手仕事に勝る技術はない、を町工場で体感。[燕三条 工場の祭典/新潟県三条市 燕市全域 及び周辺地域]

案内所「三条ものづくり会場」もピンクのストライプで彩られる。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

燕三条 工場の祭典関係者以外、立ち入りウェルカム!?な町工場。

立ち入り禁止区域というと、普通は黄色と黒の斜めストライプ模様で示されています。ですが、新潟県燕三条地域にある工場地域は、秋の4日間、なぜかピンクのカラフルなストライプカラーで彩られます。一体何が起こっているのでしょう。まるで私たちに「立ち入りOK!」と腕を広げているようです。その通り、この期間中は銅器や洋食器、刃物など100を超える町工場などが一斉に開放し、誰でもものづくりの現場を見学できる場となります。今回はそんなユニークなイベント「燕三条 工場の祭典」についてご紹介しましょう。

普段は閉ざされた工場が開放され、ものづくりに触れることができる。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

燕三条 工場の祭典燕三条のものづくりの転機は、和釘。

江戸時代に大規模な新田開発が行われた三条では、それに伴い農具を中心とした刃物作りが発展。江戸時代からは膨大な和釘の需要を求められ、和釘製造が盛んになりました。一方、燕では、江戸時代に仙台から鎚起銅器の製法が伝えられたことなどから、銅器など別の金属加工業も発達しました。幸いにも鉱物資源が豊富なうえ、広大な山林があり燃料となる炭も手に入れやすい環境であることから、多様な発展を遂げたといいます。

その後、三条市は刃物作り、燕市は銅器などの金属加工や洋食器の生産が盛んに。今では世界からも刃物・洋食器の名産地として知られるようになりました。

稲作以外にも産業を、と金属加工業が盛んになった。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

『近藤製作所』は農具を作る野鍛冶として創業。期間中は鍬の修理作業の見学を行う。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

燕三条 工場の祭典「見たい」が「作りたい」に。興味の扉を早くから開いていた土地。

興味深いことに、燕三条地域は日本でも早くから「工場見学」の重要性を見出していた町です。鎚起銅器の『玉川堂』や庖丁メーカーの『タダフサ』、アウトドアグッズで有名な『スノーピーク』(現在は移転)など、全国的にもいち早く工場見学やワークショップを行い、一般にものづくりの現場を体感してもらうイベントを実施。人々がものづくりの過程を知ることで、産業に親しみを感じ、後継者の確保にもつながります。そうした背景もあって、2007年から始まった「越後三条鍛冶まつり」が2013年にリニューアルし「燕三条 工場の祭典」がスタートしました。

大手家電メーカー『ツインバード』も燕市に本社を構える。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

燕三条 工場の祭典中途半端にはしない。気鋭のバイヤー、デザインユニットとタッグを組んだ。

全体監修は、 IDÉE SHOPのバイヤーなどを経験し、現在はショップへのMDや商品コンセプトの提案を行うmethod代表の山田遊氏が担当。以前から『タダフサ』の社長である曽根忠幸氏が温めていたアイデアを形にすべく、市の職員や市長の賛同を得て、第一回開催の運びとなりました。
アートディレクションとグラフィックデザインはをクリエイティブユニット「SPREAD」に依頼。会場やTシャツなどあらゆるところで使われているビビッドなピンクのストライプのデザインは、工場見学の中で見た鮮やかな「ピンクの炎」から色を見つけ、「危険区域」を示す斜め45度のストライプ模様を掛け合わせ生まれたものだそうです。

あえて、工場に馴染みのある段ボールやテープをサインに使用。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

燕三条 工場の祭典工場、耕場、購場。どれも欠けてはならないもの。

6回目となる今年の内容は、「開け、KOUBA!この秋、 燕三条の真髄を体感する」のテーマのもと、109拠点の工場を開放。 「工場(KOUBA)」93社に加え、「農業」を営む8社の「耕場(KOUBA)」、そしてKOUBAでつくられたアイテムを販売する「購場( KOUBA)」8社が参加します。普段は閉ざされたKOUBA(工場、耕場)で職人たちの手仕事を間近に見学できるほか、体験型のワークショップや見学ツアーで、KOUBAで働く人と触れ合い、ものづくりの裏側を知ることができます。

『渡辺果樹園』ではモーツアルトを聴かせて育てる様子を見学できる。梨の追熟体験も。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

KOUBAでは働く人々と気軽に交流、対話することができる。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

燕三条 工場の祭典平らな板から、どんなフォルムでも作り出せる。

見どころが多すぎてここでは全部お伝えできませんが、一部をご紹介しましょう。例えば1816年創業の『玉川堂』。1枚の銅板を鎚でカンカンと打ち出し、茶器や酒器、花器などを作り上げます。元は平らな銅板からこの美しい丸みを帯びた銅器が作られるとは!と誰もが目を見張る技術です。しかも期間中は、小皿製作やぐい呑み製作体験に参加可能。伝統的な「鎚起銅器」を自分の手で実際に行い、作った食器を日常で使えるなんて、他の土地ではなかなかできない体験です。

また、デンマーク王室御用達のカトラリー「カイ・ボイスン」と「ICHI」を製造する権利を持つ世界で唯一のメーカーも燕三条にあります。それは『大泉物産』。寸分の狂いもなく平らな板を丸型にプレスし、曇り一つない鏡面のように磨き上げる技術はまさに神業。こちらでも、スプーン作りなどの体験ワークショップに参加できます。

『大泉物産』のカトラリーは世界でも高く評価されている。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

平らな板からスプーンができる様子は、実に見ていて面白い。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

燕三条 工場の祭典ものづくりは全国とつながっている。産地から産地へ集結。

食に関するイベントも多彩。例えば東京押上にある『スパイスカフェ』の伊藤一城シェフが監修する『三条スパイス研究所』は「暮らしの調合」の考えのもと、燕三条ならではの独自のスパイス料理を提供したり、果樹生産・加工・販売を通じて新しい農業を創出する『三条果樹専門家集団』は期間中に三条果樹専門家集団ミステリーツアーを行ったり……と、「耕場」も「工場」と同じように職人の信念と技術がもたらす「ものづくり」の底力を見せてくれます。

他にも関連イベント「産地の祭典」では、情報や交通の拠点となる案内所「三条ものづくり会場」に全国各地それぞれの産地から逸品が集まり、販売やトーク、ワークショップを開催。それぞれの産地ではどのような技術が磨かれ、どのような産品が生み出されているのかを体感することができます。

普段使っている「モノ」がどのように作られ、また実際に自分でも製作の難しさや楽しさに触れることができる祭典。この秋、ピンクのストライプが迎え入れてくれる工場で、ジャパンクオリティの技と美を実体験してみませんか?

各工場を舞台にしたオフィシャルレセプションも開催。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

ユニフォームもピンクのストライプ。職人との距離が縮まる。©「燕三条 工場の祭典」 実行委員会

開催期間:2018年10月4日(木)〜10月7日(日)
開催場所:新潟県三条市・燕市全域、及び周辺地域
https://kouba-fes.jp