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自然のエナジーを改めて感じさせた土砂降りのなかの晩餐。降りしきる雨が教えてくれた『DINING OUT』の原点。[DINING OUT TOTTORI-YAZU with LEXUS/鳥取県八頭町]
ダイニングアウト鳥取八頭『DINING OUT』を知る3人による万全の体制。
2018年9月8日、9日に鳥取県八頭町で『DINING OUT TOTTORI - YAZU with LEXUS』が開催されました。豊かな自然に囲まれ、大地の力強さを感じる古からのパワースポット、八頭町。担当したのは昨年の『DINING OUT NISEKO with LEXUS』を大成功に導いた徳吉洋二シェフです。さらにホストには6回目の登場となる東洋文化研究家のアレックス・カー氏、サービス統括に2016年『DINING OUT ONOMICHI with LEXUS』に参加した大橋直誉氏を迎えました。いずれも『DINING OUT』を知る3人による万全の体制でした。
地元・鳥取県出身の徳吉洋二シェフを迎えた“凱旋DINING OUT”であったこと、同一シェフによる二度目の担当など、14回目の『DINING OUT』にして、新たな挑戦が詰まった今回。しかし蓋を開けてみると、“史上初”はそれだけに留まりませんでした。
降りしきる雨の中でのディナー、そして直前の会場変更。数々のハプニングを乗り越え、どんな結末を迎え、ゲストと地元に何を伝えたのか? その全貌をお伝えします!
ダイニングアウト鳥取八頭ゲストを出迎えたのは、大地のパワーを凝縮した奇跡のような葡萄の木。
前日から降り続けたこの日も雨は弱まる気配がなく、むしろ夕方には雨脚が強まってきました。そんな雨に濡れながら、ゲストを乗せたLEXUSがレセプション会場である『オズガーデン』に続々と到着しました。出迎えたホストのアレックス・カー氏が、ゲストを屋内庭園に誘います。
この庭園に今回のダイニングアウトのテーマ「Energy Flow –古からの記憶を辿る-」を象徴する光景が広がります。頭上一面にたわわに実る500房以上の葡萄は、たった一本の木に実ったもの。大地の力を凝縮したような眺めに、ゲストはしばし見とれていました。
レセプション会場を後にして、ゲストが向かった先は和同2年(709年)開山と伝わる古刹・清徳寺。この寺の境内が、今回のディナーの会場でした。後醍醐天皇のお手植えと伝わる銀杏、重厚な存在感を放つ菩提樹など、巨樹銘木が雨に濡れて輝いています。頭上には雨よけのテントが張られ、足元はぬかるんでいますが、それさえも忘れるほどここは自然のパワーに満ちた場所なのです。
アペリティフは、鳥取県が国内1、2の漁獲量を誇るハタハタを皮切りにスタート。揚げたハタハタにらっきょう入りのサルサベルデを合わせる事でヱビスマイスターの研ぎ澄まされたコクと相性抜群のスナックで食欲を掻き立てた。さあ、いよいよディナーの幕開けです。
ダイニングアウト鳥取八頭幼い頃の記憶を、現在の技に乗せて料理で表現。
一品目の料理がサーブされると、会場には少し訝しげなざわめきが広がりました。テーブルの上には宅配ピザのような箱。料理名もそのまま「Pizza delivery」。しかし蓋を開くと、それは歓声に変わります。現れたのは八頭のブランド米「神兎」の米粉生地の上に紅ズワイガニやトマトソース、さらに色とりどりの花があしらわれた小ぶりな“ピザ”。いかにも徳吉シェフらしい遊び心と、同じくシェフらしいアーティスティックな盛り付け。
「子供の頃、デリバリーピザってワクワクしましたよね。あのボックスを開けるときの高揚感を思い出しながら、古の記憶を辿る旅をスタートして欲しい」そんな思いが詰まった一品でした。
続いての料理「水と魚」は八頭産の茄子に鳥取の高級魚アコウを合わせて刺身仕立てに。続く「ホワイトモノトーン」では、八頭に残る白兎伝説をヒントに白イカやイタリア産ラルド(豚の脂)で真っ白な一皿を演出しました。合わせるのはシェフが修業時代に慣れ親しんだイタリア風パンのティジェッレ。会場となった八頭の地域性と、シェフ自身の記憶が混じり合う、この日、この場所でしか楽しめない料理が卓を賑わせます。
次の料理はサラダ。徳吉シェフが仕立てるコースには、いつもサラダが登場します。それは「舌をリフレッシュしてもらう」という狙いからですが、今回のサラダの役割はそれだけではありません。「高木農園」の葉野菜や「井尻農園」のトマトといった20種ほどの八頭の野菜は、それぞれが自然の恵みを湛えた濃厚な味わい。そして全体をまとめるソースは、二十世紀梨の酢。「エナジー」と名付けられたこの料理は、大地のエネルギー、生命力をそのまま感じられるような力強いおいしさで、「Energy Flow」のテーマを伝えてくれたのです。
ダイニングアウト鳥取八頭地元食材に焦点を当てたシンプルな料理の数々。
依然、雨は降り続けています。ですが相変わらず、この雨にネガティブなイメージはありません。アレックス氏は言います。「今回の“Energy Flow”というテーマを、改めて説明する必要はありませんね。まさに皆さんはいま、その“エナジー”に包まれているのですから」降り続ける雨に囲まれたレストランは、どこか不思議な一体感に包まれながら続きます。
新鮮な牛乳からその場で作ったリコッタチーズと雲丹を合わせた「さっき作ったリコッタと雲丹」は、濃厚でコク深い味わいが印象的でした。肉質日本一の評価を受けている鳥取和牛を使った「骨と肉」は骨を手で持って齧り付く仕掛け。シェフの故郷の味・牛骨ラーメンをイタリア料理の手法で再現した「しじみと牛」、生命力の象徴である米と卵を使い「究極の卵かけご飯」といえる料理にした「Mantecando il risotto…」、そしてシェフにとってのソウルフードであるホルモンソバに着想を得た「タラ ヒラメ ホルモン」。徳吉シェフといえば思い起こされるアートな仕掛けやハッと目を引くビジュアルは抑えられ、逆に素材の滋味深さや力強さにフォーカスされた料理が続きます。
聞けば「馴染み深い地元の食材だからこそ、テーマの枠を考えすぎず、シンプルに表現できたのだと思います」と徳吉シェフ。八頭の名産品や鳥取の郷土料理が、世界の食通たちを虜にした徳吉シェフのフィルターを通して再構築される。そしてその根底には、郷土愛や幼少時の温かい記憶が宿る。シェフ自身の出身地で行う“凱旋DINING OUT”の本質は、こうして少しずつ表れてきました。
続いての料理は「鹿と鮎」。先程の「タラ ヒラメ ホルモン」と同様、この食材名だけを並べる料理名も、徳吉シェフの新たな一面。パワースポットである八頭の「大地の象徴・鹿」と「水の象徴・鮎」。それぞれのエネルギーを感じさせる一皿を考案したときに、これ以上の仕掛けは余計だと考えたのです。
しかし、シンプルなだけに難しさもありました。「鳥取の食材は本当に素晴らしいものばかり。そしてイタリアよりもずっと繊細ですね。だから塩加減には細心の注意を払いました」と、1日40人分の料理すべて、最後の塩はシェフ自らが振りました。繊細な食材を活かす、細やかな技。これが、ゲストの心に刻まれたおいしさの一因だったのです。
ダイニングアウト鳥取八頭圧倒的な自然の力が思い出させた、『DINING OUT』の原点。
デザートの一品目は「梨狩り」。豊穣のシンボルである二十世紀梨をくり抜いた器に、梨のゼリーとルバーブのマリネ、バジリコのグラニテを合わせた爽やかな一皿でした。そしてコースの〆に登場した「Milano collection」は、レセプションで訪れた「オズガーデン」の葡萄と花粉のジェラート、カカオのビスケットを合わせたプレート。皿に描かれた人体にアルケルメスで作ったシートのドレスをまとわせた、徳吉シェフらしいアーティスティックな一皿でした。
コースの終了後、シェフが登場すると、会場は雨音を打ち消すほどの歓声と拍手に包まれました。ゲストの顔には一様に、笑顔が浮かんでいます。考えてもみてください。野外で食事を楽しむ『DINING OUT』にとって、雨は決して恵まれた状況とはいえません。しかし“野外で食事をする”という意味にまで立ち返ってみるならば、つまり「五感すべてで自然に接することで動物の本能としての“食事”を思い出す」という意義から見つめ、この激しい雨はむしろプラスに働いたとさえいえるでしょう。「Energy Flow」。あふれる自然のエナジーに触れ、その偉大さを改めて思い出すこと。だからこそ、ゲストはこの状況を特別な体験として受け止め、大きな拍手で応えてくれたのです。「DINING OUTの原点に戻りましたね」アレックス氏は、そう語りました。
厳しい状況を乗り越えた末の成功。その影には、地元サービススタッフの力がありました。料理が雨に濡れないよう盆を重ねて配膳したこと、自ら濡れるのも厭わずに会場に目を配り続けたこと、できたての料理を客席に届けるようにぬかるみに足を取られながら動き回ったこと。どれも誰かの指示を聞いていたのでは間に合いません。それぞれのスタッフが随時判断を下し、適切な対応を取ってくれたこと。これが、豪雨という逆境にもかかわらず今回の『DINING OUT』を成功に導いた原動力でした。
ダイニングアウト鳥取八頭史上初の予備会場開催。そしてゲストとスタッフに刻まれたもの。
しかし試練はこれで終わりではありませんでした。翌日は前日以上の豪雨。大雨警報が発せられ、山間部では土砂崩れの危険も高まります。“DINING OUT”と銘打つイベントでの苦渋の決断でしたが、やはり安全が最優先。ディナーの舞台は予備の荒天時会場に変更されました。14回目を迎える『DINING OUT』で初の選択です。時刻は正午。18時開演のディナーまで、残り6時間しかありません。
しかし、前日の豪雨開催を乗り切ったスタッフたちは、この状況をも乗り越えました。会場は築120年の古民家で有形文化財に登録される「太田邸」。その日の午前中までは影も形もなかったこの空間に瞬く間にレストランができあがり、ゲストを笑顔でお迎えしたのです。そして場所を変えて行われた2日目もまた、ゲストの拍手に包まれ大成功で幕を下ろしたのです。
サービスを統括した大橋氏は、終演後のスタッフを見回して言います。「開始前と顔つきがぜんぜん違うでしょう? みんな誇らしげな顔をしていますよね」ある女性スタッフは少し顔を上気させて言いました。「サービスって料理を運ぶだけの仕事だと思っていました。でも本当はシェフの思いとか、大げさに言えば“感動”を運んでいるんですね。これからもっともっとサービスを勉強したいと思いました」
アレックス氏は終演後、しみじみと語りました。「雨も良かったね。知られざる町で、大自然に囲まれて、その土地の魅力を味わい、特別な体験をする。そんな「DINING OUT」の原点に戻りましたね」。14回目を迎え、ノウハウは蓄積され、ホスピタリティは洗練された。しかし大雨という今回の特別な状況が、改めて大自然の力強さと、それ自体を楽しむという特別感を伝えてくれたというのです。
徳吉シェフも感慨とともに振り返ります。「雨も含めて、本当に楽しかった。鳥取の良さをうまく伝えられたと思います」この一年、大病からの復帰、第一子の誕生など公私含めてさまざまな体験があった徳吉シェフ。「最近、僕が改めて実感するのは“諦めないこと”の大切さ。この「DINING OUT」を通して、伝えたこと、教えられたことは、やはりその部分でした」持ち前の陽気さで会場を笑わせた徳吉シェフ。その内側には、苦難を乗り越えることの難しさ、大切さが実感として宿っていたのです。だからこそ、雨の「DINING OUT」は、ゲストとスタッフに確かな記憶として刻まれたのです。
『Ristorante TOKUYOSHI』オーナーシェフ。鳥取県出身。2005年、イタリアの名店『オステリア・フランチェスカーナ』でスーシェフを務め、同店のミシュラン二ツ星、更には三ツ星獲得に大きく貢献し、NYで開催された『THE WORLD'S 50 BEST RESTAURANTS』では世界第1位を獲得。 2015年に独立し、ミラノで『Ristorante TOKUYOSHI』を開業。オープンからわずか10ヵ月で日本人初のイタリアのミシュラン一ツ星を獲得し、今、最も注目されているシェフのひとりである。
Ristorante TOKUYOSHI
http://www.ristorantetokuyoshi.com
1952年アメリカで生まれ、1964年に初来日。イエール、オックスフォード両大学で日本学と中国学を専攻。1973年に徳島県東祖谷で茅葺き屋根の民家(屋号=ちいおり)を購入し、その後茅の吹き替え等を通して、地域の活性化に取り組む。1977年から京都府亀岡市に在住し、ちいおり有限会社設立。執筆、講演、コンサルティング等を開始。1993年、著書『美しき日本の残像』(新潮社刊)が外国人初の新潮学芸賞を受賞。2005年に徳島県三好市祖谷でNPO法人ちいおりトラストを共同で設立。2014年『ニッポン景観論』(集英社)を執筆。現在は、全国各地で地域活性化のコンサルティングを行っている。
調理師専門学校を卒業後、正統派グランメゾンで知られる『レストラン ひらまつ』に料理人として入社。翌年ソムリエ資格を取得後、サービス・ソムリエに転向。2011年に渡仏し、ボルドーの二つ星レストラン『シャトー コルデイヤン バージュ』でソムリエを経験し、帰国後は白金台『カンテサンス』へ。ミシュラン東京版で三つ星を獲得し続ける名店で研鑽を積む。その後、レストラン移転に伴い、店舗をそのまま受け継ぐ形で2013年9月に『ティルプス』を開業。オープンからわずか2ヵ月半という世界最速のスピードでミシュラン一つ星を獲得する快挙を成し遂げる。