大塚刃物鍛冶気に入らない時は一切仕事は受けない唯一無二の刃物職人。
刺し身やトマトを切った際、驚くほどストレス無く包丁が走り、切った後の刃離れもスッと音なし。鳥取県八頭郡智頭町にて代々鍛冶の家系にある大塚義文氏が打つ『大塚刃物鍛冶』の包丁は、希少価値の高い安来のたたら製鉄で作られた鋼を熱して地鉄に挟み製作される一級品。堅さと柔らかさ、強度と粘りを併せ持つ刃物です。
「見ての通り、鍛冶屋ですから、一丁一丁地鉄に鋼を挟み、叩いてはのばす。その繰り返しです」
因美線の無人駅、土師駅からすぐの工房で毎朝8時過ぎから作業は始まり、昼食などの休憩をはさみつつも、決まって終了は深夜24時近く。そこから夕食と少しのアルコールで英気を養い、また翌日には8時過ぎに作業場へと向かうと言います。隙間風の吹く工房で、重労働といえる鍛冶の単調な作業を長時間。正直、ひとりでつらくないのか伺うと、予想に反した応えが返ってきました。
「ストレスはまったくなし。むしろ、まだ発見があるから面白い。こうしたらいい、ああしたらいい。今年に入ってからもまた切れるようになったと思う」
30年以上に渡り刃物鍛冶の仕事のみを追い求め、ここ2〜3年でようやくある程度納得のいく商品ができるようになったと大塚氏は笑います。
「ストレスなしと言ったけど、本当に気に入らない時は一切仕事は受けない。もし、反りの合わない人の注文を受けてしまうと決まっていいものはできないんです。それくらいメンタルと好奇心が重要な仕事」
使う人の姿を思い浮かべ、自らの気持ちを鼓舞しながら打ち込む刃物と、誰のために作っているのか見えない刃物では雲泥の差が生じてしまうのです。さらに用途や環境を思い浮かべながら作業することで、「こうしてやろう、ああしたら喜ぶな」という好奇心が生まれ格段に精度は上がると言います。
ひとつとして同じものがない『大塚刃物鍛冶』の包丁は、“世界にまだ知られていない、日本が誇るべきすぐれた地方産品”を発掘し海外に広く伝えていくプロジェクト『The Wonder 500™』にも認定されるなど、今、世界からも注目を集めています。
大塚刃物鍛冶30年を超え、ようやく納得のいく仕事にたどり着く。
炎をあげるコークスの中に、ふいごで風を送り、さらに900度まで温度をあげていくと地鉄や鋼は赤々と色を変化させます。その状態までもっていき素早く取り出し、ハンマーで叩く。すると徐々に鉄はのびていきます。それを何度も何度も繰り返すことで、鉄の塊は大塚氏の手により、刃物としての意思を帯びていくのです。
「適切な温度で鍛造することが大切。これにより元々の粗い金属粒子が壊され、金属の再結晶が新たに起こるのです。それを叩くことでより細かい緻密な微粒子に変化。安来鋼特有の強靱で耐久性がある性質に生まれ変わります」
さらに水で急冷することで鋼を硬化させ、その鋼が持っている性質の最も硬い状態へと変化される焼入れ。硬化した鋼を油につけることで粘りを加える焼戻し。古来より受け継がれる作業により、堅さと柔らかさ、強度と粘りを併せ持つ刃物は生まれていくのです。
「実は34年前かな、家業を継ぐため実家に戻った際、親父は1年しないうちに倒れてしまって、一緒に働けたのはわずかだったんです。その後は見よう見まねでひとり働きつつも、各地の鍛冶家になかば弟子入りするような状態でいろいろな仕事を学んだんです」
日本各地の鍛冶屋の仕事を見て学び、その良い部分を取り込んだ大塚氏の仕事。ひとつひとつの優れた部分を納得いくまで追求し、ものにする時間こそが、もっとも過酷で孤独な戦いだったのは推して知るべし。実に30年以上をかけてようやく納得のいく仕事になってきたというのも、あながち嘘ではないのかもしれません。
大塚刃物鍛冶使い手の手の形までに考慮した包丁を生み出す。
切味無双。
そう、表現される大塚氏の包丁。その切れ味を実現する重要な要素のひとつに、使う人それぞれの癖を理解するというものがあります。
鍛造所を訪れた人は、挨拶がてらかならず大塚氏と握手をすることになるのですが、この一瞬の握手こそが切れ味を大きく左右すると氏は言うのです。
「無意識で握った際の、握力。手のひら、指のどの部分に力を入れる人なのか。さらには手の大きさや指の長さなど、握手にはいろいろな情報が詰まっているのです」
大塚氏が例えで教えてくれたのは、大人と子供では、食材に包丁を入れる角度は全く違うというもの。大人は背の高さを活かし、まな板の上から包丁を入れることができますが、子供は身長が足りておらず、まな板の横から包丁を入れることになります。それを理解し、その人に合った柄の長さや柄の角度を調整することが大切。
「個人の情報があってこそ使いやすい包丁になる。ですから、もし自分にあった包丁をお求めでしたら、やはり足を運んでもらうのが一番。もし難しければ手形を取って送ってもらうだけでもだいぶ違います」
使う人のことを思い、叩き、のばし、磨かれ、柄を取り付ける。
切味無双、その包丁は十人十色、自分に合った切れ味は唯一無二の切れ味なのかもしれません。
住所:〒689-1434 鳥取県八頭郡智頭町三吉28-4 MAP
体験不可・訪問時は要連絡
問合せ先:COCOROSTORE
電話:0858-22-3526
E-mail:cocorostore.1@gmail.com