食いしん坊なファッション&ビューティ業界関係者が通う飲食店を紹介する連載企画が今月からスタート。フリーランスエディターとして活動する私、嶺村が各地に足を運び見つけたとっておきのお店や、業界関係者が足繁く通う隠れ家をリポートする。記念すべき1回目に選んだのは、中目黒駅前の喧騒を抜けた山手通り沿いに佇む四川料理店「中国酒家 辰春」。この地で開店して以来15年以上、常連客が通う知る人ぞ知る中華料理の名店だ。
先に言っておくけど、手厚いサービスを求める人には、オススメしない。
長年この界隈に住み、中目黒や代官山での撮影や展示会の帰りに何度も目の前を通りながら、2年前まで私がトライできなかったのは店内の様子が見えにくいから。しかしある日、展示会終わりに某ファッション誌の女性編集から「今日、子どもの面倒は夫の担当なの」という暗黙の合図が飛んできた。「このあと、どう?」の裏コードである。咄嗟に浮かんだのが、この「辰春」だった。「気になるお店があるんですよね」。
電話してみると、奇跡の1卓。やった!
カウンターとテーブル3つだけの小さな店内に入ると、シェフがおしぼりとメニューをテーブルに置いて、黙々と厨房に戻っていった。そして、衝撃の事実! メニューに価格の記載が一切ない。
……え? これって、まさかの時価スタイル?
「やばい?」「いや、でも中目黒で気取らない中華のはずだから……」と2人でヒソヒソするも、こんなことくらいで動じてはいけないと素直に値段が聞けないのがアラフォーの矜持ってやつですね。結果、恐る恐る控えめにオーダー。
しかし、最初の一皿が出てきた瞬間、その警戒は一気に解けた。丁寧で、端正で、どこか凛とした料理たち。これは……本物だ。
しかも、お会計は“拍子抜け”するほど普通。いや、寧ろあの料理のクオリティーならリーズナブルだ。ぐるナイの「ゴチになります」の如きドキドキ感は肩透かしで終わった。「また来ようね」と、すっかりハマった夜だった。
プリフィックスで大満足な6600円
さて、肝心の価格表示ナシ問題。後日、口コミを読んでようやく謎が解けた。
「辰春」は、17〜20時までは独特な注文スタイル。グループごとに、冷菜・スープ・点心・温菜から6品+麺 or 飯を選び、そしてデザートまで含めて、一人税込6600円。20時以降はアラカルト注文可。つまり自分たちで自由に組み合わせを作れる“プリフィクス中華”だったのだ。なるほど、システムさえ理解していれば、なんてことはない。
食いしん坊なスタッフやモデルが一緒になる撮影現場では「最近、気になるとこない?」「良かったレストランある?」と誰かが口火を切れば、ここぞとばかりそれぞれのとっておきの情報で盛り上がるのが常だが、一時期の私は、この独自のオーダーシステムの話も含めて、迷わず「辰春」をイチオシ。ちなみにその後、ご一緒した食いしん坊たちもすっかり虜になってリピートしていると報告をもらっている。
私的マストオーダーはこのラインアップ
もし初めて行くなら、ぜひ真似してほしい。私的“これだけは外すなリスト”は以下。
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“青そば”
「辰春」に行ったら絶対に注文してほしいのが「青そば」。青唐辛子・青山椒・青ネギ。とにかく爽やかな青みが鼻から抜けていくのが気持ち良い。すべてが“青”で統一されたビジュアルも美しい。無かんすいの白っぽいストレート麺が、淡い塩スープにマッチ。汗をかきつつも、スープを飲み干してしまう。これを食べるためだけでも行きたいと思わせる絶品
“麻婆豆腐”
語彙を失うほどの完成度。山椒でごまかさない深い味。豆腐はとろける。ミンチ肉の旨みが凝縮され、思わずライス(大)を追加して皆で一口ずつシェアがおすすめ。全員無言で黙々とスプーンを動かし、食べ終わった瞬間の満面の笑みは全てを物語る
“黒酢の酢豚”
餡がまた、絶妙。甘すぎず、酸っぱすぎず、ベタっとしていないのにコクがあって、でも重くない。サクサクの衣をまとった柔らかい豚肉が、口の中でふわっとほぐれ、餡と溶け合っていく。全員が「これもう一皿いける」と口を揃える。全方位死角ナシ
“エビと黄にらのプリプリ春巻”
パリパリじゃない、バリバリッという音で割れる皮。中には、ぷりっぷりの海老と黄にら。黄にら特有の優しい甘みが、エビの旨味と混ざり合い好相性。ビール泥棒な一品
さらに今回チャレンジしたのは「アジの青山椒ソース」「本物の豆苗炒め」「国産牛ロースと野菜の唐辛子煮」。どれも、シェフの誠実さとセンスが光るものばかり。
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特に豆苗。スーパーでよく見かける水耕栽培のものではなく、土耕栽培した“ホンモノ”。太くて、味がある。しっかりした青菜としての存在感。しかも、ニンニクや塩の使い方が絶妙だった。
仕上げはデザート。紹興酒ロックもおすすめ
食後には、杏仁豆腐・キウイのシャーベット・ゴマ団子の“3種盛り”を迷わずチョイス。プルプル、ヒンヤリ、もっちり。中華スイーツの優等生たちがそろい踏み。どれもシンプルながら、完成度が高い。杏仁豆腐は、濃厚なのにのど越しはスルリ。キウイシャーベットは、果実そのままを削ったようなみずみずしさ。ゴマ団子は、満腹でも不思議とスッと入る。
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合わせるお酒は、私はビールでスタートして、そして紹興酒。燗にせずロックだと飲みやすい。種類も豊富。香りと深みが抜群で、四川中華に完璧なマリアージュを見せてくれる気がするのです。
無口なシェフと雄弁な一皿が魅力
料理6品、麺・ご飯・デザート、しっかり飲んで1万円前後。一貫性のあるこのクオリティーの料理を腹パンになるほどいただけることを考えると破格である。久しぶりに会う友人との食事やデートなどに使い勝手が良い。
接客が素っ気ないと戸惑う人もいるだろう。でも、シェフが1人で接客から調理まですべてこなす無駄のない動き、ライブ感は、もはや一見の価値あり。
ひと皿ひと皿の背後にある技術とストーリーを味わいながら、静かにゆっくり過ごす時間。忙しい毎日に、静かに、でも確実に美味しいもので満たされたい夜におすすめしたい、落ち着いた大人のための隠れ家中華。事前予約がおすすめ。注文システム、値段の仕組みだけは予習して、ぜひ行ってみてください!
◼︎中国酒家 辰春
住所:東京都目黒区中目黒2-10-11 プラムハイツ1階
電話番号:03‑3791‑7230
営業時間 :月~金、祝日:18:00~24:00(L.O.23:00)、土:18:00~23:30(L.O.22:30)、最終入店22:00
定休日:日曜日(祝日の場合は日・月が連休)
PHOTO:KAZUSHI TOYOTA
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