【動画】ショーにパトカー乱入で警官が大暴れ 前代未聞の「メゾン ミハラヤスヒロ」2022-23年秋冬コレの裏側

PHOTO:ZENHARU TANAKAMARU

 「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」は2022-23年秋冬シーズンのメンズとウィメンズのコレクションをパリ・メンズのスケジュールに合わせて映像で発表した。映像は、1月17日に東京で開催したランウエイショーを収録したもので、舞台は三原康裕デザイナーと関係性が深い浅草だ。

 コレクションテーマは“SELF CULTURE”で三原デザイナー自身が体験してきた1990年代の要素を詰め込んだという。浅草のすし屋通りをランウエイに、登場したルック数は80体にもおよび、モデルには西内まりやや車いすバスケットボールの鳥海連志選手、三原デザイナーの旧友で、50歳でモデルを再スタートした津野貴生らが登場した。ショーの途中にはパトカーが乱入し、観客は息を呑んだが、パトカーから出てきたのは警察官に扮した三原デザイナー本人というドッキリの演出で、会場は大盛り上がり。そんな大々的なショーを実現できたのは、浅草すし屋通りにある老舗そば店「十和田」冨永照子おかみの協力だった。今回、ショー当日の朝からバックステージに潜入し、三原デザイナーや「十和田」おかみ、モデルの津野貴生に直撃。ショーができるまでの様子を捉えた。

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映画「竜とそばかすの姫」とコラボした「アンリアレイジ」は二次元と三次元の交錯を服でも表現 日本からもパリコレvol.5

 2022年春夏のファッションウイークは、いよいよパリへ。リアルとデジタルが入れ混じるコレクションがスタートしました。欧州駐在スタッフによるパリ現地からの生のリポートとともに、日本の編集部からもデジタルでパリコレに参加し、レビューをお届けします。

「竜とそばかすの姫」で二次元と三次元の交錯に挑戦した「アンリアレイジ」

 「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は今季、細田守監督の映画「竜とそばかすの姫」とコラボ。“DIMENSION”をテーマに、同映画内に登場する仮想世界「U(ユー)」を舞台にコレクションを発表しました。「U」の世界ではのちにNFTとして販売するというデジタルコレクションを披露。「アンリアレイジ」が提供したCGモデルを細田監督率いるアニメ制作会社、スタジオ地図が映画で使った「U」の世界のCGモデルに入れ込んだそう。

 カメラが引くとそのまま巨大なスクリーンが設置された現実世界のスタジオにシームレスに移動します。スタジオではデジタルコレクションと同じポリゴンで構成された服をブランドのアイコンであるパッチワークで表現した服を発表。「アンリアレイジ」がこれまで追求してきた現実と非現実の交差を、今回はアニメーションという画面の中の二次元の世界とファッションショーという現実の三次元の世界との交錯を通して表現しました。

 森永邦彦デザイナーはメイキング映像で「パッチワークは平面でやってきたが、それを今回ポリゴン状のパッチワークに変えたことで立体にした。今回はパッチワークを一切縫い合わせず、圧着でさまざまなテキスタイルを一つの立体として構成していく手法をとった」と、服作りにおいても平面(二次元)のものを立体(三次元)に見せる今回の試みを説明。パンデミック以降に発表したコレクションで人を守る結界という意味で用いてきた三角形のモチーフは、今回は全て三角形で形作られたポリゴンとなって登場。パッチワークに使ったテキスタイルも2シーズン前のコレクションから使っている抗ウイルス加工が施された素材「フルテクト(FLUTECT)」を使用しました。さらに、時間軸も交錯させるという意味で古着のデニムを解体してポリゴン状にして再構築。過去のシーズンで発表した技術を活用し、反射によってポリゴンのそれぞれの面が色を変えるルックもショー終盤に登場しました。

 今回の「アンリアレイジ」と「竜とそばかすの姫」のコラボレーションは、同ブランドが主人公すずのアバターで「U」の世界の歌姫ベルが劇中で着用した衣装のデザインを提供したことがきっかけ。細田監督は映画内でのコラボについて「映画の設定だからとかデザインが素晴らしいからということを超えた、美しさの表現としてすごく面白い相乗効果があったと思う。映画で起こったことがパリコレでさらに発揮されるんじゃないかとわくわくする」と振り返ります。ショーのラストは映画のラストシーンと同じく、ベルがくじらの背中に乗ってコンサートを行っているシーンでしたが、彼女が着用していた服は「アンリアレイジ」。映画では手を広げると同時に花が舞うシーンでは、花の代わりにパッチワークが舞い、光を反射して輝くドレスに変身しました。

 細田監督は西洋的な美的価値観に同じく挑戦する者として「アンリアレイジ」に親近感を抱いているよう。「ヨーロッパが世界中の美を定義づけてきて、僕らはその価値観の中の多様性として勝負を挑んでいる。分野は違うがパリコレやカンヌ国際映画祭、アメリカのアカデミー賞など、同じようなものを相手にしているという点においてシンパシーを持って頑張っていきたい」とコメントしました。

 配信はNTTが提供するVR空間プラットフォーム、ドア(DOOR)で行いました。ドアの世界では、コレクションをほかの鑑賞者のアバターと一緒に鑑賞できる部屋や、デジタルコレクションを間近で見れる部屋を設置。12日からは、新作アイテムをオーダーすることができるVRショールームも開設するそうです。

 これまでもそのテクノロジーやユニークなアイデアでわれわれを驚かせてきた「アンリアレイジ」だからこそ、アニメーション世界との共演、VR空間での発表、NFTの発売などといったデジタルの世界に難なく入り込み、全く違和感なくやってのけてしまいました。パリ現地のブランドの多くはリアルショーに切り替えていますが、「アンリアレイジ」のようなデジタルの世界と相性が良いブランドは、デジタルショーに挑戦したことで得たものをこれからの表現にも是非生かしてほしいです。

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「エトロ」が“色の爆発”で社会の再始動を祝福 日本からもミラノコレ Vol.2

 ニューヨーク&ロンドンに続き、ミラノ・コレクションがスタート。現地取材に加え、日本の「WWDJAPAN」編集部員もデジタルショーをレビューし、ファッションウイークの“お祭り感”を楽しみます。初日の編集長ムラカミに続き、2日目は編集部・美濃島がお届け!

空想の夏休みへ誘う
ノスタルジックな「マックスマーラ」

 「マックスマーラ(MAX MARA)」は、作家フランソワーズ・サガン(Francoise Sagan)が1954年に発表した小説「悲しみよ こんにちは」に着想したコレクション。学校を2回退学するなど“ちょいワル”だったサガンが、大学入試試験に落ちた夏のバカンス中に家で書き上げた“空想の夏休み”の物語で、作品の世界観と、彼女が好んで着ていたワークウエアのスタイルを拡大解釈しました。

 フィッシュマンズスモックやワークジャケット、カーペンターパンツなどクラシカルなワークウエアを、パリっとしたギャバジンやキャンバス、ポプリンに落とし込み、タンプトップやベアトップ、クレープソールのサンダルなどに合わせれば、現代版“ちょいワル少女”スタイルの完成。羽根を刺しゅうしたファンタジーなドレスも差し込み、程よいガーリーさを加えます。デニムジャケットとスカートのセットアップでラストルックを飾ったジジ・ハディッド(Gigi Hadid)もとにかく可愛かったです。

 程よく肩の力が抜けた、ワークすぎず、ストリートすぎず、リゾートすぎないスタイルは、コロナ禍の人々に共感されそう。ノスタルジックなムードと、夕日が差し込む大学というロケーション、幼少期に使ったことがありそうなデッキチェアなどの演出が相まって、気づけば“空想の夏休み”に浸っていました。

「エトロ」は“色の爆発”で
再始動する社会を祝福

 ワクチン接種などで明るい兆しが見えつつある社会状況を反映し、「自然、ポジティブな考え、そして愛を、“色の爆発”で祝福したい」と語るのは、「エトロ(ETRO)」のヴェロニカ・エトロ(Veronica Etro)です。その言葉の通り、今シーズンも色・柄のてんこ盛りでした。

 大胆な花柄や写実的な花柄に、ブランドシグネチャーのペイズリー柄を融合したド派手なグラフィックを連発し、フレアシルエットのデニムやニットワンピ、ロングシャツ、レギンスなど、ボヘミアンテイストなアイテムに落とし込んで行きます。無地のセットアップなどのミニマルなスタイルには、大ぶりのゴールドアクセサリーや刺しゅうしたプラットフォームシューズを合わせます。スパンコールをちりばめたジャケットやパンツ、全面キラキラに装飾したタンクトップやチューブトップが歩くたびにきらめき、人間のエネルギーを強く感じました。

 ウエアのムードと異なり、会場はだだっ広いスタジオにライトのみの無機質な空間。コレクションを仕上げるため、ヴェロニカが“自分を抑制”していた気持ちを表現したそう。メンズは会場から屋外に飛び出るデジタルショーだったし、来年はきっと晴れ切ったビーチで感情を爆発させてくれるでしょう。

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「エトロ」が“色の爆発”で社会の再始動を祝福 日本からもミラノコレ Vol.2

 ニューヨーク&ロンドンに続き、ミラノ・コレクションがスタート。現地取材に加え、日本の「WWDJAPAN」編集部員もデジタルショーをレビューし、ファッションウイークの“お祭り感”を楽しみます。初日の編集長ムラカミに続き、2日目は編集部・美濃島がお届け!

空想の夏休みへ誘う
ノスタルジックな「マックスマーラ」

 「マックスマーラ(MAX MARA)」は、作家フランソワーズ・サガン(Francoise Sagan)が1954年に発表した小説「悲しみよ こんにちは」に着想したコレクション。学校を2回退学するなど“ちょいワル”だったサガンが、大学入試試験に落ちた夏のバカンス中に家で書き上げた“空想の夏休み”の物語で、作品の世界観と、彼女が好んで着ていたワークウエアのスタイルを拡大解釈しました。

 フィッシュマンズスモックやワークジャケット、カーペンターパンツなどクラシカルなワークウエアを、パリっとしたギャバジンやキャンバス、ポプリンに落とし込み、タンプトップやベアトップ、クレープソールのサンダルなどに合わせれば、現代版“ちょいワル少女”スタイルの完成。羽根を刺しゅうしたファンタジーなドレスも差し込み、程よいガーリーさを加えます。デニムジャケットとスカートのセットアップでラストルックを飾ったジジ・ハディッド(Gigi Hadid)もとにかく可愛かったです。

 程よく肩の力が抜けた、ワークすぎず、ストリートすぎず、リゾートすぎないスタイルは、コロナ禍の人々に共感されそう。ノスタルジックなムードと、夕日が差し込む大学というロケーション、幼少期に使ったことがありそうなデッキチェアなどの演出が相まって、気づけば“空想の夏休み”に浸っていました。

「エトロ」は“色の爆発”で
再始動する社会を祝福

 ワクチン接種などで明るい兆しが見えつつある社会状況を反映し、「自然、ポジティブな考え、そして愛を、“色の爆発”で祝福したい」と語るのは、「エトロ(ETRO)」のヴェロニカ・エトロ(Veronica Etro)です。その言葉の通り、今シーズンも色・柄のてんこ盛りでした。

 大胆な花柄や写実的な花柄に、ブランドシグネチャーのペイズリー柄を融合したド派手なグラフィックを連発し、フレアシルエットのデニムやニットワンピ、ロングシャツ、レギンスなど、ボヘミアンテイストなアイテムに落とし込んで行きます。無地のセットアップなどのミニマルなスタイルには、大ぶりのゴールドアクセサリーや刺しゅうしたプラットフォームシューズを合わせます。スパンコールをちりばめたジャケットやパンツ、全面キラキラに装飾したタンクトップやチューブトップが歩くたびにきらめき、人間のエネルギーを強く感じました。

 ウエアのムードと異なり、会場はだだっ広いスタジオにライトのみの無機質な空間。コレクションを仕上げるため、ヴェロニカが“自分を抑制”していた気持ちを表現したそう。メンズは会場から屋外に飛び出るデジタルショーだったし、来年はきっと晴れ切ったビーチで感情を爆発させてくれるでしょう。

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社会への“弔い”を込めた初のランウエイ 「アポクリファ」飛躍のポテンシャル

 播本鈴二デザイナーが手掛ける「アポクリファ(APOCRYPHA.)」が、2022年春夏コレクションをランウエイショーで披露した。過去にモデルを起用したインスタレーションを行ったことはあるが、ショーはブランド初。フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)が設計した東京・池袋の自由学園・明日館を舞台に、屋外の芝生に椅子を並べて一夜限りのランウエイを演出した。

 シーズンテーマは“THE BOHDI(菩提)”。作家・竹山道雄が、第二次世界大戦中のビルマ(現ミャンマー)で生きる日本兵を描いた作品「ビルマの竪琴(たてごと)」にインスパイアされた。「無理に前を向くのではなく、史実と向き合う姿勢に共感した。ファッションは、明るくポジティブな姿勢を求められがちだけど、パンデミックや紛争などの悲しい現実と史実に目を背けるべきではない。今シーズンは、少し立ち止まりたかった」と播本デザイナー。

 ファーストルックは、僧侶の袈裟姿を彷彿とさせるVネックのプルオーバーと巻きスカートを組み合わせたスタイル。その後、深いオレンジのカラーパレットで統一したジャケットやコート、前合わせをずらしたトップス、腰から肩までをぐるりと巻くワンピースなど、色やディテール、アイテムの組み合わせで、得意とするテーラードに仏教の要素を落とし込んでいく。時折、ふわりとしたレース生地のシャツや透け感のあるオーバーニットも差し込み、暗くなりそうな世界観に軽やかさを添える。

 ショーでは、キリスト教式の葬儀で使われるユリを表現した刺しゅうや、特攻兵を弔う天女をイメージしたグラフィックなど、仏教以外のモチーフも見受けられた。「弔う姿勢は、宗教や国境を越えてあらゆる人が持っている。あえて仏教に絞らず、多様なモチーフを散りばめました」。フィナーレでは合唱隊の歌声を流し、会場は暖かなムードに包まれた。

 ショー終了後、播本デザイナーにランウエイに挑んだ理由を聞くと、意外な言葉が返ってきた。「ルックか、インスタレーションか、ランウエイか、最初はめちゃくちゃ迷っていました。でも、『キディル(KIDILL)』のヒロさん(末安弘明デザイナー)から『ショーやるしかないでしょ。やろうよ』と背中を押されたんです。予算などの課題は山積みでしたが、「『下げる頭はいくらでもある』と、その情熱だけでここまで来ました」。

 播本デザイナーはヨウジヤマモト出身で、パターンの良さや直線的なシルエットが持ち味だ。それに加えて、ショーを通してコレクションの世界感を伝えることにも長けたデザイナーだと感じた。今後もリアルショーを続けて、服と演出、空間に、自らの思いをぶつけて欲しい。

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「カラー」が京急電車をジャックして蒲田でショー ファンタジーとリアルの交差を学生に贈る

 数年前から、「カラー(KOLOR)」大好きだ。

 理由はイロイロある。一番の理由は、“吹っ切れた“ように思えるチャレンジ・スピリットがデザイナーズブランドらしいから。5年ほど前だろうか?「カラー」は、古着の解体を思わせる脱構築とハイブリッドの要素を強め、“ちょうどいい大人のブランド”から“ちょっとだけ挑戦して、新しい自分を見つけたい人のブランド”に変わったように思う。それは、簡単なようで難しい。ファンタジーとリアルのバランスは、ラグジュアリーやデザイナーズブランドにとって永遠の命題だ。リアルに傾倒し過ぎれば飽きられ、ファンタジー一辺倒ではビジネスが成り立たない。「カラー」のように、ファンタジーにシフトしてビジネスが成長するのは、決して容易なことではない。

 楽天 ファッション ウイーク東京における、楽天による日本発のブランドの支援プロジェクト「by R」の枠組みで開催したイベントは、まさに「カラー」が絶妙に行き来するファンタジーとリアルが交差したファッションショーだった。

 会場は、貸し切った4両編成の京急車両と、その電車が品川駅を出て到着した京急蒲田駅のプラットホーム。電車が京急蒲田駅に到着するとドアが開き、パリメンズでデジタル発表した2022年春夏コレクションに身を包んだモデルが乗り込んでくる。解体したニットベストを取り付けたシルバーのドレスから、襟元だけ異素材をハイブリッドしたニットトップスまで、濃淡さまざまなグラデーションでファンタジーとリアルをミックスしたスタイルのモデルが、京急車両と京急蒲田駅のプラットホームという超リアルで日常的な空間で、ファンタジーな非日常のファッションショーを見せた。

 品川駅を出た京急車両からショーを見たのは、バイヤーやメディアの関係者。一方、京急蒲田駅のプラットホームには学生が並び、電車からホームへ、ホームから電車へとすれ違いながら移動するモデルが着る最新コレクションを楽しんだ。阿部潤一デザイナーは、前回のファッションショーでも学生を呼びたかったそうだが、今はコロナ禍。前回は残念ながら、場所の都合で叶わなかったという。

 今、「カラー」が大好きな2つ目の理由は、“じんわりアツい想い”を学生を含めた私たちにカッコよく届けてくれるからだ。

 昨年末には、名古屋のセレクトショップ「ミッドウエスト」で学生限定のセールを開いた。開催に先駆けて発信したコメントには、コロナ禍で外出もままならずオンライン授業を強いられている学生への想い、彼らには「カラー」は決して安くないという事実、だからこそ、過去のコレクションではあるがセール価格で販売したいという素直な気持ちが記されていた。「“カッコいいセール”って、できるんだ」と感心した。阿部潤一デザイナーは、「熱血‼︎」というタイプでは無いと思う。じんわりアツい。京急蒲田駅のプラットホームでパリコレブランドのクリエイションに向き合った学生には、そんな想いが伝わっただろうか?

 貸し切った京急車両は、広告まで「カラー」仕様だった。中吊りは、満員電車の風景や、疲れて眠りに落ちたオジさんのビジュアル。そして窓上には、「品川⇄⁇」や「行き19分」「帰り36分」の文字。何気ない日常生活の風景、その中で当たり前のように使う言葉なのに、カッコよく見える。窓上の広告の中には、「さぁ、行こう」「さぁ、楽しもう」そして「ここから始まる」というメッセージもあった。“じんわりアツい”メッセージを電車というリアルな空間で投げかけ、ファンタジーの世界に誘いつつ、若い世代にエールを贈る。

 やっぱり、今の「カラー」は大好きだ。

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「ヨシオ クボ」が5年ぶりに東コレ復帰 18年目のベテランはファミリーのために走り続ける、モデルの大平修蔵も登場

 「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」は、2022年春夏コレクションを東京・中目黒の本社で発表した。東京のファッション・ウイークへの参加は5年ぶり。コロナ禍で厳重体制のなか、小規模な会場でより多くの人に見てもらうため、ショーは計3回に分けて行われた。招待状には、約150人の招待客それぞれに久保嘉男デザイナーのメッセージムービーが添えられた。全て撮り終えるのに10時間は掛かったという。会場に足を運んだ招待客は、笑顔で待つ「ヨシオ クボ」ファミリーに迎えられながら席に着いた。

ファッションショーは服を売るため

 本番前のバックステージは、久保デザイナーの明るいキャラクターもあり、終始和やかなムードだった。一日にリアルショーを3回も行い、会場スタッフやモデルたちは疲れているだろうと想像していたが、久しぶりのリアルショーを楽しんでいる姿が見られた。3シーズンぶりとなるリアルショーの本番前でも、久保デザイナーはいつも通りノリのいい関西弁で表情は明るく、ベテランデザイナーの余裕がうかがえた。「まだまだデジタルでは伝えられない部分があるから、ファッションショーは続くんじゃないかな。ファッションショーはオリンピックや競技の臨場感に近い。もしかしたらモデルがコケるハプニングが起きるかもしれないし、リアルでしか見られない何かを求める以上はなくならない。素材の質感や色はもちろん、一番は来場者が自分の好きな角度で服を見られるところ。広い会場で派手に着飾るよりも、服を近くで見られる方がいいし、ショーはもともと服を売るためにやるもの。そこを勘違いしがち」。自分のクリエイションを見せて満足するのではなく、その先のビジネスに向き合う経営者としての一面があるから、ブランドを18年間継続してきたのだろう。

“唯一無二の存在”を追い求める姿

 コレクションは僧兵を意味する“ウォーリアー・モンク”をテーマに、日本のミリタリーに近年のリラックスムードや機能性をプラスして独自に再解釈した。相手を威かくするためのオーバーサイズや顔まで覆うフード付きブルゾンのほか、僧兵が昔、奈良の山寺でしていた将棋のグラフィックや竹をカモフラージュ柄に見立てたセットアップ、久保デザイナーが得意とする左右にツイストさせたジャケットや、4つの素材を切り替えたトラックパンツも登場。中でも目を引いたのが、妖怪の“般若”や“天狗”、マルや三角形の“笠”のヘッドピースの数々。これらはヘアメイクアーティストの奥平正芳が手掛けたという。「早いものは3時間ほどで完成します」。その再現度の高さと製作スピードには驚きを隠せなかった。またショーの音楽はDJのLicaxxxが、スタイリングは三田真一が担当し、モデルには大平修蔵らを起用し、全16体32ルックを発表した。「ヨシオ クボ」は、20年春夏コレクションから“和”をテーマにしたコレクションを発表している。「日本人は、よくアメリカのミリタリーアイテムを着ているけど、日本のミリタリーのことはみんな知らない。僕も日本の文化で知らないことっていっぱいある。だから神戸ファッション美術館ライブラリーに1週間通って、朝から夕方まで資料を読み込んだ。インターネットに載っている情報はバレるし使わない。特にインフルエンサーブランドは、インスタグラムで情報が止まっているから、同じような服で溢れかえっている。それはファッション業界のためにも絶対に良くないし、僕はやったらいけないと思う」。その言葉からは、「ヨシオ クボ」の信念である“唯一無二の存在”を常に追う姿が垣間見えた。単に“バズる”“流行に乗る”だけが全てではなく、プロのデザイナーとしての覚悟とコレクションに対する熱量の高さを強く感じた。

 最後は二児の父親としての一面も見せた。「次女が僕のファッションショーを生で見たことがなかったから、今日は連れてきた」。デザイナー歴18年目を迎え、ベテランの域に達してきた48歳は愛娘のために、そして「ヨシオ クボ」スタッフのためにこれからも“カッコいいパパ”“憧れのデザイナー・社長”として、第一線を走り続けてほしい。

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BiSHのアユニDやリンリン、ASPのモグ・ライアンも登場 有名バンドのMVから着想した「ネグレクト アダルト ペイシェンツ」

 BiSやBiSHのアイドルプロデューサーの渡辺淳之介が手掛ける「ネグレクト アダルト ペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS以下、ネグレクト)」は、東京・渋谷ヒカリエで2022年春夏のファッションショーを行った。ステージ中央には、天井に向けて照らされたグリーンのスポットライトに、巨大スピーカーの数々が積み上げられていた。今季も「ネグレクト」らしいエンターテインメント性の強い演出を予感させた。

音楽界の巨匠たちをKISS風にアレンジ

 ファーストルックは、渡辺デザイナー率いるWACK所属グループのASPから、モグ・ライアンがジョーカー風メイクで登場。ブランドロゴ付きのパーカとボーダーのハイソックスというカジュアルなスタイルだ。ほかにもBiSHのアユニ・Dとリンリンもモデルとして登場した。渡辺デザイナーは、「今シーズンは“ベーシック コレクション(BASiC COLLECTiON)”をテーマに、“自分が本来作りたかったであろう洋服を作りたかった”」と話す。その言葉通り、自身のルーツである音楽の要素をコレクションにたっぷり盛り込んだ。ブリティッシュパンク風のチェックのアイテムや、グランジ風のラフなスタイルなどが連続する中、特に目を引いたのが音楽家のバッハやモーツァルト、ショパンらをKISS風にアレンジしたグラフィックで、思わず笑みがこぼれた。「自分の中のルーツであるクラシック音楽に影響を受けて、音楽家のバンドTがあればという発想から製作に至った」。それぞれの名を“バッ葉(バッハ)”“猛津 アルト(モーツァルト)”“初版(ショパン)”と漢字で表現して、「ネグレクト」流に巨匠たちにオマージュを捧げた。

ナイン・インチ・ネイルズのMVから着想

 ブランドロゴを配したアイテムの数々も際立った。ロックバンドのナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)のロゴ風に仕上げた“NAP”の文字がまばらに付いたスエットやTシャツをはじめ、定番のトラックスーツはレッドとネイビーの新色で登場。「時代的にロゴが入っていた方が売れるじゃないですか?(笑)。何を着ているのかが誰でもわかるように意識してロゴは付けた」。

 「ネグレクト」はクリエイションだけでなく、エンタメ性の強い演出も特徴だ。「演出を考える際、ロックバンドのナイン・インチ・ネイルズのMVが頭の中でずっと流れていた。当初は本物の牢獄や檻を作ることも考えたけど、グリーンのスポットライトを檻に見立てて表現しようと決めた。本当は檻の中でモデルを歩かせたかったが、演出家から『さすがに服が見えなくなってしまう』ということもあり断念した」。またブランドおなじみの“麺食い“は、今回もBiSHのアユニ・Dがカップ焼きそばを食べる演出だった。「原点回帰でカップ焼きそばにした」という。

 「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」でリアルのショーにこだわった理由については、「音楽のライブ配信や無観客ショーを行う中で、やっぱりリアルには勝てないという思いが強かった。とにかくお客さんを入れて見てもらいたかった」と話した。

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クジラの声をもとに作った究極の1着 「ユイマ ナカザト」オートクチュール参加10回目の革新

 中里唯馬が手掛ける「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」は、参加10回目となるオートクチュール ・コレクションを7月にオンライン上で披露した。オンラインでの発表は今回で3回目。過去2回はコレクションができるまでのドキュメンタリー映像を制作したが、今回は王道のランウエイ形式で、横浜港の大さん橋ホールで行ったショー映像を配信した。

声という個人データを元にした
究極のオートクチュール

 ショーは”呼び起こす"を意味する「Evoke」と題し、暗闇の中に響く波の音に合わせてスタート。中央に開かれたカーテンからの一筋の光が、ランウエイを作る。今季はこれまでブランドが独自で開発してきた素材をアップデートし、オートクチュール の新しい"1点モノ"の在り方を模索した。ファーストルックは、ブランドが開発した特殊な付属を使って針と糸を使わずに衣服を形成する"タイプ-1(TYPE-1)"の新作。破棄される予定だったレザーをつなぎ合わせて、着物のようなコートドレスに仕立てた。

 今季の着想源を「心地よさを感じる人の声」と中里は説明する。「その声という人が持つアイデンティティーを洋服にできれば、究極のオートクチュールになるのではと考えた」という。今回、元にした声の主は、環境問題を象徴する動物のクジラだ。"新しい時代の変わり目のシンボル"としてクジラの声のデータを使い、その振動を柄におこした。親会社スパイバーの微生物発酵を使ったタンパク質素材「ブリュード・プロテイン(Brewed Protein)」を、デジタル上でコントロールしたテキスタイル"バイオスモッキング(Biosmocking)"で振動の形を凹凸に浮き上がらせ、その独特な模様を使ったドレスが出来上がった。BGMにもクジラの声が使われ、坂本龍一がクジラの声を使った楽曲「WHALES」など、水にまつわる曲を選んだ。

「ブリュード・プロテイン」の西陣織と
多様な人々を包む着物にヒントを得たシルエット

 また西陣織で有名な1688年創業の細尾とのコラボレーションも実施。「ブリュード・プロテイン」の糸で織り、一般的な染色よりも少ない水とエネルギーで色付けし、新たな西陣織生地でドレスを作り上げた。さらに今季はメンズモデルが登場。服の形は、浮世絵からヒントを得た着物のような長方形のパターンで構成し、多様なジェンダーや体型、年齢の人々を包み込む。

 中里は"1点モノ"の概念をあらゆる角度から捉えて、新しいクチュールの在り方を模索するデザイナーであり、研究者だ。スパイバーとタッグを組んでからは、布を水や熱を加えて加工するなど、科学的実験を繰り返しながら素材開発に励んでいる。そして未来のデザイナーを育成・支援するファッションアワード「ファッション フロンティア プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM)」を、発起人の一人として立ち上げた。未来を見据えた中里と、彼の元に集まる才能から、今後もファッションのイノベーションが生み出されていきそうな希望を感じる。

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「マルジェラ」と「フェンディ」は映像で世界観を巧みに表現 ドキドキワクワクのクチュール初体験記 Vol.4

 こんにちは〜、WWDJAPANヨーロッパ通信員の藪野です。あっという間にオートクチュール・ファッション・ウイークも最終日。期間中は微妙に肌寒い曇り続きでしたが、なんとか最終日まで大雨は降らずにもってくれました。今日は、ショールームやプレゼンテーション回り。これまでのファッション・ウイークだとふらっと立ち寄れたのですが、今回はコロナによる制限もあって、ほぼすべてが事前アポ制です。これまたスケジュール調整が大変であまり詰め込む訳にもいきませんでしたが、夜のフライトでベルリンに戻るまでガッツリ取材してきます!

8日12:00 ジュリー ドゥ リブラン

 朝からパッキングとチェックアウト、そして薬局で帰国に必要な抗原検査を済ませていたので、遅めのスタート。まず、「ジュリー ドゥ リブラン(JULIE DE LIBRAN)」のプレゼンテーションにお邪魔しました。植物が生い茂る小さな中庭で行われていたのですが、ちょうど晴れ間が見えて、心地よい気が流れる空間でした。ジュリーは2019年3月まで「ソニア リキエル(SONIA RYKIEL)」のクリエイティブ・ディレクターを務めていましたが、退任後に自身の名を冠したドレス中心のブランドを設立。今季で4シーズン目になりますが、過剰な在庫を抱えないために受注生産型にしているそう。提案するのも、いわゆる豪華なクチュールドレスではなく、日常に少し特別感を加える服というイメージです。

 今シーズンは、これまでに制作したデザインを出発点に、長年付き合いのあるフランス国内の小さなアトリエとの取り組みにフォーカス。中には過去のコレクションのアイテムに職人の手でアレンジを加えたものもあり、素朴なイギリス刺しゅうやキラキラしたビジュー装飾がポイントになっています。また、次世代に技術を継承していくことも重要と考えるジュリーは現在、マランゴーニのパリ校で教鞭をとっているのですが、コレクション制作には刺しゅう職人から指導を受けた学生も関わったそうです。

8日13:00 アエリス クチュール

 お次は、“サステナブルなアート・トゥ・ウエア”を掲げる「アエリス クチュール(AELIS COUTURE)」。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)時代の「ディオール(DIOR)」などでキャリアを積んだイタリア人女性デザイナー、ソフィア・クロチアーニ(Sofia Crociani)によるブランドです。コレクションには、ビンテージウエアもしくは環境に配慮されて作られた素材のみ使用しているので、立ち上げ当時の17年は生地を見つけるのが大変だったそう。ですが、それから数年で素材メーカーの姿勢は大きく変わり、今ではずいぶん選択肢が広がったといいます。今回はイタリア製のシルクやコットンを中心に使い、ドレープを生かしたドレスを制作。トスカーナの雄大な草原で自然との共生を感じさせる映像を撮影しました。

 また今シーズンは、新たにNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)にも取り組み、コレクションの中のドレス1着がNFTとリンクしているとのこと。「サステナブルな未来へと歩んでいくには、伝統的な技術を守ることだけでなく、クリエイティブな表現に新しいテクノロジーを活用していくことも重要」と話していたのが、印象的でした。今後は、クチュールも現実だけでなく、バーチャルの世界へと広がるかもしれません。

8日14:00 シャルル ドゥ ヴィルモラン

 ランチを食べる暇もなく向かったのは、「シャルル ドゥ ヴィルモラン(CHARLES DE VILMORIN)」のプレゼンテーション会場であるバカラメゾン パリ。コロナ禍に自身のブランドを立ち上げ、「ロシャス(ROCHAS)」のクリエイティブ・ディレクターにも抜擢された24歳のシャルルとは、どんな人物なのか気になります。会場で迎えてくれた彼は、物静かで繊細な雰囲気の青年。すらっとした長身で、過去にモデルをしていたというのも納得です。

 コレクションはと言うと、先シーズンの鮮やかな色を組み合わせたカラフルなクリエイションから一転、今季はほぼ黒一色にフォーカスしています。その理由を尋ねると、「カラフルな服を作るのは好き。だけど、そのイメージがブランドについてしまう前に、黒のコレクションで自分の異なる側面を見せたかった」そう。植物のような造形や大きなフェザー、プリーツを取り入れたドレス中心のコレクションからは、「アダムスファミリー(The Addams Family)」や「マレフィセント(Maleficent)」のようなダークでミステリアスな雰囲気が漂います。ディテールを見るとちょっと粗い部分があり、コスチュームっぽい印象も否めないのですが、今後に期待したい次世代のクチュールデザイナーです。

 今は、9月のパリ・ファッション・ウイークでの「ロシャス」のデビューショーに向けて準備を進めているそう。さらに、「自分のブランドのショーも開きたいし、ゆくゆくは自分のブランドのプレタポルテも始めたい」と意欲的なシャルルでした。

8日14:30 フェンディ

 車で移動中にデジタルで発表された「フェンディ(FENDI)」の映像をチェック。小説家ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)の「オーランドー(Orlando)」から着想したコレクションで1月に注目のクチュールデビューを果たしたキム・ジョーンズ(Kim Jones)は、どんなコレクションを見せてくれるのでしょうか。

 今季の出発点は、ローマの映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニ(Pier Paolo Pasolini)の詩情あふれる作品。その世界を通して、フェンディの本拠地であるローマを探求したようです。「パゾリーニは近代化していくローマを目の当たりにした。時代をつなぎ、古きものと新しきもの、過去と現在を結びつけること、そこにこそ私は興味を引かれる」とキムが語るように、コレクションのポイントは異なる時代を重ね合わせるような手法です。例えば、1800年台半ばや1920年代に作られたドレスのファーやファブリックをスキャンして、シルクジャカードで表現。カットアウトやクリスタルビーズの刺しゅうを施し、新たなアイテムを生み出しています。また、「フェンディ」の象徴でもあるファーアイテムは、大半が再生されたものを使用しているそうで、タイルのような小さなファーパーツを並べたデザインも印象的でした。

 映像のセットに見られるアーチは、ブランドの本社を構えるイタリア文明宮を想起させますが、その形状はシューズのヒールにも。こういうキャッチーなアイデアを入れてくるところが、キムらしいですね。シルヴィア・フェンディ(Silvia Venturini Fendi)の娘であるデルフィナ・デレトレズ・フェンディ(Delfina Delettrez Fendi)が手掛けるジュエリーには、手彫りしたイタリア産大理石やマザーオブパールのモザイクが用いられています。

 ちなみに美しい映像は、映画「君の名前で僕を呼んで(Call Me By Your Name)」や「ミラノ、愛に生きる(Io sono l'amore)」で知られるルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)監督が手掛けたもの。スローなカメラワークや意味深にカメラを見つめるモデル、神秘的かつ壮大な音楽でノーブルな雰囲気を演出しつつ、クローズアップを効果的に取り入れることで贅を尽くした服のディテールを伝えています。

8日15:00 エリー サーブ

 最後のアポは、レバノン・ベイルート発の「エリー サーブ(ELIE SAAB)」。2月中旬〜3月初旬に発表された2021-22年秋冬のプレタポルテで台頭した“オプティミスティック(楽観的で前向きな感覚)”で明るい未来への希望を込めたようなクリエイションは、クチュールでも顕著で、こちらもテーマは“希望の芽(Bud of Hope)”でした。ただ新型コロナウイルスだけでなく、20年8月に起こったベイルート港の巨大爆発事故による被害などレバノンが抱える苦難を乗り越えた先をイメージしたそうです。

 「エリー サーブ」のクチュールといえば、やはりレッドカーペットにも度々登場する装飾たっぷりの華やかなイブニングガウン。今季はテーマにちなみ、クリスタルやスパンコール、パール、刺しゅう、立体モチーフ、ラッフルなどさまざまな手法で咲き乱れる花を表現していました。63ルックあるコレクションはすべてベイルートのアトリエで仕上げて、パリに持ってきているそうです。

8日16:00 メゾン マルジェラ

 「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」は、デジタルでの発表と同時にシャンゼリゼ通りの映画館で上映会を開催したのですが、僕はフライトの時間が変えられなかったので諦めてオルリー空港へ。タクシーの中で見ようと思っていたら、今回も超大作のようで、めちゃくちゃ長い!なんと、まさかの1時間超え!!ということで、ベルリンに戻ってから家のテレビでじっくり拝見しました。

 「ア フォーク ホラー テール(A Folk Horror Tale、ホラーな民話)」と題された映像の冒頭の19分間は、今回もジョン・ガリアーノが今シーズンのクリエイションの背景について、饒舌に語ります。これは、もはや立派なドキュメンタリー作品!と思って見ていたら、そこからはジョンがコンセプトと脚本を手掛け、フランス人映画監督のオリヴィエ・ダアン(Olivier Dahan)が監督を務めた作品がスタート。フランス国内最大級のLEDスクリーンで仮想空間を作り出し撮影されたという同作は、昔の漁村のようなシーンから始まり、ミステリアスでSFホラーのようなストーリーが展開していきます(ネタバレになるので、気になる方はぜひ映像をご覧くださいね)。正直、1時間以上ある映像は、たとえファッション好きでもすべての人が見るわけではないと思います。ですが、コレクションの背景にこれだけのエピソードがあることを知り、その世界観に浸るということを、望む人全員が体験できるというのは、デジタル発表ならではですね。

 コレクションは、時の経過とともに魂が吹き込まれてきたものに敬意を表したもの。ジョンは歴史が染み込んだ年代的なものに宿る安心感や信頼性に現代の若い世代の切望や憧れの要素を見出し、それをアトリエの手仕事を生かして表現しています。例えば、穴の空いたセーターを修繕するように昔の新聞を刺しゅうしたり、チャリティーショップで売っているようなさまざまな人の記憶が宿るバンダナやエプロン、ウエアなどをパッチワークしたり。また今季は、「水分を絞り取る」という意味を持つ“エソラージュ(Essorage)”を新たなテクニックとして採用。8〜12倍に拡大したアイテムに酵素加工とストーンウオッシュ加工を施すことで、サイズを縮小させるとともに色や質感を変え、時の経過によってもたらされる着古した感覚を表現しているそう。実際のビンテージアイテムをアトリエが修復・復元したピースが今季も登場します。

 今回、パリでの現地取材を通してあらためて実感したのは、現代のクチュールはただ華やかな装飾があしらわれたドレスやフォーマルウエアだけではないということ。その解釈は広がり続けていて、共通しているのは、創造性の自由とモノづくりにおけるあらゆる要素を徹底的に追求できる“ぜいたくさ”だと思います。そこには、やはりファッションの“夢”や“真髄”があります。また縁遠いと思いがちなクチュールの世界ですが、芸術や文化としての価値は高く、実際にオーダーする顧客ではなくても見るものを引きつける魅力があると感じました。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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実際に服に触れ、デザイナーと対面で話せる喜びを再認識 ドキドキワクワクのクチュール初体験記 Vol.2

 みなさん、こんにちは。WWDJAPANヨーロッパ通信員の藪野です。7月5〜8日に開催された2021-22年オートクチュール・ファッション・ウイーク取材のため、久々にパリを訪れました。街には活気が戻り、夕方になるとホテルの近くにあるカフェのテラスはどこも満席状態。屋外と言えど、かな〜り密なのは少し気になりましたが、“日常”が戻ってきているように感じられるのは嬉しいですね。2日目からはショールームでのアポも続々と入り、ある意味“ファッション・ウイークらしい”1時間刻みのスケジュールが始まります。

6日10:30 ロナルド ファン デル ケンプ

 朝一番に訪れたのは、オランダ大使館。アムステルダムを拠点にする「RVDK ロナルド ファン デル ケンプ(RVDK RONALD VAN DER KEMP)」のプレゼンテーションを見に行ってきました。エントランスには注射器が置かれていたのですが、今季のテーマは“マインド ワクチン(Mind Vaccine)”。デザイナーのロナルドは、ヨーロッパでは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、皆が解放感を感じると共に急速に元の生活に戻ろうとしていることを不安にも感じたそう。そこで、実際に気持ちを落ち着かせてくれるCBDオイルベースのペーストを開発。限定販売するらしく、「史上初のデザイナードラッグだよ。でも、合法でエシカルなやつね(笑)」と話していました。

 “責任ある快楽主義”を掲げ、サステナブルなアプローチにこだわる彼は、今回も古着やストック素材のみを使用してクチュールを制作。スタイル自体はグラマラスですが、細く切ったデニムを編み込んでいたり、異なる素材を組み合わせたり。特に気になったのは、白いリングを繋いだケープ。こちらは繊維ゴミを再生したフェルトで作られていて、クチュールだけでなく、外部企業と提携して同じ素材を使用したバッグやアクセサリーも販売するそうです。

6日13:00 ルイ・ヴィトン

 今回のパリは天候が悪くて風邪を引きそうなのでセーヌ川沿いの「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」でストールを急遽購入し、6月に映像で発表された「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」22年クルーズ・コレクションを見にショールームへ。皆さんはショー映像をもうご覧になりましたか?彫刻家の故ダニ・カラヴァン(Dani Karavan)氏が手掛けたアックス・マジャール(大都市軸)が舞台になっているのですが、「パリ郊外にこんな素敵なロケーションがあるんだ!」と思わず唸る壮大な映像は必見です。ショールームでも、その一部である赤い歩道橋のデザインが再現されていました。コレクションは、マーチングバンドを想起させるスタイルや鮮やかな色使いが印象的。ビニールでコーティングしたようなツイードや角度によってストライプが動くような視覚効果のあるホログラム素材など、間近で見るとやはり新たな発見があります。ショーには登場しませんでしたが、ゴツいチェーンをあしらったサンダルやローファーも気になります。

6日14:00 ヴィクター&ロルフ

 7日に映像を公開する「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR & ROLF)」のコレクションを一足先に見せてもらうため、1日限りのプレゼンテーションのための準備をしている贖罪教会へ。08年にイギリス・ロンドンのバービカンセンターで開催された展覧会「ザ ハウス オブ ヴィクター&ロルフ」も、18年にオランダ・ロッテルダムのクンストハルで開催された25周年の回顧展にも足を運んだ自分としては、デザイナーの2人に実際会えることに超ワクワク。会場に行ったら、ロッテルダムの展覧会を手掛けたカナダ人キュレーターのティエリー・マキシム・ロリオ(Thierry-Maxime Loriot)さんが今回のプレゼンテーションにも関わっているということでちょうど会場にいて、なんとも贅沢な時間でした。

 ユーモアやアイロニーを感じるテーマを掲げることが多い「ヴィクター&ロルフ」ですが、今シーズンのテーマは“ザ ニュー ロイヤル(The New Royal)”。体裁を保ちながらも人間らしさが垣間見える新世代のロイヤルファミリーから着想を得たそう。「ファッション業界にも確固たるヒエラルキーがあり、それは王室や階級制に通じる。あえて“フェイク”と呼ばれるものを使って、高揚感のあるコレクションを作りたかった」とヴィクターは話していました。その言葉通り、上流階級を象徴するようなスタイルを、人工ファー(生分解可能なものだそう)やラフィア、キッチュなビジューやパール、「メリッサ(MELISSA)」とのコラボバッグやシューズなど伝統的なクチュールとはかけ離れた素材や装飾で解釈しているところが、“ファッション・アーティスト”と呼ばれる彼ららしいですね。“SIZE QUEEN”や“Don’t be Drag just be a QUEEN”など、コートの上にかけたサッシュのフレーズもウィットに富んでいます。

6日15:00 スキャパレリ

 バイデン大統領の就任式でレディー・ガガ(Lady Gaga)が着用したことも記憶に新しいダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)による「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」の展示会のために、ヴァンドーム広場へ。先シーズンはムッキムキの筋肉ドレスで度肝を抜きましたが、今季も型にはまらない世界観が炸裂!「ザ マタドール(The Matador)」と題されたコレクションは、闘牛士のジャケットや牛の角を想起させるシェイプが目を引きます。そこにあしらわれた煌びやかな装飾や組み合わせるアクセサリーには、乳房や目、鼻、耳、口、手など体のパーツのモチーフが溶け込んでいて、インパクト絶大。エンターテインメントの世界から愛されるのも納得です。発表の約1週間後には早速、モデルのベラ・ハディッド(Bella Hadid)がカンヌ映画祭で着用していましたね。

6日16:00 ジャンバティスタ ヴァリ

 「ジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI)」は、オスカー・ニーマイヤー(Oscar Niemeyer)が設計したフランス共産党本部周辺で撮影された映像を通して発表。「クチュールはファンタジー」と語るジャンバティスタは、パリのグラマラスな“夜遊び”からヒントを得て、生き生きとしたエネルギーを表現しています。幾重にも重ねたチュールやフリルと美しいドレープで描くロマンチックなドレスや、スパンコールにフェザーを組み合わせたドラマチックなピースなど、華やかなパーティーウエアがそろっています。また、今季は初めてメンズ向けのクチュールもお披露目。先シーズンからクチュールでのメンズ提案が増えていますが、この流れは今後も広がりそうです。

 ショールームのお隣にはギャラリー・ラファイエットのシャンゼリゼ通り店があったので、ちょっと視察に。今は「ポケモン(POKEMON)」の25周年を記念して、ピカチュウだらけになっていました〜。

6日17:00 アレクサンドル ヴォチエ

 お次は、「アレクサンドル ヴォチエ(ALEXANDRE VAUTHIER)」の展示会。公開されたムービーを見ながら移動していたのですが、今季はウエスタンな雰囲気。黒とクリスタル装飾で、クールでグラマラスな世界を描きます。そのストーリーは明快で、フリンジやバンダナモチーフ、大きなバックルのベルト、カウボーイハット、ウエスタンシャツに見られるようなラインなどのデザインが印象的。ギャングスターをイメージしたというスーツや、キャバレーのダンサーをほうふつとさせるフェザーのヘアピースとミニドレスのルックなんかもありました。ただ、展示会の会場ではマネキンではなくハンガーにかかっている状態だったこともあり、服の魅力はあまり伝わってこず。やっぱりモデルが着て動く中で見たいですね。ちなみに、シューズはロック&グラマラスなスタイルで知られるシューズ界のベテラン、ジュゼッペ・ザノッティ(Giuseppe Zanotti)が手掛けています。

6日18:00 ジョルジオ アルマーニ プリヴェ

 本日唯一のリアルショー取材は、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVE)」。コロナ後の明るい世界への思いを込めて、輝きに満ちたコレクションをイタリア大使館で披露しました。天井や壁に煌びやかな装飾が施された空間を優雅に歩くモデルを見ていて頭に浮んだのは、光がキラキラ反射する水面。光沢のあるシルクやサテン、ベルベットに加え、極細の金属糸を織り込むことで液体のような独特なきらめきを放つ生地を使い、テーマである“シャイン(Shine)”をさまざまな素材で表現しています。序盤は、ブラックやインディゴ、ブルーで描くコンパクトなジャケットとゆったりとしたパンツやロングスカートという「アルマーニ」らしいスタイル。次第に優しいパステルカラーへと移り変わっていくのですが、透けた生地の上にちりばめたクリスタルやスパンコール、ビーズの装飾がとても幻想的。繊細で儚いドレスにうっとりしました。

 ショー後は中庭に出て、アペリティフ。久々に現地在住ファッションジャーナリストの井上エリさんとキャッチアップしていたら、日本が好きだという素敵なマダム(後でパリの写真家キャスリーン・ナウンドルフ(Cathleen Naundorf)さんと発覚)も加わり、シャンパンを片手に話し込んじゃいました。ただ、こういう時間を過ごせるのも、今回のようなゆったりしたスケジュールならではです。いつもならそそくさと会場を後にして、次の取材先に向かうことが多いですから。

6日20:30 シャネル

 ホテルに帰ってからは、残念ながら現場では取材できなかった「シャネル(CHANEL)」を映像でチェック。先シーズンのクチュールも結婚式のような演出でしたが、今季もハッピーで高揚感のある雰囲気は継続です。「私は刺しゅうがあふれ、温かみを感じさせる、とりわけ色彩豊かなコレクションを心から求めていた」とヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)=アーティスティック・ディレクターが話すように、いつも以上にカラフルなコレクションは、会場となったガリエラ宮のアイボリーの背景に映えますね。

 今シーズンの軸となるのは“絵画”で、「黒や白の1880年代スタイルのドレスを身にまとったガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)のポートレートをあらためて目にした時、すぐに絵画が思い浮かんだ」そう。序盤のツイードのコートやスーツの上にはキラキラ輝くスパンコールの装飾をのせ、筆で何度も色を重ねたかのような奥行きを演出。そして、イングリッシュ・ガーデンを思い浮かべたという花のモチーフが、さまざまな刺しゅうでスカートやブラウス、ドレスを彩ります。ショーの最後には、ラストルックで登場したウエディングドレス姿のマーガレット・クアリー(Margaret Qualley)がブーケトス。観客の一人がナイスキャッチし、拍手喝采で幕を閉じました。

 ちなみにショー中盤の音楽が日本語っぽく聞こえるなーと思っていたら、1983年に岩本清顕が発表した「Love Will Tear Us Apart」を、大阪を拠点に活動する2人組ミュージシャンの千紗子と純太が2020年にリワークした楽曲が使われていました。まさか本人たちも「シャネル」のショーに使われるなんて、想像もしていなかったでしょうね〜。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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「ディオール」の職人技に感動し、「アライア」の今後に期待 ドキドキワクワクのクチュール初体験記 Vol.1

 こんにちは。WWDJAPANヨーロッパ通信員の藪野です。9カ月ぶりに出張を再開し、南イタリアで「マックスマーラ(MAX MARA)」2022年リゾート・コレクションのショーを取材した後、パリに到着しました。EU内の多くの国は、20分ほどで結果が出る抗原検査の陰性証明でも渡航可能になったので、今はずいぶん気軽に行き来できるようになっています。実際、パリの空港では入国審査があったものの、陰性証明はまったくチェックされず。拍子抜けしてしまいました。

 今回の目的は、21-22年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークの取材です。これまでプレタポルテしかコレクションを取材したことがないので、実のところ、ちょっとドキドキ。ただ、数は少ないですがリアルショーが再開するのでコレクションを生で見られること、そして展示会で服に触れられたりデザイナーと直に話せたりすることへのワクワク感で、そんな不安は吹き飛びました。ここでは、現地で見て、聞いて、感じたことを綴っていきますので、クチュールの世界を楽しんでいただけたら幸いです。

4日20:30 アライア

 今シーズンは注目トピックが多いのですが、まずはラフ・シモンズ(Raf Simons)の右腕として長年活躍してきたことで知られるピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)をクリエイティブ・ディレクターに迎えた新生「アライア(ALAIA)」のデビューです。2017年にこの世を去った偉大な創業デザイナーの跡をどのように継いでいくのか、どんなコレクションを披露したのかは、こちらの記事をご覧ください。ショー翌日には展示会にも行ってきましたが、その完成度からはピーターを支えるアトリエの力を感じました。今後がとっても楽しみです。

5日12:00 イリス ヴァン ヘルペン

 リアルショーが再開したとは言いつつも7ブランドのみで、大半はデジタル発表。顧客やメディア向けには、個別にアポイントをとってコレクションを見せるというブランドが今季は多いです。

 オランダ発の「イリス ヴァン ヘルペン(IRIS VAN HERPEN)」は、実際に見られることを楽しみにしていたブランドの一つだったのですが、パリにはコレクションを持ってこないことになったそうで、残念ながら映像で見ることに。手仕事とテクノロジーを掛け合わせて作られる彼女の服には、いつも異世界の生物のような神秘的な美しさや生々しさが漂います。今季の映像は、そんな服にマッチする壮大な岩山を舞台に撮影。スローモーションを生かして、羽衣のような生地が風をはらむ様子や神々しい雰囲気が存分に表現されていました。そしてラストには、なんとスカイダイバーが登場!繊細なクチュールを着てスカイダイビングだなんて、前代未聞ですよね(笑)。このドレスは時速300kmでの降下という負荷に耐えられるように何度もテストを重ねて作られ、4回ダイビングを行って撮影されたそうです。

5日14:30 ディオール

 過去2シーズンは、ファンタジー映画のような映像作品でオートクチュールを披露してきた「ディオール(DIOR)」ですが、6月中旬にギリシャ・アテネで開催した22年クルーズ・コレクションに続き、オートクチュールも観客入りのリアルショーを再開させました。会場は、かの有名な「考える人」が展示されているロダン美術館。中庭に建てられた特設テントを入ると、壁全面がシルク刺しゅうのアートで囲まれた空間「シルクの部屋(Chambre de Soie)」が広がります。こちらはアーティストのエヴァ・ジョスパン(Eva Jospin)が描いた森のドローイングをベースに、インドの刺しゅう工房と工芸学校の職人たちが数カ月をかけて手作業で作り上げたもの。なんと150もの異なるテクニックが使われているそうで、長さは40m、大きさは350平方メートルに及びます。その背景には、クラフツマンシップを称え、未来に継承していきたいというマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=アーティスティック・ディレクターの強い思いがあり、その視覚や触覚を刺激する空間からコレクションへの期待も高まります。

 ショーは、マルク・ボアン(Marc Bohan)が手掛けていた1963年に発表されたコレクションから着想を得たというツイードのトータルルックからスタート。質感豊かなツイードは今季のキー素材で、曲線を描くように異なる色調をシームレスにつないだり、部分ごとに切り替えたり。装飾でも、さまざまな色のフェザーを組み合わせてツイードのようなミックスカラーを再現しています。トレーンを引く幻想的なドレスに使われたくすみがかった美しい色使いは、背景のアートから飛び出してきたよう。今季はそんな色と質感、そして多彩なプリーツや編みなどの職人技が際立つコレクションに仕上がっていました。

5日15:30 メシカ

 オートクチュールの期間中には、ハイジュエリーの展示会も数多く開催されます。「メシカ(MESSIKA)」は、ダイヤモンドディーラーの父を持つヴァレリー・メシカ(Valerie Messika)が2005年に立ち上げたブランドで、昨年にはケイト・モス(Kate Moss)ともコラボレーションしていました。今季は、人と惹かれあい、再びつながることができる喜びをジュエリーで表現。2つのダイヤモンドやリングを並べたデザインがポイントになっていましたが、“あなたと私”をイメージしているそう。なんだかロマンチックですね。

5日16:30  Y/プロジェクト

 クチュールとは関係ないのですが、現地のPRから案内をもらい、先日パリメンズで披露された「Y/プロジェクト」22年春夏コレクションをチェックしに展示会へ。「ディーゼル(DIESEL)」のクリエイティブ・ディレクターにも就任し勢いに乗っているグレン・マーティンス(Glenn Martins)のシグネチャーブランドは、いろいろな着方を楽しめるクセのあるデザインが特徴。初期の頃はそれこそ「どう着るのか?」や「一人で着られるのか?」と考えるアイテムが盛りだくさんでしたが、ずいぶんリアルになった印象でした。バッグやアクセサリーのバリエーションも増えて、「メリッサ(MELISSA)」とのコラボシューズの第2弾も登場。写真ではお届けできませんが、このシューズ匂い付きです。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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「コム デ ギャルソン・オム プリュス」の花と融合するテーラード 東京で見せた22年春夏コレクション

 「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」が、2022年春夏コレクションを東京・南青山の本社で発表した。今シーズンもパリ・メンズ・ファッション・ウイークには参加せず、業界関係者ら約50人を招待してのミニショーとなった。

ランウエイに咲く花々

 シーズンテーマは“花の存在”。スポットライトで照らされた虹色のランウエイに、花をモチーフとしたウエアが登場するファンタジーな世界だ。一口に花といっても、ポップなテイストで描かれた小花柄や写実的なパターン、編みで表現した絵画のようなデザイン、ドクロと組み合わせたおどろおどろしいグラフィックまで、表現方法は多彩。これらを襟や身頃をくり抜いたアウターからのぞかせたり、生地の切り替えやプリントでダイレクトに落とし込んだりと、クラシカルなテーラードスタイルと融合させていく。ロングシャツやスカートはクリノリンを使って花弁のようなボリュームあるシルエットを構築し、ワイドパンツの裾も重なる花びらのようにランダムにたくし上げる。有機的なムードが加速し、花の存在感は一層強くなる。

人体と草花が絡みあう
コラボグラフィック

 真っ白のロングシャツやジャケットの背面にプリントしたグラフィックは、アメリカ人コラージュアーティストのベデルギウス(BEDELGEUSE)によるもの。メタリックな人体が草花や枝、鳥などと絡み合う作風が、儚くも毒々しい雰囲気を醸し出す。つぼみやめしべのような独創的な形状のヘッドピースは、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」2021-22年秋冬コレクションにも起用したイブラヒム・カマラ(Ibrahim Kamara)の作品だ。定番になりつつある「ナイキ(NIKE)」とのコラボでは、ファスナーの開閉が特徴の“エア サンダー マックス(AIR SUNDER MAX)”を披露した。

 「花の存在はハッピーな時間のためだけにあるのではない。苦しい、哀しい、辛い時こそ存在する。たとえ道に咲く小さな花一輪でも、人の心を癒す」――プレスノートにあったこの言葉は、ファッションと人の関係を表すようにも思う。苦しい時こそ、ファッションは着る人・見る人の心を動かすはずだ。「コム デ ギャルソン・オム プリュス」は、ファッションの可能性を諦めない。

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「バレンシアガ」のクチュールがついに復活 デムナ・ヴァザリアが考える現代のエレガンス

 「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は7月7日、創業者クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)が引退してから眠っていたオートクチュールを53年ぶりに復活させた。今回発表された2021-22年秋冬コレクションは、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)=アーティスティック・ディレクターが初めて手掛けるクチュールであると共に、メゾンとして50回目のクチュール・コレクション。ジョルジュ・サンク通りの本社に再建したクチュールサロンを会場に、緊張感漂う無音の中でショーを行った。間違いなく今季一番のプレミアチケットになったショーに招かれたのは、わずか100人ほど。その中には、カニエ・ウエスト(Kanye West)やベラ・ハディッド(Bella Hadid)、ルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)らの姿もあった。

 招待状と共に届いたのは、「BALENCIAGA COUTURE」と金の文字で記された黒いボックス入りの“指抜き”モチーフのペンダント。クリストバルが実際に使用していた指抜きを、24Kゴールドメッキが施されたシルバーで忠実に再現したものだという。そこには、クチュリエの仕事とメゾンのヘリテージへの敬意が込められている。

 初のクチュールを手掛けるにあたり、デムナがフォーカスしたのは、クリストバルが生み出したシルエットだ。「『バレンシアガ』は建築。シルエット以外に選択肢はない。そして、装飾よりもプロポーションやアティチュードで体を取り巻くものを作り上げるというのが私の服への取り組み方。今回はもちろん、現代的かつクチュール的な方法でね」と話す。就任当初から日常やストリートに美を見出す彼ならではの解釈で、そんなメゾンの遺産をプレタポルテに落とし込んできたが、今回のクチュール・コレクションではよりエレガントかつ洗練された形で表現した。

 今回メンズ向けのクチュールも提案することを明かしていたデムナは、現代の男女に向けたテーラードスタイルからショーをスタート。幅広の角ばったショルダーラインと少しくびれたウエストが特徴のジャケットやコートに、ワイドパンツやロングスカートを合わせる。テーラリングは、クリストバルが着用していたものからインスピレーションを得ると共に、彼がオーダーしていたサビル・ロウのテーラー、ハンツマン(HUNTSMAN)との協業で制作。足元に目を向けると、男女問わずピンヒールのシューズを履いている。

 その後もアワーグラスシルエットのジャケットやドレスをはじめ、逆三角形や四角形を描くような肩の広がったジャケットやニット、デムナがブームを巻き起こした襟を背中に落として胸元を開いたデザインなど、派手な装飾はあまり用いず、単色をベースに構築的なシルエットを追求。ルックにアクセントを加える三度笠のようなハットは、アーカイブから着想したもので、帽子デザイナーのフィリップ・トレーシー(Philip Treacy)が手掛けた。

 終盤にかけて、シルエットはさらに誇張されていく。サテンやシルクで仕立てたマキシ丈のたっぷりとしたオペラコートは、スポーティーなデザインディテールを取り入れながら、エレガンス漂うイブニングルックに。メンズでは、無数の細かい切れ目を入れてパイルに似せたレザーで作ったバスローブ風のコートなどユーモアあるアイテムを提案する。

 さらに、ストリートをラグジュアリーファッションの世界に持ち込んだデザイナーの一人であるデムナは、クチュールでもデニムジャケットやジーンズ、パーカー、トラックスーツ、パファージャケットなどカジュアル由来のアイテムをミックス。カシミヤやシルクなどの上質素材とアトリエのクラフツマンシップを生かして最高級のアイテムに仕上げることで、ストリート感を希釈し、現代のクチュールの在り方を模索しているようだ。

 また、クチュール再開には、“トリプルS(Triple S)”などのスニーカーでブランドを知った世代に、100年以上の歴史を持つメゾンのヘリテージを伝えたいという思いもあったという。これまでファッション業界の常識や既成概念を次々と打ち破ってきたデザイナーによって、クチュールメゾンとしての「バレンシアガ」の新たな時代が幕を開けた。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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「ディオール」×トラヴィス・スコットのアイテム大公開 注目シューズやバッグなどの全容

 7月5日に開催された「ディオール(DIOR)」2022年春夏メンズ・コレクションの展示会へ行ってきました。アクセサリーやディテールには、今季コラボレーションしたトラヴィス・スコット(Travis Scott)の出身地テキサスを連想させるカウボーイ風のボタンやフリンジ、インディアンジュエリーのような彫刻が施されたシルバージュエリーが付きます。ダブル仕様のサドルバッグには重厚なシルバーを使用しているため、なかなかの重さ。さらに重厚感があったのは、ヒマラヤクロコダイルのミニトランク。バッグには定番のロゴに加え、1960年代のダイヤモンドモノグラムを復刻してたくさん配していました。ショーでまばゆい輝きを放っていたカクタス(サボテン)ネックレスやブローチは、キム・ジョーンズ(Kim Jones)が「ディオール」ファインジュエリーのアーティスティック・ディレクターと共に初めて制作したジュエリーです。足元はスニーカーやモンクストラップのサンダル、ヘッドにはボブハットとビーニー、ボブハットとキャップを融合させた2種類のハットがありました。

 ウエアで目を引いたのは、キムが現職に就いたファーストシーズンより発表しているジャケット“テイラー オブリーク”の美しさ。ウィメンズスーツのシルエットがアイデアソースとあって、体に沿ってゆるやかに描くラインが特徴です。襟とラペルの曲線や、袖口に向かって広がるスリーブのラインも、着用するとなお一層美しくて心を奪われました。ラペルの裏には、トラヴィスによる手描きのロゴの刺しゅうが、スーツの袖にはクチュール技術を受け継ぐソウタシエ刺しゅうが施されていました。ショーで存在感を放っていたフレアパンツは、横からから見るとたっぷり生地を使っているのがよく分かります。またコンテンポラリーアーティストのジョージ・コンド(George Condo)がハンドペイントしたシャツは商品化されず、間もなくオークションにかけられて、その収益は次世代のクリエイティブな才能をサポートするための奨学金に充てられるそうです。

シューズ

バッグ&ポーチ

ハット&サングラス

ジュエリー

ディテール

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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再び旅する日を夢見て 「マックスマーラ」が南イタリアのリゾートで見せた現代のジェットセッタースタイル

 世界を自由に飛び回ることが難しい時を過ごす中、多くの人が人生を豊かにしてくれる旅という体験を渇望している。6月29日に南イタリアのイスキア島で発表された「マックスマーラ(MAX MARA)」の2022年リゾート・コレクションも、まさにそんな思いから生まれたものだった。ショー会場となったのは、ナポリ湾を望むホテル メッツァトーレ(Hotel Mezzatorre)のロマンチックな庭園。ヨーロッパとアメリカから招いたエディターやジャーナリスト、セレブリティー、インフルエンサーなど約90人の観客が見守る中で、再び旅する日を心待ちにする現代のジェットセッターのためのコレクションを披露した。

 「旅することを夢見ていた私はイギリスでクダウン中、旅について書かれた本をたくさん読み直した」と話すイアン・グリフィス(Ian Griffiths)=クリエイティブ・ディレクターは今季、1950年に発行されたアメリカ人作家トルーマン・カポーティ(Truman Capote)による旅行記「ローカル・カラー/観察記録(Local Color)」にインスピレーションを得た。その一章でイスキア島で過ごした4ヵ月について綴ったカポーティは、まだ旅が特別なものだった当時、半年ごとにパリでオートクチュールを仕立て、その間に地中海の隠れ家的なリゾートでバカンスを過ごす社交界の女性たちを“スワン(白鳥)”と呼んだ。そして、グリフィス=クリエイティブ・ディレクターは洗練された美しいものを追求し、きらびやかな世界を旅する彼女たちの姿からイメージをふくらませ、現代を生きる“スワン”を描いた。

 ファーストルックは、ブランドを象徴するアイテムの一つである“101801”コートと、腰下にギャザーを施したミニドレスのコーディネート。どちらも今季のキー素材である上質なテクニカルジャージーを用いることで、軽やかであると同時にシワになりにくく旅にぴったりなアイテムに仕上げている。また、サイドに深いスリットの入ったカフタン風のロングドレスやジュートソールのレースアップサンダル、ラタンやラフィアを使ったバッグ、ボストンなどリゾートトラベルを想起させるアイテムも数多く登場。一方、店頭に11月頃から並び始めることを考え、ブランドの新たなアイコンとなっているテディベアコートや同素材のブルゾンもラインアップする。

 全体を通して際立ったのは、ギャザーとハリのある素材感を生かしたフレアラインやベルスリーブなどのふんわりした構築的なシルエット。「パリのクチュールを着想源としていた『マックスマーラ』の50〜60年代のアーカイブデザインからヒントを得た。ただ、ダッチェスサテンのようなクチュールによく使われる素材ではなく、テクニカルな素材やスポーティーなディテールと掛け合わせたり、フルレングスだったスカート丈をミニで再解釈したりすることで、コンテンポラリーで若々しいエレガンスを表現した。スエットで多くの時間を過ごした後、またエレガントな着こなしを楽しみたいという女性たちの気持ちに応えたかった」という。

 ベージュやキャメル、白、黒といった落ち着いたカラーパレットに彩りを添えるのは、鮮やかな赤やフューシャ、そして優しいベビーピンク。「喜びに満ちた高揚感のある色合いは、“スワン”がパリで滞在していたオテル プラザ アテネ(Hotel Plaza Athenee)の外観を象徴するとともに、リサーチする中で彼女たちの写真にもよく写っていたゼラニウムのグラデーションからとったもの。それは、イスキア島のいたるところに見られる花々にも通じる」。

 また、2月に21-22年秋冬コレクションをデジタルで発表した際に「リアルなショーが恋しい」と話していたグリフィス=クリエイティブ・ディレクターは、「モデルからエディターもジャーナリストまでショーに携わるすべての人と同じように、私もさまざまな要素が一つになって魔法やエネルギーを生み出すショーを再開できる日を待ちわびていた」と明かす。

 一方、デジタルでは今回はあえてショーのライブ配信は行わず、イタリア人映画監督ジネヴラ・エルカン(Ginevra Elkann)の手がけたムービーを7月1日に公開した。その理由については「ルックやアイテムだけでなく、背景にあるストーリーやショーの高揚感、島の雰囲気を織り交ぜることで、現地でショーを見たゲストと同じ感覚を視聴者にも味わってもらいたかったから。シンプルでぜいたくなエレガンスと、世界ともう一度つながることへの強い思いを伝えたい」とコメント。エルカンは“スワン”の一人であったマレラ・アニェッリ(Marella Agnelli)の孫娘でもあり、そんな彼女の視点を通してカポーティの作品から広がる今シーズンのストーリーを完結させた。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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超大作の「トム ブラウン」、やさしさにあふれた「ポール・スミス」などパリメンズ後半を先輩後輩がプレイバック 「アリックス」「ワイプロ」は変化の兆し

 2022年春夏メンズコレクションは、ロンドンとミラノが終了し、舞台はパリへ。海外からの現地リポートも随時更新中ですが、ここでは日本でリモート取材中の先輩&後輩コンビがダイジェスト対談をお届けします。ここでは、後半(6月26〜28日)に登場した11ブランドをプレイバック!ヤギがいたり、目からビームが出たり、30分の超大作があったりと、後半も情報量多めでお伝えします。

【対談メンバー】
先輩・大塚:海外コレクション取材歴5年目。「WWDJAPAN」副編集長。昨年からランニングにハマって2ケタ減量に成功。サイズダウンによりファッション欲がさらに上昇。

後輩・美濃島:昨年から海外コレクション取材をスタート。「WWDJAPAN」記者としてデザイナーズやスポーツを取材するも、最近みるみる巨大化。サイズアウトする服が続出。

実験的映像でブランドの武器をアピール

大塚:「カラー(KOLOR)」はまたすごい見せ方だったねー。トレッドミルのようなマシンをモデルがウオーキングして服の動きを見せつつつ、無人カメラがディテールをクローズアップするという手法。

美濃島:360度カメラを使った2021年春夏に似てると思ったら、今回も映像作家・田中裕介さんのディレクションでした。サカナクション山口一郎さんが担当した音楽は、静かなテクノで映像に集中できるし、盛り上げるとこは盛り上げてくれて飽きず見られました。

大塚:見た目は何だか近未来っぽくてすごいんだけど、“静”と“動”を両立させて服の魅力を分かりやすく伝えられる。とっても理にかなっている手法だと思った。特に「カラー」のような大胆さと緻密さを併せ持つブランドにはピッタリ。今回も異素材ミックスやパーツのコラージュがすごかったね。

美濃島:ワンピースに襟を4つ重ねたニットポロを組み合わせたり、ロングシャツの見頃に左右異なるシャツをくっつけたり、ピークドラペルのジャケットの襟の上にショールカラーのニットを合わせたり。ぱっと見どうなってるかわからないほど複雑な組み合わせなのに、素材や色合いが計算し尽くされていて全く破綻していません。少女漫画のプリントなど、攻めのモチーフもあってその振り幅も面白かったです。

まかさの“お寺ンウエイ” モデルが本堂に集結

大塚:「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」の日本シリーズがいよいよ極まってきた。今回の舞台はお寺で、まさかの寺ンウエイ。「幽玄」をテーマに、ブランドらしいエッジを効かせたストリートウエアのディテールを盛り込んでました。僧衣を思わせるトップスのシルエットや、着たときにドレープが生まれるバイアスのカッティング、ややくすんだカラーパレットは、時間の経過によって朽ちていく物の美しさを表現しているのだとか。今シーズンは「カサブランカ(CASABLANCA)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」も日本をテーマにしていたけれど、本家の表現はやっぱりひと味違うわ。どちらが大衆に受け入れられるかどうかはさておき、ギリギリの表現に挑んだ姿勢は素晴らしい。

美濃島:最後、本堂にモデルが集結するシーンはなかなかシュールでしたが(笑)、日本ブランドというイメージ作りは文句なしで1位です。はかまのようなワイドショーツや頭から顔を袈裟で包む“裏頭(かず)”に着想したフードブルゾンなど、自衛のために武装した僧侶“Warrior Monk”をスポーツウエアをベースに表現していました。日本の伝統を感じさせるパキっとした赤に、未来的なリフレクター素材を織り交ぜるなど、時代を超越する組み合わせも面白かった。

スナック、空港、ダイバーシティ
映像という“おもちゃ”を存分に楽しむ

大塚:「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」は空港での撮影だったのかな?前シーズンの映像でも登場した場末っぽいスナックから始まり、しかもカラオケのムービーにまたプレスの佐藤さんが出演していて笑っちゃった。美濃島さんは現場も取材したんだよね?

美濃島:はい、羽田空港第2ターミナルでの撮影でした。某アーティストのMVにインスパイアされてこのロケーションを選んだのですが、通常なら絶対に使用許可は降りない場所。今した実現しない映像なので、作り手も受け手も「ああ、あの時撮ったんだな」とメモリアルなシーズンになったと思います。

大塚:前回のコマ送り映像もすごい労力だったそうだけど、今回は意外とさらっとしてなね。

美濃島:映像はシンプルですが、実は演出にすごく凝ってるんです。多様性を表現するため50人以上のモデルが登場し、モデル1人1人に「虫取り網」「ダンス」「テニス」「マジック」などの演技テーマを設定。演技を嘘くさいものにしないため、オーディション時に趣味や特技をヒアリングしたそうです。当日も「動かされてるんじゃなく、自分から動く感じで」と自ら指導する姿があり、三原康弘デザイナーの妥協なき姿勢にシビれました。「次はリアルだから、映像はこれが最後。映像という“おもちゃ“を思う存分楽しみたい」という三原康弘デザイナーの思いが詰まっています。

大塚:前回は三原デザイナーも映像に登場してたけど、今回はどうだったのかな?

美濃島:警備員を模して、オレンジのつなぎ姿でちらっと登場しています。スナックを舞台とした冒頭など、クスっと笑える要素を盛り込むのは、「普通にショーを見せても早送りしたくなる。飽きずに見てもらうには、コメディが大事だ」と考えているから。三原デザイナーは毎シーズン、各ブランドの映像をくまなくチェックするそうで、長年業界をけん引し続けているのは、この姿勢があるからんだなと感服しました。

大塚:うわー、本当にすごいね。発表形式が変わって一番大変なのはブランドのはずなのに。常に前を向いてる姿勢にこちらが元気づけられるよ。

美濃島:バチバチの演奏を披露していたのは、インストバンドLITE。「ショーの演奏は初めて。しかも『ミハラ ヤスヒロ』で、こんな場所できるなんて、事件です」と語っていましたが、緊張した様子はなく、毎回最高の演奏でした。ライブシーンではモデルたちも自然と体が揺れ、本当のライブのよう。映像にBGMを後乗せするだけでもいいですが、ここでもリアルの強さが出たと思います。

大塚:服はいつもよりも少し大人の印象を受けたのだけど、実際もそんな感じ?

美濃島:黒やカーキ、ベージュなど落ち着いた色味がベースですが、ジャケットやコートの肩が思い切りはみ出ていたり、いたるところに切り込みがあったり、パンツが超ワイド&ねじれのパターンワークだったりと、ルックでは伝わらない存在感がありました。マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)を彷彿させるマウンテンハットは「カシラ(CA4LA)」との、サングラスは「ブラン(BLANC)」とのコラボモデル。GUとの協業も記憶に新しいですが、こんな時だからこそ、いろんなものづくりに挑戦しようという三原デザイナーの気概が伺えました。

目にもやさしいアウトドアワールド

大塚:「ポール・スミス(PAUL SMITH)」の映像がビックリするぐらい進化していてきれいだったわ!まず空間ですよ。天井は水面のように優雅に波打ち、地面はパステルイエローでもはやヘヴン。:同様に、キーカラーの一つがイエローだったり、ヒマワリのモチーフを多用したり、レジャーへの欲求を優しく盛り込んでいたのかな。

美濃島:緑ではなく、イエローや赤などで自然を表現する感覚は、カラッとした気候を持つヨーロッパならではかも。水平線や地平線を思わせるボーダーも差し込み、自然の壮大さと優雅さ届けます。映像は徐々に照明が暗くなり、最後は夕日のような優しいオレンジに。音楽もゆったりしていて、とても癒されました。

大塚:アウトドア仕様のユーティリティージャケットや軽快なショーツを、テーラリングと自然に融合させるバランス感も素敵。何より、カラーリングのセンスで勝利です。マルチストライプのバッグもかわいかった。

美濃島:ペイントが途中で切れるクリエイションが可愛かったですね!僕は「ポーター(PORTER)」とのコラボバッグが気になりました。

超フリーダム&ジェンダーレス

大塚:最近の「ロエベ(LOEWE)」、めっちゃ好き。今シーズンはナイトクラブがインスピレーション源だから色使いがまあまあサイケだし、デヴィッド・シムズ(David Sims)撮影のルック写真も素人モデルを起用したフリーダムなムード。でも服の細部をよく見るとディテールが凝りまくっていて、「着てみたい」欲に駆られるんです

美濃島:ルックではサッカーしてたり、バイクに乗ってたり、目からビーム出しちゃったりと本当に自由。ロープを無数に垂らしたパンツやビーチでたむろする人々のイラスト、丸いくり抜きディテール、突如現れるサテンのリボンドレス、スパンコールでギラギラのワンピースなど、クリエイションの軸は正直よくわかりませんが、“洋服を通して楽しさを伝えたい”という思いはビシビシ伝わってきます。

大塚:クラフツマンシップを大切にするブランドは“服”というより“作品”になってしまうことも珍しくないのだけど、今シーズンの「ロエベ」はパワーみなぎるスタイルが先行しているからワクワクしたし、純粋に楽しかったよ。

美濃島:緑と黒のアナグラムの総柄は過去のシーズンからのキャリーオーバーで、サボテン由来のレザーなど、サステナブルな要素も盛り込みます。アイコンバッグ“パズル”はソフトな質感とビッグサイズにアレンジ。象のバスケットバッグはこれでもかと装飾され、持ち歩くだけで小さな悩みが吹き飛びそうでした。

冒頭のCGに一瞬ヒヤリ

大塚:「サルバム(SULVAM)」の映像は、まさかのゲームのようなCGからスタート!「え、こっちの方向性でいくの!?」と驚いていたら、キャラクターが手にするスマートフォンの中で人間が登場。正直、安心した(笑)。

美濃島:冒頭が意外すぎて、別ブランドの動画見てるのかと焦っちゃいました。モデルが登場しても背景がCGキャラの接写になり、終始集中力を削がれました。

大塚:テーラードやジェンダーフリュイドのフォームは変わらず、今回はものすごくテキスタイルを頑張ったのだなと伝わってきた。ピッチも太さもランダムなボーダー柄や編み地が多彩に変化するニット、アニマル柄のような複数のパターンなど、表面がめまぐるしく変化して面白かったな。ただ、個人的にやっぱり気になったのは真骨頂のテーラリング。序盤のネイビーパートのパイピングシリーズがかっこよかった。

美濃島:裏地を伸ばして揺らめかせたり、襟のパターンを左右で変化させたり、肩や裾をくりぬいたりとクラフト感あるテーラードも健在でしたね。水墨画のような和風な総柄は、軽やかだけど「ラルバム」らしい“悪さ”もあって個人的にドンピシャでした。

“超えられない山はない”

大塚:「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」の映像はロケーションがすごすぎ。「ファッションを通じて“超えられない山はない”」というたくましいメッセージを込めていたみたいなんだけど、壮大すぎて「っひゃー」って声出たわ。

美濃島:いやー、「ロードオブザリング」のワンシーンのみたいな映像でしたね。山のてっぺんでの撮影でしたが、あそこまでどうやって移動したんだろう。

大塚:今シーズンは都市生活とアウトドアの境界線の超越を目指したのだとか。ブランドとしてはずっと向き合ってきたテーマだとは思うけれど、あくまでファッションからのアプローチ。カラーパレットは必要最小限に、デザインとしても主張する機能的ディテールや花のモチーフがいっそう映えます。世間は自粛の反動でアウトドアへの欲求が高まっているし、ブランドにとっても追い風になるかもね。

美濃島:アウトドア市場は絶好調ですし、ファッション×アウトドアに参入するブランドは多いですが、ここまで高次元で融合させる技術とセンスはさすが。「バブアー(BARBOUR)」と協業したハンティングジャケットや「ダナー(DANNER)」とコラボしたモカシンブーツなど、人気のコラボも継続していました。

“いい子ちゃん”では終わらせない

大塚:「ダブレット(DOUBLET)」は前シーズンのほっこりムードから一転。パンク一直線のぶっ飛ばし系クリエイションで大笑いしました。会場は三鷹のオーガニック農園で、ティーザー画像もそこで飼っているヤギを前面に押し出すもんだから、てっきり地球に優しい系のほっこりクリエイションなんだろうなと思っていたのに、まんまとやられた。これ、絶対チームぐるみでの確信犯だよね(笑)。

美濃島:案内から完全に騙しにかかってました(笑)。会場でもディズニーみたいな平和なBGMが流れていたのに、ショーがスタートすると一転。ネオンが光りゴリゴリのパンクミュージックが鳴り響き、ヤンキーのようなスタイルが連発されます。マッシュルームレザーをはじめ、実はサステナブルな素材がふんだんに盛り込まれているそうで、スタイルとのギャップに驚かされました。ザ・真面目な優等生キャラは性に合わないのでしょうね。

大塚:モデルは実はオマージュキャラがいて、冒頭のナンシー・スパンゲン(Nancy Spungen)をはじめ、ジョン・ライドン(John Lydon)やスー・キャットウーマン(Sue Catwoman)、シンディ・ローパー(Cyndi Lauper)や映画「タクシードライバー」のトラヴィスとか、もはやパンクとか関係なくてんこ盛り。そういうキャラ探しも楽しいね。

美濃島:だ、誰1人気付きませんでした(汗)。そういうネタがあると何度も映像で確認したくなりますね。視聴者を飽きさせないコメディ要素が、デジタルコレクションには必要かもしれません。

若者路線は吉と出る?

大塚:「ダンヒル(DUNHILL)」は前シーズンから方向性を大胆チェンジ。Z世代を意識したクリエイションにガラリと変わったね。

美濃島:テーマは“アイデンティティー“。上質なジャケットをオーバーサイズで、そこにフーディーやシェル、キャップを合わせて着崩すスタイルです。若干既視感もありますが、今っぽいです。

大塚:今シーズンは春夏だからか、よりスポーティーでキャップやマーブル柄のアクセをぐいっと主張してくる感じ。もともとクラシックをモダンに進化させてきたブランドなだけに、とてもきれいにまとめているスタイルもあれば、ちょっと強引かもねーというルックがあるのも正直なところ。

美濃島:超かっこいいマーブル模様は、アメリカ人アーティストのエレン・キャリー(Ellen Carey)によるもの。トップスからハット、アイコン“ロックバッグ“にまで採用して、キャッチーさを添えていました。コートは下身頃を取り外してブルゾンとしても着られるギミック。いろんな挑戦が見られますが、消費者がどんな反応をするのか気になりますね。

大塚:センスがあるのは間違いないので、今後はZ世代に“「ダンヒル」である必要性”をどこで感じさせるのかに注目していきたいです。

超大作に込めたメッセージを勘ぐる

大塚:さあ、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」様がすごいの投下してきましたよ。パリメンズ最終日に30分の映像という超大作。ゆるみそうな気分がビシッと引き締まるわ(笑)。

美濃島:今シーズン最長じゃないですか?めちゃくちゃ構えてPCに向かうと、美しい原っぱを走る男子が映し出されました。

大塚:この男性がスポーツの祭典に出場するためにトレーニングを積む日常を過ごし、いよいよ本番の日を迎える。この時点ですでに16分。そして準備万端で競技場に足を踏み入れると……パーンとアニメーションに切り替わるという意外な展開に。シュールなアニメが約7分間続き、男の帰路を追いかけて映像が終了。音楽もいいし、映像もきれい。でもトム様、僕たちはこの映像で何を語ればよいのでしょうか(涙)。

美濃島:大塚さん、僕らは何も語らなくていいんです。朝日とともに目覚め、一日中草原を走り周り、心地よい疲労とともに家に帰り、夕日を眺めてから就寝する。途中までただそれだけの繰り返しですが、1日ごとの景色が違って見えて、人生は毎日の繰り返しなんだなと感動すら覚えました。コレクションビデオというより完全に映画。洋服はルックで見せればいい。全ブランドそれだと困りますが、これくらい作り込んでくれるなら大歓迎です。スーツスタイルに身を包んだときの高揚感は、ドレスアップとハレの場の大切さを物語っていました。すごい映像体験だったな。

コーマシャルも意識する大人な「ワイプロ」

大塚:はい、いよいよ終盤戦だよ!お次は「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクター就任でノリに乗ってるグレン・マーティンス(Glenn Martens)の「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」。今シーズンの映像は“Y”の字のランウエイを複数人のモデルたちがランダムに歩く演出。つまんだりねじったりするヒネリエイションは変わらずなのだけど、なんかこうコマーシャルを意識する余裕が出てきたというか。数年前までは足し算だらけで奇抜だったのか、いい意味できれいにまとめるセンスがついてきたのはやはり資金力からくるソレなのか。

美濃島:Yを模したピアスや布をねじったようなバッグなど、売れ線アイテムがちゃんと用意されてましたね。ネックがいくつもあったり、ウエストが二重になったりといつものグレン節のクリエイションですが、落ち着いたカラーパレットのためか落ち着いた印象も受けました。

大塚:途中から「フィラ(FILA)」とのがっつりコラボが出てきたね。

美濃島:「フィラ」とのコラボはロゴテープをぐるぐる巻いたり、前身頃が取り外せるスナップ式だったりと、実験的なアプローチが爆発していました。デジタルとフィジカルを組み合わせて“フィジタルショー“と冠していたのには笑いました。

「アリックス」からハードウエアがなくなった!

大塚:2022年春夏メンズの最後は、こちらも勢いに乗るマシュー・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)の「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」。映像のロケーションは広大な海がバックで、(まさか、トム様路線!?)と一瞬レッドブルを買いに行きかけたのだけど、こちらはリック様路線で、シンプルなランウエイショー形式の演出でした。

美濃島:リック様路線ですが、爽やかさは皆無。ざらついた質感とダイナミックな音楽で、おどろおどろしささえありました。

大塚:同じ海辺だけど、こっちは夕暮れ時だったしね。映像を手掛けたのは、アーティストのジョーダン・ヘミングウェイ(Jordan Hemingway)。ここのブランドは常に都会的なイメージを発信してきたから、自然の中で見るのは新鮮だったわ。海辺ランウエイから山ランウエイ、崖ランウエイなどシーンが多彩に切り替わるので飽きずに見られたし。

美濃島:人工的なクリエイションと自然のコントラストが際立った映像でしたね。モノトーンのカラーパレットやテック感のある素材感、直線的なパターンワークなどマシューらしさはうっすら続いていますが、代名詞のハードウエアが皆無。ぱっと見だと「1017 アリックス 9SM」だと気づかないかも。

大塚:スポーティーかつインダストリアルな一時期のウリを意図的に削ぎ落としているのかなと。よく見ると名残はあるのだけど、ストリートキッズたちが夢中になったバックルの“バ”の字もないからね。着やすくなっているのかもしれないけど、シグネチャーでしかできない冒険心も忘れないでほしいとは思うかな。

美濃島:かつてのやり方に飽きているならよいですが、意識的に削ぎ落としてるなら、むしろガンガンせめていって欲しいです。アクセサリーはけっこう頑張ってて、流線形のプラットホームサンダルはヒットしそうですね。

<後半戦を終えて>

美濃島:後半戦は予算のあるブランド多めで、どれも見応えがありました。個人的には「ポール・スミス」と「トム ブラウン」がヒット。各国でワクチン接種が進んでいるし、次はいよいよリアルショー復活かも。でも、映像は作り手のメッセージを込めやすいし、表現の幅が無限大なので、シーズンごとに最適な方法を選ぶのが当たり前になるといいですね。

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超大作の「トム ブラウン」、やさしさにあふれた「ポール・スミス」などパリメンズ後半を先輩後輩がプレイバック 「アリックス」「ワイプロ」は変化の兆し

 2022年春夏メンズコレクションは、ロンドンとミラノが終了し、舞台はパリへ。海外からの現地リポートも随時更新中ですが、ここでは日本でリモート取材中の先輩&後輩コンビがダイジェスト対談をお届けします。ここでは、後半(6月26〜28日)に登場した11ブランドをプレイバック!ヤギがいたり、目からビームが出たり、30分の超大作があったりと、後半も情報量多めでお伝えします。

【対談メンバー】
先輩・大塚:海外コレクション取材歴5年目。「WWDJAPAN」副編集長。昨年からランニングにハマって2ケタ減量に成功。サイズダウンによりファッション欲がさらに上昇。

後輩・美濃島:昨年から海外コレクション取材をスタート。「WWDJAPAN」記者としてデザイナーズやスポーツを取材するも、最近みるみる巨大化。サイズアウトする服が続出。

実験的映像でブランドの武器をアピール

大塚:「カラー(KOLOR)」はまたすごい見せ方だったねー。トレッドミルのようなマシンをモデルがウオーキングして服の動きを見せつつつ、無人カメラがディテールをクローズアップするという手法。

美濃島:360度カメラを使った2021年春夏に似てると思ったら、今回も映像作家・田中裕介さんのディレクションでした。サカナクション山口一郎さんが担当した音楽は、静かなテクノで映像に集中できるし、盛り上げるとこは盛り上げてくれて飽きず見られました。

大塚:見た目は何だか近未来っぽくてすごいんだけど、“静”と“動”を両立させて服の魅力を分かりやすく伝えられる。とっても理にかなっている手法だと思った。特に「カラー」のような大胆さと緻密さを併せ持つブランドにはピッタリ。今回も異素材ミックスやパーツのコラージュがすごかったね。

美濃島:ワンピースに襟を4つ重ねたニットポロを組み合わせたり、ロングシャツの見頃に左右異なるシャツをくっつけたり、ピークドラペルのジャケットの襟の上にショールカラーのニットを合わせたり。ぱっと見どうなってるかわからないほど複雑な組み合わせなのに、素材や色合いが計算し尽くされていて全く破綻していません。少女漫画のプリントなど、攻めのモチーフもあってその振り幅も面白かったです。

まかさの“お寺ンウエイ” モデルが本堂に集結

大塚:「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」の日本シリーズがいよいよ極まってきた。今回の舞台はお寺で、まさかの寺ンウエイ。「幽玄」をテーマに、ブランドらしいエッジを効かせたストリートウエアのディテールを盛り込んでました。僧衣を思わせるトップスのシルエットや、着たときにドレープが生まれるバイアスのカッティング、ややくすんだカラーパレットは、時間の経過によって朽ちていく物の美しさを表現しているのだとか。今シーズンは「カサブランカ(CASABLANCA)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」も日本をテーマにしていたけれど、本家の表現はやっぱりひと味違うわ。どちらが大衆に受け入れられるかどうかはさておき、ギリギリの表現に挑んだ姿勢は素晴らしい。

美濃島:最後、本堂にモデルが集結するシーンはなかなかシュールでしたが(笑)、日本ブランドというイメージ作りは文句なしで1位です。はかまのようなワイドショーツや頭から顔を袈裟で包む“裏頭(かず)”に着想したフードブルゾンなど、自衛のために武装した僧侶“Warrior Monk”をスポーツウエアをベースに表現していました。日本の伝統を感じさせるパキっとした赤に、未来的なリフレクター素材を織り交ぜるなど、時代を超越する組み合わせも面白かった。

スナック、空港、ダイバーシティ
映像という“おもちゃ”を存分に楽しむ

大塚:「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」は空港での撮影だったのかな?前シーズンの映像でも登場した場末っぽいスナックから始まり、しかもカラオケのムービーにまたプレスの佐藤さんが出演していて笑っちゃった。美濃島さんは現場も取材したんだよね?

美濃島:はい、羽田空港第2ターミナルでの撮影でした。某アーティストのMVにインスパイアされてこのロケーションを選んだのですが、通常なら絶対に使用許可は降りない場所。今した実現しない映像なので、作り手も受け手も「ああ、あの時撮ったんだな」とメモリアルなシーズンになったと思います。

大塚:前回のコマ送り映像もすごい労力だったそうだけど、今回は意外とさらっとしてなね。

美濃島:映像はシンプルですが、実は演出にすごく凝ってるんです。多様性を表現するため50人以上のモデルが登場し、モデル1人1人に「虫取り網」「ダンス」「テニス」「マジック」などの演技テーマを設定。演技を嘘くさいものにしないため、オーディション時に趣味や特技をヒアリングしたそうです。当日も「動かされてるんじゃなく、自分から動く感じで」と自ら指導する姿があり、三原康弘デザイナーの妥協なき姿勢にシビれました。「次はリアルだから、映像はこれが最後。映像という“おもちゃ“を思う存分楽しみたい」という三原康弘デザイナーの思いが詰まっています。

大塚:前回は三原デザイナーも映像に登場してたけど、今回はどうだったのかな?

美濃島:警備員を模して、オレンジのつなぎ姿でちらっと登場しています。スナックを舞台とした冒頭など、クスっと笑える要素を盛り込むのは、「普通にショーを見せても早送りしたくなる。飽きずに見てもらうには、コメディが大事だ」と考えているから。三原デザイナーは毎シーズン、各ブランドの映像をくまなくチェックするそうで、長年業界をけん引し続けているのは、この姿勢があるからんだなと感服しました。

大塚:うわー、本当にすごいね。発表形式が変わって一番大変なのはブランドのはずなのに。常に前を向いてる姿勢にこちらが元気づけられるよ。

美濃島:バチバチの演奏を披露していたのは、インストバンドLITE。「ショーの演奏は初めて。しかも『ミハラ ヤスヒロ』で、こんな場所できるなんて、事件です」と語っていましたが、緊張した様子はなく、毎回最高の演奏でした。ライブシーンではモデルたちも自然と体が揺れ、本当のライブのよう。映像にBGMを後乗せするだけでもいいですが、ここでもリアルの強さが出たと思います。

大塚:服はいつもよりも少し大人の印象を受けたのだけど、実際もそんな感じ?

美濃島:黒やカーキ、ベージュなど落ち着いた色味がベースですが、ジャケットやコートの肩が思い切りはみ出ていたり、いたるところに切り込みがあったり、パンツが超ワイド&ねじれのパターンワークだったりと、ルックでは伝わらない存在感がありました。マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)を彷彿させるマウンテンハットは「カシラ(CA4LA)」との、サングラスは「ブラン(BLANC)」とのコラボモデル。GUとの協業も記憶に新しいですが、こんな時だからこそ、いろんなものづくりに挑戦しようという三原デザイナーの気概が伺えました。

目にもやさしいアウトドアワールド

大塚:「ポール・スミス(PAUL SMITH)」の映像がビックリするぐらい進化していてきれいだったわ!まず空間ですよ。天井は水面のように優雅に波打ち、地面はパステルイエローでもはやヘヴン。:同様に、キーカラーの一つがイエローだったり、ヒマワリのモチーフを多用したり、レジャーへの欲求を優しく盛り込んでいたのかな。

美濃島:緑ではなく、イエローや赤などで自然を表現する感覚は、カラッとした気候を持つヨーロッパならではかも。水平線や地平線を思わせるボーダーも差し込み、自然の壮大さと優雅さ届けます。映像は徐々に照明が暗くなり、最後は夕日のような優しいオレンジに。音楽もゆったりしていて、とても癒されました。

大塚:アウトドア仕様のユーティリティージャケットや軽快なショーツを、テーラリングと自然に融合させるバランス感も素敵。何より、カラーリングのセンスで勝利です。マルチストライプのバッグもかわいかった。

美濃島:ペイントが途中で切れるクリエイションが可愛かったですね!僕は「ポーター(PORTER)」とのコラボバッグが気になりました。

超フリーダム&ジェンダーレス

大塚:最近の「ロエベ(LOEWE)」、めっちゃ好き。今シーズンはナイトクラブがインスピレーション源だから色使いがまあまあサイケだし、デヴィッド・シムズ(David Sims)撮影のルック写真も素人モデルを起用したフリーダムなムード。でも服の細部をよく見るとディテールが凝りまくっていて、「着てみたい」欲に駆られるんです

美濃島:ルックではサッカーしてたり、バイクに乗ってたり、目からビーム出しちゃったりと本当に自由。ロープを無数に垂らしたパンツやビーチでたむろする人々のイラスト、丸いくり抜きディテール、突如現れるサテンのリボンドレス、スパンコールでギラギラのワンピースなど、クリエイションの軸は正直よくわかりませんが、“洋服を通して楽しさを伝えたい”という思いはビシビシ伝わってきます。

大塚:クラフツマンシップを大切にするブランドは“服”というより“作品”になってしまうことも珍しくないのだけど、今シーズンの「ロエベ」はパワーみなぎるスタイルが先行しているからワクワクしたし、純粋に楽しかったよ。

美濃島:緑と黒のアナグラムの総柄は過去のシーズンからのキャリーオーバーで、サボテン由来のレザーなど、サステナブルな要素も盛り込みます。アイコンバッグ“パズル”はソフトな質感とビッグサイズにアレンジ。象のバスケットバッグはこれでもかと装飾され、持ち歩くだけで小さな悩みが吹き飛びそうでした。

冒頭のCGに一瞬ヒヤリ

大塚:「サルバム(SULVAM)」の映像は、まさかのゲームのようなCGからスタート!「え、こっちの方向性でいくの!?」と驚いていたら、キャラクターが手にするスマートフォンの中で人間が登場。正直、安心した(笑)。

美濃島:冒頭が意外すぎて、別ブランドの動画見てるのかと焦っちゃいました。モデルが登場しても背景がCGキャラの接写になり、終始集中力を削がれました。

大塚:テーラードやジェンダーフリュイドのフォームは変わらず、今回はものすごくテキスタイルを頑張ったのだなと伝わってきた。ピッチも太さもランダムなボーダー柄や編み地が多彩に変化するニット、アニマル柄のような複数のパターンなど、表面がめまぐるしく変化して面白かったな。ただ、個人的にやっぱり気になったのは真骨頂のテーラリング。序盤のネイビーパートのパイピングシリーズがかっこよかった。

美濃島:裏地を伸ばして揺らめかせたり、襟のパターンを左右で変化させたり、肩や裾をくりぬいたりとクラフト感あるテーラードも健在でしたね。水墨画のような和風な総柄は、軽やかだけど「ラルバム」らしい“悪さ”もあって個人的にドンピシャでした。

“超えられない山はない”

大塚:「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」の映像はロケーションがすごすぎ。「ファッションを通じて“超えられない山はない”」というたくましいメッセージを込めていたみたいなんだけど、壮大すぎて「っひゃー」って声出たわ。

美濃島:いやー、「ロードオブザリング」のワンシーンのみたいな映像でしたね。山のてっぺんでの撮影でしたが、あそこまでどうやって移動したんだろう。

大塚:今シーズンは都市生活とアウトドアの境界線の超越を目指したのだとか。ブランドとしてはずっと向き合ってきたテーマだとは思うけれど、あくまでファッションからのアプローチ。カラーパレットは必要最小限に、デザインとしても主張する機能的ディテールや花のモチーフがいっそう映えます。世間は自粛の反動でアウトドアへの欲求が高まっているし、ブランドにとっても追い風になるかもね。

美濃島:アウトドア市場は絶好調ですし、ファッション×アウトドアに参入するブランドは多いですが、ここまで高次元で融合させる技術とセンスはさすが。「バブアー(BARBOUR)」と協業したハンティングジャケットや「ダナー(DANNER)」とコラボしたモカシンブーツなど、人気のコラボも継続していました。

“いい子ちゃん”では終わらせない

大塚:「ダブレット(DOUBLET)」は前シーズンのほっこりムードから一転。パンク一直線のぶっ飛ばし系クリエイションで大笑いしました。会場は三鷹のオーガニック農園で、ティーザー画像もそこで飼っているヤギを前面に押し出すもんだから、てっきり地球に優しい系のほっこりクリエイションなんだろうなと思っていたのに、まんまとやられた。これ、絶対チームぐるみでの確信犯だよね(笑)。

美濃島:案内から完全に騙しにかかってました(笑)。会場でもディズニーみたいな平和なBGMが流れていたのに、ショーがスタートすると一転。ネオンが光りゴリゴリのパンクミュージックが鳴り響き、ヤンキーのようなスタイルが連発されます。マッシュルームレザーをはじめ、実はサステナブルな素材がふんだんに盛り込まれているそうで、スタイルとのギャップに驚かされました。ザ・真面目な優等生キャラは性に合わないのでしょうね。

大塚:モデルは実はオマージュキャラがいて、冒頭のナンシー・スパンゲン(Nancy Spungen)をはじめ、ジョン・ライドン(John Lydon)やスー・キャットウーマン(Sue Catwoman)、シンディ・ローパー(Cyndi Lauper)や映画「タクシードライバー」のトラヴィスとか、もはやパンクとか関係なくてんこ盛り。そういうキャラ探しも楽しいね。

美濃島:だ、誰1人気付きませんでした(汗)。そういうネタがあると何度も映像で確認したくなりますね。視聴者を飽きさせないコメディ要素が、デジタルコレクションには必要かもしれません。

若者路線は吉と出る?

大塚:「ダンヒル(DUNHILL)」は前シーズンから方向性を大胆チェンジ。Z世代を意識したクリエイションにガラリと変わったね。

美濃島:テーマは“アイデンティティー“。上質なジャケットをオーバーサイズで、そこにフーディーやシェル、キャップを合わせて着崩すスタイルです。若干既視感もありますが、今っぽいです。

大塚:今シーズンは春夏だからか、よりスポーティーでキャップやマーブル柄のアクセをぐいっと主張してくる感じ。もともとクラシックをモダンに進化させてきたブランドなだけに、とてもきれいにまとめているスタイルもあれば、ちょっと強引かもねーというルックがあるのも正直なところ。

美濃島:超かっこいいマーブル模様は、アメリカ人アーティストのエレン・キャリー(Ellen Carey)によるもの。トップスからハット、アイコン“ロックバッグ“にまで採用して、キャッチーさを添えていました。コートは下身頃を取り外してブルゾンとしても着られるギミック。いろんな挑戦が見られますが、消費者がどんな反応をするのか気になりますね。

大塚:センスがあるのは間違いないので、今後はZ世代に“「ダンヒル」である必要性”をどこで感じさせるのかに注目していきたいです。

超大作に込めたメッセージを勘ぐる

大塚:さあ、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」様がすごいの投下してきましたよ。パリメンズ最終日に30分の映像という超大作。ゆるみそうな気分がビシッと引き締まるわ(笑)。

美濃島:今シーズン最長じゃないですか?めちゃくちゃ構えてPCに向かうと、美しい原っぱを走る男子が映し出されました。

大塚:この男性がスポーツの祭典に出場するためにトレーニングを積む日常を過ごし、いよいよ本番の日を迎える。この時点ですでに16分。そして準備万端で競技場に足を踏み入れると……パーンとアニメーションに切り替わるという意外な展開に。シュールなアニメが約7分間続き、男の帰路を追いかけて映像が終了。音楽もいいし、映像もきれい。でもトム様、僕たちはこの映像で何を語ればよいのでしょうか(涙)。

美濃島:大塚さん、僕らは何も語らなくていいんです。朝日とともに目覚め、一日中草原を走り周り、心地よい疲労とともに家に帰り、夕日を眺めてから就寝する。途中までただそれだけの繰り返しですが、1日ごとの景色が違って見えて、人生は毎日の繰り返しなんだなと感動すら覚えました。コレクションビデオというより完全に映画。洋服はルックで見せればいい。全ブランドそれだと困りますが、これくらい作り込んでくれるなら大歓迎です。スーツスタイルに身を包んだときの高揚感は、ドレスアップとハレの場の大切さを物語っていました。すごい映像体験だったな。

コーマシャルも意識する大人な「ワイプロ」

大塚:はい、いよいよ終盤戦だよ!お次は「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクター就任でノリに乗ってるグレン・マーティンス(Glenn Martens)の「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」。今シーズンの映像は“Y”の字のランウエイを複数人のモデルたちがランダムに歩く演出。つまんだりねじったりするヒネリエイションは変わらずなのだけど、なんかこうコマーシャルを意識する余裕が出てきたというか。数年前までは足し算だらけで奇抜だったのか、いい意味できれいにまとめるセンスがついてきたのはやはり資金力からくるソレなのか。

美濃島:Yを模したピアスや布をねじったようなバッグなど、売れ線アイテムがちゃんと用意されてましたね。ネックがいくつもあったり、ウエストが二重になったりといつものグレン節のクリエイションですが、落ち着いたカラーパレットのためか落ち着いた印象も受けました。

大塚:途中から「フィラ(FILA)」とのがっつりコラボが出てきたね。

美濃島:「フィラ」とのコラボはロゴテープをぐるぐる巻いたり、前身頃が取り外せるスナップ式だったりと、実験的なアプローチが爆発していました。デジタルとフィジカルを組み合わせて“フィジタルショー“と冠していたのには笑いました。

「アリックス」からハードウエアがなくなった!

大塚:2022年春夏メンズの最後は、こちらも勢いに乗るマシュー・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)の「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」。映像のロケーションは広大な海がバックで、(まさか、トム様路線!?)と一瞬レッドブルを買いに行きかけたのだけど、こちらはリック様路線で、シンプルなランウエイショー形式の演出でした。

美濃島:リック様路線ですが、爽やかさは皆無。ざらついた質感とダイナミックな音楽で、おどろおどろしささえありました。

大塚:同じ海辺だけど、こっちは夕暮れ時だったしね。映像を手掛けたのは、アーティストのジョーダン・ヘミングウェイ(Jordan Hemingway)。ここのブランドは常に都会的なイメージを発信してきたから、自然の中で見るのは新鮮だったわ。海辺ランウエイから山ランウエイ、崖ランウエイなどシーンが多彩に切り替わるので飽きずに見られたし。

美濃島:人工的なクリエイションと自然のコントラストが際立った映像でしたね。モノトーンのカラーパレットやテック感のある素材感、直線的なパターンワークなどマシューらしさはうっすら続いていますが、代名詞のハードウエアが皆無。ぱっと見だと「1017 アリックス 9SM」だと気づかないかも。

大塚:スポーティーかつインダストリアルな一時期のウリを意図的に削ぎ落としているのかなと。よく見ると名残はあるのだけど、ストリートキッズたちが夢中になったバックルの“バ”の字もないからね。着やすくなっているのかもしれないけど、シグネチャーでしかできない冒険心も忘れないでほしいとは思うかな。

美濃島:かつてのやり方に飽きているならよいですが、意識的に削ぎ落としてるなら、むしろガンガンせめていって欲しいです。アクセサリーはけっこう頑張ってて、流線形のプラットホームサンダルはヒットしそうですね。

<後半戦を終えて>

美濃島:後半戦は予算のあるブランド多めで、どれも見応えがありました。個人的には「ポール・スミス」と「トム ブラウン」がヒット。各国でワクチン接種が進んでいるし、次はいよいよリアルショー復活かも。でも、映像は作り手のメッセージを込めやすいし、表現の幅が無限大なので、シーズンごとに最適な方法を選ぶのが当たり前になるといいですね。

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すごすぎて夢に出てきた「ディオール」から個性派集うアングラショーまで 2022年春夏メンズコレ現地突撃リポートVol.5

 2022年春夏シーズンのコレクションサーキットが本格開幕した。ほぼデジタル発表だった前シーズンから世界の状況は少しずつ好転し始めており、リアルでのショーやプレゼンテーションを開催するブランドも増えた。パンデミックを経て街はどう変化し、ファッション・ウイークはどう進化しているのか。現地からリポートする。

 こんにちは!パリコレ3日目は曇り時々雨、最高気温22度。そろそろファッション・ウイークの寝不足が目の下のクマとなって表れ始めております……。コンシーラーの使用量多めですが、コンディションは良好。体温も平熱36.4度を確認したところで、パリコレ3〜4日目も“現突リポ(現地突撃リポート)”元気にいきましょ〜!

6月24日 13:00 クレージュ

 まずは、パリメンズ2日目にデジタル形式でコレクションを発表した「クレージュ(COURREGES)」の展示会へ。別記事でお伝えした通り、スクリーン越しで見たコレクションはインパクトのあるルック少なめでした。展示会で実際に見ると、構築的なパターンで作られたミニマルなフォームで、「クレージュ」のDNAを引き継いでいることがよく分かります。ただ、やっぱりコレといって特徴を見つけられませぬ。好みだったのは、やわらかいラムレザーのロングコートです。私が着るとまたしても魔女感が拭えませんが、タイムレスで長く着られるそう。同時に発表したウィメンズのプレ・コレクションは、大胆さとヘルシーなセクシーさがあって好感。ルックで見て気になっていた、存在感のあるロゴの形をしたピアスは重めなので着けるだけで福耳になれそう(笑)。

6月24日 14:00 ショップリサーチ

 時間があるので、「クレージュ」の展示会場周辺にあるショップをチェックしに行きました。2019年春にオープンしたシャンゼリゼ通りのギャラリー・ラファイエット​(GALERIES LAFAYETTE)には、「ロンシャン(LONGCHAMP)」と「ポケットモンスター(POKEMON)」のピカチュウとのコラボレーション「ロンシャンxポケモンのインスタレーションが!百貨店内には「ジャックムス(JACQUEMUS)」のカフェを構えるなどオープン時こそ話題になりましたが、その後は長く続いたデモ運動(黄色いベスト運動)とロックダウンの影響でシャンゼリゼ通りの人通りも少なく、かなり苦戦している印象です。個人的には、スペースの割に商品を並べすぎているマーチャンダイジングがあまり好みではなく、半年に1回覗く程度でした。ウィメンズのスペースには「ルメール(LEMAIRE)」「マテリアル(MATERIAL)」「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のラックが、メンズには「アー・ペー・セー(A.P.C.)」と「ヘロン・プレストン(HERON PRESTON)」のラックが隣同士になっていて、世界観の異なるブランドを近くに置いちゃう感じがちょっと疑問です。

 今年2月にオープンした「キス(KITH)」にも久々に立ち寄ってみました。オープン当初、衛生基準規則に従い、店内の混雑を避けるため来店はオンラインでの事前予約制でしたが、現在は予約無しでも入店可能。メンズとウィメンズウエア共に、オリジナルブランドの割合が増えていました。セレクトブランドは「フィアー オブ ゴッド(FEAR OF GOD)」「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「モンクレール(MONCLER)」「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME DES GARCONS JUNYA WATANABE MAN)」で、商品数も減少していました。木曜日のお昼どきでも客入りは上々で、1週間前にオープンしたショップ内併設のレストラン「サデルズ(SADELLE ’S)」のテーブルもほぼ埋まっていました。フランスのショップスタッフって態度が冷たいことがたまにあるのですが、「キス」の販売員さんはいつ行ってもフレンドリー。ちなみに態度が冷たいのは差別ではなく、フランス人は気分屋なので、単純に本人の気分の問題です(笑)。フランスに住んで5年経ちますが、コロナ禍でも私個人は差別的な態度を受けた経験はありません。むしろフランス人は「日本ラブ」って感じで、たまに圧倒されちゃうくらい。

6月24日 17:00 ニース ナイアー

 今シーズンはオフスケジュールでリアルなイベントを行うブランドはほとんどありませんでしたが、「ニース ナイアー(NEITH NYER)」のショーだけは参加。「ジバンシィ(GIVENCHY)」や「カルヴェン(CARVEN)」でキャリアを積んだ、ブラジル出身のフランシスコ・テーラ(Francisco Terra)=クリエイティブ ディレクターが2013年に立ち上げたブランドです。2018年にはフランス国立モード芸術開発協会が主催する「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award)」のファイナリストに選出されました。今季はかなりメルヘンな世界観で、ハート型にカットアウトされたボディーコンシャスなドレスがピンクや赤、レインボーの色彩で登場し、服というより衣装っぽかった(きゃりーぱみゅぱみゅが着てそう)。オフスケジュールのショーは、ブランドがニッチなだけにコミュニティーのつながりが強いんです。ブランドの服を着た個性派な来場者が集い、「ファッションって楽しい!」って感じがめちゃくちゃ伝わってくるので大好き。特に気になった方々の写真を撮らせてもらいました。

6月24日 19:00 ドリス ヴァン ノッテン

 映像で発表した「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は“Greetings From Antwerp”がテーマ。映像はデザイナーのドリスから届いたグリーティングカードのような内容で、ブランドの拠点であるベルギー・アントワープの街並みを背景にルックが次々に入れ替わります。全体的にイージーフィットで、ショーツやシャワーサンダルなどのラフなアイテムがリラックスムードを後押し。BGMのプライマル・スクリーム(Primal Scream)“Loaded”ともぴったりの雰囲気で癒されました。全体は落ち着いた色使いで、時折差し込むポップなカラーのグラフィックがエネルギッシュ。ドリスからのグリーティングカードを言葉で表現するなら、「僕はアントワープで元気にやってるよ。離れていてもお互い頑張ろうね!」といったポジティブなメッセージを受け取りました。

6月24日 20:00 アクネ ペーパーのカクテルパーティー

 夜は、「アクネ ストゥディオス(ACNE STUDIOS)」が手掛ける雑誌「アクネ ペーパー(Acne Paper)」のリローンチを記念したカクテルパーティーに参加しました。1階には南アフリカ出身のフォトグラファー、クリストファー・スミス(Christopher Smith)の写真が展示され、2階には2005〜14年に年2回発行されていたアーカイブが並びます。586ページにおよぶビジュアル重視のフォトブックは、"印刷物は死んでいない"と強く主張するような面持ち。ファッション関係者が集い、知人との再会を喜ぶ華やかな雰囲気のパーティーで、リアルでのつながりや、人や紙に触れて五感で感じる幸せを改めて実感しました。日本では7月9日に復刊するそうです。

6月25日 12:00 ナマチェコ

 パリメンズ4日目はまず「ナマチェコ(NAMACHEKO)」の展示会へ、デジタル発表前日に行ってきました。今季のテーマは童話“みにくいアヒルの子”です。アヒルの群れで育った鳥の雛が、やがて成長して美しい白鳥になる物語に、ディラン・ルー(Dilan Lurr)「ナマチェコ」デザイナーが自身の経験を重ね合わせたようです。ルーは「イラクのクルド地域出身で、スウェーデンの町で唯一の移民として育った僕のバックグラウンドを振り返ったんだ。他者と異なるという事実は、僕のアイデンティティーを形成する過程で大きな影響を与えた。美しさやみにくさとは何なのかを考えて、コレクション制作に取り組んだ」と教えてくれました。

 1970年代のワークウエアの要素を取り入れながら、シルエットやデザインによって未来的なムードも盛り込みます。さらに、赤や青といった原色、多彩なグリーンのカラーパレットはこれまでで最もカラフル。「好きではないものを取り入れようと思った。例えば、抹茶ラテみたいなグリーンは本来僕の好みじゃない。でも異なる要素をミックスさせることで、みにくいものが美しく変わるのだと示したかった」とルー。ほかにも彼の好みでないというPVCレザーやコインのディテールも目を引きました。ブランドの主力商品であるニットには、グリーン&ほつれという、(彼が思う)みにくさを盛り込んだそう。私にとってこのグリーンは、吉本新喜劇に出演している全身緑のスーツの中條健一っぽくて、なんか笑っちゃう(関西人にしか伝わらないので気になる方は“新喜劇 緑”でググってみてください)。

6月25日 14:30 ディオール

 ついに、今季のパリメンズの注目度ナンバーワンである「ディオール(DIOR)」のショーのお時間です。トラヴィス・スコット(Travis Scott)とのコラボレーションとあって、会場周辺のカメラマンの数や人だかりの大きさはダントツ!「本来のファッション・ウイークの姿が戻ってきた」と強く実感した光景でした。入り口でマスクを受け取りアルコール除菌をして、いざ会場内へ。ゲストは400人ほどで、ソーシャルディスタンスを守って座席が配置されていました。トラヴィスが屈強なボディガード5人に囲まれながら最前席に座ると、約30分遅れでショーが開始(彼はランウエイを挟んで私の向かいに!)。

 いや〜〜すごい!!!ヒップホップとエレガンスが協和すると、こんなに美しいルックが生まれるなんて!キム・ジョーンズ(Kim Jones)は想像をはるかに超えてきました。メゾンのコードが拡張され、さらに進化するすごい瞬間を目の当たりにしたような気分!あと印象に残ったのは、トラヴィスが手掛けた音楽が良すぎて、ショーの間ゲストがノリノリでリズムをとっていたことです。ショーの後も興奮冷めやらぬまま、会場の様子やコレクションの内容、そして来場者スナップを記事化したので別記事をチェックしてみてください。私の中でショーが相当印象に残ったのでしょう。この日の夜は、トラヴィス・スコットとセーヌ川沿いを散歩している夢を見ました(笑)。

6月25日 17:00 オフィシン ジェネラーレ

 2012年に設立された「オフィシン ジェネラーレ(OFFICINE GENERALE)」のショーはとってもリアルクローズ。会場はドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS)の店舗としてリノベーション中の、オテル・パティキュリエ(Hotel Particulier)です。今季は仕立て屋だった祖父のスタイルをベースに、ロックダウン中に見かけたパリジャンからインスピレーションを多く受け取ったそうです。テーラードとスラックスにTシャツを合わせたり、かぎ編みニットとショーツのスタイリングなど、パリの高級住宅地16区を歩いていると見かけるパリジャンそのもの!ルックの中で一番パリジャンらしくて“あるある”なのが、テーラードジャケットを腰に巻いちゃうラフなスタイルです。

6月25日 19:30 ヴェトモン

 「ヴェトモン(VETEMENTS)」はメンズとウィメンズの129ものルック画像が高速で切り替わる動画を約1カ月前に発表済み。今回のパリメンズの公式スケジュールでは“Secret Project”と題したティザー動画を公開しました。ただし動画だけでは詳しい内容は謎のまま。リリースには「ヴァザリア・ファミリー財団(Gvasalia Family Foundation)は、若い才能のための多次元プラットフォームとなる新しい実験的ラボを開始します。これはいつの日か、コワーキングスペースを再定義し、経験を共同制作することで、従来のコングロマリット構造に取って代わる可能性があります」と記されていました。プロジェクトは生産から流通、財政支援を提供するもので、ビッグプロジェクトの第1弾として7月22日に新ブランドをローンチするようです。今のところ情報は以上!とりあえず今は、焦らされながら待ちましょう。

6月25日 20:30 ゲーエムベーハー

 パリメンズ4日目の最後は、「ゲーエムベーハー(GMBH)」のデジタル発表です。「なんともコメントしずらいなぁ」と、映像を見た直後にポロッと本音が漏れました。映像の最初にテーマ“White Noise”と表示された瞬間から何かイヤな予感が……。トルコ系ドイツ人のセルハト・イシク(Serhat Isık)とノルウェーとパキスタンにルーツを持つジャミン・A・フゼビー(Benjamin A. Huseby)の中東系のデザイナーデュオが付けたタイトルなので、Whiteは白ではなく“白人”を意味していると容易に分かりました。Noiseの直訳は“雑音”で、白人に対してあまりポジティブな表現ではありません。キャスティングされたのは、茶褐色系の肌の色をしたモデルのみ。ルックはどこかに白を使うか、白で薄めた色(淡いパープル、ピンク、ブルーなど)が用いて“白”を探求したのでしょう。上下デニムやファー、乗馬ブーツなどが登場しましたが、まとまりがないうえに新鮮さもなく、私の頭の中は(???)だらけ。“Free Palestine(パレスチナ解放)”の文字だけが、宗教と政治の問題により中東の国々で衝突が激しさを増す今を象徴するもので、それ以外のデザインは意図が正直分かりません。

 怒りなどのネガティブな感情を原動力にして創作に取り組むデザイナーは過去にもいましたし、陰があるから陽が際立つのだと証明してくれた事例も多々ありました。しかし今シーズンの「ゲーエムベーハー」は陰もなければ陽もありません。何より、ある特定の人種に対するネガティブな言葉を私は見たくありませんでした。むしゃくしゃするので、最後に美味しいパンを食べることにしましょう。

本日のパン

 日本でも主流のクロワッサンやパンオショコラを、ぺちゃんこにしたような形のパンが私のお気に入り。それぞれクロワッサン・ザマンド、パンオショコラ・アマンドという名前で、今日はパンオショコラの方にしました。生地にアーモンドクリームを混ぜて焼き上げた進化系のパンで、クロワッサンとパンオショコラよりもしっとりしています。想像通り甘〜〜いのでコーヒーと相性抜群!朝食メニューを23時に食べております(笑)。パリメンズも残すところ後2日、おいしいパンと気合いで乗り切れそうです!

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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圧倒的世界観の「LV」や緊急参加の「バーバリー」などパリメンズ前半を先輩後輩がプレイバック 「イッセイ」「ヨウジ」ら日本勢も健闘

 2022年春夏メンズコレクションは、ロンドンとミラノが終了し、舞台はパリへ。海外からの現地リポートも随時更新中ですが、ここでは日本でリモート取材中の先輩&後輩コンビがダイジェスト対談をお届けします。今回は前半(6月23〜25日)に登場した9ブランドをプレイバック!日本勢の活躍も要チェックです。

【対談メンバー】
先輩・大塚:海外コレクション取材歴5年目。「WWDJAPAN」副編集長。昨年からランニングにハマって2ケタ減量に成功。サイズダウンによりファッション欲がさらに上昇。

後輩・美濃島:昨年から海外コレクション取材をスタート。「WWDJAPAN」記者としてデザイナーズやスポーツを取材するも、最近みるみる巨大化。サイズアウトする服が続出。

“本能のままに”を突き詰めた地獄

大塚:まずはパリメンズ公式参加2回目となる「キディル(KIDILL)」。いやー、過去最高にこじらせとったねえ(笑)。ショー前に末安弘明デザイナーから「地獄を見せます」と宣言されて、「いやいやそんな大げさな」と軽く受け止めていたら、思ったより地獄だった。会場が東京・赤坂の草月会館にあるホール“天国”だっただけに、さらに異質さが際立っていたわ。

美濃島:僕はバックステージから取材したのですが、リハからぶっ飛ばしてました(笑)。イギリス人のグラフィックアーティスト、トレヴァー・ブラウン(Trevor Brown)とのコラボレーション。口紅をいびつに塗りたくった少女や首が落ちたラブドールなど、おどろおどろしいモチーフをキャッチーに描いたグラフィックを、オーバーサイズのシャツやブルゾンなどに落とし込んでました。

大塚:プリントや加工を個々に見るとかわいくて楽しいんだけど、純真無垢に足し算されていくと、徐々に狂気じみて「おいおいおい」となっていくというね。何ごとにもピュアすぎてちょっと怖い人ってたまにいるじゃない?そんな感じ。世界でいろいろなコレクションをいろいろ見てきたけれど、地獄レベルはトップクラスでした。

美濃島:Tシャツや素肌をロープで縛ったスタイルは、ロープアーティストのハジメ・キノコによるもの。グラフィック表現の自由さと、緊縛による身体の不自由さが混在し、コレクションの狂気をさらに加速させます。

大塚:これまでも末安デザイナーは内面にある狂気や偏愛に向き合っていたのだけど、今思えば、それらをスタイルに落とし込んでいたのかなと。今シーズンはまず感情から湧き出るクリエイションを先行させて、最終的にスタイルに仕上げていた印象。だから過剰なディテールがいつも以上に際立って見えた。

美濃島:きわめつけは、ノイズバンド非常階段のボーカルJUNKOさんのパフォーマンス。ショーの途中から聞こえる「キィイアアア」という叫びからは、“本能のままに表現しよう”というメッセージを感じました。

生地の発明をスタイルへ “怒り”を込めたクリエイション

大塚:「ターク(TAAKK)」は映像公開前にリアルショーを見てきました。“地球”から着想を得たコレクションで、ブランドの転機になった20年春夏の“WEAR THE EARTH”を拡張させた印象です。

美濃島:おっしゃる通り、生地のグラデーションに合わせて儚い桜を刺しゅうしたり、色をベージュからカーキへ大胆に変化させたりと、過去に開発した「これだ!」という生地をスタイルに落とし込むひと工夫が光っていました。

大塚:そうそう。「キディル」とは逆で、スタイリングもイメージしながらデザインを組み立てていったのかなと思うほど洗練されていた。プリントを生かす生地の加工、または生地の加工をいっそう際立たせるプリントなど、スタイルとしての完成度が目を引いたよね。これまでは新開発した生地をぐいぐい前に出していくクリエイションで、それはそれで強さはあったのだけど、今回は組み立て方が秀逸だった。生地が上から下に徐々にグラデーションし、ジャケットがシャツやMA-1に変化する加工はさらに進化。ショートトレンチが外側に向けてMA-1の袖に変化していく発想は見ていて笑っちゃうほどすごかったわ。

美濃島:映像はランウエイをメインとするのかと思いきや、生地や商品にフォーカスし、森川拓野デザイナー自らクリエイションの着想源とデザイン哲学を語る内容。意外なアプローチでしたが、ブランドの武器を余すことなく発信していたし、解説も心地良くて気づいたら映像を見終えていました。

大塚:実は今シーズンは、森川デザイナーの怒りの感情が込められてたらしい。というのも、「ターク」の服は実物を見てすごさが分かる部分が大きいから、新作を海外の人に直接見てもらえないフラストレーションが溜まっていたんだって。だから映像では森川デザイナーが終始語り、物作りやショーの裏側を見せる演出だったんだと思う。今回の完成度が高かっただけに、次は同じ手を使えないかなという懸念もあるけど、今回はその感情がプラスに作用してました。

問題はコロナだけじゃない

大塚:「ファセッタズム(FACETASM)」は"a sight with a kiss”と題した映像で、長谷井宏紀監督が手掛けたもの。再開発が進む渋谷の街を舞台に、自由と監視社会について考えさせられる内容で引き込まれちゃった。

美濃島:カメラから逃げ回った男女が公園で落ち合うものの、その様子さえ撮られているディストピア感のあるオチが好みでした。監視社会のほかにも、大気汚染や大量廃棄、森林破壊、干ばつなど、行き過ぎた文明を警鐘するメッセージがにじんでいて、「問題はコロナだけじゃないよね」と落合宏理デザイナーに投げかけられた気がします。

大塚:ストリートウエアやテーラード、スポーツ、ドレスなどを縦横無尽に行き来するクリエイションは変わらず。ホワイトやパステルカラーのレイヤードが、爽快感と重厚感が共存していて面白かった。

美濃島:洋服の軸はストリートですが、オーガンジーやレース、腰から垂らしたリボンなど、軽やかさを添えるディテールも際立っていました。

パリ参戦!砂漠とレイブに映える強いクリエイション

大塚:「バーバリー(BURBERRY)」がなんとパリメンズで発表。自分で「『バーバリー』2022年春夏パリ・メンズ・コレクション」って原稿を書いてて不思議な感じがしたよ。舞台はマッドマックスのような砂漠。モデルが屋内へと歩みを進めると屋内はレイブ空間が広がり、そのコントラストが何だか強烈に刺さった。音楽によってマインドが異空間にエスケープする感覚をクリエイションで表現したみたいなんだけど、まさにそんな感じ。

美濃島:海や山などの野外映像は鉄板ですが、砂漠はありそうでなかった。砂の上をザッザと歩くモデルがレイブ空間に入ると同時に、テクノがガンガン流れ初める演出にテンションMAX。クラブに入る瞬間を追体験してるみたいでした。

大塚:ウエアは、トレンチコートやテーラリングというヘリテージを軸に、スリーブレスや変形カラーなどディテールでアレンジ。モチーフや色使いは最小限でミニマルなのだけど、モデルが袖を通すことによって2倍も3倍も強くなる。鍛えねば!という気持ちになりました。

美濃島:途中の肩車ルック三連発は正直戸惑いましたが、「筋肉ってすげえ」と安直&ポジティブに捉えることにします。ウシやシカっぽい模様、あばら骨を連想させるジャケットのテープ使いなども目立ちました。昨シーズン、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)は、屋外への欲求を込めたアニマルモチーフを多用していたので、そのムードが継続していたのでしょう。

意外性と哲学満載のリアルクローズ

大塚:「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」はリアルクローズ路線に勝機を見出したみたいだね。もともと奇抜なクリエイションではなかったけれど、ここ数シーズンはいろいろな部分が以前にも増してそぎ落とされてる。

美濃島:さらっとした服に見えますが、コーチジャケットは脇下のジップでシルエットを変えられたり、パーカーは袖に手を通さずに着られたりと、着方を変えられるギミックがあるんです。この意外性が「フミト ガンリュウ」の持ち味ですね。

大塚:カラーリングや快活さでクリーンに見えるのだけど、実は細部にまでデザイナーの哲学が浸透しているのもこのブランドの面白いところだね。服での主張は控えめな分、映像の強烈さが際立ってた。

美濃島:3Dスキャンしたようなメイクや荒いグラフィックなど、あえてチープに仕上げたバーチャル演出が独創的でした。ダッフルコートやトレンチコートなど、毎シーズンの目玉アイテムがありますが、今回は羽織風のフードコートに人気が集中する予感です。

モデルは半分素人 個性を強さに変える

大塚:「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」は、“HUMAN ENSEMBLE”がテーマでした。

美濃島:いつもはハッピーな映像で気分を盛り上げてくれるのだけど、今シーズンはモデルのキャラクターが際立つ静かな演出でしたね。

大塚:多様性が浸透してきているからこそ、個人に焦点を当てようという意図なんだって。カメラマンの田島一成さんが監督を務めていて、モデルも半分は素人。教師やモデルのマネジャーら、登場する人物がみんな個性的なんだよ。服は、「オム プリッセ」らしさをよりストイックに伝えたいという思いから、人間の体やロボットの型を研究し、さまざまな人種の肌色を思わせるカラーや、体の動きをイメージしたディテールや柄を盛り込んでました。

美濃島:右から左へ光を移動させることで、プリーツの凹凸やざらついた素材感などを際立たせていました。人種はもちろん、体型もほんとに幅広くて、着る人を選ばない服だなと改めて実感。ハワイアンなBGMにも癒されました。

大塚:フロントはセットイン、バックはラグランスリーブになったジャケットや、縞を織りで表現するなど、映像だけではなかなか伝わりづらいディテールも見どころ。服にこれまでと大きな変化はないのだけど、背景を知れば知るほど、ファッションで世の中とつながる姿勢が分かって面白かった。

美濃島:シューズをはじめアクセサリーのラインアップも増えていて、このブランドだけでワードローブを完成できちゃいそう。前シーズンから取り組んでいる、再生ポリエステル100%のプロダクトも増えているんでしょうか?

大塚:徐々に型数を増やしていて、近いうちに全商品に使用することを目指してるらしい。再生ポリを使った服を実際に着てみたけれど、今までとほとんど同じ素材感でびっくりしたわ。

美濃島:技術もどんどん進歩しているんですね。僕らも置いてかれないように取材を続けなくては。

浜辺に際立つ実験的テーラード

大塚:「リック・オウエンス(RICK OWENS)」は映像の見せ方が一気に進化したね!これまで生っぽい演出にこだわっていて、それはそれで世界観と合ってはいたのだけど、やっぱりこうやってちゃんと作り込んでくれた方が服は映えるなと。砂浜というロケーションもあって、いつもよりもぐっとリアルで快活な印象を受けた。

美濃島:あそこはブランドのアトリエから車ですぐの場所にあるヴェネチアのビーチだそうですよ。ランウエイを真横や俯瞰など複数の画角から捉える構成は昨シーズンと変わりませんでしたが、ロケーションのおかげで全然違うムードでした。

大塚:途中でリック先生がスマホ片手に踊っている姿が映ったり、砂浜で超厚底ヒールのブーツだったり、肩をボンと張り出したモンスターショルダーのアイテムだったりという通常運転も挟みつつ、とっても丁寧にテーラリングと向き合ったコレクションだったね。

美濃島:ジャケットやコートは、袖や見頃を切り落としたり、オーガンジーやシフォンなどのシースルー素材を使ったりして、複雑な内部構造を主張していました。技術力があるからこそできるアプローチですね。PVCのようなスケスケ素材のトップスやファスナーを開けてブーツカットシルエットにしたパンツなど、1点1点がインパクト大なアイテムばかりなのに、スタイルとしてまとまって見えるのも本当にすごい。途中で見切れたリックは誰よりもノリノリでかわいかったです(笑)。

リモートでも没入不可避の圧倒的世界観

大塚:日常業務をこなしながら、プラスオンでデジタルコレクション取材をしてはや1年。どうしても何か作業をしながら“ながら見”してしまうこともあるのだけど、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」だけはマジでそれができない。だって映像の完成度がすごすぎて、PCは絶対に全画面モードにしたいし、1秒も見逃したくないから。

美濃島:(す、すみません。僕アーカイブでチェックしました)タイトルは、ザ・ウィンストンズ(The Winstons)の「Amen Brother」という楽曲のドラムソロから取ったもの。たった6秒のソロなのですが、数多の曲にサンプリングされ、ヒップホップやジャングルミュージックの礎となっているそうです。

大塚:へえ、詳しいね。今回は世代を超えて人から人へと継承されていく波動が互いに作用し合うというメッセージを込めているみたい。つまり、映像に登場するのは父と息子で、例え引き裂かれても、親子の絆はしっかり引き継がれてますよということなのか?いやーそんな展開だとしたら胸アツやで。序盤に再登場したシンガーソングライターのソール・ウィリアムズ(Saul Williams)が刀を手に登場し、和のムードを醸し出してきたときは正直ちょっと構えたんだけど、その後が音楽や演出、モデルなど何から何までずーっとかっこよかった。真っ白の空間で白い木が生い茂るシーンでは、レッドやブルーのパキッとしたカラーリングが映え……って、ちょっと待って。何だか「ナイキ(NIKE)」のシューズらしいものが見切れてますけど!!

美濃島:「ナイキ」とコラボした“エア フォース ワン(AIR FORCE 1)“ですね!モノグラムやダミエ柄が配された超スペシャルな1足で、SNSでもかなり話題になってます。争奪戦必至でしょう。ていうか、大塚さんが饒舌すぎて僕の出る幕がない!(笑)

大塚:ごめん!だっていろいろ情報が渋滞しているんだもん。フォーマルの再解釈は継続していて、イージーフィットのスーツにスニーカーを合わせるスタイルがめちゃくちゃかっこいい。スーツと共地のベルトは道着の帯を連想させるものだったり、剣道の防具をイメージしたピースやニットキャップだったり、鯉のぼりバッグ(!!)だったり、和の要素もふんだんに盛り込まれていたね。

美濃島:胴っぽいベストや小手っぽいグローブなど、防具の要素が満載。ジャケット自体にブルーやグリーンなどの鮮やかなカラーやタイダイなどのパターンを使うだけでなく、中にトラックジャケットやフーディーを着込んだり、上からベストを着ちゃったり、スカートやショーツを合わせちゃったり。テーラード離れが進む中、このジャンルでこんなにワクワクさせるクリエイションを見せてくれるなんて、やっぱりヴァージルはすごいです。

大塚:チェスのシーンでバチバチにキメていたお兄さんは誰だったんだろう?

美濃島:ラップしていたイケオジはヒップホップアーティストのジザ(GZA)、その隣の白いスーツのイケメンはナイジェリアの写真家ケイレブ・フェミ(Caleb Femi) でした。ほかにも著名人がたくさん出演しているみたいなので、それを探すのも面白いですね。

ブレないテーラードが春夏らしい軽やかさをまとう

大塚:「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」はやっぱりブレないねー。暗がりのフロアショーが淡々と15分以上続く、硬派な映像。スタイルに大きな変化はないのだけど、今シーズンはクラフトっぽい遊び心が随所に感じられた。花の絵画をコラージュしたり、目が描かれたパーツをウエアにペタペタくっつけたり、絵画から飛び出してきたようなモデルのラフなメイクだったり。

美濃島:新聞をそのまま使った柄や、クラシカルなグレンチェックを随所に散りばめるなど、キャッチーさもありましたね。生成色を多用し、パンツはアンクル丈かショーツで肌見せしてるから、軽やかでしたね。

大塚:最後に山本耀司デザイナーが出てくるのだけど、服という黒いキャンバスに無邪気に感性をぶつけてる姿が潔かった。

前半戦を終えて

美濃島:デジタルコレクションがメインとなり早3シーズン。無数の可能性がある映像表現からはさまざまな発見があって面白いですが、そろそろリアルのファッションサーキットも見たくなってきました。

大塚:映像の引き出しやクオリティーが上がっている一方で、リアルショーを再開するブランドもあり、両者を比較するとどうしてもショーの強さが際立ってしまうんだよね。「ルイ・ヴィトン」のように莫大な予算をかけられるならいいけれど、若手にはちょっと限界がある。だって、苦労して作っているはずのに、そんなに見られてないから。映像での発表は今シーズンで最後と決めている日本人デザイナーも少なくないみたいだし、ある意味で貴重なシーズンかもよ。後半も映像中心だけど、しっかり見届けましょう!

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パリメンズのリアルイベントは祝祭ムード 2022年春夏メンズコレ現地突撃リポートVol.4

 2022年春夏シーズンのコレクションサーキットが本格開幕した。ほぼデジタル発表だった前シーズンから世界の状況は少しずつ好転し始めており、リアルでのショーやプレゼンテーションを開催するブランドも増えた。パンデミックを経て街はどう変化し、ファッション・ウイークはどう進化しているのか。現地からリポートする。

 ボンジュ〜ル!ミラノでの取材を無事に終え、パリへと戻ってきました。飛行機への搭乗の際にPCRテスト陰性結果を提示して、機内ではマスクを着用し、安全に帰宅できましたよ。なんと偶然にも、8年前にニューヨークで一緒に仕事をしたことがあるイケメンモデルくんと機内で隣の席になり、ひさしぶりの再会に会話が弾む楽しい家路でした。イケメンとの会話で疲れが吹っ飛んだところで(笑)、ミラノに引き続きパリ・メンズ・ファッションウイークの“現突リポ(現地突撃リポート)”もフルパワーでお届けするので、お付き合いくださいませ。

6月22日 15:30 ウェールズ ボナー

 自宅で荷ほどきをしてから、今季のパリメンズのトップバッター「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」のデジタル発表をチェック。デザイナーのウェールズ・ボナーはデビュー時からストイックなクリエイションというイメージでしたが、2020-21年秋冬コレクションから肩の力が抜けてイイ感じ。彼女のルーツであるアフリカのエッセンスを、都会的なデイリーウエアに見事に融合させています。今季のコレクションテーマ“Volta Jazz(ヴォルタ ジャズ)”は、1960〜70年代に活躍したアフリカ系アメリカ人のミュージシャンが由来です。喜びに満ちた自由な精神を表現し、これまでで最もリラックスした印象で、旅の再開に向けて気分を盛り上げる今季のムードにもピッタリ。モロッコで作られたデニムに、ブルキナファソ(西アフリカの小国)の伝統的な手織りのステッチを施すなど、異文化のクラフトをさりげなく取り入れたバランスも絶妙です。20-21年秋冬から継続している「アディダス(ADIDAS)」とのコラボレーションも、スポーティー&アーバンな雰囲気を継続していました。

6月22日 19:30 グラバロ

 「グラバロ(GRAVALOT)」は、ロンドンを拠点にするナイジェリア人デザイナーデュオのプリンス・コンリー(Prince Comrie)とオニエ・アヌナ(Onye Anuna)が2014年に立ち上げたブランドです。デジタル発表の映像は、ナイジェリアの田園をパープルのスーツを着た男性が歩く風景で始まり、ロンドンの立体駐車場にシーンが移ってランウエイショーがスタートします。コレクションはテーラリングにストリートスタイルを組み合わせた内容で、強い個性や新鮮さは特に見受けられません。「数年前のコレクションを見ているのかな」と思うくらい、なんだか古い……。赤いテーラードジャケットに白いタオルを掛けているルックからは、「元気ですかー」という声が聞こえてきそうでした(笑)。

6月23日 11:00 エゴンラボ

 パリコレ2日目に、フランス人デザイナーデュオ、フロレンタン・グレマレック(Florentin Glemarec)とケヴィン・ノンぺ(Kevin Nompeix)が手がける「エゴンラボ(EGONLAB.)」が4シーズン目となるコレクションをデジタルで発表しました。CGを多用したり、ホラー映画風に作り込んだりした過去2シーズンの奇抜な映像とは打って変わって、大型倉庫の中でランウエイショーを披露するというシンプルなもの。この意図は「服をしっかり見てほしい」という思いからだったようで、(なら最初から……)と心の中でツッコミかけたのですが、今季から「アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」と同じイタリアの工場で生産し、「テーラリングやシルエットにより力を入れたから」だと展示会場で語ってくれました。中世の騎士を着想源に、デミクチュールのコルセットドレスやキュロット、タペストリーを連想させるジャカード織りのトレンチコートをユニセックスで提案しています。シャツに描かれた龍のような絵は、彼らによるハンドペインティングです。剣を備え付けられるトートバッグは、「バゲットを挟むのに使ってよ」とのこと。日本ではアデライデ(ADELAIDE)とヌビアン(NUBIAN)で取り扱われいて、取引先は世界に15アカウントです。フロレンタンくん25歳、ケヴィンくん27歳のミレニアル世代のデュオは、「過去の遺産と現在、未来をつないで、品質の良いユニークなピースを作りたい」と今後の意気込みを語ってくれました。

6月23日 13:00 ジェイ ダブリュー アンダーソン

 「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON​)」のデジタル発表の映像は、クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がコレクションの概要を説明する映像でした。いつも思うんですが、アンダーソンさんの低音ボイスってめっちゃセクシーじゃないですか?話し方もめっちゃタイプ(笑)!そんな彼に萌えつつ、ZOOM取材を敢行。今は、出身国であるイギリスの文化や幼少期に思いを馳せて、ノスタルジックな気分のようです。「自分が誰なのか、どんな人間になりたいのか、性に目覚めて自己認識を深めるユースの時代がテーマの一つ。自分の部屋というプライベートな空間で、自己表現の方法としてドレスアップする若者をイメージしてルック撮影をしたんだ」と丁寧に説明してくれます。さらに「ブランドにとって“ユースフル”は常に主要なコンセプト。世界を動かしているのは若者なのだから、いつだって社会において重要な存在だ」とセクシーボイスで続けてくれました。ビーズのカーテンを使ったドレスや枕のドレスは、思春期の頃に誰もが経験した、“やりすぎたドレスアップ”の過ちを表現しています。

 今シーズンのメンズはビーチや旅をテーマにするブランドが多い中、「ジェイ ダブリュー アンダーソン」は自宅内でルック撮影を行なっています。その意図が気になり、来年の春夏には人々がどんなライフスタイルを送り、何を着たいと思っているかを聞きました。「パンデミックが終息することはないと思う。もちろん外出やパーティーといった楽しみは戻ってくるだろうが、僕らは以前の生活に戻るのではなく、ウイルスを含むさまざまな問題と共に生き、前進して、新しい日常を送ることになるんじゃないかな。だからこそ僕は“個人のプライバシー”という考えに焦点を当てて、今季のコレクション制作とルック撮影を行った。来年もまだ自宅で過ごす時間が多いというメッセージを発信しているわけではないよ」。

 彼の思慮深い考えはいつも私の心に刺さり、考えさせられます。彼が言う“個人のプライバシー”とは物理的な空間ではなく、例え社会生活が元に戻っても“心の中にある自分だけの居場所”を指しているのだろうなと私は受け取りました。ユースをテーマにしたのも、パンデミックで多くの人が経験したであろう、自己との対峙から来ているのでしょう。彼のコレクションは毎シーズンこんな風に、彼の背景にある思想やメッセージが気になります。

6月23日 15:00 クレージュ

 「クレージュ(COURREGES)」は、アーティスティック・ディレクターのニコラ・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)が手掛ける初のメンズコレクションをデジタル形式で発表しました。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「ディオール(DIOR)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の各ウィメンズウエアで経験を積んだ彼にとって、メンズウエアの制作は初めて。テーマはウィメンズの続編として“I can feel your heartbeat - Part II(あなたの鼓動を感じる)”と名付け、映像も白い壁のセットの中を歩く、同じ内容です。最後に壁が倒れて外の自然風景が現れた瞬間は、抑制からの解放を表現しているようでした。ウィメンズのデビューコレクションが素晴らしかったので期待しすぎたのか、インパクトのあるルックは残念ながら見当たりませんでした。ウィメンズでは、構築的なデザインで直線と曲線を巧みに交差させる視覚的効果によってドラマチックに映りましたが、メンズではそのような印象はなく、ミニマルにまとめすぎかも。実物を見ると、シルエットやデザインに特徴を見つけられるのか?後日行く展示会場でしっかり見てきますね。

6月23日 19:30 イザベル マラン

 パリコレ2日目最後は「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」のイベントに参加しました。コレクション発表を記念したライブパフォーマンスです。会場は旧パリ証券取引所で、現在は大型展示会などのイベントスペースとして使用されている建物の屋外スペース。シャンパンやワインなどのドリンクと軽食が提供され、フランス系アメリカ人兄弟のミュージシャン、フォーリアル(Faux Real)によるライブが実施されました。音楽イベントへの参加は1年以上ぶりだし、久々に再会した業界の知人ともたくさん話しができて、ファッション・ウイークらしい華やかな光景が目の前に広がりました。同じ場所で同じ時間を共有するという、コロナ禍に最も恋しかったものを再び味わうことができて、感無量!「イザベルさん、イベントを開催してくれてありがとう」と心の中で思っていると、イザベルさんが近くの席で楽しそうにしているではありませんか!感謝の気持ちを直接伝えると最高の笑顔で応えてくれて、写真にもしっかり収めましたよ。ほかにもモデルのカロリーヌ・ド・メグレ(Caroline de Maigret)もキャッチ。ジャーナリストのマスイユウさんとは、ミラノぶりの再会でした(今回はしっかり写真を撮らせてもらいましたよ)。

本日のパン

 旅行でフランスに初めて来たとき、パンのあまりの美味しさに感動したのを鮮明に覚えています。日本でも美味しいバゲットやクロワッサンはあるけれど、本場のものは別格!ミラノから帰ってきたらすぐにパン屋に行き、“私的ご褒美パン”であるヴィエノワ・フイユテを購入しました。外側がパイ生地を意味するフイユテで、中がヴィエノワ(甘いコッペパンみたいなパン)になっているのは近所のパン屋のオリジナル。ハチミツがほんのり甘くてめちゃくちゃ美味しいんですが、カロリーが気になるので普段は食べない“ご褒美パン”なのです!「ミラノ取材無事に終わったから」って自分に言い聞かせてながら、ハチミツ味のパンにさらにハチミツかける“追いハチミツ”で食べちゃいました。地元大阪ではたこ焼き、イタリアではジェラート、フランスではパン。結局はベタが一番美味しいねんな〜。ってことで、パリコレの日記ではパンのご紹介をお楽しみにっ!しっかりカロリーを取ったので(取りすぎ?)、明日からも元気に取材へ行ってきます!

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パリメンズのリアルイベントは祝祭ムード 2022年春夏メンズコレ現地突撃リポートVol.4

 2022年春夏シーズンのコレクションサーキットが本格開幕した。ほぼデジタル発表だった前シーズンから世界の状況は少しずつ好転し始めており、リアルでのショーやプレゼンテーションを開催するブランドも増えた。パンデミックを経て街はどう変化し、ファッション・ウイークはどう進化しているのか。現地からリポートする。

 ボンジュ〜ル!ミラノでの取材を無事に終え、パリへと戻ってきました。飛行機への搭乗の際にPCRテスト陰性結果を提示して、機内ではマスクを着用し、安全に帰宅できましたよ。なんと偶然にも、8年前にニューヨークで一緒に仕事をしたことがあるイケメンモデルくんと機内で隣の席になり、ひさしぶりの再会に会話が弾む楽しい家路でした。イケメンとの会話で疲れが吹っ飛んだところで(笑)、ミラノに引き続きパリ・メンズ・ファッションウイークの“現突リポ(現地突撃リポート)”もフルパワーでお届けするので、お付き合いくださいませ。

6月22日 15:30 ウェールズ ボナー

 自宅で荷ほどきをしてから、今季のパリメンズのトップバッター「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」のデジタル発表をチェック。デザイナーのウェールズ・ボナーはデビュー時からストイックなクリエイションというイメージでしたが、2020-21年秋冬コレクションから肩の力が抜けてイイ感じ。彼女のルーツであるアフリカのエッセンスを、都会的なデイリーウエアに見事に融合させています。今季のコレクションテーマ“Volta Jazz(ヴォルタ ジャズ)”は、1960〜70年代に活躍したアフリカ系アメリカ人のミュージシャンが由来です。喜びに満ちた自由な精神を表現し、これまでで最もリラックスした印象で、旅の再開に向けて気分を盛り上げる今季のムードにもピッタリ。モロッコで作られたデニムに、ブルキナファソ(西アフリカの小国)の伝統的な手織りのステッチを施すなど、異文化のクラフトをさりげなく取り入れたバランスも絶妙です。20-21年秋冬から継続している「アディダス(ADIDAS)」とのコラボレーションも、スポーティー&アーバンな雰囲気を継続していました。

6月22日 19:30 グラバロ

 「グラバロ(GRAVALOT)」は、ロンドンを拠点にするナイジェリア人デザイナーデュオのプリンス・コンリー(Prince Comrie)とオニエ・アヌナ(Onye Anuna)が2014年に立ち上げたブランドです。デジタル発表の映像は、ナイジェリアの田園をパープルのスーツを着た男性が歩く風景で始まり、ロンドンの立体駐車場にシーンが移ってランウエイショーがスタートします。コレクションはテーラリングにストリートスタイルを組み合わせた内容で、強い個性や新鮮さは特に見受けられません。「数年前のコレクションを見ているのかな」と思うくらい、なんだか古い……。赤いテーラードジャケットに白いタオルを掛けているルックからは、「元気ですかー」という声が聞こえてきそうでした(笑)。

6月23日 11:00 エゴンラボ

 パリコレ2日目に、フランス人デザイナーデュオ、フロレンタン・グレマレック(Florentin Glemarec)とケヴィン・ノンぺ(Kevin Nompeix)が手がける「エゴンラボ(EGONLAB.)」が4シーズン目となるコレクションをデジタルで発表しました。CGを多用したり、ホラー映画風に作り込んだりした過去2シーズンの奇抜な映像とは打って変わって、大型倉庫の中でランウエイショーを披露するというシンプルなもの。この意図は「服をしっかり見てほしい」という思いからだったようで、(なら最初から……)と心の中でツッコミかけたのですが、今季から「アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」と同じイタリアの工場で生産し、「テーラリングやシルエットにより力を入れたから」だと展示会場で語ってくれました。中世の騎士を着想源に、デミクチュールのコルセットドレスやキュロット、タペストリーを連想させるジャカード織りのトレンチコートをユニセックスで提案しています。シャツに描かれた龍のような絵は、彼らによるハンドペインティングです。剣を備え付けられるトートバッグは、「バゲットを挟むのに使ってよ」とのこと。日本ではアデライデ(ADELAIDE)とヌビアン(NUBIAN)で取り扱われいて、取引先は世界に15アカウントです。フロレンタンくん25歳、ケヴィンくん27歳のミレニアル世代のデュオは、「過去の遺産と現在、未来をつないで、品質の良いユニークなピースを作りたい」と今後の意気込みを語ってくれました。

6月23日 13:00 ジェイ ダブリュー アンダーソン

 「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON​)」のデジタル発表の映像は、クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がコレクションの概要を説明する映像でした。いつも思うんですが、アンダーソンさんの低音ボイスってめっちゃセクシーじゃないですか?話し方もめっちゃタイプ(笑)!そんな彼に萌えつつ、ZOOM取材を敢行。今は、出身国であるイギリスの文化や幼少期に思いを馳せて、ノスタルジックな気分のようです。「自分が誰なのか、どんな人間になりたいのか、性に目覚めて自己認識を深めるユースの時代がテーマの一つ。自分の部屋というプライベートな空間で、自己表現の方法としてドレスアップする若者をイメージしてルック撮影をしたんだ」と丁寧に説明してくれます。さらに「ブランドにとって“ユースフル”は常に主要なコンセプト。世界を動かしているのは若者なのだから、いつだって社会において重要な存在だ」とセクシーボイスで続けてくれました。ビーズのカーテンを使ったドレスや枕のドレスは、思春期の頃に誰もが経験した、“やりすぎたドレスアップ”の過ちを表現しています。

 今シーズンのメンズはビーチや旅をテーマにするブランドが多い中、「ジェイ ダブリュー アンダーソン」は自宅内でルック撮影を行なっています。その意図が気になり、来年の春夏には人々がどんなライフスタイルを送り、何を着たいと思っているかを聞きました。「パンデミックが終息することはないと思う。もちろん外出やパーティーといった楽しみは戻ってくるだろうが、僕らは以前の生活に戻るのではなく、ウイルスを含むさまざまな問題と共に生き、前進して、新しい日常を送ることになるんじゃないかな。だからこそ僕は“個人のプライバシー”という考えに焦点を当てて、今季のコレクション制作とルック撮影を行った。来年もまだ自宅で過ごす時間が多いというメッセージを発信しているわけではないよ」。

 彼の思慮深い考えはいつも私の心に刺さり、考えさせられます。彼が言う“個人のプライバシー”とは物理的な空間ではなく、例え社会生活が元に戻っても“心の中にある自分だけの居場所”を指しているのだろうなと私は受け取りました。ユースをテーマにしたのも、パンデミックで多くの人が経験したであろう、自己との対峙から来ているのでしょう。彼のコレクションは毎シーズンこんな風に、彼の背景にある思想やメッセージが気になります。

6月23日 15:00 クレージュ

 「クレージュ(COURREGES)」は、アーティスティック・ディレクターのニコラ・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)が手掛ける初のメンズコレクションをデジタル形式で発表しました。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「ディオール(DIOR)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の各ウィメンズウエアで経験を積んだ彼にとって、メンズウエアの制作は初めて。テーマはウィメンズの続編として“I can feel your heartbeat - Part II(あなたの鼓動を感じる)”と名付け、映像も白い壁のセットの中を歩く、同じ内容です。最後に壁が倒れて外の自然風景が現れた瞬間は、抑制からの解放を表現しているようでした。ウィメンズのデビューコレクションが素晴らしかったので期待しすぎたのか、インパクトのあるルックは残念ながら見当たりませんでした。ウィメンズでは、構築的なデザインで直線と曲線を巧みに交差させる視覚的効果によってドラマチックに映りましたが、メンズではそのような印象はなく、ミニマルにまとめすぎかも。実物を見ると、シルエットやデザインに特徴を見つけられるのか?後日行く展示会場でしっかり見てきますね。

6月23日 19:30 イザベル マラン

 パリコレ2日目最後は「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」のイベントに参加しました。コレクション発表を記念したライブパフォーマンスです。会場は旧パリ証券取引所で、現在は大型展示会などのイベントスペースとして使用されている建物の屋外スペース。シャンパンやワインなどのドリンクと軽食が提供され、フランス系アメリカ人兄弟のミュージシャン、フォーリアル(Faux Real)によるライブが実施されました。音楽イベントへの参加は1年以上ぶりだし、久々に再会した業界の知人ともたくさん話しができて、ファッション・ウイークらしい華やかな光景が目の前に広がりました。同じ場所で同じ時間を共有するという、コロナ禍に最も恋しかったものを再び味わうことができて、感無量!「イザベルさん、イベントを開催してくれてありがとう」と心の中で思っていると、イザベルさんが近くの席で楽しそうにしているではありませんか!感謝の気持ちを直接伝えると最高の笑顔で応えてくれて、写真にもしっかり収めましたよ。ほかにもモデルのカロリーヌ・ド・メグレ(Caroline de Maigret)もキャッチ。ジャーナリストのマスイユウさんとは、ミラノぶりの再会でした(今回はしっかり写真を撮らせてもらいましたよ)。

本日のパン

 旅行でフランスに初めて来たとき、パンのあまりの美味しさに感動したのを鮮明に覚えています。日本でも美味しいバゲットやクロワッサンはあるけれど、本場のものは別格!ミラノから帰ってきたらすぐにパン屋に行き、“私的ご褒美パン”であるヴィエノワ・フイユテを購入しました。外側がパイ生地を意味するフイユテで、中がヴィエノワ(甘いコッペパンみたいなパン)になっているのは近所のパン屋のオリジナル。ハチミツがほんのり甘くてめちゃくちゃ美味しいんですが、カロリーが気になるので普段は食べない“ご褒美パン”なのです!「ミラノ取材無事に終わったから」って自分に言い聞かせてながら、ハチミツ味のパンにさらにハチミツかける“追いハチミツ”で食べちゃいました。地元大阪ではたこ焼き、イタリアではジェラート、フランスではパン。結局はベタが一番美味しいねんな〜。ってことで、パリコレの日記ではパンのご紹介をお楽しみにっ!しっかりカロリーを取ったので(取りすぎ?)、明日からも元気に取材へ行ってきます!

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ミラノの街はどう変わった? 2022年春夏メンズコレ現地突撃リポートVol.1

 2022年春夏シーズンのコレクションサーキットが本格開幕した。ほぼデジタル発表だった前シーズンから世界の状況は少しずつ好転し始めており、リアルでのショーやプレゼンテーションを開催するブランドが増えた。パンデミックを経て街はどう変化し、ファッション・ウイークはどう進化しているのか。現地からリポートする。

 みなさん、こんにちは。ライターの井上エリです。日本から海外への渡航がまだまだ簡単ではないため、2022年春夏メンズ・ファッション・ウイークの取材は、パリ在住の私が担当することになりました。みなさん、「WWDJAPAN」のファッション・ウイーク取材の日記を楽しみにしていますよね?私もそうでした。いつもは読む側でしたが、今シーズンは初めて書く側として、ショーや展示会、ミラノの街の様子をリポートします。今季は1人での取材なうえに日記も初挑戦ということで、楽しみと同時に緊張感が……どうぞお手柔らかに!温かい目で日記を楽しんでもらえるとうれしいです。

 ミラノ・メンズ初日ははりきって午前5時に起床し、体温36.2度でコンディション万全。早朝の便でパリからミラノに入りしました。最高気温は33度で、終日曇りで蒸し暑い!現在、欧州圏内の移動はワクチン接種or48時間以内のPCRテスト陰性結果を提示することで通常通り往来できます。とはいっても、搭乗の際や空港到着時に書類の提示を求められることはありませんでした。結構ルーズじゃーんと思いきや、街中でのマスク着用率は100%!しっかりしてる。ショップやホテル、レストラン入口では体温測定が必須でした。

12:00 トッズ

 最初の取材場所は「トッズ(TOD'S)」の展示会場です。今季の雰囲気は“伊達男のサファリパーク”という感じ。何のこっちゃという感じですが、クリエイティブ・ディレクターのヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)は、20世紀を代表するアメリカ人フォトグラファーのピーター・ビアード(Peter Beard)から着想を得たそうです。このビアードがすごい。1960年代にケニアの国立公園で動物管理の仕事を手伝いながら、アフリカ野生動物の姿を捉えた写真で一躍有名となった人物です。70年代にニューヨークに戻ると、派手な女性関係やドラッグでプレイボーイとしてもその名が知られるようになりました。すなわち、“優雅で野蛮なダンディ”というワケ。

 今季はレジャーでの快適さを重視し、“軽い”ことが最大のポイントです。ブランドの要であるレザーはアウターのディテールに取り入れつつ、大部分はナイロン素材が占めています。新作スニーカーやレジャーバッグも、ナイロンとレザーの組み合わせ。"ドットスニーカー"という名の新作は、ソールの突起が通常のシューズよりも大きく、軽さと安定感を高めたスニーカーだそうです。全体はカーキやサンドカラーの淡い色彩に、パキッと映えるブルーやレモンイエローを差し込むキアッポーニらしい色使い。シーズンごとに新生「トッズ」の特徴がじわじわ出てきましたね。サファリ風のスポーティーなウエアには裸足にクラシックなローファーで、アーバン向けのスタイリング提案。“T”とライオンの横顔が描かれた新しいロゴも披露しました。

 コレクション映像の撮影は、トスカーナ地方にある近代的な建築物で撮影したのだそう。なだらかな丘の連なりとの調和するこの建築物は、なんとワイナリー。撮影地を巡る、次なる聖地巡礼の目的地候補に追加です!カメラバッグ風のショルダーバッグや、内ポケットがたくさん付いた機能的なサファリジャケットをもしも彼氏が持っていたら、「私も共有したーい」と妄想を膨らませながら展示会場を後にしました。

13:00 レストランは簡易テラスで営業

 次のアポイントメントまで時間があったので、30分ほど徒歩移動。「トッズ」の現地担当者が「ロックダウンの緩和でテラス席のみの営業が認められたから、多くのレストランが簡易のテラス席を設けてるわよ」と話していた通り、路上パーキングスペースやちょったした広場がテラス席化していました。ただし、観光客がまだまだ少ないこともあって、土曜のランチどきでも空席が多かったです。ミラノ屈指のショッピングストリートであるモンテ​ナポレオーネ通りも人通りは少なめ。新しいお店は増えていませんが、閉店したお店もほとんどないようで、政府からの補助金のおかげでパンデミックをなんとか乗り切った企業が多いのでしょうか。

14:00 ピーティー トリノ

 街を散策して到着したのが「ピーティー トリノ(PT TORINO)」のプレゼンテーション会場。「メンズにおいて最も重要なアイテムはパンツ」というコンセプトのもと、イタリア・トリノに2008年に誕生したパンツ専業ブランドです。今季からアパレル生産をスタートさせ、会場には9ルックが並んでいました。ニットやジャージー、シャツ、アウターといった定番アイテムがラインアップ。まあ、無難なクラシックといった印象です。薄手のウール素材のピンストライプのパンツは伸縮性があり軽量で、センタープレス入りのきれいめなワイドパンツや、ホワイトデニムにハンドペイントが施された丈長めのジーンズなど、バリエーション豊富なパンツにやはり目がいきます。CEOのエドアルド・ファッシーノ(Edoardo Fassino)は「ブランドの本質的な価値を失うことなく、“クラシック”を進化させ、現代的にバージョンアップさせることが今季のコンセプト」と説明してくれました。パンツのシルエットがとても美しいので、アパレルもシルエットを強調して引き立て合うと個性が出てくるのかなと、今後に期待しましょう。

15:00 ブルネロ クチネリ

 お次は、「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」のプレゼンテーションです。デジタル発表した映像は41秒と超ショート。今季は“Simplicity in Elegance(エレガンスの中のシンプルさ)”をテーマにしています。もう、まさに直球ど真ん中のザ・イタリアン・エレガンスで美しい!肌触りの良いリネンやコーデュロイといった、さまざまな素材を使ったタイトなジャケットが大豊作です。それらにリラックスシルエットのスラックスやジーンズ、カーゴパンツを合わせてコントラストを利かせています。ポロシャツやダウンベスト、膝丈ショーツを合わせたルックも、スポーティーでありながらエレガンスな「ブルネロ クチネリ」らしいスタイル。デザインや装飾は控えめなので、素材感の良さが際立ちますね。白とベージュを基調に、ネイビーやカーキを織り交ぜながら、上質素材と繊細な色のニュアンスを楽しんでもらおうという提案でした。旅行用バッグやレジャーバッグ、カーフレザーのジュエリーボックス、ビューティケース、シガーケースといった小物も並び、早く旅行したいとワクワクさせてくれました。

16:00 フェンディ、ドルチェ&ガッバーナ

 次のアポイントメントまで時間があるので、一旦ホテルへ戻って原稿書き。途中、ホテル近くのカフェ「ビアンコラテ(Biancolatte)」でジェラートを買って涼みました。店名と同じ、ビアンコラテ味(超濃厚ミルク)が絶品なんです!告白しちゃいますが、私はジェラートが大好きです。ジェラートだけで十分な栄養が取れるなら、ご飯はジュラートだけでいいかも。今回の滞在中も何度か食べると思うので、箸休め的な感じでジェラートネタをお届けしますね。

 初日の主要ブランドは映像でチェック。「フェンディ(FENDI)」は、本拠地であるローマのイタリア文明宮で撮影した爽快な演出。気持ちのいいパステルカラーは、ローマの空の色彩にインスピレーションを得たようです。建築やアートを感じさせるクリーンなムードながら、超短い丈にカットされたテーラリングや水着の「アリーナ(ARENA)」とコラボレーションしたスイミングのゴーグルとキャップなど、ブランドらしいヒネりやユーモアも忘れません。

 そして「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」はギンギラが戻ってきました!最近はサルトリア仕立てのきれいなスーツやシチリアに思いを馳せたリゾートスタイルなど、以前よりもイケイケ感はやや薄まっていたのですが、今シーズンはすごい。眩しい。きらびやか。“DG LIGHT THERAPY”というテーマの通り、手作業で刺しゅうしたクリスタルがあらゆるアイテムに輝きます。いよいよ外を出歩ける!といった街の喜びと呼応するように、パワフルでエネルギーに溢れていました。

17:00 スンネイ

初日最後は「スンネイ(SUNNEI)」の展示会へ。元VMDとバイヤーという2人が、2015年に始動したイタリア発のブランド。設立当初から日本での売り上げが好調で、現在の主要マーケットは日本や韓国、中国とアジアが中心です。プレス担当が「イタリアの独立系ブランドが日本で人気があるって珍しいでしょ?」と言っていて、確かに!と思いました。メインコレクションは2月と9月に発表しており、今回は昨年6月に立ち上げた新ライン“キャンバス(Canvas)”の3シーズン目のプレゼンテーションでした。同ラインのコンセプトは“カスタマイズ”で、ウエアやバッグ、ジュエリーの基本となる各モデルに素材や色、柄を自由に選べるシステム。カスタムの種類が豊富なだけに、バイヤーのセンスの見せどころですね。ユニセックスで、ウエアもシューズも幅広いサイズを用意しているとのこと。

 今年7月にはミラノ市内にラジオ放送局を設け、24時間年中無休でストリーミング配信する「ラジオ スンネイ(Radio Sunnei)」という新たなプラットフォームを開設予定。またホームウエアやベッドリネン、小物雑貨の展開に向けてプロジェクトが進行中だと教えてくれました。一時期の注目度に比べるとやや伸び悩んでいる印象でしたが、ライフスタイルブランドへのシフトチェンジで飛躍なるか。帰り際にマスクをくれたので、今季ゲットした最初のマスクとなりました。ただ着け方がさっぱり分かりません。ひもを後ろで結んでもすぐ取れてしまうので、横にブラブラさせるのが正解なの?なにはともあれ、意欲的に進化する「スンネイ」でミラノメンズ初日は終了。明日も元気に取材します!

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「ノワール ケイ ニノミヤ」の圧倒的に異質な存在感 ステンレスで仕立てた白ユリドレス

 二宮啓が手掛ける「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」は3月22日、2021-22年秋冬コレクションを東京・南青山のコム デ ギャルソン本社で発表した。「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のショー後、同会場で披露した。客席の周辺には無数の白ユリが飾られ、甘く濃厚な香りが会場を包んでいた。これはコラボレーションを継続するフラワーアーティストの東信(あずままこと)によるものだ。

ステンレスの繊維で仕立てた立体的なドレス群

 暗転してショーがスタートすると、点滅するライトがランウエイを照らす。ファーストルックは、ハリネズミのようなトゲで体を覆った身頃に、シルバーの骨組みが見える立体的なシースルースカート。シルバーの針がライトによってキラリと光る。「ノワール ケイ ニノミヤ」と言えば、立体的な装飾や、従来洋服には使われない素材を用いたアプローチが持ち味だが、今季題材にしたのはステンレスの繊維だ。

 ショーの中盤では、ステンレスの針はレザードレスやライダースジャケットの表面に付くことで個々の強さが増していく。さらに袖や襟元のフリルの縁に施したり、スタッズのように装飾したり、ステンレスの繊維でジャケットやスカートを編み立てたりと、さまざまな手法で用いた。ラストには無数のユリの花を束ねたような形のドレスが登場。「ユリをモチーフにした訳ではないが、形として近いものができた」と二宮デザイナーは話すが、これもステンレスの繊維を薄く削ってチュールと合わせたもので、ユリの有機的な曲線が再現されていた。

“冷たい要素と尖ったもので構成”

 二宮デザイナーは「今回はシンプルで強いモノを、ステンレスを使って表現した」と話す。「今までは硬質な素材と甘い要素など、相反する要素の対比で表現することが多かったが、今回はあえて甘さを入れずに冷たい要素と尖ったもので構成し、純粋にきれいなものを作りたかった」。会場に白ユリを飾った理由を尋ねると「来場者に、会場でしか感じられないものを用意したかった。ユリはシンプルだが、強い匂いや意味を持つ」と話していた。白ユリの花言葉は「純潔」と「威厳」。「ノワール ケイ ニノミヤ」は驚きの発想で美しいものを生み出そうとするピュアな創造性と、ストイックさも感じられる。想像の域を超えたクリエイションは、極めて異質で強い。

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あなたの投票で決定! 東コレ頂上決戦“T-1グランプリ”-決勝-

 2021-22年秋冬シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」が21日に閉幕しました。「WWDJAPAN.com」は、東コレのNo.1ブランドをユーザー投票で決定する“T-1グランプリ”を開催!編集部が選んだ全20の候補から、あなたが思うベストブランドに投票してください!ノミネートブランドの確認と、投票フォームには以下からアクセス!

“T-1グランプリ”の投票はこちらから!

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超熱気の「サルバム」と大トリ「リコール」 東コレ頂上決戦“T-1グランプリ”予選最終夜

 2021-22年秋冬シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」が15日に開幕しました。国内外から51ブランドが参加し、4割がリアルショーを行います。「WWDJAPAN.com」では、今シーズンのベストブランドをユーザー投票で決定する“T-1グランプリ“を開催!それに先駆け、記者3人がその日に発表したブランドの中から独断でグランプリ候補を選出します。今日のノミネートブランドはこの3つだ!


東コレ取材2シーズン目
現場取材担当の美濃島
「サルバム(SULVAM)」

見どころ:4年ぶりの東コレ参加。いつもより要素は少なめですが、ラウンドした身頃をいくつも使ったジャケットをはじめ、パターンワークの面白さが際立ちました。赤と黒をメインとした潔いカラーパレットも好み。会場には多くの学生が招待され、コメントを添えた手紙を客席に置いたり、メディアと混ざって学生による囲み取材も行ったりと、ファッションを次の世代に繋げようとする熱い姿勢がビシビシ伝わってきます。子連れの出席者もいて、中には大きな音と暗い空間に驚き泣き出しちゃう子も。そんな子に向けては「ごめんね、怖いよね。でもいつか服が好きになったら、『ファッションショー行ったことあるんだよ』って教えてもらえるし、きっといい体験になると思うんだ」と話してて、その優しさにもウルっと来ました。すっかり藤田哲平デザイナーのファンです。


東コレ取材歴5年
ニュースデスク大塚
「シュープ(SHOOP)」

見どころ:大木葉平「シュープ」デザイナー自らが「今までの中でベスト」と言い切る自信のコレクション。“トランスフォーメーション”をキーワードに、普遍的なスーツやストリートウエアにギミックを過剰に盛り込んでカルチャー的角度からの奥行きを加えています。ジャケットやパンツ中央の波打つようなカッティングだったり、体をクロスするニットの唐突な編み込みだったり、光沢のある強いマテリアルを多用したりするデザインは、緻密に計算されたというよりも、デザイナーデュオの衝動が込められていたように感じました。そういうテンションのときって、いいコレクションができる打率が高いですし。「ハルヒト ジーンズ(HARUHITO JEANS)」と協業したデニムアイテムは、精巧なビンテージ加工で経年変化の価値をポジティブに表現。一着一着を大切に、長く着ようというメッセージを発信しています。強い服に対して、動画はタイトル“CATWALK”にかけて本当に猫が登場するダジャレでスタート。さらに、猫には特に意味はなかったというオチにずっこけつつ、和みました。


若手随一の“ファッションバカ”
東コレ初取材の大澤
「リコール(REQUAL)」

見どころ:土井哲也デザイナーが望む半年先の未来を詰め込んだコレクションを発表。土井デザイナーが幼少期に訪れて衝撃を受けたアメリカのプレッピー&ヒッピースタイルと、仏・パリのフレンチスタイルを着想源に、さまざまな年齢や性別、人種のモデルを起用しました。ショー冒頭では、コレクションを身にまとった15体のモデルが登場して、会場の中央に座り込んで観客と共に最後までショーを楽しみました。スケートボードやバスケをする少年たち、テーマパークさながらのクマの被り物にフリースパーカーを着た2人の少女、また上下逆さの巨大Tシャツには“FAMILY”や“KISS”、“HUG”といったワードを貼り付けから、新型コロナ前の当たり前だった日常を思い出しました。

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「いつかショーが無くなる前に」 「サルバム」が4年ぶりの東コレで次世代に伝えた思い

 デザイナーの藤田哲平率いる「サルバム(SULVAM)」が、2021-22年秋冬メンズ・コレクションを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で披露した。同ブランドはパリ・メンズ・コレクションに18年から参加しており、東コレ参加は4年ぶり。会場の渋谷ヒカリエには多数の学生を招待した。藤田デザイナーは、「僕は(パンデミックによる)こういう状況がこれからも続くと思っている。いつかショーが無くなる日が来るかもしれない。その前に、若い世代にショーを体感して欲しかった」とショー開催の経緯を語った。

 会場では、暗がりの中に無数のスポットライトを垂直に落とし、雲の隙間から光が差し込んだような空間を用意した。ヒップホップユニットCreepy Nutsの「生業」をBGMにショーがスタートすると、モデルたちが入場し、思うがままにウオーキングしていく。「決められた道なんてない。自分で作っていけばいい」という藤田デザイナーの思いを具現化したような演出だ。

 1月にパリ・メンズで披露したアイテムを、スタイリングを組み直して発表した。「唯一の新作」という真っ赤なセットアップとツナギには、ショーを行う熱意と覚悟を込めたのだろうか。チェスターコートやテーラードジャケット、ワークジャケットは、ステッチを目立たせたり、ポケットの縁をあえて外したりと、脱構築的に遊びを効かせる。代名詞となった、ジャケットからはみ出す長めの裏地は軽やかになびき、躍動感を加える。ラウンドした身頃を何枚も重ねたジャケットと、身頃や袖を丸くくり抜いたニットなど、曲線を強調するアイテムも登場。要素をそぎ落とし、黒と赤のみストイックなカラーパレットに絞ったからこそ、体のラインを程よく拾ったり、逆に直線的に見せたりする持ち味のパターンの良さが際立つ。パタンナーとしてキャリアをスタートさせた藤田デザイナーの原点を感じさせるコレクションだった。

 ショー終了後、藤田デザイナーがマイクを持ってステージに登壇し、ショーにかけた思いと若者へのメッセージを熱っぽく語った。「下を向いて欲しくないし、自分も前を向いていることを表現するために、このショーをやりました。若い人たちは何者かになりたくて、みんな焦ってると思う。俺もそうだった。でも、ゆっくり基本を磨いて、自分で道を作って行けばいい。スマートじゃなくていいんだよ。今はこんな状況でも、みんなが築く時代はもっといいものになる。それだけが伝えたかった。来てくれて本当にありがとう」。

 招待されたある学生は「ショーを見て心が震えた。素材からパターン、カッティングなど服の要素全てを意識しないと、感情を掻き立てる服は作れないと実感した。今はテキスタイルデザインを学んでいる。他の分野にも興味を広げて頑張っていきたい」と感想を述べ、別の学生は「生まれて初めてショーを見ることができた。デザイナーから直接話も聞けて、とても刺激になった」と語った。藤田デザイナーの思いは、彼らの胸にしっかり届いていた。

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「アンダーカバー」のリアルショーでサプライズ 東コレにまさかの“使徒襲来”

 「アンダーカバー(UNDERCOVER)」が、19年ぶりの東京での単独ランウエイショーを寺田倉庫で開催した。「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」の冠スポンサー、楽天の支援プロジェクト「バイアール(by R)」の一環で、顧客を中心とした第1部と、メディアやバイヤーを招待した第2部に分けて行った。第2部の様子は公式サイトなどで生配信した。

メンズは「エヴァ」がモチーフ
突き抜けた世界観

 ショーはメンズとウィメンズに分けて発表した。メンズは事前にルックで公開したアイテムではなく、「新世紀エヴァンゲリオン」をモチーフにしたスタイルを披露。人類を襲う生命体「使徒」と、それに対抗するために生み出された人造人間「エヴァンゲリオン」を、グラフィックや総柄、アイテムの組み合わせなど多用な手法で表現した。例えば、目が光るヘッドピースにハイネックコート、細身のパンツというスタイリングで綾波レイが操る「エヴァ零号機」を表現したり、紫と緑のカラーブロックを用いたパフジャケットは主人公が操縦する「エヴァ初号機」だったり、他にアスカを思わせるスタイルも登場。作中で「エヴァ」操縦士が付ける耳型のヘッドピースをはじめ、アクセサリー1つ1つにも世界観を詰め込んだ。壁にはアニメのワンシーンを投影し、使徒の襲来を想起させる轟音を響かせるなど、演出と洋服が一体となり、作品のファンならずとも没入してしまうショーを作り上げた。

ウィメンズの
毒々しい生命力

 ウィメンズは、トム・ヨーク(Thom Yorke)がミックスした音楽を背に、ニットにワイドパンツ、ピンヒールを合わせたシンプルなルックでスタート。ニットには神や天使、教会など宗教関連のモチーフを採用し、意味深なムードを作り上げる。そこからショートブルゾンとフード付きのベスト、ロングジャケットなどをレイヤードしたカウボーイルックや、ベロアジャケットにフリルシャツを合わせたバースタイルなど、レトロなムードが続く。時おり透明のビニールパーツを差し込んで、フューチャリスティックなテイストも加えた。最後には、大きなフリルを腰にあしらったワンピースや、無数のフリルをつけて超ボリューミーにしたドレスなど、生命力溢れる服を連打する。目元には仮面のようなラメを付けたり、小さな蝶々やコウモリのような生き物を散りばめた総柄のジャンプスーツを挟んだりと、同ブランドらしい毒っ気も盛り込まれていた。

 ショー終了後の会場では、「まさかのエヴァだったね」「あれって販売するのかな?」「ウィメンズもすごく可愛かった」「見に来れてよかった!」と熱い感情を共有しあう来場者ばかりだった。高橋盾デザイナーの「東京でやるからには、“生”のショーの楽しさ、パワーを伝えたい」というコメントの通り、東京でしか起こせないインパクトを見せつけられた。デジタル発表によってリアルショーの価値が揺らいでいるのは事実だが、リアルの可能性を信じるデザイナーがいる限りは、ファッションショーの楽しさは進化していく。

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「ジュンヤ ワタナベ」が28年ぶりに東京でショー ライブの熱気を纏う“不滅のロック魂”

 渡辺淳弥が手掛ける「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME DES GARCONS)」は2021-22年秋冬コレクションのファッションショーを3月15日に行った。従来パリで発表している同ブランドが東京でショーを行うのは、1993年4月の93-94年秋冬シーズン以来28年ぶり。会場となった東京・豊洲の大型ライブハウス、豊洲PITに入場するとギターやドラムセットが舞台上に並んでおり、今にもライブが始まる雰囲気だ。

「ヴェルサーチェ」と初コラボ ロックTシャツとプリントをミックス

 ショーは米ロックバンド、エアロスミス(Aerosmith)の楽曲「Back in the Saddle」のライブ盤をBGMにスタート。スモークの中から出てきたファーストルックのモデルは、背面に「ヴェルサーチェ(VERSACE)」の代表的なバロッコ柄のスカーフ地を配したエアロスミスのロックTシャツに、サイドプリーツを加えたジーンズを着用。顔は黒く囲んだアイメイクに鼻ピアス、チェーンネックレスを合わせたロックガールで、曲に合わせて踊るようにポーズをとった。

 キーアイテムはロックTシャツだ。エアロスミスに続いて、クイーン(Queen)、ザ・フー(The Who)、キス(KISS)、デフ・レパード(Def Leppard)、セックス・ピストルズ(Sex Pistols)、AC/DC 、ブラック・サバス(Black Sabbath)、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)、ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)など、主に1970年代に名を馳せたロックバンドのアルバムジャケットやロゴのモチーフを使用している。目を引くスカーフ風のテキスタイルは「ヴェルサーチェ」との初のコラボレーション。6種類の代表的なスカーフ柄を採用し、Tシャツやボトムスを彩った。デニムは「リーバイス(LEVI’S)」との協業で、定番モデルの“501”から37年、47年、66年、77年の4つの時代のモデルをベースに再構築している。「リーバイス」とはメンズの「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME DES GARCONS JUNYA WATANABE MAN)」で長年コラボを続けているが、ウィメンズでは初。ウィメンズのデニムブランド「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン デニム(JUNYA WATANABE COMME DES GARCONS DENIM)」からのアイテムとなる。他にもミリタリージャケットやコートをはじめ、スタジャンやネルシャツ、テーラードジャケット、白シャツにネクタイなど、鉄板のロックスタイルに、異素材やプリーツを掛け合わせた。

自己表現を楽しむ“不滅のロック魂”

 フィナーレは、モデル全員が踊りながら一列に広がって一礼。会場にはライブ後のような熱気が漂っていた。渡辺デザイナーはこのコレクションを「不滅のロック魂」と題した。ヘビーメタルやハードロック、グラムロック、サイケデリック、パンクロックなど異なるジャンルを超えて、音楽のように自由に自己表現を楽しむスタイルだ。昨今はコロナ禍でさまざまなライブイベントがキャンセルされ、イベントのオンライン化も進んでいる。ロックの反骨心を借りながら、ミュージシャンたちの情熱を込めた「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン」の服は、人々を強く、前向きな気持ちにしてくれる。

■ショーのセットリスト
1. Back in the Saddle / エアロスミス
2. Seven Seas of Rhye / クイーン
3. Baba O'Riley / ザ・フー
4. Detroit Rock City / キス
5. Photograph / デフ・レパード
6. Anarchy in the U.K. / セックス・ピストルズ
7. Hells Bells / AC/DC
8. Sympathy for the Devil / ザ・ローリング・ストーンズ

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BiSHが「ネグレクト」に登場! 東コレ頂上決戦“T-1グランプリ”予選第4夜

 2021-22年秋冬シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」が15日に開幕しました。国内外から51ブランドが参加し、4割がリアルショーを行います。「WWDJAPAN.com」では、今シーズンのベストブランドをユーザー投票で決定する“T-1グランプリ”を開催!それに先駆け、記者3人がその日に発表したブランドの中から独断でグランプリ候補を選出します。今日のノミネートブランドはこの3つだ!


東コレ取材2シーズン目
現場取材担当の美濃島
「ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATIENTS)」

見どころ:“違法野外レイブ”をテーマにしたエンターテインメント満載のショーを開催。巨大なドームとレーザー演出、客席の折りたたみチェア(オリジナルバッグに入れて持ち帰り可能!)、マスクの上から付けるバンダナなど、世界観を作るために手間とお金を惜しまない姿勢があっぱれ。デニムとTシャツのみのラフなルックからラメ入りのチェック柄セットアップでバチバチに決めたモデルまで、テイストは幅広いのに不思議とまとまって見えるのは、“レイブ”という個性の坩堝のようなテーマのおかげ。BiSHメンバーによるおなじみの“麺食い“演出は、「寝る人の隣で出前の盛りそばをすする」というもので、渡辺淳之介デザイナーは「よくあるシーンじゃないですか?」と話してましたが、全く共感できませんでした。


東コレ取材歴5年
ニュースデスク大塚
「ハイク(HYKE)」

見どころ:「ハイク(HYKE)」が登場すると東コレが急に引き締まりませんか?そう思ってしまうぐらい、高いクオリティーのクリエイションを毎シーズン安定的に見せてくれます。今シーズンもミリタリーやアウトドアを軸に、英国調のかっちりしたコートやセットアップ、牧歌的なざっくりフェアアイルニット、腕や脚を覆うパーツウエアを差し込んで凜としたスタイルを完成させています。タフな機能素材のアウターに柔和なシルエットを採用したり、命を守るカラビナ&ロープをキャッチーなベルトとして提案したり、マウンテンシューズにシャープなラストを用いたりと、相反する要素を軽やかに衝突させる“抜き”のセンスに毎回感心するんですよ。男性の僕も欲しい物だらけでした。


若手随一の“ファッションバカ”
東コレ初取材の大澤
「ミーンズワイル(MEANSWHILE)」

見どころ:14年にスタートした「ミーンズワイル」は、テーマ“FORM FOLLOWS FUNCTION , FUNCTION FOLLOWS FORM”を掲げてコレクションを発表。前シーズンのテントを意識した立体的なフォルムの要素は抜け、フロントに2本のファスナーを用いたMA-1やマウンテンパーカ、ハンティングベスト、ムートンジャケットなど、リアルで着やすい機能的なアイテムを数多く提案しました。そのほかリフレクターのラインが特徴の異素材を組み合わせたスエットや、木目調のジャケットとラップパンツを合わせた新しいスタイルも提案しました。個人的にはオレンジのダウンジャケットにケープがレイヤードされたルックがツボでした。

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「ミスタージェントルマン」に感涙 東コレ頂上決戦“T-1グランプリ”予選第3夜

 2021-22年秋冬シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」が15日に開幕しました。国内外から51ブランドが参加し、4割がリアルショーを行います。「WWDJAPAN.com」では、今シーズンのベストブランドをユーザー投票で決定する“T-1グランプリ”を開催!それに先駆け、記者3人がその日に発表したブランドの中から独断でグランプリ候補を選出します。今日のノミネートブランドはこの3つだ!


東コレ取材2シーズン目
現場取材担当の美濃島
「ソワハ(SOWAHA)」

見どころ:「ソマルタ(SOMARTA)」の廣川玉枝デザイナーが立ち上げた“現代の和装”を提案するブランドです。京都の友禅染め企業と組んでデジタルプリントした、自然風景のグラフィックが段違いに美しかった。山合いの夕暮れや崖から落ちる清流を切り取ったのは、「自然を慈しむ日本人の感性をデザインに落とし込むため」だそう。菊の花や牡丹を織りで表現した無地のテキスタイルも独特の凹凸で目を引きました。こんな服を着た女性を街で見かけたら見とれてしまいそう。玉川デザイナーは香川の工場と組んだブランドもスタートさせるなど、日本の伝統や技術を広める活動を意欲的に行っています。


東コレ取材歴5年
ニュースデスク大塚
「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」

見どころ:パンデミックで人類が直面している危機や不安を乗り越えた先の愛や平和を願うコレクションでした。異素材ハイブリッドや盛り盛りにレイヤードする東京ブランドらしいミックス感が強く、ベージュやパープルといったカリーリングが優しいスタイルでした。素材感やモチーフなど要素はたくさんなのに、スタイルとして軽やかに成立させてしまうバランス感は本当に上手い。ベーシックやトラッドが中心だった初期の軸は残しつつ、世界観を拡張していく姿勢がたくましかったです。今年1月に逝去したオオスミタケシデザイナーが「フェノメノン(PHENOMENON)」で使っていた“レモンツリーカモ”と“ブルータイガーカモ”がタイツに差し込まれていたのが涙涙。いつもと変わらない「ミスター・ジェントルマン」に感動しました。


若手随一の“ファッションバカ”
東コレ初取材の大澤
「ディ_カフェイン オム(DE_CAFFEINE HOMME)」

見どころ:日本出身の韓国人デザイナーのアビズモ ジョー(Avizmo Jo)が2018年にスタートしたメンズブランド。今シーズンはサテン生地で仕立てたチェスターコートをデニムジャケットにドッキングしたり、オレンジやグレーのスラックスパンツにコーティングを施したりと個性豊かなピースが目立ちました。個人的にはブルーで染めたベロアのタキシードが着てみたい。安っぽさもなく、日本のマーケットをに合わせているわけでもなくて、自分の作りたいものを届けているところに惹かれました。最近では韓国アイドルも着用して徐々に人気を集めていますし、これからが楽しみです。

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「メゾン マルジェラ」×「リーボック」の最新コラボは“クラブ シー”がモデル

 「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」は、「リーボック(REEBOK)」とのコラボレーションスニーカー“クラブシー メゾンマルジェラ(CLUB C MAISON MARGIELA)”を3月24日に発売する。「メゾン マルジェラ」と「リーボック」の公式オンラインストアのほか、「リーボック クラシック ストア 原宿」や阪急百貨店の公式オンラインストア、一部セレクトショップなどで取り扱う。価格は3万2000円。

 「リーボック」を代表する“クラブ シー”のデザインをスキャンした画像を一枚のフラットレザーにプリントし、ステッチや曲線をだまし絵のように描いている。「メゾン マルジェラ」が得意とするトロンプルイユの技法を用いたユニークな仕上がりだ。

 両者のコラボレーションは2020年9月にスタートし、これまで「メゾン マルジェラ」のアイコンシューズ“タビ(TABI)”と、「リーボック」の“インスタポンプフューリー(INSTAPUMP FURY)”や“クラシック レザー(CLASSIC LEATHER)”を融合したシューズを発表している。

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「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「ミュウミュウ」の発表で盛り上がるクライマックス パリコレ対談Vol.4

 2021-22年秋冬シーズンのパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が3月10日までオンライン上で開催されました。ここでは終盤2日と終了後の期間外に発表された中から5ブランドをピックアップ。長年ウィメンズコレクションを取材する向千鶴「WWDジャパン」編集長とベルリン在住の藪野淳ヨーロッパ通信員が対談形式でリポートします。

「シャネル」は小さなクラブで親密なムードを表現

藪野:「シャネル(CHANEL)」のショーといえばグラン・パレ。ですが、1月に披露されたオートクチュールのショー映像の舞台となった後、大規模な改装工事に入ってしまいました。今回はどんなロケーションになるのかな〜と思っていたら、映像はパリ左岸をモデルが歩くモノクロのシーンからスタート。そして、ショーの会場となる老舗クラブのカステルへと入っていきます。グラン・パレの規模感とは対極をなすようなこじんまりしたスペースは、親密なムード。ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)はコントラストを作ることが好きだそうで、「ボリュームのある冬のアイテムに求めたのは、あえて コンパクトな空間。今の時代のせいかもしれないけれど、より温かみや活気を感じられる何かが欲しかった」と語っています。

向:左岸のシーンの音楽はダイアナ・ロス(Diana Ross)が歌う、ちょっと切ない映画「マホガニー」のテーソング。背景に映るカフェはクローズされていてロックダウンが続くパリの街を見るようでそこも切ない。その中に堂々たる「シャネル」のモデルたちが登場して、街にエネルギーを注入していました。服は“ザ・パリジェンヌ”。ツイードのコートにフェイクファーのブーツ、白い襟とカフスつきのメンズシャツ、レトロなスキーリゾート風スタイル。大胆に露出する素肌と重ねづけするアクセサリーも印象的です。どこかレトロなのは70年代のイメージに着想を得ているからですね。モデルが自分たちで着替えたり、メイクアップをしたりするシーンも、かつてのショーではそうだったから、だそう。映画のワンシーンを見るようでした。

藪野:「シャネル」はデジタルでの発表になってから、映画のような演出で世界観を構築していますね。先シーズンはストーリーテリング重視の映像作品、もしくは、シンプルなショー映像のどちらかという感じでしたが、今シーズンはそのハイブリッドが増えた印象。服もきちんと見られて、エモーショナルな部分にも訴えかけてくるので、デジタルでも取材し甲斐がありました。

新体制で再始動した「アン ドゥムルメステール」

藪野:「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULMEESTER)」は、イタリアのセレクトショップであるアントニオーリ(ANTONIOLI)傘下に入り、パリコレに戻ってきました。買収前にクリエイティブ・ディレクターを務めていたセバスチャン・ムニエはすでに退任しているので、今回はデザインチームが制作したコレクションです。創業者のアンとも親交の深い新オーナーのクラウディオ・アントニオーリ(Claudio Antonioli)も「私の使命はDNAを守ることと、これからもアンがハッピーであること」とNY版「WWD」に話していましたが、原点回帰という感じがしました。アン本人が手掛けていた頃のコレクションも長く見られていた向さん的にはどうでしたか?

向:「アン ドゥムルメステール」そのものでした。私が創業デザイナーのアン本人だったら、このショーを見て感泣すると思う。自分が去り、代替わりをしさらに親会社も変わった後にもこのように自分自身のスタイルが守られていることにね。それだけアンが残した美学がクリアで普遍的なんだと思う。端正な黒のウールのパンツスーツに白のタンクトップやシャツ。垂れ下がるたくさんの紐のディテール。そしてサテンのジレに帽子。こう見ると、「アン ドゥムルメステール」はジェンダーレスという言葉が盛んに使われるずっと前からジェンダーレスなスタイルを築いていましたね。

藪野:アンは現在デザインには関わっていないですが、クラウディオはアンと電話で話したりアドバイスを求めたりしているらしいです。卸販売や生産体制にも梃入れを図っているようなので、今後どうなっていくのかに注目ですね。

壮大さは今季No.1 !「ミュウミュウ」の雪山ショー

藪野:「ミュウミュウ(MIU MIU)」は、観客を招いたリアルショーじゃあり得ないような雪山の中でのショーでした。撮影されたのは、アルプスの一部であるドローミティ山脈。今回のパリコレは、なるべくテレビの大画面で見るようにしていたんですが、その中でも迫力No.1でした。このロケーションは今季のデザインにも大きく関係していて、スポーツの要素や厳しい環境を生き抜くたくましさが「ミュウミュウ」らしいガーリー&ドリーミーな世界観と融合しています。

向:個人的に大好物でした(笑)。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のドリーミーな妄想をそのまま実現したかのような演出は、とにかく夢があります。制作チームはよくぞこの晴天を手に入れましたよね。そして服は様々なギャップの存在に萌えました。官能的なスリップドレスに実用的なアウター、ポップなカラーと制服スタイル。中でも白に映える水色やピンクといったポップな色使いがコートやニット、ダウンコートなどあらゆるアイテムに採用されていて冬の景色をパッと明るくしていましたね。
 
藪野:スリップドレスはヘビーウールで仕立てられていて、肩ひもやボディにあしらったスタッズで強さをプラス。個人的にジャケットやドレス、ニット帽などに取り入れられていた素朴なクロシェもツボでした。
 

トリの「ルイ・ヴィトン」は芸術とファッションの結びつきを探求

藪野:パリコレのトリはやはり「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」です。先シーズンは、リアルでは商業施設として復活予定の老舗百貨店サマリテーヌで観客を招いたショーを行い、デジタルではそのショー映像にクロマキー合成を駆使して不思議な世界観を描いていましたが、今回の舞台はルーブル美術館の中。イタリア彫刻が並ぶミケランジェロ・ギャラリーと古代ギリシャやローマの彫刻が飾られたギャラリー・ダリュをランウエイとして使い、最後はモデルが「サトモラケのニケ」を見上げるシーンでショーは締めくくられました。その会場からも分かるように芸術とファッションの結びつきを感じるコレクションでしたね。
 
向:「ルイ・ヴィトン」のショーは普段、ルーブル美術館の定休日である火曜日の夜は館の内外を使って開かれます。今は新型コロナウイルスの影響で臨時閉館中なのですが、ショー撮影のために特別に使用できたようですね。芸術とファッションの結びつきを象徴するのは、イタリアのアート&デザインのスタジオ、フォルナセッティ(FORNASETTI)とのコラボレーション。1940年にピエロ・フォルナセティが開いたアトリエで、13000点あると言われるアーカイブの中からニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)のチームが選んだアートワークにフィーチャーしたそうです。フォルナセッティのアイコンである手描きの画像が服やアクセサリーに採用されていました。目を引いたのは、独特のボリューム感です。丸みを帯びたラインが多く、ギリシャ彫刻の人物にヒントを得たのかな?色も館内の柱の水色や装飾のゴールドを連想するなど「ルイ・ヴィトン」がルーブルと一体となるようなデザインでした。見たことの造形が多く、トーンや優しいけれど攻めていて今季のラストを飾るにふさわしいコレクションでした。
 
藪野:ニコラの下で長年働いてきたデザイナーを取材することが最近多いのですが、皆、ニコラから“飽くなき探求心”を学んだと言います。今回のコレクションでは、そんなニコラの姿勢をひしひしと感じました。そして、音楽はダフト・パンク(Daft Punk)の「Around The World」「Harder, Better, Faster, Stronger」「Burnin’」のリミックスでしたね。これは、彼らが解散を表明する前からニコラが依頼していたものだそう。本当にクセになるビートで、今でも頭の中でエンドレスリピートされています。
 

「アミ」の映像は90年代の熱狂的なショーへのオマージュ

藪野:パリコレは3月10日で終了しましたが、「アミ アレクサンドル マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI)」 もその直後の11日に映像でコレクションを発表しましたね。モデルがタクシーでショー会場に向かうところから始まるドキュメンタリー風の作品で、舞台状のランウエイの両サイドでフォトグラファーたちが待ち構えるファッションショーのシーンは懐かしさを感じる設定。ファッションショーに強い思い入れがあるアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)は、「映像は90年代のファッションショーへのトリビュート。そのクレイジーさやエネルギー、喜びを再現したかった」と話していました。当時の華やかなショーは、彼がデザイナーになる大きなきっかけになったそうです。
 
向:途中から見たら昔の「ファッション通信」にしか見えません!パワーショルダーのジャケットやコートを軸としたセットアップも90年代的です。ともすればただの郷愁に陥る設定ですがちゃんとおしゃれに仕上がっていたのはさすが。ファッションショーはファッションビジネスのシステムの一部だけど、効率や効果だけではその存在意義は語れません。結局は「ショーで見せたいデザイナーとそれを見てその感動を伝えたい観客」の熱狂があったからこんなに長く続いてきたのだと改めて思いました。
 
藪野:コロナ禍の取材で多くのデザイナーや業界人が口にするのは、リアルなショーには“魔法(Magic)”があるということ。人が関わり合うことによって生まれる熱気や一体感、緊張感、想定外のアクシデントなどが合わさることが、ショーに魔法をかけると言います。結果、それが観客たちの心を揺さぶるんですよね。今回、初めて完全にデジタルでファッション・ウイークを取材しましたが、あらためてその通りだと思いましたし、その体験が自分のファッションへの情熱や熱量を増幅させるのだなと。デジタルではずっと家にいて画面を見ているので移動もなく時間に余裕がある反面、リアルなファッション・ウイークで朝から晩まで街中を駆け回っている時のようなアドレナリンは出ませんでした。ショーが終わった後や待ち時間に感想を話し合うのも恋しいですし、来シーズンはまたリアルで開催されるといいですね。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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「ジョン ローレンス サリバン」が11年ぶりの東京帰還で「集大成」のショー 宮下貴裕がスタイリング

 「ジョン ローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」は、2021-22年秋冬コレクションのランウエイショーを東京・寺田倉庫で開催した。同ブランドが東京でショーを行うのは10-11年秋冬シーズン以来11年ぶりで、柳川荒士デザイナーが「海外進出以降、ショーを直接見ることができなかった日本のファンの皆様に向けて披露したい」と企画した。会場にはメディアやバイヤーなど業界関係者のほか、モデルの鈴木えみやOKAMOTO'S(オカモトズ)のオカモトショウといったブランドと親交のあるセレブと、学生を含む幅広い世代の顧客が多数来場した。

“防御”を拡大解釈
強い服をシンプルに見せる

 「ブランドの集大成」と語る同コレクションのテーマは“PROTECT”。軸となるテーラードに、アイスホッケーのキーパーのユニホームに着想したキルティングパッド付きのコートや、日差しを避けるためのネックゲイターを応用したマスク付きのカットソー、カウボーイが足元を保護するために着用するチャップスを発展させ、前身頃をレイヤーさせたパンツ&スカートや、つま先に鉄板が入った工事現場の事故防止シューズを再解釈した金具付きのブーツなど、柳川デザイナーの“防御”の意識を反映させたアイテムを組み込んだ。「コロナは意識していない」と語るが、会場には“PROTECTED”の文字をプリントしたマスクも配布。「不透明な状況に屈せず生きていこう」というメッセージを感じずにはいられなかった。

 ランウエイは観客と観客の間にできた20メートルほどの道をモデルたちが闊歩するシンプルな内容で、特別な演出は一切なし。BGMも美しいピアノの音色が印象的なエイフェックス・ツイン (Aphex Twin)の「Avril 14th」で幕を開け、ルックをシンプルに見せた。「ロンドンでは過剰なほどアグレッシブに見せることもあったが、服が強ければ自然と観客に伝わる」。しっとりしたムードの後は、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)のゴリゴリなメタルソング「March Of The Pigs」が爆音で鳴り響き、会場のボルテージが急上昇。デジタルでは伝わらない、リアルショーならではの熱気に包まれた。

 スタイリングを担当したのは、柳川デザイナーが尊敬してやまないという「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)」の宮下貴裕デザイナー。「東京でしか実現できないコレクションにしたい」という柳川デザイナーの思いが宮下デザイナーと共鳴し、タッグが実現した。ルックには「タカヒロミヤシタザソロイスト.」と日本の眼鏡企業アイヴァンによる協業ラインのアイウエアが使われ、ブランドの垣根を超えたコレクションとなった。

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ミウッチャとラフはマークやレム・コールハースと何を話した? 「プラダ」2021-22年秋冬コレクション発表後の対話イベントで

 新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、各ブランドがさまざまな趣向を凝らしたデジテル形式のコレクション発表に力を注ぐ中で、「プラダ(PRADA)」は2月25日に2021-22年秋冬コレクションショーをデジタル形式で開催した。ショーの後にはユーチューブ(YOUTUBE)のファッションおよびビューティ部門トップのデレク・ブラスバーグ(Derek Blasberg)が司会を務めるパネルディスカッションが行われ、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のほかにラフ・シモンズ(Raf Simons)、デザイナーのマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)、アカデミー賞のノミネート経験を持つ映像監督で作家、プロデューサー業もこなすリー・ダニエルズ(Lee Daniels)、ショーの音楽を手掛けたプラスティックマン(Plastikman)ことリッチー・ホゥティン(Richie Hawtin)、建築家のレム・コールハース(Rem Koolhaas)、トランスジェンダーモデルのハンター・シェーファー(Hunter Schafer)がそれぞれリモートで参加した。

 ミウッチャは、「オーディエンスがいないとなれば、発言内容により一層意識を向けて雰囲気を作っていく必要がある。人がいないところで話をするのはいつも以上に難しいし、筋が通った見せ方や編集を行うのも以前と違って簡単ではない。そのうちリアルショーに戻ると思うが、デジタルショーで学んだことを無駄にしてはいけないし、両方の要素を組み合わせたら面白くなるだろう」と語った。

 ラフは、「リアルショーに慣れきっていたこともあり、コールハースとはライブ感のあるデジタルショーを作る方法や、空間と洋服を物理的にも心理的にもどのように結びつけるのかについてたくさん話をした。私たちはただショーの動画を撮影していたわけではない」とコメントした。

 「プラダ」は2021-22年秋冬シーズンのミラノ・ファッション・ウイークで、コールハースと彼の建築設計事務所OMAの研究機関であるAMOが考案した、色鮮やかなエコファーと大理石を部屋の床や壁に施した、1月のメンズショーと同じ空間演出でウィメンズ・コレクションを発表した。これに対してコールハースは、「ショーは前もって計画できるが、アドリブも強く求められる。常にオリジナリティーのあるアイデアで挑戦できる」と語った。

 ジャズシンガーのビリー・ホリデイ(Billie Holiday)の伝記映画、「The United States vs. Billie Holiday(邦題未定)」を監督したダニエルズは、主役を演じるグラミー賞ノミネート経験もあるシンガーソングライター、アンドラ・デイ(Andra Day)が劇中で着用する衣装を「プラダ」に依頼した。ダニエルズは、「無観客のファッションショーではフロントローのセレブなどほかに目を向ける存在がいないため、コレクションから目を離さずにひたすら集中することになる」と指摘した。

 ラフは21年春夏シーズンからミウッチャと共同でコレクションを手掛けているが、ランウエイショーの構成や映像化については、以前よりも簡単に決定を下せるようになったという。

 一方でコールハースは、「動画を用いたデジタルショーでは“服を背後から写すシーンで始まり、遠くに消えていきながら終わる”といった、さまざまな視覚的要素を取り入れられる」と述べた。

 ホゥティンは、「音楽はファッションやそのディテールと深く関わっており、リアルショーの時より親しみが増した気がする。デジタルショーと音楽は共生している。コールハースの建築と同じように、音楽はショーをサポートするための枠組みのようなものだ」と語った。

 これに対してラフは、「音楽は映像にエネルギーをもたらし、最終的な結果に大きく貢献する」とした。

 ダニエルズはビリー・ホリデイの映画で「プラダ」と協業したことについて尋ねられると、「ミウッチャの素晴らしい仕事を抜きにしても、ミウッチャはビリーと同じく強い女性だ。彼女に衣装を依頼するのは緊張したが、アーティストとしてとても真剣に取り組んでくれた。当初から彼女が100%の力で取り組んでくれると思っていたし、ビリーの命を衣装に吹き込むことができる人はミウッチャ以外に思いつかなかった」と話した。

 シェーファーは、「ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA(Euphoria)』に出演したことで、衣装やメイクによってさまざまなシーンが強調されたり、クールな効果を付けたり、何かを引き出せたりすることを実感して、大きな学びを得た」とコメントした。

 また、ミウッチャが映画や文学に関心を持っていることから、ほかのパネリスト達がどういった分野に関心を持っているのかを尋ねるシーンもあった。

 ホゥティンは空間や彫刻と答え、コールハースは「お互いが別の惑星から来た者同士だと想定して、仕事相手が目指しているものや彼らの習慣、文化、美学などを理解し、自分の視点やそれが意味するものを解釈するのに役立てている。また、スピード感のあるファッション業界とのコラボは楽しかった。たった15秒で何かすごいものを作り上げることができる。人類学の細かな部分とファッションの直感的なひらめきを掛け合わせるのは非常に素晴らしい」と述べた。

 マークは、「映画、芸術、音楽に加えて“人生のアート”にも関心がある。生きている以上、あらゆるレベルでの人生経験が必要だ。私たちが実践していることは、“綺麗なインテリア”といった類いの、生活を彩るための美的要素に過ぎない」と語った。

マークやレム・コールハースが語る“プラダらしさ”

 また司会者のブラスバーグがパネリストに“プラダネス(Pradaness、プラダらしさ)”の定義を訊ねると、ミウッチャが苦笑する場面もあった。

 マークは「“プラダネス”とは、ミウッチャ自身のことさ。ミウッチャとラフは共同でコレクションを手掛けているが、やはりミウッチャの類いまれなるセンスや着眼点、文化、知性、ファッションへの愛には感銘を受ける。“プラダネス”と、イタリア人映画監督のミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo Antonioni)、フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)、ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti)らが手掛けた映画には、“何でも受け入れる懐の深さ”という点において通ずるものがある。はっきりと言い表せないが、そうした要素を随所に感じる」とコメントした。

 ミウッチャや彼女の夫でプラダ共同最高経営責任者でもあるパトリツィオ・ベルテッリ(Patrizio Bertelli)とも長年にわたって仕事をしてきたコールハースは、「ミウッチャは何かを嫌いに思うとき、ただ普通に嫌ったり拒絶したりするのではなく、対象のあらゆる側面を検討して、そこから得たエネルギーをほかの何かに生かしている。とても素晴らしいと思う」とコメントし、これに同意するラフの傍らでミウッチャが笑っている、というシーンもあった。

 ミウッチャは、「マークが言ったように、ファッションはインスピレーションと人生に深く根ざしている分野だ。私たちは基本的に、建築や音楽、そしてそのパフォーマーたちと関わりながら物語を伝えていかなければならない。突き詰めていくとファッションは人生なので、他者の介入が必要になる」とコメントした。

 マークは、「こうしたやりとりは興味深くて勉強にもなるし、クリエイティブな方向性を感じる。確かに以前は忙しいスケジュールに文句を言っていたが、実際に休みを取るのは変な気がしたし、難しくもあった。まさにハムスターが車輪の中で走っているように、休むことができない感じがしていた。しかし今季はまだショーを開催しておらず、今は休みがあることで文句を言っている。休めなかった日々が恋しい。私は尊敬する人びとにかなり関心があるため、今回のパネルディスカッションは非常に興味深い」と語った。

 するとコールハースは、「緊急性のある地球温暖化やサステナビリティの分野では科学者との協力関係も必要だが、そこには美学や忍耐がほとんどないため、一般的にテンポが遅いと言われる建築業界のスピードは加速し、結果的にはかなり思い切った変化を引き起こしている。突如として緊急性のある事態に直面したことで、すべての優先事項を無視しなければならなくなった。新鮮だし、みんなで協力する必要がある」と話した。

 ミウッチャは、「私もそう思う。今回のパネルディスカッションでは気軽な問題について話をしたが、今現在、多くの政治的問題や業界としての正しい行動に対する責任、変化に貢献すること、そして多様性、ジェンダー、生態系といった問題に真剣に取り組むことが求められている。すべてを解決することはできないが、責任を持って積極的に行動することが大切だ。こうした問題を取り上げて、正しい方向に一歩踏み出していくことが重要だ」と述べた。

 今回で3度目の開催となる対話形式のイベント、“プラダ・インターセクションズ(Prada Intersections)”は、ミウッチャとラフがよりダイナミックな創造性を求めてファッション業界以外の人びとコミュニケーションを図り、新しい意見に触れることを目的としている。2人は1月に開催された2021-22年秋冬シーズンのメンズショー終了後にも、世界の大学やカレッジから選ばれた学生たちとリモート形式で対話する機会を設けた。また20年9月には、ショーに先駆けて公式ウェブサイトで両者への質問を募り、2人の対談のライブ配信も行った。

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新生「クロエ」はサステナブル&ソーシャル・グッドに 素材へのこだわりとクラフト感あふれる2021-22年秋冬

 ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)新クリエイティブ・ディレクターのデビューを飾る「クロエ(CHLOE)」の2021-22年秋冬コレクションが3月3日、創業者ギャビー・アギョン(Gaby Aghion)生誕100年に合わせて発表された。夜のサンジェルマン・デプレの街を舞台にしたショー映像でモデルが現れるのは、アギョンが1960年代にショー会場として使っていたブラッセリー・リップ(Brasserie Lipp)などのカフェから。デザイン面でも当時のドレスにあしらわれ、ブランドのシンボルになっているスカラップディテールを随所に取り入れることで、彼女への敬意を表した。

 ファーストルックは、 “パフチョ(PUFFCHO)”と呼ぶ丈の長いカシミアのポンチョとパファージャケットのネックラインを組み合わせたアイテム。ボヘミアンムード漂うポンチョは歴代の「クロエ」のショーにも度々出てきているが、そこにガブリエラはユーティリティーのエッセンスを加えた。コレクションの中心となるのは、彼女が得意とするニットのロングドレス。故郷ウルグアイをイメージさせるマルチカラーボーダーや素朴なオープンステッチニット、肩から腰にかけてラッフルをあしらったデザインなどをラインアップする。そのほか、「クロエ」らしさを感じさせる軽やかなエンパイアラインのシルクドレスをはじめ、ウールガーゼのプリーツトップスやスカート、ナパレザーのドレスやスカート、シアリングのコートなどを織り交ぜ、新たな「クロエ」ウーマンを表現した。

 その女性像の解釈について尋ねると、「例えるならば、『クロエ』はアフロディーテ。そして、自分のブランド『ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)』はアテナのイメージ」とガブリエラ。「アテナは戦士で、アフロディーテも同じように強いけれど、その強さは愛や美、魅惑から来ている。だから、温かみや母性的な愛を放つような魅力的で丸みを感じる女性らしさがある。どちらも力強い女性ではあるけれど、アプローチが違う」と続ける。

 そしてバッグは、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代の“エディス(EDITH)”を復刻した。「初めて買ったラグジュアリーブランドのハンドバッグが“エディス”だった。今でも好きで、オマージュを捧げたかった」とし、オリジナルに忠実なデザインを発売するほか、リサイクルカシミアやリサイクルジャカードを用いたものやミニサイズ、トート、ドクターズバッグなどもそろえる。さらに、「新しいことが必ずしも優れているわけではない」という考えから、eBayで買い集めたビンテージの“エディス”をコレクションで余った素材でカスタマイズしたバッグ50点も製作。そのほかにも、スカラップ状のキルティングやパッチワークを施したチェーン付きの“ジュアナ(JUANA)”や、手作業で編み込んだレザーに“C”型のウッドパーツをあしらったスタイル、ニットのショルダーバッグなどクラフト感のあるアイテムを提案する。

ガブリエラ就任で大きく動き出した改革

 「クロエ」は現在、環境や社会に配慮した持続可能なビジネスモデルへの変革の最中にあり、サステナブルな素材やものづくりの知識とノウハウを持つガブリエラがそのキーパーソンになることは間違いない。彼女が就任したのは昨年12月で、“サステナビリティと大義へのコミットメント”をテーマにした今季のコレクションの制作期間はたった2カ月だったというが、すでに大きな前進が見られた。

 特筆すべきは、素材へのこだわりだ。それは、ショー前にコレクションで使用している生地の見本が届き、ショー後に配信されたリリースに各アイテムが何の素材でできているかが書かれていることからも分かる。実際、“パフチョ”やドレスに用いたカシミアは80%以上がリサイクルで、シルクも50%以上がオーガニック。「リサイクル以外のポリエステルやビスコースの使用を止めたり、リサイクルやリユース、オーガニック素材を調達したりとより環境負荷の低い素材を切り替えることで、昨秋冬コレクションと比べて環境負荷は1/4相当になっている」という。また、素材だけでなくパッケージにいたるまでサステナブルなサプライヤーを導入したほか、ミャンマーのマングローブへの植樹を通してカーボンオフセットにも取り組む。

 さらに社会貢献活動として、ホームレスの支援を行うオランダの非営利団体シェルタースーツ・ファンデーション(SHELTERSUIT FOUNDATION)に過去のコレクションの残反を渡し、雨風から身を守るための“シェルタースーツ”を製作。そのいくつかをショー終盤に披露したほか、同団体の活動支援を目的にしたバックパックも販売する(1点販売されるごとにシェルタースーツ2着分の制作費用を出資する)。これについて、ガブリエラは「他者の苦難を認識し救いの手を差し伸べるという目的をパンデミック後の世界での企業努力に織り込んでいくことは、『クロエ』の使命の一部。ラグジュアリーブランドには、その義務がある」と話す。

 一方で、こういった背景にある理念や取り組みはショーやアイテムを見るだけでは分かりづらい部分でもある。「新しいコンセプトを快く受け入れてチームのおかげで、このコレクションを作り上げることができた。ただ、私のメッセージを実現するには、デザインだけでなくさまざまな部門の理解が必要。昔ながらのデザイナーならしないかもしれないけど、マーチャンダイジングやプロダクションの会議にも出席して、その浸透を図っている。(気候変動の悪化を防ぐために)人間に残された時間は限られているから、規模の大きなラグジュアリーブランドのビジネスを変えるには急速な改革が欠かせない」とし、今は社内全体での理解を深めているところだという。その輪を広げていくため、今後はいかに卸先や消費者に伝えていくかが重要になるだろう。

 コレクションとして見ると、今シーズンはパターンの数も限られ、「ガブリエラ ハースト」を想起させるスタイルの印象も強かった。就任から3カ月足らずで抜本的な社内改革と並行してコレクションを準備するのは、時間が十分でなかったのかもしれない。しかし、ガブリエラと「クロエ」が今進めていることは一朝一夕で成し遂げられることではないし、ショー翌日のZoomインタビューからは彼女のメゾンを担っていく覚悟と自信を感じた。「私はブランドが提案するものに対して長期的なアプローチで取り組んでいる。まずこの1年の最大のミッションは、環境への配慮という点での『クロエ』のスタンダードをより一層高めること」と語るように、彼女の壮大な挑戦はまだ始まったばかりだ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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パンクを官能的に表現した「ヴァレンティノ」、SF映画のような「フェラガモ」 ミラノコレリポート第3弾

 2021-22年秋冬シーズンのミラノ・ファッション・ウイークが3月1日、閉幕しました。ここでは5日目から最終日までに発表された中から厳選した4ブランドをご紹介。長年ウィメンズコレクションを取材する向千鶴「WWDジャパン」編集長と、大杉真心「WWDジャパン」記者が対談形式でリポートします。

90年代のSF映画から着想を得た「サルヴァトーレ フェラガモ」

大杉真心「WWDジャパン」記者(以下、大杉):「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」の映像はSF映画のような作り込みに驚きました!「スター・ウォーズ」のオープニングクロールのように映像が始まり、未来都市をイメージした空間をモデルが歩きます。前シーズンは映画監督のルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)との協業でしたが、引き続きブランドと映画の結びつきを表現しているようです。

向千鶴「WWDジャパン」編集長(以下、向):今季は未来を描いた90年代の映画「ガタカ」「夢の果てまでも」「マトリックス」から着想を得たそう。そもそもなぜ未来かというと、「歴史や伝統ではなく未来のかけらから現代を見据えたかったから」。歴史あるブランドのかじ取りを任されているクリエイティブ・ディレクターのポール・アンドリュー(Paul Andrew)の強い意志がにじむ言葉です。

大杉:近未来的なデザインや色使いから、ポジティブなエネルギーを感じました。コバルトブルーやグリーン、メタリック、ホワイトなどが差し色になっていましたね。「サルヴァトーレ フェラガモ」はシューズを主力とするブランドですが、いわるゆパンプスはほぼ登場せず、今季はフラットシューズが豊富でした。特にスポーティーなバイカーブーツ、ネオプレンを使った“スキューバソックススニーカー”が目新しい。バッグはワントーンで、アイコンの“ガンチーニ”のマークを入れているのがポイント。ミニバッグやフォーンケース、バックパックもモダンで機能的なデザインです。

向:ミリタリーやバイクといったユニフォーム的なアイテムが多数登場しますが、これもインスピレーションとつながっていて、ポールいわく「一般的な現代のユニフォームは化石化した遺跡みたい。もっと開放されて多様性とポジティブマインドを融合したものであっていいはず」だから。素材にはサステナビリティに配慮したものをかなり多く使用しているようですね。

「ヴァレンティノ」の官能的なパンク

向:「ヴァレンティノ(VALENTINO)」はこれまでもずっと素晴らしかったけれど今回もまた本当に素晴らしかった。白と黒を基調としたミニ丈の服は、パンキッシュで洗練されていて、手仕事を生かしたクチュール的で若々しく。困難極まる今のミラノで何としても諦めないのだ、というピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)からのメッセージがビシバシと伝わってきました。コジマ(COSIMA)のライブの歌声がエモーショナルなこともあり、ちょっと泣きそうでしたよ。

大杉:私も感動しました。会場はミラノの歴史的な劇場であるピッコロ・テアトロ・ディ・ミラーノ。コロナ禍で閉鎖されている劇場であえて、ショーを開くことが「ヴァレンティノ」の“パンク精神”の表現なのだそう。アート文化の豊かなイタリアで、アーティストやパフォーマーたちの芸術活動が制限されている影響は大きいですよね。

向:アイテムはカジュアルに見えても細部は実に手が込んでいます。シンプルなメッシュのタートルネックのように見えるものが、実はチュールの上に生地を撚り合わせて菱形にしたものであるとかね。そういう細部が力強さにつながっています。

大杉:ファーストルックからミニ丈のスモーキングのような印象でとても官能的でした。ウィメンズはマイクロミニ、メンズは足首が出る丈にパンツがカットされていました。メッシュトップスやスリット入りのニットをレイヤードするスタイリングも「ヴァレンティノ」流のエレガントなパンクの表現でした。

向:インスタのティザーが面白かったね。ミラノの街角のケーキ屋さんがブランドのロゴを配した大きなケーキをウィンドウに飾っていたり、真っ赤な花だけを売るスタンドの花屋さんが登場したり。ローマのオートクチュールの美意識がイタリアの日常生活に馴染んでいる様が見て取れました。

「MSGM」は劇場で撮影した逆再生動画

大杉:「MSGM」は逆再生動画でした!モデルたちが劇場の中を後ろ向きに歩いていきます。ボックスシートで着替え、ダンスをする姿も違和感があって面白かったです。この逆再生は、話題の映画「テネット(TENET)」の影響なのか、今季のコレクション動画でよく見る仕掛けです。コロナ禍を“巻き戻し”して、未来を再構築しようというような意味が込められていると受け取っています。「MSGM」の映像は若手映画監督のフランチェスコ・コッポラ(Francesco Coppola)が手掛け、ミラノ在住のダンサー、パフォーマー、俳優、モデルたち15人を起用していました。曲もミラノのクリエイターとともにオリジナルで制作したそうです。

向:マッシモは以前からミラノの街と人を大切にしていて、今回も“ミラノの街へのマニフェスト”という意味合いがあったそう。皆でミラノに光を取り戻すんだ、という公約ですね。制作の打ち合わせはマッシモを中心にイタリアの再始動を思う人たちがアツく盛り上がったんだろうな。

大杉:コレクションはシャープなシルエットと“ノクターナル(夜行性)”がキーワードでした。パテントやベロアのミニドレス、ファーコートはパーティー感がありますね。デザイナーのマッシモ・ジョルジェッティ(Massimo Giorgetti)は制限がかかっているミラノのクラブカルチャーに焦点を当てて、あえて夜遊び用の服を提案したかったのでしょう。「MSGM」も環境に配慮した素材を取り入れていました。

イタリア版“ロボットレストラン”のような 「ドルチェ&ガッバーナ」

向:ロ、ロボットがいたね。

大杉:はい(笑)。センターで手を振ってモデルたちを見送っていましたね。今季はロボット工学を研究するイタリア技術研究所(IIT)の協力を得て、ロボットたちがランウエイデビューを果たしました。最初に登場したのが“iCub”というロボットで、ラストに“DOLCE&GABBANA”の文字を流しながら出てきたのが“R1”というロボットだそう。

向:服作りにAIやロボットを活用したわけではないけど、一ゲストやモデルとしてロボットを迎えるある種のミーハー感、軽やかさが私はいいと思う。せっかくならロボットが見たショーの景色を配信するとか、見た内容を解析して言語にするとか事後でも連携したらおもしろそうだけどね。ロボットはさておき、90年代をテーマにしたルックはかわいかったね。

大杉:ポップでとても若々しかったですね。今季テーマは「ネクストチャプター(NEXT CHAPTER)」で、次世代に向けたファッションを未来のテクノロジーとクラフツマンシップで表現したそうです。「サルヴァトーレ フェラガモ」とはまた違った近未来感。フィナーレは東京・新宿のロボットレストランのような賑やかさがありました(笑)。ピンクやイエローのレオパードのダウンジャケット、ホットパンツなどド派手さが最高潮で見ていて気持ちよかったです。ビジューやパールを施したド派手な素材もゴージャスでしたね。

向:レインボーカラーのヘアスタイルが似合うメタリックカラーやシースルー、ジャラジャラのアクセサリー使い、肩バッド入りのボディコンシャスなどまさに90年代のエネルギーが満載で、同時に現代のK-POPスターもほうふつとさせる。堂々とした肌の露出が今っぽかったです。今日も渋谷で大胆に素足を見せた女の子集団とすれ違い、K-POPスターやニジュー(NiziU)みたいだなと思ったところ。

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現代版「不思議の国のアリス」のような「マルニ」、ゴリラが登場した「ジョルジオ アルマーニ」 ミラノコレリポート第2弾

 2021-22年秋冬シーズンのミラノ・ファッション・ウイークが2月24日〜3月1日までオンライン上で開催されました。ここでは3〜5日目までに発表された中から厳選した5ブランドをご紹介。長年ウィメンズコレクションを取材する向千鶴「WWDジャパン」編集長と、大杉真心「WWDジャパン」記者が対談形式でリポートします。

現代版「不思議の国のアリス」のティーパーティーのような「マルニ」

大杉:「マルニ(MARNI)」は、ブレックファースト、ランチ、ディナーの3部構成でZoom上で発表するという新しい形式でした。招待状はクリエイティブ・ディレクターのフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)からのフレンドリーなメール。「ミラノのショーで会えないのは残念だけど、我が家の朝食に招待するね。自分の食べ物は持参してテーブルに集まって」というような内容で、メディアやバイヤーの業界関係者だけでなく、顧客にも送ったそうです。プレスの話によると、「フランチェスコからメールが来たんですが、これは間違いメールではないですか?」というような問い合わせが来たそう(笑)。

向:靴がスープに浸っている写真には正直ギョッとしました。夢と現実の狭間で食卓を囲む様子は現代版「不思議の国のアリス」のティーパーティーみたい。「マルニ」の根底には永遠の少年少女のファンタジーみたいな要素があって、フランチェスコは創業デザイナーのコンスエロ・カスティリオーニ(Consuelo Castiglioni)からはそこを引き継いでいると思う。ただファンタジーの種類は変わったよね。フランチェスコは人間のきれいな部分だけでなく、もっと奥底の本音や素の部分をとらえてそれを楽しんじゃおうとしている感じ。だから引力と同時もエグさもある。私はどうしても前の「マルニ」が恋しいけど若い世代は違うのかな。

大杉:フランチェスコにオンラインインタビューをする機会があったのですが、撮影はフランチェスコの自宅で行ったそうです。このカオスな演出は「夢と現実の狭間」を表現したそう。「コロナ禍、政治、厳しい現状に向き合う中で、触覚的なロマンティシズムを探求した。ヒーリング(治癒)になるようなコレクションを作りたかった」とフランチェスコは話します。布団のようなジャケットやドレス、実験のように時間をかけたグラデーション染めのドレスが象徴的です。

向:発想がホント自由で大胆。彼が「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」をデザインしてもおもしろいかもね。

“自由”を服に込めた「エトロ」

大杉:「エトロ(ETRO)」はLAで収録した歌手のアリッサ(Arlissa)のパフォーマンスをBGMに、無観客ショーの映像を配信しました。美しい夜景を望むLAと、陽が差し込む明るいミラノをつなげた、オンラインでしかできない演出でした。

向:開放感あるルーフトップで体を揺らしながらジーンズとブラトップにガウンで踊って歌うアリッサの姿が幸福そうでよかったな~。これまでも「エトロ」から一貫して受け取ってきた“生きる喜び”を体現していたと思う。あんな風に夜空に下で「エトロ」を着て踊りたい!できれば酒を片手に。“自由”は今季のキーワードなんですよね?

大杉:はい、今季はロシアのバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフ(Rudolf Nureyev)とアメリカのギタリスト、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)の精神やスタイルを着想源に、ブランドのDNAである“自由”を表現したそうです。ヌレエフといえば、1961年に自由を求めてソ連からフランスに亡命をしたことで有名。天才ダンサーで振付師としても活躍し、同性愛を公言していました。またヘンドリックスは同じく60年代にロックギターの基礎を築いたギタリストとして、レジェンド的な存在ですね。

向:この原稿は当時27歳のジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」をユーチューブで見ながら書いていますが彼が好んだサイケデリックなシャツやベルベットのパンツ、ナポレオンジャケットのエッセンスが反映されていますね。ニット帽の使い方や、編み込みでアレンジしたヘア、古着風のコーディネートなどが若々しいな。

大杉:あらゆる形で“自由”を服に込めていました。アイコニックなペイズリーとレオパードとミックス柄のコートや、肩パッドの入ったブロケードのテーラードスーツ。レギンスやフーディなど、スポーツウエアの要素も多く取り入れていました。終盤には、フリンジディテールが美しいベルベットのドレスなどが登場しました。

向:私はインスタのハイライトにまとまっているストリーズで見たのですが、ティザーから始まりバックステージでのヘアメイクやモデルの素顔、ショー本番、さらにキールックの静止画までを一気に見ることができてオススメです。

大杉:「エトロ」のTikTokアカウントもできていて、バックステージでモデルたちがダンスにチャレンジしていました!かわいくて、微笑ましい。イタリアの老舗ブランドが取り組むことで、新しい世代とのタッチポイントになりますね。

女性の多面性をとらえた「トッズ」

大杉:「トッズ(TOD’S)」は詩を読み上げるようなナレーションが入った素敵な映像でした。“IN A MOMENT”をテーマに女性の多面性を、さまざまなアングルからとらえています。ヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)による3シーズン目のコレクションとなりましたが、どんどんヴァルターらしさが分かってきた気がします。バッグとシューズはシンプルでモダンなデザインですが、どこか印象に残るキャッチーさがあります。

向:その印象が映像と見事にリンクしていましたね。モデルは4人だけ、舞台は1つの建物。エフェクトなどは使用していませんが、アイコンとなる鍵穴風の構図を定期的に差し込みつつ、シーンがどんどん切り替わるから飽きさせません。その軽快さが今の「トッズ」のモダンさと合っていて好感度が高いです。ルックはしなやかなレザー使い、きれいな色使いが印象的で、押しつけがましくなく、着る人のスタイルを尊重する余白があります。

大杉:チャンキーヒールのローファーは、レモンイエローなどの鮮やかな色使いがとてもかわいいですね。前シーズンから継続のホーボーバッグ“オーボエ バッグ”は、スタイリッシュな見た目で仕事バッグにもなる容量があり、次なる「トッズ」のITバッグになる気がします。ブランドの“T”のマークも新たにアコニックに提案していて、アクセサリーのいたるところに見られます。

「オニツカタイガー」の初ミラノコレは次世代クリエイターとタッグ

大杉:「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」がミラノ・ファッション・ウイークに初参加しました。ミラノはデザインを手掛けるアンドレア・ポンピリオ(Andrea Pompilio)の拠点であり、20年12月にはミラノに旗艦店をオープンしたそうです。動画ではイタリアの女性ラッパー、M¥SS KETAや、ダンサーのガブリエーレ・エスポージト(Gabriele Esposito)が登場して、モデルと一緒にポーズをとっていましたね。M¥SS KETAのギラギラのシルバーのマスクに驚きましたが、彼女はコロナ以前からあのマスクとサングラスがトレードマークなんだそう。

向:「オニツカタイガー」のミラノデビューは現地で見て、その反響を取材したかったな。日本のブランドで海外でも成功している数少ない例ですからね。音楽もパフォーマーもミラノの次世代クリエイターたちが参加していて濃厚。日本やアメリカ、イギリスなどとは違うミラノ独特のストリートのムードが色濃く見えて面白かったです。ルネッサンス彫刻のような肉体美や絵画の中と交錯してゆく世界観もイタリアらしいですよね。

大杉:「オニツカタイガー」は今までも東京ファッション・ウイークに参加するなど、ファッションショー形式で発表を続けて、日本とイタリアのファッションを融合した新しいスポーツウエアやシューズを見せてきました。今季のデザインは冬のヒマラヤ山脈がそびえる雄大な自然、70年代のトレッキング・ハイキングブームから着想を得たそう。トレッキング風のショートブーツを、白や黒のシンプルな色合いでモダンに提案していましたね。

向:ウエアも鮮やかなナイロンジャケットなどスポーツウエアを軸にしつつメンズストライプのダブルのパンツスーツも登場するなどよく見ると幅が広い。いずれにしてもジェンダーレスで着方はその人次第、という提案が「オニツカタイガー」らしかったです。

ゴリラが意味する「ジョルジオ アルマーニ」のコミットメントとは?

向:ゴ、ゴリラがいたね。しかも大きかったね。

大杉:はい。「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」の映像はゴリラのオブジェのドアップからスタートし、アルマーニさんとゴリラのツーショットで終わります(笑)。これは何か意味があるはずだ!と調べて見ると、アーティストのマルカントニオ(Marcantonio)が映画のセットとして作ったウリ(Uri)という名前のゴリラで、アルマーニさんが引き取り自宅のリビングにディスプレーしているものだとか。実はゴリラは絶滅危惧種に指定されているため、ブランドは2020年にはWWF(世界自然保護基金)に寄付をしたそう。アルマーニさんにとって、ウリは映画との結び付きと、環境と自然保護へのコミットメントを示すものになっているようです。

向:なるほど、深いですね。ショー終了後にモデルが集合してアルマーニさんと記念撮影を撮るシーンは恒例ですが、今回はそこにもウリがいてインパクト大でした。この“インパクト”はデジタルコレクションにおいて重要です。溢れる情報の中で、記憶に残る工夫は絶対に必要ですから。

大杉:今季のウィメンズは「夜行性(Nocturnal)」をテーマに、夜をイメージしたコレクションだったそうです。夜空のようなにキラキラ輝くクリスタルをあしらったベルベット、朝焼けのようなマーブルまで、さまざまな青や黒が登場します。メンズはまた別テーマを設けていて、「それぞれの道(Passage)」と題して、アルマーニさんが魅了されてきたという、スタイリングが持つ心理的な側面にフォーカスしたそうです。

向: “精密さ”はアルマーニの魅力のひとつですが、今回はそれよりもロマンチックであること、リラックスしていることが優先されているようです。特にウィメンズは全体的にリラックスしていてロマンチック。花をモチーフにした刺しゅうなど、ここにも自然を想起させる要素が散りばめられています。窮屈な思いをしている世界中の女性の気分を解きほぐすようなフルレングスのスカートやワイドパンツなどが印象的でした。

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メンズコレ最終日は「ジル サンダー」「Y/プロ」「アリックス」に一言 編集長&若手記者2人のパリメンズ5選

大澤錬「WWDJAPAN.com」記者(以下、大澤):連日の登場、失礼します(笑)。本日はパリメンズ最終日の厳選5ブランドを振り返ります。最終日まで僕らも一気に駆け抜けてきました!今シーズンもデジタルならではの試みや、限られた人数の中でのショーなど、発表の仕方はさまざま。前シーズンよりもアップデートが進みました。本日もよろしくお願いします。

村上要「WWDJAPAN.com」編集長(以下、村上):デジタルでも「あぁ、もう最終日なのか……。寂しいな」という気持ちは変わりませんね(笑)。そう思うのは、良いコレクションが多かった証拠です。

最終日トップバッターは「ジル サンダー」

村上:「ジル サンダー(JIL SANDER)」は、「ステキなコレクションなんだろうな」って思うけれど、「見せ方は、コレが正解?」とも考えました。暗がりや切り替え、クローズアップが多い“雰囲気系”のムービーだと、絶妙なプロポーションバランスや素材感、控えめなディテールは分かりづらいですね。起毛感の高いネルシャツ素材のブルゾンや、ハニカム構造が独特なニット、0.5サイズオーバーくらいのシャツドレスなど、「ちゃんと見たい!!」と言う欲求に駆られるアイテムが多いから尚更。感度が高く、自分を持っているから自由に解釈できるファンが多そうなブランドであることを考えると、シンプルに全容を見せて、「あとはご自由に判断してください」って任せちゃうくらいの見せ方で良かった気がします。そんなにデジタルが得意なブランドじゃないから、その辺りは少しずつ学んでいくのかな?

大澤:全体的に映像が暗く見づらいので、僕は食い入るように見てしまいました。個人的にはダブルフェイスのトレンチコート、パステルカラーのロングブーツがお気に入り。コートやニットに施されたポートレートは、1920年代にフローレンス・アンリ(Florence Henri)が撮影したバウハウスの女性アーティストやデザイナーたちだそうです。大胆に“MOTHER”と記したシルバーネックレスは、家族の重要性・大切さを表現しています。メニューの構成はさすがの一言ですね。

初のキッズウエアを発表

村上:さぁ、今シーズン一番難解なムービーですよ。「トム ブラウン(THOM BROWNE)」です。アイコニックなスーツを着たキッズたちが、仕事して、遊んで、ゴミを投げ捨てたり、牛乳を吹き出したりで終了という、全編モノクロ2分チョイのムービーでした。コレは一体、どう解釈したら良いのでしょうか(笑)?単純にキッズウエアのローンチをお知らせするものなのか?それとも、郷愁を誘うことも狙っていたのか?相変わらず、多くを語らないまま一石を投じるカンジ。キライじゃありません(笑)。

大澤:今回は初のキッズウエア(2〜10歳向け)を発表するためのムービーだそうです。クリエイションは大人向けのコレクションと変わらないようですね(笑)。「トム ブラウン」は直営店も含めて独自の世界観があり、面白いブランドと思っていますが、クリエイションの変化が少なく寂しさも感じます。ムービー自体は「キッザニア」で働くキッズたちを見ているようで、朗らかな気持ちになりました。日本でも「トム ブラウン」を身にまとった子どもたちを見られるといいですね。

「Y/プロ」が少しリアルクローズに

村上:「ディーゼル(DIESEL)」のクリエイションも手がけることになったグレン・マーティンス(Glenn Martens)の「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」は、もっとアバンギャルドになると思っていたけれど、むしろちょっぴりリアルになりました。極端なプロポーションは控えめ。もちろん、随所で生地をひねったり、穴を開けたりで“たわんだ洋服”が多いけれど、少なくとも「どう着たらいいのか?」はちゃんとわかる。小難しいのは疲れちゃう今のムードを感じたのかな?折り返すとウエスタンブーツ風のディテールが現れて、あたかも履いているように見えるデニムとか、面白かった。大胆でありながら、消費者を置いてきぼりにもしない。「ディーゼル」でも、上手いことやってくれそうな気がします。

大澤:今回は少しだけ落ち着いた「Y/プロ」でしたね。「着るのに一苦労」というのは少なそう。トータルで着こなすのはハードルが高いけど、一点一点のアイテムを入れ込むだけで、コーディネートはかなり変わりそうです。コロナ明けに、ストリートスナップを撮られたい人には「もってこい」(笑)。今シーズンは古着の要素が強かったように思います。作業着のようなナイロンのセットアップ、キルティングジャケット、ウオッシュ加工のストレートジーンズ、スタジャンなど。また「カナダグース(CANADA GOOSE)」とのコラボアイテムも引き続き発表していました。

「ユニクロ U」との差別化はいかに⁉︎

村上:「ルメール(LEMAIRE)」は、やっぱり秋冬の方がいいですね。ルックを構成するアイテムが増えてコーディネイトで見せられると、どうしても比較されてしまう「ユニクロ U(UNIQLO U)」との違いが際立ちます。ちょっとだけ肩パッドを入れたジャケットや、少しだけ贅沢に生地を使ったシャツドレス、部分的なファー使い、それにグラデーションなどの積み重ねが「ユニクロ U」との明確な差別化につながっていて、「あぁ、2つのブランドを続ける意味があるんだな」って実感できます。

大澤:僕には大人っぽすぎるので、普段あまり拝見することがないブランドでした。冒頭は「ユニクロ U」のイメージが強すぎるあまり、変化を感じなかったのが正直なところです。終盤に差し掛かると、グラデーションのコートやシャツ、マキシコート、ファーブルゾン、赤のセットアップなど、よりファッショナブルな印象へと変わりました。個人的には「ユニクロ U」との両立の難しさを感じました。カジュアルダウンしすぎても難しいし、大人の雰囲気を醸し出すと若い世代には刺さらない。ターゲット層が狭いのかなと感じてしまいました。

パリメンズ最後の砦は「1017 アリックス 9SM」

大澤:フィナーレを務めるのは「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」。期待が大きいからこそ、写真だけなのは残念に思いました。「ジバンシィ(GIVENCHY)」のトップに就任して以降、クリエイションの質がさらに上がったように思います。上質な日常着に、メタルバックルやカラーリングで少し遊び心を加え、良い意味で大人っぽさが滲み出ている。バッグやアクセサリーを強く打ち出している点も、「デザイナーが継続的に強く推していきたいアイテム」というのが伺えますね。ダンベルのような形をしたハンドバッグ、オールレッドのムートンも気になりました。

村上:パリメンズのフィナーレが写真だけなのはちょっぴり残念ですが、クリエイション自体は随分変えてきましたね。最初はメタルバックル付きのストリートから始まって、直近はブラックのフォーマル路線でしたが、今シーズンはその中間を突いてきたカンジ。シャープなカッティングながら、ベビーピンクやスカイブルーなどの可愛らしい色合いで、モードやストリート一辺倒でもありません。「ジバンシィ」とも明確に差別化できていて、素直に「良き新機軸に挑戦しているな」って思えます。

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「ディオール」や「エルメス」、「ロエベ」のビッグメゾンが登場 編集長&若手記者2人のパリメンズ10選

大澤錬「WWDJAPAN.com」記者(以下、大澤):今回はパリメンズ4、5日目の厳選10ブランドを振り返ります。前シーズンのドタバタ対談に続き、デジタル・ファッション・ウイークでの要さんとの対談は3回目になります。あっという間に半年が経ち、今シーズンもラストスパートに突入してきました。本日はよろしくお願いします。

村上要「WWDJAPAN.com」編集長(以下、村上):よろしくお願いします。今シーズンは“リアタイ縛り”が無くなっただけで、40過ぎのオジさんとしては心軽やかです(笑)。

大人な「サルバム」に様変わり

大澤:最初は「サルバム(SULVAM)」からいってみましょう。今回はモデルがウォーキングし、コレクションの全てをきちんと見せようとする意気込みが伝わるムービーでした。カメラロールもさまざまだった前回とは異なり、シンプルで見やすい印象です。びっくりしたのは、冒頭からほとんどが全身黒のスタイリング。以前よりも素材やシルエット、ディテールで勝負を挑んでいるのが伺えました。

村上:黒と白、それに赤(ちょ~っとだけネイビー)という潔いカラーパレットでしたね。今シーズンはパターンワークに注目です。洋服を構成する「身ごろ」をそのままジャケットに貼り付けたり、球体のように独創的なパターンをトリミングで際立たせたり。粗っぽいカンジは随分薄れ、本質で勝負し始めた印象を受けます。シフトチェンジすると「既存のファンは?」という心配が芽生えますが、今の「サルバム」には杞憂な気がする。潔さが前面に現れた分、既存のファンが欲する「強さ」は顕著になっている印象です。

日本代表ベテラン組「メゾン ミハラヤスヒロ」

村上:お次は「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」。ものすごい早さで三原康裕さんの思いが字幕になって流れていたみたいだけど、全く読めなかったね(笑)。映像の切り替えやエフェクトも強めで全貌をしっかり理解するのは難しいけれど、今季も自由なコトはとってもよく分かった(笑)。MA-1、背中に袖は何本あったんだろう?そんなカンジ。テーマの「ベーシック・アンチノミー!」は、「二律背反なベーシック」。多分、「ベーシックなのに、ベーシックじゃない」って意味だと思うけれど、ネルシャツからパーカ、ブルゾンに至るまで、「ミハラ」流のハイブリッドが凄まじいから、もはや全然フツーの範疇に収まっていない(笑)。デザインはフツーじゃないのに、アイテム名で語ると「ネルシャツ」とか「パーカ」だからベーシックなのかもしれない。なんて考えると、「ん!?ベーシックって、なんだっけ?」。そんな風に考えちゃいますね。少なくとも、「ユニクロ(UNIQLO)」のベーシックとは全然違う。それでも「ユニクロ」も「ミハラ」も、同じ「ベーシック」という言葉で語れないワケじゃない。ムムム~って考えて3分後、「ま、いっか。ビール飲も」ってカンジになりました。知的好奇心が喚起されて楽しかった。

大澤:字幕は早すぎて僕も全然わかりませんでした。洋服メインというよりかムービーを使って、どんな面白いことを伝えるかに特化していましたね。カメラマン役で三原さんもこっそり出演していて、蜷川実花さんになりきっているそうです(笑)。アイテムは同ブランドらしい生地を切り貼りしたウエアのほか、クリーニング後のタグが付いたままのジャケット、ビリヤードの玉をヒールにしたパンプスなど面白い。100足ほどのスニーカーを一面に並べた映像は圧巻でした。靴の並べ方に三原さんのこだわりが炸裂したため、撮影が深夜まで及んだそうです。「視聴者を楽しませよう」という心意気が素晴らしく、僕自身も楽しませていただきました!

歴史に名を刻む、キム・ジョーンズ登場!

大澤:次の「ディオール(DIOR)」は、アーティストのピーター・ドイグ(Peter Doig)とのコラボレーションを発表しましたね。ドイグは今回のコレクションのために 2 つの動物をモチーフとしたエンブレムを特別に制作。クリスチャン・ディオール(Christian Dior)の愛犬のボビー、もうひとつはドイグの絵画のキャラクターと1949 年にピエール・カルダン(Pierre Cardin)がデザインした仮面舞踏会用コスチュームを彷彿とさせるライオン。フランス芸術アカデミーのコスチュームに着想を得た刺しゅうや装飾があしらわれたユニフォームは、「ディオール」のアーカイブの再解釈。くるみボタンはアイコニックな“「バー」ジャケット”から、金糸の刺しゅうは60年代のイブニングガウン“ロゼラ”から取り入れています。BGMはテクノポップの先駆者として知られるクラフトワーク(kraftwerk)やアン・クラーク(Anne Clark)の楽曲で構成。ジェンダーレスという言葉が世界に浸透しつつある今、ウィメンズのトレンドのロングブーツが男性の世界にもやってきました。「ディオール」ではクラシックな装いに、抜け感のある長靴のようなロングブーツを合わせていました。今シーズンのトレンドになりそうです。

村上:中世の貴族を思わせるスタイル、パープルやワインなどの高貴な色使い、ゴールドの装飾、そして映像でもわかる上質な生地使いと仕立ての良さ。なのに若々しい疾走感が漂う。今季もキム・ジョーンズ(Kim Jones)の「ディオール」らしさ、全開です。中盤、レモンイエローが出てくるパートに差し掛かると、ジャージーまで現れるんだけど、ちゃんと装飾付きのノーカラーコートとコーディネートして「優雅」っていうイメージに着地するんだから流石です。今シーズンは上からブルゾンやコートを羽織って、前立てだけがチラリと覗くノーカラーのジャケットやコートがキーアイテムの1つですね。そのほかはモコモコのモヘアニットと、やっぱり随所に勲章をあしらったナポレオンジャケットかな?1年前のロンググローブをワンポイントで取り入れたメンズフォーマルの時は、「ついに歴史上のフォーマルへの探求も始まるのね!」と思ったけれど、時代がさらに遡った(笑)。完全に中世のアイテムだけど、今っぽく見えるせいか、未来のバトルシップ(宇宙戦艦)の乗組員の制服みたいに見えてくる。カッコ良い。そしてフィナーレのキム!!ブロンドヘアに大変身でした。もうすぐ発表の「フェンディ(FENDI)」も楽しみだね。

レジェンドのもう一花に期待

村上:「ポール・スミス(PAUL SMITH)」もオリーブやワイン、ナスのような紺色など、秋冬らしい色使いで大人っぽかったね。そこにカラフルなボーダーやストライプ、花柄を差し込んでユーモアを忘れないのは、さすが。スタンドカラーのシャツブルゾンが、フォーマルウエアをちょっぴりカジュアルダウンさせてくれてイイカンジでしたね。今回のコレクションのようにジャストサイズのスーツとコーディネイトしてもカッコいいけれど、ちょっぴりオーバーサイズのジャケットとも合わせてみたい。タイダイなのかな?大きな花柄を描いたコートがとても素敵だった。あと、モデルがいちいちカメラ目線で微笑んでくれると、照れるね(笑)。

大澤:僕もまさにスタンドカラーのシャツブルゾンに見入ってしまいました。花柄やバンダナ柄、アロハ柄のようなもの、どれも気になりましたね。時計や財布、アクセサリー、バッグなどの小物類同様、コレクションラインも若者に浸透して欲しいです。レジェンドがもう一花咲かせるところ、見られるといいな。

スポーティになりすぎ危険⁉︎

村上:「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」は、随分スポーティになりましたね。「ラコステ(LACOSTE)」みたいだった。このブランドはやっぱり民族調のムードを出さないと、「イザベルマラン」で買う理由にならないんじゃないかな?レトロなスポーツテイストはとっても可愛らしいけれど、もっともっと手頃なブランドがたくさんあるから。もう一つリクエストすれば、モデルじゃなくて、洋服が主役のムービーにして欲しいです。

大澤:かなりスポーティにしてきましたね。明るくアクティブなムービー、モデルも含めて、若い層をターゲットにしてきているのでしょうか。もしくはおうち時間が増える中で、動きやすくて着やすい洋服をテーマにしているのでしょうか。かなりキャッチーでカジュアルなアイテムが多いけれど、ライバルもたくさんですね。

面白い!楽しい!変わらない「ヴェトモン」

村上:写真で発表の「ヴェトモン(VETEMENTS)」、カオスすぎて面白かった。映像で見たかったなぁ。でもTシャツのモチーフになっていたみたいに「R指定」なスタイルも多いから、映像は難しいかな?ヌードカラーでビミョーに透けているボディコンスーツとかね(笑)。いつも通りのストリートあり、ゴスあり、電脳系テクノあり、なぜかプロレスラーみたいなコスチュームありで、カオスな「人類大図鑑」みたいなコレクション。でもそれが「ヴェトモン」だし、多様性がますます重要視されている今っぽくもありますね。

大澤:ムービーに慣れすぎていたところだったので、僕も思わず、「えっ!」ってなりました(笑)。おもしろ楽しいルックが勢ぞろいでしたね。コレクションはいつもと変わらぬラインアップ。上から吊るし上げられたような肩パッド入りアイテムの数々、大胆なロゴ使いに、過去の名作のアップデートなど。前任のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が去って以降も、ブランドの方針はさほど変わっていかない模様ですね。街中で着ている人はかなり減ったように思います。踏ん張りどころ、もしくは正念場といったところでしょうか。

どう着るの⁉︎教えて!ジョナサン先生

村上:「ロエベ(LOEWE)」の“着るアート”や“まとうカルチャー”感が加速しているね。「反復」というキーワードから着想した、背中にポロシャツを2、3枚重ねたポロシャツとかは「ジョナサン、マジですか!?」って思うけれど、それがウエアとして成立するのはラグジュアリーブランドのクラフツマンシップのおかげですね。巨大なパンジーモチーフのニットカーディガンや、バッグをキャンバスに見立てたアートなトートなど、素敵なアイテムはいっぱいあったけれど、一番気になったのはコラージュかな。世界が強制的に分断されている今、それでも「つながっていたい」とか「途切れるべきではない」と考えるデザイナーが積極的に挑戦しているアイデアですね。ジョナサンの場合は、ジョー・ブレイナード(Joe Brainard)のさまざまな時代のアートを1つに融合しているけれど、1枚のキャンバスと見立てて作風さえ違うアートを敷き詰めたコートは、「着る人が自由に解釈して良い洋服として素敵だな」と思いました。個々の絵画を好きになる人もいるだろうし、その集合体を好きになる人もいる。そしてもちろん、キャンバスとなった洋服の仕立てや素材で気にいる人もいるハズ。それで良いよね?

大澤:前コレクションのアートピースより日常的で着やすそうですね。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が丁寧に説明してくれて、さらに日本語の字幕付きという有難すぎる映像でした。正直、三角形のテント型のトラウザーパンツは日本の某ブランドっぽさが否めない(笑)。背中にポロシャツを2、3枚重ねたシャツは「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」が行ってきた手法に似ています。ボンテージパンツはかなりハードですが、海外のロック・アーティストに人気が出そう。本人にZoomインタビューを行った川井さんはいかがでしたか?

川井康平「WWDJAPAN.com」記者:横から失礼します(笑)。今回協業したブレイナードの作品に見出した花やアートの“脆さ”について、ジョナサンは「確かに半年周期でコレクションは発表することに“脆さ”や“儚さ”を感じる。しかし服を作るという行為は未来を想像することだと思う。今回のコレクションで発表したパンジーなどの花のグラフィックは性別の垣根の曖昧さを表現している。これからの若い世代の為にもファッションを通してより良い世界を作りたい」と語りました。画面越しではありますが、学生時代からの憧れであったジョナサンに話を伺えたのは貴重な体験でした!

おうち時間にぴったりな洋服!とは「エルメス」のこと

村上:「オンライン会議でサイコーの洋服って何?」と聞かれたら、「『エルメス(HERMES)』の2021-22年秋冬だよ!!」と答えたいと思います。表に出ている洋服は、ジャケットのポケットが二つ重なっていたり、その様子を模したステッチワークが施されていたり。ラベンダーや淡い黄緑、スカイブルーなど、春夏っぽい色使いのインナーも素敵だし、大勢のモデルが身につけていたネックレスも「もっとアップで見せて!」とリクエストしたくなっちゃいそう(笑)。マドラスチェックのブルゾンを筆頭にゆとりあるシルエットで、ストレスフリーで一日過ごせそうだね。パンツはもちろん、ドローコードやキャロットシルエット。ランチを食べ過ぎても心配ご無用です(笑)。オンライン会議ではチェックされないだろうけど、インナーと同じパステルカラーを使ったスニーカーも目を引きました。前日の「ポール・スミス」もそうだったけど、今シーズンはシャツブルゾンをチェックしたいね。「エルメス」では、ブルゾンの下に着てタートルネックとの色合わせを楽しんだり、もちろんスカーフとコーディネイトしたりとバリエーション豊かでした。

大澤:「エルメス」と言えば?と問われると、答えは人それぞれ違うと思います。「レザーの質感」、「素材の良さ」、「ジュエリー」、「バッグ」など、そのほかも多数。それが世界最高峰のビッグメゾンたる所以だと僕は思っています。若者には手の届かない代物ばかりですが、ムービーを通してコレクションを見ることができるのもデジタルならではですね。個人的には、多くのモデルが着用していたシルバーのトグルネックレスが気になりました。ギリギリ買える値段だとうれしいなあ(笑)。

ポジティブさを追求するあまりToo Muchに…。

村上:それが真骨頂なのはわかっているけれど、今季の「カサブランカ(CASABLANCA)」はちょっとToo Much レトロだったかな。極彩色のボウタイ付きシルクブラウス、全面ダイヤモンド柄のニット、70’Sなロゴモチーフのバッグなど、ちょっとコスプレ感が強かったかも。でも今の時代に必要なポジティブさをギュギュっと詰め込んだのかな?「うわぁ」と歓声を上げてしまうようなムービーに仕上がっているのは確かです。

大澤:ブランドの強みが存分に味わえるムービーでしたね。上質な素材に鮮やかな色。昔の「マルボロ」のパッケージを模したプリントなどはとても美しく、世間にも浸透しつつあると思います。今回は全体的にバブリー感が強すぎるあまり、コスプレっぽく見えてしまうのは同意です(笑)。今の時代感に、あの洋服をマッチさせるから良さが引き立つのに、「勿体ないな」と思ってしまいました。個人的に注目しているブランドなので、今後も楽しみにしています。

素敵なオジさんに、美しい雪景色

村上:「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」は素敵なオジさんが勢ぞろいでしたね。それぞれの雪山の楽しみ方がカッコいい。ムービーで、「あぁ、相澤さんはこういう人たちの、こんなライフスタイルに取り入れて欲しいんだ」っていう想いも見えたし、コロナ時代のメッセージのようにも感じました。

大澤:都内では今年、雪を見る事ができませんでしたが、またスノーボードやスキーを楽しめる日常が戻ってきてほしいです。「ミズノ(MIZUNO)」とのコラボスニーカーも発表していました。モデルは“ウエーブ プロフェシー(WAVE PROPHECY)”シリーズですね。

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ラフ初の「プラダ」メンズや「ゼニア」に興奮 先輩&後輩記者2人のミラノメンズ10選

美濃島:明けましておめでとうございます!今年も宜しくお願いします。正月気分からようやく抜け出せたと思ったら、2021-22年秋冬メンズ・コレクションが開幕しました。デジタル形式がメインとなりますので、今回もPCとにらめっこしてリポートしていきましょう。まずピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)とミラノ・メンズ・ファッション・ウイークから印象的だった10ブランドをざっくりとプレイバック。今年はピッティもデジタルプラットフォーム「ピッティ コネクト(PITTI CONNECT)」を整えてコレクションを発表しましたね。

大塚:いやーコレクションサーキットの開幕感がないですねえ(苦笑)。デジタルでの取材も2シーズン目となると、モチベーション維持もわれわれの使命ですな。そんな中でも主要都市に続き、ピッティもいよいよデジタル発表に本格参入したね。どう出るのか注目していたけれど、もうひたすらトーク。「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」は30分、「ヘルノ(HERNO)」は20分ほぼずっと話していました。それはそれでピッティのブースにいるようで臨場感はあるのだけど、全部集中して見るには相当な気合いが必要だったわ。後者は字幕なしのイタリア語オンリーで全然分かんなかったし。

30分におよぶ怒涛のトークセッション

美濃島:「ブルネロ クチネリ」では、ブルネロさんが「10カ月洋服に触れない時期を過ごした。人は実際に触り、着用したいという気持ちが強くなっている」とファッションの可能性を熱く語ってくれたほか、「ピッティ コネクト」を開設した理由やピッティの存在意義も説明してくれました。「思いを伝えよう!」という意気込みは伝わってきます。ただ、話しっぱなしで少しだけ疲れちゃいましたね(笑)。その流れで服の説明も聞きたかったな。

大塚:ウンブリア州ソロメオの本社からの中継だったね。マスクを付けたモデルが並んでいて、服の紹介はいつかな〜と待っていたらそのまま終了しちゃった。後日オンラインで紹介はあったけれど、ファブリックやコンセプトが毎回素敵で楽しみにしているからちょっと驚いたよね。テーマは“昨日と明日との統合”で、実際に見られる日が待ち遠しいです。ピッティとデジタルをどう融合していくかはまだまだ試行錯誤が必要だな。

ジャージでテーラリングを“リセット”

美濃島:ミラノのトップバッター「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」は、“THE (RE)SET”と題したコレクションでした。ニットやジャージ素材を用いたテーラードスタイルですが、リラックスしすぎず“しっかり感”があるところにアレッサンドロ・サルトリのセンスと技術力の高さを感じます。

大塚:めちゃかっこ良かったわ。服もよく見えるし、素材感も伝わるし、映像もコンセプチュアルで引き込まれた。テーマに合わせて、新状態のライフスタイルをコレクションで再定義するクリエイションでした。自分たちの強みをしっかり理解して映像を作っているよね。編集部には事前にこんなノートが届いたよ。

美濃島:そんなノートが届いていたんですね。絶賛リモート中の僕は明日の出社時に拝読しようっと。ジャケットやパンツだけでなくインナーもニットで統一するのが新鮮でした。

大塚:ラウンジウエアとフォーマルを融合した、インドアとアウトドアをつなぐシームレスなスタイルですね。きれいなテーラードにワークやスポーツを合体させるのはサルトリの得意技だから。素材はジャージー中心で基本はイージーフィットなのに、ショールカラーのローブやダブルカシミアのスーツ、トラックパンツはどれもエレガントで素敵だった。

美濃島:動画はウオーキングの映像とホテルで撮影したイメージ動画をミックス。前回に続き、「ゼニア」はクリエイションの伝え方が上手いですね。

大塚:15分の長尺って全部見るのはまあまあキツいのだけど、あっという間。映像終盤のサルトリさんの登場も渋すぎたわ。

オマージュ盛りだくさん(?)の気鋭ブランド

大塚:前シーズンはミラノの中堅・若手組の動画は見てられないぐらいクオリティーが低いものが多かったけど、今シーズンはみんな結構作り込んできたね。「フェデリコ チーナ(FEDERICO CINA)」はブリーフ一丁のモデルが登場したときは「きたきた」と嫌な予感がしましたが(笑)、そこから盛り返して、コレクションのムードに合ったかわいい動画に仕上がっていた。最後は「私はロランス」やんけ!だったけど。

美濃島:序盤は身構えちゃいましたが、終わってみたらなんとも言えない心地よさでした。手書きのレターモチーフをのせた白シャツやぶどうを表現したニットなど、キャッチーな洋服の世界観に合った映像でしたね。後半の男女が体を支え合うシーンは金八先生の「人という字は〜」を勝手に連想しました。

大塚:古っ。美濃島さん25歳だよね(笑)?

アウトドアストリートが今っぽい

美濃島:今シーズンのミラノはウオーキングだけの潔い映像も多いですね。「デヴィット カタラン(DAVID CATALAN)」は自然光が注ぐ気持ちいい建物を舞台にモデルが歩く動画でした。同ブランドは2012年にスタートし、ストリートウエアをベースにしたコレクションが持ち味。マウンテンパーカやサファリハットなどアウトドアアイテムがメインでしたが、インパクトのあるタイダイ柄などクセを加えていたのが好みでした。

大塚:きれい目カジュアルに、ワークやアウトドア由来のファンクショナル要素をプラスする今っぽいスタイルだね。タイドアップはやや蛇足だったかな。ラストにデザイナーがランウエイショーっぽく登場するのがかわいくて癒されました。しっかしミラノのサイトは見づらい!喝!

美濃島:サイトデザインを頑なに変えませんね(笑)。逆に愛おしくなってきました。

日本人ラッパーがミラノで大暴れ

大塚:ねえねえ、「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(CHILDREN OF THE DISCORDANCE)」すごくなかった?噂によると撮影が超ギリギリのスケジュールだったみたいなのだけど、どんな映像かと思ったら直球のPV仕立てでのけぞった。

美濃島:海外人気も高いラッパーのHideyoshiとRalphを起用したMVで、インパクト抜群でしたね。ゴリゴリのストリートの世界観に合うキャスティングだし、ブランド得意のバンダナモチーフもめちゃくちゃ似合ってました。ただHideyoshiは髪が長いイメージだったので、一瞬誰だかわかりませんでした(笑)。

大塚:なるほど。そこは一応海外を意識しているのかな。前回の15分間スケボー乗り倒しといい、世界観の発信にこだわっているよね。ただここのブランドの服って見た目の瞬間的な面白さと、ヘンタイ的な作り込みが武器でもあるから、もうちょっと服をしっかり見せてもよいなとは感じた。あと海外、特にミラノの人がこの動画を見てどう反応するか気になるかも。今度本人(志鎌英明デザイナー)に聞いてみよう。

美濃島:PVの見せ方に振り切ったブランドは他になかったので、存在感は示せたと思います。志鎌さんからの返答は僕にも聞かせてください!

“今の普通って何?” 「フェンディ」がやっぱり強かった

大塚:「フェンディ(FENDI)」はやっぱり面白かった!最初はネオンカラーのゲーム空間のようなセットで飛ばしていくのかなと思ったけれど、ガウンコートやパジャマルック、ざっくりリブ編みやルーズソックスなどラウンジウエアのリラックス感をテーラードとミックスしていたね。ディテールをデフォルメして違和感をちょっぴりプラスしつつ、キャッチーなバッグやFFロゴなどのモチーフも際立たせてくる辺りがさすがでした。

美濃島:ネオンの光が変化するにつれてルックのカラーブロックも切り替わる面白い演出でした。ラウンジウエアでニューノーマルの気分を反映させた一方、サイケなアートワークやBGMからは「落ち着いたムードだけじゃ楽しくないでしょ!」というメッセージを感じました。

大塚:そうそう、演出も面白かったね。BGMの「What is Normal Today?」という声はシルヴィア・フェンディ本人だったり、「FENDI」の文字を抽象化したグラフィックはロンドンのアーティスト、ノエル・フィールディング(Noel Fielding)が描いたりと、盛りだくさんでした。

美濃島:「FENDI」の文字を落書きっぽくアレンジしたアートワークはすごいかわいかったです。普通にロゴを載せるだけじゃ機械的すぎるけど、手仕事感のあるアートワークに昇華していて、ロゴブームが去った今でも受け入れられそう。バランスの良い遊び心が素敵です。

大塚:あと如実なのが、見た瞬間「これ絶対に着心地いいやつ」って分かる服が多く登場すること。これは「ゼニア」もしかりで、一時期のストリートブームで各ブランドがビッグロゴや派手なモチーフで“分かりやすいデザイン”が多く登場したけれど、今は“分かりやすい着心地”を、映像でいかにアピールするかに主要ブランドは結構こだわっている気がする。ラウンジ・フォーマルで着心地コンシャスは、この後も続いていきそうな予感。

美濃島:昨シーズンも「ルメール(LEMAIRE)」などが近いアプローチの映像表現をしていましたね。パリでもこの流れは強そうです。

ストリートに舵を切った「エトロ」

大塚:「エトロ」は思い切ってストリートに振ってきたなーというのが第一印象。ストリート全盛の頃も割とスタイルを崩さなかったのに、ここで来たかと。フーディーやイージーフィットのアウターはもちろん、ビッグロゴのキャップ、ボリューム感のスニーカーの打ち出し方とかからも若い世代を意識しているのだなというが感じられたわ。

美濃島:ロゴ入りパーカとキャップ、シャカシャカのブルゾン、バミューダショーツなどグッとストリートテイストになりました。モチーフは相変わらず柄を多用してアクセルを踏み込んできました。モデルたちが建物の中からストリートに飛び出していくフィナーレは見ていて気持ちが良かった。夕日が差し込んでるのかと思ったら外は昼間だったから、窓に色付きのフィルターを張っていたんですかね。

大塚:もともとはリアルでのショーを予定していたから、無観客での映像配信になって急遽用意した演出なのかも。

スキーがトレンド候補? 「MSGM」のストリート×アウトドア

美濃島:「MSGM」はスキージャケットやサイドラインパンツ、ネオンカラーなど、ウィンタースポーツに着想したストリートスタイル。雪が降る演出でコレクションのムードを上手く伝えました。スキーは昨年末に「ディオール(DIOR)」も取り上げましたし、スケボーとヒップホップに続くメンズ市場のトレンドになるかもしれませんね。

大塚:スキーは定期的にトレンドに浮上するし、アウトドアへの欲求は世界中で確実に高まっているもんね。コレクションは、1990年代に東京でも流行したストリートとアウトドアのミックススタイルでした。「カンゴール(KANGOL)」のバケットハットとかドンズバ。「スカルパ(SCARPA)」とのボリューミーなシューズもかわいくて、1930年代のポスターに着想したノスタルジックなグラフィックも好き。登山家のヴァルテル・ボナッティ(Walter Bonatti)の本を参考にし、リゾート地のポスターを参考にしたのだとか。「MSGM」はいつも変わらず明るくて安心するよ。

ラフ加入後、初のメンズを披露した「プラダ」

大塚:さて、お次はいよいよミラノ・メンズ最大の目玉である「プラダ(PRADA)」。ラフ・シモンズ(Raf Simons)が加わって初めてのメンズです。ラフ大好きな美濃島さんはどうだった?

美濃島:柄を多用しているのが新鮮でした。ラフは写真やグラフィックなどをよく使う一方、パターンにはあまり手を出してこなかったので勝手に苦手意識があるのかと思ってましたが、デジタル感のある総柄がめちゃくちゃ格好良かった。裏地が目立つボンバージャケットとニットの柄on柄の組み合わせは最高でしたね。トライアングルをあしらったもこもこグローブは冬の新定番として人気が出そうです。グラフィックが無いためか、9月に発表した21年春夏ウィメンズ・コレクションよりもラフ感は控えめ。少し物足りなさも感じました。

大塚:なるほどね。確かにピーター・サヴィル(Peter Saville)感はなかったけど、僕はめちゃくちゃラフだなと思ったけどな。ミウッチャとラフの個々のバランスをまだ探り合っている印象だけど、融合しようとしている試みている意図は感じました。あの複雑な柄は、自宅で過ごす時間が長くなりって自身の感情と向き合った結果なんだって。そしてここでも出ました!部屋着のようなニットのボディスーツ。ただこれは単なるリラックスとは違ってピッタピタ。コロナ太りしているようでは着られないよ(笑)。アウターは巨大なMA-1やVネックニットはまさにラフの代名詞という印象。ジャケットを二の腕までたくし上げてインナーを見せるスタイルは「ラフ シモンズ」21年春夏でも披露していたね。僕も挑戦したいけど、腕立て毎日100回やんないとな。

美濃島:僕はコロナで3kg太ったのでこういった服を着るために痩せます!!ラフとミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)に向けて服飾学生が質問を投げかけるトークセッションも実施されました。日本からは文化服装学院の生徒が出演し「どんな革新的な技術を取り入れた?」と質問していました。ファッションの面白さを後世に伝えようとするブランドの思いも伝わるし、学生も一生の思い出になる素晴らしい企画でした。

大塚:演出も独特で面白かったわ。音楽は21年春夏ウィメンズと同じく、プラスティックマン(Plastikman)名義のリーチー・ホウティン(Richie Hawtin)。「ゼニア」も「フェンディ」もだけど、服をがっつり見たいわれわれにとっては静かなテクノみたいな音楽が相性いいのかなとふと思った。ちょっとホドロフスキーチックな怪しいダンス(笑)は、ラフいわく「ポジティブで楽しい雰囲気を表現したかった」らしいよ。

美濃島:たしかに、静かなテクノは鑑賞の邪魔にならず洋服に集中できます。表現が自由すぎていろいろやりたくなりますが、「あくまで服が主役」という考えが根底にあるとバランスの良い演出に到達できるかもしれません。

ヒゲの接写&チープな格闘ゲームに苦笑

大塚:安定の変わり種は「スンネイ(SUNNEI)」。いつも「何かほかと違うことやってやろう感」がいいように作用することもあれば、イラっとすることもあるので(笑)、今回はどうかなと構えていたのだけど、動画が始まってビックリ。だって、ほぼ肌しか映らない超接写だったから。たまにヒゲ。

美濃島:新卒で入社した時は、コレクション取材でヒゲや脇毛のドアップを見せられる日が来るとは思ってませんでした。

大塚:「今シーズンは“イラっ”の方かな」と考えながら我慢して見ていたら、最終的にその肌とヒゲはデザイナーデュオのもので、特設サイトに案内するための案内動画だということが最終的に判明しまして。で、そのサイトにアクセスしてみたら、とんでもなく低いクオリティーの自作格闘風ゲームがプレイできるというね。キャラは最新コレクションを着ているのだろうけど、ゲームの意味が全く分からず「何すんねん(SUNNEN)」と思いながら適当に操作するうちに段々クセになってきちゃって、最終的には大笑いさせてもらいました。

美濃島:ゲームは最後まで意味不明でしたし、大塚さんの「何すんねん」もギリギリですよ……。でも新しいことに挑戦しようというブランドの勢いは伝わってきました。問題の服はジェダイっぽいコートや大判のダイヤ柄などゲームキャラらしいアイテムもありましたが、ダウンジャケットやタートルニットなどリアルクローズも多め。ゲーム表現と合わせて、もっと攻め攻めなクリエイションでも面白かったかもしれません。

大塚:唯我独尊すぎてゲーム×ファッションの時代に乗ってるんだかどうかは分かんないけど、人を楽しませようというマインドには好感が持てたね。

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「LV」「ディオール」など異例のパリコレを取材した2人が明かす現地の裏側

 2021年春夏シーズンのパリ・ファッション・ウイークが9月28〜10月6日に開催されました。フランスが渡航者に対して14日間の隔離や一部の国に対して入国制限を設けていることから、今季は来場者が大幅に減少。「WWDジャパン」「WWD Japan.com」も日本からの記者の渡航は見送ったため、現地でのパリコレ取材はベルリン在住の藪野淳「WWDジャパン」ヨーロッパ通信員とパリ在住のフリーライターの井上エリさんの2人に託しました。街の様子から来場者、現地取材したからこそ感じたことまで、2人がざっくばらんに対談形式で振り返ります。

フロントローの顔ぶれが激変

藪野淳「WWDジャパン」ヨーロッパ通信員(以下、藪野):なんとも奇妙なシーズンでしたね。いろんな理由がありますが、とにかく来場者が少なかった。アジア、アメリカからの渡航者が皆無なのは想定していましたが、イギリスやイタリアといったヨーロッパ隣国から来る常連組がいなかったのは意外で驚きました。フランス拠点以外の人で見かけたのは、イギリス版「ヴォーグ(VOGUE)」のファッション批評家アンダース・クリスチャン・マドセン(Anders Christian Madsen)くらい。イギリスのスージー・メンケス(Suzy Menkes)やサラ・ムーラ(Suzy Menkes)、ティム・ブランクス(Tim Blanks)らたくさんのアイコニックなジャーナリストが不在で、フロントローの顔ぶれは大きく違いました。

井上エリ(以下、井上):ドイツからは元「グラムール(GLAMOUR)」編集者でフリーに転身したヴェロニク・トリストラム(Veronique Tristram)をはじめ、数人見かけました。私はパリコレの前にミラノ・ファッション・ウイークにも参加しましたが、ミラノにはイギリスから訪れた業界人は結構いましたよ。雑誌「タンク(TANK)」の編集長キャロライン・イッサ(Caroline Issa)とミラノで話したときは「パリに行くから」と言っていたのですが、直前でキャンセルしたそうです。フランスの感染者数が増加しているため、パリから自国に戻ったら隔離が義務付けられていることが要因のようです。

藪野:ヨーロッパ在住の僕らにとって、日本のプレス担当者や業界関係者、そして世界から集まる友人に会える機会という意味でも年2回のパリコレは大事だから、顔を合わせられなかったのがとても残念。同時に、パリコレというのはこの業界に携わるさまざまな人にとってのコミュニケーションの場なのだと実感しました。

井上:良かった点といえば、ショーが遅れないからスケジュールが後ろ倒しにならず、渋滞も少なかったことぐらいでしょうか。アフターパーティーのようなイベントも開催されなかったため、夜も街中静かでした。予約必須のレストランも、人がまばらで閑古鳥が鳴いていましたし。例年なら、ファッション関係者でなくても街の誰もがパリコレシーズンだと気付くのに、今回はタクシーの運転手に「今パリコレやってるの!?」と驚かれました。

藪野:確かに通常ならショーはだいたい30分遅れるけれど、今回は遅れても15〜20分という感じで何度かヒヤッとしました。それに今回パリに来て、道路に自転車レーンが増えていることにびっくり!ロックダウン後にフランス政府が車線を減らして自転車レーンを設置しているみたいですが、もしもパリコレが元の規模に戻ったら例年以上の恐ろしい渋滞が発生しそうだなと怖くなりました(笑)。今季は大規模な合同展示会もかなり縮小しての開催で、ショーの来場者だけでなく世界中から集まった業界関係者は例年の5分の1以下ではないでしょうか。ホテルはガラガラでしたし、レストランやタクシーといった他業種にも大きな影響が出ているのではないかと。もちろん観光客がほぼいないというのも大きいですが。

井上:リアルからデジタルに切り替えたことで、ショーの裏方であるヘアスタイリストやメイクアップ、会場を設営する建築関係や清掃業者、ショー会場にいる警備員などさまざまな業種にも影響があったと思います。展示会場にはキレイな花が飾られていることが多かったのに、展示会自体が少なかったので花屋も出番が限られてしまいました。招待状に書かれたキレイな筆記体を見るのが好きなのに、今回はリアルな招待状も少なかったのでカリグラファーも暇を持て余してそうだなと考えちゃいました。もちろん、デジタルによって仕事が増えた業種もたくさんあるのだとは思いますが。

藪野:特にフランスにとって、ファッションは経済を支える大きな柱の一つです。パリコレというのはファッション業界だけのイベントではなく、経済を動かす重要な役割を果たしていることが分かります。

従来との違いは“親密さ”

井上:コレクション取材を8年間続けている藪野さんにとって、今季に感じたこれまでとの大きな違いは何でしたか?

藪野:“親密さ”というキーワードがまずは浮かびました。デザイナーやブランドの関係者が何度も口にしていた言葉でもあるのですが、僕自身、いつも以上にデザイナーと直接もしくはZoomで取材する機会がありました。ショー会場の規模も小さかったので、例年ならショー後のバックステージで何人ものジャーナリストがデザイナーを囲んで3分ほどコメントをもらうのですが、普段はなかなかアポイントメントが取れないデザイナーと話せたのは貴重な機会でした。あとは衛生基準に準じて招待枠や座席数は限られているものの「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」が3回、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が2回に分けてショーを行うなど、可能な限り多くの人にショーを見てもらおうという工夫もありました。

井上:リアルクローズを提案するブランドが多く、コレクションからも“親密さ”を強く感じました。「クロエ(CHLOE)」はパリジェンヌが街を行き交う日常の光景をショー会場で演出したり、「パコ ラバンヌ」のジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)クリエイティブ・ディレクターはロックダウン中に恋しくなった、近所の通りを行き交うパリジェンヌの日常着から着想を得たと話していました。柔らかい素材やニュートラルなカラー、体を締め付けないシルエットなど安心感や快適さのある衣服で、優しい提案が多かったように思います。デザイナーが消費者の心に寄り添う“親密さ”がありましたし、日常がいかに貴重であるかを感じられました。

藪野:そうですね。今は皆、無意識に“安らぎ”や“優しさ”を求めているし、それに応えるようなクリエイションが圧倒的に多かったです。また、パリという街へのオマージュを示すブランドも多かったですね。井上さんが前途したブランドに加え、「アミ アレクサンドル マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI)」はセーヌ川沿いをランウエイにしたり、プレゼンテーションを行った「ロンシャン(LONGCHAMP)」も“現代のパリジェンヌ”をテーマにしたりと、デザイナーが暮らすパリという街の日常を改めて見つめ直し、その魅力を表現してくれました。

井上:衛生面への配慮なのか、屋外を会場に選ぶブランドも多かったです。でもミラノに比べると会場入場時のチェックなどは甘かった。ミラノコレは入り口で風邪や熱の症状などを申告する書類のサインに加え、体温計測やマスク着用、消毒液の使用が必須でした。でもパリコレではマスク着用と消毒液くらいで、ショー会場で体温計測を求められたのは「ディオール(DIOR)」だけでした。

藪野:ソーシャル・ディスタンスに関しても、座席は区切られているものの長椅子の場合は真横に座ってくる人もいました。どこにでもルールを守らない人はいるんですよね……。1人用のイスの配置も十分に距離が確保されているのか微妙な会場もありました。逆に会場内を衛生担当のスタッフが見回りして、きちんと観客同士が距離を置いているかをチェックしているところは好感が持てましたね。もしも会期中に体調を崩したら取材を続けられないため、体調管理にはいつも以上に気を配り常に緊張感を持っていました。このような状況下での開催が続くのであれば、衛生面の徹底は今後も改善が必要かなと思います。

井上:今後の課題といえば、リアルとデジタルの両軸で開催されるファッション・ウイークについても多々見えてきたと思います。藪野さんはどのように感じましたか?

藪野:リアルなショーは今後も必要で、デジタルが取って代わることはできないと思います。ストーリーを伝えるという目的ではデジタルも適しているから、テクノロジーの進化によって今後さまざまな見せ方の可能性が広がっていくことには期待大。しかし、映像でいかにキレイに見えたとしても、リアルほど感情を掻き立てられたり、心が動かされたりすることはないと感じました。「リアルのショーはオペラやコンサートのようなもの。テレビでも確かにオペラは見られるが、生で見るのと同じではない」。これはシドニー・トレダノ(Sidney Toledano)LVMHファッショングループ会長兼最高経営責任者(CEO)の言葉ですが、まさにその通りだと思いますね。

「ルイ・ヴィトン」はやっぱりすごかった

井上:デジタル発表で印象的だったブランドはありますか?

藪野:「マリーン セル(MARINE SERRE)」がパリの映画館で上映会も開いたのは良かった。デジタルは、画面のサイズや音響設備、電波状況など視聴者の環境によって体験の質が大きく変わりますね。「プラダ(PRADA)」と「ミュウミュウ(MIU MIU)」が主要都市で先行視聴会を開いたように、デジタルで発表しながらコミュニティーを体感できるローカルイベントを開くというのは今後広がるのではないかと思いましたね。そして、さすが!と感心したのは「ルイ・ ヴィトン」。不参加の一部ゲストには会場に座席を用意して、バーチャルではあるけれどそれぞれの視点でショーを見られるようにしていましたし、一般向けの配信では会場の緑の壁や椅子に映画「ベルリン・天使の詩」のシーズンを合成して全く異なる体験を用意していました。さらに、「ロエベ(LOEWE)」が大掛かりなキットをプレス向けに送り、ルックの等身大ポスターを壁に貼ってコレクションを見てもらうというアイデアもユニーク。“目”だけではなく“手”も使うというところでエモーショナルな体験を生み出していると感じました。井上さんはどうですか?

井上:リアルのショーの現場で来場者を観察し、座席の座り心地や会場に響き渡る音楽など、五感をフルに使うからこそ感じられるものがありますよね。そして、そこでしか得られない感覚を伝えたいという思いが原稿に向かう糧にもなります。個人的には、ジャーナリストの役割って何だろう?と自問しました。同じ瞬間に同じショーを見ていても個々に異なる視点を持ち、それぞれのフィルターを通して生まれる感情が違って、だからコレクション記事を読むのが好きです。今後もジャーナリストを続けていきたい私としては、記事を通して情報を届けるというよりも、感情と体験の共有を読者としたいと思いました。デジタルの場合は全ての人が全く同じ映像を視聴できるため、意見交換する場を設けることで一緒に楽しめるという感覚があるのが魅力です。

藪野:これまではリアルなショーやプレゼンテーションを行うのが“常識”というか“正解”という考えがファッション・ウイークにはありましたが、今シーズンを機に表現方法に対するより柔軟な考え方が広がったことはよかったですね。もちろんリアルなショーの魅力は大きいですが、実際、今はやるべきタイミングではないとあきらめたブランドもありました。そこに正解・不正解はなく、それぞれの考え方があっていいし、それぞれにとって適した表現方法を模索していけばいいと思います。リアルでもデジタルでも、今後はいろんな表現方法が出てくることが楽しみですね。

井上:デジタルの成長は今後も確実でしょうし、ブランドにとってはリアルかデジタルの二者選択ではなく、両方での見せ方を考慮する必要があるということですね。ファッション・ウイークの在り方は変化し模索は続きますが、今後もファッションが持つポジティブなパワーで世界を明るい方向へと導いてほしいもの。先行き見えない現状ではありますが、来季はどんな発見があるのか早くも楽しみです!

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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21年春夏パリコレ、ランウエイショーの効果が浮き彫りに

 9月28日〜10月6日に開催された2021年春夏パリ・ファッション・ウイーク(パリコレ)を終えて、リアルショーとデジタル要素を織り交ぜて発表したブランドはリアルショーを行わなかったブランドよりも世界的に健闘したことが明らかとなり、ランウエイショーの重要性が浮き彫りとなった。また、コロナ禍下で新たな手法を取る機会が増えたことにより、最低でも5分以上の動画が好まれることや、インフルエンサーのリモート参加に効果があることなども明らかとなった。

 データアナリティクス企業、リッスンファースト(LISTENFIRST)のトレーシー・デイヴィッド(Tracy David)=チーフ・マーケティング・オフィサーは、「今年のSNS上でのパリコレへの関心度合いは昨年に比べて大きく減少しており、SNSで反響が大きかったのは最小限ながらもプレゼンテーションを行ったブランド群だった。当面の間パンデミックが続くことを考慮すると、今後のファッションイベントでSNSの関心を集めるのは、安全かつクリエイティブな方法でスペクタクルなランウエイショーを復活させることのできるブランドということになるだろう」とコメントした。
 
 メディアのモニタリングや分析を行うDMRグループ(DMR GROUP)が算出したソーシャルメディアでのキャンペーンにおける価値を意味するEMV(Earned Media Value)の値を見ると、21年春夏シーズンに行われた4つファッションウイーク(ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリ)のうちEMV値が最も高かったのはパリコレで、SNSを含むウェブ上での視聴数も最高値を記録した。

 フランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode以下、サンディカ)は、ファッション、ラグジュアリー、ビューティ分野のデータテクノロジー企業、ローンチメトリックス(LAUNCHMETRICS)と提携して、サイトの見やすさやマガジンセクションの流動性の向上やスケジュールページの明確化を図っており、今回のパリコレではデジタルプラットフォームの訪問者数が7月に行われたオートクチュール・コレクションおよびメンズ・コレクションを合わせた20万2000よりも多い23万を記録し、ページビューも7月の49万から60万6000に上昇した。

 サンディカのパスカル・モラン(Pascal Morand)会長は、「デジタルプラットフォームによって影響力が拡大し、パートナーシップの有効性も見られた。公平な競争の場が生まれたことで、比較的目立たないブランドも含め、全てのブランドが新しいシステムを支持している。パリのファッションには公平性という原則がある」と語った。

メディアへの影響値が最も高かったのはランウエイショーを行った「ディオール」

 一方で、ローンチメトリックス(LAUNCHMETRICS)が割り出したメディアへの影響度合いの試算額を表すMIV(Media Impact Value)のトップはまたも「ディオール(DIOR)」で、以下「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「シャネル(CHANEL)」と続く。なお、同3ブランドを含む18のブランドがゲスト数を大幅に抑えた上でランウエイショーを開催している。

 ローンチメトリックスのアリソン・ブランジ(Alison Bringe)=チーフ・マーケティング・オフィサーは、「ファッション・ウイークのあるべき姿や業界における絶対的な歴史あるイベントという点を踏まえても、パリとミラノは最も守られている存在だ。素晴らしいことに、わずか数カ月でデジタル技術の活用化が進み、パンデミックのさなかで窮地に立たされながらも、ファッション業界は創造性を発揮することができた。パンデミックを通じていくつかの大きな課題に対する答えは見つかったが、ブランドにとっては創作活動のスタート地点に過ぎない。ラグジュアリーブランドは、インスタグラム(INSTAGRAM)にショーの画像を何枚も投稿するのではなく、厳選したアプローチ法を選択するなどしてSNSを上手く活用し始めている」とコメントした。

 「ディオール」の公式インスタグラムで最も大きな反響があったのは、韓国のガールズグループ、ブラックピンク(BLACKPINK)のジス(Jisoo)の画像で、MIVは20年秋冬ショーで最も反響の大きかった投稿と比べて2倍以上となる61万4000ドル(約6385万円)を記録した。なお、今シーズンの「ディオール」の投稿全体のMIVの平均値は33%上昇している。

ソーシャル・エンゲージメントのトップは「シャネル」と「ルイ・ヴィトン」

 リッスンファーストが明らかにしたソーシャル・エンゲージメント(社会的関与)のスコアランキングでは、トップが「シャネル」と「ルイ・ヴィトン」、それに続いたのがデジタルでの発表を選択した「バレンシアガ(BALENCIAGA)」だ。4位以下は順に「バルマン(BALMAIN)」「ジバンシィ(GIVENCHY)」「ロエベ(LOEWE)」「エルメス(HERMES)」「ケンゾー(KENZO)」「クロエ(CHLOE)」「ミュウミュウ(MIU MIU)」と続く。

 また、21年春夏のパリコレ開催期間に当たる9月28日〜10月6日にかけて、#PFWのハッシュダグ付きで投稿されたツイートは1万8192件にとどまり、前年度の9月23日〜10月1日にツイートされた13万9403件を大きく下回る結果となった。

 「シャネル」では、ブランド名をLAのランドマークでもあるハリウッドサインに模した写真と共に、インスタグラムのストーリーズで21年春夏ショーのライブ配信を行う旨を告知した投稿に対する反響が最も大きく、約22万件のいいねを獲得した。

 また「シャネル」は、SNSで影響力のある著名人たちと提携したブランドの1つでもある。インフルエンサーはリモートでショーに参加するユーチューブ(YOUTUBE)動画を作成しており、ティックトック(TikTok)で人気を博したディクシー・ダメリオ(Dixie D’Amelio)が、同じくインフルエンサーのカミラ・コエーリョ(Camila Coelho)をゲストに迎えたユーチューブ動画は約350万回も再生されている。

 ユーチューブは、今シーズンのニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリのファッション・ウイークで209のショーのホストを務めたが、そのうち半数以上の108のブランドは、ユーチューブに動画を投稿するのが初めてだったという。

 ブランドはユーチューブのプレミア機能を使ってショーの動画にフラグを立て、コメントやライブチャットを通じたオーディエンスとの交流を持つことでエンゲージメントを高めることもできる。ユーチューブを効果的に利用するためには、動画のタイトルを検索エンジン向けに最適化することや、最低5分以上の動画を作成することも重要だ。また、試聴回数の多かったブランドは、ショーの動画の他にもバックステージ映像をはじめとした3〜5本のコンテンツを追加で作成していた。

 サンディカのパートナーでもあるユーチューブのファッションおよびビューティ部門のトップ、デレク・ブラスバーグ(Derek Blasberg)は、「多くのプラットフォームは即時の試聴回数に注目するが、ユーチューブのファッションショー動画の総再生回数の半数以上は、動画がアップロードされてから少なくとも1カ月後のものだ。例えば、2月にアップロードされた『グッチ(GUCCI)』の20年秋冬ショーの1週目の再生回数は数十万だったが、半年後には360万回になっていた。再生回数のチェックは、動画が一定期間視聴されることを考慮してシーズンの後半に行なっている。ユーチューブでファッションショーを試聴する人は、ショーを最初から最後まで試聴し、全てのルックを見たいと思っている。リアルなショーを体験したいということだ」と語った。

 「またブランドにとって、インフルエンサーの多くがショーに来ることのできない状況下で動画を拡散するのは難しい。そんな中で、リモートで対応するブランドやクリエイターを見てうれしく思った。ブランドは従来に比べてコントロールの力を弱め、クリエイターの作品により大きな信頼を寄せている。今の方が明らかに簡単だ。パンデミックの影響でファッション・ウイークの勢いは削がれているが、人気を博して間もないインフルエンサーだけでなく、これまで目立たずにいたモデルやデザイナーにとっても活躍の場が与えられている。インフルエンサーやモデル、デザイナー自身を含む私たち全員が、これまで気付いていなかった何かに気付き始めたのではないか」とコメントした。

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逆風でもリアルショーにかける「ターク」 「こんな時代だからこそ業界を盛り上げる1発をかましたい」

 2021年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」が10月12日に幕を開けた。同日16時には森川拓野デザイナーが手掛ける「ターク(TAAKK)」が新宿御苑の大温室でリアルショーを開催。独特の素材使いや技法、クセの強いデザインなど、持ち味のクリエイションが光るコレクションで来場者に鮮烈なインパクトを残した。

既存アイテムを新しく
画家に着想した違和感

 リネン生地からコットンのシャツ生地へと織りが変わり、裾をタックインして着られるジャケット。裾や袖先をシアー素材で仕上げたトレンチコート。コレクションには、見慣れたアイテムの生地を大胆に変化させることで新しく見せるピースが多くそろった。シュルレアリズムをけん引した画家のルネ・マグリット(Rene Magritte)に着想し、「上半身が魚、下半身が人間になった“共同発明”という作品から大きなインスピレーションを得ました。見慣れたものをちょっとした工夫で新しく見せるのが超面白いと思うんです」と森川デザイナーは説明する。花のグラフィックや自然に着想したような明るいカラーリングなど、「ターク」には珍しく軽やかな色・柄を多用したことも今シーズンの特徴と言えるが、これについては「好きな写真家のアーヴィング・ペン(Irving Penn)の世界観を僕なりに表現しました。ユリのグラフィックは外出自粛期間中に家のプリンターで写したんですよ」と背景を話す。                                                       

念願のリアルショー
「デジタルで熱量は生めない」

 「ターク」も参加予定だった今年3月の20-21年秋冬RFWTは、新型コロナウイルス感染拡大を受けて開幕直前に中止が決定。ようやく開催された今シーズンも未だ感染症の脅威は拭えず、約40の参加ブランドのうちリアル・ショーを行うのはわずか3割だ。ブランドは日本ファッション・ウィーク推進機構と厚生労働省が協働で策定したガイドラインに沿って、スタッフ・観客を含む動員数を会場キャパシテイの半分まで減らすなど徹底した管理下でショーを実施しなければならない。

 そんな逆風の中、リアルショーにこだわった理由を森川デザイナーに聞くと「生み出す熱量の大きさの違い」と答えた。「今の時代、“SNSで拡散する”という形式は変わらないかもしれない。それでも、単純にルックだけを見ていいなと感じるのか、ショーを見て感動したのかによって発信する側の熱量は絶対に違うし、伝わり方にも差が出る。その熱量を生み出すには、やっぱりリアルじゃなきゃダメだと思う。それに、業界の人もワクワクする場所を求めてるはず。こんな時代だからこそ、業界を盛り上げる一発をかましたい」。

 森川デザイナーの言葉通り、会場には東コレ常連のバイヤーやメディア関係者だけでなく、雑誌ブームを牽引した出版界の大御所やセレクトショップの重鎮まで、普段は見られない面々を含む約140人が来場。それぞれがSNSでショーの様子を発信し、「ターク」の公式インスタグラムアカウントが共有したストーリーズには、「やっぱりショーが一番」「デザイナーの笑顔が印象的だった」など、出席者のリアルな言葉が添えられた動画が多く投稿されていた。

 高画質の映像でも服の細部は見せられるが、会場の一体感や熱気は共有できない。コレクションのムードは伝わるが、五感で浸ることはできない。画面越しで誰もがショーを見られるようになった今でも、新たなトレンドとファッションの熱狂を生み出す場として、リアルの存在意義を強く認識させるショーだった。

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「サカイ」が日本で見せたのは、原点のハイブリッドで手に入れた普遍性

 「サカイ(SACAI)」は10月7日、神奈川県小田原市の江の浦測候所で、2021年春夏のウィメンズ・コレクションを発表した。美しい夕焼けを狙って午後5時に開催したが、あいにくの雨模様。ゲストは約200人。アクリル製の1人用ブースを設けた。

 先立って夏に発表した21年春夏メンズと21年プレスプリングのウィメンズは、これまでの総決算のように、アーカイブの生地までハイブリッド。続く21年春夏は新章の幕開けの如く、再び「サカイ」のアイデンティティ、言い換えれば原点に立ち返った印象だ。「サカイ」を物語る、原点的スタイルはミリタリー。ファッション界の原点的アイテムは、白シャツとスーツ。そして柄の原点は、ボーダー。それらの王道を「サカイ」らしく自由奔放、大胆不敵にハイブリッドしてコレクションを作り上げる。ミリタリースタイルのスカートは、MA-1を上下ひっくり返して袖をもぎ取ってしまったよう。白シャツはクロップド丈のケープのように仕上げ、胸元から下だけ残したトレンチコートとドッキング。ボーダーは、模様に沿って大胆に切り刻み、新しい形を手に入れる。他のスタイルは多くない。色も柄も絞り込んだ。以前も見せたスタイルの、その時より前に進んだ「現在地」を見せようとしているかのようだ。

 ハイブリッドの手法と複雑さはいつもどおりだが、原点を思わせるシンプルなスタイル、アイテム、そして柄の中に取り入れるから、今季のコレクションからは「ベーシック」という印象さえ感じられる。原点のハイブリッドだから、ファッション業界がどんなに変わっても、「サカイ」がどう進化しても、変わることなく、愛し続けられる洋服だろう。ウィズコロナの時代には、そんな洋服がちょうど良い。フィナーレに流れたシャーデー(SADE)の「キス・オブ・ライフ」が、毎回、特別変わったことをし続けなくても良いことを訴えるかのようなクリエイションに心地よさを加えた。

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「サカイ」が日本で見せたのは、原点のハイブリッドで手に入れた普遍性

 「サカイ(SACAI)」は10月7日、神奈川県小田原市の江の浦測候所で、2021年春夏のウィメンズ・コレクションを発表した。美しい夕焼けを狙って午後5時に開催したが、あいにくの雨模様。ゲストは約200人。アクリル製の1人用ブースを設けた。

 先立って夏に発表した21年春夏メンズと21年プレスプリングのウィメンズは、これまでの総決算のように、アーカイブの生地までハイブリッド。続く21年春夏は新章の幕開けの如く、再び「サカイ」のアイデンティティ、言い換えれば原点に立ち返った印象だ。「サカイ」を物語る、原点的スタイルはミリタリー。ファッション界の原点的アイテムは、白シャツとスーツ。そして柄の原点は、ボーダー。それらの王道を「サカイ」らしく自由奔放、大胆不敵にハイブリッドしてコレクションを作り上げる。ミリタリースタイルのスカートは、MA-1を上下ひっくり返して袖をもぎ取ってしまったよう。白シャツはクロップド丈のケープのように仕上げ、胸元から下だけ残したトレンチコートとドッキング。ボーダーは、模様に沿って大胆に切り刻み、新しい形を手に入れる。他のスタイルは多くない。色も柄も絞り込んだ。以前も見せたスタイルの、その時より前に進んだ「現在地」を見せようとしているかのようだ。

 ハイブリッドの手法と複雑さはいつもどおりだが、原点を思わせるシンプルなスタイル、アイテム、そして柄の中に取り入れるから、今季のコレクションからは「ベーシック」という印象さえ感じられる。原点のハイブリッドだから、ファッション業界がどんなに変わっても、「サカイ」がどう進化しても、変わることなく、愛し続けられる洋服だろう。ウィズコロナの時代には、そんな洋服がちょうど良い。フィナーレに流れたシャーデー(SADE)の「キス・オブ・ライフ」が、毎回、特別変わったことをし続けなくても良いことを訴えるかのようなクリエイションに心地よさを加えた。

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アーティストとコラボの「アクリス」に、期待を裏切らない注目「ロク」 デジコレでドタバタ対談パリ8日目

 2021年春夏パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)も残すところ2日となりました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも引き続き、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。パリコレ8日目は、海外コレクション取材歴4年の北坂映梨「WWD Japan.com」編集部 ビューティデスクと、皆合友紀子記者がお届けします。

フラットシューズが気になる「ジャンバティスタ ヴァリ」

北坂:オートクチュールデザイナーでもあるジャンバティスタ・ヴァリ(Giambattista Valli)はフェミニンなテイストを得意とする人ですが、今シーズンもリボンのモチーフやフリルディテールなどが満載でガーリーなアイテムを連発していました。フローラルなモチーフも鉄板ですが、今シーズンは花だけでなく葉っぱや植物なども入れ、ボタニカルによったプリントも目立ちましたね。モデルのルックとともに植物の映像も流したりして、“リゾート”や“自然”を連想させました。森の中で発表した「バーバリー(BURBERRY)」然り、今シーズンはネイチャーに思いを馳せたブランドも多い印象です。

皆合:こういう状況で人々の癒されたいという気持ちを汲み取ってなのか、ネイチャーを取り入れたブランドが多く見られますね。ルックは今シーズンもフリルやリボン、スパンコールを使ったガーリー感満載で軽やかなデザインでした。色も白や黒などベーシックカラーに加え、パステル系のグリーンやピンク、オレンジなど柔らかな印象を与えるものが多かったですね。

北坂:見るだけで心が和らぐような優しいパステルカラーや、着やすさを重視したTシャツやリラックスシルエットも今のムードをまさに捉えていて、ポイントだったかと思います。それは足元にも及び、見事にローヒールだらけでしたね。キトゥンヒールからスリッパまで、履きやすいシューズが目立ちました。ラフ・シモンズ(Raf Simons)による「プラダ(PRADA)」もキトゥンヒールがたくさん出てきましたよね……!

皆合:「ディオール(DIOR)」もフラットなサンダルを連発していた記憶。やはりリラックスしたムードが多い今シーズン、足元も無理なく履けるデザインのものが多く打ち出されていますね。

北坂:そしてここ数シーズンはあまりランウエイで見なかったミニスカートやパンツも多かったですね!ミニ丈ボトムスは復活するのでしょうか。そういえば、不況の時は「ミニスカートが売れる」なんて話を聞いたことありますが、アフターコロナでもそういうことは起きるんですかね......。

セーヌ川の上で発表した「アニエスベー」

北坂:「アニエスべー(AGNES B)」はセーヌ川の上に浮かべた船上での発表でした。動画やビジュアルは、アニエスご自身が撮影したそうです。ちょっと天気が悪かったり、川沿いの工事の様子を見せたり、船上のアナウンスもそのまま生かしたり、なんだかリアルな光景でしたね。それはそれでよかったと思いますが。

皆合:マリンや水着のルックもあったので、天候が優れずグレーな空の下での撮影はモデルさん寒そうだな……と少し心配してしまいました(笑)ですが、モデル同士が談話していたり、すれ違う船の人に手を降っていたりと終始リラックスしたムードがコレクションともマッチしていたように思います。

北坂:そして今回はメンズとウィメンズの両方を披露。ボーダー柄のアイテムや定番のカーディガンなど、フレンチカジュアルなスタイルはもちろん、ブラトップや野球のユニホームを連想させるセットアップなど、スポーティーなものもありましたね。いつの時代も愛される定番品が多いイメージですが、今回もまさにそうでした。ジャケットには動きやすそうなドレスもあったりして、ここでも“着心地のよさ”というのを感じましたね。

皆合:メンズモデルが着ていたデニムのローネックのジャンプスーツは、女性でもローヒールと合わせてマニッシュに着こなせそうだなと。白地にリゾートのイラストがワンポイントに描かれたプリーツスカートやパンツなど、遊び心のあるデザインも印象的でした。ペアルックのコーディネートもかわいかった!

独アーティストとコラボした「アクリス」

北坂:「アクリス(AKRIS)」はカラフルでグラフィカルなアートを手掛けるドイツのアーティスト、イミ・クネーベル(Imi Knoebel)とコラボしたようですね。パンデミック下はいつも以上にピグメント(色)にインスパイアされたそうで、今シーズンのアイテムには鮮やかなブルーやレッドなど原色が多く登場しました。モダンなキャリアウーマンに愛される、クリーンなイメージが強いブランドでしたので、今シーズンは特に新鮮に写りました。中でも注目は、燐光(暗闇の中で発色する)スーツやセットアップではないでしょうか?

皆合:イミ・クネーベルはシンプルでありながら色彩の美しさと鮮やかさ、パーツの組み合わせが印象的なアーティストですが、デザインに見事にハマっていましたね。まさに着るアート!同じ作品でも立体感を持つとまたイメージが変わり、新たな芸術鑑賞をしている気分になりました。燐光シリーズはインパクトありましたね。目立つので夜も安心です(笑)。暗闇の中で発色するテキスタイルは「アンリアレイジ(ANREALAGE)」でも使用されていましたね。

北坂:あと、さまざまな色のライトを洋服にリズミカルに当てる演出もエネルギッシュで、面白かったですね。

皆合:モデルの動きもユニークで、ライティングの手法など映像そのものがひとつのモダンアートといった印象で、見ていて飽きませんでした。

今シーズンも期待を裏切らなかった「ロク」

北坂:「ロク(ROKH)」は数シーズン前から個人的にも注目していたブランド。トレンチコートやシャツなどのトラディッショナルなモノを解体・再構築し、シルエットで遊ぶのがとっても得意!日常的なアイテムをうまく組み合わせたスタイリングもいつも秀悦で、とても可愛いですよね。日本人も好きそうですよね。

皆合:アツイ想いが伝わりました(笑)。シルエットに遊び心を取り入れながらもデイリー使いできるデザインも多いので、確かに日本人受け良さそう。ルックはフリルやパフスリーブ、特大カラー(襟)など女性らしい要素を打ち出しながらも、上からハーネスやチェーンを付けたりと甘辛ミックスなスタイリングが目立ちましたね。そして何より、どこかの惑星のようなセットが気になりました。今シーズンのテーマは“NIGHT WANDERER”だそうです。

北坂:毎シーズン幼少期の思い出をインスピレーション源にしているようですが、今シーズンも子どもの時によくしていた、夜中の散歩が出発点みたいです。冒険心、夜中のスリル、ミステリアスな夜の空気などを表現しているそう。煙の中をモデルが歩く演出で、一瞬火星だと思いました(笑)。肝心のアイテムも、レースのカラー(襟)とレザーハーネスなど相反するものの組み合わせは相変わらず多かったですね。そのほかドレスに仕立てたロックなレザージャケット、スタッズをあしらったベルベットドレス、チェーンをつけたコレルセットドレスなど、クールやグランジの中に少し甘さがあるスタイルでした。

皆合:個人的には最近シャツを前より着るようになったので、バリエーション豊富なレースの美しい襟元に目がいきました。ほかには、やっぱりトレンチシリーズ! パフスリーブで裾にスリットを大胆に入れたアイテムが気になりました。テーラリングが美しい〜。

北坂:肩を落としたトレンチコート、スーツジャケットとトレンチをドッキングしたセットアップなど、今シーズンもトレンチアイテムが多かったですね〜。トレンチ好きとしてはテンションが上がりました(笑)。いずれも厚底のミリタリーブーツを合わせていましたね。やっぱり、フラットシューズは大きなトレンドとなりそうです。

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マシューによる新生「ジバンシィ」公開、遠い未来から希望を届けた「トム ブラウン」 デジコレでドタバタ対談パリ7日目

 2021年春夏のコレクションサーキットのラストとなるパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)も7日目となりました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも日本の記者たちが対談レビューという形で、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、今回はメンズ、ウィメンズともにこれまでも各都市のコレクションを取材してきた「WWD JAPAN.com」の村上要編集長とパリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターがリポートします。

リアリスティックな「スキャパレリ」ウーマン

丸山:「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」は、ダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)がクリエイティブ・ディレクターに就任してプレタポルテをスタートしてからもう3シーズン目になるんですね。クチュールのイメージが強かったのですが、ウエアラブルなアイテムが予想外に多く驚きました。というのも、今季ローズベリーは現在も数十年後まで着られるエッセンシャルなコレクションを、クチュールのクオリティで作りたかったそうです。過去2シーズンのコレクションも見てみたのですが、ゴールドの装飾がちりばめられたクラシックなパンツスーツからツイストが加えられたイブニングドレスまで、確かに今後何年も使えそうなアイテムがそろいます。ベーシックではあるものの、創業者のエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)が好んで使っていたというゴールドのメジャーテープの装飾や南京錠、ロブスター、ゾウなどのアイコンが効いていますね。

村上:ダニエルさんは、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」出身だけど、絵心あるクリエイティブ・ディレクターですね。ムービーでも、イラストの制作場面がなんども出てきます。スカーフのみならず、セットアップにまで本人直筆のイラストを用いているみたい。シュールレアリスムが信条のブランドが、アーティストのごときデザイナーを起用するのは、とても正しい選択な気がしました。正直にいうと復活以降、「難しいなぁ」って思って見ていたんです。オートクチュールとプレタポルテの中間“プレタ・クチュール”の確立を目指して再スタートを切ったけれど、シュールすぎて「お金とアートを愛でる心の双方がズバ抜けた、欧州のお金持ち以外にマーケットはあるのかな?」って思っていました。それがずっとリアルになって、それでもアートマインドは失わず、絶妙なバランスを模索しながら路線変更しつつある印象です。例えば寝転ぶと床と一体化した平面のように見えるジャケットは、もちろん実物はリアルウエア。でも写真に撮るとシュールに見えて、SNS全盛の今っぽい。マスクは販売するかわからないけれど、シュールの度合いが強い商品はアクセサリーに絞り込んでいるのも正解だと思います。

NYからパリにやって来た「ガブリエラ ハースト」

丸山:いつもニューヨークで発表している「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」は今季パリで発表しました。リアルなショーをライブ配信していましたが、映像ではランウエイだけでなくモノクロでバックステージの様子も見せていて、その緊張感が伝わってきました。ニューヨーク・ファッション・ウイークを取材している村上さんは「ガブリエラ ハースト」のクリエイションをこれまで見てきたと思いますが、彼女の強みは何なのでしょう?

村上:「ガブリエラ ハースト」の今季は編みや太めのコットン糸を用いたハンドステッチなどの手仕事を加えながら、オーガニックなムードを維持しながら、エキゾチックなスパイスを加える彼女らしさが発揮されていたと思います。シンプルなコットンワンピのショルダーストラップや、細い2連のベルトづかいも彼女らしい。ただ、そうそうたるブランドが集うパリだと、もうちょっとオリジナリティが欲しいのも事実。ニューヨークでは、他よりラグジュアリーな分、素材に人一倍こだわって独自性を保ってきたけれど、それだけじゃパリでも同様には輝けない。今後の進化に期待しましょう。

夜のパリをガツガツ歩く「バレンシアガ」

村上:「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、他のブランドよりも一足早く、21年プレ・フォール・コレクションに相当する21年サマー・コレクションを発表ですね。このブランドのサイクルは独特で、メインと次のプレで1つのストーリーが完成。つまり今回の21年プレ・フォールは、7月に発表したコレクションの続き、ですね。確かに、全体のシルエットは7月発表のコレクションよりも落ち着いている印象だけど、ボロボロのニットやロゴ入りのスエット、カラフルなトートバッグなど似たようなアイテムもチラホラ。モノすごく新しいとは思わなかったけれど、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)らしいクリエイションですね。サステナブルへの取り組みを明言しているけれど、これまでの残反やアーカイブも使っているのかな?アイデアが枯渇しないためにも、考え自体も使い捨てず、次に繋げる考えは賛成です。気になったのは、BGMの「Sunglasses at Night」でしょうか?元々は、好きな女の子のウソを直視したくないから夜でもサングラスっていう男の子の歌だと思うんだけど、その曲を今、用いた理由はなんだろう?業界の悪しき慣習に対するアンチテーゼ??

丸山:音楽はコリー・ハート(Corey Hart)の1983年の曲「Sunglasses at Night」をデムナと長年組んでいるプロデューサー、BFRNDがカバーしたものでしたね。ちなみに最後に仲間と合流したラストルックのモデルがBFRNDです。映像では曲の通り夜なのにサングラスをしたモデルがパリの街をガツガツ歩きます。勝手に3Dを駆使したSFチックな映像が来るのではないかと想像して身構えていたので意外でした。でも、デムナは事前インタビューでこのコレクションでは2030年のファッションを思い描こうとしたと明かしています。2030年ですが「レトロフューチャリスティックなスタイルの提案ではなく、何が必要不可欠でサステナブルかということをより探求するということ」だそうで、見たこともない新しいものというより、デムナが10年後も残ると思うエッセンシャルなアイテムを集めたコレクションだったのではないでしょうか。1983年の曲を使ったのも、それが現代まで残っているからなのかなと思いました。ですがフーディーを着ずに頭からかけたり、イブニングドレスにスリッパを合わせたり、ティックトック(TikTok)のように歌詞に合わせてモデルが口パクする演出など、どこか違和感のある要素は健在でした。違和感というのは新しいものを初めて見るから生まれる感情でもあると思うのですが、昔からあるものを違う見せ方をしているので新しいように感じます。ちなみにユーチューブでは映像をずっとループさせて見せていて、かれこれ十数時間ライブしているのですがいつまでやるのでしょう?

遠い未来の宇宙からユーモアを届けた「トム ブラウン」

丸山:「トム ブラウン」はリアルのショーと同じようにデジタルでもユーモアたっぷりな映像を公開。まず設定から、22世紀の月で開かれたスポーツ大会「2132 LUNAR GAMES」の開会式の実況とぶっ飛んでます。会場は実在のスタジアム、ロサンゼルス・メモリアル・コロシアム(Los Angeles Memorial Coliseum)なのですが、実況者によれば過去のアーカイブから再現したものだそう。スタジアムを埋め尽くす観客は全員「トム ブラウン」を着用。オリンピックの開会式で選手が正装で入場してくるときのように、最新コレクションをまとった選手が、各競技を現したロゴが描かれた旗とともに入場してきます。最後はトム・ブラウンの愛犬ヘクターをモデルにした犬型の宇宙船がスタジアム上空に現れ、双子のスター選手が宇宙船から降りた後、「トム ブラウン」のライターで聖火を灯すという、ツッコミ満載な映像でした。コレクションは白を基調にしていましたが、これは希望を表しているそう。デジタルでも変わらないユーモアを希望とともに届けてくれたトム・ブラウンに感謝です。

村上:「トム ブラウン」は、112年後も燦然(さんぜん)と輝き、代表選手団のユニホームを手がけているのね(笑)。112年後のオリンピック的なスポーツの祭典は、まだスタジアムをメーン会場に行われているのかな?ナレーターによると、このスタジアムは「20世紀のロサンゼルスを再現している」みたいだけれど。その後ナレーターは、グレース(Grace)さんのリポートの後、「Amazing Grace」とのコメントを発していたね。「Amazing Grace」はアメリカで昔から歌われる賛美歌で、春には新型コロナウイルスと戦う医療関係者に向けて贈られました。舞台は2132年だけれど、随所に過去へのリスペクトが感じられます。心温まるストーリーですね。2132年も「トム ブラウン」が打ち出し続けるフォーマルに代表される古きと、
スペースエイジ時代に欠かせないミラーサングラスのような新しきが入り混じっている素敵な世界だといいなぁ、って思っちゃいますね。絶対生きてないけれど(笑)。

パリジャンに着想を得たリアルな「パコ ラバンヌ」

村上:「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」は、正直、もうちょっと何かを期待してしまいましたね。終盤のシルバー&ゴールドのスパンコールドレスは、「まさに!!」と興奮しましたが比して前半は、それなりにメタルづかいは含まれているけれど、「『パコ ラバンヌ』で買わなくてもいいかもなぁ」というアイテムも多く。ただメタル使いとか、ラミネート加工を増やすと重さ、着心地、価格などの面でリアルから遠ざかってしまうし、難しいところですね。終盤は、とっても「パコ ラバンヌ」だけど、あくまでコレクションピースでしかないワケで……。そう考えると、「スキャパレリ」は上手な落とし所を見つけつつある印象です。

丸山:今季の「パコ ラバンヌ」は、ジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)=クリエイティブ・ディレクターがロックダウン中に自宅の窓から近所を歩くパリジャンの服装を観察してそれに着想を得たとのことで、ジーンズやブラトップ、キャミソールなど日常使いできるリアルなアイテムが多かったですね。一部のモデルもドッセーナの友人のパリジャンを採用していたとか。さらに会場の扉は開け放たれていて、ショーを見に集まった群衆や通りを走る車が垣間見えます。モデルは会場の外を歩いてから会場に入ってくるという演出で、パリの日常からランウエイにそのままやってきたようでした。ただ前回のジャンヌダルクに着想を得たコレクションは強さもありながら神秘的な素晴らしいコレクションで、ドッセーナの本領は日常着よりも洗練されたファンタジックな表現の方が発揮されるのかなと思っていたので、個人的には少し残念ではありました。ただ、コロナ禍で消費者もファンタジックよりもリアルな方を好む消費傾向にあるので、それに合わせた結果でもあるのかなと思います。

ビーズを用いたドリーミーな「ビューティフルピープル」

村上:「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」はバルーンシルエットを基調に、フリルやプリーツをプラスしたひざ丈のドレスの裾にマイクロビーズを封入。すると裾まわりのボリュームがさらに誇張されて、という仕掛けですね。ショーの前に届いた招待状も、マイクロビーズを詰め込んだハンドピローみたいな物体だったんだけど、実際、ビーズも販売するのかな?とても自宅で気軽に詰め込めるシロモノじゃないけれど、軽くて暖かそうではあります。招待状みたいなハンドピローを数個セットにして販売したり、ドレスとセットで売ったりするのかな?そば殻を詰め込んだ枕とフカフカの布団のように、軽くて、ドレスだけど「おうち時間」にも良さそうで、リラックスできるアイテムでした。

丸山:「ビューティフルピープル」は服の表である“Side-A”と裏である“Side-B”、表と裏の間に着目した仕立てのアイデア“Side-C”を以前から採用していましたが、今回はこの間を相互につなげてマイクロビーズを入れられるポケットを作ったんですね。公開した映像は、封入されたビーズが服からモデルの動きに合わせてドラマチックに落ちるという演出でした。ビーズが詰まったポケットに寄りかかればそれはビーズクッションやアームチェアに早変わり。そのまま寝れちゃう枕にインスパイアされたヘッドピースや、ベッドリネンやテーブルクロスのような生地など、家の中にあるものに着想を得たコレクションでしたが、「もしも洋服が住居として変化したら?もしも洋服が感情を揺さぶる存在として、精神を高揚させつつも、穏やかな居心地良さと安心を与えることができたとしたら?」というアイデアを由来としているそうです。

マシュー・ウィリアムズによる新生「ジバンシィ」

村上:新生「ジバンシィ(GIVENCHY)」、私たちはルックを見ただけですが、なんだか良さそうですね。クロコダイルのようにゴツゴツした質感のレザー、喜平のメタルチェーン、スキャンダラスなブラックミニドレスなど、メゾンらしい強さとモード感が漂います。前任クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)は、とっても優しいので、時に無理して力強い方向に振っていた印象もあるけれど、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)にとって、ブラックやモード、メタル使いに代表されるエッジーは、得意のフィールドだしね。詳しくは、ヨーロッパ通信員の藪野淳さんが現地でコレクションを見てリポートしてくれています。

丸山:やっぱりマシューの得意なアクセサリーは素晴らしかったですね。特にティーザーでも見せていた南京錠を用いたアイテムは売れそうです。しかもエントリー価格のアイテムも出すそうで、楽しみですね!「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」でも最近はテーラードを意識していましたが、メゾンの技術によりまた別格なクオリティに仕上がっていました。ちなみにキャップやヒールに採用した角などゴシックな要素は意外だったのですが、アレキサンダー・マックイーン(Alexander Mcqueen)期のアーカイブからと聞いて納得。

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マシューによる新生「ジバンシィ」公開、遠い未来から希望を届けた「トム ブラウン」 デジコレでドタバタ対談パリ7日目

 2021年春夏のコレクションサーキットのラストとなるパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)も7日目となりました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも日本の記者たちが対談レビューという形で、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、今回はメンズ、ウィメンズともにこれまでも各都市のコレクションを取材してきた「WWD JAPAN.com」の村上要編集長とパリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターがリポートします。

リアリスティックな「スキャパレリ」ウーマン

丸山:「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」は、ダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)がクリエイティブ・ディレクターに就任してプレタポルテをスタートしてからもう3シーズン目になるんですね。クチュールのイメージが強かったのですが、ウエアラブルなアイテムが予想外に多く驚きました。というのも、今季ローズベリーは現在も数十年後まで着られるエッセンシャルなコレクションを、クチュールのクオリティで作りたかったそうです。過去2シーズンのコレクションも見てみたのですが、ゴールドの装飾がちりばめられたクラシックなパンツスーツからツイストが加えられたイブニングドレスまで、確かに今後何年も使えそうなアイテムがそろいます。ベーシックではあるものの、創業者のエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)が好んで使っていたというゴールドのメジャーテープの装飾や南京錠、ロブスター、ゾウなどのアイコンが効いていますね。

村上:ダニエルさんは、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」出身だけど、絵心あるクリエイティブ・ディレクターですね。ムービーでも、イラストの制作場面がなんども出てきます。スカーフのみならず、セットアップにまで本人直筆のイラストを用いているみたい。シュールレアリスムが信条のブランドが、アーティストのごときデザイナーを起用するのは、とても正しい選択な気がしました。正直にいうと復活以降、「難しいなぁ」って思って見ていたんです。オートクチュールとプレタポルテの中間“プレタ・クチュール”の確立を目指して再スタートを切ったけれど、シュールすぎて「お金とアートを愛でる心の双方がズバ抜けた、欧州のお金持ち以外にマーケットはあるのかな?」って思っていました。それがずっとリアルになって、それでもアートマインドは失わず、絶妙なバランスを模索しながら路線変更しつつある印象です。例えば寝転ぶと床と一体化した平面のように見えるジャケットは、もちろん実物はリアルウエア。でも写真に撮るとシュールに見えて、SNS全盛の今っぽい。マスクは販売するかわからないけれど、シュールの度合いが強い商品はアクセサリーに絞り込んでいるのも正解だと思います。

NYからパリにやって来た「ガブリエラ ハースト」

丸山:いつもニューヨークで発表している「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」は今季パリで発表しました。リアルなショーをライブ配信していましたが、映像ではランウエイだけでなくモノクロでバックステージの様子も見せていて、その緊張感が伝わってきました。ニューヨーク・ファッション・ウイークを取材している村上さんは「ガブリエラ ハースト」のクリエイションをこれまで見てきたと思いますが、彼女の強みは何なのでしょう?

村上:「ガブリエラ ハースト」の今季は編みや太めのコットン糸を用いたハンドステッチなどの手仕事を加えながら、オーガニックなムードを維持しながら、エキゾチックなスパイスを加える彼女らしさが発揮されていたと思います。シンプルなコットンワンピのショルダーストラップや、細い2連のベルトづかいも彼女らしい。ただ、そうそうたるブランドが集うパリだと、もうちょっとオリジナリティが欲しいのも事実。ニューヨークでは、他よりラグジュアリーな分、素材に人一倍こだわって独自性を保ってきたけれど、それだけじゃパリでも同様には輝けない。今後の進化に期待しましょう。

夜のパリをガツガツ歩く「バレンシアガ」

村上:「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、他のブランドよりも一足早く、21年プレ・フォール・コレクションに相当する21年サマー・コレクションを発表ですね。このブランドのサイクルは独特で、メインと次のプレで1つのストーリーが完成。つまり今回の21年プレ・フォールは、7月に発表したコレクションの続き、ですね。確かに、全体のシルエットは7月発表のコレクションよりも落ち着いている印象だけど、ボロボロのニットやロゴ入りのスエット、カラフルなトートバッグなど似たようなアイテムもチラホラ。モノすごく新しいとは思わなかったけれど、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)らしいクリエイションですね。サステナブルへの取り組みを明言しているけれど、これまでの残反やアーカイブも使っているのかな?アイデアが枯渇しないためにも、考え自体も使い捨てず、次に繋げる考えは賛成です。気になったのは、BGMの「Sunglasses at Night」でしょうか?元々は、好きな女の子のウソを直視したくないから夜でもサングラスっていう男の子の歌だと思うんだけど、その曲を今、用いた理由はなんだろう?業界の悪しき慣習に対するアンチテーゼ??

丸山:音楽はコリー・ハート(Corey Hart)の1983年の曲「Sunglasses at Night」をデムナと長年組んでいるプロデューサー、BFRNDがカバーしたものでしたね。ちなみに最後に仲間と合流したラストルックのモデルがBFRNDです。映像では曲の通り夜なのにサングラスをしたモデルがパリの街をガツガツ歩きます。勝手に3Dを駆使したSFチックな映像が来るのではないかと想像して身構えていたので意外でした。でも、デムナは事前インタビューでこのコレクションでは2030年のファッションを思い描こうとしたと明かしています。2030年ですが「レトロフューチャリスティックなスタイルの提案ではなく、何が必要不可欠でサステナブルかということをより探求するということ」だそうで、見たこともない新しいものというより、デムナが10年後も残ると思うエッセンシャルなアイテムを集めたコレクションだったのではないでしょうか。1983年の曲を使ったのも、それが現代まで残っているからなのかなと思いました。ですがフーディーを着ずに頭からかけたり、イブニングドレスにスリッパを合わせたり、ティックトック(TikTok)のように歌詞に合わせてモデルが口パクする演出など、どこか違和感のある要素は健在でした。違和感というのは新しいものを初めて見るから生まれる感情でもあると思うのですが、昔からあるものを違う見せ方をしているので新しいように感じます。ちなみにユーチューブでは映像をずっとループさせて見せていて、かれこれ十数時間ライブしているのですがいつまでやるのでしょう?

遠い未来の宇宙からユーモアを届けた「トム ブラウン」

丸山:「トム ブラウン」はリアルのショーと同じようにデジタルでもユーモアたっぷりな映像を公開。まず設定から、22世紀の月で開かれたスポーツ大会「2132 LUNAR GAMES」の開会式の実況とぶっ飛んでます。会場は実在のスタジアム、ロサンゼルス・メモリアル・コロシアム(Los Angeles Memorial Coliseum)なのですが、実況者によれば過去のアーカイブから再現したものだそう。スタジアムを埋め尽くす観客は全員「トム ブラウン」を着用。オリンピックの開会式で選手が正装で入場してくるときのように、最新コレクションをまとった選手が、各競技を現したロゴが描かれた旗とともに入場してきます。最後はトム・ブラウンの愛犬ヘクターをモデルにした犬型の宇宙船がスタジアム上空に現れ、双子のスター選手が宇宙船から降りた後、「トム ブラウン」のライターで聖火を灯すという、ツッコミ満載な映像でした。コレクションは白を基調にしていましたが、これは希望を表しているそう。デジタルでも変わらないユーモアを希望とともに届けてくれたトム・ブラウンに感謝です。

村上:「トム ブラウン」は、112年後も燦然(さんぜん)と輝き、代表選手団のユニホームを手がけているのね(笑)。112年後のオリンピック的なスポーツの祭典は、まだスタジアムをメーン会場に行われているのかな?ナレーターによると、このスタジアムは「20世紀のロサンゼルスを再現している」みたいだけれど。その後ナレーターは、グレース(Grace)さんのリポートの後、「Amazing Grace」とのコメントを発していたね。「Amazing Grace」はアメリカで昔から歌われる賛美歌で、春には新型コロナウイルスと戦う医療関係者に向けて贈られました。舞台は2132年だけれど、随所に過去へのリスペクトが感じられます。心温まるストーリーですね。2132年も「トム ブラウン」が打ち出し続けるフォーマルに代表される古きと、
スペースエイジ時代に欠かせないミラーサングラスのような新しきが入り混じっている素敵な世界だといいなぁ、って思っちゃいますね。絶対生きてないけれど(笑)。

パリジャンに着想を得たリアルな「パコ ラバンヌ」

村上:「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」は、正直、もうちょっと何かを期待してしまいましたね。終盤のシルバー&ゴールドのスパンコールドレスは、「まさに!!」と興奮しましたが比して前半は、それなりにメタルづかいは含まれているけれど、「『パコ ラバンヌ』で買わなくてもいいかもなぁ」というアイテムも多く。ただメタル使いとか、ラミネート加工を増やすと重さ、着心地、価格などの面でリアルから遠ざかってしまうし、難しいところですね。終盤は、とっても「パコ ラバンヌ」だけど、あくまでコレクションピースでしかないワケで……。そう考えると、「スキャパレリ」は上手な落とし所を見つけつつある印象です。

丸山:今季の「パコ ラバンヌ」は、ジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)=クリエイティブ・ディレクターがロックダウン中に自宅の窓から近所を歩くパリジャンの服装を観察してそれに着想を得たとのことで、ジーンズやブラトップ、キャミソールなど日常使いできるリアルなアイテムが多かったですね。一部のモデルもドッセーナの友人のパリジャンを採用していたとか。さらに会場の扉は開け放たれていて、ショーを見に集まった群衆や通りを走る車が垣間見えます。モデルは会場の外を歩いてから会場に入ってくるという演出で、パリの日常からランウエイにそのままやってきたようでした。ただ前回のジャンヌダルクに着想を得たコレクションは強さもありながら神秘的な素晴らしいコレクションで、ドッセーナの本領は日常着よりも洗練されたファンタジックな表現の方が発揮されるのかなと思っていたので、個人的には少し残念ではありました。ただ、コロナ禍で消費者もファンタジックよりもリアルな方を好む消費傾向にあるので、それに合わせた結果でもあるのかなと思います。

ビーズを用いたドリーミーな「ビューティフルピープル」

村上:「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」はバルーンシルエットを基調に、フリルやプリーツをプラスしたひざ丈のドレスの裾にマイクロビーズを封入。すると裾まわりのボリュームがさらに誇張されて、という仕掛けですね。ショーの前に届いた招待状も、マイクロビーズを詰め込んだハンドピローみたいな物体だったんだけど、実際、ビーズも販売するのかな?とても自宅で気軽に詰め込めるシロモノじゃないけれど、軽くて暖かそうではあります。招待状みたいなハンドピローを数個セットにして販売したり、ドレスとセットで売ったりするのかな?そば殻を詰め込んだ枕とフカフカの布団のように、軽くて、ドレスだけど「おうち時間」にも良さそうで、リラックスできるアイテムでした。

丸山:「ビューティフルピープル」は服の表である“Side-A”と裏である“Side-B”、表と裏の間に着目した仕立てのアイデア“Side-C”を以前から採用していましたが、今回はこの間を相互につなげてマイクロビーズを入れられるポケットを作ったんですね。公開した映像は、封入されたビーズが服からモデルの動きに合わせてドラマチックに落ちるという演出でした。ビーズが詰まったポケットに寄りかかればそれはビーズクッションやアームチェアに早変わり。そのまま寝れちゃう枕にインスパイアされたヘッドピースや、ベッドリネンやテーブルクロスのような生地など、家の中にあるものに着想を得たコレクションでしたが、「もしも洋服が住居として変化したら?もしも洋服が感情を揺さぶる存在として、精神を高揚させつつも、穏やかな居心地良さと安心を与えることができたとしたら?」というアイデアを由来としているそうです。

マシュー・ウィリアムズによる新生「ジバンシィ」

村上:新生「ジバンシィ(GIVENCHY)」、私たちはルックを見ただけですが、なんだか良さそうですね。クロコダイルのようにゴツゴツした質感のレザー、喜平のメタルチェーン、スキャンダラスなブラックミニドレスなど、メゾンらしい強さとモード感が漂います。前任クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)は、とっても優しいので、時に無理して力強い方向に振っていた印象もあるけれど、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)にとって、ブラックやモード、メタル使いに代表されるエッジーは、得意のフィールドだしね。詳しくは、ヨーロッパ通信員の藪野淳さんが現地でコレクションを見てリポートしてくれています。

丸山:やっぱりマシューの得意なアクセサリーは素晴らしかったですね。特にティーザーでも見せていた南京錠を用いたアイテムは売れそうです。しかもエントリー価格のアイテムも出すそうで、楽しみですね!「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」でも最近はテーラードを意識していましたが、メゾンの技術によりまた別格なクオリティに仕上がっていました。ちなみにキャップやヒールに採用した角などゴシックな要素は意外だったのですが、アレキサンダー・マックイーン(Alexander Mcqueen)期のアーカイブからと聞いて納得。

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ベールを脱いだ新生「ジバンシィ」 クリーンなテーラリングにハードウエアや激しいテクスチャーをミックス

 「ジバンシィ(GIVENCHY)」は10月4日、マシュー・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)新クリエイティブ・ディレクターの手掛けた2021年春夏コレクションを発表した。これまでジョン・ガリアーノ(John Galliano)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)といった実力派デザイナーが率いてきた老舗クチュールメゾンに34歳で抜擢された彼のデビューコレクションは、今シーズンのパリコレ最大のトピックだ。しかし、コロナ禍でのランウエイショー開催は見送り、オンラインでウィメンズとメンズのルックを公開した。

 同日、パリ・モンテーニュ通りにあるショールームで行われたプレビューで、ウィリアムズは「コレクションに特定のテーマはない」と語り、プロダクト重視の考え方を明かす。それを最も象徴するのは、ハードウエアだ。コレクション発表に先駆けて公開したビジュアルも南京錠やチェーンなどにフォーカスしていたが、「自分にとってハードウエアはとても大切な要素であり、新しいプロジェクトに取り組むときは常にそこからスタートする」という。そして、それらを新たなブランドシグネチャーとして、アクセサリーだけでなくウエアやバッグ、シューズのデザインにも取り入れていく。自身のブランド「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」でもローラーコースターバックルで人気を確立し、「ディオール(DIOR)」のメンズコレクションのバックルデザインも手掛ける彼らしいアプローチと言えるだろう。

 ハードウエアに加えて、今シーズンのウエアの鍵となるのは、直線的なテーラリングとハードなテクスチャーやプリントだ。「今の時代、メンズとウィメンズは流動的がいい」という考えから、共通した素材やシルエットを採用したアイテムも多い。テーラードジャケットやコートはボクシーなシルエットで、ウィメンズでは“グラブ・スリーブ”と呼ぶ袖を浮かせたようなデザインを提案。一方、メンズは隠しボタンもしくはハードウエアの留め具で仕上げた。そのクリーンな印象と相反するように組み合わせるのは、溶岩やひび割れた地表のような荒々しいテクスチャーに加工したジーンズや型押しクロコダイルレザーのアイテム、タトゥーのようなグラフィック。オーバーサイズのスタンドカラージャケットやアノラックなど、カジュアルなアイテムもある。また、「アーカイブから創業者ユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)の透け感のある素材使いや装飾を研究し、それをいかにモダンに表現できるかに取り組んだ」とウィリアムズが語るように、ウィメンズのイブニングでは、ビジューやパールを飾ったシアドレスや背中の大きく開いたニットドレスなどセンシュアリティーを探求した。

 バッグはアイコンの“アンティゴナ”を再解釈。マグネット開閉を採用した長細いハンドル付きの新デザインを提案する他、ゴツいチェーンでアレンジしたモデルや縦長のミニバッグ、ボディバッグなどもラインアップする。また、新しいアイコンとして、ユニセックスな“カットアウト”バッグも2サイズで打ち出す。やや猟奇的にも感じる角型のヒールやツノの付いたキャップは、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)時代のアーカイブからヒントを得たもの。ゴールド&シルバーカラーのインパクトのあるアクセサリーに加え、厚底のスライドサンダルやエアソールのスニーカー、ストラップ付きiPhoneケース、ウォーターボトル、コンパクトに折り畳めるサングラスなど若い層でも手が届きそうなアイテムが豊富で、顧客の裾野を広げることにつながりそうだ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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パリコレ現地リポートVol.4 「ロエベ」に心を奪われ、「ヨウジヤマモト」に希望を感じた1日

 こんにちは、ヨーロッパ通信員の藪野です。この原稿を書いている3日の朝は久々に晴れました!天気がいいだけで、だいぶ気分が上がりますね。パリでの新型コロナウイルスの感染拡大状況は深刻化していて、週明け(5日)からレストランなどが閉鎖になるかもしれないと聞き、朝からスーパーに買い出しに行ってきました。いつもとは全く状況も雰囲気も異なるパリコレですが、早くも折り返し地点。「ロエベ(LOEWE)」や「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」を取材した5日目のダイジェストをお届けします!

10月2日(金)

14:00 今季も冴えていた「ロエベ」のクリエイション

 「ロエベ」はデジタルでコレクション発表を行いましたが、パリでもインスタレーションを開催しました。アーティストのアンシア・ハミルトン(Anthea Hamilton)が手掛けた柄の壁紙で飾られた空間に、新たな造形の探求に意欲的なジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)らしいコレクションを展示。コルセットやパニエに使うようなボーン(骨組み)とたっぷりのチュールで生み出す大胆なボリュームが印象的で、コットンやリネンといった素朴な印象の天然素材とのコントラストが際立っています。本音を言うと、実際にモデルが着て歩いているところを見たかったけれど、今季も素晴らしいコレクションでした。
 
 一方、イベントなど特別なオケージョンも少なく、家で過ごす時間が増える中、ちょっと今の現実とはかけ離れているなぁという気も。ただ、そんな心配は無用でした。地下に展示されていたコマーシャルピースには、コレクションピースの要素を取り入れつつもウエアラブルに仕上げたアイテムに加え、“おうち時間”にぴったりなダブルカシミアのフーディーやパンツをはじめ、シンプルなポロシャツ、タンクトップ、レザーのスリッパなどもありましたよ〜。
 
 また、個人的に大のバッグ&シューズ好きなのでついついそっちに目が行くのですが、きっと気になる方も多いはず!ということで、写真でたっぷりとご覧ください。
 

15:00コンパクトにまとめた「イッセイ ミヤケ」のコレクションがパリに到着

 「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」もデジタルでショー形式の映像を発表しましたが、パリのショールームでもインスタレーションを行うと聞きつけて行ってきました。今季のテーマは“UNPACK THE CONPACT”(「コンパクトにしたものを広げて」的な意味)なのですが、パリに小さく畳んだり丸めたりしてコンパクトにまとめたコレクションが到着。アートのように飾られていました。
 
 「イッセイ」のコレクションは毎回、楽しいアイデアやギミックが豊富です。丸めるとスポンジのような弾力があるニットのプリーツアイテムや、ポリエステルとフェルトを三層に重ねて立体的に成形したトップスなど、実際の服を見たり触ったりするのって大切だなと改めて感じました。ちなみに、プリントの柄は全てデザインチームのメンバーが手掛けたものだそう。
 

17:00 「オリヴィエ ティスケンス」は今回、アトリエで全てのアイテムを制作

 その後は、「オリヴィエ ティスケンス(OLIVIER THEYSKENS)」のアトリエ兼ショールームにお邪魔しました。今季は、オリヴィエ・ティスケンスが10代の多感な時期に自身の美意識に大きな影響を受けたという、歌手ミレーヌ・ファルメール(Mylene Farmer)へのオマージュ。ただ、「それぞれのルックのインスピレーションになった曲や写真が分かるのは、僕みたいな本当にコアなファンだけだと思うけどね」とオリヴィエは笑っていました。
 
 そして、このコレクションは新型コロナウイルスの影響により、パターンや裁断から縫製まで全てアトリエで行い、完成させたそうです。ちょっと驚いたのは、彼がコレクションのデッサンを全てiPadで描いていること。数年前にアントワープで開催されたオリヴィエの回顧展で紙のデッサンをいくつも見ていたので、時代の変化を感じました。
 

19:00 リアルショーを決行した「ヨウジヤマモト」 耀司さんにも直撃!

 暫定公式スケジュールが発表されたとき、今シーズンはパリでショーをやる日本ブランドはないだろうなと思っていました。しかし、「ヨウジヤマモト」が耀司さんも渡仏してリアルなショーを開くと判明。一気にテンション上がりました!これは何としてもコメントをもらわねば!!ということで、ショー後のバックステージでお話を聞いてきました。どんなことを語られたかは、ぜひこちらの記事をご覧ください。
 
 パリコレ取材を始めてから毎回ショーを拝見していますが、中でも今シーズンは個人的にかなり好みでした。もちろん黒を軸にしたカラーパレットやドレープを生かしたロングドレス、柔らかなテーラリングなどブランドの根幹は変わらないのですが、しっとりと心に響きました。特にワイヤーのクリノリンと花びらや葉のような有機的なフォルムを取り入れたブラックのドレスは、ドラマチックで儚さを感じる仕上がり。耀司さんは1年前のショーのフィナーレでは背中に「NO FUTURE」と書かれたコートを着ていましたが、今回のショーを真っ白で締めくくったところには未来への希望のようなものを受け取りました。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

 

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パリコレ現地リポートVol.3 「クロエ」と「ロジェ ヴィヴィエ」はリアルでもデジタルでも映え!

 
 こんにちは、ヨーロッパ通信員の藪野です。早いもので、もう10月に突入しちゃいましたね。フランスでは新型コロナウイルスの1日の新規感染者数1万人超えが続き、パリも雨が降ったり止んだりという天気でパッとしませんが、元気に取材を続けております。これからは毎日のショーの数は少なめですが、プレゼンや展示会を含めた4日目のダイジェストをお届けします!
 

10月1日(木)

13:00 黒人でゲイという“自分らしさ”を押し出した「ケニス イゼ」

 2019年度「LVMH賞」のファイナリストで、昨シーズンランウエイデビューも果たした「ケニス イゼ(KENNETH IZE)」のプレゼンテーションにやって来ました。デジタルではアーティストのマティ・ビエヨンダ(Maty Biayenda)がイラストを描く映像を公開しましたが、リアルでは彼女のライブペインティングが行われ、その前に一人ずつモデルが登場しました。今季もデザイナーの故郷ナイジェリアで織られた伝統的なマルチカラーストライプ生地を使ったテーラードアイテムが豊富。さらに同様の柄を表現した軽やかなニットやシャツも新たに提案しました。

 幼少期にオーストリアに移住したケネスですが、彼が目指しているのはアフリカのカルチャーを世界に伝えること。そして、今シーズンはBLMやトランスジェンダーの人々への暴行事件など世界で起こっていることから、黒人でゲイであるというアイデンティティーや自分のフェミニンな部分を押し出すことにしたそう。ケネス自身も男性モデルもカラーメイクとマネキュアを施していて、チャーミングでした。

14:00 「クロエ」ガールズはパリの日常からランウエイへ

 「クロエ(CHLOE)」のショー会場は、パレ・ド・トーキョーの中庭。屋外だし、広々とした席配置で、これまでで最も安心感のある会場でした。雨が降ったり止んだりの天気なのできちんと各席の下に大きな傘が用意されていたり、温かい飲み物が配られていたりと心づかいを感じます。

 パラついていた雨もタイミング良く止んで、ショーがスタートしました。今回は会場の周りのセーヌ川沿いや通りにモデルを配置して、パリの日常のような風景からランウエイへとモデルが歩いてくる演出。翌日、ナターシャ・ラムゼイ・レヴィ(Natacha Ramsay-Levi)=クリエイティブ・ディレクターにZoomでインタビューをしたのですが、「今回はリアルもデジタルも大事で、優先順位はない。それにパリに美しいオマージュを捧げたかった」と教えてくれました。そして、そこからはリアリティーも感じられて良かったですよね。そう伝えると、「『クロエ』にとって、アティチュードはとても重要な要素。リアルなストリートで女性たちがどう動くか、どのような仕草を見せるかということが大切」とナターシャ。デジタルでの配信も考慮してリアルショーに趣向を凝らした演出を用意しているブランドが今季はとても多いですが、「クロエ」のショーはリアルで見てもデジタルで見てもそんなメッセージが伝わるショーだったのではないでしょうか。

 コレクションについては「女性たちは今、そこまで新しいものを求めていないから、突飛なことをやる必要はない。だから斬新さを探求するのではなく、知っているものをいかに違うように見せるかに取り組んだ」とコメント。これまでに提案してきたデザインやシルエット、柄、そしてブランドらしさを生かして、今シーズンのクリエイションに臨んだといいます。その結果は、安らぎを求めている今にぴったりで好印象!優しいカラーパレットと軽やかな素材使いが印象的な心地よいコレクションに仕上がっていました。そこに加えたアーティストのコリータ・ケント(Corita Kent)による鮮やかな色のアートワークもアクセントが効いていましたよね。

 

16:00 映像でも店舗でもファンタジーを作り上げた「ロジェ ヴィヴィエ」

 いつも“ホテル ヴィヴィエ”と題した夢の世界のようなプレゼンテーションで楽しませてくれる「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」も、今回はデジタルでの発表となりました。それを補完する展示会がパリに店舗であるということでお邪魔したのですが、いやぁ〜スゴかった!なんとショップの2階の一部を“プチ・ホテル・ヴィヴィエ”仕様に変えて、ゲストを迎えてくれました。地面には本物の土が敷かれ、植物が生い茂る中に新作が展示されていて、クリエイティブ・ディレクターであるゲラルド・フェローニ(Gherardo Felloni)の世界観が炸裂!発表されたシミュレーションゲームのような映像作品も妖しげな案内人のいる小さな試写室で拝見しました。

 今季の一押しは、ハンドペイントでフラワーモチーフが描かれたバッグやシューズ。イタリアの田舎で自然に囲まれてロックダウン中を過ごしたというゲラルドは、ブランドにとっても重要な要素である花に改めてフォーカスすることにしたそう。また、現在のライフスタイルを反映して“快適さ”を重視したフラットなサンダルを豊富に提案。手入れのしやすいパテントレザーのアイテムも増えています。ぜひ、写真でたっぷりとお楽しみください!
 

20:00 密なダンスにヒヤリ。超エネルギッシュな「イザベル マラン」

 「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」は一言で言うと、とってもエネルギッシュ!パフォーマー集団「(LA)HORDE」の躍動的なダンスに圧倒されました。コレクションは、肩や袖にポイントを持ってきたデザインやウエスタン調のディテールをはじめ、同ブランドらしいアイテムがズラリ。今季は、パープルやピンク、赤、青などの鮮やかな色とそれらを薄めたようなパステルカラー、そしてメタリックなシルバーが中心になっています。

 ただ席がサイドだったのでモデルがパフォーマーの群れと同じトーンの服を着て一緒に歩いてくると、見落としそうになることも(汗)。正面の席だとモデルが中心にくる感じでよく見えたのだな〜と、オンラインで映像を見直して納得しました。終盤のペアが抱き合うダンスは、この時期にこの演出をやるのかとちょっとヒヤヒヤとしましたね……。

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現地ショーを行った「ヨウジヤマモト」に仕掛け満載の「イッセイ ミヤケ」、日本勢が活躍したパリ5日目 デジコレでドタバタ対談

 2021年春夏のコレクションサーキットのラストとなるパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)も5日目となりました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも日本の記者たちが対談レビューという形で、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、今回はメンズ、ウィメンズともにこれまでも各都市のコレクションを取材してきた「WWD JAPAN.com」の村上要編集長とパリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターがリポートします。さらに、助っ人として各都市のメンズコレクションを取材してきた「WWDジャパン」の大塚千践デスクを呼び、佳境を迎えたパリ5日目を乗り切ります。

ボディコンドレスは健在な「エマニュエル ウンガロ」

村上:今日のトップバッターは、「エマニュエル ウンガロ(EMANUEL UNGARO)」ですね。最近は見かける機会が減って、創業デザイナーも昨年亡くなったけれど、バイアスカットのシルクやジャージーを使い、肩口のラッフルや深いスリットで彩ったボディコンシャスなドレスは健在でした。ムービーは、最新コレクションを着た女性を庭園で撮影という超オーソドックスなものでしたが、水玉模様のドレスを見て嬉しくなっちゃったのは、40代オーバーだからでしょうか(笑)?

丸山:「エマニュエル ウンガロ」は水玉模様がアイコンの一つなんですね。映像もそういったブランドヒストリーがわかるようなものにしたらよかったのに、と思ってしまいました。服をクロースアップで見たり質感をチェックしたい!というバイヤーやECサイトに掲載するのにはよさそうですが、他のブランドがコロナ禍を経て自らを振り返り、ブランドのヘリテージを打ち出すような映像やコレクションを見せている中で「エマニュエル ウンガロ」は素晴らしい創業者がいるにもかかわらずそうしたストーリーを読み取ることができなかったのは残念でした。パリコレの公式スケジュールに参加するのは数年ぶりとなるのですが、主催のフランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode、サンディカ)がパリコレを盛り上げるのに参加を頼みこんだのでしょうか。

「レオナール」

村上:お次の「レオナール(LEONARD)」は“Silky Wave”と題して、文字通りシルクドレスを波が打ち付ける浜辺に持ち込んでのシューティング。ムービーの後半に登場したマキシドレスやカフタンドレスの印象が強いブランドのせいか、前半のフーディや開襟タイプのシャツドレスが新しく見えました。極彩色のトロピカルモチーフも、若々しくてスキ。

丸山:ウェットスーツにビキニをはじめ、水着の上に着るキモノガウンやスエット、夕焼けのようなグラデーションのプリーツドレスなど、ビーチへのバケーションにぴったりなアイテムが多く登場しましたね。得意とする草花のプリントにヤシの木やハイビスカスが加わっていました。映像はビーチにやってきた女友達二人の一日をロードトリップ風に描いたようでしたが、2人がビーチで出会ったやたらサーフィンが上手な女の子は本当にプロのサーファーなんだとか。オケージョンがしっかりと描けたからか、何だかランウエイで見るよりも生き生きとしているように見えました。

「ロエベ」の等身大ポスターでショーを体感

村上:「ロエベ(LOEWE)」からはコレクション発表の直前、巨大な壁紙の上に貼り付ける、等身大のポスターが届いたんですよね。メッチャ重いの(笑)。ちなみにこの等身大のコレクションルックは今、渋谷パルコのショップのウインドーを彩っているんだよね?

丸山:そうなんです。あと、銀座の旗艦店のカサ ロエベ 東京、表参道店のウインドーにも貼られているそうです。ルックを等身大で体感できますし、一緒に写真を撮ったりしても楽しそう。コレクションのテーマは“Show-on-the-wall”で、ショーをリアルで見ることができない今、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)はどうしたら観客がショーに参加できるか、コレクションと関わりたくなる状況とは?と考えてこの等身大のポスターというアイデアに至ったそうです。ポスター同様特大サイズのキットにはハケやのりがついていて、今すぐ壁に貼り付けることができます。

村上:コレクションは、こんな時だからこそ「ファッションの芸術性を」と考えたジョナサンによる、ボリュームを誇張したドレスの目白押し。マリー・アントワネット(Marie-Antoinette)の世界のようでもあり、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のファッションショーのようでもあり、という印象でした。パフスリーブも、フィット・アンド・フレアのドレスのスカートも巨大。そこに細かなラッフルや、メンズでも登場したレザーのバスケット編みなどのクラフツマンシップも加わり、アートピースのようでもありました。「実際、着れるか?」と問われるとなかなか難しいところも多いけれど、多くのブランドがストレスフリーを意識してシンプルを目指す中、シンプルを目指す中、こういうアプローチがあっても良いよね。「洋服どころじゃない」という人が、「洋服って、やっぱり素敵」と思ってくれたら、ジョナサン、とっても喜びそうです(笑)。

丸山:まさに再び夢を見させてくれるようなコレクションでした。ジョナサンは「たまには現実から洋服の世界に逃避するのも悪くない」とコレクション説明動画で話してましたね。服は職人の技術をとことんドリーミーに昇華したドレスが多かったですが、今季のバッグはジョナサンが「ブランドのクラシックなバッグを完成形により近づけた」と語っているだけあり、とても洗練されていました。長く使えるいいものが欲しいという需要がある今、売れそうだと感じました。特に“フラメンコ”バッグは無駄なものが一切なくて彫刻のような美しさがあり、見入ってしまいました。キットの中に入っていた巨大な壁紙は、アーティストのアンシア・ハミルトン(Anthea Hamilton)とのコラボレーションで、同じプリントのドレスもコレクションにありましたね。ジョナサンの動画と同時に、彼女のインタビュー動画を公開していましたが、2人とも仕事をするにあたり多くのリサーチを行っていて、だからこそ仕事に深みが出るのでしょうね。

コンパクトに畳める「イッセイ ミヤケ」

村上:「UNPACK THE COMPACT」と題した「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のムービーが面白かった!パッカブルで小さなバッグに収納できるジャケットとか、クルクル丸められるプリーツウエアなど、コレクションは全部「コンパクト(COMPACT)」な形に収まるんだけど、ひとたび広げて、重ねて、合わせて、なんて作業をすると、どれもが素敵なドレスやトップス、パンツに早変わり!!でしたね。

丸山:服だけじゃなくてトルソーまで小さくなったときには「そこまでする!?」と驚きました(笑)。コンパクトに畳めるだけじゃなくて、パンツの紐をほどいて結び目を変えるとトップスになったり、ワンピースがリバーシブルだったりと、1つのアイテムを2通りで着ることができるのも感動。そして服を広げるとそれは「イッセイ ミヤケ」の根幹にあるアイデア“一枚の布”であることがわかります。そして最後に大きめのスーツケースサイズの箱に全ての服が収納されます。これ全部スーツケースに詰め込んだら旅先の服は全部カバーできちゃいますね。最後に箱に服を詰めた男性は、顔は見えずでしたが近藤悟史デザイナーとみました。

村上:こういう工夫は男子が大好きな気もするけれど、女性にも響くのかな?深読みかもしれないけれど、「おうち時間」が長くて、生活圏が「コンパクト」になっている今だからこそ、響くのかもしれません。遠くない将来、再び世界中を自由に行き来できるようになったら、それはまさに人類の「UNPACK THE COMPACT」。小さなバッグを広げると素敵に早変わりする「イッセイ」の洋服のように、僕らの未来も近いうちにまた素晴らしいものになるというメッセージを発信してくれたように感じます。それぞれの洋服の動きを収めたムービーも楽しかった。プリーツの入ったプルオーバーはクリオネみたいに見えたけれど、「あぁ、一枚の布って、ホントに命を持っているようだなぁ」と感じました。

丸山:女性でもこういうギミックが好きな人はいると思いますよ。少なくとも私は終始感嘆してました。2通りにも着ることができてサステナブルな上に、コンパクトで旅先にも持っていける。パンデミック以来、外に出る際は自分で洗える服を選ぶようになりましたが、「イッセイ ミヤケ」だから洗える商品も多そうですし、さまざまなニーズにオールインワンで応えることができるのが魅力ですよね。日本で撮影・キャスティングしているから当然といえば当然なのですが、福士リナさんや新井貴子さんをはじめ、中島沙希さん、AIKAさん、HANAKAさんなど活躍中のモデルさんが多く出演していたのもうれしかったです。

iPhoneの画面風の映像がユニークな「ニナ リッチ」

村上:ルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)による「ニナ リッチ(NINA RICCI)」は、風になびくシルクをたっぷり使ったコレクション。ジャケットの背面、ドレスのスリットの中からシルクを垂らし、歩いたり、風を受けたりするたびにドラマチックに揺れ動く洋服は、メゾンのアーカイブにインスピレーションを得つつも、ボッターの出身地、オランダ・キュラソー島のカルチャーにも刺激を受けたものみたいですね。

丸山:映像もユニークでかわいかったですよね。iPhoneのロック画面をオープンするところからスタートし、その後カメラロールに手が伸びます。検索したのは、キュラソー島のウィレムスタット(Willemstad)。キュラソー島はカリブ海に位置する美しい街並みの島なのですが、カメラロールでこのカラフルな色彩の街並みやカリブ海の海の色を振り返っていくとともに、画面が分割されてそれをレファレンスにしたルックが登場します。さらに着想源にした「ニナ リッチ」のアーカイブと2人が蘇らせたルックも対照に表示するのも、イメージソースがすごく分かりやすかった。またボッターがアントワープの王立芸術アカデミー出身だからこそ、アントワープが検索候補に出てきたり、「ニナ リッチ」の本店の住所“39 Avenue Montagne”が出てきたりと細かい仕掛けがたくさんで2秒に1回くらいのペースでスクショしてしまいました。

村上:とってもエレガントなのに、打ち込み音でガンガン進行しちゃう映像とのミスマッチがユニークでした。普通なら、クラシックとか流したくなっちゃうのにテクノ。さすが、新世代のデザイナーデュオです。

日本から唯一現地でショーを行った「ヨウジヤマモト」

丸山:「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」は日本ブランドで唯一、現地でリアルなショーを開催しました。この状況下でもショーを変わらず届ける姿勢が山本耀司デザイナーらしくてとても頼もしく、今回のパリコレでも特に楽しみにしていました。しかも今回はいつもはなかなか入ることができないバックステージにヨーロッパ通信員の藪野さんが入れることになり、耀司さんのインタビューができるとのことで、さらにわくわくして日本時間の夜2時まで待機。30分くらいスタートが遅れていますが目はギンギンです。が、流石にこの時間まで要さんは起きていらっしゃらないようですね……。

大塚:お疲れー!要さんが不在らしいから、メンズ担当の大塚が代打としてやって参りました(笑)。

丸山:大塚さん!こんばんは!ありがとうございます。大塚さんは「ヨウジヤマモト」のメンズのショーをいつも取材していらっしゃいますが、ウィメンズはどう思いましたか?

大塚:メンズのショーはここ数年続けて見させてもらっているけど、ウィメンズはルック写真で見ていたから新鮮でうれしい!写真で見ると伝わりきらない素材の動き方が分かるし、今回のショーでは「ヨウジヤマモト」の強みの一つはそこにあるのだなと改めて思ったよ。モチーフは控えめで、ミニマルなカラーリングや潔いシェイプのベースに凛とした美しさがあるコレクションだったね。ここは世界観が強烈だから街でもワンブランドコーデが最強という印象だったけど、今シーズンはいい意味での余白があるからほかとミックスしても面白そうだなと思ったよ。

丸山:そうですね。最近はアーティストとのコラボなどで色鮮やかなアイテムが登場するコレクションもあったのですが、今季はフォルムを大事にしたミニマルなコレクションでした。最後に出てきたワイヤーで形作ったクリノリンをベースにしたドレスは、凛とした強さもありながら脆さや儚さもあり、美しかったです。最後は百合の花びらのようなフォルムのオールホワイトのルック群がショーを締めくくりました。フィナーレに登場した耀司さんの背中には、“HEART OF GLASS(ガラスのハート)”とありました。ブロンディ(Blondie)を代表する曲でもありますよね。ただ、自分はショーの音楽を聴いて終始ドキドキしていました。というのも、「ヨウジヤマモト」のショーの音楽は耀司さんの歌声であることが多いのですが、今回は“This is the very last to sit this chair(この椅子に座るのはこれが本当に最後)”という歌詞が登場したり、“Sayonara”というフレーズを振り返して歌うので、「まさかこの後引退発表したらどうしよう」「だからショー後のバックステージ取材を受けてくれた?」「しかも耀司さんは今日が誕生日!これは偶然?」などあらゆる考えが頭をぐるぐる回ります。しかし、藪野さんによるバックステージ取材で完全に私の早とちりだったことが判明。ショーの曲は男女の別れを歌ったそうです。早とちりで本当によかった!

大塚:それは心中穏やかじゃなかったですね(笑)。というか耀司さん誕生日だったんですね!おめでとうございます。メンズのショーはいつもギュウギュウの会場でそのライブ感が楽しいのだけど、こうやってベッドの上で見る「ヨウジヤマモト」も新しい発見があって面白かったわ。と、いうことで代打の役割は果たしたので寝ます(笑)。残りも頑張れー。

丸山:代打ありがとうございました!おやすみなさい。引き続き頑張ります〜!

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パリコレ現地リポートVol.2 豪華絢爛な「バルマン」のショーに世界からセレブや編集長が集結!?

 
 こんにちは、ヨーロッパ通信員の藪野です。今回のパリコレはデジタル発表が中心だし、ゆったりしたスケジュールかな〜と思いきや……スケジュール調整や日本とのやり取りからZoomでのデザイナー取材やショールームでのアポイントメントまで一人でカバーしているので、やっぱりバタバタしております。でも、今シーズンは“健康第一”ということで、毎日睡眠時間6時間以上と栄養のある食事(もちろん自炊)は死守します!それでは、「ケンゾー(KENZO)」や「バルマン(BALMAIN)」など、6つのリアルなショーやプレゼンテーションを取材した3日目のダイジェストをどうぞ!
 

9月30日(水)

10:30 「ケンゾー」はモードな養蜂家スタイル!?

 「ケンゾー」の会場は前回と同じ、ろう学校の庭園です。前回はビニール製のトンネルのようなテントの中に席がありましたが、今回は芝生の上に距離を置いて椅子を配置。全部で100席あるかないかという感じです。そして、席の上にはオリジナルの瓶入り蜂蜜。インビテーションにも養蜂家のような男性の写真とハチのモチーフが描かれていて、今シーズンの鍵になっています。
 
 フェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)による新しい「ケンゾー」のキーワードと言えば、“プロテクション”と“ノマド感”。今回も養蜂家さながら顔や体がベールで包まれたルックがキースタイルとなり、前回とは別のベクトルで身を守っています。また、放浪の旅に欠かせない機能的なディテールも引き続き。ファスナー開閉でデザインやシルエットが変わるアイテムやいくつもポケットのついたハンズフリースタイルは健在です。
 
 そんなコレクションの背景にあるのは、新型コロナウイルスのパンデミック中にフェリペ自身が経験したことや感じたことだそう。リリースの一文には「世界は泣いている」と書かれていて、アーカイブから採用したフラワープリントも涙で滲んだようにぼやけています。こう書くと悲観的に感じますが、そんなことはなく、ショーからは前向きなエネルギーを受け取りましたよ!
 

12:30 「ゴシェール」のスピリチュアルな儀式

 「ゴシェール(GAUCHERE)」のショーは、スピリチュアルな雰囲気を醸し出す女性がパロサント(香木)を燃やし、太鼓を叩きながら会場を歩く儀式的な演出でした。落ち着いたトーンで見せるオーバーサイズのスーツやワントーンスタイルも心地よく、なんだか穏やかな気分になれました。

 会場では、ティファニー・ゴドイさんを発見。これまでフランスと日本を行き来していた彼女ですが、コロナの影響で今はずっとパリにいるそうです。僕自身も一時帰国をずっと先延ばしにしていますが、早くまた自由に行き来できるようになるといいですね。


 

14:00 「エルメス」のアートなハイジュエリーにうっとり

 「エルメス(HERMES)」は10月3日にウィメンズのランウエイショーを控えていますが、その前に新作ハイジュエリーのプレゼンテーションも開催しました。デザインしているのは、同ブランドのシューズも手掛けているピエール ・アルディ(Pierre Hardy)。グラフィカルなデザインで知られる彼ですが、ジュエリーでもその強さが発揮されていて、まるでモダンアートのよう。特にダイヤモンドやトルマリン、ヒスイなどを使い、さまざまな色とアシンメトリーなラインを組み合わせたイヤリングやネックレスが素敵でした。
 

16:30 「Y/プロジェクト」のプレビューは急遽キャンセルに

 一度ホテルに帰って、「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」のグレン・マーティンス(Glenn Martens)とZoomでミーティング。もともとショールームでコレクションのプレビューをしてもらう予定だったのですが、グレンと一緒に食事した友達が新型コロナの陽性と発覚したらしく、アポはキャンセルに。友達も彼自身も特に症状はないとのことですが、検査の結果が出るまで自宅隔離しているそうです。こういうことがリアルに起こるんですよね。あらためて気を引き締めないと!
 
 今シーズンのコレクションはというと、コロナによるロックダウンを経て、原点回帰。ジョン・ガリアーノによる「ディオール(DIOR)」のショーに感銘を受けてデザイナーを志ざし、「Y/プロジェクト」を始めたときの気持ちを思い出したそうです。なので、着る人の個性や気分でさまざまな着こなしを楽しめるというブランドらしさを追求しています。いつもショーではデザインの構造が分からないアイテムも多いのですが、デジタルで発表された映像だといろんな着方ができることが非常に分かりやすいですね。
 

17:00 とことん可愛いギョームの「パトゥ」

 「パトゥ(PATOU)」は今回もシテ島のアトリエでプレゼンテーションを開催しました。いつものような新作を着たモデルたちが自由に話したりポーズを決めたりという演出はなく、今回は新作を着せたトルソーが並べられていました。
 
 コレクションは、いつもよりドリーミーで大胆なシルエットが印象的。セーラー風の大きな襟や大きなパフスリーブをはじめ、バルーンスカートやドレス、オーストリッチの裾飾りがとってもラブリーです。大ぶりなゴールドのアクセサリーもハートモチーフで、やはり「パトゥ」には“可愛い”が詰まっています。
 

19:00 “光”がポイントの「アクネ ストゥディオズ」

 久々にウィメンズのパリコレに参加する「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」は、ミニショー形式のプレゼンテーションでの発表でした。観客が4つの部屋を順に進みながら、それぞれでモデルのウオーキングを見るというスタイルです。30分ごとの入れ替え制になっていたので、次のショーに間に合うかヒヤヒヤしながら拝見しました。
 
 各部屋全く異なるライティングの中で披露されたコレクションは、基本オーバーサイズorタイトフィット。光を通す透け感のある生地もしくは光を反射するメタリックやホログラム素材が中心で、オーロラのようなプリントもありました。今シーズンは演出も含め、“光”がポイントのようです。そして個人的に気になったのは足元。他のブランドでもよく見るトング・サンダル(鼻緒の付いたサンダル)が、トレンドになりそうな予感です。
 

20:00 仕掛け満載な「バルマン」のスペクタクル

 「アクネ ストゥディオズ」終了後、急いで向かったのは「バルマン」です。いつもはセレブリティーが来るので結構開始が遅れる印象なのですが、今回はセレブも観客も少ないだろうし早く始まるかも……と思い、焦りました。しかし、会場のパリ植物園に着いたら、エントランスにはコロナ禍とは思えない人だかり。セレブの到着を待っているような若者がたくさんいて、ショーは結構押しそうな気配。やっぱり「バルマン」は「バルマン」でした(笑)。
 
 まず会場に入って驚いたのは、ランウエイの両サイドにある客席の片側はフロントロウから3列目まで約60台のスクリーンが並べられていること。その一つ一つに名前が表示されていて、よく見ると、アナ・ウィンターやジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)、アッシャー(Usher)と今回パリに来られなかったセレブや著名業界人がズラリ。もしやショーが始まったら生中継!?と思ったのですが、事前に撮影したショーを見ているような映像が流れるという仕掛けでした。ちょっと残念でしたが、アイデア自体は面白いですよね。
 
 今シーズンの注目ポイントは、ウエアからバッグやシューズにまで幅広く用いられたモノグラムです。ブランド設立75周年を記念してピエール・バルマンが手掛けた1970年代のアーカイブデザインを復刻させたそう。ショーの冒頭には、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)の「My Way」とピエール・バルマンの肉声をバックに、当時活躍していた往年のモデルたちがモノグラムのルックを着てウオーキングし、創業者へのオマージュを捧げました。その後も色や大きさを変え、さまざまなスタイルで使われていました。
 
 コレクションは、いつもながらパワフルで振り切ったデザイン。クリエイティブ・ディレクターであるオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)は、華やかなファッションを心底楽しんでいるデザイナーだと思います。これでもかという煌びやかな世界がなぜか嫌味に感じないのは、そんな彼の少年のような素直さが垣間見えるからかも知れません。今回は彼自身の最近のお気に入りスタイルを反映したようなオーバーサイズのダブルブレストジャケットや、超ロング丈のタイトフレアパンツ、スキニーなショートパンツが印象的でした。一方、極端に肩の盛り上がったジャケットやドレス、ド派手なネオンカラーのワントーンルックは正直、目が点に。ただ、ヴィサージ(Visage)やデペッシュ・モード(Depeche Mode)の反復するリズムに乗りながら繰り返し見ていると、「バルマン」はこれで良いのだ!と思えてくるんですよね。フィナーレは、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「Life on Mars?」をバックに、オリヴィエと約100人のモデルがウオーキング。1日を締めくくるのにぴったりなエンターテインメントで、疲れも吹っ飛びました!

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「パトゥ」の可愛さにときめき、サイケな「ドリス」に一瞬ヒヤリとしたパリ3日目 デジコレでドタバタ対談 

 ミラノ・ファッション・ウイークが終了し、2021年春夏のコレクションサーキットもいよいよ最終章、パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)も3日目。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも日本の記者たちが対談レビューという形で、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、パリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターと今年からコレクション取材をスタートさせた「WWDジャパン」編集部の美濃島匡の若手2人がリポートします。

ベールで身を守りながら2020年と対峙する「ケンゾー」

丸山:フェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)による2シーズン目の「ケンゾー(KENZO)」は、ソーシャルディスタンシングを意識した広い庭園がショー会場。コレクションで何より印象に残ったのは、養蜂家の服装からインスパイアされたという顔や体をすっぽり覆うメッシュのベール。ベールというより、帽子のヘムから垂れて、アウターやスカートと合体するタイプもあり、外の世界と内の世界を分かつ透明な防護服という感じ。オリヴェイラ・バティスタのファーストコレクションも、放浪の旅の中で自分を守ることをイメージしたもので、“プロテクション”がキーワードになっていました。今回はそれをアップデートしてきたように思います。

美濃島:全体的にサファリな雰囲気でしたが、ベールが神秘的な雰囲気を加えていましたね。ゆったりとしたシルエットに大きなフードを付けたコートにも、ベールと同じく防護服の意味合いを感じとりました。ただ、防護服といっても、自立した女性が自らを守るために選択するような力強さがあり、ネガティブさはありません。ただ、花のグラフィックはどこか寂しげな印象でした。

丸山:今季のために開発したフラワープリントは、ブランドのアーカイブのポピーとオルテンシアのプリントにデジタルで泣いているような効果を与えたそう。理由は、世界が泣いているから。その花から繭のように身を守るのがベールです。「ケンゾー」といえば、楽観的でどんな時も楽しむことを忘れない前向きなのがブランドらしさですが、今の世界の状況やさまざまな問題を棚に上げて「元気出して!前を向いて!」と言うのは不適切。オリヴェイラ・バティスタは、世界の深刻な状況ときちんと対峙しながらどうしたらファッションで人に希望を与えることができるか、考え抜いたんだと思んだよね。リリースにある「前向きな答えには一定の実用主義な考え方が伴う。では、ここからどうしたら良いのか?どうやって人々を助ける事が出来るのか?彼らに希望を与え同時に人生を促進させるには?」という文言から、その葛藤が読み取れるみたい。

美濃島:「世界が泣いているから」――強いメッセージですね。丸山さんのおっしゃる通り、これまでの「ケンゾー」とは一線を画すシリアスさでしたが、僕はとても共感しました。手放しにポジティブな意見を発するよりも、どうしたらよいか悩むありのままの姿を見せてくれた気がします。

“soon”っていつ!?な「ゴシェール」

美濃島:「ケンゾー」から少し時間が空いて、パリコレの公式サイトに戻ってきたんですが、「ゴシェール(GAUCHERE)」は定刻になっても全然始りませんね……。“Digital available soon”の表記が出されたまま更新されず、次のショーの時刻になってしまいそうです。“soon(もうすぐ)”とは一体いつなんでしょう(笑)。リアルでもショーをしているはずなのですが、もしかしてその映像はライブ配信せず、編集したものを後日公開するのでしょうか?

丸山:そうかも。ただリアルは予定通りスタートしていて、「WWDジャパン」ヨーロッパ通信員の藪野さんが現地で取材しているはずなので、この場はお任せしようか。藪野さんの現地レポは後日公開予定です!

「リトコフツカヤ」で大自然に癒される

丸山:ウクライナ発の「リトコフツカヤ(LITKOVSKAYA)」は、ブランドの“アーティザナル”ラインのコレクションをウクライナの大自然の映像とともに届けました。その合間にデザイナーのリリア・リトコフツカヤ(Lilia Litkovskaya)がコレクションに込めた想いやその過程を語る映像が差し込まれていて、背景やストーリーをスッと理解できたね。

美濃島:デザイナーのパーソナリティーも見て取れる素敵な映像でしたね。無機質なドキュメンタリーではなく、どこか温もりのある映像になっていたのは木琴の音楽の鳥のさえずりなどの自然音のおかげでしょうか。ハンドメイド感あふれるボーダー柄がとても可愛かったし、生地を織る作り手の顔も見られるから買ったらいっそう愛着が湧きそうです。個人的には、工房のスタッフがユニホームとして着ていた、ブランド名が入った白いショップコートを商品化してほしいです。

丸山:山に囲まれて育ったというリトコフツカヤは今回、ウクライナの自然が生んだ素材を使い、その服を着た都市で生きる人々に自然のエネルギーや人の手による温もりを伝えたかったんだって。「リトコフツカヤ」は過去にもパリでリアルのショーをしていたけど、地元の自然が着想源なら、こうして映像を見た方がすごく理解が深まるかも。着る人が自分のストーリーを描けるようにラストルックは毎回白い服にしているというエピソードもよかった。

一瞬身構えた「ドリス ヴァン ノッテン」

丸山:21年春夏メンズの「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」はモデルがサイケな背景の中でドラムを叩くだけの映像だったと聞いていたので、今回もサイケっぽい映像が流れたとき「まさか、ドラムの再来か!?」と思って一瞬身構えたよ(笑)。でも、今回はちゃんと服も見れてよかった。

美濃島:前回の映像をリアルタイムで鑑賞し「何だコレ?」を全身全霊で感じた僕も、丸山さんと同様かなりヒヤっとしましたが、だいぶコレクションがイメージできる映像に進化していてホッとしました(笑)。

丸山:見れたといっても、服に映像をプロジェクションしている演出だから、ちゃんと見えたかどうかと言われると微妙なんだけど(笑)。でもオンラインで発表するものは必ずしも服が見れなくてもよいとようやく割り切ることができるようになったかも。映像は極彩色や強いコントラストの作風で知られる写真家、ヴィヴィアン・サッセン(Viviane Sassen)が撮影していたね。プロジェクションされていた映像は、カメラを使わずフィルムに直接絵を描くテクニックで映画史に影響を与えたというレン・ライ(Len Lye)の映画でした。

美濃島:丸山さん安心してください、ルックではちゃんと服が見れますよ!サッセンは「トーガ」の映像も手掛けてましたよね。コレクションは今季も染めのモチーフが健在で、コントラストの強いボーダーやタイダイなどが登場。力強い色彩はカラッとしたアフリカの大地を彷彿とさせます。ほかにも民族衣装のようなシャツもあって、アフリカンなイメージをさらに加速させますね。コートの襟元や袖などをくり抜く手法は他ブランドでも多く見られたので、次のトレンド候補かもしれません。

「エリー サーブ」の強さを実感 キャスティングには違和感も

丸山:ブライダルドレスやイブニングドレスを得意とする「エリー サーブ(ELIE SAAB)」の今季のテーマは“HYMNE A LA VIE(人生の賛歌)”。孤独から目覚め、人生を謳歌するエネルギーあふれる女性を描きました。「エリー サーブ」はレバノンのベイルート拠点で、アトリエも8月に起こった大爆発の被害に遭ってしまったんだけど、それを乗り越える気概を見せてくれるような強いテーマです。

美濃島:火曜サスペンスのような岩波のロケーションときらびやかなドレスのギャップが面白かったです。効果音にもサスペンスチックなものを入れ込んでいて、きれいな雰囲気で終わらせず違和感を持たせていましたね。

丸山:ランウエイでは序盤にデイリーウエアを、終盤でイブニングドレスを見せるのが王道だけど、「エリー サーブ」が公開した映像も徐々に空が暗くなって、ルックもより装飾的でフォーマルになっていったね。少し気になったのは、有色人種のモデルが少なく、カメラのフォーカスも全然当たっていなかったこと。ブランドから届いたリリースには、「not one woman is the same nor wants to be(女性は誰一人として同じではないし、同じになりたくもない)」というメッセージがあっただけに、違和感を感じたな。

美濃島:中東系の人はところどころで見られましたが、アジアやアフリカ系はほとんどいませんでしたね。ただ、僕はそれほど気になりませんでした。「Behind The Scenes」と題して裏側を切り取った映像も同時公開していたのですが、モデルたちが移動の際に手を取り合ったり、和やかに会話していたりと、楽しそうな現場の雰囲気が伝わってきました。むしろこっちをメインにしたほうがコレクションの魅力を伝えられたのでは?と思ったほどです。

とびきり可愛い「パトゥ」で心踊る

丸山:「パトゥ(PATOU)」は相変わらずかわいかった〜。ギョーム・アンリ(Guillaume Henry)が20年春夏に再始動させて以来、「パトゥ」はパリのシテ島にアトリエを移したんだけど、窓の位置や椅子などからこの動画もアトリエで撮影されたとみた(笑)。コレクションは毎回このアトリエで発表しているんだけど、中に入るとアンリが来場者とフランクにお話ししていたり、スタッフが作業をしていたりとすごくアットホームな雰囲気で、まさにフレッシュでフレンドリーな今っぽさを体現しているような空間なんだよね。デジタルだからといってロケーションを変えず、いつもの場所から発信してくれたことに感動しました。

美濃島:毎回アトリエで発表しているんですね!勉強不足でした。ロケーションを知っていると伝わって来る情報量が違いますね。自然光がたっぷり入る空間で、あえてボヤかした映像はホームビデオを見ているかのよう。温かい気持ちになりました。

丸山:コレクションは、ドレスが増えたりパフスリーブや襟がより大振りになったりして、 “ドレスアップ”用にさせたよう。これで頑張れば買える価格帯だからうれしいです。

美濃島:時折、「バルーンスリーブの付いたネイビーのメタリックなサテンドレス」などの説明が入るのも理解しやすかったですね。中世ヨーロッパの貴族が着ていたドレスをとびきり可愛くアレンジした洋服がたくさんあって、丸山さんのテンションが上がっているのも納得です。日本でももっと人気が出そうですね。

ナチュラルとドレスで奥行きを見せた「アクネ ステュディオス」

丸山:「アクネ ステュディオス(ACNE STUDIOS)」はグラン・パレ(Grand Palais)内にモダン美術館のような部屋を4つ作りました。映像はカメラが部屋を順に巡っていくもので、最初の部屋ではモデルたちが天井に吊らされている球体を見上げているんだけど、その後カメラはネオンライトが置かれた夕暮れのような色合いの部屋、最後に日没直後のような色の青いライトの部屋に移っていく。アイデアは「エリー サーブ」と似ていて、最初の部屋ではビックシルエットのジャケット、クロシェ編みのニットなどニュートラルなカラーのルックで、2つ目の部屋に移ると色を帯びたルックが最後の部屋ではグラデーションカラーのトップスやシルバーのドレスなどが登場しました。

美濃島:クロシェ編みのショーツやビキニトップスがとってもかわいかったですね。洗いざらしのリネンのようなザラついた質感のドレスも気取らず着られる安心感がありました。最後の青いライトの演出は、服のきらめきはわかったのですが、そのほかのディテールが少し見えづらかったです。ピンポイントでクリアな光を当てればもっと伝わったのではないでしょうか。多数のルックが着用していたクリアメガネには、ベールで防護感を出した「ケンゾー」に近いものを感じました。

セレブはリモートでも「バルマン」のフロントローを死守

美濃島:こんな時代でも、尖ったクリエイションを期待するブランドはいくつかあって、「バルマン(BALMAIN)」もその一つ。最初に登場したゆったりシルエットのワントーンスタイルを見たときは「やっぱりニーズに合わせて来たか」と一瞬落胆したのですが、鮮やかすぎるネオンカラーのルックが立て続けに登場した時は「これこれ!」とテンションが爆上がりでした。

丸山:創業者のピエール・バルマン(Pierre Balmain)の録音音声とともに幕開けしたね。今回のコレクションの鍵となるのはピエール・バルマンが70年代に使っていたモノグラム。このモノグラムを使ったパンツスーツにハイネックトップスなど、コロナ禍でベーシックで長く使えるものに投資するような消費傾向に応えるスタイルだったけど、ストロングショルダーのテーラードジャケットや同素材のサイクルパンツとピンヒールなど、これぞ「バルマン」!なアイテムも多かったね。最後は200万もの「スワロフスキー(SWAROWSKI)」クリスタルを使ったジャケットで、あまりのまばゆさで目が眩みそうだった。BGMのザ・ウィークエンド(The Weeknd)の「Blinding Lights」にぴったりだったね。

丸山:フロントローをスクリーンが占拠してる図がシュールすぎて笑っちゃった。ライブでつないでいるのかと思いきや、事前に録画された動画を流していたんだって。スクリーンにはジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)やアッシャー(Usher)、クリス・ジェンナー(Kris Jenner)、カーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)がいて、本当に豪華!フロントローに誰が座っているかはブランドの勢いを知る一つの指標でもあり、すごく重要。特にオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)はセレブからとても親しまれているデザイナーでゲストも毎回豪華なので、今回セレブをリアルで呼べなかったのは無念に違いない。でも、それを解決する奇想天外すぎる発想に脱帽だよ。

美濃島:スクリーンによるフロントローの占領は、もはや事件です(笑)。一般席がかなり密だったのに、セレブはスクリーンで鑑賞って、なんだかディストピア映画のワンシーンみたいだなと思いましたが、映像は録画だったのですね。安心しました。

丸山:最後に出てきたキッズモデルがリモコンでスクリーン消したのに気づいた?会場が暗転するのにスクリーンをつけたままでは画面が光っちゃうからね(笑)。最後までコミカルな演出でした。

美濃島:キッズモデルはグレーのおそろいセットアップを着てましたね。あれ、商品化したら売れそうだな。

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ミラノコレ現地取材で明るい未来を見た 「プラダ」「トッズ」などリアル&デジタル融合の成果は上々

 9月22〜28日に開催された2021年春夏シーズンのミラノ・ファッション・ウイーク(以下、MFW)に参加してきました。私が暮らすフランスでは、新型コロナウイルスの1日の新規感染者数が過去最多の1万人を記録するなど、9月以降再び感染が拡大しており、イタリア政府はフランスからの渡航者に陰性診断書の提示を求める入国制限措置を23日に行いました。私は22日に到着したためスムーズに入国できましたが、渡伊予定だったフランスのプレスやバイヤーの多くはキャンセルしたそうです。街が正常通りに動き、バカンスを過ごし、気が緩んだところでの第二波……。なんだか先行きが不安なスタートとなりました。

 リアルとデジタルの両軸で開催された今季は、全てのショー開催ブランドは公的機関の勧告を順守していました。各ブランドから事前に健康状態の確認やマスク着用義務などの注意事項が伝えられ、ショー会場の入り口では申告書への署名や体温計測の徹底や、マスクが配布されていました。会場内の座席は1mの間隔を開けたソーシャル・ディスタンスを確保した配置で、来場者数は通常の3分の1かそれ以下という少なさでした。「フェンディ(FENDI)」に至っては招待客を通常の1割にまで制限したのだとか。アジアとアメリカからの渡航者は14日間の隔離期間が義務付けられていたため、私の知る限りそれら地域からMFWに参加した方はいません。ヨーロッパの隣国からでさえも、企業が国外渡航を禁止していたり、自己判断で不参加だったりという人も多かった印象です。日本のメディアは、ロンドン在住者と現地ミラノ在住のジャーナリスト合計5人と、ミラノにオフィスを持つ百貨店のバイヤー1人だけでした。会場外でスナップ撮影を行うストリート・フォトグラファーは意外に多く、例年の半分程度の人数といったところ。フォトグラファーはヨーロッパ在住者が多いことと、フリーランスのため自己判断で渡航できたことが大きいのではないでしょうか。ミラノのストリートでの様子については、下の関連記事で詳しくお伝えしています。

ミラノ時間9月23日
10:00 「サントーニ」

 私のミラノコレは、シューズブランド「サントーニ(SANTONI)」のプレゼンテーションからスタートしました。通常のプレゼンテーションは開催時間帯であればいつ訪れてもよいのですが、今季は会場内への入場に人数制限を設けており、どのブランドも事前のアポイントメントが必ず必要でした。日本人らしく時間ぴったりに到着すると、今季から数シーズンにわたって同ブランドのカプセルコレクションを手掛けるイタリア人シューデザイナー、アンドレア・レニエリ(Andrea Renieri)が迎えてくれました。「バリー(BALLY)」「コスチューム ナショナル(COSTUME NATIONAL)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「フェンディ」「マルコ デ ヴィンチェンツオ(MARCO DE VICENZO)」で経験を積んだ彼は、「アートや建築からインスピレーションを得たんだ」と語ります。結び目を多用した彫刻的なデザインのドラッポ(Drappo)シリーズが彼の一番のお気に入りで、結び目が最も多いデザインにはナッパレザーを30mも使用しているのだとか!クラシックなイメージの強い同ブランドにコンテンポラリーなニュアンスが加味され、新鮮さを兼ね備えていました。

16:00 「ヌメロ ヴェントゥーノ」

 「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」が私にとってのMFW初のショーです。フェザーやシルク、シフォン、エナメルなどの多彩な素材感を生かし、さまざまなテクスチャーをレイヤリングで遊ぶアイデアに心が弾みました。コレクションを擬音語で表現するなら、キラキラ、ピカピカ、フワフワ、ツルツルとたくさん出てきます。それにしても、フェザーがランウェイに登場すると必ずスローモーションで動画を撮りたくなるのは私だけ(笑)?

16:30 「トッズ」

 「トッズ(TOD’S)」がデジタル発表前日に開いたプレス向けプレビューに参加しました。クリエイティブ・ディレクター、ヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)がコレクションについて詳しく説明し、「今季は全ての女性に向けたラブレター」と素敵なひと言。さらに「マスキュランとフェミニンを共存させ、女性が自信を持てるような服を作りたかった。自信と知性を兼ね備え、内側からにじみ出るセンシュアリティ(官能的魅力)を表現した」と続けます。セクシュアリティ(性的魅力)ではなく、センシュアリティというのが重要で、優しい色彩を豊富に使って、若々しくも上品で麗しげな「トッズ」らしさを感じました。スポーツウエアやワークウエアの機能性も加えて、ミリタリーのペンシルスカートやカーゴパンツ、トラッキングシューズやバレエシューズなどが登場。ショートフィルムの制作に取り組んだキアッポーニは「最高に楽しかった」そうで、デジタル化されるショーについて「若手の小規模なブランドにとって、デジタルは現実的なコストで世界中とコミュニケーションをとれる素晴らしい機会」とポジティブに語っていました。

18:00 「エトロ」

 ”イタリアの夏”がテーマの「エトロ(ETRO))」は、会場内にレモンの実がなる木を飾って南国ムード満載でした。1992年に制作された旗がモチーフのプリントを復刻させ、レトロで華やかさがあり、陽気なルックがランウエイを彩りました。リゾート感たっぷりなコレクションのフィナーレは、ビキニトップの上にシャツを羽織り、アイコンのペイズリー柄のショートパンツで統一されていました。ステイホームしている間に過ぎ去ってしまった夏ですが、「エトロ」のショーで少しだけ取り戻せた気分になりました。

ミラノ時間9月25日
街散策

 

 私は7月上旬「ジル サンダー(JIL SANDER)」のショールームに訪れるためミラノへ来ました。その時はロックダウン(都市封鎖)が明けてから1カ月ほど経過したころで、現地の人々は外出を控えていたため街は静かで寂しかったです。それから2カ月経過した今回は、旅行者こそ少ないものの、街は活気を取り戻しつつあります。私のお気に入りレストラン5つのうち2つは営業を再開していませんでしたが、食事時になるとどのレストランも人でいっぱいでした。ランチからワイン片手にパスタをほおばるイタリアの人々を見られて、なんだか嬉しかったです。

 ショップのリサーチのためディエチ コルソ コモ(10 CORSO COMO)やアントニオーリ(ANTONIOLI)、スラムジャム(SLAM JAM)を周りました。んん……アントニオーリとスラムジャムに関しては特筆することがありません。ブランドリストも店内の雰囲気も、いつ来ても大きく変わることはあまりなく、今回も相変わらず。ディエチコルソコモは商品数が半分程度にカットされていたのが大きな変化です。特にシューズコーナーとその奥のスペースは、展示品を並べるギャラリースペースとなっていました。デジタルとリアルなショーと同じように、ECと実店舗のあり方は今後ますます変わっていきそうです。

ミラノ時間9月26日
14:30 「プラダ」

 今季のMFWの目玉といえば、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)が共同で手掛けた「プラダ(PRADA)」のファーストコレクションでしょう。デジタルでのショー終了後にミウッチャとラフが対談していたのも同じ会場内で、2人が座っていた席に着席するとなんだかソワソワしてミーハー心がうずきます!会場内はマネキンを使ったルックが並べられており、ショーには登場しなかったアクセサリーも見ることができました。詳しくは、下の関連記事でチェックしてみてください。

 コレクションは、ラフ好きの人には刺さるものだったのではないでしょうか。唯一気になるのは既存顧客の反応です。熱しやすく冷めやすいのもファッションがもつ側面なので、いい温度で成長していくことを期待しています。ホテルに戻る途中、大好物のジェラートをまだ食べていなかったことに気付いてプラダ傘下の老舗洋菓子店「パスティッチェリア・マルケージ(Pasticceria Marchesi)」へ。おいしくてニヤニヤしていたので、怪しい人に見えたかも(笑)。

9月27日 14:00 「ヴァレンティノ」

 MFW最後のショーは「ヴァレンティノ(VALENTINO)」でした。インビテーションとともにミラノの老舗バー「ジンローザ(Ginrosa)」のリキュールが2本が届きました。日本でもカクテルによく使われるリキュールでチンザノとよく似た味ですが、アルコール度数25%とかなり高め!

 セレブリティの来場が多いこともあって、会場外に集まったフォトグラファーの数は今季のMFWで一番多かったです。会場の廃工場の建物の中には自然に生えたかのように植物が飾られていました。無機質な廃工場と緑鮮やかな植物のコントラストが素敵でした。困難な環境下で生きる強くたくましい生命を感じるようで、ショーが始まる前からうっとり。ショーとコレクション内容については、下の関連記事をご覧ください。

苦しみの先に希望はあった

 MFWは無事に終了。連日雷雨に見舞われた5日間でしたが、今私の心はとても晴れやかです。飛行機に乗り、出張に出かけ、取材をし、ファッションを通してメッセージを受け取る――そして記事を通して読者と体験や感情を共有できること。これら全てが自分の幸せであり、情熱をかたむけられることなのだ改めて実感できたから。なによりいつもファッション・ウイーク中に顔を合わす友人や仕事関係者、ブランドなどファッション業界に携わる人々が明るい未来を見据えてポジティブで、この業界に身を置いていることに誇りを感じました。ロックダウン中は、気持ちが沈んだときに「大丈夫。苦しみの先には必ず希望がある」と自分自身に言い聞かせていた言葉は、ただのなぐさめではなかったのだと実感しました。ウイルス感染の脅威はまだまだ消えませんが、苦しみも喜びも分け合い、ファッションを通してつながれるこの世界は捨てたものではありません。改めて気を引き締め、パリのファッション・ウイークの取材も続けます!

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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パリコレ現地リポートVol.1 リアルでも開幕!「ディオール」の会場からは生中継

 皆さん、こんにちは。「WWDジャパン」ヨーロッパ通信員の藪野です。9月28日にパリ・ファッション・ウイークが開幕しましたね。新型コロナウイルスの影響によりデジタルとリアルを組み合わせて開催されている今回ですが、公式スケジュールの84ブランドのうち、リアルなショーで発表を行うのは18ブランド。その他、プレゼンテーションや展示会を開くブランドもあります。とは言っても、この状況下で日本から出張というのは難しいので、今回は私が現在暮らしているドイツ・ベルリンからパリにやって参りました(EU内での渡航はそんなに制限がないのです)。パリでは新型コロナの感染が再拡大しているので最大限自衛をしつつ、これから最終日の10月6日まで数回に分けて現地からのリポートをお届けしていきます。いつもミラノやパリは編集部チームと一緒に和気あいあいと取材しているので一人はちょっと寂しいのですが、少しでも“リアル”なパリコレを感じてもらえると幸いです!それでは、まずは1発目のリアルショーが開催された2日目のダイジェストをどうぞ。

9月29日(火)

11:30 初っ端から招待状届かず。執念で59階まで上って見た「コペルニ」

 今回のパリコレ1つ目のリアルなショーは、「クレージュ(COURREGES) 」の元クリエイティブ・ディレクターでもあるデザイナーデュオによる「コペルニ(COPERNI)」です。前々回はアップルストア、前回はインキュベーション施設とユニークな会場でコレクションを発表する彼らが今回選んだのはパリ南部にある高層ビル、トゥール・モンパルナス(Tour Montparnasse)の屋上。朝からテンション上がる〜と思っていたのですが、あれ??ホテルにインビテーションが届いていない……。最近はデジタルインビテーションも多いので、メールも確認したけれど来ていませんでした。しかし、“1発目のショーを見逃すわけにはいかない!”という執念で、とりあえず会場前まで行ってみることに。

 ビルの入り口でPRスタッフに説明したところ、やはり何かの手違いで席がないとのこと。いつもはそれでも交渉するのですが、今回はコロナ禍での開催なので衛生基準がかなり厳しく、スタンディングは基本なしで、席をちょっと詰めたりするのも難しいという話だったので、諦めムードに……。ただ、入り口にいたスタッフの一人が屋上にいる担当PRと連絡をとってくれて、スタートギリギリで来場していない人の席をゲットしてくれました。ありがとう、優しいお姉さん!!ということで、59階まで猛ダッシュ(実際には56階まではエレベーター)で上がったのですが、到着したころにはもうショーは中盤。ソーシャル・ディスタンシングを守りつつ、スタッフと一緒に立って拝見しました。

 コレクションは、今回もクリーン&モダンなデザイン。“衣服は身体の相棒である”という考えから、抗菌性やUVカット効果のあるオリジナルの新素材や伸縮性に優れた素材を使い、セカンドスキン(第二の皮膚)となるようなアイテムを提案しました。サイクリングパンツやトレンカ風レギンス、フロントジップなどで作るスポーティなムードが印象的です。ショーが終わって外を眺めると、あいにくのお天気でしたが、パリの街が一望できる絶好のロケーション。今度は晴れた時に来たいな〜と会場を後にしました。

12:30 「ビクトリア トマス」は新型コロナで服作りを一新

 お次は、夫婦デザイナーデュオによる「ビクトリア トマス(VICTORIA/TOMAS)」。ショーが始まると、モデルが2人ずつ並んで歩いてきます。勘がいい方はお気づきかもですが……そうです、今回から全てのウエアがリバーシブルになりました。片側はワークウエアや伝統的なメンズウエアから着想を得たデザイン、そしてもう片側は刺しゅうやギャザーでより装飾的なスタイルで仕上げられています。例えば、ストライプのスタンドカラーシャツは、裏返せば肩から背中にかけてたっぷりギャザーを入れたスカーフヘムのブラウスに。さらに今季から生産も100%フランス製に切り替えて生産時にかかる環境負荷の低減を目指すとともに、現在年4回発表しているコレクションも半分に減らします。

 その背景にあるのは、やはり新型コロナウイルスです。2人は外出自粛期間中に、ファッションへの向き合い方を考え直したそう。全部リバーシブルというのは手入れのことなどを考えると、正直どうだろう?と思いますが、生産やコレクション数に対する取り組みには賛成です。

14:30 「ディオール」には日本から着想を得た“バー”ジャケットが登場

 7月にイタリアで無観客ショーを行った「ディオール」ですが、今回は念願のゲストありでの開催です。ただ、いつもは1000人以上を収容する会場に今回は350人のみ。生の雰囲気を少しでも多くの方に味わってもらえるように、「WWDジャパン」のYouTube配信番組「着点(きてん)」でパリから生中継しましたので、まだの方はぜひアーカイブをご覧ください!

 会場は、先シーズンからチュイルリー公園になりました。巨大な白い箱のような会場に入ると、中はまるで大聖堂。真っ黒な空間の三面にステンドグラスが飾られているのですが、よく見るとアートに関する雑誌のコラージュになっています。こちらはアーティストのルチア・マルクッチ(Lucia Marcucci)の作品だそう。そしてショーは、12人の女性による合唱をバックにスタート。身近な人を亡くした悲しみや苦しみを表現した言葉や音が、教会さながら会場内に響き渡ります。

 コレクションで最も印象的だったのは、日本のためにデザインされたという1957年秋冬コレクションのシルエットを再解釈した、羽織のようなノーカラージャケット。レザーや共布のベルトを使うと、“バー”ジャケットのシルエットが仕上がります。そういえば、1年前にLVMH賞の取材でマリア・グラツィアを見かけた時に、彼女が着物をアウターのように羽織っていたことを思い出しました。

 そんなオリエンタルなムードはイカットや絞り染めのようなパターンにも見られる一方で、ビンテージの調度品やスカーフのような花柄やペイズリーも多出。プリントやニットをはじめ、刺しゅうやビーズで、ドレスやスカートを飾ります。また、新たな模様でアップデートされた人気バッグ“ブックトート”も数多く登場しました。いつもは強さを感じるマリア・グラツィアによるクリエイションですが、今シーズンは全体的に落ち着いたトーンやゆったりしたシルエットも手伝って、心地よさや優しさを感じるコレクションでした。他都市でも多く見られましたが、この不安渦巻く時代には“安らぎ”ムードが広がりそうです。

 フィナーレの後には、“WE ARE ALL FASHION VICTIMS”と書かれた布を広げて歩く抗議者の女性が乱入!関連記事でも上がっていますが、特に大きな騒ぎになることもなく、普通にランウエイを歩いて去ったので、あれ?今のはショーの一部⁇という感じで終わりました。

18:00 のどかな風景と音楽に癒された「コシェ」

 パリコレブランドの中でもいち早くリアルショーの開催を表明していた「コシェ(KOCHE)」の会場は、北東部のビュット=ショーモン公園。採石場の跡に作られた公園の中には湖があり、その真ん中にある高さ30mの島が象徴的です。湖の周りがランウエイだったのですが、カモも泳いでいて、のどかな風景に癒されました〜。ショーが始まると、バグパイプの音楽隊が「アメイジング・グレイス」や「ハレルヤ」を演奏。これまた癒しでした。

 コレクションの冒頭には、アウトドアブランド「エーグル(AIGLE)」とコラボしたカプセルコレクションを披露。来場者にも着ている人がいたので調べたところ、もう販売中のようです。ユニセックスのポンチョが可愛い!そして、モデルは全員ストリートキャスティングで選ばれたパリジャン&パリジェンヌで、個性が際立っています。写真を撮ろうと思ったら、生中継後に充電するのをすっかり忘れていて、まさかの電池切れ……(泣)。ショー終了後、急速充電器を車に取りに帰って、会場とバグパイプ隊のお兄さんだけギリギリ撮影できました。

20:00 大画面で見る「マリーン セル」のコレクション映像は迫力満点

 本日のラストにやって来たのは、街中にある映画館。今朝デジタルでコレクションを発表した「マリーン セル(MARINE SERRE)」の上映会でした。関係者とブランドのアイテムを着たオシャレな若者が集まっていて、中にはシグネチャーである三日月パターンのマスクをつけた来場者も発見しました!

 会場に入る際にはきちんと消毒を済ませ、お隣さんと一つ間隔を開けて着席。肝心の短編映画は、マリーンらしいミステリアスな世界観に引き込まれました。大画面で見ると一層映えますね!これからデジタルでの発表が増えるなら、家や会社にプロジェクターがあるともっと楽しめるかもしれません。

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デジコレでドタバタ対談 「マメ」でパリコレ開幕!予想外の豊作ぞろいに感動した初日

 ミラノ・ファッション・ウイーク終了し、2021年春夏のコレクションサーキットもいよいよ最終章、パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が開幕しました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けして行きますが、オンラインでも対談レビューという形で、引き続き“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、パリコレ1日目(9月28日、現地時間)をリポート!各都市のメンズコレクションを取材してきた「WWDジャパン」の大塚千践デスクとパリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターがリポートします。

パリコレ前に「JW アンダーソン」でほっこり

丸山:さて、いよいよパリコレがスタート!の前に、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」がオフスケジュールで発表しました。前日には豪華なキットが編集部に到着。前回のメンズコレクション同様、“show in a box(箱の中のショー)”というアイデアで、箱の中から大きなバインダーが現れました。バインダーには、リリースのほか、さまざまな色の紙やルックや写真などが詰まっており、ルックを切り取ってみたり、展示したりと受け手が好きに「各々のインスタレーション」を作りコレクションと関わることができます。

大塚:メンズのときよりも動画に慣れたのか(笑)、ジョナサンのリラックスした語り口に癒されたわ。ボリュームの強弱を極端につけたシェイプに遊び心は感じるけれど、色使いも潔いし、基本的にはベーシックなウエアをベースにしている感じがする。メンズと同じく、長く愛される服作りに気持ちが移っているのかな。あとデザイナー自身の丁寧な解説を発信するのは、なんだかんだでバイヤーやジャーナリストに好評ですね。ジョナサンはメンズでき先陣を切っただけあって、ホスポタリティーが抜群でした。

丸山:「ジェイ ダブリュー アンダーソン」は今回、ティックトック(TikTok)でもライブ配信を実施していました。ティックトックで公開された動画は、ユーチューブなどで公開されたボックスの説明の動画の他にもアンダーソンによるコレクションの説明が差し込まれていました。ハリー・スタイルズ(Harry Styles)が着ていたカーディガンを作ってみようチャレンジでティックトックユーザーからの知名度を上げた「ジェイ ダブリュー アンダーソン」ですが、ティックトックのライブの性質上フォロワー以外のおすすめページにもランダムで表示されるので、わかりやすい説明を挿入したのは良い対応だったと思います。

国がサポートを強調

丸山:トップバッターの「マメ(MAME KUROGOUCHI)」を見ようとしてパリコレの公式サイトを開いたら、なんとその前にロズリーヌ・バシュロ(Roselyne Bachelot)仏文化大臣によるスピーチがありました。内容は、リアルイベントは衛生規定を守って行われることや、特に苦しい状況に置かれている新興ブランドへきちんとサポートを行うという宣言でした。フランスでは感染者数が増えていますが、この状況を省みて安全性を強調したのかもしれません。日本政府が東コレ開催前にこうしたスピーチを行うとはちょっと想像できないのですが、やはりフランスは国全体でファッションを盛り上げようという姿勢を感じました。その後、女優のシャロン・ストーン(Sharon Stone)が登場してパリコレ開幕を宣言しましたね!といいつつ、ちょっと自分はシャロン・ストーンがピンと来ずだったのですが(笑)、何か有名な映画に出演されてますか?

大塚:シャロン・ストーンといえば「氷の微笑」でしょ!って言っても昭和世代じゃないとわかんないか……。まだまだお若い姿を見られて、深夜だけど元気出ました。動画の画質はもうちょっと何とかならなかったのかと心の中でツッコミつつ、アンバサダーがパワフルでオシャレだとワクワクしてくるね。

丸山:自分のWi-Fi環境が悪いのかと思いましたが、やっぱり画質悪かったですよね(笑)。指を鳴らして開幕を宣言したのがキュートでした。

窓を通して記憶を辿る「マメ」

丸山:いよいよパリコレのオフィシャルスケジュールがスタート!トップバッターの「マメ」は写真家の奥山由之による映像を公開。窓から差し込む日差し、カーテン越しにうっすらと見えるドレスなどを曇りガラスを通して見ているような繊細で美しい映像なのですが、プロデューサーのSeihoによる音楽もあいまってちょっとゾクっとするような、冷たさもある仕上がりになっていました。

大塚:先ほどの「氷の微笑」ではないけれど、「マメ」も奥山由之による映像のもやっとした質感とムードに昭和の美を感じた。今は何でも鮮明に映し出される時代だからこそ、こういう奥ゆかしさを含んだ表現につい見入ってしまったよ。作家性が強いから、ルック写真とセットで見ないと全体像はつかめないけどね。世界を舞台に、堂々と和の創作で挑むスタンスがかっこよかった。世界の人がどう見たのか気になるね。

丸山:そうですね。パリコレの公式サイトもNYのように動画とルックがセットで見れるとうれしいんですが……。コレクションのテーマは“窓”で、すりガラスをイメージしたニットや格子柄のアイテムが登場しました。特に黒河内デザイナーはカーテンには住んでいる人の記憶や日差しの色が染み込み、その人らしさが出ると考えているそうで、レースカーテンのような刺しゅうを施したドレスや、日に焼けたカーテンのようなイエローがかったワンピースなどにその思考が反映されていました。リリースとは別に黒河内真衣子デザイナーからの手紙も入っていて、これがすごくよかった。黒河内さんがコレクションに至るまでの考えてきたことや見てきたものの回顧録のような内容なのですが、コレクションをスッと自然に理解することができましたし、一字一句に「マメ」らしさが反映されている美しい文章で、全文掲載したいくらいです(笑)。配信に先立ってアポイント制でメディアをアトリエに招いて黒河内さんがじっくりと製作背景を説明されたそうですよ!うらやましい!ちなみにそのリポートはこちらから読めます。

「ウェールズ ボナー」

丸山:「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」はデザイナーの父親の出身地でもあるジャマイカで撮影した映像を公開しました。映像では8人の若者が目的地にたどり着くまでの様子を表現したそうで、自然の中でスタートした映像は次第にカラフルなジャマイカの街に移ります。コレクションは、ジャマイカの名作映画「ロッカーズ(ROCKERS)」にインスパイアされたそうです。

大塚:「ウェールズ ボナー」の映像はかなりコンセプチュアルだけど、ルックで服を見ると一時期に比べて肩の力が抜けていい意味で“隙”ができたクリエイションを継続していた印象。私生活が順調なのも関係しているのかな。シャープなテーラードを主軸にしていたころはすごみがある一方、ストイックすぎてちょっととっつきづらかったんだよね。それが1月に発表した2020-21年秋冬にリラックスしたムードが強まって、今シーズンはスポーツウエア色が濃くなって快活さもプラスされていた。とはいえまだまだハードルが低い服ではないのだけど、昔ながらのデザイナー気質がある骨太な彼女の姿勢はいつか化けそうな気もするので、僕は応援したい!

「キムへキム」

丸山:「キムへキム(KIMHEKIM)」が公開した映像は、モデル同士がふざけあったりライトで遊んだりとルック撮影の現場の裏側のようでほっこり。コレクションテーマは“Dreams in the City”。眩い都市の中で自分自身を探す人に捧げたコレクションだそうです。ブランドはパリ拠点で生産はデザイナーのキミンテ・キムへキム(Kiminte Kimhekim)の出身の韓国で行っているのですが、キミンテはソウルでロックダウンを過ごし、自分を信じることや情熱を持つことの大切さを再確認したそう。そう考えるとテーマが“Dreams in the City”となったのも納得です。

大塚:さわやかなBGMとモデルたちの自然体な様子に対し、服はゴリッゴリにモードなのがちょっと笑っちゃった。フォーマルの脱構築的クリエイションは世に溢れているけれど、彼の強みって何なのでしょう?

丸山:2シーズン前にパリコレデビューした比較的若いブランドなのですが、大ぶりのパールでドレープを作ったデザインの“ヴィーナス(VENUS)”シリーズや、デザイナーの出身地である韓国の韓服にも使われるオーガンザを使ったアイテムなど、売れるアイコン商品をたくさん持っているのが強みだと思います。若手デザイナーっていろんなアイテムに挑戦しがちですが、彼はアイコン商品を育て、少しずつアップデートしていくのが上手。今回は自分自身を見つめ直す、という意味でパールではなく鏡を使ってたり、オーガンザも今回はシャープなテーラーリングに組み込んでいます。“ヴィーナス”シリーズはボッティチェッリ(Botticelli)の「ヴィーナスの誕生」に出てくる布のドレープを着想源にしているのですが、今回「ヴィーナスの誕生」が透け感のあるプリントで登場していました。かわいい。売れそうです。

大塚:なるほど。「マメ」や「ウェールズ ボナー」もそうだけど、自身のルーツや自国のカルチャーにまっすぐ向き合うことが、世界と戦う上では強い武器の一つになるのだね。

母国ジョージアの日常を映した「シチュエーショニスト」

丸山:パリコレ初参加の「シチュエーショニスト(SITUATIONIST)」は、デザイナーのイラクリ・ルザゼ(Irakli Rusadze)の母国、ジョージアの日常とともに最新コレクションを届けました。街ゆく人がストロングショルダーのスーツやペンシルスカートをまとったモデルたちを物珍しく見つめたり写真を撮ったりしているのが面白かった。ジョージアといえば「バレンシアガ」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)の出身国でもありますが、名前は知っていていもこういう日常までみる機会はなかなかないですよね。先ほどの「ウェールズ ボナー」しかり、パリコレなのに世界の様々な地の様子を垣間見ることができるのは面白い体験です。

大塚:「シチュエーショニスト」は母国ジョージアではそれなりに知名度があって、かつブランド立ち上げからはもう10年以上のキャリアがあるのだけど、映像はたぶんほぼゲリラ撮影のインディーズ感バリバリ。デムナ直系な強い色柄の服はもちろん、撮影の舞台となったジョージアの街並みも普段はなかなか見ることがないけれど、かなり個性豊かだったわ。故郷の街の様子を伝えたかったのかな。通行人のおじさんがジロジロ見ていたり、モデルがおばあちゃんの手を引いて道路を歩いていたりして微笑ましかったけど、要素が盛り盛りで迷子になりました。

瞽女に着想源を得た「セシル バンセン」

丸山:「セシル バンセン」といえばコペンハーゲン・ファッション・ウイークを代表するブランドの一つですが、今回はコペンハーゲンではなくパリで発表。コレクションは、1970年代の瞽女(ごぜ)の白黒写真にインスパイアされたそうです。瞽女は三味線を弾きながら全国を転々としながら盲人芸能者ですが、映像は閉塞的な雲が空を覆う北欧の草原から始まり、晴れ間が見える海岸へと移ります。最後ビーチに現れた巨大な鏡(?)にモデルが吸い込まれてる展開は突然でびっくりしましたが(笑)、美しい映像でした。デンマークのユトランド半島で撮影されたそうです。

大塚:生っぽい「シチュエーショニスト」から一転して、クリアな映像と抜けのロケーションが気持ちよかったですね。最近はガーリーとテーラードのバランス感をものにしてきた印象で、映像も2つのスタイルを表現しているように見えたよ。曇天の草原ではモノトーンのシックな服、ラストの日が差した砂浜ではカラフルなガーリーで、壮大な世界観ととも成長していきそうなさらに力をつけていきそうな予感がした。

「S.R. STUDIO. LA. CA.」

丸山:スターリング・ルビー(Sterling Ruby)による「S.R. STUDIO. LA. CA.」が配信したのは、“VEIL FLAG”と題し、米50州を表す星がない星条旗をまとったモデルが跪いた状態からゆっくりと立ち上がるという映像でした。音声は教えを叩き込むように男性一人が言った言葉をもう一人の男性が繰り返すというものでしたが、最後の“President of Grand Dragon”はドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領のことを揶揄しているのでしょう。“Grand Dragon”はKKK幹部の呼び名。プレジデントはこの場合は総統ではなく大統領ととらえられます。さらに“marching against leaderless leadership(リーダーなきリーダーシップに行進する)”という文言は、ホワイトハウスに向かって行進したBLM運動を想起させますね。白人至上主義と往々にして指摘されている現大統領を批判し、11月の選挙で退陣させることを呼びかけているのだと捉えました。

大塚:こりゃもう完全にアートですね。意味深な冒頭で何が起こるんだろうと凝視していたら、星条旗広げて終了しちゃった(笑)。コレクションの全貌はまだわからないけど、さすがアーティスト発のブランドという感じ。背景にちゃんと意味をもたせつつ、表現は振り切ってるわ。昨年のピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)でデビューショーを見たんだけど、震えるほどかっこよかったのです。一点一点が服というより“作品”という感覚で、見た目以上の強さがあるというか。その分、価格も非常にかっこいいのだけど。代名詞のブリーチ加工が施されている星条旗は650ドルでした。正真正銘のただの布なんだけど、なんか欲しくなるほど引かれてきた。

丸山:650ドル(約6万8000円)はなかなかの値段ですが、動画のクレジットにも出てきたアメリカ自由人権協会(ACLU)に、売り上げの一部が寄付されます。ACLUは、6月にBLMのデモ隊がホワイトハウスを囲った後、トランプ大統領が教会を訪れることを理由にデモ隊を武力で解散させたとして、大統領などを相手取って訴訟を起こした団体。そこに寄付されることも加味すればちょっとお安く感じるかも(!?)です。

大塚:ちなみに彼はラフ・シモンズ(Raf Simons)とあらゆる形で協業しているもの有名だよね。ラフの「プラダ(PRADA)」デビューは、盟友のピーター・デ・ポッター(Peter de Potter)のグラフィックを採用していたけれど、今後はスターリング・ルビーも絡んできたりして。ああ、妄想が勝手に膨らんでいく!ちょっと、今日面白くない?知名度でいうとまだまだこれからなブランドばかりで、個々で見るとクオリティーや方向性はバラバラなのに、続けて見るとアイデンティティーを強く打ち出そうとする姿勢が共通してる。しかも自分たちのルーツを発展させて表現しているから、ファッションを通じて異文化が競演する様が映像を通してでもわかるぐらい面白い。

丸山:そうですね。これまでは外の世界に着想源を得ていたけど、ロックダウンで外に出れず、また考える時間も多くなったからか自分自身のルーツや考えを反映したブランドが多かったですね。パリコレ1日目は若手ブランドや、初めてパリコレの公式スケジュールに加わるブランドが多いので、インディーズ感満載の映像を予想していましたが、いい意味で期待を裏切ってきたブランドが多く面白かったです!

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「マメ」21年春夏は“窓”から広がる妄想の旅 21年春夏パリコレのトップバッターとして映像を配信

 黒河内真衣子がデザインする「マメ(MAME KUROGOUCHI)」が、2021年春夏コレクションをムービーとルック画像で発表した。デジタルとリアルを併用する形で9月28日にスタートした21年春夏パリ・ファッション・ウイーク公式スケジュールのトップバッターという位置付けで、現地時間の同日午後5時にムービー、写真を配信。配信に先立ち、アポイントメント制でメディアをアトリエに招いて黒河内がじっくりと製作背景を説明した。ステイホーム期間中、黒河内が考えていたことをたどるような、私的で詩的なコレクションだ。

 シーズンテーマは“窓”。「コロナ禍以前は、1週間の半分は日本各地の素材産地を訪ねる日々を送っていた。地方で撮りためた写真を見返してみると、なぜか窓が多い。四角い枠をどう使っているか、その窓をカーテンでどう隠しているかといったことが自分にとって面白いんだと思う」と黒河内。「新しい家に引っ越して一番最初に決めるのはカーテンだし、引っ越すときに置いていかれることが多いのもカーテン。窓にカーテンが吊るされたままの空き家に地方で出合うと、時間が生み出すテクスチャーによってなんとも言えない記憶の色をしている。こんな人が住んでいたのかな、隣の明かりが灯っている家にはどんな人が住んでいるんだろうと、妄想が広がっていく」と続く。

 もともと、多くの人が見落としているような日常生活の欠片を着想源に、たおやかな女性らしさを表現していくのが「マメ」の持ち味。今季もそれが十分発揮されている。一ついつもと違ったのは、コロナ禍で以前のようにさまざまな場所には行けなくなったことだ。「窓についてリサーチを始めたころ、コロナで外出ができなくなり、今度は家の中から窓を見つめることになった」。不安をかき立てるニュースも多い期間だったが、黒河内にとっては「モノ作りに向き合うことができ、すごく穏やかに過ごすことができた」時間だ。「家のカーテンを体に巻き付けてドレープを作って、そのボリューム感をスタッフに共有したりしていた。祖母の家でお洋服屋さんごっこをしていた少女の頃に戻ったかのような、とても愛おしい時間だった」。

風をはらむシルエット、光を通す透け感がポイント

 自宅にこもる中でも、スーパーなどに買い出しに行く際には、近所の家の窓を観察して後でスケッチにまとめるなどしていた。「近所にある町工場のカーテンの柄からイメージを広げて、図案をおこしたのがこれ」と、押し花などが挟まれたスケッチブックと共に見せてくれたのは、織り柄の凹凸感で花のモチーフを表現したエレガントなドレス。以前、繊細なメッシュのドレスについて「ゴミ置き場のカラスよけのネットから着想した」と明かされて驚いたこともあったが、黒河内の視線を通せば、見慣れた日常の風景もキラキラと輝いてくる。

 窓辺で揺れるレースのカーテンのように、透け感のある素材や、風をはらむシルエット、日に焼けたような生成りを含む白のグラデーションが今季の特徴だ。シルクにナイロンを混ぜることで、水面の反射のような光沢感を出したサックドレスや、窓辺に飾ったアイリスやユリの花を刺しゅうで表現したドレープたっぷりのドレスやブラウス。モデルに生地を当てて素材を選ぶことができなかったため、自宅の窓に生地を当てて質感を確認したというエピソードも面白い。作りこんだ素材は「マメ」の強みだが、産地を直接訪ねることができない今は、テレビ会議などで職人とコミュニケーションを取った。「産地に行けないことはとてももどかしかったが、『こんなこと初めてやるよ』と言いながら、職人さんたちがテレビ会議に対応してくれたのは嬉しかった。会議のセットアップには時間がかかって大変だったけれど、いつもとは違う形でコミュニケーションが深まった」。

MOVIE : YOSHIYUKI OKUYAMA

 写真家の奥山由之が撮影したムービーは、古いサスペンス映画のような、きれいなのに心がザワザワするような映像が特徴。「コレクション製作過程の、少女に戻ったような感覚の話や、田舎の夕暮れのセンチメンタルな感じといったことを伝えたら、8ミリビデオで撮ろうと提案された」のだという。ルック画像の撮影は野田祐一郎が担当。どちらも黒河内の出身地である長野で撮影している。「祖母の家に昔からかかっていた、私も、私の母親も祖母も気に入っているレースのカーテンを送ってもらって撮影の背景に生かしてもいる。そんなふうに、人の記憶がしみ込んでいるカーテンのように愛される服をどれだけ作ることができるかを大事にしたい」。

 「マメ」は10年にスタートし、今年で10周年。18-19年秋冬からはパリでプレゼンテーションやランウエイショーを行っている。20年春夏からパリ・コレクションの公式スケジュールに参加して、初日のオープニングショーを行っている。

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「ヴァレンティノ」2021年春夏は美しい技術で夢と日常をつなぐ 「リーバイス」とのコラボレーションも

 「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は9月27日、ミラノ・ファッション・ウイークで2021年春夏コレクションを発表した。今季は新型コロナウイルスの影響で発表の場をパリからミラノに移し、ウィメンズとメンズの合同ショーを行った。会場に選んだのは、工場施設が多いエリアにある廃工場だ。無機質な建物内には、まるで自然と生えたかのように植物が飾られていた。最初に歌手3人とピアニストが登場し、生演奏とともにショーは幕を開けた。

異なる日常をつなぐテクニック

 コレクションは非常にバラエティに富んでいた。ファーストルックを飾ったのはショート丈のプレーンなブラックドレス。スモーキーアイのメイクアップと相まって、見ている側がが身構えてしまうほどの強いムードが感じられた。ルックでは夜遊びを楽しむ若い女性のようなスタイルもあれば、オフィスへ出勤するキャリアウーマンもいる。ほかにもリゾート地を満喫したり、「リーバイス(LEVI'S)」とコラボレーションしたジーンズで都会をさっそうと駆け抜けたりするなど、ルック毎に異なる人物像が浮かび上がる。彼女たちのさまざまな生活をブランドならではのクチュールテクニックによって一つにつなぎ、共存させていた。例えばレーザーカットのレースやレザーのドレス、わらをフィッシュネットのように編んだスカートはクチュールのテクニックが生かされた逸品だった。なかでも繊細なレースはアウターやシャツに用いられ、男女のルックに登場した。中盤には、目のさえる原色のロングドレスの上でフラワープリントが咲き乱れ、ヌードカラーへと徐々にシフトしていきながら優美なフリルが揺れ動く。終盤はシフォンの流動的なロングドレスのルックが続き、「ヴァレンティノ」らしいロマンティシズムで締めくくられた。

 幻想的なドレスやオフィスを連想するシャツ、セットアップ、日常着のジーンズといった、夢と現実を行き来するようなショーだった。各ルックは一人の人間の異なる側面を映し出しているようでもあり、全く別人のようでもある。いずれにせよ、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が世界中の人たちの表現の自由と、常に進化するアイデンティティーを後押ししているように感じられた。日常に美しさを少しでも取り入れるだけで、その瞬間は特別なものへと変わる――そんなメッセージが服や会場の演出から伝わってきた。それは結果的に、「ヴァレンティノ」が異なる価値観や思想、生活様式を持つ全ての人々に開かれた、包括的なブランドであると証明しているようでもあった。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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「LV」メンズ東京のショーは、アニメとの融合にアフリカンなブラックカルチャーをプラス

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は9月2日、間もなくオープンする東京の海の玄関、東京国際クルーズターミナルで2021年春夏コレクションのチャプター2を発表した。8月に中国・上海で発表したチャプター1の半分強を入れ替えた。メンズのアーティスティック・ディレクターを務めるヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)は、新型コロナウイルスのパンデミックを1つの契機として、シーズンに関係なくコレクションを発表することを表明。世界の各都市を巡回しながら、新作と、既に発表済みのコレクション、さらには過去のアーカイブのアップサイクルを一緒に見せるスタンスを表明している。

 上海で発表したコレクションは、メゾンが“ダミエ”と呼ぶ市松模様や原色などでインパクト絶大な構築的なフォーマルだ。ストリートの旗手ながら最近はエレガンスを舵を切るヴァージルらしい正統派のスタイルに、キャッチーな色柄が映える。そこに今期は、パリのメンズ・デジタル・ファッション・ウイークで発表したアニメキャラのZooomと、その仲間たちの“ぬいぐるみ”をプラスした。

 「ふざけている」と思う人もいるだろうか?だが、こうした遊び心は、今のファッションの世界に必要なものだ。特に男性、それも若い世代にはファッションとアニメの間に上下関係なんて存在しないし、「ベアブリック(BE@RBRICK)」などのオモチャは既にファッション界のスタンダード。それに今は、LINEのスタンプやオンラインMTGの背景など、ファッションを洋服以外に拡張すべき時だ。そんな姿勢を、「ルイ・ヴィトン」のような世界規模のメガメゾンがハッキリ示すことに意味がある。“ぬいぐるみ”がいっぱいのチェスターコートを着たモデル、“ぬいぐるみ”が顔を出している小さなボストンバッグを手に持つ男性は、こんなご時世だからか非常に愛らしいし、ファッションの新しい可能性を見せてくれる。アニメーションのようなキャラと色柄、そして誇張したシルエットで、ファッションがカルチャーと融合した。

 東京で新たに加えた新作で際立ったのは、アフリカに着想を得たカラフルなコレクションだ。上海で発表したフューシャピンクやオーシャンブルーは、他の色と混じり合い、アフリカ大陸の黒人のスタイルを思わせるカラフルなコレクションに進化する。「ルイ・ヴィトン」のロゴは、デビューシーズンとは異なる配色のレインボーカラーに彩られ、厚手のニットなどに描かれた。ブラウンをベージュとした落ち着いた色合いのフォーマルも、東京で加えた新作だろう。

 これから積極的に取り組むアップサイクルな洋服作りにおいては、特に19-20年秋冬のフランネル調のカシミヤを用いたプリーツスカートを含むフォーマルと、20-21年秋冬の青空にインスピレーションを得たコレクションに手を加えて付加価値をプラスした。例えば19-20年秋冬のプリーツスカートは、異素材とパッチワークしたり、そこに無数のクリスタルを縫い付けてロゴを描いたり。上述のアフリカンな七色のニットや、アップサイクルしたカシミヤのスカートは、春夏の商品とは呼び難いが、これもシーズンレス体制に移行した意思表明なのだろう。

 上海のコレクションは1500人を招いたのに対して、東京のショーのゲストはわずか180人。ゲストにはアップサイクルしたマスクカバーが招待状がわりに配られ、座席も左右が2m・前後が1mの感覚を開けたソーシャル・ディスタンシングな配置だ。パリで開かれていた、これまでの「LV」メンズのショーのような大熱狂は存在しない。しかし会場には、デジタル・ファッション・ウイークで発表したムービーに登場するコンテナが何段も積まれ、Zoooomなどのキャラクターのバルーンが踊り、ヴァージルの「アリガト」のメッセージの後には花火が上がるなど終始エモーショナル。ファッションショーの新しいあり方を提起する。

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「フミト ガンリュウ」に変化 2021年春夏で見せた新時代のリアルクローズ

 丸龍文人デザイナーが手掛ける「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」は7月、2021年春夏パリ・メンズ・コレクションをデジタルプラットフォームで発表した。今季は、機能的な素材やディテールはそのままに、ジャージーやチェックシャツといったリアルクローズも多数盛り込んでグッと日常的なコレクションとなった。

シーンに左右されない自由な日常着

 テーマは“フリーアクセス”で、「どんな情勢やムードにも対応するファッションとは一体どんなものなのか?これが今シーズンのクリエイションの発端でした」と丸龍デザイナーは振り返る。「常識やオケージョンを限定した服ではミスマッチが生じます。固定概念を超え、インドア、アウトドアといった境界線を自由に再構築する事で、“外着のような部屋着”と“部屋着のような外着”のどちらともいえる新たな汎用性を見出すことを目指しました」。例えばナイロン製の超ロングコートは、自宅でガウンのように着用することもできるし、パジャマの上に羽織ってそのまま外出することもできる。「自分のいるシーンや感情に左右されることなく自由に着られる、新しいコンセプチュアルのかたちが提案したかったんです」。

 ルックにはイギリスのファッション誌「アリーナ オム プラス(Arena Homme +)」のファッションディレクターを務め、ショーや広告など幅広い分野で活動するスタイリストのトム・ギネス(Tom Guinnes)を起用。彼がスタイリングからモデル、撮影まで全てを担当した。「今回の服が持つ側面を描くにあたり、多角的な視点での表現が必要でした。そこで、彼に全てをお願いしました」と丸龍デザイナー。ルック撮影はトムの自宅周辺で実施し、コレクションを着用した彼が本棚を整理したり、洗濯物をたたんだり、娘との時間を楽しんだりする日常を切り取った。「トムには『リラックスした、リアルなビジュアルであること。そして、屋内と屋外両方のシチュエーションで撮影して欲しい』とだけ伝えました」。具体的な注文をせず、表現に余白を残すことで“フリーアクセス”というテーマにつなげた。

 トムは「彼はコレクションを初めてからずっと、ワークウエアとスポーツウエアの機能性を素直に取り入れていると思う。私は控えめでミニマリストなフミトが好きだ。服がそれを物語っている。今回のルックはiPhoneで撮影した。私は写真家ではないから技術的なミスはたくさんあるだろう。でも、だからこそほかにない作品に仕上がった。このルックを通して、自然なムードと何の制約もない自由なスタイリングを体感してもらえたらうれしい」と語る。

現代社会のジレンマを投げかける

 ルックの発表と同時に、映像も公開した。暗い草原や街中にモニターを置き、そのモニターでルック撮影の様子を映すという意味深な内容について聞くと、丸龍デザイナーは「二律背反」とだけ答えた。これは二つの要素が拮抗する状態やジレンマを表す言葉だ。ルック撮影の様子を映像で切り取り、それらを放映する複数のブラウン管テレビを公園や街中に設置し、ダークなムードとモニターで流れる明るい映像を対比させる。これらの演出を通して、自然と都市、アナログとデジタル、リアルとフェイクなど、現代社会の相反する要素を考えるきっかけを与えたかったのだろう。

 未曾有の状況で手探りするブランドが多い中、丸龍デザイナーは自分のやるべきことを冷静に考えて実行したようだ。「ショーは作り手の届けたい情報を一度に発信できるドラマチックかつ合理的な方法です。しかし、あくまでも伝えるための手段の一つであり、表現することが最終的なゴールではありません。プロダクトそのものに重きを置くこと。その上で、その瞬間に最も相応しい形で届けること。これができればよいのではないでしょうか」。

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「カラー」がパリコレに帰ってきた 超実験的なムービーに込めたデザイナーの思いとは?

 2017-18年秋冬を最後にパリから離れていた「カラー(KOLOR)」が、5シーズンぶりにパリ・メンズに帰ってきた。パリへの帰還を飾る2021年春夏メンズ・コレクションは、デジタルをプラットフォームとするプレゼンテーションでの発表となった。26台のiPhoneを駆使して360度からルックを切り取る全く新しい映像で、ブランド設立から15年以上経過しても攻める姿勢を崩さない阿部潤一デザイナーの強い意志を伝えた。

 取材班は7月上旬、都内のスタジオで行われた同撮影のバックステージに潜入した。その映像とともに、同コレクションに込められた阿部デザイナーの思いを探る。

スマートフォンを通じて過去のコレクションと現代の空気をつなぐ

 今シーズンは「『2011年秋冬コレクションの世界観を、現在の空気で表現したらどうなるのか?』という設定でコレクションを製作した」と語る阿部デザイナー。当時はスマートフォンが登場したばかりで、SNSも今ほど浸透していなかった。そんな過去と現在社会をつなぐ表現として、スマートフォンによる撮影を考案したのだろう。

 ただスマートフォンで撮影するだけでは面白くない。そこで、円型の装置に26台のiPhoneを搭載し、360度撮影できる機材を特注。縦方向でルックを切り取り、靴の裏から頭のてっぺんまでを見せた。誰もが驚いたこの手法は、単に奇をてらったわけではなかった。「ランウエイショーでは真上と真下からルックを見ることは出来ない。それを収めることで、ビジュアルやムービーで表現する意味が更に増すのではと考えた」。

 実験的な表現は今シーズンに限ったことではない。パリ・メンズから離れ、ルックのみで発表したシーズンでも、街中でのシューティングやコラージュなどほかにない表現に挑戦していた。「僕たちは服を作っている。アイテムのデイテールや空気感を感じられるのは、人間が着ている状態を目の前で見られるランウエイショー以上のものはないかもしれない。しかし、プレタポルテのランウエイは1960年代から変わっていない。何か違う形で表現ができないかと数シーズン試行錯誤してきた。今回もその延長で、僕らの伝えたい空気や気分を発信したつもりだ」。

ユース感と技術を備える新たなクリエイション

 コレクションの発表手段だけでなく、そのクリエイションも年々進化している。ナイロンやキュプラといった独特の素材使いでクラシックなムードに新鮮さを加えるクリエイションが人気で、ここ数年はキャッチーなモチーフ使いで若者のファンも増やしている。今シーズンも「コカ・コーラ(COCA-COLA)」のロゴをオマージュした“CONCLEAT”というレタープリントや、ブランドタグを無数に複製した柄のアイテムを用意した。しかし、上質な素材と確かな技術で作られるから、ユース感あるアイテムでも大人に受け入れられる。そのバランスは、長い経験を重ねる阿部デザイナーだからこそ実現するものだ。

 年齢を重ねても立ち止まらず、常にチャレンジングな姿勢を貫く。そこから新たなクリエイションと表現が生まれるーーこれが今の「カラー」の強さだ。今シーズンでその凄みを存分に見せつけた阿部デザイナーは、今後どんなコレクションを見せてくれるのか。パリ・メンズの“第2幕”に期待が高まる。

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 「グッチ」が新時代に向けて閉幕、「ゼニア」「ミッソーニ」の歴史に感動したミラノ最終日

 パリ・メンズに続いてスタートしたミラノのデジタル・ファッション・ウイークも最終日を迎えました。ここでは主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。海外コレクション取材歴10年以上の村上要「WWD JAPAN.com」編集長と、入社2年目の大澤錬「WWD JAPAN.com」記者が日常業務と並行しながらリポートします。

17:00(ミラノ時間 10:00) 「イレブンティ」

大澤錬「WWD JAPAN.com」記者(以下、大澤):ミラノ・メンズ最終日。トップバッターは「イレブンティ(ELEVENTY)」。マルコ・バルダッサーリ(Marco Baldassari)オーナー兼デザイナーが登場し、アイテムについて説明です。アップと引きを使い分け、ディテールを細かく見せてくれました。白のデニムのセットアップやロールアップしたデニムパンツにTシャツ&半袖シャツのスタイルのほか、ブラウンのフォーマルスーツの足元にはローカットのスニーカーでカジュアルです。花柄や赤のボーダーのインナーでアクセントを加えたスタイルが印象的でした。

村上要「WWD JAPAN.com」編集長(以下、村上):「イレブンティ」は良い意味で「通販っぽい」ね。「おうち時間が長くなって、快適な洋服が求められている」って話から始まって、ジャージーのジャケットとドローコードのパンツにスニーカー。「長く着られる洋服を」と言いながら、ウオッシュの少ないインディゴデニムなど説得力抜群。コレでお手頃価格なら、電話しちゃいそう(笑)。イメージじゃなく売るために、商品をちゃんと伝える価値を教えてくれるムービーです。

18:00(ミラノ時間11:00) 「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」

大澤:ミラノ・コレクション初参加の「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(CHILDREN OF THE DISCORDANCE)」は、東京の街並みを駆け回るスケーターたちをメーンに3曲の楽曲を使用。冒頭はヒップホップグループのNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」、中盤は、DJ Boringの「WINONA」、終盤はZacariの「Lone Wolf」。スケーターたちは、僕らが日常で見かけるのと同様に、歩道や車道、地下、階段関係なく滑り続けます。建物の敷地で滑っているのを警備員に注意されるシーンは、特にリアルで面白かったです(笑)。アイテムは、同ブランドのアイコンであるバンダナ柄のシャツや、鳥の刺しゅうを背面に施したロングコート、総柄のセットアップなど。

村上:43歳のオジサンにとっては、「『チルドレン オブ ザ ディスコーダンス』って、この世界のブランドなんだ」という驚きがあって面白かった。マスク姿で無表情に歩く人たちとスケボーキッズ、怒る警備員とスケボーキッズ(笑)。この世界をリアルに表現しているし、世界に発表するムービーだからと気負わず、Tシャツにチノパンとかも出しちゃうあたりもスキ。価値観がフラットな世代感をちゃんと表現している。

18:30(ミラノ時間11:30) 「ジエダ」

大澤:「ジエダ(JIEDA)」は、昭和の不良マンガのようなストーリーが個人的に好きでした!不良を演じるモデルたちはセリフこそないけれど、合間に“憂鬱”や“秘密”、“誘拐”とタイトルのようなものが入るので、すんなり理解することができました。ネイビーのベロアの半袖シャツや、ブラウンの“プリーツ”ジャケットとパンツのセットアップ、女性のピクチャーが全面にプリントされた黒の半袖シャツが好みでした。最後は“見てんじゃねえよ、クソ”と吐き捨てて終了。僕の地元では聞き慣れた言葉です(笑)。

村上:世代と地元の違いでしょうか?「ジエダ」、僕は共感できなかった(笑)。ラストも分からん。でも、大澤さん世代が共感するなら、「ジエダ」的には上出来でしょう(笑)。洋服は好きですよ。ちょっと背伸びしたセットアップとか、着慣れないし反骨精神示したいからのボリューム感とかは、日本版テッズスタイル。悪趣味ネクタイもキライじゃない(笑)。

19:00(ミラノ時間12:00) 「フェデリコ チーナ」

大澤:「フェデリコ チーナ(FEDERICO CINA)」は、16年に誕生した伊発の気鋭ブランド。デザイナーのフェデリコ チーナ(Federico Cina)は、学生時代に「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」や「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」で、ブランドコンサルタントとして経験を積み、故郷である伊ロマーニャの伝統を主なインスピレーション源として活動しています。花柄のグリーンのジャケットをまとうおじいさんとレッドのセットアップを着用したおばあさんの社交ダンスにほっこり。最後の手を取り合うシーンでは、新型コロナによるロックダウンで改めて気付かされた「家族の大切さ」というメッセージを受け取りました。

村上:「フェデリコ チーナ」は、典型的なイタリアンブランドの価値観を有しているカンジだね。家族、地元、自然、郷愁みたいな。それを映像美で丁寧に、でも手短に表現したのはステキだけど、洋服が普通じゃないからちょっと興醒め。おじいさんとおばあさんの洋服はステキなのに、主人公のハイカラーシャツの赤いリボンとか、やたらモコモコのケーブルニットとかちょっと大げさ。中盤に登場したロング丈の白シャツとか、もっとシンプルなアイテムだと映像の世界に引き込みやすいのに。

19:30(ミラノ時間12:30) 「ゴール」

大澤:「ゴール(GALL)」は、少し怖さのある不気味なBGMでスタート。ロケ地に山を選択し、マウンテンパーカやフーデッドコート、ナイロンパンツなど、アウトドア向けのアイテムをブラックやホワイト、ベージュのカラーで提案しました。ロケ地とアイテムがマッチしているので、コンセプトが明確で分かりやすかったです。最後のモデルがこちら側を見つめるシーンには、BGMも含めて少しゾッとしました……。

村上:「ゴール」のようなハイスペックなアウター押しのブランドって、こういう壮大なストーリー好きだね。ミラノでも、「C.P. カンパニー(C.P. COMPANY)」のプレゼンとかは、アウター数着の展示のために豪華なセットを組んだりするのが当たり前(笑)。タフネスを訴えるには、やっぱり大自然と交わるのが良いんだろうね。不気味感も頻繁に登場するスパイスだよ(笑)。背後に壮大なストーリーがあることをニオわせるのにイイ感じなんだと思う。

20:00(ミラノ時間13:00) 「アンドレア ポンピリオ」

大澤:「アンドレア ポンピリオ(ANDREA POMPILIO)」は、“INVOCATION OF MY DIVINE BROTHER”というタイトルのもと、ムービーを4つのチャプターに分けてスタート。米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド(George Floyd)氏が白人の警察官に押さえつけられて死亡した事件を再現したり、香港のデモのニュース映像を流したりしました。新作コレクションの発表ではなく、過去の痛ましい事件を振り返るムービーでした。洋服は最後まで出てこず、コレクションとの結びつきはわかりませんでした……。

村上:「アンドレア ポンピリオ」は段々こじれている気がしていたけれど、ムービーで確信に変わってしまいました。昔は、「可愛ければ、理由なんてなくても使っていいでしょ?」って笑いながら、チンパンジーモチーフのシャツとかバッグを作っていたのに。最近は作ったコレクションを無理して着想源と結びつけている印象でした。このムービーも、そんなカンジ。あんまり伝えたいことはないものの、無理やり高尚にしようとしている気がする。もっと素直な方が、イタリアンブランドは生きると思うんだけどな。

21:00(ミラノ時間14:00) 「グッチ」

大澤:「グッチ(GUCCI)」は、全76ルックを紹介。モデルには、同ブランドに携わる人を起用していて、「こんな役職の人がいるんだ」「デザイナーってこんなにいるの?(笑)」と、新しい発見があるライブ配信でした。クリエイティブ・ディレクターを務めるアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、「本当に新しいコトやモノを発信してくれるデザイナーだな」と、改めて感動。またメンズのモデルがネイルしているのを見て、「ジェンダーレスな時代だし、僕もやろうかな(笑)」と、自分自身の新しい挑戦の後押しをしてくれるような存在にも感じます!今後のコレクションの発表方法についても、ミケーレが僕たちにどんな新しいものを見せてくれるのか待ち遠しいです。

村上:「グッチ」は、まるで謎解きでしたね(笑)。2月のウィメンズ・コレクションで始まった物語を締めくくる「エピローグ・コレクション」は、ぜーんぶひっくり返した印象です。まずモデルは、みんなミケーレのアトリエスタッフ。普段は裏方のスタッフを表舞台に引っ張ってきたのは、前回のウィメンズ・コレクション同様だけど、今回はついにモデルでした。ショーの当日、僕には「グッチ」からオーガニック野菜が届いて、「形は不完全だけど、地場の作物です」というメッセージが添えられていました。アトリエのスタッフは、まさにオーガニック野菜のよう。形は不ぞろいでモデルみたいにパーフェクトじゃないけれど、みんな正真正銘。つまり「グッチ」の地場のスタッフ。そんな人たちが、一番「グッチ」を自然に着こなしてくれる、って考えたんじゃないかな?LIVE配信は6時間前に始まったけれど、本編のムービーがスタートする前の方が、洋服を着たモデルたちが頻繁に登場します。本編のムービーは、そんなモデルがショーの前に撮影するスタイリングフォトを一枚ずつ見せるカンジ。そしてショーの後は、なぜかモデルのメイク映像。ファッションショーのバックステージを、時を遡りながら振り返っているような印象です。そして、そんなスタイリングフォトを紹介した場面の背景は、ランウエイらしき道がある宮殿や中庭。ここでも、ランウエイとバックステージが逆転しているようでした。全てが逆転したエピローグ・コレクションの、ミケーレのメッセージはなんだろう?ファッション・システムが肥大化してしまったことに警鐘を鳴らしているミケーレだから、それより前の健全な形に戻ろうというメッセージのようにも思えるし、次の新しい時代のため一度原点に立ち返ってリセットしようという意思のようにも思えるね。コレクションは、ウェブやフローラルモチーフ、“ジャッキー”バッグなど、往年のアーカイブに着想を得たアイテムから、ミケーレらしいスカーフ使いまで、総決算‼︎って感じでした。まさに1つの時代のエンディング。次は、全然違う世界になるのかなぁ?5年前にジェンダーの壁を壊す大革命を起こしたミケーレの、次なる挑戦が楽しみです!

大澤:要さん、ライブ配信番組「着点(きてん)」お疲れ様でした!コレクションの合間に拝見しておりました。三原さん、井野さん面白かったですね〜。井野さんには気づきましたが、まさか三原さんもムービーに出演していたとは(笑)。

村上:一番やる気だったらしいよ。番組前、展示会で聞いた話によると、パペットの演技指導も熱心だったらしい(笑)。

22:00(ミラノ時間15:00) 「エルメネジルド ゼニア」

大澤:1910年にテキスタイルメーカーとして創業した「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」は、伊トリヴェロにある本社でコレクションを発表しました。画面越しでも伝わるファブリックの品質の良さ、テーラリング技術の高さ、パンツのタックの入り方は特に圧巻でした!そして本社の屋上でフィナーレを迎え、アレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)がモデルを迎えて拍手、手を振るシーンには感動。最後はサルトリによるアイテムの解説で幕を閉じました。「いつも見ていたショーも当たり前ではなくなるのかな」と思うと、新しい時代の始まりを痛感すると共に、どこか寂しさも感じます(泣)。

村上:「ゼニア」のテーマは、「NATURE\MAN\MACHINE」。自然豊かな古里トリヴェロで、生地を作る織機に囲まれている同ブランドらしいテーマだね。こんな時代だから自然を賛美するブランドは多いけれど、ブランドにとって欠かせないテクノロジーに同等の価値を置いていることがわかります。今シーズンは、マニアックなカラーリングを脱却して、淡いグレーやベージュ、アイボリーがたくさん。軽やかな素材感が際立ちます。お気に入りはラグランスリーブのジャケット。ついにジャケットがラグランだよ!袖、セットインじゃないんだよ!おうち時間が長い今の時代にピッタリ。おうちで、カーディガン感覚で着られるジャケットの誕生です。

23:00(ミラノ時間16:00) 「ミッソーニ」

村上:ラストの「ミッソーニ(MISSONI)」は、現在のクリエイティブ・ディレクターのアンジェラ・ミッソーニ(Angela Missoni)のコメントを中心に、色や家族愛、ファミリービジネスであることなどのアイデンティティーを、昔の映像と一緒にアピール。今ほど「家族」の重みを感じる時はないから、今後脚光を浴びるブランドになるのかも。でもジャーナリストの解説はいらなかったかな?ミッソーニ一族の言葉だけで、色や家族の価値は十分に伝わった気がする。むしろ、ジャーナリストのマッチポンプ的コメントは、ジャマだったかもしれません。

大澤:「ミッソーニ」は、約1時間という長尺物で、ミッソーニ一族の家族愛がすごく伝わりました!ファミリービジネスの難しさやこれまで積み上げてきたことの重大さ、またラグジュアリーブランドの社内風景を見ることができて、とても良い機会になりました。特に創業者であるロジータ・ミッソーニ(Rosita Missoni)がブランドの歴史を振り返るシーン。彼女の笑顔にはジーンとくるものがありました。「こういう人たちがいてくれたからこそ、僕たち若手が今この業界で働けているんだ」と、改めて実感した21年春夏メンズ・コレクションのラストでした。

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 楽園気分に「ヴェルサーチェ」攻めのストリートが際立つミラノ3日目

 パリ・メンズに続いてスタートしたミラノのデジタル・ファッション・ウイークも残すところあと2日。ここでは主にメンズを担当している記者たちが「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。今回は海外コレクション取材歴4年の大塚千践「WWDジャパン」デスクと海外コレクション初取材の美濃島匡「WWDジャパン」記者がリポートします。

17:00(ミラノ時間 10:00) 「シモーナ マルツィアーリ-MRZ」

美濃島:ミラノ3日目始まりました。たった今、校了で大忙しな大塚センパイから「ごめん、途中から参加します!」と連絡が来たので、序盤は一人でリポートしていきます。トップバッター「シモーナ マルツィアーリ-MRZ(SIMONA MARZIALI-MRZ)」のプレゼン映像は、イタリアらしいカラッとした空気の麦畑が舞台。「FRIDAY」「SUNDAY」と曜日違いでルックを公開しました。ピュアな真っ白のジャケット&ショーツからのぞく小麦色のニット、その後も多数見られたルーズな編みのトップスが可愛かったですね。なんだか他人の夏休みの思い出を垣間見ているようでした。白と黒の編み込みバングルは手軽に季節感が演出できるから人気が出そう。デザイナーのシモーナ マルツィアーリは「イタリアン ヴォーグ (ITARIAN VOGUE)」主催の「フー イズ ネクスト(WHE IS NEXT?)」に2018年に選出され、2019年からミラノでコレクションを発表しています。これまで注視していませんでしたが、好みのブランドでした。

18:30 (ミラノ時間11:30) 「サン アンダース ミラノ」

美濃島:「サン アンダース ミラノ(SAN ANDERS MILANO)は野原が舞台でした。全く同じ服装の男女が出会い、固定的な性差を超えたファッションの自由さを発信するストーリー。フリル付きのシャツやギンガムチェックのシャツ、パールのネックレス&イヤリングというフェミニンなコレクションでしたが、男性モデルも違和感なく着こなしていました。「あなたが誰なのかは重要じゃない、どんな人になりたいかが大事なんだ」というコピーもしっかりと伝わってきました。

18:00(ミラノ時間11:00) 「エルマンノ シェルヴィーノ」

美濃島:「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」はチュールドレスや花柄ワンピースなど、リゾート気分を全面に出したコレクション。都市から離れた農家でリゾート感を演出するのは、最初の「シモーナ マルツィアーリ-MRZ」と似ていますね。のどかでほっこりします。

大塚:お待たせしましたー!「エルマンノ シェルヴィーノ」に滑り込みセーフ。紙面の校了もカブってバタバタですわ。昨日はトガった系の映像ばかりで辛かったから目がまだ疲れているよ。パリではアングラなロケーションも結構見かけたけれど、イタリアは本当に田園や自然が舞台の作品が多いね。ウィメンズのみだったけど、目の保養になりました。郷土愛ですな。「シモーナ マルツィアーリ-MRZ」も後で見てみよーっと。

美濃島:大塚さん、思ったよりお早い登場ですね。うれしい!ドレスをベルトで縛ってカジュアルダウンさせたり、ニーハイブーツでエッジを効かせたりとスタイリングの妙が光りましたね。トラ模様を転写した総柄コートやドレスもありましたが、あれを着てパーティに行ったら会場の視線を独り占めできちゃいそうなくらいインパクト抜群でした。

19:00(ミラノ時間12:00) 「フィロソフィ ディ ロレンツォ セラフィニ」

美濃島:「フィロソフィ ディ ロレンツォ セラフィニ(PHILOSOPHY DI LORENZO SERAFINI)」はオランダ人モデルのルーナ・ビル(Luna Bijl)を起用したイメージムービーで勝負。真面目な撮影風景を収めたシーンから始まったと思いきや、途中から撮影を抜け出し、テニスを始めたり、散歩したり、最後にはプールに入っちゃうというフリーダムな内容。とびきりキュートな彼女の振る舞いも相まって、すごくハッピーな気分に浸りました。

大塚:また田園とかリゾート的な撮影現場でうれしい!いやーもう今日はこういう感じでいいよ。こじらせたアングラ系は無しということで。それとルーナ・ビルが最高だね。彼女のためのプロモーション映像みたいだけど、天真爛漫で豊かな表情を見ているうちにあっという間に3分が経ってました。

美濃島:コレクションは黒ベースにカラフルなドットを施し、片方の肩に大きなフリルをあしらったミニドレスや、シフォンをたっぷり用いたドレスなど、上品ながら楽しげなムード。映像の世界観とも合致していたし、「欲しい」と思った女性は多いんじゃないでしょうか。

19:30(ミラノ時間12:30) 「キートン」

美濃島:「キートン(KITON)」は新作を披露せず、1着のスーツが出来上がるまでのストーリーをイタリアの広大なスペクタクルとともに伝えました。糸づくりや生地の生産、テーラーによる仕立てまで、全行程をカバーするあたりに作り手のプライドを感じますね。

大塚:「キートン」はファクトリーや原料のシーンが中心で厳粛な雰囲気だったけど、物作りはめっちゃトガってて、展示会に行ったらビックリすると思うよ。下手したらケタが2つ違う異次元プライスなのだけど、服に触れるたびにため息を通り越して「はー!」という声をあげているもん(笑)。老舗だから、美濃島さんの言う通りプライドと自信はもちろんあるのだけれど、進化を恐れない姿勢はカッコいいよね。

美濃島:手にとってみたいと思わせるには十分でしたが、なにか新作に通ずる仕掛け、もしくは「新作を出さない」というステートメントなど、今後に繋がる要素を期待してしまいました。

20:00(ミラノ時間13:00) 「サルヴァトーレ フェラガモ」

大塚:「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」は、超意外な展開だったね。サスペンス映画のようなイントロから、全速力で長い歴史を振り返りつつステートメントを主張するという内容。新作は結局出てこなかったけど。てんこ盛りかつ駆け足すぎて、何が一番伝えたいのかちょっとわかりづらかったかな。テーマごとにチャプターで切り分ける手法は「プラダ(PRADA)」も同じだったけど、欲張りすぎたかもね。

美濃島:おっしゃる通り、詰め込みすぎた映像になっていましたね。さきほどの「キートン」もそうでしたが、ミラノの老舗ブランドは歴史的な街並みを写したり、スケールの大きな音楽で凄みをアピールしたりする傾向にありそうです(笑)。

大塚:まあでも創業1927年の「サルヴァトーレ フェラガモ」の動画で、コンクリートジャングルを背景に打ち込みの音楽が流れていてもイヤですけどね(笑)。靴は本当に美しいし、コレクションを率いるポール・アンドリュー(Paul Andrew)も魅力的な人物だから、どこかに焦点を絞った方がよかったのかも。

美濃島:たしかにデザイナーの個性にフォーカスすると、「これがDNAだ」と一方的に言われるよりも共感しやすいのかもしれません。

21:00(ミラノ時間14:00) 「トッズ」

美濃島:その一方で「トッズ(TOD’S)」は、2020-21秋冬シーズンからクリエイティブディレクターを務めているヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)にフォーカスし、彼がブランドで描いているビジョンを伝えましたね。やはりデザイナー自身がクリエイションの姿勢を改めて話すと、力強さが滲みます。

大塚:歴史をスピーディーに詰め込んだ「サルヴァトーレ フェラガモ」に対し、「トッズ」は新しいクリエイティブ・ディレクターを紹介したいという意思か明確だったね。トーマス・マイヤー(Tomas Maier)とも働いた経験があるみたいで、本人もめちゃオシャレ。ちょっとロバート・ダウニー・ジュニア(Robert Downey Jr.)に見えたり見えなかったり。彼が“ゴンミーニ”やボートシューズをデザインするプロセスも見られるんだけど、ウエアもなんだかよさげに仕上がりそうな予感。個人のスタイルはクリエイションに間違いなく反映されるから、次のコレクションが早く見たいな。

美濃島:昨シーズンのメンズはコートやジェケットスタイルが増え、エレガントさが増していました。今季もどんなコレクションを仕上げているのか、今から楽しみですね。

22:00(ミラノ時間15:00) 「ディースクエアード」

美濃島:「ディースクエアード(DSQUARED2)」はテーラリングスタイルをモノクロのシックなムービーで、カジュアルスタイルを楽しげなカラームービーで切り取りました。BGMは同じだったのに、服と映像でこんなに違った雰囲気になるんだと驚きました。

大塚:「ディースクエアード」は今回プレだったね。だからいつも以上にカジュアル寄りだしスポーティー。しつこくて申し訳ないんだけど、昨日のアングラ映像の連打をまだ引きづり続けているから(笑)、こういう安定感のあるユーモア映像を見るとホッとするわ。

美濃島:テーラリングはカチッとしたタキシードやロックスターのようなスパンコールジャケットなどを用意。軽さはなく、少し暑そうでしたが、世界観は純粋にかっこよかったです。カジュアルスタイルではナイロンをはじめとするシャカシャカ系の軽いアウターにTシャツを合わせたスポーティーなムードでした。デザイナーの2人が和気あいあいと動画の流れを紹介するイントロダクションも素敵でしたね。

大塚:そうそう。ディーン・ケイティン(Dean Caten)とダン・ケイティン(Dan Caten)のツインズも元気そうで安心した。ニュー・ノーマルでは着心地とかタイムレスがキーワードなのは間違いないけれど、こういうヤンチャで心を揺さぶるクリエイションは変わらないでほしいな。ギラギラでイエー!みたいなパワーもファッションの側面だしね。

22:30(ミラノ時間15:30) 「ヴェルサーチェ」

美濃島:「ヴェルサーチェ(VERSACE)」は、ロンドン出身のMCであるエージェイ・トレイシー(AJ Tracey)が新作をまとって登場。ラックにかかったコレクションを手にとったり、撮影現場を見守ったりしたあと、そのままパフォーマンスを披露します。途中からはモデルも乱入。オリジナリティー溢れる映像でした。

大塚:いやぁ、ストリート全開のコレクションが振り切っていてよかった!エージェイ・トレイシーの歌もかっこよかったね。「ヴェルサーチェ」はここ最近、アニマル柄をはじめストリート色強めのクリエイションで存在感を発揮していました。でも業界にはフォーマル回帰のムードが漂っていて、「ヴェルサーチェ」がそこに寄せちゃうと官能的すぎるかもな……なんて勝手に心配していたんですが、杞憂でした。

美濃島:エージェイ・トレイシーが登場シーンに着ていた繊細なバンダナ柄のプリントシャツがすごくかっこよかった。僕も右にならえではなく、攻めの姿勢を貫くスタンスにもすごく共感しました。

23:00(ミラノ時間16:00)「ハン コペンハーゲン」

大塚:キタキタキタキター。「ハン コペンハーゲン(HAN KJOBENHAVN)」は予想通り、いや、むしろそれ以上のフルスロットルできて気持ちいいわー。パーツを誇張したジャケットとかチラ見せしていたけど、ほとんどアレしか映ってないし。

美濃島::ぶ、ぶっ飛んでましたね(汗)。地底に蠢く未成熟なエイリアンたちが、自分たちの母親(のような生き物)のエネルギーを奪って、服を身にまとい完成系に近くというストーリーだと強引に解釈しました。アングラを通り越し、人によっては嫌悪感さえ抱きかねませんが、攻めの姿勢はよかったです。2008年にスタートしていて、新進気鋭ってわけでもないことに一番ゾッとしました。大塚センパイは「案の定」といった感じですが、なぜこうなると予想できたんですか?

大塚:ちょっとコレを見てみてよ。

大塚:1月のミラノメンズのショーで撮影したんだけどさ、面白すぎるでしょ。まず、会場に着いたら日本人が全然いないの。だからこういうブランドが映像に手を付けたもんなら、こうなることは予想できるよね。初めて見る美濃島さんは言いたいことがいろいろあると思うけど(笑)、こういう感じに批判なんてするだけ無駄だよ無駄。こういう突然変異は、遠くから動向を温かく見守るのが正解。でも、服は意外と普通なんだよね(笑)。

美濃島:そう、普通なんですよ。映像の世界観も相まってSF映画の衣装のように見えますが、じっくり見てみると仕立てがよさそうなジャケットだったり、光沢があって近未来感のあるコートだったり、ちょっとクセはありますが、着てみたいと思うアイテムがチラホラあるんです。伝え方を変えたら、日本でも人気が出そうな予感もするんですが……。

23:30(ミラノ時間16:30) 「ヌメロ 00」

美濃島:「ヌメロ 00(NUMERO 00)」はバランスのよいストリートでしたね。透け感のあるブラックニットに長めのネックレスを合わせたグランジテイストや、企業ユニホームっぽい淡い水色の半袖シャツ&ショーツのセットアップ、お祭りで着るハッピのような和を感じる羽織りなど。さまざまなテイストを織り交ぜることで、ストリートと一口にくくれない幅広さがありました。継続的に提案しているテック感のあるアノラックパーカも、機能や気心地が優先されるポスト・コロナのムードにハマりそう。

大塚:お、「ヌメロ 00」気に入ったみたいじゃん。もともと削ぎ落とし系のストリートウエアが得意だけど、今シーズンはさらにミニマルに振ってきたね。あと、意外な映像で驚いたわ。こういうカルチャーを背景に感じさせるブランドって、意外性のあるアンダーグラウンドな場所で撮りたがるパターンが多いから、公園とか川辺で服をきれいに見せるっていう手はアリかもと思った。尺はちょっと長いかなーとも感じたけど、校了後でグデングデンのコンディションでも気持ちよく見られたよ。

美濃島:映像は8分と若干長めでしたが、リゾート感が押し出された今日のラインアップの中では際立っていましたね。

24:00(ミラノ時間17:00) 「デヴィッド カタラン」

大塚:さあ!いよいよわれわれの最後のドタバタ取材「デヴィッド カタラン(DAVID CATALAN)」だよ。終電がヤバいのではメトロに乗りながらスマホで見ました。服も悪くはないんだけど、映像のストーリーが超気になった。男性2人が出会いそうで出会わないじれったい展開に(あああー!)ってなりつつ、ラストでいよいよ対面して、月9のような展開くる!?ってとこで終わっちゃった(笑)。

美濃島:最高潮の場面で終了しましたね(笑)。植物園のような空間でサファリスタイルを披露しました。多く登場したマルチポケットのセットアップには、リゾート感のあるマドラスチェックやアースカラーのストライプで親しみやすさを加えます。地上絵のようなステッチが目をひくデニムのトップスや、深みのあるオレンジのジャケットなど、アイテムの幅も狭くなかったですね。何度か映ったベルトサンダルもかわいかったなあ。

大塚:プレコレクションだからルックは少なかったけれど、「ヌメロ 00」とは違って色とラテンっぽいムードをストリートウエアに落とし込んだ感じかな。地力はあるから、もうちょっとキャッチーさがあれば面白くなりそうだね。

美濃島:昨シーズンはアウトドアからフォーマル、スポーツまでカバーしていて、高いポテンシャルを感じていました。本番の春夏に期待が高まる内容でしたね。

デジタル・ファッション・ウイークを振り返って

大塚:自宅の最寄駅に着いたところで終わったー!ミラノ・メンズはあと1日あるけれど、僕と美濃島さんの対談は今日で終了。途中でリタイアしようかと思うぐらい辛かったけど(笑)、こんなときじゃないと見られないブランドを知れてよかった。デジタルコレクション元年だからまだ良し悪しを判断するときじゃないかもしれないけれど、いろいろな表現が増えて面白くなりそうだなと感じたな。あとは、消費者をいかに巻き込んでいくかが課題だと感じました。

美濃島:お疲れ様でした!本当にキツかったですね(笑)。ユーチューブで公開した映像でも、同時視聴者が数十人というブランドも少なくなかった。デジタルだと、街全体がお祭り気分に包まれる感じは出せないので、一般ユーザーにもっと広く認知されて「なんだか面白そうなことやってるな」と思ってもらえるかどうかが大事ですね。

大塚:そうそう。結局は僕らみたいな限られた人たちしか見ていない気もするので、もっと多くの人を巻き込んでいけるサービスや機能が開発されていけば、定着する可能性もあるかも。東京やほかの都市のファッション・ウイークが、ロンドンからミラノまでの一連の流れを見て、どう出てくるのか楽しみです。

美濃島:さまざまなブランドを取材し、メッセージを届けることの難しさも実感しました。ブランドだけでなく、メディアのあり方も問われる時代。僕たちも「どう伝えるのがもっとも伝わるのか?」を常に考えて発信していきたいですね。

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 「ドルチェ&ガッバーナ」と「エトロ」に救われた大ハズレのミラノ2日目

 デジタルでのパリ・メンズ・コレクションが終わり、舞台はミラノへ。7月14日からスタートしたミラノのデジタル・ファッション・ウイークは2日目に突入しました。ミラノでも主にメンズを担当している記者たちが「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。今回は村上要「WWD JAPAN.com」編集長と、大塚千践「WWDジャパン」デスクというアラフォーコンビがリポートします。

大塚:ミラノ2日目がスタートしました!コレ、ドタバタ対談というタイトルなのですが、本当に関わる4人が毎日ドタバタしているのって伝わってますかね(笑)。

村上:やっぱりリアタイで見るって、企画にムリがあったね(笑)。言い出したのは、ワタシなんですが……。

17:00(ミラノ時間10:00) 「エトロ」

大塚:でも、リアタイで見ないとちょっと気持ち悪くなってきてる自分がイヤです……。さて、トップバッターの「エトロ(ETRO)」は今シーズンのデジタルコレクションで始めてフィジカルのショーのライブ配信でした。3分遅れぐらいで始まり、会場には約1m間隔で座ったマスク姿の観客の姿もあり、ファッションショーでは当たり前の光景が今や新鮮でした。「ファッション産業とミラノの街の支援のために前向きなメッセージを」という思いでフィジカルのショーを開催したようですね。

村上:「エトロ」は電車の中で見ました。ゲストのマスク率が低いのが気になりますが、良いショーでした。草花柄、そして、そんな草花モチーフを単純化して誕生したといわれているペイズリー、「エトロ」のシンボルのペガサスなど、命の強さや尊さを感じさせてくれました。色合いも前半は草木染めのように穏やかな色調で、後半も1トーンでクリーン。メンズは、ちょいダサなクロップドパンツが愛らしいね。ウィメンズはプレのせいか、ボヘミアンテイストも控えめで、おうち時間が長い今着たい(笑)。あと、一家はソーシャル・ディスタンシング関係ないから、一緒に投稿できていいね。最近ユーチューブ(You Tube)でよしみち兄弟動画を見てしまうのですが、人と関わりたい今はキーン(Kean)とヴェロニカ(Veronica)がそろって登場したスタートとフィナーレにホロリときました。

大塚:アースカラー中心でしたがやぼったくならないギリギリの絶妙な色合いでした。優しいけれど力強さも感じるスタイルでしたね。東京からはるか遠くのミラノの街でのショーでしたが、人が集うシーンを見ているだけでもなんだか安心します。

18:00(ミラノ時間11:00) 「レゾム」

大塚:さて、ここからが鬼門でございますよ(笑)。門番のごとく立ちはだかる「レゾム(LES HOMMES)」から、早速めちゃキツかったです。夜8時からの「着点(きてん)」の準備もあるし、あした校了の紙面の原稿もあるのに、動画が14分間もあって全く終わらないです。デンッデンデンデンという音楽が止まって暗転し(はー、やっと終わった)と安心したら……デンッデンデンデンって始まるんですよ。これを何回も繰り返すので地獄でした。でも実は、3分強の同じ映像がループしていたということに4回目ぐらいでようやく気づいたんです(笑)。服がよくいえばブレない、悪く言えばいつもと一緒のロックスタイルで引っかかる部分がなく、映像がループしても気づかなかったんです。貴重な10分間を無駄にしました。

村上:アレは何が目的で3分半の動画を何回も繰り返して15分にしちゃったんだろう(笑)。正直、「あー、15分もあるのかぁ。早送りしちゃおっかなぁ」って思ったんです(笑)。3分半とわかってたら、そんなよこしまなコト考えなかったのですが。洋服は、ホントいつもと変わんない。キレイなジャケットとシャツなのに、アクセサリーを合わせるとピンとこない。「工場選びって、大事なんだな」って思います。

18:30(ミラノ時間11:30) 「サントーニ」

村上:「サントーニ(SANTONI)」で、「あぁ、映像でもミラノメンズって、ミラノっぽいな」と思いました。郷土愛、強し!マルケ出身の「サントーニ」は、たぶん全編マルケで撮影していると思うんだけど、それが、地元を愛しているイタリアンブランドっぽい。冷静に考えたら、山の中腹にクロコダイルのコインローファーでたたずむとか、岩肌がゴツゴツした海岸線をゴルフシューズでお散歩とか「なんでやねん!」なんだけど、「地元愛です」と言われると「なるほど〜」とうなってしまう——そんなカンジです。

大塚:僕も同じポイントでツッコんでました。海沿いの岩肌をそんな靴で歩いたら落ちちゃうよ!と。ただ「レゾム」のループ地獄に心がやられていのたで、きれいなロケーションに純粋に癒されました。そして案外、ウンチクだらけの専業ブランドって近寄りがたいところも多いので、こういうムード重視の映像にチャレンジするのは風穴を開けるいいきっかけにもなるかも、とは思いました。

村上:それもしてもミラノメンズは、協会のホームページがめちゃくちゃ見づらいな(泣)。

大塚:本当にそれ思います。カーソルを動かすとページも動いちゃうんで酔いそう(笑)。変わったことをやろうとすると、イタリア系ってまあまあの確率で裏目に出ませんか?

19:00(ミラノ時間12:00) 「MTLスタジオ マッテオ ラマンディーニ」

村上:次の「MTLスタジオ マッテオ ラマンディーニ(MTLSTUDIO MATTEOLAMANDINI)」は、状況がよく理解できないのですが(笑)。男子3人、女子1人で、1台のキャンピングカーに乗ってキャンプっていう意味深なシチュエーション。女の子が海から出てきたら、なぜか草原で摘んだような花束。ナンダコレハ(笑)?洋服は、ワザと垂らしているスレッドが、「ほつれ糸、ついてますよ」って見えてしまう残念なカンジでした。

大塚:僕は、寝起きの設定なのにばっちりサングラス姿だったので飛び上がりました(笑)。デザイナーは、服作りが本職ではないんじゃないですかね。とりあえず穴開けてみましたみたいなニットやストリートカルチャー“風”なモチーフなど、素人っぽさが「んん〜」という感じで。ストーリーは意味不明でもモデルは言われた通り真剣に演技しているから、気の毒ですね。ちなみにデザイナーのインスタグラムのフォロワーが713(7月15日時点)でした。がんばれー。

20:00(ミラノ時間13:00) 「ファビオ クアランタ」

村上:「ファビオ クアランタ(FABIO QUARANTA)」は、映像の明滅と音割れがスゴすぎて疲れたよ。ナゼ、オジサン2人の回に出てきたのよ(笑)?昨日の若手2人なら目も疲れないだろうけれど、40代には厳しいわ……。洋服も、悪い意味でアラブ諸国を刺激しそうな気がするけど、大丈夫ですか?

大塚:ここの動画は「着点」終わりにアーカイブで見ましたが、もう冒頭の10秒だけでイヤな予感しかしませんでした。ここのデザイナーは、確かドレスやテーラードの方が得意なんですよ。明らかに世界観が違うんじゃないかと。「何か変わったことやってやろう」というのが透けて見えたし、さらに服どころか人も途中まで全然出てきません(泣)。ただ基本は意味不明なんですが、我慢して見ていると、隕石が地球に向かってきてるストーリーなんだとなんとなくわかってくるんです。そうすると、結末が気になってくるんですよ(笑)。そしていよいよ衝突!ってときにビッグバンに合わせてルックが超絶エフェクトとともに連発するという最悪の展開でした。

村上:そういえばコレが、「朝日新聞」のホームページと直接つながっているコトを思い出しました。「新聞を読むような世代の方に、この映像と音は大丈夫だろうか?」「新聞を読む社会派なみなさんに、ストールで頭をグルグル巻きしたスタイルは平気だろうか?」と。

大塚:そうなんですよ。僕は公式ページが使いづらいのでまさにその「朝日新聞」の特設サイトから見ていますが、そう考えるとドキドキしますね。

20:30(ミラノ時間13:30) 「APN73」

村上:「APN73」もワカンナイヨ。どうしよう、もはやファッションブランドのムービーなのかどうかもわからない(苦笑)。上海に住んでいる、いろんな人に自分自身についてインタビューした動画で終わっちゃったYO!登場人物の洋服が「APN73」だったのだろうか?最後のTシャツはそうだったみたいだけど、あとは全編白黒だしワカンナイヨ‼︎

大塚:「APN73」は“A PARSONAL NOTE”の頭文字をとったブランド名のようですね。ホームページもまだなく、動画も村上さんと同じく全く意味がわかりませんでした。協会の公式ページで服はかろうじて見えるので雰囲気は何となくつかめますが、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」とか好きなんだろうなあという感想のみ。服は最後のTシャツだけじゃないですかね。正直、今のミラノは若手の発掘がヘタすぎませんか?みんなそのコトにはとっくに気づいているので、有望な若手を探しに来るバイヤーってほとんどいないのではないでしょうか。そういう意味でデジタルはチャンスなのに、これではさらにバイヤーの足がミラノから遠のきますよ(泣)。

21:00(ミラノ時間14:00) 「M1992」

村上:悲哀さえ感じる時間はまだ続きます。先の2つに比べれば知名度は勝っている分、ちょっと期待した「M1992」も、よくわからん!ナルシストとか花恐怖症とか、いろんな強迫観念に苦しむ人を描いて、脳みそをプリントしたシャツとか着せてるけど、共感ポイントはドコ?このムービーを見て、「カッコいい!コレ着てみたい!!」って人、いる?ミラノメンズは、ブランド数をやみくもに増やすのやめたほうがいいね

大塚:動画テーマは“BRAIN WASH”。つまり、洗脳でしたね。普通の人が“ナルシシズム”や“ティックトック(TikTok)中毒”などいろいろなテーマで洗脳されていく設定なんだと理解した瞬間は、アレ?ちょっと面白いんじゃないか?と思ったんです。そんな淡い期待は一瞬で打ち砕かれましたが。モデルにハードルが高い演技をいきなりやらせてはダメですね。日常の延長線上ならいいけれど、モデルはオーディションに受かって喜んでいても「じゃあ君、ティックトック中毒者ね」なんていわれたら「!?」ですもん。何回かショーでも見てますけど、プリント系は早々に諦めて、別のポイントで勝負した方がよさげです。

村上:ちなみにティックトックも、アレじゃフォロワー増えないからね(笑)。クリエイターは、みんなメッチャ考えてやってるから。サラ・コールディさんとか、3万倍くらいスゴいから!

大塚:モデルはティックトックの撮影方法をよくわかってないまま演技してますね(笑)。

21:30(ミラノ時間14:30) 「ユナイテッド スタンダード」

村上:お次の「ユナイテッド スタンダード(UNITED STANDARD)」は、悪い意味で「M1992」に通じるね。打ち込みのBGMを流しながら、三つ編みメガネのお兄さんが、何かに追われてるかのように爆走。洋服は背面だけ映って終了!

大塚:「ユナイテッド スタンダード」はスラムジャム(SLAM JAM)が関わってるので、ほかに比べるとそなりに見られるはずだったのですが、イマイチでした。ただ僕は音楽やテンポ感は好きでしたよ。決定的にダメだったのは、三つ編みメガネのお兄さんのもっさい走り方。疾走感があれば印象も変わるのに、普通に走っちゃってるもんだから全てを失速させています。「ダブレット(DOUBLET)」の井野ベアさんにコミカルな走り方を習った方がいいです。もう疲労で変なポイントにしか目がいかなくなってきました(笑)。それぐらい、服に印象がなかったということです。

村上:次の「スンネイ(SUNNEI)」でそろそろ安心したい。

22:00(ミラノ時間15:00) 「スンネイ」

村上:今日は不作ですね。「スンネイ」、ほかに比べればヨカッタけど、物足りなかった。冒頭1分30秒は、白い世界の彼方にいる5人がちょっとずつ近くだけ。で、残り2分でなぜか1993年のヒット曲「恋のマカレナ」が流れ始めて、フルCGのバーチャルモデル5人がダンス。途中で、洋服が次々変わる動画でした。カラフルなストライプシャツとか、スリットがいっぱい入ったボディコンニットドレスは、色が入ると「スンネイ」らしいストライプでカワイイ。もっとちゃんと見たかったよ(笑)。

大塚:「スンネイ」も三振かツーベースヒットかみたいなブランドなのでドキドキしていましたが、ほかが厳しい分、かろうじてシングルヒットという感じでしょうか。冒頭のCGで(やばい!)と思いましたが、「恋のマカレナ」ぐらいからはちょっと盛り返しました。「スンネイ」はアイテム単品で見るとかわいいし、スリッポン型のシューズやアクセサリーもセンスはあるんですけど、もう一段上に上に行くには引き出しをもうちょっと増やさないと。ストライプだけではそろそろマンネリかもしれません。

23:00(ミラノ時間16:00) 「セルダー」

村上:「セルダー(SERDAR)」は、英語を一生懸命話すデザイナーインタビューでスタート。好感は持てますが、「キーカラーはグリーンとブルー、ミント、ベージュ」と語るシーンさえモノクロで「おいっ!」っと突っ込みたくなりますね(笑)。後半カラーになったら、ミント色のルックは、ホントに全身ミント色だった(笑)。

大塚:あと、めっちゃ踊るんですよね。それこそ夜中に撮影が始まって明け方まで収録してるっぽいんですけど、服がほとんど変わらないんです。かといってストーリーも特になく、危うく寝そうになったので、途中でコンビニに出かけました(笑)。最後もデザイナーを交えて全員で踊って大団円なのですが、疲労感とほのかなヤケクソ感がにじんでるように見えたのは僕のコンディションのせいでしょうか……。頭に巻いたバンダナが世良公則のようでした。

24:30(ミラノ時間17:30) 「ドルチェ&ガッバーナ」

大塚:不毛のミラノ2日目ラストは、1998年以来の公式スケジュール復帰となった「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」です!もう、待ってました(笑)。最後ぐらいちゃんとしたのが見たい。「エトロ」と同じくフィジカルのショーのライブ配信でしたね。時間は日本時間0時30分過ぎ。いつもならばここから20分は普通に待たされるのでヒヤヒヤしましたが、オペラポップトリオのイル・ヴォーロ(Il Volo)が登場してスムーズにショーがスタートしました。それだけでもすでに感激!

村上:イル・ヴォーロが「帰れソレントへ」を歌い始めた瞬間、「あぁ、『ドルチェ&ガッバーナ』だ〜!!」と感動しましたね。「エトロ」同様のリアルなランウエイショー。でも、「エトロ」よりマスク着用率が高かったのは、なんでだろう(笑)?ドメニコ・ドルチェ(Domenico Dolce)とステファノ・ガッバーナ(Stefano Gabbana)は、もうカップルじゃないから2人ともマスク姿でしたね(笑)。

大塚:ここ3シーズンは、それまでのギラギラなストリート路線をリセットするかのように、サルトリアのスーツに原点回帰していましたが、今回から雰囲気がまたガラッと変わりましたね。

村上:キレイなブルーのタイルを敷き詰めたような幾何学模様のプリントで、オーバーサイズのノーカラーシャツや、ハイウエストパンツを彩った夏らしいコレクション。装飾が控えめだったのは、ロックダウンの影響か?それとも、シンプルを追求した結果なのか?とは言え、軽やかなコレクションは直感的に共感できました。スキッパータイプのニットポロから、ざっくりニット、ビキニのマッチョまで、「ドルチェ&ガッバーナ」らしいラインアップでした。

大塚:ガウンとかリゾートっぽいアイテムよりも、ストリートウエアに落とし込んだスタイルの方がリアリティーがあって好きでした。アジア人モデルが主に着ていたルックです。今回フォーマルは多くなかったですけれど、こういう両軸があるのがここの強みですね。フィナーレ後のスピーチが、夏場の全体朝礼なら3人ほど倒れそうなぐらい長かったですが(笑)。

村上:今日のミラノメンズは、映像に凝ろうとしたブランドが玉砕し、シンプルに見せたブランドが際立ったカンジですね。ミラノで、新しく、素晴らしい表現方法が見られるようになるのは、もうちょっと先かな?

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 ミラノ初日は「プラダ」に胸躍り、老舗の無難な動画に困惑

 デジタルでのパリのメンズ・コレクションが終わり、次はミラノのメンズコレクションがスタートしました。7月14日から4日間にわたって、40近いブランドが新作をオンラインで発表します。そこで今回は、主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。入社3年目・美濃島匡「WWDジャパン」記者と、2年目の大澤錬「WWD JAPAN.com」記者の若手コンビが日常業務と並行しながらリポートします。

19:00(パリ時間12:00) 「MSGM」

美濃島匡「WWDジャパン」記者(以下、美濃島):パリに続いて、ミラノ・メンズが開幕しました。ドタバタ対談、まだまだ続きますよ。本日もお付き合いよろしくお願いします。トップバッターの「MSGM」はクリーンなストリートスタイル。ブレないですね。総柄のオープンカラーシャツを羽織り、友人や恋人と楽しい時間を過ごす姿は、明るい未来への想像力を掻き立てられます。ダイバーシティーをごく自然に体現しているのも好印象でした。

大澤錬「WWD JAPAN.com」記者(以下、大澤):本日もよろしくお願いします!ポップな音楽に、友人たちと楽しそうに歩く姿、遊園地、ラブシーンなど、自分の学生時代を見ているかのようで懐かしく思えました。ポップなカラーリングや柄物のシャツ、タイダイ柄のパーカなど、若者に向けたアイテムが総じて多い印象。気持ちが明るくなるような演出になんだか元気をもらいました!

19:30(パリ時間12:30) 「マリアーノ」

美濃島:「マリアーノ(MAGLIANO)」は、子守唄のような優しいBGMに、回転ステージで見せるユニークな服とのギャップが面白かったです。いつも通りの少しイナタいコレクションがよりいっそう際立っていました。個人的にはグリーンのシャツとストライプパンツを着た元気いっぱいなおじいさんがツボ。裏地がペイズリー柄のノーカラージャケットも良さげでした。

大澤:同じくおじいさんがツボでした。他のモデルがキメキメでショットを撮る中、「一人だけコメディアンですか?」と問いたくなるような踊りを披露していましたね(笑)。子守唄のようなBGMは正直眠たくなりました。ドレッドヘアーのモデルが着用していたイエローのシャツにグリーンのプリントが施されたものがタイプでした。

20:00(パリ時間13:00) 「プラン C」

美濃島:「プラン C(PLAN C)」は、強みであるポジティブなカラーリングやパターンにフォーカス。発色のよいグリーンやオレンジ、パキっとしたコントラストが生えるストライプは、ピクニックに行きたくなるようなムードでしたね。360度回転できるのかと思いきや、画角は固定されていて少しがっかり。VR仕様にした方が気になったディテールをチェックできるし、面白かったと思います。映像はシリアスなSF映画のような世界観でしたが、もうちょっと明るいファンタジーに仕上げた方がブランドの良さが伝わるかも。

大澤:正直「プラン C」って、僕の中では特にイラストの印象が強すぎるイメージでした。けれど今回のコレクションを改めて見て、良い意味で裏切られました。洋服のバランス感やシルエット、カラーリングがとても綺麗。特に前身頃が分かれているグリーンのコートとハーフパンツのセットアップは可愛かったです。美濃島さんが言われたように、ブランドの世界観と動画がマッチしていなかったのが正直なところ。

20:30(パリ時間13:30) 「ヴァレクストラ」

美濃島:「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」は、青と赤のアニメーションがテキスタイルに変わるオープニングに期待が高まったが、ブランドの歴史や世界観をアピールするだけの映像でした。「デジタル・ファッション・ショー」と題している以上、きちんとコレクションのフックになるものを準備して欲しいなと。コレクション発表が間に合わなかったり、コレクションとして発表するのをやめるんだったら、スケジュールをスキップした方が業界関係者、一般人共に共感できると思います。

大澤:正直、面白さに欠ける動画を見るのはキツいですよね。これではただのブランドのPR映像。「ヴァレクストラ」ファンからしたらたまらないかもしれませんが、新しい層に響くのかは疑問です。今回のコレクションを通して、老舗ブランドは「印象に残らないムービー」を配信する傾向にありますね。ブランドの歴史を振り返るなら、「バルマン オム(BALMAIN HOMME)」のような豪華な演出が見たかったです。

21:00(パリ時間14:00) 「プラダ」

美濃島:「プラダ(PRADA)」は5つのチャプターにわけてコレクションを披露。スーツ、ワーク、リアルクローズ、スポーツの違いをわかりやすく表現していました。フラワーモチーフのアイテムもありましたが、ナイロンを多用したミニマルなムードは、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)単体のラストコレクションにふさわしかったと思います。彼女が最後に少し登場したのも愛らしかったなあ。

大澤:ミウッチャのこれまでの集大成というべきに相応しいコレクションでしたね。同じく「プラダ」の定番素材であるナイロンタフタを使用したアイテムが印象的。個人的にはチャプター4の映画館で撮影された激しめの音楽と演出がたまらなく好き!

美濃島:9月に発表される予定の21年春夏ウィメンズ・コレクションからは、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が共同クリエイティブ・ディレクターに就任しますが、ラフ好きな大澤さんは今から楽しみなんじゃない?ちなみにチャプター1の映像はラフとも親交が深いベルギー出身のフォトグラファー、ウィリー・ヴァンダーピエール(Willy Vanderperre)が手掛けていましたね。

大澤:本当に楽しみです!「メゾンでラフの姿はもう二度と見ることができないかも」と、カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)のチーフ・クリエイティブ・オフィサーを退任した時に思っていました。ミウッチャとラフの時代の一歩先を行くクリエイションが合わさった時に、どんなハレーションが起こるのか、今からワクワクしています。

22:00(パリ時間15:00) 「アルベルタ フェレッティ」

美濃島:「アルベルタ フェレッティ(ALBERTA FERRETTI)」は合成した街並みをモデルがウオーキング。オレンジやピンク、ブルーを基調としたエネルギッシュなムードです。繊細なプリントを拡大してアピール見せたり、ワンピースは風を吹かせてなびき方を強調したりと、ディテールが把握しやすい演出もよかったです。若干カラオケのPVのようなチープさを感じましたが(笑)。工夫しすぎて分かりづらい映像よりはいいのかもしれません。

大澤:デザイナーのアルベルタ フェレッティは1968年に自身のセレクトショップ「JOLLY SHOP」を18歳という若さでオープン。その後74年に同ブランドを設立しました。やはりセレクトショップを経営していたという経歴から、服のディテールの見せ方に重きを置いたバイヤーやメディアにとって優しい動画構成に(笑)。動画自体はシンプルだが、一番重要なポイントを押さえている点は「さすが歴史あるブランドだな」と感じました。

23:00(パリ時間16:00) 「ヴィヴェッタ」

美濃島:続く「ヴィヴェッタ(VIVETTA)」が個人的にすごく好きでした。光がたっぷり降り注ぐ野原の上で、花柄ワンピースを着た美しいモデルたちが戯れます。これだけで今シーズンのムードを伝えるには十分ですが、薄暗い部屋でゴシックなセーラードレスも合間に登場し、深みをもたせます。優しいナレーションと鳥のさえずりも心地よかった。まあ完全にメンズの服ではないんですけどね(笑) 。

大澤:「ヴィヴェッタ」は09年に誕生した伊発のウィメンズブランドです。冒頭から少女マンガを見ているようでした。女の子らしさを存分にアピールし、今シーズンのテーマがすごくわかりやすく表現されていました。花柄のワンピースやシューズに、職人の手作業による花柄の刺しゅう、周りの花々も含めて花一色でした。

23:30(パリ時間16:30) 「エディスマルセル」

美濃島:「エディスマルセル(EDITHMARCEL)」も面白かったね。“WORKOUT”というタイトルコールにユーロビートが続き、女性インストラクターが文字通り“ワークアウト”を開始。新作を着たモデルたちも見よう見真似でそれを再現します。普通ならシュールな動画だけで終わりますが、服に用いた唇のモチーフや抽象的なイラストなどを差し込むことで、一つのプレゼンとして成立。映像のフックも効いていて、引き込まれました。

大澤:現在日本時間23時30分。明日の仕事への備えも始める中で、この動画は非常にありがたかったです。モデルが真顔でダンスしているのもツボ。思わず、コロナ太りのお腹をシェイプアップしようと僕も参加しようかと思いました(笑)。服のディテールも見えるのでバランスが良かったです!同ブランドがコレクションを本格的にスタートしたのは19年春夏。過去のコレクションを見ても、今回のような抽象的なイラストを中心にクリエイションをしているようです。

24:00(パリ時間17:00) 「モスキーノ」

美濃島:「モスキーノ(MOSCHINO)」はおもちゃ箱のようなコレクションでした。ゲームタイトルみたいなロゴ、三角形を複製して柄に見立てたセットアップ、淡い絵の具のようなトレンチコートなどキャッチーなアイテムが勢ぞろい。大きな積み木の美術も、コレクションの雰囲気にぴったりでした。「これを着てみたい!」と思う人はなかなかいないかもしれませんが、ジェレミースコット(Jeremy Scott)らしい勢いを感じられてうれしかったですね(笑)。

大澤:いつも通り、ジェレミー節全開のコレクションでしたね(笑)。過去にはベロが三重に重ねられた「アディダス(ADIDAS)」とのコラボスニーカーや、愛らしいクマのキャラクター、ポップなカラー使い、スパンコールを前面に使用したボンバージャケットなどを発表してきました。ですが今回のコレクションを見て、「一時代を築いてきた彼も転換期を迎えているのでは?」と、正直思いました。こんな状況だからこそ、「またあなたの力で業界を盛り上げてほしい」と願った日本時間24時(笑)。

1:30(パリ時間18:30) 「フィリップ プレイン」

大澤:本日最後の「フィリップ プレイン(PHILIPP PLEIN)」は、“FASHION IS DEAD”というタイトルのもと、コレクションをスタート。冒頭は過去のコレクションを振り返りながら、これまでの来場者の数を計算。その中で、今年は0人ということをアピールしたほか、昨年8月に経営破綻したバーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)のニュースを流し暗いムードを漂わせていました。後半ではフィリップ プレイン=デザイナー本人が自らモデルとして登場。アップテンポの曲に合わせて、ドクロをモチーフにしたカジュアルなアイテムや、ライダースジャケットに細身のホワイトのスエットパンツを合わせるなど、終始イタリアっぽい装いを披露していました。

美濃島:「このままシリアスな感じで終わるのか?」と思いきや、いつも通り、いやいつも以上にやんちゃなクリエイションをまざまざと見せつけられたね。でも、デザイナーが「俺の夢は誰にも止められない。たとえウイルスだとしても」とコメントして、そのまま自分がモデルになっちゃう感じはすごく勢いがあった。時代の空気に惑わされず、自由にファッションを楽しむ姿勢にエネルギーをもらいました。

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 4日目は「ロエベ」の超絶技術と「カラー」の回転に目が点

 デジタルでのオートクチュール・コレクションが終わり、次はパリのメンズ・コレクションがスタートしました。7月9日から5日間にわたって、70近いブランドが新作をオンラインで発表します。そこで今回は、主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。4日目は海外コレクション取材歴4年目の大塚千践「WWDジャパン」デスクと、海外コレクション初取材の大澤錬「WWD JAPAN.com」記者がリポートします。

7月12日(日)17:00(パリ時間10:00) 「オーラリー」

大澤錬「WWD JAPAN.com」記者(以下、大澤):さあさあ本日もドタバタ日記スタートしていきたいと思います。連日の登場になりますが、若手の“ファッションバカ”の大澤でございます(笑)。大塚さんよろしくお願いします!一発目は「オーラリー(AURALEE)」。冒頭は空や海などの自然の背景からスタートし、1ルック目は海に合わせたライトブルーカラーのコートに、グレーのスラックスで登場。アイテムは比較的使いやすいパープル、ホワイト、ブラック、グレーなどのカラーリングに、ステンカラーコートやセットアップ、シャツなど同ブランドらしいベーシックなものが引き続き多い印象です。後半に登場する自然を使用しての撮影は良かったんですが、中盤のモデルが集合したシーンも合わせたら良かったのに……とは思いました(笑)。「ニューバランス(NEW BALANCE)」のコラボスニーカーもルックで使用していましたね。やはり尺的にはこの動画のような約4分がベストなんですかね?大塚さん、いかがでしょう?

大塚千践「WWDジャパン」デスク(以下、大塚):「さあさあ」ってなんでうちの20代は八百屋みたいな感じなの(笑)。まあ元気がよくていいですけど。映像はちょうどよくて、なんだか服そのものというより、岩井良太デザイナーがこだわり続けている“空気感”とブランドの武器である“素材感”の2つを伝えたいのかなと思った。だから画質もびっくりするぐらい鮮明だったし、モデルの顔の寄りや風景とかも多用してムードを演出したんじゃないかな。集合カットでもモデルの表情にフォーカスしていたよね。「ニューバランス」コラボはおもいっきりアイテム推しだったけど(笑)。

大塚:実は昨日ブランドから連絡があって、今日自宅にエレメントを届けてくれたんですよ。それがさ「デカ!重っ!すごっ!」の3段階で驚くほど豪華で。中原崇志さんがデザインした木製の箱の中に、現代美術作家の玉山拓郎さんのアートピースや、コレクションで使った大量の生地見本、さらに糸やスタッフの写真まで入っていてビックリしたよ。自宅で上手く撮影できないから、急きょ家の外まで持ち出してロケ撮影しましたよ。「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」や「ロエベ(LOEWE)」も事前にエレメントを送ってくれたけれど、遜色ないどころか、それ以上だった。これぐらい本気のキットだったら、映像では世界観を伝えて、キットでそのイメージを手に取って想像させるという新しいコミュニケーションが可能かもっていう期待感を持ちました。ただキットがめちゃくちゃ費用がかかってそうなだけに、海外にも届いているのかが気になった。でも、「オーラリー」らしい素直な表現で僕は好きだったな。

大澤:わ!これはすごい!こういう細かい配慮が素晴らしいですね。僕も手元に欲しかった…。どのくらいの費用でどれだけの人に配っているのかも想像させられます。

7月12日(日)17:30(パリ時間10:30) 「アルトゥール アヴェラーノ」

大澤:次の「アルトゥール アヴェラーノ(ARTHUR AVELLANO)」は、知らないブランドですが、凄くエッチな感じ。洋服のデザインは背景の植物からインスピレーションを得ているのかな?正直、仕事をそっちのけてという訳ではないですけど、服に目が行かない(笑)。ドラマのラブシーンを見ているかのようでした。

大塚:“余白”のある映像表現だった「オーラリー」に対して、「アルトゥール アヴェラーノ」はドロドロ全開。24歳の大澤さんは知らないと思うけど、1990年代の不倫もののドラマのオープニング映像っぽかった(笑)。それに気づいてしまってから、中身が全く入ってこなくなっちゃった(笑)。アンダーウエアが多いのかなと思考がようやく取材モードになった途端にパンツ脱ぎだしたり、しまいには全裸になったり、ブランドを知らない人がこの映像見たら「こっち系か」というイメージが付いちゃうと思うんだけど。もう、笑点見ればよかった。

7月12日(日)18:00(パリ時間11:00) 「ナマチェコ」

大塚:気を取り直しまして、次の「ナマチェコ(NAMACHEKO)」は、アートの感覚を取り入れたブランドらしい映像だったね。モノクロということもあって、ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)の作品を想起させられた。好き嫌いは分かれそうだけど、これも服を主張するというより、ブランド自体の世界観を発信して視聴者とコミュニケーションしたいという意図を感じたな。「ナマチェコ」はそもそも映像からスタートしたブランドで、ムービー用の衣装を作ったらそれがバイヤーの目にとまってファッションブランドになった経緯があるから、こだわりは強そう。

大澤:映像からスタートしたブランドなんですね。それは知らなかったです。早速メモ(笑)。始まりはムービー用の衣装からというのが今っぽくて、ヴァージル・アブローの「パイレックス・ビジョン(PYREX VISION)」を思い出しました。モノクロで、アートを前面に出した「ナマチェコ」らしい映像が個人的に好きでした。モデルを黒人と白人にしているのもモノクロに合わせてなのかな。余談ですが、ロバート・メイプルソープといえば「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」のコレクションを思い出します。今回のパリ・コレクションには登場しないのが残念です(泣)。

7月12日(日)19:00(パリ時間12:00) 「ロエベ」

大塚:「ナマチェコ」のクリエイションにはどこか「ラフ・シモンズ」っぽさも感じるから、大澤さんが好きだと思った(笑)。次は「ロエベ(LOEWE)」です。先日編集部に巨大なキットが届いて盛り上がったんだけど、さらに今日は21年春夏コレクションに関するインタビューや音楽などのカルチャーコンテンツが1日限定で公式サイトやインスタグラムで順次公開するという発表方法。さすがに見逃すわけにはいかないからさ、われわれ泣かせ?ありがたい?発表方法だよ(笑)。サイトで発表された動画はクリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)のインタビューだったね。

大澤:常に画面とニラメッコしておかなければいけませんね(笑)。4ルック目のバスケットは「どうやって着るんだろう?」「モデルが着ているのを見てみたかった」と、思いました。こういうメゾンならではのクリエイションもファッションの醍醐味ですね!インタビュー形式は今回初めて見ましたが、シンプルに豪華なキットを見ながら、ジョナサンのインタビューを聞くというのも良いですね。

大塚:バスケットはクラフト感がさく裂していてすごかったねー!動画だから、巻き戻して本気の二度見した。でも最近のジョナサンのクリエイション、すごく好き。全てにおいてバランスがいいんだよね。難解じゃないけど、簡単でもない感じというか。1日配信コンテンツにミュージシャンのカインドネス(Kindness)呼んじゃう辺りとかさ。服は正直リアルではなくアートに近いのだけど、かといって押し付けがましさもない。ちゃんと着られる作品になっていて、かつ意思も込められている。シンプルとは別軸のタイムレスなコレクションで、職人たちの技術をリスペクトしながら一点一点大切に作っているんだろうなと伝わってきたよ。20-21年秋冬のメンズワンピースもすごかったけど、今回もメンズとかウィメンズみたいな差は、彼の中ではさらになくなりつつあって、ネクストレベルに進んでいる雰囲気をあらためて感じたなあ。バスケットもいいけど(笑)、自分で身につけるならタイダイのトップスかスカートにもなりそうな巨大バッグかな。

大澤:僕も何回も一時停止と巻き戻しの繰り返しをして見入ってしまいました。カインドネスを呼んだんですね、すごい(笑)。新型コロナで業界が大打撃を受ける中、今後の在り方について、いちはやく声明を発表していた姿も尊敬します。動画内でアイテム一点一点を丁寧に説明している辺りは、「洋服に対しての思い入れが強いんだろうな」と、僕も感じました。あの巨大バッグですか!是非ともオーダーして、実物を見せてください(笑)。

7月12日(日)20:00(パリ時間13:00) 「ファセッタズム」

大塚:考えるのが楽しい「ロエベ」に対して、「ファセッタズム(FACETASM)」は単純明快。服もハイブリッドだし、映像もハイブリッド。いろいろなカルチャーがミックスする東京の街を体現するブランドの一つだから、その辺にこだわったんだろうね。服はストリートだけどロケ地はリゾートっぽい場所とか、きれいな映像がゆ〜っくり流れたと思ったらザラついたカットやナマっぽい写真がシャっと駆け抜けていく編集とか。あと全体的にスピード感がめちゃくちゃ速いんだけど、どのブランドもコラボとか推しアイテムはしっかり映すんだなというのが段々わかってきた(笑)。「ファセッタズム」の場合はスニーカー。落合さんの4歳の息子が描いたイラストにもほっこりしました。

大澤:都会のさまざまな場所を捉えた映像で楽しく拝見しました。プールに、ビルの屋上、森林生い茂る道、地下の駐車場。どれも「これ、どこだろう」と考えつつも、名古屋の田舎モンの僕は全然分からず、わかったのは東京タワーのみでした(笑)。アップテンポの曲調も、若手とベテランのモデルを起用しているのも素敵でした。あのイラストは落合さんの息子さんが描いていたんですね!個人的に他にないようなイラストが好きなので、白のデニムのセットアップ欲しいなあと思いながら見ていました。息子さんの絵とは、おったまげ(笑)。4歳にして、センスありすぎでしょ〜。

大塚:おったまげってさ、なんか古くね(笑)?最近の「ファセッタズム」のコレクションからは人への愛情を感じるし、新型コロナの影響で家族と一緒に過ごす時間が多くなって、その辺が視点が表現されているのかもね。

7月12日(日)21:00(パリ時間14:00) 「アレド マルティネス」

大塚:さあ、そんな和やかムードから一転して「アレド マルティネス(ALLED - MARTINEZ)」から面倒臭そうなムービーがきました(笑)。大澤さん、解説をどうぞ!

大澤:突然の振り(笑)。存じ上げないブランドですが、何やら長閑な場所で撮影していますね。ファーストルックは、シースルーのタンクトップにベージュの光沢感のあるパンツで登場。その後は、カジュアルなTシャツにウオッシュ加工のデニムパンツなどを紹介しています。が、突然!冒頭で着ていたタンクトップを脱いだり、パンツを脱いで白のブリーフ(今どき、これ履いている人は恐らくいないでしょう)姿になったり。え、どうしたんですか(笑)?何かのストーリーがあるのかと思うのですが、全く何も分からず。モデルでもこの絵面は結構しんどい。この手の動画は、今回のコレクションで何度も目にしてきましたが本日も登場しましたね。アイテムも普通すぎて尖りもない。これは問題作…(怒)。

大塚:悪い意味でロンドンっぽいよね。ただ、経歴を見たら超王道。デビューは1年前で、18年にはピーター・ドゥ(Peter Do)も優勝した「LVMH グラジュエーツ プライズ(LVMH Graduates Prize)」に選ばれているし、19年からは「ジバンシィ(GIVENCHY)」で働いているというLVMH期待の星みたい。きっとテーラリングが評価されているのかなと思うけど、ヨレヨレの白いブリーフしか印象に残りませんでした。スミマセン。

7月12日(日)22:00(パリ時間15:00) 「カラー」

大澤:えっ!そうなんですね。僕はてっきり、あの白いブリーフで、おじ様ブランドを想像していました(笑)。そんな物語の後は、日本のベテランブランドの「カラー(KOLOR)」です。7分ほどの動画ですが、正直すごく目が回りました。久々に小さい時に乗ったコーヒーカップを思い出しました(笑)。同ブランドらしいドッキングされたジャケットやブルゾン、コートをさらにアップデートしている印象を受けました。そのほか、「コカ・コーラ(COCA-COLA)」のロゴのオマージュで、 “CONCLEAT”とプリントされているTシャツや、さまざまな素材を切り貼りしたスニーカーのハイカットも目につきました。個人的には、レッドのブルゾンにクリアのナイロンをドッキングしたアウターと、光沢感のあるタマムシカラーのセットアップが良きでした!スマホとPCの両方で見たのですが、モデルが横を向いているので画角の部分は少し残念に感じました……。同じ絵面でも、ポップコーンや猫、スーパーボールを使用してのユーモアさを入れているあたりは良かったです。数年前までは、シックなものが多く若者の間で着ている人は少ない印象でしたが、ここ数年、本当に僕ら若者に刺さるクリエイションをしていて、毎回欲しい服がありすぎて困っています(笑)。

大塚:あれ“CONCLEAT”って描いていたんだ!コーヒーカップというより、「ゼロ・グラビティ」の高速回転思い出した(笑)。それにしても阿部潤一デザイナーのクリエイションの振り切り方は最近特にすごいよね。デザイナーズブランドの服ってデザイナー個人を投影するから、「カラー」みたいな一定の固定ファンを抱えていると普通は年齢とともに落ち着きそうなものだけど、阿部さんの場合はむしろギアを上げてぶっ飛ばしているところがかっこいい。感覚はユース感バリバリなのに、技術はめちゃくちゃ高いから、若手は普通に立ち向かっていっても敵わなそう。ブランドを取り巻く人やカルチャーも常に今っぽいよね。グルグル見ながら一番欲しかったのは、背中がニットになったグリーンのジャケット。でも展示会で試着したらほぼ買っちゃうから、本当に気をつけないと半年後にオーダーしすぎて泣くんですよ。

7月12日(日)22:30(パリ時間15:30) 「ヨシオ クボ」

大澤:阿部さん、さすがでございますね!「ご利用は計画的に」ですよ。計画できないから困るんですけど(笑)さあ日本のブランドが続いていくますよ〜次は「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」です。本日初めてのショー形式での発表でしたね。やっぱりショーはいいなあ〜と思いながら約6分の動画に見入ってしまいました。音楽、会場、クリエイションどれも「我らが、日本」。「『ヨシオクボ』ここにあり」。という感じで、統一感やコンセプトが明確に伝わり、とてもかっこよかったです!甚平や首から提げているお守り、足袋ソックス、笠など、国の伝統的なものを落とし込んでいるところから、新型コロナで苦しい状況が続いた中で、「日本の素晴らしさ・伝統を世界の人に改めて伝えよう」という久保さんの強いメッセージを勝手に受け取りました(笑)。

大塚:世界の舞台でショーを行ううちに、海外で戦うためには結局のところオリジナリティーが大事だ、という考えに行き着いて前シーズンから「和」の表現につながっているんだって。「和」をテーマにしたコレクションなんてそれこそ山ほどあるけれど、外国人の表現する押し付けがましいのが「めっちゃ嫌い」とも久保さんは言っていた(笑)。だから今シーズンはそのルーツをさらに掘り下げて、能楽堂を舞台にしてしまう潔さがよかった。柄やプリントを控えめにして、ジャケットの合わせ位置やカッティングでにじませる日本らしさがよかったね。ショールカラーとピークドラペルが合体した和タキシードを展示会で着てみよーっと。

7月12日(日)23:00(パリ時間16:00) 「ヘンリック・ヴィブスコフ」

大塚:「ヘンリック・ヴィブスコフ(HENRIK VIBSKOV)」はいつも奇抜な演出のショーだから、正直、動画だとさらに変なやつがくるんだろうと思っていた(笑)。でも、めっちゃマジメでした。そもそもこの人は本当に知的で「誰も僕に普通のコレクション求めてないでしょ?」ってインタビューしたときに言っていたぐらい自覚している、スマートな性格なんだよね。だから本人がショーの舞台に登場して丁寧に解説をする演出はより共感と理解を深めそうで成功だったんじゃないかと。でもこのマジメモードで終わるのかと思ったら、やっぱりそうじゃなかった(笑)複数の巨大ロッキングチェアを人力で揺らしている浮世離れした状況でも淡々と解説を続けていて、DVD特典の“監督による音声解説”みたいだった。

大澤:同ブランドは、名前を聞いたことがある程度でしたので、冒頭は真面目な方で「ロエベ」のようにインタビュー形式なのかなと思っていました。そしたら、あの巨大ロッキングチェアを人力で動かしているんですよ、本当にびっくりしました。思わずコメディー映画のエンディングシーンかと。あれだけ盛大にセットをそろえての撮影は、今回が初めてかもしれませんね。他ブランドと違い、メイクシーンを映しているのが印象的でした。黒い粉のようなものって何だったんだろう…。あのアップと、人柄からして普通のものではなさそう(笑)。もしかしたら、奇抜な演出のショーをする人ほど真面目なのかもしれませんね。ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)しかり。

7月12日(日)24:00(パリ時間17:00) 「キッドスーパー ストゥディオス」

大塚:SNSで今回のデジタル・ファッション・ウイークを見ている人やファッション業界の人に話を聞いていると、やっぱり「服がちゃんと見えないと意味ないじゃん」っていう意見が圧倒的。その点、ちゃんと服を見せていたヘンリック先生とウォルター先生が好印象なのかも。後者はフィギュアだったけどね。で、全部人形でファッションをやっちゃったのが「キッドスーパー ストゥディオス(KISUPER STUDIOS)」。日曜の深夜に一体何を見ているんだって一瞬くじけそうになったけど、カメラワークが全部本物みたいで、さらに登場するモデルがレジェンドばかりだということに気づいたら段々面白くなってきた。ペレ(Pele)とモハメド・アリ(Muhammad Ali)の服がめちゃめちゃかわいかった。

大澤:これはまた奇抜なのが来ましたね。「キッドスーパー ストゥディオス(KISUPER STUDIOS)」。人形たちの大行進です(笑)。映像から推測して、かなり小さい人形だし、作るのめちゃくちゃ大変そう。とそこばかりが気になりました。最後のルックの花が集合したドレスとか特に。「実際の洋服で作ったらどんなのになっていたんだろう?」と想像が膨らみます。人をテーマにしたコレクションで、女性・男性の顔や、シルエット、パーツがトップス、アウター、パンツの至る所に散りばめられていました。そのほか、生地を切り貼りしたヴィンテージ調のセットアップ、ペインティングパンツなど総じて派手です。日本人が着こなすのは中々難しそうですね(笑)。

大塚:あの……いよいよ深夜帯に突入したので景気付けにコンビニでほろ酔いを買ってきたのですが、お酒弱いことを忘れて1缶でほろ酔いどころかマジ酔いしてしまいまして。「ガムト(GAMUT)」と「ルード(RHUDE)」は、お任してよいですか?「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」までちょっと横になってきます。

7月12日(日)24:30(パリ時間17:30) 「ガムト」

大澤:え、ペレとモハメド・アリいました⁉︎。全然気づかなかったです。世代ではないんですけど……。いや景気付けって、酒に負けていたら逆効果じゃないですか。「ホワイトマウンテニアリング」までと言いつつ、帰ってこない気が(笑)。いえ、大丈夫です。僕が責任を持ってリポートします!それでは気を取り直して「ガムト」行ってみましょう!存じ上げないブランドでしたが、19年春夏コレクションからパリで発表を続ける仏発の気鋭ブランド。公式インスタグラムのフォロワーは約3800人という未知数なブランドだが、独特なメイクと装いで独創的な世界観を表現しています。アイテムは、単体で見ると比較的日常で着やすそうなものが多数存在している印象。冒頭で男性(⁉︎)が女装した姿で、上半身を網タイツに包んだスーツスタイルでおっぱいに見立てた風船(⁉︎)を胸に付けて登場し、さまざまなポージングをお取りになっていました(笑)。でも若手でみなさんが知らないブランドにとって重要なのは、インパクトを残せるかどうかだと思うので、その点は尖っていて良かったです。“ファッションバカ”としては、人と被らないブランドを見つけて「それどこのブランド?」と聞かれるのも好物なので、今後注目していきたいと思います。

7月12日(日)1:00(パリ時間18:00) 「ルード」

大澤:おっと次の「ルード」は少しだけお金持ちになった気分になりました。同ブランドは13年に米・LAで誕生。フィリピン出身のルイージ・マーク・ビラセナー(RHUIGI MARK VILLASENOR)が手掛けるストリートブランドです。一戸建ての家の中や、その周りの広い庭、プール、生い茂る森林での撮影で、細身のスエットパンツやロゴパッチを使用したMA-1、Tシャツなどをいつも通りの提案。今回も変わらずじまいだったのが残念でした。「ルード」好きはいいかもしれないですが、この手のブランドはジェリー・ロレンゾ手掛ける「フィアー オブ ゴッド(FEAR OF GOD)」がチラつきます。ラグジュアリーストリートは今、まさに転換期を迎えていると思うので一捻り欲しかったのが正直なところ。あ、サングラスを推したいのはとても伝わりましたよ(笑)。

7月12日(日)2:00(パリ時間19:00) 「ホワイトマウンテニアリング」

大澤:現在日本時間2時。大塚さん!「ホワイトマウンテニアリング」始まりましたね。同ブランドは今回、メディアアート集団のライゾマティクス(RHIZOMATIKS)の真鍋大度さんによる演出でファッションとテクノロジーを融合して制作しました。漆黒の背景に、冒頭は全身ブラックのスポーティーなスーツスタイルで登場し、足元には夏らしい通気性の良い素足で履けるブラックとグレーのカラーリングのスニーカーを合わせたスタイルでスタート。そのほかは同ブランドらしいアウトドア向けのデザインを中心に、ジャケットやパーカ、スエット、リラックスパンツなどを提案。時折入る真鍋の同じルックを3体に増やし、違う方向から見せる演出などが他との差別化を図りSF映画を見ているようでした(笑)。

大塚:ガチ酔いからギリギリ帰ってきた!あぶねー。深夜2時にアラーム入れたわ。映像はヘッドホンを着けた方がいいよと表示されたからその通りにしたけど、音楽も含め硬派な感じでかっこよかったな。ブランドを知らない人が見ても機能服なんだなというのが伝わったと思うし、宙に散りばめられたパターンが合体してリアルな服になるっていうライゾマティクスらしいテクニカルな映像も相性バッチリだった。これまでを振り返ると、日本人デザイナーのほとんどが、映像の表現こそ違えど服をちゃんと見せようとしているよね。なんだかんだ言って、みんなマジメ。突拍子が無いものは出てこなくて安定感があるし、僕自身も服がしっかり見える映像だと安心する。でも、印象に残った映像は?と聞かれてパッと浮かぶのは海外ブランド。だから破天荒な表現に慣れた海外の人に日本人の硬派な映像がどう伝わってるんだろうと気になってきちゃった。調べよーっと。

7月12日(日)3:00(パリ時間20:00) 「エルメス」

大澤:本日最後でございます。正直、体力的に疲れました(笑)。「エルメス(HERMES)」は先日、一足先に公開されましたが大塚さんいかがでしたか?舞台はパリ北部にある同ブランドのアトリエで撮影され、僕は「これが『エルメス』のアトリエかあ」「こんなカッコ良いオフィスで仕事してみたいなあ」。な〜んて口をポカンと開けながら子どもみたいに視聴しました(笑)。やはりビッグメゾンは違うと感じたのが、高級で薄い生地感。ジャケットやシャツのシルエット、冒頭のライトブルーのストライプのスーツ(特にテーパードパンツのシルエットが綺麗すぎます)など、たまりませんねえ(泣)。凝ったデザインがタイプの僕でも、一度は袖を通してみたいものです……。

大塚:もう3時だよ。明日普通に仕事なんですけど(笑)。「エルメス」は先行して公開されていたから何回も見たけれど、全てにおいて完成度高すぎてまだまだ見れちゃう。これを初公開時は生中継していたって衝撃じゃない?それに24歳の大澤さん世代に「たまらない」と思わせたということは、ブランド的には大成功だったのではないかな。映像を人に見てもらうためには、エンタメ要素のユーモアって必要だなと感じた次第でございました。ちなみに今日イチって何だった?俺は「エルメス」だけど、もう何度も推しているから今日は「カラー」のパンクなグルグルに一票(笑)。

大澤:「カラー」めちゃめちゃ良かったですね〜今からお金の計算をしなきゃ(笑)。僕は「ファセッタズム」に一票。あのイラストを4歳の息子が描いていたという衝撃が頭から離れません!自粛期間で家族との生活が増えたというほっこりさも含めて。本日もお疲れ様でした〜!明日がパリ最終日ですね。どんな映像が届くのか楽しみです。

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 3日目は「ミハラ」「ダブレット」でハッピーに 退廃的ムービーの時代観を考える

 デジタルでのオートクチュール・コレクションが終わり、次はパリのメンズ・コレクションがスタートしました。7月9日から5日間にわたって、70近いブランドが新作をオンラインで発表します。そこで今回は、主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。3日目は海外コレクション取材歴10年以上の村上要「WWD JAPAN.com」編集長と、海外コレクション初取材の大澤錬「WWD JAPAN.com」記者がリポートします。

7月11日(土)17:30(パリ時間10:30) 「ラゾシュミドル」

大澤錬「WWD JAPAN.com」記者(以下、大澤):本日もドタバタ日記スタートしたいと思います。不安ばかりですが、若手の“ファッションバカ”として頑張ります。要さんは、「ダブレット(DOUBLET)」からの参加らしく(笑)。わかりました。若さで頑張りたいと思います!本日のトップバッターは「ラゾシュミドル(LAZOSCHMIDL)」。存じ上げないブランドでしたが、イケメンたちが水着をまとい、プールではしゃいでいるじゃないですか。モデルのPR映像みたいです(笑)尺的には3分と手短かでしたが、初めて見た僕からしたら、ゲイの方に向けた水着ブランドにしか見えなく、調べたらそうでもなさそう。花柄やカラフルな色使いをメインにクリエイションしているのかなと思いつつ、結局、何が伝えたかったのか分からずじまいでした。

7月11日(土)17:30(パリ時間10:30) 「フランチェスコ スマルト」

大澤:次の「フランチェスコ スマルト(FRANCESCO SMALTO)」は、仏・パリ発のスーツブランド。テーラリングといえば英国を思い浮かべますが、そのカッテング技術と縫製を融合したものが同ブランドが打ち出すフランスのテーラリングだそうです。動画では、爽やかな男性と少し強面な男性ダンサーを起用して、宮殿のような場所で撮影。音楽に合わせながらステップを踏み、両モデルがお互いの体を引き寄せ絡め合うシーンは、「ドラマの感動的な1シーンかな?」と思いました(笑)。コレクションに使用した生地は背景に使ったほか、アップで映し出すシーンも。生地に自信を持っているんだなと感じました。パリの象徴、エッフェル塔で締めるのは如何にも。リアルな街並みを映すなど、もう1アクセント欲しかったのが正直なところです。自粛期間が続いた中で、消費者の興味マインドがリラックスアイテムに向かいつつあると言われる中、「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」まで破綻する中、スーツスタイルはどうなるのだろうとも思います。って、そろそろ「ダブレット」始まりますよ〜要さ〜ん(笑)。

7月11日(土)18:30(パリ時間11:30) 「ダブレット」

村上要「WWD JAPAN.com」編集長(以下、村上):失礼しました!今週ちょっと運動不足で、横浜の自宅から自転車で豊洲まで行って、「アシックス(ASICS)」の低酸素ジムで筋トレして、なんて土曜日を過ごしてたら、乗り遅れました。とはいえ、アーカイブで「ラゾシュミドル」も「フランチェスコ スマルト」も見ましたよ。前者は、耽美なゲイの世界でしたね。でも股間にチョウのビキニを筆頭に、どの水着も若干卑猥(笑)。「スマルト」は、僕が思う、「もっともやっちゃいけないムービー」。軽やかな布の動きを表現したいんだろうけど、素肌の上にジャケットを羽織ったダンサーが踊るだけって、何百回も見てきた映像だしリアルじゃない(笑)。「ダブレット」ファンの大澤さんは、とってもハッピーなムービー、どう思いました?デザイナーの井野さんが、主人公のクロシェ編みのクマさんだったことは、始まって30秒でわかったよね(笑)?

大澤:あ、お疲れ様です。お先に配信をビクビクしながらも楽しんでおりました。要さんに来ていただけて、スーパー心強いです!もちろん、わかりました(笑)。デザイナー自身が動画の主人公として出演しちゃうあたり、さすがでございます。井野さんのコミカルな部分が前面に出た動画で、昭和感も健在でしたね。まさに令和の時代も“喜劇王”ですね(笑)。「ダブレット」ファンの僕は、「あ、やべっ、これ欲しい」「この裏返しのクマちゃんニットと、女性モデルが着ているグリーンのシャツと〜」と、消費者気分でも胸を高鳴らせて楽しんでおりました。

村上:僕のオーダーは、「スターバックス(STARBUCKS)」のベテランバリスタを真似たブラックエプロンと、フィナーレで新婦(⁉︎)、新郎(⁉︎)さんが着ていたチュールのフーディ&タンクトップのセット、あとは井野さんが着ていたクロシェ編みのフーディかな(笑)。ムービーは、こんな時だから余計に“ほっこり”しちゃうストーリーでしたね。誕生日でもないのに、みんなにプレゼントを贈るクマが、最後は友達に助けられるホロリとしちゃうストーリー。今の時代感、みんなが共感できる「繋がり」を、ユーモラスなコレクションで表現していたね。「マクドナルド(McDONALD‘S)のフライドポテト風の軍足とか(笑)。「ダブレット」って、ファッション界のTikTokみたい、って思った。大事なことを、小難しく語るんじゃなくて、クスリと笑わせながら教えてくれるカンジ。

大澤:井野さんが着ていたクロシェ編みのフーディとは、さすが要さんですね(笑)。先日、この動画の裏側を取材させていただきましたが、井野さんは「要さんはこれオーダーしてくれるかな〜」と言っていましたよ!僕はこの自粛期間でみなさんがお世話になったであろう、「ウーバーイーツ(UVER EATS)」の配達員さんが持っているバッグをオマージュしたショルダーバッグに一番ウケました。「マクドナルド」は、その「ウーバーイーツ」の代表格ですね。ある意味、最近のトレンドを取り入れています(笑)。ファッション界のTikTok、まさにですね。激しく共感します(笑)。

7月11日(土)19:00(パリ時間12:00) 「ジュン. J」

村上:お次の「ジュン. J(JUNN. J)」は、ちょっと意外なムービーでした。ショーはいつも、爆音クラスの重低音が響くBGMで、モデルは高速ウオーキング。でもムービーは、ゆったりしたペースで、音楽も優しかった。正直コレクションは、いつもどおりボリュームいっぱいのミリタリーやフォーマルで変わらないけれど、「モード全開」としか思えなかったイメージがちょっと変わったかも。「あ、日常に馴染むし、優しいカンジにも着られるかも」ってカンジかな?韓国の風景も良かったね。アイデンティティーをちゃんと伝えようって努力している。

大澤:音楽めちゃくちゃ優しかったですね。正直少し眠くなりました(笑)。僕は動画自体をモノクロで表現しているあたりも、モードを意識しての事なのかなと思いました。リアルな田舎感も詰まっていたほか、商店街で撮影するなど畏まっていない感じが個人的にも良きでした。街中でモデルがウオーキングして撮影するという、“シンプル・イズ・ザ・ベスト”を表現した動画で、日常感とリアルな着やすさが出ていて良かったなと思いました。カラーが一瞬しか見えないな〜とは思いましたが(笑)。

7月11日(土)20:30(パリ時間13:30) 「リーニン」

村上:さて、お次は韓国じゃなくて中国の「リーニン(LI-NING)」。冒頭は90年代、世界で活躍した体操選手のムービーで始まり、「表彰台からランウエイに」というフレーズとともに、2021年春夏コレクションがスタート。「スポーツの次は、ファッションだ!」と気合マンマンです。でも肝心の洋服は、ちょっと食傷気味なラグジュアリー ・ストリートから、未だ脱却できてないかな?一部のモチーフを除くと、案外まだ欧米の価値観で勝負している印象です。そこが、「ザンダー ゾウ(XANDER ZHOU)」には、まだ及ばない。

大澤:冒頭のムービーの体操選手って、創業者の李寧本人ですよね?良くも悪くもスポーツブランドが作る洋服だな、と思ったのが正直なところです。リラックスシルエットやロゴを全面に使ったアイテムなどは、少し時代に乗り遅れている感じが否めませんでした。スポーツブランドとしては歴史がありますが、ファッションの分野ではまだまだかな。

7月11日(土)21:00(パリ時間14:00) 「メゾン ミハラヤスヒロ」

村上:韓国、中国と来たら、やっぱり日本です!「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」で今シーズン初めて、ちゃんとしたランウエイショーを見ました(笑)。でも冒頭のパペットによるファッション・ウイークの雰囲気の再現が可愛かった。プレスはプレス専用の入り口に並んで、リストと照らし合わせて入場とか、ちゃんと実際通りだったし。ランウエイショーはちょっと長いかなぁ〜、とも思うけれど、「ミハラ」好きだし、シンプルな映像だから結構長く見られたね。いつもどおり、三原さんが自由奔放にいろんな洋服を切ったり、貼ったり、割いたりだけど、テーマの「More or Less」通り、てんこ盛りにするか引き算するかの抑揚があってよかった。バンダナ柄の厚底スニーカーは売れそう!そしてちょっと物悲しいフィナーレも印象的でした。「あんなに熱狂してたランウエイショーって、もしかしたら内輪で勝手に盛り上がっていただけなの?」っていうメッセージなのか、それとも、単純にランウエイショーを懐かしんでいるのか?来週ライブ配信番組で、ゲスト出演してくれる三原さんに聞いてみよう(笑)。映像のクレジットロールに、ショップスタッフまで入っていたのは、ちょっと嬉しかった。

大澤:確かにちゃんとしたランウエイショーは初めてですね(笑)。パペットの物語とショーのメリハリがきちんとあって、尺的には長かったけれど、楽しく見れました!リアルなショー会場の流れ、実際のショーでのSNS投稿を忠実に、それをパペットで表現しているのが若者の心もくすぐってくるなあと。僕は批判覚悟で言いますが、このサステナブルを強く打ち出している時代に敢えて、生地を貼ったり切ったり、それをドッキングしているのを見て、ファッションバカとしては、やっぱりこれが“ファッション”だよ!と思いました。それを三原さんが体現してくれた!と勝手に盛り上がっていました(笑)。最後のフィナーレでは、いつものように三原さんが登場して元気づけてくれるのかと思っていたら、すごく物悲しいフィナーレで見ているこっちも寂しい気持ちになりました(音楽も含めて)……(涙)。ショーへの思い入れが強いからこそなのか?やはり観客がいないと寂しいよ〜なのか?是非とも7月17日のライブ配信「着点(きてん)」で本人に聞いてみたいものです。

村上:是非聞いてみましょう。ついでに、フーディにプリーツスカートがドッキングしたワンピースと、バンダナ柄のスニーカーをオーダーします(笑)。

7月11日(土)21:30(パリ時間14:30) 「ダヴィ パリ」

村上:お次の「ダヴィ パリ(DAVI PARIS)」、知らないブランドだったし、映像はめっちゃフレンチで僕は共感しづらいけど、コレクションは好きですよ。暗礁に乗り上げちゃったかもしれない「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMESTER)」が、明るく、今っぽくなったカンジ(笑)。繊細な花のモチーフづかいが、ナイーブな男子像を盛り上げます。映像は、フランス映画の1シーンみたいだったね。「空、、、海、、、愛」みたいな。だいたい僕は、「で⁉︎何⁉︎」ってなっちゃって、スカッとするハリウッド映画とか見ちゃう浅はかなタイプです(笑)。

大澤:想像して膨らませないタイプなんですね。僕は逆に想像してしまう方なんですけれど、この短い動画だと想像も難しいです(笑)。花柄のプリントは繊細で美しかったんですけれど、知らないブランドゆえにインパクトが薄いと記憶に残りづらいですね。クリエイションにしろ動画にしろ、何か目を引くものが欲しかった印象です。

7月11日(土)23:00(パリ時間16:00) 「サルバム」

村上:さぁ、そろそろ「マジでこのまま、リアルタイムにこだわらなきゃダメ?」って時間になってきました。現在23時。「サルバム(SULVAM)」を見たら、「あとは、明日でいいよ〜」なんて言っちゃいそうですが、頑張りましょう。アトリエの目の前という、首都高の下で撮影してるけれど、これは初台あたりですか(笑)?大きくカーブする首都高と直線的なビル、案外多い緑とアスファルト、通過する色とりどりの車。「藤田さんは、こんな風景を見て、本能の赴くままにクリエイションしてるんだぁ」って実感できるムービーでした。色も、素材も、強さも、全部バラバラなコレクション。でも、それが今っぽいと思う。本人の拙い英語も好印象でした。でも、肩の力がどんどん抜けて、気難しさがほとんどなくなってる。半身だけ布がバクハツしてるジャケットルックさえ自然に見えた。個人的には、ピンクのニットベストの色合いと編み目がスキ。

大澤:僕は、近所のコンビニでエナジードリンクを購入してチャージしてきました(笑)。眠気対策です。語り手の藤田さんの慣れていない英語に、僕は正直、親近感が湧きました(笑)。道路の脇で撮影していますが、車を運転している人たちは「何やってるのこの人たち⁉︎」「何で寝転がっているの?」と不自然に思ったでしょうね。想像すると、思わずクスッと笑ってしまいます(笑)。総柄のセットアップや、フォーマルなスーツスタイル、夏っぽい柄の開襟シャツなど、日常着として着やすそうなアイテムが多い印象を受けました。個人的にはシースルーのシャツと、要さんと被りますがピンクのニットベストがタイプでした。要さんとは恐縮ながら、ワードローブが何点か被っているんですよね(笑)。「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」とアディダス(ADIDAS)の“オズウィーゴ(OZWEEGO)”や、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の“TOKIスエット”とか。

村上:大変w。それ、カブると恥ずかしいヤツだから、俺が着てきた次の日に大澤さんは着てきてください(笑)。

大澤:そうですよね、気をつけます(笑)。

7月11日(土)23:30(パリ時間16:30) 「カサブランカ」

村上:「カサブランカ(CASABLANCA)」もいいわぁ。ブランド力、メキメキ上がってるね。トロピカルとテーラード、レトロとコンテンポラリー、エレガントとグルービー、フォーマルとストリート、いつも通りテニスのユニフォームをインスピレーション源にしたスタイルは、着る人次第でいかようにも変化しそう。正直、日本人には難しいアイテム多いけど、プリントシャツは、ティアドロップのサングラスをかけるだけで、「カサブランカ」にしか作り出せない世界に誘ってくれるね。「雨の後の虹」というテーマで、ピュアホワイトのテニススタイルに虹色を加えていくのもスキ。みんな頑張ってロックダウンを乗り越えたから、せめて気持ちくらいは虹色で、グルービーに生きたいよね!そんなメッセージを感じました。

大澤:「カサブランカ」いいですね!昨年、店頭で初めて見て、生地感、デザイン共に良いし、何よりこんなにリアルにプリントって表現できるの?って密かに注目していました。自粛期間が続いて、みんながナイーブになっている中、このバカンス感はたまらんですわあ。気分上がります。あとパール使いも美しいなあと感じました、ネックレスにブレスレット、イヤリング。大振りなパールもいやらしい印象がなく素敵でした。車好きな僕としては、往年の「ポルシェ」のレッドカラーを使っているあたりもセンスあるな〜と服だけでなく車にも見入ってしまいました(笑)。確かに日本人には難しそうな印象を受けますね、アイテム単体だったらいけるのかな?まだまだ国内の取り扱いは少ないけれど、個人的にさらに応援したくなりました。そういえば先日のライブ配信「着点(きてん)」で大塚さんが今後注目のブランド!と挙げていましたね。先輩さすがでございます(笑)。

7月11日(土)24:00(パリ時間17:00) 「アルド マリア カミッロ」

村上:と、テンションが盛り上がったところで、おそらく本日一番の問題作が来たよ(苦笑)。「アルド マリア カミッロ(ALDO MARIA CAMILLO)」。3分のムービーで、出てきたのは1ルック。真っ黒のセットアップ。でも、一回もピントが合わない(泣)。全然わかんない(怒)。世界観がステキならそれでもいいけど、お風呂場にハエがいる部屋で、寝転がるオトコ。。。退廃的にも程がある。新型コロナで1年苦しんだあとの21年春夏、この世界にどっぷり染まりたい人って、ほとんどいないんじゃないかしら?

大澤:これは問題作(笑)。何を伝えたいのかさっぱりですね。暗いし、服見えないし、何が何だか……。現在24時。むしろこの時間に合わせたホラー映画かな?と思いました。ギャー!!とお化けが出てきそうです。いや、出てきた方が印象に残ったかも?動物の鳴き声も不気味で怖い印象を受けました。自然と男とハエに1ルック。。言葉にも詰まります(泣)。尺が短いのが、せめてもの救いでした。

村上:パリはまだ夕方5時だからね(笑)。

7月11日(土)24:30(パリ時間17:30) 「イザベル マラン オム」

村上:「イザベル マラン オム(ISABEL MARANT HOMME)」は、もっと短い1分50秒。会場は、パリ郊外の縦に長〜いビルで、めちゃくちゃ階段があるところ。クネクネ曲がるけど長いランウエイが作れるから、最近はショー会場としても人気です。メンズを立ち上げて間もないブランドにとって、2分弱のムービーは、“知ってもらうきっかけ”としてちょうどいいかもね。得意のエスニックモチーフやボヘミアンは、メンズでも現在。そこにナイロンブルゾンやロゴニットなど、メンズはストリートのムードも色濃いかな?

大澤:とても見やすい印象を受けました。やっぱり尺って大事なのかな?ウィメンズのいいとこ取りをして、良い意味で尖ってない印象を受けました。みんな着れそう。着やすそう。取り入れやすそう。柄物のバケットハットや、ロゴニット、アウトドア色の強いブルゾンなど、最近の消費マインドをくみ取っているのは、さすがベテランブランドだなと感じました。ですがコレクション取材が浅い僕からしたら、アップテンポ過ぎて服のディテールを追うのに精一杯。思わず、一時停止を何回も押してルックをチェックしてしまいました(笑)。

村上:さぁ、オジさんはそろそろ仮眠しようかな(笑)。なぜか今から1時間ちょっと空くんだよね。午前2時の「ゲーエムベーハー(GMBH)」、2時半の「アンドレア クルーズ(ANDREA CREWS)」は、若手記者の登竜門ってコトで(笑)。3時半の「バルマン オム(BALMAIN HOMME)」まで寝ます。オヤスミ〜。

7月11日(土)2:00(パリ時間19:00) 「ゲーエムベーハー」

大澤:わかりました!オヤスミナサイマセ。ここからは若手の僕が頑張りたいと思います!では「ゲーエムベーハー」いってみましょう。冒頭の3分強は語りだけで、画面上はショー待ちの映像。画質がかなり粗い(笑)。敢えてとは分かっていてもこれは先行きが不安です。日本は現在、午前2時。「その声が眠くなるんです、、コレクション発表はまだでしょうか(泣)?」と思っていたら、やっと始まりました。でも案の定、画質が粗すぎ、ディテールが全くもってわかりません……。勘弁してください。スタートはホワイト、ブラック、グレーのスーツスタイルが3ルック。その後はボーダーや色物のTシャツに短パンというカジュアルな装いでまた3ルック。正直、オリジナリティー感もないし、何が良いのか分からない。そしてまた3分強の語りです(笑)。3ルックを提案→3分強の語り。これの繰り返し。いやルックを一気に流すか、語りの一辺倒にするか、どちらかにしてください(怒)。終わってみれば計20分の動画。ルックは計13体。3分で終われる動画なのに、無理矢理引き伸ばした感が満載。見ているこっちは退屈でした。

7月11日(土)2:30(パリ時間19:30) 「アンドレア クルーズ」

大澤:と、要さんに愚痴りたいところでしたが、オヤスミチュウでした。一人で完結しておきます(笑)。続いては「アンドレア クルーズ」。「イザベル マラン オム」の時に、今日一番短いかも。と言っていたらめちゃくちゃ短いのが来ました。53秒。逆にどんなものが見られるんだろうと心を踊らせて再生ボタンを開くと、あらこれまた酷い(泣)。ストリート感満載でユニークなデザインを売りにしているブランドなのに、出てくるのはメッセージが書かれたTシャツのみ。“WE ARE OUR CHOICES(人生は選択の積み重ね)”、“BRIGHTER THE LIGHT,DARKER THE SHADOW(光が当たると、影はますます暗くなる)”、“INTERNAL PEACE(内なる平和)”など全8メッセージを紹介。新型コロナウイルスの影響で、世界が暗い状況にある今を明るくするために!というメッセージ性は伝わるけど、うん、伝わったよ。という感じ(笑)。21年春夏コレクションは、謎に包まれたままです。

7月11日(土)3:30(パリ時間20:30) 「バルマン オム」

大澤:さあ、本日のラストを飾る「バルマン オム」行ってみたいと思います!さすがビッグメゾンというだけあって、冒頭からアーカイブ映像を用いて動画自体が格好良い。仏の若手アーティスト、イセルト(YSEULT)を起用したフェリーでの演出は見事でした。イセルトが歌う自身の曲、Corpsとの相性も抜群で、3分という尺も◎。ただ、正直どれが新作なのかさっぱりでした……。いつもの「バルマン オム」ですけど、要さんどうなんでしょうか(笑)?動画中盤からはデザイナーのオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)が登場し、エンディングではソーシャルディスタンスを気にせず、イセルトと手を繫いで歩く姿を見て、なんだかほっこりしました。これが本来の姿なのかなと、過去の感動的なショーを思い出したラストコレクションでした(泣)。これにてパリコレ3日目終了です!お疲れ様でした〜!まだまだパリコレ続きますが、元気に楽しく頑張っていきたいと思います。

村上:起きました。おはよう(笑)。「バルマン」は、新作じゃなくて、これまでのアーカイブだったね。メゾン75周年を振り返る、と言いつつ、ほとんど今のクリエイティブ・ディレクターのオリヴィエ・ルスタンが主役だったね。彼は、人前に出ることに物怖じせず、むしろスキなんだろうね。TikTokもやってるし(笑)。最後のカメラ目線がバッチリで、「あ、ルスタンは元気だな」って確認できました。お疲れ様でした〜!

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 2日目は「イッセイ」で半泣きし「ドリス」の“エアドラム”に困惑

 デジタルでのオートクチュール・コレクションに続き、パリのメンズ・コレクションがスタートしました。7月9日から5日間にわたって、70近いブランドが新作をオンラインで発表します。そこで今回は、主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。2日目は海外コレクション取材歴4年目の大塚千践「WWDジャパン」デスクと海外コレクション初取材の美濃島匡「WWDジャパン」記者がリポートします。

7月10日(金)17:00(パリ時間10:00) 「システム」

大塚千践「WWDジャパン」デスク(以下、大塚):今日もドタバタ対談スタート。会議が長引き間に合わないかと思いましたが、2日目のトップバッター「システム(SYSTEM)」もギリギリ、リアルタイムでチェックできました。このブランドはSPAなんでしょうかね。ベーシックなウエアをベースに、トレンドのいいとこ取りをしてきたような服が多かったです。なんかインターネット用に作ったCMを3本連続でつなげたような編集に感じましたけど、ある意味賢いのかな。

美濃島:ドタバタ対談2日目始まりましたね。まだまだ慣れないことばかりですが、なんとか付いていきます!「システム」は韓国のブランドみたいですね。クリーンなジャケットやクロップドパンツといった普段着にちょうどよさそうなものから、シアー感のあるシャツなどちょっと気取って着られるものも。首元はゴツめのアクセでバランスをとっていました。映像はホテルや街中の風景を合成し、その中でモデルたちが行動する様子をとらえたものと、スタジオでウオーキングするものを用意していました。飽きずに見られましたが、それぞれ世界観が違いすぎて何が伝えたかったのかイマイチわかりませんでした……。

18:00(パリ時間11:00) 「アーネスト ダブル ベイカー」

大塚:次の「アーネスト ダブル ベイカー(ERNEST W. BAKER)」はまさかのおじいさんのホームビデオつなぎ。ええっ!と思ったけど音楽含めてめちゃくちゃ感動的で、自宅で見てたら泣いてた自信がある。こういうパーソナルなホームビデオにファッションを絡める表現が、いかにもインディーズっぽい試みで僕は好きでした。服も、良くも悪くもインディーズ感という印象です。

美濃島:同ブランドはリード・ベイカー(Redi Baker)とイネス・アモリム(Ines Amorim)のデザイナーデュオが手がけるブランド。ブランド名はリードのおじいさんの名前だそうですよ。悲しい音楽とともに転換するシーンもあり、4分弱見入ってしましました。服の細部はわかりづらかったですが、ノースリーブシャツにネクタイを合わせてピアノを弾く姿が純粋に格好よかったなあ。

18:30(パリ時間11:30) 「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」

大塚:「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」最高!ショーではいつも凝った演出で楽しませてくれるので楽しみにしていたんだけど、期待以上の出来栄えで感動しました。“Meet Your New Self”と題した、普通の人が服によってエネルギーを得て、最終的には分裂までして(笑)外に飛び出して行っちゃうストーリーが3人分。タイダイ柄やパッチワーク柄などのパターンもいつにも増して際立っていて、セットで着たくなったよ。バスケットボールのパートも出て来たけど、元バスケ少年としも興奮したんじゃない(笑)?

美濃島:バスケのハンドリングパフォーマンスもバッチリで、最高にテンション上がっちゃいました(笑)。毎シーズン体の動きにフォーカスしたサーカスのような演出で魅了しますが、映像でもやってくれましたね。最初は暗かったモデルたちの表情がどんどん明るくなっていき、複数のルックがシンクロして踊るフィナーレは圧巻。エンドロールで世界中の「イッセイ」好きたちの日常を流す演出にもほっこりしました。ショーツをはいて軽やかに踊る姿がとても格好良かったので、展示会で絶対にチェックします。

大塚:そう、エンドロールで半泣きですよ。世界中のスタッフなのかな?いろいろな都市でプリーツを着た人たちが楽しそうに普通の日常を送るシーンがさ……(泣)。ああーよかった。クリエイティブディレクターの小林祐介さんが監修しているみたいですね。

19:00(パリ時間12:00) 「クール TM」

美濃島:お次は2019年にスタートしたフランスのブランド「クール TM(COOL TM)」。スタジオ撮影の様子をバックステージ込みで見せる映像なのですが、グリーンバックが異次元のように歪んだり、突如巨大化したモデルを登場させたりと意味不明な演出が多かったですね。何か仕掛けがあったのかな?

大塚:これ、VR仕様だったんだよね。スマホなら動かすだけで360度見渡せるんだけど、パソコンだと全然上手く操作できなくて、真っ黒な画面から動かなくなってめっちゃ焦った(笑)。まあ巻き戻せばいいじゃんという話なんだけど、「頑張ってリアルタイムで見てみました」だから頑張っちゃったよね。なんか今日はバリエーションが豊かだわ。

美濃島:あ、本当だ!スマホで見返してみたらわけわからない演出の周りでモデルたちが踊ったり、機材を撤収していたり、スタンディングオベーションを送ったりしてる!タイトルにもVRだと明記してあるのに、なんたる失態……。服はジャケットスタイルがベースですが、パンキッシュでボヘミアン、そしてちょっぴりダサめ。ガレージロックのBGMと相まって、90年代ティーン映画の衣装のようです。

大塚:え、気づいてなかったの(笑)?仕事感覚で見てる人はパソコンの場合も多そうだから、同じようなケースもありそうだけどね。

19:30(パリ時間12:30) 「ユニフォーム」

大塚:続く「ユニフォーム(UNIFORME)」もなんか意味深でムードあったねえ。服は本当にユニホームみたいな感じで、シンプルなものばかり。だからこそストーリーが際立つんだけど、ちょっと長かったかな。

美濃島:「ユニフォーム」はユーグ・フォシャール(Hugues Fauchard)とレミ・バツ(Remi Bats)が2017年に設立したブランドです。2人とも幼少期から制服が大好きだったようで、ブランド名の通りユニホームのようなコンフォートな服を提案しています。モデルたちが森で綱引きしたり水に入ったりする映像は少しスピリチュアルでしたが、服自体はワイドショーツに半袖シャツをタックイン、左胸には紋章のようなニットが垂れ下がっているなど、ボーイスカウトに着想したリアルクローズが多かった。デザイナー2人が今シーズンのインスピレーションや仕事に対する姿勢を語ったインタビュー音声も加えられていて、ラストの「深く考え込まず、服そのものの良さを感じ取ってほしい。無垢な子供のようにね」というメッセージが沁みました。

大塚:そろそろライブ配信「着点(きてん)」が始まるので、しばらく留守にします。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」で帰ってくるのでよろしくー。

美濃島:今日は「着点」の配信日でしたね、行ってらっしゃい!大塚センパイがいないと少し心細いですが、ここは僕にお任せください。

20:30(パリ時間13:30) 「シーン ソン」

美濃島:ということで、続いての「シーン ソン(SEAN SUEN)」は僕一人でリポートします。上半身裸の男性がもがき苦しむというなかなかハードな絵から始まり、その男性が水面で癒され、最後は感情を爆発させてダンスを披露するというクセのあるムービーでした。背中を紐で留めるトップスやノースリーブシャツ、レザーのホットパンツなどフェミニンなアイテムが目につきましたが、まっすぐなラインが美しいジャケットや首の詰まったディテールなどストイックな要素もありバランスがよかったです。肩周りの縫製をほどいたようなしつらいからは農村的な土臭さも感じ、クリエイションの幅広さを実感。デザイナーのシーン・ソンは中国人で、2012年にブランドを立ち上げ、16年春夏シーズンからパリでコレクションで発表しています。日本での取り扱いはまだ無さそうですが、ぜひ実物を手にとってみたいです。そろそろ「ルイ・ヴィトン」の開始時間だけど、大塚センパイ帰ってくるかな?

21:30(パリ時間14:30) 「ルイ・ヴィトン」

美濃島:さあさあ、お待ちかねの「ルイ・ヴィトン」が始まりました。青い作業着とマスクを身をつけたスタッフが同ブランドの新作をアトリエから持ち出すシーンからスタート。新作をトラックに載せようとしたその瞬間、アニメーションで描かれたモンスターたちが登場!彼(?)らはそのままトラックを運転し、セーヌ川からは船に乗り換え、そのまま新作を着用して一斉に街へと飛び出していきます!その後、思い思いのやり方で遊びを満喫すると、最後はみんなでダンスし、そして夜空には花火が。“楽しいひと時を「ルイ・ヴィトン」とともに”ーーそんなメッセージを受け取りました。

大塚:ちょっと、昭和の紙芝居みたいな呼び込みやめてもらっていいですか(笑)。「着点」の後に会食に行っちゃってますが、店からでもリアルタイムでちゃんと見てるよ!アニメーションからエンドクレジットのフォントまで、かわいいところだらけ。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のポップカルチャー愛が溢れる4分弱だったね。

美濃島:会食中でしたか、失礼しました(笑)。ファッションが不要不急といわれがちな世の中ですが、大判のブロックチェックが目立つセットアップやブルーグリーンのグラデーションが綺麗なシャツなど、キャッチーでパワフルなアイテムが提案されていましたね。斬新な映像も相まって「やっぱりファッションは自由で面白いな」と再確認する内容でした。

大塚:服はほとんど出てこなったけど、コレクションはシーズンレスになっていくみたい。21年春夏でもリサイクル・アップサイクル素材や過去のアーカイブを再利用するなど、サステナブルを盛り込んだ内容になるんだって。かなり大胆な動きだけど、激務で体調を崩してスローダウンを決意したヴァージル自身の生き方とリンクしているから、共感するし応援したい。今回の映像でチラ見せしかしなかったコレクションは東京で8月以降に予定しているランウエイショーで披露されるんでしょう。楽しみすぎる。

22:30(パリ時間15:30) 「アンガス ジャン」

美濃島:さてお次は台湾発の「アンガス ジャン(ANGUS CHIANG)」。2017年に「LVMHプライズ(LVMH Young Fashion Designers Prize)」(LVMHが主催する若手ファッションクリエーターの育成・支援を目的としたファッションコンテスト)のセミファイナルに選出されたデザイナーですね。楽しみだな……ってあれ?スタートしないぞ?……動画準備が間に合わなかったのかな、スキップされたみたいです。手探りのデジタル・ファッション・ウイークっぽいですね。気を取り直して、次に進みましょう。

23:00(パリ時間16:00) 「ウンガロ」

美濃島:時刻は23:00。大塚センパイは会食から帰ってきませんが、どんどん行きますよ。「ウンガロ(UNGARO)」はブランド名をプリントしたレタードTシャツやミリタリージャケットなど、超カジュアルなアイテムでスタート。老舗とは思えない軽さだなと思いきや、モデルたちが音楽スタジオに入って演奏し始めると一変!クラシカルなジャケパンスタイルに切り替わりました。それでもジャケットの中は柄の解禁シャツやクルーネックトップスなどでラフさを保持していましたが、最後は全員タキシードに身を包み、がっつりフォーマルで終了!奇抜な演出はなく、服自体も見慣れたアイテムが多かったですが、みるみるテイストが変わっていく様はとても面白かったです。

23:30(パリ時間16:30) 「アミリ」

美濃島:LA発の「アミリ(AMIRI)」はインタビューベースのドキュメンタリー映像でした。同ブランドはラグジュアリーにLAのテイストを持ち込むため、海をモチーフにしたプリントなどでサーフを、ベルボトム風のシルエットなどでヒッピーカルチャーを落とし込むといったクリエイションが特徴。映像でもその背景が語られています。しかし、コレクションの全貌は全くわからず(笑)。ルックの発表を待ちたいと思います。

24:30(パリ時間17:30) 「ヨウジヤマモト」

美濃島:テッペンを超え、時刻は24:30。そろそろまぶたが重くなってきましたが、「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」は見逃せません。モデルがランウエイを歩く様子をメインとしつつ、所々に商品説明の画像を差し込んだ映像でした。

大塚:会食から戻りましたー!「ヨウジヤマモト」は滑り込みセーフ。美濃島さん、よく頑張ってくれました!でもめちゃくちゃ眠いよ。大丈夫かな。無観客ショーに近い演出で歩いて服のなびき方を見せて、時折静止画を交えて品番と素材の詳細を添える丁寧な動画だったね。音楽は、いつも通り本人の歌声。これ聞くだけで何だかいつものパリのランウエイショーを見ているみたい。動画の尺も含めて、臨場感ありました。モデルとして俳優の東出昌大さんも起用していましたね。

美濃島:大塚センパイ、おかえりなさい!東出さんは過去にもランウエイに登場していましたよね。今回もキマってました。今シーズンは“目”のモチーフが多く、ボタンやプリントなど要所に用いられていました。また、日本語によるメッセージも引き続き多用しており、人類初の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリン(Yurii Gagarin)の名言「地球は青かった」のほか、「攻めるならパンクか数理哲学、寄せるならリベラルアーツ」といった聞いたことはないものの力強いメッセージも。調べたところ、ブログ「千夜千冊」で知られる編集者、松岡正剛さんの言葉みたいです。個人的に親交が深いのかもしれませんね。ちなみにリアルタイムで700人以上が視聴し、チャットも盛り上がっていました(笑)

大塚:熱狂的なファンが多いブランドだから、こういう動画を同じ瞬間に共有できて、かつ反応も見られるのってデジタルしかできない体験だよなあ。「アディダス オリジナルス(ADIDAS ORIGINALS)」とのコラボも狙ってる人多そう。

25:00(パリ時間18:00) 「リック・オウエンス」

美濃島:お次の「リック・オウエンス(RICK OWENS)」はモデルのフィッティングの様子をそのままイメージムービーに採用。リックは言葉少なめなイメージを勝手に持っていましたが、積極的にモデルに話しかけていたのが意外でした(笑)。裏側を見せるという意味では、「エルメス(HERMES)」の提案にも近かったのかな?。パンツは定番のサルエルシルエット。そこに肩を極端に誇張したり、特異なパーツを付けたりしたジャケットをメインに合わせます。ストライプやチェックなどの柄もいくつか採用され、比較的取り入れやすいコレクションだと思いました。しばしばカラー映像に変化する演出をアクセントにしていましたが、淡々と着せるだけの映像で10分超えは正直きつかったです。

大塚:「リック・オウエンス」は勝手にすごいのが来ると想像していたから、淡々としていたのはちょっと驚いたかも。服もディテールこそ激しいのだけれど、ランウエイショーではないだけあっていつもよりはリアルに感じたかな。ただ、好きじゃないと10分見るのがしんどいのはわかる。7月10日の「着点(きてん)」でゲストに来てくれたフィルムディレクターのYUKARIさんが「掴みが大事」だと言っていたけど、同じ感想でした。ちなみにデザイナーがiPhoneでモデルを撮る時の姿勢が、僕が村上要「WWD JAPAN.com」編集長のコーデを撮影するときに似ていてシンパシーを感じました(笑)

26:00(パリ時間19:00) 「ドリス ヴァン ノッテン」

大塚:僕、今日は「ルイ・ヴィトン」と同じぐらい「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」も楽しみにしてたんですよ。もうすでに深夜2時すぎててめちゃくちゃ眠たいけどさ、「ドリス ヴァン ノッテン」のためなら起きてられるって。いよいよ始まったら、モデルも大好きなヨナス・グロール(Jonas Gloer)だし「キタキター!」と思った途端、ヨナスがエアドラムしてて一瞬固まったよね。でもここから何が始まるんだろうなーと思ったらそのまま終わっちゃった(涙)。

美濃島:まさかでしたよねwサイケデリックな映像を投影する演出に「お、格好よさそう!」と胸を高鳴らせたのもつかの間、エアドラムし続けるモデルを見せられ「これはなんだったんだ?」と放心状態になりました(笑)。音楽もパーカッションが不規則に鳴るだけ。爆音のロックやパンクのほうが相性がよかったのではないでしょうか。もちろんルックは1体のみで、イエローのダブルのジャケットにスケスケのインナー、ゴツメのネックレスという上半身の組み合わせしかわかりませんでした……(涙)。

大塚:サイケデリックな背景に映るモチーフとか、かすかに伝わる素材感は確かに「ドリス」っぽかったのだけどね。ヨナスの汗をぬぐう小芝居の方に気を取られました。

美濃島:でも、次は本日の大トリ「ボッター(BOTTER)」ですよ!気分を切り替えて臨みましょう!

27:30(パリ時間20:30) 「ボッター」

美濃島:「ボッター」はレイシズムに屈しない力強いステートメントを表明したあと、コレクションを披露しました。登場モデルはすべて黒人。でも、もっともらしさは感じず、彼らのメッセージとして心に響いたのは、静かで心地よい音楽とあえて素人っぽくした映像のおかげでしょう。

大塚:あぶなー!ギリギリ起きてました。自分たちの肉声で、ステートメントを発信することは本当に素晴らしいこと。ただ映像として見ると、ちょっと長いなと思ってしまったのも事実。コンディションが万全じゃない自分のせいでもあるんだけどさ(笑)。でも世界中の視聴者がいろいろな場所やタイミングで映像を見ることを考えると、別の伝え方もあったのかもなと。

美濃島:服は半袖シャツやタンクトップ軽やかなアイテムには鮮やかな花がプリントされ、生命の強さや未来への希望を感じました。

大塚:得意のDIY感が控えめで大人になったのかなーなんて思ったけれど、ルックで見るとめちゃくちゃありました。美濃島さんの言う通り、映像が心地よい音楽が流れる落ち着いたムードだったから、そういうテンションのルックを選んだのかもね。ただ、全体的にストリート色は大分落ち着いて、ドレスを強化したい意思は感じました。何か心境の変化があったのかな?実はパリにいる彼らに直前取材をしているので、楽しみにしておいてください!

美濃島:同ブランドを手掛けるルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)は19-20年秋冬シーズンから「ニナ リッチ(NINA RICCI)」のアーティスティック・ディレクターも務めているので、その影響もあるかもしれませんね。

大塚:ああーやっと寝られるよ。まだ2日目だけど、実際のコレクション取材よりある意味キツいかも(笑)でも発見も多いから、頑張る!

美濃島:初の「ドタバタ対談」、かなりキツかったですが(笑)、それ以上に楽しかったです!明日からも頑張っていきましょう!

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デジタルメンズコレでドタバタ対談 初日は「ベルルッティ」に感動し若手の“ロケ地カブり”に冷や汗

 デジタルでのオートクチュール・コレクションが終わり、次はパリのメンズ・コレクションがスタートしました。7月9日から5日間にわたって、70近いブランドが新作をオンラインで発表します。そこで今回は、主にメンズを担当している記者が「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。初日は海外コレクション取材歴10年以上のベテランである村上要「WWD JAPAN.com」編集長と、取材歴4年目の大塚千践「WWDジャパン」デスクが日常業務と並行しながらリポートします。

7月9日(木)17:00(パリ時間10:00) 「エチュード」

大塚千践「WWDジャパン」デスク(以下、大塚):村上さーん、トップバッターの「エチュード」始まりますよー。パリメンズでいつも朝一番に始まる同ブランドから、いよいよメンズのデジコレ開幕です。ファッションデザインだけではなく、出版やクリエイティブ関連の仕事など多岐にわたって活動しているトリオのブランド。僕はパリの街でここのロゴTシャツを着ている人を結構見かけるんですよ。今回はそんなパリの街でのゲリラ撮影でしたね村上さん……って、まだ来ない!

村上要「WWD JAPAN.com」編集長(以下、村上):あら〜、いきなり。仕事でリアルには視聴できませんでした〜。コレクションスケジュール同様、スキマなくオンラインMTGを入れてしまったワタシ。この「頑張ってリアルタイムで見てみました」企画に参加していいのでしょうか(笑)?クリエイティブ集団って、リアルなランウエイはワクワクの理由になるけれど、デジタル・ファッション・ウイークではどうなんだろう?やたらアートな動画で、視聴後「今のは、いったい何だったんだ!?」みたいにはなってませんか(笑)?

大塚:僕も校了作業と並行しながら見ていて序盤からバタバタです。僕も実は「今のは、いったい何だったんだ!?」が来るんじゃないかと予想していたのですが、ただ街を歩く数人のモデルをワンカット風に追いかける、「エルメス(HERMES)」にもちょっと通じる、シンプルな動画でしたよ。ただ通行人とか風景とか情報が多すぎて、(パリは誰もマスクしていないんだな)とか余計なことまで気になってしまいました。

村上:「エルメス」はシンプルながら、メッセージは強かったよ。「パンツインもできるのね〜」というシャツジャケットの軽やかさ、それを「袖まくりしたら、予想以上にカジュアル」なスタイリングの妙、特別なレンズを使った透明感、そして音楽で、キーアイテムとタイムレスなアイテムの汎用性、メゾンのムードを上手に伝えてた。あ!とか言ってるうちに、ライブ配信「READ MORE」の時間が。「コモン スウェーデン(CMMN SWDN)」も、「エゴンラボ(EGONLAB.)」も、「ウー ヨン ミ(WOOYOUNGMI)」もリアルで見られないよ!今日はファッション週刊紙「WWDジャパン」の校了日だし(しかも、こんなときに限って連載3本持ってるし)、「頑張ってリアルタイムで見てみました」企画自体を早速見直したいかも(泣)。オーツカさん、まとめて全部、解説ヨロシク!!

17:30(10:30) 「コモン スウェーデン」

大塚:いきなり企画倒れの危機じゃないですか(笑)!ここは僕が死守せねば。お任せください――ということでしばらくは1人で「頑張ってリアルタイムで見てみました」を続けます!「コモン スウェーデン」は2年前から急にカルチャー色が濃くなり、柄もたくさん使ってサイケデリック感を強めていましたが、2021年春夏は以前のようなレトロなカラーリングやクラシックなムードが戻ってきました。個人的にはこちらの路線の方が親近感が湧くし、結果、ブランドらしさがより主張できているので好きです。映像もシンプルに無観客ショーの収録で、3分程度という長さ的にも、服だけを見たい人にはちょうどよいのかも。

18:30(11:30) 「エゴンラボ」

大塚:対して、「エゴンラボ」がすごかった。要素が多すぎる服やCGをバリバリ活用した映像から「何か変わったことしてやろう」という力みを感じました。マグマの中を歩き出したときは、パソコンの前でのけぞっちゃいました(笑)。初見がこの映像だと、どういうブランドなのかはちょっと分かりづらかったです。1982年公開のアメリカのドキュメンタリー映画「コヤニスカッツィ/平衡を失った世界(Koyaanisqatsi)」から着想したコレクションだそうです。

19:00(12:00) 「ウー ヨン ミ」

大塚:「ウー ヨン ミ」も趣向を凝らした演出が印象に残りました。服はリラックスムードのテーラードやミリタリー、デニムなど普遍的なものが中心でいつもとあまり変わりなく、シュールな舞台芸術のような映像が印象的でした。映像は4分ですけど複雑にカットが変わるので、相当時間かけているんだろうなあ。

19:30(12:30) 「ブルー マーブル」

大塚:そして「ブルー マーブル(BLUE MARBLE)」が街中を歩くストリートランウエイで「エチュード」とカブっちゃいました(笑)。もちろん撮り方や、服は「ブルー マーブル」の方がストリート寄りのキャッチーさがあって違うのですけど、ロケーションも似てるなあと思ったら、なんと思いっきり一緒でした!これは両ブランドとも「しまった」と思ってるに違いないし、さすがに気の毒。でも撮影中は長距離の移動も気軽にできない状態だったでしょうし、こういうことも起こるんですね。

村上:さすが、デジタルでそれだけ語れるなんて頼もしい後輩です。あ、今日はご依頼いただいたインスタライブが20時からだ!もうちょっと1人でお願いできますぅ(笑)?

20:00(13:00) 「ジェイ ダブリュー アンダーソン」

村上:あ、でも日本時間20:00スタートの「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」は、事前にIGTVで見てるから語れます(笑)。IGTVでジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が開封しているリリースキットが日本のPR会社から事前に届いたけど、プレスリリースのほか、コレクションで使った生地の見本や全部のルックが同封されていたよね。肝心のルック写真は、1枚に1カットだったり、1枚に4カットだったり、折りたたんだ大きな1枚に1カットだったり、大きさや掲載方法が不規則。「それぞれのペースでコレクションを楽しんでほしいから」というコメントが印象的でした。マッキントッシュ風の生地をパッチワークした、ジョナサンいわく「数十年は着られるコートでありケープ」とか、「僕のおばあちゃんから譲り受けたニットの色替えバージョン」など、ますますタイムレスなアイテムが印象的。「こんな時代だから、長く着られる服を」と語って、「時代を見据えてるなぁ」と思わせてくれました。

大塚:村上さんから返事ないなーと思ってインスタグラムを開いたら、インスタライブに思いっきり出演していてたまげました(笑)。僕も「ジェイ ダブリュー アンダーソン」の配信は事前にキットとともに見ていて(しかも律儀に同封されていたマスクを装着して)、デザイナーのファッションに対する丁寧な姿勢に和んだんです。でも、村上さんがインスタライブ出演中に流れた配信では別の映像が流れたんですよ!しかも30秒!どうやら最新コレクションに絡む写真集のティーザー映像だったようです。丁寧さと尖った部分を併せ持つジョナサンらしさをライブで実感しました。

村上:30秒!なんて潔いんでしょう!「1分を超える動画は、悪」と言い切る動画の世界で高評価を受けそう(笑)!

21:00(14:00) 「ルイ ガブリエル ヌイッチ」

村上:その次の「ルイス ガブリエル ヌイッチ(LOUIS GABRIEL NOUCHI)」は、存じ上げないブランドですが、こういう新興ブランドも公式スケジュールで発表できるのは、デジタルならではかもしれないね。ユーチューブで拝見しましたが、チャンネル登録者数は14人(7月9日現在)……。もうちょっと仲間に協力を依頼してせめて3ケタにはできなかったのでしょうか?ロックダウンの最中に、最新コレクションを着たモデルを1人ずつスタジオに呼んでの朗読だったね。正直、意味はわからなかった(笑)。洋服はパリの若手にありがちな、華のない日常着の印象でした。サテンのシャツ、背中に穴が開いてたけれど、アレはデザインですか?って、オーツカさんに聞いてもわかんないよね(笑)。

大塚:デザインだと信じたいです(笑)。デザイナーはラフ・シモンズでも働いた経験があるみたいです。確かに、ラフのクリエイションが好きそうだなあという点もチラホラありました。ブランドにある程度の知名度がないと、シュールな演出はちょっとしんどいですね。4分とはいえ途中で飽きました。14人はちゃんと見てくれたんでしょうかね。

21:30(14:30) 「Y/プロジェクト」

大塚:同じシュールでも次の「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」は、僕は10分間集中して見てしまいました。3分割の画面で終始生着替えするだけなのですが、いつもショーで(コレどうなってんの?)というスタイルが作られていく過程が見られて、一人で感心してました。万人ウケはしないと思いますけれど(笑)

村上:数日前から順次公開しているプレ・コレクションでも、「Y/プロジェクト」は、「洋服の着方」と題してマルチウエイなコレクションの着こなし方を紹介しているよね。秘密のベールを脱ぎたい時なのかな?にしても、2人がかりじゃないと着られないマルチウェイは、挑戦する人は少なそうだけれど(笑)。

22:00(15:00) 「オテイザ」

村上:次の「オテイザ(OTEYZA)」のムービーは2分30秒。構築的なジャケットに、袴みたいなリラックスパンツの連打で、スタイルは印象に残りました。帽子がジャマな印象があるけれど。「LOVE」で終わるムービーはちょっとクサいけれど、案外最後まで楽しめたな。

大塚:確かに、帽子が非現実的で全体が衣装チックに見えちゃいましたね。スペイン発のブランドのようです。映像のストーリーはよくわからなかったですが、短い尺なのにブランドの世界観は何となくつかめました。

22:30(15:30) 「ボラミー ビジュアー」

大塚:次の「ボラミー ビジュアー(BORAMY VIGUIER)」は今日初めての縦画角の動画で、ユーチューブではなくVimeoでの配信でした。ブランドが選べるそうなのですが、何か違うんですかね?動画の最初はスマホゲームのCMかと思いました(笑)。ゲームでアバターの衣装を選ぶように服がどんどん入れ替わっていくのは面白いんですけど、肝心の服がほとんどわからなかったです(笑)。才能ある若手の一人だと思うので、もうちょっと素直に見せてもよかったんじゃないかなーと。

村上:特に個別アイテムの写真がずーっとクルクル回転してるから、目がチカチカしたよ(笑)。リサイクルカーディガンもあるようで(映像ではよくわかんないw)、パッと見今っぽいから、ちゃんと見たかったね。右下にワイプで手話通訳者が映ってたけれど、何を発信してたんだろう?必要な情報は文字になってたようだけれど……。

大塚:手話にする音声もなかったですし、謎が多いですね……。そして夜10時を過ぎてからの目がチカチカ系はちょっとキツイ。デザイナーはルカ・オッセンドライバー(Lucas Ossendrijver)時代の「ランバン(LANVIN)」出身なので、途中から(ルカ様は今お元気なのだろうか)なんて考えちゃいました。

23:00(16:00) 「ウォルター ヴァン ベイレンドンク」

村上:「ウォルター ヴァン ベイレンドンク(WALTER VAN BEIRENDONCK)」は、さすが良きコレクションだったと思います。いろんなところに鏡をはめ込んだビッグボリュームのアウター、周りの人は嫌がるかもしれないけれど、着てみたい(笑)。「オバケが“ウルサくささやく”ミラーマン」っていうテーマなのかな?オバケ感は、スプレーペイントのカラーグラデーションで表現してましたね。それぞれのルックに名前を与えてパーソナリティーを醸し出してるアイデアも好きです。僕のイチオシは、「THE LEOPARD」です(笑)。マスイユウくんに、全身挑戦してほし!!でも、映像は長いね。特にイントロの「文字だけで1分以上」はダメ!動画クリエイターに言わせると、一番やっちゃいけないヤツです。理由は、みんな離脱しちゃうから。

大塚:僕も、イントロが長い動画は今日だけでもいくつかスキップしそうになりました。今回は「頑張って、リアルタイムで見てみました」なので意地でも全部見ましたけど(笑)。コレクションは全部フィギュアでしたよね?最初はどういうテンションで見ればいいのか戸惑いましたが、じわじわとかわいく見えてきて。僕は全身グリーンのモサモサ「THUNDERMAN」が好きでした。部屋に置いておきたいです。

24:00(17:00) 「ベルルッティ」

大塚:さあ、いよいよ初日のトリを飾る「ベルルッティ(BERLUTI)」です。今回はショーではなく、21年春夏で協業した陶芸家のブライアン・ロシュフォール(Brian Rochefort)との対談でしたね。何だかほっこりしました。

村上:めっちゃ良かった!ムービーの落ち着いた雰囲気も好きだし、コレクションも最高。クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)は、「メゾンに来て2年。最初はブランドのDNAを理解し、自分がやりたいことに挑戦したかったから、コラボレーションをする余地がなかった。でも、今は違う」と話していたけれど、まさにニューチャプター。ブライアンのカラフルな陶磁器を写真に撮ってシルクのシャツにプリントしたり、ニットで柄を再現したり、メゾンならではの染色技術の“パティーヌ”で描いたり――すっごく美しい。デジタルで興味を持ち、「早くリアルで見たい!」とモチベーションをかき立てられました。ブライアンが、「陶器を、伝統工芸ではなくアートのように見せる感覚がスキ」って話してたのも、「ベルルッティ」に通じるよね。クラフツマンシップを次世代に継承しようというクリスの思いと合致してる。とっても良いコラボレーションだなぁと思いました。

大塚:アーティストと協業する事例は最近特にメンズで増えてきましたが、これはとても知的で新鮮でした。メゾンの伝統をちゃんと継承しながら、一歩ずつ前に進んでいる姿勢に感動しました。ブライアンと協業したカラフルなシルクのシャツは早く着てみたいです。あと、ドタバタの最後にクリスの落ち着いたトーンの声を聞いて癒されました(笑)。これもデジタル・ファッション・ウイークならではの展開でしたね。いやーでもリアルで見るのは初日からなかなかキツかった……。明日からは20代の若手も対談に加わるので、彼らにも頑張ってもらいましょう!

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バックステージカメラマンが振り返る2020-21年秋冬ミラノコレのビューティ トレンドをトップアーティストに聞く

 2020-21年秋冬シーズンから少し時間が経ちましたが、コレクションのバックステージについて振り返りたいと思います。今季のミラノ・ファッション・ウイークは、前季に引き続きタイトなスケジュールかつ、新型コロナウイルスの影響により多数のブランドのビューティ取材がNGになったため、いつもよりも少ない数のバックステージの取材となりました。またミラノ滞在中に北イタリアでのコロナが拡大したため、個人的な判断でミラノからパリに帰国後はパリ・ファッション・ウイークの仕事を全てキャンセルしました。そのような理由から今季はミラノのみのバックステージとなりましたが、「ボス(BOSS)」「GCDS」「MSGM」の3ブランドのビューティルックをお届けします!

 また、メイクアップアーティストのダイアン・ケンダル(Diane Kendal)とヘアスタイリストのホリー・スミス(Holli Smith)に話を聞きながら、今季のトレンドのポイントをお伝えします。

 ダイアンは「目元をポイントにしたメイクが多いと感じるわ。60年代風の色使いも多いかな。肌は引き続きナチュラルに作り上げる傾向が強と思う」とコメント。目元にポイントを置いた場合、リップカラーはナチュラルに、逆に「フェンディ(FENDI)」「MSGM」「GCDS」などで見られた、リップがポイントの場合はシンプルなアイメイクでバランスをとっていました。また、ここ最近続いていますが、今季の「ボス」や「ヌメロ ヴェントゥーノ(N21)」のメイクに見られるように、目元をヌーディーカラーのアイシャドウで強調しつつ、しっかりメイクしているのにナチュラルに仕上がっているような、洗練されたメイクが多いように感じます。

 ホリーにトレンドについて聞くと、「今季になってショートにしてるモデルが多い気がする。ナチュラルでエアリーなスタイルのショート。ちょっと90年代風ね」と答えてくれました。今季のヘアスタイルは、プロダクトを大いに使った質感の表現が多いように思いました。これはルックのフォルムに合わせているようにも感じられました。クラシックでウエストを絞ったシルエットのルックには、スプレーやムース、ワックスなどで艶を出し、ウエットな質感はジェルを用いた演出。全体としては、トップとフロントのボリュームを抑えている傾向が強かったように思います。

景山郁:フリーランス・フォトグラファー。2003年からフォトグラファーとしてのキャリアをスタート。07年に渡米、09年より拠点をパリに移す。10年から「WWDジャパン」でパリ、ミラノなどの海外コレクションのバックステージと展示会などの撮影を担当。コレクション以外にもポートレート、旅やカルチャーなどエディトリアル、広告を手掛ける。プライベートでは動物と環境に配慮した生活をモットーにしている

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“近未来の女性”をメイクとヘアで表現 2020-21年秋冬ロンドンのメイクアップリポート

 2月14~18日に開催された2020-21年秋冬シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(LONDON FASHION WEEK)に参加したブランドは、それぞれが打ち出す“都会的な女性”をメイクとヘアで表現していた。ナチュラル一辺倒だった前シーズンとは異なり、ラメを目元や口元に乗せて輝きを与えたメイクが斬新だ。今季バックステージ撮影を行った3ブランドのビューティの傾向を紹介する。

JW ANDERSON
“現実離れした気高く美しい女性”

 デザイナーのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が「ヌーボー・シック(新しいシック)」と表現した今季の「ジェイ ダブリュー アンダーソン」は、テクスチャーとシルエットに焦点を当てたルックが並んだ。そのコレクションに合わせてメイクアップを担当したリンジー・アレキサンダー(Lynsey Alexander)は、「現実離れした気高く美しい女性」を表現したと、同ブランドの公式インスタグラムで説明している。使用したのは「M・A・C」の製品。完璧なベースメイクに力を入れて、セミマットな質感で毛穴もムラも一切ないマネキン肌になるように整えた。アイブロウで眉毛の隙間を埋めてブラッシングを施し、自然体だが力強く主張する太眉を作った。メタリックにきらめくケミカル糸のルックのモデルには、生地のテクスチャーに合わせて大きめのラメを目元にのせて、ドレスに負けない輝きを与えていた。唇本来の色を生かすためか、口元はほとんど色をのせず、プルプルとした質感のリップグロスが光る程度。アンソニー・ターナー(Anthony Turner)によるヘアスタイリングは、「ロレアル(L’OREAL)」のジェルで前髪をしっかりと固めて、ランウエイを力強く歩いても乱れることのないフューチャリスティックなイメージに仕上げた。

TOGA
“都会をサバイバルする強い女性”

 「トーガ」のメイクをリードした伊藤貞文「NARS」グローバルアーティストリーディレクターは、「ダウンやパッファーなどアウトドアウエアの要素を含んだルックに合わせて、都会をサバイバルする強くクリーンでモダンな女性」だとイメージを説明した。スキンケアで素肌を整えた後、下地やハイライトとして使える「ティンテッドグロウブースター」をファンデーションとして使用し、肌に自然なパールのツヤと明るさを与えた。コンシーラーで部分的にカバーするだけで、ベースメイクは極めてナチュラル。「ブローパーフェクター」で眉毛を自然に整え、カラーメイクはほとんど加えていない。「トーガ」が描く“女性の強さ”を表現するため、7人のモデルの目元に黒色のアイシャドウでペイントのようなメイクを施した。ヘアはロンドンを拠点に活動する、エージェント「ストリーターズ(Streeters)」所属の高橋詩織が担当。まるでくせ毛のような自然体なウェーブは、髪を巻くのではなく、毛束をコテの表面に当ててゆるいウエーブを少しずつ作る手法だ。毛先に向かってストレートになるビーチウエーブ風で、ランウエイではふわふわと軽やかになびいていたのが印象的だった。

CHRISTOPHER KANE
“都会的な近未来の女性像”

 エデンの園で繰り広げられる男性、女性、自然の三角関係を主軸に、性と自然をテーマにした「クリストファー ケイン」のコレクション。レースを使ったセクシュアルなルックが登場したが、ルーシア・ピエローニ(Lucia Pieroni)によるメイクは剥き出しの欲望ではなく、内側からにじみ出る色気を感じさせる仕上がりだ。「M・A・C」のファンデーションとコンシーラーで薄づきのナチュラルな肌はセミマットな質感に整えて、パウダーでハイライトを足していく。眉毛は下から上へと少し立ち上げるように流しながらアーチを描いた。ポイントとなったのは、目元と口元にのせた七色の大粒なラメ。ツヤツヤとした質感のベースやリップの上できらめく輝きは、PVCのカラーパーツを使ったアクセサリーやルックのディテールとリンクする。ヘアはグイド・パラオ(Guido Palau)がリードした。前髪のあるモデルは前に垂らして、その他はセンターパーツに分けて、「レッドケン(Redken)」の製品でツヤを与えながらしっかり固めていた。全体的に「クリストファー ケイン」らしい都会的でフューチャリスティックな女性像が浮かび上がった。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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パリコレ取材班が選ぶ私的ベストショーBGM 「スポティファイ」プレイリストも

 「WWDジャパン」3月16日号は、2020-21年秋冬のパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)特集です。特集内ではパリコレで見られた2大メッセージやムードを打ち出したブランドのコレクションを紹介しているほか、日本から現地に出向いた編集長やバイヤー、スタイリスト10人に聞く気になるトレンドなど、1冊で今季のパリコレが分かる内容となっています。

 紙面ではファッションについてとことん触れましたが、ここでは、書ききれなかったショーのBGMを紹介。パリコレ取材班が、それぞれよかったと思うBGMを鼎談形式で語ります。この記事に登場した曲は、「WWDジャパン」の公式「スポティファイ(Spotify)」アカウントでプレイリストとしてまとめています。プレイリストを聴きながら記事をお楽しみください(プレイリストに収録した曲名は太字で表記しています)。

【鼎談参加者】
向千鶴 編集長:2004年からミラノとパリを中心にコレクションを取材しているベテラン。 ポジフィルムでの撮影も経験している49歳
ヨーロッパ通信員 藪野淳:コレクション取材7年目の33歳。普段はベルリンに住みながら、ヨーロッパのファッションネタ全般を取材している
ソーシャルエディター 丸山瑠璃:パリコレ取材2回目の24歳。SNS運用を普段から担当しており、SNSを駆使した情報収集力は編集部内でもピカイチ

藪野淳(以下、藪野):「WWDジャパン」の公式「スポティファイ」アカウントができたんだね。

丸山瑠璃(以下、丸山):そうなんです、ほかにもさまざまなアーティストがブランドに捧げたトリビュートソングをまとめたプレイリストやおうち時間用のプレイリストもあるので、是非フォローを(笑)。さて、みなさん今季のパリコレのショーBGMはどこがよかったですか?

向千鶴(以下、向):「トム ブラウン(THOM BROWNE)」のBGMがすごくポジティブで、今季のキーワードである“ラブ”を象徴していたよね。サミー・デイヴィスJr. (Sammy Davis Jr.)の「Beautiful Things」やニナ・シモーン(Nina Simone)の「Here Come the Sun」、そしてフィナーレはビートルズ(The Beatles)バージョンの「Here Comes the Sun」ととてもロマンチックだった。前回の「ディオール(DIOR)」もフィナーレがビートルズの「Across the Universe」で、苦難屈強の中で戦って勝ち取る平和の象徴としてビートルズの曲が使われることが増えているのかも。

藪野:ロマンチックさでいうと、「ニナ リッチ(NINA RICCI)」もよかったですね。ママズス&パパス(MAMAS&PAPAS)の「California Dreamin’g(夢のカリフォルニア)」をディナイアル(Denial)がカバーした曲など名曲のカバーが多かったですが、どれもブランドのふわっとしたシルエットや布のドレーピングに呼応するかのよう。夢の中にいるような浮遊感が印象的でした。

向:「ミュウミュウ(MIU MIU)」もデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「Lady Grinning Soul」やルー・リード(Lou Reed)の「Berlin」など、みんなに愛されるようなメジャーな曲を使っていたね。服も1970年代らしいドレスが多かった。

丸山:「WWDビューティ」3月26日号の表紙にもなっていますが、ヘアもフィンガーウェーブでクラシックなムードがマッチしていましたね。「ディオール(DIOR)」も70年代でしたよね。

向:今回の「ディオール」のフィナーレはミーナ(Mina)の「Se telefonando」。コレクションはマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)の昔の日記が着想源になったそうだけど、この曲は66年の曲で、マリア・グラツィアが青春時代を過ごした70年代とマッチしているよね。

藪野:デザイナーの青春時代の曲といえば、「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME DES GARCONS)」は説明不要なくらいブロンディ(Blondie)でしたね。ショーの冒頭は無音の演出でしたが、その後は「Heart Of Glass」や「Call Me」などブロンディのヒットナンバーが続きました。ヘアメイクのブロンドヘアと赤リップもまさにボーカルのデボラ・ハリー(Deborah Harry)で、アクセサリー感覚でつけるハーネスなど、服もロックなイメージ。ブロンディということは70年代末〜80年代初めですが、まさに渡辺淳弥さんが若い頃に聴いていた曲なのでしょうね。

そして、僕のベストは、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)。実は全部通して聴いたのは初めてかもというくらいちゃんと聴いたことがなかったのですが、気になるダークな雰囲気の曲をシャザムでチェックすると大体出てくるのはビリーの曲。「ヴァレンティノ」は弦楽器の生演奏とビリーの「all the good girls go to hell」などの音源を融合させていてすごくエモーショナルでした。

向:私は「スポティファイ」の「19年によく聴いた曲」プレイリストにビリーが出てくるくらい聴いているのだけど、ビリーの曲は大音量でみんな聴くよりもイヤホンをつけて1人で聴くのが似合うよね。でも「ヴァレンティノ」が弦楽器を加える間に管弦楽を挟ませることにより、みんなで聴く音楽にしてしまったのは素晴らしいと思った。

丸山:ビリーは兄のフィネアス(Finneas)とベッドルームで音楽を作るところからキャリアをスタートしているから、1人で聴くのが似合うのでしょうね。フェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)による新生「ケンゾー(KENZO)」も「Bad Guy」をリミックスして使っていましたが、ブランドの鍵でもあるユース感を今取り入れるなら、ビリーがぴったりなのだなと思いました。今季のダークなムードにも通じていますが、ビリーも今の若者もとても現実的ですよね。アメリカでも広がる新型コロナウイルスの感染について、自身のインスタグラムで若者に外出しないように呼びかけていたのには心打たれました。

向:それでいうと、以前ビリーがコンサートでタンクトップで登場したのも良かったよね。彼女は普段体型を隠すようなぶかぶかな服を着ているけれど、肌露出ガールがビリーのファンから批判を受けているのを知り、「好きな格好をすればいい」と反論するためにタンクトップで登場したと聴きます。その姿勢に本当に頭が上がらない。

藪野:なるほど。ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)も、今シーズンについて「私たちは皆人間で、私はどんなカテゴリーやジェンダーも、サイズも気にしない。自分の好きなものを着ればいい」と米「WWD」で話していました。ビリーの姿勢と重なる部分がありますね。

それから「ジバンシィ(GIVENCHY)」も暗い曲を使っていましたね。マックス・リヒター(Max Richter)の「3つの世界:ウルフ・ワークス(ヴァージニア・ウルフ作品集)より」からの曲でしたが、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)の「ジバンシィ」は「クロエ(CHLOE)」時代から転じて、暗くエレガントだけど強い女性像。今季全体的にダークなムードでしたが、ファッション・ウイーク終盤の「ジバンシィ」で確信しました。

丸山:そのダークなムードで言うと、忘れてはいけないのが「バレンシアガ(BALENCIAGA)」。世界各地で起きている火災や洪水を連想させるような映像を天井に映した演出が印象的でしたが、BGMを手掛けたのは16年からデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)とタッグを組んでいる若きコンポーザー、BFRND。彼はトラックリストを公開しているのですが、オープニングの「Genesis」は角笛のような音が終末の訪れを警告しているようでしたし、途中の水に飲み込まれるような映像のときに流れた曲は「H2O」。空撮の連続映像から地球の映像に切り替わったときの曲は「New World」と、演出にぴったり。

向:ショーのBGMを手掛ける音楽家は普通、ショーの何日か前にイメージだけを伝えられることも少なくない中、BFRNDはコレクションの製作過程から何度もイメージのすり合わせ、一緒にショーを練り上げるそう。まさに“デムナトライブ”のひとりなのでしょうね。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」もダークなコレクションでしたが、BGMはミッチェル・ガービック(Michelle Gurevich)の「Party Girl」。パーティーガールというのに暗い曲なのですが、キャピキャピした感じではなく夜の社交場に行くような危うさがありますよね。

丸山:ダークなムードは、新型コロナウイルスの拡大でよりいっそう際立ちましたよね。香港拠点の「アナイス ジョルダン(ANAIS JOURDEN)」は渡航制限の影響で見せるはずのコレクションが全てそろわなかった状態だったのですが、届かなかった分は急きょアニメーターにパターンを見せてヴァーチャルモデルがコレクションを着て歩く映像を制作し、会場のスクリーンに映し出しました。BGMはウォークス(VOX)が生演奏でフランク・オーシャン(Frank Ocean)の「Swim Good」をカバーしたのですが、電子的な歌声が映像にマッチしていました。

前回に続き終末後の世界を描いた「マリーン セル(MARINE SERRE)」もダークでしたね。BGMは、コレクションの着想源になったフランク・ハーバート(Frank Herbert)による小説「デューン/砂の惑星」の一説の朗読。曲ではないのでプレイリストには入れられませんが、その中には「月が友人となり、太陽は敵になる(The moons will be your friends, the suns your enemy)」という一説もあり、「トム ブラウン」の「Here Comes the Sun」とは真逆ですね。

藪野:夢の中にいるような浮遊感とダークなムードがコレクション同様、今季のショー音楽の2大要素といってもいいかもしれませんね。ほかはどこのBGMがよかったですか?

向:「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、ウッドキッド(Woodkid)とブライス・デスナー(Bryce Dessner)が作曲した新解釈のクラシック音楽。国と年代を超えた民族衣装を着た200人の合唱団とのセッションで、歌でもあるけど刹那なアートパフォーマンスでもあり、2重にも3重にもメッセージがある。

藪野:「ルイ・ヴィトン」は前回もトランスジェンダーのアーティスト、ソフィー(Sophie)が歌う映像を背景に映し出していましたが、時代を汲み取りドラマチックな演出に生かしていますね。丸山さんは何がよかった?

丸山:「サンローラン(SAINT LAURENT)」が、モデルのウオーキングに合わせて動くスポットライトの演出はもちろん、演出とマッチした音楽もかっこよかったですね。かっこいい以上の音楽のボキャブラリーがなくて申し訳ないですが、16年からタッグを組んでいるフランス出身のDJでプロデューサーのセバスチャン(SebastiAn)が今回も手掛けています。セバスチャンが「サンローラン」のショーBGMやキャンペーンの音楽を手がける一方で、彼の新曲「Sober」のMVは「サンローラン」がプロデュースしていたりとお互いにサポートし合っている関係。アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が37歳でセバスチャンが39歳なので、同世代でフランスのカルチャーを盛り上げている存在なのかもしれません。

向:「サンローラン」は昔からカルチャー、特にサブカルチャーを育てていこうという姿勢があるよね。「サンローラン」はリアルクローズを売るアパレルメーカーではなくスタイルメーカー、スタイルを作るブランドだから、とにかくかっこよくないとだめ。70年代の「サンローラン」がエッジーだったように、今のエッジーさを追求するとクラシックなどではなくセバスチャンのようなエレクトロになるのかもしれないね。スタイルを作るといえばエディ・スリマン(Hedi Slimane)の「セリーヌ(CELINE)」もそうだけど、音楽とつながりの深いエディの選曲はどう思った?

丸山:BGMはソフィア・ボルト(Sofia Bolt)の「Get Out of my Head」。70年代の曲かと思ったら、なんと18年リリースなんですね。パリ出身でロサンゼルスを拠点にするインディーロックミュージシャンで、彼女が家のガレージで行ったイベントに「セリーヌ」のチームメンバーが来て、エディに紹介したのだとか。ショーのわずか3週間前に連絡が来て、2分30秒の曲を22分に伸ばしたそうです。当日会場にも若いミュージシャンの姿が多かったですよね。彼らに話を聞けばエディやチームのメンバーがバンドの“ギグ”に来たそうで。

藪野:「ディオール オム」時代からそうだけど、エディはショーやキャンペーンのモデルにも若手ミュージシャンを起用しているしね。

向:エディが選ぶインディーズの曲って同じフレーズと音を繰り返すものが多いよね。ずっと聴いていると呪術的というか、洗脳されやすくなる気がする(笑)。ずっと同じものを繰り返して染めていくみたいなところは、エディのクリエイションにもあるよね。「セリーヌ」はショーを通じて1曲だけを使っていたけれど、ルックごとに曲が変わった「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」はどう思った?

藪野:曲と曲をシームレスにつなげるわけでもなく、ルックが変わるタイミングでブツリと切って次の曲に切り替わるのは斬新でしたね。曲自体も「シャザム」の再生回数が1000回以下のものが多数。ジャンルもクラシックやポップスなどさまざまで、中には効果音のようなももありました。

向:ブツリと切れるBGM同様コレクションも、綺麗に仕立てるわけでもなく乱暴に形を作ってさまざまなパーツを積み上げるような手法。実はこれは植物など必然性のある形からインスパイアされていたそうだけど。これがリアルクローズになると、身ごろを違う素材にブツリと切り替えたような服になっているのが面白かった。

藪野:やはりコレクションと音楽の関係性は深いですね。

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楽園か失楽園か? 「クリストファー ケイン」が描く三角関係の世界

 2月にロンドンで披露された「クリストファー ケイン(CHRISTOPHER KANE)」2020-21年秋冬コレクションのバックステージで、デザイナーのクリストファー・ケインは「なぜだか分からないんだけど、今季は“三角形”が要になった」と笑いながら説明していた。性や自然界をテーマに置く同ブランドは今季、男・女・自然の三角関係を図形で表現した。三角形の幾何学模様のコートがファーストルックを飾り、三角ブラのスリップドレスやショルダー部分を三角形にカットしたニット、三角形のポケットを施したコートやAラインドレスなど、各ルックに三角形を見つけることができる。艶やかなサテン地は肌を覆っていても色気を醸し出し、黒のレースやPVCの透き通る生地は露出度高めだが、全体的に下品さは感じない。

キリスト教の思想とリンクする三角形のアイデア

 ケインは着想源について「生意気でセクシーな三角ビキニや下着を見かけたところから始まった。三角形は自然界において最も強力な形状であり、“神の目”という意味もある」と語る。三角形はキリスト教絵画において、三位一体を表す一つのシンボルである。ケインは宗教的な内容については言及しないが、BGMで「エデンの園(The Garden of Eden)」のフレーズが繰り返し流れ、プレスリリースにアダムとイブの名称が出てきたことから、三角形はキリスト教の思想とリンクしていると考えられる。

 ショー後の囲み取材で、ジャーナリストのティム・ブランクス(Tim Blanks)は熱心に彼の言葉を引き出そうと宗教的な話を進めていた。深入りできるほどキリスト教に馴染み深くない筆者だが、“原罪”がコレクションの背景にあるのではないかと解釈した。“原罪”とは、キリスト教において、アダムとイブが神の教えに背いて禁断の果実を食べてしまったという人類最初の罪。欲望に負けた結果、禁断の果実の一口と引き換えにエデンの園を追放されるが、それは人間が自我を持ち、考え、選択し、行動する自由を手にしたことを表す。

女性が自分自身に誇りを持てる衣服

 男と女と欲望の三点が結ばれる三角形は、ケインにとって人類の根源的な欲求を示すモチーフであると同時に、コレクションでは女性の強さの象徴として示されていたように思う。女性性を打ち出すといっても、男性を誘惑するような性ではなく、女性であることを気負わずに自分自身に誇りを持てる衣服のように。モデルは必要以上の厚化粧をせず、少し不機嫌そうな顔で力強く長いランウエイを歩いていたのが印象的だった。

 ケリング(KERING)から独立した後のケインは明らかに自信をつけ、独自の世界観を表現できている。アダムとイブが楽園を追放された後のように、ケインは自我を持ち、考え、創造しているのだ。ショーの最後は、女性の官能的な声で「夢こそ地球上で最後の楽園(Dreams are the last paradise on earth)」というフレーズが流れた。ブランドの行く末が楽園か失楽園かを決めるのは、彼の夢にどれくらいのエンドユーザーが追随するかにかかっている。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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不安定な時代に光と安らぎを 女性の身も心も優しく包み込む「トーガ」の衣服

 古田泰子による「トーガ(TOGA)」は2月に開催されたロンドン・ファッション・ウィークで、2020年-21年秋冬コレクションを発表した。会場として選んだのは、かつてビール醸造所だった施設オールド・トルーマン・ブルーワリー(The Old Truman Brewery)内にある倉庫のような広々とした空間。筆者がバックステージに到着したショー開始1時間前にはリハーサルもすでに終えていた。メイクアップとヘアスタイリングを済ませたモデルたちは楽しそうに踊っており、時間にも心にも余裕のある和やかな雰囲気だった。メイクを手掛けた伊藤貞文「NARS」グローバルアーティストリーディレクターは、最後のリタッチを加えている。ヘアを担当した高橋詩織はコーンロウのヘアスタイルに時間がかかっていたようで、本番ギリギリまでほぼ付きっきりであった。そこに古田デザイナーの姿は見当たらない。彼女はランウエイで、最終的な会場内の調整を行っていたようだ。

 来場者が入場し、バックステージでモデルが並び始めたころに古田デザイナーの姿をようやく確認できた。全てのルックを360度確認して、リボンを結び直したり、バッグやベルトの位置を調整したりして、モデル一人一人に声をかけながら、ランウエイへと送り出した。

不確実性が渦巻く時代に
“守ること”について考えた

 ショーはアンディ・ストット(Andy Stott)の楽曲「ボールルーム(Ballroom)」でスタートした。激しいドラムの音とエレクトロニックなBGMが流れる中、量感のあるルックが続く。風をはらんでパラシュートのように膨らむ袖、ふかふかのダウン、思わず触れたくなるフェザーやフェイクファー——「トーガ」らしいマスキュリンな強さはシャツやパンツスーツのルックで表現されているが、どこか慈しむような温かさの方が強く感じられた。艶やかなPVCは軽快に優しく揺れて、カットアウトされたニットドレスでさえも柔らかく体を包み込んでいるように見えた。ビッグサイズのパッファーのバッグや、ふわふわのフェザーが装飾されたサンダルなど、ディテールには無邪気な遊び心を加えて見る者の心をくすぐる。

 今季のテーマは“光・保護・不安定(Light Protection Instability)”の3語。「不確実性が渦巻く不安定な時代に、守ることについて考えを巡らせた。実存の疑いを表しているようなフランシス・ベーコン(Francis Bacon)の絵を見て、希望と安らぎで世界が満たされることを願った」とコレクションノートに古田デザイナーの言葉がつづられていた。

時代の空気を読み解き、
女性の心に寄り添う優れた洞察力

 イギリスが欧州連合(EU)離脱のための移行期間へと入り、王子夫妻による前代未聞の英国王室の離脱騒動に揺れ、さらには新型コロナウイルスの不安が世界中に広がり人種差別の風評被害へと発展する昨今。自分に不幸がいつ降りかかるかも分からないし、この世に“絶対”なものや“完璧な安らぎ”がないと否が応にも思い知られされる。しかしこんな時代でも幸いなことに、私たちには「トーガ」がある。時代の空気を読み解き、女性の心に寄り添う洞察力に優れた古田デザイナーが、時には背中を押し、時には一緒に闘い、時には私たちを優しく包み込んでくれるのだから。こんな時代だからこそ、希望を謳うブランドはより一層輝いて見える。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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「ジェイ ダブリュー アンダーソン」が示す新時代の女性像 アートのような“ヌーボー・シック”

 2月にロンドンで披露された「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」2020-21年秋冬コレクションのバックステージで、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は「新しい部屋の入り口に立たされたとき、どのような姿で足を踏み入れるべきか?美しく登場するために何が必要かを考えた」と話し始めた。2020年代という新時代の幕開けを前に、一度立ち止まって過去を振り返ったようだ。アンダーソンが同コレクションを「ヌーボー・シック(新しいシック)」と表現すると、取り囲んでいた多くのジャーナリストが納得したようにうなずいた。

アート作品とのシンパシーを感じる
彫刻のようなシルエット

 アンダーソンは今季、ボリュームとムーブメントで新しいシルエットを探求した。裾にギャザーを入れてバルーン状に広がるドレス、折り紙のように生地を折り畳んでバックとウエストに膨らみを持たせたドレス、パフを入れた曲線を描くショルダーラインと鋭い直線のレザー素材の襟のAラインコートなど、複雑に入り組んだパターンと仕立てによって衣服と体の間で奇妙に生まれる。その空間には、彼が熱中する彫刻や陶芸といったアート作品とのシンパシーが感じられる。

 実際に、現存する物体から着想を得たルックもいくつかあった。「子どもの頃、ビール会社ギネス(GUINNESS)の広告にいつも目を引かれ、金と黒のタイポグラフィーが素敵だと思った。ビールの空き缶を押しつぶすと、そこに新たなフォルムが現れる感覚からアイデアを得た」と、ドレープとねじりを利かせたゴールドとシルバーのドレスについて説明した。そのほか、“パンチバッグ”と命名したバッグは、その名の通りボクシングのトレーニングで使用するパンチングボールから着想を得たという。

 BGMがフォー・テット(Four Tet)の「ベイビー(Baby)」に始まり、「サークリング(Circling)」へと変わるショー中盤では、衣服の量感はますます増していった。ケミカル糸で編まれたドレスは歩くたびに波打ちながらメタリックな輝きを放ち、ビクトリアンブラウスとフリルがふんだんに飾られた衣服は踊るように揺れ、マーメイドシェイプのコートやニットドレスの裾の動きにも心を奪われた。異なる素材とテクスチャーで彩られた今季の生地は「過去に使用したものと新しく制作したものを組み合わせたコラージュ」だとアンダーソンは説明した。彼が最も気に入っているルックはショールカラーのタキシードセットアップやバイアスカットのサテンのロングドレス、透け感のあるドレスだという。それらは比較的シンプルで、シルエットで遊ぶ装飾的なルックを際立たせる存在であった。

今季は「とにかく“楽観的”なものを」

 ビクトリア朝のシルエットや1920年代のきらびやかな装飾といったレトロな側面をあわせ持ちながらも、現代的で洗練されたコレクションに仕上がった今季は、アンダーソンなりに実験だったようだ。「(ランウエイのような)見知らぬ人々で満たされた空間をモデルが個別に歩いていくことで、その空間にどのように交じり合うのか、衣服がどのように作用するのかを想像した。“人々の森をすり抜ける”というアイデアから始まっている」。これは彼なりの言葉で、2020年という新時代に女性がどのように歩みを進め、時代を生きていくのかを想像したのだろうと筆者は解釈した。

 特異な視点を持つアンダーソンから発せられる言葉は難解であるが、今季の指針はとてもシンプルな言葉で伝えられた――「とにかく“楽観的”なものを表現したかった」。彼は新しい部屋の入り口に立ち、明るい未来への明快な道標を私たちに示してくれているようだ。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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「ジバンシィ」、クレア・ワイト・ケラーの後任デザイナーは?

 「ジバンシィ(GIVENCHY)」のアーティスティック・ディレクター、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)が3年間契約を満了して退任することを受け、同ブランドの次期デザイナーが誰になるのかということに注目が集まっている。

 「ジバンシィ」は4月10日にクレア退任を発表したが、今後のクリエイティブ体制については後日発表するとしている。

 1998年からLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)の傘下にある「ジバンシィ」だが、さまざまなタイプのデザイナーらがこの数カ月間にLVMHからアプローチを受けたことを明かしており、水面下での動きがあったようだ。同ブランドはこの件について一切コメントしていないが、情報筋によると新デザイナーとの契約はまだ締結されていないという。

 新デザイナー候補として名前が挙げられているのは、「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のマシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)、「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」のジュリアン・ドッセーナ( Julien Dossena)、「グッチ(GUCCI)」デザインチームのダヴィデ・レンヌ(Davide Renne)、そして「ジル サンダー(JIL SANDER)」で洗練された女性らしいデザインを手掛けるルーシー・メイヤー(Lucie Meier)とルーク・メイヤー(Luke Meier)夫妻らだ。

 「ジバンシィ」はLVMH傘下のブランドとしては比較的小規模で、「ディオール(DIOR)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「フェンディ(FENDI)」などの陰に隠れがちではあるが、エッジの利きつつ気高く上品な魅力がある。

 英国人デザイナーのクレアは、2018年にメーガン・マークル(Meghan Markle)=サセックス公爵夫人(メーガン妃)のウエディングドレスをデザインし、18年にロンドンで開催された「ザ ファッション アワード(The Fashion Awards)」では「ブリティッシュ・デザイナー・オブ・ザ・イヤー・ウィメンズウエア(British Designer of the Year Womenswear)」を受賞した。また、米雑誌「タイム(TIME)」が19年に選出した“世界で最も影響力のある100人”にも名を連ね、ブランドと共に彼女自身も大きな注目を集めた。

 パリ・ファッション・ウイークで3月1日に披露された20-21年秋冬コレクションがクレアによる「ジバンシィ」のラストコレクションとなったが、彼女の退任、および別のクチュールブランドに移るのではないかという噂は数カ月前から囁かれていた。

 クレアは「世界的なオートクチュールに力を入れることは、私のキャリアでのハイライトのひとつよ。『ジバンシィ』の素晴らしいアトリエやデザインチームと共に、本当にたくさんの最高の瞬間を過ごしてきた。彼らの並外れた才能と献身的な姿勢は永遠に忘れない。表舞台で称賛されることのない製品やコミュニケーション、小売りに携わる影のヒーローやヒロインたち、そして世界各地のチームメンバーやパートナー、サプライヤーのみなさんに心から感謝を伝えたい」とコメントしている。

 「ジバンシィ」は、アーティスティック・ディレクターの退任、そして新型コロナの影響で工場が閉鎖されていることを理由に、ウィメンズのプレ・スプリング・コレクションの発表と20-21年秋冬のクチュール・コレクションの制作をしない。しかし、プレ・スプリングとランウエイを合わせた大規模なメンズコレクションの制作を予定しており、6月にショールームで販売する見通しだ。

 創業者のユーベル・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)が1995年に引退した後は、デザイナーとしてジョン・ガリアーノ(John Galliano)、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、ジュリアン・マクドナルド(Julien MacDonald)らが活躍してきた。2005年にはリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)がデザイナーに就任し、ゴスのテイストを取り入れた斬新なデザインを発表するなどして同ブランドに12年ほど在籍した。なお、クレアは1952 年のブランド立ち上げ以降初の女性アーティスティック・ディレクターだった。

 「ジバンシィ」でのクレアの功績として名高いのは、クチュールをランウエイに復活させたことだ。大きな変化を避けてメンズショーに注力していたティッシとは反対に、クレアはイギリス王室が主催する競馬レースイベント「ロイヤルアスコット(Royal Ascot)」など、メーガン妃御用達ブランドとしての地位も確立させた。また、ジュリアン・ムーア(Julianne Moore)、レイチェル・ワイズ(Rachel Weisz)、ガル・ガドット(Gal Gadot)、ミア・ゴス(Mia Goth)らのレッドカーペットでの衣装も手掛けた。

 クレアは「ジバンシィ」のブランドイメージに対して、取捨選択をしながらいいところを取り入れるアプローチ法を取り入れてきた。中性的なコレクション制作、黒と白を基調とした広告キャンペーン、そして若手ポップスターのアリアナ・グランデ(Ariana Grande)をアンバサダーに抜擢する一方で、20年春夏キャンペーンではマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)と英女優のシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)という年齢層が高めのめずらしい組み合わせの2人を起用している。

 シドニー・トレダノ(Sidney Toledano)LVMHファッショングループ(LVMH FASHION GROUP)会長兼CEOは、「彼女のクリエイティブなリーダーシップ、そしてアトリエとチームとの素晴らしいコラボレーションのおかげで、メゾンはユーベル・ド・ジバンシィの理念、そして彼独自のエレガンスを再認識することができた。クレアの今後の活躍を応援している」と、彼女の最後の功績に感謝の意を表した。

 クレアは主に趣味よく控えめで上品なクチュールに精を出していたが、巨大な翼のようなバックパックなど、時に強靭で破壊的なテイストも取り入れた。また、18-19年秋冬のクチュールショーでは、その年に91歳で死去したジバンシィの時を超えたエレガンスと気品を称え、彼のアイコニックな創造性やテクニック、格言を反映したコレクションを捧げた。

 クレアの手掛けたウィメンズコレクションには、80~90年代をほうふつとさせるものや、ダメージ加工のデニム、最先端の仕立てからラッフルドレスに至るまでさまざまなスタイルが見られる。ファッションプレスの間でもクレアの人気は高く、特に彼女のクチュールショーの評価が高い。

 またクレアは、ランウエイでメンズクチュールを披露したり、19年6月には伊フィレンツェで開催されたピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)にゲストデザイナーとして参加するなど、メンズの存在感アップにも貢献してきた。しかし、レザーグッズなどほかのラグジュアリーブランドが利益を上げているカテゴリーに関しては大きな前進をもたらしていない。

 クレアは「ジバンシィ」のアーティスティック・ディレクターへの就任直後に、それまで在籍していた「クロエ(CHLOE)」での6年間について、「本当にやりたいことができたわけではなかった」と明かしている。クレアは「クロエ」で手掛けたコレクションでも大きな支持を獲得しており、ブランドの勢いを回復させるなど確かな実績を残している。なお、11年に「クロエ」に入る以前は、「プリングル オブ スコットランド(PRINGLE OF SCOTLAND)」でデザイナーを6年間務めていた。

 落ち着いた穏やかな話し方で笑顔の多いクレアはファッション業界の上層部でも人気が高く親しみやすいと評判だ。故カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)氏や「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)とも親交が深い。

 ニットやメンズウエアにおいては、トム・フォード期の「グッチ(GUCCI)」でシニア・ウィメンズ・デザイナーを務めた経験もあり、「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」にも在籍していた。

 43万9000のフォロワーを抱える自身のインスタグラムでは、「ジバンシィ」でのフィッティングや写真撮影の裏側をハイライトした投稿も行った。クレアの今後の動きについてはまだ明らかにされていない。

 今回、パリの代表的なクチュールブランドの重要ポストが空くこととなったが、ファッション業界はいま複雑な時期にある。新型コロナの感染拡大によって国際的なファッション・ウイークにも甚大な影響が及び、世界の新たな需要に向き合う必要に迫られているからだ。ラグジュアリーの消費活動はほぼ停止状態となったことで、ファッション業界の速すぎるペースやその他の弊害についても疑問の声が上がっている。

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「フミエ タナカ」のルック撮影に密着 中止になったショーで表現したかった「ザ・ダラス」からの進化

 田中文江によるファッションブランド「フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)」は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響による「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」の中止を受けて、2020-21年秋冬コレクションの発表形式をルックブック撮影に切り替えた。東京都内の洋館ハウススタジオを舞台に、シーズンの世界観を強く表現するイメージと、着こなしを見せるコーディネートのルックを撮影した。


 今季は「東京ファッションアワード」受賞による支援を受けて、ブランド名を「ザ・ダラス(THE DALLAS)」から改名して初のファッションショーになる予定だった。田中デザイナーは「ブランドの変化を動きがある形で見せたかった」と切り出し、「ただ人が服を着て歩くだけではなく、新しい見せ方をぎりぎりまで考えていた。『ザ・ダラス』のときよりも日常的でリアルに着られるものをコーディネートで見せて、メンズアイテムを新たに加えてより深みを増した表現ができると思っていた」と明かした。

未来につなぐビンテージの要素

 20-21年秋冬のテーマは「チェーン オブ ルック」。昔と今をつなげたいという思いから1960~80年代の古着が着想源になっている。「自分の作った服を将来に残していくためには、自分らしいデザインと、昔からあるものを継承することだと考えた。もともとビンテージが好きということもあるが、父が着ていたようなジャケットや母が着けていたようなパールアクセサリー、昔着ていた制服のプリーツスカートなど、レトロで懐かしい感覚をもう一度振り返って取り入れている」と語る。単品で見ると本物の古着のようなアイテムも多いが、絶妙なシルエットや色の変化で斬新さを見せている。またアクセサリーも充実させ、レザーの飾りが付いたヘアゴムやパールのネックレス、骨董市で出合ったパーツから形をとったピアスなどさまざまだ。付け襟としても使用できるリボンのヘアピンは、イタリアで見かけたリボンで髪を結っていた、女性からインスパイアされたという。


 撮影ではスタイリストを起用せずに、田中デザイナーが自らスタイリングしている。より“リアルに着られる”提案のためにブラックとホワイトを多く取り入れた。「オールブラックやオールホワイト、ヌードのようなベージュを入れて正統派できれいに着るのがポイント。昔の人が着ていたようにシャツを上までちゃんと閉じて、ジャケットもかっちりきっちり着る。そこに色や柄合わせにポイントを置いた」と田中デザイナー。

初のメンズはシャツ中心の15型のコレクション

 モデルを起用しての撮影は行っていないが、ブランド初のメンズのカプセルコレクションも今季初披露している。今年1月にはイタリアのメンズファッション見本市の「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」や、パリ・メンズ・ファッション・ウイーク期間中に現地での合同展でも発表していた。和紙を使ったものや、特殊なプリント加工でマーブルを描いたデザインなど、日本の加工技術を生かしたシャツを中心に15型で構成した。「メード・イン・ジャパンを深掘りして、日本に眠っている細かい作業や手法を使っている。狙い通り、海外では服を触られることが多く『どう作っているの?』とよく聞かれた」という。メンズのアイテムは黒いタグが目印で、今後少しずつ育てていく考えだ。「私がオシャレだと思う男性像は、シーズンによってスタイルを変えずに自分のスタイルを持っていて、信頼のあるブランドを買い続けている人。ウィメンズのようにシーズンテーマを設けて、毎シーズンガラリと変えていくのは違うかなと感じている。私がメンズウエアを着ることもあるので、ユニセックスで着られることも前提として考えている」と語った。

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閉店後の渋谷パルコにロンドンバス! 36種類の職業を表現した「ミントデザインズ」の無観客ショー

 勝井北斗と八木奈央によるファッションブランド「ミントデザインズ(MINTDESIGNS)」は、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO 以下、RFWT)」の中止を受けて、ショーを開催予定だった3月21日の午後9時45分に無観客ショーの動画を配信した。会場は東京・渋谷パルコ1階の歩行者専用通路であるナカシブ通り。渋谷パルコにはかつて「ミントデザインズ」の1号店があり、現在も小規模な店舗が入るブランドのホームと言える場所。さらに2007年にも、同館にあったパルコブックセンター内でショーを行ったことがあるゆかりの地でもある。今回は貸し切りの真っ赤なロンドンバスを歩行者専用通路に停車させて、閉店後の通路をランウエイにモデルたちが歩いた。

コレクションの出発点は
ロンドンの多様な人々

 今季のテーマは「Route 88(88番線)」。勝井と八木は学生時代を過ごしたロンドンのバスに乗る多様な乗客を思い浮かべてデザインをしたという。2人は昨年、「ミントデザインズ」を着用したさまざまな職種の人々を撮影する10年越しのプロジェクト「ハッピー ピープル(happy people)」の制作をロンドンで行った。母校であるセント・マーチン美術大学の講師やギャラリスト、画家、バーテンダーなどさまざまな職業に就く人々と触れ合って撮影を行ったことが、今季のコレクションの出発点となったという。

36種類の職業に就く人を
全36ルックで表現

 ショーに登場した36ルックのそれぞれには、バスの運転手やバスガイド、庭師、花屋の店員、学芸員、ファッション学生など職業のイメージがつけられていた。その彼ら彼女たちが夜遊びをしに行くという設定でスタイリストの入江陽子がコーディネートを組んだという。ショー前に演出家から「それぞれの職業を意識したポーズをしてほしい」と告げられると、モデルたちの顔に笑顔が溢れて各自がその役になり切って演技するなど、にぎやかな雰囲気に包まれていた。

久しぶりの男性モデルが登場
“初めてメンズウエアとしてデザイン”

 今季は久しぶりに男性モデルを採用した。「以前もコレクションでメンズモデルにユニセックスのウエアを着せたことがあったが、今回はメンズウエアとしてデザインしたものを発表した」という。ジャケットやパーカなどはメンズウエアのサイズを用意し、女性も着用できるようにユニセックスで提案。また、インスタグラム上で行ったモデルの一般公募から選ばれた3人も登場した。ファッション学生風のルックを着用したモデルのRISEはプライベートでも現役のファッションの専門学生で、今回が初めてのランウエイデビューだったという。

渋谷パルコへ出発進行!
バスの乗客となったモデルたち

 ショーのバックステージは、会場の渋谷パルコではなく表参道にある青山スタジオだった。モデルたちは資生堂チームによるメイクを済ませて、着替えを終えるとロンドンバスに乗って表参道から渋谷パルコへと向かった。今季のウエアは、古いロンドンの地図やバスをモチーフにしたプリントやスカーフが特徴的。“MINTDESIGNS”のロゴが入ったロンドン地下鉄のマーク風のバッジなども合わせている。

渋谷パルコでのショーを続行した
デザイナー2人の思い

 もともと使用する予定だった渋谷パルコでのショーを敢行し、「無観客ということ以外は変更なし」というが、「映像では見えない部分も多いため、映画のようなストーリー仕立てにして強い印象を残せるように工夫した」と勝井デザイナー。モデルがバスに乗り込む姿や車内で過ごすシーンを撮影し、プロローグとして動画に記録した。

 八木デザイナーは「本当は生で見てほしかった」と明かし、「渋谷パルコに突然バスが入ってきてファッションショーが始まったら、一般の人にも楽しんでもらえたと思う。渋谷パルコはこんな社会状況でなければ、外国人観光客や幅広い年齢層の人が集まる場所。今回はメンズも含めて多種多様な方に向けた服を作ったので、観客を入れることがかなわなかったのは残念だった」と悔しさをにじませる。

 新型コロナウイルスの影響でイベントの自粛ムードが続く中、「RFWT」の中止でもさまざまなブランドが創意工夫とともに新たな表現方法を見出している。18年目の「ミントデザインズ」は、東京のデザイナーズブランドの中でもベテランで、今回が37回目のコレクションだった。デザイナーの2人は、バックステージやバス、会場間を移動するイレギュラーな段取りでも普段と変わらない様子で取材にも対応し、安定したコレクションを披露していた。無観客でも“今できること”を見極めて、明るく豪華なショーを東京で披露する姿は頼もしかった。

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閉店後の渋谷パルコにロンドンバス! 36種類の職業を表現した「ミントデザインズ」の無観客ショー

 勝井北斗と八木奈央によるファッションブランド「ミントデザインズ(MINTDESIGNS)」は、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO 以下、RFWT)」の中止を受けて、ショーを開催予定だった3月21日の午後9時45分に無観客ショーの動画を配信した。会場は東京・渋谷パルコ1階の歩行者専用通路であるナカシブ通り。渋谷パルコにはかつて「ミントデザインズ」の1号店があり、現在も小規模な店舗が入るブランドのホームと言える場所。さらに2007年にも、同館にあったパルコブックセンター内でショーを行ったことがあるゆかりの地でもある。今回は貸し切りの真っ赤なロンドンバスを歩行者専用通路に停車させて、閉店後の通路をランウエイにモデルたちが歩いた。

コレクションの出発点は
ロンドンの多様な人々

 今季のテーマは「Route 88(88番線)」。勝井と八木は学生時代を過ごしたロンドンのバスに乗る多様な乗客を思い浮かべてデザインをしたという。2人は昨年、「ミントデザインズ」を着用したさまざまな職種の人々を撮影する10年越しのプロジェクト「ハッピー ピープル(happy people)」の制作をロンドンで行った。母校であるセント・マーチン美術大学の講師やギャラリスト、画家、バーテンダーなどさまざまな職業に就く人々と触れ合って撮影を行ったことが、今季のコレクションの出発点となったという。

36種類の職業に就く人を
全36ルックで表現

 ショーに登場した36ルックのそれぞれには、バスの運転手やバスガイド、庭師、花屋の店員、学芸員、ファッション学生など職業のイメージがつけられていた。その彼ら彼女たちが夜遊びをしに行くという設定でスタイリストの入江陽子がコーディネートを組んだという。ショー前に演出家から「それぞれの職業を意識したポーズをしてほしい」と告げられると、モデルたちの顔に笑顔が溢れて各自がその役になり切って演技するなど、にぎやかな雰囲気に包まれていた。

久しぶりの男性モデルが登場
“初めてメンズウエアとしてデザイン”

 今季は久しぶりに男性モデルを採用した。「以前もコレクションでメンズモデルにユニセックスのウエアを着せたことがあったが、今回はメンズウエアとしてデザインしたものを発表した」という。ジャケットやパーカなどはメンズウエアのサイズを用意し、女性も着用できるようにユニセックスで提案。また、インスタグラム上で行ったモデルの一般公募から選ばれた3人も登場した。ファッション学生風のルックを着用したモデルのRISEはプライベートでも現役のファッションの専門学生で、今回が初めてのランウエイデビューだったという。

渋谷パルコへ出発進行!
バスの乗客となったモデルたち

 ショーのバックステージは、会場の渋谷パルコではなく表参道にある青山スタジオだった。モデルたちは資生堂チームによるメイクを済ませて、着替えを終えるとロンドンバスに乗って表参道から渋谷パルコへと向かった。今季のウエアは、古いロンドンの地図やバスをモチーフにしたプリントやスカーフが特徴的。“MINTDESIGNS”のロゴが入ったロンドン地下鉄のマーク風のバッジなども合わせている。

渋谷パルコでのショーを続行した
デザイナー2人の思い

 もともと使用する予定だった渋谷パルコでのショーを敢行し、「無観客ということ以外は変更なし」というが、「映像では見えない部分も多いため、映画のようなストーリー仕立てにして強い印象を残せるように工夫した」と勝井デザイナー。モデルがバスに乗り込む姿や車内で過ごすシーンを撮影し、プロローグとして動画に記録した。

 八木デザイナーは「本当は生で見てほしかった」と明かし、「渋谷パルコに突然バスが入ってきてファッションショーが始まったら、一般の人にも楽しんでもらえたと思う。渋谷パルコはこんな社会状況でなければ、外国人観光客や幅広い年齢層の人が集まる場所。今回はメンズも含めて多種多様な方に向けた服を作ったので、観客を入れることがかなわなかったのは残念だった」と悔しさをにじませる。

 新型コロナウイルスの影響でイベントの自粛ムードが続く中、「RFWT」の中止でもさまざまなブランドが創意工夫とともに新たな表現方法を見出している。18年目の「ミントデザインズ」は、東京のデザイナーズブランドの中でもベテランで、今回が37回目のコレクションだった。デザイナーの2人は、バックステージやバス、会場間を移動するイレギュラーな段取りでも普段と変わらない様子で取材にも対応し、安定したコレクションを披露していた。無観客でも“今できること”を見極めて、明るく豪華なショーを東京で披露する姿は頼もしかった。

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初のBiSHに衝撃 アイドルに無知な記者が震えた「ネグレクト アダルト ペイシェンツ」無観客ライブ

 今年で38歳になる自分が「ネグレクト アダルト ペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS以下、ネグレクト)」の3月20日の無観客ショーを取材してよいのだろうか——会場となった東京・豊洲のライブハウス豊洲ピットに向かう道中、そんな葛藤をしていました。だって、出演するのがBiSH(ビッシュ)、BiS(ビス)、豆柴の大群という人気アイドルばかりだったから。不安な気持ちを少しでも奮い立たせるため、道中はゴリゴリな米ロックバンドのレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)を聴きながら、同バンドのギタリストであるトム・モレロ(Tom Morello)の攻撃的リフで闘魂注入します。

 振り返れば2週間前、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」の中止で公式会場が使用不可になったことをを受けて、「ネグレクト」が別会場を借りてライブ配信を予定しているというのを知り、これは行くしかない!とPRに勢いのまま取材を申し込みました。安全対策の徹底なども含めて交渉を進める中で、出演者がBiSH、BIS、豆柴の大群のオールメンバーというのを知り、「おお、まじっすか!」と驚くフリをしてみたものの、ぶっちゃけ、全然知らなかったんです。同ブランドの渡辺淳之介デザイナーがプロデュースしているのは薄く知っていましたが、実は電話を切ってからめちゃくちゃググりました。本当にすみません。

まずメイクが楽しすぎた

 現場に入ると、メンバーたちはヘアメイク中。いつもとは違った緊張感でメイク室に挨拶に行くと、目の前にはなんとX JAPANとKISS!……風のメイクをしたBiSHとBiSがいるではないですか。しかもリーダーYOSHIKIの伝説のヘアスタイル“ウニ頭”を忠実に再現しているあたりがツボ。でも6人のBiSHに対してX JAPANは5人なので、1人足りません。この日のメイクをリードした資生堂のメア&メーキャップアーティストの豊田健治さんに聞くと、「そう、足りないんです。だからハシヤスメ・アツコさんには英バンドのジグ・ジグ・スパトニックになってもらいました。顔にかぶせる網タイツも急きょ買いに行ったんですよ」とのこと。確かに顔に網タイツなんてX JAPANにはいなかったから、そういうことか。豆柴の大群のメイクについては「アイドルがテーマです」と直球のお答え。なんだか忙しそうだけどメイクスタッフも楽しそうだし、出演メンバーも互いのメイクを褒め合っていてワイワイ楽しそう。37歳の記者はますますどこに行っていいかわからず、肩身が狭くなるのでした。

 そんな時、通路の先に“Tシャツおじさん”こと丹野真人「タンタン(TANGTANG)」デザイナーを発見!この状況でおじさんがおじさんを発見した時の安心感は、もはや砂漠の中の湖、雪原の中のかまくら、海外コレクション取材中にトイレを発見した時のそれ。過去には「ネグレクト」とコラボもしていましたが、今回は「ただ見に来ただけ」という丹野デザイナーがめちゃくちゃ暇そうだったので、出演者のフィッティング中は話し相手になってもらいました。こんなご時勢じゃなければ「ありがとう」と握手したかった。20-21年秋冬にはBiSHのセントチヒロ・チッチさんとのコラボTシャツも発売するそうです。

最初のBiSからすでに圧倒される

 リハが終わり、ついにライブ配信開始の20時まであと5分。3000人以上を収容する大箱の豊洲ピットが、無観客のため余計に広く見えます。定刻となり、BiSがトップバッターとして“STUPiD”を披露しました。あれ?なんか思ってたのと違う。無知な僕はもっとキャピキャピしているイメージでしたが、超ロック。パテントのライダーズや複数のファスナーを斜めに走らせたチェスターコートなどの強い服も後押しして、超ロック。予想をいい意味で裏切られたパフォーマンスに、終演後は一人でつい拍手しそうになりました。誰かと共有したくて視線をふと横にやると、制作スタッフは真顔。当たり前ですが、真剣です。観客気分になり失礼しました。

クロちゃん、麺を食わされる

 二番手は豆柴の大群です。こちらも“りスタート”のパフォーマンスが結構激しく、おそろいの黒いスカートが左右に激しく揺れます。胸にコレクションテーマ“DOG”がプリントされたパーカや、明らかに猫やんけという下手ウマイラスト入りのスエット、“ADULT”という文字が刻まれた鮮やかなボアジャケットなど、オーバーサイズなウエアがダンスをさらに大胆に見せます。そして曲の途中でメンバーが舞台袖に消えたかと思うと、彼女たちに手を引かれて、グループのアドバイザーを務めるクロちゃん(安田大サーカス)がアイマスク姿でサプライズ登場!ライブ配信ではどれぐらい伝わったのかわかりませんが、「どこなの!」「ちょっと何これ!」的なことを上下ばっちり「ネグレクト」の服で叫び続けていました。そして、ついにその瞬間が訪れました。「ネグレクト」のショーといえば“何か麺を食う”謎の演出が一部で人気で、これまでカップ焼きそば、ナポリタン、流しソーメンと続けてきましたが、今回はいつもと違う無観客ライブ。実は裏で麺類がないかこっそり調査もしていて見当たらなかったので(さすがに『ネグレクト』も自粛だよね)と、諦めていたんです。でも舞台袖からクロちゃんのもとに突然駆け寄ってきた渡辺デザイナーの手には、出たーーカップ焼きそば!もはや小さくガッツポーズするほど感動しました。さすがに制作スタッフも笑っているだろうと視線を再び横にやると、やっぱり真顔。むしろさっきよりイカつい表情でモニターのクロちゃんをにらみつけるようにチェックしています。裏方さんたちの配信にかける思いが伝わってきました。

BiSHに胸が熱くなる

 トリを飾るのはX JAPAN風のBiSH。“楽器をもたないパンクバンド”を自称する通り、“GiANT KiLLERS”のパフォーマンスはマジで激しい。YOSHIKI風メイクのアイナ・ジ・エンドさんの“ウニ頭”が床に刺さるんじゃないかと思うぐらい圧倒されました。チェックの切り替え入りのシャカシャカブルゾンや、ダルメシアン柄のパンツがいい感じのヤンキー感。ジグ・ジグ風のハシヤスメさんのネップツイードのジャケットには上品な雰囲気があったり、PATA風メイクのリンリンさんはデニムの硬派なセットアップだったりと、日常の延長線上にある服で派手さはないんのですが、ごった煮のカオス状態。不思議なことに、パフォーマンスや服はキャッチーなのに、まるでレイジを聴いている時のように、トム・モレロのリフで体を揺らしている時のように、胸がじわじわと熱くなって震えます。ライブ配信が終わると、メンバーは「めっちゃ気持ちよかった」と口にし、3グループ全員が裏方のスタッフ一人一人に元気に挨拶をして舞台を降りていきました。完全にいちファンのおじさんと化していた丹野デザイナーが「観客が入ったライブは、こんなもんじゃないから」と目を輝かせます。今のアイドルってこんなにもすごい熱量なのか。

「東コレは中止でも、僕らの歩みまで止めたくなかった」

 ライブ配信を終えた渡辺デザイナーは、達成感のある表情でした。「東コレに参加することは特別なこと。でも中止になったからといって何も発表せず終わるのは、僕たちの歩みまで止めてしまうことになると思った。得意のライブという一発勝負にパッションを込めて、見てくれた人と雰囲気を共有したかったんです」。そして、ライブ配信だからこそできることを考えたといいます。「うちの事務所WACKに所属するグループがライブをすることで、『ネグレクト』を知らない人も楽しめるし、ブランドしか知らない人には音楽をやっていることをアピールできる。ファッションと音楽のつながりをライブ配信で表現し、ピンチをチャンスに変えたかったんです」。こんな時だからこそ楽しいことを!という思いがにじみ出ています。そして、クロちゃんが食べたカップ焼きそばについて聞かないわけにはいきません。「今回は配信でたくさんの方が見てくれると思ったので、原点回帰でカップ焼きそばにしました。いつも通り、特に意味はありません。でもなぜなんでしょう。僕も裏で見ていましたけど、何か麺を食うってだけで面白くないですか?」。はい、めちゃくちゃ面白いです。卸先のGR8にも「あの麺のブランド」といって買い物に来る人もいるのだとか。それにしても、カップ焼きそばに“原点回帰”という表現を使うことになるとは……。肝心のコレクションは、渡辺デザイナーが本当に着たいと思える服だけを作ったそう。テーマに掲げた“ドッグ コレクション”については「それも、意味はないんですよ」と恐縮気味。あの下手ウマな猫は“ドッグ”という名前らしく、もう意味がわかりません。でも考えるな、感じろ的な問答無用っぷりが「ネグレクト」の魅力なのです。こんな時だからこそ、刺さります。

 ロックとモードのことしか頭になかった20代前半までは「いや、俺アイドル興味ないんで」とカッコつけてしまったこともありました。でも、時代の変化とともにアイドルカルチャーも進化ていることを「ネグレクト」のライブ配信は教えてくれました。日本のカルチャーはまだまだ元気です。とりあえず「ファッションも最高だし、アイドルも最高だよね」と今後は胸を張って堂々と宣言することを誓い、帰り道にカップ焼きそばを買って家路に向かいました。

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東コレのショー中止で105ルックをウェブで公開 ピンチをチャンスに変える「ノントーキョー」の挑戦

 市毛綾乃による「ノントーキョー(NON TOKYO)」は、2020-21年秋冬コレクションをオンライン上で発表した。本来は3月17日に「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」内でファッションショーを開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響から中止が決まったことで発表形式をルックブック撮影に変更。ファッションショーでは約30ルックを発表予定だったものの、中止に伴い展示会や店舗へ足を運べない顧客へ配慮して、約50型の商品から105ルックのコーディネートを組む形にパワーアップさせた。スタイリングは「ノントーキョー」のディレクションを手掛ける中川瞬が担当した。

 20-21年秋冬コレクションは「アクティブ レジャー」がテーマ。市毛デザイナーがプライベートでレジャーを楽しむ時に感じた必要なファッション性から着想を得て、キャンプやヨガなどのスポーツやアウトドアの要素を取り入れた。今季からメンズウエアも本格的にスタートし、初めてメンズモデルを起用。これまでフリーサイズでの提案が多かったが、今季は2サイズに増やして、女性も男性も着用可能な商品幅を広げた。

手描きのグラフィックで
“地球の危機”を訴える

 「ノントーキョー」は前シーズンから再生繊維を積極的に採用するなど、サステナビリティを意識した取り組みも始めている。「地球と共存していくために、毎シーズン私たちにできることを考えている」と話す市毛デザイナーは今季、ペットボトルからできた再生ポリエステルを利用したコートを発表した。撥水素材でリバーシブルで着用でき、コンパクトに収納可能なパッカブル仕様になっている。さらに、グラフィックデザインでも環境問題を意識。地球を溶けたアイスクリーム見立てた絵や、スイカ割りのように地球を割っている絵、大量のゴミ袋をプレジデントデスク(大統領の机)に載せたものなど、シュールに地球の危機を訴えた。全てのグラフィックは市毛デザイナーの手描きによるもの。

 3月17日からビジネス関係者に向けた展示会を開催する。3月末には一般客に向けた受注販売を「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」と「シーナウトウキョウ(SEENOWTOKYO)」のオンライン上で開始する。

 「ノントーキョー」は上海ファッション・ウイークでの展示会も予定していたが、新型コロナウイルスの影響でのウイーク中止に伴い、渡航をキャンセル。日本国内の地方セレクトショップのバイヤーが出張を控える動きも出ており、展示会に来場できないバイヤーへはルックやディテール画像、商品詳細を送って対応するという。

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ロンドンの最旬シューズ3選 悪天候でも「オシャレは足元から」

 2月に開催されたロンドン・ファッション・ウィーク中は、暴風雨に連日見舞われた。傘をさしても横なぐりに降る雨に打たれ、道路には水たまりが数日間残ったままで足元が悪く、シューズの選択肢は限られてくる。そのためか、スニーカーの着用率は低かった。雨風と寒さをしのぎながらスタイリッシュでいられる、ロンドン女子が選んだ最旬のシューズ3タイプを紹介。

ロングブーツでブルジョワに

 今季のロンドンでは、トレンド大本命のロングブーツ着用率が最も高かった。ひと昔前のコンサバ風なロングブーツと異なるのは、ストレッチの効いていない筒状ブーツをクシュっとシワを寄せてボリュームを持たせる履き方だ。ミドル丈のスカートと合わせて肌を見せないコーディネートは、「セリーヌ(CELINE)」が打ち出したブルジョワジーなスタイルとリンクする。

バイカーブーツでかっこよく

 ブルジョワジーとは対照的に、マスキュリン派に支持されたのはバイカーブーツ。「ボッテガ ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の甲の部分にキルティングが入ったバイカーブーツの着用者を連日見かけた。丸みのある大きなトーと量感のあるソールは安定感があり、悪天候にも適したシューズだろう。

ホワイトシューズがアクセント

 足元はホワイト系カラーのパンプスやミュールなどの来場者も多かった。明るく軽やかな印象のホワイト系シューズは、コーディネートにほどよい抜け感を与える役割を果たしているようだ。服が暗いトーンになりがちな冬場は、シューズにホワイトや淡いベージュカラーを取り入れることで一気に華やぐ。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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ローラも全身コーディネート 新作バッグに人気が集中する「ボッテガ・ヴェネタ」のショー来場者スタイル

 「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は、昨年デビューしたクリエイティブ・ディレクターのダニエル・リー(Daniel Lee)による新たなクリエーションで着用者の年齢層も広がり、顧客層が若返っている印象だ。ミラノで行われた2020-21年秋冬コレクションのショー会場では、今イタリアで旬なミニマリズムのスタイルを見つけることができる。モデルでタレントのローラも全身に20年春夏の新作をまとって駆けつけた。

 所有率が高いのはアイコンバッグのクラッチ“ザ・ポーチ”シリーズ。ミニサイズからチェーンやレザーストラップ付きの新作までさまざまな色や形を持った来場者が集まった。またブランドを象徴する“イントレチャート”(編み込み技法)のクロスボディーバッグ“カセット”や“BV ジョディ”、ウッドのクロージャーが特徴的なクラッチバッグ“BV スナップ”なども多く見かけた。足元はスクエアトーの“ストレッチ”シリーズのパンプスやサンダルが人気だった。

 洋服はテーラードジャケットとロングドレスの合わせたり、トレンチコート風オールインワンなどのほか、シンプルながらもウエストをベルトで絞ったメリハリのあるスタイル。“イントレチャート”を取り入れたコートやスカートを着た人もいた。

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パリメンズのイケメンモデル50連発 超美形から癒し系まで妄想膨らみっぱなし

 1月19日に閉幕したパリ・メンズ・ファッション・ウイーク。今季もばっちり、バックステージでイケメンをハントしてきました!「売れっ子モデルの周期ってなんて早いんだろう」と感じずにはいられないほど、今季は前季と顔ぶれに変化が見られました。

 例えば、前季に最旬メンズモデルとして取り上げたアルトン・メイソン(Alton Mason)はパリコレに参加せず撮影のためアメリカに滞在していたようで、一度も会うことがありませんでした。ただし、それはむしろ彼のキャリアが上がっている証し。ランウエイモデルとして起用されるのはモデルにとって顔を知ってもらうための宣伝効果で、エディトリアルやルックブック、願わくは広告に起用されるのが最も高いステータス=高額なギャランティーなワケです。前季のファッション・ウィーク以降、「エトロ(ETRO)」「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」などの広告や、オーストラリア版「GQ」の表紙を飾るなど、アルトンの活躍ぶりを至る所で見かけました。

 前シーズン注目したジーヌ・マハデヴァン(Jeenu Mahadevan)もアルトン同様の活躍ぶり!「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」の広告やイギリスの新聞紙「ガーディアン(The Guradian)」のエディトリアルなどで見かけました。今季のバックステージではロンドンの「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」とパリの「ボーディ(BODE)」で再会しました。スリランカ系の血を持つ彼のような、南アジア諸国出身者のメンズモデルは確実に増えています。

 そして今季はアフリカ系のメンズモデルの躍進が大きかったです。「モデルズ・ドット・コム(Models.com)」によると、ランウエイを最も多く歩いたのはセネガル出身のマリック・ボディアン(Malick Bodian)。「ルイ ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ディオール(DIOR)」「エルメス(HERMES)」など、合計23ブランドのショーに登場したそうです。

 さらに、私が各都市のバックステージ取材で数回見かけて注目したのはロメーヌ・ディクソン(Romaine Dixon)です。フェイスブックにアップした写真をきっかけにスカウトされ、昨年6月にモデルデビューを果たしたジャマイカ出身の20歳。190cmの長身に細身&小顔といった、洋服を最高にかっこよく見せる理想的な体型の持ち主です。男性らしさはありますが、クリクリとした大きな目元は女性のようで、カッコ可愛い系。すでに「フェンディ(FENDI)」「ディオール」の広告に起用されており、スターモデル街道をますます駆け上がっていきそうな勢いです!

RHUDE
妄想で女装させたくなる美形ぞろい

 そんなロメーヌがランウェイを歩いた「ルード(RHUDE)」は、甘いマスクのイケメンぞろいでした。ファーストルックを飾ったアナトーリはかなり甘めの顔立ちで、女装したらとっても可愛くなりそうで勝てる気がしません(笑)。切れ長の目元が印象的なセンヤは、女装したらカーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevigne)にそっくりになりそう。マチューとアントワーヌのようなアイルランド系赤毛のメンズモデルってあまり目にすることはありませんが、ウィメンズの「シモーネ ロシャ(SIMONE ROCHA)」のロマンティックなドレスが似合いそう。と、勝手にメンズモデルを頭の中で女装させて、妄想を膨らましておりました。

BOTTER
アジア系モデルの注目株を発見

 「ルード」で会った中国出身のメンは「ボッター(BOTTER)」にも起用されていました。そのほか「ロシャス(ROCHAS)」「バルマン(BALMAIN)」でもランウエイを歩き、「ランバン(LANVIN)」の広告も務めるアジア系の注目株です。「ボッター」ではアジア系モデルの割合が高かったのですが日本人はおらず、全員が中国出身者でした。同ブランドのデザイナー、ルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)がカリブにルーツを持つためか、カリビアン系の黒人モデルも目立ちました。ファーストルックのケルヴィンやイブラヒマは昨年デビューした若手。ちなみに同ブランドのメイクアップアーティストは、ショーが始まる直前にモデルに目薬をさして目の下を少し濡らすといった細かな演出を加えていました。目がキラキラ、ウルウルして見えるのはメイクの効果です。

BODE
エキゾチックな神秘系男子たち

 ジーヌが歩いた「ボーディ」は、南アジア系のエキゾチックなメンズモデルが最も多かったように思います。カングカンはインド出身、ソルはイギリス、アラミッシュはスウェーデン、ナジンはフランスと出身国はヨーロッパですがルーツに南アジア諸国が混じっていそうな人種です。「ボーディ」の生地はインドの伝統的な織物や刺しゅう、古布を多用していることもあって、あえて南アジア系のモデルを選んでいるのでしょう。短髪のクルクルヘアーのモデルが多かったのも特徴でした。ジーヌもさることながら、ラトビア出身のクリステルスも売れっ子モデルの一人。彼はなんと23歳にして5歳の息子のパパなんです!バックステージで会う度軽く挨拶を交わすと、「ハロー」と言いながらウィンクしてくれます。ウィンクされるのはあまり好きではないですが、彼は例外的に受け入れちゃいます(笑)。

TAAKK
個人的好みではナンバーワンの人選

 バックステージ取材が仕事とゆえど、ジャーナリストである前に私も一人の女性です。やっぱり好みの男性にはついつい目を奪われてしまうもので、個人的には「ターク(TAAKK)」のモデルに一番目移りしてしまいました。決して仕事そっちのけでヘラヘラしていたわけではありません(笑)。ほかのショーでは見かけない新人か、大きい事務所ではない素人風のモデルが多かったように思います。特に誰か特定のタイプの男性がいたわけではなく、全体としてカッコイイ雰囲気がムンムンしていたのは、「ターク」の衣服が引き出した魅力かもしれません。

DOUBLET
“井野新喜劇”に集うフレンドたち

 “キャスティングナイスで賞”を贈呈するとしたら、間違いなく「ダブレット(DOUBLET)」でしょう。起用したほとんどがキャスティング・ディレクターの知人だそうで、モデルではない一般人が多かったようです。ショーでは笑いながら歩いたり喋ったりする演出で、まるで喜劇を見ているように平和的でポジティブなムードに包まれていたのは、「ダブレット」の衣服とヘアメイクにも負けない強い個性を持ったモデルらのおかげも大きかったはず。井野将之デザイナーの世界観を十分に発揮するキャスティング力に拍手を送りたいと思います!

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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やっぱりカオスだったカニエの「イージー」シーズン8 “毒蛇の卵”入り招待状から娘ノースのラップデビューまでをレポ

 パリ・ファッション・ウイークの取材のためにパリに来ています。新型コロナウイルス感染拡大を受け、ショーをキャンセルするなどの決断をする企業やブランドが出始めた2月29日の夕方、そんな現状もどこ吹く風なニュースが舞い込んできました。なんと、あのカニエ・ウェスト(Kanye West)が「イージー(YEEZY)」のシーズン8をパリで披露するというのです。「イージー」の新シーズンが発表されるのは2018年以来とのこと。これは行くしかない!と思うと同時に、「イージー」が過去にニューヨークでショーを行った際は炎天下の中、何時間も待たされモデルが具合が悪くなり座り込むなどなかなかのカオスっぷりだったことも頭をよぎります。今回のショーのスタートは21時30分。スタートは23時になってもおかしくないかもしれないと覚悟して行ったショーを、米「WWD」がカニエからとったコメントと合わせてリポートします。

 ショーの前座となったのは、前日の日曜朝にブッフ・デュ・ノード劇場(Bouffes du Nord theater)で行われた「サンデーサービス(Sunday Service)」。日曜礼拝を意味する「サンデーサービス」ですが、カニエは自身の楽曲をゴスペル風にアレンジして披露するコンサートをそう銘打っています。こちらは限られた人数だけを招待したようで、残念ながら行けずじまいでしたが、行った米「WWD」によれば、「90分間の幸福体験」だったそう。

 ショー開催の3月2日は、アメリカからの来場者の多くが帰国を早めたようで、スタンディングのはずだったのに席に座れたり、人気なはずの「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」でも空席がみられ、私が座った席の前の席にはスタッフ3人が座るなど、ファッション・ウイークに来ている人の数が減ったように感じます。特にカニエが支持を集めるアメリカ勢が帰ってしまったので、いくらカニエ様でも人が集まるのか?なんてことを考えます。しかし、同日午後に行われた「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」と「フィアー オブ ゴッド(FEAR OF GOD)」のコラボお披露目パーティーでは、ショー会場ではあまり見かけなかったストリート勢の姿も見られ、ここにいる人たちがそのまま「イージー」に流れるのだろうと予感しました。

 ショーの会場は建築家のオスカー・ニーマイヤー(Oscar Niemeyer)が手掛けたフランス共産党本部。庭園の中心には光る大きな球体、背後の波打つようなファサードの建物も、カニエっぽいです。どこから会場の場所を聞きつけたのか、会場の周りにはストリートキッズやカニエのファンが詰め掛け、エントランスの場所が見つけられないほど。人だかりと会場回りに停車した車で道路がブロックされ、クラクションが鳴り響きます。

 やっとのことでエントランスを見つけ会場入り。時刻は9時半とショーが始まるはずの時間ですが、全く始まる気配がありません。しかも屋外のショーなので結構寒い。カニエのことだし、最悪あと数時間待ちそう(笑)と思い、一旦車に戻ります。他の来場者も同じことを考えたのかぽつぽつと会場を離れる車も見られました。隣に停車していた車は「ビジネス オブ ファッション(BUSINESS OF FASHION、BoF)」のチームの車だったようで、大御所ファッションジャーナリストのティム・ブランクス(Tim Blanks)が足早に車に戻り、ささっとシートベルトをつけて本を読み始めたところを目撃。って帰る気満々です。

 会場付近に鳴り響く車のクラクションの音がさらに大きくなり、見ればバス停の上に登ってショーを見ようとする人も。で、よくよく目を凝らせばもうモデルが会場の球体の周りを歩いているじゃないですか!カニエのことだから爆音BGMかと思い込んでいましたが、まさかの無音ショー!?いや、このクラクションを鳴らしているのはサクラで、クラクションの音がBGMという演出!?なんてことを考えながらダッシュで会場に戻ります。会場付近にはさらに人が増え、カオスな状態に。しかし、建物にショーの様子が映し出されているので会場外に集まった人も皆ショーを見れます。

 またまた人混みを掻き分け会場入りすると、BGMが流れ、かわいいラップが聞こえてきました。カニエの娘、ノース(North)です(動画18秒から)。「子どもを使うのはずるくない(笑)?しかも良い子は寝る時間では?」と思いつつキュートな歌声と、娘の活躍を優しい笑顔で見守るカニエに、こちらまで癒されて笑顔に。なお、ノースは公の場で初めてラップを披露。5歳のアーティスト、ザザ(Zaza)による「What I do?」をリミックスしました。

 ラストはキム・カーダシアン(Kim kardasian)やコートニー・カーダシアン(Kortney Kardasian)ら一家が勢ぞろいし記念撮影。背後には会場に詰めかけたファンがずらりという写真が撮れましたが、実は会場がなだらかな坂になっていて、坂の上の方から一家を撮ると自然と後ろの人だかりまで写真に入ってくるのです。こんなフェイムを極めた写真を撮らせるためにこの場所で撮影させたなら、カニエは相当な策略家です。写真撮影の後一家は、アフターパーティーをするらしい建物の中に、群衆を引き連れて吸い込まれていきました。

 肝心のコレクションは、ベージュやグレートーンで、パーカーやクロップドトップス、レギンス、ムーンブーツ、スリッパなどあらゆるアイテムにパファーを使い、着やすさを追求しながらもフューチャリスティックな雰囲気を醸し出します。鍵となる素材は、キャラコ(綿モスリン)とローウール。カニエは、米ワイオミング州に約700頭の羊がいる27平方キロメートルの牧場を購入しましたが、ウールはこの牧場で作られたものなのかと米「WWD」が参加したプレスプレビューで聞かれると、「まだだが、将来的には使いたい」と明かします。

 さらに今回のコレクションについて「ファッションを始めたばかりのころは、Tシャツは作らないという努力をした。だがふたを開けてみたら、Tシャツしか作っていなかった。だから(コマーシャルな商品の開発は)やめて、新しいシェイプを作ることに集中した。ここにあるもの一つ一つが発明で、また開発段階のものもある」と説明。「このシェイプは他のデザイナーにも影響していくと思う」と自信をのぞかせました。

 ショーから帰ってホテルに着くと、今更「イージー」のインビテーションが届いていました。ウール素材の何も書かれていない袋ですが、この布の感じ、完全にカニエだと確信。開けるとショーにも登場したふわふわのパファーに包まれた干し草、住所などが書かれた紙、「Rattlesnake eggs CAUTION:Keep in cool place to prevent hatching...(ガラガラヘビの卵 危険:孵化しないように冷たい場所に保管してください)」と書かれた封筒が出てきました。

 いやいやさすがにカニエも毒ヘビの卵なんて送らないでしょうと思いつつ、心のどこかでカニエならやりかねないと思ってしまいます。念のため封筒と十分な距離を置きながらそっと開きます。すると封筒がガサッと動き、普通に悲鳴をあげて封筒を落としてしまいました。1分くらい遠巻きに見て封筒から何も出てこないことを確認し、思いきって封筒をひっくり返すと出てきたのはコレ。しょーもな(笑)。でも普通に悲鳴をあげてしまった自分が恥ずかし悔しい!最後の最後までカニエの手に踊らされた1日でした。

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パリコレ最終日のハイライト 圧巻の演出でトリを飾った「ルイ・ヴィトン」 「シャネル」「ラコステ」の速報も

シャネル(CHANEL)

DESIGNER/ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)

 ヴィルジニーは、現代女性に寄り添ったリアリティーのあるスタイルで新たな「シャネル」を築こうとしているようだ。今季は、明るいピンクや淡い黄緑を差し色に加えた白黒中心のデイウエアをそろえる。

 キーアイテムは、サイドを開くメタルボタンが配されたワイドパンツ。ジャケットやコート、ニットにも見られるメタルボタンのディテールは、スナップ式になっているものも多い。また、スカートには中央のファスナー開閉でスリットを調整できるデザインもあり、カジュアルなムードを醸し出す。ルックを完成させるのは、ビジューやパールがあしらわれた大ぶりのクラシックなコスチュームジュエリー。足元は、履き口を折り返したデザインのミドル丈ブーツで統一した。

ラコステ(LACOSTE)

DESIGNER/ルイーズ・トロッター(Louise Trotter)

 出発点は、プロテニス選手として活躍した創業者のルネ・ラコステと、ゴルフチャンピオンでもあった彼の妻シモーヌ。2つのスポーツから見出した調和を描いた。

 ファーストルックは、ブランドを象徴する青みのあるグリーンを用いたセットアップ。その後も、テニスコートのようなブラウンに鮮やかな色味やパステルカラーを合わせるとともに、チェック、ボーダー、アーガイルといった柄をミックスすることで、若々しくスポーティーなスタイルを作り上げる。提案するのは、さまざまな素材のベストやポロ、テクニカルジャージーのスーツ、トラックパンツ、そして、ハリのあるトレンチやダッフルコートなど。ウィメンズにはひざ下丈のプリーツスカートも多く用いるが、全体的に男女でシェアするスタイルが多い。

 アクセサリーは、キャディバッグを縮小したようなハンドバッグに注目。グローブやキルト付きのシューズも、ゴルファーのイメージにつながる。

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

DEIGNER/ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)

 圧巻とはこのことだ。ステージの幕が開くとそこに200人の合唱団が現れた。彼らが着ているのは、15世紀から1950年代までの世界中の民族の服。一夜限りの民族衣装博物館の登場である。衣装をデザインしたのは、「時計仕掛けのオレンジ」などスタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)映画の衣装デザイナー、ミレーナ・カノーネロ(Milena Canonero)で、着物の女性であればパールのネックレスを合わせるなど単純に民族衣装を再現しているのではない。音楽は、ウッドキッド(Woodkid)とブライス・デスナー(Bryce Dessner)が作曲した新解釈のクラシック音楽。荘厳な音楽がルーブル美術館の中庭に響き渡った。

 200人のキャストはランウエイを歩くことなく、ショーの間そこにとどまり歌やジェスチャーのパフォーマンスを行う。コレクションのテーマは「タイムクラッシュ」。ランウエイに登場したモデルたちが着ている服も、まさに時間と国境と性差を超えたスタイルで〇〇風など一言では言い表せない。強いて言えばベースにあるのは、スポーティーとスーパーフェミニンという相反する2つの要素で、そこに70年代調レトロや80年代調の強さなどさまざまな要素が加わる。まさにタイムトラベラーの様相だ。

 新型コロナウイルスの影響で特に後半は不穏な空気に包まれた2020-21年秋冬パリ・コレクションだったがオオトリの「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のパフォーマンスにより“世界はひとつ”というポジティブなムードに転換され幕を閉じた。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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海外が絶賛した「アンダーカバー」「ソロイスト」 パリメンズで日本人デザイナーが手にしたかけがえのない“成功”

 海外生活約10年目を迎える筆者だが、愛国心はさほど強くない。日本人として生まれたことは偶然であり努力をして得たものではないため、高いプライドは持っていない。しかし、2020-21年秋冬コレクションのパリ・メンズ・ファッション・ウイークに臨んだ日本人デザイナーは、そんな筆者の愛国心を刺激してくれる素晴らしい出来だった。「彼らと同じ日本人だ」と声を大にして言いたい——それほど今季の日本人デザイナーは完成度の高いコレクションを世界の舞台で見せてくれた。そう感じたのは筆者だけでないようで、海外メディアの多くも称賛している。

UNDERCOVER
「影響力を持つ最後の“映画監督”」

 フィナーレでスタンディングオベーションとともに鳴り止まない歓声と熱狂に包まれたのが「アンダーカバー(UNDERCOVER)」だ。19世紀に創業したサーカス劇場を会場に、西洋のコンテンポラリーダンスと日本の演劇を組み合わせたようなパフォーマンスでショーが演出された。ウェブメディア「ハイスノバイエティ(HIGHSNOBIETY)」の編集者クリストファー・モレンシー(Christopher Morency)は「膨大なルック数のコレクションは、高橋デザイナーが日本の伝統的衣服を参考にし、時代感と生地を衝突させた感動的な内容」だと評価した。同記事にはライター兼コンサルタントのユージーン・ラブキン(Eugene Rabkin)のコメントも掲載されていた。「高橋デザイナーは文化的影響を探求し続け、妥協のない展望を独自のレンズを通して解釈し、ファッションをほかの文化と対話させている。自身のドラムのビートに合わせて行進する、真の影響力を持つ最後の“映画監督”」。時代の潮流ではなく“自身のドラムのビート”に合わせている点が、独立した存在であり続ける高橋デザイナーのすごみであると筆者も思う。騒音に惑わされ、自身のビートもドラムスティックさえも見失ってしまうデザイナーは少なくないからだ。さらに、オンラインメディア「ハイプビースト(HYPEBEAST)」の編集者ニコラス・リー(Nicolaus Li)もコレクションを絶賛。「表情豊かなニットやミスマッチなボタン留め、繊細でありながら巧妙なディテール、遊び心のあるアクセサリー、おなじみの濃い色彩——多種多様なアイテムは同ブランドの往年のファンを再び振り向かせるだろう」。また両者の記事冒頭では、「アンダーカバー」の劇場型のショーが毎季期待するブランドの一つであり、多くの来場者を呼び込んでいることが記されている。同ブランドがパリ・メンズで独自の立ち位置を示し、存在感が増していることを実感する。「ヴォーグ ランウェイ(VOGUE RUNWAY)」のジャーナリスト、ルーク・リーチ(Luke Leich)はパフォーマンスとコレクションの詳細を長々と熱を込めて説明し、最後を次のように締めくくった。「ここには魂がみなぎっていた。コレクションは、着用可能にした思考と文化と感情の産物。その後の『ラフ シモンズ(RAF SIMONS)』のショー会場が遠いことや、すでに大幅に遅れていることなんて誰も気にしていなかった。それぐらいショーが本当に素晴らしかったから」。

TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.
「全世界の男性を身震いさせる」

 ルーク・リーチは決して日本びいきのジャーナリストではない。しかし「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.)」も大絶賛している。「宮下デザイナーが話す英語は完璧ではないが、そんなことは何の問題にもならない。なぜならショーを通して、意思の疎通が美しくできるから」という文章で記事が始まる。筆者の印象では、宮下デザイナーは日本語でもコレクションの内容や思いについて雄弁に語ることのない人物である。だが、彼の場合はきっとそのままでいいのだろう。言葉にならないものを衣服に注ぎ込み、見る者の感情を喚起することができる数少ないデザイナーだからだ。「今夜のショーは、男性の非常に長い憂鬱なため息のようであった。それは宮下デザイナーにとって非常に個人的なものだが、全世界の男性の哀れみに寄り添い、身震いさせる力を持っていた。(中略)コレクションは、痛々しいほど“本心”を詩的に語る、終わることのないセラピーコースのようであった」とリーチも感情的につづっていた。

 今季のコレクションとリーチの言葉の意図を深く読み解くには、宮下デザイナーがショー数日前に取材に応じた「ビジネス オブ ファッション(BUSINESS OF FASHION)」の記事が助けとなるだろう。同記事ではまず、カルト的人気を誇った「ナンバーナイン(NUMBER (N)INE)」が、彼の手に負えないほどビジネスが成長するとともに、出資者の意思によってクリエイションに妥協しなければならなかったと休止の理由が書かれている。「自分を見失い、もはや衣服を通して自己表現ができると感じられなくなっていた」と宮下デザイナーはコメントしている。精神面の健康を損なっていた彼は治療に1年間専念した後、2010年に「タカヒロミヤシタザソロイスト.」を立ち上げた。絶望さえ感じたモード界に復帰したのは、生粋のデザイナーである彼にとって必然だったようだ。「顧客とつながることはもちろん重要だが、私を最も駆り立てるのは、自分自身に対する不満という絶え間ない感覚だ。私にとってデザインすることはセラピーのようで、ネガティブな感情に対処する最善の方法」という宮下デザイナーの言葉で記事は締めくくられる。彼がコレクションを生み出すのは自分のためのようにも聞こえるが、結局は顧客に求められるからこそ「タカヒロミヤシタザソロイスト.」はブランドとして成長を続けているのだろう。傷を持たずに生きていける人はいない。彼のクリエイションによってともに傷を癒したり、あえて塩を塗って痛みを強さへ変えたりと、顧客は深い親和性を感じコミュニティーが築かれているのではないだろうか。人の心は痛みと痛み、脆さと脆さ、傷と傷によって深く結び付き、つながりを強化する。少なくとも、数年前に軽度のうつ病を患った筆者はそう思っている。

チームとの絆がいずれ“成功”へとつながる

 ほかにもハッピーなムードに満ち溢れた「ファセッタズム(FACETASM)」、自然のたくましさを服で表現した「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」、パリで古来の和を打ち出した「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」、反骨精神むき出しの「キディル(KIDILL)」、多様性を訴える「ミハラ ヤスヒロ(MIHARA YASUHIRO)」と、そのショーの前に突然行われた山岸慎平デザイナーの「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」のサプライズショーがつなぐ先輩と後輩の思い。日本人というフィルターを超越する世界的デザイナーの「サカイ(SACAI)」や、言わずもがなの「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME DES GARCONS JUNYA WATANABE MAN)」「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」の存在感の強さも改めて感じた。パリだけではなく、ミラノでも「フェンディ(FENDI)」とコラボレーションで注目を浴びた「アンリアレイジ(ANREALAGE)」や初参加の「ジエダ(JIEDA)」、そしてロンドンで安定感を見せる「ジョン ローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」など、多くの日本ブランドが世界の舞台に挑んだ今季だった。

 筆者がバックステージ取材を行った、今季パリコレ初挑戦の「ダブレット(DOUBLET)」と「ターク(TAAKK)」にはとても心温まる瞬間を与えてもらった。コレクションの内容もさることながら、バックステージや会場内で各デザイナーとスタッフが一丸となって本番を迎える過程で垣間見えた、チームの絆の強さである。日本人デザイナーではないが、会期中に単独取材を行った「ジル サンダー(JIL SANDER)」のメイヤー夫妻、バックステージ取材を行った「ボッター(BOTTER)」のデザイナーデュオからも、パートナーとしての絆の強さが話し方や空気感からひしひしと伝わってきた。

 身を粉にして創り上げたコレクションに対して、筆者も含めて世間は好き勝手に批評するもので、結果は売り上げの数字として表れる。大絶賛されたとしても、半年後のコレクションでは手のひらを返して酷評されるなど、ファッション業界の流れはとても早く移ろいやすい。ブランドをビジネスとして立ち上げた以上は、コレクションやショーの内容、売り上げといった“結果”は重要である。しかし感情だけで語るとしたら、長い目で見たときにやはり“過程”の方が大切だと思ってしまう。なぜなら、たとえいつか名声が薄れてビジネスが苦しくなったとしても、“過程”を通じて築き上げた仲間とのかけがえのない関係は最後まで手元に残るからだ。必ずしも要領よく勝ち進むことだけが全てではない。限界まで力を尽くしても思うような結果を残せなかった時、一緒に笑い飛ばしてくれる仲間がいることこそ幸せであり、本当の“成功”ではないだろうか。今季、筆者の愛国心を刺激してくれた日本人デザイナーには、それぞれの理想に向かって仲間とともにステップアップしていってほしい。筆者は“結果”に対して感情抜きで批評するのが仕事だが、“過程”や背景にも目を向け、真の“成功”を手にする姿も見守っていきたい。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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パリコレ8日目のハイライト また一歩進んだ「サカイ」 「アレキサンダー・マックイーン」「ステラ マッカートニー」「アクリス」の速報も

サカイ(SACAI)

DESIGNER/阿部千登勢

 「サカイ(SACAI)」がまたひとつ次のステージへ進んだ。“ハイブリッド”をキーワードに新しい服の形を模索し続けているが、今季の“ハイブリッド”は従来のレイヤードやパッチワークとは考え方が異なる。阿部千登勢デザイナーによるとそれは、「視覚的な3次元のフォームを超えた4次元のシルエットの探求」だ。

 立ち止まっているとメンズのスラックスのように見えるアイテムは、モデルが歩きだすとボリュームあるドレスであることがわかる。ここで言う「4次元」とは、動いた時の意外性ある布の軌跡や残像も含めたデザインと解釈して良さそうだ。それは服と人の体の間の感情をもデザインしたオートクチュールのデザイナー、クリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)の仕事に通じるものがある。

 質感の異なる生地をつないでフラットに扱う手法も印象的だ。大量の情報をギュッとプレスして2次元に落とし込むかのようでおもしろい。そして平面だからボリュームあるシルエットでも軽やかで現代的になる。

 4次元の象徴として扱う宇宙のプリントは、NASAが所蔵する宇宙の写真からおこしたもの。アルファベットが並ぶプリントは、ミッドセンチュリーを代表するデザイナー、アレキサンダー・ギラルド(Alexander Girard)のアーカイブプリントを「サカイ」のために特別なカラーリングに変更したもの。

アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)

DESIGNER/サラ・バートン(Sarah Burton)

 ハートのモチーフが随所に見られるのはデザイナーのサラ・バートン(Sarah Burton)が今季、「家族やチームへの愛のメッセージを込めたから」。情熱的な赤の使い方もまた、サラの溢れんばかりの愛情表現から来ている。

 もうひとつのポイントはスコットランドのキルト。故リー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQueen)が好んで着用していたように、キルトはブランドにとって大切な存在だ。動物柄のドレスは赤ちゃんをくるむキルトから、ベビーピンク色のドレスは女性の肌着からそれぞれヒントを得ている。シルバーのドレスのフリンジはよく見るとラッキーチャームであるスプーン。民族の物語をさりげなく、随所の取り入れている。

ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)

DESIGNER/ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)

 会場となったオペラ座の入り口を入ると、ウサギやウシなどコミカルな着ぐるみの動物たちがお出迎え。「家で植えてね」と来場者に苗木を配り、サステナブルな活動への参加を促す。海外からのゲストも多い中、全ての人が取り組めるかということはさておき、今季もステラはシリアスになりがちな話題に明るくアプローチしている。コレクションでは、動物を傷つけないビーガンレザーやシアリングのようなパイル地をキー素材に据えた。

 口元まで覆うように襟を立てたオフィサーコートやゆったりしたスーツ、なめらかなシルエットのドレスやセットアップで描くのは、“自由な精神を持ちつつ地に足のついた意思の強い女性”。ファッションデザイナーやイラストレーターとして活躍したエルテ(Erté)のアーカイブプリントや大柄のチェック、垂れるベルト状の共布がデザインのポイントになっている。また、ウィメンズと世界観を共有するメンズ・コレクションも同時に披露した。

アクリス(AKRIS)

DESIGNER/アルベルト・クリームラー(Albert Kriemler)

 陽光が注ぐ現代アート美術館の館内で展示されている絵画の前でショーを行った。今季のインスピレーションは、1920年代から30年代にかけて活躍したフランスの建築家ロベール・マレ(Robert Mallet)。マレの建築に着想を得たグラフィックをベルベットやカシミヤといった上質素材にのせる。ジャケットとパンツのセットアップ、ブラック&ホワイトのシルクのブラウス、プラム色のラップコートなど実用的で上質なアイテムを着ることで同時にアートをまとう提案だ。それは「アクリス(AKRIS)」の変わらぬスタンスだが、ファッション全体がエレガンス回帰にある今、富裕層のリアルクローズとしてますますそのポジションが明確になっている。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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パリコレ7日目のハイライト 「バレンシアガ」の異常気象を生き抜くギア 「ヴァレンティノ」「イッセイ ミヤケ」の速報も

バレンシアガ(BALENCIAGA)

DESIGNER/デムナ・ヴァザリア (Demna Gvasalia)

 写真のモデルの足元を見ると水しぶきが飛んでいることがわかるだろう。これは、ランウエイに水が張られているから。スタジアム式の客席は前から3列目までが水に沈み、天井一面に張り巡らされたモニターには押し寄せる波の映像が映し出された。異常気象により世界各地で多発している洪水を連想し、恐怖を覚える。

 「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の服は、そんな異常気象の中で生き抜くギアのようだ。手にスマフォを握り、耳にAirPodsを突っ込んだモデルは水を蹴散らし、裾が濡れることなどお構いなしにガツガツ歩く。誇張された肩は鎧のように体を守り、ネオプレーンを使ったスーツは実際に濡れても問題ない。イヴニングドレスも肌に吸い付くような生地で仕立てられ、着飾るというよりも体を守るもう一枚の皮膚のような存在となっている。靴はビブラム社(Vibram)とのコラボでこれも機能的だ。

ヴァレンティノ(VALENTINO)

DESIGNER/ピエールパオロ・ピッチョーリ

 今季表現したのは、平等性や包括性。さまざまな人種に加え、異なる年齢、体型、性別のモデルを起用し、それぞれの持つ人間性を描き出した。ベースとなるのは、“個性を消すもの”と捉えられることの多いユニフォーム。黒やグレー、ネイビーのチェスターコートやジャケット、オフィサーコート、腰履きした太いパンツといったテーラリングに加え、センシュアルなシルエットやクリーンなカットのドレスなどで作るワントーン中心のシンプルなルックをそろえる。アクセントを加えるのは、メゾンを象徴するや赤やピンクベージュ、そして、1月のメンズ・コレクションにも用いられたイネス&ヴィノード(Inez and Vinoodh)による花の写真。メンズと同デザインのコートをまとう女性モデルもいて、インクルーシブなスタイルを体現している。

 足元は、今季のランウエイで多く見られ、来秋冬のITアイテムになりそうなゴツいブーツ。一方、バッグには大きなボウ(リボン)や花びらのような装飾をあしらい、ルックに甘さを加える。ショーの音楽はビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の「All the good girls go to hell」。弦楽器の生演奏と合わさり、エモーショナルに心を揺さぶる。

イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)

DESIGNER/近藤悟史

 出発点は、擬態語や擬音語を表す“オノマトペ”。子どもが無邪気に工作をしたり、絵を描いたりするように、モノづくりの楽しさを服に落とし込んだ。最初に披露したのは、マジックのような太い線で布に描いた服を“スパッ”と切り取ったようなデザイン。そこには、一本の糸から一体成形で服を生み出す象徴的な技術「A-POC」が生かされている。その後も、“ジュワッ”と広がることをイメージをしたインナーとアウターがシームレスにつながっているアイテムや、色とりどりの粘土を”コネコネ”するように異なる色や質感を組み合わせたニットなど、多様なアイデアを打ち出した。
 
 終盤には、何着もつながったホールガーメントニットを着た、身長も人種もさまざまな男女が登場。フィナーレには全員が連なって楽しそうに歩く演出で、未来への希望を表現。そんなポジティブなメッセージは、近藤悟史デザイナーによる「イッセイ ミヤケ」のカギになっている。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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パリコレ6日目のハイライト それぞれの独創性を追求する「コム デ ギャルソン」「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン」「ノワール ケイ ニノミヤ」

コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)

DESIGNER/川久保玲

 「コムデギャルソン(COMME DES GARCONS)」がまたひとつ新しいフェースに入ったようだ。今季、川久保玲が残した言葉は、「ネオ・フューチャー」。12月にウィーン国立歌劇場で発表した「オーランドー」の衣装デザインを通じてジェンダーとは?の問いを観る者に投げかけたが、川久保の視点はどうやら次の “まだ見たことないもの”へ向けられている。

 音楽は、1ルックごとに変わる。DJのようななめらかなつなぎはなく、モデルが消えるとブツリと切れて次のモデルが登場するとやや乱暴に別の曲が始まる。クラシックとポップミュージックが交互にかかり、1ルックごとに完結した世界を見せる。

 服も身頃と袖とスカートといった一般的な洋服のパターンはなく上と中と下や、右と左などで色も素材も形も違う。子供が積み木を自由に重ねるように、バラバラが重なりひとつのカタチを作る。色も、ネオンピンクや赤、白、黒、グリーン、ブルー、イエローとパーツごとにバラバラでそれぞれが強く主張をする。そこには“ちょうど良い”とか“バランスが取れている”といった予定調和な着地はない。展示会で発表されたコマーシャルアイテムもまた、袖と身頃の素材がまるで違っていた。強い個性のパーツがぶつかり合う服がショーピースだけではなくリアルクローズに必ず落とし込まれているのが「コム デ ギャルソン」の強さだ。

ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME DES GARCONS)

DESIGNER/渡辺淳弥

 音楽は無音が数ルック分続いた後に、大音量でのブロンディ。モデルの唇はセックスシンボルでもあったデボラ・ハリーばりに艶のある赤リップだ。キーカラーは黒と赤。黒いフェイクレザーはよくみるとバッグを解体し、服に仕立てられている。バッグの底は袖の膨らみとなり、ファスナー部分はフレアスカートのパーツとなって開くと中からチュールのスカートがのぞく。

 “バッグを解体し服にする”と言葉にするのは簡単だが、立体から立体に仕立て直すパターンはパズルのように複雑。バッグの存在感を残しつつ、あくまで
デボラ・バリー的セクシーに、そしてロックに着地させた探求心と技術が凄みにつながっている。ストラップやファスナーといったディテールもデザインに生かし、ハーネスもナイロンのストラップだ。

ノワール ケイ・ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)

DESIGNER/二宮啓

 二宮啓のクリエイションが凄みを増している。初の公式スケジュールでの発表となった今シーズンは、バラの花をいくつも象ったような真っ赤なチュールドレスからスタート。赤の持つエネルギーに着目し、黒へと移り変わるイメージをドラマチックに表現した。

 使用するのは一般的に服に使われる素材に加え、アクリルの人工毛やフィルム、メタルのワイヤー、安全ピンまで。これまでと同じく、金具で留めたり、つなぎ合わせたり、編み込んだりと、生地を縫う以外の技術を駆使してアイテムを仕上げている。足元はイギリスの老舗シューズブランド「チャーチ(CHURCH’S)」とのコラボシューズ。ヘアはフラワーアーティストの東信(あずままこと)と現代アーティストのショップリフター(Shoplifter)が手掛けた。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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ロンドン・コレクションを斜め読み!後編 「エムエム6」の裏話から「バーバリー」のティッシの郷愁まで

 2020-21年秋冬シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(以下、LFW)が閉幕して早2週間。遅ればせながらLFW後半戦の16〜18日に発表されたブランドとイベントをピックアップしてダイジェストでお届けします。

2月16日(日)

50周年の「マーガレット・ハウエル」ショーで鳥肌

 50周年を記念した「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」のショーのファーストルックは、白シャツ一枚。コットンシャツから始まったブランドの歴史を振り返ります。次々と登場するルックを見て鳥肌が立ってしまいました。何故なら、2日前に訪れたアーカイブ展で見た50年分のブランドのキーとなるブレザーやダッフルコートなど名品の数々が登場したからです。上品だけれど気取らない、カジュアルだけれど角のない、「マーガレット・ハウエル」の普遍的な美しさが上手く語られていたコレクションでした。6月にはデザイナーのマーガレットが来日して50周年記念のイベントを行うそうなので、直接マーガレットに話を聞いてみたいと思います。

ピュアでドラマチックな「シモーン ロシャ」

 ロンドンでは、お隣の国アイルランド出身のデザイナーも多く活動していますが、実はシモーン・ロシャ(Simone Rocha)もその一人です。今回はアイルランドのアラン諸島のアランニットや、マタニティードレス、洗礼式の純白のドレスから着想を得たそうです。「Birth, Life, Loss(誕生、人生、喪失)」という言葉をキーワードにピュアな白、ダークな黒、海の青のカラーパレットで、ドラマチックに生死をコレクションで表現しました。ランウエイには、モデルの美佳ちゃんとモトーラ世理奈ちゃんが登場!ショー後にモトーラちゃんにばったり会ったのですが、「ずっと憧れのブランドに出ることができて、とても緊張したけれど、本当にうれしかった」とホッとした様子でした。

「TFN」 × 「エムエム6」コラボについてデザイナーを直撃取材

 「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 MAISON MARGIELA以下、エムエム6)」と米「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE 以下、TNF)」のコラボレーションをいち早く見て来ました。詳しいレポートはこちらをご覧いただけますが、こちらでは取材の裏側の話をさせていただきます。

 実はショー終了後には、そのバックステージで「エムエム6」のデザイナーから直接商品について説明してもらえる機会をいただきました。メゾン マルジェラは匿名性を大事にしているため、デザイナーの名前も顔も非公開です(クリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノは例外ですが)。そのデザイナーは「私たちは洋服をただジョーク(面白いもの)にはしたくない。デザインも機能性も優れたものにしたい。だから、『エムエム6』の強くアバンギャルドな印象を持たせながらも、『TNF』のそのままの素材を生かしたさっと着られるウエアラブルなウエアにして、両ブランドの良さをパーフェクトに表現した」と話していたのが印象的でした。メゾン マルジェラのスタッフはいつもショー会場でドクターズコート(白衣)を着ていますが、この日はスペシャルな「エムエム6」と「TNF」のロゴが入ったものを着用していました。

 ご存知の方も多いと思いますが、日本ではゴールドウインが「TNF」の独占販売権を持っているため、日本国内で購入できる「TFN」の商品は基本的に日本企画アイテムです。記憶に新しい「ハイク(HYKE)」や「ミナ ペルホンネン(MINA PERHONEN)」とのコラボもゴールドウインの企画による商品でした。なので、最初にこのアメリカ本国の「TNF」との「エムエム6」コラボの一報が出た時は、日本で発売されるのか心配する声も聞こえましたが、安心してください、ちゃんと販売されますよ!発売時は行列必至にはなると思いますが、お店もお客さんも皆盛り上がりそうで今から楽しみです。

豪華なモデルが続々出て来る「トミー ヒルフィガー」

 「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は毎シーズンさまざまな都市でSEE NOW, BUY NOW(見てすぐ買える)コレクションを発表し続けていますが、今回はロンドンにカムバック。従来の“ヒルフィガー コレクション”に加えて、英国人F1レーサーのルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)との4度目のコラボコレクション“トミー × ルイス(Tommy X Lewis)”とアメリカ人歌手のH.E.R.も加わったカプセルコレクション“トミー × ルイス × H.E.R.(Tommy X Lewis X H.E.R.)”も発表しました。サステナビリティ、インクルージョン&ダイバーシティーなど今重視されるキーワードを盛り込んでいて、ショーに出た服は翌日から発売です。

 フロントローには剛力彩芽さん、Kemioさんの姿がありましたが、ランウエイモデルも凄かった!ファーストルックからナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)が出たと思いきや、英バンド、オアシスのリアム・ギャラガー(Liam Gallagher)の息子のレノン(Lennon Gallaghe)、ケイト・モス(Kate Moss)の妹のシャーロット・ロティ・モス(Charlotte "Lottie" Moss)、ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のミック・ジャガー(Mick Jagger)の娘のジョージア・メイ・ジャガー(Georgia May Jagger)、と息子ルーカス(Lucas Jagger)ら挙げたらきりがないほどセレブ&2世たちが次々と登場したんです。「トミー ヒルフィガー」は今年で35周年だそう。セレブとの強いコネクションや、常に新しいことにチャレンジして発信するブランドのパワーを感じます。

2月17日(月)

中流階級の写真家の美しさを磨く努力を表現した「アーデム」

 「アーデム(ERDEM)」の会場は、イギリスの歴史上の人物の肖像画が展示されているナショナル・ポートレート・ギャラリー。フロントローには夏木マリさんと、前日の「シモーン ロシャ」のランウエイを歩いたモトーラ世理奈さんが座っていました。

 ランウエイに銀のシートが敷かれていて、コレクションのテーマも“Age of Silver(銀の時代)”。これは同会場で開催された英国人写真家のセシル・ビートン(Cecil Beaton)の1920〜30年代の作品にフォーカスした写真展の題名と同じです。ビートンといえば、英国女王エリザベスII世らはじめとする王室写真から女優のオードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)らを長年撮影してきた有名写真家です。中流階級の生まれだった彼が上流階級に受け入れられたのは、独創的な構図や演出、衣装が認められたからだったといいます。ビートンは若い頃から家族をモデルにしたり、自分自身も女性服を着てセルフポートレートを撮影し続けたりと、自分のスタイルを磨いていったそうです。今季の「アーデム」はその当時の写真からインスパイアされた贅沢なパールの装飾や、アールデコを意識した柄使いで高貴な印象になっています。

“潰れたビール缶”や“パンチバッグ”も昇華する「ジェイ ダブリュー アンダーソン」

 LFWのメインディッシュともいえる、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」の時間がやってきました。今季も優美で新しいテクニックが満載です。セルロイドテープを使ったキラキラした袖や襟、ころんとしたボリュームのニットケープ付きのニットワンピなど、バックステージでジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)はこのコレクションを「ヌーヴォー・シック(新しい上品さ)」と表現していました。シックなスタイルでも、ちゃんとウィットも忘れないのがジョナサン。架空のビール缶を潰したようなデザインのドレス、ボクシングのパンチバッグをイメージした新作バッグもありました(笑)。アンクルストラップ付きのもこもこしたシューズもかわいいです。

ティッシが3カ国の郷愁にふける「バーバリー」

 お待ちかねの「バーバリー(BURBERRY)」。いつも豪華なセレブリティーが来場するため、注目してフロントローを見て回っていると、ウクライナ生まれでイギリスを拠点にする双子ユニット、ブルームツインズ(Bloom Twins)を発見。彼女たちのことをいろんなショー会場で見かけており、声をかけるといつも気さくに対応してくれていたんです。とても可愛く、「バーバリー」もかっこよくきこなしていて、気になる存在です。またLAからはローラも駆けつけていました。

 ランウエイには大きな舞台セット。デュオのピアニストのラベック姉妹による生演奏でショーが始まりました。「バーバリー」の仕事のためにロンドンに拠点を移したリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)は、生まれ育ったイタリアや、学生時代を過ごしたロンドンでの記憶、その後移り住んだインドでの思い出に耽て、そこからコレクションを膨らませていったそう。

 柄の掛け合わせが特徴的で、代表的なハウスチェックからタータン、インド発のマドラスチェックなどもミックスしています。代名詞であるコートは定番のトレンチからダッフルコート、ケープコート、人工ファーを襟や袖に付けたオーバーサイズのコートなどがバリエーションが豊富。アイテムで注目したいのは変形シャツで、ドレスになったラガーシャツや、3つのチェックシャツを再構築したトップスなども面白いアイテムがそろっていました。個人的にはモデルのジジ・ハディッド(Gigi Hadid)も着用していたタートルネック風のリブのチョーカーも気になります。

2月18日(火)

実はサステナビリティに取り組み始めた「ダックス」

 私にとってのロンドンでのラストショーはロンドンの老舗ブランド「ダックス(DAKS)」でした。アイルランドの西海岸への旅からインスピレーションを得た今季は、ブランドとして始めてサステナビリティに取り組んだ“エコ コレクション”も一部発表しています。再生ウールを用いたニットウエアを始め、ペットボトルを原料にした人工ファーなど、いわれるまで気が付かない「え、そうなの?」というクオリティーの高さで驚きのあるいい事例だと思いました。

 昨今は時流に乗ってリサイクル、アップサイクルした素材を用いた商品が増えていますが、「ちょっと安っぽすぎませんか?」と思えてしまうブランドもあります。サステナビリティを意識した商品でもどうせ買うなら素敵なデザインで、値段に伴うクオリティーのものを購入したいのが本音ですよね。リサイクルに取り組みことに気を取られて、ベストな状態ではないものを生み出して、売れ残ってゴミになってしまうのは悲しいな、と思います。挑戦することももちろん大事ですが、クリエイションとビジネス、そしてサステナビリティを両立できるよう活動を再考することも重要だと、たくさんのブランドが“ポジティブ・ファッション”を推進するLFWで感じました。

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パリコレ5日目のハイライト 「セリーヌ」の男女合同ショー 「ロエベ」「ニナ リッチ」の速報も

セリーヌ(CELINE)

DESIGNER/エディ・スリマン(Hedi Slimane)

 「セリーヌ(CELINE)」は、メンズとウィメンズの合同ショーを行なった。“エディ”男子と“エディ”女子がカップルなら、2人のクローゼットはきっとひとつ。同じ趣味の服やバッグを共有していそうだ。

 これまでは女子が、ボーイフレンドに借りたようなオーバーサイズのジャケットを着ていたが、今はその逆もあり。男子もハイヒールブーツを履き、ショルダーバッグを肩にかけ、ボウタイブラウスを楽しんでいる。共通しているのは、1970年代調のブルジョワ・シックなスタイルだ。

 注目はジュエリー。フランスの彫刻家、現代美術家であるセザール・バルダッチーニ (Cesar Baldaccini)のジュエリーをレプリカとして発表した。

ロエベ(LOEWE)

DESIGNER/ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)

 “ファッションと遊ぶことを愉しむ”をテーマに、クラフト (工芸)との新しい関わり方を探求。ドラマチックなシルエットで見せた。その手法は、たっぷりと使った布にドレープやギャザーを効かせたり、襟や袖を誇張したり。素材もウールとブロケードやコットンとジャカードシルクなどで、質感のコントラストを描く。また、「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2018(LOEWE FOUNDATION CRAFT PRIZE 2018)」の特別賞に選ばれた陶芸家の桑田卓郎とコラボしたドレスやバッグ“フメラメンコ クラッチ”も登場。アンダーソンが追求するクラフトとファッションの融合は、ますます精度を高めている。

ニナ リッチ(NINA RICCI)

DESIGNER/ルシェミー・ボッター(Rushmey Botter)、リジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)

 テーマは“ネオロマンチック”。創業者ニナ・リッチ(Nina Ricci)が手掛けたシルエットからフォームの探求を続けているようだ。中心となるのは、メンズブランド「ボッター(BOTTER)」も手掛ける2人が得意とするテーラードの再解釈。今季はジャケットを大胆なクロップド丈にしたり、ウエストを絞ったジャケットやロングチェスターコートを仕立てたり。そこにエアリーなシャツや極太のパンツを合わせた。ドレスは、バルーンシェイプやマキシ丈のテントラインなど、ボリュームのあるシルエットを楽しむデザイン。ニュアンスにある色合いは、オランダ出身の画家キース・ヴァン・ドンゲン(Kees van Dongen)による作品から着想を得た。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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パリコレ5日目のハイライト 「セリーヌ」の男女合同ショー 「ロエベ」「ニナ リッチ」の速報も

セリーヌ(CELINE)

DESIGNER/エディ・スリマン(Hedi Slimane)

 「セリーヌ(CELINE)」は、メンズとウィメンズの合同ショーを行なった。“エディ”男子と“エディ”女子がカップルなら、2人のクローゼットはきっとひとつ。同じ趣味の服やバッグを共有していそうだ。

 これまでは女子が、ボーイフレンドに借りたようなオーバーサイズのジャケットを着ていたが、今はその逆もあり。男子もハイヒールブーツを履き、ショルダーバッグを肩にかけ、ボウタイブラウスを楽しんでいる。共通しているのは、1970年代調のブルジョワ・シックなスタイルだ。

 注目はジュエリー。フランスの彫刻家、現代美術家であるセザール・バルダッチーニ (Cesar Baldaccini)のジュエリーをレプリカとして発表した。

ロエベ(LOEWE)

DESIGNER/ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)

 “ファッションと遊ぶことを愉しむ”をテーマに、クラフト (工芸)との新しい関わり方を探求。ドラマチックなシルエットで見せた。その手法は、たっぷりと使った布にドレープやギャザーを効かせたり、襟や袖を誇張したり。素材もウールとブロケードやコットンとジャカードシルクなどで、質感のコントラストを描く。また、「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2018(LOEWE FOUNDATION CRAFT PRIZE 2018)」の特別賞に選ばれた陶芸家の桑田卓郎とコラボしたドレスやバッグ“フメラメンコ クラッチ”も登場。アンダーソンが追求するクラフトとファッションの融合は、ますます精度を高めている。

ニナ リッチ(NINA RICCI)

DESIGNER/ルシェミー・ボッター(Rushmey Botter)、リジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)

 テーマは“ネオロマンチック”。創業者ニナ・リッチ(Nina Ricci)が手掛けたシルエットからフォームの探求を続けているようだ。中心となるのは、メンズブランド「ボッター(BOTTER)」も手掛ける2人が得意とするテーラードの再解釈。今季はジャケットを大胆なクロップド丈にしたり、ウエストを絞ったジャケットやロングチェスターコートを仕立てたり。そこにエアリーなシャツや極太のパンツを合わせた。ドレスは、バルーンシェイプやマキシ丈のテントラインなど、ボリュームのあるシルエットを楽しむデザイン。ニュアンスにある色合いは、オランダ出身の画家キース・ヴァン・ドンゲン(Kees van Dongen)による作品から着想を得た。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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パリコレ4日目のハイライト 甘辛バランスを探求する「クロエ」 「パコ・ラバンヌ」と「リック・オウエンス」の速報も

パコ・ラバンヌ(PACO RABANNE)

DESIGNER/ジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)

 会場は、かつては牢獄として使われ、マリー・アントワネット(Marie Antoinette)も投獄された歴史もあるコンシェルジュリー。騎士や聖職者など中世の装いを出発点に、シックで現代的な強い女性像を表現した。中心となるのは、首元の詰まった細長いシルエット。可憐な花の刺しゅうを加えたかっちりとしたテーラードコートやスーツ、クラシックな花柄やレースを取り入れたフェミニンなドレス、アンティークのラグやスカーフを想起させるフリンジドレスなどをそろえる。ブランドにとってのアイコニックな素材であるチェーンメイルを用いたなめらかなドレスは、長年培ってきた職人たちの技術の賜物。さながらクチュールの繊細さを感じる。

クロエ(CHLOE)

DESIGNER/ナターシャ・ラムゼイ・レヴィ(Natacha Ramsay-Levi)

 今季は、着やすい丈感が印象的だ。柔らかなロング丈のドレスやスカートをそろえる一方で、お父さんから借りてきたようなジャケットやタック入りのワイドパンツ、ダブルモンクストラップシューズやレースアップブーツも織り交ぜ、甘さと辛さのバランスを探求。ベルトマークとジャケットやニットにはあしらったピンズをスタイリングのアクセントにした。落ち着いたカラーに加え、服やバッグを彩るのはナターシャの友人であるリタ・アッカーマン(Rita Ackermann)の作品。ランウエイには、福島リラも登場した。

リック・オウエンス(RICK OWENS)

DESIGNER/リック・オウエンス(Rick Owens)

 “プロテクト”は今季のパリのキーワードだが、「リック オウエンス(RICK OWENSE)」はずっと前から一貫して“プロテクト”を服で形にしてきた。繊細なハートを包み込むようなフォーム、外敵から体を守るかのような巨大な肩パッドの服、野生を生き抜く昆虫の羽や触覚風のディテール。今季もこれらは変わらず、ラテックスのような半透明な素材使い、明るい水色や白の色使いからたくましく同時に軽やかだ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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パリコレ3日目のハイライト ダークな世界観漂う「ドリス ヴァン ノッテン」 「マルタン マルジェラ」「ロシャス」の速報も

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

DESIGNER/ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries van Noten)

 インスピレーションは、“叙情的な夜の魅力”や“セルジュ・ルスタンのメイクアップが生み出す官能性”。1980年代のロンドンやニューヨークのナイトクラブなどからイメージをふくらませた。パンクやロカビリー、ディスコの要素を取り入れたスタイルは、ダークな世界観が漂う。シルエットはエレガントなオーバーサイズから縦の線を強調するスリムまでをミックス。しっかりとしたレザーやフェイクムートン、クラシックなベルベットやビロード、半透明のラテックスといった多様な素材に、タータンチェックやサイケデリックなカラーをアクセントしたハワイアンプリント、パイソン柄などを合わせた。足下のキンキーブーツやプラットフォームブーツは、グラムロックのイメージにつながる。

メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)

DESIGNER/ジョン・ガリアーノ(John Galliano)

 “会社員っぽい”など、職業や社会的立場を連想させる服やスタイルがある。ジョン・ガリアーノはそういった社会が共有する“らしさ”=“ドレスコード”を再解釈してみせた。とは言っても職業を特定するわけではなく、再解釈の対象は “ブルジョワ”と呼ぶ一般の人たち。スーツを再構築したり、製造過程を見せたりすることで私たちが無意識に共有する“らしさ”の価値観を一度露呈させた上でガリアーノのエッセンスを加えて見せる。仕上がりはジェンダーレスでロマンチックだ。1月に“アーティザナル”で発表したアイコンシューズ“タビ”と「リーボック」のコラボレーションシューズも登場した。

ロシャス(ROCHAS)

DESIGNER/アレッサンドロ・デラクア(Alessandro Dell’Acqua)

 6年間クリエイティブ・ディレクターを務めたデラクアによるラストコレクション。ひざ丈やミッドカーフ丈のドレスやコートを軸に、「ロシャス」での集大成を見せた。中心となるのは、淡いピンクや宝石のようなパープル、オレンジなどの綺麗な色で描くワントーンのゆったりとしたエレガントなスタイル。そこにクレープデシンやパテント、カシミア、ファーなど質感のコントラストと、ビジューやフリンジ、ラッフルで表情を加える。終盤は、黒一色のシリーズでシックにまとめた。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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「コーシェ」による「エミリオ・プッチ」がミラノでお披露目 アーカイブを再解釈

 イタリアブランド「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」はミラノ・ファッション・ウイーク中の2月20日、「コーシェ(KOCHE)」を手掛けるクリステル・コーシェ(Christelle Kocher)をゲストデザイナーとして迎えた2020-21年秋冬コレクションを披露した。

 色鮮やかなプリントで知られる「エミリオ・プッチ」のアーカイブの柄を用いたスポーティーで洗練させたウエアをユニセックスで提案した。コーシェは創業デザイナーのエミリオ本人が1956年にデザインした”パリオ(PAILO)”コレクションから、“ルパ(LUPA)”や“セルヴァ(SELVA)”などの柄をセレクト。ライラックやフクシア、エレクトリックブルーなどの「エミリオ・プッチ」の馴染みのある色合いでまとめた。両ブランドの頭文字のEとKを組み合わせた新エンブレムも登場し、所々にあしらわれた。

 アイテムは、ドレスやコート、ポロシャツ、トラックスーツなど、エレガンスとスポーツと掛け合わせたスタイル。素材は「エミリオ・プッチ」が長年取り入れてきたジャージーを始め、デニムなどカジュアルなものを取り入れながらも、繊細なレースを装飾に用いたり、フェザーの上にプリントを施すなど、「コーシェ」の得意とするクチュールテクニックを合わせている。

「エミリオ・プッチ」と「コーシェ」の共通点は
”洗練されたスポーツウエアの要素”

 コーシェは「創業者のエミリオ・プッチはユニークな色柄だけでなく、ジャージー素材を使ったデザインでもよく知られて、女性服を美しく快適に変化させていたったデザイナーの一人。だから、そのアーカイブの色や柄を用いながら、新しい快適性と斬新さを備えたコレクションをユニセックスで打ち出したいと思った。そのプッチ氏がスポーツウエアをエレガントに取り入れているアプローチは、私が『コーシェ』でやっていることとの共通点を感じた」と語った。

 クリステル・コーシェは自身の「コーシェ」のデザインを手掛ける傍、シャネル(CHANEL)傘下のクチュールアトリエのルマリエ(LEMARIE)でアーティスティック・ディレクターを務め、「シャネル」の繊細な羽細工やカメリアなどのコサージュなどをディレクションするなど、マルチに活動するデザイナーだ。19年6月にはフランスの若手デザイナーの登竜門「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award)」のグランプリを獲得。同年に「コーシェ」はOTB傘下で生産・販売を手掛けるスタッフインターナショナルとライセンス契約を結び、20-21年秋冬からスタッフインターナショナルが生産と販売を行うことが決まっている。これまでに「ナイキ(NIKE)」などともコラボレーションを行ってきた。

 来シーズンの「エミリオ・プッチ」と「コーシェ」の協業の継続は未定で、今後はまた新たなデザイナーが迎えられるようだ。

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パリコレ2日目のハイライト マスク姿に戦慄「マリーンセル」「ディオール」「アンリアレイジ」「サンローラン」の速報も

マリーン セル(MARINE SERRE)

DESIGNER/マリーン・セル(Marine Serre)

 根底にあるテーマは変わらず、温暖化が進む地球とそこで生き延びようとする人間たち。登場するルックも既視感あるものが多いが、マスクやフードで身を守る姿は新型コロナウィルスにおびえる現代人を投影しているようで迫りくる。会場は現代アートを扱うアートスペース。19世紀から長く葬儀場として使われたと聞けば一層おどろおどろしい。そんな演出をのぞけば、サバイバルに適した服とはつまりは機能的で動きやすい服。ボディースーツとジャージーといったヨガウエアのような服や日よけつきの帽子とつなぎ、ハンズフリーになるボディーバッグなど。最後はおそろいのフリルのドレスを着た幼い姉妹が手をつないで登場し明るい未来をのぞかせる。

ディオール(DIOR)

DESIGNER/マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)

 出発点は、マリア・グラツィア(Maria Grazia)がまだ10代だった頃の日記。その中の写真からイメージをふくらませ、1970年代ムードにスポーティーな要素を掛け合わせた。キーモチーフは、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が愛したチェックとドット。チェックは、マルク・ボアン(Marc Bohan)時代のバイアス使いのスタイルをスカートのシルエットの着想源にしたほか、さまざまな色とデザインでコートやジャケット、ドレスに落とし込んだ。一方、ドットは黒のネクタイで引き締めたシャツや柔らかなドレスに採用した。デザインで印象的なのは、フリンジ。アウターやスカートの裾のディテールや糸状の細い長いもので仕立てたドレスが、躍動的なイメージを生み出す。また今季は、ファーストルックのスーツスタイルを筆頭に、ニットでの表現も豊富だ。

アンリアレイジ(ANREALAGE)

DESIGNER/森永邦彦

 「アンリアレイジ」はもう5年以上パリコレで発表しているが、昨年の「LVMHプライズ」でファイナリストに選ばれた経験は、森永邦彦の自分らしいクリエイションへの自信につながっただけでなく、周りからの見る目も変えた。それは、ショーの空気感からも感じられる。

テーマは“ブロック”。「つくってはこわし。こわしてはつくる。」をキーワードに、半円柱や直方体、三角柱といった積み木のような形をした複数のパーツをつなぎ合わせて作る構築的なウエアを披露した。縫うのではなくブラインドホックを使うことで、自由に組み合わせたり、取り外したりできる構造になっているのがポイント。裾や袖の長さも、パーツの付け外しで調節可能だ。ベースとなるアイテムは、トレンチコートやMA-1、ジャケット、アランニット、ダウンコート、ダッフルコートといったワードローブの定番が中心。終盤には、さまざまなアイテムのパーツをハイパーミックスしたスタイルで、子どもがおもちゃで遊ぶように無邪気に楽しめるファッションを提案した。

サンローラン(SAINT LAURENT)

DESIGNER/アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)

 エッフェル塔前の広場に今季は巨大なテントを建て、これまた巨大な「YSL」のロゴを前にワンウエイショーを行った。ムッシュ・サンローラン時代のアーカイブから着想を得た生地を使い、1990年代調に落とし込む。曲線美を見せつけるスタイルは変わらずだが、真冬のホットパンツは封印し代わりにカラフルなレギンスを選んだ。主役は何と言ってもバリエーション豊富なジャケットで、素材や色を変えて“これでもか!”と言わんばかりにメンズライクなテーラードを打ち出した。大きなラペルの中に合わせるのはボウタイブラウスかハイネックのニットと、こちらも潔い。情報過多な時代、強烈な演出と徹底的にひとつのアイテムに絞り込む見せ方はうまい戦略だ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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またまたミラノ日記番外編 新型コロナで無観客ショーの「ジョルジオ アルマーニ」が12人の中国人モデルと中国に祈り捧げる

 終盤、突如蔓延し始めた新型コロナウイルスに揺れた2020-21年秋冬ミラノ・コレクションが終わりました。この原稿は今、経由地のパリに向かう飛行機の搭乗前、ミラノのマルペンサ空港で書いています。25日朝(イタリア時間)の段階で、イタリア国内の感染者数は270人以上。死者は7人です。昨日からは学校も閉鎖され、後輩記者は27日予定だった帰国を25日に前倒しました。イタリア政府の対応が迅速ゆえ、万が一ミラノで患者が見つかり増えた場合、街から出られなくなる恐れがあると判断しました。

 政府の迅速な対応、そして、ブランドの勇気ある決断により、今シーズンは3つのブランドがいつものショーを開催できなくなりました。「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」と「アツシ ナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)」、それに「アレクサンドラ ムーラ(ALEXANDRA MOURA)」です。「アルマーニ」は無観客でショーを開催し、その様子を「Armani.com」などのオウンドメディアで公開。「アツシ」と「アレクサンドラ ムーラ」は、イベントそのものを中止せざるを得ませんでした。同じ日本人として「アツシ」は本当にかわいそうに思いますが、ブランドは今日、ミラノでルックブックを撮影しています。その写真は、間もなく「WWD JAPAN.com」でも紹介できるでしょう。

 「アルマーニ」のショーは当日23日の深夜、ホテルでサイトにアクセスし、鑑賞しました。いつもは数百人で賑わっている会場は、本当に無人。ショー会場の「アルマーニ/テアトロ」には10年以上通っていますが、こんなに寂しい空間は見たことがありません。そこに、モデルが現れました。ホームページによると、今シーズンのテーマは「ベルベットの風合い」。その名の通り、主役はブラックのベルベット。メンズウエアのようなジャケットやコートから、ドレス、ガウチョパンツ、そしてボウタイに至るまで、全85ルックのほとんどにブラックベルベットが登場。その美しさは、スマホからも明らかです。整った毛足は輝きを放ち、ビロードのように滑らか。漆黒ゆえ厳格ですが、柔らかそうで優しくもあります。リボンのように結ぶことができるくらいですから、相当柔らかいのでしょう。

 ブランドのPRからは、「アルマーニには、ベルベット担当がいるんです。だから『ジョルジオ アルマーニ』のベルベットは、別格。『エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)』のベルベットも素敵ですが、『ジョルジオ』は全然違います」と聞いたことがあります。アンコンジャケットの創始者にとって、ベルベットは特に重要な素材。そんな素材を贅沢に使った、渾身のコレクションを直接大勢に見せられなかったアルマーニさんの無念は、計り知れません。しかも彼は、現在85歳。どんなに元気でも、残されたランウエイショーは、100回に満たないハズです(彼はオートクチュールからメンズに至るまで、年間10のランウエイを開催しています)。その1回を、このような形で終えざるを得なかったことも、僕のエモーションを掻き立てます。

 そんなコトを思いながらショーを見ていたら、15分がすぎたところで12人の中国人モデルが現れました。彼女たちが身にまとうのは、20-21年秋冬ではありません。09~19年までのオートクチュール「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVE)」の中から厳選した、中国にインスピレーションを得たコレクションです。真紅のドレスにシノワズリのムード。12人が勢ぞろいするとアルマーニさんが現れ、客席に向かって手を合わせ、一礼し、微笑みました。誰も、いないのにです。

 誰もいない会場に向かっての一礼。それが僕には、中国で今なお猛威を振るう、新型コロナウイルスの沈静化を願う、祈りのように見えました。壁面のデジタルサイネージには雪が降り、中央には蓮の葉が浮かぶ池を模した空間。そして、12人の中国人モデルとアルマーニさん。新型コロナウイルスを広めてしまった中国を責めるでもなく、無観客のショーに落胆するでもないアルマーニさんを、ただただ素直に尊敬します。

 ショーの中止は終盤だけでしたが、ミラノ・ファッション・ウイークには序盤から中国人メディアとバイヤーの姿がありませんでした。これを受け主催者は、デジタルキャンペーン「China, we are with you.(中国よ、私たちは貴方とともに)」をスタート。中国版ツイッターのウェイボー(微博、WEIBO)の協力を得て、会期が終了するまでに18のショーをデジタル配信。主催者側の発表によれば、延べ1600万のアクセスがあったと言います。主催者は現在も各ショーのアップロードに取り組んでおり、間もなく公式スケジュールの全てのショーが中国でも楽しめるようになるそうです。

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