暖色の灯火に浮かぶのは、華美なき美しさ。暮らしに根ざす鳥取の民芸。[COCOROSTORE/鳥取県倉吉市]

夕暮れ時、温かい暖色系の灯りが手招きする店。外からでも中の様子は一目瞭然、ついつい立ち寄りたくなる造りに。

ココロストアランダムに見えるアイテムはすべてが鳥取の民芸という線で結ばれる。

倉吉市の旧市街を流れる玉川沿い、漆喰の白壁土蔵と赤瓦が印象的な白壁土蔵群は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定される鳥取県きっての観光名所です。そんな風情ある歴史地区からすぐの場所に、今回目指す『COCOROSTORE』は佇んでいます。

昔ながらの土産店や呉服店などが軒を連ねる地区にあり、オープンして7年。驚くほど街並みに溶け込む佇まいは、以前その場所で呼吸をしていた店舗をほぼ居抜きで使用しているからだと、店主の田中信宏氏は穏やかに笑います。

そして店に入ると陶器にアクセサリー、食品にお菓子、包丁などのキッチンツール、衣類もあれば、バッグやガラス工芸まで、雑然と並ぶそれらすべてのアイテムが、妙にしっくりと馴染んでいることに、これまた驚くのです。

思わず「ここは何屋ですか?」と質問したくなる店、それこそが『COCOROSTORE』。

すると田中氏はひと言。「鳥取を中心とした民工芸を扱う店とでもいいましょうか」と微笑みます。一見するととりとめのない商品構成に見えるそれらすべてが、鳥取の民芸というキーワードにより結ばれることで、違和感なく溶け込んでいるのです。

そう、『COCOROSTORE』とは、華美でなく、削ぎ落とされた日常の中の暮らしを見つめる道具が揃う店なのです。

店内に入ると様々なコーナーに鳥取の作家の民芸品が所狭しと並ぶ。

あくまでも芸術ではなく、暮らしの中で使われて魅力を発揮するアイテムがズラリ。

ココロストア家具職人から、民芸店へ、想いを乗せて転職。

ではなぜ、田中氏は鳥取の民芸を集めた店を作り出したのか?

「もともとは家具職人になりたかったんです。それで大学卒業後、都心の家具の小売店へ就職そこで営業を経験しました。その後、家具職人を目指す為、長野県松本市の家具製造会社へ再就職したんです。でもですね、いざ職人の道へ入るといろいろ見えてくることもありました」

職人の道は年功序列。経験こそが大切であり、仕事を覚えるには長い年月がかかること。ゆくゆくは地元へ帰り家具を作りたいという思いがあったこと。さらには全国各地で家具販売会スタッフとして現場を経験するうちにある思いが芽生えてきたのです。
「松本の会社で作っていた自社の家具と、自分が知る鳥取の職人が作る家具がとても類似点があり、民芸のルーツとして鳥取はとても重要な場所であるんです。松本で作る家具ももちろん素晴らしいのですが鳥取出身の自分には鳥取の家具や鳥取の民芸のことを紹介したいという思いが強くなりました。であるなら、生まれ育った地元の民工芸の素晴らしさを伝える仕事がしたいと思うようになったんです」

松本の民芸が嫌だったのではありません。たぶん田中氏は全国どの場所でもなく、やるならば鳥取の民芸を、そう思ったとき、自ずと足は地元へ向かっていたのです。27歳、裸一貫地元へ戻り、一から場所探しに始まり、店に置く民芸の数々も自らが職人や作家の元へ足を運び、お願いして回りました。
「地元でお店をするからですかね、皆さんとても協力的で無理も聞いてくださいました」

今では田中氏、そして『COCOROSTORE』を媒介にコミュニティの場が醸成される場所に。それこそが田中氏が目指す、この店の理想形なのかもしれません。

店内に貼られたPOPは作家の紹介はもちろん、お店を作った思いなども紹介されている。

ココロストアある鍛冶職人との出会いにより地元での出店へ舵を切ることに。

最後に田中氏は、ある職人の道具への想いを教えてくれました。
「まだ、自分が松本にいた時代に、工房を訪れて仕事を見学させてもらったのが『大塚刃物鍛冶』さん。初めて使用した大塚さんの包丁は恐ろしいぐらいに切れ味が良く驚嘆したのを今でも覚えています。こちらに戻ってお店を開く際も大塚さんには、鳥取で仕事をする気概を教えてもらうとともに、快く、開店に向けて包丁を取り扱わせてもらうことなったんです。わけのわからない若造を支援してくれ、本当に感謝しかありません」

鍛冶職人として全国から注文のある『大塚刃物鍛冶』のアイテムは、オープンから今でも『COCOROSTORE』を象徴する、鳥取を代表する民芸品であり、その気持ちに応えたいと田中氏は言います。
「日本に、いや世界に誇る民芸が鳥取にはたくさある。その素晴らしさを伝える一役に少しでもなれたらと思ったアイテムの1つなんです。本当に実直に、とことん研ぎ澄まし、使うことだけを目指した包丁。皆さんにぜひ切っていただきたいですね」

レジ横の特等席を占める『大塚刃物鍛冶』の包丁シリーズは、今なお田中氏の指針であるといいます。

レジ横の特別コーナーに陳列されている『大塚刃物鍛冶』の包丁シリーズ。

『The Wonder 500™』にも認定されるテーブルナイフは店を代表する人気アイテム。

住所:〒682-0821 鳥取県倉吉市魚町2516 MAP
問合せ先:COCOROSTORE
電話:0858-22-3526
COCOROSTORE HP:https://cocoro.stores.jp/
E-mail:cocorostore.1@gmail.com