未知の『西宇和みかん』デザートコースを創造するため。現地を巡って体感した、西宇和の風土、生産者の志。[TERROIR OF NISHIUWA・真穴共選/愛媛県八幡浜市]

『西宇和みかん』の魅力を伝える為、白羽の矢が立ったのは、パティシエール中村樹里子氏。至極のデザートコースを開発するべく、愛媛県西宇和に視察へ訪れた。

テロワールオブ西宇和・真穴共選伝説の『KIRIKO NAKAMURA』復活に向け、中村樹里子氏、西宇和へ。

愛媛県西宇和の特産品『西宇和みかん』。その魅力をより多くの人に味わってもらう為、11月29日(木)から期間限定で『西宇和みかん』を主役に据えた、全6皿のデザートコースが、目黒『kabi.』に登場します。
「Kiriko Nakamura による西宇和みかんのデザートコース」詳細・予約はこちら

手掛けるパティシエールは、『KIRIKO NAKAMURA』で食通の注目を集めた中村樹里子氏。
中村氏は、オープンわずか2カ月でミシュラン一ツ星を獲得した白金台のフレンチレストラン『TIRPSE』で、すべてのデザートを担当した料理人。『KIRIKO NAKAMURA』は、その『TIRPSE』のランチタイムに、たった一年の期間限定で、デザートばかりが6品登場する、コースを提供していた伝説のデザート・テイスティング・レストランです。斬新で美しいデザートが話題となり、2015年当時、予約が取れないと評判になりました。

中村氏は『DINING OUT ONOMICHI with LEXUS』にも参加した実績があり、そのときも、地元の食材を巧みに用いて、2皿のデザートを創案しています。今の日本を代表する、気鋭のパティシエールが中村樹里子氏なのです。

今回の主役は『西宇和みかん』。
デザートコースの創造を決意した中村氏は早速、西宇和へ向かいました。

現場に行かなければ体感できない土地の空気を肌で感じ、生産者の気持ちに触れることでクリエイションのヒントを得たい。そう思ったからです。

今回の旅では、『西宇和みかん』に合いそうな、ほかの食材も探す予定になっています。
「愛媛に来たのは初めてですけど、スゴイですね」
見渡す限り、斜面を覆う西宇和みかんの畑を目の当たりにして、中村氏は思わず、感嘆の声を上げました。

最初に訪れた『西宇和みかん』の産地は八幡浜市・真穴。
「私たち、生産者が目指すのは高糖度、高酸度のみかんなんですよ」
傍らには、この地区で西宇和みかんを育てる、宮本定氏の笑顔もありました。

▶詳細は、TERROIR OF NISHIUWA/特徴的な地形が育む、伝統の『西宇和みかん』で進む、新たな価値観の創造。

オープンわずか2カ月でミシュラン一ツ星を獲得した白金台のフレンチレストラン『TIRPSE』で、すべてのデザートを担当したパティシエール中村樹里子氏。

真穴の生産者・宮本定氏から熱心に話を聞く中村氏。

「まだ早いけど、試しに食べてみて」。宮本氏から西宇和みかんを手渡される。

八幡浜の市街地からも近い、八協のみかん畑。作業効率を上げるため、舗装道路が縦横に畑を貫く。

訪れるみかん畑の美しさに、中村氏も感心しきり。

八協と八幡浜、日の丸という3つの共選が共同で運営する選果場も視察。

テロワールオブ西宇和・真穴共選生産者各人の熱意から育まれる『西宇和みかん』クオリティ。

訪れたのは、収穫が始まるおよそ2週間前のこと。まだ、糖がしっかり乗っていない時季でしたが、みかんの実はすでに美しいオレンジ色。試食して早速、インスピレーションを得たようです。
「今、食べて感じた酸味は収穫までに和らいでいくんですか?」
「そうですね、もう2週間もすれば、酸は下がっていきます。下がった分、今度は糖度が上がってくる。生果で食べて美味しいのは糖度で12、酸が0.9とか、0.8ぐらい。今は多分、もっと酸度があって1.1とか、1.2はあると思います」宮本氏が答えます。

「なるほど。皮ごと実をシロップ漬けにするなら、酸味がある程度、あった方がきっと美味しくなりますね。小さい実だと、コロッと丸くて、かわいく見えるから、なお良い(笑)」

まだ漠然とかもしれませんが、中村氏の頭の中で完成予想図が描かれ始めているよう。
続いて訪ねた、八協共選に所属する生産者の畑は、八幡浜駅の北側にそびえる、山の頂上付近にありました。
作業効率をアップするため、ここでは縦横に白く舗装された小道が巡らされています。木の下には土全体を覆うように、マルチシートが敷き詰められていました。真穴でも見られた、あのシートです。
「キレイですね」

美しく整地された八協の畑を見渡して、やはり溜息が漏れました。
今日はよく晴れていて、地面から照り返す陽光は眩しいほど。

「これまで、食材の産地に行くといったら一カ所というのが普通でした。けど、今回は同じ『西宇和みかん』でも、いろいろな畑が見られて面白いです」

真穴、八協と、畑はいろいろな場所に点在していますが、育った実は最新設備を導入した選果場で出荷前に、サイズはもちろん、糖度や酸度なども厳正にチェック。その結果、『西宇和みかん』という、高いクオリティを誇る、ひとつのブランドになる。八協の選果場を訪れた中村氏は、その事実も体感しました。

川上で『西宇和みかん』を育てる三木長光氏。「この辺は海抜にしたら、120〜30mあって、夕方になっても、日がずっと残るんよ」

川上でも『西宇和みかん』を試食。「たわわに実っていて、見るからに美味しそう」。出荷前だが、「もう十分に美味しいです(笑)」

テロワールオブ西宇和・真穴共選難しいからこそ挑戦したい。気鋭のパティシエールが抱く決意。

『西宇和みかん』の産地を巡って。

最後は、石垣も多く見られる川上共選の畑。作業をしていた生産者のひとり、三木長光氏に、「食べてみる?」と突然、1個のみかんを渡され、自然と笑顔になります。
「いい香りがしますね、特に皮」
そう言って、ひと房、口に運びました。
「あ。本当に美味しいです」
「鳥も狙っとるぐらいやからの」と笑う三木氏。
「これだけ美味しかったら、鳥も食べたくなりますよね」
こうした生産者との触れ合いこそ、求めていたもの。

「食材に対する愛着が沸きます」
そう言って、今度は真顔になって、語り始めました。
「温州みかんって、そのまま食べて美味しい、素朴で優しい味わいだからデザートに仕立てるって、スゴく難しいんです。それに『温州みかんでデザートコース、やります』と言われても、きっと、多くの方がピンと来ないと思う」

けれど、やってみたいと思う。そこにはパティシエールとして、これまで、様々なことにチャレンジしてきた、中村氏の気概がありました。
「何事も、やってみないとわからないじゃないですか。できません、で終わっていたら、何も生まれません。挑戦することで、自分の中にある引き出しも増えるだろうし、こうして、いろんな人との出逢いもある。長い目で見れば、きっと自分にとってもプラスになると思っています。それでお客様に喜んでもらえたら、もっとうれしいし、『西宇和みかん』を知ってもらういい機会にもなる」

「形がかわいくて大きい。お店に飾りたくなります」。西宇和特産の富士柿を手に、どう使おうか思案。

『脇水養蜂園』の脇水將文氏からレクチャーを受ける。「蜂蜜は元々、好きで、今回も使いたかった食材のひとつ」と中村氏。

西予市白川町で出合ったシナモンの一種、ニッケ。浦田嘉幸氏と安恵氏ご夫婦が木肌を採取し、乾燥させて作る。

『梅美人酒造』の上田英樹社長と。同社が手掛ける河内晩柑のリキュールを試飲して「なんて丸い美味しさ」と感嘆。

西予市『お茶の明芳園』の3代目、兵頭暁彦氏と茶畑で語り合う。「ほうじ茶の良い香りをデザートのどこかで使いたい」

テロワールオブ西宇和・真穴共選『西宇和みかん』に合わせたくなる、同郷の食材たち。

『西宇和みかん』の産地をいろいろと巡り、デザートコース全体のイメージを膨らませていった、今回の旅。
「同じ土地で育ったもの同士は相性が良い」という中村氏の考えから、西宇和みかんに合いそうな、ほかの食材も、西宇和とその周辺で探していきました。

「同系色の食材同士も、味の方向性が似る場合が多い」ということで、まず目を付けたのは、西宇和でやはり特産のひとつに数えられるオレンジ色の富士柿。
「ソルベにして合わせようかな?」
それ以外では、佐田岬半島の花々から採取される蜂蜜、西予市で木肌を剥いて作られる自家製のニッケ(シナモンの仲間)、八幡浜市で100年を越す歴史がある『梅美人酒造』のお酒、それから、宇和茶として出荷される西予のお茶。いろいろな食材との出合いは確かに、中村氏に数々のインスピレーションを与えたようです。
「『西宇和みかん』のいろいろな表情を引き出したい」
そう言って、中村氏の顔はまた一段と引き締まりました。

内子町で育てられる人参芋。現地では干し芋にするのが一般的。『東山』の名で知られる。

人参芋の畑は標高500mの高地に。「どうしてこんな高くに?」と驚く中村氏に「たまたまです」と笑顔で答える生産者の吉田豊氏。

テロワールオブ西宇和・真穴共選限定の西宇和みかんデザートはいよいよ本日から提供開始。

最後に訪れたのは、少し足を伸ばして内子町。愛媛の内陸にある、この町では幻ともいわれる人参芋が栽培されています。栽培する吉田豊氏から焼き芋の試食を促されます。

「甘い。初めて食べました。こんなん東京で見たことないです。ムチャクチャ黄色いから、タルトにしても良さそう」
豊氏のお母さまから、「畑の場所を毎年、変えて、土地を休ませながら人参芋を育てています。そうすれば、肥料をやらなくても美味しい人参芋ができる」
可能な限り、自然と寄り添い、自然の力を引き出す、その姿勢に、中村樹里子氏は「まさに、ヴァン・ナチュールの発想ですね」と、感慨深げに頷きました。

旅を終えて満足そうな中村氏の表情を見ていると、期待は高まるばかり。
西宇和というテロワールが育んだ『西宇和みかん』のデザートコースは、全6皿が予定されていますが、一体、どんなデザートが登場するのでしょう?

予約はすでに始まっています。
期間はわずか12日間(!)と短く、一日で受付けられる数も限られていますから、急がないと、すぐに満席になってしまう可能性も。

「Kiriko Nakamura による西宇和みかんのデザートコース」詳細・予約はこちら

目黒『kabi.』で復活する伝説の『KIRIKO NAKAMURA』。
この機会を逃したら、もう二度と、
『西宇和みかん』のデザートコースは、味わうことができません。


(supported by JAにしうわ

土地の空気を肌で感じ、デザートのイメージを膨らませていく中村氏。

住所:愛媛県八幡浜市真網代丙572-1 MAP
電話:0894-29-7014
真穴共選 HP:http://www.marumamikan.com/

大阪出身。関西の洋菓子店などを経て、29歳で単独渡仏。パリではシェフパティシエとして「L’Instant d’Or(ランスタン・ドール)」を1年でミシュラン1ツ星に導いた。帰国後は、東京・白金台の『TIRPSE (ティルプス)』に参加。軽やかでいて深みのあるデザートの味わいには国内外からの評価も高い。2015年7月8日より『TIRPSE』のランチタイムを1年間限定で『KIRIKO NAKAMURA』とし、6品の季節感あふれるデザートだけのコースを企画。
今回、目黒Restaurant『Kabi』にて、KIRIKO NAKAMURAデザートコースを2週間限定で復活させる。