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タオルの生産工程では、繊維の不純物を洗い流したり、染色した糸や素材の余分な染料を洗い落とすために、"晒(さらし)" という処理がされる。

箱根で出会う、東洋の美と珠玉のショコラ。[岡田美術館/神奈川県足柄下郡]

建物は海外のホテルなどを手がける建築家・三浦 慎氏の設計。(撮影:太田拓実)

神奈川県足柄下郡湯の街であり、美の街。愛好家が訪れる美術館とは。

言わずと知れた温泉地・箱根。実は温泉以外にも多数の美術館が点在しており、アートの街としても知られています。そのうちのひとつ『岡田美術館』は、優れたコレクションはさることながら「あるもの」がファンの間で人気。その芸術性豊かな展示やロケーション、そして創業者の並々ならぬ「一流へのこだわり」など、美術館の魅力についてじっくりとご紹介します。

1階展示室。目に入るのは唐時代の中国の三彩。韓国の陶磁器、工芸も並ぶ。(撮影:太田拓実)

神奈川県足柄下郡5層の空間に日本・東洋の美術約450点を展示。

2013年、小涌谷にオープンした『岡田美術館』。傾斜地に抱かれるように佇む5階建て5000㎡の展示室内に、日本・東洋の美術品や考古遺品など常時約450点を展示。開館5年ながら遠方からの観光客をはじめ首都圏からも多くの人が訪れ、箱根の「美の殿堂」として定着しつつあります。
そのコレクションは実に見事。ゆとりある展示スペースに縄文土器から陶磁器、日本画、江戸時代のガラス、仏像まで幅広いジャンルの美術品が暗闇に浮かび上がるよう照らし出され、一日中鑑賞しても飽きない美術館として愛好家の間では高評価です。

2階には日本の磁器や江戸時代のガラスを展示。

神奈川県足柄下郡観光地ならではのホスピタリティがそこかしこに。

葛飾北斎や伊藤若冲といった有名画家による作品も多く、液晶タッチパネルによる日・英・中・韓の言語対応の作品解説では通常では見られない作品の裏面や内側もビジュアルで紹介。子供向けのわかりやすい解説もあり、国籍や年齢、美術の知識の有無を問わず作品への理解を深めてくれます。

3階は屏風をはじめ、若冲や円山応挙など日本画の人気作も。

神奈川県足柄下郡4月1日まで「仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―」を開催。

1階は「中国陶磁・青銅器、韓国陶磁」、2階は「日本陶磁、江戸ガラス」、3階は「日本絵画~屏風を中心に~」、4階は「日本絵画・書跡」、5階は「仏教美術」。年に数回の特別展も美術館独自の視点でテーマを設け、あまり知られていない作家の共通点を取り上げるなど新たな発見のある内容となっています。ちなみに現在開催されているのは『仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―』(4月1日まで)で、京焼の祖ともいわれる野々村仁清と、絵画とやきものを融合させた尾形乾山の器と併せて、乾山の兄・光琳や若冲の絵画などを展示しています。

尾形乾山『色絵立葵図香合』江戸時代 岡田美術館蔵

尾形光琳・尾形乾山『銹絵白梅図角皿』江戸時代 岡田美術館蔵

神奈川県足柄下郡「美と出合う楽しさを分かち合い、次世代に伝え遺したい」との願いから。

創業者の壮大な夢を凝縮させた岡田美術館は、岡田和生氏が蒐集した日本・東洋美術コレクションを展示するために設立されました。尾形光琳の『雪松群禽図屏風』と出合ったことがきっかけで日本画や東洋美術を蒐集し始め、多くの人に鑑賞してもらおうと美術館を設立。館が建てられているのは明治時代のホテル「開化亭」跡地の約7700㎡もの広大な場所で、建物裏には約15000㎡の庭園が広がり、自然と一体化した美術館として温泉街・観光地ならではのロケーションを誇っています。

弟・乾山の器越しに兄・光琳の屏風を望める展示もこの企画展ならでは(~4/1まで展示)。

岡田美術館開館のルーツとなった尾形光琳の『雪松群禽図屏風』。

神奈川県足柄下郡『岡田美術館』でしか買えない「幻のチョコレート」とは。

『岡田美術館』が人気な理由は、優れた展示品はさることながらミュージアムショップで販売しているスーベニアのクオリティの高さにもあります。その最たるものが、チョコレート。なんと『岡田美術館』には専属のショコラティエがおり、美術館でしか手に入らない「岡田美術館チョコレート」を販売しているのです。

ショコラティエを務めるのは三浦直樹氏。フランスでの修業経験を持ち、代官山『デカダンス・ドュ・ショコラ』のオープニングシェフや『ブルガリ イル・チョコラート』の初代マスターショコラティエを歴任した実績があります。ドラマ『失恋ショコラティエ』でも技術指導とチョコレート製作を担当したショコラのスペシャリストです。

チョコレートバー(1800円)などここでしか手に入らない「岡田美術館チョコレート」。

神奈川県足柄下郡扱うものは全て一流のものを、というプライド。

なぜ美術館に専属のショコラティエがいるのでしょうか。それは、岡田氏が「全て一流のものを」という高い志のもとにこの美術館を開いたからです。収蔵品だけでなく、その器である建物、そしてロケーション、更には館を訪れた人がその感動を持ち帰ることのできるスーベニアにいたるまで「最高級のものであること」を徹底しています。視覚だけでなく味覚にも芸術性の高さを追求し、この唯一無二の「岡田美術館チョコレート」に行き着いたのです。

神坂雪佳の『燕子花図屏風』をモチーフにした『雪佳・燕子花』(2800円)。

金色に菊の花が映える尾形光琳の作品をモチーフにした『光琳・菊』(2800円)。

8粒のショコラを詰め合わせた『歌麿・深川の雪』(4800円)も人気商品。

神奈川県足柄下郡美術館らしい芸術性を兼ね備えたチョコレートに。

三浦氏はこのチョコレート制作の話を岡田氏から持ちかけられた時、「美術館のオリジナリティをどう出すか」で悩んだといいます。自身が得意とするのは、味の異なるショコラ同士を組み合わせる「フレーバーのマリアージュ」。しかしその手法だけでは「岡田美術館らしさ」が出ません。そこで考えたのが、作品そのものをチョコレートで表現する「アートなチョコレート」だったのです。

そうして2015年の『光琳・菊』を皮切りに、『雪佳・燕子花』、『歌麿・深川の雪』など作品そのものを描いた芸術性の高いチョコレートを特別展に合わせて発表しました。1粒1粒に全神経を集中させて絵柄を施すチョコレートへの描画は、単に「スイーツを作る」という作業にはない精神力と緻密さを要するものです。そうした見た目の完成度に加えて、味も極上の素材を選び抜き、それを美味しくするための手間を惜しまず作り込みました。

例えば「ピスタチオ×シナモン」は、風味の強いシチリア産ピスタチオを使ったガナッシュに、ほんのりシナモンが香るガナッシュを合わせ、ピスタチオの粒を残してサクサクした食感を出しました。また「ゴルゴンゾーラチーズ×ベーコンチップ」は、ペッパーを利かせてまるでカルボナーラスパゲッティを食べているような味わいに。他にも「白トリュフ×南瓜」「柚子×マスカルポーネ」など、これまで開発してきた100種以上ものレパートリーを生かし、1セットで全て違う味のマリアージュを楽しめるよう工夫しています。「岡田美術館チョコレート」は、基本的にここでしか買えませんが、今年まで4年連続で『日本橋三越本店』の「スイーツコレクション」に出店。バレンタイン時期限定のチョコレートが多くの女性の心を掴んでいます。

大壁画向かいにある100%源泉かけ流しの足湯カフェ。(太田拓実撮影)

神奈川県足柄下郡美に触れ、美を味わい、心に安らぎを。

チョコレート以外にも、敷地内のレストラン『開化亭』で日本庭園の四季を愛でながら「豆アジ天うどん」といった名物料理を頂けたり、風神雷神をモチーフにした12m×30mの大壁画を目の前にして足湯を楽しめたりと、訪れる人を飽きさせない仕掛けがいっぱいです。入館料は2800円と一般的な美術館に比べてやや高めですが、ここで得る体験の価値から鑑みると、決して高い金額ではありません。

自然豊かな日本庭園に囲まれた『開化亭』。食事、喫茶のみの利用も可能。

神奈川県足柄下郡4月6日からは田中一村の絵画を一挙公開。

『仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―』の後は、4月6日から9月24日まで特別展『初公開 田中一村の絵画ー奄美を愛した孤高の画家ー』を開催します。同館収蔵の田中一村の作品すべてが初公開されるとともに、最高傑作と名高い『アダンの海辺』(個人蔵)も期間限定(8/24~9/24)で展示されるので、ぜひ芸術と自然を訪ねて足を運んでみてください。
(写真提供:岡田美術館、一部筆者撮影)

田中一村『熱帯魚三種』昭和48 年(1973) 岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama

Data

住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1 MAP
電話:0460-87-3931
営業時間:9:00~17:00(入館は~16:30)
※ミュージアムショップは9:00~17:00
休日:無休(年末年始、展示替えによる臨時休館あり)
アクセス:伊豆箱根バス・箱根登山バス「小涌園」徒歩すぐ
料金:大人2,800円、小中高生1,800円
※特別展
『仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―』
2017年11月3日(金・祝)~2018年4月1日(日)
『田中一村の絵画―奄美を愛した孤高の画家―』
2018年4月6日(金)~2018年9月24日(月・祝)
http://www.okada-museum.com