地の利の悪さやリスクを受け入れ、鹿屋(かのや)という地で発信し続ける意味。[Araheam/鹿児島県鹿屋市]
鹿児島県鹿屋市鹿児島県の端っこで、エッジを利かせながらも地に足の付いた活動をする。
多肉植物や観葉植物、サボテンなどの多種多様なグリーンとともに、ライフスタイルの延長線上にある服やグッズなどをセレクトして取り扱う『Araheam(アラヘアム)』。
ショップのある場所は、鹿児島県鹿屋(かのや)市です。
と、聞いて、すぐにその地を思い描けたり特長を挙げられたりしたら、かなりの鹿児島ツウ。もしくは地元関係者ではないでしょうか。何しろここは、なかなかの地の利の悪さなのです。
鹿児島に2つある半島のうちのひとつ、大隅半島。その中央部に位置するのが鹿屋(かのや)市で、県内では3番目の人口規模を有する町といいます。しかし現実的なロケーションでいえば、鹿児島空港からは車で順調に走り続けても所要時間約1時間、鹿児島市内からはフェリーを乗り継いで約1時間30分と、県外から足を運ぶには結構な距離です。
周辺環境も、国道沿いにあるいくつかの大手チェーン店の他は、個人経営のお店は限られており、シャッターが下りている商店も少なくない場所です。
「ここで店をやることは、リスクだらけですよ」と語るのは、前原宅二郎氏。『Araheam(アラヘアム)』を、兄・良一郎氏とともに経営しています。
しかし、その言葉をそのまま受け取ると、なんだか厳しい環境下に身を置いているように思えるのですが、これがちょっと違うのです。なんというか、その環境を「ごく普通に」受け止めているだけ、という感じなのです。
躍起になって、ここから何かをやってやろうとか、仲間を集めて事を動かそうとか、そういうムードではないのが、妙に印象的です。
「昔はそういうのも、多少はあったんです。でも寄ってたかってこうしようと、その時だけ、見た目だけの考えで何かをしても、結局続かないんですよね。それよりも、地に足をつけて自分たちの店をしっかりやる。元気な店作りをすることが、一番の町おこしなんじゃないかなと思うようになったんです」と宅二郎氏は話します。
まずは、自分たちのできることをやっていく。けれどその実、とてもエッジが利いているのです。
それは宅二郎氏然り、扱うアイテムや漂うオーラ、空気感の全てに、通じるものがあります。
鹿児島県鹿屋市「お客さんが5分で帰る店」から、「住みたい」と思わせる店作りへ。
なんとも、気持ちがいい。
『Araheam(アラヘアム)』の中にいると、全身が深呼吸しているような感覚になります。店内をとりまく数々のグリーンの効果はもちろんですが、ぐるぐると店内を徘徊する楽しさや、立ち止まったりしゃがみ込んだり、目線を色々と動かせる楽しさに気付くのです。
「皆さんそう言ってくれますね。『住みたい』なんて言う人も。『住めませんよー』って言うんですが(笑)」と宅二郎氏。
でも実は、この店の前身である『Edge×Edge(エジエジ)』時代は、その真逆だったようで、「お客さんが5分で帰る店」だったとか。
現在は、元材木店の倉庫を改装した、かなり広い空間。天井高もたっぷりあるので、圧迫感はいっさいありません。店内にはコンテナが設置してあり、そこはギャラリースペースになっています。
「そのコンテナが、以前の『Edge×Edge(エジエジ)』だったんです。場所はここからすぐ近くの別の所にあったんですが、父親の会社で倉庫として使っていたものを、そのまま店舗にして。2009年に、兄と始めました。最初は植物とジュエリーという商品構成でスタートしたんですが、何しろ狭いでしょ。お客さんが入ってはくれるんだけど、居づらいのか、見たら帰る、買ったら帰る。ホントに5分。なんとかもう少し長く、店に居続けてほしくて」と、宅二郎氏は当時を振り返りながら話します。
そんな折、現在のこの倉庫が空き物件だったこともあり、2011年に移転。『Araheam(アラヘアム)』として心機一転、始動したといいます。
この広い倉庫に移ってからも、「5分で帰らせない」対策は続きます。店内に設けたコーヒーショップ『POT a cup of coffee』が、それです。
「極端な話、植物って別に普段なくてもいいものじゃないですか。でもコーヒーはごくごく日常的なものだし、せっかく広いのでコーヒーでも1杯、飲めるといいかな、と」と宅二郎氏。
そんな思いから設けたコーヒーショップは、今やご近所の喫茶店代わりの存在にもなり、遠方から来た人には、旅の途中の安息所にもなっています。
取材時、東京から来たゲストが、次の場所へ移動するためにタクシーを呼んでいたのですが、「車中で飲みます」と、コーヒーをテイクアウトしていました。そのコーヒーを飲みながら『Araheam(アラヘアム)』を思い出し、窓の外を流れる知らない町の景色を見る−−−−。そんな、1杯のコーヒーが、旅という非日常の思い出になるのも、なんだかいいなと思った瞬間です。
鹿児島県鹿屋市幼い頃からそばにあった植物の存在に、リアルな「いま」の気分の可能性を感じて。
前原兄弟がともにお店を始めるにいたったきっかけは、父親が経営する会社の存在だったそうです。その会社は、全国に植物を卸していて、園芸店も営んでいたといいます。それらの植物を入れる鉢や器も作っており、数でいえば1,000個単位でものを動かすような、いわゆる量販の業務を行っていたとか。
良一郎氏はアメリカ、宅二郎氏は中国とイギリスへの留学経験があり、帰国後それぞれ、父親の会社にて勤務。家業を継ぐことは、自然な流れだったのでしょうか。
「確かに、物心ついた時から植物に囲まれて生活していたので、グリーンは身近な存在でしたけど、まさか仕事にするとは思っていなかったですよ。何しろ小学生の時から手伝わされていたのが、イヤでイヤで。台風の時とか、外で育てている鉢物を保護するため、土砂降りの中で作業するんですが、もう大っ嫌いでしたもん(笑)」と宅二郎氏。
でも留学先から帰ってきたら、「なんか植物っていいな、面白いな」と思い始めたのだそうです。
父親の会社で扱うものは、大手量販店向けの「かわいい」ものが多かったとか。そうではなく、自分たちの家にも置きたいような、「かわいい」ではないものを扱いたくて、良一郎氏と独立したのだといいます。
確かに子供の頃から慣れ親しんできた植物ではありますが、もう少し違う目線で選べば、もっと今の自分たちのリアルに合ったグリーンライフを提案できる。そしてふたりの海外経験を生かした目線があれば、鹿屋(かのや)の地でも、 『Edge×Edge(エジエジ)』なことができるのではないか。そんな思いから、前原兄弟は動き始めたのです。
Data
Araheam
住所:鹿児島県鹿屋市札元1丁目24-7 MAP
電話:0994-45-5564
http://araheam.com/
リアルな鹿屋の「半歩先の日常」を、自ら楽しんで実践する。[Araheam/鹿児島県鹿屋市]
鹿児島県鹿屋市思いを形にするための、呪文のような店名。
すでに気付いている方もいるかと思いますが、『Araheam(アラヘアム)』という店名は、店主が考えた名前のトリックです。
「いやぁ、大学生の時、ミュージシャンのセバジュンが自分の名前を逆から読ませるNujabesっていうのを使っていて、めっちゃカッコいいと思って」と、店名の由来を明かしてくれた前原宅二郎氏。現在のお店のロゴマークも宅二郎氏がデザインしたものだといいます。「ものすごく書き直しました(笑)」と宅二郎氏。
名字を使った店名には、結果論かもしれないですが、重要な意味があったそうです。ここは、兄・良一郎氏と、弟・宅二郎氏のふたりのコンセプトがひとつになって、形となる場所。現在は更に父と、三男の弟さんも、『Araheam(アラヘアム)』には欠かせない存在になっています。
「自社農園があるんですが、その農園はもともと父が中心になって始めたことで、弟は現在その生産管理をしています。海外からの仕入れは、兄と僕のふたりで」と宅二郎氏は話します。
まさに前原ファミリーが、ひとつになるために用意されたかのような『Araheam(アラヘアム)』。言葉の力は大きいと常日頃から感じますが、まるで呪文のようなこの店名は、家族が一丸となって店に携わるための言霊だったのかもしれません。
鹿児島県鹿屋市またひとつ鹿屋(かのや)に、日々を少しだけ楽しくするお店が誕生。
基本的に今回のような取材対応は、宅二郎氏が担当。店頭に立っているのも、多くが宅二郎氏だといいます。そう聞くと、宅二郎氏が全面的にコンセプトから何からを考えているように思えますが、実際にはそうでもないのだとか。
「セレクト自体はふたりで一緒にやっていますが、どちらかといえば僕の方が保守的で、兄はもっと自由。野球のバッテリーでいったら兄がピッチャーで僕はキャッチャー。更に両親に置き換えると、兄が父、僕が母、という感じ。対照的な互いの性格がいい刺激にもなって、バランスがとれているんでしょうね」と宅二郎氏は話します。
ふたりが最初に手がけた『Edge×Edge(エジエジ)』は、商品構成が植物とジュエリーだったといいますが、ジュエリーを最初から展開したいと言っていたのは、良一郎氏の方だったとか。今のようにライフスタイル全般の提案であれば、そこにジュエリーがあるのも不思議ではないですが、植物ともう1アイテムを掛け合わせる時にジュエリーをイメージできるのは、確かに大胆かつ自由な発想です。
そしてその良一郎氏の温めていたプロジェクトが、また新たに動き始めるのだとか。
「今度は犬です。犬と飼い主のためのお店で、『Balmy Grooming & Supply』といいます。予約制のグルーミングと、オリジナルのグッズやオーガニックのフードなんかを扱っていく予定です。犬と飼い主が集えるお店になればいいなぁと思っています」と宅二郎氏は話してくれました。
こうやって、ふたりは自分たちの生まれた地・鹿屋(かのや)で、少しずつ、でも確実に、自分たちの「あったらいいな」を形にしています。
『Araheam』のことを考えていると、ロックバンド「くるり」の『ハイウェイ』という曲を思い出します。そこで描かれる旅に出る理由のように、前原兄弟の「鹿屋(かのや)でお店を出す理由」は、少なくともだいたい100個くらいあるのではないでしょうか。
それは、生きること、食べること、眠ること、嬉しいこと、悲しいこと……。その全ての日常の瞬間に寄り添う何か。生きていく上で、さり気ないけれどとても大切な何か。それを伝えたり、分かち合ったりできる場所を、持ちたいだけなのかもしれません。
「もっともっと洗練させたいんですよね」と語る宅二郎氏ですが、肩の力は、あまり入っていないように感じます。商売という意味では、人がたくさんいる所や都会でやっていたらどうなんだろうと、想像することはたまにあるといいます。でも、鹿屋(かのや)にいて、鹿屋(かのや)で何かを、続けていきたいと考えているそうです。
「自然と、ここだったので」と宅二郎氏。
鹿児島の端っこ、大隅半島の中央部で、今日も前原兄弟は「日々の素敵な何か」とともに、ゲストを待っています。
Data
Araheam
住所:住所:鹿児島県鹿屋市札元1丁目24-7 MAP
電話:0994-45-5564
http://araheam.com/
「人」とのつながりを大切にした、ストーリーを伝えたくなるものたち。[Araheam/鹿児島県鹿屋市]
鹿児島県鹿屋市羊の皮を被った狼のごとく、園芸店を装ったハイセンスな快適空間。
材木店の倉庫だったという広い店内には、入り口から奥まで所狭しと、大小様々な植物が置かれています。右手の部屋には衣類や雑貨、アクセサリーなどのライフスタイルまわりの商品が、左手には緑色に塗装されたコンテナがあり、ギャラリーになっています。更に奥にはコーヒーショップがあり、その脇には園芸雑貨をディスプレイした小さな温室があります。
店内に足を踏み入れた最初の印象は、ちょっと変わったグリーンショップかな?といった、取り立てて何かガツンとくる気配はない、さっぱりとしたもの。ところがそれらの緑の茂みの奥から、何やら素敵そうで面白そうなものが、じわじわ、続々と現れてくるのです。
極端な例え話をするなら、無人島で、まるで廃屋のような倉庫の中で、実はものすごく文化レベルの高い生活をしている民族を見つけてしまった! そんな感じです。
全体のレイアウトとしては一応カテゴリー分けされているのですが、植物に関しては細かなグルーピングはされておらず、どちらかといえば意外な位置に置かれているものが多いことに気付きます。
「農場とか生産者の所へ行くと、『おっ!』と目が合う植物があるんですよね。そういう時は、『こいつは店のどこに置いてやろうかな』って思います。これなんか、まさにそう」と、優に3mを超える高さの、シタシオンという植物を指差す前原 宅二郎氏。シタシオンはベンジャミンという植物の一種ですが、ベンジャミンの「可もなく不可もなく」という顔つきとは違い、そのシタシオンは「自由」なオーラが幹全体から漂っていました。
「家の中で、ものを見上げる機会ってあまりないでしょう? そういうのも提案できたらいいなと思って。ちなみにこれは、鹿児島生まれです」と宅二郎氏は言います。
日常の視点を変える。それだけで、日々新しい何かが生まれることを、気付かせてくれるのです。
鹿児島県鹿屋市全てのもののバックグラウンドストーリーを伝えたい。
宅二郎氏は、先に挙げたシタシオン同様、他の植物の出自も、「どこ生まれとか、どこ育ちとかだけでなく、どんな人が育てたかということも伝えますね。『これはものすごく几帳面な人が育てている』とか、『若いヤンキーみたいな人で(笑)』とか、『おじいちゃんが育てているんですよ』とかね。うちの店に置いているものは、どれも一つひとつストーリーがあるんです。何を取っても、“人”の話になりますね」と説明してくれます。
服や小物もそうです。例えば、『MULTIVERSE』というブランドは、デザインからパターン、縫製まで全てひとりで行っている、鹿児島を拠点に活動する女性デザイナーの洋服です。シンプルなのですが、手仕事の良さや丁寧さが伝わるそれらの洋服は、宅二郎氏が伝えたくなる「ストーリーを持つもの」の代表だとか。
「嬉しいのは、初めから僕が、この服はなんだと話す前に、お客さんがそれに気付いてくれること。オーラや佇まいなんでしょうね。数ある中でもすっと手が伸びるものって、必ず伝えたいことがある何か、なんだと思います。だから話し出すとついこっちも熱くなっちゃって」と宅二郎氏。
洋服を扱い始めた当時は、全国的にも知られた、わりと大手のブランドものが中心だったといいます。鹿屋(かのや)という地では珍しくても、ちょっと足を延ばせば手に入るものでした。でもだんだんと、ミニマムなものに絞り込まれていったのは、「話が盛り上がらない」からだそうです。お客さんがわざわざ足を運び、求めているのは、『Araheam(アラヘアム)』にしかない何か、そしてここでしか過ごせない時間だった、と宅二郎氏は気付いたのです。
また、コンテナで展開するギャラリーの作家は、展示をするまでに、必ず何かしらつながりがあるとか、長く付き合いのある人だといいます。どこかで目にした作品というだけで、展示のオファーをするのではなく、きちんと「人」付き合いがあった上で情報発信を行っているそうです。
「国内の作家も海外の作家も、僕と兄の今までの付き合いやつながりが、ここでの情報発信になっています。販売する商品も、ギャラリーの作品も、僕ら2人の出会いの形なんです」と宅二郎氏は話します。
Data
Araheam
住所:鹿児島県鹿屋市札元1丁目24-7 MAP
電話:0994-45-5564
http://araheam.com/
グリーンとライフスタイルグッズ、コーヒーショップとギャラリー。日常と非日常を、同じ目線で気持ち良く提案する。[Araheam/鹿児島県鹿屋市]
鹿児島県鹿屋市OVERVIEW
鹿児島県の大隅半島中央部・鹿屋(かのや)市に、グリーン好きの間では全国的に著名なショップがあります。前原良一郎氏、宅二郎氏の兄弟が営む『Araheam(アラヘアム)』です。
こちらは、多肉植物や観葉植物など様々な植物の販売を中心に、二人の目線で選んだライフスタイルまわりのものと、「あったらいいよね」という遊び心を感じさせるライフスタイルアイテムを取り扱っています。
また店内には、コーヒーショップとギャラリーもあり、日常と少しだけ非日常が混在しているのも面白いところです。
実際に足を運ぶとわかるのですが、ショップのある場所の周辺は本当に静かなもの。個人経営のお店としては、かろうじて飲食店がいくつかありますが、散歩がてらに他に寄り道できそうな場所は、あまり見当たらないのです。
そんな中、悪目立ちすることは決してない佇まいながら(むしろ町と同化するように溶け込んでいるといった方が正しい)、一度足を運ぶと、空間全体に広がる気持ち良く感度の高いオーラに、心を掴まれてしまいます。植物、衣類、雑貨、ギャラリーにコーヒーショップと、様々なものに囲まれているのに、何ひとつ違和感なく同居し合って、『Araheam(アラヘアム)』という空間を生み出しているのです。
ハイセンスなのに、それをグイグイ押してくるところがまるでないこの不思議な空気感は、弟の宅二郎氏と話をしていても同じように伝わってきました。
店内にひしめくグリーンがそうさせるのか、のほほんとした、ある意味時空を曲げるその「抜け感」は、全身の毛穴を開かせる、極上のミストスパのようでもあるのです。
Data
Araheam
住所:鹿児島県鹿屋市札元1丁目24-7 MAP
電話:0994-45-5564
http://araheam.com/
日々
先日の空月と星の微妙な距離が 近そうで、遠い❔ 遠そうで、近い❔ しかし、綺麗だなぁ