ここはいわば、日本のブータン。ホスト・中村孝則氏が見た、国東の特異性と神秘性。[DINING OUT KUNISAKI with LEXUS/大分県国東市]
大分県国東市風景だけでなく、その精神性にも古来の伝統が宿る。
日本にこんな場所があったのか――今回の『DINING OUT KUNISAKI with LEXUS』を機会に初めて訪れた国東は、まず私にそんな思いを呼び起こしました。それはここに“昔”がそのまま残っているから。ただの田園風景や手付かずの自然ではありません。そこに生きる人々の精神性まで含めた“昔”です。
あるいは、ただふらりと訪れただけなら、日本によくある田舎だと感じたかもしれません。しかし繰り返し足を運び、人々の思いに触れ、土着の文化を深く知るほどに、この地の特異性が徐々に顕になってきました。そもそも『DINING OUT』は、対象となるその土地に深く入り込み、知られざる魅力を“発掘”することがテーマです。そして国東らしさを見事に掘り起こした今回はきわめて『DINING OUT』らしい展開になったといえるでしょう。
国東が特異である第一の点は、やはり宗教観でしょう。土着の山岳信仰と大陸から伝来した仏教が混じり合い、六郷満山文化として花開く。そんな宗教観の元には、新たなものを受け入れる寛容な気質があります。海に突き出した地形で、大陸からの玄関口となり、また東にある朝廷の入口でもあったという地理的な条件も、おそらくこの気質の形成の一因かもしれません。
また、この地に点在する無数の寺院が、観光名所ではなく宗教施設として存在していることも印象的でした。庭や仏像を見ることも大切ですが、本来の寺院は宗教的共有をする場所。受け継がれる祭りやご住職の方々の話を通し、その世界観に触れられることも国東の特長でしょう。
さらに点在する六郷満山の寺院が天台宗の密教寺院であること、奇岩・巨岩が連なる景観なども国東の空気を独特なものにしています。そこにあるのは、現代の日本とは思えぬ神秘性です。どこか妖しく、静謐。その空気感が国東の魅力です。
かつて東アジアのブータンという国を訪れたことがあります。昔ながらの田園が広がり、その田園を支えとして生きる国民性が残る。そして国教であるチベット仏教の影響による、ある種の神秘性が漂う。国東は私に、そんなブータンを思い出させました。画一化が進む日本にあって、この空気は誇るべき、そして守るべきものだと思います。
大分県国東市スペイン・ビルバオに学ぶ、国東活性化の起爆剤。
神秘的で特異な地でありながら、空港からの距離は車で15分程度。そこに私は、国東のポテンシャルを感じました。国東という土地が、日本を代表する観光地となるポテンシャルです。旅に訪れる場所には、現代生活とのギャップがある方が良いですよね。その意味で、国東は大きな可能性を秘めていると思います。もちろん、ただ待っているだけでは多くの観光客はやって来ないでしょう。宿泊施設の不足解消など、ハード面での計画も不可欠です。しかしそれよりも大切なのは、地域の方の意識の問題です。
私は先日まで『世界のベストレストラン50』の関係で、スペインのビルバオに滞在していました。かつて工業生産で支えられていましたが、1980年代の工業危機で方向転換、現在はサービスや観光の町として世界中から観光客が訪れる町に生まれ変わった町です。食や文化という核はありますが、印象的だったのは若者の数が多いこと。自然と町に活気が満ち、さらなる観光客を呼ぶという好循環が生まれていました。
このビルバオに、国東のさらなる発展のヒントがある気がします。若者にどう訴えかけるかが、これからの観光業の肝です。たとえばビルバオは酒税がないため、人々はさまざまな場所で遅くまでお酒を楽しみます。国東をそういった特区にしてしまうのも良いかもしれない。あるいは食でも音楽でもスポーツでも、何らかの核を据えて、広くアナウンスしていくことも有効でしょう。
国東は元来、“外から来るもの”を受け入れてきた土地です。製鉄の技術を持っていた渡来の一派を受け入れたこと然り、山岳信仰と仏教を混淆したこと然り。海外のテクノロジーを土着の文化に取り入れ、「まあやってみようか」としてしまうオープンマインドな地域性があるのです。1300年前からそれをやってきたのですから、きっとこれからもできるはず。新たな試みを通して、若い人を受け入れる。そんなチャレンジが、やがて地域の活性化に繋がるのです。そしてその点も、今回の『DINING OUT』が良かったこと。『DINING OUT』は、ゲストもスタッフも若い世代が多いですから、今回の成功がひとつのきっかけとなるかもしれません。
大分県国東市川田智也シェフの料理に垣間見る、正直な人間性。
料理には時折、シェフの人間性が表れます。今回の料理を前に思ったのは、川田智也シェフという人が、嘘のつけない正直な人なんだろう、ということ。コースを通した物語には整合性があり、テーマへのこじつけが一切見当たりません。だから料理を口に運ぶと、その味わいとともに、この国東という土地のことがすんなりと入ってくるのです。
その象徴が、地元の魚・三島ふぐを使った「国東的良鬼」という料理でしょう。高温で揚げたら鬼のようになったという偶然性も含めて、国東らしさ、川田シェフらしさが表れていたと思います。淡白な身を優しい餡が包み込み、医食同源にも通ずる滋味深い味わいとなっていました。
また温泉で育てる泥鰌で仕立てた「爆米炸泥鰌」も印象的でした。実はこの泥鰌は、ともに視察に訪れた際、川田シェフが強く興味を惹かれていたもの。大ぶりな泥鰌に紹興酒の香りをまとわせてから揚げるという、素材の良さとバックグラウンドをシンプルに伝えるアプローチ。里山の象徴である泥鰌を文殊仙寺の境内の石の器に盛るという演出も見事でした。
その他の品々も含め、それぞれの料理はショーアップされたものではなく、むしろ静謐さを感じさせるものでした。この地に根ざし、この地の思いを形にしたような料理。これは遠くからやってきたゲストにはもちろんのこと、地元の方にも刺さったのではないでしょうか。これもまた、『DINING OUT』の大切な役割のひとつ。地元の方々が、自らが住む土地の魅力を再発見し、そこに新たなモチベーションが生まれる。そうして最終的には独自の力で、地域を活性化する。その起爆剤としての役割を果たせた点もまた、今回の『DINING OUT』の成果だといえそうです。
神奈川県葉山生まれ。ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、テレビにて活躍中。2007年に、フランス・シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を受勲。2010年には、スペインよりカヴァ騎士(カヴァはスペインのスパークリングワインの呼称)の称号も受勲。2013年からは、世界のレストランの人気ランキングを決める「世界ベストレストラン50」の日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。
http://www.dandy-nakamura.com/
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