山が見守る土地で、山のような言葉と物語を紡ぐ。[みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ/山形県山形市]

荒井良二氏の作品「山のヨーナ」。山形ビエンナーレ2018のメインビジュアルでもある。

山形県山形市山形は、可能性を秘めた土地。

東京ではなく、地方で行われる芸術祭。その魅力とは、「土地の自然や文化そのものも作品の一部となり得る」ということかもしれません。まさに、そんな地の利を生かしたアートの祭典が2014年から山形で開かれています。「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」。3回目が、9月の開幕に向けて始動しています。

東北芸術工科大学(通称『芸工大』)。アートやデザインを通じて地域と密接につながる。

山形県山形市東北芸術工科大学が開催する2年に1度の祭典。

山形市から蔵王方面にバスで20分。東に西蔵王高原と蔵王連峰を背負い、上桜田の斜面にそびえる切妻形のシンメトリーな建物は、「東北芸術工科大学」。1992年に開学し、現在は現代美術家でデザイナーの中山ダイスケ氏が学長を務める芸術大学です。「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」を主催するのはこの大学。2年に1回、現代アートをはじめ幅広いジャンルの作家を招いて、国の重要文化財「文翔館」をメイン会場に多彩なプログラムを展開します。

文翔館は大正5年築の旧県庁舎・県会議事堂。現在は山形県郷土館として無料公開。

2014年には文翔館の前庭もトラフ建築設計事務所によって作品「WORLD CUP」に。

山形県山形市「山のようなもの」を、山のように。

3回目となる2018年のテーマは「山のような」。一見とらえどころのない、現代アートらしい漠然としたテーマですが、これには「東北の暮らしと地域文化への深い共感や鋭い洞察から、現在の山形を表す(=山のような)作品を提示する」「芸術祭の制作過程において、山形の過去・未来に光をあてる創造的なアイデアや協働をたくさん(=山のように)生み出していく」というメッセージが込められています。実はこのテーマは、荒井氏が15年前につくった物語『山のヨーナ』から生まれたもので、今回の芸術祭でも実際にヨーナのお店をはじめとする物語の世界が「文翔館」に登場します。

公式ポスターは2種のビジュアルがある。こちらは少女の「ヨーナ」バージョン。

大人バージョンの「ヨーナ」はモデルで女優の前田エマ氏。

山形県山形市日本を代表するクリエイティヴが山形を舞台に表現。

芸術監督は山形出身で世界的に知られる絵本作家・荒井良二氏。総合プロデューサーは中山氏、プログラムディレクターは芸工大教授の宮本武典氏、キュレーターは東京の古書店『6次元』店主のナカムラクニオ氏……と、各界で活躍する面々が指揮を執り、出展・参加アーティストも作家のいしいしんじ氏、ライブパフォーマーの空気公団、トラフ建築設計事務所、音楽家の野村誠氏など、日本のみならず世界的に知られるクリエイター約40組が名を連ねます。「文翔館」のほか、若者が再生させた商店、丘の上のアトリエ群(大学キャンパス)を舞台として、作品展示やインスタレーション、映像、体験、ワークショップ、食など、五感やジャンルにとらわれない多彩なアートプロジェクトを展開します。

18歳まで山形で過ごしたという荒井氏。世界的な絵本作家でありアーティストだ。

『6次元』のナカムラ氏。番組制作、執筆活動、プロデュースなど活躍の幅は広い。

山形県山形市仕事を離れて本気で表現したら、どうなるか。

実はこの芸術祭には、少しマニアックな「もう一つの見どころ」が隠れています。それは、「作家が普段の仕事を離れて作りたいものを作ったらどうなるか」という遊び的な企みがもたらされていること。というのも、出展作家はほとんどがデザイナーや写真家、絵本作家などとして商業的にも活躍している第一人者。「その彼らが仕事としてのクライアントワークを離れて、あるテーマのもと、自由に作りたいものを作ったらどうなるか。その化学反応はかなり面白い」と中山氏は話します。

山形県山形市「食」を突き詰め、向き合った「ゆらぎのレシピ」。

例えば、ケータリングやフードコーディネートを行う「山フーズ」の小桧山聡子氏は、今回の芸術祭で、最上郡真室川町での食をめぐる取材を通して制作した「ゆらぎのレシピ」を展示。山での山菜採りや、地鶏を解体して焼くまでの様子など、狩猟や屠殺の現場を通して体験した印象を写真・映像・テキストで表現します。「都会にいると、『食べる』ことの生々しい部分と距離ができてしまう。この真室川で、食材と対峙した時に感じたことをリアルに伝えたい」(小桧山氏)。

山フーズ「ゆらぎのレシピ#01 記憶をつなぐ勘次郎胡瓜のサラダ」制作風景。

山形県山形市文字のお化け、のようなものだってあると思う。

またタイポグラフィを中心としたグラフィックデザインなどで注目を集める大原大次郎氏は「もじばけ – Throw Motion – 」と称し、月山の雪原や庄内の砂浜を巡って描いた文字の軌跡を記録写真とモビールで再構成。「例えば消しゴムで字を消したら、消えた文字はどこへ行くんだろう?と不思議になって。消えずに残っている文字の想いみたいなものがあるんじゃないかと。『文字と自然の間』に見える風景、を表現しようと思いました」と制作背景を語ります。「クライアントのあるデザインの仕事では、意味のわかるものしか求められません。けれど、“意味と無意味”の間を追求してみたかった。この芸術祭は、自分の中のアートという分野において『やっておかなきゃいけないこと』をできる機会だと思っています」(大原氏)。

大原大次郎「もじばけ」のためのスタディ(月山にて根岸功撮影)。

山形県山形市山のような包容力で、年齢もアート経験値も問わず楽しめるアートを。

もちろん、芸術祭では普段アートに関わりのない人も驚きや興味を持って楽しめるようなデジタルアート、ライブ、陶器市といったプログラムも充実。年齢を問わず楽しめるため、子供連れが多く訪れるそうです。「東京で開催したら物凄くたくさんの人が来ると思う。でも山形でやるからいいんです」と中山氏。さまざまなアーティストが山形の自然・文化への畏敬の思いやインスピレーションを形にし、観る人々が自分なりに解釈し、それぞれの物語を紡ぐ。そこに決まった形はありません。つまり「○○のようなもの」に見え、感じる。どのようなものに見えてもいい。それぞれの「ような」ものが、山のように生まれることを願って、この芸術祭は今年も山形で開催されようとしています。

画家・絵本作家のミロコマチコ氏による「からだうみ」(2017年制作)。

WOWの「YADORU」はこけしが自分の顔になる不思議なデジタルアート。

Data
みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ

開催期間:2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)
*期間中の金・土・日・祝日のみ開催(9/1・2・7・8・9・14・15・16・17・21・22・23・24)
開催場所:文翔館(山形市旅籠町3-4-51)、東北芸術工科大学(山形市上桜田3-4-5)、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA theater、gura、長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
料金:無料(一部イベントプログラムは有料)
主催:東北芸術工科大学 MAP
芸術監督:荒井良二
プログラムディレクター: 宮本武典
キュレーター:ナカムラクニオ、三瀬夏之介、宮本晶朗、森岡督行
アートディレクター:小板橋基希
総合プロデューサー:中山ダイスケ
電話:023-627-2091(東北芸術工科大学 山形ビエンナーレ事務局)
https://biennale.tuad.ac.jp/
写真提供:山形ビエンナーレ事務局

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