キーワードは「先端工芸」。伝統工芸と最新のマテリアル・技術の融合。[KISHU+/和歌山県海南市]

『紀州漆器』を未来に継承するために、伝統とリベラルを大胆に融合。

キシュウプラス今のライフスタイルになじむリベラルな漆器。

漆器、漆塗り。とかく食器のイメージが強い伝統工芸品ですが、ここにラインナップされているのは、電灯などを中心としたインテリア製品です。挑戦を恐れずに漆器の新たな可能性を探り続ける『KISHU+(キシュウプラス)』のプロダクトは、漆器の伝統的な素地である「木」を大切にしながらも、アクリルやスチールといった現代的な素材を大胆に採用。更には3Dプリンターといったデジタル技術をも加味しています。もちろん従来の職人による手仕事も生かしながら、それらの融合によって独自の世界を広げているのです。

モダンな素材を確かな伝統技術でアレンジ。金属板を加工したトレイに漆器の塗りを施した「ORI」。(Photos Masayuki Hayashi)

手仕事で施されたわずかにゆらぎのある蒔絵が、電気の光を日暮れを思わせる柔らかな光に変える「HIGURE」。(Photos Masayuki Hayashi)

キシュウプラス手仕事×機械仕事×デジタル仕事。新旧の融合が新たな世界を生み出す。

『KISHU+』は「根来(ねごろ)塗り」で有名な日本4大漆器産地のひとつ、『紀州漆器』の発祥の地で生まれました。長い歴史の中で常に新たな技術を取り入れ続けてきた『紀州漆器』は、最新のマテリアルを取り込むことに抵抗が少なく、自由な気風で発展し続けています。その特性を更に進化させ、従来の手仕事を尊重しながらも、モダンなライフスタイルに合った漆器を企画しています。

そんな『KISHU+』が掲げるのが、「先端工芸」というキーワード。“気軽に使える漆器”をモットーに、合成漆や樹脂生地などの最新技術を駆使して、手仕事のみでも機械仕事のみでもたどりつけない表現を生み出しています。

例えば3Dプリンターで波状のたわみを描いたキャンドルスタンドや、デジタル技術で蒔絵を3次元に展開して、見る方向によって柄が変化していくストレージボックスなど。最新技術と漆器を融合させた独自のプロダクトは、目を見張るような斬新さです。

「インテリアのパリコレクション」とも呼ばれる「メゾン・エ・オブジェ」で、2018年1月に新作を9点披露。

自然木に施された艶やかな「塗り」は、照明器具の出品が多数あった「メゾン・エ・オブジェ」でも注目を浴びた。蒔絵を装飾ではなく、電気の光を効果的に反射させる要素として用いた「SHIZUKU」。(Photos Masayuki Hayashi)

蒔絵の絵づくりをデジタルの3次元空間上で行い、それを直方体に投影して描いた「SAKKAKU」。ある1点から見る事で再びその絵柄が浮かび上がる、めくるめくストレージボックス。(Photos Masayuki Hayashi)

キシュウプラス「伝統的リベラル」という新たな境地へ。

現在、『KISHU+』を構成するのは、株式会社島安汎工芸製作所・中西工芸株式会社・株式会社若兆・山家漆器店・有限会社橋本漆芸の5社です。2015年に山家漆器店を除く4社の社長が集まり、「従来の漆器に留まらない新たな製品で海外の販路を開拓しよう」というコンセプトのもとでブランドを立ち上げました。

そして2016年には、モダン・プロダクトのメッカともいえるパリを視察。その際に、デザインを依頼した東京のTAKT PROJECTの吉泉 聡氏も同行して、活発なディスカッションによってコンセプトを固めていきました。

更に2017年には、山家漆器店が加入。現在にいたるベストメンバーが集結し、素地づくり・下地の仕上げ・漆塗り・蒔絵による加飾など、各社が得意とする技術を組み合わせた漆製品を開発しています。

個性豊かな5社がそれぞれの強みを生かして集結。

国内向けとしても、2017年9月に「渋谷ヒカリエ 8/ COURT」でお披露目。

キシュウプラスニーズを汲み取って大胆に転換。

ですが、なぜ『KISHU+』は従来の漆器のメインステージである食器から、インテリアへと転換したのでしょうか?

その理由は、パリを視察した際の市場調査の結果にあるのだとか。欧米は日本とは食文化が違うため、漆器の主なプロダクトである御椀や食器はニーズが少なかったそうです。それだけでなく、フォークやナイフを使うため、木の素地や漆塗りが傷つきやすいという難点がありました。更に「食の安全」にも非常にこだわるため、「器に塗料を塗る」ということ自体に強い抵抗感があったそうです。食器の規格なども非常に厳しく、それらの要素を慎重に考慮した結果、インテリアへの大胆な転換を図ることにしました。

ブランド立ち上げ期の2017年は、「とにかく何でも作ってみよう!」と様々なものに漆を塗っていきました。花器やペーパーウェイトなど多数の試行錯誤を重ねた結果、その中で最も高く評価されたのが照明器具でした。それが2018年1月の「メゾン・エ・オブジェ」での話。現在は2019年1月の再出展に向けて、更なるブラッシュアップを重ねているそうです。

『紀州漆器』発祥の技法である「根来塗り」は、漆を塗ってから削り出す「研ぎ出し」が特徴。それによってアルミと塗りの縞模様を浮かび上がらせた一輪挿しの「SHIMA」。(Photos Masayuki Hayashi)

カケラのような金属の多面体に塗りを施し、「根来塗り」の技でエッジ部分を研ぎ出した「KAKERA」。金属の心地良い重量感と漆塗りの柔らかさがマッチした新感覚のペーパーウェイト。(Photos Masayuki Hayashi)

キシュウプラスデザインと手仕事の調和を目指して。

順風満帆かに見える『KISHU+』のスタートですが、その開発には一筋縄ではいかない苦労があったそうです。
デザイナーが考えた斬新なデザインと、これまで行ってきた職人の作業工程や効率化との擦り合わせがなかなか上手くいかなかったのです。

たとえばこれまでにない形は、塗った面を乾かす時の置き方や、個々がぶつからないような並方などの再検討が必要でした。

『先端工芸』を表現するデザインの実現には、こうした現場工程の見直しと擦り合わせが不可欠だったのです。
この課題はまたまだ残っているそうですが、本格的な商品化にむけて日々改良を行っています。

コンピュータで水面のシミュレーションを行い、時が止まったかのような正確な揺らめきを再現した「MINAMO」。(Photos Masayuki Hayashi)

キシュウプラス可能性は無限大。「漆器」を新たなステージへと導く。

現在の『KISHU+』のプロダクトは照明器具がメインですが、今後は様々なものにチャレンジしていくそうです。『紀州漆器』はその自由で先進的な気風ゆえに、プラスティック漆器の大量生産に日本で最も早く取り組むなど、フレキシブルな対応力を誇っています。新しい素材や技術を臆さずに取り入れる、伝統工芸の産地としては珍しい柔軟性。「売れる・売れない」「良い・悪い」といった判断を自ら下さず、「とりあえずやってみよう」と考えているそうです。

それでも多くの紀州漆器メーカーの間には、「既存の仕事を続けていればいいのではないか」といった雰囲気もあるそうです。『KISHU+』が目指すのは、そういった安住の空気に刺激を与えるフラッグシップ的な存在です。『紀州漆器』の知名度と価値を高め、興味を持った業界の若手や学生などに、新たな別ブランドを立ち上げてもらいたい。さらに他の産地にもその動きを波及させ、漆器の可能性や未来をより深く、積極的に追求していきたい。『KISHU+』はそんな理想を抱いています。

「伝統工芸の技術でこんなものが作れるんだ!」という驚き。それを広く波及させていくために、『KISHU+』の挑戦は今後も続いていきます。

当初から海外展開を見据えつつ、その評価を国内に還流させることを目指す。

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