿に行ったりもしたんですけど、最終選考で落ちましたね。結局、受かったのがテレビ東京だったと。

——テレビ局の面接では、どういう志望動機を話したのですか?

上出:テレビはほとんど見てなかったので、それは正直に話しました。その上で、僕が何度も足を運んだ当時の中国のハンセン病隔離施設では、さまざまな誤解や知識の欠如によって、患者さんたちの人生が大きく狂わされていました。感染の要因も明らかになり、治療薬もある、もし正しい知識さえ伝わっていれば、いつまでも隔離されている必要はなかった。そういうことをメディアを通じて伝えたい、といったことを話したと思います。その意味では、当時面接で話したことは、そのまま「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」の構想と同じなんですよね。

——テレビ東京とはいえ、放送までこぎつけた「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」はかなりの異端で、報道局を除けば、テレビ局員の本流仕事は、いわゆる芸能人とのあれこれだったりしますよね。

上出:そうですね。どんなに評価されたとしても、「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」みたいな番組だけを作っていればいい、ということには絶対にならないです。おっしゃる通り、芸能人が出演するようなバラエティーの方が主流で、僕もADの頃はそういう番組を担当していました。

そんな仕事をしていく中で、自分の中ではこういうことが面白い、こういう番組を放送するべきだ、という信念と具体的な企画もあるのに、それはまったく通らず、意に反する番組を担当して、毎日毎日怒られる。そりゃあくじけますよ。番組の内容だけじゃなく、制作現場の体制についても疑問を感じていました。漫画的な不良の世界では、何かトラブルが起きた時に、たとえそれが下の者が起こした問題であっても、上の人間が出てきて責任を取ることが当たり前だった。なのにテレビの世界では、トラブルが起きると上の人間がさっと現場からいなくなり、最下層のADが全ての責任を負わされる。一体これは何なんだ。

——テレビの制作現場に限らず、間違った縦社会の構造ですね。

上出:そもそも、総務省から電波を与えられた免許事業社の一員というだけなのに、偉そうにできる意味が分からない。それに、どう考えても芸人さんやタレントさんのおかげでおもしろい番組として成立しているのに、なぜ制作者の方が偉そうにしているんだ、というのもずっと疑問でした。キャスティング権だったり、放送局員という立場だったり、たまたま権力的なものを手にした人間が、たたき上げで芸能の世界に生きている出演者に対して偉そうにできる道理はひとつもないですよ。

——なぜテレビ制作者はそんなに偉そうになってしまったと思いますか。

上出:今はだいぶ弱まっていますけど、やはり一昔前は、その影響力も含め、テレビが強かったからじゃないですかね。あとは、身一つで仕事をしている芸能人と一緒にいると、立場がないと何者でもない自分のコンプレックスを刺激されるのか、どうしても立場でものを言うようになってくる。そういう嫌な現場をたくさん見てきたので、僕はだいぶ声を上げてきた方だと思います。ADだった時でも「あなたの振る舞いや仕事のやり方には賛同できません。今すぐ改善するべきです」みたいなメールを送ったりしましたが、翌日には会社中にそのメールが知れ渡った結果、僕のほうがヤバいやつ認定されて終わり、みたいな感じでしたね。

目先の利益ではなく、長い目で見た時の経済合理性

——仕事について語られる時の定型として、「儲けるため」という視点と、「たとえ儲からなくてもやりたいことを」という視点の対比がありますが、上出さんはどう考えていますか。

上出:僕自身は幸運なことに、経済的に困窮していた経験はないのですが、まわりの人たちや取材で出会った人たちを見るに、お金というのが人間にとってどれほど重要か、というのは理解しているつもりです。その意味で、作品なり、仕事の成果を商業的に成立させることが重要だということに異論はありません。

ただ、僕が比較的安定していると言われるテレビ局を辞めて、お金にとらわれずにやりたいことを自由にやっているように見えているのだとしたら、それは、ほかの人たちとものを見るスパンが違うからだと思います。目の前の稼ぎだけを見たら、そりゃあこうなりますよね、という悲惨な現場は何度も目にしてきました。テレビ局はこうあるべきだ、という提案を常にしてきたのも、10年先、20年先を見据えて、今からどうあるべきか、という視点で語ってきたつもりです。

——「ありえない仕事術」の中でも<善きことをしようと努めれば努めるほど、ビジネスはうまくいく>と書かれていました

上出:例えば、SNSの登場で“フォロワー”という概念が生まれ、その価値がどんどん高まり、ビジネスにもつながるようになりましたよね。いわゆる炎上商法というのは、悪名は無名に勝るという考え方で、多くの人が飛びついた。炎上商法に限らず、SNS上の知名度を指標にしたり利用したりは、どこの企業でもやっています。でも長い目で見た時に、炎上上等の暴論や中身のない企画が、一体何になりますか? 目先の利益を求めてそういう仕事ばかりしてきた人、あるいは会社と、そこには加担しなかった人や会社と、10年後の経済合理性はどっちにありますか、という話です。

一方で、理念に甘えてビジネスの観点が抜けている場合もよくあります。だからこそ、僕はやるべきことを、きちんと売れるパッケージで世に出したい。多くの人に届いて、商業的にも成功させる。その小さい穴をこじ開けることにこそ、エンターテインメントの醍醐味はあると信じています。とくに海外に目を向けるようになってからは、日本国内のフォロワー数なんて、海を超えないですよ。

ラベリングがいかに無意味で不確かなものであるかを気づかせたい

——「ありえない仕事術」の第2部では、ドキュメンタリー制作の現場で起こるもろもろを題材にしていますが、中でも「人の不幸で飯を食う」ことに向き合った場面が印象的でした。

上出:ドキュメンタリーに限らず、例えばニュースの現場でも、不幸とは言わず“事件”を求めてしまう心情は制作者の誰もが抱えています。問題はそのことをどれだけ自覚できているか。作品のために事件を起こすなんてもってのほかですが、その上で、何を映し出せばいいのか、というのは、ずっと考え続けなければならないと思います。

「ハイパー ハードボイルド グルメリポート」では、日常を生きているだけではなかなか足を踏み入れない地域やコミュニティーの食事をテーマにしていましたが、自分では行けないところ、見られないものを映し出すことがtele-visionの役割だと僕は認識しています。そこで何を思うのか、それは視聴者それぞれに委ねられていますが。

——ただ、上出さんの理念までは届かず、短絡的に「うわ〜やべ〜」くらいの軽いテンションで視聴している人もいて、その人たちも顧客なわけですよね。

上出:そうですね。それが悪いとは言わないし、そういう人たちも、最初に見た時は軽い気持ちだったとして、のちの人生でいろいろな経験を積んだあとに、あの時に見たあれって……と別のことを思うかもしれない。僕ができるのは種をまくことだけなので、人の目に触れさえすれば、1つお題は達成できたと思っています。

もしその「軽い気持ち」に問題があるとすれば、視聴者ではなく、むしろ制作者の方です。数字稼ぎを目的に、軽い気持ちで“ヤバい”場所にカメラを持って出掛けて行ったり、“ヤバい”人に話を聞いたりするようになったらおしまいです。制作者にとって「っぽい」ものを作るのは一番簡単で、結果もすぐに出て、気持ちがいいですからね。

——その「っぽい」ものと、上出さんの作品が時折並列で語られていることに、個人的には歯がゆさを感じてしまいます。

上出:それは僕自身も感じることはありますよ。あれとは根本的に違うんだけどな、という。ただ、意図や批評性がないまま“ヤバい”場所に行っても、全てがレクリエーションで終わってしまいますからね。どうしたって、そこで映してきたもの、現場での振る舞い、全てに差が出る。1つ言えるのは、僕は現場で必ず対話をします。取材対象者の主張を一方的にしゃべらせるようなことは絶対にしません。相手が聞かれたくないことも、必要だと思えば遠慮なく聞きます。そのことで、こちらも傷つくし、痛みを伴う。その覚悟を持った上で、自分が作品の主役になることもない。そもそも僕は“ヤバい”ものを撮るプロではありません。人が見たくないものを無理やり見せて、生き方を問う。それが仕事です。

——一方で、ドキュメンタリーにはラベリングの問題もあります。たった1人を取材対象にしても、その人が属している国やコミュニティー全体の傾向に見えてしまったり、1人のサンプルでしかないのに、あたかもその属性全てを語っているように見られてしまったり。

上出:ラベリングを避けられないのは事実です。とくに商業作品の場合、宣伝や告知の段階では、どうしたってラベリングに基づいた表現がついてまわる。繰り返しになりますが、やはり自覚の問題です。

あとは、きちんと本編を見てもらえた時に、僕はそのラベルをどこまで剥がせるか、というのを常に念頭に置いています。なんなら、そのラベリングがいかに無意味で、不確かなものであるかを気づかせたい。非常に効率は悪いし、商業的にはラベリングに頼った方が楽なんですけどね。でも、それをやったら終わり。それこそ長い目で見たら、いいこと1つもないですよ。

関わった人たち全員が納得しなければ、その作品に価値はない

——現在、上出さんはテレビ局を退社し、個人で仕事をしているわけですが、一定数の人たちが会社や組織に疑問を感じながらも、辞めずに続けているのはどうしてだと思いますか。

上出:多くの人が会社で働き続けるうちに、自信を剥奪されているんじゃないでしょうか。僕も会社員時代は、いろんな先輩に「テレビ局を辞めてやっていけるわけないだろ」みたいなことを言われましたから。ただし、先ほども話題に出たような、フォロワー数や目先の利益だけを追いかけて、思考停止のまま会社から言われた仕事だけを何十年も続けていたら、正直辞めてもやっていけないとは思います。酷な話ですが。

でも、自分の中に信念があったり、なんらかの疑問に耐えられないのであれば、いっそ辞めるのもありだとは思います。動物としては集団でいたほうが生存戦略的にいいのかもしれませんが、はぐれてもやっていけるのが人間だとも思いますし。もちろん、会社員でいることに無理に疑問を抱く必要はまったくないですけどね。ただ単に気に食わないことがあるとか、自分の未熟さのせいでうまくいかないことを会社のせいにするとか、そういうことを肯定するつもりはありません。むしろ個人でやっている方が、理不尽な目にはよく遭うし、それを1人で対処しなければいけません。

——個人で活動していると、常に自分で仕事を生み出さなければいけない困難さはありませんか?

上出:依頼される案件もありますし、やりたいこともやりきれないくらい溜まっているので、そこに困難さを感じることはありません。あとは、これも仕事本などで喧伝されているせいでよく勘違いされていますが、アイデアの出し方とかアイデアそのものに価値を見いだすのはちょっと違うかなと。それよりも重要なのは、実現可能性の方です。

例えば僕は、テレビ局員時代に街頭インタビューを何度もやらされましたけど、やっておいたおかげで、街頭インタビューにどのくらいの困難さがあるのか、肌感で分かります。100人に声をかけて、何人に無視されて、何人が応えてくれて、何人の回答がオンエアに使えるのか。テレビに限らず、現場の実情を理解しないまま、アイデアだけをポンポン出してくる人のなんと多いことか。そういうアイデアは、実現可能性がないだけではなく、往々にして現場へのリスペクトもない。アイデアだけでは仕事にならないんですよ。

——最近は少しずつですが、作品そのものへの評価だけではなく、その制作過程にも目を向けられるようになってはきましたよね。

上出:そこは本当に重要です。個人的には、作り手、出演者や取材対象者、受け手、この3者が全員納得できるものでないと、作品としての価値はないとすら思っています。価値がないというか、そこが出発点。制作の過程でハラスメントが起きていたり、出演者が合意していなかったり、受け手が傷ついたり、どれか1つでも欠陥があるようであれば、どんなに完成度の高い作品であっても、評価に値しない。もちろん、何かを刺しにいくジャーナリズムでは話がまったく異なります。極端な考え方かもしれませんが、いち制作者としては、このくらい過激な考え方を持っていないとダメだと思って、日々仕事しています。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO

■「ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方」
著者:上出遼平
定価:1650円
判型/仕様:四六判ソフトカバー
出版社:徳間書店

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東京レインボープライドに初参加 LVMHジャパンが“自分らしく、美しく豊かに”生きる発信

PROFILE: 山内彩/LVMHジャパン ピープル&カルチャー シニア マネージャー

山内彩/LVMHジャパン ピープル&カルチャー シニア マネージャー
PROFILE: (やまのうち・あや)大学卒業後、婦人服製造販売ブランドでリテールを学んだ後に渡仏し、パリ第3大学を卒業。帰国し、ファッション企業向けのコーチングなどを手掛けた後、ケリングに入社。2018年LVMHに入社し、「ディオール」のリテール トレーニング マネージャーを経て、現職 PHOTO : YUKIE SUGANO

認定NPO法人の東京レインボープライドは4月20、21日、「東京レインボープライド2024(TOKYO RAINBOW PRIDE 2024以下、TRP)」を代々木公園で開催した。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON JAPAN以下、LVMHジャパン)は同イベントに企業として初めて協賛し、同社のカルチャーやブランドの歴史、ダイバーシティー&インクルージョン(以下、D&I)の取り組みを紹介するブースを出展。20日には、同社が手掛ける「パルファム ジバンシイ(PARFUMS GIVENCHY)」と連携し、写真家のレスリー・キー(Leslie Kee)による一般来場者の撮影会を開催。21日のプライドパレードには、LVMHジャパンとグループブランドの社員と家族が250人規模で参加した。

また、TRPと連動した写真展「スーパーLVMH 〜 アール・ド・ヴィーヴル(SUPER LVMH 〜 ART DE VIVRE)」を5月19日まで原宿・キャットストリートの「クリエイティブ スペース アカデミア 21」で開催している。賛同する世界各国のセレブリティー30組とLVMHエグゼクティブ30人を、レスリー・キーが撮り下ろした。

LVMHジャパンで人材の育成と、人材を通したLVMHらしいカルチャーの醸成に取り組み、TRPへの出展に尽力した山内彩LVMHジャパン ピープル&カルチャー シニア マネージャーに、参加への経緯やD&Iの取り組みについて聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):TRP参加に至った経緯は?

山内彩LVMHジャパン ピープル&カルチャー シニア マネージャー(以下、山内):2019年、LGBTQ+当事者の同僚が「いつかLVMHでTRPに参加したい」と声を上げた。その後に、有志で集まった少人数でパレードを歩くことから始め、活動を徐々に広げた。22年、先行して出展した「パルファム ジバンシイ」からは刺激を受けた。同ブランドを率いる金山桃LVMHフレグランスブランズ ジェネラル マネージャー兼社長と話し、より大きなインパクトを出せるように、グループでも参加するべきではないかと考えた。

WWD:グループとして参加する上での苦労は?

山内:全ブランドの賛同を得ることはもちろん、確固たる目的を持ち、強いメッセージを発信する必要がある。簡単な道のりではなかった。各ブランドには、TRPへの参加は、グループミッションの“アール・ド・ヴィーヴル(美しく豊かに生きる喜び)”につながると説明した。“自分らしく生きる”ことこそ、“美しく豊かに生きる”ことと拡大解釈した。

WWD:TRP参加の意義とは?

山内:これほど多様な人材が集まる会社で、上からの命令ではなく各人が声を上げ、合意に至り、大きなプロジェクトを動かしたという体験は、社員にとって意義があった。このような過程を経て得た知識や経験は、さまざまなビジネスでも役に立つだろう。パレードへの参加は社員のモチベーションや帰属意識を高めるほか、表参道のけやき坂にフラッグを掲出することで社外にもメッセージを発信した。

最初は正直、グループでの参加は難しいと思っていた。しかし、そのような思い込みを覆すことに挑戦し、異なる意見を持った仲間と交流しながら共に未来を築いていく風土づくりにもつながる取り組みになった。

WWD:ブースを訪れた来場者へのメッセージは?

山内:ブースでは、LVMHジャパンのD&Iの取り組みを紹介するほか、レスリー・キーによる一般来場者の撮影会も開催。メイクアップは「パルファム ジバンシイ」のブースで行った。来場者には、アーティスティックな感覚を味わいながら、“新しい自分”や“本来の自分”を発見するきっかけにしてほしい。LVMHらしい“美しく豊かな”体験を通して、自己表現を広げられるような時間を提供したかった。

女性のセカンドキャリアを支援

WWD:TRP以外のD&Iに関する取り組みは?

山内:「メティエ・デクセロンス(METIERS D’EXCELLENCE以下、ME)」というプログラムを世界7カ国(フランス、スイス、イタリア、アメリカ、スペイン、日本、ドイツ)で実施しており、これまでに1400人以上が参加した。日本では21年にローンチし、販売員を育成するプログラムを通して女性のセカンドキャリアを支援している。

WWD:女性のセカンドキャリアに着目した経緯は?

山内:日本には、経験があるにも関わらず、出産やパートナーの転勤などでキャリアを離れ、10年やそれ以上のブランクを抱える女性が多くいる。正社員としての再就職も難しい状況だ。女性の活躍を促進したいという思いから、何らかの理由でキャリアを諦めざるを得なかった人や、転職を望む女性たちを対象にした。ファッションスクールでの学習や店頭での実技、マスタークラスでの研修という8カ月間のコースを無償で提供している。

WWD:プログラム参加者の反応は?

山内:日本では参加者の約8割が卒業し、約6割がLVMHジャパンに就職している。参加者からは、「このような機会がなければ、自分の可能性を広げることができなかった」「自分が本当に何をしたいのかに気づけた」などの声が届いている。

販売員は対人関係能力が必要で、継承が難しい職種だ。商品一つをとっても、多くの人が関わり、奥深い背景がある。顧客を理解し、ブランドや商品が持つ思いを届け、顧客の人生を豊かにできる販売員の育成に挑戦している。

WWD:日本におけるD&Iの課題は?

山内:D&Iに関しては人種や言語、宗教などさまざまな問題があり、それらは世界中どこにでも共通して存在すると思う。日本における課題は、多様性の見えづらさだ。日本は単一民族の国家なので、どうしても本来その人が持っているバックグラウンドや価値観、理念などが見えづらく、意識が向きにくい。日本でも、人間としてのより普遍的な多様性にもっと注目できるように取り組んでいきたい。

WWD:今後のビジョンは?

山内:グループミッションである“アール・ド・ヴィーヴル(自分らしく、美しく豊かに生きる)”を、社員が本当の意味で実感できる環境づくりを進めたい。学べる環境や、成長できるキャリアの機会を用意し、各人が自分らしさを持って活躍できる会社を目指している。さらに、それを世界にも発信しているという誇りを持てるように取り組みたい。1人1人が自分を大切にできるような環境をつくることで、他者への優しさが広がり、仕事においても全力を注げるようになると考えている。

■写真展「SUPER LVMH ~ ART DE VIVRE」Photographed by Leslie Kee
日程:4月19日〜5月19日
時間:11:00~19:00
会場:クリエイティブ スペース アカデミア 21
住所:東京都渋谷区神宮前5丁目27番7号 アルボーレ神宮前 1F/2F

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東京レインボープライドに連続参加「ジバンシイ」は社長のマイノリティーとしての過去からD&I推進

PROFILE: 金山桃/LVMHフレグランスブランズ ジェネラル マネージャー兼社長

金山桃/LVMHフレグランスブランズ ジェネラル マネージャー兼社長
PROFILE: (かなやま・もも)5歳でフランス・パリへ移住。ESSECビジネススクール卒業。2009年LVMHグループ会社のセフォラ、10年ロレアルに入社。18年に帰国し、日本ロレアルを経て22年2月にLVMHジャパンに入社。同年5月、LVMHフレグランスブランズに入社し現職

認定NPO法人の東京レインボープライドは4月20、21日、「東京レインボープライド2024(TOKYO RAINBOW PRIDE 2024以下、TRP)」を代々木公園で開催した。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON JAPAN以下、LVMHジャパン)は同イベントに企業として初めて協賛し、同社のカルチャーやブランドの歴史、ダイバーシティー&インクルージョン(以下、D&I)の取り組みを紹介するブースを出展。傘下の「パルファム ジバンシイ(PARFUMS GIVENCHY)」は2年連続で出展し、メイクアップのタッチアップサービスやサンプル商品の配布のほか、TRPのために作ったレインボーカラーのロゴステッカーをプレゼントした。

「パルファム ジバンシイ」を率いる金山桃LVMHフレグランスブランズジェネラル マネージャー兼社長は日本で生まれた後、5歳でパリへ移住し、自身がマイノリティーであることを意識しながら育ったそう。こうしたバックグラウンドから、TRPの参加にも積極的だ。金山社長が目指すD&Iな企業とは?

WWDJAPAN(以下、WWD):改めて、TRPに参加した経緯は?

金山桃LVMHフレグランスブランズ ジェネラル マネージャー兼社長(以下、金山):22年に現職に就任した当時から、D&Iを強く意識したCSR(企業の社会的責任)ストラテジーを構築し、ブランドスビジネスとのシナジーを生み出すことを目指している。D&Iに関して特に日本では、LGBTQ+の基本的な権利や、それぞれがどのような人たちであるかの理解さえ、ほかの国々と比べて遅れていると感じていた。「パルファム ジバンシイ」として、日本の社会の前進に貢献したいという思いからTRPへの出展を決めた。

WWD:参加する意義をどう捉えている?

金山:TRPの参加は、始まりにすぎない。“LGBTQ+コミュニティーをサポートしている”というメッセージを公的に出すことは、“今後もLGBTQ+に関わる問題の解決に尽力していく”という決意表明でもあるから。

WWD:昨年の出展について、社員や顧客の反応は?

金山: 昨年のTRPには主にオフィススタッフが参加した。新たな才能を発揮した社員もいたし、全社員にとって新鮮で学びの多い経験になった。代々木公園のブースには、百貨店のカウンターには足を運びづらいという若者や男性含め、多様な人々が訪れた。TRPでの取り組みを見て、採用に応募してくれた人もいた。会社としてD&Iに真剣に取り組むことで、若い世代の共感を確実に得ているように感じる。

履歴書から性別欄や写真の添付を廃止

WWD:“恐れずに改革する(DARE TO REINVENT)”というスローガンを掲げ、どのような施策を行なっている?

金山:23年には認定NPO法人のりびっと(REBIT)と協業し、美容部員の定期的なトレーニングを開始した。例えば、男性がカウンターを訪れた際、「女性へのプレゼントですか?」と聞かないなどを学んでいる。D&Iの価値観がすれ違いやすい年配の社員含め、全員が啓発されるトレーニングを考えている。

WWD:社内の多様性を高めるための取り組みは?

金山:22年には履歴書から性別や婚姻状況、生年月日の欄を無くし、写真の添付も廃止した。応募する側の心理的不安を減らし、多様性を発揮して自分らしく働ける職場にしたい。インターンシップや再雇用、多国籍の採用なども始めた。もちろん“多様性”といっても、“何でも許容する”という意味ではない。「パルファム ジバンシイ」はエレガントなブランド。ブランドを長期的に継承するためにはイメージを守る必要があるので、バランスに留意しつつ、多様性を受け入れるインクルーシブな企業を目指している。

「5歳でパリへ移住し、白人ばかりの地区で唯一のアジア人として育った」

WWD:マイノリティーの一人として育ったバックグラウンドをどう振り返る?

金山:日本で生まれた後、5歳でパリへ移住した。白人ばかりの地区で唯一のアジア人として、肌の色はもちろん宗教や言語面でも、自身がマイノリティーであることを意識しながら育った。“自分がなぜここにいるのか”を常に正当化する必要があった。日本とフランス、2つの文化の中で成長した経験をポジティブに捉えられるようになったのは、帰国した18年以降。幼少期から多様な文化の中で教育を受けたことで、視野が広がり、自然とグローバルな感覚が備わった。

WWD:帰国後の経験は?

金山:日本に拠点を移した後も、まだ自分がマイノリティーであると感じている。7歳の娘がいるが、私は日本語の読み書きができないので、彼女の日本語の質問に答えられない。また、私が入社した当時、女性のジェネラル・マネジャーはLVMHジャパンでさえ少なかった。ビューティの中でもまだ数少ない。さらにグループ外から、かつラグジュアリーブランドの経験がないまま入社したので、孤独だった。こういった背景からも、D&Iは非常に重要だと考える。

WWD:今後の展望は?

金山:「パルファム ジバンシイ」は名前ばかりが大きくて、ビジネスのサイズはまだ小さい。これまでにやってきたことを続けていても成長できないので、多様な人材を雇用し、新たな挑戦を続けている。時には失敗をすることもあるけれど、挑戦を続けることが重要。その先に成功があるはずだ。

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東京を皮切りに世界中のレインボープライドに参加 LVMH本国トップが語る多様性への思い

PROFILE: ヴァネッサ・ムンガー/LVMH チーフ ダイバーシティ&インクルージョン オフィサー

ヴァネッサ・ムンガー/LVMH チーフ ダイバーシティ&インクルージョン オフィサー
PROFILE: チャドとフランスにルーツを持つ。フランスのアフリカ大統領評議会のメンバーとしてアフリカの社会変革に取り組むほか、パリ政治学院の客員教師も務める。2020年、「マダムフィガロ」誌により“ウーマン・オブ・ザ・イヤー”に選出された。21年、LVMHに入社し、現職

認定NPO法人の東京レインボープライドは4月20、21日、「東京レインボープライド2024(TOKYO RAINBOW PRIDE 2024以下、TRP)」を代々木公園で開催した。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON JAPAN以下、LVMHジャパン)は同イベントに企業として初めて協賛し、同社のカルチャーやブランドの歴史、ダイバーシティー&インクルージョン(以下、D&I)の取り組みを紹介するブースを出展。20日には、同社が手掛ける「パルファム ジバンシイ(PARFUMS GIVENCHY)」と連携し、写真家のレスリー・キー(Leslie Kee)による一般来場者の撮影会を開催。21日のプライドパレードには、LVMHジャパンとグループブランドの社員と家族が250人規模で参加した。

また、TRPと連動した写真展「スーパーLVMH 〜 アール・ド・ヴィーヴル(SUPER LVMH 〜 ART DE VIVRE)」を5月19日まで原宿・キャットストリートの「クリエイティブ スペース アカデミア 21」で開催している。賛同する世界各国のセレブリティー30組とLVMHエグゼクティブ30人を、レスリー・キーが撮り下ろした。

LVMHでチーフ D&I オフィサーを務めるヴァネッサ・ムンガー(Vanessa Moungar)に、同社がTRPに参加する理由やD&Iを推進する重要性について聞いた。

「個性の尊重と平等、平和を謳うメッセージ」

WWDJAPAN(以下、WWD):LVMHグループとしてTRPに参画する理由は?

ヴァネッサ・ムンガーLVMH チーフ D&I オフィサー(以下、ムンガー):“人々が違いを生む”と強く信じているから。全ての個人が、国籍や性自認、性的指向などに関わらず、自分らしく働ける環境づくりに取り組んでいる。TRPへの参加を通して、LVMHの強いメッセージを社員全員に届けたい。

昨年は“有言実行”をテーマに掲げた。企業が、「D&Iを重視している」とか「多様性を受け入れる社風だ」と言うのは簡単だ。しかし、役職などに関係なく多くの社員がTRPのために時間を割いて参加するというLVMHジャパンのスタッフの行動そのものが、LVMHの理念を明確に示している。

WWD:LVMHジャパンの参加を認めた理由は?

ムンガー:レインボープライドへの参加は各国のグループ会社の意思に任せており、参加を望む声があれば、本社は全力で支援する。LVMHジャパンや各ブランドの社員らは、数年にわたり自発的にTRPに参加してきた。その活動が広がり、今年はグループとしての協賛に発展した。

WWD:本国含め、LVMHとしてレインボープライドに参加している国は?

ムンガー:今年は東京を皮切りに、ロサンゼルス、パリ、ロンドン、マドリード、台湾、香港と続く。局所的な取り組みではなく、全世界でレインボープライドに参加していることを誇りに思う。D&Iは、世界中のLVMH社員が関心を持って真剣に取り組んでいるトピックだということを示している。

WWD:TRPに参加する意義は?

ムンガー:LVMHにはさまざまな部門と総計75のブランドがある時点で、すでに多様といえる。しかしそれ以上に、1つ1つのチーム内にも多様性が存在している。皆が同じであれば、お互いを理解し合う苦労もなく、より簡単かもしれない。しかし異なる個性を持った個人が団結し、同じ目標へ向かって挑む時、社員と社会の双方に非常にパワフルでポジティブな影響をもたらしうる。それは、個性の尊重と平等、平和を謳うメッセージだ。TRPへの参加は、私たちがこの主張にコミットしているという紛れもない証拠だ。

WWD:そもそも、LVMHにおけるD&Iオフィサーの任務とは?

ムンガー:主な任務は、D&Iに関するビジョンと戦略をグローバルレベルで推進すること。人事から調達、サプライチェーン、マーケティングまで、さまざまな役割の人々と連携し、どうしたらよりインクルーシブな会社にできるかを考え、実践している。

WWD:LVMHという世界的なコングロマリットにおける、D&Iの重要性とは?

ムンガー:冒頭でも話した通り、“人々が違いを生む”と信じている。多様な人々を引きつけ、才能を開花させ、できるだけ長く勤めてもらうためにも、社員1人1人が受け入れられていると感じられ、グループの成長のために最善を尽くせる環境を保証したい。80カ国以上で75ブランドを展開しているため、一度グループに入れば、才能を伸ばす無限の可能性がある。人が最大の財産と考えるLVMHにおいて、D&Iは戦略の主軸だ。長期的には、D&Iがグループの成功と持続可能性の根源になるだろう。

WWD:各国におけるD&Iの課題は?

ムンガー:無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)など世界共通の課題はあるが、それ以外はどれも各市場に特有だ。したがって、われわれは各国・地域の同僚と連携し、それぞれの実情にあった支援をする。日本で優先的に取り組んでいるのは、企業における女性の参画だ。LVMHグループは全社員の約70%が女性で、管理職とマネジャーの約65%が女性だ。これは“女性対男性”ではなく、バランスや多様性の問題だと捉えている。世界中のあらゆる会社の多様性を推進するためにも、TRPを通してLGBTQ+コミュニティーへのサポートと、インクルーシブな社風を示したい。

■写真展「SUPER LVMH ~ ART DE VIVRE」Photographed by Leslie Kee
日程:4月19日〜5月19日
時間:11:00~19:00
会場:クリエイティブ スペース アカデミア 21
住所:東京都渋谷区神宮前5丁目27番7号 アルボーレ神宮前 1F/2F

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東京を皮切りに世界中のレインボープライドに参加 LVMH本国トップが語る多様性への思い

PROFILE: ヴァネッサ・ムンガー/LVMH チーフ ダイバーシティ&インクルージョン オフィサー

ヴァネッサ・ムンガー/LVMH チーフ ダイバーシティ&インクルージョン オフィサー
PROFILE: チャドとフランスにルーツを持つ。フランスのアフリカ大統領評議会のメンバーとしてアフリカの社会変革に取り組むほか、パリ政治学院の客員教師も務める。2020年、「マダムフィガロ」誌により“ウーマン・オブ・ザ・イヤー”に選出された。21年、LVMHに入社し、現職

認定NPO法人の東京レインボープライドは4月20、21日、「東京レインボープライド2024(TOKYO RAINBOW PRIDE 2024以下、TRP)」を代々木公園で開催した。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON JAPAN以下、LVMHジャパン)は同イベントに企業として初めて協賛し、同社のカルチャーやブランドの歴史、ダイバーシティー&インクルージョン(以下、D&I)の取り組みを紹介するブースを出展。20日には、同社が手掛ける「パルファム ジバンシイ(PARFUMS GIVENCHY)」と連携し、写真家のレスリー・キー(Leslie Kee)による一般来場者の撮影会を開催。21日のプライドパレードには、LVMHジャパンとグループブランドの社員と家族が250人規模で参加した。

また、TRPと連動した写真展「スーパーLVMH 〜 アール・ド・ヴィーヴル(SUPER LVMH 〜 ART DE VIVRE)」を5月19日まで原宿・キャットストリートの「クリエイティブ スペース アカデミア 21」で開催している。賛同する世界各国のセレブリティー30組とLVMHエグゼクティブ30人を、レスリー・キーが撮り下ろした。

LVMHでチーフ D&I オフィサーを務めるヴァネッサ・ムンガー(Vanessa Moungar)に、同社がTRPに参加する理由やD&Iを推進する重要性について聞いた。

「個性の尊重と平等、平和を謳うメッセージ」

WWDJAPAN(以下、WWD):LVMHグループとしてTRPに参画する理由は?

ヴァネッサ・ムンガーLVMH チーフ D&I オフィサー(以下、ムンガー):“人々が違いを生む”と強く信じているから。全ての個人が、国籍や性自認、性的指向などに関わらず、自分らしく働ける環境づくりに取り組んでいる。TRPへの参加を通して、LVMHの強いメッセージを社員全員に届けたい。

昨年は“有言実行”をテーマに掲げた。企業が、「D&Iを重視している」とか「多様性を受け入れる社風だ」と言うのは簡単だ。しかし、役職などに関係なく多くの社員がTRPのために時間を割いて参加するというLVMHジャパンのスタッフの行動そのものが、LVMHの理念を明確に示している。

WWD:LVMHジャパンの参加を認めた理由は?

ムンガー:レインボープライドへの参加は各国のグループ会社の意思に任せており、参加を望む声があれば、本社は全力で支援する。LVMHジャパンや各ブランドの社員らは、数年にわたり自発的にTRPに参加してきた。その活動が広がり、今年はグループとしての協賛に発展した。

WWD:本国含め、LVMHとしてレインボープライドに参加している国は?

ムンガー:今年は東京を皮切りに、ロサンゼルス、パリ、ロンドン、マドリード、台湾、香港と続く。局所的な取り組みではなく、全世界でレインボープライドに参加していることを誇りに思う。D&Iは、世界中のLVMH社員が関心を持って真剣に取り組んでいるトピックだということを示している。

WWD:TRPに参加する意義は?

ムンガー:LVMHにはさまざまな部門と総計75のブランドがある時点で、すでに多様といえる。しかしそれ以上に、1つ1つのチーム内にも多様性が存在している。皆が同じであれば、お互いを理解し合う苦労もなく、より簡単かもしれない。しかし異なる個性を持った個人が団結し、同じ目標へ向かって挑む時、社員と社会の双方に非常にパワフルでポジティブな影響をもたらしうる。それは、個性の尊重と平等、平和を謳うメッセージだ。TRPへの参加は、私たちがこの主張にコミットしているという紛れもない証拠だ。

WWD:そもそも、LVMHにおけるD&Iオフィサーの任務とは?

ムンガー:主な任務は、D&Iに関するビジョンと戦略をグローバルレベルで推進すること。人事から調達、サプライチェーン、マーケティングまで、さまざまな役割の人々と連携し、どうしたらよりインクルーシブな会社にできるかを考え、実践している。

WWD:LVMHという世界的なコングロマリットにおける、D&Iの重要性とは?

ムンガー:冒頭でも話した通り、“人々が違いを生む”と信じている。多様な人々を引きつけ、才能を開花させ、できるだけ長く勤めてもらうためにも、社員1人1人が受け入れられていると感じられ、グループの成長のために最善を尽くせる環境を保証したい。80カ国以上で75ブランドを展開しているため、一度グループに入れば、才能を伸ばす無限の可能性がある。人が最大の財産と考えるLVMHにおいて、D&Iは戦略の主軸だ。長期的には、D&Iがグループの成功と持続可能性の根源になるだろう。

WWD:各国におけるD&Iの課題は?

ムンガー:無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)など世界共通の課題はあるが、それ以外はどれも各市場に特有だ。したがって、われわれは各国・地域の同僚と連携し、それぞれの実情にあった支援をする。日本で優先的に取り組んでいるのは、企業における女性の参画だ。LVMHグループは全社員の約70%が女性で、管理職とマネジャーの約65%が女性だ。これは“女性対男性”ではなく、バランスや多様性の問題だと捉えている。世界中のあらゆる会社の多様性を推進するためにも、TRPを通してLGBTQ+コミュニティーへのサポートと、インクルーシブな社風を示したい。

■写真展「SUPER LVMH ~ ART DE VIVRE」Photographed by Leslie Kee
日程:4月19日〜5月19日
時間:11:00~19:00
会場:クリエイティブ スペース アカデミア 21
住所:東京都渋谷区神宮前5丁目27番7号 アルボーレ神宮前 1F/2F

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ステラ・マッカートニーがラグジュアリー、注目の技術、グリーンウォッシュを語る

PROFILE: ステラ・マッカートニー

ステラ・マッカートニー
PROFILE: 1971年英国ロンドン生まれ。95年ロンドン芸術大学のセントラル・セント・マーチンズ校卒業。97年「クロエ」のクリエイティブ・ディレクター就任。ケリングとのパートナーシップにより出資比率50対50としたジョイントベンチャーでステラ マッカートニーを設立し2001年10月にデビュー。04年アディダスと長期パートナーシップ締結。18年4月からケリングの保有していた50 %の株式を取得し独立企業に。19年7月、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトンとの提携を発表

ステラ・マッカートニーは今、何を思いどのように行動しているのか。「WWDJAPAN」は数年にわたり、サステナブル・ファッションをけん引するステラに、日々変化する状況を踏まえて質問を投げかけてきた。今回は、改めて考えてみたいラグジュアリーという言葉や難易度もコストも高い廃棄物利用、グリーン・ウォッシュへの対応について聞いた。

WWD:年々地球環境が危機的状況にある、というニュースを耳にする機会が増えている。ファッションを楽しむことと、地球環境の保護を両立できると思うか?

ステラ・マッカートニー(以下、ステラ):私はブランド設立時からレザー、羽毛、毛皮、エキゾチックレザーを使用していません。これは母なる地球を守るための大きな一歩です。アマゾンの森林伐採地域の80%が牛肉や皮革のための牛の飼育に直結していることをご存知ですか?畜産業は世界の温室効果ガス排出量の14.5%を占めており、これは航空産業全体よりも多いのです。

しかし、多くの人はハンドバッグや新しい洋服を買うとき、このようなことを考えません。私は望むものを妥協する必要はないと思っています。私たちは、環境負荷の少ない代替素材に投資し、先駆的なテクノロジーを駆使して革新しています。私たちが取り組んでいるのは、動物や地球に害を与えず、美しくラグジュアリーなファッションを手にすることができる、より良い方法があることを人々に伝えること。

そういったイノベーションとそれを支えるイノベーターたちを称えたのが、パリでの2024年サマーランウェイショー、ドバイで開催されたCOP28、そして今回の伊勢丹新宿本店で行った「ステラズサステナブルマーケット」です。私は、日本のコミュニティの情熱が大好きで、植物、ブドウ、リンゴから作られたレザーの代替素材や、私たちの他の最先端技術を紹介したいと思い、日本で行いました。イノベーションは、より地球に優しい未来に向かうために必要不可欠なものだから、私たちの取り組みを共有することで、ファッション業界だけでなく、それ以外の分野の人たちにもインスピレーションを与えられることを願っています。

WWD:春夏キャンペーンは、リサイクル工場を舞台に撮影をし、循環型社会への移行を訴求した。廃棄物の活用は、回収や分類に始まり、サプライチェーンの再構築、素材の品質担保のための技術革新などが欠かせないが、これらは難易度が高くコストもかかる。それでも廃棄物を活用する意義について改めて教えてほしい。

ステラ:私は、母なる地球から素材を採取することを止め、彼女の再生に貢献できるよう、リサイクル素材とリジェネラティブ素材のみを使用することを達成したいと考えています。従来の選択肢を使う方がはるかに簡単で安価ですが、次世代の素材に投資しなければ、ステラではありません。

アイコンバッグ“ファラベラ”が、ボディにリサイクル素材や、ハンドルにリサイクルブラスやリサイクル可能なアルミニウムのチェーンを用いることで進化してきたことをとても誇りに思っています。これは始まりにすぎず、私は常に調達やサプライチェーンの改善をチームに働きかけています。

私を知る人なら誰でも、私が廃棄物を嫌っていることを知っています。毎秒トラック1台分の衣類が埋立地や焼却炉に運ばれます。ファストファッションは年間1000億着以上の衣料品を生み出していますが、リサイクルされているのはその1%にも満たないのです。

24年サマーキャンペーンでは、廃棄物の中に見出される美しさを強調し、より循環的な未来への希望を鼓舞したかった。コレクションはこれまでで最もサステナブルなもので、ノナソース(NONA Source)のデッドストック生地の再利用を含め、95%が環境に配慮した素材から作られています。リサイクル素材を使うことで、必要なエネルギーはバージン繊維生産の半分以下となり、地球から多くの資源を採取する必要がなくなります。

キャンペーンでは、プロテインエヴォリューション(Protein Evolution)社のバイオピュア(BioPure)テクノロジーから作られた世界初のパーカーを撮影しました。このテクノロジーは、酵素と技術の融合により、プラスチック廃棄物を無限にリサイクル可能なポリエステルに変えるという驚くべき革新技術です。私は、共同設立したSOSファンド(SOS Fund)サステナブル投資ファンドであるを通じてこれを支援しており、その可能性にこれ以上ないほど期待しています。

WWD:廃棄物を原料とした素材について。サプライチェーン構築から行ったヴーヴ・クリコとの協働プロジェクトでは、ブドウの残渣や、プレコンシューマー、ポストコンシューマーのコルクを活用したプロダクトをわずか18カ月で開発した。特に苦労した点は?

ステラ:23年以上この仕事に携わってきて言えるのは、あらゆる素材の革新には課題があるということ。幸いなことに、「ヴーヴ・クリコ」でサステナビリティ、革新、再生への情熱が私と一致するパートナーを見つけることができました。マダム・クリコ自身が女性のパイオニアであり、私たちがレザーに代わる次世代素材に使用したブドウが、彼女が200年ほど前に購入したフランス・ランスのブドウ園で収穫されたものであることを、とても気に入っています。

私たちはすでにベジア社(VEJEA)と、ブドウをベースにした動物性レザーの代替素材に取り組んでいて、彼らがヴーヴ・クリコとのコラボレーションで提携し、18ヶ月でこの素材を作り上げました。彼らとは、地球への影響を最小限に抑えながら最もラグジュアリーな製品を作るという私たちのビジョンを分かち合っています。この代替素材は、80%が植物由来、再生可能、そしてリサイクル原料で作られています。

WWD:あなたが考えるラグジュアリーとは何か。

ステラ:真のラグジュアリーとは、自分たちが着たいと思う服やアクセサリーを、生き物や母なる地球に害を与えていないと知りながら身につけられることや、誇りを持って次の世代に引き継ぎ、彼らもまた身に付けたくなるようなタイムレスな製品です。真のラグジュアリーとは、デザイン、伝統的な職人技、高い品質だけでなく、素材革新やサステナブルな解決策を生み出す先駆的な思考を評価する必要があることを私たち全員が理解する必要があります。それこそが、私たちの作品を希少で特別なものにします。

WWD:重視している技術・技法について、最新技術はもちろん、今見直されている伝統技法で、注目しているものあれば教えてほしい。例えば、伝統技法はあなたの制作活動にどのような役割を果たしているか?

ステラ:その完璧な例が、15年前に発売され、ヴィーガンバッグの起源となった、ブランドのアイコン“ファラベラ”バッグです。私たちは、動物皮革に代わる代替素材を扱うために、イタリアのなめしなどの職人に対して改めてトレーニングを実施してきました。“ファラベラ”には、他の高級バッグと同じレベルの職人技が施され、残酷性が一切ありません。ファラベラの象徴であるチェーンは、ひとつひとつ手作業で穴を開けたバッグ本体に、オーガニックコットンの紐で取り付けられています。これは、私たちの地球が必要としているリサイクル、バイオベース、そしてサステナブルな解決策を見据えながら、お客さまが求める伝統的な技法や技術を用いたものです。

WWD:グリーン・ウォッシュと言われることを恐れてサステナビリティの発信を控える企業や人が増えていると聞く。この傾向についてどう思うか?批判を恐れている人にアドバイスがあれば。

ステラ:グリーン・ウォッシュを避ける最善の方法は、自分たちが行ってきたこと、あるいは行っていることだけを伝えることです。言うばかりでなく、実際に行動することで、実直で透明性があり、信頼できる発言になります。行動は言葉よりも説得力を持ちます!

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「シーピー カンパニー」デザイナー2人の野心 幅広い層の心をつかむ機能美と革新性

イタリア・ボローニャ発の「シーピー カンパニー(C.P. COMPANY)」が、日本初の旗艦店を2月にオープンした。同ブランドを1971年に立ち上げた故マッシモ・オスティ(Massimo Osti)は、エロルソン・ヒュー(Errolson Hugh)やキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)ら、テクニカルなウエアを得意とするデザイナーたちに影響を与えた人物で、 “The Godfather of Urban Sportswear”とも称されている。

「シーピー カンパニー」は、縫製後に染色を施すことで独特な色味と生地感に仕上げる技術“ガーメントダイ”をはじめ、通常は紙に用いる印刷方法でTシャツを制作するなど、グラフィックデザイナーだった故マッシモの経験を生かした革新的なアイデアを数多く導入。同時に、現代では定番となったミリタリーウエアやワークウエアの機能性にいち早く着目し、ファッションアイテムへと昇華させた比類なきブランドだ。

同ブランドが生み出した数々のアイテムは、デザインだけでなく生地開発や染色技術と結実しており、そのどれもがトレンドに左右されず、時代を越えてもエバーグリーンな輝きを放つ。現在もコアなファンから若い世代まで幅広い層の支持を集め、ビンテージ市場でアーカイブの価値が年々上がっているのは、半ば必然ともいえるだろう。

そして、故マッシモの飽くなき探究心と愚直な姿勢は、現在ヘッドデザイナーを務めるポール・ハーヴェイ(Paul Harvey)とアレッサンドロ・プンジェッティ(Alessandro Pungetti)の2人にも引き継がれている。旗艦店オープンのタイミング来日した、ハーヴェイとプンジェッティ、さらにマッシモの息子であるロレンツォ・オスティ(Lorenzo Osti)社長兼GMの3人へのインタビューから、「シーピー カンパニー」を解き明かす。

「意匠性との二者択一であれば機能性を選ぶ」

PROFILE: ポール・ハーヴェイ/「シーピー カンパニー」デザイナー

ポール・ハーヴェイ/「シーピー カンパニー」デザイナー
PROFILE: 1957年生まれ、イギリス・ミドルズブラ出身。ロンドンのセントラル・セント・マーチンを卒業後、イタリアに渡ってフリーランスデザイナーとして「モンクレール」「フィオルッチ」「ベネトン」などの仕事を15年間手掛けた。94年からは当時「シーピー カンパニー」内のレーベルだった「ストーンアイランド」のデザイナーを12年間務めた後、「シーピー カンパニー」のデザイナーに就任 PHOTO:KO TSUCHIYA

ーーまずは、二人が「シーピー カンパニー」のヘッドデザイナーに参画した経緯を教えてください。(注:1971〜1998年はマッシモ・オスティが、1998〜2001年はモレノ・フェラーリがヘッドデザイナー)

アレッサンドロ・プンジェッティ(以下、プンジェッティ):私は、「シーピー カンパニー」の創設地でもあるボローニャ生まれなので、ブランドとマッシモ・オスティのことは早くから知っていたんだ。そして、1990年代に別のブランドでデザイナーとして働いていたところ、当時オーナーだったカルロ・リヴェッティ(Carlo Rivetti、現ストーンアイランド会長兼クリエイティブ・ディレクター)に声をかけられて2001年から働き始めた。それからしばらくして、「シーピー カンパニー」がある企業とコラボをすることになった際、仲介人から「素晴らしいデザイナーがいる」と紹介されたのが、友人のポールだったんだ。

ポール・ハーヴェイ(以下、ハーヴェイ):アレッサンドロとは1990年代から知り合いで、2012年に2人で「テン シー(TEN C)」というブランドも立ち上げている。その後「シーピー カンパニー」でも一緒に働くようになったのさ。

ーー「シーピー カンパニー」といえば、設立時からミリタリーウエアやワークウエアを着想源とした機能性が特徴の一つです。意匠性とのバランスをはじめ、デザイン時に留意している点はありますか?

ハーヴェイ:世界中で聞かれる質問だ(笑)。「シーピー カンパニー」の洋服をデザインする上で、それぞれのディテールには意味があって機能すべきだと考えているから、意匠性との二者択一であれば機能性を選ぶ。意味のない装飾としてのディテールは、極力デザインしたくないな。

ーー“Form follows function(形態は機能に従う)”ですね。

ハーヴェイ:まさに。“Functional beauty(機能美)”という言葉が存在しているように、デザインの根底には機能があるんだ。

「全てが着想源。それらをどう昇華していくか」

PROFILE: アレッサンドロ・プンジェッティ/「シーピー カンパニー」デザイナー

アレッサンドロ・プンジェッティ/「シーピー カンパニー」デザイナー
PROFILE: 1956年生まれ、イタリア・ボローニャ出身。機械工学の製図技師として働いた後、ファッションデザイナーに転身した。フリーランスのデザイナーとして「ゼニア」や「アイスバーグ」などに携わる。94年にポール・ハーヴェイと共に「ストーンアイランド」に加わり、ニットウエアのデザインを6年間行った。2001年から現職 PHOTO:KO TSUCHIYA

ーー機能性と同時に、生地開発や染色技術もブランドの不可欠要素ですが、デザインありきなのか、もしくは逆か。完成までのプロセスを教えてください。

ハーヴェイ:生地先行のデザイン思索とデザイン先行の生地選択、そのどちらのアプローチもあり得る。

プンジェッティ:コレクション全体のバランスで考えており、どちらかといえば生地先行が多いかもしれない。ただ、アイテムのデザインを入口に私たちからテキスタイルサプライヤーに開発を依頼することも多々ある。逆に、彼らが新しい生地を開発したらすぐに提案してくれるし、どんな生地が欲しいかも逐一聞いてくれるんだ。彼らもチームの一員として行動を共にしている感覚に近い。

ーー提案された生地からアイテムのアイデアが生まれることもある?

プンジェッティ:生地や素材だけでなく、技術、体験、他のブランドの洋服、ユニホームなど、全てが着想源さ。それらをどうイノベーティブなアイテムに昇華していくかが、「シーピー カンパニー」の考え方だ。

ハーヴェイ:「シーピー カンパニー」にルールはない。基本的に、常にイノベーティブなアイテムを生み出したい欲望があるんだ。

ーー着想源というと、他ブランドの多くはシーズンごとに映画や音楽、旅など、明確なテーマを設けてコレクションを制作しますよね。

ハーヴェイ:われわれもシーズンごとにコレクションを発表しているから、同様の発想で制作することはできるけど、実行には移さないと思う。

ーーでは、数多くの生地や加工の中で気に入っているものはありますか?

プンジェッティ:あまりにも多すぎるからな……。あえて挙げるとするならば、泥染加工の“ティントテラ(Tinto Terra)”だ(注:土を原料とした天然色素を利用し、素材に虹色の光沢を与える加工法)。

ハーヴェイ:いろいろな生地と技術を組み合わせているから難しいが、われわれの「ゴアテックス」の使い方は面白いと思っている(注:世界で初めて同素材のガーメントダイを成功させている)。

1988年のエポックメイキングな発明

ーー1988年に誕生したジャケット“ミッレ ミリア(MILLE MIGLIA、通称ゴーグルジャケット)”のゴーグルとウォッチビューアーレンズのディテールは、今ではブランドのシンボルとなっていますよね。

プンジェッティ:どちらも現代では優れた機能性を誇るわけではないが、本来は純粋な意味があったディテールだからこそ、年月を経ていく中でシンボルへと確立していったのだろう。特にウォッチビューアーレンズは、さまざまな箇所にあしらわれるようになったことで機能性を損なった反面、それ自体がブランド力を持つようになったと考えている。

ハーヴェイ:ゴーグルジャケットは、いつだってクリエイションの源だ。例えば、実際にゴーグルを使用しようとすればフードを被る以外の方法はないから、フードは絶対に必要なパーツになる。では、Tシャツしか着用していない場合は?といった具合だ。ウォッチビューアーレンズのデザインも本当に大変で、袖の横にあしらうと人や壁に当たる可能性が高まり、時計の真上ではレンズに触れて傷が付く。時間を確認する際には、レンズを時計に近付けるために袖をギュッと引っ張る必要がある。言ってしまうと、機能性は低い(笑)。だが、設立当初からシンボリックなデザインがなかった「シーピー カンパニー」にとって、ゴーグルとウォッチビューアーレンズをデザインとして落とし込めるようになったことは、エポックメイキングな発明だったんだ。

ーー“ミッレ ミリア”などのアーカイブアイテムを振り返り、最新コレクションに生かすことはよくあるのでしょうか?

ハーヴェイ:アーカイブに時間を費やすことは全くないと言っていい。

プンジェッティ:倉庫にアーカイブを見に行くことはあるが、頻繁ではない。過去のアイテムは全て頭に入っているし、立ち戻っばかりだと繰り返しになってしまう。過去の真似ごとと、ヘリテージへのリスペクトは別物だ。

ーー「シーピー カンパニー」のアーカイブアイテムが昨今ビンテージ市場で人気を博している現象についてはどう考えますか?

プンジェッティ:一度市場に出たアイテムは、個の命を持っているものとしてコントロールすべきではない。そのためビンテージ市場には介入せず別の土俵だと割り切っているが、人気を集めているのは本当にハッピーなことだ。

ロレンツォ・オスティ(以下、オスティ):これに関しては、私からも言いたいことがある。私たちとは別のプレーヤーによるこの事象は、洋服の耐久性と世代を越えて愛されていることを示す何よりの証拠だ。そして、長く着続けられていることは、結果としてサステナビリティにもつながる。素晴らしいことでしかないよ。

ーー現行とアーカイブの双方でファンを獲得している理由の一つは、ヘリテージとモダンという相対する価値観の共存だと思います。

ハーヴェイ:常に挑戦し続けてきたので、「長年にわたって、変わらず同じことを続けてきた」とは言いたくないが、その継続性にオーセンティシティー(普遍性、信頼性)を感じ取ってくれているのだろう。変わらないことに意味を見出せない人がいる一方で、そこに“本物”という価値観を見出してくれる人もいる。歴史を守りながら方向性は変えず進化していくーーいい意味でグレーゾーンな部分が魅力になっているのだと思う。

常に探求を続ける貪欲な姿勢

ーー二人が思う「シーピー カンパニー」のDNAとは?

ハーヴェイ:よく聞かれるが、難しいから次の質問で。というのは冗談(笑)。個人的には、常にイノベーティブであること。機能性という概念や、アイテムの命が長く続くための生地選びも重要だが、それはあくまで一部のこと。DNA自体が複雑な構造のように、他にも多くの要素があって言い尽くせないな。

プンジェッティ:マッシモ・オスティという人物が始めたブランドだから、彼の存在そのものが着想源。それをどう現代的に解釈するかがブランドのDNAだ。

ーー最後に、2024年はマッシモ・オスティの生誕80周年です。何か企画していることはありますか?

オスティ:今年中に新レーベル「マッシモ オスティ ストゥディオ(MASSIMO OSTI STUDIO)」を本格的に浸透させたい。「シーピー カンパニー」の中の一つのレーベルとしての位置付けで、最先端の技術を駆使した、実験的なプロダクトを今後も小規模で発表していく予定だ。また、父が遺したイノベーションの多くは、残念ながらファッションスクールではあまり伝えられていない現状にあるので、将来的にファウンデーションの設立を視野に入れている。そして、2025年は父の死後20年という節目のため、大規模な回顧展を企画中だ。東京を含む、世界中の都市を巡る予定だから楽しみにしていてほしい。

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「ステュディオス」が米国初出店 NYのOC跡地に5月11日オープン

TOKYO BASEは5月11日、ニューヨークに米国初店舗となる「ステュディオス トウキョウ ニューヨーク(STUDIOS TOKYO NEWYORK)」をオープンする。2020年に閉店していた、ソーホー地区の名物ショップだった「オープニングセレモニー(OPENING CEREMONY)」の跡地。合わせて現地ECも開設する。

売り場面積は、約231平方メートル。内装は他の「ステュディオス トウキョウ」同様に建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEが手掛け、畳を使ったフィッティングルームなどジャパニーズテイストを前面に出す。原宿本店の店長ら「エース級の販売力があるスタッフ」3人を現地に派遣し、開店当初は「ソフネット(SOPHNET.)」「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」など約12ブランドを取り扱う。

谷正人・最高経営責任者(CEO)は、「気をてらったことはせずに、強みが生かせるブランドラインアップでまずは勝負する。現地の反応を見ながら徐々に軌道修正を加えていくつもりだ。同店をきっかけに可能性を見極め、米国内での出店戦略は考えていく」とコメント。初年度中に黒字化を目指すという。

「ステュディオス トウキョウ」は、「ステュディオス」のハイエンド業態。神南店のほか、広州店、深圳店、北京店に出店する。同社の中国事業はコロナ以降、苦戦している。一方で、谷CEOは企業理念である「日本初を世界へ」を実現するため2028年1月期を最終年度とする中期経営計画では、世界の主要10都市への出店を目標に掲げ海外事業は拡大する方針。24年1月期末の海外店舗数は中国本土12店舗、香港3店舗。なお、25年1月期中に中国本土の4店退店し、不採算店舗撤退を完了させる。

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「ステュディオス」が米国初出店 NYのOC跡地に5月11日オープン

TOKYO BASEは5月11日、ニューヨークに米国初店舗となる「ステュディオス トウキョウ ニューヨーク(STUDIOS TOKYO NEWYORK)」をオープンする。2020年に閉店していた、ソーホー地区の名物ショップだった「オープニングセレモニー(OPENING CEREMONY)」の跡地。合わせて現地ECも開設する。

売り場面積は、約231平方メートル。内装は他の「ステュディオス トウキョウ」同様に建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEが手掛け、畳を使ったフィッティングルームなどジャパニーズテイストを前面に出す。原宿本店の店長ら「エース級の販売力があるスタッフ」3人を現地に派遣し、開店当初は「ソフネット(SOPHNET.)」「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」など約12ブランドを取り扱う。

谷正人・最高経営責任者(CEO)は、「気をてらったことはせずに、強みが生かせるブランドラインアップでまずは勝負する。現地の反応を見ながら徐々に軌道修正を加えていくつもりだ。同店をきっかけに可能性を見極め、米国内での出店戦略は考えていく」とコメント。初年度中に黒字化を目指すという。

「ステュディオス トウキョウ」は、「ステュディオス」のハイエンド業態。神南店のほか、広州店、深圳店、北京店に出店する。同社の中国事業はコロナ以降、苦戦している。一方で、谷CEOは企業理念である「日本初を世界へ」を実現するため2028年1月期を最終年度とする中期経営計画では、世界の主要10都市への出店を目標に掲げ海外事業は拡大する方針。24年1月期末の海外店舗数は中国本土12店舗、香港3店舗。なお、25年1月期中に中国本土の4店退店し、不採算店舗撤退を完了させる。

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「ダイソン」からブランド史上最軽量のヘアドライヤー“ダイソン スーパーソニック r ヘアドライヤー”誕生 日本先行カラーも登場

「ダイソン(DYSON)」は、ブランド史上最軽量のヘアドライヤー“ダイソン スーパーソニック r ヘアドライヤー”(全3色、各5万9000円※編集部調べ)を直営店や公式サイト、百貨店、提携ヘアサロン、家電量販店で4月18日から順次発売する。一足早く発売したプロモデルは1色展開だが、一般向けモデルは3色を用意。セラミックピンクは真珠からインスアパされたカラーで、日本先行で展開となる。

「ダイソン」は2016年にビューティ分野に進出。以降、得意とするモーター技術と革新的な発想でユニークなヘアケア商品を手がけてきた。その中で世界各国のヘアスタイリストから、ドライヤーの重量についての意見を多く得たことから、小型化と軽量化を実現した“ダイソン スーパーソニック r ヘアドライヤー”が誕生した。

同商品は人間工学に基づき設計された“r”を彷彿とするユニークな形状で、重量わずか325gと既存商品と比べて20%軽量化、30%の小型化を実現した。また、新開発の流線形のヒーターテクノロジーによって、気流の均一な加熱を実現し、インテリジェント・ヒートコントロール機能が熱ダメージから髪を守りながら、素早く乾かすことを可能とした。速乾・低温・なめらかツールと3種のアタッチメントを用意。本体と連動するRFIDセンサーを搭載し、本体に装着すると瞬時に最適な風速と風温を自動調節し、それら風速と風温を記憶する機能も持つ。

カラーは、日本先行のセラミックピンクとピンカブルー/トパーズ、セラミックパティーナ/トパーズの3色をそろえる。ヒーローカラーのセラミックピンクは、真珠からインスピレーションを受け、淡いピンク色で光沢を感じる仕上げとなっている。

4月18日開催したお披露目会にはイギリス本国からキャサリーン・ピアース=ダイソンビューティー プレジデントやギャビン・ギャリガン=ダイソン エンジニア、ダイソン ヘアケアアンバサダーの新木優子が登壇した。新木は「髪が長いので乾燥する際のドライヤーの重量が気になっていて、乾かす時間も短縮したいと思っていた。“ダイソン スーパーソニック r ヘアドライヤー”は髪のダメージも軽減し、軽くさらっと仕上がる点も気に入っている」とコメントした。

ビューティ分野の開発に955億円を投資

キャサリーン・ピアース=ダイソンビューティー プレジデントに新商品を開発した背景や今後の展望を聞いた。

WWD:“ダイソン スーパーソニック r ヘアドライヤー”開発のヒントになったのは?

キャサリーン・ピアース=ダイソンビューティー プレジデント(以下、ピアース):世界中のヘアスタイリストがどのような機能を求めているかに耳を傾けていた。サロンワークをする中で、視界が妨げられないことが重要だと理解した。あとは、1日中作業をする中でドライヤーの重量がストレスになっていることが分かった。そこで軽量化、小型化を実現し、ヘアスタイリストのパフォーマンス向上に役立つ“ダイソン スーパーソニック r ヘアドライヤー”を開発した。

WWD:商品化にあたり苦労した点は?

ピアース:全ての面かな(笑)。確実にパワフルでありながら、そしてパフォーマンス性も高くありながら、同時に軽量であって小さくある、 そういうものを開発する必要があった。それにはヘッド部分に搭載したヒーターがポイントで、流線型で空気を動かしそこで温めてエアフローの中で均一な風温をかなえた。

WWD:“r”の形状にした狙いは。

ピアース:人間工学的により心地よく使える形状が“r”だった。後頭部など従来は届きにくかった箇所もカバーできるようになった。まるで自分の手の延長のような形で使いやすさを追求した。内側に冷風を放つコールドショットを設置することで、温風と冷風の切り替えがスムーズにできるようになった点もポイントだ。

WWD:メンテナンスも容易にできる仕様とした。

ピアース:大前提として商品の耐久性を約束している。本体下部のフィルターユニットは簡単に外せ、水洗いを可能とした。このメンテナンスでフルパフォーマンスにすぐに戻ることができる。

WWD:ビューティ商品は今後も拡充していく。

ピアース: 22年にビューティ商品の開発に5億ポンド(約955億円)投資した。4〜5年をかけて20の新商品を展開する予定で、今年だけでも3商品を発売している。ビューティ分野に関しても熱意をもって開発していて、成長もしている。今後も新しいニュースを伝えていくので期待してほしい。

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新宿「駅ナカ」に「トレンドグルメ」のワケ、狙いをルミネ社長に直撃

ルミネは4月17日、JR新宿駅構内に飲食を中心とした商業施設「イイトルミネ(EATo LUMINE)」をオープンした。出店テナント数は28店舗で、そのうち実に22店舗がルミネ初出店。とはいえ女性に強いルミネらしく、「トレンドグルメ」を軸に「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「ウェルパ(ウェルネスパフォーマンス)」といったキーワードを散りばめ、人気・実力ともに高いスイーツやフード、コスメ店舗を導入した。1681駅を展開するJR東日本でも最大の1日80万人近い乗客数を誇る新宿駅で、ライフスタイルを切り口にした狙いは何か。JR東日本時代には東京駅の「グランスタ」開発やスーパー紀伊國屋のM&Aなどを手掛けてきたルミネの表輝幸社長に聞いた。

表輝幸/ルミネ社長(中央) プロフィール

(おもて・てるゆき)早稲田大学大学院理工学研究科を修了し、同年にJR東日本に入社。ホテル、住宅、新規事業開発などに従事し、2000年日本レストラン調理センター社長にグループ最年少で就任。その後高級スーパーの紀ノ國屋のM&A、東京駅グランスタ開発などを手掛け、11年からルミネ常務取締役、専務取締役を経て、16年にJR東日本の執行役員、21年から常務執行役員、23年6月から現職

WWD:テナント構成の狙いは?

表輝幸ルミネ社長(以下、表):駅ナカなので当然「タイパ」に優れつつ、毎日来ていただいても楽しさを提供できる「トレンドグルメ」を打ち出し、かつウェルネスや健康にも配慮した「ウェルパ」も取り入れた。ルミネは20〜30代の女性が中心顧客層だが、「イイトルミネ」はより幅広い客層を想定しており、インバウンドやお土産といった要素も取り入れている。特にお土産やお持たせは、日本ならではの考え方で、「イイトルミネ」発の”お土産”や”グルメ”を生み出したい。

WWD:MDは「トレンドグルメ」「ウェルパ」といったルミネの持ち味であるライフスタイルを切り口にした。「駅弁」といったすでに東京駅で大成功を収めているモノ軸でも良かったのでは?

表:駅や地域によってしっかり個性を打ち出していくべきだ。東京駅には東京駅の、新宿駅には新宿駅の個性があるべきで、その意味では新宿駅といえば、ルミネであり、ルミネらしさとは、毎日の生活を楽しくするライフスタイルが切り口になる。


WWD:ルミネにとっても、ここまで本格的な飲食は初めて。今後の成功の可否を握るのは?

表:やはり仮説を検証しつつ、ニーズに沿って修正していく変化対応だろう。これはもちろん既存のルミネでも最も重視していることだが、「イイトルミネ」はさらにスピードが要求される。ファッションのトレンドも相当なスピードだが、「イイトルミネ」は毎日訪れるお客さまを想定している。毎日来てもなにか新しい発見やコト・モノが要求されている。その意味ではファッション以上にスピード感のある商品開発や仕掛けが必要になる。

WWD:相乗効果への期待は?

表:もちろん大いにある。ルミネの強みは、掛け算であり、今回はウェルネスやタイパといったキーワードを掛け合わせることで、新商品や新業態の開発にもつながった。「イイトルミネ」で得たノウハウやテナントとのつながりは、他のルミネ店舗にも今後どんどん生かしていく。

WWD:2月13日から、JR東日本グループのJREポイントの連携がスタートした。そのメリットは?

表:新規顧客の開拓の面で、かなり強力な武器になる。ルミネカードは既存の顧客にかなり活用してもらっているが、20〜30代の女性が中心で、その起点もクレジットカードになる。一方でZ世代以下のクレカを持っていなかったり、クレカよりも電子決済やバーコード決済を使う層やシーンは着実に増えている。JREポイントと連携することで、若年層や男性などの新規のユーザー層を掘り起こし、獲得することが可能になる。

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アーバンリサーチのオリジナルブランド「ラート」が新宿ルミネで初のポップアップ

アーバンリサーチのオリジナルブランド「ラート(LAATO)」が、新宿ルミネ12階イベントスペースでブランド初のポップアップストアを出店中だ。会期は4月29日まで。

「ラート」は2020年春夏シーズンに、EC専業ブランドとしてスタート。過去に「ケービーエフ(KBF)」などのディレクターを務めたアーバンリサーチの中林智佳がディレクションする。

 特徴は柔らかなカラーリングとリラックス感のあるシルエット。そこに深めのスリットやフリルなどのディテールでさりげない女性らしさを加えている。たとえば、2024年春夏コレクションから1枚でスタイリングが決まる襟付きのオールインワン(1万8700円)はワイドなシルエットながら細いウエストベルトや小さめのボタンで華奢さを加えた。クロップド丈のスタンドカラーシャツ(1万4300円)は、「エッグ」と名付けた優しい黄色でブランドらしさを表現する。サマーニットのカーディガン(1万4300円)は、程よい透け感とVネックで肌を見せる。

コンセプトは「わたしはわたし」

 中林ディレクターは、「年齢やテイストでターゲットは定めていない。『わたしはわたし』をコンセプトに、いろんな人が好きなように着て楽しめる提案を心がけている。スタート以降、『ラート』の色味を気に入ってくださる人は多い」と話す。

ポップアップストアでは、淡い色味を中心としたインテリアでブランドの世界観を表現。2024年春夏コレクションのほか、さまざまな着方ができるフリルキャミソール(8250円)の新色と、牛革の巾着バッグ(1万5400円)の限定品を販売する。税込1万3000円以上購入した人を対象に、コレクションのセットアップと同じプリント柄のエコバッグを、税込2万円以上購入した人にはニットバッグをプレゼントする。

「今回はたまたまご縁があって初のポップアップストアを開くことができた。ゆくゆくは出店や卸も視野に入れて、成長させたい」と中林ディレクター。

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ドリームワークスが「ユニバーサルオーバーオール」の全世界商標権取得 100年のレガシーを引き継ぎ世界へ販路拡大

OEMや海外ブランドのライセンス事業を手掛けるドリームワークス(DREAMWORKS)が、米シカゴ発の老舗ワークウエアブランド「ユニバーサルオーバーオール(UNIVERSAL OVERALL)」の全世界商標権を創業家から譲り受けた。同社は2016年にグローバル販売権を取得。企画から生産、販売まで行っており、19年には渋谷に直営店をオープン。国内200カ所とアジアに卸を展開している実績が評価された。

「ユニバーサルオーバーオール」にとって今年は創業100周年のアニバーサリーイヤーでもある。3月19日、東京・恵比寿で関係者に向けて記念パーティーを開催し、創業家出身のサラ・エッカーリング・グリーンバーグ(Sara Eckerling Greenberg)社長兼最高経営責任者(CEO)と夫のジェイソン・グリーンバーグ(Jason Greenberg)営業部長兼最高執行責任者(COO)が来日。ここではブランドの過去のアーカイブを振り返るとともに、サラ社長兼CEOとジェイソン営業部長兼COOにインタビュー。100周年を迎えた今の気持ちと同社への期待を聞いた。

東南アジア・ヨーロッパを中心に
海外販売を強化

ドリームワークスのもと、「ユニバーサルオーバーオール」が次の100年に向けて強化するのは、海外販売だ。すでに同社が手掛けている香港・台湾・中国・韓国に加えて、東南アジアやヨーロッパを中心に新規卸先の開拓とブランド単独店出店を計画。2025年には海外売上高10億円(小売価格)を目指す。一方の日本国内においては、今後はカジュアルウエア・雑貨以外の分野を拡大し、作業服市場にも参入しながら、現状の国内売上高約30億円規模から50億円規模への成長を中長期目標に掲げる。

ファッション市場に浸透させた
ドリームワークスの功績を評価

本国のサラ社長兼CEOは「我々はユニフォームの品質にこだわり、100年にわたってブランドを確立してきた。アメリカの厳しい環境下を働くワーカー達を支えてきたクオリティーが最たる魅力だ」とふまえたうえで「節目の瞬間をドリームワークスと共有できることがとても幸せだ。これを実現できたのも、両者の友好的な関係性があってのことだ」と続けた。

日本ではセレクトショップの別注品が人気で、質実剛健なワークウエアとしてだけでなくファッションとして受け入れられていることについて「非常に素晴らしいことだ。時代の流れとともに多様性が広がり、日本のマーケットはブランドの真価を非常によく見いだしてくれたと感じる」とジェイソン営業部長兼COO。「ドリームワークスは日本のマーケットを理解している。6色あったタグの中からアイコニックなオレンジのタグに着目したのも、ワークウエアをカジュアルウエアに応用したのも、マーケットへの深い理解があってのものだ。特に気に入っているアイテムは、クレイジーパターンのカバーオール。ワークをファッションに昇華させた代表例であり、革新的なアイデアだ」と評価した。

「世界規模のワークウエアブランドに
してもらいたい」

ドリームワークスにブランドを譲渡した理由については「これまで築き上げてきた信頼と、優秀なチームであるという期待によるところが大きい。100年という長い歴史があり、思い入れのあるブランドだが、ドリームワークスであればこれからの100年も『ユニバーサルオーバーオール』とともに歩んでくれると信じている」とサラ社長兼CEOは説明。

今後については「日本国内にとどまらず、どんどん広めていってほしい。ブランドの非常に長い歴史のなかで今まで成しえなかった、世界規模のワークウエアブランドになることを期待している。100年の歴史を積み上げることが容易でないことは我々が一番理解しているが、ドリームワークスならできると確信している」とジェイソン営業部長兼COOも期待を寄せた。

同ブランドの営業活動とブランド事業を推進する奥山哲朗取締役副社長は「2024年2月に香港に事務所を設け、海外販売責任者を置き、強化している。まだ卸先は少ないが、インドネシアやシンガポールでの販売も始めたところだ。また、25年1月には欧州で合同展の出展も考えている。24年度中には中国にディストリビューションセンターの開設を計画しており、ここを起点に世界中に商品供給できる体制を構築する」と語った。

ブランドを象徴する
貴重なアーカイブ

1924年、オーストリア出身のマックス&ジョー・エッカーリング兄弟がアメリカン・ドリームを探し求め、シカゴのルーズベルト通りに面した建物の3階にロフトを借りて炭坑夫たちに向けたワークウエアの製造を開始したのが「ユニバーサルオーバーオール」の始まりだ。

マックスがオーダー受注、販売、デリバリーを行い、ジョーがパターン作りから裁断、縫製までを担当。主にメンズのデニムやダンガリーを中心に展開し、ハードワークに耐えられるワークウエアの定番として労働者たちに受け入れられた。

代表アイテムは、彼らがワークウエアの中で特に重要視していたカバーオールジャケット。フロントには4つのパネルポケットを採用し、ワークウエアならではのトリプルステッチを取り入れるなど実用性とタフさを追求したデザインが特徴。羽織ることを前提に作られたゆとりのあるパターンは、現代にも変わらず受け継がれている。ブランドの成長にともない、胸当てのオーバーオールやショップコートエプロン、ショップコートなどアイテムラインアップを広げていった。

TEXT : CHIKAKO ICHINOI
問い合わせ先
ドリームワークス
03-6447-2470

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セレブ御用達ジュエラー「メシカ」がハイジュエリーイベントを開催 父から受け継いだ知見をジュエリーに

パリ発ジュエラー「メシカ(MESSIKA)」は3月29日、東京エディション虎ノ門でイベントを開催した。ダイヤモンドに特化した同ブランドは、リアーナ(Rihanna)やビヨンセ(Beyonce)、ケイト・モス(Kate Moss)など多くのセレブから支持がされ、レッドカーペットの常連だ。伝説のニューヨークのディスコであるクラブ54がテーマの同イベントでは、最新ハイジュエリーコレクション“ミッドナイト・サン”を展示。このコレクションは昨年秋のパリ・ファッション・ウイークで、ランウエイ形式で発表されたものだ。同イベントには、「メシカ」のアイコニックなジュエリーをまとった菊地凛子や滝沢眞規子などのセレブリティーやVIPが来場した。

イベントのために来日した「メシカ」のヴァレリー・メシカ創業者兼アーティスティック・ディレクターは、「日本は重要な市場。20年とジュエラーとしての歴史が浅いが、ブランドのエネルギーをクラブ54のテーマで伝えたいと思った」と語った。現在「メシカ」は、世界80カ国で80の直営店および600店舗で販売。父親がダイヤモンド商だったため、ダイヤモンドは彼女にとって身近なものだった。そのため、「メシカ」のジュエリーはクールで軽やか、現代の女性のためのスタイリッシュなデザインを提案している。「父から受け継いだダイヤモンドに対する知見がある。そのノウハウやストーリーを伝えていきたい」。

問い合わせ先
メシカジャパン
03-5946-8299

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セレブ御用達ジュエラー「メシカ」がハイジュエリーイベントを開催 父から受け継いだ知見をジュエリーに

パリ発ジュエラー「メシカ(MESSIKA)」は3月29日、東京エディション虎ノ門でイベントを開催した。ダイヤモンドに特化した同ブランドは、リアーナ(Rihanna)やビヨンセ(Beyonce)、ケイト・モス(Kate Moss)など多くのセレブから支持がされ、レッドカーペットの常連だ。伝説のニューヨークのディスコであるクラブ54がテーマの同イベントでは、最新ハイジュエリーコレクション“ミッドナイト・サン”を展示。このコレクションは昨年秋のパリ・ファッション・ウイークで、ランウエイ形式で発表されたものだ。同イベントには、「メシカ」のアイコニックなジュエリーをまとった菊地凛子や滝沢眞規子などのセレブリティーやVIPが来場した。

イベントのために来日した「メシカ」のヴァレリー・メシカ創業者兼アーティスティック・ディレクターは、「日本は重要な市場。20年とジュエラーとしての歴史が浅いが、ブランドのエネルギーをクラブ54のテーマで伝えたいと思った」と語った。現在「メシカ」は、世界80カ国で80の直営店および600店舗で販売。父親がダイヤモンド商だったため、ダイヤモンドは彼女にとって身近なものだった。そのため、「メシカ」のジュエリーはクールで軽やか、現代の女性のためのスタイリッシュなデザインを提案している。「父から受け継いだダイヤモンドに対する知見がある。そのノウハウやストーリーを伝えていきたい」。

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メシカジャパン
03-5946-8299

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最注目のガールズグループME:I(ミーアイ)独占インタビュー 「未来のアイドル」が描く未来

PROFILE: ME:I

ME:I
PROFILE: (ミーアイ)日本最大級のサバイバルオーディション番組の初のガールズ版「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」で新たに “国民プロデューサー”と呼ばれる視聴者による国民投票によって101人の練習生から選ばれたCOCORO、MIU、MOMONA、RAN、SHIZUKU、AYANE、KEIKO、KOKONA、RINON、SUZU、TSUZUMIによる11人組のガールズグループ。グループ名には新しい日本の世代を代表する「未来のアイドル」という意味が込められている。ME:Iのメンバー。左からMIU、TSUZUMI、COCORO、SHIZUKU、RINON、MONONA、RAN、KEIKO、KOKONA、AYANE、SUZU

2023年12月に最終回を迎えた、日本最大級のサバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」。そこで選ばれた11人組ガールズグループME:I(ミーアイ)が、4月17日デビューシングル「MIRAI」で、いよいよデビューを果たす。

デビュー前に行われたファンコンサートでは、東京(追加公演含む)・大阪の2都市で、全9公演、約6.5万人を動員するなど、 その人気の高さがうかがえる。今回は、そんな注目のグループME:Iの11人、COCORO、MIU、MOMONA、RAN、SHIZUKU、AYANE、KEIKO、KOKONA、RINON、SUZU、TSUZUMIに独占インタビュー。

11人を3組に分けて、それぞれのオーディション当時の思い出や、グループを結成してから知ったメンバーの意外な素顔などを聞きつつ、全員にファッションへのこだわり、そしてME:Iの未来についてたっぷりと語ってもらった。

「初めてのオフを過ごした4人です」 AYANE×KOKONA×SHIZUKU ×RINON

WWDJAPAN(以下、WWD):とても仲の良い印象の4人ですが、4人での思い出はありますか?

SHIZUKU:グループを結成した直後、韓国で合宿をしていた時に、この4人で買い物に行きました。たしか初めてお休みをいただいた日だったよね?

RINON:私が「買い物に行きたい!」って言った時に、3人が「いいね!」「私も行きたい!」と言ってくれて「じゃあみんなで行こう!」っていうことになったんです。

WWD:皆さんのファッションの趣味は合うんですか?

SHIZUKU:私とりんりん(RINON)は合うよね!

KOKONA:確かに、この2人(SHIZUKU&RINON)はガーリーな洋服を着ているイメージがあります。私はスタイリッシュな洋服が好きなので、メンバーだったらKEIKOちゃんと1番趣味が合いますね。

AYANE:私はカジュアルでシンプルなものを着ることが多いです。メンバーだったら……。

RINON:彼女は黄色が好きで、服も黄色ばかりなので、誰も同じような系統はいません。

AYANE・KOKONA・SHIZUKU:(笑)。

WWD:それぞれ隣に座っているメンバーの意外な一面を教えてください。(※取材時の並びはSHIZUKU→KOKONA→AYANE→RINON)

SHIZUKU:KOKONAは、オーディション中はすごくクールで、静かに1人でいる時間を大切にしているイメージでした。ただデビューに向けた合宿中、練習を終えて、それぞれの宿舎に帰り、自分の部屋でリラックスしていると、毎日のように話をして意外と寂しがりやで甘えたがりなところがあって、かわいいなと思いました。今はもう慣れました(笑)。

KOKONA:(笑)。しーちゃん(SHIZUKU)は明るくて受け入れてくれる人だと思っていたので(笑)。AYANEちゃんは物静かでしっかりしている子だなと思っていました。でも、一緒に生活する時間が増える中で、よくしゃべる子だなと。たくさんボケてくれるし、とにかく面白いです。

AYANE:ハードル上げないでよ(笑)。そうですね、RINONちゃんはオーディション中から一緒にいることが多く、今もよくお供させていただいているのですが……うーん……意外なところと言われると、もう当たり前になりつつあるので、難しいですね。あえていうなら、頼もしい姉御肌な一面があるところかなと思います。私、人混みが苦手なんですが、そういう時に引っ張ってくれますし、すごく気にかけてくれて。行動の1つ1つに優しさが感じられるんです。

RINON:しーちゃんは、初めて会った時から「お嬢様」っていうイメージです。でも、スーツケースの半分がお菓子で埋まっていたり、フィナンシェやクッキーを食べていそうなイメージなのに、私が見たことないような駄菓子も食べていて、意外な一面だらけです。

伝説のステージを作り上げた“Body & Soul 2組”  MIU×TSUZUMI×COCORO×SUZU

WWD:グループバトルにおいて“Body & Soul 2組”として一緒だった皆さん。当時の思い出を教えてください。

COCORO:いろいろ大変ではあったんですけど、今思い返すと、自分がやったステージの中で一番気に入っています。トレーナーさんからも「誰一人埋もれることなく、目立っていて、すてきだった」と言っていただけて、すごくうれしかったです。

TSUZUMI:国民プロデューサー(番組視聴者)の前で、初めて披露したステージだったので、舞台前は不安でした。ただ、チームのみんなが「つづみん(TSUZUMI)ならできるよ!」って言ってくれたり、「もう無理!」って言った時にMIUちゃんが「大丈夫」って言ってくれたりして、すごく助けられましたね。チームでも個人でも1位を取れてうれしかったです。

SUZU:ファンの方と初めて対面したステージだったので、緊張してしまって、自分では出し切れなかった部分もありました。ただ周りの練習生やトレーナーさんからアベンジャーズチームと呼ばれていた期待を裏切らないような舞台ができたので、すごくよかったです。

MIU:“Body & Soul 2組”は、私が唯一チームのメンバーを選ばせていただいた機会でした。こういう機会って、今後もきっとないと思うので、そういう意味でも思い出深いです。

WWD:今回の撮影でも着ていた衣装のポイントを教えてください。

COCORO:黄色やオレンジ、緑など暖色を使っていて、活発な雰囲気が私たちに合っているなと思います。

TSUZUMI:私は初めて見るような長いシュシュを着けているのですが、これを着けるとテンションが上がるんです。かわいくてお気に入りですね。

MIU:緑、オレンジ、黄色が共存しているメンバーが少ない中で、私はいろんな色が共存しています。ぜひ注目していただきたいです。

COCORO:私的には、MIUちゃんは、このジャケットがとても似合っているなと思います!

SUZU:私はこの茶色のスカートがお気に入りです。80&90年代っぽい雰囲気もかわいいですよね。

WWD:隣に座っているメンバーの意外な一面を教えてください。(※取材時の並びはCOCORO→MIU→TSUZUMI→SUZU)

COCORO:一緒にいる時間が長すぎて、もはや意外ではないんですけど、MIUちゃんはクールに見えて、とてもかわいい一面も持っているんです。例えば、ご飯をお口パンパンにして食べたり(笑)。そういうギャップに注目してほしいですね。

MIU:YOU:ME(ユーミー、ME:Iのファンネーム)の皆さんから見たTSUZUMIは末っ子で元気なイメージがあると思います。でも(番組終盤のコンセプトバトルで)「&ME」を披露したあたりから、すごく成長していて「お姉さんになったな」と日々思っています。同じグループで活動するようになってからは、それをさらに感じるようになりました。みんなに積極的に声をかけていることもあるので、すごくしっかりしているなと。

TSUZUMI:SUZUは大人っぽく見える一方、実はふわふわしていて赤ちゃんみたいな子なんです。だから「朝とか苦手なのかな?」というイメージを持っていたのですが、意外とすごく早起きで!私より集合時間が遅い時も、私より早く起きているので、すごいなと思っています。

SUZU:(COCOROは)本当に頼れるお姉さんなんですけど、でもたまにちょっと抜けるところがあって。でも、そういう2つの面を行き来しているのも、COCOROちゃんっぽいなと思います。

奇跡的なバランスだった“TOKYO GIRL 2組”  RAN×MOMONA×KEIKO

WWD:グループバトルにおいて“TOKYO GIRL 2組”で一緒だった皆さん。当時の思い出を教えてください。

MOMONA:とにかく最初から波長の合う6人でした。最初のバトルだったこともあって、ほかのグループが苦戦している中、練習も人間関係もあまりにも問題がなくて、トレーナーさんに「果たしてこれで合っているんですか?」って質問したくらい。そうしたら「それは限りなく奇跡に近いことだから、楽しんでやりな!」って言ってもらえて。結果として最高の思い出になりました。

KEIKO:グループバトルでは、勝者になったチームにベネフィットが与えられたんですけど、そのルールを知った日から「もしベネフィットが取れたら、夢の国に行こう!」って約束して頑張りました。実際にベネフィットがもらえた時は、すぐに日程を決めて、みんなで行きましたね。

RAN:このチームは、私がメンバーを選ばせていただいたんですけど、和気あいあいとした順調すぎるグループでしたね。それからみんなで言霊を大切にしていたのが思い出に残っています。風邪がはやっていたので「負けない!」「最強だ!」と声を出して呼びかけあって、結果的に最後まで誰1人欠けることなく、練習も順調に進んで。奇跡みたいにバランスの取れた良いチームでしたね。

WWD:3人のファッションにおけるこだわりは?

KEIKO:私はどこのブランドが好きとかではなく、直感で服を選ぶタイプです。お店に入った瞬間に、自分のときめく服があるか分かるので、買い物に行っても全然買わない日とたくさん買う日の差がすごくて驚かれます。

MOMONA:私はいろんな系統が好きです。10代半ばの頃は、自分に対する固定観念で「今の私がこのスカートを履いたら、恥ずかしいかも」とか思っていた時もありました。でも、今は柔軟に自分に対していろんなイメージを持つようになって、いろんな系統を恥ずかしがらず思うがまま着られるようになって、とても楽しいです。10代の頃の私と同じように悩んでいる人がいたら、そう伝えたいですね!

RAN:私は古着なども好きなのですが、キレイめなカジュアルを意識しています。あとはメイクや髪型によって印象が変わるタイプなので、以前は髪色をチェンジして楽しんでいました。

WWD:隣に座っているメンバーの意外な一面を教えてください。(※取材時の並びはKEIKO→MOMONA→RAN)

KEIKO:笠原(MOMONA)さんは、第一印象めちゃ大人だなと思いました!私がタメ口で話しているのに、敬語で返されたのを覚えています。今は完全に……ファミリーです!

MOMONA:楽屋が一緒だった時に、すごく視線を感じて、見てみたらRANだったというのが初対面の印象です。今となっては「人見知りをしていたんだな」ってわかるんですけど、当時は「もしかしてライバル心を燃やされているのかな」って思って、反応できずにいましたね。今は、思ったよりも変だなと思っています(笑)。基本的にノリがめっちゃいい!なんでも対応してくれるんです。

RAN:KEIKOは、レベル分けテストの時に初めて出会ったんですけど、こんなに生まれながらにしてエンターテイナーみたいな子がいるとは思っていなかったので「この子、疲れないのかな?」って思いました(笑)。でも、グループバトルでメンバーでKEIKOを選んでからは距離が縮まって。今は意外と1人の時間も好きなんだなと知りました。そうやって人生をうまく切り抜けている感じが大人だなとも。

KEIKO:まじで、なんで呼ばれたのか分かんなかったもん。

RAN:(笑)。一方的に、大好きで気になっていたんだよね。

メンバーがこれから挑戦したいこと

WWD:デビューに向けイメージチェンジしたメンバーも多くいますが、今後挑戦してみたいファッションはありますか?

SHIZUKU:私はガーリーな服が好きで、このオーディションに参加するまでズボンを私服で持っていませんでした。でも、メンバーがズボンを履いているのを見て「かっこいいな!」と感じるようになったので、かっこいいファッションにも挑戦したいですし、似合う自分でありたいなと思っています。

KOKONA:しーちゃん(SHIZUKU)とは逆で、ほとんどズボンしか履いてこなかったのですが、ガーリーなワンピースとかにも挑戦してみたいです。

AYANE:私はハイトーンカラーをやってみたいです。寒色が肌に合うので、ヘアを紫や青にしてみたいですね。

RINON:私は衣装でも私服でもいいので、スーツを着てみたいです。ヘアスタイルは自分の黒髪が気に入っているし、ファンの方からも褒めていただけるのですが、もし変更するなら金髪がいいですね。

COCORO:私は以前、白に近いシルバーにしていた時期もあって。いつかはまたゴールドとかにしてみたいなと思っています。

MIU:私はワイン系の赤髪を、今のロングヘアのままやってみたいです。

TSUZUMI:私はハイトーンにするのが夢なので、いつか挑戦したいです。

SUZU:今、髪の毛を伸ばしている途中なんですけど、MIUちゃんくらいまで伸びたら、薄いピンク系にしてみたいです。

KEIKO:私はブルーブラックの髪にシルバーのインナーカラーをやりたくて、それを今、におわせています。

MOMONA:私は金髪ロングをやりたいです。基本的にロングヘアが大好きなので、スーパーロングでブロンドの髪をなびかせてパフォーマンスしたいです。

RAN:前髪重めパッツンのメッシュヘアをしてみたいです。ファッションはちょっと個性的な感じや、パキッとしたモード系のものにもチャレンジできたらなと思っています。

WWD:最後にこれからME:Iとして、もしくは個人として挑戦してみたいことを教えてください。

SHIZUKU:ミュージカルが好きなので、いつかミュージカルの舞台に立ちたいです。

KOKONA:昔からモデルのお仕事に興味があったので、ショーに出てみたいです。

AYANE:メンバー同士だけではなく、いろいろな方とカバー曲やデュエット曲でコラボしてみたいなと思います。そうすることでいろんな表現を習得したいです。

RINON:私は演技のお仕事をしたいです。アイドルはもちろん、ドラマや映画を見るのが大好きなので、自分も出てみたいなって。

COCORO:私たちの宣伝トラックが走ったり、顔がプリントされたバスに乗って宣伝に回ったりみたいなことをやってみたいです。個人では声のお仕事や演技に興味があります。

MIU:グループとしてはメンバーの母校や文化祭にサプライズ登場してみたいです。個人では作詞・作曲をした曲を、ME:Iの曲として提供してみたいです。

TSUZUMI:演技をやってみたいです。MV撮影の時に演技をしてみたらすごく楽しくて、自分の表情をモニターで確認したら「意外とできてるじゃん!」と思ったので興味が湧きました。あとはほかのアーティストさんと楽曲をコラボしたいです。

SUZU:グループとしては海外に飛んでみたいです。個人としては、ミュージカル調の曲やバラードソングも極めながら、演技の勉強もして表現の幅を広げたいです。

KEIKO:私は自分の地元である名古屋でライブをしたいです!

MOMONA:いろんなところで、いろんな話をしてはいるんですけど……最近はお仕事を通して、いろんな国に行ってみたいなと思っています。ME:Iみんなファッションが好きなので、ファッションの仕事などでも行ってみたいです。

RAN:私はME:Iで野外フェスに出演したいです。若くて、エネルギッシュなグループなので、屋内だともったいないというか(笑)。解放されたステージで、自由にやってみたいですね!

PHOTOS:TAKAHIRO OTSUJI

■デビューシングル「MIRAI」(ミライ)
2024年4月17日リリース
4形態(初回限定盤A、初回限定盤B、通常盤、FC限定盤)
収録曲:1.「Click」 2.「Sugar Bomb」 3.「&ME (ME:I Ver.)」4.「CHOPPY CHOPPY (ME:I Ver.)」(3. 4.は通常盤、FC限定盤のみに収録)
https://me-i.jp

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Z世代が手掛けるジュエリー「リメルリック」 大学院生のデザイナーに聞くジェンダーに対する意識

PROFILE: (れん)2000年7月3日、東京都出身。日本大学大学院芸術研究科在学中。23年から、「シャランポア」などのジュエリーブランドを手掛ける安部真理子代表が立ち上げたジュエリーブランド「リメルリック」のブランドディレクターとして活躍。趣味は音楽、芸術鑑賞、モノ作り PHOTO:TSUKASA NAKAGAWA

ジュエリーブランド「リメルリック(REMELRIC)」は、 “都市鉱山”と呼ばれる廃棄された携帯電話やPCなどから採取した金属を精製した“リファインメタル”やデッドストックの石を使用した環境に優しいブランドだ。日本大学大学院生のRENが手掛けるジュエリーは、男性、女性両方が着用できるジェンダーニュートラルなデザイン。カメラマンの川島小鳥が撮影したビジュアルには、ジュエリーを重ね付けした男性が登場している。ブランドのオンラインストアや「エル・ショップ(ELLE SHOP)」の他、ユナイテッドアローズ麻布台ヒルズ店でも販売をスタート。ファッションが大好きというデザイナーのRENは、ジュエリーをはじめ、ネイルやメイクまで日常的に楽しんでいる。Z世代彼に、ブランドやジェンダーに対する意識について聞いた。

年齢、性別を区切ってモノ作りをする時代ではない

WWD:「リメルリック」をジェンダーニュートラルなブランドとしてスタートした理由と目的は?

REN「リメルリック」ブランドディレクター(以下、REN):ファッションには、素材やシルエットなど、ある程度、男女の区分けがあるが、ジュエリーにはない。だから、自然とジェンダーを気にせずデザインしている。ジュエリーは毎日着けるモノなので、日常に溶け込むデザインを意識している。ジェンダーニュートラルなブランドにしたのは、男女、年齢問わず、全ての人に着けてほしいから。今、年齢や性別を区切ってモノ作りをする時代ではない。

WWD:ブランドのコンセプトは?

REN:温故知新。アートやカルチャーが好きで、今流行っているものよりも、アール・デコ、シノワズリ、1990年代のカルチャーなど、過去のものにインスパイアされることが多い。ジュエリーは、受け継いでいくものだから、長く着けてもらいたい。

WWD:ビジュアルに男性モデルを起用したのは?

REN:世の中、ジュエリーのビジュアルに登場するのは、女性がほとんど。女性でもいいが、逆に男性でもいいのではと思った。“女性のためのジュエリー”というジェンダー感を出したくなかった。個人的に川島(小鳥)さんのデジタルではなく、フィルムでスナップ的に撮影した世界観が大好き。その世界観に合う男性モデルが友人にいたのでキャスティングし、アットホームな雰囲気で撮影した。ジュエリーは日々着用するものなので、川島さんの日常の1シーンを切り取る手法は、ピッタリだと思った。

プレイリストを作るようにジュエリーを楽しむ

WWD:ジュエリーを着用し始めたのはいつか?

REN:ファッションが好きで、小学校高学年〜中学生の頃から母親の指輪や「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」のシルバージュエリーなど着けていた。ジュエリーもファッションの一部だと思っていた。ジュエリーを着けると幸せな気持ちになる。「インスタグラム」を始めたのは12歳の時で、ネイルサロンが打ち出したシルバーアクセサリーなどのジュエリーに注目し始めた。当時は、セレクトショップの「オープニングセレモニー(OPENING CEREMONY)」「キャンディ/フェイクトーキョー(CANDY/FAKE TOKYO)」などが盛り上がっていて、そのようなジュエリーを提案していた。今でもカルチャー発信している「グレイト(GR8)」は、大好きで、一番イケていると思う。

WWD:自分にとってジュエリーとは?どのように楽しむか?

REN:毎日着用するものもあるが、変身アイテムのようなもの。アニメに出てくるステッキやコンパクト、ベルト的な感覚。お守り的な感覚は全くない。その日の気分でファッションの一部として着けたいものを着ける。例えば「リーバイス(LEVI’S)」のデニムに「ヘインズ(HANES)」のTシャツに「アンブッシュ(AMBUSH)」のキラキラジュエリーを着ける。ジュエリーが変化球になり、かわいいと思う。ジュエリーは身につけられるアートといった感覚で、ムードにより着けるものが変わる。ゴールドやシルバーなど、ジュエリーの組み合わせはパズルのように、音楽のプレイリストを作る感覚と同じだ。

“キラキラ”や“ピチピチ”、ヒールも選択肢の一つ

WWD:ファッションにおけるジェンダーを気にするか?

REN:全く気にしない。個人的には、モードもストリートも、クワイエットラグジュアリーも、デコラティブなものも全部好き。「ジャックムス(JACQUEMUS)」や「ガニー(GANNI)」が好きで、「ミュウミュウ(MIU MIU)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のようなファッションもいい。今の気分は、「ジャックムス」のピチピチニットが着たい。ラメなどトレンドのキラキラが好きなので、バッグやシューズに取り入れたい。シューズもヒールがあるものが好き。「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」の足袋ブーツがジェンダーレスの象徴。「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」が好きで、ビジュー付きのシューズを履いてみたい。女性だったら着てみたいのは、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」などのオートクチュール。マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)による「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」など、10年以上前のラグジュアリー・ブランドのウィメンズにも興味がある。

WWD:ジェンダーニュートラルは広がると思うか?

REN:ファッションでは、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」でジェンダーに対する流れが変わったと思う。オーバーサイズがトレンドになり、ムーブメント的にカルチャー感覚で変化した。Y2Kトレンドがジェンダーの壁を薄くしたと思うし、SNS発信により、一般的な見方がフラットになった。これからのY3Kは宇宙っぽい雰囲気で、メタバース感がある。「ディーゼル(DIESEL)」「コペルニ(COPERNI)」「オットリンガー(OTTO LINGER)」などがイケていると思う。また、男性がメイクするのが当たり前の時代になった。韓国コスメやSNSインフルエンサー、広告の影響で男性の間でもビューティが広がっている。ドラァグクイーンなどもファッションの一つのコンテンツとして当然になると思う。

「WWDJAPAN」2024年4月8日号では、ジュエリー中心に広がるジェンダーニュートラルの波を特集している。メンズジュエリーの今のリポートを始め、Z & ミレニアル世代の4人のリアルな声を通して、ファッションにおけるジェンダーの意識を探る。

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アパレル業界“シロウト”3人で年商5億円 「クヌースマーフ」常識知らずの突破力

コロナ禍でバブル的に急増したEC主軸のアパレルブランドも、選別淘汰が進んでいる。生き残れるのは、強い個性を備えたブランドだけだ。IN Inc.が運営するEC主軸ブランド「クヌースマーフ(KNUTH MARF)」は設立(2021年11月)から1年で年商5億円に達するなど急成長を遂げた。アパレル業界未経験のコアメンバー3人が作る服と世界観は、既成概念に捉われない面白さがある。

IN Inc.のメンバー5人のうち、コアメンバーであるデザインディレクターのChiemiは元保育士、クリエイティブディレクター和泉琴華の本職はイラストレーター。中井亮CEOは、吉本総合芸能学院で学び、本気で芸人を目指していた過去がある。「僕らが事業を始めたとき、それは今もかもしれませんが、アパレル業界の常識というものが全くなかったんです」と中井CEO。

カテゴライズできない服
着る人のときめきが最優先

2024年春夏は、マニッシュなチェスターコートやシャツもあれば、フェミニンなオフショルダーのワンピース、ヌーディーな透け感のあるラメニットもある。モノトーン配色にフリンジで表情感を与えたセットアップは、素材のテクスチャーを楽しめる玄人向けな一着。“フェミニン”“マニッシュ”といったカテゴライズにはまらない、多彩なラインアップだ。

いかにも工賃がかかっていそうな、デザインを効かせた服も多い。「一番大事にしているのは、お客さまがときめくようなひとクセある提案」とChiEmiデザインディレクター 。商品企画では「原価率」や「利益率」の業界の常識的な水準にも縛られない 。「ブランドがまだ若い今は、利益をいくら残すかよりも、お客さまに喜んでもらいブランドを好きになってもらうことがよっぽど大事だと思っています」。

個々人の役割が明確だから
全力投球できる

パリに「クヌースマーフ」の服を持ち込み、現地の人にアポ無し依頼で着てもらい スナップ撮影を敢行するなど、ビジュアル面でも予算と労力を惜しまない。クリエイティブディレクションは、イラストレーターの和泉の専任だ。「(ビジュアル制作は)服ができた。じゃあ、どう見せよう?という後付けの発想ではない。服のデザインはChiEmiの仕事、ビジュアル制作は私。それぞれに明確な役割があるから全力で面白いものを作れる」(和泉)。

元芸人という、経歴の異色さで言えば一番の中井CEO。ブランド運営全般と生産管理や品質管理などのバックオフィス業務を担う。コロナ禍で外部とのコミュニケーションがままならない中では、苦労も多かった。「初期の頃はサンプル商品が依頼と違う生地に変わっていたり、 倉庫会社のミスで、1つのご注文に対して二重発送をしてしまったり……」。さまざまなトラブルに見舞われながら、「本気でお笑いで食べていく」ことを目指した胆力で、縁の下の力持ちをこなしてきた。

「一人一人に得意分野があって、それぞれが最後の砦という自覚がある。僕らには業界の常識がないから、“怖い”も分からないし、ただがむしゃらにやっていくだけ」。

現在はTOKYO BASEの「ステュディオス(STUDIOUS)」の一部店舗でも卸販売しているが、今後はリアルでの接点を積極的に増やす。直近では23年11月、福岡天神地区のビルのワンフロアを借り、ブランド2周年のポップアップストアを実施。1100人超を集客し、売り上げも予算を大きく超えた。2月末には阪急うめだ本店でもポップアップストアを開催した。年内には名古屋、九州の商業施設でも計画する。2〜3年内には「週末営業やギャラリー形式など、既存の店舗のあり方にとらわれない形」での実店舗出店を目指す。

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高評価を得たのは?「アットコスメ」の口コミから読み解く“オイル美容液”ヒットの法則

ユーザーは、何を基準にスキンケアを選んでいるのか?今回は「アットコスメ」に寄せられた「オイル美容液」の口コミを原田彩子「アットコスメ」リサーチプランナーが解説。ヒットの法則を読み解いていく(集計期間:2024年2月1日~29日)。

―――2月の「オイル美容液」カテゴリーで象徴的に使われているキーワードは?

原田彩子「アットコスメ」リサーチプランナー(以下、原田):昨年2月と比較すると「YouTube」というワードが増加している。クリームや美容液などと比較すると使用率は低く、使用方法、使用量も難しいことから、動画の詳しい情報やハウツーが求められているのではないでしょうか。「ブレンドする」「混ぜる」というワードも増加しており、使用法の幅も広がっている様子が読み取れる。

【アットコスメ2024年2月「オイル」口コミ TOP5】

1位「RMK」“RMK Wトリートメントオイル”(50mL、4400円)

原田:肌をやわらかくするオイル層と、角質層をみずみずしく満たすうるおい層がひとつになった、プレケア用のトリートメントオイル。口コミでは、「肌が柔らかくなる」「次に使う化粧水の浸透もよくなった」という意見が他の商品と比較し多く出現している。また「柑橘系の爽やかな香りで気分があがる」「癒される」という声が散見される。伸びもよく、デパコスでありながら「コスパが良い」という意見も比較的多く寄せられている商品だ。

2位「ミノン(MINON)」“アミノモイスト エイジングケア オイル”(20mL、1650円※編集部調べ)

原田:「SNSでバズっていたので買ってみました」という声も多い話題のアイテム。他の商品よりも「安心する」というワードが多く出現しており、肌が敏感な人や季節を問わず使用できるとの声が寄せられていまる。「自分に足りなかったのは保湿だと実感させられました」という口コミが示すように、うるおい、保湿力も高く評価されている。さらに、乳液やクリームに混ぜる、単体で使用する、顔全体、口元や目元のみなど、人によって使い方・使う場所も異なるようで、肌悩みや肌状態によってさまざまな使い方をされている様子がうかがえる。

3位「ゲラン(GUERLAIN)」“アベイユ ロイヤル アドバンスト ウォータリー オイル”(30mL、税込2万570円/50mL(限定)、1万9360円/50mL、2万8160円)

原田:「毛穴が目立たなくなる」「キメが整う」「肌にツヤが出る」などの効果感の表現が、他の商品より比較的多く出現している。「ウォータリーオイルの中のカプセルを、手の温度で温めながら馴染ませると金箔になる、演出もすごい!」、また香りへの言及も多い。「癒されて、スキンケアが楽しくなる美容液だなと感じました」、「高級感のあるボトル」、「さすがゲラン様」など情緒的な満足度も高い様子がうかがえる。

4位「ニュクス(NUXE)」“プロディジューオイル”(50mL、3,630円/100mL、5940円)

原田:顔以外にも髪、爪、ボディなど頭から足の先まで全身に使えるマルチオイル。「使用感もクセがなく、スプレー式なので広範囲に使いやすい」、「手に残ったオイルは髪や手に塗れる」と使い勝手のよさも高く評価されている。また、様々なパーツに使用できるため、コスパがよいという声も見られます。香りに関する記述も多く、甘い香りで香水代わりに使用している人も少なくないようだ。

5位「ハーバー(HABA)」“高品位「スクワラン」”(15m、1540円/30mL、2750円、60mL、5060円/120mL、9350円)

原田:1983年発売のロングセラー商品で、「アットコスメ」でもすでに2016年に殿堂入りしているほど長期にわたり人気を獲得。15mLから120mLまで幅広いサイズ展開があり、リピーターだけではなく新規のユーザーが試しやすい機会を提供している。口コミでも、「お試し」というワードが特徴的に出現していて、「お守りコスメとして手元に置いておきたくなる」との声も散見され、安心して購入に至っている様子が垣間見られる。さらに、「皮むけ」「肌荒れ」「ニキビ」など悩み系のワードの出現率が他の商品より比較的多く出現している。

―――「オイル美容液」以外で好調なカテゴリーは?

原田:スポンジ、ブラシなどの「メイクアップグッズ」「ブラシクリーナー」。オイルの口コミで増加傾向にあった「YouTube」にも関連するが、プロのテクニックを見て情報源が増えたことによる影響が大きいと考えている。また、比較的安価なグッズや、水洗いしなくても簡単に汚れを落とせるクリーナーが増えたことも要因のひとつではないか。「ブラシを使ってメイクをするのが楽しい」という声もあがっている。

―――いま注目する「トレンドの芽」は。

原田:「下地不要」。化粧下地不要のファンデーションも増えてきているが、口コミでも増加中だ。手軽さへの言及はもちろんのこと、スキンケアが配合されているので直接肌に触れることに抵抗がない、むしろ積極的に使いたいとの声がある。ベースメイクのスキンケア化に伴い考え方も変化している様子が垣間見られる。

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「ボンジュール、マダム」で意識した性別 NY発日本生まれジュエリー「ミラモア」の稲木ジョージCEOに聞くジェンダーニュートラル

PROFILE: 稲木ジョージ/ミラモアCEO兼ブランドビジョニア

稲木ジョージ/ミラモアCEO兼ブランドビジョニア
PROFILE: (いなき・ジョージ)1987年、フィリピン生まれ。9歳までフィリピンで、その後日本で育つ。大学卒業後「アメリカン アパレル」のPRとして活躍。2014年に拠点を米ニューヨークに移し、デジタルPRとしてラグジュアリーをはじめファッションやビューティ業界に携わる。19年から現職 PHOTO:TSUKASA NAKAGAWA

ニューヨーク発、メード・イン・ジャパンのジュエリー「ミラモア(MIRAMORE)」は今年5周年を迎えた。同ブランドは、立ち上げ当時からジェンダーニュートラルなジュエリーを提案している。ブランド設立時から、今トレンドのチェーンを主役にしたジュエリーを提案。ブームが再来した金継ぎをテーマにしたり、点字をジュエリーに落とし込んだり、ユニバーサルデザインを意識してジュエリーを制作している。5年前のブランド設立時には、一見女性に見える男性モデルを起用したビジュアルを打ち出した。ここ数年で、ジェンダーニュートラルな動きは広がりつつあるが、当時はまだ一般的ではなかった。稲木ジョージ=ミラモア最高経営責任者(CEO) 兼ブランドビジョネアに、ブランドおよび、ジェンダーニュートラルな動きについて聞いた。

創業時に打ち出したジェンダーニュートラルなビジュアル

WWD:「ミラモア」をジェンダーレスなジュエリーブランドとして立ち上げた理由と目的は?

稲木ジョージ=ミラモアCEO兼ブランドビジョネア(以下、稲木):ジェンダーレスとか、ジェンダーニュートラルという概念が元々ない。小さい頃からジュエリーが好きで、高校生の時からピアスを着けていた。当時、周囲にジュエリーを着けている男性はいなかったけど、「おしゃれだね」と言われていた。コメ兵でジュエリーを販売したこともあり、そこでジュエリーの基礎を学んだ。ブランドを立ち上げた当時、メンズジュエリーというと、ラッパーが着用するようなものばかり。「クローム ハーツ(CROM HEARTS)」や「ゴローズ(GORO‘S)」がなどのゴツいシルバージュエリーが中心で、宝飾の町で知られる御徒町でオーダーした喜平チェーンなど洗練されたデザインがなかった。一方で、女性用ジュエリーは、華奢でかわいいものがほとんど。私の周りにいる女性は自立して意思を持った女性が多く、彼女たちが着けたいと思うジュエリーを作りたかった。それで、男性、女性、どちらも着けられるジュエリーにした。

WWD:立ち上げ時に女性に見える男性モデルを起用したビジュアルを撮影したのは?

稲木:約10年前パリに行ったとき、ツーブロックだったのに「ボンジュール、マダム」と言われた。ビジュアルは、それに対するオマージュ。髪型はツーブロックだったのに、自分が女性に間違えられたことに対して、どういう意味だろう、面白いと思った。フォトグラファーのベッティナ・ランス(Bettina Lheims)による1990年代の写真集「モダン ラバーズ」がすごく好きで、女性に間違えられた自分のパロディーとしてビジュアルを制作した。男性がジュエリーを着けてもいいと思ったし、他のブランドとは違った表現がしたかった。自分でキャスティングをし、濃いブルーのシャドウにピンクの口紅というメイクアップのディレクションもした。2019年に、ベッティナのパリのスタジオで撮影した。

ユニバーサルな“金継ぎ”をベースにヘリテージブランドに

WWD:ブランドのコンセプトは?

稲木:デザイン・イン・ニューヨーク、ハンドクラフテッド・イン・ジャパン。約10年前に渡米した。元々、日本製のものは好きだったが、ジュエリー業界で有名な日本ブランドは少ない。日本のブランドは日本人に合うデザインを提案するが、私は、全世界で通用するジュエリーをデザインしたいと思った。一過性のトレンドではなく、不動のファインジュエリーブランドとしての確立を目指したい。日本の文化や職人には、“ものを長く大切にする”という意識があり、それがアメリカとの大きな違いだ。だから、ジュエリーで日本の文化や職人技を反映したジャパニーズ・ヘリテージブランドを作ろうと思った。私の年代でヘリテージブランドを作る人は少ないが、継承するという意味で、とても大切なこと。金継ぎのジュエリーを作ったのは、その哲学が、国籍、年齢、関係なくユニバーサルだと思ったから。私は母子家庭に育ったので、経済的にも大変で、幼少期に逆境を体験した。当時は怒りと葛藤しかなかったが、金継ぎの哲学に出合い、傷ついた自分が好きになった。ユニバーサルデザインというと、障がい者にフォーカスしたものと思われがちだが、傷ついたことのない人なんて世の中にいない。傷を認めてこそ、その人がある。ジュエリーを身に着けることでその人が金継ぎされるというのがコンセプト。それが、「ミラモア」が発信するメッセージだ。

社会的許容性の広がりから広がるジェンダーニュートラル

WWD:ここ数年、日本で男性のジュエリー着用が広まっているが?

稲木:すごくいいことだと思う。最近、ネックレスでは、チョーカー、ピアスはフープを着けている男性が多い。約5年前にイタリア・ミラノでおしゃれな若い男性がそれらを着け始めた。若い人が着けているものは、どんどん広まると思う。だから、原宿や渋谷で彼らを観察してデザインに反映している。

WWD:ここ数年のジェンダー意識の変化についてどう考えるか?

稲木:私が20代の頃は、男性がバッグを持っていたら、一般的にゲイと呼ばれた。ピアスも、左、右、どちらに着けるかで属性が決められていたが、今はそれがない。ここ10年で、急速にその意識が変わった。ジェンダーニュートラルなファッションも増えているが、Z世代の男性はちょっと違う。以前は、マッチョな男性像が当たり前だったが、社会的許容性が広がり、若い世代はもっと自由だ。ソーホーに住んでいるが、Z世代ではジェンダーフルイドが進んでいる。25歳以下だと、ファッションにおける男性、女性という固定観念が崩れ、交差している。だから、男性、女性、ノンバイナリー、さまざまなジェンダーがあって、それは、各自が決めること。だから、“彼(He)や“彼女(She)”ではなく、“彼ら(They)”という呼び方が一般的になっている。

「WWDJAPAN」2024年4月8日号では、ジュエリー中心に広がるジェンダーニュートラルの波を特集している。メンズジュエリーの今のリポートを始め、Z & ミレニアル世代の4人のリアルな声を通して、ファッションにおけるジェンダーの意識を探る。Z世代で「リメルリック」のジュエリーデザインを手掛けるRENさんの記事は4月15日公開予定。

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LVMH傘下メイクアップフォーエバーCEOが語る 「機能性だけでモノは売れない」

PROFILE: シャルルアンリ・ルヴァイヤン/メイクアップフォーエバー社長兼最高経営責任者

シャルルアンリ・ルヴァイヤン/メイクアップフォーエバー社長兼最高経営責任者
PROFILE: 仏エコール・ポリテクニークと米スタンフォード大学でコンピューターサイエンスの学位を取得。ハーバード・ビジネス・スクール卒業。フランスの公務員、省庁、欧州連合でキャリアを積んだ。その後、電気通信と化学産業で管理職を務めた。LVMHへは2019年にベルナール・アルノー会長兼最高経営責任者(CEO)のアドバイザーとして入社した後、「ルイ・ヴィトン」のチーフ・デジタル・オフィサーを務めた。23年3月から現職

LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(以下、LVMH)傘下でパリ生まれのプロフェッショナル・メイクアップブランド「メイクアップフォーエバー(MAKE UP FOR EVER)」は今年、ブランド設立40周年を迎える。映画やテレビ、舞台、ファッションショーなどのバックステージを支えるメイクアップ用品を数多く開発し続け、現在は一般消費者のファンを世界中で増やしている。日本では昨年末、エリア初の店舗を渋谷スクランブルスクエアにオープンした。前職で「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のチーフ・デジタル・オフィサーを務め、昨年3月にグローバルの社長兼最高経営責任者(CEO)に就任したシャルルアンリ・ルヴァイヤン(Charles-Henri Levaillant)氏が描くブランドの未来とは?

中東ではNO.1メイクアップブランド

WWD:直近はラグジュアリーファッションの世界に身を置き、ビューティブランドは自身にとって新たな領域だが印象は?

シャルルアンリ・ルヴァイヤン=メイクアップフォーエバー社長兼CEO(以下、ルヴァイヤン):化粧品業界は私にとって全く新しいビジネス分野で、化粧品業界の速いスピード感にワクワクしている。メイクアップは高い技術を必要とする世界であると同時に大変芸術的なもので、私はこの分野が大好きだ。

WWD:4年前にベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOから直々に誘われたということだが、期待されているミッションは?

ルヴァイヤン:メイクアップに置いて世界のトップブランドの一つになることを目標に掲げている。中東ではすでにNo.1のメイクアップブランドなので、野心的ではあるが現実的とも言える。時間はかかるかもしれないが、一旦軌道に乗ってしまえばわれわれが考えているよりずっと早く素晴らしい結果を出せるだろう。

WWD:「メイクアップフォーエバー」の競争力とは?

ルヴァイヤン:先ほど申し上げた通り、メイクアップは高度な技術を要する非常に芸術的なものだ。われわれはその両方を高いレベルでマスターしている。「メイクアップフォーエバー」はイノベーションを原動力とするブランドで、商品は最高のパフォーマンスを保証するために全ての商品をプロのメイクアップアーティストたちと共同開発している。同時に、われわれには大胆なコミュニケーションと芸術性がある。生まれながらのアーティストであり、40年の伝統がある。上海とパリにある2つのアカデミーは、私たちの教育への情熱を示すユニークな拠点だ。

競争の激しいメイクアップ業界で
勝者の条件は革新性、マルチカテゴリー、個性

WWD:ブランドの成長戦略をどのように描くか?

ルヴァイヤン:メイクアップ業界は厳しい世界だ。ビューティ業界で最も競争が激しく、スピードが速く、革新的な業界の1つでもある。業界における世界的な競争に勝つブランドは、革新的で、複数のカテゴリーにまたがり、明確な個性を持っていると考えている。だからこそわれわれの戦略は、市場に強力なイノベーションを提供し、メイクアップがアートであることを再確認することに基づいている。「メイクアップフォーエバー」は最もパフォーマンス性の高いアーティスティックブランドを目指している。「メイクアップフォーエバー」は40年に渡りメイクアップ業界に貢献してきており、これからもずっとそうしていくつもりだ。「メイクアップフォーエバー」はファッションブランドでもセレブリティーブランドでもない。高いパフォーマンスと洗練された芸術性に焦点を当てた長期的なブランドだ。

WWD:具体的に実行することは。

ルヴァイヤン:これまで以上にプロとしてのアイデンティティーを研ぎ澄まし、革新的な処方を追求し続ける必要がある。多くの人が「メイクアップフォーエバー」はプロ用だから使うのが難しいと思っているが、実際はプロが愛用する商品だからこそ最も使いやすく、最もユーザーフレンドリーであることを示すべきだ。われわれが何を目指しているかをより大きなスケールで表現したいと思っている。

ローカライズとフランスらしさの両立を目指して

WWD:ブランドにとって日本市場の位置付けは?

ルヴァイヤン:日本で小売り市場に参入してから歴史が浅いため、他国と比べるとまだシェアが高いとは言えないが、日本市場はレベルが高く、洗練されているので重視している。「メイクアップフォーエバー」は、以前はプロフェッショナル向けとして展開していたが、一般市場でさらに発展する大きな可能性を持っている。そのためには長期的な視野に立ち、自分たちが何者であるか、何を目指しているかをもっと表現していく必要がある。パフォーマンス、芸術性、教育、伝達、パーソナリティーの解放。逆説的に聞こえるかもしれないが、日本にローカライズすることを受け入れると同時に、「メイクアップフォーエバー」のフランスらしさをもっと表現する必要があるとも思う。

WWD「ルイ・ヴィトン」での経験から「メイクアップフォーエバー」の成長に生かせる知見はあるか。

ルヴァイヤン:「メイクアップフォーエバー」には非常に機能性の高い商品がそろっている。しかし、性能だけでは売れないのも事実だ。「ルイ・ヴィトン」での経験から、人々は魅力的で自分が強く欲しいと望むものを買うのであり、性能は安心感を与えるものでしかないということを学んだ。だからわれわれは「メイクアップフォーエバー」を非常に魅力的なブランドに変える必要がある。これは長期的な課題であり、多くの小さな行動から始まる。例えば、「メイクアップフォーエバー」の高機能なメイクブラシにフィーチャーして、日本のアーティストたちと芸樹的なコラボレーションをするというアイデアはどうか?こうした新しい視点でさまざまな仕掛けづくりをしていきたい。

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LVMH傘下メイクアップフォーエバーCEOが語る 「機能性だけでモノは売れない」

PROFILE: シャルルアンリ・ルヴァイヤン/メイクアップフォーエバー社長兼最高経営責任者

シャルルアンリ・ルヴァイヤン/メイクアップフォーエバー社長兼最高経営責任者
PROFILE: 仏エコール・ポリテクニークと米スタンフォード大学でコンピューターサイエンスの学位を取得。ハーバード・ビジネス・スクール卒業。フランスの公務員、省庁、欧州連合でキャリアを積んだ。その後、電気通信と化学産業で管理職を務めた。LVMHへは2019年にベルナール・アルノー会長兼最高経営責任者(CEO)のアドバイザーとして入社した後、「ルイ・ヴィトン」のチーフ・デジタル・オフィサーを務めた。23年3月から現職

LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(以下、LVMH)傘下でパリ生まれのプロフェッショナル・メイクアップブランド「メイクアップフォーエバー(MAKE UP FOR EVER)」は今年、ブランド設立40周年を迎える。映画やテレビ、舞台、ファッションショーなどのバックステージを支えるメイクアップ用品を数多く開発し続け、現在は一般消費者のファンを世界中で増やしている。日本では昨年末、エリア初の店舗を渋谷スクランブルスクエアにオープンした。前職で「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のチーフ・デジタル・オフィサーを務め、昨年3月にグローバルの社長兼最高経営責任者(CEO)に就任したシャルルアンリ・ルヴァイヤン(Charles-Henri Levaillant)氏が描くブランドの未来とは?

中東ではNO.1メイクアップブランド

WWD:直近はラグジュアリーファッションの世界に身を置き、ビューティブランドは自身にとって新たな領域だが印象は?

シャルルアンリ・ルヴァイヤン=メイクアップフォーエバー社長兼CEO(以下、ルヴァイヤン):化粧品業界は私にとって全く新しいビジネス分野で、化粧品業界の速いスピード感にワクワクしている。メイクアップは高い技術を必要とする世界であると同時に大変芸術的なもので、私はこの分野が大好きだ。

WWD:4年前にベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOから直々に誘われたということだが、期待されているミッションは?

ルヴァイヤン:メイクアップに置いて世界のトップブランドの一つになることを目標に掲げている。中東ではすでにNo.1のメイクアップブランドなので、野心的ではあるが現実的とも言える。時間はかかるかもしれないが、一旦軌道に乗ってしまえばわれわれが考えているよりずっと早く素晴らしい結果を出せるだろう。

WWD:「メイクアップフォーエバー」の競争力とは?

ルヴァイヤン:先ほど申し上げた通り、メイクアップは高度な技術を要する非常に芸術的なものだ。われわれはその両方を高いレベルでマスターしている。「メイクアップフォーエバー」はイノベーションを原動力とするブランドで、商品は最高のパフォーマンスを保証するために全ての商品をプロのメイクアップアーティストたちと共同開発している。同時に、われわれには大胆なコミュニケーションと芸術性がある。生まれながらのアーティストであり、40年の伝統がある。上海とパリにある2つのアカデミーは、私たちの教育への情熱を示すユニークな拠点だ。

競争の激しいメイクアップ業界で
勝者の条件は革新性、マルチカテゴリー、個性

WWD:ブランドの成長戦略をどのように描くか?

ルヴァイヤン:メイクアップ業界は厳しい世界だ。ビューティ業界で最も競争が激しく、スピードが速く、革新的な業界の1つでもある。業界における世界的な競争に勝つブランドは、革新的で、複数のカテゴリーにまたがり、明確な個性を持っていると考えている。だからこそわれわれの戦略は、市場に強力なイノベーションを提供し、メイクアップがアートであることを再確認することに基づいている。「メイクアップフォーエバー」は最もパフォーマンス性の高いアーティスティックブランドを目指している。「メイクアップフォーエバー」は40年に渡りメイクアップ業界に貢献してきており、これからもずっとそうしていくつもりだ。「メイクアップフォーエバー」はファッションブランドでもセレブリティーブランドでもない。高いパフォーマンスと洗練された芸術性に焦点を当てた長期的なブランドだ。

WWD:具体的に実行することは。

ルヴァイヤン:これまで以上にプロとしてのアイデンティティーを研ぎ澄まし、革新的な処方を追求し続ける必要がある。多くの人が「メイクアップフォーエバー」はプロ用だから使うのが難しいと思っているが、実際はプロが愛用する商品だからこそ最も使いやすく、最もユーザーフレンドリーであることを示すべきだ。われわれが何を目指しているかをより大きなスケールで表現したいと思っている。

ローカライズとフランスらしさの両立を目指して

WWD:ブランドにとって日本市場の位置付けは?

ルヴァイヤン:日本で小売り市場に参入してから歴史が浅いため、他国と比べるとまだシェアが高いとは言えないが、日本市場はレベルが高く、洗練されているので重視している。「メイクアップフォーエバー」は、以前はプロフェッショナル向けとして展開していたが、一般市場でさらに発展する大きな可能性を持っている。そのためには長期的な視野に立ち、自分たちが何者であるか、何を目指しているかをもっと表現していく必要がある。パフォーマンス、芸術性、教育、伝達、パーソナリティーの解放。逆説的に聞こえるかもしれないが、日本にローカライズすることを受け入れると同時に、「メイクアップフォーエバー」のフランスらしさをもっと表現する必要があるとも思う。

WWD「ルイ・ヴィトン」での経験から「メイクアップフォーエバー」の成長に生かせる知見はあるか。

ルヴァイヤン:「メイクアップフォーエバー」には非常に機能性の高い商品がそろっている。しかし、性能だけでは売れないのも事実だ。「ルイ・ヴィトン」での経験から、人々は魅力的で自分が強く欲しいと望むものを買うのであり、性能は安心感を与えるものでしかないということを学んだ。だからわれわれは「メイクアップフォーエバー」を非常に魅力的なブランドに変える必要がある。これは長期的な課題であり、多くの小さな行動から始まる。例えば、「メイクアップフォーエバー」の高機能なメイクブラシにフィーチャーして、日本のアーティストたちと芸樹的なコラボレーションをするというアイデアはどうか?こうした新しい視点でさまざまな仕掛けづくりをしていきたい。

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“香りの女王”と呼ばれているブルガリアンローズをコース料理に 「MIMC」が一夜限りの晩餐会を開催

「エムアイエムシー(MIMC)」は2月22日、世界で愛されているブルガリアンローズを五感で楽しむ一夜限りの晩餐会を開催した。

会場は、東京・西麻布にあるイタリアンレストラン「アルポルト」。コース料理にはブランド指定のオーガニック農場で1年に3週間だけ花開くローズを手摘みし、高濃度のローズオイルを含むローズの美容成分を抽出したインナーケアドリンク“ローズエマルションウォーター”(150mL、4104円)を贅沢に使用した全8品のフルコースが振る舞われた。また、食事の途中には水にローズウオーターを加えたローズ水が用意されるなど、参加者は“バラ三昧”なひと時を味わった。

イベントにはオーナーシェフである片岡護氏も登場し、自ら各テーブルに回ってコース料理の説明を行ったり、ブルガリアンローズの魅力を語ったりと、参加者をもてなした。

なぜ、この晩餐会を開催したのか。北島寿 代表取締役会長にイベントの狙いやブルガリアンローズの今後の展望などについて聞いた。

北島会長「“香りの女王”ブルガリアンローズの魅力を広めたい」

PROFILE: 北島 寿「MIMC」開発者 兼 代表取締役

北島 寿「MIMC」開発者 兼 代表取締役
PROFILE: (きたじま ことぶき)東北大学博士課程前期理学研究科修了。自然派化粧品会社に勤めた後、2001年にアメリカ西海岸に渡り、オーガニック化粧品や先進的美容医療のマーケティングを学ぶ。07年に「MIMC」を設立し、17年に美容本「クレンジングをやめたら肌がきれいになった」(文藝春秋)を発刊。

WWDJAPAN(以下、WWD):このイベントを開催した狙いは?

北島寿 開発者兼代表取締役(以下、北島会長):ブルガリアンローズは化粧品にとって肌への効能・効果の高さと希少性からラグジュアリーな素材であり、パフュームにとっても絶対に欠かせない素材で、“香りの女王”と呼ばれている。

実は、ブルガリアンローズは古くから東洋の漢方のように「薬草」として体内に取り入れられてきていた。睡眠改善やストレス改善、抗酸化、美肌効果などからインナービューティとしての効果はもちろん、ローズは味も本当においしいものであるとされている。

この魅力を広く知らしめるために“毎日、心から取り入れたくなるようなものを”というメッセージを掲げ、食べておいしい、見て美しいと思える体験や感動を味わってもらいたかった。

WWD:なぜ片岡シェフにオファーしたのか

北島会長:片岡氏はブルガリアンローズ文化協会の理事であり、日本を代表するシェフである。毎年開催している大会「ローズウォーターレシピアワード」で審査員を務めていることもあり、ローズを使った料理に造詣がとても深く、前菜からデザートまでローズを使ったフルコースを作ってもらえると思った。

WWD:「MIMC」で販売しているローズ製品“ローズ シューティカル(ROSE CEUTICAL)”ラインの売れ行きは?

北島会長:ブルガリアンローズをキー成分に配合した“ローズ シューティカル”ラインは、インナーケアドリンク“オーガニックインナーセラムドリンク”(150mL、4104円)と、“コンセントレートブライトニングセラム”(30mL、1万6500円)の2種を展開している。購入者層は、ドリンクは40才~50才を中心に、美容液はまんべんなく幅広い層に支持されている。

WWD:今後の展望について

北島会長:“オーガニックインナーセラムドリンク”は体の中から調子を整えて美しくなる「インナービューティ」であり、毎日おいしく楽しめる「食」でもある。今後は、同商品を絡めて色々な人とコラボレーションする予定だ。たくさんの人にローズの魅力を伝えるため、さまざまな活動を通して広めていきたい。

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アカデミー賞のドレスで再注目の「ロダルテ」 デザイナー姉妹が「正当に評価されていない」と感じる理由

ケイト・マレヴィ(Kate Mulleavy)とローラ・マレヴィ(Laura Mulleavy)姉妹によるブランド「ロダルテ(RODARTE)」は、来年ブランド設立20周年を迎える。地元ロサンゼルスを拠点に、ニューヨーク・ファッション・ウイークに参加し、コレクションを発表してきた。近年では、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞などの授賞式に参加するセレブリティーのカスタムドレスを手掛けたり、映画やオペラの衣装を制作したりと、活動の場を広げている。こうして実力を発揮し、キャリアを積んできているものの、2人は「(ファッション業界において)デザイナーとして正当に評価されていない」と感じるという。

ケイトは1979年、ローラは80年に、カリフォルニア州パサデナで生まれた。姉妹である2人は幼い頃からデザイナーになる夢を持ち、カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)を卒業後、故郷のパサデナに戻り、05年に母親の旧姓を冠した「ロダルテ」を設立した。06年春夏シーズンにニューヨークでデビューコレクションを発表し、08年には、Tシャツやカジュアルウエアのコレクション「ラダルテ(RADARTE)」をスタート。09年、アメリカファッション協議会(COUNCIL OF FASHION DESIGNERS OF AMERICA以下、CFDA)による「CFDAアワード(CFDA Awards)」の新人賞にあたるスワロフスキー・アワードのウィメンズ部門を受賞。その後もコレクションの発表をする傍ら、映画「ブラック・スワン(BLACK SWAN)」やオペラ「ドン・ジョヴァンニ(Don Giovanni)」で衣装をデザインするなど、新たな道を切り開いてきた。映画制作にも取り組み、17年には姉妹が脚本と監督を手掛け、キルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)が主演を務めた映画「WOODSHOCK」が、第74回ベネチア国際映画祭で公開された。

同世代のアメリカブランドには、02年設立の「プロエンザ スクーラー(PROENZA SCHOULER)」や今年20周年を迎える「トリー バーチ(TORY BURCH)」がある。またロサンゼルスのつながりで言えば、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」前メンズ・アーティスティック・デザイナーで「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」の創業者ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)や、「モスキーノ(MOSCHINO)」のクリエイティブ・ディレクターだったジェレミー・スコット(Jeremy Scott)といった、ビッグメゾンに抜擢された男性デザイナーがいる。

女性デザイナーが活躍する難しさを痛感

メトロポリタン美術館(METROPOLITAN MUSEUM OF ART)のコスチューム・インスティチュート(COSTUME INSTITUTE)は12月、ファッション業界における女性のデザイナーの仕事にフォーカスした展覧会「ウィメン・ドレッシング・ウィメン(Women Dressing Women)」を開催。「ロダルテ」の作品も展示されているこの展覧会や、23年9月に退任した「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」のクリエイティブ・ディレクター、サラ・バートン(Sarah Burton)の後任に男性デザイナーのショーン・マクギアー(Sean McGirr)が起用されたことをきっかけに、ファッション業界における性差別や欧州のラグジュアリーブランドを率いる女性デザイナーの少なさに関する対話が増えているが、マレヴィ姉妹はこれを痛感しているという。その一例として、キャリア20年にして一度だけ、大手メゾンからクリエイティブ・ディレクター候補として声を掛けられたときのことを挙げた。

「たった一回の会話でそぐわないと判断され、とてもショックだった。私たちは最高の女優たちにドレスを提供し、すばらしい衣装を作り、世界中の美術館に展示され、ショーも開催し、アーティストとも協業している。これらすべてを独立した企業として行ってきたし、人々は『ロダルテ』がどういうブランドであるかも知っている。自惚れるわけではないが、ほかに何が必要だというのか」。

最近では、映画祭などのレッドカーペットでその名を広めている。今年に入ってからは、1月に行われた第35回パームスプリングス国際映画祭で、第81回ゴールデングローブ賞で主演女優賞(ドラマ部門)を受賞したリリー・グラッドストーン(Lily Gladstone)にドレスを提供。その後の第96回アカデミー賞では、最多受賞となった「オッペンハイマー(Oppenheimer)」のプロデューサー、エマ・トーマス(Emma Thomas)や映画監督マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)の娘で俳優兼監督であるフランチェスカ・スコセッシ(Francesca Scorsese)ら、過去最多12人のドレスをデザイン。制作には、8人のチームで数カ月におよぶ集中的な作業を要した。

その間には、「ロダルテ」の24-25年秋冬コレクションのルックブックとポートレートシリーズにも取り掛かっていたため、多忙を極めたという。ローラは、「すごく疲れたわ。12ルックはそれぞれ4〜5回ものフィッティングが必要だった」と、俳優らのスケジュールに合わせながらドレスを制作したことを明かした。

トーマスには、シースルーの袖に、フロントをクロスさせた黒のドレスを提供。長年映画業界に携わり、今回「ロダルテ」にドレスを依頼したスタイリストのクリスティーナ・エールリッヒ(Cristina Ehrlich)は、「ケイトとローラには、レッドカーペットという晴れの舞台で詩的に語りかけるような、ユニークで時代を超越したスーパーフェミニンなドレスを生み出す目と知性がある」と高く評価した。

ケイトは、トーマスにドレスを着せたことは意義深いことだったと振り返る。「男性中心で女性の活躍が容易ではない映画業界で、多くのことを成し遂げてきた彼女に、とてもインスパイアされた。多くの扉を開いてきた彼女の活躍の重みを感じたし、彼女が10年後を振り返って、まだこのドレスを好きでいてくれることを願っている」。

大手ブランドは、レッドカーペットなどの重要なイベントでトップクラスのセレブに衣装を着用してもらうため、報酬を支払うことも多い。そうした予算がないブランドは、デザインを無料で行うことしかできないが、ケイトは「それでも『ロダルテ』を選んでくれたとき、これまで誠実に積み上げてきた実績を誇らしく思う」と話した。

「何十億ドル規模の巨大企業と同じレベルで活動することは、持続可能ではない」

「ロダルテ」は売上高などの数字を公開していないが、独自の戦略を掲げて事業を拡大してきた。コロナ禍の間、年2回のコレクション発表を4回に切り替え、イヴニングウエアを中心に発表することにし、D2Cのオンライン販売を強化。また、米高級百貨店バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)やサックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)、ECのモーダ・オペランディ(MODA OPERANDI)、ネッタポルテ(NET-A-PORTER)、マイテレサ(MYTHERESA)、ショップボップ(SHOPBOP)、アマゾン・ラグジュアリー(Amazon Luxury)でも販売している。主な価格帯は、プレタポルテとイヴニングウエアが966〜4000ドル(約14万〜60万円)、セミクチュールは4000〜1万ドル(約60万〜151万円)、オーダーメードのクチュールは1万〜4万ドル(約151万〜604万円)。さらにブライダルを加え、ネッタポルテでカプセルコレクションを発売する予定だ。

同ブランドは23年9月に発表した24年春夏コレクション以来、ランウエイショーを行っていないが、今年9月のニューヨーク・ファッション・ウイークに参加するかどうかは未定だという。「何十億ドル規模の巨大企業と同じレベルで活動することは持続可能ではない。映画制作も手掛けているので、シーズンにとらわれず、クリエイティビティーを大切にデザインし、必要に応じてショーを開催する。こうした“賢い”決断の積み重ねが、ビジネスを続けられてきた理由だと思う。私たちはアーティストであり、夢を与えるコレクションを作っている」とマレヴィ姉妹。また、彼女たちのように女性主導のビジネスが成功するためには、より均等な機会の創出など業界のシステム改革が必要だと説いた。

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アカデミー賞のドレスで再注目の「ロダルテ」 デザイナー姉妹が「正当に評価されていない」と感じる理由

ケイト・マレヴィ(Kate Mulleavy)とローラ・マレヴィ(Laura Mulleavy)姉妹によるブランド「ロダルテ(RODARTE)」は、来年ブランド設立20周年を迎える。地元ロサンゼルスを拠点に、ニューヨーク・ファッション・ウイークに参加し、コレクションを発表してきた。近年では、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞などの授賞式に参加するセレブリティーのカスタムドレスを手掛けたり、映画やオペラの衣装を制作したりと、活動の場を広げている。こうして実力を発揮し、キャリアを積んできているものの、2人は「(ファッション業界において)デザイナーとして正当に評価されていない」と感じるという。

ケイトは1979年、ローラは80年に、カリフォルニア州パサデナで生まれた。姉妹である2人は幼い頃からデザイナーになる夢を持ち、カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)を卒業後、故郷のパサデナに戻り、05年に母親の旧姓を冠した「ロダルテ」を設立した。06年春夏シーズンにニューヨークでデビューコレクションを発表し、08年には、Tシャツやカジュアルウエアのコレクション「ラダルテ(RADARTE)」をスタート。09年、アメリカファッション協議会(COUNCIL OF FASHION DESIGNERS OF AMERICA以下、CFDA)による「CFDAアワード(CFDA Awards)」の新人賞にあたるスワロフスキー・アワードのウィメンズ部門を受賞。その後もコレクションの発表をする傍ら、映画「ブラック・スワン(BLACK SWAN)」やオペラ「ドン・ジョヴァンニ(Don Giovanni)」で衣装をデザインするなど、新たな道を切り開いてきた。映画制作にも取り組み、17年には姉妹が脚本と監督を手掛け、キルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)が主演を務めた映画「WOODSHOCK」が、第74回ベネチア国際映画祭で公開された。

同世代のアメリカブランドには、02年設立の「プロエンザ スクーラー(PROENZA SCHOULER)」や今年20周年を迎える「トリー バーチ(TORY BURCH)」がある。またロサンゼルスのつながりで言えば、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」前メンズ・アーティスティック・デザイナーで「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」の創業者ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)や、「モスキーノ(MOSCHINO)」のクリエイティブ・ディレクターだったジェレミー・スコット(Jeremy Scott)といった、ビッグメゾンに抜擢された男性デザイナーがいる。

女性デザイナーが活躍する難しさを痛感

メトロポリタン美術館(METROPOLITAN MUSEUM OF ART)のコスチューム・インスティチュート(COSTUME INSTITUTE)は12月、ファッション業界における女性のデザイナーの仕事にフォーカスした展覧会「ウィメン・ドレッシング・ウィメン(Women Dressing Women)」を開催。「ロダルテ」の作品も展示されているこの展覧会や、23年9月に退任した「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」のクリエイティブ・ディレクター、サラ・バートン(Sarah Burton)の後任に男性デザイナーのショーン・マクギアー(Sean McGirr)が起用されたことをきっかけに、ファッション業界における性差別や欧州のラグジュアリーブランドを率いる女性デザイナーの少なさに関する対話が増えているが、マレヴィ姉妹はこれを痛感しているという。その一例として、キャリア20年にして一度だけ、大手メゾンからクリエイティブ・ディレクター候補として声を掛けられたときのことを挙げた。

「たった一回の会話でそぐわないと判断され、とてもショックだった。私たちは最高の女優たちにドレスを提供し、すばらしい衣装を作り、世界中の美術館に展示され、ショーも開催し、アーティストとも協業している。これらすべてを独立した企業として行ってきたし、人々は『ロダルテ』がどういうブランドであるかも知っている。自惚れるわけではないが、ほかに何が必要だというのか」。

最近では、映画祭などのレッドカーペットでその名を広めている。今年に入ってからは、1月に行われた第35回パームスプリングス国際映画祭で、第81回ゴールデングローブ賞で主演女優賞(ドラマ部門)を受賞したリリー・グラッドストーン(Lily Gladstone)にドレスを提供。その後の第96回アカデミー賞では、最多受賞となった「オッペンハイマー(Oppenheimer)」のプロデューサー、エマ・トーマス(Emma Thomas)や映画監督マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)の娘で俳優兼監督であるフランチェスカ・スコセッシ(Francesca Scorsese)ら、過去最多12人のドレスをデザイン。制作には、8人のチームで数カ月におよぶ集中的な作業を要した。

その間には、「ロダルテ」の24-25年秋冬コレクションのルックブックとポートレートシリーズにも取り掛かっていたため、多忙を極めたという。ローラは、「すごく疲れたわ。12ルックはそれぞれ4〜5回ものフィッティングが必要だった」と、俳優らのスケジュールに合わせながらドレスを制作したことを明かした。

トーマスには、シースルーの袖に、フロントをクロスさせた黒のドレスを提供。長年映画業界に携わり、今回「ロダルテ」にドレスを依頼したスタイリストのクリスティーナ・エールリッヒ(Cristina Ehrlich)は、「ケイトとローラには、レッドカーペットという晴れの舞台で詩的に語りかけるような、ユニークで時代を超越したスーパーフェミニンなドレスを生み出す目と知性がある」と高く評価した。

ケイトは、トーマスにドレスを着せたことは意義深いことだったと振り返る。「男性中心で女性の活躍が容易ではない映画業界で、多くのことを成し遂げてきた彼女に、とてもインスパイアされた。多くの扉を開いてきた彼女の活躍の重みを感じたし、彼女が10年後を振り返って、まだこのドレスを好きでいてくれることを願っている」。

大手ブランドは、レッドカーペットなどの重要なイベントでトップクラスのセレブに衣装を着用してもらうため、報酬を支払うことも多い。そうした予算がないブランドは、デザインを無料で行うことしかできないが、ケイトは「それでも『ロダルテ』を選んでくれたとき、これまで誠実に積み上げてきた実績を誇らしく思う」と話した。

「何十億ドル規模の巨大企業と同じレベルで活動することは、持続可能ではない」

「ロダルテ」は売上高などの数字を公開していないが、独自の戦略を掲げて事業を拡大してきた。コロナ禍の間、年2回のコレクション発表を4回に切り替え、イヴニングウエアを中心に発表することにし、D2Cのオンライン販売を強化。また、米高級百貨店バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)やサックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)、ECのモーダ・オペランディ(MODA OPERANDI)、ネッタポルテ(NET-A-PORTER)、マイテレサ(MYTHERESA)、ショップボップ(SHOPBOP)、アマゾン・ラグジュアリー(Amazon Luxury)でも販売している。主な価格帯は、プレタポルテとイヴニングウエアが966〜4000ドル(約14万〜60万円)、セミクチュールは4000〜1万ドル(約60万〜151万円)、オーダーメードのクチュールは1万〜4万ドル(約151万〜604万円)。さらにブライダルを加え、ネッタポルテでカプセルコレクションを発売する予定だ。

同ブランドは23年9月に発表した24年春夏コレクション以来、ランウエイショーを行っていないが、今年9月のニューヨーク・ファッション・ウイークに参加するかどうかは未定だという。「何十億ドル規模の巨大企業と同じレベルで活動することは持続可能ではない。映画制作も手掛けているので、シーズンにとらわれず、クリエイティビティーを大切にデザインし、必要に応じてショーを開催する。こうした“賢い”決断の積み重ねが、ビジネスを続けられてきた理由だと思う。私たちはアーティストであり、夢を与えるコレクションを作っている」とマレヴィ姉妹。また、彼女たちのように女性主導のビジネスが成功するためには、より均等な機会の創出など業界のシステム改革が必要だと説いた。

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箕輪厚介が手掛ける“古着バー”が5月にオープン コミュニティーが生まれる“溜まり場”に

PROFILE:齋藤秀行/メローカナリア代表(左) プロフィール

(さいとう・ひでゆき)古着屋「カナリ 中目黒」「カナリ 代々木八幡」「エブリシング イズ エブリシング下北沢」「カナリ 代々木上原」、カフェ「代々木上原 モナリザコーヒー」を展開

PROFILE:箕輪厚介/編集者、実業家(右) プロフィール

(みのわ・こうすけ)2010年双葉社に入社、ファッション誌の広告営業を経験後、編集者に転身。15年からは幻冬舎に入社し多数のヒット書籍を手掛ける傍ら、エクソダス代表取締役、キャンプファイヤーコミュニティーのチェアマンを務める。家系ラーメン店「箕輪家」、サウナホテル「サウナランド浅草」などのプロデュース業にも取り組む

数々のヒット書籍を生み出し、実業家やコメンテーターとして多岐にわたり活躍し続ける幻冬舎の箕輪厚介氏。2022年には家系ラーメン店「箕輪家」、サウナホテル「サウナランド浅草」をプロデュースし話題を呼んだ。編集者でありながらビジネスパーソンである彼の次なる照準は、意外にも“古着バー”の開業だと言う。手を組むのは、古着屋やカフェを経営するメローカナリア代表の齋藤秀行氏だ。“古着ブーム終焉”と言われる中、彼らが新たに古着ビジネスを始める理由とは?2人が考える生き残りの道筋を聞いた。

Xをきっかけに古着バー開業へ
初年売り上げ目標は5000万円

WWD:古着事業を始めようとしたきっかけは?

箕輪厚介(以下、箕輪):Xで私に顧問を依頼したい企業を募ったことがきっかけだ。複数の問い合わせがあった中で、古着屋のオーナーである齋藤さんの問い合わせが目についた。私は古着に詳しくはないが、好きなものに対してこだわりを持って語っている人に惹かれる。実際にYouTubeで「ハルキの古着」「さらば森田の五反田ガレージ」など古着コンテンツを見るのが好きだったから、齋藤さんの声掛けはうれしかった。

齋藤秀行(以下、齋藤):閉業予定の古着屋「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」の物件は、借りたのがコロナ禍だったことから、今の下北沢では考えられないほど家賃が安い。手放すのは勿体無いし、他にも古着屋を経営していることから、この物件では少しチャレンジしてみたいと思った。ファッション界隈の多くの人は、箕輪さんの人を“お金の人”と少し冷めた感覚で見ていると思うし、古着の世界では“売れない方が美しい”みたいなムードも感じる。しかし私達だって、表ではお金のことを話さなくても売り上げが立てばうれしい。“古着ブーム終焉”と言われる中、私自身もこのブームは絶対に終わると考えている。古着業界にとって厳しい時代が来るからこそ、「何か新しい世界が作れたら」と言う気持ちで、あえて“お金っぽさ”を感じる箕輪さんに顧問を依頼した。私自身もアパレルだけではなく、コーヒー屋を展開したりなどさまざまな事業を行う部分で、マルチに活躍する彼の考え方に共感できた。

箕輪:まずは5月から1年間で5000万円、そこから徐々に1億円を目指す。古着に限らないが、あらゆるブームは5〜7割が本当に好きな人、2〜3割ぐらいが“にわか”、3割ぐらいが投機目的、と言ったバランスによってブームになっている。投機があることによってムーブメントになっていることは間違いないが、その割合が多くなると本来のファン達が離れていき、やがて投機する人もいなくなる。これこそバブルが弾ける瞬間だ。ビジネスとしてただカルチャーに乗ろうとすると、バブルが弾けた時に生き残れないだろう。

コンセプトは“ネオスナック”
お酒を飲みながら古着を買える空間に

WWD:オープン予定日や店のコンセプトは?

齋藤:4月7日まで現在の「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」を運営し、その店舗をリニューアルする形で5月1日にオープンする予定。まだ店舗名は決まっていないし、店長も募集中だ。

箕輪:古着に関する知見が無い私がただ古着屋をやっても、それこそ“時代のブームに乗っかっただけ”みたいな形になってしまうだろう。今38歳の私も含め、普段港区で飲んでいるような40代の人達も下北沢に来ると落ち着くし、ワクワクする。かと言って古着を買うためだけに来るというのは少しハードルが高いし、バーのような雰囲気にしたいと考えた。今流行している、いわゆる“ネオスナック”のようなイメージだ。90年代の懐かしさを感じる空間で、同じ世界観を持つ古着を展開したい。お酒が飲めて、語り合って、その場にある服も買えるーーつい何となく行ってしまうような場所になるのが理想である。実際に私も飲みに行くし、時には“1日店長”として店に立つ予定だ。

WWD:店長にはどのような人材を採用予定?

箕輪:自分がサウナを経営する中で、流行に乗って開業した店舗のほとんどは、ブームが落ち着いた頃になくなっていくのを肌で感じた。だから古着に関しても、私の“好きレベル”ではきっとダメになってしまう。そのため当初は「古着大好き!」みたいな知見のある人を店長として立てて、その人にフルベットして好きなようにやってもらおうとしたが、そう簡単に良い人材は見つからない。そこで「ファッションもコミュニティーなのでは」と考えた。ファッションが好きな人は、自分の好きな価値観や人との繋がりを共有するユニフォームのように服を選んでいる。そういった視点で考えれば、私が手掛ける書籍やラーメン、サウナ、オンラインサロンも基本的にはコミュニティービジネスで、自分が得意とする分野だ。その文脈で言うと、知識がなくてもファッションを楽しんでいて、気持ちの良い接客ができて、一緒に作っていくという意識が持てる人が理想だ。私のラーメン屋は家系ラーメンから始まったが、次に二郎系ラーメンを売り始めて今とても人気がある。業界的には家系の店が二郎系を出すのは邪道らしいが、箕輪家の店長はラーメン業界の人ではないし、ある意味斬新な発想で始められた。そんなふうに、固定概念に縛られていない人の方が面白いことができると考えている。

WWD:商品の買い付けは誰が行う?

箕輪:店長が決まり次第、店長と私、齋藤さんで買い付けに行きたいと思っている。最初の買付先はタイだ。

齋藤:タイは、今世界で1番古着が集まっている国。アメリカやヨーロッパの古着が集まっていて、最近の古着の多くはタイの業者が仕掛けている。パキスタンにも古着は多いが、一般的にはアクセスがしにくい国だからこそ、パキスタンの業者もタイに卸に来るほどだ。昔は一部の人しか知らなかったが、今はどんな人でも買い付けに行きやすい環境になった。

箕輪:知人がちょうどタイに移住するのと、キックボクシングをやっているのもあり、ムエタイ合宿もしたいなと思っていて(笑)。買い付けと言っても、私は何を選べば良いかわからない。でもみんなで一緒に買い付けに行って、みんなで売るというストーリーがこれからの時代は大事なんだと思う。

WWD:古着バーの次に挑戦したい事業は?

箕輪:いつもその場で「これやりましょう」と話が決まることが多く、思った時点でスタートする。だからこそ、今の時点で次に考えていることは特にない。とは言え、鈴木おさむさんの引退を身近で見ていて、「変わったことをやりたい」と改めて感じた。普遍的に続くものを作りたいとは思わないが、将来過去を振り返った時に「よく分からなかったけど一時期そういうブームあったよね」みたいな現象を生みたい。古着バーにしても、下北沢で他の人達が真似してやり始めるような流れになると理想的だ。

ファッション誌の広告営業やブランド企画への出演も
箕輪氏が見るファッション業界の可能性

WWD:箕輪さん自身は普段、どのように服を選んでいる?

箕輪:一時期はペンキで服にペイントするのにハマってペンキばかり買ったり、“たけしセーター”にハマったり、本当に訳のわからない買い物をしていると思う(笑)。少し前はグレーのスエットにハマっていて、メルカリで“グレー”“スエット”で検索をして買い集めていた。その時にたまたま買った「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」のスエットをよく着ていたら、ブランドの関係者から人伝で「箕輪さんは『ヒューマンメイド』が好きなんですか」と聞かれて。「グレーのスエットだから」という理由で買っただけだったから、本当に恥ずかしかった(笑)。

WWD:ファッション企画に起用されることもあるが、自身はどのように感じている?

箕輪:これまでにビームスやエストネーションが企画で私を起用してくれたことがある。ファッション好きな人達がなぜ私を起用するのか不思議だったが、ビームスの設楽洋社長が言うには「ファッションというのは片方で“それは違うでしょ”と否定されるようなことをやり、もう片方で“わかっているな”とお客さんが共感し喜ぶこと、両方をやらないとすぐにダサくなり、批判される」のだそうだ。きっと僕を起用する企業は既存のイメージを壊したいとか、変わったイメージをつけたいのだろう。

WWD:ファッション誌の広告営業の経歴を持つ箕輪さんが、ファッション業界に関して思うことは?

箕輪:そもそも、ファッション業界そのものが独特で、ビジネスとしてすごく今っぽい。今は品質や実用性のみで買うことがなくなってきている時代だ。その中で多くの企業が商品そのものの意味を考えたり、熱量の高いコミュニティーを作ろうとしているが、ファッション業界は昔から商品のストーリーや表現、コミュニティーを追求してきた業界だ。別の種族の人から見たら全く訳わからないような商品が、一部の人には魅力的に感じられるーーある意味宗教っぽくもあるが、すごく理想的だ。信者ビジネスとか揶揄されてしまうこともあるが、お客さんがファンになり、ファンが信者になってくれるような商品やブランドでなくては、将来的には価値がなくなっていく。そういった意味でファッション業界はとても先鋭的で、今の時代に合っていると感じる。

WWD:多様な業種に携わる中で、今後ビジネスのカギとなるのは何だと思う?

箕輪:昨今“居場所”“溜まり場”みたいなものの需要を強く感じる。“食うために稼ぐ”のは辛くても、その目的があるだけ、実は幸せだ。将来、AIが仕事の多くを担う時代に突入し、食うために稼ぐことが不要な世界になったら、自分達のコミュニティーに貢献することに生きる意味を感じるのだと思う。金銭的なものを介さない価値の交換や、それぞれが自分に合った方法で貢献する“溜まり場”、すなわちコミュニティーが求められるだろう。例え話として「高級レストランか、バーベキューか」とよく挙げられるが、バーベキューは自分達で火をつけたり、肉を焼いたり、それぞれに役割があるからこそコミュニティーが生まれる。今回始める“古着バー”でも雇う店長やスタッフのアイデアを取り入れたり、お店側とお客さん側の垣根を超えて、みんなで“溜まり場”を作っていくバーベキュー型の店にしていきたい。

PHOTO:KAZUSHI TOYOTA

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箕輪厚介が手掛ける“古着バー”が5月にオープン コミュニティーが生まれる“溜まり場”に

PROFILE:齋藤秀行/メローカナリア代表(左) プロフィール

(さいとう・ひでゆき)古着屋「カナリ 中目黒」「カナリ 代々木八幡」「エブリシング イズ エブリシング下北沢」「カナリ 代々木上原」、カフェ「代々木上原 モナリザコーヒー」を展開

PROFILE:箕輪厚介/編集者、実業家(右) プロフィール

(みのわ・こうすけ)2010年双葉社に入社、ファッション誌の広告営業を経験後、編集者に転身。15年からは幻冬舎に入社し多数のヒット書籍を手掛ける傍ら、エクソダス代表取締役、キャンプファイヤーコミュニティーのチェアマンを務める。家系ラーメン店「箕輪家」、サウナホテル「サウナランド浅草」などのプロデュース業にも取り組む

数々のヒット書籍を生み出し、実業家やコメンテーターとして多岐にわたり活躍し続ける幻冬舎の箕輪厚介氏。2022年には家系ラーメン店「箕輪家」、サウナホテル「サウナランド浅草」をプロデュースし話題を呼んだ。編集者でありながらビジネスパーソンである彼の次なる照準は、意外にも“古着バー”の開業だと言う。手を組むのは、古着屋やカフェを経営するメローカナリア代表の齋藤秀行氏だ。“古着ブーム終焉”と言われる中、彼らが新たに古着ビジネスを始める理由とは?2人が考える生き残りの道筋を聞いた。

Xをきっかけに古着バー開業へ
初年売り上げ目標は5000万円

WWD:古着事業を始めようとしたきっかけは?

箕輪厚介(以下、箕輪):Xで私に顧問を依頼したい企業を募ったことがきっかけだ。複数の問い合わせがあった中で、古着屋のオーナーである齋藤さんの問い合わせが目についた。私は古着に詳しくはないが、好きなものに対してこだわりを持って語っている人に惹かれる。実際にYouTubeで「ハルキの古着」「さらば森田の五反田ガレージ」など古着コンテンツを見るのが好きだったから、齋藤さんの声掛けはうれしかった。

齋藤秀行(以下、齋藤):閉業予定の古着屋「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」の物件は、借りたのがコロナ禍だったことから、今の下北沢では考えられないほど家賃が安い。手放すのは勿体無いし、他にも古着屋を経営していることから、この物件では少しチャレンジしてみたいと思った。ファッション界隈の多くの人は、箕輪さんの人を“お金の人”と少し冷めた感覚で見ていると思うし、古着の世界では“売れない方が美しい”みたいなムードも感じる。しかし私達だって、表ではお金のことを話さなくても売り上げが立てばうれしい。“古着ブーム終焉”と言われる中、私自身もこのブームは絶対に終わると考えている。古着業界にとって厳しい時代が来るからこそ、「何か新しい世界が作れたら」と言う気持ちで、あえて“お金っぽさ”を感じる箕輪さんに顧問を依頼した。私自身もアパレルだけではなく、コーヒー屋を展開したりなどさまざまな事業を行う部分で、マルチに活躍する彼の考え方に共感できた。

箕輪:まずは5月から1年間で5000万円、そこから徐々に1億円を目指す。古着に限らないが、あらゆるブームは5〜7割が本当に好きな人、2〜3割ぐらいが“にわか”、3割ぐらいが投機目的、と言ったバランスによってブームになっている。投機があることによってムーブメントになっていることは間違いないが、その割合が多くなると本来のファン達が離れていき、やがて投機する人もいなくなる。これこそバブルが弾ける瞬間だ。ビジネスとしてただカルチャーに乗ろうとすると、バブルが弾けた時に生き残れないだろう。

コンセプトは“ネオスナック”
お酒を飲みながら古着を買える空間に

WWD:オープン予定日や店のコンセプトは?

齋藤:4月7日まで現在の「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」を運営し、その店舗をリニューアルする形で5月1日にオープンする予定。まだ店舗名は決まっていないし、店長も募集中だ。

箕輪:古着に関する知見が無い私がただ古着屋をやっても、それこそ“時代のブームに乗っかっただけ”みたいな形になってしまうだろう。今38歳の私も含め、普段港区で飲んでいるような40代の人達も下北沢に来ると落ち着くし、ワクワクする。かと言って古着を買うためだけに来るというのは少しハードルが高いし、バーのような雰囲気にしたいと考えた。今流行している、いわゆる“ネオスナック”のようなイメージだ。90年代の懐かしさを感じる空間で、同じ世界観を持つ古着を展開したい。お酒が飲めて、語り合って、その場にある服も買えるーーつい何となく行ってしまうような場所になるのが理想である。実際に私も飲みに行くし、時には“1日店長”として店に立つ予定だ。

WWD:店長にはどのような人材を採用予定?

箕輪:自分がサウナを経営する中で、流行に乗って開業した店舗のほとんどは、ブームが落ち着いた頃になくなっていくのを肌で感じた。だから古着に関しても、私の“好きレベル”ではきっとダメになってしまう。そのため当初は「古着大好き!」みたいな知見のある人を店長として立てて、その人にフルベットして好きなようにやってもらおうとしたが、そう簡単に良い人材は見つからない。そこで「ファッションもコミュニティーなのでは」と考えた。ファッションが好きな人は、自分の好きな価値観や人との繋がりを共有するユニフォームのように服を選んでいる。そういった視点で考えれば、私が手掛ける書籍やラーメン、サウナ、オンラインサロンも基本的にはコミュニティービジネスで、自分が得意とする分野だ。その文脈で言うと、知識がなくてもファッションを楽しんでいて、気持ちの良い接客ができて、一緒に作っていくという意識が持てる人が理想だ。私のラーメン屋は家系ラーメンから始まったが、次に二郎系ラーメンを売り始めて今とても人気がある。業界的には家系の店が二郎系を出すのは邪道らしいが、箕輪家の店長はラーメン業界の人ではないし、ある意味斬新な発想で始められた。そんなふうに、固定概念に縛られていない人の方が面白いことができると考えている。

WWD:商品の買い付けは誰が行う?

箕輪:店長が決まり次第、店長と私、齋藤さんで買い付けに行きたいと思っている。最初の買付先はタイだ。

齋藤:タイは、今世界で1番古着が集まっている国。アメリカやヨーロッパの古着が集まっていて、最近の古着の多くはタイの業者が仕掛けている。パキスタンにも古着は多いが、一般的にはアクセスがしにくい国だからこそ、パキスタンの業者もタイに卸に来るほどだ。昔は一部の人しか知らなかったが、今はどんな人でも買い付けに行きやすい環境になった。

箕輪:知人がちょうどタイに移住するのと、キックボクシングをやっているのもあり、ムエタイ合宿もしたいなと思っていて(笑)。買い付けと言っても、私は何を選べば良いかわからない。でもみんなで一緒に買い付けに行って、みんなで売るというストーリーがこれからの時代は大事なんだと思う。

WWD:古着バーの次に挑戦したい事業は?

箕輪:いつもその場で「これやりましょう」と話が決まることが多く、思った時点でスタートする。だからこそ、今の時点で次に考えていることは特にない。とは言え、鈴木おさむさんの引退を身近で見ていて、「変わったことをやりたい」と改めて感じた。普遍的に続くものを作りたいとは思わないが、将来過去を振り返った時に「よく分からなかったけど一時期そういうブームあったよね」みたいな現象を生みたい。古着バーにしても、下北沢で他の人達が真似してやり始めるような流れになると理想的だ。

ファッション誌の広告営業やブランド企画への出演も
箕輪氏が見るファッション業界の可能性

WWD:箕輪さん自身は普段、どのように服を選んでいる?

箕輪:一時期はペンキで服にペイントするのにハマってペンキばかり買ったり、“たけしセーター”にハマったり、本当に訳のわからない買い物をしていると思う(笑)。少し前はグレーのスエットにハマっていて、メルカリで“グレー”“スエット”で検索をして買い集めていた。その時にたまたま買った「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」のスエットをよく着ていたら、ブランドの関係者から人伝で「箕輪さんは『ヒューマンメイド』が好きなんですか」と聞かれて。「グレーのスエットだから」という理由で買っただけだったから、本当に恥ずかしかった(笑)。

WWD:ファッション企画に起用されることもあるが、自身はどのように感じている?

箕輪:これまでにビームスやエストネーションが企画で私を起用してくれたことがある。ファッション好きな人達がなぜ私を起用するのか不思議だったが、ビームスの設楽洋社長が言うには「ファッションというのは片方で“それは違うでしょ”と否定されるようなことをやり、もう片方で“わかっているな”とお客さんが共感し喜ぶこと、両方をやらないとすぐにダサくなり、批判される」のだそうだ。きっと僕を起用する企業は既存のイメージを壊したいとか、変わったイメージをつけたいのだろう。

WWD:ファッション誌の広告営業の経歴を持つ箕輪さんが、ファッション業界に関して思うことは?

箕輪:そもそも、ファッション業界そのものが独特で、ビジネスとしてすごく今っぽい。今は品質や実用性のみで買うことがなくなってきている時代だ。その中で多くの企業が商品そのものの意味を考えたり、熱量の高いコミュニティーを作ろうとしているが、ファッション業界は昔から商品のストーリーや表現、コミュニティーを追求してきた業界だ。別の種族の人から見たら全く訳わからないような商品が、一部の人には魅力的に感じられるーーある意味宗教っぽくもあるが、すごく理想的だ。信者ビジネスとか揶揄されてしまうこともあるが、お客さんがファンになり、ファンが信者になってくれるような商品やブランドでなくては、将来的には価値がなくなっていく。そういった意味でファッション業界はとても先鋭的で、今の時代に合っていると感じる。

WWD:多様な業種に携わる中で、今後ビジネスのカギとなるのは何だと思う?

箕輪:昨今“居場所”“溜まり場”みたいなものの需要を強く感じる。“食うために稼ぐ”のは辛くても、その目的があるだけ、実は幸せだ。将来、AIが仕事の多くを担う時代に突入し、食うために稼ぐことが不要な世界になったら、自分達のコミュニティーに貢献することに生きる意味を感じるのだと思う。金銭的なものを介さない価値の交換や、それぞれが自分に合った方法で貢献する“溜まり場”、すなわちコミュニティーが求められるだろう。例え話として「高級レストランか、バーベキューか」とよく挙げられるが、バーベキューは自分達で火をつけたり、肉を焼いたり、それぞれに役割があるからこそコミュニティーが生まれる。今回始める“古着バー”でも雇う店長やスタッフのアイデアを取り入れたり、お店側とお客さん側の垣根を超えて、みんなで“溜まり場”を作っていくバーベキュー型の店にしていきたい。

PHOTO:KAZUSHI TOYOTA

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箕輪厚介が手掛ける“古着バー”が5月にオープン コミュニティーが生まれる“溜まり場”に

PROFILE: (左)齋藤秀行/メローカナリア代表(右)箕輪厚介/編集者、実業家

(左)齋藤秀行/メローカナリア代表(右)箕輪厚介/編集者、実業家<br />
PROFILE: 齋藤秀行(さいとう・ひでゆき)古着屋「カナリ 中目黒」「カナリ 代々木八幡」「エブリシング イズ エブリシング下北沢」「カナリ 代々木上原」、カフェ「代々木上原 モナリザコーヒー」を展開 箕輪厚介(みのわ・こうすけ)2010年双葉社に入社、ファッション誌の広告営業を経験後、編集者に転身。15年からは幻冬舎に入社し多数のヒット書籍を手がける傍ら、エクソダス代表取締役、キャンプファイヤーコミュニティーのチェアマンを務める。家系ラーメン店「箕輪家」、サウナホテル「サウナランド浅草」などのプロデュース業にも取り組む

数々のヒット書籍を生み出し、実業家やコメンテーターとして多岐にわたり活躍し続ける幻冬舎の箕輪厚介氏。2022年には家系ラーメン店「箕輪家」、サウナホテル「サウナランド浅草」をプロデュースし話題を呼んだ。編集者でありながらビジネスパーソンである彼の次なる照準は、意外にも“古着バー”の開業だと言う。手を組むのは、古着屋やカフェを経営するメローカナリア代表の齋藤秀行氏だ。“古着ブーム終焉”と言われる中、彼らが新たに古着ビジネスを始める理由とは?2人が考える生き残りの道筋を聞いた。

Xをきっかけに古着バー開業へ
初年売り上げ目標は5000万円

WWD:古着事業を始めようとしたきっかけは?

箕輪厚介(以下、箕輪):Xで私に顧問を依頼したい企業を募ったことがきっかけだ。複数の問い合わせがあった中で、古着屋のオーナーである齋藤さんの問い合わせが目についた。私は古着に詳しくはないが、好きなものに対してこだわりを持って語っている人に惹かれる。実際にYouTubeで「ハルキの古着」「さらば森田の五反田ガレージ」など古着コンテンツを見るのが好きだったから、齋藤さんの声掛けはうれしかった。

齋藤秀行(以下、齋藤):4月7日に閉業した古着屋「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」の物件は、借りたのがコロナ禍だったことから、今の下北沢では考えられないほど家賃が安い。手放すのは勿体無いし、他にも古着屋を経営していることから、この物件では新たなチャレンジをしてみたいと思った。ファッション界隈の多くの人は、箕輪さんの人を“お金の人”と少し冷めた感覚で見ていると思うし、古着の世界では“売れない方が美しい”みたいなムードも感じる。しかし私達だって、表ではお金のことを話さなくても売り上げが立てばうれしい。“古着ブーム終焉”と言われる中、私自身もこのブームは絶対に終わると考えている。古着業界にとって厳しい時代が来るからこそ、「何か新しい世界が作れたら」と言う気持ちで、あえて“お金っぽさ”を感じる箕輪さんに顧問を依頼した。私自身もアパレルだけではなく、カフェを展開したりなどさまざまな事業を行う部分で、マルチに活躍する彼の考え方に共感できた。

箕輪:まずは5月から1年間で5000万円、そこから徐々に1億円を目指す。古着に限らないが、あらゆるブームは5〜7割が本当に好きな人、2〜3割ぐらいが“にわか”、3割ぐらいが投機目的、と言ったバランスによって成り立つ。投機があることによってムーブメントになっていることは間違いないが、その割合が多くなると本来のファン達が離れていき、やがて投機する人もいなくなる。これこそバブルが弾ける瞬間だ。ビジネスとしてただカルチャーに乗ろうとすると、バブルが弾けた時に生き残れないだろう。

コンセプトは“ネオスナック”
お酒を飲みながら古着を買える空間に

WWD:オープン予定日や店のコンセプトは?

齋藤:「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」の店舗をリニューアルする形で、5月1日に“古着バー”をオープンする。まだ店舗名は決まっていないし、店長も募集中だ。

箕輪:古着に関する知見が無い私がただ古着屋をやっても、それこそ“時代のブームに乗っかっただけ”みたいな形になってしまうだろう。今38歳の私も含め、普段港区で飲んでいるような40代の人達も下北沢に来ると落ち着くし、ワクワクする。かと言って古着を買うためだけに来るというのは少しハードルが高いし、バーのような雰囲気にしたいと考えた。今流行している、いわゆる“ネオスナック”のようなイメージだ。90年代の懐かしさを感じる空間で、同じ世界観を持つ古着を展開したい。お酒が飲めて、語り合って、その場にある服も買える――つい何となく行ってしまうような場所になるのが理想である。実際に私も飲みに行くし、時には“1日店長”として店に立つ予定だ。

WWD:現在店長を募集中だが、どのような人材を採用予定?

箕輪:自分がサウナを経営する中で、流行に乗って開業した店舗のほとんどは、ブームが落ち着いた頃になくなっていくのを肌で感じた。だから古着に関しても、私の“好きレベル”ではきっとダメになってしまう。そのため当初は「古着大好き!」みたいな知見のある人を店長として立てて、その人にフルベットして好きなようにやってもらおうとしたが、そう簡単に良い人材は見つからない。そこで「ファッションもコミュニティーなのでは」と考えた。ファッションが好きな人は、自分の好きな価値観や人との繋がりを共有するユニフォームのように服を選んでいる。そういった視点で考えれば、私が手がける書籍やラーメン、サウナ、オンラインサロンも基本的にはコミュニティービジネスで、自分が得意とする分野だ。その文脈で言うと、知識がなくてもファッションを楽しんでいて、気持ちの良い接客ができて、一緒に作っていくという意識が持てる人が理想だ。私のラーメン屋は家系ラーメンから始まったが、次に二郎系ラーメンを売り始めて今とても人気がある。業界的には家系の店が二郎系を出すのは邪道らしいが、箕輪家の店長はラーメン業界の人ではないし、ある意味斬新な発想で始められた。そんなふうに、固定概念に縛られていない人の方が面白いことができると考えている。

WWD:商品の買い付けは誰が行う?

箕輪:店長が決まり次第、店長と私、齋藤さんで買い付けに行きたいと思っている。最初の買付先はタイだ。

齋藤:タイは、今世界で1番古着が集まっている国。アメリカやヨーロッパの古着が集まっていて、最近の古着の多くはタイの業者から仕入れられている。パキスタンにも古着は多いが、一般的にはアクセスがしにくい国だからこそ、パキスタンの業者もタイに卸に来るほどだ。昔は一部の人しか知らなかったが、今はどんな人でも買い付けに行きやすい環境になった。

箕輪:知人がちょうどタイに移住するのと、キックボクシングをやっているのもあり、ムエタイ合宿もしたいなと思っていて(笑)。買い付けと言っても、私は何を選べば良いかわからない。でもみんなで一緒に買い付けに行って、みんなで売るというストーリーがこれからの時代は大事なんだと思う。

WWD:古着バーの次に挑戦したい事業は?

箕輪:いつもその場で「これやりましょう」と話が決まることが多く、思った時点でスタートする。だからこそ、今の時点で次に考えていることは特にない。とは言え、鈴木おさむさんの引退を身近で見ていて、「変わったことをやりたい」と改めて感じた。普遍的に続くものを作りたいとは思わないが、将来過去を振り返った時に「よく分からなかったけど一時期そういうブームあったよね」みたいな現象を生みたい。“古着バー”にしても、下北沢で他の人達が真似してやり始めるような流れになると理想的だ。

ファッション誌の広告営業経験やブランド企画の出演も
箕輪氏が見るファッション業界の可能性

WWD:箕輪さん自身は普段、どんな服を選んでいる?

箕輪:一時期はペンキで服にペイントするのにハマってペンキばかり買ったり、“たけしセーター”に夢中になったり、本当に訳のわからない買い物をしていると思う(笑)。少し前はグレーのスエットが好きで、メルカリで“グレー”“スエット”で検索をして買い集めていた。その時にたまたま買った「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」のスエットをよく着ていたら、ブランドの関係者から人伝で「箕輪さんは『ヒューマンメイド』が好きなんですか」と聞かれて。「グレーのスエットだから」という理由で買っただけだったから、本当に恥ずかしかった(笑)。

WWD:過去にはファッション企業の企画に起用されたが、自身はどのように感じている?

箕輪:これまでにビームスやエストネーションが企画で私を起用してくれたことがある。ファッション好きな人達がなぜ私を起用するのか不思議だったが、ビームスの設楽洋社長が言うには「ファッションというのは片方で“それは違うでしょ”と否定されるようなことをやり、もう片方で“わかっているな”とお客さんが共感し喜ぶこと、両方をやらないとすぐにダサくなり、批判される」のだそうだ。きっと僕を起用する企業は既存のイメージを壊したいとか、変わったイメージをつけたいのだろう。

WWD:ファッション誌の広告営業の経歴を持つ箕輪さんは、ファッション業界をどのように見ている?

箕輪:そもそも、ファッション業界そのものが独特で、ビジネスとしてすごく今っぽい。今は品質や実用性のみで買うことがなくなってきている時代だ。その中で多くの企業が商品そのものの意味を考えたり、熱量の高いコミュニティーを作ろうとしているが、ファッション業界は昔から商品のストーリーや表現、コミュニティーを追求してきた業界だ。別の種族の人から見たら全く訳わからないような商品が、一部の人には魅力的に感じられる――ある意味宗教っぽくもあるが、すごく理想的だ。信者ビジネスとか揶揄されてしまうこともあるが、お客さんがファンになり、ファンが信者になってくれるような商品やブランドでなくては、将来的には価値がなくなっていく。そういった意味でファッション業界はとても先鋭的で、今の時代に合っていると感じる。

WWD:多様な業種に携わる中で、今後ビジネスのカギとなるのは何だと思う?

箕輪:昨今“居場所”“溜まり場”みたいなものの需要を強く感じる。“食うために稼ぐ”のは辛くても、その目的があるだけ、実は幸せだ。将来、AIが仕事の多くを担う時代に突入し、食うために稼ぐことが不要な世界になったら、自分達のコミュニティーに貢献することに生きる意味を感じるのだと思う。金銭的なものを介さない価値の交換や、それぞれが自分に合った方法で貢献する“溜まり場”、すなわちコミュニティーが求められるだろう。例え話として「高級レストランか、バーベキューか」とよく挙げられるが、バーベキューは自分達で火をつけたり、肉を焼いたり、それぞれに役割があるからこそコミュニティーが生まれる。今回始める“古着バー”でも雇う店長やスタッフのアイデアを取り入れたり、お店側とお客さん側の垣根を超えて、みんなで“溜まり場”を作っていくバーベキュー型の店にしていきたい。

PHOTO:KAZUSHI TOYOTA

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成分ブームの火付け役「オーディナリー」CEOに聞く、カルト的人気の裏側

エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES以下、ELC)傘下のカナダの化粧品会社デシエム(DECIEM)が展開するスキンケアブランド「オーディナリー(THE ORDINARY)」が日本に上陸する。「アットコスメ トーキョー(@COSME TOKYO)」および「アットコスメ オーサカ(@COSME OSAKA)」をはじめ全国の「アットコスメ」約20店舗と、オンラインストア「アットコスメ ショッピング(@COSME SHOPPINNG)」で5月29日に発売する。

同ブランドは成分濃度や配合、価格設定、有効性に関して高い透明性を目指し広告費やパッケージにコストをかけないことで知られ、ヒーロー商品に多機能セラム“ナイアシンアミド10%+亜鉛1%”(30mL、1100円/60mL、1980円)などがある。2016年誕生の新興ブランドながら瞬く間に世界中で熱狂的なファンを獲得。17年にELCがデシエムに最初の投資を行い、21年には10億ドル(約1510億円)で過半数株式を取得した。当時の企業価値評価額は22億ドル(約3322億円)と、ELCにとって(企業価値評価額ベースで当時)過去最大の買収となり話題を呼んだ。来日したニコラ・キルナー(Nicola Kilner)=デシエムCEO兼共同創業者に急成長の裏側を聞いた。

フラストレーションから
生まれたブランド

WWD:「オーディナリー」誕生の背景は?

ニコラ・キルナー=デシエムCEO兼共同創業者(以下、キルナー):2013年に、自社で処方開発から製造、デザイン、クリエイティブまでを行うインキュベーターとしてデシエムを設立した。デシエムはラテン語で数字の10を意味し、さまざまなブランドを立ち上げ始めた。その中で、私たちは大きなフラストレーションと対峙していた。というのも、化粧品業界では商品名にグロー美容液などジェネリック(一般的、総称的)な名称が使われており、その状況で消費者が品質を理解するのは難しく、もっと透明性が必要であると強く感じていたからだ。私たちは化粧品が効くかどうかを決めるのは価格ではないと強く信じていたので、配合成分を商品名に反映するなどしてなんとか自分たちの手で化粧品業界に透明性をもたらしたいと考え、16年に「オーディナリー」が誕生した。

WWD:ローンチして瞬く間に熱狂的なファンがつき、世界的に知られるブランドになった。現在は何カ国で展開している?

キルナー:ウェブサイトを通じて世界中に出荷しており、162の国と地域をカバーしている。北米とヨーロッパのほとんどの国、韓国にも拠点があり、南アフリカやインドでは直営店も展開する。ビジネスの規模としてはアメリカが最大で、非常に大きな成功を収めている。新興市場ではインドと韓国が良い兆しを見せており、将来的に大きな期待が持てるだろう。日本も、高品質なスキンケアと成分に対して情熱的な消費者がいるため大変楽しみにしている。

ELCは製造やサプライチェーン、新規市場への参入をサポートしてくれている。北米のような市場では、私たち自身のチームがオフィスを構えており、ビジネスの大部分が私たちのチームによるものだが、特にオペレーション面や、インド、南アフリカ、日本など新規市場ではELCのサポートが大きな助けになっている。私たちは全商品の製造をカナダにある自社ラボで行っているため、スケールアップするためにサプライチェーンやさまざまなサプライヤー確保の面で専門的な助けが必要だった。

ソーシャルメディアの台頭が
急成長の追い風に

WWD:北米、特にアメリカで大きな成功を収めた要因は?

キルナー:まずはディストリビューションパートナーの寄与が大きい。また、米国のお客さまは非常にパワフルな情熱を持っており、それに支えられて消費者と良い関係性を築けたこともある。北米では特にTikTokの影響が非常に大きく、そのコミュニティー内では消費者が彼らのストーリーや信念、ブランドや商品の使い方をシェアしあっている。Z世代におけるソーシャルメディアの台頭が北米市場における成功に導いた。

WWD:ヨーロッパの商況は?

キルナー:継続的に良い状況にある。特にイギリスは市場シェアのランキングを上げながら順調に拡大している。ハロッズ(HARROD'S)やセルフリッジ(SELFRIDGES)など高級百貨店にコーナーを持つ一方で、気軽にアクセスできるECチャネルまで非常に幅広い流通網で展開している。そのほかのヨーロッパ諸国はセフォラ(SEPHORA)とダグラス(DOUGLAS)が主要なパートナーだが、直営店も展開し、オンライン、百貨店とも提携している。

WWD:今回、日本市場への参入を決めた経緯は?

キルナー:日本市場へは何年も前から参入を考えていたが、ブランドを立ち上げてすぐにソーシャルメディアを通じてあっという間にグローバルな需要を獲得したことが困難の1つになった。また、新規市場に参入するにあたり化粧品の登録手続きにも時間を要した。パンデミック後、私たちは日本を常に最優先市場の1つと位置付け進めてきた。

世界的な”成分ブーム”をけん引

WWD:日本では近年、化粧品購入の際に配合成分を重視する“成分ブーム”が起きている。そのことは知っていた?

キルナー:そうしたトレンドが続いていることを非常にうれしく思っている。「オーディナリー」を立ち上げたのは16年の後半で、その頃はビタミンCやヒアルロン酸などの成分は一般消費者にも浸透していたが、われわれが商品名につけているナイアシンアミドなどはまだなじみがなかった。グーグルトレンド(Google Trends)の推移を見ると、そうしたマイナーだった成分が「オーディナリー」のローンチと時を同じくして伸びているのが分かる。消費者が成分に関する知識を得て、より賢明な判断ができるようになったのは素晴らしいことだ。

WWD:“成分ブーム”は中国や韓国でも数年前から大きなトレンドになっている。グローバルでも同じ状況か?

キルナー:北米やヨーロッパをはじめ世界中でこのトレンドは数年続いており、その勢いが衰える気配はない。過去数年間を振り返ると、グリコール酸が急上昇トレンドになったこともあるし、ペプチドがトレンドになったこともある。成分によってピークはずれるが、とにかく消費者が一貫して成分に着目していることは間違いない。北米やヨーロッパではトレンドというよりスキンケアへの新たな理解が深まったとみることもできる。それは非常にサステナブルなことだ。

WWD:ブランド立ち上げ前から成分トレンドの芽は感じていた?

キルナー:グーグルトレンドの推移を見るとはっきり分かるが、私たちが成分美容を打ち出してブランドを立ち上げた後、それに追随するブランドが出てきて、成分ブームのトレンドが強まっていったと分析している。ブランド立ち上げから7年が経ったが、その間、成分トレンドという追い風が衰えないのは驚くべきことだ。私たちの商品を愛してくれる消費者やプレス、そしてソーシャルメディアなどの力により加速したものでとても感謝している。愛用者が口コミで家族や友人に商品や体験を日々伝えてくれており、追い風はよりパワフルになっている。

WWD:日本では、アットコスメというセミセルフ型の実店舗から販売をスタートするが、グローバルでは主要な販路としてどこにフォーカスしている?

キルナー:消費者がどこで買い物をしているかに注目しがちだが、「オーディナリー」の良いところは年齢やジェンダーを問わないことだ。私たちは「オーディナリー」が全ての人たちのための商品だと信じているため、より幅広い販路を考えることができる。ブランドストーリーをきちんと伝えられるかを重視してパートナーを見つけている。グローバルでは高級化粧品を扱うセフォラ(SEPHORA)や同様の小売店と良いパートナーシップを築いているが、各マーケットのメインプレーヤーであり、ブランドストーリーを伝えられる最適な場を探す。日本ではアットコスメがブランド立ち上げの場として完璧だった。

ウェブ上の処方ビルダーで
教育機会を提供

WWD:消費者が商品を自分でカスタマイズして使う特性上、日本でも百貨店のカウンターでカウンセリングを受けたいニーズがあると思うがそうした選択肢は?

キルナー:もちろん百貨店に出店したいし、いつかは東京に直営店を持ちたい。先行して展開する海外では、ブランドのウェブサイトで「レジメン(処方)ビルダー」と呼ぶ商品の使用法や併用に関するガイドを見られるようにしている。また、LINEアプリとも提携し、消費者にエデュケーションの機会を提供するほか、インスタグラムなどのソーシャルメディアを通じて徹底したエデュケーションを提供するとともにコミュニケーションを図っている。店頭ではお客さまがスマートフォンを手にTikTokのレビューやブランドサイトの「レジメンビルダー」を見ているのをよく見かける。店頭で商品を手に取りながらオンライン上の自分の情報にアクセスしており、ニーズをカバーできているのではないか。

小売業者に対しても同様のエデュケーションを提供し、ブランド側のスタッフが小売側に入ることが許可されれば、チームメンバーが小売店に入ることもある。世界中のどの店舗に行っても、消費者体験の観点で、私たちのチームが提供する教育レベルが驚くほど高いことを理解いただけるだろう。この点でさらに存在感を示していきたい。

WWD:「オーディナリー」はSNSのフォロワー数がインスタグラムで約241万人、TikTokで約152万人(2024年4月時点)と新興美容ブランドの中でもトップレベルだ。その要因は?

キルナー:一番は商品力だ。私たちはとにかく化粧品を手に取る際の障壁を減らすことに力を注いでいるため、消費者は使いやすいと感じているだろう。手に入れやすい価格設定にも関わらず、ブランドのポジショニングはクールで今っぽく高級感があり、お客さまは「オーディナリー」を使っていることをシェアするのに誇りを感じている。同様の価格帯の他ブランドのように大衆的な商品を使っている感覚はないだろう。

多くの消費者、特にZ世代やミレニアル世代のお客さまは、個人的な価値観と企業の価値観が一致しているブランドから商品を購入したがっている。「オーディナリー」は人や地球、動物に対するアプローチについてかなりオープンなので、人々は私たちの信念についていこうと思うだろう。私たちはどの投稿においても、声を上げる時は常に「オーディナリー」のコミュニティーの大多数の声を反映していると思っている。だから人々は引き込まれる。そして実際に商品を使って違いを感じることにより、高いエンゲージメントを維持し、周りにも勧める。価格設定に関しては、買いやすさを最優先するとともに、各国でほぼ価格差がないようにこだわっている。

価格はマスブランド
売り場はラグジュアリー

WWD:ベンチマークしているブランドは?

キルナー:「オーディナリー」のポジショニングは非常にユニークで、私たち自身が他ブランドと比べることをしていないため答えるのが非常に難しい。というのも、「オーディナリー」は価格の面ではマスブランドだが、売り場はラグジュアリーやプレステージとされる場が合っている。私たちは価格でラグジュアリーを定義することはできないと信じており、「オーディナリー」は新しいカテゴリーに位置していると思う。セフォラや、イギリスのハロッズやセルフリッジで初めて販売した時も、彼らは自分たちをプレステージの小売業者と考えているため「オーディナリー」の価格帯を気にしていた。プレミアムリテールにおいて商品の高価格化が進む状況の中、変化が見られたことはとても良いことだ。私はチームに対して、他社を意識しすぎると自分たちが特別な存在であることを見失ってしまうといつも伝えている。ただ、今回の来日で「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」のショップを訪れたが、そこからインスピレーションを得ることはできると思う。私は彼らのクリエイティビティーが大好きだ。

WWD:ブランドの目的の一つが化粧品業界の透明性を高めることだ。「オーディナリー」の存在は業界に影響を与えたか?

キルナー:そう願っている。私たちは化粧品業界の民主化に取り組み、大きな影響を与えたと感じている。とりわけ商品名、マーケティングにおける成分と科学の強調、研究室からのダイレクトの発信などにおいて、ほかのブランドに影響を与えることができたのではないか。また、科学に特化した重要な問題について自分たちの言葉で発信してきた結果、今では科学に対する議論の余地がある時、消費者が探している答えを持っているブランドとみなされているだろう。私たちは消費者に肌につけている化粧品とその利点について透明性を持って伝え、原材料を商品化し、価格を下げることを実現した。これからも謙虚な姿勢で透明性のある声を発信していきたい。

WWD:今後の成長戦略は?

キルナー:今年後半には日本の商品ラインアップを増やす予定だ。グローバルにおいても新商品の開発を予定している。また、360度視点のブランド体験を提供するポップアップイベントなども検討している。

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仏発のバッグブランド「アールエスヴイピー パリ」が初のポップアップ 若手の感性で伝統をモダンに

クイーポ(KUIPO)が2023年から独占輸入販売契約を結ぶフランス発のレザーバッグブランド「アールエスヴイピー パリ(RSVP PARIS)」が伊勢丹新宿本店本館1階で初のポップアップストアを出店中だ。会期は4月9日まで。17〜23日には阪急うめだ本店にも出店する。これに合わせ来日した創業メンバーの1人、ジョナサン・アンドレス(Jonathan Andres)に同ブランドの強みを聞いた。

強みは素材、品質、エクスクルーシビティー

同ブランドはパリを拠点とし、有名メゾンで経験を積んだ4人の若手が2015年にスタートした。「もともとみんなフランス・マレ地区に住む友人同士だった。立ち上げ当時、僕たちは25〜30代。フランスには卓越した技術を持つ伝統的なブランドがたくさんありすごく尊敬しているが、どれも自分たち若者に向けているとは感じられなかった。そこで僕らなりの若い視点でフランスらしい素材使いやサヴォアフェールを重んじたブランドを作りたいと考えた」とアンドレス。

LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン (LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)で生産管理に携わっていたアンドレスは知見を生かして素材調達や工場選定などを担う。レザーは主に「エルメス(HERMES)」傘下のタンナリーから調達し、革本来の表面感を生かすアニリン仕上げと呼ばれる手法を採用している。2つのゴールドのメタルパーツが特徴的な“ゴールデンアイ”シリーズを筆頭に、シンプルながらアイコニックなシルエットを作り上げるレザーのカッティング技術もこだわりだ。

なかでも一番の売れ筋は、小ぶりなワンハンドルバッグ“マンチキン”(8万9100円)。伊勢丹のポップアップイベントではこのほか、収納力の高いダブルコンパートメント仕様の“デュオ”(8万9100円)や花瓶から着想を得た“ローファイブ”(11万8800円)や牛乳パックから着想を得たボックス型のバケットバッグ“ミルクマン”(10万8900円)、カードケースなどのスモールレザーグッズなども並ぶ。

高品質ながら日本円で10万円前後の価格帯であることから、フランスや韓国では仕立ての良いレザーグッズを求める25〜35歳の若者たちを軸に顧客基盤を築いている。全て500個限定で生産し、それぞれにはシリアルナンバーを刻印するエクスクルーシビティーも支持される理由の1つだという。

アンドレスは「僕たちはみんな日本の大ファンだ。日本のファッションや職人技、生地、そしてもちろん食べ物も。特に今日本の人々は、ヨーロッパの新しいブランド開拓に関心が高いようだ。良いタイミングで日本に来られたと思う」と話す。

クイーポの岡田孔明クイーポ常務取締役営業本部本部長は「素材や仕立てのクオリティーは間違いないし、すでにイットバッグが確立している点も契約を結んだ理由だ。彼らとは“枯渇感”を大事にしようと話している。生産しすぎず、売り切れ御免のスタイルは今の流れにフィットしているはずだ」とコメント。今度はまずポップアップストアをベースに、百貨店内の常設店舗出店も狙うという。5月には期間限定で伊勢丹新宿本店本館のハンドバッグ売り場での販売も予定する。

■伊勢丹新宿店

日程:4月3〜9日
場所:伊勢丹新宿店本館1階 ハンドバッグ/プロモーションスペース
時間:午前10時~午後8時

■阪急うめだ本店

日程:4月17〜23日
場所:阪急うめだ本店 1階 バッグギャラリー プロモーションスペース12
時間:午前10時~午後8時

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仏発のバッグブランド「アールエスヴイピー パリ」が初のポップアップ 若手の感性で伝統をモダンに

クイーポ(KUIPO)が2023年から独占輸入販売契約を結ぶフランス発のレザーバッグブランド「アールエスヴイピー パリ(RSVP PARIS)」が伊勢丹新宿本店本館1階で初のポップアップストアを出店中だ。会期は4月9日まで。17〜23日には阪急うめだ本店にも出店する。これに合わせ来日した創業メンバーの1人、ジョナサン・アンドレス(Jonathan Andres)に同ブランドの強みを聞いた。

強みは素材、品質、エクスクルーシビティー

同ブランドはパリを拠点とし、有名メゾンで経験を積んだ4人の若手が2015年にスタートした。「もともとみんなフランス・マレ地区に住む友人同士だった。立ち上げ当時、僕たちは25〜30代。フランスには卓越した技術を持つ伝統的なブランドがたくさんありすごく尊敬しているが、どれも自分たち若者に向けているとは感じられなかった。そこで僕らなりの若い視点でフランスらしい素材使いやサヴォアフェールを重んじたブランドを作りたいと考えた」とアンドレス。

LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン (LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)で生産管理に携わっていたアンドレスは知見を生かして素材調達や工場選定などを担う。レザーは主に「エルメス(HERMES)」傘下のタンナリーから調達し、革本来の表面感を生かすアニリン仕上げと呼ばれる手法を採用している。2つのゴールドのメタルパーツが特徴的な“ゴールデンアイ”シリーズを筆頭に、シンプルながらアイコニックなシルエットを作り上げるレザーのカッティング技術もこだわりだ。

なかでも一番の売れ筋は、小ぶりなワンハンドルバッグ“マンチキン”(8万9100円)。伊勢丹のポップアップイベントではこのほか、収納力の高いダブルコンパートメント仕様の“デュオ”(8万9100円)や花瓶から着想を得た“ローファイブ”(11万8800円)や牛乳パックから着想を得たボックス型のバケットバッグ“ミルクマン”(10万8900円)、カードケースなどのスモールレザーグッズなども並ぶ。

高品質ながら日本円で10万円前後の価格帯であることから、フランスや韓国では仕立ての良いレザーグッズを求める25〜35歳の若者たちを軸に顧客基盤を築いている。全て500個限定で生産し、それぞれにはシリアルナンバーを刻印するエクスクルーシビティーも支持される理由の1つだという。

アンドレスは「僕たちはみんな日本の大ファンだ。日本のファッションや職人技、生地、そしてもちろん食べ物も。特に今日本の人々は、ヨーロッパの新しいブランド開拓に関心が高いようだ。良いタイミングで日本に来られたと思う」と話す。

クイーポの岡田孔明クイーポ常務取締役営業本部本部長は「素材や仕立てのクオリティーは間違いないし、すでにイットバッグが確立している点も契約を結んだ理由だ。彼らとは“枯渇感”を大事にしようと話している。生産しすぎず、売り切れ御免のスタイルは今の流れにフィットしているはずだ」とコメント。今度はまずポップアップストアをベースに、百貨店内の常設店舗出店も狙うという。5月には期間限定で伊勢丹新宿本店本館のハンドバッグ売り場での販売も予定する。

■伊勢丹新宿店

日程:4月3〜9日
場所:伊勢丹新宿店本館1階 ハンドバッグ/プロモーションスペース
時間:午前10時~午後8時

■阪急うめだ本店

日程:4月17〜23日
場所:阪急うめだ本店 1階 バッグギャラリー プロモーションスペース12
時間:午前10時~午後8時

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「ストリング ティング」が東京と福岡、名古屋でポップアップ デザイナーも来日

英ロンドン発のハンドメードストラップブランド「ストリング ティング(STRING TING)」が4月6日にヌビアン 虎ノ門、7日にヌビアン 渋谷でポップアップを開催した。9〜15日は福岡パルコ、20〜21日はヌビアン 名古屋でも行う予定だ。

2020年にチャリティー目的で立ち上げられた「ストリング ティング」は、BLACKPINKやデュア・リパ(Dua Lipa)ら、多くの海外のセレブリティーがSNSでシェアしたことから人気沸騰中だ。本ポップアップで新たに発売するバッグチャームは1万1000〜2万5300円)で、ポップアップでも好調な売れ行きだ。今回で2度目の来日となるカナダ・トロント出身のデザイナー、レイチェル・ミドルトン(Rachel Middleton)に話を聞いた。

WWD:今回の来日ではどこに行った?

レイチェル・ミドルトン「ストリング ティング」デザイナー(以下、レイチェル):今回は夫と6歳の娘と一緒に日本に来て、六本木に宿泊しています。昨日は下北沢にも行きました。それから浅草にも行き、日本人職人が作るシルバーのブレスレットを買いました。他にも最近はこけし人形にハマっていて、実はすでに20体も持っているんです!

WWD:本ポップアップで注目してほしいアイテムは?

レイチェル:全ての商品を愛しているので、1つに決めるのはとても難しいですね!強いて言うのであれば、色々な商品に使われているハートのパーツにとても誇りを持っています。このハートのパーツは私が「ストリング ティング」のためにデザインして作ったものなので、とても愛着があります。レジンで作られていて、とても丈夫です。私が幼い頃に、よく祖母がハートを描いてくれた思い出を形にしたので、とてもスペシャルなモチーフなんです。

WWD:新作のバッグチャームはどのようにコーディネートするのがおすすめ?

レイチェル:バッグにチャームをつけることは、その人のパーソナリティーをトッピングするようなものだと思っているので「人それぞれのムードやエナジーで楽しんでほしい」というのが正直な感想です。私は最近、こんなふうにドレープ状に複数のチャームをつけて楽しんでいますし、バッグだけではなくてブーツにつけるなど、その人ならではのコーディネートをぜひシェアしてくれたらうれしいです!

WWD:多くの商品に使われている日本産の「ミユキビーズ」はどのように知った?

レイチェル:「ストリング ティング」は、コロナ禍に私のリビングで作り始めたことから始めました。当時は外に素材を探しに行くことはできなかったので、グーグルで色々なことを調べていた時に広島県産の「ミユキビーズ」の存在を知りました。実際に取り寄せてみたところ、とても小さいのに全てのビーズが完璧に統一されたサイズで作られていて感動したのを今でも覚えています。

WWD:商品のデザインはどのように考えている?

レイチェル:ふと思い出した時に幸せな気分になるような、幼い頃の記憶がインスピレーション源になることが多いです。ハートやスマイル、雲のパーツは、そういった楽しい記憶から取り入れたものになります。

WWD:「ストリング ティング」の製作は何人規模のチームで行われている?

レイチェル:私がデザイナーとして全てのデザインを行い、これまでに900ものデザインを作ってきました。そしてロンドンのオフィスでは11人の女性が共に働いています。母親の女性もいれば、ヨガインストラクターやスタイリスト、俳優など、個性があふれるメンバーです。

WWD:今後新たにローンチ予定のアイテムは?

レイチェル:「ストリング ティング」を象徴するビーズの手描きプリントを施したバンダナを作る予定です。ブランドの延長線上にあるのは、チャームだけではなく、日常的なものを作ることだと思ってす。その商品が誰かを幸せにすることができれば私も幸せで、それこそ私の仕事なのです。

■「ストリング ティング」福岡パルコ ポップアップ
期間:4月9~15日
時間:10:00〜20:30
会場:福岡パルコ
住所:福岡県福岡市中央区天神2-11-1
※4月13日13:00~17:00デザイナー来店予定

■「ストリング ティング」ヌビアン 名古屋ポップアップ
期間:4月20~21日
時間:10:00〜21:00
会場:ヌビアン 名古屋
住所:福岡県福岡市中央区天神2-11-1

PHOTOS:MISA KUSAKABE

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「ストリング ティング」が東京と福岡、名古屋でポップアップ デザイナーも来日

英ロンドン発のハンドメードストラップブランド「ストリング ティング(STRING TING)」が4月6日にヌビアン 虎ノ門、7日にヌビアン 渋谷でポップアップを開催した。9〜15日は福岡パルコ、20〜21日はヌビアン 名古屋でも行う予定だ。

2020年にチャリティー目的で立ち上げられた「ストリング ティング」は、BLACKPINKやデュア・リパ(Dua Lipa)ら、多くの海外のセレブリティーがSNSでシェアしたことから人気沸騰中だ。本ポップアップで新たに発売するバッグチャームは1万1000〜2万5300円)で、ポップアップでも好調な売れ行きだ。今回で2度目の来日となるカナダ・トロント出身のデザイナー、レイチェル・ミドルトン(Rachel Middleton)に話を聞いた。

WWD:今回の来日ではどこに行った?

レイチェル・ミドルトン「ストリング ティング」デザイナー(以下、レイチェル):今回は夫と6歳の娘と一緒に日本に来て、六本木に宿泊しています。昨日は下北沢にも行きました。それから浅草にも行き、日本人職人が作るシルバーのブレスレットを買いました。他にも最近はこけし人形にハマっていて、実はすでに20体も持っているんです!

WWD:本ポップアップで注目してほしいアイテムは?

レイチェル:全ての商品を愛しているので、1つに決めるのはとても難しいですね!強いて言うのであれば、色々な商品に使われているハートのパーツにとても誇りを持っています。このハートのパーツは私が「ストリング ティング」のためにデザインして作ったものなので、とても愛着があります。レジンで作られていて、とても丈夫です。私が幼い頃に、よく祖母がハートを描いてくれた思い出を形にしたので、とてもスペシャルなモチーフなんです。

WWD:新作のバッグチャームはどのようにコーディネートするのがおすすめ?

レイチェル:バッグにチャームをつけることは、その人のパーソナリティーをトッピングするようなものだと思っているので「人それぞれのムードやエナジーで楽しんでほしい」というのが正直な感想です。私は最近、こんなふうにドレープ状に複数のチャームをつけて楽しんでいますし、バッグだけではなくてブーツにつけるなど、その人ならではのコーディネートをぜひシェアしてくれたらうれしいです!

WWD:多くの商品に使われている日本産の「ミユキビーズ」はどのように知った?

レイチェル:「ストリング ティング」は、コロナ禍に私のリビングで作り始めたことから始めました。当時は外に素材を探しに行くことはできなかったので、グーグルで色々なことを調べていた時に広島県産の「ミユキビーズ」の存在を知りました。実際に取り寄せてみたところ、とても小さいのに全てのビーズが完璧に統一されたサイズで作られていて感動したのを今でも覚えています。

WWD:商品のデザインはどのように考えている?

レイチェル:ふと思い出した時に幸せな気分になるような、幼い頃の記憶がインスピレーション源になることが多いです。ハートやスマイル、雲のパーツは、そういった楽しい記憶から取り入れたものになります。

WWD:「ストリング ティング」の製作は何人規模のチームで行われている?

レイチェル:私がデザイナーとして全てのデザインを行い、これまでに900ものデザインを作ってきました。そしてロンドンのオフィスでは11人の女性が共に働いています。母親の女性もいれば、ヨガインストラクターやスタイリスト、俳優など、個性があふれるメンバーです。

WWD:今後新たにローンチ予定のアイテムは?

レイチェル:「ストリング ティング」を象徴するビーズの手描きプリントを施したバンダナを作る予定です。ブランドの延長線上にあるのは、チャームだけではなく、日常的なものを作ることだと思ってす。その商品が誰かを幸せにすることができれば私も幸せで、それこそ私の仕事なのです。

■「ストリング ティング」福岡パルコ ポップアップ
期間:4月9~15日
時間:10:00〜20:30
会場:福岡パルコ
住所:福岡県福岡市中央区天神2-11-1
※4月13日13:00~17:00デザイナー来店予定

■「ストリング ティング」ヌビアン 名古屋ポップアップ
期間:4月20~21日
時間:10:00〜21:00
会場:ヌビアン 名古屋
住所:福岡県福岡市中央区天神2-11-1

PHOTOS:MISA KUSAKABE

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スタートアップ支援の「ケリング・ジェネレーション・アワード」が日本初開催 CSOが語る “破壊的イノベーション”の重要性

PROFILE: マリー=クレール・ダヴー/ケリング チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)兼渉外担当責任者 

マリー=クレール・ダヴー/ケリング チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)兼渉外担当責任者 
PROFILE: ジャン=ピエール・ラファラン元フランス首相の内閣のテクニカル・アドバイザーとしてキャリアをスタートさせた後、セルジュ・ルペルティエ元フランス環境・持続可能開発大臣の個人秘書に就任。2005年にはサノフィ・アベンティス・グループのサステナブル部門におけるディレクターに就任した。07年から12年まで、フランス環境・持続可能開発省などにおいて、当時の環境・持続可能開発・運輸住宅大臣、ナタリー・コシュースコ=モリゼのチーフスタッフを務めた。12年にケリングのチーフ・サステナビリティ・オフィサー兼国際機関渉外担当責任者に就任し、ケリングやグループのブランドのサステナビリティ戦略を担当。フランス国籍。パリ生命・食品・環境科学技術研究所(ENGREF)卒業。パリ・ドフィーヌ大学にて行政学の高等教育研究専門免状(DESS)を取得 PHOTO:©CAROLE BELLAICHE

「未来のラグジュアリーを創造する」をビジョンに掲げるケリング(KERING)は、サステナビリティ戦略の一環として、日本に事業拠点があるスタートアップ企業にした「ケリング・ジェネレーション・アワード(KERING GENERATION AWARD)」を初開催する。2018年に中国でスタートした同アワードの目的は、ラグジュアリー、ファッション、ビューティ分野における持続可能なイノベーションの加速させること。技術力の高さや革新性、環境・社会へのインパクト、ファッション・ビューティ業界での活用などを基準に選ばれた最優秀企業には賞金1000万円が贈られるほか、上位3社にはヨーロッパでの研修やネットワーキングの機会などが与えられる。現在公式ウェブサイトで応募を受け付け中で、4月8日には東京、10日には大阪でプログラムの説明会とローンチイベントも開催予定だ。日本での開催の理由やアワードにかける思いをマリー=クレール・ダヴー(Marie-Claire Daveu) チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)兼渉外担当責任者に聞いた。

破壊的イノベーションにはスタートアップ企業との連携が必要

WWD:「ケリング・ジェネレーション・アワード」をスタートした背景は?

マリー=クレール・ダヴー ケリングCSO兼渉外担当責任者(以下、ダヴー):何よりもまず、ケリングにとってサステナビリティは戦略の一貫だ。全てのファッション企業にとってサステナビリティはマストであり、それ抜きで事業を立ち上げたり発展させたりすることはできない。そして、たとえパラダイム(規範的な考え方)を変える準備ができていなかったとしても、私たちが取り組むあらゆる最善策をスケールアップする必要があると信じている。そのために欠かせないのが、イノベーションだ。そこには、クラシカルなイノベーションと破壊的イノベーションがあると考えている。クラシカルなイノベーションとは、例えば技術の力を生かしてリサイクルやアップサイクルをより大きな規模で行うこと。規模とスピードの問題だ。一方、破壊的イノベーションとは、微生物を使用したエコな染色技術など、研究室から生まれるようなもの。その実現には、スタートアップ企業と密接に協力し、革新にとって最も重要な場所からイノベーションを起こす必要がある。そこで、まずは私たちの拠点であるヨーロッパでの取り組みとして、13年に社内にマテリアル・イノベーション・ラボ(サステナブルな素材を追求する研究所)を新設したほか、17年にはアムステルダムを拠点にグローバル・イノベーション・プラットフォームのプラグ・アンド・プレイ(PLUG AND PLAY)と提携してアクセラレーター・プログラムを立ち上げた。

そんなヨーロッパでの活動と同じ精神で、アジアのスタートアップ企業と密接に連携することができないかと考えたのが、アワード開催のきっかけだ。先にスタートした中国では、たとえファッションやラグジュアリーの分野で直接ビジネスを行っていなくてもサステナビリティの分野で素晴らしい仕事をしている企業に出会い、感銘を受けた。そして昨夏に訪れた日本でも数々の興味深いスタートアップの起業家と交流し、日本でのアワード開催が素晴らしい機会になると確信した。というのも、日本にはラグジュアリーのサヴォアフェールや職人に対する深い理解があり、日本でもサステナビリティへの意識がますます高まっていることを感じているから。海に囲まれているという地理的背景から、海洋問題に向き合う革新的なアイデアを持ったスタートアップ企業もあると期待している。

WWD:日本初開催となる今回のメーンテーマは、「サステナブルファッション&ビューティ」。製品のライフサイクルにおける重要な段階である「代替原材料・素材」「製造工程」「リテール」「消費者エンゲージメント」という4つのサブテーマに取り組む企業を募集している。中国版よりも幅広い企業を対象にしている印象だが。

ダヴー:初開催となる今回は、まず日本のエコシステムとイノベーションについて理解を深める必要があると考えているためだ。もちろん、事前にさまざまなトピックに関するリサーチを行って知見を深めたが、それだけでは十分ではないと感じている。また、23年に新たにケリング ボーテが設立されたので、今回初めてビューティも対象になる。ただ、次回からはより具体的なテーマに焦点を絞ることになるだろう。

WWD:審査員には、フランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)=ケリング会長兼最高経営責任者(CEO)をはじめ、ラファエラ・コルナッジャ(Rafaella Cornaggia)=ケリング ボーテCEO、ティエリ・マルティ(Thierry Marty)=ケリング ノースおよびサウスイーストアジア プレジデント、ダヴーCSOが名を連ねる。また、日本の外部審査員も加わるというが、人選で意識したことは?

ダヴー:多様性のある審査員団を作ること。サステナビリティやファッション、ビューティーからビジネスや財務、技術、学術まで異なる専門知識や背景を持った人を選んでいる。ケリングは男女平等の促進にも注力しているので、もちろん男女のバランスも大切だ。

賞金1000万円よりも価値のあるもの

WWD:最優秀企業には賞金1000万円が贈られる。その使途にルールはあるのか?

ダヴー:いいえ、ない。「最優秀」に選ばれるというのは、私たちがそのビジネスモデルや事業開発計画を信頼しているから。もちろん資金はスタートアップ企業にとって重要な要素だと思う。ただ、それ以上に彼らにとって価値があるのはビジビリティーとネットワーク、そして相互交流だろう。「ケリング・ジェネレーション・アワード」では選考を勝ち抜いたファイナリスト10社を対象に集中支援コースを実施する。そのため、受賞する上位3社に選ばれなくても、他の人たちの目に触れ、そこから新たな人脈や支援につながることもある。

WWD:上位3社には、パリで開催される地球の問題解決に取り組むチェンジメーカーが集う大型イベント「チェンジナウ(ChangeNOW)」への出展やケリング・グループのファッションおよびビューティネットワークとのミーティングの機会も与えられる。

ダヴー:「チェンジナウ」のようなイベントは、潜在投資家や他企業の経営幹部をはじめ、革新的なアイデアを売り込める人々と出会い、ビジネスを発展させることができる場になる。そして、他のスタートアップ企業やインフルエンサーなどとの交流によって、直接的なビジネスの関係ではなくともビジビリティーを高めることもできるだろう。また、ケリングとの取り組みを通じて、彼らはイノベーションやソリューションのスケールアップを実現可能だ。アワードで選出する時点で正確に将来どうなるかは分からないし、それぞれの企業の成長ステージは異なる。なので、私たちは短期的ではなく継続的に連絡を取り合い、彼らがさまざまな可能性を開花できるよう努めている。

WWD:一方、ケリングにとってアワードを開催するメリットは?

ダヴー:第一に、破壊的イノベーションこそ、ケリングが目標を達成するためのカギを握っているという事実がある。そのため、あらゆる面でサステナブルなイノベーションを後押しし、私たちが実行可能な革新的ソリューションを見出すことが必要だ。そして、ケリングはサステナビリティとイノベーションで高く評価されるようになったが、全てのイノベーションを自分たちだけで独占せず、他の企業が活用することを促している。私たちが見出した革新的なアイデアを他社が採用するのは、私たちにとってはこの上なく幸せなことだ。

WWD:中国版の歴代受賞者のアイデアをケリングの事業や活動に採用した具体例はあるか?

ダヴー:事業に採用された例は、現時点ではまだない。というのも、イノベーションは常にとても複雑だから。私たちが手掛けているのはラグジュアリーなアイテムであり、スタートアップ企業にもラグジュアリーの基準をクリアしていることを求める。それは、なかなかチャレンジングなことだ。例えば、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」はキノコの菌糸から作られるマッシュルームレザーを使ったことがあるが、商品化には改良を重ねる必要があった。逆を言えば、ケリングのようなラグジュアリー企業と取り組むことで、スタートアップ企業は自らのスタンダードを大幅に引き上げることができる。

WWD:日本でのアワードは、スタートアップ成長支援を行うCIC インスティチュートの協力のもと開催する。CICインスティチュートをパートナーに選んだ理由は?

ダヴー:重視したのは、日本のエコシステムを熟知しているだけでなく、ケリングの求めるものやスタンダードを理解できる組織とタッグを組むこと。もちろん、社内のサステナビリティ&イノベーション専任スタッフと密に連携でき、日本のスタートアップ企業と技術的な話もできる言語能力も必要だが、それだけでは十分ではない。なぜなら、私たちはただ斬新なイノベーションを求めているわけではなく、事業において実現可能なイノベーションを見出したいから。質が高く、地球に良い変化をもたらすと確信できるスタートアップ企業を選出したい。そのため、現地の強力なパートナーが必要だった。

大切なのは、物事を変える意欲

WWD:最後に、これからサステナビリティ関連のスタートアップ企業設立を考える学生や駆け出しの若手起業家に必要なマインドセットは?

ダヴー:何より大切なのは、物事を変える意欲だ。サステナビリティ関連のスタートアップを立ち上げるのは容易くないので、障壁を飛び越える大きな原動力が必要であり、完璧ではなくても自分が信じるソリューションによって現状を変えていくという意欲的なマインドが欠かせない。サステナビリティにまつわるイノベーションの多くは微生物など生物学を強く結び付いていて、時間を要する。それに、投資家から投資を受けられるようになるまでにも時間がかかりうる。そのため、他のイノベーションの領域よりもおそらく挑戦的だろう。だからこそ高い意欲が必要であり、さらに小さくても相互補完を考えた多様性のあるチームを作ることも大切。そして、すぐにはうまくいかなくても続けることだ。今若者たちが取り組んでいることは素晴らしく、本当にクリエイティブ。彼らは自分たちが見ている世界を変えたいと考えていて、リスクを取る覚悟ができている。それは簡単なことではない。だからこそ、大企業が彼らをしっかりとサポートすることが重要だと思う。

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業界人図鑑 vol.1 アパレル販売員 酒井香菜

「マウジー」「スライ」「リエンダ」などから数々のカリスマ販売員を輩出してきたバロックジャパンリミテッドの旗艦店「ザ シェルター トーキョー」(東京・原宿)で販売員を務める酒井香菜さんは、若干26歳ながらキャリア8年、「ラグアジェム」の1号店のルミネエスト店長も経験した実力者の一人だ。ファッション業界の最も身近な存在であるアパレル販売の奥深さを語った。

The SHEL'TTER TOKYO
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酒井香奈(26)

アパレル販売員
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「ザ シェルター トーキョー」販売員
PROFILE:(さかい・かな)東京・足立区出身。高校卒業後、2016年に新卒でバロックジャパンリミテッドの「スライ」池袋パルコ店の契約社員として入社(17年に正社員)。2019年3月「ラグアジェム」ルミネエスト店店長を経て、2023年から現職。給与は25万〜30万円+インセンティブ

Q アパレル販売員を志望した理由は?

酒井:販売員に憧れてというわけではなく、ずっとギャルでファッションが好きだったので、高校卒業時の進路選択時に「販売員」を選んだという感じです。体育会系で、高校のときに焼肉屋でバイトもしていたので、販売員のノリにはすぐ馴染め、戸惑いみたいのはなかったです。

Q 販売員のやりがいは?

酒井:販売員になってみて、奥の深さに感動しました。1年目の前半は接客中心でしたが、後半からはVP(ビジュアル・プレゼンテーション)もやらせてもらえました。販売員は接客して服を売るだけでなく、服の並べ方や見せ方、店舗で流す音楽まで、店の運営全体をプロデュースしていく仕事なんだって徐々に理解していきました。覚えることはとにかく多いけれど、2年くらいで一通りの仕事を任せてもらえるようにはなっていました。

Q 転機は?

酒井:「ラグアジェム」の1号店であるルミネエスト店の店長になったことです。先ほど販売員という仕事はお店全体の運営に携わると話しましたが、実際に店長になり、店全体の責任を持つことでさらにステージが変わりました。新しいブランドの1号店で販売員も私を含め経験の浅い若い子が多く、余計に大変でした。ただ、その分、本部との距離も近くて、大げさに言えば「自分たちでブランドを作り上げていくんだ!」って雰囲気もありました。いまでも1号店のオープン時のことはよく覚えています。ルミネエストのお客さまの多さに戸惑っているところに、他のブランドや先輩たちがヘルプしてくれて。チームワークの重要性やバロックの良さみたいなものもすごく感じました。売り上げの管理や人のマネジメントから戦略まで、店長を経験したことで、「アパレル販売」という仕事への解像度はかなり上がりました。

Q 心掛けていることは?

酒井:とにかく話す、コミュニケーションを取ることです。接客業なのでお客さまとはもちろんお話ししますが、同僚や後輩、先輩、上司ともたくさん話します。店長になってマネジメントを経験したときに感じたのですが、接客動作や考え方の修正にしても、行動を起こしてもらうためにはやっぱり話すしかないんですよね。ただ話すだけじゃ伝わらない場合は、伝え方が悪かったんだなあと思います。私の場合は戦略のこと、マネジメントのこと、店舗運営のこと、何でも困ったらすぐに上司や先輩に相談します。トレンドやファッションであれば、後輩にアドバイスを求めたりもします。

Q 新人の販売員にメッセージをお願いします。

酒井:アパレル販売はものすごく面白い仕事だと思います。かわいいお洋服たちに囲まれて自分自身のファッションやメイクも常にアップデートされるし、私にとっては人間性も育ててくれた職場です。先輩や後輩、いろんな仲間がいて家族のように支え合って成長してきました。皆さんも自分も楽しみながら、素敵な空間を作ってお客さまを楽しませてほしいです。

PHOTO : KEI ONO

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【業界人図鑑 vol.2】インハウスアーティストの醍醐味、メイクアップ起点に幅広い世界へ ヘアメイクアップアーティスト 武田玲奈

日本の化粧品業界をリードしてきた資生堂のヘアメイクアップアーティスト(以下、HMA)は、いわば精鋭中の精鋭といえる存在だ。武田玲奈さんは、約40人が所属する資生堂HMAの中で、6人が保持する「トップアーティスト」の一人。資生堂の宣伝・コミュニケーション全般のメイクアップから商品開発、トレンドレポートの作成、講師まで、仕事の内容は多岐にわたる。

Hair & make up artist
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武田玲奈

ヘアメイクアップアーティスト
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資生堂トップヘアメイクアップアーティスト
PROFILE:(たけだ・れな)資生堂美容技術専門学校を卒業後、2000年に資生堂に入社。6年間のサロン経験、ヘアメイクのアシスタントを経て、ヘアメイクアップアーティスト。18年から資生堂トップヘアメイクアップアーティストに。13〜15年、16〜19年と2回のNY駐在を経験。趣味は読書と旅

Q 仕事の内容を教えて下さい

武田玲奈(以下、武田):資生堂HMAは宣伝広告のヘアメイクアップ、パリ、NY、東京などで開催されるファッションショーのヘアメイク、メイクアップ製品の開発、トレンド情報レポートの作成、資生堂が運営するヘアメイクスクールの講師まで、仕事の内容はかなり多岐にわたっています。私の場合は、基幹ブランド「SHISEIDO」に、メイクアップアーティストとして商品開発やトレーナーへの指導などに携わりながら、広告やSNSなども含めたコミュニケーション全般のメイク監修も務めていますし、トレンドレポートの作成、資生堂の運営するヘアメイクスクールSABFA(サブファ)の講師なども行っています。撮影やショーの、いわゆる「ヘアメイクアップアーティスト」の現場のお仕事は全体の3割くらいです。ただ、同じ資生堂HMAでも人によってかなり変わると思います。

Q ヘアメイクアップアーティストを志した理由は?

武田:両親とも美容師で、特に母は黎明期のヘアメイクアップアーティストで、ファッション関係者の知人も多く、小さい頃からヘアやメイクの専門的な話がご飯のときにも飛び交う、そんな家庭で育ちました。なので早い段階からヘアメイクアップアーティストになろうと決めていました。特に影響を受けたのが、1990年代の世界のヘアメイクアップを牽引したトップアーティストの一人であるディック・ページです。アーティスティック・ディレクター契約を結んでいた資生堂に入社したくて専門学校も選んだほどです。

Q 転機は?

武田:2013-15年と16−19年の2度のニューヨーク駐在です。1度目はディック・ページのアシスタントとして、2度目は基幹ブランド「SHISEIDO」の開発拠点のNY移管に伴うものです。いずれも強烈な体験でした。ディック・ページに憧れていつかニューヨークで仕事をしたいと思っていたので英語はずっと勉強していましたし、メイクアップアーティストとしての経験もそれなりに積んできたつもりでした。でも、実際に行ってみると何もかも違う。メイクやファッションのことはもちろん、アートやカルチャーの深い知識も必要で、コレクションが始まればヘアやモデル、デザイナーまで全員が一流で絶対に失敗もできない現場で、緊張感もまるで違う。勉強してきたはずだった英語も理解できない。ショックでした。

Q 得たものは?

武田:文字通り世界最先端のクリエイティブの現場で仕事をできたことは本当に大きな財産でした。クリエイティブの根幹の部分だけでなく仕事のやり方も変わりました。ディック・ページは常に新しい人や情報に貪欲で、例えばショーでは世界中から集まる人たちとのネットワーキングにも積極的でした。そうしたところは私も取り入れています。2回目の駐在では、基幹ブランド「SHISEIDO」のリブランディングで、グローバルブランドとしての「SHISEIDO」に変わるべく、開発拠点を日本からNYに移すことになり、メイクアップアーティストとして参加しました。日本人は私も含めても3人で、大半のスタッフは一流のスタッフを外部から集め、名実ともにグローバルな体制・やり方にガラっと変わりました。日本だとついできることがあるとつい自分で手を動かしてやってしまいますが、アーティストとしてやるべきことに集中し、それ以外の仕事は思い切ってアウトソーシングする。そんな仕事術を実践できたことは大きかった。

Q 新人ヘアメイクアップアーティスト、あるいは目指す人たちにメッセージをお願いします。

武田:私自身はあまり戦略的に考えて動くタイプではないのですが、振り返ってみると定期的に新しい環境に自分を置いてきました。飽きっぽいといより、湧き上がる衝動にしたがって、新しい環境に挑戦してきたという感じでしょうか。振り返ってみて、また長くこの仕事に携わってきて思うのは、「美を通じて世界中のお客さまを幸せにする」という本質は、仮に仕事が変わっても、変わらず追求できるということ。私自身もインハウスのアーティストではありますが、ベースメイクのさらなる可能性を追求すべく、他の企業との開発・連携にも取り組んでいます。講師や後輩など若い人たちとも接していますが、新しいモノ・コトに対する柔軟性や感性、感度の高さは非常に高く、素晴らしいと常々感じています。一方でヘアメイクアップの世界は厳しい競争もあります。でも仮に仕事が変わっても、本当にやりたかったことを自分に問いかけ続ければ、社会の中で新しい場所が見つかる。仕事が変わっても、夢を追い続けてください。

PHOTO : KEI ONO

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サザビーリーグが合弁会社を設立した「マッドハッピー」が原宿でポップアップ 強みは共感呼ぶ信念

ロサンゼルス発のストリートブランドで、2024年2月にサザビーリーグと合弁でジャパン社を設立した「マッドハッピー(MADHAPPY)」が、東京・原宿でポップアップストアを開催中だ。期間は4月14日まで。オープン日の4月2日には、本国チームが来日し関係者を招いたレセプションパーティーを開催。多くの人で賑わった。

サザビーリーグがLA発の「マッドハッピー」と合弁契約締結

「ローカルオプティミスト」の理念が共感を呼ぶ

17年にスタートした「マッドハッピー」は、ファッションを通じてメンタルヘルスの大切さを伝えることをパーパスに掲げる。「ローカルオプティミスト」とうたうブランド理念が共感を呼び、拠点のアメリカを皮切りにグローバルにコミュニティーを広げている。19年にはLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)の投資ファンドLVMHラグジュアリー・ベンチャーズ(LVMH LUXURY VENTURES)が出資して話題になった。

LVMHが出資するLA発ストリートウエア「マッドハッピー」 フーディーで広がるコミュニティー Youth in focus Vol.11

元サザビーリーグの営業統括事業推進部副部長で、現在マッドハッピージャパンの社長を務める岡村周明は、同ブランドの魅力はブランドの信念にあるという。「22年12月に初めて『マッドハッピー』のチームから連絡をもらったとき、『ファッションは人をハッピーにする。それを地域のコミュニティーから実現したい』という彼らの信念に深く共感した。彼らのパーパスであるメンタルヘルスの取り組みも非常に興味深く、日本に是非紹介したいと思った。同時にただ商品を卸販売するというディストリビューション契約では上手くいかないだろうとも感じ、彼らに合弁会社をつくることを提案した。ブランドのカルチャー自体を一緒に日本に移植していくことが成功への近道だと彼らも感じてくれたようだ」と、契約に至った背景について語る。加えて「マッドハッピー」はこれまでに「アグ(UGG)」 や「サロモン(SALOMON)」などの人気ブランドとのコラボレーション商品を発表しており、そうしたコラボレーション企画も強みになるだろうと話す。

今回のポップアップには、24年春夏コレクションのほか東京限定のフーディー(3万6300円)やTシャツ(1万6500円)、彼らが発行するカルチャー雑誌「LOCAL OPTIMIST」(4950円)も並ぶ。ロサンゼルスの旗艦店同様に店内にはカフェも併設する。4月5日にはオカモトレイジ率いるクリエイティブ集団ヤギ エキシビション(YAGI EXHIBITION)とコラボレーションしたパーティーも店内で開催予定だ。

岡村社長は25年3月期中に都内に常設店のオープンを目指すという。「日本にも『マッドハッピー』の提案が響くお客さまは一定層いるはず。その層にきちんと支持されるマーケティングができるかが鍵になる。ロサンゼルスの旗艦店同様にカフェを併設した路面店を構えるなどして、支持を得ていきたい」。

セレクトショップの「ロンハーマン(RON HERMAN)」や「エストネーション(ESTNATION)」、ダウンウエアの「カナダグース(CANADA GOOSE)」などを手掛けるサザビーリーグは、事業やブランドの次なる芽を見つけるのに長けた目利き企業としてファッション業界内で定評のある存在。かつては「スターバックス(STARBUCKS)」を本国との合弁で日本に上陸させたことでも知られる。

■office madhappy featuring LOCAL OPTIMIST,PANTRY&HOTEL DRUGS

日程:4月2〜14日
場所:BA-TSU ART GALLERY
住所:渋谷区神宮前5-11-5

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サザビーリーグが合弁会社を設立した「マッドハッピー」が原宿でポップアップ 強みは共感呼ぶ信念

ロサンゼルス発のストリートブランドで、2024年2月にサザビーリーグと合弁でジャパン社を設立した「マッドハッピー(MADHAPPY)」が、東京・原宿でポップアップストアを開催中だ。期間は4月14日まで。オープン日の4月2日には、本国チームが来日し関係者を招いたレセプションパーティーを開催。多くの人で賑わった。

サザビーリーグがLA発の「マッドハッピー」と合弁契約締結

「ローカルオプティミスト」の理念が共感を呼ぶ

17年にスタートした「マッドハッピー」は、ファッションを通じてメンタルヘルスの大切さを伝えることをパーパスに掲げる。「ローカルオプティミスト」とうたうブランド理念が共感を呼び、拠点のアメリカを皮切りにグローバルにコミュニティーを広げている。19年にはLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)の投資ファンドLVMHラグジュアリー・ベンチャーズ(LVMH LUXURY VENTURES)が出資して話題になった。

LVMHが出資するLA発ストリートウエア「マッドハッピー」 フーディーで広がるコミュニティー Youth in focus Vol.11

元サザビーリーグの営業統括事業推進部副部長で、現在マッドハッピージャパンの社長を務める岡村周明は、同ブランドの魅力はブランドの信念にあるという。「22年12月に初めて『マッドハッピー』のチームから連絡をもらったとき、『ファッションは人をハッピーにする。それを地域のコミュニティーから実現したい』という彼らの信念に深く共感した。彼らのパーパスであるメンタルヘルスの取り組みも非常に興味深く、日本に是非紹介したいと思った。同時にただ商品を卸販売するというディストリビューション契約では上手くいかないだろうとも感じ、彼らに合弁会社をつくることを提案した。ブランドのカルチャー自体を一緒に日本に移植していくことが成功への近道だと彼らも感じてくれたようだ」と、契約に至った背景について語る。加えて「マッドハッピー」はこれまでに「アグ(UGG)」 や「サロモン(SALOMON)」などの人気ブランドとのコラボレーション商品を発表しており、そうしたコラボレーション企画も強みになるだろうと話す。

今回のポップアップには、24年春夏コレクションのほか東京限定のフーディー(3万6300円)やTシャツ(1万6500円)、彼らが発行するカルチャー雑誌「LOCAL OPTIMIST」(4950円)も並ぶ。ロサンゼルスの旗艦店同様に店内にはカフェも併設する。4月5日にはオカモトレイジ率いるクリエイティブ集団ヤギ エキシビション(YAGI EXHIBITION)とコラボレーションしたパーティーも店内で開催予定だ。

岡村社長は25年3月期中に都内に常設店のオープンを目指すという。「日本にも『マッドハッピー』の提案が響くお客さまは一定層いるはず。その層にきちんと支持されるマーケティングができるかが鍵になる。ロサンゼルスの旗艦店同様にカフェを併設した路面店を構えるなどして、支持を得ていきたい」。

セレクトショップの「ロンハーマン(RON HERMAN)」や「エストネーション(ESTNATION)」、ダウンウエアの「カナダグース(CANADA GOOSE)」などを手掛けるサザビーリーグは、事業やブランドの次なる芽を見つけるのに長けた目利き企業としてファッション業界内で定評のある存在。かつては「スターバックス(STARBUCKS)」を本国との合弁で日本に上陸させたことでも知られる。

■office madhappy featuring LOCAL OPTIMIST,PANTRY&HOTEL DRUGS

日程:4月2〜14日
場所:BA-TSU ART GALLERY
住所:渋谷区神宮前5-11-5

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4000人の研究者を抱えるロレアルリサーチ&イノベーション トップが語るヒット商品の生み出し方と化粧品業界トレンド

PROFILE: ステファン・オルティス/ロレアル リサーチ&イノベーション イノベーション&製品開発ディレクター

ステファン・オルティス/ロレアル リサーチ&イノベーション イノベーション&製品開発ディレクター
PROFILE: 1998年、日本ロレアルに入社。メイクアップ応用研究の責任者を経て、2003年にスキンケアおよびメイクアップ応用研究・開発部門の責任者に就任。日本ロレアル リサーチ&イノベーション ディレクター、ロレアルリサーチ&イノベーション アジアゾーン ディレクター、同 コスメティック・インターナショナル・ジェネラルマネージャーを経て、22年にロレアルリサーチ&イノベーションのコスメティック(スキン、衛生品、メイクアップ)、ヘア、フレグランス、カラーを含むイノベーション&製品開発部門のディレクターに就任。21年1月からロレアルグループのダイバーシティ&インクルージョン委員会のメンバーも務める PHOTO:SHUHEI SHINE
世界最大の化粧品企業であるロレアルグループ(L’OREAL GROUP以下、ロレアル)の研究開発部門のロレアル リサーチ&イノベーション(L’OREAL RESEARCH & INNOVATION以下、ロレアルR&I)は、日本を含む世界各地の拠点で4000人以上の研究員が日々研究開発に取り組んでいる。ロレアルの戦略の根幹を成す組織の仕組みや裏側、化粧品業界の展望について、「イノベーション&製品開発」部門を指揮するステファン・オルティス(Stephane Ortiz)=ロレアル リサーチ&イノベーション イノベーション&製品開発ディレクターに聞いた。

科学、消費者、従業員
3つの多様性を重視

WWD:ロレアルはリサーチ&イノベーションを戦略の根幹に掲げるがその背景は?

ステファン・オルティス=ロレアル リサーチ&イノベーション イノベーション&製品開発ディレクター(以下、オルティス):100年以上前にさかのぼると、ロレアルは1人の化学者ウージェンヌ・シュエレール(Eugene Schueller)により誕生した企業だ。そのため、ロレアルの中核には常に科学がある。ロレアルR&Iは世界でも最先端と言える研究機関で、2022年は約10億ユーロ(約1630億円)を投じ研究を進めている。4000人の研究者が有する専門知識や、科学的な特許などのリソースがわれわれの貴重な財産となっており、競合他社との競争優位性にもなっている。

WWD:どのような専門分野を持つ研究員で構成されているか。

オルティス:ロレアルR&Iでは3つの多様性を重視している。1つ目は科学の多様性。科学の領域の中で50以上もの分野を対象に研究を行っている。2つ目は消費者の多様性。R&Iのハブは世界中に7拠点ある。日本、中国、インド、南アフリカ、フランス、ブラジル、米国の7カ所にあることで、それぞれのエリアのお客さまと非常に近距離でコミュニケーションができる。美に関する課題や悩み、何を感じているか、親近感を持って当事者として関わることでニーズを満たすことができている。例えばブラジルの消費者は、髪の毛に強いこだわりがあり専門知識もあるため髪に対する要望のレベルが非常に高い。一方で、米国はメイクアップに対する意識が高い。日本のお客さまはスキンケアのリテラシーが高く、こだわりが強いことが分かっている。3つ目は従業員の多様性。ロレアルR&Iではグローバルで66、日本では19の異なる国籍を持つ従業員がいる。その理由は、多様なアプローチ、戦略を取ることにより、さまざまな機会を間違いなく捉えられるからだ。

スピード感を生む開発フローと
優れた消費者理解が強み

WWD : 大きな組織でありながら、スピード感のある意思決定や商品開発ができる理由は?

オルティス:ロレアルR&Iには非常にこだわりを持った、ほかとは違う開発フローがある。1つは消費者インサイトに基づいて研究開発を行っている点、もう1つの特徴がアップストリーム(消費者側から開発側)からダウンストリーム(開発側から消費者側)への流れで開発を行っている点だ。最終目的は、全てのお客さまの要望に沿った高性能な商品開発だ。R&Iだけでなく、マーケティングやオペレーションチームと協働しながら、毎年1000以上の新商品を生み出している。スピード感のある開発が可能なのは、人材の力が大きいが、われわれが蓄積してきたデジタル力とデータも大きく貢献している。

ステファン・オルティス=ロレアル リサーチ&イノベーション イノベーション&製品開発ディレクター

さらに、R&I内は大きく3つの部署がありそれぞれが密に連携する。1つ目は「イノベーション・ディレクション」と呼ぶチームで、消費者のニーズや最新トレンド、消費者のインサイトを理解することに主眼を置く。人材はマーケティングのバックグラウンドを持つ人が集まっており、消費者をきちんと理解するために情報収集を行う。彼らは特定のブランドに所属せず、全てのブランドに対して貢献すべく活動する。そして2つ目が「アドバンスト・リサーチ」と呼ぶ先進科学のチームだ。このチームには肌や髪に対して科学的な知見が多くあり、新しい分子や有用成分を開発・発見している。過去にはエイジングケア成分のプロキシレンや、最近では「ラ ロッシュ ポゼ(LA ROCHE-POSAY)」のUVミューン400などを開発した。

3つ目は「オープン・イノベーション」チームといい、科学とテックの分野で常に最前線を走るためにスタートアップやさまざまな研究機関と連携を取り、将来の美の創造のためのエコシステム構築を進めている。これら以外にも、「エバリュエーション・インテリジェンス」チームが、毎年1万7000以上もの商品が市場に出て認知される前に、評価を確認する作業を進めている。そのほか、薬機法などの規制や商品の安全性、法遵守などを確認するチームもある。

WWD:それぞれのチームの規模は?

オルティス:グローバルで、「アドバンスト・リサーチ」が約500人、「イノベーション・ディレクション」は約30人の小規模なチームで、それぞれのチームが密に連携を取り商品開発を行う。「オープン・イノベーション」のチームが発足したのは、10〜15年ほど前だ。

WWD:ロレアルグループの現在の勢いを支える中核とも言える組織だが、機能させる秘訣は?

オルティス:これで全てがうまくいくというマジックレシピは存在しないが、ロレアルグループが37もの国際的なブランドを有し、お客さまの異なるニーズを満たせていることが強みだ。さらに科学的な専門性と想像力があることにより、非常に革新的で面白い商品開発ができている。加えて、消費者理解に非常に長けていることも大きい。これはわれわれの唯一無二の能力と言ってもよいほどで、非常に高いレベルで消費者の理解を進めている。お客さまの具体的なニーズに特化し、そこに向けて商品を開発する。さらに、それぞれのブランド哲学や価値観に沿って商品を具現化できていることも大きな意味がある。

注力分野はサステナビリティと
ウルトラパーソナライズド

WWD:現在、ロレアルグループで最も注力する研究分野は?

オルティス:当社は100年以上にわたり美を追求してきたが、最終目標は「世界を突き動かす美の創造」を掲げる。われわれのミッションは全ての人にとってよりインクルーシブで一人一人にパーソナライズされた、サステナブルな商品や経験を届けることだ。その中で、2つの重要なキーワードがサステナビリティとウルトラパーソナライズドだ。サステナビリティに関しては、ロレアルグループは10年前によりサステナブル世界に貢献するという新たな決意として「ロレアル ・フォー・ザ・フューチャー」というプログラムを策定した。30年までの達成を目指す非常に野心的な数値目標を掲げている。これは科学的なアプローチに基づくもので、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を尊重した上で商品開発を行うことに主眼を置く。

具体的には、グループの全商品が100%エコデザインで、全処方が海洋生態系に対してダメージを与えないことを目指す。95%がバイオベース、もしくはその循環中に由来する原料で作られることを目標としている。ロレアルR&Iが強く信じているのが、将来の美を考えた時に、自然界にこそそれがあるということ。自然由来、自然からインスピレーションを受けたものにこそ、未来の美が存在すると感じている。そのため、商品開発の前工程で環境配慮を可能にするグリーンサイエンスの分野に注力している。

ウルトラパーソナライズドに関しては、10年以上前からデジタルレボリューション、DXに力を入れてきた。この大きなシフトを遂げることで、化粧品業界でeコマースやデジタライズの面で大きく前進することができた。5年前には2つ目のデジタルレボリューションとしてビューティテックを積極的に取り入れた開発を始めた。ここで掲げたビジョンは、IoTやビューティデバイス、ARやVRなどの技術を活用した商品や体験の提供で、これらにAIなども加えて、お客さまに体験していただける革新や体験を目指し改善を進めている。これまではビジョンに「皆さまに美を提供する」ことを掲げていたが、ビューティテックを活用することにより、「1人1人の、あなたにとっての美を提供する」に変えることができた。この分野は今後も注力する。

WWD:次のレベルのパーソナライズド商品にはどんなことが期待できるか?

オルティス:お客さま1人1人に合わせた商品開発が夢の話ではなく、現実世界に起こり得るだろう。ビューティテックは非常に精緻化されており、お客さまの肌診断から、アプリケーション、処方においてまで進化している。例えば、われわれがパートナーシップを組む米国のグーグル(GOOGLE)の姉妹企業のヴェリティ(VERITY)はお客さまの髪に関する個人データを非常に細かいレベルで持っており、将来的には個人向けにパーソナライズされた処方の開発を目指している。

ステファン・オルティス=ロレアル リサーチ&イノベーション イノベーション&製品開発ディレクター

WWD:サステナビリティに関してさまざまなステークホルダーがいる中で、30年までの達成を掲げる目標に対して一番のハードルは?

オルティス:先ほど申し上げた30年までに原料の95%をバイオベースにする目標は、困難な状況に実はある。ただ同時に、化粧品業界をリードする立場として、そしてサステナブルな未来を実現する立場として、ロレアルはこれを果たす役割があると当然考えている。責任者としてこの目標を追っていくわけだが、質問に答えるのが非常に困難な理由は、サステナビリティはもちろん担保したいが、同時に品質においても革新的でより良い商品を生み出していかなくてはならないからだ。この両輪を突き動かさなくてはいけない。

サステナビリティ実現までの旅においては、化粧品業界全体がサステナビリティの方向に動かなくてはいけない。さまざまな企業、そしてセクター全体が関わっているので、多くの研究機関や企業、ステークホルダーと関わっていくことが重要だ。非常に困難な環境ではあるが、グリーンサイエンス、バイオテックの進歩により、これらを駆使することで明日、そして明後日には新しいイノベーションが生まれ、よりイノベイティブでサステナブルな成果が出せるようになるかもしれない。実際、サステナビリティ目標を策定した10年前を振り返ると、非常に野心的な目標であるが故にたくさんの研究者から「絶対に無理だ」という声が挙がったが、そこから状況が大きく変わっている。われわれの力で成し遂げようという自信も同時に持っている。

ウエルネストレンドに対する
ロレアルの取り組み

WWD:現在、ウエルネス、ヘルスケアのトレンドがあるが、ロレアルR&Iとしてのアクションは?

オルティス:化粧品業界では3つの大きなトレンドがある。1つ目のキーワードは気候変動。酷暑や熱波、そして大気汚染が大きな問題になっている。将来、消費者は1人1人が紫外線から自分の身を守る必要が出てくるだろう。2つ目が、多くの消費者がニキビやアトピー、頭皮の状態など問題を抱えており、さらにそれに対して自覚しきちんと発言できるようになってきている。肌と髪の健康に対して消費者が非常に高い意識を向けていることから、ロレアルR&Iとしては、エクスポソーム(人が生涯曝露する環境因子の総体)サイエンスや肌と頭皮の科学に関して非常に多くの知見を持っており、健康と美の両方に対してイノベーションを生み出していきたい。3つ目が、ビューティテックだ。人々がより良く、肌や頭皮の健康状態を管理できるツールの活用が進んでいる。ロレアルでは、ブリーゾメーター(BREEZOMETER)と連携し、気温や大気汚染の度合いを計測して、皮膚科学の専門知識と知見に基づく商品を開発している。科学に基づく商品がこれからも人気を博していくだろう。

ウエルネスは非常にトレンドとなっている概念で、理由は人口全体の高齢化などもある。消費者の行動や期待が健康やウエルネスにシフトしていることにより、老化、エイジングという言葉自体の定義がもう一度見直され、再定義されている。例えば、私がロレアルに入社した25年前は、若年層に対して紫外線対策の話をしてもあまり耳を傾けてもらえなかった。今はアメリカでも中国でもZ世代と言われるような若い世代はエイジングサインに対する予防の意識が非常に高い。

その一方で、自分が年齢を重ねていくことを隠したり否定したりするのではなく、ウェルエイジングと言って、いかに素敵に年を重ねるかという考え方をする層が増えている。そのため、エイジングという考え方からロンジェビティ(健康長寿)、見た目の面でも気持ちの面でもいかに健康的に長く生活を楽しむかという考え方に変わってきている。概念だけではなく、サイエンスに基づき変わってきている側面もあるので、国や研究機関、さまざまな企業がこの分野に投資し力を入れている。化粧品業界だけではなく、ほかの業界でもロンジェビティを実現すべく研究開発が行われている。

われわれは化粧品業界にとってもこのことが新しい時代の幕開けになると確信している。ロレアルR&Iとしてはこのことに非常にワクワクしており、エクスポソームだけでなくエピジェネティクス(個体発生や細胞分化の過程など重要な生命現象における必須のメカニズム)、マイクロバイオーム(微生物が持つゲノム情報の総体)、再生科学分野などの技術も活用してイノベーションにつなげていきたい。

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ルーマニア発ミニマルシーンの重鎮、RPR SOUNDSYSTEMが4月5日に恵比寿でDJプレー

今や世界各地で人々の間で人気を呼んでいるエレクトロニック・ダンス・ミュージック。EDM、テクノ、ハウスミュージックなど、さまざまなタイプのサウンドがダンスフロアを沸かせている中、ヨーロッパのアンダーグラウンド・シーンでコアな人気を誇るのが、ルーマニアン・ミニマルシーンだ。

そのシーンをけん引するのが、ルーマニアを拠点に活動をするラドゥー、ペトレ・インスピレスク、ラレッシュの3人のDJから成る音楽レコードレーベル&プロジェクトのアーピアー([a:rpia:r])。エレクトロニック・ミュージックシーンの絶対王者、リカルド・ヴィラロボスの弟分的存在として2000年代中期に登場して以来、個人での活動と並行し、3人が交代で曲をかけていくバック・トゥ・バック(B2B)のスタイルでダンスフロアをロックし、彼らならではの独自の世界観を創り上げてきた。彼らのプレイに魅せられた人々は、コアなダンスミュージック好きから、アートやファッションを好むハイセンスな人まで多岐に渡り、フロアで体験した人々は、口をそろえてその素晴らしい空間と時間を絶賛する。3人による別名義のスペシャルユニットRPR SOUNDSYSTEMでは、世界トップイベントやフェスティバルなどでプレーしてきた。

4月5日に恵比寿リキッドルームで開催される「RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ」では、約5年ぶりの来日となるRPR SOUNDSYSTEMによるDJプレイと、彼らの音楽の世界観を体験型の映像で表現するドリームレックがVJで参加。RPR SOUNDSYSTEM名義でのプレイは、彼らが選ぶパーティーやフェスティバル限定で年に数回しかプレーをしないため、今回、彼らが出演する恵比寿リキッドルームのパーティーは希少な時間となる。よってワンナイトを通じて、良質なエレクトロニック・ミュージックを体験する日になることは間違いない。そこで来日を目前に、世界初となる彼らの貴重なインタビューを届ける。

音楽への情熱を分かち合うために3人でDJプレーを始める

――3人の出会い、またアーピアーが結成された経緯を教えてください。

ペトレ:それまではお互い別々に活動していたんだけど、音楽への情熱が僕たちを結びつけたんだ。3人でレーベルのアーピアーを設立して、そこから一緒にDJプレーをしようと決めたのは、僕たちの音楽への情熱をみんなと分かち合いたいという熱い気持ちからだったんだ。

ラドゥー:ペドロはいつも近くにいたし、ラレッシュは「ゼブラ」ってクラブのレジデントをしていたし、3人ともなんだかんだ同じようなところにいたから知り合って長いよね。それで最終的に一緒にパーティでDJプレーをするようになった。

ラレッシュ:僕らが出会ったのは22年前で、2006年の秋にイビサでレーベル&プロジェクト、アーピアーを立ち上げたんだ。とても自然な流れで、僕にとっても魂を捧げられる大切なプロジェクトになったのは間違いないね。

――アーピアーはレコードレーベルであり、DJプレーを含むプロダクションですが、目指している音楽観について教えて下さい。

ラレッシュ:そもそも時代を超越した良い音楽が全てだから、アーピアーから何かをリリースするときは、その音楽がファッションや特定の音楽トレンドを超越することを目指してる。それは僕らのDJセットにも当てはまる。

ラドゥー:空間に関しては僕ら3人と、VJのドリームレックの4人の力で、安心して没入できる特別な空間を作りだしている。そこにそれぞれが自分の色を出していくというか。

ペトレ:僕たちの音楽に対する考え方はシンプルなんだ。自分たちが好きなもの、面白いと思うものをプレーして、そこに人々を巻き込み、その体験を通して人々を導く。異なる個性を持ち合わせた3人から成り立つプロセスは、注意深くアプローチしなければならないし、DJセットの最初から最後まで正しい認識を持って特別な注意を払う必要がある。それを行うことで観客は全体を把握することができるし、正しい認識を持つことができるからね。もちろんVJを担当するドリームレックは、映像やアニメーションで音楽的な感情を視覚的な側面で描写することで表現をしている。

――ドリームレックさんは3人がDJプレーをする時にVJとして参加されていますが、どのような映像を制作されていますか?

ドリームレック:僕の映像作品では、別世界に足を踏み入れたような感覚を追求しているんだ。子供の頃から父親の仕事場で過ごした経験や、VHSテープを使った初期の実験で磨き上げたことなんだけど、その経験がテクノロジーはクラブの壁ということを超えて没入感のある空間を作り出す魔法の杖だと考えるようになったんだ。僕が目指す映像は、曲のビートに合わせるだけでなく、驚きとつながりの瞬間を創り上げることなんだけど、思い出や感情を映像を通じて具体化しているということだね。アーピアーと一緒に仕事をして、さまざまなサウンドスケープを探求したことで僕のアプローチも深まったと思うし、独学で学んだ技術に、自然や僕たちを取り巻く模様や図柄を敬意を持って融合させるといった感じかな。

音楽好きな人々が多いルーマニア

――ミニマルを中心としたルーマニアのダンスミュージック・シーンが世界的に人気を呼んでいますが、人気が定着したのは何故だと思いますか?

ペトレ:ルーマニア人は幅広い音楽的背景と歴史を持っていて、音楽の歴史と面白さに夢中になる人々が多い。その中で、僕たちはエレクトロニック・ミュージックの発展の初期からその魅力に触れ、少しずつ自分たちのキャラクターを形成していった。人々は楽しんでくれて、その楽しみを周りに向け表現することでフロアへやってきた多くの人々を刺激して、そこで得た興奮を通じて音楽を違った角度から捉えることの心地よさを感じたんだと思う。その現象は、海外でも同じことが起こっているようだけどね。

ラドゥー:それと情報の必要性にも関係しているよね。僕の友達や知り合いは、みんな音楽に興味があって、好きな曲を集めたりしている。音楽はお互いの情報を交換するツールでもあるしね。

ラレッシュ:プロモーターやアーティストなど、関係者全員が特別なものにしようと努力している情熱があるしね。僕たちもその一員になれてうれしい。

――ルーマニアのアンダーグラウンド・ミュージックシーンの現状はいかがですか?

ラレッシュ:パンデミックの影響で、一時期はアーティストたちも店も活動することができなかったけど、ルーマニアのアンダーグラウンド・ミュージックシーンの現状は変わらない。新しいプロモーターや、若い世代のダンスフロアで踊るダンサーによって、状況はすぐに正常に戻ったしね。

ラドゥー:進化しているけど、人気という点ではアンダーグラウンドではなくなっているかな。だけどまだ抽象的な感覚や、驚くべき可能性は残っていると思う。

ペトレ:社会そのものが変貌を遂げているように、音楽シーンも進化しているよね。もちろんそれは良いことでしかないし、だけど世の中の良いものや、質の高いものは、忍耐を必要としてこそ生まれてきたものだということも忘れてはいけない。

エレクトロニック・ミュージックもファッションも、目指すところは「美」

――これまでに過去に3回ほど恵比寿リキッドルームで公演をされましたが、どれもが本当に素晴らしい特別なものだったと聞いています。4月5日の公演に向けて、日本の人々へメッセージをいただけますか?

ラレッシュ:数年前の東京での公演は本当に楽しかった! パーティーは本当に特別なものになったし、日本の人達が僕達を歓迎してくれたのがうれしかったな。またあの良いサウンドの中でプレイするのが待ちきれないよ。

ペトレ:リキッドルームは空間、サウンドシステム、マネジメントと、あらゆる面で素晴らしい会場だよね。僕たちだけでなく、他の多くのアーティストたちが日本は素晴らしいと感じているけど、それは日本は秩序と組織がきちんと成り立ち、互いへの敬意が細部に渡り行き届いていて、それが高く評価されている国だからなのではないかな。他の社会はそれが著しく欠けているからね。今年もリキッドルームでプレイできることをとても嬉しく思っているし、ファンのみんなと一緒に楽しめると確信しているよ!

ラドゥー:リキッドルーム自体が歴史のある特別な場所だと思うし、細かい部分まで目が行き届いているので、みんなを心地良くいい気分にさせてくれる。

RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ - 2017.04.01 at Liquidroom

――最後にパーティーへ遊びに来る人々のファッションの傾向や好きなスタイルを教えてください。

ラレッシュ:僕はファッションにはほとんど興味がないんだけど……(笑)。シンプルで、できるだけカジュアルな服装が好きだよね。

ラドゥー:僕も快適で実用的なファッションが好みだけど、周りの人達がファッションで自己表現している姿を見ると、みんなそれぞれの個性のあるスタイルを持っているような気がする。

ペトレ:ファッションとエレクトロニック・ミュージックの関係は、常に人々を優雅な気持ちにさせているんじゃないかな。異なる道だけど両方とも美と善を目指すものだし、一方(ファッション)は視覚的な側面を通して自己の個性を浮き彫りにして、もう一方(音楽)は説明不可能な現象の下で一体化するものであったと思う。それを今はパーティーで見ることができるよね。人々はさまざまなタイプの服を着ているけど、音楽という同じ呪文の元で自己を現している。どのような種類の人々も、同じ大きな目的のために集まり、音楽とダンスという最高の意味で一体化するという、素晴らしい現象を生んでいるのではないかな。ルーマニアでは「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」などの日本のブランドが人気で、デザインだけでなく、縫製や生地の良さもクリエイティブな側面も評価されているよね。個人的には「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「カラー(KOLOR)」「カヴァル(KAVAL)」などにも興味がある。

ドリームレック:スタイルとは、その人のアティチュードに根ざしているものだと思う。多様性に有り難みを感じるし、さまざまなスタイルの人々がパーティーにやってきて、盛り上がっている光景を見るとうれしい。各々の表現をしたバラエティー豊富なスタイルが色鮮やかな集まりとなり、人々をつないでいくからね。

■RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ
日程:4月5日
会場:LIQUIDROOM
住所:東京都渋谷区東3-16-6
時間:23:30~
入場料:6000円(前売STAGE2)/ 7000円(当日)
公式サイト:https://linktr.ee/rpr2024tokyo

COOPERATION:RAHA

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障がいのある人と協働するショーイチ衣料品リサイクル インクルーシブな社会の一助に

アパレル余剰在庫買取の大手ショーイチ(大阪、山本昌一社長)が、近年衣料品のリサイクル事業にも注力していることは、「WWDJAPAN.com」でも既に何度か伝えてきた。山本社長や社員が衣料品リサイクル事業について取引検討中の企業に説明すると、特に注目を集めるポイントがあるという。それは、ショーイチがリサイクル事業の中で、障がいや疾患がある人を支援する就労継続支援事業所(以下、就労支援施設)と協働しているという点だ。障がいや疾患がある人、クライアント、そしてショーイチと、三方にとって利のある仕組みを構築している点が支持され、取引につながるケースが増えている。

障がいのある約450人に仕事を提供

衣料品リサイクルでは、衣料品を解体しタグやファスナー、ボタンなどを取り外す必要がある。想像以上に手間がかかるその工程で、ショーイチは就労支援施設と協働。ショーイチの自社グループで運営している5つの施設を中心に、計20の施設と取り組んでいる。これにより、障がいや疾患がある人約450人が仕事を得ているという。ショーイチでは、衣料品やインテリアファブリック、雑貨、化粧品といったカテゴリーの異なる在庫を一度にまとめて引き取ってリサイクルにつなげており、その点もクライアントに喜ばれているが、それも就労支援施設と組み、在庫の再仕分けをショーイチ内で行っているからこそ可能となっている。

「彼らの力なしには
リサイクル事業は成立しない」

「以前縁があって、就労支援施設でボランティアをしていた。その際、『障がい者は働く機会になかなか恵まれない』という悩みをよく聞いた」と山本社長。「複雑な作業であっても、適切に分けて丁寧に指導すれば障がいのある人も非常に頼りになるという実感が自分にはあっただけに、憤りを感じた」と続ける。そこで、ショーイチとして彼らに働く機会を提供できないかと模索し、就労支援施設と協働する今の形にたどり着いた。「彼らの力なしではショーイチのリサイクル事業は成り立たないし、今後もより多くの仕事の機会を彼らに提供したい。そのためにも、クライアントを増やしたい」。

「達成感を得て、
心も体も安定し始めた」

実際に、ショーイチのリサイクル事業に携わっている就労支援施設通所者は、仕事についてどう感じているのか。「体調不良が続いて休みがちだが、体調に合わせて作業を出してくれるので助かる」(40代女性)、「最初は全くできなかったハサミを使うタグカットも、今では得意なことに変えることができた」(30代男性)、「職員さんに丁寧に教えてもらって、少しずつ確実に作業ができるようになってきた。体力的にも精神的にも安定し始めた」(30代男性)。これらはショーイチが実施した通所者へのアンケートで集まった声だ。ショーイチのリサイクル事業が、インクルーシブな社会実現への一助になっていることが感じられる。

アパレルの“ある”と
障がい者の“ない”をマッチング

通常、余剰在庫は産業廃棄物として扱われるため、リサイクルする場合はブランドや小売店側がリサイクル事業者に対して料金を払う。しかしショーイチは、自治体から助成金を得て自社グループで運営している就労支援施設の仕事として、クライアントからリサイクル原料となる在庫を“買い取る”形になるため、クライアントにとってはショーイチと組むと在庫廃棄コストが減るというメリットもある。「アパレル企業側の“(余剰在庫が)ある”と、障がい者側の“(仕事が)ない”を、当社をハブに今後もうまくマッチングさせていきたい」と山本社長は話す。

PHOTO:SHINICHI YAMAGUCHI
問い合わせ先
ショーイチ
050-3151-5247

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繊維商社、コンサルから防災士へ ファッションと防災でパラレルに働く彼女の生き方

PROFILE: 古島真子/ColorfulBosaiCreation代表

古島真子/ColorfulBosaiCreation代表
PROFILE: 1990年、東京生まれ。お茶の水女子大学卒業。モリリン、デロイト・トーマツ・コンサルティング を経て2022年から一般社団法人unistepsでサステナブル・ファッションを軸に活動中。2021年からは防災士としても活動を始め、24年2月、株式会社ColorfulBosaiCreation(カラフル防災クリエイション)を設立。2011年、大学1年生のときに東京で東日本大震災を経験し、以降定期的に岩手県・陸前高田の仮設住宅集会所を訪問してきた。現在は神奈川県・茅ヶ崎市と陸前高田の2拠点生活を送っている。PHOTO:KAZUO YOSHIDA
ファッション関係者が集まる席で笛をネックレスとして身に着けている女性に出会った。日焼けしたサーファーの肌にその笛が似合っている。聞けば彼女は、繊維商社のモリリンなどを経て現在はunistepsでサステナビリティ×ファッションの仕事をする傍ら、防災士として活動しているという。笛は災害時に身を守るためだと教えてくれた。古島真子カラフル防災クリエイション代表、通称“まこぴ”がファッションと防災の世界をパラレルで生きるユニークなキャリアに至った理由を神奈川県・茅ヶ崎の浜辺で聞いた。

いつか救える誰かの命の数を1つでも増やせるはず

WWDJAPAN(以下、WWD):茅ヶ崎と陸前高田の2拠点生活をしているそうですね。

古島真子ColorfulBosaiCreation代表(以下、古島)::陸前高田には、学生だった2011年3月11日の東日本大震災の後からずっと通っており、大好きになって家を借り、生活をしています。今は復興支援などの活動をしているわけではないけれど、友人が遊びにきたときには、街の魅力はもちろん、震災遺構や伝承施設を案内したりしています。

WWD:モットーに掲げている“カラフル防災”について教えてください。

古島:防災について周囲に話すと、「防災グッズのリストを知りたい」とか「おすすめのリュックのメーカーは?」といったパッケージ化された情報を求められることが多いのですが、それぞれに住んでいる場所も家族構成も異なるから、防災セットひとつとっても十人十色なはず。100人いれば、100の個性に合わせて防災もカラフルであるべきだと思い“カラフル防災”と名付けました。

WWD:「防災をハッピーに伝える防災士」の肩書きもユニークです。

古島:散歩中にふと降りてきました(笑)。防災がなかなか広まらない理由は「お堅い」「脅迫観念から攻めてくる点」と考えています。そんな防災を180度転換させ、「なんだか楽しそう」「やったら人生までHappyになりそう!」、そんな風に感じてもらえる伝え方をすることで、いつか救える誰かの命の数を1つでも増やすことができるはず。

WWD:広まらない理由は、「防災」を「サステナビリティ」にそのまま置き換えられますね。

古島:そうなんです。実は防災より先に、エシカルファッションに関心がありました。大学生の時に、縫製工場の劣悪な労働環境を描くドキュメンタリー映画「トゥルーコスト」を観たことをきっかけに、エシカルファッションを卒業研究テーマにすることを決めて、学生時代はエシカルファッション関連のイベントやプロジェクトに通っていました。

WWD:だからキャリアのスタートは繊維商社のモリリンだった。

古島:「アパレル産業のマスを知らなければ課題解決はできない」と思い、モノ作りのど真ん中の繊維商社に新卒入社し、しまむらの営業と生産管理を担当しました。ファッション産業の課題はいろいろ言われるけど、絶対的な悪者はいない、理想を抱きつつ、利益を出さないといけない。そのジレンマを体感しました。5年間勤めた後、ステージアップを考え、色々な企業や業界を見ることができそうなコンサルに入社。大量のプレゼン資料を作り、ここで「誰かに何かを伝える方法」を身に着けたと思う。防災への関心が高まり、サステナブルファッションはもういいかな、と思っていた矢先の2022年にunistepsの求人を見つけて、入社。今はJSFA(ジャパンサステナブルファッションアライアン)の事務局業務などを通じたサステナビリティ×ファッションと防災をパラレルで活動しています。

防災士を目指したきっかけは3.11

WWD:パラレルであり、一致している2つの世界ですね。そもそも防災士を目指したきっかけは?

古島:2011年3月11日に発生した東日本大震災です。当時大学生だった私は、募金くらいしかできることがありませんでしたが、2011年に2回、「被災地」と呼ばれていた場所を訪れる機会がありました。1度目は震災から1ヶ月ほどのタイミングで当時所属していた遺児の就学支援や心のケアを行う団体でバスを貸切り、被災した東北地域を回りました。現状を見ることだけを目的とし、誰とも話さず、写真を撮ることも禁止されていたのですが、今でも目の奥に焼き付いて離れない海岸の光景があります。見渡せど、見渡せど瓦礫の山。ニュースで見たときは心のどこかで「人間様の力があれば数ヶ月位で修復できるだろう」なんて感じていましたが、この光景でかき消されました。そのときに、浮かび上がった「人間は、自然の力には勝てない」という感情が、私が防災を考えるときの根底にあります。

その後、仮設住宅集会所を学生が定期的に訪問して現地の方と一緒にコーヒーを飲んだり、お話しを聞かせてもらったりする活動が通っていた大学で始まりました。東京に戻るとよく「ボランティアに行ってて凄いね、偉いね!」なんて声をかけてもらったけれど、正直私はボランティの感覚は一切ない。むしろ優しく温かく迎え入れてもらい、私たちが受け取ってばかりという感覚を今でも持っています。

このときの活動を学術的に括るのはあまり好きではありませんが、もしかしたら、いわゆる傾聴ボランティアや心のケア的なことだったのかもしれません。災害が起きたときに何か被災地支援をしたい!と思い立って行動する時に、ニーズのミスマッチというものが多々発生します。私が同行させていただいた大学の先生方はそのミスマッチを発生させないように、自分達のできることを明確に伝え、「もし需要があれば」と丁寧にコミュニケーションをとっていました。国際協力をメインとした学部でボランティアやフィールドワークを長年専門としている教授たちだけあって、その行動力や動き方は今でもとてもリスペクトしています。後々気づいたことですが、非常に重要な、現地支援をしようとする上で必ず踏むべき工程だと思います。

「真子ちゃん、地震が来たらちゃんと逃げなきゃだめだよ」

WWD:この写真は?

古島:陸前高田の「うごく七夕祭り」です。2013年にこの祭りに出会ってしまったのが運の尽き。惚れ込んでしまい、その後社会人になっても約10年、毎年この日だけは皆勤賞で陸前高田へ通い続け、2023年にはついに住み始めました。

元々は防災に1ミリも興味がなかった私ですが、あまりにも大きい自然のパワー、それによるダメージの大きさ、年月を経て変わっていく街と人について自分の目で見て耳で聞き心で感じ、いつしか「防災って本当に大切だな」と心から思うようになりました。だけど、ひとたび東京に帰れば学校の勉強、アルバイト、友達との遊びが待っていて防災の優先度は最底辺。防災リュックの非常食の賞味期限が数年切れている、なんてこともザラでした。

WWD:ではなぜ防災士に?

古島:2018年ころ、居酒屋でお祭りメンバーと飲んでいた時、何の流れか、初めて3.11当時の話になりました。陸前高田出身の友達同士すらもお互いに話したことってなかったみたいで、「お前そんな状況だったのか」なんて言い合っていました。仲間を失っているのは当たり前で、中には自宅やご家族の命を失っている方もいました。自分がその時どんなリアクションを取ったのか覚えていないけど、一つだけ鮮明に覚えていることがあります。酔っ払いながらもそんな話をしてくれていた大好きなお兄さんのうちの1人が私の目を見て「真子ちゃん、地震が来たらちゃんと逃げなきゃだめだよ」と言ったことです。直感的に、「やばい」と感じました。私、こんなに陸前高田に通っているのに、何も防災していない、と。大好きな人が面と向かって伝えてくれているのに、東京で大地震が起きて怪我をしたり最悪死んだりしたら、この人達に顔向けできない……。そんな風に焦りを感じて、この時生まれて初めて防災が 「自分事」 になり、体系的に学ぶため「お金を払って防災士の資格を取る」選択をしました。

防災士の合格証だけで命は救えない。伝えねば

WWD:防災士とは、どういう資格ですか?

古島:国家試験ではなく、日本防災士会のテキストを使っての予習から始まり、2日間の座学、試験合格、救命救急実技を経て認定を受けます。過去の災害の特徴や教訓・自然災害発生の仕組み・避難所運営の注意点など、これまで知らなかった内容や分野も多く、勉強になりました。2020年5月に晴れて防災士の資格を手に入れましたが、合格証を手にした瞬間に、「あれ?この合格証を持っているだけでは誰の命も救えないぞ」と、違和感を覚えて。知識を持っているだけで行動を伴わなければ、周囲の防災状況は何も変わらないですからね。結果、「これは周りに伝えることに意義がある資格、防災の大切さや知識を発信していこう」という考えに落ち着きました。最初は表明することも恥ずかしくて、「あー、意識高い系ね」とか思われるのも辛かったですが、ウジウジしながらも細々と続けたことで応援してくれる周囲が増え気づけば会社員を辞めて防災をライフワークにするほどになっていました。人生はどう転ぶかわからないですね。

WWD:普段はどんな活動をしているのですか?

古島:SNSを通じた情報発信や防災イベントの開催などを行っています。企業向けセミナーは、ビーチクリーンで拾ったものを使ったキャンドル制作などワークショップを絡めて、自分事化しやすい内容を心がけています。今後は防災のパーソナルトレーニングに力を入れたい。防災版“ライザップ”みたいに性格や生活、持っている備品を一緒に棚卸してアクションを提案し、伴走する。エシカルも10年前はその言葉すら知らない人も多かったけど、発信する人が増えてロールモデルが登場したことで、広まってきた。同じ課題と可能性が防災にもあると思います。

ファッションやビューティの企業ができること

WWD:ファッションやビューティの企業が防災に取り組む場合、何から始めたらいいでしょうか?

古島:どの産業にも共通する3段階があると思います。第一は災害が起きたときに自社の社員の命を守ることができるか?そこをおざなりにして商品開発などをするのは本質的ではないと私は思います。次は、特に店舗であればお客様の命を守れるか。今年初めに羽田空港で起きた事故に見るJALの現場スタッフの対応は日ごろの訓練や教育のたまもの。素晴らしいとも言えるし、もし死傷者を出していたら企業の信頼を損失していたでしょう。防災訓練は後回しにしたり、形骸化しがちですがトップが意識をもって社員に徹底させることが重要です。最後に事業継続です。誰も見ない分厚いマニュアルを作って終わりではなく、事業を継続し経済を止めないためにもいざというときに本当に命を守れる本質的な防災を実行することです。

WWD:ファッションやビューティのビジネスを通じてできる防災活動はないでしょうか。

古島:災害からの復興には段階があり、発生直後は衣料はファッションではなく防寒など命を守り生き延びるためのものとして重要な役目を果たします。ただひとつエピソードとしてお伝えできるのは、陸前高田での避難所で数か月過ごしていた年配の女性が、支援物資の化粧品で久しぶりにお化粧をした後「女性として生き返った」と話していたのが印象的でした。昨日まで身だしなみに気遣っていた人がいきなり何もない環境に置かれて、「取材者に写真を撮られて本当にストレス、映りたくない」と話すのを聞いて、化粧は命にはかかわらないけれど人間の尊厳として大切なことなんだと知りました。

WWD:商品開発の観点からは?

古島:おしゃれでワクワクする防災グッズをぜひ生み出してほしい。ファッションやビューティの業界は見せ方が上手でワクワクするものを作ることが得意だから、防災のプロと協業してはどうでしょうか。私はポータブルバッテリーを必ず持ち歩いていますが、そっけないデザインだったので友人のデザイナーに頼んで可愛くしてもらいました。防災はひとつの業界があるわけではなく、製品によって企業が異なります。それらを束ねてブランディングするのもいい。レインコートなどの雨対策グッズは大きな需要がありますよ。災害と気候変動は密接ですからサステナブル×防災の発想も重要です。

WWD:2月には新会社、カラフル防災クリエイションを立ち上げました。今後の目標は?

古島:企業担当者や行政など、防災を伝えようとしている人と伝えたい相手を繋ぐ架け橋的な役割を担い、防災レベルの高い人の裾野を大きく広げることです。これまで個人向けに培ってきたハッピー&カラフルな防災の在り方を企業・行政向けにアップデートし、楽しくて自ら取り組みたくなる、かつ本質的な防災の在り方を日本社会に広めていきたいです。
若い人のロールモデルになることです。防災は大事だけど仕事にはならないから諦めます、という大学生も多い。それって社会の大きな損失だと思う。だから防災をビジネス化して、そういう志ある若い人たちを雇えるような企業に育てたいです。

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「Youは何しにオンワードへ?」 服装自由の入社式で“らしくない”新入社員たちに聞いた

オンワードホールディングスは1日、2024年度入社式を東京・芝浦のオンワードベイパークビルディングで実施した。「一人一人の個性を尊重し、自信を持てるように」と、同社の入社式としては初めて、新入社員の服装を自由とした。

今年は121人の新入社員が加わった。入社式では各々自分らしい服装に身を包み、特設のランウエイを歩いて入場した。採用の内訳は、中核会社のオンワード樫山が75人、オンワードコーポレートデザインが16人、オンワードデジタルラボが2人、チャコットが10人、アイランドが5人、クリエイティブヨーコが8人、ギフトの大和が5人。

オンワードグループは近年、アパレルメーカーの枠を超え、デジタルやライフスタイルなどへビジネスの領域を広げている。登壇したオンワードホールディングスの保元道宣社長は、「今日の新入社員の皆さんのファッションは本当に個性豊かだ。リクルートスーツばかりの組織よりもワクワクする。これからのビジネスにおいて必要とされるのは多様性。さまざまな領域のプロと仕事をする中で、さまざまなことを吸収してほしい」と語った。

いい意味で“オンワードらしくない”
新入社員たちがやりたいことは?

保元社長の言葉通り、「大手アパレル」のコンサバなイメージを覆すような、攻めたファッションが目立った入社式。自分らしい服装を貫く、いい意味でオンワードらしくない新入社員たちは、どんな期待を胸に入社を決めたのだろうか。

オンワード樫山のデザイナーとして入社する長谷川夏奈さんは、「プランクプロジェクト(PRANK PROJECT)」のジャケットとパンツをチョイスした。「ジャケットさえ着ておけば、フォーマル」というのは、Z世代ならではのファッション感覚なのかもしれない。子供のころに着て育った「組曲」に今もあこがれているという長谷川さん。「たくさん吸収して、会社にはやく貢献できるようになりたい」と話した。

最終面接で一緒だったことから仲良くなった、オンワード樫山パタンナー採用の岡野未怜さん、曽我美咲さん。岡野さんは自作のシャツ、ジャケット、ハーネスで身を固め、髪型は編み込みを両サイドからぶら下げた「羊ヘアー」だ。曽我さんはD2Cブランド「ネイス(NEITH)」と「スパイラルガール(SPIRAL GIRL)」のパンプスがおしゃれだ。「入社後はやれることを全部やって、いろんな挑戦をしたい」という2人の爆発力に期待したい。

落合雪奈さんは、全面プリントの自作ワンピースが目を引いた。グラフィックは趣味のカメラで撮影した花の写真をぼかし加工したもの。オンワード樫山の中ではニッチな規模の「エイトン(ATON)」でパタンナーをしたいとのこと。

オンワード樫山のファッションスタイリスト職(販売職)での採用となった本田陸人さんは、日本の着物とブータン王国の民族衣装をミックスしたスタイルで、すでにただものではないオーラ。神戸芸術工科大学の卒業制作で披露した作品だそうだ。コロナで学校に行けなかった2年間は、スーツ量販のAOKIでアルバイトしたり、イベントポスターをデザインしたりして、社会人になる準備をしていたそう。「デザインとビジネスを両軸を学べる環境に身を置きたいと思い、オンワードを選んだ」(本田さん)。

自社ブランドには縛られないが、スタイリングでしっかりとオンワードらしさを表現する新入社員たちもいた。オンワード樫山総合職採用の丹羽勇斗さんは、見ての通りアメリカントラッドスタイルが大好きで、配属は「J.プレス(J.PRESS)」志望(ただし入社式に着てきたのは「ブルックス ブラザーズ(BLOOKS BROTHERS」)。ファッションスタイリスト職の難波佳央さんは、オンワードらしいキャリアっぽさと自分の個性をうまくミックスさせていた印象だ。オンワードを選んだ理由については、「説明会や面接の空気感がとてもよかったから。好きなブランドがたくさんあり、今はどれに配属になりたいか絞りきれない」と笑顔を見せた。

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14歳のグラフィックアーティストSORA 義務教育に中指を立て、突き進む才能

壁一面を埋め尽くすグラフィックアートに、思わず息を呑む――。

無秩序にも思える写真やイラスト、テキストのコラージュが、どれも絶妙なバランスで成立している。作品は少なくとも200点以上。これら全てを14歳の少年が描いたと聞けば、驚く人は多いはずだ。

三鷹市の中学生グラフィックアーティスト、SORA(本名:佐藤蒼空)の初の個展がきょう3月31日まで、東京・三鷹の三鷹市桜井浜江記念市民ギャラリーで開かれている。

誰に教わったわけでもない。コラージュ素材はすべてSORA自身が集めた写真やイラスト、テキストなど。その上から、ペンキや絵の具で思い思いのグラフィックを描き込んだ。日常生活で目、耳にする物すべてが作品のインスピレーション源だ。

ただしそれを切り取る感性はかなりユニーク。「リファレンス(制作で参考にするもの)は誰も行かなさそうな本屋の奥の方に置いてある古本や雑誌、新聞や学校の教科書が多いですね。それからいつも聴いている音楽、道路、電車、(大阪の)西成、瘡蓋(かさぶた)とか……。西成には行ったことないんですけど、ホームレスの人たちがダンボールとかで作る“家”がめちゃくちゃかっこいいなと思っています」。

作品には、目が塗りつぶされた人の顔や臓器などのグロテスクな写真やイラスト、“不安”“地獄”“死”といった不安を煽るような単語や不可解な文章があしらわれ、不謹慎なムードがただよう。社会への風刺的な意味合いすら感じさせるが、「構図も素材もほとんどが思いつき」で、気の赴くまま作り続けてきた。

「僕は義務教育が嫌い。やりたくないことを、大人に無理やりやらされるから。だから『やっちゃいけない』と言われることを、好き勝手にやってやるんです」。

大人たちの“ダメ”ができるから楽しい

SORAは小学2年生のころ不登校になった。学校給食をむりやり食べさせる教師が「嫌で嫌で仕方なかった」。がまんの限界を超えて先生、母親とも衝突し、心のバランスが崩れて学校に行けなくなった。それから、部屋にこもって観ていたユーチューブで、グラフィックアーティストに出合い虜になった。

見よう見まねで作品を作り続けた。描く紙がなくなると、部屋にあった机やキャビネットなども画材にした。「世の中には組み合わせちゃいけない、いろんなモノやタブーがある。きれいなものと汚れているもの。正しいものと間違っているもの。現実世界でくっつけちゃだめでも、頭の中や作品でなら、好き放題コラージュできる。それがめちゃくちゃ楽しい」。

両親によると、SORAがまだ物心がつかない頃、父と歩いたドイツの街中ですでにストリートアートに興味津々だったそうだ。素養はあったのだろう。制作活動を始めて間もなく、家中が作品で埋め尽くされた。はじめは、「何とか学校に行かせたい」と考えていた両親も、SORAの才能を応援することを決めた。少しでも多くの人に目を触れる機会を作ろうと、街中の小さなギャラリーを借り、今回の個展を開くに至った。

芽生え始めた向上心
「いつか渋谷で個展を」

個展が決まると、SORAに挑戦心が芽生えた。グラフィック以外に、映像やコンセプチュアルなアートにもトライした。新聞紙を破り、あたりに敷き詰めた“作品”がお気に入りだ。「事件や事故、不祥事とか、新聞には世の中の大人たちの最悪な部分が詰まっている。だからそれをビリビリにしてやりました」と得意気だ。

「今は、ご飯を食べてる時も、トイレにいるときも、ずっと頭の中でコラージュしています」。アートへの前向きな気持ちも心の助けになり、小学6年生からは徐々に登校できるようになった。中学に入ってからはほぼ毎日学校に行っている。昨年は学校で小さな展示会もした。「みんなに『すごいね』と言ってもらえてうれしかったです」と中学生らしく無邪気に笑う。

SORAの創作の原動力は、義務教育への反抗から、本物のアーティストを目指す向上心に変わりつつある。「いつかは渋谷のどこかで展示したい。僕のあこがれの(グラフィックアーティストの)KAZZROCKさん、(現代美術家の)大竹新郎さんと一緒に作品を並べて、皆に見てもらいたいです」。

■SORA First Exhibition 「graffiti × collage」
場所:三鷹市桜井浜江記念市民ギャラリー
住所:東京都三鷹市下連雀3-42-3 1F
日時:3月29〜31日 10時〜18時(最終日は16時まで)

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新生「ヘルムート ラング」発売 ピーター・ドゥが語る「着る人や社会とリンクする服」

ピーター・ドゥ(Peter Do)による新生「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」が店頭に並び始めた。日本では、伊勢丹新宿本店(すでに終了)や渋谷パルコ(5月6日まで)でポップアップを開催。伊勢丹のポップアップに合わせて、デザイナーが来日した。ニューヨークで発表した2024年春夏、24-25年秋冬コレクションを含め、話を聞いた。

「WWDJAPAN」(以下、「WWD」):今、店頭に並んでいる2024年春夏コレクションは、「ヘルムート ラング」のアーカイブに大きなインスピレーションを得ているように感じる。そもそも「ヘルムート ラング」との出会いは?また、どんなイメージを持っていた?
ピーター・ドゥ「ヘルムート ラング」クリエイティブ・ディレクター(以下、ピーター):「ヘルムート ラング」との出会いは、学生の頃。仲間たちの間でも圧倒的な人気だったけれど、私が一番感銘を受けたのは、「着る人とリンクする」洋服を生み出そうとする姿勢だった。「ヘルムート ラング」が登場するまでの1980〜90年代は、「more is more」の時代。多くのデザイナーは自己表現を追求し、結果デザインが先行していたように思う。けれど「ヘルムート ラング」の洋服は、全然違う。たとえばデニムは、「リーバイス(LEVI’S)」の“501”にインスピレーション源を得て誕生したと言われている。“501”は長らく、着る人とリンクしているからだろう。こうして生まれたジーンズやTシャツ、クリエイティブではあるけれど日常着ばかりの洋服で、ランウエイショーを開催することが革新的だった。そして、着る人とのリンクを模索するから、「ヘルムート ラング」の洋服は使い捨てられることがない。着る人は洋服と一緒に成長し、洋服も着る人と共に齢を重ねていく。そんな考え方自体に感銘を受けたことを覚えている。

「WWD」:「着る人とリンクする」という「ヘルムート ラング」のアイデンティティをどう再解釈して、今のコレクションに盛り込むのか?
ピーター:「着る人とリンクする」から、私は「ヘルムート ラング」で人々の装いをドラスティックに変えたいなんて思っていない。むしろ今の時代、長く愛されるには機能的だったり、現代のシステム・社会構造にフィットしたりすることで、着る人に「生活が少しでも良くなるかもしれない」「この洋服を着たら、毎日少し快適かも」と予感させることが必要だ。アーカイブが、どうしたら現代に息づくのか?そう考えた時の1つのアプローチは、昔のパターンを現代の素材で蘇らせることだった。たとえばデニムは、当時のパターンそのまま。普遍的なアイテムのパターンは、これからも「ヘルムート ラング」のオリジンに忠実でありたい。それを先端の素材で作ったり、異素材で切り替えたりすれば、機能的で、長く愛され、結果「着る人とリンクする」洋服になるのではないか?と思っている。と同時に、今は少しノイズが多い時代だと思っている。だからこそ、作るべきは“ウルサい”洋服ではないと思っている。

「ヘルムート ラング」と「ピーター ドゥ」
2つを無理矢理差別化する必要はない

「WWD」:自身が手掛ける「ピーター ドゥ」も、ミニマルなスタイルやモノトーン中心のカラーパレットなど、「ヘルムート ラング」との共通点が多いように感じる。どう差別化するのか?
ピーター:私が手掛ける以上、2つのブランドに共通点があるのは当然のこと。2つを無理矢理差別化する必要はないと思っている。クリエイションの舞台をパリからニューヨークにヘルムート・ラングと、夢を抱いてベトナムから来日してニューヨークにたどり着いた私は、共にニューヨークに魅力を感じたわけだから、共通点もあるだろう。「ヘルムート ラング」と「ピーター ドゥ」のクリエイション・プロセスやポジショニングを差別化するため、ロジカルに考えようとも思っていない。ただ、2つのブランドはビジネス規模も違うし、価格帯も異なっている。「ヘルムート ラング」にはアーカイブに基づくスタイルコードがあるから、双方を私が手がけていても、結果は異なるものになるだろう。「プラダ(PRADA)」と「ミュウミュウ(MIU MIU)」のような関係になれば、と思う。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は2つのブランドを自由に行き来しているし、ファンにはそれぞれの違いを感じ取った上で「プラダ」も「ミュウミュウ」も大好きという人がいるだろうから。

「WWD」:伊勢丹新宿本店で開催したポップアップには、朝からファンが来店した。ファースト・コレクションの初速は順調なようだ。
ピーター:私が感銘を受けた「ヘルムート ラング」を、もう一度多くの人たちに知ってほしい。ここ数年、「ヘルムート ラング」は迷走したり、少しおとなしかったりの時が長かった。若い世代には「ヘルムート ラング」を知ってほしいし、昔ファンだった人たちにはかつてのアイデンティティやスタイルコードを取り戻しつつあることを訴えたい。デザインチームも、新しい挑戦を共に楽しんでくれている。私も、「ヘルムート ラング」と「ピーター ドゥ」の両立に慣れてきたところだ。

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「日常使いできる美しいバッグがあったなら」 元数学者が緻密な設計で作る「リュニフォーム」の魅力

PROFILE: ジャンヌ・シニョール/「リュニフォーム」最高経営責任者兼アートディレクター

ジャンヌ・シニョール/「リュニフォーム」最高経営責任者兼アートディレクター
PROFILE: 1977年生まれ。フランス・ボルドー出身。トゥールーズ経済大学院で数学や物理を学び、航空業界や金融業界でもキャリアを積む。バッグメゾンでのコマーシャル部門での統括を経験した後、2014年にリュニフォームを設立。2015年パリの一号店をサンジェルマン・デ・プレ周辺にオープン、その後日本では、2016年に伊勢丹新宿店での常設店、2019年に日本初の旗艦店を丸の内に開店。2023年10月には青山店、そして11月には香港のレーンクロフォード内に店舗をオープンさせた PHOTO:TAMEKI OSHIRO

南フランス発のバッグブランド「リュニフォーム(L/UNINFORM)」は、現地の職人技を間近で見ることができるイベントを東京・⻘山店を皮切りに、阪急うめだ本店、トゥモローランド京都BAL店などで開催中だ。期間中は4つのモデルを対象に好きな色のキャンバス地をオーダーできる。イベント開催に合わせ来日した創業者のジャンヌ・シニョール(Jeanne Signoles)に、昨年オープンした青山の旗艦店で同ブランドの魅力について聞いた。

「リュニフォーム」はスクールバッグやマザーズバッグとしても使えるツールバッグ、コンピューターケース、ペンシルケース、スーツケースなど、日常に寄り添う豊富なラインアップをそろえる。商品はすべてをポルトガルの自社工場で生産する。

「私にとってバッグ作りは、飛行機の製造と変わらない」

最大の特徴は、元数学者でフランスの航空機メーカー大手のエアバスに勤めた経歴を持つシニョールの緻密な設計に裏打ちされた品質だ。人気のサドルバッグ(14万6410円)や、ハンドルとショルダーバッグの2WAYで使えるオールインバッグ(4万3560円)に使用しているキャンバス生地は、厳選したフランス産リネンとコットンで糸からオリジナルで開発。独自の加工技術で防水や撥油、防汚機能を持たせ、生地が本来持つやわからな風合いと両立させている。

耐久性を担保するのに重要なステッチは、フォーク型の道具を使用しバッグ・レザー製品には10〜11mmに3ステッチ、スモールレザーグッズは10〜11mmに4ステッチという規定で丁寧に縫い合わせている。「私にとってバッグ作りは、飛行機の製造と変わらない。正確な設計が重要で、色や形、ステッチの数、すべてのディテールに理由がある」。

シニョールは「細部まで完璧で一貫した品質こそがブランドを象徴する」と強調する。「目に見えない部分にも完璧を追求するのが私のモットー。例えばポケット。他のラグジュアリーブランドでは、表地がレザーでも内側にコットンやポリエステルが使われているものがある。私はものの出し入れをする内側には耐久性のあるカーフレザー、外側には手触りのよいラムレザーを使用して1枚に縫い合わせている」とこだわりを語る。

今回の店舗イベント中は製品を縁取る革がしなやかに曲がるよう小さな山型にカッティングするピンキングの作業やコバ塗りの作業を職人が実演してくれる。「これまであまり多くを語ってこなかったからこそ、こうした機会を通して私たちが大事にしているものを伝えたい」という。

「ギャルソン」好きから「シャネル」好きまでが愛用

ゴヤール家のシニョールは、「ゴヤール(GOYARD)」のビジネスに携わったのち2014年に夫のアレックスと同ブランドを立ち上げた。「双子の母として育児をする中で、買い物バッグや子どものお菓子を入れるバッグ、化粧品を入れるポーチなど日常的に使う入れ物でなかなか良いものが見つけられなかった。市場には安いナイロン製のバッグか、とても高価で重たくメンテナンスも困難なラグジュアリーバッグしかない。日常的に使える美しい製品が欲しいというのがアイデアの出発点だ」。

デザインは至ってシンプル。年齢やジェンダー問わず、すべての人々の日常生活に寄り添うことがシニョールの目的だからだ。「私はデザイナーではないし、何か新しいデザインを生み出したいとは考えていない。美しい素材を使って完璧な設計図に基づいて製品作ることが私の仕事。でも、非常にベーシックなデザインだからこそ結果的にさまざまなファッションテイストを持つ人々が愛用してくれている。店舗には『メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)』を着た人から『コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)』ガール、『シャネル(CHANEL)』ガールも来てくれる」。

昨年からは卸販売を開始した。なかでも日本は注力市場だという。「20代の時に初めて日本を訪れた時から、日本が大好き。人々のライフスタイル、シンプルなものに見出す美学に魅了される。『リュニフォーム』は日本の人々の価値観にマッチする商品を届けられるとはず」。現在日本では、青山店、丸の内店のほか、阪急うめだ本店やトゥモローランドなどで取り扱う。

■「リュニフォーム」サヴォアフェール イベント
日程:3月29、30日
営業時間:10:00-20:00
場所:阪急うめだ本店
日程:3月31日
営業時間:10:00~20:00
場所:トゥモローランド 京都BAL店 2階
※時間およびイベント詳細は要問い合わせ

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「日常使いできる美しいバッグがあったなら」 元数学者が緻密な設計で作る「リュニフォーム」の魅力

PROFILE: ジャンヌ・シニョール/「リュニフォーム」最高経営責任者兼アートディレクター

ジャンヌ・シニョール/「リュニフォーム」最高経営責任者兼アートディレクター
PROFILE: 1977年生まれ。フランス・ボルドー出身。トゥールーズ経済大学院で数学や物理を学び、航空業界や金融業界でもキャリアを積む。バッグメゾンでのコマーシャル部門での統括を経験した後、2014年にリュニフォームを設立。2015年パリの一号店をサンジェルマン・デ・プレ周辺にオープン、その後日本では、2016年に伊勢丹新宿店での常設店、2019年に日本初の旗艦店を丸の内に開店。2023年10月には青山店、そして11月には香港のレーンクロフォード内に店舗をオープンさせた PHOTO:TAMEKI OSHIRO

南フランス発のバッグブランド「リュニフォーム(L/UNINFORM)」は、現地の職人技を間近で見ることができるイベントを東京・⻘山店を皮切りに、阪急うめだ本店、トゥモローランド京都BAL店などで開催中だ。期間中は4つのモデルを対象に好きな色のキャンバス地をオーダーできる。イベント開催に合わせ来日した創業者のジャンヌ・シニョール(Jeanne Signoles)に、昨年オープンした青山の旗艦店で同ブランドの魅力について聞いた。

「リュニフォーム」はスクールバッグやマザーズバッグとしても使えるツールバッグ、コンピューターケース、ペンシルケース、スーツケースなど、日常に寄り添う豊富なラインアップをそろえる。商品はすべてをポルトガルの自社工場で生産する。

「私にとってバッグ作りは、飛行機の製造と変わらない」

最大の特徴は、元数学者でフランスの航空機メーカー大手のエアバスに勤めた経歴を持つシニョールの緻密な設計に裏打ちされた品質だ。人気のサドルバッグ(14万6410円)や、ハンドルとショルダーバッグの2WAYで使えるオールインバッグ(4万3560円)に使用しているキャンバス生地は、厳選したフランス産リネンとコットンで糸からオリジナルで開発。独自の加工技術で防水や撥油、防汚機能を持たせ、生地が本来持つやわからな風合いと両立させている。

耐久性を担保するのに重要なステッチは、フォーク型の道具を使用しバッグ・レザー製品には10〜11mmに3ステッチ、スモールレザーグッズは10〜11mmに4ステッチという規定で丁寧に縫い合わせている。「私にとってバッグ作りは、飛行機の製造と変わらない。正確な設計が重要で、色や形、ステッチの数、すべてのディテールに理由がある」。

シニョールは「細部まで完璧で一貫した品質こそがブランドを象徴する」と強調する。「目に見えない部分にも完璧を追求するのが私のモットー。例えばポケット。他のラグジュアリーブランドでは、表地がレザーでも内側にコットンやポリエステルが使われているものがある。私はものの出し入れをする内側には耐久性のあるカーフレザー、外側には手触りのよいラムレザーを使用して1枚に縫い合わせている」とこだわりを語る。

今回の店舗イベント中は製品を縁取る革がしなやかに曲がるよう小さな山型にカッティングするピンキングの作業やコバ塗りの作業を職人が実演してくれる。「これまであまり多くを語ってこなかったからこそ、こうした機会を通して私たちが大事にしているものを伝えたい」という。

「ギャルソン」好きから「シャネル」好きまでが愛用

ゴヤール家のシニョールは、「ゴヤール(GOYARD)」のビジネスに携わったのち2014年に夫のアレックスと同ブランドを立ち上げた。「双子の母として育児をする中で、買い物バッグや子どものお菓子を入れるバッグ、化粧品を入れるポーチなど日常的に使う入れ物でなかなか良いものが見つけられなかった。市場には安いナイロン製のバッグか、とても高価で重たくメンテナンスも困難なラグジュアリーバッグしかない。日常的に使える美しい製品が欲しいというのがアイデアの出発点だ」。

デザインは至ってシンプル。年齢やジェンダー問わず、すべての人々の日常生活に寄り添うことがシニョールの目的だからだ。「私はデザイナーではないし、何か新しいデザインを生み出したいとは考えていない。美しい素材を使って完璧な設計図に基づいて製品作ることが私の仕事。でも、非常にベーシックなデザインだからこそ結果的にさまざまなファッションテイストを持つ人々が愛用してくれている。店舗には『メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)』を着た人から『コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)』ガール、『シャネル(CHANEL)』ガールも来てくれる」。

昨年からは卸販売を開始した。なかでも日本は注力市場だという。「20代の時に初めて日本を訪れた時から、日本が大好き。人々のライフスタイル、シンプルなものに見出す美学に魅了される。『リュニフォーム』は日本の人々の価値観にマッチする商品を届けられるとはず」。現在日本では、青山店、丸の内店のほか、阪急うめだ本店やトゥモローランドなどで取り扱う。

■「リュニフォーム」サヴォアフェール イベント
日程:3月29、30日
営業時間:10:00-20:00
場所:阪急うめだ本店
日程:3月31日
営業時間:10:00~20:00
場所:トゥモローランド 京都BAL店 2階
※時間およびイベント詳細は要問い合わせ

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YOASOBIや山下達郎などのMVを手掛けたアーティストninaが初個展を開催 初挑戦で感じた手応え

PROFILE: nina/アーティスト

nina/アーティスト
PROFILE: (にいな)アニメーション表現を軸に、音楽業界、ファッション、装丁などさまざまなフィールドで作品を手がけるアーティスト。独自の色彩感覚とタッチで世界観を作り上げ、注目を集めている。2018年に自身初の書籍である「セキララマンガ 眠れぬ夜に届け」を執筆、出版。19年に制作したYOASOBI「夜に駆ける」のアニメーションMVは2.7億回再生を記録している。23年11月24日にアーティストネームを「藍にいな」から「nina」に改名した。PHOTO:YOHEI KICHIRAKU

東京都神保町に3月14日に新しくオープンしたギャラリー「New Gallery」。そのオープニングを飾るのは、YOASOBI「夜に駆ける」やAdo「私は最強(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」、山下達郎「さよなら夏の日」などのMVでアニメーションを手掛けた注目のアーティスト、ninaだ。

同氏はMVのほかにも2021、23年に「コーチ(COACH)」のPOPUP展でインスタレーションを担当するなど、アニメーション以外にもイラスト、漫画など、幅広く活動している。2023年11月には、「藍(あい)にいな」からninaへと改名し、新たな挑戦を続けている。意外にも今回が初の個展だというninaに、今の想いを聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):今回、ninaさんにとって初の個展ですが、活動歴から考えると初個展というのは意外でした。

nina:これまでも個展はずっとやりたいとは思っていたんですが、なかなか腰を据えて自分の作品を制作する時間が取れなかったんです。そんな中で、実際に個展をやろうと決めたのは約1年前で、それと同じタイミングで展示会場である「New Gallery」から「オープニングで展示をやりませんか」とお話をいただいて、このタイミングで初の個展を開催することになりました。初めてということもあって、結構ギリギリまでタイトルを考えたり、作品を作ったりしていました。

WWD:昨年11月には「藍にいな」から「nina」に改名しましたが、どんな理由からだったんですか。

nina:藍は英語で「AI」と書きますが、人工知能の「AI(エーアイ)」と混同されてしまう可能性があって。海外でも活動も広げていきたいというのもあり、AIイラストなどのAI技術が注目されている中で、「AI」と名前ついていることが今後障壁になるかもしれないと思い、ninaにしました。

WWD:なるほど。今回の個展タイトルである「AfterBirth」に込めた想いは? 改名もあって、生まれ変わる的な意味合いもあったのですか。

nina:それはなかったですね。もともと個展の開催を決めた時から「身体性」をテーマにしたいと考えていました。日々デジタルなものやバーチャルなものに囲まれて生きている中で、人間としての軸を失いかけているような感覚があって。そこから、軸である「身体を忘れたくない」という思いが芽生えました。本来の自然を切り離したくない、という気持ちだと思います。

ただ、完全な生身としての身体であったり、ネイチャーとしての自然とはまた 違うと考えています。私自身、幼い頃からコンピューターやインターネットに 触れて育っているので、それも自分にとって自然なものであって、切り離せな いものです。そうした自分が抱えている矛盾や、自然との距離感を考えた時に 「AfterBirth」という言葉に出会いました。

「AfterBirth」はもともと医学用語で、日本語だと後産(あとざん)。出産直後に、子宮から排出される胎盤や胎膜の一部などを指す言葉なんです。生まれる前は自分の一部だったのに、生まれた瞬間から自分とは切り離されている、というのが私の考えるテーマにぴたりと当てはまったので、展示タイトルを「AfterBirth」にしました。

初挑戦の立体作品と油絵

WWD:今回、新たに立体作品や油絵に挑戦しましたが、その理由は?

nina:「身体性」をテーマにした個展の空間を作る上で、まずは実際に対面できるものがあった方がいいだろうと考えて、立体作品を作りました。この作品は東京で1人で部屋に閉じこもって、SNSだったり、いろんなデジタルの情報や視線に覆われて、本当は自由だし身軽でどこにでも行けるはずなのに、どこにも行けなくなってしまっている女の子をイメージして作りました。サイズも等身大で作っているので、私がイメージした女の子が実際に感じてもらえると思います。

実際の制作に関しては、私がデザインを考えて、それを京都の造形師さんにお願いし、立体造形していただきました。そこに私が目や口などの顔の描画と、一部ペイントをしています。

WWD:油絵に関しては?

nina:油絵の方は、当初プリントの上からアクリル絵の具などでペイントするという話もあったのですが、「身体性」というテーマを考えていった結果、今回はよりフィジカルに近い油絵具でやることにしました。

今までアクリル絵の具では描いたことがあったんですが、油絵具は触ること自体初めてで。でもすごく楽しかったですね。アクリルは速乾性が高いので、計画したものをそのままキャンバスに描いていく感覚でデザインに近いんですが、油絵具はドローイングの感覚で絵を描いていけるので、よりライブ感がありました。

油絵作品に関しては、キービジュアルのデジタルの作品と呼応していて、この赤い絵はキービジュアルの女の子を油絵で描いています。人間なのか人間じゃないのか分からない人体に囲まれた女の子。両隣の2作品は、普段は見えない内臓の部分だったり、膿みたいなものがどろどろとあふれ出してしまっている女の子をテーマに描いています。

WWD:こうした女の子を描く時は、イメージだけで描くんですか。それとも何か参考にしているものがあったりするんですか。

nina:完全にイメージだけで描いています。

WWD:ちなみに女性を描く時と男性を描く時の違いは?

nina:女性は自分自身の心情を投影させながら描いていますが、一方で男性を描く時はより俯瞰的に描いています。個人的には、女性の方が、自分の感情がちゃんと乗るのでより自然に描けますね。

WWD:ドローイングは新作ですか?

nina:古い作品だと2年前ぐらいに描いたものもあります。日々、日記的に絵は描いているので、その中からピックアップしたのと、プラスで新作も半分以上はあります。あと、ギャラリーの外から見えるところにアニメーション作品も展示しているので、ぜひそちらも観ていってほしいです。

クライアントワークと自身の作品

WWD:アニメーションもやられて、イラストや漫画も描いていますが、制作に関しては、ご自身の中で考え方を分けていたりしますか?

nina:分けては考えていないです。どのアウトプットになっても軸の部分は一緒で、対人との距離感のような気がします。漫画だと物語を人に伝えるために理性的に作っていく話になるだろうし、ドローイングだったら、自分のプライベートな部分の感情を吐き出すみたいなことになるだろうし。

WWD:一番得意とするのは?

nina:得意というと難しいですけど、人に見ていただけた時に、「見たことないな」っていうものを生み出せるのはやっぱりアニメーションかなと思います。ただ、今回油絵をやってみて、いろんな可能性がありそうだなと感じました。

WWD:以前のインタビューでポップとアートのバランスはすごく考えると語っていましたね。それがすごく興味深かったです。

nina:基本的にはやっぱりどのくらいそのバランスを取るかっていう話だと思うので。かなり伝わりやすくするのか、それよりももっと自分のプライベートな部分をそのまま荒削りの状態で出すのか。それぞれの良さがあると思うので、その都度で考えています。

WWD:ご自身の中でクライアントワークと創作の違いはありますか。

nina:それは全然違いますね。クライアントワークは求められている正解があると思うんですけど、自分の作品に関してはそれがないので。自分がいいと思ったらいい。でも、もしかしたらそれが間違ってるかもしれない。責任が全部自分に降りかかるので、難しいけど、それはそれで楽しいですね。

WWD:ファッションやビューティブランドとのコラボも結構やられていますね。

nina:ブランドとのコラボも楽しいです。求められるものに対して考えて作っていくのは、割と好きな方なんだと思います。だから機会があったらこれからもやっていきたいです。

WWD:イラストを描かれる時にファッションやメイクで特に意識していることはありますか?

nina:逆にファッションやメイクのイメージをつけたくなくて。なるべく自然な生身の状態を感じられるように意識して描いています。

WWD:ちなみに好きな漫画家さんはいますか?

nina:星野桂先生の「D.Gray-man」は小学生の頃から読んでいて、影響を受けていると思います。あと最近だと「宝石の国」の市川春子先生や宮崎夏次系先生が好きですね。

WWD:今回、初めて個展を開催しましたが、今後さらにやりたいことは?

nina:実際にやってみたら、やりたいことがたくさん出てきました。作品としては、やっぱり大きな作品は作っていて楽しいので、今回よりももっと大きな立体作品や絵も作りたいです。仕事面だと、これからもいろんな音楽アーティストと関わってMVなどは作っていきたいですし、本の装丁やブランドコラボなど、今までと変わらず幅広く活動していければと思います。

■nina First Solo Exhibition「AfterBirth」
会期:2024年3月14日〜4月7日
会場:New Gallery
時間:11:00-19:00
住所:東京都千代田区神田神保町1-28-1 1階
料金:無料
主催:New Gallery
展示ディレクション:CON_
https://newgallery-tokyo.com/nina/

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YOASOBIや山下達郎などのMVを手掛けたアーティストninaが初個展を開催 初挑戦で感じた手応え

PROFILE: nina/アーティスト

nina/アーティスト
PROFILE: (にいな)アニメーション表現を軸に、音楽業界、ファッション、装丁などさまざまなフィールドで作品を手がけるアーティスト。独自の色彩感覚とタッチで世界観を作り上げ、注目を集めている。2018年に自身初の書籍である「セキララマンガ 眠れぬ夜に届け」を執筆、出版。19年に制作したYOASOBI「夜に駆ける」のアニメーションMVは2.7億回再生を記録している。23年11月24日にアーティストネームを「藍にいな」から「nina」に改名した。PHOTO:YOHEI KICHIRAKU

東京都神保町に3月14日に新しくオープンしたギャラリー「New Gallery」。そのオープニングを飾るのは、YOASOBI「夜に駆ける」やAdo「私は最強(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」、山下達郎「さよなら夏の日」などのMVでアニメーションを手掛けた注目のアーティスト、ninaだ。

同氏はMVのほかにも2021、23年に「コーチ(COACH)」のPOPUP展でインスタレーションを担当するなど、アニメーション以外にもイラスト、漫画など、幅広く活動している。2023年11月には、「藍(あい)にいな」からninaへと改名し、新たな挑戦を続けている。意外にも今回が初の個展だというninaに、今の想いを聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):今回、ninaさんにとって初の個展ですが、活動歴から考えると初個展というのは意外でした。

nina:これまでも個展はずっとやりたいとは思っていたんですが、なかなか腰を据えて自分の作品を制作する時間が取れなかったんです。そんな中で、実際に個展をやろうと決めたのは約1年前で、それと同じタイミングで展示会場である「New Gallery」から「オープニングで展示をやりませんか」とお話をいただいて、このタイミングで初の個展を開催することになりました。初めてということもあって、結構ギリギリまでタイトルを考えたり、作品を作ったりしていました。

WWD:昨年11月には「藍にいな」から「nina」に改名しましたが、どんな理由からだったんですか。

nina:藍は英語で「AI」と書きますが、人工知能の「AI(エーアイ)」と混同されてしまう可能性があって。海外でも活動も広げていきたいというのもあり、AIイラストなどのAI技術が注目されている中で、「AI」と名前ついていることが今後障壁になるかもしれないと思い、ninaにしました。

WWD:なるほど。今回の個展タイトルである「AfterBirth」に込めた想いは? 改名もあって、生まれ変わる的な意味合いもあったのですか。

nina:それはなかったですね。もともと個展の開催を決めた時から「身体性」をテーマにしたいと考えていました。日々デジタルなものやバーチャルなものに囲まれて生きている中で、人間としての軸を失いかけているような感覚があって。そこから、軸である「身体を忘れたくない」という思いが芽生えました。本来の自然を切り離したくない、という気持ちだと思います。

ただ、完全な生身としての身体であったり、ネイチャーとしての自然とはまた 違うと考えています。私自身、幼い頃からコンピューターやインターネットに 触れて育っているので、それも自分にとって自然なものであって、切り離せな いものです。そうした自分が抱えている矛盾や、自然との距離感を考えた時に 「AfterBirth」という言葉に出会いました。

「AfterBirth」はもともと医学用語で、日本語だと後産(あとざん)。出産直後に、子宮から排出される胎盤や胎膜の一部などを指す言葉なんです。生まれる前は自分の一部だったのに、生まれた瞬間から自分とは切り離されている、というのが私の考えるテーマにぴたりと当てはまったので、展示タイトルを「AfterBirth」にしました。

初挑戦の立体作品と油絵

WWD:今回、新たに立体作品や油絵に挑戦しましたが、その理由は?

nina:「身体性」をテーマにした個展の空間を作る上で、まずは実際に対面できるものがあった方がいいだろうと考えて、立体作品を作りました。この作品は東京で1人で部屋に閉じこもって、SNSだったり、いろんなデジタルの情報や視線に覆われて、本当は自由だし身軽でどこにでも行けるはずなのに、どこにも行けなくなってしまっている女の子をイメージして作りました。サイズも等身大で作っているので、私がイメージした女の子が実際に感じてもらえると思います。

実際の制作に関しては、私がデザインを考えて、それを京都の造形師さんにお願いし、立体造形していただきました。そこに私が目や口などの顔の描画と、一部ペイントをしています。

WWD:油絵に関しては?

nina:油絵の方は、当初プリントの上からアクリル絵の具などでペイントするという話もあったのですが、「身体性」というテーマを考えていった結果、今回はよりフィジカルに近い油絵具でやることにしました。

今までアクリル絵の具では描いたことがあったんですが、油絵具は触ること自体初めてで。でもすごく楽しかったですね。アクリルは速乾性が高いので、計画したものをそのままキャンバスに描いていく感覚でデザインに近いんですが、油絵具はドローイングの感覚で絵を描いていけるので、よりライブ感がありました。

油絵作品に関しては、キービジュアルのデジタルの作品と呼応していて、この赤い絵はキービジュアルの女の子を油絵で描いています。人間なのか人間じゃないのか分からない人体に囲まれた女の子。両隣の2作品は、普段は見えない内臓の部分だったり、膿みたいなものがどろどろとあふれ出してしまっている女の子をテーマに描いています。

WWD:こうした女の子を描く時は、イメージだけで描くんですか。それとも何か参考にしているものがあったりするんですか。

nina:完全にイメージだけで描いています。

WWD:ちなみに女性を描く時と男性を描く時の違いは?

nina:女性は自分自身の心情を投影させながら描いていますが、一方で男性を描く時はより俯瞰的に描いています。個人的には、女性の方が、自分の感情がちゃんと乗るのでより自然に描けますね。

WWD:ドローイングは新作ですか?

nina:古い作品だと2年前ぐらいに描いたものもあります。日々、日記的に絵は描いているので、その中からピックアップしたのと、プラスで新作も半分以上はあります。あと、ギャラリーの外から見えるところにアニメーション作品も展示しているので、ぜひそちらも観ていってほしいです。

クライアントワークと自身の作品

WWD:アニメーションもやられて、イラストや漫画も描いていますが、制作に関しては、ご自身の中で考え方を分けていたりしますか?

nina:分けては考えていないです。どのアウトプットになっても軸の部分は一緒で、対人との距離感のような気がします。漫画だと物語を人に伝えるために理性的に作っていく話になるだろうし、ドローイングだったら、自分のプライベートな部分の感情を吐き出すみたいなことになるだろうし。

WWD:一番得意とするのは?

nina:得意というと難しいですけど、人に見ていただけた時に、「見たことないな」っていうものを生み出せるのはやっぱりアニメーションかなと思います。ただ、今回油絵をやってみて、いろんな可能性がありそうだなと感じました。

WWD:以前のインタビューでポップとアートのバランスはすごく考えると語っていましたね。それがすごく興味深かったです。

nina:基本的にはやっぱりどのくらいそのバランスを取るかっていう話だと思うので。かなり伝わりやすくするのか、それよりももっと自分のプライベートな部分をそのまま荒削りの状態で出すのか。それぞれの良さがあると思うので、その都度で考えています。

WWD:ご自身の中でクライアントワークと創作の違いはありますか。

nina:それは全然違いますね。クライアントワークは求められている正解があると思うんですけど、自分の作品に関してはそれがないので。自分がいいと思ったらいい。でも、もしかしたらそれが間違ってるかもしれない。責任が全部自分に降りかかるので、難しいけど、それはそれで楽しいですね。

WWD:ファッションやビューティブランドとのコラボも結構やられていますね。

nina:ブランドとのコラボも楽しいです。求められるものに対して考えて作っていくのは、割と好きな方なんだと思います。だから機会があったらこれからもやっていきたいです。

WWD:イラストを描かれる時にファッションやメイクで特に意識していることはありますか?

nina:逆にファッションやメイクのイメージをつけたくなくて。なるべく自然な生身の状態を感じられるように意識して描いています。

WWD:ちなみに好きな漫画家さんはいますか?

nina:星野桂先生の「D.Gray-man」は小学生の頃から読んでいて、影響を受けていると思います。あと最近だと「宝石の国」の市川春子先生や宮崎夏次系先生が好きですね。

WWD:今回、初めて個展を開催しましたが、今後さらにやりたいことは?

nina:実際にやってみたら、やりたいことがたくさん出てきました。作品としては、やっぱり大きな作品は作っていて楽しいので、今回よりももっと大きな立体作品や絵も作りたいです。仕事面だと、これからもいろんな音楽アーティストと関わってMVなどは作っていきたいですし、本の装丁やブランドコラボなど、今までと変わらず幅広く活動していければと思います。

■nina First Solo Exhibition「AfterBirth」
会期:2024年3月14日〜4月7日
会場:New Gallery
時間:11:00-19:00
住所:東京都千代田区神田神保町1-28-1 1階
料金:無料
主催:New Gallery
展示ディレクション:CON_
https://newgallery-tokyo.com/nina/

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多角的なアプローチでコミュニティー活性化へ インスタグラムやスレッズの現在地は?

フェイスブック(Facebook)やインスタグラム(Instagram)など、2021年にフェイスブック(Facebook)から社名変更したメタ(Meta)が保有するSNSプラットフォームは、時代とともにアップデートを重ねてきた。テキストベースの新プラットフォーム・スレッズ(Threads)の登場のほか、新VRヘッドセット“メタクエスト(Meta Quest) 3”も発売し、人々の生活にさらなる変化をもたらしている。これらは全て、メタが掲げるミッション「コミュニティーの活性化」へとつながる。メタの日本法人フェイスブック ジャパンで「グローバルパートナーシップ」チームに所属する大平かりん氏に、コミュニティーに対する取り組みを聞いた。

PROFILE:大平かりん/メタ グローバルパートナーシップ担当 プロフィール

(おおひら・かりん)マガジンハウスが発行する「ブルータス」「ギンザ」のエディターとして活動後、2022年からメタの日本法人フェイスブック ジャパン(Facebook Japan)で「グローバルパートナーシップ」チームに所属。趣味はファッションで、365日違うコーディネートをまとうことを公言。インスタグラムは@ko365d

オンライン&オフラインを両立した取り組みで
コミュニティーの活性化を実現

WWD:さまざまなSNSプラットフォームが登場する中で、メタのソーシャルアプリはどのようなテーマを掲げるか?

大平かりん(以下、大平): メタは“コミュニティーづくりを応援し、人と人がより身近になる世界の実現”をミッションとして掲げる。特にインスタグラムは“ビジネス活用の面において「好き」と「欲しい」をつなぐ自分ごと化プラットフォーム”として、利用者の興味・関心と関連性の高いコンテンツを高い精度で表示し、アクションにつなげることが可能だ。

WWD:所属する「グローバルパートナーシップ」チームではどのような取り組みを行うのか?

大平:「グローバルパートナーシップ」は、プラットフォームでのコミュニティーを盛り上げることが目的だ。私達がパートナーとして組むのは、著名人、文化人、アスリートと言った、メタのプラットフォームを使用するクリエイター達とメディア。クリエイター達がプラットフォームを活用する中で、夢や目標がかない、ビジネスが成功するための支援を行う。

具体的には、クリエイター向けのオンラインセミナー「Master Class」の開催をすることでクリエイターやメディアのソーシャル担当向けに、新機能や活用事例などを紹介したり、受講者から寄せられる質問に答えたり、「こういう機能があったらうれしい」などの要望をヒアリングし、プロダクトチームへ伝えるほか、クリエイターと企業の協業のサポートを行うこともある。この際、ただクリエイターを紹介するだけではなく、コラボレーションすることで双方が目指すゴールを実現するための方法を一緒に考え、ベストな方向へ導くための支援も行う。

また、クリエイターとファンがリアルで交流でき、新たな挑戦をする場として、オフラインでのイベントも行ってきた。昨年3月には渋谷109(8階)に“クリエイターコラボレーションスペース”を設置していた。

さらに、今年は文化服装学院での特別講義「Meta 次世代クリエイター支援プログラム」もスタートする。6月から開講する全6回の講義で、約20人を対象としている。自身のブランドを立ち上げたファッション系クリエイターや、生成AIやNFTなど新しいテクノロジーを取り入れたアート表現に挑戦するクリエイターなどを特別講師として招く予定だ。

インスタグラムにおいて昨年見られた成長と新機能

WWD:この一年、インスタグラムではどのような成長が見られた?

大平:メタのプラットフォームは、23年9月時点で利用者数が全世界で39.6億人を突破するなど、国内外で順調に拡大している。広告売上高も全体として前年同期比24%増と増加傾向にあるように、多くの企業がインスタグラムやフェイスブックを活用してビジネスを成長させてきた。

20年8月にリール機能をローンチして以来、インスタグラムの利用時間が40%増加(※23年第3四半期決算時点)し、プラットフォーム全体の成長に大きく貢献している。 特に昨年はリールが最も成長した年で、フェイスブックとインスタグラム全体で1日あたり2000億回以上再生(※23年第2四半期決算時点、以下同)され、ビジネスでの活用も増えている。22年10月から11 月に実施したオンライン調査によると、リールを見たあとにビジネスアカウントをフォローしたことがある利用者は56%、リールを見た後に商品やサービスを購入したことがある利用者は53%と言う結果になった。マネタイズも順調に進み、インスタグラムアプリ全体の年間売上高は22年秋から23年春にかけて、30億ドルから100億ドルへと成長している(※)。

WWD:2023年に追加されたインスタグラムの新機能について知りたい。

大平:利用者がインスタグラムを開く理由のひとつに、クリエイターによるコンテンツを楽しむ目的がある。私たちはクリエイターが自分自身を表現して、ファンを獲得し、コミュニティーを育くむことで収益を得られるプラットフォームを作るためにさまざまな機能を継続して開発している。昨年は「サブスクリプション」「一斉配信チャンネル」「ギフト」機能を追加した。

2023年7月にローンチした新プラットフォーム
スレッズの展望

WWD:昨年は新たにスレッズが登場したことも話題になった。

大平:23年7月に提供を開始したスレッズは、インスタグラムのチームが開発したテキストでつながる新しいアプリだ。アカウントはインスタグラムとひも付き、双方のプラットフォームを行き来することができる。そのため、使い始めてすぐにある程度のオーディエンスを獲得でき、コミュニティーを構築しやすい。また、1投稿で使える文字数が500文字と他のテキスト型プラットフォームと比べて多いのも特徴だ。現在スレッズの世界のアクティブ数は1.3億に達し、大きな盛り上がりを見せている。特に日本はテキストでの表現を好む人が多い国でもあるため、非常に好調だと言える。

インスタグラム責任者のアダム・モッセーリ(Adam Mosseri)が、利用者に「どんな機能が欲しい?」などスレッズで呼びかけを行い、実際に新機能を拡充している。メタがコミュニティー活性化を大切にしているわかりやすい一例だ。インスタグラムでは交流がなかった利用者同士の間でも、スレッズをきっかけに新たな会話がたくさん生まれている。

将来的には非中央集権型のSNSプロトコル、アクティビティ・パブ(ActivityPub)に対応することにより、ドイツのソーシャルメディア・マストドン(Mastodon)や、コンテンツ管理システムであるワードプレス(Wordpress)といった他のアプリとの相互運用も可能になる予定だ。

WWD:現在スレッズには収益化機能がないが、今後拡充していく可能性は?
大平:広告を含むプラットフォームの収益化は、利用者体験を充分に構築した後に導入する予定だ。インスタグラムでもそうだったように、まずは利用者にとっての体験価値を構築することが優先事項であり、その上で利用者体験を損なわない形でビジネスに対する価値を提供する方法を検討するだろう。

リアルイベントや誌面との連動も
クリエイターと企業の協業事例

WWD:コロナ禍が明け、オフラインイベントの開催も増えた。SNSと連携することでどのような効果を得られるか?

大平:オフラインイベントの場合、現地に足を運べる顧客の数やキャパシティーなどの関係で、リーチできる人数が限定されてしまう。その様子をインスタグラムの公式アカウントや来場者のアカウントで発信する手法は一般的になっている。オンライン、オフラインで包括的に取り組むことで、より幅広い層ヘアプローチするのが効果的だろう。

SNSとリアルイベントを連動させ、より立体的に1つのストーリーを伝えることができている事例として私が印象的だったのは「ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)」 のオフラインイベント「VOGUE ALIVE」。出演者である女性ダンスチーム・アバンギャルディのリール告知動画を最初に見た後、誌面のインタビューを読み、イベントのことを知った。その後オフラインイベントでのパフォーマンスがあり、その様子がリール動画として投稿された。この事例はリアルとSNS、さらに誌面までが効果的に連動し、それぞれのプラットフォームの強みや役割を活かしている。多くの人にリーチできるインスタグラムで企画の認知を広げ、誌面ではインタビューが展開。イベントでは会場に来た人だけが得られる特別体験を提供し、最後にまたインスタグラムでその様子を発信することで、より体験価値を高めることができた良い事例だ。

WWD:クリエイターを起用する上で企業が考えるべきポイントとは?

大平:まずは企業のターゲットが属する層に響くクリエイターを深く理解すること、そしてそのクリエイターのファンに届けるという考えを軸におくことだろう。「どういった表現方法が起用するクリエイターのファンに響くのか」を根底に持つことが、エンゲージメントを高めるための基礎になるはずだ。

例えば私が昨年サポートしたプロジェクトのひとつに、「レイ ビームス(RAY BEAMS)」とファッション系クリエイター数人にコラボしてもらい、同ブランドの商品を使ってコンテンツを制作してもらった事例が挙げられる。そのうちの1人、よしみ氏は起用したクリエイター達の中で突出してフォロワー数が多いわけではないが、彼女が制作したリール動画はエンゲージメントが非常に高く、取り組みをスタートした春夏シーズンだけでなく、秋冬シーズンでも継続してコラボをするに至った。

場合によっては、そのクリエイターが普段から一緒にコラボすることが多いビデオグラファーやヘアメイクなど、周囲のコミュニティーを巻き込むことも効果的だろう。渋谷パルコの50周年を記念した企画として「バーバリー(BURBERRY)」のアイテムを着用したクリエイター数名のリール動画を制作した際には、Miyu氏やKazuho Monster氏などダンサー達に参加してもらい、撮影は普段からダンサーの撮影を手掛けることが多いOTOME氏に依頼した。ファッションという、 ダンサーにとって異なるジャンルのコンテンツであっても、彼らの魅力を最大限に表現できるクリエイターを巻き込むことで、質の高い動画を制作することを可能にした。

WWD:今後、クリエイターやインフルエンサーを活用したマーケティング方法の需要はどうなっていくと考える?

大平:先述した通り、“利用者は企業からの発信と同じくらい、他の利用者やクリエイターの声を参考にしている”という結果が出ていることから、クリエイターマーケティングの重要性は年々高まっている。また、ブランドやビジネスからの一方的な情報発信だけでなく、クリエイターや利用者などのコミュニティーから各自の声で商品やサービスの良さを発信してもらうことで、意見や評価を共創し、相互性を持ちながらブランドの価値を高めることができるだろう。

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元「アンジュルム」メンバー・勝田里奈が手掛ける「ポーフ」 伊勢丹新宿本店で2度目のポップアップ

PROFILE:勝田里奈/「ポーフ」ディレクター プロフィール

(かつた・りな)1998年4月6日生まれ、東京都出身。2009年ハロプロエッグに加入後、11年にハロー!プロジェクト内グループ・スマイレージ(現・アンジュルム)のサブメンバーに選出された。同年10月にスマイレージ2期メンバーとしてデビューしアイドル活動を行うほか、ファッションモデルとしても活躍。19年9月にアンジュルムを卒業し、21年4月にファッションブランド「ポーフ」を立ち上げた。23年には伊勢丹新宿本店、阪急うめだでポップアップを開催し、3月27日からは伊勢丹新宿本店で2度目のポップアップを行う

アイドルグループ・アンジュルム(ANGERME)の元メンバー、勝田里奈がディレクションするファッションブランド「ポーフ(POFF)」は、4月で3周年を迎える。昨年夏には伊勢丹新宿本店で初のポップアップを開催し、1000万円を超える売り上げを記録した。今月27日から行う伊勢丹新宿本店での2度目のポップアップを前に、改めてブランド立ち上げの背景や今後の目標を聞いた。

買う人が“自分らしさ”を見つめ直すきっかけになるような服作りを

WWD:2021年に4月立ち上げた「ポーフ」の立ち上げ背景とは?

勝田里奈(以下、勝田):高校卒業後の進路を決める時に、自分のこれからの人生について考えるようになりました。自分の好きなことややりたいことを見つめ直した時に、洋服が好きだと改めて思い、文化学園大学短期大学部に進学しました。具体的にファッションについて触れて学べる環境にいれば、自分がやりたいことが見えてくるのではないかと思ったからです。その中で、“いつか自分自身の服を作りたい”という夢を持つようになりました。当時は芸能活動もあったため、すぐに服作りを始めることはできませんでしたが、大学卒業と同時に所属していたアンジュルムを卒業し、今は服作りに集中しています。だからこそ芸能のお仕事をいただく時にはとても楽しくて、芸能とブランドディレクターという両方から良い刺激を受けていると思います。

WWD:「ポーフ」が掲げるコンセプトについて教えてほしい

勝田:私のブランド「ポーフ」は“強さを纏う女性”というコンセプトを掲げています。アンジュルムの仲間達と過ごす中で、メンバーの芯の強さがとても印象に残りました。 “強さ”というと我の強さを思い浮かべてしまうこともあると思いますが、私は優しさも強さだと思っています。一人一人、その人らしい強さがあって良いと思うからこそ、幅広い人たちがそれぞれの着こなしを楽しめるようなデザインを意識していますし、私の服を手に取る時に改めて“自分らしさ”を考えてもらえたらうれしいです。ブランド立ち上げ時はチームの目線をそろえるためにもある程度ペルソナを絞っていましたが、今は年齢やファッションの系統を超えて、本当に幅広い層の方々が購入してくださっています。

WWD:服作りをする上でのこだわりは?

勝田:大切にしているのは“自分が本当に作りたいものしか作らない”ということ。ブランドによっては、トレンドや売り上げ目標のために多くのアイテムを商品化することもあると思いますし、それももちろんビジネスをする上では大切なことだと思います。でも私が運営するブランドだからこそ、本当に作りたいものだけを作っていきたい。そうして生まれた服だからこそ一つ一つの商品に愛着が生まれるし、お客さまにも心からおすすめでき、私自身も楽しく着こなしの提案ができます。

伊勢丹新宿本店2度目のポップアップでは新たにジュエリーラインも仲間入り

WWD:昨年7月に開催した伊勢丹新宿本店でのポップアップでは、1000万円以上の売り上げを達成した。この成果をどのように捉えている?また、告知や接客に関して意識したことは?

勝田:正直、あまり大々的な告知も行っていなかったので、ここまでの反響をいただけてとても驚きました。ポップアップスペースには連日大変多くの方がお越しくださり、穏やかなお客さまとスタッフのおかげでトラブルなしで期間を終えることができました。伊勢丹のご担当者にも「温かいお客さまばかりですね」とお声がけいただいたほど、対応をお待たせしてしまうことがあったにも関わらず、嫌な顔をせずにお買い物をしていただきました。

「ポーフ」のインスタグラムアカウントは主に私が運営しています。私とは違う、お客さま目線の「ポーフ」が見られることは私自身もうれしいですし、フォロワーの皆さまにもぜひ見てほしいと言う思いから、ポップアップ時も毎日、いただいたメンションを必ずストーリーズにシェアするようにしていました。些細なことかもしれませんが、一方的に発信するのではなく、お客さまからの発信も受け取ってコミュニケーションしていきたいと考えています。そのため、接客に関しても商品を売るために積極的に話しかけると言うより、気軽に相談しやすい親近感のある接客を心がけました。実際に店頭に立つからこそ、お客さまのお悩みやご意見を聞くことができて商品作りの参考になりますし、普段なかなか対面できないお客さまと実際にお会いできることがとてもうれしいです。

WWD:3月27日からの伊勢丹新宿本店でのポップアップに関して、特に注目してほしいポイントや今後の意気込みは?

勝田:27日からの伊勢丹新宿本店でのポップアップでは、「ポーフ」2024年春夏コレクションをお披露目します。前回の伊勢丹新宿でも好評だったブランドオリジナルのフラワー柄を、立体感があるジャガード素材のトップスと組み合わせたワンピースはぜひ注目してほしいです。シルエットや素材にこだわり、リラックスウェアとしても外でも着られるセットアップなど、今回の商品にもたくさんのこだわりを詰め込みました。また、今回から新たに仲間入りするジュエリーライン「ポーフ ジュエリー(POFF JEWELRY)」から、リングとネックレスも店頭に並ぶので、ぜひ見ていただけるとうれしいです!

今後としては、まずは「ポーフ」のショールーム兼プレスルームを持つことが目標です。また、ジュエリーラインをはじめ、これからもさまざまなラインを展開していけたらいいなと思っています。今回のポップアップではネイルポリッシュをノベルティーにしていますし、ビューティーアイテムを作ったりなど、チャレンジを続けていきたいです。

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廃棄物から“ラグジュアリー”スニーカーを作るヘレン・カーカムとは何者か

 「ヘレン カーカム(HELEN KIRKUM)」はロンドンを拠点に廃棄スニーカーを材料に“ラグジュアリースニーカー”を提案する。2018年、コンプレックスコンで村上隆がキュレーションを務めるアートインスタレーションに参加し、一躍脚光を浴びた。その後、「アディダス(ADIDAS)」「リーボック(REEBOK)」「アシックス(ASICS)」とった有力ブランドとのコラボレーションを次々と成功させた。現在は廃棄スニーカーを素材にしたスニーカーの小規模な量産化に成功し、スニーカーに加えて、観葉植物用ポットなどのグッズ、依頼を受けてスニーカーをリメイクする「ビスポーク」、そしてブランドとのコラボレーションの4つの柱でビジネスを営む。ヘレン・カーカムとは何者か。オンラインインタビューを行った。

PROFILE: ヘレン カーカム(HELEN KIRKUM)

ヘレン カーカム(HELEN KIRKUM)
PROFILE: ノーザンプトン大学で英国の伝統的な靴作りを学び、学士号を取得後、2016年ロイヤル・カレッジ・オブ・アートを修了。2019年「ヘレン カーカム」を設立

未来のラグジュアリースニーカーの定番とは何か?

WWD:なぜ廃棄スニーカーからスニーカーを作ろうと思ったのか。

ヘレン・カーカム(以下、カーカム):ノーザンプトン大学で英国の伝統的な靴作りを学び、その後ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art、RCA)で靴の作り方を学び直し、コンセプチュアルなデザインをするようになった。加えて、私は環境に興味があり、常に気にかけている。

RCA在学中にロンドン西部のウェンブリーにあるリサイクルセンターに行ったときのこと。活用できない片足だけのスニーカーの山があり、その時に問題に気付いた。片っぽだけではリユースできない。こうしたスニーカーを活用しようと決めた。そして、素材は繊維などに分解するのではなく、そのまま活用することが重要だと考えた。解体後断片になった靴の由来を示すことが、お客さまが私たちのパーパスを理解するのに役立つから。

WWD:「ヘレン カーカム」のパーパスとは?

カーカム:身に付けるモノの生産工程を重視すること。型にはまらない技法とデザイン、そして作る行為を通して、生産システムをハッキングすること。遊び心と個性、自発的で意識的な創造性、プロセス主導でクラフトを表現するモノ作りを原動力としている。そして、スニーカーの生産工程や製品消費後の廃棄物に対する認識を広め、創造的な解決策を提供すること。

WWD:シグニチャーの“パリンプセスト(PALIMPSEST)”はアイキャッチでハッとするデザインだ。

カーカム:わかりやすく、スタイリングしやすい靴を作ろうと考えた。イメージしたのは未来のラグジュアリーな定番スニーカー。(環境危機の影響で)原料がなくなったときにどのような靴が生まれるのかを想像しながら開発を始めた。

消費の意味や所有者と製品との関わり方を再考する

WWD:あなたにとってラグジュアリーとは?

カーカム:私にとって究極のラグジュアリーとは、生産工程に関わる全ての人とモノが優先されること。ラグジュアリーとは、環境と人々を尊重すること。原料の繊維を育てる人々から靴を梱包する人々に至るまで、全ての人が尊厳をもって扱われ、安全であること。こうした工程を経た製品こそが、ラグジュアリーだといえる。また、履き心地、品質、素材の寿命に重点を置くことによって、顧客を尊重するということでもある。そして、所有者と製品とが深く結びつき、製品が所有者にとって意味のあるストーリーを持ち、所有者にとって製品本来の目的以上の役割を果たすこと。

WWD:RCA在籍中に、廃棄スニーカーを活用したオーダーメイドシューズ「ヘレン カーカム」を立ち上げ、19年に正式に事業化した。スタジオで一つ一つ手作りしていたものをどう量産化したのか。

カーカム:RCAの学生の多くは在学中にコンセプチュアルでクレイジーなアイデアからキャリアをスタートし、卒業後どうビジネスにするか考える。私たちは素材を作り上げる技術を開発し、さらにポルトガルにある素晴らしい工場フォーエバー(Forever)と幸運にも出合えたことで、小規模ながら量産化できる仕組みを作ることができた。彼らは新しいアイデアに対してとてもオープンで、地球を大切にしてくれるから、本当に助かっている。やり取りを重ねてある程度工場に委託できるようになった。

材料はこれまで通り提携するリサイクルセンターから片足だけの靴を回収している。そのほとんどが異なるデザインだが、ロンドンのスタジオで全ての靴を解体し、パッチワークのような素材を作り、ポルトガルの工場に送っている。つまり、私たちは素材メーカーでもある。

WWD:デザインで重視していることは?

カーカム:最初に見たときに「かっこいい靴」と思ってもらい、よく見ると「いい靴」と思える靴とは何かを模索している。そのための小さな要素がたくさんあり、例えば小さなラベルを付けたり、かかとの裏の部分に靴紐を付けたりするような単純なことでさえも、全ての部品がどこから来ていて、どのような過程をたどっているかを示している。

古いスニーカーを解体していたとき、スニーカーの内側の多くは、製造工程の都合上ジグザグに縫い合わされていることに気付いた。私たちは、誰も目にすることのない靴の内部――スニーカーがどのように作られているのかーーについても製品を通じて紹介したいと考えた。

アウトソールは、オーダーメイドのスニーカーを作るときに感じる、継ぎ接ぎしたような感覚と、実際につなぎ目がぎこちなくなる点を表現している。

WWD:素材は全てリサイクル素材なのか。

カーカム:アッパーは全て回収した廃棄スニーカーの材料を、その他は工場に依頼して作っており、インソールは90%がリサイクルフォームで、アウターソールは30%リサイクルゴムを活用している。

リサイクルポリエステルのラベルのように、私たちはできる限り多くのリサイクル素材を使うようにしている。また、工場から排出される廃棄物の利活用にも積極的に取り組んでおり、その多くがスエード仕上げされていない白色の革の裏側だ。工場にはこの材料が靴ひもを通す穴のパーツをつくるために大量にある。私たちはある意味、既存の製造工程をハックできる点を探してきたんだ。

トレンドではなく、廃棄物に左右される製品作り

WWD:カラーバリエーションが増えている。

カーカム:卸売りは今回が3シーズン目で、新色を発表するのは2回目だ。新色はリサイクルセンターに集まる靴の色から決めている。クールでしょう?つまり私たちの製品はトレンドに左右されるのではなく、そのプロセスに左右されており、これは非常に珍しいことだと思う。

WWD:チーム編成は?

カーカム:私の他に2人。ヤスミンはデザインとサンプル作りを担当していて、エリオットはリサイクルセンターから靴を回収して解体している。

WWD:3人で行っているとは驚きだ。

カーカム:私たち全員が実務的で実践的に取り組んでいる。スタジオのチームはもちろん一緒に仕事をする人たちは皆、創造性がありオープンで、変化に対する適応能力が高い。だから、私たちチームが持っているスキルや仕事の方法は、私たち特有のものになっている。履歴書を見て「この人はこういうことができる」とわかるようなものではないんだ。

WWD:現在の生産数は?

カーカム:1シーズンで100~200足程度だ。少しずつ増やしてはいるが、一度にたくさん作り過ぎないようにしている。複数のシーズンにわたり展開する色味もあり、例えば、色落ちした黒やダスティ・ストーンといったシグネチャーになりつつある色味だ。重要なのはゆっくりと成長すること。いきなり何千足も作るようなビジネスはしたくない。

WWD:アクセサリー作りにも取り組んでいる。

カーカム:デッドストックの靴紐の活用法を模索して、靴紐を編んだバッグを作った。今、生産を拡大できるか検討を始めたところだ。スニーカーのベロの裏地を使ったバッグも作った。私たちの材料は基本的にはリサイクルセンターかパートナー企業から調達しており、集まるものによって作るものが決まる。もちろんどのようなニーズがあるかということも検討している。

WWD:“都市鉱山の実り”に応じて作るものが決まるのは興味深い。植物用のポットも販売している。

カーカム:製品くずから作っている。工場には、靴用に切り取った端材をひとつ残らず送り返すようにお願いしている。廃棄物を減らすことができるもうひとつの方法だ。

WWD:生産工程においても廃棄物ゼロを目指している?

カーカム:まだ廃棄ゼロとは言えないが、それが目標だ。

製品と個人的な関係を表現する「ビスポーク」

WWD:オーダーメイド品について教えてほしい。

カーカム:一足2500ポンド(約47万2500円)で、これまで少なくとも30以上の注文があった。オーダーメイドの素晴らしい点は、顧客それぞれの個性が出るところ。例えば「初めて買ったバスケットボールシューズ」だったり、「マラソンをしたときのシューズ」だったり、「結婚したときの靴」だったりする。製品との個人的な関係にとても興味が惹かれる。靴について話しているうちに、具体的なディテールや思い出を話してくれるかもしれない。だから私たちにとっても貴重で、その物語や思い出が製品に生き続けるように心がけている。コンサルティングを行い、靴を送ってもらい、それらを全て裁断して新しいものを作る。そして送り返す。最初のコンサルティングが終われば、あとは出来上がりを待つだけで、私たちはちょっとしたサプライズになるように送り返している。

WWD:オーダーは主にイギリスから?それとも世界中から?

カーカム:世界中からあり、日本にも顧客が何人かいる。

ビッグブランドの製造工程をハックする

WWD:「アディダス」「リーボック」「アシックス」「ビルケンシュトック」など数々のブランドとコラボレーションしてきた。特に印象的だったものは?

カーカム:ビッグブランドやその工場で仕事をすることのクールな点は、自分の創造性を発揮して、製造工程をハッキングすることができること。例えば、2018年の「アディダス」とのコラボでは、新しいデスクキャンバスを作った。このプロジェクトのクールな点は、アディダスの工場に行き、彼らがどのように働いているのかを見ることができたこと。そうすることで、私の持つデザインの思考法や遊び心、クリエイティビティをまったく違うスケールで応用することができた。

例えばこの縁の周りは“フラッシュ”と呼ばれるもので、靴を作るとき使う金型からはみ出したもの。一般的には工場で慎重にカットされるものだが、それを熟練工がいきなり全体を切り落としたんだ。そんなことできるの?と驚いたし、私はそれを見て、あえてちょっと雑に切ってみてほしいと頼んだ。結果、このデザインに行き着いた。

私は根っからのメイカー(モノ作りをする人)なんだ。だから、スケッチやドローイングで表現するよりも、手を動かしてデザインしている。そのせいか、ある製造工程を見たときに、もっといい方法や楽しい方法があるんじゃないか、どうすれば実現できるかをすぐに考えることができる。それが私たちのコラボレーションを無二のものにしているのだと思う。

WWD:ブランドとのコラボはどのように始まるのか。

カーカム:ブランド側は私たちが支持しているもの全てをフルパッケージで受け入れる必要がある。なので、信頼関係を築き、そこから何を得たいのかを理解し合うことがとても重要になる。ブランド側は、すぐに私が流行のデザインをするだけの人間ではないことに気づき、そして一緒により適切な素材や靴の生産方法について考えることになる。これまでのコラボレーションは、本当に誇りに思っているし、とてもオーセンティックでブランドを象徴するようなものになったと思う。

WWD:ブランドに産業の課題を投げかけるアクティビストのようでもある。ビッグブランドとコラボをするようになったきっかけは?

カーカム:コンプレックスコンで村上隆とコラボしたことだった。コンプレックスコンは、新奇性とかハイプとか、そういうものにとても影響されていると思う。スニーカー業界ではまだある種の影響力を持つこのような場所に、これまでなかったリサイクルスニーカーを発表できたことはよかった。

WWD:ビッグブランドとのコラボがブランド運営の資金になっている?

カーカム:単にスニーカーを作ることだけではなく、さまざまなビジネスを実行するバランスが重要になっている。私たちが慎重に読み解いたエコシステムのようなものともいえる。

スケーラビリティではない方法で影響力を持つために

WWD:雇用を維持し、新しいプロジェクトを推進するのに十分な、理想的なビジネスモデルとは?

カーカム:私たちのビジネスモデルはとても機敏でなければならないと思う。特に今の英国でビジネスをするのは非常に難しいから。良い素材を使い、良い工場と仕事をして人を大切にすることにはお金がかかるし、多くの困難を伴うこともある。でもビジネスをサポートする手段はたくさんある。私たちはトレンドに乗っかってグローバル展開するような、即効性のあるビジネスをやろうとは思っていない。だから、継続すること、機敏に行動することがとても大切になってくる。

WWD:ビジネスの拡大を目指していないのだとしたら、何を目指すのか。

カーカム:この産業や世の中が楽観的な思考回路なのかどうかはわからないが、状況は変わりつつあると思う。私たちが作るモノは先進的で、多くの人にとって初めて発見するようなモノだが、5年後、10年後には人々が気にするようなモノになっていると思う。だから、長期的な視点で投資し、高品質の製品を作り、顧客にとって良いコミュニティ体験を提供することが重要だと考えている。製品を大切にする人たちのコミュニティを作ることーーそうすればエキサイティングな方法で成長することができるのではないか。

WWD:例えば、スニーカーそのものではなく、生産技術や生産工程を、世界のさまざまな地域に適用する、スケーラビリティの代わりに拡散性を考えることもできるが。

カーカム:持続可能という言葉はあまり好きではないのでいい言葉が欲しいところだが、持続可能性を追求して成功するためには、コラボレーションが重要になる。より大きな変化を生み出すために、よりグローバルに協力し合うという考えは、すでに実現に向けて動き出している。というのも、私自身、美しい製品を作る小さなビジネスをしているだけでは、マインドセット・シフトやマインドセット・チェンジのきっかけにはならないと重々承知しているからだ。これについてはまた話そう。

WWD:ファッションは新しい素材を使って、新しい形や感触を生み出すことが通例になっているが、あなたは既存の素材を別の方法で使用し、クレイジーな結果を生み出すことにこだわっている。ファッションデザイナーやファッションビジネスに将来携わりたいと考えている若い世代に向けて、シェアしたいことがあれば。

カーカム:持続可能性について、そして素材について考えなければいけない。これまでと同じ素材が使えなくなる限界が来るからだ。多くの人はそれを制限のように捉えているが、私はチャンスだと捉えている。廃棄物の再利用や分解性能向上のためのモジュール化、バイオマテリアルなど、この業界にはさまざまな選択肢がある。若いクリエーターにはとにかくやることを勧めている。なぜなら、私がこのビジネスを始めた当初は、「規模を拡大することはできない」「うまくいくはずがない」「誰も古い靴を買いたがらない」など、私が達成しようとしていることに対して、多くの人が反対していた。でも、自分の直感を信じてやれば、仲間を見つけることができるし応援してくれる人も出てくる。粘り強さが大事だ。

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パリコレでファッションの未来を実験し続ける「ユイマ ナカザト」 ドキュメンタリー映画が公開

PROFILE: 中里唯馬/「ユイマ ナカザト」デザイナー

中里唯馬/「ユイマ ナカザト」デザイナー
PROFILE: (ゆいま・なかざと)2008年にベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーを卒業し、09年自身の名を冠したブランド「ユイマ ナカザト」を設立。翌年7月、日本人では森英恵以来2人目となるパリ・オートクチュールコレクションの公式ゲストデザイナーに選ばれ、継続的にパリで作品を発表。数々の世界で活躍するアーティストともコラボレーションする。近年は、オランダ出身の気鋭振付家ナニーヌ・リニング(Nanine Linning)によるボストン・バレエ団の新作バレエ「ラ・メール(LaMer)」の衣装デザインを手がける。また日本人デザイナーとしては初となるフランスでのソロエキシビションも発表する PHOTO:YOW TAKAHASHI

「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」を手掛けるオートクチュールデザイナー中里唯馬に密着したドキュメンタリー映画「燃えるドレスを紡いで」が、ケイズシネマ(K’s cinema)、シネクイントほかで全国で順次公開中だ。関根光才監督が手掛けた本作品は、中里デザイナーが「生み出された衣服はどこに行くのか」という問いの答えを探しに衣服の最終到達点といわれるケニアを訪れ、大量の廃棄衣類の現場や現地の人々との対話を通して得たインスピレーションを元にコレクションを制作し、パリ・ファッション・ウイークで発表するまでの1年間に密着している。

これまでも既存の価値観に疑いの眼差しをむけ実験的なアプローチで新たな美を生み出すことに挑戦してきた中里デザイナーにとって、持続可能な服作りは探求し続けているテーマだ。ケニア滞在を通じてどんな突破口が見えたのか、また映画という表現手段で何を伝えようとしたのか中里デザイナーに聞いた。

作品を通して問いを投げかけたい

WWDJAPAN(以下、WWD):今回ドキュメンタリー映画に製作過程を収めようと思った理由は?

中里唯馬(以下、中里):ファッションショーは閉ざされた場で、メッセージを届けられる人がどうしても限られてしまう。特にサステナビリティや衣服を取り巻く環境は、業界内の人々だけではなく衣服を着る全ての人に伝えたい。そこで映画という表現方法で伝えようと考えた。

WWD:映画を通して伝えたいメッセージは?

中里:生きていく上で欠かせない衣服は、多くの人にとって当たり前の存在であまり意識せずに日々触れているものだと思う。でも店頭に並ぶ商品を購入して着る以外に、実は周辺にはたくさんの世界がある。関根光才監督の手腕でもあるが、本作品ではケニアの悲惨な状況を告発するというよりも、その現状を緩やかに知ってもらい明確な答えは提示せずに問いを投げかけることに着地している。観た人が自分の中で答えを考え、意識を変えるきっかけになってほしい。

「もうこれ以上服はいらない」という切実な思いと対峙して見えたもの

WWD:映画の中で投げかけられる問いの一つが、「服作りとどう向き合うか?」だった。ケニア滞在を通して見えた中里さん自身の答えは?

中里:ケニア滞在後に一番大きく変わったのは、今この時代にどんなメッセージを発信すべきなのかを一度立ち止まって考え直す意識だろう。ケニアに行く以前から、果たしてデザインは一体何ができるだろうという問いはずっと頭の中にあった。もちろんベターな素材を選択することも1つだが、それ以上にデザイナーにできることはインスピレーションを届けること。「もうこれ以上服はいらない」と思っている人たちと現地で対面して、作り手として言葉に詰まった。でも、人間が表現したり、モノを生み出したりすること自体を否定してしまったら存在意義すら無くなってしまうのではないかと思う。表現の全てを否定するのではなく部分的に調整していくことがこれから先のサステナブルファッションの現実的な進め方なのだろう。

WWD:ファッション産業にさまざまなレイヤーがある中で、実際に日本の作り手はケニアの現状を自分ごととして捉えられない人が多いのでは。

中里:同じ衣服でもいろんなカテゴリーがあるのは事実だが、私は全てグラーデーションのようにつながっていると考える。例えばF1レースで生まれた技術が、10年後に乗用車に反映されているように、オートクチュールも日々の暮らしを支える衣服といろいろな形でつながっている。だから受注生産で環境負荷が低いから自由にやっていいというわけではない。作る上での責任はみんなにある。だからこそ、発表する前に立ち止まって自分に疑いの目を向けるアクションが重要だ。

WWD:同じファッションの作り手にはどんなことを伝えたい?

中里:私は未来のデザイナーを育成・支援するファッションアワード「ファッション フロンティア プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM)」も主催しているが、そこでは既存の型にハマらずに軽やかに社会に目を向けながらデザインを起こす人たちがたくさんいて、自分も刺激を受けている。なかなか周りのデザイナーがどのように服を作っているのか知る機会が少ない中で、何か刺激を受け取ってもらえたらいい。

0以下の価値の服から美しさを生み出せるか

WWD:オートクチュールという美の世界の中で、古着を素材に用いることは大きな挑戦だったのでは?

中里:非常に安価に生産された作りをしているものが不要になりケニアにたどり着く。その時点で価値はもう0以下の服をさまざまに加工して、最も高価な服を発表する場で人々に心から美しいと思ってもらえるかは、私にとっては実験だった。目の前に落ちていたら何も感情が沸かないかもしれないものに対して、デザイナーが手を加えて料理することで美しさを生み出せたら、それは技術や素材の進化以上に大きな変革になる。人々の感情を動かすことはデザイナーの役割としてとても重要で、感情が動けば技術も後から付いてくるはずだ。

WWD:2023年春夏コレクションと23-24年秋冬シーズンと2シーズンかけてケニアを題材にしたコレクションを発表した。発表後は人々の感情を動かせた手応えはあった?

中里:1番最初に発表した時には、フランスの「ル・モンド」紙がかなり大きく取り上げくれた。これまでオートクチュールを10回以上発表してきた中で、あれほど大きく掲載してくれたことはなかったし、想像以上の反響だった。

WWD:コレクションではエプソンの「ドライファイバーテクノロジー」を用いて、ケニアの古着を材料にした不織布を使用したが、製作上の課題は?

中里:不織布は正直そのままでは埃の塊のように見えてしまう。これをどうしたら美しいものにできるかは本当に大きな挑戦だった。今回のコレクションでは、不織布の上でプリント加工して深みのある色を出したり、しっとりした質感にして高級感を出したりといった試行錯誤を繰り返した。しかし、実際にはまだ耐久性に課題があり販売はできていない。今もエプソンとは継続して協業し、少しずつ改良を重ねている。

WWD:古着を服に戻す必要はないのではないかという意見もある。

中里:私は服に戻すかどうかよりも、価値を向上できるか否かの方が重要だと思っている。もう一度価値を感じられるところまで高められるかどうかに、ファッションの未来、希望がかかっている。感情を動かすためにはストーリーが重要。もちろん、わざわざケニアから古着を移動させるのにかかる環境負荷はどうなんだ、という意見があるかもしれないが、ケニアからパリに持っていくその過程、ストーリーに情緒的なものを感じてもらうヒントがあると思っている。

パリコレはファッションの歴史にページを足せるチャンス

WWD:オトクチュールは、デザイナーのメッセージを支持するパトロンがいて成り立つ。中里さんが考える革新をどんな人に着て、世界に伝えてほしいと思う?

中里:普段「ユイマ ナカザト」を選んでくれるのは、表現者や研究者。例えば慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章さんのように、社会に対して特殊な眼差しを持っている人が多い。そういう人は大勢はいないかもしれないが、そういう人たち一人一人に服を届けられている状態は心地よい。宮田さんは「ユイマ ナカザト」を着ることで、男性が装飾をまとうこれまで社会であまりみられなかった現象を体現してくれている人だ。特に最近は、アジアの男性セレブがレッドカーペットの衣装に選んでくれていることもうれしい。

WWD:今後もパリでの発表を続ける?

中里:もちろん葛藤もある。ただパリには過去のデザイナーたちが積み上げてきた歴史があり、半年ごとにその1ページが更新されている。あの場所で自分がもう1ページ何かを付け足すことができるのは1つのモチベーションだ。過去の偉大なデザイナーたちは、ファッションの力で社会や価値観を変えてきた。彼らが裏付けてきたファッションの変革する力に勇気づけられるし、自分もいつかそういうことしたいと思う。今は半年に一度投げかけるチャンスがあると捉えている。

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パリコレでファッションの未来を実験し続ける「ユイマ ナカザト」 ドキュメンタリー映画が公開

PROFILE: 中里唯馬/「ユイマ ナカザト」デザイナー

中里唯馬/「ユイマ ナカザト」デザイナー
PROFILE: (ゆいま・なかざと)2008年にベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーを卒業し、09年自身の名を冠したブランド「ユイマ ナカザト」を設立。翌年7月、日本人では森英恵以来2人目となるパリ・オートクチュールコレクションの公式ゲストデザイナーに選ばれ、継続的にパリで作品を発表。数々の世界で活躍するアーティストともコラボレーションする。近年は、オランダ出身の気鋭振付家ナニーヌ・リニング(Nanine Linning)によるボストン・バレエ団の新作バレエ「ラ・メール(LaMer)」の衣装デザインを手がける。また日本人デザイナーとしては初となるフランスでのソロエキシビションも発表する PHOTO:YOW TAKAHASHI

「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」を手掛けるオートクチュールデザイナー中里唯馬に密着したドキュメンタリー映画「燃えるドレスを紡いで」が、ケイズシネマ(K’s cinema)、シネクイントほかで全国で順次公開中だ。関根光才監督が手掛けた本作品は、中里デザイナーが「生み出された衣服はどこに行くのか」という問いの答えを探しに衣服の最終到達点といわれるケニアを訪れ、大量の廃棄衣類の現場や現地の人々との対話を通して得たインスピレーションを元にコレクションを制作し、パリ・ファッション・ウイークで発表するまでの1年間に密着している。

これまでも既存の価値観に疑いの眼差しをむけ実験的なアプローチで新たな美を生み出すことに挑戦してきた中里デザイナーにとって、持続可能な服作りは探求し続けているテーマだ。ケニア滞在を通じてどんな突破口が見えたのか、また映画という表現手段で何を伝えようとしたのか中里デザイナーに聞いた。

作品を通して問いを投げかけたい

WWDJAPAN(以下、WWD):今回ドキュメンタリー映画に製作過程を収めようと思った理由は?

中里唯馬(以下、中里):ファッションショーは閉ざされた場で、メッセージを届けられる人がどうしても限られてしまう。特にサステナビリティや衣服を取り巻く環境は、業界内の人々だけではなく衣服を着る全ての人に伝えたい。そこで映画という表現方法で伝えようと考えた。

WWD:映画を通して伝えたいメッセージは?

中里:生きていく上で欠かせない衣服は、多くの人にとって当たり前の存在であまり意識せずに日々触れているものだと思う。でも店頭に並ぶ商品を購入して着る以外に、実は周辺にはたくさんの世界がある。関根光才監督の手腕でもあるが、本作品ではケニアの悲惨な状況を告発するというよりも、その現状を緩やかに知ってもらい明確な答えは提示せずに問いを投げかけることに着地している。観た人が自分の中で答えを考え、意識を変えるきっかけになってほしい。

「もうこれ以上服はいらない」という切実な思いと対峙して見えたもの

WWD:映画の中で投げかけられる問いの一つが、「服作りとどう向き合うか?」だった。ケニア滞在を通して見えた中里さん自身の答えは?

中里:ケニア滞在後に一番大きく変わったのは、今この時代にどんなメッセージを発信すべきなのかを一度立ち止まって考え直す意識だろう。ケニアに行く以前から、果たしてデザインは一体何ができるだろうという問いはずっと頭の中にあった。もちろんベターな素材を選択することも1つだが、それ以上にデザイナーにできることはインスピレーションを届けること。「もうこれ以上服はいらない」と思っている人たちと現地で対面して、作り手として言葉に詰まった。でも、人間が表現したり、モノを生み出したりすること自体を否定してしまったら存在意義すら無くなってしまうのではないかと思う。表現の全てを否定するのではなく部分的に調整していくことがこれから先のサステナブルファッションの現実的な進め方なのだろう。

WWD:ファッション産業にさまざまなレイヤーがある中で、実際に日本の作り手はケニアの現状を自分ごととして捉えられない人が多いのでは。

中里:同じ衣服でもいろんなカテゴリーがあるのは事実だが、私は全てグラーデーションのようにつながっていると考える。例えばF1レースで生まれた技術が、10年後に乗用車に反映されているように、オートクチュールも日々の暮らしを支える衣服といろいろな形でつながっている。だから受注生産で環境負荷が低いから自由にやっていいというわけではない。作る上での責任はみんなにある。だからこそ、発表する前に立ち止まって自分に疑いの目を向けるアクションが重要だ。

WWD:同じファッションの作り手にはどんなことを伝えたい?

中里:私は未来のデザイナーを育成・支援するファッションアワード「ファッション フロンティア プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM)」も主催しているが、そこでは既存の型にハマらずに軽やかに社会に目を向けながらデザインを起こす人たちがたくさんいて、自分も刺激を受けている。なかなか周りのデザイナーがどのように服を作っているのか知る機会が少ない中で、何か刺激を受け取ってもらえたらいい。

0以下の価値の服から美しさを生み出せるか

WWD:オートクチュールという美の世界の中で、古着を素材に用いることは大きな挑戦だったのでは?

中里:非常に安価に生産された作りをしているものが不要になりケニアにたどり着く。その時点で価値はもう0以下の服をさまざまに加工して、最も高価な服を発表する場で人々に心から美しいと思ってもらえるかは、私にとっては実験だった。目の前に落ちていたら何も感情が沸かないかもしれないものに対して、デザイナーが手を加えて料理することで美しさを生み出せたら、それは技術や素材の進化以上に大きな変革になる。人々の感情を動かすことはデザイナーの役割としてとても重要で、感情が動けば技術も後から付いてくるはずだ。

WWD:2023年春夏コレクションと23-24年秋冬シーズンと2シーズンかけてケニアを題材にしたコレクションを発表した。発表後は人々の感情を動かせた手応えはあった?

中里:1番最初に発表した時には、フランスの「ル・モンド」紙がかなり大きく取り上げくれた。これまでオートクチュールを10回以上発表してきた中で、あれほど大きく掲載してくれたことはなかったし、想像以上の反響だった。

WWD:コレクションではエプソンの「ドライファイバーテクノロジー」を用いて、ケニアの古着を材料にした不織布を使用したが、製作上の課題は?

中里:不織布は正直そのままでは埃の塊のように見えてしまう。これをどうしたら美しいものにできるかは本当に大きな挑戦だった。今回のコレクションでは、不織布の上でプリント加工して深みのある色を出したり、しっとりした質感にして高級感を出したりといった試行錯誤を繰り返した。しかし、実際にはまだ耐久性に課題があり販売はできていない。今もエプソンとは継続して協業し、少しずつ改良を重ねている。

WWD:古着を服に戻す必要はないのではないかという意見もある。

中里:私は服に戻すかどうかよりも、価値を向上できるか否かの方が重要だと思っている。もう一度価値を感じられるところまで高められるかどうかに、ファッションの未来、希望がかかっている。感情を動かすためにはストーリーが重要。もちろん、わざわざケニアから古着を移動させるのにかかる環境負荷はどうなんだ、という意見があるかもしれないが、ケニアからパリに持っていくその過程、ストーリーに情緒的なものを感じてもらうヒントがあると思っている。

パリコレはファッションの歴史にページを足せるチャンス

WWD:オトクチュールは、デザイナーのメッセージを支持するパトロンがいて成り立つ。中里さんが考える革新をどんな人に着て、世界に伝えてほしいと思う?

中里:普段「ユイマ ナカザト」を選んでくれるのは、表現者や研究者。例えば慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章さんのように、社会に対して特殊な眼差しを持っている人が多い。そういう人は大勢はいないかもしれないが、そういう人たち一人一人に服を届けられている状態は心地よい。宮田さんは「ユイマ ナカザト」を着ることで、男性が装飾をまとうこれまで社会であまりみられなかった現象を体現してくれている人だ。特に最近は、アジアの男性セレブがレッドカーペットの衣装に選んでくれていることもうれしい。

WWD:今後もパリでの発表を続ける?

中里:もちろん葛藤もある。ただパリには過去のデザイナーたちが積み上げてきた歴史があり、半年ごとにその1ページが更新されている。あの場所で自分がもう1ページ何かを付け足すことができるのは1つのモチベーションだ。過去の偉大なデザイナーたちは、ファッションの力で社会や価値観を変えてきた。彼らが裏付けてきたファッションの変革する力に勇気づけられるし、自分もいつかそういうことしたいと思う。今は半年に一度投げかけるチャンスがあると捉えている。

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BTSやEXOのヘアスタイリスト、パク・ネジュ K-POP発のトレンドヘアができるまで

PROFILE:パク・ネジュ/ヘアスタイリスト・「ビット&ブート」共同創業者兼共同CEO

EXOやBTS、パク・ボゴムをはじめ、韓国のさまざまなアーテイスト・俳優を担当しているトップヘアスタイリスト。サロン勤務、アシスタントを経てフリーランスに転身し、名だたる芸能人のヘアスタイリングを約20年間手掛けている。 2018年に韓国・清潭洞(チョンダムドン)で美容室「ビット&ブート」をオープンさせると、清潭洞で売上No.1になるまで成長させた。世界的に活躍する今も、常に新しい技術を研究・提案し、話題のヘアスタイルを作り出している。公式ユーチューブ登録者数は20.3万人(24年3月現在)PHOTO:TAMEKI OSHIRO

芸能人御用達サロン「ビット&ブート(Bit & Boot)」の共同創業者兼共同CEOであるパク・ネジュ(Park Naejoo)は、BTSやEXO、NCT、ルセラフィム(LE SSERAFIM)、パク・ボゴム(Park Bo Gum)ら、数多くのK-POPアーティストや俳優のヘアを手掛ける人気ヘアスタイリストだ。今やK-POPアーティストのヘアスタイルは、トレンドの源泉。MVや音楽イベントではそのヘアスタイルに多くの注目が集まり、瞬時に拡散され、世の中に広がっていく。これまで数多くのヘアスタイルを生み出してきた同氏に、K-POP界のトレンドヘアを生み出すまでの背景や、自身のキャリアについて聞いた。

EXOとBTSはデビューから担当

EXOのベクヒョン
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWDJAPAN(以下、WWD):キャリアについて教えてほしい。

パク・ネジュ(以下、ネジュ):ヘアスタイリングに興味を持ち始めたのは高校2年生のころ。卒業後の進路について考えたときに、技術を生かせる業界で働きたいと思ったことがきっかけだ。ヘアスタイリストになってからは、ソウル近郊のアニャン(安養市)のサロンで10年ほど働いていた。その後、ソウルに上京して恩師イ・へヨン(Lee Hye Young)さんに出会い、彼女のアシスタントとしてファッション誌などの撮影に携わるようになった。独立後はフリーランスとして活動しながら、EXOやBTSのヘアなどを担当し、2018年にメイクアップアーティストのウォン・ジョンヨ(Won Jungyo)さんと、ヘアメイクサロン「ビット&ブート」を設立した。

WWD:EXOやBTSを担当することになった経緯は?

ネジュ:フリーランスになって最初のクライアントがEXOだった。当時SMエンターテインメントのクリエイティブ・ディレクターだったミン・ヒジン(Min Hee Jin)さん(現HYBE傘下の新レーベルADOR代表、New Jeansの産みの親)から、「EXOというボーイズグループがデビューするから、チームに加わってほしい」と連絡があり、デビュー前から現在に至るまで担当している。BTSは、ビッグ・ヒット・エンターテインメント(HYBEの旧社名)のビジュアル・ディレクターを通じて依頼を受け、デビューから携わっている。

WWD:ウォン・ジョンヨ氏とサロンを立ち上げた理由は?

ネジュ:彼女とは、お互いTWICEのヘアとメイクを担当していたので、旧知の仲だった。アーティストの担当になると、アルバムや広告など関わる案件が増えるのでチームで動く。関わるチームメンバーも徐々に増えていき、場所を確保するためにも一緒にサロンを立ち上げようという話になった。そして、18年にヘアメイクサロン「ビット&ブート」を設立した。サロン名は、姉のような存在の女性がプレゼントしてくれた名前だ。ビットは韓国語で“櫛(くし)”、ブートは“筆”を意味しており、それぞれヘアとメイクで使う大切な道具。その発音を英語表記にした。6つほどの候補のトップにこの名前があり、最初は店名が「くし&筆」なんてどうかと思ったが(笑)、EXOのベクヒョン(BAEKHYUN)が「すごくいいじゃん!」と言ってくれたことが後押しになった。

アルバム撮影の数カ月前から
徹底したイメージ戦略

ルセラフィム
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWD:アーティストのヘアスタイルは、どのようなプロセスを経て作っている?

ネジュ:基本的には、アーティストが所属する事務所のビジュアル・ディレクターとそのチームとやりとりをしながら決めていく。ニューアルバムのジャケット撮影の4、5カ月前から準備に取りかかる。まずビジュアル・ディレクターから新曲・アルバムのコンセプトイメージを伝えられ、それを基にスタイリストやヘア&メイクアップアーティストが各自参考イメージを持ち寄り、パズルのようにはめ込んでいく。方向性がある程度固まってきたら、どのメンバーにどのスタイリングをするかなどを話し合う。対面やオンライン、カカオトーク(韓国のメッセンジャーアプリ)のグループチャットで頻繁にディスカッションして情報共有し、ブラッシュアップしていく。アーティストの意向をくむこともある。

WWD:一番アイデアをくれるアーティストは?

ネジュ:EXOのベクヒョンやルセラフィムのサクラはいろいろなアイデアを出してくれるので、意見を交換してやりとりしながら決めることも多い。逆に、EXOのカイ(KAI)やBTSのジョングク(JUNG KOOK)は、こちらが準備したアイデアに「いいね!そのアイデアで行こう!」と乗ってくれるタイプだ。

WWD:綿密なイメージ戦略は韓国独自のもの?

ネジュ:昔からある韓国独自のシステムというよりは、ようやく定着したと言えるかもしれない。ビジュアル・ディレクターが指揮を執り、アイドルやアーティストのイメージを作り込んで売り出すコンセプト戦略が、この5、6年で本格的に取られるようになっていった。俳優の場合も、次の映画やドラマの出演作の役柄に合わせたスタイリングで雑誌の撮影やプロモーションを行う。彼らの従来のイメージを覆すきっかけにもなり、有効的だ。

WWD:グループだと人数も多いので大変だ。

ネジュ:おっしゃる通りとても忙しくなるので、「ビット&ブート」では各担当アーティストのチーム内で分業している。私のチームは7人で、その他ヘアスタイリストとしてメインで動くスタッフが15人ほど在籍している。彼らの下でもろもろの作業をするメンバー、そしてスケジュールを管轄するマネジメントチーム12人を含め、合計約70人のチームだ。それぞれが世界中を飛び回っているので、国内では顔を合わさないメンバーも多い。昨年の11月末に日本で行われたK-POPイベント「MAMA AWARDS」で、私はホストを務める俳優パク・ボゴムのヘアを担当し、同じ会場にルセラフィムのチームもいて、約2カ月ぶりに再会した。こういったことが珍しくない。

WWD:「ビット&ブート」の強みをどう捉えている?

ネジュ:アーティストを担当すると、ワールドツアーやプロモーションで世界中を一緒に回ることになる。海外活動を含むスケジュール管理や、現地対応に長けたサロンは、韓国には少ない。「ビット&ブート」ではスタッフ教育に力を入れていて、カラーやカットはもちろん、撮影時のスタイリングやシーズンごとのトレンド共有を徹底している。グローバルに活動する芸能人を担当することが多いので、海外の会場での動線や進行に慣れており、経験値に基づいたマネジメント力や現場での対応力には韓国以外の芸能事務所も信頼を置いてくれていると感じる。

ウェス・アンダーソン作品や
アニメをヒントに

BTSのジョングク
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWD:ヘアトレンドを生み出す側として意識していること、そしてインスピレーション源は?

ネジュ:パリやミラノ、ロンドン、ニューヨークのファッション・ウイークは常にチェックしている。個人的にはヨーロッパのヘアスタイルに注目することが多い。映画からはあまり影響を受けないが、ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)監督作品のファンタジックな世界観は好きでよく見ている。女性のヘアスタイルは、日本のアニメがテクスチャーや色を考える際に参考になっている。ヘアスタイルは2Dで考えることが多く、アニメのキャラクターのヘアのテクスチャーをアングル別にチェックし、3Dに落とし込んでいく。集約したイメージを分類していくと、自分がどのようなヘアスタイルが好きで、どこに価値を置いているかが見えてくる。それがヘアスタイリスト独自のスタイルにつながっていくと思う。

WWD:ヘアスタイルで意識していることは?

ネジュ:それぞれの個性を生かすカスタマイズ技術はもちろん、ファッションとどうリンクさせるか、そして形を決め込むよりも、質感や雰囲気を重視している。ナチュラルだがテクスチャーがあり、どこかしらにポイントのあるヘアが私のスタイルだ。誰が見ても“パク・ネジュが手掛けたヘアスタイル”だと分かるように意識している。

WWD:アーティストのヘアスタイルで印象に残っているエピソードは?

ネジュ:BTSのジョングクが兵役前に急きょLAでの撮影が決まり、私は日本での「MAMA AWARDS」の仕事が終わり次第LAに向かった。すると、ジョングクが前髪だけすごく短く切っちゃっていたんだ(笑)。そのヘアをきれいに整え、丸刈りにするところまでを私が担当した。

WWD:世界的に人気のK-POPアーティストたちは自身にとってどのような存在?

ネジュ:私が担当しているBTSやEXO、ルセラフィムらは世界的なアーティストだが、特別視はしていない。私にとっては、第一線で活躍しているアーティストというよりも、ノーメイクで帽子をかぶり、スリッパを履き、リラックスして現場に入ってくる印象の方が強く、一緒に仕事をする仲間だ。有名になり、肩に力が入っているアーティストほど長続きしないことをすでに見てきたので、謙虚な姿勢が大事だと常に話している。それはスタッフにも通じることだ。

WWD:今後挑戦したいことは?

ネジュ:私がプロデュースしたヘアケアブランド「ネジュ(NEJOO)」を昨年7月に韓国で発売した。洗い流さないヘアトリートメントで、ありがたいことに大変反応が良く、日本での展開も進めているところだ。3月下旬に日本の皆さんに発表できることを楽しみにしている。

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BTSやEXOのヘアスタイリスト、パク・ネジュ K-POP発のトレンドヘアができるまで

PROFILE:パク・ネジュ/ヘアスタイリスト・「ビット&ブート」共同創業者兼共同CEO

EXOやBTS、パク・ボゴムをはじめ、韓国のさまざまなアーテイスト・俳優を担当しているトップヘアスタイリスト。サロン勤務、アシスタントを経てフリーランスに転身し、名だたる芸能人のヘアスタイリングを約20年間手掛けている。 2018年に韓国・清潭洞(チョンダムドン)で美容室「ビット&ブート」をオープンさせると、清潭洞で売上No.1になるまで成長させた。世界的に活躍する今も、常に新しい技術を研究・提案し、話題のヘアスタイルを作り出している。公式ユーチューブ登録者数は20.3万人(24年3月現在)PHOTO:TAMEKI OSHIRO

芸能人御用達サロン「ビット&ブート(Bit & Boot)」の共同創業者兼共同CEOであるパク・ネジュ(Park Naejoo)は、BTSやEXO、NCT、ルセラフィム(LE SSERAFIM)、パク・ボゴム(Park Bo Gum)ら、数多くのK-POPアーティストや俳優のヘアを手掛ける人気ヘアスタイリストだ。今やK-POPアーティストのヘアスタイルは、トレンドの源泉。MVや音楽イベントではそのヘアスタイルに多くの注目が集まり、瞬時に拡散され、世の中に広がっていく。これまで数多くのヘアスタイルを生み出してきた同氏に、K-POP界のトレンドヘアを生み出すまでの背景や、自身のキャリアについて聞いた。

EXOとBTSはデビューから担当

EXOのベクヒョン
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWDJAPAN(以下、WWD):キャリアについて教えてほしい。

パク・ネジュ(以下、ネジュ):ヘアスタイリングに興味を持ち始めたのは高校2年生のころ。卒業後の進路について考えたときに、技術を生かせる業界で働きたいと思ったことがきっかけだ。ヘアスタイリストになってからは、ソウル近郊のアニャン(安養市)のサロンで10年ほど働いていた。その後、ソウルに上京して恩師イ・へヨン(Lee Hye Young)さんに出会い、彼女のアシスタントとしてファッション誌などの撮影に携わるようになった。独立後はフリーランスとして活動しながら、EXOやBTSのヘアなどを担当し、2018年にメイクアップアーティストのウォン・ジョンヨ(Won Jungyo)さんと、ヘアメイクサロン「ビット&ブート」を設立した。

WWD:EXOやBTSを担当することになった経緯は?

ネジュ:フリーランスになって最初のクライアントがEXOだった。当時SMエンターテインメントのクリエイティブ・ディレクターだったミン・ヒジン(Min Hee Jin)さん(現HYBE傘下の新レーベルADOR代表、New Jeansの産みの親)から、「EXOというボーイズグループがデビューするから、チームに加わってほしい」と連絡があり、デビュー前から現在に至るまで担当している。BTSは、ビッグ・ヒット・エンターテインメント(HYBEの旧社名)のビジュアル・ディレクターを通じて依頼を受け、デビューから携わっている。

WWD:ウォン・ジョンヨ氏とサロンを立ち上げた理由は?

ネジュ:彼女とは、お互いTWICEのヘアとメイクを担当していたので、旧知の仲だった。アーティストの担当になると、アルバムや広告など関わる案件が増えるのでチームで動く。関わるチームメンバーも徐々に増えていき、場所を確保するためにも一緒にサロンを立ち上げようという話になった。そして、18年にヘアメイクサロン「ビット&ブート」を設立した。サロン名は、姉のような存在の女性がプレゼントしてくれた名前だ。ビットは韓国語で“櫛(くし)”、ブートは“筆”を意味しており、それぞれヘアとメイクで使う大切な道具。その発音を英語表記にした。6つほどの候補のトップにこの名前があり、最初は店名が「くし&筆」なんてどうかと思ったが(笑)、EXOのベクヒョン(BAEKHYUN)が「すごくいいじゃん!」と言ってくれたことが後押しになった。

アルバム撮影の数カ月前から
徹底したイメージ戦略

ルセラフィム
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWD:アーティストのヘアスタイルは、どのようなプロセスを経て作っている?

ネジュ:基本的には、アーティストが所属する事務所のビジュアル・ディレクターとそのチームとやりとりをしながら決めていく。ニューアルバムのジャケット撮影の4、5カ月前から準備に取りかかる。まずビジュアル・ディレクターから新曲・アルバムのコンセプトイメージを伝えられ、それを基にスタイリストやヘア&メイクアップアーティストが各自参考イメージを持ち寄り、パズルのようにはめ込んでいく。方向性がある程度固まってきたら、どのメンバーにどのスタイリングをするかなどを話し合う。対面やオンライン、カカオトーク(韓国のメッセンジャーアプリ)のグループチャットで頻繁にディスカッションして情報共有し、ブラッシュアップしていく。アーティストの意向をくむこともある。

WWD:一番アイデアをくれるアーティストは?

ネジュ:EXOのベクヒョンやルセラフィムのサクラはいろいろなアイデアを出してくれるので、意見を交換してやりとりしながら決めることも多い。逆に、EXOのカイ(KAI)やBTSのジョングク(JUNG KOOK)は、こちらが準備したアイデアに「いいね!そのアイデアで行こう!」と乗ってくれるタイプだ。

WWD:綿密なイメージ戦略は韓国独自のもの?

ネジュ:昔からある韓国独自のシステムというよりは、ようやく定着したと言えるかもしれない。ビジュアル・ディレクターが指揮を執り、アイドルやアーティストのイメージを作り込んで売り出すコンセプト戦略が、この5、6年で本格的に取られるようになっていった。俳優の場合も、次の映画やドラマの出演作の役柄に合わせたスタイリングで雑誌の撮影やプロモーションを行う。彼らの従来のイメージを覆すきっかけにもなり、有効的だ。

WWD:グループだと人数も多いので大変だ。

ネジュ:おっしゃる通りとても忙しくなるので、「ビット&ブート」では各担当アーティストのチーム内で分業している。私のチームは7人で、その他ヘアスタイリストとしてメインで動くスタッフが15人ほど在籍している。彼らの下でもろもろの作業をするメンバー、そしてスケジュールを管轄するマネジメントチーム12人を含め、合計約70人のチームだ。それぞれが世界中を飛び回っているので、国内では顔を合わさないメンバーも多い。昨年の11月末に日本で行われたK-POPイベント「MAMA AWARDS」で、私はホストを務める俳優パク・ボゴムのヘアを担当し、同じ会場にルセラフィムのチームもいて、約2カ月ぶりに再会した。こういったことが珍しくない。

WWD:「ビット&ブート」の強みをどう捉えている?

ネジュ:アーティストを担当すると、ワールドツアーやプロモーションで世界中を一緒に回ることになる。海外活動を含むスケジュール管理や、現地対応に長けたサロンは、韓国には少ない。「ビット&ブート」ではスタッフ教育に力を入れていて、カラーやカットはもちろん、撮影時のスタイリングやシーズンごとのトレンド共有を徹底している。グローバルに活動する芸能人を担当することが多いので、海外の会場での動線や進行に慣れており、経験値に基づいたマネジメント力や現場での対応力には韓国以外の芸能事務所も信頼を置いてくれていると感じる。

ウェス・アンダーソン作品や
アニメをヒントに

BTSのジョングク
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWD:ヘアトレンドを生み出す側として意識していること、そしてインスピレーション源は?

ネジュ:パリやミラノ、ロンドン、ニューヨークのファッション・ウイークは常にチェックしている。個人的にはヨーロッパのヘアスタイルに注目することが多い。映画からはあまり影響を受けないが、ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)監督作品のファンタジックな世界観は好きでよく見ている。女性のヘアスタイルは、日本のアニメがテクスチャーや色を考える際に参考になっている。ヘアスタイルは2Dで考えることが多く、アニメのキャラクターのヘアのテクスチャーをアングル別にチェックし、3Dに落とし込んでいく。集約したイメージを分類していくと、自分がどのようなヘアスタイルが好きで、どこに価値を置いているかが見えてくる。それがヘアスタイリスト独自のスタイルにつながっていくと思う。

WWD:ヘアスタイルで意識していることは?

ネジュ:それぞれの個性を生かすカスタマイズ技術はもちろん、ファッションとどうリンクさせるか、そして形を決め込むよりも、質感や雰囲気を重視している。ナチュラルだがテクスチャーがあり、どこかしらにポイントのあるヘアが私のスタイルだ。誰が見ても“パク・ネジュが手掛けたヘアスタイル”だと分かるように意識している。

WWD:アーティストのヘアスタイルで印象に残っているエピソードは?

ネジュ:BTSのジョングクが兵役前に急きょLAでの撮影が決まり、私は日本での「MAMA AWARDS」の仕事が終わり次第LAに向かった。すると、ジョングクが前髪だけすごく短く切っちゃっていたんだ(笑)。そのヘアをきれいに整え、丸刈りにするところまでを私が担当した。

WWD:世界的に人気のK-POPアーティストたちは自身にとってどのような存在?

ネジュ:私が担当しているBTSやEXO、ルセラフィムらは世界的なアーティストだが、特別視はしていない。私にとっては、第一線で活躍しているアーティストというよりも、ノーメイクで帽子をかぶり、スリッパを履き、リラックスして現場に入ってくる印象の方が強く、一緒に仕事をする仲間だ。有名になり、肩に力が入っているアーティストほど長続きしないことをすでに見てきたので、謙虚な姿勢が大事だと常に話している。それはスタッフにも通じることだ。

WWD:今後挑戦したいことは?

ネジュ:私がプロデュースしたヘアケアブランド「ネジュ(NEJOO)」を昨年7月に韓国で発売した。洗い流さないヘアトリートメントで、ありがたいことに大変反応が良く、日本での展開も進めているところだ。3月下旬に日本の皆さんに発表できることを楽しみにしている。

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語られ始めた更年期 多くの女性が悩む尿もれに対峙する日米のCEOが対談

フェムテック、フェムケアという言葉が浸透し、生理や女性ホルモンにまつわる女性のからだの変化について語られる機会も増えてきた。その一方で更年期の症状、特に尿もれについては代表的な症状であるにも関わらず話題に上がることは少ない。多くの女性が悩むその問題解決に向けて商品を開発したのが、吸水ショーツブランド「ベア(BE-A)」と骨盤底筋トレーニングアイテム「ケーゲルベル(KEGELBELL)」だ。2月に開催された「フェムテック フェス!(FEMTECH FES!)」に出展した両者に、タブー視されがちな尿もれに対する課題や2人が目指す将来像について語ってもらった。

――尿もれに着目した経緯は?

ステファニー・スコール=ケーゲルベルCEO(以下、スコール):母が骨盤底筋の外科手術で慢性的な症状を負ったことを機に、多くの女性が骨盤底筋に関する問題を抱えているにもかかわらず、根本的な解決方法に出合えていないことを知りました。それがきっかけとなり、2016年に創業し骨盤底筋トレーニングアイテムの「ケーゲルベル」を開発しました。

髙橋くみベアジャパンCEO(以下、髙橋):「ベア」はこれまではサニタリーショーツを販売していましたが、2月に発売した“ベア シグネチャー ショーツ04”は、ニオイ対策など尿もれにも安心して使える機能を備えました。ただそれだけでは根本的な解決にはなりません。同時に骨盤底筋を鍛える大切さもステファニーさんと一緒に伝えていきたい。

――初対面ですぐに意気投合したと聞いた。

髙橋:ステファニーさんは元哲学の大学教授で、私はロンドン大学で哲学を専攻していた事から勝手に親近感を持っていました。「哲学者は起業家に向いているのかも?」と話をしたり、私が家族と住むロサンゼルスと日本を行き来している話をしたりして、盛り上がりましたね。

表には出てこない、尿もれに悩む人の多さ

――「ベア」の吸水ショーツを見た感想は?

スコール:環境にも配慮した素晴らしい商品です。女性が一生のうちに使用するプラスチック製の生理用品や尿もれパットなどは莫大な量で、使い捨て生理用品は海洋プラスチックゴミの第5位と言われていますから、その解決の一助にもなりますね。

髙橋:1回の周期で使用する生理用ナプキンを25枚として、約40年間使用すると1万2000枚になりますから、それだけでも莫大な量ですし、金額的にもかなりの負担です。

――ケーゲルベルのビジネスの広がりは?

ステファニー・スコール/ケーゲルベル発明者CEO博士 プロフィール

アメリカ ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるテンプル大学で哲学の教授を務める。自身の母が骨盤底筋の外科手術で慢性的な症状を負ったことがきっかけに、今まで目を向けられてこなかった骨盤底筋の弱さに起因する課題を解決すべく、2016年にケーゲルベルを創業

スコール:はじめは調査と開発に3年を費やし、19年にアメリカで医療機器として認可されました。その後ある見本市に出展したところ、インフルエンサーに注目され、コストコのバイヤーの目に留まりました。商談に呼ばれたものの、当時は開発に25000ドル(約367万円)かけやっと商品化した直後でバイヤーにサンプルを渡せないほどお金がなかったんです(笑)。コストコの基準は厳しく、会社の倫理観なども問われましたが、無事に20年にはコストコオンラインで発売できました。その後はコロナ禍となり、予定していたホテルでの販売がキャンセルになるなどありましたが、人々の在宅時間が増えるなか、TikTokに投稿した「ケーゲルベル」の動画が200万回再生されるなど、SNSを中心に商品の認知度がぐんと上がりました。

――購入者層の中心は、やはり更年期世代?

スコール:たしかに40代が最もリーチしやすい年代ですが、出産をきっかけに尿もれに悩むようになったり、パートナーと性的により良い関係を築くために使用したりと目的はさまざまで購入者は20〜50代と幅広いですね。

髙橋:当社が10〜60代の女性192人を対象には実施したアンケートでは、75%が「尿もれした事がある」との回答に。さらにその半数が20〜30代で初めての尿もれを経験し、中には10代で「スポーツしている時に経験した」という回答もありました。表に出てこない、とても言いにくいトピックなのだと思います。

スコール:アメリカでは肥満の人が尿もれしやすいと言われ、10代、20代でも悩んでいる人は多いですね。20代で20%、30代では30%、40代では40%の人が悩んでいるというデータもあります。

ナオミ・ワッツらセレブの影響で更年期の話題がオープンに

――ケーゲルベルを創業した2016年当時と今では、更年期についての捉え方は変わりましたか?

スコール:変わりましたね。とくにここ1年の変化は大きいと思います。きっかけはミッシェル・オバマ(Michelle Obama)やオプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)、ナオミ・ワッツ(Naomi Watts)などの著名人がメディアで更年期について語るようになったこと。とくに影響力の強いオプラが自分のトーク番組にセレブを招いて更年期を話題にするようになってから、「オープンに話していいのね」という空気が広がっています。

髙橋くみ/ベア ジャパン代表取締役CEO プロフィール

UCL(ロンドン大学)卒業後、外資系映画会社、外資系アパレル会社を経て、山本未奈子共同経営者と共にMNCニューヨークを設立。シングルマザーに育てられた経験から「ジェンダー平等」「女性のエンパワーメント」には人一倍の関心と持論を持つ。 2020 年 3月にはベア ジャパンを設立。家族と住むアメリカ・ロサンゼルスと日本を行き来しながら経営を行う傍ら、生理や女性活躍推進に関してのセミナー等を積極的に行っている

髙橋:日本でも人口の多い団塊ジュニアが更年期世代に差し掛かったことで、空気が変わってきましたよね。経済産業省調べで生理や不妊治療、女性特有の疾患、更年期などによる経済損失は毎年6兆3700億円にも上ると数字を出していますし、人口減少もあり「そこをきちんとやらなければ」と考える大企業の経営者が増えていると感じます。実は取引先のバイヤーからは「生理の次はベアさんの力で尿もれについてもオープンに語れるように啓発して欲しい」と言われています。

スコール:啓発していくこと、話せる空気を作ることが何より大切。そのために、お互いやる事はたくさんありますね。

――今後、挑戦することは?

スコール:まだ日本では販売されていませんが、「ケーゲルベル」の半分の価格で購入できる「ケーゲルカップ」を開発しました。重りの替わりにペットボトルを使用するもので、これをアメリカの貧困層、インドやアフリカにも広げたいと思っています。ゆくゆくは現地のNGOと連携して、それぞれの地域で製造する道も模索しています。それが体の健康に役立つだけでなく、雇用の機会も生まれ、女性の人権を守る事につながると考えます。

髙橋:当社も、エチオピアの方に吸水ショーツについて知ってもらい、日本の縫製技術を学んでもらう取り組みを始めました。エチオピアでは生理用品の購入が困難な事から、古布をあてて生理期間をしのぎ、洋服を汚す不安から学校に行くのを止めてしまう少女達がいるんです。将来は吸水ショーツを自分達で製造し、それが自立への道を広げる一助になる事を願っています。生理についても尿もれについても、正しい知識を持ってもらうことがとにかく大事。女性のからだに起こる当たり前の事であり、それを解決できる選択肢がある。解決する方法があるのに、知らずに悩み続けるという環境を変えていきたいですね。

スコール:100%賛成です!哲学者としても、女性達が必要以上の苦しみを背負う事がないよう願います。

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驚愕の「カシミヤ全自動紡績メーカー」、中国コンサイニーが日本法人設立 日本のトップに直撃

中国のカシミヤ紡績大手のコンサイニーグループ(CONSINEE GROUP)は2月、日本法人のコンサイニージャパンを設立した。日本法人のトップにはOEM会社のカレイド(CALEIDO)社長の酒井雅行氏が就任、酒井氏自身も個人で3割を出資する。中国・寧波に拠点を起き、カシミヤを軸に年間3500トンを生産するコンサイニーは、カシミヤでは世界トップクラスの企業だ。なぜいま日本法人を設立したのか。「アパレル・サバイバル」(日本経済新聞出版)などの著書で知られる齊藤孝浩氏のトーメン時代の後輩で、繊維業界で約30年以上の経験を持つベテラン酒井氏に聞いた。

PROFILE: 酒井雅行コンサイニージャパン社長兼CALEIDO社長

酒井雅行コンサイニージャパン社長兼CALEIDO社長
PROFILE: (さかい・まさゆき)1971年6月21日生まれ、東京都出身。早稲田大学、トーメン(94-98年)、ニット企画会社、OEM会社を経て、2011年にCALEIDO(カレイド)を設立し、社長に就任。2024年2月にコンサイニージャパンの設立に参画し、同社の社長に就任。胸元に見えるネックレスは「ゴローズ」

WWD:ジャパン社設立の経緯は?

酒井雅行コンサイニージャパン社長(以下、酒井):昨年10月ごろに、以前からの知り合いで「アンテプリマ」などを手掛ける香港のフェニックスグループ(FENIX GROUP)のアンソニー(・キョン=Anthony Keung/フェニックスグループCEO)から声がかかった。アンソニーはコンサイニーグループの株主で、「日本法人の設立にあたってトップを探している」と。

カレイドは、いわゆる百貨店アパレルを中心にOEMを手掛けている会社で、ニットを主力商品として香港や東莞エリアなどの工場で生産し、日本のアパレルに納入するというビジネスを長く行ってきた。ニットの企画・生産に強く、かつ日本市場に精通しているという条件に合致したようだ。

WWD:昨年10月に声がかかって、今年2月には日本法人を設立、しかも自身も出資する。かなりの力の入れようだが。

酒井:何と言っても、コンサイニーグループがそれだけ魅力的な会社だったからだ。コンサイニーグループは1999年の創業、カシミヤなどの高級獣毛の紡績を手掛け、年産1万トン。カシミヤ紡績では世界シェアの2割を占め、ニット関係者ではよく知られた存在だ。実は私も20年ほど前に一度工場に行ったことがあった。

だが、昨年10月に声がかかり、改めて寧波の主力工場を訪れて驚愕した。紡績工程がほぼ完全なオートメーション化が実現されていた。通常の紡績工場は綿(ワタ)から糸にするわけだから、文字通りの綿埃が舞っているものだが、工場内はまるで半導体工場のクリーンルームのように管理され、チリ一つ落ちていない。カシミヤはとても繊細な素材で、原毛そのものの状態に加え、湿度や気温など外気のちょっとした変化で、工程を調整しなければならないが、生産管理にはAI(人工知能)を駆使しており、コントロールセンターはリアルタイムで電力なども含めてモニターで監視されていた。東京ドームが何個も入るほどの巨大な工場なのに、生産管理は本当に数人で行っていた。衝撃だった。繊維業界、わけてもニットの世界で30年以上働いてきたが、最大の衝撃だったと言っても過言ではない。創業者でCEOを務めるボリス(=薛惊理/Xue JingLi/シュエ・ジンリ、英名:ボリス・シュエ)は、まだ40代で、この工場はものすごい数の特許も出願・取得している。圧倒的に世界の先頭を突っ走っている。そんな工場を目の当たりにしたからだ。

中見出し:日本法人の戦略は?

WWD:日本法人では、どういった戦略を考えているのか。

酒井:まだ2月に法人を設立したばかりだし、本格的な営業活動はこれからだ。ただ、カシミヤという素材にはまだまだ可能性がある。ここ最近の日本での糸売りは、販売代理店、いわゆるエージェントのような形で定番の糸だけを売るビジネスモデルが主流だった。だが、これでは、例えばカシミヤの風合いはできるだけ残しつつも、できるだけ混率を落として市場のニーズにあった価格帯の製品開発を仕掛ける、みたいな動きがなかなかできない。強撚のカシミヤ糸を使った春夏向けのアイテムや、抗ピルのカシミヤ素材などを、市場の空白を埋めるようなアイテムをどんどん仕掛けていく。中長期的には、上代で1万円を切るようなカシミアアイテムを開発したり、アパレル以外の分野、例えば高級ホテルや賃貸型の高級マンションに設置するような高級ブランケット、抗菌・防臭機能を持つカシミヤを使った高級介護用品など、新規分野も開拓したい。もちろんコンサイニーは既存の高級ラインも品質は折り紙付きで、一部のカレイドの取引先に提案しているが、かなり好感触だ。なによりコンピューター管理された工場なので、早く正確に納期もすぐに出せる。

WWD:出資した理由は?

酒井:そもそも、香港の繊維・ファッション業界の長老であるフェニックスグループのアンソニー、中国でカシミヤの世界最先端工場を運営するコンサイニーというタッグであれば、普通は有力な商社や大手企業がパートナーになっていてもおかしくない。出資することで、単なる雇われではあく、出資してパートナーという対等の立場を手に入れられたのは、むしろ奇跡だ。総合商社を皮切りに、長く繊維業界で働いてきたが、まるで20代のときのようにワクワクして、次から次へと商品開発や事業のアイデアが湧いてきている。今月中には、コンサイニーグループのトップを筆頭に経営陣が総出で来日する。この数年で日本市場に、新しいカシミヤ旋風を巻き起こしたい。

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驚愕の「カシミヤ全自動紡績メーカー」、中国コンサイニーが日本法人設立 日本のトップに直撃

中国のカシミヤ紡績大手のコンサイニーグループ(CONSINEE GROUP)は2月、日本法人のコンサイニージャパンを設立した。日本法人のトップにはOEM会社のカレイド(CALEIDO)社長の酒井雅行氏が就任、酒井氏自身も個人で3割を出資する。中国・寧波に拠点を起き、カシミヤを軸に年間3500トンを生産するコンサイニーは、カシミヤでは世界トップクラスの企業だ。なぜいま日本法人を設立したのか。「アパレル・サバイバル」(日本経済新聞出版)などの著書で知られる齊藤孝浩氏のトーメン時代の後輩で、繊維業界で約30年以上の経験を持つベテラン酒井氏に聞いた。

PROFILE: 酒井雅行コンサイニージャパン社長兼CALEIDO社長

酒井雅行コンサイニージャパン社長兼CALEIDO社長
PROFILE: (さかい・まさゆき)1971年6月21日生まれ、東京都出身。早稲田大学、トーメン(94-98年)、ニット企画会社、OEM会社を経て、2011年にCALEIDO(カレイド)を設立し、社長に就任。2024年2月にコンサイニージャパンの設立に参画し、同社の社長に就任。胸元に見えるネックレスは「ゴローズ」

WWD:ジャパン社設立の経緯は?

酒井雅行コンサイニージャパン社長(以下、酒井):昨年10月ごろに、以前からの知り合いで「アンテプリマ」などを手掛ける香港のフェニックスグループ(FENIX GROUP)のアンソニー(・キョン=Anthony Keung/フェニックスグループCEO)から声がかかった。アンソニーはコンサイニーグループの株主で、「日本法人の設立にあたってトップを探している」と。

カレイドは、いわゆる百貨店アパレルを中心にOEMを手掛けている会社で、ニットを主力商品として香港や東莞エリアなどの工場で生産し、日本のアパレルに納入するというビジネスを長く行ってきた。ニットの企画・生産に強く、かつ日本市場に精通しているという条件に合致したようだ。

WWD:昨年10月に声がかかって、今年2月には日本法人を設立、しかも自身も出資する。かなりの力の入れようだが。

酒井:何と言っても、コンサイニーグループがそれだけ魅力的な会社だったからだ。コンサイニーグループは1999年の創業、カシミヤなどの高級獣毛の紡績を手掛け、年産1万トン。カシミヤ紡績では世界シェアの2割を占め、ニット関係者ではよく知られた存在だ。実は私も20年ほど前に一度工場に行ったことがあった。

だが、昨年10月に声がかかり、改めて寧波の主力工場を訪れて驚愕した。紡績工程がほぼ完全なオートメーション化が実現されていた。通常の紡績工場は綿(ワタ)から糸にするわけだから、文字通りの綿埃が舞っているものだが、工場内はまるで半導体工場のクリーンルームのように管理され、チリ一つ落ちていない。カシミヤはとても繊細な素材で、原毛そのものの状態に加え、湿度や気温など外気のちょっとした変化で、工程を調整しなければならないが、生産管理にはAI(人工知能)を駆使しており、コントロールセンターはリアルタイムで電力なども含めてモニターで監視されていた。東京ドームが何個も入るほどの巨大な工場なのに、生産管理は本当に数人で行っていた。衝撃だった。繊維業界、わけてもニットの世界で30年以上働いてきたが、最大の衝撃だったと言っても過言ではない。創業者でCEOを務めるボリス(=薛惊理/Xue JingLi/シュエ・ジンリ、英名:ボリス・シュエ)は、まだ40代で、この工場はものすごい数の特許も出願・取得している。圧倒的に世界の先頭を突っ走っている。そんな工場を目の当たりにしたからだ。

中見出し:日本法人の戦略は?

WWD:日本法人では、どういった戦略を考えているのか。

酒井:まだ2月に法人を設立したばかりだし、本格的な営業活動はこれからだ。ただ、カシミヤという素材にはまだまだ可能性がある。ここ最近の日本での糸売りは、販売代理店、いわゆるエージェントのような形で定番の糸だけを売るビジネスモデルが主流だった。だが、これでは、例えばカシミヤの風合いはできるだけ残しつつも、できるだけ混率を落として市場のニーズにあった価格帯の製品開発を仕掛ける、みたいな動きがなかなかできない。強撚のカシミヤ糸を使った春夏向けのアイテムや、抗ピルのカシミヤ素材などを、市場の空白を埋めるようなアイテムをどんどん仕掛けていく。中長期的には、上代で1万円を切るようなカシミアアイテムを開発したり、アパレル以外の分野、例えば高級ホテルや賃貸型の高級マンションに設置するような高級ブランケット、抗菌・防臭機能を持つカシミヤを使った高級介護用品など、新規分野も開拓したい。もちろんコンサイニーは既存の高級ラインも品質は折り紙付きで、一部のカレイドの取引先に提案しているが、かなり好感触だ。なによりコンピューター管理された工場なので、早く正確に納期もすぐに出せる。

WWD:出資した理由は?

酒井:そもそも、香港の繊維・ファッション業界の長老であるフェニックスグループのアンソニー、中国でカシミヤの世界最先端工場を運営するコンサイニーというタッグであれば、普通は有力な商社や大手企業がパートナーになっていてもおかしくない。出資することで、単なる雇われではあく、出資してパートナーという対等の立場を手に入れられたのは、むしろ奇跡だ。総合商社を皮切りに、長く繊維業界で働いてきたが、まるで20代のときのようにワクワクして、次から次へと商品開発や事業のアイデアが湧いてきている。今月中には、コンサイニーグループのトップを筆頭に経営陣が総出で来日する。この数年で日本市場に、新しいカシミヤ旋風を巻き起こしたい。

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伝説のランドマーク作品からゆずのアルバムジャケットまで 現代美術家の松山智一を直撃

PROFILE:松山智一/現代美術家プロフィール

(まつやま・ともかず)1976年岐阜県生まれ。上智大学卒業後2002年に渡米。ニューヨーク・プラット・インスティテュートを主席で卒業。ブルックリンを拠点に、絵画、彫刻、インスタレーションを手掛ける。世界各地のギャラリー、美術館、大学施設などで展覧会を開催。ロサンゼルス・カウンティ美術館、サンフランシスコアジア美術館、マイアミ・ペレス美術館などに作品が収蔵されている。20年には、JR新宿駅東口広場のアートスペースを監修し、中心に巨大彫刻を制作

現代美術家の松山智一の日本初の大規模な展覧会「松山智一展:雪月花のとき」が3月17日まで、青森・弘前れんが倉庫美術館で開催されている。松山は米ニューヨークを拠点に活動するアーティスト。世界各地で作品の発表を行うほか、ニューヨークのランドマークであるバワリーミューラルの壁画や東京・新宿東口駅前広場の「花尾」、明治神宮の「神宮の杜芸術祝祭」で発表した「Wheels Of Fortuneホイールズ・オブ・フォーチュン」など大規模なパブリックアートを手掛けている。2022年には、ゆずのデビュー25周年ツアーのメーンビジュアルのペインティングを制作し、それがアルバム「ピープル」のジャケットに使用されたほか、ツアーのステージデザインの監修を行った。

松竹梅にゴシック文様、友禅柄など、古今東西、具象、抽象とさまざまな要素を結びつけた作品は、カラフルでポップ、極彩色で描くワンダーランドという印象だ。展覧会の英語のタイトルにある“仮想風景(FICTIONAL LANDSCAPE)”は、異なる時代や文化から印象されたさまざまな要素を再構築することで時間や文脈、地域性から解放されていという発想から生まれた。各作品は、松山がさまざまな文化や価値観の探求を通じて見つけた共通点、再利用しないと残らない情報や記憶を文様やモチーフとして散りばめた集合体だ。それら作品には、ニューヨークで活動する日本人としてのアイデンティティー、マイノリティーとしての多様性への思いが込められている。弘前れんが倉庫美術館で、松山に展覧会やアーティスト活動などについて聞いた。

ニューヨークにおける20年の軌跡

WWD:日本初の大規模な個展開催の感想は?

松山智一(以下、松山):母国の日本は自分にとって大切なもの。アート業界では小さい国だが、アジアの中で日本が発信するカルチャーは最先端だと思う。ハイカルチャー、ローカルチャーの垣根が低い特有の環境で日本の文化は進化してきた。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」メンズの前アーティスティック・ディレクターのヴァージル・アブロー(Virgil Abroh)や「ディオール(DIOR)」メンズのアーティスティック・ディレクターのキム・ジョーンズ(Kim Jones)などのラグジュアリーブランドを率いる人々は東京のストリートカルチャーに影響されてきた。NIGOも「ケンゾー パリ(KENZO PARIS)」で世界に向けて東京のカルチャーを発信している。東京のカルチャーは洗練されたファッションに強く影響してきた。ただ、2000年以降は、あまり進化しておらず、過去の貯金を使っている感じは否めない。そんな中で、日本のアートや文化を高めたい、世界に向けて発信したいという思いがある。なぜ弘前で展覧会かというと、ここには、桜、ねぶた祭り、さまざまな文化が根付いており、現代美術館も5つある。ホテルは外国人観光客で満室だ。彼らが見出した北海道ニセコや香川県・直島のようなポテンシャルを弘前にも感じる。

WWD:今回の展覧会の見どころは?

松山:ニューヨークにおける20年間の活動を凝縮した展覧会。約1200平方メートルの美術館内に5つのスペースを作り、一つ一つにストーリーを持たせ、自分自身を垣間見られるような展覧会にした。

アートは非言語で答えがない表現方法

WWD:デザインやアートに関心を持ったきっかけは?アーティストになった理由は?

松山:以前は、エクストリームスポーツのアスリートだった。スケートボードやスノーボードは、他者と接点を持とうとするコミュニティー意識の高いスポーツ。それを通して自己表現したりコミュニケーションを取ったりする。アートは非言語のコミュニケーションツールで、スケートボードと基本的なアティチュードが似ている。アーティストになろうと思ったのは、一生現役でいられるし、挑戦し続けられると思ったから。大学でコミュニケーションデザインを学んだが、それは問題解決の手段。当時のアメリカの実利的な教育や若手アーティストが台頭し始めた時代背景もあり、アートの世界へ興味が移行していった。自分の心の中にある声を作品にすることで、自己完結できるのがアート。アートを選ぶことで、自身の方向性が見つけられると思った。自分の中にあるエネルギーや社会に対する怒りを表現できる。自分の思いをキャンバスにぶつけることが原動力になった。

WWD:創造の原動力はどこから?クリエイションの過程で、一番大切なことは?

松山:基本、自分が作りたいものをつくるが、多様性の中で是か非か考える。自分がどこに、どのように向かうのか、自分が考えていることと世界がどれだけ近いのか、それとも離れているかを意識し、共有しながら制作する。アートは非言語で答えがない表現方法。例えば、人種について“白人” “黒人”など言葉にすると直接的になりすぎるが、黒人が持つ暗い歴史を鮮やかに描いた作品があったとする。それは、歴史を言葉で語るのではなく声として伝えている。美は声であり、鑑賞者に事象を固定観念やバイアスなしに伝えられる手段だと考える。

WWD:さまざまなモチーフを組み合わせた作品が多いが、それらをどのように選んで組み合わせるか?それを通して表現したいこと、伝えたいことは?

松山:違うもの同士が持つ接点について考え、それを発見できたときにはっとすることがある。例えば、ミュージシャンのファレル・ウィリアムス(Pharrel Williams)が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」メンズのアーティスティックディレクターになって、ファッションと音楽の融合による新しい表現が生まれた。このように異なるもの同士がぶつかり合い、スパークする瞬間にワクワクする。あらゆる情報の探求をし続けて価値を見出し、考えたことのないものを生みだせるのはアートだけだ。アーティストは自己否定をしなければ新しい作品が生まれないし、生みの苦しみもある。だが、アートをツールとしてさまざまな領域を横断することにより、生きていると実感できる。アーティスト活動を通して生きていることを皆と共感したい。

ニューヨークのランドマークに新たな息吹を

WWD:キース・ヘリング(Keith Herring)やバンクシー(Banksy)などが作品を描いたバワリーミューラルを2019年、23年と2回手掛けた感想は?

松山:バワリー・ミューラルは、1982年にヘリングがグラフィティーを描いた歴史的な場所であり、ニューヨークのアイコンだ。1回目に手掛けたときは熱烈なオファーを受けて実現、2回目は許可なく作品を制作した。その理由は、落書きによってミューラルの本来の姿が損なわれ、所有者が放棄した状態にあったから。壁そのものは所有者のものだとしても、その伝説はこれまで描いてきたアーティストが作ったものだ。それで、アクティビストとして「日中、堂々とやるぞ」と1日で作品を描こうと思い、ニューヨークへの思いを込めて30のポートレート作品を完成させた。日本人が描くということがニューヨークらしさだと考えた。ニューヨークは、“受容と排除”といったような2面性を持つ町だが、マイノリティーが活躍できる多様性とチャレンジ精神がある。許可なしに描いたので所有者からクレームが来たが、完成した作品を見て「これは美しい」という言葉と共に、私がこの作品を手掛けた理由について深い理解を示してくれ、公認になった。アートを通して表現した声が響いたと感じた。

WWD:ストリートアートについてどのように考えるか?

松山:アーティスト自身は、ストリートアートと思って描いているわけではない。例えば、バンクシーは、権威の中で制作をしないというだけ。自分のアイデンティティーに真っ直ぐ活動を行い、町をキャンバスに使う、それ以上でもそれ以下でもない。

WWD:パブリックアートを多く手掛けているが、パブリックアートに必要なことは?

松山:パブリックアートは一般社会との接点。壁画や彫刻、モニュメントなど、さまざまな表現方法があるが、制作する場所の歴史や個性、意味を捉えて、その場所の価値を上げるのがパブリックアートだ。町中にアートがあると導線ができ、その場所に文化が生まれる。アートは場所に新しい価値をもたらすことができる。文化が収益性を生み、治安が良くなるケースもある。

WWD:アート後進国といわれる日本で、現代アートがブームになりつつあるが、この現象をどのように見るか?

松山:市場のインフラが整い、バブル期に失われた土壌が豊かになった。日本のアート業界は、若干産業化していると思うが、業界にビジネスとして携わる人々にとっては、作品は売買の対象であり致し方ない。だが、表現者は「売れればいい」という意識ではダメだ。ファッションブランドとのコラボなどでも、体験を通して価値を提供できるビジョンのあるアートが必要だと考える。

WWD:今後チャレンジしたいことは?

松山:パブリックアートや美術館の展覧会などを通して、アートに興味がない人との接点を持つことで、アートを感じてもらいたい。人は、バベルの塔など大きいものに感銘を受ける。だから、建築的次元でのモノづくりや、公共でスケール感のある作品などを手掛けてみたい。

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ブランド運営は全て自己資金 篠田麻里子が敏感肌ボディーケアに本気の理由

元AKB48でモデル・俳優の篠田麻里子がプロデュース・運営する「ヨカヨ(YOKAYO)」は、肌への優しさにこだわったボディーケア中心のコスメブランドだ。彼女の故郷である福岡・糸島の原料を使い、糸島の化粧品工場で生産する。ブランドスタート(2022年)から主にECで販売してきたが、3月31日に、エコサートコスモス認証取得のオーガニック処方にリニューアルした看板商品のボディーソープ(450mL、2800円)と新商品のボディーミルク(180g、3210円)の2商品を、全国の「コスメキッチン(COSME KITCHEN)」で発売する。

ブランドは篠田本人が代表を務めるyokayoが運営。DtoCブランド事業などを展開するnewn(東京、中川綾太郎CEO)が経理や法務などバックオフィス業務を支援するが、ブランド運営は「全て自己資金でまかなっている」(篠田)という本気度だ。「私と同じように肌が弱い人たちに寄り添い、私なりのやり方で糸島に貢献できたら」と語る篠田に今後の展望を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):ブランドを立ち上げたきっかけは。

篠田麻里子(以下、篠田):私自身、幼少期からアトピー性皮膚炎を患っています。食べるもの、肌に触れるものに気を遣うことで自分はなんとかなってきましたが、子供が生まれるタイミングで「この子もアトピーだったらどうしよう」という不安がすごく大きくて。私のように肌に悩んでいる人に寄り添うブランドを作りたいという気持ちが芽生えました。

WWD:市場には敏感肌向けのボディーケア商品がすでにある。どうして自分でブランドを?

篠田:私はシングルマザーとして育児をしています。その大変さを身に染みてわかっているつもりです。もちろん私も、たくさんの敏感肌向けボディーケア商品を使ってきました。ただ育児って、みなさんが想像する以上の“タスク”に追われているもの。お子さんをお風呂に入れるのだって一苦労です。市場に流通しているオーガニック系のボディーソープは300mLくらいの容量のものが多いのですが、実際に子どもを抱えながらポンプを押そうとすると、本体が軽くてボトルが転んじゃったりして、意外と厄介なんです。それに容量が少ないと、頻繁に中身を入れ替えなくちゃいけませんし。「ヨカヨ」のボディーソープは480mLの大容量。ボトルは少しずんぐりとしちゃいましたが、きっとママさんなら共感して喜んでいただけるポイントだと思っています。容器には環境にやさしいバイオマスプラスチックを使用しています。

WWD:「ヨカヨ」の処方についても教えてください。

篠田:いきなり容器からアピールしてしまいました(笑)。「ヨカヨ」のボディーソープとボディーミルクには糸島二丈の天然温泉水を使っています。この温泉水は私が幼い頃からお風呂に浸かったり、飲んだりして、ずっと身近にあった水。この温泉水をどうしても「ヨカヨ」に入れたくて、そして肌が弱い私がずっとお世話になってきた「コスメキッチン」に置いてもらいたくて。

2年前から「コスメキッチン」のバイヤーである下田裕華さんに二人三脚で協力していただきました。下田さんはオーガニックへの思いがすごく熱い方なのですが、私の糸島への思いも汲んでくれた上で一緒に処方を考えてくださったりと、頭が上がらない思いです。エコサート最高水準の「コスモスオーガニック認証」はならずとも、それに次ぐ「ナチュラル認証」の取得がかない、「コスメキッチン」で置いていただけることになりました。ボディーソープは泡立ちも、保湿力もすごくいいですし、ボディーミルクはベタつかずすっと馴染む浸透性が心地いいです。周りの近い人にも、「これ、よかよ(博多弁で“いいよ”)」と自信を持って薦められるものができたと思っています。

WWD:「コスメキッチン」で取り扱うことに加え、篠田さん自身の発信力でも知名度が広がりそうだ。

篠田:ただ、ブランドが一人歩きしてしまうのが怖いんです。かつてアパレルブランド※をプロデュースしていた時期がありました。成功した、とは決して言えないけれど、すごくいい勉強になりました。「ブランドをやるのってすごく難しいんだ」と身に染みて学びました。自分の作りたい服はあっても、でき上がってくる服は理想通りになるとは限らない。それでも折り合いをつけて走り続けなきゃいけない中、いつしか売れ線のデザインに寄っていき、自分のやりたいこととブランドが離れていくのを感じました。

※篠田は自身のアパレリブランド「リコリ」を2012〜14年にかけプロデュースしていた。

新しいことに挑戦するのが恐くなっていた時期もありましたが、またやると決めたからには、「プロデュース」ではなく本気でコミットしないとダメだと思ったんです。自己資金でやると決めたのもそれが大きな理由です。もちろん、それが自分の首を自分で締めているのは分かっているんですが。数字が大嫌いで、売上管理などのエクセルデータを見ていると本当に嫌すぎて涙が出てくることがあります(笑)。経理や法務の部分ではnewnさんにサポートいただきながら、今でも毎日勉強させてもらっています。ブランドは自分1人ではできないものだと実感します。

WWD:なぜもう一度ブランド運営に挑戦した?

篠田:人に喜んでもらいたいという気持ちと、糸島の役に立ちたいという気持ち、その両方からです。

歳をとるにつれ、ようやく自分について理解できることはありますが、私はやっぱり「人に喜んでもらえること」が好きなんだなと。アイドル時代を振り返っても、ファンの方に「元気が出ました」「勇気をもらいました」と言ってもらえるからがんばれていました。自分なりに人のためになることをするのが、私の人生なんだなと思います。

若い頃は素通りしていたような「地元のありがたみ」も感じるようになりました。実家に帰ると自然の温かさや変わらない景色に触れて、自分がリセットされる感覚があります。子供たちにこの糸島の自然を残していきたいです。地元に貢献する方法は色々あります。私が積極的にメディアに出て糸島の名前を出すことも一つですし、お金を寄付してもいいかもしれない。ただ糸島がずっと住み続けられる場所であるためにはどうしたら、という長い目線で考えると、「そこにやりがいのある仕事があるかどうか」が一番大事なんじゃないかな。

「ヨカヨ」のボディーソープは地元の酒造の酒粕や、甘夏の果皮油を使用しています。従来は破棄されていた素材をアップサイクルしているんです。商品製造をお願いしているピュールさんは、糸島に自社工場を構え、風車を使ったサステナブルな発電や廃棄削減、女性雇用の促進などさまざまな努力をされています。「ヨカヨ」に関わる全ての人と交流しながら、一緒に商品を作り上げていくプロセス自体がすごく楽しい。これからも皆さんと仕事がしたいし、ここで働きたいと思う人がもっと増えたらいいですね。

WWD:商品展開を広げる考えは?

篠田:ゆくゆくは、とも思いますが、苦労して作ったボディーソープはまるで自分の子供みたいな思い入れがあって、まずこの子たちをじっくり育てたいです。何個も矢継ぎばやに新商品を出そうという考えはありません。

「ヨカヨ」に込めた思いを伝えるには、「商品を売ること」以外にもできることはたくさんあると思っています。例えばママさんを対象にした親子ワークショップなども不定期で実施していて、使わなくなったおもちゃのフリマを開催したり、おもちゃを集めて施設に寄付したりしてきました。私も子供が4歳になり、ようやく少しは手がかからなくなってきました。大変なママたちの苦労や不安を理解し、分かち合えることがあると思いますから、活動の幅も広げていけたらいいですね。「ヨカヨ」はそんなふうに、皆さんとの“繋がり”を生み出すコミュニティーにできたらと考えています。

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ブランド運営は全て自己資金 篠田麻里子が敏感肌ボディーケアに本気の理由

元AKB48でモデル・俳優の篠田麻里子がプロデュース・運営する「ヨカヨ(YOKAYO)」は、肌への優しさにこだわったボディーケア中心のコスメブランドだ。彼女の故郷である福岡・糸島の原料を使い、糸島の化粧品工場で生産する。ブランドスタート(2022年)から主にECで販売してきたが、3月31日に、エコサートコスモス認証取得のオーガニック処方にリニューアルした看板商品のボディーソープ(450mL、2800円)と新商品のボディーミルク(180g、3210円)の2商品を、全国の「コスメキッチン(COSME KITCHEN)」で発売する。

ブランドは篠田本人が代表を務めるyokayoが運営。DtoCブランド事業などを展開するnewn(東京、中川綾太郎CEO)が経理や法務などバックオフィス業務を支援するが、ブランド運営は「全て自己資金でまかなっている」(篠田)という本気度だ。「私と同じように肌が弱い人たちに寄り添い、私なりのやり方で糸島に貢献できたら」と語る篠田に今後の展望を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):ブランドを立ち上げたきっかけは。

篠田麻里子(以下、篠田):私自身、幼少期からアトピー性皮膚炎を患っています。食べるもの、肌に触れるものに気を遣うことで自分はなんとかなってきましたが、子供が生まれるタイミングで「この子もアトピーだったらどうしよう」という不安がすごく大きくて。私のように肌に悩んでいる人に寄り添うブランドを作りたいという気持ちが芽生えました。

WWD:市場には敏感肌向けのボディーケア商品がすでにある。どうして自分でブランドを?

篠田:私はシングルマザーとして育児をしています。その大変さを身に染みてわかっているつもりです。もちろん私も、たくさんの敏感肌向けボディーケア商品を使ってきました。ただ育児って、みなさんが想像する以上の“タスク”に追われているもの。お子さんをお風呂に入れるのだって一苦労です。市場に流通しているオーガニック系のボディーソープは300mLくらいの容量のものが多いのですが、実際に子どもを抱えながらポンプを押そうとすると、本体が軽くてボトルが転んじゃったりして、意外と厄介なんです。それに容量が少ないと、頻繁に中身を入れ替えなくちゃいけませんし。「ヨカヨ」のボディーソープは480mLの大容量。ボトルは少しずんぐりとしちゃいましたが、きっとママさんなら共感して喜んでいただけるポイントだと思っています。容器には環境にやさしいバイオマスプラスチックを使用しています。

WWD:「ヨカヨ」の処方についても教えてください。

篠田:いきなり容器からアピールしてしまいました(笑)。「ヨカヨ」のボディーソープとボディーミルクには糸島二丈の天然温泉水を使っています。この温泉水は私が幼い頃からお風呂に浸かったり、飲んだりして、ずっと身近にあった水。この温泉水をどうしても「ヨカヨ」に入れたくて、そして肌が弱い私がずっとお世話になってきた「コスメキッチン」に置いてもらいたくて。

2年前から「コスメキッチン」のバイヤーである下田裕華さんに二人三脚で協力していただきました。下田さんはオーガニックへの思いがすごく熱い方なのですが、私の糸島への思いも汲んでくれた上で一緒に処方を考えてくださったりと、頭が上がらない思いです。エコサート最高水準の「コスモスオーガニック認証」はならずとも、それに次ぐ「ナチュラル認証」の取得がかない、「コスメキッチン」で置いていただけることになりました。ボディーソープは泡立ちも、保湿力もすごくいいですし、ボディーミルクはベタつかずすっと馴染む浸透性が心地いいです。周りの近い人にも、「これ、よかよ(博多弁で“いいよ”)」と自信を持って薦められるものができたと思っています。

WWD:「コスメキッチン」で取り扱うことに加え、篠田さん自身の発信力でも知名度が広がりそうだ。

篠田:ただ、ブランドが一人歩きしてしまうのが怖いんです。かつてアパレルブランド※をプロデュースしていた時期がありました。成功した、とは決して言えないけれど、すごくいい勉強になりました。「ブランドをやるのってすごく難しいんだ」と身に染みて学びました。自分の作りたい服はあっても、でき上がってくる服は理想通りになるとは限らない。それでも折り合いをつけて走り続けなきゃいけない中、いつしか売れ線のデザインに寄っていき、自分のやりたいこととブランドが離れていくのを感じました。

※篠田は自身のアパレリブランド「リコリ」を2012〜14年にかけプロデュースしていた。

新しいことに挑戦するのが恐くなっていた時期もありましたが、またやると決めたからには、「プロデュース」ではなく本気でコミットしないとダメだと思ったんです。自己資金でやると決めたのもそれが大きな理由です。もちろん、それが自分の首を自分で締めているのは分かっているんですが。数字が大嫌いで、売上管理などのエクセルデータを見ていると本当に嫌すぎて涙が出てくることがあります(笑)。経理や法務の部分ではnewnさんにサポートいただきながら、今でも毎日勉強させてもらっています。ブランドは自分1人ではできないものだと実感します。

WWD:なぜもう一度ブランド運営に挑戦した?

篠田:人に喜んでもらいたいという気持ちと、糸島の役に立ちたいという気持ち、その両方からです。

歳をとるにつれ、ようやく自分について理解できることはありますが、私はやっぱり「人に喜んでもらえること」が好きなんだなと。アイドル時代を振り返っても、ファンの方に「元気が出ました」「勇気をもらいました」と言ってもらえるからがんばれていました。自分なりに人のためになることをするのが、私の人生なんだなと思います。

若い頃は素通りしていたような「地元のありがたみ」も感じるようになりました。実家に帰ると自然の温かさや変わらない景色に触れて、自分がリセットされる感覚があります。子供たちにこの糸島の自然を残していきたいです。地元に貢献する方法は色々あります。私が積極的にメディアに出て糸島の名前を出すことも一つですし、お金を寄付してもいいかもしれない。ただ糸島がずっと住み続けられる場所であるためにはどうしたら、という長い目線で考えると、「そこにやりがいのある仕事があるかどうか」が一番大事なんじゃないかな。

「ヨカヨ」のボディーソープは地元の酒造の酒粕や、甘夏の果皮油を使用しています。従来は破棄されていた素材をアップサイクルしているんです。商品製造をお願いしているピュールさんは、糸島に自社工場を構え、風車を使ったサステナブルな発電や廃棄削減、女性雇用の促進などさまざまな努力をされています。「ヨカヨ」に関わる全ての人と交流しながら、一緒に商品を作り上げていくプロセス自体がすごく楽しい。これからも皆さんと仕事がしたいし、ここで働きたいと思う人がもっと増えたらいいですね。

WWD:商品展開を広げる考えは?

篠田:ゆくゆくは、とも思いますが、苦労して作ったボディーソープはまるで自分の子供みたいな思い入れがあって、まずこの子たちをじっくり育てたいです。何個も矢継ぎばやに新商品を出そうという考えはありません。

「ヨカヨ」に込めた思いを伝えるには、「商品を売ること」以外にもできることはたくさんあると思っています。例えばママさんを対象にした親子ワークショップなども不定期で実施していて、使わなくなったおもちゃのフリマを開催したり、おもちゃを集めて施設に寄付したりしてきました。私も子供が4歳になり、ようやく少しは手がかからなくなってきました。大変なママたちの苦労や不安を理解し、分かち合えることがあると思いますから、活動の幅も広げていけたらいいですね。「ヨカヨ」はそんなふうに、皆さんとの“繋がり”を生み出すコミュニティーにできたらと考えています。

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伊老舗レザーブランド「セラピアン」 「日本女性にミラノの美学を届けたい」とCEO

イタリア・ミラノで1928年に誕生した高級レザーブランド「セラピアン(SERAPIAN)」。柔らかなラムのナッパレザーを、イタリアの職人たちが丁寧に編み込んだデザイン“モザイコ”は、ミラネーゼの洗練された美学を感じさせる。2017年に「カルティエ(CARTIER)」「クロエ(CHLOE)」などを擁するリシュモングループ傘下に入り、特に女性客からの支持を伸ばしている。6月には東京・銀座に新たな旗艦店のオープンを控え、日本市場にも力を入れる。マキシム・ボヘ(Maxime Bohe)最高経営責任者(CEO)にミラノの本社ヴィラ・モーツァルトで話を聞いた。


“ミラネーゼの手”が生み出すバッグ
洗練された美学を持つ
女性たちから支持

「WWDJAPAN」(以下、「WWD」):リシュモングループに参入以降、ウィメンズカテゴリーを強化している。

マキシム・ボヘCEO(以下、ボヘCEO):ここ数年で、ウィメンズは2ケタ増のペースで伸びている。「セラピアン」は創業当時からスカラ座でオペラを鑑賞したりモンテ・ナポレオーネ通りへ買い物に出かけたりするときにユニークなバッグを持ち歩きたいという淑女たちの欲求をかなえてきた。今あらためてウィメンズが急速に伸びているのは、高い職人技術と実用性、“クワイエット・ラグジュアリー”のトレンドの中でも際立つクリエイションといった、現代の女性たちが求めるものを提案できているからだろう。昨年はニューヨーク、直近はアブダビにも出店し、戦略的に販路も広げている。次は東京の旗艦店だ。銀座という東京の中心でミラノの本社ヴィラ・モーツァルトの雰囲気を再現するつもりだ。

「WWD」:現在の「セラピアン」ウーマンとはどんな人たち?

ボヘCEO:さまざまなラグジュアリーブランドを楽しんできたが、今もう一度ユニークで貴重なものを持ちたいと思っている女性たち。顧客は建築家やアートコレクターら総じて自分のテイストが明確で洗練されたものの美学を理解している人たち。同時に彼女たちは、「セラピアン」を通してそうした美学を共有するコミュニティーに属していることにも誇りを持っている。

「WWD」:あらためて「セラピアン」の強みは?

ボヘCEO:私たちが“ミラネーゼの手”と呼んでいる職人技だ。今でも全ての製品をイタリアで生産しているのは、柔らかで軽量な製品を作ることができる“ミラネーゼの手”があってこそ。現在は25人の職人がいる。15年以上の経歴を持つマスター職人の女性は創業者の妻のジーナ・セラピアン(Gina Serapian)から直接指導を受け、そのノウハウを今若い世代に教えている。本に書かれたマニュアルではなく創業者から受け継いだ技をマスター職人たちが丁寧に伝え続けている点は強みだろう。しかし生産ペースを維持しながら規模を拡大するには、どうしても職人が足りない。今後は職人たちがお客さまと直接コミュニケーションを取ったり、ときには一緒にデザインを考えたりする機会を増やして職人自身が若い世代にインスピレーションを与えることが重要だと考えている。

銀座店では真のミラネーゼ体験を届ける

「WWD」:銀座の新たな旗艦店はどんな店になる?

ボヘCEO:真のミラネーゼ体験を届けたい。それが私たちに求められていることだからだ。店の外壁には、ミラノの建築によく使われるマリア・テレジア・イエローと呼ばれる柔らかなイエローを採用した。ミラノの街を歩くと本当によく見かけるミラネーゼがとても好きな色。ヴィラ・モーツァルトと同様のデザインのエントランス、大理石の床、イタリアの職人が手掛けた壁など、至る所でミラノを感じてもらえるはずだ。

「WWD」:「セラピアン」はビスポークサービスも強みだ。

ボヘCEO:ミラノのアトリエでの体験を再現するべく、イタリアで訓練を積んだ職人が店内に在中する予定だ。全てのお客さまに“モザイコ”ができる過程を見てもらい、美しさを理解してもらいたい。

WWD:特に日本の女性に向けてはどんな製品でアピールしていく?

ボヘCEO:今の時代は特にオーセンティックなブランドが求められている。私たちの製品は、時代や文化を超えて求められる要素を最初から備えている。例えば1970年代に誕生した“シークレット”バッグは今でも人気だ。幸いなことに、ミラノの女性と東京の女性は好みやライフスタイルにおいて多くの共通点がある。洗練されていてエレガントなものを好む傾向があるし、どちらも大都市を舞台にアクティブに過ごしている。「セラピアン」の製品は着替える時間がなくても朝からイブニングのパーティーシーンまで持てる。電車での移動時にも使いやすく現代生活にもきちんとマッチする。メゾンのDNAを一貫した製品で表現し、真のミラネーゼとしてのアイデンティティーを届けることに注力していきたい。

“シークレットガーデン”を
イメージした会場で
新作コレクション発表

ミラノ・ファッション・ウイーク中には、本社兼アトリエのヴィラ・モーツァルトで2024-25年秋冬コレクションのプレゼンテーションを行った。会場にはプラントアーティストの川本諭がイタリアと日本の植物を使ったインスタレーションをしつらえ、シーズンテーマである“シークレットガーデン”を演出した。

旅行が大好きでアクティブだという創業者の息子の妻の名アニ・セラピアン(Ani Serapian)にちなんで名付けた新作“アニ”バッグは、メゾンのアーカイブ“バウレット・トラベルバッグ”を日常的に使えるミニサイズでアップデートしたもの。さまざまな定番製品からは、自然から着想を得た美しいトーンの変化が特徴的なグラデーションのデザインの"キアロスクーロ"のほか、スエードやエキゾチックスキン、イタリアンウールなどを組み合わせて表情に絶妙な変化をつけた新たな“モザイコ”デザインなどが登場した。

日本の老舗着物ブランド
「千總」 とコラボ

24-25年秋冬コレクションのもう1つの目玉は、日本の老舗着物ブランド「千總」 とのコラボレーションアイテムだ。「イタリアと日本に咲く架空の花」をイメージした幻想的な花のデザインを元にしたカラーパレットや、バッグのライニングやシルクスカーフにも施した。同アイテムは、銀座旗艦店で発売予定だ。

PHOTO:THE STREET PIE
問い合わせ先
リシュモン ジャパン
03-4572-4930

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超売れっ子Z世代モデル藤田ニコルのもう一つの素顔 起業家としての本気度を直撃

プロフィール

1998年2月20日、ニュージーランド生まれ。2009年にファッション誌「nicola」のモデルオーディションに応募し、専属モデルとして活動。14年「Popteen」のモデルを経て、17年から「ViVi」の専属モデル。15年からテレビタレントとしても活躍。21年に自らディレクションを手掛けるアパレルブランド「カルナムール」を立ち上げる。23年「ピーチ・ジョン」のミューズに就任。24年「カルナムール」1号店を出店

モデル兼タレントの藤田ニコルがディレクションを手掛けるウィメンズアパレル「カルナムール(CARNAMUR)」の初店舗が3月1日、ルミネエスト新宿(以下、ルミネ)にオープンした。同ブランドは、マークスタイラーが運営。テレビで姿を見ない日はないほど売れっ子の藤田だが、アパレルをはじめ、カラーコンタクトレンズ、コスメのプロデュースや、自身の会社でジムの運営を行うビジネスウーマンの顔を持つ。多忙なスケジュールにもかかわらず、「カルナムール」のオープン前日には店舗の視察、当日には、自ら店頭に立ちファンサービスを行うなど、真摯にビジネスに向き合っている。藤田に、モデル・タレント業、ビジネス、そしてプライベートについて聞いた。

自分にとってもファンにとってもウィン・ウィンなビジネスに

WWD:「カルナムール」出店の感想は?今後「カルナムール」をどのように成長させたいか?

藤田ニコル(以下、藤田):ブランドをスタートして2年半が経った。実際お客さまが来店して、やっとオープンしたと実感。かわいらしくテンションが上がるお店になり、うれしい。ルミネエストは駅直結なので、いろんな人に「カルナムール」を知ってもらえると思う。私はモデルやタレントというイメージが強いと思うが、このお店を通して「カルナムール」というブランドも手掛けているということもアピールしたい。このお店からブランドが広まって、店舗を増やせればと思う。

WWD:「カルナムール」のディレクション以外に、手掛けているビジネスは?

藤田:事務所関連では、カラーコンタクトやコスメのプロデュースをしている。自分の会社ではパーソナルジムを経営している。自分の日常全部をプロデュースしたいと思う。それは、ファンにとってもうれしいことだと思う。だから、頭の中はいっぱいで、私自身、「自分が4人いればいいのに」と思うこともある。

WWD:モデル・タレント業以外にビジネスに携わろうと思った理由と目的は?

藤田:結構キャパが広く、私自身“どM”だと感じる。タレント業は、藤田ニコルという名前があっての活動。私自身がさらに成長するために、1から勉強してビジネスをやってみたいと思った。社会勉強のつもりで、頭を使って失敗しながら取り組むことで、人間力がアップしていると感じる。私にとってもファンにとってもウィンウィンなビジネスにしたい。

経営者として実感した周囲のサポートのありがたさ

WWD:タレント業とビジネスのバランスはどのように取っている?それぞれの醍醐味は?

藤田:仕事に幅があり、毎日刺激があって楽しい。テレビには等身大で、楽しんで出演している。いろいろな人と関わることで成長している。ビジネスに携わるようになって、いろんな人の助けがあってこそ活動できているということを再確認した。1からビジネスを作り上げる苦労もしたし、自分で経営してみて、周囲にサポートしてもらえるありがたさを感じた。それを芸能活動にも生かしていきたい。応援してくれるファンをワクワクさせたいという気持ちでビジネスに挑戦している。そして、「私も頑張ろう」と思ってもらえればうれしい。

WWD:今後のキャリアパスについてどう考えるか?将来の夢は?

藤田:芸能界は、消費期限がある厳しい業界。仕事が来なくなったときに、芸能界以外の仕事ができればと思い、ビジネスのアイデアを温め続けてきた。夢は、叶えてきたと思う。ただ、仕事ばかりでプライベートをおろそかにしていたので、自分の時間を持ちたい。海外にも行きたい。ファッションが好きなので、フランス・パリに行って、ラグジュアリー・ブランドの本店を訪れたり、ファッションにまつわることを吸収したりして、仕事に反映したい。インスピレーションが大事で、それが仕事につながると思う。プロデュースが好きなので、年齢に合う仕事をしていければと思っている。例えば、子どもができたら子ども服、また、健康などにも関心がある。

毎日の入浴でオン・オフを切り替え

WWD:「ピーチ・ジョン(PEACH JOHN)」のミューズとして絶大な人気だが、下着姿になる抵抗はなかったか?

藤田:水着の撮影と同じで、全くなかった。色っぽさもほしいけど、健康的に見えるという声が多く、うれしい。「ピーチ・ジョン」が発信している内面から出る“元気”や“ハッピー”な雰囲気が伝わっていると思う。3カ月に1回撮影があるので、メリハリのある体づくりに励み、それが健康につながっている。

WWD:ファッションと下着、それぞれ、どのように楽しむ?

藤田:下着は、オンオフ使い分けている。仕事ではアウターに響かないものを使うが、プライベートでは、好きな色などテンションが上がるものをこだわって選ぶ。ファッションは大好きで、一番お金をかけている。特に自分の路線といったものはなく、トレンドや気分で洋服を選ぶし、「カルナムール」にもそれを反映している。スポーティーやクールなものと甘いテイストをミックスしたコーディネートが好き。「ViVi」の撮影で着用したものをそのまま購入することもあるし、ラグジュアリー・ブランドからファストファッションまで、トレンドはおさえる。全身自分のブランドでまとめるのは嘘になるから、いろいろミックスしてリアルなファッションを楽しんでいる。

WWD:欠かさない美容ルーティンは?

藤田:オン・オフの切り替えのために、どんなに疲れていても、毎日お風呂に入る。一時期、発汗を促すエプソムソルトにはまっていた。そしてマッサージボールでストレッチする。そうすることで、毎日のコンディションが整う。美容に関しては、決まったスキンケアはなく、いろんなものを使い、常にいいものを探している。下着の撮影をするようになって、胸やお尻のケアをするようになった。「ピーチ・ジョン」の専用クリームを愛用している。

WWD:今後チャレンジしたいことは?

藤田:「カルナムール」のショップをはじめ、手掛けていることに集中して成長させたい。それに満足し、ファンからリクエストがあれば新しいチャレンジをしてみたい。

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カイリー・ジェンナーが「サム エデルマン」の広告塔に ディレクターが語る撮影エピソード

アメリカのシューズブランド「サム エデルマン(SAM EDELMAN)」は、10億ドル(約146億円)規模のブランドになることを目指し、多方面に事業を拡大している。共同設立者、そしてクリエイティブ・ディレクターでもあるサム・エデルマン(Sam Edelman)は、デイヴィッド・リップマン(David Lipman)がクリエイティブ・ディレクションを担当する春の広告キャンペーンのアンバサダーに、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)を起用した。

エデルマンは、26歳のカイリーを「サム エデルマン」の広告キャンペーンに抜擢した理由について、「ブランドにとって、何かカタルシスを得るのに絶好のタイミングだと思った。1年ほど前にナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)を起用した際には、約60日間、オンライン売り上げが3倍になった。そしてカイリーは、今日の世界でとても特別なものを象徴している。彼女は今日、世界中の女性にとって、類を見ない憧れの的だ。彼女の美しさは外見だけでない――写真が、彼女の内面的な美しさを生き生きと映し出す。私達がデザインした商品に対する彼女のエモーショナルな反応を見た瞬間は、とても記憶に残っている。『こんなに可愛くて履き心地がいいなんて』と、信じられない様子だった」。

カイリーは広告塔への起用にあたり、「エデルマンがブランド設立20周年を迎えるにあたり、キャンペーンに参加できることを光栄に思う。彼のデザインはファッション性がありながらシンプル。その品質と履き心地の良さは、履いている人をパワフルで自信に満ちた気持ちにさせてくれる」と語る。

キャンペーンでカイリーは、主にパンプス、バレエシューズなどのヒーロー商品を着用した。「バレエはファッションスタイルでもあり、尊大なもの。今バレエスタイルはブームになっていて、『サム エデルマン』のバレエシューズ“メリー・ジェーン”は私達のビジネスをけん引している。今回、カイリーもスタッズ付きの“メリー・ジェーン”を着用している」とエデルマン。

エデルマンと30年来の付き合いだと言うリップマンは、ナオミ・キャンベルのキャンペーン時も一緒に手がけた。「サムは兄弟のような存在。このキャンペーンは、彼という男、そしてブランドそのものを表現している。彼がカイリーを選んだ理由は、彼女のソウルフルなスピリットに共鳴しただけではない。単なる靴のキャンペーンではなく、これは靴を愛する女性のためのキャンペーンだからだ。サムとカイリーは出会ってすぐに仲間意識が芽生えた」。

ロサンゼルスで1日かけて行われた広告キャンペーンの撮影は、準備に7日間を要した。エデルマンは7カ月前、仏「エル」のジゼル・ブンチェン(Gisele Bundchen)特集でクリス・コールズ(Chris Colls)が撮影した写真を見て、彼に撮影を依頼した。スタイリングはジョージ・コルティナ(George Cortina)、メイクアップはアリエル・テハダ(Ariel Tejada)、ヘアはジーザス・ゲレーロ(Jesus Guerrero)が担当。クリエイションのテーマに“愛"という言葉を掲げ、エデルマンは制作チームにも常に「これを愛せるか?愛せないならドロップしよう」と伝えてきたと言う。「カイリーが私達の靴を履いている写真はたくさんあるが、中でもブランドへの愛を伝えるのは彼女のまなざしだ」。同コレクションは、「サム エデルマン」公式サイトと直営店などで購入できる。

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お客さまから「もっとメイク投稿してほしい」と言ってもらえる 【二刀流美容師:「SHIMA」高殿七海スタイリスト】

ヘアだけでなく、メイクアップもこなす美容師を“二刀流美容師”としてピックアップする連載企画。インスタグラムによる集客が主流となった今、ヘアスタイル投稿だけでなく、メイク投稿もできるとサロンユーザーの関心をより引き付けられるため、注目度が増している。第5回は「SHIMA HARAJUKU(シマ ハラジュク)」の高殿七海スタイリストに、 メイクを始めたきっかけや、美容師がメイクもやることのメリットを聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):メイクにはどのように取り組んでいる?

「SHIMA HARAJUKU」高殿七海スタイリスト(以下、高殿):撮影のとき、モデルのメイクを自分で行っている。お客さまにメイクのアドバイスをする機会も多く、トレンドメイクをお伝えするほか、「今日のヘアカラーだったら、こういうメイクが合いますよ」「新しい髪色だと眉カラーやリップはこういう色が似合うと思います」といった感じで、ヘアカラーに合わせた提案を行うことが多い。

WWD:メイクにはいつから取り組み始めた? また、どのように勉強している?

高殿:子どもの頃からメイクは好きだったけれど、初めて他人に施したのは美容学生のとき。メイクも含め、トータルに自分のイメージを表現したいと思い、モデルの撮影時にメイクも手掛け始めた。「SHIMA」に入社後は、アシスタントのときから、お客さまからメイクに関する質問をしてもらえるようになった。現在の情報収集方法は主にSNS。特にユーチューブをよく見ている。

WWD:メイクの需要は感じている?

高殿:「今どんなメイクが流行っているのか分からない」「自分に合うメイクが分からない」と悩んでいるお客さまは多く、アドバイスをすると喜んでもらえる。最近ではお客さまから、インスタグラムのDMで「もっとメイクを載せてほしい」と言ってもらえたり、来店した際に「インスタに載っていたメイク、どうやってやるのか知りたい」と聞いてもらえたりする機会も増えた。ヘア関連の投稿だけをしていた頃と比べて、お客さまの反応が全然違う。画像や動画の保存数を見ても、需要はかなり高いと思う。メイクを始めたことで、自分の認知度が上がっていることや、集客につながっていることも実感できる。

WWD:「ヘアカラーに合わせたメイク提案を行うことが多い」とのことだが、これからの季節(春夏)に打ち出したいヘアカラーは?

高殿:冬は、しっかりと色味の入ったグレージュカラーが人気だった。最近は柔らかい感じのグレージュのオーダーが増えてきているので、春から夏にかけてはもっと増えそう。特に私が推したいのは、「イルミナカラー(ILLUMINA COLOR)」から登場したばかりの「アーバンスカイコレクション」。ニーズが高そうな、柔らかくシアーなグレー系カラーで、“寒色過ぎない”という点でも扱いやすい。既にお客さまに提供しており、反応もすごくいい。また、同時に発売された新サービス「イルミナ ライトニングシステム」を使えば、より透明感のある、今っぽい柔らかなグレージュを表現しやすい。

WWD:「アーバンスカイコレクション」はどんな色味?

高殿:ほのかに青味を感じるシルバーグレージュの“ムーンライト”と、より深みを出しつつ軽やかな印象の“ナイトスカイ”の2シェード。初めてグレー系のカラーリングをする方でも挑戦しやすい色味になっている。最近は“ヘアカラー後の肌の見え方”を気にする方が多く、パーソナルカラーを考慮して髪色の提案を行うケースも多々ある。「アーバンスカイコレクション」は過度に青味や緑味が出ないので、イエローベースでもブルーべースでも似合い、どちらにも寄せやすいので、肌の色を問わずに提供できる。肌なじみが良いのでメイクも映える。

WWD:「アーバンスカイコレクション」にはどんなメイクが合う?

高殿:ヌーディーなベージュベースに、アクセントでほんのりピンクを取り入れるとか。アイシャドウはベージュやグレーを合わせるのが今っぽい。全体的に色味は使わないけれど、ポイントとしてオーバーリップにするなどしてボリューム感を演出するとかわいいと思う。上の画像は、ブリーチ履歴のあるベースのモデルを、8トーンの“ムーンライト”でカラーリングし、ベージュ系のメイクを合わせたビジュアル。使用したのが“ナイトスカイ”だったら、リップの色を寒色に寄せるなど、もう少しクールに見せた方が似合うと思う。

WWD:今後提案していきたいメイクは?

高殿:海外風メイクが好きなので、常にアップデートしつつ提案していきたい。例えばベースメイクのコントゥアリングをしっかりやって、そのうえにベージュ系カラーをのせてオーバーリップで仕上げる、といった感じが今の気分。また、私は年間通してレイヤーカットのお客さまが多く、特にレイヤーを入れてボリューミーにして、女性らしくしたいというオーダーが増えている。そういう方には、ヘアカラーは「アーバンスカイコレクション」、メイクは艶感のあるリップが似合う。春から夏にかけて、“レイヤーカット×「アーバンスカイコレクション」×艶リップ”の組み合わせは推していきたい。

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人気ユーチューバーなごみが語る、無理のない心身の整え方

PROFILE: なごみ/ユーチューバー、モデル

なごみ/ユーチューバー、モデル
PROFILE: 登録者149万を誇るカップルユーチューブチャンネル「なこなこカップル」に出演。SNS総フォロワー数は470万を超え、コスメブランド「ジェンティー」のプロデュースやCMや雑誌、ファッションショー、アパレルブランドのモデルなどユーチューブ以外の活動範囲も多岐に渡り、Z世代から絶大な支持を得ている シューズ“スーパーノヴァ ライズ W”、トップス、Tシャツ、パンツ、ソックス/全てアディダス(アディダス お客様窓口/0570-033-033)、その他スタイリスト私物 PHOTO:SATOMI YAMAUCHI, STYLING:HIROMI TOKI, HAIR:KEN NAGASAKA, MAKE-UP:YUZUKO, EDIT & TEXT:RIO HIRAI, AYAKO NOZAWA(FIUME inc.), CREATIVE DIRECTION & ART DIRECTION:RYO TOMIZUKA

「WWDJAPAN」2月26日号の表紙を飾ったのは、学生を中心に若者から絶大な人気を誇るユーチューブチャンネル「なこなこカップル」のなごみ。2022年からはコスメブランド「ジェンティー(GENTY)」をプロデュースするなど美容への意識も高い彼女は、心身のコンディションを整えるために、エステやマッサージといった日々のメンテナンスと運動をうまく組み合わせているという。自分の体と常に向き合う彼女が語る、ラン&フィットネスの魅力とは。

自分に合った運動で、楽しく心身を整える

WWDJAPAN(以下WWD):普段はどんな運動をする?

なごみ:学生の頃から筋トレを続けていて、今は外側に筋肉をつけるよりも、インナーマッスルを鍛えることをメインにしています。これまでいろいろ試してきた中で、自分の体に合っているのは、内側にしなやかな筋肉をつけて、老廃物をストレッチやマッサージで流してむくみを解消する方法だと気がついたんです。

WWD:日常に楽しく運動を取り入れるコツは?

なごみ:こーくん(ユーチューブにも出演するパートナー)と一緒に、たまにバッティングセンターに行っています。普段からお互いの体のコンディションについてもよく話しますし、「今年こそ2人で、私が高校時代にやっていたテニスに挑戦したいな」と計画中です。運動が私たちの間のコミュニケーションになるといいですよね。

WWD:美容や健康のために意識的に行っていることは?

なごみ:私が大切にしているのは、何よりも体を冷やさないこと。半身浴と、入浴後のマッサージやストレッチは毎日欠かさずやっています。エステは1、2週間に1回、整体は月に1回。加えて私はむくみやすい体質なので、撮影の前にはサウナで汗を流してスッキリするなど、スペシャルケアもしています。時にはプロの力も借りながら、無理なく続けられる日々のメンテナンスを習慣化しています。

WWD:運動をするときに気分を上げるなら?

なごみ:ファッションにはこだわりたいですね。今回のように、ランニングウエアをファッショナブルにレイヤードするのは初めて。色を使ったウエアはかわいくて気分が上がるし、私服でも真似したくなりました。私服でも、足元はだいたいスニーカー。今回履いた「アディダス」のランニングシューズはすごく軽くてソールも柔らかく、今にも走り出したくなります。

WWD:なごみさんにとって理想の体と心の状態とは?

なごみ:引き締まってメリハリのある体が理想です。筋トレやランニングは、頑張るほど結果がついてくるのがいいですよね。腹筋の縦のラインが出てきて、目に見える変化があると、「頑張って良かった!」と自己肯定感を得られます。家ではユーチューブの編集などデスクワークが多いので、体を動かす習慣は今後も継続していきたいです。それと、私は朝が苦手なので、早起きしてランニングなどで体を動かして、スッキリした1日を始められたらうれしいですね。

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人気ユーチューバーなごみが語る、無理のない心身の整え方

PROFILE: なごみ/ユーチューバー、モデル

なごみ/ユーチューバー、モデル
PROFILE: 登録者149万を誇るカップルユーチューブチャンネル「なこなこカップル」に出演。SNS総フォロワー数は470万を超え、コスメブランド「ジェンティー」のプロデュースやCMや雑誌、ファッションショー、アパレルブランドのモデルなどユーチューブ以外の活動範囲も多岐に渡り、Z世代から絶大な支持を得ている シューズ“スーパーノヴァ ライズ W”、トップス、Tシャツ、パンツ、ソックス/全てアディダス(アディダス お客様窓口/0570-033-033)、その他スタイリスト私物 PHOTO:SATOMI YAMAUCHI, STYLING:HIROMI TOKI, HAIR:KEN NAGASAKA, MAKE-UP:YUZUKO, EDIT & TEXT:RIO HIRAI, AYAKO NOZAWA(FIUME inc.), CREATIVE DIRECTION & ART DIRECTION:RYO TOMIZUKA

「WWDJAPAN」2月26日号の表紙を飾ったのは、学生を中心に若者から絶大な人気を誇るユーチューブチャンネル「なこなこカップル」のなごみ。2022年からはコスメブランド「ジェンティー(GENTY)」をプロデュースするなど美容への意識も高い彼女は、心身のコンディションを整えるために、エステやマッサージといった日々のメンテナンスと運動をうまく組み合わせているという。自分の体と常に向き合う彼女が語る、ラン&フィットネスの魅力とは。

自分に合った運動で、楽しく心身を整える

WWDJAPAN(以下WWD):普段はどんな運動をする?

なごみ:学生の頃から筋トレを続けていて、今は外側に筋肉をつけるよりも、インナーマッスルを鍛えることをメインにしています。これまでいろいろ試してきた中で、自分の体に合っているのは、内側にしなやかな筋肉をつけて、老廃物をストレッチやマッサージで流してむくみを解消する方法だと気がついたんです。

WWD:日常に楽しく運動を取り入れるコツは?

なごみ:こーくん(ユーチューブにも出演するパートナー)と一緒に、たまにバッティングセンターに行っています。普段からお互いの体のコンディションについてもよく話しますし、「今年こそ2人で、私が高校時代にやっていたテニスに挑戦したいな」と計画中です。運動が私たちの間のコミュニケーションになるといいですよね。

WWD:美容や健康のために意識的に行っていることは?

なごみ:私が大切にしているのは、何よりも体を冷やさないこと。半身浴と、入浴後のマッサージやストレッチは毎日欠かさずやっています。エステは1、2週間に1回、整体は月に1回。加えて私はむくみやすい体質なので、撮影の前にはサウナで汗を流してスッキリするなど、スペシャルケアもしています。時にはプロの力も借りながら、無理なく続けられる日々のメンテナンスを習慣化しています。

WWD:運動をするときに気分を上げるなら?

なごみ:ファッションにはこだわりたいですね。今回のように、ランニングウエアをファッショナブルにレイヤードするのは初めて。色を使ったウエアはかわいくて気分が上がるし、私服でも真似したくなりました。私服でも、足元はだいたいスニーカー。今回履いた「アディダス」のランニングシューズはすごく軽くてソールも柔らかく、今にも走り出したくなります。

WWD:なごみさんにとって理想の体と心の状態とは?

なごみ:引き締まってメリハリのある体が理想です。筋トレやランニングは、頑張るほど結果がついてくるのがいいですよね。腹筋の縦のラインが出てきて、目に見える変化があると、「頑張って良かった!」と自己肯定感を得られます。家ではユーチューブの編集などデスクワークが多いので、体を動かす習慣は今後も継続していきたいです。それと、私は朝が苦手なので、早起きしてランニングなどで体を動かして、スッキリした1日を始められたらうれしいですね。

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洋服で人の可能性を拡げる繊維テクノロジー「アドエルム」

“EXPAND YOUR POSSIBILITIES(あなたの可能性を拡げる)”をコンセプトに掲げて、人体に備わっている能力を引き出すことが期待される繊維テクノロジー「アドエルム(AddElm)」。従来の吸水速乾や抗菌防臭、保湿といった機能性素材とは異なり、素材が人体に触れたときに起こる生理反応=人体生理学に着目して開発された。「体幹バランスが整う」「カロリー消費量増加傾向」「筋肉の活動領域がアップし怪我のリスクを軽減」「集中力をサポート」など、身に着けることでコンディションの変化を期待する声がある。「アドエルム」とは何か?

※効果を保証するものではありません。

人の生活周期
(サーカディアンリズム)に合わせて
テクノロジーを着替えるという
新しい価値を提案する

「アドエルム」は、さまざまな元素を持つ鉱石を複数調合したミネラルパウダーを繊維などの素材に加工し、その素材が皮膚に刺激を与えたときの反応を利用して、身体能力や休息の効率を高めることを狙い開発された。

「アドエルム」は、従来の吸水速乾や抗菌防臭など、生地の評価試験によって定められた機能素材のことを「1 G(1st Generation)」と定義。そして、生地としての評価試験だけではなく、人体生理学を基盤に人体への作用を考慮しながら素材開発を行い、その影響を評価したものを次世代の機能性素材「2 G(2nd Generati on)」と定義する。「2G」である「アドエルム」は、人体生理学、脳科学、心理学に基づいて研究開発を重ね、身体のメカニズムやパフォーマンス向上、コンディションを整えるといった目的に合わせて、身体に生理反応を起こさせるよう働きかける鉱石の調合パターンを、検証に検証を重ねて導き出した。

「ISPO」で評価された
“ヒーロースーツ”

世界最大のスーツ展示会「ISPO」でのアワード受賞時

「アドエルム」は現在、睡眠をサポートする「add. 00」、リラックスを追求する「add. 01」、日常をアクティブにする「add. 02」、アスリートを対象にした「add.03」の4つを展開。毎日をより快適に過ごすための新しい洋服選びを提案している。

世界最大級のスポーツ展示会「ISPO」でも評価されている。2020年に世界TOP 10の素材に選出されて以降、飛ぶ鳥を落とす勢いでさまざまな賞を受賞。アスリート向けの「add. 03」で作った代表アイテム“ヒーロースーツ”は、機能、デザイン、コンセプトが評価され、「ベストプロダクト」を受賞。アクティブな動きにも対応できるようにストレッチ素材で開発したメイドインジャパンのデニムはストリートスポーツ部門で「セレクション」を受賞した。

「『アドエルム』はアパレル業界の
“インテル”を目指す」

──「アドエルム」の開発の経緯は?

杉本健 アドエルム テクノロジー会長、アドエルム USA社長(以下、杉本):学生時代に野球に取り組み、グラフィティーアートや、スケートボードなどの経験からスポーツウエアに関心を持つようになり、20歳から34歳まで、スポーツ、カジュアルウエアのデザイナーとして活動していた。当時は年間で700型ほどをデザインしており、かなり忙しかった。ある日、ロゴが付いていない状態のジャージーのサンプルが上がってきたときに、一瞬、スポーツウエアなのかカジュルルウエアなのかが分からなかった。素材は同じポリエステルで、形は同じデザイナー(自分)が描いているので似ている。よりアスリート用、よりカジュアル用に作っているとはいえ、パッと見では分からない。そのときに「スポーツウエアってなんだろう?」と疑問が湧き、このスポーツウエアは本質的にアスリートのサポートができているのだろうか?ということをすごく感じた。自分はアメコミが好きで、アメコミには着るだけで元気になったりパワーアップしたり、ヒーローの特性に合わせた“ヒーロースーツ”がたくさん登場する。元々は、“ヒーロースーツ”を作るようなデザイナーになりたいという思いがあったはずなのに、現実とはずいぶんギャップがあるなと感じてしまった。いわゆる生地の良いスポーツウエアの特徴は、吸水速乾や抗菌防臭などがあるが、それがだんだんとカジュアルに応用されていくので、生地から作ると全て一緒になってしまう。それであれば、原料から作ってみたい。そんなときに、人生で生まれて初めて自分の信じている力以上のものが働いたことがあり、何が要因なのかと調べたら、鉱石だった。放射線を含んだ石で細胞核を刺激することで、身体を元気にするものという。そのときのそれが良かったかどうかというよりは、それがきっかけで鉱石に興味を持ち、生活やシーンにどう適合できるかを整理して、適合したものを作ろうと考えたのが開発のきっかけだ。

──「アドエルム」では評価基準をどのように設けているのか?

杉本:皮膚は痛点、温点、冷点、圧点の4つの感覚器を備えている。例えば、寒さを感じると毛穴を閉じ、暑さを感じると毛穴を開いて発汗し、体温を調節する。考えれば考えるほど、皮膚に興味が湧いていった。従来、人はそんなマルチファンクショナルウエア(皮膚)を身に着けているのに、これまでの機能性ウエアの考え方では、その機能を生かせない。それで、身体の持っている機能にフォーカスし、うまく利用できる素材、あるいは機能を拡張する素材のための糸を開発する考えに至った。「アドエルム」は自分自身がパウダーの調合、元素の調合から、全てに関わっており、人間の身体で人体生理試験を行ったデータを評価値としている。スポーツウエアをデザインしていたときに、パフォーマンスアップの商材はたくさんあるのに、パフォーマンスに対しての基準値は確立していなかった。例えば、100m走でも午前と午後でタイムが変わる。その0.3秒変わることがすごく大きい世界なのに基準がない。だから、もっと科学的にできないかを考え、人体生理学に着目した。そして、物性評価に基づく従来型の機能素材を「1G(1st Generation)」とし、「アドエルム」のように人の身体にフォーカスして開発した素材を「2G(2ndGeneration)」と定義付けた。とはいえ、物性の評価基準はあっても、素材が人体のパフォーマンスやコンディションにどのような影響を与えたのかを評価する基準は存在しない。だから、自分たちが評価するための指数「アクティブ・インデックス」を設けた。これが「2G」の評価基準。消費者が目的や体調に合わせて商品を選びやすく、比較購買しやすいことが基準を設けた最大の理由だ。開発者や販売者にとっても基準があることで開発や接客がしやすくなると考えている。これまでに、検査機関と延べ100 人以上の被験者の協力を得て、「アドエルム」製品の着用試験を実施し、筋電図や脳波、心拍、呼気代謝といったデータを取得してきた。取得データをグラフで可視化し、「アクティブ・インデックス」を示している。

テクノロジーを生かした
プライベートブランドも展開

── 今後の展望は?

杉本:「アドエルム」はテクノロジー会社であるからこそ、自社PB(プライベートブランド)も必要になってくると考えている。現在、その地域でしかできないことを表現した「アドエルム トウキョウ」、コラボレーションを積極的に行うストリートウエアなどのアパレルライン、アスリート向けのスポーツライン「ヒーロースーツコレクション」、バスケットボールや野球などのライセンシーブランドの4つを軸にしている。24時間、生活の時間軸になるようなライフハックウエアを作り、それを広げながら他企業にたくさん提供できるプラットフォームになっていきたい。昨年はアメリカに子会社であるアドエルム USAを立ち上げた。今年は、海外でもライセンシーが立ち上がる。世界中のアパレルブランドに「アドエルム」のテクノロジーを使ってもらい、アドオンすることによって機能を高めていきたい。「アドエルム」はアパレル業界の“インテル”を目指す。

PHOTO:SHUHEI SHINE
TEXT:YUKI KOIKE
問い合わせ先
アドエルム テクノロジー
https://addelm.com/pages/contact

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京都発、“走る”と向き合う出版社「木星社」

 「ライク・ザ・ウィンド マガジン(LIKE THE WIND MAGAZINE)」は、2014年にイギリスで誕生した雑誌だ。世界各国のランナーたちの声を集めたカルチャー誌で、パフォーマンスを追求することはもちろん、ランニングを通じたコミュニティーの在り方やドラッグ依存からの回復など、独自の視点を生かしたコンテンツを届けている。同雑誌は、初の外国語版である日本語版を昨年秋に発売。手掛けたのは、京都にある小さな出版社の木星社だ。

木星社は21年に藤代きよ代表が設立した。藤代代表はハースト婦人画報社やコンデナスト・ジャパンなどで、ファッションを軸にメディアビジネスのノウハウを培った。木星社を立ち上げたのは、「書籍をちゃんとやってみたかった」から。「雑誌やデジタルメディアは長く携わったし、映像も手掛けてきたけれど、書籍はやっていなかった。自分が本当に好きなものを作りたかった」。

ランニングを本格的にスタートしたのは10年ほど前。現在は100マイル(約160km)の長距離レースも楽しんでいる。「旅をするように走るのが好き。走る距離が伸びるほど、いろいろなモノとコトに出合える。服も食事も、会場までの移動も全て含めて関係してくる。一方で、最後は自分が走るかどうかで、孤独と向き合う強さを求められる。そのバランスが面白い」。

日本で意識することは少ないかもしれないが、ランニングは社会とも密接に結びついている。世界には、マイノリティーへの差別が激しく、一人で出歩くことさえ難しい地域もある。当事者にとっては、屋外を走ること自体が奇跡だ。あるいは、性的被害に見舞われるリスクのため、好きな時間に好きな場所を走れない女性ランナーもいる。ランニングを通して、社会課題と向き合い、その改善に努める団体もある。「ランニングは運動であるとともに、アクティビズムでもある。それを伝えるのもメディアの役割だと思う」。

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元アトモス店長が仕掛ける “自己表現”としてのランショップ「ダウンビートランニング」 

「ダウンビートランニング(DOWNBEAT RUNNING)」は昨年9月、新宿・歌舞伎町にオープンしたランショップだ。「オン(ON)」などの大手メーカーのほかに、「サティスファイ(SATISFY))」「ノルダ(NORDA)」「ソアー ランニング(SOAR RUNNING)」「チャンス(CHANCE)」「ディストリクト ヴィジョン(DISTRICT VISION))」「タヌキ(TANNUKI)」と、国内外から集めたインディペンデントなブランドが並ぶ。店舗面積66平方メートルながら、1日100万円を売ることもある。月間平均売り上げは1500万円だ。同店を率いる今井崇ディレクターは、過去にスニーカーショップ「アトモス(ATMOS)」で店長やバイヤーを務めていた。スニーカーの最前線にいた人物が、なぜランニングショップを始めたのか。

WWDJAPAN(以下、WWD):ランニングにはまったきっかけは?

今井崇「ダウンビートランニング」ディレクター(以下、今井):最初は健康のためでした。酒もタバコも大好きで、それまでの不摂生がたたって痛風が発症して(笑)。これはマズイと思っていたところ、「アディダス(ADIDAS)」から皇居ランに誘われました。中学時代に陸上をやっていたけれど、ウエアがダサくて、それ以来は走っていませんでした。ところが、提供いただいたウエアとシューズがかなりイケてて、「ファッションとしても面白いじゃん」と、次第にハマっていきました。

WWD:ビジネスとして興味を持った理由は?

今井:スニーカーにはない市場の可能性を感じたから。スニーカーって、実は革新的なモデルがなかなか生まれないんです。それでも売るために、過去の商品の色を変えてみたり、誰かとコラボして付加価値をつけてみたり。いつしかそのサイクルを、心から楽しめていない自分がいました。一方ランニングは、最先端の技術をフル活用して作るから、シーズンごとに着実な進化があるし、自分で履いて機能も実感できる。メーカー同士がバチバチに競い合っているのも、ゲーム性があって面白い。実は「アトモス」時代にも、スポーツ目線のスニーカー屋を構想していました。しかし、「アトモス」はライフスタイルカテゴリーでメーカーと契約していて、パフォーマンスを卸してもらうのも難しいし、どこまで需要があるかが読めないから、実現しませんでした。だったら自分でやろうと、独立を決めました。

WWD:大手メーカーを積極的に扱わない理由は?

今井:個性が出ないから。ウチは近くに「アルペントーキョー(ALPEN TOKYO)」があって、大手メーカーを量でそろえても意味がない。それよりも、自分の感覚と人脈を生かして、“イケてる”と思うブランドをピュアに集めた方が、個性あるショップになる。それと、大手メーカーは四半期ごとにモデルチェンジするから、在庫リスクも高い。キャリーオーバーの多いメーカーとお付き合いした方が、長い目で見ると健全です。「オン」は大手の規模ながらも、ソール構造から開発する独自のアプローチが面白いし、デザイン性も高く、ショップと親和性があります。

WWD:新宿に店を構えたのはインバウンドが狙い?

今井:それも見据えていました。でも最初は、純粋にいい物件が見つかったからです。原宿や渋谷はすでにスポーツショップがたくさんあって、客層も予想できる。せっかく自分で店をやるなら、“予想できない何か”が生まれてほしくて。

WWD:実際に予想外の出来事は起こっている?

今井:はい。タイの爆買い観光客が押し寄せています。タイでは今、ランニングすることがステータスになっていて、タイの王族の方が「オン」のシューズを履いたことから、同ブランドの人気が急上昇しているそう。“「オン」が買える店”としてタイ人に知られていて、この間、ウチの店に「ON」とだけ書いた地図を持ったお客さまが入ってきました(笑)。

WWD:今後の目標は?

今井:まずはウェブを充実させます。そこが整えば月商2000万円までは伸ばせるんじゃないかな?あとは地方にも店を構えて、東京と異なるコミュニティーとつながりたいです。2月14日には、韓国にフランチャイズ店舗を開きました。ウチのコンセプトを面白がってフランチャイズでやらせてくれと依頼があり、そこからかなりのスピードで出店しました。ほかにもマレーシアとシンガポールからもリクエストをもらっていて、準備を進めています。規模が大きくなれば、ショップの表現の幅も広がる。今はシューズの別注は難しいけれど、2000人の顧客リストがあればメーカーも動いてくれるようになるかもしれない。それでも、やりたいことは曲げません。ランニングはパフォーマンスだけでなく、自己表現の一つ。いろいろな楽しみ方があっていい。そんな人を後押しする店として、今後も運営し続けます。

■ダウンビートランニング
住所:東京都新宿区新宿3-22-11 JACKPOT 1F
営業時間:12:00〜21:00

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“映え”より“生々しさ”を求めるZ世代――最高執行責任者が描く、BeRealでの“リアル”なコミュニケーション

昨今、アップカミングなSNSアプリと言えば、BeReal(ビーリアル)だ。2020年にフランスで誕生して以来、22年初頭から徐々に規模が拡大している、いわば“映えない”SNSとして知られる。BeRealでは“好きな時間に、(フィルターやレタッチなどで)作り込んだ写真”は投稿できず、不定期に送られる“Time to BeReal.(BeRealの時間)”のアラートを受け取った際に、2分間以内に写真を撮影しシェアしなければならない。写真は常に無加工でスマートフォンの内カメラと外カメラの両方で同時に撮影されるため、撮影時のユーザーの表情やシチュエーションがリアルに映る上、撮り直しの回数まで表示される。過去には、出産中や交通事故直後の“BeReal”写真がXに投稿され話題になった。この“生々しさ”こそが、作り上げられた“映え”に疲弊した若者達を中心にウケているのだ。

このリアルな世界観を保つため、BeRealは次のコンセプトを掲げている。

①NO FILTERS.―フィルターなし
②NO LIKES.―いいねなし
③NO FOLLOWERS.―フォロワーなし
④NO BULLSHIT.―ハッタリなし
⑤NO ADS.―広告なし

このように、他のSNSとは全く異質なBeRealだが、アメリカでは月間ごとの新規アプリダウンロード数がインスタグラムを上回る現象も巻き起こり、現在のアクティブユーザー数は2300万人を超えた。現在、日本でも多くのリサーチ結果によりBeRealへの注目度が示され、その勢いは増すばかりだ。

そして今年2月からは著名人やブランドの公式アカウント機能も拡充した。広告機能がなく、常に“リアルであること”を求められるBeRealを、各社がプロモーションに利用する理由や、その活用方法とはーーBeReal誕生の背景を振り返りながら、最高執行責任者であるロマン・サルツマン(Romain Salzman)が質問に応じてくれた。

PROFILE: ロマン・サルツマン/BeReal最高執行責任者

ロマン・サルツマン/BeReal最高執行責任者
PROFILE: フランスの起業家であり、ライブゲームアプリ「フラッシュブレーク」の共同創設者。2014年には仏オーディオメーカー「デヴィアレ」のプロダクトマネージャーを務め、米国市場進出をサポートした

オンライン上のコミュニケーションをより健康的なものに 
BeReal開発の背景について

WWD:他のソーシャルプラットフォームと比較し、“リアル”を追求した意義とは?

ロマン・サルツマンBeReal最高執行責任者(以下、サルツマン):ソーシャルメディアは私たちのコミュニケーションの仕方を変え、その多くはポジティブな変化だったが、その変化と同時に課題も生まれた。研究によれば、多くの若者が加工され、キュレーションされたソーシャルメディアの世界の影響で不安を感じ、時にはうつを患い、自分自身や自分の人生に対して否定的になっている。私たちはオンライン上での人々のコミュニケーションをより健康的な良いものにする手助けができると信じ、使命感を感じているため、BeRealにはそのような仕組みを取り入れた。“現実”と“真実”に焦点を当てることで、ユーザーが“本当の自分”であることを受け入れ、他のソーシャルプラットフォームが抱える課題の多くを取り除いている。その結果、世界中の人々がBeRealとその使命に共感している様子を見ることができてうれしく感じている。

現在、BeRealは世界中で場所を問わず、あらゆる年齢層で共感を呼び起こしている。学校で利用する若者や、祖父母とのつながりを保つために家族が使用するケースなど、さまざまなエピソードが日々寄せられている。そして現在、私達のユーザーはアメリカ、ヨーロッパに加え、アジアでも急速に増加中だ。

私達の目標は、BeRealで過ごす時間が1日の中で最高の瞬間になるようにすること。そしてユーザーが長時間スマホを眺めて過ごすのではなく、大切な人々と実際につながり、喜びを感じるきっかけを提供したいと考えている。

WWD:そのような人達に支持されることには、どのような理由や時代背景があると考えている?

サルツマン:Z世代だけに限らず、全ての人々が自分達を取り囲む世界に対して、よりリアルな視点を求めているのだろう。メリアム・ウェブスター社が発表した23年を表す言葉は“authentic(本物、現実)”だった。これは、人間らしい経験の中で起こる複雑な感情や、素直な気持ちを、率直に分かち合いたいという人々の欲求からきているのかもしれない。中でもZ世代は他の世代とは異なり、精神的な健康を重視している。私達はこれらの欲求を受け入れ、より健康的で満足できる、本物のソーシャルメディア体験を作り出すことに取り組んでいる。

新機能が続々追加 
企業やセレブリティーの参入も

WWD:この一年プラットフォームはいかに変化したか?

サルツマン:過去1年間で、BeRealチームは大きく成長し、現在2300万人まで拡大するユーザーベースに対応するために新しい機能を追加してきた。23年初頭は20人のチームだったが、その頃すでにデイリーアクティブユーザーは2000万人を超えており、BeRealを安定的に維持するために私たちの全ての時間と専門知識を費やしてきた。そしてこの1年でさらに70人までチームを拡大し、BeRealのユーザーが好むものをより多く構築できるようになった。現在のチームには、X、メタ、スナップチャットと言った大手企業での経験を持つ素晴らしいメンバーが揃っている。彼らと共に、BeRealをさらに進化させるための新しいアプローチを日々テストし、実装している。

昨年8月からは、“BonusBeReal”(最初のアラートで時間内に投稿することで、1日のうちでさらに2回投稿できるボーナス特典)、“BTS”(投稿に至るまでの数秒間をショートビデオに収めた投稿)、“RealGroups”(友達とチャットするなど、プライベートを共有するための招待制グループ)と言ったさまざまな機能を拡充し、今年2月には新たにブランドや著名人の公式アカウント機能“RealBrands”“RealPeople”を追加した。これらの機能のうち、ファンとのコミュニケーションの中から得たリクエストやアイデアに根付いたものも存在する。

WWD:BeRealに参入する企業(RealBrands)や著名人(RealPeople)も増えているが、彼らはどのような目的を持っているのか?

サルツマン:“RealBrands(ブランドの公式アカウント)”“RealPeople(著名人の公式アカウント)”では、ブランドやセレブリティーの舞台裏を見ることができる。すでにジョー・ジョナス(Joe Jonas)、ナイル・ホーラン(Niall Horan)と言った世界的に有名なアーティストや、「M・A・C」や「グロシエ(GLOSSIER)」と言ったビューティーブランドや、「アディダス(ADIDAS)」「プーマ(PUMA)」「リーボック(REEBOK)」「フォーエバー21(FOREVER 21)」などのファッションブランドも、BeRealのリアルなアプローチに共感し、ファンとの情報共有に積極的に取り組んでいる。

さらに、一部のトップスポーツチームもBeRealに参加している。バスケットボール界ではシカゴ・ブルズ、ホッケー界ではボストン・ブルーインズ、野球界からはボストン・レッドソックス、サッカー界からはパリ・サンジェルマンのチームが挙げられる。将来的にはぜひ、日本のスポーツチームにもBeRealに参加してほしい。

BeRealによってユーザーが友達とつながり、彼らのリアルな生活を垣間見ることを可能にしてきたように、セレブリティーやブランドも自分達の“リアル”を見せ、コミュニティーとより親密に連携する場を求めている。企業はブランドアンバサダーにブランド公式アカウントの投稿を託したり、新商品を開発する担当者にアカウント運営を任せて新商品情報を紹介したりすることで、より親近感とリアリティーのあるプロモーションを行なっている。私達も驚くような、たくさんの斬新なアイデアが日々生まれ続けているのだ。

WWD:企業やセレブリティーのオフィシャルアカウントが成長する時、BeRealの特性である“より親密でリアルさを追求したアプリである”という世界観を保つことは可能なのか?

サルツマン:ユーザーとのコミュニケーションから、自身の友達からリアルで即興的なコンテンツを見るのと同じように、ブランドやセレブリティーからもリアルなコンテンツを見たいと望んでいることを学んだ。広告ではなく、BeReal専用に作成された “Time to BeReal”というアラートに対応した、自分では詳細にコントロールできないコンテンツのことだ。

友達同士が深いつながりを築く場所であるというコアの価値を損なうことなく、公式アカウントもコンテンツを提供できるようにするために、BeRealではセレブリティーやブランドが既存のユーザーと同じルールに従うことを徹底した。公式アカウントのユーザーだからと言って、“Time to BeReal”アラートがいつ届くかを知ることはできないし、アラートの時間通りに投稿をして、撮り直した回数ももちろんユーザーに知られることになる。そもそもこれらの公式アカウントをフォローしなければ、これまで通り友達同士のつながりの上でのみ利用できるため、BeRealの世界観はこれからも確保され続けるだろう。

BeRealを運営する中で興味深いと感じたのは、Z世代は他の世代と比べ、企業の在り方についてより強い関心を抱いている情熱的な世代であると言う部分だ。公式アカウント機能では、ブランドが彼らのファンと今までにない形で対話を行えるようになる。ブランドの舞台裏を共有し、ファンと長期的な信頼関係を築くことができることにより、ブランドは自分達の挑戦やチャレンジをファンに共有するだけでなく、ブランドが行うアクションに込められた、フィルターのかかっていない真の情熱を見せることができる。既存のSNSアプリとはひと味違うコミュニケーションと親和性が生まれるだろう。

収益化には焦点を当てず、
重視するのはユーザーエクスペリエンス

WWD:今後マネタイズ機能をつける予定はあるのか?

サルツマン:現時点では、私たちにとって収益化は優先事項ではなく、BeRealのユーザーエクスペリエンスを追求し、新しい機能のテストとリリースに焦点を当てることが重要だと考えている。もし仮に、将来的に収益化を検討する際には、ユーザーとの多くの対話を行った上で決断を下すだろう。そして何より大切なのは、私達のミッションやブランド価値観に沿っているかを考慮に入れ、独自のソーシャルメディアの視点を含んでいること。収益化だけではなく、私たちが新しい機能に取り組む際はこのアプローチ手順を基礎に置いている。

そして現在、ありがたいことに素晴らしいアプリを構築するためにリソースを提供してくれる投資家に恵まれている。そのため、どの種類の収益化にも焦点を当てておらず、広告に関する計画はない。

より親密なコミュニケーションのために
今後追加する“RealFans”機能

WWD:今後の展望について教えてほしい

サルツマン:次なるステップとして、私たちが告知できるのは“RealPeople”と“RealBrand”アカウント向けに、“RealFans”機能を設定することだ。この機能では、公開された投稿にコメントする機能、そして“RealPeople”と“RealBrands”がタグ付けされたコンテンツを見たり、共有したりすることができる。“RealPeople”と“RealBrands”がエンゲージメントの高いファンと、より親密な関係を築くのに役立つだろう。

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“映え”より“生々しさ”を求めるZ世代――最高執行責任者が描く、BeRealでの“リアル”なコミュニケーション

昨今、アップカミングなSNSアプリと言えば、BeReal(ビーリアル)だ。2020年にフランスで誕生して以来、22年初頭から徐々に規模が拡大している、いわば“映えない”SNSとして知られる。BeRealでは“好きな時間に、(フィルターやレタッチなどで)作り込んだ写真”は投稿できず、不定期に送られる“Time to BeReal.(BeRealの時間)”のアラートを受け取った際に、2分間以内に写真を撮影しシェアしなければならない。写真は常に無加工でスマートフォンの内カメラと外カメラの両方で同時に撮影されるため、撮影時のユーザーの表情やシチュエーションがリアルに映る上、撮り直しの回数まで表示される。過去には、出産中や交通事故直後の“BeReal”写真がXに投稿され話題になった。この“生々しさ”こそが、作り上げられた“映え”に疲弊した若者達を中心にウケているのだ。

このリアルな世界観を保つため、BeRealは次のコンセプトを掲げている。

①NO FILTERS.―フィルターなし
②NO LIKES.―いいねなし
③NO FOLLOWERS.―フォロワーなし
④NO BULLSHIT.―ハッタリなし
⑤NO ADS.―広告なし

このように、他のSNSとは全く異質なBeRealだが、アメリカでは月間ごとの新規アプリダウンロード数がインスタグラムを上回る現象も巻き起こり、現在のアクティブユーザー数は2300万人を超えた。現在、日本でも多くのリサーチ結果によりBeRealへの注目度が示され、その勢いは増すばかりだ。

そして今年2月からは著名人やブランドの公式アカウント機能も拡充した。広告機能がなく、常に“リアルであること”を求められるBeRealを、各社がプロモーションに利用する理由や、その活用方法とはーーBeReal誕生の背景を振り返りながら、最高執行責任者であるロマン・サルツマン(Romain Salzman)が質問に応じてくれた。

PROFILE: ロマン・サルツマン/BeReal最高執行責任者

ロマン・サルツマン/BeReal最高執行責任者
PROFILE: フランスの起業家であり、ライブゲームアプリ「フラッシュブレーク」の共同創設者。2014年には仏オーディオメーカー「デヴィアレ」のプロダクトマネージャーを務め、米国市場進出をサポートした

オンライン上のコミュニケーションをより健康的なものに 
BeReal開発の背景について

WWD:他のソーシャルプラットフォームと比較し、“リアル”を追求した意義とは?

ロマン・サルツマンBeReal最高執行責任者(以下、サルツマン):ソーシャルメディアは私たちのコミュニケーションの仕方を変え、その多くはポジティブな変化だったが、その変化と同時に課題も生まれた。研究によれば、多くの若者が加工され、キュレーションされたソーシャルメディアの世界の影響で不安を感じ、時にはうつを患い、自分自身や自分の人生に対して否定的になっている。私たちはオンライン上での人々のコミュニケーションをより健康的な良いものにする手助けができると信じ、使命感を感じているため、BeRealにはそのような仕組みを取り入れた。“現実”と“真実”に焦点を当てることで、ユーザーが“本当の自分”であることを受け入れ、他のソーシャルプラットフォームが抱える課題の多くを取り除いている。その結果、世界中の人々がBeRealとその使命に共感している様子を見ることができてうれしく感じている。

現在、BeRealは世界中で場所を問わず、あらゆる年齢層で共感を呼び起こしている。学校で利用する若者や、祖父母とのつながりを保つために家族が使用するケースなど、さまざまなエピソードが日々寄せられている。そして現在、私達のユーザーはアメリカ、ヨーロッパに加え、アジアでも急速に増加中だ。

私達の目標は、BeRealで過ごす時間が1日の中で最高の瞬間になるようにすること。そしてユーザーが長時間スマホを眺めて過ごすのではなく、大切な人々と実際につながり、喜びを感じるきっかけを提供したいと考えている。

WWD:そのような人達に支持されることには、どのような理由や時代背景があると考えている?

サルツマン:Z世代だけに限らず、全ての人々が自分達を取り囲む世界に対して、よりリアルな視点を求めているのだろう。メリアム・ウェブスター社が発表した23年を表す言葉は“authentic(本物、現実)”だった。これは、人間らしい経験の中で起こる複雑な感情や、素直な気持ちを、率直に分かち合いたいという人々の欲求からきているのかもしれない。中でもZ世代は他の世代とは異なり、精神的な健康を重視している。私達はこれらの欲求を受け入れ、より健康的で満足できる、本物のソーシャルメディア体験を作り出すことに取り組んでいる。

新機能が続々追加 
企業やセレブリティーの参入も

WWD:この一年プラットフォームはいかに変化したか?

サルツマン:過去1年間で、BeRealチームは大きく成長し、現在2300万人まで拡大するユーザーベースに対応するために新しい機能を追加してきた。23年初頭は20人のチームだったが、その頃すでにデイリーアクティブユーザーは2000万人を超えており、BeRealを安定的に維持するために私たちの全ての時間と専門知識を費やしてきた。そしてこの1年でさらに70人までチームを拡大し、BeRealのユーザーが好むものをより多く構築できるようになった。現在のチームには、X、メタ、スナップチャットと言った大手企業での経験を持つ素晴らしいメンバーが揃っている。彼らと共に、BeRealをさらに進化させるための新しいアプローチを日々テストし、実装している。

昨年8月からは、“BonusBeReal”(最初のアラートで時間内に投稿することで、1日のうちでさらに2回投稿できるボーナス特典)、“BTS”(投稿に至るまでの数秒間をショートビデオに収めた投稿)、“RealGroups”(友達とチャットするなど、プライベートを共有するための招待制グループ)と言ったさまざまな機能を拡充し、今年2月には新たにブランドや著名人の公式アカウント機能“RealBrands”“RealPeople”を追加した。これらの機能のうち、ファンとのコミュニケーションの中から得たリクエストやアイデアに根付いたものも存在する。

WWD:BeRealに参入する企業(RealBrands)や著名人(RealPeople)も増えているが、彼らはどのような目的を持っているのか?

サルツマン:“RealBrands(ブランドの公式アカウント)”“RealPeople(著名人の公式アカウント)”では、ブランドやセレブリティーの舞台裏を見ることができる。すでにジョー・ジョナス(Joe Jonas)、ナイル・ホーラン(Niall Horan)と言った世界的に有名なアーティストや、「M・A・C」や「グロシエ(GLOSSIER)」と言ったビューティーブランドや、「アディダス(ADIDAS)」「プーマ(PUMA)」「リーボック(REEBOK)」「フォーエバー21(FOREVER 21)」などのファッションブランドも、BeRealのリアルなアプローチに共感し、ファンとの情報共有に積極的に取り組んでいる。

さらに、一部のトップスポーツチームもBeRealに参加している。バスケットボール界ではシカゴ・ブルズ、ホッケー界ではボストン・ブルーインズ、野球界からはボストン・レッドソックス、サッカー界からはパリ・サンジェルマンのチームが挙げられる。将来的にはぜひ、日本のスポーツチームにもBeRealに参加してほしい。

BeRealによってユーザーが友達とつながり、彼らのリアルな生活を垣間見ることを可能にしてきたように、セレブリティーやブランドも自分達の“リアル”を見せ、コミュニティーとより親密に連携する場を求めている。企業はブランドアンバサダーにブランド公式アカウントの投稿を託したり、新商品を開発する担当者にアカウント運営を任せて新商品情報を紹介したりすることで、より親近感とリアリティーのあるプロモーションを行なっている。私達も驚くような、たくさんの斬新なアイデアが日々生まれ続けているのだ。

WWD:企業やセレブリティーのオフィシャルアカウントが成長する時、BeRealの特性である“より親密でリアルさを追求したアプリである”という世界観を保つことは可能なのか?

サルツマン:ユーザーとのコミュニケーションから、自身の友達からリアルで即興的なコンテンツを見るのと同じように、ブランドやセレブリティーからもリアルなコンテンツを見たいと望んでいることを学んだ。広告ではなく、BeReal専用に作成された “Time to BeReal”というアラートに対応した、自分では詳細にコントロールできないコンテンツのことだ。

友達同士が深いつながりを築く場所であるというコアの価値を損なうことなく、公式アカウントもコンテンツを提供できるようにするために、BeRealではセレブリティーやブランドが既存のユーザーと同じルールに従うことを徹底した。公式アカウントのユーザーだからと言って、“Time to BeReal”アラートがいつ届くかを知ることはできないし、アラートの時間通りに投稿をして、撮り直した回数ももちろんユーザーに知られることになる。そもそもこれらの公式アカウントをフォローしなければ、これまで通り友達同士のつながりの上でのみ利用できるため、BeRealの世界観はこれからも確保され続けるだろう。

BeRealを運営する中で興味深いと感じたのは、Z世代は他の世代と比べ、企業の在り方についてより強い関心を抱いている情熱的な世代であると言う部分だ。公式アカウント機能では、ブランドが彼らのファンと今までにない形で対話を行えるようになる。ブランドの舞台裏を共有し、ファンと長期的な信頼関係を築くことができることにより、ブランドは自分達の挑戦やチャレンジをファンに共有するだけでなく、ブランドが行うアクションに込められた、フィルターのかかっていない真の情熱を見せることができる。既存のSNSアプリとはひと味違うコミュニケーションと親和性が生まれるだろう。

収益化には焦点を当てず、
重視するのはユーザーエクスペリエンス

WWD:今後マネタイズ機能をつける予定はあるのか?

サルツマン:現時点では、私たちにとって収益化は優先事項ではなく、BeRealのユーザーエクスペリエンスを追求し、新しい機能のテストとリリースに焦点を当てることが重要だと考えている。もし仮に、将来的に収益化を検討する際には、ユーザーとの多くの対話を行った上で決断を下すだろう。そして何より大切なのは、私達のミッションやブランド価値観に沿っているかを考慮に入れ、独自のソーシャルメディアの視点を含んでいること。収益化だけではなく、私たちが新しい機能に取り組む際はこのアプローチ手順を基礎に置いている。

そして現在、ありがたいことに素晴らしいアプリを構築するためにリソースを提供してくれる投資家に恵まれている。そのため、どの種類の収益化にも焦点を当てておらず、広告に関する計画はない。

より親密なコミュニケーションのために
今後追加する“RealFans”機能

WWD:今後の展望について教えてほしい

サルツマン:次なるステップとして、私たちが告知できるのは“RealPeople”と“RealBrand”アカウント向けに、“RealFans”機能を設定することだ。この機能では、公開された投稿にコメントする機能、そして“RealPeople”と“RealBrands”がタグ付けされたコンテンツを見たり、共有したりすることができる。“RealPeople”と“RealBrands”がエンゲージメントの高いファンと、より親密な関係を築くのに役立つだろう。

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