海と共に生きる北陸の小さな町が、 「世界が認める美しい海」を生み出した理由。[福井県高浜町]

国際環境認証のひとつブルーフラッグのほか、JLA認定海水浴場や環境省の日本の水浴場55選、日本の水浴場88選、日本の快水浴場百選などにも認定されている若狭和田ビーチ。

福井県高浜町世界レベルの環境認証を、アジアで初めて取得した高浜町の快挙。

福井県の最西端に位置する海辺のまち、高浜町。京都府との県境にある町は、北側は日本海若狭湾、南西側は山々に囲まれた自然豊かな町です。町を見守るかのようにそびえたつ青葉山は「若狭富士」と呼ばれ、かつて、若狭・丹後の漁師たちは漁船の位置を確かめる目印にしていたそうです。 高浜町は漁業と農業に加え、夏は海水浴を中心とした観光業が盛んです。昭和より前から関西地区の避暑地として知られ、最盛期はひと夏で100万人、今でもたくさんの人が訪れています。

海水浴客のお目当ては、青葉山のふもとから8kmも続く遠浅の美しい海岸。中でも若狭和田ビーチは、2016年にビーチやマリーナの国際環境認証のひとつ「BLUE FLAG(ブルーフラッグ)」を取得した世界が認める美しい海です。 でも、名誉ある認証の取得には水質や景観の素晴らしさだけではない、地域に暮らす人たちの意識の高さや努力があってこそ。高浜ならではの財産を地域で守り、次の世代につなげる活動をする人たちと出会う旅に出ました。

青葉山を目の前に望む、唯一無二のビーチ。人口1万人強に対して、ひと夏に20万人ほどの客が訪れるという。

毎朝4時半ごろ和田漁港を出航し、7時頃に定置網漁から戻ってくる。海と隣り合わせで暮らす高浜ならではの光景だ。

福井県高浜町ブルーフラッグの取得は、かつての賑わいを取り戻せるのか。

高浜町を訪れた7月1日は、海開きの日。町内にある5つの海水浴場では「浜茶屋」と呼ばれる海の家が一斉にオープンし、「今年もよろしく〜」という声があちらこちらから聞こえてきます。 海開きを待っていた人たちが我先にと海へと駆け出し、砂浜ではビーチバレーを楽しむ大学生。波打ち際で楽しむファミリーや、浜茶屋でおなじみのカレーをほおばる常連組。凪いだ海はこれから始まる本格的な夏を、静かに歓迎しているようでした。

高浜の海水浴場の中でも、ひと際注目を集める若狭和田ビーチが「ブルーフラッグ」を取得したのは2年前。そもそもブルーフラッグとは? 日本ではあまり馴染みのないものですが、1985年にフランスで誕生。世界で最も歴史のある環境認証のひとつで、水質、環境マネジメント、安全性、さらには環境教育と33もの基準をクリアしたビーチやマリーナだけに与えられる勲章のようなもの。これまで世界49カ国、4271カ所のビーチやマリーナが認定され、日本で認証されているのは鎌倉の由比ケ浜と、ここ高浜の若狭和田ビーチだけです。

海浜美化や施設管理、利用者のマナー、経済振興、人口減少など多くの課題を解決するには、ブルーフラッグというひとつの目標に対して地域みんなで協力することが課題を一気に解消できるのではないかと高浜町は考えた。

多目的トイレの設置や車椅子対応駐車場、障害を持つ人のためのバリアフリー設備や水陸両用車椅子などブルーフラッグ取得のための整備は、すべての人たちに優しいビーチをつくり出す。(写真提供:高浜町)

福井県高浜町水質や景観だけではない、地域に住む人のたゆまぬ努力によって。

ブルーフラッグという世界的にも名誉ある認証は、一度取得すれば永続される制度ではありません。毎年申請し、審査され、改めて認証を受けられるという非常に厳しいもの。認証に欠かせない条件のひとつに「安全リスク評価」がありますが、その要となるのが「若狭和田ライフセービングクラブ」の活動です。 「ライフセービングは溺れた人や倒れた人を救助するイメージが強いですが、本来の目的は事故を未然に防ぐための活動をすることだと思っています」と話すのは、クラブを立ち上げ、代表を務める細田直彦氏。

例えばひとりで遊んでいる子どもがいたら真っ先に声をかけたり、海の楽しさや安全面を伝える講習会を開いたり、人命救助や監視するだけでなく、常にコミュニケーションを取ることがライフセーバーの大切な役割だと話します。 クラブの登録人数は70名ほど。他に仕事を持ちながらライフセーバーの活動をしている人がほとんどです。両立しながらの活動はたいへんなことですが、「自分たちが大好きな高浜の海を守りたい。そして、魅力をたくさんの人に伝えたい」という素直な思いが活動の原点になっているのでしょう。

高校生の時に水難事故を間近で見たことがあり、「何か自分にもできることがないだろうか」と辿り着いたのがライフセービングの世界だったと話す細田氏。新潟県出身だが、高浜の海に惚れ込み結婚を機に移住。

海の生き物観察会や水に関する体験型教育プログラムは、美しい海を次世代にも継承するための大切な活動。(写真提供:高浜町)

福井県高浜町透明度の高い高浜の海を、満喫できる最新アクティビティ。

海水浴とともに、ここ数年じわじわと人気が高まっているのがハワイ発祥のビーチアクティビティ「Stand Up Paddleboardスタンドアップパドルボード)」、通称「SUP(サップ)」です。専用のボードの上に立ってパドルで波をかき、海面を移動します。サーフィンのように波乗りをしたり、ボードの上でヨガや釣りを楽しんだりする人もいるそう。

今回の旅の目的のひとつであったSUP。立ち上がって高い目線から景色を眺めることができるため、高浜の美しい海をより満喫するのにもってこい。高浜町の近隣でサーフショップ『hot style小浜店』を営む浜岸宏明氏の案内で、海上クルージングに出かけました。

ボードの上でバランスを取りながら、パドルをひとかき、二かき。SUPのボードは一般的なサーフボードよりも長く、幅も広く厚みもあるため安定感は抜群。想像よりも簡単で、すーっと水上を滑る様は今までに味わったことがないような不思議な感覚です。海と空と風との一体感は、何ものにも代えられない贅沢な時間です。

沖に出る前に、まずはSUPの漕ぎ方を練習。いきなり立って漕ぐのは難しいので正座、立ち膝からスタート。SUPは波打つ海の上を立って漕ぐので体幹が自然に鍛えられる。

高浜の名所、明鏡銅。その他に洞窟探検など、ビーチからでは行くことができない場所もSUPならば楽しめる。

福井県高浜町高浜の海とSUPを盛り上げるふたりの立役者。

今回ガイドをしてくれた浜岸氏は、高浜町出身。小さい頃から海が目の前の環境で育ち、サーフィン歴は30年以上という海のスペシャリスト。そんな浜岸氏ですが、今はもっぱらSUPに夢中だそう。
「SUPを始めて、今まで気がつかなかった海の楽しさを再確認しました。高浜の海がきれいだということに改めて気がついたり、景勝地がたくさんあるので景色を楽しんだり。今までは波ばかりを見ていましたが、SUPは潮の流れや風を感じることもできる。海を広い視野で見られるようになりましたね」と、嬉しそうに話します。

また、浜岸氏のガイドのもと、海に一緒に出たのは地域おこし協力隊として高浜町に住む月田ショーン氏。ショーン氏はイギリス出身で、京都で5年間暮らしたのち高浜町へ。現在は高浜の海をはじめ、様々なイベントや人を取材し記事にしているそう。
「最初に来たときは京都から2時間ちょっとで、こんなにきれいな海があったのかと衝撃を受けました。高浜に海があったことは、移住する決め手のひとつになりました。今回SUPは初めてでしたが、思っていたよりも簡単。洞窟探検をしたり島まで行ったり、海水浴とは違う形で高浜の海が楽しめますね」。今後は、海や山を紹介するガイドの仕事にも挑戦したいと話します。ショーン氏は、地元の人にとっては当たり前にある海や高浜の素晴らしさを、外からの目線で発信していくキーパーソンになるに違いありません。

物心ついた時から海と隣合わせの暮らしだった浜岸氏は様々なマリンアクティブティを通して、高浜の海の素晴らしさを伝え続けている。

4月から高浜に移住したショーン氏。海から車で10分ほどの山あいにある集落に住む。「海も山もどちらもあることが高浜の魅力」と話す。

高浜の海は海水浴、SUPと並び海釣りも人気。手ぶらで来ても、和田地区にある村橋釣具店で貸し竿や釣りエサを用意してもらえる。地元の人たちとのふれあいも魅力。

和田地区を訪れた日は、年に一度の「和田de路地祭」当日。村橋釣具店の店主・村橋武子さん率いる「福の会」のメンバーで露天を出店。地元で獲れた肉厚のサザエなどを販売する。