日々

最近の寝不足の原因 乙君は寝ません😭 今日は雨模様の一日ですね 素敵な午後をお過ごしくださ^ ^

祖母の死、3.11、将来の在り方……。複雑な思いが絡み合い、徳島で一からのスタートを決意。[nagaya./徳島県徳島市]

祖父母が残してくれた長屋。右手が『nagaya.』。左手の長屋では様々なショップが営業している。

徳島県徳島市面白さを見出すとともに葛藤もあった東京での社会人生活。

『nagaya.』のオーナー・吉田絵美氏は徳島県徳島市の出身。18歳の時に大学へ通うために上京し、卒業後の社会人生活も含め東京と神奈川では13年を過ごしました。大学卒業後は夜間学校へ通ってデザインを学び、有名スニーカーメーカーに就職して、デザイナーとして社会人のキャリアをスタートさせた吉田氏。しかしその1年後、マーチャンダイザーとなり、2年半で転職することになりました。
「デザインはずっとやりたかったのですが、商品開発も楽しかったんです。ただ、色変えとかコラボレーション商品とか、『パッと出してすぐに終了』という企画ばかりで。もっと、ものに深く関わって普遍的なことがしたいという思いが強くなって」と吉田氏は話します。

転職先に選んだのは、人々の生活により密接に関わるインテリア商品を販売する会社でした。そこでバイヤーとして全国を飛び回ったという吉田氏は、インハウスな仕事からより外の世界と多く関わるようになりました。
「結局、そこには4年半いたんです。激務でしたが、面白さも感じていましたし、直営店舗にも時々立たせてもらいました。この『nagaya.』をオープンするにあたっても、すごく勉強になりました」と吉田氏。

ただ、そんな中でもやはり求めていた「普遍的な仕事」への葛藤がありました。人々の生活により密接に関わるインテリアであれば、自分の求めるものが見つかると思っていたものの、どこかに違和感を覚えていました。
「東京の仕事はやはり新しいものをずっと追い続けているんです。それがインテリアでもやっぱりトレンドがあって、自分の中にある『普遍』との違いを少なからず感じ始めていたんです」と吉田氏は言います。
吉田氏にある知らせが届いたのはそんなタイミングでした。

『nagaya.』の店内。器をはじめとした生活雑貨を販売する一方、カフェスペースも備える。

外壁のトタンも、借家として使われていた当時のまま。入口に生けた花が素朴な雰囲気を醸し出す。

吉田氏がお気に入りだという、勝手口はガラス張りに。ドライフラワーが飾られている。

徳島県徳島市祖母の死と3.11。仕事の在り方や将来と向き合い、帰郷を決意。

それは祖母の訃報でした。そして、帰郷するために徳島へと向かう羽田空港で、あの3.11の東日本大震災が起こりました。
「15時の飛行機でしたから、その時はちょうど羽田空港にいました。その便は2時間遅れぐらいで運良く飛びましたが、翌日は全て欠航でしたね」と吉田氏は振り返ります。

3.11が決定的な出来事ではないにしろ、祖母の死と震災、そして仕事への思いが重なったことは、吉田氏が自分の将来と改めて向き合うには十分なきっかけとなったのです。

吉田氏はバイヤーの仕事で全国各地を飛び回り、生産者や職人の話を聞くうちに、「東京でなくても意外と面白いことってできるのかな!?」と思うようになっていました。そう、吉田氏に帰郷を決意させるには十分すぎるほどの条件が揃っていたのです。
そして、「地域おこし協力隊」への応募が通ったことも、帰郷を決意させる条件のひとつでした。
「今では全国各地で公募していますけど、当時はまだ少なくて。徳島県では3ヵ所くらいで募集があって、応募したら運良く受かったんです」と吉田氏。

吉田氏は、仕事もなしに徳島へ帰るのでは大学まで通わせてもらった両親に顔向けできないと考え、「地域おこし協力隊」という仕事だけはなんとか見つけて、帰郷をするにいたったのだといいます。場所も、すぐに実家のある徳島市に戻るのではなく、車で1時間ほどの所にある三好市という点も吉田氏には都合が良かったそうです。
「東京で10年以上を過ごし、『いきなり実家』というのには抵抗がありまして(笑)。ちょうど良い距離感だったんです」と吉田氏は話します。

店内を案内しながら建物や作家の作品である焼き物について説明してくれる吉田氏。ゆったりとした時間が流れる。

店内に飾られているドライフラワー。これは裏手の長屋で営業する専門店の商品だとか。

徳島県徳島市地域おこし協力隊として、三好市の一大人気イベントを企画・発案。

そうして三好市で「地域おこし協力隊」として活動を開始した吉田氏。そこで始めた大きなプロジェクトのひとつが、吉田氏が立ち上げた「うだつマルシェ」だったのです。
「きっかけは三好市で住み始めた家の近所のおばあちゃんが、『地場産品や手作り品を売る場を設けるためにイベントをやりたい』とおっしゃったこと。けれど、おじいちゃん、おばあちゃんだけでなく、『若い人にも来てもらいたい』というので始めたのがこのマルシェでした」と吉田氏は言います。

2011年の秋に初めて開催された時は、出店数はわずかに10店ほどでした。そこから徐々に出店数が増えるとともに、そのファンなどを取り込み、イベント参加者の数も増加。今では150店以上の応募が集まるようになり、年に2回開催されるように。地元酒造の酒祭りと同日開催の際には、三好市の人口とほぼ同じ3万人が訪れるビッグイベントとなっています。

そして、「地域おこし協力隊」の任期を終える1年ほど前から、『nagaya.』の構想は膨らんでいきました。そして、ここでも吉田氏を徳島市へと戻ることを決意させるいくつかのきっかけが重なるのでした。
「自分がどうやって食べていくかという切実な問題もありましたし、“うだつマルシェ”で関わった人とのつながりをどうやったら生かせるか。更に、ちょうどこの頃に結婚し、父も定年退職を迎えて歳になってきたこともありました。色々な要素が絡み合って徳島市へ戻ることを決意したんです。もちろん、そこで後押しをしてくれたのが、祖父母の持つ長屋の存在だったんです。『ここをどうにかすればうまく使えるんじゃないか?』って思えたので」と吉田氏。

店内は築50年の長屋とは思えない雰囲気。できるだけ手を加えず、当時の生活感が出るようにリノベーションした。

二児の母でもある吉田氏。その笑顔には人柄がにじみ出ている。

Data
nagaya.

住所:徳島県徳島市沖浜町大木247番地 MAP
電話:088-635-8393
http://nagayaproject.com/

面白いことをしたい。多彩な店と人が集まり、新たなつながりが生まれる「ナガヤプロジェクト」。[nagaya./徳島県徳島市]

錆びたトタンの壁もそのまま。看板がなければショップだとは気付かない店構え。

徳島県徳島市およそ10年間誰も住んでいなかった長屋を改装。自らの個性として打ち出す。

今では東京でもほとんど目にすることがなくなった長屋。住宅が不足していた時代、高度成長期の日本の家屋のひとつの象徴でもあり、かつては隣人同士が助け合うようにひとつの長屋で暮らす生活がそこにはありました。『nagaya.』のある長屋もまさにその古き良き時代を経てきた建物なのです。かつてはオーナー・吉田絵美氏の祖父母が借家として貸し出していましたが、2014年に『nagaya.』がオープンするまでのおよそ10年間は、誰も住んでいない空き家になっていたといいます。

「この店のオープンに踏み切れたのもこの長屋があったからなんです。お店を始める前はこの敷地内に全部で5棟の長屋があったんですが、もちろんここを更地にするにもとてもお金がかかる。かといって、そのままにしていたらもったいない。自分としても“地域おこし協力隊”の任期を終えた後の仕事を見つけなければいけない状況で、“うだつマルシェ”で広がった人脈をなんとか生かしたいと思っていました」と吉田氏は言います。

家賃はかからない、固定資産税だけ払えば済む、かつ自分らしさも出せる。となれば、吉田氏がこの長屋をうまく活用しようと考えるのは自然な流れでした。

昔懐かしい形のブロック塀に看板がかかる。駐車場をはさみ、奥に見えるのが『nagaya.』。

細工の施されたガラス窓も当時から使われていたもの。趣のある空間に素朴な器がよく似合う。

徳島県徳島市住居として使われていた当時の名残をそのままにした店内。

店の目の前にある駐車スペースはもともと2棟の長屋が立っていた所。そこを更地にして駐車場にしています。店として改装する際も建築士と相談し、なるべくこの長屋の雰囲気をそのまま残す方向で話がまとまったのだそうです。

「本当は壁も白く塗り直したり、色々と手を加えたりしたい所もあったんです。けれど、『色々やりすぎると費用もかさむし、それなら新しい建物を建てた方が安く済む。かつての長屋の雰囲気をそのまま残した方がいいと思うけどな』と建築士さんに促されて」と吉田氏は話します。

結局大きく手を加えたのは、コンクリートを流し固めて耐震補強した床と、フル改装したカフェのキッチン部分ぐらいだそうです。壁や柱、使えるガラス戸などは当時のまま。そればかりか、ガス会社のシールが貼られたままの柱など、かつてここに人が住んでいたことを思わせる痕跡が店内のそこかしこに見られます。

「私が小さい頃、実はこの長屋がすごく怖かったんです。当時ですでに古さが際立つ建物でしたし、住んでいた人もちょっとガラが悪くて(笑)。自分の家はすぐそこなんですが、前を通る時は逃げるように走っていたのを覚えています。それがこうやって使ってみると、『味があるな』って思いますね」と吉田氏。

『nagaya.』の裏手にある2棟の長屋に6つのショップや工房、事務所などが入っている。

こちらはフラワーショップ。留守にしていることも多く、『nagaya.』の店内にも商品をディスプレイ。

長屋と長屋の間。タイムスリップしたかのような懐かしさを覚える。

徳島県徳島市ジャンルも様々。個性豊かな6つのショップや工房が入居。

そして『nagaya.』の裏手にはもう2棟の長屋が並んで立っています。こちらは『nagaya.』の建物に比べれば、築年数は2年ほど浅いそうですが、それでも住居としての使い道はもうありません。吉田氏は取り壊すことも考えたそうですが、「めちゃくちゃ古いから住むには難がある。破格の値段で面白いことをしたい人に貸したらどうだろう?」と思い直したそうです。それが「ナガヤプロジェクト」だったのです。

そして、その狙いはズバリと当たります。まず、この長屋を初めて借りた人が、失礼ながら実にぶっ飛んでいる方で面白いのです。『おとなり3』という店名で、1階はご自身が買い集めた本などを並べた図書館、2階は子供を対象にしたプログラミング教室として開放しているのです。

「図書館、プログラミング教室なんていっていますが、なんでもいいから面白いことができればいいんです。例えば、スラックと連携して、ここをオートロックにして、店に来る人が電話をくれたらカギを開ける。そういう形にすれば24時間365日営業の図書館になる。たたけばすぐ壊れるような長屋で、そんなことをやっていたら面白いじゃないですか」と言って、『おとなり3』の店主は笑います。

他にも、古本屋の『you are…』、皮作家が工房として使う『トリトヒツジ』、ネイルサロン『四ツ葉』、フラワーショップ『Bilton Flower Design』、ウエディングプランナーが事務所として使う『Beaucoup de bonheur』などがテナントとして入り、独自に活動を展開しています。

かつての長屋暮らしのように隣人が助け合う間柄とは少し違うかもしれませんが、新たな感性を持った色々なショップが集まり、人と人がつながっていく。大きなプロジェクトを企てているわけはありませんが、ここはそんな古くて新しい人と人との出会いの場となっているのです。

トタンの切れ端を使った道しるべ。砂利の上に無造作に置かれていた。

窓を開けて取材していると『おとなり3』の店主がご挨拶。こうした会話も日常茶飯事。

Data
nagaya.

住所:徳島県徳島市沖浜町大木247番地 MAP
電話:088-635-8393
http://nagayaproject.com/

人とつながり発信していく生活雑貨店。それが求めてきた普遍の形。[nagaya./徳島県徳島市]

商品を手に取り、想いを絞り出すように言葉を紡ぐ吉田氏。取材班全員が器を購入して帰った。

徳島県徳島市ただ並べて売ればいいだけではない。作家と吉田氏の想いを伝える。

吉田絵美氏の『nagaya.』とは、簡単に言うと生活雑貨を扱う店です。その中でも特に扱うものが多いのが、焼き物を中心とした食器類です。吉田氏が「普遍的」な仕事の在り方を求め、東京で転職し、そして帰郷したことを考えれば、暮らしと密接に関係し、人間の営みと切っても切れない関係にある食器にフォーカスしているのは、ある意味では当然のことかもしれません。そして、東京でバイヤーを経験し、地方の作り手と間近に接してきたからこそ、作家との関係性を大切にし、それを販売して、発信し続けることに大きな喜びを感じているようにも思えます。

だから、取材班が「これはどんな作家さんの焼き物ですか?」とたずねれば、吉田氏は「佐々木智也さんといって、実家が妙楽寺というお寺なんですよ。だから名前は妙楽窯。住職として後を継ぐ一方で、作家さんとしても活動しているんです。境内の横にある自宅の庭に窯があって、土も自分で持ってきて作品に使うなど、チャレンジ精神旺盛な方ですね。最近はモダンな形の作品が増えている気がします」と、しっかりと解説をしてくれます。


また、違う作家さんの作品については、「この作品を作ったのは女性の作家さんなんですが、イギリスの美術大学に通っていた方で、もともとはセラミックを使ったアートを創作していました。今では生活用品も作るようになって、細部にこだわりが感じられる作品が多いですね」と解説してくれました。

そうして吉田氏の話を聞いて器を手にすれば、ビジュアルや手触りなどからは伝わってこない情報が、その作品のまた違った魅力を見せてくれるのです。

佐々木氏の作品。伝統的な器の形である輪花や八角が人気。釉薬の種類が豊富で色違いも。

入口を入って正面が焼き物のコーナー。常時20名ほどの作家の作品が並んでいる。

裏手のフラワーショップで取り扱うドライフラワーもディスプレイされる。

徳島県徳島市使って改めて気付く器の魅力を併設のカフェで体感。

そして、『nagaya.』でのもうひとつの楽しみといえば、併設されたカフェ。築50年の長屋空間で寛ぎながらコーヒーを楽しむ時間は、店へ足を運ぶゲストに小さな幸せを与えてくれます。

というのも、ここで出されるメニューには、実際に店内でも販売されている器が使われるからです。
例えば、この日出された季節のパフェには、『おとなり3』の店主の奥様の実家で採れるイチゴを使用し、透明なイッタラのビンテージグラスに、イチゴジャム、ミルクアイス、イチゴが綺麗な層をつくる見た目にも美しいひと品です。もちろん、その味わいも素晴らしいのですが、驚いたのはそのソーサーの淡くも深い紫色の陶器の使い方。棚にディスプレイされていただけでは、その色合いばかりが目立ち、お皿としてどう使えばいいかわからなかったものの、こうして出されるとイチゴの赤に映えてその美しさが際立つのです。

「実際に使うと、やっぱりイメージの膨らみ方も違いますよね。こちらは石川県在住の作家さんの作品。グラデーションのある釉薬が特徴的で、食卓のアクセントになりそうですよね」と吉田氏は言います。
高知県本山町にある『JOKI COFFEE』が焙煎する豆で淹れるコーヒーのカップは、先ほど紹介した佐々木氏の作品です。こうして見ると和にも洋にも寄り添う、懐の深さを秘めていることがわかります。

もちろん、店内に並ぶのは器だけではありません。今治タオルに、コーヒー豆、靴下、焼き菓子など、四国を中心とした作り手の顔が見える商品が並んでいます。
端的に言ってしまえば、生活雑貨店。しかし、そこに感じるのはやはり人の縁。一朝一夕ではできない、人とのつながりから生まれる仕事にこそ、もしかしたら吉田氏が求めていた「普遍」の形があるのかもしれません。

純粋にカフェとして楽しんでも、長屋をリノベーションした空間はやはり絵になる。

「季節のパフェ」500円と「ホットコーヒー」500円。器の魅力を改めて教えてくれる。

作家の話になると思わず笑顔になる吉田氏。自身もやはり焼き物が好きなのだという。

Data
nagaya.

住所:徳島県徳島市沖浜町大木247番地 MAP
電話:088-635-8393
http://nagayaproject.com/

生活雑貨ショップに図書館に皮工房、古本屋…。築50年の長屋に新たな息吹が吹き込まれる。[nagaya./徳島県徳島市]

徳島県徳島市OVERVIEW

徳島県徳島市沖浜町。JR徳島駅から2つ目の二軒屋駅より歩いて10分ほどの何の変哲もない住宅街に、今回『ONESTORY』取材班が向かった『nagaya.』はあります。その舞台となるのが、築50年になるまさに「長屋」です。オーナーの吉田絵美氏の祖父母が借家として長年使っていという長屋は、およそ10年間誰も住んでおらず、まもなくその役目を終えようとしていました。そんな時に、吉田氏がここをショップとして蘇らせようとしたのです。

東京から故郷の徳島へ戻り、三好市では「地域おこし協力隊」として3年の任期を全うしようとしていた吉田氏。三好市で2010年より始まった「うだつマルシェ」の発起人としても知られる彼女が、そのイベントで知り合った人とのつながりを「どうにかして生かせないものか」と考えてオープンしたショップでした。
そして現在、「ここで何か面白いことをしたい!」という人たちのために、裏手に立っているもう2棟の長屋も安価で貸し出し、その長屋を借りたクリエイティヴな人たちがショップなどを展開しています。

図書館に古本屋に皮工房、そしてドライフラワーショップができ、築50年の長屋に新しい息吹を吹き込んでいます。
古くて新しい『nagaya.』の全貌を、オーナーの吉田氏の想いとともに取材してきました。

Data
nagaya.

住所:徳島県徳島市沖浜町大木247番地 MAP
電話:088-635-8393
http://nagayaproject.com/