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永遠の藍染。
真っ青な空に映える城と桜の花、森の緑と岩を割る清らかな水の流れ、山深くまで続く巡礼の道の石畳、人知れず星空を映す青い湖、霊峰に静かに降り積もる雪。そうした風景は、日本人ならば誰もが心に描き出すことができるものですが、それが日本のどこに存在するのか、明確に答えられる人はそう多くはないかもしれません。
7/14(土)より公開される映画『ピース・ニッポン』は、そうした日本の美しい風景を、文字どおり日本中から集めた作品です。監督は劇映画やミュージックビデオで知られる映像作家、中野裕之氏。撮影に8年もの歳月を費やした映像の数々は、私たちのイメージを超える美しさで迫り、日本にこんな場所があったのかと驚かされることの連続です。
でもこの作品は「ただ美しい風景をつないだだけ」のドキュメンタリーとは少し異なります。美しい風景を通じて浮き彫りになってゆくのは、日本という国の歴史そのもの。その風景はなぜ作られたのでしょうか。そしてなぜ現在まで残ってきたのでしょうか。そこには、日本の風土に根づいた精神性と美意識、そして文化と歴史があるのです。
東日本大震災によって失われた風景にかりたてられ、「日本の風景を保存しなければ」と、この作品を撮り始めたという中野氏。そんな思いのもと、小泉今日子氏、東出昌大氏(両者ともにナビゲーター)、海外でも高い評価を得るアンビエント・アーティスト、岡野弘幹氏(音楽)など、多くのアーティストが集まり、映画は完成しました。
あなたがまだ知らない日本のストーリーが、この映画の中にはきっとあるに違いありません。
2018年7月14日(土)公開 新宿バルト9 他全国にて
監督:中野裕之
脚本:柴崎明久・中野裕之
エグゼクティブプロデューサー:林 郁
プロデューサー:中野裕之
ナビゲーター:小泉今日子、東出昌大
出演:渡辺 大、及川さきの
タイトルディレクション:葛西 薫
配給:ファントム・フィルム
http://peacenippon.jp/
©2018 PEACE NIPPON PROJECT LLC
日本の自然の美しさ、そしてそこから生まれた文化や歴史を紐解く映画『ピース・ニッポン』。中野裕之監督がそのナビゲーターを、俳優・東出昌大氏にオファーしたのは、彼が「歴史好き」だったからだといいます。その東出氏に「映画の中で行ったことがある場所は?」とたずねると、むべなるかなという答えが返ってきました。
「犬山城、高知城、姫路城、熊本城、彦根城。丸亀城、広島城……“城攻め”は結構やっていますね(笑)。撮影の合間にレンタカーを借りて、ひとりで見に行ったり。僕のお城の楽しみ方は、時代が時代であれば登ることなどできない天守閣に登り、その景色を見てること。“昔のお殿様はこんな気持ちだったんだ”と、身分を越えた感覚を味わうというか。人力で作っているはずなのに、こんなの絶対に攻め落とせない!と感じることも多く、すごいなと思います。ちょっと変態的なまでに歴史好きなので、みなさんとは違う着眼点かもしれません(笑)。
映画の中で印象に残ったお城は松本城(長野県松本市)ですね。“烏城”とも呼ばれているんですが、すごく威厳があってカッコよかった。あとは姫路城。数年前の修復を終えた後に行った時は、地元の人も言っていたように“白すぎるかな”と感じたんですが、ドローンで撮られた映像を見ると、瓦の質がいいために反射して白く見えてしまっていただけで、上から見るとちゃんと黒いんだなって……誰得な情報ですが(笑)。この映画の中のお城は、どれも撮り方がすごくカッコいいんですよ。監督も“城オタク”なのかなと思うくらい」と東出氏は語ります。
映画は日本の自然の中に見る精神性や美意識について、様々な歴史上の人物や文化人の言葉を引用しながら、観客を導いてゆきます。でもそれはそれ。「ナレーションを担当しながらこう言うのもなんですが、単に美しい映像を楽しんでもらうだけで満足してもらえる作品」と東出氏。大画面だからこその迫力と臨場感、更にドローンで捉えた、これまで体験したことのないアングルで、この映画でしか見られない映像が満載です。
「ドローンを使って撮った花火はまるで火花の中にいるような、体験したことのないアングルで、すごい迫力でした。花火は通常は地上で、遠くから愛でるもので、ここまで肉薄した映像は初じゃないかと思います。撮影された当時とは法律が変わり、今後は撮ることができないらしいので、貴重な映像です。
阿波踊り(徳島県)の映像も他にはない臨場感がありましたね。これまではニュース映像などの1コマでしか見たことしかなかったのですが、踊る人たちがシュッと集まって隊列を作ったりする、それがカッコよくて。祭に参加する人々の息吹、生き生きとした熱気が映像からあふれ出ていて、すごく楽しそうだな、行きたいなと思いました。
様々な星空も素晴らしかったですね。特に小笠原諸島・父島の星空(東京都)は、天の川があまりにはっきりと見えることに驚きました。流れ星と人工衛星の違いも分かります。地球の周りには様々な方向に人工衛星が飛んでいることも初めて知りました。
どれも大画面ならではの映像だと思います」と東出氏は話します。
「“旅”は自分にとっての一番のご褒美。それを目標に、日々仕事をしている」と語る東出氏。その遍歴は世界中、日本中に及びますが、最初に旅を好きになったきっかけは、18歳の時に訪れたパリだったそうです。
「仕事の関係で行って、ひとりで延泊したんです。僕はすごく小心者で、フランス語はおろか英語すらもおぼつかない。それこそ“カツアゲされたらどうしよう”なんてビクビクして、お金を細かいパケで何袋にも分けて、カバンの奥と、お財布と、ホテルの金庫に入れる、なんてことをやっていましたね(笑)。
国内旅行では年に一回、知人のいる沖縄を必ず訪ねているのですが、行けば行くほど面白い場所だなあと思います。足を運んで初めて理解できた歴史的な問題もありますし、同じ日本でありながら、お正月のお祝いが旧正月だったり、お餅を食べる習慣がなかったり、様々な文化の違いも感じます。台風が来ても“家で酒飲んでればいいさあ”という感じで、大らかさのようなものを教わりましたね」と東出氏は言います。
旅に出ることの効能は、異なる価値観を目にすることができること。自分の悩みのちっぽけさを実感できること。自由になれること。
「“かわいい子には旅をさせろ”と言うのは、旅先ではいつもは考えないことを考えるし、普段とは見える世界が変わるからなんでしょうね」と東出氏は続けます。
ちなみに、旅の必需品は「スキットル」と呼ばれるウイスキー用の携帯用ボトル。海外や地方ではお店が閉まる時間が早いので、夜、自分の気に入った景色の中で飲めるように、用意していくのだそうです。持って行くのはいつもの飲みなれたお酒なのですが、旅先ではなぜかそのお酒の味さえも違って感じられるのだとか。
「非日常」を求めるがゆえでしょうか。旅に出る時に、海外を念頭に置く人は多いかもしれません。でもこの映画を見て、日本にもまだまだ知らない景色、見たこともないような景色があることを知ったと、東出氏はいいます。
「“本当に日本なのか?”と思うような場所も多かったですね。例えば慶良間(けらま)諸島(沖縄県)の海。ナレーションでも世界屈指の美しさと言っていますが、ケラマブルーといわれるその青さも驚きで。水中の映像も本当に楽園のようで、竜宮城ってこういう所なのかなと、目が覚める思いがしました。アフリカの大地としか思えないような場所もありましたし、“天空の城”と呼ばれる竹田城跡(兵庫県朝来市)も、ペルーの空中都市マチュ・ピチュを彷彿とさせますよね」と東出氏は話します。
そうした唯一無二の映像とともに東出氏の心に残ったのは、「日本には、世界の活火山の7%がある」という言葉です。ここ数年多発する大規模地震を始め自然災害の多い日本では、全てが「諸行無常」――つまりこの世のあらゆる存在や現象は移ろい変化し、常に同じものはあり得ないということです。全てがはかなく、だからこそ日本人は、「一瞬の美」に心を打たれるのかもしれません。
「“日本人の心”と言われることも多い富士山(山梨県・静岡県)ですが、僕自身としてはこれまで何の思い入れもなく、まあ決まり文句のようなものかなと思っていたんです。でもこの映画で見て、富士山ってこんなにも美しいのかと感じました。最初から最後までストーリーテラーのように、ことあるごとに登場するのですが、四季折々、角度により、時間帯により、その表情は常に少しずつ違う。中盤に出てきた夕景は特に印象的でした。夕日を浴びて、頂上に頂く白い雪も、空も雲も、真っ赤に染まって……ずっと見ていたいなという気持ちになりましたね」と東出氏は言います。
「熊野古道(三重県・奈良県・和歌山県・大阪府)は、和歌山出身の父からよく聞かされていて、以前から行ってみたいなと思っていた場所です。父はカタブツで宗教や信仰に関してほとんど思い入れのない人なのですが、それでも熊野古道の空気感には、何かしら神聖で荘厳なものを感じると。あの父が言うくらいなんだから、それはすごいことじゃないかなと思うんです。千何百年前の人が作った古く苔むした石畳や山道、その両脇にたたずむ樹齢何百年の大木――そこには、時を超えて存在する何かがあるのかもしれません。この映画だからこそ、紹介されているんだろうな、とも」と東出氏。
映画が捉えた日本の様々な絶景は、先人たちが「ここに立った後世の人に見せたい。見せるべきだ」という思いから創造され、守られてきたものなのではないか。それを受け継いだ自分たちもまた、次の時代に引き継いでいく気持ちで、日々を生きていくべきではないか。映画を見て、東出氏はそんな風にも感じたといいます。
「東日本大震災の時、駅の階段に座り込む人たちが真ん中を開けて両サイドに座っていた、それが海外で驚きを持って報道されたと聞きます。他者に配慮する日本人の在り方は、そうした景色の中にも生きているのかもしれません。“日本人の心”というとおこがましいけれど、そういう精神性は世界に通じる美徳だと思うし、今後もつないでゆきたい。僕自身が、作品からそんなメッセージを受け取った気がします」と東出氏は語ってくれました。
1988年埼玉県生まれ。モデルとして活躍の後、2012年に映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。同作で日本アカデミー賞新人俳優賞他、数多くの映画賞を受賞。2013年のNHKの連続テレビ小説『ごちそうさん』で人気を獲得、以降、映画、テレビ、CMなど幅広く活躍。『クリーピー 偽りの隣人』『聖の青春』『関ケ原』『散歩する侵略者』など話題作に次々と出演。2018年は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作『寝ても覚めても』(9月公開)と本作を含め、出演作6本が公開される。本作でともにナビゲーターを務める小泉今日子氏とは、2017年『散歩する侵略者』以来の共演となる。
2018年7月14日(土)公開 新宿バルト9 他全国にて
監督:中野裕之
脚本:柴崎明久・中野裕之
エグゼクティブプロデューサー:林 郁
プロデューサー:中野裕之
ナビゲーター:小泉今日子、東出昌大
出演:渡辺 大、及川さきの
タイトルディレクション:葛西 薫
配給:ファントム・フィルム
http://peacenippon.jp/
©2018 PEACE NIPPON PROJECT LLC
日本全国にある様々な「美」を記録した『ピース・ニッポン』。この映画の監督で、劇映画やミュージックビデオなどで知られる映像作家、中野裕之氏がプロジェクトを始動したきっかけには、あの東日本大震災がありました。
「3.11が起き、“電気がなければただの人”という事実に1週間くらいパニクった後、仮に電気が復活したとして、自分に貢献できることはないかと考えたんです。ちょうどその時に、東北の町の写真館が、保存していた写真もろとも津波で流されたという報道を聞いて、“自治体が運営する映像施設はどうなったんだろう”と気になりました。そうした映像資料の作り手を個人的に知っていたので問い合わせたら、やはりマスターからコピーまで全部流されてしまったと。インターネットへのアップロードもなし。本当に全部なくなっちゃうんだなって」と中野氏は話します。
その前年から、京都の3D映像を作ろうと撮影を始めていた中野氏。震災以前には、東北にあまりロケーション撮影に行っていなかったことに気付き、京都に限らず、日本中を記録していこうと心に決めます。当初は3DとHDで撮影しており、2年後には3Dと4Kに切り替え、同じ景色を取り直そうと同じ場所を訪ねてゆくのですが――このことが図らずも中野氏に、ある事実を強く強く実感させることとなります。
「同じ場所に行っても、同じ風景があることは二度とない。一期一会なんです。だから行ってはがっかりする(笑)。城もたくさん撮りましたが、例えば鶴ヶ城(福島県会津若松)なんて、桜吹雪が撮りたくて6回くらいは足を運びました。そうすると、去年すごい綺麗な場所だったからと思って、今年行ってみると、全部裏切られるんです。
紅葉を撮る時も、同じ場所に3~4回は行きますね。これもこの8年の間に知ったことですが、紅葉って3年周期なんですよ。去年は“当たり年”で、どこにいっても真っ赤だし、葉っぱ1枚まで寄っても綺麗だった。そういう時は“すごいじゃん!すごいじゃん!”って大興奮なんですが、それに対して“なんで赤くならないの!?”っていう徒労の2年のなんと悲しいこと」と中野氏は言います。
この映画を撮る以前には、仕事の拠点を海外に置いたこともある中野氏。そこから日本に戻った理由のひとつには、海外の自然では感じられなかった、日本の森の豊かさへの思いがあります。「八百万(やおよろず)の神」「山岳信仰」「森林信仰」という概念は、古代から何千年も続く森が今も多く残るがゆえ。そうした思いとともに映画の中に映し出される森は、奇跡のような美しさを放ちます。
「僕が個人的に、日本一の紅葉の名所だと思うのは十和田湖(青森県十和田市・秋田県鹿角郡)。これはゆるぎないです。京都のお寺にある紅葉も素晴らしいけれど、あれは人が植えたもの。人間の作った庭としてフレーミングした美。十和田湖はそのフレームを取っ払って、手前に膨大な水を引き込んだもの、極端な話、嵐山が100個くらいあるようなものです。桜は全然なくて、紅葉もブナなのでわりと黄色っぽいオレンジ系なんですが、時々ナナカマドとかの赤いのがポンと入ってる。夕暮れになると、そのオレンジが夕焼けを反射して真っ赤になる。奥にある蔦沼なんか、真っ赤な映り込みの美しさにもうびっくりします。“リオ・ネグロ(黒い川)”といわれるアマゾンに似た、鏡みたいな水面、しかも黒締めで。あんなに大きい湖が全部湧き水で、今も滾々と湧き続けている。その水がすごく旨くて、僕なんかガブガブ飲むんですけど」と中野氏は語ります。
日本を代表する原初の森として、多くの人が思い描くのは屋久島(鹿児島県)かもしれません。もちろんこちらにも中野氏は足を運び、「ジブリ映画が描くような、とてつもない森」と絶賛しています。でも中野氏が屋久島で最もお勧めするのは、少し違う場所のようです。
「屋久島に行くとみんな縄文杉を目指しますよね。でも初めて行くなら、苦行のような山登りをして縄文杉を見に行くより、いなか浜に行ってほしい。屋久島で僕はあそこが一番好き。夏休みに3km続くビーチをひとり占めにできる、そんな場所は他にありません。そこでおじさんが売ってるグァバ氷を食べると、美味しくて泣きそうになりますよ」と中野氏。
それから――と、中野氏が語ったのは、ちょっと屋久島とは思えない楽しみ方。屋久杉の原生林の森、白谷雲水峡の駐車場にびっしりと密生する「スギゴケ」に心を奪われて、全てをファインダーに収めようと4日間も駐車場に通ったのだそうです。
「日本には、モンゴルとかロシアとか、アメリカのグランドキャニオンみたいな、広大な風景はないんです。でも例えば苔を見るにしても、顔を10cmくらいまで近づけてずーっと動かせば、それだけで空撮になるわけでしょう。そういう小さいものの中に宇宙を見ることができるのが日本人だし、日本人の感覚なんだと思う。ノルウェイのツンドラとか、ハワイのジャングルとか、すごいとは思うんですが、ワイルドなんですよね。荒々しくて荘厳で、近寄りがたい。反対に、日本は繊細で可憐で耽美で、風情がある。紅葉の名所として知られる瑠璃光院(京都府京都市)にしても、中からしか見られないし、ちんまりしているんです。日がまんべんなく当たらないから、絶対に一度には紅葉しない。僕が撮りに行っても、ベストな状況って一回もない。でもだから瑠璃光(様々な色を反射する瑠璃の光)っていうんだけど、そういうものに美を見るっていう感覚って育つ環境だと思うんですよね。日本にはそういうものを分かってた人がいっぱいて、それが日本の文化とか歴史を作っているんです」と中野氏は語ります。
もちろんこれだけの美しい風景を撮るのに、相当の苦労がないはずはありません。誰も見たことのない「その場所」を探し、たどり着く苦労。誰も見たことのない「その瞬間」を狙い、待つ苦労。その最たるものは、山奥でひっそりと流れ落ちる「滝」を巡るものかもしれません。
「滝を撮る時って、晴れていないことがほとんどだし、晴れていれば晴れていたで、写真に撮ると白く飛んでしまうんです。でもある時間帯だけ、滝全体に日が当たって虹が出る。太陽の角度と自分がいる場所から計算して予測して、“この時間帯でこのあたりに虹が出るんじゃないか”とずーっと待って――ひとつも出ない(笑)。でもドローンで上から撮ると出ていたりすることもある。何かで写真を見て、でも実際はこんなにいいわけじゃないんだろうな……と期待しないで行ったら大当たり!なのに、そういう時に限ってドローンを持ってきていないんです(笑)」と、中野氏はその時のことを振り返りながら話してくれました。
中でも中野氏が「あのキツさは一生忘れない」と語るのは西沢渓谷(山梨県)の七釜五段の滝。
「前に3D、後ろにHDのダブルリュックに、三脚を持って歩いていたんですが、道幅がしだいに1mから30cm、15cmと狭くなってきて。そのうち鉄鎖が設置された急斜面で、すれ違えない一方通行になってきて、すごくいい景色なのに写真を撮るどころじゃなく、ただ進むしかない。やっと撮れるかなっていう所に来ても、人が後ろから来るからどかなきゃならない。ようやく滝の所にたどり着いたんだけど、そこから上に上がるとなるとほとんど垂直の壁。鎖があっても壁に貼り付きながら上がるようなところで、そりゃないよって。若い人、アドベンチャー好きな人なら最高だと思います(笑)」と中野氏は話します。
日本人の、一番日本人らしい所はなんですか?とたずねると、中野氏は「“お互い様”と思えること」と答えます。
「最近は“お互い様”がわからない人が増えていますよね。でもたとえ億万長者でも総理大臣でも、西沢渓谷まで行こうと思ったら自力で山を登るしかない。区別なくしんどいんです。自然はそういう謙虚さを思い出させてくれるものなんですよ」と中野氏。
自然とともに暮らすこと。それが日本人本来の生き方なのかもしれません。四国の仁淀川(高知県・愛媛県)では、そうした営みを目の当たりにしたといいます。
「仁淀川は高知市内から1時間くらいで行けるのですが、透明度は四万十川よりも高いと言われています。晴れて日が差すと“仁淀ブルー”と呼ばれる水がとんでもなくきれいで、川が増水した時に沈むように作られた“沈下橋”という、欄干のない橋が幾つもあります。しぐれていれば雲がワーッと上がる山間、その山筋をずーっと上がっていくと果てしなく山しかないんだけれど、山頂の少し下あたりにポツンポツンと民家がある。源平の戦いの頃からある集落なんんですが、よくこんな山深いところにと、人の営みの生命力にド感動しました」と中野氏は語ります。
ちなみに仁淀川を含め高知県に足を運んだ時、中野氏は必ず食べるものがあるそうです。それは「べらぼうに美味い“土佐清水サバ”」。佐賀で言うところの「関サバ」と同じものですが、土佐の漁師が獲って持ち帰ると「土佐清水サバ」という名前になり、ずっとお値ごろな値段で食べることができるのだとか。「辛い思いもいっぱいしているけれど、例えば“美味しい栗”が一個食べられれば、それで満足」という中野氏。誰もがそうであるように、食は旅の大きな楽しみだといいます。
「8月9日、厄落としの日に行われる飛騨高山(岐阜県)の手筒花火打ち上げには、毎年通っています。市内を流れる宮川にかかる橋と橋の間に仮設の舞台を作り、とび職の人が5人くらい立って、花火を手に持って打ち上げる。橋の上ではガタイのいい男の子たちが褌(ふんどし)姿で太鼓を打ち鳴らして。カッコよくてシビれますよ。この花火の奉納の本家は愛知県の豊橋なんですが、それでも僕が飛騨高山を推すのは、飛騨桃と高山ラーメンが好きだから(笑)。僕は桃フリークで、飛騨高山は暑いわ寒いわの土地なので本当に桃が美味いんだけど、手筒花火の頃は一番美味しい。宮川の近くにあるフルーツ屋さんで桃を箱買いして、川の水で冷やしてその場でしゃくしゃくしゃくって食べる。これが昼の部。夜は高山ラーメン、たまに飛騨牛。実は福井から鯖街道が伸びてるから、鮨もめちゃくちゃ美味い。何回も行くところは、そこに美味しい店があるからかもしれません」と中野氏は話します。
いわゆる観光名所や美味しい食べ物など、目的は何でも構いません。とにかくその場所に足を運ぶこと。そしてそこに自分が立ったリアリティを感じること。インスタグラムで写真を撮るのも確かに楽しいけれど、それだけで行った気になり、振り返りもせず立ち去ってしまうのは、「もったいなさすぎる」と中野氏は言います。その場所に立ち、右から左までゆっくりと見て、深呼吸を5回。それだけで見えてくるもの、感じるものはきっと変わってくるはずです。それこそが中野氏の言う「PEACE」のように思えます。
「木々の間を抜けていく風を愛おしく思うこと。満開の桜にぱーっと風が吹き、散る花びらと一緒に呼吸をする。花吹雪が静まり、また静けさが戻る。さてと、じゃあそろそろ次に行こうか、と思いますよね。その“さてと”という瞬間に、僕は一番のPEACEを感じるんです。
自然を愛でることができる時間、空間を、僕は“ありがたい”と思う。何に対してか分からないけれど、感謝するんです。きれいなものがたくさんある日本には、“ありがたい”と思えるチャンスが無数にある。太陽に、山に、空気に、花の美しさに、美味しい食べものに。実際の場所に行き、その場所の空気を体内に吸い込んで、そういう国に住んでいることを実感してほしい。
上手く言えないんだけど、好きな彼女を誘って滝に行き2時間ゆっくり過ごしたら、きっと二人は恋人になる。仲間で行けば、絆はめちゃくちゃ深くなる。その場所を好きになれば、そこが自分の居場所――自分がPEACEになれる場所が増えてゆく。そういう場所をたくさん持つことが、本当の心の豊かさにつながってゆくんじゃないかなと思います」と中野氏は語ってくれました。
1958年広島県生まれ。早稲田大学卒業後、読売テレビに入社。その後1998年に「ピースデリック」を立ち上げ、’98年に初の劇映画『SF サムライ・フィクション』を監督。富川国際ファンタスティック映画祭グランプリ、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞他、数々の映画賞を受賞。『SF Stereo Future』『RED SHADOW 赤影』、2009年の『TAJOMARU』(09)に続き、2014年には青森大学男子新体操公演のドキュメンタリー『FLYING BODIES』、そして『FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM』などを監督。また、米MTVアワード6部門にノミネートされたDeee-liteの "Groove is in the heart"を始め、今井美樹氏、布袋寅泰氏、GLAYなどのミュージックビデオも多く手がける。その映像制作は、CM、映画、ドキュメンタリーなど、多岐にわたる。
2018年7月14日(土)公開 新宿バルト 9他全国にて
監督:中野裕之
脚本:柴崎明久・中野裕之
エグゼクティブプロデューサー:林郁
プロデューサー:中野裕之
ナビゲーター:小泉今日子、東出昌大
出演:渡辺 大、及川さきの
タイトルディレクション:葛西 薫
配給:ファントム・フィルム
http://peacenippon.jp/
©2018 PEACE NIPPON PROJECT LLC