食と桜江戸や京都から遠く離れた地で、その隆盛の息吹に触れる。
桜咲く名所に加え、『ONESTORY』が過去に取材したレストランから厳選し、ご提案する「桜と美食をつなぐ旅」。第2弾となる東日本編は、厳しい冬を乗り越え、雪解けを迎える東北・北陸地方を中心にお届けします。芽吹きの春、色彩は豊かに、味覚の幅もぐっと広がる季節の訪れを、目で、舌で味わう旅をお楽しみください。
在りし日の城下町の賑わいを今に残す武家屋敷が並ぶ、秋田県仙北市角館(かくのだて)町。江戸時代初期、京都に縁のあった角館初代所預・佐竹義隣(よしちか)や2代・義明の働きにより京都風の文化や地名が根づき、「みちのくの小京都」と呼ばれる風雅な街並みが生まれました。県下屈指の観光地に春の訪れを告げるのは、約450本もの「シダレザクラ」。見頃となる4月下旬から5月上旬には、白色と淡紅色の桜の花と武家屋敷が共演する、美しい景色が広がります。小京都の華やかな風情を楽しんだら、次は「粋」が息づく江戸文化を感じに、「JR角館駅」から秋田新幹線に乗り、秋田市街へ。繁華街から少し離れた住宅地の一角に佇むのが、日本で唯一とされる、正統派江戸料理を提供する『日本料理たかむら』です。料理長の高村宏樹氏は、今はなき江戸料理の老舗「太古八」にて料理長を務めた後、独立。数々の料理人や食通が認める俊英であり、JR東日本が運行する豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」で供される特製弁当を手がけるなど、名店の魂を受け継ぎながら、新たな挑戦を続けています。江戸や京都から遠く離れた地で、江戸時代が創り上げた隆盛、栄華に触れる、貴重な体験が、秋田の地にはあります。
▶詳細は、LANDSCAPE/「みちのくの小京都」と称される街並みと桜。歴史を重ねた情緒溢れる風景。
▶詳細は、RESTAURANT/スタイルは変えない、でも新しい。秋田で出会った、日本唯一の江戸料理店。
食と桜地域の人々のために。揺るぎない思いがつながる。
日本の桜景色の代表格ともいえる、「ソメイヨシノ」の桜並木。地域の人々が春を楽しむ姿を想像しながら植樹した先人たちの優しい思いは、毎年可憐な花を咲かせる桜の姿と重なって、受け継がれ続けます。新潟県燕市に位置する『大河津分水(おおこうづぶんすい)』の桜並木も、そのひとつ。1922年、長年住民を悩ませてきた水害を防ぐ堤防工事の完成を記念して植樹された「ソメイヨシノ」は、現在はその数なんと約3,000本に。4月中旬には10kmもの区間に満開の桜が続き、水と桜の美しい共演が楽しめます。春めく分水堤防沿いから車で約40分。燕市とともに日本屈指の工業地域として知られる三条市で、揺るぎなき地元愛のもと、他業種も巻き込みながら地域を盛り上げているのが、『Restaurant UOZEN』のシェフ・井上和洋氏です。東京では今でこそ当たり前となったヘルスコンシャスなフレンチにいち早く取り組み、新潟に活躍の場を移した今では、野菜はもちろん、肉や魚を自身で調達することも。更にはこの地で出会った仲間たちと切磋琢磨しながら、包丁からインテリアにいたるまでメイド・イン新潟のアイテムを採用。世界に誇るクラフトの街で、独自のプレゼンテーションのあり方を追求しています。
▶詳細は、LANDSCAPE/豊潤な水辺に咲き誇る桜のアーチと、「分水おいらん道中」の艶やかな共演。
▶詳細は、RESTAURANT/LOHASブームの東京から新潟・三条市へ。海から、大地から掴み取った味を届ける。
食と桜熱い地元愛を持って、富山県の魅力を最大限に引き出す。
もうひとつ、人の手によりつくられた桜並木が織りなす絶景をご紹介しましょう。富山県下新川郡朝日町、日本海と北アルプスに面した自然豊かな場所に流れる『舟川』沿いの桜並木、通称「あさひ舟川・春の四重奏」です。両岸約1.2kmにわたって咲く約280本の桜並木は、1957年に地域の人々によって植えられたものとされ、現在では桜が開花する4月中旬に合わせて、名産のチューリップと菜の花を一緒に栽培。背後にそびえる残雪の北アルプスも相まって、4つの色彩による壮大な花のキャンバスが姿を現します。自然がもたらす色彩の調べを堪能した後は、アルプスの山々を横目に車に乗って北陸道で西へ。1時間ほどで富山市内へと入りますが、今回の目的地は市街地から離れた緑豊かな山あいの地。ラグジュアリーホテル「リバーリトリート雅樂倶」内にあるレストラン『L'évo(レヴォ)』がその場所です。シェフの谷口英司氏は大阪出身でありながら、富山の豊かな食材と文化、伝統に魅了されたひとり。アートを彷彿させる洗練されたフレンチであるだけでなく、郷土料理の力強さも感じさせる料理には、徹底した地産地消が貫かれています。更には器やメニュー、ファブリックにいたるまで、富山県内で活動する企業や作家の作品を厳選。地方創生がかかげられ幾年月。地域に根ざした店は数あれど、地域を深く愛し、その愛をつないでいる店はいくつあるでしょうか。そんなレストランこそが、地域の本質的な魅力を伝えることができるのです。
▶詳細は、LANDSCAPE/整然と美しい桜並木に加え、自然がもたらす鮮やかな色彩が目を楽しませる。
▶詳細は、RESTAURANT/深い海、高い山、豊かな自然、伝統工芸。富山こそ料理人が、最高に輝ける場所。
食と桜地域の中でひっそりと。印象的な存在感を放つ。
一本桜が数多く存在する岩手県にあって、隠れた名勝と名高い『上坊牧野の一本桜』。開花は5月中旬〜下旬、しとやかな風情を醸し出す「カスミザクラ」の淡い桜色と残雪の『岩手山』の美しい共演は、人々の目を大いに楽しませ、心を癒します。そんな印象的な存在感を放つ一本桜のように、凛と咲き、誠実な姿勢で人々を幸福へと導くのは、岩手県遠野市にある『とおの屋 要(よう)』の佐々木要太郎氏です。岩手山麓より南へ車で約1時間40分、河童伝説や座敷わらしといった民話が伝わる地でひっそりと、国内外の料理人や酒販関係者らがこぞって賞賛する独創的な料理を提供しています。佐々木氏は遠野市初の宿「民宿 とおの」に生まれ、お父様とともに民宿を盛り上げた後、2011年に自身の力だけで勝負する場を、と考えて和のオーベルジュ『とおの屋 要(よう)』をオープン。住民の知恵が育んだ保存食や、自家栽培の無農薬米から醸造するどぶろくなど、遠野の時間と気候、風土までを味わい尽くすディープな食の体験は、まさに「唯一無二」です。
▶詳細は、LANDSCAPE/儚いカスミザクラと残雪の岩手山がつくる、優しい、絵画のような景色。
▶詳細は、RESTAURANT/自家製発酵料理×自家醸造どぶろく。『要(よう)』でしか味わえない遠野キュイジーヌ。
食と桜独創的な景色と食と。新たな驚きに出合える旅。
「桜と美食をつなぐ旅」東日本編の最後は、独創的な桜景色と美食の旅をご紹介します。山形県の英雄、伊達政宗生誕の地であり、古くは5氏の大名が居城したという『米沢城』。その城跡に整備された『松が岬公園』では、4月中旬から下旬にかけて約200本の「ソメイヨシノ」が開花します。かつては上杉家の城主のみが渡ることを許されていたという『菱門橋』や、上杉謙信を祀る『上杉神社』、上杉家伝来の品々を収蔵する『稽照殿(けいしょうでん)』など、敷地の中には上杉氏の栄華を偲ばせる華やかさがそこかしこに。米沢の地と人が歩んだ歴史に思いを馳せ、ゆっくりと景色を楽しんだら、米沢市の中心部から東北道を約50km北上し、1時間10分ほどのドライブを経て山形市内へ。ここで体験できるのは、イタリアンに欠かせない「ハム」。シェフの佐竹大志氏がイタリアでの修業時代に学んだ本場のハム作りに独自の手法を加え、山形の風土に合わせて育てるそれらは、圧倒的な種類の多さだけでなく、味や風味も幅広く、次々と新鮮な驚きをもたらします。日本中からその味を求めて人が集まる「ハムずくめ」の店、山形に来たならば必ず訪れたい名店です。(文中には諸説ある中の一説もございます。)
▶詳細は、LANDSCAPE/四方を堀で囲まれた城跡ならではの水辺を、約200本の桜が鮮やかに染め上げる。
▶詳細は、RESTAURANT/ハム、ハム、ハム、ハム…。これでもかと自家製ハムで攻め立てる。不器用シェフの特化型イタリアン。