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色落ちしにくい "スレン染め" タオルは、塩素系の洗剤で洗濯しても色落ちしにくく、洗濯堅牢度(色落ちしにくい性質)が全般的に高いという性質がある。

国産漆を次世代に伝えていくために。[浄法寺漆産業/岩手県盛岡市]

天然の樹脂でありながら、最新のマテリアルにも勝る卓越した性能を誇る。

岩手県盛岡市「国産漆の最後の砦」を自負。その存続と普及とを目指す。

日本人が古くより有益性を見出し、漆器や建築物などの塗料として重宝してきた漆(うるし)。
縄文時代初期から愛され、その美しいツヤと風合いはもちろん、耐水性・防腐性・酸やアルカリへの耐腐食性といった優れた性質は、暮らしの中に幅広く生かされてきました。

ですが、そんな希少かつ有益な国産漆は、今や失われる寸前となっています。現在、国内で使われている漆の約98%は安価な中国産。永く愛されてきた国産のシェアは、わずか2%にまで落ち込んでしまいました。

この現状に危機感を抱いて立ち上がったのが、『株式会社 浄法寺漆産業』を起業した松沢卓生氏です。起業する前は岩手県庁の職員でしたが、その際に岩手の名産品である漆と関わる機会を得て、この貴重な存在が風前の灯であることを知りました。そして一念発起して岩手県庁を退職。自ら起業して、国産漆の存続のための活動を始めたのです。

製品には100%浄法寺産の国産漆のみを使用。伝統の「巖手椀(いわてわん)」。

岩手県は国産漆の約7割を産出する漆のメッカ。そして二戸市(にのへし)浄法寺町には、日本で最も多く漆掻き職人が住む。

岩手県盛岡市優れた天然資源と、そこから生まれる文化を絶やさないために。

松沢氏が目指すのは、単なる漆製品のプロデュースだけでなく、漆産業自体の存続と発展です。
その軸となるのは、確かな基盤を築くための発想とブランディング。まずは確かな技術と品質を保証するために、地元の岩手県や二戸市(にのへし)と連携。国産漆では初の認証マークを創設しました。その基準は、漆を採取する職人の技術、漆を採取する場所、不純物をいっさい加えない優れた品質の3点。いずれも細部にいたるまで、詳しく、厳しく定められています。

漆の品質を厳しくも優しいまなざしでチェックする松沢氏。自ら現場に入って奮闘している。

漆掻き職人の道具。上から順に、漆の樹の皮をはぐ「カマ」、樹液を掻き取る「ヘラ」、樹に傷をつける羽根と、樹液を出やすくするための切り込みを入れる刃がついている「漆カンナ」。

岩手県盛岡市危機感から始めたものの、いつしかその魅力の虜に。

「漆は貴重な山の恵みで、かつサステナブルな自然素材です。『漆の一滴は血の一滴』ともいわれており、漆掻き職人は山と樹に感謝しながら漆を採取しています。山の手入れを丁寧にすれば、漆の樹は何度でも新たに育つからです。有限な石油資源とは対極にある、エコロジーで永続的な資源なんです」と松沢氏。

最初は危機感を持って漆の世界に飛び込んだものの、その魅力と奥深い文化に触れるうちに、どんどん漆に魅了されていったといいます。
「まさに『漆にかぶれた』といえるでしょうね」と笑う松沢氏が心がけているのは、自身がこれまでに身につけてきたスキルを、漆産業を支えるために生かすことだそうです。「漆の世界は樹から採取する『漆掻き職人』をはじめ、器を作る『木地師(きじし)』、漆を塗る『塗師(ぬし)』など、実直な職人の皆さんが支えています。職人さんは表立って情報を発信することが不得手な人も多いので、間に入って広報の役割を担えればと思いました。過去にはなかなかそういう人材がいなかったそうなので、少しでも力になれれば」と、松沢氏は続けます。

漆の性質や魅力を人間が生かして使いこなしている。日本人の精神性や文化にも通じる共生。

漆と人間との関係によって生まれた文化は、世界的にもまれなもの。「それを途絶えさせたくない」という松沢氏の想い。

岩手県盛岡市稀有な天然資源を守って、盛り立てていきたい。

「現在の漆市場は、あまりにも中国産に頼りすぎている現状があります。和のイメージが強く実際に古くから親しまれてきた素材ではありますが、現在はほとんどが輸入品になってしまいました。でも、そんな中で少しでも国産を広めていければ。やはり国産の漆製品は、国産の漆で作って頂きたいですから。中国産の漆が特に劣るわけではありませんが、国産の漆には、それ以上に優れた点が多々ありますので」と松沢氏。

国産漆の優れた点を具体的に挙げるなら、まずは透明感があって仕上がりが綺麗であること。更に耐久性も高く、特に文化財の補修などでは中国産で塗った箇所と比べて明らかに差が出るそうです。その秘密は、樹そのものやそれが生えている環境の違いというよりも、漆掻き職人の採取方法の違いだといいます。他にも、漆を採取して加工する様々な工程によって、質の違いが出てくるそうです。

また、昔ながらの漆器はもちろんのこと、金属や最新のマテリアルにもなじむ柔軟さも魅力です。「いろんな物に塗れて優れた特性を付加してくれるので、様々な分野に生かしていきたいですね」と松沢氏は語ります。

「浄法寺漆蒔絵ステアリング」。国宝の「片輪車蒔絵螺鈿手箱」の意匠がモチーフ。

トヨタ自動車『アクア』とのコラボレーション。フロントスポイラー、サイドスカート、リアスポイラー部分に使用。

岩手県盛岡市日本人の文化を形づくってきた漆が、最新のプロダクトを彩る。

松沢氏のプロデュースによって、浄法寺産の漆は更なる檜舞台に立っています。数々の有名企業とコラボレーションして、漆の美と機能性をPR。JR東日本の豪華寝台列車『TRAIN SUITE 四季島』の客室内装や、トヨタ自動車『アクア』の塗装など、あまたの一流企業と共演しています。

他にも様々な漆製品を生み出し、それらが2011年、2013年、2016年とグッドデザイン賞を受賞。高い技術を極めながらも朴訥(ぼくとつ)な職人たちを、多彩なコーディネイトで支援しています。

『TRAIN SUITE 四季島』の客室内装に採用された漆塗りパネル。漆の美と機能性を幅広くPR。(画像提供:JR東日本)。

岩手県盛岡市未来のために、大胆な転換をも見据えて。

「現在、国産の漆は全く足りていません。浄法寺の周辺で採るだけでは到底追いつかなくて、他産地の漆もあるにはありますが、更に漆の生産量を増やしていきたいと考えています。値段の面では全く問題はなく、需要は多数あります。職人たちからは『ここぞという仕上げはやっぱり国産でないと』と言われますから」と松沢氏は話します。

国産漆は漆器などの生活道具だけでなく、文化財の補修にも使われています。例えば日光東照宮を代表格として、金閣寺、中尊寺などが挙げられます。それらを後世に伝えていくためには、国産漆は絶対に必要な存在だそうです。
「国産漆を守って発展させていくためには、多くの地域で漆を採取できるようにすることが重要です。つまり、樹を植えていく活動が欠かせないんです。更に『漆掻き』という伝統的な採取方法も、今後は変えていく必要があるかもしれません。『漆掻き』は10年以上育てた樹からたった1回、コップ1杯分だけを採取したら切り倒して終わりです。果たしてそれが、本当にベストな方法なのかどうか。そういった疑問から現在研究を進め、別の採取方法を模索しています。漆の樹と永く共存できる方法を見つけて、漆も漆の文化も後世に伝えていきたいんです」と松沢氏は話してくれました。

ただ在るものを守るだけでなく、将来の存続をも見据えて。松沢氏の取り組みは、更に続いていきます。

10年以上かけて育てた漆の樹から採れるのは、わずかコップ1杯分。『漆の一滴は血の一滴』の言葉どおり、1滴1滴が血のような重み。

漆は単なる塗料ではなく、日本人と自然との共生の象徴でもある。植樹も行って漆産業の存続を目指す。

Data

住所:岩手県盛岡市本町通3-6-1 MAP
電話:019-656-7829
写真提供:株式会社 浄法寺漆産業
http://www.japanjoboji.com/
info@japanjoboji.com