作品は人、観るのも人。だから舞台芸術は面白い。[KYOTO EXPERIMENT/京都府京都市]

ロベルタ・リマ『水の象(かたち)』Photo: Tomi Kattilakoski. 2018. Courtesy of Roberta Lima and Charim Galerie.

京都国際舞台芸術祭舞台芸術の前衛都市、京都。

「舞踏やダンスパフォーマンスの面白さが分からない」という方、多いのではないでしょうか。そういったジャンルの舞台芸術が市民に浸透している街があります。それは、京都。国際的に見ても先駆的な取り組みがなされ、2010年から毎年「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」が開催されています。なぜ京都にはその素地があるのか、そして舞台芸術の魅力はどこにあるのか。今回は、プロジェクトを牽引する橋本裕介氏の想いとともに、芸術祭の見どころをお伝えします。

そもそも舞台芸術とは何なのか、まずはその定義から確認していきましょう。一般的に舞台芸術とは、演劇、歌舞伎、ミュージカルなど、舞台や空間上で行われる芸術の総称です。能や狂言も含まれます。つまり「人」そのものが作品となり、鑑賞対象となるものが舞台芸術です。(後編はコチラ)

近年では小説の執筆も手がる劇作家・演出家の市原佐都子氏。Photo by Mizuki-Sato -

京都国際舞台芸術祭元小学校が市民に開かれたアートの場に。

2000年に京都にできた『京都芸術センター』は、アート業界に驚きを与えました。オフィス街にある廃校になった「明倫小学校」を、市が芸術関連の施設として活用し、若手アーティストを支援する拠点としたのです。ここで2004年から「演劇計画」というプロジェクトをスタートさせたのが、のちに「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」を立ち上げた橋本氏でした。

京都芸術センター。カフェや図書館もあり誰でも入れる雰囲気。Photo by OMOTE Nobutada

京都国際舞台芸術祭作る場所も演じる場所も一緒、という革命的なスタジオとなった。

通常、演劇は稽古場で何もない場所にセットがあるものと仮定して練習し、直前のリハーサルからようやく舞台で演じられるのが普通です。それが『京都芸術センター』は稽古場も発表の舞台も備えているため、最初から舞台美術や音楽もある空間の中で「作る」から「発表する」までを一連の作品として作り上げることを可能にしました。橋本氏は「舞台美術も音楽も、演技と同じくらい大切な要素」と考えています。「演劇計画」では公募で選んだ若手演出家のさまざまな作品を、芸術センターで公演するという試みでした。

『京都芸術センター』の体育館だったスペース。演劇・ダンスの公演やワークショップに使用。Photo by OMOTE Nobutada

京都国際舞台芸術祭「たまたま観て」ハマることもある。それが人生観を変えることも。

自身も高校時代にたまたま観た舞踏グループの公演がきっかけで今の道に進んだという橋本氏。舞台芸術が「外に向けて開かれている」ということを重要視していました。芸術センターは誰でも利用可能な図書室やカフェを備え、極めてパブリックな空間。そんな場所での「演劇計画」は、それまで縁遠かった人にも演劇や舞踏に興味を持ってもらい、京都における舞台芸術文化の底上げに大きく貢献したと言えます。

2009年まで続いた「演劇計画」ですが、橋本氏は「近郊だけでなく東京など関東からの人にも公演を観に来てもらいたい」と考えるように。そして、より広範囲に京都の舞台芸術を知って欲しいとの想いから立ち上げたのが、「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。芸術センターや立誠小学校跡など京都市内の劇場を中心に、世界各地の先鋭的な舞台芸術を紹介するイベントです。

「とにかく最初はおもしろい作品が生まれる瞬間に立ち会いたかっただけだった」と橋本氏。

京都国際舞台芸術祭“人のパフォーマンス”には限界がないのかもしれない。

例えば過去には、実際に起きた男児誘拐殺人事件とカフカの「流刑地にて」に着想を得た創作能や、全身を漆黒に染めたダンサーがひと塊になって観客の間を蠢きまわるパフォーマンスなど、世界中から集まった10数組の表現者たちが毎年奇想天外な作品を発表。2017年には地元の小学生がフェスティバルの公式審査員をつとめるプログラムも行われ、まさに老若男女、アートへの興味の有無を問わない人も楽しめるイベントに発展しました。

「そもそも舞台芸術の面白いところは、観るものが“生身の人間”あること」と橋本氏は語ります。また世界中の人が舞台上で演じるため、海外の人がどんな体つきで、動きで、声で、メッセージを伝えようとするのかということに対峙できます。「『人』を観る面白さを、舞台でぜひ味わっていただきたい」と橋本氏。

動物的な欲望や性の生々しい表現に挑む『毛美子不毛話』。Photo by Mizuki-Sato。

京都国際舞台芸術祭今年は“女性というジェンダー”に鋭く切り込む。

2018年は女性、そして“女性というジェンダー”をアイデンティティとするアーティストと団体にフォーカスを当て、全12プログラムを紹介します。これまでの「KYOTO EXPERIMENT」からさらに新たなステージへ昇華し、現代への問いとメッセージを発信し続ける舞台芸術の祭典。第9回の詳細は、後編にてお伝えします。(後編はコチラ)

開催期間:2018 年 10 月 6 日(土)〜 28 日(日)
開催場所:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都府立府民ホール “ アルティ ”、元離宮二条城、ほか
料金:1作品一般2,000円~、フリーパス30,000円、3公演チケット7,800円
https://kyoto-ex.jp/2018/