さまざまな立場から『DINING OUT』に関わった6名が語る、開催の収穫と未来への課題。[DINING OUT TOTORI-YAZU with LEXUS/鳥取県八頭町]

廃校になった小学校を再利用したスペース『隼ラボ』にて、今回のミーティングは実施された。左から、レクサス プロジェクト・ゼネラル・マネージャー:沖野和雄氏、『Discover Japan』統括編集長:高橋俊宏氏、八頭町『大江ノ郷自然牧場』代表:小原利一郎氏、八頭町『株式会社トリクミ』代表取締役社長CEO:古田琢也氏、東洋文化研究家・作家:アレックス・カー氏、『DINING OUT』総合プロデューサー大類知樹。

ダイニングアウト鳥取・八頭熱気冷めやらぬ晩餐の翌日、キーマンたちが集合。

2018年9月に開催された『DINING OUT TOTTORI - YAZU with LEXUS』。降りしきる雨のなかの晩餐は、大自然のエネルギーの享受、会場の一体感など、思わぬ成果とともに幕を下ろしました。終演の翌日、開催を間近で見つめた6名が一堂に会し、ミーティングを行いました。

スタッフとして、ゲストとして、プロデューサーとして。さまざまな立場から関わったキーマンたちが語り合う、『DINING OUT』の今とこれから。その話からは、今後に向けた新たな課題も見えてきました。

激しい雨のなかで行われた『DINING OUT』は、思わぬ成果をもたらした。

ダイニングアウト鳥取・八頭史上もっとも過酷だった環境を乗り越えた現場力。

大類 終わってみてまず思うのは、とにかく大変だったということ。2回やったくらいの感覚があります。理由はやはり雨。『DINING OUT』はやりながら修正を加えていくので、当然ながら後半の方がクオリティが上がります。しかし、今回は毎日がはじめてのシチュエーションで、それが通用しませんでした。個々のスタッフが現場で判断しなくてはならないことも多かったはず。それをここまでやりきったことこそが、今回の一番の収穫だと思います。いわば現場力ですね。

沖野 私も『DINING OUT』史上もっとも大変だった回という印象です。しかし同時に、抗いがたい自然を前に毎回まったく違うものになるというのは『DINING OUT』の魅力でもあると思います。

アレックス 自然に対して人間は無力で、受け入れることしかできませんからね。それをどう解釈するかということが大切なのでしょうね。

沖野 日本は太古の昔からさまざまな災害にさらされてきましたから、日本人の心のなかに、大変なことも楽しんでしまおう、という部分があるのかもしれませんね。

大類 予想外というのはお客さんにとっては贅沢なこと。予定調和では面白くありませんから。いくら緻密に計算をしても、毎回それを上回る予想外が起きる。自然の力で想定と違うものになっていく。きっとこれが、『DINING OUT』の本質なんです。

高橋 大類さんの話を伺っていると、いままで13回やられてきてある意味で慣れてきたところで、原点回帰という意味合いもあったのかな、と。

大類 立ち上げた頃のことを思い出しましたよ。しかし今回は現場に助けられた部分が大きかったです。刻々と状況が変わる中で、各スタッフが判断を下さなくてはならない。そういう『DINING OUT』だったと思います。もちろん、そこには八頭という場所の魅力も欠かせない要素でした。

小原 実を言うと八頭を選んで頂いたとき「観光資源がないけれどどうしよう」という気持ちがありました。僕らは日頃、この何もなさ、なんでもない風景こそを武器にしているのですが、いざ『DINING OUT』というステージになったときに、どういう魅力を伝えられるだろう、と。最終的に決めた会場(清徳寺)を見たときは「ああ、この手があったか!」という気持ちでした。

アレックス 過去の『DINING OUT』の開催地にはすべて観光資源があり、知名度もありました。ここにはそれがなかった。僕も来るまで八頭という名前は聞いたことがなかった。お客さんの多くもそうでしょうね。そしてこれが本来の『DINING OUT』だと思います。日本の素朴な、素直な田舎。世界遺産とか文化財ではなく、純粋な日本の田舎を発信する。今回はそこにたどり着いたわけです。

古田 たとえば麒麟獅子舞なんて、32年生きてきてかっこいいと思ったことはありませんでした。それが昨日、メンバー全員が麒麟獅子舞の話でもちきりでしたからね。これってすごいこと、再発見です。自分たちではできなかったことが、ストーリーとか文脈をしっかり拾って紡ぐことで、ここまで変わるのかと。

小原 そうですね。『DINING OUT』って、食事をきれいに出すイベントだと思っていました。実際に体験してみると、良かったのは人の部分。個人の成長や横の繋がり、それが大きかったと思います。また同じようなイベントをしたいという声がすでに出てきています。

沖野 そういう人材育成の面、地元の方に発見があり、次に繋げようという意欲が湧く。そういう点こそ我々が共感し、協力している部分です。地域を元気にして、車文化を活性化したい。それは一回のイベントで達成できることではない。永続的に続くようなことを通してできること。これを機会に、おもしろいことを発掘していただけることこそが大切です。

現地スタッフの判断力、行動力が、今回の成功の原動力であると、6名の意見が一致した。

演出の方法で、地元住民をも感動させた麒麟獅子舞。

ダイニングアウト鳥取・八頭変わることない原風景こそが、地方活性の原動力。

高橋 僕は岡山出身で、子供の頃に八頭に来たこともあります。今回久しぶりに訪れてみて、まったく変わっていない風景に驚きました。原風景、記憶にある景色のままで。そんな中に他の地域と比較しても群を抜いてイノベーティブな2つの施設ができていました。その運営をされている小原さんと古田さんから見た八頭の魅力はなんでしょうか。

小原 山があって、自然があって、水も空気もきれい。それが僕たちの強み。その根本の部分はいまも変わっていません。その自然を知って来てみたいというお客様のために八頭の新鮮な食材を楽しめる『大江ノ郷自然牧場』を作りました。現在では県内外から年間30万人のお客様にいらっしゃって頂いております。

古田 僕も、あえてなにかをつくるの ではなく、いまあるものを活用すること、残すことを考え、空き古民家をリ ノベーションしたゲストハウス『BASE8823』や官民連携で、廃校を利用したシェアスペース『隼ラボ』を立ち上げました。シェアオフィスでは I ターン、U ターン者のスタートアップのサポートなどもしており、現在12社 が入っています。毎週、地元の主婦や大学生がイベントを企画し、たくさんの人に活用いただいています。

小原 たとえば県外からいらしたお客さんに「山がきれいですね」と言われて、僕らははじめてこの山がきれいなことに気づくんです。いつも当たり前に目にしていたものですから。だから何もない自然といいましたが、それこそが僕たちの強みだと気づきました。

大類 あえて何かを付け足すこともなく、自然な流れだったわけですね。

小原 そうですね。あるべき姿のままでいたらお客さんに喜ばれたということでしょうね。

高橋 そこにしかないものを発信するということですね。

アレックス まさにそこです。何かを上から被せて隠してしまうのではなく、昔からあるものを、そのままの姿で見せる。それでお客さんが来て、「こういうものがあればいいな」という声が出れば、それに応える。地域はそうやって発展していきます。自然のまま、だから強い。

大類 実体のあるものを軸にすることが大切ですね。実体そのものを作ろうとすると、空洞になってしまう。

沖野 以前アレックスさんに教わった、茶道の見立てという言葉。なんでもない日常にも、見立てることで新たな発見がある。特別なものがないからこそ、そこにその人なりの発見がある。これこそがラグジュアリーです。そしてそういう体験をご提供したいというのが、『DINING OUT』と『LEXUS』の共通の思いです。

高橋 私は北欧を何度も訪れたのですが、たとえばデンマークという国はおいしい料理がないイメージでした。ところが「NOMA」というレストランができて、それがガラリと変わりました。たった一軒のレストランができて、国のイメージまで変わってしまった。現在あるものに独自の解釈を加えてブランド化していくわけです。

大類 そう考えると知られざる田舎ほどポテンシャルがありそうですね。

高橋 そうなんです。知られてない方が良い。知られてなくても、そこにしかないものは必ずありますから。

沖野 収穫量が少ないとか、足が早いとかで東京に送れないものも多いですからね。

大類 東京に出せないということが価値になりますね。

沖野 食材だけでなく、麒麟獅子舞のような文化もそうですよね。

高橋 ああいうものも、演出の仕方ひとつでブランドになります。伝統芸能や文化がどうやって生まれ、どう伝わってきたか、というストーリーも含めて。

古田 麒麟獅子舞は江戸時代に蚊帳をまとって無病息災、豊穣を祈願したことが起源みたいですね。

“何もないこと”を魅力として発信できた点も今回の大きな収穫。

官民連携で立ち上げた、廃校を利用したシェアスペース『隼ラボ』。

小原氏が立ち上げた「大江ノ郷自然牧場」は、県外からも観光客の訪れる八頭の名所。

料理もサービスも協賛企業も、すべてが一流であることが、地方活性の起爆剤となる。

ダイニングアウト鳥取・八頭求められるのは、東京を経由せず地方を起点とした情報発信。

高橋 そんな八頭の魅力も含めて、今回は本当にさまざまな要素のある『DINING OUT』でしたね。

大類 そうですね。「凱旋DINING OUT」というのも大きかったと思います。鳥取で育った徳吉洋二という才能が、世界に羽ばたいて鳥取に戻ってきた。今回の徳吉シェフは、思い入れがすごかった。それでいて、やっぱり地元感もあった。これは『DINING OUT』の根幹たる“地元にプライドを持つ”ということに繋がります。『DINING OUT』の本質が、“凱旋”ということに詰まっていたと思います。

高橋 肩肘張らずに、良い意味で力が抜けている感じでしたからね。顔を見ていると、徳吉さん自身が楽しんでいることが伝わってきました。

小原 ローカルデーも良かったですね。生産者さんにとっても、自分の作った野菜がこんなに素晴らしい料理になる、というのは大きなモチベーションになったはずです。

古田 あとはやはり、天候の話とスタッフの経験ですね。自分も飲食の仕事をしているなかで、改めてサービスの可能性を感じました。参加したスタッフのひとりは「料理を運んで人を喜ばせるなかで、できることは無限大なんですね」と言っていました。それは素晴らしい発見です。最初に声がかかったときに、準備的な部分だけ手伝って運営などは別だと思っていました。それがここまで深く関われて、自分の判断でさまざまなことが動いていった。これは代えがたい経験です。今後、毎回『DINING OUT』にスタッフを送り込みたいくらいです。普通に社員研修をするよりずっと勉強になるでしょうから。

高橋 僕は『DINING OUT』が、料理イベントではないと思っています。チームワーク、一体感、一致団結を通して、地域にイノベーションを起こすイベント。それが確実に上がっているな、と感じた回でした。

大類 13回もやっていると、否が応でもノウハウが蓄積される。すると、やはりどこかで予定調和が生まれてしまう。今回はそれが崩れ、期せずして本質に戻ったわけです。真剣勝負で、なんとか乗り切ることが、結果お客さんの感動に繋がる。それがわかったことが、今回の収穫です。日本を面白くするというのは、もう地域からしか不可能です。いろいろな地域からイノベーションが生まれ、結果として中央を変えていく。そういう点に『DINING OUT』が機能できたらうれしいですね。今後は、海外向けにチケットを売るのも考えます。東京を経由せずに、地域をダイレクトに世界に発信していくプランもある。そういうことも考えたときに、このタイミングで八頭でやれたことはよかったし、自分としても勉強になりました。

徳吉洋二シェフが生まれ故郷に戻って行った「凱旋ダイニングアウト」という側面も大きなポイント。

シェフの知人も多く駆けつけた地元向けのローカルデー。会場内を歩くシェフと会話も弾んだ。

『DINING OUT』の成功はスタッフの誇りとなり、スタッフ間の交流も生んだ。

1989年、トヨタ自動車入社。商品企画部にてスポーツカー『TOYOTA86』の企画を担当。2012年より現職 。デザインやアート、レクサス関連をはじめ多数のイベントに携わる。

1999年、エイ出版に入社。建築、インテリア、デザイン系など幅広いジャンルの出版を手がける。2009年に日本の魅力の再発見をテーマにした『Discover Japan』誌を創刊。

1965年生まれ。八頭町の養鶏農家に生まれ、その知見をもとに、94年に大江ノ郷自然牧場を創業。ダイニングアウトでは食材紹介や行政と民間の橋渡しなど多方面で活躍。

1986年生まれ。東京で働きつつ、2014年、幼馴染とともに八頭にカフェをオープン。東京と八頭を行き来しつつ、八頭の発展を目指す。今回はスタッフ調整などに尽力。

1984年に初来日。イェール、オックスフォード両大学で日本学と中国学を専攻。77年から京都府亀岡市に在住。現在は全国各地で地域創生のコンサルティングを行う。

1993年博報堂入社。2012年に新事業としてダイニングアウトをスタート。16年4月に設立された、地域の価値創造を実現する会社『ONESTORY』の代表取締役社長。

フランス料理と解脱酒のマリアージュを日本人シェフによる即興で。[秋田酒類製造株式会社/秋田県秋田市]

伊藤良明氏と関根 拓氏、パリを代表する日本人シェフの元へ「加熱熟成解脱酒」を持参。

秋田酒類製造株式会社パリで活躍するふたりの日本人シェフにも試飲を依頼。

加温熟成という新たな製法で、短期間で古酒のような熟成を促すのが、秋田の大手酒蔵『秋田酒類製造株式会社』が生み出した『加熱熟成解脱酒』というお酒。日本国内でも日本酒離れが深刻化している現状の中、起死回生とも言えるこの不思議な日本酒が、なんと今、パリで話題になっているのです。

10年ものの長期熟成酒のようなニュアンスを感じさせ、かつアルコール度数は12.5%と低め。酸が立ち、すっきりとキレもよし。例えばそれは、ジュラ地方で生産されるヴァン・ジョーヌのようでもあり、エロティシズムを感じさせる貴腐ワインのようでもある。そんな日本酒という概念だけでは、収まりきらない日本酒が、パリで密かにグルマンをざわつかせているというのです。

実際、3つ星シェフのヤニック・アレノ氏も、世界最優秀ソムリエの栄冠に輝いたフィリップ・フォールブラック氏も、確かにこの日本酒は今までにないと高評価、賛辞を与えてくれました。

ですが、それだけでは物足りず、ONESTORY取材班は、パリで活躍するふたりの日本人シェフの元へ。日本酒のことは日本人に聞けとばかりに、今最も勢いに乗るフランス料理の旗手に、『加熱熟成解脱酒』を届けたのです。

ひとりは、『ラルケスト』の伊藤良明氏。2017年2月のオープンながら、わずか5ヶ月でミシュラン1つ星を獲得。史上最短の星付き店という称号とともに、フランスガストロノミー界を縦横無尽に、駆け抜ける伊藤氏は、素材重視を徹底。生産者の元を訪れ、その想いまで皿の上で表現する料理で、一躍パリっ子たちの心を射抜いている、日本人シェフです。

さらにもうひとりは、『デルス』の関根拓氏。世界的料理イベント「Omnivore 2015」で最優秀賞、またフランスで最も信頼を集めるグルメガイド『Fooding』では、2016年、その年に1店しか選ばれないベストレストランに選ばれ、米ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ、世界のメディアも高く評価。パリでの地位を確立しています。そう、世界中の食通たちが続々と『デルス』を訪れているのです。さらに関根氏と言えば、語学堪能で、早稲田大学出身のインテリジェンスな一面も。料理も今までのフランス料理とは?日本料理とは?といった、既成概念を軽々と飛び越えた、オリジナリティに溢れているのです。

そんな一癖も二癖もある、パリで活躍するおふたりに、同じく個性的な『加熱熟成解脱酒』は、どう思われるのか? 黄金色に輝く純米吟醸酒はどう映るのか? そんなドキドキの試飲をお願いしたく、在パリ中、店を突撃してみたのです。

牡蠣と仔牛のタルタルを合わせた冷たい前菜。なんと解脱酒の試飲30秒でひらめいたという逸品。

秋田酒類製造株式会社前菜とデセール、異なる解釈で2品を即興調理。

「普通の日本酒とはだいぶ違いますね。おっ、もう浮かんでしまったので準備してもいいでしょうか?」
ものの30秒。蓋を空け、ワイングラスに『加温熟成解脱酒』を注いだかと思えば、すぐ様テイスティング。なんと上記のコメントまでに要した時間は約30秒。

最初に訪れたのは伊藤良明氏の『ラルケスト』。2017年、オープンよりわずか半年でミシュラン・ガイド一つ星を取得し、今最も勢いに乗るシェフの元を訪れました。そして挨拶もそこそこに、いきなりの冒頭30秒のやり取りに。

別日で訪れた日本人シェフのお店では率直に、その可能性について伺ってみました。さらにそこでONESTORY取材班が、お題にしたのは少々無理難題とも言える即興での料理製作。今までの日本酒とは明らかに違う、テイスト、ニュアンス、余韻を持つ『加温熟成解脱酒』を、どうシェフたちが理解し、表現するのかを我々も知りたくなったのです。

「面白い酒だな〜。深みのある余韻が、ちょっと他とは違いますね。ただし、あっさりもしている。濾過した感じもキレイに出ています。ワインでいうと古酒に近い。長期熟成したような深みもある」
そう言って伊藤氏は、今度はじっくりとテイスティングを楽しみます。

「デザートもやってみていいですか? 違う角度から2種類作ってみたくなりました」
笑顔とともに地下の厨房へと降りていく伊藤氏。果たしてどんな2品が登場するのか、我々取材班は、期待を胸にしばし待つことに。

地下の厨房で調理に取り掛かる伊藤氏。頭の中のイメージを迷いなく皿に落とし込んでいく。

小ぶりの牡蠣をシェリービネガーのジュレで味付け。牡蠣のカット法にも独自のこだわりが。

香りを味わい、ものの30秒で最初の一皿のイメージは固まったという。

秋田酒類製造株式会社食材の滋味を引き立てる、解脱酒の可能性を示唆。

最初に供された皿は冷たい前菜でした。

「真っ先に浮かんだのは、ヨードの弱いクリーミーな牡蠣と合わせてみたいというイメージなんです」
ミネラル分があまり強くは主張しない牡蠣を選ぶことが重要で、伊藤氏が選んだのはノルマンディーのジャン・ポール氏が養殖している優しい味わいの牡蠣だと言います。それを蒸し焼きにして、カツオとアゴで取った出汁を少し入れた30年熟成のシェリービネガーのジュレでまとめると、解脱酒の酸味と見事に溶け合うバランスのよさ。さらに淡白な仔牛のタルタルがのせられ、ミルキーな味わいを一層クリーミーにまとめてしまうのです。
「うん、やっぱりいい感じだ」と笑う氏。30秒で思いついたとは思えない、見事なマリアージュがそこに現出したのです。

さらにはデセール。
「通常はほうじ茶のソルベを使うのですが。解脱酒には深みのあるカカオのニュアンスが合うかな。それと旬の栗ですね」

カカオ豆の中心にある核の部分・カカオニブを冷たい牛乳に一昼夜漬けて旨みと香りだけを残した牛乳を使ったソルベ。その上にモンブランの要領で栗のクリームをあしらい、仕上げにヘーゼルナッツをたっぷりと。
「うわ〜、これ合うな〜。自分で作ってびっくり。前菜よりこっちがドンピシャですね」

まるでパズルが解けた子供のように笑う伊藤氏。相棒であるシェフソムリエのヴェルディエール氏と、何やら相談。なんと解脱酒のポテンシャルをすぐさま認め、店で扱えないかと提案してくれたのです。
「生産者の思いまで料理に反映するのが、自分の料理。そういった食材のストーリーに負けない日本酒を探していたんです」

今なお生産者の元を訪れ、想いの詰まった食材を探し出し、それらの持ち味をシンプルに伝えるのが伊藤氏の真骨頂。この店で解脱酒が、これからどんな化学反応を魅せるのか、季節ごとに訪れる楽しみが追加されたのです。

シェフいわく思った以上の相性の良さ。「だからマリアージュは面白いんです」と伊藤氏。

シェフソムリエのヴェルディエール氏(左)は昨年、パリでの物産展で『加温熟成解脱酒』を試飲済み。注目していたそう。

20席の小さな店で独自の世界観を楽しませる実力店。

秋田酒類製造株式会社取材はできずとも、解脱酒へのコメントは寄せられた。

さらにもうひとり、我々がぜひ解脱酒を飲んで欲しいと熱望したシェフがいます。『デルス』の関根拓氏がその人です。『ベージュ アラン・デュカス 東京』の立ち上げスタッフとして3年半、渡仏後はパリ『アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ』で研鑽を重ね、二つ星『エレン・ダローズ』ではスーシェフに。さらにはパリやアメリカを経て、世界旅行も経験の後、2014年パリ12区に『デルス』をオープン。自らの舌で世界を感じた関根氏が、解脱酒をどう評するのか、怖いもの見たさもありつつ、取材のオファーを申し込んだのです。
しかし、取材当日、アクシデントが発生し、関根氏の取材の約束は叶わぬ夢に。諦めきれなかった取材班は、店に解脱酒のみを預けることになったのです。

後日、関根氏より撮影のOKと、解脱酒へのコメントが寄せられました。
「残糖の中にも程よい酸が感じられ、最後はアプリコットや白干し葡萄のようなニュアンスすら感じられます。熱によって米のフレッシュさこそ感じられないものの、落ち着いた複雑味と絶妙な枯れ具合であると思います」

関根氏が感じた解脱酒と、料理とのマリアージュこそ叶いませんでしたが、解脱酒は確かにパリで活躍する二人の日本人シェフの元へと届き、フランス料理との可能性を示してくれました。

世界を見据えて戦うシェフ同様に、『加温熟成解脱酒』は酒の歴史に、新たな可能性のページを開いてくれるのではないでしょうか。遠いパリの地で、そしてワインの本場で、黄金色に輝く酒は、確かに独自の存在感を示していたのですから。

後日、しっかりとテイスティングしコメントを寄せてくれた関根氏。

イシモチはシンプルに刺身。ザル貝は温かい鍋の上において口が開いたところを取り出す。コールラビは3パーセントの塩水につけて、浅漬け状に。魚介類をとうもろこしの旨味や甘さで食べてもらう料理。

リードボーは筋を外し、とんかつの用にパン粉で包み、澄ましバターでカリッと揚げる。とうもろこしのクリーム、シェリービネガーで味わう。

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