くすんだ色とマットな質感、独特のフォルムの器で新風を吹き込む。[SUEKI CERAMICS/徳島県鳴門市]

『SUEKI CERAMICS』の代表である矢野氏。

徳島県鳴門市

徳島県の特産品である『藍染め』とともに発展した『大谷焼』の里、徳島県鳴門市大麻町。この地で最も古い歴史を持つ窯元『矢野陶苑』から誕生し、業界に新鮮な驚きを与えたのが、矢野実穂氏が率いる陶器ブランド『SUEKI CERAMICS』です。前編では、日本中の名高いセレクトショップが注目する、『SUEKI CERAMICS』のプロダクトの魅力を紐解きます。

徳島県鳴門市大麻町にある『矢野陶苑』の工房&直営店。

徳島県鳴門市独特の風合いとフォルム、使い心地の良さで瞬く間に話題に。

2012年に誕生して以来、北海道から沖縄まで、全国各地のセレクトショップがこぞって取り扱う陶器ブランド『SUEKI CERAMICS』。

200年以上の歴史を誇る徳島県の特産品『大谷焼』の里において、最も古い窯元『矢野陶苑』の5代目である、矢野耕市郎氏が立ち上げたブランドです。そして2018年5月からは、妻の実穂氏が引き継ぎ代表を務めています。

大谷の赤土や阿波の青石など地元産の材料を選び抜き、独自に開発した釉薬による絶妙な色合いとマットな質感の器は、これまでありそうでなかった逸品。カラフルながらも、ややくすみがかった、落ち着いたトーンの色味は、どのような料理とも相性抜群だと評判です。

料理との相性だけを考えると、最も無難なのは白い器。しかし、そればかりではつまらないものです。そこでカラフルな器も欲しいと買い求めると、一般的にはポップなカラーや、日本の伝統的な渋い色合いのものが多く目に付きます。ところが、これらは器単体で見ると素敵だと感じても、食べ物を乗せた瞬間いまいちな印象になってしまうことも少なくないものです。それに引き替え、『SUEKI CERAMICS』の器は、あらゆるライフスタイルにぴったりフィット。和洋どのような食べ物も、ちょっとリッチに、美味しく美しく見せてくれるのです。

また、マットながらサラリ&しっとりとした肌触りで、器は手に持った時の触感が良く、カップは優しい口当たり。柔らかなフォルムを描く、ほどよい厚みと端正なデザインも魅力的で、シーンを問わず使える実用性の高さを誇り人気を集めています。

食卓を彩る『SUEKI CERAMICS』のプロダクト。

『大谷焼』の原料の一つである大谷の赤土。

耕市郎氏からブランド運営を引き継いだ実穂氏。

徳島県鳴門市シンプルながら、これまでにない新たなプロダクトを目指して。

『SUEKI』とは、焼き物を示す『陶物(すえもの)』と、縄文式・弥生式土器などの後に登場して今日の陶芸方法が確立したとされる『須恵器(すえき)』にちなんで命名されたもの。見た目は徹底的にシンプルでありながら、常に進化し続けたいという想いが込められています。

そんな『SUEKI CERAMICS』のデザイン性が高いプロダクトは、しばしばアメリカの『ヒースセラミックス』と比較されることも。矢野氏曰く、実際に参考にしている部分もあるそうです。「日本国内にはたくさんの陶器メーカーがありますが、こういったくすんだ色味でマットな質感、適度な厚みのものを扱っている所はなくて。日本どころか世界でもあまりないけれど、でも皆が探しているであろう品質だと目を付けた主人が、同じような雰囲気のものを作れないかと模索したことで、『SUEKI CERAMICS』が生まれたんです」と矢野氏は話します。

欲しいけれど誰も手を出さないのは、それだけ品質の維持が難しいということを意味します。それでも、130年以上続く窯元の歴史にあぐらをかかず、さらなる進化を求めて果敢に挑戦したことで、新たな道が開けたのです。

器の底に見られる、想いを込めた『SUEKI』の刻印。

国内メーカー初の、くすんだ色味やマットな質感を実現。

徳島県鳴門市試行錯誤の末に生まれた、理想的なくすみカラー&質感を叶える釉薬。

『SUEKI CERAMICS』の落ち着いた色合いとマットな質感の要となっているのが、オリジナルの釉薬。釉薬とは、陶磁器を覆っているガラス質の部分のことです。粘土や顔料などの素材を混ぜて作られた液状のもので、最後に窯で焼く前、素焼き段階の陶磁器の表面に仕上げとして施されます。つまり、この釉薬によって最終的な色や手触りが変化するのです。

通常、光沢のあるはっきりとした色味はつるっとした触感、マットでくすんだ色味はざらっとした触感になるもの。そんな中で矢野氏は、落ち着いた色味ながらサラリ&しっとりと心地良く使いやすい、理想的なラインを追求しました。釉薬のテストに費やした時間は、実に2年弱で通算約2万回。細かい単位で成分量を変えながら、試行錯誤を繰り返したと言います。

「釉薬の開発は主人が行いました。色々と調合して釉薬自体の色が上手くできても、釉薬を施した状態と、その後焼き上げて窯から出した状態とでは、製品の色合いは異なります。実際にどう仕上がるかは、焼き上げてみないと分からないんです。そのため、一色を完成させるのに、1グラム以下の微量な成分の配合を少しずつ変えては試し、変えては試し、といった具合で。途方もない作業に感じますが、本人は毎回『次はどんな風に出て来るかな?』と、意外と楽しみながら取り組んでいたようです(笑)」と、矢野氏は語ります。

繊細な作業を経て完成した釉薬は、正に唯一無二のもの。青、ピンク、アイボリー、ブランなど、カラフルなのに絶妙にくすんだ、華やかさと落ち着きの間を取ったようなバランス良い風合いのバリエーションは、『SUEKI CERAMICS』にしか成し得ないラインナップとなっています。

工房の一角にある調合室には、様々な材料や道具が。

しっくりくる風合いを求め、試行錯誤した軌跡。

微妙な差異を比較したことが分かるテストピースの一部。

徳島県鳴門市リニューアルで生まれた、次世代の『SUEKI CERAMICS』。

2018年5月より、生みの親である矢野耕市郎氏から妻の実穂氏へと、ブランド運営が受け継がれた『SUEKI CERAMICS』。この機会に、これまでのものづくりをベースにしつつ、さらなる進化を求めてリニューアルが図られました。

「主人から私に代わることで、これまでやや男性的だったプロダクトを、女性的なものに変化できないかと試みました。ぽってりとした印象の厚みを少し薄くしたり、重さをなるべく軽くしたり。色味も、くすんでいるけどやや明るめの、パステルカラーのようなものを採用しています。女性の視点で、日常使いのしやすさをポイントに改良しました」と実穂氏。おまけに、価格も求めやすい設定に見直されました。

ラインナップはこれまで通り、プレートやボウル、マグカップなど。カラー展開は、定番の5色「honey white」「sorbet blue」「misty pink」「chocolate brown」「lapis blue」に加え、オンラインショップ限定色も用意されています。釉薬はご主人が開発したものですが、色のセレクトや「honey white」など可愛らしいネーミングは実穂氏が考案したものも。ここにもさりげなく、女性らしさが伺えます。

また、釉薬の施し方にも変化が。これまでは一度に全面に施すことで、表面は均一でムラのない印象でした。対してリニューアル後は、半分ずつ施すスタイルに。こうすることで、一部重なる部分に模様のような釉薬のラインが入ることになります。これが良いアクセントとなり、これまでとは一味違う表情を見せるのです。

新たな釉薬の施し方。まずは半分だけつけます。

その後残り半分をつけることで、重なる部分に線が。

釉薬が施される前(左)と、施された直後(右)。

釉薬を施したら、最後はこのガス窯で焼き上げます。

成形は手作り感の出る機械ろくろを使って行われます。

実穂氏の感性が加わった、新バージョンのプロダクト。

徳島県鳴門市豊かなクラフト感が加わり、さらに進化し続けるものづくり。

今回の『SUEKI CERAMICS』のリニューアルですが、それは見た目だけに留まりません。実は、使う素材や製造工程にも変化が加えられました。

まず、これまで材料の大部分には硬い焼き締めが可能な磁気土を使っていたところを、リニューアル後は磁気土と大谷の赤土とをおよそ半々の割合で使用。また、成形型と機械を用いる圧力鋳込みから、機械ろくろを使っての成形にシフトしました。型の中に土を入れ、人の手で形作っていくのです。さらに、これまで電気窯で焼いていたところを、ガス窯に変更。刻々と移ろう炎がもたらす独特なニュアンスが、豊かな表情を生み出します。

こうして、女性らしさとともに手作り感も増した新たなプロダクト。従来のファンをより一層魅了するだけではなく、新たなユーザーも開拓し始めています。

次回の後編では、『SUEKI CERAMICS』が拠点とする徳島県鳴門市大麻町や、ルーツである『大谷焼』の歴史から、矢野氏の経歴、ブランド立ち上げの経緯とその道のりを辿ります。

Data
矢野陶苑/SUEKI CERAMICS

住所:〒779-0303 徳島県鳴門市大麻町大谷字久原71-1 MAP
電話: 088-660-2533
営業時間:9:00〜17:00
定休日:年末年始
http://sue-ki.com/

兵庫県出身。130年以上の歴史を持つ『大谷焼』の窯元、『矢野陶苑』の5代目・矢野耕市郎の妻となったことから、少しずつ作陶の道へ。当初は簡単なサポートのみだったが、2012年に耕市郎氏が『SUEKI CERAMICS』を立ち上げて以降、同ブランドの製造にも携わるようになった。そして2018年5月、耕市郎氏からブランド運営を継承。女性ならではの感性も加えながら、デザインから製造までトータルに携わり、新たなブランド構築を図っている。

日々

桐下駄に藍の鼻緒を挿げました。 NY在住のアーティストさんが、黄色スカートに桐下駄を合わせて履いてくださったようです♪ 素敵だなぁ〜 きっとお似合いなんだろうな〜って妄想中 熊本展、本日も開催中です *17日(日)まで