『西宇和みかん』を巡る旅を通じて体感した、別格の魅力と新たな可能性。[TERROIR OF NISHIUWA/愛媛県西宇和]

昨年末に「西宇和みかん」だけを使ったスイーツコースを創り上げたパティシエールの中村樹里子氏。

テロワールオブ西宇和

風土を肌で感じ、生産者と語り合うことの意義を実感。

急な斜面を埋め尽くすように広がる、みかん畑。太陽の光に照らされた橙色の実は、輝くように美しく、青く澄んだ空と感動的なコントラストを成しています。眼下には、どこまでも凪いだ紺碧の海。『西宇和みかん』は、ほかに類を見ない絶景の中で育ちます。このみかん畑を訪れたパティシエールが中村樹里子氏でした。

▶詳細は、未知の『西宇和みかん』デザートコースを創造するため。現地を巡って体感した、西宇和の風土、生産者の志。

「それまで、みかん畑に行ったことがなかったので、本当に感動しました。こんな風に、みかんってなるんだなぁって。段々畑に、みかん色が一面に広がっていて、キレイでした」と中村氏。

『西宇和みかん』でフルコースを作る。
かつて『KIRIKO NAKAMURA』で、デザートだけのコース料理を提供し、世のグルマンを感動させた、中村氏の新たな挑戦。昨年末、期間限定で実現しました。クリエイションのヒントを得ようと西宇和も視察した中村氏。生産者と交流を深めることができ、『西宇和みかん』を作る喜び、苦労も知れたと振り返ります。

「ギュッと寒くなったとき、みかんの糖度が上がるのに、今年は昼夜の寒暖差があまりなく、苦労されているというお話でした。それと、印象深かったのは酸度のこと。酸味ってみかんにとって、とても大切で、酸度が上がらないと傷みやすくなるそう。そういうお話も聞けて良かった。みかんの成育には、水はけの良さが重要ということでしたけど、西宇和は段々畑になっていて、特に水はけがが良いということも、行ってみて実感できました。勉強になりました」

▶詳細は、TERROIR OF NISHIUWA/特徴的な地形が育む、伝統の西宇和みかんで進む、新たな価値観の創造。

太陽の光をいっぱい浴びて美味しい『西宇和みかん』は育つ。

真穴地区で『西宇和みかん』を育てる宮本定氏と語る中村樹里子氏。

試食して、甘酸のバランスが良い『西宇和みかん』の魅力を実感。

テロワールオブ西宇和『西宇和みかん』の特性があって初めて創れたデザートコース。

「『西宇和みかん』は3つの太陽が美味しさの秘密」と地元の人は言います。段々畑の石垣は、3つめの太陽。白い石垣が陽光を受けて反射し、『西宇和みかん』の実を照らすのです。降り注ぐ太陽の光、陽光を受けて輝く海、そして、段々畑の石垣。美しく組まれた石垣は、現在の生産者の先代、先々代が山を耕し、積み上げていった大切な遺産。土壌も、牡蠣殻や塩抜きした海藻などを使って彼らが作ったと言います。今日では、マルチシートを敷き込むことで、4つめの太陽まで獲得。産地によっては農園内に、舗装道路を整備。5つめの太陽とする場合まであります。

恵まれた環境を活かして巧みに応用し、さらに、考えられうる知見も積極的に導入して、「もっと美味しい」を指向する。執念にも似た生産者の魂が込められているから、『西宇和みかん』は格別な美味しさに育つのです。味わってみましょう。

ひと房を包む、じょうのうは薄く、とろけるような食感。強い甘みだけでなく、わずかに酸味も感じられて、食べた瞬間、すぐに美味しいと直感します。溢れ出す豊かな果汁には、陶然となるほど。

「じょうのうが薄く、その分、ジュースが多いことは、現地で試食させてもらったとき、実感しました」中村氏も感じた、じょうのうが薄いという『西宇和みかん』の特性は、コースの中で登場した「roast」で存分に活かされていました。「じょうのうが付いたまま、『西宇和みかん』の実をローストしたんですが、もし、じょうのうが厚かったら、口に残ってしまい、食感も悪くなってしまったはず。ローストすると水分が抜ける分、生で食べるより、じょうのうを強く感じるんです。けれど、『西宇和みかん』はスッと口に入って違和感のない仕上がりになった。roastは『西宇和みかん』だから、うまくいったと思います」

▶詳細は、『西宇和みかん』が見せた、様々な表情。ついに完成した『KIRIKO NAKAMURA』の期間限定デザートコース。
※期間限定コースは終了しました。

美しく積み上げられた石垣に、先人たちの苦労が忍ばれる。地面に敷かれているのがマルチシート。

期間限定で復活した『KIRIKO NAKAMURA』の一品、「roast」。『西宇和みかん』を焼くことで、味を凝縮。

「温州みかんは使いやすい素材」と実感したと語る中村樹里子氏。

テロワールオブ西宇和『西宇和みかん』の魅力をもっと広く伝えるべく、カフェ・カンパニーも協力。

復活版『KIRIKO NAKAMURA』で提供された『西宇和みかん』のフルコースのほかに、今回は、中村氏とカフェ・カンパニーのコラボレーションも実現。
渋谷『WIRED TOKYO 1999』、表参道『発酵居酒屋5』、『フタバフルーツパーラー銀座本店』という3つの店舗で、『西宇和みかん』期間限定スペシャルメニューも登場しました。カフェ・カンパニーでPRを担当する加藤菜緒氏が振り返ります。

▶詳細は、『西宇和みかん』の可能性を伝えるスペシャルスイーツを、スイーツジャーナリスト・平岩理緒氏が実食。
※期間限定メニューは終了しました。

「街も、お店のキャラクターも、いらっしゃるお客様の層やモチベーションも全く異なる3店舗でしたが、総じて、お客様の反応は良く、ときにはオーダーが集中するほどの人気になりました。何より、私たちが重要と考える、お客様とのコミュニケーションが円滑に図れて、本当に良かったと思っています。

『西宇和みかん』が『どういう場所で採れて、どういう人たちが育てていて、今回、こういう人たちと一緒にメニュー開発しています、だから、ぜひ食べてみて下さい』というストーリーが語れた。ストーリーが語れるって、サービスするスタッフにとって、大きな武器になることを再確認しました」

渋谷と銀座のフレンチトーストはどちらもボリューム満点で、ランチとして食べる若い女性もいたそう。みかんは、冬になると家に普通にあって、コタツに入って食べる身近な存在で、身近過ぎるために、外食としてはどうなのか? という意見も社内にはあったそうですが、中村氏のクリエイションと、カフェ・カンパニーのサービス精神が功を奏して、見事、成功を収めたのでした。

「ただフレッシュで食べるだけでは感じられない、みかんの美味しさがあることを知りました。温めるのもアリだなって個人的には思いましたし、紅茶と柑橘の組み合わせを、オレンジでなく『西宇和みかん』でやってしまったというのも面白かった」と加藤氏。

「当たり前にあるものを、ちょっと視点を変えて、提供することの可能性」も感じたという加藤菜緒氏。

『WIRED TOKYO 1999』で提供された「西宇和みかんのデニッシュフレンチトースト」。渋谷の街のイメージに合わせて、可愛らしく仕上げた。

『フタバフルーツパーラー銀座本店』では「西宇和みかんとみかん蜂蜜のフレンチトースト」を提供。フレンチトーストからは紅茶が香る。

テロワールオブ西宇和挑戦することで見えてきた、『西宇和みかん』の新たな可能性。

煌めく海を眺めながら、みかん畑に立っていると、「平和」という言葉が自然と脳裏に浮かびます。温かくて心地良い。温暖な気候は、人も穏やかにするのでしょう。西宇和で出逢った生産者やJA関係者、それから、食堂や道の駅のスタッフ、誰もが一様に笑顔で、取材班を見つけると、人懐っこく話しかけてきます。

「どっから来たん?」「何しとるん?」

取材班に、同じ愛媛県の松山市内で生まれ育った人間がひとりいましたが、西宇和人の笑顔を見ながら、言いました。「南予の方々は特に人懐っこいかもしれませんね。闘争心のようなものがまるでない(笑)」

『西宇和みかん』が格別に美味しいのは、こうした人たちが作り、温暖な風土が育んできたからにほかなりません。そして、『西宇和みかん』を美味しいみかんとしてだけでなく、ひとつの素材として捉えたとき、可能性は大きく広がることを、中村氏やカフェ・カンパニーを通じて知ることもできました。

「『西宇和みかん』は、強さと優しさが1個の中に共存しているから、コースの中に強弱が作れる。それは、今回、トライしてみて初めて気付いたこと。皮の香りは強くしっかりありますけど、実は優しくてジューシー。そのまま食べても美味しいし、煮詰めれば変化が出て、また違った味わいになる。優しい分、ほかの素材とも合わせやすいですし、逆に、皮は炭化させても、あれだけの香りが残る強さがあった。これまで、1つの素材でフルコースというのは考えたことがなかったので、新鮮で、いろんな発見もありました」中村氏の話を聞いて、「carbonization」の鮮烈な香りが甦ります。

『西宇和みかん』の可能性を感じたのは加藤氏も同じでした。「今回のデザートはもちろんわかりやすくて良かったんですけど、もし、もう一度、やらせて頂けるなら、食事系の料理で『西宇和みかん』を使っても面白んじゃないかと思います。ポテンシャルをスゴく感じました」

さらに、中村氏は、こうも言っていました。「お客様の反応は本当に良かったですから、今年も何かやってみたいですね。コースはちょっと難しいかもしれませんけど、一品とかなら考えたいし、使いたいです」

『西宇和みかん』を巡る旅は、まだまだ続きそうです。

中村氏のコースより、「carbonization」。黒いパウダーが『西宇和みかん』の皮を炭化させたもの。鮮烈な香り。

「西宇和みかんはじょうのうが薄いから、皮も身も両方美味しく調理する事ができた。またチャレンジしたい」とコースを振り返った中村氏。

「スタッフのモチベーションもあがった良い取り組みだったので、西宇和みかんのコラボレーションは是非またやりたい」とカフェ・カンパニー加藤氏。

西宇和は一年を通して、柑橘王国。温州の『西宇和みかん』に続いて、中晩柑の『西宇和かんきつ』も栽培される。

大阪出身。関西の洋菓子店などを経て、29歳で単独渡仏。パリではシェフパティシエとして「L’Instant d’Or(ランスタン・ドール)」を1年でミシュラン1ツ星に導いた。帰国後は、東京・白金台の『TIRPSE (ティルプス)』に参加。軽やかでいて深みのあるデザートの味わいには国内外からの評価も高い。2015年7月8日より『TIRPSE』のランチタイムを1年間限定で『KIRIKO NAKAMURA』とし、6品の季節感あふれるデザートだけのコースを企画。
今回、目黒Restaurant『Kabi』にて、KIRIKO NAKAMURAデザートコースを2週間限定で復活させる。

桜の季節にこそ訪れたいスポットへ。お花見と厳選宿で地域を知る旅。[2019年春、桜の旅。/宿と桜]

度重なる天変地異においても朽ちることなく、約400年の時を経て成長した『一心行の桜』。枝の差し渡しは最大約26mにもなる。

宿と桜『阿蘇山』がもたらす壮大な景色と、豊潤な恵みを満喫。

心身ともに能動的になる桜の季節は、桜の名所だけでなく、少し時間をかけて、その場所にしかない景色に出合う旅に出かけてみてはいかがでしょうか。『ONESTORY』ではこれまで多くの宿泊施設をご紹介してきましたが、そのどれもが、単なる箱としての宿にあらず。地域ならではの魅力を追求し、それぞれの解釈で表現し伝え続けている名宿ばかりです。そんな宿をこの春はぜひ、旅の目的地のひとつに。桜が織りなす絶景とともに、地域に触れ、地域を深く知る、忘れ得ぬ体験が待っています。

大きく開いた枝ぶりに、可憐な花が咲き誇る山桜。熊本県阿蘇郡南阿蘇村に立つ山桜『一心行の桜』は、遡ること約400年前、戦に散った城主を弔うための菩提樹として植樹されたといわれています。訪れる人の心を癒し続けてきた春の風物詩の見頃は3月下旬から4月上旬、今年も見事な花を咲かせてくれることでしょう。

2016年に起こった熊本地震で被害を受けた地域ですが、一部の道路は復旧が完了し、『阿蘇山』を中心とする豊かな自然を体感できるドライブルートも開通しています。『草千里ヶ浜』をはじめとする壮大な風景を楽しみながら、車を北へ走らせること約1時間30分。国内屈指の温泉地であり、2009年には「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」にて2つ星の評価を得た「黒川温泉」に到着します。その一角、温泉街から少し離れた山間の地を切り拓き、2016年にオープンした『月洸樹』は、深緑の中に8つの離れが佇む湯宿です。廃材などを巧みに取り入れた昔懐かしい雰囲気の内装に、全室内風呂・露天風呂付き。それぞれの部屋におけるテーマの異なるアプローチで、ゲストを非日常の世界へと誘います。

▶詳細は、戦国の世に散った武将を偲ぶ菩提樹。子孫代々守り続けてきた見事な山桜。
▶詳細は、10代の頃から憧れ続けた黒川温泉で、ついに手にした夢のカタチ。

円形露天風呂から客室を眺められる『月洸樹』の客室「夢見」。にじり口のある茶室も設けられている。

宿は黒川温泉街の中心地から歩いて10分ほど。敷地からは阿蘇の外輪山や、条件が重なれば雲海を望めることも。

宿と桜春の瀬戸内がもたらす、多島美と桜の絶景と日常を逸脱した体験。

島国・日本の多彩な海の景色の中でも、屈指の絶景は『瀬戸内海』から望む多島美ではないでしょうか。愛媛県今治市、『瀬戸内海』に浮かぶ『伯方島(はかたじま)』の北側に位置する『開山(ひらきやま)公園』は、春になると「ソメイヨシノ」を中心に約1,000本の桜が開花します。穏やかな海に浮かぶ島々とそこに架かる橋、美しく花開いた桜の共演はまさに風光明媚。山の景色とはまた違う春の姿がそこにあります。ゆったりとした時間を過ごした後は、『瀬戸内しまなみ街道』から隣の大島を経由し、四国へと入りましょう。海山が迫る四国ならではの景色を楽しみながら、車で約1時間15分。山間に突如として現れる、打ちっぱなしのコンクリート壁に包まれた建物は、約3,500㎡の敷地に7室のスイートルームのみを有する『瀬戸内リトリート 青凪』です。設計は安藤忠雄氏。愛媛に本社を構える大王製紙が、訪れるゲストをもてなすために贅を凝らして造ったというゲストハウスは、モダンかつ洗練された雰囲気。日常を逸脱する空間がそこにはあります。その立役者は建築だけにあらず、豊かな自然も忘れてはなりません。テラスへ出て『瀬戸内海』を眺め、大きく深呼吸すれば、身も心も瀬戸内の自然に溶け込んでいくようです。

▶詳細は、麗らかな春の陽射しの中で、瀬戸内の多島美と桜との見事な調和を楽しむ。
▶詳細は、圧倒的スケールと感嘆の建築美。日常を逸脱する安藤忠雄建築のスモールラグジュアリー。

波穏やかな『瀬戸内海』に浮かぶ島々が美しい『開山公園』展望台からの風景。

森に突き出すように延びる『瀬戸内リトリート 青凪』の象徴的なデッキプール「THE BLUE」。時間帯により様々な表情を見せる。

天井高約8m、広さ約170㎡を誇る最上級の客室「THE AONAGIスイート」。標高450mのロケーションから一望する瀬戸内のパノラミックな海は、息を呑むほどのスケール感。

宿と桜『富士山』と『伊豆高原』、静岡が誇る魅力を余すことなく体験する旅。

桜は日本のアイコン的な存在ですが、それと同じく、いやそれ以上に日本を代表するものといえば、『富士山』をおいて他にないでしょう。そんな『富士山』と桜が見事な共演を見せるのが、一級河川『潤井川(うるいがわ)』の下流に位置する『龍巌淵(りゅうがんぶち)』です。桜の本数は約50本と多くはないものの、まるで絵画のように完璧な構図の風景は圧巻のひと言。まさに「日本の春」を体現する景色です。ここでしか出合えない景色に身を委ねた後は、静岡が誇るもうひとつの観光地『伊豆半島』へ。『龍巌淵』のある静岡県富士市より約1時間30分のドライブで到着する『伊豆高原』は、『大室山』の麓から『城ヶ崎海岸』まで広がる海山の自然豊かな地。その一角の別荘地に佇む1日1組限定のオーベルジュ『レピアーノ』は、栄養士の資格を持ち、オーナーシェフや経営など様々な経験を重ねた店主の加藤明子氏が、満を持してオープンさせた夢の館です。建築家の岸本和彦氏が設計を手がけた居心地の良い落ち着いた空間に、信頼する生産者や業者から仕入れた食材を使って作る、フレンチのコース。そしてコーヒーやワインとともに、デッキテラスで味わう、静かで贅沢な時間。オーナーの温かなもてなしとともに、穏やかで優しい、伊豆の夜は更けていきます。

▶詳細は、これぞ日本の春。まるで絵画のような印象の、完璧な構図。
▶詳細は、夢を追いかけるのに年齢は関係ない。62歳にして手にした夢の館。

隠れた名所、穴場の絶景ポイントとして地元では知る人ぞ知る『龍巌淵』。写真は近隣に架かる『龍巌橋』からの景色。桜の見頃は3月下旬から4月上旬。『富士山』は晴れた日の午前中が見えやすいとか。

森の中に佇む『レピアーノ』の外観。左手が寝室、右手がダイニング。ダイニングの奥にはティールームも。

デッキからダイニングを見る。立地条件から窓はあえて下方に設け、採光や視界に工夫を凝らしている。

宿と桜加賀藩ゆかりの町並みや温泉郷を、桜とともに楽しむ。

豊富な観光資源が多くの人を惹きつけてやまない石川県。江戸時代、前田利家を藩祖に繁栄した加賀藩ゆかりの史跡や文化が色濃く残る金沢市では、桜の季節になると、現代に受け継がれた華やかな美意識に裏打ちされた町並みと桜の花との美しい共演が見られます。前田氏の居城として使われた『金沢城』、その城跡に整備された『金沢城公園』も、そのひとつ。敷地内には約350本の桜の木があり、中でも国の重要文化財に登録されている『石川門』や、多種多様な桜が植樹された『桜の園』では、かつての繁栄ぶりを彷彿させる、美しく華やかな風景が広がります。周辺には日本三大庭園のひとつ『兼六園』や古い町並みが今なお残り、今回ご紹介する宿のひとつ、『東山のオーベルジュ 薪の音 金澤』は、重要伝統的建造物群保存地区に指定される「東山ひがし茶屋街」に位置します。1日2組限定、北陸の旬食材を余すことなく盛り込んだ料理へのこだわりはもちろん、ロケーション、部屋、ホスピタリティと、全てにおいてゲストの心に刻まれる、他に代えがたいひと時がここにはあります。

もう1軒、福井県に隣接する石川県加賀市の宿をご紹介しましょう。金沢市中心部より北陸道で西へ約50km、藩政時代より守り伝えられる伝統工芸や湯量豊富な温泉、秘境『加賀東谷』に代表される史跡など、見所が多い町、加賀市。中でも北陸随一のいで湯の郷として知られる「山代温泉」の中心地、かつて温泉寺の寺領で「薬師山」と呼ばれていた丘陵地に立つ『べにや無何有』は、3,000坪もの敷地に客室はわずか17室と、シンプルに贅を尽くした極上の宿です。客室からは山庭が眺められ、全ての部屋には露天風呂がついています。室内にいても山代の自然を身近に感じられる意匠に、細やかなホスピタリティ。連泊してゆったりとこの地に身を委ねたくなる、無為こそが究極の贅沢と感じられる特別な体験が、心身を充実感で満たしてくれます。

▶詳細は、重厚な史跡に満開の桜が映える。加賀藩の栄華を彷彿とさせる艶やかな風景。
▶詳細は、情緒漂う茶屋街に生まれた2部屋だけのオーベルジュ。旅の本質を思い出させる、名宿の秘密。
▶詳細は、山代温泉『べにや無何有』を拠点に、北前船の歴史と秘境の山郷をたどる加賀の旅。

『金沢城公園』の『石川門』は1788年に再建。櫓と櫓を長屋でつないだ造りが特徴で、重厚な雰囲気に桜が華やかさを添える。

『東山のオーベルジュ 薪の音 金澤』のある「東山ひがし茶屋街」。日没後の色気漂う茶屋街を気軽に訪れられるのは、この宿のゲストの特権。

『東山のオーベルジュ 薪の音 金澤』の客室「HIGASHI」の全景。窓に向けてベッドを配したイレギュラーな設え。

『べにや無何有』の客室は、表情のある土壁や焼き物など、温もりある意匠が随所に。広縁で自然美溢れる山庭を眺めているのは、取材で訪れたアレックス・カー氏。

宿と桜歴史と文化、自然を訪ねて、国宝と世界遺産を旅する。

前述の『金沢城公園』然り、城跡を公園として整備、開放している場所は日本各地にありますが、島根県松江市の『松江城山公園』は史跡の価値、眺望ともに別格といえる場所のひとつです。国宝であり、日本唯一とされる「現存正当天守閣」を有する『松江城』を中心に、市民の憩いの場として開放されたのは明治初期。歴史と文化、そして自然に寄り添いながら楽しむお花見は風情に溢れています。松江市街地には『堀川』や『宍道湖(しんじこ)』など水辺の風景もたくさんあり、水の都としての一面も。春の息吹と水辺の煌めきを眺めながらゆったりと観光するのもお勧めです。一方で、島根が誇るもうひとつの観光地といえば、2007年にユネスコの世界遺産に認定された『石見銀山(いわみぎんざん)』。銀山の採掘で栄えた豪商の住宅をはじめ、江戸時代の武家屋敷や代官所跡といった歴史的な建造物や文化財が並ぶ、銀山の街・島根県大田市に、今回最後にご紹介する宿『他郷阿部家』はあります。もともとは『石見銀山』の地役人だった阿部清兵衛の武家屋敷を、アパレルブランド『群言堂』を立ち上げた松場大吉・登美夫妻が住みながら少しずつ修復。13年の歳月を費やして新たな命を吹き込みました。文明を排除した古民家で楽しむ、故郷に帰ったような温かなもてなしと、地元で受け継がれてきた郷土の味を、若いスタッフが新しい感性で仕立てる料理の数々。都会のラグジュアリーホテルやリゾートでは決して味わえない、和やかで親密なひと時が過ごせるはずです。

▶詳細は、国宝・松江城を望みながら、歴史と文化、自然に寄り添うお花見を。
▶詳細は、『他郷阿部家』を起点にした世界遺産・島根県『石見銀山』の旅。

『松江城山公園』では3月下旬から4月上旬に約360本の桜が見頃を迎え、同時期に「お城まつり」も開催される。

立派な梁が印象的な『他郷阿部家』2階の洋間。客室のしつらえは端切れをモチーフにしている。

主と宿泊客がともに食卓を囲み、一緒に食事を楽しむのがこの宿の習わしであり、魅力のひとつ。