自生する山野草を手摘みし、個性豊かなブレンドティーに。[tretre/高知県吾川郡仁淀川町]
トレトレ
その美しさから「奇跡の清流」と謳われる『仁淀川』の源流域に位置し、自然豊かな山間に広がる高知県吾川郡仁淀川町。この地に自生する草木を中心に、大地の恵みを独自の感性で配合した『摘み草ブレンドティー』を生み出しているのが、竹内太郎氏が代表を務める『tretre(トレトレ)』です。前編では、自然と寄り添う『tretre』のものづくりに迫ります。
トレトレそれは、山の味わいがたっぷり詰まった、和のハーブティー。
高知県と愛媛県の県境に広がり、水質日本一と謳われる『仁淀川』の源流に近い、高知県吾川郡仁淀川町。この地に暮らす竹内氏が率いるブランド『tretre』では、土地の恵みを生かしたお茶、『摘み草ブレンドティー』を製造・販売しています。
素材のベースとなるのは、その名のとおり摘み草。昔から山の暮らしの中で使われ、人々に親しまれてきた山野草です。この土地は気候条件がとても良く、交通量の多い幹線道路からも離れていて、空気が綺麗な場所。「例えば、ビワの葉は排気ガスを吸収することで苦味が出てしまうのですが、ここではその心配はありません。その辺に生えているヨモギも、安心して摘めますね」と竹内氏は話します。
また、勾配のきついこの土地では、同じ種類の山野草でも標高によって味わいが大きく変わるそうです。そんな気候条件や標高など、環境の違いによる風味の差を熟知している竹内氏は、ブレンドごとに摘む場所、摘み時を見極め、使い分けているといいます。
更に、町内の数ヵ所に自社園を設け、和ハッカなどのハーブ類を栽培。もちろん無農薬で、限りなく自然に近い状態で育てられています。これらを山野草と混ぜ合わせることで甘味や旨味が増幅され、よりいっそう豊かな味わいのお茶となるのです。この自社園も標高別に設けられているだけではなく「ハーブは株ごとに香りや味わいが微妙に違います。そのため、色々比べて気に入った株を、1株ずつ分けて育てているんです」と竹内氏。細かいこだわりが光ります。
こうして、季節ごとに徹底的に吟味された自生の山野草と自家栽培のハーブ類などを組み合わせて生み出される、オリジナルブレンドのお茶の数々。それは「日本のハーブティー」と称され、人気を呼んでいます。
トレトレ収穫からパッケージングまで全ての工程を手作業で行い、豊かな風味を実現。
『tretre』の工房があるのは、仁淀川町の集落の一角。工房らしからぬ佇まいや立地は、元保育園だった建物を活用しているためです。
お茶の主原料となる山野草を集める作業は、竹内氏を含めた『tretre』のスタッフ3名の手で行われるのはもちろん、その時々に応じて地域に住む人々も手伝ってくれています。各所から持ち寄られた山野草は、この工房で丁寧に洗い、干され、断裁されます。そして、ブレンドは0.1g単位で行われます。ほんの少しの誤差も見逃せないほど、『摘み草ブレンドティー』は繊細な味わいなのです。
驚くのは、この工程が手作業で行われていること。収穫から茶葉への加工、ブレンド、更にはティーバッグに詰めてパッケージングするところまで全てです。竹内氏曰く、「山野草から芳醇な風味を引き出すには、乾燥方法も都度工夫することが必要。葉っぱの断裁は機械に任せると画一的になり、味の出方が求めているものとは違うものになってしまいます。ブレンドは0.1g単位ですが、機械だと0.05~0.14gまで全て0.1gと認識されてしまう。数字で見るとわずかな差ですが、風味に与える影響は想像以上に大きいんです」と竹内氏は話します。理想を追い求めた結果、地道な手作業によるお茶づくりが確立されました。
トレトレ真骨頂は、飲まれるシーンに合わせたオーダーメイド。
和洋約50種類もの素材を組み合わせ、四季折々に多彩なバリエーションを展開している『摘み草ブレンドティー』。ヨモギと釜炒り茶、レモングラス、ペパーミントをブレンドした『mogi(モギ)』、ゆずの皮、しょうが、ほうじ茶、レモングラスをブレンドした『yellow(イエロー)』など、個性豊かなお茶が揃います。
こうした定番ブレンドは、自社のオンラインショップをはじめ、高知県内はもとより関西、関東地域の取扱店で購入できます。しかし、実は世に出ている『摘み草ブレンドティー』の大半はオーダーメイドとのこと。料亭や旅館が食事の席で出すお茶であったり、雑貨店や企業などがオリジナル商品として販売するお茶であったりするのだそうです。多方面から様々な依頼を受け、それぞれ独自のブレンドティーを提供しているのです。
特に料亭や旅館の場合、そのオーダーはかなり具体的かつ高度なものに。「濃い味わいの料理と繊細な味わいの料理の間に、一旦リセットするために飲むお茶」、「会席料理の食後に、胃にもたれないようさっぱりするために飲むお茶」など、コース料理のひとつとして楽しめる、存在感のあるお茶が求められます。「一歩も二歩も踏み込んで、料理との相性やそれぞれのシーンに応じた『この場面、この味』というオーダーに合わせてブレンドする作業は、お客様と一緒に作っているという感覚が強いです。時には仁淀川町で取れる素材だけではなく、お客様の地域の素材もブレンドしながら、ぴったりの味を追い求めます」と語る竹内氏。
こうして生まれた唯一無二の美味しさを誇るお茶が、人々の心を掴まないはずはありません。その評判は人づてにどんどん広まり、『tretre』には全国から依頼が寄せられています。
トレトレ新たに発見した自然の産物で作る、和のリネンウォーター。
2014年3月に京都から仁淀川町に移り住み、2015年6月から『摘み草ブレンドティー』を作り始めた竹内氏。しかし、この町の魅力、『tretre』の生み出す商品は、お茶だけではありません。この土地の暮らしになじみ、地域の人々との交流も深まった2016年、竹内氏は新たな天然の宝を見つけます。それが、『ヒノキ蒸留水』です。
『ヒノキ蒸留水』は、町内の木材生産・加工会社である池川木材工業が作る『ヒノキオイル』の副産物。まず、製材時に出るヒノキの端材を燃料に、大きな釜で仁淀川の水を沸騰させ、出てきた水蒸気でヒノキチップを蒸します。すると、その水蒸気には、ヒノキの成分がたっぷりと含まれるのです。それをまた仁淀川の水で冷却すると上下に分離し、上にはオイル分、下にはヒノキの香りや成分が入った蒸留水が生まれるのです。
様々な用途がある『ヒノキオイル』は製品化されているものの、『ヒノキ蒸留水』は需要がなく、そのまま流されていました。ところがある日、そんな現場を目の当たりにした竹内氏は、ヒノキならではの良い香りがするこの水に、新たな可能性を感じます。早速、自宅である古民家に持ち帰り、スプレーボトルに入れて家の中でシュッシュッ。すると、それまで悩まされていた古民家独特の臭いが和らいだのだそうです。
「それから、ヒノキの良い香りを生かしつつ、もっと良くならないかと、いろんな精油を混ぜてみました。特に、このあたりでは5月になると、清々しい森の香りの中にふと、穏やかなミカンの花の香りが漂うんです。その感じがすごく好きなので、最終的には柑橘系に絞って。高知県産の文旦や小夏も試しましたが、一番良い香りだなと思えたベルガモットに落ち着きました」と竹内氏。そうして、竹内氏が「朝もやのたちこめる森林で、フッと甘い柑橘の香りが鼻先をかすめてスッと引くような心地よさをイメージした」と言う、なんとも自然な芳香のルームミストが生まれました。
当初は自分たちで使用するに留めていたものの、周囲の後押しもあり商品化を決意。そこからは厳しいテストを何度も繰り返す日々が2年ほど続きましたが、高知県立大学の協力のもとで成分を分析、財団法人日本食品分析センターでその高い消臭効果を実証され、2017年8月に『によどヒノキウォーター』の名で発売されました。
トレトレ土地の恵みに新たな価値を見出し、地域に新風を吹き込む。
『によどヒノキウォーター』は正真正銘、『ヒノキ蒸留水』と香りづけの精油のみでできたもの。竹内氏のこだわりで、通常なら入れることの多い安定剤、アルコール、着色料、保存料、合成香料などはいっさい使用されていません。ケミカルフリー、エタノールフリーなので、化学物質特有の嫌な感じがなく、子供にもペットにも安心安全。部屋にも衣類にも車内にも気にせずシュッとかけられますし、肌に直接かかってしまっても心配はありません。にも関わらず、消臭力は抜群というから驚きです。
「多くの消臭剤は、科学的に嫌な臭いを香りや成分で包み込む『マスキング』という消臭方法が取られますが、時間が経つと臭いが戻る場合も。それに比べて『によどヒノキウォーター』は、臭い成分そのものを分解することで消臭するのです」と竹内氏。アンモニアやトリメチルアミンといった代表的な臭いに効くことが実証されており、暮らしのあらゆる場面で活躍してくれます。
地元では、個人の家庭はもちろん、飲食店や宿泊施設、介護施設、病院などで幅広く採用されているそうです。竹内氏が見出した新たな町の産物が、地域の人々の暮らしを豊かにしているのです。
次回の後編では、『tretre』が拠点とする高知県吾川郡仁淀川町の魅力や、竹内氏がこの地へ移住し『摘み草ブレンドティー』を開発するまでの経緯、地元の人々との交流について掘り下げます。
住所:〒781-1741 高知県吾川郡仁淀川町名野川27-1 MAP
電話:0889-36-0133
http://tretre-niyodo.jp/
高知県出身。高校卒業後は京都の大学に進学し、そのまま京都の老舗麺料理店へ就職。20年弱勤めた後、2014年3月に退職し、高知県吾川郡仁淀川町に移り住んだ。2015年6月には『トレトレ株式会社』を立ち上げ、『tretre』のブランド名で『摘み草ブレンドティー』の製造・販売をスタート。自生する草木やハーブを使う独自の味わいは、多方面から厚い支持を受けている。2017年8月には、ヒノキの蒸留水で作るルームミスト『によどヒノキウォーター』を発売。