食と桜花霞に覆われた春の『屋島』で興じる、絶景と美食。
3月下旬から4月上旬にかけて、多彩な絵の具をパレットの上で溶かしたように、様々な色が山肌を埋め尽くすのは、香川県高松市の海岸林『屋島』です。その正体は自生している「ヤマザクラ」。淡い花霞が幻想的な雰囲気をつくり、観賞用の桜とはひと味違う、野性味ある桜の景色が楽しめます。その『屋島』の東側、檀ノ浦の海岸沿いに店を構えるのが、中国料理界の重鎮として知られる長坂松夫氏です。東京『麻布長江』の料理長としてスターシェフへと上り詰め、輝かしい未来が約束された立場にもかかわらず、2010年に弟子に店を譲り、現在の場所へ。別荘地の中にひっそりと、看板も出さずに立つ『長江SORAE』は、長坂氏が悩み、考えた末に行きついた「自然の中でその美しさ、心地よさを感じる。それを大切な人と共有しながら、食べる料理とその時間。それに勝るものはない」という答えを体現したレストランです。対岸に庵治(あじ)の町を望む風光明媚な場所が、その答えの最たるもの。俊才の料理人が行きついた究極のレストランを、美しい桜景色とともに体験してみてください。
▶詳細は、LANDSCAPE/秀峰と名高い溶岩台地を埋め尽くす、ヤマザクラの花霞。
▶詳細は、RESTAURANT/中華のスターシェフを移転に踏み切らせた「最高のレストランとは!?」
食と桜桜景色と甘美なスイーツがもたらす、めくるめくひと時。
桜の名所と絶品スイーツを巡る甘美なハシゴ旅ならば、福岡県へ。「筑前の小京都」と呼ばれる街並みが残る朝倉市の『甘木公園』は、3月末頃から4月上旬にかけて、敷地内の約4,000本の「ソメイヨシノ」が満開になり、多くの人で賑わいます。そこから福岡市の中心部までは車、電車ともに1時間ほど。『甘木公園』の最寄り駅「甘木駅」を始発とする「甘木鉄道」の沿線には花の名所が多く、またこの後訪れる店は、スイーツとお酒のマリアージュを専門とするゆえ、電車での旅が断然お勧めです。時間が許せば途中下車して春の花々を楽しみつつ、終点の「基山駅」からJRに乗り換えて、博多まで。福岡市中央区にある『WINE & SWEETS tsumons(つもん)』に向かいましょう。そこは、スイーツとワイン、両者がひとつになって初めて完成を見る、めくるめく世界。パティシエールでありソムリエールの香月友紀氏が提供するシグネチャーメニュー「スフレ」は、オーダーが入ってからメレンゲを泡立て始めるため提供まで時間がかかりますが、非日常を感じさせるインテリアに囲まれながら、その鮮やかな手さばきを眺める時間もまた、素晴らしいものです。
▶詳細は、LANDSCAPE/丸山池を中心に、約4,000本のソメイヨシノが咲き誇る。
▶詳細は、RESTAURANT/ワインとスイーツのマリアージュでオンリーワンの世界観を魅せる。
食と桜山里から海へ。「孤高」の姿を訪ねる。
「桜と美食をつなぐ旅」西日本編の最後は、その姿、姿勢が「孤高」という言葉に通じる二者を訪ねる旅をご紹介します。岡山県北部、のどかな山里に春をもたらす『醍醐桜』は、第96代天皇・後醍醐天皇が称賛したという逸話が残る、県下一の一本桜です。空に向かってそびえ立ち、堂々とした姿が見る者を圧倒する「唯一無二」の存在。そんな姿と重なるレストランが、『醍醐桜』のある岡山県真庭市から南へ約100km、瀬戸内海に面した岡山県瀬戸内市牛窓町にあります。店の名は『acca(アッカ)』。かつて、東京都渋谷区広尾にあったリストランテ「acca」のシェフ・林 冬青(とうせい)氏が、牛窓の土地に惚れ込み、信頼できる人や食材を得てオープンさせました。林氏は若かりし頃、本場の味を求めてイタリアへ渡り、広尾に開いた店は数ヵ月間予約の取れない人気店へと成長。しかし諸事情により突然の閉店、それでもと掴んだ牛窓での再出発……。常に自身と向き合い、自分の信念に忠実に行動するその姿は、まさに「孤高」。静かに、しかし確実に毎年花を咲かせる『醍醐桜』のように、誠実でひたむきな林氏の姿勢に、料理に、私たちは心を動かされるのです。(文中には諸説ある中の一説もございます。)
▶詳細は、LANDSCAPE/後醍醐天皇が賞賛した逸話から名づけられたという、稀代の一本桜。
▶詳細は、RESTAURANT/牛窓で捕れた活魚。ひと手間加え料理にするのがaccaマジック。