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鮮烈な青色に染まる水面と紅葉との神秘的なコントラスト。[芭蕉沼/岩手県八幡平市]
芭蕉沼清らかな渓谷と湿地を、紅葉したブナやナラが彩る。
八幡平(はちまんたい)温泉郷から松川温泉にかけて続く『松川渓谷』は、岩手県内有数の紅葉スポットとして知られています。「ブナ」や「ナラ」の原生林が周囲を覆っていて、紅葉のピークを迎える10月上旬から中旬には、渓谷全体が紅色や黄金色に染まり、ダイナミックな自然を満喫することができます。
中でもひときわ目を奪われるのが、観光名所の『森の大橋』から松川温泉へ向かう途中に現れる湿地帯です。水の流れが穏やかで、静謐(せいひつ)な雰囲気が漂う『芭蕉沼』は、一帯を覆う紅葉と青空が水面に精緻に映し出され、感動的な光景をつくり出します。付近には駐車場もあるため、気軽に立ち寄れる点も魅力といえるでしょう。
紅葉のシーズンには周囲で様々なイベントが催され、特に毎年10月中旬に開催される「八幡平紅葉まつり」では、紅葉ウォーキングやステージイベントの他、縁日や屋台も出店し、賑わいと熱気に包まれます。(文中には諸説ある中の一説もございます)
住所:岩手県八幡平市松尾 MAP
アクセス:東北自動車道松尾八幡平ICより車で約20分/JR盛岡駅から岩手県北バス乗車、バス停・県民の森下車、乗車時間約1時間35分、バス停より徒歩約35分
地元ソウルフードに着想を得た2品。B級グルメを至高のディナーメニューに変えるシェフのアイデアと技。[DINING OUT TOTTORI-YAZU with LEXUS/鳥取県八頭町]
ダイニングアウト鳥取・八頭「Energy Flow-古からの記憶を辿る-」のテーマに隠された一側面。
2018年9月8日、9日に開催された『DINING OUT TOTTORI - YAZU with LEXUS』。伝説の舞台となり、古くからのパワースポットとしても知られる鳥取県八頭町の魅力を伝えるべく「Energy Flow-古からの記憶を辿る-」とのテーマが設定されました。周囲にあふれる自然のエネルギーを感じ、そして土地に脈々と伝わる記憶を辿ることで、鳥取の魅力を紐解く。そんな難しいテーマに徳吉洋二シェフは挑みました。
実はこのテーマには、もうひとつの側面がありました。というのも今回は、地元・鳥取出身の徳吉シェフが生まれ育った土地で行う、史上初の“凱旋ダイニングアウト”。土地に伝わる記憶だけでなく、徳吉洋二というひとりの人物のなかの記憶を紐解くことでも、鳥取の味を伝えることを目指したのです。この街に生まれ育ったシェフと、そのシェフを育てた土地。その両面の記憶から辿る旅は、果たしてどのような料理として実を結んだのでしょうか?
ダイニングアウト鳥取・八頭鳥取のソウルフードを起点にしたメニュー。
発想の原点は、ソウルフードにありました。まだ料理人になる前の徳吉洋二という青年が、家族や友人と一緒に食べた鳥取名物。それは徳吉シェフが上京し、やがてイタリアへ渡り、シェフとして大成してもなお、心のなかに深く根付いていたのでしょう。
2018年6月某日、鳥取への食材視察に訪れた際、徳吉シェフはスタッフたちをなじみの店に連れて行ってくれました。「ここのホルモンソバが最高なんです。地元の人は“ホルソバ”って呼びますけど」店の名は『御縁』。小さな店ですが、徳吉シェフが幼い頃から親しんでいたという老舗です。鉄板の前には名物女将が陣取り、注文が入るとホルモンとそばを手早く調理。クニュっとした食感のホルモンは噛むごとに甘みが溢れ、甘辛のタレが絡んだ焼きそばと絶妙な相性。聞けばこの店に限らず、ホルモンソバは鳥取県民なら知らぬ人はいない地元名物なのだとか。
そのおいしさにも驚かされましたが、徳吉シェフがこのホルモンソバを『DINING OUT』のメニューに取り入れると聞いてさらに驚愕。いわゆる“B級グルメ”のこの料理を、イタリア料理のコースのなかにどのように取り入れるのでしょうか。
ダイニングアウト鳥取・八頭ホルモンソバを解体、再構築したコースのなかの魚料理。
結論からお伝えしましょう。徳吉シェフは記憶のなかのホルモンソバを一度解体し、そこにイタリア料理の技術を加え、コースのなかの魚料理として再構築しました。「タラ ホルモン ヒラメ」。ヒラメを主食材に据え、そこに例のホルモン、そして鳥取特産のタラを添わせることで見事な一皿を作り上げたのです。
料理に使うホルモンは、『株式会社はなふさ』が手がける鳥取産の万葉牛のものを選びました。独自にブレンドした飼料と丁寧な管理により、上質な脂と肉味を生む万葉牛。口溶け良く、後味がさっぱりした脂にも定評があり「脂とホルモンは構成要素が同じですから、間違いありません」と生産者・谷口拓也氏が胸を張る逸品です。
炭火で香ばしく焼き上げ、甘辛いソースを絡めたホルモン。それを蒸したヒラメに添え、仕上げには濃厚なタラとバターのソース。ふわりと柔らかいヒラメと弾力あるホルモン、淡白な白身と旨みのある脂身。それぞれ相反する要素を、タラのソースがひとつにまとめあげます。味わいのバランスは絶妙、盛り付けも徳吉シェフらしく洗練されていますが、その裏には実は、幼い頃のシェフの思い出と、まさかのB級グルメが潜んでいたのです。
「ホルモンをどうやって出すかを考えてたどり着いた料理。旬のヒラメ、タラのコラーゲンを溶かしきったソース、それからホルモン。食材のイメージが先行した料理でしたが、結果として満足の行くものができました」徳吉シェフの心の中の鮮烈な記憶を、現在の技術で形にした一品。コースを堪能したゲストからも「とくにこの料理が印象深い」との声が目立ちました。
ダイニングアウト鳥取・八頭ご当地ラーメンをパスタにアレンジする大胆な発想。
さて、徳吉シェフの記憶を辿る旅は、まだ終わりではありません。もうひとつ「しじみと牛骨」と題された料理にもまた、同様のシェフの思いが隠されていました。鳥取県で“牛骨”といって思い出されるのは、無論、ご当地フードの牛骨ラーメンです。
牛骨ラーメンは、鳥取で半世紀以上も愛されるご当地ラーメン。現在ではさまざまな店が味を競い、バリエーションも増加していますが、共通するのはさっぱりとしていながら、牛特有の甘みがあるスープでしょう。徳吉シェフにとっても「懐かしくて、どこかほっとする」という思い出の味です。この牛骨ラーメンもまた、徳吉シェフのフィルターを通して、『DINING OUT』のコースの一品となりました。
牛骨と牛脂は先のホルモンと同じく、万葉牛のもの。そしてもうひとつの主役であるシジミは、鳥取市内にある湖山池で見つけました。シジミ漁師・邨上和男氏の船に乗せてもらい、自ら籠の引き上げにも挑戦した徳吉シェフ。馴染み深い湖山池であるのに、これほど見事なシジミが採れることは知らなかったのだといいます。さあ食材は揃いました。ここからが再び、“徳吉ワールド”の幕開けです。
ダイニングアウト鳥取・八頭人の記憶と土地の記憶が交わり、この日だけの美味を生む。
牛骨ラーメンから着想を得た「しじみと牛骨」は、イメージを残した麺料理になりました。もちろん、使うのはパスタです。まずは湖山池のシジミを火にかけ濃厚なダシを取ります。それを万葉牛の甘みあるダシと合わせ、茹で上げたパスタに絡ませます。仕上げに溶かした牛脂をかけて、さらに風味と旨みをプラス。
見た目は具の一切ないシンプルなパスタですが、口にするとそのふくよかな味わいと力強い旨みに驚かされます。それでいて確かに牛骨ラーメンの面影も感じられるのですから、元ネタを知る地元の方がニヤリと口元をほころばせるのも頷けます。鳥取の名物とイタリアの技術が合わさった一品というわけです。
「牛の骨髄はミラノでもよく使う食材。だから僕の中では、牛骨ラーメンの形をとったミラノの味。鳥取の記憶とミラノの経験が融合したというイメージです」そんなシェフの言葉が印象的でした。
このように2品の料理に潜んでいた徳吉シェフの記憶、地元のソウルフード、地域の食材と伝統。それらを見事に融合した技術とアイデア、遊び心に、徳吉シェフの実力が垣間見えます。土地と人の記憶が交わり、そこに一流の技術が加わる。まさに“凱旋ダイニングアウト”にふさわしい料理でした。
『Ristorante TOKUYOSHI』オーナーシェフ。鳥取県出身。2005年、イタリアの名店『オステリア・フランチェスカーナ』でスーシェフを務め、同店のミシュラン二ツ星、更には三ツ星獲得に大きく貢献し、NYで開催された『THE WORLD'S 50 BEST RESTAURANTS』では世界第1位を獲得。 2015年に独立し、ミラノで『Ristorante TOKUYOSHI』を開業。オープンからわずか10ヵ月で日本人初のイタリアのミシュラン一ツ星を獲得し、今、最も注目されているシェフのひとりである。
Ristorante TOKUYOSHI
http://www.ristorantetokuyoshi.com