大谷川の伏流水と地元の米で作る生粋の地酒。[SHIMOIMAICHI HOPPING・渡邊佐平商店/栃木県下今市]

渡邊康浩氏。外国人観光客の酒蔵見学も受け付けているそうで英語もペラペラ。

下今市ホッピング・渡邊佐平商店扇状地によってろ過された清らかな水を使って。

標高400メートルに位置し、日光連山から吹き下ろす風で夏も涼しい今市。このエリアを上空から見下ろすと、見事な扇状地になっています。岩や石が堆積してできた扇状地は水はけがよく、蛇行しながら流れる大谷川(だいやがわ)の水は地下に染み込んで流れています。この清らかな伏流水と冷涼な気候を生かしながら、1842年の創業より実直に日本酒を造り続けているのが渡邊佐平商店です。蔵に併設されている店舗のすぐ脇には小さな水車があり、豊かな水が流れ出ています。「そもそも、杉がよく育つ場所にはいい酒ができると言われているんですよ」と、代表の渡邊康浩氏。確かに日光へと伸びる杉並木は約37キロに及び、世界一長い単一樹種の並木としてギネスにも認定されています。

酒蔵に入ってすぐに渡邊氏から普通の米と酒米を見せていただきました。特に「純米吟醸日光誉」は今市の農家に特別にお願いして作ってもらった五百万石を使用。この他の酒も純米酒にこだわり、醸造アルコールや糖類は使わず、目指す酒質によってできるかぎり県内産にこだわった良質な酒米を使っています。杜氏は岩手県出身の南部杜氏。純米酒のよさを知りつくした職人で、ここに務めて20年以上。その指導のもと、岩手と地元の蔵人が丹精込めて酒を醸しています。

次に普段は蔵人しか入れないという酒母室へ。入口には紙垂を取りつけた注連縄がかけてあり、酒造りに作用する全ての菌への敬意が伝わってきます。「いま、いまここで仕込んでいるのは古代米を使った『朱』というお酒のもろみ。特別純米のにごり酒とブレンドする予定です」。温度管理が重要という酒母室には暑過ぎたり、冷え過ぎたりしないよう、扇風機やストーブまで置いてありました。仕込まれたもろみはもろみタンクに移し、およそ20日から30日間発酵させます。「耳を近づけてみてください。音が聞こえるでしょう?」。にこにこ顔で促されて耳を寄せると酵母の奏でる微かな音が。渡邊氏は時折、音のサンプリングを行い、タンクのなかの状態をチェックしているそうです。

そんなもろみタンクの中を見せて頂くべく、酒蔵の2階へあがりました。壁には杉の間伐材が貼られており、蔵のなかの温度を一定に保っています。床のところどころに八角形の穴があり、そこからタンクの中身が見えるようになっています。「これは、日本酒用の麹と酵母を使ったウチの焼酎です。よかったらかきまぜてみますか?」。櫂棒を受け取り、タンクの中をひとかきしてみます。ふつふつと盛り上がるもろみの上面を見ていて、つくづくお酒は生き物なのだなと感じました。

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大谷橋から日光連山をのぞむ。大谷川は扇状地にある川らしく、水量が少ない。大きめの石がゴロゴロしていた。

長い杉並木。このなかには戊辰戦争の時に砲弾を撃ち込まれた杉や桜が咲く桜杉など名物杉が混ざっている。

大吟醸用に45%まで磨いた山田錦と普通に精米したこしひかり。ここまで粒の大きさが変わるのかと改めて。

磨かれた流暢な説明。そのことからも酒造りに対する熱い思いが伝わってくる。

広々とした酒蔵の2階。穴の空いているところからタンクの中の発酵具合を確認できる。

櫂棒をタンク内に入れて見本を見せてくれる渡邊氏。鮮やかな手つき。

日本酒用の麹と酵母を使ったマイルドな地酒焼酎「日光誉」。発酵が進んでいる。

ずらりと並んだタンクに近寄って耳を澄ませると、酵母が奏でる音が聞こえる。

古代米を酒母タンクにいれ、もろみを仕込む。ほんのり赤みのついた酒は祝いの席で重宝される。

酒蔵の2階に設えられた立派な神棚。渡邊氏は毎日ここで手を合わせている。

下今市ホッピング・渡邊佐平商店お酒もオーディエンス? 酒蔵でジャズコンサート。

実は渡邊氏、少しでも多くの人に酒蔵の仕事ぶりや日本酒について知ってもらおうと、8年前から春か秋に酒蔵でコンサートを開いています。「うちは11月から3月までが仕込みの時期なのですが、ちょうど発酵が終わったぐらいの時期に蓋をしめまして。昨年はピアノトリオによるジャズコンサートを行いました。60人ぐらい入ったのかな。この杉の壁がちょうどいい具合に反響するらしく、お客様にも演者の方にも喜んでいただきました」。もしかすると、タンク内で音楽を聞いていたお酒たちも喜んでいたかもしれません。

ピアノ、ベース、ドラムのトリオで行われたジャズコンサートの様子。(渡邊康浩氏撮影)

場所は道の駅・日光の向かい。100年以上前に建てられた建物部分が店舗になっている。

水車で汲み上げた伏流水。今市は兵庫県淡路島に並ぶ線香の産地で、酒蔵から車で5分ほどの杉並木公園では多くの水車が見られる。

背中に刻まれた「日光の地酒蔵」の文字に蔵人の矜持を感じる。

下今市ホッピング・渡邊佐平商店ちばてつやが惚れこみ、作品に登場させた「日光誉」。

発酵が終わったもろみを絞って酒と酒粕に分離すれば香り高い新酒のできあがりです。この状態の生酒を62度から65度で加熱して火入れを行い、貯蔵タンクで熟成させればまろやかな味わいの日本酒に。土地の名前を冠した「日光誉」の純米吟醸は、舌触りなめらか。低温長期発酵の吟醸作りのため、香りがよく、喉ごしもすっきりしています。『あしたのジョー』でお馴染みのちばてつや先生もよく召し上がっているそうで、相撲マンガ『のたり松太郎』にも「日光誉」が登場するほど。「自然醸 清開」は取材中、市内のさまざまな飲食店に置かれていた純米酒。いつの間にかなくなってしまう飲み飽きないタイプの食中酒で、冷も燗もいけます。

渡邊佐平商店ではお酒を使った今市の名産品を生みだすべく、地元の菓子店とのコラボ商品も開発しています。「清開」の酒粕を使ったバームクーヘン「清開棒夢」をいただいてみると、しっとりした口あたりと高貴な香りに頬が弛みます。「酒粕の風味を出すのに相当苦労したようです」と渡邊さん。この先、栃木の新しいお米「夢ささら」を使った「日光誉」をリリース予定の他、海外への輸出にも力を入れています。愛する今市の風土が育んだ純米酒をより広くアピールすべく、渡邊さんの挑戦は続いていきます。

お話を伺いながらふと店舗内を見ると、3組の美しい平盃が目に留まりました。盃にはそれぞれ雪の男体山、桜、月が描かれています。「この盃は画家の中村豪志氏とひろみ氏のご夫婦に描いて頂いたものなんです。中村先生は熊本の方なのですが、たまたま今市にいらした時に車が故障したそうで。待っている間、見上げた日光連山がよくて、こちらに越してらしたんです」。感性豊かな画家をも魅了する美しき日光連山とその地より流れ出る伏流水。地元の米とそこにいきる人々と。どのパーツが欠けても生まれないこの酒こそ、生粋の地酒といえるでしょう。

日光山麓(晃麓の里)の水田で作られた五百万石を使用して醸す「日光誉」。

徳利詰めの「きざけ 日光誉」。飲み終わった後の徳利とぐい呑みが使えるのも嬉しい。

店舗には酒や焼酎のほか、酒器の販売も。SNSで話題を呼んだうぐいす徳利もある。

SEIKOが精工舎だった時代に造られた大きな柱時計。この場所で長く時を刻み続けている。

渡邊氏が開発に関わった酒粕入りバームクーヘン「清開棒夢」。お土産にもぴったり。

一瞬にして旅人を魅了した今市の風景。街のいたるところで、こんな風景に出会える。

住所:栃木県日光市今市450 MAP
電話: 0288-21-0007
営業時間:9:00~16:00(酒蔵見学は要予約)
渡邊佐平商店 HP:http://www.watanabesahei.co.jp/

作曲家・船村徹が愛した創業108年の老舗うなぎ割烹。[SHIMOIMAICHI HOPPING・魚登久/栃木県下今市]

焼き場に立つ相賀昭二氏。難しい備長炭の火加減を調整する際は真剣そのもの。

下今市ホッピング・魚登久名物・肝焼きで一杯やりつつ、うな重を待つ。

上方の古典落語に「始末の極意」という演目があります。ここに登場するのは、食事時になると隣のうなぎ屋が蒲焼を焼く匂いをおかずにしてごはんだけ食べる吝嗇家。たしかに、このお店の香りならおかずになるかも……。そう思わせるのは、下今市駅にほど近い大正元年創業の『魚登久』です。使用するうなぎは静岡県吉田町の川尻より直送。旬の時期(9月~12月)は浜名湖産天然うなぎの予約も受け付けています。「今市は水が美味しい街で、大手の食品メーカーが工場を建てるほど。うちでは、30メートルほど地下から水を汲み上げた立て場に静岡から生きて届いたうなぎを1週間ぐらいつけておくんです。そうすると、泥を吐いてくさみがとれ、キュッと身が引き締まる。我々の専門用語で“うなぎを締める”っていうんですけどね」と、三代目の相賀昭二氏。

早速、焼き上がったばかりのうな重をいただきます。蓋を取ると、その下には半紙が1枚。これは、「パリッと焼きあがったうなぎの表面が水蒸気でしんなりしないように」という嬉しい配慮から。口に運ぶと、焼き色のついた表面の香ばしさと旨み、秘伝のタレ、山椒の爽やかな香りが混然一体となった重層的な旨みがぐわっと押し寄せます。「このタレは創業以来、継ぎ足し、継ぎ足しで使っているので、うなぎの旨みがたっぷり溶け込んでいます。ちょっとやそっとでは出せない味なので、先代からも『火事があったら、まずタレを持って逃げろ』と教えられました」と相賀氏。たまりではなく生醤油を使ったタレは甘すぎず、ふくよかな味わい。ごはんも一粒一粒がキレイに立っていて、パワフルなうなぎの旨みをしっかり受け止めてくれます。

うなぎが焼けるのを待ちつつ日本酒をちびちびやりながら、つまみを頂く。そんな楽しみ方をしたい人向きに嬉しい酒の肴も充実しています。名物の「うなぎの肝焼き」は、一度湯通しして血合いを取り除いた肝を冷たい水で締めてから焼きあげます。ひと手間かけた肝は8匹分でやっと1串。ぷりぷりした食感で、苦みがなく、甘みさえ感じるほど。関西風に蒸さずにそのまま焼きあげた「地焼き」の表面のカリッと感もいいですが、関東風に20分程蒸してから焼きあげた「白焼き」も乙なもの。こちらはわさびか塩麹でいただきます。「なかには、『蒲焼も関西風に焼いてくれ』という方もいらっしゃるんですよ」と相賀氏。そんなリクエストにも柔軟に応えてくれるとは嬉しい限り。扱うお酒は渡邊佐平商店の「清開」。同じ大谷川の伏流水を使った日本酒とうなぎ。合わないはずがありません。

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「うな重」3,850円。ごはんにもあらかじめタレが絡んでいる。

「うなぎ肝焼き」900円。つやつやした質感がうなぎの状態の良さを物語っている。

「うなぎ肝吸い」350円。「うな重」にもついてくる。澄んだ吸い地から水の良さが伝わってくる。

「うまき」1800円。ふっくらと柔らかく焼き上げた卵とうなぎの旨み。ビジュアルもそそられる。

「うざく」1300円。きゅうりとわかめの酢の物といただく蒲焼は、味の濃淡が沁みる一品。

「白焼」3300円。うなぎそのものの味をダイレクトに感じたいなら白焼きを。塩麹をつければよりまろやかな味わいに。

「魚登久まぶし」4200円。最初はそのまま、次に薬味をのせて、最後に出汁をかけていただく。

下今市ホッピング・魚登久この道何十年の職人が捌いたうなぎを秘伝のタレで。

「うなぎを捌くところと焼くところも見てみますか?」と相賀氏。さっそく、厨房に入らせていただきます。うなぎ専用のまな板はとても分厚く、目打ちした部分の凹みが歴史を物語っています。「うちで使うのは1キロで4匹のサイズのうなぎ。蒸して使うので、少し小さめです」。鮮やかな包丁捌きのなせる技か、勢いよく跳ねるうなぎは背開きにされてもしばらく動いています。「うなぎを捌く職人さんも全国的に減ってきています。うちの職人は、何十年も務めている人ばかりです」と相賀氏。

一方の焼き場には香ばしい香りが立ち込めています。タレを塗っては焼き、塗っては焼きを繰り返すことで、こぼれおちたタレとうなぎの脂がじゅうっと焼ける香りです。使うは紀州の備長炭。「火力が調整しにくく、焼きムラがでないように焼くのは難しい。その分、タレや脂がこぼれて出る煙がうなぎを包みこみ、香ばしさが増すんです」。『魚登久』のうなぎが美味しい理由はここにもありました。

切れ味鋭い包丁で一気呵成に捌いていく。この状態でも少し動いていた。 

重厚なまな板についた亀裂がこの店の歴史を雄弁に語ってくれる。

備長炭のはぜる音とタレが焦げるじゅうっという音が焼き場に響く。

創業時より使用の秘伝のタレ。生醤油を使っているので垂れ具合はあっさりとして見えるが、味わいはふくよか。

下今市ホッピング・魚登久清らかな今市の地下水が招く心地よい空間。

飴色の杉材を贅沢に使った店内は落ち着いた空間。靴を脱いで寛ぐ本館1階は個室食堂式になっていて、2階は6名から35名まで入れる座敷席です。面白いのは、焼き場を見ながら食事ができるカウンター席。ガラスで隔てられているので煙たさはなく、タレがこぼれるたびに舞い上がる煙を見ながらうなぎを待つことで期待値が高まります。この席を愛する常連さんは多いそうで、作曲家として初めて文化勲章を受章した船村徹さんもそのひとり。出身地を愛してやまなかった先達に思いを馳せながら食事をするのも旅の醍醐味です。

2011年にお目見えしたのは、本館となりの別館『うなぎのねどこ』。大きな木彫りのうなぎを横目に歩を進めると、和洋全5部屋の個室が用意されています。テーブル席はもちろんテラスのついた個室もあるので、用途に合わせて使い分けたいもの。また、別館の入口には調理やうなぎを締めるのに使う地下水が湧きでています。清らかな今市の水をいかした美味。旅の途中で開けた赤いお重は、さながら玉手箱のようでした。

常連さんが愛してやまないカウンター席。ここから調理場が一望できる。

杉材を贅沢に使用した本館1階。節目がびしっと揃っていて気持ちいい。

別館「うなぎのねどこ」エントランス。ちょうど暖簾の左側から湧き水が出ている。

別館の個室テーブル席。家族やグループでの旅行の際に利用したい。

堂々たる門構え。街の人から「大事な接待の際は『魚登久』さんを使います」と聞いた。

住所:栃木県日光市今市467 MAP
電話: 0288-21-0131
営業時間:11:30~14:00、17:00~21:00
定休日:月曜、第3日曜
カード使用可
魚登久 HP:http://uo-toku.jp/

地物と熟練の技を駆使してみんなが好きなものを。ジャンルレスなレストラン。[SHIMOIMAICHI HOPPING・Café&Bar Baum/栃木県下小代]

水下氏と奥さまのちひろ氏。お2人のいらっしゃる空間には柔らかな空気が。

下今市ホッピング・カフェ&バー バウム元『二期倶楽部』のシェフが営む無人駅のレストラン。

下今市駅から栃木方面に2駅すすんだ下小代駅。地元住民に愛されてきた旧木造駅舎が、現在の駅舎のすぐ側に移築されている無人駅です。なんとも長閑な夜道を行けば、近くの民家からは食事の支度をする美味しそうな匂いが漂ってきます。ほんの数分で、蔦の絡まる建物からオレンジ色の光が洩れているのが見えてきました。ここは、『Café&Bar Baum』。大きなガラス戸を引いて中に入ると、木の勢いを活かした空間に油絵や手織りのテキスタイル、変わった形の木の実、ドライフラワーに多肉植物……と、あらゆるものが有機的に絡みあって心地いい空気を作りだしています。

「こんな場所に、こんなお店が!」と驚きつつ、メニューが書かれた黒板を眺めると、「那須山牛サーロイン」「トルティーヤ ビスマルク」といったそそられるメニューのなかに、「バウム風肉どうふ」「バウム風焼きうどん」といったB級グルメ的メニューが。いったい、ここは何屋さんなのでしょう?

「有志がここに集まって、定期的に『小代ルネッサンス』というマーケットを開催しているんです。そこで出すメニューが好評だったので、メニューに昇格させていくうちに何のお店だかわからなくなって」と笑うのは、オーナーの水下佳巳氏・ちひろ氏ご夫婦。那須高原の『二期倶楽部』でシェフを務めていた佳巳氏はそこでちひろ氏と出会い、ご結婚。ちひろ氏の生家であり、後に木工作家のお父様のギャラリーになったこの場所を初めて訪れた時、「いつかこの場所でお店を開きたい」と思うほど心惹かれたそうです。お父様にその旨を訊ねてみたところ、あっさり承諾。現在、地元の美味しいもの好きが集う店になりました。もしかすると、場所と人がお互いを呼び合ったのかもしれません。

▶詳細は、NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/南会津の一年を密着取材! 春夏秋冬を作家と巡り、若き力を発掘する旅へ。

下小代の旧駅舎。住民運動によって現在の駅舎の傍に移築保存されている。

街灯も少ない場所で、オレンジ色の光を放つ『Baum』。

木の勢いを活かしたテーブル。その傍らには気になるメニュー満載の黒板。

出窓には絵本や写真集が。たんぽぽの綿毛のオブジェも手作り。

下今市ホッピング・カフェ&バー バウムジューシーな肉汁迸る希少な那須山牛でワインを。

水下ご夫婦の確かな技術から紡ぎだされる洋食に地元の皆さんが美味しいと思うもの。そんなジャンルレスなお店でまず頂きたいのが、焼き立てパンに野菜や具材を挟んで頂くセルフスタイルのサンドイッチです。ちひろ氏が店内のオーブンで焼いた自家製酵母のパンは外がカリッと香ばしく、香り豊か。この日の酵母はりんごだそうで、なかはむっちり、ほんのりした甘みがたまりません。

外せないのは那須山牛のサーロイン。「前の職場でご縁があって、お客様にも評価をいただいていたので、ぜひ皆さんにも食べて頂きたくて」と佳巳氏。絶妙な火入れのサーロインは断面がルビー色にツヤツヤと輝いています。エサや肥育にこだわって育てられた那須山牛は風味豊か。脂も少なめで、噛みしめる度に赤身からジューシーな肉汁が迸ります。ピリッと辛みの効いたわさび菜と共に頂くのがバウム流。気が付くと、ワインのボトルが次々に空いていきます。「チリやアルゼンチン、スペインなどニューワールド多めですが、イタリアや日本のものも。グラスワインはその都度おすすめのものをご用意しています」と佳巳氏。

付け合わせ野菜の美味しさも特筆もの。濃厚な味わいのじゃがいも・マチルダは那須の成澤菜園、舞茸は鹿沼産、人参は喜連川のものと地物や県産品にこだわっています。なかでも印象に残ったのが、肉厚で葉先まで生命力が詰まった葉物野菜。新たまねぎとクミンのドレッシングをかけた気まぐれサラダは、心身が喜ぶ美味しさです。「実はこのお野菜、近所の農家さんが作ったものなんですよ」とちひろ氏。お願いして、お店から車で数分の農園『美味しい野菜研究所』を訪ねました。

周囲はしっかり、中心部はレア気味に火を入れる。熟練の技が冴える。

「那須山牛サーロイン」3900円。塩胡椒のみで味付けした地野菜のシンプルローストと共に。

ハウスワイン的に出しているのはイタリアの「プリミティーヴォ」(左の2本)。グラスは650円から、ボトルは3300円から用意。

阿吽の呼吸で左右対称の動きになるお2人。

きれいにクープが開いたバゲット。自家製酵母は酒かすやレーズンなどさまざま。

「自家製天然酵母のパンと柴田さんの野菜達 セルフスタイルのサンドイッチで」1380円。

ムースやシャーベットも自家製の「喜連川 碓氷さんのとちおとめ シャーベットパフェスタイルで」750円。

セルバチコやロメインレタス、ケール、赤水菜など7種が入った「気まぐれサラダ」。

下今市ホッピング・カフェ&バー バウム植物性肥料を使ったこだわりの土が、美味しい野菜を育む。

ビニールハウスに入ると、まだ肌寒い季節なのにとても温かく、微生物が活発に活動しているのか、いきいきとした土の香りが鼻腔をくすぐります。色濃く茂ったズッキーニの葉影には、これまた色濃く育ったツヤツヤのズッキーニ。この農園を営むのは柴田正直氏。以前はニラを育てる単一品目農家でしたが、2013年の記録的な大雪でビニールハウスの多くが倒壊。それを機に多品種栽培に切り替えて現在に至ります。「正直、単一品目のほうが儲かるのですが、今の方が断然楽しい。新しい野菜作りに挑戦するのはワクワクしますし、Baumに『今度はこんな野菜を作ってよ』と頼まれて作った野菜は美味しい料理になりますから」。そんな柴田氏のこだわりは土。肥料は動物性のものではなく、おからや糠、この地域の特産品・蕎麦殻などをブレンドしながら使っています。「植物性の肥料を使った方が野菜にエグみが出ないんです」。小さな生き物たちにも、この温かな土のよさがわかるのでしょうか。取材中、どこからかハウスに入り込んだ猫が昼寝をしたり、カエルが嬉しそうに畝を横切るシーンに出くわしました。

ちひろ氏は営業の前にこの農園を訪ね、その日使う野菜を柴田氏と一緒に収穫しています。「赤水菜にビーツ、からしな、ケールはその辺りを」と指さし、一番いいものをハサミでパチリ。産地直送とは耳慣れた言葉ですが、ここまで収穫からキッチンが近い例もなかなかないのではないでしょうか。「私としても、毎日採って、新鮮なものを食べてもらった方が嬉しいんです」と柴田氏。和物から西洋野菜まで常に60種類ほどの種を常備し、リクエストに応えられるようにしているそうです。

本日の野菜を収穫するちひろ氏と柴田氏。ハウスの中は初夏のような暖かさ。

ぐわっと葉を広げたズッキーニ。成長段階が少しずつ違うハウスが他に2つあった。

葉先がきれいにカールしたケール。グリーンだけでなく紫色のケールも栽培している。

ビーツを抜いて、泥を落とす。「なかにはうずまき模様の入ったビーツもあるんですよ」とちひろ氏。

「ちょうどこの辺りがいいかな」と使う分のサニーレタスをカット。

「これは売り物にならないから」と柴田氏のお母様が間引いたケールをくださった。

収穫した野菜をカゴに入れて、本日の畑作業は終了!

下今市ホッピング・カフェ&バー バウム感性が宿った場所と料理が人や物を引き寄せる。

美味しい料理と居心地のいい空間が溶けあった『Baum』の隣に、気になる建物が建っています。ちひろ氏のお父様の木工アトリエ『森のふくろう』です。「父はいま仕事で出かけているのですが、よろしかったらご覧になりますか?」というお言葉に甘えて、主不在のアトリエにお邪魔しました。1階の作業場には様々な樹種の板や木材が所狭しと立てかけられています。「切った木はかなり縮むので、10年以上寝かせてから使うそうです。この仕事をしていると、『こんな板があるから持っていかんか?』『よかったら使って』と向こうから集まってくるみたいで」。

うってかわって2階は大人の秘密基地。お父様が滑車で木材を引き揚げ、時間をかけておひとりで増築した空間には、古いレコードやプレーヤー、壁には民族調のタペストリーやエドワード・ゴーリーのポスターが。小さな小窓からは時折、猫が遊びにやってくるそうです。感度が高く、それでいて心ほぐれる抜け感のある空間。お会いしたこともないのに、そこここに浮かび上がる主の内面に触れたような気がしてほっこりします。「わが父ながら、相当センスはいいと思います」と笑うちひろ氏。場所や料理に宿ったよき感性は、よき人や物を引き寄せる──そんなことを思わずにはいられない場所が無人駅のすぐそばにあります。

『森のふくろう』の2階。ここで「小代ルネッサンス」が開催されている。

ちひろ氏のお父様は中央の滑車で木材を引き揚げ、ひとりでこの空間を作り上げた。

再訪を誓いたくなる笑顔。ちなみにこの引き戸もお父様の作品なのだとか。

住所:栃木県日光市小代260-5 MAP
電話: 0288-25-7210
営業時間:12:00~23:00(L.O.22:00) 月曜定休
Cafe & Bar Baum HP:https://nikko.city/baum/

トラッカーメッシュキャップ

バイク乗りの定番、トラッカーキャップ!

  • アメリカの帽子ブランドといえば定番でお馴染みの「OTTO」のボディにアイアンのワッペンをセットした夏場には最適なメッシュキャップ
  • フロントパネルにはアイアンハートオリジナルワッペンを付けています
  • 5パネルの後部分はメッシュ状になっているので、夏場にバッチリ
  • バイザー部分は芯が入っているフラットバイザーです
  • スナップバックを外せるので、ベルトループやバッグに付けられます
  • 携行性があるのでヘルメットを脱いで崩れた髪型も隠せ、ツーリングにも最適です
  • アジャスターによりサイズ調整が出来る為、頭の大きな方でも問題なく被れます
  • 商品により多少の誤差が生じる場合がございます

サイズスペック

  • フロント高さ 17.5cm
  • ツバ 7.5cm
  • ツバ幅 21.5cm
  • 頭周り 59.5〜65.5cm

素材

  • フロント部分 ポリエステル:100%
  • メッシュ部分 ナイロン:100%