@adidasfun
久高島の聖なる食べ物・イラブー。伝統料理を再構築しコースのはじまりに。[DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS/沖縄県南城市]
ダイニングアウト琉球南城はじまりの一品を、琉球創世の地に欠かせない聖なる食材で。
沖縄県南城市を舞台に2018年11月23日、24日に開催された『DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS』。太古の昔、琉球の島々や御嶽を作った女神「アマミキヨ」の神話になぞらえ、厨房を任されたのは『志摩観光ホテル』樋口宏江シェフ。「Origin いのちへの感謝と祈り」というテーマの下に供された11皿のコースは、「久高島イラブーのシガレット」からスタートしました。多くのゲストにとって、なじみのない食材であろうイラブー(エラブウミヘビ)。一体どんな味がするのか。期待の中に、未知なる食物に対するわずかな不安をにじませる人々を、ひと口で笑顔にし、同時にディープな沖縄・南城の歴史ある食文化の世界に引き込みました。イラブーの産地、久高島は、琉球神話の聖地。一体どんな場所で、イラブーはどのようにして作られているのか。樋口シェフがこの一皿に込めた想いとともにご紹介します。
▶詳細は、DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS
ダイニングアウト琉球南城久高島――琉球の祖神が降り立ったはじまりの地。
久高島は、沖縄南東部・知念岬の東海上に浮かぶ島。琉球創世の女神「アマミキヨ」が降臨したといわれる神話の聖地で、周囲わずか8キロの小さな島の中に、御嶽(うたき)や拝所(うがんしょ)など、数々の祈りの場が今も残ります。琉球王朝時代には国王も巡礼していた土地で、祝女(ノロ)という国王の代理人が12年に一度行われる秘祭「イザイホー」などの祭を執り行うなど、女性を守護神とする文化が継承されています。もっとも神聖な場所とされるクボー御嶽は、男子禁制。島の北端のカベール岬は「アマミキヨ」が降り立ったとされる聖地で、海の彼方にあるニライカナイから五穀がもたらされたといわれています。島には、カベール岬を中心にやし科のピロウやクロツグを筆頭にさまざまな風衛植物が自生していて、青い海、白い砂浜とともに南国らしい景観を織りなしています。多くの植物は島の信仰とも密接。祭祀の際、神女たちが頭にかぶる「ハブイ」や扇、神座なども、島の植物からつくられます。
沖縄本島からフェリーでわずか20分程度の場所ながら、リゾート開発を免れた小さな島には、手つかずの自然と、独自の信仰を守り生きる人々の静かな暮らしが残っています。そんな久高島で、神の使い、聖なる食べ物とされるのがイラブー(エラブウミヘビ)なのです。
ダイニングアウト琉球南城島の神事とも密接なイラブー漁の伝統。
イラブーの漁期は、旧暦の6月から12月。琉球王朝時代、神事の要所であった久高島で、最高権力者であった久高ノロ家など三家が、漁と燻製加工を担い、その技や知識は口頭で伝承されてきたといわれています。捕獲人は、島の重要な祭祀を司る3人の女性で、男性が燻製作業を行うのも決まり事。イラブーの燻製小屋は、秘祭「イザイホー」のもっとも重要な祭場である御殿庭(ウドンミャー)にあります。
時代の流れとともに伝統的な後継者が途絶え、現在では男性も捕獲人に加わっています。糸数勝治氏もそのひとり。糸数氏に案内してもらった漁場は、本島からのフェリーが到着する徳仁港のほど近くで、サンゴ石灰岩が隆起し、比較的水深が深い海岸沿いにあります。漁は夜に行われ、捕獲人たちは漁期の間、毎晩海に入るといいます。道具は使わず、手で捕獲するのも大切な決まりごと。獲ったイラブーが約100匹に達すると、丁寧な下処理を経て、一週間かけて燻製にしていきます。燻製にされるまで、陸で保管されている間も、飲まず食わずで生き続けるほど強い生命力を持つイラブーは、滋養強壮にいい食材として、珍重されてきた歴史を持ちます。
ダイニングアウト琉球南城琉球王朝時代の宮廷料理として受け継がれるイラブー汁を再構築。
10月初旬、食材視察のために沖縄を訪れた樋口宏江シェフは、那覇市の沖縄料理店『月桃庵』でイラブー汁を試食しました。イラブーの燻製を下茹でし、ソーキや昆布とともに煮込んだイラブー汁は、琉球王国時代の宮廷薬膳料理に起源を持ちます。
「独特の旨みは、鰹だしのよう。滋味豊かで、体に染み入るような味わいです」
試食の感想をそう話してくれた樋口シェフ。このイラブー汁から着想を得て「イラブーのシガレット」を作ったといいます。
「イラブーの皮の燻香、身、そして旨みたっぷりのだし。すべてを使いたいと思いました。加えて見た瞬間、イラブーとわかるビジュアルにしたかった」。
そう考えたとき、細長いシガレット状の一品を思い付いたといいます。下茹でしたイラブーの身をほぐし、メインディッシュでも使った純血アグー種の豚「黒金豚」の豚足、豚バラ、ジャガイモと混ぜて成形。この際に、茹でたときの煮汁も加え、シガレットの形に合わせて成形します。下茹で後に皮を切り分け、一部は乾燥させ粉末状に。成形した身に切り分けた皮を貼り付け、昆布の粉末と合わせた皮の粉を、油でからりと揚げます。
実はこの「久高島イラブーのシガレット」は、『DINING OUT』をサポートするサッポロビール「ヱビス マイスター 匠の逸品」に合う料理として樋口シェフが用意したもの。クリスピーな食感と香ばしさ、イラブー粉由来の濃厚な旨みが、ロイヤルリーフホップのふくよかなアロマ、研ぎ澄まされたコクと引き立て合います。
一杯のイラブー汁を構成する食材のすべて、さらにはイラブーの生命すべてがひと口大のシガレットに。。宮廷薬膳料理を見事に再構築した一皿は、アペリティフ会場の久高島を経て、テーブルについたゲストを深い感動へと導きました。
ダイニングアウト琉球南城琉球と伊勢、ふたつのルーツを重ね合わせて。
『DINING OUT』を通じ、琉球と伊勢との共通点に気付いたという樋口シェフ。それは「神人共食」という言葉に集約されます。
「神人共食とは、神様に捧げた供物を、我々も一緒に頂くという考えです」
伊勢は、神事の際、海産物を献上する役割を担ってきた御食国(みけつくに)。2000年前から行われていた海女による漁も、イラブー漁と重ね合わせます。
「どちらも決められた人が、素手を使って行う漁が今も受け継がれている。そこには、自然からの恵みを“取り過ぎることなく、必要な分だけ分けて頂く”というサスティナブルな視点と感謝の気持ちがある」
滋養豊かなイラブーは、燻製加工することで保存が可能になり、旨みたっぷりのだしが料理の要となる。伊勢で神饌とされる鰹節にも思いを馳せたといいます。
個性豊かな食材や郷土料理にとどまらない、沖縄の食の真の豊かさと「Origin いのちへの感謝と祈り」というテーマを訪れたゲスト全員の記憶に、鮮明に刻みたい。そんな願いを込めて、コースの一皿目に「久高島イラブーのシガレット」を提供したのです。
三重県四日市市生まれ。1991年、志摩観光ホテルに入社。2014年には、同ホテルで初めての女性総料理長に就任。2016年に、「G7 伊勢志摩サミット」のディナーを担当し、各国首脳から 称賛を受けた。翌年、第8回農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」のブロンズ賞を、三重県初、女性としても初めて受賞。今、最も世界から注目を集めている女性シェフである。
志摩観光ホテルHP:https://www.miyakohotels.ne.jp/shima/index.html
久高島の聖なる食べ物・イラブー。伝統料理を再構築しコースのはじまりに。[DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS/沖縄県南城市]
ダイニングアウト琉球南城はじまりの一品を、琉球創世の地に欠かせない聖なる食材で。
沖縄県南城市を舞台に2018年11月23日、24日に開催された『DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS』。太古の昔、琉球の島々や御嶽を作った女神「アマミキヨ」の神話になぞらえ、厨房を任されたのは『志摩観光ホテル』樋口宏江シェフ。「Origin いのちへの感謝と祈り」というテーマの下に供された11皿のコースは、「久高島イラブーのシガレット」からスタートしました。多くのゲストにとって、なじみのない食材であろうイラブー(エラブウミヘビ)。一体どんな味がするのか。期待の中に、未知なる食物に対するわずかな不安をにじませる人々を、ひと口で笑顔にし、同時にディープな沖縄・南城の歴史ある食文化の世界に引き込みました。イラブーの産地、久高島は、琉球神話の聖地。一体どんな場所で、イラブーはどのようにして作られているのか。樋口シェフがこの一皿に込めた想いとともにご紹介します。
▶詳細は、DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS
ダイニングアウト琉球南城久高島――琉球の祖神が降り立ったはじまりの地。
久高島は、沖縄南東部・知念岬の東海上に浮かぶ島。琉球創世の女神「アマミキヨ」が降臨したといわれる神話の聖地で、周囲わずか8キロの小さな島の中に、御嶽(うたき)や拝所(うがんしょ)など、数々の祈りの場が今も残ります。琉球王朝時代には国王も巡礼していた土地で、祝女(ノロ)という国王の代理人が12年に一度行われる秘祭「イザイホー」などの祭を執り行うなど、女性を守護神とする文化が継承されています。もっとも神聖な場所とされるクボー御嶽は、男子禁制。島の北端のカベール岬は「アマミキヨ」が降り立ったとされる聖地で、海の彼方にあるニライカナイから五穀がもたらされたといわれています。島には、カベール岬を中心にやし科のピロウやクロツグを筆頭にさまざまな風衛植物が自生していて、青い海、白い砂浜とともに南国らしい景観を織りなしています。多くの植物は島の信仰とも密接。祭祀の際、神女たちが頭にかぶる「ハブイ」や扇、神座なども、島の植物からつくられます。
沖縄本島からフェリーでわずか20分程度の場所ながら、リゾート開発を免れた小さな島には、手つかずの自然と、独自の信仰を守り生きる人々の静かな暮らしが残っています。そんな久高島で、神の使い、聖なる食べ物とされるのがイラブー(エラブウミヘビ)なのです。
ダイニングアウト琉球南城島の神事とも密接なイラブー漁の伝統。
イラブーの漁期は、旧暦の6月から12月。琉球王朝時代、神事の要所であった久高島で、最高権力者であった久高ノロ家など三家が、漁と燻製加工を担い、その技や知識は口頭で伝承されてきたといわれています。捕獲人は、島の重要な祭祀を司る3人の女性で、男性が燻製作業を行うのも決まり事。イラブーの燻製小屋は、秘祭「イザイホー」のもっとも重要な祭場である御殿庭(ウドンミャー)にあります。
時代の流れとともに伝統的な後継者が途絶え、現在では男性も捕獲人に加わっています。糸数勝治氏もそのひとり。糸数氏に案内してもらった漁場は、本島からのフェリーが到着する徳仁港のほど近くで、サンゴ石灰岩が隆起し、比較的水深が深い海岸沿いにあります。漁は夜に行われ、捕獲人たちは漁期の間、毎晩海に入るといいます。道具は使わず、手で捕獲するのも大切な決まりごと。獲ったイラブーが約100匹に達すると、丁寧な下処理を経て、一週間かけて燻製にしていきます。燻製にされるまで、陸で保管されている間も、飲まず食わずで生き続けるほど強い生命力を持つイラブーは、滋養強壮にいい食材として、珍重されてきた歴史を持ちます。
ダイニングアウト琉球南城琉球王朝時代の宮廷料理として受け継がれるイラブー汁を再構築。
10月初旬、食材視察のために沖縄を訪れた樋口宏江シェフは、那覇市の沖縄料理店『月桃庵』でイラブー汁を試食しました。イラブーの燻製を下茹でし、ソーキや昆布とともに煮込んだイラブー汁は、琉球王国時代の宮廷薬膳料理に起源を持ちます。
「独特の旨みは、鰹だしのよう。滋味豊かで、体に染み入るような味わいです」
試食の感想をそう話してくれた樋口シェフ。このイラブー汁から着想を得て「イラブーのシガレット」を作ったといいます。
「イラブーの皮の燻香、身、そして旨みたっぷりのだし。すべてを使いたいと思いました。加えて見た瞬間、イラブーとわかるビジュアルにしたかった」。
そう考えたとき、細長いシガレット状の一品を思い付いたといいます。下茹でしたイラブーの身をほぐし、メインディッシュでも使った純血アグー種の豚「黒金豚」の豚足、豚バラ、ジャガイモと混ぜて成形。この際に、茹でたときの煮汁も加え、シガレットの形に合わせて成形します。下茹で後に皮を切り分け、一部は乾燥させ粉末状に。成形した身に切り分けた皮を貼り付け、昆布の粉末と合わせた皮の粉を、油でからりと揚げます。
実はこの「久高島イラブーのシガレット」は、『DINING OUT』をサポートするサッポロビール「ヱビス マイスター 匠の逸品」に合う料理として樋口シェフが用意したもの。クリスピーな食感と香ばしさ、イラブー粉由来の濃厚な旨みが、ロイヤルフリーホップのふくよかなアロマ、研ぎ澄まされたコクと引き立て合います。
一杯のイラブー汁を構成する食材のすべて、さらにはイラブーの生命すべてがひと口大のシガレットに。。宮廷薬膳料理を見事に再構築した一皿は、アペリティフ会場の久高島を経て、テーブルについたゲストを深い感動へと導きました。
ダイニングアウト琉球南城琉球と伊勢、ふたつのルーツを重ね合わせて。
『DINING OUT』を通じ、琉球と伊勢との共通点に気付いたという樋口シェフ。それは「神人共食」という言葉に集約されます。
「神人共食とは、神様に捧げた供物を、我々も一緒に頂くという考えです」
伊勢は、神事の際、海産物を献上する役割を担ってきた御食国(みけつくに)。2000年前から行われていた海女による漁も、イラブー漁と重ね合わせます。
「どちらも決められた人が、素手を使って行う漁が今も受け継がれている。そこには、自然からの恵みを“取り過ぎることなく、必要な分だけ分けて頂く”というサスティナブルな視点と感謝の気持ちがある」
滋養豊かなイラブーは、燻製加工することで保存が可能になり、旨みたっぷりのだしが料理の要となる。伊勢で神饌とされる鰹節にも思いを馳せたといいます。
個性豊かな食材や郷土料理にとどまらない、沖縄の食の真の豊かさと「Origin いのちへの感謝と祈り」というテーマを訪れたゲスト全員の記憶に、鮮明に刻みたい。そんな願いを込めて、コースの一皿目に「久高島イラブーのシガレット」を提供したのです。
三重県四日市市生まれ。1991年、志摩観光ホテルに入社。2014年には、同ホテルで初めての女性総料理長に就任。2016年に、「G7 伊勢志摩サミット」のディナーを担当し、各国首脳から 称賛を受けた。翌年、第8回農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」のブロンズ賞を、三重県初、女性としても初めて受賞。今、最も世界から注目を集めている女性シェフである。
志摩観光ホテルHP:https://www.miyakohotels.ne.jp/shima/index.html