海を地を越え、世界中にアートの架け橋を。[水と土の芸術祭/新潟県新潟市]

松井紫朗『君の天井は僕の床/ One Man's Ceiling is Another Man’s Floor』2011(photo : Shiro Matsui)

新潟県新潟市生命の源となる「水」「土」への敬意をこめて。

全国各地に数あるアートイベントの中でも、この芸術祭が珍しいのは、都市名ではなく「水」と「土」というエレメンツを表題に掲げていることではないでしょうか。舞台となるのは新潟。2009年に始まったこの「水と土の芸術祭」がどのようなメッセージを発信し、そして今年はどんな新たな挑戦を目論んでいるのか、開催を前に少しだけご紹介します。

福島潟(写真)、鳥屋野潟、佐潟など多くの潟が点在する。

新潟県新潟市“潟”に抱かれた自然豊かな大地。

「新潟」と聞いてどのようなイメージを抱きますか? 日本海に面した荒々しい風土、そこで生きる人々のたくましい暮らし、信濃川や阿賀野川の水流に恵まれた自然豊かな大地。まさにこの芸術祭は、そういった「水」と「土」によって形成された独自の文化や生活に光をあてることで、人間と自然との関わり方を見つめ直し、ひいては豊かな未来社会を展望していきたいという思いから生まれたものです。「私たちはどこから来て、どこへ行くのか~新潟の水と土から過去と現在(いま)を見つめ、未来を考える~」を基本理念に3年に1度開催され、今年で4回目を迎えます。

谷氏はヴェネチア・ビエンナーレなどでコミッショナーを務めた。(photo:Osamu Nakamura)

新潟県新潟市芸術祭の柱は5つのプロジェクト。

総合ディレクターを務めるのは美術評論家の谷新氏。今回のコンセプトを「メガ・ブリッジーつなぐ新潟、日本に世界にー」と掲げ、「この芸術祭は、新潟と日本各地、そして世界を結び、市民同士を結び、新しい感性、視点を育む壮大なアートの架け橋」と語ります。主なプロジェクトは「アートプロジェクト」「市民プロジェクト」「こどもプロジェクト」「シンポジウム」「にいがたJIMAN」の5つ。「多彩なアプローチでこれまでにない新潟市の魅力を発信していきたい」という谷氏の意気込み通り、世界で活躍する作家による作品展示から、市民自ら企画・運営するプロジェクト、ワークショップ、食や伝統芸能を楽しむイベントまでさまざまな催しが繰り広げられます。

塩田千春『Where are we going?』スタジオでの制作風景2016 Berlin (Photo : Sunhi Mang)

新潟県新潟市キーワードは「地、水、火、風とそれによって育まれる生命」、そして「環日本海」。

目玉となる「アートプロジェクト」には2つの柱があります。1つ目は、「世界を構成する四元素と考えられてきた『地(土)、水、火、風(大気)』に焦点を当てる」ということ。少し難しいですが、作家たちはこれら生命のもとになる自然的要素=素材と対話し、「命とは何か」「生きるとは何か」といった芸術の根源となるような命題に挑み、それらを自分なりの解釈に落としつつ人間と自然との関係を表現します。

セルゲイ・ヴァセンキン『I will become a captain』2016

新潟県新潟市アートは国籍を問わず人の心を揺さぶる。

もう1つは「日本海に面した新潟の過去と未来」に関わるもの。現在、日本海を挟んで向かい合う国とは極度の緊張関係にあります。そういった国際的障壁を取り払い、中国、韓国、ロシアの作家たちと交流し、日本海にアートによる橋を架ける。まさに谷氏の「メガ・ブリッジ」がその根底にあり、この芸術祭における大きな意義といえるかもしれません。

例えば、冬の日本海を思わせる曇天の海原を描く画家・ロシアのセルゲイ・ヴァセンキン氏や、日本画壇に旋風を巻き起こした韓国の異彩画家・柳根澤(ユ・グンテク)氏といった環日本海の国々の作家たち。こうした海外独自の伝統技法や感性がつくり出す芸術が新潟という地にもたらされることも、相互理解への第一歩と言えるでしょう。

星野曉『再生/コペルニカス以前の泥Ⅱ』1998 (photo:Nathalie Sabato)

新潟県新潟市ジャンルを問わない47作品。市内全体が展示会場に。

日本の作家では、黒陶による漆黒の色合いが特徴的な陶オブジェを作る星野曉氏や、素材の特性を活かした絵画と彫刻作品を絶妙なバランスで展示する森北伸氏など、絵画から彫刻、陶芸、インスタレーションまで、ジャンルを問わないアーティストが参加。万代島にある、かつて水産物の荷さばき施設だったかまぼこ型の建物(通称「大かま」)や新潟市芸術創造村・国際青少年センター、天寿園をはじめとした18会場に作品が展示されます。

森北伸『ライムライト(街の灯)』2016

新潟県新潟市市民が「自分ごと」として関われることが大事。

そしてこの芸術祭の最大の特徴が、市民自ら企画・運営を行う「市民プロジェクト」です。各地の芸術祭でこういった市民プロジェクトが行われますが、「水と土の芸術祭2018」では今年新たな可能性に踏み出します。それは空き家を地域の人達が集まる茶の間にリノベーションするなど、アートを活用して地域の課題に取り組む「地域拠点プロジェクト」の実施。例えば秋葉区で作家の深澤孝史氏を招へいし、区の特色である「石油」「花と緑」などの地域資源を活かして開かれる「水と油の芸術祭(仮)」や、南区臼井の狸伝説にちなんだ「狸の婿入り行列」を地域のシンボルとして盛り上げる「狸の婿入り行列プロデュース」など、このような地域拠点プロジェクトを含む84ものユニークな市民プロジェクトが催されます。

また「にいがたJIMAN」では伝統芸能や音楽などのほか、新潟の水と土がもたらした最大の宝物である「食」や「農」の魅力を紹介。料理人と生産者によるクッキングショーや、親子で新潟を巡る「収穫」&「ご飯ワークショップ」、マルシェなど美味しい催しも盛りだくさんです。

地球上の万物がその恩恵を受けてきた「水」と「土」。この芸術祭は、新潟という一地方にとどまらない世界的な視点で、人と自然との関係性について問いかけるグローバルなアートイベントだといえるでしょう。

「狸の婿入り行列プロデュース」では築100年の『たぬきの茶の間』も会場に。(photo:臼井アートプロジェクト2016)

2015年に行われた「小須戸ARTプロジェクト2015』(photo:Osamu Nakamura)。今年も多彩なプロジェクトに期待。

Data
水と土の芸術祭 2018

開催期間:2018年7月14日(土)〜10月8日(月・祝)
開催場所:新潟市内全域(メイン会場:万代島多目的広場) MAP
料金:大かま 万代島多目的広場(屋内)、NSG美術館、天寿園(屋内会場)は有料。有料3会場に入場できるお得なパスポート:一般1500円(前売1200円)、学生・65歳以上1000円(前売800円)。単館チケット(当日券のみ)もあり。
その他、無料会場多数。
http://2018.mizu-tsuchi.jp/
写真提供:水と土の芸術祭2018実行委員会・新潟市

日々

朝の月 本日も4時半から大騒ぎの乙君に起こされ朝んぽ。 お陰様で綺麗な月に出会えました